小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) 第55話 『Longing for the sky/あなたと私の『とびたい』と思う理由』 ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』 ミキ「ドキっとスタートドキたまタイム。さぁ、本日のお話は」 ラン「・・・・・・『とぶ』事の意味は、きっと人それぞれ。でもでも、やっぱり高く思いっきり『とぶ』のって楽しいよねー」 ミキ「高い空に、そこから見える世界に憧れて・・・・・・だから思いっきり『とぶ』。 その中には、自分なりの夢や願いが沢山沢山詰まってるから」 スゥ「今回は前後編に分かれたお話の前編。そんな『とぶ』事が好きなあの子とあの人を中心にお話が回りますぅ」 (画面に映るのは、涙目なあの女と空を見上げる青い髪のあの子。そして、高く宙を『とぶ』バスケットボール) ミキ「え、じゃあもしかして」 ラン「あんな事やこんな事が盛りだくさんっ!?」 スゥ「そこは見てのお楽しみですねぇ。それじゃあ早速いってみましょぉ」 (というわけで、三人揃って右手を高く突き上げる) ラン・ミキ・スゥ『だっしゅっ!!』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・・・・早朝。少し恭文君に付き合ってもらって、外に出て身体を動かす。 ちょっとだけここは申し訳なく思う。だって普段なら、フェイトさんや辺里君と戦闘訓練とかするんだろうし。 でも、やっぱりこれは楽しい。跳んで、走りまわって、ボールを取り合う。 朝もやのかかるコートの中で僕は走り回る。弾む息とボールの感覚が楽しい。 この中ではいつもそうだ。僕はここでは自由に飛び回れる。 女の子の自分を捨てて、なぎひこで居られる。恭文君とフェイトさんと偶然会ったのもそんな時。 両腕を広げてガードに回る恭文君の左を抜くために動く。恭文君はすぐに前に出る。 さすがに反射がいい。魔法を使わなくても、こういう部分で差が出る。 目の前に居るのは同級生で友達だけど、同時に強敵。普通にやったら、僕には勝てない。 戦闘者として幾つもの修羅場を、命がけでくぐり抜けてきたこの人の能力はとても高い。 だから僕は抜こうと・・・・・・するように見せかけてから、そのまま足を止める。そこからすぐに上に跳ぶ。 だけどその着地地点は後ろに。狙うのはゴールポスト。考えている時間はない。一気に投げる。 腕の力を抜いて、ボールが放物線を描いてゴールに入るイメージをしつつ、僕はボールを投げた。 恭文君が即座に反応して跳ぶけど、ボールが僅かに届かない。魔法をで跳ぶならともかく、普通にやるならこうなる。 恭文君が伸ばした右の指先を掠めるか掠めないかの際で、僕の投げたボールはその頭上を通り抜けた。 ボールは朝の空気を切り裂きながら、放物線を描く。そして・・・・・・ゴールへまっしぐら。 次の瞬間、ゴールポストの網が揺れた。コートの中に響くのは鈍い音。 そして、ボールが上に高く跳ねる。僕が投げたボールは、ゴールにぶつかった。 恭文君はもうそこを目指して走っていた。僕は着地してから後に続く。 後に続くけど・・・・・・追いつかない。やっぱり基礎体力からして違うから。 跳ね上がったボールが、ゆっくりと落下していく。そして恭文君が動く。 恭文君は一瞬少しだけかがむとすぐに跳ぶ。そのままボールを手に取り、落下しながらもシュート。 優しく・・・・・・ボールをゴールに添えるようなシュートは、綺麗に入った。そしてボールは地面に落下。 ・・・・・・うー、悔しい。アレが入っていれば逆転出来たのに。 荒い息を吐きながら、僕は悔しさ混じりでそれを見ていた。・・・・・・戦闘以外ならいい勝負なんだよなぁ。 「・・・・・・まさかあんなフェイントで来るとは」 「僕の趣味じゃないんだけどね。やっぱり考えて打たないシュートは、外れちゃう事が多いから」 もう言うまでもないけど、バスケの相手をしてもらってた。1on1で久々の勝負。 だけど、やっぱ楽しいなぁ。ここまで思いっ切りバスケ出来る相手はそんなに居ないから。 「そう言えば空海もバスケするけど、留学する前まではずっとなでしこだったもんね」 「そうなんだよね。ただこれからは違う。もう思いっきり出来る」 だって、僕は今男の子なんだから。もうなでしこじゃない。 そう考えると、なんでか楽しくなってくるから不思議・・・・・・だよね。 「・・・・・・ね、なぎひこ」 「なにかな」 「なぎひこって、どうしてバスケが好きなの?」 恭文君が落ちたボールを拾って、両手で音を立てながらバウンドさせる。 そのリズミカルな音を聴きながら、僕は・・・・・・ゴールポストを見上げる。 「『とべる』から・・・・・・だね」 「なるほど。なんか、納得した」 「納得するの?」 「前になのはが、なぎひこと全く同じことを言ったのよ。なんかさ、同じニュアンスを感じた」 ・・・・・・なのはさんが? でも、どういうことだろう。 多分僕が言っている『とべる』って言うのとは、きっと意味合いが違うよね。 「そこは機会があれば本人から聞きなよ。で、なぎひこ・・・・・・時間はまだあるのよ」 「確かにそうだね」 僕はコートの左側にある丸い時計を見る。ミッドでも、時間の進み方と数え方は地球と同じ。 あと1勝負くらいならきっと出来る。・・・・・・負けっ放しはつまらないよね? 「なら、次こそは勝つよ」 「なら、僕は差をつけようか。・・・・・・いくよ」 「うん」 僕がバスケを好きなのは『とべる』から。思いっ切り高く、思いっ切り上に。 でも、なのはさんも同じって・・・・・・どういうことなんだろう。 『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説 とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/だっしゅっ!! 第55話 『Longing for the sky/あなたと私の『とびたい』と思う理由』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 恭文君との最後の一勝負を終えてから僕達は家に戻った。そのあとは朝食。 うーん、フェイトさんとなのはさんとリースさんや恭文君と料理上手なメンバーが多いから、食はかなり充実している。 なお、僕や真城さんにあむちゃんも手伝った。ただ・・・・・・真城さんにはライバル意識燃やされまくったけど。 原因は一つ。僕の料理スキルの高さ。普通に瞳が冷たかった。 あははは、僕はあの子とどうしていけばいいんだろ。 とにかく朝食を食べた後、僕達は苦しんでいた。毎年の事とは言え、これは慣れない。 ただ理数系に関して楽なのはありがたいかな。その理由は恭文君とリインちゃん。二人はプログラム式魔法の使い手。 その関係で理数系に関しては非常に強い。なんでも、子どもの頃のフェイトさん達も同じだったとか。 まぁつまるところ何が言いたいかと言うと・・・・・・アレだね、ミッドチルダ観光の前に僕達は戦わなくちゃいけない。 そう、戦わなくちゃいけない。大事な異世界での日々だけど、それだけじゃあダメなんだよ。 ・・・・・・現在、僕達は宿題を頑張っています。うん、午前中の夏休みの過ごし方の基本だね。 「・・・・・・ここの数式はまずここをかけて、その後でこっちのXを持ってきて、答えを出すです」 「あ、なるほどな。じゃあ、答えは・・・・・・こうか?」 「そうですそうです。空海さん正解ですよ」 ・・・・・・相馬君、普通にリインちゃんから教わるっていいの? 君、この中で一番年上なのにさ。 「空海ずるいー! というか、中学の問題をリインちゃんに聞くってどういうことっ!?」 「いいだろ別に。リインもそうだが恭文だって、普通にこういうの強いんだしよ。な、恭文」 「まぁ、僕は問題ないよ? てゆうかやや、問題はそこじゃないから。 空海が学年的な年長者としてのプライドを、ここで捨て切れるかどうかという問題なのよ」 恭文君がそう言った瞬間、相馬君の胸に何かが突き刺さった。 「あ、なるほどー。つまり空海はプライド無いんだね」 そしてややちゃんが続けてボールを投げると、背中に同じ何かが突き刺さる。 「うるせー! てーか恭文、お前何気に突き刺さる事言うなよっ!!」」 「空海さん、大丈夫ですよ? リインは空海さんが全くプライドが無い男でも全然気にしないのです。 いいじゃないですか。下手なプライドなんて、社会生活を送る上では邪魔な事も多いのです」 リインちゃんが何気にブラックな事を言うと、相馬君の脳天に大きな何かが痛そうな音を立てて突き刺さった。 「あぁそうか、それはありがとよっ! でもその前に、気になるところがあるんだよっ!! お前はそんな事を思いながら俺に教えてくれてたのかっ!?」 「はい」 「あっさり認めるなよっ! お前は何気に腹黒いなっ!!」 「腹黒いってなんですかっ!? リインは何時だって恭文さんへの愛でいっぱいなのですっ!! つまりつまり、リインの心はピンク色でホワホワの萌え要素なんですっ! 黒くないですよっ!!」 「そういう事言ってんじゃねぇよっ! てゆうか、お前どんだけ恭文好きなんだよっ!!」 で、その恭文君はと言うと・・・・・・あむちゃんの側について色々教えてる。 「・・・・・・あむ、そこ答え間違ってる。√をつけないとダメだって」 「あ、そっかっ! うぅ、難しいよー!!」 なんというか、恭文君とリインちゃんが普通に家庭教師みたいになってるよね。 そしてりまちゃんは僕の隣で黙々とやっている。何気に勉強は出来るそうだから、これでも問題ないらしい。 「りまちゃん、調子はどう?」 りまちゃんは僕の声に反応して、自分のドリルを一気に隠した。 両腕でドリルを隠しながら、僕に警戒の瞳をただひたすらに向けてくる。 「・・・・・・カンニング」 「しないからっ!!」 あぁ、頭が痛い。僕、この子ともう少し仲良くしなきゃいけないのになぁ。 それで・・・・・・あぁ、あとアレがあったんだ。 「・・・・・・なるほど、ミッド文字は地球の英語に近い文体なのですね」 「興味深いな、海里。それでヴィヴィオ殿、このプログラムはなんだ?」 「これは射撃魔法のプログラムだね。誘導とかじゃなくて、本当に基礎的なもの」 「これを走らせて、魔法の弾丸を撃ち出すということか。なるほど」 あの三条君、宿題・・・・・・あぁ、君は無かったんだよね。 それで今やってるのは自習で、今日の分は終わったんだよね。うん、知ってたよ。 「ですが凄いですね。このような術式をタイムラグも無しに発動出来るとは。 転送魔法や回復魔法、結界魔法も基本はこの方式なのですよね?」 どうやら三条君は魔法に相当に興味があるらしい。というより、理知的な部分で刺激されるのかも。 プログラム式の術式で発動するわけだし・・・・・・改めて考えると、ファンタジー要素0だよね? 「はい。あ、でもでも、そういうのを全てタイムラグ無しで発動出来るのは、恭文だけですよ?」 「ヴィヴィオさん、そうなのですか?」 「うん。恭文は瞬間詠唱・処理能力持ちだから。あ、この能力があると、大抵の魔法を即時発動することが出来るんだ。 プログラム容量が重くても、瞬間的にその処理を終わらせたり出来るから。ただ、術式的に出来ないものもあるんだけど」 とりあえず向こうの魔法講義はともかくとして・・・・・・宿題に集中。でも、なんだか不思議だな。 みんなとこうして寝泊まりして宿題するなんて、ガーディアンになった頃は思ってなかった。 「・・・・・・なぎひこ、唯世も進み具合はどう?」 「うん、順調・・・・・・かな。さすがに、蒼凪君やリインさんレベルでは無理だけどね。 というか恭文君、日奈森さんの方はいいの?」 「そうだよ、あむちゃん苦戦してるみたいだし」 リビングの隅。丸いテーブルを囲むようにしている僕達は、あむちゃんを見る。 あむちゃんはドリルとにらめっこして唸っている。そして、その周りでラン達が応援。 「今日やる分で必要なとこは全部教えた。あとはあむの頑張り次第だよ」 「あははは、厳しいなぁ。というか、蒼凪君は自分の分ちゃんとしてる?」 「そこは大丈夫。あむ達に教えつつ、答え書いてるから」 言いながら蒼凪君が左手を上げて、僕達にあるものを見せる。それは蒼凪君のドリル。 それで中身も見えるから、僕と辺里君はそれに視線を向ける。・・・・・・答え、びっしりだ。 『そ、そうなんだ』 ・・・・・・カンニング? いや、違うか。みんなから相談されて、そこから普通に問題を解いた上でやってるだろうし。 蒼凪君はちゃっかりしているというか、中々に手堅いと思う。だから辺里君も半笑いだし。 「あ、それならちょっといいかな。分からないところがあって」 「どこ? ・・・・・・あ、ここはね」 そうして二人は問題と向かい合う。あ、僕は大丈夫。さっき教えてもらったから。 それでリビングからある人を見てみる。それはフェイトさん達と一緒にお昼を作ってくれているなのはさん。 さっきから朝に恭文君が言ってた事を考えてる。考えて・・・・・・やっぱり分からないと思う。 だってあの人は『とべる』と思うから。まず空を飛べる空戦魔導師という所で一つ。 教導官でヴィヴィオちゃんという子どもが居て・・・・・・僕と同じだとは、ちょっと思えない。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・・・・お昼。フェイト達が頑張って作ってくれたご飯を食べて一休み。 いやぁ、宿題は修羅場だったね。普通に大変だよ、これ。 理数系はまだいいけど、他の科目が大変だな。特にあむとややだよ。 二人がここまでアウトとは思わなかった。・・・・・・空海? 中学生なのにリインに聞いてる時点で論外だよ。 「ヤスフミ、みんなの先生みたいになってたね」 僕は今、ご飯の後片付けをフェイトとリイン、リースとディードとやってる。 で、なんだか嬉しそうにフェイトがそんなことを言ってる。僕はお皿を洗いつつ答える。 「まぁ一応年長者だしね。でも、二階堂ってすごいと思ったわ」 「あぁ、そうだよね。二階堂先生は普通に毎日それをやってるんだから。というか、私ちょっとびっくりしてる」 フェイトがびっくりする原因は簡単。あれからマジで『素敵な先生』になってる二階堂のアレコレだよ。 生徒や先生方に親御さん方の人気や評価も高いしなぁ。普通にびっくりだって。 「そうだよねぇ。まさかあの三流キャラからこっち行くとは思ってなかったし」 「ヤスフミともすっかりお友達だしね」 「・・・・・・普通だよ普通。先生と生徒ってのは変わらないもの。 てーか、ヴィヴィオや唯世に教えてる時も思ったのよ。僕はこういうの向いてないって」 人に教えるのは、自分は普通の三倍理解していないといけないと言う。 お皿を洗いながらも思う。僕、それがちゃんと出来てるかどうか自信ない。 「そうかな。私は少し違う」 「そうなの?」 「私は普通にそういう事をしてるヤスフミを見るの、好きかな。 今まではどこかで遠ざけてた事、頑張ってる感じがするから」 「そう、かな」 「そうだよ」 言いながらお皿を拭き拭きしているフェイトは、優しく微笑む。それにドキっとしつつ、僕は・・・・・・お礼を言う。 「あの、フェイト・・・・・・ありがと」 「ううん」 あぁどうしよう。なんかこれ嬉しい。フェイトとラブラブはやっぱ楽しい。 きょ、今日はちょっと・・・・・・頑張ろうかな。ほら、偶数日だし。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・またイチャイチャしてるです」 「過去でもこれなんですね。・・・・・・あ、いけないいけない」 リース、もう聞こえています。まぁ聞かなかったことにしておきますが。 「というか、この固有結界はどうにか破壊したいです。ディード、なんとかならないんですか?」 「すみません、正直私にも。というか、それなら第二夫人のリインさんでは」 「うぅ、そうですよね。・・・・・・よし、リインも加わるのです。三人でラブラブなのです」 「あの姉様、それは多分、根本的解決になってないような」 ただ、やはり羨ましい。・・・・・・私にもいつかこんな時間がくるのかな。 愛する人と出会えて。その人と結ばれて、一緒の時間を刻む。 ううん、その時間はきっと来る。私は決して諦めないと決めたんだから。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「あの、なぎひこさん」 「うん、なにかな。ヴィヴィオちゃん」 「なぎひこさんって、バスケとか得意なんですか? 朝に恭文としてたんですよね」 「まぁ好きかな」 お昼を食べ終わった後、こんなことをヴィヴィオちゃんに聞かれた。 それに僕が頷くと、ヴィヴィオちゃんの目が見開いた。そして僕の両手を取る。 「なら、お願いしますっ! ヴィヴィオとママにバスケを教えてくださいっ!!」 「・・・・・・え?」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ そして現在。私は・・・・・・ヴィヴィオに手を引かれる形で、近くのバスケコートに。 ここに居るのは、空海君となぎひこ君とあむさんと私とヴィヴィオ。それに恭文君とフェイトちゃん。 なお、理由は私とヴィヴィオのバスケの練習。もちろんここには理由がある。 ヴィヴィオ、夏休み前の体育の時間でバスケをしたそうなんだけど、さっぱりだったらしい。 それでバスケが好きだというなぎひこ君と、得意だという空海君に習おうという話になった。 ヴィヴィオ、そうとう悔しがってたからなぁ。我が子は二人目のママに似て、相当負けず嫌い。 なお、私が習う理由は・・・・・・これです。 「・・・・・・横馬、腰が引けてる。ほら、もっとしっかりドリブルして」 「そうだよなのは、ボールは友達だよ? 怖がっちゃだめだって」 「だ、だってー! これ難しいんだよっ!? あとフェイトちゃん、それは違うアニメだからっ! バスケじゃないからっ!!」 「いいから集中してっ! てゆうか、普通にこっち来る前はドリブルくらいは出来てたでしょうがっ!!」 そう、私も必死に練習している理由はこれ。・・・・・・私もヴィヴィオと同じくバスケが出来ないから。 ヴィヴィオもだめ、私もだめじゃあプライベートで練習が出来ない。ヴィヴィオは何気に悩んでいた。 今はギンガも事件捜査が忙しくて相手が出来ない。スバルもお仕事に一生懸命。そして友達も旅行中。 そんな時にみんなが来たんだよ。どうしようもない私達に天使が降りてきたの。それがガーディアンのみんななの。 うぅ、ヴィヴィオはなんか楽しそうに走り回ってるのに、私だけおばあちゃん体勢だよ。 「というか、あむさんまで同じってどういう事っ!?」 「いや、あたし普通にスポーツ関係サッパリなんですってっ!!」 「どうしてっ!? なんだかすっごく出来そうに見えたのにっ!!」 「きゃー! やっぱりそういうことなんですかっ!? あたしまで巻き込まれてるからなんかおかしいとは思ってましたっ!!」 私の隣にはあむさん。あのね、私もヴィヴィオもあむさんを頼りにしてたの。 ほら、あむさんって何でも出来そうな感じがしない? 勉強もスポーツもなんでもオーケーってタイプ。 「それはこっちのセリフですからっ! てゆうかなのはさんっ!? なのはさんは、なんでそんなあたしから見ても引くくらいにへっぴり腰なんですかっ!!」 「そこには触れないでー!!」 あむさんも一緒にドリブル練習。というか、私とほぼ同レベル。 なんだろう、イメージと違う。私もヴィヴィオも、色々間違ってたのかな。 ≪高町教導官、あむさんの外キャラで勝手に『出来る』って判断してましたね?≫ 「あむの外キャラって、誰でも通用するんだね。良かったじゃないのさ」 「良くないからっ! アンタも適当な事言うのやめてくれるっ!?」 それでもあむさんは、私より上手だと思う。だって、ドリブルしながら恭文君と楽しそうに会話してるし。 「・・・・・・恭文、フェイトさん。まぁ、日奈森はいいんっすよ。 俺も知ってはいたんで。ただなのはさんのこれは・・・・・・マジ?」 空海君が苦笑いで私を見ている。やめて、これ何の差恥プレイ? 「残念ながらマジなの。なのは、昔から運動関係はさっぱりなんだ」 「一応ね、私と訓練校に入ってからは人並みレベルで改善出来たんだ」 「いや、人並みって・・・・・・恭文やフェイトさんみたいに空飛んだりとかしてるじゃないっすか」 「・・・・・・そこが僕達もずっと疑問なの。空戦に関する適性や空間認識能力はすごいんだ」 「でも魔法以外で身体を動かしたり、こういうスポーツ関係は本当にだめみたい。 あぁ、そう言えば訓練校の先生に言われてたっけ。その辺りがあんまりにもアンバランスだって」 うん、出来たよ? フェイトちゃんみたいにバリバリじゃないけど、それでも。 そのはずなのになんで私出来なくなってるのー!? バスケだって、一応やったことあるのにー!! 「てーか、これだけ見るとバリバリの教導官って信じられないっす。 もう足元からふらふらですし、身体の動かし方の基本自体がちゃんとしてませんって」 「そんなー!!」 なんて話しながら、空海君の方を向いたのが悪かった。 ボールはあらぬ方向へとバウンドして、高く跳ねながら私の側から離れた。 「あぁ、ボールがー! ま、待ってー!!」 「・・・・・・こりゃ、宿題と同じでしっかりやってかないと、ヴィヴィオの練習相手は無理っすよ。 基礎的なとこから忘れてるみたいですし。まぁ俺となぎひこもしばらくこっち居ますし、教えていきます」 「そうだね、お願い出来るかな? 今は私もヤスフミも居ないから、なのはが出来ないとどうしようもないよ」 「ヴィヴィオの友達も、夏休みで旅行行っちゃって居ないそうだしね。 なのは・・・・・・どうして運動オンチが再燃しちゃってるの?」 そんなの私が聞きたいのー! うぅ、どうしてこれなのっ!? 普通に空中機動のマニューバとかは、楽々なのにー!! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「あむさん、スポーツ関係ダメなんですね」 「まぁ、苦手な方ではあるかな。あむちゃん、外キャラのせいでなんでも出来るように見られがちだけどね」 「外キャラ?」 「外向け用のキャラ。傍から見たあむちゃんは、勉強もスポーツも出来てカッコよくてクールなキャラだと思われやすいんだ」 ヴィヴィオちゃんやなのはさん、あんまりあむちゃんとお話した事ないから、そう思っちゃったんだね。 たった一日二日過ごしただけじゃ、さすがに中身のキャラを全部把握は難しいって。 「まぁあむちゃんはアレとして・・・・・・なのはさん、すごいね」 「なのはママ、戦闘関係以外の運動はさっぱりなんです。 バスケもこれなんですけど、前にフェイトママ達とテニスした時は」 ・・・・・・時は? というか、ヴィヴィオちゃんなんでそんな疲れた顔をするのかな。 「ラケットを振って、コケました。もちろん空振りです」 「そ、そうなんだ」 「それで恭文は白い帽子をかぶって、ドライブBとかツイストサーブとか再現してました。 それで何故か、『まだまだだね』が口癖になってるんです。ヴィヴィオ、アレはビックリしたなぁ」 「そして恭文くんは何してるのっ!? それ、どっかのキャラクターだよねっ!!」 ・・・・・・なんでも恭文君は普通に演技力と言うか、動きを盗む技術がすごいらしい。 どっかのアニメや特撮のキャラクターの動きも、初見でも60%は再現出来る。 「剣術を始めた時も料理を習ってた時も、ヘイハチさんやリンディさん、桃子ママの動きを盗んで覚えたらしいですし」 「いや、普通は盗めないから」 だからアニメの中の技とかを、キャラクターになりきる事で使えるとか。 ・・・・・・恭文君、普通に役者とかになれるんじゃないの? 今度日舞やらせてみようかな。 「・・・・・・あれ? 桃子ママって誰かな」 「あ、なのはママのお母さんです。ヴィヴィオは桃子ママって呼んでます」 「あぁなるほど。そう言うってことは、結構若いお母さんなの?」 「なのはママと並んだら姉妹に間違われます。現に恭文は初対面の時、間違えたって言ってました」 なるほど、納得した。でも、なのはさんに似たお母さんか。きっと綺麗な人なんだろうね。 「でもヴィヴィオちゃん、何気にツッコミ鋭いね」 「恭文から教わりました。てゆうか、恭文とかなのはママとかフェイトママとかリインさんとか、アルトアイゼンもそうだしジガンも同じみたいだし」 え、同じってなに? てゆうか、なんでこの子は呆れ気味な視線を恭文君達に送るのかな。 「我が家は基本ボケばかりなので、ヴィヴィオがツッコまないとダメなんです」 「そ、そっかぁ。それは大変だね」 で、そんなママとは逆にヴィヴィオちゃんは、もうドリブルはしっかり出来てるんだよね。うん、良い調子。 でも、ちょっと意外。なのはさんはなんでも出来そうな印象・・・・・・あぁそっか。これがなのはさんの外キャラなんだ。 「でもでも、なのはママはすごいんですよ? なんでも一生懸命やるから」 「確かにそうだね」 ボールをにらめっこしつつ、スポーツウェア姿の恭文君とフェイトさんに手本を見せられつつ、なのはさんはドリブルする。 確かに一生懸命だ。涙目になりつつも、一生懸命にバスケを練習してる。出来ない事に立ち向かってる。 「じゃあヴィヴィオちゃんにとっては、自慢のお母さんかな」 「はい」 躊躇いも迷いもなくそう言い切れたヴィヴィオちゃんが羨ましかった。 あ、別にお母様が嫌いとかそういうのじゃないよ? ただ、すごいなぁって感心しただけ。 ・・・・・・それで外キャラで見てたのは僕も同じだと分かった。うん、たった今ね。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・とりあえず、ドリブルは板に付いてきたね」 「そうだね。なのは、少しボールに怯えてたから」 「「ボールは友達、ボールは友達」」 バスケットボールが弾み、リズミカルな音が響く。さっきまでの変なテンポじゃない。 なのははゆっくりとだけど、ドリブルの感覚を思い出しているようだ。 「あむちゃんもなのはさんも、頑張れー頑張れー♪」 「美味しいお茶も、用意してるですよぉ」 「・・・・・・うーん、いい絵が描けそうだ。よし、ボクも頑張ろうっと」 そしてあむも出来るようになって来てる。だから僕の隣でキャンディーズも応援してる。 ミキは自分サイズのスケッチブックと鉛筆で、一生懸命ドリブルしてる二人を描いてる。 さっきちょこっとだけ僕も見せてもらったら、これが中々に上手い。 さすがはハイセンススペード。芸術関連の事だったら、ミキにお任せだよ。 「なのはさん、その調子っすよ。日奈森もいいぞ」 「あ、ありがと。でも、膝立ち体勢はキツイね」 「同じくだよ」 「根性っす」 「うぅ、頑張るよー。ヴィヴィオに『なのはママ、出来ないの?』って、少し悲しそうな顔されるのはもう嫌なのー」 ・・・・・・フェイトと空海と三人で、ちょっと顔を背けてしまった。 一緒にドリブルしてるあむさえも、なのはから顔を背けた。 ヴィヴィオ、そんなこと言ったんだ。あぁ、何気に冷静キャラと思ってたけどそこまでか。 というか、なのははそんなこと言われたんだ。あぁ、頑張るよね。それは頑張るよね。 ≪なのはお母さん、可哀想なの。だからこんなにスポコンオーラなの≫ 「うん、そうだよ。もうあんなの・・・・・・というか恭文君、その子ってジガンだよね」 そうだよ。おのれがなんか突撃して構築した、ドMAIを搭載しているジガンだよ。 ≪そうなの。ジガンは、なのはお母さんを元にしたAIなの。 そしてなのはお母さんが素直になれない代わりに、主様にいっぱいイジメられるの≫ 「「「「はぁっ!?」」」」 フェイトとなのはと空海とダイチが、同時に叫んだ。なお、僕とあむとキャンディーズは知ってたから平気。 きゃー! またなんかドMモードに入ってるー! てーか、やめんかいボケっ!! ≪そう、ジガンは主様にイジめられて、辱められるのが喜びなの。 言うなれば、ジガンは主様が欲望を吐き出すための主様専用便≫ 「・・・・・・ふんっ!!」 ≪きゃー! なにするなのぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!≫ 僕は遠慮なくジガンを腕から外し、放り投げた。ジガンは遠くコートの隅に落ちた。 なお、咄嗟にぬいぐるみモードを発動して着地したのでオーケー。 「ねぇ恭文君、今のなにっ!? あの子、一体何言おうとしたのかなっ! 専用便・・・・・・の続きはなにっ!!」 「え、何のこと? 僕には何も聞こえなかったけど」 「嘘だよねっ! というか、フェイトちゃんもどうしてハイライトの消えかけた目で私を見るのっ!? 私、本当に何もしてないんだけどっ! ・・・・・・ホントだよっ!?」 「・・・・・・なのは、後で少しお話しようか。ううん、かなりね。というか、私知らなかったよ」 げ、まずい。そういやフェイトには言ってなかった。 空海もあの場に居なかったから知らなかったんだっけ。 「ジガンのAI、なのはを元にしてるんだ。ヤスフミ、知ってた?」 「え、えっと」 あのね、僕も知らなかったよ? うん、渡されるまでは。 「知らなかった。だって僕、ご存知の通りガーディアンの仕事してたしさ」 開発中はゼロの問題にかかりっきりだったもの。干渉しようがないって。 とりあえず若干ハイライトが消え始めているフェイトの目を見ながら、必死に首を動かす。 「そっか。なら、ヤスフミは本当に知らなかったんだね」 「うんうん。てゆうか、僕も初対面の時にアレでビックリしたもの」 「そうなんだ。ねぇ、どうして話してくれなかったの?」 なんか心の声がしっかり見抜かれてるっ!? あぁ、やっぱりこの手法はダメだったかっ!! ・・・・・・なお、黙ってた理由は決まってるじゃないのさ。こうなるって分かってたからだよ? 「それはね・・・・・・フェイトが聞かなかったから」 「・・・・・・ヤスフミ、今日のコミュニケーションは覚悟しておいてね。 私、いっぱいいじめるから。ノータッチなのは分かったけど、それでもお仕置きだから」 「どうしてー!?」 そしてフェイトは、なのはに対して本当に厳しい視線を送る。 「なのは・・・・・・だったらあれは、どういうことなのかな。ヤスフミのリクエストではないんだよね」 「そ、そうだね。あの・・・・・・話を聞いて、自主的に協力を」 「ふーん、そうなんだ。自主的に協力してどうしてあんな風になるのかな。私は本当に疑問だよ。 というか・・・・・・やっぱりそうなのかな。なんだか改めて考えるとそうなのかなって思って」 「わ、私にも分からないよっ! というか、そのつや消しの目はやめてー!?」 や、やばい。フェイトは止められない。というか、僕も怖い。 あぁ、今日は僕何されるのっ!? フェイトのお仕置き、痛いのとかはないけど激しくなるから怖いよー!! 「ほらほらっ! なのはさん、ドリブル集中っ!!」 「は、はいっ! ボールは友達ボールは友達っ!!」 「・・・・・・なぁ、恭文。あのデバイスはキャラ濃過ぎねぇか?」 向こうでプンプン唸っているぬいぐるみを見ながら呆れたように言ってきたのは、空海のしゅごキャラのダイチ。 呆れているような慰めるような声になっているのは、きっと気のせいだ。 「ダイチ、今更だよ。なお、僕はもう慣れるしかないと腹をくくってる」 「お前も大変だな」 「それこそ今更だよ。てーかさ、真面目な話をするとだよ」 プンスカしながらも、こっちに来るジガンを見ながら思う。 「今のジガンのAIを消して、新しいAIにするとするじゃない? それって、ぶっちゃけジガンを殺すのと同じだもの。そんなのやりたくない」 「・・・・・・そっか。AIってのが消えちゃうと、今のジガンはいなくなるんだよな。AIって、俺達や人間で言う所の心なんだろ?」 「そうだよ」 AIは心。ジガンがどんなキャラでも、その中にはジガンと言う存在が確かに居る。 ・・・・・・例えジガンが本当に悪い子でも、やっぱりそういうのは嫌。殺しは、殺しだから。 「確かにそれはやりたくないよな。だって、ジガンはちゃんとここに居るんだしよ」 「うん。でも・・・・・・あははは、なんかどんどん周りがカオスになっていくなぁ」 「泣くなよ。ほら、バスケやろうぜ? そうしたら、悲しいことも吹き飛ぶって」 「うん、そうしようかな」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・・・・あむちゃんと相馬君とフェイトさんと恭文君とヴィヴィオちゃんは、実戦形式の集中練習。 なお、ぬいぐるみ二つが飛び回っている事に関しては気にしないことにする。 というか、アルトアイゼンとジガンスクードのあれはなにっ!? 空飛びながらドリブルはズルイよねっ!! 僕はゼーゼー言っているなのはさんをベンチに座りながら介抱。というか、一緒に休憩。 なのはさんは本当に頑張っていた。僕から見てもびっくりするくらいに。 そしてフェイトさんの視線に怯えていた。まさか自分の思考を元にしたAIが、アレとは思わなかったから。 ・・・・・・なんかすごい人かも。いや、ジガンの事じゃないよ? 出来ない事に対してあそこまで向き合えるのは、一種の才能だもの。 「・・・・・・お疲れさまでした」 「あ、うん。ねぇ、フェイトちゃんはどうすればいいかな。あのね、凄く怖いの。 今までもたまに私をあんな風に見る事はあったけど、今回はぶっちぎりで」 「それはその・・・・・・多分なのはさんに危機感を持ってるからじゃ」 「どうしてー!? 私変なことしてないのにー!!」 いやいや、普通に自分の彼氏の新デバイスのAIに自分の思考パターンをコピーは怖いですって。 なお、ヴィヴィオちゃんが教えてくれたけど・・・・・・なのはさんは普通に恭文君が好きなんじゃないかと思う部分があるとか。 もうフェイトさんとお付き合いしてるし、なのはさんが無自覚だからアレなだけど・・・・・・うん、僕も思った。 相馬君や恭文君は気づいてなかったけど、フェイトさんも同意見なんだろうね。それは面白くないよ。 「というか・・・・・・うぅ、ダメだなぁ。前はちゃんと出来てたのに」 とりあえずなのはさんはフェイトさんの事を置いておく事にして、バスケの事だけ考える事にしたらしい。 「あ、バスケの経験はあるんですね」 「うん。学校とか、恭文君達と遊ぶ時にね」 なんでも地球からミッドに引越してから、こういうのは全くしてなかったらしい。 やっぱり忘れちゃってたのかな。出来ないのを、自分でも戸惑ってる感じにも見えたし。 「でもドリブルとシュートは出来るようになったから、ヴィヴィオと練習出来るよ。あとで改めて空海君にお礼言わないと」 「それはよかった。・・・・・・でも、すごいですよね」 「なにが?」 「普通あれだけダメだったら、クサってもおかしくないと思うんです。僕もたまにありました」 僕はたまにそういう時があったな。踊りが全然上手く出来ない時があってさ。 ・・・・・・あ、なのはさんがなんか不思議な顔してるな。ちゃんと話しておこう。 「僕、なでしこと同じで踊りを勉強してるんです。それで」 「あ、そう言えばなでしこさんから聞いたよ。藤咲家は日舞の家元なんだよね」 「はい」 「だけどよく似てるよね。私もなでしこさんと会った事があるから分かるけど、そっくり。 普通二卵性の双子はあんまり似ないはずなのに、髪の長さまで同じ」 なんかちょっと複雑。だって『なでしこ』は僕だったから。 なお、なのはさんが言っている二卵性というのは双子の種類。 一卵性が性別までも全く同じで、二卵性は性別が違う場合が多い。 二卵性の双子は顔立ちとかが全く違う場合があるらしい。まぁ僕は違うけど。 「多分僕やなでしこがまだ子どもだからだと思います。 僕、恭文君より背が高いですけど、それでも小学生ですから」 「あ、そう言えばそうだね」 そう、これから僕もどんどん大きくなる。力も体格も大きくなって、声だってきっと変わる。 恭文君みたいに声も体型も全く変わらないなんて、多分無いだろうしね。 僕の身体は『男』になっていく。・・・・・・それできっと、今みたいには踊れなくなる。 今出来てるみたいな『なでしこ』・・・・・・女性としての踊りはきっと無理なんだ。 「・・・・・・そう言えば、なぎひこ君はバスケ好きなんだよね」 「はい」 「どういうところが好きなの?」 興味があるのか、僕を見下ろす形でこの人は聞く。 僕は・・・・・・バスケの練習をしている四人を見ながら答える。 「・・・・・・『とべる』からです」 「『とべる』?」 「はい。コートの中では高く・・・・・・思いっ切り『とぶ』事が出来るから。 ・・・・・・僕、女形の修行をしたことがあるんです。えっと、女形というのは」 「あ、分かるよ。女性の姿で踊ることだよね。・・・・・・そっか。日本舞踊だとそういう勉強もするんだよね」 なんでだろう、ほぼ初対面に近いのに、こんな話をするのは。 なんだか少し興味があるからかな。朝に恭文君の話を聞いてから、この人になにか感じてる。 「その時に女性らしい振る舞いをするための勉強したことがあります。 例えばこう・・・・・・垂直跳びをするじゃないですか」 右腕を上に伸ばす。手の平の先を青い空に向ける。 なのはさんはその先を見上げるようにして、ジッと見つめてきてくれる。 「こういう場合、女性の平均値に抑えなくちゃいけないんじゃないかとか・・・・・・そんな事を色々考えて、ゴチャゴチャしちゃったことがあって」 体育の授業、体力測定で僕はなでしこの時はずっと力を抑えてた。これでも力はある方なんだ。 『女性らしく』飛ぶ。『女性らしく』走る。『女性らしく』生活する。そうしていく内に少しずつ、何かがこころに溜まっていった。 「なんかこう・・・・・・思いっ切り『とび』たくなったんです。色々考えて、まず家を飛び出しました。 家出とかじゃないんですけど、バスケットボールを持ってコートで思いっ切り『とんだ』ら、すごくスッキリして」 コートの中では男の子に戻れた。僕は思いっ切り『とべた』。それが嬉しかった。 だからちょくちょくなぎひこに戻って、コートに通った。ボールをドリブルしながら高く『とんで』シュートした。 うん、たまに男の子に戻ってたんだ。恭文君とフェイトさんと早朝に遭遇した時みたいに。 てまりとのキャラチェンジで、極道の妻なキャラになっちゃうのも多分それだね。 ・・・・・・しゅごキャラが生まれるのには、大まかに分けて二つのパターンがあると思う。 一つは今の自分がある程度完成していて、そこから新しい可能性を模索した時。 もう一つは今の自分が未完成で、その自分の足りない部分を補完して生まれてくるパターン。 前者は僕達の中で言うなら相馬君にややちゃん、三条君がそれかな。 後者は僕に辺里君にあむちゃん。なお、真城さんと恭文君は分からない。 だって二人のキャラチェンジを見たことがないから。あ、どっちか見分けるためには、キャラチェンジを見ると分かりやすいんだ。 僕達後者組はキャラチェンジすると、性格や言動がしゅごキャラ寄りになるから。 僕の場合、『なでしこ』になるために女性らしくありたいという気持ちから、てまりが産まれた。 でもそこからキャラチェンジすると、僕の中のにある『男に戻りたい』という感情が爆発しちゃうみたい。 それで・・・・・・まぁ、あんな極道の妻が入ったキャラになるんだ。あー、でも少し思った。 そう考えると、恭文君は僕達後者組なのかな。だって、キャラなりの時にしゅごキャラの姿になっちゃうんだもの。 その上身体を完全に乗っとられてるらしいし・・・・・・でもおかしいなぁ。 普通ならこんな事ありえないのに。現にミキとのキャラなりでは、ちゃんとした形になってるって言うし。 「えっとこれ・・・・・・相馬君や恭文君達には内緒にしてもらえますか? 人にあんまり話したことがなくて」 「あ、うん。というか、それはすごく大事な話だよね? 私に話してもよかったのかな」 なのはさんは心配そうな顔でそう聞く。だから、僕は笑顔で頷く。 「なんか、話したかったんです。最近同じような事でちょっとゴチャゴチャしちゃってたから」 「・・・・・・そっか。なら、これは私となぎひこ君だけの秘密だね」 「そうなりますね」 なのはさんはどこか嬉しそうに笑う。その笑顔は21歳の女性としての笑顔。 多分ヴィヴィオちゃんのお母さんをしている時とは、違う顔だと思う。 「でも、なぎひこ君の気持ちは・・・・・・少しだけ分かるな」 「え?」 「なぎひこ君はこう・・・・・・『とんじゃダメ』だったんだよね? 女形の勉強のために、女性らしさを知るために必要だったから」 「そう、ですね」 あぁそうなんだ。僕は『とんじゃダメ』だったんだ。ずっと『なでしこ』を演じてたから。 なでしこである以上、女の子として過ごさなくちゃいけない。だから『なぎひこ』として考えるとダメなことがある。 「私は『とべなかった』の」 「『とべなかった』?」 「うん。まぁ、私は見ての通り運動もさっぱりで、勉強も本当に並なの」 なのはさんが楽しそうにバスケをしている四人とぬいぐるみ二つを見ながら、どこか遠い目をする。 ヴィヴィオちゃんが自分に向かって手を振ってくるので、右手でそれに対して振り返す。 「だけど、私のお兄ちゃんとかお姉ちゃんにお父さんはすごい人でね。 実戦剣術の達人なんだ。あ、恭文君も一応そこの門下生みたいになってるの」 恭文君がその人達から技を盗んで、魔法無しでの戦闘訓練を積んでいるらしい。 なんかすごいなぁ。なのはさんの家は、色々とハイスペックな家系なんだ。 「子どもの頃からね、色々事情があったんだけど・・・・・・ちょっと家の中で浮いてたの。 お兄ちゃん達みたいに剣術が出来るわけでもなんでもなかったから。それでずっと考えてた」 なのはさんは遠い瞳のまま空を見上げる。その瞳の中にどこか悲しい色を見つけた。 その色に胸が締め付けられる。どこか抑え込んでいるものが疼くのを感じた。 「自分に何が出来るのかとか、何がしたいのかとかたくさん。でも、答えが出なかった。 そんな時にね、魔法と出会って・・・・・・フェイトちゃんや恭文君達と友達になって、見つけたんだ」 「なにをでしょうか」 「私が『とびたい』と思う空を。私だから出来る事を。そして、私も『とべる』という事実を。 それがすごく嬉しかった。・・・・・・ただ、なぎひこ君と一緒にしたら失礼だよね」 「え?」 「だってなぎひこ君もそうだけどなでしこさんも、お家の事情でそういう勉強をしてるんだもん。 私みたいに『やりたい事が分からなかった』ーとかじゃない。うん、違うよね」 反省モードと言うような感じで、僕を少し申し訳なさげに見る。僕は・・・・・・首を横に振った。 ・・・・・・確かに『とんじゃダメ』と『とべなかった』じゃ、違いはある。でも、きっと同じだから。 「大丈夫です。きっと・・・・・・僕達、思いっ切り『とびたかった』という部分は同じですから」 「・・・・・・そうかな」 「はい。だから気にしないでください。大丈夫ですから」 少し微笑みながら言うと、なのはさんが安心したように笑ってくれた。それがなんだか嬉しかった。 「そうだね。きっと、そこだけは同じはずだよね。なぎひこ君、ありがと」 「いえ。・・・・・・なのはさん、なのはさんは今も・・・・・・『とべて』いますか?」 「そうだなぁ。昔と全く同じ意味合いで言えば、『とべてない』と思う」 少し驚いた。僕からはそんな風に見えてなかったから。 でも、そう言う理由はすぐに分かった。そして、そう見えてなかった理由も。 「仕事にNG部分も出しちゃってるし、それで昨日はちょっと大変だったし」 説得されているという恭文君の読みは、正解だったらしい。なのはさんの少し困ったような表情ですぐに分かった。 「それで情けない事に、ちゃんと夢を追いかけられてる自信もないんだ。 ・・・・・・この場に居るんだよね? 恭文君やあむさんに、空海君となぎひこ君のしゅごキャラ」 「はい。あ、僕はまだたまごなので居ないんです。でも、さっきから僕の隣で色々談義してます」 「でも、私は見えてないの。この間あむさん達にお話された時、ちょっとショックだったんだ。 私、もしかしたら自分の夢を全然大事にしてなくて、だからしゅごキャラが見えないのかなーって」 ・・・・・・あぁ、あむちゃんの親戚の結婚式の話だね。その親戚の結婚相手が、フェイトさんの同級生で鉢合わせ。 そっか。フェイトさんの同級生なら、なのはさんやこの間会ったはやてさんの幼なじみでもあるんだ。同級生だって言ってたし。 「でもね、それでも私は私の空を『とびたい』と思うの。・・・・・・夢は進化していくから。 うん、いつかしゅごキャラも見えるくらいに進化するの」 それは恭文君にミキが昨日話していた事と同じだった。夢は進化していく。 全く同じじゃないけど、それは今までの夢が消えたからじゃない。更に進化するから。 「私の夢は二つ。空を『とび』続ける事と、ヴィヴィオのホントのママになること」 「ホントの・・・・・・ママ?」 「うん。ヴィヴィオ、養女なんだ。・・・・・・少しだけ悲しい事件があってね。 その中でヴィヴィオと会って・・・・・・うん、そうしたいなって思った」 なのはさんは言いながら、ヴィヴィオちゃんを優しいお母さんの目で見る。 「昨日ね、教導隊の先輩に『諦めるな』って言われたの。出世の事とか、仕事の事とか。 でも私は何も・・・・・・うん、何も諦めてない。ヴィヴィオを娘にして、そこから私の夢はまた変わった」 迷いなく言い切れるなのはさんが僕は羨ましかった。 だって今の僕は迷って戸惑って・・・・・・考えてばかりだから。 「変わって、膨らんでいく。だから大丈夫。・・・・・・あ、ごめんね。 変な話しちゃって。ダメだなぁ、なんかガラじゃなく語っちゃったよ」 「いえ、大丈夫です。・・・・・・なんだか羨ましいです。そういう風に前を向いていられるのは凄く」 「なぎひこ君は違うの?」 「僕は多分違います。さっきも言いましたけど、ゴチャゴチャしちゃってます。 進化・・・・・・し切れてないですね。止まって、迷って、戸惑ってばかりです」 てまりはまだたまごのまま。青いたまごもそのまま。僕はまだ答えを探している途中。 考えて・・・・・・うん、結構考えているけど、まだ答えは出ない。出るかどうかも分からない。 「だから、この子もまだ目覚めない」 懐から出すのはその青いたまご。なのはさんがそっと手を伸ばしてくる。 それで僕の手と一緒に、たまごを優しく触って・・・・・・撫でる。 「・・・・・・でも、温かいよ。この中になぎひこ君の夢や、なりたい自分が詰まってるんだよね」 「はい」 「だったらきっと大丈夫だよ。だってこころの中から出てきちゃうくらいに強い想いなんだから。 というかさ、もし色々迷っちゃうなら私で良ければ相談に乗るよ?」 「え?」 「まぁ、今ので色々と秘密も共有しちゃったしね。私なりのお礼。これでも教導官だし、そういうのは専門だもの。 その代わり、こっちに居る間はバスケ教えてもらえると助かるかな。私も夏休みの間は休みも多めだから、頑張りたいんだ」 少しイタズラっぽく笑うその人は、僕よりずっと年上。だけど、それでも・・・・・・少し子どもっぽく見えるから不思議だ。 「なら、頼らせてもらってもいいですか? 『とぶ』事が好きな者同士、これから仲良くしていくということで」 「うん。どーんと頼ってくれていいよ。・・・・・・うぅ、真面目に頑張ろう。 本当に頑張ろう。じゃないと、恭文君にいじめられる」 「いじめられるって・・・・・・なのはさん、恭文君のアレはいつものことなんですか?」 「うん、いつもの事なの。それで聞いて聞いて? 恭文君、本当に意地悪なの。 私の事、『横馬』って変なあだ名つけるし、すぐ冷たいこと言うしからかうし」 どうやら、なのはさんにとって恭文君の存在は、とても大きいらしい。 『いじめられるのー』と言いながらも楽しそうな姿は、見てて微笑ましかった。 だけど・・・・・・あの、フェイトさんが不安になるのは当然だと思う。 だって僕が見てて不安になったんだから。でも・・・・・・高町、なのはさんか。 なんだか印象変わったな。もう何でも出来る人って感じがしないや。 僕と同じで、『とぶ』のが好きな人。うん、今の印象はそこに集約されるかな? きっと僕達は青い空の世界の中に、意味合いは違うけど夢を見つけた仲間なんだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・うーん」 「シオン、どうしたんだよ。俺達もバスケやろうぜー?」 「そうだよー! せっかくだし、ドーンと遊ぼうよー!!」 「うーん」 シオンは返事しない。無視とかじゃなくて、相当考え込んでるらしい。 それがダイチもランも、あとボクとスゥも分かったから、一緒に声を大きめにかける。 『シーオーンッ!!』 それでようやくシオンの顔がこちらに向く。向いて、優しく笑いかけてくる。 「あぁ、すみません。ちょっと考え事をしてしまってて」 「考え事?」 ランがそう聞くと、ベンチに座りながらずっと恭文を見ていたシオンが頷く。 だからボク達はみんな、シオンの側に着地しながら座る。 「シオン、考えていたって一体何をですかぁ?」 「・・・・・・私とお兄様のキャラなりなんです。何度考えても分からなくて」 「分からないって何がだよ」 「私がお兄様の身体を乗っ取る形になることです。そこがどうしても分からなくて。 お兄様にはあまりご心配おかけしたくなくて『またしましょうね』なんて言っておどけていますが」 言いながらも、シオンは絶対に恭文から視線を外そうとしない。ただ真っ直ぐに恭文を見てる。 「そう言えばそうだよね。私達とあむちゃんはそんなことないし」 「キセキに唯世達もだね。シオンはそこが気になってたんだ」 「えぇ。というか、実はキャラチェンジも試したんです」 あ、そうなんだ。そこはボクも知らなかった。・・・・・・あ、もしかしてキャラチェンジは普通だったとか。 「シオン、それっていつの話だ?」 「こっちに来る直前ですね。お兄様の覚悟が決まるまで、ずっと待ってたんです」 「それ、女装状態になるかも知れないからだね」 「さすがはミキさん。察しが早くて嬉しいです」 ・・・・・・恭文の思考を考えれば自然に答えは出てくるよ。絶対『このパターンだと・・・・・・!!』とか考えてたね。 これでもパートナーだもん。宿主じゃないけど、キャラなり出来るパートナー。うん、だから分かるんだ。 「それでそれで、どうだったの?」 「ミキさんやみなさんの予想通りとだけ、答えておきましょう」 ・・・・・・そう言われて、興味があったのか身を乗り出して聞いたランが身を引いた。 というか、スゥとボクとダイチもどう言っていいか分からなくなる。 「俺さ、せめてキャラチェンジだけは救いがあると思ってたんだよ」 「そこは私も同じです。だから余計にワケが分からなくて」 「シオンが何かしてるとかじゃないの? 私達みんな、そうかなーって思ってたんだけど」 「全くしていません。私もあの時お兄様と初キャラなりして、ビックリしたくらいなんです」 当人であるシオンの表情は変わらない。でもそれでも本当にそうだったのは、ボク達に伝わった。だからボク達も頭を捻る。 「うーん、あむちゃんもキャラチェンジした時に、性格がスゥ達寄りにはなったりしますけどぉ」 「あと、唯世君やなでしこもだね」 唯世は王子様キャラ、なでしこは極道の妻みたいなキャラになっちゃう。それと似ていると言えば似ているのか。 「ならお前が恭文の身体乗っ取るのは、それのパワーアップというか、上位版になるんじゃねぇのか?」 「あー、それあるかもっ! シオンが私達より恭文に力を貸す部分が大きいから、そうなっちゃうとかっ!!」 「・・・・・・なるほど。それは有り得るかも知れませんね。 つまり、私はお兄様の足りない部分をより多く補完する形になってると」 「そう言えばスゥとキャラチェンジした時は、恭文さんの性格は変わってましたぁ」 つまり恭文はある程度は完成されてるけど、それでも未完成で足りない部分をボク達が補完してる? でも待って。それならアルカイックブレードはどうなるのさ。あれはちゃんと恭文が身体の主導権を持ってる。 「・・・・・・あ、そっか」 思いついたのは一つの可能性。だけど・・・・・・あぁ、だめだ。なんか上手く言えない。 だからみんなが怪訝そうな顔をしていても、ボクは曖昧に唸ることしか出来ない。 「ミキ、何か思いついたの?」 「うん。・・・・・・もしかしたら、シオンが恭文のしゅごキャラだからそうなるのかなーって」 キャラチェンジは多分、恭文があむちゃんと同じパターンだからと思う。 だからここは置いておく。重要なのは、よく分からない恭文のキャラなりパターン。 「どういうことでしょうか」 「あー、別にシオンが悪いとかじゃないの。足りない部分を補完で思いついたんだ。 シオン・・・・・・恭文が描いた『なりたい自分』は、シオンという形だけじゃ足りないのかも」 ヤバい、自分で言ってて意味が全く分からない。みんなが頭捻ってるけど、ボクも同じだもの。 「ボクとのキャラなりで大丈夫なのは、ボクがあむちゃんのしゅごキャラで明確に恭文が描いた形ではないから。 でもシオンは違う。たまごも二つ産まれてるし・・・・・・あぁ、ごめん。これじゃあシオンはダメっていってるのと同じだよね」 「いえ、大丈夫です。・・・・・・私という形だけでは、完全にキャラなりにはならない。 だから私が身体の主導権を握ることで、なんとか形にしているということでしょうか」 それでもシオンは口元に右手を当てて、一つの仮説を打ち立てた。 「そしてミキさんがお兄様のしゅごキャラではない事が、この場合幸か不幸か利点になっている」 「利点って、どういう事ですかぁ?」 「恐らくですが、アルカイックブレード・・・・・・別の宿主が居るしゅごキャラとのキャラなりには、ある程度のあいまいさがあるんです。 そのあいまいさのおかげで足りない部分が補完出来てる。だからこそミキさんが身体を乗っ取るような事にならない」 「そうそう。ボクが言いたいのはそういう事なんだ」 「あ、本来私達はあやふやであいまいな存在ですから、ここは悪い意味ではありません」 うん、そこは知ってる。ボク達は宿主が信じてくれなかったら、簡単に消えちゃうから。 あやふやであいまいなものを信じられるかどうか。ここが一つの分かれ道になってる。 「あー、つまりなんだ。あいまいだからミキとのキャラなりだと、身体を乗っ取られるような事にならないってことか」 「そうなります。・・・・・・そうか。私という形がしゅごキャラとしては、余りに明確過ぎるんだ。 つまりお兄様は・・・・・・そこまで徹底した形を望んでる? ならもう一つのたまごも・・・・・・うん、納得した」 ・・・・・・普通に感心した。さっきも言ったけど、ボクもこんがらがってよく分かんなかったから。 でもあの、なんか今のシオンの呟きを聞いて分かった気がする。ボクとシオンとあのスターライトの子の違いに。 「ミキさん、ありがとうございます。おかげで取っ掛かりが掴めました」 「え、こんなのでいいのっ!?」 「はい。色々と思い当たる節もありますし、恐らくこれで正解かと。 ・・・・・・みんなもありがとうございます。おかげで助かりました」 言いながら、シオンがボク達ににっこりと微笑む。・・・・・・あ、やっぱり恭文の面影がある。 声も似てる感じだし、何気に恭文そっくりなんだよね。 「もういいっていいってっ! だって私達、しゅごキャラなんだしっ!!」 「そうでしたね。・・・・・・あ、そう言えばバスケでしたよね。早速やりましょう。 私、これでもスポーツ関係は大好きなんです。簡単には負けませんよ?」 『おー!!』 というわけで、ボク達もあむちゃん達と同じようにバスケ。・・・・・・これ、まだダメかな。 恭文にしゅごキャラが産まれたら、ボクの役割も終わりかなって思ってたんだ。 どっちにしても、セイントブレイカーは簡単に使えない。恭文へのダメージが大きいもの。 この間だって、キャラなり解いた瞬間から崩れ落ちたしさ。あと、あれもあった。 あの時ボクに語りかけてきた声、シオンじゃなかった。あれはシオンとは違う声だったから。 なら、あのスターライトの子の方だよね。・・・・・・あの子が目覚めるまでは、頑張ろう。 だってボク、恭文を信じるって・・・・・・恭文の魔法を『魔法』にするって決めたから。 でも、もしもあのスターライトの子もシオンと同じだったらどうしよう。うーん、ありえそう。 恭文が描く形は、多分かなり明確・・・・・・もしくは、かなり大きい形なんだと思う。 そして二つのたまご・・・・・・多分これで間違いないと思う。だったらボク、やっぱりもうちょっと頑張らないと。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 夕方、バスケの練習はとりあえず切り上げて僕達は帰宅。 だけど僕とフェイト、ヴィヴィオと空海は気になっている。 なのはとなぎひこがなんか仲良くなってる。普通に話してる。 現在、歩道を歩きながら今日の夕飯について話している。 「・・・・・・ヤスフミ。なのはとなぎひこ君、なにがあったのかな」 「フェイト、それは僕が聞きたい」 ただ、ここには救いもある。なのはとなぎひこの距離が縮んだのを感じて、フェイトの角が引っ込んだのよ。 「なのはママが男の子とすごく距離が近い。しかもしかも、ユーノ君とかと全然違う」 「てーか、藤咲は一体何やったんだよ。さっきまで普通に距離感なかったか?」 あのね、真面目にその疑問は僕が聞きたいのよ。マジでなにやったか分からないんだから。 ・・・・・・あ、まさかあのバカ馬、また男にフラグ立てたのかっ!? それも、無自覚にっ!! 「一つだけ、予測出来ることがある。・・・・・・空海は知らないだろうけど、なのははフラグメイカーなのよ」 「フラグメイカー?」 「つまりなぎひこ君は、なのはにフラグを立てられたからアレなんだね。納得したよ」 「フェイトさんも納得って・・・・・・つまり、お前と同じってことか」 空海が何気なく言った言葉が胸に突き刺さる。・・・・・・耐えろ、耐えろ僕。 確かにそういう見方もあるかも知れない。でも、僕は違うから。 「僕がフラグメイカーってとこは否定はしないよ。でも、なのはの方がずっと性質が悪い」 「そうだね。むしろなのはは、ヤスフミよりひどいかも」 フェイトの発言も何気にひどいけどねっ! うん、でも反論出来ないから、なにも言わないっ!! 「フェイトさん、どういうことっすか?」 「例えばその・・・・・・ヤスフミは私という本命が居るでしょ?」 「いや、分かってますから。顔真っ赤にしないでくださいっすよ」 「でも、なのはは特にそういう相手が今まで一人として居ないの」 ・・・・・・告白っぽいこと言われたけどね。フェイトと付き合い始めてだいぶ経ってから。 「それでなのはママは、自分が立てたそんなフラグを回収しないんです。それはもう全く。 なのはママとフェイトママの幼なじみで、ユーノ君って言う人が居るんですけど」 直接的にはこのクロス話には出ていない、ユーノ・スクライアさんという人が居る。 今も無限書庫の司書長で、クロノさんや高官の空気を読まない資料請求に頭を悩ませている人が。 「その人、なのはにずっと片思いしてるのよ。・・・・・・12年目突入してるけど」 空海の表情が驚愕に染まる。・・・・・・僕を超えているからだろう。 まぁ僕もきっかけが無ければ、この道を進んでた可能性があるけどさ。 「なぁ、その人ってどういう人なんだよ。それだと幼なじみだよな」 「空海君、前にジュエルシードの話をしたよね?」 「あぁ、フェイトさんが探してたって言うロストロギアっすよね」 空海が納得したような顔で頷いた。それを見ながら、フェイトが言葉を続ける。 「ユーノはその発掘者だったの。私がそのロストロギアを探していたのと同じように、ユーノも散失したそれを探していたんだ」 「その時にちょっとケガをして、なのはに助けられたんだよ。 それでなのはは魔法のことを知った。それからの付き合いなのよ」 「なるほど、それでその当時から好きだったと。 ・・・・・・でも、マジでなのはさんはお前みたいな勢いでフラグ立てまくってるのか?」 「立ててるね。別にユーノ先生だけの話じゃないのよ」 なのは、無駄に有名だしさ。憧れてる局員は多数だよ。いや、局員だけの話じゃない。外部の人間にも人気がある。 「それと・・・・・・僕の嘱託魔導師仲間もちょっとやられてる」 「あぁ、ジン君だね。そう言えばなのはと仲良かったよね」 ジンはまだ良い方なんだよなぁ。メル友というか、距離が出来てるから。妹キャラが居るから。 とにかく、なのはは無自覚で男女とか意識しないでフレンドリーだから、誤解されやすいのよ。 「いや、でも藤咲なら・・・・・・待て、分からないぞ。アイツだって男だ。その上、年上の女性・・・・・・ありえる」 「なのははともかく、なぎひこ君はどう思うかは分からないしね。うーん、大丈夫かなぁ」 「うぅ、正直心苦しいよ。なのはママのフラグメイカー振り、さらに激しくなってる感じだし」 「どうしよう、普通にこれでなぎひこにとってのリアルラブプラス始まったら」 仲よさげに話す二人を見て、僕達は頭を抱える。てーか、マジで心配だ。 だって普通に雰囲気いいんだもの。なぎひこの身長があるから、普通にカップルに見える。 それになぎひこも何気にリードしてるのよ。車道側を自分が歩いたりとかさ。 ・・・・・・やばい。なのはもちょっと頬を赤らめてるように見えるのはどうして? 夕日のせいかな? それとも運動したからかな? ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・空を『とぶ』のって、どんな感じですか?」 というか、後ろの四人? 普通に僕には聞こえてるから。色々聞こえてるから。 なのはさんは普通にしてるけど、聞こえて・・・・・・ないのかな? 「あ、魔法で飛行ってことだよね」 「はい。やっぱりバスケで僕がジャンプするのとは違うのかなと」 「恭文君やフェイトちゃんに頼んで『とんだり』とかは」 「あははは、今までそこは思考にありませんでした。なにより僕、転校して来たばかりですし」 あむちゃんのアミュレットハートだったり、恭文君が魔法で『とんだり』してるのを見る度に思う。 もっと高く・・・・・・上に『とべたら』、どんな感じなのかなとかなり。 「うーん、そうだなぁ。ここで違うって言っちゃったら、それは単純に自慢になっちゃうしなぁ」 「あ、僕は気にしませんよ?」 「だめ、私が気にするよ。・・・・・・初めて空を『とんだ』時はね」 なのはさんが、歩きながら目の前の大きくて赤い夕焼けを見る。夕焼けを見ながら笑う。 「すごく嬉しかった。360度青の世界で・・・・・・うん、世界が変わった感じがした。 おかしいかも知れないけど、『とんで』身体が浮いて、上に上がって行くごとに世界が変わるの」 「いえ、おかしくないです。・・・・・・僕もそんな風に感じますから」 「ホントに? ・・・・・・なら、よかった。私だけじゃないんだ」 なのはさんはよく笑う方だと思う。うん、本当に笑う方だ。笑顔が夕日に照らされて、その笑顔がとても綺麗に見える。 「あ、そうだ。なら、一緒に『とんで』みる?」 「一緒に『とぶ』って・・・・・・出来るんですか?」 模擬戦の時に、飛行魔法自体は本当にある一定以上の適性がないとだめだって言ってたのに。 僕、魔法が使えるか分からないし、『とべる』かどうかも分からない。でも、なのはさんは今確信を持って言ってる。 「なぎひこ君が『とべる』かどうかは分からないけど、私がこう、後ろから抱えるでしょ?」 歩きながら、両腕で輪を作る。もちろん笑いながら。 「それでそのまま『とべば』大丈夫。これでも空戦魔導師だから、なぎひこ君一人くらいなら大丈夫だよ?」 「あの、それは嬉しいんですけど・・・・・・いいんですか?」 「うん。許可自体は本当にすぐに取れるし大丈夫。 こっちには公共の魔法練習場があってね、そこなら限度はあるけど飛行も可能なんだ」 「なるほど、納得しました」 魔法文化を推奨している世界だから、そういう設備が普通に整ってるんだね。 こういうところは異世界なんだよね。とにかく僕は空を見る。 ・・・・・・夕焼けに染まる空、そしてあの二つの月が昇る空。そこは僕の知らない世界。 行って、みたいかも。そうしたら、何か分かるかも知れないから。 「なのはさん、僕・・・・・・なんにもお礼とか出来ないんですけど」 「大丈夫だよ。私もなぎひこ君に見て欲しいから。私の『とぶ』空・・・・・・ミッドの空を」 「ありがとう、ございます」 「ううん。・・・・・・あ、私に抱えられるの、大丈夫?」 なのはさんが少し不安げに聞いてきた。・・・・・・そう言えば、なのはさんに抱き抱えられるんだよね。 でも問題ないか。僕、女の子と距離近いのは慣れてるし。 「大丈夫です。というか、なのはさんは僕を抱えるの大丈夫ですか? 僕、一応男ですけど」 「え? ・・・・・・あぁ、それなら問題なしなし。だってなぎひこ君、良い子だもの」 「いや、僕は結構意地悪ですし厳しいですよ? 男限定でですけど。あと、これでも意外とプレイボーイなんです」 「なら大丈夫だね。私は女の子だもん。でも・・・・・・そんな事言って大人をからかっちゃだめだよ?」 「あははは、そうですね。すみません」 ちょっとたしなめるようにそう言って来たなのはさんの言葉に、苦笑いでそう返す。 「うん、よろしい。じゃあ約束だね。というか明日かな。私、明日もお休みだから」 「・・・・・・はい」 なのはさんがそっと左手を出して小指を立てる。なので、僕は何も言わずに察して右手を出す。 それで歩きながら指切り。なのはさんの手は、柔らかくて優しい感触がした。 とりあえずいい光景だよね。・・・・・・後ろの集団のヒソヒソ話を気にしなければ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「僕達は今、人が恋に落ちる瞬間を初めて見たのかも知れない」 「ヤスフミ、どうしてクロノの真似しながらそんな事言うの? でも・・・・・・そこは私も同感」 「おいおい、マジで始まるのかよ。藤咲主演のなのはさんプラスってのが」 「なのはママ・・・・・・さすがになぎひこさんに手を出すのは犯罪だと思うんだけど。うーん、どうしよう」 ≪どうしようもないと思うの。というか、お母さん・・・・・・今の年齢だけは気にするべきだと思うの。普通に危ないのー≫ (第56話へ続く) [*前へ][次へ#] [戻る] |