小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) ケース30 『日奈森あむとの場合 その12』 ・・・・・・爆発が収まった後、僕は倒れている歌唄の方に歩いていく。その途中で、宝石を見つけた。 歌唄が吹き飛ばされた時、首元に付けていたブラックダイヤモンドが外れたらしい。 歌唄は、キャラなりこそ解けてないけど身体を全く動かせない。今ならやれる。 僕はブラックダイヤモンドに、アルトの切っ先を向ける。 ≪・・・・・・封印処理、完了しています。久々だったのに、上手く出来ましたね≫ 「話聞いてから練習してたもの。問題ないよ。 それに、リインも手伝ってくれたから」 【ですです】 さっきのスターライトには、ちゃんと封印術式も組み込んでた。 じゃないと、どうなるか分かったもんじゃないし。 【まさしく、愛の力の勝利なのですよ♪】 「それはやめてくんないっ!? ほら、まだシリアスモードなんだからっ!!」 僕はブラックダイヤモンドを、左手でしゃがみつつ拾い上げる。拾い上げて、アルトの鍔に当てる。 宝石はアルトに収納されて、手元から無くなった。僕はゆっくりと歌唄の方にまた歩き出す。 「・・・・・・歌唄、しっかりして。私達は強いわ。この程度で負けるわけが」 あ、なんかこっちが騒いでる間に、キャラなり解けちゃってるし。 「いいや、お前らは弱いよ。そして、もう勝負はついた」 「いいえ、強いわ。そして、まだ終わってない」 「聞こえなかった? 僕は・・・・・・弱いっつったんだよ」 身体がギシギシ言ってるけど、とりあえず置いておく。まだダイヤが浄化出来てない。 てゆうか、普通にあれでもダメって・・・・・・どんだけチートスペックですか。 「そうだよ。あたしも同意見」 「あむ・・・・・・どうしたの? 今まで空気だったのに」 【ですです。空気だったのに、どうしたですか?】 「うっさいっ! アンタ達が暴れるから、あたし置いてけぼりだっただけじゃんっ!!」 まぁ、そういう考え方もないので、お手上げポーズで答えた。あむはそれに対してため息で返す。 「・・・・・・何かを捨てたり忘れたりするってさ、考えようによってはそれから逃げるって選択なんじゃないのかな。 傷ついたっていいじゃん。傷ついた分だけ、沢山優しくなれて、強くなれるんだよ? それは同じ誰かを守れる力になる」 イルとのキャラなりを解除して、あむは制服姿に戻る。そして、そのまま歌唄に向かって歩き出す。 「正直、あたしは傷つかないで捨て続ける事が強さだなんて思えない。 だってそんなことしたら輝くどうこうの前に、夢も何もかも消えて自分が空っぽになっちゃうじゃん」 あむのその言葉に、倒れていた歌唄が息を飲んだのに気づいた。 とりあえず、そこは気にせずに僕はあむの話を聞く。 「あたしはそんなの嫌だ。・・・・・・輝くために、強くなるためにランにミキやスゥ、アンタを捨てたくない。それに」 あむの視線が僕に映る。なぜか頬がちょっと赤くなってるけど、よく分からない。 「きっと、めんどくさい事とか弱い部分とかを全部抱えて、それでも前に進む人の方が強いんだよ。 ・・・・・・あたしはそう思うんだ。少なくとも、あたしはそんな人になりたい。そうありたい」 「でも、それでは輝けない。だから、あなたは輝きが弱い。 あやふやであいまいで、自分も救えない」 「いいよ、別に。・・・・・・それが弱さだって言うなら、あたしは弱くていい」 ダイヤの言葉にも揺らがずに、あむはまた一歩・・・・・・歩を進める。 「それでも信じてる。あたしは、確かにふわふわしててあいまいでさ。 だから、たまご四個も産んじゃったのかも知れない」 あむはゆっくりと近づいていく。歌唄はただ空を見上げるだけで、言葉を発するのも辛いらしい。 だから、何も言わない。何も言えずに、空を見上げるだけ。 「それでもあたしは、あたしの選択を、あたしの輝きを・・・・・・信じる。 アンタや歌唄がどう言おうと、信じ続けるから」 「・・・・・・・・・・・・そう。それがあなたの・・・・・・いいえ、あなた達の選択なのね」 「そうだよ」 「よく分かったわ」 その瞬間、ダイヤの髪飾りの上に付いていた×にヒビが入る。入って・・・・・・砕けた。 それからすぐ、ダイヤは金色の光に包まれる。包まれて現れるのは、さっきまでとは違う女の子。 オレンジ色の髪をツインテールにして、黄色いワンピースを身に纏う。それで、インカムなんて装備してる。 その子は光が収まると、あむと僕に優しく笑いかける。 「・・・・・・ダイ、ヤ?」 「そうよ。あむちゃん、ありがと。・・・・・・あなたがあなた自身の輝きを信じてくれたから、私はここに居る。 輝きを生み出す源は、信じる事なの。自分を、自分の可能性を信じるから、人は輝く事が出来る」 ・・・・・・どこか嬉しそうに口にするダイヤの言葉を聞いて、僕はようやく納得した。 もしかしてダイヤは、あむの中のそういう信じるって気持ちから産まれた? だから、『らしさ』が分からなくなって、自分を信じる事が出来なくなったから、×が付いた。 だからどんな形であれ自分の選択を信じて、輝くために一生懸命な歌唄の方に向かったのか。 そして、僕のスターライトでも浄化出来なかった。あむがそこの答えを出す必要があったから。 ・・・・・・ま、これでいいんだよね。僕が全部やっちゃったら、ヒロインじゃなくなっちゃうもの。 前に言った通りになっちゃったなぁ。僕は歌唄で、あむはダイヤ。まさかマジでそうなるとは、びっくりだよ。 「というより・・・・・・ふふ、色々気づいちゃったわ。あむちゃん、私は応援してるわよ?」 「へ?」 「思うに、悪い風には思ってないのよね。現時点での年齢が障害になっているだけで、それ以外は大丈夫だと思うわ。 強い輝きは人を惹きつける。それは恭文君とて例外じゃないわ。そう、恭文君は惹きつけられているもの」 言いながら、ダイヤが僕を見る。僕を見てなぜかウィンクしてくる。 「一つの強い輝きの色に・・・・・・強く」 だけどその意味が分からなくて、首を傾げる。 「いや、何の・・・・・・ま、まさかアンタっ!!」 「当然よ。だって、私はあなた自身なんですもの。 あなたの輝きの根源に何があるのかくらいは、お見通しよ。あのね恭文君、あむちゃんは」 「いやー! お願いだからバラさないでっ!? せめてあたしの口からちゃんと言わせてー!!」 慌てふためくあむの様子を見て、さらに首を傾げる。・・・・・・どうなってんですか、これ。 まぁ、そこはともかく僕は歌唄の方へ行く。で、しゃがみ込む。 「気分、どう?」 「身体、全然動かないわ。痛みもない。でも」 「でも?」 歌唄は、空を見る。僕も同じように見上げると・・・・・・空には、満点の星が輝いていた。 「凄く、清々しい気分なの」 「そっか」 「てゆうか、アンタの勝ちよね」 「まぁ、一応はね」 ・・・・・・・・・・・・あれ? なんか凄く嫌な予感がする。 「なら、私・・・・・・アンタの物だから」 「え、それ有効なのっ!? 僕、さすがに軽口だったのにっ!!」 「奇遇ね、私も同じ」 言いながら歌唄は軽く笑って、僕を見上げる。もちろん僕の知っている『月詠歌唄』として。 「どうせなら・・・・・・ちゃんとアンタと向き合ってからそうなりたいな。もう一度、ここから友達として」 「・・・・・・そっか。そうだね。ここから・・・・・・もう一度だよね。 だって一度全部終わらせたんだから。だったら」 「えぇ、ここからもう一度」 歌唄が僕に向かって右手を伸ばす。だから、僕は同じように右手を伸ばして、その手を掴み取る。 細くて壊れそうな腕を握り締めて、少しだけ引き上げる。歌唄は、上半身を起こした。 「ここからもう一度、私達を・・・・・・始めましょ? そうなるにしても全部それからよ。 例え男と女の関係になれなくても、私達はきっと・・・・・・ずっと一緒」 歌唄は笑ってる。軽い笑いをそのまま、嬉しそうな微笑みに変えて。 「私、もうアンタの事遠ざけられないわ。だって・・・・・・魅せられちゃったから。 アンタの強さに、輝きに魅せられて、惹きつけられた。だから一生抱きしめてるわね」 「・・・・・・ん」 「あとアレよ、アンタ巨乳な女の子ばかり見るのはやめなさい。女は胸じゃないのよ? 時代は今、私みたいな適乳なんだから。人それぞれ趣味はあるだろうけど、それでも」 「いきなり何の話っ!? 普通におかしいでしょっ!!」 コイツ、僕に対してどんなイメージを持ってるっ!? てゆうか、普通におかしいでしょうがっ!! ・・・・・・やっぱりフェイトの事とかって、相手にプレッシャーなり与えてるのかな。ちょっと考えてしまった。 【恭文さん、水を差すようですけど】 「分かってる。まだ終わりじゃないよね」 僕は一端歌唄から手を離しながらある方向を見る。そこに居るのは、唯世達と月詠幾斗。 どうやら僕があのデカい攻撃を止めてから、また戦闘を始めたらしい。 ≪・・・・・・劣勢ですね≫ 特に唯世だ。唯世の黄色の混じった王子服が、あっちこっちボロボロになってる。 息を荒く吐きながら、それでも瞳に敵意をいっぱいにして猫男に向かってる。 【あ、蹴り飛ばされたです】 それで上空に飛ばされて、当然猫男は追撃。爪を袈裟に振るって、唯世を斬り裂いた。 唯世は吹き飛ばされて、ヘリポートの路面に叩きつけられる。何回かバウンドしながら転がって、止まる。 ≪マズいですよ。この調子だと≫ 「・・・・・・歌唄、人質に取って止めていい? ほら、歌唄は僕のものなんだし」 「お断りよ。私、男に縛られない生き方するって決めてるの」 「意味分からないよ、その返しはっ!!」 つまり、力ずくで止めるしか選択肢がないらしい。 ・・・・・・仕方ない、もうひと頑張りするか。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「フェイトさん、なぎ君とリイン曹長、やりましたね」 「うん。見てて、ちょっとハラハラだったけど」 ・・・・・・というか、あの挑発はいいのかな。ヤスフミ、やっぱりあの子の事が好きなんじゃ。 でも、あむが気になってる感じなんだよね。というか、本人それで頭抱えてたし。 「てゆうかヤスフミ・・・・・・月詠歌唄もアレだけやって友達って言い切れるって。それっていいのかな。 だって両想いって事だし、それでそういう風になるって色々間違ってるんじゃ」 「そうですか? 私は特に不思議はないと思うんですけど」 「シャーリー?」 色々考えていると、シャーリーがどこか嬉しそうにしていた。それが分からなくて、私は首を傾げる。 「だって二人は、あそこで一度全部終わらせたんですよ。互いに感情や想いをぶつけにぶつけ合って。 それでまた・・・・・・ここから全部含めた上で、友達を始めた。あの『好き』は、きっとそれをするための最終関門」 つまり、また0から始めたってこと? ヤスフミもあの子も、そのつもりで・・・・・・え? 「つまり人間としてとか、そういう意味なのかな」 「そういう意味でいいと思いますよ。きっと、そんなに深い意味はないのかなーと私は思うんです」 そう言われて、私は少し考える。考えて考えて・・・・・・やっぱり分からない。 「・・・・・・そういうものなの?」 「そういうものです。男女の関係って、人それぞれですから。それになにより」 「何より?」 「二人にとっての『好き』がどんな形かなんて、あの二人にしか分かりませんよ。えぇ、そこは絶対に」 「確かに、そうだね」 なら、今の私が抱えるヤスフミへの『好き』の気持ちは・・・・・・どんな形なんだろ。 恋・・・・・・でも、それよりも穏やかで静かで、今までとは違う形になりかけてる。 確かにこれは良く分からないね。自分のすら、向かい合おうとしないとダメみたい。 ヤスフミとあの子の互いの『好き』の気持ちも、きっと同じだよね。 あの二人が互いにあの時どう思っていたかは、きっと・・・・・・あの二人だけの秘密。 「・・・・・・フェイトさん、シャーリーさん」 「ティア、どうした? あの、メイド服なら私のツテで調達するから」 「あ、お願いします。・・・・・・って、そうじゃなかった。 まだ終わってないみたいなんです。アレ・・・・・・見てください」 ティアが、震える手である方向を指差す。私達は事前に飛ばしていたサーチャーで、そっちを確認。 「・・・・・・・・・・・・フェイトさんっ!!」 「私達、本当に見てるだけしか出来ないね。でも、場合によっては介入するから」 「「了解しました」」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・もうやめないか? 俺、弱いものイジメは嫌いなんだよ」 【そうだにゃ。てゆうかイクト、歌唄がアレだと】 「そうだ。俺達は負けた。もう戦う必要ねぇし」 「いや、まだ終わりじゃないっ!!」 そう言いながら、キングがロッドの切っ先を向ける。その対象は当然のように月詠幾斗。 もうボロボロだと言うのに、キングは全く引かない。 「唯世、マジで落ち着けって。もう俺らがやり合う理由、なくねぇか? 俺、チ・・・・・・アイツと歌唄とのタイマンを邪魔されたくなかっただけだし」 「うるさいっ! ここでお前を止めなかったら、きっとまた同じことが起きるっ!! だから、お前とはここで」 「確かにその通りですね。ここであなたを倒しても、結局俺達の自己満足です」 俺の言葉に、飛び出そうとしていたキングが驚いたようにこちらを見る。 「三条君っ!?」 「キング、冷静になってください。今の俺達の戦力で、彼を止められると本気でお思いで?」 キングが、唸って動きを止めた。・・・・・・そう、無理だ。ここで俺達が戦っても、敗北の色は濃厚。 俺達四人がかりでも、手傷ひとつ負わせられなかった。能力もだが、経験の密度が違う。 そしてジョーカーには基本的に攻撃能力がない。たまご相手はともかく、対人戦は弱い。 これだけでも、こちらが不利になる要素は多い。俺としては、ここで戦略的撤退をしたいところ。 【その通りだ。・・・・・・唯世、少し落ち着け。無茶と無謀は違うんだぞ? これでは本当に、ティアナの言うように僕達は恭文を預かる資格がない】 「・・・・・・キセキ」 【もしもどこかで恭文を頼ってるなら、それは間違いだ。アイツだって消耗は激しい】 最後に虎の子の蒼凪さんだ。今の蒼凪さんは、キセキが言うように消耗が激しい。あの抜刀術を使ったのだから当然だ。 あと、スターライトだな。キングと蒼凪さんとの作戦会議の時に、蒼凪さんはあの魔法を使う事を予め話していた。 ロストロギアを一気に封印するためには、内包魔力以上の出力で攻撃するしか無いらしい。だからあの魔法を使った。 そしてあの魔法がとても体力の消耗が激しく、リインさんとのユニゾンで初めて安全に使える事もだ。 以上の事から、俺達はこれ以上彼と事を構えない事が正解と思われる。 ・・・・・・いや、俺達をどうこうしてとなると、話は変わってくる。まだ、油断は出来ない。 なにより、結局×たまの浄化が出来ていない。あの情報が正しいとすると・・・・・・くそ、出来る可能性は低いか? 「へぇ、そっちのメガネとお前のしゅごキャラは分かってるじゃねぇか。唯世、お前も見習え」 【そうだにゃ。全く、バカだにゃあ】 「うるさいっ!!」 キングは、言いながらホーリークラウンを放つ。金色の光の奔流に対して、彼は跳んでそれを避ける。 そのまま、俺達と大きく距離を取った。取って・・・・・・笑う。 「安心しろ、俺ももうこれ以上やるつもりは」 『・・・・・・・・・・・・リィ』 俺達全員の動きが止まる。止まって・・・・・・辺りを見渡す。 聴こえてきた声は、俺達が聞き慣れた声。だが、それよりも禍々しい感じがする。 「みんな、アレ見てアレっ!!」 エースの声とその右手が指差す方を俺達は追う。こちらにゆっくりと、大量の×たまが向かっていた。 いや、数にして百数十と言わんばかりの数のたまごが、一斉に孵化した。中からは当然、×キャラ。 【あれ、×キャラでちっ! ど、どうしていきなりっ!!】 「・・・・・・どうやら長くやり過ぎちまったみてぇだな」 彼は胸元のキーを見ながら、苦い顔をする。・・・・・・そうか。 【ハンプティ・ロックとダンプティ・キーの影響で、孵化が進んだということかっ!!】 「くそ、やっぱりお前は不幸を運ぶ黒猫だっ! 最後の最後でこんな」 【そんなの八つ当たりだにゃっ! お前がしつこいからこうなったんだにゃっ!!】 「うるさいっ!!」 やはりキングは、冷静さをなくしている。・・・・・・何か因縁でもあるのか? いや、そこはいい。今は現状の対処だ。アレを何とかするのは、元々の計画でもある。 「キング、今はそんな話をしてる場合ではありません」 【海里の言う通りだ。・・・・・・来るぞ】 ×キャラ達のうち1体が、手を挙げる。 『ムリッ!!』 それを見て、全員が一斉に手を挙げた。そして、最初に手を挙げた×キャラに突撃していく。 一体、また一体と突撃し、それを×キャラが吸収する。吸収していく度に、身体が大きくなっていく。 大きくなった身体は、ちょうど月詠幾斗くらいの身長になる。ただし、ガタイはそうとうに筋肉隆々。 全ての×キャラを吸収し終えた『それ』は、大きく声を上げた。 『ムリィィィィィィィィィィィィッ!!』 【・・・・・・×キャラが】 「合体、した」 合体自体は珍しい事ではない。二階堂さんの時や、先日のショッピングモールでの一件で確認されている。 だが、今回はそれよりもずっと数が多い。当然能力も・・・・・・推して知るべしだろう。 そして、さっき言ったように俺達も蒼凪さんも消耗している。大丈夫なのは、途中空気だったジョーカーくらいだ。 くそ、迂闊だった。キーとロックが同じ場に存在する危険性は、考えて然るべきだったと言うのに。 魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先の事 ケース30 『日奈森あむとの場合 その12』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「お兄様っ!!」 もう恒例となった不思議空間から、シオンとヒカリが飛び出してくる。そして僕と一緒にある方向を見る。 「恭文、あれはまずいっ! あれだけの数の×キャラが合体したら・・・・・・!!」 そこに居るのは、唯世達に踏み込んで、拳を突き出してきた黒い絶望の人形。 「辺里さん達も猫男の相手で消耗が激しいです。このままでは、押し潰されます」 「・・・・・・だろうね」 「恭文、あの」 「ヒカリ、そんな申し訳なさげにしなくていいから。 ・・・・・・大丈夫、僕はちゃーんと分かってる。で、覚悟も決まってる」 もう本当の意味で贅沢言ってられる状況じゃない。なにより、これは僕に出来る無茶の範囲だもの。 「それに前に言わなかった? 何が何でも通さなきゃいけないことがあるなら」 「その瞬間だけは、『魔法』が使える魔法使いで居る。・・・・・・安心しろ、忘れてなどいない」 「うん、いい子だ」 まぁ、アレだよ。どっかのバカのブラスターみたいに死亡フラグってわけでもないし、ちょっと頑張ろうっと。 「・・・・・・リイン、変身解除するよ。それで、歌唄の側に付いててあげて」 【なら、恭文さんは】 「当然、あむと一緒にアレを何とかする」 僕は、左手でゼロタロスに挿入されたカードを抜き出す。抜き出すと、カードにヒビが入った。 「こっからは、スーパーキャラなりタイムだ」 パリンッ!! 【分かったです】 音を立てて、カードは粉々に砕けた。それから、左手でゼロタロスを外す。 すると、リインが僕の傍らから出てきて、路面に降り立つ。 で、なんとかするためには・・・・・・なんだよなぁ。でも、いい。 揺らぐ暇などあるわけがないし。普通に頑張らなくちゃだめなのよ。 「歌唄さん、身体は・・・・・・動かせませんよね」 「えぇ、ちょっとムリみたい。・・・・・・ね、エルにイル」 「なんだ?」 「なんですかぁ?」 エルとイルは、普通に歌唄に近づく。色々あったのに、普通にだ。 まぁ、ここはいいでしょ。とりあえず僕はあむと一緒に前に一歩踏み出す。 「・・・・・・恭文、大丈夫なの?」 あむは僕の右側。そこから僕の方を向いて、心配そうに声をかけてくれる。 「あの天翔龍閃って技、アンタの身体だと相当負担かかるってサリエルさんが」 「あと、あのスターライトもだよ。アレって前に教えてくれたのだよね?」 あむとミキがそう言うけど、軽く笑って返す。・・・・・・まぁ、事実ではあるけどね。 「問題ない」 右手に取り出すのは三枚のカード。なお、当然のようにマジックカードだね。 念じると、僕の身体を青い光が包んだ。・・・・・・これでよしっと。 「・・・・・・またそういう無茶なことする。回復魔法の重ねがけって、だめなんでしょ?」 「問題ない。僕は何時だって、自分に通せる無茶しかしてない。後に引くようなこともしない」 「それでも無茶なのは変わらないじゃん。あたし、結構心配なんですけど」 言いながら、二人揃って胸元に両手を持っていく。持っていって・・・・・・指を広げる。 「大丈夫だよ。・・・・・・めんどくさくなったら、また甘えさせてもらうから」 「・・・・・・歌唄に言いつけるよ? 彼氏があたしを愛人にしようとしてるーってさ」 「変なこと言うのやめてくんないっ!? あと、別に歌唄は彼女じゃないのよっ!!」 「だって告白してたし」 「アレは互いに『友達として』だってっ! 普通に昨日その話しなかったっ!?」 うわ、なんか疑いの眼差し向けてくるし。 いやいや、そうなのよ? 僕は友達として『好き』って言ったんだから。 「ね、歌唄?」 歌唄は軽くお手上げポーズを取ろうとして顔をしかめる。だから、頷くだけで終わった。 ・・・・・・だからその睨むのもやめてー! あれはその・・・・・・その場の勢いだったのっ!! 「てゆうかあむ」 「何?」 「ありがと。・・・・・・あむが背中押して信じてくれたから、歌唄に手が届いた」 一旦構えを解除して、右手であむの頭を撫でる。・・・・・・やっぱり僕、この子の事はちょっと特別みたい。 「・・・・・・なんだ、あたしの事忘れてなかったんだ」 「忘れるわけないじゃん。あむが背中押してくれてるの、ずっと見ててくれてるの、感じてたもの」 ティアナやフェイト、歌唄とはまた違って・・・・・・なんか可愛いの。 「やっぱり浮気者だ」 「だから友達だよっ!? 普通に友達なんだからっ!!」 「ごめん、冗談だって。でもありがと。そういう風に言ってくれると、色々嬉しい」 制服姿で、あむがこっちを見て笑う。だけどすぐに真剣な表情になって、前を見据える。 「あとさ・・・・・・あたし、愛人も現地妻も嫌。きっとそれじゃあ満足出来ないから」 「・・・・・・・・・・・・へ?」 「ううん、何でもない。恭文、いくよ」 「了解」 だから、僕達は鍵を開ける。最後の最後、気合いを入れて前へ飛び込むために。 「あたしのこころ」 「僕のこころ」 『アンロックッ!!』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 【「・・・・・・キャラなりっ! アミュレットハートッ!!」】 ヘリポートに倒れながら見えたのは、あむと恭文のキャラなり。あむは、あのピンク色のチアガール。 そして恭文は・・・・・・というか、姿が恭文のしゅごキャラのヒカリになってる。 【「・・・・・・キャラなり」】 それは、あの時バンからチラリとみた黒い乙女。赤い瞳で、×キャラを見据える。 【「ライトガードナー」】 そのままヒカリは左手をかざす。そして、右手には本。 栗色の分厚い表紙に、表面に蒼い宝石が埋め込まれている。 ≪・・・・・・どうします?≫ 右手の平の上で浮いて、ページが開いていく本からアイツの相棒の声が聴こえた。 ヒカリは視線を×キャラに向けたまま、答える。 「まずは、遠距離から攻撃だ。これで相手の注意を逸らす。というより、恭文の身体の負担もある。 あむ、済まないがサポートはしっかり頼むぞ。強がってはいるが、かなりギリギリだ」 「・・・・・・分かった。だったら、パパっと決めよっか」 左手に黒色の砲弾が形成されていく。とても大きく、巨大な砲弾。 「・・・・・・唯世くんっ! そこからすぐに離れてっ!!」 唯世達は、あむの声に反応してヒカリを見る。そして、後ろに大きく下がった。 そこを狙って、ヒカリは左手を振りかぶる。振りかぶって、トリガーを引いた。 「レディアント」 ヒカリが振りかぶった左手を、左薙に振るう。 「スマッシャー!!」 その瞬間、砲弾に形成された力は奔流となって、×キャラに向かって発射された。 闇をそれよりも黒い色の奔流が切り裂き、×キャラに直撃する。×キャラは黒いシールドでそれを防ぐ。 防いで飲み込まれた。その瞬間、爆発が起こる。・・・・・・その爆発の中から、×キャラが飛び出す。 そして、こちらに向かって真っ直ぐに歩いてくる。それから、どんどんその進行速度が上がっていく。 「シオン、あとは任せる。お前がフロントだ」 「了解です。・・・・・・私とお兄様のこころ、アンロック」 シオンが同じように鍵を開けると、今度は翠色の光が恭文を包み込む。 その中で姿を表したのは、聖なる破壊。 【「・・・・・・キャラなり」】 翠色の髪と蒼い瞳にシスター服。そして、短めのスカートにニーソックス。 銀色の装甲が付いた黒いグローブをハメているけど、外見は正しく女の子。 右手で髪をかきあげて、不敵に笑う。この状況においても、余裕を見せつけるように。 初めて見るけど、これが恭文とシオンとのキャラなり。そして噂に聞く女装形態その2。 【「セイントブレイカー」】 ・・・・・・間近では初めて見たけど、やっぱありえないわ。普通にありえないわ。 なんでそうなんのよ。しゅごキャラに身体乗っ取られるなんて、ありえないし。 【シオン、あむ、僕達が前に出てアイツを止めるよ。みんな、僕以上に消耗し切ってる】 確かに、唯世や他の子達はあの大型×キャラに殴られ、蹴られ、衝撃波で吹き飛ばされまくってる。 イクトが足止めしてくれてたから、そのせいもあるのかも知れない。というか、イクトが居ない。 「分かっています。日奈森さん、いけますね?」 「うん。・・・・・・行くよっ!!」 【了解っ!!】 二人は、そのまま前に向かって飛び込んだ。・・・・・・とりあえず、任せるしかない。 私は視線を横に向けて、心配そうに私の顔をのぞき込んでいたエルとイルを見る。 「・・・・・・歌唄ちゃん」 「分からないの」 「何がだよ」 「私の夢。何を追いかけたかったのか、何をしたかったのか・・・・・・分からないの」 イクトを助けたかった。だからイースターの仕事に協力した。だから強くなることを選んだ。 弱い感情を捨てて、弱い自分を捨てて、輝くのに邪魔だと思ったものを捨てて、そうしてここまで来た。 でも、あの子に言われて気づいた。今の私・・・・・・空っぽだ。イクト以外何もない。 本当にそうね。私はこれが終わってイクトを助けた後、どうしたかったんだろ。 「だったら、ここからもう一度探しましょう?」 エルが優しく声をかけてくれる。今までと変わらない・・・・・・優しい目で、私を見る。 「そうだぜ。大体、マジで分からなくなってるんだったら、アタシとエルはとっくに消えてるぞ? 歌唄、お前疲れてんだよ。疲れたから、頭がこんがらがってるだけだ。だからちょっと休め」 「そうですよ。エル達は歌唄ちゃんの側にずーっと居ますから。一緒に考えましょう?」 「・・・・・・そうね、そうするわ。二人とも、ごめん」 「大丈夫だ。・・・・・・マジ、大丈夫だからさ。だってここからまた始めるんだろ? アタシ達ともそうだし、夢の事や自分の事、それに・・・・・・大事な友達との時間を」 「うん、そのつもり」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 一気にあむと一緒に前に踏み込む。まぁ、僕は身体預けた状態だけど。 ×キャラが拳を僕・・・・・・つーか、シオンに対して叩きつけてくる。 だからシオンも、右拳を握り締めてそのまま直進。拳で突きを放つ。 黒い拳とシオンの拳がぶつかり、衝撃がはじけた。 「中々力強いですね」 【そうだね。さすがに苦戦は必死か】 「ですが問題はありません。・・・・・・私という伝説、その身に刻み込みなさい」 互いに後ろに跳んで、数メートル距離を取る。取って、そこでにらみ合う。 「ハートロッドッ!!」 後ろから、あむがロッドを投げる。 「スパイラルッ! ハートッ!!」 ロッドはピンク色の光を放ちながら回転して、×キャラに向かう。 ×キャラは、それを右に大きく跳んで避けた。そこを狙って、シオンが踏み込む。 「・・・・・・と、その前に」 なんかやるんかいっ! うん、予想してたわっ!! 「ここは、ノリよく行きませんと」 シオンは右手を高く掲げて、指をパチンと鳴らした。 ≪The song today is ”Free your Heat”≫ そうして、どこからともなく流れるのは・・・・・・これ、ヒートメタルのテーマソングじゃんっ!! 「シオン、アンタなにやってんのっ!?」 「あら、これくらいは」 シオンが、言いかけて止まる。×キャラが突進して、右拳を叩きつけてきたから。 シオンは右手でそれを払うようにしていなす。×キャラは、僕達の右脇を通り過ぎた。 「させて欲しいですね。だって、楽しくないじゃないですか」 ×キャラは振り返って、もう一度右拳を振るう。 『ムリッ!!』 シオンは振り返りつつ手首を狙って右で手刀を打ち込む。そうして軌道を逸らして、攻撃を無効化する。 でも、続けてくる。右、左、右、左と立て続けに拳は打ち込まれていく。 『ムリムリムリムリムリムリッ! ・・・・・・ムリッ!!』 シオンはそれを後ろに下がりながら同じように払う。 何度目かの左拳での攻撃を払うと、×キャラの右足が動いた。 『ムリっ!!』 シオンの腹に向かって、真っ直ぐに蹴りが叩き込まれる。シオンは身を時計回りに翻しながら避ける。 回避しながら右手で×キャラの背に向かって裏拳。そこで体勢が崩れたので、×キャラが振り返る前に左拳で1発。 左の脇腹の方に攻撃を喰らいながらも、×キャラは左手で裏拳をかます。シオンはしゃがんで避ける。 避けつつも右拳で腹に向かって拳を叩きつける。×キャラは後ろにたたらを踏んで、下がる。 シオンはゆっくりと起き上がりながら近づく。×キャラが体勢を整える前に、右拳でもう1発。 ×キャラは、それを先程自分がやられたように払う。払うけど、シオンの拳が止まった。 クルリと手の平が開いて翻ったと思うと、×キャラの腕が捻られた。 『ムリッ!?』 「迂闊ですわ」 右足が動く。横から動けない×キャラに向かって、合計三回の蹴りが叩き込まれる。 叩き込んで、シオンは右手を離しながらも脇腹を蹴る。蹴って、×キャラを吹き飛ばす。 ×キャラは吹き飛ばされながらも、両手をかざした。その両手から、黒い弾丸が襲ってくる。 シオンは右に転がりながらそれを避ける。だけど、追いかけるようにまだ襲ってくる。 「わわわわわっ! 危ない危ないっ!!」 【あむちゃん、しっかりー!!】 とりあえず、シオンは右手からあるものを出す。 「アックスガン」 ≪どうも、私です≫ シオンはアックスガンを持って引き金を引き、弾丸を撃墜。だけど、完全に足が止まってしまった。 ×キャラはそれを見て、更にシオンに弾丸を放とうとする。というか・・・・・・放っている。 ≪あなた、まずいですよ。遠距離戦苦手なのに≫ 「分かっています。・・・・・・お姉様、すみませんが」 「待って」 後ろから声がかかる。その声は・・・・・・ダイヤだった。 てゆうか、いつの間に来たんだろ。弾丸の雨あられなのに。 「恭文君」 【何っ!? 今、すっごく忙しいんだけどっ!!】 「ごめん」 ・・・・・・だから、何っ!? お願いだから状況を読んでー!! 「あなたには確かに輝きがある。でも、まだ足りない。私にはあなたの輝きが、まだ少ししか見えない」 【そんなことはいいからっ! ね、ヒカリとキャラなりしていいっ!?】 「なぜ歌唄ちゃんやあむちゃん達がそこまで惹きつけられるのか、実はよく分からないの」 え、完全無視っ!? この状況でマイペースな奴だなぁっ!! 「だから見極めるわ。あなたという人間を、あなたの輝きを・・・・・・強く」 【てゆうか、リインフォース・ライナー使ってやるっ! 今日はちゃんと酢昆布持って来てるんだっ!!】 だったらこっちだって無視しちゃうよっ!? ほら、どんどん弾丸撃ちまくられてるしっ!! このままじゃ、普通に僕達蜂の巣寸前なんだからっ! お願いだからまず空気と状況を読んでっ!! 「ダメよ。あなたは私とキャラなりするんだから」 『はぁっ!?』 「私と恭文君のこころ・・・・・・アンロック」 僕の身体を、瞬間的に金色の光に包まれる。その光が、僕達の周囲の闇色の弾丸を消し去った。 身体の奥から、感覚が戻ってくる。ヒカリやシオンとのキャラなりが解除された時に感じる特有の感覚。 「な、なにこれっ!?」 口から出てきたのは、当然僕の声。声も、ちゃんと僕の物に戻ってた。 【・・・・・・すごいわ。これが、あなたの輝き。心の奥底に眠っている、星の光】 ジガンは両手に装備され、金色に光る。両足は、足首までの黒の編み上げブーツ。 ジーンズ生地のパンツに、銀色で四角いバックル。その中央には、金色のダイヤのマーク。 白いシャツに、明るい色合いの翠のジャケット。両肩と両手の甲に、ダイヤのエンブレムがある。 右腰には、大きめで四角い銃身の銃。僕はそれを右手で引き抜く。 引き抜いて、トリガーガードに人差し指を入れて、クルリと1回転させながら胸元まで持っていく。 その銃身はダイヤ型で、基本色は青。そこに黒で十字が刻まれる。 その十字の交差部分に、金色でダイヤの柄。グリップエンドに、青色の宝石が埋め込まれてる。 てゆうか、これはギャレンラウザーだし。銃身の上部分にカードリーダーもあるし、グリップ上にはカードスロットもある。 試しに左手でそれを展開させると・・・・・・あぁ、そのまんまだ。そっか、ダイヤだからギャレンなんだ。 僕は10番のカードを引き出して、カードをスラッシュ。なお、絵柄は金色の『♪』マークだった。 ≪The music today is ”ハードボイルド”≫ 【「・・・・・・キャラなり」】 スロットを左手でさっと閉じながら、僕は銃口を×キャラに向けて引き金を引く。 連射された金色の弾丸が×キャラの弾丸を撃ち抜き、撃墜していく。そんな中、僕は名乗りを上げた。 【「ギャレンカラットッ!!」】 ・・・・・・これ、ダイヤとキャラなりしてるんだよね。てゆうか、普通にお告げ来たし。 ≪てゆうか、今度は銃ですか。なんか色々変身しますね≫ 言いながらも、僕はゆっくりと足を進める。色々混乱しまくってるけど、まずは目の前の事だよ。 【・・・・・・これがあなたの輝きなのね。全てを認め、受け入れる強い心。 未来を、可能性を強く信じて何も諦めない心が、あなたを輝かせる】 「僕は弱いよ」 片手持ちで銃を撃ちながら、僕は走った。僕と×キャラの間で、弾丸同士がぶつかり合う。 「だから・・・・・・引きずってるだけ。引きずるから、全部持ってく覚悟を決めるしかないだけ」 ぶつかり合った弾丸は小さな爆発し合う。×キャラも・・・・・・踏み込んでくる。 【でも、それは強さでもあるわ。だからあむちゃんや歌唄はあなたの輝きに惹かれた。・・・・・・恭文君】 「何っ!?」 踏み込んできて、右拳を振るって来た。僕はしゃがむように前転して、それを避ける。 避けながらも振り向いて、×キャラに向かい合う。×キャラは、こちらへと右足で蹴りを叩き込んでた。 「僕、すっごく忙しいんだけどっ!!」 それをギャレンラウザー化したアルトの銃身で受け止める。 ギリギリと受け止めながら、僕は襲撃に耐える。 【あむちゃんの事、お願い。あむちゃんが迷いそうなら、背中を押してあげて欲しいの。 あと、あなたが彼女の輝きにあなたが惹かれているなら】 なんかすっごい見抜かれてるっ!? コイツ、一体何者ですかっ!! 【それでいいと思うわ。だってそれは、年齢どうこうではなく今のあむちゃんを真っ直ぐに見ているからだもの】 だから、いきなり何を言い出すっ!? 普通に戦いに集中してー!! 【これだけ覚えておいて? それでこのままお願い。この子達をこんな風にしたのは私と歌唄ちゃん】 言いながら、僕は左手でスロット展開。 【でも歌唄ちゃんはもう動けない。だから、私が歌唄ちゃんの分まで罪を数えるわ。・・・・・・お願い、力を貸して】 「だったら」 そこから素早くカードを取り出す。数は三枚。 「最初からそう言えっつーのっ!!」 ×キャラの周囲に、弾丸が何発も浮かぶ。零距離で僕を狙ってるらしい。 「恭文、危ないっ!!」 【逃げてー!!】 もちろん逃げる。でも、その前にやることがある。 僕はそのカード達を連続で銃身上のリーダーにスラッシュ。 ≪Bullet≫ 引き出したカードは、二枚ともダイヤ。というか、スロットのカードは全部ダイヤ。 一枚目のダイヤの2は、硬質的に描かれたアルマジロの絵。カードの効果は、弾丸の威力強化。 ≪Rapid≫ 二枚目はダイヤの4。カードの効果は、弾丸の連射速度強化。 なお、絵柄はキツツキ。高速で木をつつきまくるのよ。 ≪Shine≫ 最後の一枚は、ダイヤの6。これは、属性付与。絵柄は・・・・・・蛍かな。 だから、お尻がピカーって光ってるの。なお、ギャレンの場合は炎・・・・・・あれ? ≪Shine Shot≫ とにかく、僕は後ろに大きく跳ぶ。そんな僕を追いかけて、黒い弾丸達は放たれる。 細かいことは気にせずに、両手でアルトを構えて、引き金を引く。 ダイヤの形をした銃口から、金色の弾丸が放たれた。 放たれた弾丸一発一発は、先程撃っていたそれより大きく、大きさで言えばソフトボール大。 その一つ一つが闇を照らすように、強く光り輝いている。それは×キャラの弾丸を撃ち抜き、全て着弾。 『ムリっ!?』 掃射された弾丸達に撃ち貫かれ、×キャラは蜂の巣になる。 後ろにたたらを踏みながら数歩下がっていく。その光景を、後ろに跳びながら見ていた。 「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」 空中を跳びながら、思考は混乱する。撃ってる本人がビックリ。 だって、カードの効果が違う。ギャレンの使える属性は、炎のはずなのに。 言いながらも、少ししゃがむようにして着地。しながら、僕はアルトを見る。 とりあえず、崩れ落ちながらもこっちを見てる×キャラは置いておいて、僕はちょっとシンキングタイム。 【恭文君、どうしたの?】 「違う。だって、ギャレンが使うダイヤの6のカードは炎のはずなのに」 だけど、出てきた属性付与の効果は・・・・・・シャイン。意味は輝き。どういうことですか、これ。 ≪どうやらアルカイックブレードと同じように、カードの内容が私達の知っているギャレンとは違うようですね≫ 「またこのパターンかいっ!!」 じゃあ、またカードを使うまで効果がどうなるか分からないじゃないのさっ! なんなのコレっ!! 「ダイヤ、キャラなりを解除で」 【嫌よ。私、もうちょっとこの輝きに触れていたいの】 「言ってる場合っ!? これだとコンボ成立するかどうかも分からないじゃんっ! 怖いのよそれっ!!」 【だから私は・・・・・・恭文君、前っ!!】 ダイヤの声がかかる前に、僕は両手で銃を持ってる。そして、引き金を引く。 だって、×キャラが迫っていたから。×キャラは弾丸をもろともせず迫る。くそ、まだやる気かい。 「分かってるよっ!!」 でも、そんな×キャラを止める光がある。それは、虹色の奔流。 「カラフル・・・・・・キャンバスッ!!」 あむが両手で持った青い筆を振るって、その奔流を放つ。×キャラは、大きく左に跳んでそれを避けた。 【キャラなり、アミュレットスペード。というか、久々の登場】 「・・・・・・恭文、あとでちょっとお話ね。主にあたし差し置いて、ダイヤと初キャラなりしてる事とか」 言いながら近づいてくるあむに、僕は素直に頷く事しか出来なかった。 【あむちゃん、それは簡単よ。私はもう一人のあなた。 つまり、私が彼とキャラなり・・・・・・一つになりたいと思ったのは、深層心理であなたが恭文君と】 「変なこと言うなー!!」 漫才始めた二人はともかくとして、僕は再び銃撃。・・・・・・銃は性に合わないけどさ。 その襲い来る弾丸を、×キャラは今度は避けた。左に走って・・・・・・え? 【あむちゃん、集中してっ! ×キャラ消えちゃったっ!!】 「・・・・・・あ、ホントだっ! あの、どこっ!?」 あむと自然と背中合わせにして、周辺の気配を探る。だけど、何も感じない。 ・・・・・・感じないけど、咄嗟に僕は左に向かって銃身を突き出してた。 振るわれたのは拳。それを銃身で、さっきの蹴りと同じように防御。 防御するけど、僕は数メートル吹き飛ばされた。でも、それは僕だけじゃない。 その次に、左足での回し蹴りが来る。その攻撃対象は、あむ。 あむは咄嗟に気づいて筆で防ぐけど、そのまま僕と同じように吹き飛ばされた。 【あむちゃんっ!!】 「く・・・・・・!!」 襲ってきた衝撃を払う暇もなく、僕は銃口を吹き飛ばされながらも前に向ける。 ×キャラに向かって、弾丸を連射。でも、×キャラは右に走って避けた。 というか、動き出した瞬間に姿を消した。弾丸は、そのまま素通り。 僕は撃ちながらも着地するけど・・・・・・なんですか、これ。 【多分、透明になる事で攻撃を無効化してるのよ。普通の方法じゃ、当てられない】 ≪攻撃を仕掛けてくる瞬間は大丈夫なようですけど、このまま攻めないのはアウトですよ≫ 【下手をすれば、逃げられるわ。・・・・・・だめ、私じゃ気配を掴めない】 「僕も同じく。くそ、こういうのは得意な方なのに」 ・・・・・・周辺を見渡しながら、頭を働かせる。というか、フル回転。 普通の方法じゃダメだ。だからあむも、苦い顔でキョロキョロするしかない。 待てよ。確かギャレンのカードに、こういう時に使えそうなの無かったっけ。 うし、ちょっとカードを全部おさらいだ。まず、ダイヤのAとJとQとKは変身用だから省く。 2がバレット。3はアッパー。なお、絵柄はカエル。 腕力強化による、アッパー攻撃が出来るカードなのよ。・・・・・・これはダメだな。 4がラビッド。5が、キック強化のドロップ。6がシャイン。 7がロックトータス。これは、石化現象を用いた、敵の拘束能力だっけ。劇中では使ってないけど。 8がスコープバット。もちろん絵柄はコウモリ。 これは索敵能力が強化され、標的の位置を正確に把握して狙いを定めるの。 9がジェミニ。自分の分身を、一体生成する。10は、これだとサウンドだった。 この中で使えそうなのは・・・・・・7か8? でも、カードの効果はそのままじゃない。 通常攻撃が素通りとかするんじゃ、ヒカリやシオンとキャラなりしても同じ。だったら・・・・・・賭けるしかない。 「きゃあっ!!」 「あむっ!!」 考えを纏めている間に、あむが背中から蹴り飛ばされる。蹴り飛ばされて、路面に転がる。 ×キャラはにやりと笑って、また姿を消す。それを見て、気持ちを更に固めた。 「・・・・・・痛ぁ」 僕はアルト上部のカードスロットを展開。左手で7のカードを取り出す。そのまま、銃身上のリーダーにスラッシュ。 ≪Lighting≫ カードの絵柄は、眩く光輝くダイヤ。そのダイヤで出来た甲羅を背負った亀。 【恭文君、そのままその子を上に向けて撃って】 僕は絵柄を疑問に思いながらも、ダイヤの言うように銃口を上に向ける。 そして引き金を引いた。放たれたのは、さっきの強化弾丸と同じくらいの大きさの弾。 いや、違う。純粋な光の球だ。それは10数メートル上に浮かび上がると、その輝きを増した。 辺りが僕の撃ち出した光の球に照らされ、まるで昼間のように明るくなった。 『ムリッ!?』 いきなりな眩しさに思わず目を細めると、声がする。咄嗟にそっちに向かってアルトを向けて、銃弾を乱射。 『ムリムリッ!!』 どうやら、×キャラに命中したらしい。着弾音が聴こえたから。 そっちを見ると、普通に×キャラが居た。というか、周りに白い膜みたいなのがある。 「や、やっぱりカードの効果が違う」 【あの光で、目に見えない相手を見えるようにする。それがこのカードの効果みたいね】 ≪いいじゃないですか。見えるようになったんですから≫ でも、それだけじゃなかった。弾丸を続けて撃つと、×キャラは全速力で左に疾走。 追いかけるように撃つけど、全然捉えられない。 「カラフル・・・・・・キャンパスッ!!」 あむもカラフルキャンパスをどんどん打ち込む。僕はあむの隣まで走り寄って、両手でアルトを構える。 狙うけど、全然当たらない。そして×キャラは、ニヤリと笑ってこっちに突っ込んできた。 『ムリィィィィィィィィィィィッ!!』 僕達は、左右に跳んだ。その間を×キャラが通過して、亀裂を刻む。 というか、ソニックムーブで軽く吹き飛ばされる。 【何アレっ! というか、見えるようになってもアレって反則過ぎるよっ!!】 「あぁもう、あとちょっとだって言うのにっ! あたし達どうすればいいのっ!?」 【あむちゃん、落ち着いて。こういう時こそ冷静になるの。 ・・・・・・相手の動きを止めて、一気に攻撃出来れば】 【でも、そのためにはこっちの攻撃が当たらないとダメだよっ!!】 その通り。そして、どうもこの形態は火力に乏しいらしい。もっと火力を上げないと、何も出来ない。 必殺攻撃、一発撃ち込んでるのよ? それでアレって、どんなボスキャラだよ。 【あむちゃんやラン達じゃ弱いわよね。それに唯世君達も傷が深いから、多分動きを止められない】 「だったら・・・・・・僕、ですか」 倒せなくても、あむがオープンハートで浄化出来るタイミングを作れればOKではある。 ピンピンしてるあむでも捉えられないとなると・・・・・・確かにこの手の奴は、僕の専門みたいなもんだしなぁ。 「ちなみにアルカイックブレードや普通の状態なら即でやれるけど」 【却下よ。私の意地を通せないもの。そして、罪を数えられない】 「・・・・・・あぁもう。これでなんとかしたら、また最強物って言われるのに」 僕はもう一度アルトのカードホルダーを展開。 取り出すのは一枚のカード。僕はそれをスラッシュさせる。 ≪The song today is ”Finger on the Trigger”≫ ・・・・・・音楽が切り替わった所で、続けて取り出すのは五枚のカード。 「アンタ、この状況で何やってるっ!?」 「あむ、僕がアイツの動きを止める。その隙に、一気に浄化して。 ・・・・・・唯世っ! いつまでもヘタってないで手伝ってっ!!」 2と4と6と8と9のカード。なお、コンボが成立するかどうかは、運任せ。 「つーか頼むから立ってっ! 唯世の力・・・・・・絶対に必要なんだよっ!!」 「・・・・・・分かったっ!!」 聴こえた声に満足しつつ、僕は目を閉じて数回呼吸して、集中する。 いつ飛び込もうかと僕達の周囲を走り回っている×キャラはそれとして、気持ちを高めていく。 「さて、最強を通しますか」 【あら、あなたの目指す魔法使いは、ある意味ではそっちの路線よ? 覚悟を決めるべきだと思うわ】 「そういうもんですか」 軽くダイヤと会話しながらも手は動かす。まずスラッシュさせるのは、2と4と6のカード。 【そういうものよ】 ≪Bullet・Rapid・Shine≫ ここまでのならさっきと同じ。だから、もうふた手間加える。 次にスラッシュさせるのは8のカード。なお、絵柄は金色のコウモリ。 ≪Homing≫ 聴こえてきた声に迷う暇もなく、最後のカードを使う。 分身しているような、シマウマの絵が描いてあるダイヤの9をスラッシュ。 ≪Illusion≫ 僕の左右にバチバチと音を立てて、人の形をした金色の光が現れる。 というか、僕の今の格好を象っている。そして僕は・・・・・・賭けに勝った。 ≪Shining Trigger Full Burst≫ 【これで決まりよ。私の・・・・・・私達の輝きで、絶望という闇を撃ち抜くわ】 僕はゆっくりと銃口を上に上げる。上げて、両手でグリップを持つ。 『ムリィィィィィィィィィィィ♪』 「無理じゃない。もしも希望ってやつがないと思うなら、それは勘違いだ。 希望は、そのための切り札は、何時だって心の中にある」 【だから自分を強く信じて。信じてその引き金を引いて、もっと輝くの。 未来を閉ざす壁を撃ち抜くのは、力じゃない。その勇気だけなんだから】 左右の僕の分身も同じく。僕の動きをトレースしている。 【「・・・・・・シャイニング・トリガー」】 銃口をゆっくり前面に向ける。×キャラは、今丁度僕達の真後ろ。 というか、突撃してくる。だけどそれに構わずに僕は、ダイヤと声を合わせて引き金を引く。 【「フルバーストッ!!」】 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 三つの銃口から金色に輝く光の弾丸達は放たれた。数は十数・・・・・・ううん、数十発。 本来なら×キャラには当るはずがない。でも、弾丸達は夜と言う闇を切り裂きながら、軌道を変える。 前に飛んだかと思うと、その全ては恭文の後ろから突撃してきた×キャラに殺到する。 ×キャラは余裕出していたのか、驚いたように表情を歪める。 『ムリッ!?』 眩く輝く光は×キャラの腹や肩、腕に胸を撃ち抜く。×キャラは身をよじって逃げようとするけど、無理。 凄い速度でただひたすらに、×キャラの全身を撃ち抜き続ける。その着弾音が周囲に響き続ける。 『ムリッ! ムリムリムリムリムリムリィィィィィィィィィィィッ!!』 輝きは闇を、空間を、世界を切り裂きながらただひたすらに飛ぶ。そのせいで、周囲がまた明るくなった。 弾丸の一発が×キャラの頭に直撃した。・・・・・・×キャラの頭の赤い×に、亀裂が刻まれた。 「・・・・・・日奈森さんっ!!」 【あむちゃんっ!!】 後ろから聴こえた声に返事せずに、あたしは・・・・・・右手で×キャラを指差す。 「ネガティブハートに、ロックオンッ!!」 きっとこれだけで大丈夫だから。大丈夫だって、知ってるから。 「オープン」 「ホワイト」 胸元のロックから生まれるのは、青い光。あたしはそれを感じながら、両手でハートマークを作る。 唯世くんのステッキからも、金色の光が溢れるように生まれる。だからあたし達は、それを放つ。 「ハートッ!!」 胸元から生まれた光は、あたしの手のマークを通って大きな奔流となる。 それはもちろん×キャラに向かって真っ直ぐに放たれた。 「デコレーションッ!!」 唯世くんもロッドの先を向ける。金色の光が、あたしのオープンハートと同じように直進する。 二つの光は×キャラを捉え、直撃し・・・・・・その中の絶望を、×を壊す。 『ムリ・・・・・・ムリムリムリムリムリィィィィィィィィィィィッ!?』 ×キャラの頭の×が完全に砕けた。砕けて×キャラは声をあげながら、一瞬で大量の×たまになる。 その×たま達は次々と白いたまごになって、空に高く浮かんでいく。・・・・・・浄化、出来た。 「・・・・・・日奈森さん、やったね」 「うん」 そう言いながら笑う唯世くんに、同じように笑顔で返す。・・・・・・あたし、やっぱ軽い女かも。 唯世くん見てても、前とはやっぱり意味合いが変わってる。友達って感じで見てるみたい。 「・・・・・・私達の出番、あまりありませんでした」 「そうだな。く、このままではどんどん影が薄くなるぞ」 恭文、とりあえず後でシオン達をフォローした方がいいと思うな。 だって、なんか膨れてるもん。アンタの中に居るダイヤに対して、恨みの視線をぶつけてるし。 【やったわね。・・・・・・恭文君、ありがと】 そう言いながら、ダイヤが恭文の中から出てきた。当然、キャラなりは解除される。 「よく言うよ。勝手にキャラなりしたくせに」 「そうね。でも、そんな私の事をずっと信じてくれた。だから、キャラなりが解けなかった」 「さぁ、どうだろ。僕はそこまで優しくないし」 「もう、素直じゃないわね。・・・・・・それでね、あむちゃん」 星のように輝くたまご達の下、ダイヤは嬉しそうに笑う。 「忘れないでね? 輝きは、あむちゃんの中にあるの。 何が有っても、どこに居ても、ずっと・・・・・・ずっと、輝き続けている」 「・・・・・・うん」 「だからまた会えるわ。そう遠くない内に、必ず」 ダイヤが、ゆっくりとたまごに包まれていく。・・・・・・そう、包まれていく。 だからあたしは、声を上げてそこに駆け寄る。 「ダイヤっ!? ちょ、ちょっと待ってっ!!」 「大丈夫。私はあなたの中にある。もう、分かるはずよ? あなたの輝きの名を」 「ダイヤっ!!」 「それじゃあ、みんな・・・・・・またね」 そのまま、ダイヤはたまごに完全に包まれて・・・・・・あたしの手元に飛んできた。 あたしはダイヤのたまごを優しく受け止めて、そのたまごを見る。 ×も付いてなくて、黒ずんでもいないたまごを。あたしは優しく・・・・・・抱きしめた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ こうして一つの事件は終わりを告げた。まぁ、後処理は色々大変だったけど。 その最も足る例はブラックダイヤモンドが、携帯式の人体改造装置だという事。 これには色々ビビった。ようするに歌唄は改造されかけてたのよ。そのせいで能力が上がってた。 もしあのままロストロギアの能力を発動し続けてたら、心のない生体兵器になるところだった。 最近の歌唄が好戦的で人間的反応に乏しかったのも、理由があった。 どうやらブラックダイヤモンドからのマインドコントロールを受けていたせいらしい。 もちろんそのためにCDにしたたまご達の事・・・・・・歌唄の罪が拭えるわけじゃない。 だから歌唄は罪を数えて・・・・・・新しい一歩を踏み出すことにした。 イースターは当然切り捨てられる形で辞める形になったけど、歌手を続けようと考えているらしい。 歌手を続けて、今まで以上に輝く。輝いて・・・・・・自分達が奪ったたまごの持ち主達に輝きを宿す。 強い輝きは人を惹きつける。そこから新しい輝きが生まれる事もある。だから、歌でそれを成すらしい。 あとは海里のお姉さんもだね。歌唄の関係者として、この後クロノさんの船であるクラウディアに連行した。 連行して歌唄が置かれていた状況と現状について説明したら、泣き出してしまったのよ。 で、歌唄と『相当な協議』を重ねた上で、歌唄のこれからの目標に相乗りする形になった。 後日、三条プロダクションという芸能プロダクションを立ち上げ、そこのタレント第一号が歌唄になる。 というか、イースターを歌唄と同じく切り捨てられる形でクビになったから、そのせいもあるみたい。 まぁ、ここは別の話だね。・・・・・・ただ、なぁ。うぅ、どうしようか。僕は色々と悩みがあるの。 なんかみんなには、あれから僕と歌唄が友達関係なのが理解出来ないようなのよ。 僕もそうだし、歌唄もそのつもりだというのがサッパリ分からないらしい。・・・・・・なんで? 僕はただ、歌唄と向き合って『話して』伝えて・・・・・・ここから新しく一歩を踏み出しただけなのに。 それは歌唄も同じくだよ。互いに溜まっていたものを一気にぶつけて、吐き出したからアレなだけ。 とにかくそこから海里の転校とか、なぎひこの転入決定とか色々あって・・・・・・現在、7月の半ば。 あの事件から1ヶ月も経って、ようやく僕とあむはあの約束を守れた。 それは・・・・・・久々に良太郎さんやモモタロスさん達、侑斗さん達と冒険した直後の話。 僕達は互いに、星を見ながら・・・・・・新しい一歩を、少しだけ踏み出す事にした。 「・・・・・・星、今日はすごく綺麗だね」 「うん」 Remixな超・電王トリロジー編の直後。あむは、今日はうちに泊まると連絡してしまった。 そしてそのために僕と一緒に星を見に来てる。ここはこの街の高台の上。 「でもさ、なんかまだ信じられないな。電王やゼロノスが実在してて、一緒に冒険したなんて」 「・・・・・・フェイトやティアナも、最初はそんな顔してたよ」 「あ、そうなんだ。なら、恭文は?」 「僕はね、すごくワクワクした」 草むらに二人座って、満天の星空を見てる。・・・・・・なお、たてぶえ座は無かった。 プラネタリウムの管理人・・・・・・聖夜小の理事長でもあった、司さんのホラだったのよ。 「不思議な事、知らない世界に触れられて、ワクワクした。みんなに会えて、すごく嬉しかったの リュウタと友達になったりしたのも大きいかな。うん、それは今でも同じ」 「そっか。なんか、アンタらしいな」 そこは残念だけど、それでもゆっくりと僕達は星を見てる。やっと、一息つけたから。 「・・・・・・ね、恭文・・・・・・それで、あのさ」 「うん?」 「その」 あむがじっと僕を見る。それで気づいた。瞳が・・・・・・揺れてる。 潤みながら、精一杯に僕のことを見てくる。だから、ちょっとドキドキし始めた。 「あたし、まだ子どもじゃん? 恭文と違って大人じゃないし、だからかなり考えたんだ。 もっと待った方がいいのかなとか、やめた方がいいのかなとか、かなり」 「・・・・・・うん」 「迷惑、かけちゃうかなとか沢山考えて・・・・・・・我慢、出来ないって気づいた。だから、言うね」 あむが胸元で握っていた両手が震えてる。瞳の揺れと同じように、震えて・・・・・・だからあむは両手を強く握る。 震えを止めようとして、強く。でも、それでも震える。寒いからじゃないのは、すぐに分かった。 「あたし、あたし」 あむは震えた唇で、声が掠れながらも僕の目を見て・・・・・・しっかりと伝えてくれた。 「恭文の事、好きなの」 だから伝わった。その言葉に胸が震えて・・・・・・苦しくなる。 「友達としてじゃない。男の子として、好き。恋・・・・・・してるんだ。 あの、唯世くんの事散々好きとか言ってて、いきなりこれ・・・・・・かなりないよね」 あむは慌てたように口を動かす。視線を伏せ気味にして、僕から目を逸らす。 「てゆうか、あたしは子どもだし、フェイトさんやティアナさんみたいに大人じゃないし、美人じゃないし、だめ・・・・・・だよね」 「・・・・・・あむ」 「分かってる。困らせてるだけだって分かってる。でも、その・・・・・・黙って、られなかったの。 あたし、もう抑えきれなくて、苦しくて・・・・・・あたしがもっと早く、生まれてたら」 「迷惑なんかじゃないよ」 両手をあむの両肩に伸ばす。というか、抱きしめる。あむの身体は・・・・・・震え続けてた。 というか、右の耳の近くで嗚咽が聞こえる。あむは泣き出してた。 「迷惑なわけ、ない。すごく嬉しいに決まってる。・・・・・・あむ、ありがと」 「・・・・・・ホントに?」 「ホントだよ。それで、あの・・・・・・返事、しなくちゃいけないよね」 あむの身体の震えが強くなる。だから、もっと強く抱きしめる。 あむの身体を温めるように、安心させるように。 「ダメ、だよね」 「・・・・・・ダメじゃ、ない」 「え?」 やばい、非常に言いにくい。すごく言いにくい。でも・・・・・・ちゃんと、言わなくちゃ。 「あむの事、好き・・・・・・みたいなんだ」 あむが、息を飲むのが聞こえた。とりあえず、誤解されないように続けていく。 「あの、恋愛感情とかとはまだ違うんだ。・・・・・・あむと一緒に居るの、楽しいから。 事件中にあむに背中押されたり、一緒に居る事が多かったり、ハグしたりしたよね?」 「うん」 「そのせいかな。さっきも言ったように、あむとの一緒の時間が・・・・・・好きになってきたんだ。 だから告白されて、今・・・・・・ほんの少し考えたんだ。あむと、そうなるのアリかナシかで」 「・・・・・・うん」 我ながらロリコンな答えと思いつつも、それでも・・・・・・やっぱり、ちゃんと言う。 「なんかさ、不思議な事に即答ではナシって答えが出ないの。もちろん今はちょっと難しい。 でも、あむと一緒に居るの・・・・・・少しずつ考えて、みたいなって。ほら、僕はフリーだしさ」 あむが黙りこくってる。やばい、やっぱりこの発現は引くのかも知れない。 だって、ロリコン宣言と同じだし。・・・・・・やばい、もしかしてバッドの選択? 「恭文」 「うん」 「歌唄の事、いいの?」 「・・・・・・いや、だから歌唄とは友達関係なんだって」 まぁ、冗談交じりで『周りはコレだし、本気で付き合おうか』なんて言われるけどさ。 でも、なんかこう・・・・・・フェイトの時みたいな恋愛感情はないかな。少なくとも、同じ感じではない。 「うー、そんなに信じられない?」 全部一度終わらせて、また始めようって言ったのに。ただそれだけなのに。 「かなりね。うん、かなり信じられないかな。だって恭文、相当浮気者だし。 普通にあの時ビックリしまくったし。だから・・・・・・よし、決めた」 「何を?」 「まず、マジで嬉しい。断られると思ってたから・・・・・・マジで、嬉しいの。 恭文、あたしの事子ども扱いしないで、ちゃんと見ようと考えてくれたの・・・・・・伝わった」 「・・・・・・うん」 「だからもうちょっとだけ、待っててくれる?」 あむが強く抱き返してきた。今まではただ抱きついていた感じなのが、今は抱きしめられてる。 「あたし、もうすぐ12なんだ。だから、4年・・・・・・ううん、1年待って。 それまでは友達。恋人候補というか、そういう感じ」 「・・・・・・いいの? てか、何故に1年」 「えっと、性的同意年齢って言うのがあるってリインちゃんから聞いて」 あのバカ何教えてるっ!? ヤバい、絶対に色々狙ってきてるしっ!! 「実を言うとさ、あたしも恭文に負けないくらい気の多い女だしさ」 「・・・・・・唯世の事だけだったら、そこまで気にする必要ないと思うけど」 「だけじゃないの。あの、イクトにドキドキしたりガーディアン入った当初は空海にもドキドキしたり」 ・・・・・・確かに気が多いわ。というかごめん、僕もそこは責められない。 過去に濃厚なアバンチュール、かましたりしたしなぁ。 「だからゆっくり・・・・・・気持ち固めていきたいんだ。 それでひとつだけお願い。恭文もあたしの事、見て?」 あむは、身体を離す。離して・・・・・・涙が零れ落ちる瞳で、僕を見る。僕を見ながら、あむは笑う。 「特別じゃなくてもいい。ゆっくりでいいから、あたしを・・・・・・見て、ください。 あたしも恭文の事見る。あたしも歌唄と同じ。ここから新しいあたし達、始めたいんだ」 「・・・・・・見ていくよ。というか、僕があむのこと、見ていたいんだ。 その、相当にロリコンな発言ばかりかましまくってるけど」 「大丈夫。てゆうか、恭文はあたしの気持ちにちゃんと応えてくれただけでしょ? ロリコンじゃないって。・・・・・・ありがと。あの、ホント・・・・・・マジで嬉しいの」 「僕も。あむ、ありがと」 また、あむを抱きしめる。その後ずっと、星空じゃなくてあむの事だけ見てた。 あむは・・・・・・ずっと、僕の腕の中で涙を流しながら、甘えてた。 普段のキャラとは違う、少しだけ臆病な女の子として。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・・・・・・・・・・あむと、その・・・・・・気持ちが通じ合って、一夜明けた。 初めて会った頃は、こんな風になるなんて思ってなかった。 ただ、面白くて楽しい子だなと思ってた。強い子だとも、思ってた。 でも、なんでだろ。・・・・・・背中、ずっと押されてたからなのかな。うん、押されてた。 今回の一連の流れの間で、ずっとだ。歌唄の友達としての僕でいいんだって、かなりね。 年齢という差はあるけど、やっぱり友達で仲間なのは変わらなくて、変えられなくて。 だから自然と距離が縮まって、手を繋ぐようになって、ハグするようになって。 なんというか、色々不思議なんだよなぁ。まぁ、将来に期待って感じだけどさ。 それでも・・・・・・それでも、だよね。僕はこの子と居る時間が好きで大切。 今は、それでいいかも。今は互いにどうなるか分からないから、これでいい。 一緒に歩いて、沢山色んなものを見ていく。そこから始めるだけで・・・・・・いいよね。 「・・・・・・お、おはよ」 「うん、おはよ」 ・・・・・・そう言って朝早くに二人で家を出て、二人だけで学校までの道のりを歩く。 まぁ、他の人に見られたら色々と面倒なので、手は繋がずに。 「なんて言うか・・・・・・その、気恥ずかしいね」 「そうだね。一応僕達、両想いみたいな感じではあるし」 今は友達で・・・・・・だけど、もうちょっとだけ深く互いを見ていく約束をした。 将来そうなる可能性を踏まえた上で、ゆっくりとした時間を過ごす・・・・・・僕達だけの約束。 「確かにそうだね。てゆうか、あの・・・・・・マジでありがと」 「ううん」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・あむちゃん、本気で色々振り切っちゃったんだね」 振り切ったな。私達しゅごキャラ五人は空気を読んで下がっているが、見ていて色々安心している。 なんだかんだであむは、ずっと恭文の側に居てくれた。二人の気持ちが繋がったのは、そのおかげなのだろう。 「それはお兄様もですね。まぁ、これから色々大変でしょうが」 年齢差に現状の立場・・・・・・あむが大人になるまでの時間は、決して短いものではない。 それに・・・・・・あのバカが今回の一件を解決するまでに、散々やらかしてるからなぁ。 「そうだね。・・・・・・あのさ、ボクはフェイトさんが心配なんだけど」 「何気に歌唄さんもですぅ。あとあと、ティアナさんはホントに大丈夫なんですかぁ?」 「・・・・・・そちらも大変でした。メイド服で普通にご奉仕しようとしましたから」 顔を真っ赤にして、もうキレ気味にメイドになった。・・・・・・恭文の奴、メイドに弱いしなぁ。 「もちろんフェイトさんとフィニーノさんでしっかりとお説教をしました。・・・・・・お兄様に」 「当然私達も参加した。さすがに今回は本当にやり過ぎだ。特に歌唄とやり合った時だな」 私達は不可思議空間で聞いていて、非常に頭が痛くなった。いや、ありえないだろ。アレは、ありえないだろ。 そしてもっとありえないのは、互いに恋愛感情0っぽいというところだ。どうなっているんだ、アレは。 「・・・・・・なんというか、夢を追いかける同志というかそういう感じなのでしょうか。それならまだ」 「あぁ、それならまだ分かるな。それならまだ私は理解出来る」 どっちにしても、あの時のやり取りの中に込められた想いは、二人だけの秘密か。 「てゆうかさ、恭文は本命が居ないと絶対マズいんじゃないかな。 好きな子が居ると自然と自重するけど、居ないとフラグメイカー振りがどうしても強くなっちゃう」 ミキが目の前の恭文とあむに視線を向けつつ、そう呆れ気味に言った。 そして私とシオンは顔を見合わせ・・・・・・納得したように頷き合った。 「なるほど。確かにそこは盲点だった。8年スルーの間でもここまでヒドくなかったらしいのは」 なお、情報源はサリエルさんとシャーリーだ。 「アイツの気持ちがフェイトに向いていたからか」 「そうそう。でも今は自由だから、自然にフラグ立てちゃうの」 まぁ、それ自体は悪い事ではないんだよな。ただアイツが、過去の恋愛を吹っ切れなかったのがダメなだけで。 やはりあむには感謝だ。あむがきっかけで本当に少しだけでも、フェイトから卒業し出したようだしな。 「・・・・・・あれ、そうなると恭文ってどんだけ?」 「でもミキ、だったらこれからは大丈夫なんじゃないかな。 あむちゃんとの事、将来的には真剣に考えるつもりみたいだし」 「そうなってくれるといいんですけど。というか、さすがに私達もこれ以上派手にやられると居心地が悪いですし」 「・・・・・・シオンもヒカリも、切実だね」 「切実だな。我が宿主は色々とバカだからな。だが、バカだからこそ共に居るのが楽しい」 バカだからこそ、開ける可能性がある。今回だってそうだ。・・・・・・だが、やはりまだまだ不安は拭えない。 だってアイツ、やっぱりバカだし。現に歌唄もそうだが、フェイトとも婚約って・・・・・・あぁ、やっぱりアイツは大馬鹿者だ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・ね、あむ」 「何?」 「僕、何気にフェイトと凄まじく仲良いの?」 歩きながら話していて、ふとフェイトの話になった。それで婚約した経緯なんて改めて説明した。 そうしたらあむが凄まじく不満そうなので・・・・・・ちょっと聞いてみる。 「普通に姉弟の交流のつもりだったけど、それを超えてるの?」 いや、確かにそういう風にしていけたらいいねーとは話してたけど・・・・・・え、マジでそうなってるの? 「アンタ、今頃気づいたの? あのね、もうリインちゃんレベルでフラグ立ちかけてるし。 本当によくよく思い返してみたらアンタの話、勘違いもいいとこだから」 「嘘ぉっ!!」 リインレベルって、一生離れられないとかそういうレベルっ!? え、そんなバカなっ!! だって8年スルーされてたし、普通に姉弟だし・・・・・・えぇっ!! 「嘘じゃないからっ! あたし、何気にフェイトさんにプレッシャー感じてるよっ!? 見ててリインちゃんの影がちらついてるし・・・・・・あぁもう、アンタどんだけフラグメイカー!?」 「そうなのっ!? というか、僕はどうしてこれを数年前に出来なかったのさっ!!」 「知るかぁぁぁぁぁぁぁぁっ! てゆうか、普通に浮気宣言に聞こえるからその発言はマジやめてっ!! アンタ、あたしの告白を一応でもOKしてくれたよねっ!? だったらそういうの禁止っ!!」 あ、あははは・・・・・・あむの視線がすごく厳しいなぁ。やばい、罪悪感が湧き上がってきてる。 おかしいなぁ。特にそういう事あったわけじゃないのに。普通に姉弟な関係続けてるだけなのに。 「ご、ごめんなさい」 「ま、いいけどね。あくまでも互いに見ていく所止まりだし。・・・・・・恭文」 「うん?」 あむが手を伸ばして、僕の手を強く握る。その力強さに、何かが伝わった。 「別に、フェイトさんやリインちゃんや歌唄とそうなってもいい。一夫多妻制でラブラブもしてもいい。 ガチに『アンタ×あたし+リインちゃん+フェイトさん+歌唄』になっても・・・・・・まぁ、納得する」 だから何も言えずに、ただあむの言葉を僕は受け止め続ける。 「でも、譲れない事があるんだ。それはあたしが、将来的に恭文の1番になるって事。 これだけは誰が相手でも譲りたくない。もちろん、あたしもそれが出来るように頑張る」 歩きながら、あむが僕の方を見ているせいかも知れない。 「あたし、アンタに今回みたいにフラフラされたくないんだ。そういうの嫌なの。 でもだからって縛りたくない。だから・・・・・・ここから、アンタにはあたしに惚れてもらうから」 昨日みたいに、あむを抱きしめている感じがする。ううん、あむに抱きしめられてる感じなのかも。 「あたしと居る時間だけじゃない。あたしの事も全部、本気で好きになってもらう。 それであたしは、アンタの隣に居たいんだ。誰よりも・・・・・・ずっと近くで」 「・・・・・・そうだね。それでずっとこうやって歩けたらいいよね。ううん、今から歩こうか。 二人で手を繋ぎながらさ。そうしたら、ずっと隣に居られるから」 「・・・・・・うん」 繋いだ手の温もりは、すごく柔らかい。そして、温かい。 あの出会いの日から繋がりを持った女の子は、今僕の隣に居る。 これからも・・・・・・まぁ、将来的な事は分からないとしてもさ、ちょっと思う。 この子とこうして一緒に歩いて、ずっと楽しく過ごせたらいいなと・・・・・・強く。 「じゃあ、学校終わったらちょっとお話。あ、フェイトさんも交えてちょっと尋問させてもらうから。 フェイトさんとどういう風に『姉弟の交流』をしているのか、あたしは非常に興味があるんだ」 「そこまだこだわっちゃうっ!? ・・・・・・あの、色々行き過ぎてるの?」 「話を聞く限り、将来の彼女候補としては色々面白くないのは確かだね。普通の姉弟は婚約なんてしないし。 うん、だから尋問だね。あたしがしっかりと尋問だね。・・・・・・徹底的に行くし逃げ場は与えないから、覚悟しておくように」 「お、お手柔らかに」 だから僕はあむと手を繋いで、一緒に歩いていく。こんな会話をしながらも、手は離さない。 太陽が上に昇り続けている朝の空気の中を真っ直ぐに歩いて、僕達は笑う。 前を見て、過去も今も未来も全部持っていって、二人一緒に一歩ずつ踏み出す。 二人揃って、幸せと嬉しさに溢れた笑顔を浮かべながら・・・・・・一緒に、進んでいく。 (日奈森あむとの場合・・・・・・おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |