小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ケース21 『日奈森あむとの場合 その3』
「・・・・・・何よ、そのバカバカしいランキングはっ!!」
「そう言ってくれるんだ」
「うん。だって、女性は全て花よ? 個人の好き好きはともかくとして、ランキングなんて付ける意味は、基本的にないもの」
「なんか、そういう言い方すると・・・・・・微妙だよね」
夕方、エルはとりあえず僕の部屋で休ませた。で、あむから詳しく話を聞いて、家まで送ってるところ。
夕方の住宅街を、僕達はのんびり目に歩く。・・・・・・新学期初日なのに、どうして疲れ切ってるんだろ。
「とにかく、話を整理しましょうか。クラスの愚かな男の子達が、星組の可愛い女の子ランキングをしていた」
「うん」
「それで、あの真城りまという子が1位で、2位があむ。まぁ、ここはいいか。
問題は、その連中が今のあむとクール&スパイシーのあむを比べて、後者がいいと」
「もっと言うと、外キャラが外れ始めていた日奈森さんを、『らしくない』と断言した。・・・・・・お姉様、どう思います?」
「最低だな。そいつらは、一体あむの何を知っているんだ」
ヒカリ、とりあえずクール&スパイシーなあむしか知らないんだと思うよ。てか、酷いなぁ。
タダでさえ色々と積み重なってた所に、ダメ押しがされちゃったのか。・・・・・・あれ?
「気にするな・・・・・・とは、言えないよなぁ。気にしちゃってるから、×付いてるんだし」
「・・・・・・うん」
今思った。×が付く要因があったとして、なんでダイヤのたまごなの?
嫌な言い方だけど、ランもミキもスゥも居たのに。だけど、×が付いたのはダイヤのたまご。
ダイヤのたまごだけが、×が付いてる。四つ全部に付く可能性も、0じゃないのに。
もしかして、あむが爆発しちゃった『らしく』って言うのと、ダイヤのたまごが結びついてる?
「なんか、ダメだね。ガーディアンなのに、自分のたまごに×付けるなんて。
・・・・・・マジ、だめだ。あたし、どうすればいいのかもう」
俯き、困り果てるあむの右手を・・・・・・僕は、歩きながらも取る。
取って、強く握り締める。それであむが、ハッとした顔で僕を見る。
「・・・・・・恭文?」
「取り戻すしか、ないでしょ。×が付いたなら、浄化する。
いつもと同じだよ。大丈夫、ここに一人・・・・・・味方が居るから」
あむは、何も答えない。それでも、それでも・・・・・・僕の手が、握り返された。
その感触が強くて、優しくて、温かくて、心の中が一瞬で温かくなった。
「ありがと」
「・・・・・・ん」
そのまま、手を繋いでた。あむの家の近くに来るまで、ずっと。
あむは、まるで迷子になった子どもみたいに、強く・・・・・・僕の手を握り返してくれてた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
温かくて、柔らかい手。あんな重そうな剣をずっと持ってるとは思えない。
だけど、なんでだろう。すごく・・・・・・安心する。恭文が、強く手を引いてくれるからかな。
それで、温もりから伝わる。恭文の凄く優しくて、強い気持ちが。
だから、家に帰り着くまでずっと甘えてた。どうしても手が離せなくて、離したくなくて。
恭文、ありがと。本当にちょっとだけだけど、元気・・・・・・出て来たよ。
魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝
とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先の事
ケース21 『日奈森あむとの場合 その3』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・エル、もう一度聞くよ? 今話してくれたこと、ホントなんだね」
さて、現状について改めて説明。僕は、あれからエルを自宅の部屋に連れ帰った。
ここは、さっき説明してたね。で、僕は一応友達だし、エルの事は一任してもらうことになった。
フェイトは僕と歌唄の事を知ってるし、何も言わずに任せてくれた。ここは、正直ありがたい。
そしてその翌日の夜、エルは僕の部屋で、ようやく目を覚ました。
それで、いきなり僕の部屋に居るから、とてもビックリしてた。
ただ、それでも何とか落ち着かせて、風呂敷にしゅごたまなんて入れてどうしたのかと、聞いた。
それで、僕とヒカリにシオンに渋々ながらだけど、ある事実について話してくれた。
「はいです。歌唄ちゃんは今、イルとのキャラチェンジの能力を使って、自分の歌を聴きに来てくれた人達から、こころのたまごを抜きまくってるんです」
「ライブ活動を多めにして・・・・・・だったよね。ゲリラ的なライブとかも、かなりの数やってる」
「はいです」
歌唄とイルとのキャラチェンジには、人のこころのたまごを無理矢理に抜き出せる能力があるらしい。
ただし、自分の歌を直接的に聴いている人間に限り。・・・・・・あぁ、だからなのか。
”だからイースターは、月詠さんをタレントにしたのかも知れませんね”
”歌唄のそういう能力を見込んでだね。二階堂も、同じような能力があるから抜擢されたとか言ってたし、そこは間違いないか”
もしかして、単純に夢が叶ったのかと喜んでたのは、間違いだったかも知れない。
当然だけど僕、歌唄のこと・・・・・・何にも知らなかったんだよな。
「・・・・・・それは歌唄が、イースターの関係者としてエンブリオを見つけるため?」
「そうなのです。エル、何度も止めたんです。そんなことしちゃダメだって。
でも、イルも歌唄ちゃんも、全然聞いてくれなくて・・・・・・それで」
それでキレて、家出してきたらしい。それが、昨日の昼間の事。
で、しゅごたま抱えて空を飛んでた所に、あむが激突したって事だね。
「・・・・・・あのバカ、何してるのよ」
「自らの夢であるはずの歌を用いて、そんな事をするなんて・・・・・・お兄様」
・・・・・・今日の昼間にやった、新年度初のフルメンバーでのガーディアン会議である問題が浮上した。
最近、未成年者でこころが空っぽな人間が、急増しているという事。ようするに、×たまが大量発生してる。
なお、調べ上げたのは卒業した空海の後釜の新Jである、三条海里という僕より背の高い男の子。
で、それだけならまだいい。・・・・・・それとあむの関連性まで、ツツかれたのよ。
問題はあむが普段からあまり力を入れていない、×たま狩りのスピード。
それに×たまの発生速度が、全く追いついていないと指摘されて、あむが更にヘコんだ。
それで、色々改善点を今後考えていくという事で話が纏まったの。
具体的には、僕とリインの新ジョーカー二人と唯世達正規メンバーも、×たま狩りに参加。
人数を増やして、とにかく発生速度に追いつく事にしたんだけど・・・・・・タイミング、良過ぎるよね。
多分、こころが空っぽな人間が急激に増えた原因は、歌唄のライブのせいだ。
「エル、今から聞く事に、イエスかノーかでいいから答えて欲しいんだ」
「え?」
「歌唄はこの間会った時、イースターのためじゃなくて、月詠幾斗を助けるためにエンブリオを探すって言ってた。
・・・・・・月詠幾斗は、妹である歌唄がそうしなきゃいけないと思うくらいに、立場が悪いの? もっと言うと、イースターから蔑まれてる」
エルは、僕の言葉にビックリしたような顔になる。・・・・・・そりゃそうだよ。歌唄が猫男の妹だなんて、歌唄は話してないもの。
でも、僕だってバカじゃない。さすがに予測は付くのよ。普通に苗字同じだし、歌唄の力の入れようの凄さも感じたしさ。
「あの、恭文さん・・・・・・どうしてイクトさんが歌唄ちゃんのお兄さんだって」
「苗字同じだもの。そう考えない方がおかしいでしょ。・・・・・・エル、細かい事情は言わなくていい。
僕もここで聞きたいと思わない。ただ、イエスかノーのどっちかで答えて欲しいんだ。どうかな?」
エルは、そう僕に問われて少し迷う仕草を見せる。視線があっちこっちに泳いだ。
でも、待つ事十数秒・・・・・・エルは、気持ちを固めて僕の方を見た。
「・・・・・・イエス、です。だから歌唄ちゃんも、イルも・・・・・・イースターの言う事を、聞いてるんです」
「そっか」
さて、これはどうする? フェイト達やあむ達に相談ってのが、定石だよね。
でも、あむはダイヤのたまごに×付いて困惑状態だったし・・・・・・あぁもう、相談しない方向はやっぱ無しだ。
「エル、明日僕と一緒にロイヤルガーデンの方に来て欲しいんだ」
「ロイヤルガーデン・・・・・・ガーディアンのアジトへですかっ!?」
「・・・・・・その悪の組織の本拠地っぽい言い方はやめない?
正直さ、僕とシオン達だけでどうこうは無理なのよ」
単純に、手数が居る。歌唄がライブで色々かましてるんなら、それに乱入ってのも考えなくちゃいけないだろうし。
「歌唄の事何とかしたいなら、きっとみんなの協力が必要になる。
・・・・・・もしも行くのが嫌なら、僕から話すけど」
「いえ、大丈夫です。・・・・・・恭文さん、いきなり来てその・・・・・・ごめんなさいです。
エル、今は恭文さんやシオンとヒカリの敵なのに」
「敵じゃないよ」
そう言って俯いていたエルの目を真っ直ぐに見て、僕は言い切る。
エルは僕の部屋のテーブルの上に居るから、床に座って、目線を合わせて言葉を続ける。
「敵じゃない。エルは、僕の恩人で・・・・・・友達だよ。だから、そういうこと言うの禁止。
てゆうかさ、現状がこれだからって今までの時間は嘘にはならないよ。嘘になんて、しない」
「・・・・・・はいです」
・・・・・・・・・・・・この時はまだ、いつも通りで何とかなるかなとか思ってた。
でも、全然違った。状況は、僕が思ってるよりずっと悪くなってたから。
そう、悪くなってた。歌唄も追いつめられてた。だから、歌唄はエルに対して刃を叩きつける。
優しくて、弱いエルを『いらない』と、それを捨て去るのが強さだと言い切った。
それがムカついて右拳で殴ってやったのは・・・・・・まぁ、いいよね?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・・・あたしのたまごに、×が付いた。
自分らしさが、あたし自身が分からなくなって、それで・・・・・・アッサリと。
だけど、もっと大きな問題がある。それは恭文の事。
その原因は、ほしな・・・・・・ううん、月詠歌唄。恭文の大事な友達。
「・・・・・・そうだったんですかぁ」
歌唄と偶然に遭遇して、例の黒い人形の量産型に襲われた。
それでそれで、あたしとエル、空海とダイチ。それに恭文とミキがキャラなりした。
だけど、歌唄も孵化した×の付いたダイヤとキャラなりしたりして、もうカオスの極み。
結局、互いに電池切れで、途中乱入してきたイクトが間に立つ形になって・・・・・・あたし達は撤退。
正直、あたしはいいの。エルとのキャラなりは結構キツかったけど、まだ立てる。
だけど、恭文とミキが酷い。ミキはずっと、あたしの肩に乗ってる。
恭文、あたしや空海よりずっと体力あるはずなのに、キャラなり解除直後は自力で立てないくらいに消耗してた。
今だって・・・・・・空海に肩貸してもらって、なんとか歩ける状態。
「だから、さっきから落ち込んでたんだね。ボク達も気にはなってたんだけど」
「恭文、大丈夫?」
ラン達がそう言ってくるので、恭文は左手を上げて、軽く答える。
「うん、大丈夫」
「恭文さん、無理しちゃだめですよぉ。・・・・・・歌唄さんとエルとイルは、お友達なんですよね?」
だけど、スゥのそんな言葉で飄々としたいつもの顔が、固まった。固まって、恭文は少しだけ俯く。
「だったら、心配なはずですぅ。ガーディアンとかイースターの事とか、今は気にしないでください」
「落ち込んだって悩んだって、別に気にする必要なんてないよ。ボク達の前では、それでいいから」
「恭文、辛いなら『大丈夫』なんて言わなくていいんだよ?
そんな事してたら、シオン達にも×が付いちゃうよ。だから・・・・・・ね?」
「・・・・・・スゥ、ミキにランも、あの・・・・・・ありがと」
現在、空は夕暮れ。あたしは空海と疲れ切った恭文と歩いてた。
そのついでに、少し話してた。恭文、歌唄と親しい感じだって、気づいたから。
てーか、気づかないわけがない。ヒカリやシオンと恭文は、エルに懐かれまくってたし。
明らかに顔見知りっぽい空気出してたしさ、普通に分かるって。
「じゃあ、エルともその時仲良くなったんだ」
「はいです。エルだけじゃなくて、イルとも仲良しになったんです」
「・・・・・・しかしお兄様、どうしましょうか」
シオンの言葉に、疲れ切りながら歩いていく恭文は、更に疲れた表情をする。
原因は、当然のように歌唄が敵になっている今の状況。そのせいで恭文、見たことないくらいに消耗してる。
「色々と厄介だな。恭文と歌唄が親しくしていた分、向こうにこちらの情報を握られまくっている」
「ヒカリ、そこは言わないで。僕はマジで頭痛いんだから。・・・・・・あぁもう、ティアが変な事言うから」
でも歌唄、なにやってんのさ。歌手になるのは、夢のはずなのに。それともコレが、歌唄の夢なの?
そんなの、おかしいよ。エルを『いらない』って否定してまで、それなんて。
「ヒカリ、情報を握られまくってるってことは、まさか恭文の年齢の事や、仕事の事もバレてんのか?」
「おいおい、それマズくねぇかっ!? それだとイースターの連中に、フェイトさん達の事とかもバレバレじゃねぇかよっ!!」
空海とダイチが苦い顔でそう聞くと、ヒカリは首を横に振った。
「いや、仕事の事は大丈夫なんだ」
仕事と言うのが、魔法や次元世界の事とかを全部含めて話してるのは、あたしにも分かった。
「ただ、恭文の本当の年齢は知っている」
「僕と歌唄達が会ったの、地球での事だしね。さすがに仕事のこととかは話せないって」
つまり、管理局の事とかは知らないけど、恭文が実は大人だって言うのは知ってると。
まぁ、それだけならまだ問題は・・・・・・ないのかな。魔法よりは優しいよ。
「まさかこうなるとは予測出来るわけがないから、私達もそうだがフェイト達も何も言えないがな」
「だな。てか、そこは俺らも同じだ。こんなの予測出来るわけがないし」
だって、その傷心旅行で歌唄と会ったのも偶然で、この間のコンサートの時に再会したのも偶然でしょ?
それでこれなんて、分かるわけないって。むしろ分かったら、それは冴木のぶ子超えてるよ。
「ここだけ聞けば、恭文さんと歌唄さんは、運命の出会いを繰り返していた事になるんですよねぇ」
「エルも、全く同じことを言った・・・・・・げほげほっ!!」
「あぁ、アンタも辛いなら、無理しなくていいから」
やばい。他の子のしゅごキャラとキャラなりってきついわ。
恭文もダウン寸前だし・・・・・・これ、多用は出来ないな。
「ただ、妙なんですよね。先日エルさんから聞いた話によると、月詠さんはそれを口止めしている様子なんです」
「エルにもそうですし、イルにも口止めしてるのです。
それで、歌唄ちゃんはマネージャーさんとかにも、話してない様子なのです」
「それで私達は、みんな首を傾げてる。なんでそうなるのか疑問だからな。
イースターにとっては、恭文の実年齢は使える情報であることは、間違いない」
「うーん、友達だから・・・・・・ですかぁ?」
ここは、やっぱり分かんないなぁ。歌唄に聞くしかないか。口止めを主導してるのも、歌唄のようだし。
「とりあえずアレだ、エルとシオンは先に恭文の家に戻ってろ。
・・・・・・恭文がこの状態だし、受け入れ態勢整えてもらった方がいい」
空海が、いきなりこんな事を言い出した。それを聞いて、シオンがハッとした顔になって・・・・・・頷く。
「そうですね。場合によっては、迎えも必要かも知れませんし。それに、エルさんもすぐに休ませないと。
エルさん、少しきついでしょうが頑張れますか? 私もサポートしますから」
「は、はい。出来ます」
「いいお返事です。それじゃあお兄様、また後で」
シオンは、エルの手を引いてそのまま空高く飛んでいった。
「空海、もういいぞ。本題に入ってくれ」
「なんだ、お前も気づいたのかよ」
「当然だ。確かにエルが居ては、話し辛い事だしな」
あたしはヒカリと空海が何を言っているのか、よく分からなかった。でも、すぐに分かった。
・・・・・・空海が二人の姿が見えなくなった所で、口を開いたから。
「恭文、日奈森、この事はしばらく唯世達には黙っておいた方がいいな。
エルにも、それとなく口止めさせた方がいい。この事、バレると絶対に厄介だ」
「空海っ!? いきなり何言ってんのっ!!」
「バカ。理由はどうあれ、恭文がイースターの人間と繋がりがあるのは事実なんだぞ?」
「空海っ!!」
あんまりな言い方だと思った。だから、恭文の方を見る。恭文は、あたしを見ながら首を横に振った。
それだけを見て、あたしには伝わった。空海の言う通りにした方がいいと。
「あむ、気持ちは分かるが、私も同意見だ。この場には居ないが、シオンも」
「ヒカリまで・・・・・・ねぇ、どうしてそうなんの?」
「そうなるんだ。・・・・・・もちろん、別にずっと黙っていろというわけじゃない。
ただ今はまずい。忘れたのか? 今のガーディアンの状態を」
そこまで言われて、ようやく気づいた。ガーディアンは新メンバーが入ってきて、まだごちゃごちゃしてる。
あたしのたまごの事もあるし、そこでこれは・・・・・・まずい。かなりまずいかも。
「二階堂の件もあるし、不用意に学校内でこの話をするのはあまり得策じゃない。
下手するとコイツに妙な疑いが持たれて、更に辛い状況になるぞ?」
「俺や空海も居ればフォロー出来るけど、卒業しちまってるしな。
だからって、毎日ロイヤルガーデンに顔出すってのも絶対違うしよ」
「そんな事をすれば、途端に不信に思われる。
まぁ、お前達と同じように唯世にやや、キセキ達なら大丈夫だろうが」
まぁ、唯世くん達はそうだよね。だって、普通に今までの付き合いがあるから。
魔法の事も、年齢の事も知ってるから、余計になんとかなる。でも、いいんちょと真城さんは違う。
「新メンバーと信頼関係が築けていない以上、これは空海の言うように火種にしかならない。
恭文に負担がかかるという意味で言えば、こっちの方が更に大きいと私は思う」
「あの、それは分かるよ? でも、恭文が」
こんな風に言われて、平気なわけない。だって、歌唄は大事な友達なのに。
それと敵同士になっちゃって、歌唄はあんな状態なのに、その上これなんて・・・・・・!!
「あむ、僕は大丈夫だから納得して。てーか、ありがとね」
少し疲れた顔で、恭文が笑う。それが、とても悔しい。・・・・・・絶対、嫌なはずなのに。
あたし、見てるだけで分かったよ? 恭文にとって、歌唄の存在が大きいってこと。
だって、色々吹っ切るキッカケをくれたんだよね? だから、今だって辛そうにしてる。
だけど、あたしは・・・・・・バカで、子どもだから、他にいい方法も思いつかない。だから、こう言うしかない。
「・・・・・・分かった。でも、一つだけ約束」
「なに?」
「一人で無茶しないで」
一応、友達だから。友達だから、こう口にする。
コイツ、下手したらまた一人でなんとかしようとする。
二階堂先生とやり合った時みたいに、きっとやる。
だから、釘を刺しておく。・・・・・・手を引いてくれたから、今度はあたしがそうするの。
「歌唄の所には、あたしのたまごもあるの。だから、これはアンタだけの問題じゃない。
・・・・・・いい? それだけ絶対忘れないで。あたしはたまごを、アンタは歌唄を助けるの」
「あむ」
「歌唄が今の状態なの、嫌なんでしょ?」
ハッキリそう言うと、恭文がびっくりしたような顔になる。・・・・・・バレバレだよ、そんなの。
あたしに対して、イクトが友達ならそれでいいって言ったアンタが、この状況で辛くないはずないもの。
「だったら細かい事は考えずに、助ければいいじゃん。そうすれば、何にも問題ないじゃん。
てゆうかアンタ、こんな事を覆す魔法使い、目指してんでしょ? 自分助けられなくてどうすんのよ」
そうだ、何にも問題ない。それで・・・・・・うん、それでいいんだ。
「めんどくさい話は、全部それからでいい。あ、なお返事は、『はい』か『分かった』しか認めないから」
そして、恭文が笑った。さっきまでの辛そうな顔じゃない。普通に、楽しそうに笑ってる。
・・・・・・ようやく、そんな顔してくれた。そうじゃなきゃ、あたし嫌だし。
「つまりそれは、強制と」
「強制じゃないよ。ちゃんと選択はあげてるでしょ?」
「確かにね」
お手上げポーズを取って、恭文がまた笑う。ヒカリはにっこりと笑って、あたしに頭を下げる。
・・・・・・いいよ、別に。恭文がこのままなんて、だめじゃん。それに、あたしのためでもあるんだから。
「お願い、あの時と同じ。あたしの事・・・・・・信じて。
あたし、自分のたまごに×付けちゃってるけど、それでも」
「分かった。んじゃ、二人でなんとかしようか」
恭文は、疲れた顔でまた笑ってくれる。笑って、そう即答してくれた。
それが嬉しくて、右の手をギュって握る。握って・・・・・・あたしは、笑う。
「うん」
「というか、あむ。・・・・・・ありがと」
「・・・・・・いいよ、礼なんて」
友達で、失恋同盟で、仲間だから。うん、いいの。
あたしもこうやって守られた。だから、少しだけもお返し・・・・・・したいんだ。
でも歌唄、マジで何やってんの? あたし、分からないよ。
恭文の戸惑いようを見てれば分かる。今の歌唄が、なりたい自分になれてると思えない。
エルを『いらない』って言って、恭文がキレて殴るのは当然だよ。・・・・・・でも、あんまり言えないな。
あたしもそういうのが分からなくなって、ダイヤのたまごに×、付けちゃったんだから。
・・・・・・・・・・・・こうして、あたしと恭文の波乱含みの2ヶ月間は、始まりを告げた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・・・そうして戻ってきて、僕は部屋で休憩。ご飯も食べたけど、まだ疲れてる。
まさか、ミキとのキャラなりがここまで消耗激しいとは・・・・・・うぅ、多用出来ないなぁ。
かっこよかったのに・・・・・・はぁ。まぁここはいいとして、問題は周辺の事だよ。
フェイト達は、早速今日の話を聞いて作戦会議してる。・・・・・・というか、エルの前で始めやがった。
始めて、『敵』であるほしな歌唄の対策をどうしたものかと頭を捻っている。
もう一度言うけど、エルの前で。というか、エルを軽く尋問してやがった。
時空管理局本局で、優秀な執務官として名を馳せているフェイトとその補佐官二人は、とっても有能なのだ。
だから、その観点からどうやってほしな歌唄を追い詰めるかを話している。
てーか、普通に聞いてたら犯罪者扱いなのは間違いない。だから、ほしな歌唄の関係者のエルを尋問したのである。
あのバカ共、カマシやがった。よりにもよって・・・・・・今日に。
「そう言えば、シオンやヒカリとのキャラなりは、完全に身体を乗っ取られるんでしたよねぇ」
部屋の真ん中。四角いテーブルの上のバスケットで作ったベッドで寝ながら、エルが聞いてきた。
エルも、あむとのキャラなりで疲労困憊。ちょっとだけしか動いてないのに、それでもである。
「お兄様の場合、どうしてもそうなるらしくて。キャラチェンジも同じくなんです」
ただ、分かる。きっとそれだけじゃない。フェイト達が話を始めた時、エルが辛そうな顔になった。
何かを思い出して、拳を握り締めてた。だから・・・・・・疲労を理由に、部屋に連れて来た。
「正直、私は心苦しくて、シオンのようにキャラなりを要求出来ない。まぁ、それでも支障はないんだが」
僕の魔法、ヒカリとシオンが普通の子より強い力があるせいか、たまごの浄化が可能だしね。
そこはありがたいよ。おかげで・・・・・・毎回身体を乗っ取られて、女装はしなくて済む。
「・・・・・・恭文さん」
「なに?」
「エルにその・・・・・・魔法とか、次元世界の事、教えてよかったんですか?」
うん、寝転がりながらその話をしてたのよ。一応、必要かと思って。
で、エルはどうやらそれが疑問のようだ。普通に、戸惑ってるようにも見える。
「エルは、もしかしたらスパイかも知れないのです。それで、歌唄ちゃんに報告するかも知れないのです」
「・・・・・・あ、その可能性は考えてなかったな。うーん、それは困った」
「おふざけなしなのですっ! エルは、真剣に話しているのですよっ!?
・・・・・・というか、フェイトさんやティアナさん達は・・・・・・疑ってるですね」
「そうだね、疑ってる。みんなは、さっきも話したけど事件捜査のエキスパートだもの。
だから、当然のようにエルを疑うの。タイミング良過ぎだから」
うん、そうだね。普通なら疑うよね。僕も・・・・・・覚えはあるわ。
はぁ、色々と反省だな。でもこれって、ハーフボイルドの考えだよなぁ。
「だけど、そんなの僕はどうでもいい。・・・・・・だって、僕達友達でしょ?
いや、それ以前に愛の天使がスパイ行為なんてしちゃ、名折れでしょ」
というか、恩人だよ。あの時、歌唄やエルとイルが助けてくれなかったら、たまご・・・・・・消えてたかも知れないし。
正直、フェイト達に話しても微妙っぽかったしなぁ。僕の夢、あんまりにデカ過ぎて、現実味が無いと言えばその通りだし。
「・・・・・・恭文さんは、中々にプレッシャーをかける人なのです」
エルが、困ったように笑う。・・・・・・うん、笑うの。嬉しそうに、僕を見る。
「エル、手強過ぎて勝てそうにないのです。なら、あともう一つだけ」
「なに?」
「歌唄ちゃん、本当はあんな子じゃないんです。フェイトさん達が言ってたような、悪い子じゃないんです。
その、今は悪いことばかりしてるかも知れないですけど、ホントの歌唄ちゃんは・・・・・・歌唄、ちゃんは」
「知ってるよ。少なくとも僕は、『月詠歌唄』の事は知ってるから。
・・・・・・フェイト達とは、違う。フェイト達は、色んな意味で『ほしな歌唄』しか知らないから」
しゅごキャラが産まれて、戸惑う僕にいろいろ教えてくれたもの。
で、僕もたまーに相談されて、返したりとかしてさ。うん、知ってる。
「それでそれで・・・・・・歌唄ちゃん、恭文さんとお話したり連絡を取り合う時は、なんだかんだ言いながら楽しそうだったんです」
それは、僕の知らない歌唄。近くに居たエルだからこそ・・・・・・ううん、きっとイルも、知ってる歌唄の姿。
「お兄さん以外の男の人相手にあんな風になる歌唄ちゃん、エルも、もちろんイルも知らないです。
きっと歌唄ちゃんは、恭文さんが好きなのです。好きだから、いっぱい繋がろうとしてたです」
「・・・・・・そっか」
「なにより、イルはともかく・・・・・・エルは、ピンピンしています」
うん、知ってるよ。それが何を示すか、僕もキャラ持ちだから分かった。
そして、今エル・・・・・・ううん、エルだけじゃなくて、歌唄の方に居るイルも同じか。
二人がどんな危険に晒されてるのか、分かった。多分、フェイトやティア達は気づいてない。
ほしな歌唄という『敵』に対する対処で、非常に忙しくしてる。だから、分からない。分かるわけがない。
フェイトにも、ティアにも、シャーリーにも・・・・・・今のエルとイルと歌唄の状態なんて、分かるわけがない。
「だから、だから・・・・・・!!」
視線を向ける。エルは、起き上がって頭を下げてた。だから僕も、身体を起こして、エルを見る。
「お願いです。歌唄ちゃんを、助けてください。エル、どうにかしたくて、どうにも出来無くて。
・・・・・・エルは恭文さん達の敵・・・・・・歌唄ちゃんのしゅごキャラなので、頼む権利ないかもですけど」
「助けるよ。あのさ、昨日も同じような事言ったじゃないのさ。何を今更」
「恭文さん」
「だから、泣くな」
痛む身体を引きずって、エルのところまで来て、そっと撫でる。
「僕は、僕の出来る最大限の無茶と無理をするだけ。それをしない言い訳なんて、出来ないから。
・・・・・・助けるし、守るよ。歌唄も、イルも・・・・・・もちろんエルも。全部守るから」
もう仕事どうこうじゃないや。これは、私闘だ。イースターも管理局も関係ない。
早急に歌唄を何とかしなくちゃ、壊れる願いがある。そんなの、認められない。
「それで・・・・・・絶対、こんな今は覆すから。大事な友達を守れない今なんて、僕は認めない。
・・・・・・ハッピーエンドが約束出来ないのが心苦しいけど、それでも手は伸ばす」
「恭文さん・・・・・・!!」
決意を固めながらも、エルを撫で続ける。
エルはまた泣いてるから。また・・・・・・悲しんでいるから。
「とりあえずあれだ、歌唄がどういう動きをするかとか分からないし、結構時間かかるかも知れないけど」
「それはちょっと困ります」
「奇遇だね、僕もだよ。ま、頑張ろうか。エル、悪いけど協力してもらうよ。まずは歌唄の動向調査だ」
「はいです」
・・・・・・季節は、新学期に突入したばかり。もっと言うと、しゅごキャラクロス14話終了直後。
普通なら新生活でウキウキな時期。なのに、厄介ごとは遠慮なく降り注ぐ。
「シオン、ヒカリ」
「分かっています。フェイトさん達には黙っておけ・・・・・・でしょ?」
「そうだよ。今のフェイト達に介入されても、めんどい」
とりあえず、日中もエルの事はずっと連れてくか。変な発言をエルが聞いても困るし、また尋問されてもヤバい。
普通なら、まだいいのよ。でも、今のエルの状態は普通じゃない。エル自身がそれを分かってるのに、追い打ちかけたくない。
「どうやらキャラ持ちのことは、キャラ持ちにしか本当の意味で分からないらしい。
今日のことで、よーく分かったわ。もう三人はどうでもいい。僕は僕で勝手にやる」
「・・・・・・お兄様、本気ですか? フェイトさん達なら、話せば分かると思いますけど」
「本気だよ。僕は歌唄とエルとイルの友達だから。
助けてもらったから、今度は僕が助ける。絶対の絶対に」
これは、僕と歌唄のケンカだ。僕がやらないで、誰がやるのよ。
「・・・・・・恭文、いいのか? お前一人でどうにか出来る問題でもないだろう。
フェイト達に事情を話し、しっかりと考えてもらった上で協力を仰ぐ方が最善策だと思うが」
「嫌だ。・・・・・・僕、今回は本気でムカついてんの。答えは聞いてないから」
あのバカ三人組はさっきも言ったけど、放置しておく。僕は、僕のケンカをするだけだもの。
僕の目の前では、絶対に何も消させない。想いも、願いも、夢も、可能性も・・・・・・何もだ。
「そうか。・・・・・・だが、無理はするなよ?」
「分かってる。やれるだけしかしない。だから、二人にも協力は無理強いしない」
色々な意味で、最低な行動をかます可能性もある。だから、こういう風に言う。
「僕のこれからの行動がムカつくなら、何時だって見限ってくれて構わないから」
さすがにそれでヒカリ達を巻き込むのは、ちょっと躊躇うのよ。
二人は僕を見ながら、軽くため息を吐く。吐いて、呆れたような感心するような視線を向ける。
「全く、お前という奴は・・・・・・あぁもういい。私達も付き合ってやる。
そして、最後の最後までお前のバカに相乗りしてやるさ。それでいいな、シオン」
「もちろんです。しゅごキャラは、何時だってお兄様の味方。離れるわけがありません
そして・・・・・・壊れかけた願いの味方ですから。私達の勝手で、お付き合いします」
「・・・・・・礼は言わないから」
「そんなものいりません。ただ、お兄様が『お兄様×私×リインさん』の図式を認めてくだされば」
「認められるかボケっ! てゆうか、それなら普通に礼を言った方がいいでしょっ!!」
・・・・・・・・・・・・僕とあむの波乱含みの2ヶ月間は、こうして始まりを告げた。
拒否権もなく、逃走権利もない。僕達はただ、現実に直面するのみである。
直面して、変える。・・・・・・絶対に、こんな事で消えてなんて欲しくないから。
手の中にある小さな願いを、僕はしばらくの間、安心させるようにずっと撫で続けていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・キャラなりは可能。ここは救いかな」
「当然・・・・・・だよ。キャラなりは、『なりたい自分』だもの。
恭文がそれを信じていれば、誰とだって出来る」
「納得した。でも、この身体の疲れは納得が出来ない」
「ボクも」
やっぱり消耗が激しい。色々能力を試しただけでこれ。僕もミキも、グロッキー。
しかもですよ? ご丁寧な事に、僕達二人の体力が限界域に達すると、自動解除と来てる。
どこぞの横馬のブラスターみたいに、過剰な無茶をしないと考えるといいけど、ちょっと困るかも。
カードの効果はブレイド準拠だけど、それでも違うものがいくつかある。
だけど、コンボはそれでもいくつか出来た。だけど・・・・・・なぁ。
キングフォームとジャックフォームは、ちょっと無理だった。
くそ、出来るかなーとか、ちょっと期待してたのに『Error』になったし。
「・・・・・・恭文、大丈夫なの?」
「ごめんミキ、僕は結構限界なの」
「うん、知ってる。だからボク達、転がってるんだしね」
あれから数日後。僕はミキとのキャラなりを、あれこれ試してた。なお、もちろんあむの許可はもらってる。
キャラなり出来ない可能性ってのも考えたんだけど、それはなかったから、安心。
「マジックカードを3枚同時使用して、それでも2回が限度か。てーか、ミキが持たないね」
「さすがにキツイって。・・・・・・やっぱり、シオンやヒカリ頼みじゃないかな」
「・・・・・・出来れば、それは避けていきたいの」
というかね、嬉しいの。普通に嬉しいの。身体が乗っ取られてないから、余計に。
キャラなりしてる時に、ちゃんと身体が自分の意思で動かせるって、幸せなんだと感じたから。
「でも、どうしてそんな風になるの?」
実験を開始する時に、ミキに聞かれた。どうして、二人とキャラなりやキャラチェンジをしないのかと。
もしかして出来ないのかと。で、僕は首を横に振った。そして、覚悟を決めて教えた。
「普通にキャラなりやキャラチェンジで、しゅごキャラに身体を乗っ取られる宿主なんて、聞いたことないし」
「言わないで。もうそれは散々」
・・・・・・あぁ、そうだ。言われてる。すっごい言われてるじゃないのさ。
「歌唄とかにも言われてることだから。あと、こっち来てからはみんなにも」
「・・・・・・そっか」
そして、少しだけ無言になる。だけどミキは、それでも口を開いた。
「てゆうかさ、恭文」
「なに?」
「歌唄の事ばっかりじゃなくて、ティアナさんの事も考えてあげたら?」
ミキが、結界を張った街の屋根の上で寝転がりつつ、そう言って来た。
なお、僕の右隣。空は・・・・・・幾何学色だけど、結界を解除すれば綺麗な青空が見える。
「今日だって、なんかデートに誘われてたんでしょ?」
「なぜ知ってる」
「エルから聞いた」
「あのおしゃべりは・・・・・・!!」
しおらしいとこもあるけど、普通にKYなのは変わらずかい。そして、羽ばたき音がバッサバッサだし。
・・・・・・実は、あれからティアナと僕の関係は少し微妙。
「・・・・・・ティアナにね」
「うん?」
「何回か、告白されたんだ。好きだって言われて、よければ自分との事、考えて欲しいって」
まぁ、隠しても仕方がない感じなので、話す事にした。というか、コイツは絶対気づいてるし。
気づいて、聞いてるのだ。で、ちょこっと僕の事を責めてる。
「で、恭文はそれを断ってると」
「うん」
「フェイトさんのこと? あむちゃんみたいに、まだ好きとか」
「よく、分からないな。まぁ、ちょこちょこ緩めに再アタックはしてるんだけどね」
でも、なんかこう・・・・・・家族でもいいかなとか、ちょっと考えてる。
僕はフェイトが何も諦めずに幸せになるなら、それでいいから。
「フェイトどうこうじゃないかな。多分、僕の問題。
一つは、フェイトがだめだった直後で、そんな気になれなかったから」
「だから、何回もぶつかって来られてるわけだ」
「うん。それでもう一つは・・・・・・少しだけ、怖い」
なんだかんだで8年。ずっと想い続けていた時間は、簡単には覆らない。
だから不安になる。自分の心の中に居るフェイトの存在が大きくて、大き過ぎて、怖い。
「例えば、誰かと付き合うじゃない? でも、フェイトの代わりとして見るんじゃないかと思うと、怖いんだ」
あと・・・・・・相手方? そうだね、この問題も大きいのかも知れない。
「色んな意味で負担かけるだろうし、プレッシャーもかけるだろうし。
なんかそういう風にあれこれ考えると、頭痛くなるの」
「・・・・・・そっか。8年だもんね。その分は、やっぱり大きいか」
「うん、大きいよ。・・・・・・だめだな。やっぱフェイトの事、吹っ切れてないかも」
「そう考えるってことは、その可能性は大きいね」
自分でもそう思う。だから、余計に・・・・・・なんだろうなぁ。
「あと、もう一つは・・・・・・最近ティアにムカついてさ。それは、フェイトやシャーリーにもかな。
うん。ぶっちゃけもうティアを恋愛対象としては、絶対に見れないや。僕、無神経な女は嫌いなの」
「え?」
「いや、なんでもないわ。とりあえず、アレだよアレ」
「うん」
「「このまま、お昼寝お昼寝」」
・・・・・・そのまま、程よい疲れも巻き込んで、二人でお昼寝である。
あー、こういう時間の使い方って、やっぱり楽しいなぁ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・なぎ君とミキちゃん、寝ちゃいましたね」
「そうだね。・・・・・・でもシャーリー」
「はい?」
フェイトさんが、お茶を飲みながらとっても苦い顔。まぁ、原因は分かる。
朝に少し悲しそうな顔で、リインさんと買い物に行ったティアだ。
「私から、ヤスフミに話した方がいいのかな。
ほら、再アタックを許可したのも、他の女の子との可能性も考えるって条件の上だし」
「それはやめておいた方がいいですよ。というか、それでオーケーされても、ティアが惨めですよ」
「そう、なのかな」
「そうです。フェイトさん、本気で自覚ないですよね」
私は、とても大きなため息を吐く。それはもう本当に大きなため息。
純粋に心配してるのは分かるけど、それでもこれはいただけないから。
「いいですか? フェイトさんは、なぎ君が8年想い続けた初恋の人なんですよ?
これからなぎ君を好きになって一緒に居たいと思う子は、それを超えなくちゃいけないんです」
なお、八神二佐の受け売り。二佐はお茶を飲みながら、それを非常にめんどくさいことと言い切った。
かけた時間の分、想いは深い。そして、距離だって近い。それが余計に悪条件に拍車をかけてる。
「もしそれが出来ても、そのきっかけがフェイトさんの言葉だったり今話したような叱りだったら、その子はショックですよ」
フェイトさんに言われなくちゃそんな気になれないのかと、ショックを受ける。
結局、なぎ君の中のフェイトさんの存在の大きさに潰されることになるわけだよ。
「私だったらもう別れます。フェイトさんに言われて付き合うなら、フェイトさんと付き合えばいいとか言います」
「じゃあ、あの・・・・・・何も、言えないんだよね」
「はい。フェイトさんに出来ることは、たった一つだけです」
右手の人指し指をピンと立て、私はフェイトさんに言い切る。
ここで余計な事されると更にこじれるから、ハッキリと通達する。
「なぎ君が本気で再アタックを開始したら、今のなぎ君をちゃんと見て、その上で可能性を考えてあげることです。
ティアの気持ちがあるからとか、そんな理由で断らないでください。もし、男として意識出来るなら、付き合っていいんです」
「いい・・・・・・のかな、それは。ティアを見てると、正直ためらう」
「ためらう必要ありませんよ。というか、そんなことしたらフェイトさん、絶対後悔しますよ? それは諦めです」
「・・・・・・そっか、そうだよね。それはだめ・・・・・・だよね。うん、だめだ。ヤスフミとの約束は、継続中なんだから」
でも、正直な話をさせてもらうと、なぎ君ももうちょっとがんばって欲しいなぁ。いくらなんでも、目に余る。
まぁ、他人が口出しするとややこしくなるから、何も言わないだけで、私もかなり気になってた。
そこはフェイトさんだけじゃなくて、私も同じ。結局、当人同士の問題だもの。だめな時は、だめなの。
やっぱり、まだフェイトさんの事好きなのかな。もしくは・・・・・・他に好きな人が居るとか。
私の見立てでは、どっちかなんだよね。いや、後者かな。フェイトさんの事を理由に断ってはいないみたいだし。
「シャーリー」
「なんでしょ」
「ヤスフミもしかして、留学しちゃったなでしこさんの事、好きなのかな」
・・・・・・・・・・・・はぁっ!? いやいや、ありえないでしょっ! だって、普通にあの子小学生だしっ!!
あぁ、まだ春先に流れた噂を信じてたんだっ! さすがに私とティアは『ないよねー』とか言ってたのにっ!!
「恋愛に年齢差は関係無いって言うし、将来的と考えれば8歳差は許容範囲だと思うし」
「だからそれはないですってっ! なぎ君だって否定してましたよねっ!?」
なお、今直面している全てが片付いた後、フェイトさんは非常に困惑する。
その原因が、なでしこちゃんの家の事情を知ったからなのは、言うまでもないと思う。
ただ、そこから更に『あの、男の子同士も大丈夫だと思うんだ』と言い出した。
それに私達は困惑したし、なぎ君が非常に頭を抱えた。というか、デコピン30連発の刑を実行した。
まぁ、今回のそれとは全く関係ない話だと思うので、この辺りで割愛することにする。
「でも、それならどうして? 正直本当に分からないの。私、再アタックとかをかけられてる感じはしないし」
「あー、そういう事ですか」
とりあえず、お茶を一口。・・・・・・フェイトさんも、私と同じ結論に達したんだね。
なぎ君に他に気になる相手が居るから、ティアのアタックをことごとく避けていると。
でも、たまになぎ君がかますセクハラ混じりのいじめは、二人の中では再アタックじゃないんだね。
うーん、よく分からない。私、やっぱ恋愛経験さっぱりだから、こうなるのかな。
「私はその、本当にバカだから8年スルーなんてしちゃったけど、ヤスフミは違うでしょ?
ヤスフミ、ちゃんと気づいてる。私やシャーリーが見てて、分かるくらいなんだもの」
「確かにそうですね。でも、恋愛ってやっぱり生物ですし、出来ない時は本当に出来ないんですよ」
これが人から聞いた話だと言うのは、内緒にしておく。・・・・・・私も、なんだか枯れてるのかなぁ。
「というか、なぎ君にだって選ぶ権利はあるんですよ?
必ず二人の事が成立しなきゃいけないし、恋愛しなきゃいけないって言うのは違いますよ」
「確かに、そうだね」
「はい。それならフェイトさんとなぎ君の事だって、同じ理屈が通るかも知れませんし」
・・・・・・・・・・・・というか、私は最近もっと別の事が気になってる。
なぎ君、なんだか私達の事を避けてる感じがするの。というか、ヒカリとシオンもだね。
宿主であるなぎ君と同じような感じで、私達と会話するのを自然と避けてる。しても、手短モード。
フェイトさんがこんな風に家族モードで心配してるのも、そこが原因だと思う。
うーん、どうしてなんだろ。私達、特に変なことはしてないよね?
日々の生活を送って、ほしな歌唄を止めるためにあれこれ動いてるだけだし。
というか、私達の作戦会議にも色々理由付けて、参加しないんだよね。・・・・・・これ、マズくない?
だって、私達は一つのチームとして、ほしな歌唄の行動を止める必要があるのに。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
夕方、二人でお昼寝から目覚めてから、あむの家に向かう。
まぁ、ミキをお借りしたので、ちゃんと送らないといけないのよ。
しかし・・・・・・まだ4月なのに、気温が上がってきてるなぁ。
これ、5月に入ったら、もう半そでじゃないとキツイかも。
「・・・・・・うし、ラーメン食べ行こうか」
「また唐突に言い出したっ!?」
「あ、でもラーメンだとミキと」
隣を向く。ミキの隣に浮いている僕のパートナー二人と、愛の天使を見る。
「シオンとヒカリ、エルが食べられないしなぁ」
普通に家のご飯とか、ロイヤルガーデンならともかく、外の事だしなぁ。
うし、四人が食べられるものにしよう。それなら、問題ないはずだ。
「あ、あの鯛焼き屋さん行ってみようか。美味しかったし」
「というか、いいの?」
「・・・・・・あ、夕飯前でお腹いっぱいになるの、まずいかな」
「いや、そこじゃなくて。まぁ、おごってくれるなら嬉しいんだけど」
言いながら、そっぽを向くミキをそっと撫でる。照れたように耳が赤くなるのが、また可愛い。
「でも、まだあるかな」
「大丈夫。甘味ってのは、年がら年中需要があるのよ。問題ないから」
なんて言いながら、近くの商店街に入る。入って、あの鯛焼きの屋台を見つけた。
で、駆け寄って、僕は遠慮なく屋台のおっちゃんにこう言うのだ。
「「「すみません、鯛焼き四つお願いします」」」
・・・・・・普通に声がハモった。というか、僕のよく知る声。
試しに、その声がした左側面を見てみよう。そして、納得した。
「・・・・・・歌唄」
「・・・・・・恭文」
普通に、黒のワンピースを着た女の子が、僕の隣に居た。
てゆうか、同タイミングで駆け込んで、同タイミングで声をかけた。
「「いったい何してんのっ!?」」
「・・・・・・あー! 日奈森あむのしゅごキャラに、シオンにヒカリにエルまで居るしっ!!」
「歌唄ちゃんっ! というか、イルも一体何してるですかっ!!」
「お前に言われたくねーよっ! てゆうか、それはこっちの台詞だっ!!」
シオンが、ビックリする僕達を他所に何か考え込んでいた。
そして・・・・・・閃いたのか、柏手を打ってイルを指差した。
「あら、あなたはしゅごキャラクロス本編だと、25話まで登場しなかったイルさんじゃないですか」
「そこは言うなー! その分、アタシは他で頑張ってんだぞっ!?」
そうだね、拍手で頑張ってるよね。・・・・・・って、そうじゃない。
な、なぜここで遭遇っ!? おかしいからこれっ!!
「まぁまぁ、いいじゃないか。ここで会ったのも何かの偶然。みんな一緒に鯛焼きを食べれば」
そして、ハモった声はもう一つ。なお、当然イルとエル、シオンとヒカリにミキじゃない。なので、僕と歌唄は後ろを振り向く。
一言で言うと、大人唯世と言うべき男の人が居た。白い薄手のセーターとスラックスを着た、温和な人。
「「そしてアンタ誰っ!?」」
「あー! 確か、プラネタリウムの館長さんっ!!」
「「そしてアンタは知ってるのっ!?」」
「・・・・・・カオスですわ」
「シオン、気にするな。よくあることだ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
商店街には、休憩所のようなベンチが置いてあった。
なので、そこに二人で腰かけ、普通に鯛焼きにかぶりつく。
「・・・・・・歌唄は尻尾から派なんだ」
思いっきり、尻尾からかぶりついてる。なお、僕は頭から派。
なんというか、こっちが好きなのである。
「そういうアンタは金遣い荒いのね」
・・・・・・あぁ、あるよね。頭から食べると金遣い荒くて、尻尾から食べるとケチだって言うのが。
でも歌唄、それなら歌唄はケチだってことになるんだよ? そこのところ、分かって欲しいなぁ。
「ちなみに、僕は二つに割って真ん中から食べる派。いやぁ、美味しいねぇ」
なんて言いながら、僕の左隣で聖夜小の敷地内にあるプラネタリウム(特別資料棟)の館長さんが、笑顔で鯛焼きにかぶりつく。
だからだろうか。色々な事情を抜きにして、僕と歌唄は通じ合った。通じ合ったからこそ、こう言い放つのである。
「「邪道ですよ」」
「あらら、いきなりひどいなぁ」
「男なんだし、ガブリと行きなさいよ。なに中途半端にしてるわけ?」
「なお、僕はそこまで思わないけど、日和見ってると思いました。ね?」
歌唄の方を見ると、歌唄は力いっぱいに頷いた。・・・・・・って、そうじゃないっ!!
「「だから、アンタ誰っ!? そしてなぜに平然と鯛焼き食べてるっ!!」」
「まぁ、細かいことはいいじゃない」
「「よくないからっ!!」」
「あははは、君達は本当に仲が良いんだね。
さっきから、呼吸がぴったりだよ? あ、もしかして恋人同士なのかな」
そう穏やかな微笑みと一緒に言われて、僕と歌唄は顔を見合わせる。そして、こう思う。
ぼ、僕達が・・・・・・こ、恋人同士っ!? な、何故にそうなるっ!!
「「ぴったりじゃないっ! ついでにそういうのじゃないからっ!!」」
「いやいや、そんなムキならなくていいじゃないか。若いうちは、精一杯恋をすればいいと思うよ?」
「「だから違うって言ってるでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」
・・・・・・こ、この人は。てーか、マジで誰? ここまで全く出てないよね?
「あぁ、僕はよく知ってるよ。一応、君の事は唯世君から聞いてるから」
「・・・・・・唯世と知り合いなんですか?」
「うん、かなり親しい間柄だね。というか、親戚なんだ」
だから、そっくり? いやいや、さすがにそれは・・・・・・ありえるのかな。
「あと、月詠歌唄さん。君の事も同じく。というか、僕のこと覚えてない?」
歌唄を見る。歌唄はそう言われて、一瞬だけハッとした顔になる。
だけど、すぐにいつものキツイ表情に戻った。そのまま、立ち上がる。
「さぁ、覚えてないわ。人違いじゃないかしら。・・・・・・じゃあね」
「ちょ、歌唄っ!!」
「歌唄ちゃん、待ってくださいですっ!!」
思わず、右手で歌唄の手を掴んでた。・・・・・・柔らかくて、小さな手。
それを歌唄は振り払おうとするけど、僕の方が力が強い。だから、無理。
「・・・・・・離しなさいよ」
「だめ。話したい事がある」
「悪いけど、私はないわ。てゆうか、忘れてない? 私達・・・・・・敵同士じゃないのよ」
それを言われて、手の力が緩んだ。そう、不覚にも緩めてしまった。
だから、手が離れた。そのまま歌唄は、キビキビと歩いていく。
「じゃあね」
そのまま、歌唄は去っていく。イルも、こっちを気にしながらも同じく。
・・・・・・なんで、離したんだよ。僕、マジで何やってんだろ。
「ふむぅ、振られちゃったね」
「・・・・・・えぇ、おかげさまで」
「い、嫌だなぁ。そんなに睨まないで欲しいな。ほら、今日はそういう星の巡りだったんだよ」
言いながら、その人は鯛焼きをパクリと食べる。仕方ないので、僕も食べる。
で、ミキとシオン達にエルにも分ける。・・・・・・結局、あんまり話せなかった。話したい事、たくさんあったのに。
「というか、あの」
「うん、なんだい?」
「歌唄のこと、知ってるんですか?」
試しに聞いてみた。だけどその人は優しく微笑みながら、鯛焼きを食べるだけだった。
「知ってるよ。彼女がなぜ、変わってしまったかも。
その根源になにがあるのかも。恐らく、君が求めている答えの全てを」
先ほどまでと変わらない様子でそう言われて、思わず息を飲んだ。息を飲んで・・・・・・固まった。
この人、いったいどこまで知ってる? いや、もう明言してる。僕が欲してる答えを、この人は持ってる。
「だけど、それを僕から君に教える事は出来ない」
「・・・・・・なぜですか」
「物語の鍵は、君の手で開けていかないといけない。もうこれは、君が主人公の物語なんだから。
そして、君はそれを選んだはずだよ? だから君の星の輝きは、少しだけ周りの輝きから離れた」
どこか優しい瞳で、その人は僕にそう言って来た。なぜだろう、この人の言葉は不思議な感じがする。
優しくて、暖かくて、誰かを導く力に溢れてる。僕の周りにはあまり居ないタイプだ。
「だったら、最後の最後まで自分の手で、ページを開け続けなくちゃ。・・・・・・君は知っているはずだよ?
人から与えられる答えでは、誰もから認められる選択だけでは、開けられないページもあることを」
・・・・・・そうだ、知ってる。そしてきっと、僕が欲している『鍵』は、僕が見つけないとだめなんだ。
どうやって? そんなの・・・・・・決まってる。歌唄とぶつかって、その中でだ。
でも、それだけでいいのかな。それだと、スカリエッティやチンクと同じだ。なら、考えよう。
戦いの勝敗だけで、ぶつかる事だけで全部決まるなんて、嘘にしなきゃいけないんだから。
「覚悟は、決まったようだね」
「えぇ、決まりました。僕がこの期に及んでうじうじしてたってのも、よく分かりました。
だから・・・・・・答えはこの手で探して、掴み取ります。守りたい今と一緒に」
「うん、頑張ってね」
とりあえず、そのままプラネタリウムの事とかを聞いて、館長さんとは別れた。
あ、招待もされたっけ。場所も教えてもらったし、今度行ってみようっと。そうそう、あと一つ。
・・・・・・あむの家までの道のりと、帰りの道のりは、少しだけ足取りが軽かったことを、追記しておく。
「・・・・・・エル」
そんな帰り道の途中、僕は隣に浮かぶエルに声をかける。
「はいです」
「ごめん、僕も無力みたいだわ。今のままじゃ、歌唄を止められない」
・・・・・・僕は、右拳を強く握り締めながら、落ち込む表情のエルに言葉を続ける。
そう、続くの。今のままじゃ止められない。現に、止められなかった。
「だから、答えを探す。歌唄と・・・・・・本当にどうしていきたいのか、これから開いてくページの中から答えを探す。
ただ間違ってるとか、正しいとか、それだけじゃみたいダメなんだ。・・・・・・それで、いいかな」
「・・・・・・いいですよ。そうやって諦めないでくれるだけでも、エルは感激なのです」
「なら、良かった」
・・・・・・こりゃ、フェイト達は頼らないじゃないな。頼れないわ。そんな余裕すら無い。
だって僕・・・・・・恋愛感情0だけど、歌唄に首ったけも同じだもの。
それでフェイトやティアの力借りたら、アウトコースでしょ。あむ・・・・・・あぁ、しゃあないか。
なんにしても、約束破るわけにはいかない。破ったら、何時ぞやと同じことになる。
・・・・・・研ぎ澄ませ。まだ、足りない。まだ、足りなかった。
いつもの調子じゃ、全く足りない。歌唄の心に触れる事すら許されなかった。
自分を戒める全てを、振り切る。迷いも後悔も躊躇いも、繋がりさえ追いつけない程に、突き抜ける。
何も捨てる必要なんてないけど、今回はそれほどに速度を上げる必要がある。
そして躊躇うな。また躊躇えば・・・・・・消えるかも知れない。もう、レッドゾーンには突入してる。
何も、消させない。何も、壊させない。・・・・・・願え、ただひたすらに・・・・・・ただ一つを願え。
この瞬間だけでも、今の状況を覆す魔法使いでありたいと、強くだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『・・・・・・やっさん、ラブプラスでいいじゃないか。なんでそこで中学生行くんだよ』
「アンタはいったいなに勘違いしたっ!? 色々とおかしいでしょうがっ!!」
家に帰り着いてから、ヒロさんとサリさんに連絡を取った。というか、連絡が来た。
で、現状を話してたら、こうなった。なぜかこうなってしまった。
『分かった。じゃあ、私らはゆかなさんIFエンドを認めるよ。それなら問題ないでしょ?』
『認めてやるよ。痛くてもいいんだよな。大丈夫、お前ならゆかなさんだって墜とせるよ』
「大有りですよっ! どうしてそんな話になるっ!?」
『まぁ、あむちゃんに手を出すよりはずっといいのか。・・・・・・そうだよな、ずっといいんだよな』
泣くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 二人揃って号泣するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
あぁ、なんで今日はずっとこんな扱いっ!? というか、色々間違ってるからっ!!
『でも、ティアナちゃんは悲しむだろうな』
『やっさんにむちゃくちゃアプローチしてるらしいしね』
『やっさん、鬼畜だな』
『鬼畜だね。そいで最低だよね。凄まじく最低だね』
「そこはいいからっ! てーか、恋愛話から離れてっ!?」
・・・・・・真面目な話をしよう。そろそろ真面目な話をしよう。
てーか、普通にこの人達はなぜ僕を冷たい目で見る? おかしいから。
『てーかよ、ラブプラスの次はこれっておかしいだろ』
「だから、真面目な話に戻ってっ!? ・・・・・・別に、そういうのじゃないですよ。
ただ・・・・・・歌唄とは、色々とあるんです。前に話しましたよね?」
『あぁ、シオンやヒカリが産まれる後押ししてくれたんだろ? でも、だからって中学生には』
「お願いだから話を戻さないでー! なんで即行Uターンッ!? ちゃんとお話してー!!」
とにかく、アレだよアレ。丁度いいからお願いだけはしておく。
「例のアレ、早めに完成にこぎ着けて欲しいんです。もしかしたら、使うかも知れないんで」
『・・・・・・やっさん、アレってなんだよ。俺らはそんなもんを頼まれた覚え無いぞ?』
「ノリ悪いですね。こういう時は『分かった』って言って、何も言わずに新兵器用意するのがかっこいいのに」
『一体どんな無茶振りしてんだよっ! てーか、お前は新兵器作るのがどんだけ大変か分かってないだろっ!!
・・・・・・それでやっさん、お前マジで唯我独尊通すつもりか? それをやって他のみんながどう思うか、お前なら分かってるだろ』
えぇ、分かってますよ。色々と現状におけるルール違反をかますのは、事実ですし。
『何より、どうした。事情は大体分かったが・・・・・・お前、その辺りに割り切り付けられないような奴じゃないだろ』
「ある女の子達にちょっと叱られて、反省したんですよ。
・・・・・・そんな割り切り、付けなくていい時もあるって」
画面の中の、少し心配気なヒロさんとサリさんの目を見ながら、真っ直ぐに言う。
「僕の目指す『魔法使い』は、友達として」
少しだけ背中を押してくれた、あの子達の顔を思い出しながら。
「大事な友達を、願いを、守るために飛び込むんだって。なんか、それ聞いたらバカらしくなってきたんです。
それに何より・・・・・・全く足りない。今のままじゃ僕は、自分のケンカ一つ通せない。だから、追いつけない奴は振り切ります」
『そうか。まぁ、実際問題フェイトちゃん達が親身に協力は難しいだろうな。
やっぱりよ、仕事としてそこに居る以上、その線引きはちゃんとしないとまずい』
『もっと言っちゃえば、エルちゃんやその歌唄って子がどうなろうと、問題はないんだよね。
ただ、それを責める権利はないよ? アンタだって、その子達と友達じゃなかったら』
「きっと同じだったでしょうから、そこは言いませんよ。でも・・・・・・今の僕はフェイトの補佐官じゃないですし。
聖夜小6年星組、ガーディアン・ジョーカーVの蒼凪恭文ですから。ぶっちゃけ、そんな理屈に付き合う道理はない」
もうちょっと、捜索の頻度を上げる必要があるかも。もっと時間をかけないと。
今あるありったけを賭ける。賭けて手を伸ばさないと、また離す事になる。んなの、嫌だし。
『あー、そりゃ道理だね。てーかやっさん、叱られたって・・・・・・あむちゃん?』
「そうですね。・・・・・・全く、これだから話術サイドの人間は嫌なんですよ」
しかし、今更だけどあむも上条当麻と同じく話術サイドの人間だと言うのには、ビックリだなぁ。
ニコ動にあむの動画があったら、話術サイドってタグ、付くんじゃないの?
『ま、いいんじゃないのか? 元々お前はヘタレなハーフボイルドだ。たまには、そのまま突っ走ったってよ。
安心しろ、俺らもフェイトちゃんには黙っておく。てゆうか、これはお前とその歌唄って子のケンカだしな。口出す権利なんざないだろ』
「・・・・・・はい」
『ただよ、やっぱり中学生とか小学生はやめようぜ? ロリコンって言うのは、健全な子どもの成長を妨げる害悪の可能性が』
「だから、なんでまたまたUターンッ!? その話はもういいからっ! あと、ロリコンって言うなー!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・それで、ひたすらに歌唄との仲を疑われたと」
「うん、無茶振りした仕返しにね」
「恭文、大丈夫? なんかすごく疲れ果ててるけど」
「ちくしょお、アイツら絶対おかしい。てーか、フェイトやシャーリーとティアまで僕を見る目がおかしいし。
なんかさ、まだ春先に出た妙な噂を信じてるらしいのよ。なんかすごい真剣な顔で、そこを聞かれたし」
・・・・・・あぁ、『恭文×なでしこ』の噂か。てゆうか、あれ信じてたんだ。
フェイトさん、応援モードって・・・・・・いや、止めません? 人生の先輩として、大人として。
≪ようするに、ストーカーの一歩手前と思われてるんですよ。ほら、ここ最近行方を追って≫
「諸事情込みだよね、それっ! てゆうか、それならやや達もストーカーになっちゃうじゃんっ!!」
「やや、僕は残念だよ。まさか知り合いを通報しなきゃいけないんて」
「だから、それ言えば恭文も同じじゃんっ! ややだけじゃないもんっ!!」
ロイヤルガーデンで、恭文が頭を抱えていた。原因は、歌唄とのこと。
魔導師組の間では、恭文が歌唄(orなでしこ)のことが好きで、何とかしたいという話になってるらしい。
「しかし、ほしな歌唄とはコンサートでガードした事が初対面なのでしょう? なぜそうなるんですか」
「おかしいわよね、それは色々と」
やばい、いいんちょと真城さんがちょっと疑ってる。でも、確かにそうなるよなぁ。
あたしは恭文から話聞いてるから、まだ納得出来るんだけど。
「お兄様が、初めてフェイトさんとリインさん以外の女性に、恋愛に結びつきやすい強い興味を示したせいですよ。
この2年と来たら、やれディケイドだ、やれ最終回が詐欺だ、やれ凛子は僕の嫁だ、やれゆかなさんIFエンドを目指すだ」
待って待ってっ! なんか一番最後が色々おかしいんだけどっ!? てーか、それは痛過ぎじゃっ!!
「しゃあないじゃんっ! 丹下桜さんは素敵だし、ゆかなさんは素敵だし、ディケイドの最終回は詐欺だしっ!!」
「仕方なくないだろう。・・・・・・みんな色々と心配していたんだ。まぁ・・・・・・私は応援するぞ」
「リインも応援するですよ? 歌唄さんなら、まぁ仕方ないのです」
「だから、応援はやめてー! ホントにそういうのじゃないのにー!!」
そして、また恭文は頭を抱える。・・・・・・でもさ、恭文。そこは私もすっごい思ってた。
アンタ、歌唄に対して思い入れ強いって。自覚ないみたいだけど、相当だよ。
なんて言うかさ、今の恭文は、歌唄に恋してるようにしか見えないよ。
・・・・・・まぁ、それでもいいんじゃないの? 正直、今の恭文を見てるのは好きかな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・ねぇ、ヒカリ」
「なんだ、ラン」
恭文達が会議しているテーブルの近く。いつもしゅごキャラで遊ぶスペースに居ると、ランが話しかけてきた。
その表情は、心配そうに恭文を見ていた。それは、スゥとミキも同じくだな。
「恭文、大丈夫なの? ミキから聞いたけど、歌唄ちゃんと遭遇したんだよね」
小声で、キセキ達に聞こえないように聞いてきた。だから私は・・・・・・苦笑するしかなかった。
「どうだろうな。恭文は、フェイト達を振り切ってでも彼女を止めるつもりだ」
「フェイトさん達を振り切ってって・・・・・・えぇっ!?」
「こればかりは、私とお姉様にも止められません」
私達と同じように恭文を見ていたシオンが、プカプカと浮かびながらそう口にする。
「ランさん、あなたもしゅごキャラなら分かるはずですよ? 今のエルさんとイルさんが置かれている状況を」
「え、いやいや。なんでいきなりエル達の話に・・・・・・あ」
どうやら、ランは気づいたらしい。だから、キセキとペペとクスクスとムサシと和んでいるエルを見る。
「ヒカリ、シオン、だからなの?」
「だからです。そして、それは私達も同じです。
多少の無理と無茶を通さなければ、時間は簡単に消えていきます」
「そして同じように、このままならエルとイルは・・・・・・消滅する」
・・・・・・・・・・・・本当に、フェイト達と足並みを整える余裕すら無くなってしまった。
恭文じゃなくても、焦りたくなる。今日・・・・・・いいや、1秒後にもその瞬間は訪れる可能性があるのだから。
だからこそ我が宿主は、昨日手を掴みながらも離した事を、いたく後悔している。
大事な仲間であるフェイト達や、今の居場所の一つを振り切ってでも、直進する道を選んだ。
そして、私達はそれを認めた。何気に私もシオンも、あと何も言わないがリインも腹が立ったんだ。
これくらいは許して欲しい。・・・・・・だが、この判断を私は後々後悔する事になる。
恭文を説得して、振り切る選択をやめさせるべきだったと。
その原因となったカードの名は・・・・・・Jチェア・三条海里。
(その4へ続く)
あとがき
やや「・・・・・・シリアスだよね」
恭文「まぁね。てゆうか、本編時の僕達の対応の問題点なんかも、ちょっと上げたりしてる」
古鉄≪この辺りは、次回にも出る話ですので、ご期待を。というわけで、本日のあとがきのお相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫
恭文「蒼凪恭文と」
やや「結木ややです。あー、それであむちんルートの感想、相当多く届いたんだよね」
(かなりどっさりでした)
恭文「うん、届いたよ。プロローグ話、良かったって感想で助かったよ」
古鉄≪何気に、長丁場かと思ったんですけど、そこは安心です。
そして、この人がひたすらにロリコンと言われています≫
恭文「・・・・・・今回は、全く否定出来ないのが辛い。
てゆうか、リインはこのあむより年下なんだよっ!? その辺りどうなのよっ!!」
やや「リインちゃんは、元祖ヒロインだからいいんじゃないの?」
(ですです♪)
恭文「本当にそう言いそうだから、怖いよね。てゆうか、リインヒロインでロリコンって言われた覚えがない。・・・・・・あぁ、そう言えばさ」
やや「なに?」
恭文「リインが、IFルートでは『僕×リイン+フェイト』を相当押してるんだけど」
古鉄≪あぁ、押してますね。すごい勢いで押してますよね≫
やや「え、それなんで? だってだって、リインちゃん単独ヒロイン出来るのに」
古鉄≪それには、理由があります≫
(そう、とっても深い理由が)
古鉄≪あの人、デバイスですから子どもを産めないんですよ。
それでその辺りを気にして、この人に第二夫人をもらって欲しいと≫
やや「あ、恭文に子どもを作って欲しいって事だね」
恭文「だけどさ、僕はそういうのダメでしょ? だから、そこでごちゃごちゃするって話にしたいらしいんだけど・・・・・・1番の理由は」
やや「うん」
恭文「自分が第一夫人で、フェイトが第二夫人で、しっかりと優劣を付けたいらしい。
自分だけが嫁になるとかじゃなくて、下を付ける事でこのIFでの勝利を見せつけたいとか」
(エース、何も言えなくなる。というか、言えるわけがない)
やや「恭文、リインちゃんに謝った方がいいって。うん、絶対その方がいい」
恭文「謝ってこれなんですけど、何か?」
やや「う、うぅ・・・・・・謝りが足りないんだよっ! ほら、謝り倒さないとっ!!」
古鉄≪それでどうにもなるとは思えないんですけど。
というか、それだと自分にプラスして、IFIFフェイトさんルートになるって気づいてないんですよ≫
やや「あ、そう言えばそうだよねっ! 何にしても、フェイトさんお嫁さんになるんだしっ!!」
恭文「ちなみに、他の人間でも同じよ? 仮にこれがはやてとかカリムさんとか、恋愛要素ない相手だとしても、そうなるのよ」
(もっと言うと『リイン+〇〇ルート』になります)
恭文「とりあえず・・・・・・頭が痛くなってきたので、本日はここまで。
お相手は、リインルートのプロットは練り直した方がいいと思う、蒼凪恭文と」
古鉄≪それはそれで面白そうですけど、普通にリインさん単独ルートとしてはダメだと思う古き鉄・アルトアイゼンと≫
やや「でもでも、リインちゃんが幸せならいいのかなーと思う、結木ややでした」
恭文「・・・・・・いい、のかなぁ。僕は何にしても、苦悩の日々が続きそうだけど」
やや「大丈夫だよ。本編でもあむちールートでも、同じじゃん」
恭文「あはははは、確かにそうだから反論出来ないのが悔しいなぁ」
(苦笑いな青い古き鉄、意外と大変な人生を送っています。
本日のED:doa『英雄』)
恭文(数日後)「・・・・・・・・・・・・全く手がかり無しって、どういう事さ」
シオン「かなりの時間、捜索しているのに・・・・・・うーん、変ですね」
ヒカリ「恭文、これは捜索方針そのものから変えた方がいいかも知れないぞ?
いくらなんでも、これはおかし過ぎる。全く足取り無しはあり得ないだろ」
エル「・・・・・・あ、恭文さん、エルはちょっとお散歩してきたいです」
恭文「うん、いいけど・・・・・・一人で大丈夫?」
エル「大丈夫なのです。というか、ヒカリとシオンも一緒なので、平気です」
シオン「いや、私達は・・・・・・あぁ、まぁいいです。お姉様、いきましょ?」
ヒカリ「あぁ」(バッサバッサ)
あむ「・・・・・・怪しく相談事?」
恭文「そんなんじゃないよ。てか、いきなり後ろから出てくるあむに、言われたくない」
あむ「あはは、ごめん。声かけるチャンス見計らってたの。それでさ、恭文」
恭文「なに?」
あむ「ちょっと、鯛焼き食べ行かない? ・・・・・・話、あるんだ」
(おしまい)
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