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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ケース32 『フィアッセ・クリステラとの場合 その2』



「・・・・・・ここ、ですよね」



フィアッセさんから話を聞いた翌日、僕は早速行動を開始した。

香港の美沙斗さんや弓華さんにも協力してもらいつつ、数日を準備を整えた。



「うん、そうだね。ここで間違いないよ」





リスティさんが最近、たまたま仕事を一緒にした人がその言葉を言っていた。

事件自体の内容はそれとして、リスティさんに頼み込んで僕はその人の事を教えてもらった。

その人は・・・・・・風車が多く回っているとある地方都市で探偵業を営んでいた。



たまたまリスティさんが別の都市の署に出張中に事件に遭遇して、同じくだったその人と協力体制を結んだとか。



だから僕は・・・・・・ここに居る。色々なデータを揃えた上で、どうしても会いたくなった。





「恭文くん、大丈夫?」

「・・・・・・はい」



すごくドキドキしてるけど、それでも僕は・・・・・・目の前のドアを叩いた。

軽く二回叩くと、即座に声が返って来た。



「はい。開いていますのでどうぞ」










渋い声が返って来たので、僕はフィアッセさんを連れる形でそのまま中に入る。中は・・・・・・すごかった。

天井を回るプロペラ型の換気設備に、ハンガリーハットの数々にチェスボード。

スロットなんてあるし、部屋の具合は正しく70年代のハードボイルドな探偵事務所。





その中には・・・・・・確かに居た。僕がお目当ての探偵のおじさんが。



















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先の事


ケース32 『フィアッセ・クリステラとの場合 その2』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・1ルームな作りの事務所に一角にある応接用のソファーにフィアッセさん共々座らせてもらった。

それでコーヒーを入れてもらって・・・・・・なお、紅茶はないらしい。ミルクは大丈夫と言うと、あの人は意外そうな顔をした。

あの人は向かい側に座って、僕達を見る。とりあえず依頼どうこうではないとうのは、伝えてある。





それでどう切り出そうかと考えていると・・・・・・あの人から口を開いた。










「・・・・・・しかし、随分と大きくなったな」



少し頬をほころばせて、あの人が笑う。それに僕は目を見開く。

というか、フィアッセさんと驚いた顔をして互いを見合わせてしまう。



「えっと、あの・・・・・・僕の事」

「あぁ、覚えているぞ。中々印象深い依頼だったからな。というか、よくここが分かったな」

「・・・・・・実は僕、あなたの事ほとんど覚えてなかったんです。
4歳の頃に何があったかとかも。ただ、ひとつだけ覚えていて」



僕は一息に・・・・・・あの言葉を言った。きっとこれだけ言えば、伝わるはずだから。



「『さぁ、お前の罪を数えろ』・・・・・・とだけ」

「・・・・・・そうか」



あの人は静かにコーヒーを飲む。ゆっくりと数十秒ほど沈黙が訪れるけど、苦にならない。

なんだかこう、今まで分からなかった色んな答えが出てきた感じだから。



「で、その後どうだ?」

「・・・・・・色々ありましたけど、一応は元気です。あの、あの時はありがとうございました」

「別にいいさ。というより、覚えてないのにお礼は変だろ」

「何があったか覚えてなくても、言葉のおかげで前に進めましたから。だから、これでいいんです」





美沙斗さんと弓華さん達警防にお願いして、僕はある事項について調べてもらった。

それは僕の10歳までの動向と出来事。それも詳細にだ。そうして、ようやく分かった。

・・・・・・4歳の頃、僕はどっかの輩に誘拐されたらしい。なお、営利誘拐。



うちの親は普通に稼ぎだけは良かった。その頃はまだ不仲じゃなかったそうだから、当然心配しまくった。

そんな時、たまたま通りがかったこの探偵さんがパパっと事件を解決したらしい。

そして僕の言葉は、その時に聞いたもの。事件の事とかは憶えてないけど、そこだけは記憶してた。



それで解決すればOKだったんだけど、その誘拐の責任問題で不仲になって、僕は放置プレイってわけ。





「そうか。まぁそれならそれでよかった。で、そちらのお嬢さんは?」

「あ、婚約者です」



何ハッキリ受け答えしてるっ!? ほら、なんかポカーンとしてるしっ!!



「・・・・・・なるほど、納得しました」



したんですかっ!? 僕は色々ビックリなんですけどっ!!



「で、まさかわざわざ礼を言うためにここまで?」

「それもありますけど・・・・・・あと一つだけあるんです」

「なんだ?」

「僕、この言葉のおかげで随分助けられたんです」



命を奪って、そうして後悔を背負って・・・・・・色々考えて、前に進む勇気をくれた。

罪を数えて、そこから一歩踏み出す事も出来ると考えられるようになった。



「だからずっと、どこかで気になっていたんです。この言葉のルーツというか、誰の言葉かを」





だけど手がかりなんて0に等しくて、どうやって探せばいいかも分からなくて。

それで・・・・・・あぁ、そうだ。だから会いたくなったんだ。かなり手前勝手な理由だけど、それでもだ。

僕は・・・・・・この言葉を言った人が誰なのか、どんな人なのか知りたくなってここまで来たんだ。



でもどう言っていいのか分からなくて、数秒考えて・・・・・・僕は、自然と口を開いていた。





「僕がずっと憧れていた『なりたい自分』の一つの形に・・・・・・どうしても会いたくなったんです。
この言葉を言った人は、きっとすごく強くてカッコ良いい大人だと思ったから」



そこまで言うと、フィアッセさんもその人も笑っていた。でも、笑いの質が違う。

フィアッセさんは安心するように微笑んでいて、その人は照れくさそうに笑っていた。



「・・・・・・そうか。だが俺は、そこまで立派な奴じゃない。まぁ、お前よりは年季が入っているとは思うがな」



どう答えていいか分からなくて、苦笑してしまう。ここで『そうですね』とか言うのも、ちょっとアレだもの。



「それでも大丈夫だとありがたいがな」

「あの、大丈夫です。・・・・・・ここまで来た甲斐はありました」

「そうか。まぁアレだ、今日は幸いなことに暇でな。少しだけなら俺も相手が出来る。
コーヒーでも飲みつつ、色々と話をしても問題はない。・・・・・・どうする?」

「ぜひお願いします。というか、ありがとうございます」

「問題はない」










ここに来て、本当に良かった。ようやく・・・・・・ようやく分かったから。

僕がフェイトに感じていた違和感の明確な正体とか、色々。

解決方法は、少し荒っぽくなるかも知れない。でも、きっと大丈夫。





僕はフェイトと今のままは嫌だ。だから・・・・・・ちゃんと向き合いたい。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・恭文くん」



夜、海鳴に戻る新幹線の中で隣の席のフィアッセさんがこちらを見る。

嬉しそうにしているのは、きっと気のせいじゃない。



「来て良かったね。あの探偵のおじ様、凄く素敵だったし」

「・・・・・・はい。僕、ちょっと分かりました」

「何がかな」

「僕、ハードボイルドみたいな形にすごく憧れてるんです」



それは魔導師になってからは特に強くなって・・・・・・局の緩めの対応とかには正直イライラしたりする。

フェイト達には、ハードボイルドになんてならなくていい。みんなで協力していけばいいとか言われたりする。



「うん、知ってる。メールで教えてくれたもんね」

「それで・・・・・・なんでなのかなって、今日気づきました。多分あの探偵さんの影響だと思います」






一つの理由としてハードボイルドに戦闘者としての理想型を見出したから。

二つ目に、すごくかっこいいから。ハードボイルドって、男の世界だと思うし。

それで最後に三つ目。それがこれ。多分、小さい頃の僕にはショックだったんだと思う。



ハードボイルドを通す大人がカッコ良くて、心に強くその姿が刷り込まれたのかも。



だから言葉と一緒に絶対に忘れてなかった。姿や声は忘れていても、その背中と強さだけはずっと。





「そうかも知れないね。恭文くんが戦ってる時の姿とあのおじ様の印象、似てるところがあったから」

「はい。それであの・・・・・・答え、見つかりました。僕なりの大人のなり方に対しての答え」

「ならよかった。あ、でも」



フィアッセさんが、少し神妙な顔になる。そして、右手の人差し指を立ててそっとこう口にする。



「だからってあんまり乱暴な事はダメだよ? 例えば」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



幾何学色の空の上、金色の髪の女の子と戦っているあの子は、ただ強く前を見据える。

見据えて、覚悟を決めて自分を貫き通す。あの子は、私よりも15歳も年下。だけど、凄く強い子。

ちょっとした事件がきっかけで知り合って、仲良くなって・・・・・・いっぱい繋がって。





それで将来を約束し合った。まぁ、色々な条件付きなんだけど。





でも、その前にあの子は・・・・・・向き合って立ち向かうべき障害を捉えた。










「・・・・・・・・・・・・認められて、どうするつもりさ」



言いながら、右手の刃を強く握り締める。握りしめて、言葉を続ける。



「組織や世界から認められるために頑張って、そうして認められたその先は?
みんなが認めてくれた『自分』が出来上がったその先は? フェイト、その先は考えてるわけ?」

「そんなの決まってるよ。もっともっと頑張る。沢山の人が私・・・・・・ううん、違う。
私の居場所を、私達の仕事を好きになってくれるように、一生懸命に」



あの子は答える。必死にあの男の子に向かって、伝わるように・・・・・・分かってくれるようにと願いながら。

だけど、伝わらない。そして一部の人を除いて全員が気づいた。あの子・・・・・・フェイトちゃんの言っている事がおかしいと。



「その先は」

「だから、もっと頑張って私達の世界を良くするために」

「ならその先は?」

「・・・・・・ヤスフミ、いい加減にして。なんの意味があるの?」



フェイトちゃん、意味ならあるよ。あなたの理想は・・・・・・夢は、歪んでいる。どうして自分で気づかないの?

そこにはあなた自身が何もない。あなたはそれを『自分の夢』と言うかも知れないけど、それは多分違うよ。



「フェイト、フェイトは強くなんてなってないよ。いいや、むしろダメになっている」

「え?」

「フェイトの夢は、理想は・・・・・・全部誰かに『認められる』事が前提だ。
それがなくちゃ、フェイトは何の理想も描けないし貫けない」



一部の人達が表情を変えて、あの子を糾弾するような視線を送る。でも、きっとすぐに気づく。

フェイトちゃんが今、何を『理想』として言ったのか・・・・・・すぐに気づく。



「そんなの当たり前だよ。組織や世界、周りの人達に認めてもらうことは、絶対必要なんだよ?
そうしてもらって、初めて正しい行動で理想を貫くことが出来る。ヤスフミ、子どもみたいな事言わないで」



フェイトちゃんはとても大きな大剣を引いて、構えた。そして・・・・・・足元には金色で円形の魔法陣。



「お願い、分かって。ヤスフミは私達と同じ道に行くべきなんだよ。そうしてヤスフミも認められるようになるの。
それが大人になる事なんだよ? 組織や世界と向き合って、理不尽な事にも歯を食いしばって頑張っていく」



それは確かに一つの形。でも、私は違うと思う。フェイトちゃんは絶対的な勘違いをしている。

誰かに認めてもらうために、大人になるんじゃない。少なくとも私はそんな大人のなり方なんてしたくない。



「そうして少しずつでも居場所を良くしていくの。みんなそうしてる。なのに・・・・・・どうしてかな。
どうして『認められなくていい』って言って、逃げるの? そんな事、もうやめて」

「執務官になって、自分と同じような人を助けたかったんじゃないの?」



その子は刃を納める。視線はただひたすらに、大好きだったあの子に向かってる。

その子の言葉を無視して、ただひたすらに打ち壊すべき対象を見据える。



「そんな人が泣いてるのなんて嫌で、そんな今を変えられるように。立ち上がれるまで支えられるように。
そのために執務官になったんじゃないの? ・・・・・・僕、これを前に聞いた時に本当に素敵な夢だと思った」



少しだけ声色が優しいものに変わる。それは、あの子が非情になり切れない証拠。

全てを振り切る覚悟を決めても、それでも・・・・・・あの子はやっぱり弱いから、少しだけ振り返る。



「その話をしてくれた時のフェイト、本当にキラキラしてた。だから・・・・・・好きの気持ちが増えた。フェイト、マジでバカでしょ」

≪今のあなたはハッキリ言って、その夢に泥を塗ってますよ。それも思いっ切り。
大人になる事を理由に、自分が本当に何を通したかったのかを完全に見失ってる≫

「もうぶっちゃけるわ。僕は・・・・・・今のお前を絶対に認めない。今のお前の在り方なんて、認めない。
例え世界中がお前を認めても、受け入れて賞賛しても・・・・・・僕はこう言い続ける。お前は人形だと」



フェイトちゃんの表情が変わる。悲しげなものからそれは・・・・・・怒りに変わった。



「お前は人様から必要とされ、認められるという『餌』が無くちゃ生きていけないガラクタ。
昔から何一つ進歩していない、最低最悪な出来損ないの不良品」

「やめて」

「だから最もらしい夢を掲げながら、心の底でずっと・・・・・・ずっと求めている。
自分を否定しない世界を、自分を認めて受け入れるだけの緩い人間達を」



フェイトちゃんは首を横に振る。振りながら歯ぎしりをしている。そうとうイラついていると見ていい。



「知ってる? マジモンの夢ってのはね・・・・・・誰に認められなくても、否定されても拭えない願いの事を言うんだ」



その言葉には確かな説得力があった。だから、フェイトちゃんも否定出来ない。

それは当然だよ。あの子は、あなたの知っているあの子よりも少しだけ強くなってる。



「誰に罵られても、貫きたいと思えるそんな強さをくれる願いが、夢なんだ。
お前のそれは夢でも理想でもない。ただ誰かに認めてもらえる『いい子』をやろうとしてるだけだ」

「・・・・・・やめて」

「母親から、組織や助けた人達に仕える対象が変わっただけ。
お前は、その人達からただ餌をもらいたいだけ。大人になるならない以前の問題だ」



どんなに否定しても、今のあなたではその言葉を振り切る事なんて出来ないよ。

だって・・・・・・事実、だよね。私も恭文くんも、あなたと同じだから気づいたんだよ?



「その餌をくれるために、『認められる』事を、居場所や必要とされる事を望む。
お前は・・・・・・人間になんてなってない。プレシア・テスタロッサから否定された時と変わらない、ただの」

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」



フェイトちゃんの姿が変わった。一瞬で黒いレオタードのような姿に変わり、両手の大剣が少し形を変える。



«Riot Zamber Form»



金色の刃の先が二股になると同時に、恭文君への一気に踏み込んだ。



「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



そして、衝撃が生まれる。衝撃は・・・・・・フェイトちゃんの右の腕をへし折った。

フェイトちゃんの表情が驚愕に染まる。だけど恭文君は意に介さずに、追撃をかける。



「鉄輝・・・・・・一閃っ!!」





袈裟に振り下ろされた閃光がフェイトちゃんの左の腕をへし折った。

へし折りつつも蒼い斬撃はレオタードなバリアジャケットを斬り裂き、白い肌が線のように現れる。

そして、大剣が地面に落ちる。フェイトちゃんは・・・・・・涙を流しながら、空中で崩れ落ちる。



足元に金色の魔法陣が現れてその上に乗るけど、すぐさま恭文くんが魔法を一つ発動。





≪Struggle Bind≫



金色の魔法陣の上に蒼い三角形の魔法陣が生まれて、崩れ落ちたフェイトちゃんを縛り上げる。

折れている腕にも構わずに、キツく・・・・・・フェイトちゃんの表情が、苦悶の色に染まる。



「ヤスフミ・・・・・・どう、して? どうして・・・・・・違うよ。私はただ」

「・・・・・・僕は誰に認められなくてもいい。それだけを目指す事が大人になる事だって言うなら、そんなの間違いだ。
自分がかっこいいと、素敵だと強く惹かれた形を目指すのが、夢を・・・・・・なりたい形を追いかけるって事でしょうが」



それはあの子自身がここ最近のアレコレで感じた事。そして、私自身も改めて気づいた事。

それが多分、大人になる事の一つの形。誰かに認められるかどうかなんて、きっと二の次。



「僕はただ誰かに認められるためだけに生きるのなんて、嫌だ。そして今のフェイトみたいになりたくない」

「・・・・・・ヤスフミっ! どうして、どうして分かってくれないのっ!? ただ同じようにすればいいだけなのっ!!
普通にすれば、私達と同じようにすればみんな認めてくれるっ! もうヤスフミを誰も否定なんてしないっ!! ただそれだけで」

「ガタガタ抜かすな」



少なくとも私はそんな事のためにうたいたくなんてない。そういうのは大事だけど、それだけなんて嫌だ。



「今のフェイト、すごくカッコ悪い。他人有りきな生き方しか出来ない時点で、ダメ過ぎでしょうが。
そしてそんな生き方も同様だ。僕はそんな認められるだけの人間になんて、絶対になりたくない」

≪ただそれだけのために生きていく? それで満足出来るのなんて、人形だけでしょ。
あなた、それが本気で分かってないんですか? だったら・・・・・・もう色んな意味で手遅れですよ≫

「違う、違う違う違う違うっ! 私は人形なんかじゃないっ!! ちゃんとした人間だっ!!
母さんやクロノやアルフ、それになのは達だってそう言ってくれて」

「そう言われなくちゃ、お前は人間に・・・・・・『自分』になれないわけ?」



そして、フェイトちゃんはようやく気づいた。自分が恭文くんに本気で呆れられている事に。



「お前は、どんな自分になりたいの? 認められるだけの良い子? それもいいさ。お前の選択だからな。
でも、それだけってのはあり得ないでしょ。たったそれだけ・・・・・・それだけしかない未来なんて、ゴミ同然だ」



だから呆然とした顔で首を横に振る。涙を流しながら、恭文くんを見る。

何人か嗚咽を漏らしてるけど、誰も止めない。止められるはずが・・・・・・ない。



「惨めだね。お前は組織や人に依存しない形で未来を描けない。自分の足一つで立って、新しいこと一つ始められない」

「違う・・・・・・・違う。私は、私は・・・・・・・ちゃんと始められてる。だからここに居る」

「だったらそれは錯覚だ。・・・・・・・そんな檻の中に僕も閉じ込めようって言うなら、それごと全部ぶち壊すわ。僕の勝手で・・・・・・僕の傲慢で」



あの子は刃を振り上げる。そして・・・・・・あの子の刃に、星の光が宿っていく。



「他者から認められる事を理由に、『自分』ってやつを捨てた。そして自分から『人形』になることを選んだ。
そして自分の中の大事な決意を、夢を、なのはの言葉達を・・・・・・・お前はドブに捨てた。それがお前の罪だ」



蒼い星の光は、あの時遠目に見えた光と同じ色をしていた。



「さぁ」

≪Starlight Blade≫

「お前の罪を・・・・・・・・・・・・数えろっ!!」










・・・・・・星の光は放たれた。あの子は呆然とした顔で、斬撃を受けて吹き飛ばされた。





そしてあの子は・・・・・・泣いていた。瞳からではなく、心から涙を流し続けていた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・みたいな事とか」

「なんでいきなりそうなりますっ!? てーか、普通に妄想激し過ぎですからっ!!
・・・・・・普通に話し合いで済ませます。フェイトの言葉や夢や理想は、局という組織ありきになってるって」





これだけでも相当荒れるだろうなぁ。よし、クロノさんを味方につけよう。僕だけだと、普通に拗れそうだ。

どっちにしても、僕は今のままフェイトが局一本になるのはとても怖いように感じる。

誰かに認められるためだけに頑張って・・・・・・それだけが主目的になってる感じがするのよ。



でも、それはきっと違う。もっと利己的でいいと思うのに、あんまりに自己犠牲的過ぎるのよ。

もちろん僕の考え過ぎという可能性もあるので、ここは冷静に話していくことにしよう。

でも、場合によっては実力行使だ。そして今疑わしく僕を見ているフィアッセさんは、気にしない方向で。





「ならよかった。それなら、少しずつ・・・・・・だね」

「はい」










二人でそう言って、新幹線の外の景色を見る。流れて行く夜景と夜の街の光は、とても綺麗に映っている。





フェイトどうこうはともかく、僕は・・・・・・うん、見据えた。僕がどんな大人になりたいのか、その形が見えた。





僕は先生やあの探偵さん、それに恭也さんに美由希さんに美沙斗さんみたいな・・・・・・突き抜けたカッコいい大人になりたいんだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



私、フェイト・T・ハラオウンは・・・・・・とても悩んでいた。

自室のベッドで寝転がりながら、さっきまでの話を思い出していた。

その相手はヤスフミ。それで大事な事を教えてもらった。





まず三日前に、ある人と会ってお話をした事。そしてその人がヤスフミにあの言葉を伝えた人だった。

『さぁ、お前の罪を数えろ』・・・・・・ヤスフミが魔導師になる前に、誰かから聞いた言葉。

というかビックリした。いきなり自分の過去を調べ上げて、その人に会いに行ったんだから。





それで・・・・・・ヤスフミは自分なりの答えを出した。どんな大人になりたいかとか、そういう話。





ただそれは、私が望んでいた未来には繋がらない答えだった。










「・・・・・・バルディッシュ」

≪はい≫



枕元に置いた大事なパートナーに声をかける。視線はただ天井を見据えるだけ。



「私、そんなに難しくて・・・・・・ううん、ダメなことを望んでいたのかな。
ただ同じ道を歩きたい、一緒に頑張りたいと思ってただけなのに」

≪そこについては・・・・・・判断はしかねます。ただ≫

「ただ?」

≪『大人になる』という事は、誰かに認められるだけでは足りないのではないでしょうか。
それだけではあくまでも数ある最低条件の一つだけに過ぎず、言うなれば底辺に等しい≫

「底辺・・・・・・かぁ。なんというか、それもまた突き刺さるよ」










それはヤスフミがあの通信越しに言った言葉。そして私の心に突き刺さった言葉。





突き刺さったから、私は・・・・・・私の願いは、簡単に壊された。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『僕、あの人に会ってようやく分かったんだ。多分誘拐された時、相当修羅場だった。
その時にあの人・・・・・・戦ってくれたんだと思う。その姿をきっと直に見ていた』

「・・・・・・うん」

『それでね、憧れたんだと思う。泣いてる誰かのために飛び込んで、真っ直ぐに戦えるヒーローみたいな在り方に。
だからそんな人みたいになりたくて・・・・・・そんな強さが欲しくて、リインと関わって魔導師になって、ここまで走ってきて』

「・・・・・・・・・・・・うん」



きっとそれがヤスフミにとっては本当の始まり。リインやヘイハチさん達と会う前の、0の出来事。

空っぽの中に一つだけ刻み込まれた、大切な記憶。私も・・・・・・納得した。



『だから僕、あの探偵さんや先生みたいになりたい。泣いている誰かに手が届くなら、全部を守りたい。
命も、想いも、心も・・・・・・悲しい風なんて吹き飛ばして、笑顔で居られる時間に繋ぎたい』

「それが、ヤスフミのなりたい形・・・・・・なんだよね。それが出来る強い自分になる」

『うん』

「だったら、余計に局に入るべきだと思う。ううん、そうしようよ」



私やなのは、はやてやみんなと同じ理想と願いがヤスフミの中にもあった。

そして私は安心していた。だから微笑んでヤスフミを見つめる。



「局の中なら、その理想は貫けるよ。それで少しずつ変わっていこう?
その夢や理想を、みんなに認めてもらえるように、変わっていくの」

『・・・・・・どうして?』

「だって、大人になるなら絶対に必要な事なんだから。私はそう思ってる。
自分の夢や理想を認めてもらって、初めて世界や組織の中で通せるんだよ?」



私にも夢や理想がある。だから、それをちゃんとした形で通すために局一本にしていく。

ヤスフミはきっと色々嫌なものを見て不安がっている。だから、相談してくれたんだ。



『悪いけど、そんなのいらない』



そう思っていた私の認識は、ここで壊された。ヤスフミは躊躇いなく、私の心に杭を突き立てる。



「ヤスフミ・・・・・・どうしてそんな事言うのかな」

『だって、局の中じゃあ僕のなりたい形は通せない。前に話したでしょ? 僕、言い訳したくないの』



うん、知ってる。『魔導師だから』とか『ルールがあるから』とか、そんな理由で止まりたくない。

そんな自分になんてなりたくない・・・・・・そこまで考えて気づいた。



『さっきフェイトの言った『強い自分』の中には、それも含まれてる。だから、局は嫌なの』



確かにそうかも知れない。それも事実だけど・・・・・・納得出来ないから、私はこう言う。



「ヤスフミ、それなら中に入ってルールを変えていこうよ。時間はかかるかも知れないけど、きっと変えていける。
あのね、私も協力するよ。だから目の前の不条理な事から逃げないで? 一緒に現実と向き合って、乗り越えていくの」



今ここで、局から目を背けるのは逃げだと思う。ヤスフミ個人で今言ったみたいな事を成すなんて、無理だよ。

大人になってやるせなさや苛立ちを力に変えて、少しずつ居場所を変えていけばいい。うん、それだけでいいんだ。



「そうして理想を現実にしようよ。大丈夫、私だけじゃなくて母さんやクロノ、なのは達だって協力してくれる」

『その間に誰かが泣いてたらどうするの? それで止まったら、それこそ言い訳だ。
大体、フェイトは止めるよね? 僕がルール違反をしてでも目の前のことを何とかしようとしたら』

「それは」





『当然だよ』と言いかけて、気づいた。確かに・・・・・・矛盾している。あぁ、そうなんだ。

ヤスフミはただ誰かを守る仕事に携わりたいんじゃない。純粋に泣いている人を守りたいんだ。

手が届くなら、なんとか出来るなら全力で何とか出来る自分になりたくて、それを貫きたい。



ヤスフミはよくそういう時に『止まったら僕が嘘になる』と言う。私、何が嘘になるのか分からなかった。

言い訳しても、止まっても私は変えない。絶対にそれで嫌ったりなんてしない。そう何度も言っている。

でもヤスフミはそう言うのを止めない。その理由に今、ようやく気づいた。確かに嘘になるんだ。



ここで言い訳をしてしまったら、ヤスフミの中の夢と願いが・・・・・・嘘になっちゃうんだ。

顔を少し落として、机の上の両手を強く握り締める。そして自分の言葉の無力さを痛感する。

ここで私だけが認めても、何を言っても、ヤスフミの夢を守る事にはならない。



事実は事実で・・・・・・きっとヤスフミには『仕方がなかった』なんて言い訳も出来ないから。

悔しい。何の慰めにもならないことがここに来てようやく分かって、私・・・・・・すごく悔しい。

そんな事になるわけがないから、自分達を信じて欲しいと言えないのも悔しい。



だってついこの間、私自身がそういう無力感を痛感したんだから。





『というかフェイト、一つ聞いてもいい?』

「何かな」

『フェイトはやりたい事があるから、それが出来る執務官の道を選んだって前に教えてくれたよね』

「・・・・・・うん」



ヤスフミの意図する事が分からなくて、私はとりあえず聞く事にした。

そしてヤスフミは一度深呼吸して、私を睨むようにして強く見据えながら言い放った。



『でも、僕にはそうは思えない』

「・・・・・・え?」

『フェイト、さっきからずっと局という組織や周りの人達に『認められる』という話しかしてない。
ううん、それに関しては高校進学を辞めるって話をし出した時からだよ。フェイト、マジでどうしたの?』



言っている意味が分からなかった。だって、それは大人になるためには必要な事だと思っていたから。

みんなそうしている。そうだ、みんなそうしているから私だってそうしなくちゃいけない。その上で理想を。



『誰かに認められなくちゃ、フェイトは自分の大切な夢を描く事を諦めちゃうの?』



そう言われて、胸が苦しくなって呼吸が上手く出来無くなる。何かが崩れる音が遠くから聴こえる。



『誰かに『ダメだ』と言われたら、諦めちゃうの? そんなの違うよね。
フェイトはきっと諦め切れないし、だから局員やってる。でも、今のフェイトは少しズレてる』

「ヤスフミ、待って? 私はズレてないよ。というか話がおかしいよ。
私はただ、大人になるためにちゃんとすることが必要だって言ってて」

『そこがズレてるって言ってんの。・・・・・・フェイト、良く考えて? フェイトは、どんな大人になりたいのかな。
フェイトが今まで言っているのは、『大人になるための条件』だけだ。なってその先の事、何も考えてないでしょ』



・・・・・・違うよ。それだけで、いいんだよ? 大人になって、そうすれば認めてくれて・・・・・・アレ?

私、何かおかしいこと言ってるのかな。あの、違うよ。ねぇ、どうしてそんな目で私を見るの?



「違う、違う・・・・・・ちゃんと考えてるよ? その上で私は私の夢を通していくの。
もし私や局を信じられないという人が居たら、全力でそれを変えていきたいの」

『フェイトや局を信じるかどうかは、ソイツが決めることでしょうが。
なんでそれをいちいちフェイトの都合で変えなきゃいけないわけ?』

「違うよっ! 私の都合なんかじゃないっ!! ・・・・・・局は、みんなの居場所なんだよ?
ヤスフミ、どうしてそんな悲しい事言うのかな。少しおかしいよ」

『おかしいのはフェイトの方だよ。なんでそんなに『自分』を認めてもらいたがってるの?
自分の考えや想いを誰かに『間違ってない』って言われなくちゃ、そんなに安心出来ない?』



違う・・・・・・・違う違う違う違う違う違う違う違う。私はそんな事ない。私、あの時よりずっと強くなった。

だからお願い、そんな呆れた目で私を見ないで? そんな・・・・・・悲しい目で私を憐れまないで。



『僕は、今のフェイトが凄まじく嫌い。今のフェイトは・・・・・・組織や世界の人形になる事を、自分で選んでる』



足元が完全に崩れた。はっきりとした拒絶と嫌悪の言葉に身体が震えて・・・・・・心が動きを止めた。

私はただ、呆然と瞳から涙を流し続けていた。ヤスフミは冷たい目で私を見続けていた。



『・・・・・・これ以上は話しても無駄っぽいから、もう切るね』

「待って・・・・・・お願い、待って。私が何かしたなら、謝るよ。だからお願い」



私を見捨てないで。置いていかないで。私・・・・・・あなたのことが好きなの。

あなたのことが大事で、大切なの。だから私をそんな風に捨てないで。



『嫌だ。・・・・・・もう一度冷静に考え直して。それも出来ないってなら、もうこれっきりだから』










通信が切れて、私は数秒の間完全に止まって・・・・・・それから泣き出した。





声も抑えずに、あの時以来の徹底した拒絶にただ泣き喚き続けた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



≪・・・・・・その先に行くためには、彼やSirがまず自分で、どんな大人になるかを描かなくてはならない≫



思いっ切り泣いて、それで・・・・・・落ち着いて、動きを止めていた心が少しだけまた歩き出した。

それで色々自然と考え始めて、バルディッシュと話しながらそれを纏めている。



≪そうなっただけで人生を送り続けるなど、本当の意味で生きている事にはならないのでしょう。そしてSirは≫

「分かってる。もう・・・・・・分かった」



何も反論出来なかった。息が詰まった。だから私は・・・・・・もう知っている。

突きつけられて足元が砕ける感じがして、とても怖くなった。



「私は、周りの人達の『どんな大人になって欲しい』という言葉に応えようとしていただけだった」



母さんや局という組織の人達は、きっと私に今の選択を望んでいた。

だから私は応えて・・・・・・頑張ろうとした。でも、それがヤスフミのあの言葉に繋がった。



「そうして認められて居場所をもらおうとしてた。でも、それだけだったんだ。
・・・・・・私という個人がどうなりたいかを、本気で考えてなかった」





局員一本に絞って、執務官としての仕事を通せばみんな・・・・・・ヤスフミみたいな局を嫌いな子も、認めてくれると思った。

だけど、私は気づいていなかった。その中に私という存在が含まれていた事を。そうだ、私は人から認められる事を望んでいた。

あの時、母さんの笑顔を取り戻して・・・・・・私の事を母さんが認めてくれる事を望んだように。私は昔に逆戻りしかけていた。



ヤスフミ、気づいてたんだ。だから・・・・・・あぁ、そうだよ。だから最近、ちょっと距離が開いた感じになっていたんだ。





「・・・・・・だったら、どうすればいいのかな。私、どうすれば・・・・・・いいんだろ」



夢や理想は嘘じゃない。局という一つの現実に向かい合って変えたいと思った気持ちも、嘘なんかじゃない。

私の居場所の一つである事は確かで、その中にある執務官の仕事に本気で打ち込みたいと思ったのも、嘘じゃない。



≪それを考えろという事でしょう。・・・・・・そうでなければ、あの彼がSirをあそこまで突き放したりはしません≫

「・・・・・・出来るのかな」

≪少なくとも彼は出来ています。Sir、もう気づいていますよね。彼の言葉が何故説得力を持っていたのか≫

「うん」





ヤスフミにはある。その最低条件を満たして・・・・・・ううん、それがクリア出来無くても、なりたい形が。

私みたいに組織や他人有りきで、依存した上でなきゃ通せない弱い夢じゃない。とても力強いキラキラに輝く夢がある。

誰かを泣かせる悲しい風を吹き飛ばす強い風。そんな自分になる事が、ヤスフミのキラキラの源。



組織や世界に認められなくても、そうありたいと願うのは・・・・・・ヤスフミの大事な気持ち。

だから私、途中からすごく寂しかった。嫉妬すらしていたのかも知れない。

だから必死に同じになろうとしていた。同じになれば、そんな感情とさよなら出来るから。



私の言葉は、夢や理想は・・・・・・あんな風に輝いてなんてない。私はあんな風に貫きたいと思える?

局という組織や母さん達から否定されても、そうしたいと思える程に大切にしてる?

ううん、していない。それに・・・・・・あぁ、そうだよ。私・・・・・・もしかしたらずっとそうしていたのかも。



私は、強くなんてなっていなかった。新しい自分を始められてなんていなかったんだ。





「・・・・・・私に、描けるのかな」



あんな風に輝く夢・・・・・・分からない、分からないよ。

考えていかなきゃいけないのに、それすらも出来ない。



≪幸いなことに時間はあります。少しずつでいいと私は思います≫

「・・・・・・そう、なのかな」

≪そうです。私もお供しますので≫

「バルディッシュ・・・・・・ありがと」










もう来年までもう少し。そんな中私の理想や願いは壊されて・・・・・・一度、0に戻った。





だけどそれでも、涙を拭いてそこから立ち上がる事をまず選んだ。一通り泣き尽くして、湧き上がった感情がある。





それは自分なりの答えを出して、貫いていきたいと思っているあの子に負けたくないという気持ちだった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



フェイトとのあの気のおもーい通信をしてからきっちり2時間後。





エプロン姿のリンディさんと本局でお仕事中のなのはから通信がかかった。





夜の修行中だった僕は、恭也さん達に断ってから少し離れた森林で通信を繋いだ。










『あなた、何を考えているの。今フェイトは本当に折れている。
大事な家族であるあなたから徹底的に否定されて・・・・・・このままじゃあの子、潰れるわよ?』

『ほんとだよっ! 恭文君、一体どういうつもりっ!? フェイトちゃんの事、なんだと思ってるのかなっ!!』

「自分のことさえ自分で作り上げられないガラクタ」



・・・・・・二人とも、そんな睨まないでよ。まるで僕が悪いみたいじゃないのさ。



『・・・・・・恭文君、いい加減にして。話を聞いたけどあんまりよ』

「リンディさん、どういう風に聞いたんですか」

『あの子は純粋に現状を何とかしたくて、自分なりの理想を通したくて局に入る事を決めたわ。
少しずつでも大人への階段を昇り始めていたのに、なぜあんな風に否定出来るの』

『フェイトちゃん、本当に辛いことがあってようやく笑えるようになった。
恭文君だってそれを知ってるはずなのに・・・・・・よくそんな事が』



あー、フェイトそのものからちゃんと聞いてないのか。だからこれなんだ。

しゃあない、重複部分が多大にあるのは承知の上で、ちゃんと説明するか。



「・・・・・・仕方ない。話した内容をそのまま説明するから、黙って聞いて」

『そんな必要はないわ。あなたが悪いのは明白だもの。
恭文君、本当にいい加減にして。あなたの身勝手な行動がどれだけ周りに』

「黙れよ、おばさん」



声のトーンを最大限に下げて、一気に睨みつけるとリンディさんが怯んだ。

どうやら通信越しに僕の殺気が伝わらない程、ばかじゃないらしい。



「元々アンタがちゃんと母親出来てないのが原因だろうが。ガタガタ抜かすな。
そして何も言わずに黙って僕の話を聞け。文句言うならそれからだ」



語気を強めて、不満そうな二人を黙らせる。・・・・・・で、事情説明した。

僕が今のフェイトを見ていてどういう風に感じたとか、そういう部分も含めて。



『・・・・・・恭文君、それ・・・・・・ホント?』

「ホントだよ。色々考えたし、正直話すまでは考え過ぎだとさえ思ってた。
でも違った。話した時のフェイト・・・・・・完全に止まっちゃったのよ」



いつもみたいに反論し合って討論みたいになるのが、理想だと思ってた。僕のアレコレの時はそれだもの。

でもフェイトは僕の言葉に圧されて、何も言えずにただすがりつくような目しかしなかった。



『もしかして、いつもみたいなノリでケンカする方が良かったとか?』



そして横馬は何気にケンカが多い僕達の事を知っているので、こういう風に言う。

だから僕が軽く頷くと、納得した顔になってくれた。ただ呆然としているリンディさんと違って。



「いっぱいね、話したいって思ったんだ。そうじゃなきゃきっと分からないから。
だってフェイトの夢や道は、フェイトが決める事なんだから。そうでしょ?」

『うん。それを恭文君は知りたかったのかな』

「そうだよ。それは今も変わらない。分からないから、知りたかった。だけどそれすら出来なかった。
「フェイトはずっと『みんなから認められるように』とだけしか言わなかった」



僕にはそう聴こえた。それに必死にしがみついているようにも見えて・・・・・・それが逆に変わらなかった。



「・・・・・・フェイト、とんでもなくダメになってるよ?
極端な自己犠牲癖とか、生まれを理由にしてる卑屈な部分がある」

『それがフェイトちゃんが高校進学を辞めた理由に繋がっている?
さっき言ったみたいに、無意識に誰かに認められる事を望んでいるから』

「うん」

『・・・・・・ねぇ、なぜそう言い切れるのかしら。
あなたが思うほどあの子達の過去は、決して軽い事じゃないのよ?』



・・・・・・あぁ、これなんだ。これがあるから、フェイトがダメになったんだ。

これはただの甘やかしなんだ。ただ優しい居場所を作るだけじゃ、だめだったんだ。



『生まれの傷も、悲しみも、簡単に癒えるものではないわ。時間はどうしてもかかる。
フェイトは一番多感な時期の真っ最中だもの。無理もないわよ』



改めて思った。誰かの一番の味方になるって、難しいね。本当に難しい。

結局はその人自身の領域だから、他人が出来る事はそんなにないのかも。



「・・・・・・こう言い切る理由の一つ目、僕の友達には沢山・・・・・・本当に沢山、普通と違う人達が居る。
フェイトもそうだし、恭也さんや美由希さんだって同じです。僕だって一応それ」



そういう人達を見てきた身としては、色々思う所がある。だからリンディさんの視線にも、軽く返せる。



「二つ目、そしてそんな人達は今のフェイトレベルで卑屈になったりも何かに全依存もしていない」

『全依存?』

「えぇ、全依存です。フェイト、局が好きですよね? 僕とかと違って」

『・・・・・・えぇ。あの子は本当によくやってくれてると思うわ。そしてこれからも同じ。
辛い現実や組織の理不尽さにも向かい合って、ここからまた更に頑張ろうとしている』



さり気なく僕を責めてるところがリンディさんのいやらしさだ。でも、残念。

僕は更に性格が悪い。だから徹底的にぶっ潰す。



「僕、正直に言うとフェイトに局員やめて欲しいんですよ。なお、そう思う理由はさっき言った通り」

『フェイトちゃんがこのまま局という組織に依存する形だと、良くないって事だよね。
そうなると執務官を続けたり・・・・・・あぁ、そうだよ。エリオの保護責任者になったのだって』

「・・・・・・うん、そうなると思う。フェイトはみんなから認められて、褒められるという餌が欲しくてそうしてるのよ」



まぁ我ながら最低だよね。普通にフェイトの夢を全否定だもの。・・・・・・あ、訂正。



「もうちょっと言うと、フェイトは自分で自分を認めてない。そのままの自分と向き合えないかも知れない。
『他人や組織、世界から認められた自分』だから認められるし、自信を持てる。でも、それが今揺らいでる」




そうなりかけてると言っていいかも知れない。そして今そうなりかけている原因は、多分アレだ。



「だからあんなに楽しそうにしてた高校進学を取りやめたと思うんだ。そしてその原因は」

『・・・・・・この間の一件での失態かな。アレでフェイトちゃん、相当だった。
だから恭文君の言う事が本当なら、そんな自分に揺らぎが出て焦っている』

「そうだよ」





フェイトは歪んでるかも知れない。もし僕の言ってることが間違ってるなら、鼻で笑ってやればいい。

むしろ僕はそうして欲しかった。それで何時もみたいにケンカしたかった。でも、フェイトは動揺した。

それはつまり・・・・・・そういう事でしょ。でさ、これはフェイトだけの問題じゃあないな。



僕達も気づかない内に・・・・・・ううん、きっと気づこうとすらしてなかった。

僕達、フェイトの事を人形扱いしてた。組織も周りの人間も、僕達もだ。

『認める』という餌を与え続けて、フェイトの変化を、進化を邪魔してたんだ。





『恭文君、それは間違いないの?』

「そこはさっき言った通りだよ。今日のアレコレで濃厚になった。
確定じゃないにしても、なりかけかも知れない。・・・・・・横馬も否定出来る?」

『そんなことない・・・・・・と言いたい所だけど、無理だよ。
あくまでも可能性の話になるけど、恭文君の話には説得力があるもの』



で、ここにも一応理由付けはあるのよ。色々振り返ると、かなり高い可能性だと思う。



「というか横馬、フェイトってこう・・・・・・局員としてとか保護者としての自分を表に出す事が多いじゃない?
あとは穏やかで優しくて温厚で、物分りがよくて人から何かを頼まれたら、嫌とは言えない。それがフェイトのキャラ」

『そうだね。フェイトちゃんは元々そういう子だから』

「元々じゃなかったら、どうする?」

『え?』

「リンディさんはさっきフェイトが色々な事に向かい合ってるって言ってた。
でも、そういう事のために仕事を頑張ってるんじゃないとしたら、どうする?」



フェイトは確かに元々そういう子だった。だけど、それが処世術の一つだとしたら?

さて、悲しくも残酷な現実はまだまだ続く。これはリンディさんにとっても辛いお話だ。



「あ、これはさっきの全依存どうこうの話とは少しだけ別問題なの」

『あの、どういう事かな。ちゃんと説明してくれないと、私やリンディさんだって分からないよ』

「分かってる。・・・・・・フェイトは見ていると、誰に対してもずっとそんなキャラを通そうとしてる。
例えば愚痴とかも言わないし、疲れた顔とかも他の人間にはあまり見せない」



フェイト・・・・・・頑張り屋だもの。ただ、その頑張り屋も見方を変えると歪みにもなりえる。



「フェイト、そういうキャラ『良い子なキャラ』を無意識に全面的に前に押し出してるんだよ。
もっと言えば人受けのいいそれ以外のキャラを見せると、みんなが自分を嫌うと思ってる」





フェイトの中には、そういうキャラ以外の部分もちゃんとあるよ? バトルマニアだったり、激情家だったり。

でも、普段のフェイト自身はそれを色々な立場や権限や状況を理由に、完全に抑えこもうとしている。

この間の一件で途中全く動けなくなったのが、まさしくそれだよ。フェイトはそういうキャラを通そうとしてたのよ。




でも、通せないくらいに衝撃を受けて無理しちゃってたから・・・・・・僕と合流するまでお休み状態と。





「それって、まるでどこかのアイドルじゃない。アレだよ、『アイドルはトイレになんて行かない』ってレベルだって」

『えっと、その理屈通りだとフェイトちゃんは人に嫌われないために、自分の理想の『フェイト』をずっと装ってる?
長年の付き合いの私達の前でもそれを通して、絶対に人に嫌われないように、否定されないようにしている』



僕は横馬の言葉に頷いた。で、その理想の『フェイト』が・・・・・・さっき言った通りだよ。

誰にだってそういう部分はあるよ? でも、フェイトはそこが行き過ぎてるように感じる。



「そうだよ。もっと色んなフェイトが居ていいはずなのに、フェイトが嫌な部分を見せても誰も嫌ったりしないはずなのに」



そこは本当に思う。それで嫌うくらいだったら、最初から友達なんてしてないよ。

だって僕、その嫌な部分を初っ端で見せつけられちゃってるわけだし。



「だからさ、僕がフェイトを見ていて心配になるのは、平気な顔してる時だよ。
あと、やたらとお仕事モードの顔だったり、仕事に集中してたり局の事を持ち出す時」

『あ、それは私も分かるかも。フェイトちゃん、優しいし無理しがちではあるから。
でも、今の話から考えると・・・・・・それだけじゃないよね』

「そうだよ。自己の存在に不安になりがちだから、仕事の中や横馬との友達付き合いでそれを確かめるの。
局員で執務官な自分や、なのは達と友達な自分が居る事を確かめる。そうすることでようやく心が落ち着く」



ただ、こういうのは誰にでもある部分だと思う。正直僕の心配し過ぎと言われれば、それまで。

でもさ、そのために将来の進路を決めるとなると・・・・・・色々言いたくもなるのよ。



「ただここは僕だって恥ずかしながらあるよ? フェイトとケンカしたり『家族会議』して迷った時とかさ。
はやてやら師匠の所に行ってゲームしたり、恭也さんや美由希さんに相談したりして、揺らいでる心の中にあるものを確かめる」

『でもフェイトちゃんの場合、この通りだとするとそれとは根本的に違うよ。
だってそれだと常時不安に苛まれてるよね? 本当に根源から揺らいでる』

「うん」



つまり常時苛まれている部分を紛らわすために役職や周りの人間の肯定の意識を欲しているという事だね。



「横馬、一つ質問。フェイトの事は一切気にしないで正直に答えて。
もしフェイトが僕レベルでワガママでいい加減な部分を見せたら、友達やめる?」

『そんな事しないよ。フェイトちゃんは、大事なお友達だもん。
私がフェイトちゃんと繋がりたいって思って、だから今までやって来たんだから』



とりあえずここは安心した。未だに苦い信じられないような顔をしているリンディさんとは違う。

横馬は躊躇いも無く、嫌な部分も暗い部分もワガママも、フェイトの一部分と認めると言ってくれた。



『それは恭文君に対しても同じ。私は・・・・・・恭文君の全部が好きだから。
意地悪なところも、優しいところも全部好き。うん、大好きなんだよ?』

「・・・・・・ありがと」



一応必要だと思って、しっかりお礼は言っておく。横馬が嬉しそうだけど・・・・・・あれ、おかしいな。



「だけどフェイト自身はそう思ってない。だからそれを抑え込んでるの。もう誰にも『いらない』と言われたくないから。
自分を必要としてくれている組織や世界、大事な人達の誰にも嫌われたくない。そんな事になって欲しくない」

『だからそんな人達に嫌われないように、否定されないように頑張っている?
夢どうこうで仕事をしているのではなく、他人からの否定を本能的に恐れているから』

「そうだよ。そうしなかったら、誰も自分を認めてくれない。結果として、自分で自分を認められない。
他人が認めてくれない自分というのが生まれるのが怖いから、だから今だって局一本でやろうとしてる」



僕だって横馬と同じだ。失敗したから、バカだからフェイトがいらないなんて、思ったりしない。そんなの絶対に嫌だ。

その、今回の件で色々引いて恋愛感情じゃなくなった。でも・・・・・・僕がフェイトを好きなのは変わらないから。



『・・・・・・恭文君、ちょっと待ちなさい』



鋭く低い声を出したのは、横馬じゃない。今まで否定され続けていた悲しげな顔のあの人。



『それはあまりにこじつけよ。そしてフェイトに失礼よ』



・・・・・・違うでしょ。アンタはフェイトの事もそうだけど、自分に対しての事だと思ってる。



『というより、ショックだわ。フェイトの頑張りをそんな風に見ていたなんて』



まぁ、リンディさんがそこを否定するのも正直分かってた。そうならないわけがない。

だってそうなると、自分の頑張りやアレコレはフェイトの痛みを何も払拭出来てない事になるもの。



『フェイトはちゃんと傷を、苦しんだ過去を乗り越えて笑っているわ。
もう一度言うけど、それはフェイトの頑張りを侮辱しているだけよ』



その言葉には裏がある。リンディさんは、自分の行動を否定され侮辱されてると思ってる。

『否定され続けてる』って言ったと思うけど、リンディさんからすると僕達の会話はそういうものなのよ。



『もう本当に今度という今度は愛想が尽きました。恭文君、もうかばえないわ。
私はこのままではあなたの保護責任者をこれ以上続けられない。しっかりとした処置を』

「でも、傷は簡単には癒えないんですよね?」



それでも反論してきたバカ提督は、逐一潰さなくちゃ分かってもらえないらしい。

僕が本格的に色々な意味でちょっとお怒りモードなのをだ。



「リンディさん、さっき自分でそう言ったじゃないですか。どうしても時間はかかるものだと」



忘れている人は、もう一度読み返してもらえるといい。確かにリンディさんはそう言った。



『恭文君、話を逸らさないで。それとこれとは話が別よ。
今私が言いたいのはそんな事じゃない。ただあなたがあまりに』

「別じゃありませんよ。リンディさん、自分で言った事をもう忘れたんですか?
アレ、おかしいですね。アルト、言ってる事が矛盾してるよね」

≪していますね。リンディさん、意見を統一してから発言してもらえますか?
フェイトさんは傷を癒しているんですか? それともいないんですか?≫



リンディさんは何も答えない。ただ憎々しげに僕を見ている。でも、僕は軽く流す。



「なのは、確かリンディさんはそう言ったはずなんだけど、僕の聞き間違えかな?」



画面の中のなのはを見ると、なのははリンディさんを気にしながらも・・・・・・首を横に振った。



『ううん、私も聞いた。リンディさんは恭文君とアルトアイゼンの言った通りの発言をしている。
傷は簡単には癒えないって。フェイトちゃんの過去は恭文君が思ってるよりずっと重いものだって』

「なるほど、どうやら僕達の聞き間違いじゃないようだね。さて、どうしようかコレ」



リンディさんはただ黙る。僕を恨めしげに非難するような目で見ながら。



「別に僕は縁なんて切ったっていいですよ? ただ、その前に答えてもらいましょうか。
フェイトの傷は、癒えてるんですか? それとも・・・・・・癒えてないんですか?」

『もういいわ。話しても無駄ね。あとのことは私の方で』

≪逃げるんですか?≫



鋭く言い放ったのはアルト。その言葉に、またリンディさんが言葉を止める。



≪難しいことは聞いてないでしょ。ただ母親としての意見を聞いてるだけです。そうでしょ?≫

「うん。・・・・・・リンディさんは僕よりずっとフェイトの事を見てた。だから聞いてるんです。
フェイトの傷は癒えているのか、癒えていないのか。答えるべきはこのどちらかだけですよ」





僕達が聞いたのはたったそれだけなのに、リンディさんは何も言わない。そう、まだ逃げ続けてる。

ただ、ここにはズルさがある。それはグレーゾーン的な答えを全く許していないこと。

人間の心の傷なんてね、ぶっちゃければ簡単には癒えないよ。うん、無理だね。



ただ、痛みが引いて普段から気にならなくなるだけ。でも、触れられると痛みがぶり返す。

つまりこの場での正解は『癒えてもいるけど癒えてはいない』なのよ。そしてこの答えはグレーゾーンだ。

リンディさんが矛盾した答えを言ったのは、ここがそういう部分であるため。



最初から白か黒かのどっちかで答えが出るような問題じゃないのよ。だから、言い切れるわけがない。



僕だってリンディさんの立場でこういう質問をグレーゾーンに逃げたり話を切らずに答えろと言われたら、両手を上げる。





≪・・・・・・なんですか、親のくせに答えられないんですか? ハッキリしてくださいよ。
あなたが言い出した事なんだから、筋道立ててちゃんと説明しなさい。さぁ≫



まだ黙ってる。だから・・・・・・自分のアレコレは棚に上げた上で、しっかりと通達する。

だけどリンディさんは何も言わない。悔しげに僕を見るだけだった。・・・・・・もういいわ。



『それなら、あなたはどうなの』

「僕?」

『そう、あなたよ。あなたはフェイトの事が好きだったのよね? もし私に罪があるとするなら』



どうやら、ここから僕に対してツッコんでいこうという腹らしい。だから、軽く鼻で笑ってやる。



「アンタと同罪だよ。で、最低な事にそれなのにこうやって説教キャラやってるけど、何か問題ある?」



そしてこの人は口を閉ざした。だから、徹底的に叩いてやる。



「あらま、まただんまり? ずいぶんガキな真似しか出来ないんだね」





それでも黙ってるし。・・・・・・もういい。この人が答えられないのは明白だから、この辺りは無視だ。

とにかく小さい頃からそういう人の顔色を見る生活を送ってきた人間は、どこかでそれをずっと引きずるらしい。

心理学とかトラウマ関係の本に、そう書いてあった。もう本能レベルでの行動になるって。



小さい頃からプレシア・テスタロッサのために動いていたフェイトは、そういう癖があるんだと思う。



環境の変化で色々と変わりはしたけど、ここに来てその爆弾に火が付いちゃったわけである。





「そして非常にKYで余計な邪魔が入ったおかげで長くなったけど、最後に三つ目。
・・・・・・これはフェイト自身と言うより、エリオの将来の事」

『え?』



エリオというのは、フェイトが保護責任者を務めている男の子。なお、リンディさんが後見人ね?

いきなりなぜにその二人の話が出てくるのかが分からなくて、二人は戸惑った顔をする。



「実を言うと、この話をする前にクロノさんに事情説明して、吐いてもらった。
エリオ、プロジェクトFから生まれた存在らしいね。そしてエリオ・モンディアルもそのコピー元の名前」

『え、あの・・・・・・えぇっ!? 恭文君、どうして・・・・・・あ、もしかして』

「横馬、今日はすごく察しがいいね。おかげで話がしやすいよ」



別に会った事もない子を心配してるわけじゃないけど、こんな心配要素の固まりがまた量産されても、僕は困るのよ。



「今のフェイトに、同じ生まれで痛みを抱えるエリオのそういう部分を解消出来ると思えない」



・・・・・・フェイトは、このままじゃマジで壊れる。親しい人や局という組織から否定されたら、簡単にだ。

現に僕の言葉でコレだもの。そして周りもそこに薄々気づいてるから過剰反応。なんて言うか、マジで僕は悪者だよね。



『まず親であるフェイトちゃん自身の中に今挙げたような、過去を払拭出来ていない部分があるとむしろ悪影響。
ここはさっき恭文君が言った通りだよね。だからフェイトちゃん自身の事から考える。というか、一度距離を取るべきとか?』

「そうだよ。てか、普通にやったらお得意の自己犠牲癖のせいで、その辺りがおざなりになるよ?
で、いずれとんでもない貧乏くじを引いて、そして・・・・・・お亡くなりコースだわ」



まぁ『縁を切れ』なんて言うのはやり過ぎとしてもよ? もうちょっとフェイト個人を見つめ直した方がいいよ。



「まぁ、なのははともかくリンディさん辺りが別に手駒の『人形』一体無くなっても惜しくないって言うなら、このままでもいいですけど」

『あなた、いくらなんでもさっきから言葉が過ぎるわよ。私はフェイトの母親で』

「なるほど。母親っていうのは、娘の傷が癒えたか癒えてないかも分からない人の事を言うんですね」



瞳が鋭くなるけど、僕は気にしない。全く気にしない。



「いやいや、僕は知りませんでしたよ。さすがはハラオウン提督ですね。
局勤めが長いだけあって、発言のクズ度がハンパない。そして全く理解してない」



普通に最悪だわ。リンディさんだけの話じゃなく、僕も色々とさ。なんつうか、自信無くすもの。



「どうやら理解してないようだから、きっちり突きつけてやるよ。アンタは今すぐに数えるべき罪がいくつもある。
・・・・・・アンタは、フェイトの母親になんてなれてない。ただフェイトを自分や局の都合のために利用したかったから娘にしたんだ」

『あなた、口を慎みなさいっ! 私がいつそんな事を』

「じゃあなんでフェイトは僕に自信を持って『執務官の仕事が理想であり夢だ』ってはっきり反論出来なかったんだよっ!!」



どっちが口を慎むべきか、本気でお分かりいただいていないらしい。

我ながら色々ヘタクソだなと思いつつも、そのまま怒号を続ける。



「フェイトはずっと『夢を貫くためにはみんなから認められる事が必要』ってワケの分かんない事を言い続けるだけっ! ただそれだけだったっ!!」

『それは事実よっ!? あなたはまだ子どもだから分からないでしょうけど、それが大人になる事なのっ!!
あなたの言っていることは無茶苦茶だわっ! 世界や組織、家族や他人から否定されてまで貫いていい夢なんて、何もないっ!!』



この人は・・・・・・本気でこれを言っているのか?



『そんなものは必要ないのっ! 周りに理解を求めて、その中で貫いていくのが大人のあるべき形よっ!!』



その『周り』の中に自分が居る事に、きっと気付いてない。・・・・・・確かにそれが正しい形の一つなんでしょ。

でも、違う。そんな在り来たりな理屈だけじゃ、拭えないものがあるんだ。それを全然分かってない。



『フェイトはただあるべき形になろうとしているだけっ! なぜあなたはそれが分からないのっ!!
あなたもフェイトやクロノを見習っていい加減大人になりなさいっ! これから社会で生きていくなら、そうするべきなのっ!!』

「ふざけんなっ! ・・・・・・本気の夢は、なりたい形は、簡単には拭えないものなんだっ!!
他人から否定されても、自分で逃げたいと思っても、怖くても、向き合えなくても・・・・・・変えられないものなんだっ!!」





僕はそうだった。誰に何を言われても、先生が『社会不適合者』とか言われても、僕は拭えなかった。

先生の背中に憧れて、あの探偵のおじさんみたいになりたくて・・・・・・だけど、怖くもあった。

最初の時に大ポカやらかして、僕にはそんなの目指す権利なんて無いってずっと逃げてたから。



でも、それでも拭えなかった。僕の中に夢や『なりたい自分』はあるんだ。



誰に否定されても、自分でそれを否定しても拭えない。





「だからありったけで追いかけるんだっ! 必死に・・・・・・みっともなくても、迷っても突っ走る覚悟を決めるんだっ!!
誰かに認めてもらう事なんて重要じゃないっ! 自分で自分の中にあるもんに向き合えるかどうかっ!! 重要なのはそれだけだっ!!」



それが本当の自分だけの目指す大人・・・・・・てゆうか、なりたい形なんだってようやく分かった。

だから、これだけは言える。この人の言っている事は絶対に違う。



「アンタはアンタのそういう部分がフェイトにとんでもなく重い枷を付けてるって事を、全く理解してないっ!!」



そう、僕はもっと気づくチャンスがあった。もっと疑問を持って、向き合うべきだった。

無理矢理にでも突撃するべきだった。でもそうしなかったのが・・・・・・僕の罪だ。



「周り・・・・・・アンタから認められない夢はいらないっ!? そんなわけあるかっ! どんな形でも夢は夢だろうがっ!!
アンタが認めても認めなくても、それは拭えない形なんだよっ! いちいち上から僕やフェイトを見下してんじゃねぇっ!!」





人が罪を・・・・・・過去を数えて向き合うのは、後悔や償いのためなんかじゃない。

そこから新しい自分なりの一歩を踏み出すため。それは僕なりの答え。

あの探偵さんにそれを話したら・・・・・・嬉しそうな顔で、頭を沢山撫でられた。



ただ探偵さんは違うらしい。罪を数えさせるのは、もう罪を犯させないため。

そのために犯人を徹底的にぶちのめすという覚悟のためとか。

つまり、僕は意味を捉え違えてたのよ。でも、おじさんはそれでもいいって言ってくれた。



数えさせるのではなく、その人が罪を・・・・・・過去を数えるための時間を作る。



過去を数え、その中で自分と向き合って、変わっていけるこれからの時間を信じて紡いでいく。





「・・・・・・リンディさん、もう一度言います。
僕にも、アンタにも、フェイトにも・・・・・・それぞれに罪がある」



僕が人の善意や想い、可能性を信じているからそう言えるのだと、背中を押してくれた。

僕は僕なりの『罪を数える』という言葉を・・・・・・その意味を貫いていけと。



「それはもう変えられない。拭う事も償う事も出来ない。でも、ここから変わっていける」





僕の罪は、フェイトをずっと見ていながらしっかりと向き合っていなかった事。チャンスはいくらでもあるはずだった。

リンディさんの罪は、まだ幼かったフェイトに役職や組織から認められるという逃げ場所を作った事。

そして今のあれこれだ。管理局やミッドの常識やルールをフェイトの生活や行動の中心にしてしまった事。



そしてフェイトの罪は・・・・・・自分で自分の事、ちゃんと認められていない。向き合おうともしていない事。



そういう意味では、僕達全員の罪の共通項は『向き合う』という事が足りなかったんだと思う。





「このまま行くにしても、変わるにしても、僕達はそれをきっちり数えなくちゃいけない。
ここで自分達の罪と向き合う必要がある。そうしなかったら、前には進めない」





これは仕方ないと言えばそれだけで済まされてしまような小さいものだ。

だけど、見過ごせない歪み。その歪みを生み出したのが僕達の数えるべき罪。

それがフェイトの中から、色んな可能性を奪っているかも知れないんだ。



気づいたのは、本当につい最近。もしかしたら、僕の考え過ぎかも知れない。

本当にただのこじつけかも知れない。でも、それでも考える必要がある。

僕はこの疑問を拭えない。それで本当に何かが壊れてしまうのは・・・・・・嫌だから。





「だから、僕はアンタにこう言う」



いや、実際は違う。リンディさんに対してだけじゃない。僕は・・・・・・僕自身にも言う。

知ろうとすらしなかった過去と向き合い、今を変える一歩をここから踏み出すために。



「・・・・・・さぁ、お前の罪を数えろ」










リンディさんは何も言わない。何も言わずにただ、悲しげに信じられない顔で僕を見るだけ。





悪いけど、まだまだいくよ。僕はもう覚悟を決めてる。なんて思われようと・・・・・・ぶっ飛ばしていくから。




















(その3へ続く)




















あとがき



ウェンディ「・・・・・・恭文」

恭文「うん、何?」

ウェンディ「なんかすっごい大荒れなんっスけど」

やや「そ、そうだよね。すごい嵐がどがーんって」

恭文「気のせいじゃない?」

ウェンディ「気のせいじゃないっスよっ! 普通に断絶コースじゃないっスかっ!!」

古鉄≪えー、というわけでそこの辺りには一切触れないで≫





(触れると気分が悪くなるからという事らしい)





古鉄≪フィアッセさんルート第2話目です。お相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫

ウェンディ「ウェンディと」

やや「結木ややと」

恭文「蒼凪恭文です。というわけで、一応僕のビギンズナイトに一つの答えが提示されたね」





(なお、色々ボカしてるので必ずあの人になるかどうかは・・・・・・え、だめ?)





古鉄≪ダメでしょ。何普通に逃げ道用意してるんですか≫

やや「というか恭文、これいいの? ほら、最低系とかSEKKYOOOOOOO系とかなんとか言われちゃうよ?」

恭文「・・・・・・仕方ないのよ。だって、作者がフィアッセさんルートは元々こういうプロットで考えてたんだもの」





(そこの辺りは次回にお話します)





恭文「というかさ、作者がちょっとキレてるの。僕がフラグ立てまくるせいで、バリエーションを作らないとワンパターンになるって」

古鉄≪なお、ここで作者にツッコまないのがとまとなので、みなさんご了承くださいね?≫

ウェンディ「あぁ、そういう事っスか。確かに恭文が悪いっスよねー」

やや「だねー。でもでも、ここで一つまたRemixとは違う新しい下地が出来るんだよね」





(一応そうなります。なお、そこも詳しくは次回あとがきで)





やや「それならいいんじゃないかな。ほら、このルートだとフェイトさんにずっと片思いーってプロットは無しになるから」

恭文「その代わり、一部後味悪いけどね。てゆうかあれだよね、きっと作者は母親とか女性関係にトラウマが」





(・・・・・・・・・・・・全説から名前を変えて存在を抹)





恭文「だぁぁぁぁぁぁぁっ! 普通にそういう怖いことを言うなー!!
てゆうか、今日のナレーションはなんか怖いなっ!!」

古鉄≪あなたのせいでしょ≫

やや「恭文のせいだよねー」

ウェンディ「そうっスよ。てゆうか、普通に私IFを書くっスよ」





(ごめん、その前に今度こそすずかさんIF。これでを下地にすれば今までとはまた違う色合いが出来るの。
というか、今まで悩んでたなのはIFとかメガーヌさんIFとかディードIFとかスバルIFとか美由希IFとかシャマルIFとか)





ウェンディ「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 普通に数多過ぎじゃないっスかっ!!
てゆうか、どんだけこれを使ってIF書くつもりっスかっ!? 逆にワンパターンっスよっ!!」

古鉄≪まぁ、当初の予定だった『フェイトさん=初恋のお姉さん』な図式が成り立ちますしね≫

やや「あとあと、恭文的にはいい感じの柔らかい決着になりそうだから、かなり楽になるんだよね」

恭文「そうだね。だからこそこのIFを先に出したということも、理解してもらえると嬉しい」





(でも・・・・・・さすがに全員は無理だよなぁ。絶対ワンパターンだってツッコまれるよなぁ)





ウェンディ「そうっスねぇ。しかもコレ出しちゃったから、もう似たようなプロットは出せないっスよ? 後はフェイトお嬢様が途中で死亡とか」

恭文「ただ、ここは話自体が重くなってしまうから絶対無しだって言ってるけどね。
あと、完全無欠に誰かと断絶とか嫌うとか、そういうのも無し。基本はハッピーエンドだもの」

やや「でも、今回は少し難しそうだよねー。・・・・・・とにかく、本日はこれまで。
お相手はこのプロットならややもヒロイン出来るかなーと思う、結木ややと」

ウェンディ「あ、普通に私もそれでと思ったウェンディと」

古鉄≪結局あなた方も乗っかるんじゃないかと思った古き鉄・アルトアイゼンと≫

恭文「・・・・・・やっぱりこれで全員なのかなと思う、蒼凪恭文でした。それじゃあ、次回に続くー!!」









(プロットの難しさを感じつつ、全員はカメラに向かって手を振る。でも・・・・・・これは万能薬だよなぁ。
本日のED:KOTOKO『My Gentle Days』)




















フィアッセ「・・・・・・ね、私目立ってないんじゃないかな」

恭文「そ、そんな事ないですって。ほら、全編に渡って」

フィアッセ「後半出てないよー? うぅ、私IFなのにフェイトちゃんが目立ってるのはおかしいんじゃないかなー」

恭文「だ、大丈夫ですから。普通に次回はフィアッセさんがもう主役みたいな顔らしいですし」

フィアッセ「ホントに? 恭文くんとラブラブ出来る?」

恭文「えっと・・・・・・健全な形で」

フィアッセ「うーん、それならまぁ納得するかな。でも、次回が最終回なんだし、そこは絶対だよ? 嘘ついたら針千本なんだから」

恭文「・・・・・・はい」

やや「恭文、フィアッセさんには弱いですよねー」

ウェンディ「年齢差もあるし、フィアッセさんも結構引っ張る人だからこうなるんっスよ。でも、これはこれで新鮮っスね」

やや「ですよね。フィアッセさんの前だと、恭文って結構甘えんぼキャラだから。うん、赤ちゃんキャラなややには分かる」

ウェンディ「いや、そこは赤ちゃんキャラじゃなくても分かるっスから」










(おしまい)




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あきゅろす。
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