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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ケース33 『フィアッセ・クリステラとの場合 その3』



人が罪を・・・・・・過去を数えて向き合うのは、後悔や償いのためなんかじゃない。

そこから新しい自分なりの一歩を踏み出すため。それは僕なりの答え。

あの探偵さんにそれを話したら・・・・・・嬉しそうな顔で、頭を沢山撫でられた。





ただ探偵さんは違うらしい。罪を数えさせるのは、もう罪を犯させないため。

そのために犯人を徹底的にぶちのめすという覚悟のためとか。

つまり、僕は意味を捉え違えてたのよ。でも、おじさんはそれでもいいって言ってくれた。





数えさせるのではなく、その人が罪を・・・・・・過去を数えるための時間を作る。





過去を数え、その中で自分と向き合って、変わっていけるこれからの時間を信じて紡いでいく。










「・・・・・・リンディさん、もう一度だけ言います。
僕にも、アンタにも、フェイトにも・・・・・・それぞれに罪がある」



僕が人の善意や想い、未来の可能性を信じているからそう言えるのだと、背中を押してくれた。

僕は僕なりの『罪を数える』という言葉を・・・・・・その意味を貫いていけと。



「それはもう変えられない。拭う事も償う事も出来ない。でも、ここから変わっていける」





僕の罪は、フェイトをずっと見ていながらしっかりと向き合っていなかった事。チャンスはいくらでもあるはずだった。

リンディさんの罪は、まだ幼かったフェイトに役職や組織から認められるという逃げ場所を作った事。

そして今のあれこれだ。管理局やミッドの常識やルールをフェイトの生活や行動の中心にしてしまった事。



そしてフェイトの罪は・・・・・・自分で自分の事、ちゃんと認められていない。向き合おうともしていない事。



そういう意味では、僕達全員の罪の共通項は『向き合う』という事が足りなかったんだと思う。





「このまま行くにしても、変わるにしても、僕達はそれをきっちり数えなくちゃいけない。自分達の罪と向き合う必要がある」





これは仕方ないと言えばそれだけで済まされてしまような小さいものだ。

だけど、見過ごせない歪み。その歪みを生み出したのが僕達の数えるべき罪。

それがフェイトの中から、色んな可能性を奪っているかも知れないんだ。



気づいたのは、本当につい最近。もしかしたら、僕の考え過ぎかも知れない。

本当にただのこじつけかも知れない。でも、それでも考える必要がある。

僕はこの疑問を拭えない。それで本当に何かが壊れてしまうのは・・・・・・嫌だから。





「だから、僕はアンタにこう言う」



いや、実際は違う。リンディさんに対してだけじゃない。僕は・・・・・・僕自身にも言う。

知ろうとすらしなかった過去と向き合い、今を変える一歩をここから踏み出すために。



「・・・・・・さぁ、お前の罪を数えろ」



リンディさんは何も言わない。何も言わずにただ、悲しげに信じられない顔で僕を見るだけ。

悪いけど、まだまだいくよ。僕はもう覚悟を決めてる。なんて思われようと・・・・・・ぶっ飛ばしていくから



『あの、恭文君も落ち着いて? ・・・・・・でも、それならどうして辛辣な言い方をしたのかな』

「僕に頼られて依存されても困るんだよ」



それはまた繰り返しだもの。結局、僕という存在に依存する形になる。

そしてそれは僕もフェイトを人形扱いしてる。そんなの、ダメなんだよ。



「ここで僕を頼ったら、それもまた依存じゃないのさ。結局は同じことの繰り返し。
僕はもうフェイトに『餌』をあげるつもりなんてない。そんな事、したくない」



この場合、一緒に頑張って変わっていくとかさ、そういうのだったらいいと思う。



「例えばの話、言うだけじゃ・・・・・・餌を与える側に回るんじゃない。
一緒に進んで行く側になるとか、そういうのならまだいいのよ」

『・・・・・・なるほど。フェイトちゃんが変わっていくなら、恭文君も・・・・・・だね。
二人三脚というか、そういう感じで一緒に色々密に考えていく』

「そうそう」



だけど、今の僕にはそれが出来ない。それをしていい立場には居ない。



「だけどそんな権利・・・・・・僕にはない。僕はその権利をもう放棄してる」

『恭文君、どうしてそんな」

「僕、もうフェイトの事好きじゃないから。少なくとも恋愛感情は持ってない」



そう言うと、二人の表情が驚愕に染まった。・・・・・・まぁ、話してなかったしなぁ。



「これに気づいてから、なんか気持ちがサーっと冷めちゃったのよ。もっと言うと気持ち悪い?
フェイト、どんどんおかしい方向に進んでる感じがして、見てられなかった。今はほんとに友達で姉って感じかな」

『・・・・・・そうだったんだ』



てか、こういうのは絶対白馬の王子様の仕事ですって。僕が絡む道理はないのよ。



『ならフェイトちゃんの家族として・・・・・・はどう? それならまだ大丈夫だけど』

「絶対嫌だ。周りから妙な誤解されたくないし。それはそれで、フェイトの邪魔になるでしょ」

『・・・・・・意地っ張り。本当はすごく心配してるくせに』

「よく言われるよ」



やっぱ多少は距離を置くべきなんだろうな。僕、フェイトと血の繋がりもないしさ。



『アレ、でもさっき・・・・・・アレレ?』

「横馬、どうしたのよ。アホな顔をまたアホな色に染めて」

『失礼な事言わないでくれるっ!? 私アホじゃないもんっ!!
・・・・・・いや、やっぱり恭文君は恭文君だなーと思って』



なんでそこで嬉しそうに笑うのかが分からないけど・・・・・・きっと横馬はアホだからという事にしておこう。



「とにかく、僕はフェイトともうちょっと話すから。正直このまま局員一本は今ひとつ不安が残るの」

『それはやめてもらえると嬉しいわ。正直、あなたに私達家族の事にこれ以上介入されたくない。
あなたは地球出身だから今一つ分かってないようだけど、ミッド・・・・・・管理局と地球では文化が違うわ』



なのはも気づいたらしい。だから表情が悲しげになる。



『地球ではそういう考え方もありだろうけど、私達はミッドの人間なの。
お願い、これ以上フェイトを惑わせないで。あの子はミッド生まれで、私達側の人間なんですから』



リンディさんは、僕を部外者・・・・・・家族じゃないとはっきり言ったのよ。

そしてこの期に及んで、今度は出身の違いで『自分達の事が理解出来るわけがない』と言い切ったし。



「・・・・・・ざけるな。フェイトがどこの人間かどうかは、フェイトが自分で決める事だろうが」

『その通りよ。でも、あの子はまだ子どもなの。そのために迷うようなこと』

「その子どもを今まで散々局の戦力として利用して、その上まだ縛ろうっていうのかよ」



色々と発言がおかし過ぎる。動揺しているがゆえに、ボロが出まくってるね。



「アンタにも僕にも、誰にもそんな事言う権利なんざない。全部、フェイトが自分の心で決めていくんだ。
そして子どもだからこそ、そうして決断していく事を覚えなくちゃいけない」



力も権力も、立場もない。でも、それでも出来る事がある。それがこれだと僕は思う。



「探偵のおじさんは、こう言ってた。大人になるということは、自分として決断していくことだって。
認められるどうこうじゃない。僕達は・・・・・・フェイトが自分として決断する選択を奪ってるかも知れないんだよ」

≪そうじゃなかったら、ここまで言いませんよ。それになにより、腹が立ちますね。
あなた、神様にでもなったつもりですか? そんなに上から目線だから、誰に何の言葉も通じないんですよ≫



一回攻撃されたら、10回殴り返す。そんな勢いで僕は対抗。

というか、徹底抗戦。あいにく、僕はもう引くつもりはない。



『あ、あの・・・・・・二人とも本当に落ち着いてっ! こんな事でケンカしても意味ないよっ!!』

「横馬、ケンカ売ってるのはこの『異星人』だよ?
どんだけ偉いか知らないけど、随分と地球人や地球の文化を見下してくれてる」



自分の罪と向き合わず、結局は逃げに走ってる。・・・・・・普通に嫌悪感出てくるんですけど。

真面目にこの人はどういう意識で母親やってたのよ。これはありえないでしょうが。



『それでもダメだからっ!! ・・・・・・というか恭文君、それなら恭文君はどうなのかな。
ほら、将来の事とか、そういうのちゃんと考えてる? フェイトちゃんに伝えたい事があるなら、まず自分からだよ』

「僕は僕で覚悟決めてるよ」










うん、とっくに決まってる。僕は・・・・・・僕のなりたい形は、ずっと一つだった。





他にも色々波状してやりたい事とかはあるけど、それでも根っこは一つだと思う。





それを追いかけたい。だってこれは、僕の中にある拭えない想いなんだから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『ゆ、誘拐っ!? というかあの・・・・・・えぇっ!!』

『あなた、どうしてそれを』

「・・・・・・やっぱりリンディさんは知ってたんですね」



苦い顔をして僕を見ているあの人を見る。あの人はその表情のまま、頷いた。

というか知らないはずが無いと思ってた。最初の時に僕のあれこれ、きっと調べてたはずだし。



『誘拐事件が有った事と、それがきっかけであなたのご両親が不仲になった事は。
ただ、あなたの口癖になっているあの言葉が、その探偵のものだとは知らなかったけど』



まぁここはいいか。僕自身でさえ覚えてないような記憶だったんだもの。リンディさんに分かるはずがない。



『それなら進路は』

「まだ決めてない」



色々考えてたりはする。ただ、局以外でだね。僕、やっぱ局員にはなりたくない。



「もうハッキリ言っておくけど、局の事が嫌いなんだよ。
僕、局の仕事には入らないから。きっと局の中じゃ・・・・・・目指す背中は追いかけられない」

『・・・・・・そっか。それは私的には残念だけど・・・・・・仕方ないのかな』

「あ、納得してくれるんだ」

『うん。それにね、なんだかその探偵さんの話を聞いて、分かった気がするんだ』



横馬がなんだか嬉しそうな顔をしてる。それがどうしてか分からなくて、僕は首を傾げる。



『恭文君は・・・・・・やっぱりルールで止まれって言われても、納得出来ないよね。
今まではその理由がどうしても分からなかったんだけど、今は納得出来る』

「なんで?」

『多分それを理由に止まったら、手を伸ばす事を諦めたら・・・・・・恭文君の夢が壊れちゃうんだよ。
恭文君だって、もう気づいてるよね。自分の中のそういう部分に嘘をつきたくないのも理由だって』

「・・・・・・そうだね。色々最低だとは思うけどさ」



完全無欠に人様のためじゃなくて、普通に自分のためでもあるもの。矛盾もあるよね。



『そんな事ないよ。それを言えば、私の教導官だって同じなんだから。まぁ、だからなんだけど』

「なにさ」

『例えフェイトちゃんに依存してる部分があっても、執務官の仕事の中にフェイトちゃんの夢があるのは認めてあげて欲しいんだ』

「・・・・・・そこなら分かってる。ただまぁ、なんて言うかさ」



上手く言えないけど、それでも必要な事だから・・・・・・言葉にして伝えていくことにした。



「依存のためにいつかフェイトが自分の大事な夢を蔑ろにして、壊れそうな感じがして・・・・・・嫌なんだ」



うん、やっぱり僕にも罪があるわな。それならそれで、好きな気持ちを維持したまま突っ込めばよかった。

でも、実際には今のフェイトの異常さというか歪んだ部分に引いて気持ちが冷めて・・・・・・それでこれだもの。



「フェイトの夢は、キラキラだもの。宝石・・・・・・ううん、消えない星の光みたいに輝いてる。
だから、大事にして欲しい。フェイトは何かに依存なんてしなくても、ちゃんとそこに居るのに」



思い出すのは、守りたいあの子の笑顔。大好きな笑顔が消えちゃいそうで怖かった。

だから不器用でも突っ込んで・・・・・・本当に下手くそ過ぎるけどね。



「でも結局はフェイトの夢で、だから・・・・・・話したいなって。話して、ちゃんとその形を知っていきたい。
その上で背中を押したい。ほら、今のフェイトの夢の形を知らないから不安になってただけかもって思って、だからなの」

『・・・・・・やっぱり好きなんだ』

「当たり前じゃん。初恋の人であり大事な友達で姉貴分なんだから」



軽く笑いながらそう返すと、横馬も同じように嬉しそうに笑ってくれた。なお、リンディさんはずっと黙ってる。

恨めしげに・・・・・・そして悔しげでありながら忌々しい何かを見るような視線を僕に送り続ける。



『とにかく話は分かったよ。私やはやてちゃんからフェイトちゃんにきちんと話してみる』

「いいの?」

『うん。だって話さなきゃ分からないもの。それに恭文君は、無理に否定したいわけじゃないんだよね?
ただ今のフェイトちゃんの夢の形を、ちゃんと知りたいだけ。認められる事だけを求めるのとは違う形を』

「・・・・・・うん」



分からない事だらけで、僕が勘違いしてる可能性もあって・・・・・・でも、だから知りたい。

それがなんだか恥ずかしくて横馬の方を見ながら頷くと、横馬は優しく笑ってた。・・・・・・らしくもなく可愛いと思った。



『なのはさん、ちょっと待ちなさい。あなたまでこの子みたいな勝手をしないで。
フェイトはもう道を決めたわ。それで迷わせるような事をしないで。もうこれでいいのよ』

『何が勝手なんですか? 友達と将来の事を真剣に語り合って考えたいだけなのに。
それに私も恭文君と同じ『地球人』なので、地球文化から見てもここの辺りはちょっと心配なんです』



もう横馬は引かない。リンディさんの言葉にも真っ向から立ち向かってる。最低な僕の肩を持つように。



『まぁ、ミッド人で『異星人』なリンディさんにはお分かりいただけないでしょうけど』

『・・・・・・なのはさん、どうして』




・・・・・・うん、最低だよ? 何度も言うけど僕も同罪だもの。でもいいの。

これは誰かが意地張りまくってやらなきゃいけない役割なんだから。

で、僕がやった方がいいの。僕、ハラオウン家から距離が一番離れてるしね。



このまま家族じゃなくなってもいいくらいだよ。





『でも・・・・・・私、自信無くすよ。フェイトちゃんにそんな可能性感じなかったのに』

「しゃあないでしょ。横馬は横馬でやることがあったんだから」



だから今だって、学校休んで教導のお仕事中なんだし。・・・・・・まぁ、横馬はいいよね。

空を飛ぶのが好きで、そんな仕事に携わるのが嬉しいってのは事実だから。



『それでもショックなの。これが私の罪・・・・・・かな。自分の事に照らし合わせれば、きっと気づけたから。
私、誰かに認められるために空を飛んだ事なんて一度もないから。ただ・・・・・・好きだから、飛んでるの』

「・・・・・・ん、知ってる」

『あとはクロノ君やアルフさんにエイミィさんにも協力してもらおうかな。・・・・・ね』

「僕は参加しないから」



もう言いたい事が分かったから、普通に釘を刺しておく。てかやる意味分からないし。

僕はもう、フェイトの白馬の王子になるつもりはないの。普通に友達だし。



「・・・・・・と言いたいとこだけど、これで中途半端な処置されてもめんどいしなぁ。参加するよ」



で、グダグダ馴れ合いするなら徹底的に叩く。とりあえず、普通にこのまま現状維持だけは無しだね。



『ありがと。とにかくはフェイトちゃんとお話だね。それで私も振り返りつつだよ』

「・・・・・・そうしてくれると助かる」

『じゃあ恭文君、またここは相談で』

「うん。・・・・・・なのは、ありがと」

『ううん。それじゃあね』



通信はそこで切れた。なのはが切れると同時に、何も言わずにリンディさんも。そして、息を吐く。

・・・・・・とりあえず僕は、空を見上げる。海鳴の星や夜景は綺麗で・・・・・・少しだけ、気分が晴れた。



≪まずは現状改革からですね≫

「そうだね。・・・・・・全く、もっと楽したいのに」



なんでリンディさんとあそこまでガチでやり合う必要が・・・・・・あぁ、原因なら分かってる。

リンディさんは、認めたくないのよ。この話を認めたら、マジで自分は母親失格になるから。



≪でも、このために好感度下げるって・・・・・・相変わらずバカですよね≫

「元からだよ」










とにかく、恭也さん達の方に戻った。ただ、話してる間にもう訓練終わってた。





・・・・・・ちくしょお、普通に僕の貴重な修行タイムを奪いやがって。恨むぞ、二人とも。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先の事


ケース33 『フィアッセ・クリステラとの場合 その3』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして・・・・・・あっという間にクリスマス間近。なので私と恭文くんは結構大忙し。

高町家に居候している以上、私達は当然のように協力しちゃうから。

で、何にかって? そんなのとっても簡単だよ。翠屋は、ケーキの美味しい喫茶店。





そして翠屋の恒例は、クリスマスケーキの制作。もう予約が沢山だもの。










「桃子さん、材料の発注出来ました。あ、見積もり書はデスクに置いてますんで」

「あぁ、ありがとねー」



もちろん生ものだから、作るのは前日から。つまりそれまでは材料の発注や予約の受付。

日常業務も兼ねているから、普通に今から大忙し。ただ・・・・・・これはまだ序の口。



「恭文くん、悪いんだけどすぐに店内に入ってー! もうこっちは大変ー!!」

「了解ですっ! 発注関係の書類の整理が終わり次第・・・・・・10分以内に入りますっ!!」



さっきも言ったけど、生もののケーキを大量に仕込む事になる。つまり、前日と当日が一番忙しい。

そして当日というのは、24日。25日は世間の風潮的に本番後になる。ここは海外生まれとしては、色々複雑。



「いやぁ、フィアッセごめんねー。休暇中なのに手伝ってもらっちゃって」

「こっちは助かっているが・・・・・・いいのかい? お休みにならないんじゃ」

「ううん、桃子も士郎も気にしないでいいよ。私が手伝いたかったんだし」



元翠屋のウェイトレスチーフとしては、見過ごせないもの。それに・・・・・・うん、色々と落ち着く。

なんかこう、帰ってきたんだなーって感じがして、私とっても楽しい。



「・・・・・・お待たせしましたー」



あ、恭文くん早いなぁ。うーん、魔導師のマルチタスクのおかげなのかな。書類関係はすごい強いの。

アルトアイゼンもさりげなくサポートしてくれてるらしいし、それもあるんだよね。



「よし、じゃあ店内は恭文くんと私と他のみんなとでなんとかするね。桃子達は中の方お願い」

「了解」










あれから恭文くん、一皮剥けた感じがする。きっと自分なりのなりたい大人の形、見つけたからだね。

士郎や桃子、恭也に美由希もそれに気づいてるから、どこか嬉しそう。あ、もちろん私も。

色々考えたけど、あの旅に出たのは正解みたいでよかった。あとは・・・・・・私の気持ちかな。





約束が達成される時に、ちゃんと守れるように。その時に恭文くんに愛想なんて尽かされないように、もっと頑張りたいな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・そう言えばさ、アルフ」

「なんだい?」



大人モードなアルフと、今日の夕飯の買出し中。てゆうか、普通に私はここに居着いちゃってるよなぁ。

あははは、一応嫁入り前とは言え、これはいいのかなぁ。



「アルフ、フェイトちゃんが泣き崩れた時怒らなかったらしいよね。なんで?」

「・・・・・・あぁ、アレか」



両手にスーパーの袋を持ったアルフが、納得顔で私の方を見る。



「いやさ、実はアタシ知ってたんだよ」

「え?」



そして少し考えるようにしながら・・・・・・答えてくれた。



「アイツがフェイトの今の状態について、アレコレ悩んでるの。風邪引いてた時に聞いてさ」



それで簡単に説明してくれた。自分でも実はちょっと考えていて・・・・・・疑問が出てきたとか。



「アタシは使い魔だしさ、大人になるとか正直良く分かんないんだ。それは今も同じ」



でも、そうしてアルフはフェイトちゃん本人はどうなんだろうなーとか考えたとか。



「それでさ、ちょっと思ったんだよ。もしかしたらフェイトも分からないのかも知れないってさ。
でさ、アイツもよく分かってなかったんだよ。それで・・・・・・ちょっと漏らしてた」



アルフ、いつの間にか恭文くんとお話してたんだ。てゆうか、漏らしてたってなんだろ。



「局に入ってみんなから認められて、それで夢が全部叶って大人になれるなんて・・・・・・何か違うなって。
そんなある種簡単な事で、あのじじいや高町家のみんな、または他にも居るかっこいい連中みたいになれるのかって」

「・・・・・・なるほど。そりゃあ確かに道理だね。うん、私も納得だ。それで?」

「その話聞いてからね、アタシもまたバカなりに考えたんだ。
それで一応の結論を出した。フェイト、きっとこれしか知らないんだよ」



少し困ったような・・・・・・ううん、私達への申し訳なさかな。そういうものが、アルフの顔から見えた。



「周りがお母さんやエイミィみたいな局員が大半だから、局員になる以外での大人のなり方を知らなくて、それで道を選んでるんじゃないかと」

「それで怒らなかったの?」

「あぁ」



でも、その理由が分かった。フェイトちゃんの問題が周りからの影響・・・・・・私達のせいだと言ってるように感じてるんだ。



「まぁ恭文も言い方は乱暴だったけど、きっとフェイトに言いたかっただけじゃないかな。
大人や自分のなりたい形ってのには、ただ誰かに認められただけじゃあなれないってさ」



少し照れくさそうにアルフが笑う。というか、ビックリした。

アルフ・・・・・・こういう時は真っ先に恭文くんに噛み付いてたのに。



「それでまたまたネタばらしをすると・・・・・・これ、全部クロノの受け売りなんだ」

「・・・・・・あぁ、使い魔として色々気になったから相談していたと」

「あぁ。丁度恭文が自分に相談してきたってのも教えてもらってさ。
クロノと色々話して、ここは恭文に任せてみようって結論になったんだ」



だから照れくさそうにしつつも苦笑するか。・・・・・・てーかクロノ君はまた兄貴キャラ通すなぁ。

やっぱいつぞやのコンサートの件とかで持った恭也さんへのライバル意識、持ちまくってるのかな。



「ただ、まさかお母さんと徹底的にやり合う事になるとは思ってなかったけど。
・・・・・・クロノと『バカだな』って呆れ返ったよ。そして反省したよ。アイツ、絶対やり方ヘタクソ過ぎだし」

「あはは・・・・・・それは確かに」



アルフ、本気で呆れてるんだね。うん、分かるよ。もう顔に書いてるくらいだもの。



「それに・・・・・・進学の話をしてる時のフェイトが楽しそうだったのは、アタシも気づいてたから。
きっとフェイト、本心では学校に続けて行ってみたかったんだと思うんだ」

「そっか。うん、納得した。いや、アルフはいい使い魔さんだね」

「ふふ、当たり前だろ? ・・・・・・なーんてな」



なんて話しながらも、私はアルフと一緒に夕方の冬の商店街をゆっくり歩いていく。

さて、そうすると後はリンディ提督だけか。恭文君に徹底的に糾弾された事、相当ショックだったらしい。



「アルフ」

「ん、なんだい」

「リンディ提督・・・・・・本気で恭文くんと縁を切ると思う?」

「このままじゃあ切るだろうね。お母さん、らしくも無く意固地になってるし。
アタシにクロノの話も全く聞きやしないんだよ? どうしろっていうのさ」



なんでも恭文くんの保護責任者を降りるかどうか真剣に考えてるとか。・・・・・・でもこれはなぁ。

最低なやり口ではあるけど、母親としての自分を否定された事で自分にはもうそんな資格がないとか言ってる。



「たださ、クロノが言ってたんだけど・・・・・・単純に逃げてるだけみたい。
恭文の言った可能性ってやつを認めたくなくて、それでって」

「あぁ、そういう部分は否定出来ないなぁ」



しかも今の楽しそうなフェイトちゃんの状態だよ。おかげでどうしても納得し切れていない部分がある。

ここはもうどうしようもないかも。恭文くんだってきっとそこは覚悟の上で話してただろうし。



「それにさ、多分アイツ・・・・・・それでもやるって決めたんだと思うんだ」



アルフは足を進めながら、悔しそうな顔をする。というか、嫉妬?



「そうなっても今のままじゃダメだと思って・・・・・・自分を賭けたんだ。それでフェイトの選択肢を増やしてくれた。
アタシさ、それってすごいことなんじゃないかって思うんだ。色んな可能性があるって、なんかそれだけでワクワクしないか? 例えば」

「例えば?」

「バラ肉とロース肉、その二つがあるというだけでワクワクさ」

「・・・・・・そうだね。でもアルフ、多分その選択肢は意味無いと思うなぁ」



だってアルフはきっと両方食べちゃうもの。うん、すっごく想像出来る。



「でも・・・・・・なんていうか、アイツアタシより行動が使い魔っぽくないか? ありえないだろ」



あははは・・・・・・確かに。使い魔のアルフとしては、そこも色々悔しいのかぁ。



「で、使い魔としてはお株取られたままってのは悔しいから、もうちょっと説得してみるつもりだ。
このままアイツと縁を切って、それでどうするのかってさ。結局それも、フェイトの枷になるだけだし」

「・・・・・・そうだね」



フェイトちゃんは自分のために恭文くんを孤独にさせたと泣く事になる。

それがどういう結果を呼び起こすかは、想像に任せる。多分、恭文くんの言葉は無駄になっちゃうよ。



「全く・・・・・・あのバカはどうしてあんな好戦的なんだろ。そして詰めが甘過ぎ。
みんなから認められる穏便な解決方を覚えろって、前々から言ってたのに」

「でも、気に入ってるでしょ? 厳しい事は言ってても、アルフは何気に恭文君に甘いからなぁ」

「そんな事はないよ。・・・・・・まぁ、今までよく分からなかった部分がちゃんと見えたから、多少は見直したけどな」

「はいはい、そういう事にしておきましょ」










さて、その説得には私も参加するとしましょうか。リンディ提督は不満だろうけど・・・・・・それでいいと思う。





今のフェイトちゃんは、局一本に絞ろうとしていた時のフェイトちゃんとは明らかに違うもの。





教えられた大人のなり方じゃなくて、自分なりの憧れる大人の形を想像して、とても楽しそうにしてるから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、世の中には労働基準法というものがある。まぁ、局が完全無視なアレだね。

でも、ここ・・・・・・翠屋ではそうはいかない。普通に僕は夕方の仕事が一段落したら帰されるのだ。

さすがに12歳の男の子を午後7時以降まで働かせると、法律に触れるのよ。そのためにコレ。





だから僕は、夕方のすっかり日の暮れた空を・・・・・・フィアッセさん共々高町家に向かって歩いていく。










「・・・・・・あの、僕一人で帰れますし」

「だーめ。私が恭文くんと一緒に帰りたいんだもの」



白いYシャツに黒いロングスカート。そして暖色系のコートを羽織るフィアッセさんは、僕と手を繋ぎながらそう言う。

フィアッセさんが僕と一緒に帰るのは、まぁ・・・・・・察して? うん、色々とさ。



「そう言えば、アレからフェイトちゃんとは?」

「あ、クロノさんから連絡が来ました。何やら相当家族会議しまくってるとか」



なお、僕は参加出来ない。だって、翠屋相当なんだもん。抜ける余裕ないもん。

ただクロノさんが議長的な感じになって、未だにご機嫌斜めなリンディさんの代わりに取りまとめてるとか。



「あとはフェイトからも。・・・・・・なんか、ライバル宣言されました」

「え?」

「自分なりの夢とかをもう一度見つめ直して、僕に負けないくらい輝くから覚悟しておくようにーって。
フェイト本人がそんな感じだから、話し合い自体はかなり上手く進んでいるらしいです」



決して惰性や諦めのために進路を決めないように、沢山沢山お話してるらしい。

そしてそんな中で、少しだけ嬉しい変化も存在していた。



「それで・・・・・・フェイト、やっぱり高校に通いたかったみたいで、また受験準備進めるそうです。
まだ子どもな自分を続けて、自分のなりたい形についてたくさん考えてみるそうです」





実を言うと、僕もフェイトに押し付けただけなのかなとか不安だった。

だけど・・・・・・フェイトに『大丈夫』と言われて、肩の荷が下りた。

ただ不満がある。それはフェイトに対してじゃなくて、横馬に対して。



あのバカ、僕が話した『フェイトの夢はキラキラ』の件を全部バラしてやがった。

そのせいでフェイトが顔真っ赤にして照れモードで可愛かったりしたのよ。

・・・・・・普通に恨むぞ。おかげでちょこっと揺らぎが出たし。でもその・・・・・・うぅ、迷うな。





「それからまた、改めて将来の方向性を決めるとか」

「そう。・・・・・・あ、リンディさんは?」

「かなり不満そうみたいです」



何気に局一本の選択が嬉しかったんでしょ。フェイトの能力への期待も大きかったから。



「まぁアレですよね、ミッドの人だから地球の文化とかあんま理解してないんでしょ。
異星人が地球の文化を全く分かってないってなんかのSFでありましたけど、そのノリですよ」

「あぁ、ミッドや管理局の常識ありきで考えちゃうんだね。そこは確かになぁ。
話を聞いていると、まだ9歳だったなのはを局に誘ったって言うし」





おかしいよなぁ。ミッドに日本文化って、実はかなり浸透してたりするのに。

事故でミッドに漂流してきた日本人が沢山居て、その影響で・・・・・・らしいし。

そう考えると、クロノさんが頭が柔らかいよ。だから僕も、安心していられる。



本当は参加したいんだけど・・・・・・『お前はお前の仕事をきっちりやれ』と言われて、お任せしている。



僕の仕事は翠屋の手伝いと、世界一素敵な婚約者をちゃんと守る事だとも言われた。・・・・・・後半はなんで?





「うーん、よく士郎や恭也達はそれで許したよね。私、何気にビックリしてたんだ」

「なのは自身がその中に夢を描いたからじゃないですか?
・・・・・・僕、なのはは見てて安心するんですよ」



歩きつつも空を見上げる。見上げて思い出すのは、今頃自宅に帰りついていると思われる友達。



「フェイトみたいに管理局や周りの人達に依存してる感じは、実はあまりしないんです。なのははきっと単純な理由でやってますよ。
純粋に空を飛ぶのが好きで、だからそれに携われる仕事がしたくて・・・・・・だから、教導官として思いっきり飛ぶ事を選んだ」

「・・・・・・ふーん。恭文くんは何気になのはの事、ちゃんと見てるんだね。普段はあんなに意地悪なのに」

「一応ぶっ潰したい相手なんで、だからこそ観察をしっかりしてるってだけです。
あ、それとこの事はなのはには内緒ですよ? 絶対に言わないでください」



言いながら、僕は開いている片手の人差し指を立てて唇に当てる。

もちろんこれは、『内緒でお願いします』のサイン。



「あのバカ、無茶苦茶嬉しそうな顔するに決まってるし」

「うん、分かってる。・・・・・・じゃあ、何にしても上手くいってるんだね。よかった」

「はい。あの、ありがとうございました」



歩きながら、フィアッセさんと繋いだ手の感触を確かめながら、僕はフィアッセさんを見上げる。

フィアッセさんは不思議そうな顔をするけど・・・・・・うん、ここはいいの。



「どうして?」

「フィアッセさんが手伝ってくれなかったら、きっと僕・・・・・・答えが分からないままでしたから」



どうしてフェイトへの気持ちが冷めちゃったのかとか、そういうのも含めてだね。・・・・・・やっぱりフィアッセさんは凄い。

優しくて温かくて聡明で・・・・・・うぅ、条件付きとは言え、マジで僕の婚約者なのがもったいないよ。



「そんなことないよ。全部恭文くんの頑張りがあったからだよ?
恭文くんが逃げないで、自分の中の答えと罪と向き合おうとしたから。・・・・・・でも」

「でも?」

「もしもちょっとだけでもお手伝いが出来たなら、すごく嬉しいかな。うん、婚約者としてはとっても嬉しい」



言いながら、いっぱい笑ってくれる。・・・・・・正直、将来がどうなるかとかは良く分からない。

でも、フィアッセさんの笑顔は・・・・・・大好き。大切で、全力で守りたい。



「あ、そうだ」

「はい?」

「ね、もし良ければなんだけど・・・・・・25日、私とデートしてくれない?」

「・・・・・・・・・・・・はいっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



我が家はあのバカが起こしてくれた台風のおかげで、まさしく師匠も走り回る程の大騒ぎだ。





だから仕事の合間に自分の執務室で昔馴染みとお茶もしつつ、今後の相談なんてするわけだ。










「でな、うちもフェイトちゃんとちょお話したんやけど・・・・・・確かに『アレ?』思うんよなぁ。
みんなに認められんと大人になれんって理屈はおかしいやんか。で、そうせんと夢が通せんとかな」

「あぁ。確かにそれは事実ではあるが、フェイトの場合それを絶対のように感じていたからな。
・・・・・・しかし、僕も恭文から相談される前に気づくべきだった。やはり僕も異星人の類ということか」

「まぁミッドと地球とじゃあ文化もちゃうしなぁ。てゆうかアレよ、ハラオウン家はミッド出身者が主やから、どうしてもそうなるんやろ」



向かい側の応接用のソファーに座るはやてが、お茶を一口すする。なお、日本茶で湯のみだ。



「で、恭文はどないなりそうなんや」

「・・・・・・しばらくは高町家で預かってもらうことになった。
下手をすれば保護責任関係も高町家に移行だな」





あそこは我が家の御母堂と使い魔・・・・・・訂正。アルフはここから除かれる。

アルフは単純に、恭文の将来的な部分やどこに居たいかなどが見えなかったのが不満だったそうだ。

だが、今回の一件でアイツなりの腹の括り方をなのはから聞いて・・・・・・認めたらしい。



ただ、それでも過剰な無茶は認めないそうだが。ここは普通に心配だからだろう。アルフも何気に甘いからな。





「この辺りは士郎さん達と僕とで相談の上だ。さすがに今は家に上げられん」

「家長からしてもう毛嫌いモードやしなぁ。てか、アイツはまた加減せずに説教モードか」

「なのはの話を聞く限りではそうらしい。それで言い切ったそうだ。
最低なのも自分にも罪があるのも、とっくに理解しているとな」

「・・・・・・アイツが言いそうな事や。自分がフェイトちゃんに恋愛感情持っとったから、余計にそう思うんやろ」



・・・・・・やっぱり僕が話すべきだったと今更ながら後悔だ。色々と泥を被らせてしまった。

あぁ、僕はあの時なぜ疑問を持たなかったんだ。今までのあれこれを鑑みるなら、ここは予測出来ただろうが。



「しかしリンディさんもちょお困ったなぁ。このまま恭文切り捨てても、何も解決せんやろ」

「僕もそう言っている。だが、母さんがそこを認めないんだ。
切り捨てるわけではなく、親を続けて恭文を導く自信が無くなったと」

「・・・・・・完全な理論武装やんか。さすがにそれは」





トウゴウ先生との約束はどうするのかと聞いたら、今の自分ではそれを守れるわけがないと言い切った。

何にしても、しばらく母さんと恭文は接触させられないな。恭文はともかく、母さんは完全に恭文に怯えている。

・・・・・・そう、怯えていると僕は思う。恭文という爆弾の破壊力に、母さんは恐怖しているんだ。



下手をすれば今までの自分のアレコレまでが壊れてしまいそうで、関わりたくないと思っているのだろう。





「まぁ、うちらもちょお話してみるわ。リンディさんや恭文はともかく、フェイトちゃんがかなわんわ。
下手したら『自分が今まで通りに頑張ればヤスフミが切り捨てられなくて済む』とか言い出しそうやし」

「そうだな、頼めるか。僕も両方にフォローはしておく」



・・・・・・本当にアイツはやり方が下手だと思う。でも・・・・・・考えればこれは当然なんだよな。

恭文はまだ12歳の子どもだ。いくらアレな性格とは言え、完璧になんでも出来るわけではない。



「うん、そこはマジで頼むな。てーか、そこはクロノ君やアルフさんも問題やろ。
普通に恭文だけに任せるからこじれるんよ。間になのはちゃんが居なかったら、もっとエラい事になってたで?」

「そこはアルフ共々内心反省モードだ。出来れば触れないでくれると助かる。
ただ・・・・・・アイツという爆弾の威力に、二人揃って期待してしまったとだけは弁明させて欲しい」

「爆弾なぁ。まぁ、確かにそれは正解やったけど・・・・・・こりゃ、またしばらく荒れるかなぁ」

「荒れるな。フェイトがその中でも前向きになっているのが唯一の救いだ」










いや、僕が言うのも非常にアレなんだが。ただ・・・・・・なんというか、フェイトは楽しそうだ。

自分なりの大人のなり方を探すために、もう少しだけわがままな子どもで居ることを選ぶと言っていた。

言い方は少しアレだが、僕はそれを聞いて安心した。上手くは言えないがそうなんだ。





さて、それでは色々と下手を打った人間として、フェイトの後押しと母さんへのフォローを頑張るとするか。





恭文に最低な役割を買わせてしまったんだ。それくらいはしなければバチが当たってしまう。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・そして今日は25日の午後。私は海鳴の駅で一人佇んでいた。

声をかけてくる人も居るけど、適当にお断りしてここに居る。

あ、ファンの子にサインを求められたのもあったから、ここは快く引き受けた。





でも、恭文くんはやっぱりモテるよねぇ。リインちゃんとデートがあるなんて、知らなかったよ。

まぁ、午後からの予定は空いていたから、桃子達にも断って今日一日は恭文くんとずーっと一緒。

でも・・・・・・お休み、もう半分超えちゃったんだなぁ。七草粥食べたら、向こうに戻らなくちゃ。





うぅ、イリアや学校のみんなには感謝だよ。こんな長いお休み、多分もう数年後じゃないと取れなかっただろうし。





なんて色々考えていると・・・・・・やってきた。緑色のコートを着て、下はジーンズの男の子が。










「フィアッセさん、お待たせしました」



少し小走りで、私の方に来る。私は右手を挙げて、軽く手を振る。

・・・・・・やっぱり私、この子の事が好きだな。



「ううん、大丈夫だよー」










この子との時間が、この子の笑顔が、それにこの子の『歌』が・・・・・・私は大好き。

恭文くんはずっと歌をうたっている。自分という歌を・・・・・・その心や生き方で。

その気持ちは、ここ半月でもっと強くなった。私、この子の歌をもっと聴いてみたい。





そして恭文くんが何時だって笑って自分の歌をうたえるように、一番の味方でありたい。

そのための婚約で、そのための『I LOVE YOU』・・・・・・だったんだけど、きっとそれだけじゃダメ。

私も、この子を男の子として見ていく事がきっと必要。なんかね、そう考えてるの。





今の年齢や色んな壁が私達の間にはあるから、少しずつ・・・・・・進んで行けたらいいな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ゆっくりと恭文くんと手を繋いで歩きつつ到着した場所は・・・・・・海鳴のベイサイドホテル。

私がチャリティーコンサートをしたところだね。うぅ、あの時も大変だったなぁ。

とにかく私はそこのホテルの人達にお願いして、部屋を借りる事にした。もちろん事前予約。





恭文くんが気を使っちゃうといけないから、そんな高い部屋じゃない。それで、今日はここでお泊り。










「・・・・・・って、何これっ!? なんか普通に流されかけたけどコレはなにっ!!」

「あ、お泊りだよー。士郎達には言ってあるから、大丈夫」

「僕が大丈夫じゃないんですけどっ! てゆうか、士郎さん達は知ってるんかいっ!!」



恭文くんが頭を抱えながら、部屋の中で悶えてる。・・・・・・うーん、どうしたんだろ。

もしかして一緒の部屋にお泊りは初めてだから、緊張してるのかな。



「やーすふーみくん♪」



だから私は、後ろから恭文くんを優しく抱きしめる。



「えへへ、捕まえたよー」



恭文くんは動きを止めて・・・・・・あ、身体が熱くなった。



「あの、えっと」

「・・・・・・今日は私の事だけを見ていて欲しいな。フェイトちゃんの事も、リインちゃんの事も今は無し」



その熱さが心地よくて、嬉しくて・・・・・・私はそのまま、自分の全部を預けていく。



「その代わり、私も恭文くんをずっと見てるから。恭文くんだけの・・・・・・私で居るから」



15歳も年下で、まだ子どもの恭文くんにこんな事言うのは、やっぱりおかしいのかな。

でもいいの。私の中の『好き』な気持ちは、本当のものなんだから。



「あの、えっと・・・・・・僕で、いいんですか?」

「恭文くんじゃなくちゃ、意味がないよ。恭文くん・・・・・・I LOVE YOU」










恭文くんは、恥ずかしげに頷いてくれた。ずっと私のことを見てくれると・・・・・・約束のサイン。





私は一旦恭文くんを離して、今度は正面から抱きしめた。





恭文くんは息を荒くしてるけど、それでも抱き返してくれた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・あの、フィアッセさん」

「ん、なにかな」

「だからってお風呂はおかしくありませんかっ!?」



現在、僕はフィアッセさんとお風呂の中。というか、さっきまで洗いっこしてました。

うぅ、恥ずかしかった。というかフィアッセさんの裸・・・・・・見ちゃってるし。



「おかしくないよー。私、ずっとこうしたかったんだー。
リインちゃんに負けたくないし、私の事見てて欲しかったし」

「いや、あの・・・・・・そういう問題じゃ」

「そういう問題なの」





浴槽の中の壁に背中を預ける形で、フィアッセさんとお風呂タイム。

フィアッセさんは僕の右隣で、バスタオルも無しで入浴。

なんというかあの・・・・・・やっぱり恥ずかしい。あと、ちょっと胸が苦しい。



だ、だってその・・・・・・フィアッセさんのが、プカプカ浴槽に浮いてるの。あの、えっと・・・・・・えぇ?





「というか、ちゃんと私の方向いて欲しいな」

「だ、だめです。その・・・・・・えっと」

「私は大丈夫だよ? というか」



フィアッセさんは言いながら、そのまま僕の方に軽く寄りかかってくる。

ただ、破壊力が凄まじく大きい。だって・・・・・・僕達、互いに裸だもの。



「私、恭文くんだから一緒にお風呂も大丈夫なんだけどな。
・・・・・・胸も腰もお尻も、女の子の大事なところも見られてもいいと思ってる」

「フィ、フィアッセさん・・・・・・これはその」

「お願い」



僕は・・・・・・そう言われて、チラ見を続けていたフィアッセさんの方をジッと見る。

フィアッセさんは髪をアップにしてタオルを頭に巻いて、それで優しく微笑んでくれていた。



「ん、ありがと。・・・・・・ね、私ってどうかな。ゆうひとかにはちょっと負けてるんだけど」

「そ、そんな事ないです。フィアッセさん・・・・・・凄く、綺麗です」

「ホントに?」

「ホントです」



だってあの・・・・・・だめだ。描写すると非常に問題がある。

というかあの、ドキドキしてる。だって一緒にお風呂で・・・・・・あぅ、なんかダメ。



「・・・・・・フィアッセさん」

「ん、何かな」

「その、どうして僕にその・・・・・・ここまで?」



確かにフィアッセさんの危ないところを助けたりしたけど、それでも僕はただの子どもよ?

実はその、嬉しいのと同時に色々と疑問が・・・・・・うぅ、でもやっぱり嬉しい。



「・・・・・・恭文くんの歌が好きだからかな」



浴槽に背中を預けて、フィアッセさんがお風呂の天井を見上げる。



「ママの受け売りだけど、人はね、みんなその心で・・・・・・魂で歌をうたっているんだ。
心の在り方でその歌は色んな形に変化していく。楽しい歌だったり、悲しい歌だったり」



その様子を僕はジッと見ている。それで、フィアッセさんの言葉をただ聞くだけだった。



「私、なんだかおかしいけど恭文くんがうたっている歌にすごく惹かれたんだ。
強くて、真っ直ぐで、沢山の悲しいことを覆していける優しくて温かい歌に」



凄く胸の中がくすぐったいというか、締め付けられるような嬉しさを感じた。

フィアッセさんの言葉・・・・・・その、互いに裸だからかな。直で伝わってくる。



「これがもし恋愛感情って言うなら・・・・・・そうだな、私は恭文くんの事、好きだと思う。
まだ子どものあなたに私、恋しちゃってるんだね。それも凄く・・・・・・本当に凄くなの」



それでフィアッセさんは上げていた視線を落として、僕を見る。

あの、えっと・・・・・・というかその、これって告白・・・・・・されてるのかな。



「あなたが自分らしく歌をうたえるように、支えて守りたい。あなたの一番の味方でありたい。
だって、あなたが笑って進んでいく姿を見てるだけで、私・・・・・・すごく嬉しいんだ」

「・・・・・・フィアッセ、さん」

「えっと、なんだか愛の告白みたいになっちゃったけど、大体はこんな感じかな。
他にも色々理由はあるけど、今はこれが一番の理由。・・・・・・恭文くん、好きだよ」

「あの、その・・・・・・ありがとうございます。その、凄く嬉しいです」

「・・・・・・ん」



フィアッセさんは右手を伸ばしてそっと僕の左の頬を撫でてくれる。

洗いっこしたせいかフィアッセさんの手はすごくスベスベで、とっても柔らかい。それで・・・・・・あの。



「無理しなくていいよ?」



言いかけた僕の口の動きから何かを察したのか、フィアッセさんがそう言った。

それに驚いてフィアッセさんの目を見る。フィアッセさんは、安心させるように頷いてくれた。



「フェイトちゃんの事、まだ好きなんでしょ?」

「・・・・・・どうして、そう思うんですか?」

「女の子の勘だよ。それに私、ここ最近はずっと恭文くんと一緒だった。だから分かるの」



そんなチートカードを出されたら、僕はただ頷くしかない。頷いて・・・・・・答えるしかないの。



「やっぱりかぁ。・・・・・・多分気持ちが冷めちゃってたんじゃなくて、単純に心配してただけなんだろうね。
どうなるか不安で、恋愛感情がちょこっと引っ込んじゃっただけなんだよ」

「かも、知れないです。でもあの、おかしいんです。
フィアッセさんに『好き』ってちゃんと返したくて・・・・・・その、あの」

「恭文くん、大丈夫だよ。今の恭文くんの正直な気持ちを、話してくれればいいから。・・・・・・私、迷惑・・・・・・かけてるかな」

「そんなことないです」



僕はフィアッセさんの言葉に食い気味に返していた。

それでフィアッセさんの頬に当てられている手を、右手でそっと握り締める。



「フィアッセさんも、フェイトと同じ意味の『好き』になってるんです。
というかあの、フェイトよりフィアッセさんの方がいいかなって・・・・・・少し」



今までみたいなお姉さんとかそういう感じじゃない。僕、フィアッセさんの事意識してる。

それで・・・・・・フィアッセさんの方がちょこっとだけ気持ちが強い感じがする。・・・・・・お風呂入ってるせいかも知れないけど。



「というかあの・・・・・・えっと、その・・・・・・ごめんなさい」

「どうして謝るの?」

「だって、二人とも好きとかワケの分からない最低なことを」

「そんなことないよ。もしそうなら、私は嬉しいよ」



フィアッセさんが、そっと左手を伸ばしてそのまま僕を抱きしめてくれる。

・・・・・・というか、だめ。あの・・・・・・ドキドキ、止まらない。



「フェイトちゃんと同じ意味の好きになれたなら、本当に嬉しい。なら、私も本気で頑張らないとなー」

「え?」

「恭文くんがこれから先、今みたいに『二人とも好き』じゃなくて本当に私を選んでくれるとするでしょ?
そうなったら・・・・・・もう『大人になるまで考えて?』なんて言わない。私も恭文くんとちゃんと向き合うよ」

「・・・・・・フィアッセさん」



それはつまり・・・・・・その、えっと・・・・・・そういう事なんだよね。そう、なんだよね。



「本当に、いいんですか?」



僕、まだ子どもで15も年下で・・・・・・全然ダメダメなのに。

自分の気持ちもまだあやふやであいまいで、分かってないのに。



「うん、いいよ。私はいつでも恭文くんの側に居るよ。だから、焦らなくていい。
少しずつ、考えていけばいいから。それでどんな答えでも、私は受け入れるよ」

「・・・・・・ならあの」



僕は生まれたままのフィアッセさんをお風呂の中で抱きしめた。

軽くのぼせてるのか、フィアッセさんの身体も僕の身体も・・・・・・すごく熱っぽい。



「考えて、答えを出します。それで・・・・・・胸を張って、フィアッセさんに僕なりの『I LOVE YOU』を言えるように」

「・・・・・・私でいいの?」

「だってその、暫定1位はフィアッセさんですし」

「うん、そうだったね。それなら・・・・・・まず私の気持ちをもう一度だけ伝えておくね。恭文くん・・・・・・I LOVE YOU」



フィアッセさんはそう言いながら、僕を強く抱きしめてくれた。それが嬉しくて・・・・・・や、やばい。

ドキドキよりも熱っぽさが上回ってる。これ、普通にのぼせかけてるのかも。



「あのフィアッセさん、そろそろお風呂あがりませんか? あの、このままだとのぼせるかも」

「あ、それもそうだね。なら・・・・・・名残惜しいけど」



それで僕達は身体を離す。離して改めて見つめ合って・・・・・・一気に熱が上昇した。

だ、だってその・・・・・・裸でハグしてたのかと思うと、なんかだめ。



「・・・・・・あ」



フィアッセさんが軽く呟いた。それに僕が疑問を浮かべていると、フィアッセさんが右の耳にそっと囁いてきた。



「・・・・・・恭文くんのエッチ」

「い、いきなりなんですか?」

「だって恭文くん」



フィアッセさんの視線が下を向いている。それは浴槽の中。

それで気づいた。僕・・・・・・タオルもつけてないから見られてる。



「恭文くん、その・・・・・・すごいね。さっきまでと違う」

「どういう意味ですかそれっ!? だ、だめっ! とにかくこれはダメですからー!!」

「うーん、こういう場合はやっぱりこうさせちゃった責任を取って、私はエッチなことしなくちゃいけないのかな」

「それもダメですからー! 普通にそれやったら、フィアッセさん犯罪者ですよっ!?」



なお、日本では合意の上でも13歳以下の子とそういう事をしてしまったら、犯罪になるのであしからず。



「でも、前にゆうひに読まされたエッチな本ではそういう風に」

「あの人マジで何してるっ!? とにかくそれはダメなんですー! これは大丈夫ですからっ!!」

「でも、男の人ってこうなっちゃうと痛いから、ちゃんとしないとだめってゆうひが」

「よし、今日はゆうひさんから何教わったか徹底的に教えてもらえますかっ!? 僕は婚約者として色々気になるんでっ!!」










こうしてクリスマスは過ぎていった。フィアッセさんと二人で色々お話して、楽しく笑い合って・・・・・・それで、抱きしめ合った。





もちろんエロな事は抜き。婚約者として、健全にコミュニケーションをしていったの。





あと、ゆうひさんが相当にオヤジ的に妙な知識を吹き込んでいたのにはちょっとびっくりだった事を付け加えておく。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・それから、本当にあっという間に3年が経った。うん、突然だよね。

でもごめんね。色々とこっちにもあるのよ。あれから色々と変化があった。

まず、すずかさんとかシャマルさんとか美由希さんとかとお話・・・・・・大変、だったなぁ。





それで現在、僕は高町家にお世話になっている。うん、結局あのままだね。保護責任者も士郎さん達に移行した。

そしてフェイトははやてやなのはと違って高校進学。アリサとすずかと一緒に現在は聖祥大付属の高等部2年生。

それであれからまた話して・・・・・・教えてくれた。高校を卒業したら、そこから本格的に執務官の仕事をするつもりだと。





別に認められるためとかじゃなくて、自分なりの夢を大事にして貫きたいからだとか。

ただ、本人的にはそこの辺りでまた色々と迷っているらしい。なんでもパティシエに興味が出てきたとか。

ここの辺り、僕に会いに来る形で以前より高町家に出入りしていた影響だね。





もっと言うと、桃子さんの影響だよ。それでお菓子作りの中に自分の今までの夢に近いものを見つけたとか。





だから現在、高町家の僕の部屋でパティシエの学校と局の資料を見比べて楽しげに悩んでるのよ。










「・・・・・・フェイト、いっそ両方目指したら? お菓子作りで事件を解決する敏腕執務官だよ」



和室な面持ちの部屋は、高町家に以前居候していた晶さんという人が使っていた部屋。

ご本人様の快い許可を得た上で、大事に使わせてもらっている。



「あのヤスフミ、それはいくらなんでも無理・・・・・・あ、でもちょっと待って。
事件を解決した後に私の作ったお菓子でアフターフォローなら」

≪・・・・・・あなた、学習しませんね。フェイトさんが本気で考え込んだじゃないですか≫

「・・・・・・ごめん、まさかこれに本気になるとは思ってなかった」





それで色々僕と距離を取ってるリンディさんを除く形で、ハラオウン家のみんなとは基本仲良し。

そこはアルフさんもそうだし、クロノさんと結婚して正式に家に入ったエイミィさんとも。

距離が出来た分、以前よりみんなの事が分かるようになったのは・・・・・・色々楽しい変化だと思う。



あと、僕は今も嘱託。それで自分なりのハードボイルドを貫きつつ大暴れしてる。

あとは・・・・・・フェイトの補佐官。まぁ、アレコレ言ったからその対価になればと思って資格をあの後すぐに取った。

ただ、そこで普通にフェイトに話して受け入れられるとは思っていなかったけど。



それでもやっぱり失敗やダメなこともあったりで、色々とヘコむこともある。うん、そっちの方が多いよ。

でもそれでも・・・・・・自分なりの憧れた形に向かって、前に進んでる・・・・・・はず。

やっぱり拭えないんだ。それで諦められない。僕の中の未来への願いは、どんどん強くなってる。



誰に咎められても、誰に否定されても、今も僕は自分なりの『罪を数える』を貫きたいと思ってるから。





「でもフェイト、真面目にお休みはしっかりしなよ? また被保護者増えたんだし」

「うん、分かってる。エリオとキャロともお話して・・・・・・その、少しわがままにならせてもらってるから」



この言動だけ聞くと色々無責任だけど、実際は全然そんな事ないのは僕達全員が知っている。

・・・・・・僕、フォローとか必要なのかな。



「うーん、両方かぁ。やっぱりヤスフミはすごいなぁ。私の常識、簡単に壊してくれる」

「・・・・・・いや、あの・・・・・・いえ、何でもありません」

≪私は知りませんよ? 後でどんな嵐が来ても≫



ベッドに腰掛けながら、床に直置きなテーブルの上の資料を楽しげに見ているのはフェイト。

足を崩して、その足が若干色っぽいけど・・・・・・でも、スタイル良くなったよなぁ。この1〜2年で特にだよ。



「あ、そう言えばヤスフミ」

「何?」

「私は第三夫人でも大丈夫だよ? ヤスフミとだったら、そうなっていいと思ってるから」



フェイトが資料を見ながら、そんな事を言ってきたのでベッドから滑り落ちる。



「いきなり何言ってんのっ!?」

「ごめん、冗談。・・・・・・うん、冗談だよ。ただ、私が行き遅れそうになったら面倒は見て欲しいな」



フェイトが言いながらこちらを振り向く。そして、頬を膨らませていた。



「大体、あんなに大胆にプロポーズしておいて放置はひどいよ?
男の子だったら、私に対してちゃーんと責任を取るべきです」

「そこは言わないでー! というか、今その話を持ち出すのっ!?」

「うん、持ち出すよ。私ももう結婚出来る年だし、ヤスフミも3年後にはそうなるんだもの」



その理屈は意味が分からないよっ! てゆうか、第三夫人とか無理だからっ!!

それだとハーレムだよっ!? 確かにプロポーズの事を持ち出されたらそうなるけど・・・・・・それでもだめー!!



「・・・・・・行き遅れないうちにいい男を見つけなよ。フェイトなら引く手あまたでしょうが」

「そうしたいけど、中々難しいの。私の周りでヤスフミ以外でその『いい男』って、中々居ないんだから」





とにかく最近、フェイトはこういう事を言い出すようになってきている。

それもかなりの頻度で。・・・・・・なぜだろう、何か嫌な予感がする。

ま、まぁここはいいか。僕はもう、自分なりの答えを出してるんだから。



とにかく、僕は部屋にかけてある青い円形の時計を見る。時刻は17時。



そろそろ出ないと約束の時間に遅れてしまう。だから、僕はそのまま立ち上がった。





「それじゃあフェイト、僕は出るけど」

「あ、うん。私はいつも通りな感じだから」





フェイト、パティシエになるという可能性を見つけてから、リンディさんとかなりやり合ってる。

・・・・・・なんつうか、異星人意識が相当に強まってるようだ。というか、僕のことが原因のようなので、ここは何も言えない。

そのために最近では今まで以上に高町家に上がり込んで、翠屋の常駐店員になってしまっているのよ。



もちろん仕事が無い時限定だけど、今のフェイトは学校での『子ども』としての生活を重点に置いてる。

それで『いつも通り』というのは、高町家にお泊りさせてもらうという事。なお、客間で寝る。

というか、ここは寛容だよなぁ。フィアッセさんが海鳴で療養中もこんな感じだったって言うし、なんかすごい。





「ヤスフミ、『よろしく』って伝えておいてくれるとうれしいな。あ、それと」

「何?」

「改めてになるけど・・・・・・誕生日、おめでと」

「・・・・・・ありがと。というかケーキありがとね。すごく美味しかった」

「ううん。そう言ってもらえるだけで、私嬉しいから」





それから少し早足で、夏の海鳴の街を進みつつ・・・・・・3年前のクリスマスの道筋を辿る。



そこにあの人は居て、薄手の白に青のラインが入ったワンピースを着ていた。



今日は8月1日。僕の誕生日。それで・・・・・・あの人、フィアッセさんと何度目かのデート。





「フィアッセさん」

「・・・・・・あ、恭文くん。うん、時間ぴったりだね」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あの日の足取りを辿るように、僕達は挨拶もそこそこにベイサイドホテルに向かう。

それであの時一緒に一晩過ごした部屋に行く。そのまま静かにベッドに腰掛ける。

もう、一応僕の答えは伝えた。まぁ・・・・・・・電話でだけど。ただ、直接じゃない。





だから右隣、ベッドの枕側の方に座ったフィアッセさんの方を見上げて、その答えをもう一度伝える。










「フィアッセさん・・・・・・好き、です。その・・・・・・I LOVE YOUです」



もうあれこれ言葉を紡いでも、もどかしいだけ。だから、ストレートに伝える。

3年前のあの日に、色々話して・・・・・・あとはこれだけになっているから。



「僕の一番は・・・・・・フィアッセさんなんです。僕もフィアッセさんの『歌』に、ずっと惹かれてた。
だから・・・・・・フィアッセさんの事が、欲しい。フィアッセさんを僕だけのものにしたい」

「・・・・・・うん」

「それでフィアッセさん、あの」

「大丈夫だよ。そんなに不安な顔はしなくていいから」



フィアッセさんが、言いながらそっと僕に身体を預けてくる。

本当に少しだけ伸びた身長のお陰で、僕は以前より楽にフィアッセさんの身体を受け止められる。



「あの時、言った通り。それで・・・・・・私も変わってないよ。
あなたの歌に、ずっと恋してるから。・・・・・・恭文くん、I LOVE YOU」

「フィアッセ・・・・・・じゃあ、あの」

「うん。私達、恋人同士だね。・・・・・・なんだか、嬉しいなぁ」

「はい。それで・・・・・・これから、よろしくお願いします」

「うん、よろしくね」



フィアッセさんの抱擁が強くなった。包み込む感じじゃなくて、いっぱい求められてる感じがする。

だから僕は・・・・・・そのままフィアッセさんをベッドに押し倒した。それで身体を離して、フィアッセさんを見下ろす。



「え、えっと」



や、やばい。ついテンプレ的にやっちゃったけど・・・・・・これはダメかも。

僕は身体を起こそうとするけど、フィアッセさんが僕の首の後ろに両手を回す。



「・・・・・・ホントはシャワー浴びてからがよかったけど・・・・・・いいよ。
もう私は恭文くんのものだから。というか、私も我慢出来ないの」

「フィアッセさんも?」

「うん。本当にね、本当に・・・・・・嬉しいから。私だって、3年の間に考えてたんだ。
恭文くんと同じなの。本気で向き合って、伝えて・・・・・・繋がりたかったから」



それでそのまま、僕を引き寄せるように抱きしめて・・・・・・頭を撫でてくれる。

身体が密着して、フィアッセさんの心臓の鼓動が伝わってきた。というか、ドキドキしてる。



「だから、お願い。ただね、私もその」



そっと耳元で、フィアッセさんが囁いてくれる。それでびっくりした。

と、というかそれはその・・・・・・あんまりに予想外なんですが。



「それで・・・・・・大丈夫かな」

「・・・・・・分かりました」



僕は身体をもう一度・・・・・・ほんの少しだけ起こす。それから、覚悟を決める。

大好きな人だから、僕の『歌』を守ってくれた人だから・・・・・・僕も、絶対に守る。



「あの・・・・・・頑張ります」

「うん、一緒に頑張ろうね」










そのまま僕はそっと瞳を閉じながら、フィアッセさんと唇を重ねた。





自然と両手を広げて互いに繋ぎ合って・・・・・・強く、強く握り締めていた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・幸せだなー」





もう辺りは真っ暗。フィアッセさんはシーツにくるまりながらも起きて、楽しそうにルームサービスのご飯を食べてる。

深夜サービスがやってて良かったよ。じゃなきゃ、外まで出ないとしっかりご飯食べられないし。

なお、僕はそんなフィアッセさんの右隣に座ってる。あ、服はちゃんと着てるよ。じゃなきゃ受け取れないし。



でもあの・・・・・・すごかった。こう、想像と実際って全然違うんだね。





「ご飯は美味しいし、恭文くんは隣に居るし・・・・・・うー、明日イギリスに帰っちゃうのが名残惜しいよー」



フィアッセさんは、僕の答えを直接聞くために海鳴に来た。だから明日のお昼には帰っちゃう。

僕がイギリスに行くと言ったんだけど、せっかくだから誕生日にもう一度ここに来たいと言われたの。



「というか、恭文くんに『誕生日プレゼント』をあげられたし・・・・・・良かったよ」

「え、えっと・・・・・・ありがとうございます。その、すごく嬉しかったです」

「もう、そんなに何度も言わなくていいよ。うん、ちゃんと伝わってるから」



言いながら、フィアッセさんが右手のフォークから手を離す。離してから僕の頭に手を伸ばす。

それで・・・・・・初めて会ってから何度もしてくれるみたいに、優しく沢山撫でてくれた。



「それでも、何度も言いたくなるんです。いっぱい、いっぱい伝えたい」

「そっかぁ。それは私と同じだね。私も・・・・・・恭文くんにいっぱい伝えたいんだ」



右手を背中に回して、フィアッセさんが僕の左肩に顔を埋める。

甘えるようにすりすりするのがくすぐったくて、少し身を捩る。



「だーめ、逃げないで? ・・・・・・こうやってね、いっぱい伝えたいんだ。
年の差とか色々あるけど、それでも私はあなたが大好きだよーって」

「・・・・・・すごく、伝わってます。だからその、嬉しいです」



だから僕はそっと、両腕でフィアッセさんを抱きしめる。15歳年上のお姉さんは、やっぱり温かくて柔らかい。

本当はずっと独り占めにしたいけど、それはだめ。フィアッセさんにだって・・・・・・拭えない大事な夢があるから。



「恭文くん・・・・・・私ね、わがままだから・・・・・・いっぱい歌いたいんだ。
だから恭文くんに、寂しい想いさせちゃう。それだけは、本当に申し訳ないと思ってる」

「大丈夫ですよ。僕もその、似たようなものですし」

「あ、それもそうだね。フェイトちゃんの補佐官になっちゃってるし・・・・・・うーん、心配だなぁ。
見てるとフェイトちゃんも過去のプロポーズを理由に攻撃しちゃってるみたいだし」



なんで知ってるっ!? 普通にぼくはそこびっくりなんですがっ!!



「でも、それでも・・・・・・繋がっていきたいね。夢も絆も、何も諦めたり捨てたりしないの。
私達は、色々変わっていくだろうけど・・・・・・それでも変わらないものも含めて、全部抱きしめていく」

「こんな風に・・・・・・ですか?」

「うん、そうだね。こんな風に抱きしめていられたら、きっと・・・・・・幸せだから。恭文くん・・・・・・I LOVE YOU♪」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・それから更に4年と少しの歳月が経ちました。

私はあれから・・・・・・結局翠屋と執務官の仕事の両立。

どっちも捨てられないから、両方追いかける事にしたの。





ヤスフミとフィアッセさんは遠距離恋愛に近い形で、ゆっくりのんびりお付き合いを継続。

ヴェートルでの事件やJS事件を超えても、そこは変わらず。もうラブラブです。

あ、JS事件では私はスカリエッティに捕縛されかけたりとかないよ? うん、全く。





それでその・・・・・・実はその、数ヶ月前に赤ちゃんが産まれた。

それに伴って二人は入籍。フィアッセさんはフィアッセ・蒼凪となった。

子どもは二人。ヤスフミとフィアッセさん似の双子の男の子と女の子。





子育てのためにフィアッセさんは歌手業を一時休業して、高町家でお世話になって・・・・・・いたの。





本当につい最近まで。ただ、あの・・・・・・現在、私やヤスフミが暮らすマンションに居ます。










「・・・・・・えー! じゃあじゃあ、この双子の赤ちゃん、恭文とフィアッセさんの子どもなんですかっ!?」

「うん、そうだよー」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! やや、すっごくびっくりなんですけどっ!!」



色々な諸事情から、この街に長期滞在することになってしまった。それは私の補佐官でもあるヤスフミも同じく。

とは言え、双子の赤ちゃんやフィアッセさん的にはこれはよろしくない。なので、フィアッセさんがこっちに来ちゃったの。



「・・・・・・クリステラさんが出産・育児のために休業したのは僕も聞いていたんだ。
けど、まさかその相手が蒼凪君だったなんて。ちょ、ちょっとショックかも」

「あぁ、唯世しっかりしろっ! お前ファンだからってそこまでショック受ける必要なくねっ!?」





・・・・・・現在、しゅごキャラクロスで言うと大体6話辺り。みんなに魔法の事とか説明してるところ。

うん、普通にクロスしちゃったんだ。それでヤスフミは・・・・・・子持ちな小学生。

その事実に、あむさんも唯世君もなでしこさんもややさんも空海君もみんな驚愕している。



私には見えてないけど、きっとしゅごキャラのみんなもだよ。





「でも恭文君、そうなると双子の赤ちゃんのお父さんなのに小学生なのよね。・・・・・・なんだか面白いわ」

「あははは・・・・・・なでしこ、そこは触れないでもらえると嬉しいな。普通に辛いから」

「でも・・・・・・あぁ、確かに目元や髪がフィアッセさんやアンタに似てるね。じゃあ、マジなんだ」



言いながら、あむさんが二人の腕に抱かれている双子ちゃんを見ている。

今ひとつ疑いが消えないようで、何度もその子達とヤスフミとフィアッセさんを見比べる。



「あむ、そんな信じられないの? 指輪とかも見せたのに」

「それでも無茶苦茶過ぎだっつーのっ! 同級生が実は19歳で異世界の魔導師でこんな綺麗な奥さん居て双子の子持ちっ!?
そんなの簡単には、信じられないからっ! むしろ戸惑っているあたしの気持ちを色々察して欲しいんですけどっ!!」

「だが断る」

「なんでよっ!!」










・・・・・・ヤスフミとフィアッセさんは、それぞれに自分の子ども達を抱きながらもあむさんの言葉に顔を見合わせて苦笑する。





いや、あの・・・・・・あむさんの言う事、間違ってないよ? 私だって同じ立場なら、きっと混乱するだろうし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・きゃっ! きゅー!!」

「きゃー」

「・・・・・・この子、ボク達の事見えてるんだね」

「そうだね。二人ともまだ生まれて1年経ってないから。でも、嬉しいなぁ。
みんなみたいな可愛い子達とお友達になれるんだもの。うん、恭文くんの奥さんでよかったなぁ」

「そ、それはその・・・・・・ボクも同感です」



・・・・・・みんなが楽しげに騒ぐ中、僕は両腕の中の自分の子どもを見ている。

なんか、不思議だなぁ。僕・・・・・・自分が親になれるなんて、思ってなかった。



「・・・・・・フィアッセさん」

「うん、何かな」

「えっとあの・・・・・・ごめんなさい。僕」

「ううん、大丈夫だよ。・・・・・・恭文くんには、ここでやらなきゃいけない事があるよね?
だからガーディアンのみんなに魔法の事や自分や私の事も教えたし、そのための気持ちも固まってる」

「それはあの・・・・・・はい」



あのイースターとか言う連中を叩き潰す。こころのたまごを・・・・・・人の夢を物扱いするような連中、放っておけない。

管理局もなにも関係ない。これは、僕とアルトにリインのケンカなんだ。



「だから私、ここで恭文くんと一緒に居る。それでうたうよ。私なりの歌で・・・・・・いっぱい背中を押していくから。
だから恭文くんは迷わないで? 変えたい今があるなら、全力で飛び込んで覆していこうよ」

「・・・・・・はい。なら、これから少し大暴れして・・・・・・悲しい風を、全部吹き飛ばしていきます」

「うん、その意気だよ。恭文くん・・・・・・ファイト」










難しい話はここまでにしておくとして、僕達はキャンディーズや他のしゅごキャラを見て、楽し気なうちな双子達にクスリ笑ってしまう。

・・・・・・頑張っていきたいな。イースターの事もそうだけど、うちの双子達の事も含めてだよ。

まっすぐに自分なりの拭えない、捨てられない夢を見られるように。そんな願いに出会えるように。





そんな時間が来るように・・・・・・きっと今は、戦わなくちゃいけない。戦って、今を覆していくんだ。

色んな縁で知り合った、新しい仲間と一緒に。あと、フィアッセさんと一緒に。

戦ってる時、ずっとフィアッセさんが歌で僕の背中を押してくれる。だから、僕もうたっていける。





自分の夢という名の歌を・・・・・・この世界に、時間に響くように、思いっきり。




















(フィアッセルート・・・・・・おしまい)




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あきゅろす。
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