小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ケース29 『日奈森あむとの場合 その11』
「ふん、あむ・・・・・・また役立たずのエルとキャラなり?」
「自分だって人のダイヤ使いまくってるじゃん。問題ないし。てゆうか、エルは役立たずじゃないし」
「役立たずよ。・・・・・・イル、キャラなり」
「・・・・・・うんっ!!」
瞬間、歌唄の姿が変わった。赤と黒を基調とした小悪魔の姿。
その姿のまま、悪魔っぽいトライデントを持って構える。あれは・・・・・・!!
【「キャラなりっ! ルナティックチャームっ!!」】
『・・・・・・誰?』
瞬間、歌唄がずっこけた。そして、すぐに起き上がる。
【待て待てっ! お前らなんだその反応っ!? アタシの事知らないってありえないだろっ!!
というか、普通にお前らは知ってるよなっ!? アタシら、友達じゃねぇかよっ!!】
「やかましいわボケがっ! 普通に散々敵対しておいて、今さらそこ持ち出すなっ!!」
≪というより、仕方ないじゃないですか。あなた、今の今まで出てきてないんですし。
で、今度は誰の×が付いたたまごを取ったんですか?≫
【アタシは普通に歌唄のしゅごキャラだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!】
「・・・・・・可哀想に、洗脳されてるんだね」
しゅごキャラを洗脳するなんて、なんて卑劣な・・・・・・!!
【違うからぁぁぁぁぁぁぁっ! マジで歌唄のしゅごキャラなんだよっ!!
頼むからやめてくれよっ! なんか悲しくなってくるだろっ!!】
「ごめんごめん。でもさイル、真面目に言う権利ないと思うんだ」
【ま、まぁな】
どうやら、洗脳・・・・・・じゃなかった、ここの辺りはちゃんと自覚があるらしい。
イルはとっても良い子である。うん、本当にそう思うわ。
「歌唄ちゃん、いくらなんでもひどいよ。人のしゅごキャラにそこまでするなんて。やや、信じられない」
「最低ね」
「ほしな歌唄、そこまで堕ちたのか。く、僕達がもっと早く気づいていれば」
【お前らまで信じるっておかしくないかっ!? 歌唄ー! なんとか言ってくれよー!!】
「そうね、人のしゅごキャラかも知れないわね」
歌唄は冷たく言い放った。冷酷に、本当に当然のことのように。
「だって、イルはダイヤに比べると役立たずだもの。エルと同じね」
【うた・・・・・・う】
【・・・・・・また、否定するですか? その子だって、あなたの中から生まれてきた存在ですよね。
エルと同じように、あなたの夢や願いが詰まってるですよね?】
「えぇそうね。でも、否定するわよ。私は甘さを捨てたから」
「そう、だからこそ歌唄は輝いている」
出てきたのはダイヤ。そして、僕とあむを見る。
「聞こえる。こころの輝き。あなた達はやっぱり、輝きが弱い。あなたは・・・・・・迷子。友達は救えても、自分は救えない。
たまごの×は取れても、自分の×は取れない。だから、あなたはふわふわしててあいまい。だから、輝きが弱い」
その言葉に、僕の側まで来ていたあむが止まる。瞳には、明らかな動揺の色。
”恭文、もしかすると・・・・・・ダイヤは、相手の心を読む能力があるのではないか?”
聴こえてきた声は、毎度おなじみな安全空間に隠れてもらっているヒカリから。で、シオンも当然一緒。
”なるほど。だからこそ、日奈森さんの本質を見抜くような事を言って来ている”
”マジかい。だとしたら、なんつう性質の悪い能力だよ”
だけど、それだけで終らない。次が来た。
「そして、あなた」
そう、僕だ。当然のように、コイツは・・・・・・僕を見下す。
「あなたはこの中で1番ダメ。あなたはただの屑鉄。傷だらけで錆びだらけ。
後悔と迷いを振り切ることもせず、捨てる事も出来ない弱い屑鉄」
・・・・・・ほう。
「あなたは一生輝きを手に出来ない。そして、そんなあなたは誰からも理解されない」
まだ続く。そして、それはある意味では正解だったよ。ちょうど2年前に、相当ゴチャゴチャしたしね。
「輝きはその大きさは別として、自分以外の人との繋がりを作る。光はそれ同士が繋がり合う。
だけど、あなたは誰とも繋がる事が出来ない。あなたの屑鉄は、輝く事が出来ないから」
コイツの言っている事は、事実だ。ホント、覚えがあり過ぎてやんなるくらいだよ。
「むしろ、あなたは闇。輝けないあなたはそうやってずっと一人ぼっちの場所に行く。
そんなあなたでは、今の歌唄には勝てない。輝けない、輝こうともしないあなたでは、誰にも勝てない」
「勝てるさ」
そのまま、足を踏み出す。くだらないたわごとは、鼻で笑ってだ。
「捨てる事が強さなら、後悔と迷いを置いていくことが強さだって言うなら、僕は弱くていい。そんな強さ、いらない。
そんな輝きも理解も、いらない。ずっと一人の場所? 上等だよ、遠慮なく行ってやる。つーか、お前何様だ」
そしてもう一歩踏み出す。迷いも、躊躇いも、全部抱えて、その上で迷わずに。
「この三流根暗野郎が。いちいちねちっこくこんな話をしなきゃ勝負できない時点で、お前だって輝けてないだろうが」
「・・・・・・なんですって」
強さというものへの答えなんて、人それぞれだ。歌唄やお前の答えだって、一応その一つ。
だけど、それは僕の答えとは違う。そう、たったそれだけなのよ。
「いい? 自分の答えが絶対の正解だなんて思うな。そしてその答えを他人に押し付けんな。
自分の答えは、あくまでも自分を動かすためだけのものなんだ」
だから、ある意味では理解なんてされなくて当然なのよ。求めることそのものが、傲慢とも言える。
「相手の答えを理解するつもりがないなら、口を開くな。うっとおしいんだよ」
あ、表情が少し変わった。怒っている感じに見える。どうやらこれで反論されるとは思ってなかったらしい。
まぁ、それはこっちにも言えることだけどね。歌唄の答え、歌唄の願い、ぶち壊しに来たんだから。
【あなた、何か勘違いしているようですね。リイン達は鉄だから強いのです。
そんじょそこらのチャラ男さん達と一緒にしてもらっては困るのです】
リインが続ける。躊躇いなく、僕の中からダイヤを見ているのが分かる。
【なにより・・・・・・恭文さんが理解されない? 嘘です。少なくとも私は、恭文さんの事を知っています。
心と心、魂と魂が繋がっています。沢山の時間と沢山の思い出。そして、これから出来る沢山の今】
声は、決して揺らがない強さに溢れてる。・・・・・・やっぱり、リインと一緒に戦うのはいい。
一緒に戦ってるだけで、すごく強くなれる感じがする。
【それらが私達を繋げてくれます。それを否定する輝きなら、リインもそんなのはいりません】
≪嘘だと思うなら、試してみればいいじゃないですか。あなたやほしな歌唄の言う輝きを。
その全てを、私達が全部叩き斬ってあげましょう。そして砕いてあげますよ。その無駄な自信を≫
「つーか、もっとシンプルに行こうよ。この状況で出すべき答えは二つに一つ。
お前らが僕達に潰されるか、ぶっ飛ばされるかのどっちかだ」
「・・・・・・そう、それがあなた達の答え。あなた達、一体なんなの?
輝きの意味も、私達の強さも理解出来ないなんて、愚かだわ」
バカな事を聞くから、鼻で笑って答えてやる。
「お前よりは愚かじゃない、通りすがりの古き鉄とその嫁とパートナーだ。・・・・・・・覚えておけ」
僕の言葉に返さずに、ダイヤは空高く飛ぶ。僕達を見下ろす。いや、見下す。
「歌唄、どうやら彼らには何を言っても無駄みたい。だから、見せてあげましょう。
あなたが持つ本当の輝きというものを。そして、その強さを」
「やってみれば? でも、それでも僕達は負けない。
・・・・・・言ったでしょうがっ! 僕達はかーなーり・・・・・・強いってさっ!!」
僕のその言葉が、戦闘開始のゴングとなった。
右足から踏み込み、真正面から突っ込んで来たのは・・・・・・歌唄。
「リリントライデントっ!!」
アルトを抜き打ちで打ち込み、トライデントの軌道を逸らす。いや、弾いて足を止める。
「・・・・・・くくく。恭文、私、アンタとマジで勝負してみたかったのよ。
さぁ、戦いましょうっ! きっと楽しくなるわよっ!!」
「そうだね。それで」
僕はそのまま、唐竹にアルトを叩き込んだ。歌唄は、刃を受け止めようとする。
「僕に徹底的にぶちのめされてろっ!!」
斬撃は受け止められなかった。だって、トライデントを真ん中から真っ二つにしたんだから。
歌唄は、トライデントを手放してすぐに後ろに下がった。下がりつつ、技を一つ発動。
「ナイトメアローレライっ!!」
その先に光が灯り、暗めの赤で輝く蝶達が飛ぶ。僕は、咄嗟に左に大きく跳んでそれを避けた。
・・・・・・って、これすっごい見覚えあるしっ! まさかあの時猫男との勝負を邪魔したの、お前かいっ!!
「・・・・・・もらったぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
回避している間に上から声がする。その下には・・・・・・あむ。
何時の間に移動したっ!? くそ、コイツマジで能力上がってるしっ!!
「あむ、避けてっ!!」
「そ、そんなことを言われましてもー! エルっ!!」
【ハイなのですっ! ・・・・・・ホワイトフラッグ・W(ダブル)プランなのですっ!!】
そう言って、あむの両手に二本の白旗・・・・・・おーいっ! そんなんでマジでどうするつもりだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?
そして、歌唄はトライデントを振り下ろし・・・・・・・・・え?
『・・・・・・受け止めたっ!?』
「受け止められたっ!?」
「受け止めちゃったっ!?」
あむは白旗二本を交差させて、振り下ろされたトライデントをギリ受け止めたのだ。
【無抵抗の抵抗なのです】
でも、無抵抗の抵抗には限度があった。次の瞬間、分かりやすいくらいにへし折れる音が響いたから。
【え? ・・・・・・お、折れましたぁぁぁぁぁぁっ!!】
「やっぱり役立たずは役立たずねっ! もらったぁぁぁぁぁっ!!」
≪Sonic Move≫
瞬間、蒼色の閃光が生まれる。その向かう先は、当然のように歌唄。
あむにトライデントを振り下ろそうとしたあのバカに向かって、まっしぐら。
その閃光である僕は、左薙に刃を叩き込んだ。
歌唄は咄嗟にトライデントを盾代わりにして、それを受け止める。
「く・・・・・・!!」
「はぁぁぁぁぁっ!!」
僕は、そのままアルトを振り抜く。歌唄はそのまま、勢いよく吹き飛ばされた。
歌唄はと言うと、受身を取り地面をすべるように着地。そこを狙って僕は飛び込む。
「ナイトメアローレライッ!!」
歌唄がまた蝶の散弾を撃ってくるけど、それを回り込んで余裕で回避。
・・・・・・甘い。力がアップしてるからって、素人の攻撃を簡単に食らうわけにはいかないのよ。
だけど、歌唄はギリついてこれるらしい。後ろに回りこんだ僕に対して、即座に反応。
右手で再びトライデント出しながらも、打ち込んできた。僕は、後ろに下がって避ける。
「潰れなさいっ!!」
薙ぐように振るわれたトライデントは、途中でその軌道を止める。
止めて、その切っ先が突き出された。後ろに下がって避けていた僕に向かって。
僕はそこからジャンプ。歌唄に飛び込みつつアルトを両手でしっかりと握る。握って、身体を縦に回転させる。
そのまま縦回転での斬撃が歌唄を襲う。歌唄はそれに目を見開いた。
「飛天御剣流・龍巻閃」
歌唄は咄嗟に自身の周りに赤い防御フィールドを形成。
それが斬撃を一瞬だけ防いだ。でも、本当に一瞬だけ。
「嵐・・・・・・もどきっ!!」
斬撃は見事に障壁を砕いた。砕いて、そのまま歌唄に襲いかかる。
歌唄は左に跳んだ。跳んで、地面を滑りながらも着地。
僕の一閃は、ただ地面を砕くだけだった。着地してから、すぐに前に走る。
歌唄が飛び込んで、トライデントを突き出していたから。走って、それを避ける。
避けつつ、僕は左手を後ろにかざす。そして、指先を歌唄に向ける。
≪Stinger Ray≫
放たれたのは、閃光。なお、数は3発。歌唄は、それをトライデントで全て打ち払う。
そのまま、僕達は対峙した。距離は・・・・・・もう、互いに射程距離。
”・・・・・・お兄様”
うん、予想よりそうとう強い。くそ、普通にただ使ってるだけじゃなくて、使いこなそうとしてるわけですか。
”お兄様、リミットは・・・・・・あと10分です”
聞こえてきたのは、シオンの声。てーか、いきなり時間制限付けるっておかしくない?
”ロストロギアの危険性と、彼女の性格を鑑みれば、それ以上の戦闘は危険です。
このミッション、長引けば長引くほど、成功確率は低くなっていきます”
つまり、本当に速攻で勝負をつけないとヤバいってことか。
でも、10分・・・・・・昨日の海里の時みたいに、手こずるのはアウト。
”そういうことだ。恭文、場合によっては私達も出るぞ。あまり時間もないしな”
”うん、分かってる”
さて、もうちょっと集中するか。・・・・・・マジでそうしないと、色々とヤバイ。
「・・・・・・恭文、この程度じゃないわよね?」
「当然。せっかくのパーティーだもの。もうちょい楽しまないと、つまらないでしょ」
「あら、分かってるじゃない。そうね、楽しまないと駄目よね」
「そうそう。でも、どうせ楽しむなら」
突撃して、アルトを打ち込む。歌唄は、トライデントを突き出す。
槍と刃が衝突して、互いにせめぎ合いを始めた。
「歌唄と二人、ベッドの中でエッチな事の方がいいんだけどなっ!!」
「へぇ、なかなか楽しい事を言うわねっ! でもあいにく・・・・・・アンタが見た通り、私は身も心もイクトのものなのっ!!」
ギリギリと、音がする。それなのに僕達は・・・・・・楽しげに笑っていた。
「僕は過去の男の事なんて気にしないけどっ!? てか、初恋の相手を乗り越えられるなんて、最初から思ってないよっ!!」
「あら、それは嬉しいわねっ! でも、それでも私はアンタのものになる予定なんてないわよっ!!」
笑いながら、戦ってる。そう、僕達は・・・・・・この瞬間、この時間を楽しんでいた。
【待て待てっ! お前ら、何の話してんだっ!?】
【そうですよっ! リイン達置いてけぼりじゃないですかっ!!】
『細かい事は気にしないっ!!』
【【するからっ!!】】
一度刃を弾き、数歩下がる。そこからまた一気に踏み込んで、右薙にアルトを打ち込む。
歌唄も同じようにしてトライデントを振るう。アルトとトライデントが交差して、火花を散らす。
続いて打ち込まれた柄尻を僕はしゃがんで避ける。歌唄はそこから続けてトライデントを唐竹に振るう。
もちろん、攻撃対象は僕。僕は右に跳んでそれを避けて、歌唄の左サイドを取る。
左薙に斬撃を打ち込むけど、歌唄に見切られて受け止められた。
そのまま、互いに顔を近づけて力と相棒を押し込む。
「歌唄、知ってるっ!? 愛って奪い取るものらしいよっ!!」
「そうねっ! もし本気で私のことが欲しいなら・・・・・・私の全部を、力ずくで奪いとってみればっ!? もちろん、させないけどねっ!!」
「へぇ、力ずくならオーケーとっ! また分かりやすい事言ってくれるじゃないのさっ!!」
「当然でしょっ!? 私、シンプルなのが好きなのよっ!!」
互いに押し込むけど、どっちも引かない。僕もそうだし、歌唄も。
そして、また僕達は笑っている。本当に楽しげに・・・・・・笑う。
「だったら、そうさせてもらうよっ! 身も心も僕のものになってもらうねっ!!
それでこの後は、僕と朝までお楽しみコースだっ! 絶対寝かせてあげないからっ!!」
「そう、だったら楽しみにしてるわっ! どうせ無理だとは思うけどっ!!」
【・・・・・・・・・・・・なぁ、お前も大変だな。コイツら無茶苦茶だしよ。
てーかよ、軽口でこれだけ言えるって、ある意味才能だよな】
【そうですね。リインたち、完全に置いてけぼりですしね】
【【はぁ】】
そこまで言って、同時に後ろに大きく跳んで20メートルほど距離を取る。
そこから、互いに反時計回りに動く。一歩ずつ動きながら、互いに相手を見据える。
動きつつ、相手の隙や身のこなしを観察して・・・・・・また踏み込む。
・・・・・・あむが若干空気だけど、気にしてはいけない。さぁ、ケンカだケンカ。
ようやく、ここまで来た。だから・・・・・・全力で、奪い取る。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「みんな、僕達も続くよっ!!」
「唯世、あのセクハラな戦いに飛び込むつもり? なによアレ、普通に口説いてるだけじゃないのよ」
「・・・・・・真城さん、そこは触れないであげよう?」
【アイツはどれだけ歌唄と仲良しなんだ。普通にアレはあり得ないだろ】
蒼凪君、絶対後先考えてないよね? うん、なんだか分かるようになったの。
というか、歌唄ちゃんまで・・・・・・僕達、さっきまで顔赤くして止まっちゃってたよ?
「ここは作戦通り、ほしな歌唄は蒼凪君に任せる。僕達は別働隊だよ」
「そうだね。やや達、きっとお邪魔だし」
【戦闘能力どうこうだけの話じゃなくなったでちよ。なんでちか、あのラブラプ振りは】
うん、色んな意味で僕達はお邪魔だと思うんだ。・・・・・・レベルが、違い過ぎる。
あの動き、とてもじゃないけど今の僕達ではついていけない。だから、僕達は別のところを狙う。
「キング、すぐに近辺を捜索しましょう。マスターCDと姉さんは何とかなりましたし」
うん、そうだよね。蒼凪君が電気でビリビリーってした上に、真城さんがタイトロープ・ダンサーでグルグル巻きにしたもの。
マスターCDも、それと思われる物を回収してる。それも・・・・・・二枚あった。
【姉上殿も用心深い。一枚ダメになった場合を考えていたか】
【だが、これだけでは足りないぞ。音源データが更に別に存在する可能性もあるからな。
僕達は完膚なきまでに、マスターCDが制作不可能な状態にしなければならない】
・・・・・・三条ゆかり自体を止めておいて、正解だったよ。
そうじゃなかったら、きっと予備のマスターCDを使われてた。
【えっとー、そうなると・・・・・・どうすればいいのー?】
「簡単よ。音源が録音されている以上、ほしな歌唄はもう用済み。だから、今必要なキーは三つ。
一つは三条ゆかり、一つはマスター音源、最後は・・・・・・×たまよ」
今真城さんが言ったように、僕達がやらなきゃいけないことは残ってる。それが×たまだ。
蒼凪君達がロストロギアを止めている間、僕達が昨日みたいに棒立ちは出来ないもの。
「そうです。マスターCDは、大量の×たまのエネルギーがあって初めて完成できます。ならば」
【ヘリに運び込まれていなかっただけで、近辺に×たまがあるのは間違いないぞ】
僕達が目指すのは、完全勝利。一部の隙も、矛盾の無い勝利が僕達の目指す所。
フェイトさんやランスターさん、局の人間に文句なんて付けさせないくらいの、大勝利だもの。
「後はこの近辺にあると思われる×たまを何とかすれば、完全にこの計画を潰せます」
「うん。・・・・・・みんな、それでいいね?」
真城さんと結木さんが頷く。そして、僕達は走り出す。・・・・・・蒼凪さんと日奈森さんなら大丈夫。
そう考えて踏み出し、数メートルの距離を駆ける。目指すは、近辺にあると思われる×たま。
「・・・・・・スラッシュ」
頭上から声。僕は咄嗟に手に持ったロッドを掲げる。
同時に声の方に視線を向けると、そこには両手に爪を生やした不吉な黒猫が居た。
「クロウっ!!」
生まれた二つの黒い斬撃。それが僕達の頭上から振り下ろされた。
「ホーリークラウンっ!!」
僕が発生させた金色の光の盾は、それを防ぐ。その間に、猫男がヘリポートの路面に着地した。
「・・・・・・歌唄とチビのタイマンの邪魔はさせない。お前らの相手は俺だ」
【キャラなり、ブラックリンクスにゃっ!!】
そう、猫男だ。だから、ロッドを強く握り締めて・・・・・・そいつを睨みつける。
「月詠・・・・・・幾斗っ!!」
「やはりあなたが来ますか。キング、助かりました」
三条君が二刀を構えながら言って来た。それに対して返事しようとした時、僕は気づいた。
「てゆうか、タイマンじゃないしー! あむちーのこともお忘れなくー!!」
「何言ってんだ? あむは空気になってるだろ」
「あ、そっか」
「やや、納得してどうすんのよ。・・・・・・言っておくけど、邪魔するつもりはないわよ?」
真城さんが警戒しながら、両腕を身体の前に持っていく。
「私達、×たまを浄化したいだけだから」
【にゃはははははっ! だったら邪魔させるわけにはいかないにゃー!!】
この声は、ヨル? あぁそうだ、月読幾斗のしゅごキャラのヨルだ。
泥棒猫のしゅごキャラらしく、野良猫を気取ったキャラだ。
【イースターには、歌唄や二階堂みたいに×たまを大量に抜き出せる奴はもう居にゃいっ!!
これでお前達に×たま浄化されたら、困るんだにゃっ! だから邪魔をするにゃっ!!】
「・・・・・・そう。それは良いこと聞いたわ」
【ほんとほんとー。ここで×たま浄化しちゃえば、もうマスターCDは作れなくなるってことだよねー?】
【え?】
もちろん今ヨルが言った事が、本当ならということになる。
でも、こうやってわざわざ邪魔するということは、可能性はかなり高い。
「・・・・・・ヨル、お前」
【しまったにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! い、今オレが言った事は嘘だからなっ!? イースターにはまだまだ強いヤツが沢山居るんだにゃっ!!】
「バカ、今更遅ぇよ。まぁ、そういうわけだから」
不吉な黒猫は、身をかがめる。かがめて、僕達の身長より低くなる。
爪は鈍く輝き、その四つ足な構えはまさしく猫。・・・・・・それで、気づいた。
「お前達は、ここで足止めだ」
月詠幾斗の左手に、輝く四葉のクローバーを模した鍵があるのを。
「あれは、ダンプティ・キーっ!?」
日奈森さんの持つハンプティ・ロックと対を成し、同じ力を持つキー。不吉な黒猫に奪われたものの一つ。
・・・・・・あ、そうかっ! だからなんだっ!!
「それか・・・・・・! それの影響で、ほしな歌唄がダイヤの力を使えたのかっ!!」
「だろうな」
日奈森さんにエル、日奈森さんのしゅごキャラに蒼凪君がキャラなり出来るのと、同じなんだ。
ダンプティ・キーの影響を受けたから、ダイヤとのキャラチェンジも使えて、マスターCDも作れた。
「で、どうする? 知っての通り、お前達じゃ俺には勝てない」
【お前達の頼りのチビも歌唄にかかりっきりだし】
≪Stinger Ray≫
瞬間的に、閃光が走る。それを月詠幾斗は左腕に受けて、吹き飛ばされた。
すぐに受身を取って構えるけど、左手には痛々しい痣・・・・・・え?
「誰が暗闇だと全く視認出来ないくらいに極少だっ! このクソ猫がっ!!」
言いながら、蒼凪君はまた歌唄ちゃんのトライデントと攻防を始めた。・・・・・・って、誰もそんな事言ってないよねっ!?
【イ、イクトっ! 大丈夫かにゃっ!!】
「なんとか・・・・・・な。てーかヨル、お前余計な事マジ言い過ぎ」
【ゴメンにゃー! てーかアイツなんなんだにゃっ!? 普通に耳がおかしいにゃっ!!】
「バカね、恭文に身長の話は禁句に決まってるじゃないのよ」
「そうか。だったら今後は気を付ける事にするわ。・・・・・・じゃあ、そろそろおっ始めようぜ?」
僕達は静かに構えた。そして見据える。目の前の・・・・・・敵を。だって僕達は、ここに『綺麗事』を通しに来たんだ。
「言われるまでもないっ! 僕達はお前を倒して、×たま達を助けるっ!!」
「そうか、だったら・・・・・・やってみろよ」
そのまま、月詠幾斗は低く、這うようにして飛び込んできた。
絶対に・・・・・・コイツだけは、絶対に許さない。蒼凪君じゃないけど、叩き潰す。
魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝
とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先の事
ケース29 『日奈森あむとの場合 その11』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・・・うぅ、まずい。マジでまずい。あたしは何にも出来てない。
戦いが凄過ぎて、全く手出しが出来ない。もっと言うと、ツッコミすら出来ない。
でも、だからってダイヤのたまごのことがあるから、見てないわけにはいかないし。
あぁもう、これどうすればいいのっ!? 誰か教えてよっ!!
「ねぇ恭文、せっかくだから賭けでもしないっ!? ほら、アンタが負けた時の事は決めてないしっ!!」
夜のヘリポートで振るわれるのは、トライデントとアルトアイゼン。
それらがぶつかり、擦れる音を立てる。それに構わずに、二人は言葉を交わす。
「へぇ、どんなっ!?」
恭文がアルトアイゼンを右薙に打ち込むと、歌唄はそれをトライデントで受け止める。
「アンタ、私に負けたら」
言いながら、歌唄は恭文の斬撃を流す。振り抜いた所を狙って、トライデントを上から叩き込む。
「私の下僕になりなさいっ!!」
・・・・・・はぁっ!? なにそれっ! てか、勝っても負けても、アンタ達ずっと一緒じゃんっ!!
なんだろ、イライラするんですけど。好きって自覚したからかな。マジでイライラするし。
「お断り」
恭文は後ろに下がらずに、鞘を抜く。抜いて、トライデントを受け止めた。
耳が痛くなるような轟音が響く。響くけど、恭文は受け止めながらも動く。
「するわっ!!」
左手でトライデントの攻撃を受け止めながら、右手の刃は歌唄の胴を狙っていた。
歌唄の胴を打ち抜く形で刃は振るわれる。・・・・・・その、はずだったのに、刃は止められた。
「へぇ、それはどうしてかしら」
左手から・・・・・・もう一本、トライデントを出して来たっ!?
【キシシシシシッ! 名づけて、ダブル・リリントライデントッ!!】
恭文は力を加え続けてるようだけど、歌唄は全く揺るがない。でも、それは恭文も同じ。
そのまま、膠着状態が続く。続いたまま・・・・・・二人は、言葉を続ける。
「簡単だよ」
≪Stinger Snipe≫
恭文の足元に、青い光弾が生まれた。それは、歌唄の顎を打ち上げるような感じで一気に夜の闇を駆け上がる。
それを歌唄は、咄嗟に下がって回避。スティンガー・・・・・・だっけ? それが鼻先を掠めて、空に昇った。
「僕は下僕になるより下僕にする方が・・・・・・趣味だっ!!」
なんかとんでもない事、平気な顔で言い放ったっ!?
「よって、僕が負けたらお前が下僕・・・・・・いや、僕のメイドになれっ! 朝から晩までご奉仕しろっ!!
そしてそして、夜は夜で大人なご奉仕をしまくれっ! それで正解だっ!!」
『意味分からないしっ! てゆうか、負けてそれって何っ!?』
あたし達がツッコんでる間にも、事態は動く。
歌唄がそういう対処を取ったから、必然的に二人の距離が開いた。
「そんなのお断りよっ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・クロスミラージュ、コードドライブ。セブンガンモードで、あのバカ撃ち抜いてやる」
≪Yes Sir≫
「あぁぁぁぁぁぁっ! ティア、それはダメだからっ!! 気持ちは分かるけどやめてっ!?」
「そうだよっ! ヤスフミが倒れちゃったら作戦失敗も同じなんだよっ!? 絶対ダメだからっ!!」
私達二人で、虚ろな目でセブンガンモードのスナイパーライフルを持ち出したティアを、必死に抑える。
というか、無駄に力が強い。私達、すごい引っ張られてるし。あれ、ティアって前衛型だっけ。違うよね?
「シャーリーさんもフェイトさんも、離してくださいっ! なんですかアレっ!? それだったら、私がメイドになってやるわよっ!!
メイドになって、朝から晩までご奉仕して、夜のご奉仕だって頑張ってやろうじゃないのよっ! ご主人様って喜んで言ってやるっ!!」
「それは後でヤスフミに言おうよっ! とりあえず今はダメだからー!!」
「それであれよっ! お望み通りに(うったわれるーものー♪)も(俺達うったわれるーものー♪)もやってやろうじゃないのよっ!!
毎晩でも何時間でも付き合って、エロエロな生活してやるわよっ! だから・・・・・・とりあえずもう戦いながら口説くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「お望みってなにっ!? というか、ティアいきなり何言い出してるのかなっ! もうお願いだから落ち着いてー!!」
ヤスフミ、真面目に何やってるのっ!? 本気で後先考えてないよねっ! もう全くと言っていいほど考えてないよねっ!!
そう言えばはやてやなのはが私に振られてから、ヤスフミは無意識に女の子を口説く癖が酷くなったって言ってたっけっ!!
もしかしなくてもそれがコレッ!? ということはもしかしてこれは、私のせいなのかなっ!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「そんなのお断りよっ!!」
「なんでっ!?」
何普通に信じられないような顔で驚くっ!?
いや、当たり前でしょっ! もう意味が分からないしっ!!
【・・・・・・恭文さんがバカなのです。もうバカ過ぎてツッコみ辛いのです】
「エル、今更だよ。ボクはもうすっごい知ってる」
「今までシリアス続きだったから、もうタガが外れちゃったんですねぇ」
「基本、こういうノリが恭文の本領だしね。あははは、どうしようかコレ」
・・・・・・歌唄は後ろに跳びながら、両手のトライデントを恭文に向かって投げた。
恭文は左に走ってそれを回避。続けて、タイミングをずらせて投げた二本目が来る。
それは、アルトアイゼンで払って回避。そこを狙って、歌唄がまた突っ込んで来る。
てゆうか、また新しいトライデントっ!? このパターン多すぎじゃんっ!!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
歌唄の突きを、恭文は左に身を捻って避ける。歌唄は、脇を抜けながらも更に追撃。
トライデントの柄尻を、右から前方から迫っていた恭文の顔面を狙って、叩き込む。
「そこっ!!」
叩き込まれた柄尻を、恭文はしゃがんで避ける。柄尻は、恭文の髪を掠めていた。
それだけじゃなくて、アルトアイゼンを叩き込む。アルトアイゼンの切っ先が、歌唄の身体を狙う。
青いバチバチという雷撃の魔力を纏った刃を、歌唄は切り抜けながらも、その切っ先を避ける。
歌唄の腹の部分をかする。赤い服がそれで破け、白い肌が露出する。
それに構わず下がりながら、歌唄は左手を恭文にかざす。
「ナイトメアローレライっ!!」
放たれた蝶の散弾が、恭文を襲う。だけど、それを後ろに一度跳んで、それから右に跳んで避けた。
でも、朝達は遠慮なく恭文に向かって追撃を仕掛ける。
「え、アレ誘導弾なのっ!?」
「そんなのありですかぁっ!!」
「・・・・・・クレイモアッ!!」
でも、そこで焦らないのが恭文。下がりながらも冷静に対処出来る術式を発動。
「ファイアッ!!」
恭文の前に展開するのは、青い散弾の盾。それらが蝶達を一匹残らず撃墜する。
そこを狙って、二本のトライデントが二人に飛んでくる。避けられるタイミングじゃない。
「「はぁっ!!」」
でも、恭文は刃を振るい、それを打ち払った。そして、恭文の所にまた二本のトライデント。
というより、それを持った歌唄が突っ込んでくる。
「ダブルリリン・・・・・・トライデントっ!!」
歌唄はトライデントを突き出す。恭文はそれを鞘とアルトアイゼンで受け止める。
そのまま、またこう着状態になった。二人とも、動かない。
「・・・・・・一旦、仕切りなおしかしら」
歌唄が、楽しげにそう口にした。それを聞いて、あたし達は全員首を傾げる。
「このままじゃ共倒れだもの。そうなったら、数の問題で私達の負けだし」
「あらま、このまま試すとでも言うと思ってたのに」
それで気づいた。あたし達の視線は、二人の腹部に向かっている。
「せっかくの舞台なんだもの。どうせなら・・・・・・勝ちたいわ」
「納得したよ」
恭文の下腹部の辺りに、青い魔力スフィア。多分、クレイモアだ。
そして、歌唄のところにも、蝶達が密集していた。
ふ、二人揃って零距離でカウンター入れようとしてたんだ。なんて恐ろしい。
というか、あの一瞬でそれだけ読み取れるというか通じ合えるというか・・・・・・すごい。
「とりあえず、第1ラウンドは引き分けかしら。そして、勝負においてのルールも決定」
「そうだね。でもさ、残念ながらあまり時間が取れないんだ。だから・・・・・・次のラウンドで勝った方が勝利者だ」
恭文が言いながら不敵に笑う。歌唄もそれに返す。
「せっかちね。焦る男は嫌われるわよ?」
言いながら腰を落として、両手のトライデントをしっかりと構えて握り締める。
「焦る? ・・・・・・勘違いしてもらっちゃあ困るね。ただ速度を上げてるだけだ。
あとは歌唄が僕の速度に追いついてこれるかってだけの話。ま、無理だと思うけど」
「言ってくれるじゃないの。なら・・・・・・まずその勘違いから壊してあげるわっ!!」
歌唄が飛び込みながら、トライデントを突き出す。恭文も同じく飛び込んで、アルトアイゼンを振るう。
「やってみろよっ! このド三流がっ!!」
・・・・・・恭文も歌唄も、もう最後まで二人で行くつもりらしい。だけど、あたしはどうすればいいの?
ううん、やることならもう決まってる。あとは実行だけだ。
「・・・・・・あむちゃん」
トライデントとアルトアイゼンの応酬が激しくなる。互いに怯まずに、力をただただぶつけ合う。
ただ・・・・・・二人とも笑っている。楽しげに、笑いながら戦っている。
「これ、相当ヤバイよね」
まるで久々にあった友達同士が、互いの間に存在する空白の時間を埋めているように。
そのために言葉を交し合っているように、二人は力をぶつけ合う。
「いわゆる一つのピンチですぅ。唯世さん達も、イクトさんに苦戦してますし」
攻撃が身体を掠っても、薙ぎ払いで身体が吹き飛んでも、互いの射撃攻撃の迎撃で爆煙が生まれて、相手との間を阻んでも。
二人は笑いながら、その爆煙を斬り裂くようにして刃を振るい、トライデントを突き出す。そして、『言葉』がまた拮抗する。
「そうだね。時間無いってのに」
そうだ、これは二人にとっては言葉なんだ。ただ傷つけるだけためのものじゃない。
言葉をぶつけて、互いに相手を知ろうとする。だから、あんなに笑っていられるんだ。
「・・・・・・あぁもう、マジであたし何も出来ない」
その上、歌唄はまだダイヤとキャラなりしてない。つまり、まだ手が残ってる。
その段階でも、あたし達の中で1番戦闘力のある恭文とどっこいどっこい。ヤバい、嫌でも焦ってくる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ごーごーアヒルちゃんっ!!」
結木さんが大量の黄色いアヒルを出して、突撃させる。
「ジャグリングパーティー!!」
真城さんが同じく大量のジャグリングピンを出して、それを放つ。
その目標は、不吉の黒猫。こちらへと路面を這うように突撃してきた悪意。
その攻撃を見て取るや、不吉な黒猫は即座に対応。
身を翻し、裏拳の要領で右の爪を振るう。
「スラッシュ」
爪から黒い色の斬撃が生まれる。それは結木さんの出したアヒル達を斬り裂く。
「クロウ」
それから大きく後ろに跳ぶ。上空に10メートルは跳んだと思う。
そこを真城さんのピンが光の軌跡を描きながら、黒猫を追う。
だけど、爪は再び黒い光を宿し、ピンを斬り裂いた。
そのまま猫は着地。一気に走り込む。目標は、僕。
「させないっ! タイトロープダンサーッ!!」
真城さんは大量の縄を発生させ、それを黒猫に向かってまるで鞭のように叩き付ける。
黒猫はそれに対して右に、左に身体を動かしながら縄の軌道を読んで避ける。
避けつつ爪を振るいそれを斬り裂く。多分、足止めの意味もあった攻撃。
でも、その役割を達していない。だから、僕の方へと真っ直ぐに来る。
だから、黒猫は拳を引き、爪で僕を穿つ準備をする。
【唯世っ!!】
「分かってる」
真城さんと結木さんが再びあひるやピンを出す。でも、それは阻まれた。
黒猫が姿を消して、二人の前に現れ爪を振るい、それごと斬り捨てる。
その様子に頭が沸騰した。だから、ロッドに金色の光が灯る。
だから、それを黒猫に向かって撃ち込む。
「ホーリークラウンッ!!」
ロッドを右から振るい、まるで円盤・・・・・・フリスピーのような形で放った。
その光は、回転しながら二人を斬り捨てた直後の黒猫へと迫る。
だけど、左の爪で造作も無くそれを斬り裂いた。
なら、もう一撃・・・・・・!!
「・・・・・・動き遅すぎ」
その声に寒気がする。声は後ろから。もう目の前に黒猫は、居ない。
「アイツの方が、まだ手ごたえあったぞ」
そのまま、爪は振るわれたらしい。空気が動いたから。
だけど、防がれたらしい。金属と金属がぶつかり合う音がしたから。
「・・・・・・そうですね。蒼凪さんと俺達とでは、実力に差があり過ぎますから」
僕の後ろに回って、攻撃を防いでくれたのは三条君だった。
「へぇ、わかってるじゃん。だったら、これもわかるよな。お前らじゃ俺は止められない」
【そうだにゃ。大人しく諦めるにゃ】
「いいえ、止めますっ!!」
そのまま爪を受け止めた二刀を振り切り、黒猫を吹き飛ばす。
「そして、俺はもう・・・・・・諦めないっ!!」
【拙者達の命と時間と想い、文字通り全てを賭けて救ってくれた者達が居るっ!!
にも関わらず足を止める事など、許されるわけがなかろうっ!!】
いや、黒猫はその勢いを活かして後ろに跳んだ。それからすぐにまた突進してくる。
「キング、下がってっ!!」
三条君に言われた通りに、後ろに下がる。その間に黒猫は三条君に距離を詰めた。
三条君は振るわれる右の爪を、二刀を使って受け止めていく。
突き出された爪を弾いて逸らし、斬り裂くように振るわれたものは刃で受け止める。
二人は、文字通り火花を散らしていく。援護・・・・・・だめだ。今やったら三条君に当てかねない。
【唯世、何をボーッとしているっ! 援護するんだっ!!】
「ダメ。タイミングが・・・・・・掴めない」
悔しい。やっぱり僕達には、圧倒的に力が足りない。
こういう時、蒼凪君やフェイトさん達なら・・・・・・!!
「調子に乗ってんじゃ・・・・・・ないわよっ!!」
「やや達、こんな雑魚扱いなんて嫌だもんっ!!」
そんな声がしたのと同時に、ピンとアヒルが二人に殺到する。
右の刃を振るい、黒猫に打ち込もうとしていた三条君は、その声を聞いて後ろに下がる。
「結木さんっ! 真城さんっ!!」
黒猫はそれに囲まれ、逃げ場をなくした。一応だけど、包囲。
【お前達、大丈夫なのかっ!?】
「なんとかね。結構、痛かったけど」
「恭文にリインちゃん、あむちんだって頑張ってるもん。負けてらんないって」
二人の息を吐きながらの返事に安堵・・・しているヒマはなかった。黒猫は、右手を真っ直ぐ横に伸ばす。
それから黒い斬撃・・・・・・いや、身体を回転させながらの嵐が生まれ、アヒルもピンも斬り裂いたから。
な、なんて無茶苦茶な真似を。というより、真面目に対抗手段が・・・・・・いや、ある。
動きを止める直前なら、きっと狙える。だから僕は、息を少しだけ吐いてロッドを振りかぶる。
「・・・・・・どうした、もう」
「ホーリークラウンッ!!」
足元すれすれに、僕は攻撃を仕掛ける。さっきと同じように回転攻撃。
それを猫男は跳んで避けた。そこを狙って、もう三条君が動いていた。
「イナズマッ!!」
右の刃が袈裟に振るわれる。緑色の雷撃を纏った刃。
それを左の爪で受け止めて、夜の闇を雷撃がはじけて照らした。
「零式っ!!」
次の瞬間、緑色の雷撃が接触点を始点として巻き起こる。
それは言うなら嵐。嵐は使用者の三条君はともかく、月詠幾斗の身体を焼く。
【アレ・・・・・・昨日使った技でちっ!!】
【海里の奴、さり気なく学習してたのかっ!!】
雷撃に身体を焼かれ、月詠幾斗が表情を歪める。
【にゃ、にゃんだコレっ! しびれ・・・・・・しびれるー!!】
「く」
月詠幾斗は、右足を動かして三条君を蹴り飛ばした。
昨日見た光景のままに、三条君が吹き飛ばされる。
「いいんちょっ!!」
【問題ないっ!!】
「まだ・・・・・・やれるっ!!」
三条君は即座に起き上がって、前に踏み出す。黒猫は身体が痺れているのか、顔をしかめていた。
・・・・・・今だっ! ここで一気に押し切ればっ!!
「唯世っ! 今すぐにガードしてっ!!」
聴こえた声は、蒼凪君の必死な声。僕達は一旦動きを止めて、その声の方を見る。
【なんだアレはっ!!】
僕達は、その光景に目を見張った。黒い輝きが・・・・・・今にも、大爆発を起こそうとしてたから。
その中心に居るのは、一人の女の子。黒い宝石という名を持った姿をした、僕の幼なじみ。
「歌唄ちゃんっ!!」
「歌唄・・・・・・!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あたし、思い出せ。あの模擬戦・・・・・・恭文とティアナさんとヒロリスさんにサリエルさんの四人の模擬戦。
もう一つ思い出せ。二階堂と決着をつけた時の事。あの時、あたしは何を感じた?
そして、ついでにもう一つ。昨日のいいんちょと恭文の戦いを。あたしは、これらで何を思い知った?
それは力不足だ。そうだ、あたしは弱い。今の歌唄もそうだし、恭文よりもずっと弱い。
戦うための訓練なんてしたこともなければ、歌唄みたいな物騒なパワーアップアイテムもない。
そんなあたしに何が出来る? 今、何をするべき? そうだ、答えは一つしかない。
今の状態だと歌唄の攻撃に当たらない事を最優先に考えないといけないんだ。
今の歌唄の攻撃は、当たったら痛いじゃ済まない。あたしなんて、すぐに潰されちゃう。
そして、あたしが当たりそうになれば、恭文が助けてくれる。でも、それはいけないんだ。
それで恭文がいちいちあたしのフォローに回ってたら、間違いなく足手まといだよ。
歌唄だって、絶対にそこを狙って攻撃してくる。というか、初っ端でそれをやってきてる。
やるべき事は、あの旧社員寮での時と同じ。あたしに飛んでくる攻撃は、全部あたしで処理する。
絶対に足手まといにならない。何が出来なくても、これだけは絶対にやらなきゃいけない。
「てゆうか、エル」
【はいです】
「ランと変わって。この状態じゃ・・・・・・まぁ、あたしのせいなんだけどさ。
どうも、ちゃんとエルの力を使って上げられないもの」
【・・・・・・あむちゃん、優しいですね】
「・・・・・・え? いやいや、いきなり何の話してるのよ」
エルの言ってる事がよく分からなくて、ついつい首を傾げて聞き返してしまった。
こうしている間にも、恭文と歌唄は戦ってる。時間は、どんどん過ぎていく。
【エルがだめとか、使えないとか、そういうことを言わないです。
恭文さんも同じです。エルのことをそんな風に言った事、一度もないです】
「そっか」
【とにかく、もうちょっとだけ待っててください。エルも戦ってる最中なのです】
「え?」
【・・・・・・イル、イル・・・・・・お願いなのです。力を貸してください】
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・・・んだよ、さっきからうるさいな。お前は今更アタシに用はねぇだろ?
どーせアタシは、他の人のしゅごキャラなんだしよ。
なんだいなんだい、ここまで登場しなかったからってこの扱いはねぇだろ? なんだよこれ。
”むむ、イルは心が狭いです。みなさんなりの歓迎の挨拶なのに。
『ようこそ、とまとワールドへ』という歓迎の気持ちがたっぷりと詰まっていましたよ?”
”あれは普通にいじめだろうがっ! それもPTAとかに怒られるレベルだぞっ!?
歓迎の気持ちどころか悪意を感じたしっ!!”
”それだけじゃなくて、教育委員会や人権保護委員会とかにも怒られますね”
”なんかすっごい分かってるっ!? だったら最初からやるなっ! つーか、アタシにどうしろって言うんだよっ!!”
”こっちに来てくださいっ! エル達で力を合わせて、歌唄ちゃんを助けるですっ!!”
・・・・・・はぁ? 何言ってんだよ、バーカ。んなのしたくねぇよ。
てかよ、助ける必要ないだろ。歌唄は別に普通だし。
”本当にそう思ってるですか?”
”・・・・・・どういう意味だよ”
”イルだって分かってるはずです。原因は、もう分かりきっている事です。
ダイヤと今も歌唄ちゃんが身につけている宝石、ブラックダイヤモンド”
あれ、今なんかちょっと違和感を感じたぞ。
”この二つが今、確実に歌唄ちゃんをおかしくしています”
まぁ、とりあえずそこは置いておく。とにもかくにも、アタシは話の続きを聞く。
”現に今だって変じゃないですか。歌唄ちゃんはこんなトリッパーなキャラではありません。
戦闘のプロである恭文さんと対等に渡り合うなんてこと、出来るはずがありません”
まぁ、そうだな。つーか、戦い始めてからやたらと口軽いしよ。
それまではもうどこのヤンデレかって思うくらいに暗かったのに。
てゆうかエル、さっき思ったけどよ、なんで歌唄が拾った宝石の名前知ってんだよ。
いや、その前にその『トリッパー』ってなんだ? 意味分かって言ってんのかよ。
”それはですね、簡潔に説明すると、かくかくしかじか・・・・・・というわけなのです”
”あの宝石が原因で歌唄の能力が上がっていて、下手をすれば歌唄が死ぬっ!?”
”恭文さんの話だと、その宝石みたいな強い力を持ったものを、ロストロギアと言うらしいのです。
それを使うのは、場合に寄ってはそういう危険がある事が多いそうです”
寝耳に水って言葉があるけど、まさに現状がそれだ。いきなり死ぬって言われて、アタシは内心動揺しまくる。
”それにこれ以上使い続けると、今度はそのロストロギアを探している人達に捕まる危険もあるです。
イル、もう時間がないのです。お願いですから、協力してください”
”お前、いきなりそんな話されて信用出来るわけが”
でも待てよ。ここ数日、あの宝石の力どうこうって話をダイヤとしまくってた。
確かにあの宝石の力を使う度に、歌唄が・・・・・・こう、おかしい感じになっていった。
それプラスダイヤの奴だ。アイツはそれを知りながら歌唄に宝石の力を使うように勧めてさえいやがる。
つまり、エルの言っていることは少なくとも間違いではない?
つーか、コイツバカだから嘘つけるやつじゃねーしな。
なら、アタシはどうする? この状況は確かにマズイ。
だって、もし話が本当なら、アタシは歌唄の寿命を縮める手伝いをしてるようなもんだし。
【うーん】
「うーんじゃないわよっ! イル、動きが重いわよっ!? 全く、これだからイルは・・・・・・!!」
・・・・・・キレた。プチンとキレた。なので、ひょいっと歌唄から飛び出した。
「あ」
アタシが飛び出すとどうなるか? 簡単だ、キャラなりは解除される。
「イルっ!!」
「うっせー、文句言うなら自分だけでやってろってーのっ! アタシはもう知らねーしっ!!」
そのまま、アイツらの方へ行く。あ、エルの奴がキャラなり解除した。
つーか、涙流して鼻水垂らしながら突進してくる。
「イルゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
「エルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
そうしてアタシは・・・・・・!!
「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
エルを蹴り飛ばしてやった。当然アイツは後ろに吹き飛ぶ。
・・・・・・あれ、アタシは足当ててないんだけど。寸止めなんだけど。それでなんで吹き飛ぶんだよ。
「ふぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ぶっ!!」
あ、なんか恭文の顔面に当たった。
「・・・・・・なにすんじゃいボケっ!!」
エルがそのまま左腕で掴まれて、ぶん投げられた。
「「ふぎゃっ!!」」
そして、アタシに直撃。エルは、猛スピードで飛んできた。
だから、避ける余裕がなかった。そのまま二人して路面に墜落する。
「い、いてぇ・・・・・・! てめぇ、なにしやがんだっ!!」
「大丈夫、僕は平等主義者だから」
【そしてドSなのです】
「お前ら、絶対言葉の使い方間違ってるぞっ!! ・・・・・・つーか日奈森あむ」
「え、あたしっ!?」
とにかく、上に乗っかるエルはどかして・・・・・・あー、やっといつもの調子が出てきた。
やっぱいじめられる相棒がいないと、つまんないな。
「んじゃま、いくぜー! アレやってみたかったんだよなぁっ!!」
「え、アレって何っ!?」
「お前のこころ、アンロックっ!! ・・・・・・てか?」
次の瞬間、アタシは目の前の女の鍵を開けて、日奈森あむに吸い込まれた。
「え、えぇぇぇぇぇっ!?」
赤い光に、アタシと日奈森あむの身体は包まれる。
その中で、制服が剥がれて、どんどん服が変わって、日奈森あむが叫ぶ。
「・・・・・・えぇぇぇぇぇっ!?」
叫ぶけど、次の瞬間には呼吸を合わせられるから不思議だ。
【「キャラなりっ! アミュレットデビルっ!!」】
【あむさん、イルとキャラなりしちゃったですっ!!】
「・・・・・・あ、あはははは。あたし、恭文のことあんま言えないな。あたしもイルやエルの力借りまくりだし」
【さぁ、こっからがアタシが主役だっ! 今までの鬱憤、全部晴らしてやるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!】
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
生まれたのはついさっき見た妖しい光。それがあむの身体を包む。
そして出てきたのは・・・・・・赤いギターを持ち、こうもりの体を模した上着とスカートを着用。
黒い小悪魔っぽい帽子を被り、白と赤の縞模様のストッキングを身に着けた女の子。つーか、あむ。
・・・・・・エルだけじゃなくて、イルともキャラなりした。よし、これであむにミキの事は言われなくて済む。
「イルと・・・・・・キャラなりっ!?」
歌唄も驚いた様子でこちらを見る。いや、そうしながらなんかダイヤとキャラなりした。
【「キャラなり、ダークジュエル」】
歌唄の姿は、あの時見た黒い宝石。というか、編み上げニーソックスがエロい。
マジで切り替えが早い。完全な使い捨て思考って、ぶっちゃけどうなのよ。
「あ、あの」
【勘違いすんなよな、日奈森あむ。アタシは、お前らやエルの話を信じたわけじゃねぇ。
ただ・・・・・・マジだった時に歌唄になんかあるのは】
あむが首からぶら下げた赤いギターを持ち、そのまま構えた。
それから弾き出す。流れるのはロック調のノリのいい音楽。
【絶対嫌だ。だからここに居る。それだけだ】
「相変わらず素直じゃないねぇ。イル、ツンデレに磨きがかかってない?」
【うっせーよ。あとさ、恭文】
「なによ」
【悪いが第2ラウンドはちょっとアタシに暴れさせてくれ。あと・・・・・・歌唄のこと、頼む】
僕はイルの方を見ずに、歌唄を見据えながら頷く。
「言われるまでもないね。僕はここに『綺麗事』を通しに来たから」
【『魔法』が使える魔法使いとして、か?】
「今回はちと違う。・・・・・・大事な友達三人、助けに来たんだ」
【そっか、あんがとな。・・・・・・さぁ、思いっ切り燃え上がっていこうぜっ!!
さっきも言ったけど、ライブはこれからが本番だっ!!】
「りょ、了解っ!!」
ギターから出てくるのは、赤ともピンクとも取れる光。これは・・・・・・譜面?
というか、音符? ・・・・・・形を取った音符と譜面の線が、そのまま真っ直ぐに飛ぶ。
「デビルズチェーンッ!!」
歌唄が右手をかざして、そこから放つダイヤ型の光のつぶて達と正面から衝突し合う。
「シャイニングブラックッ!!」
そして、せめぎ合う。そのぶつかり合う光が、闇を照らし、僕達の目の前を明るくする。
距離にして100メートル前後の空間の丁度真ん中で、力は互いに意地を貫くためにぶつかる。
どちらも、引かない。そう、どちらも引かないのだ。歌唄も、あむも。
すごい。歌唄の力・・・・・・上がってるはずなのに、対等にやりあってる。
「く・・・・・・!!」
【ほらほらっ! もっとノッてこうぜー!!】
「あわわ・・・・・・指がっ! 指がすごい勢いで動くー!!」
あむの指が激しく動き、ギターから流れる音楽が激しさと勢いを増す。
少しずつ、本当に少しずつだけど、歌唄の攻撃が圧され始めた。
【恭文さん】
「うん、・・・・・・来る」
そう二人して予測を立てた。立てたから、その通りに歌唄は動く。
「く・・・・・・! グリッター!!」
瞬間、歌唄の身体が輝く。そして胸元のブラックダイヤモンドも輝きを増す。
ヤバい。これは・・・・・・ヤバい。予想通りに、ブラックダイヤモンドの力を更に引き出そうとしてるし。
≪マスター≫
「分かってる」
あと、感覚が言ってる。この攻撃は絶対に防げ。防げなかったら、死ぬって言ってる。
「唯世っ! 今すぐにガードしてっ!!」
向こうで猫男と交戦していた唯世に声をかける。歌唄の身体から、黒い光が放たれようとする。
爆発するその瞬間は、もう・・・・・・目の前に来ていた。
「パーテ」
「ケンカキィィィィィィィィィクッ!!」
両腕を広げて、力を開放しようとしたところを狙って、思いっ切り蹴ってやった。
技の発動は、それで中断。僕が蹴った箇所は、左の横腹。歌唄は見事に吹き飛ばされて、路面を転がった。
≪・・・・・・あなた、無茶な真似しますね≫
「いいのよ、別に。てか、詠唱途中に攻撃して術を止めるのは、リアルタイムRPGの基本よ?」
【それもそうですね】
歌唄が立ち上がる。立ち上がって、僕を見据える。
【・・・・・・あなた、まだ邪魔をするつもり? 輝きが欠片もないあなたでは、歌唄には勝てない。
ダイヤモンドは、傷が無いから煌めくのよ。強い決意と覚悟が、彼女を輝かせている】
「その覚悟があるから、イルやエルをいらないと否定するわけか」
【そうよ。それが歌唄の強さ。だからあなたは勝てない。だってあなたは、輝きが弱いもの】
「ふざけてんじゃねぇぞ。てーか、三下は黙ってろ」
警戒を崩さず、僕は歌唄の中に居るダイヤに言葉をかける。いや、ぶつける。
「・・・・・・歌唄、マジでコイツの言う通りに考えてるわけ? だったら、勘違いだ」
それから歌唄に声をかけながら、僕は歩く。
一歩・・・・・・また一歩と踏み出す。歌唄は、動かないで僕を見ている。
「月詠幾斗・・・・・・兄さんの事を言い訳に、お前は自分の夢から逃げてるだけ。
エルとイルから逃げて、自分から逃げて・・・・・・空っぽになろうとしてる」
・・・・・・思い出すのは、あの日の言葉。異国の地で、一人の女の子と会った。
懐の中にある小さな生命二つについて、あれこれ悩んでいると偶然通りすがった。
肩が触れて、互いに謝って・・・・・・目についた白と赤の小さな女の子達が居た。
それを見て目を見開いて、驚いて・・・・・・反射的に気づいた。この子達は、懐の中のたまごと同じだと。
『・・・・・・その人の事を言い訳に、アンタは自分の夢から逃げてるだけよ。
そのたまご達から逃げて、自分から逃げて、何もない人間になろうとしてる』
歌唄の目があの時の僕のように見開いた。僕は、そのまま言葉を続ける。
「確かに兄さんの事は大事で大好きかも知れない。
ううん、そうじゃないわけがない。でも、それと自分の夢とはまた別問題でしょ」
・・・・・・気づいたのは僕だけじゃなかった。あの子も同じだった。
ちょっとした偶然から、途中までを一緒に歩く事になった。
揺れる金色のツインテールに、大事な女の子の姿を見つけた。
それに気づかれてしまって、いつの間にか泣きそうになっていた。
『・・・・・・確かにその人の事は大事で大好きなんでしょ。
じゃなきゃ、8年片思いするわけがない。でも、それとアンタの夢とはまた別問題よ』
歌唄の瞳には、確かに驚きの色。その色に染まった視線を、歌唄は僕に向け続ける。
「本当にそれでいいの? どんな理由があったって、今自分の手の中にある夢を諦めていいわけがないのに」
・・・・・・あの日、気づかれて結局全部吐き出した。それでようやく聞けた。
僕の懐の・・・・・・ううん、こころの中から、命が産まれたという事実を。
だけどちゃんと向かい合えなくて、向かい合うことが怖くて、思いっ切り罵られた。
事実過ぎて、何も反論出来なかったなぁ。だって逃げてたから。ずっと逃げて、ちゃんと向き合えなかった。
『・・・・・・アンタ、本当にそれでいいわけ? 私、ハッキリ言ってアンタみたいな奴が一番嫌い。
どんな理由があったって・・・・・・今アンタの手の中にある夢を、諦めていいわけがないわ』
歌唄は変わらずに僕を見る。ううん、歌唄だけじゃない。エルとあむの中に居るイルもだ。
「僕、ハッキリ言ってお前みたいな奴が一番嫌いなんだよ」
「恭文さん、それ」
あむの隣に浮かぶエルが、歌唄と同じような瞳で僕を見る。
だから軽く頷く。それからまた、歌唄を見る。
「あやふやでもあいまいでも、それは歌唄の、歌唄だけの夢。それが消えていいなら、そのままでいい。
でも、もしもそれが嫌なら、少しでも『変わりたい』って思うなら・・・・・・石に齧り付いてでも、信じ抜こうよ」
・・・・・・だけど、だから貫く程に届いた。今まで周りに居た人間の言葉とは、明らかに違っていた。
みんなは忘れろと言う。降ろしてもいいとさえ言う。そうして一緒に同じ道を行って、みんなで幸せになろうと言う。
そんなの僕には無理だってもう気持ちは固まっていたのに、それでも言う。みんな、そう口にする。
あの子の言葉は、それとは全く違っていた。それは決め付けではなく問いかけだった。
『忘れて、降ろしていいの? それでアンタはいいの?』と、僕の心に真っ直ぐに問いかけてきた。
だから届いたのかも知れない。理屈抜きで心に届いたから、気持ちが強くなった。
変わりたいと思った。自分の夢に向きあって、一歩踏み出して・・・・・・前に進みたいと思えた。
あの時、両手の中にあった温もりを消すような事、捨てるようなこと・・・・・・絶対にしたくなかった。
今の迷って、躊躇っている自分を『壊したい』と願った時、そこからようやく出会えた。
僕がなりたかった・・・・・・僕が描く、大切な未来の自分の一つの姿に。
『・・・・・・あやふやでも、あいまいでも、それはアンタの、アンタだけの夢よ。それが消えていいなら、そのままでいいわよ。
でも、もしもそれが嫌だって思うなら、少しでも『変わりたい』って思うなら・・・・・・石に齧り付いてでも、信じ抜きなさい』
歌唄が一歩下がる。というか、僕が近づいた分だけ下がる。
だから僕は、一歩下がったら二歩近づく。近づきながら、心の中であの言葉達を思い出す。
【おいおい恭文、それってまさか】
「そうだよ。これは全部、僕が歌唄に前に言われた事だよ」
【恭文さん、そうなんですかっ!?】
「うん。・・・・・・フェイトの事や昔の事で迷いそうになってる時ね、よく復唱するんだ」
かなりある。フェイトはやっぱり近い存在で、たまに全部独り占めにしたいとか思ってちゃって。
やっぱりまだ好きな部分があるんだと思う。男は恋をしたら、その記憶は名前を付けてフォルダ保存って言うしね。
昔の事だってそうだ。昨日海里にぶちまけた感じで、色々考えて・・・・・・止まりそうな時がある。
だけどそんな時、この言葉を思い出す。そして気持ちを強く持つ事が出来る。
何が有っても、あの時感じた『変わりたい』という想いと、両手の中の二つの温もりを捨てたくない。
「それで三人の事思い出す。思い出して・・・・・・一歩、踏み出すの」
そのきっかけをくれたのは、あの時出会った強くてキラキラに輝いている女の子。
そして、優しい心を持った二人の小さな子達。三人が、勇気を僕にくれた。
「フェイトや過去を言い訳にしない自分を、続ける。僕、弱いからさ。それくらいしないとダメなのよ」
【・・・・・・そっか。まぁ、そうなるよな。お前、めちゃくちゃヘタレだしよ】
「だけど、それも全部恭文さんなのです。そんな恭文さんだから、魔法使いになれるとエルは思います」
【だな】
何を話そう何を話そうって考えて、結局ここに行き着いた。ぶっちゃけさ、今回はイースターの事とかどうでもよかった。
ただ僕は、歌唄に自分の歌を捨てて欲しくない。大事な夢を何も諦めてなんて欲しくなかった。
だって僕、歌唄の歌が好きだから。歌唄は、ずっとうたってた。心で自分という歌を・・・・・・ずっとだ。
その歌に魅せられて、惹きつけられて・・・・・・僕は変わる勇気を出す事が出来た。
だから、守りたい。歌唄の歌を。そして壊したい。その歌を消そうとする現状を・・・・・・全てだ。
「歌唄・・・・・・歌唄が本当にうたいたかった歌は、どこにいっちゃったのさ」
歌唄はまだ、僕が近づいた分だけ後ずさる。でも、僕は前に進む。距離は・・・・・・少しずつ縮む。
ほんの一歩の差が、積み重なって大きな差になる。その差が今の僕と歌唄の距離。もうあの日とは違う。
【もういいわ。・・・・・・あなたに私達の事は分からない】
そうだね、そんな事知ってるよ。でも、一つだけ分かる事がある。
歌唄が・・・・・・あの時はうたえていた歌を、うたえなくなりかけてるって事だ。
【何も捨てられず、欠片ほどの輝きも無いあなたには、決して】
「それは違うわよ」
飛び出した声は僕でもなければリインでもアルトでも、あむでもエルやイル、キャンディーズでもない。
「ダイヤ、コイツに輝きがないなんて嘘よ。恭文はすごく輝いてる。
それが分からないなんて、アンタの能力もたいしたことないわね」
そう、歌唄だった。歌唄は僕をジッと見て・・・・・・笑ってる。さっきまでの不敵な顔とは違う。
あの日の歌唄が、そこに居た。僕の知っている、僕の見せられた月詠歌唄が目の前に居た。
【歌唄、何を言っているの。私は感じない。あの子のどこにもそんなものは】
「それはそうよ。恭文の輝きは、すごく奥深くにあるから。
コイツを本当に知ろうとしなければ、見ようとしなければ、それは誰にも分からない」
歌唄は右手を突き出す。開いた手に、黒い光が生まれた。
「だから私は分かる。だって私は初めて会った時からコイツの事、知りたいって思っちゃったんだから。
だからあの時だって、らしくもなく余計なおせっかいをした。・・・・・・ダイヤ、ブレード」
それは鍔の無い両刃のロングソードの形を取る。そして、その切っ先を僕に突き出す。
「ねぇ、さっきの話の続き」
「なに?」
「アンタ、私に負けたら私のパシリになりなさい」
下僕から、なんかランクダウンしてるっ!? こいつ、マジで僕をなんだと思ってるのさっ!!
「あいにく、負けてメイドになるほど私はお人好しじゃないの。
ただし・・・・・・アンタが勝ったら私の事、マジで好きにしていいわよ」
「はぁっ!?」
「アンタに私の事、心も身体も全部あげる。アンタがしたいように、どんな風に扱ったっていい。
イクトの次にはなるけど、アンタの事好きになれるように努力もするわ。そこは約束する」
あ、あの・・・・・・歌唄さん? あなた、さっき色々と話しませんでした?
「もちろんメイドも頑張るわよ。アンタの趣味に合わせてね」
「いや、あの・・・・・・歌唄? またどうして」
そこまで言いかけて、気づいた。歌唄の目の中に、戸惑いや不安が見え隠れし始めたのに。
「・・・・・・分からないの」
「え?」
「私、何になりたかったのか。何がうたいたかったのか・・・・・・分からないの。思い出せないの。
アンタと初めて会った時にはしっかりあったはずなのに、だからそう言えたはずなのに、見えないの」
歌唄はそのまま刃を前にかざす。正眼に構え・・・・・・腰を落とす。
「でも、アンタと『話して』少しだけ答えが見えた。だから、続きをやりましょ?
最初で最後の・・・・・・私達の真剣勝負。それで全部終わらせて、始めるの」
「・・・・・・そうしなきゃ、止まれない?」
「えぇ。私、知っての通り強情なの。ケジメはきっちりとしなくちゃ」
「そう。それはまた、僕の好みにドンピシャだ」
僕はアルトを振るって、鞘に納める。納めて、改めて歌唄を見据える。
「アルト、リイン、行くよ」
「はいです。アルトアイゼン、イグニッションスタートです」
≪Charge and Up≫
そのまま、無形の位・・・・・・ようするに、構えずに歌唄と向き合う。
【何それ。あなた、私達をバカにしてるの?】
「ダイヤ、黙って」
【歌唄】
「いいから」
そう鋭く言われて、ダイヤは黙った。歌唄は、飛び込むタイミングを図ってる。
・・・・・・踏み出すのは、一歩だ。何も諦めない、何も捨てない自分。
誰でもない、自分が思う『なりたい自分』に近づくために、一歩を踏み出す。
後ろでヘリの燃える音が聴こえる。海がすぐ近くだから、風の音も聴こえる。
そんな中、僕と歌唄はただジッと・・・・・・見つめ合いながら、タイミングを計る。
「恭文」
「何?」
「アンタの夢は、変わってないようね。守りたいものを守れる魔法使い、目指してるんでしょ?」
僕はそれに頷かずに、首を横に振る。・・・・・・歌唄のおかげで、消えずに済んだからね。
消えずに済んだから変わり続ける事が、進化する事が出来る。
「変わってるよ。より強い形を目指して、どこまででも進化し続けるから。それが、僕の夢の一つだから」
僕は・・・・・・目の前の大好きな人の笑顔を、守りたい。泣いている時間なんて、絶対に壊したい。
そうやって、笑える時間を守れるようになりたい。守りたいと思ったら、必ず。
「何も降ろさずに、捨てずに、それでも真っ直ぐに強く進んで・・・・・・笑顔で居られる自分。
そんな形を目指すための勇気を、何時だって持っていられる自分」
それは、自分に対しても同じだった。僕の中にあるもので守りたいものや貫きたい意地は、そこだった。
それは僕にとってはやっぱり一種の『魔法』と同じで・・・・・・うん、これも一つの形だ。
「僕の今のなりたい自分の一つはそれなの。だから、ちょこっとバージョンアップしてるし増えてる」
・・・・・・あむやなでしこに後押しされて、ここまで歌唄の友達としての自分を貫く勇気をもらった。
だからここからまた、僕は一歩を踏み出せる。僕は目の前の女の子の今を絶対に守りたい。
僕は歌唄に笑っていて欲しい。何も捨てずに・・・・・・何も諦めずに。だって僕、今は歌唄に首ったけだし。
歌唄が今は一人なら、猫男が歌唄を守れないなら、歌唄の一番の味方でありたいの。
「そんな自分に望むままに変わり続けたいって思ったから・・・・・・ここに居る。だから、歌唄と戦ってる」
「そう。・・・・・・あのさ、恭文」
「なに?」
風に乗って、炎の熱が伝わってくる。金属や燃料が燃える臭いも漂う。
「私、実はアンタの事・・・・・・好きなの。だから遠ざけたかった。遠ざけて、払いのけたかった」
こんな言葉を交わしても、僕達は止まれない。止まらずに、互いを叩き伏せるために力を振りかざす。
戦いの結果で間違ってるかどうかなんて、決まるわけがないのに。
「・・・・・・僕もだよ。僕も、歌唄が好き。だから、近づきたかった。近づいて、抱きしめたかった」
でも、結果を出す事でそれまでの時間に、ケジメを付ける必要がある時だって・・・・・・ある。
それが、今というだけの話。だから、戦わなくちゃいけない。戦って、その先に新しい時間があるから。
「なら、良かったわ。だってそれだと私達」
「うん、両想いだね」
少し笑いながらそこまで言うと、僕達は口を閉ざす。そして、一際強い風が吹いた。
僕達の間を風が吹き抜ける。吹き抜けた瞬間、歌唄が飛び出した。
黒い剣は唐竹に振り下ろされる。その前に僕は一歩踏み出した。
その踏み込みが与える加速が、抜刀術を神速から超神速に進化させる。
抜き放たれた刃は青く輝き、歌唄の胴へと迫る。
≪Starlight Blade≫
その刃の名は、星の光。眩く輝く刃が、鞘から抜き放たれる。
・・・・・・納めてから、ずっとチャージしてた。だけどその刃は歌唄に迫って・・・・・・阻まれた。
【・・・・・・いくら速くても】
阻んだのは、歌唄が手に持った黒い刃。咄嗟に刃を盾にして、斬撃を防いだ。
スターライトの力でも砕けない刃が、僕と歌唄を隔てる。
【そんな来ると分かっている攻撃、防げないわけがないわ】
そして、刃と壁が黒と青の火花をまき散らしながらも摩擦して・・・・・・刃は、振り切られた。
僕の身体は隙だらけ。そこを狙って、歌唄が唐竹に刃を打ち込む。
【これで終わりよ。やっぱりあなたは、屑鉄だった】
冷静に言い放ったダイヤは知らない。次の瞬間、驚愕することを。まず、歌唄の動きが止まった。
【歌唄っ!?】
止まったのは本当に一瞬だけ。でも、それだけ有れば充分。振り抜かれた刃によって、空気が爆ぜる。
爆ぜた空気が、僕達の間で一気に収束する。刃が弾かれた時に舞い散った黒と青の粒子も一緒に引き込む。
同じように、歌唄の身体も引きずられていく。僕に向かって、確実に引き寄せられる。
歌唄は何が起こっているのか分からず、ただただ表情が驚愕に染まる。多分、中のダイヤも。
「く・・・・・・!!」
【これは・・・・・・なにっ!?】
何も答えずに、僕は・・・・・・身体を時計回りに回転させながら、刃を叩き込んだ。
【「・・・・・・さぁ」】
魔導師のオートバリアのようなものだろうか。がら空きの歌唄を守るように、黒いシールドが発生する。
でも障壁は、星の光の刃に耐えきれずに粉々に砕け散る。
ガラスのような破片が、僕達の間でまき散らされる。その間に、刃は歌唄の胴を捉えた。
輝く星の光の刃を、僕は歌唄に叩きつける。ようやく、手が届いた。
【「お前達の罪を、数えろっ!!」】
そのまま振り抜かれた蒼の閃光が歌唄を、そして黒い宝石を斬り裂く。
斬り裂かれ、歌唄の身体に刻まれた斬撃の痕から、力が噴き出す。
噴き出した力は蒼い奔流となり、歌唄を飲み込んだ。
「飛天御剣流」
残念ながらダイヤ、お前の言った事なんざ・・・・・・僕はとっくに知ってる。だから勝つのよ。
敵を知り、己を知れば100戦危うからずと、昔の偉い人は言ったんだから。
「・・・・・・天翔龍閃、もどき」
・・・・・・天翔龍閃は、二段構えの技なのよ。一発目の抜刀術が防がれても、これがある。
超神速の刀が空を切ることで、斬り裂かれ、そこから弾かれた空気が敵を打ち据えて行動を阻害。
さらに空気が弾かれて真空空間が出来る。それが元に戻ろうとする作用が、自分と相手を引き寄せる。
そうして回転による遠心力も加えた上で、更に強力な二撃目で斬る・・・・・・という技である。
「お前のゴールは、勝利でもなければ輝きでもない」
かける声は、奔流に飲み込まれて吹き飛んだ一人の女の子・・・・・・の中に居る、小さな子に対してのもの。
「敗北と言う名の・・・・・・事実だ」
【恭文さん、また決めるですね】
まぁ、これくらいはね。ハードボイルド魔導師としては、当然でしょ。
「お兄様、ジャスト10分です」
「これで決まりか。恭文」
「うん。・・・・・・てーか、二人ともごめんね。出番奪っちゃってさ」
「問題ない。無事に済めば、それでいい。・・・・・・恭文、よく頑張った」
「・・・・・・ありがと」
・・・・・・闇の中で生まれたのは星の光。その輝きの中に黒き輝きは飲み込まれ、そして砕ける。
こうして僅か10分間の『私闘』は・・・・・・終わりを告げた。
(その12へ続く)
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