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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ケース26 『日奈森あむとの場合 その8』



ミキ「前回のあらすじ。海里との戦いと対話に臨んだボクと恭文。
だけど、海里と×の付いたムサシに大苦戦」

スゥ「キャラなり・アシュラブレードはアルカイックブレードと一進一退の攻防を繰り広げますぅ。
・・・・・・そして、クリーンヒットの攻撃が決まったのですぅ。というところで、始まりますぅ」

ラン「うぅ、私達は普通に応援しか出来ないしー。というかというか、この勝負どうなるの?」

ミキ「とりあえず、ボクは踏ん張る。・・・・・・全力で頑張るって、恭文の魔法を『魔法』にするって決めたから。それじゃあ、スタート」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「イナズマ・・・・・・! ブレェェェェェェドッ!!」





海里の手に持った刀の刀身を、黒い雷撃が完全に包み込み、その切れ味を上げる。

そしてそれは深々と、プロテクションのみならず、変身しているジガンごと腕を貫いた。

いや、腕を捻って刃を何とか逸らす。装甲ごと引き斬りの要領で、傷が深くなる。



だけど、ここはいい。貫かれるよりはずっとマシだ。

そして、その逃げた刃は僕の肩の方へと向かう。

肩の上の方の肉を、ジャケットごと斬った。そこにも痛みが走る。



それだけじゃない。イナズマがまた刀身に走り・・・・・・ってまずいっ!!





【恭文、下がってっ!!】



いや、それだと絶対に間に合わない。・・・・・・クソ、ミスった。



「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





海里が右の刃から電撃を爆発させ、僕の動きを止めようとする。

それと同時に左の刃が、僕に袈裟から振り下ろされる。でも、甘い。

海里、知ってる? それはブッチギリの死亡フラグなんだよ。



僕は・・・・・・海里の胴にすぐさまアルトを逆手に持ち替えて、その柄尻を叩き込んだ。





「いちいち」



手に伝わるのは確かな衝撃。そこから発生するのは空気の震えと『ドン』という肉と骨を叩いた音。

打ち込んだのは徹。悪いけどもう、加減してる余裕がない。その瞬間、海里の動きが止まる。



「温いんだよっ!!」



いや、それだけじゃない。海里の口から、血が僅かにだけど吐き出される。



「いいんちょっ!?」

「・・・・・・まだだ」

「うぉりゃっ!!」



そのまま、右足で海里を蹴り飛ばす。その勢いで左手と肩からようやく刀の刃が外れる。

瞬間、黒い雷撃が抜けた右の刃の切っ先付近からはじけた。そう、まさしく雷撃の爆発だ。



【カラフル・ラウンドシールドッ!!】





ミキが主導で、虹色のラウンドシールドを前面に展開。

海里を蹴り飛ばした勢いを活かしながら、僕達は後方に下がる。

なおかつ、青い障壁でその爆発をガード。雷撃でのダメージを、それで何とか抑える。



雷撃は空気を、一定空間を焦がすように発生して・・・・・・そのまま、消えた。

感電はなんとか避けられたね。だけど、やっぱダメージはデカイ。

左腕から、肩から、赤く熱い血が溢れるように流れ出して、床に零れ落ちていく。



それはジャケットを赤く染め、床も同様に染め上げる。というか・・・・・・ヤバいなぁ。

腕・・・・・・くそ、動かない。痛みから察するに骨も多少やられてる。

思ったより傷が深い。とりあえず、マジックカード・・・・・・あ、出せた。



アルトを持ちながら、右の親指と人差し指で取り出したマジックカードを持って、発動。

青い光が僕の身体を包み込み、傷を癒す。応急処置的だけど、止血も同時に行ってくれる。

とりあえず・・・・・・傷の治療は完了。左腕、なんとか動く。神経が切れてるとかではないみたい。



血も止まってるから、失血で意識を失うようなことにもならない。まぁ、応急処置ですよ。





「ミキ、大丈夫?」

【うん、大丈夫。まだ・・・・・・行ける】

「恭文、ミキっ!!」

「あむ、下がってて」



あむが、こっちに踏み出しかけてた。だから、言って止める。



「そんなこと出来るわけないじゃんっ! アンタ、凄い血が」

「じゃあ、言い方を変えようか」

「足手まといになんて、絶対ならないよっ! お願い、あたしの事信じてっ!?
あたし、頼りになんてちっともならないかも知れないけど・・・・・・見てらんないっ!!」



まだ、痛みの残る左手を・・・・・・僕は、軽く上げる。そうしながら見据えるのは、黒き阿修羅。



「違う。・・・・・・僕の事、信じて」



壊したい今を、守りたい今を同時に見据えて、僕は足を踏みしめる。

・・・・・・シオンとヒカリは、ありがたい事に僕とミキに任せてくれてるらしい。



「え?」

「海里は、このままになんてしない。だって、伝えたい言葉があるから」



だったら、みっともない戦い方は出来ないでしょ。これは、僕が選んだケンカだ。

フェイトやあむ達に頼ることも出来たのに、自分で選んで通すと決めた。だったら、最後までそうするだけ。



「で、死んだり一生残るような怪我、するつもりもない。だって、あむの事泣かせたくないから」



それに・・・・・・ちょっとだけ。本当にちょっとだけ、意識してるしね。

僕、あむと居る時間が好きになりかけてる。恋愛とか、そういう感情とはまた違うんだろうけどさ。



「だから大丈夫」





『守る』の中には、僕とアルト、ミキもしっかり入れてある。そこは、絶対。

自己犠牲なんてしたって、意味がないから。僕はただの人間だもの。神様にも英雄にもなれない。

完全無欠で万能な最強キャラになんてなれないし、でもだから・・・・・・いつだって、僕は僕だ。



だからこそ守りたい。目の前のあの子があの時浮かべていた、不器用な笑顔を。

そして壊したい。あんな歪んだ笑いしか浮かべられない今を。

僕はあむに、軽く余裕を持って言う。今この瞬間でも・・・・・・僕という時間を貫く。



貫いて、僕は右の口元を歪める。歪めて、軽く笑いながら言い放つ。





「・・・・・・あむと4年後にたっぷりエッチなことするんだし」



軽口を言って、笑って一歩踏み出す。まだ、終わってないから。僕はまだ、何も守れてない。

そして何も壊せてない。全部なんて無理だから、せめて・・・・・・目の前の今は覆す。



「で、その時にあむの『初めて』は全部もらうしね。こんなことじゃ、砕けないよ」

「バカっ! こんな時に何言って・・・・・・でも、分かった」



気配で、あむが下がって行くのが分かる。



「『初めて』あげるかどうかはともかく、アンタの事・・・・・・信じるから」

「・・・・・・ありがと」



少しだけ瞳を閉じてから、集中する。そして、瞳を開けた。



「アルト」

≪はい≫

「僕、もしかしたらロリコンかも」

≪いいんじゃないですか? 4年後なら・・・・・・いえ、1年後でも大丈夫でしょ。
日本での性的同意年齢は、13歳からですし。相思相愛なら、いけますよ≫





なお、性的同意年齢というのは、この年齢以上ならエッチしても犯罪にならないという年齢である。

ただし、未成年者の場合は相手としっかりとした恋愛感情があり、尚且つそれに伴なう金銭のやり取りがない場合に限られる。

ようするに、援助交際とか一回限りのお遊びとか、そういうのだと完全無欠にアウトって事だね。



あと、他の法案に触れる場合もあるから、やっぱり大人になるまでは・・・・・って、何解説してんだろ。





「あはは、賢者タイムが短くて助かるなぁ。でも、どっちにしてもロリコンだわ。それ」










軽口を続けながら、また踏み出した。ジガンから滴る血を振り撒きつつ、それでも前へ一歩。





・・・・・・・・・・・・まだ、終われない。確かめなきゃいけないことがあるから、絶対に。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・恭文、初めて『信じて』って、自分から言ってくれた。

今まではこんなこと絶対なかったのに。あれ、なんだろ。

あたし、またドキドキしてきた。恭文もいいんちょも、すごく大変な時なのに。





あたし、なんでなんだろ。なんで・・・・・・こんなに恭文にドキドキしてるんだろ。





どうして恭文にもっと信じて欲しいって、それが出来るくらい強くなりたいって、思ってるんだろ。










「・・・・・・海里、第二ラウンド」



恭文は言いながら、左手で一枚のカードを取り出す。それは音符マークのスペードの10のカード。

左手に付いてる赤い血が、カードにつく。それでも・・・・・・恭文は、カードを右手のリーダーにスラッシュさせた。



「始めるよ」

≪The song today is ”STRENGTH.”≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・うぉぉぉぉぉぉぉっ!!」





海里が踏み込んでくる。ただひたすらに・・・・・・倒すべき敵である僕に向かって。

振るわれるのは左の刃。真一文字に外側から打ち込んでくる。

身体を少しずらして避ける。そこを狙って海里は、身体を更に捻りながら右の刃を逆袈裟で攻撃。



いや、右の刃だけじゃなくて両手でだ。右に転がるようにして、避ける。

ヤバイ、やっぱ出血量が多いから、反応が悪くなってる。もっと・・・・・・もっと集中しろ。

距離を取った僕に向かって、海里は踏み込む。打ち込まれたのは、左の刃。



打ち込まれたって言うと、正確じゃない。海里は刃の切っ先を突き出して来た。僕は右に回避。

だから、海里は右に刃を薙ぐ。いわゆる平突きからの連撃。それもしゃがんで避けた。

再び右の刃で突き。今度は左に避ける。それが・・・・・・右の肩の上部分を、僅かに斬った。



海里はそれを好機と見て、即座に刃を唐竹に打ち込む。僕はそれに咄嗟に対処。

アルトで刃を防御しつつ、そのまま後ろに下がる。海里の刃は、アルトを斬る。

刃と刃が擦れて火花が散る。散って・・・・・・僕の方からも、血が噴き出す。



浅くだけど、斬られてる。その痛みで、少し飛びかけてた意識が元に戻った。

海里はそんな僕に対して、二刀を突き出す。・・・・・・中途半端な技が通用しないと読んだらしい。

だから、一撃必殺の突き技ばかりを使う。これなら、もう通じることは決定だから。



二刀を当て、刃と刃を交差。まるではさみのように僕の首を狙う。当然、刃には黒い雷撃。





「イナズマ」



黒いはさみが、僕の首を刈り取るために・・・・・・振るわれる。



「カッター!!」



そのはさみに向かって、僕は唐竹にアルトを打ち込む。はさみとアルトが衝突する。

ギシギシと火花を上げ、音を立てながらせめぎ合い・・・・・・僕が押し勝った。



【「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」】





唐竹に叩き込んだ虹色の閃光が、はさみを弾き飛ばす。

二刀を持った海里は後ろに怯むように下がる。・・・・・・スピードは同等。

だけど手数は向こうが上。それでも、技量と剣閃の強さは、僕が上だ。



海里の二刀はまだ交差したまま。だけど、胴体は・・・・・・がら空き。





「飛天御剣流」





僕は海里の懐へと踏み込む。海里は反応出来・・・・・・反応した。咄嗟に蹴りを僕の胴体に叩き込んだ。

キャラなりのせいで戦闘能力が上がってるのか、普通にどっかの魔導師の蹴り張りにダメージが入る。

だけど、それに構わずに僕は動き、踏み込む。・・・・・・アルトの刃を返し、その虹色の刀身に左手を当てる。



そのまま、当てた部分を押し上げるようにしながら、僕は跳んだ。





「龍翔閃」



左手で掌底を、下から上に叩き込んだと考えてもらえればいいかも知れない。

違いは、刀身を使った事。そのまま海里の身体もろとも、僕は跳び上がった。



「もどきっ!!」



海里の身体が僕より上に飛んで、仰向けに地面に落ちようとした。

でも、まだ終わらない。追撃を、かける。アルトを引いて、正眼に構える。



「同じく」



続けて、それに右足をかけて一気に前に飛ぶ。今なら、やれる。



「九頭」





・・・・・・そして、海里の右手が動いた。咄嗟に刀を僕に向かって投擲してきた。

吹き飛ばされながらも投擲された刃は、僕に向かって真っ直ぐに飛ぶ。

僕は飛び込んだ直後で隙だらけ。それでも僕は構わずに、身を時計回りに捻りながら突っ込んだ。



刃が、僕の右腕と胴体の間・・・・・もっと言うと、脇腹を斬った。

腕は柄から離して、咄嗟に引いていたから大丈夫。刃はそのまま僕を通り過ぎた。

通り過ぎて、もう遠隔操作では抜けないほどに、深々と後ろの壁に突き刺さる。



今度は海里が隙だらけ。空中で、飛ぶことも出来ない海里に向かって、僕は刃を振るう。





「九頭」



もう一度、脇から血を流しながら・・・・・・右手でアルトの柄を握り締めて、僕は踏み込む。



「龍閃」





・・・・・・唐竹袈裟左薙左切上逆風右切上右薙逆袈裟刺突っ!!





「もどきっ!!」



再び生まれた九つの斬撃を、空中の海里は今度は防げない。防げずにまともに喰らい、吹き飛ばされた。

そして僕と海里は、ライブハウスの床に叩きつけられた。ライブハウスにその音が響く。



「着地・・・・・・失敗、した」



くそ、傷が思ったよりも深い。こりゃ、ミスジャッジだったかな。決めるタイミングかと思ったんだけど。



【・・・・・・ボク達、傷だらけだね】

「そう、だね。高速型の・・・・・・名折れ、だわ」

【海里、動き速いし・・・・・・仕方、ないのかも】



それでも立ち上がる。ミキは荒い息を吐きながらも、力を貸してくれてる。アルトも同じく。

一人じゃないって、一緒に戦ってくれる誰かがいるって、やっぱり・・・・・・いいわ。僕は弱いので、すごく助かる。



「ミキ、アルト、行ける?」

≪問題ありませんよ。というか、これくらいいつも通りでしょ。
・・・・・・最後まで意地を、通しますよ。ミキさん、あなたはどうですか?≫

【イチイチ聞かなくても、いいよ。最後の最後まで、付き合うから】

「そっか」



どうやら僕は・・・・・・ミキは振り切れないらしい。ここはもう、確定だわ。だから、こう言う。



「なら、巻き込むわ」



振り切るのではなく、巻き込む。だからミキは、どこか嬉しそうにしながら声に返してくれる。



【うん】



こりゃ、もしかしたらあむや唯世達も同じかな。僕、結局みんなは振りきれてないし。

なんて言うか・・・・・・やっぱガーディアンは、居心地良過ぎだわ。普通に楽出来るし。



「・・・・・・恭文っ!!」

「あむ」

「信じてるからっ!!」



涙声のあむの声が聞こえる。聞こえるから・・・・・・僕は、まだ戦える。

立ち上がって、脇腹から流れる血の熱を感じながらも、僕はアルトを強く握り締める。



「信じてる」



あむの声が掠れてる。それでもきっと必死な顔で、想いを振り絞りながら声を出してる。



「だから・・・・・・お願い。絶対、覆して。じゃないと、あたしは認めない」



だから伝わった。伝わったから、僕は・・・・・・立ち上がれる。



「・・・・・・あいよ」





海里も同じく。ふらふらとしながらも立ち上がる。

顎を打ち抜かれても、九頭龍閃を食らっても、それでも止まらない。

アルカイックブレードの時のアルト、通常攻撃でも浄化は可能なのに。



・・・・・・まだ無理なのか。まだ、足りないのか。海里の絶望を砕くには、まだ。



こんな今を覆すには、まだ足りない。もっと決定的な一歩が必要なんだ。





「・・・・・・俺は、もうここしかないんだ」



そのまま、剣を・・・・・・残ったもう一本の刀を両手で持って、海里は構える。正眼に構えて、僕を見る。



「ここは、俺が逃げて・・・・・・居て許される場所なんだ。姉さんは、こんな俺にも感謝してくれるんだ」

「・・・・・・ふざ・・・・・・な」



声は、掠れるように漏れる。だから、海里は気づかない。



「だから、終われない。俺にはもう、ここしかないんだ」

「・・・・・・て・・・・・・か、お前」



気づかないけど、次に出た声はさっきより大きかった。だから、海里は気づいてこちらを見る。



「え?」

「・・・・・・ふざけてんのかお前っつったんだよっ!!
てめぇ、剣を持つ身でありながら、重さから逃げてんじゃねっ!!」



怒号が響く。ライブ会場に僕の声が・・・・・・あー、耳がちょっとキーンとしてるし。

でもいいや。もうキレた。完全にキレた。そして納得した。僕がまだ、どっかで守りに入ってた事もだ。



「いいか。剣ってのはな」



それじゃあ届かない。・・・・・・命を賭ける。ミキも、アルトも巻き込んで、ありったけを賭ける。

取り戻したいものへは、伝えたい言葉の意味は、下手に守りに入ってたんじゃ、絶対に届かない。



「簡単に言えば人殺しの道具だ」



アルトを前に上げる。まるで刃を見せ付けるように。



「刃は肉を裂き、骨を絶ち、命を奪う。今、お前が僕にやろうとしたみたいにな」



その言葉に海里の身体が震える。そして見る。

抜けない程に深々と突き刺さったために、血に塗れた刀身が全く見えない自分の刀を。



「そして、僕がさっきお前にやったみたいにだ」



海里は視線を動かし僕を見る。瞳の中が、揺れてる。

・・・・・・仮面の部分から少しだけ見える海里の瞳が、揺れている。



「お前は今、人を斬ったんだ。いや、殺そうとした。
奪い、壊そうとしたんだ。それからもまた逃げるつもり?」

【海里、逃げてどうするの? 逃げたら、きっと何も感じなくなる。それが当たり前になっちゃう。
今は後悔してるんだよね? それって・・・・・・本当は、いいことなんじゃないかな】

≪知っていますか? 狂った人間は、苦しみません。笑って・・・・・・笑って、奪って壊します。
苦しいなら、それも全部受け入れればいいんです。それさえも、あなた自身として≫



海里は、首を横に振る。横に振って、僕達の声を頭からかき消そうとしてる。



「そんな事、出来るワケがない。・・・・・・あなた達に分かるんですか?
今の俺の気持ちが。このどうしようもない重さが」

「分かるさ」










残念ながら、分かるんだよ。全部じゃない。きっとそれは無理。





だけど、それでも・・・・・・僕は、お前の今の気持ちが分かるんだ。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先の事


ケース26 『日奈森あむとの場合 その8』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・日奈森さんっ!!」



後ろから声。そこには、関係者の出入り口で張っていた唯世くん達。

急いで走ってきたのか、みんな息を荒くしている。りまは特にゼーゼー言ってる。



「みんなっ!!」

「ねぇ、ほしな歌唄は放置ってどういう・・・・・・ジャックっ! てゆうか、恭文怪我してるっ!!」

「というかボロボロではないかっ! ・・・・・・おいおい、まさかっ!!」

「日奈森さん、結木さん、まさかアレ・・・・・・三条君が?」

「そう、なの」



倒れて、立ち上がる二人を見ながら驚くみんなに、ややが呟く。

ジッと・・・・・・涙目で、恭文といいんちょの戦いを見てたややの声は、震えていた。



「恭文・・・・・・ボロボロで、血も一杯で・・・・・・もう、やや見てられない」

「ミキも、もう限界なのにキャラなり・・・・・・解かないんでち。二人とも、全然・・・・・・止まらないでち」



みんな、目の前の光景に驚いてる。というか、あたしも驚いてる。

だって、恭文信じるどうこうは抜きにして、マジに手出し出来なくなってるし。



「・・・・・・・・・・・・分かるに、決まってるさ。僕も壊してきた。
場合によっては・・・・・・殺したことだってある」





その言葉に全員が固まる。そして、恭文を見る。腕を貫かれて、脇腹を斬られて、沢山傷ついてる。

それなのに、それでも止まらずに、いいんちょに向かって歩き出す恭文を。

ちょ、ちょっと待とうよっ! それ・・・・・・それ、恭文、マジで周り見えてないっ!?



いいんちょやあたしだけじゃなくて、唯世くん達も居るのにっ!!





「人を、この手で殺した事がある」



それでも、恭文は止まらない。アルトアイゼンをしっかりと持ちながら、恭文は前へ踏み込む。

そんな恭文を見ていいんちょは、飛び出して袈裟に刃を振るう。



「一度じゃない、一人じゃない。何度も・・・・・・何人もだ。だから、分かる」



それを恭文はアルトアイゼンで受け止める。



「何かを壊すってことが、どんだけ重い事か。今、お前の抱えてるものが相当重いってこともだ」

「やめて、ください。そんな嘘は」

≪嘘じゃありませんよ。この人は、ぶっちゃけちゃえば人殺しです。
あなたと・・・・・・同類ですよ。命を奪い、壊した人間です≫

「霊体やら生体兵器やら、人以外でも色々殺してるしね。お前より、手は血で汚れてるよ」



そうハッキリ言った二人の言葉に、あたし達の誰かが息を飲んだ。

いや、もしかしたらあたしだったかも知れない。知ってても、衝撃は受けたから。



「さて海里、そんな人殺しの先輩から・・・・・・一つ忠告だ。逃げたって何にもなんないよ?
今お前が感じている重さを忘れようとしたって、何にもなんないよ?」

「やめろと、言っているっ!!」



至近距離で、黒い雷撃が爆発する。それに恭文は身体を焼かれる。

焼かれるけど・・・・・・それでも、恭文は離れない。離れずにアルトアイゼンを押し込みながら、いいんちょを見据える。



「お前がそっちにマジに居たいんなら、それでいいよっ!!
でも・・・・・・守りたかったものを壊した事を理由にそうするって言うんなら、僕は認めないっ!!」

「黙れっ!!」

「言い訳して、自分が本当に居たい場所を、やりたい事を、『なりたい自分』を諦めてそこに居るなら、僕はそんなの認めないっ!!」

「黙れ黙れ黙れっ!!」



雷撃は嵐のように渦巻く。それによって、恭文のジャケットの一部が弾けて消滅する。

肩口に左の二の腕、斬られてもろくなっていた右脇腹に左の膝の部分。



【ボクだって同じだよっ!!】



ジャケットがはじけた箇所から、恭文の素肌が見える。そしてそれが、雷撃で焼かれる。

それでも引かない。引かずに恭文もミキも・・・・・・前に踏み込み続ける。



【そんな事して、ムサシを・・・・・・『なりたい自分』を捨てていいのっ!?】



雷撃は勢いを増しながら、いいんちょの持った刀から放出される。それに床や空気がどんどん焼かれていく。



「ホーリークラウンッ!!」



唯世君が、いつの間にかキャラチェンジして、ホーリークラウンを発動。



「プロテクションッ!!」



リインちゃんも一緒に防御魔法を展開して、あたし達の周囲に青と金の二重のシールドが展開される。



「恭文、もうやめてっ! もう・・・・・・もういいからっ!!
そのままじゃ、恭文死んじゃうよっ! そんなの、ややは嫌っ!!」

「ミキも止まるでちっ! ・・・・・・・お願いでちから、ペペ達の言う事を聞くでちっ!!」



でも、恭文とミキは・・・・・・止まらずに、躊躇わずに、ただその中心でいいんちょと刃を押し合う。



「二人とも、無視してんじゃないわよっ! 私達の声が聞こえないのっ!?」

「お願いだからやめてー! もういいのっ!! もういいんだよっ!?」

「恭文さんもミキもアルトアイゼンも、もうやめるですっ!!
それ以上やったら・・・・・・・ホントに、ホントにエル怒るですよっ!?」



きっと、無視してるんじゃない。もう、周りが見えないくらいに余裕・・・・・・無いんだ。



「・・・・・・ええい、このバカがっ! 庶民の分際でこの僕を無視するとは何事だっ!?
お前達は・・・・・・大バカだっ! これでは結局、僕達は・・・・・・僕達はお前に総任せではないかっ!!」

「蒼凪君、お願い。・・・・・・止まって・・・・・・もう、止まってっ!!」



唯世くんとキセキだって、みんなだって分かってる。分かってるけど、言わずにはいられなかった。だけどあたしは、何も言わない。

うん、言わない。だって・・・・・・信じるって決めたから。恭文は、約束を守ってくれるから。



【海里、もう一度言うよっ! 壊した事実・・・・・・ううん、それを後悔してる自分から逃げて、それでどこに行くつもりっ!?】



恭文は、ちゃんと自分を通す。伝えたいことを、いいんちょにぶつけ続けてる。

だからあたしも・・・・・・あたしの大事な約束、ちゃんと通すんだ。



【そのまま行ったら、本当にもう後悔すらしなくなるっ! そうなったら、海里は一生侍になんてなれないっ!!】

「その道は、もうとっくに閉ざされているっ!!」

「んなの勘違いだっ! お前は、何も諦めなくていいっ!!
壊した事を、過去を、他人との違いを理由に・・・・・・諦めたりなんて、するなっ!!」

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



いいんちょの左拳が、恭文の顔面を穿つ。『ゴス』という音が聴こえて、あたし達は息を飲む。

だけど、恭文は・・・・・・動かない。その拳を受け止めて、変わらずにそこに居た。



【「黙ら」】



恭文の左手が、アルトアイゼンの柄から離れる。

恭文は拳を握り締めて、その拳を同じようにいいんちょの顔面に叩きつけた。



【「ないよっ!!」】





だけど、いいんちょも同じようにそれに耐える。耐えて、二人は右足を動かす。

動かして、互いの身体を蹴り飛ばした。二人の身体は、吹き飛ぶ。

それと同時に、さっきまで荒れ狂っていた黒い雷撃の嵐が一瞬で止んだ。



次に響くのは二つの轟音。恭文はライブハウスの壁に叩きつけられて、床にズルリと落ちる。

いいんちょはステージと客席の段差に背中からぶつかって、そのままステージに転がるようにして乗り上げる。

それから数秒、恭文もいいんちょも全く動かない。あたし達は、走り寄ることも出来ずにただ見てるしか出来なかった。





「情けない事にさ」



恭文は、また立ち上がる。立ち上がって・・・・・・いいんちょを見据える。



「・・・・・・僕も本当に最初の時は殺した事もそうだけど、抱えてた夢も何もかも忘れようとした」



額から血が流れて、上半身のジャケットはもう吹き飛んで、インナーだけになってる。



「背負うのなんて、無理だって思って・・・・・・でも、気づいた。僕は絶対に逃げられないし、何も忘れられない」



見えている肌が、ところどころ黒く焦げてて・・・・・・それでも、止まらない。



「・・・・・・ううん、逃げたくないし忘れたくもないんだって。
戦う事で誰かを傷つけ続けていても、時にはまた誰かを殺しても、何も変わらなかった」



ふらふらとしながら、恭文は前に踏み出す。ゆっくりとだけど、一歩ずつ。



「忘れてしまったら、殺した時の自分を肯定するようで、怖かった。それは今でも同じ」



いいんちょは、まだ起き上がれない。そのまま、恭文の言葉を聞く。



「夢だって同じだ。・・・・・・そんな僕が夢を持つなんて、許されないんじゃないかって何度も思った。
シオン達が生まれても僕は戦って・・・・・・人を傷つけて、時には敵を殺して、守り切れない事もあって」



だからいいんちょは、ここまでダメージを受けても離さなかった刀を、両手で逆手に持つ。



「それでも・・・・・・それでもなんだ。それでも、何も諦めちゃいけない。諦めたくない。
可能性を壊した事を、殺した事を理由に自分の未来を諦めるのは、ダメなんだ」



いいんちょは、まだ立ち上がれない。ただ恭文の言葉を受け止め続ける。



「海里、罪は償うものじゃない。償い切れる罪なんて、どこにもない。
同じように忘れていい時間も、降ろしていい夢もどこにもない」



恭文の右足が引っかかる。倒れかけるけど、すぐに引っかかった右足を前に出して踏ん張る。

踏ん張って・・・・・・まだ足を進める。あたし達はもう、誰も何も言えなくなっていた。



「だから少しずつでも全部数えて、向き合うんだ。向き合って・・・・・・全部明日に持っていく」



身体が限界に近いのか、本当に少しずつしか身体が動かない。



「持っていって、そこから一歩踏み出す。何も諦めない自分を、始め続けるために。
贖罪のためではなく、傲慢で恥知らずでも笑って生きるために。だから」

「・・・・・・俺は、そんなに強く・・・・・・ありません」



そしていいんちょは、刀を支えに無理矢理に身体を起こした。



「俺は、あなたとは違う。弱い・・・・・弱い人間なんです」

「なら、そこも同じだ。僕も弱いよ。弱くて、迷って・・・・・・躊躇ってばっかりだ」



少しだけ、恭文が声を出して笑った。そこから、顔立ちまで笑顔になっていく。

明るいものではなくて、穏やかで優しくて・・・・・・その瞳は、いいんちょを見続けている。



「海里、別に強くなくたって、いいんだよ。・・・・・・思い出して? ムサシが産まれた時の事を」



いいんちょの仮面が、さっきの拳での一撃のせいか、真っ直ぐにヒビが入ってる。

そんないいんちょを見て、恭文は少しだけ笑いかけ続ける。



「海里が憧れて、なりたいと思った侍の姿を。
自分が居たいと思う場所を。必要なのは、それだけだから」



身体中傷だらけで、血も一杯流れてて、立ってるのもやっとのハズなのに。



「そこから、また手を伸ばせばいいから」

【海里、お願い。ボク達に・・・・・・教えて? 海里は、本当にどうしたいのかな。
どうなっていきたいのかな。お願い、ボク達の声が少しでも届いてるなら・・・・・・教えて】



ミキの声は、掠れてる。恭文と同じなのに、それでも止まらない。

あたしは両拳を強く握り締める。ランとスゥも、同じく。



「・・・・・・俺、は」

「うん」

「諦めたく・・・・・・なんて、ない」



ようやく、本当に一言だけいいんちょは声を漏らした。

顔を上げて・・・・・・仮面ごしだけど、瞳から涙が溢れてるのが見えた。



「何も・・・・・・諦めたく、ないっ! 諦めたくないに、決まっているっ!!
でも、無理なんですっ! 身体が・・・・・・!!」



いいんちょの身体から、黒いオーラが噴き出す。それは風となり、ライブハウスに充満する。



「身体が、心が言う事を聞かないんですっ! 無理だと・・・・・・ダメだと声がして、振り切れないんですっ!!」

「・・・・・・ごめんね」



恭文は、少し俯いて謝った。それを見て、いいんちょの仮面の下の目が見開く。



「え?」

「苦しい思い、してたよね。ごめん、こんな事になる前に助けてあげられなくて。
何も・・・・・・出来無くて。きっと僕が、ここまで海里を追い詰めた」

【それは、ボク達も同じ。気づくチャンス、いくらでもあったのに・・・・・・本当にごめん。でも、もう終わりだから】



恭文は、顔を上げる。上げて・・・・・・強く、強くいいんちょを見据える。



「その責任は、しっかりと取るから。・・・・・・壊すよ」

【こんな悲しい時間は、もう終わり。ボク達のありったけで、止めるよ】



恭文はアルトアイゼンを鞘に納めた。頭や肩、脇腹から流れる血なんてもろともせずに、瞳は強い光を宿す。

その光の宿った瞳で、いいんちょを見据える。いいんちょはそれを受け止めるようにしつつ、刃を強く握り締める。



「そんな声も、こんな時間も、それらの根源も、全て壊す。壊して・・・・・・伝える。
諦めても、何も変わらないって。変わらないから、そんな必要ないって」



渦巻く風の中、二人は・・・・・・最後の一撃を叩き込むために、力を振り絞る。



【「夢と自分を諦める必要も、『ここに居たい』と思う気持ちを捨てる必要もっ! そんなもの・・・・・・どこにもないって、伝えるからっ!!」】



・・・・・・あたし達はただ、それを見ている事しか出来なかった。

どっちも傷ついて、こんなの悲しくて・・・・・・止めたくて、ダメなはずなのに、止められなかった。



「リインさん」

「・・・・・・その話は、恭文さんからあると思うです。まぁ、リインも無関係じゃないですけど」

「分かった。なら今は聞かない。というより、蒼凪君が話してくれるまでは、無理に聞かない」

「ありがとうです」










唯世くんがあたしにやや、りまに対して視線で言って来る。





『みんなもそれでいい?』と。あたし達は・・・・・・頷いた。





みんな一斉に、迷いなく頷いたのを見て、あたしはなんというか、すごく嬉しくなった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ダメです。その技は、もう俺には通用しません」



集中する。想いを、薄く鋭い刃へと研ぎ澄ます。

斬るべきもの・・・・・・それは海里。だけど、海里じゃない。



「ほう、その理由は?」

「瞬(またたき)・・・・・・神速の居合いの技。以前見せてもらいましたから。
確か、三連撃まで可能でしたよね。それは、とっくにデータの中に入っています」



海里の中にある絶望を、逃げようとしている感情を、ムサシに・・・・・・『なりたい自分』に付いた×を斬る。



【そう。ただ、それでも海里には止められない。潰せるなら、潰せば?】

「たいした自信ですね」

【自信? 違うよ。これは・・・・・・確信だよ。だってボク、恭文の事信じるって決めたし。
全部背負って、何も諦めないと足掻く恭文が・・・・・・ボクは大好きだから】



そして、この一撃で伝える。今居る場所が、その感情が、海里の全部じゃない。

例え傲慢でもそこから立ち上がることも出来るんだって、伝えるんだ。



「蒼凪さん、ミキ」

「なに?」

「・・・・・・すみません。俺は、こうしなければ止まれません」

「ん、いいよ。だって僕達・・・・・・友達で仲間じゃないのさ」

【そうだよ。水くさいことは言いっこなし】



そう、そうなのよ。僕は他人で全く関わりが無かったら、遠慮なく見捨ててるよ。

でも、海里は大事な友達だから・・・・・・同じ夢を追いかける大事な仲間だから、ありったけを使う。



「見せてあげるよ、海里」



これが・・・・・・僕の選択だ。僕が選んで、積み重ねてきた剣の重さだ。

誰にも真似なんて出来ない、僕そのものだ。



「僕の選択を。僕の・・・・・・時間ってやつを」





集中しろ。必要なのは、たった一歩だ。たった一歩・・・・・・それを踏み出す事で、今は覆せる。

何も諦めたくない。何も捨てたくなんてない。全部必要で、幸せだから。

自分が傲慢なのも、許されないかも知れない道を歩いているのも、もう知っている。



だから、どいつもこいつも・・・・・・横からグダグダと評論家気取りで僕の生き方に口出しするな。

・・・・・・僕が、そうするって決めたんだ。何も諦めたくないから笑ってやるって、開き直ったんだ。

開き直って、自分の人生を最高のハッピーエンドにしてやるって、覚悟決めたんだ。



そしてそれは、海里に対しても同じ。・・・・・・あのくそ真面目なバカに、何も諦めて欲しくなんてないんだよっ!!





「イナズマ・・・・・・!!」



海里の刀にイナズマは走る。色は当然黒。

物理殺傷能力を持った攻撃。つーか、全然魔法少女らしくないし。



「ミキ、アルト・・・・・・行くよ」

【うん】

≪さぁ、ぶっ飛ばしていきましょうか≫





かく言う僕もアルトに力を込め続ける。いや、力だけじゃない。想いもだ。

どっかの人じゃないけど、力だけでも、想いだけでも今は未来に繋げられない。

だから、両方を練り合わせて・・・・・・身体をかがめて、右手をアルトの柄にかける。



今から放つのは、抜刀術。色々と気づいた中で、あの野宿修行の中で、見出した事がある。



それは一つの確証。それを今、ここで叩きつける。





「ブレードっ!!」





海里が踏み込んでくる。刃を横に寝かせて、無形の位の僕に向かって右薙の一閃。

10数メートルあった距離は、海里のたった一歩で瞬間的に0に縮まる。

まさしく黒い雷光と言うべき速度で、僕に迫る。僕は、踏み込んだ。



何も諦めたくない。何も捨てたくない。夢も、願いも、大事な人達も・・・・・・自分さえも。





【「さぁ」】



全てを引っくるめて未来に繋げていく。そんな想いを込めて、僕は『左足』を踏み出した。



【「お前の罪を・・・・・・!」】





虹色の閃光・・・・・・いや、極光は、打ち込まれて来た黒い刃をへし折る。

そして勢いを殺す事なく、鋭く海里の胴へ打ち込まれる。

海里は目を見開き、大きく開いた口から息と唾液を吐き出した。



その衝撃でヒビの入っていた仮面が粉々に砕け、海里の素顔が露になる。



海里は・・・・・・やっぱり泣いていた。頬に、確かに涙の痕があったから。





【「数えろっ!!」】





そのまま振り抜くと、海里の身体はライブハウスの天井近くまで吹き飛んだ。

抜刀術の踏み込みの基本は、右足から。もちろん、ここにはちゃんとした理由がある。

それは左足から踏み込むと、間違えて抜刀の際に左足を斬っちゃう可能性があるから。



でも、この技はそこからまた左足を一歩踏み込む事で、抜刀術の速度をケタ違いに上げる。





「・・・・・・飛天御剣流、天翔あまかける





刹那の一拍子ズラす事で足を斬らずに、抜刀術の威力を半減させる事なく打ち込める超神速の抜刀術。

だけどその一歩は、後ろ向きな気持ちを含んでたら、絶対に踏み出せない。

死中に活を求めるとか、背水の陣とか、そんなのじゃだめなの。必要なのは、強い意志。



るろうに剣心だと、『生きたい』と強く思うことでその一歩を踏み出せるって言ってた。だけど、僕はちょっと違う。





龍閃りゅうのひらめき・・・・・・もどき」





・・・・・・僕は『罪を背負っても、全部諦めたくないし、捨てたくない』って思って、一歩を踏み出す。

過去や夢を忘れる事も、捨てる事も、置いていく事も選べなかった僕だから踏み出せる一歩。

それをようやく見つけたの。踏み出して変えたい時間があると、再認識出来た。



あの時、それに気づいて一歩を踏み出したら・・・・・・今まで出来なかったのが嘘みたいに、あっさり技を撃てた。



これ、先生に自慢出来るかな。『お前には100年早いわい』とか言ってたし、鼻は赤せるね。





【・・・・・・もどきってやっぱり付けるんだ】

≪じゃないと、版権的に危ないですから≫





吹き飛ばされた海里は、僕の後ろ側に墜落。重い物が落ちたような、鈍い音が響く。

そして虹色の光が爆発して、一瞬だけボロボロのライブハウスを染め上げた。

僕はアルトを下ろして・・・・・・振り向く。振り向くとそこには僕の・・・・・・僕達の参謀が、寝転がってた。



服装は、最初に着ていた制服姿のまま。・・・・・・僕達の仲間じゃないとか言いながら、これだったのよ。





「海里」



そのまま海里の方へ歩いて、声をかける。痛む身体に鞭を打ち、薄れかけてる意識を必死に繋ぐ。

繋いで、声をかけると海里は・・・・・・首だけを動かして、僕の方を見る。



「はい」



少しだけ擦れた声で返事は、返ってきた。

なので、言おう言おうと思っていた事を、言葉にすることにした。



「お帰り」

「・・・・・・はい。ただいま、戻りました。蒼凪さん、ミキ」

「何?」

「完敗です」



言いながら、海里は僕から視線を外して、天井を見上げる。

表情は、どこか清々しい顔で・・・・・・静かに笑っていた。



「あなた方の選択と時間、、見せていただきました。本当に、俺はまだまだです」

「完敗じゃないでしょ。ほら、僕達ボロボロだし」

【ギリギリも良い所だし。これは紙一重もいいとこだって】

「ご謙遜を。あれが紙一重だと言うのなら、あまりに分厚過ぎます。
何より、俺のために身を挺してくれた。それが無ければ、アッサリ負けています」

「そう」



あー、それともう一つ気にしなきゃいけないことがあるか。こっちも助けられてないと、意味ないし。



「海里、ムサシは?」

≪あぁ、そう言えばそうですね。ムサシさんは、どうですか?≫

「なんとか、無事だ」



声は海里の傍らから。見ると、さっきまでの×が付いている時とは違う、普通の状態のムサシが居た。

よかった、こっちも浄化出来たみたい。・・・・・・やっぱり、斬ろうと思って斬れないものなんて無いらしいね。先生様々だよ。



「蒼凪殿、古鉄殿、それにミキ、世話をかけた。我ら・・・・・・なんと言えばいいのか」

「何も言わなくていいよ。・・・・・・うん、何も、言わなくていいんにゃよ?」



そう僕が言った瞬間、空気が固まった。そして、海里とムサシが驚愕の表情で僕を見る。



「・・・・・・蒼凪殿」

「蒼凪さん、今噛みませんでしたか?」

「噛んでない。僕は全然噛んでない。もう滑舌いいんだから」



そう、気のせいだ。こんなのは気のせいだ。絶対気のせいだから。



≪いや、噛みましたね。・・・・・・あなた、ありえないでしょ。なんでこの段階でコレなんですか?≫

【恭文、やっぱりヘタレでダメダメだね。大事なところでこれなんだもん】

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! お願い、何も言わないでっ!? 何も言わないでー!!」



とりあえず、勝ちは一つ。だけど、まだ終わりじゃない。

まだ、キングが残ってる。しかも・・・・・・相当厄介なキングが。



「あー、そうだミキ」

【何?】

「言い忘れてたから、言っておく。・・・・・・ありがと。信じてくれて」

【・・・・・・うん。あ、後でみんなにもお礼言わなくちゃダメだよ? ちゃんと信じてくれたんだから】

「うん、そのつも・・・・・・り」



僕は言いながらも前のめりに倒れた。というか、もう身体に・・・・・・力が残ってない。

キャラなりはそこで解除。ジャケット姿に戻った僕の左側に、ミキが荒く息を吐きながら出てきた。



「蒼凪・・・・・・さん」

「蒼凪殿っ! ・・・・・・しっかりしろっ! 気を確かに持てっ!!」

「恭文っ!? あぁ、しっかりしてっ!!」

≪さすがに限界でしたか≫



血だらけの傷だらけで・・・・・・やば、すぐにちゃんと止血しないと危ないかも。

左手にマジックカードを出して、動かずに発動。青い光が僕を包み込むと、多少は楽になった。



「あむちゃん、すぐにリメイクハニー・・・・・・急いでっ! これ、普通にマズいっ!!」

「だい・・・・・・じょう、ぶ」

「大丈夫じゃないよっ! もう意地っ張りキャラはしなくて・・・・・・いや、だめかっ!!
治療が済むまでは意地張り続けてっ! このままさよならなんて、ボクは嫌だからっ!!」

「りょう、かい」










・・・・・・この後、僕とミキと海里とムサシ、あとライブハウスはリメイクハニーをかけて完全お直し。





一切の物的・状況証拠を消し去った上で、ライブハウスからすたこらさっさと逃げる事になる。


















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



どうにか我が家に帰り着いて、怪我の事をフェイトに知られて泣かれそうになった。





そして、ディードに無茶し過ぎと怒られた。・・・・・くそ、みんなのおしゃべり。話さなければ分からないのに。










「・・・・・・どうして、そこまでしたの?」

「いや、海里の事何とかしたかったし」

「それは分かるけど・・・・・・お願い、無茶しないで。私、本当に心配だよ。
追いかける覚悟を決めていても、やっぱりそこは変わらなくて」

「あぁフェイト、お願いだから泣かないでっ!? 無茶し過ぎたのは悪かったと思うから、泣かないでー!!」



お願い、みんな助けてっ!? 魔導師組はアテにしてないけど、あむ達は助けてくれていいんじゃないかなっ!!

・・・・・・全員揃ってそっぽ向くなよっ! 何『自業自得』って顔してるっ!? いや、その通りだけどっ!!



「やっさん、諦めろ。てーか、これはもうお前が悪いだろ」

「恭文さん、反省してください。今回は私もフォローしませんから」

「ですです。・・・・・・リインも、見てて泣きそうになったですよ? というか、今から泣くです」

「あぁ、足元に抱きつかないでー! というか、鼻をかむなっ!!」



僕と海里がどういう戦い方したのか、わざわざ説明しなくてもいいじゃん。ちょっと恨んでも、許されると思う。

そんなイベントを超えて、ようやく家のリビングでこれからの行動について話す時間となった。



「・・・・・・とりあえず、やっさんと海里君の身体は大丈夫だ。一晩寝れば、もう安心だ」

「ミキとムサシも、問題なしですぅ。でもでも、こんな無茶はもうダメですよ?」

『はい、ごめんなさい』





四人でしょぼんとしながら謝るのは、仕方ないのよ。

ややとペペ、りまとクスクスは思いっ切り泣いてるし、唯世とキセキは呆然としてるし。

それにフェイトとディードにみんなは、話を聞いて顔を真っ青にしてるし。



・・・・・・まぁ、みんなの前で色々爆発させたのは失敗だったかな。うん、そこは反省だ。





「しかし、あむちゃんとスゥちゃんのリメイクハニーってのはすげーな。
やっさんと海里君とミキちゃん達だけじゃなくて、ジガンまで完璧だしよ」

「スゥはお直しが得意ですからぁ。でもでも恭文さん」

「ん、なに?」

「スゥは、変えませんから」



家のリビング。スゥが、僕の目の前に飛んできて・・・・・・両手を胸元で強く握りしめてる。



「スゥは恭文さんのお友達で、現地妻7号ですぅ。絶対に変えません。
だから、恭文さんもガーディアンのみんなとの事、絶対に変えないでください」

「恭文、それは僕も同じだ。いいや、皆も同じ。・・・・・・お前は僕と唯世達の友達で、仲間なんだ」

「スゥ、キセキ」

「まぁ、アレだ。昔の事はお前が話せる時が来たらでよい。
このままずっと話さなくても、僕達は別に問題はないしな」



言いながら、キセキはそっぽを向く。それを見て、スゥはただ微笑むだけ。

みんなも・・・・・・同じ。ただ僕を見て、頷いてくれた。



「・・・・・・あの、ありがと。でも・・・・・・ごめん」

「謝る必要などない。さっきも言ったが、例え話せなくても僕達は」

「違う。・・・・・・スゥ、一つだけ変えてくれる? 具体的には現地妻ってところ」

「・・・・・・あぁ、そういう事か。スゥ、確かにその通りだ。そこだけは訂正してやれ」

「どうしてですかぁっ!!」



驚く表情のスゥを見て、逆にサリさんや他のみんなが驚く。うん、当然だよね。

でも、当人であるスゥは、全くその辺りが分からない。だから、僕は教える事にした。



「当たり前でしょうがっ! 現地妻って意味分かってるっ!? 普通にいかがわしい名称なんだからっ!!」

「そうだぞっ! お前、あむを見ろっ!! 普通に僕でさえ直視出来ない顔になっているではないかっ!!」

「恭文さん、そういうのを受け入れるのも、男の器量なのですよ? 愛の天使・エルが言うので、間違いないかと」

「やかましいわっ! てーか、受け入れたら大問題だってーのっ!!
スゥはあむのしゅごキャラなんだよっ!? ありえないでしょっ!!」



あぁ、あむが睨んでくるー! すっごい嫉妬の瞳を向けてくるー!!

これはアレだよねっ!? リイン取られた時のはやての目だっ! すっごい覚えあるしっ!!



「大丈夫ですよ。歌唄ちゃんだって幾斗さんの事が」

「それとこれとを一緒にするなっ! 人は人、うちはうちなのっ!!」



まぁ、そんなお母さんみたいな事を言った所で・・・・・・僕は、フェイトを見る。フェイトはとっても視線が厳しい。

リメイクハニーのおかげで回復しても、僕がズタボロだったのは変わらないから。



「・・・・・・みなさん、というかハラオウンさん。本当にすみませんでした。俺は、その」



その辺りを感じ取った海里が、いきなり謝り出したけど。それに当然のように、ムサシも続く。



「皆、本当にすまなかった。拙者達、なんと謝ればいいのか。かくなる上は」

≪とか言いつつ二人揃って腹を出すのはやめてください。
あなた方、人の家で切腹するつもりですか?≫

「アルトの言う通りだよこのバカっ! 普通にそっちの方が迷惑だっつーのっ!! ここ、僕達の家だって事を忘れてるよねっ!?」



とにかく、問題は山積みだ。そして、海里とムサシがアホな行動をし出すのもその問題の一つ。

ただ、こんな状況に一石を投じる人達が居た。そう、当然あの子達だ。



「あぁもう、そういうのもう無しっ! いいんちょはちゃんと戻ってきてくれたんだから、もうやや達はいいのっ!! ね、みんなっ!?」



そう、ガーディアンのみんな。なおみんな、海里の事は気にしていない。

・・・・・・というより、それも含めて仲間だと思っている様子。だから、ややの言葉に全員が頷く。



「そうよ。もうめんどくさいからなし。恭文とミキもリメイクハニーで完全回復なんだし、流していいでしょ。・・・・・・次やったら容赦しないけど」

「ま、真城さん落ち着いて? とにかく、みんなの言う通りだよ。三条君・・・・・・おかえり。
君が居なかった分、仕事が溜まってるんだから、これから今まで以上に頑張ってもらうね?」

「はい。あの、ありがとう・・・・・・ございます」



海里がなんか涙目になってるし。・・・一応、よかったね。なんとかなってさ。



「フェイト、そういうわけだからその視線はやめて。僕はいいけど、海里とムサシが気にする。
もしくはアレ? フェイトは二人にここで切腹されたいとか? だったら納得だよ」

「やっさん、殺気はやめとけ。ほら、普通にお前そこでキレる権利ないから」

「気のせいでしょ」

「お前はヒロにどんどん似てくるなっ! もうその厚顔無恥で図々しい所がクリソツだよっ!!」



失礼な。僕はヒロさんの20倍くらいはマトモだ。至って一般的だっつーの。



「その・・・・・・ごめん。今のは私が悪かった。海里君、もちろんあなたの事どうこうじゃないの。ただ、その」

「いえ、大丈夫です。・・・・・・分かっていますから」

「海里、フェイトにはもうちょい厳しくしていいから。もう『絶対許さない』とか言ってさ。
フェイトは基本的に、人の告白を8年スルーとかするほどに鈍感で、気持ちの分からない子だから」

「それはいくらなんでもひどいよっ! というか、今それを持ち出さないでー!! 私、全く反論出来無くなるよねっ!?」



やかましい。海里とムサシの目がマジだったんだよ? 言いたくもなるって。

普通にフェイトに『じゃあ切腹して』と言われたら、躊躇いなくする勢いだったんだもの。ビックリしたさ。



「あー、それとさ海里」

「はい」



今回は色んな意味で壮絶だった。二人してボロボロになった。だから、僕はこう提案するのだった。



「今度は今回みたいな形じゃない方向でやり合いたいな。お互いに本気で、真正面からの真剣勝負」

「ヤスフミ、またいきなり何言ってるのっ!? もうこういうのはダメっ!!」

「そうだよっ! もういいんちょはやや達の所に戻って来たんだよっ!?
二人がまた戦う必要ないじゃんっ! もう絶対こんなの禁止っ!!」



いや、だってそうしたいんだもん。今回は色々面倒事が重なってこれだったしさ。

それは海里も同じだよ。表情が明るくなって、力強い目で僕を見てるもの。



「いえ。エース、戦う理由ならあります。俺も負けっぱなしは嫌いですから」

「拙者もだ。何より、今回のような形がおしまいなど、あまりに我らは情けなさ過ぎる」

「もちろん、今回のような殺し合いに近い形はなしです。
・・・・・・ですが、次こそ俺は、あの紙一重を超えます」



海里とムサシが、僕を見る。真剣な顔だけど、どこか嬉しそうに笑ってもいてくれる。



「俺とムサシなり罪との向き合い方と数え方、今度は俺があなたに見せつけてみせます。もちろん、全力で」

「うん、楽しみにしてる」

「海里君まで・・・・・・あの、本当にやめよう? 今回は色々あったからこうなっただけで」



なお、フェイトの声は一切無視。海里がちょっと見そうになるけど、すぐにやめた。



「フェイトちゃん、あとややちゃんにみんなも納得しろよ。
男同士の友情に、水さすような真似しちゃダメだろ」

≪切磋琢磨し合うための試合ならば、問題はないでしょう。
戦士というものは、時としてそういう繋がり方をする時もあるんです≫

「金剛、ややはよく分からないんだけど、そういうものなの?」

≪そういうものです≫



そういうものなのよ。で・・・・・・出来ればそんな感動話で終わらせてしまいたい。

だけど、そうはいかない。だって、頭の痛い話が出てきたから。



「それで海里、戻ってきて早速で悪いんだけど、どうしても聞いて欲しい事があるんだ」

「聞いてほしい事?」

「もうりまとみんなは、知ってることなんだ。・・・・・・僕の力の正体とか、フェイトや僕達が何者かってこと」



そこまで言うと、海里の表情が固まる。そして、真剣な目で僕を見る。

視線で『本当にいいんですか』と聞いてくるので、頷きで返した。



≪というより、そこと関係する形でかなり大変な事態が起きてるんです。
そのためにも、あなたもそうですし、ガーディアンの方々にも協力していただきたいんですよ≫

「こてつちゃん、大変ってどういうこと?」

「そうだよ、ヤスフミもアルトアイゼンも、ちゃんと話して?
海里君が無事だったのは喜ばしいけど、私達もいきなりでさっぱりだし」

「・・・・・・わかった。フェイト、例のロストロギア・ブラックダイヤモンドの在り処が分かった」

「えぇっ!?」



魔導師組の全員が驚きに表情を染める。まぁ、ここは当然だ。普通ならここに話は直結しないから。

だけど直結する理由が今回の一件で僕達の前に出てきた。そのキーは、ほしな歌唄だ。



≪ただ、その在り処が問題なんです。・・・・・・ほしな歌唄が持っていたんですよ≫

「ほしな歌唄がっ!?」

「じゃあじゃあ、あそこでリインが感じた魔力反応は」

「後でデータ照合してみようか。間違いなくピッタリだよ」



出来ればここだけで終わって欲しかった。何度も言うようだけど終わって欲しかった。

でも、運命の神様は気まぐれらしい。そんなこと、許してはくれなかったよ。



「しかも、その力を自分の意思でコントロールしているようにも見えた。もちろん、確証は無い。
つまり、意識してるかしていないかは別として、歌唄はロストロギアを不正利用してるんだよ」

「え、ちょっと待ってよ。ロストロギアって、ガーディアン会議で恭文が話してた地球に落ちてきたのって言うのだよね」

「そうだよ」

「それを歌唄が持ってたのっ!? それありえなくないかなっ!!」

「ありえなくても持ってたの。ほら、皆に歌唄に手を出すなって指示したよね? あれ、それが原因なんだ」





みんなに簡潔ではあるけど説明する事にした。

ロストロギア・・・・・・歌唄が持っていたあの宝石はいわゆるブースター。

持ち主の意思に応じて、その能力を上昇させる効果があると。



だから、危険性を考えて待ち伏せ組には引いてもらったと話した。





「でも蒼凪君、単純に能力強化の効果を持つ宝石というだけで、そこまで警戒するものなの?」

「そうだぞ。僕と唯世達だけでどうにかする事も、可能だったはずだ」

「そうならない可能性もあったんだ。ただ単に僕達が知らないだけで、第二、第三の能力があるのかも」



そういうパターンは、過去の事件でも何度もあるもの。そして、それで痛い目を見た方々も相当数居る。



「それで怪我なんてしたら、目も当てられない。・・・・・・いや、怪我だけで済まない場合だってある」

≪例を上げるなら、外部からの下手な能力干渉に反応して、大爆発を起こす・・・・・・などでしょうか。
ロストロギアに関しては何が起こるか分からないので、相当慎重になる必要があります≫

「なるほど、その辺りも鑑みてということだね」

「確かにいきなり大爆発などされてはかなわんしな。・・・・・・納得した」



僕とアルトの説明に、唯世とキセキが納得してくれたようだ。表情で分かる。



「とにかく彼女は今、そのブラックダイヤモンドというロストロギアの影響で、能力がアップしてるということだよね?」

「とりあえず、僕の攻撃を見切って回避ついでに背中を取った上で、カウンターをかませるくらいにね」

「そう言えば、かましてたでちね。・・・・・・あれ、そのロストロギアの影響だったんでちか」



ブラックダイヤモンドは話によると、ブーストがかけられる能力に特に制限があるわけじゃない。

つまり、そのせいで魔法技術とは全く別能力であるキャラなりの能力や歌唄の身体能力まで、強化されてる。



「本人が強くしたいと思えば、それがどんな能力であろうと、自身が保有するものであれば強化出来るんだね。
・・・・・・その汎用性は恐ろしいね。そして、話を聞く限りその効果も高いと思う。だって、蒼凪君の攻撃を避けてるわけだし」

「戦闘に関してほしな歌唄が蒼凪さんレベルで精通しているとは、考えにくいですしね。・・・・・・そう言えば」

「いいんちょ、どうしたの?」



海里が思い出したように小さく呟いた。なので、全員の視線がそこに集まるのは、当然だ。

海里はそれを緊張した面持ちで受け止めつつ、言葉を続けた。



「ほしな歌唄と少し話す機会があったんですが、気になったのでその宝石について聞いたんです。
レコーディング中もそれ以外の時も、ライブの時も見につけていたので」



・・・・・・あぁ、だからさっきのライブでも身に着けてたんだ。

おしゃれなデザインには入るから、邪魔にはならないんだよね。



「そうしたら、『自分に力をくれるお守りみたいなもの』という答えが返ってきました。
その時にはなんとなしに聞いていたのですが、今の蒼凪さんの話を踏まえると、意味合いが変わります」

「ほしな歌唄はそのブラックダイヤモンドという石の能力に気づいていることになるわね。
少なくとも、自分に力をくれる存在という認識はある」

「そうだね、りまたんの言う通りだよ。・・・・・・恭文、これってどうなるの?」

「そこはちょっと置いておこうか。ヤスフミ、アルトアイゼン、最終確認だよ。
彼女がブラックダイヤモンドを持っていた。それは間違いないんだよね?」



間違いないと頷きを返して答えた。それにより、フェイトの表情が曇る。



「ロストロギアかどうかはともかく、あのライブハウスの会場内に一瞬、強い魔力反応が出たのは間違いないです。
リインの方でもそれを感知しましたし、それは魔導師とかそういう普通のレベルじゃありませんでした」

「データも取ってるから後で見せるよ。でもフェイト、これってやっぱり・・・・・・マズいよね」

「かなりマズいよ。これで万が一にもほしな歌唄が次元世界の事や魔法の事を知ってたら」

「大変な事になってきたですよ、これは」





そう、そこだ。僕達が懸念しているのはそこなのだ。だから、フェイトとリイン共々頭を抱える。

万が一にも次元世界の事・・・・・・もっと言えば、ロストロギアというものが、どういうものかを知っていた場合。

自分の持っているものがロストロギアだと、認識出来るほどに次元世界について知識量があった場合。



僕達・・・・・・いや、時空管理局は、ほしな歌唄(本名:月詠歌唄)に対して、ある判断を下さなきゃいけなくなる。





「あの、フェイトさん。歌唄ちゃんがその宝石・・・・・・ロストロギアと言うのを持っていると、どうマズいのですか? エル、さっぱりなのです」

「・・・・・・私達はロストロギアの私的使用の重犯罪者として、ほしな歌唄を捕縛しなきゃいけなくなるの」

「歌唄ちゃんが・・・・・・重犯罪者っ!?」










事態は、カオスなんて可愛い言葉で形容出来ないレベルにまで進展している。





あぁもう、厄介なことになりすぎでしょうが。勝利の余韻に浸るヒマも無いってどういうこと?




















(その9へ続く)




















あとがき



恭文「声ーに出来ずにー♪ 途絶(たえ)た祈りをー宿命(さだめ)と銘付(なづ)けてー♪」

ウェンディ「いきなりなんっスかっ!?」

恭文「残された記憶とー失くした君のー面影がー♪ 飢えた此の胸にー今も置き去りのーまま♪」

古鉄≪・・・・・・えー、バカは放置しておきましょう。本日のあとがきのお相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫

ウェンディ「ウェンディと」

やや「・・・・・・ウェンディさん、改めて見るとタプタプで大きいと思う結木ややです」





(そう、何気にポジティブガンナーはタプタプの巨乳キャラ)





ウェンディ「ふふふ、ありがとうっス。あ、なんなら触ってみてもいいっスよ?」

やや「ホントですかっ!?」

ウェンディ「もちろんっス。ま、後で女の子同士でっスね」

やや「やったー!!」

古鉄≪・・・・・・すっかり意気投合してますね。まぁ、元々ノリが同じですし、ここは当然ですか≫

恭文「あ、蒼凪恭文です。それとアルト、バカって言うなっ! バカはウェンディでしょっ!?」

ウェンディ「自分、普通にヒドいっスねっ! 私への認識、どうなってるっスかっ!!」

恭文「え、バカでアホの子」

ウェンディ「ふざけるなっスー!!」





(ポジティブガンナー、普通にプンプン。当然のように、蒼い古き鉄はそれを流す)





古鉄≪さて、今回はもう海里さんとの戦闘ですよ。・・・・・・普通のほぼそれってどういう事ですか≫

やや「しかも、本編よりボロボロになってるし」

恭文「Remixした結果、そうなった。そして、痛かった」

ウェンディ「仕方ないっスねー。私が癒してあげるっスよ。ほらほら、かもんかもん」

恭文「あと、天翔龍閃もどきだね。一応これ、最初から考えてたからネタ振りしてるのですよ。『一歩を踏み出す』って辺りで」

やや「具体的には、ダブルデートのお話の後の野宿とかでだよね」

恭文「そそ」





(蒼い古き鉄を、ポジティブガンナーが撫でだしたけど気のせいだ)





ウェンディ「ほれほれー、嬉しいっスよねー」

古鉄≪とにかく、今回は基本剣術オンリーなバトルですよ。本編でもそうでしたけど≫

やや「あー、そう言えばそうだったね。うーん、いいんちょはいいキャラだよねー。
ドキたま/だっしゅでも、ミッドチルダ・X編まではずっと一緒な感じだし」

恭文「なんだかんだで、僕との縁とかそういうのが多くなったしね。
というか、僕も海里は好きなのよ。なんだかんだで、面白いキャラだしさ」

やや「あ、そうだよね。いいんちょ、クールに見えて実は意外にそうでもないし」

古鉄≪ムサシさんも何気にツッコミ上手で面白い人ですから。途中退場が惜しいキャラではあります≫

ウェンディ「ほれほれー、私の柔らかいっスよねー」





(蒼い古き鉄にポジティブガンナーが抱きつく。大きくてふかふかな部分が当たってるけど、完全無視)





恭文「とにかく、次回だよ。次回はいよいよ最終決戦前のミーティング突入。どうなるかねー」

やや「楽しみだよね。・・・・・・え、ここもRemixされるの?」

古鉄≪その予定です。この人が意地張ったおかげで、色々布石が撒かれてますから≫

ウェンディ「・・・・・・こらー! 私を無視するなっスー!! 私は次のIFヒロインっスよっ!?」

恭文「違うよっ!? 次はすずかさんやるつもりだって、作者言ってたしっ!!」

ウェンディ「却下っスっ!!」

恭文「却下するなっ!!」

やや「というわけで、次回に期待しつつ本日はここまで。お相手は結木ややと」

古鉄≪古き鉄・アルトアイゼンでした。それではみなさん、さようなり〜≫

ウェンディ「とにかく、私は即エロでも問題ないっスよっ!? もう覚悟は決めたっスっ!!」

恭文「だからちょっと待てっ! 本編だとフラグ立ってないじゃんっ!!」

ウェンディ「捏造すればいいっスっ! そのためのIFルートっスよねっ!!」

恭文「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」










(どうやらポジティブガンナーは、何が何でもIFヒロインになりたいらしい。目が必死だ。
本日のED:abingdon boys school『STRENGTH.』)




















あむ「なんというか、今回はボロボロになったね」

恭文「いわゆるジャンプ的にね。説得と戦闘を絡めた結果、こうなったって」

あむ「いや、やり過ぎでしょ。もうすごい勢いだったしさ。とりあえず、いいんちょはこれでOKと」

恭文「いよいよ、本丸に乗り込む時が来たよ。いや、ここまで長かったね」

あむ「・・・・・・でも、やっぱりあたしIFじゃない感じがする」

恭文「あむ、それはもう仕方ないの。事件の真っ最中だしさ」

あむ「じゃあ、終わったらあたしIF的な感じにするんだよ? 絶対約束だから」

恭文「う、うん。それはいいけど」

ウェンディ「・・・・・・ややちゃん、あむちゃんは中々ストレートっスね」

やや「あむちー、最近自覚無しで恭文にデレてますから。・・・・・・あー、でも柔らかいなぁ。
ディードさんとはまた違う張りが有って、吸い付くような感じが気持ちいいです」(モミモミ)

ウェンディ「こら、揉み方がいやらしいっスよー? そういうことするなら、お返しっスー」

やや「きゃっ! ウェンディさんくすぐったいー!! あははは、やめてー!?」

あむ「・・・・・・そしてそこはあたしと恭文が真剣な話してる時に何してるっ!? 普通に胸の揉み合いっこするなー!!」

恭文「あむ、ヤキモチ?」

あむ「ア?」

恭文「ごめんなさい。僕が悪かったと思うので、その顔やめて? ほら、ヒロインとしての作画が崩壊してるから」










(おしまい)





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