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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第22話 『とある魔導師の不幸 閃光の女神の憂鬱』(加筆修正版)



恭文「前回のあらすじ。あむがミッドに降臨しました」

フェイト「してないよねっ!? ・・・・・・というか、本当にどういう事かな。ちゃんと教えて」

恭文「いや、あの・・・・・・とりあえず抱きつくのやめない? ほら、ずっとだし」

フェイト「だめ。私、ちゃんとヤスフミと分かり合いたいもの。だから、だめ」

恭文「それは色々間違ってないっ!? というか・・・・・・アレだよっ!!
そんな事すると、僕はエッチな事しちゃうんだからっ! 胸とか触るよっ!?」

フェイト「それはだめ。だめだけど・・・・・・離れるのもだめ。
私、ちゃんとヤスフミと分かり合いたいだけなの。ただそれだけで」

恭文「だからってこれは色々間違ってるからっ! お願いだからまず一度離れてー!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・さて、話は少しだけ時間を巻き戻すところから始まる。





第12話でのはやての頼み事。それこそが、現在の状況のきっかけだった。










「・・・・・・なぁ、ぶっちゃけ六課の前線メンバーってどう思う?」

「どういう意味合いかによるよ?」



能力的・・・・・・申し分ないと思う。性格・・・・・・面白い人間多いよね。

六課は基本的にエリート部隊だから、この辺りで不満は出にくいとは思う。



「そして、フェイトが可愛い。フェイトが綺麗」



からかうと楽しいし、いじめるともっと楽しいし・・・・・・ふふふ、フェイトはいいなぁ。

やっぱりフェイトは好きー。フェイトは素敵ー。可愛いから好きー。



「誰もアンタの趣味は聞いてないわっ! 何普通にフェイトちゃんだけ持ち上げてるっ!?」

「だって、フェイトは僕の嫁だし」

「もうえぇから一旦黙ってもらえるかっ!? ・・・・・・まぁ端的に言うと、メンタル面や」

「それなら、問題ないんじゃないの?」



隊長陣は経験豊富。フォワード陣だって、あれだけの修羅場潜ってるわけだし。



「ほんまにそう思うか?」

「正直に言うと、思わない」

「せやろ? そう言うと思ったわ。で、きっかけはなんや」



実を言うと僕は現在の六課の、隊長陣を含めた前線メンバーのメンタル面での能力に、ちと疑問がある。



「きっかけはスバルとフェイトだね。ほら、スバルとやった最初の模擬戦の時。
スバル、僕の軽口に結構乗っかってきたじゃない?」



それを見て、精神攻撃関係・・・・・・というか、挑発とかの類は弱いのかなって印象を受けた。



「フェイトちゃんは、言うまでもないわな」

「うん。スカリエッティに潰されかけた事だよ」

「・・・・・・すまんな」

「はやてが謝る必要ないよ。アレはフェイトが悪いんだし」





・・・・・・全く、諸事情でアジトに居たヒロさんが助けてくれなかったら、どうするつもりだったのさ。

あー、マジでなんかお礼の品送らないと。あんまりにゴタゴタし過ぎてて、そこを忘れてたわ。

でも、やっぱりフラグ立て損なってるよなぁ。普通にアジトに行けば、もうお付き合いコースだろうに。




あははは、僕はマジで何やってんだろ。1番守りたいもの、ちゃんと守れてないし。





「フェイトもフェイトだよ。そんな聞く価値もない戯言言われても、ろくな結果にならないのは見えてるだろうに。
出てきた瞬間に『喋るな』とか言って、サクッと潰せばいいのに、緊縛プレイでしょ? 呆れたよ」

「・・・・・・いや。アンタ、そろそろ自分が特殊例っちゅう自覚を持たん? つか、それは完全にお話出来ん人やないか」

「失礼な。僕は世界のスタンダードだよ」

「うん、勘違いやな。まぁ、とにかくや。そういうのも含めて考えると、ちとメンタル関係がやばいかなと思うんよ」



はやては何気に色んな所で、色んな事件に遭遇している。そして、メンタル関係で言えば結構強い。

だからこそ気になったのかなとか、ちょっと思ってしまった。



「さっきアンタが言うたように、経験も積んでる。大きな事件も超えとる。
せやけどトラウマやら出自関連って、それだけじゃダメやんか」

「確かにね。現にフェイトがダメダメだったし。
先生にも散々言われてたはずなのに、これでしょ? ありえないって」



なお、なんか突き刺さる音が聞こえたけど、気のせいだ。



「つまり、はやての頼み事っていうのは」

「そや。そのトラウマ関係をなんとかしたいんよ。もうちょい言うと、六課前線メンバーの対人戦のスキルや。
戦闘技能の事だけちゃう。細かいやり取りとか駆け引きとか、そういう部分をもうちょい補強しておきたいんよ。特にスバル達はな」

「・・・・・・いや、それなら僕に頼む必要なくない? なのはや師匠に頼みなよ」

「いや、アンタしかおらんのよ。つか、アンタを仲介した方が早い」



・・・・・・あれ? なんだろう、すごく嫌な予感がする。

なんだろう、すごいこれから不幸が連鎖していくような気がするんだけど。



「なぁ、ヒロさんとサリさん。改めて紹介してくれへんか?」

「はぁっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・というわけなんですよ」

『なるほどねぇ。トラウマ関係か。そりゃまた難儀な』





あ、補足が必要だよね。実はJS事件の際、ヒロさんとサリさんもスカリエッティに狙われていた。



理由は簡単。二人が、僕と同じヘイハチ一門だから。で、ミッド地上の中央本部襲撃の時だね。



はやても、二人と顔を合わせているの。このあたりの話は今後していくとして・・・・・・今の状況だよ。





「でも、アドレスとか交換してるはずなのに、なぜに僕を巻き込む?」

「いや、ちょっと頼みにくくてなぁ。アンタが間に居ると楽かなぁと」

「そんな理由っ!? そんな理由で僕は巻き込まれているわけですかっ!!」

『まぁ、あれだよやっさん。諦めろ』



サリさん、お願いだからそのオーラやめて。

『仲間だ俺達』みたいなオーラやめて。どこの三昔前の青春ドラマですかそれ。



『で、今ざっと経歴見せてもらったけど・・・・・・よくもまぁ、ここまでトラウマやら過去の出自関係でゴタついた人間ばかり集められたね』

「まぁ、色々ありまして。どうもうちの身内は、脚に傷持つ子ばかりなんですよ」



それって便利な言葉だよね。すごく楽だよ。



『特に・・・・・・やっさんの想い人。この人危ないでしょ。実際潰れかけてたし』



うん、知ってるよ。そして知ってて当然だよね。だってあなた、その真下に居たらしいし。



『つか、バカだよね〜。敵の戯言なんざ聞き流して、サクっと半殺しにすればいいのに。話なんざ、全部その後でしょ』



あ、なんかまた突き刺さる音が。今度は二本だね。包丁かな? ちょっと鈍い感じだった。



『・・・・・・ごめん、八神部隊長。こいつはやっさんと同じく特殊例だから気にしないで。
ま、それでよ。そういう事なら、まずは現状把握から始めないとまずいな』

「現状把握ですか?」

『そうだよ。結局、その危惧は、今のところは八神部隊長の個人的不安』



確かに現状では、はやて一人の危惧に過ぎない。対処するなら、確かに現状把握は必要だね。



『まぁハラオウン執務官の例は、間違いなくバカだと思うけどさ。
それで止まるのはありえないって。俺が全く同じ立場でも、それはありえない』



おいおい、またなんか突き刺さる音が聞こえたしっ! 今度はけっこう数が多いんですけどっ!?

おかしいな。なんでこんな隣でそんな恐ろしい事になっているみたいに聞こえるの? 音が無駄に生々しいし。



「・・・・・・特殊例はあなたもですか。てか、何故にそこまで言えるんですか」

『一つ、俺はハラオウン執務官より小さい頃から天涯孤独でな。家族どうこう親がどうこうなんて、言われ慣れてんだよ。
二つ、現役時代にこの手ので死んだ奴は何人も見てる。三つ、やっさんと関わってからも、また一人見てる』



あっさり言い切ったサリさんの目を、はやては驚いたように見る。だから、サリさんは頷く。



『で、それはヒロもだしやっさんも同じくだ。かなり間近で見てるからな』

「見てますね。・・・・・・徹底的に壊された知り合い、居ますから」



僕達がそれだけ言えば、はやてにはもう充分だったらしい。細々とした事は、これ以降言わなくなった。



「とにかく、現時点での六課の状態を確かめる必要があるって事ですね。なら、現状確認言うてもどうすれば」

『そんなの簡単だ。リアルに仕掛ければいい。突発的に、こっちの真意は内緒でな。
別に全員に仕掛ける必要はない。一人に仕掛けて、それで周りの反応を見るだけでも充分だ』

「・・・・・・なるほど」

『そこさえ分かれば、俺の方で実際の予測データは作れる。まぁ、あくまでも予測だけどな』



一種の意識調査みたいな感じにしていくわけか。それなら・・・・・・うん、いけるかもしれない。



「確かにそれなら・・・・・・でも、誰がそれを」

『というわけで、やっさん。頼むな』

「・・・・・・は?」

『いや、なにそんな面白い顔で固まってんだよ。お前しかいないだろうが』



あれ、なんでヒロさんも僕を見るっ!? お願いだから手を合わせるなっ! そんなお亡くなりコースな人を見る目で僕を見るなっ!!

なんか丸焼きにされてる自分を感じてしまうからやめてっ! てゆうか、何故に僕がそんな役回りしなくちゃいけないのさっ!!



『今度の模擬戦とかで思いっきりふざけて、見ている人間から『ふざけ過ぎだこの野郎』と、反感買うような舐めた戦い方をしろ。
そうすりゃ現状把握としては十分。俺の方でデータも作成可能。八神部隊長の不安が本物かどうか、分かるだろ』

「いや・・・・・・というか、僕の風評とかそういうのは無視ってどういう事ですかっ!!」」

『何言ってんだ。元々そんなの気にするタマじゃないだろ。
何より・・・・・・言われなくてもやるつもりだったんだろが』





・・・・・・見抜かれてたか。まぁ気にはなってたし。もっと言うと、フェイトのアレコレ。

他に手があるわけじゃなかったし。なにより、僕が適任ではある。

他のメンバーでそういうのが出来るの、居ないしね。もうみんな、無駄にいい子だもの。



悪い子の真似は、悪い子がするしかないのよ。そして僕はその悪い子。残念ながらね。





『つまり、やっさんはいけにえってわけだ。やっさんという分かりやすい『悪』に対して、どういう反応をするか見極める。
まぁただでさえ低めになってる六課でのお前の風評をぶち壊しにする可能性もあるし、無理にとは言わないが』

「今更何言ってんですか。こうなったら、やるしかないでしょ」

「アンタ、えぇんか?」



仕方ないでしょ。選択の余地は無さそうだし。それに、はやては軽い言い方だけど、かなり気になってる。

部隊長だから、他のみんなの将来の事とか先の事とか、そういうのに繋がる何かをここで少しでも得て欲しいって思ってる。



「いいのよ。で、やった上で勝ちを通せる人間も、おそらく僕だけだよ」

『そうだ、負けたら意味がない。これは、そういう手口で勝たないとだめなんだ』





負ければ、今までのやり口が正しい。そういう証明にしかならない。

だけど、もし僕が空気読まずに勝てば? それも徹底的な圧勝だよ。

当然僕に批難が集まるわけさ。その時の反応を見極めるというわけである。



そして僕のやり口が汚くふざけてて、相手を舐めきった手段であればあるほど、効果は増す。



さすがにトラウマ関係をガチで責めるわけにはいかないけど、それでもだ。





『まぁあれだよ、菓子折りくらいは送ってやるから、頑張れ』

「頑張りますよ。大事な友達のため、血と肉と内臓を捧げようじゃないですか」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・というわけなのですよ」

「はやてちゃん、私やヴィータちゃんにもなんの相談もなしでそんな勝手な事・・・・・・!!」

「な、なのはさんっ! 落ち着いてくださいっ!! というかなぎ君も部隊長も、どうして私達に黙ってそんな事をっ!?」

「あー、ごめん。それも私たちからのアドバイス。知っている人間がいると、やっぱり反応が変わるからさ。
まぁ、主演女優賞を取れるくらいの演技力があれば別だけど、やっさんと部隊長曰く居ないらしかったから」



あいにく、そんな演技派はうちの狸と僕しかいない。後は大根畑だよ。

・・・・・・ティアナ以外ね? アレは狸になれそうだ。



「というか、フェイト・・・・・・大丈夫?」

≪あなた、ひどい事になってますよ? もう色々な刃物が身体に突き刺さって≫

「・・・・・・私、やっぱり駄目かもしれない」

「いきなりそんなあきらめセリフを吐かないでっ! 僕が悪いみたいじゃないのさっ!!」



・・・・・・とにかく、そういうわけでやったの。

あと、ヒロさんに映像を見せたのはさっき言った理由もあるけど、それだけじゃない。



「ヒロリスさん達に映像を見せた本当の理由、察するに模擬戦後の六課の様子なんかも報告するためですか?」

≪そうです。リアルに仕掛けないと意味がありませんから、それはもう秘密裏に≫





なお、それをどうしてティアナにやったのかは・・・・・・分かるよね?

ティアナに対しての先ほど話した危惧を、はやても持っていたから。

執務官って、やっぱり単独行動多いしね。なので、やるなら・・・・・・という事である。



でもこれバレたら、殴られるかな? 覚悟はしておこう。しかし、今の今まで頭痛かったけどさ。

フェイトは怒るしギンガさんは乱入してくるし、もうちょっと言うと、リンディさんも家に居るしな。

まさしくあの時の予感通りに不幸が連鎖したよ。あははは、僕は何故にこの現状?



・・・・・・よし、バレる前に、後でフェイトに白状しよう。そうすれば、ダメージも少ないはず。





「・・・・・・ヤスフミ、どうして黙ってたの」

「いや、こういう理由なのって聞かれなかったから」



そう言うと、みんな納得してくれた。いや、素晴らしい理解力で助かるよ。



「納得するわけないよっ!!」



やっぱり駄目かぁぁぁぁぁぁっ!!



「だって、話したら反応が」

「そんなの分かってるよっ!!」

「だったら文句つけないでよっ! なにっ!? その無茶振りしまくりな発言はっ!!」

「文句じゃないっ!! ・・・・・・感情論の問題だよ。話せなかったの、分かるよ?
私、潰れそうになった前例作ったから、どうしてもそうなるの、分かる」



フェイトの腕の力が強まる。強まって・・・・・・や、ヤバい。なんか柔らかい。



「私に言う権利、無いのも・・・・・・分かる。だけど、話して欲しかった」



・・・・・・なんだろう、悪い事しているような気になってくる。

いや、実際してるんだけど、お願いだからその涙目はやめて。



「まぁ、あれだ。蒼凪はテスタロッサに謝れ」

「なんでっ!?」

「当然ですっ! 2年前の一件の時だってそうだったじゃないですかっ!! ちゃんとしなきゃ、ダメですよっ!?」



・・・・・・こ、こいつら理不尽だっ! 何で我関せずの姿勢っ!? 普通に助けてくれたっていいじゃないのさっ!!

もっと言うと、この未だに抱きつかれてる現状とかっ! もう全然離してくれないしっ!!



「・・・・・・フェイト」

「謝っても許さない」



じゃあどうしろって言うんだよっ! つか、みんなも目を逸らさないでっ!?



「あのね、ヤスフミ。私、そういう悪だくみしてた事が嫌だって言ってるわけじゃないの。まぁそれも嫌だけど、もっと嫌な事があるの」

「え?」

「ヤスフミ、自分は大丈夫だからって言って、すぐに無茶する。自分の事を大事にしない。
そういうのを犠牲にしてでも、何とかしようとする時がある。・・・・・・それがね、嫌なの」



・・・・・・あの、フェイトっ! どうしてそんなに泣きそうになってるっ!?



「2年前の一件だってそうだよ。守りたかったの、分かるよ?
でも、そのためにヤスフミの信頼や、自由が損なわれていいわけないよ」



その前に、今現在の僕の自由とか尊厳が損なわれてるのに気づいてー! お願いだから離してー!!



「反省、しなくてもいい。謝らなくてもいい。だけど、お願い。もう少しだけ、そういうのを大事にしてほしい」

「・・・・・・でも、僕はフェイトと違って立場があるわけでもないし」

「そういう事じゃない。もっと自分を大事にして欲しいの。
・・・・・・これも今度ちゃんと話そうか。長くなりそうだし」

「・・・・・・うん」










フェイトは、全然離してくれない。仕方ないので、僕も抱き返す事にした。





・・・・・・とりあえず、泣かせてごめんと小さく呟いた上で。





フェイトは、僕の右肩に顔を埋めながら、小さく頷いてくれた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・とりあえず、フェイトちゃんと恭文君は放置で」



ダメだよ。もうところ構わずって感じだし・・・・・・うーん、フェイトちゃんどうしたんだろ。

なんかこう、恭文君と距離を何が何でも詰めようとしてるみたいだし。



「それで、ヒロリスさん」

「うん」

「・・・・・・もしかして今日いらっしゃったのは、スバル達の実際を確かめに来たんじゃ」

「そーだね。やっぱり、引き受けた以上はちゃんとしたくてさ。
八神部隊長にスケジューリング教えてもらったの」



やっぱりなんだ。どうもタイミングがおかしいし、話を聞いていてちょっと強引に感じていた。

やたらと模擬戦に持ち込もうとしてる感じは受けてたんだけど・・・・・・それが理由だったんだ。



「でも、恭文君が居ないのに」

「やっさん居ない方が、直にぶつかれるしね。あー、それとやっさんはあんま責めないであげて?
やっさん、はやてちゃんからの頼みを聞いただけだし。で、それはここだけの話じゃない」

「・・・・・・ヒロリス殿、それはどういう事でしょうか」

「やっさんははやてちゃんから、みんなに対しての手厳しいブレーキ役を頼まれたのよ」



・・・・・・言っている意味が全く分からなかった。だってその、それって・・・・・・どういう事っ!?



「まず六課は身内部隊でしょ? 隊長陣を筆頭に昔馴染みが多い。で、運営上それはよろしくない。
それで身内だからこそ手厳しく出来るやっさんにそういう頼みをした。やっさんはそれを引き受けた」

≪結構最初の頃に軽いお願いみたいな感じで言われてたらしいんだよ。
『気づいた事があったらバシバシ言ってくれ』ってさ。で、これもその延長線上ってワケだ≫

「どうしてですかっ!? 私達そういうのは抜きできちんと仕事をしていますっ!!」



はやてちゃん本当に勝手な事ばかり・・・・・・! そもそも私達に相談無しなのが許せないよっ!!

なにより私達、ちゃんと仕事してるよねっ!? どうして恭文君にそういう嫌われそうな役を押しつけるのかなっ!!



「その通りです。私もそうですしちゃんとそういうケジメをつける人間が居ます。今更蒼凪に頼る必要は」

≪おいおい、それどの口が言えるんだよ。俺も姉御も、アンタらが馴れ合いしたせいで部隊員一人潰しかけた話は聞いてるぜ?≫



そう言われて、一瞬で頭が冷えた。それはシグナムさんも同じく、苦虫を噛み潰した顔になってる。

ヒロリスさんはそんな私達を見て・・・・・・大きくため息を吐いた。



「はやてちゃんは六課であったそういう事も含めて懲りてるそうなのよ。はっきり言えばアンタらの隊長職務への信頼度は低い。
管理局がそういう風潮強いから忘れがちだけど、自分の身内や友人ばかりを部隊に集めるのに改めて疑問を持った」

≪だからボーイだ。そこの辺りを妙にアットホームなアンタらに頼むよりはずっと確実だし、現に成功率も高かった。
・・・・・・アンタら、まさかボーイが六課でハードボイルド通そうとしてたのが個人的感情だけだと思ってたのか? だったら勘違いだ≫

「あの、まさか」

「そうだよ。やっさんは一人頭を抱えてたはやてちゃんのために、ずーっと仕事を通そうとしただけ。
だからはやてちゃんだって真っ先にこの話をやっさんにした。信頼出来ると思ったからね」





つまりつまり、そういう役をはやてちゃんにその・・・・・・どのタイミングかは分からないけど頼まれてた。

でも軽いお願いって言ってたから、あくまでも友人としてとかそういう事だったのかも。

だけど私達がその・・・・・・二人から見ると想像以上にダメで、恭文君の『仕事』が増えていった?



だからスバル達とも距離感微妙で、恭文君は部隊内でも少し浮いていて・・・・・・なんなのコレっ! やっぱり納得出来ないんですけどっ!!





「やっさんはみんなを嫌ってるわけじゃない。仕事を通して、六課を守ろうとしてただけだよ。
そんな面倒な仕事は断わりゃいいのに引き受けるから。ホントにあのバカは」

「・・・・・・私達は、部隊長から本当にダメだと思われていたのでしょうか」

「えぇ。私やサリが話した印象では、そこは真面目に悩んでましたよ。
もう次に部隊を作る時は身内は絶対に呼ばないし入れないって断言してましたし」



そこまで・・・・・・なんだ。はやてちゃん、どうしてかな。私、悲しいよ。

信頼してくれない事よりなにより・・・・・・そこを話してくれなかった事そのものが悲しいの。



「で、そこはともかくとして・・・・・・肝心要のスバルちゃん達の教導に関しての結論は」

「結論は?」

「現状維持でいいんじゃないの?」



あんまりに予想外過ぎて、私は一瞬何も言えなくなった。言えなくなって・・・・・・首を傾げてしまう。

あの、今の勢いを継続してもうちょっとアレやコレやと言われるものだと覚悟はしていたのに。



「さっきも言ったけど、完成形は今よりもっと高く。
そして、現状でアンタやヴィータちゃんが教えてる方向でいいって事だよ」

「えっと、あの・・・・・・はい?」

「あー、アンタもしかして、やっさんや私みたいなアウトコースな手を使えないとダメとかって言われると思ってたんでしょ」

「・・・・・・はい」



やっぱり、そういう方向しかないのかなとはかなり。私としてはあまりしたくはないけど・・・・・・ただ、なんだ。

そういう時に、あの子達が潰れずに生き残れるものを渡したいなとか考えると、つい思ってしまった。



「別にそんな事しなくていいよ。・・・・・・私だったりサリだったりやっさんはさ、それぞれに選んでこれだもの。
なのはちゃん達が局の理念に共感して、それを真っ直ぐに通せる魔導師になりたいと思ってこれなのと同じ」

≪今のアンタと同じような考え、あのタヌキガールも持ってたけど・・・・・・そんな事する必要ないぜ?
てーか、俺も姉御もガール達と戦っててすっげー楽しかった。みんな無茶苦茶強くて、輝いてた≫

「だから、もう一度言うね? 誰も私ややっさん達みたいになる必要は、どこにもない。
なのはちゃんの教導も、あの子達の想いも、何も間違ってなんてない。・・・・・・OK?」

「・・・・・・ヒロリスさん」



嬉しかった。私も教導隊出身だから、ヒロリスさん達の事は噂程度には聞いていた。

本当に凄い人達だと聞いていて、そんな人達からそう後押しされた事が、嬉しかった。



「あの、ありがとう・・・・・・ございます」

「いいよ、別に。てーか、泣かないの」



言いながら、ヒロリスさんが私の頭に右手を伸ばして撫でてくれる。



「てゆうか、みんなは公僕でしょうが。色々問題があっても、管理局の理念に共感している。
それを通そうとするから、ルールを守った上で事件に対処していこうとする」

「・・・・・・・はい」

「そんなみんなが私らみたいにやってどうすんのよ。だから・・・・・・まずそういう理念を念頭に置く事。
変えていこうとする姿勢は必要だけど、その前に理念に共感している自分を忘れちゃだめだよ」

「・・・・・・・・・・・・はいっ!!」



ヒロリスさんの手は温かくて、とても心地良かった。さっきまでのアレコレが・・・・・・少し軽くなった感じがした。



「で、問題の『より高い完成形を目指す』なんだけど・・・・・・出来そう?」



だけどそう言われて、固まった。涙さえも止まった。止まって考えて・・・・・・無理だと気づいた。



「無理かも・・・・・・知れないです」

「あー、やっぱ手数が足りないか」

「はい」





現段階で、教導官は私とヴィータちゃんだけ。二人でやれる事、目いっぱいやってるとは思う。

だけど、対人戦で技能以外のやり取りや舌戦でのノウハウとか精神面での修行とか・・・・・・無理。

まず、絡め手が絡むとなると、私はどうしても弱い。ヴィータちゃんならまだ大丈夫だけど、一人だけは無理。



かと言ってフェイトちゃんやシグナムさんに恭文君も教官というわけじゃないから・・・・・・うぅ、どうしよう。





「そこは大丈夫だよ。・・・・・・実はね、はやてちゃんからそこも相談されて、解決手段を考えてたの」

「え?」

「というわけで私達、六課に出向するから」



一瞬、何を言っているか分からなかった。だから私もシグナムさんもシャーリーも、ポカーンとした。



「関わった以上、最後まで通したくなったんだ。私とサリとで、アンタ達の教導の補佐をする」

≪俺達揃って、あのじいちゃんの弟子。普通にそこの辺りは得意分野だ。不足があるとは言わせねぇぞ≫

「もちろん、あくまでも補佐だからなのはちゃん達の教導方針に全面的に従うし、勝手な事もしない。というわけで、よろしくね〜」

≪よろしくなー≫

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』










新暦75年の11月の末日。今日は、色々と驚く事ばかりの一日だった。





とりあえず私は・・・・・・はやてちゃんが帰ってきたら、げんこつを一発叩き込もうと思う。





というか、それくらいはいいよねっ!? 知らない間にこんな話になってたんだし、許されるはずなんだからっ!!




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第22話 『とある魔導師の不幸 閃光の女神の憂鬱』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ようやく長い一日が終わった。終わって・・・・・・帰れる事になった。

現在、僕はフェイトに送ってもらっている最中。というか、普通に二人でお話。

夜のミッドの道路を走りながら・・・・・・ようやく訪れたのは、二人だけの時間。





そんな幸せを満喫出来ないのは、色々と悲しい。










「・・・・・・母さん、ヤスフミの家に居るんだよね」

「そうだよ。さっきも説明したけど、そのために僕・・・・・・ね、縁切っても許されるかな。
正直迷惑なんだけど。どいつもこいつも迷惑過ぎて、顔面にクレイモア撃ち込みたいんだけど」

「そ、それはだめっ!! ・・・・・・あの、私からも母さんには話すから。
もちろん、アルフやエイミィにクロノにも。だから、ね?」

「うん。なら、またハグね? 別に話さなくていいけど、それで元気注入」

「えっと・・・・・・分かった。なら、それで」





ヒロさんとサリさんは・・・・・・ごめん。今日はもう勘弁して。もう色々許容量限界だから。

今頃、僕の隣に座ってるお姉さん以外の隊長陣の中に混じって会議中だよ。

いや、いい感じで糾弾会議だってさ。なんというか、きっと大変だね。



あれからすぐに帰ってきたはやてを絞り上げてるとか。部隊長自らやらかしてるしね。





「でも、どうして今まで黙ってたの?」

「・・・・・・さっき言った通りだけど? すごい勢いで口止めされて、なのはとヴィヴィオがもう怒り心頭で」

「そっか。うぅ、ごめんね。なのはとヴィヴィオにも私からしっかり言っておくから」



なお、師匠は知らないという話にしました。いや、師匠は正直とばっちりだし。

とりあえずあのバカ親子には、フェイトからしっかりとお説教を受けてもらう事にしよう。



「とにかく、話してくれてよかったよ。みんな相当心配してたから」

「ご迷惑おかけしました。でもさ、どうする? 確かにクロノさんが無神経な事してるのも事実なのよ」

「確かにそうだね。女性はいくつになっても女性だって言うし」

「これ、もしかしたらリンディさんに話す前にクロノさん?
・・・・・・くそ、マジで連中は僕の都合を一切鑑みないし」





そうして僕とフェイトはフェイトの車に乗って、自宅へと戻ってきた。いや、フェイトは自宅じゃないけど。

それでトゥデイは隊舎に置きっぱ。フェイトに止められたのよ。今運転はマズいって。

とにかくリンディさんと緊急家族会議して、絶対に帰ってもらおう。クロノさんと仲直りしてもらわないと。



本当にどうしようもない。まぁ、今頃餓死寸前かも知れないけど、ここはどうでもいい。

例え仲直り出来無くても、帰ってもらう。普通に帰ってもらう。そして、餓死は外でしてくれ。

そんな戦闘意欲も満タンで、僕はドアを開けた。そして、家族からの『おかえり』というコール。



素晴らしいのは、わざわざ玄関まで来て、出迎えてきてくれた事。いや、幸せだよね。こういうの。



なので、当然のように僕は右手を上げる。そして、魔力スフィアを形成。





「クレイモ」

「ヤスフミだめー!!」



フェイトがいきなり右手を掴んで、自分の方に抱き寄せたけど。

なお、温かくて柔らかくて大きな胸の感触がする。だけど、そこを気にしてる余裕がない。



「フェイト、離してよ。僕は不法侵入した犯罪者を捕まえようとしただけなのに」

「だからだめだよっ! というより、あの・・・・・・だめなのっ!!」

「そうだぞっ! お、お前・・・・・・何すんだよっ! いきなりクレイモアって」





次に左手から鋼糸を取り出し、そう抜かした犬型の使い魔の身体を縛る。

縛って、更に糸を出す。そうして次に首を縛る。

で、一気に締め上げる。フェイトに止める間も与えずに、一気にだ。



何故か怯えた表情をしているので、安心させてあげるように笑ってあげる。もう優しくだ。





「・・・・・・それはこっちのセリフなんですけど? どうしてここに居るんですかね。アルフさん」



目の前の人の名前は、アルフさん。なお、フェイトの使い魔。え、それなのにクレイモアを撃つな?

嫌だなぁ。僕はこの人を家に上げる事を許可した覚えはないよ? 無いから、遠慮なく攻撃したんじゃないのさ。



「ここは僕の家で、僕はアンタに上がっていいなんて言った覚えはゼロなんですけどっ!?
お前、マジでなんでここに居るっ! 普通に僕は予想外過ぎて驚いたわボケっ!!」

「ぐ、ぐるぢい。いたいま、待て・・・・・・話せば、分かる。話せば分かる」

「不法侵入者は全員そう言うんだよっ! フェイト、即刻管轄の警防署に引き渡すよっ!!
この犯罪者がっ! しばらく臭い飯食べて、不法侵入は犯罪だって覚えて来いっ!!」

「ヤスフミ待ってっ! とりあえず鋼糸を外してあげてっ!?
というか、アルフがどうしてこっちに居るのっ! ヤスフミだけじゃなくて、私も驚きなんだけどっ!!」



なんてゴタゴタしていると、なにやら奥から出てきた。それは、双子の男の子と女の子。



「「パパっ! おかえり〜♪」」



・・・・・・なんか増えてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ! なんか小さいのが二人ほど増えてるうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!



「カレルに・・・・・・リエラまでっ!!」



さて、もう説明するまでもないだろう。僕をパパと呼ぶ人間は、今のところ二人しかいない。

そう、カレルとリエラである。海鳴に住んでいるはずの二人だ。



「あ、フェイトおねえちゃんもお久しぶりー!!」

「おねえちゃんも、パパのお家にお泊りに来たの?」

「「・・・・・・は?」」

「いや、だからアタシらもこっちに来て・・・・・・・ま、マジでぐるしい」



まぁ、待とうよ。待ってくださいよ。・・・・・・マジでみんな待とうよっ! ありえないでしょこれっ!!

なんでカレルとリエラまで連れてこっち来てるっ!? 海鳴の家はどうなったのさっ!!



「・・・・・・えっと恭文くん、とりあえず鋼糸外してあげてくれない? 事情は中で説明するからさ」



その声に、僕とフェイトの視線は当然のように家の奥に向いた。

そこには・・・・・・珍しくGパンGジャン姿のお姉さん。



「エイミィさんっ!?」

「あの、えっと・・・・・・これなにっ!? というか、アルフもエイミィもカレル達も、どうしたのっ!!」

「えっと、実は非常に言いにくいんだけど・・・・・・あははは、私達も家出してきちゃった」

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



えー、現在海鳴のハラオウン宅では、嵐が吹き荒れている。





原因は二つ。一つは、失踪してしまったお母さん。そしてもう一つは・・・・・・この二人だよ。










「だから、どうしてそうなのっ!? クロノ君、なんでもっと真剣にお母さんの事、解決しようとしないわけっ!!」

『いや、だから探してはいる。もう少し待ってくれ。すぐに居場所を』

「そういう事じゃないよっ! クロノ君が態度を改めないと、見つけても帰ってきてくれないよっ!? お母さん、絶対に傷ついてるんだからっ!!」





てか、見事に休みを消化して雲隠れするって、どんだけ用意周到なのだ。

で、それ関連でうちの若夫婦も言い争っているわけだ。

・・・・・・ほら、チビ達は向こう行こうな。パパの大好きな電王のディスクでも見ようか。



キンタロス、かっこいいしさ。・・・・・・てゆうか、マジでまた謝らないとだめだよな。

ただ、やっぱり使い魔としてはあんまり無茶されるのも、正直見過ごせないんだよなぁ。

でも、今回はアギトって子のためも・・・・・・うぅ、どうすりゃいいのさ。アタシは。





『とにかく、もうしばらく待ってくれ。必ずなんとかする。・・・・・・それじゃあ、また後で連絡する』



うわ、一方的に通信切っちゃったよ。エイミィ、頭掻き毟ってるし。

うむぅ、やっぱりエイミィはお母さん寄りか。そりゃそうだよな、アタシもちょっとひどいと思ったもん。



「アルフ、支度して」

「・・・・・・は?」

「カレル、リエラ。少しだけ旅行行こうか?」



・・・・・・あの、すさまじく嫌な予感がするんですけど。



「どこいくの?」

「楽しいところだよ〜」

「どこ〜?」

「二人の大好きな、パパのところだよ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・というわけで、なんというか恭文くんにちょっと愚痴聞いて欲しくなってさ。
子育ての同志だし、まぁ・・・・・・あの、頼りたくなっちゃったんだ」



僕とエイミィさん、何気に仲が良いの。仲が良いから、結構色んな相談もしたりする。

そして、それが僕が双子の本当のパパだと疑われる要因の一つなのよ。



「それで来たら・・・・・・お母さん居るんだもの。ビックリしたよ。その上、呪いの仮面装着してるし」

「・・・・・・恭文君、あの仮面はとても危険なロストロギアよ。今すぐ封印処理をするべきだと思う」

「だめです。友達からの貰い物なんですから」

「何を言っているのっ!? 私は危うく私は餓死する所だったのよっ!!
あの仮面が届いてから今日まで三日間。私は飲まず食わずで・・・・・・うぅ」



あぁ・・・・・・そう言えばお急ぎ便で送ったから、普通にそれくらいずっと装着してたのか。

だから、恐怖で怯えた目で飾られたあの仮面を見るのか。・・・・・・いい薬だよ。



「なるほど、話は分かりました。アルト、セットアップ。詠唱スタート」

≪Starlight Blade≫



使うのは、僕の奥の手。そうして狙うは、このハタ迷惑なバカ共。とりあえずまずはコイツらを血祭りに。



「ヤスフミ、ダメだからっ! というか、アルトアイゼンもセットアップしちゃだめだよっ!! アルトアイゼンも乗っちゃだめだよっ!!」

≪いや、いいじゃないですか。一回吹き飛ばしても罪はないでしょ≫

「あるよー!!」



なんて言いながら、僕を後ろから羽交い絞めにする。

背中を包むフェイトの身体の柔らかい感触が嬉しいけど、今は気にしていられない。



「フェイト離せー! コイツら・・・・・・コイツらマジで僕の家を何だと思ってんだっ!!
ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 全員とっとと出てけっ!! そして二度と来ないでっ!?」

「恭文君、それはどうしてなの? カレルとリエラが居るのに」

「やかましいわボケっ! なんならもう一回呪いの仮面を装着してやりましょうかっ!?」

「それはやめてっ! お茶も何も飲めなかった地獄には戻りたくないのー!!」



くそー! 10話から今までの間に、鍵をとっとと交換しておけばよかったー!!

そうすればこんな事には絶対にならなかったしっ! 僕のバカー!!



「あの、私達は普通にホテルは用意してるからっ!!
お母さんが居なかったらすぐにそっち向かうつもりだったし、大丈夫だよっ!?」



エイミィさんが、魔法の詠唱を止めて欲しいのか必死になって言ってくる。

だから、それで一旦ストップ。ストップして、目をジッと見るけど・・・・・・嘘はないらしい。



「言ったでしょ? 私はちょっと愚痴を聞いて欲しくて、ここに寄っただけだって。
さすがに恭文くんの家にお世話になるとかは、考えてないよ。・・・・・・お母さんと違って」

「いや、あの・・・・・・私は息子との交流も兼ねてね。
最近色々行き違いも多かったし、一つ屋根の下なら色々分かり合えるかなーと」

「あいにく、僕は家を乗っとる母親なんて持った覚えがありません。
というわけで、もう完全に縁切っていいですか? もういいじゃないですか、他人で」



見下ろすように言うと、テーブルについていた年長者二人が目を見開き、表情を苦くする。だけど、無視。



「ヤスフミ、落ち着いて? あの、大丈夫だから。ほら、カレルとリエラもアルフも怯えてるし」

「あははは、もう他人なんだから知ったこっちゃないし。分かり合う必要もないし」



てゆうか、何がどういう具合に大丈夫? いい加減僕だってキレるんだよ。



「でも母さん、話は聞きましたけどいくらなんでも無神経過ぎます。
ヤスフミ、ホテル暮らしになっちゃってますし、怒るのは当然ですよ」

「あー、それは私も同感です。いくらなんんでも、この部屋でお母さんと一緒は無理ですよ。
敷居とかも無い作りだから実質1ルームだし、プライバシーの問題もあるし」

「そう? 私は平気なんだけど」

「ヤスフミが平気じゃないですよっ! ヤスフミだって、もう大人で男の子なんですよっ!?」



・・・・・・フェイトがそういう事言うと、説得力が皆無なのはどうしてなんだろう。

僕、そこが不思議なんだけど。エイミィさんとリンディさんも、今の僕と同じく疑わしい顔してるし。



「とにかくお母さん、お母さんは私とアルフ達と一緒にホテルですね。恭文くんにこの部屋、返してあげないと」

「本当にお願いします。ヤスフミ、もうすぐAAA試験なのに・・・・・・集中出来無くなっちゃいますよ」



フェイト、それ正確じゃない。もう集中出来てないよ。僕の周り、ゴチャゴチャし過ぎだし。



「・・・・・・分かったわ。あぁもう、本当はあなたと色々話したかったのに」

「僕と話す前に、半年位常識とマナーについて語れる本を読み漁ってもらえます? まずそこからでしょ。てーか、もう来るな。
マジでもう来るな。そしてとっとと出てけ。路頭に迷ってしまえ。そして仮面に一生呪われて何も飲まず食わずで」

「それは嫌ー! もうアレは嫌なのっ!! もう許してっ!? 勝手に仮面装着なんてしないからっ!!」

「ヤスフミ、抑えてっ!? ほら、母さんがトラウマで震え出したからっ!!」










とにもかくにも、こうしてリンディさん達は・・・・・・家を出なかった。

理由? 簡単だよ。普通にもう時間が遅過ぎて、ホテルにチェックイン出来ないのよ。

あと、双子が嫌がって、納得させるのに時間がかかるかも知れない。





どっちにしろ、僕はしばらくホテル生活・・・・・・訂正。

ホテルから荷物を引き上げて、隊舎の空いている部屋を使わせて貰う事になった。

正直、今日今すぐ隊舎に戻ると色んな意味でダメージを受けた人が居るので、明日だね。





でも・・・・・・マジでどうしよう。とりあえずは、リンディさん達だけ叩いても仕方ないのは分かった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・もうめんどくさい」



現在、車でフェイトに送ってもらってる最中。もちろん目的地はホテル。

荷物の引き上げもやってくれるとか言ってくれたけど、それほど多くないのでそこは断った。



「うぅ、ごめんね」

「別にフェイトが謝らなくてもいいよ。どうせ、今頃また苦しんでるんだし」



帰り際に、リンディさんの隙をついて呪いの仮面を装着してやった。

本人、恐怖に怯えて叫んだりしてたけど、僕とフェイトはそのまま家を出てやった。



「というかヤスフミ、あの仮面って・・・・・・作ったのヒロさんだったよね」

「うん。ワイヤーアクション出来ないのに、黒のコスプレしたいからって作ったの」

「それ、どんな見切り発車っ!? まずはアクションの練習からじゃないかなっ!!」



フェイト、それ僕も言った。でも、物があった方がやる気が出るって言って、聞かなかったよ。

自由だよね、あの人。それでさ、仮にも元教導官だから、普通にすぐに出来そうなのが怖いよ。



「何にしても、仮面はエイミィとアルフ達が居るからすぐに外れるけど・・・・・・返した方がいいんじゃないかな。
さすがにちょっと危険だよ。ヤスフミも、隔離施設でギンガやディード達が手伝ってくれてやっとでしょ?」

「確かにね。まぁ、返す前にリンディさんが封印処理するでしょ。ロストロギアらしいし」



軽く言うと、フェイトは苦笑いで返してくれた。・・・・・・あー、でも良かった。

エイミィさんが良識的で良かった。そしてフェイトも良識的でよかった。



「・・・・・・あ、装備回収するの忘れてた」

「装備?」

「うん。小太刀とか予備の鋼糸とか飛針とか、スタングレネード各種とか。
リンディさんに見つかると厄介だから、回収しておきたかったのに」



そう言うと、フェイトが普通に困ったような、驚いたような顔をする。

その意味が分からなくて・・・・・・首を傾げる。



「ヤスフミ、どこに隠してるの? というか、普通にそんなとこないよね」

「えっとね、R18コーナーの戸棚を弄って、その奥に。隠し戸棚にしてあるんだ」

「あぁ、それで・・・・・・ちょっと待ってっ! アレ、そういうのも含めた上でそれだったのっ!?」

「うん」



試験の時に使うかも知れないし、回収して点検だけはしておきたかった。

なのに・・・・・・うぅ、まぁいいや。もうすぐなんだし、見つかる心配もないでしょ。



「面白いでしょ?」

「まぁ、面白いというかなんというか・・・・・・ヤスフミだからいいのかな」



どういう意味だろう。普通に何かを呆れられた感じがする。うーん、どうして?



「というかフェイト、ホテルってこっちじゃないけど」



よくよく考えたら、普通に今走っている道が色々間違ってる。だから、僕はフェイトにこう言うのだ。



「こっちでいいんだよ」

「いやいや、良くないから。僕、部屋戻れないから」

「今は戻らなくていいって事。・・・・・・ちょっと気晴らししよう?
このままじゃ、ホテルに戻ってもゆっくり休めないよ」



そのまま、フェイト主導のままに抵抗権もなく車は走る。



「いや、あの・・・・・・仕事」

「大丈夫だよ。はやてに出る前に連絡して、私達二人とも明日はお休みにしてもらったから」

「えぇっ!?」



走って辿り着いたのは・・・・・・アレ? ここって公共の魔法の練習場だ。



「・・・・・・まずは少しだけ、運動」



フェイトは制服の上着を脱いで、近くのベンチに置く。

僕も同様にして・・・・・・あ、シャツもネクタイも邪魔だから脱いだ。



「風邪、引いちゃうよ?」

「いいのよ、邪魔だから」



黒のインナーだけになった。なお、半袖状態。フェイトは苦笑しながらも、僕の15メートル程前に立つ。



「私達二人とも昼間にたくさん動いたから、軽めにだね。魔法無しで、一本勝負。いい?」





ミッド・・・・・・もっと言うと次元世界の主要都市には、こういう練習場がかなりの数ある。

もちろん、安全面をちゃんと考慮した設備。魔法文化が浸透しているが故の設備だね。

その中できちんと練習場のルールを守った上でなら、市民は普通に魔法を練習出来る。



今は夜だからライトアップされて、僕とフェイト以外には居ない練習場。

その空気は、どこかいつもの日常とは違う感じがする。

それがなんだか楽しくなりつつ、二人でコミュニケーションも兼ねて、軽く運動。





「いいよ。でも、楽しませてもらわないと・・・・・・帰っちゃうから」





フェイトがバルディッシュを出す。それで、静かに構えた。

黒い戦斧を両手で持ち、身体の左側に携えてる。とりあえずは打ち合いらしい。

だから、僕もアルトをセットアップ。抜刀はせずに・・・・・・低く屈んだ。



いわゆる抜刀の構え。だからフェイトも、少し腰を落としてこちらの攻撃に備える。





「だったら大丈夫だよ。魔法無しでも、まだまだヤスフミには負けないんだから」

「そっか」










僕は一気に踏み込んで、下から上への抜きを放つ。まずは得意技その1で勝負。

抜き放たれたアルトの切っ先は、練習場の地面を真っ直ぐに斬り裂きながらもフェイトに迫る。

フェイトは、左に動いて刃を避ける。でも、僅かに避けきれない。





それをバルディッシュの柄を盾にして、防いだ。僕はアルトを振り切る。

火花を散らしながらもフェイトは斬撃を防ぎつつ、僕から半歩距離を取って・・・・・・反撃開始。

取った分踏み込んで、即座に右薙にバルディッシュを打ち込んでくる。僕は、それを下がって回避。





続けてフェイトは踏み込んで、追いかけるようにしてバルディッシュを幾度も振るう。

色々な角度から振るわれる斧を、後ろに下がりつつ避けて・・・・・・隙を狙う。

長物相手は、フェイトや師匠、それにサリさんで無茶苦茶慣れてる。だから、充分出来る。





あ、サリさんの相棒の金剛は、十字槍形態を持つインテリジェントデバイスなの。

だから、その関係で修行中には色々教えてもらった。だから、見切れる。

身体を捻り、頭を下げ、そしてステップで左右や後ろに動く。それだけでフェイトの斬撃を避けられる。





リーチを感覚や頭に叩き込んで、そしてフェイトの身のこなしで動きを見切る。

長物は、どうしても大ぶりになりがちだ。だから、フェイトだってその弱点を補うためのライオットを作った。

フェイト、驚いてるみたい。何度も何度も踏み込んで斬りつけていても、全く当たらないから。





上から下に、僕の右の肩口目がけて叩き込まれたバルディッシュを、僕は左に大きく跳んで避けた。

避けて、フェイトと数メートルの距離を取る。だけど、互いに射程内。・・・・・・やっぱ速いなぁ。

魔法無しでも、素の身体能力が高いから普通に強い。でも、それじゃあ足りない。





先生にヒロさんサリさん、美由希さんや恭也さんや高町縁者を知っている身としては、これくらいじゃ負けられないわ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



やっぱり、届かないかな。やる前から、分かってはいたけど・・・・・・ちょっと悔しい。

私は魔導師だもの。そしてきっと、言い訳をしていた。だから・・・・・・魔法無しだと届かない。

魔導師だから、局員だから、執務官でオーバーSランクだから。それを言い訳にしてた。





私がそうしている間に、ヤスフミはもっと強くなっていた。

魔法以外でも恭也さん達に鍛えてもらって、少しずつ。

そしてここ2年はヒロさんサリさんに力を貸してもらって、いっぱい。





そうなんだよね。今の私は・・・・・・最初の頃の私と同じなんだ。

きっと今のヤスフミの事、何にも知らない。何も見えてない。

今少し手合わせしただけで、ちょっとそれが分かった。





分かったから、どこかで『今までだったら』なんて考えてるんだ。・・・・・・そんな考え、捨てろ。

私の目の前に居るのは、もう18歳の男の子なんだ。あの頃出会った、弱くて小さな子じゃない。

一杯頑張って、一杯辛い事と向き合って・・・・・・そうやって、少しずつ自分を強くしていったんだ。





私はまだ、目の前の子の事を何も知らない。だったら、どうする? そんなの、もう決まっている。










「どうしたの。もう終わり?」



アルトアイゼンを右手に持って、あの子は軽く跳躍しながらそう口にする。

楽しげに不敵に笑って・・・・・・だから、私もその笑いに返す。



「もちろん・・・・・・まだまだだよっ!!」










鋭く、一歩を踏み出す。踏み出してすぐにヤスフミとの距離を零にする。





もっとヤスフミを知るために。今までの私の認識を壊すために・・・・・・私は、バルディッシュを叩き込んだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「まだまだだよっ!!」





言いながらフェイトが踏み込むと、距離が一瞬で零になった。・・・・・・さっきよりずっと速い。

そこから袈裟に振るわれたバルディッシュを避けると、その黒い斧の刃が返る。

そして、右切上での斬撃が襲ってくる。僕は、そこで一気に踏み込んだ。



黒い斧の刃をアルトの鍔元で受け止める。そこからまた、僕は一気に踏み込む。

金属がぶつかり合う音にも目をくれず、僕は刃を左薙に振るう。

バルディッシュの柄に沿うようにアルトの刃を滑らせながら、一気に迫る。



・・・・・・つもりだった。フェイトは、その意図を一瞬で見抜いた。

実戦経験なら、僕以上だもの。だから、見抜けた。

フェイトは即座にそれに対処。力任せにバルディッシュを振り抜いた。



両足を踏み込み、フェイトの足元の地面が沈む。沈んで・・・・・・僕の身体が浮き上がった。



軽量で小さめの身体故の弊害。僕は、どうしても重さで不利になる場面がある。





「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





それが今。だから僕は、フェイトに吹き飛ばされた。

吹き飛ばされながらも、両足で滑るように着地。その間にフェイトは踏み込んでくる。

唐竹に打ち込まれたバルディッシュを、右に跳んで避ける。



避けつつ一歩踏み込む。すると、フェイトがバルディッシュを返して横から打ち込んでいた。



僕は上に高く跳んでそれを避けつつ、フェイトを狙う。





「飛天御剣流」



飛び上がり、下へと落ちる重力の落下速度を利用した上で、僕はフェイトに刃を唐竹に叩き込んだ。



「龍槌閃もどきっ!!」



フェイトは、僕の斬撃に対してバルディッシュを右薙に振るって反撃。

バルディッシュとアルトの刃が衝突して・・・・・・僕が勝った。



「ブチ抜けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



バルディッシュの刃が弾かれて、フェイトが後ろにたたらを踏む。

僕は着地しながらも、地面に這うように踏み込んで、もう一発技を叩き込む。



「同じく・・・・・・龍翔」

「させるかっ!!」





フェイトは叫びながら、僕に向かってバルディッシュを突き出していた。

斧だから、突きは効果が無いのは知っていたはずなのに、それでも。

これが僕の足を止めるための攻撃と知って、僕は前に跳んだ。



そこを狙って、フェイトがバルディッシュを下から上に振り上げようとする。



でも、甘い。そこも僕は読んでる。左足で、思いっ切りバルディッシュの柄を踏んでやった。





「・・・・・・なっ!!」





フェイトは、それに釣られるように体勢を思いっ切り下に崩す。

そこを狙って、唐竹に刃を叩き込んだ。狙うは、肩口。

寸止めのつもりだった。だから、鋭さが若干甘かった。



フェイトはバルディッシュから両手を離して、アルトの刃をその手で挟み込んだ。





「・・・・・・白刃取りっ!?」



フェイトはニヤリと笑いながら、刃を自分の右側に倒す。そして、左足を上げた。



「はぁぁぁぁっ!!」





上げて、身体の捻りも加えつつ僕の右側に蹴り。なお、結構痛い。

それによろめいて、僕は数歩後ろに下がる。その間に、フェイトはバルディッシュを手に取る。

手に取って、斬り上げるようにしながら僕の左横腹に刃を突きつけようとする。



だけど僕は、その刃を防いだ。咄嗟に左手で鞘を逆手に持って、一気に引き出す。

それで斬撃を受け止めた。受け止めつつ、アルトの切っ先を突き出す。

狙うは、フェイトの首元。・・・・・・寸止めしたけど、それでもフェイトの首を切っ先は捉えた。



ライトアップされた練習場の中、僕達の動きが完全に止まった。とりあえず、僕から切り出す事にした。





「とりあえず・・・・・・僕の勝ち」



これで鞘が折られたら色々アウトだけど、そうはならなかった。

一応は・・・・・・勝ちだ。結構ギリギリでもあるけど。



「みたい、だね」



フェイトがバルディッシュを引いたので、僕もアルトを引いて降ろす。

うし、とりあえずこれで勝率4割に一歩近づいたぞ。魔法無しだけど。



「あー、悔しいなぁ。魔法無しだとやっぱりヤスフミに抜かれてる」



バルディッシュを元に戻しながら、フェイトが少ししゃがみながら息を整える。で、僕も同じく。

フェイトは身を屈めながら、悔しそうにしている。それを見て・・・・・・うん、ちょっと自信がついた。



「当たり前じゃん。僕がどんだけ香港に通ってたと?」

「・・・・・・確かにそうだね」





地球の香港には、香港国際警防隊というのがある。なお、通称は警防。

簡単に言えば、凶悪なテロ事件やシンジゲートを相手取る武闘派警備組織。

そこには高町家の縁者が働いていて、海鳴に居た頃は月1で訓練させてもらってた。



もちろん、魔法は無しのガチの戦闘訓練。銃器相手というのも経験がある。



魔法無しでもそういう事が出来るように頑張ったんだもの。だから、簡単には負けないし、負けたくない。





「言い訳しない自分・・・・・・だったよね」

「うん」

「・・・・・・そっか。もう、違うんだよね」



身体を屈めていたフェイトが、僕を見上げる。普段は僕が見上げる立場なので、こういうのはちょっと新鮮。

・・・・・・やっぱり、身長欲しいな。身長あれば、フェイトが背伸びする方なのに。うー、せめて同じくらいなら。



「こういうところも、変わってるんだよね。・・・・・・ホントだよね」

「フェイト?」

「ううん、なんでもない」



フェイトは身体を起こして、いつも通りに笑いかけてくれる。

見下ろしていたのは、もう見上げる形に変わった。それがちょっと残念。



「ヤスフミ、クールダウンして・・・・・・ちょっとお話しようか」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



クールダウンして、近くの自販機でスポーツドリンクを買って、ヤスフミと二人でお話。





時刻はもう夜の10時過ぎ。演習場はもう閉まる時間だから、二人っきりで車の中。





少しだけ胸の奥がドキドキするのは・・・・・・どうしてなんだろ。運動したからというのとは、また違うし。










「・・・・・・あのね、夕方も少しだけ話したけど、私・・・・・・ヤスフミに不満があるの」

「僕、そんなにダメに見える?」

「うん」





ダメというか、不安になる。ヤスフミ、本当に自分を削る時がある。フォン・レイメイの事だってそうだよ。

私も根っこでは、母さんやアルフと同じ。変えないし変わらないと決めていても・・・・・・それでも。

立ち止まったり、逃げたりする言い訳をしてもいいと、どうしても思ってしまう。



そういうのが子ども扱いだって分かっていても、ヤスフミに嘘をつかせる事になると知っていても、それでも。



・・・・・・やっぱり嫌だから。身体だけじゃなくて、心も傷ついたりなんて、して欲しくないから。





「別に大した事じゃないんだけどな。僕しか出来るのが居ないし、だったらやろうってだけの話で」

「やらない選択肢、無かった? はやてのお願い、ちょっと無茶でもあるし。
そこは今回だけの話じゃなくて、その・・・・・・はやてにされたお願いの事」





私、そこも知らなかったから本当にびっくりした。でも・・・・・・同時に納得もした。

はやてがヤスフミの作っている壁を許容していたのは、それが必要な事だと思ってたから。

つまりヤスフミの仕事って、みんなを厳しく叱って纏める役職なんだよね。



組織が纏まるにはそういう鬼みたいな人も必要だって、前に勉強した事があるから分かる。

リーダーシップやカリスマに溢れる人が人を集め、鬼みたいな人がそんなみんなを叱って纏めていく。

それが一番効率のいい組織の作り方だと・・・・・・はやては、ヤスフミをそんな役に選んだ。



それはつまり、私達には人を叱って纏める事なんて出来ないという答えに基づいての事。

身内の情を仕事に持ち込まず、ただ鞭を振るう・・・・・・言うならハードボイルドな信条がこの仕事には必要。

そうやって味方からも嫌われ・・・・・・ううん、恐怖を持たれる程の存在になる事。



言っている事は無茶苦茶かも知れないけど、事実なの。そういうナンバー2が居た方が確かに効率が良い。

それではやてがそういう役を私達にお願い出来ないのは当然だった。だって私達、一回大ポカをやらかしちゃってるわけだし。

私達はハードボイルドを通せてなんていなかった。そのせいでティアの事、壊しかけた。



だけど・・・・・・キツいな。はやて、まさかそんな風に思ってたなんて考えてもなかった。





「・・・・・・無かったな。うん、無かった」



スポーツドリンクのボトルを両手で持って、助手席のヤスフミが少し俯いてそう言った。

声を少し落として、何か思い出して・・・・・・なんだろう。そう言い切る理由が分からない。



「そう言う理由は何?」

「・・・・・・フェイトとさ、六課に来てから一度やり合った事あるじゃない?
ほら、資格試験受ける受けないでさ。はやての所にヴェロッサさん来た日にさ」

「うん」



あの日だね。・・・・・・そうだ、あの日からだ。あの日から私、ズレを感じ始めていたんだ。



「その日にね、はやてが言ってたんだ。JS事件での色々な失態、取り返す必要があるって。
そういう失態取り返すために、休みもせずに必死に仕事しててさ」



そういうのを見て、はやてが夕方の話に出た部分を、かなり気にしていたのが伝わったらしい。

だから協力する事にしたんだ。また色んなものを削って、悪役になった。



「ホントかなり最初の時に、通信しながらそういう話になってさ。まぁホント、軽い頼み事だったんだよ。
だけど・・・・・・なのはのバカやエリキャロのバカやフェイトの大ボケとか見てたら、さすがにさ」

「だから、仕事を通そうとしたの?」

「うん。そこは別にいいのよ。はやてからも最初に相当謝られたし。何より僕が選んだ事だもの。
僕がやると決めて・・・・・・六課が無事に解散出来るように力になろうとした。うん、だから別にいいの」

「よくないよ」



少し身を乗り出して、ヤスフミの方に近づいて顔を見る。ヤスフミは驚いているのか、私の目を見開いてみる。



「全然よくない。これだけの話じゃないよ。ヤスフミ、立場とか、信頼とか、風評とかを大事にしない。
そういうのを捨ててでもなんとかしようとする。どうして、そういうのを大事だと思えないの?」

「だってめんどくさいし。そういうのに足を取られて何も出来ないの、絶対嫌だから。言い訳もしたくない」

「でもそのためにスバルとの距離も開いたし、ヤスフミの事を良くは思ってない人も居るんだよ?」



交代部隊の人達とかバックヤードスタッフとか、はっきり言うと嫌ってる人も居るらしい。

嘱託の仕事の時いつもこんな感じだったのかと思うと・・・・・・私、胸が痛い。



「別にどうでもいいよ。僕は仕事を通したかったし、大事な友達の力になりたかっただけだし。
そもそもフェイト達が隊長としてはやての信頼を得られなかった事が原因じゃないのさ」

「でも・・・・・・うぅ」

「ティアナの一件の話も大体は聞いたけど、僕も全く同意見だった。だから僕がやるの。
嫌われる事も、距離感が微妙になる事も理由にならない。これは・・・・・・僕の仕事だ」

「・・・・・・ヤスフミ」





またズレてる。またどこかちゃんと伝わってない。私、何が言いたいんだろ。

ヤスフミに・・・・・・どうして欲しいんだろ。私達と同じようになって欲しいから、こういう事言うのかな。

ううん、違う。私・・・・・・私はただ、ヤスフミに・・・・・・だめ、まだよく分からない。



何かモヤがかかってる感じがして・・・・・・まずはこれを払う事から始めないと。





「でもヤスフミ、それを理由にしてる部分はないかな。そっちの方がその・・・・・・楽だから」

「・・・・・・まぁ、それはある」



・・・・・・苦笑気味に認めちゃったよ。やっぱりヤスフミ、六課の事良くは思ってないんだ。



「はやても『ストレス溜まるようならそっちの方が合ってる』って事で頼んで来たくらいだしね」

「そっか」

「あと、僕はその方が適性があるって言われてさ」

「え?」



ヤスフミが私の方を見ながら、苦笑する。その評定を見て・・・・・・少し寂しい気持ちになった。



「いわゆる厳しい副隊長とかそういう立ち位置? 飴よりも鞭を振るう方が合ってるみたい」



あ、これ・・・・・・さっき私が考えてた事だ。その話もはやてがしてたんだ。



「フェイトみたいな人気者なエースが人を集めて、その下で僕が鞭を振るって厳しくまとめる。
そういう身内へのカウンターというかアンチ的な立ち位置が、組織での僕の最良適性」

「あの、ちょっと待って。それだと」





私やなのは、母さん達はそういう立ち位置は望んでなかった。ううん、望んでいるのはその真逆。

みんなと同じようにルールを守った上で行動して、局を代表するエースの一人になって欲しいと思っていた。

実力的には充分だし、局の理念に恭順する形で手段を制限すればそれは可能。



でもそれだと・・・・・・ヤスフミは組織に入っても何も変わらない。

ううん、変える必要なんてないという事になる。むしろ変える事はヤスフミの才能を奪う。

集団が瓦解しない程度に鞭を振るう事だって、充分な才能なんだから。



ヤスフミが組織の中で評価されるべき才能は、私達が今まで否定していたハードボイルドの理念を貫ける事だった。





「うん、僕は組織に入ってもこういう立ち位置を続ける必要があるね。自分でもそういうの合ってると思うし。
・・・・・・特にはやての話を聞いてたらさ。そのカウンター役となるはずだったシグナムさんや師匠がてんでダメだったし」

「だけどそれだと、ヤスフミはこのまま・・・・・・だよ? みんなと仲良くなれないし、嫌われる方が多いし。
あの、そうじゃない方法があるんじゃないかな。ヤスフミだってそういうエースに」

「興味ないわ。見過ごしちゃいけない事に気づけないエースになんて・・・・・・僕はなりたくない」



それは痛烈な嫌味というか皮肉。私達がその気づけないエースだったから余計にだよ。

というかダメだ。またズレ始めてる。私、さっきの気持ちを忘れかけてる。・・・・・・私は気合いを入れ直して、また一歩踏み出した。



「ただ私・・・・・・この話を聞いて、あとギンガとの事を聞いて悔しかったんだ」

「悔しかった?」

「上手く言えないけど、悔しかったの。ヤスフミとちっとも話せなかった事、話そうとしなかった事。
もっと知ろうとしなかった事。その全てが悔しかった。なんにも力になれなかったのが、悔しいの」





出会った頃にいつもしたいと思っていた、今目の前で私を見ている男の子と向き合う努力。

私はそれをいつの間にか、放棄していたのかも知れない。

ケンカばかりで、ぶつかる事も多くて・・・・・・でもそういう努力をしなかったら、私はこの子と繋がれないのに。



私は分かった振りをして、変わっていく今を全く知ろうとせず・・・・・・ただ私のイメージを押しつけていたんだ。





「いつの間にかヤスフミに向き合う事、放棄してたんだって気づいた。
でも私はそんなの絶対に嫌。ちゃんとヤスフミと向き合って繋がりたい。だから・・・・・・その」

「・・・・・・うん」



俯きかけていた顔をあげる。だから、まずここから新しい一歩。向き合って、今のヤスフミを知っていく事を始めないと。

家族とか友達とか全部引っぺがして・・・・・・そうすると、男の子としてのヤスフミになるのかな。



「もっと話したい。色んな事を一緒に背負えるように、分け合えるように、分かり合えるように。
ヤスフミと、もっと話したい。・・・・・・その、直訳すると・・・・・・こういう感じかな」

「・・・・・・僕でいいの?」

「ヤスフミじゃなきゃ意味がないよ。あのえっと、だから・・・・・・ね」

「うん」



多分答えは、ヤスフミと二人で過ごす時間の中にある。さっきだって、少しだけど分かった。

ヤスフミはもう、子どもじゃない。もう・・・・・・大人、なんだよね。



「デートしない?」

「・・・・・・はい?」

「あの、私達はコミュニケーションが決定的に不足していると思うの。
だから、やっぱり上手く話せない。そういうのを埋めるために、デートが必要なの」

「そうなの?」



二人っきりで、私が知りたいと思えばきっと何かが変わる。変わるから、私はヤスフミの目を見て強く頷く。



「そうなの。だから明日、デートだよ? そのためにお休みも取ったし」

「え、そのためだったのっ!?」





私はまた強く頷く。ここに来るまでに色々考えたけど、これが一番いいと思った。

よくよく考えたら、六課でヤスフミと二人っきりは本当に少ない。

もしかしたら、そういうのもズレ始めてる要因かと思った。だから、デート。



二人っきりで向き合って、私はこのズレを何とかしたい。何とかして・・・・・・この子と改めて繋がりたい。





「じゃあ、あの・・・・・・うん、デートしようか。久しぶりだし、張り切ってさ」

「・・・・・・うん。あの、私頑張るから。沢山頑張るよ」

「いや、なにをっ!?」










こうして、明日はデートとなった。この後、ヤスフミをホテルまで送って私は隊舎に戻る。





戻って、まずはなのはにお説教をした上で明日の準備。なお、場所はヤスフミを送りながら決めた。





・・・・・・ヤスフミとデート、本当に久しぶり。だからかな。私・・・・・・ワクワクして、あんまり眠れなかった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



という事で・・・・・・やってきたのは、ラトゥーアっ!!

最近、海上の人口島の上に出来た娯楽施設である。

えっと、室内プールにアミューズメントパーク。





シネコンに隣には併設している豪華ホテル。・・・・・・すごいね。

これ、一日で遊び切れないんじゃないの? 、もちろん今日は私服。

僕はGパンとGジャンの上下。だって、私服はこれしかなかったし。





あと、フェイトは白の膝までのスカートに淡い黄色の上着。その下に黒のシャツ。





何気にこういう時用の服を揃えているのが、あの横馬との違いだと僕は思う。










「予想より大きくて、私もちょっとビックリしてるかも」

「CMとかではやってたから知ってはいたけど、すごいね」



フェイトと一緒に、無駄に巨大な施設を見上げてポカーンとしている。

というか、すごい。まー、こうしていてもダメか。うん。今からは・・・・・・楽しくですよ。



「じゃあフェイト、入ろうか」

「そうだね。ここでぼーっとしてても仕方ないし。あ、それで」



フェイトが、そっと僕の右手を取る。そのまま、優しく握ってくれた。



「今日はデートだから、一日中こうしてようね」

「・・・・・・うん」










別に、フェイトとデートするのは初めてじゃない。だから、こういうのも慣れてはいる。





でも、いつもとは違う感じがする。なんかこう・・・・・・ドキドキするの。でも、いきなり過ぎない?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



いきなり過ぎ、かな。でもその、鉄は熱い内に打てって言うから。とにかく、勢いが欲しかった。うん、凄く。

とにかく、私とヤスフミは一緒にラトゥーアへと入っていく。・・・・・・というか、人事部の人がヒドかったなぁ。

私が有給を取りたいと聞いて、パニック起こしたらしいの。なんというか、そこまでに思われてたんだ。





手を繋いで、一緒に歩いて・・・・・・あぁ、こういう感じ久しぶりだ。

それで、隣でヤスフミがいつも以上にニコニコしてくれるのが嬉しい。

ヤスフミがいっぱい笑ってくれると、私・・・・・・すごく嬉しい。





本当は、六課の中でもこんな風に笑って欲しいけど、やっぱり難しいのかな。





今はお仕事モードじゃないから、こんな風に笑えるだけなのかな。











「・・・・・・うーん」

「ヤスフミ、どうしたの?」

「いやさ、なんかアルトが居ないと静かだなぁと思って」





アルトアイゼン、昨日の夜に私と一緒に隊舎に帰って来ていた。

シャーリーに定期メンテナンスして欲しいからだって言われたけど、気遣ってくれたのかな。

私が、ヤスフミとちゃんと話せるようにって・・・・・・だったら、あとでお礼言わないと。



とりあえず、手を繋ぐ事は始められているから。うん、まずそこは感謝だ。





「寂しい?」

「いや、全く。これはこれでいいかも」

「もう。アルトアイゼンが聞いたら、怒るよ?」










こうして、私とヤスフミのデートは始まった。それで・・・・・・これがターニングポイントだった。





私が、ヤスフミを本当の意味で知って、繋がりたいと思うようになったのは・・・・・・ここからだったから。




















(第23話へ続く)





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あきゅろす。
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