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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第21話 『人間一度調子に乗ってしまうと、誰でも我を忘れてしまう』(加筆修正版)



恭文「前回のあらすじ。模擬戦してます。六課でも聖王教会でも」

サリエル「お前はまたやる気ない解説をするなっ! 普通にその通りだけどよっ!!」

恭文「てゆうか、ヒロさんはどうするんですか。僕は聖王教会だから、もうサリさんしか居ないんですよ?」

サリエル「・・・・・・俺やヴィータちゃんで力ずくって、ヤバいよな」

恭文「火に油どころか一斗缶で灯油なりガソリンなり投げ込むようなもんですよ。絶対燃え上がりますし」

サリエル「あぁ、俺はどうすりゃいいんだっ!? 誰か助けてくれー!!」

恭文「というわけで」





(蒼い古き鉄、またコンポを持ち出す。そして、音楽再生)





恭文「最後のガラスをぶち破れー♪」

サリエル「もう対価いいだろっ!? 読者だってきっと誰もやってねぇよっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



世界は何時だって、こんなはずじゃなかった事ばかり。

それとどう向き合うかは、各々の自由だと、クロノ提督は前に言っていた。

まぁ、やっさん経由で知りあって、ヒロ共々1度飲んだ事があってな。





その時に哲学というか人生観というか、そういう話になって、クロノ提督はそう言った。

確かにクロノ提督の言う通り、こんなはずじゃなかった事ばかりだ。

これでも引退前はバリバリにやってた身。JS事件のアレコレでも、そこはよく分かる。





分かるんだが・・・・・・悪い。今目の前で起きている状況だけは、一切理解が出来ない。










「・・・・・・ほらほら、もうちょい楽しませてよっ!!」



言いながら、襲い来る弾丸を二刀で斬り払うのは、愛せないバカ。決して愛すべきバカではない。

斬り払いながらも直進し、あの三人に迫る。そこに槍を持った子が突進。



「ヒロー! 頼むからもうやめてくれー!!
俺はすっげー居辛いんだー! てーか、絶対怒られるー!!」



現在、あのバカの勢いに全員が圧されて、緊急の模擬戦中。なお、ヒロ対スバルちゃん以外のフォワード三人。

スバルちゃんは消耗が激しかったので、俺が治療して・・・・・・横で見てる。なんでも、勉強したいとか。



「知るかボケっ!!」

「頼むから知ってくれー! ヴィータちゃんもなんとか言ってくれないかっ!?」

「いや、アタシに言われても・・・・・・よその家の事は、よその家の人に任せるしか」

「ここはお前の家だろうがっ! それ好き勝手にされてその発言は色々マズイぞっ!?
そして別に俺はアイツの家族でも何でもないんだよっ!!」





言っている間に槍を持った少年は、デバイスにブースターを装備して、魔力でそれを点火。

それによる加速で移動や斬撃速度の強化を行っているらしい。

ベルカ式とかだと、よくあるタイプの装備だ。まぁ、やっさんやあのバカは使わないが。



ヒロに真正面から飛び込み・・・・・・その視線はヒロの両腕を見ている。

恐らくは、斬撃のでだしを腕の動きで判断しようとしているんだろう。

ここまでで、真正面から飛び込んでの打ち合いは無理だと考えたらしい。



そして、それは正しい。ぶっちゃけると、あの三人相手でもヒロは本気を出す必要がない。

少年を援護するように、オレンジ髪でツインテールの女の子の周囲に、20数発の魔力弾が生成される。

それだけではなく、ピンク髪のフルバックの子が両手をかざす。二人のデバイスが、強く輝く。





「クロスファイア・・・・・・シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥトッ!!」

「・・・・・・スピード&パワー! ブーストッ!!」



少年の槍に光が灯る。桃色の光の刃となり、少年のスピードも上がった。

高速で撃ち出された弾丸も、ヒロを襲ってくる。それでもヒロは、躊躇いなく飛び込む。



「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



などと叫びながらも少年は飛び込む。飛び込んで・・・・・・地面スレスレに加速。

加速しながらも、一瞬左足をつく。そこから魔法を一つ発動。



≪Sonic Move≫





金色の雷光は、瞬間的にヒロの後ろに回り込む。どうやら逃げ場を無くす事から始めたらしい。

前と左右は弾丸、後ろは少年で挟撃して、ヒロがどちらかに対処している隙を突こうという腹らしい。

だが甘い。狙いはいいが、スピードと反射と経験が絶対的に足りない。



やっさん張りにやれるならともかく、この子達のそれじゃあ、残念ながらまだ届かない。





「はぁっ!!」



ヒロは、左手で刃を左薙に叩き込む。その刃は、少年の突撃を捉えた。

桃色の刃と銀色の片刃の剣が正面衝突して、辺りに火花を撒き散らす。



≪Slug From≫





その間に右手のアメイジアが変化する。その形態は、銃。銀色のリボルバーに、金色のトリガーガード。

そして、そのグリップエンドには紫色の宝石。アメイジアの形状変換の一つ。名前はスラッグフォルム。

当然のように、射撃攻撃用の形態だ。その銃口を弾丸達に向ける。向けながら、ヒロは後ろに跳んだ。



いや、圧される勢いに任せて、そのままあえて少年に押し込まれた。押し込まれながら、引き金を引く。

銃口から白い弾丸が即座に乱射され、ヒロと少年の進行方向の弾丸達を撃墜していく。

撃墜したらどうなるか。当然のように、そこに穴が出来る。二人はその穴を突っ切った。



少年は、相当速度を上げていた。だから全ての行動は、本当に瞬きしている間に行われていた。

その一瞬で行われた迎撃に、俺とヒロ以外の全員の思考が止まってしまう。だから、ヒロは動く。

右手のアメイジアの銃口を少年に向けた。少年は目を見開くが、遅い。



至近距離で吹き飛ばされながらも弾丸は乱射され、少年に全て命中する。

乱射しながらも左のアメイジアを利用した上で右に身を逸らして、少年の突撃をやり過ごす。

少年は弾丸を喰らいながら、地面を滑る。数メートル滑りながら、苦悶の表情を浮かべた。



当然のように、そこに弾丸が襲ってくる。ヒロは冷静に着地して、右のアメイジアを構える。

構えて、再び乱射。その弾幕であのオレンジ髪の子の弾丸は、全て撃墜された。

・・・・・・相変わらず、乱暴な射撃だな。普通に狙い撃ち出来ないのかよ、アイツは。





「いやいや、予想外だよ。まさかスラッグフォルムまで使わされるなんて」



言いながら、悔しさとかそういうのはない。ただひたすらに楽しそうだ。

あのバカは本当に。お前、加減はしてるだろうが・・・・・・さすがにダメだろ。



≪でも悪いな。こんなんじゃ俺も姉御もやられねぇよ≫



むしろ、俺や読者のみんなはやられて欲しいと思ってるよ。普通に止まって欲しいと思ってるよ。

もうアンケート取らなくても分かるぜ? 普通にすっごい分かるぜ?



「つーわけで、もっと来な? 私はこんなのじゃ止まれない」



いや、止まれよっ! お前大人だろっ!? 大人としてもう止まってくれよっ! 人に期待をするなよっ!!

あぁ、マジでどうすりゃいいんだー! 俺達までソレスタルビーイング張りの武力介入は、さすがにヤバいよなー!!



「あの、サリエルさん」

「ん、なんだ。スバルちゃん」



頭を抱えていた俺に、横で座りながらも様子を見ていたスバルちゃんが声をかけてきた。

表情は・・・・・・困ったような戸惑ったような、そんな顔。だから、俺もヴィータちゃんも首を傾げる。



「フェイトさん、居ないんですけど」

「「え?」」



俺達は周りを見渡す。見渡して・・・・・・気づいた。確かに居ない。

俺が頭を抱えて、ヴィータちゃんが困っている間に、唸っていたはずのフェイトちゃんが居ない。



「ヴィータちゃん」

「いや、アタシも今気づいたんですよ。あのバカ、色々考え込んでたハズなのに」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





その声は上空から。金色の雷光は、ヒロに真上から突撃。ヒロは咄嗟に後ろに跳んで、それを避けた。

避けるには、一つ理由がある。・・・・・・金色の鎌が叩き込まれたからだよ。

当然のようにヒロはスラッグフォルムで迎撃。後ろに下がりつつもまたもや弾丸を乱射。



それを雷光は左に動いて避ける。あちらの動きは速く、ヒロの雑な射撃じゃ捉えられない。

ヒロは銃口でそれを追いかけようとするが、一瞬で止まった。すぐに、身を反時計回りに捻る。

そうして左薙に刃を・・・・・・いつの間にか後ろに回り込んでいた雷光に叩き込む。



鎌の切っ先とアメイジアの刃は正面衝突し・・・・・・って、あれフェイトちゃんだしっ!!





「フェイトさん、どうしていきなりっ!!」

「スバルちゃん、考えるまでも無い。・・・・・・武力介入したんだよ。紛争根絶のためにな」

「あれ、紛争なんですかっ!?」





互いに一歩引く。引いて、すぐに互いの得物を振るう。ヒロは唐竹に。フェイトちゃんは左薙に。

鎌と剣は引くことなく交差して、ヒロは右のアメイジアを至近距離で乱射。

フェイトちゃんは左に素早く動いてそれを避けつつ、ヒロの右サイドを取る。



銃を使っているために、近接では死角になっている右をだ。そこから、また攻撃。

鎌の刃を返してヒロの背中を狙って右薙に打ち込む。ヒロは後ろに下がり、スレスレで避けた。

避けつつも前に踏み込んで左のアメイジアを叩き込む。フェイトちゃんは、右に動いて回避。



いや、大きく後ろに跳んだ。後ろに跳びながら、鎌を振るう。





「ハーケン・・・・・・セイバー!!」





鎌の刃が、円輪のように射出された。ヒロは躊躇い無く前に踏み込んで・・・・・・笑っていた。

笑いながら、まず射撃で対処。だが、ヒロの弾丸を斬り裂きながら円輪はヒロに迫る。

あのバカ、反応炸裂弾とか使えよ。一応技能的に覚えてるだろうが。



なので、脳筋らしく唐竹に刃を叩き込んだ。一瞬で斬れると思っていたが、そうじゃなかった。

回転する刃はアメイジアの刃と拮抗して、一瞬だけヒロの動きが止まる。

だけど、それは一瞬。アイツは遠慮なく円輪を真っ二つにした。でも、隙は出来た。



だから、フェイトちゃんは後ろに回り込んだ。フェイトのデバイスから、カートリッジが1発ロードされる。





≪Harken Form≫




再び生まれた鎌を左薙に打ち込む。その切っ先が捉えるのは、アイツの首。

アイツは振り返りながらも後ろに下がって、その鎌をスレスレで避ける。

避けて、右足をしっかりと踏みしめてから・・・・・・一気に加速。



前進して左のアメイジアを唐竹で叩き込む。その瞬間、フェイトちゃんのオートバリアが発動。

金色の障壁で、ヒロの斬撃が防がれる。ただ、それでもフェイトちゃんは下がって距離を取る。

その判断は、正解だ。ヒロの奴・・・・・・障壁をぶった斬りやがった。



障壁が砕け、刃はフェイトちゃんに迫るけどその身を傷つけることはなかった。



スレスレで刃はフェイトちゃんの眼前を通り過ぎる。通り過ぎながら、フェイトちゃんは魔法を一つ発動。





≪Plasma Lancer≫





速射型の、単発タイプの射撃魔法。それをヒロに向かって放つ。

ヒロは右のアメイジアの銃口を向けて、一発撃つ。

白い弾丸と金色の雷光が衝突して、爆発。



二人は200メートル程距離を取る事になった。とりあえず、これで第1ラウンドは終了。





「・・・・・・フェイトちゃん、こんな事してどういうつもり?」



やかましいわボケッ! そこはお前に言われたくないんだよっ!!

むしろ、お前が『どういうつもり?』なんだからなっ!? そこを自覚持てよっ!!



「それはこっちのセリフですっ! どうしていきなりティア達と模擬戦なんてしてるんですかっ!?」



え、今さらそこに疑問持ってんのよかよっ! てーか、普通に今までのやり取り見てれば・・・・・・おいおい、まさかっ!!



「私の知らない間に・・・・・・勝手な事をしないでくださいっ! いくらなんでも見過ごせませんっ!!」



フェイトちゃん、今までのくだりを丸々見てなかったのっ!? おいおい、どんだけ考え込んでたんだよっ!!



「・・・・・・ヴィータちゃん、もしかしなくてもあの子」

「サリエルさん、あんま言わないでやってください。
フェイトのアレには、アタシもバカ弟子も常々頭痛めてるんです」

「そっか。うん、分かってたわ」



あぁ、美人だけどちょっと残念な子だったんだ。そっか・・・・・・スルーとかは残念な部分のせいだったのか。

とにかく、そのまままた二人は飛び込む。飛び込んで、鎌と刃を叩き込む。



「もうやめてくださいっ! それ以上やるなら・・・・・・力ずくで止めますっ!!」



きゃー! フェイトちゃんそれはダメだからっ!! 普通に死亡フラグだよっ!?

ほら、ヒロの顔見ろよっ! すっごい楽しそうになってきたしっ!!



「・・・・・・だったら、やってみなよ」



そして不敵に笑う。それを見て思った。フェイトちゃん・・・・・・負けたなと。



「まぁ、変態ドクターに縛られてくだらない戯言に動揺して、危うく陵辱R18プレイに突入しかけたアンタには、無理だろうけどね」

≪あぁ、無理だろうな。アンタ、俺と姉御が助けなかったら、今頃ここでは言えないようなエンディング迎えてたぜ?≫

「え?」



あ、あのバカコンビ・・・・・・・普通に挑発で何トンでもない事バラしてるっ!? マジで見境い無くしてるしっ!!

お前、俺がここに来るまでどんだけ大変な思いして色々処理したと思ってんだよっ!!



「あの、サリエルさん」



ヴィータちゃんがなんか疑問顔で、俺に聞いてきた。だから俺は頭を抱えて蹲り、こう口にするしかなかった。



「俺は何も知らない俺は何も知らない俺は何も知らない俺は何も知らない俺は何も知らない俺は何も知らない」

「そんなリピートしなくていいですからっ! てゆうか、ヒロリスさん何やってんですかっ!?」

「だから俺は何も知らないんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第21話 『人間一度調子に乗ってしまうと、誰でも我を忘れてしまう』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



この人・・・・・・今、何を? あの、どうして私がスカリエッティに捕縛されかけた事を。





というか、今私を助けたって・・・・・・あの、えっと・・・・・・えぇっ!?










「はぁぁぁぁぁぁっ!!」



ヒロリスさんは乱暴に刃を振るって、私を吹き飛ばす。吹き飛ばされながら考える。



「バルディッシュ」



そして、また下がって着地。着地しながら、バルディッシュに聞く。



≪はい≫

「えっと、つまり」

≪とりあえず、私はあの人の魔力反応に元々覚えはありました≫



聞いた方が、いいのかな。でも・・・・・・うーん、今はいいや。

今は、ヒロリスさんを止める方が先。ここは後でいい。



「じゃあ、一つ質問。・・・・・・あの人と私、どっちが上だと思う?」



構えながら、警戒は緩めずに・・・・・・私は考える。どうしたら、あの人を止められるのか。



≪魔力資質とスピードで言えば、リミッター有りでもSirです。
ですが、戦闘技能とそれを活用するセンスに関しては、彼女です≫





リミッターのかかっている状態でも、魔力的な力は私が勝っている。

でも、全体的な戦闘技能と活用に関しては向こうの方が上。

ヤスフミやヘイハチさんの得意技である砲撃斬りが出来た点から言っても、そこは確定。



私が同じことをやろうと思ったら、ライオットに頼るしかない。

ライオット・・・・・・使えれば良かったのに。そうしたら強くなれるから。

でも、今は無理。リミッターのせいで、ライオットは封印状態だもの。





≪恐らくは彼と同タイプ。戦闘者としてのスタイルもそうですが、その考え方も。
『魔導師だから』で言い訳しない方なのでしょう≫

「そうだね。だから強くて鋭くて・・・・・・そして硬い」



資質的な問題で言えば、ヤスフミも低い方。でも、ヤスフミには別の才能があった。

自分の力を上手く使う事。一瞬で状況を覆せるカードを作り出せる事。



「だったら私、もうちょっと頑張らないとダメだね」





それがセンス。ヤスフミは自分を天才じゃないなんて言うけど、私から見たら充分天才だよ。

私、ヤスフミと同じ立場だったら・・・・・・あそこまで出来ないと思うもの。

・・・・・・そう、なんだよね。強くなって・・・・・・背も少し伸びて。



もう、出会った頃のような子どもじゃない。私もそうだし、ヤスフミも大人なんだ。



子ども扱い、しちゃってたのかな。知らない間に私・・・・・・だから。





「何、ぼーっとしてんのよ」





少し考え込んでいる間に、ヒロさんが目の前に居た。

左薙に打ち込まれた斬撃を、咄嗟に上に飛んで避ける。

避けつつ、私は左手で魔力スフィアを形成。バルディッシュのカートリッジも2発ロード。



形成して、追撃のためにこちらに飛び込んできたヒロさんに、それを向ける。





「プラズマスマッシャー!!」



一瞬だけ足を止めて、私は真下に向かって砲撃を叩き込んだ。



「・・・・・・ファイアッ!!」





あの人はどこか嬉しげにしながら、その砲撃に片刃の剣を叩き込む。

私の雷撃の砲撃は、あの人の斬撃で真っ二つにされた。

だけど、あの人の身体にダメージは行ってるはず。スタン属性、付与してるもの。



雷撃変換の特徴は、そのオールマイティーさ。攻撃に防御に拘束と、色々使える。

ヤスフミが前にしたみたいに相手を痺れさせて、動きを鈍くするのも効果の一つ。

私は、砲撃が斬られる事は予測していた。だから、余波ダメージが行くようにした。



あの人・・・・・・今なら動きが鈍っているはず。だから、決める。





「はぁぁぁぁぁぁっ!!」



カートリッジを1発ロード。バルディッシュの形態を、両刃の大剣にする。

その刃は金色で、私の足から首くらいまでの長さがある。



≪Zamber Form≫





ザンバーフォーム、今の私が使える最大火力。中途半端な攻撃は、通用しない。

最大速度と最大加速で一気に決めないと、私の装甲じゃあ叩き潰される。

ヒロさんは、私の斬撃をギリギリで後ろに下がりながら避ける。



私は下から上へと交差してから、またヒロさんに向かって一気に飛び上がる。

上昇しつつバルディッシュを右薙に打ち込んで、ヒロさんを切り抜けた。

ヒロさんは・・・・・・左の剣で防御しながら、弾き飛ばされた。





「くぅ・・・・・・!!」





私達の間に、かなりの距離が出来る。ヒロさんは飛ばされながらも、私に向かって右の銃を乱射。

襲い来る弾丸を、右に回るように飛びながら回避。弾丸が地面へと着弾し、弾痕を刻む。

それでも私は一気に回避しつつ、ヒロさんの落下点に回り込む。



やっぱりだ。速度は私の方が速い。カートリッジ、1発をロード。バルディッシュの刃の輝きが強くなる。





≪Jet Zamber≫



そのまま、ヒロさんの背中に向かって・・・・・・刃を左薙に叩き込んだ。



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



飛び込みながら気づいた。ヒロさん・・・・・・私に吹き飛ばされながら、口元が笑っていた。



「・・・・・・やるじゃん」



言いながらヒロさんは、右の銃を片手剣に戻した。

そして時計回りに身を捻って、ザンバーの刃に剣を叩き込む。



≪姉御っ!!≫

「あいよっ!!」



それでもまだ私が圧す。だから、左の刃を振り被って、右の剣に叩きつけた。

丁度交差するように連続して打ち込まれた斬撃によって、私の攻撃は止められた。



「く・・・・・・!!」

「やっさんが惚れるのも分かるわ。脆いけど・・・・・・強くて綺麗な子だ」



・・・・・・惚れる? え、何言ってるんだろ。



≪でも、俺と姉御を相手にするには・・・・・・まだまだ足りねぇなっ!!≫





刃を、そのまま力任せに振り抜かれる。振り抜かれて、私は圧された。

両腕を開くようにして刃を振り抜いたヒロさんを見て、痛感していた。

・・・・・・やっぱり、パワーではあっちの方が上。でも、小回りでは私が上。



ヒロさんは、二刀の切っ先を突き出して来る。私は、右に動いてそれを回避。

というより、すぐに後ろに回る。回って、唐竹に刃を叩き込む。

ヒロさんは振り返りながらも時計回りに動いて、私に斬撃を打ち込んでくる。



そうして私の斬撃を避けつつ、左の剣で反撃。だから私は、下がる。

下がりながらもバルディッシュの刃を返して、ヒロさんの腹を狙う。

腹を狙っての斬撃は、右の剣で受け止められた。でも、これでいい。



そのままヒロさんを打ち出すように、ザンバーを右薙に振るう。

右の剣とザンバーの刃が摩擦して、金色の火花が散る。

斬撃は通らなかったけど、私とヒロさんとの間に距離は出来た。



だからヒロさんの剣は、私の胸元スレスレを通り過ぎる。リーチからして、そこはもう確定。





≪Serpent Form≫





そう思った瞬間、ヒロさんの左の剣が伸びた。刃は分割され、それを繋ぐのは鉄色のワイヤー。

それはシグナムが使うシュランゲフォルムと同系統の蛇腹剣。それが私の身を捉えていた。

刀身を包み込むのは白い魔力。ただし、バチバチと音を立てて・・・・・・これ、雷撃変換?



まさかこの人、雷撃変換技能持ちっ!? ということは・・・・・・まずいっ!!



さっきの砲撃や私の攻撃の余波ダメージ、電撃魔力をぶつけ合うことで、相殺されてるっ!!





「アメイジアっ!!」

≪任せろっ!!≫





ザンバーを振り抜いた直後で、私は隙だらけ。移動による回避も間に合わない。

オートバリアが発生して一瞬・・・・・・いや、それすらも含めてだ。

もちろん、守るべき対象である私ごと、袈裟に蛇腹剣は私の身を斬り裂いた。



次の瞬間、次の斬撃が逆袈裟に襲ってくる。それは、右の刃を形状変換させて打ち込んだ斬撃。

二刀の蛇腹剣は、ヒロさんの腕の動きに合わせて、その切っ先や刀身がうねる。

うねって、両腕を振り上げて私に向かって・・・・・・振り下ろされた。





「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





私の両肩を蛇腹剣が捉えて、削るように斬り裂く。斬り裂いて、ヒロさんは振り下ろした腕を突き出した。

丁度私の肩を通り過ぎようとしていた切っ先が私の肩を貫く。というより、押し込んで私を叩き潰す。

私はその勢いのまま、地面に叩きつけられて十数メートル滑る。滑って・・・・・・ようやく止まった。



身体を支配するのは、痛み。そして、薄れゆく意識。・・・・・・完全に、やられた。



というより、悔しい。引退して8年も経つ人に・・・・・・掠りもしてないなんて。





「・・・・・・私の勝ちだね。でも、自慢にもならないや」



それは空に浮かぶヒロさんの声。・・・・・・私の中の悔しさが、更に強まった。

私みたいな弱い子に勝っても自慢にならないと、そう言われたと思ったから。



「だって今のアンタ、完全無欠に本気じゃないでしょ? リミッターかかってるしさ」



続いた言葉は、私の予想を大きく裏切るものだった。あの人は・・・・・・また楽しげに笑っていた。



「私がやっさんから聞いてるアンタはもっと強い。速くて鋭くて、まさしく雷光。
で、それは今のアンタとは全然違う。まぁタイミングが悪かったんだよね」

≪だな。でも姉御、リミッターがなかったら俺達・・・・・・自慢してもいいよな≫

「していいね。だって私達、基本平和な一般人なんだし」



だから私は身体を動かせない状態でもただ・・・・・・本当にただ驚くしかなかった。



「フェイトちゃん、アンタ・・・・・・自分が思ってるよりはずっと強いよ」

≪少なくともボーイはそう思ってる。ただ飛び込むしか出来ない自分よりずっと強くて優しいってな。
もう俺達マジで何度も何度も惚気のように聞かされてて、完全に耳タコレベルなんだよ≫

「ただアンタがそれに気づいてないだけだよ。・・・・・・マジでもうちょっと、自信持ちな?」










その言葉の意図するところが、よく分からなかった。ただ、それでも嬉しかった。





私はそこで意識を手放した。手放しても・・・・・・バルディッシュを強く握り締めていた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「さて、フェイトちゃんは片付いたし・・・・・・続き、やろうか」



二振りの蛇腹剣を剣状態に戻してから、私は右のアメイジアを肩で担いでそう言う。

今の今まで、こちらを観戦していたあの子達を見ながら。さすがに参加は無理だったらしい。



≪・・・・・・姉御≫

「なに?」

≪俺達、輝いてるよな≫

「そうだね、輝いてるよ。もうキラキラし過ぎて、太陽か私達かって言うくらいに輝いてるよ」



いやぁ、今日は遊びに来てよかったなぁ。おかげで久々の大暴れだし。うん、良いことずくめだよ。

だから、自然と頬が緩む。これからは毎日この調子で楽しくなりそうで、ワクワクしていた。



「というわけで、もっと輝くよっ!!」

≪了解だっ! ここからは俺達がこの話の主人公だぜっ!!≫

「当然っ!!」










というわけで、戸惑い気味なあの子達に向かって、私は突撃。





さぁ、もっともっと楽しむぞー! だって、私はこの話の主人公なんだからさっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



フェイトさんから、念話で離れているようにと言われた。自分が止めるからとも言われた。





だから、指示通りにそうしていた。色々悔しいけど、そうしていた。





でも・・・・・・フェイトさん、倒されちゃったんですけど。










「シグナム副隊長と同じ、蛇腹剣の形状変換」

「それも、二刀。それを至近距離からなんて」





エリオとキャロが驚きに満ちた顔でそう口にする。てゆうか、攻撃がマトモじゃない。

普通に至近距離からランサーなり撃たれる可能性もあったのに、防御を全く考えてなかった。

いや、きっと何かされてもそれごと叩き斬るつもりだった。あの楽しげな目を見て伝わった。



その上明らかにオーバーキルで叩き潰すつもりでやったし。やばい、あの人・・・・・・今更だけどかなりやばい。



アイツの姉弟子らしいけど、ヘイハチ・トウゴウの弟子って言うのは、みんなあんな感じなのっ!? ありえないでしょっ!!





「エリオ、キャロ・・・・・・やるわよ。このまま終われるはず、ないわよね」

「「はいっ!!」」










圧倒的なのも、今の私達が三人で束になった勝てないのも分かるわよ。えぇ、かなりね。





でも、だからって簡単に敗北宣言してたら、普通に職業魔導師なんてやってられないのよっ! 徹底的に悪あがきしてやろうじゃないのよっ!!





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「当然じゃねぇよっ! 何普通に話乗っとろうとしてるっ!? お前ら絶対バカだろっ!!
そしてそこの三人もエンジンかけるなー! そこはギブアップなり審判に抗議なりしていいとこだからっ!!」

≪主、とりあえずフェイト執務官を回収しましょう。そうしないと巻き込まれて危険です≫

「そうだな。金剛、転送魔法で拾うから座標軸とかその他もろもろのサポート頼む」

≪了解しました≫





フェイトちゃんを空気を読まずに一蹴して、普通にアイツは訓練再開。

そしてあの三人は、フェイトちゃんが倒された事でエンジン全開。

さっきとはもう状況が違う。互いにやる気だから、止めようがない。



結果、俺達の前で地獄絵図は続いている。もう救世主は居ない。





「よし、スバル。お前もう一回行ってこい」

「えぇ、どうして私がっ!? というか、それならヴィータ副隊長が」

「いや、なんか・・・・・・どっちももう聞いてもらえないと思ってよ。なら、お前が主人公キャラとして話を」

「私そんなキャラじゃないですよー! というか、普通にアレと話って無理じゃありませんっ!?
ティアもエリオ達も、もう徹底抗戦の構え取っちゃってますしっ!!」



ヴィータちゃん、スッゲー真剣な顔で意外と無茶振りするよな。俺、ちょっとビックリなんだけど。



「確かにな。でも、どうすっかな。ここでアタシまで参加したら、演習場がマジで持たねぇし」

「あぁ、マジでごめんマジでごめんっ! くそ、やっぱ俺一人で来ればよかったー!!
ヒロ、頼むから演習場を壊すのだけはやめてくれー! それやるとマジで怒られるんだー!!」

≪・・・・・・アメイジアも何をやっている。普通にヒロリス女史を止めるべきだろう。さすがにやり過ぎだ≫










くそー! やっさんは今どこだっ!? あぁ、聖王教会だったなっ! 分かってるよっ!!





でも、頼むから早く帰って来てくれー! もう俺らだけじゃどうしようもないんだー!! アイツら何してんだっ!?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・ここは、所変わって聖王教会の駐車場。

僕達の出稽古は無事に終わって、ようやく帰る時間になった。

なったので、僕達は全員揃って当然のように、頭を下げるのだ。





その相手は・・・・・・聖王教会シスターのシャッハさん。










『ごめんなさい』





原因はいくつかある。一つは、僕が空気読まずに一瞬で撃墜した事。

一つは、その後のシグナムさんとのアレコレが盛り上がった事。

そして最後に・・・・・・それによって演習場を破壊してしまった事。



だから、シャッハさんも困ったような怒ってるような、そんな顔をするのだ。





「すみません、シスター・シャッハ。蒼凪には私から重々に言っておきますので」

「何言ってんですかっ!? 普通にボーゲンフォルム持ち出したシグナムさんがダメなんでしょっ!!」



そうだよそうだよ。ボーゲンフォルムでいきなり『駆けよ隼っ!!』って言って、チュドーンってさ。



「いったい何を言っているっ! お前だってブレイクハウトで散々壊しまくっただろうがっ!!」



確かに杭にしたり、応用で岩の弾丸飛ばしまくったり、ボーゲンフォルムを防ぐために巨大な盾を形成したりした。

でも、それの何が悪い? 普通に防衛のためだし。正当防衛だよ、正当防衛。



「絶対にお前の方が、私より壊した面積は大きいぞっ!!」

「いいや、シグナムさんですからっ!!」

「バカを言うなっ! 間違いなくお前だろっ!!」

「シグナムさんですよっ!!」

「あぁもう、二人とも黙ってっ!? 恭文君もシグナムさんも、同じくらい壊してるしめちゃくちゃにしてるからっ!!」



言い争う僕とシグナムさんの間に割り込むように、魔王が怒りの声をあげる。



「ですですっ! シグナム、しっかりきっちり反省なのですよっ!?」

「うん、それはリインもだよねっ! 恭文君の事、全く止めてないしっ!!」

「なのはさん、リインは恭文さんの全てを認め、受け入れ・・・・・・そして後押しする。
それがリインの愛であり想いなのです。まぁ、恋愛経験の無いなのはさんには分からないでしょうけど」

「恋愛経験の事はツッコまないでよっ! 私、お仕事頑張ってるだけだもんっ!!
そしてヴィヴィオのホントのママになるために、頑張ってるだけだもんっ!!」



・・・・・・だから、僕達は引いた。だって、魔王だし。僕もシグナムさんもリインも、魔王は怖いし。

というか、若干涙目だ。泣き出してグスグス言ってる。意外と心脆い子だよね。



「シスター・シャッハ、申し訳ありません。うぅ、もうなんと謝ったらいいのか」

「高町一等空尉、こちらは大丈夫ですので。というより」



え、なぜに僕を見る? それもすっごい呆れた顔で。



「恭文さんとヒロリスとサリエルさんの修練を見ていましたから、この程度のことは予測済みでした。
騎士カリムからも何か起こったとしても、多少のことは大目に見ろと言われていますし」



あぁ、カリムさん、ありがとうございます。やっぱり持つべきものはカリムさんのような素敵な友人ですよね。

というか、それを受け入れてくれたシャッハさんも、ありがとうございます。感謝する他ありません。



「そうなんですか。・・・・・・恭文君、どれだけ激しい修行してたの?」

「多分、この後帰って演習場を見ればそれは分かるよ」



僕はこう答えるしかなかった。というか、これが1番手っとり早い。

だって、普通にヒロさんが大暴れしてるんだったら・・・・・・ねぇ?



「ただ、恭文さん」

「はい?」

「あなたは、このままお帰しするわけにはいきません」



・・・・・・なにやらされるんだろ。お説教かな?

あ、修復魔法・・・・・・うん、あれとかこれとか使えば、明日中には。



「とりあえず、2日ください。ブレイクハウトでなんとか形だけは」

「そういうことではありません。ただ、あなたに約束していただきたいことがあるだけです」

「約束?」

「はい」



シャッハさんはそう言うと、いったん呼吸を入れ替えた上で、真剣な瞳で僕を見つめてきた。

さっきまでの呆れたような表情を一旦しまって、ただただ僕を見ている。



「まず、AAAランクの試験に絶対に合格するということ。
そしてあなたの戦う意味、強くなる理由。背負いたいもの。戒めているもの。それらを信じてください」

「え?」

「大丈夫。あなたの想いは、間違っていません。少なくとも私と騎士カリムはそう思っています。
誰がなんと言おうと、信じ抜いてください。それだけ、約束していただけますか?」

「・・・・・・シャッハさん」



僕の返事は決まっていた。重いものをまた背負うのは決定済みだけど、それでも・・・・・・ちゃんとしたい。



「はい、約束します」

「なら、大丈夫です。今日のことがあなたの糧になるのであれば、問題はありません。
この後の修練場の補修工事がどれだけ大変だろうと、耐えられます」



何かが心に鋭く突き刺さった。それも、相当に強く。



「そして、私が雑魚同然に一蹴されたのも・・・・・・まぁ、納得しましょう」



そして、再び貫いた。何気にこの人、根に持ってる。絶対持ってる。



「あははは、やっぱり僕も手伝った方がいいですか? 形だけならなんとか」

「ごめんなさい。少し意地悪をしてしまいました。こちらの方は、本当に心配しなくても大丈夫ですから」

≪・・・・・・シャッハさん、気にしていたんですね。
というより、やっぱり色々聞いてるんじゃありませんか?≫

「さぁ、どうでしょう? とにかく・・・・・・約束しましたからね?
破ったら、私が直々に修正を加えてさしあげましょう」

「そうならないように、頑張ります」





とにかく、これで全員が全員、無罪放免で帰れることが決定した。

なので僕達はトゥデイに乗り込んで、六課隊舎を目指す。

駐車場から出したトゥデイの横にシャッハさんが来てくれた。



僕は運転席から顔を出す。最後の最後の挨拶は、大事なのだ。





「・・・・・・あの、シャッハさん。ありがとうございました」

「いえ。それでは、また来てくださいね。騎士カリムが寂しがっていますから」



・・・・・・なのはの視線が厳しくなったけど、気にしてはいけない。

というか、本当になんでもないって。友達兼紅茶の淹れ方の先生2号ってだけだよ。



「そうですね。時間が出来次第、必ず」

「なら、安心です。・・・・・・それでは、また。ごきげんよう」

「はい、また」





そうして、僕はトゥデイを発進させた。シャッハさんはそのまま手を振って、ずっと見送っててくれた。なんか、ちょっと嬉しい。





「・・・・・・蒼凪」



助手席のシグナムさんが、話しかけてきた。視線は、前を向いたまま。



「お前は、お前だ」

「え?」

「・・・・・・シスターシャッハの言われたこと、心に刻んでおけ」

「・・・・・・はい」



やっぱり、色々話してるみたいだね。間違いないわ。

というか、心配・・・・・・かけてるね。うん、すごくだ。



≪マスター≫

「なに?」

≪私も同じです。あなたは、あなたですよ。大丈夫。私は、ずっと一緒ですから≫

「リインもですよ。だから・・・・・・いつも通りの恭文さんでいいです。
というかというか、そんな恭文さんがリインは大好きなのですよ?」

「・・・・・・ありがと」










視線の先に映るのはハイウェイと緑の山々。この辺りは自然が近い。

そういや明日か。うん、明日だ。もう明日で11月も終わる。

たった数ヶ月でずいぶん状況が様変わりしたけど・・・・・・でも、いいよね。





きっと必要なことなんだ。これから前に進むためには・・・・・・きっと。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・そう。恭文君、元気そうだったのね」

「はい。六課での様子はまぁ・・・・・・相変わらずのようですが、多少はいつも通りになったようです」





執務室に閉じこもりっ放しでなければ、私も会いたかった。一応、心配はしていたから。

ハラオウン家が少々ゴタゴタしてしまったのは、クロノ提督から聞いていたから。

とりあえず、私はシャッハが入れてくれたハーブティーを一口。・・・・・・あぁ、落ち着くなぁ。



でも、多少でもいつもの調子でよかった。あの子が元気がないと、私もどうにもつまらないもの。





「私の方からも、何かフォロー出来ればよかったんだけど」

「それはいけません。あなたの立場を考えれば、逆に恭文さんが萎縮してしまいます」

「そうなのよね」



私、これでも偉い立場の方には居るから・・・・・・はぁ、なんだかなぁ。

大事な友人の力になれないのは、ちょっと悲しい。・・・・・・私は、またお茶を一口。



「それになにより、あまり庇い過ぎるのも問題です。まぁ、あの子はそれを当然と思うほど弱くはありませんが」

「そうね。・・・・・・なら、今度美味しい茶葉をおすそ分けするわ。
飲んでいて、心が落ち着くような優しい香りの茶葉を」





あの子は、ヒロリスやはやての大事な友人。そしてそれは、私にとっても同様。

あの子の前では、私はただのカリム・グラシアで居られる。

だから・・・・・・うん、好意を持っているわね。あくまでも友人としてだけど。



そして、紅茶の煎れ方師匠その2だもの。心配にもなるの。





「それがいいと思います。きっと喜びますよ」

「えぇ、そうするわ。・・・・・・なら、早速明日茶葉を選ばないと」



・・・・・・あぁ、それとちょっと気になってたことがまだあったんだ。



「シャッハ、私は知っての通り書類に取りかかりっ切りだったんだけど・・・・・・リンディ提督は」

「特に連絡はありませんし、未だに行方知れずのようです」





現在、六課の後見人であるリンディ提督は、休暇もしっかり取った上で行方知れずになってる。

そのために、クロノ提督やフェイト執務官も仕事の合間に出来る範囲で行方を探しているらしいけど、さっぱりとか。

一応、私の方にも話は来ている。同じ後見人だし、恭文君とも親しいからもしかしたら連絡があるかもと。



まぁ、しっかりした方ではあるし大丈夫だとは思うけど・・・・・・何かあったのかしら。突然過ぎるもの。





「とにかく、連絡があったらすぐに私に繋いで? 何か事情があるなら、お力にはなりたいもの」

「かしこまりました。騎士カリム」










とにもかくにも、私はまたハーブティーをゆっくりと飲む。

そうして机仕事で入り過ぎていた力を、少しずつ抜いていく。

もう明日で12月。六課解散まで、あと4ヶ月とちょっと。





恭文君が出向になってからは特に事件も起こってないし・・・・・・このままで進んでくれると嬉しい。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・あなたは、見たことがあるだろうか? 海上に浮かぶ人工島で起きている異変を。

具体的に言うと、そこから緑色やら黄色やら青やら、そんな色の狼煙があがっているのを。

もし、見たことがないなら、あなたは幸せだ。なぜなら、驚愕たる事実に触れなくていいんだから。





そして今の僕たちは、ぶっちぎりで不幸だ。だって、触れちゃったんだから。頭、痛い。










「や、恭文さん。あれ、なんですか?」

「なんのこと? さ、夕飯食べるよ」

「いや、なに華麗に無視しようとしてるのっ!? あのおかしい煙はなにっ!!」

「知るかボケっ! どーせヒロさんに決まってるでしょうがっ!!」



あぁ、関わってしまった。思考がちょこっと関わってしまった。

まぁ、いいや。どーせこうなる運命だったんだ。



「とにかく、中に入るよ。正直、あそこに今近づくのはお勧めしない。間違いなく後悔するよ?」

「・・・・・・蒼凪、やけに自信があるな」

「前に、僕はあそこに居ました。その様子を見たシャマルさんは、卒倒しましたよ」





あー、みんなが驚き顔をしたので一応補足。実はシャマルさんはヒロさんとサリさんの事、知ってるのよ。

一応僕の主治医みたいな感じだから、サリさんが話しておきたいと言われたので、紹介したのだ。

・・・・・・泣かれたっけ。『だから、どうしてお前は本命以外でほいほいとフラグを』とか言われた。まぁ、それはいいか。



なお、今日シャマルさんは不在です。ザフィーラさんと一緒に、本局で仕事なはやての付き添いと護衛です。





「なぎ君、なんか凄い人達と関わってたんだね」

「色んな偶然のおかげでね」



色んな偶然のおかげで、僕はここにいる。うん、本当に・・・・・・感謝しないと。

ただ、あの光景を見ているとそんな感情がゼロになるから、不思議だよね。



「とにかく、我々も挨拶しないといけないだろう。
・・・・・・大事な仲間を助けてくれた恩人に、礼の一つでも言わなければ」

「そうですね。ちゃんと話さないと、いけませんね。色々と今日の現状について」










・・・・・・正直それはやめてほしい。いや、真面目によ。なーんか、嫌な予感がするんだよね。





まぁ、そこはともかく一応通信はかけるか。かなり嫌だけど。すっごく嫌だけど。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



隊舎のロビーで全員腰を落ち着けてから、僕は通信を繋ぐ。





恐らく、この状況で一番マトモな人にだ。










『・・・・・・おう。ようやく帰ってきたか』

「えぇ、帰ってきましたよ。で、なんでそんなに疲れ果ててるんですか?」



その人とは、サリさんである。凄まじく疲れ果てた顔してるけど、僕はそこには一切触れない。



「あの・・・・・・大丈夫ですか?」

『あぁ、だいじょ・・・・・・って、リインフォースUちゃんっ!?』

「あ、はいです。あの、前に地上本部でお会いしましたよね?」



そう言われた瞬間、疲れ果てていたサリさんの表情が明るくなった。そう、それはもう素晴らしいほどに。



『あ、俺の事覚えててくれてたのか。いやぁ、正直嬉しいわ。
あの場だと、俺はモブその1とかだったのに・・・・・・いや、なんか泣いていい?』

「なんでっ!?」

『ヒロが散々無茶苦茶やらかしたからだよっ!!
やっさん、今すぐこっち来てみろ。すさまじいことになってるから』



あぁ、やっぱりか。もう正直すっごい想像してたわ。



『正直さ、俺はヴィータちゃんに何回謝ったかわからないよ』

「そうですか。なら、そのまま帰ってもらえます?」

『お前、やっぱりそういう所はヒロにそっくりだわっ! てーか、生き写しだしっ!!』



失礼な。僕はヒロさんよりマトモだし。てゆうか、ヘイハチ一門で1番マトモなの、僕だし。



『残念ながらそれは無理だ。フェイトちゃんやヒロが、お前やら今日居なかった隊長達に話したいんだってさ』

「・・・・・・逃げていいですか?」



嫌だ。もうその布陣だけで嫌な予感しかしない。それしかしない。あれ、なんでこうなる?



『骨は拾ってやる。だから、俺を助けてくれなかった報いとして地獄へ落ちろ』

「何ふざけたこと言ってんですかっ! 僕、今日外に出てたんですよっ!? 助けようがないしっ!!』

『やかましいっ! そうも言いたくなるくらいにあのバカコンビ、空気も立場も読まずに大暴れしたんだよっ!!
お前に俺の苦労が分かるかっ!? お前に俺の苦労と居心地の悪さが分かるって言うのかよっ!!』

「泣くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



・・・・・・そうして10数分後。元気はつらつな姉弟子と、疲れきった閃光の女神がやってきた。

なお、サリさんは通信を切るまでずっと泣きっぱなしだった事を、付け加えておく。



「やっさん、お疲れさまー♪」

≪お疲れー≫

「ヒロさんもアメイジアもお疲れ・・・・・・じゃないですよね」

「まーね。いやぁ、楽しかった楽しかった。やっぱ戦うのは楽しいね〜」

≪悪いな。俺達すっげー輝いてた。もうゴルドランか俺達かって言うくらいに輝いてたわ≫





その瞬間、なのはとシグナムさんとシャーリーの視線が僕にぶつかった。

それでその視線は語りかけている。お前と同類なんだなと。・・・・・・失礼な連中だ。

とにかく、全員挨拶と自己紹介を済ませてから、ヒロさんとフェイトも腰を落ち着ける。



なのはが若干緊張気味だったけど・・・・・・きっと、教導隊の先輩だからでしょ。



ヒロさんとサリさん、一昔前のエース・オブ・エースだしね。その関係で、教導隊でも有名らしい。





「で、ヒロさん」

「なに?」

「アンタ、フェイトに一体何したっ!? なんでこんな疲れきったオーラ出してるんですかっ!!」

「いや、アンタにやるのと同じ要領でぶっ飛ばしただけなんだけど」



それだよっ! もうそれしかないよねっ!?

つか、僕と同じ要領ってことは、本気で容赦なく? うわ、それはないわ。



「・・・・・・ヤスフミ」

「な、なにかな?」



あれ、なんか・・・・・・こう、空気が違う。いつもと違って、頬なんて膨らませてるし。



「悔しい」

「「え?」」

「だって、私の方が現役で、前線にもちゃんと立ってる。
なのに、訓練継続してるとは言え、引退しているヒロさんに・・・・・・一蹴された」



そう言いながら、フェイトはとても悔しそうだった。

そりゃそうでしょ。現役でエースな執務官なのに、それすら一蹴だもの。



「フェイト、それは仕方ない」

「どうしてっ!?」

「先生の影、見えたでしょ?」



僕がそう言うと、フェイトが納得してくれた。うん、渋々だけど。



「・・・・・・ヒロさん、また今度手合わせをお願いします。次は、負けません」

「いや、別に良いけど・・・・・・やっさん、もしかしてこの子は負けず嫌い?」

「残念ながら。フェイトはアレですよ? 勝つまでやめませんから」



負けず嫌いの意地っ張りキャラなのも、フェイトの魅力の一つ。それが今、全開で発動してるのよ。



「うわ、性質悪っ! いったいどこの子どもっ!?」

「子どもじゃありませんっ! 私、これでも大人ですっ!!」

「そういう事を言ってるんじゃないよっ! アンタのそのキャラがどこかの子どもみたいって言ってるのっ!!」

「だから、子どもじゃありませんってばっ! 私、背もあるし胸だって大きくなりましたし、もうすぐお酒も飲んでOKですし」

「だから違うんだよっ! それとアンタ、それは私に対しての嫌味かっ!?
胸がなんだよっ! 胸が無くたってな、私もセインもチンクも必死で生きてんだよっ!!」



一つ説明を忘れていた。ヒロさんは実は、とてもスレンダー体型。もっと言うと、胸がぺったんこ。

なので、何気にそこを気にしているのだ。セインやチンクさんとも、そこのために意気投合したとかなんとか。



≪姉御、落ち着けってっ! 別にガールは胸を自慢なんてしてねぇからっ!!
・・・・・・で、とりあえず話だ話。俺達に何の用だ?≫

「それはこっちのセリフなんですけどっ!? あの、恭文君に会いに来ただけなのにどうしてこうなるんですかっ!!」

≪いいじゃねぇか別に。俺達は輝いていたんだしよ。そう、俺達か百式かって言うくらいに輝いてたな≫

「そういう問題じゃないからっ!!」



あぁ、早速なのはがアメイジアと仲良くなってる。いや、良いことだなぁ。



「・・・・・・それでその、一応フォワード陣全員と手合わせしたわけじゃないですか」

「したね」

「どうだったでしょうか。クロスフォードさんは教導官としては先輩になりますし、一応気にはなっていたんです」

「それは私も同じくですね。一応、うちの教導官と教官が叩いてはいますが・・・・・・正直なところ、どうでしょう」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・そうだね。それは私も気になる。実際、聞いたなのはが凄く緊張してる。





ヒロさんは、聞いた通りなら教導隊出身だもの。





そして、実力はあの通り。そのヒロさんから見てスバル達は・・・・・・どうなのかな。










「いい感じだね」

「即答っ!?」



というか、なんの迷いも溜めもなかったよっ!!



≪こういう人なんですよ≫

「失礼な。・・・・・・まぁ、若さゆえのなんたらってのは仕方ないとしてよ? 完成度は現時点でもかなりのものだよ。
みんないい子みたいだし、私は気に入ったよ。いやぁ、もう10才若かったら、チーム組みたかったのになぁ」

「・・・・・・ありがとうございます」



あ、なのはがなんだか感激してる。シャーリーが背中を撫でて、なだめてる。

というかこの方の評価は、教導隊メンバーからすると、そこまでなんだね。



「ただよ、気になるところがなかったわけじゃないけど」



その瞬間、なのはの体が強張った。そして、震えだした。



「なのは落ち着いてっ! どうして体が震えまくっているのっ!?」

「・・・・・・あー、ヒロさん。なのはは無視で。大丈夫、サリさん居るなら、倒れてもすぐに対処出来るでしょ」

「それもそうだね」



それで納得するんですかっ!? あぁ、なんだかヤスフミが二人居るように感じるっ!!



「なのはちゃん、大丈夫だから。気になるって言っても、ここがダメっていうのじゃないのよ」

「え?」

「あの、それはどういうことですか?」

「なんていうか、もうちょっと完成の形を高めにしてみてもいいんじゃないかという話なの。
そうだな。例をあげると・・・・・・ティアナちゃんだね」



ティア? ティアがどうしたんだろう。

確かに最初の頃は揉めたけど、でも、ちゃんと解決していけたわけだし。





「実はね、私・・・・・・やっさんとティアナちゃんの模擬戦、見させてもらってるのよ」

『えぇぇぇぇっ!?』



私たちが驚いていると、恐る恐る手を上げた人間がいた。・・・・・・ヤスフミだった。



「あー、ごめん。僕が見せたの。ちょっと反省点が多くてさ。ヒロさん達のアドバイスが欲しくて」

「なるほど。そういうことか」

「でもヤスフミ、それなら私達に言ってくれればよかったのに。外部の人に見せるなんて」

「・・・・・・思いっきり不機嫌に説教かましたくせに何を言うか。
しかも、この話になるとお説教モードに入って、ちゃんと話出来なかったじゃないのさ」



その言葉が突き刺さった。若干睨み気味なヤスフミの瞳も同様に。

つまり、私はこの話題になると・・・・・・ヤスフミからすると『話しても無駄』と判断されていた。



「ごめん」

「いいよ、別に」



良くないよ。全然・・・・・・良くない。私は少しだけ視線を落として、両膝の上の手を握り締める。

子ども扱い・・・・・・ズレ・・・・・・それが、これなのかな。だから、ちゃんと話せない。



「・・・・・・で、ヒロさんの気になるところってのはなんですか?」

「まぁあれよ。あの子、ぶっちゃけちゃえば勝気な性格してるじゃない?」

「そう・・・ですね」

「その上ツンデレでしょ?」

「・・・・・・ツンデレ?」



えっと、ツンデレって・・・・・・・なんだっけ。確かはやてから教えてもらったんだけど、忘れちゃったや。



「あぁ、ツンデレですね。ヒロさん、いいところに目をつけましたね。
ティアナは六課が誇るツンデレ・オブ・ツン」



その瞬間、通信がかかった。それはヤスフミの携帯端末。

ヤスフミはそれを手に取って・・・・・・取った瞬間、通信が繋がった。



『アンタ、今私の事をツンデレって言わなかった?』



その声と画面に映る姿に、私達全員寒気が走った。だってそれは、ティアだったから。

でも今ティアは、演習場にサリさんとヴィータと一緒に居るはずなのに。



「・・・・・・イッテナイヨ?」

『言ったのね』

「イッテナイヨ?」

『だったら、その棒読みをやめなさいよ。ほら、正直に言えば許してあげるから』



ヤスフミは画面を見ながら、ダラダラと汗を流し続ける。普通にティアが怖いらしい。



≪・・・・・・よし、ボーイは除いた上で話し続けようぜ≫

「そうだね。みんなもそれでいい?」










私達は、全員頷いた。ヤスフミが必死に『助けて』と視線で言ってくるので、私は両手を合わせた。





そして、続けて視線で『裏切り者』と言ってくる。・・・・・・ごめん。でも、関わりたくないの。










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ね、言ったのよね。隠しても無駄よ。もうアンタが言ったって気配を察知したから」



それはどんな超能力だよっ! 普通に俺、驚きなんだけどっ!? そしてやっさん、お前も言ったのかよっ!!

普通に表情が『なぜ分かった?』って言ってるしっ! 俺から見てもめちゃくちゃ分かるしっ!!



『いや、だから・・・・・・しゃあないじゃんっ! ティアナはツンデレなんだからっ!!』

「逆ギレしてんじゃないわよっ! 私はツンデレじゃないって何度言ったら分かるっ!?
大体、私は素直でしょっ! 普通に素直でアンタにデレてないしっ!!」

『いや、デレてるでしょ。ほら、あの時とかその時とか』

「ふざけんじゃないわよっ! 私はそんな覚えないのよっ!! 大体、それらは何時っ!?」



とりあえず、それを見て俺はヴィータちゃんとスバルちゃんの方を見た。

見ると、二人はただひたすらに苦笑いをしていた。



「・・・・・・もしかしなくても、二人ともそうとう仲良し?」

「まぁ、その・・・・・・私がティアを見て焦っちゃうくらいには」

「色々と意気投合してるらしいです。アレですよ、似た者同士なんでしょ」

「そっか。それはまぁ・・・・・・アレだな、俺も感じてたわ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・やっさん、ティアナちゃんと無茶苦茶仲良しなの?」

≪ブルーガール、やたらとあのツンデレガールの名前出して気にしてたんだよな≫

「とりあえず、フォワード陣の中では恭文君と1番仲良しですね。どうも互いに距離感とかが合ってるみたいで」

「私達みんな、そこには驚いています。まさかここまで仲良くなるとは思わなかったので。
見ていると、エリオとキャロとも呼吸を合わせられるようになるまで、時間がかかっていましたし」





私達みんな、通信越しに言い争っている二人を見ながら感心するやら呆れるやら。

とりあえず・・・・・・ティアとは仲良しなんだよね。

うーん、やっぱり他のみんなと・・・・・・いや、これはやめておこうっと。



家族とか、友達とか一度剥がして見ないとダメなんだから。その、頑張りたいし。





「ティアナちゃんの勝気で突撃思考に走りやすい部分が気になった。
と言うより、やっさん口八丁手八丁に乗りかけたところかな。うん、そこは改善点だと思う」



・・・・・・確かにヤスフミはふざけていた。その発言のせいで、ティアは途中少し冷静さを無くしかけていた。



「でも、アレは無理ないんです。いろいろ際どい所を言われてたましたし。
ヤスフミは全く真面目じゃなかったし、スリーサイズバラされちゃうし」

「でもさ、戦いってのは綺麗事じゃないわけよ。ああいう性根の腐ったふざけた奴を相手にすることだってあるわけだし。
特にあの子は執務官志望でしょ? 犯罪者・・・・・・人間をメインに相手にしていくわけだし、よけい危ないよ」

≪姉御、ボーイが発言出来ないからって、思いっ切り言いまくりだな≫

「まぁね。でさ、アレはスリーサイズだったけど・・・・・・例えば他の事だったらどうする? 他に気にしてる事とかさ」



そう言われて、私はなのはとシグナム、シャーリーと顔を見合わせる。見合わせて・・・・・・少し考える。



「もっと言うとだ、あの子達はトラウマとかないの?
ここをツツかれたら激昂しちゃうとか、冷静さを無くしやすいとか」

「・・・・・・ヒロさんの言いたい事、分かりました。
あの調子でそういうトラウマ関係をツツかれたらマズい」

「もっと言うと、精神攻撃とかみたいな絡め手に、スバル達は弱いのですね」

「そうだよ。『希少価値でステータス』はアレだけど、そこは考えていくべきだと思った。
経歴も簡単に聞いたけど、みんなは実戦での人相手の経験が、圧倒的に少ないんだよ」

≪今やってる訓練、そこだけじゃ補えない部分があるのは俺も姉御も感じた。
全員揃ってすっげー資質の持ち主ばかりなんだし、完成形はもっと高くていいんじゃねぇのか?≫



確かに、そうかも知れない。でも、みんな鍛えてるし強くもなってるから大丈夫・・・・・・じゃ、ないよね。

段々涙目になってきているヤスフミを見ながら、私は思い出している。というか、みんな私を見ている。



「ここに一人、スバルやティアナ達より強いにも関わらず、精神攻撃で潰されかけた奴が居ます」

「あのシグナムさん、その話は」



なのはは止めようとするけど、それに構わずにシグナムは話を続ける。当然、その視線の先には私。



「こういう部分は、技量どうこうではなく経験により精神の研磨が重要になります。・・・・・・そうだな、テスタロッサ」

「・・・・・・はい。私です」





スカリエッティのアジトに乗り込んだ時、私は戦えなくなりそうになった。

母さんの事や、エリオやキャロの事、それに・・・・・・私自身の事やヤスフミの事。

それをあれこれ言われて、私は捕縛されかけた。自分が信じられなくなって、壊れかけた。



・・・・・・それで思い出した。あの時、私の目の前を通り過ぎた白い雷光を。

私は、ヒロさんを見る。あの色・・・・・・それに魔力反応。まさか・・・・・・ううん、ここはいい。

大事なのは、私が壊されかけた事。それで・・・・・・ヤスフミを、悲しませかけたことだ。



実はヘイハチさんにも、相当言われていた。それでもどこ吹く風じゃないと、いつか潰されると。

あの時はもっと強くなることだと思ってた。だけど・・・・・・違った。そういうことじゃ、なかった。

力じゃない、心だった。私の心は弱かった。自分を、今まで積み重ねてきた時間を信じる事が出来なかった。



生まれを理由に、過去を理由に、積み重ねてきた時間を嘘の言葉のために壊そうとしてしまった。

だからあの時私、負けかけたんだ。私は・・・・・・強くなんて、なっていなかった。

オーバーSのランクも、局員や執務官の立場も、魔力も何も役には立たなかった。



アレで痛感した。力や立場や権力では、心は守れないと。少なくとも、自分の心は。





「つまりヒロリス殿としては、完成形を高くするための改善策を出した方がいいと」

「そうですね。ここは元々気にしてたやっさんと同じくって感じです。ま、予想よりひどくなかったですけど」

≪でも、ボーイにかましてもらって正解だったな。見事に色々データ取れたしよ≫

『・・・・・・え?』



そして、当然のように私達の視線はヤスフミに向く。今の話の流れで、どうしてこの発言に繋がるか分からないから。



『・・・・・・・・・・・・とりあえず、後で話だから。アンタはどうも、私の事を色々誤解してるみたいなのよね』

「いや、してないから。もうティアナは素敵だって思って」

『そう、ありがと。でも私は素敵じゃないわよ? 『凄く素敵』なの』

「何っ!? その自信過剰な発言はっ!!」

『うっさいっ! 何でもいいから後でとっちめてあげるからっ!!
もう二度と私をツンデレって言わないようにしてあげるから、覚悟しなさいよっ!?』



そして、通信がようやく終わった。それでヤスフミが気づいたようにこちらを見る。



「ヤスフミ、話は聞いてたよね。今のヒロさんの発言にどうしてヤスフミの名前が出るのか、私分からないんだ。
同じって何かな。気になってって何かな。かましたって・・・・・・一体、どういう事なのかな。お願い、ちゃんと話して」

「・・・・・・あ、僕トイレに」

「だめ」



逃げようとしたから私はヤスフミに飛び込んで抱きしめる。

弾みでこうなっちゃったけど、ここは気にしない。



「お願い、ちゃんと話して。私は聞くし、何かあるなら力にもなるから」

「その前にこのハグの体勢はやめないっ!? 色々おかしいからっ!!」

「だめ」

「どうしてっ!?」



・・・・・・ちゃんと、今のヤスフミを知りたい。だからその・・・・・・心だけじゃなくて、身体も合わせる。

まず、私はここからなんだ。0から始める気持ちじゃなくちゃ、きっとどんどんズレていくから。



「あぁもう分かったよっ! 白状するから離れてっ!?
あの模擬戦のアレコレは、全部はやてに頼まれてワザとやったんだよっ!!」

「で、私とサリはアドバイザーね。いや、はやてちゃんから頼まれてさ」

『・・・・・・・・・・・・えぇぇぇぇぇぇっ!?』










はやてに・・・・・・ワザと・・・・・・・あの、どういうことなのっ!?





お願いだからちゃんと教えてっ!? 私、本当にワケが分からないのっ!!




















(第22話へ続く)




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