[携帯モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
幕間そのじゅうはち 『ばとる・おぶ・えいせす/土地の記憶、目覚める?・・・・・・の巻』



古鉄≪さて、久々な幕間です。みなさん、おはこんばんちわちわ。古き鉄・アルトアイゼンです。
すみません、作者がエンジンかかって全話書き上がってしまったので、集中連載です≫

フェイト「みなさん、お・・・・・・おはこんばんちわちわ。フェイト・T・ハラオウンです。なお、全話で3話構成です」

古鉄≪さて、今回の幕間は前回直後。9月半ばに起きた大事件です。
なお、タイトルを見てあの話かと思う人もいるでしょう。そう、あの話です≫

フェイト「・・・・・・というか、どうするんだろ。ゲームだと一週間後の事後処理って感じだったのに」

古鉄≪もちろん、その辺りもしっかりフォローしています。というわけで、幕間そのじゅうはち、スタートです≫

フェイト「どうぞ」




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と機動六課の日常


幕間そのじゅうはち 『ばとる・おぶ・えいせす/土地の記憶、目覚める?・・・・・・の巻』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それは、さざなみ寮の耕介さんのケガも治り、僕も無事にあのこゆーい夏休みを終えた直後の話。





さざなみ寮でのお仕事を終えて、9月も半ばに入りかけた頃。





晴れ渡る海鳴の空の中、全てはよくある日常の1コマから全ては始まった。










「・・・・・・・・・・・・鉄輝、一閃っ!!」



白とピンクが混ざったような逆立った髪の男が、僕に砲撃を撃とうとする。

なので、砲弾ごと腕を叩き斬ってやった。なお、真下からの抜きで。



「瞬(またたき)」



刃を返し、一歩踏み込む。叩き斬られた紫色の砲弾が爆発し、僕もローブ姿の男も爆煙にのみ込まれる。

その爆煙ごと、もう一度男を斬る。肩口を狙って、アルトの刃を叩き込んだ。



「二連っ!!」





青い閃光が渦巻く爆煙を斬り裂く。当然、男の身体も斬り裂く。

男は白目を向いて、そのまま落下。僕も、そのまま降下する。

百数十メートルという高度を、一気に下がる。



なので、僕は足元のアクセルを羽ばたかせて着地体勢に入る。

あ、さっきの奴は真上の木に引っかかってから、地面に落下した。息はしているので、大丈夫。

向こうのデバイスが、着地用の魔法を自動発動したので当然生きてる。



多少身体のあっちこっちがありえない方向に曲がっているけど、気のせいだろう。

とりあえず、ソイツは気にしないで・・・・・・僕は辺りを見渡す。見渡している間に、結界が解除された。

幾何学色の空は、いつもの海鳴の青い空に戻る。あぁもう、死にかけても結界くらいは維持しろっての。



急いで僕は辺りを見回して・・・・・・あった。虹色に輝く、丸い宝石。

地面に少しだけめり込むような状態で、力を放出し続けてる。

そのせいで、辺りが虹色の光に染まりつつある。てゆうか、発動してるし。



リインも別件で居ないし魔導師組は全員お留守だし・・・・・・やるしか、ない。



発動したロストロギアの封印処理は、僕の魔力量じゃアウト。





「アルト」

≪間違いありません。急いで、封印処理を≫

「了解」



だから、こうする。僕に出来る、最大限の無茶を通す。



「参考までに聞くけど、フェイト達の到着を待つのは」

≪間に合うと思います?≫



そんな事を言うアルトを、正眼に構える。そして、意識を集中させる。



「無理だね」



・・・・・・このままなんて嫌だ。だからありったけを通す。僕は、何時だってそれだけだもの。

ここで通さなきゃいけないありったけは、きっとこれ。だから僕は・・・・・・星の光を、集め始めた。



≪Starlight Blade≫





・・・・・・・・・・・・本局が前々から追ってたロストロギアの違法取引をしてたバイヤーが居る。

というか、フェイトの追ってたバイヤー。それが、あの半死状態のパンクなお兄ちゃん。

そして、そいつが最近手に入れて売りさばこうとしていたものがある。それが、これ。



ロストロギア・『ガイアメモリ』。なんでも、土地の記憶を呼び覚ますロストロギアらしい。

僕が聞いたのは、それだけ。とりあえず、なんか嫌なもんだと言うのは分かる。

なので、ユニゾンしてないけどスターライトの力押しでこれは封印。




あぁ、そう言えば僕がこんな状況になっているのに関して、説明してなかったよね。

まぁ、簡単に言うと・・・・・・平穏無事に翠屋でバイトしてたら、コイツが海鳴に逃げてきた。

たまたま外の掃除中に、このバカが僕の真上で高速飛行したのよ。



で、フェイトから連絡をもらって、僕が追撃をかけて・・・・・・である。





「猛撃・・・・・・必壊っ!!」



ただ前に踏み込む。踏み込み僕は、唐竹に蒼い星の光の刃を叩き込む。

刃が捉えるのは、力を撒き散らし始めたロストロギア。蒼の閃光が、その鼓動を停止させる。



「スタァァァァァライトッ! ブレェェェドォォォォォォォォォォォッ!!」










なお、この後シャマルさんやフェイトに怒られたりするけど、それは正直理不尽だと思う。





だって、これしか方法なかったのに。だったらどうしろって言うのさ。・・・・・・まる。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・アイツ、また犯人半殺しにしたんだよなぁ」



海鳴でのちょっとした捕物から数日後、私は久々のゆったりとしたお昼を過ごしていた。

そんなわけで、最近家事手伝いの時間が増えたアルフとリビングでティータイム。



「まぁ、半殺しというか自業自得というか・・・・・・微妙なところね」



よりにもよって、ここに逃げてくるというのがねぇ。もっと言うと、あの子に遭遇したこと。

局の勧告を聞き入れて、素直に投降すればあんな状態にならずに済んだのに。



「ねぇお母さん、マジでアイツは一度しっかりと説教しようよ。みんなと同じようにしてってさ。
今回だって、あそこまでやる必要なかった。フェイトやアタシ達を信じて待ってれば」

「アルフ、それは無理よ。恭文君が追撃をかけてくれなければ、被疑者を取り逃がしていたわ。それは、分かるわよね?」

「それは・・・・・・うん、分かってる。あぁ、そうだよなぁ。
今回こういう事を言う権利、アタシもそうだけど誰にも言う権利無いんだよなぁ」



出動するにしても、色々と手続きというかそういうのが必要なの。

特にロストロギア関連の事件は。その辺りで、フェイトの動きに遅れが出ていた。



「あーもうごめん。・・・・・・今回のコレで、フェイトがちょっと落ち込んでてさ。
執務官は動きやすいのが本分なのに、ちゃんと出来なかったって。だから、ちょっとね」

「そう。・・・・・・でも、あまり気に病む必要はないと思うわ。フェイトの動き方は、最善だったと私は思う」





組織の人間として、ルールを守った上で動くことは大事だもの。

一人がそれを破れば、他の人間も危険に晒す可能性がある。

だから、私達は組織の歯車として動く。それが自分と組織の仲間のためだから。



フェイトが感じている気持ちは分かるけど、それは組織に居るなら誰でも感じてるもの。

もちろん私も。こういう言い方は自慢するみたいだけど、私はそれと向き合って、付き合っていってる。

だから、出来ればそれを糧に頑張って欲しいというのが、先輩局員の意見かしら。



局員という枠の中で世界や現実と関わっていくなら、必要な事だと思う。

ただ、絶対ではないから出来ないなら・・・・・・恭文君みたいな嘱託でもいいと思うのよね。

現実との関わり方は、人それぞれだもの。私は、あの子が笑っていられるなら、なんでもいい。



それはフェイトだけじゃなくて、クロノに恭文君、もちろんアルフも同じ。





「とは言っても、あの子は優しいからそれじゃあ納得しないわよね。
アルフ、フェイトが落ち込んでいるのは、恭文君が単独でスターライトを使ったせいもあるんでしょ?」

「うん。自分がもっと早く動いて、一緒に戦えていればそんなことさせる必要なかったって・・・・・・かなり」





本来、あの子のスターライトは禁術。単独での使用は、身体への負担が大き過ぎるから。

思い出しながら、目の前のカップの紅茶に口を付ける。・・・・・・本当に、無茶してくれるわね。

でも、ここはアルフの言うように仕方ない。ロストロギアは発動状態で、結界も解けちゃってたわけだし。



早急な封印が必要だったのは、誰の目からも明らか。責められる落ち度はないわ。

それになにより、あの子は目の前であんな状況を見せられて、何もしない事を選べる子じゃないから。

ただ、それとはまた別の話で・・・・・・出来れば、踏み止まる事も覚えて欲しい。



組織や信頼出来る人達に、責任を少しだけでも預ける選択も・・・・・・あぁもう。

トウゴウ先生、本当に恨みますよ? 私にあの子を託した事は、まぁいいんです。

元々そのつもりでしたから。ただ、勝手に旅に出ちゃって好き勝手してる事は、どうにも解せません。



あの子、やっぱりあなたの側に居た方が良かったんじゃないかって、本当に思いますし。えぇ、そこは本当に。



あなたを認められない私が母親代わりをしていていいのか、たまに迷う時があるんです。それは今も同じ。





「でも、犯人どうこうは抜きにして、それでアイツを責めるのもまた違う。
あの状況だと、ああでもしないと封印なんて無理だし」

「えぇ」

「そして、発動していた以上早急な処理も必要だった」





今回はあの子に感謝して当然よ。『土地の記憶を引き出す』なんて言う、よく分からないロストロギアを未然に止められた。

そして、犯人もまぁ・・・・・・無事ではないけど拘束出来た。結果は、ちゃんと出てるもの。

そう、結果は出ている。あの子は、自分の道理を通した上でちゃんと結果も出してる。



正直、ここが怖い。これがあの子の自信になるのは喜ばしいかも知れないけど、同時に怖くもある。





「ただ・・・・・・こう、何か気になっちゃってさ。上手く言えないけど、フェイト達と同じようにしてて欲しいんだ。
アタシさ、アイツ見てて・・・・・・たまにこう、怖いなって思う時があるんだ」

「それはどうして? アルフ、まさかあなた」

「あぁ、違うよ。アイツが人を殺したからじゃない。それ言えば・・・・・・アタシだって、同類だしさ」



自嘲するアルフの言っている事には、思い当たる節があった。それは、ジュエルシード事件当時の事。

当時存命だったプレシア・テスタロッサを、この子は殺そうとしたらしい。理由は、フェイトへの虐待。



「むしろ、アイツはアタシより立派だと思う。うん、そこは・・・・・・本当にそう思うんだ。
言い訳してもいいのに、したって許されるのにしない道を選んでる」



何気にアルフは、あの子の事を認めてるの。時折ルール無視なあの子に厳しい事を言うのは、心配の裏返し。

フェイトが辛い想いをするというのもあるけど、あの子にあまり傷ついて欲しくないとか・・・・・・思ってるわよね?



「きっかけはあったとしても、それは凄いと思う」

「『さぁ、お前の罪を数えろ』・・・・・・だったわよね」





恭文君が、小さな頃・・・・・・誰かから聞いたという言葉。これが、アルフの言うきっかけ。

自分の罪を数え、過去と向き合い・・・・・・それでも、一歩踏み出すという決意を込めた言葉。

それをあの子は、犯人や相手方に言う時がある。罪と、過去と向き合えと想いを込めて。



なお、私達もこれが誰から聞いた言葉かは、全く知らない。当の恭文君が、覚えていないんだもの。





「あぁそうだ。罪を数えて、一歩踏み出して・・・・・・アイツ、強いよ。
きっとさ、アタシなんかよりもずっと。ただ・・・・・・ただなんだ」



アルフの表情が変わる。不安げで、何かを心配しているような目に。

その視線の先に映っているのは、きっとフェイトや恭文君。



「ただ、同時にそれが怖い。アイツ、どっかで数えるためにこう・・・・・・なんか違うんだ。
フェイトやアタシ達と一緒に居ても、どこか離れてる感じがする。あぁもう、なんか上手く言えないや」

「・・・・・・そうね。その理由は、私にも少し分かるわ」





恭文君は強い。力じゃなくて心が。そしてその強さが、想いが、人を強く惹きつける。

例えばリインさんだったり、アルトアイゼンだったり、トウゴウ先生だったり、ヴィータさんだったり。

もっと言えば、恭也さんやフィアッセ・クリステラさんもそれに入るかしら。



あの子の強さに惹きつけられて、力を貸してくれてる。きっと、私なんかよりずっと沢山。

ただ、同時にとても頑なな部分がある。それが強さでもあるけど、多分アルフの感じている恐怖の源。

あの子の心は強いから、言い訳をしない。どんなに傷ついても、止まる選択を選べない。



言い訳を、逃げる事を許されても、きっと逃げない。迷いも躊躇いも振り切って、一歩踏み出す。

そうして、今目の前で泣いている誰かのために、必死に戦う。今までがそうだった。

だからあの子には、危うさがある。笑っていても、平和な日常を過ごしていても、すぐに消えちゃいそうな危うさ。



きっと、フェイトやなのはさん・・・・・・あの子に関わっているみんなが、どこかで感じている危うさ。

それを見て、思う時がある。あの子は、自分を大切にしていないんじゃないかと。

人を殺した事を理由に、罪を数え、過去と向き合うために、自分が幸せになる未来を諦めているんじゃないかと。



あの子のバトルマニアな所も、そう思ってしまう要因なのよね。

戦いの中に生きる意味や存在理由を見出している感じが、時々する。

改めて考えると、やっぱり怖いわね。・・・・・・私は、両手で持ったカップに口をつける。



紅茶を一口すすりながらも、私はその甘さを上手く味わえなかった。

場合によっては、言わなくちゃいけないのかしら。殺した事を、過去の重さを忘れて欲しいと。

もう数える必要なんてない。もう向き合う事も、償いも必要ない。降ろしていいんだって。



そんなの無理だと分かっていても・・・・・・その時には、言わずにはいられないかも知れない。

あのままだとあの子、きっと擦り切れる。もしくは、リインさんやアルトアイゼン以外の存在から遠ざかる。

どちらにしてもそれは不幸よ。人として、得られて当然の幸せを何一つ手に出来ないんだから。





「出来ればさ、局に・・・・・・ううん、フェイトやお母さんがしてるみたいに、一つの場所に居て欲しい。
色んな現実のやるせなさを抱えてさ、それでも踏みとどまって、やってみたい事を見つけて欲しいんだ」

「確かに、それは一つの解決法ね」





一つの場所・・・・・・もっと言えば今とは違う目標があるなら、あの子はきっと変わる。

そういう危うさが少しだけでもなくなる。多分、アルフはそう考えている。

そこは私も同意見。そして、もしかしたらあの子が諦めてる部分かも知れないと思っている。



・・・・・・今の今まで、全部不確定的な発言しかしてないのは、簡単。

私もアルフも、この場には居ないけどフェイトも、あの子の本心が読み切れないから。

私達全員あの子が強くなりたいという事以外で、目標どうこうを聞いた覚えがないもの。



それでも八神家のみんなは、大丈夫みたいなの。割合、経歴が近い方ではあるから。

クロノも大丈夫なのよね。男同士の繋がりが強いようだから。ただ、私達はだめ。

どうしてもそこに不安を覚える。不安を覚えるから、まずは仮でも一つの居場所を作る事を勧めてしまう。



あの子が色々な事のせいで局を、組織を嫌いなのを知っていながら・・・・・・そうしてしまう。

そしてそれを聞けないのは、あの子自身がそれを描いてないからじゃないかと思ってしまう。

強くなる事以外にも何かあるなら、話して欲しいんだけど・・・・・・話してくれないの。



もちろん聞いた。ただどんなに聞いても、ちょっと小ずるく引っかけ的に聞いても、あの子はそれを漏らさない。



どこか苦い気持ちを抱えながら、お茶をまた一口。・・・・・・やっぱり、美味しさが半減してる。





「あと、安心じゃないか? 部隊所属とかになれば、単独行動も避けられるだろうし」

「アルフ、その考えは甘いわよ? あの子はこう・・・・・・運が無いじゃない」

「・・・・・・ないよなぁ。今回だって、たまたま遭遇だしよ」



話を今回の事に戻すけど、今回の事は本当にたまたまの遭遇だった。そしてそれを追いかけて・・・・・・対処。

いつもの事とは言え、あの子の事件の遭遇率はハンパじゃない。どうなってるのかしら、アレ。



「良く良く考えたらさ、アースラに乗って仕事をしてそういう状況に近いとこに居るよね?
でも、結局タイマンじゃん。それも格上と一人で、救援も期待出来ない状況がほとんど」

「そうなのよね。だから私もそうだしみんなも、一概に安心とは言い切れないのよ」

「もしかして、アイツの運の悪さを何とかするところからかも。
こうやって振り返ってみるとアイツは自分から飛び出すってのより、巻き込まれるパターンが多いし」

「そうね。じゃあ、まずはそこから頑張っていきましょうか」










私とアルフの討議の結論として、局員になってもタイマン勝負は変わらないということになった。

・・・・・・私が母親としてやるべきことは、まずあの子の運の悪さを改善することかしら。

でも、出来るかしら。最近も偶然飛んできた野球のボールをぶつけられたり、不良に絡まれて返り討ちにしたりとかあったし。





いえ、もしかしたら過去の魔法関係でそういう厄払いとかの類があるかも知れないわ。

よし、まずそこよ。局員どうこうの前に、まずあの子の運の悪さの改善よ。・・・・・・頑張ろうっと。

それで、じっくりとこの事に関しては考えていきましょ。きっと私もアルフも、ちょっと焦り過ぎてる。





あの子はまだ子どもだもの。それになんだかんだで、あれからたったの2年。

そう、まだ2年しか経ってない。それまでに色んな変化と出会いがあったけど、それでも。

それだけじゃ、消えない傷もある。その傷の痛みが少しでも薄れない限りは、見えない物だってある。





だから、これから少しずつ。私とアルフは、もう少し落ち着いて様子を見守るという事で話が纏まった。

自分なりの夢や目標を、いつか私達・・・・・・いいえ、別に私達じゃなくてもいい。

例えば、フェイトやリインさんに話す日が来ると信じて。私達は、不安や恐れを一旦仕舞う事にした。





今ここで無理に局や組織を好きにならせようとしても、それは無意味だと分かっているから。





そして、時間の流れに期待するしかない自分達の無力さを苦い顔で噛み締めながら、私達はお茶を飲む。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・とりあえず、身体の方は心配ない。フェイトがヘコんで、シャマルさんに泣かれたけど、問題はない。

でも、フェイトのヘコみは僕の事だけが原因じゃないらしい。なんか、出動遅延が出ちゃったとか。

執務官と言えど、局員だからなぁ。やっぱり上の許可とかそういうのが無いと、動けないのよ。





やっぱり組織ってめんどくさい。なんかこう、どうしてもっとシンプルに行けないんだろ。

・・・・・・やっぱり、組織の中だとテレビの中のヒーローみたいな感じはダメなのかなぁ。

まぁ、フェイトには何かフォローすることにして・・・・・・現在、僕は翠屋でバイト中。





というか、士郎さんと食材の買出しの帰り。生クリームとか、お砂糖とかを両手いっぱいに持ってる。










「・・・・・・しかし、恭文君も大分店員業が板についてきたね」

「まぁ、なんだかんだで1年半以上ですし」

「確かに、もうそんなになるか。そう言えば、なのはから聞いたがさざなみ寮の人達と仲良くなったそうだね」



少し日が傾いている商店街は、夕方の買い物に向かう主婦や学校帰りの子ども達で賑わっている。

こういうのを見るのは、結構楽しい。両手いっぱいの荷物の重さを、少しだけ忘れる。



「はい。たまに食事に誘ってもらったり、真雪さんの手伝いしたりしてます」

「そうか。・・・・・・海鳴は、好きになったかい?」

「そうですね、前に住んでたとこよりはずっと気に入ってます」

「なら良かった」



どこか、安心したように笑う士郎さんを見て、胸の中が少しくすぐったい。・・・・・・だからなのかも。

翠屋を目指しながら歩きつつ、士郎さんにこんな事を聞いたのは。



「士郎さん、一ついいですか?」

「なんだい?」

「『土地の記憶』って、あると思います?」

「土地の記憶?」



あのロストロギアの効果が気になって、フェイトとかにも色々聞いてみた。

でも、明確な答えが帰ってこない。なんというか、よく分からないから、気になってる。



「この間、業務中に飛び出した時にちょっと色々あって、そういうのを考えてるんです。
その時追っかけた奴が土地の記憶を呼び起こすっていう妙なアイテムを持ってて」

「なるほど、それで気になってるというわけか。だが、それならフェイトちゃんやリンディさん達が」

「それが、明瞭な答えが帰ってこないんです。・・・・・・その土地に思い入れがある人が居る。
それが、土地の記憶なんじゃないかって。でも、なんか違うなーって」



だって、それだと『人の記憶』になるわけじゃない? 『土地の記憶』って言うから、それとは違うはずなのよ。

ユーノ先生にも聞きたかったけど、普通にクロノさんの無茶振りでまた地獄らしいから、聞けないしさぁ。



「・・・・・・私は、そういうロストロギアなどの専門家ではないのであまり確定的な事は言えない。
だが、土地の記憶というのには、実は聞き覚えがあるんだよ」

「ホントですかっ!?」

「あぁ。前にも話した事があると思うが、あっちこっち回っていた時期があってね。
その時に色々な地方の逸話を聞いたりしたんだが、その中にそういう概念があった」



士郎さんの目が変わった、いつもの優しいお父さんキャラじゃなくて、こう・・・・・・なんだろ。

先生に近いのかも知れない。すごく遠くて、高い所を見てる。



「土地自体どうこうというより、土地に住み着く人達の出来事と、その記憶。
それらが、その土地に染み付くという考えがあるんだ。そして、一つの大きな意志を持つ」



士郎さんが歩きながら、周りを見る。商店街のお店の人や、買い物客を。



「喜びも幸せも、悲しみも不幸も、全て引っくるめて一つの土地に染み付く。
自分だけではなく、ずっと前からここに居た全ての人達の記憶の集合体。それが」

「土地の・・・・・・記憶」

「あぁ。アフリカなどに居る、一分のネイティブに浸透している考え方だ。
それを精霊とし、崇め信仰している。・・・・・・まぁ、君が欲してる答えとは違うかも知れないが」

「いえ、そんなことないです。少なくとも、フェイト達の答えよりずっとしっくり来ます」



言ってる事はフェイト達と同じだけど、そこから更に発展させた感じがする。

一種のファンタジーだけど・・・・・・なんだろ、すごく納得した。



「あの士郎さん、ありがとうございました」

「納得出来たのかい?」

「一応は。まぁ、もうちょっと考えてみます。そういうのなら、図書館とかでも資料ありそうですし、自分で調べたりして」

「ははは、そうか。うん、それはきっといいことだな。自分なりの答えを探していくのは、大事なことだ。
そうだな・・・・・・もし、君なりの答えがいつか分かったら、教えてくれ。是非とも聞いてみたい」

「・・・・・・はい」










日がさっきより少しだけ傾いた。そんな中、僕達は歩いていく。

・・・・・・色々と納得出来たから、足取りが軽い。なんだか、嬉しくなってきた。

知らなかった事、それを知って・・・・・・また更に触れられる予感がしてたから。





そんな予感と幸せで、心の中が一杯になっていた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・うー、夜更かしし過ぎたかも」



バイトが終わってから、図書館に直行。それらしい資料をありったけ借りてきた。

それで、午前様になるまでずーっと読み漁って、今は朝。



「お前、また調べてたのか? 土地の記憶とかなんとかって」

「はい」



家のリビングで朝ごはんの中華粥(僕特製)を食べつつ、ちょっとねむねむ。

徹夜とか慣れてるけど、流石に来たなぁ。かなり楽しくて、集中してたから。



「てゆうか、アタシ達が教えたんだからそれで納得しろよ」

「みんなの説明が何一つ全くと言っていいくらいに納得出来ないから調べてるんですけど、何か?」

「平然とワンブレスで言い切るなよっ! 何気に突き刺さるだろっ!? そしてその冷たい目はやめろっ!!」

「あぁ、アルフも落ち着いて? ・・・・・・でもヤスフミ、そうやって調べてるって事は、何か新しい事分かったのかな」



白いYシャツ姿がまぶしいフェイトば、優しく微笑みながら僕の隣でそう聞いてきた。

で、お粥をすすりつつ僕は頷く。そうしているうちに、楽しい気持ちがまた再燃してきた。



「うん。まず日本もそうだけど、各地にはそういう『土地の記憶』と割合近い考えが、かなりあるのが分かった」



土地・・・・・・人が住む場所に、住んでいた人達やそこで起こった出来事の記憶が染み付いて、一つの大きな意志を持つ。

士郎さんが教えてくれたこの概念は、色んな所で広まっていた。まず、それが一つの収穫。



「土地神様とか、聖霊様とか、色んな呼ばれ方してるけど共通点は一つ。
土地自体に神様の類が住み着いていて、それがその土地の人達を守っているという部分」

「それは、一種の信仰対象になっているという事なのかな。・・・・・・あ、なるほど。
私、ちょっと分かったかも。『土地の記憶』は、その神様の記憶になるんだね」

「うん。あくまでも一つの解釈だけど、そうなる」



フェイト達が言ってた事は、ある意味では正解だったのよ。ただ、それだけじゃ足りなかった。

少し納得出来たけど・・・・・・まだ、足りないな。もうちょっと調べてみたいかも。



「こりゃ、無限書庫にも行かないと」



お粥をもう一すすり。・・・・・・あぁ、いい味付けだぁ。我ながら、これはちゃんと上手く出来た。



「・・・・・・恭文君、ロストロギアの能力に関しては調査スタッフが調べてる。
だから、それの報告待ちというのが1番の手じゃないかしら」

「そうだぞ。どういう能力か知りたいんだったら、それが1番いい。
お前があれこれ調べるより、ずっとハッキリするだろ」

「嫌です」

「どうしてかしら」

「だって、楽しいじゃないですか」



自分なりでも調べて、考えて・・・・・・そうやって答えを探していく。

それは、旅にも似てるかも知れない。だから、ワクワクしまくっている。



「何より、リンディさんもアルフさんもズレてます」

「はぁ? なんでそうなるんだよ」

「僕はロストロギアの能力が知りたいんじゃないんです。
『土地の記憶』というものが何かを知りたいんですから」



アッサリそう言い切ると、リンディさんが失礼にもため息を吐いた。というか、アルフさんが頭抱え出したし。

意味が分からなくて、フェイトの方を見る。フェイトは・・・・・・ちょっと困った顔をしていたけど、笑ってくれていた。



「まぁ、無理しないようにね。身体壊しちゃったら、元も子もないんだから」

「とりあえず、仕事と子育てのために夏休みの宿題が疎かになったフェイトに言われたくない」



夏休み、最後は大変だった。去年も大変だったけど、今年も大変だった。

・・・・・・自由研究、忘れてたのよ。他のところも見返したら、英数関係以外は間違いが多かった。



「・・・・・・そ、そこをツツかれると弱いかも」

「てゆうか、疎かになるなら子育ても仕事も抑え気味にすればいいじゃないのさ」

「それはだめだよ。エリオはまだ小さいし、仕事も大事だし」

「じゃあ、学校はなに?」



きっと、僕はヤキモチ焼いてたんだと思う。だから、ちょっと厳しい事を言う。

フェイトはお粥を食べる手を見て、さっきより困った顔をする。



「ま、僕は学校通ってないからあんまり言えないけどさ。でも、アレは無いでしょ。
その小さな子の面倒を見てる前に、宿題やっておくべきだったんじゃないの?」

≪それは正論ですね。あなた、自分の面倒が見れてないじゃないですか≫

「・・・・・・うん」





フェイトが落ち込むけど、僕は一切容赦しない。だって・・・・・・他の二人はちゃんとしてるのよ?

はやてなんてあの性格だからパーペキ。試しに提出前の宿題を見せてもらったら、もう一部の隙もなかった。

なのはも恭也さんと美由希さんが何気に厳しいから、しっかりやった。だって、去年は散々だったもの。



アレを見てさ、思ったの。僕やハラオウン家のみんなは甘過ぎた。手伝いなんて、しちゃいけなかった。



僕達に必要だったのは、恭也さんレベルの殺し屋の目でフェイトを恫喝する事だと、最近気づいた。





「まぁようするに・・・・・・来年の宿題で困っても、僕は一切手伝わないってことかな。
そうだ、絶対手伝うもんか。昨今の料理事情の研究レポート作成なんて、絶対しないから」



そうだ、もう絶対嫌だ。あぁ、嫌だ。トラウマ・・・・・・僕は、アレはトラウマなんだ。



「フェイトが大事な仕事と可哀想な子の面倒を優先してたせいで、僕がどんだけ苦労したと?
その上、フェイトの字に似せて全ページ作成だよ? もう嫌だ。絶対嫌だから」

≪というか、そのせいで難易度が跳ね上がりましたよね。絶対にバレないようにと考慮しまくって≫



そう、跳ね上がった。自由研究なんて、基本積み重ねなんだよ? 本当なら、急遽出来るわけがないし。

僕、さざなみ寮で腕がへし折れた耕介さんのフォローしながら、頑張って作ったんだから。



「てゆうかさ、これは惚れてくれてもいいくらいだと思うんだけど? 僕、頑張ったよね」

≪そうですね。あなた、真面目に頑張りましたよ≫



なお、リンディさん達は一切手出ししなかった。うん、当然だよね。そこで僕・・・・・・頑張ったの。

あはは、惚れた弱みってやつ? 正直、これで関係を迫ってもいいと思うんだよね。



「あぁ、頭抱えるなよ。・・・・・・フェイト、そこはアタシも同意見だ。
エリオや仕事が大事なのも分かるけど、やるなら最低限は両立させないと」



あ、言い忘れてたけど、アルフさんも手伝わなかった。

というか、普通にやってるもんだと思ってビックリしてた人だし。



「そうね。恭文君があれから学期始まりに迫られる恐怖に、苛まれ続けてるのよ?」



夏休みってさ、意外と早く終るんだ。それが怖くて怖くて仕方なかったよ。その恐怖が、今も染み付いて抜けないの。



「エリオの事のアレコレがあるにしても、最近のあなたはそこの辺りが疎かになってるもの」

「そう、だね。うぅ、ヤスフミごめん。あの、来年はちゃんとするから許して?」

「嫌。ほっぺでいいからチューしてくんなきゃ許さない」

「あの、それはだめっ! チューは絶対だめっ!!
私達は姉弟だよっ!? ・・・・・・あぁ、お願いだから泣くのはやめてー!!」

「・・・・・・フェイト、今のはフェイトが悪いって。いいじゃん、ほっぺだったらさ」










なお、来年もそんな事はなかった。・・・・・・もしかしたら、この時点で気づくべきだったのかも知れない。

フェイトのエリオへの入れ込みようが、少しおかしいって事を。僕だけじゃなくて、他のみんなも同じく。

とりあえず他のは全部片付けてても、自由研究を忘れてしまうくらいには入れ込んでた。





とにかく、朝ご飯を食べてから僕はミッドに向かった。というか、なのはと一緒におでかけ。





結局、ほっぺにチューはしてくれなかったし。うぅ、フェイトのバカ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・初めまして。私がここの校長のファーン・コラードです。
あなたが蒼凪恭文君・・・・・・あぁ、聞いていた通りね」



ここはミッドの某所にある管理局が運営している、職業魔導師の訓練校の一つ。

目の前に居るのは、白い髪をアップにした温和なそこそこな年齢の女性。



「初めまして、蒼凪恭文です。それで、このバカは僕をどんな風に話してたんですか?」

「バカって何っ!?」

「横馬がバカだという話をしてるんだけど、何かな」

「平然と言い切らないでよっ! うー、ファーン先生の前でも意地悪ってどういうことっ!?」



この人が、ファーン・コラード先生。元教導隊の腕利き魔導師で、先生と同期。

つまり、凄まじく強いと思う。そう、SLBなんてぶった斬るくらいに。



「それと、アルトアイゼンもお久しぶり。・・・・・・びっくりしたわよ。あなたが新しいマスターを選ぶなんて」

≪お久しぶりです。いや、この人弄ると楽しいんですよ。いいおもちゃになってくれてますし≫



アルトが何か言ってるけど、無視。それよりも僕はワクワクなのだ。

SLBが斬られるかと思うと、ワクワクなんだ。



「・・・・・・なのは、この子の目が凄まじくキラキラしてるんだけど」

「えっと、ヘイハチさんの同期というのは説明しているので、多分SLBを真っ二つに出来るとか考えているのではないかと」



すげー、マスター級が他にも居るのは知ってたけど、やっぱりすげー。

あー、楽しみだな。きっとすごく強いんだろうな。ワクワクだなぁ。



「納得したわ。ただ、私はそんな事は出来ないわよ?」

「嘘だッ!!」

「やっぱり凄く期待してたっ!?」

「いきなり否定はおかしいから。というより、アレがおかしいだけよ。
・・・・・・とにかく、学校内の見学は手続きが取れてるから大丈夫よ」



今、聞き逃せない言葉を聞いた。だから、横のGジャン生地の上着とスカートを着ているなのはを見る。



「横馬?」

「ご、ごめん。でも、こうでもしないと先生に会うの、ちょっと無理そうだったんだ」



横馬が言うには、ファーン先生は最近色々お忙しいらしい。年度も半分過ぎると、色々あるのよ。

なんだかんだで、来年度の準備とかもそろそろ始めなくちゃいけないし、個人的なアポでは無理そうだったとか。



「そういう事なら納得した。・・・・・・てゆうか、事前に説明してればいいと思うのに」

「そうね。あなた、肝心なところが抜けてるくせは本当に相変わらずで」

「ファーン先生までひどいですよっ! というか、反論出来ないのが悔しいー!!」










とにかく、この後色々な話の流れでファーン先生とちょっとだけ戦わせてもらえることになった。





うぅ、嬉しいなぁ。マスター級と戦えるなんて嬉しいなぁ。ワクワクだなぁ。





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・面白い子ね」

「はい。一緒に居て、凄く楽しいんです」

「でも、随分いじめられていたみたいだけど」

「恭文君の意地悪は、愛情表現だって分かってますから。
冷たいように見えて、意外と優しいところもあるんです」





恭文君には、先に訓練所に向かってもらうことにした。私は、ファーン先生とお話。

元生徒として、恩師とお話も目的の一つで来てるの。

ファーン先生、模擬戦の後出かける用事もあるから、ここしかチャンスがない。



うー、フェイトちゃんも来れれば良かったのに。でも、お仕事だから仕方ないか。





「あの子、今は嘱託だったわね。将来的には局員に?」

「そのつもりは無いみたいです」



・・・・・・局の事、嫌いなのは変わってないみたいだから。ちょっと、嫌なんだけどな。

私達の大事な仕事場を、居場所の一つを嫌いって言われるのは、やっぱり嫌。



「でしょうね。あのバカに本当にそっくりだから。というより、色々聞いてるのよ。
時代遅れと比喩される過剰攻撃に、数々のオーバーSを単独で撃墜」



ファーン先生が、部屋のドアに視線を向ける。そこに恭文君の影を見ているのは、私も気づいた。



「あの子、身内のあなた達が思っているよりも、裏表問わず名前が広まってる。
いい意味でも悪い意味でも。ヘイハチの弟子というのも、それに拍車をかけてるわね」





一応、それらしいのは聞いてる。ヘイハチさんの弟子という事で、相当注目されてるとか。

ううん、そういうのを抜きにしても、どこからかこの間のはやてちゃんの一件に関わった事まで、広まってる。

はやてちゃんを狙っていた上層部の人達を叩き潰したのは、恭文君じゃないかとかまで言われてる。



もちろん傍から見ると確証がないから、一種のゴシップ的な感じ。それでも、かなり言われてる。



嘱託魔導師・蒼凪恭文は・・・・・・英雄であり社会不適合者のヘイハチ・トウゴウ2号だと。





「あの、ファーン先生。その・・・・・・恭文君はやり過ぎちゃう事もあるんですけど」

「分かってる。これでも人を見る目はあるもの。
・・・・・・で、あなたとしてはこれを機会に局員になって欲しいとか?」



ファーン先生に何かを見抜かれてるように鋭く言われて、私は思わず息が詰まる。

そんな私を見て、ファーン先生は『仕方ないなぁ』と言う感じで笑う。私はただ、苦笑いしか返せなかった。



「そうじゃなきゃ、わざわざ学校見学の手続きまで取る必要はないでしょ。
校長なんて、基本的にはデスクワークが主な仕事だもの。顔を合わせるだけなら、そこまではいらない」

「・・・・・・その、はい」





・・・・・・訓練校の様子とか、頑張ってる訓練生の子達の事を見て欲しかった。

やっぱり、恭文君は無茶とルール違反が多いから。この間の神無月の一件だってそうだよ。

もちろんお姉ちゃんを助けてもらったから、ここはまぁ・・・・・・いいの。



ただ、フェイトちゃんやリンディさん達が相当心配してるし、少しは何とかしたいなと。

うん、別に今すぐ入って欲しいとは言うわけじゃないの。好きになって欲しいと言うのとも、違う。

考えるキッカケになればと思った。それで、局・・・・・・その中で生きてる人達を、見直して欲しい。



色々悪いこととかが重なっちゃったけど、組織のお仕事もいいものだって思ってもらえると嬉しいなと・・・・・・少し。





「でも、それは無理よ」



そんな私の考えというか期待は・・・・・・ファーン先生にアッサリ砕かれた。



「どうして、ですか?」

「ひと目見て気づいたわ。あの子はヘイハチに本当に良く似ている。あの子の心は強く、硬なで・・・・・・輝いている。
あの超がつくほどの面倒くさがりが、またまた弟子を取った理由も納得した。・・・・・・なのは、覚悟は決めておくべきよ」

「あの、ファーン先生。仰っている意味がよく」

「あの子は、あなたやフェイトや私達と同じ道には行けない。私とあのバカが違うようにね。
きっとあの子の中の強さが、それを許さない。・・・・・・そこに期待し続けると、苦しいわよ?」



・・・・・・・・・・・・何も、言えなかった。あまりに言葉の説得力が強過ぎて。



「だから、局を好きになって欲しいと望むより、違う道を進んでも繋がる覚悟を決めた方がいい。
なお、私はそうしてるわ。だってアイツ、相当バカなんですもの。いい加減慣れないと、こっちが持たない」










軽くそう口にするファーン先生の言葉に、私はただ左手を強く握り締める事しか出来なかった。・・・・・・どうして、なのかな。

私、そんなに難しいことを望んでるのかな。ただ私やフェイトちゃん達の居場所を、好きになって欲しいだけ。

恭文君が局を『嫌い』と言う度に、みんな突き刺さってる部分がある。少なくとも、私はそう。





他はともかく、私達の近くは腐敗なんて0なのに。それなのにどうして・・・・・・同じ道を行けないんだろ。





私達は絶対に裏切ったりなんてしない。そんなこと、誰もするわけがないのに。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そうして、少しだけ時間が経った。僕は・・・・・・寝転がってる。

場所は演習場で、もうフルボッコって言うくらいに負けてしまった。

相手は当然、僕の足が向いている方向で、共用デバイスを構えるファーン先生。





なお、にっこりと微笑みながらなのが、敗北感を強める。何気にキツい人である。










「マジで先生と同レベルって、どういう事ですか」



ファーン先生は、普通に強かった。戦闘スタイルこそ違うけど、先生レベルと言ってもいい。

唯我独尊の称号でもあるマスター級の魔導師・・・・・・その強さ、再認識してしまった。



「あのバカ程無茶じゃないわよ。マスター級なんて言っても、ピンキリですもの」

「あー、それなら分かります。エース級って言っても、どこぞのバカみたいにスペック勝負に走ってるだけなのも居ますし」

「・・・・・・そこは相変わらずなのね。あぁもう、アレほど魔力量ありきな戦い方はするなと教えたのに」



ファーン先生が、ため息を吐きながら首を左に動かして、ある一点を見る。

そこに誰が居るのかとか、そういうのは多分もう言う必要が無いと思った。



「フェイトも同じ感じかしら」

「魔力量どうこうでは無茶はしてないですけど、生活で無茶をしてますね。
・・・・・・夏休みの宿題を自分で消化も出来ないくせに、子育て始めましたし」

「そう。確かにそれは大問題ね」

「大問題ですよ。僕、おかげで2年連続で自由研究手伝わされましたし。
それでノーギャラですよ? あはは、ありえないし」



あははは、思い出したらまた泣きたくなって来たんですけど。・・・・・・もう嫌だ。

あんなのもう絶対嫌だ。全部捏造なレポートなんて、意味ないし。嘘だらけの夏なんて、消えてしまえばいいんだ。



「ごめんなさいね。あの子達はこう、若干アレな所があるから」

「もう慣れました」

「そう。それで話を戻すけど・・・・・・さすがにやるわね」



ファーン先生が、視線を僕に戻す。僕は、大の字になりながらファーン先生を見上げる。



「魔力運用の技術とプログラムの詠唱と処理速度に関しては、既にそこらのオーバーS以上。
先天性の能力のおかげとは、思えないレベルよ。それに、技量も高いしセンスもいい」

「ありがとう、ございます」



とは言うものの、苦い顔しか出来ない。それでも・・・・・・まだマスター級には掠りもしてないんだから。



「魔力量が少ない事が幸いしているのか、あなたの言う『バカ』みたいにスペック勝負に走る傾向も少ない」

「あー、それは先生にも言われました。なんか先天資質に恵まれた人間って、弱いらしいですね」



前に先生がそんな事を言ってた。諸事情はともかく、先天資質に恵まれた人間は実は弱いと。

高い能力にかこつけて、普段の研磨はともかく戦いの中では油断しがちな部分があると。



「・・・・・・あのバカらしい教え方ね。ただ、他はともかく戦いの中ではそうなる。
どっちかって言えば、あなたは私やヘイハチ寄りの人間。ここもあの子達とは違う。そう、あの子達とは違う人間」

「当然ですよ。僕、天才なんて類じゃ・・・・・・ない、ですし」



ゆっくりと、起き上がる。さすがに何時までも寝転がった状態なのは、失礼だもの。



「あら、あなたの戦闘に関してのセンスは充分それなのよ?」



どこか楽しげに、ファーン先生は僕を見ている。だけど、僕はどうにも素直に受け取れなかった。

・・・・・・そこは、先生にも言われた事。戦闘に関しては、僕はそこいらの奴よりいいセンスをしていると。



「特にあのカウンターでの首への一撃・・・・・・危なかったわ」

「そう言いながら、易々と防いでたじゃないですか」

「これでも、経験だけはあるから。どんな経験でも、積み重ねればセンスを凌駕するの。
・・・・・・なら、もしかしたらこの問題も、すぐに分かるかも知れないわね」



ファーン先生が、僕を見ながら微笑む。だから、ちょっと首を傾げる。



「さて、本当にいきなりですけど問題です。『自分より強い相手に勝つためには、自分の方が相手より強くないといけない』。
この言葉の矛盾と意味、よく考えてみて? 答えが分かったら、いつでも連絡してきてくれて構わないから」



・・・・・・強い相手に勝つために、自分の方が相手より強く・・・・・・あ、そういう事か。



「分かりました」

「そう。なら・・・・・・はぁっ!?」

「答えは、『戦いはノリのいい方が勝つ』です」



そう口にした瞬間、ファーン先生がズッコケた。それはもう痛そうな感じで足を滑らせた。



「・・・・・・大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。とりあえず、どうしてそういう答えになったかを聞かせてくれる?」

「相手の能力とか、相手の方が強いとか、そんなの関係ない。
いつだって勝つのは、自分のノリ・・・・・・『らしさ』を通せた方ってことです」



イレインに負けて、あれこれ考えていた中で見つけた答え。僕のノリ・・・・・・僕の『らしさ』を通す事。

誰が相手でも、どんな状況でも、それを通せる事が強さの一つだって、分かったから。



「・・・・・・なるほど。言い方は乱暴だけど、本質は掴めているようね」



ファーン先生は、起き上がりながらも苦笑いしている。なので、僕は・・・・・・困った顔しか出来ない。

だって、普通にそれで負けちゃってるんだもん。うぅ、らしさ通せてないなぁ。



「というより、即答されるとは思っていなかったわ。この問題、あの子達でも解けるのに時間がかかったのに」

「僕、前に同じような事を悩んでた事があるんです。だからですね」

「納得したわ。・・・・・・なら、もっと頑張る必要があるわね。あなたのノリを、もっと研ぎ澄ます。
相手が私だろうがヘイハチだろうが、誰であろうと負けないくらいのノリにしなくちゃ」

「・・・・・・はい」










ファーン先生が、左手を伸ばしてくれる。だから僕はそれを同じように左手で取る。

手を伸ばして、ゆっくりと引き上げてもらいながら立ち上がる。

何故だろう。負けたはずなのに、胸の中がスッキリしてた。





また、新しい気持ちで頑張ろうと思えたのが・・・・・・すごく、不思議だった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そうして、次は学校見学タイム。ファーン先生には、重々にお礼を言ってお別れした。





校舎の上から、訓練の様子などを見せてもらう。・・・・・・つか、基本的なとこだよね。










「空戦魔導師の学校は、別だったっけ」

「そうだよ。ここは陸戦魔導師の養成施設だから」





空戦魔導師は、ある一定以上の適性がないと訓練そのものを受けさせてもらえない。

この辺り、飛行訓練には多大な時間と労力が費やされるからだ。手間がかかるのよ。

なのはが魔導師になってすぐ飛べたのは、まさしく天才の証明ってわけ。



ちなみに僕は・・・・・・うーん、ちょっと苦労したな。ギリギリ空戦適性は合格レベルだったけど、それでも。

この辺りのラインは、まっさらな状態で推定ランクがA以上あると思われる人を対象なんて、言われてる。

で、話が逸れたけどこの学校では、なのはの言うように陸戦魔導師の養成に主体を置いている。





「てか、二人一組なんだね。さっきから、二人一組で訓練してるし」

「うん。あ、私とフェイトちゃんも、短期コースの時は一緒だったんだ」

≪入校当初、能力の相性などを考慮して組み合わせを決めるんです≫

「それが仮のバディってことになるね。それで3ヶ月くらいは様子を見て、現状を考慮しつつバディを再編成。
そこからはよっぽど仲が悪くてだめという事が無い限りは、基本卒業まで同じ組み合わせになるね」

「ふーん」





ただ、空が飛べないから陸戦魔導師の方が劣っているとか、そういうわけじゃない。

どっちも日々局の業務に携わり、世界の平和と安全を守っている。・・・・・・というのが、局の建前。

もちろんそれは事実。だけどもっと規模を小さく、個人レベルで見るとこれは嘘になると思う。



例えば元々空戦魔導師になりたかった人が、それがダメでここに入ったとするよ?

やっぱり空戦魔導師に初っ端からなれる人に対して、色々思う所はあるんじゃないかなと思う。

逆に空戦魔導師から陸戦魔導師を見ると、適性の有無を理由に見下す奴も出てくるかも知れない。



というか、実際に本局の一部の魔導師が、陸の人間をバカにしてる現場を見た事がある。

これはちょっと話がズレてるけど、局員だって人間だもの。下世話な感情を持つ事だってある。

出来る事と出来ない事、人と違う所と同じ所。そういう部分を理由に、妙なフィルターを作る奴は居る。



ミッドでもそうだし、地球でも。それは、悲しいけど一つの現実。・・・・・・そんなの、つまんないのに。





「そこから繋がりが出来て、ずっと先まで親友ってパターンもあるんだって。
・・・・・・恭文君も入ったら、そういう風な友達が出来るかも知れないよ?」

「バカじゃないの?」



森林の中の射撃練習や、クロスレンジでの格闘戦の練習を見つつ、横馬にそう言い切ってやる。



「別に友達作りするために、こんなとこ入るわけじゃないでしょうが。何ズレた事言ってんのよ」

「でも、あの・・・・・・そういう可能性もあるってことで」

「興味ない。ここに入るなら、友達作りなんて基本やらない」



なお、それなら知佳さんとかフィアッセさんとかはどうなるのかと思う人も居るだろう。

・・・・・・それはそれ、これはこれなのよ。世の中って、そういうもんよ?



「大体、訓練校なんて通ってたら、恭也さんや美由希さん、警防の人達と訓練出来ないじゃないのさ」

「でも、魔導師としてスキルアップは見込めるだろうし」

「それは定期的に師匠に稽古つけてもらってるし、自主練もしてる。問題ない」



てーか、コイツ絶対僕に訓練校に興味持って欲しくて、こういう事言ってるし。

顔向けてないけど、分かるもの。絶対今、必死な顔してる。



「なにより」

「なにより?」

「局の仕事一本になったら、幽霊や妖刀と戦ったり、爆弾テロぶっ飛ばしたりなんて事も出来なくなるだろうしね」



・・・・・・なんかそれも、ちょっとつまらないなと思って、ついため息を吐く。うん、やっぱ楽しいのよ。

魔法だけに限らず、色んな奴と戦えるのはさ。一つの部隊とかに居たら、それは無理だろうしなぁ。



「もうちょっと色んなのと戦いたいなぁ。魔法だけに限らず色んなのと。
きっとまだ居る。僕が知らないだけで、魔導師以外でも無茶苦茶凄い人が」



それと同時に、色んな可能性に触れたい。色んな物を見てみたい。

そうしたらきっと・・・・・・沢山、楽しい事に触れられると思うから。



≪・・・・・・またバトルマニアの悪い癖が≫

「だって、やっぱりワクワクでしょ。うん、ワクワクだ。
一処に留まってたら触れられない可能性って、確かにあるもの」

≪だから、局員になるのを躊躇いますか?≫

「そうだね、それも理由だ。・・・・・・きっと今までみたいなワクワクやドキドキ、感じられなくなるから」










まぁ、訓練校の様子を見れたのも、そのうちの一つとして納得する事にする。

でも、絶対に入らない。僕は友達作りにも、世界の安全と平和とやらにも興味がないのだ。

とりあえず、学校見学は恙無く終了した。なんだかんだで楽しかったので、僕は大満足。





ただ、横馬は何故かずっと苦い顔をしていた。





僕は女の子だから、体調の悪い日もあると思って、そっとしておくことにした。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それから数日後。翠屋のバイトが終わって、帰宅途中。

もう辺りは真っ暗。僕は、真っ直ぐうちへの帰路を目指す。

そんな時、通信がかかった。その相手は、リンディさん。





サウンドオンリーの状態で、僕は携帯端末を右手で懐から出す。










「・・・・・・もしもし?」

『あ、恭文君? リンディです』

「なんでしょ、頼まれてた砂糖1キロは調達しましたけど」

『あら、ありがと。でも、そっちじゃないの。あなた、結界を張ったりしてない?』



夜の騒がしい街の中で聴こえた声は、ちょっと真剣なもの。それに思わず、首を傾げる。



「いやいや、今んとこ結界魔法はあのヒーリング結界しか使えないですけど」



なお、シャマルさんに色々教わって現在絶賛練習中です。



「てゆうか、リンディさん知ってるじゃないですか。アレですか、新手のナンパですか?」

『仮にも息子の立ち位置の子をナンパするわけがないでしょっ!?
・・・・・・あぁ、でもそうね。ごめん、分かってた。というか、私もちょっといきなり過ぎたわ』

「分かってもらえると嬉しいです。で、今の話から察するに結界が張られてるんですよね」

『そうよ。それも、ベルカ式の結界。だけど今は、はやてさんに守護騎士のみんなもこっちには居ないでしょ?』



みんな、仕事中だしねぇ。なお、なのはとフェイトも同じく。確か、アルフさんも夕方に手伝いに出発したはず。

まぁ、なのはとアルフさんにフェイトはミッド式・・・・・・つまり、色々な事情からベルカ式の使い手は、僕だけ。



「だから、僕ですか。・・・・・・確認って、必要ですよね」

『一応はね。ただ、正直あなた一人だけを行かせたくないのよ』

「でも、確認だけで局員であるみんなを呼び戻すわけにはいかない。というか、わざわざ本局の他の人員も動かせない」

『そうなのよね。クロノが居るアースラも、近くには居るんだけど・・・・・・悪いんだけど、お願い出来る?』



そんな申し訳なさげに言わなくていいですから。てゆうか、涙声もやめて?

僕も正直、今までのパターンから少し嫌な予感がするけど、そこには触れたくないし。



「そのつもりです」










とにもかくにも、僕はリンディさんのサポートを受けて、現場に直行した。





これが、事件の始まりと知らずに。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



突入した結界の中には、一人の女の子が浮いていた。

だけど、それに目を見張った。・・・・・・紅い髪に青の瞳。

ゴスロリチックな赤いスカートに上着に帽子。そして、ノロウサ。





瞳はとても寂しげで、悲しげで・・・・・・そして、苛立っていた。





苛立ちぎみに、僕を見て鉄の伯爵を右手で持ち、その切っ先を突きつける。










「・・・・・・てめぇ、何だ。管理局の魔導師か」

「師匠っ!?」



ま、待て待て。なんで師匠がここにっ! 確か、はやての仕事の手伝いしてるはずなのにっ!!



「誰が師匠だっ! アタシに弟子なんていねーしっ!!」



キャー! なんか早速怒ってるっ!? てゆうか、そのつや消しの目はやめてー!!



「師匠、待ってくださいってっ! アレですか、この間僕がちょっと余計にアイス食べちゃったから怒ってるんですかっ!?」

「だから・・・・・・師匠って呼ぶんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



そのまま、師匠は突撃。そして、アイゼンのカートリッジが1発ロード。アイゼンのハンマー部分の形状が変わる。

黄色い杭に、後部にブースト。これは、アイゼンの形状変換のラケーテンハンマー。



「ぶち」



師匠はブーストで加速しながら、僕に向かって直進。

いや、身体を回転させてハンマーを僕に向かって叩きつける。



「抜けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



僕は、アルトを抜いて構える。・・・・・・そして、アイゼンの柄を狙ってアルトごと飛び込む。

師匠の攻撃のインパクトが最大限に強くなる前を狙って、グリップ近くで攻撃を受ける。



「ぶち抜かれるわけがないでしょっ!? 師匠、一体どうしちゃったんですかっ!!」



ブーストは更に加速される。それを空中を両足で踏みしめながら耐える。

アルトとアイゼンの接触部から火花が散る。それでも、僕は言葉をかける。



「プログラムであるアタシに、弟子なんて居るわけがねぇだろうがっ!!
・・・・・・もういいっ! マジでアッタマ来たっ!!」



師匠が、アイゼンのグリップを強く握り締める。そして、アイゼンからカートリッジが1発ロード。



「てめぇは闇の書に喰わせねぇっ! アタシがミンチにしてやるよっ!!」



アイゼンのブースターから噴き出る炎の勢いが増し、圧力が更に強まる。・・・・・・僕は、覚悟を決めた。



「がたがた抜かすな。ミンチにされるのは、テメェだよ」



覚悟を・・・・・・目の前の敵を叩き潰す覚悟を決めた。だから不敵に笑って、挑発してやる。



「ミンチにして、粗挽きソーセージにしてやる。ほら、感謝しろ」



あの横馬の道理に乗りたくないけど、頑張ることにした。



「・・・・・・うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



師匠は、当然のように力を込める。だから僕は・・・・・・アルトの刃を寝かしながらしゃがんだ。

アイゼンの柄がアルトの刃を滑るようにしながら、僕の頭の上の横切る。アルトの柄から左手を離す。



「鉄輝・・・・・・!!」





当然のように、師匠はしゃがんだ僕に攻撃しようとする。回転しながらね。

でも、その前に左手から小太刀を出す。アルトに収納している予備武器。

それとアルトの刃を回転する師匠の胴に当てて、引き切る。



袈裟に引き切り、僕は50度ほど下に移動。





「双閃っ!!」

≪Sonic Move≫





斬撃は師匠の身体を斬り裂いた。僕は、ソニックムーブでそのまま師匠を斬り抜ける。

ラケーテンの切っ先をスレスレで避けて、なんとか50メートルほど距離を取る。

師匠は、回転しながら体勢を崩して、近くのビルの屋上に身体を叩きつける。転がって・・・・・・止まった。



止まって、ふらふらと立ち上がる。服には、僕の二つの斬撃の痕。





「・・・・・・てめぇ、よくもやりやがったなっ!!」



いやいや、普通にアンタが攻撃しかけてきたんでしょっ!? なんでそうなるっ!!

ほら、読者だって神様だって法律だって、僕が悪くないって思うよっ!? ここは常識だからっ!!



「ぶっ潰す・・・・・・徹底的にぶっ潰してやるっ!!」



師匠は、また飛び出してくる。僕は二刀を構えた。でも、師匠の動きが止まった。

というか、身体が震え出す。震えて・・・・・・あ、あれなにっ!?



「な、なんだよコレっ! 身体が・・・・・・身体がっ!!」



師匠の足元が白く半透明になる。というか、そこから砕ける。その破片のようなものが、結界の中に舞い散る。

それはどんどん上に向かって行って、腰・・・・・・胴・・・・・・肩・・・・・・・そして、首に到達。



「おい、お前何したんだよっ! くそ・・・・・・くそぉぉぉぉぉぉぉっ!!」





そんな叫びを残して、師匠は消えた。それに、寒気が走った。

ちょ、ちょっと待ってよ。僕は非殺傷設定だったよ?

というか、あれくらい食らっても師匠が・・・・・・え?



僕は、咄嗟に通信画面を開いた。そうして出てくるのは・・・・・・師匠。





「・・・・・・師匠っ!!」

『おう、バカ弟子どうしたんだ。あ、アタシに会えなくて寂しいってやつか』

「違いますよっ! というか・・・・・・師匠なにやってんですかっ!!」

『はぁ? いやいや、アタシはさっきまで仕事してたぞ』



確かに、画面の中は本局の廊下。というか、僕もそういう風に聞いてる。



「してないですからっ! 僕、師匠に思いっ切り襲われたんですけどっ!!
それで、胴体斬ったら白くなってパリーンってっ!!」

『はぁっ!? バカ言えっ! アタシはマジではやてとリインと仕事中だったってっ!!』

「嘘っ! 僕だってさっきまで師匠から『ミンチにしてやる』って、ヤンデレな求愛されてたしっ!!」

『求愛じゃないだろそれっ! 正真正銘の殺し文句じゃねぇかよっ!!
てゆうか、お前今度はなにやらかしたっ!? ほら、怒らないからちゃんとアタシに言えっ!!』

「何もしてないからぁぁぁぁぁぁぁぁっ! てゆうか、僕がそれを聞きたいんだよっ!!」



・・・・・・って、通信? とりあえず、師匠の画面はそのままにポチっと。



『恭文君、あとヴィータさんもちょっといい?』

『リンディさん? いきなりどうしたんですか』

『アースラのクロノとエイミィに頼んで、さっき恭文君の戦闘してる様子を計測してもらってたの。
まず、恭文君がヴィータさんと戦闘したのは事実。でも、それはヴィータさんじゃないの』



はぁっ!? いやいや、だって明らかに師匠じゃないですかっ!!

アイゼン持って、ラケーテン使って・・・・・・いつぞやのコピーみたいに黒くもないしっ!!



『それ、どうも思念が実体化したものらしいの』

「思念?」

『えぇ。過去に起きた事件で、同じようなものが観測されているわ。
例えば、巨大な力を持つロストロギアが発動。または破壊した際の残留魔力によるものでね』



つまり、何かの原因で、師匠の思念が実体を持ってしまった?

だから、いつぞやの鏡でのコピーみたいに黒くもなかったと。



『そして、その思念体はそれだけじゃないわ。今海鳴で、同じような結界がいくつも張られている』



つまり、師匠のコピーが沢山? ヤンデレ師匠が沢山? もっと言うと、ヤンデレ師匠軍団?

・・・・・・想像しなきゃよかった。凄まじく怖くなってきたし。



『他のも、クロノが現場に出て対処を始めてる。恭文君、悪いんだけど同じように思念体への対処を頼めるかしら?
ただね、救いはある。クロノと恭文君の戦闘データを見るに、発生している思念体は実物ほどの能力はないようなの』



どうも防御力が決定的に欠けてるらしい。一発クリーンヒットを入れれば、構築魔力が実体するだけの力を無くしてしまうとか。

それが、さっきの破片になった様子ってことか。・・・・・・なるほど。あの破片が、思念体を構築する魔力ってことだね。



「あくまでも、コピーはコピーと。でもリンディさん、ヤンデレ師匠軍団を僕達二人だけで相手しろと?」

≪精神衛生上、非常に不利だと思うんですけど。イチイチ『ミンチにしてやる』って求愛されてたら、神経が持ちませんよ≫

『大丈夫。本局に居るフェイトになのはさん、あとはやてさん達にも集合をかけるわ。あなたは、クロノと協力して現状の維持を。
でも、絶対に無茶はしないで? 思念体は結界から出てどうこうしたりもしてないみたいだし、放置でも問題はないの』



現時点での判断になるけど、一応は危なくなったら遠慮なく撤退でもいいと。まぁ、それならなぁ。



「分かりました。んじゃ・・・・・・頑張ります」

『頼むわね。私も、こっちからサポートするから』

「はい、よろしくお願いします」










・・・・・・こうして、原因不明な思念体とのバトルが始まった。





でも、どうしてこれ? そういうのが出るにしても、原因はあると思うけど・・・・・・うーん。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・山間に飛ぶと、リンディさんから指示された結界を見つけた。

そこに一気に突入。もう、お決まりのパターンだね。

そうしてそこに居たのは・・・・・・あぁもう、やりにくいなぁ。





そこには、シャマルさんが居た。










「・・・・・・許せない」



うわ、いきなり殺気出してるし。なんですか、これ。

思念体って言うのは全員ヤンデレなの? ヤンデレがデフォなの?



「何の関係もない恭文くんまでコピーするなんて。闇の書の欠片、かなり学習能力が高いようね」



そうそう、何の関係もない僕までコピー・・・・・・え?

僕は、色々と聞き逃せないフレーズが聞こえてしまった。



「あの、シャマルさん」

「そう、あなたの現地妻のシャマルよ。・・・・・・でも、ごめんなさい」



シャマルさんが、右手をかざす。そして、クラールヴィントの宝石部分が飛び出す。

指輪と宝石の間には、翠色のワイヤー。それらが飛び出して、シャマルさんの前に円を描く。



「あなたは、私の恭文くんじゃないの」



描いて、シャマルさんはその輪の中に手を突っ込む。僕は、それを見て嫌な予感がしてすぐに左に大きく飛んだ。

すると、僕の右肩からシャマルさんの手が生えて来た。・・・・・・なんじゃこりゃっ!?



「こら、動かないでっ! すぐに眠らせてあげるからっ!!」



シャマルさんは、普通に手を引く。僕から生えた手も引かれる。でも、僕はそれを左手で掴んで止めた。

シャマルさんは強引に手をぐいぐい引くけど、逃がさない。逃がしたら、地獄を見そうだから。



「離してっ! 私の手は・・・・・・いいえ、髪も唇も首筋も手も胸も、お腹も背中もお尻も腰も足も、全部恭文くんのものなのよっ!? 気安く触らないでっ!!」

「だから、僕がその恭文くんですってっ! てゆうか、思念体じゃないしっ!!
いや、それ以前になんですかっ!? そのとんでもないセクハラ発言はっ!!」

「あなたには関係ないわっ! というか、あなたが恭文くんなんて嘘よっ!!
思念体はね、みんな思念体じゃないって言うのよっ!? それに、私の恭文くんセンサーが反応してないものっ!!」

「アンタに思念体の何が分かるっ!? てゆうか、思念体と昔なんか有ったんかいっ!!
そしてそのセンサーは今すぐ捨てろっ! 普通に故障して役立たずだしっ!!」



ええい、このままじゃラチがあかないっ! とりあえず、僕が思念体じゃないって教えないとっ!!



「シャマルさん、前に一緒にお風呂入った事がありますよね?
ほら、シャマルさんの左足の太ももの内側にホクロ」

「そんなことまで知ってるのっ!? ・・・・・・なら、余計にこのままにはしておけないわっ!!
それは、将来的に恭文くんがもっと大人になって、私のホクロの良さに気づいてから利用していこうと」

「今すぐ腕をブレイクインパルスで粉砕してやろうかっ!? なに普通に逆光源氏な計画を構築してるんだよっ! このショタコンの変態がっ!!」

「まぁ、外道で鬼畜なところまでしっかりと・・・・・・! これは、そうとう再現精度が高い思念体ねっ!!」

「ふざけるなっ! ショタコン変態に鬼畜とか言われたくないんですけどっ!?
てーか、話を聞いてってばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」










・・・・・・夜は、まだ終わらない。闇も、まだ晴れない。





僕達が目指すべきゴールは、遥か彼方に存在していた。




















(幕間そのじゅうきゅうに続く)




















あとがき



あむ「・・・・・・恭文、アンタ何してんの?」

恭文「言わないで。てゆうか、僕は一切何もしてない」

あむ「いや、そりゃ見れば分かるけど・・・・・・とにかく、久々の幕間です。
今回のお話は、PSPのゲームのお話と設定を元にしています」

恭文「そんな幕間じゅうはち、如何だったでしょうか。本日のあとがきのお相手は蒼凪恭文と」

あむ「この頃だと、まだ4歳とかそれくらいの日奈森あむです。・・・・・・いやぁ、早速トラブル続きだね」

恭文「途中までは平和だったのにね。あははは、毎回このパターンなんだけど、どうすればいい?」





(現・魔法少女、何も言えずに苦笑いしか出来ない。蒼い古き鉄の目から、涙が溢れる)





あむ「とにかく、今回のお話はPSPのゲームが元。でも、コンセプトがあるんです。
そのコンセプトの一つは・・・・・・今回のお話は、ゲームで言うなら恭文ルートという事」

恭文「ゲームの雰囲気を再現したいなと思って、みんなが対応してる中で僕がどう動くかというのを主軸に書いています。
それで、大ボスがやたら強くてあっちこっちの世界に逃げて、それを僕達が追いかけて・・・・・・とかは、ありません。最初に言っておきますけど」

あむ「ここ、どうして? 普通にそれでも楽しそうだけど」

恭文「うんとね、最初は某影の濃いお三方がフルで出る話とか考えたのよ。それで苦戦するの。ただ」

あむ「ただ?」

恭文「某所でそういう話を何個か見かけて・・・・・・やめた」





(だって、他とかぶりたくないし。少なくとも見ちゃったらかぶりたくないし)





あむ「あぁ、かぶっちゃうんだ」

恭文「かぶっちゃうね。で、それだと短編じゃなくて長編のノリだから。
そこで、色々考えた。この幕間では、テンポとスピーディーな展開を売りにしようと」

あむ「というと?」

恭文「基本ゲーム準拠にした上で、もしゲームに僕のルートがあったらという痛い仮定の上で書いてる。
ただ、時系列が違うからその辺りの説明というか導入に、中盤まで丸々は使っちゃってるけどね」

あむ「それが、ガイアメモリとかだね。・・・・・・でも恭文、これって」

恭文「言わないで。コンセプトを考えて、これしかピンとくるのが思いつかなかったの。
なんか短くてシンプルで、名前を聞いただけじゃ効果とか細かく分からない感じにしたかったの」

あむ「あぁ、それでこれなんだ。それで戦闘は引き伸ばし無しでスピーディーにして、その分中身を濃密にする・・・・・・だったよね。
あと、ゲームでも全部一晩で終わる話だから、この幕間も恭文の視点を主軸に基本展開は弄らないでやると」

恭文「うん。ゲームとかだと、1セット5分もあればカタつくしね。基本はそこ。
やっぱりさ、DTBの戦闘って凄いと思うんだ。テンポいいし、見所多いし」





(作者、アレを見て戦闘の書き方が明らかに変わりました)





恭文「あれだよ、ジャンプ的というかプロレス的な戦い方よりも、作者はこっちが好みなのよ。
スピーディーで引き伸ばし無しで、スタイリッシュでカッコよくて・・・・・・いや、いいよね」




(下手な引き伸ばしや戦うと必ずボロボロになるダメージ表現とか、絶対必要というわけじゃないと痛感したのです)





あむ「あぁ、そっち方向なんだ。てゆうか普通に好きだよね。まぁ、あたしもアレは好みだけど」

恭文「それで今回はアレだよ? 戦闘中はずっとBGMかかってるから。
なお、BGMはDTB一期で流れてた『Go Dark』がかかってるから。・・・・・・僕の脳内で」

あむ「いやいや、アンタの脳内の話されても困るんだけどっ!?」





(なお、菅野よう子さん作曲で、神曲です。改訂版FS13話を書いてる時とかに、聴いています)





恭文「とにかく、もうコンセプト決まって一気に書き上げたので、ちょっと集中連載だよ。その間に、Remixを仕上げて」

あむ「え、ぶっちゃけ時間稼ぎっ!?」

恭文「いや、引き伸ばし」

あむ「これこそ無駄な引き伸ばしじゃんっ!! ・・・・・・とにかく、本日はここまで。お相手は日奈森あむと」

恭文「蒼凪恭文でした。それでは次回、あむが・・・・・・ハイハイします」

あむ「・・・・・・いや、この頃は立って歩いてたから。4歳だよ?」

恭文「あ、そうなの?」

あむ「うん」










(4歳だと、それくらい出来るなぁと納得した、蒼い古き鉄だった。
本日のED:DARKER THAN BLACK 〜黒の契約者〜のBGM『Go Dark』)




















クロノ「・・・・・・どういう事だ」

エイミィ『ここまでに遭遇した思念体は三体。それが全部・・・・・・だもんね』

クロノ「エイミィ、恭文の方は」

エイミィ『それがあの・・・・・・ちょっとゴチャゴチャしちゃって、今は動けないの。
遭遇した思念体はあのヤンデレヴィータだけ。そしてそれも、クロノ君が戦った三体と同じ』

クロノ「アイツは何をしているんだ。まぁいい、エイミィ」

エイミィ『分かってる。みんなあと30分もすれば、現場に揃うよ。・・・・・・でも、どうしてだろ』

クロノ「僕にも分からない。だが、アレが復活しようとしているのは確定だ。なんとしても止めなければ」










(おしまい)





[*前へ][次へ#]

28/30ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!