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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第53話 『World beyond/ガーディアン、ミッドチルダへ初上陸っ!!』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー!!』

ラン「ドキッとスタートドキたまタイムー! さて、今日のお話はー!?」

ミキ「思い出を振り返ったり、それを懐かしんだり・・・・・・そんな事がありながらも、ついにボク達は世界を超えちゃうよ」

スゥ「そう、みなさんお待ちかねのあのお話ですよぉ。それであんな人も再登場しちゃいますぅ」





(立ち上がる画面に映るのは、二つの白い月と青い空。そして緊張の面持ちを浮かべてソファーに座る黒の提督)





ラン「ドキたま/だっしゅ、ここからが本番だよー! みんな、しっかりついて来てねー!!」

スゥ「というわけで、早速いってみましょう。せぇの」





(というわけで、三人揃って右手を上げて)





ラン・ミキ・スゥ『だっしゅっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・平和だなぁ」

「平和だねー」

「シュライヤが帰ってから、事件も特に起きてないものね」

「そのおかげで私達も、その平和を満喫出来るってわけよ」

「ですです。いいことなのですよ」



学校は終わり・・・・・・いや、ちゃんと勉強してるよ? 普通に描写してないだけでさ。

とにかく学校も終わったので僕とリインとりま、それに・・・・・・あともう一人。



「でもやばいわ。私、普通にこの平和を受け入れてる。局員としてこれいいのかしら」

「いいんですよ。ランスターさん、少し力を入れ過ぎです」

「・・・・・・や、やっぱだめ。なんかランスターさんって呼ばれると・・・・・・辛い」





そう、ティアナも居る。ただ、ティアナはまだシオンに慣れてない。

とにかくこのメンバーで今は夕飯の材料のお買い物に向かう最中。今日は僕達が当番なのよ。

だから、商店街の中をノンビリ歩く。あ、ガーディアン会議は今日は無かったのよ。



でも、ホント平和だなぁ。昨日フェイトと終わりないバトルを繰り広げた事以外は。





「ねぇねぇ、恭文。今日は何作るのー? クスクス、とっても楽しみー」

「そうですね、お兄様のお料理の腕は中々のレベルですし」

「うーん、昨日はアジのたたきを中心に冷たいものばかりだったし、温かいもの作ってみようか。
りま、クスクスとリインとティアナもシオンも、リクエストあるなら聞くよ?」





だってその・・・・・・いいじゃん、いじめたって。フェイト、いじめると反応が可愛いんだもの。

それでその、ようやく振り向いてくれたのが嬉しいというか、余所見して欲しくないというかさ。

そういうのがあるわけですよ。だからその・・・・・・二人っきりの時は、いっぱい独り占めにしたくなるのよ。



うぅ、自分がこんなに独占欲が強いなんて思ってなかったなぁ。

別にフェイトに何でもかんでも言うこと聞けとかは、嫌なのよ。

ただあの・・・・・・フェイトと一緒に居るのとか、ギューってするのとか、凄く幸せ。



その幸せが心地よくて、嬉しくて・・・・・・手放せなくなってる感じ?



だめだ、ちょっとこれは怖いかも。でも、良いことなのかな。僕達恋人同士なんだから。





『ハンバーグ』

「・・・・・・全員即答ですか」

”リインさんとティアナさんは元々好きですし、クスクスさんも想像出来てましたけど”



いきなり念話でそう言ってきたのは、胸元のアルト。

どうやら全員即答なハンバーグに思う所があるらしい。



”りまさんも見ていると何気にそういうの好きなんですよね”

”大人びていても、こういう所は子どもだと思えるの”



それに左腕のジガンも続く。まぁそうだよね。りまの大人びてるとこは、ある意味外キャラだもの。

普通によく笑うしお笑いにも厳しいし怒ったりもするし・・・・・・うん、面白い子だ。



「うし、だったらハンバーグにしようか。フェイト達にもメールしとこうっと」

「やったー! クスクス楽しみー!!」

「お兄様、ハンバーグソースは是非デミグラスで」

「いやいや、ここは絶対和風の醤油ソースなのですよ。恭文さんの和風ハンバーグは、絶品なのですよ〜?」

「あ、確かにアレは美味しいのよね。でもさ、私は前に食べた中華風のピリ辛ソースも好きなのよ。アレ、また食べてみたいなぁ」



なんて言いながら、目的のスーパーに突入。タイムセール前ではあるけど、ここはいい。

・・・・・・タイムセール時の混雑にりまを巻き込んでしまったら、間違いなくりまが潰れる。



「あー、でもソースの問題はあるか。りま、りまはどのソースがいい?」

「・・・・・・トマトとチーズ」



りまは、少し俯き気味に小さく呟いた。店内の雑踏の中だけど、僕はちゃんとその声が聞こえた。

なにかこう、いつものりまとは違う声だったから、どうしても気になったと言うのが正解かも。



「トマト? あぁ、トマトソースだね」

「そうよ。・・・・・・それで、トマトソースにガーリックがたっぷり入ってるの。
ハンバーグにはチーズが入っていて、食べるとトロトロ」





日本で食べられるハンバーグのソースの中でメジャーなのが、今上がった三つだね。

トマトソースにデミグラスソースに、醤油ベースの和風ソース。

和風ソースには大根おろしを使って、後味をサッパリさせるという方法もあったりするの。



なおチーズというのは、今りまが言った他にハンバーグの上にスライスしたものを乗せる方法もある。



りまの言ったのはにんにくも入ってるから・・・・・・イタリアン風味なのかな。





「あ、クスクスもそれがいいー。ねね、恭文そうしよー?」

「いやいや、とりあえず意見があれこれ出てるから、もうちょっと考えないと」

「でもでも、ガーリックトマトソースでチーズ入りって、りまのお母さんが作ってたのと」

「クスクス」



りまが途中でクスクスの言葉を止めたけど、それじゃあ遅かった。だって僕達、気づいちゃったんだから。

そのまま数メートル、何も言わずに僕達は歩く。それで・・・・・・考えを纏めた。



「よし、じゃあ今日はトマトソースでチーズ入りにしよう」

「別にいいわよ。てゆうか・・・・・・子どもっぽいわよね」

「全然? だってお母さんの味とかそういうの覚えてるのは、いいことじゃないのさ。それが好きなら、尚の事いい」



りまが顔を上げてそう言った僕の方を見る。だから、僕は頷く。



「まぁ、りまのお母さんみたいな味に仕上げられる自信はサッパリ無いけど・・・・・・それでもいいなら」

「・・・・・・それがいい」










リインとティアナ、シオンの方も見るけど、三人もどこか嬉しそうにしながら頷いてくれた。





だから僕達は、ノンビリとお買い物。もう30分くらい店内をうろうろですよ。





せっかくなので美味しいハンバーグを作りたくて、かなり時間をかけて材料を選んでた。




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/だっしゅっ!!


第53話 『World beyond/ガーディアン、ミッドチルダへ初上陸っ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ティアナさん」



私達はスーパーから出た。色々日用品も込みだったから、結構荷物が多い。

それでも夕方の街をゆっくりと歩く。もう夏だから、5時とか越えていても陽は全然落ちてくる気配を見せない。



「りま、どうした?」





恭文は前を歩いて、リインとクスクスとシオンと楽しそうに話している。

そんな恭文に聞こえないような声で、私はティアナさんに聞いてみる。

・・・・・・こういう時、噂に聞く念話が使えたらいいなと思う。



私にも魔法資質、あったらいいのにな。空を飛んだり、テレパシーって楽しそうだし。





「前にも聞いたけど恭文とティアナさんって、その・・・・・・両親居ないのよね」

「えぇ」



ブラックダイヤモンド事件が終わった後、もっと言うとドキたま28話で、恭文とリインの昔の話を聞いた。

恭文がどういう環境で子ども時代を過ごしてたのかとか、リインとどうして出会って・・・・・・戦ったのかとか。



「だからりまとかあむみたいに実の親が作ってくれたご飯の味とかって、覚えてないのよ」

「ティアナさんも?」

「私はギリギリオーケー。兄さんが料理上手で、ご飯作ってくれたりしたしね」



恭文の両親は恭文を完全に放置してたそうだから、そうなる。さっき・・・・・・気づいた。

少しだけ傷に触れちゃったのかなとか、ちょっと思ってしまった。



「そっか。やっぱり、悪いことしちゃったわよね」

「大丈夫よ。アイツ、そういうの気にする奴じゃないから。・・・・・・ホント、こっちが気遣っちゃうくらいにね」

「なら、いいんだけど」










前を歩く男の子は私より少しだけ背が高くて、ずっと大人な人。

私が想像出来ないくらいに苦しんで、沢山傷ついている人。

・・・・・・だから、なのかな。色々甘えた感じになっちゃうのは。





ただそれでも・・・・・・それを加味しても、フェイトさんとの無自覚な甘さはなんとかして欲しい。





私は平気な振りしてるだけなのよっ!? 真面目に目の前でキスとかは、ドキドキなんだからっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



”・・・・・・家庭の味?”

”うん”





今日の夕飯の買出しは、ヤスフミとリイン、りまとティアナの当番.

なので報告書も兼ねた日々の日記を書いていると、ヤスフミから念話がかかってきた。

それを自室で書きつつもお話。声だけでも、繋がってる感じがするのが嬉しい。



ヤスフミから、りまとのちょっとした会話を教えてもらった。




”まぁその・・・・・・僕達ってさ、本当の意味での家庭の味って、知らないでしょ?”

”そうだね”





ヤスフミはご両親があんな感じだったし、私も厳密に言えば母さんが作ってくれた料理の記憶はない。

私が母さんと仲良く過ごしていた記憶は、全部アリシアから引き継いだものだから。

なお、別に気分が落ち込んだりもしてない。ここは前にヤスフミともお話したところだから。



私達が共有出来る、ちょっとだけ悲しいけど・・・・・・でも、一つの事柄であることには間違いない。





”だから気付かなかったけど、やっぱりりま・・・・・・家に帰りたがってるんだよね”

”そうだね”



唐突にお母さんが作ってくれたハンバーグを求めたのは、そういう理由だと思う。

お母さん・・・・・・ううん、自分の両親の味とか一緒に居た時の記憶とか、求めちゃってるんだよ。



”でも、いい傾向じゃないかな。りま、少しずつだけどご両親と向き合う気持ちが出来てる”

”そうだね。ただ”

”ただ?”

”いや、大した事じゃないのよ。・・・・・・今日のハンバーグ作り、気合い入れなきゃいけないなと”



唐突にそう言い出した意味が分からなくて、私は首を傾げる。ヤスフミからは、見えるわけじゃないのに。



”りまの家庭状況を鑑みると、ご飯を作ってもらうという事自体がかなり少なかっただろうしさ”



そこで私も気づいた。りまの両親は、共働きでかなり忙しいらしい。そして、りまは一人っ子。

更に言うと、りまは料理関係のスキルが全く無い。お手伝いしてくれる事もあるけど、難しい事はNG。



”今クスクスにも確認したら、僕達のとこに来る前はピザとかのデリバリーや、冷凍食品をチンっていうのが多かったらしいのよ”



指を動かしつつ、私は想像していた。クスクスちゃんは一緒だったろうから、二人で・・・・・・それでもやっぱり寂しいな。

私もそういう食事は、ジュエルシードを探し始める前後で経験があるもの。どこか味気なくて、食欲自体も湧いてこなくなる。



”・・・・・・それは、本当に頑張らないとダメだね”



私の記憶する限りうちでは、りまが今回漏らしたトマトソースでチーズ入りのハンバーグは作ってないもの。

うーん、もしかしたらここまでちょっと遠慮されてたのかも。りまからそういうリクエストって、あんまり無かったし。



”だね。ね、フェイト”

”いいよ”



自分でもビックリするくらいに、即答してた。今、頭にヤスフミがビックリした顔が浮かんだ。



”僕、何も言ってないよ?”

”私にもハンバーグ作り、手伝って欲しい。あと、りまのお母さんにレシピの確認もお願い・・・・・・って、言おうとしてなかった?”

”・・・・・・してた”

”なんでか分かっちゃったんだ”



ヤスフミの事を知りたいと、繋がりたいと思うようになってから、こういう事がどんどん増えていく。

ただお姉さんであろうとしてた時とは違う強い繋がりが・・・・・・今の私とヤスフミの間にはあるはず。



”あのね、とにかく私は大丈夫。というか、あの・・・・・・そのね”

”何?”

”私達、子作りとかしちゃってるし”



昨日も・・・・・・結局頑張っちゃったしなぁ。うぅ、やっぱり私エッチなのかな。



”結婚を前提としてのお付き合いではあるじゃない?
だから家庭の味とか・・・・・・作れるようになりたいなって、今思ったの”

”・・・・・・フェイト”

”あぁ、ごめん。ちょっと唐突過ぎたよね”

”ううん、そんなことない。そうだよね、僕達なりでも家庭の味・・・・・・作りたいね”



念話でもヤスフミの言葉の中の優しさとか、嬉しさとかが伝わってくる。

それが嬉しくて・・・・・・自然と微笑んでしまう。それでまた気づく。



”りまにとっての、トマトソースでチーズ入りのハンバーグみたいにさ”

”・・・・・・うん、作っていこうね。私達だけの時間とか、味とか・・・・・・繋がりとか”

”ただ、リンディさん茶だけはやめておこうね。あれは後世に遺しちゃいけない”

”もちろんだよ。母さんだけで終わらせないと、未来のためにならない”





私、どうしようもないくらいにこの子が好きだ。この1年半で、更に気持ちが強くなってる。

でも、同時に疑問もある。それなのに、どうして私はこの子の告白にずっと気づいてなかったんだろうなと。

もしかしたら・・・・・・気づかない振りをしてる部分もあったのかなと、ちょっと思ってしまった。



気づいたらもう家族では居られない感じがして、知らない振りをして目を背けていたとしたら?



・・・・・・だったら、私最低だな。でも、それでも・・・・・・もう大丈夫。だって私は、もう知ってるから。





”ね、ヤスフミ”

”何?”

”昨日のお話の続き。私は・・・・・・その、ヤスフミとだから、エッチになれるんだよ?”



知ってるから、もっと繋がりたい。私の知らないこの子の事を、もっと知りたい。

ヤスフミ、自分の事を『独占欲が強い』って言うけど、私だって・・・・・・同じなんだから。



”私はヤスフミだから・・・・・・そう、なれるの。
ヤスフミの事が好きで、ヤスフミとの時間とか繋がりとかが大切だから”

”・・・・・・フェイト”

”あのね、色々考えたんだ。だからその・・・・・・私達が両想いだから、二人ともエッチになれるということでどうかな”

”じゃああの、えっと・・・・・・また夜に討議しようか。
な、なんかドキドキし過ぎてマトモに思考が働かない”

”そ、そうだね。私もちょっといきなり過ぎたし、またゆっくりお話し合いだね”










私達は共通点も多いけど、意外と行き違う事も多い。違う部分や、理解出来ない部分が沢山あったから。

だから話す事を選んだ。手を伸ばして、握り合う事を選んだ。そうしてでも・・・・・・繋がりたいと思ったから。

そしてその選択が間違ってたなんて思った事、一度もない。姉弟の時もそうだし、今だってそう。





だって私・・・・・・ずっと、この子の事が『好き』だったんだから。





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで家に到着。何気に腹ペコモードな人間も多いので、手洗いをして早速調理に入る。

なお、助手はリースとディード。メインで動くのは僕とフェイトである。

あ、副菜にはじゃがいもの冷製スープやサラダなんかも付けたりする。





その辺りは助手に任せることになるので、僕とフェイトは・・・・・・ハンバーグですよ。










「てか、ティアナ・・・・・・どうした?」



うん、メインは僕達二人だけのはずなのに、普通にティアナもオレンジ色のエプロン着けて調理場に立ってる。

それでちょっとだけ辿々しい手つきで、包丁を振るってる。なお、トマト切りを任せた。



「まぁアレよ。なんかさ、私もちょっと頑張りたくなったの」

「・・・・・・そっか」





トマトを切るのは実は難しい。果肉が柔らかいから、下手に力押しで切ろうとすると潰れる。

コツは素早く一定方向に包丁を動かして切る事。

それも優しく・・・・・・だけど、刃をノコギリみたいに押したり引いたりしないで。



押したり引いたりすると、普通にトマトの果肉があっさり潰れちゃうのよ。

で、ティアナはそれを何とかこなしてる。元々ティアナは飲み込みは早い方。

だからちょっと手本を見せてコツを教えただけで、及第点レベルで出来るようになった。



でも、普通に凄い。僕、慣れるまでちょっと時間かかったよ?





「・・・・・・おじいさん、この頃から手際いいですね」

「日々これ精進って言ってね、毎日の積み重ねがあれば、これくらいは出来るよ。リースだってそうでしょ?」

「えっと・・・・・・はい」










料理というのは不思議なもので、レシピ通りに作っても全く同じものにならない事の方が多い。

プロの視点から見れば、その日の気温や湿度、食材の状態にも寄ると言うのだけど、それだけじゃない。

誰がどんな気持ちで作るかと言うのも、ここに含まれているのよ。





フェイトが確認してくれた真城家のハンバーグのレシピは、至って普通だった。

豚と牛の合いびき肉にナツメグやパン粉、粗めに切った玉ねぎを加えて混ぜる。

あ、ここにはもちろんチーズも投入。粗めな感じで、しっかり入っている感を出す。





それを大判型にして・・・・・・結構薄目に焼くらしい。もっと言うと、平型。

ガーリックトマトソースも、レシピは至ってオーソドックス。生のトマトから作るので、こっちは力が入っている。

レシピ通りに作業は進めるけど・・・・・・正直、ちゃんとした形になってるかは自信がない。





僕はよく分からないけど『お母さんの味』は特別だそうだから。それを完全再現は無理だと思う。

だから僕達は僕達なりに、いつも通りの気持ちで作る事にした。

食べる人に喜んで欲しい。お腹一杯食べて欲しいと、気持ちを込める。





やっぱりさ、綺麗事みたいだけど・・・・・・料理はハートなのよ。うん、ここは間違いない。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・美味しい」





夕飯が出来上がって、私はその・・・・・・ウキウキしながらハンバーグを一口食べる。

というかびっくりした。出来たハンバーグ、ママの味に似てる。

それでフェイトさんと恭文達を見る。みんな、嬉しそうな顔で私を見ている。



・・・・・・なんだか、温かい。一人で食べるご飯よりずっと美味しい。こういうの、ここに来てから思い出した。

そう言えば明治時代に跳んだ時、みんなでわいわい言いながら食べた牛鍋も美味しかった。

恭文にお鍋の作り方を教えてもらって、ちょこっとやってみたり・・・・・・まぁ、ちょっと失敗しちゃったけど。






「うんうん、美味しいよー。うぅ、ほんとにママのみたいー」

「・・・・・・それはちょっと違うかも」



ついポロっと出ちゃったけど、それは事実。これは・・・・・・ママのハンバーグとは違う。

味も似ているけど、違うの。うん、同じにするのなんて絶対だめ。



「これは恭文とフェイトさん達が一生懸命作ってくれたものだもの」



私は自然と笑みが溢れる。今胸の中に湧き上がる感謝の気持ちを、ちゃんと伝えていきたいから。

だから笑うの。こんな時間と幸せを思い出させてくれたみんなに、私からの・・・・・・せめてものお礼。



「だから違う。これは・・・・・・みんなの味なの。それでママの味と同じくらい・・・・・・私の大好きな味」

「・・・・・・りま」

「恭文、フェイトさん、ティアナさんにディードさんにリース・・・・・・ありがと」

「ううん。僕達の方こそありがと。そう言ってくれて、本当に嬉しい」



そして私はまた一口ご飯を食べる。そしてハンバーグも一緒に食べて、スープも味わう。

・・・・・・笑顔の時間は、ここにもある。やっぱりみんなで一緒にご飯を食べるって、大事な事なのよね。



「そう言えば真城さん、渡航の準備は整っていますか?」



テーブルでクスクスと一緒にご飯を食べていたシオンに聞かれて、私は頷く。

だって・・・・・・もう明明後日なんだもの。普通に考えて、準備出来てなくちゃおかしい。



「でもでも、ちょっとドキドキだよねー。クスクス達、ミッドの事って『テロが起きたー』ってくらいしか知らないしー」

「・・・・・・あぁ、ヤスフミから聞いたんだね」



それでみんながちょっと苦笑気味で・・・・・・あれ、ディードさんの表情が重い。クスクス、何か悪いこと言ったのかしら。



「えぇ。でも、そんな事は今は全く無いって聞いてる」

「そうだね。その事件は本当に色々な思惑のために起きた事件だったから。
今のミッドは地球と同じ感じで比較的平和な世界だから、そこは大丈夫だよ。ただ」

「分かってます。・・・・・・知らない世界だから、勝手な行動は厳禁なんですよね」

「うん、そうだよ」



フェイトさんの言葉を聞きながら思い出す。地球とはまた勝手が違うから、気を付けるようにと恭文から言われてる。

ただ、本当に基本的な部分も私達の文化に似ているから、最低限の注意だけで大丈夫とか。



「とにかくミッドに戻ったら、色々出来たらいいよね。せっかく時間があるんだもの。
・・・・・・ただ、ヤスフミはちょっと大忙しかな。戦技披露会の事もあるから」

≪Sir、そこに辺里唯世氏の訓練も含まれます。・・・・・・大丈夫なんですか?≫

「そこはなのはとも相談しつつやってくよ。てゆうか、唯世との訓練は面白いよ?
唯世は飲み込み早いし、僕も基礎的な事を振り返ったり出来るし」

「なら大丈夫だけど・・・・・・無理はだめだよ?
ヤスフミは無理しがちなんだし、ちゃんと自分のことも守ること」

「・・・・・・うん、そのつもり」










とにかく、楽しい時間は続く。きっと私が欲しかった笑顔の時間の一つがコレ。

恭文達の作ってくれた食事を堪能しながら、私はキャラじゃないけどドキドキしまくっていた。

知らない世界に知らない文化・・・・・・この間のデンライナーのアレコレも、結構楽しかった。





あむと月夜の事があったから、あまりそういうのは出せなかったけど、それでも。





そしてこれより三日後。私達ガーディアンは世界という枠を超えて、未知の領域に踏み出す事になった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「というわけで、早速やって来ました時空管理局本局っ!!」

「もういきなり過ぎじゃんっ! ほら、色々描写する所無くないっ!?」

「あははは、そうだね。・・・・・・というか、みんなダメだよー! 勝手にあっちこっち行ったらー!!」



ディードとリースが、暴走気味に探検しようとしたしゅごキャラやガーディアンのみんなを止めてる。

僕とフェイト、あむはそれを後ろから見てる。・・・・・・マジで引率者だよね、僕達。



「でも、ここが恭文にフェイトさん達の仕事場なんだよねー。うー、ワクワクだよー」

「お空が幾何学模様で、とっても不思議ですぅ。これが、次元の海なんですねぇ」

「あぁ、すごい。すごいよ。ね、絵描いていいよね? 答えは聞かないけど」

「はいはい、そこのキャンディーズも落ち着いて。僕達、まずやることあるんだから」



そう、やることがあるのよ。到着した情緒を満喫する余裕もなく、僕達は次のステージへ踏み出すの。



「みんなー! 予定通りこれから人に会いに行くから、ついて来てー!!」

「本局は広いし大きいし、はぐれないようにね? はぐれたら、局員の人達に聞けば助けてくれるから」

「・・・・・・恭文とフェイトさん、普通に引率者ね」

「まぁ、年長者だしね。こういう所は、恭文も大人なんだよなぁ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・かなり緊張している。どうなる事かと、かなり。

僕はもしかしたら、殴られたりするんではないだろうか。

いや、大丈夫なはずだ。そうだ、それはさすがにありえない。





色々と不安になりつつも考えを纏めていると、ドアが開いた。

僕は船のドッグが見える窓から視線を外して、入り口の方を振り返る。

そこに居たのは、見知った顔と初めて顔を合わせる少年少女達。





・・・・・・よし、初っ端で攻撃はされないな。安心した。





僕はこの子達から恨まれても仕方のない立場だ。そこは自覚している。










「クロノ、久しぶり」

「クロノさん、久しぶりです。てゆうか、またバリアジャケットなんですね」

「あぁ。こっちの方が落ち着くからな。あと、ディードにリインも久しぶりだ。そう言えば、補佐官二人は?」

「二人は昨日のうちにこっちに戻ったよ。
夏休みだからシャーリーは帰郷して、ティアはお墓参りするんだって」

「そうか。・・・・・・あぁ、みんな座ってくれ。少し狭いが、全員いけるはずだ」





僕がそう促すと、みんなは座ってくれる。なお、革張りのソファーだ。

一応来客用の部屋なので、こういう所もきちんとしなくてはいけない。

色々お金の無駄ではないかなどと考えつつ、僕もみんなの向かい側に座る。



そして僕は全員と向き合う。・・・・・・まずい、本当に色々と緊張してきている。




「ガーディアンのみんな、初めまして。僕は時空管理局本局所属の、クロノ・ハラオウン提督だ。
もう知ってはいると思うが、フェイトと恭文、リインにディードの直属の上司だ」

「・・・・・・初めまして、ハラオウン提督。僕はガーディアンKチェアの辺里唯世です」



青と白の島のシャツに、暖色の短パン。・・・・・・この子が、恭文が認めているというキングか。

一見おとなしめだが、それだけではあるまい。我が愚弟が剣を預けているくらいだからな。



「えっと、俺は相馬空海。元Jチェアです」



迷彩色のシャツにパーカーパンツ子が、唯世君に続く。他のみんなも、同じようにしていく。



「Aチェアの結木ややです。あの、初めまして」



次はツインテールでピンクのウサギプリントのシャツに、赤いミニスカートの女の子。

・・・・・・なのはもこういう時期が有ったよなぁ。ふと思い出してしまった。今はもう遠い昔の話だが。



「Qチェアの真城りまです。あの、フェイトさんと恭文にはお世話になってて」

「あぁ聞いている。うちの妹弟二人は何分おせっかいでな。色々迷惑をかけてると思うが」

「いえ。・・・・・・すごく良くしてもらっています。特に恭文には」



黒いロングスカートに白い薄手のシャツに、黄色い上着を着た女の子は、照れたように笑う。

そして僕は恭文を見る。・・・・・・お前、まさかフラグをまた立てたんじゃないだろうな?



「現Jチェアの藤咲なぎひこです。クロノ提督、初めまして」



青く長い髪に、ジーンズパンツに黒のシャツ・・・・・・なぜだろう、どこか中性的に見える。

体格的には恭文より大きいはずなのに、なぜそんな風に見えるんだ。



「ほら、あむちゃん」

「あ、うん」



なぎひこ君に促されて続くのは、ガタガタと震えている女の子。

白のシャツに赤いネクタイに黒いスカート・・・・・・あれか、ゴスロリというやつだな。



「ガーディアン・ジョーカーの、日奈森あむです。あの、はじめてまして」

「・・・・・・いや、落ち着いてくれ。僕は別に君達を取って喰おうとしてるわけではない」

「す、すみません。なんか提督とかなんとかって、初めての経験で」

「なるほど」



そう考えると、挨拶の仕方を失敗したかも知れないと思った。

普通に個人として挨拶していればよかった。そうなると場所のチョイスも失敗か?



「というか、いいんちょは挨拶しないのー? やや達だってやったんだから、ほら早くー」

「エース、俺はもうハラオウン提督とは顔を合わせています」

「え?」

「やや、海里君はゆかりさんと私達と一緒に、歌唄に付き添ったよね?」



フェイトが補足を入れると、彼女が納得した顔になって、両手で柏手を打つ。



「あ、そっか。それでそれで、クロノさんのお船にバーンって跳んだんですよね」

「そうだよ。その時に海里君はクロノと会ってるの」



いや、僕の船では・・・・・・あぁ、ここはいいか。

僕と彼が顔を合わせているという問題の前では、大したこと事ではない。



「・・・・・・ハラオウン提督、お久しぶりです。先日はうちの姉のあれこれのためにお心を砕いてくださって、本当に感謝しています」

「いや、問題ない。・・・・・・そうか、君はガーディアンを卒業することになったんだったな」

「はい。既にJチェアの任は、藤咲さんに引き継いでいます」



そう言った彼の表情が、少し寂しげに見えた。・・・・・・彼は、夏休みが終わったら故郷に戻る。

日本の山口の方が故郷で、1学期が終わったら戻ると元々約束していたとか。



「そうか。まぁ、アレだ。故郷の山口に戻っても、恭文とは仲良くしてやってくれ。
なんだかんだ言いながら、君のことは相当気に入ってるようでな。そうしてもらえると助かる」

「ちょっとクロノさんっ!? 何言ってるんですかっ!!」

「・・・・・・そのつもりです」

「海里も普通に返すなー! こういう話になる理由について、色々疑問持とうよっ!!」



残念ながら恭文、お前と海里君との経緯を知っていれば、その辺りは疑問を持たない。

なにより僕は耳を疑ったぞ? お前が説得混じりに戦って、身を呈したらしいしな。



「それでクロノ、どうして私達を?」

「まぁ簡単に言えば挨拶だな。特に難しい話ではないんだ。
フェイト、僕には見えないが・・・・・・しゅごキャラのみんなは居るのか?」

「うん、居るよ」

「そうか。なら、みんなも含めてだな。・・・・・・ランにミキ、スゥにキセキとペペ」



僕の言葉に、ガーディアンの面々が驚いた顔になる。僕はそれに構わず、続けていく。



「ムサシとダイチにクスクスと、たまごのままだがダイヤ・・・・・・でよかっただろうか。みんな、ホントにわざわざ来てくれてありがとう。
本来であればもっと早くに僕から挨拶に向かうべきだったと言うのに。君達のフェイト達への協力は、本当にありがたく思ってる」



そう、ここが理由だ。今言ったように、もっと早くに挨拶するべきだったんだ。

だが・・・・・・色々な都合が付かずに、こんなタイミングになってしまった。



「特にブラックダイヤモンド事件だ。あの事件の迅速解決は、君達の協力が有ってのものだと思っている。
恐らく僕達魔導師組だけでは月詠歌唄を助けることも出来なかったし、イースターの計画を止める事も出来なかった」



本当に最上の結末だった。彼女を次元犯罪者にせず、×たま達も浄化し、日奈森あむのたまごも取り戻せた。

ロストロギアも封印出来て、実質被害は0。これ以上無いと言うくらいの結果だ。こんなの、初めてかも知れない。



「君達には感謝してもし切れない。本当にありがとう」



僕はそのまま頭を下げる。言葉だけでは足りないので、行動でも気持ちを表す。

それになぜかガーディアンの面々が慌てているのが、気になった。



「あの、ハラオウン提督・・・・・・頭を上げてください。僕達は自分達の仕事を通しただけですし」

「そうですよ。あの、むしろあたし達が感謝してるんです。あたし達の無茶、認めてくれましたし」

「そこは気にしなくていい。正直に言えば、君達と彼女との繋がりを利用したも同然だ」



ブラックダイヤモンドの力をこれ以上引き出されないように、顔見知りであるガーディアンの面々を利用した。

本当に罪だな。彼らがそのつもりだったとしても、きっと変わらないことだ。



「特にミキ・・・・・・君のしゅごキャラには、僕の私情込みだが非常に感謝している。
直接彼女の顔を見て、お礼を言えないのが残念なくらいだ」

「え? あの、どうしてでしょうか」

「報告でだが、彼女が恭文に力を貸してくれているのは聞いてる」



僕の言葉に、みんなが納得した顔になった。



「アルカイックブレード・・・・・・だったな。彼女と恭文とのキャラなり」





恭文が照れたようにそっぽを向いているが、ここは気にしない。

恭文はフェイトとリインがフォローしているので、気にする必要もないと言うのが正解だろうか。

アルカイックブレード。恭文のなりたい自分が、一つの形になった姿。



彼女とのキャラなりのおかげで、恭文的には色々な事と向き合えているようだ。



通信越しだが表情を見て、どこか吹っ切れたというか、大人になったように感じた。今もそれは変わらない。





「あぁ、だから・・・・・・なんですね」

「だから、だな」

「でもクロノさん、ミキ的にはお礼とかはいらないみたいです。
もう、恭文と同じく帽子目深に被って、そっぽ向いてますし」



そう言いながら、日奈森あむは自分の左側を指で差している。恐らくそこに彼女が居るのだろう。

だから僕は自然とその箇所を見る。・・・・・・今、彼女が言った通りの姿が見えてくるから不思議だ。



「それでこう言ってます。『・・・・・・ボクは恭文になりたい自分や夢を捨てないで欲しかっただけ。
自分で自分のこと、信じて欲しかっただけ。だから、お礼はいらないです』・・・・・って」

「そうか。だが、それでもやはりありがとうなんだ。
君が言ってくれた言葉は、僕やフェイト達では言えなかった言葉だ」





きっと言えなかった。僕達もまた『魔法』が使えない魔導師なのだから。

その事実と向きあって、現実でやれることを常に模索している。

それを諦めてると言われてしまえば、その通りだ。僕達は『魔法』を諦めている。



それなのに恭文に信じろと・・・・・・諦めるなとは、言えない。





「性格もアレで、色々とダメな部分も多い愚弟だが・・・・・・もし良ければこれからも力を貸してやってくれ。勝手な頼みではあるが、大丈夫だろうか」

「・・・・・・すっごい帽子被って、頷いてます。だから、大丈夫みたいです」

「そうか。ならよかった。・・・・・・あと、君にも負担をかけるな。彼女は君のしゅごキャラだと言うのに」

「あははは、もう慣れました。てゆうか、ミキもスゥも恭文にべったりですし、もう何も言えませんって」

「そ、そうか」



頼む、悲しげに涙目になるのはやめてくれ。・・・・・・恭文、やっぱりアレじゃないのか?

女装姿になるとしても、自分のしゅごキャラとキャラなりするべきだと僕は少し思ったぞ。



「それで君達に二つほど聞きたいことがあるんだ。フェイト達経由ではなく、君達自身からだ。
まず一つに、イースターがエンブリオを狙う目的。そして、月詠幾斗の事」

「なるほど。てーかクロノさんからすると、そっちの方が本題って感じっすか?」

「そういうわけじゃないさ。ただ、これでも一応関係者だからな。
事態の把握はちゃんとしておきたい。そうでなければ後ろ盾も作れない」

「納得しました。・・・・・・ただ、僕達もその二つに関しては何も答えられないんです。
蒼凪君とフェイトさんが報告しているであろう通りの事しか、知らないんです」





まずエンブリオをイースター上層部トップである、『御前』という正体不明の人物が欲しがっている。

そのために、月詠兄妹の義理の父親である星名一臣が、自ら主導でエンブリオを探している。

そしてその御前には専務の義娘であるはずの月詠歌唄や、海里君も会った事が無いと話していた。



元イースターの社員で恭文とフェイトの友人になっている、二階堂悠と三条ゆかりもここは同じく。

つまりだ。星名専務以外の人間は例え大きな計画の中心人物だったとしても、御前の顔を見た事が無い。

そんな人物のために、イースターは社員を使ってまでエンブリオを探している。



そのために今までのアレコレだ。先日も少し動きがあったとかで何か進展したと思っていたんだが・・・・・・さっぱりという事か。





「一応シュライヤとラミラ・・・・・・あ、イースターに利用された子にも話を聞いたんですよ」



横から恭文が腕を組みながら苦い顔でそう言う。

だが、続く言葉がいい話じゃないのはすぐに分かった。



「イースターの手先っぽいのから、偽のエンブリオを渡されましたから。
でも・・・・・・丁度空海くらいの身長の女ってだけで、あとはさっぱり」

≪顔とかも覚えてないんですよ。偽エンブリオの影響下に居たために、記憶が飛んでるんでしょ≫

「そうか」



今まで出てきた主要な人間の中に、月詠歌唄や三条ゆかりを除くとその条件に符合する存在は居ない。

この場合は・・・・・・やはり新しい刺客と考えるのが妥当か?



「・・・・・・マジで見つけたらぶっ潰してやる。シュライヤからケンカ預かってんだし、タダじゃ済まさない」

「随分気合いが入ってるな」

「ヤスフミ、シュライヤ王子とすごく仲良くなったんだ。魔法のこととかも教えて」

「王子?」



そう呟いたのは、辺里唯世君。それを聞いて、フェイトが『しまった』という顔をした。

意味が分からなくて、僕が首を傾げる前に次のアクションが起こった。



「僕を王子と呼」

「キング、失礼しますっ!!」



海里君がどこからともなく青いバケツを取り出して、あの子の頭から思いっきりかぶせた。それにより、あの子は沈黙。



「・・・・・・ハラオウンさん、気をつけてください。万が一に備えてバケツを用意していたから良かったものの」

「そ、そうだね。あの・・・・・・ごめん」

「待て待てっ! 今のは一体なんだっ!? というより、そのバケツはどこから用意したっ!!」

「えっと・・・・・・クロノ、気にしないで。それで話を戻すけど」

「戻れるわけがあるかっ!!」



ただ、それでも戻るらしい。フェイトは普通に話を続けようとする。

なお、あの子はバケツを頭から被ったままだ。それを全員平然と・・・・・・いや、色々おかしいだろ。



”クロノさん、唯世って『王子』ってワードを聞くと、キャラチェンジして王様キャラになるんですよ”

”キャラチェンジ? ・・・・・・あぁ、そう言えばさっきがフェイトが言ってたな”

”えぇ。で、王様キャラになると暴走しまくってところかまわず高笑いかますんです。
唯世もこれになった後は普通にヘコむんで、止めるのがまぁ常識になってます”



恭文の補足のおかげで、事態が理解出来た。

だから平然とこれなのか。だが・・・・・・それでもバケツの謎が解けないんだが。



「それで将来的にはドラゴンを家来にして、冒険の旅に出るんだって」



はぁっ!? お前はまた・・・・・・王子と仲良くなるとは、相変わらず人間関係が凄いなっ!!

・・・・・・まぁ、いいことだろう。やはり、学校生活は楽しいらしい。こうして見ると、いい仲間も出来たようだ。



「あぁ、それと偽エンブリオに関してなんですけど」

「相当苦戦したらしいな」

「しましたよ」



そこから、恭文は念話に切り替えてくる。



”・・・・・・合計、二回も”

”あぁ、お前がアギトをデンライナーで引っ張り出した一件でか”



アレでシグナムへのフォローが大変だったと、はやてが漏らしていた。

だからここは知って・・・・・・いやいや、今の話の流れは少しおかしいぞ。



”・・・・・・恭文、ちょっと待て。その一件に絡んだ人間が偽エンブリオを持っていたのか?”

”それに割合近い物になりますけどね。そいつは自分の×が付いたたまごを目覚めさせるために、大量の×たまのマイナスエネルギーを注ぎ込んでた”



そして報告にあった偽エンブリオは、×たまのエネルギーを一つの個体に凝縮したものだったとか。

・・・・・・あぁ、そうか。二つの存在は割合近いものになるのか。だから合計二回というわけか。



”ここは唯世と海里、ややになぎひこには話せませんけど、アレはかなりヤバいです”



そのメンバーはデンライナーが実在する事は知らないのだろう。色々巻き込まれた日奈森あむ達と違ってな。



”キャラなりだけでもそこら辺の魔導師ばりに能力が出るのに、そこに×たまの力が上乗せされる”

”そうか。ではお前の意見としては、今後もその二件のような偽エンブリオを使ってくる可能性は”

”かなりありますよ。なお、フェイトとティアナとも相談しましたけど同意見でした。
・・・・・・くそ、マジで僕達揃ってもうちょっと鍛えないと、対応出来無くなる”





・・・・・・恭文、お前はまだ対応出来る可能性があるからいい。

だが、ガーディアンの面々はそれが出来ない。まず下地そのものがないんだ。

まぁ、言わずとも気づいているだろうから言わないが。



やはり心苦しいのは消えないな。この調子だと、危険度が更に高くなるのは明白だ。





「あと、月詠幾斗の事なんだけど・・・・・・ごめん、こっちもさっぱりなんだ。
歌唄も何とか連絡を取ろうとしてるし、私もヤスフミも探してはいるんだけど」

「イクトの奴、家に全く戻ってないんです。あたし達の前にも姿見せないし・・・・・・どうなってんだろ」



目の前の女の子が、両手をギュッと握り締めて俯く。表情は苛立ちと心配が混じり合ったものになる。

それを見て・・・・・・少し無理をすることにした。なに、この子が楽しく夏休みを過ごせるなら、安いものだ。



「よし、分かった。なら、僕の方で手を回して彼の捜索は進めておく」

「え? あの・・・・・・いいんですかっ!?」

「表立っての人員の導入は、正直難しい。ただ、こういう仕事をしていると色々とツテがあるんだ。
夏休みの間に見つけられるようには努力する。もちろん、成功は保証出来ないが」

「いいえ、充分です。あの、ありがとうございます」



彼女はどこか嬉しそうに頭を下げてくる。・・・・・・なんというか、少し辛い。

やはり僕は、彼女達に色々負い目を感じているらしい。偉くなどなるものではないのかも知れない。



「ただ、僕も色々と話を聞いているが・・・・・・もしかしたら彼は君を頼ってくるかも知れない」

「あたし・・・・・・ですか?」

「あぁ。何度か全く意識していないところで、鉢合わせしているのだろう?」



彼女は僕の言葉に頷く。なので、少し安心させるように表情を緩めることにする。



「そうか。では少し話は変わるが・・・・・・彼は、君のことを名前で呼ぶか?」

「え? ・・・・・・あ、はい。『あむ』って呼びます」

「なら、君達は友達同士だ。そうである以上、その可能性は高いのではないか?」

「えっ!? あ、あの・・・・・・えぇっ!!」



彼女は驚いたように声を上げ、自分を指差す。だから僕は、頷いて答えた。



「もちろんこう言うのには理由がある。君達も知っている高町なのはという人物が居る。
なのはは昔、フェイトと恭文と友達になりたいと思った時、こう言った」



ある意味では、なのはの『お話』至上主義の始まりはここからだったのだろう。だから、僕から伝える。

きっとなのはがこの場に居たら・・・・・・いや、恭文とフェイトも、同じことを思っているだろうから。



「名前で呼び合えるなら、生まれや境遇が違っていても、人はそれだけで誰とだって友達になれると」

「・・・・・・なのはさんがそんな事を」

「あぁ。そして、実際にそこの二人とは友人同士になった。生まれも、境遇も、信じてるものさえ違ったのにな」



そこの二人は、ただただ苦笑するだけ。彼女は・・・・・・何かが納得したような顔になった。

自分が月詠幾斗を名前で呼んだ事を理由に、僕がこんな事を言い出していると分かってくれたのだろう。



「もちろん実際にどうするかは当人同士が決めることだ。僕達がとやかく言う問題じゃない。
だから、僕は君に対してこう言うことにする。・・・・・・彼を友達だと思うのなら、それでいい」



その驚きと確信の色に染まった瞳を、僕に向けてくる。僕はただ、頷いて答える。



「僕達の事を、ガーディアンの事を理由に、その気持ちに嘘をつかないで欲しい。
そんな彼が頼ってきたら、君は何一つ迷わなくていい。ただ友達として、助けてあげればいいんだ」

「クロノさん・・・・・・あの、えっと」

「なにかな」

「ありがとうございます。あの、えっと・・・・・・これしか言えないですけど、本当にありがとうございます」

「問題ない。とにかく、月詠幾斗の捜索は僕の方でも手を回す。
もちろんイースターの動向も同じくだ。動きがあれば教えるから、君達は夏休みを満喫するといい」










こうしてその他細々とした話をして・・・・・・その場は解散となった。

本当にいい子達だ。あの子達なら、任せてもいいのかも知れない。

あの子達は強い。強く真っ直ぐで・・・・・・可能性に溢れている。





少しだけ、本当に少しだけ胃の痛さが薄れた感じがした。ただ、気になる事が一つ。

月詠幾斗の話を始めた時、辺里唯世君の様子が僅かに険しくなっていた。

それも、バケツを被っていても丸分かりなくらいにだ。あれはどういう事だろう。





何か事情込みか? だとしたら・・・・・・まずいな。もしかしたら僕は失敗してしまったのかも知れん。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・・・・・・・日奈森さんと、月詠幾斗が友達。

理屈は分かる。クロノ提督や高町さんの言うことは、きっと間違ってない。

だけど・・・・・・あぁ、だけどなんだ。それでも僕は納得出来ない。





日奈森さん、君は知らないだけだ。アイツは・・・・・・月詠幾斗は、信用しちゃいけない。

アイツに関われば不幸が訪れる。そうだ、不幸が訪れるんだ。

ぺティもお祖母様もダンプティ・キーも、全部アイツのせいで壊れて、奪われた。





だから関わっちゃいけない。絶対に仲良くなんてしちゃいけない。





だって月詠幾斗は・・・・・・不幸を運ぶ不吉な黒猫なんだから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



クロノさんとの会談を終えて、僕達は外に出た。本当はもう少し回りたいけど、何分当面の宿に荷物を置く必要もある。





だから僕達は、本局の通路をゆっくりと転送ポートに向けて歩いている。すっごい目立ってるけど。










「・・・・・・恭文」

「何?」

「アンタとフェイトさんのお兄さん、すごく良い人だよね」



右隣を歩くあむが、そう嬉しそうに言ってきた。それを見て、左隣のフェイト共々つい口元が緩む。

何気に心配していたんだろうなと思ってはいたから。だって、歌唄だって相当なんだよ?



「あたしさ、イクトと遭遇したら捕まえろみたいに言われると思ってたんだ。
でも、そうじゃなかった。友達になってもいいんだよって言ってもらえて・・・・・・嬉しかった」

「そうだね。でもあの人は昔からあんな感じでさ。僕は弟キャラとしてプレッシャー感じてるのよ」

「あぁ、そりゃそうだね。アンタと違って性格よさそうだし」



あははは、言ってる事が正解だからなんも言えないや。てーか、覚えとけよ? 絶対何かで仕返ししてやる。



「あのね、あむ・・・・・・私とヤスフミも、クロノと同じだよ」



あむは、顔を上げて歩きながらそう言ったフェイトを見る。フェイトはその視線を受け止めながら頷いた。



「月詠幾斗君は、あむも知っての通り少し難しい立場に居るの。特に今は。
だから、友達になりたいと思うならそれでいい。・・・・・・名前を呼び合えるなら、それだけでいいから」

「全部あむの心次第だよ。僕達のために自分に嘘なんてつかなくていい。
絶対に、そんな事しなくていいから。で、必要なら僕達も助ける。・・・・・・OK?」

「・・・・・・うん」



とりあえず、クロノさんの含蓄溢れる言葉のおかげで、あむは大丈夫。うん、あむはね?

後ろから先導する僕達を追いかけてくるみんなも、大丈夫。・・・・・・ただ一人を除いては。



”ヤスフミ、唯世君の様子が”

”分かってるよ。隠してはいるけど、明らかにクロノさんの話に不快感を持ってる”



・・・・・・てーかここまでかい。唯世、ヤンデレ要素多過ぎじゃない?

歩きながら唯世はあむをジッと見てる。どこか嫉妬というか、暗い感情が混じった瞳をしている。



”唯世君、やっぱり小さい頃に何かあったのかな。じゃないと、あのこだわり様は納得出来ないよ”

”だけど、唯世が話したくないと思ってる以上、無理には聞けないよ”



大分前にキセキとも話してくれるまで待つと約束してる。・・・・・・それで何とかなるかなぁ。

ならない場合もあるし、訓練の経過次第ではまたツッコむのも考えないと。



”あとは、マジで月詠幾斗がどうなってるかなんだよね”

”うん。歌唄の話が嘘じゃないのは、もう私達もあむも知ってる。
相当辛い事をさせられてる可能性もあるし、早めに何とかしないと”

”どっちにしろ、クロノさんの調査に一旦預けるしかないよね”

”私達の調べでは手がかりも何もなかったしね。そこはそうなる”



僕は歩きながらフェイトの方を見て微笑みかける。少し落ち込みかけていたフェイトは、それで笑い返してくれた。

というか、そっと右手を伸ばして僕と手を繋いでくれる。その感触がとっても幸せ。



”でも、唯世のこと・・・・・・どうしよう。下手にツッコんでも、JS事件の時のフェイト張りのキレ方されそうだしなぁ”

”うぅ、耳がすごく痛いです。・・・・・・どっちにしても、深い事情が込みなのは間違いないよね。
まぁ、私みたいなぶっ飛んだ形ではないにしてもだよ? 唯世君にとっては相当に大問題”

”・・・・・・キレられるの覚悟で、ちょっとツツいてみるよ。今の反応とかも引っ張り出した上でさ。
てゆうか、早めに対処しないとマズいかも。空海となぎひこも、さりげに気づいてるみたいだし”



今は二人して、周りを見渡しながらみんなをリードしている。うーん、さすが男の子。



”とにかくヤスフミ、唯世君の状態は気にしてあげて? 正直、私はかなり心配だよ。
何度か話してるけど、私自身の経験もあるから余計に。唯世君に私と同じ轍は踏ませたくない”

”・・・・・・そうだね。全力で踏み込んでしまったし、もうそうするしかない”



話しながらも覚悟を決めていると・・・・・・あれ、通信? 僕はそのまま端末を取り出して歩きながらも繋ぐ。

公衆回線からなのが色々気になるけど、取ったからっていきなり妙な感じにはならないでしょ。



『はーい、おチビちゃんおひさー。・・・・・・あ、フェイト執務官もお久しぶりです』

「・・・・・・シャナっ!? あの、あなたどうしてっ!!」



立ち上がった画面の中に映ったのは、金色の瞳に黒色の髪の女性。

なお、黒のYシャツに白のリボン状のネクタイをちょうちょ結びにしている。



『えっと、まず一つはご挨拶。・・・・・・シャナ・クロスフォード、三日前に無事に隔離施設の方を出て、自由の身になりました』





その子の名前はシャナ。・・・・・・僕が殺した、フォン・レイメイの娘。そしてヒロさんの義理の妹。

あの事件の後、事情を知ったヒロさんのお父さんとお母さんが半ば強引にそういう形にしちゃったのよ。

もちろんシャナが更生に対して意欲旺盛で、新しい生き方を探していってると知ったからだけど。



それで僕とはまぁ・・・・・・ちょくちょくとヒロさんに背中を押される形で話したりした。



で、今はちょっと遠い友達って感じかな。僕は今ひとつ、この子に対して遠慮してしまう部分がある。





『・・・・・・あ、またおチビちゃんが難しい顔してる。全く・・・・・・フェイト執務官もなんとか言ってもらえます?
私は気にしてないし、戦いの中での事なんだから文句は言わないって何度も言ってるのにこれなんですから』



呆れ気味にシャナが言うけど、そこは許して欲しい。やっぱり・・・・・・色々考えちゃうの。



「・・・・・・ヤスフミ」



フェイトが僕を安心させるように微笑んで、繋いでた右手を離してから背中をポンと押してくれる。

それで少し反省して・・・・・・僕は気持ちを入れ替えて、シャナに思いっきり笑ってやる。



「あぁ悪いね。ほら、なんて言うかいきなりだったし・・・・・・また綺麗になってるからびっくりして」

『あら、彼女の前で私を口説くなんて中々浮気者ね』

「そういう意味じゃないよ。・・・・・・こう、初めて会ってやり合った時と全然違うから。
どう表現しようかなーと考えて、そっちになっちゃったのよ。OK?」

『あぁ、そういう事ね。まぁあの時は私もちょっとひねくれてたしなー。そこは仕方ないか』



『気にするな』なんて、僕には無理だ。でも・・・・・・それでも、この子と長く付き合っていけたらいいなと思う。

少なくとも僕は嫌いじゃないんだし、やっぱり過去を引きずるのは互いによろしくない。



「・・・・・・恭文、どうしたの?」



あむが右横から覗き込んできた。それでシャナの方に気づいて、慌ててお辞儀。

シャナは画面の中からそれに気づいて、軽く右手を振りながらウィンクで返す。



『あ、それで用件なんだけど・・・・・・実はパパンから許可をもらって、バスを借りてきてるの。
で、そっち人数多いでしょ? 私が高町教導官のとこまで送っていってあげようかなーと』

「そうなのっ!? ・・・・・・え、てーかシャナ、それだと僕達を迎えに?」

『えぇ。ヒロリスから頼まれてね。まだどっか回るなら、私は適当に時間潰しておくけど・・・・・・どうする?』










そう言われて、僕とフェイトは自宅まで送ってもらうことにした。で、笑顔でお礼を言う。





大事な友達に感謝の気持ちが伝わるように、思いっきり。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・わぁ、本当に月が二つある。というか、惑星っぽいのがいくつも見えるや。

ミッドチルダってすごいや。なんか、近未来都市って感じだしさ。

てゆうか、あのシャナさんって人もすごいなぁ。なんか普通にバス運転してるし。





てゆうか、このバスどっから調達してきたんだろ。管理局のマークっぽいのが付いてたんだけど。










「・・・・・・シャナ、どこで運転技術身につけた?」

「隔離施設の職業訓練よ。というか、前々から無免許で重機運転とかしたことあるもの。楽勝だったわよ」

≪犯罪履歴があるって言うのも、更生に役立つんですね≫

「そうねー」

「いや、なんかそれ矛盾してないっ!? 色々おかしいからっ!!」





あははは、シャナさんってなんかキャラ明るいなぁ。普通に元犯罪者だって話すしさ。

以前話してくれた大規模テロ事件で、恭文とやり合った事があるらしい。

それでその後にヒロリスさんと二度戦って結局負けて、それから義理の妹になったとか。



でも、それで怖いとかそういうの全然ないかな。普通に気さくで話しやすい人。

だからあたし達みんな、シャナさんとは結構気軽に話してる。というか、普通に感謝だよ。

ちょっと遠回り気味に寄り道して、バスでミッドの街を観光させてもらっちゃったんだから。





「なんか、恭文のお友達ってみんな良い人ばかりだよねー。
ほら、なのはさんとかヴィヴィオちゃんとか、はやてさんとか。もちろんシャナさんも」

「そうですねぇ。スゥもシャナさん好きですよぉ?
ざっくばらんなように見えて、細かい気遣いの出来る人ですぅ」

「というかヒロリスさんとちょっと似てるね。方向性は少し違うけど、それでも」



ランとミキとスゥが、シャナさんを嬉しそうに見ながらそう口にする。・・・・・・それは確かに。

こう、ヒロリスさんをもうちょっと女性的にしたらあんな感じなのかな? ふとそう思った。



「アレでちね。悪いことしてたかどうかで、人の本当の価値は決まらないでちよ。
それを言ったら、二階堂先生とか歌唄ちゃんとか海里のお姉さんとかはダメでちもの」



ぺぺがシャナさんをジーッと見ながらそう言った。それにしゅごキャラのみんなが乗っかる。



「その通りだな。きっと人はどこからでも変わっていける。あの者も変わった結果がこれなのだろう」

「クスクスも、ラン達と同じでシャナさん好きー。なんか優しくていい匂いがするしー」

「てーか美人だよなぁ。綺麗だよなー。俺、ドキドキしてるかも」





キセキ、クスクスとダイチがそう言ったのを聞いて、少しだけ、胸が締め付けられた。

・・・・・・変わって、いけるんだよね。誰でもない、自分が望んで、自分が描く『なりたい自分』に。

でも、それが出来ない人だって居る。やれるかどうかじゃなくて、その時間がない人も。



月夜のこと、また思い出しちゃった。なんかダメだな、あたし。結構ボロ泣きしたのに。





「日奈森さん、大丈夫?」



右隣に座る唯世くんから、声がかかる。私は頷いた。・・・・・・うん、大丈夫だから。

頷きながら微笑む。すると、唯世くんは安心したように笑ってくれた。



「よかった、なんだか悲しそうな顔してたから、ちょっと心配だったんだ」

「ありがと。でも、大丈夫だから」



・・・・・・うん、大丈夫。あたし、決めたじゃん。現実とのあたしなりの関わり方を探すって。

そのためにここに居るんだから、大丈夫。うん、頑張ろう。



「・・・・・・フェイトさん、ややとってもドキドキです。あぁ、本当に別世界なんですよね」

「うん、そうだよ。というか、やや・・・・・・なんかすごく距離が近いね」



うん、近いね。だってやや、普通にフェイトさんの隣を陣取ってるもの。



「というか、やや近過ぎ。普通に抱きついてる勢いじゃないのよ」

「いいのー。だって、フェイトさんはややにとっては、お姉ちゃんの先輩なんだもの」

「確かにそうかも知れなけど・・・・・・というかややちゃん、譲ってあげない? 恭文君、ちょっと涙目だし」



なお、恭文はなぎひことリインちゃんの隣。うん、涙目だもの。すっごい涙目だもの。



「ね、やや。マジで僕と交代しない? ほら、僕がフェイトの婿だしさ」

「だめ」

「なんで即答っ!? てーか、抱きつきつつフェイトの胸を揉むなー!!」



よし、さすがにこれはだめだ。次の信号待ちの時に止めよう。ほら、フェイトさんも困ってるし。



「や、ややっ! それはダメだよっ!! あの、恥ずかしいからねっ!?」

「・・・・・・やや、私の胸ではダメなのですか?」

「ディードもツッコむところが違うからっ! あと、そんなにややに胸揉まれてるんかいっ!!」










そんなこんなで、ミッドの中央にあるというなのはさんとフェイトさん、恭文達の家まではもうすぐ。





色々心配事はあるけど、それでもあたしは目の前の休みを徹底的に満喫することにした。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・じゃあみんな、ミッドチルダの夏休み、思いっきり楽しむのよ。
あ、おチビちゃん。私も戦技披露会見に行くからちゃんとやるのよ?」

「え、来るんかいっ!!」

「当然よ。元敵として、腕が上がってるかどうかしっかり見極めてあげる」



きゃー! なんかノリがヒロさんとかパパンとママンに似てきてるしっ!!

・・・・・・まぁ、良いことなのかなと少し思った。シャナはちゃんとシャナになってるもの。



「分かった。じゃあそっちが自信喪失するくらいに頑張る」

「・・・・・・アンタ、遠慮しなくなったらなったでダメよね。性格の悪さが出てるし」

「それはこっちのセリフだ」

「私のセリフで合ってんのよっ! そしてそういうところが性格悪いって言ってんのっ!!」



首を冗談気味に傾げると、シャナが右拳を強く握りしめた。・・・・・・きっと、人生の厳しさを痛感してるんでしょ。



「あのシャナさん、ありがとうございました。あたし達みんな・・・・・・感謝してます」

「いいわよ。それじゃあまたねー♪」



シャナはそのままバスを飛ばして・・・・・・あぁ、マジで帰っていきやがったし。

てーか、普通にビックリしたぞ。あそこで現れるとは思ってなかった。



「・・・・・・蒼凪さん、ここが」

「うん。僕とフェイト、リインとなのはにヴィヴィオの自宅」

「なんというか結構大きいのね。二階建てじゃないのよ」

「借家だけどね。あ、みんなの分の寝床は確保してくれてるから、大丈夫だよ?」



時刻はなんだかんだでもうお昼。普通に懐かしいなぁ。・・・・・・半年近く、帰ってなかったんだよねぇ。



「なんだか、感慨深いね。というか、色々あったよね」

「そうですねー。リイン達の三人体制がついに本格稼働したり」

「私が・・・・・・ヤスフミと婚約したり」



あれ、なんで僕はさり気にフェイトとリインに両サイド取られてるの?

てゆうか、普通に手を繋がれてるっ! い、いつの間にっ!!



「じゃあ、ここは蒼凪君達に一番に入ってもらわないとね」

「だな。それで、思いっきりただいまーって言わないとダメだろ」



ま、まぁ・・・・・・確かに。それじゃあ、行こうか。

フェイトが右手を伸ばして、木目調のドアの右横のブザーを押す。



「は、はーいっ!!」



あ、中からドタドタという足音が。・・・・・・で、ドアが開く。



『ただいまー!!』

「あ、フェイトちゃんっ! 恭文君にリインもっ!!」



そう、横馬だ。横馬だ。・・・・・・あ、大事なことなので二回言いました。

というかどうした? 普通に慌ててるし、なんか教導隊制服着てるし。



「というか、ガーディアンのみんなもっ! あぁ、ちょうど良かったよー!!」

「あの、なのはさんお久しぶりです。というか・・・・・・どうしたんですか?」

「あの、悪いんだけど今すぐ学校に向かってもらえないかなっ!? ヴィヴィオに届け物して欲しいのっ!!」

『・・・・・・はぁっ!?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・イベント展示の品物の被害は、これで全部ですか?」

「確認しました。間違いありません」



色々と捜査指示で忙しいウエバー執務官やマグナス補佐官の代わりに、俺が現場検証に来ました。

もちろん俺に全任せじゃない。すぐ後でまた二人は二人で来るそうなので、俺が先んじてってことだな。



「それで、メモのようなものが見つかったって聞いたんっすけど」

「その・・・・・・メモというか、書置きですね。しかも・・・・・・壁に血文字で」



それで現場を保持してくれてた捜査官のお姉さんに連れられて、そこに来た。



「結構大きいっすね」

「えぇ。その・・・・・・正直気味が悪くもあって」

「でしょうね。俺も同じですから」

≪悪趣味過ぎるな。ヤスフミのセンスの悪さでもこれはないだろう≫



普通に壁一面に血文字で書き置きしてたら、そりゃあ気味が悪いだろ。どこのスプラッタだよ。



「古代ベルカ語なのは分かっているんですが、解読はまだ」

≪詩篇の六、かくして王の帰還は成されること無く、大いなる王とそのしもべ達は、闇の狭間で眠りについた≫

「え?」



捜査官のお姉さんがバルゴラの声に目を見張る。

・・・・・・そういや、最近趣味でサリさんに古代ベルカ文字の翻訳ソフト入れてもらったんだっけか。



≪逃げ延びたしもべは、王とその軍勢を探しさ迷い歩く。・・・・・・古代ベルカの書物か何かからの引用か?
詩篇とあるところを見ると、聖書の類に近い感じがするが・・・・・・ダイイングメッセージにしては分かりにくいし、なんだこれは≫

「察するに、マリアージュが書いてるってことか?」

≪確定ではないが、その可能性が高いな。レディ、この壁画を撮影しても問題ないだろうか。もしアレなら、執務官が来るまで待つが≫

「あ、いえ。問題ないです」



その言葉を聞いてから、待機状態のバルゴラからシャッター音のようなものが聴こえる。

で、俺は壁一面を見てるんだが・・・・・・マジでこれはなんだ。こっちの混乱狙いなのか?



「・・・・・・すごいデバイスですね。インテリジェントデバイスなのは分かりますが、古代ベルカ語の翻訳だけでなく、よく話しますし」

「あー、この程度はまだまだですよ。コイツより喋りまくるのが他に三人ほど居ますから。
・・・・・・で、古代ベルカ絡みとなると、もしかしたら聖王教会に連絡をつけるかも知れないんですけど」





大体この手のものが絡む時は、古代ベルカの歴史関係に強い教会の力を借りる事が多い。



ウエバー執務官もその可能性を考慮して、状況次第では捜査資料の調査依頼もするつもりだったんだよ。



何度も言うようだけど、今回狙われてるのはそういう古代遺物を扱うブローカーだからな。





「まぁ最終的な判断はこの後来るウエバー執務官任せなんですけど、何か問題ってありますか?」

「いえ、大丈夫です。現場の判断は執務官にお任せするようにと言われておりますので」

「なら良かったです」



・・・・・・さてバルゴラ、お前はこれをどう見る?



”大体はマスターと同じだ。これを書いたのがもしマリアージュであるなら、捜査の混乱を狙っている”



つまり、この詩から分かる事実のあれこれは俺達が欲しがってる真実とは遠い・・・・・・囮ってことだな。



”そしてもう一つ。もしもコレを書いたのが被害者であるなら・・・・・・有益な証拠になる”

”ワザと分かりにくい詩文や古代ベルカ語で書いてあるのは、マリアージュにこれがヒントだと悟らせないためか”

”あぁ。だがそうなってくると気になる事がある。なぜマリアージュはこれを放置したままなのだ?”



そりゃあなぁ・・・・・・文字自体の太さもかなりあるし、ヒントにしては目立ち過ぎだろ。

俺やバルゴラが被害者が書いたものとは今ひとつ思えないのは、ここの辺りが理由だったりする。



”これだけ目立つのなら、意味が分からなくても嫌なものを感じて当然だ。行動にどうしても矛盾が出てくる。
もちろんマリアージュが現場から去った後に書いたとも考えられるし、これだけではまだ断定は出来ないな”

”だな。まぁ、そこの辺りは二人と相談しつつ考えていくか。何にしても、手がかりなのは間違いない”

”そうだな。これでようやく・・・・・・一つだ”










ギンガさんが属する108が協力してくれてるおかげで、かなり大規模に捜査出来てる。あとはブローカー達への警告だな。

この件で狙われる要因のある人間は、かなりの人数居る。108の人員を使って、そんな人達に警告に回ってる。

裏の手の届かないのはともかくとして、手が届くのにはそうしてるんだよ。で、有益な情報があれば・・・・・・というわけ。





今のところ手はまだ届いていない。だけど、それでもこれで尻尾は掴めるはず。もう現段階でも今までとは違うんだ。




















(第54話へ続く)





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