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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第56話 『Beat Jumper/解き放てっ! この胸のリズムッ!!』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』

ラン「ドキッとスタートドキたまタイムー。さて、本日のお話は?」

ミキ「前回からの続きだよ。『とぶ』事が好きななぎひことなのはさんのお話」

スゥ「でもでも、なぎひこさんの答えはまだ見えなくて・・・・・・そこで答えを空に探しにいきますぅ」





(立ち上がった画面の中に見えたのは、白く輝く二つの月ときらめく夜空)





ミキ「はたしてなぎひこは自分なりの答えを・・・・・・リズムを見つける事が出来るのか」

ラン「ドキドキな予感も感じつつ、今日も行くよー。せーの」





(というわけで、あのポーズです)





ラン・ミキ・スゥ『だっしゅっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・バスケ練習から戻って夕飯を食べた後、僕は唯世とヴィヴィオ、なのはと一緒に訓練。

まぁ、唯世にはもうちょい頑張ってもらわなくちゃいけないので、じっくり付き合うのだ。

夏休みということで日頃の生活から離れてる。だから基礎の基礎から、特訓である。





なお、唯世は現在・・・・・・腰を振り、お尻を揺らしながら、踊っています。










「あ、あの・・・・・・蒼凪君、これは?」



場所はミッドでは多数ある公共の魔法練習場。夜のためライトアップされたそこで、唯世には踊ってもらってる。

唯世は若干困惑気味だけど、これでいいのよ。基礎の基礎とは人から見ると若干異質だったりするものなの。



「何度も言うようだけど、唯世の身体はまだ子ども。ちゃんと出来上がってないの」



だからこそ無茶はさせられない。だからこそ、僕も本格的に付き合う覚悟を決めた。

やっぱり唯世は猫男の事になると暴走しやすいから、しっかりついているのだ。



「腹部や腰の筋肉を鍛えるのに、今みたいな腰を動かす形の踊りは有効なの。
速からず遅からず。だけどリズミカルに。・・・・・・今のテンポでやるの、キツイでしょ」

「そ、そうだね。かなり来てるかも」

「まぁ一種の基礎訓練だから、地球に帰ってからも一日15分程度でいいからやっておいてね?
身体を作るのは、こういう地道なところから始めるの。それを怠ると、僕みたいになる」



右手で指差すと、踊りながら唯世が苦笑いをし出した。

様子を見ていたキセキとヴィヴィオ、なのはも同じく。



「そう言えば、お前は死にかけた事が原因でその体型だったな」

「そうだよ。・・・・・・マジで精神と時の部屋が欲しいな。
基礎の基礎からやってくと1ヶ月やそこらじゃ効果は薄いから」



ぶっちゃけ唯世の勤勉さ故の学習能力の高さに依存しているのと同じなのだ。だからパワーアップは無理。

出来るのは以前話した通りにバージョンアップだけ。いや、正直それすら出来るかどうかも怪しい感じだったりする。



「蒼凪君」

「なに?」

「前に話してくれたよね。僕達に必要なのは、バージョンアップだって」



うん、言った。だから僕は唯世の言葉に頷く。



「それはね、ここ最近のあれこれですごく痛感してる。
だから大丈夫。急激なパワーアップなんて、もう求めてないから」

「・・・・・・そっか。んじゃ、夏休みの間頑張ってみようか。
で、1ヶ月でいっぱしのケンカ屋にする。とりあえず心構えくらいはね」

「うん、分かった」










というわけで、普通に唯世は踊り続ける。まぁ、もうちょっとだけ。





この後、しっかり休憩させた上でまた組み手。唯世の地獄はここからである。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「唯世さんと恭文さんは、すっかり師弟関係が成り立ってるですねー」

「そうね。というか、唯世があそこまで頑張る理由ってやっぱり」

「月読幾斗・・・・・・だよね。うーん、歌唄ちゃんと同じく昔馴染みらしいから、色々考えちゃうんだろうねー」

「ま、大丈夫だろ。恭文の奴がマジで関わる覚悟決めたんだしよ」



てーか、俺は普通に驚いた。アイツ、人に何かを教えたりするのあんま好きじゃない方だと思ってたから。

俺が卒業してから色々あったんだと納得してるが・・・・・・あぁ、しかし宿題が多い。寝る前にも勉強会って、おかしいだろ。



「みなさん、ジュース持ってきました。一息入れたらどうでしょうか?」

「あ、リースさん・・・・・・ありがとうございますー!!」

「そう言えば、あむちーといいんちょとナギーとディードさんは、どうしたんだろ」



ややがそう聞くと、俺達は顔を見合わせる。・・・・・・そういやそうだよな。



「あ、あむさんとなぎひこさんは、フェイトさんと一緒になのはさん達の後を追って行きました。
海里さんは、ディードさんと一緒です。二人は二人で別所で組み手をやるとか」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ミッドの各所に常設されているという公共の魔法練習場に来て、ディードさんと組み手。





だが・・・・・・やはり、中々に届かない。キャラなりしてもまだ差があるとは。










「・・・・・・というより、届いてしまうとそれはそれで問題です。
私だって恭文さん程ではありませんが、戦闘経験はありますし」

「まぁ、それは確かに」

【拙者達は基本的に平和な一般人だ。やはりそれが普通か】

「えぇ。ですから海里さんは別の視点からも考える必要があります。単純な打ち合いだけでは恭文さんには届きません」



ディードさんが赤い刃の二刀を構えつつそう言う。



「戦闘の結果は、単純な力量や経験だけでは決まりはしません。大事なのは応用力です。
自分の力をどれだけ上手く活用出来るか。どれだけその可能性を把握出来るか。大事なのはそこです」



・・・・・・言っている意味を考えて、気づいた。なるほど、俺のキャラなりの力を引き出す事も大事なのか。



「例えば・・・・・・電撃でしょうか」

「・・・・・・さすがに優秀ですね。考えていたんですか」

「えぇ」



電撃は活用方によっては相当な幅がある。そして俺はサムライソウルの時にはその幅のある能力を活用出来る。

イナズマブレードが雷輝一閃に昇華出来たのもそれだ。・・・・・・やはりそういう方向も必要か。



「幸いな事に、私はあなたよりずっと身体が丈夫です。多少の攻撃にも耐えられます。
・・・・・・全力で来てください。協力すると言った以上、中途半端な事は嫌ですから」

「・・・・・・感謝します。では」

「はい。続きといきましょう」










研磨の中で見えるのは、俺が目指している高みの途方も無い大きさ。





だが、それでいい。それに触れる度に俺は・・・・・・どうしようもなく心が震えるんだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・なんというか、海里も相当頑張ってるわよね。定期的にやってるらしいし、恭文と決闘でもするつもりかしら」

「えー、ないない。だって、もういいんちょはイースターの人間じゃないもん」

「でもやや、海里ってなんだかんだで二回負けてるのよ? 何気に負けず嫌いっぽいし・・・・・・ありえそうよ」

「そ、それはその・・・・・・でもだめ。敵じゃなくなったんだし、もうあんなの・・・・・・絶対ダメだよ。
やや、恭文にもいいんちょにもまたあんな風にボロボロになって欲しくないもん」










落ち込むややはそれとして、俺はリースさんとリインを見る。二人はややの言葉に苦笑いしてた。

・・・・・・マジかよ。てーか、なんでやる? 俺にも理由が・・・・・・あ、分かるわ。

男ってやっぱバカだからさ。普通に負けたまんまなのが嫌なんだろ。海里だって同じだ。





転校するから、簡単には会えなくなるから、今のうちにありったけでぶつかりたいんだろ。そこは間違いない。




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/だっしゅっ!!


第56話 『Beat Jumper/解き放てっ! この胸のリズムッ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「おーい、みんなー!!」





唯世と組み手なんぞしてたら、あむの声が聞こえた。で、そっちを見るとあむが走ってきてた。



僕は左手で飛んできた唯世の右拳を払い、体勢が崩れた所を狙ってしゃがむ。



右足をしゃがみながら後ろ回し蹴りで足払い。唯世をこかしてから、立ち上がる。





「あむさんっ!? あの、どうしたのかなっ!!」

「あ、差し入れ持ってきました」



で、持ってきたのはスポーツドリンクが入ったバスケット。・・・・・・って、待て待て。



「あむさん、ダメだよ。こんな時間に知らない世界で一人で出歩いちゃ」

「あ、一人じゃないですよ。僕がいます」

「あと私も。ちょっと気になってたから」



・・・・・・青い縞のシャツに緑のパーカーパンツ。で、帽子をかぶる男の子が居た。

それはなぎひこ。その隣には白シャツと黒スカートのフェイト。普通にあむの後ろから出てきた。



「あ、そうなんだ。なら差し入れはありがたいかな。・・・・・・よし、ヴィヴィオ。休憩にしようか。
あと恭文君と唯世君もだね。というか、唯世君・・・・・・大丈夫?」

「恭文、全く加減してないよね。ヴィヴィオの時より厳しいんじゃ」



失礼な、これでも配慮はしてるよ。受身の取り方とかも教えてるし。

だからこそ、唯世だって普通に苦笑いでこっち見てるんだから。



「え、えっと・・・・・・僕は大丈夫です。うぅ、来るって分かってたのに避けられなかった」

「唯世、まだまだだな」

「キセキ、これはしゃあないよ。言ったでしょ? 戦うための思考や反応がまだ出来上がってないって。
ただ、来るって分かるようになっただけでも大きな進歩だよ。そこは自信持っていい」

「うん。あの・・・・・・ありがと」










こうしてミッドの夜は更けていく。・・・・・・さて、やることはまだ沢山だ。





戦技披露会に向けて、僕もそろそろ自分の調整しなきゃいけないし、何気に忙しいぞ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・なんか、唯世くんも頑張ってるね」

「辺里君、気合い入ってるよね。ややちゃん達も、ビックリしてたよ?」

「あははは、いい機会だから色々教わってるんだ。やっぱり、強くなりたいから」



休憩しながら、差し入れのスポーツドリンクを飲む。程よい甘さがとっても素敵。

あー、でも人に教えるのってやっぱ慣れないや。僕、こういうのは自信ないかも。



「ヤスフミ、あんまり厳しくしたらだめだよ? 唯世君は本当に素人も同じなんだから」

「そこの辺りは優秀な教導官二人に相談の上でやってるよ。
あと体調管理はしっかりさせてるし、僕もデータ取ってる」



いっそ、どっかの無人島に放り込む方が効率いいのではないかとか、ちょっと考えてるのは内緒である。



「でも恭文君、唯世君にあそこまで訓練してるのはどうして?」



あ、なんかなのはが首突っ込んできた。普通に疑問顔だし。

そして、僕を見つつもなぎひことあむと話している唯世を心配そうに見ている。



「唯世君、普通に強くなりたいって気持ちがあるよね。でも、求めてる強さが普通じゃない。
明らかに相当の修羅場を想定してる訓練だし、そういう気構えを叩き込んでる」



で、なのははこれでもベテラン教導官。だから見抜けるのだ。だから、僕のことも鋭い瞳で見る。



「どういうことか、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないかな。
それで察するに、フェイトちゃん達があの街に長期滞在してる理由と関係してるよね」

「まぁね。・・・・・・なんつうか、アレだよアレ」



僕は唯世の方を見ながら、なのはに話を続ける。もち、三人には聞かれないように。



「唯世、因縁の相手が居るのよ。その相手もキャラ持ちで・・・・・・まぁ色々あってさ。
でね、唯世はその相手の前だと六課在籍時のフェイトにとってのスカリエッティレベルで激情しちゃうの」



なのはが息を飲むのが分かった。なお、フェイトは苦笑い。

色々と重なっている部分があるのを、自分でも気づいているからね



「それは相当だね。だからこれなの?」

「これなの」

「唯世君、その相手に対しては本当に冷静さを無くしやすい。
あの時の私と同じバカをやる可能性、かなりあると思う」



フェイトは20話のデートでその現場を僕と一緒に見ているので、断言出来る。

なのはは信じられないと言うように、あむ達と談笑する唯世を見る。・・・・・・でも、事実なのよ。



「だから私とヤスフミもそうだけど、あむやみんなもかなり心配してて」

「最初はさ、どうフォローするかとか止めるのとか考えてたんだけど・・・・・・もうやめた」



てーか、言うだけでどうにかなるほど事情は軽くないのは、唯世を見ててもう分かってること。

それ以前の問題として、僕は会って半年経ってないのよ? 何も言えないって。



「言うなら、ツッコむなら、本気で関わって叩き上げて鍛えることにしたの。
自分のことをちゃんと制御出来るくらいに、心も身体も強くする」

「でも、間に合うの?」

「無理だね。ぶっちゃけ無人島に放り込んで、サバイバルさせた方がいいんじゃないかとか考えてる」

「・・・・・・そうだよね。ヤスフミから見て唯世君の評価は高そうだけど、それでも時間が足りないよ」





時間はフェイトの言うようにかなりない。もうギリギリもいいところだよ。

ただ光明はある。唯世は何度も言うけどセンス・・・・・・というより、性格ゆえの勤勉さという素質がある。

能力とフィジカルの両方とも攻撃に関してはさっぱりという欠点はあるけど、それでもだ。



そこに頼って身体を壊さない程度に実戦形式で場慣れさせていけば、耐えるくらいはなんとかってとこだね。





「確かに時間は正直ないね。でも、やると決めた以上は出来る限りの事は叩き込む」



僕はスポーツドリンクを飲み干して、口を閉じてからバスケットの中に入れる。

立ち上がって背伸びをする。・・・・・・それから、ゆっくりと息を吐く。



「目指すは、今よりもう1段階上。もっと戦闘慣れさせるのと、冷静さを叩き込む事かな。
唯世はガーディアンの・・・・・・僕のキングだもの。潰れるなんて嫌だ」

「・・・・・・分かった。ならもう言わない。お仕事の事情が絡んでるなら、話せないでしょ?」

「悪いね。もちろん無茶はさせるつもりはないから、安心して?」

「うん、そこは絶対だよ。無茶して身体壊したら、本当に意味がないもの。あ、私も継続して相談に乗るから」

「・・・・・・ありがと」










・・・・・・マジで時間はないなぁ。ただ、唯世がすっごいやる気なのは救いかな。





うん、まずはそこからですよ。気持ちがあるかないかで、色々と変わってくるし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・戦うための訓練というのは、やっぱり慣れない。それを蒼凪君に漏らしたことがある。

すると強くなって何をしたいかを常に問いかけながらやるといいと、教えてもらった。

基本的にこういうのは勉強と同じ。果てしないトライアンドエラーの繰り返しだと、蒼凪君は言う。





魔導師も単純な武術も同じ。数え切れないくらいの基礎訓練と模擬戦で、感覚を培っていく。

トライアンドエラーだから、普通に出来なくてヘコむことがある。

トライアンドエラーだから、それで強くなる目標を見失うことがある。蒼凪君もたまになるらしい。





だから問いかけ続けることが必要だと、いつも通りな顔で教えてくれた。

惰性では強くなるためのモチベーションは保てない。

問いかけることは、考える事は、決してダメな事なんかじゃない。





自分にとっての『なぜ?』を確かめる行為だから。それは状況によって悪になるだけ。

考えている間に何かが壊れるから。だから状況によっては必要になる。

だから僕は・・・・・・再確認してまた一歩踏み出していく。そうして心に火を灯す必要があるから。





だから問いかけ続けている。僕は、なぜ強くなりたいのかと。

なぜこんな訓練を集中的にするようになったのかと、何度も。

・・・・・・蒼凪君の拳のスピードが、少し早くなってる。蹴りも交えるようになった。





もちろん僕のペースに合わせて緩めに。本気だったら、一発でノックアウトだと思う。

右足で回し蹴りが来る。それを、僕は後ろに跳んで避ける。

蒼凪君は左足で跳んで、身体を捻りながら・・・・・・というか、縦回転っ!?





縦回転させながら、僕の肩口に向かって右足の踵を落としてくる。

それを慌てて左に跳んで回避。慌ててたから、たたらを踏む。

そこを狙って、蒼凪君が飛び込む。しゃがんで伏せるように・・・・・・あれ?





なにかデジャヴを感じつつ、下からすくい上げるように突き出された拳を避ける。

身体を捻りギリギリに。・・・・・・そう言えば、蒼凪君の回避訓練はいつもと違う。

具体的にはいつもの蒼凪君の戦い方と違う。誰かとかぶってる。





それが誰かを考える間も無く、目の前の蒼凪君が少ししゃがむ。そして消えた。

僕は咄嗟に後ろに振り返って、両腕を交差させて胸元をガードする。

蒼凪君はそこに居た。そして胸元に拳を突き立ててこようとしていた。





ガードしつつ身を左に捻る。蒼凪君の右拳が、裏拳として打ち込まれた。





僕は右手を開いて、蒼凪君の手首を受け止める。そうしてその拳を止めた。










「・・・・・・ほう、これを止めますか」



蒼凪君が感心したように呟く。正直、誉めてもらっても少し微妙。

相当に加減された上での攻撃なのは明白だから。



「唯世、今の反応はよかったよ。うん、その感覚忘れないで」



蒼凪君は拳を引く。そして体勢を楽にする。だから僕も腕を下ろして息を吐く。



「ぶっちゃけ近接戦闘では考えて動いてたら、マジで意味がないの。
感じて動くのが基本。唯世、人間の反射速度の限界って分かる?」

「えっと・・・・・・0.2秒だっけ」



人間が動こうと思って脳内から信号が走って、身体が動くまでにはラグがある。

蒼凪君が言っている反射速度の限界というのは、多分そのことで間違いないはず。



「その0.2秒の間に人は殺せる。喉元にナイフを突き立てるなりすればね。
だから科学者の間では、このラグをいかにして縮めるかが強さの追求の道とも言われている」

「それがほんの少しでも速ければ、回避や攻撃に有利だから?」



攻撃を見て避けるのも、相手を見て攻撃を当てるのも、その反射速度のラグがある。

そのラグがこういうクロスレンジの戦闘では重要になるってことなんだよね。



「そうだよ。とは言え、実際にはそんなのは簡単じゃない。
その場合必要になるものが幾つかある。一つは攻撃予測だよ」

≪相手の動きや相手の手札、それから相手の攻撃パターンを自身の経験から読み取り、予測するんです≫

「・・・・・・恭文、それは簡単ではないと思うのだが」



正直今はそれが出来てないと思う。手加減されてる蒼凪君の動きに付いていくので、精一杯だし。



「なら蒼凪君、その幾つかの他のって何があるのかな」

「相手の気配や動きを、視覚や聴覚に頼らないで察知する能力だね。なお、僕はこれが大得意」



なんでも僕より小さい頃から命がけで戦ったり、魔法なしでそれが出来るように訓練してたらしい。

そのせいでフェイトさんが使うような高速移動魔法も、普通に見なくても知覚出来るとか。



「まぁ何が言いたいかと言うと、そういう反射速度や予測、探知は簡単には身につかないの。
センスどうこうを抜かした場合、やっぱり経験がものを言う。だからこその実戦訓練だよ」

「それもトライアンドエラーなんだね。何回も経験して、そういう力を培っていく」

「うん。というか唯世は普通に×たま狩りとかで、実戦経験自体はあるんだよ?
ブラックダイヤモンド事件の時には、死ぬかも知れないような攻撃も受けてる」



・・・・・・あ、そっか。今まであまり考えてはなかったけど、実戦経験はあるんだ。

もちろん蒼凪君やフェイトさんレベルじゃないだろうけど。



「そういう意味では下地はある。本当に極薄だけどね。・・・・・・1ヶ月の間、そこを鍛えるよ。
今は身体を慣らすために軽めだけど、キャラなりして僕と戦ったりもする。で、本気でやるから」

「油断したら瞬殺かな?」

「そこまではしないよ。瞬殺して立てなくなったら、続けて訓練が出来なくなる。生殺しで済ませるよ」

「あははは、そっか。とにかく蒼凪君、よろしくお願いします」

「うん、任せて」










問いかけ続ける。僕が強くなりたい理由を。やっぱり・・・・・・月詠幾斗かな。





普通に負けてるのが悔しいから。あと、真実を知りたい。そのためには、強くなる必要があるんだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



唯世くん、頑張ってるなぁ。というかあの動き・・・・・・どっかで見たような。





なんだろ、いつもの恭文の戦い方じゃないよね? いつもだったらもっと力押しだし。










「あむちゃん、アレ多分イクトだよ」

「え?」

「ほら、なんかこうバーンって跳んだりする動き、イクトっぽくない?」





ミキが感心したようにまた訓練を始めた二人を見ながら言う。それであたしは二人をもう一度見る。

伏せるように走ったり、素早く後ろに回り込んだり、突きを多用したりとかしてる恭文を。

・・・・・・あ、イクトだ。あくまでもそれっぽい動きだけど、ブラックリンクスの時の動きに似てるかも。



もしかして恭文・・・・・・唯世くんがイクトと戦う時のために、動きを真似てる?





「恭文君、月詠幾斗とは何度か戦ってるから、動きをコピーしたのかも知れないね」

「うそっ! というか、そんなの出来るのっ!?」

「出来るらしいよ? ヴィヴィオちゃんから聞いたんだけど、恭文君そういうの得意らしいから」



そう言えば恭文って電王の動きとか真似られるんだよね。ブレイズフォームとかアクセルフォームとかもそれらしいし。

・・・・・・何気にすごい特技じゃん。アイツ、普通にスペック高いって。



「あと、辺里君も気づいてるみたいだね。ほら、見てみて。辺里君、必死だけどどこか嬉しそう」

「あ、ホントだね」



なんだか唯世君もいいんちょとは別の意味で恭文と仲良くなってるなぁ。

だけど恭文が人に何か教えてるのって、ちょっと不思議。そういうキャラもあったんだ。



「やっぱり恭文君は年上なんだよ。だから、なんだかんだ言いながら面倒を見る」

「なるほど、確かにそうかも」

「でもさ、ヴィヴィオちゃんもすごいよね」



なぎひこがヴィヴィオちゃんの方を見る。・・・・・・あぁ確かにね。今は、魔力コントロールの練習中らしい。

足元に三角形の魔法陣を開いて、目を閉じて集中している。なのはさんとフェイトさんはそれを温かく見守っている。



「ねね、あむちゃんもやってみたら?」



ランが唐突にそんなことを言ってきた。・・・・・・あたしっ!?



「いやいやっ! 普通にアレとかソレとかは無理だからっ!!
あたし今の所魔法とかも使えないし、格闘なんてダメだしっ!!」

「でもストライクアーツはエクササイズ的にやっている人も居るって言ってたし、チャレンジしてみてもいいかも知れないよ?」

「なぎひこも煽らないでよっ! その、あたしはマジでそういうのダメなんだからっ!!」



ただ・・・・・・なぎひこにはそう言ったけど少し思った。ヴィヴィオちゃん、頑張ってる。『なりたい自分』に向かって真っ直ぐに。

唯世くんも同じ。自分を変えたくて、変わりたくて、前を向いている。あたしも・・・・・・新しいこと、始めてみようかな。



「まぁちょっとやってみるくらいは・・・・・・いいかも」



なんか二人に負けたくない。うん、理由なんてこれで充分じゃん。



「あ、やる気になったね」

「あたしだって色々あるの。なぎひこだってそうでしょ?」

「・・・・・・うん、そうだね。色々とあるよね」



そうだよね、機会があったらチャレンジしてみていいかも知れない。

だってあたしは、ここに勉強しに来たんだから。



「なーぎひこ君」



一人決意を固めてると、なのはさんがいつの間にかあたし達の方に来ていた。



「あ、はい。というか・・・・・・ヴィヴィオちゃんは」

「ヴィヴィオは大丈夫だよ。フェイトちゃんに任せてるから。
・・・・・・あのさ、これからちょっと私と夜のお散歩しよっか」

「「・・・・・・え?」」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



バリアジャケットを装備してから、私はなぎひこ君を後ろから抱える。





抱えて・・・・・・あ、意外とがっしりしてるんだね。さすがは男の子。










≪Axel Fin≫



両足の足首部分から生まれるのは、桜色の私の翼。腕の中のなぎひこ君が、興味深そうにそれを見る。



「え、今アクセルって・・・・・・なのはさん、もしかしてこれは恭文君の」

「うん。私が前に教えたんだ。まぁ性能自体は全く別物だけどね。あとは形状も別になってる」



恭文君はカートリッジの魔力分を合わせて、加速力を爆発的に上げてるからなぁ。

凄くピーキーなアクセルをちゃんと活用出来るのは、恭文君の魔力運用の技術の高さ故だよ。



「確かに・・・・・・恭文君のは背中から本当の翼みたいになってますしね」

「でしょ?」



・・・・・・アレ? なぎひこ君、何時恭文君のアクセル見たんだろ。転校してきたばかりだよね?

うーんうーん・・・・・・アレ? まぁここはいいか。後でちょっと考えればいいんだし。



「それじゃあ行くよ」

「はい、お願いします」



とにかく、そのままゆっくりと浮上する。・・・・・・公共練習場の限界高度は、200メートル程。

それ以上超えちゃうと怒られるから、超えないようにゆっくりと・・・・・・夜の景色を見ながら浮上していく。



「でも・・・・・・お散歩って、これだったんですね」



両腕の中のなぎひこ君が声を弾ませながらそう口にした。

今までの印象と変わらない感じだけど、それでもどこか嬉しそうなのはすぐに気づいた。



「うん。ちょうどいい機会だし」



浮上しながら見えるのは、街のネオンで色づいたミッドの街並み。

ここは住宅街の外れだから、見える明かりの色は家の明かり。



「それに青空も中々だけど、ミッドの夜景もかなりだと思うんだ」



高度を上げる毎に遠くの景色も見える。住宅街の向こう、繁華街や市街地まで。

中央本部のライトアップも見えて、なぎひこ君が息を飲んだ。



「・・・・・・そうですね。すごい綺麗です。それに」



なぎひこ君は視点を上に上げる。私は釣られるようにしてそちらを見て・・・・・・息を飲んだ。



「月があんなに近くに」



真っ白な二つの月・・・・・・見慣れているはずなのに、思わず心臓が高鳴った。



「手を伸ばしたら、本当に届いてしまいそう」

「・・・・・・そうだね。私もそう思うよ」





改めて『とぶ』という事に限定して世界を見渡してみると、色々な発見がある。

普段戦ったり、教導するために空を『とぶ』のがバカらしくなるくらいの感動が生まれる。

そして痛感する。私が飛んでいる空の広さを・・・・・・大きさを改めて。



私、いつの間にかこういう部分を忘れてたのかも知れないね。大人になるにつれて、少しずつ。

単純に空を飛ぶ事が、広い世界を感じる事が好きでこの道に入ったんだもの。

・・・・・・あぁ、そっか。私の『なりたい自分』の一つ・・・・・・その根っこはこれなんだ。



難しいことじゃなくていいんだよね。私は空が飛ぶのが好きで、この世界が大切。



道理どうこうじゃなくて、この広い空が単純に大好きなんだ。こんなにシンプルでもいいんだ。





「・・・・・・なのはさん?」



白い月を見ながら少し考えていると、なぎひこ君から声がかかった。

私はハッとして首を横に振る。そしてこの10歳年下の男の子を安心させるように笑う。



「あ、ごめんね。・・・・・・私も月が綺麗だなーって思ってたんだ」



少しだけ首を無理な体勢に動かして、私を見上げていたから。うん、だから笑うの。



「なのはさんもだったんですか」

「うん。見慣れてるのは確かだけど、今日は特に綺麗だから」

「そうですね。僕はミッドに来てさほど経ってないけど」



なぎひこ君が私から月にまた視線を移す。ううん、それだけじゃなくて下の夜景や夜の闇も。

興味深そうに私が飛ぶ世界を見て・・・・・・ちょっと心の中がくすぐったい感じがした。



「それでもこの月と、ミッドの空や夜の風景が綺麗なのは分かります」

「ならよかった。これが・・・・・・私の飛ぶ空なんだ。それで、私の守りたい大好きな空」

「・・・・・・好きになる気持ち、分かります。もしもここまで自分の力で『とべ』たら、きっと好きにならずにはいられないから」










時間ギリギリまで、私となぎひこ君は月と夜の空を見ていた。なんというか、楽しかったなぁ。

ちょっと肌寒いかなと思ったんだけど、くっついてるせいか私達二人とも温かかった。

ただ、ちょっと気になった事が一つ。なぎひこ君と身体をくっつけていたから分かったの。





なぎひこ君の下半身に盛り上がりと妙な律動が・・・・・・あの、そういう部分じゃないの。

私は後ろから抱きかかえていたし、手だって胸元にあるからそういう部分に触るわけじゃない。

その箇所はなぎひこ君のズボンの左足のポケット。そこにさっき言ったような動きがあった。





降りるまで疑問に思っていたんだけど、降りてから私はその原因が何か知った。





それは・・・・・・なぎひこ君のたまごだった。なぎひこ君、そこにたまごを入れて持ち歩いてたの。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


”・・・・・・なぎひこのたまごが動いてた?”



全員で家に戻る途中、なぎひこの隣を歩くなのはがそんな話を念話でしてきた。

で、相談を受けた僕とフェイトは顔を見合わせる。



”うん。ほら、さっき飛んでたでしょ? その時に僅かにゴトゴトーって”

”なのは、それは間違いないんだよね”

”間違いないよ。ただなぎひこ君は気づいてないみたいなんだ。うーん、どういう事だろ”



いや、どういう事って・・・・・・どういう事? 普通に考えれば、なぎひこのたまごに何かしらの変化があったってことだよね。



”ヤスフミ、もしかしてなぎひこ君のたまごが生まれそうになってるとかかな”

”あ、そうかも。・・・・・・なのはとの愛情こもったハグが原因か”

”愛情こもったハグじゃないよっ! 一緒に空を『とぶ』って約束をしただけなんだからっ!!”





だから、それが原因でしょ。とりあえず、足を進めながら考えをまとめていくことにする。

・・・・・・なぎひこのたまごが生まれてないってことは、やっぱりアレなんだよね。

なぎひこが自分の『なりたい自分』に対してそれなりの答えを見つけられてないのが原因。



僕だったらシュライヤの一件だよ。あの時ずっと『この時間を壊したい』って願ってたから。

あんな時間を壊して、悲しい想いなんて止められる自分になりたいと思ったら、シオンが生まれた。

あむだって同じだよね。素直じゃないキャラを変えたいとか超えたいと思ったら、ランが生まれた。



つまりなぎひこの中の『なりたい自分』が、なのはと空を飛ぶ事で影響を受けた?



考えがまとまったので、改めてなのはの隣を歩くなぎひこを見る。・・・・・・それなら、ありえるかも。





”なのは、悪いんだけどなぎひこの事しばらく気を付けててもらえる? 夏休みの間だけでもいいから”

”え? ・・・・・・恭文君、どういう事かな”

”なぎひこ、ちょっと踊り絡みでスランプの真っ最中なんだよ。それでさ、気にしてるのよ。
自分のたまごから、しゅごキャラが生まれない事をずっと”

”それは・・・・・・実はなぎひこ君からちょっとだけ聞いてるけど、そうなの?”



なのは、こっちを見るな。変に思われるから。そしてそうなのよ。

なのはには言えないけど、てまりのたまごの事もあるからダブルで来てるのよ。



”そうなの。・・・・・・なぎひこもね、なのはと同じで『とぶ』事が好きな子なんだ。
もしかしたらそれで相談とかしてくるかも知れないから、力になってあげて欲しいって話”

”・・・・・・分かった。というか元からそのつもりだったから、大丈夫だよ? というか、アレなの”



なのはの声が弾んでいるのが気になる。というか、またまたフェイトと顔を見合わせてしまう。



”なんだかなぎひこ君とは年齢の差は抜きで、仲良くなれそうな感じがするんだ。うん、かなりね”

”・・・・・・そ、そっか。というかありがと”

”ううん”



さて、なのはの嬉しそうな声はともかく、こっちはなのはの友達同士で相談だよ。

一端念話を切って、フェイトだけに聴こえるように繋ぎ直した上でお話。



”フェイト、どうしよう。僕はなのはの今の発言を素直に聞けないんだけど”

”だ、大丈夫・・・・・・のはずだよ。というか、ここまでなのはと意気投合した男の子って居ないよね?
ジン君やユーノとはまた違うし、クロノともまた全然違うし・・・・・・うーん”

”ぶっちゃけさ、現段階の年齢はアウトだけど差自体はいいんだよね。
10歳差のカップルなんてザラに居るし。僕だったらカップルじゃないけど、フィアッセさんと仲良しだし”

”それはそうだけど・・・・・・とりあえず私達も注意だけはしておこうか。なのはが犯罪に走らないように”

”そうだね、注意しておこうね。捕まったりしたら、ヴィヴィオに申し訳がないもの”










とりあえずさ。なぎひこはなのはと居るの楽しそうだから、頼んだのよ。





ただ・・・・・・もしかしたら人選をミスしてしまったんじゃないかと、今本気で考えてしまった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



早朝、なんだか恒例になりそうなバスケタイム。





昨日もやってきたバスケコートに僕は・・・・・・あの人と来ていた。










「うぅ、ごめんねなぎひこ君。練習付き合ってもらっちゃって」



ピンク色のジャージ姿のなのはさんと一緒に、早朝で朝もやのかかったバスケコートで練習。

今日はドリブルからのシュート練習だね。なお、なのはさんのペースに合わせてゆっくり目。



「いえ。というか、こんなに早起きして大丈夫ですか? 昨日も遅くまで訓練でしたし」

「うん。これでも朝早いのは得意なんだよ? 私、魔導師の」



なのはさんが、少しゆっくり目だけどドリブルして・・・・・・ゴールから3メートルほどの距離で、ボールを持ってジャンプ。



「先生だものっ!!」



ボールが放物線を描く。描いたボールは・・・・・・ゴールリングの右側に当たった。

入らないかと思ったけど、運良く真上に軽く弾かれて、次の瞬間には輪の中に落ちていた。



「・・・・・・やったー! また入ったー!!」



着地しながら、なのはさんが嬉しそうに笑う。後ろに居た僕の方を振り返って、笑いかけてくれる。

その笑顔が綺麗で、僕は嬉しくなって釣られるように同じ笑いを顔に浮かべる。



「でも・・・・・・『とぶ』のって気持ちいいね」



なのはさんはそう言いつつも落ちたボールのところまで歩いていって、拾い上げる。

それから辿たどしくドリブルしつつこちらに来る。・・・・・・もちろん笑顔は変わらない。



「魔法で『とぶ』のとはまた違う感覚。なんだかこういうの、ちょっと忘れてたかも」



言いながら、もう一度ジャンプしてシュート。ボールは・・・・・・あ、今度は一発で入った。



「ヴィヴィオと一緒に練習、頑張ろうっと」



なのはさんはまたボールを・・・・・・いや、こっちにバウンドしてきたので、しゃがんでそれを両手に取る。



「せっかくなぎひこ君や空海君が教えてくれたんだもの。またやり方忘れちゃうのは、ダメだもの」



取りながら、僕に向かって両手を使ってパス。鋭く飛んできたボールを、僕はしっかりと受け止める。

・・・・・・やっぱり全く運動がダメなわけじゃないんだよね。ただ、出来るのに時間がかかるだけで。



「そう言ってもらえると嬉しいです。じゃあ、ウォーミングアップも終わったところで」

「うん。1on1での練習・・・・・・お願いね」










そこからなのはさんの体力や動きに合わせて、僕を相手にした1on1で実地練習。

ガードの仕方や動き方なんかを教えると、なのはさんは一生懸命にやる。

昨日とは変わらない方向で、本当に一生懸命。・・・・・・やっぱり凄い人だ。





頑張り屋で真っ直ぐで・・・・・・魔法どうこうを除いたら、外キャラが外れてるあむちゃんに似てるのかも。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



朝ご飯の時間になる前に、僕達は昨日と同じように家に戻る。

ミッドの空気や風に大分慣れてきたなと思いつつ、なのはさんの左隣を歩く。

なお、僕の居る方が車道側。まぁ、一応女性と二人だしこういうのはね。





だけどなのはさん・・・・・・体力はあるんだよなぁ。魔法戦ってエネルギー使うらしいし。





だけど運動神経があまり良くない。うーん、やっぱりアンバランスだ。










「・・・・・・そう言えば」

「はい?」

「実は昨日、なぎひこ君と空を飛んでる時に気づいちゃったんだ。・・・・・・あのね」



それで教えてもらった。何に気づいたのかとか、それが何かとかを・・・・・・当然のように僕は驚きを隠せなかった。



「僕のたまごが?」

「うん。特に高速機動とかしてるわけじゃなかったから、間違いないと思う」



羽織ったパーカーシャツのポケットから、改めてあのたまごを取り出す。

この子・・・・・・動いてたって、どうしてだろ。確かに飛んでる時は楽しかったけど。



「でもどうして。今までそんな事なかったのに」



つい、なのはさんの方を見上げる。だけどなのはさんは申し訳なさそうな顔をしていた。



「うー、ごめんね。私がしゅごキャラの事とか詳しければ、もっと力になれるのに」

「あ、いえ。あの・・・・・・すみません」

「もう、謝る必要ないよ。というか、ちょっと嬉しいな」

「え?」



なのはさんは、表情を変えて嬉しげに微笑む。それに少しドキっとしてしまう。



「ちゃんと近くに居る私の事、頼ってくれた。うん、昨日のお話で約束したこと、守ってくれてるんだね」

「・・・・・・はい」



なのはさんは変わらずに笑っている。な、なんというかこれはその、僕はアレだよね。

この人の笑顔を独り占めって、色々とおかしいのかも。



「ゴトゴト揺れていたのはなんでだろ。やっぱり生まれかけたからかな」

「そうかも知れませんね」



てまりが生まれた時も似たような感じだったもの。でも、僕は答えを見つけてないのに。



「うーん、やっぱりなぎひこ君は難しく考え過ぎてるなぁ」

「え?」



いつの間にか俯いていた視線をあげると、なのはさんは少し困った顔をしていた。

その理由が分からなくて、僕は少し首を傾げてしまう。



「私も経験があるんだけどね。スランプというか何かに詰まった時は、確かに誰でもアレコレ考えて答えを探そうとするの。
でも、それって実は良い手でもあるけど、一つ落とし穴があるんだ。なぎひこ君、それってなにか分かる?」

「・・・・・・いえ。あの、なんでしょうか」

「それはね、本当にシンプルで大事な答えを自然とスルーしがちになるの。
・・・・・・なぎひこ君、ちょっと戻ろうか。答え、見つけにいこ?」



そう言いながらなのはさんが左手で僕の右手を掴む。掴んでそのまま帰り道をUターン。

当然だけど、僕は引っ張られる形でそのままトタトタと駆け出す事になる。



「え? あ、あの・・・・・・なのはさんっ!? どこに行くんですかっ!!」

「だから、答えを見つけにだよっ! ううん、なぎひこ君はもう答えを見つけてるよっ!! あとはそれを確かめるだけっ!!」

「いや、あのえっと・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」










そのまま僕は駆け出すことになった。というかあの・・・・・・なのはさんっ!?





なんかエンジンかかりまくっているのはどうしてですかっ! あの、えっと・・・・・・助けてー!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・で、朝食の事も忘れてなぎひこと今の今までバスケしまくっていたと」

「それでなのはもなぎひこ君もそんな状態なんだね」

「う、うん。思いっきり『とべば』答えが見つかるかなーって」





朝に出かけたのは分かってた。僕とフェイトもロードワークしてたし。

でも、朝食の時間になってもなのはとなぎひこが帰ってこない。で、フェイトとあむと一緒に探しに来た。

もち朝食はしっかりと食べた上で。つまり、それくらいの時間二人はバスケに熱中。



息は整ってるけどもう汗だくで・・・・・・これ、一日中やってそうな勢いだったでしょ。





「それで成果は・・・・・・聞くまでもないか」





陽の上がったバスケコートでは、なぎひこやあむと同い年くらいの子ども達が3on3をやってる。



で、僕達はその隅のベンチコートでなのはとなぎひこを呆れた目で見てる。



てーかなのは・・・・・・肉体言語に訴える癖はなんとかしないと、婚期が更に遅れるんじゃ。





「婚期が遅れるってひどいよっ! わ、私だって引く手あまたなんだよっ!?」

「・・・・・・普通に思考を読み取るな。てーか、ヴィヴィオが『ママは恋愛の気配0なの』ってちょっと気にしてるんだけど」

「それは言わないでー! この間の結婚式の時に『パパ欲しいな』って言われてすごいヘコんだのー!!」



話は知ってたけど、僕とフェイトはなのはから口元を抑えて目を逸らしてしまう。

バスケのドリブル音が聴こえる中、僕達は瞳に涙を浮かべてしまう。



「それでなぎひこ、その結果どうだったのかな。あたし、そこがちょっと気になってるんだけど」

「こ、答えっていうか・・・・・・なんかもう、途中からハイになって何も考えられなくなってきてるよ」

「にゃはは、狙い通り」

「狙い通りって・・・・・・なんですか」





まぁなのはの言いたいことは分かる。一応ここは感謝しておく事にしよう。

なぎひこが考え込み過ぎてこんがらがって来てるから、それに歯止めかけたかったんでしょ。

多分なぎひこの答えの一つは『とぶ』事にあるからバスケに走ったのよ。



ただ、徹底的過ぎる。そして肉体言語過ぎるけど。





「高町教導官、何が狙い通りかさっぱりです」

「シオン、あたしも同意見だよ。でもまぁ、二人は楽しそうだからいいんじゃないかな」

「それもそうですね」



・・・・・・でもなぁ。なんだろ、こう嫌な予感を感じるんですけど。なのは、マジでショタコンじゃないよね?



「とにかく、二人とももう戻ろ? 朝ご飯はとっくに過ぎて」

『ムリィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!』



フェイトの言葉を遮ったのは、すっごくお馴染みな叫び。というか、つい先日聞いたばかり。

あんまりにも唐突だし空気を読んでないので・・・・・・僕達は頭が痛くなりつつもコートの方を見る。



「な、何あれっ!? あの子達・・・・・・倒れてるっ!!」



さっきまでバスケをしていた子達が、全員倒れてた。そして、その上には三体の×キャラ。あとは三個のたまご。

なのはは×キャラは見えてないけど、フェイトとあむとなぎひこと僕はそれが見えてるから、表情が険しくなる。



「はわわわわ、君達大丈」

「・・・・・・あー、なのは、フェイトとちょっと下がってて」



駈け出しそうになったなのはを右手を出して制する。なので、当然だけどなのはが不満そうに僕を見る。



「恭文君、どうして止めるのっ!?」

「なのは、あの子達の中のたまごに×が付いてるの。
倒れたのはそれが原因。それでそのたまごから、×の付いたキャラが出てる」



フェイトがすかさずそう補足すると、なのはの表情が驚きに染まった。



「えぇっ!? ・・・・・・あ、そう言えば×のついたたまごが浮いてるっ!!」



待て待てっ! そこ気づいてなかったんかいっ!!

・・・・・・これ、反射的に動いてたな。こういうところが常に前面に出てるなら、魔王って言われないのに。



「あ、でもそっか。私はしゅごキャラが見えないし浄化能力なんてないから」

「うん。だから、私となのはは下がってるの。私達、何も出来ないから。じゃあヤスフミ」

「分かってる。あむ、なぎひこ・・・・・・ちょっと頑張るよ」



振り向きながら二人を見ると、なぎひこももう立ち上がっていた。それで、僕を見て頷く。

なぎひこは息を整えて、汗のついた額を左手の甲で軽く拭って、そのまま踏み出す。



「なぎひこ、大丈夫? なのはさんとさっきまで動きまくってたのに」

「大丈夫だよ。それに・・・・・・何か見えかけてるんだ。だから、もうちょっとだけ」

「・・・・・・うし。それじゃあ早速行くよ」



というわけで、朝っぱらから早速×キャラと対決である。ただ、今回はルールが特殊。

だって・・・・・・現在出てきてる三体の×キャラの服装がバスケのユニフォームなの。あと、それだけじゃない。



『ドリブルドリブルー!!』

『パスー!!』

『シュートー!!』



このように、バスケな事をやっている。そして、三個の×たまが宙に浮いて縁を描く。

ちょうどバスケのゴールの高さ・・・・・・2メートル以上の位置にある。



「お兄様、察するにバスケで勝負しようという事でしょうか」

「そうだろうね」

「それでは早速・・・・・・お兄様のこころ」

「え、ちょっと待ってっ!? 早速ってなにー!!」



『解錠』アンロック



「アンロック」



そして、強制的に鍵を開けられた。僕の身体は翠色の光に包まれて、その姿から一瞬で変わる。

そこから生まれるのは聖なる破壊。それを司る存在が、ここで姿を表す。



「・・・・・・キャラなり、セイントブレイカー」

『え、いきなりキャラなりっ!?』

【ちょっと待ってー! なんでいきなりこれっ!? 普通にバスケだったら僕はキャラなりいらないでしょうがっ!!】

「さぁ、私という伝説を・・・・・・その身に刻み込みなさい」

【華麗に無視するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!】




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「というわけでー!!」

「早速試合開始ですぅ」



というわけで、スゥがホイッスルを吹いてくれて試合開始。なお、さすがにあたしはランとキャラなりしてる。

まずは向こうのボール・・・・・・というか、攻撃。私達が防御側で、×キャラ達が攻撃側。



『ムリィィィィィィィィッ! ドリブルドリブルッ!!』



×キャラが浮きながら・・・・・・いやいや、あれいいのっ!? ・・・・・・と、とにかくドリブルしながらこっちに迫る。

あたしとなぎひこは警戒してそれを止めようと・・・・・・構える前に、翠色の風が走った。



「遅過ぎです」



シオンが一気に走り込んで、×キャラのボールを右手を右薙に振るって奪う。



『カットッ!?』



ボールを持っていた×キャラは反応出来ずにボールを奪われた事に、驚きの声をあげる。

それを気にせずにシオンは×キャラを抜き去るように交差しながらも、片手で掴んだボールを両手で持つ。



「藤咲さん、パスですっ!!」





わざわざそう宣言して、すぐさま身体の方向を時計回りに捻ってゴールを見据える。

当然だけど、ボールを奪われた×キャラはそれを止めようとする。だから、シオンの前に出てきた。

でも、その時あたしとなぎひこは同時に寒気が走った。だってシオン・・・・・・口元が笑ってた。



というか、バスケットボールが翠色に包まれた。×キャラもそれに気づいたけど、今更遅い。





「「シオン、ちょっと待」」

・・・・・・ビートショット

『ムリィィィィィィィィィィッ!?』





瞬間、翠色のパス・・・・・・ううん、弾丸が×キャラを吹き飛ばしていた。

なお、なぎひこはなんとかそれをキャッチ。なぎひこの手にボールが収まる時には、普通のバスケットボールになっていた。

そして×キャラの居た箇所に黒の粒子が集まって、一つの形を取る。それは×たま。



だけど、すぐに白いこころのたまごに戻って、隅に移動させた子ども達のうちの一人の中に吸い込まれる。





「・・・・・・・・・・・・あら」



や、やってくれちゃったし。パスと見せかけて×キャラに攻撃しかけて浄化しちゃったよ。



「さて、アクシデントは気にせずに続きを」

≪なのなのー≫

【【「「出来るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」】】

『『ムリムリムリ・・・・・・ムリィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!』』



あたしとランとなぎひことシオンに身体を乗っ取られてる恭文と、残り二体の×キャラの叫びが同時にコートの中で響く。



「シオン、レッドカードですよぉ。退場なのですぅ」

「異議無し」

「・・・・・・スゥさん、ミキさん、なぜですか?」



・・・・・・そして首を傾げるなっ! なんでアンタそこで疑問持つわけっ!?



「なぜっ!? シオン、どうしてそこ聞いちゃうのかなっ!!」

「明らかにルール違反ですよぉっ!? ボールで攻撃はバスケでは禁止ですぅっ!!」

「何を言ってるんですか。あれは不幸な事故です」

「嘘だよねっ! 普通に攻撃する気満々だったでしょっ!!
口元笑ってたしっ! 技名ボソっと呟いてたしっ!! ボクちゃんと聴こえたよっ!?」



そうじゃんそうじゃんっ!! 明らかにルール違反でしょっ!? バスケと格闘技勘違いしてるでしょっ!!



「いいですか? そもそもバスケというのは、古代ローマで行われた競技の一つが元であって」

「全然そんなことないからっ! てゆうか、バスケしてるのにコレはないよねっ!!」

「日奈森さん、ですからバスケは格闘技の亜種で」



ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! そんな話、あたし聞いた事ないんですけどっ!?



「だいたい、もう浄化出来ればもうなんでもいいじゃありませんか」

「え、しゅごキャラのアンタがそういう事言っちゃうのっ!?」

≪そうなの。ようは結果なの。手段なんて勝ってしまえば文句なんてつけられないの≫



だぁぁぁぁぁぁぁぁっ! コイツマジで恭文のしゅごキャラだしっ!! そしてジガンはやっぱり恭文のデバイスだしっ!!

恭文と同じく理論武装でどうにかしようとする癖があるってどういうことっ!? 性質悪過ぎじゃんっ!!



「とにかくアレはダメっ! 恭文君もそれで問題ないよねっ!!」

【当たり前でしょうがっ! これがOKなら、ボクは最初から鉄輝一閃でぶった斬って・・・・・・ぐす】

「「泣かなくていいからっ!!」」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・世の中というのは理不尽なものですね、ジガン」

≪そうなの。みんな心が狭いの。勝てば官軍なの≫



というわけで、シオンは退場。キャラなり状態のまま私達の所に戻ってきてベンチに座った。

なのはが若干混乱気味だけど・・・・・・うん、そうだよね。私も実際に見せてもらった時、思いっきり取り乱したもの。



「シオン、ジガン、私が思うにこれは当然じゃないかな」

「と、というかこれはなにっ!? フェイトちゃん、恭文君どうしちゃったのかなっ! なんでシオンになってるのー!!」

「なのは、落ち着いてっ!? これはその、色々あって・・・・・・・あぁ、泣かないでー!!」



なのはが私の両肩を掴んで、ぶんぶんと揺らす。本当にワケが分からなくて置いてけぼり状態なのが辛いみたい。



【大丈夫、横馬が知らなくてもドキたま/だっしゅは遠慮なく進行出来るから】

≪そうなの。お母さん、気持ちは分かるけどお母さんはサブキャラだから置いてけぼりでも特に問題が≫

「うー、またそうやって私をのけ者にするー!!
・・・・・・というか、恭文君もジガンもどこから喋ってるのっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・まぁ、アレだよ。マジ悪かった。ごめん」

『ムリムリ・・・・・・ムリ』

「あむちゃん、何言ってるか分からないけど・・・・・・僕達、×キャラに同情されちゃってるよね」

「多分ね。さっきのはさすがに予想外だったし」



頭、痛い。てゆうかマジでアレはなに? 確かラン達ともバスケやってたよね。

てゆうことはアレですか。普通にルール分かった上であれですか。じ、自由過ぎだし。



「とにかく、試合再開ですよぉ。2on2でスタートですぅ」

「せーの」



今度はミキがホイッスルを吹く。その音で・・・・・・またまた×キャラが攻めて来る。

だってシオンがとんでもない反則技使ったから、こうするしかないじゃん。



【あむちゃん、来るよっ!!】

「分かってるっ!!」



とにかく、あたしは両手を広げてボールを迫り来る×キャラをガード。

×キャラは宙に浮きつつドリブルして・・・・・・あたしの視界から消えた。



「・・・・・・え、どこどこっ!?」

『ドリブルドリブルー!!』



声は後ろから。そちらを見ると・・・・・・あー! なんか普通に抜かれてるっ!? どうしてっ!!



【あむちゃん何やってるのっ!? 脇抜かれちゃってるしっ!!】

「し、しかたないじゃんっ! あたしスポーツ関係基本ダメなんだしっ!!」



とにかく言ってる場合じゃない。すぐに×キャラに・・・・・・あー、なんかもう既にすごい抜かれてるっ!?

急いでダッシュするけど・・・・・・あぁなんか無理っぽいっ! 普通にあたしのスピードじゃ追いつけないっ!!



『パスパスー!!』

『ムリムリー!!』



なんか余裕かましてパスしようとしてるし。あれ、なんかムカ・・・・・・って、なぎひこどこっ!?



『パスー!!』



×キャラがドリブルしていたボールを両手で持って、左側の×キャラに向かってパス。

鋭くシュートが放たれて、それは受け止められた。ただし、×キャラにじゃない。



「・・・・・・よっと」

『『ムリムリッ!?』』





それはパーカー姿のなぎひこだった。いつの間にか追いついていて、パスの間に割り込んだ。

そしてそのままドリブル開始。当然だけど×キャラがそれを邪魔しようとする。

でも、なぎひこはどんどん前に進む。フットワークとドリブルを変則的にして、左右からのカットをかわしていく。



足を止めたり、ボールを背中に沿うようにくるりと回したり、両手を交互に使ってドリブルしたり・・・・・・す、すごい。

普通になぎひこってこんなバスケ出来たんだ。あたし、かなりびっくりしてる。

とにかくあたしもその間になぎひこと×キャラ達に追いついてる。なぎひこが時間稼いでくれたおかげでなんとか。





「あむちゃん、パスっ!!」



右から来る×キャラの攻撃を避けるように、なぎひこがボールを高く上げた。

当然だけど、あたしは慌てまくる。だってあんまりにいきなり過ぎだし。



「え、えぇっ!? あたしって・・・・・・いやあの、えぇぇぇぇぇぇっ!!」

【あむちゃん、慌てるの禁止っ! フェイトさんとの訓練を思い出してっ!?】



フェイトさんとの・・・・・・そうだ。敵から攻撃された時に、慌てたり目を瞑ったりしちゃいけない。

落ち着いて、冷静に軌道を見極めて避けていく。そしてこれも同じ。ただし、これは避ける必要がない。



『ムリムリー!!』



なぎひこの左側に居た×キャラが、あたし目がけてのパスをカットするために飛び上がった。

そしてあたしも高く上がったボール目がけて跳ぶ。



『ムリッ!?』



そして右手を伸ばして・・・・・・×キャラを追い越す形で両手でしっかりキャッチ。



【あむちゃんナイスっ! さぁ、そのままシュートだよっ!!】

「うんっ! ・・・・・・いけっ!!」



そしてあたしは、×たまのリングに向かってシュートした。それは回転するリングにぶつかって、上に跳ねる。

・・・・・・訂正。入りそうだったのに、いきなりリングが上に20メートル近く跳ね上がった。それによりボールが弾かれる。



「うそ、なにアレっ!!」

【ズルじゃんっ! あんなのありっ!?】

『ムリムリムリムリー!!』





あぁ、なんか言ってる事分かるっ! シオンのバカがズルするから、なんかキレてるんだっ!!

とにかく、あたしはそのままコートに落ちていく。あたしがさっき追い越した×キャラはそのまま飛び上がっていく。

当然だけど、もう一体の×キャラも同じく。ボール目がけて飛び上がる。・・・・・・まずい。



着地してから一気にあそこまで跳んでも、きっと間に合わない。そのままシュートされちゃう。





「任せてっ! ・・・・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」










でも、そんなあたしの焦りを打ち消す力強い声がなぎひこから放たれた。

そしてなぎひこは全力で駆け上がって・・・・・・キャラなりもキャラチェンジもしてないのに、高く跳び上がった。

右手を伸ばして、落下し始めたボールを見定めて必死な顔・・・・・・ううん、違う。





なぎひこ、楽しそうな顔してる。あたしがちょこっとだけ知ってるなぎひこの顔の中で、一番楽しそうな顔。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・なぎひこ君、多分なぎひこ君は私なんかよりずっと頭が良いから、沢山考えちゃうんだと思う。
それは凄くいい所だとも思う。でもね、思考と感情。理性と衝動は全く違う・・・・・・真逆にあるものなの』



それは『僕の答えを見つける』と力強く言ったなのはさんが、改めてコートでバスケを始める前に言った事。



『だから思考や理性だけで自分の感情や衝動の答えを見定めようとすると、どうしても失敗しがちなの』



それからなのはさんは、両手で持っていたバスケットボールを僕に思いっきりパスした。



『なぎひこ君の中から産まれたたまごは、なぎひこ君の『変わりたい』と思う気持ち。
もっと言うと・・・・・・なぎひこ君自身の感情と衝動の結晶とも言えるんじゃないかな』



僕はそれを咄嗟に受け止める。あまりの勢いに手が痺れて・・・・・・そして感じた。



『それを確かめるなら、考えるだけじゃだめなの。
自分の心の動きに集中して、今自分がどうありたいかを感じていく。だからやるよ』



今僕の目の前で力強く笑っているなのはさんは、さっきまでとどこか違っていたのを。



『全力全開で、私とこれから何回も・・・・・・何度でも『とび』続けていくの。
私、何時だってありったけであなたと向き合っていくよ』



心と身体で、真正面からぶつかって来られているような感覚に襲われる。

でも、怖いとかじゃない。むしろ嬉しくて、胸の中が強く震えるのを感じる。



『『なでしこ』さんじゃなくて、なぎひこ君の答えが見つかるまで・・・・・・ううん、これは違うな。
見つかってからだって同じ。私、あなたと何度でも一緒に『とんで』みたくなった』



その言葉に驚いて・・・・・・うん、驚いてしまった。だからなのはさんは確信を持ったように嬉しそうにする。



『あ、やっぱりだったか。・・・・・・え、なんで分かったのか? あえて言うなら女の勘かな。
あとは昨日のお話だね。あれから私なりに色々考えて・・・・・・うん、ちょっとカマをかけてみたの』



とりあえず恭文君が前に『女の勘はチートカードだよ』と言っていた意味が分かったよ。

確かにこれはチートだね。普通に反論出来る要因0なんだもの。



『さ、お話はこれまでだよ。・・・・・・私も全力全開でいくから、なぎひこ君もお願いね? 必要なのは感じる事。
考えるんじゃなくて、今のあなたの気持ちを身体全体で感じ取る事。それがなぎひこの探してる答えのはずだから』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それで何度も『とんで』、何回も二人で空に向かって手を伸ばして・・・・・・少しだけ分かった。





確かに思考と理性は感情と衝動と相反する部分があると。僕は考えようとしていたから気付かなかった。










「任せてっ!」



僕はどうしてあの時、僕のたまごが動いたのか考えようとしていた。でも、それじゃあだめだったんだ。

僕があの時、一体何を感じていたかを思い出して・・・・・・しっかりと確かめる必要があった。



「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





僕は『とぶ』事が好きだ。思いっきり・・・・・・ありのままの自分として高く、高く『とんで』いきたい。

空にも、星にも、月にも、太陽にも手が届くくらいに思いっきり『とび』たい。だって僕は『とぶ』事が好きなんだから。

ずっとそうだった。だから『なでしこ』で居てもこれだけはやめられなかった。



・・・・・・なのはさん、ありがとうございます。なのはさんとぶつかって、何度も何度も手を伸ばして、やっと気づきました。

僕はいつでもこうやって『とんで』、高く・・・・・・高く手を伸ばし続けていたかった。それが僕の気持ちだ。

そして今はそれが許される。だって今の僕はもう『なでしこ』じゃない。なぎひこ・・・・・・男の子なんだから。



ありのままの僕は、藤咲なぎひこ。男の子としての自分がそれなんだ。もう我慢なんてしなくていい。

『なでしこ』で居る内に忘れていたものがある。抑え込んでしまっていたものがある。

本当は思いっきり『とび』たかった。他の男の子と一緒に走り回ってたまにコケたり・・・・・・そんな事がしたかった。



でも僕が踊りの勉強をするために『なでしこ』で居る事は必要で、僕もそれを望んでた。

ただ、それでも抑え込んでいたものがある。でも、もうそんな事をする必要はない。

あるがままの自分のリズムを全部解き放って、僕は『とぶ』。それでいつかあそこに行きたい。



あの時なのはさんに抱えられる事でしか行けなかった世界に、いつか僕の力で『とんで』いきたい。



そんな自分に少しずつでもなれるように全力全開で、高く・・・・・・高く『とぶ』っ! どこまでだって、『とんで』みせるっ!!





”・・・・・・いいリズムだぜ”



どこからともなく声がした。すると僕の周りの景色が変わる。

コートや青い空や二つの月ではなく、光が満ち溢れた世界になった。



”オレの胸にもジンジン来てるぜ。あぁそうだ、もう我慢なんて出来ないよな”



そして僕の目の前に・・・・・・僕の青いしゅごたまがいつの間にか現れていた。



”なぎひこ、確かに届いたぜ”





しゅごたまが真ん中からパカリとギザギザの割れ目が入って二つに割れた。

その中に居たのは、一人の男の子。白のニット帽に長袖のトレーナーにノースリーブの青いジャケット。

首元にはヘッドホンをかけている。なお、耳がすっぽり収まるタイプのもの。



そしてロングジーンズに青のスニーカーを履いていて、髪の色や髪型や瞳は僕と同じ感じ。



両手をジーンズのポケットに入れて、軽く左目でウィンクしてきた。





「オレの名はリズム。さぁなぎひこ・・・・・・クールに決めるぜっ!!」



だから僕は頷いて、あの言葉を口にする。そうしてこころの鍵を開けた。



「僕のこころ」



『解錠』アンロック



「アンロックッ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「僕のこころ」



『解錠』アンロック



「アンロックッ!!」



跳び上がった瞬間に、なぎひこを青い光が包み込んだ。そしてその光を突き抜けてなぎひこが出てきた。

でも、姿が変わってる。さっきまでは灰色のパーカーにジーンズ姿だったのに。



【「・・・・・・キャラなりっ!!」】





ボールを右手でキャッチ。そのまま左手を動かしてなぎひこはボールををしっかりと両手で保持。

・・・・・・黒の編み上げのロングブーツの両端には、青い羽根。でもその形状に見覚えがある。

というかアレ、恭文やなのはさんが使ってる飛行魔法のアクセルフィン? そうだよ、形状がまんまだし。



それで両膝には青いプロテクターで、ジーンズタイプのハーフパンツ。

上着は紫のロングのインナーに白の半袖のシャツに青いノースリーブのジャケット。

両手には指出しの青グローブ。結構カジュアルでありながらラッパー的な服装。



首には耳がすっぽり収まるタイプのヘッドホンに白いニット帽。

その帽子の前の部分に青い羽根のプリント。こ、これ・・・・・・ううん、間違いない。

だってさっきなぎひこ、『アンロック』って言ってたし。



とにかく、両手でボールを持ったままコートにしゃがむように着地。



それから身体を起こして、なぎひこは立ち上がる。





【「ビートジャンパー!!」】



なぎひこ、キャラなりしちゃったっ! てゆうか、ビートジャンパーって・・・・・・え、誰とっ!?



『ムリムリッ!?』

『ムリー!?』

【驚くのはまだ早いぜ? 俺達のリズムが響くのはここからだ。
さぁ、クールに決めてやれっ! ナギー!!】

「・・・・・・うん」



なぎひこの足元の青い羽が輝く。そして光の粒子を放ち始めた。



「ビート・アクセルッ!!」



なぎひこがしゃがむと、羽が連動するように動いて羽ばたく。



【「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」】



そしてなぎひこが跳んだ。まるで恭文のアクセルみたいに青い羽根を振り巻きながら、一直線にゴールポストに向かう。



『ムリッ!?』

「す、すごい・・・・・・あんな高くに。というか、アミュレットハートより高いし速いかも」

【はわわ、ライバル登場だよー!!】



なぎひこはゴールポストよりも高く飛び上がる。そして、僅かにゴールポストが上に動いた。

またズルをするつもりらしい。それでもなぎひこは楽しそうにボールを両手で持ったまま腕を振り上げた。



【続けていくぜっ! ナギー!!】

「ビートッ!」



そしてゴールポストが上に上がる前に、両手・・・・・・ううん、そのボールをゴールの輪の中に叩きつけた。



「ダンクッ!!」



・・・・・・あたし、これ知ってる。ダンクって言うすっごい高度な技じゃん。

ゴールの高さまで跳べなくちゃ出来ない技。すごい・・・・・・すごいよ、なぎひこっ!!



『『ムリムリッ!!』』



驚く×キャラの声が響いた次の瞬間、ミキが笛を吹いた。当然だけど全員がそちらを見る。



「タイムアップ。ちょうど時間切れだよ」

「この勝負、あむちゃんとなぎひこさんの勝ちですねぇ」

『『ムリムリッ!!』』



その間に、なぎひこが着地する。そしてゴールになっていた×たま達も、同じようにコートに降りてきた。

だったら、あたしのやる事は一つ。あたしは・・・・・・×キャラと×たまに向かって右手で指差す。



「ネガティブハートに・・・・・・ロックオンッ!!」

『『ムリムリッ!!』』



なんか×キャラが驚いてるけど無視。なお、ここには当然だけど理由がある。



「・・・・・・楽しかったよ」

『『ムリ?』』

「あたし、バスケとかスポーツ苦手だったけど、アンタ達とバスケ出来て楽しかった。
だから・・・・・・またやろうね。今度はお互いにズル無しで、全力で勝負するの」



笑顔でそう言ってから、あたしは両手でいつものようにハートマークを作る。



『『ムリ・・・・・・!!』』



ピンク色に強く輝くハンプティ・ロックから、同じ色の光が溢れる。



「オープンッ!」



その光があたしの両手の親指と人差し指で作ったハートマークの中を通って、ハート型の光が放たれた。



「ハートッ!!」



放たれたハート型の光が×キャラと×たま達に直撃してその動きを止める。そして×キャラが苦しげに声をあげる。



『『ムリィィィィィィィィィィィィィィッ!!』』










×キャラ達はオープンハートの中で再びたまごの殻に包まれる。

そして他の×たま達も一緒に黒い柄と×の模様が消えていく。

あたし達の前に今まで存在していた黒いたまごは全て、白いこころのたまごに変わった。





その子達はみんなそれぞれの持ち主の中に戻っていく。・・・・・・ふぅ、色々あったけどこれで浄化完了っと。





あたしはなぎひこの方を見て・・・・・・左手でサムズアップ。なぎひこも少し照れながら笑ってそれに返してくれた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



×キャラと×たまは全て浄化完了。子ども達は時をそれほど経たずに全員復活。

フェイトが念のために結界を張ってくれていたので、誰かに見られている心配も0。まぁ上々ってとこだね。

ただ・・・・・・それでも色々見過ごせない部分もあったりする。それはシオンとジガン。





なので、二人には家に戻ったら軽くお説教をかます。いくらなんでもアレは空気読んでないっつーの。

というわけで現在、僕達はようやく帰路について家に戻る途中。

なお、当然だけど僕がいつものようにヘコんでいたのはカットされているのであしからず。





やばかった。フェイトが慰めてくれなかったら、普通にしばらく立ち上がれなかったかも。










≪うー、主様が怖いのー。本気でお怒りモードなのー。お母さん助けてなのー≫

「ダメだよ。というか、ジガンもあの状態でおしゃべり出来るなら、ちゃんとシオンを止めなくちゃ。
うん、だから私もお説教だね。私はジガンのお母さんだから、そこはしっかりしなくちゃ」

≪お母さんまでひどいのー≫

「シオン、シオンは私だよ。いくらなんでも『浄化出来ればなんでもいい』はアウトだよ」

「いえフェイトさん、アレは軽めのジョーク・・・・・・あぁ、通用しないのですね。はい、分かってました」



とりあえずなのはとフェイトが協力してくれるので、ここはいい。で、問題はあの子だよ。

なぎひこ、マジでなのはとの全力全開の『お話』でしゅごキャラ生まれたし。



「いやぁ、キャラなりで女装姿になるなんて・・・・・・ナギナギは面白いよな。
見ているだけで周りをワクワクさせてくれる。いいグルーブをしてるぜ」



そんな新顔の悪意無き言葉が心に突き刺さる。だから僕は崩れ落ちた。



「・・・・・・リズム、そこは触れないであげて? ほら、恭文君がヘコんだから」

「みたいだな。あー、悪い事しちまったか?」

「あぁもう、恭文大丈夫? てゆうか、道の真ん中で蹲るの無しだって。普通に邪魔だから」

「恭文さん、大丈夫ですかぁっ!? あぁ、泣くのはダメですぅっ!!」

「ヤスフミ、しっかりしてー! あの、大丈夫だよっ!?
きっといつかシオンに身体を乗っ取られずにキャラなり出来るからっ!!」










・・・・・・見られた。なのはに見られてしまった。よし、絶対に口止めしよう。





誰にも知られたくない。これ以上顔なじみには絶対に知られたくない。特にはやてとかには絶対。





今のところヒロさんサリさんにもバレてないんだ。よし、これで僕は勝つる。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・あのなぎひこ君、恭文君のアレは・・・・・・キャラなりっていうのなんだよね」

「みたいですね。僕は実際に見るの初めてですけど」



リズムが余計な事を言ったせいでまたまたダウナーに入った恭文君を、フェイトさんとあむちゃんが慰めてる。

それはそれとして僕はなのはさんに・・・・・・ちゃんと今の僕の気持ちを伝える事にした。



「あの・・・・・・なのはさん、ありがとうございました」



それだけでなのはさんは言いたい事が分かったのか、微笑みながら首を横に振った。



「ううん。・・・・・・もし少しでも力になれたなら、凄く嬉しいよ。でも、やっぱり嫌だな」

「え?」



なのはさんの声のトーンが少し下がる。それでなのはさんは・・・・・・少し苦笑気味に言葉を続けた。



「私、現時点でしゅごキャラ見えてないでしょ? それが嫌なんだ。
せっかく生まれたなぎひこ君の『なりたい自分』に、挨拶も出来ないもの」



そう言ったなのはさんを見て、僕とリズムは顔を見合わせる。・・・・・・どう答えていいか、少し迷ってしまった。



「・・・・・・なぎひこ、自分のリズムを信じろ。考えるんじゃなくて、感じていくんだ」

「・・・・・・うん」



僕はもう一度、なのはさんの方を見る。それで僕なりの・・・・・・僕の本心を伝えた。



「すぐに見えるようになると思います。だから、大丈夫ですよ」

「・・・・・・そうかなぁ」

「そうですよ。というか、なのはさんだって夢・・・・・・ありますよね? 大人だけど」



言いながら僕は空を見上げる。空は僕達がバスケを始めたあの時と違って、もう太陽は登りきって明るくなっていた。



「あの広くて青い空をどこまでも『とんで』いきたいというキラキラに輝く夢が」



それからなのはさんを見て、僕は笑う。ありったけの感謝の気持ちと胸の中の確信を込めて。

それでなのはさんも同じように返してくれる。それがなんというか・・・・・・うん、嬉しかった。



「・・・・・・ありがと。なんかキャラ持ちのなぎひこ君にそう言われると・・・・・・うん、見えそうな感じがする。ね、確かリズムだったよね」



なのはさんはそのまま、少し腰を落として視線を僕に合わせる。

多分僕の近くに居ると思われるリズムを見ようとしてるんだと思う。



「私、高町なのは。・・・・・・いつかあなたとちゃんとお話出来るといいな。その時はよろしくね」

「なのは・・・・・・うん、いいリズムだぜ。よろしくな」

「・・・・・・『よろしく』って言ってます」

「そう。だったら良かった」

「それに可愛いしな。あ、それはあむにフェイトにランにミキにスゥにシオンも同じくだな。うーん、楽しくなりそうだぜ」



あ、あははは・・・・・・リズム、何か色々と発言がおかしくない? なんで早速軽く口説く感じなのさ。

あと、フェイトさんは除いていこうか。普通に恭文君とお付き合いしてるんだから。



「か、可愛いっ!? あぁ・・・・・・なんかだめー! 異世界での新しい出会いー!!」



・・・・・・今、ミキが凄く嬉しそうな声を上げたけど気のせいとしておく。でも・・・・・・あぁそうだったね。

普通にミキって惚れっぽいんだったよね。それでデレデレになるんだったよね。でも恭文君にはそうならないのに。



「なぎひこ君、どうしたの?」

「あーいえ、なんでもありません。・・・・・・なのはさん」

「ん、なにかな」

「僕、もっともっとエンジンをかけていきます」



あの時一緒に見た景色まで、『とべる』ようになりたい。もう抑える必要なんてないんだから。



「今の僕を・・・・・・『なぎひこ』を、全力全開にして」

「・・・・・・うん」










それから落ち込む恭文君を引っ張って、僕達は急いで家に戻る。先頭は僕となのはさん。

二人で笑いながら、空を見上げながら・・・・・・僕達は高い空に憧れる。

だって空の中には、『とぶ』事には、意味合いは違うけど僕達の夢や目標が詰まってるから。





ミッドの二つの白い月が浮かぶ空は、そんな僕達を静かに見守っていた。




















(第57話へ続く)





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