小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) ケース25 『日奈森あむとの場合 その7』 ・・・・・・・・・・・・とにかく、少し休ませてもらった上で、あむを家まで送る。なお、僕が送る。 うー、なんか口の中にまだ味が残ってる。もうすっごい勢いでなんか残ってる。 「でもでも、これでもうミキとキャラなりしても問題なく動けますよぉ?」 「・・・・・・そうなの?」 『さ、さぁ・・・・・・?』 「うー、あむちゃんもランもミキも、ひどいですー!!」 視線であむに聞くけど、どうやらあむにも分からないらしい。なんか、苦笑いで首を傾げられたし。 しかし、どうしてこう立て続けに色々来るのか。僕、何かしたのかな? だめだ、やっぱもう一回お祓いする必要あるのかも知れない。・・・・・・神咲家に連絡、取ろうかな。 よし、ちょっと相談しよう。イマジンブレイカーもないのにこれは、さすがにおかしい。 「でも、りま・・・・・・大丈夫、だよね」 「どうだろうね」 りまは、しばらくうちで預かることになった。りまの家、相当不仲らしい。 僕達と鉢合わせした時も、かなり追い詰められてたので、そうなったのだ。 「なんでいきなりそんな暗いコメントするわけっ!?」 「りま本人はともかく、両親の方だよ。 ・・・・・・世の中って、やっぱり優しくないことの方が多いしさ」 夜空を見上げる。見えるのは近くの建物のネオンライトの光だけで、星は見えない。 でも、例え星が見えなくても、星の光はそこにある。・・・・・・なんか、こう言うとすごく哲学的だよ。 「そっか。そう言えば・・・・・・アンタも、そんな感じだったんだよね。だから、そう思っちゃうの?」 「まぁね。ただ、りまの場合はまだ救いようがあるよ。だって、互いに好き合ってるんだから」 「喧嘩ばっかりだって言うのに?」 「・・・・・・好きの反対は、無関心だからね」 りまの事で喧嘩するのも、それが何度も続いちゃうのも、口ではどう言っても、ちゃんと家族のことが心の中にあるからだよ。 そうじゃなかったら、ケンカなんて、起こるわけがない。なお、僕はそうだった。そう、だから・・・・・・まだ救いようがある。 時間はかかるかも知れないけど、それでもちゃんと出来るはず。無関心にされるよりは、りまはまだ・・・・・・幸せだよ。 でも、それは本当によかったと思う。お父さんと話した感じでも、そういうのは感じられたし。 あー、とりあえず向こうの親御さんへの挨拶ついでに、りまの着替えやら何やらも預かってこないとダメかな。 「まずは、服の確保だね。しばらくはリインの服でなんとかなるだろうけど、さすがにずっとは無理だろうし」 「そう考えると、りまを預かることでやらなきゃいけないこと、沢山だね」 「うん、沢山だよ。大人ってのも大変でさ」 「そっか。・・・・・・あのさ、恭文」 ・・・・・・なに? てゆうかあむ、なんでそんないきなし表情が重くなるのよ。 歩道を歩きながら、僕は疑問に思う。なぜこれなのかと。どうしていきなりこれなのかと。 「・・・・・・ごめん」 ただ一言。本当にそれだけだった。でも、言いたい事は・・・・・・なんとなく伝わった。 「マジごめん。あたし・・・・・・知ってたのに、全部アンタに押し付けた。 すごく卑怯なことした。アンタだけを悪者にして、それで」 「いいよ。最低なのは事実だし、僕が言い出したことだもの」 「よくないよ。・・・・・・ホント、ごめん」 そんな謝らなくていいのに。特に気にしてないし。 「あむ、僕はホントに気にしてないよ? うん、真面目にそうだって」 「・・・・・・それ、余計にグサリと刺さるよ。 何か言われた方がまだ楽。言ってたじゃん、好きの反対は無関心だって」 「うん、だから言ってるんだよ?」 「あーもうっ! アンタやっぱり最低・・・・・・つーか、最悪っ!! なんか謝って損したしっ!!」 おー、いつもの調子でプンスカしだした。・・・・・・うん、やっぱり面白い。 「・・・・・・でもさ」 あ、またなんかシリアスキャラになったし。なんつうか、忙しい子だ。 「いいんちょ・・・・・・今頃どうしてるのかな」 「さぁね、学校にも来てなかったみたいだし。でも、遠くない内に会えるよ」 イースターの指示に従って動くなら、確実に会える。・・・・・・その時がチャンスだ。 「だけど、どういう動き方をするかさっぱりなんだよ?」 あむの言う通り、さっぱりだ。だから、あむも不安げにこんなことを言う。 「フェイトさんの話だと、今日までの段階であの黒い車も出現してない様子だし、それだとどこでどうなるか分からないよ」 「いや、予想は出来てる」 「えっ!?」 「恭文さん、そうなんですかぁ?」 「そうなんですよ?」 思い出して欲しい。連中は、デビュー前のPR活動ということで、CDを配布していた。 つまり、この後の展開としては・・・・・・デビューだ。このままフェードアウトは、ありえない。 「これだけ派手にPR活動をして、世間の注目を集めようとしている。 ということは、ただ単にデビューCDを発売するだけに留まるとは思えないのよ」 「ということは、つまり何か大きな動きがあるかも知れないってこと?」 「そうだよ。この前段階に見合うだけのド派手な方法でね。 ブラックダイヤモンズという一つの商品を、世間にアピールすると思う」 そしてそのバンドのボーカルがほしな歌唄だと分かれば、ブラックダイヤモンズの注目度はかなり上がるだろう。 歌唄自身が、ソロ活動で相当有名なのだ。それがボーカルを務めるバンドというだけでも、商品価値はかなりある。 「そして、そのために例えば」 「例えば?」 「デビュー記念のライブとか」 僕の言葉に、あむとキャンディーズのみんなの目が見開く。見開いて・・・・・・納得した顔になった。 「・・・・・・そっか、確かにユニットの一人がソロでデビューする時とかに、そういうイベントがあるよね。 だったら、そう言うデビュー記念で何かやるところを押さえれば、あたし達の勝ち」 問題は山積み。外も中も沢山だよ。まぁ、愚痴ってもしかたない。 少しずつ、ちょっとずつ片付けていくことにしますか。 そんなことを考えつつも、夜の街を歩き、あむを家まで送っていく。 送りながら、やらなきゃいけないことを頭の中で順序立てる。 とりあえず、明日中にフェイトと二人でりまの両親に挨拶に行くでしょ? で、デビューライブとかそういうのがないかどうか情報を集める。 で、集まってなにかやるようだったら踏み込んで・・・・・・踏み込んで? 「待て、踏み込むのは、なんかまずくないですか?」 「なんで? だって、歌唄やいいんちょがそこに居るなら行かなきゃいけないじゃん」 「・・・・・・あむ、自分の立場忘れた? 小学生だよ? 普通に一般人なんだよ?」 あむは、僕の言いたいことに気づいてくれたらしい。『あ』と声を漏らして、立ち止まったから。 「それでインディーズとは言え、ライブ乗り込んで大暴れなんてしてみなよ。 親と学校を巻き込んだ上で、とんでもない大騒ぎに発展するに決まってるでしょうが」 「た、確かに。そこを言われると、辛いかも」 そう考えると、ここは魔導師組だけで乗り込んだ方がいいかも。僕達は、最悪本局に逃げられるわけだし。 あー、さっきあむにイースターの行動予測について話さなきゃよかったな。そうしたら楽だったのに。 「・・・・・・またそうやって自分だけでなんとかしようとする」 なんか、思考が読まれてたっ!? 「あたし達仲間でしょ? だったら、今回も信じてよ」 「悪いけど、今回はそういうわけにはいかない。これであむ達の将来のことまで、責任は取れないし」 「大丈夫だよ、もしこれで学校の受験とか就職とかに響くようなら、時空管理局にお世話になるし」 歩きながら、それはいいアイディアだと思った。確かに時空管理局なら・・・・・・待て。どうしてそんな話になる。 「リンディさんが遊びに来た時に、誘われたんだ。管理局は優秀な人材を沢山募集しているって」 「はぁっ!?」 「あたし達くらいの年齢から働いている子も居るし、ちゃんとやれば魔法能力無しでも生活出来るからーって」 「あの人は・・・・・・!!」 クロノさんから、なのはと会った時もすごい勢いで勧誘してきて、大変だったとは聞いてた。 だけど、ここでそれをやるか? ありえないでしょうが。 「ごめん、あむ。リンディさんのアレはちょっとした病気なんだ。 というか、世話焼きみたいなもんでさ。あんまり気にしないで?」 提督の立場に立つ人間として、優秀な人材のスカウトには余念が無いとか。 でも、正直あってもいいと思うのは気のせいかな。 「あぁ、大丈夫だよ。さすがに皆断ってたから。もちろん、あたしも含めて」 そうか、よかった。みんなはマトモなんだね。うんうん、いいことだ。 「まだ管理局がどういう仕事なのかも、よくわかんないし。 なによりあたし、将来のこととかさっぱりだもん。それで返事は出来ないよ」 「まだ小学生だもん。しゃあないよ」 「うん。さすがにさ、リンディさんも本気では誘ってなかったよ? ただ、縁が出来たからもしも興味があるなら、力になるって言ってくれたの」 ・・・・・・そういうことなら、一応納得する。あくまでも、みんなの自由意志に任せてるわけだし。 この辺り、みんなの魔法資質どうこうが今のところ分からないのも、きっとあるんでしょ。 「ただ・・・・・・さ」 「・・・・・・なに?」 「いやね、ダイヤのたまごに×がついちゃってから、ずーっと考えてるんだ」 この場合は、考えるまでもない。将来のこととか、なりたい自分の形をだ。 「あと、恭文が唯世くんに言った『どうなっていきたくて、そうなった後に何をしたいのか』・・・・・・って話だね。 あれを聞いてから、また更に考えるようになったんだ。なったんだけど、あたし・・・・・・それがよくわかんないの」 「・・・・・・そっか」 「うん。なんかさ、ここ最近のアレコレで色々痛感しちゃって。 あたし、足りないものだらけのダメな子だなって。例えば歌唄だよ」 少しだけ憧れと羨ましさの篭った光を瞳に宿しながら、あむが話す。 街頭の明かりに照らされているせいか、右隣を歩く瞳がいつもより輝いているように見えた。 「たまご関連は抜きにして、トップアイドルで、きっと見えないところですごく頑張ってると思うの。 だから、あんなにキラキラ輝いてさ。・・・・・・だから、ダイヤは歌唄の方に行っちゃったのかな」 「ダイヤだけに、輝きを追い求めて・・・・・・と?」 あぁ、我ながら今のはうまい。人生の中で、10本の指に入るくらいにうまい表現だよ。 「そうそう。・・・・・・って、誰が上手い事言えと言ったっ!?」 「まぁ、それはおいといて」 「おいとくなー!!」 「たださ、あむ」 置いておいて、僕もちょこっと漏らすのだ。僕も・・・・・・同じだと。 「僕も・・・・・・そうだな、輝きとかそういうの、わかんないな」 「恭文も?」 「うん。・・・・・・僕は、古臭い鉄だもの。輝きなんてのとは無縁だから」 まぁ、それでいいと思っている。僕は輝きたいわけでもなんでもないし。 「そんなことないと思うけどな」 「へ?」 「あたし、恭文って・・・・・・すごいなぁって思ってるんだから。 自分の強くなる理由、そうしてどうしたいのかって目標、ちゃんと見つけてるんだもん」 「あむ・・・・・・」 「『魔法』を使える魔法使い・・・・・・だったよね。あたし、一応認めてるんだよ?」 そう・・・・・・かなぁ。まぁ、一応でもちゃんと指針ではある。 シオンやヒカリが生まれてからは、特に。やっぱり、嬉しかったから。 「でも、僕だってあむと同じだよ? 迷って悩んでを何度もやってる。 僕だって、足りないものだらけのダメな子なんだから。それは今も同じ」 主に資質的に。まぁ、精神的にもだけど。うん、だからあむと同じ。 あむだけじゃない。あむだけなわけが、ないの。 「・・・・・・ほんとに?」 「ホントホント」 僕の周りもやりあう相手も、誰も彼も優秀過ぎる人間ばかりだってのが余計にそれを際立たせてたけど。 それで負けたり、もやもやしたり、で・・・・・・結局戦いの中で自分なりの答えとか見つけていったり。 「転がって、間違えて、失敗して、それでも手を伸ばし続けて・・・・・・そうして、今に繋がってる」 フェイトもなのは達もそうだし、恭也さん達もすごいからなぁ。そりゃあ色々考えてたさ。 「そっか、恭文もなんだ。ならあたしは・・・・・・どうしようかな」 「んな今すぐに、答えを見つけようとしなくても」 てーか、そんなすぐに見つかるもんじゃないよ。 往々にして、大事な答えってのは見つけるのに時間がかかるもんなのよ。 「時間は無限じゃないけど、じっくりあるんだし。ほら、前に空海だって言ってたじゃない? 『分からないってことは、どんな自分にもなれる』ってことだってさ」 「あー、そう言えばそうだね」 あれは名言だと思う。是非とも、なのはやフェイトにも聞かせてあげたかった。 「でもさ、話を聞くとフェイトさんやなのはさん、恭文だってあたし達と同い年くらいの頃には自分の方向性決めてたって言うでしょ?」 「子どもが指針を決めて、すぐに仕事出来る環境は、多分管理局だけだろうけどね。 そんな就労年齢低いのは、他にないって。バイトとかでもなんでもないのよ?」 「確かにそうかも」 管理局は普通に9歳くらいの子をスカウトするしなぁ。あの組織、今更だけどおかしいって。 うーん、だからなのはだったりフェイトだったりが色々とアンバランスなのかなぁ。 仕事は出来るけど、プライベートはアレ・・・・・・って部分もあるし。 あむ達見てて、子どものうちは沢山遊んで、沢山同い年くらいの子達の中に混ざった方がいいのかも。 自分のことは棚に上げつつ、そう思うようになったし。そういうの、大事だからなぁ。 「そう言えば・・・・・・恭文はさ、どうして魔導師にやろうと思ったの?」 「僕?」 いやいや、前に話したじゃないのさ。事件に巻き込まれて・・・・・・って。 「前にも聞いたけど、巻き込まれただけだったら、そのままフェードアウトって言う手も使えたよね」 「・・・・・・まぁね。実際、初めて会った頃のフェイトはそれだった。 戦った事とか忘れて、普通の生活に戻ろうって言ってきて、何度喧嘩したことか」 「あはは・・・・・・そりゃ大変そうだ。フェイトさん、なんか強情そうだし」 あむはどうやら人を見る目があるらしい。ただ、一つ間違っている部分がある。 フェイトは『強情そう』なのではない。『強情』なのだ(断言)。 「まず一つ。実の親から自立したかった。管理局はあむも知っての通り、就労年齢低めだから。 僕の能力なら、嘱託扱いでもなんとか可能だったんだ。まぁ、食ってくためだね」 「・・・・・・そっか」 「それで二つ目。その事件の中でね、沢山・・・・・・守りたいものが出来たんだ。 あと、意識してなかったけど夢を追いかけたかった。そのために戦う力、欲しくてさ」 そうなんだよね、きっと・・・・・・ずっと追いかけてた。僕の夢を、ずっと。 無理だと思っても、ずっと拭えなかったんだもの。きっとそうなんだ。 「だから、魔導師として経験を積んで、強くなろうって思ったんだ」 フェイトやリイン達もそうだし、皆から貰った時間も、アルトやリインと繋がった時の記憶も、全部今の僕を構成するものだから。 そういうの守りたくて。あと、忘れて何も無かった事にして、平穏無事な生活になんて戻りたくなかった。 そんなことしたら、おかしくなりそうだったから。・・・・・・だから、なんだろうね。 だから僕、仕事とか関係なく、僕として海里を止めたいのかも。なんか、見てられないから。 「そっか。でもさ、戦う・・・・・・強くなるって、本当にどういうことなんだろ。 唯世くんに言ってたことは、あくまでも答えの一つなわけじゃない」 「そうだね。本当に答えの一つ。あれが全部ではないから」 「歌唄も同じ事、言ってたよね。強くなるために優しさという甘えを捨てた・・・・・・って。 イクトを救いたいって。それも、ちょっと嫌だけど答えの一つ。うーん、やっぱりよくわかんないなぁ」 家へと歩を進めながら、あむが夜空を見上げる。本当に少しだけ・・・星が見える空を。 それを見ながら話を続ける。というより、思い出している。あのバカのことを。 「それは結局本人にしか分かんないって」 歌唄然り、僕然り、唯世然り、そしてあむ然り・・・・・・てね。 「答えなんて、極論を言えば自分を動かすためのものなんだし。 世界中の人間が納得出来なくても、自分が納得出来ればそれでいいのよ。ただ」 「ただ?」 「歌唄の答えも、月詠幾斗を救いたいって願いも、悪いけどこれで否定させて・・・・・・いいや、ぶち壊させてもらう」 右の拳を強く握る。握って・・・・・・力を更に込める。 「僕にも僕の答えと道理があってね、それが言ってんのよ。このまま放置なんてするなってさ。 んな事をすれば、一体これから先どんなことになるか、分かったもんじゃないもの」 「・・・・・・そうだね。もしかしたらあのCDが、普通にお店に並ぶかも知れないんだよね。 それで、それを買った人達のたまごが、取られちゃうかも知れない。絶対に、止めないと」 「だね。・・・・・・というわけであむ」 「恭文やフェイトさん達だけに任せる・・・・・・なんて、出来ないよ?」 ・・・・・・くそ、行動パターンが読まれてるな。普通に、軽く睨まれてるし。 あぁもう、ここまで色々話を飛躍させて、思考を一旦ゼロに戻したのに。 「大体、また×たまや強化ボディが出てきたらどうするの? 恭文か、恭文とユニゾン出来るリインちゃんしか、相手出来ないじゃん」 そ、そこを言われると辛い。結局フェイト達の魔法では浄化は無理なのは変わってないしなぁ。 確かに×たまが出てくるとなると、あむなり唯世達なりの力を借りる必要がある。 「ただ、浄化を一切無視して対処という方法もある」 「恭文っ!?」 「恭文、何言ってるのっ!? そんなの、私達もあむちゃんも聞いてないよっ!!」 「そりゃそうでしょ、話してないんだから。なお、僕発案じゃない。 ・・・・・・フェイトや上司のクロノさんの間で、前々からそういう話が出てるのよ」 なお、僕はそんな事は言ってない。だって、×たまは助けるって決めてる。 イースターやりまにケンカ売る時に、堂々と宣言しちゃってるし。 なにより・・・・・・僕の『なりたい自分』に嘘をつく事になるしね。 助けられるなら、全部助けたいの。壊れたり無くなったりするのは、やっぱり悲しい事だから。 「春先、僕達で無茶した時に×たまの強化ボディ、出てきたでしょ? あの辺りから、相当ね。 僕はともかく、あむ達が危険だから。これで怪我でもしたら、責任の取りようがない」 「そっか。あたし達の事を心配してくれてって事だよね。 別に×たまが大事じゃないとか、そういう事じゃない」 「うん。ただこの案に関しては、話題には上っても結局却下するの。 たまごもそうだけど、あむ達との信頼関係まで壊しちゃうから」 当然のようにその場合、事件への対処は相当に難しくなる。 そうなっちゃったら魔導師組は、普通にイースターと同類だし。コレがOKされるわけがない。 「・・・・・・納得した。でも、なんか申し訳ないな。そこまであたし達、心配かけちゃってるんだ」 「エンブリオの捜索が、フェイトの仕事の一つになっちゃったしね。 だからクロノさん達は、局の仕事にみんなを巻き込んでるって意識があるみたい」 あむ達は局員でも何でもないし、戦闘訓練してるわけでもなんでもない。 だから余計に。あむ達の事とか、あむの親御さん達の事とかも含めて心配してるのよ。 「そうなんだ。ただ、それでも・・・・・・例えみんなで内緒にしてても、あたしはついてくから」 「・・・・・・止めても無駄と」 「そういうこと。・・・・・・大丈夫、アンタの邪魔はしないから。 あたしは剣なんて使った事ないからよくわかんないけど、その・・・・・・信じるから」 ・・・・・・何を? というか、また視線が優しくなった。 だけど、すぐにそっぽを向いた。そのまま、あむは言葉を続ける。 「だから、アレだよアレ。歌唄の事もそうだけど、いいんちょに対して剣を使って肉体言語で話すってやつ。 ・・・・・・恭文はさ、弱くて、だめで、足りないものだらけのあたしの事、何度も信じてくれた」 まぁ、二階堂偏で色々ありましたので。あれであむが普通に『強い子』だって分かったから、なんとなくね。 「だから・・・・・・あたしも信じる。もうとっくにそうするって決めたしさ。 アンタの強さとアンタの『魔法』、あたしのありったけで信じるから」 「そっか」 「そうだよ。というかさ、恭文」 「なに?」 「歌唄はまぁ、分かってる」 どうやら、ここからが本題らしい。あむの声、1トーン落ちたから。 「たださ、なんでそこまでいいんちょの事に入れ込むの? 何か理由があるよね」 「・・・・・・少しね」 歩きながら、空を見上げる。というか、話す・・・・・・必要があるよね。 この子は、きっと勘付いてる。何か重い事情があるとか、思ってるから。 「僕もね、壊したことがあるんだ」 「仕事の中でってこと?」 「違う。本当に・・・・・・一番最初の時にね。壊して、奪ったの」 思い出すのは、もう・・・・・・そうだ、もうすぐ10年なんだ。なんだか、あっという間だ。 「・・・・・・てーかあむ、なんか勘付いてるでしょ」 「あたしというか、みんなもだね」 「そっか。・・・・・・なら、ぶっちゃけちゃうね。僕、人を殺したことがあるの」 「・・・・・・え?」 魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先の事 ケース25 『日奈森あむとの場合 その7』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ それから、恭文は話してくれた。・・・・・・リインちゃんとの出会いの事を。 その時何をしたのかを。それをどんな風に後悔したのかを。 夜の街を歩きながら、あたしやラン達にだけ聞こえる声で話してくれた。 あたしは納得するのと同時に、すごく申し訳なくて謝った。 「・・・・・・ごめん」 「いいよ別に。話す必要あるのかなとかちょっと考えてたから。 まぁ、だからなんだ。僕も海里と同じ穴のムジナなの」 「あの、本当にごめん。あたし、マジで悪い事した」 「大丈夫だよ。あむだから話したの。というか・・・・・・話せた。だから、泣きそうな顔するな」 そっと恭文の手が伸びた。でも、途中で止まった。 伸びたのは、左手。あたしは俯いてたからそれが見えた。 「・・・・・・止めないでよ」 あたしは、手を伸ばして恭文の手を取る。取って・・・・・・抱きしめる。 「あたし、怖がったりなんてしてない。今の話聞いても大丈夫だし。 てゆうか、リインちゃん守るために・・・・・・でしょ? だったら」 「それでも、殺しは殺しなの。壊して奪ったことは・・・・・・変わらない」 ようやく分かった。いいんちょの事に歌唄レベルで熱入れてる理由。 さっき恭文も自分で言ってたけど、いいんちょと自分を重ねてるんだ。 「あむ、歩こうか」 「え?」 「いいから。このまま立ち止まってたら、ずっと帰れなくなるし」 「あ、うん」 あたしはそのまままた歩き出す。だけど手を離さない。離さないで、そのまま左手を恭文と繋ぐ。 ・・・・・・恭文の手、すごく温かい。温かくて、小さくて・・・・・・柔らかい。 「もう、2年くらい前にね」 「うん」 「フェイトや春に遊びに来たみんなが関わった、機動六課って部隊に居たの」 1年限定で、あのはやてさんが部隊長を務めた管理局の部隊。それが、機動六課。 恭文も、色々あって途中から入隊したらしい。正式な局員じゃないんだけど、それでも。 「その時に・・・・・・ある犯罪者と遭遇してね。そいつ、とんでもない凶悪犯罪者だったの。 人を笑いながら、楽しげに殺せる人間の典型例でさ。正直、かなり怖いのよ」 「何が、かな」 「海里は下手をすれば、そいつみたいになる」 その言葉に思わず恭文の手を握る力が強くなる。というか、あたしは声を荒げる。 「どうしてっ!? だって、いいんちょはそんな子じゃないじゃんっ!!」 「今のところはね。でも、何かを奪って壊すってかなり重い事なんだ。 言い訳も出来ないし、忘れたり下ろしてもいいことじゃない。僕も同じ」 恭文は、空を見上げる。だけど・・・・・・泣きそうなくらい、寂しい目をしてた。 「よくさ、人を殺した奴は狂うなんて、こういう仕事をしてる人間の間では言われるの。でも、それは違う。 殺した事を、自分が何かを壊して奪ったという事実を忘れた奴が狂うのよ。その典型例が」 「恭文が会ったって言う犯罪者?」 恭文は、あたしの方を見ながら頷いてくれた。 ・・・・・・どうして? なんであたし、こんな悲しくなるんだろ。 「海里、絶対にたまごを浄化不能状態にまで追い込んだ事、後悔してる。それはまだいいのよ。 だけどもしそれから逃げたり、忘れようとしたら・・・・・・僕やあむの知ってる三条海里も、ムサシも壊れる」 「・・・・・・だから、なんだね」 「うん、だからだよ。だから止めたいの。そうなったらもう戻れない。 その状態でもし、また何かを壊したり奪ったりすれば、絶対に戻れなくなる」 あたしは足を止めた。手を繋いでるから、恭文も同じように足が止まる。 止まって、あたしの方を振り向く。あたしは・・・・・・俯いてた。 「あむ?」 答えずに、あたしは手を強く握る。下手するとあたしより小さいかも知れない手を。 「・・・・・・だったらさ、少しだけ立ち止まろ?」 恭文の手を引く。手を引いて、近くの路地裏に連れ込む。そこから、また手を引く。 そのままあたしの方に来る恭文を、あたしは受け止める。 受け止めて、そのまま抱きしめた。身長同じくらいだから、結構楽に出来る。 ・・・・・・恭文はビックリして離れようとするけど、あたしは離さない。 「あの、あむっ!?」 「逃げないで。・・・・・・今だけでいいから、止まろ? 少しだけ・・・・・・休もうよ。 恭文、いくらなんでも頑張り過ぎじゃん。そんなんじゃアンタまで壊れちゃうよ」 強く抱きしめる。恭文が逃げないように沢山。・・・・・・手だけじゃなくて、身体も温かい。 それにいい匂い。今まで近くに居る事も多かったのに、全然気付かなかった。 「あの、大丈夫だから」 「大丈夫じゃない。あのさ、ほんともう少しだけでいいから、あたしの事頼ってよ。 ・・・・・・あたし、魔法も使えないし、これくらいしか出来ないけど・・・・・・お願い」 「・・・・・・言っても、無駄と」 「そうだよ」 恭文は、少し息を吐いてからあたしの身体に手を回した。そして、強く抱き返してくれる。 服ごしに伝わる感触と熱に、心臓の鼓動が痛いくらいに高鳴る。高鳴って、胸の中が疼く。 「僕、思いっ切り甘えるから」 「うん」 「甘えて、満足するまであむの事、離さないから。あむは今から、僕だけのものになるの。 手も、足も、身体も、顔も、髪も・・・・・・全部。本当にそれでいいの?」 「・・・・・・うん」 普段より弱気で、優しくて静かな声。あたしはそれも受け入れる。 「あむが悪いんだから。いい匂いだし、柔らかいし・・・・・・温かいし」 「ならよかった。あ、でも・・・・・・エッチな事とかは無しだよ?」 恭文は大人だから、その・・・・・・出来るだろうけど、あたし、まだ子どもだしさ。そういうのは無しだよ。 「大丈夫、僕も捕まりたくないから。するなら4年後にたっぷりさせてもらう」 きっとそれは、いつもの軽口。だけど、それに心臓の鼓動が更に高鳴る。 「あたしが大人だったら、してた?」 「この状況でそこ考えないほど、僕は聖人君子じゃない。 多分、意識してたかな。今は一応フリーでもあるし」 やばい、苦しい。でも、離したくない。あたし・・・・・・きっとこれくらいしか出来ないし。 「・・・・・・分かった」 「嫌だって、言わないの? セクハラされまくってるのに」 「なんかそういう気分じゃないから。てゆうか、おかしいね。 ・・・・・・嬉しいの。大人の恭文からそういう風に言われたせいなのかな」 「そう。なら、4年後を楽しみにしてる。・・・・・・あむ、ありがと」 「ん、いいよ。だってあたし、アンタのものなんだしさ」 それからしばらくの間、恭文はあたしの肩に顔を埋めて・・・・・・甘えてくれた。 本当に長い間あたしはずっと抱きしめられて、恭文のものになって、ドキドキしまくってた。 途中で髪とか撫で始めたのは、さすがに止めたけど。てーか、手つきいやらしかったし。 ・・・・・・あたし、何やってんだろ。唯世くんが本命のはずなのに、恭文とハグなんてしちゃってさ。 どうして、もっと抱きしめてて欲しいって思ったんだろ。あたし・・・・・・変だ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ あむにいっぱい元気を分けてもらって、僕は再び立ち上がる。てゆうか、やばい。 僕どうしたんだろ。あれからあむのこと、意識してる。待て待て落ち着け? 相手は小学生なんだから。まだ子ども・・・・・・それもおかしいか。 だって、フェイトを好きだって思った時、ちょうどフェイトが今のあむと同年代くらいだったんだしさ。 ・・・・・・あれ、なんかこれもおかしいな。ただ、そんなビックリする程の年齢差でもないんだよね。 だって、8歳差だよ? そんな恋人や夫婦なら、世の中には沢山居る。だから、不思議はない。 ただ、あむが小学生だと言う事を加味すると、僕の人並みにある倫理観がNGを出すだけ。 マジで4年後・・・・・・って、ちょっと待て待て。さっきから考えてることおかしいから。 普通に現段階であむが好きで、そうなったらいいなと思ってるのが確定じゃないのさ。おかしいって。 とにかく、そんなジレンマに頭を痛めつつも話は進む。そう、場所はやっぱり・・・・・・ロイヤルガーデン。 「・・・・・・魔法、次元世界、その上恭文が19歳・・・・・・ありえない。ありえないわよ。もう最期よ最期」 「おーいっ! なんか字が違うよー!? いや、真面目に違うからねー!!」 「でも、本当のことなんだ。まぁ、やや達も最初に聞いた時はビックリしたんだけど。絶対最期だよ最期」 「だから字が違うって言ってるよねー!! ・・・・・・まぁ、ややだから仕方ないのか」 「恭文がなんかヒドイよー!!」 反応は・・・・・・まぁ、こんな感じ? うん、予想はしてた。すっごい予想はしてたよ。 「ただ真城さん、ありえないどうこうを言ったらしゅごキャラも同じなんだし」 「それもそうなのよね。これ、納得しないとだめか。 ・・・・・・でも、なんで今このタイミングで私に?」 「一時的にでもうちの居候になったしね。どっちにしてももうりまには隠し通せる状況じゃないと思ったの。 というより、うちの人間の大半がそういう結論に達した。なので、僕からお話ですよ」 「納得したわ。・・・・・・あ、やっぱり敬語とかさん付けの方がいいのかな」 僕は気づいたように行ってきたりまの言葉に、首を振って『大丈夫だから』と返す。 いや、だって・・・・・・ねぇ? 学校の中で今さらそんなことされたら、相当怪しまれるし。 「今まで通りでいいよ。元々僕も年上とかそういうの気にされるの、好きじゃないの。 で、同じく気を使うのも好きじゃないしさ。だから、今まで通りでいいの」 「・・・・・・分かった。なら、今まで通りでいく」 その言葉に、他のガーディアンメンバーも安心した表情を浮かべる。僕も・・・・・・多分同じだ。 「それで今後の事なんだけど・・・・・・デビューするのは当然として、どのタイミングでそれが来るかなんだよね」 「もういつ来てもおかしくないと思います。ブラックダイヤモンズへの注目度はどんどん高まっていますし」 ・・・・・・というか、ネット検索したらホームページまで出来てました。試しにやって、ビックリしたもの。 「完全にやる気って感じだよね。うー、たまごのことがなかったら、ややも普通に応援してるのにー」 奇遇だね、やや。それは僕も同じくだよ。・・・・・・やっぱりこの場合、ライブとかかな。 歌って、そこでまたたまごを集めて・・・・・・って感じ。 でも、海里が消えた事で向こうにこちらのことがバレているのは確実。 そこを考えると、やらない可能性も出てくる。僕達が邪魔しにくるのは読めてるはずだもの。 「ねぇ、その時空管理局・・・・・・だったわよね。その組織の力でイースターを止めるのは無理なの?」 「それがね、無理なんだって。やや達も同じ事を前に聞いたんだけど、地球は管理局のことが知られてない世界でしょ? そういう世界には極力魔法を使ってどうこうとか、管理局が介入とか、そういうのはしないようにってルールがあるとか」 「なにより、管理局の人達の大半はしゅごキャラが見えないようなんだ。この辺りはこっちの世界の大人が見えないのと同じ理屈だね。 本当に最初の頃、僕達が初めて会った時には、ランスターさんやフェイトさん達も見えなかったくらいだから。つまり」 「ルール的にもそうだし、たまごやしゅごキャラの存在が認識出来ないから動けないのね。なんだか、不便よね」 それはそう思う。ぶっちゃけ、介入してくれると非常にありがたいし。こういう状況になってくると特にさ。 ・・・・・・あー、そう言えばアレもあったんだ。今のところは大丈夫だけど、アレもどうなるか分かったもんじゃない。 「アレ?」 「うん。まぁ、今回の一件に関しては全く関係ないんだけどね。 地球の方にロストロギアが落ちてきたんだよ」 「さっき言ってたオーバーテクノロジーの産物よね。 でも、それが恭文やフェイトさん達とどう関係するのよ」 「それが関係するの。僕達も今はエンブリオの捜索がお仕事。 とは言え、一応局の関係者で、そのロストロギアが落ちた地球に居る」 機動課・・・・・・あ、ロストロギア絡みの事件を捜査する部署のことですな。もうお馴染みだけど。 「捜査担当の機動課の人達から、何かあったら手伝ってくださいって言われてるんだよ」 まぁ、その場合は僕じゃなくてティア辺りに行ってもらうことにはなるだろうけど。 さすがにこの状況でこっちを離れるわけにはいかないし。とりあえず、日本茶をひとすすり。あぁ、落ち着く。 「なんだか、大変なんだね。というかというか、やや達知らなかったんだけど」 「僕もフェイトも皆も、りまがうちに来る前日くらいに聞いたんだよ。 うぅ、嫌だなぁ。なんか厄介な事になりそうだから嫌だなぁ」 「そうなの?」 「うん。大体ロストロギア絡みの事件は大事になりやすいから。場合によっては大災害に繋がる場合もある。 物が物だから今のイースターの連中みたいに、手段を選ぶ気なしで来る場合もある。だから、局だって確保に力を入れるの」 出来れば、誰かに使用される前に機動課に回収されているという感じで解決して欲しいよ。 もう本能が危険信号出しまくってるんだから。 「まぁそこはいいか。例え魔導師組が動く事態になっても、僕はこっち専任だもの。とにかく・・・・・・歌唄のことだよ」 ≪ただ単にデビューを記念するライブと言っても、色々な形式がありますしね。 例えば、応募者の中から厳選した数人を招待したシークレットライブ・・・・・・とか≫ あー、なるほど。ライブの日にちと時間と場所はその招待状にだけ書かれてるってやつだね。 「そういうのをやられたらあたし達にはわかんないじゃん。あぁもう、どうすれば」 『それなら問題無いよ』 突然通信画面が立ち上がった。そこには・・・・・・フェイトっ! あ、なんかすっごい勝ち誇った顔してるしっ!! 「フェイトさんっ! あの、なんですかいきなりっ!?」 『みんなにいいお知らせだよ。ほしな歌唄・・・・・・ブラックダイヤモンズの動きが分かった。 デビュー記念のシークレットライブが今日の午後16時から、市外のライブハウスで行われるんだって』 「ほんとですかっ! というか、あの・・・・・・どうやってそれをっ!!」 『ヤスフミと私の共通の友人に調べてもらったんだ。 前々からイースターの動きを追って欲しいとは頼んでたから。それでさっき連絡が来たの』 アリサかっ! なんていいタイミングで結果出すかねあの人はっ!! ・・・・・・でも待て。僕は少し気づいたことがあるので、携帯端末を開いて時計を見る。 「今が15時半だから」 「ライブまでもう1時間切ってるじゃんっ!!」 「これ、急がないとダメですよ。フェイトさん、場所の方は」 『もう二人の端末に送っておいた。そこからなら・・・・・・ギリギリ間に合う』 なら、やることは一つだ。とりあえず、ガーディアンの皆を見る。 「・・・・・・みんな、本当にいいんだね? これ、ぶっちぎりに犯罪だよ?」 冴木のぶ子にロケバス運転させたりとか、そういうのを軽く超えてる。 みんなの将来にだって響く可能性がある。つまり、最終確認だ。 真面目に僕はみんなの将来のことにまで責任は取れない。だから、聞いた。 だけど、そんな僕の考えは、どうやら無意味だったらしい。だって、みんなもう目が据わってるもの。 「それでも、やらなきゃいけない。・・・・・・蒼凪君やフェイトさん達がどう言おうと、僕達は行く。 行って三条君を取り戻して、ほしな歌唄も止める。このままじゃ、沢山の人達の夢と願いが奪われる」 「まぁここまで来たら乗りかかった船だもの。付き合うわよ。 それにこういうのは、バレなきゃいいんだもの。問題ないわよ」 「そうそう。りまたんの言うようにバレなきゃ大丈夫だって。向こうだってやましいことしてるんだしさ。 というか、やや達も恭文と同じでバカなんだよ? こんなところで途中退場なんて出来ないって」 「だから恭文、フェイトさんも・・・・・・納得してください。あたし達全員、もう覚悟は出来てます」 その言葉に通信画面のフェイトと顔を見合わせて・・・・・・頷いた。 それから右隣に座っていたリインの方を向く。リインも、頷く。 「なら・・・・・・みんな、行くよ。これで決着をつける。 で、悪いんだけど・・・・・・僕は僕で、勝手させてもらう」 「分かってる。それじゃあみんな、急いでライブ会場に向かうよ。 手はずは先日決めた通りに。僕達は僕達の仕事を、意地を通す」 「ここが正念場だっ! しっかり気合いを入れろよっ!? ・・・・・・行くぞ皆の者っ!!」 『おー!!』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ バイオリンが入っただけで、もう全く違う。おかげで歌にも熱が入る。というか、こういうライブハウスで歌うのはかなり好き。 臨場感はあるし、客席との距離も近いからテンションも上がる。あ、また・・・・・・宝石が輝いた。 力がみなぎる。もうなんだって出来そうな気持ちになる。ううん、出来るんだ。 でも、なんでだろう。みなぎる度にどこか・・・・・・心に穴が開く感覚がする。 そんなの、別にいいか。だってこれで・・・・・・勝てるんだから。 勝って、イクトを救えるんだから。そうだ、それだけでいい ≪The song today is ”PULSE”≫ 瞬間、大音量で別の音楽が流れた。・・・・・・え? 「悪いけど」 頭上に影。そこには、青いジャケットを纏い、布を顔に巻きつけた形の覆面をした影が居た。 左手で青い炎の弾丸を放つ。それは観客の頭上で爆発して、火の粉と爆発音をライブハウスに撒き散らす。 「僕はこっちの方が好みだ」 そう言いながら、右手を腰の刀の柄にかける。さっきの炎で混乱する観客など気にせずに。 「落ち着いてくださいっ! 非常口はこちらですっ!!」 「慌てず騒がず、冷静に逃げてくださいー!!」 避難誘導っ!? というか、この声・・・・・・!! 「鉄輝」 だけど、次々と誘導されていく観客にも、それをする観客にも目を向ける余裕は無かった。 私の目の前に抜き放たれた刃が出てきたから。 「一閃っ!!」 だから私は・・・・・・それを避けた。あの宝石が、また輝いたから。 そう、もう大丈夫。もうこの宝石の力は、完全にコントロール出来る。 「・・・・・・へ?」 なんだか驚いているけど、遅いわ。瞬間的にダイヤとキャラなり。私は黒い宝石へと姿を変える。 そのまま、青いジャケット姿のアイツの背中に向けて。右手を向ける。そう、一瞬で回り込んだ。 どうやらこの宝石は、私の身体の動きまでブースト出来るらしい。色々試した甲斐があった。 「シャインブラックッ!!」 放たれたのはダイヤ型の光のつぶて達。それがアイツの背中を捉える。 そしてステージの床を砕き、抉り、そのまま舞台袖のカーテンも引き裂く。 ・・・・・・いや、アイツだけは捉えられなかった。アイツの身体が蒼い光に包まれた。 そうかと思うと、いつの間にかガランとした観客ブースの真ん中に居たから。 「・・・・・・今の、避けるわけ?」 アイツに視線を向けながらそう口にする。それに対して言葉が返ってくる。 「それはこっちのセリフだよ。つーか、歌唄。いつからそんな戦闘上手なキャラになったわけ? アレかな、誰かそういうのが得意な男と付き合うようになったとかですか」 「そうね、もうイクトが毎晩のように求めてくるから」 「・・・・・・そりゃまた、情熱的なことで」 「情熱的よ? もうまるでダンスでも踊るみたいに」 なんだろう、やっぱり楽しい。打てば響く。そして、アイドルや歌姫どうこうじゃない。 ただの私としてアイツは私と話す。それがたまらなく楽しい。 敵同士じゃなかったら、もっと楽しかったのかなと、ちょっと思った。 ううん、楽しかった。私は、アイツと話すのが楽しかった。でも、それはもう遠い記憶。 私達はもう敵同士だから・・・・・・こういう繋がり方しか、出来ない。 「んなわけあるかっ! お前この状況でなに適当なこと言ってやがるっ!!」 だってー。こういう状況だから言えるんだもんー。 「・・・・・・猫男、大丈夫。ほら、恋愛の形って色々だしさ。それに・・・アレだよアレ。 もしかしたら、『実は本当の兄妹じゃなかった』フラグとか立つかも知れないしさ」 あ、なんか引いてる。失礼しちゃうわね。あと、フラグはもしかしたらじゃないわよ。 そのフラグは、確実に立つの。もうアカシックレコードにも載ってるんだから。 「立たねぇよっ! お前もこの状況で何言ってんだっ!? そしてその気の毒そうな視線はやめろっ!! あと、なんでマトモに俺に顔を向けようとしないんだよっ!! ・・・・・・つーか、お前マジか? 普通に犯罪だろ」 「何言ってんの。観客からたまごを抜き出しかけてたくせにさ。 それ言ったらそっちだって犯罪だよ。窃盗罪だよ。具体的にはハート泥棒だよ」 ≪それに、犯罪どうこうなど私達には無意味な言葉です。ルール違反と過剰攻撃は私達の十八番ですし。 なにより私達は、あなた方の願いと夢を叩き潰しに来たんですから。・・・・・・グダグダ言わずに、壊されてくれてます?≫ 右手に持った刀が喋る。そしてその言葉を聞きながら、アイツは覆面を左手で掴み・・・・・・外す。 「それが成せないのは意味がないのよ。んじゃま、クライマックスと行きますか」 そこに現れたのは、鉄だった。錆びだらけで、傷だらけで、だけど・・・・・・その中に光を宿した鉄。 信じられないくらいに強く輝く鉄。それが、アイツ。だからアイツは私に、刀の切っ先を向ける。 「ふん、叩き潰せると思ってんの?」 「さぁ」 私の言葉を無視して、そのままアイツは・・・・・・私達に向かって、宣言する。 「お前の罪を数えろ」 罪? ・・・・・・あぁ、そうよね。たまごをCDにしたりしてるもんね。アンタ達から見ると、それは罪か。 でも、それでも譲れないのよ。幾斗を・・・・・・絶対に助けたいから。 「・・・・・・歌唄」 「あら、あむ・・・・・・居たの」 「アンタ、あたしに対しての扱いがぞんざい過ぎないかなっ!? ・・・・・・つーか、アレだよアレ」 「なによ」 「これが、歌唄のなりたい自分の行動なわけ? あたし、正直信じられないんだけど」 なんだろう、その言葉がやけに胸を貫いた。貫いて、また私の心に穴を開けた。 「あむちゃんや恭文さんの言う通りですっ! 歌唄ちゃん、本当にどうしちゃったですかっ!? 歌唄ちゃんのやりたかったことは、こんな事じゃなかったはずですっ!!」 「・・・・・・役立たずまで来てるわけ」 「エルは役立たずなんかじゃないよ。この子は、歌唄のもう一人の自分。そしてアンタやイルと同じように、恭文の友達」 「エルとイルはともかく、私は違うわよ」 「違わないよ。・・・・・・恭文から歌唄とどういう知り合い方したか聞いた。 だから言い切れる。アンタは、恭文の友達じゃん。そうならない理由が分からないよ」 反論しようとした。でも、その前にあむは言葉を続ける。私の目を真っ直ぐに見て、揺らがず・・・・・・止まらずに。 「ね、歌唄。もう一度だけ聞くね。アンタ、これで何がしたいの? みんなからたまご奪ってさ」 「ふん、そんなの決まってるわよ。エンブリオを見つけて、イクトを助けて」 「その後は?」 「・・・・・・その後?」 あむの言葉は、聞き逃しても問題のないものだった。でも、妙に引っかかった。 その後・・・・・・その言葉が示すのは、未来。過去でも今でもなく、未来だから。 「エンブリオを見つけて、イクトを助けたその後は? 自分の歌をこんな事に使って、どうするつもり? 歌唄の歌の意味は、なりたい自分は、夢は・・・・・・どこに行っちゃうのかな」 私のなりたい自分。私の・・・・・・なんだろ。 私、そう言えば何になりたかったんだろ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「歌唄、ちゃんと答えて。歌唄はどうしたいの? 歌唄は、どんな歌をうたいたかったのかな」 歌唄は目を見開いて呆然としている。その意味を・・・・・・僕は、なんとなく察した。 歌唄は分からないんだ。だから、あむの問い掛けに答えられない。 「歌唄、あたしの話聞いてる? お願いだから」 「そこまでです」 そう言いながら、ステージ袖から出てきたのは・・・・・・海里。やっぱ居たか。 そして海里を盾にしながら、歌唄の手を引っ張りながら猫男にスタッフ達が逃げる・・・・・・って、逃がすかっ!! 「させません」 海里が右手を上げ、衝撃波を放つ。それは、何度も見た黒い衝撃波。 それをアルトを一閃させて斬る。・・・・・・くそ、その間に逃亡ですか。とりあえず・・・・・・マズイ、かな。 「やや」 「なに?」 後ろで観客の避難誘導をあむと一緒にしていたややに、海里から視線を外さずに声をかける。 「リインと唯世達に今すぐ連絡。歌唄を待ち伏せするの、やめろって伝えて」 「え、なんでっ!? だってだって、関係者用の出入り口で止めるって作戦だったのにっ!!」 確かにそういう作戦だった。僕が先頭を切って襲撃を仕掛ける。 それから観客を巻き込まないように、あむとややで避難誘導。 で、連中がもし逃げようとした場合の作戦も考えた。 関係者の出入りがあると思われる箇所に、リインに唯世とりまが待ち構えるのだ。 ようするに、キャラなりが出来る上に戦闘能力もそこそこある人間が待ち伏せだね。 それで、相手を遠慮なく躊躇いもなく撃退。最悪足止め。 で、こっちは僕が海里を止める。その間に、あむ達には会場の方から歌唄達を追いかける。 そうして、挟み撃ちにして、あとは勇気と気合いでなんとかするというものである。 「エル、ごめん。あむ達の方に居て。あと、歌唄をここで何とかするのは諦めて」 「でも」 「お願い、ちょっと事情込みなんだ。今迂闊に歌唄に手を出せば・・・・・・全員大怪我して、全滅する可能性もある」 「・・・・・・分かりました」 補足をしておくと、僕が一人で海里を相手にすると言い出したのは、ここが大きな理由だったりする。 シチュはともかく、海里の戦闘能力を考えるとあむやみんなの邪魔をされるとマズイ。 なおかつ海里は参謀タイプ。遠慮なしに、こっちの戦略を読まれる可能性があった。 そうなってくると、歌唄なりスタッフなりと行動されるのはめんどくなる。 なので僕が海里を引き受けて速攻で潰すか、それが無理なら歌唄や連中から引き離す。 さっきも言ったけど、それで足止めする方が得策と思ったのが、その理由だ。 シグナムさんは昔言っていた。戦場に置いては本来なら一騎当千のエースなど存在しない。 単純に考えれば数が多くて能力がある一定レベルある集団の方が個人より強いのは当たり前だと。 1番戦闘能力のある僕一人で歌唄を追っかけても、向こうが大量に戦力を出してきたら、そこで終わる。 もっと言うと×たまや例の人形、月詠幾斗に邪魔されて逃がしたら終わり。 ここは単純に数の暴力で潰させてもらう・・・・・・はずだったんだけどなぁ。 くそ、予定が狂った。まぁいい。今はややに納得してもらう方が先だ。 とにかく、エルは素直にあむ達の方に下がってくれた。僕はややに向かって言葉を続ける。 「事情が少し変わった。リインに唯世とりまだけだと間違いなく返り討ちに遭う。 今の歌唄には・・・・・・そんな半端な戦力で、手を出しちゃいけない」 あの胸元の黒い宝石、歌唄が動く前に一瞬輝いた。とても怪しく・・・・・・そして、綺麗に。 でも、それだけじゃない。その直前、歌唄の唇が僅かに歪んだ。いや、笑った。 嘲りと余裕が込められた笑い。アレは、こんなの当たりもしないという確信を持った笑いだ。 それを、歌唄は浮かべていた。なによりあの宝石、僕は見覚えがある。 「でも」 ≪ややさん、事情は後で説明します。とにかく、お願いします≫ 「・・・・・・わかった。でも、そこは絶対だよ? じゃないと絶対唯世にりまたんも納得しない。 というかややにあむちーに、リインちゃんだって同じくだよ」 ≪ありがとうございます≫ あのひし形の宝石、そして・・・・・・あの時感じた膨大な『魔力反応』。間違いない、多分あれは。 ”ブラックダイヤモンド・・・・・・ロストロギアでしょうね” そう、機動課から送ってこられた捜査資料の中に、写真があった。それが・・・・・・あれだ。 ”何の因果か、ほしな歌唄が持っていたんですよ” ”くそ、やっぱり関わることになったか。しかも、あの様子だと色々マズイよね” ”えぇ。あなたの不意打ちの斬撃を避けた上に、背中を取ってカウンターですよ。 相当レベルで能力を上げられるみたいですし。なにより” ”うん。多分だけど、歌唄はあの石の能力をコントロールしてる。 つまり、石の力を把握した上で、自分の意思でそれを利用してる” とにかく、ここはフェイトと要相談だ。・・・・・・くそ、どうしてこう次から次へと厄介ごとが舞い込むのさ。 あれですか、なんかの修正力が働いていて、歌唄はこのまま見殺しにしろと言ってるとか? んなの、絶対認められるかよ。認めてたまるか。あー、それと唯世達とも相談だね。 どっちにしても、ガーディアンの仕事にも関わってくる事だし。つーか、まずい。普通にまずい。 だって、こうなってくると・・・・・・僕達以外の管理局の人間が、遠慮なく首を突っ込んでくる可能性がある。 もっと言えば、ブラックダイヤモンド捜索のために、地球であれこれ調査活動しているであろう、本局の機動課。 「・・・・・・ご相談はお済みですか?」 思考は一時中断。どっちにしろ、事後に考えないと結論の出ない話だもの。 海里を見る。そして、すぐに気づいた。僕の知っている・・・・・・黒い光を宿していた。 「あぁ、済ん」 「済んでないよ」 そう声を上げたのは、ミキ。いつの間にか僕の隣に居た。 「恭文、ボクとキャラなりして」 「・・・・・・ダメ。怪我させたくない。多分、今までよりずっと派手にやるし」 「恭文、前に言ってなかった? ボクの力を借りたいって。だからボク、決めたんだ。 ・・・・・・恭文はあむちゃん以上の意地っ張りで、見てられないからさ」 ミキが、一旦僕の方を向く。向いて、不敵に笑う。 「恭文が魔法使いとして飛び込むなら、ボクも一緒に行く。 だってボク、恭文の魔法は『魔法』だって信じてるから。だから・・・・・・戦わせて」 「・・・・・・ミキ」 「もちろん、答えは聞いてない。どうする?」 答えの代わりに、僕はアルトを一旦鞘に納める。納めて、両手を胸元に持っていく。 「僕のこころ」 その一言だけで、ミキは満足だったらしい。僕と一緒に、海里を見据える。 「アンロックっ!!」 両手を動かし、鍵を開ける。その中で解き放たれるのは・・・・・・青い剣士の姿。 僕の中にある、『魔法』を使える魔法使いの姿。その一つの姿が、ここにある。 【「キャラなり」】 両手には、流線型になったジガン。ところどころのスペードの意匠に、首元の白いマフラーが靡く。 僕はゆっくりと腰のアルトを抜く。その刃はこの時間を守るために、絶望を壊すために、虹色に変わっていた。 【「アルカイックブレードッ!!」】 「・・・・・・今度こそ、お済みでしょうか」 「うん、済んだよ。とりあえず、ここで海里を連れ戻すって方向でね」 【なお、答えは聞いてないから】 「何故ですか」 声は自分のすぐ目の前から聞こえた。海里は、あの一瞬で踏み込んできた。 ・・・・・・速い。あの時よりもずっと速い。 「俺は、あなた方の仲間でもなければ友達でもありません」 そのまま、上段から僕に向かって、いつの間にか手に持った日本刀を叩き込む。 ・・・・・・日本刀? 待て待て、なんでそこで木刀じゃないのさ。 とにかく、僕は避けて・・・・・・いや、少し後ろに下がって、アルトを左から打ち込み、それを弾く。 少し薄暗めの照明が照らすライブ会場に、金属同士がぶつかり火花を散らし、その色が空間を一瞬だけ照らす。 「そんなことないっ! いいんちょは・・・・・・あたし達の仲間だよねっ!?」 あむが叫ぶ。そうして、僕から距離を取って僕に敵意を向ける海里に声をかける。 「どうしてそんなこと言うのっ!!」 「どうして?」 その叫びを、海里は嘲笑った。受け止めることもなく、嘲笑い・・・・・・壊れた。 「・・・・・・ふふふ、はははははははっ!!」 追撃をかけようとすると、海里が後ろに大きく跳んだ。 そのまましゃがむように着地して、ゆっくりと起き上がる。 「ムサシ」 そう言葉をかけると、傍らからまるで煙のように出てきたのは、ムサシ。だけど・・・・・・違う。 服装が全体的に黒ずんでて、めがねをかけてなくて、髪も金色に近くて、左頬に×のマークが付いてる。 「いいんちょ、それ」 「ムサシに、×がついてるのっ!?」 「えぇ、そうです。・・・・・・俺はなりたい自分には、一生なれないんですよ」 「・・・・・・海里、どうしてそう思う」 「俺がなりたかった自分は、強きを挫き弱きを助ける真の侍です。 でも、もうなれない。俺には目指す資格すらない。そう気づいたら、こうなりました」 ・・・・・・原因は、やっぱりCDのことか。それ以外には、考えられないし。 「存在しているだけで、生きているだけで、一つの奇跡。・・・・・・そう、心から思いました」 【それって・・・・・・あの時の】 その言葉に思い出すのは、ややの双子の弟達の子守の時。その時の僕の話。 海里にその片割れを抱かせて、そんな話をした。そうだ、あの時の海里は・・・・・・不器用だけど、笑ってた。 「だけど、俺はそれを奪った。その奇跡を守るどころか、奪って壊した。 浄化すら不可能な状態に追い込んだ。本当の意味で・・・・・・壊したんです」 だからムサシに×が付いた。ダイヤに×がついたのと同じ理屈だ。 ゆっくりと僕達に歩み寄りながら、海里は壊れたように微笑みながら、言葉を続ける。 「そんな俺が・・・・・・あなた方の仲間? 本当に、心からそう思ってるんですか?」 「思ってるよっ!!」 「嘘だっ!!」 海里から黒い風が放出される。それにあむとややが圧される。だけど、僕はただ立ち尽くす。 「嘘じゃ・・・・・・ないよっ!!」 あむが声を上げる。その風を振り払うように。海里の言葉を否定する。 そのために声を上げる。・・・・・・いや、叫ぶ。海里を真っ直ぐに見据えて、揺らがずに、迷わずに。 「だって、あたし達と一緒に居た時のいいんちょは・・・・・・ホントのいいんちょじゃんっ!! スパイとかそういうこととは関係なく、ホントのいいんちょだったっ! 誰がなんと言おうと、そんなの関係ないっ!!」 そうだ、海里は・・・・・・僕やあむの仲間で、友達だった。それまで、嘘になるわけじゃない。 積み重ねた時間も、想いも、記憶も消えたりしない。良いことも、悪いことも全部だ。 「あたしは・・・・・・あたし達は、いいんちょを仲間だって思ってるし、ホントのいいんちょを今でも信じてるっ!!」 「あむちーの言う通りだよっ! ややもそうだし、唯世にりまたんにリインちゃんだって・・・・・・いいんちょの事、仲間だって思ってるよっ!! いいんちょ知ってるっ!? やや達の中で1番いいんちょの事信じて、何とかしたいと思ってるの、恭文なんだよっ!?」 ややも、声をあげる。だけど、止まらない。海里の嗤いは、全く止まらない。 「確かに、悪い事しちゃったかも知れないけど・・・・・・それで全部おしまいだなんて、絶対おかしいっ!! そんなのでいいんちょは納得出来るのっ!? ややは絶対に納得出来ないっ!!」 「・・・・・・ムサシ、キャラなり」 「御意」 「いいんちょっ!!」 二人の叫びは、届かなかった。黒い風の中で、海里は姿を変えた。 赤い仮面に陣羽織、黒の袴に両手には二本の刀。 【「キャラなり」】 つーか、キャラなりまで・・・・・・出来るんかい。 【「アシュラブレードッ!!」】 ・・・・・・僕は、一歩ずつ歩く。前に・・・・・・海里に向かってだ。 伝えたい事がある。今のお前に、絶対に知って欲しい事がある。 僕も、お前と同じだから。だから、分かる。だから・・・・・・戦う。 言葉じゃきっと届かないから、僕という人間を見せる。そう、あの時と同じなんだ。 「・・・・・・あむ、やや。悪いけど約束通り手は出さないで。あとエルの事もお願い。 つーか、下がってて。このバカ・・・・・・僕が叩き潰す。叩き潰して、取り戻す」 【恭文、そこは複数形。ボク達が・・・・・・でしょ?】 「そうだね」 「それは無理です」 また目の前から声がする。海里が踏み込んできた。踏み込んで・・・・・・そのまま二本の刃を振り下ろす。 「常在・・・・・・戦場」 刃には黒いイナズマが走る。走り・・・・・・その切れ味を上げているようにも見えた。 「イナズマっ! ブレェェェェェェドッ!!」 だから僕は、それを右からアルトを打ち込んで、打ち払った。魔力も、何もなしで、何の造作も無くだ。 海里はその剣圧に圧されて、後ろに下がる。そして、再び対峙する。 「・・・・・・やはり、そう簡単にはいきませんか。 今まで集めたデータを元に、相当な時間をかけて対策を練ったのですが」 「データどうこうで何とかなるほど、僕は甘くないよ? つーか」 そのまま飛び込み、海里に袈裟にアルトを打ち込む。海里はそれを両手の刃で受け止める。 刃を押し込み合いながら、僕達はその場でにらみ合う。 「負けない。重さから・・・・・・業から逃げてる奴になんざ、相手が誰であろうと絶対に負けるわけにはいかないんだよ」 数瞬の鍔迫り合いの後、僕達は互いに後ろに飛んで距離を取る。取って・・・・・・海里は踏み込んできた。 右の刃を、僕の顔目がけて突き出す。その切っ先を左に避けると、刃が返る。そのまま、横薙ぎに一閃。 「逃げてる? 俺が?」 それをしゃがんで避けて、後ろに飛ぶ。今度は左から来たから。そのまま、なんとか距離を取る。 「・・・・・・そうですね、俺は逃げてますね」 【それが分かってるなら、どうして・・・・・・どうしてこんな事するのっ!!】 今度は僕から。袈裟に刃を打ち込むと、海里は左に動いて避ける。避けながら左薙の攻撃。 僕は刃を返して、それを受け止める。受け止めつつ、そのまま後ろに跳ぶ。 そうして追撃で来た左の刃の唐竹での一撃を避ける。刃は地面に叩き込まれ、線を刻み込む。 それからすぐに踏み込む。踏み込んで袈裟に打ち込む。海里は、それをスレスレで避ける。 後ろに下がりつつも身体を捻り、僕の右サイドから二刀を叩き込む。僕は刃を返してアルトを振るう。 二刀とアルトがぶつかり、火花を散らす。互いに刃をそのまま振り切った。振り切ってから、すぐに刃を返す。 左薙に一閃を打ち込むと、海里は高く跳んだ。跳んで、そのまま右の刃を僕に投擲。 僕はそれを左に走って避ける。海里は僕の移動地点に先回りする形で、左の刃を投擲。 その間に着地して、右の刃を回収。そのまま突撃しつつ、海里は左手を伸ばす。 その瞬間、左の刃が軌道を変えて僕に飛んで来た。僕は、それを避ける。 左に身を捻って避けるけど、刃が僕の二の腕を僅かに斬り裂いた。当然のように、傷を負う。 海里はその刃を回収し、右足から踏み込んで前に出てきた。そのまま、二刀とアルトが数度激突する。 何度目かの剣撃のやり取りを行なった後、互いに後ろに飛んで距離を取った。 そして、また睨み合う。・・・・・・くそ、アルカイックブレードのスピードについて来てるし。 睨み合いながら、ガラガラのステージを逆時計回りに回りつつ、飛び込むタイミングを計る。 「仕方ないでしょう。こんな重さ、誰だって逃げたくなりますよ」 海里は、僕へと踏み込む。踏み込んで・・・・・・右の刃を横薙ぎに払うように打ち込んできた。 アルトを打ち込んで、また刃がぶつかり合う。そこに左の突き。 ・・・・・・そういう具合に、どんどん連撃が飛ぶ。それをアルトで払い、打ち込み、海里と斬り合っていく。 袈裟にアルトを叩き込む。海里はそれを身を翻して避けて・・・・・・くそ、やっぱキャラなりのせいか。 動きが以前やりあった時とは、比べ物にならないくらいによくなってる。だけど・・・・・・なんだよ、これ。 アルトの刃を袈裟に打ち込み、上段に振るい、下から振り上げる。 そうしながら、海里の二刀と斬り合っていく。だから、分かる。この刃には、何もない。 覚悟も、想いも、何も無い。空っぽの刃だ。前の海里の方が・・・・・・ずっと強かった。 このバカは、本当に・・・・・・! 一体何やってやがるっ!! 止まらずに引かずに、ひたすらに刃を叩き込む。そんな時、海里が身を回転させる。 僕はすぐさまに後ろに下がる。回転させながら、斬撃が来たから。一気に射程圏外に出る。 だけど、海里は当然のように突っ込んでくる。だから僕は・・・・・・交差法で、一気に切り崩す。 アルトを正眼に構えて、放つ斬撃はこれ。 「飛天御剣流」 ・・・・・・壱・弐・参・四・伍・陸・漆・捌・玖っ!! 「九頭龍閃もどきっ!!」 生まれたのは、九の龍。前面から襲い来る斬撃に、海里は右足で動きを止めて、瞬間的に踏ん張る。 踏ん張ってから、またそこから僕に向かって跳躍。そこから海里の両手の刃が素早く動く。 そしてそのまま僕達は弾き飛ばされるように、互いに後ろに下がる。・・・・・・マジ、かい。 ≪九頭龍閃、防がれましたね≫ 【そんなの、ありなのっ!? だってアレって、普通に防御も回避も不可能なはずじゃっ!!】 滑るように着地しつつ、僕は海里の方を見る。・・・・・・いや、ありえる。 同じだけの速度で、同じだけの数の斬撃を撃ち込めば充分にそれは可能だ。 「はぁぁぁぁぁぁっ!!」 逆袈裟に撃ち込んでくる斬撃を捻って避ける。続けてくる横薙ぎや切上の斬撃も、同じく。 ・・・・・・どうやら、マジでこっちの対策を整えてたらしい。ここまで来ると、感心するしかないよ。 感心しつつも、唐竹での斬撃を右に跳んで避ける。避けて、海里はすぐに踏み込む。 海里の刃に、また黒いイナズマが灯った。 「・・・・・・イナズマ」 海里はそのまま後ろに飛び、すぐさま一気に飛び込んできた。 右の切っ先を向け・・・・・・左も構えてる。 突撃の速度・・・・・・かなり速め。だから僕は、ジガンでその切っ先を受け止める。 虹色のプロテクションを、局所的に展開した上で。 今ココで下がるのはマズイ。避けるのもマズイ。だって・・・・・・!! 「いいんちょ、もうやめてっ!!」 「そうだよっ! こんなの・・・・・・おかしいよっ!!」 真後ろはご覧の通りなので、絶対にややとあむに被害が及ぶ。 だったら、文字通り盾になるだけだ。つーか・・・・・・下がるつもりもない。 右の切っ先を受け、衝撃が空間に広がる。広がって・・・・・・左腕に激痛が走る。 「ブレェェェェェェドッ!!」 黒いイナズマが刀身を完全に包み込み、その切れ味を上げる。 そしてそれは深々と、プロテクションのみならず変身しているジガンごと腕を貫いた。 いや、腕を捻って刃を何とか逸らす。装甲ごと引き斬りの要領で、傷が深くなる。 だけど、ここはいい。貫かれるよりはずっとマシだ。 そして、その逃げた刃は僕の肩の方へと向かう。 肩の上の方の肉を、ジャケットごと斬った。そこにも痛みが走る。 それだけじゃない。イナズマがまた刀身に走り・・・・・・ってまずいっ!! 【恭文、下がってっ!!】 いや、それだと絶対に間に合わない。・・・・・・クソ、ミスった。 「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 (その8へ続く) あとがき ウェンディ「というわけで、あむルートの第7話、どうだったっスか? 本日のあとがきのお相手はウェンディ・ナカジマと」 恭文「蒼凪恭文と」 やや「なんかIFルートらしくなってきたと思った、結木ややと」 古鉄≪・・・・・・またフラグを立ててと思った、古き鉄・アルトアイゼンです≫ 恭文「てゆうかウェンディ、また来たの?」 ウェンディ「何ッスか、その言い草はっ! 私はレギュラーなんだから、来て当たり前っスよっ!!」 (ポジティブガンナー、強く言い切った) 恭文「とにかく、海里戦だよ。分量の問題でいいとこで切ったけど、色々変わっております」 ウェンディ「九頭龍閃撃ったり、あのアルカイックブレードになったりっスね」 やや「というか、なんかいいんちょのアシュラブレード、強くなってない?」 古鉄≪当然のように、ここもコピペじゃつまらないですから。普通にパワーアップしています。 というわけで、ここから終了まではほぼ書き直しました。分量増加しました≫ (大体・・・・・・現在の平均的な一話の半分くらいは) やや「うわ、なんかRemixって感じがするね。というか、戦闘描写パワーアップさせるんだ」 恭文「一応二年目のテーマだしね。戦闘描写のパワーアップ年間は、まだ続いてるのよ? というわけで、あむとの会話とか元気注入とかもらって、海里戦ですよ。そこから歌唄戦だよ」 ウェンディ「あれっスね。あのシーンはあむがそういう風に動くように仕込んで」 恭文「違うわボケっ! そこまでテクニシャンじゃないしっ!!」 古鉄≪でもあなた、現在ストレス解消にちょびちょび書きためているメルティランサークロスで、普通に同じような感じで口説いて≫ 恭文「誰をっ!? 僕が誰を口説いてるって言うのさっ! 僕は」 (蒼い古き鉄、言いかけてとまる) 恭文「すみません、口説いてます。普通に口説いてます。はい、マジでごめんなさい。覚えがあり過ぎます」 ウェンディ「そうっスよね。この間の幕間18から20まででも口説きまくってたじゃないっスか」 やや「感想すごかったよね。『戦闘中に口説くなぁぁぁぁぁぁぁっ!!』って言われまくってたし」 古鉄≪アレですよ。どっかのアメリカ映画みたいなノリでやるから、あんな風になるんですよ。 あなた、真面目にもうちょっと反省してくださいよ? というか、あのノリをやめるだけでも違うでしょ≫ 恭文「ご、ごめんなさい」 (蒼い古き鉄、フルボッコ。すっごくフルボッコ。今回は、色々容赦がない) 古鉄≪というわけで、次回の様子も一応気にしつつ本日はここまで。お相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫ やや「結木ややと」 ウェンディ「ウェンディと」 恭文「みなさん、本当にごめんなさい。蒼凪恭文でした。 うぅ、僕は普通にしてるだけなのにー!!」 古鉄≪してないでしょ。してないから、雷刃の襲撃者IF要望なんて来るんですよ。 どうするんですか、これ? プロット難易度高過ぎるじゃないですか≫ 恭文「ご、ごめんなさい」 (蒼い古き鉄、フルボッコでさすがに反省モード。今回は色々あるらしい。 本日のED:FAKE?『PULSE』) あむ「というわけで、早速ですが雷刃の襲撃者IFエンドを考えてみたの」 ・PSP事件終了後、色々な不具合からそのまま残って、途方にくれる。 それを見かねた恭文が色々と世話を焼くようになる。 ・デートにも出たりしている間に、雷刃の襲撃者は人間的な部分が増えていく。 その結果、根が単純なためか普通に生きていく事にする。 ・そうこうしている間に、互いに憎からず思う関係になる。 人間とプログラムという違いはあっても、そういう部分も含めて惹かれ合う。 ・他はともかく、恭文は雷刃の襲撃者をフェイトとは違う個人として見ているため、その広い心根に雷刃の襲撃者は惹かれる。 恭文はフェイトとはまた性格が違い、ポジティブで一緒に居ると明るい気持ちになれる雷刃の襲撃者が気になり出す。 ・結果、付き合いだすようになって、ガジェット初遭遇や子育て期間や、幕間そのに事件。 当然JS事件やその後の事件も一緒に乗り越えて・・・・・・ハッピーエンド? 恭文「・・・・・・あむ、これはどうしたのかな? ほら、今回はヒロイン分多めだし」 あむ「いや、その・・・・・・なんて言うかさ。メルティランサーで誰を口説いてるのか気になって」 恭文「気になってじゃないよっ!? 気になったら普通に他の人のプロット考えるんかい、おのれはっ!!」 あむ「仕方ないじゃんっ! あたしIFなのに、甘さが全く無いって言われたんだよっ!? てゆうか、なんでこれっ!? ギンガさんやティアナさんは、すごい頑張ってたのにっ!!」 恭文「しゃあないでしょうがっ! 小学生なんだし、下手な事をすると法案に引っかかるのよっ!! てーか、これでラブラブしたらそれはそれでおかしくないっ!? ほら、大人としてさっ!!」 あむ「もう別にそれでいいよっ! とにかくあたしは、ちゃんとヒロインやりたいんだー!!」 恭文「アフターに期待してっ!!」 あむ「それじゃあIFルートやる意味ないじゃんっ!!」 ウェンディ「・・・・・・うわ、派手にやり合ってるっスね」 やや「ウェンディさん、あむちーと恭文はいつもこの調子ですから、気にしない方がいいですよ?」 ウェンディ「いや、知ってはいたんっスけど・・・・・・予想以上だったんで」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |