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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第48話 『僕が僕であるために必要なもの』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー!!.』

ラン「ドキッとスタートドキたまタイムっ! さぁて、本日のお話はっ!?」

スゥ「再び動き始めたイースターの陰謀に巻き込まれた、シュライヤさんを助けるために、みんなで頑張るのですぅ」

ミキ「でも・・・・・・なんなの、あの偽エンブリオっ! 凄く、凄く見覚えがあるんだけどっ!!」





(そうして画面に映るのは、妖しく輝く闇の色)





ラン「うぅ、もしかしなくても大ピンチっ!?」

スゥ「これ、どうなるですかぁっ!!」

ミキ「夏休みを前にして、ガーディアンは最大の危機っ! あぁ、もうだめだー!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・うー、さっぱりだぁ」

「ヴィヴィオ」



上から、声がかかる。そっちを見ると・・・・・・あ、ユーノ君だ。



「ユーノ君、調べ物終わったの?」

「うん。今日は無茶振りもなかったしね」



ここは、無限書庫。ヴィヴィオは学校帰りに調べ物。

ユーノ君は、そんなヴィヴィオの隣に来て、ふわりと停止。



「またエンブリオについて調べてるの?」

「うん。フェイトママや恭文の助けになれればなーと思って」



ヴィヴィオ、ガーディアンの皆さんみたいにキャラ持ちとかじゃないから、そっち方面で助けるのは無理だしなぁ。

なら、検索しかないなと思って暇を見つけてはそれっぽい資料を検索してるんだけど・・・・・・さっぱり。



「そっか。・・・・・・僕も、一応クロノから継続調査は頼まれてるし、暇を見つけては調べてるんだ」

「でも、見つかってないんだよね」

「うん」





ユーノ君は、ヴィヴィオを見下ろしながら少し申し訳なさげに頷く。・・・・・・あのね、それっぽいのはあるの。

『願いを叶えるロストロギア』は、過去の事例でも沢山あるから。うん、それっぽいのはある。

ただ、そこに『エンブリオ』というキーワードやフェイトママと恭文達の情報を鑑みると、話が変わってくる。



これじゃないかなーって思っているものが、全く違うものだったり眉唾ものな話だったりになる。





「やっぱり、恭文君とフェイト達がもうちょっと情報を掴んでくれないと、ダメだな」

「一度だけ見たって言うのじゃ、だめなんだよね」

「うん」



だから、ヴィヴィオとユーノ君も困ってる。

クロノさんや現場のフェイトママ達も困ってるだろうけど、ヴィヴィオ達も困ってるの。



「光り輝いて空を飛ぶたまごってだけじゃ・・・・・・弱いね。
例えば誰が最初に見つけたとか、それが何時の話とか、そういうのが分かると絞りやすいんだけど」

「そっかぁ。・・・・・・ね、ユーノ君、ヴィヴィオ調べてて思ったんだ。
『エンブリオ』が存在してない可能性はないかな。もしくは、恭文達が見たのはエンブリオじゃない」



ヴィヴィオの言葉に、ユーノ君は少し考えて『・・・・・・なるほど』と呟いた。

それが嬉しくて、ヴィヴィオはちょっとニコニコする。



「それはあるかも知れないね」

「でしょ?」





例えばだよ? 過去に地球で『エンブリオ』と思われるロストロギアがあった。

それを見た昔の人が『エンブリオ』とした。でも、それはもう管理局とかが確保してる。

『とか』としたのは、犯罪者が違法に入手した可能性もあるから。とりあえず、ここは気にしないで?



問題は、もっと別にあるの。そのロストロギア(仮定)が確保されて、エンブリオの話だけが残った。

だから、現在ではエンブリオという物は『ない』。だから、みんな探してるけど見つからない。

これ、あくまでもヴィヴィオ達側からの考えだけど、自分で言っててかなりいい線言ってると思うんだ。



でも、これだと恭文とフェイトママ達が見た光るたまごの説明がつかない。

だから、これは『こういう可能性もある』って話だね。実際どうかは、やっぱり分からない。

それで次の話。こっちもヴィヴィオ的にはいい線言ってると思う。それは、光るたまごの事。



あれはエンブリオなんかじゃなくて、全く別の物。この考えを思いついた理由は、実に簡単。

フェイトママと恭文はもちろんだけど、ガーディアンのみんなも、実物を見た事がないらしいから。

つまり、みんなが見たたまごは『それっぽい』物になるの。特別な物かも知れないけど、ただそれだけ。



別に、そのたまごが名乗ったわけでもなんでもない。名前が書いてるわけでもなんでもない。

だから、無限書庫で目撃情報を元に調べても、何も見つからない。今目撃されているたまごは、エンブリオじゃないから。

ただ・・・・・・なんだよねぇ。これは書庫に正真正銘、本物のエンブリオの資料があること前提の話だもん。





「ユーノ君、無限書庫に資料が全く無い可能性って、ある?」

「それはもちろんあるよ。無限書庫は次元世界中の知識が詰まってるって言われてるけど、あくまでも書庫だもの」



つまり、資料・・・・・・何かのデータとして形になってて、それがここに入ってない限りはダメだってことだね。



「それに以前、書庫の貴重なデータを局上層部が意図的に削除したりもしてる。
そういうのもあるから、ここだったら絶対に資料があるって考えるの、実は間違いなんだよ」

「そうなのっ!?」

「うん」





・・・・・・ユーノ君曰く、前にある事件絡みでとある世界の資料を調べてた事がある。

その時、その世界に関連した資料が全く無かった事があるらしい。

一応、簡単な概要とかはあったけど、それはネットとかで調べれば分かるレベル。



その世界の歴史の深いとこまでが丸々乗ってるような、そんな詳しくじゃない。

調べてる時、書庫の人達は不審に思ってたんだけど、事件が進展して理由が分かった。

その世界の上の人達が昔からずっと管理局上層部に働きかけて、意図的に資料を削除してたの。



普通なら不可能なんだけど、その世界の人達はそれを可能とする力があったとか。

ただ、ユーノ君が無限書庫の司書になるずっと前にやられたらしいの。

だから、これはユーノ君の責任じゃない。とにかく、そういう可能性もあるという話だね。





「うーん、やっぱりフェイトママと恭文達の情報待ちかなぁ。
これ以上は、ヴィヴィオ達にはどうしようもない感じがする」

「そうだね。・・・・・・それでさヴィヴィオ、浄化プログラムとかは」

「ごめん、そっちもダメなの。うー、並行で調べてるけど、前と同じ」





×たまって言う、こころのたまごに×が付いた状態を何とかする事を、浄化って言うの。

魔法でそういうプログラムが無いかどうか、クロノさんに頼まれて結構前から調べてるんだけど、こっちもさっぱり。

やっぱり、浄化って言うのは同じキャラ持ちの子にしか出来ない技みたい。現に、恭文もそれだもの。



つまり、フェイトママ達はいくらオーバーSランクの魔導師だったり、ストライカーだったとしても・・・・・・戦力外。

だけど、ガーディアンのメンバーで恭文とあむさんを筆頭に、浄化技を使える人達も居るしね。

ここでママ達が無理する事は、基本的には出来ない。でも、そこがママ達の悩みのタネだったりする。





「いや、大丈夫。僕も同じくだから」



言いながら、ユーノ君が苦い顔をする。本当に困ったというか、そういう顔。

なお、ヴィヴィオも同じ顔。腕を組んで、二人でついつい唸ってしまう。



「恭太郎や咲耶とかはもしかしたら、持ってたかも知れないけど」



思い出すのは、恭文に似た感じの男の子とフェイトママに似ている感じの女の子。あと、ビルちゃん。

未来の時間で生きてる、恭文の孫とそのパートナー達。ヴィヴィオも、一緒に冒険した事のあるみんな。



「恭太郎や咲耶? ・・・・・・あぁ、未来の時間の恭文君の孫と、そのパートナーか。
ヴィヴィオ、そう思うのはどうして? 報告では、二人は後方支援しかしてない感じだけど」

「ほら、未来の時間の人間だし、そういうのあるかなーって」



根拠はないの。うん、全く無い。でも、未来って響きはなんかドキドキだし、そういうのあるかなーって。



「なるほど。・・・・・・だけど、きっと教えてくれないだろうね。仮に知っていたとするよ?
でも、それは未来の技術だもの。今の時間の僕達に伝えたら」

「大問題・・・・・・だよねぇ」










とりあえず、クロノさんへの報告はこれで決定かな。





本日も、全く進展なし。現場からの情報待ち・・・・・・って感じ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・そうか、やはりダメか」

『うん。エンブリオに関しては、現場からもっと情報がないともうどうしようもないよ。
色々考えられる可能性はあるけど、それを絞るものがない』

「確かにそうだな。ユーノ、すまなかった。あと、ヴィヴィオにもお礼を言っておいてくれ。
もちろん、僕からも後で連絡させてもらうが、それでも頼む」

『分かった』



お馴染みとなったクラウディアの艦長室。これまたお馴染みとなった、ユーノとの通信。

一応、継続調査は依頼していたが・・・・・・やはり、さっぱりか。



『・・・・・・でもクロノ、どうしてそこまで急ぐの? 特に浄化プログラムだよ。
現状で×たまは、ガーディアンのみんなや恭文君で対処出来てるんだよね』

「まぁな。だが、やはり心苦しくはあるんだ」



これは、僕の罪だな。六課の時にフェイト達にランスター執務官補佐達を、局の都合に巻き込んだのと同じ。

いや、もしかしたらそれよりもずっと重く、拭うことなど出来ない罪かも知れない。



「現にブラックダイヤモンド事件では、局員でもなければ戦闘者でもない彼らに、相当危ない橋を渡らせてしまった」





本来なら、あれは僕達管理局の人間だけで対処すべき事件だった。彼らを巻き込むなど、許されるはずがない。

そのために、たまご達や日奈森あむのしゅごキャラを犠牲にしたとしてもだ。・・・・・・まぁ、フェイト達には言えないが。

次に、もしフェイトやランスター執務官補佐達がたまごの浄化を可能とするなら、こっちの戦力は倍加する。



同じような状況になったとしても、彼らに危険な事をさせずに済む。それに何より・・・・・・なんだ。

僕達はなんだかんだで、彼らを利用してしまっている。エンブリオ確保のために、容赦なくだ。

正直、それが本当に心苦しい。イースターが今後、更に凶悪な作戦を仕掛けてくる可能性は高い。



下手をすれば、危険度もそれに比例して凶悪になるかも知れない。そこを考えると、どうしてもな。





『・・・・・・そう言えばそうだったね。それで、チームの責任者であるクロノとしては、現状を早めになんとかしたいと』

「正解だ。出来れば、イースター絡みで危険な場合は、ガーディアンのみんなには下がっていて欲しいとさえ思う」

『そうなると、現状では戦力が絶対的に足りないけどね。だって、魔導師組で浄化出来るのは、恭文君だけなんだから』



だから、今言ったように考えていても、結局ガーディアンの面々に頼ることになる。・・・・・・本当に、ダメだな。

イースターが起こす事件の危険度は、もう既に一つの学校の生徒会の人間が対処出来るレベルを、軽く超えてると言うのに。



『一応さ、ヴィヴィオと話してる時に恭太郎達未来の時間の人間なら、知ってるんじゃないかって話になったんだよ』



通信画面のユーノの顔を見ながら、少し考える。・・・・・・そして、納得した。

無限書庫の資料・・・・・・過去にもそれがなく、現在にもない。だったら、未来にということだな。



「確かに、それは盲点だった」

『ただ、ヴィヴィオと僕の意見としては知っていたとしても、絶対に教えるわけがないと思う』

「・・・・・・どうしてとは、聞くまでもないよな」

『うん。未来の時間の技術を今に流失させちゃったら、とんでもない事になるもの』



そうだよな、あぁ分かってた。頭が痛くなるが、本当に分かっていた。

・・・・・・試しに聞くか? 聞くだけでも色々変わるかも知れないし。



『というかね、ヴィヴィオ曰くデンライナーのオーナーに、相当強く口止めを約束させられてるかも知れないってさ』

「その場合、どうなるんだ? 僕もそうだが、お前もその方とは会ってないだろ」

『絶対話すわけがないって断言してたよ。なお、僕やクロノが説得しても同じ』

「・・・・・・つまり、アレか。僕達が現状で打てる手はほとんどないと」



ユーノは、苦い顔で頷いた。安心しろ、ユーノ。そう申し訳なさそうに言う必要はない。

正直、分かってた。何とかなればいいなというレベルで言ってたんだ。



『そうなるね。結局、鉄火場は現場の恭文君と、恭文君とユニゾン出来るリイン。
そして、キャラ持ちで浄化能力もあるガーディアンのみんな任せだよ』

「・・・・・・彼らには、本当に申し訳ないな。僕は責められて然るべきだ」

『クロノ、それを言うなら僕達・・・・・・でしょ? 僕も、もう立派な関係者なんだし』

「そう言ってもらえると、少しだが気が楽になる。すまない」










・・・・・・我ながら情けない。結局は権利関係で守る事しか出来ないとは。

もうすぐ夏休み。今のところ、イースターに新しい動きはないと聞いている。

だが、このままではないだろう。絶対に、何か仕掛けてくるに決まっている。





悪役というのは、頑固でしつこい油汚れに良く似ていると、恭文も言っていたしな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ヤスフミ、なんだか楽しそうだね。原因はシュライヤ王子?」



ベッドの隣に座るのは、お馴染みなパジャマ姿のフェイト。

どこか嬉しそうな顔で聞いてきたので、頷いた。



「うん。シュライヤから、色々国の話を聞かせてもらったんだ」



資料探しをしながら、お父さんの話をされるのは好きじゃない感じだったので、そこは避けた。

日々の暮らしとか、名物とか綺麗な景色が見える場所とか、国の人達の事とか。



「それでね、なんか意気投合しちゃったの」

「なら、ヤスフミと同じだね」

「そうだね。だからなのかな。なんだか、ドキドキとワクワクで胸がいっぱいになっちゃって」

「うん、見てて分かった。やっぱり、旅とか出たいんだね」

「そうだねー。それで、僕もドラゴンとか家来にしちゃおうかな。すっごく楽しそうだから」



少しおどけて言うと、フェイトがクスクスと笑う。嘲たりしてるわけじゃなくて、楽しそうに笑ってる。

それが嬉しくて、僕も笑う。フェイトと通じ合えてる感じがして、すごく楽しくなってくる。



「・・・・・・でも、なんだろ。出たいのと同時に、なんかこう一人だと物足りないなーって」



フェイトと同じようにベッドに座りながら、少し考える。・・・・・・少し考えて、気づく。



「どうして物足りないって思うの?」

「今までも旅とかもあるし、どっかの世界で珍しい景色とか見るじゃない?
それで、フェイトとかにメールだったり通信だったりで話すこと、あったでしょ?」

「うん、あった。あ、私あれが一番ビックリしたんだ。月面歩行や月面ウサギの写真」

「あー、送った送った」



大体、3年前くらいだよね。とある宇宙開発の技術が進んでる管理世界に、ヒロさんの紹介で仕事しに行った時、月面歩行したの。

それだけじゃなくて、月面ウサギって言う宇宙空間に生息している生物を見たりして・・・・・・うー、楽しかったなぁ。



「それでね、そういうのに触れられる時はすごくドキドキするの。嬉しくなるの。旅や冒険が、もっと好きになる。
それで・・・・・・なんだよね。そういうのをフェイトやリインと共有出来たらきっと楽しいだろうなって、ちょっと考えた」

「つまり、私も旅に・・・・・・だよね。というか、私達と一緒にドキドキワクワクしたい」

「うん。あ、もちろんずっとじゃないよ? なんかかこう、2泊3日とかでもいいからそういうのをちょくちょく出来たらいいなって、考えた」



フェイトのこと、困らせてるかなと思った。フェイト、仕事も子育てもまだまだ継続中なんだし。

でも、フェイトは優しい顔のまま頷いて・・・・・・僕の頭を、そっと伸ばした左手で撫でてくれた。



「私ね」

「うん」

「ヤスフミの事、もしかしたらちょっとだけ妬んでたのかも。今、ふと思ったんだ」



・・・・・・とりあえず、フェイトに妬まれる要因が分からない。

だけど、そのままフェイトの話を聞く事にする。じゃないと、分からないから。



「自由に色んなものを見て、そういうドキドキやワクワクを一杯感じられる事が妬ましかったのかも」

「自分は、そういうのに中々触れられる機会が無かったから?」

「かも知れない。もしかしたらヤスフミを局に誘ってたの、そういうのも理由なのかも。
どこかでヤスフミが子どもで、大人になろうとしてないからそうなるんだって思ってて」

「だから、組織の中に入って大人になって・・・・・・と」

「うん。ホント、私最低だよね。ヤスフミの事、きっと全然大事にしてなかった」



フェイトは、自嘲する。悲しげで・・・・・・どこか、自分に対しての怒りも感じられる瞳をしていた。

だから、僕はフェイトに両手を伸ばして抱きしめる。抱きしめると、フェイトがハッとした顔になって優しい笑顔になった。



「・・・・・・私には妬む権利なんてないのに。私は自分から言い訳してただけ。
仕事やエリオとキャロの事を理由に、そういうのに手を伸ばさなかったんだから」

「そうだね。正直、これで妬まれても僕は迷惑かも」



ハッキリ言うと、フェイトが苦笑する。うん、これでいいの。だってフェイトは、僕がどう言うか分かってたから。



「うん、そうだと思う。だから・・・・・・手、伸ばすよ。私も旅、付き合いたいな。
ほら、神速の修行の時みたいな形だったら、仕事の事とかも大丈夫だもの」

「いいの?」

「いいよ。それでヤスフミと、沢山ドキドキやワクワクを共有したい。
・・・・・・共有して、もっとヤスフミの事知りたいし、仲良くなりたい」

「・・・・・・あの、フェイト・・・・・・ありがと。ホントありがと。僕、凄く嬉しい」



フェイトが、少し身体を動かす。僕の腕の中の身体は向き合うようになって、そのまま抱きしめてくれる。

温かくて、優しい匂いと柔らかさが心地良くて幸せ。・・・・・・フェイト、やっぱり温かい。



「ね、今日偶数日だけど・・・・・・今から、頑張る?」

「・・・・・・今日は、無しでいいかな」



少しだけ身体を離して、フェイトを見上げる。フェイトは首を傾げて『どうして?』という顔をする。



「フェイトと、いっぱい話したい。あのね、フェイトに話してないドキドキやワクワク、沢山あるんだ。
コミュニケーションしながらでも出来るかも知れないけど、今日はプラトニックな感じがいい」

「そっか。なら・・・・・・というか、私達エッチ過ぎなみたいだし、今日は自重しようか」

「そうなの? 普通だと思うんだけど」

「私もそう思うんだけど、はやてとかはそう言うの。うーん、なんでだろう。普通だよね?
おはようとおやすみのキスして、行ってらっしゃいと行ってきますのキスして」



うん、してるよね。僕からおはようってキスして、フェイトもおはようってキスしてくれる。

同じようにおやすみってキスし合うでしょ? 行ってきますと行ってらっしゃいも同じく。



「それであの・・・・・・エッチな事でコミュニケーションとか、子作りしちゃうけど、それだってちゃんとしてるよね?」

「うん。フェイトの体調は考慮・・・・・・出来てるでしょうか。
というか、僕結構フェイトの事いじめてるじゃない? 嫌な思いとかさせてるかな」

「ちゃんとしてくれてるよ、大丈夫だから」



フェイトが安心させるように笑ってくれる。それが嬉しくて、胸が高鳴る。

・・・・・・うぅ、ドキドキは年々増していくから不思議。



「あと、私をいじめるのも大丈夫だよ? ・・・・・・ヤスフミは、いじめててもちゃんと愛してくれるもの。
私、いっぱい感じてるよ? ヤスフミが私の身体とか心の事、ちゃんと気遣った上でそうしてくれてるって」



フェイトが、頬を赤らめながら僕を見る。それで身体の中が熱くなる。

だ、だめ。今日はプラトニックなんだから。うん、エッチは自重なの。



「なら良かった。うん、安心した」

「あの、私もちゃんと出来てるかな。私、いじめる時にヤスフミに嫌な思いとかは」

「してないよ? フェイトが一生懸命いじめてくれるの、見てて楽しいし・・・・・・嬉しい」

「なら、良かった。・・・・・・じゃあ、今日はこういう話もしようか。
今後も恋人として繋がっていけるように、今までも振り返るの」

「そうだね」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・そうして、色々な事を添い寝しながら話した。

僕が見たドキドキやワクワク。フェイトが見たドキドキやワクワク。

小さな事から大きな事、沢山話した。話して・・・・・・静かに眠りについた。





すごく温かくて、柔らかい眠りの中で一杯幸せを感じて、朝方二人揃って目を覚ました。

ほぼ同時に目を覚まして、目を開くと目の前に互いの顔があって・・・・・・自然と、唇を重ねた。

もちろん、おはようのキス。僕からおはようってして、フェイトからもおはようってする。だから、気づいた。





自分達の間に、何かがある事に。キスを終えてから、自然と身体の下の方に視線が移る。





そこにあったのは、翠色で真ん中に銀色の十字架が描かれたたまご。










「・・・・・・ヤスフミ」

「・・・・・・フェイト、おめでとう」

「さすがに私ではないと思うんだっ! というか、これ・・・・・・えぇっ!?」

「「また、たまご産まれたっ!?」」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



はい、産まれましたよ。うーん、ようやくです。・・・・・・お兄様、私を見てどう思うんでしょう。

ここもちょっとドキドキですね。表か裏か、そんな博打を打っているような感じさえ覚えます。

お兄様、早く私に気づいてください。私は、私達はここに居ます。私達は、言うなれば鍵です。





お兄様の中に、何時だって鍵はあるんです。未来を、今を覆す鍵が。

・・・・・・様は、まだ目覚めていないようですね。なら、余計に私がしっかりしないと。

だからお兄様、鍵を開けてください。お兄様はもう、それが可能なんです。





何時だって、未来という名の可能性はお兄様の味方なのですから。少なくとも私は。





だって・・・・・・私と言う最強は、既にこの時間の中に刻まれているんですから。




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご


第48話 『僕が僕であるために必要なもの』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・アンタ、またたまご産むってどうなの? スターライトのたまごもかえってないのに」

「そうだね。うん、分かってる。あははは、また捜し物が増えたなぁ」



朝、いつも通りに学校に向かう。僕とりまとティアナとリインの四人で。

カバンを肩に担ぎながら、たまごの事を色々考える。考えて・・・・・・思う。やっぱ昨日の話が原因かなと。



「なんか、フェイトさんとで色々話したのよね。旅をして色んなものを見てみたいーとかなんとか」

「多分それが原因ですね」

「どんな形であれ、恭文が『変わりたい』って強く思ったからね」



そう、だろうなぁ。前に空海が話してたダイチが産まれた時と似てるかも。

こう、新しい可能性を模索するというか、それに向かって手を伸ばすというか、そんな感じ。



「でも恭文。その子もだけど、スターライトのたまごの子も、早く目覚めるといいねー」

「そうだね。・・・・・・でも、なんかこっちの子とはすぐに会えそうな気がするのよ」

「どうしてー?」

「どうしても」





聖夜小は、街の丘の上にある学校。僕達も当然のように坂を上がりながら学校に向かう。

向かいながら、僕は右手で今朝産まれたばかりのあの子を持つ。左手には、スターライトの子。

うーん、昨日の話のあれこれで産まれたなら・・・・・・この子は『守りたいものを守る魔法使い』ではないよね。



もしかしたら、それとは真逆なのかも。知らないものを見て、未知なるものに手を伸ばす。



そんな心からこの子が産まれたなら、もしかして・・・・・・そう、なのかな。





「あ、そう言えば昨日やって来たって言う王子、いつまでこっち居るの?」

「エンブリオ見つかるまでは居るつもりらしいよ? それっぽい事言ってた」

「・・・・・・それって、マズくない? 来月即位式なのに」



ティアナの発言に、僕達は歩きながら首を傾げる。傾げて、ティアナを見る。



「ティアナさん、即位式ってなに?」

「あ、知らなかったのね」



ティアナは、僕の方も見てりまと同じくだと納得したのか、話し始めた。

歩きながら、僕達の方を真っ直ぐに、いつも通りの目で見つつ。



「私もちょっと興味があって調べたんだけど、シュライヤ王子は来月12歳の誕生日なの。
それで国を上げてお祝いをする。そこで初めて、シュライヤ王子は正式な皇太子として認められるって」

「へぇ、そうなの。あ、それが即位式になるんだね。
・・・・・・いやいや、それはマズいよね」

「でしょ?」



一種の通過儀礼というか、王族のしきたりというか、そういうのがお祝いであり即位式。

でも、シュライヤがこのままこっちにずっと居ると・・・・・・あれ、もしかしなくてもすっぽかしだよね。



「ねね、もしそれに出なかったら、どうなるのー?」

「クスクス、考えるまでもないわよ。国から正式な皇太子としても認められないし、王様にもなれないかも」

「そんなー」

「どうもシュライヤ王子の国は世襲制みたいだから、選挙って感じでもないし・・・・・・まぁ、アンタが関わる話じゃないか」

「そうだね。だって、昨日知り合ったばかりなんだもの」










うーん、どうしよう。普通に首突っ込むのも、正直無粋な感じがするんだよね。

だって、当人でこれまでずっと王族として暮らしてきたシュライヤが、この事を知らないはずがない。

つまり、知っていて即位式まであと1ヶ月という状況で、エンブリオを探しに来た事になる。





・・・・・・なんか、事情あるのかな。まぁ、一応様子には気をつけておこうかな。





まぁ、心配ないでしょ。もしかしたら即位式には出るつもりかも知れないしさ。うんうん。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・あれ、やや」



シュライヤが来た翌朝。あたしが学校に向かっていると、ややが街中の街頭テレビをジーッと見てた。

声をかけながら近づきつつ、ややが見ているテレビにあたしも視線を向ける。



「あ、あむちー。見てみてあれ」



うん、言われなくても視線向けてるから。・・・・・・あれ? この人なんか見覚えがあるような。



「あのねあのね、シュライヤのお父さんなんだって」

『・・・・・・セミオラ国王は、先程現地入りし合衆国大統領と会談を』



そこに映るのは、赤いガウンを羽織った壮年の男性。だけど・・・・・・あれ?

・・・・・・あれれ、やっぱ見覚えがある。うーん、なんだろ。



「シュライヤのお父さん、凄いねー。世界中で大活躍で、大忙しなんだって」

「ホントだね」



話によるとすごいいい王様らしい。だけど、シュライヤはなんか嫌ってる様子だった。

お父さんの話をすると、急に態度が刺々しくなるというかなんというか・・・・・・よく分からない。



「あむちゃん」

「ミキ、どうしたの?」

「ボク、分かった。ほら、セミオラ国王ってラミラに似てるんだよ」





あたしは、もう一度テレビを見る。というか、テレビの中の合衆国大統領と握手してるシュライヤのお父さんを。

赤い、肩まで伸びた真っ直ぐな髪。国では一般的なのか、頭に付けている飾りと青い宝石。

もちろん背は違うけどラミラも赤・・・・・・じゃなくて、白いガウンを羽織ってる。



その下には、ゆったりとした赤い服だった。あ、ホントにそっくりだ。





「もしかしたら、シュライヤさんの『なりたい自分』はお父さんなのかも知れないですねぇ」

「口ではどう言ってても、ホントはお父さんの事好きなのかも知れないねー。だから、ラミラはお父さんそっくりなんだよ」

「・・・・・・うん、そうかも知れないね」










そうだよね、家族なんだから好きな方が・・・・・・いいよね。

ふと、恭文の実の両親の話を思い出した。恭文は実の両親と、完全に関係が冷め切ってた。

なんかさ、マジでなんとかなるといいな。あんな風になるなんて悲しいじゃん。





何とかなるなら、そっちの方がいい。嫌いから好きになれるなら、そっちの方がいい。

やり直せる時間も、変われる時間も無い人だって居る。それがあるなら、ちゃんと使った方がいい。

あたしは空を見上げる。空はとっても青くて・・・・・・少しそれが、悲しく見えた。





・・・・・・月夜、あたしはまだ見えないよ。あたしなりの現実との関わり方・・・・・・まだ、見えない。





なんかダメだよね。もうあんな悲しいのも、寂しいのも、絶対嫌なのに。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・そっか。じゃあ、現場の私達がもうちょっと頑張らないとダメなんだね」

『そうなるな。すまない、僕達はあまり力になれそうもない』

「ううん、大丈夫。ヤスフミにリインも居てくれるから、何とかなってる」





みんなが学校に向かった後、私とリースとシャーリーとディードは、家事全般をこなす。

これでも八人とか暮らしてるんだもの。意外とそういうの、重労働なんだよ?

私は家の掃除を、スゥちゃんとキャラチェンジしたヤスフミに負けないように頑張っていた。



頑張ってたんだけど、そこに通信がかかった。



私とヤスフミの部屋(・・・・・・そうなったの)に一旦戻って、その通信を繋ぐ。相手はクロノ。





『だが、ガーディアンの面々の事もある。正直、心苦しいのは消えないよ』

「それは私も同じだよ」



部屋に置いてある私用の机に座って、私は通信画面を見ながら苦い顔になる。



「クロノはブラックダイヤモンド事件の事も、気にしてるよね? 私も同じなんだ。
・・・・・・私、キャラなりも出来ないし、浄化用の魔法も使えないから」



せめて、私も恭文みたいにランちゃんとかと、キャラなり出来ればまだいいのに。

そうすれば、まだ安心出来たし心苦しいのもなかったかも知れないから。



『すまない、僕より現場の人間である君やランスター執務官補佐の方が、より辛いだろうに』

「ううん、大丈夫」





もちろん、たまごが生まれる前の段階でヤスフミがキャラなり出来た事自体が奇跡だと言うのは、分かってる。

あむの持ってるあのロックの力と、ヤスフミが元々キャラ持ちだったという要因があったおかげだというのも、分かってる。

あと、浄化出来る魔法が使えたのも同じ。私やティアが戦ったら、たまごを壊すだけなのも分かってる。



だけど、それでも・・・・・・やっぱり辛い。一緒に戦えないのも、あの子達任せになるのも、全部。



これが、私が慣れてしまいそうなのが嫌で、心の奥に刻みつけている一つの事実。





『とにかく、エンブリオの方はともかくこっちでも浄化用プログラムはなんとか探してみる。
・・・・・・それでフェイト、実はそれに関して一つ出てきてる案があるんだ』

「恭太郎達未来のメンバーが、×たまの浄化プログラムを持ってるかどうか・・・・・・だよね」

『気づいていたか』

「当然だよ」





そうじゃなかったら、ヤスフミとパスの力でユニゾン出来る咲耶はともかく、恭太郎まで来るはずがないもの。

実はかなり早い段階で、恭太郎にはヤスフミと同じ浄化能力があるか、そういうプログラムがあるんじゃないかって思ってた。

でも恭太郎は、ヤスフミみたいな浄化能力持ちではなかった。だったら、プログラムの方かなとは・・・・・・かなり。



でも、今まで聞かなかった。というか・・・・・・聞いても無駄かなって思ってた。





『お前が今まで聞かなかった理由は、デンライナーのオーナーか?』

「うん。クロノは会った事ないから分からないだろうけど、オーナーは本当に厳しいんだ。
正常な時の運行のためなら、誰であろうとどんな事情があろうと、ルールは厳守させる」



その代わり、運行の妨げにならないような事なら、少しくらいなら融通は利かせてくれたりする。

この間、唯之介君を旅一座の人達に会わせようとしたのも、そういう理由からなの。



「もし本当にそんなプログラムがあるとしたら、絶対に私達に教えるわけがないよ」

『分かっている。そこは僕とユーノ、あとヴィヴィオも同じ考えだ。
だがそうなると、僕達は現状維持。結局、恭文とガーディアン任せだ』

「辛いよね。せめてヤスフミの浄化能力が、魔法術式のせいなら対処も出来たんだろうけど」



そうすれば、私達で解析して、同じものを作る事が出来た・・・・・はず。

だけど恭文の浄化能力は、スターライトやあのもう一個のたまごのおかげだろうし、それは無理。



「なんかダメだな。オーバーSのランクや執務官の資格があっても、私は・・・・・・何も出来ない」

『・・・・・・必要なのは、一つの形になるほど強く、揺ぎ無い未来への可能性を信じる想い』



そう、それだけあればいい。変わりたいと、『なりたい自分』になりたいと、強く描くこと。それはなんでもいい。

クール&スパイシーなキャラを外したいとか、小さな世界を守れる王様になりたいとか、『魔法』を使えるようになりたいとか。



『現実どうこうではなく、自らが描く未来の自分の姿。たったそれだけあればいいというのも、また辛い』



クロノがとても苦い顔で、少し俯く。その視線の先に何があるのかとかは、私にはちょっと分からなかった。



『それは本当に基本的で、すごく大事な事なはずなんだ。僕にも君にも、誰の心の中にも眠っているはずの力』



もしかしたら現実に迎合するというのは、そういうのを自分の手で描く力を、捨てる事に似てるのかも知れない。

現実という世界の中に既にちゃんと形があるなら、描く必要がないから。・・・・・・私も、そうだったのかな。



『なのに・・・・・・僕達はそれを、どこに置いてきてしまったんだろうな。これが大人だと割り切るのは、余りに寂し過ぎる』

「・・・・・・そうだね」










ここに来てから、何度も話して・・・・・・何度も考えた事。それは、ヤスフミやガーディアンのみんなと戦いたいという事。

なんだか本当に今さらだけど、最初の頃のヤスフミが戦いたいと、魔導師を続けたいと思った気持ち、分かった気がする。

私、あの時はどうしても分からなかった。どうして私やみんなに、戦う理由とか守りたいものを預けてくれないのかなって。





ヤスフミは本当に運がなくて、魔力資質にも恵まれてなくて・・・・・・見ていて、危なっかしかったから。

だけど、預けられるわけがないよね。・・・・・・今の私がその状態なんだから。昔のヤスフミと同じなの。

私は色々事情込みではあるけど、最初から強い力が有ったからあんな事が言えた。





こういうのは理屈じゃないんだ。何も出来ないのが、何もしないのがすごく悔しく感じる。

戦い・・・・・・たいな。優しくて強いあの子達と一緒に。

私の一番大事で、大好きな男の子の隣で一緒に、戦いたい。だけど、今はそれは無理。





だったら・・・・・・私が出来る事、やれる事はなんだろ。きっとそれほどない。





それほど無いなら、まずは出来る事を一生懸命やる事からかな。うん、そうしようっと。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・シュライヤ様の様子がおかしい。朝食の時も、ずっと心ここにあらずだった。

というか、どこかカリカリしているというか、情緒不安定というか・・・・・・どうしてだろう。

エンブリオが見つからないから? ガーディアンの皆様の協力が取り付けられなかったから?





ううん、シュライヤ様はそんな事でこうなる人ではない。5歳の頃からお側に居るから、それは分かる。

というか、昨日聖夜小に来たばかりなのよ? ありえないわよ。いくらなんでも、早過ぎる。

そこの辺りをアレコレ考えつつ、私はシュライヤ様の寝室のベッドメイキング。





シーツを取り替えて、皺の無いように綺麗に整えて・・・・・・これでよしっと。

私は、元のシーツを抱えて部屋を出る。さぁて、お洗濯お洗濯ー。・・・・・・訂正、出ようとした。

最終確認のために、部屋を見渡した時に気づいた。部屋の隅、窓の近くにたまごがあるのを。





そのたまごは、白を貴重として真ん中に赤いライン。その中央に青い宝石の柄が一つ。

だけど、その宝石の上からガムテープなような物でバッテンが貼られている。

たまごは、ずっと震えていた。私が気づいて、古いシーツを一旦床に置いてからもずっと。





私はすぐにそのたまごに駆け寄って、しゃがんでたまごを両手で優しく手に取る。





手に取って、ばってん印のテープをたまごから丁寧に剥がす。










「・・・・・・パール?」



たまごの中から、声が聞こえる。たまごは一瞬で粒子化して消えて、その中からは小さな子。



「すまない、助かった」



いつもシュライヤ様の側に居る、妖精のような存在。・・・・・・あ、しゅごキャラだったわね。



「ラミラっ! あの、これはどうしたのっ!?」

「・・・・・・そうだ。パール、シュライヤはどうした」

「シュライヤ様なら、学校に向かわれたけど」

「なんだとっ!! ・・・・・・マズい。パール、すぐにシュライヤを追いかけよう。
シュライヤの奴、偽のエンブリオを掴まされて、おかしくなってるんだ」

「えぇっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・僕は、父上がずっと疎ましかった。というか、嫌いだった。

口を開けば、いっつも同じことばかり言って、僕の方を見ないのが、その理由。

一回も笑いかけてくれたり、遊んでくれた事もなかった。そうだ、父上はずっと同じことを言ってる。





民のため民のため民のため民のため民のため民のため民のため・・・・・・!!

そして非常に煩わしい事がある。それは、僕にそれを押し付ける事だ。

・・・・・・父上も、周りの者達も、国民も、みんな僕が父上のような完璧な王様になることを望んでいる。





小さい頃からずっと・・・・・・そして、今もそうだ。父上のように・・・・・・父上のように・・・・・・。

だから、エンブリオを探しに来た。父上が成せなかった事を成せば、僕は父上を超えられる。

超えれば、そんな声を気にする必要はなくなると思った。僕は僕になれると思った。





そして、その願いは叶った。そうだ、僕はようやく『僕』になれた。もう、いいんだ。

父上のような・・・・・・父上のコピーになることを望まれる事は、もうない。

この石の力があれば、僕は僕になれる。ようやく、僕は父上から開放されたんだ。





もう、何もいらない。この石が・・・・・・この石の力があれば、もう何もいらない。










「・・・・・・あのぉ、シュライヤ様」



学校内を歩いていた僕に声をかけて来たのは、栗色の髪の両側をカールにした女。

確か、日奈森あむと恭文と同じクラスの山吹・・・・・・なんとかだったな。あと、お付きの四人。



「なんだ?」

「実は、シュライヤ様にプレゼントがありまして」



・・・・・・薄っぺらい。コイツはアレだな、たまに僕に近寄ってくる財産や王妃の立場目当ての女どもと同じだ。

あとの取り巻きは、そのおこぼれに肖ろうという魂胆か。なら、ちょうどいい。




「ほう、そうか。それはありがたいな」










ちょうど、エンブリオの力を試したいと思っていたところだ。





お前達には・・・・・・実験台になってもらう。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・九十九、実験の方はどうなってる?』



聖夜小近くに停めてある黒いワゴンの中。そこに僕は居る。それで・・・・・・よしよし。

いやぁ、二階堂の研究データから思いつきで作ったけど、これはかなりいいな。



「はい、いい感じです。シュライヤ王子は、完全にこちらのコントロール下に入っています」





あの偽エンブリオには、一つ仕掛けをしてある。というか、そのための実験に王子を利用した。

それは、×たまのマイナスエネルギーを活用してのマインドコントロール。

ぶっちゃけ、ここでガーディアンの連中を潰せなくてもいいんだよ。まぁ、潰せるに越した事はないけど。



大事なのは、作戦のために必要なデータが揃えられるかどうか。ただそれだけ。





『そうか。・・・・・・例の物も、同じ要領で出来そうか?』

「大丈夫です。ベースの技術は同じものを使いますし、これで実運用のデータが取れれば、完成度は更に上がります。
その代わり専務・・・・・・BY計画の方、予算はたっぷりお願いしますね? 効果の程は計画書の通りですし」

『分かっている。だが、本当に大丈夫なのか? あの忌々しい小僧を完全に止められると言うが』

「はい、大丈夫です。聖夜小で事件が起これば、絶対に蒼凪恭文は出てきます。
今までだってかなりの量のデータは取っていますし、今回でダメ押しです。絶対に上手くいきますから」










あーあー、ゆかり先輩も冷たいよなぁ。僕に黙ってイースター辞めて、ほしな歌唄と事務所始めちゃうし。

まぁいいか。僕は僕でしっかりやってくだけだもの。それで、エンブリオを手にして出世街道爆進だよ。

今回の作戦は言うなれば布石。専務が計画しているDL作戦と、僕が発案したBY計画のデータ集め。





発動までにまだ時間はかかる感じだけど・・・・・・くくくく、ガーディアンが慌てふためく姿が、目に浮かぶよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・おー、ジンジャーよしよし」

「ジンジャー、お手するですよー」

「ガウ♪」



おー、やっぱいい子だなぁ。ジンジャーいい子だよジンジャーだよ。



「良く出来ましたー。いい子いい子ですよー」

「ガウガウ♪」



あー、でもシュライヤに感謝だよ。虎とこんな仲良くなれるとは思わなかった。

うー、ジンジャー可愛いなぁ。虎だってことを、ちょっと忘れそうになるし。



「でもジンジャー、シュライヤさんはどうしたですか?」

「ガウ・・・・・・ガウガウ」

≪朝から考え込むような様子で、自分のことは放置でどこかへ行ったそうです≫



・・・・・・あぁ、そう言えば僕の胸元のバカウサギは動物と話せるんだっけ。フリードとも会話出来るしなぁ。



≪あぁ、つまり放置プレイでジンジャーちゃんを辱めてるの。
さすがは王子様、ジンジャーちゃんまで調教対象なの≫

「んなわけあるかボケっ! てゆうか、爽やかな朝の空気が台無しだから、そういうこと言うのやめてっ!?」



ここは学校の中庭。学校に到着してティアナと別れた後、ジンジャーが寂しそうに寝転がってた。

さすがに虎放置はマズいので、僕とリインが相手しているのである。



「りまさーん、こっち来るですよー? ジンジャー、すっごく大人しくて可愛いですよー」

「でも、虎でしょっ!? 虎なのよっ!!」

「りまー、こっちこっちー。ジンジャー、とっても可愛いよ?」

「クスクスも頭の上とか乗っちゃだめー! とって喰われちゃうからっ!!」





とりあえず、ジンジャーはどうしよう。パールさん達お付きの人も居ないしなぁ。

さっきも言ったけど、ジンジャーがいくら大人しくて頭のいい子でも、放置はダメなのよ。

学校内は、僕達だけじゃない。小さな1年生とかも居るもの。



今まではジンジャーがパールさんやシュライヤの側だったから、まだ大丈夫だった。



だけど、単独でジンジャーが子どもにじゃれついたりしたら・・・・・・大事になる。





「ガウガウガウっ!!」

≪そんなこと絶対しないって言ってますけど≫

「ジンジャーにまで思考が読まれてるっ!?」



ジンジャーの頭の良さに驚いていると、足音が聞こえた。それは、後ろの方から。

急いでいるような、慌てているような足音。そっちを見ると・・・・・・息を切らせたパールさんが居た。



「あぁ、蒼凪様にリイン様っ! あの、シュライヤ様はどちらにっ!?」

「リイン達も見てないのですよ。というかパールさん、どうしたですか?」

「あの、実は・・・・・・ラミラが」



そこで僕達は気づいた。パールさんの両手の上に、ハンカチの布団にくるまれた小さな女の子が居る。

その子は苦悶の表情を浮かべながら、うなされているようにうめき声を上げていた。



「ラミラっ!? あの、どうしたんですかこれっ!!」

「それが・・・・・・シュライヤ様が何者かに、偽のエンブリオを渡されたらしくて」

「「はいっ!?」」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



平和な・・・・・・実に平和な学園生活は、突然に中断されることになった。





その原因は、両手にシュライヤのしゅごキャラであるラミラを抱えて走ってきたパールさん。





現在、ラミラはロイヤルガーデンのテーブルの上で、ハンカチ二つを活用して作った布団にくるまって寝込んでいる。










「でも、パールさんってしゅごキャラが見えてたんですね」

「はい。・・・・・・ラミラの事は、ずっとシュライヤ様をお守りする妖精のように思ってたんですけど」

「シュライヤ王子を?」

「ラミラ、セミオラ国王に瓜二つですから」



パールさんが、言いながら苦しそうに唸っているラミラを見る。・・・・・・やっぱり、そうだったんだ。

しゅごキャラは、なりたい自分が形になったもの。もしかしてシュライヤ・・・・・・そう、なのかな。



「あの、それでラミラが言うには」



パールさんがあたし達に教えてくれたのは、ラミラがなぜこんな状態かと言うのと、昨日何があったのか。



「・・・・・・偽のエンブリオ、でしたよね」

「はい。ラミラの話では昨日の夜、妙な女が突然現れて渡されたと」



ラミラはガムテープみたいなのを貼られて、たまごから出られなくなったらしい。



「それで、朝にパールさんが発見するまで閉じ込められてたでちか。
シュライヤもそれが原因で様子がおかしくなったと。というか・・・・・・みんな、感じてるでちよね」

「あぁ。どうにもこうにも、嫌な気配が学園の中から感じられる」



ペペとキセキがラン達を見る。みんなも、頷いて肯定した。

つまり、確実に学校の中に何か入り込んでるんだ。こう、たまご関連の嫌な物が。



「あむちゃんあむちゃん」



小声で、ランがあたしの側まで来た。そのまま、あたしにしか聞こえない声で耳元で話す。



「あのね、私もミキもスゥも、あとクスクスもこの気配に覚えがあるの」

「覚え?」

「・・・・・・月夜のしゅごたまと似てるの」





ランの言葉に、思考と身体が固まった。そうして思い出したのは・・・・・・あの悲しいたまご。

×たまのエネルギーを詰めに詰め込まれて、ただの力の塊になったしゅごたま。

あのたまごと、ラン達が感じてる気配が同じ? 嘘、ありえない。



だってちゃんとあたし達が浄化して、空に還ったはずなのに。





「あむちゃん、落ち着いて? コレが月夜のたまごなワケがないよ。
似た気配ということは、もしかしたら同じものなのかも」

「同じ? ・・・・・・あ、そっか」

「うん」



つまり、同じように×たまのマイナスエネルギーが詰め込まれている物ってこと?

それがここで話に出てきた偽のエンブリオ。そう、だよね。月夜のたまごが、ここにあるわけないじゃん。



「・・・・・・それ、やっぱりランちゃん達が、前に二階堂先生にやられたのと同じだよね」



あたしが考えを纏めている間に、他のみんなも考えを纏めてた。

ややがランやミキとスゥを見ながら、思い出すような顔になる。というか、あたしも思い出してる。



「というかというか、偽のエンブリオも二階堂先生が作ろうとしてたのだよ?」



そうだ。ラン達と×たまのエネルギーを使って、エンブリオを作ろうとしてた。

え、ちょっと待ってっ!? それじゃあもしかして、これ・・・・・・!!



「つまり・・・・・・偽のエンブリオを渡したのは、イースターということになるね」

「キング、恐らくそれで正解かと。ここまでキーワードが符号してしまえば、もはや疑う余地はありません」

「とにかく、蒼凪君とリインさんには僕から連絡を入れる。みんな、事態は一刻を争う」



恭文とリインちゃんは、パールさんが持ってきてくれた例のテープを持って、二階堂の所に行ってる。

一応確認が必要だからって事で、ちょっと別行動なんだよね。・・・・・・イースター、なにやってんのかな。



「その偽のエンブリオのせいで、彼の様子がおかしくなってるのは確か。
みんな、手分けして捜索。見つけ次第、何が何でも対処するよ」

『了解っ!!』

「わ・・・・・・私も」

「お前はここで寝てろ。今すぐ動ける状態ではないだろう?」



起き上がろうとするラミラを、キセキが手で制して止める。止めて、少しだけ優しい顔で言葉を続けた。



「安心しろ。シュライヤはこの学園の生徒だ。なら、シュライヤを助けるのは僕達聖夜小ガーディアンの勤め。必ず、何とかする」

「心遣いはありがたいが、シュライヤを探すならそのしゅごキャラである私が適任だ。やらせてくれ」

「・・・・・・・・・・・・分かった。だが、決して無茶はするなよ?」

「分かっている」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「偽エンブリオまで出てるってことは・・・・・・多分九十九だね」

「・・・・・・九十九?」




ちょうど暇していた二階堂をちょっと連れ出して、僕達は学校の屋上に来た。

で、二階堂に事情を説明して出てきた名前が・・・・・・それ。



「うん。イースターの技術開発部所属で、ゆかりのチームの人間だった男」



二階堂曰く、ブラックダイヤモンド事件の時のおねだりCDを作ったのも、コイツらしい。

自分が居なくなった後で、イースターの技術開発を一手に担当してるとか。



「多分、今回の一連の事は九十九が何かやらかしてるんじゃないのかな」



言いながら、二階堂はすっごく苦い顔してる。てゆうか、怒ってる?

うわ、背中からなんか炎を燃やしまくってるし。二階堂、どうした? キャラチェンジでもしたの?



「それで、すっごくプライドのない奴。もうオリジナリティが無いというか何というかねぇ。
このテープとか偽エンブリオとか、×ロットとか作ってるところから見ても分かるでしょ?」

「・・・・・・なるほど。二階堂先生の作った物を丸パクリなのですね」



なるほど、それであなたはそんなに燃えていらっしゃるわけですか。うん、納得したわ。

あれだね、やっぱシャーリーとかと気が合うと思うんだ。むしろ、合わない理由が分からないよ。



「でも、偽エンブリオって作れるのですか?」

「僕の研究データがイースターにそのまま残ってるなら、出来るはずだよ?
ただ、実際どういう物が出来上がるかは、僕にも読めない。この理由は当然分かるよね?」



二階堂が少し苦笑いしながら僕を見る。なので、お手上げポーズだけしてそれに答えた。

ようするに、僕が途中で乱入してそれを邪魔したから分からないって言いたいのよ。



「本当にエンブリオと等しい物が出来るのか。
はたまた、×たまのエネルギーだけが集まったものなのか」





×たまのエネルギーの集合体。・・・・・・そう聞いて、僕とリインは顔を見合わせる。

そこで思い出されたのは、月夜のしゅごたま。あれも同じような感じだった。・・・・・・そっか。

しゅごたまの核に大量の×たま。あれは、二階堂が作ろうとしてたエンブリオと同じだったんだ。



そして、今度は九十九って奴・・・・・・歴史って、繰り返すって言うけど、本当なんだね。





「そこは、実際見てみないとどうにもって感じだね。ただ、そこから元に戻すのは無理だと思う。おねだりCDと同じくね」

「・・・・・・だろうね」



現に月夜のたまごは浄化して×を取ったけど、中の子までは助けられなかった。

きっと今回も同じ。二階堂が真剣な顔で言うまでもなく、知ってたよ。



「まぁ、そこは覚悟しておくわ。全く、魔法少女物なのに何気に設定重くない?」

≪新世代の魔法少女は、シリアスも出来ないとダメなんでしょ。今さらですよ≫



そういう物ですか。うん、そういうものなんだろうね。納得したわ。

とにかく、僕は背伸びを一回。そうして、空を見上げる。・・・・・・うし。



「二階堂、ありがと。おかげで色々と納得したわ。・・・・・・あー、報酬ないんだけど」

「今回は特別サービスにしておくよ。あぁ、それと蒼凪君」

「なに?」

「多分、これで終わらないよ?」



みんなと合流しようと動き出した瞬間に、二階堂がそんな事を言って来た。

いつものにこやかな顔とは違う真剣な顔を続けながら、僕とリインを見る。



「二階堂先生、それどういうことですか?」

「イースターは企業。ただ当てずっぽうでこんな事をするわけがない。だってもう、今までとは違う。
イースターはエンブリオの出現条件に目処が付いた以上、そこを確実に狙うに決まってるもの」

「・・・・・・つまり?」



もう答えは分かりきってるけど、それでもあえて僕は二階堂に聞いた。

二階堂もそれが分かってるから、ハッキリと僕を見ながら言う。



「つまり、これは何かの布石というか準備のためにやった。そのためにシュライヤ王子は利用された」

「なるほど、納得したよ。つーわけで、ぶっ潰してくるわ」

「同じくなのです」

「うん、行ってらっしゃーい。君達の出席の方は、こっちで処理しておくからねー」





いつもの調子の二階堂に見送られつつ、拳を握り締める。

・・・・・・せっかくはるばる日本まで来てくれたって言うのに、色々巻き込んじゃったな。

まぁいいか。シュライヤは必ず助ける。イースターが何考えてようが、無視だ。



それでドラゴンを家来にして、冒険に出発してもらいましょ。楽しそうだしさ。





「恭文さん」

「うん、何?」

「局の仕事も、ガーディアンの仕事も、変わらないですね」



屋上から階段で下を目指す。下駄箱から、外に出るために、ただ下へ。

階段で降りながら、リインがそんな事を言って来た。



「手遅れで、負け戦で、やっぱり取りこぼして・・・・・・今回も、きっと同じです。
全部助けるのは、全部守るのは、やっぱりすごく難しくて・・・・・・大変なのです」

「確かにね。だけど、それでも戦うよ。例えそうだとしても、僕は絶対止まりたくない」



両拳を強く握り締める。階段を、安全確実に降りながら僕は決意を固める。



「納得出来ない今なら、叩き壊す。壊して、止める。
そうして守れるものがある以上は、絶対に止まらない」



足を少しだけ止めて、右隣に居るリインの顔を見て、笑う。

3階から2階の中程。備え付けられた窓からの光を浴びつつ、僕は言い切る。



「それが、僕達のやらなきゃいけない事でしょ? ガーディアンも、局の仕事も関係ない、僕達の戦いだ」

「・・・・・・はいです。うぅ、やっぱり恭文さんはいいです。リイン、恭文さんへの愛で胸がいっぱいになるのですよ」

「いきなり何の話っ!?」

”そうですね、さすがはお兄様です。私の胸も愛で一杯です。・・・・・・ぽ”

「だから何の話っ! てーか、いきなり話に加わってくるなっ!!」



・・・・・・・・・・・・あれ? ちょっと待とうか。いや、真面目に待とうか僕。



「恭文さん、どうしたですか?」

「いや、あの・・・・・・リイン、今念話送ってきた?」

「送ってないですけど」

「だよね」










だって、声違ってるし。というか、アルトやジガンとも違うし。





え、じゃあ今の声はなにっ!? なんか、念話っぽい声がいきなり届いたんですけどっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ラミラさん、大丈夫ですかぁ?」

「大丈夫だ。・・・・・・やっぱり、シュライヤは私のしゅごキャラだしな。少しくらいは頑張りたい」

「お前やっぱり疲れてるだろっ! しゅごキャラはお前の方だろうがっ!!
・・・・・・無理はするなよ。ここでお前が倒れては、元も子も無い」





とりあえず、唯世達とは離れて捜索。だが・・・・・・くそ、何のためにシュライヤを?

一応、この辺りは予測していた。このまま終わりなど、僕も唯世も、恭文もフェイトさん達も思ってなかった。

だが、ここでシュライヤを狙う理由が分からない。シュライヤは確かにキャラ持ちだが、ただそれだけ。



しかも今までのようにたまごを奪ってどうこうではなく、偽のエンブリオなる物を与えている。





「・・・・・・みんな、向こうから×たまと禍々しい気配がするよっ!!」

「ホントだっ! よし、急ぐぞ皆の者っ!!」





一体何のためにだ? ・・・・・・よし、こういう時はアレだ。相手の立場に立つ事が必要だ。

フェイトさんが、前に教えてくれた捜査方法の一つ。相手の立場に立ち、行動理由や思考を読み取る方法。

まず、偽エンブリオは強い力を発揮する。それをイースターの人間ではなく、シュライヤに与えた。



その場合、考えられる理由はいったいなんだ? 僕がイースターならば、どうしてシュライヤに力を与える。

少なくとも慈善事業のためなどではない。そんな事をしても、意味がない。

いや、そもそもそんな奴が偽エンブリオなど作るわけがない。僕なら絶対にするわけがない。



イースターの目的はなんだ? エンブリオを手にする事。なら、これもそれに繋がっているはず。





「・・・・・・シュライヤっ!!」



シュライヤに力を与えて、エンブリオを見つけさせるつもりか? ・・・・・・それなら、分かる。

だが、そこまで出来るかという疑問が残る。シュライヤがほしな歌唄のような力があるなら、別だが。



「アレ、×たまですぅっ!!」



×たまが大量にあるところ。そこにエンブリオが現れるという。いや、現に現れた。

なら、シュライヤを暴走させて学校内の子ども達から無差別にたまごを抜き取るつもりなのか?



「というか、山吹さん達が居るよ? え、もしかして」

「あの子達のたまごっ!?」





山吹? もしかしなくても、山吹紗綾の事か。

僕は思考を一時中断して、目の前に視線を向ける。

そこには妖しい紫の光を放つ宝石を付けた、シュライヤが居た。



宝石は胸元で輝き、シュライヤは妖しく笑う。その傍らには、5体の×キャラ。





『ゴォォォォォォジャァァァァァァァァスッ!!』



髪がカールを巻いている、正しく山吹紗綾のキャラと言うべき×キャラ。



『ムリィィィィィィィィッ!!』





そして、胸元に1〜4までの番号が書いてある×キャラ。

これは、山吹紗綾の近くで倒れている取り巻き連中だな。

くそ、本気で見境なく学校の生徒を襲って、たまごを抜き出すつもりか。



・・・・・・てゆうか、ちょっと待て。今、僕達はしゅごキャラだけだよな。





「シュライヤ、答えろっ! お前は一体何をしているっ!!」



ラミラの声に、40メートルほど先にいるシュライヤは答えない。

ただただ、妖しく笑うばかり。笑って、右手を前にかざした。



「うるさい。・・・・・・ブラックストーム」



右手から放たれたのは、黒い衝撃波。それは僕達・・・・・・いや、ラミラに向かってまっしぐらに飛ぶ。

ラミラはそれを見て、上に飛んだ。飛んで、攻撃の射線上から離れる。だけど、衝撃波が上に90度曲がった。



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



曲がって、その全てがラミラを下から撃ち抜く。撃ち抜かれたラミラは声を上げて、瞳を閉じた。

その瞬間、ラミラはたまごに包まれて地面に落ちた。なお、割れずにそのまま転がる。しゅごたま、何気に丈夫なんだ。



「ラミラっ!!」

「お前、自分のしゅごキャラに何をしているっ! 答えろ、シュライヤっ!!」

「・・・・・・やれ」



僕の声に答えずに、シュライヤが右手で僕達を指差す。それを見て、×キャラが動いた。



『ゴウジャァァァァァァァァスッ!!』

『ムリィィィィィィィィッ!!』



×キャラ五人が両手を上げると、あるものが出てきた。それは、黒い魔法のランプ。

・・・・・・形状、そのままなんだ。それが、『ギュィィィィィィィ』と掃除機のように僕達を吸い込み始める。



「な、なにコレぇぇぇぇぇぇっ!!」

「ボク達、ゴミじゃないのにー!!」



もう、そうとしか表現出来ない。本来はこう、カレーとかお茶とか出てくるような所に、僕達は引き寄せられていく。

必死に飛んで抵抗・・・・・・ま、まずい。さっきも少し思ったが、今は僕達しゅごキャラだけしか居ない。



「もう、だめですぅー!!」

「くそ・・・・・・不覚」



このまま僕達が捕まれば、唯世や庶民達はキャラなり出来無くなるぞっ!!



「楽しいけど、コレはいやー!!」

「ややちゃん、ごめんでちー!!」



いや、それ以前に人質として利用されれば、恭文はともかく唯世達が手出し出来無く・・・・・・!!



「く、くそぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・キセキ?」

「キング、俺も聴こえました。今、ムサシの声が」

「ややもペペちゃんの声聴こえたー!!」

「クスクス・・・・・・あむっ!!」

「うん、急ぐよっ!!」





急いで、声の聞こえた方へと走る。走って5分ほどで到着した。

中庭・・・・・・木々が生い茂る中でも開けている場所に、シュライヤが居た。

でも、シュライヤだけじゃない。五体の×キャラに倒れている女の子達。



上空には黒い、魔法のランプみたいなのがある。あ、アレなに?





「シュライヤっ!!」

「・・・・・・僕は、エンブリオを手にした」



そう言いながら大事に両手で抱えるのは、胸元からぶら下げた闇色の宝石。

それを見て、寒気が走った。そうだ、あたしでも分かる。・・・・・・あのたまごと、同じ感じがするんだ。



「違いますっ! それはエンブリオなどではないっ!!
・・・・・ただ×たまのマイナスエネルギーが固まっただけの物ですっ!!」

「そうだ、これで僕は父上を超えられる。僕は父上を超えるんだ」

「シュライヤっ!!」



いいんちょや唯世くんの言葉は、シュライヤには届かない。というか、なんでよ。

なんであんな物に騙されるの・・・・・・! あんな悲しい力、絶対にエンブリオなんかじゃないのにっ!!



「あむ、アレ」



りまが左手で指差すところを見ると、ラミラのたまごがあった。でも・・・・・・嘘。

×が付いて、黒ずんでいる。もしかして、偽のエンブリオの影響で?



「シュライヤ、しっかりしてっ!!」

「・・・・・・うるさいなぁ」



シュライヤが右手を掲げる。すると、ラミラの×たまが浮き上がり、シュライヤの右手の上に飛んでいく。

飛んで来たたまごを、シュライヤは胸元に当てると、たまごは吸い込まれた。そして、シュライヤが光に包まれる。



「・・・・・・キャラなり」



黒い、闇色の光。その光に、さっき感じた寒気がまた襲ってくる。・・・・・・似てる。

あの時の月夜のキャラなりと、似てる。ただ悲しい力だけしかない、そんな姿だ。



「ダークレジェンド」



シュライヤは髪をオールバックにして、赤と金のラインが入ったフルプレートの鎧を装備していた。

右手には、ドリルのようにも見える細い剣。その切っ先を、あたし達に向けた。



「お前達、頭が高いぞ。・・・・・・王に跪け」

「何言ってるのっ!? 跪くわけないじゃんっ! ・・・・・・みんな、行くよっ!!」



あたしのこころ・・・・・・って、ちょっと待ってっ!!



「ラン達、どこっ!?」

『ここだよー!!』



聞こえた声は上から。上を見ると・・・・・・そこにはさっきから気になってた黒い魔法のランプ。

声は、ランプの中から聞こえた。なお、『ここだよー!!』って言ったのは、ラン。



『狭くて暗くて嫌ですぅっ!!』

『キセキ、足邪魔っ!!』

『仕方なかろうっ! こんなにぎゅうぎゅう詰めではどうしようも・・・・・・ぐへっ!!』

「ま、まさか・・・・・・みんなあの中っ!?」



あぁ、ヤバイじゃんヤバイじゃんっ! これじゃああたし達、キャラなり出来ないんじゃっ!!



「ややのこころアンロックっ! アンロックっ!! ・・・・・・なんで出来ないのー!? ペペちゃんかもーんっ!!」

『カモン出来ないでちっ! というか・・・・・・つ、潰れるでち』

「ムサシ、お前もそこに居るのかっ!!」

『すまん海里っ! 油断したっ!!』



あぁ、やっぱりダメなんだっ! 他のみんなもそうだし、あたしも全然ダメっ!!



「・・・・・・キング、どうもキャラチェンジも出来ないようです」

「僕も同じ。というか、この状況って」

「いわゆるひとつの、ピンチって言うのよね」

「そう、だよね。恭文とリインちゃんは別行動だし」



いや、それ以前の問題として・・・・・・ラン達、人質に取られてるっ!?



「安心しろ。人質などと言う卑怯な真似をするつもりはない」



シュライヤの右手の剣が赤く輝く。輝いた剣を、シュライヤは振りかぶった。



「聖夜小ガーディアン、僕とイースターの邪魔をする愚か者。全員・・・・・・ここで叩き潰す」

「ちょ、ちょっと待ってっ! ・・・・・・シュライヤっ!!」



シュライヤはあたしの静止を無視して、剣を逆袈裟に振るった。



「ソードブレイズっ!!」










放たれたのは、赤い力の奔流。それが、キャラなりも出来ないあたし達に向かう。





や、ヤバイ・・・・・・! これ、大ピンチもいいところじゃんっ!!




















(第49話へ続く)






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