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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第15話 『世の中は思い通りにはならない。だけど、報われる時もある』(加筆修正版)



・・・・・・神は居た。色々と辛い思いをした僕を、神は見捨てはしなかった。

そう、神はいたっ! てゆうか、僕がガンダムだっ!! あ、これ最近のマイブームねっ!?

なんやかんやで、本日はお休み当日。今日から三日間は僕はフリーダム。そして幸せの時間だ。





幸せの時間っていうと、なんかドロドロしてエロな感じがするけど、そんな事はない。




だって今の僕の心は、この空と同じように清々しいまでに晴れ渡っているからっ!!










「・・・・・・なぎさん、私達より嬉しそう」



白いワンピースに、ピンクの上着。まるでどっかのお嬢様ルックなキャロが何を言おうと、全く気にならない。



「というか、さっきからはしゃぎまくりだよね」



エリオは、ジーパンジージャンに白シャツ。僕とほぼ同じ格好。ま、僕は黒の無地だけど。



「でもそんなに喜んでもらえると、誘った甲斐があったな。ヤスフミ、三日間よろしくね」

「うん、よろしくフェイト〜♪」



黒の薄手のカーディガンに、黄色いワンピースを着ているフェイトの声に、楽しげに返事。

あぁなんていうか・・・・・・幸せ。旅だし、フェイトと一緒だし、もう嬉しいよ。



”エリオ、キャロ、ありがとうっ! 本当に感謝してるっ!!”

”なぎさん、それもう94回目”

”一日20回近く言ってるよ。というか、お仕事場と全然キャラが”

”特にエリオ、ありがとうっ! てゆうか、なんか色々とごめんねっ!?
いやぁ、昔ハゲてしまえとか影が薄くなれとか呪いかけちゃったけど、問題なかったねっ!!”

”あははは、それを言えば僕だって色々嫌な思い・・・・・・ちょっと待ってっ!? そんな呪いの話は聞いてないんだけどっ!!”



だって、そんな気持ちなんだよっ! さすがに外キャラだって外れるのさー!!



”あ、それと空気は読むように。二人とも最大限に空気を読んで、僕の邪魔をしないように。
二人は二人で、仲良くしてればいいじゃないのさ。つーわけで、いいよね? 答えは聞いてないけど”

””お願いだからその殺し屋の目はやめてー! 普通でいいよねっ!!””

”普通じゃ8年スルーはないんだよっ! お前ら、いいとこで邪魔したら鋼糸で縛りまくって世の中の膿(誤字にあらず)に沈めてやるぞっ!!”

””だから落ち着いてっ!? 普通に怖いよっ! 普通にキャラが変わり過ぎだからっ!!””



三日間フェイトと一緒・・・・・・うぅ、一緒に暮らしてたはずなのに、嬉しい。

これで感激するのは色々間違っているのだろうけど、そこはいいっ!!



「ね、フェイト・・・・・・せっかくだし、手繋ぎたいな」

「え?」

「ほら、いいじゃんいいじゃん。今までだって良く繋いでたんだし」



言いながら、僕は右手でフェイトの左手を取る。

フェイトは少しビックリした顔をしつつも、優しく微笑んで・・・・・・そっと握り返してくれた。



「そう言えば、ヤスフミと手を繋ぐの・・・・・・久しぶりだね」

「仕事場じゃ出来ないしね。今のうちに、しっかりコミュニケーション・・・・・・いいよね?」

「うん」



とにかく・・・・・・楽しむぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! これで、フェイトを陥落してやるっ!!



≪・・・・・・あなた、いい加減落ち着いてくださいよ。
なんで頭から『♪』マークが出まくってるんですか?≫

「気にしないで」





















魔法少女リリカルなのはStrikerS  外伝


とある魔導師と機動六課の日常


第15話 『世の中は思い通りにはならない。だけど、報われる時もある』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



という事で、僕達が来たのはミッドの北部。

首都からの飛行機を使って降り立ったのは、新臨海第8空港。

4年前に焼け落ちた空港の跡地に建設された、まだぴかぴかの空港。





・・・・・・あ、スバルさんがなのはさんに助けてもらったのって、ここなんだよね。










「・・・・・・私やヤスフミも、ここで救助活動に参加してたんだ」

「そうなんですかっ!?」

「なら、もしかしてなぎさんも、その時にスバルさんやギンガさんとは」



ギンガさんが含まれているのは、ギンガさんも同じようにここの火災に巻き込まれたから。

そこで危ないところを、フェイトさんに助けてもらったらしい。だから、なんだかんだで縁がある。



「あー、僕は会ってない」





なんでも、恭文は恭文で別行動だったらしくて、そこには居なかったとか。

あ、そっか。それならスバルさん、恭文の事知っているはずだよね。

体型変わってないんだし、距離感だって微妙なはずがないし。



でも、なんだかニアミスしまくってたんだね。すごいなぁ。





「でも、あの時助けたのが私じゃなくてヤスフミだったら、もっとギンガと仲良くなってたかもね」

「そうかもね。でも・・・・・・なぁ」

「どうしたの?」

「いやさ、やっぱ人命救助とかそういうのは趣味じゃないなーと思って。僕の性には合わない」





なんて話していると、ホテルへの送迎バスが来た。僕達は、当然それに乗り込む。

そして到着したのは・・・・・・また大きなホテルだった。一瞬、部屋の値段を考えてしまった。

今日はここを拠点にして、一日ノンビリ過ごす。というか、北部に来たのは初めてだから、楽しみ。



それで部屋割りは二つ。フェイトさんとキャロの女の子組。

もう一つは僕と恭文の男の子組。・・・・・・うん、さすがに同じ部屋はアウトだよね。

フェイトさんとても不満そうだけど。不満そうだから、恭文が色々と動く。





「・・・・・・でも、私達は家族なわけだし問題はないよ。
ヤスフミもエリオも、変な気を使わないで欲しいな」

「いや、使うから。普通に使うから。僕はそれは嫌だ。気が休まらないし」

「僕だって同じです。さすがにそれは嫌ですよ。
お気持ちは分かりますけど、自重してもらえると助かります」

「フェイト、真面目に自覚して。そして慎みを持って。
フェイトもキャロも立派な女性なんだよ? 大体そういうの、エリオに対して失礼だよ」



いきなり僕の方に話が回って、ちょっとビックリした。

恭文はそれでも、呆れ気味にフェイトさんを見上げながら言葉を続ける。



「『家族だから』を免罪符にエリオを完全子ども扱いなんだしさ。いい? フェイトとキャロは女性。
で、エリオは男。エリオの年齢や自分達との関係性を理由にこの前提を忘れちゃだめだよ」

「それは・・・・・・うぅ、そうだよね。分かった、納得したよ」



部屋を一つにしようと言ったフェイトさんの意見は、僕達の正義によって却下された。

でも何というか・・・・・・恭文キャラが違うような。そこが気になりつつも部屋に入ると、またビックリした。



「・・・・・・うわ、結構広いね」

「またフェイトはいい部屋を。うわ、ベッドが二つあるし」

≪部屋を一つにしたかったのって、もしかして金額の問題ですか?≫

「アルトアイゼン、さすがにそれはないよ。フェイトさんは執務官だから、結構なお給料だろうし」

「エリオ、それはむしろ僕のセリフだよ。というか、10歳児が金の話をしないで」



僕達は荷物を置いて、部屋の戸締りをしっかりとして・・・・・・というか、オートロックなんだけどね。

とにかく、僕達はロビーで仕度を整えて待っていたフェイトさん達と、無事に合流。さっそく観光に繰り出した。



「・・・・・・で、恭文。どうして僕達は市場になんて居るの?」

「知り合いのお薦めだよ。ホラ」



僕達は、恭文が見せてきた1枚の紙を見る。そこにはここの場所と、お店の名前が書かれていた。



「くろすふぉーど印の、ミッド北部の隠れスポット?」



やたらと可愛らしい丸文字で、それに僕達三人は首を傾げる。



「旅行に行くって話をしたら、ここはこの時間に絶対行っておけって力強く言われたんだよ。で、1時間並べとか」

「1時間っ!?」

「というかヤスフミ、このくろすふぉーどってまさか・・・・・・『あの』クロスフォード財団の関係者?」

≪そうですね≫

「えぇぇぇぇぇぇっ!?」



とりあえず、恭文が案内してくれたお店に並ぶ。その間に驚きまくっているフェイトさんと恭文から、説明を受けた。

クロスフォード財団というのはミッドでも有数の財団・・・・・・資産家で、管理局や聖王教会のスポンサーの一つとか。



「恭文、そんなにすごい所の関係者と知り合いだったのっ!?」

「いや、偶然だよ? というか、その人は分家の方。
だから、本家とかに比べるとそんな影響力ないとか言ってたし」

≪ヒロリス・クロスフォードさんって言って、局の特殊車両開発部のスタッフさんです≫

「ここ2年くらいの間に知り合った友達なんだ」

「でもその人とヤスフミって、どういう経緯で知り合ったの?」



フェイトさんは、姉としてその辺りが気になるのか食いついてきた。

それで恭文は、一部始終を説明してくれたんだけど・・・・・・またビックリした。



「同じゲームをしていて」

「オフ会で会おうって話になって」

「それで会ってみたら、関係者」



な、なんというか凄い偶然。そんな偶然、そんなにないよね?



「というか、私まったく知らなかった」

「当然でしょ。だってその時フェイト、長期出張とかしてたじゃないのさ。
僕は海鳴でフェイトはミッドに来ていたわけだし。そりゃ知らないって」



・・・・・・恭文、なんかフェイトさんが不満そうだよ?

僕とキャロから見ても、その辺り不満そうなんだけど。



「でも、本当に色々お世話になってるんだ。ミッドで引っ越す時も、物件紹介してくれたしさ」

「あそこ・・・・・・なぎさんの家?」



恭文はキャロの言葉に頷いた。というかすごいね。マンションなんかも扱ってるんだ。



「え、あそこってクロスフォード財団の所有物件だったの?」

「本家じゃなくて、ヒロさんの分家の方だけどね。・・・・・・というか、今度マンション名確認しなよ。
表に思いっきり書かれてるよ? 『メゾン・ド・クロスフォード』って」

「・・・・・・バルディッシュ、気づいてた?」

≪Yes Sir≫



バルディッシュは気づいてたのに、マスターのフェイトさんは知らなかったんだね。

だから、フェイトさんは今とてもショックを受けた顔をしている。



「僕、気づいてるもんだと思ってた」

≪私もですよ。というか私・・・・・・時々この人が優秀な執務官っていうのが、信じられなくなるんですけど≫

「そんなの関係ないから。・・・・・・ヤスフミ、今度その人を紹介して」

「だめ」



即答したヤスフミに、フェイトさんがズッコケる。えっと・・・・・・そこはどうしてだろ。



「どうしてっ!? 私、ヤスフミのお姉さんだよっ! お世話になってるんだったら、挨拶したいしっ!!」

「ダメなものはダメ」

「だからどうしてっ!?」

「ヒロさん、局員してるけど・・・・・・基本的に武装局員は好きじゃないのよ」



その言葉に、僕とキャロは顔を見合わせる。その意味が分からなくて、首を傾げてしまう。

フェイトさんも、恭文が1トーン低くそう言ったから、問い詰めるのを止めた。



「僕はまだ局員でもなんでもないからいいのよ。
・・・・・・紹介してもいいけど、辛辣な態度取られる可能性もあるよ?」

「・・・・・・そうなんだ」

「そうなの」





そんな話をして、お店に入って・・・・・・まぁ、恭文の話が気になりつつも、僕達はご飯タイム。

内装が木で出来ていて、首都のレストランなんかとは違う雰囲気。というか、言い方悪いけどちょっとボロいかも。

とにかく、お薦めというモツ煮込み定食というのを注文。なぜか大盛りできなかったのが残念だった。



あ、でもご飯はお代わり自由だからいいのか。そうして数分後、僕達の前に食事が出てきた。

ちょっとだけ無愛想なおじさんが出してきたのが、その定食。というか、すごく早いね。

えっと白いご飯にお鍋に・・・・・・これがモツ煮込みなんだね。なんでか、ちっちゃいお玉が入ってる。



お味噌汁に煮物に・・・・・・これだけ見ると、本当に普通の定食だよね。

とにかく、僕とキャロはお箸を持つ。使い方は、フェイトさんやアルフから教えてもらってるから問題ない。

そうして僕達四人は、同時にモツを箸に取る。・・・・・・モツって、内臓だよね?



臭くないのかな。とにかく・・・・・・一口食べて、しっかりと噛み締める。・・・・・・うん。





『美味しい』





僕達は四人とも声を揃えて、狭い店内だというのを弁えずに声を出してしまった。

でも、だって・・・・・・美味しいんだよっ! すごくっ!!

内臓だって聞いてたから臭いのかなって思ったけど、全然そんな事ない。



コリコリしてて中の脂肪がとろとろで、おダシの味がしっかり染みてて、すごく美味しい。

ちょっと濃い目な味付けかと思うけど、これならご飯に・・・・・・あれ?

恭文が、お玉におダシとモツを取って、ご飯の上に乗せて・・・・・・えぇっ!?





「な、なぎさんっ!?」

「ん、どうしたの? これ、こういう食べ方してもいいもんなんだけど」



そうなのっ!? え、そういうものなんだっ! 僕、知らなかったっ!!



「あ、そっか。うん、そうだよね。私、なんのためにお玉が付いてるのかと思っちゃった」

≪フェイトさん、あなた、一応地球育ちですよね?≫

「ヤスフミも、そんな呆れた目をしないでっ!! ・・・・・・じゃあ、私達も」





フェイトさんは恭文に倣うように動く。僕とキャロも、モツとおダシをお玉ですくって、ご飯にかける。



するとモツが上に乗って、おダシがご飯にかかる・・・・・・あれ、なんか説明が普通だ。



おダシの飴色で、白いご飯が薄く染まる。それを・・・・・・四人同時に、口にかき入れる。





『美味しいー』










・・・・・・ご飯を食べたあと、近辺を四人でノンビリと歩く。ちょっとだけ僕とキャロは、後ろに下がる。

恭文に『空気を読め』と言われたのと・・・・・・あと、少し気遣う事にした。

この間の事、色々とショックだったから。だから自然と、三歩下がって楽しそうに話す二人の後を歩く。





プライベートで、完全にお仕事用のモードが外れた恭文を、キャロと二人で楽しく見ながら。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



夕飯は、ホテルの食事も味気ないという事で、外に繰り出してお食事。

各世界の郷土料理を出しているお店があるとの事で、そこに来たのだ。

・・・・・・つかさ、なんで沖縄料理なんてあるの? またピンポイントなとこをつくなぁ。





まぁ、ミッドは日本文化浸透してるし、あっても不思議はないんだよね。










「でも、これ美味しいね。このゴーヤチャンプルーって言うの。
こう、苦いんだけどそれだけじゃなくて、玉子がフワフワして、ちょっと甘くて」



エリオは、そう言いながらすごい量を食べている。・・・・・・この大食い、どういう原理でこうなるんだろ。



「このブタの足も美味しい。トロトロして・・・・・・保護隊に居た時の食事を思い出しちゃう」



言いながら、豚足を食べているのはキャロ。キャロ、意外とこういうのが大丈夫らしい。



≪キャロさん、意外とカントリーガールなんですね≫

「うん。豚さんや羊さんを捌いた事もあるよ?
こう、食事になってくれてありがとうって、感謝しながら食べるの」



・・・・・・かたや都会っ子。かたやカントリーガール。うん、上下関係は決まったね。

エリオ、頑張れ。キャロはきっと強くてしたたかな女の子になるよ。



「というか恭文、平気なの?」

「なにが?」

「だって・・・・・・なぎさんが飲んでるそれ、お酒だよね?」



で、僕はご飯をいただきながら、沖縄の地酒をちびちびいただいていた。あー、美味しい。

うぅ、旅先だから出来る事だよなぁ。やっぱりこういうのは幸せだよ。



「あ、大丈夫だよ。ヤスフミ、すごいザルなの」

「「そうなんですかっ!?」」

≪10歳の頃からグランド・マスターなどに散々付き合わされてましたからね。
おかげで普通に飲む分には、全く酔わない体質になったんですよ≫



・・・・・・普段は飲まないけど、ミッドじゃあ地球の地酒なんて滅多に味わえないから。

なお、『むむ、ちょっと意外。見た目からは想像出来ないよ』・・・・・・とはキャロの談。うん、ほっとけ。



「というか、フェイトさん・・・・・・いいんですか?」

「まぁ、本当に酔わないから。吐いたりとかして、迷惑もかけないしね。一応認めてるの。
でも、基本的にはまだダメなんだからね? 私もそうだけど、ヤスフミ未成年なんだし」

「分かってますよー」



なんていいつつ、一口飲む。あぁ、この口に広がる香りがまたなんとも。やっぱ、泡盛美味しいなぁ。



「あ、エリオとキャロはダメだよ? さすがに10歳児に飲酒なんて、させるわけにはいかないし」

≪意外とちゃんとしてますね、あなた≫

「・・・・・・ちゃんとしてないのに仕込まれたんでね。
僕が11とか12で、どんだけ宴会に付き合わされたと? しかも、フェイトは逃げちゃうし」



魔法関係でもそれ以外でも、相当付き合わされてる。・・・・・・なんか、懐かしいな。

海鳴の匂いというか空気というか、ちょっと思い出しちゃった。うぅ、帰るの楽しみ。



「あの、逃げたわけじゃないよっ! ちょっと関わりたくなくて」

「フェイトさん、それ同じ事ですよ」

「なぎさん、その頃から大変だったんだね」

「二人とも、分かってくれる? 僕は非常に嬉しいよ」










・・・・・・とにかく、みんなで楽しくご飯を頂いた後、僕達はホテルに戻った。





なんだかんだで、一日目は終了。だから、もう就寝のはずだった。フェイトが、バカをやらなければ。





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「フェイト・・・・・・どこに落とした?」

「・・・・・・ごめん、わからない」

「だぁぁぁぁぁぁっ! なにやってるのさ本当にっ!!」



フェイトは自分達の部屋の鍵を、見事に落とした。部屋の前に到着したらこれですよ。

やっぱりプライベートのフェイトは、一本ネジ抜けてるって。



「というか、マスターキーがないなんて」



なんでも、たまたまこっちもダメになっちゃってるらしい。なので、朝一番じゃないとどうにも出来ないとか。



「・・・・・・よし、魔法でドアぶっ壊そうか」

「ダメだよっ!! ・・・・・・それなら、窓を壊したほうがいいよ。それなら、修復魔法で直すのも楽だし。
ほら、ヤスフミだったら気づかれる前にすぐに直せるよ」

「フェイトさんもなんでそんな物騒な事言ってるんですかっ!?」

≪こんな事なら、シャッハさんから物質透過魔法を教わっておくべきでしたね≫



そーだね。そうすれば隣同士なんだし、一瞬で侵入できたというのに。よし、今度教わるか。

まぁ、それはそれとして・・・・・・うーん、どうしよう。こんなとこで手札晒すのもなぁ。



「アルトアイゼン、ドアのロックのコンピュータに侵入して開けるっていうのは無理かな?」

≪キャロさん、また大胆な方法を考えますね。でも、それはやめておいた方がいいと思います。
ここのロックは、それ対策が施されている物ですから。やはりここはドアを破壊して≫

「だから、キャロもアルトアイゼンもどうしてそういう物騒な話をするのっ!?
あと、ドアのロックにハッキングするより、ドアを破壊するほうが騒ぎになるよっ!!」



でもなぁ。凄まじく嫌な予感がするのよ。もっと言うと、フェイトが若干おかしいところとかにさ。

あとはキャロもだよ。やたらと破壊行動に走りたがってる。



「そうだよキャロ。ガラスだったら魔法を使わなくても割れるし、警報装置も大丈夫みたいだし。
さっきも言ったけど、瞬間詠唱・処理能力持ちのヤスフミが修復魔法を使えば」

「フェイトさんもその考えはやめてくださいっ! というか、執務官がそんな事しちゃマズイですよっ!!
いや、そもそもこんな話になる事自体がおかしいからっ!!」



うむぅ、エリオも意外とツッコミキャラなんだよな。うん、これは僕は楽できるな。



「というか、恭文はどうして途中から適当に傍観してるのっ!? お願いだから一緒に考えてっ!!」

「考えてるよ。・・・・・・というわけでフェイト、キャロ、転送魔法で向こうの部屋まで跳ばすから」

「そうそう、転送魔法で・・・・・・転送魔法っ!? え、ちょっと待ってっ! 恭文もしかして」

「使えるよ?」

「えぇっ!?」



・・・・・・エリオ、何故にそんな驚く必要があるのさ。

普通に教えてなかったんだから、驚く必要ないじゃん。知らなくて当然でしょ。



「でも、それなら安心だね。というか、フェイトさんも転送魔法を使って部屋の中に入れるんじゃ」

「エリオ、そこはツッコんであげないで? フェイトはちょっとバ・・・・・・純粋だから、そこに気付かなかったんだよ」

「なるほど。納得したよ」



というわけで、エリオも納得してくれた所で早速魔法を詠唱開始。

僕は二人に右手を向けて・・・・・・向けたけど、フェイトにそっと手を制された。



「ヤスフミ、だめ。転送魔法なんて使う必要ないよ。私とキャロも、この部屋で寝ればいいんだから」

「あ、そうですね。それなら、ドアも窓も壊さなくていいですよ」

「「却下」」

「「どうしてっ!?」」



男と女は、決して相容れないものと言う。その原因が、今ここに露見したのかも知れない。



「なんでそこに乗るっ!? 普通に転送魔法でいいじゃないのさっ! 僕なら二人揃って一瞬で部屋に送り返せるよっ!!」

「だって、せっかくだからみんな一緒に寝たいんだよっ!!」

「やっぱりそれかぁぁぁぁぁぁぁぁっ! どんだけ家族での和気あいあいに飢えてんのさっ!!」



まぁ、フェイトは予測してた。というか、何故にキャロまで乗る?

・・・・・・まさか、一緒に寝てフラグ立て・・・・・・待てよ。



「そんなのダメですっ! 僕と恭文は男ですよっ!? さすがにそれは」

「よし、二人の提案を受け入れよう。四人で一緒に寝ようじゃないのさ」

「「ありがとうっ!!」」

「恭文っ!? 何普通にこんな無茶な提案を受け入れてるのさっ!!」



そんなの決まってる。ここでフェイトのフラグが立つかも知れないから。

もちろん、隣同士とか一緒のベッドとかはダメだろうけど、それでも何かのキッカケは生まれるかも。



「エリオ、まぁ・・・・・・頑張れ? 大丈夫、僕は空気読めるから」

「だからどうして応援っ!? お願いだからフェイトさん達を止めてよっ!!」





とにかくベッドは部屋に二つある。そのうち一つには、左から順にフェイト・キャロ・エリオ・僕が入る。

・・・・・・意味が分からないしっ! なんでベッドが二つあるのに、一つのベッドで寝なくちゃいけないんだよっ!?

なお、抵抗は無意味でした。フェイトが、どうしてもそういう風に寝てみたいと言い出したから。



でもまさか、マジで同じベッドに寝るとは思わなかった。とにかく、色々と気遣う形で寝る準備を整える。

フェイトは下の売店でパジャマを購入して、キャロは体型の似ているエリオの予備のパジャマを借りる。

それで準備は完了。とにかく、フェイトにだけは極力目を合わせないようにした。うん、絶対に。





「それじゃあ・・・・・・お休み。ヤスフミ。エリオ、キャロも」

「「はい、おやすみなさい」」

「おやすみ、フェイト」










・・・・・・お酒が入っていたという事もあり、僕はすごく気持ちよく、夢の中へと突入した。

まぁ、僕はいいとして・・・・・・フェイト的には最初からこれがしたかったみたいだし、いいか。

さすがに仕事場じゃ、こんな事は難しいもの。色々面倒な目とかもあるしさ。





でも、なんていうかさ。僕は温いよね? 普通にフェイト誘って、お酒の時間とかしてもいいのに。





それでもこうして、旅の一日目は終了した。・・・・・・あぁ、平和だ。珍しくなんのトラブルもなかった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



就寝から大体2時間後。私は、ゆっくりとベッドから抜け出す。だって・・・・・・トイレだから。

それで、なんやかんや(なぎさんに、こういう言い方をするとみんな納得してくれるって教わった)して、戻ってきた。

だけど・・・・・・アレ? フェイトさん、エリオ君の隣りにきちゃってる。





あ、エリオ君抱きついて・・・・・・ちょっとイラってする。だから、私は一ついたずらを思いついた。

フェイトさんの腕をそっと解いて、エリオ君・・・・・・ダメ、持ち上げようかと思ったけど、多分起きちゃう。

エリオ君、耳とか感覚が鋭いから、これ以上はアウト。うぅ、本当は床にでも放り投げたかったのに。





まぁいいか。今日はみんなで寝てるんだし、少しくらいは・・・・・・ね。私、大人になっておく。

私はフェイトさんと位置を入れ替える形で、改めてベッドに入る。

そしてそのまま、眠りについた。・・・・・・やっぱり、幸せ。





だって、こういうのって家族みたいだから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



目が覚めた。だって、トイレに行きたくな・・・・・・あれ?

おかしい。フェイトさんが隣に居る。僕、確かキャロの隣だったはずなのに。

そこが気になりつつも、フェイトさんを起こさないようにしてベッドから抜け出す。





あー、びっくりした。というか、どうして? なにがあったんだろうと頭を捻りながらも、僕はトイレに行く。

それで、中でなんやかんやとして戻ってくると、僕は言葉を失った。

だって、フェイトさんと恭文が・・・・・・抱き合って寝てる。それも、濃厚なハグ。





そのせいでさっきまで僕がいた位置がフェイトさんによって埋められいる。

空いてる個所は、ベッドに入った時フェイトさんが居た場所。つまり一番左端。

キャロまで寝返りを打ったらしくて、そうなっている。正直、これは動かしようがない。





とにかく・・・・・・うん、明日の朝にとんでもない事になるのは覚悟しておこう。

一瞬、恭文を抱きしめるフェイトさんの腕を外そうかと思ったけど、やめにした。

ティアさんとの模擬戦の様子が、脳裏に過ぎったから。・・・・・・多分それをやろうとしたら、恭文は気づく。





恭文、僕達・・・・・・ううん、もしかしたらフェイトさんやなのはさんよりずっと、殺気や敵の動きに対しての感知能力が高い。

それがティアさんの弾丸を難なく対処したり、最初の模擬戦の時にスバルさんの振動拳をガード出来た要因。

それでタイプ的には・・・・・・フェイトさん達より、シグナム副隊長やヴィータ副隊長達寄りかな。





自主勉強のために読んでるベルカの戦闘教本(ミッド語に翻訳済みの写本)なんかだと、恭文みたいなタイプ、出てくるから。

・・・・・・あ、そっか。だから僕、あんまり恭文の事嫌いとかそういうの無いんだ。

距離感微妙だけど、それでも。戦闘者としての一つの形というか、方向性の一つとして受け入れられてる。





でも、スバルさんは相当だし・・・・・・うーん、男同士ってこういうものなのかなぁ。

よくよく考えたら、六課って前線での男メンバーは僕くらいだしなぁ。

ヴァイス陸曹やグリフィスさんは、また違うし。だからまだ、よく分からないのかも。





それで恭文は部隊の中とキャラが違ってるし、その辺りもよく分からなくなってる要因なのかも。

その辺りの事をあれこれ考えつつも、僕はベッドに歩いていく。だけど、答えは今ひとつ出ない。

でも、別にいいか。完全プライベートな形で恭文と居るのは初めてなんだ・・・・・・あ、そっか。





それでもまた一つ気づいた。僕はとりあえずベッドに入りながら、その確信がちょっと嬉しくなってくる。

前に海鳴で出張任務に行った時、スバルさんとティアさんがフェイトさん達隊長陣の様子に戸惑った事がある。

仕事場の時のフェイトさん達と、アリサさんやすずかさん達と話してる時のフェイトさん達、かなり様子が違ってたから。





プライベートなフェイトさん達の事をある程度知っていた僕はそうじゃなかったんだけど、今分かった。

多分僕、あの時のスバルさん達と同じ感情を持ってるんだ。今まで見た恭文と、今の恭文が食い違ってる。

でもきっとそれは良い事。だって僕達が今まで知らなかった一面、ようやく見れたんだから。





だから嬉しくてついニコニコしてしまう。あぁ、なんだか今日はいい日だなぁ。

仕事場から完全に離れて旅行って、いいなぁ。また、こんな風にみんなで出かけられたらいいのに。

でも・・・・・・キャロ、びっくりするかな? それはまぁいいか。だって僕、今はすごく幸せだから。





今は僕達、本当に家族みたいなんだから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・腕の中に温もりを感じる。その温もりを、私は抱きしめていた。

凄く暖かくて優しくて・・・・・・私がずっと前から知ってる温もり。

何度も抱き締めてるその温もりに気づいた事から、私の目は覚めた。





ゆっくりと重い目蓋を開ける。そこに居たのは、栗色の髪の男の子。

私を強く抱き締めてくれる腕の感触に、少しだけ胸が熱くなる。

だって、必要としてくれてるって事だと思うから。でも、どうしてヤスフミが私の隣りに?





だって、エリオとキャロが間に居たはずだし。・・・・・・あれ? なんだか色々おかしくなってる。

私、ベッドの一番端の方に居たはずなのに、位置が変わってる? まぁ、いいかな。

きっと、なんやかんや(ヤスフミがこういう言い方をすると、納得出来ると教えてくれた)あったんだよね。





それに腕を解いて、ヤスフミ起こしちゃうのも可哀想だし。

きっとアレだよ。なんやかんやしちゃうのにも、意味があるよね。うん。

それにヤスフミとこうして寝るの、初めてだもの。





その、少しビックリしちゃったけど・・・・・・別に嫌じゃないから。だって、私達は。










「フェイト」



腕の中の男の子が、小さく呟いた。起こしたのかと思って、私はその子を見る。

だけど、その様子はなかった。もしかして・・・・・・夢の中に私が出てる? なら、なんだかちょっと嬉しい。



「好き」





ヤスフミの、私を抱き締める腕の力が強くなる。

そうしながら出てきたのは、いつも本当にたくさん言ってくれている言葉。

いつでもどんな時でも、好きで、特別で、大事で・・・・・・守りたいと言ってくれる。



こんな私のために、たくさん力になろうとしてくれる。





「僕・・・・・・味方に、なるから」

「・・・・・・うん、そうしてくれてるよね」





小さな身体の中にあるたくさんの想いと力。その全部を蒼い翼にして、私を包んでくれる。

いつも感謝して・・・・・・し足りない言葉。だけど、なんでだろう。

私はその言葉に、いつもとは違う胸を貫かれる何かを強く感じてしまった。



それだけじゃなくて、凄く嬉しくて・・・・・・だけど、どこか切なくて。

口にしたときのヤスフミの表情が、苦しそうで必死な感じがして・・・・・・私は、ヤスフミを抱き締める。

さっきよりも強く。もう、苦しそうになんてして欲しくなくて。



・・・・・・もう一度眠りにつくまで、ずっと頭を撫でていた。安心させるように、優しく。





「大丈夫だよ。私・・・・・・守るから。だって私もヤスフミの事、好きなんだよ?」










小さく呟きながら、頭を撫でていく。起こさないようにそっと・・・・・・優しく。

だけどその間ずっと、胸の中を貫いた甘い衝撃は消える事は無かった。

そしてそれから数時間後。もっと言うと早朝だね。ヤスフミ、早起きだから。





・・・・・・そう、早起きだった。目を覚ましたヤスフミが、ビックリして大騒ぎになった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



翌朝、フェイトとキャロの部屋は無事に開く事になった。

だけど、だけど・・・・・・! 目覚めがありえなかったんですけどっ!?

なんであんな状況になってるっ!? もう訳が分からないしっ!!





フェイトのむ、む、む・・・・・・胸に顔埋めて寝てたと気づいた時に、僕がどんだけ肝を冷やしたとっ!?





しかもフェイトも意外と普通に・・・・・・してなかったな。なんかちょっとだけ顔赤かった。なんだろ、あれ。










≪・・・・・・まぁ、アレですよ。なんやかんやしちゃったんですよ≫

「納得出来るわけがあるかボケッ! 僕以外全員色んな位置が変わってたってどういう事っ!?」

「そ、そうだよっ! ・・・・・・私、もうお嫁にいけないっ!!
エリオ君ちゃんと責任取ってっ! 私、エリオ君に汚されちゃったんだからっ!!」



そう、頭を抱える状況は僕だけじゃなかった。キャロもだ。エリオに抱き締められる形で眠っていたから、さぁ大変。



「いやいや、責任ってなにっ!?」



しかも、目が覚めた時にちょうどエリオが作為的な寝返りを打って、覆い被さってきたし。

とりあえず、エリオは放置でいいね。ほら、幸せそうだしさ。



「・・・・・・まぁ、そのなんていうかさ。あの・・・・・・フェイト」



荷物を持って、ホテルを出ながらフェイトに・・・・・・話しかけた。

フェイトは僕を見て、少しだけキョトンとしたような顔を向けた。



「ごめん。抱きついたりして」

「あの、大丈夫だよ? その、どうも私からそうしたみたいだから」



エリオとキャロの証言により、こうなった原因も判明した。

フェイトがなんやかんやとして、僕の隣りに来たとか。そして、あの状態。



「ね、ヤスフミ」

「なに?」

「・・・・・・ううん、なんでもない。ほら、いこう? みんなへのお土産、買いに行かなきゃ」










フェイトがニッコリと笑って、出口を目指すために足を進める。

僕もそれに続く。なんやかんや言いながらだけど。

だけど、ちょっとだけ気になった。さっきのフェイトの表情が、どうしても引っかかった。





フェイト、とても真剣な顔だったから。何・・・・・・言おうとしてたんだろ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



僕達は、再び市場に向かう。特産品売り場なんかも併設されていたので、そこを回る。





まー、そこもなんやかんやとしながら・・・・・・え、だめ? 分かったよ。じゃあ、本当にちょこっとだけね?










「・・・・・・えっと、サリさんとヒロさんの分は」

「ね、ヤスフミ。そのサリさんっていうのも、お友達?」

「うん、ヒロさんの同僚。というか、ヒロさんと一緒に知り合ったの」

「そっか」



お土産に関しては、事前にアレがいいとかコレがいいとか、リクエストは受けてるので大丈夫。

問題は・・・・・・別のところだよなぁ。普通にエリキャロ、どうしようか。




「あれ、エリキャロは?」



いつの間にか、視界の中からエリキャロが消えていた。なので、僕は辺りをキョロキョロする。



「うん、あそこで一緒におみやげ選んでる」



フェイトが指差した方を見ると、本当にすぐ近くで、ガラス工芸の品を見ている。

それもすごく楽しそうに。むむ、さっきまでちょこっと微妙な空気だったのに。



「二人とも一緒にお風呂くらいはあるから、大丈夫なんだよ」

「そうなの? ・・・・・・あ、思い出した。海鳴のスーパー銭湯」



キャロ経由で聞いた。なんか海鳴での出張任務の時に一緒にお風呂入ってお話して、エリオと親交を深めたとか。



「そうだよ。きっと二人とも、いきなり過ぎてただビックリしちゃっただけなんだよね」

「なるほど。でもフェイト、だからってアレが大丈夫という事にはならないから」

「どうして?」

「どうしても」



・・・・・・キャロ、エリオとはまた別の意味合いで苦労するかも知れないよ? だって、フェイトがコレだもの。

あー、なんか頭痛くなってきた。やばい、キャロに昔の自分を重ねてしまっているせいか、凄まじく怖い。



「・・・・・・というか、フェイト」

「なに?」

「いいの? 一緒に選んだりしなくて」

「しないよ。というか、アレは二人が買うお土産だよ?
私が一緒に選んだり、自分からアドバイスしたらダメだよ」



・・・・・・うそ、すごいまともだ。親ばかなのに、すごいまともな事言ってる。フェイトじゃないみたい。



「フェイト、放任主義って出来たんだね。僕、砂糖をあげ続けるだけしか出来ないと思ってたのに」

「・・・・・・それはどういう意味かな。是非とも詳しく聞きたいんだけど」



なんて言っている間に、僕の端末に通信がかかる。僕は誰かと思いながら右手で端末を。



『やっほー! やっさん、お休み堪能してるっ!? てーかしろっ! 大体アンタバカやり過ぎてんだしっ!!』



・・・・・・僕がなんにもしてないのに、通信立ち上がるってどういう事だろ。

ため息を一つ吐きながら・・・・・・あぁもう、フェイトが居るのに。でも、いいか。



「堪能してますよ。てか、どうしたんですか。ヒロさん・・・・・・だけじゃなくて、サリさんまで」

『悪い。俺にこのバカは止められなかったとだけ言っておく』



納得しました。てーか、それなら仕方ない。



『いやさ、お土産のリクエストの追加でもさせてもらおうと思ってさ』





今繋がった通信モニターに映る一組の男女。なお、二人とも僕の友達。

白いセミロングの髪を、二つに分けている柔らかい顔立ちの女性。こちらが、ヒロリス・クロスフォード。

そして、その隣りに居る黒色の少し長めのざんばらな髪の男性が、サリエル・エグザ。



今まで何度か話しているけど、本局の特殊車両開発局で働くスタッフさんである。なお、オタク。





「でも、それなら丁度よかった。今選んでるとこだったんですよ」

『あ、そうなんだ。じゃあ悪いんだけど、今メールでリスト送ったから、それもお願い。
分からないようならそこの店員なり、市場の人なりに聞けばOKなはずだから』

「また手際のいい事で」

≪・・・・・・今確認しました。間違いなく送ります。
というか、開発局宛てで本当にいいんですか?≫



そこは、僕も正直疑問だった。だってお酒もそうだし、事前のリクエストの中に生ものとかもあるのに。

仕事場にそれ送ったら、大問題じゃないかと思うんですけど。



『・・・・・・お前ら、コイツにそれ言って意味あると思うか?』

「ありませんよね」

≪あるわけがないですよね≫

『何さアンタらっ! 私をなんだと思ってるっ!?』



あははは、相当アレだと思っていますけど、何か問題でも?



「・・・・・・あの」



僕達がそんな楽しい会話をしていると、フェイトがやたらとかしこまっていた。



『何?』

「・・・・・・なんでヤスフミも含めて不思議そうな顔をするの?
あの、ヤスフミのお友達・・・・・・ですよね。ヒロさんに、サリさん」

『あぁ、そうだけ』



言いかけたヒロさんが、固まった。固まって、フェイトをジーッと見る。画面の中からジーッと見る。



「あの、えっと・・・・・・どうされました?」



そして、次に僕を見る。色々な感情とか問いかけとか込めた上で。だから、僕は頷く。

だからヒロさんは・・・・・・納得したように、こう一息で言い放つのだ。



『ごめんやっさんっ! 私ら緊急で仕事入ったっ!! いや、今入っちゃったんだよっ!?
とにかくお土産お願いねっ! そういうわけだから・・・・・・ばいちゃっ!!』



そんな言葉だけを遺して、通信画面は消えた。・・・・・・フェイトは、ポカーンとしている。



”・・・・・・まぁ、そうですよね。普通に関わりたくありませんよね”

”そうだね”



念話で、アルトとそんな話をする。一応、僕達は今のヒロさんの対応には納得した。

てーか、普通はそうする。しない理由が分からない。



「あの、えっと・・・・・・私、何か失礼な事しちゃったかな?」

「失礼な事はしてないと思う。ただ、ひと目見て気づいちゃっただけだよ。
本局執務官で、スカリエッティを逮捕したフェイト・T・ハラオウンだってさ」



フェイトは昨日の僕の話を思い出したのか、少し悲しそうな顔をした。そして、胸が痛む。

・・・・・・ごめん、フェイト。でも僕も嘘は言ってないの。というか、今はこういう言い方しか出来ないの。



「そう、なんだ。これだと私達武装局員は、そうとう嫌われてるね」

「・・・・・・いや、まぁそういうわけじゃないんだけどさ」










落ち込みモードなフェイトを引っ張りつつも、僕達は買い物を終えた。

その足で早々に近くの転送ポートに入る。それも、うきうきしながら。

なぜならこれから僕達は、里帰りするから。目的地は第97管理外世界。惑星名称は地球。





これから目指すべき場所は、その星の小さな島国の小さな海沿いの街だ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ヒロ、お前さすがにアレはないって。絶対ハラオウン執務官、嫌な思いしてるぞ?」

「分かってるよ。でもゴメン、今は無理。だって、アレからまだ2ヶ月とかだよ?
下手したらバレる。もう思いっ切りバレて、一気にめんどくさい話になる」



とりあえず、本局の休憩所で俺とヒロは少し頭を抱える。・・・・・・まぁ、なぁ。

コイツが気にしてる事は今のところ、アコース査察官と俺とやっさんくらいしか知らない話だしな。



「でもそれなら、あの話も断るって方法もあるぞ?」

「それはそれ、これはこれだよ」

「そうか。でも出来れば俺の分かる言語で話してもらえないか? 正直その言語は、意味が分からない」



まぁ、言いたい事は分かった。ようするに、準備期間の間にあの話がバレないようにした上で、会いたいと。

だから、コイツは珍しくも俺にすがりつくような顔をする。あはははは、つーかそこも全部俺がやんのかよ。



「言っておくが完全には無理だぞ? やっさんの話だと、証拠がきっちりレポートとして残ってんだからな」

「・・・・・・大丈夫、やっさんにちょっとレポートを改ざんしてもらって」

「出来るかバカっ! てーか、それは普通に犯罪だろうがっ!!」










・・・・・・俺らのしている会話の内容、今はワケが分からなくていい。それでいい。





大体3話とか4話くらい後に、分かるようになるんだからな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



季節は11月も半ば。あと少し経てば、色づいた落ち葉がこの街を染める。





そんな時期にアタシは、ゆっくりと紅茶を飲む。・・・・・・うん、美味しい。





オープンテラスで昇り切った太陽の光を浴びながら、ゆったりと紅茶を飲む美女二人。










「うん、いい絵だわ。普通に男どもが寄ってきそうな感じがするわね」

「・・・・・・アリサちゃん、そういうのは自分で言う事じゃないよ」

「いいじゃない別に。てか、アイツみたいなツッコミしないでよ。せっかくの紅茶が台無し」





今アタシに話し掛けたこの子は、アタシの友達。髪は紫がかった暗めの青。それを、白いヘアバンドが彩る。

この子の名前は、月村すずか。小学校1年からの大親友。アタシと同じく、現在大学生。

・・・・・・もう10年以上になるのよね。すずかと、あともう一人との付き合いも。



そこにフェイトやはやてが加わって、なのはの魔法の事とか怪我とかがあって。

そのリハビリが終わった直後くらいに、あのチビスケがこの街に来て、友達になった。

色々あったけど・・・・・・楽しい時間だった。今はみんな、バラバラだけどさ。





「・・・・・・なぎ君、元気してるかなぁ」

「何、まだ心配してるの? 大丈夫に決まってるでしょ」



たかだか1ヶ月くらい、全く連絡が取れなくなったからって大げさな。

アイツだって色々あるだろうし、問題は・・・・・・あるのか。



「何がそんなに心配なのよ」

「なぎ君、大きな事件に巻き込まれて・・・・・・色々あったらしいんだ。
だから気になるの。なぎ君・・・・・・優しい子だから」

「そう」



とりあえず、冷めないうちにまたお茶を飲む。・・・・・・あぁ、美味しい。



「確かにそれは心配よね。アイツ、なのは達みたいに局員でもないし」

「うん。組織や仕事のためなんて言い訳も出来ない子だから・・・・・・余計に」

「重いものが襲ってきても、結局自分で背負うしかないと。・・・・・・そりゃ、なのは達も心配するわよ」





組織に居るってさ、そういう楽が出来る部分もあるのよ。これは、間違いのない事実。

保険とかそういう部分で守ってもらったり、何か嫌な事があっても、大きな存在のせいに出来る。

局とかこっちの普通の会社とか、どこでもそう。そして、それはどこかで当たり前になってる。



アタシもすずかも、親が会社経営に携わってるしね。だから、色々と小さい頃から分かってる。

とりあえず、連絡が取れなかったのはナギだけじゃなくてなのは達もなんだけど、こっちはいい。

言い方は悪いけど、そういう擁護の中に居る人間だから。それに、昔なじみと一緒の部隊だもの。



仕事面でもプライベートの面でも、あり得ないくらいに恵まれているとも言える。

だから、すずかもここでなのは達が心配という話はしてない。アタシもしない。

連絡しなかった事に関しては、しっかりと電話でお説教はしたしね。事情も軽くだけど聞いたから。



だから問題は、あのチビだけなのよ。だからすずかだって、会うのが楽しみだけど不安でもある。



色々な事のせいで、自分の知ってる姿と変わっていたらどうしようと、嬉しさの中にそんな不安が入り交じってる。





「・・・・・・なんて話してる間に、来たみたいよ」

「あ、ホントだね」





言いながら、アタシ達は立ち上がってある方向に駆け出す。向かう場所は、10メートル程先。

円状の光が唐突に生まれて、そこから四人ほどこれまた唐突に現れる。

そこに居たのは、懐かしい昔なじみにその昔なじみの保護児童二人。まぁ、ここはいい。



アタシ・・・・・・じゃないな。すずかにとって大事なのは、そこに一人の男の子が居る事だから。



ジーンズの上下にリュックを背負ったソイツは、普通にこっちを見て・・・・・・固まった。





「なぎ君っ!!」



すずかがいきなり飛び込んで、抱きついてきたから。それを受け止めると同時に、戸惑いの表情を見せる。



「す、すずかさんっ!?」

「・・・・・・会いたかった。凄く・・・・・・凄く会いたかった」

「そ、それは分かるけど離してー! みんな見てるっ!! めっちゃ見てるのよっ!?」

「それでもいいのっ!!」

「僕が良くないのよっ!!」



あぁ、だめだ。フェイトとエリオとキャロも呆然としてるけど、これはもうだめだ。

少なくとも今は引き剥がせない。今は無理だ。



「・・・・・・ナギ」

「あ、アリサ。お久しぶり・・・・・・って言いたいんだけど、すずかさんを」

「悪いんだけど、ちょっと相手しててもらえる? この子、アンタの事相当心配してたのよ。そして、その原因・・・・・・覚え、あるでしょ?」



軽くそう言うと、ナギは苦い顔をしながら頷いた。そして、すずかはちょっと泣き出してる。



「てーか、何やったかは知らないけど・・・・・・当然勝ったのよね?」



軽く、冗談交じりで聞いた。だから、軽く返してくれるもんだと思ってた。



「いや、負けたわ。・・・・・・それも、大負けだった」



軽くはあった。だけど、表情は苦笑いだし、言ってる内容が重かった。



「あれだよ。最後の勝負には勝ったけど、他の所で大負けってやつ? 帳尻合わせは出来なかったわ」

「・・・・・・そっか」










色々あるもんだと思って、納得した。とりあえずフェイトが落ち込んだ顔してるのも、気にしない事にした。





命ってのに関わる仕事ではあるもの。色々あるわよね。アタシやすずかじゃ分からないような事も、沢山。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あの、フェイトさん」

「すずかさんの・・・・・・アレは」

「あ、二人とも気にしないでいいよ? すずか、ヤスフミの事が好きなんだ」

「「あぁ、そうなんで・・・・・・えぇっ!?」」





驚いていた二人には、色々あってすずかがアプローチしているとだけ説明した。

というか、二人に説明出来ない事もあるし。でも、おかしいんだよね。

すずか・・・・・・とても綺麗だしいい子なのに、ヤスフミはずっと断ってる感じなの。



どうしてなんだろ。私は、すずかとだったらちゃんと応援出来るのにな。





「すずかさん、あの・・・・・・心配かけたのは悪かったと思うけど、離してくれない?」

「嫌。なぎ君分、ここで補充するんだから」

「何っ!? その聞いた事もないような成分はっ!!」










とりあえず私は、さっきのヤスフミの発言が気になってた。

大負け・・・・・・そう言い切ってた。やっぱり気にしてるのかな。

ううん、してないわけがないよね。あれから相当だったし。





・・・・・・どうしよう。私、本当にどうしよう。かなり考えてる。こっちも相当に。

だけど答えが出ない。どうしたらヤスフミの、大事な友達の力になれるのか分からない。

六課という場所に期待するだけじゃ、ダメだった。変わる事をただ願うだけじゃ、ダメだった。





ずっとお姉さんで一緒に居たはずなのに、ヤスフミに手が届いてない。





それが凄く嫌で。なのに、何も出来無くて。私・・・・・・どうすればいいんだろ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・とにかく、僕達は移動を開始。すずかさんがすごい嬉しそうだけど、気にしない事にする。

予想はしていたけど、まさかあそこまでとは・・・・・・うぅ、なんだか申し訳なくなってくるなぁ。

えー、すずかさんとは何にも無いんだよ? いや、真面目によ。





・・・・・・・・・・・・すみません、ちょっとありました。えぇ、ありました。

海鳴に来たばかりの僕は、すずかさんの家のゴタゴタに首を突っ込んで、色々あった。

なぜだか魔法絡みじゃないのに、アルト使って戦いました。はい、やりあっちゃいました。





それ以来かな。すずかさんが僕に対して、さっきみたいな事をするようになったのは。

確かに嬉しい。好きだって言ってもらえるのは・・・・・・その、本当に。

すずかさん、綺麗で素敵だし、僕にはもったいないくらいだし。でもその・・・・・・フェイトが居るから。





というか、ちゃんと断ったりもしてる。それはもうしっかりと。だけど、引かない。

『友達同士のスキンシップとしてやってるから、大丈夫だよ?』というお返事が返ってくる。

うぅ・・・・・・どうしよう。やっぱ、早々にフェイトフラグを成立させるしかないのかな。





でも、フェイトはあんな調子だし・・・・・・真面目にどうしよう。

とにかく、そんな話をしながらも僕達は海鳴の町を歩く。

一応、顔を出しておかねばならないところがあるのよ。





そして到着したのは・・・・・・一件の家。中に入ると、純和風の佇まい。

道場があったり、庭に池があったり。僕はよく出入りをしていた場所。

僕達がインターホンを鳴らすと、中から複数の足音がする。それは、こちらに近づいてくる。





その足音が間近まで近づくと、引き戸式の扉が開く。そこに居たのは一人の黒髪の男性。その傍らに栗色の長い髪の女性。










「士郎さん、桃子さん、ご無沙汰しています」

「お久しぶりです」

「フェイトちゃん、恭文くんもお帰り」

「いや、しばらく会わない間に・・・・・・背はやっぱり伸びてないな」

≪士郎さん、言わないであげてください≫





この人達の名前は、高町士郎と高町桃子さん。僕は士郎さんと桃子さんと呼んでいる。

ここまで言えば分かると思うけど、ここは高町家。つまり・・・・・・なのはの実家なのだ。

僕とフェイト達は、日ごろお世話になっているお二人に挨拶に来たというわけである。



だから、初上陸な二人が相当にペコペコするのよ。





「あの、初めましてっ! エリオ・モンディアルですっ!!」

「キャロ・ル・ルシエですっ! 初めましてっ!!」

「あぁ、あなた達が。はい、初めまして。エリオ君とキャロちゃんね」

「・・・・・・君達、うちのなのはは厳しいかな。向こうの世界で、悪魔とか魔王とか言われてるんだろ?」



その瞬間、そう口にした士郎さん以外の全員が僕を見る。

だけど、僕の視点は既に空へと向いている。何の問題もないよ。あぁ、いい天気だなぁ〜。



「あ、あの・・・・・・そんな事ないですから。なのはさんは、すごく優しい方です」

「いつも私達の事を気遣ってくれています。魔王と言うのは性悪なぎさんの、不器用で意固地な意地悪なんです」

「それもヒドくないっ!?」

「まぁまぁ。とにかくみんな中へ入って。お茶とお菓子も用意してるから、それでも食べながら話を聞かせてくれ」





士郎さんの先導で、僕達は高町家へと入る。

・・・・・・いや、ここも久し振りだよね。うん、本当に帰って来た気持ちになるよ。

でも、リビングの方から話し声が聴こえる事に気づいた。というか、靴がある。



それも、僕とフェイトが見覚えのある靴が・・・・・・複数。



それになんとなく嫌なものを感じながら、リビングに入った。そして・・・・・・僕は頭を抱えた。





「恭文さん〜♪」

「フェイトちゃん、エリオとキャロも遅かったね。
あと恭文君・・・・・・お話しようね。お父さんになに言ってくれてるのかな?」

「はむはむ・・・・・・士郎さん、桃子さん、美味しいです。あ、恭文、フェイトママー!!
こっちこっちー! あのね、ヴィヴィオもなのはママと一緒に来ちゃったー!!」




居たのは、10歳前後と6歳くらいの女の子二人。そして、魔王。



「・・・・・・魔王、どうしてここに居るの?」

「魔王じゃないもんっ!!」

「あぁ、神なんて居なかったんだっ! 魔王はどこへ行っても逃げられないんだっ!!」

「だから魔王じゃないよっ! というか、私をそんな恐怖の代名詞みたいに言うのやめてよっ!!」



いやいや、魔王が恐怖の代名詞じゃない。なのはという名前が恐怖の代名詞なんだ。だから、僕はこう返す。



「なのは、いい加減本当の自分を受け入れなよ」

≪JACK POT!!≫

「アルトアイゼンもなんで『大当たりっ!』って言ってるのっ! どうしてDMCっ!?
あれかなっ! 青くて刀使いだからOKとか思ってるのかなっ!? でもそれはまちがいだよっ!!」

「てゆうか、どうしてリインとなのはとヴィヴィオがここに居るんだよっ! そっちの方がわからないからっ!!」



てか、よく見たらなんでアリサとすずかさんまでビックリしてるっ!? 今気づいたけど、二人とも目を見開いて驚いた顔してるしっ!!



「なのはっ!!」

「なのはちゃんっ!!」

「アリサちゃん、すずかちゃんも久し振り〜」

「いや、その前にその子誰っ! ママってなにっ!?」

「そうだよっ! フェイトママになのはママって・・・・・・えぇっ!!」



きゃー! なんか知らないけどパニック寸前っ!? アリサがワケ分からなくて頭抱え出したしっ!!



「なのは、待ってっ! どうしてここにっ!? 私もヤスフミも、何も聞いてないんだけどっ!!」

「そうよっ! ちゃんと説明しなさいっ!! ママってなにっ!?」

「まさか・・・・・・なぎ君との子どもっ!?」



はぁっ!? 待て待て、すずかさんが変な勘違いを・・・・・・よし、乗っちゃえっ!!



「すずかさん、よく分かったね。あの子は僕とフェイトが子作りして出来た子どもなんだ。
僕達、実はもうそういう関係なんだよ。今度結婚式を挙げる予定で」

「違うよねっ!? あぁ、みんな落ち着いてー! 私からちゃんと説明するからっ!!
というか、恭文君とフェイトちゃんの子どもじゃないんだよっ!? この子は私の子どもだからっ!!」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで、リビングに座って説明会だよ。説明の会だよ。

僕は、なのはから色々吐いてもらった。というか、僕達も吐いた。

ヴィヴィオがなのはの子どもになった簡単な経緯とか色々。





で、アリサさんとすずかさんは一応納得してくれた。で、今度は僕とフェイトとおまけ二人が納得する番だよ。










「・・・・・・アンタ、ぶっ飛んだ子だとは思ったけど、養子引き取るなんて」

「じゃあ、本当になぎ君とフェイトちゃんの子どもじゃないの? 子作りしたんじゃないの?」

「違うよっ!? というか、普通に作ってたら、恭文君とフェイトちゃんの年齢が怖い事になるからやめてっ!!」



うーん、何故かフェイトが睨んでくるなぁ。僕、軽いジョークで場を賑わせただけなのに。



「それで横馬は、士郎さん達にヴィヴィオを紹介するために来たと」

「そうだよ」



よくよく考えたら、必要だよね。だって、いきなり娘出来ちゃったんだもの。それも6歳児。

だから僕もフェイトも、納得した。てゆうか、この段階までそれをしてなかったんかい。



「もちろん事情は説明してたんだけど、ちゃんと会わせたくて」

「いや、それならこの間の休み・・・・・・あぁ、ヴィヴィオの学校回りしてたからか」



僕もそのうちの一つに付き合ったから、よく分かった。それで時間が取れなくて、今と。



「うん。ちょっと時間取れなかったんだ。まぁ、私はフェイトちゃん達と違って、日帰りなんだけどね」

≪ですが、どうやってこちらの世界へ?≫

「フェイトさん達のスケジュールは知ってましたから、先回りしたのです。
ハラオウン家の簡易型のポートから跳んで、驚かせたのですよ」



うん、納得した。でも、なんでリインまで一緒? 居る必要ないじゃん。



≪それで、リインさんはまたどうして来たんですか≫

「そんなの、恭文さんに会いに来たからに決まってるですよー」

「あぁ、それなら納得。リインはナギにとっての、元祖ヒロインだしね」

「はいです♪」



いや、それで納得するっておかしいからっ! そして元祖ヒロインって言うなっ!! そんな嬉しそうな顔しても、僕は騙されないよっ!?



「うーん、リインちゃんはやっぱり強敵だね。よし、私も新ヒロインとして、頑張らないと」



何それっ!? てゆうか、変な用語作らないでー! お願いだからやめてー!!

エリオとキャロの僕を見る目が微妙なのー! 何かが色々突き刺さるのー!!



「はい、そこ変な対抗意識燃やさないでもらえるかなっ!? つか、何回も元祖ヒロインって言うなっ!!」

「恭文、もてもてだね」



士郎さん達と楽しそうに談笑しながら、ヴィヴィオが言ってきた。



「・・・・・・うん、なんでかね」



おかしいな。僕・・・・・・フェイトが本命のはずなのに。公言しているのに、どうしてこうなるの?



「あのでも二股とかはダメだよ? 選択するのは、ちょっと辛いとは思うの。
けど、誰か一人を選ばないとリインやすずかが可哀想だよ」

「フェイトも誤解しないでっ! 二股かけるつもりもなければ、二人とそうなる予定もないからっ!! 僕、本命一筋だよっ!?」

「なぎ君、ひどいよー!!」

「ですー!!」



・・・・・・なんか聞こえてるけど、無視。気にしたら、何かが壊れてしまう。



「という事は、ヤスフミは本命がいるの?」

「内緒」

「内緒って・・・・・・またそんな事言う。ね、お願いだからちゃんと話して欲しいな。私、力になるよ?」

「嫌。話してもフェイトにはどうにも出来ないし。フェイトが力になれるわけがないし。現になってないし」



あははは、悲しそうな顔してもダメだよ? てゆうか、どうにも出来てない故の現状だって、気づいて欲しいよ。



「・・・・・・ナギ、アンタ普通に容赦ないわね。いや、アタシもそこ同意見なんだけど」

「でしょ?」



さすがはアリサ。色んな意味でこの辺りの事をお分かり頂いている。うん、嬉しいね。



「そうだよね、フェイトちゃんは今のままじゃ、絶対なぎ君の力になれないと思うな。
うん、絶対無理だね。無理だよ。無理という答え以外が出るはずがないよ。だからなぎ君」



僕には、今どうしてそこで『だから』に繋がるのかが、今ひとつ理解出来ない。

でも、すずかさんにその問いかけは無意味らしい。普通に両手を腕の前で握って、ガッツポーズしてるし。



「むしろ、なぎ君の力になるのは私だと思うの。私、ありったけでなぎ君の力になるよ?
私の全部で、なぎ君の事・・・・・・いっぱいいっぱい幸せにしたいんだ」

「ですです。フェイトさんは、ハッキリ言ってお邪魔虫なのですよ。だから、ここはリインにお任せです」



やっぱりどうしても『だから』に繋がるのかが分からない。だけど、そんな疑問は差し置いてリインまで乗ってきた。



「恭文さん、大丈夫ですよ。リインは第二夫人に甘んじてでも、恭文さんのお側に居るのです。
リインは、恭文さんの一部ですから。ずーっとずーっと、一緒なのです♪」

「あはははは、お前ら揃ってとっとと帰ってくれます?
ほら、おみやげに高町家の塩をプレゼントするから」

「なぎ君がヒドいよー!!」

「ですー!!」



やかましいわボケっ! てゆうか、普通に追い打ちかけるのやめないっ!?

ほら、フェイトがすっごい落ち込み始めたしっ! エリキャロに慰められてるしっ!!



「そういや士郎さん、美由希さんはどこに?」

「・・・・・・君、フェイトちゃんはいいのか?」

「お願いします、触れないでください。触れても僕にとって楽しい事は何もないんです」

「そうか」



もういい加減疲れてきたので、話を変える。フェイトが落ち込んでるけど、気にしない。

頭を抱えながら、入ってきた時に気づいた疑問をぶつける事にした。



「美由希なら、私用で出かけているよ。夕方には帰ってくるが」



なお、美由希さんというのはなのはのお姉さん。黒色の長い髪を三つ編みにしているメガネ美人さん。

現在は、高町家が経営している翠屋という喫茶店の二代目店長さんをしている。あ、士郎さん達は初代店長。



「少しばかり、君の出迎えがしたかったとゴネていたんだが」

≪・・・・・・想像出来ますね≫

「僕、姿隠していいかな?」



やばい、すずかさんがアレだったから、普通に美由希さんがなんかしてくる可能性は大きい。



「ダメ。お姉ちゃん、恭文君の事本当に心配してたんだから。ちゃんと会ってあげて」

「ちくしょお、魔王のバインドが僕を縛る」

「魔王じゃないもんっ!!」











こんな感じで、時間は過ぎ去り・・・・・・あっという間に夕方。

その間にフェイトは復活して、僕はすずかさんとリインをスルー。アリサは、それを呆れ気味に見ていた。

あとは、向こうでの事とか今年あった事とか、ヴィヴィオの事とかも色々話した。





そんな時間を過ごしている間に、あの人がやってきたのである。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「恭文ー!!」



僕達が居たリビングのドアを開けて、僕の姿を確認したのは一匹の猛獣。

確認した途端、いきなり抱きつこうとしてきた。なお、女性。



「回避っ!!」





僕は、ソファーから即座に立ち上がり、背中に敷いていたクッションを、全力でぶん投げる。

そして・・・・・・跳ぶ。跳躍した僕は、テーブルを飛び越え、部屋の真ん中に着地。

そのまま襲撃者がいる方向とは逆に、素早く数歩下がる。



襲撃者は、僕のぶん投げたクッションをあっさりと回避。

すぐに僕へと迫ってきたけど、間合いとタイミングをズラされて、その場に踏み留まった。

・・・・・・ち、さすがにこれでは崩れないか。さすがに武器は使えないし、ここではこれが限界か。





「ひどいよ。久しぶりに会ったのに、どうして逃げるの?」

「美由希さんがいきなり抱きつこうとするからじゃないですか。
というか、年齢を考えてくださいっ! 僕も大人だし、あなたも大人ですよっ!?」

「いいじゃん別に。だって恭文の抱き心地、最高だしさ」

「人をどっかのぬいぐるみみたいに言うなっ!!」





エリキャロとヴィヴィオは驚いてるけど、他のみんなはいたって冷静。

というか、桃子さんにいたっては、この襲撃者の応援までしてる。

僕にいきなり抱きつこうとしてきたのは・・・・・・まぁ、言ったけど女の人。



黒髪を一つの三つ編みにして、眼鏡をかけている。そして、スタイルは抜群にいい。

多分、100人に聞いたら、90人くらいは美人と答えるだろう。僕も答える。

このお姉さんが高町美由希。さっき話に出した、なのはのお姉さん。



僕とは10歳以上離れた友達であり、実戦剣術の先輩と後輩という関係。





「でも・・・・・・うーん、逃がさないつもりだったのに、逃げられちゃったなぁ」



言いながら、美由希さんが構えを解く。僕は・・・・・・警戒だけは緩めずに、同じようにした。



「恭文、どこから私が居るって気づいた?」

「そんなもん、1分前からですけど」



なお、ここに来るまでインターホンも物音も一切無かった。でも、気づいた。

戦闘者どうこうではなく・・・・・・今までのアレコレのせいで、悪寒がしたせいだけど。



「む、私が表玄関に入る前からか。うーん、腕上げたなぁ」



あははは、経験則なんだけど、勘違いしてるよ。まぁ、いいか。似たようなもんだし。



「ま、そこはともかく・・・・・・おかえり」



なんて言いながら、美由希さんが飛び込んでくる。なお、今度は避けられなかった。

だってこれで避けたら、美由希さんの身体、後ろの窓に直撃しちゃうし。



「た、ただいまです」

「うーん、やっぱり優しいなぁ。ちゃんと受け止めてくれるんだもん」





とか言いながら、思いっ切り抱きつくのやめてください。胸の感触とか、伝わってますから。

・・・・・・さっきのすずかさんよりは小さめだけど、美由希さんも大きい方だから、とても心地いい。

なんというか、安心する感触。もちろん、心を許しているというのもあるんだけど。



ただ、それでもやめて欲しい。普通に驚きなんだよ、僕は。フェイトの目の前だしさ。





「・・・・・・あの、お姉ちゃん? 何か忘れてないかな」



そう言ってくるのは、当然なのは。今までのアレコレに呆然としてたけど、ようやく活動を再開した。

僕を抱きしめながら美由希さんは、なのはを見て・・・・・・数秒後、首を傾げた。



「何も忘れてないよね。私、恭文の事抱きしめてるんだし」

「それが忘れてるんだよっ! てゆうか、久々の妹との再会になんだか冷たくないかなっ!!」

「あぁ、ごめんごめん。なのは、フェイトちゃんもお久しぶり。というわけで・・・・・・恭文」



だから抱きしめる力を強めるなー! すずかさんと全く行動パターンが同じってどういう事っ!?



「心配、したんだよ?」



耳元で、そっと囁いてきたのは当然僕に抱きついているお姉さん。

僕にしか聞こえないような声で、そう言ってきた。



「返事、しなくていいからちょっと聞いてて。・・・・・・大変、だったね。
私だけじゃなくて、実は恭ちゃんもかなり心配してる」



恭ちゃんというのは、なのはのお兄さんの恭也さん。

すずかさんのお姉さんの忍さんと結婚して、仕事の関係でドイツで暮らしている。



「ごめんね、きっとなのはが迷惑かけちゃったんだよね。だから、休む間もなく部隊に入ったりして」



美由希さんには、そこまで細かい事情は説明してない。僕が六課に来た理由とかね。

でも、それでも分かるというのは・・・・・・なのは、おのれのお姉さんは怖い人だよ。



「・・・・・・だからさ、疲れたら何時でも来てくれていいから。甘えてくれて、いい。
いやらしい意味じゃなくて、お姉さんとして・・・・・・それで、いいから」

「・・・・・・善処、します」



僕は、とりあえず両腕を美由希さんの身体に回して、抱きしめる。

感謝と申し訳なさで一杯の気持ちを、しっかりとそれで伝える。



「ん、それでいいよ」



それだけ囁いて、美由希さんは身体を離してくれた。そして、にっこりと笑ってくれる。

・・・・・・やっぱり、ゴメンだよね。僕、そうとう心配かけちゃってるわ。



「あ、それでみんなに早速提案」

「美由希・・・・・・お前は帰ってきたばかりなのに、慌ただしいな」



士郎さんが呆れ気味に言うのも無理はない。普通にすごい勢いでぶっ飛ばしてるもの。



「ごめんごめん。実はね、帰りにエイミィから連絡もらってさ」



エイミィというのは、六課後見人の一人でフェイトのお兄さんのクロノ・ハラオウンさんの奥さん。

美由希さんとは10年来の親友で、エイミィさんも海鳴のハラオウン家で暮らしてるから、相当仲良しなの。



「もしよかったら、夕飯は家で食べないかって。なんかリンディさんが張り切って作ってるらしいんだよ」

「母さんがですか?」

「あー、納得しました。その原因、僕達でしょ」

「正解」



フェイトと僕が帰ってくるってのもあるし、チビッ子二人がハラオウン家初上陸ってのもある。

だから、頑張りまくってるんでしょ。海鳴での出張任務の時は、寄れなかったそうだし。



「あとね、その前にみんなでスーパー銭湯に行かないかって」





海鳴のスーパー銭湯というのは、いわゆる豪華な温泉施設。

当然僕もフェイトも、行った事がある。

何種類もお風呂があって、どれもこれも広くって楽しいんだよね〜。



・・・・・・ただなぁ、このコミュニティの中で男が決定的に少ないのよ。

僕と士郎さんと恭也さん、クロノさんとザフィーラさんくらいしか居ないの。

よくなのは達とつるんで暇があったのは僕だけだし、場合によっては一人ぼっちだよ?



仕方が無いとは言え、寂しいって。恭也さんとクロノさんは早風呂派で、今ひとつ楽しみがないしさ。





「そういうわけだから、みんな、これからお風呂タイムに入るよ」

「そしていきなりですねっ! てゆうか、みんなだって都合とか」

『異議なしっ!!』

「そして全員OKの上に即答かいっ! 普通に考えるって事をしないっ!?」



うわ、なんつう連帯感だよ。さすがに付き合いが長いだけはある。

てゆうか、普通にヴィヴィオまで乗ってるし・・・・・・すごいなぁ。もう順応している。



「・・・・・・あ、すまないが私達は銭湯は遠慮させてもらうよ」

「え、お父さんどうして? せっかくだから行こうよー」

「私達は、リンディさんのお手伝いをしてくるわ。銭湯は、みんなで楽しんで来て?」



・・・・・・穏やかな笑顔でそう桃子さんに言われて、僕達は顔を見合わせて、頷いた。

やっぱり、年長者だから誘われっぱなしはダメらしい。うむぅ、なんだか大人だ。



「・・・・・・ねぇ、恭文」



士郎さん達にちょっと感心していると、僕のジーンズをくいくいと引っ張る感触。

そっちを見ると、僕を見上げながらヴィヴィオが疑問の表情を浮かべていた。



「『せんとう』ってなにー? ヴィヴィオ、よく分からないよー」

「分かってなかったのに乗ったんかいっ! どんだけノリがいいのっ!?」

≪・・・・・・高町教導官、これどういう事ですか? どうして基本的な所がサッパリなんですか≫

「あー、ヴィヴィオってそういう公共の入浴施設に行った事がないから。
この間の旅行の時も部屋のお風呂だったし、六課のお風呂もまた違うから」

≪納得しました≫










そしてその後、火の元の確認や戸締まりを確認した上で、僕達は高町家を出た。





途中で士郎さんと桃子さんと別れて、僕達は海鳴のスーパー銭湯へと入る。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・あー、みんなこっちこっちー!!」





入る前に、入り口に人影を見つけた。黄色のスカートと上着を纏った女性の姿が、そこにはあった。

腰まである栗色の髪を首の所でリボンで一纏めにして、素敵な笑顔を浮かべている。

そして、左手の薬指には銀色に輝く結婚指輪。あの人が、エイミィ・ハラオウンさん。



さっきも説明したけど、美由希さんの友達でフェイトの義姉。で、僕とは年の離れた友達関係。





「恭文、これがせんとう?」



エイミィさんにも目を向けず、ヴィヴィオは目の前の建物を見る。なお、屋根瓦で日本風の面持ち。

表玄関の様子に、ヴィヴィオはワクワクしてるのか瞳を輝かせてた。



「そうだよ。・・・・・・そうだ、ヴィヴィオ。僕の事をこれからパパと呼ばない?」

「どうして?」

「ほら、なのはママ・・・・・・は良いとして、健全な成長のためには、パパは必要だと思うんだ。
というか、むしろ呼んで欲しいな。ほら、そうすればフェイトママと恭文パパになれるし」



そうして、フェイトに意識させる。そして、認識させる。『・・・・・・ヤスフミとパパとママ、いいかも』と。

よし、勝てる。これで僕は勝てる。だから右手で、ガッツポーズなんてして気合いが入るのよ。



「というわけで呼んでみようか。さんはい」

「呼ばせるんじゃないわよっ! このバカっ!!」



瞬間、後頭部に衝撃が走る。それは、アリサの右手。思いっ切り、後ろからはたかれた。



「アリサ、何すんのっ!?」

「うるさいっ! アンタ、何ヴィヴィオをダシに使おうとしてるのっ!? 男として情けないわよっ!!」

「失礼な事言わないでよ。ただ、利用しようとしてるだけなんだから」

「もっと性質が悪いわよっ! てゆうか、アンタそれだとなのはともそうなるのよっ!?
なのはママとフェイトママと恭文パパなのよっ!? ちょっとは考えなさいよっ!!」











・・・・・・この話を聞いて、何故かなのはが顔を赤らめた。





でも、思うところは良く分からないのでスルーして、僕達はスーパー銭湯にようやく入った。





そしてその後、ヴィヴィオは僕をパパとは呼んでくれなかった。くそ、いい考えだと思ったのに。




















(第16話へ続く)





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