[携帯モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
幕間そのにじゅう 『ばとる・おぶ・えいせす/戦いは夜明けと共に・・・・・・の巻』



古鉄≪というわけで、幕間PSP事件の最終章です。みなさんおはこんばんちわちわ、古き鉄・アルトアイゼンと≫

フェイト「フェイト・T・ハラオウンです。・・・・・・うぅ、潰れたままで最終章なんて」

古鉄≪仕方ないじゃないですか。そういう脚本なんですし≫

フェイト「そういう言い方はメタだからだめだよっ!!」

古鉄≪とにもかくにも、事件はようやく最終局面に向かいます。
終わらない夜を終わらせたその先に、何があるかは・・・・・・何があるんですか?≫

フェイト「そこは、本編を読んでもらってだね。それじゃあ幕間そのにじゅう、始まります」

古鉄≪どうぞー≫




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と機動六課の日常


幕間そのにじゅう 『ばとる・おぶ・えいせす/戦いは夜明けと共に・・・・・・の巻』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・現時点で撃破したマテリアルは、二つだね』

「ということは、なのはとヴィータの方も片付いたんだな」

『うん。ただ、かなり苦戦したから二人とも相当消耗してる。
その前段階でガチにやっちゃってるしね。一度こっちに下がってもらって、休ませないと』



シグナムと二人でマテリアル捜索をしつつ思念体を片付けていたら、エイミィから通信がかかった。

そして、現状についての追加報告を受けている最中。・・・・・・しかし、なのはの方は二人がかりでそれか。



「この辺り、やはりなのはの形を象ったのが原因なのでしょう」

『そうだね。本物以上に砲撃を撃たれまくってたから。
アレだよ、アレなら魔王って言われても仕方ないと思う』



・・・・・・エイミィ、そこまでか? 僕とシグナムは、苦笑いしか返せないぞ。



『そうすると、現状で動けるのはクロノ君達とはやてちゃんとザフィーラにリインちゃん』

「それに、恭文とシャマルの組か。・・・・・・シャマルには、アースラに下がってもらった方がいいかも知れないな」





具体的には、疲弊したなのはとヴィータの治療だ。

この調子で行くと、マテリアル戦を行えば僕達は例外なく疲弊する。

とは言え、全部のマテリアルと思念体を停止させない限りは、絶対に止まれない。



その場合、絶対に全員が休息状態にならないようにローテーションを組みつつ、対処だな。





『そう言うと思って、もう連絡は出してる。はやてちゃんのチームと合流して、そこからチーム再編だね。
そう言えば・・・・・・恭文くんの思念体も、当然出てるでしょ?』

「あぁ。私達もついさっき遭遇したばかりだ。そうなると、やはり単独行動させるのは危険か」

『そうだね。真面目に味方同士での削り合いはご勘弁願いたいしなぁ』



シグナムと二人して、反省モードになる。その削り合いをやってしまった身としては、非常に居心地が悪い。



『特に恭文くんはマテリアルと戦闘直後だし・・・・・・あぁ、やばいなぁ。
下手に襲いかかったら、絶対加減せずに攻撃してくるよ?』

「アイツの性格からして、この状況ではよっぽどの事が無い限りは先制攻撃はないだろう。気を付けるべきはこちらか」



僕達の中でいち早く身内同士の削り合いを危惧した以上、今回はそれはない。

だが、僕達が攻撃を仕掛ける意志を示せば、話は別だ。遠慮なく・・・・・・クレイモアを撃つだろう。



『クロノ、エイミィ、ちょっといいかっ!?』

『アルフ、どうしたの?』



いきなり通信画面に割り込んできたのは、アルフ。慌てた顔で、画面の向こうの僕達の顔を見ているようだ。



『どうしたもこうしたも、ちょっと目を離した隙に、フェイトが飛び出しちゃったんだよっ!!
置き手紙でもう大丈夫だし、いい方法を見つけたとかなんとか書いてあってっ!!』

『はぁっ!?』

「あのバカ・・・・・・一体何をやってるんだ」

「言うな、シグナム。だが、いい方法とは一体なんだ?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・で、僕の所に来たと」



海鳴市街の上空。というか、山間。またまた遭遇したヤンデレ師匠(九人目)を倒した所に、フェイトがやって来た。



「うん。ヤスフミと一緒なら、問題ないと思うんだ。みんな納得すると思うし」





シャマルさんと顔を見合わせて・・・・・・僕は、困った顔しか出来ない。

だって、下がっててって言ったのに、出てきちゃうんだもの。

今更だけど僕は、フェイトが僕が飛び出して来た時に困った顔をする気持ちが分かったよ。



自分の事をさて置く形だけど、確かにこれは困る。というか、どうしたものかと思う。





「・・・・・・フェイト、その前にお話」

「え?」

「シャマルさん、悪いんですけどもう戻っててもらえますか?
フェイトと、二人でちゃんと話したいんです」



シャマルさんは僕とフェイトを見比べて・・・・・・静かに、頷いた。



「分かったわ。でもフェイトちゃん、私達が無理だと判断したら、絶対に下がって。それは約束して?」

「・・・・・・はい」

「うん、いいお返事ね。それじゃあ恭文くん、あとは任せるわね」



そのまま、シャマルさんの足元に翡翠色の魔法陣が展開。

そのベルカ式の魔法陣が回転して・・・・・・シャマルさんの姿が、消えた。



「・・・・・・僕の思念体が何言ったかは、雷刃の襲撃者から聞いたよ」

「雷刃の襲撃者? ・・・・・・あ、私の姿をしたマテリアルだね」

「そうだよ。試しに聞いたら、大体だけど知ってて教えてくれたよ。
フェイト、僕は・・・・・・謝らないから。謝る必要もないから」

「うん、分かってる」



生い茂る木々の中、フェイトは僕を見下ろしながら頷く。



「てゆうか、フェイトをバカだとも思ってる」

「・・・・・・うん、そうだよね。私、バカだよね。アレは、ヤスフミじゃないのに。
気にする必要もないことなのに、動けなくなったりして」

「そこじゃないよ」

「え?」



やっぱり、フェイトは勘違いしていた。だから・・・・・・それを訂正する。



「僕がバカだと思ったのは、それが大丈夫じゃないのに、ちゃんと大丈夫じゃないって認められない事だよ」

「・・・・・・えっと、あの」

「なんで、動揺した自分を認められないの? いいじゃん、動揺したって。止まりそうになったって、いいじゃん。
それが時たま悪になるってだけの話でさ。それ自体は、本当は悪いことでもなんでもないよ。・・・・・・だから、無理しないで」



フェイトの、左手を両手で取る。今のフェイトはバリアジャケット姿だから、左手にはガントレット装備。

ただ、それでも・・・・・・フェイトの手の温もりが伝わるから、不思議。



「そのまま無理し続けるなら、このまま帰って。今のままのフェイトじゃ、ぶっちゃけ足手まといだし。
でも、もしも・・・・・・ほんのちょっとでもそれを認められるなら」



見上げて、僕はフェイトに笑いかける。



「僕の思念体が言った事、嫌だって気持ちを受け入れられるなら」



笑いかけて・・・・・・フェイトの左手を、強く握り締める。



「一緒に、戦って。フェイトが怖いなら、痛いなら、僕が手を引くから。
・・・・・・僕だって、フェイトと同じく基本緩いヘタレキャラだしさ。それでも二人揃えば、何とかなるでしょ」

「・・・・・・それで、いいの? というか、ひどいよ。私、ヘタレなんかじゃないし」



そう言いながら、フェイトはやっと笑ってくれた。それが嬉しくて、手をまた強く握ってしまう。



「ヘタレでしょ。うっかり自由研究は忘れるし、この状況でハードボイルド通せないんだしさ」

「そ、そこを言われると非常に弱いです。・・・・・・というか、よくハードボイルドってこだわるよね」

「当然でしょ。こういう仕事してるなら、目指したい所だもの。それになにより・・・・・・かっこいい」










こうして、僕とフェイトは再び空を飛ぶ。少しの間だけ、手を繋ぎながら。





フェイトを独り占めにしてるみたいで、これはこれで・・・・・・嬉しいかも。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あの、ヤスフミ・・・・・・大丈夫?」

「大丈夫じゃない。さすがに14人目だし」



そう、またまたヤンデレ師匠に遭遇。それと対峙で退治したけど・・・・・・さすがに滅入る。

師匠ってだけでもそうだし、ヤンデレって言うのが更に滅入る。だって、普通に『ミンチにしてやる』だよ?



「なんだか私、自分が止まってたのが凄くだめに思えてきたよ。あの、あれは・・・・・・強烈過ぎるし」

「フェイト?」

「分かってる。もう無理はしないから。・・・・・・うん、大丈夫」

「なら、よろしい」



現在、海の上。というか・・・・・・もう1時間くらいで日の出になるんじゃないかという時間になってる。

現在までに、マテリアルはあの二人だけ。僕が遭遇した雷刃の襲撃者と、なのはの姿をした子。



「・・・・・・どこかに隠れてるのかな。私達の捜索から逃れるために。
ヤスフミ、私の姿をしたマテリアルは、私の人格ってわけじゃなかったんだよね」

「うん、全然違う。フェイトよりポジティブで、フェイトよりはっちゃけてて、フェイトより面白くて、フェイトよりノリがよくて」

「ごめん、お願いだからそういう言い方やめてくれるかなっ!? 何気に傷つくからっ!!
・・・・・・とにかく、違いはあるんだよね。あ、それはなのはの姿をしたマテリアルも同じだった」



フェイト曰く、なのは本人より落ち着いたですます口調で、戦闘者としての流儀を通す性格だったとか。

うーん、きっと本人が魔王だから、それを反面教師にしたんだね。会ってみたかったかも。



「そういう風にマテリアルには、私達とは違う独自の自我がある。それも、本当にきちんとした自我。
姿は同じでも、性格は全く違う。私達のコピーなんて片付ける事は、出来ないよ」



ちょっと意外な感じがして、僕はフェイトを見る。フェイトは、安心させるように僕に笑いかける。

・・・・・・もしかしてここに来たの、自分どうこうじゃなくて僕を心配してたから? そう、なのかな。



「それなら、どこかに身を隠しているというのは、考えられるよ」

「さすがフェイト、ヘタレでも執務官だけはあるわ」

「だから、ヘタレって言わないでっ!? 私、これでも・・・・・・つ、強いよ?」



後半がすっごい自信無さげっ!? うわ、ちょっとオロオロしてるのが可愛いとか思っちゃうしっ!!



「さすがに色々ダメ過ぎて、自信を持って言えないの」



・・・・・・心の中で、僕は静かに納得した。とりあえず、ダメだよね。自由研究を僕に頼るって時点で。



「でも、隠れてるとしたらどこにだろ」

≪あの雷刃の襲撃者や、他の思念体のような形でないのは確かですね≫

「そうだな。どこかに欠片やヤスフミとなのは達が遭遇したマテリアルとは違う、別タイプの結界を使ってるとかかな」

「かも知れないね。こういう場合、隠れてる人間の性格を考えるとか出来れば、やりやすいんだろうけど」

「行動パターンから、あらかたでも目星をつけるんだね。
・・・・・・うーん、私の姿をした子に、なのはの姿をした子でしょ?」



フェイトが、左手を口元に当てて考え始めた。この場合、お決まりパターンだともう一つ出そうなんだけどなぁ。



「例えば・・・・・・はやてとか」

「でもフェイト、他のを象ってる可能性もあるよ? クロノさんとかシグナムさんとか」

「あぁ、そうだね。そして性格が全く違う可能性もある。その場合だと」



フェイトと二人、頭を捻っていると音が響く。それは、通信のアラーム音。

だから僕達は通信を繋ぐ。すると、画面に映ったのはエイミィさん。



「エイミィさん、どうしました?」

『あのね、今はやてちゃんとザフィーラとリインが、マテリアルを一体撃墜した』

「「えぇっ!?」」



な、なんつうタイムリーなっ! 僕もフェイトもビックリしまくってるんですけどっ!!



「ちなみにエイミィ、その子は」

『・・・・・・はやてちゃんの姿を借りてた。ただ、性格は相当慇懃無礼で横暴だったらしいよ?
はやてちゃん達を指して『塵芥』とか、自分の事を『我』とか言いまくって』

「・・・・・・それ、どこの王様キャラですか?」

『それで、すごく弱かった。はやてちゃんと戦闘スタイルまで全く同じなのに、単独で戦うから』



はやては基本的に単独戦闘を考慮していない、後方支援型の広範囲攻撃魔導師。

それが王様キャラで単独・・・・・・で、ザフィーラさんにはやてにリインとフルボッコですか。



「そ、それは何というか・・・・・・逆に可哀想だよね」

『ごめん、私も不覚にもそう思った。とにかく、マテリアルは三体排除。
これで大分思念体の発生率も減少した。あとちょっとだよ』

「了解です。じゃあ、他のマテリアルも捜索しつつ、ヤンデレ師匠以外の思念体を排除していきます」

『・・・・・・そうだね。うん、それでいいよ。さすがにもうすぐ20人目になるしね。
とにかく二人ともお願い。あ、フェイトちゃんも無理しないでね』

「了解。エイミィ、ありがと」










そして、僕達はただひたすらに思念体をぶっ潰して行く。ひたすらにぶっ潰していく。





だからこそ、僕は1時間後。夜明けが見え始めた時・・・・・・頭を抱えるわけですよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・フェイト、ヤンデレ師匠、何人目だっけ」

「あの、えっと・・・・・・最初から数えると、30人目?」

≪普通に、あれから連続で引きましたよね。さすがに私も段々嫌気が差してきてるんですけど≫

「だぁぁぁぁぁぁぁぁっ! なんでこれっ!? ヤンデレ師匠の顔なんて、もう見たくないのにー!!」



思わず両手で頭を掻きむしるのは、決して罪じゃない。というか、ありえない。普通にありえない。



「あぁ、ヤスフミ落ち着いてっ!? ハードボイルドハードボイルドッ!!」

「それでもコレは無理ー! いい加減ノイローゼになるっつーのっ!!」



もうヤンデレ師匠専門って言っていいくらいに倒してるよ。

それに見合う数だけ『ミンチにしてやる』って言われてるよ。



「・・・・・・フェイト、思念体の出現頻度は下がってるんだよね」

「うん」



とりあえず、ちょっと足を止める。てゆうか、もう怖い。

次入ってまたヤンデレ師匠だったらどうしようかと思うもの。



「つまり、下がってはいるけど停止はしていない。そうなると・・・・・・あぁ、まだ居るんだ」

「だと思う。中核になるマテリアルが、どこかにあるんだよ」



つまり、僕達はそれを倒さないとどうにもならないのよ。そして、ソイツは・・・・・・どこっ!?



「くそ、早く出てこいっ! ソイツ潰して、普通に『ミンチにしてやる』地獄から抜け出したいんだよっ!!」

「そうだね。私ももう・・・・・・ちょっと待って。全体通信かかってる」

『みんな、聞こえるっ!? 思念体達が・・・・・・一箇所に移動を開始してるっ!!』

「「はぁっ!?」」



僕とフェイトは、同時に驚きの声をあげた。あげたけど、すぐに納得した。

思念体の核となるマテリアルを、僕達はずっと探してたから。つまりこれは・・・・・・核が動き出したんだ。



「場所は、私達のすぐ近くだね。もしかしたら思念体を一気に集めて、その・・・・・・何かしようとしてるのかも」



フェイトが、口ごもるようにそう言って来た。でも、ちょっと気になってる。

フェイトだけじゃなくて、シャマルさんもエイミィさんもリンディさんも、何か隠してる。



「なら丁度いい。こういう活動に出てきてるって事は、いわゆる『最後で最大な作戦』ってやつだよ」

≪これを止めれば、私達が王手を取れると。分かりやすい展開ですね≫

「そ、そういう言い方は・・・・・・あ、でもそうなのかも。ならヤスフミ」

「うん、行こう。・・・・・・エイミィさん、そっちは僕とフェイトがいきます。つーか、これで全部終わらせてやる」










・・・・・・キーワードは『闇の書』と『師匠達守護騎士メンバー』。そして『八神はやて』。

多分、これにフェイトやなのはも関わった。だから、一緒にその思念体まで出てる。

永遠の闇・・・・・・プログラム・・・・・・そして、春にイギリスで聞いたロストロギアの話。





これらを総合すると、一つの可能性が導き出される。そして、多分次の相手で・・・・・・それが、確かめられる。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



海鳴の街の上空。その結界の中に居たマテリアルは、一人の女性。

黒い上着にインナーにスカート、片足だけのハイソックス。

そして、背中にある黒い四枚の翼。身体を戒めるような赤い刺青。




銀色で腰まである髪を靡かせながら、つや消しの赤い瞳は、ただ・・・・・・ただ悲しげに街を見ていた。










「・・・・・・フェイト、悪いんだけど一人でやらせてくれないかな」



答えは、出た。僕の中で何かがしっかりと固まって・・・・・・だから、決めた。

一人で戦うと。これは僕の戦いだから、しっかりと受け止める。



「ダメだよ。アレは・・・・・・あの人は、私が止める。だからヤスフミは」

「答えは聞いてないから」



それだけ言って、真っ直ぐにその人の前に飛ぶ。フェイトは・・・・・・結局ついて来てる。

その人は、僕を見ている。・・・・・・あぁ、やっぱりなんだ。なんとなく、予感はしてた。



「・・・・・・管理局の魔導師か?」



その声はあの時と同じ。でも、決定的に違う事がある。それは絶望。

今のこの人を支配しているのは、絶望。あの時夢で見たあの人には、それはなかったのに。



「そうだよ。・・・・・・管理局本局執務官の、フェイト」

「違うよ」



フェイトの言葉を遮るように、僕は首を横に振りながら言い放つ。



「こっちのお姉さんはともかく、僕は管理局なんかに自分を預けた覚えはないし、預ける予定もない。
僕は、僕だ。妙な勘違いはやめてもらえると助かるんだけど?」



フェイトの顔は見えない。だけど、表情が曇ったのはなんとなく分かった。



「そうか。では、管理局の人間でもないお前が、なぜここに来た」

「素敵なレディが一人、朝焼け見ながら黄昏てるんだもの。
男として優しく声をかけるのは当然でしょ。てか、なんでそんな悲しそうなのさ」

「悲しくなど、ない。そんなもの、とうに感じる心など無くしてしまった」

「そう。なら、もうちょっと直球で行こうか。・・・・・・何を、してるの」

「闇の書を復活させる。いや、もうその時は来た」



・・・・・・やっぱり、闇の書か。このワードがまた出てきた。



「私はまた殺す。ようやく巡り合えた優しい主のはずなのに。
苦労をかけてばかりの騎士達に、何も報いる事も出来ずに、また殺す」



誰のことを言っているのか、分かった。・・・・・・うん、今の僕なら分かる。

そのためのピースは、揃ってるんだから。さすがに脳筋でも分かるのよ。



「そうだ、私は止まれない。足りない身を、力を補う事を止められない。私は・・・・・・また殺す」

「殺さないよ」



僕は、ゆっくりと身体を伏せる。伏せて・・・・・・アルトの柄に手をかける。



「アンタは僕がここで止める。だから、アンタはもう・・・・・・何も殺さなくていい。
いいや、アンタはきっと何も殺してなんかない。少なくとも、その『優しい主』と騎士達は」

「嘘をつくな。お前にこの呪いが、闇の書の長き時間を止められるハズがない」

≪止められますよ。この人がそう決めたのなら、絶対に≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



”・・・・・・フェイトさん、下がっててもらえますか。てゆうか、あなた邪魔です”



アルトアイゼンから、突然にそんな念話がかかって来た。だから、当然のように私はそれに首を横に振る。



”だめ、出来ないよ。だってヤスフミは”

”もう気づいてますよ”



あまりにもあっさりと、普通に言われて、私は次の言葉を繋ぐことが出来なかった。



”あなたが来る前には、大体の事情を察するだけのカードは揃っていました。
気づかせたくなかったら、対処なんてさせない方が良かったですね”



確かに、そうかも知れない。思念体のヴィータやはやて、あとはマテリアルとの遭遇。

それでヤスフミは、何度も『闇の書』というワードを聞いてる。あと、春先の一件で事件の概要も。



”だから、この人はもう気づいています”



はやてが過去に所有していたロストロギアの事や、それに連なる事件の事もしっかり。

それでも、今までは大丈夫だった。でも、ここに来て加速度的にピースが揃ってしまった。



”あなたや私が隠している事を。この人、恐ろしい程に勘がいいですし。
そして、ダメ押しが彼女・・・・・・初代リインフォース。いえ、闇の書の管制プログラム本体の登場ですよ”





そう、今私達の目の前に居るのは、闇の書の管制プログラムだった時の、初代リインフォース。

多分、闇の書事件の時・・・・・・あのクリスマスの日の夜、闇の書が覚醒した時の記憶が形になってる。

だから、こんなに悲しげで寂しげで・・・・・・後悔の気持ちに溢れてるんだ。



やっぱり、途中で止まってたのは失敗だった。本当にヤスフミには関係がなかったのに、巻き込んでしまった。





”でも、アルトアイゼン”

”お願いします。・・・・・・この人は、自分で真実を掴むと決めました。
その邪魔をされたくないんです。あなただろうが、誰だろうが”










・・・・・・・・・・・・私は、ヤスフミの友達で仲間で、家族。だけど、今回やこの間はダメなことばかり。

それだけじゃなくて執務官で、局員の立場も・・・・・・それなりに発言権とかもある。

魔導師としても、それなりに強い方だと思う。ヘイハチさんやファーン先生には負けるけど。





でも、それでも・・・・・・戦う気持ちを固めたあの子の力になれない。それが凄く悔しかったりする。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ヤスフミ、任せていいんだよね」

「うん。・・・・・・てゆうか、任せてくれるの?」

「言っても聞かないのは、分かってるもの。でも、ダメな時は飛び込むから」



僕は、右拳を握りこむ。そうして、フェイトの前に差し出す。

フェイトは、ビックリしたようだけどすぐに笑って・・・・・・同じようにして拳を出す。



「私、信じてるから」

「うん」



それで、僕達は互いの拳を軽くぶつけた。それだけで、充分だった。

フェイトは、僕から少し離れる。だから、ホントに・・・・・・余計だけど、一言だけ。



「・・・・・・ありがと」



フェイトは頷きながら、そのまま上空に飛んでいく。その場に居るのは・・・・・・僕と、目の前のあの人だけ。

いや、あの人の記憶が形作った存在。まさか、こんな形でまた会えるとは思ってなかった。



「どけ。これ以上・・・・・・近づくな」



言いながら、その人は右拳を引く。引いて、腰だめに構える。

右手を包むのは、黒い魔力。それだけでも、相当なプレッシャーを感じる。



「嫌だよ。僕は・・・・・・アンタを止めなくちゃいけない。絶対の、絶対にだ」





僕は、身をかがめて・・・・・・一気に前に飛び出した。

あの人は右拳を。そして、僕はアルトを右薙に叩き込んだ。

魔力に包まれた拳と、銀色の刃は衝突して衝撃を撒き散らす。



一瞬の拮抗の後、それらは交差する。僕とあの人も同じように交差。

時計回りに身体を回転させながら、素早く振り向く。あの人は・・・・・・ゆっくりと。

手応え、そうとう重かった。素手で師匠レベルの攻撃可能って、また強いなぁ。



アルトを正眼に構える。その人は、右手をかざした。

その周囲に手を包んでいた魔力と同じ色の短剣が生まれる。

これ、リインのフリジットダガーと同じだ。・・・・・・やっぱりか。



やっぱり、同じなんだ。頭の中で、戦いながらも色々なピースが結びつく。

あと一つ、足りなかった。でも、これで全部揃った。だから、一つのパズルが完成する。

今日あった全ての出来事の中で見つけたピースで構築される、真実という名のパズル。



それが、少しずつ形になっていく。・・・・・・僕は、口を歪めて笑った。





「いけ」





短剣達が、僕に向かって一斉に放たれる。というか、掃射される。

撃ち出した瞬間から、次の弾丸を補充。もうどこぞのガトリングの如き連射。

僕は、左に飛んでそれを避け続ける。短剣達は、僕の軌道の跡を貫き続ける。



外れた短剣達は、近くのビルに激突したり、あらぬ方向に飛んでいったりする。

回避しながら、あの人を見る。やっぱり、印象の違いは拭えない。

拭えないながらも、僕は魔法を一つ発動。ここで迷ってる暇はない。



フェイトが信じてくれて、拳を通して気持ちを伝えてくれたんだ。負けるわけにはいかない。





≪Stinger Snipe≫



放つのは、青い閃光。スティンガーは、掃射される短剣の軌道上から外す。

ようするにまず一旦下に撃つ。撃って、そこから誘導。



「スナイプショット」



下から上に、一気に直球勝負。スティンガーは高速で空気を斬り裂く音を立てながら、あの人へと飛ぶ。

それにあの人は気づく。だから、短剣を一本下に生成して、撃ち出した。

だけど、それすら貫通してスティンガーは迫る。仕方なくあの人は、身を後ろに下げた。



攻撃を一旦中断して、少しだけ後ろに。そこを狙って、もう一つ魔法発動。





≪Sonic Move≫





身を包むのは、青い閃光。僕は一気にあの人の後ろへと飛び込んだ。

アルトを唐竹に叩き込むと、背中に黒いベルカ式魔法陣。というか、シールド系魔法。

あっさり・・・・・・防がれたし。てーか、無駄に硬いんですけど。



それでも斬ろうと力を込める・・・・・・前に、僕は後ろに下がった。

眼前を通り過ぎるのは、黒い短剣。さっきの僕と同じようにしてきた。

あの人は、その間に振り返りながら左拳を握り締める。そして、魔力を込める。



当然のように、僕を狙って拳を叩き込んだ。僕は・・・・・・右足で空中を踏みしめる。





「飛天御剣流」

≪Blitz Rush≫



踏みしめて、身体を反時計回りに回転。そうして、あの人の攻撃を避けつつサイドを取る。

なお、ブリッツラッシュの使用で身体の動きを高速化。アルトも、鉄輝一閃で青く染まっている。



「龍巻閃もどきっ!!」





僕は、一気に首筋を狙って攻撃を叩き込む。その剣閃を、あの人は局所的にプロテクションを張って防ぐ。

だけど、それは一瞬。僕はプロテクションごとあの人の首をぶった斬る。・・・・・・でも、斬れなかった。

その一瞬の間に、あの人は頭を下げて僕の斬撃を避けた。避けて、そのまま身体を回転。



左足の踵で、僕の腹を蹴り飛ばした。僕は、後ろに体勢が崩れる。更に左足を掴まれる。

掴まれて・・・・・・思いっ切りぶん投げられた。ぶん投げられて、僕は近くのビルへと叩きつけられそうになる。

いや、それだけじゃない。あの人の周囲にまた短剣が大量生成。一気に発射された。



身体を回転させて、激突前に一旦停止。ジガンのカートリッジを1発ロードしてから、魔法を発動。





≪Axel Fin≫





両足に、蒼い翼が生まれる。僕はすぐに右に移動。そうして、短剣の掃射を避けた。

ビルの壁を、短剣達は貫いて蜂の巣状態にする。あそこに居たら・・・・・・僕も同じくだよ。

避けて、一旦停止。あの人は・・・・・・ただ、僕をジッと見下ろしている。



ヤバいな、普通に強いし。下手すると、雷刃の襲撃者よりも上かも。





≪左腕一本がやっとですか≫

「うん、かなりギリでね」





あの人は左腕から、確かに血を流している。うん、投げられる時に咄嗟にアルトで斬ったのよ。

でもこれ、急所狙いで殺すつもりでやらなきゃダメかな。だったら・・・・・・エンジン、かけるか。

意識を集中させる。そして、心の中の鎖を噛み砕く。その瞬間に溢れるのは、力。



身体を、心を満たすのは、眼前の敵を打ち砕くための力。それを強く、アルトに込めていく。





「もう、終わりだ。悲しみも、痛みも、全て闇の中に消える」

「消えないよ。・・・・・・アンタが守りたかった時間は、全部今に繋がってる」



僕はそう言い切れた。この人が一体何を悲しんでいたのか、分かるから。

あの人が殺すと言った対象が誰か、もう分かってるから。



「その時間のおかげで、僕はここに居る。アンタは、ただそれを知らないだけだ」



そう、知らない。きっとそれを知る前の記憶が、今のあの人だから。

だから絶望して、泣いている。殺したくないのに殺してしまうと、恐怖で泣き叫んでいる。



「繋がらない。繋がるはずがない。私は・・・・・・現にこうしてここに居る」



涙は、心の中で流れ落ちる。その色は透明ではなく赤。言うなら、血の涙。

傷つけたくないのに傷つける。そんな恐怖から流れる血の色。僕は・・・・・・その色を、少しだけ知ってる。



「眠ることすら許されず、私はここに目覚めた。目覚めて、再び闇になろうとしてる」



言いながら、左手をかざして砲撃をぶっぱなしてくる。僕は、右に避ける。

僕の真横で爆発が巻き起こり、ビルが一つ倒壊した。



「もう止められない。誰にも・・・・・・誰にもだ」

「・・・・・・グダグダ抜かしてんじゃねぇよ」



声は低く、鋭いもの。それにあの人の目が見開いた。



「僕がアンタを止めると決めた。そんな時間も、悲しみも、壊すと決めた」



あの人の頬を濡らす赤い血の色を、その痛みを少しだけ知ってるから、そうすると決めた。

やらない言い訳なんて、人に任せる理由なんてない。これは、僕がやらなきゃいけないことだ。



「泣き言言ってねぇで、歯ぁ食いしばってろ」

「・・・・・・何故だ。何故、そこまで言い切れる」

「そんなの決まってる」



アルトの切っ先をあの人に向ける。そして僕は、不敵に笑いながら言い切る。

せっかくなので、あの子が考えてくれたネーミング、使う事にした。



「僕が・・・・・・僕達が、古き鉄だからだ。僕達の『鉄』は、闇なんかじゃ砕けないのよ」





アクセルフィンを羽ばたかせ、ただ前へ。すぐさま放たれる短剣達を、右から回り込むようにして回避。

朝焼けに染まる空の空気を、切り裂くくようにして、ただひたすらに加速。

短剣達は、そんな僕を追いかける。だけど僕は、尾してくるそれらを振り切る。



アクセルフィンでの加速、そんなのじゃ追いつけるわけがない。その加速のまま、僕は前に突っ込む。

前には、当然あの人。あの人の左サイドを取って、僕は零距離に踏み込む。

あの人は右拳を握り締め、僕に叩きつけてくる。・・・・・・そして、僕は上に飛んだ。



あの人は、腕を伸ばしながら手を開いた。その手の平には、黒い砲弾。

それは一瞬で砲撃となり、僕がそれまで居た空間を突き抜けた。

あの人の上を飛び越えるようにしながらも、魔法を発動。





「クレイモアッ!!」





真上から放たれるのは、青い散弾。それをあの人は、咄嗟にベルカ式のシールドを張って防御。

散弾は全て防がれて・・・・・・いや、数発跳ね返って、僕の太ももや頬、左の二の腕を掠めた。

なお、思いっ切り貫かれるのはない。こういうこともあろうかと、ある程度威力は抑えめにしてるもの。



それでも僕はその人を飛び越えて、後ろを取る。渦巻く爆煙と盾の下に、あの人は居た。

踏み込もうとしたその瞬間、僕は後ろに下がった。下から、先程放たれた短剣達が襲ってきた。

いや、後ろに下がる僕の右と左、そして上から残りの短剣が追撃をかける。



僕はスレスレでそれらを避けながら、後ろに下がり続ける。

せっかく詰めたあの人との距離が、どんどん開いていく。

短剣達は、軌道を変えてそのまま僕へと迫ってくる。



なので、後ろに飛びながらも魔法を発動。左手に、魔力スフィアを生成。



ジガンのカートリッジを3発ロードして、僕は下がりながらも一撃放つ。





≪Icicle Cannon≫

「ファイアッ!!」





蒼い凍れる砲撃は、真っ直ぐにあの人に向かって飛ぶ。

その奔流の中に短剣達が飲み込まれ、爆発を起こす。

あの人は・・・・・・またシールドを展開。それで僕の砲撃を防いだ。



・・・・・・機動性や手数で圧すタイプじゃない。防御をしっかり固めて、火力の高い砲撃やナックルで潰す。

短剣による攻撃は、相手の自分への攻撃持続時間を縮めるためのものなのかも。

そうして、ペースを自分の方に持っていく。決め手にならなくてもいいとか、思ってる。



どっちかって言えば、なのはタイプか。普通にバインド系を使ってくる可能性も・・・・・・うわっ!!

言ってる側から、すぐかけてくるしっ! 四肢に黒い輪っか・・・・・・げ、砲撃体勢っ!?

僕の動きはバインドによって止まり、今ならどんな攻撃も可能。だから、あの人も動く。



右手を上げ・・・・・・さっきから左手動かしてない。つまり、あれで腕がダメになってるのか。

僕が色々気づいた間にあの人は、躊躇い無く僕の方に砲撃を撃つ。再び迫るのは、黒い奔流。

だけど、甘い。・・・・・・黒いバインドは、すぐに砕けた。僕は、右スレスレに飛んでそれを避ける。



あの人が僅かに驚いた顔をする。でも、そこが隙。その瞬間には、僕は光と化している。





≪Sonic Move≫



一瞬で、あの人の背後を取る。あの人は咄嗟に後ろにシールドを張る。



≪Sonic Move≫





すぐに次のソニックムーブを発動。僕はあの人の眼前に居た。こちら側にシールドは、ない。

続けて左手を動かして、鋼糸であの人を縛り付ける。鋼糸は、あの人の動きを一瞬で戒めた。

僕はあの人に一気に体当たり。右手のアルトを、あの人へと突き立てる。



刃はあの人の腹を易々と貫き、その身体を貫通。あの人が、痛みで顔を歪めた。





「・・・・・・かは」





あの人は僕の身体ごとの突撃に圧されるようにして、下に落下する。僕も同じく。

その落下先には、ビルの屋上。僕は・・・・・・魔力集束をスタートさせる。

刃には、蒼く輝く星の光が降り注ぐ。ここで一気に決める。いや、決めようとした。



だけどあの人は、それを見て右手を強く握り締めて・・・・・・腕を振るう。



力ずくで無理矢理に、鋼糸の輪を広げようとする。いや、引きちぎろうとする。





「ぐぅぅぅぅぅ・・・・・・!!」



その身を鋼糸に、腕やジャケットを切られ血が出ても、あの人は動きを止めない。

僕の集束とあの人の力押し。どっちが強いか・・・・・・すぐに分かった。



「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





集束開始から10秒。鋼糸は全て引きちぎられた。そしてあの人は、即座に右手を僕の胸元に当てる。

その手の平には、黒の魔力スフィア。もうここからどうするかなど、言うまでもない。

僕はあの人を蹴り飛ばして、無理矢理に距離を取る。蹴る時に、徹を叩き込むのを忘れない。




アルトの刃が、赤い血に染まりつつもあの人の身体から抜ける。

その間にも、スフィアは大きくなっていく。だから、当然のように対処。

蹴るために伸ばした右足を上に動かして、下からあの人の右手を蹴り上げる。



それにより、射線軸がズレた。あの人の砲撃は、蹴り上げた瞬間に放たれた。

でも、黒い奔流は僕に命中することなく、真上を通り過ぎていった。

シールド系防御じゃ、攻撃が防げるかどうか分からなかった。



だからイチかバチかでやってみたんだけど、成功した。とにかく、すぐに移動・・・・・・いや。



その刹那の間に、10本の短剣が僕の周囲に発生していた。





「消え、ろ」



あの人は、落下しながらもそう呟く。その言葉が、トリガーだったのかも知れない。

そして、それが次々発射される。僕は、その場でアルトを・・・・・・いや。



≪Stinger Ray≫





スティンガーを自身の周囲で螺旋状に回転させて、次々と撃ち落としていく。

逃げるための死角は、存在しなかった。だけど、迎撃出来なかったものが僕の身体に突き刺さる。

ジャケットのおかげで浅くではあるけど、右の太ももや右肩、背中に刺さった。



そして、刺さったのは3本。その3本が、小さな爆発を起こした。それに顔をしかめる。

しかめている間にあの人は・・・・・・僕の目の前に居た。そして、右拳を伸ばしていた。

右手の平にあるのは、今までよりもずっと大きな魔力スフィア。それは、僕に向かって放たれた。



僕は、零距離でその砲撃に向かってアルトを叩き込んでいた。

アルトは、僕の斬撃は、その砲撃を真っ二つにする。

砲撃の余波で、僕の髪をポニーにしていたリボンの一部が破ける。



破けて、後ろへとそのまま流され、砲撃に飲み込まれる。だけど、僕は踏みとどまる。





「・・・・・・バカな」





あの人が驚きの声をあげる。僕が自分の砲撃を斬っているのが、信じられないらしい。

そりゃ、そうだよね。しっかりと命中させるために、わざわざ僕の射程距離に飛び込んだんだから。

バインドは、僕には通用しない。だって、瞬間詠唱・処理能力のおかげで、瞬間解析と破壊が出来るんだから。



短剣も致命傷にはならない。かと言って、普通に遠距離から砲撃もアウト。避けられちゃうもの。

だから、零距離攻撃を選んだ。でも、ミスジャッジだ。こういう事もあろうかと、手札は残しておいた。

スターライトの集束開始から10秒・・・・・・マジモンのスターライトを使うには足りない。



だけど、それでも力は得られた。赤い血は、あの人からあるものを隠した。

その血が隠したものは、一つの力。そしてその血も、砲撃の衝撃によって全て吹き飛んだ。

今のアルトを包み込むのは、紛れもない星の光。あの人が・・・・・・僕に渡してくれた力。



これが、僕が用意出来た切り札。これを消耗させたくなくて、さっきはスティンガーにした。



だから斬れる。僕が斬りたいと願うから。今を、覆したいと願うから。





「・・・・・・星花」



躊躇いも迷いも、全てを引っくるめて・・・・・・敵を倒すために、僕は星の光の刃を振り下ろした。



「一閃っ!!」





瞬間的に生まれたのは、蒼い極光。それが砲撃を全て吹き飛ばす。そして、刃はあの人へと迫る。

その刃はあの人の肩口を捉え、そのまま縦にあの人を斬り裂いた。

身体に刻み込まれた斬撃は、あの人の肩から胸元のまでのジャケットを破く。



流石に全部じゃない。閃光が刻み込まれた周辺のジャケットを吹き飛ばした。

そうして乳房の一部を露出させるけど、そこは気にしない。大事なことは、ここじゃない。

攻撃がちゃんと通った事だ。だからあの人は、静かにその場で崩れ落ちる。



僕はと言うと、砲撃の余波やらでジャケットはあっちこっちボロボロ。

何発か攻撃も食らってるから、その箇所からは血も出てる。でも、大丈夫。

重要臓器とかはやられてないから、この場でダウンって程じゃない。うん、まだいける。





「・・・・・・ばかな。この、私が」



あの人の両足が、白く染まり・・・・・・僅かに砕けた。そこから少しずつ、崩壊が始まる。

どうやら、アレで決め手になったらしい。正直、それはちょっと助かってる。



「いくら魔導も自動修復機能も不完全とは言え・・・・・・こんな、子どもに」

「それでも、勝ちは勝ちだ。・・・・・・言ったでしょ? 僕の鉄は、闇じゃ砕けないってさ」



その人は納得したように、笑った。そう、ようやく笑ってくれた。

どこかに悲しみを含んだ笑いだけど、それでも・・・・・・うん、それでもなんだ。



「そのようだな。お前は、強いのだな」

「強くなんてないよ。僕は・・・・・・強くなんてない。アンタと、変わりない」



警戒を緩めずに、僕はあの人を見る。崩壊はまだ続く。足元から膝、膝から太もも。

あの人の露出した一部分に視線を向ける余裕もなく、ただ短い時間の間に言葉は続く。



「でも、譲れないものがある。諦めないために、張りたい意地があるの。・・・・・・男の子だもの」

「・・・・・・それを強いと言うのだ。まぁいい、これもまた夢。そう、一時の夢だ」

「そうかも知れないね。でもさ、夢じゃない事もある」



あの人は、僕を見上げる。だから僕は・・・・・・ニコリと笑って、言い切ってやる。

・・・・・・崩壊は、腰から豊かな胸の下にまで来た。というより、腕や髪も中程まで崩れてる。



「アンタが守りたいと思った人達も、仲間も、今はみんな笑ってる。それは、間違いないんだ。
それだけは、夢じゃない。誰も夢になんて・・・・・・したりしない」

「そうか」

「それと、素敵なものも見させてもらったしね。夢にするには惜しいよ」



軽く言うと、僕はある箇所に目を向ける。あの人も、視線を下に落とす。

そこには、豊かな乳房。斬撃のせいで、その白い肌の一部が線のように露出している。



「・・・・・・私は、それほど綺麗ではないぞ? お前には計り知れぬほど、穢れている」



また、少しおかしそうに笑ってくれた。言葉の悲壮さを感じさせないくらいに、優しく。



「綺麗だよ。凄く綺麗で・・・・・・凄く好み」

「なら、素直に受け取っておくことにする」



露出されていた綺麗な胸が、破片になっていく。そしてすぐに、首に到達した。



「だが、あの温かな時間は夢にならないのだな」

「うん」

「それを聞いて安心した。・・・・・・本当に、安心・・・・・・した」



穏やかな声を上げながら、あの人の全ては破片になった。

破片は風に舞い散り・・・・・・夜明けの空に流れていった。



≪・・・・・・ちょっとした間に、ボロボロになりましたね≫

「そうだね」

≪そして、思念体まで口説くってどんだけですか≫

「何言ってるの? 口説いてなんてないよ」



あっさりフラれて、逃げられちゃったしね。何より僕は、フェイトが本命♪



「とにかくこれで、終わりかな」

≪まだマテリアルが無ければですが≫



あー、その問題が・・・・・・そう思っていた時、通信がかかった。

アルトが繋いだのか、画面がすぐに展開する。そこには、リンディさん。



『恭文君、聞こえる? ・・・・・・思念体が次々と消滅しているそうよ』



静かな声で、ただそれだけを言った。それで、全てが分かった。



「なら、これで全部ですか」

『えぇ。これで全部。あなたが倒したのが、マテリアルの最後の一体だったようね』

「ですね。・・・・・・リンディさん、お疲れさまでした」

『それはあなたの方でしょ? とにかく、すぐにアースラに向かって。傷の治療をしなくちゃ』

「はい」










でも、その前に・・・・・・やる事がある。僕は、上を見上げた。

見上げた遠い先に居るのは、一人の女の子。泣きそうな顔で、僕を見ていた。

見ながらも、真っ直ぐに僕に向かって飛んでくる。当然、それはフェイト。





僕は、左手を上げて、痛みを我慢して精一杯笑う。笑って・・・・・・手を振る。





大丈夫だと、精一杯にアピールする。もうこれ以上、泣いて欲しくなんてないから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・こうして、闇の書の欠片事件は終息した。あれから1週間程、集中して海鳴の観測が行われた。

その理由は当然、思念体の更なる発生が無いかどうかのチェック。

一応は終息したというだけで、また再発生する可能性はあったから、そのためにだね。





だけど、思念体の復活の気配は無かった。それで警戒態勢は緩和。

以後は母さんやアルフ、地球に居る局のメンバーによって観測は継続。

だけど、もうすぐそれも解除される。突然起きた事件は、もうすぐ本当に終わりを迎える。





だから私も、休日をのんびり自室で満喫出来たりする。こうやって日記なんかも書けたりする。

あと、今回の騒動の発端となったガイアメモリに関しては、あれから少し動きがあった。

ガイアメモリは局による厳重な管理と、更なる徹底した封印処理が決定。原因は当然、今回の事件。





『土地の記憶』というものが、世界全体に存在している可能性は決して低くはない。

もしそこでまた今回確保したもの・・・・・・いや、同様の物が発動したら大事になるというのが、局の判断。

なお、この話を聞いた時ヤスフミはすごく嬉しそうだった。・・・・・仮説、立証されたしね。





それでそのヤスフミは、結局今回の事件の中で1番のけが人となった。事情は何も知らないのに。

それで・・・・・・あれからヤスフミは何も言わない。私にもそうだし、はやて達にも。

事件の中で色々と気づいた事、アルトアイゼンがあの時言ってたみたいに、間違いなくあると思うのに。





だからはやてもなのはも、母さんもアルフもクロノも、もちろん私も何も言わない。

ヤスフミの事だから、色々気遣ってくれてるんだろうなと、ちょっと思った。そういう子だもの。

あ、もちろんヤスフミの怪我はもう完治してる。幸いな事に、どれもこれも急所を外れてたから。





あと、あの不完全版スターライト使用の影響もない。ただ、やっぱり禁止技にはした。

確かに鉄輝一閃や氷花一閃よりも威力はあるけど、それでもスターライトはスターライト。

負担が全くかからないわけじゃないから。ヤスフミはちょっと残念そうだったけど。





スターライトが頻繁に使えない以上、切り札として欲しかったって言ってたから。

うーん、クレイモアや鉄輝一閃や御神流の技だけじゃ不十分なのかな。私はかなりだと思うのに。

ヤスフミ、魔法や技術に対して貪欲というか、探究心が強い所があるから、そのせいなのかな。





それで私は・・・・・・今回の事で、将来の方針を決めた。私、中学を卒業したら局員一本に絞る。

学校は中学まででおしまいにして、局の仕事・・・・・・執務官を一生の仕事にしようと思ってる。

執務官として経験を積んで、もう今回の一連のアレコレみたいな事がないように自分を磨く。





今はNGな長期出張も受けたりして、沢山頑張れば・・・・・・きっとそれは可能だと思うんだ。

本当は、アリサやすずかと一緒に高校に通うのもいいかなとか考えていた。

なのはやはやてとも、あれこれ話していたんだけど・・・・・・でも、やめた。





今の私はきっと中途半端。だって、自由研究も忘れちゃうんだもの。なんだか、気づいたんだ。

このまま高校に通っても、きっと中途半端なままなんじゃないかって。

もっと一本に絞った方がいい。それで、色々考えた。クロノや母さんにも相談した。





そうして私なりの現実との関わり方を、大人のなり方を考えた。私が進みたい道を考えた。

それで私は・・・・・・今までより本気で、執務官の仕事をしたいと思った。局という組織の中で生きたいと思った。

今よりもっとちゃんとした形で局の中で居場所を作って、腰を落ち着ける。





そこで自分の仕事を、責任を通す。そうやって少しでも早く大人になる。それが私の答え。

それであの時、ヤスフミの救援に間に合わなかった私も、戦えなくなった私も変えていく。

私の居場所の中で、私自身を強くすれば・・・・・・あの子の事、守れるんじゃないかって思うんだ。





そして、もっと信じてくれる。私もそうだし、局の事だってそう。今は嫌いかも知れないけど、きっと変わる。

・・・・・・そうだな。きっと私、ヤスフミやヤスフミみたいな子に、もっと信じて欲しくて頑張りたいんだ。

ヤスフミが局を嫌いな感情は、きっと特別なものじゃない。世の中には、きっとそういう人が沢山居る。





だけど、それを覆していきたい。それでもし、何も信じられなくて悲しい想いをしてたら、助けになりたい。

・・・・・・でも私一人じゃ、ヤスフミ一人もやっとかも知れない。現に、色々ぶつかったりしたこともある。

沢山の人なんて絶対に無理だろうけど、母さんやクロノ、なのは達と一緒になら、きっと出来る。





それでいつか・・・・・・ヤスフミも一緒に頑張ってくれるようになったらいいなって、考えてる。

一緒に大人になって、一緒に色んな現実に立ち向かっていく。それが私の中に生まれた、密かな願い。

ヤスフミは私より強い。きっと私より色んな事が出来るし、それを感じさせる沢山の可能性がある。





だから思うんだ。ヤスフミが局に入ったら、一緒に頑張ってくれたら・・・・・・凄く心強いなって。










「・・・・・・あ、そうだ。リボンのお礼しなくちゃ。色々心配、かけちゃってるだろうし」










言いながら、私は自分の髪の先を見る。そして、嬉しくてつい頬が緩んでしまう。





だって今私の髪の先を結わえているのは、ヤスフミがプレゼントしてくれた大事なリボンなんだから。





ずっと、一緒に居られたらいいな。あの子が側に居ると、私は本当に楽しいし、強くなれるから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・なぁ、ザフィーラ」

「はい、なんでしょう」



自宅でノンビリと夕飯なんて作りながら、うちは思う。あ、今日のメニューはシチューや。

まだ10月やっちゅうに、今日はちょお寒いしなぁ。温かいもんにしたんよ。



「アイツ、絶対気づいとるよな」



声をかけるのは、足元に居るうちの守護獣。いつもはリビングやけど、今日は空気読んだのか近くに居る。

うちは鍋の中のシチューが焦げつかんように、おたまでかきまぜながら、考える。



「蒼凪は普段の言動や性格こそアレですが、その本質は主と同じく、とても冷静で聡明な人間です」

「それはうちも思う。うちにはちょお負けとるけどな」

「細かい経緯はともかく、我らの出自や事件のあらかたに関しては、もう分かっているかと」

「・・・・・・そうやろうな」



気づいてて、知らんぷりしてくれてんのかな。・・・・・・いや、違うな。

気づいても、友達で居てくれてるんや。うん、アイツバカやから、こういうやり方しか出来んのよ。



「まぁ、アイツが興味持って聞いてきたら、ちゃんと答えようか」

「そうですね。ですが、よろしいのですか?」

「別にえぇよ? アイツは、うちの大事な友達なんやし」





アイツは、うちの大事な荷物の一つや。大事な友達で、仲間。

まぁ、多分同じように局員やるとか、そういうんは無理やろうけどなぁ。うん、きっと無理や。

それでも、うちはもう覚悟決めてるもん。アイツの友達で居るってな。



正直見ていて色々不安はあるけど、それでもや。ただ、他は違うんよなぁ。

リンディさんやアルフさん、フェイトちゃんとなのはちゃんとかは、相当やし。

アイツが自分の夢とか目標を、あんま口にせんのが問題と言えば問題なんやけど。



ただそれでも・・・・・・あんま心配せんでも、大丈夫だとは思うとる。

アイツは簡単に消えたりせぇへんよ。消えられるわけがないやん。

アイツがヘイハチさんやヴィータ、初代リインフォースから託されたもんは、それほど軽くはないもん。



だったら、あとはうちらの覚悟やと思う。アイツと繋がるか否か、そのどちらかを選択し続ける覚悟や。





「・・・・・・しかし、アイツとリインは大丈夫かいな」

「大丈夫でしょう。道中でオーバーSに襲われるなどなければ」

「まぁ、そやな」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・恭文さん、大人の男の人ばかりですね」

「そうだね。僕、ちょっとビックリだよ」



さて、現在僕とリインは・・・・・・東京の高田馬場駅周辺に居る。え、理由?

簡単だよ。ふふふ・・・・・・実は今日、駅近くのライブハウスで、ゆかなさんのライブをやるのー!!



「でもでも、楽しみなのです。うー、ゆかなさんライブ久しぶりなのですよね」

「みたいだね。うー、ドキドキだなぁ。モノホンゆかなさん見るの、初めてだし」





それでチケットは取ってるので、今は会場前の行列待ち。だけど、僕達目立ってる。

普通に成人男子だけしか居ないのに、その中で子どもと幼女だもの。

それで時刻は、夕方近く。会場までもうすぐ。僕達は、行列の真ん前。



二人で手を繋ぎながら、高鳴る予感に胸を震わせながらもながら待ってる。





「うー、ドキドキだよー」

「ドキドキですねー」

「・・・・・・あの、二人とも? 私が居る事を忘れて欲しくないんだけど」



後ろを振り向くと、この中で1番目立っている人が居た。それは、シャマルさん。

なお、僕達のお目付け役。普通に子どもだけで上京は、許してもらえなかった。



「あ、シャマルごめんです」

「すみません、ゆかなさんを見られると思うと、もうドキドキで」

「恭文くんひどいっ! 私よりゆかなさんの方がいいって、どういうことっ!?」



言いながら、両手を胸の前で握って首を横に振る。その仕草は、ちょっと可愛らしい。

で、シャマルさんが目立ってる要因は簡単。大半が成人男子の中で、数少ない女性だもの。



「いや、ゆかなさん綺麗ですし」

「ひどーいっ!!」



なんて言っている間に、列の前方が動き始めた。というか、僕達の目の前。

どうやら、開場時刻になったらしい。うぅ、ドキドキが一気に高まってくる。



「それでは恭文さん、いっぱいいっぱい楽しむですよー」

「もちろん。そのために伸長が少し伸びたし、絶対楽しむ」

「だから私はっ!? うぅ、やっぱり恭文くんがツレないー!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・現在、ライブ会場近くのホテルの一室。時刻は夜の10時。

私と恭文くんとリインちゃんは、今日は同じ部屋で宿泊。なお、二人は同じベッドでぐっすり。

あれからライブを二人は思いっ切り堪能したから、その疲れのせい。というか、二人とも幸せそう。





あと、私も期待はしてなかったんだけど、ゆかなさんのライブ・・・・・・しっかり楽しんだ。

でも、ゆかなさんのファンってマナーいいのよね。ちょっとビックリしちゃった。

わざわざ背の低い恭文くん達を、前の方に出してくれたもの。それは嬉しかったなぁ。





それで、私はライブ中ずっとゆかなさんを凝視した。MC中にネタにされるくらいに凝視。





やっぱり私、あの場では目立ってたみたいで、『なんだか今日は、国際的な感じだよね』なんて言われた。










「・・・・・・・・・・・・悔しい。私、悔しい。ゆかなさん・・・・・・強敵でした」





そして結論が出た。私・・・・・・負けた。私、なんだか負けたわ。何、あの素敵さ。

だって歌も上手いし、胸も私より大きいし、なんだか仕草が可愛らしいし。

そう言えば、フィアッセ・クリステラさんもそんな感じなのよね。・・・・・・そっか。



恭文くんは、歌が上手くて私より胸が大きくて、仕草が可愛らしい女の子が好みなんだ。

でも、私だって負けてないもん。髪はその・・・・・・プログラムだから伸びないわよ?

胸だっていい方だとは思うけど、これ以上は大きくならない。



でも、私の方が恭文くんを想ってるもの。そうよ、絶対にゆかなさんには負けない。

歌は練習すれば、きっと上手くなる。これは確定。これは、経験で何とかするものだもの。

こうなったら、海鳴に戻ったらボイトレよボイトレ。特訓して、私はもっと進化する。



それで、ゆかなさんやフィアッセ・クリステラさんに勝つんだから。でも、それだけじゃ足りないわよね。

実はライブで、ゆかなさんがコスプレをしてた。かなり恥ずかしげだったけど、ウェディングドレスとかメイド服とか。

ウェディングドレスは、以前出演したアニメの企画で作ったものらしい。それをそのまま着たわけなの。



中でも、私が注目したのはメイド。そう、メイド服。アレを見た時、恭文くんの目が一段と輝いた。

・・・・・・そう言えば、すずかちゃんの家のノエルさんとファリンちゃんに弱い事を思い出した。

私はどうしてか分からなかったんだけど、その理由にようやく気づいた。私は発見したの。



恭文くんは・・・・・・メイドに弱い。先天的に、メイド属性が弱点だと思われる。





「そういう訳なのではやてちゃん、帰ったら私、恭文くんの家で住み込みのメイドになります」

『アンタ、いきなり通信かけてきた思うたら何言うてんのっ!? ちょっと落ち着こうやっ!!』



なぜだろう、通信画面の中のはやてちゃんが、泣きそうな顔をしている。

あ、私が居なくなると寂しいからよね。うん、納得したわ。



「私は落ち着いていますっ! 落ち着いて、『恭文くん×私+リインちゃん』を成立させるために最大限の努力をするんです。
そして、ゆかなさんに勝つんですっ! だって恭文くん帰り際に『ゆかなさん好き』って何度も何度もっ!!」

『アイツの入れ込みようはちょおおかしいから、気にしたらあかんよっ!!
てか、普通に接点無いんやし、ライバル意識持つ必要ないやろっ!!』

「はやてちゃん甘いですっ! 恭文くんの無自覚フラグメイカー能力なら、ゆかなさんくらいもう即日『・・・・・・好きだよ』って言わせちゃいますっ!!」

『それはないはずやからっ! あれや、会わなければ問題ないやろっ!?』



・・・・・・私、あの子が好き。人を好きになるって、こういう気持ちなんだって教えてもらった。

私は確かに子どもを産んだりなんて出来ないけど、それでも最大限は頑張りたい。



『とにかく、もうえぇからアンタ落ち着けっ!!』

「だから私は落ち着いていますっ! ただ恭文くんのメイドになりたいと言ってるだけなのに、どうして落ち着いてないなんて話になるんですかっ!?」

『それが落ち着いてない言うとんのやっ! アンタ、それは変態の所業やでっ!?
アンタの年齢はともかく、アイツはまだ12やでっ!? お願いやからマジやめてーなっ!!』

「私の考えの何が悪いんですかっ! 朝から晩まで、恭文くんに・・・・・・いいえ、ご主人様にご奉仕するんですっ!!」



あの子と出会って、私は一人では、はやてちゃんやヴィータちゃん達とでは得られない時間を持てた。

だから、あの子の力になる。何時だってあの子を癒して、守る風でありたいもの。だから、頑張るの。



『もう1から10まで悪いわっ! いくらなんでも熱入れ過ぎやからっ!!』

「そんな事ありませんっ! 私はご主人様が大好きなだけですっ!!」

『めっちゃあるからっ! あぁもう、アイツはマジでうちから色んな者を奪っていくなっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・・・・・・・マジでうるさい。てーか、寝てるのにギャーギャー叫ぶなっつーの。

全く、おかげでゆかなさんIFエンドの夢を見ていたのに、パーだし。

しかし・・・・・・うぅ、大半覚えてない。それっぽい空気だった事は覚えてるのに。





あぁ、どうなったらゆかなさんIFエンドに行けるの? お願いだから誰か教えて。










”・・・・・・浮気するなです”



そっと、腕の中のリインが冷たい声を念話で送ってきた。それに思わず、寒気が走る。



”し、してないよ?”

”してたです。ゆかなさんIFエンドとか考えてたです”

”あははは、気のせいじゃないかな”



なんて言ってトボけるけど、リインの腕の力が強まって・・・・・・苦しい。

普通に疑われてる。そして見抜かれてる。・・・・・・時々リインが、すごく怖い時がある。例えば今とか。



”それで恭文さん”

”何?”

”・・・・・・この間のアレコレで、もう分かったですよね”



とても簡単で、とても直球な言葉。だから僕は・・・・・・肯定する。



”まぁね。はやてが持ってたロストロギアの名前は、闇の書”



それが、以前イギリスでグレアムさんから聞いた、デビルガンダムもどきの正式な名前。

少なくとも、昔のはやてやシグナムさん達にとっては、それが正解らしい。



”そして、シグナムさん達はそのプログラムの一部”



てーか、最初に師匠がそれっぽいこと言ってたもの。答えは、本当に最初から提示されてた。



”いや、きっと・・・・・・リインのお姉さんもだね”



そうじゃなかったら、あの状況で出てくる意味が分からない。つまりだ、もうぶっちゃける。

・・・・・・全部、気づいちゃった。師匠達が人間じゃないのも、それをみんながあの時隠そうとしてたのも。



”そうです。・・・・・・でも、変わらないですね”

”ちょっと違う。変えないよ。だって、人間じゃないどうこうで言ったら、リインやアルトはアウトじゃん”





あと、久遠とか十六夜さんと御架月さん、リーゼさん達やアルフさんもそうか。うん、特に変えない。

みんなと積み重ねた時間や記憶は、土地の記憶なんて立派なもんじゃなくても、確かにあるから。

それがこれで変わることなんて、あり得ない。それで今までが嘘になるなんて、絶対にない。



だから、特に何か言うつもりもない。てゆうか・・・・・・正直困ってるのよ。





”うーん、やっぱり気づいちゃってたですか。でもでも、恭文さんは何も聞かないですよね”

”・・・・・・正直さ、ここで聞いても単なる確認作業・・・・・・もっと言えば自己満足か。そういうのになるのは確かだし、聞き辛いのよ”

”納得です。なら・・・・・・そのままでもいいですよ”



リインは、僕を安心させるように言ってきてくれる。それで、少しこんがらがってたものが解れた。



”いつか恭文さんもはやてちゃんもヴィータちゃん達も、笑って話せるようになるまでは、そのままでいいです”

”それでいいかな”

”はい。きっとそれでいいです”

”なら・・・・・・そうする”



身体を少し動かして、姿勢を整える。整えて、リインの頭に手をやる。それで、優しく撫でる。



”リイン、ありがと”

”はいです”



今なお、シャマルさんの暴走とはやての泣きは続いている。だけど、気にしてはいけない。

したら負けだ。絶対に負けだと思う。だから、僕達は話を続ける。



”恭文さん”

”ん?”

”恭文さんは、将来・・・・・・どうするとか、考えてます?”



将来・・・・・・大人になったらかぁ。正直、よく分からない。今は目の前の事で精一杯だもの。

強くなって、先生みたいに戦って・・・・・・うん、そこかな。僕は、強くて突き抜けた鉄になりたい。



”・・・・・・やっぱり、先生みたいになりたい”

”ですよね。でもでも、それだと局員は難しいのです”

”きっとそうだね”



先生みたいには、きっと出来ないだろうから。組織に先生は・・・・・・いらないと思う。

どんなに強くても英雄は、必要とされてない。必要なのは、歯車でありただの人。



”だけど、それでもいいや。だって、僕の嘘偽り無い気持ちなんだし。
英雄なんてガラじゃないけど、どこまでも突き抜けた強い人にはなりたいから”

”ですね。リイン達とは違っていてもいいですよ。だって、恭文さんは恭文さんなんですから”

”・・・・・・ありがと。ね、そう言えばリインはどうする? 将来の夢とかって、あるかな”

”あるですよ”



それから、リインは数秒黙った。それを疑問に思っていると、なぜか腕の中のリインがもじもじし出した。

それにより、疑問は嫌な予感になった。それも、相当に強烈な。



”それは・・・・・・恭文さんのお嫁さんなのです♪”



きゃー! やっぱり的中したしっ!! しかもすっごい勢い強いんですけどっ!?



”いや、それ無理だからっ! 僕はフェイトが本命なんだしっ!!”

”第二夫人でいいですよ? それなら問題なしなのです。
リイン、第二夫人としていっぱいいっぱい恭文さんに尽くすのです”

”大ありだからっ! 僕には一夫多妻なんて無理ー!!”










将来の事なんて、まだ分からない。分からない事だらけで、足りないものだらけ。

一つの目指したい形はあるけど、きっとそれは・・・・・・今一緒にいるみんなとは違う道。

それに少し寂しさも感じるけど、それでもいい。今と言う時間も、今までの時間も、嘘にならないから。





あとは、僕の心次第。繋がりたいかそうじゃないかという二択のどちらかを、選び続けるだけ。

だから僕は、そのまま静かにリインと眠りについた。ゆっくりと、幸せを抱きしめながら。

・・・・・・目覚めた終わらない夜から始まった一つの事件は、こうして静かに幕を下ろした。





色々な変化を、僕達に巻き起こした上で。それは僕だったり、フェイトだったりと様々。





それが何をもたらすかは分からないけど、それでも僕は・・・・・・今と言う時間を、一生懸命に生きる事にする。




















(本編に続く)




















あとがき



恭文「というわけで、普通にいい話で完結したPSP事件編、いかがだったでしょうか。本日のあとがきのお相手は蒼凪恭文と」

あむ「日奈森あむです。・・・・・・フェイトさん、これで高校行くのとかやめちゃったんだ」

恭文「そういう話にしてみた。そして、フェイトは僕の嫁。なお、異論は受け付けない」

あむ「アンタ、いきなり何の話してるっ!? とりあえず落ち着けー!!」

恭文「あと、僕が闇の書事件のあらかたの事情に気づいたとかね」

あむ「この辺り、これだけじゃないんだよね。幕間そのきゅうからの一連の流れも含まれてる」





(そう、含まれている。というか、さすがの脳筋でもさすがに気づく)





あむ「あとは、初代リインフォース・・・・・・アンタ、また口説いて」

恭文「口説いてないから。普通じゃないのさ」

あむ「普通じゃないからっ! マジでアンタはどうなってるっ!? 歌唄の事にしてもそうだしこれもおかしいでしょっ!!」

恭文「おかしくないよっ! おかしいのはあむの方だよっ!?」

あむ「いいや、絶対アンタだからっ!!」





(二人とも、一歩も引かない。どうやら互いに自分がおかしいとは、認めたくないらしい)





恭文「とにかくだよ、実はヒカリとのキャラなりがあそこまでそっくりなのは、これが原因なのよ」

あむ「あぁ、ライトガードナーだね。・・・・・・あ、これで戦闘スタイルとか知っちゃったから?」

恭文「うん。でもアレだよね。こうやって3話通してみると、PSP事件ってポジション大きいよね」

あむ「確かにね。フェイトさんの進路問題とかそういうのも絡めたしね。で、次は何やるの?」





(・・・・・・それが全くプロットが思いつかない)





あむ「ちょっとっ!?」

恭文「いや、一応書きたい話はあるのよ。修行を始めた当初のあれこれとか。
ただ、この後すぐとかだと、いいプロットがない。まぁ・・・・・・アレだよね」

あむ「何?」

恭文「知佳さんとまた会いたい。フィアッセさんでも可です」

あむ「それ、アンタの趣味じゃんっ! てゆうか、フェイトさんはどうしたっ!?」

恭文「いや、フェイトとは別問題だから。二人は、別の意味で大事だし大好き」

あむ「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ・・・・・・とにかく、今日はここまでっ!!
お相手は、恭文の浮気者だと思った日奈森あむとっ!!」

恭文「別に浮気じゃなくて、友達として仲良くしているだけだと言いたい、蒼凪恭文でした」

あむ「まだ言うかっ!!」










(まだ言うようなので、現・魔法少女はカンカン。それが蒼い古き鉄には、よく分からない。
本日のED:ステレオポニー『ツキアカリのミチシルベ』)




















恭文「・・・・・・高校、行かないのっ!? え、だって受験勉強とか準備してたのにっ!!」

フェイト「うん、色々あって考えたんだ。私、局員としてもっと頑張りたいなって」

恭文「そっか。なら・・・・・・卒業後は?」

フェイト「一人暮らしするかな。本局に寮を借りて、そこを拠点に生活」

恭文「なら、家出るんだ。寂しく、なるな」

フェイト「そうだね。・・・・・・ね、ヤスフミ。ヤスフミは将来どうするの?」

恭文「僕? 僕は当然、先生みたいな強い人になる。まだまだ修行中だし、目標は果てしなく遠いけどさ」

フェイト「ううん、そういうことじゃないの。どんな役職に付きたいとか、どんな仕事をしたいとか。
ヤスフミは魔導師なんだし、局の中だけで見ても色んな選択肢があると思うんだ」

恭文「そういうの、興味ないもの。てゆうか、組織とかってめんどくさい。
僕は何時だって、僕として戦いたいの。そっちの方がカッコいいし」

フェイト「・・・・・・そっか」

恭文「うん」

フェイト(信じてもらうの、大変かな。ヤスフミの中では、ヘイハチさんがまるでどこかのヒーローみたいに映っている。
これを超えないと、ダメなんだよね。やっぱり、まずは私からなんだ。私から変わって、強くなって、信じてもらう。うん、これしかない)

恭文「フェイト、どうしたの?」

フェイト「ううん、なんでもない。・・・・・・本当に、なんでもないんだ」










(おしまい)




[*前へ]

30/30ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!