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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第51話 『Prologue/『平和』な世界の中の色んな風景』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』

ミキ「ドキッとスタートドキたま/だっしゅタイムッ! さて、今回のお話は」

スゥ「色んな人達の色んな風景を描くプロローグ編は、まだまだ続きますぅ。
あんな人やこんな人が再登場。劇的な出来事なども起こりつつ」

ラン「ついについに、あの子が登場ー! いやぁ、ここまで長かったねー!!」





(立ち上がる画面に映るのは、本当に20話以上ぶりくらいに登場したあの子)





スゥ「でもでも、登場早々色々大変な事に」

ラン「え、何々っ!? また事件かなっ!!」

ミキ「そこは見てのお楽しみ。それじゃあ、今回も張り切っていくよー」





(というわけで、三人揃ってあのポーズ)






ラン・ミキ・スゥ『だっしゅっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・止まりなさいっ!!』



俺は必死に密林の中を逃げる。俺を・・・・・・いや、俺達を追いかける飛竜から、必死に逃げる。

くそ、なんでだよっ! こっちはただ・・・・・・ハンティングを楽しんでるだけだぞっ!?



『ハンティングを楽しみたいなら、モンハンでやりなさいっ! もしくはゴッドイーターですっ!!
特別保護区画に生息している希少生物を売り買いしようだなんて、迷惑極まりないですっ!!』



思考が読まれてるっ!? なんなんだ、あの飛竜の上の嬢ちゃんはっ!!

そして犯罪者にゲーム勧めるなよっ! 俺に拘置所でやれってかっ!? 出来るワケがねぇだろうがっ!!



『そんなの私の知ったことじゃありませんっ! 勝手に悩んでてくださいっ!!』



だから思考を読むんじゃねぇよっ!! ・・・・・・くそ、だったら落ちてもらうだけだ。

俺は巨大生物用のライフルの安全装置を外す。飛竜だろうがなんだろうが、これなら効果があるはずだ。



「へへ、的がデカイと当て易いんだよ」



悪いが飛竜の嬢ちゃん、落ちてもらうぜ?



『ブラストレイッ!!』



俺がライフルを向けようとした瞬間、轟音が響いた。そっちを見ると・・・・・・景色が、赤い。

放たれたのは、炎の奔流。それが俺に向かって・・・・・・えぇっ!? 俺は、必死に前に向かって飛ぶっ!!



「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」



俺が今まで居た場所を、炎の奔流が直撃して地面や近くの植物を吹き飛ばす。

俺はその衝撃で吹き飛ばされて、地面を転がる。つーか痛ぇ。



「・・・・・・な、なんなんだよコレ」



起き上がりながら、俺は着弾地点を見る。あの場に居たら俺は、間違いなくバーベキューだった。

思考を読んできてたから、まぁ俺の攻撃タイミングが分かったのはいい。だから止めようとしたのもいい。



「なんなんだよコレっ!!」



それでも先制攻撃はありえねぇだろっ! なんなんだアイツっ!? 普通局員ってのは、そんな事しないだろっ!!



「そんなことありませんよ?」



聞こえて来た声は、頭上から。俺はそれに寒気がした。しながらも上を見上げ、ライフルを構える。



「・・・・・・鉄輝」



桜色の光に包まれた十字槍が閃き、逆袈裟から打ち込まれる。



「一閃っ!!」



それは俺のライフルを中程から真っ二つにした。いや、それだけじゃなくて俺も斬られる。

熱にも感じる痛みが俺の身体を襲う。それに顔をしかめる間に、悪魔が動く。



「はぁっ!!」



振り抜かれた刃は、再び振るわれる。ライフルのストック部分ごと俺の腹を貫いた。

非殺傷設定だから、死にはしないだろうが・・・・・無茶苦茶、痛ぇ。



「なぎさんなら、もっと派手にやってます」



十字槍を持ったピンク髪のガキは、俺を見上げながらにっこり笑う。そして、槍を持ち上げる。

俺の身体も必然的に持ち上げられて、足元から地面の感覚が無くなる。



「私、これでも優しいんですよ?」










貫く槍の切っ先から、魔力の奔流が放たれた。それに俺の身体は飲み込まれる。





俺は今度こそ意識を手放した。手放す前に見えたのは、優しく・・・・・・にこやかに笑う少女。





だけど俺には・・・・・・その笑みが、悪魔のそれに見えてしまった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・よし、おしまいっと」



あとはバインドかけて、ワイヤーで縛って・・・・・・お仕事おしまい。

でも、ちょっと魔力コントロールが甘かったかなぁ。もうちょっとスパーっと斬れる予定だったのに。



「おしまいじゃないよっ! キャロなにやってるのっ!?」

「あ、エリオ君」



私の後ろからかかった声は、白いコートを羽織ったバリアジャケット姿のエリオ君。

うぅ、たった1年半で大分背が高くなったなぁ。もうなぎさんとちょっとしか違わないかも。



「なに普通に挨拶してるっ!? というか、先制攻撃しちゃダメでしょっ!? 一応警告って」

「警告したよ? 『止まりなさい』って。あと、狩りがしたいならモンハンかゴッドイーターでやりなさいって」

「それだけとかはダメだからぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 他の重要な所を全く言ってないよねっ!!
あぁ、キャロって最初こんな性格だったっ!? 僕、絶対違うと思うのにっ!!」



うーん、エリオ君がなんで怒ってるのかよく分からないよ。不条理って、きっとこういう事を言うんだね。



「エリオ君知ってる? 犯罪者に人権って無いんだから」

「あるよっ! 一応そういうのはあるのっ!! それを最低限保護するのも、僕達管理局員の仕事だよっ!?」

「エリオ君、私は何時だって私として戦っていたいの。管理局どうこうじゃなくて、私の意志で」

「その恭文みたいなツッコミ辛い理論武装はやめてー! というか、お願いだから元のキャロに戻ってー!!」





ワケの分からない事を叫びながら頭をかきむしり始めたエリオ君は気にせずに、私は手元の十字槍を見る。

・・・・・・なぎさんがデバイスマイスターの資格が取れた時に、作ってくれた槍。

色々考えたけど、サリエルさんから教わった槍術の技術をそのまま支える十字槍を作ってもらった。



形状変換も無いストレージデバイスで、まだAIも入れてない。そして、私の大事な相棒その2で宝物。





「まだまだかなぁ。自己流じゃ、やっぱだめかも」





だってなぎさんが・・・・・・私のお兄ちゃん兼お父さんが、初めて作ったデバイスになるんだもの。

うん、すっごく大事。フェイトさんとかリインさんとかじゃなくて、私のために一番に作ってくれたの。

槍術覚えて、デバイスどうしようかなって考えてた時に話をされて・・・・・・驚いたなぁ。



練習用にって感じだけど、すっかり本番用。なんだか使い慣れちゃって、他のデバイスが持てないの。





「あ、ダメダメ。なぎさんは軽々出来てるんだもの」



というか、魔力運用とコントロールはフルバックの得意分野。ちゃんと出来なきゃブーストなんて出来ないもの。

いくらそういうのに特化した能力持ちでも、脳筋なぎさんには負けてられない。



「もっと精度を上げないと、きっと打ち負けちゃうな」



なぎさんの鉄輝一閃は、もっと鋭くて薄かった。それから比べると私のはなまくらだよ。

なのはさんやフェイトさんの砲撃すら斬り裂く刃・・・・・・私の、一応の目標。



「キャロ、僕の話聞いてるっ!? キャロは最近無茶というかルール違反も多いし、もうちょっとちゃんと」

「うーん、どこがいけないんだろ。やっぱり、基本からもう一度煮詰め直さないとだめかな」

「話を聞いてー!!」




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご/だっしゅっ!!


第51話 『Prologue/『平和』な世界の中の色んな風景』



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・キャロ、あんま無茶な事はしないでね? ほら、色々あるし」



犯人を運ぶ護送車の中で、私達の同僚のミラ・ターレントさんが車を運転しながらそう言う。

表情が苦い感じになってるのは、どうしてだろう。・・・・・・いや、一応分かってるよ?



「こういうの、評価や出世にも響くしさ。ほら、エリオと階級差がついてるし」

「ついてますね」



私は現在二等陸士。エリオ君は一等陸士。六課解散から1年半の間に、エリオ君は階級が一つ上がった。

私は・・・・・・まぁ察して? 六課で覚えたあれこれを駆使してるだけなのに、何故か評価が悪いの。



「でも私、そういうの気にしませんし。出世にも興味ないですし、局の評価も特に。
私、もっとやりたいことがあるんです。うん、だから興味ないです」

「・・・・・・キャロ、強くなったね。保護隊を一度出る前から比べると、一皮どころか五皮くらい向けてる感じだよ」

「成長期ですから」





今私とエリオくんが所属している自然保護隊は、元々私が六課の前に居た部隊。

その仕事は、希少な野生生物や植物の保護と観察。それを狙うハンターの撲滅。

ミラさんはその頃からお世話になっている人なので、六課より前の私を知っている。



だけど、なんでだろう。なぜか苦い笑いで私を見るの。うーん、何かおかしいかなぁ。

正直、出世にも階級や資格にも私は全く興味がないの。まぁ、あると便利だと言うのは自覚してる。

ただ、こう・・・・・・そういうのじゃないなって思うの。私の目指したい、目指す形はそれじゃないの。



この仕事をしながら植物学や惑星学の勉強や研究をしたり、槍術や魔導師としての実力を磨いたり。

そんな時、すごく充実してるのをよく感じてる。そして思うの。私のなりたい形は、この中かなって。

なのはさんの教導官や、フェイトさんの執務官や、はやてさんの部隊長みたいな役職の中にはないみたい。



その形を追いかけて、もっと強く・・・・・・もっと素敵に自分を磨いていけたらいいなって、最近よく考える。

役職や地位があるから私だなんて、嫌だもん。そんなのきっとつまらないよ。

私が目指す私は、そんなのに縛られないで強く輝いて前に進んでいける自分。うん、これだね。





「でも・・・・・・ほら、エリオがまたラブプラスで癒されようとするしさ」



ミラさんがバックミラーで見るのは、後部座席でヘコみ気味なエリオ君。

うーん、どうしたんだろ。最近こういうの多いんだよね。



「・・・・・・世界中のDSって、何時になったら破壊しても許されるんでしょうか」

「絶対許されないと思うよっ!? キャロ、それは本当にやめようよっ!!
私だってやってるゲームあるんだしっ! それはすっごい困るんだっ!!」





なぎさんが余計なことするから、エリオ君はラブプラスって言うゲームにハマってる。それも半年以上。

続編も出て『寧々さんとお泊りが楽しい』と言ってた時には、つい殴ったりしたのも今はいい思い出。

まぁ一人の時の息抜きだから私もあまり言えないけど・・・・・・でもその分、私との時間がなくなってる。



なぎさんも私やエリオ君の世話でフェイトさんが忙しかった時、こんな気持ちだったのかと考えたりする。

悪いことじゃないからあまり言えなくて。だけど、やっぱり余所見されてる感じは拭えなくて・・・・・・辛いな。

今度なぎさんに会ったら、少しだけ優しくしてあげようっと。というか、ご飯奢ってあげよう。



でも、あくまでも少しだけ。だってなぎさんはヘタレでダメダメなフラグメイカーだから、厳しくしないとダメなの。

一応でも妹キャラだから、お兄ちゃんには厳しく厳しく・・・・・・だね。それで妹キャラだから、ちょっと甘えるの。

・・・・・・姉ヶ崎寧々をどうしたら超えられるかという点について、かなりしっかりと相談させてもらおうと思う。



なぎさんはそういうの、すごい専門家だもの。フェイトさんにメイドコスとかさせて楽しんでるらしいし。



だからきっと私が姉ヶ崎寧々に勝つための手段を構築してくれるはず。大丈夫、構築するまで考えてもらうから。





「それでキャロ、もうすぐお休みだけど」

「はい。フェイトさんもなぎさんと一緒に帰ってきますし、夏休み満喫してきます」

「うん。あ、サリエルさんにもよろしく言っておいてくれる? 前にもらったお菓子、美味しくいただきましたって」

「はい、必ず伝えます」










サリエルさんは、なんだかんだで私とエリオ君の師匠みたいになってる。

ちょくちょく暇を見つけて、こっちに来て稽古をつけてくれるの。

槍術の技術と、私にはフルバック・・・・・・ううん、スーパーオールラウンダーとしての技術。





これに関しては、私からお願いした。というか、サリエルさんが一番良かった。

六課であれこれあって、私なりの目指したい魔導師の形が見えた。

それはサリエルさんのようなスーパーオールラウンダー。それが私の目指す形。





状況に合わせて各ポジションを即座に切り替えつつしっかりと動いて、勝ちをもぎ取る。

六課で教えてくれたフルバックの技術と、サリエルさんが教えてくれた槍術の技術。

そして、この1年半での現場や自由時間の研磨。それで一応私は、なんちゃってなレベルにはなってる。





でも、まだまだ。攻撃力が欲しくてなぎさんの鉄輝一閃を模倣したりしてるけど、それでも足りない。

魔法無しでの戦闘で、美由希さんやなぎさんみたいに思いっ切り動ける自信もない。私はまだ弱い。

だから目指すべき高みは、とても高くて遠い。今はまだ、手を伸ばしてもその頂には全く届かない。





そしてそこに辿り着くために積み重ねるべき時間も、まだまだ足りない。でも、どうしてなのかな。





それが凄く嬉しくて、楽しい。身体と心がドキドキとワクワクで、いっぱいになるの。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・はぁ」

「なんだナカジマ、休み明け早々ため息なんかしやがって。お前、そんな暗くなるキャラじゃねぇだろ」



港湾警備隊の休憩所で、ココアを飲みながらちょっとアンニュイになっていると、ヴォルツ司令が声をかけてきた。



「あー、司令ひどいですよ。私だって、年頃の女の子として色々悩むんですー。というか、司令はどうしたんですか?」

「なに、俺も休憩中だ。で、年頃の女の子のナカジマ陸曹は何を悩んでるんだ?」



ヴォルツ司令は、私の向かい側に座って、紙コップ入りのコーヒーを飲む。

・・・・・・ヴォルツ司令大人だし、相談してみようかな。あの、色々分かるかも知れないし。



「えっと・・・・・・恋の悩みなんですけど」



瞬間、司令の口からコーヒーがまるで噴水のように吹き出された。



「し、司令っ!? 大丈夫ですかっ!!」



どうしていきなりコーヒーを吹き出すのっ!? 私、変なこと言ってないのにー!!



「ゲホ・・・・・・・ゲホゲホッ! お、お前どうしたっ!? こ・・・・・・恋ってなんだよっ!!
あれかっ! どっかすっごい量食わせてくれるレストランが好きで好きでたまらないとかかっ!!」



なんでいきなり食に結びつくのっ!? 司令の私の中のイメージはどうなってるのかなっ!!



「違いますよっ! ちゃんと男の人対象ですっ!!」

「嘘だろっ!!」

「どうしていきなり真っ向から否定なんですかっ!? おかしいじゃないですかっ!!」



・・・・・・じゃあいい。もういい。ふん、そうだよねそうだよね。私はそういうイメージなんですよね。

私、恋もしないようなガサツで暴力的な女と見られてるんだ。いいもんいいもん。



「あぁもう、俺が悪かったから膨れるなよ。・・・・・・で、何を悩んでるんだ?
これでも一応色々経験はしてるからな。相談には乗るぞ」

「・・・・・・レストランの話じゃなくてもですか?」

「無くてもだ」

「なら・・・・・・話します」



両手にココアの入ったカップを持って思い出すのは・・・・・・あの強くて優しい人の顔。

今までは憧れというか、そういう感じだったけどもう違う。私、今年に入ってから自覚した。



「私、今好きな人がいるんです」

「ここの人間か?」

「違います。あ、局員というわけでもないんです。ただ・・・・・・すごく強くて、優しい人なんです。
運が悪くて、色々巻き込まれちゃったりしてるんですけど、それにも負けない心の強い人・・・・・・です」



うん、好き・・・・・・なんだ。自分のあの人への感情がなんて言うのか分からなくて、ずっと考えてた。

考えて考えて・・・・・・気づいた。私、あの人の事が好きで、恋してるんだって・・・・・・ようやく。



「今、地球の方に居る人なんですけど、仕事休みの時は会いに行くんです」



デンライナーに乗って、ビューンって行っちゃうの。それでミルクディッパーに行って、お話して・・・・・・ただなぁ。



「ただ、こう・・・・・・その人と知り会ってもうすぐ1年半になるんですけど、こう・・・・・・進まなくて」

「何がだ?」

「つまり・・・・・・関係が、です。友達以上恋人未満ってよく言うじゃないですか。あんな感じなんです」



いや、これは私だけで向こうはなんとも思ってない可能性もあるよね。うぅ、それは嫌だなぁ。

だって結構な回数デートもしてるし、メールもし合ってるんだよ? それで友達意識はちょっと嫌。



「私、もう少しだけ近い所に行きたいなってずっと考えてて。でも、どうしたものかなぁと」



現に、この間の超・電王編の後もさっぱりだったんだよなぁ。うーん、どうしよう。

やっぱり押し倒す・・・・・・いやいや、良太郎さん引いちゃうよ。基本押しの弱い人なんだし。



「なるほどなぁ。・・・・・・しっかし、お前が休みに気合いを入れてる事が多いと思ってたが、男絡みだったとは。そうとういい男なのか?」

「はい」

「即答かよ。まぁあれだ、男ってのはな、意外と押せないもんなんだよ。
男から見ると、女ってのは触れたら壊れちゃいそうなもんだと思ってる節があってな」

「ヴォルツ司令もですか?」



私がそう聞くと、司令は頷いた。頷いて・・・・・・どこか遠い目をしている。何かを思い出してるような目。



「もちろん俺もだ。だから、ついつい男ってのは女を大事にし過ぎちまう。大事にして、守ろうとする。
だが、それは一線を引いちまう部分もあるんだよ。大事だから、今が壊れるようなマネはしたくない」



あの人も・・・・・・そう、なのかな。確かに、大事にされてるのは感じてる。というか、すごく。

私の夢も、力も・・・・・・全部、認めて守ってくれてる。この間だって、背中押してくれたもの。



「アレだ。そういう時は、お前からアプローチして伝えていけ。
お前は、その線を超えたいんだってな。少なくとも、それでダメかどうかは分かる」

「つまり、告白・・・・・・でしょうか」

「それしかねぇだろ。あー、押し倒すのはやめとけよ?
相手にそのつもりがなかったら、今までの関係まで壊れる可能性がある」



司令が、少し視線を厳しくしながら言ってきた。それに胸がドキっとして跳ねる。

あ、危なかった。フェイトさんもしてたし、それしか無いかなーってちょっと思ってたし。



「・・・・・・ナカジマ、考えてたな」

「え、えっと・・・・・・そんなこと、ありませんよ?」

「声が上ずってるぞ? 全く、お前は・・・・・・恋愛まで突撃バカかよ。もうちょい押し引きを覚えろ」

「はい、ごめんなさい」



だって、その・・・・・・初めてだからどうしていいのか分からなくて。

うぅ、恭文やフェイトさんにも相談しようかなぁ。交際って、どうすればいいのか分からないし。



「まぁアレだ、頑張れよ?」

「はい。あのヴォルツ司令、ありがとうございました」

「おう。だがビックリしたぞ。お前にマジでそんな相手が居るとは。
・・・・・・なぁ、そいつはちゃんと現実世界に居るんだよな?」

「居ますよっ! どうしてそう疑ってかかってるんですかっ!? 二次元とかテレビの中とかじゃありませんからっ!!」










・・・・・・・・・・・・新暦77年、7月の下旬の昼下がり。

昨日デパートで火災が起こったりしたけど、ミッドチルダは概ね平和だった。

だからこそ私だって司令の発言に対して、頬を膨らませていられるの。





うん、世界は概ね平和だったの。全部じゃないから、概ね。それが普通だと私は思っていた。





だから気付かなかった。その『概ね』から零れ落ちた人が、どんな気持ちで今の世界を見ていたのかを。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・はぁ」

「お前、部隊長室でため息吐くなよ」

「しょうがないじゃないですか。頭痛いんですから」



私が部隊長室で頭を痛めてる原因は、昨日の事件の事。犯人は、被害者もろとも爆発して生死は不明。

本来ならここで後味悪く終わる所なんだけど、今回は違う。・・・・・・前に起こってる事件が事件だもの。



「そのマリアージュだっけか? それの本局での捜査担当は誰なんだよ」

「部隊長もご存知の方ですよ。・・・・・・グラース・ウエバー執務官です」

「グラース・・・・・・おい、マジかよ」

「マジです。ついさっき、通信で挨拶されました。もうビックリですよ」



3年前・・・・・・あ、もうすぐ4年とかなのかな。私はある人達に身体を狙われた。

その時になぎ君が助けてくれたんだけど、その場に丁度居たのがウエバー執務官なの。



「でも、更にビックリする事があったんです。
ウエバー執務官、ちょうどフレイホーク君をヘルプで雇っていて」

「フレイホーク? ・・・・・・あぁ、恭文の友達か」

「そうです」





フレイホーク君は、私も何回か顔の合わせた子。二つ名は『二代目・栄光の流星』。

ガンナーではあるけど、オールラウンダーで優秀な陸戦魔導師。

なぎ君とはまた違うタイプの子なんだけど、共通点も多くて色々と息が合うみたい。



もっと言っちゃうと、なぎ君が遠慮なく背中を預けられる友人の一人・・・・・・かな。





「向こうも準備があるので、明後日港湾警備隊の方で打ち合わせする事になりました」





部隊長は右手で書類をめくりつつ、さっきから中身をぺらぺらと見ていた。



手元のお茶をひとすすりして、私はそんな部隊長を見る。



なお、私が作成した捜査活動の計画書。あくまでもザッとではあるんだけど。





「それで捜査人員なんですけど・・・・・・このメンバーで、大丈夫でしょうか?」



実はちょっと多めに動員してるの。事件自体が連続して続いてるし、局の中でも外でも注目度がかなり高い。

というか、ミッドの中限定でも、ロストロギア関連のバイヤーや古代研究家は相当数居る。手数がどうしても必要なの。



「問題ねぇぞ。こっちは暇って言えば暇だからな。
あー、そう言えば恭文はもうすぐこっち戻ってくるんだっけか」

「はい」



私は本局の仕事はあまり知らないけど、なんでも長期出張で地球に滞在しているとか。

それで戦技披露会に参加が決まったから、夏休みのような形でこっちに戻ってくるらしい。



「てゆうかよ、アイツマジに小学生やってんのか?」

「スバルの話だと、そうらしいです」



私は部隊長・・・・・・ううん、父さんと一緒のタイミングで湯のみに入ったお茶をすする。

・・・・・・なぎ君のお茶、もっと美味しかったなぁなんて、ちょっと思い出したりした。



「いっそ、アイツにも手伝ってもらうってのも手だよな」

「もう、ダメですよ」



フェイトさんがなぎ君の補佐官というのもある。でも・・・・・・それだけじゃないの。

スバルから聞いたところによると、なぎ君の同級生になる子も一緒にミッドチルダに来るらしい。



「なぎ君には戦技披露会まで夏休みを満喫してもらいたいんです。私達の都合に巻き込んだりしたくありません。
なにより、なぎ君と同級生をしている子達も来るんですよ? 下手をすれば、その子達まで事件に巻き込んじゃいます」



別にマリアージュに武器を突きつけられるというレベルじゃなくても、血生臭い話を聞かせちゃうかも知れない。

正直ね、それは嫌なの。なぎ君もそうだけど、その子達にも素敵な夏休みを過ごして欲しいから。



「だよなぁ。けどよ、アイツが居ると安心感が全然違うんだよ。こういう事件の場合は、特にな」

「それはまぁ、確かに」










・・・・・・でも、こっちに連れてくるって事は、魔法のこととか年齢のこととかは知ってるんだよね?





一度会ってはみたいかも。なぎ君、学校とかって通ってないから、どういう子と友達になったかすごく気になるし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ディード、元気にやってるっスかねぇ」



現在、ちょっと早めなお風呂タイム。今日は訓練頑張ったしね。

それで六人で入ってもゆったりなお風呂の中で、ウェンディが背伸びしながらそんな事を言う。



「メールでの様子を見る限り、心配はあるまい。蒼凪恭文と一緒に実に楽しそうだ」

「そうですね。・・・・・・蒼凪恭文と一緒に訓練もしているようですし、楽しそうです。
それにまたあの電車に乗って旅をしたとか。・・・・・・中々に興味深い」



あぁ、良太郎さん達だね。言ってた言ってた。明治時代で牛鍋食べて美味しかったとか。

・・・・・・あれ、おかしいな。きっと事件絡みだったのに、牛鍋の美味しさについてしか語ってなかったし。



「・・・・・・トーレ姉もセッテも、そろそろそのフルネーム呼びやめない? 長いって」

「姉も同感だ。聞いていて舌を噛んでしまいそうになる」



ここはホームと呼ばれる施設。というか、海上隔離施設。うん、色々あってちょっと変わったの。

というか、私達の住む所が変わった。恭文がディードを引きとってからの話だね。



「普通に名前で呼べば良いのに、どうしてトーレ姉もセッテもいちいちそんな風に呼ぶんだよ」

「ノーヴェもディエチも、チンクももう言うな。ついついやってしまってもう直らないんだ」

「私は勝利するまでは、名前単独で呼ばないと決めています」

「・・・・・・そうか」



私ことディエチとウェンディとノーヴェにチンク姉にトーレ姉。そしてセッテは、現在ここで暮らしている。

元々更生組じゃなかったトーレ姉とセッテが来る事になったのは、恭文が原因だったりする。



「ミッドに帰って来るのなら、また再戦するチャンスはあるはずです。今のうちにもっと鍛えておかなければ」

「そう言って、今まで何回負けてるっスか?」

「17回ですね。・・・・・・紙一重が届きません。力だけではない何かで、いつも負けてしまいます。
その紙一重がなんなのか、ずっと探していますがこれが中々」



恭文、セッテを更生組に引き入れるために、セッテの教育係だったトーレ姉まで説得してこっちに呼んだの。



「その答えを見つけない限りは、きっと届きません。・・・・・・まだまだです」

「セッテ、焦る必要はない。その紙一重は僅かずつだが、縮んでいる。それは私が保証する」

「・・・・・・ありがとうございます。トーレ」





というか、トーレ姉はお説教されたらしい。セッテの事を自分で頼むくらいなら、自分でなんとかしろって。

大事なら、生き恥晒して自分の手で守るくらいの事はしろと言われて・・・・・・これ。

トーレ姉は戦士としての誇りに泥を塗ってでも、セッテと一緒に新しい生き方を探す道を選んだ。



だから私達はみんなでここに居る。私達なりの生き方を、ちょっとずつ探してる最中。・・・・・・でも、いいお湯だぁ。



あー、ここも本来なら隔離施設なんだけど、このお風呂の心地よさだけはそうじゃないと言い切れるね。





「みんな、それでさっきの話だが」

「私らは全然大丈夫っスよ。てゆうか、マジで動く可能性があるんっスか?」

「先程のスターレン司令の説明通りであれば、そうなるな。
姉も詳しくは聞かせてもらってないが、何やらきな臭い事件が起きているらしい」

「もちろんよっぽどの事態にならなければ、私達を動かす事もあるまい。
あくまでも私達は、緊急時のみ動ける限定的なチームだ」





現在私達は、緊急時の限定的な災害救助チームとして局の仕事を手伝っている。

ある意味では罪の清算。ある意味では課外授業。・・・・・・まぁ、なんでもいいか。

戦闘機人としての特化能力を活かして、港湾警備隊の人達の要請で動く事が多い。



その中で・・・・・・まぁ、不謹慎なのを承知で言わせてもらうと、色々勉強することも多い。

自分達が作ろうとしてた世界の中では、これが当たり前の事なのかなとか考えたりする。

あー、それで今チンク姉の隣で膝を抱えながら話聞いてるノーヴェが、結構可愛がられてるの。



港湾警備隊には、スバルも居るしね。その妹って事になったから、勉強させてもらってる。





「セッテ、やれるな?」

「問題ありません。ただ、やはり救助活動というのは、中々慣れないものです」

「私も同じくだ。だが、その中に紙一重の答えがあるかも知れん。私も段々とそれが分かってきた」



・・・・・・あっちの戦闘者コンビは、とりあえず置いておこう。なんかすっごい語り出したしさ。



「出来れば何にも起きないで欲しいよね」



私はお湯に方まで使って、窓から見える空を見上げて思い出す。

あの私より小さくて可愛い男の子の事。空の青さを見てると、あの子の顔が思い浮かぶ事が多い。



「せっかく恭文の戦技披露会もあるんだし、それまでは平和でいて欲しいよ」

「だな。アタシらも総出で応援行けるって決まったんだしよ」

「ギンガやスバルも行くっスから、なんだかんだでナカジマ姉妹総出っスよね」

「そうだな。・・・・・・ナカジマ家の総出は初か。姉は、少し感動だ」

「あぁ、チンク姉泣くなよ。てゆうか、泣く意味分からないし」










・・・・・・あ、そう言えば説明してなかったかも。チンク姉と私とノーヴェにウェンディは、ナカジマ三佐の養子になった。

だから、私のディエチ・ナカジマという名前になっている。それは他の三人も同じ。

事件中ギンガの事が有ったりしたのでその・・・・・・かなり悩んだ。チンク姉とノーヴェとウェンディは特に。





あの事件の時にギンガをフルボッコで瀕死状態にした事、やっぱり無かった事には出来ないから。

それで私だったら・・・・・・そうだな。たまに来てくれるなのはさんとかに相談するんだ。

とにかく、みんなそれぞれに色んな人に相談した。チンク姉とウェンディは恭文だったり、フェイトお嬢様だったり。





もちろんギンガ当人にスバルとナカジマ三佐・・・・・・ううん、父さんとも沢山話した。

沢山話した結果、私達四人は娘になって・・・・・・ここから毎日頑張ってる。

ドクターの夢に依存しない私達だけの世界を、私達だけの夢や未来を、少しずつ探してる。





今までを無かった事になんて絶対出来ない。私達の罪はきっと消えない。





でも、同じように先の事があるという事実も、無いものには出来ないはずだから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・オットーも、執事姿がすっかり板について来たわね」

「ありがとうございます、騎士カリム」



聖王教会の私の仕事部屋で、ちょっとだけ休憩しつつ紅茶を頂く。

窓から見える茜色の空を眺めつつの紅茶は、また格別。



「そう言えば、ディードは元気そう?」

「はい。・・・・・・恭文と一緒ですから、元気にやってます。最近もまた、デンライナーで大暴れしたとか」

「デンライナー・・・・・・あぁ、野上さん達ね」



六課解散直前に起きた事件でお世話になった、テレビのヒーローな方々。一応後見人だったから、そこの辺りは知ってる。

そう言えば恭文君達がすごく仲が良くて、あれからずっと交流が続いているものね。うん、納得したわ。



「というよりですね、昨日通信で話したんです」

「あら、そうなの」





ディードも本当なら聖王教会に来るはずだった。ただ・・・・・・私、振られちゃったの。

まぁ仕方ないわよね。あの子は恭文君の事が大好きで、大切に思ってるんだから。

変わるキッカケをくれた人だから、そんな人の側に居たい。そこから色んな事を探してみたい。



そう申し訳なさそうに言われた時、残念と思うのと同時に嬉しいという気持ちもあった。

あの子がスカリエッティにされていた感情の起伏を抑制する処置の事は聞いていたから、余計に。

そういうものを乗り越えて、自分の中にある感情にわがままになっていることが、嬉しかったの。





「はい。こっちに戻ったら、ボクがビックリする事を教えると言っていたんですが」

「ビックリする事? なにかしら」

「そこはボクにも。ただ、ボクなら必ず見えるとかなんとか・・・・・・恭文の影響ですかね」

「オットー、そこからそれには絶対結びつかないわよ」










あの事件からもうすぐ2年が経とうとしている。世界は概ね平和。





だから私は、もう一口紅茶を飲める。そして、息を吐いて力を抜ける。





・・・・・・願わくば、誰もがこんな時間を一日の終わりに感じられる日が、長く続きますように。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「シャーリーさん、夏休みの間は別行動なのよね」

「うん。実家に顔出してこようと思うんだ。なんだかんだで、ずっと帰ってないしねー」



現在私はシャーリーさんの手伝い。なお、やってることは夕飯作り。

台座の上に乗って、サラダ用のレタスをちぎってる。



「シャーリーさん、シャーリーさんの実家って、確かミッドチルダですよね」



私、料理関係さっぱりだけどこれくらいは出来る。まぁ、お世話になってるしね。



「うん、そうだよ」

「・・・・・・シャーリーさん、パパとママ、好き?」



レタスをちぎる手を止めてシャーリーさんにそう聞くと、お肉を炒めてたシャーリーさんが固まった。

固まったけど次の瞬間には優しく微笑んで・・・・・・頷いてくれる。



「うん、好きだよ。たまにりまちゃんみたいにケンカしたりするけど、それでも」

「そう。・・・・・・良い事よね」

「うん、良い事だよ」










もうすぐ夏休み。夏休みの間に、もう少しだけ気持ちを固める。





私なりの、こんなはずじゃなかった今と戦う勇気を。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「リース、すみません。わざわざ結界を張ってもらって」

「いいえ、大丈夫です。・・・・・・でも、頑張り過ぎちゃだめですよ?
海里君も同じくです。体調管理が自分でしっかり出来るのも、戦闘者としての資質の一つです」

「はい。リースさん、お心使い感謝します」

【拙者も同じくだ。海里、リース殿のお言葉、しっかりと胸に刻めよ】

「あぁ」





そう言って私にお辞儀してくるのは、おじいさんの親友の一人・・・・・・なんだよね。



うーん、昔からこんな感じだったんだ。若い頃はやんちゃしてるとかそういうのじゃないんだね。



現在、海里君はキャラなりして侍姿。二刀を携えたまま、私を見ている。





「いいえ、大丈夫ですよ。あ、怪我した時は任せてくださいね。これでも治療系魔法は得意です」

「その時は、遠慮なく頼らせていただきます。・・・・・・それではディードさん」

「はい。始めましょうか」

「よろしくお願いします」










そこまで言うと、二人は斬り合い始めた。・・・・・・あぁ、言ってる側から派手にやってるし。

私はため息を小さく吐くと、結界の維持を続けながら空を見る。

夜の闇は幾何学色に染まって、ここを一時的な異世界にしている。なお、ここはうちの近所。





海里君とディードさんは、こういう訓練をしばらく続けてたらしい。なお、理由はおじいさん。

なんでも夏休みが終わって故郷に戻る前に決闘するとか。おじいさんも受けてるとか。

ただ、実力と経験差は現状では如何ともしがたい。だからこれなの。





実戦形式でのトライアンドエラーの繰り返しという無茶な方法。

まぁ体調管理はしっかりやってるそうだから、そこは安心・・・・・・出来ないなぁ。

見てると結構スレスレの攻撃しまくってるし、海里君必死だし。





うぅ、恭太郎さんの姿が若干被って見えるのはどうして? というか、私の周りはどうしてこういう人ばかりなんだろ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



≪・・・・・・恭太郎、生きてますか?≫

「ごめん、死んでる。ビルト」

≪はい?≫



自室のベッドに蹲りながら、俺はこんな分かりきっている事を言う。



「すっげー怒られたな」

≪怒られましたね≫



じいちゃんにもばあちゃんにも父さんにも良太郎さんにも、その他もろもろの連中にも怒られた。

なお、アイリ姉さんは大笑いしてた。大笑いしてたから、じいちゃんに蹴り飛ばされてた。



≪さすがに無茶したかえでさんだけ悪いというのは、ダメですし当然でしょう。
そして、かえでさんも同じくですよ。ファルケンからの連絡で、相当だったらしいです≫

「そっか。・・・・・・って、ファルケン修復出来たのか」



ファルケンというのは、かえでのパートナー。正式名称は、ビルトファルケン。

ビルトの姉弟機だったんだけど、月夜との戦闘で破損してシステムダウンしてた。



≪えぇ。損傷はヒドかったですけど、コアは無事でしたし。
今はもう全開バリバリだそうです。いや、良かったですよ≫

「お前の弟になるしな。何気に心配だったろ」

≪そうですね。・・・・・・それで、恭太郎≫

「なんだ?」



ビルトの声が、いつもより真剣に聞こえた。というか、真剣なんだろう。

だから、俺は次に続く言葉が分かった。きっとビルトは、こう聞く。



≪答えは、出そうですか?≫



・・・・・・・・・・・・ほらな。



「全然だ」

≪でしょうね。あなた、バカですし≫

「そうだよ、俺はバカだ。だから・・・・・・一生懸命、考えるわ。
バカはバカなりに、青い果実は青い果実なりにな」

≪そうですね≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・うーん、難しい」

「ヤスフミ、やっぱり無茶なんじゃないかな。風属性への変換は、今のところ作られてないんだし」

≪空気の振動を操作しての攻撃魔法はまた違うし・・・・・・難しいの≫

「でも、可能ではあるはずなんだよ。現にリースは使えてる」



海里やディード、リースが頑張ってる頃。というか、みんなが楽しそうにやってる頃。

僕はフェイトと二人で別の所でここ最近続けているちょっとした実験の最中。



≪超・クライマックスフォームの時のデータを元に構築・・・・・・というのは、いい考えだとは思いますよ?≫



それは・・・・・・風属性への魔力変換。



≪ただ、無茶でしょ。逆を言えばそれだけしかデータが無いんですから≫

≪それにSirやジガンの言うように、風属性への変換は現在は存在しないものです。簡単ではないでしょう≫

「そうなんだけど・・・・・・楽しそうだし」



フェイトが失礼にもため息を吐いた。なので、ほっぺたをむにーってしてやった。

うん、いつも通りのいじめだね。だって、フェイトをいじめるのは楽しいの



「うぅ・・・・・・アルトアイゼン、ジガン、どう思う? ヤスフミ、また私をいじめるの」

≪いいじゃないですか。あなた、ドMなんですし≫

「私はドMじゃないよっ! むしろいじめるのが好きなんだからっ!!」





フェイト、その発言も正直どうかと思う。・・・・・・でも、難しいのかなぁ。

現在、魔力の性質変換で使われているのは三つだけ。

うん、三つだけなの。他の変換は基本的には使われてない。



全てを焼き尽くし、その熱による攻撃力に優れる炎。

攻撃、防御、補助とオールマイティな力を持った雷。

そして、僕とリインの得意技で補助や拘束特性に優れる氷。



そこに、リースが使ってた風ですよ。古代ベルカとかでは使われてたらしいけど、今はない。



それを元にして構築されたのが、不可視型のバインドだったり空気振動の操作魔法だって言うけど・・・・・・うーん。





「ヤスフミ、風属性の変換の利点とかを考えないとだめじゃないかな。
1から覚えても、使い方とかそういうのも考えないと実戦では出せないよ」



僕を見下ろしながら、訓練着姿のフェイトがそう言って来た。なので、僕は頷く。

まぁ、幾つか考えてるのはあるのよ。不可視で風であるという特性を活かしたのを幾つかね。



「えっとね、風遁螺旋手裏剣を撃とうかなと」

「・・・・・・風遁螺旋手裏剣?」

「えっとね、かくかくしかじか・・・・・・というのなの」

「・・・・・・そんなの絶対だめっ! 普通に危険過ぎるよっ!!」



うー、フェイトの頭が硬いよー。魔導師として魔導という学問を追求していくのは当然の事なのにー。



「でもさ」



僕は左手を開いて、魔力を集中。まるで乱気流のように魔力を手の平の上でかき乱し回転させて、それを球体状に圧縮。

そのまま魔力の乱回転を維持して、一つの球体を作る。その色は、当然僕の魔力光である蒼。



「螺旋丸はもう作ってるんだけど」

「どうして出来ちゃってるのっ!?」

「いや、NARUTO見てかっこよかったから元々覚えてたのよ」



というか、漫画読んでて面白いから修行法をジャンプ掲載当時にリアルタイムで練習してた。

そうしたら出来ちゃうからびっくりだよね。うーん、魔法ってすごい。



「・・・・・・どれくらい前からかな」

「うーん、NARUTOのジャンプ掲載当時リアルタイムだから・・・・・・ざっと5年以上前から?」

「そんなに前からなのっ!?」



とりあえずフェイトが驚いているのは置いておく。で、左手の螺旋丸も解除。

乱れたいくつもの魔力による回転が風のように手の平から流れていって、粒子を撒き散らしつつ消えていった。



「・・・・・・うーん、こればかりはリースが教えてくれるかどうか微妙なんだよなぁ。
風変換が未来の時間の魔法技術なのは、間違いないだろうし」

「使うならヤスフミが自分で・・・・・・だね。でも、どうしてこれなの?」

「強くなるって言わなかった? 超・てんこ盛りに頼らなくても済むくらいにさ」



他にも色々やってみたい事はある。そして、これはその一つなのよ。

風属性って、なんかこう・・・・・・楽しい響きがするしさ。



「そのために九頭龍閃もどきだって完成させたんだし。うん、もっと頑張ってくよ」

「・・・・・・そっか。うん、納得したよ」



フェイトが僕の頭を撫でる。優しく・・・・・・本当に優しく撫でて、微笑んでくれる。



「うー、子ども扱い禁止ー」

「子ども扱いじゃないよ? 恋人扱いしてるんだけどな」

「それはまぁ・・・・・・感じてるけど」

「ならよかった」



フェイトの笑みが深くなる。それを僕は見上げながら、ドキドキして・・・・・・幸せでいっぱいになる。

撫でてくれる頭の感触も心地よくて、幸せが倍増してくるから不思議。



「・・・・・・あ、そうだ。ね、フェイト・・・・・・あとでちょっと、リインと一緒にお話いいかな」

「え? うん、それはいいけどなにかな」

「大事な話なんだ。すごく・・・・・・大事な話」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・どうしたですか? 2年目一発目から、リイン達とお話なんて」

「一発目じゃないけどね。むしろこれ、後半に近いけどね」

「ヤスフミ、何かあった・・・・・・よね」

「まぁ、シュライヤの一件はね。でも、そうじゃないの」



二人にはベッドに座り込んでもらってる。というか、僕も座ってる。

正座で少し姿勢を整えて・・・・・・勇気をリミットブレイクする。



「フェイト」

「うん」

「リイン」

「はいです」



ちゃんと伝えなくちゃいけない。思うに、今までは色んな意味でずるかったと思うから。

だから・・・・・・ここでケジメをつける。三人揃ってパジャマ姿だけど、それでも付けるのだ。



「僕、二人の事が好き」



フェイトは大事な恋人。ずっと片思いしてて・・・・・・それで繋がったから。

今も好きは更新され続けてる。フェイトも同じだと、すごく嬉しい。



「フェイトの事も、リインの事も、同じくらい好き。大切だし、ずっと一緒に居たい」



リインは大事なパートナー。僕の世界を変えてくれて、その後もずっと一緒。

凄く深いところで繋がっていて、もう・・・・・・離れられない。



「だから・・・・・・僕と結婚してください。二人に僕のお嫁さんになって欲しいの。
リインはまだ小さいからちょっとムリだけど、結婚を前提としてお付き合い・・・・・・したい」



真剣な顔でそう言うと、二人は・・・・・・ポカーンとした顔で僕を見ていた。



「・・・・・・恭文さん、夏風邪ですか? バカだから引いちゃったですか?」

「あぁ、それはだめだね。風属性の魔法の練習して風邪を引くなんて、洒落になってないよ。
もうすぐ夏休みなんだし、ちゃんと身体を休めて」

「違うわボケっ! 人の一世一代のプロポーズを何スルーしてるっ!? あと、バカって言うなっ!!」

「だって、いきなりだし・・・・・・当然の事を言うんだもの」

「ですです。もう、リイン達三人で恋人同士になって、仲良くなるのは決定事項なのですよ?」



やかましいわっ! そっちは当然でも、僕は当然じゃなかったのよっ!? ずーっとどうしたものかと、考えまくってたんだからっ!!

・・・・・・リインが前に言ったみたいに友達としてでいいのかとか、かなり考えて・・・・・・その、二人と付き合う事にした。



「でも、よかった。ようやく・・・・・・だね」

「そうだね。ね、本当にいいの? 三人でなんて色々違うし。
・・・・・・それにあの、僕二人の事好きとか言って、不誠実なことしてるんじゃ」

「大丈夫だよ? というか、そこは何度も言ってるよね。私はヤスフミに、私との事を理由にリインとの絆を切って欲しくない。
・・・・・・これはちょっと違うな。私は、私との事を理由にリインへの気持ちに嘘をついて欲しくない。三人がいいの」



フェイトは目で聞いてくる。『意味合いは違ってもリインが好きなんでしょ?』・・・・・・と。

だから僕は頷いた。もう答えは出てる。リインも、フェイトも・・・・・・二人とも、心の中に居る。



「私も同じです。恭文さんと、フェイトさんと、リインで居たいんです。三人がいいんです。
というか、私が聞きたいです。・・・・・・リインで、いいですか? 付き合うって女の子としてですよ?」

「うん」

「それって、リインとエッチな事したりする可能性もあるですよ? 出来るですか?」



リインが僕を見上げながら真剣な目で見ながら聞いて来た。僕は頷いて、リインに手を伸ばす。

リインの髪を、頭を右手で優しく撫でる。リインの髪は、フェイトのそれと同じくらい艶々で綺麗。



「出来るよ。・・・・・・いや、今は無理だけど」

「そうだね。流石に今は・・・・・・法案があるしね」

「うー、別にリインは今でも大丈夫ですよ? リイン、恭文さんの事ちゃんと受け入れられるです」

「リインは良くても、法案が受け入れてくれないよっ! てゆうか、普通に捕まるからダメっ!!」



・・・・・・リイン、そのお手上げポーズしながら首を横に振ろうとするのはやめてくれない?

なんかさ、色々カチンって来るの。非常に来るの。



「なら仕方ないのです。・・・・・・キスまでで許すのです」



リインが瞳を閉じる。さすがに、僕だって子どもじゃないので分かる。

リインは大人のキスを求めてる。ほっぺじゃなくて・・・・・・唇にして欲しいと言ってる。



「なら、私もお願いしちゃおうかな」

「フェイトっ!?」

「婚約しますっていう誓いのキス。リインだけなんてずるいよ。・・・・・・お願い」



それでフェイトまで目を閉じた。僕は・・・・・・まずフェイトに手を伸ばした。

リインから一旦手を離して、それをフェイトの頬に添える。それからフェイトと唇を重ねる。



「・・・・・・ん」





フェイトの吐息が少し漏れた。それが色っぽくて、可愛くて・・・・・・少しだけ長めにキスした。



唇を離すと、フェイトの顔が凄く近い。開いたルビー色の瞳が潤んでる。



それで頬も赤くて、このまま押し倒して、フェイトの事を全部食べてしまいたい気分になる。





「・・・・・・私、ヤスフミのお嫁さんとして、もっと素敵になるし頑張るから。
キラキラに輝いて、絶対余所見なんてさせない。覚悟しておいてね?」

「うん。あの、ありがと。オーケーしてくれて」

「ううん。じゃあここからだよ。私、見ててあげるから」



・・・・・・いや、見られるのは・・・・・・あぁもういい。とにかくリインだ。

大丈夫。唇でも性交渉にはならないって、某Web漫画で言ってたし。そう、僕はロリコンじゃないんだ。



「リイン、ちょっと目を開けて」



リインは僕の言葉に応えて瞳を開く。髪と色調が違う空色の瞳は・・・・・・僕をジッと見る。

両手を伸ばして、リインを引き寄せる。それで、そのままリインを僕だけのリインにする。



「・・・・・・私、デバイスです。恭文さんの赤ちゃんを産んだりも出来ない」

「うん」

「だけど、あなたが好きで大切な気持ちは・・・・・・フェイトさんにも負けない。
ううん、世界中の誰にもあなたを想う気持ちなら絶対に負けない」



リインは僕の首に両腕を回して、キツく抱きしめる。甘くて優しいリインの匂いが鼻をくすぐる。

それはフェイトも同じだけど、フェイトとはまた違う匂い。こう、キャラメルみたいというかなんというか、そんな感じ。



「お願い。私を・・・・・・あなただけの私にして。私の全部を、あなたにあげるから」



いつものですます調じゃないだけで、リインが大人っぽく感じる。

まだ10歳で・・・・・・小さな女の子なのに、それでもそう感じるから不思議。



「好き。どうにかなりそうなくらい、あなたが好き。だから私のありったけで、あなたを守る。
あなたの時間と笑顔も、フェイトさんの時間と笑顔も・・・・・・全部守る」

「・・・・・・僕も同じ。リインのこと守るよ。最初に約束したよね?
リインに笑っていて欲しいから、絶対に守るって。リイン、好きだよ」

「・・・・・・はい」










・・・・・・こうして、僕とフェイトとリインによる三人体制は完全樹立した。もう、引けない。色んな意味で引けない。





もう決めたから。二人とも同じくらい大事で大好きだって気づいたから。・・・・・・これで、いい。





これが僕の選択だもの。胸を張って、全力で通す。うん、それでいいの。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



三人だけの婚約式の翌日。僕達は、お馴染みのガーディアン定例会議に参加。場所はもちろん、ロイヤルガーデン。






今日、一つの変化が起きた。・・・・・・そう、2年目突入ということで、あの子が転校してきたのだ。










「・・・・・・初めまして。藤咲なぎひこです」


群青色の腰まであるストレートの髪に僕より高い身長。そして纏うのはガーディアンケープ。

以前は赤だったけど、今回は青。だって今のこの子は男の子だから。



「というか、なでしこと双子なんだよねー。わぁ、ホントにそっくり。
でも、ややはなぎーの事聞いてないー。うー、ずるいずるいー」

≪あれですよ、ややさんだからでしょ≫

「こてつちゃん、それどういう意味っ!? 何気にややだって傷つくんですけどっ!!」

「あははは・・・・・・元気だね」



夏休みまであと少しという状況。いよいよ・・・・・・である。海里は夏休み中は居るけど、その後は故郷に戻る。

そして、なぎひこが新Jチェアとしてガーディアンの業務に関わる事になる。



「事前に説明していた通り、藤咲さんには俺の後を引き継ぐ形で新Jチェアとなります。
藤咲さん、先日お願いした時にも申しましたが、本当に引き受けてくださってありがとうございます」

「ううん、大丈夫だよ。・・・・・・とにかく、三条君が相当有能だって聞いてるし」

「いえ、そのような事はありません」



海里が少し慌てたように首を横に振る。それを見て、僕達はクスリと笑う。



「その代わりが務まるかどうかは分からないけど、精一杯やらせてもらいます。よろしくね」

「うん、よろしくー」

「あ、それで言い忘れてた。僕は恭文君とリインちゃんの魔法の事や次元世界の事、知ってるからそこは大丈夫」

「あぁ、そうなんだ」



そう言ったあむが固まった。というか、のん気にショートケーキを食べようとしてたややも固まった。

そして僕とリインを見る。なので、頷いて答える。



『えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』

「そ、そうなんですかぁっ!? じゃあじゃあ、恭文さんの年齢の事も」

「うん、知ってる。実は前に偶然会った時に、色々有ってね。なでしこからも一緒に説明されたんだ。
魔法や次元世界に管理局の事。あと、みんなと協力する形でエンブリオを探してる事も、かなり詳しくね」

「・・・・・・驚いた。あ、だから二人とも顔見知りだったんだ」

「まぁ、そんなとこ」










なぎひこが僕の方を見ながら、軽く右目でウィンクしてきた。一応、苦笑いで返すしかない。

あぁ、正直心苦しい。てーかなぎひこ、マジでこの後どうするのさ。絶対説明しなきゃいけないと思うしさ。

だってなぎひこが居る間は、なでしこは居ないでしょ? その逆もまた然り。





・・・・・・無理だ。どう考えてもいつか誰かに必ずバレて大騒ぎになるフラグだ。

コナンみたいに引き伸ばしでハラハラな状況が10年続くとかは絶対ない。

もうびっくりするくらいにみんなにあっさりバレて、何話か使っちゃうくらいに大事になるフラグだ。





変身魔法で誰かがサポートとかしない限り、どうにもならない。・・・・・・そんな事を考えつつ、左隣に座るリインを見る。

赤いケープを纏ったリインは、ただただ苦笑い。なお、リインには昨日あの後に説明した。

もちろんなぎひこの許可は事前に取った上で。さすがに勝手には話せないもの。で、ここも事情がある。





何にしても夏休みの間もそうだし、二学期以降もずっとなのだ。話すまで、協力者は多い方がい。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・えっと、ちょっと待ってくださいです。新Jがなでしこさん?」

「「うん」」

「それで実はなでしこさんは藤咲なぎひこさんという男の子?
家の事情からずっと女装していて、なでしことして暮らしてた?」

「「うん」」

「なんですかそれっ!? どうしたらそんな風になるですかっ!!」



リインはベッドの上に座り込みながら、納得出来ないという様子で頬を膨らませる。

・・・・・・そう言われても困るなぁ。家の事情でどうしてもって感じなんだから。



「リイン、さっきも説明したけどなぎひこ君は家の事情で」

「そこじゃないですっ! なんでそれで新Jになるのかって言ってるですよっ!!
・・・・・・まぁ、ここはもう言っても仕方ないですね。でもでも、それって厄介だと思うんですけど」

「だよねぇ。まぁ、りまとかはともかく・・・・・・あむとややだね」

「ラン達にペペも危ないです。特にペペは、たまに勘が鋭い時がありますから」



あー、あのスパイシーな赤ちゃんキャラはそうだよね。

基本的にややより大人なイメージなのよ。赤ちゃんなのに。



「とにかく、私もヤスフミも唯世君と空海君も気を付ける」



フェイトが腕を組みながらリインを見る。僕も同じくなので、リインは僕達二人の視線を受け止める。



「だけど一応、リインも気をつけておいてくれないかな。
なぎひこ君の場合、やっぱり事情が事情だし・・・・・・難しくはあるんだ」

「まぁそうですよね。リイン達が最初の時にみんなに嘘付いてたのより、ずっと難しいかも知れないです」

「こればかりは誰が悪いとかそういう話では収まらないしなぁ。
なぎひこの両親を責めてもなぎひこ自身を責めても、何も解決するわけがないし」





もちろん嘘と言えば嘘になる。事情込みとは言え、現在留学から帰って来てる事もあむ達に隠してる事のも含めてよ。

たださ、日本舞踊みたいな伝統芸能は実はこういう家独自の技能の習得の仕方と言うか、発展のさせ方は結構多い。

そもそも伝統芸能って言うのは、学校のクラブやどこかの道場とは全く違う。あえて鎖国的になることで、技能を保全してるの。



習得する人間の数が多ければどうしても個人個人の技能にバラつきが出るし、質も落ちる。

全員に等しく密に教えるなんて言うのは、この手の物では無理なのよ。

そういうのを防ぐために世襲制にして、自分の子から孫達へと技能を引き継がせるの。



もしくはもう弟子って言わんばかりの少数精鋭だね。量は少なくても質を高めていくのが、伝統芸能の基本。

そこから考えると、なぎひこの家の修行方法はあり得ない話じゃないのよ。だって、こんなの誰でも出来るもんじゃないし。

生活そのものを女性にする修行法なんて、本人だけじゃなくて周りの協力だって居る。絶対に簡単な事じゃない。




もっと言うならコレは閉鎖的な世襲制の流派に伝わる、秘密の修行法って感じ?

その上効果も大きいと思う。生活そのものから女性というものを勉強するわけだからさ。

自分だけの問題じゃなくて、他の女の子と接する機会も明らかに増える。



・・・・・・そう考えると凄いよね。小さい頃から今の今までずっとなんだもの。

なぎひこ、きっと本当に踊りが好きなんだよね。家どうこうじゃなくて、自分の気持ちとしてそこはある。

そうじゃなかったら、こんなことは出来ないよ。というか、僕は絶対無理。





「むしろ責めたら理不尽だよ。・・・・・・シオン、そういうわけだからあなたも黙っておいてね?」

「フェイトさん、それならば私には黙っているという方法もありますけど」



そう言って来たのは、机の上でさっきまでたまごの中に入っていたシオン。

・・・・・・大丈夫。うん、大丈夫だ。あのキャラなりは緊急時以外やらないけど、大丈夫。



「私もそれは考えたんだ。でも、あなたはヤスフミのしゅごキャラなんだもの。
ヤスフミと同じように、第六感的なもので勘付く可能性もあったから」

「納得しました。あぁ、それと問題はありません」



シオンは机の上に座りながら、右手で髪をさっとかきあげる。どうもシオンの癖らしい。

初めてキャラなりした時もそうだし、見てると結構やってるの。



「複雑な事情のある事ですし、私も黙っておきます」

「ありがと、シオン」





安心したように微笑むフェイトを見ながら考える。なぎひこ、本当に複雑なんだよね。

・・・・・・僕だってシオンは辛いの。気絶しちゃうし、気絶しちゃうし。もう一回言うけど気絶しちゃうし。

そこまで考えて気づいた。なぎひこ・・・・・・今、相当辛いんじゃないかなと。



てまりは未だたまごの中。新しいたまごも、僕達が超・電王編とかで頑張ったりしてる間にも生まれなかった。

現実問題で言うと留学は途中で取りやめになったし、自分がそこまで賭けてきた踊りについてのスランプの真っ最中。

辛くないわけが・・・・・・ないか。まぁ、あんまり腫れ物に触れるようなのはダメだけど、多少は気遣おう。



夢と向き合えないというか、真っ直ぐに追いかけられない辛さ、僕も少しだけ分かるから。





「でも、早くなぎひこさんのたまごがかえるといいですね。
てまりがまた出てくるだけでも、大分違うでしょうし」

「そうだね。・・・・・・今回の夏休みが、色んな意味で何かのキッカケになればいいんだけど」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ねね、なぎーってしゅごたま持ってるの?」



やや、早速あだ名決定? なんつうか相変わらずぶっ飛ばすね。



「うん。この子なんだ」



そうしてなぎひこが懐から出したのは、青い花柄のしゅごたま。

当然のようにてまりのたまごは出せない。出した瞬間にバレバレフラグだよ。



「あー、てまりと色違いなんだ。やっぱり双子なんだね」

「ねぇ」



疑問の声を出したのは、りま。・・・・・・やばい、りまが警戒してる。

あぁ、そうだった。忘れてたけど、りまも初対面の相手には基本こういうキャラを出す子だった。



「キャラも居ないでガーディアンの仕事、本当に・・・・・・って、もう意味ないか」

「そうだねー。だってだって、恭文も最初はそうだったし、リインちゃんもたまごないしー」

「でも、恭文は魔法が浄化能力を持ってる上に戦闘能力も高かった。
それでミキとのキャラなりや、リインとのユニゾン能力がある。というか、しゅごキャラも産まれた」

「私ですね」










あぁ、そうだね。最初は僕もキャラ持ちじゃなかったんだよなぁ。それでなんでか浄化能力があるのよ。





最初は意味分からなくて、どうなってんのか自分でも疑問だった。だって僕、こんなキャラじゃなかったのに。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・まず、お兄様の浄化能力ですが」



なぎひこの話は置いておくとして、僕達はシオンから色々話を聞く事にした。まず聞くべき用件は、これ。

僕の中にある浄化能力の事。シオンは僕のしゅごキャラだし、何か知っていると僕達は踏んだ。



「うん、私達がずっと気になってた事なんだ。どうしてヤスフミの魔法は×たまの浄化が可能なの?」

「以前、エグザさんとクロスフォードさんが考察された通り・・・・・・とだけ、言っておきます」



つまり、シオンやスターライトのたまごが僕に力を貸してくれてる? だから僕の魔法は浄化が可能になってる。



「ごめんなさい、細かいところは私達にも分からないんです。
ただ、私とスターライトのたまごがお兄様のこころの中にあった影響だと思います」

「それは、今も変わらないんですよね。シオンやスターライトの子が外に出てきてるですけど、恭文さんは浄化能力が使えます」

「当然です。いくら外に出てきてるとは言え、私達がお兄様の一部なのは変わりません」

「そうなると・・・・・・うーん、確かに魔力には一種の精神エネルギーというか、そういうものが混じり合っているという説もあるけど」





フェイトが口元に右手を当てながら、少し視線を落として考える。・・・・・・あぁ、そう言えばあったあった。

魔導教本でそういうの読んだ記憶がある。確か、リンカーコアについての考察の一つだ。

魔力素という大気中にある成分をリンカーコアで取り込む事で、僕達魔導師は魔法が使える。



ただし、このリンカーコアについては今なお謎が多い。全てが解明されているわけじゃない。

別に物質的に僕やフェイトの身体に埋め込まれているわけではないこの器官には、一つの推論がある。

それは偶発的に人の心・・・・・・精神的な何かが一つの形を持った物だと言うこと。



そしてこれにはまだ続きがある。それで形成されたコアに吸収された魔力は、一つの変化を起こす。

それはその人間の精神エネルギー・・・・・・感情の力が混じり合うというもの。

ようするにリンカーコアが、一種のフィルターみたなものになっているという事だね。



もっと言うと大気中に漂っている魔力素と、魔導師が魔法で撃ち出した魔力。

この二つは厳密な意味で言えば、もう全くの別物であり似て非なるもの。

リンカーコアの中で魔力は似て非なる何かに変換され、それを使って僕達は魔法を撃つ。



結論から言えば僕達魔導師は、自分の心の力で魔法を使っているかも知れないという事だね。

まぁ、あくまでもそういう論法の一つだよ? 数ある中の考察の一つ。実際に証明はされてない。

そして・・・・・・こんなぶっ飛んだ話が飛び出る程に謎の多い器官が、リンカーコアなのよ。





「私達の使う魔力に本当にそういう側面があるから、こころの中に居た二つのたまごの力がヤスフミの魔力に混じり合ってる。
結果、キャラなりした時みたいな浄化能力が備わった。そう考えれば、多少は納得出来るんだ。・・・・・・あくまでも多少だけど」

「とにかく私にも細かいところはよく分かりません。
ただ、浄化能力を発揮するには一つ条件が有ります。それは・・・・・・お兄様が信じる事です」



シオンが机の上から浮いて、僕の前へ飛んでくる。僕の目を真っ直ぐに見ている青い瞳の色に少しドキっとした。



「自らを信じ、壊したいものを、守りたいものを見定めて刃を振るうこと。
迷いや疑い、恐れを抱えてもなおそれを貫き・・・・・・その一歩を踏み出す事」



なんか、色々見抜かれてる感じがしたから。それくらいにシオンの瞳は深く、強い輝きを放っている。



「そうしなければ、お兄様に×たまの浄化など出来ません。
元々出来る方がイレギュラーなんですから。もちろん、キャラなりも同じくです」

「・・・・・・全部、僕の心次第なんだね」

「そうです。お兄様の心から力は生まれます。何も捨てられない・・・・・・いいえ、捨てずに持っていく覚悟。
それを貫く一歩と、そこから続く道を進みたいと思う気持ち。全てはそこからです。・・・・・・というわけで、私とキャラなりしましょうね」

「嫌だ」



笑顔で言い切ると、シオンが固まった。そして、にっこりと笑う。



「いいえ、しましょう。大丈夫です、お兄様の身体には傷ひとつ付けません。
だって私の最強は揺るがないですし、お兄様への愛も揺るぎません。・・・・・・ぽ」

「ワザとらしく頬を赤らめるなっ! てゆうか、そういう問題じゃないのよっ!?
僕の精神面への負担を言ってるのっ! 大丈夫、ミキも居るから何とかなるってっ!!」

「大丈夫、その内慣れます。というかお兄様、それはなぎひこさんを侮辱していると考えてよろしいのでしょうか?」

「そういう切り返し方って、ズルくないっ!? いや、そう言われたらマジで反論出来ないけどっ!!」

「あぁ、ヤスフミ落ち着いてー! というか、シオンもそういうこと言わないっ!! ほら、ヤスフミ頭抱えちゃったよっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「太陽が偉大なのはなぜか? それは、塵すらも輝かせるからです」



唐突にそんな事を言い出した子は、右手で軽く髪をかき上げて右手で天を指差す。



「そして私という太陽がある以上、敗北の二文字とは無縁です。
さぁみなさん、今すぐこの私を崇めなさい。今ここにシオン教が生まれました」

「生まれてないよこのバカっ! てーか、勝手に宗教作らないでくれると嬉しいなっ!!
そして話逸れてるからちょっと黙っててくれないっ!? ・・・・・・りま、話続けて」

「・・・・・・さすがは恭文君のしゅごキャラだね。キャラが無駄に濃いというかなんというか」

「なぎひこ、それは僕もそうだし唯世達も思っている事だ。まぁ、予想通りだが」



なぎひこ、キセキもどういう意味さ。くそ、シオンはマジでどうにかしよう。てーか、なんかやばい。だって、この性格だよ?

これであのキラキラなフリーダムダイヤと遭遇したら、とんでもない事になりそうで怖い。すっごい正面対決しそうだし。



「とにかく、リインも事務関係すごく優秀だし」

「マルチタスクと事務処理は、局員時代からの日課なのです」

「それに恭文と一緒にユニゾンって手があるからまだいいわよ。・・・・・・大丈夫なの?」



あぁ、りまの視線が厳しい。というかなぎひこに対して外キャラ全開になってる。

だからなぎひこはそれを解くように、優しく微笑みながらりまに頷く。



「頑張るよ。しゅごキャラは居なくても、出来ることはあるもの。
あー、でも僕は三条君や蒼凪君と違って剣術も出来ないし、それで実力証明は無理かな」

「・・・・・・そう。あぁ、ところでもう一つ」

「何?」

「なぎひこって、誰?」



その言葉に全員ズッコケた。ずっこけて、起き上がりつつそう発言したりまを見る。



「ちょっとりまっ!? それはひどくないかなっ! なぎひこ目の前に居るじゃんっ!!」

「え、えっと・・・・・・嫌われてる?」

≪なぎひこさん、あなたは本当にダメですね。だからスカートめくりは止めておけとあれほど≫

「そんな事してないよっ! なに僕がずっとそういうことをしていたみたいな体で言ってるのかなっ!?」

「・・・・・・ごめん、間違えたわ」



りまが少し顔を赤らめて、そっぽを向きながらそう口にする。・・・・・・あぁ、なんか分かった。

なぎひこと何を間違えたってところを、分かった。多分、りまが聞きたかったのはもう一人の方だよ。



≪りまちゃん、もしかして藤咲なでしこちゃんについて聞きたかったの?≫

「えぇ。・・・・・・この人と双子って言うのは分かったけど、それだけじゃない感じだから」

「あぁ、それならややも納得。あのねりまたん、藤咲なでしこって言うのは、りまたんの一つ前のQチェアなんだ」



そして現在のJチェアだけどね。あとなぎひこ、普通に苦笑いはやめようか。ほら、バレるから。



≪あむさんとは5年の時のクラスメートだったんです。その関係から大親友でした≫

「そうですねぇ。一回なでしこさんのお家にお泊りに行ったりもしましたぁ」

「あぁ、あったあった。・・・・・・懐かしいなぁ。なでしこ、元気してるかなぁ」





あむとキャンディーズは、言いながら上を見上げる。ロイヤルガーデンの天井は透明なガラス張りなので、空が見える。

その青い空の中にあむ達が浮かべているのは、きっとなでしことてまりの姿。でもみんな、浮かべる必要ないよ。

だって、元Qチェアはみんなの目の前で元気してるもの。現Jチェアとして、居心地悪そうに微妙な笑いを浮かべてるもの。



・・・・・・なぎひこ、マジで説明するタイミングと仕方は考えた方がいいって。これ、下手打ったら関係断絶だよ。





「・・・・・・や」



りまがなぎひこから遠ざかりあむに抱きついた。

というか、泣き出した。ボロボロと泣き出しあむを見上げる。



「私もクイーン。同じクラスで、同じガーディアンよね。
なのに、どうしてなでしこの事ばかり話すの? 私、あむの親友じゃないのかな」

「り、りまっ!? あの、そんなことないからっ! それはそれでこれはこれでっ!!」

「あむちゃん、動揺する必要ないよ? だってそれ、嘘泣きだし」



なぎひこがそう言うと、りまの身体が震えた。震えて、恨めしげになぎひこを見る。

なぎひこはテーブルに頬杖なんてついて、勝ち誇ったような顔をしている。・・・・・・なんで?



「あなた、よく分かったわね」

「僕、そういうの詳しいんだ」

「・・・・・・そう」



二人の視線がぶつかり、火花が散っている。バチバチと音を立てて、衝撃が爆ぜる。

とりあえずアレだ、なぎひこは初手を間違えたと思う。なんで初っ端でこれ言っちゃうの?



「まぁ、そういうわけだからよろしくね。りまちゃん」

「・・・・・・や」



当然のように、りまはなぎひこから距離を取る。距離を取って・・・・・・さようなら体勢ですよ。

なぎひこはそれを見て困った顔をしてるけど、僕は自業自得だと思う。



「あむ、この子と仲良くしちゃだめ。なんか、嫌な感じがする」

「えぇっ!? ちょっとりまー!!」

「あははは、参ったなぁ」



僕は椅子から立ち上がり、すたすたと歩いてポンとなぎひこの肩を叩く。



「なぎひこ、知ってる? 時として女の涙が嘘だと分かっても、見過ごす事だって必要なんだよ?
女の子に騙された数だけ、それは男の勲章になるんだしさ」

「・・・・・・そうだね。でも、とりあえず気づかないで素で無視する恭文君には、そこを言われたくないかな」

「そ、そんなことしてないよ?」



そうだ、僕はそんな覚えがない。ほら、2年目入ったから、年忘れしたもの。



「あれ、おかしいなぁ。辺里君から色々聞いてるんだけどなー」

「・・・・・・・・・・・・唯世?」

「あ、あははは・・・・・・ごめん」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「それで藤咲さん、これを」





とにかく、話はまだまだ続く。というか、会議だね。うん、早速だけど必要なんだ。

そう言いながら三条君が机の上に置いてきたものがある。

それは・・・・・・な、なんですか? このバインダーに挟まれた書類の束は。



恭文君達も興味深そうに書類を見ている。とりあえず僕に中身が分からないので、三条君を見る。





「藤咲さんの転校が決まってから、俺達は定期的に蒼凪さんとハラオウンさん達に戦闘の基礎を教わっています」

「戦闘の基礎?」

「あのね、やや達普通の小学生で、恭文やリインちゃんみたいに戦うのに慣れてるとかじゃないでしょ?
でもでも、イースターの人達はどんどん強い人とか、そういうの出してきちゃってかなり苦戦してるの」

「そういう時、結局全部を蒼凪君任せになっちゃってる部分があってね。そのために怪我もかなりさせちゃってる」



僕が居ない時の話なので、とりあえず恭文君やあむちゃんを見る。

恭文君は軽く右手を上げてお手上げポーズを取るけど、あむちゃんは苦い顔で頷いた。



「それを改善するために、基礎的な事を教わってるんだ」



あぁ、なるほど。そういう事なら納得だよ。・・・・・・というか、僕が居ない間にそんな事になってるんだ。

うーん、これはびっくりだ。でも、この書類とそれとどう繋がるんだろ。



「そこでハラオウンさんやランスターさんに話を聞いて、俺なりにガーディアンメンバーの現状での戦闘スタイルや改善点を纏めてみたんです。
藤咲さんは現状ではキャラなりもキャラチェンジも出来ませんが、それでも×たま狩りの現場に出ることも多いはずです」

「なるほど。僕に一応でも目を通して、頭に入れておいて欲しいって事だね」



しゅごキャラが居なくても、出来る事はあるからそれをやるために・・・・・・と。



「その通りです」



うん、感謝だね。色々変化が起こったらしいし、ここは頭に入れておくべき事項だよ。



「三条君、ありがと。みんなの事ももうちょっと知りたいと思ったから、助かったよ。
・・・・・・じゃあ、早速いいかな? せっかくだし、みんなから話も聞きながら勉強しておきたい」

「はい」










そうして、僕は書類を手に取って・・・・・・一枚目をめくる。





最初に出てきた名前は、ジョーカーVの蒼凪恭文君。





なお、この続きは・・・・・・次回に続くって感じなのかな?




















(第52話へ続く)






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あきゅろす。
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