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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ケース28 『日奈森あむとの場合 その10』



『・・・・・・本来であれば、ランスター補佐官の言う事が正解だ。優先するべきは人命と安全だろう。
人の命と夢のたまご、どっちが重いかなど・・・・・・いや、日奈森あむと恭文の言うように同じなんだな』

「そうだね。私もね、なんかこう・・・・・・頭をハンマーで殴られたように感じたんだ」



夢も生きてるんだよね。しゅごキャラみたいに形になってるかどうかという話じゃない。

私達とは違う存在だけど、ちゃんと生きてる。だから、大切にしなきゃいけないんだ。



『それで、君はランスター補佐官やシャーリーのようには言えなかったわけか』

「うん」





一応考えてはいた。×のついたたまごを壊す事は覚悟を決める。

それでもこの事件の全てを、私達だけで対処する事を。

今回みたいな危険の大きい事が、何時また起きるとも限らない。



それはどこかで気持ちを固めなくちゃいけない事だと思ってた。





「ほら、何度かそういう話、してたじゃない? ガーディアンのみんなに下がってもらってって」

『したな。恭文に協力してもらって、被害は最小限に抑えるように努力してと』

「でもね、それが間違いだと今日分かったよ」



あのハンマーでガツーンみたいな衝撃で、痛感した。なんというか、あの子凄いなぁ。

あの子の言葉には強い説得力がある。だから大人な私やシャーリーでも太刀打ち出来ない。



「夢が生きてるなら、それを一つの命として大切に出来ないはずがない。ううん、しなきゃいけない。
それを守る側の私達がしなかったら、助ける事を二の次にしたら、イースターを止める事なんて絶対に出来ないよ」



守ると言いながらどこかでたまごを見下して、物扱いして・・・・・・それはイースターと同じ。

ううん、きっともっと最低だ。そうやって言い訳し続けて、逃げ続けて、守れるものなんてないよ。



「というより、私達の切り札はヤスフミだけなんだよ? 多分、この手を取ったら」

『アイツはもう、僕達に強力してくれなくなるだろうな。アイツはそんな言い訳が出来ない。
いや、僕達をイースターと同じ敵対組織と捉えて、叩き潰そうとする可能性もある』

「そうだね。ヤスフミ、ガーディアンのみんなの考えというか、その目的に同調してる。
だから、私達がそんな事をすれば絶対に許さない。私達には良いことなんてないよ」

『・・・・・・アイツは本当に』



だから今日の『一緒に戦って』に繋がるんだと思う。私はなんというか、納得してしまった。



「きっとね、イースターを止めるために必要なのは・・・・・・力や経験じゃないんだよ。
誰かの夢を本気で助けたいと思える強い心。それがないと、きっと負けは確定」

『それが彼らだと言いたいわけか?』

「うん。・・・・・・私は、そう思った。この状況での切り札は、私達じゃない」



私達はもう、自分からそのための資格を手放してしまった。それはもう今日で確定。

イースターを止めて、今という時間を覆すのに必要な力を、私達は誰も持ち合わせていない。



「権力も経験もないけど、強くて優しい心を持ったあの子達なんだよ」





それでもう一つ気づいた。ガーディアンの中にヤスフミの居場所が、理想がある。

ガーディアンの中では、ヤスフミが描く魔法使いの姿がちゃんと通せる。

だからそれを貫こうとするみんなの事も、実は何気に好きだし信頼してる。



・・・・・・未だ改革が進む局もあんな風になると、私としてもすごく嬉しいのに。そこは心から思う。



ヤスフミみたいな子でも純粋に入りたいと思えるし、日々感じるアレコレに悩まされる心配もないし。





『・・・・・・そうか。フェイト、一応聞いておくが恭文やガーディアンの面々に僕から話しても納得は』

「すると思う? 特にクロノはこの段階まで全く顔出してないのに」

『そこは言わないでもらえると助かる。確かに君の言う事も分かるが、大丈夫なのか?』



現在、自室で簡素な机に座りながらクロノと通信。当然シャーリーから言われたように、今回の作戦についての報告。

クロノが聞いてすぐ、頭を抱えて数秒唸っていたのは、当然だと思う。私だって、クロノの立場ならそうする。



「かなり不安要素はあるよ。ただ、簡単にだけど作戦は立てた。
ロストロギアを所持してるほしな歌唄には、ヤスフミとリインが対処」

『他のメンバーは、そのサポートと言ったところか。もしくは、邪魔が入らないようにする』

「うん。戦闘能力を加味しても、下手に居るとヤスフミがサポートのサポートに回っちゃうから」



関係性が深いヤスフミなら自然と引きつけられるし、封印のチャンスも多くなる。

リインのサポートがあればアレも使える。一応、出来る要素はあるの。



「・・・・・・みんな、悔しそうだったよ。やっぱり今日の事が引っかかってるんだと思う」





ヤスフミの怪我の事、ティアに言われた事、かなり突き刺さったみたい。

確かに不安はあるな。このまま事件の危険度が上がり続けると、絶対にヤスフミに負荷がかかるもの。

現状のヤスフミは、ガーディアンの戦闘面での切り札になってる。でも、それが仇でもある。



月詠幾斗や今日の海里君やほしな歌唄のような強敵が出てきた際に、その対処を当然のように任される。

でも、他のみんなとの実力・経験差があり過ぎて、連携が取り辛くなってしまう部分もある。

結果、単独で飛び込んで怪我をして・・・・・・これ、かなりマズいな。現状維持にしても、改善点はあるよ。



キャラなり自体の能力は、一般的な魔導師のそれと同等だと思う。ヤスフミともそういう話をしてるから。

なら問題は・・・・・・やっぱりここは、みんなの戦闘スキルかな。各々の能力をきちんと活かせてないのかも。

単純にみんながヤスフミや私レベルでは戦闘慣れしてないというのも、これに含まれると思う。



ここ、あとでヤスフミとリインと相談してみよう。それならまだ、なんとかなるかも。





『それでも止まらないというのは、賞賛するべきか呆れるべきか迷うところだな。
とにかく機動課の方は、まだほしな歌唄には到達していない。だが、それだけだ』

「いつ到達してもおかしくはないし、これ以上変な事が起きれば、すぐ察知される」

『その通りだ。全く、どっちか一つだけなら、これほど悩まなくて済んだというのに』





局の道理を立てれば、マスターCDの完成を止められない。

機動課が横槍を入れてきたら、私達の下手な介入がNGになるから。

だけどガーディアンの道理を立てれば、危険が飛躍的に大きくなる。



戦力がガーディアンメンバーだけになるから。そして、戦闘に関しての切り札はヤスフミだけ。



あ、それと海里君だね。×のキャラなりでヤスフミと渡り合ったから。ただそれでも、私達は頭が痛い。





『それで恭文とその三条海里という子は』

「二人とも大丈夫。ほら、報告にあったでしょ? リメイクハニー」

『あぁ、あの『お直し』という技か。それで完全回復と』

「うん。でも、ちょっと困っちゃうの。二人とも、殺し合いをしたも同然なのに再戦の約束をしちゃって」



今回みたいな壮絶な方向は無しって言ってたけど、それは無意味な気がする。

きっと、二人とも全力でぶつかる。ぶつかって・・・・・・戦う。うん、殺し合いじゃなくても、壮絶になるな。



『男同士、色々と気が合うんだろ。僕にも訓練校時代の同級生や後輩で、覚えがある』

「そういうものなの? 私は女の子だから、よく分からないんだけど」

『君にとってのシグナムと同じと言えば、分かるか?』

「・・・・・・分かったよ」





うん、それなら分かる。私とシグナム・・・・・・あぁ、被ってるよ。というか、すごく覚えがある。

まぁ、色々ありはしたけど二人が仲良しになれたのは良いことなのかな。

よく考えたら、私もなのはやシグナムとはこんな感じだった。あとは・・・・・・アレだね。



海里君もあの時、ヤスフミと同じように引いたら自分の夢が嘘になると言った。それで気づいた。

多分海里君の夢や『なりたい自分』は、ヤスフミのそれと割合近いんだ。

近いから、二人ともどこかシンパシーを感じて、ヤスフミも必死になって助けようとしたのかも。



・・・・・・ヤスフミ、自分の夢と向き合えない時間が長かったって話してくれた事があるから。

過去を、殺した事を、またその手を取る可能性を理由に海里君が夢を諦めるの、見てられなかったんだよね。

自分も同じだから、だから絶対に海里君の夢も想いも守るんだ・・・・・・って。なんだか色々と納得したよ。





『それでフェイト、君は大丈夫なのか? ランスター補佐官は話を聞く限り相当だが』

「まぁ、これでも婚約者だから心配ではある。特に今日は、ちょっと泣いちゃった」

『・・・・・・あぁ、以前話してた3年後の約束か。本気なのか?』

「うん、本気だよ。自分に対してプレッシャーかけるの」





別に恋愛だけが全部じゃない。それは、私もヤスフミも分かってる。

でも・・・・・・うん、やっぱり難しい。何も諦めない自分を目指すのは、本当に。

一応ね、ヤスフミとお話して、ファイズになったりあれこれで、考えてたんだ。



恋とか、してみてもいいかなーって。でも、中々相手が居なくて・・・・・・ちょっと焦ってた。

私はまた諦めてるんじゃないか。諦めて、仕事を理由に新しい事を探そうとしてないんじゃないかとか。

ヤスフミはシオンが生まれて、ヒカリが生まれて、本当に変わった。それで、自分と考えると・・・・・・うーん。



執務官の中に夢や理想は、もちろんある。それを通したいって思ったから、局員を続けてる。

局どうこうじゃなくて、私の願いを通すために・・・・・・こう、今は局員の立場を利用してる感じ?

うん、私は局が嫌いだから。ヤスフミと同じになっちゃったの。だから、利用してるの。



事件の中だけじゃなくて、事後も助けになれる執務官の権限を、フルに活かすために。



ただ、それでもなんだよね。それでも、もっと色んな事を探してみたいのになぁ。





「やっぱり私、もう少し仕事のペース落とそうかな」

『なんだかんだで六課解散後は、以前と同じペースだったからな。
長期出張を断るだけでも、大分違うと思うぞ』

「あ、そうしようかな」



前だったら、絶対に言わなかったような言葉に、自分でビックリしてクスリと笑ってしまう。

こんな事、組織を良くするためとか、世界のためとか思ってた前だったら、ダメだと思ってたのに。



「私ね、この街に来てガーディアンのみんなと色々あって、思ったんだ。
もっと・・・・・・もっと沢山の夢や可能性に触れたいなって。前よりもずっと、強く」

『そのうちの一つが、婚約だったりするわけか』

「そうかも知れないね」



そのまま、画面の中のクロノに笑う。私は・・・・・・うん、笑うの。



「本当にそうなったら、それはそれでいいのかも。なんだか、自然に受け入れられそうなんだ」



あ、もちろんヤスフミにハッパかけられたから、頑張って別の可能性も探すよ?

ヤスフミだって、そのつもりで言ったんだから。あと、もう一つだね。



「でも、そうならないように頑張るの。私の心に嘘をつかないように。
・・・・・・ヤスフミが、私のせいで自分の幸せとか夢とか気持ちとか、諦めないように」



だから、きっと私は諦めたり不幸になったりしちゃいけない。あの子の心を、8年を縛ってたんだから。

そんなの絶対許されない。だから笑おう。もっと笑って・・・・・・あの子を安心させる。私は大丈夫だよって、伝える。



『なら、余計に余裕を作る必要があるな。この調子では3年などあっという間だ。
現に1年半はあっという間だった。その間にカレルとリエラも保育園に入園だ』

「そうだね。・・・・・・うん、本当にそうだ。時間は、どんどん過ぎていくから。
一生懸命生きようとしなくちゃ、きっと何も変えられないし変わらない」

『だがフェイト、君は恭文に対して特別な感情は抱いてないのか?』

「どうして?」



クロノにそう返すと、なぜか呆れた表情をされた。それが分からなくて、私は通信画面を見ながら首を傾げる。



『普通に考えれば、そのような約束をして『自然に受け入れられる』と返すのは、好きという事だぞ?
友達や家族としてではない、女性としての恋愛感情がなければ、言えるわけがない』

「・・・・・・でも、フィアッセさんだってそんな感じだし」

『そのフィアッセさんも同じくだ。一度機会があったので話をさせてもらったら、恭文を男性として魅力的だと言ってたぞ?』

「そうなんだ。・・・・・・あれ?」



えっと、そうすると・・・・・・あれれ? あれ、おかしいな。なんか話が変になってない?



「私、ヤスフミの事好きに・・・・・・なりかけてる?」

『そうなるな。告白を断った時に出した『弟で友達』という答えが、君の中で変化してきているのではないのか?』

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

『・・・・・・君は本当に気づいてなかったのかっ! 相変わらず大事な所が抜けているなっ!!』










その後、私は非常に苦悩することになる。原因はこの会話。

自分の中で知らず知らずの内に芽生え始めてた可能性に、ようやく気づいたから。

淡いというか何というか・・・・・・ど、どうしようこれ。





アタックとかした方がいいのかな。でも、ヤスフミはあむが気になり出してるよね?





でも、あむは唯世君が好きで・・・・・・あれ、もしかしなくても四角関係?




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先の事


ケース28 『日奈森あむとの場合 その10』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・とにかく、その場でみんなは解散。





海里は自宅には帰れないということなので、僕の家に泊まる事になった。





とりあえず、僕はあむと唯世を家まで送る事にした。まぁ、一応ね。










「・・・・・・ね、恭文。ロストロギアってそうとう危ないんだよね。あと、持っている歌唄も」

「かなりね。本当なら、戦力あるだけ持ち出してもいいくらいだもの。
うん、ティアの言う事は正解なの。今回は歌唄を刺激し過ぎないためにこういう処置だけど」

「そっか」

「なんにしても、歌唄をなんとかしてすぐに止めないと、マジでどうなるかわかんない」



あぁもう、どうしてこう厄介な事態になるのさ。普通に原作通りでいいじゃん。なんで改変するの?



「でも、それなら明日は頑張らないといけないね」

「そうだね。あと・・・・・・それとさ」

「なにかな?」

「・・・・・・実はその、僕からも一つ話があってさ」



唯世がなんかもじもじしながらそう言った。僕とあむは顔を見合わせて、唯世に視線を向ける。

そして、足を進めながら少しだけ、唯世は口を開いた。



「僕と月詠幾斗、あとほしな歌唄のことなんだ」

「唯世くんにイクトに歌唄のこと?」

「うん。明日、どうなるにしても対決する事にはなりそうだから。ちゃんと話しておきたいと思って」



・・・・・・唯世が視線を僕に向ける。で、伝えて来る。どうやら、覚悟は決まったらしいと、それで分かった。



「僕達の家・・・・・・月詠の家と辺里の家は、元々仲がよかったんだよ。
お父様と月詠兄妹のご両親は、大学の頃からの親友だったんだけど、その関係でね」



それが、唯世と歌唄と猫男の関係性の根っこか。・・・・・・あれ? それならあの人はどう絡むんだろ。

えっと、管理人さんは唯世と親戚だから・・・・・・あ、それで知り合ったのかも。



「それで小さい頃には、よく一緒に遊んだりしてさ。楽しかったんだ。
まぁ、ほしな歌唄・・・・・・歌唄ちゃんが中学に上がる頃には、そういうのはなくなったんだけど」

「唯世くん・・・・・・そうだったんだ。だから、イクトの事を昔から知ってる素振りだったんだね」

「やっぱり、そう見えてた?」

「かなり」



唯世がまた僕に視線を向ける。まぁ、お手上げのポーズなんてして応えた。

つーか、当然でしょ。これでわかんなかったらニブ過ぎだって。



「でさ、あの頃から歌唄ちゃんは相変わらずで、よく言ってたんだ。
月詠幾斗とデートするとか、一線を越えるとか」

「・・・・・・そっか、あれのアレっぷりは小さな頃からだったんだ」

「うん、そうなんだ。僕にも修正は無理で」



つーか、それなら両親はだめなわけですか?

ほら、親の権力なら歌唄の近親相姦願望なんて、きっと吹き飛ばせるよ。



「でも、あの頃は楽しかったな。もう、終ってしまった事なんだけど」



どこか遠いものを見る目を、何かを懐かしむような光を宿しながら、唯世が呟く。



「昔の彼女はただ純粋に、歌が好きな女の子だった。あと、月詠幾斗が大好きな女の子だった」



唯世、そこはいいから。つーか余計だから。



「だから、ほんのちょっとのキッカケがあれば、分かり合えそうな気がするんだ。
確かにロストロギアという要因が絡んでは居るけど、それでも」



そして、この発言は余計じゃなかった。唯世は、確信を持った言葉をあむと僕に続けていく。



「なんというか、日奈森さんに蒼凪君は、歌唄ちゃんと同じ輝きを持っているように感じるから」

「あたしと恭文が? いやいや、そんなことないって。恭文はともかく、あたしは違うって」

「そんなことないよ。ダイヤとエルが入れ替わる形になったり、エルが蒼凪君の所に来たり、日奈森さんとキャラなり出来るようになったり。
それだけじゃなくて、蒼凪君も日奈森さんのしゅごキャラであるミキとキャラなり出来るようになったのは、三人がどこか似ているからじゃないかな」



これでも王様。もしかしたら本当に何か確信があるのかもしれない。僕と歌唄とあむが似てるねぇ。

てゆうか、なんか今凄まじく怖い未来を想像してしまったんだけど、なんでだろう。



「あの、てゆうか、今からそんなに過剰に期待されても」

「期待じゃない。・・・・・・信じてるんだ。二人なら、歌唄ちゃんの黒い輝きを光に変えられるって」

「唯世くん」



ヤバイ、具体的には唯世の視線がヤバイ。なんかあむが顔を赤くし出したし。あぁ、ヤバイ。つーか僕はブッチギリで邪魔なんですけど。



「あ、あの・・・・・・ありがと」

「ううん。その、お礼なら僕の方が言わないとダメだよ。色々助けてもらったし」

「それはその、えっと」



すみません、居心地悪いんですけど。てゆうか、なんか糖分出し始めたんですけどこの二人。

なんでこんな甘ったるいのさ。おかしいでしょうが。後は唯世に任せて帰るか?



”お兄様、ヤキモチですか?”



そう聞いてきたのは、今の今まで黙っていたシオン。なお、ヤキモチじゃないから。



”だが恭文、お前は4年後にあむとエッチな事をするのだろう? もうちょっと頑張った方が良いと思うが”

”ヒカリまでその言い方やめてくんないっ!? てーか、あむだって流石に本気にはしてないでしょっ!!”



と、とにかく僕も話だ。とりあえず、咳払いして空気の甘い二人に割り込む。

まぁ、ちょっとだけあむに申し訳ないと思いつつね。



「あのね、唯世。実は僕も話があるのよ」

「うん、何かな」

「・・・・・・・・・・・・僕と歌唄が初めて会ったのってね、今から2年近く前なんだ。
まぁ、ぶっちゃけると・・・・・・フィアッセさんのコンサートの護衛より、ずっと前なの」

「え?」

「唯世も話してくれたし、一応僕もね。これ、あむには前に話したことなんだ」



僕は、少しだけ昔話をすることにした。黒い結晶に囚われて、夢を、大事な『なりたい自分』を見失っている、一人の女の子との出会いを。



「蒼凪君、歌唄ちゃんとそんあんい2年近く前から知り会ってたのっ!?」

「うん。あと唯世、ろれつ回ってないから。一体どこの言葉さ。
・・・・・・僕、歌唄と会う直前に、フェイトに振られたんだ」





8年間スルーは終わりを告げた。だけど、同時に恋の終わりも告げられた。

仕方ないって分かってた。フェイトは、恋愛とかを諦めてるわけじゃない。

僕が人を殺したからなんて理由で、振ったわけでもない。ちゃんと、考えてくれた。



考えて、答えを出した。僕は大切な友達で、家族だと。異性としては・・・・・・見れないと。





「それがショックでさ。どうしても納得し切れなくて、だけどフェイトに詰め寄る事も出来なくて。
イギリスのフィアッセさんのところに行ったんだ。丁度コンサートにも誘われてたから」

「蒼凪君、もしかして歌唄ちゃんとはそこで? 歌唄ちゃん、フィアッセさんの歌が好きだったから」

「うん。ほんとに、偶然。その時にエルと、向こうに居るイルとも親しくなったんだ。
それで・・・・・・・歌唄ってさ、聡い子じゃない? 僕がそういうのを抱えてるの、見抜かれたの」



ただ、それだけじゃない。みんなに黙って六課を抜け出した日の朝、たまごが生まれていた。

それが、シオンとヒカリ。僕の・・・・・・なりたい自分。



「その時、私もシオンもまだ生まれてはいなかったんだ。だけど、たまごだけは出てきてて」

「お兄様、とりあえず私達のしゅごたまとアルトアイゼンと一緒に、イギリスに渡ったんです」

「で、歌唄と偶然遭遇したら、たまごのことバレてさ」



その時は、特にたまごを壊す壊されるなんて話にはならなかった。

そこで、歌唄から聞いた。たまごのことや、しゅごキャラのことを。



「それでさ、僕は・・・・・・フェイトに振られたのがショックで、そういうの良くわかんなくなってたんだ」



フェイトの事守りたくて、側に居られたらってずっと考えてて・・・・・・なんで納得出来なかったのか、そこでようやく分かった。

自分のこころの中にある大事なものがなくなって,空っぽになる感じがして・・・・・・すごく、怖かったんだ。



「そうしたら、歌唄に罵られた。好きな女の子に振られたくらいで、なりたい自分を捨てるのかって」

「それはまた・・・・・・歌唄ちゃんらしいね。でも、僕もその通りだと思う。
実際、蒼凪君の『なりたい自分』は、フェイトさんのそれとはまた別問題だし」

「うん」



別問題、だったのよ。フェイトの事と僕のそういうのは本当は別物。怖がる必要なんて、本当は無かった。

でも、その時の僕はそれも分かんなくなってたから、余計にこんがらがった。それでキレた。



「それでね、そんなうじうじした自分を・・・・・・本当はどうしたいか分かってるのに勇気が出ない自分を『壊したい』って思ったら、シオンが生まれたの」



夜道を歩きながら目を向けるのは、『壊したいものを壊す魔法使い』の姿。

無慈悲な常識や過去や現実を壊して、消えそうな可能性を繋ぎたいと願うこころの形。



「それからすぐに色々事件が起きてさ。その中で大切な時間を、願いを『守りたい』って思ったらヒカリが生まれた」





そして次に目を向けるのは、あの人そっくりな『守りたいものを守る魔法使い』の姿。

全部守るなんて無理だけど、せめて自分が守りたいと思ったものだけは守りたいと願うこころの形。

僕の中には二つのこころの形があった。シオンとヒカリと出会えて、ようやく思えた。



人を殺した事を理由に、戦って相手を傷つけた事を理由に、これからもそれを続ける事を理由に、夢や可能性を諦めなくていいんだって。



そこからかな。戦っていても、汚い現実を見たとしても、夢や願いと本当の意味で向かい合えるようになったのは。





「まぁ、その間も歌唄とはちょくちょく連絡取ってたんだ。
そんな頻繁じゃないけど、季節柄の挨拶もそうだし、二人の事も相談させてもらってた」

「じゃあ、歌唄ちゃんに蒼凪君の年齢の事とか魔法の事とかは」

「魔法は大丈夫なんだって。ただ、恭文の年齢はバレてる」



旅行の時に自己紹介し合ったからなぁ。でも怒らないで欲しい。誰もこうなるなんて思ってなかったもの。



「でも、そうすると変だよね。イースターに蒼凪君の詳細がバレててもおかしくないのに」





そこは僕も考えた。というか、歌唄がイースターの手先だと分かった時点でフェイト達に話した。

そしてそこのところを相当危惧してた。歌唄はともかく、エルやイルも居たから余計にだ。

でも、今のところそれっぽい気配はない。エルにも確認したけど、歌唄は口止めをしてるらしい。



現に、二階堂も僕の実年齢に関しては知らない様子だった。というか、海里も知らなかった。





「それはどういうことだろ。三条君もビックリしてた様子だったから、本当に歌唄ちゃんはこの事を話してないんだよね」

「てゆうかさ、その時他の人は居なかったの? 例えばいいんちょのお姉さんとか、イクトとか」

「僕の見る限りでは、歌唄だけだった。というか、一人旅って言ってたし。
・・・・・・とにかくさ、僕が歌唄のこと相当気にしてるのは、そこなのよ」



空を見上げる。星は・・・・・・スモッグや街の光に隠れて見えない。だけど、それでも光はある。

だから、信じられる。僕の中にある、星の光を。僕の一番の味方で居てくれるみんなの事を。



「あの時の歌唄ね、まだ歌手の『たまご』だったの。だけど、今よりもずっと輝いてた。
・・・・・・放って、おけないんだ。歌唄の言葉で僕は少しだけ、フェイトにワガママになれたから」





あの子に背中を押された。前に進んで、フェイトへの気持ちと時間に依存しない自分を始める勇気をくれた。

フェイトにフラれても、必要とされなくても、僕は僕で・・・・・・自分の夢を追いかけていいんだって教えてくれた。

そうなんだよね。大切な人が居るから、助けになりたい人が居るから、だから夢や可能性を諦めるなんて嘘だ。



そんなの嘘にしなきゃいけない。だって僕はあの時の歌唄の言葉を、嘘になんてしたくないから。





「蒼凪君・・・・・・あの、もしかして歌唄ちゃんのこと」

「言っておくけど、そういうのじゃないよ? うん、ホントに。ただ放っておけないだけ」

「・・・・・・そっか。ごめん、ちょっと邪推したよ。それにほら、歌唄ちゃんには月詠幾斗が居るから」

「あぁ、そうだったね。そこかぁ」










・・・・・・マジで好きだったら、また失恋コースだよね。とにかく本気、出すか。

そうしなかったら、言葉も想いも伝わらない。歌唄、僕はお前が間違ってるなんて言えない。

断罪するつもりも正直ない。そんな権利なんて、持ち合わせてない。





ただ、僕の勝手でお前の願いを壊す。そうして守る。今と未来を。

そして誰より何よりお前の未来をだ。今のお前の輝きじゃ、未来が壊れるだけだから。

まぁあれだ。こういう流れになっちゃったのは残念だけど、僕はもう覚悟は決めた。





お前に選択権は何一つ存在しない。だから強制的に・・・・・・壊されてろ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



隣を歩く男の子は、同級生だけどそうじゃない。いろんな事情から、あたし達の仲間になった男の人。

魔法って言う普通とは違う力が使える人。そして、強い人。力がじゃない。心が・・・・・・強い人。

今のあたしより小さい頃からずっと戦ってきた。戦って、色んなものを見て、それでも進んできた。





でも、それはその頃から関わってる管理局って言う組織のためとか、そういうのじゃない。

世界のためとか、そういうわけでもない。今だってきっと同じ。

なら何のために? そう聞いたら、きっとこの人はこう答える。『自分のため』だと。





でも、それはきっと嘘。この人が・・・・・・恭文が戦う時には、必ず泣いてる人がいる。

そういうの見過ごせないって考えれば、自分のためなのかも知れない。けど、きっと違う。

泣いている誰かの今を、そこから繋がる時間を守るために戦ってる。見ていて気づいた。





今歌唄のことをあんなに必死になってるのだって、きっと同じ。エルやイル、歌唄のことを気にかけてる。

そして思う。あたし・・・・・・嫌な子だと。そんな恭文を見ていて、もやもやする。

もっと言うと、歌唄に対して嫉妬してる部分がある。嫉妬して、イライラしてる。これも、最近気づいた。





この数ヶ月で本当に仲良くなった。色んな話をして通じ合えた。ちょっと、ケンカもあった。

何時からだろう。恭文を見ていて友達とか・・・・・・唯世くんに対しての好きとは違う感情が生まれたのは。

何時からだろう。恭文のこと、もっと知ってみたいと思って、飄々とした瞳をずっと見てるようになったのは。





何時からだろう。あたしは11歳の子どもで、恭文は19歳。そんな年齢差が凄く嫌になってきたのは。

もっと大人になりたい。もっと変わりたい。もっと強くなりたい。恭文が戦ってる時、一番の支えになりたい。

一緒に隣で戦えたらと考えるようになったのは、どうしてなんだろ。・・・・・・もう答えは出てる。





あたし、もう唯世くんの事好きじゃない。もちろん友達としては好き。だけど、恋愛感情じゃない。





あたし・・・・・・恭文のこと、好きになりかけてるんだ。だから今、歌唄のことを見ている恭文に、ちょっとイライラしてるんだ。










「・・・・・・ね、恭文」

「何?」



唯世くんを家まで送って、今度はあたし。気づいたから、少しだけお話。



「ティアナさんとさ、もうちょっとちゃんと話した方がいいんじゃないかな。
女の子の一人としては、恭文の態度はちょっと見過ごせない」

「事後に話すよ」

「だめ、今話して。じゃなきゃ、ずっとこのままだよ? それでいいの?」



恭文は少し困った顔をした。一応、自覚はあったらしい。

あってコレなんだから、相当バカだと思う。まぁ、あたしはあまり言えないけどさ。



「・・・・・・話しても、結局傷つけるだけだよ。僕の答えは決まってる」

「それでもだよ。それでも、このままはだめ」

「あぁ、嫌だ。今話すのは絶対嫌だ。だって、最終決戦前にこれは死亡フラグだし」



ハァッ!? アンタ、まさかそんな理由で話するの嫌だって・・・・・・マジ信じられないんですけどっ!!



「そんなの、へし折っちゃえばいいじゃん」

「いやいや、死亡フラグへし折るって簡単じゃないのよっ!?」



だけどダメ。あたしは恭文を見て、視線でも『話すように』と言う。

恭文はため息を吐いて・・・・・・頷いた。



「分かったよ。戻ったらちょっと話す。全く、死亡フラグっぽいから事件解決まではやめようと思ってたのに」

「恭文、アンタフラグとティアナさんの気持ちとどっちが」

「フラグ。てゆうか、僕の命と夢。僕、この世の中で一番自分が大事で大好きだもん」

「即答するなー!!」



そうだね、あたしもあんま言えない。てゆうか、ティアナさんは恋敵なのにさ。

うん、恋敵だ。あたしもこんなバカの事、好きだって思っちゃったんだもん。



「てゆうかさ、あむ」

「何? とにかくティアナさんとはちゃんと」

「話すよ。・・・・・・ごめん」



なんか歩きながらいきなり謝ってきた。それが分からなくて、あたしは首を傾げる。



「ほら、唯世の前でずーっと手繋いでたから」

「・・・・・・あ」



恭文が申し訳なさそうな顔で言ったのを見て、ようやく理解した。

そっか、それでか。・・・・・・だったら、ちゃんと話さなくちゃ。



「いいよ、別に」

「よくないでしょ。ほら、誤解されるよ? 僕もフェイトに色々誤解されて辛くて、頭抱えた事あるんだから」

「そ、そう言えばそうだったね。でも、大丈夫。だってあたし、もう唯世くんの事好きじゃないから」

「あぁ、そうなんだ」

「うん」



そう口にして数秒後。歩きながら、恭文がビックリした顔であたしを見た。



「・・・・・・はぁっ!? どういうことよ、それはっ!!」



というか、隣に浮いてるシオンとヒカリも同じく。あと、ラン達も。

・・・・・・だってあたし、恭文に相当唯世くんが好きって言いまくってたんだし。



「唯世くんがおねだりCD聴いて、キャラなりした時ね」

「うん」

「唯世くん、あたしの事また『アミュレットハート』って呼んだの」



恭文の右手がそっとあたしの頭に乗る。そして、歩きながら優しく撫でてくれる。

その感触が心地良くて、くすぐったくて・・・・・・嬉しい。



「その時にね、なんかもういいやって感じちゃったんだ。うん、見切りつけちゃったの」

「・・・・・・あむ」

「大丈夫だよ? なんかこう、むしろスッキリしてるくらいなんだから。なんかさ、その時に気づいたの。
もちろん今までの積み重ねもあるけど・・・・・・あたし、唯世くんの外キャラだけを好きになったんだって」



あたしが好きになった唯世くんは、王子様でガーディアンのキングですごくかっこよくて・・・・・・それだけ。

ガーディアンに入って、その中でそれが崩れて・・・・・・その事に最近、ようやく気づいた。



「恭文はさ、フェイトさんの外キャラが嫌いになって、中のキャラを知って好きになったってパターンじゃない?」



春先に鯛焼きを食べてる時に、どうしてフェイトさんの事を好きになったかを聞いた。

あたしとは違って、恭文はフェイトさんのお仕事モードの外キャラ、かなり嫌いらしい。



「うん」

「あたしはその逆なんだ。あ、唯世くんの中身のキャラが嫌いとかじゃないの。
ただあたしの『好き』は、本当の好きじゃないから伝わらないだって思ったら・・・・・・なんかね」



あたしは空を見上げる。空は・・・・・・星が輝いていた。

少しだけ悲しい気持ちを隠しながら、あたしは恭文の方を見て笑う。



「本当の好きじゃないなら、そこから本当にしていくって言うのもあるけど、そういうの・・・・・・勇気、いるんだ」

「そうだね。それは僕にも、少し分かる」

「ホントに?」

「うん。・・・・・・知っての通り、僕は最初の時にそうとう派手にやらかしてるしね。それでさ、なんとか考えたんだ。
僕はただ、辛い時に優しくしてくれたからフェイトが好きなのかなとか、殺しをしたから・・・・・・だめなのかなとかさ」



・・・・・・いや、アンタの方が重いって。むしろ少し分かるはあたしのセリフだし。

そんな軽く苦笑いとかダメだから。むっちゃヘビーだし。



「でもさ、あむ・・・・・・それでいいの? 後悔しない?
せめて『好きだった』くらいは伝えてもバチは当たらないと思うけど」

「でも、唯世くんに迷惑じゃん? ただ言うだけって感じだし」

「いや、迷惑かけていいでしょ。もう散々やらかされてるんだし」

「あ、それもそうか。でも・・・・・・うん、いいんだ。もう色々吹っ切れてるから」



唯世くんの外キャラが崩れて、中のキャラを知って・・・・・・そこからだよね。

そんな時にあたしの中に、いつの間にか恭文の存在が入り込んでた。



「ならいいけど・・・・・・まぁ、後悔しないようにね」

「うん、そのつもり」



まぁ、結構一緒に居たからなぁ。そういうのも大きいんだよね。うん、そこは間違いない。



「・・・・・・それでね、恭文。あの、えっと・・・・・・実はね」

「うん?」



身体の奥がとても熱くなる。どうしよう、軽い女だと思われたら・・・・・・マジ嫌なんですけど。

よく考えたら、唯世くん好きじゃなくなって、気づいたら恭文好きになってたなんて、おかしくない?



「今回の一件が片付いたらさ、二人でどっか行かない? ちょっと遠出してさ」

「・・・・・・あむ、それ死亡フラグだよ。決戦前に約束はやばいって。ぶっちぎりだって」

「フラグフラグうっさいっ! てゆうか、マジでどんだけ気にしてるっ!? ・・・・・・失恋同盟の、会合。
ほら、丁度明日超えたら土日もすぐだし、丁度いいかなーって思うんだ」

「なるほどね。・・・・・・まぁ、それならいいか。でも、どこ行こうか」



恭文はずっとあたしの頭に手を乗せたまま。でも、さすがにもう離した。

そうして下ろした手を、あたしはすかさず掴んで・・・・・・繋げるかぁぁぁぁぁぁぁっ!!



「あむちゃん、やっぱり意地っ張りキャラですぅ」

「もうちょっと素直になればいいのに」

「まぁ、そこがあむちゃんらしいよねー」



アンタ達うっさいっ! てゆうか、あたし充分素直じゃんっ!! 今回はすごい頑張ってると思うよっ!?



「・・・・・・せっかくだし、星・・・・・・見に行きたいな。ほら、なんか何とか流星群近づいてるって言うし」

「そうなの?」

「うん。この間、プラネタリウムの館長さんが教えてくれたんだ。
えっと、あーなんだったけな。あの、かまどうまだっけ?」

「いやいや、それどんな流星群っ!? てーか、名前付けた奴はどんなセンスしてるのよっ!!」



とりあえず、アンタレベルでネーミングセンスないのは分かるよ。うん、それだけは確定だね。

てゆうか、改めて考えるとコイツってやっぱバカなんだよね。普通に子どもっぽいとこあるし。



「あむちゃん、たてぶえ座流星群だよ。かまどうまなんて、絶対ないから」

「あ、それそれっ!! ・・・・・・ね、せっかくだし一緒に見に行こうよ」

「そうだね。じゃあ、あむの親御さんが心配しないようにした上で、見に行こうか」

「うん」










でもさ、あたしも・・・・・・バカなんだね。うん、バカなんだ。





だからあたし、恭文のこと好きになったんだから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



夜、みんなが寝静まった後にティアの部屋をノックする。

・・・・・・返事が無い。とりあえず、もう一度ノック。

やっぱり返事が無い。というわけで、もう一度ノック。





と言う感じの事を、20回ほど繰り返す。でも、返事が無い。










「・・・・・・アンタ、ストーカーで訴えるわよ?」



声は部屋の中から。というか、結構近い。もしかして、ドアの前に居る?



「嫌だなぁ。ティアをストーカーする暇があったら、フェイトに夜這いかけるよ」

「よし、撃ち殺してやるからそこをジッとしてなさい。ドア越しに蜂の巣にしてやる」

「いいよ、別に」



僕はそのままドアの前に座ってあぐらをかく。



「それくらいの事はしてるしね。撃ちたきゃ、撃てば?」

「・・・・・・あぁもう、そのマジで撃っていいって声はやめてよ。アンタ、本気でズルいし」



ティアもドアの前に座ったらしい。なんか気配で分かる。



「ティアナ」



へんじがない。ただのしかばねのようだ。



「誰が屍よっ!! ・・・・・・ティアって、呼んでよ」

「ごめん、素で間違えた」

「そうなんだ。・・・・・・エルやあむの事、また傷つけた事に対しての報復かと思った。
私・・・・・・あの子の宿主や仲間を見捨てるって言ったから」

「だろうね。エル、ティアを見ながら呆然としてたもの。・・・・・・それも見えてなかったでしょ」



ティアがドアの向こうで息を飲む音が聴こえた。まさかに気づかれてるとは思わなかったらしい。



「何時、気づいてたの?」

「気づかないと思ったの?」





りまがこっち来る直前くらいから、全くシオン達と目を遭わせてないのにさ。

てか、ムサシやペペの事を何度も完全無視だもの。分からないはずがない。

普通さ、視線とか身体とかが必ず反応するのよ。だってみんな、凄い近かったし。



抑えこもうとしても、それがまた別の反応になる。でも、それすらなかった。



原因は・・・・・・多分、ここ最近のあれこれだね。間違いなく僕のせいだわ。





「・・・・・・そっか。なんて言うかさ、私アンタのそういう所は苦手だわ。
バカなように見えて、実は色々見えてるとこ。ホント、腹立つくらい」

「そう」



残念だなぁ。ここが僕のチャームポイントなのに。色んな人にホメられてるよ?



「・・・・・・話、変わるけどさ」

「うん」

「なんで、私じゃだめなのかな。私が、こういう無神経な女だから?」

「無神経じゃないでしょ。てゆうか、それなら僕の方がずっと無神経だ」



傷つけてる。本当に沢山、傷つけてる。申し訳なさ過ぎて、目も合わせられないくらいだよ。



「なら、なんでかな。その答えがどうしても見えないの。だから諦め切れない」

「友達ってだけじゃ、だめなの? 僕、ティアのことはマジでそういう風に思ってる」

「ダメみたい。・・・・・・ダメ、みたいなの」



すすり泣く声が聴こえる。それに、思わず頭が痛くなる。

あむ、これはやっぱ死亡フラグだって。自業自得だけどやばいって。



「振り切られて、傷ついて・・・・・・好きにならなきゃよかったとさえ思った。
でも、私バカみたいなんだ。アンタの声聞いただけでドキドキして、嬉しくなる」

「・・・・・・そう」



僕もフェイトに対しては同じだからなぁ。あんま言えないや。



「ね、一つお願いがあるの」

「だめ」



即答で断って、お話は終了した。



「終了しないわよっ! てゆうか、まだ何も言ってないでしょっ!?」

「だからダメだってっ! 普通に死亡フラグの匂いがするんだよっ!!」

「アンタ、どんだけ気にしてるっ!? ・・・・・・・でも、確かにそうかな」



あー、やっぱりなんだ。そして、ティアの言いたい事は予測出来る。すごく予測出来る。

この状況で、出てくるパターンは一つだけだよ。てゆうか、他に考えられない。



「抱いて、欲しいの」



涙声で息を多く含んだ声は・・・・・・ちゃんと僕に届いた。というか、普通に予想通りだった。



「恋愛感情なんて、無くていい。身体だけの関係でいいから、女の子として扱って欲しい」

「ティア」

「アンタの性欲処理のためでもいい。どんな風にしてもいいから、思い出が欲しいの。
アンタと繋がった思い出が、欲しい。お願い、私何でもする。何でも・・・・・・するから」

「・・・・・・ティア」



ボロボロに泣いているのか、声がどんどん掠れていく。それが胸を貫く。・・・・・・苦しい。かなり、苦しいわ。



「確かに最終決戦前だから、死亡フラグよね。
分かってるわよ。分かってるけど・・・・・・それでも、そうして欲しいの」

「まぁさ、別にその・・・・・・エッチは、いいよ? 友達だもの」



ティアが息を飲む音が聞こえる。涙声が、一瞬だけ止まったから。



「きっと色々回り道して、時にそういう繋がり方しちゃう時もあるでしょ」



サリさんとヴェロッサさん曰く『ある』らしい。僕は知らないけど。



「ただ、今は嫌だ。絶対嫌だ。死亡フラグ過ぎる」

「・・・・・・アンタ、そこまで?」

「ティア、ヴァイスさんという人の事を覚えてるかな?」

「あぁもういい。そうね、確かにヴァイスさんはそうだったわよね。えぇ、知ってたわ」



ティアが納得してくれたようなので、話を続ける。少しだけ、申し訳ない気持ちも含みながら。



「ごめん、恋人は多分無理。かなり考えたんだけど、ティアとはやっぱり友達・・・・・・なんだ」

「・・・・・・そっか。それなら、仕方ないなぁ」

「納得してくれるの?」

「えぇ。一応は」



一応なんかいっ!! ・・・・・・あぁ、僕もやっぱあんまり言えないよなぁ。



「私だってこれでエッチしてアンタが死亡なんてなったら、トラウマ物だもの。だから納得した」



ティアはそこから少しだけ口ごもる。口ごもるけど、涙声でこう続けた。



「あり、がと」

「・・・・・・台詞、間違えてない?」

「これでいいの。・・・・・・これでいいの」



いや、あの・・・・・・ティア? お願いだから自己完結するの、やめて欲しいんですけど。

てゆうか、そこで色々責められるくらいは覚悟してたのに。



「・・・・・・恭文」

「うん」

「抱いてくれるの、期待しないで待ってる。・・・・・・アンタ、一途な方だしさ。
無理はしなくていいから。私はそう言ってくれただけで、嬉しい」

「・・・・・・僕、今ティアとどうしようかなーってあれこれ考えてたんだけど。
具体的には(うったわれるーものー♪)とか(俺達うったわれるーものー♪)とか」



扉の向こうでズッコケる音が聴こえた。・・・・・・なぜだろう、僕だって男の子なんだけどなぁ。



「・・・・・・するにしても、あの子や他の人には絶対にバレないようにしようか。
主にアンタが相当な変態だって事を。てゆうか・・・・・・スケベ」

「スケベだよ? 何を今更。というか、あの子って誰よ」

「アンタが今、1番仲良くて気になってるあの子よ。なお、ほしな歌唄じゃないから。・・・・・・それでさ」



ティアは少しだけ黙って・・・・・・本当に、数十秒くらいかな。声を少しだけ震わせながら、次の言葉を口にした。



「私も一緒に戦わせて欲しい。ううん、巻き込んで欲しいの。・・・・・・お願い。
アンタがどう思ってこれなのかは知ってる。でも・・・・・・それでも今の方が、苦しい」



・・・・・・僕はやっぱ、色々と中途半端らしい。振り切る事も出来ず、結局どんどん巻き込む。

でもいいか。多分・・・・・・これだけ濃いメンツを、振り切ろうとした事自体が間違いなんでしょ。



「・・・・・・・・・・・・僕は謝らないから。もう謝ってもどうにもならないって知ってる」



自嘲気味に笑いながら、静かにドアの向こうのティアにそう言い放つ。ティアは・・・・・・静かに息を飲んだ。



「だから、ティアがどんだけ傷つこうがボロボロになろうが、絶対謝らないから」

「えぇ、それでいいわよ。私も謝って欲しくはないし」

「ただ、それでもエッチはしたい?」

「えぇ」



クスリと笑うような声と共に、返事は返ってきた。だから僕も、少しだけ楽になる。



「私、アンタと同じくスケベでいやらしい女だから。一晩だけでも、思い出は欲しい。
私の初めては・・・・・・アンタにあげたいなって。それだけでも、いい」

「だったらそれはそれで嬉しいかな。ティア、美人だもの」



艶やかな髪に白い肌に、豊かに盛り上がった胸にくびれた全体像。意識しないわけないし。

もちろん、中身との相乗効果によってまたすごいことになったりする。



「・・・・・・ありがと」

「ううん。じゃあティア、後ろは任せたから。ホントに今更だけどね」

「いいわよ、別に。私は任せてくれるだけで・・・・・・マジで嬉しいから。初夜目指して、頑張るわ」

「あははは、やっぱ振り切っていい? 今更だけどこれ辛いわ」

「だめよ。私、もう気持ち固めたし」










言いながら、涙声になるのはやめて欲しい。普通になんか聴こえるんですけど。

とりあえず、僕はもう言う権利が無いから天井を見る。そのまま、ティアが『お休み』と言うまで、そこに居た。

なお、翌日ティアは補佐官をやめるという発言を撤回。普通にフェイトに謝り倒してた。あと、海里とりまにも。





三人は僕を見て『何かしたの?』と聞いたけど、僕は答えなかった。だって、まじで何もしてないし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・ライブの翌日。私と三条さんは海沿いのヘリポートに来た。

いよいよ、エンブリオが手に入るところの一歩手前まで来た。

イースターの見解では、×たまが大量に存在する所にエンブリオは現れるということらしい。





まぁ、嘘かホントかは分からないけど。でも、もしそうなら、これで確実に尻尾は掴める。

だって、世界中の人間のたまごが×になるんだから。

だけど、なんでだろう。なんで・・・・・・私、こんなに普通にしていられるんだろう。





なんで私、こんなに心に穴が開いたように感じるんだろ。










「・・・・・・いよいよね、歌唄。しっかし、湾岸の夜景は綺麗ねー」

「そうね」



だめだ、もう簡単な返事をするのもやっとだ。



「ロスに飛んで、このマスターCDに、これからヘリに積み込む大量の×たまを取り込む。
それからミキシングと最終調整を入れれば・・・・・・私達の勝ちよ、歌唄」



三条さんが懐からCDを取り出して、私にニコニコとしながらそれを見せる。

それは、私の歌の入ったCD。デビューシングルの完成版。



「でも、私一人の力じゃない」

「もう、またそれ? ねぇ歌唄、最近どうしちゃったの?」



三条さんが、呆れたようにため息を吐く。吐いて、私の方を見る。



「心ここにあらず状態かと思えば、やたらとやる気出したり妙にガツガツしたり。
情緒不安定にも程があるわよ。まぁ、ガーディアンの事とか色々心配事があるのは分かるわよ」



そうね、心配だわ。本当に・・・・・・心配。



「でもね、そんなこと気にしないで。何を利用しようと勝ちは勝ち。この業界、才能だけでは生き残れない。
トップになるためには、勝つためには、他の人間を蹴落とす覚悟と強い意志が必要なのよ」



そう、だから私は甘えを捨てた。だから私は、いらないものを捨ててきた。



「アンタにはその強さがある。その結晶がこのCDであり、これからのアンタよ。しっかりしなさい」





それが私の勝利の結晶。私の成果。だけど、なんだろ。私・・・・・・そんなことのために歌ってた?

私が歌っていたのは、イクトの・・・・・・違う。イクトのためじゃない。

1番最初は、本当に1番最初は・・・・・・なんだろう、思い出せない。私、何がしたかったんだろ。



私は夜空を見上げる。そうだ、今の私の心はこの空と同じだ。月も、星も、見えない。





「なにしてんの歌唄。ほら、早く行くわよ」





そう言って三条さんがマスターCDを仕舞おうとした瞬間、青い閃光が衝撃波を撒き散らしながら、こちらに飛んでくる。

飛んできた閃光は、私達の目の前に停泊していたヘリを撃ち抜く。そうしてヘリの装甲を貫き、吹き飛ばした。





「・・・・・・え?」





三条さんも私も、信じられないでヘリを見る。だけど更に轟音を立てた上で二発の閃光が撃ち込まれる。

閃光はヘリの後部のローターや私達が乗る予定だった座席や胴体を貫く。

そしてとどめに、巨大なコンクリの杭がヘリを中程からへし折った。次の瞬間、ヘリは爆発した。



暗かったヘリポートが炎の赤で染まり、熱を撒き散らす。それに思わず私達は、たたらを踏む。



ヘリが爆破・・・・・・させられたっ! う、嘘でしょっ!?





「な、なによ、これっ!!」

≪簡単ですよ≫





聞こえて来た声は後ろから。私はすぐに大きく前に左横に跳んで、三条さんから距離を離した。

それで正解だった。逃げなかったら、私まで捕まっていたから。

私の足元からも杭・・・・・・いいや、コンクリの拳が伸びていて、私の腹を打ち抜こうとしていた。



この宝石の力がなかったら、普通に気づけなかったと思う。そしてその間に、決着はついた。





「な、なに・・・・・・・!!」





三条さんの首に、細いワイヤーのようなものが巻き付く。私は自然とそれのワイヤーの出所を追う。

それは三条さんよりも小さな身長の不審者。黒ずくめのコートに白のピエロのような柄の仮面。

ソイツの手元から伸びたワイヤーで相当強い力で締め付けられてるのか、三条さんの顔が苦悶で染まる。



その瞬間、そいつの手から青い雷撃が迸って、三条さんの身体に電撃が流された。



電流がワイヤー越しに伝わり、三条さんの身体を焼く。三条さんは目を見開く。





「があああああああああっ!?」



三条さんの身体が震える。流れる電気のせいかストッキングが破れて、服にも乱れが出て、メガネがひび割れる。

数秒その状態が続いて、電撃が止まった。そしてその子が手を動かすと、首からワイヤーが外れた。



「つーわけで」



離すと三条さんは地面に倒れた。目を見開いたまま呆然とした状態で・・・・・・そのまま。



「さようならっと」



ソイツは電撃を流した手を三条さんにかざすと、三条さんの下に青い三角形の魔法陣が現れた。

そのまま三条さんの姿が次の瞬間には消えてた。・・・・・・本当に数瞬だった。反応出来なかった。



「歌唄、早速だけど・・・・・・僕達と勝負してもらうよ」



言いながらソイツは左手で仮面を取って、上に放り投げる。



「最初で最後の、真剣勝負。それで全部終わらせて・・・・・・始めよう?」



仮面の中から出てきた顔は、間違いなくアイツだった。というか、声でもう気づいていた。



「・・・・・・恭文」





突然現れて三条さんを攻撃して、どこかへと送ったソイツは、蒼凪恭文。私の・・・・・・敵。

そして今この状況で1番聞きたかった声の持ち主が、そこに居た。

恭文は平然と、いつも通りの不敵な表情でこちらを見ていた。



でも、それだけじゃない。一度だけ見た空色の髪の子が、走り寄ってきた。





「ところがどっこいっ! それだけではないですよっ!!」



また別の声がした。・・・・・・そうよね、アンタも・・・・・・いや、アンタ達も当然居るわよね突然に声と共に、ライトが付く。

多分、夜間の着陸用の目印にするためのライト。それを背中に浴びながら、五人の影。



「・・・・・・僕のこころ」

「俺のこころ」

「ややのこころ」

「私のこころ」

「あたしのこころ」



全員揃って、鍵を開けた。



『アンロックっ!!』



光が放たれる。その光の中で、全員が姿を変える。

まぶしくて、羨ましくなるくらいの輝き。それが目の前に広がる。



「リイン、行くよ」

「はいです」



腰にオレンジと空色のラインが入ったベルトを巻き、一枚のカードを恭文は取り出す。

取り出してから、バックル部分のレバースイッチを入れる。それから、カードをバックルに挿入。



「「変身っ!!」」

≪Vega Form≫





蒼の光に包まれ、アイツの姿が変わる。恭文の方に空色の髪の女の子が吸い込まれる。

恭文は、両手に空色のガントレット。両足に同じ色の具足を身につける。

ベルトの右側には、奇妙な形のパーツが二つ。それから上半身に、黒色のインナーを身につける。



それから上に、分厚い蒼色のジャケットを羽織る。二の腕の側面には、オレンジ色の装甲。

その上から更に、黒色のマントを羽織った。そのマントの留め金の色は、オレンジ。

最後に、髪と瞳がそれぞれ色調を変えた空色に染まる。その瞳で、私を見る。



そして光がはじける。恭文もそうだし、ガーディアンの連中も。





【「キャラなりっ! アミュレットエンジェルッ!!」】

【「キャラなりっ! プラチナロワイヤルッ!!」】

【「キャラなりっ! クラウンドロップッ!!」】

【「キャラなりっ! ディアベイビー!!」】

【「キャラなりっ! サムライソウルッ!!」】



それに続くように、蒼の光がはじける。辺りに氷の羽が舞い散り、夜の闇を照らす。

アイツは、右手で私を指差す。指差しながら、声高らかに宣言する。



「・・・・・・最初に言っておくっ!!」



まるで何かに刻み込むように・・・・・・強くだ。



「僕達はかーなーり・・・・・・強いっ!!」

【ついでに言っておくですっ! 今日のリイン達はかーなーり、本気ですっ!!】





・・・・・・・そう、それがアンタ達の本気ってやつか。そうか、そうか。

だから、ヘリを潰した。だって、車じゃ空港まで間に合わないもの。

だから、三条さんを潰した。だって、この計画の主導者だもの。



そして、私をフルボッコってわけか。本気で逃げ場を潰してるわけね。





「続けて言っておくのですっ! イースターの悪事は、この愛の使者・アミュレットエンジェルとおまけのガーディアンが打ち砕くのですっ!!
・・・・・・って、あたしなにこんな事言ってるのっ!? きゃー、恥ずかしいっ! こんなのあたしのキャラじゃないのにー!!」

【ヒロインとヒーローの様式美なのです。恭文さんがアレですし、やっぱり乗らないのはおかしいかと】

「そんなん分かるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」










ふ、ふふふ・・・・・・あははははははっ! やってくれたわねっ!? 最高よ・・・・・・アンタ達、最高よっ!!

そう、これよっ! これがなくちゃ・・・・・・楽しくないのよっ!!

いいわ、遠慮なく相手してあげる。というか、普通にこうならなきゃおかしいのよね。





決着・・・・・・つけましょうか。これで、私とアンタの腐れ縁もおしまいにするわ。





しなくちゃいけないのよ。しなくちゃ、私は何もできないし、イクトを助けることすら出来ない。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・いいんちょ、よかったの? お姉さん、なんか髪が凄い事に」

「今回重視するべきは、イースターの作戦阻止とロストロギアの確保。
姉さんには申し訳ありませんが、徹底的にやらせていただきます」



いや、その・・・・・・徹底的過ぎない? あたし、マジでいきなりヘリ破壊するとは思ってなかったんだけど。

その上、いいんちょのお姉さんはりまのタイトロープ・ダンサーでぐるぐる巻きだしさ。



「状況を見て、蒼凪さんとキングと一緒に再度協議した結果です。何も問題はない。なにより」

「なにより?」

「これくらいやらなければ、ハラオウンさんやランスターさん達・・・・・・管理局の介入を阻止出来ません」



いいんちょは、そう言いながら左側を見る。ビル街の中・・・・・・フェイトさん達が居ると思われる場所を。

瞳は真剣な色で、今まで見た事がないくらいに視線が鋭かった。



「俺達に失敗は許されない。失敗すれば・・・・・・壊れるものが多数出てきます。
そんなの、俺はもう認められない。だから文句の付けようのないくらいに、俺の『綺麗事』を通します」

「・・・・・・そうだね」



やばい。いいんちょがなんか吹っ切れてる。というか、目がキラリと輝いた。

あはは、もしかして肉体言語の影響ってやつ? 恭文、これはちょっと余計だったんじゃないかなぁ。



「というか、いいんちょとややは、どうしてキャラなり出来てるのっ!? あたし、ビックリなんだけどっ!!」

「いえ、蒼凪さんとエグザさんに『何事もものは試しだ』と言われて、やってみたら」

「いいんちょもややも、なんでか出来ちゃったんだ」



あの二人が原因かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! あぁもう、なんか分かってたっ!! あたしはすっごい分かってたよっ!?



「・・・・・でもでも、キャラなり楽しいねー。フェイトさんも可愛って言ってくれたし」

【最初に言っておく。これは我らもビックリだ】

【ついでに言っておくでち。これが赤ちゃんキャラの究極系でち】










・・・・・・恭文、それは正直どうなの? あたし、色んな意味でビックリなんだけど。





とにかく、あたしもボーッとしてらんない。歌唄と恭文の所に行かないと。




















(その11へ続く)




















おまけ:出発前の一幕




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「汚れた指先でー♪ 夜を注ぎこんでー♪ 千切れるまでー君ーを抉じ開けてー♪」



・・・・・・恭文が、リビングで歌いながら装備を装着している。というか、その格好が怪しいわ。

あれよ、黒ずくめのロングパンツにインナーにシャツにコートよ?



「浅い眠りの中ー♪ 剥がれた想いが軋むー♪」



なんて歌いながら、両足にホルスターを装着。そこに、四本のナイフを入れていく。

あと、妙なベルトも装着したわ。というか、何アレ。さっき見せたら、ワイヤー出てたし。



「何もかも今はー全て消しされたらー♪」



その光景に、フェイトさんもティアナさんもいいんちょもシャーリーさんもシオンとヒカリでさえも唖然としている。

なお、私とクスクスもよ。いや、クスクスは楽しそうに鼻歌でリズムに乗ってるけど。



「Sun will rise Close Your eyes♪ Downfallen Fallingー♪ Hold inside♪」



なんて言いながら、テーブルの上に敷いた布の上に置いたナイフを器用に入れていく。

というか、普通にどこにそんなもん持っていたのよ。普通に部屋から持って来て、びっくりしたわよ。



「Just HOWLING in the shadows♪」



なんて言いながら、最後のナイフを収納。そして左手で、傍らに置いてあった仮面を装着。

そして私達の方を見ながら、こう口にする。それも遠慮なく。



「さ、海里、りま・・・・・・そろそろ時間だ。行こうか」

「いや、あの・・・・・・えっと、蒼凪さん」

「・・・・・・行ける訳ないでしょっ!?」

「え、りま・・・・・・なんで?」



そこ疑問っ!? そこ疑問に持っちゃうわけですかアンタっ!!



「てゆうか、何よソレっ! なんなのよ、その不審人物丸出しな格好はっ!!」

「え、DARKER THAN BLACKの黒。見て分かるじゃないのさ」

「俺とシャーリーちゃんはともかく他は一発で分からねぇよっ! やっさん、お前やっぱ頭おかしいわっ!!
普通にこの真っ昼間にそれで外出ようとする奴が居るかっ!? そんな奴居たら外見だけで犯罪者だって決めつけていいぞっ!!」

「ほんとよっ! そしてそれは誰っ!? というか、普通に私服に着替えてっ!!
そんなんじゃサリエルさんの言うみたいに、ガチで不審人物扱いされるわよっ!!」

「でもりまさん、かっこいいですよ?」



リイン、そこじゃないのよっ!? 私達が気にするべきは、そこじゃないのっ!!

TPOと世間の目が、私達の気にするべきところのはずなのっ!!



「そうですね、素敵だと思います。それが地球では流行りの服装なんですね」

「流行ってないよっ! ディード、お願いだからヤスフミのセンスの影響は受けないでー!!」

「マジ頼むぞっ!? コイツのセンスはヒロと同じく最悪なんだよっ! もはや人外レベルなんだからっ!!」

「全く、失礼な事言わないでもらえます? 普通にレールガンで撃ち抜きますよ? ・・・・・・なーんてね♪」

「ヤスフミ、今冗談じゃなかったよねっ!? 明らかに声に殺気が篭ってたんだけどっ!!」



とにかく、リバーシブルになっているらしい黒のジャケットを裏返して、ナイフは隠し持ってもらった上で、私達は出た。

てゆうか、最終決戦前にこれっていいの? いや、普通に無いわ。やっぱり恭文って、よく分からない。



「というか恭文、アルトアイゼンが居るならナイフなんていらないわよね?」

「りま、予備武器って大事なのよ? アルトがアウトな状況も考えられるんだしさ」

「確かにそうです。というか、蒼凪さんは暗器類の扱いも得意事項でしたね」

「うん。それに今回はナイフは必要なの。・・・・・・これには、ヘリを撃ち抜く弾丸になってもらう」

「「え?」」










・・・・・・まさかガチでヘリ一台を撃ち抜こうと考えているとは、さすがに思っていなかった。





でも、魔法ってすごいのよね。私も・・・・・・使えたら使ってみたいかも。空飛ぶのとか、楽しそうだもの。




















(本当に続く)




















あとがき



恭文「というわけで、新年度前記念スペシャル第二弾です。本日は」





(現在、2010年3月29日です)





恭文「一部予定を変更して、『高町なのはが相馬空海の貞操を奪ったら100人のH友達を作る計画を阻止する会議』をお送りしています」

はやて「というわけで、美由希さんがお亡くなりになって、フェイトちゃんもヴィータ達と相談しとるので、代理として出てきた友人代表の八神はやてと」

なぎひこ「ふ、藤咲なぎひこです。・・・・・・ちょっと待ってっ!? これ絶対おかしいからっ!!
単純になのはさんと相馬君の中の人が、そういうギャグ四コマ原作のアニメに出るってだけだよねっ!?」

はやて「あー、そういう前設定で、なのはちゃんが空海君にアタックするけどさっぱり言うんが、あの漫画の面白さやな。
もうな、全然進展せんのよ。一種のラブコメやな。うん、ラブコメなんや。別にいかがわしい事ばっかの成人漫画ちゃうし」

なぎひこ「それが分かっているならどうして八神さんもここに居るんですかっ!?」

はやて「なぎひこ君、自分ノリ悪いな。てか、この状況で乗らんとあかんやろ」

なぎひこ「誰かな、この人呼んだのっ! 絶対に人選間違えてると思うんだけどっ!!」





(新Jが頭を抱えるけど、ここは気にせずに二人は話を進める)





恭文「はやて、どうしようか。なのはなら一度タガが外れれば、ガチでそれが出来そうだから怖いのよ」

はやて「なのはちゃんとそうなりたい思う男は、フェイトちゃん以上に居るしなぁ。
エース・オブ・エースの外キャラに色々騙されとるしなぁ」

恭文「確かにさ、そういう外キャラが外れた方がいいとは思っていたけど、これはないって。
それもよりにもよって空海だよ? どうしたらそうなるのさ。なのは、ショタコン?」

はやて「そうやろうな。だって、初恋が・・・・・・やしなぁ」





(部隊長、当然のように蒼い古き鉄を見る。そして、色々納得)





なぎひこ「いや、だから・・・・・・あの二人とも、色々おかしいですから」

恭文「なぎひこ、こういう時こそなぎひこが頑張らないと。なぎひこが最後の希望なんだから」

はやて「そうやな。もうアンタしか居らん。アンタしか居ないという事にしとこう」

なぎひこ「『しとこう』ってなんですかっ!? というか、恭文君が頑張ってよっ!!」

恭文「頑張れるかボケっ! 僕は普通にフェイト本命なんだよっ!!
そりゃあなぎひこはなんかアニメや漫画であのキャラとラブラブだけど」

なぎひこ「ラブラブしてないからっ! そういう描写・・・・・・ないからっ!!」

恭文「というかさ、空気読もうよ。冷める、すっごい冷めるって。
なぎひこは、別に豆芝みたいにKYじゃないでしょ?」

はやて「そやで、なぎひこ君。社会出るんやったら、絶対空気読むんは必須やから。
そういうのを読める事で、うちみたいに出世出来るんやから。ほら、うちを見習え」

なぎひこ「・・・・・・すみません。僕、出番が少なくなるのは嫌なんで」





(部隊長の右頭頂部に、何か引きつるものが出来る)





はやて「・・・・・・闇に沈め」

なぎひこ「いきなりセットアップして、魔法撃とうとするのはやめてもらえますっ!?」

恭文「なぎひこ、今のはなぎひこが悪い。甘んじて受けようか」

なぎひこ「受けたら死んじゃうからっ! 僕、一般人なんだよっ!?」

恭文「そうやっていつまで一般人だと言い訳してるつもりさ。だからヘリオポリスは崩壊したというのに」

なぎひこ「ヘリオポリスってなにっ!?」

恭文「まぁアレだよ、なのはは早急になんとかしようか。家族の耳に入った場合の衝撃は、美由希さんで立証されたから」

はやて「そやな。普通に空海君相手はやばいって。下手したら犯罪よ?」

なぎひこ「でも、一応13歳以上は性的同意年齢に入るんですよね」

はやて「そやな。あくまでも金銭のやり取りが無く、互いに恋愛感情がある場合に限り認められる」

恭文「一回限りとか、援助交際とかそういうことじゃなければ・・・・・・・いやいや、それじゃあなのはだめじゃんっ!!」

なぎひこ「一応そうなるね。この話通りならさ」





(新J、普通に鋭いツッコミを入れる。でも、二人には届かない)





はやて「まぁアレや、普通に気軽にするもんちゃう言うことやろ。一応子作りなんやし」

恭文「そうなんだよね。でも・・・・・・やっぱりなのは、焦ってるのかなぁ。
ヴィヴィオから『赤ちゃんってどうやって作るの?』って聞かれて、また泣いてたし」

なぎひこ「ヴィヴィオちゃん、そんな事聞いちゃったのっ!?」

恭文「ショックだったんだろうなぁ。もうちょっと、優しくしてあげようか」

はやて「そやな、そうしていこうか」

なぎひこ「・・・・・・なのはさんって、そこまで? てゆうか、何か誤魔化されてるような」

恭文「気のせいでしょ」

はやて「そやそや」

なぎひこ「気のせいじゃないですからっ!!」










(だけど、そんな叫びは届かなかった。普通に新Jは頭が痛くなる。
本日のED:田村ゆかり『おしえて AtoZ』)





















あむ「・・・・・・今回も一切話の内容に触れてない」

恭文「まぁ、気にしちゃ負けだって。あまりにもなのはのバカが衝撃的過ぎて」

あむ「うん、あたしはアンタのバカが衝撃的過ぎるけどね」

恭文「なんで?」

あむ「なんでもだよっ! てゆうか、疑問を持ってっ!? 自分の行動とか、色々な事にっ!!」

恭文「・・・・・・あぁ、あむがどうしてIFヒロインなのかとか?」

あむ「そこじゃないよっ! どうして10話目でそういう基本的なとこに疑問持つっ!?
・・・・・・とにかく、最終決戦だよ。ヘリをぶっ飛ばしたよ」

恭文「そうだね。それでアレだ、僕は普通に変身前は黒の格好だよ。・・・・・・あのまま戦闘もよくない?」

あむ「アンタ、状況分かってないよねっ!? 絶対分かってないよねっ!!
というわけで、残すところこのルートも後2話だよ。あははは、全くヒロインしてないなぁ」

恭文「あれだよ、死亡フラグ立てちゃったしね。あむ・・・・・・あむの事はずっと忘れないよ」

あむ「どうして死亡確定っ!? てか、アンタはそこを気にし過ぎだからー!!」










(おしまい)





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あきゅろす。
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