小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) ケース19 『日奈森あむとの場合 その1』 「・・・・・・・・・・・・僕と歌唄が会ったのってね、今から2年近く前なんだ」 「え?」 「まぁ、唯世も話してくれたし、一応僕もね。これ、あむには前に話したことなんだ」 海里をなんとか取り戻して、あむと唯世を家まで送る途中。僕は、少しだけ昔話をすることにした。 黒い結晶に囚われて、夢を、大事な『なりたい自分』を見失っている、一人の女の子との出会いを。 「蒼凪君、歌唄ちゃんと2年近く前に会ってたのっ!?」 「うん。・・・・・・僕、その直前にフェイトに振られたんだ」 8年間スルーは終わりを告げた。だけど、同時に恋の終わりも告げられた。 仕方ないって分かってた。フェイトは、恋愛とかを諦めてるわけじゃない。 僕が、人を殺したからなんて理由で、振ったわけでもない。ちゃんと、考えてくれた。 考えて、答えを出した。僕は、大切な友達で、家族だと。異性としては、見れないと。 「それがショックでさ。でも、どうしても納得し切れなくて、だけどフェイトに詰め寄る事も出来なくて。 イギリスのフィアッセさんのところに行ったんだ。丁度コンサートにも誘われてたから」 「蒼凪君、もしかして歌唄ちゃんとはそこで? 歌唄ちゃん、フィアッセさんの歌が好きだったから」 「うん。ほんとに、偶然。その時にエルと、向こうに居るイルとも親しくなったんだ。 それで・・・・・・・歌唄ってさ、聡い子じゃない? 僕がそういうのを抱えてるの、見抜かれたの」 ただ、それだけじゃない。みんなに黙って六課を抜け出した日の朝、たまごが生まれていた。 それがシオンとヒカリ。僕の・・・・・・なりたい自分。 「その時、私もシオンもまだ生まれてはいなかったんだ。だけど、たまごだけは出てきてて」 「お兄様、とりあえずそのたまごとアルトアイゼンと一緒に、イギリスに渡ったんです」 「で、たまごのこともバレてさ」 その時は、特にたまごを壊す壊されるなんて話にはならなかった。 そこで歌唄から聞いた。たまごのことや、しゅごキャラのことを。 「それでさ、僕は・・・・・・フェイトに振られたのがショックで、そういうの良くわかんなくなってたんだ」 フェイトの事守りたくて、側に居られたらってずっと考えてて・・・・・・なんで納得出来なかったのか、そこでようやく分かった。 自分のこころの中にある大事なものがなくなって,空っぽになる感じがして・・・・・・すごく、怖かったんだ。 「そうしたら、歌唄に罵られた。好きな女の子に振られたくらいで、なりたい自分を捨てるのかって」 「それはまた・・・・・・歌唄ちゃんらしいね。でも、僕もその通りだと思う。 実際、蒼凪君の『なりたい自分』は、フェイトさんのそれとはまた別問題だし」 「うん」 別問題、だったのよ。フェイトの事と、僕のそういうのは、本当は別物。怖がる必要なんて、本当は無かった。 でも、その時の僕はそれも分かんなくなってたから、余計にこんがらがった。それで、キレた。 「それでね、そんなうじうじした自分を、本当はどうしたいか分かってるのに、勇気が出ない自分を『壊したい』って思ったら、シオンが産まれたの」 夜道を歩きながら目を向けるのは、『壊したいものを壊す魔法使い』の姿。 「それからすぐに、色々事件が起きてさ。その中で大切な時間を『守りたい』って思ったら、ヒカリが産まれた」 そして、次に目を向けるのは、あの人そっくりな『守りたいものを守る魔法使い』の姿。 「その間も、歌唄とはちょくちょく連絡取ってたんだ。一応キャラ持ちの先輩だしね。 そんな頻繁じゃないけど、季節柄の挨拶もそうだし、二人の事も相談させてもらってた」 「じゃあ、歌唄ちゃんに蒼凪君の年齢の事とか、魔法の事とかは」 「魔法は大丈夫なんだって。ただ、恭文の年齢はバレてる」 旅行の時に、自己紹介し合ったからなぁ。当然年齢の話にもなるのよ。 でも、怒らないで欲しい。誰もこうなるなんて、思ってなかったもの。 「でも、そうすると変だよね。イースターに蒼凪君の詳細がバレててもおかしくないのに」 そこは僕も考えた。というか、歌唄がイースターの手先だと分かった時点でフェイト達に話した。 そしてそこのところを、相当危惧してた。歌唄はともかく、エルやイルも居たから余計に。 でも、今のところそれっぽい気配はない。エルにも確認したけど、歌唄は口止めをしてるらしい。 現に、二階堂も僕の実年齢に関しては知らない様子だった。というか、海里も知らなかった。 「でも、どういうことだろ。三条君もビックリしてた様子だったから、本当に歌唄ちゃんはこの事を話してないんだよね」 「てゆうかさ、その時他の人は居なかったんだよね? 例えばいいんちょのお姉さんとか、イクトとか」 「僕の見る限りでは、歌唄だけだった。というか、一人旅って言ってたし。 ・・・・・・とにかくさ、僕が歌唄のこと相当気にしてるのは、そこなのよ」 空を見上げる。星は・・・・・・スモッグや街の光に隠れて見えない。だけど、それでも光はある。 だから、信じられる。僕の中にある、星の光を。僕の一番の味方で居てくれるみんなの事を。 「・・・・・・放って、おけないんだ。歌唄の言葉で僕は少しだけ、フェイトにも自分にもワガママになれたから」 「蒼凪君・・・・・・あの、もしかして歌唄ちゃんのこと」 「言っておくけど、そういうのじゃないよ? うん、ホントに。ただ、放っておけないだけ」 「・・・・・・そっか。ごめん、ちょっと邪推したよ。それにほら、歌唄ちゃんには月詠幾斗が居るから」 「あぁ、そうだったね。そこかぁ」 ・・・・・・マジで好きだったら、また失恋コースだよね。とにかく本気、出すか。 そうしなかったら、言葉も想いも伝わらない。歌唄、僕はお前が間違ってるなんて言えない。 そんな権利なんて、持ち合わせてない。僕は魔法使いだったとしても、正義の味方じゃないもの。 うん、正義の味方じゃないの。だから僕の勝手で、お前の願いを壊す。 そうして守りたいものがあるのよ。そのためにありったけの無茶と無理を、通すって決めたしさ。 まぁ、あれだ。こういう流れになっちゃったのは残念だけど、僕はもう、止まるつもりはない。 お前に、選択権は何一つ存在しない。だから、強制的に・・・・・・壊されてろ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 隣を歩く男の子は、同級生だけどそうじゃない。いろんな事情から、あたし達の仲間になった男の人。 魔法って言う普通とは違う力が使える人。そして、強い人。力がじゃない。心が・・・・・・強い人。 今のあたしより、小さい頃からずっと戦ってきた。戦って、色んなものを見て、それでも進んできた。 でも、それはその頃から関わってる管理局って言う組織のためとか、そういうのじゃない。 世界のためとか、そういうわけでもない。今だって、きっと同じ。 なら、何のために? そう聞いたら、きっとこの人はこう答える。『自分のため』だと。 でも、それはきっと嘘。この人が・・・・・・恭文が戦う時には、必ず泣いてる人がいる。 そういうの、見過ごせないって考えれば自分のためなのかも知れない。けど、きっと違う。 泣いている誰かの今を、そこから繋がる時間を守るために戦ってる。見ていて気づいた。 今歌唄のことをあんなに必死になってるのだって、きっと同じ。エルやイル、歌唄のことを気にかけてる。 そして思う。あたし・・・・・・嫌な子だと。そんな恭文を見ていて、もやもやする。 もっと言うと、歌唄に対して嫉妬してる部分がある。嫉妬して、イライラしてる。これも最近気づいた。 この数カ月で本当に仲良くなった。色んな話をして通じ合えた。ちょっと、ケンカも有った。 何時からだろう。恭文を見ていて、友達とか・・・・・・唯世くんに対しての好きとは違う感情が生まれたのは。 何時からだろう。恭文のこと、もっと知ってみたいと思って、飄々とした瞳をずっと見てるようになったのは。 何時からだろう。あたしは、子ども。11歳で、恭文は19歳。そんな年齢差が、凄く嫌になってきたのは。 もっと大人になりたい。もっと変わりたい。もっと・・・・・・強くなりたい。恭文が戦ってる時、一番の支えになりたい。 一緒に戦えたらと、考えるようになったのは、どうしてなんだろ。・・・・・・もう、答えは出てる。 あたし、もう唯世くんの事、好きじゃない。もちろん友達としては好き。だけど、恋愛感情じゃない。 あたし・・・・・・恭文のこと、好きなんだ。だから今、歌唄のことを見ている恭文に、ちょっとイライラしてるんだ。 魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先の事 ケース19 『日奈森あむとの場合 その1』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 新暦77年。というか、2010年の3月の初め。 僕は、夕飯を食べながら、昨日の事を思い出す。というか、とってもうきうき。 「ヤスフミ、どうしたの?」 向かい側で、夕飯を食べながらフェイトが疑問顔で聞いてきた。 いや、それはシャーリーやティアも同じくか。色々疑問らしい。 「いやさ、昨日久々に歌唄に会ったら、色々と楽しかったのよ」 「歌唄って・・・・・・あぁ、ほしな歌唄」 「うん。ちょくちょく連絡は取ってたんだけど、びっくりしたよ。身長は伸びてたし、すごく綺麗になってた」 で、歌手の『たまご』が、ちゃーんと歌手になってた。 しかも、新進気鋭のスーパーアイドルですよ。・・・・・・がんばったんだなぁ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・驚いた。恭文くんと歌唄さん、お友達だったんだね」 フィアッセさんに招待客のガードを頼まれて、その人を紹介してもらったら・・・・・・なんとビックリ。 黒いワンピース姿の歌唄が、そこに居たんだから。てゆうか、歌唄もビックリしてる。 「友達って言うか、メールのやり取りしたりしてるだけです」 「歌唄さん、多分それは友達って言うんじゃないかな。 だって恭文くん、芸能関係者でもなんでもないのに」 「それは、その・・・・・・ちょっと、どうなのよ」 「僕に話振るのやめてもらえますっ!? 答えようがないじゃないのさっ!!」 これで僕が『友達です』って言っても、何か嫌じゃないっ!? 色々図々しいってっ!! 「・・・・・・でも、ホント久しぶり。歌唄、元気してた? なお僕は全開バリバリ」 「そうみたいね。・・・・・・てゆうか、もう一個のたまご生まれたんだ」 歌唄がそう言いながら、どこか嬉しそうな目で見るのはヒカリ。当然、シオンも僕の側に居る。 だから、僕は頷く。どこか誇らしいものを感じながら、歌唄に思いっ切り笑う。 「アンタも、ヘタレなりに諦めなかったってわけか」 「うん。ヘタレなりに、ハードボイルド通してるよ」 「そう。まぁ、良かったわね」 「うん」 それで、歌唄の隣に浮かぶ白い子のエルと赤い子のイルにも視線を向けて、軽く手を振る。 二人は、それに返してくれた。というか・・・・・・エルが感激してるのか、涙目だ。 「うーん、恭文くんと歌唄さん仲良さげだね。もしかして、すっごく仲良しのお友達?」 「「そういう訳じゃないです」」 「・・・・・・やっぱり仲良しだよね? 息合い過ぎだもの」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「でも、イルさん達もそうですが、呆れられてましたね。お兄様は相変わらずの低身長で」 「うっさいよっ! そこは言うなー!!」 歌唄はたった2年足らずで、身長がかなり伸びてた。成長期ってのは、非常に怖い。 でも、今年で中3かぁ。・・・・・・やばい、僕おじさんになったみたいだ。 とりあえずご飯とメインのさばの味噌煮をほうばりつつ、嬉しい気持ちをかみ締める。 ・・・・・・2年前。少し辛い時に歌唄に会って、激を飛ばされて、現状に繋がってる。 だから、なんか嬉しいのだ。歌唄は、ちゃんと夢を叶えてたんだから。 「だが、喜ばしい事もあった。・・・・・・私が産まれた事を、本当に喜んでくれた」 「そういえばヤスフミとそのほしな歌唄さんが会った時、ヒカリはたまごの中だったんだよね」 「あぁ。だから、余計にだ。特にエルとは、随分話し込んでしまった。 感激して泣かれてたので、色々対処が大変ではあったが」 ヒカリは少しだけ特殊というか、特別なしゅごキャラ。 どこが特殊というと・・・・・・外見。外見が、リインのお姉さんなのだ。 なので、キャラチェンジやキャラなりをして、フェイト達に非常にびっくりされた。 てゆうか、喋りまで同じらしいし・・・・・・生まれ変わりとかではないようだけど、僕も少しびっくりしてる。 ただ、あり得ない話じゃないの。しゅごキャラの姿や形は、宿主のなりたい自分のイメージで出来るから。 夢の中で僕が会ったリインのお姉さんを僕が、『魔法使い』として認識したからこうなったんじゃないかというのが、有力な説。 「ヤスフミ、その子の事好きなの?」 フェイトが、唐突に嬉しそうな顔でそんな事を聞く。なので、軽くいじめることにする。 「あー、どうだろ。8年間のスルーの痛手からまだ立ち直ってないしさぁ」 そして、フェイトが困ったように唸る。なので、もっといじめることにする。 「あぁ、傷ついたなぁ。アレとかコレとかをもう一度味わうかと思うと、怖くて恋愛出来ないよ。 どうしよう、また8年スルーされたら。もうそういうのはフェイトだけでコリゴリだし」 「あの、その・・・・・・えっと」 「あ、でもいいか。僕にはラブプラスがあるし。『凛子は僕の嫁』だし」 ふふふー、買ってエリオやクロノさんにヴェロッサさんと一緒に、ハマりまくってるのー。 いやぁ、丹下桜さんは素晴らしいね。癒しだよ癒し。ホント、復帰してよかったなぁ。 「・・・・・・なぎ君、その辺りにしておこうよ。ほら、フェイトさんが涙目になってるし。 というか、二次元に入り込むにはちょっと早くないっ!?」 「分かったよ。じゃあ、ゆかなさんIFにいくよ」 「行かなくていいからっ! てゆうか、そのIFは痛いよっ!? 絶対無理だからっ!!」 「しゃあないじゃん。フェイトに8年スルーの上に速攻振られたのよ? 何のタメもシンキングタイムも無しで。 そんな僕の心を癒してくれのは、凛子かゆかなさんかリインかフィアッセさんの歌くらいなんだから」 で、またフェイトに鋭い刃が突き刺さる。こうやって、フェイトをいじめるのは非常に楽しい。 ・・・・・・趣味が悪いとか言わないで? 8年スルーされ続けてこれなんだから、少しくらい言いたい。 「・・・・・・あ、あのね、そういう意地悪はやめてもらえると、非常に嬉しいというか、なんというか」 「冗談だよ。うん、大丈夫。だって、再アタックの許可はもらってるし。 まぁ、それがなかったら正直もっと言いたいけど」 「あの、大丈夫だよ? ・・・・・・うん、大丈夫。私も、覚悟は決めてるから。ヤスフミ、一途でしつこいしね」 「うん、そうだよ。僕はしつこいの。だから、一回振られたくらいじゃ、諦めませーん」 なんて、フェイトと笑いながらこんな話が出来るようになるまでには、色々と道のりがあった。 ・・・・・・歌唄と初めて会った旅行から帰って来てから、フェイトと話した。 やっぱり、8年好きだったから、簡単には諦められないと、駄々をこねた。 少しだけ、わがままに振舞う事にした。だから、フェイトにお願いした。 他の子も見る。新しい恋愛をする努力もする。その上で、ひとつのわがままをぶつけた。 それは、再アタックする権利が欲しいというもの。どうしてもフェイトだと思ったら、また僕はぶつかる。 というか、勝手にぶつかって、身も心も全て奪い取るので、覚悟しておくようにと宣言した。 なお、フェイトは大いに戸惑った。そして、みんなも大いにびっくりした。 ただ、フェイトに歌唄との話の中で感じた事を話したら、納得してくれた。 ・・・・・・諦め切れない想いがあるんだったら、みっともなくても、ぶつかることが必要だと感じた事を。 てゆうか、歌唄は片思いしてる相手に対して、そうしてるらしい。なんか、普通に言い切った。 でも、当時は気になる事があった。この話をしてる時に、エルとイルがずーっと苦笑いしてたのよ。 とにかくですよ? そこまで僕はパワフルじゃないけど、がんばる事にした。 フェイトにぶつかりたいと思ったら、またぶつかる。奪いたいと思ったら、奪い取る。 それくらいわがままでいいんだと、思えるようになった。・・・・・・うん、壊したかったの。 押さえ込んで、結局引きずって、うじうじしてる自分を、徹底的に。グウの音も出ないくらいに。 だから、しつこく行くことにした。それくらいでいいんだと思うことにした。・・・・・・そして、あれから1年半。 再アタックは・・・・・・あれ、してないな。ま、いいか。他の子も見ていくってのもあるし。 それにシオンやヒカリと魔法使い目指して爆進してるおかげで、僕も色々と忙しいの。 ・・・・・・歌唄、ホントに良かったなぁ。なんか、あの子と話してる楽なのよ。波長も話も合うし、通じ合える。 あと・・・・・・好きなタイプだしね。キラキラ輝いて、とても強い。 「でも、痛手なのには違いないのですよね。 ・・・・・・ちゅーくらいは許してもいいと思うのですが」 「そ、それはだめ。あの・・・・・・うぅ、ごめん」 シオンの余計な一言で、フェイトがヘコんでるけど、ここは気にしない。 だって、フェイトをいじめるのは楽しいのだ。たっぷりいじめて、たっぷり楽しもう。 「・・・・・・てーか、その子ってイースターの関係者なのよね。それも、キャラ持ち」 今まで黙ってたティアが、ご飯をかき込みながらそんな事を言う。なお、どういうわけか不満顔。 「まぁ、関係者って言うか、系列会社のタレントさんだね」 ・・・・・・そこは考えたくなかったこと。というか、僕は一つ気づいてしまった。 「アンタ、年齢の事は・・・・・・まぁ、仕方ないけど、魔法の事とか言うのやめておきなさいよ?」 「あ、そうですね。リインも気をつけるべきだと思うのです」 「言われるまでもなく分かってるよ。・・・・・・全く、なんでこんなことに」 ≪あなた的には、楽しくないんでしょ≫ 「かなりね。楽しい久々の再会だけで終わってくれたら、良かったのに」 ほしな歌唄の本名は、月詠歌唄。そして、昨日やり合った猫男の名前は、唯世曰く『月詠幾斗』と言うらしい。 これが偶然で片付けられるほど、僕は緩い人生は送ってない。いや、出来れば片付けてしまいたいけど。 ・・・・・・ホント、なんでこうなるんだろ。単純に再会出来た時は、嬉しかったのに。 僕は、またもやご飯をかき込む。少しだけ味が落ちた感じがするのは、きっと僕の心の問題だと思った。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・失礼するわね」 ご飯の後、部屋で我が彼女(凛子)に癒されていると、ティアが入ってきた。 てーか、普通に遠慮なく入ってきた。結構、びっくりしてる。 「なによ、ティア。僕は今、彼女とラブラブ中なんだけど」 「だから、いったいいつまでそのゲームにハマってるのっ!? エリオも同じって、おかしいでしょっ!!」 「仕方ないじゃん。ラブプラスは現実なんだから」 「アンタの現実はこっちっ! お願いだから、マジでこっち戻って来てくれるっ!? フェイトさんが、『もっと早く気づいてれば・・・・・・!!』とか頭抱えて、かなり真剣に気にし出してるのよっ!!」 なんて言いながら、ベッドに腰掛けてくる。とりあえず、彼女とのラブラブ時間はおしまいである。 まぁ、ちょうど終わろうと思ってたから、いいのよ? だけどなぁ・・・・・・普通にこれから丹下桜さんのラジオ、聴くところだったのに。 あれだよね、マジで復帰してよかったよ。だって、嬉しいし。すっごく嬉しいし。 「・・・・・・まぁ、アレよ。そんなラブプラスしたいんだったら、私とすればいいでしょ」 ティアが、ストレートに下ろした髪を少し靡かせながら、こちらに向く。 なので、僕は蒼色のDSを大事に置きつつも、こう答えるのだ 「だめ」 「あの、私結構マジに言ってるのよ? 即答は傷つくんだけど」 「でも、だめ」 「・・・・・・そっか」 一昨年のクリスマスから、何回目かのやり取り。色々な意味で、恒例になってきてる。 とは言え、僕は中々振り払えない。だって、僕もフェイトにティアと同じ事をするって、宣言してるもの。 「別にさ、すぐにフェイトさんレベルで見てくれなんて言ってないわよ? 知っていく事も、触れていく事も、だめかな。今は、それだけでいい」 真っ直ぐに、ティアが僕を見る。だけど、僕は・・・・・・首を、横に振る。 「それでも、だめ」 だから、ティアは俯いて、そのまま立ち上がる。立ち上がって、部屋を出た。 何も言わずに、そっと静かに。で、僕は・・・・・・ベッドに寝転がる。 「・・・・・・お兄様、いいんですか?」 「恭文、私も同感だ」 横からしてきた声は、ヒカリとシオン。普通に聞いてたらしい。 なので、僕は右手を上げて振りながら答える。 「いいの。・・・・・・どうしても、そんな気になれなくて」 「でも、フェイトとの約束もある。考えてみてもいいんじゃないのか?」 ヒカリが僕の顔の上まで飛んで、見下ろしながらそう言って来た。 「まさか本気でDSの中の彼女や、ゆかなさんエンドなど目指しているわけじゃないだろう?」 「え、本気はダメなのっ!?」 「お前は絶対バカだなっ! 付き合いも2年目だが、私は改めて理解したっ!!」 「ヒカリ、人は恋をすると確かにバカになる。でもね、それは本当の意味で愚かになった事にはならないんだ」 そうなのよ。だから、某天の道を往き、総べてを司る人もこう言ってるのよ? 『誰かを愛すると、人は弱くなる。だがそれは、本当の弱さではない』・・・・・・ってさ。 「だから、僕はあえてこう言いたい。凛子は僕の嫁。そして、ゆかなさんは永遠に僕だけの嫁だと。分かった?」 「あぁ、よーく分かった。とりあえずお前が救いのないバカだということは、よーくな」 「・・・・・・分かったよ。じゃあ、ゆかなさんだけが僕の嫁だよ。そして、僕はゆかなさんの婿だよ。それならいいよね?」 「お前は一体何が分かったっ!? 別に私はお前の嫁が何人居ようがどうこう言うつもりはないぞっ!!」 あぁ、ヒカリがなんか怒ってる。うーん、なんでだろう。おじさんには、よく分からないよー。 「・・・・・・そこはともかく、いったいティアナの何が問題なんだ。ほら、話せ」 「いや、その前に飛針持ち出して突撃体勢はやめないっ!? どんだけアグレッシブなのさっ!!」 「私もそこは聞きたいです。フェイトさんに振られて、もうすぐ2年。 ランスターさんが告白してきてからは、1年以上です。・・・・・・再アタック、したいんですか?」 「そういうのじゃないよ。ちなみに『ゆかなさんじゃないから』って言うのは」 「「認めません。というか、最低ですよ」」 ・・・・・・我がしゅごキャラ二人は、とっても強くなってる。非常にツッコミがビターだ。 仕方ないので、きちんと話す事にした。まぁ、僕も僕なりに考えてたのよ。 「・・・・・・そのことさ、フィアッセさんとも、少し話したんだよ」 うん、話した。一応、フィアッセさんとの婚約は継続中なのよ。 まぁ、フェイトに振られてすぐに結婚なんて出来ないから、そういう形になってる。 どうしても、ティアの言葉に頷けない事とか、かと言って再アタックする気もない事とか。 それで、話して・・・・・・言われた事がある。 「僕、フェイトやティア、フィアッセさん以外で、好きな子が居るんじゃないかって。 だから、フェイトとのあれこれが薄れてきても頷けない・・・・・・とかなんとか」 ただ、これはあくまでも一つの可能性。誰かを好きになるのって、凄くエネルギーの要る行動なのよ。 だから、単純に今の僕はそのエネルギーを出せないだけなのかも知れないとも、言われた。 「ゆかなさんとラブプラス以外で他の女性に心を囚われている・・・・・ですか」 なぜシオンがゆかなさんと凛子を真っ先に外すのかが、正直疑問だよ。ゆかなさんも凛子も、素敵なのに。 「なるほど、それは道理ですね。そう考えると、お兄様の態度も納得がいきます」 「ただどちらにしても、明確な理由がないのは問題だな。それでは、ティアも納得するわけがない」 「そうなんだよね。で、色々考えてるんだけど、どうにも覚えがなくてさぁ。 うーん、どうしてなんだろ。やっぱりエネルギーが枯渇しちゃってるのかな」 ティアの事は嫌いじゃない。むしろ好みだと思う。告白された時、本当に嬉しかった。 だけど、フェイトに振られてから時間もあまり経ってなくて、どうしても気持ちが向かなかった。 そうして、振られてもうすぐ2年。ティアに告白されてからは、1年が経過。それでも、この状態。 僕、どうしたんだろ。いったい、何がそんなに気になってるんだろ。 というか、なんでティアの事、振り払ってるんだろ。 ・・・・・・ただ、この疑問に関しては正直に言って、これから重要度が非常に低くなる。 僕が直面し、早急になんとかしなきゃいけない問題は、ティアの事なんかじゃなかったのだ。 「あ、そうだ。あむにちょっと電話しなくちゃ」 「電話? ・・・・・・あぁ、分かりました。あの方のことですね」 「うん」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・イクトのこと?」 『うん。まぁ、ちょっと前にも聞いたけど、あむにはまた個人的に聞きたくてさ』 夜、恭文やフェイトさん達の正体や魔法や次元世界の話を聞いて、疲れた頭でベッドに踞ってると恭文から電話。 だから、あたし・・・・・・日奈森あむは、起き上がってピンク色の携帯を右手に持って、お話中。 「でも、あたしも大した事知らないよ? イクトはイースターの人間で、あたし達の敵で」 『でも、あむとは繋がりが深い。ガーディアンのメンバーが関わってない所で、何回か会ってたりする?』 恭文の言葉に、胸が苦しくなる。苦しくなって思い出すのは、あの・・・・・・あたしより背が高い男の子の事。 「・・・・・・うん。てゆうか、どうして分かるの?」 『単なる勘だよ。あと、僕とフェイトの友達に、高町なのはって言うのが居るのよ。あ、さっき話した地球出身の魔導師ね? それの持論に『名前を呼び合えれば、人はそれだけで誰とでも、どんな人とだって友達になれる』って言うのがあるの』 「あ、それなんかいい言葉だね。・・・・・・あぁ、そういう事か」 『そうだよ』 あたしもイクトも、名前で呼び合ってた。それで恭文、ちょっと気にしてるのかな。 というか、そう思った。・・・・・・ベッドに当てていた左手を、自然と握り締めてしまう。 『誤解の無いように言っておくと、別にそれであむがイースターのスパイだとか言うつもり、ないから』 「え?」 『同じように月詠幾斗とは敵だから仲良くするなとか、そういうこと言うつもりもない。 ・・・・・・ただ、マジで月詠幾斗と友達なら、その友達と敵対関係になってるわけでしょ?』 ・・・・・・まぁ、その高町なのはさんの理論通りなら、そうなるよね。 名前を呼び合ってるあたしとイクトは友達同士で、それが敵になってる。 『そういうの考えたら、なんかジッとしてられなくてね。まぁ、余計なお世話だとは思うけど』 「あの、そんなことないよ。・・・・・・てゆうか、ありがと。心配してくれてたんでしょ?」 『そういうんじゃないよ。あむには嘘ついてたのに、友達になれるって言ってもらったしね。 それはランとミキ、スゥも同じ。力になれるなら、なりたいなと』 ・・・・・・あたし、別にいいって言ったのに。電話の向こうの恭文の発言に、ちょっと苦笑してしまう。 恭文は、目撃された×たま関連の事件の調査のためにこの街に来た。それが、時空管理局ってとこのお仕事だから。 ただ、その時に恭文はあたしに嘘・・・・・・ううん、隠し事をしてた。仕方のない隠し事を。 恭文はあたしと同級生だけど、年齢は8歳も上。経歴を詐称して、あたしの通う聖夜小に転入してたの。 あと、プログラム式の魔法の事とか、管理局の事とかそういうのも隠してた。恭文、それを気に病んでたらしい。 あたし達に嘘ついてるって思ってて、だからずーっと意地悪で性悪な外キャラばっかり。 あたし、それが気になって言った事がある。外キャラ、疲れるだけだから外した方がいいって。 そうしたら、嘘ついてるのにそれでいいのかって聞いて来たから・・・・・・いいって答えた。 あたしは、仕事の都合で隠してなきゃいけなかったのに、それを『嘘』って言い切れる恭文だから、そう言えた。 そう言い切って、あたしや他のみんなとの距離を測りかねてた、ちょっとヘタレな恭文だからそう言えた。 ・・・・・・うん、あたしが選んだんだ。この年上で無茶苦茶強いけど、どこかダメな感じの男の子と繋がれたらいいなって。 「全く、気にするなって言わなかった?」 『・・・・・・そうだったね』 「でさ、あたし達は特にイクトと友達とかってわけじゃないんだ。そこは本当。 だけど、恭文が思ったみたいに、ガーディアンのみんなが居ない所で会ったりはしてる」 ただしそれは、偶然遭遇というパターンが多くて、待ち合わせしたりとかでは絶対ないというのは念押しした。 てゆうか、マジでそうだもん。・・・・・・恭文は電話の向こうですぐに、『分かった』と言ってくれた。それがちょっと嬉しかったり。 『あむ』 「なに?」 『別に月詠幾斗の事が好きなら、それでいいのよ?』 あたしは、いきなりな言葉に顔が赤くなる。というか、体温が急上昇する。だから、口が上手く動かせなかったりする。 「ア、アンタいきなり何言ってんのっ!? あたしがイクト・・・・・・マジおかしいからっ!!」 『慌てなくていいから。てか、そういう意味じゃないよ。LOVEじゃなくてLIKE。 友達みたいに思いかけてるとか、そういうのならそれでいいって言いたいの』 「あ、そっか」 あー、そういう意味か。だ、だめだなあたし。すごい勘違いしちゃったし。あは・・・・・・あははははは。 恭文が電話の向こうで、なんか呆れてるのが分かるんですけど。あぁ痛い。すっごい痛いし。 「でも、ダメだよ。あの・・・・・・唯世くんとかは敵な認識だし」 『あー、そうだったね。てゆうか、あの子は何か因縁でもあるの? あの時も、月詠幾斗に向かって直進しようとしたしさ』 「分からないの。でも、唯世くんってイクト絡みになると・・・・・・こう」 『感情的になりやすいと。もっと言うと、冷静さを無くすと』 「そうだね。いつもの温厚で、優しい唯世くんじゃなくなるとは思う」 まぁ、あたしがガーディアンになる前から関わりがあるみたいだし、そのせいだとは思う。 『でもさ、あむ。仮にあむが月詠幾斗と友達になりたいとか、恋愛的な意味で好きだったとするじゃない?』 「うん」 仮にとしてるのは、あたしが実際どう思ってるか分からないとか・・・・・・考えてるんだろうなぁ。 恭文、普段の言動はともかく、何気にこういうとこはちゃんとしてるの。あれから、なんとなく気づいた。 『・・・・・・唯世に嫌われるとか、嫌な思いするからとか、そんな理由でその感情を否定するのは、きっと間違ってるよ? だって、唯世とあむは全く別の人間だもん。唯世の顔色伺ってあむが人間関係制限なんて、おかしいでしょ』 「それはまぁ・・・・・・確かに」 『だからさ、これからも偶然にも鉢合わせして、その結果あむが月詠幾斗の事を嫌いになり切れないなら』 ・・・・・・イクトはイースターの手先で、ガーディアンの敵。でも、そういうのも全部含めてって事だよね。 それでも、あたしはイクトの事・・・・・・あぁ、嫌いになり切れてない。なんか、そういうのじゃないよ。 『それでいいんじゃないの? 唯世の事好きだから色々考えちゃうかも知れないけど、それでいいよ』 「・・・・・・うん」 やっぱり、心配してくれてたんだよね。なんか学校で会う時よりも、声優しいもん。 ・・・・・・てゆうか、ちょっと待ってっ!? あたし、今すっごい気になった事あるんだけどっ!! 「恭文、アンタあたしが唯世くんの事好きだって、なんで知ってるのっ!? あたし、話してないよねっ!!」 『何言ってるの。そんなの見てれば、誰だって分かるよ」 えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? マ、マジですかっ!! 「ま、確証持ったのは、昨日のコンサートでだけどね。 現にティアもシャーリーもリインも、その関係にはさっぱりなフェイトですら気づいた』 「嘘っ! あたし、そんなバレバレな態度取ってたのっ!? あぁ、マジ信じられないしー!!」 『バレバレ過ぎたね。唯世の前だと、恋する乙女モード全開だし』 うー、クスクス笑うなー! てゆうか、それは恭文だって同じじゃんっ!! 「それ、恭文に言われたくないしっ! てゆうか、フェイトさんの事好きでしょっ!?」 ・・・・・・あれ、なんか恭文が固まった。固まって・・・・・・あれ、なんかしくしく泣き出したんですけど。 『・・・・・・1年半前くらいにね、振られてるの。というか、8年間片思いしてて、ダメだったんだ』 「え?」 『まぁ、またその気になったら再アタックするとは言ってるけどさ。 でも、そっかぁ。なんかこう・・・・・・色々バレバレだったんだ。僕も』 「あ、えっと・・・・・・よし、話変えないっ!? ほら、あたし達は色々とダメだったと思うしさっ!!」 ・・・・・・後日、この会話が原因で失恋同盟なる組織が出来上がったのは、時の流れに置いておこうと思う。 でも、そっか。恭文も・・・・・・同じ、だったんだ。なんかだめだな、辛いの分かるはずなのに、ちょっと嬉しい。 『・・・・・・話戻すけどさ、敵だから友達になれないは、ちょっとおかしいでしょ。 僕の周り、そういうの多いもの。敵だったのが、色々な事情から友達になるってパターンはかなり』 「そうなの?」 『うん。僕の周りは、人情家で人格者が多いのよ。・・・・・・だから、あむもそれでいいって言い切れるの。 魔法少女は人格者ってのが常識だと思うしね。友達になりたいなら、なっちゃえばいいよ』 「うん。あの、ありが・・・・・・だから、魔法少女って言うなー! あぁもう、どうしてそうやってオチつけるわけっ!?」 ・・・・・・なんて言いながら、あたしはずっと笑ってた。恭文と話してるの、なんか楽しいから。 てゆうか、ありがと。マジで色々と考えてくれてたんだよね? なんか、申し訳なくなっちゃうな。 だってあたし達、会ってからまだそんなに経ってないんだよ? それなのに・・・・・・うん、ありがとうだね。まぁ、オチつけたから直接は言わないけど。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ それから、数日が経った。いや、色々と大変だった。 二階堂が正体現すし、ヒロさんとサリさん来るし、一昨日は模擬戦だったし。 なお、大体の様子はしゅごキャラクロス本編と同じ感じです。・・・・・・ペコリ。 ・・・・・・ティアのこころのたまごやキャンディーズが、イースターの手先だった二階堂にキャラ質に取られた。 それで二階堂を追っかけて・・・・・・なんとか補足。そうしたら、遠慮なくキャラ質に利用してきた。 まぁ、そういうのを越えて、紆余曲折あって二階堂との決戦となった。 僕とあむは、二階堂が根城としていたイースターの元社員寮に乗り込んだ。 だけど、入った途端目の前には・・・・・・大量のロボット達が、ひしめいていた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 社員寮一階、ロビーのようになっていたのか、そうとう広く作られている玄関。 その中を埋め尽くそうかという勢いで、僕達の目の前に立ちはだかるのはロボット。 なんだかお土産屋さんとかに売ってそうな、古ぼけたデザインである。 こうしているだけでも、どんどん数を増やしている。そのまま、僕とあむを包囲するように迫り来る。 くそ、急いでる時にこれかい。またお約束踏んでるなぁ。 「あむちゃん、行くよっ!!」 「うんっ! ・・・・・・あたしの心っ!!」 「あー、ちょっと待ってあむ」 僕の言葉に、あむがずっこけて止まった。あむの隣に来ていたランとミキも同じく。 「・・・・・・って、なんでいきなり止めるかなっ!!」 「それ、今やる必要ないわ」 「はぁ? いやいや、アンタも変身って」 「嫌。昨日やここ数日のあれこれで、カードが残り一枚なのよ」 『えぇっ!?』 僕はもう一回思い出す。ここは町外れで人の気配や出入りはほとんどない。 そして、二階堂とスゥは三階。普通にやっていたんじゃきっと時間がかかる。 一階でこれだから、きっと二階にも居ると見ていい。 つまり、普通にやったら死亡遊戯の如く、敵の屍を超えていかないとどうにもならない。 あー、ようするに、ロボットは今、僕達の目についているだけじゃないってことだね。 奴の目的がエンブリオを作ることなら、その作業を邪魔されることは嫌なはず。 ・・・・・・つまり、そのための機械の前に到達されることだね。 こうやってロボットを出してきたのが、何よりの理由だよ。 そして、アイツの捻じ曲がった性格を考えるに、これだけじゃ足りない。 きっと僕達が必死にこいつを片して、ようやくたどり着いたところで作業終了。 ・・・・・・って言う安っぽいシナリオを考えてそうだ。 なので、僕は決めた。外見から見たここの構造やボロい内装で、ビビっと来た。 そのシナリオ、もっと面白い形に変えてあげましょ。もちろん、僕達にとってね。 「アルト」 ≪はい≫ 「ここからぶっ放したら、どうなる?」 「・・・・・・あぁ、それなら2時の方向に、100メートルほど進まないとだめですよ。そうしないと、到達出来ません」 さすがは我が相棒。一言だけで僕のやりたい事を読んでくれた。 とにかく、ここから100メートルだね。それなら・・・・・・行きますか。 「あむ、一気に行くよ」 「え?」 僕はあむの手を左手で掴んで、そのまま右に走り出した。 「えっ!? あの・・・・・・ちょっとっ!!」 「いいからっ!!」 その行く手を、ロボット軍団が阻む。でも・・・・・・甘い。僕はあむの手をしっかりと握って、引き寄せる。というか、抱き寄せる。 そのまましっかりとあむを抱き寄せてから、大きく飛ぶ。飛行魔法を使った上で、100メートルの大ジャンプ。 「え、あの・・・・・・飛んでるっ!?」 そう、跳んでいる。あ、訂正。飛んでいる。 木で作られたボロい通路の天井すれすれを飛んで、ロボット軍団の包囲網を越えた。 ロボット軍団は表情なく、僕達を見上げる。 着地したら、当然追撃が来るよね。だから、その前に動かないと。 「日奈森さん、着地したらすぐに、ランさんとキャラチェンジなりキャラなりを」 「へ?」 「いいから、私達の言う通りにしてくれ。時間がない」 とにかく、僕達を囲んでいた一団の隙間を見つけて、そこに着地。 前から後ろから追撃のためにやってくるけど・・・・・・くそ、やっぱり他にも居たか。 そこは気にせずにあむを離す。離してからすぐに左手を上にかざす。 かざしながら、アルトに最終確認。 「アルト」 ≪ベストポジションです。ある程度範囲を絞った上でなら、何も巻き込みません≫ 「ならよかった。んじゃ・・・・・・行くよっ!!」 かざした左の手の平に生まれるのは、青い・・・凍れる息吹を含んだ砲弾。 僕が長年使い続けてきた、信頼出来る魔法。兄と慕う人から受け継いだ力の一つ。 ≪Icicle Cannon≫ 「ファイアっ!!」 その砲弾は僕の声に応えるように、青い砲撃となって放たれた。 そしてそのまま天井を突き破り、砕き、更に二階の天井すらも吹き飛ばし、三階へと到達。 で、そこで・・・・・・止まるわけがない。先ほどまでと同じように、三階の床を吹き飛ばす。 というか、三階部分の天井も一部吹き飛ばした。そして、辺りに轟音が響く。 上から砲撃の魔力に触れて、凍った天井や床やらの破片がパラパラと降り注ぐ。 「キャラチェンジっ!!」 あむの髪につけられた二つのバッテン印のアクセサリーが、ピンク色ハートマークに変わる。そして、足首に同じ色の羽。 「これでいいんだよね?」 「・・・・・・うん」 「ランさん、グッジョブです」 そんな事をしている間にも、前後からロボット軍団が・・・・・・あれ、数増えてる。 というか、なんか倍になってる。やばい、急がないと詰まれる。 「このまま、飛ぶよっ!!」 「へ・・・・・・?」 そうして、飛んだ。冷たい爆煙が渦巻く中に突入して・・・・・・三階に一気に到達。そして、見つけた。 右手で、たまごを持ったあの男を。距離・・・・・・10メートル程度。 ベストポジションって、結構ギリギリだよね、これ。でも、これなら行ける。 ≪・・・・・・大丈夫、持っているたまごはあれだけです。遠慮なくやっちゃってください≫ 「了解」 瞬間、脳内にスイッチを入れる。そして、足元に小さな魔法陣・・・・・・魔力による足場を構築。 入れたスイッチにより、世界が灰色に染まる。視覚を認識する神経が一時的にオフになった証。 それから、すぐにその足場を踏み台にして跳んだ。すると、空気が重くなる。 まるでゼリーかなにかのような中を泳いでいるような感覚に襲われる。 でも、それに構わず僕は男の目の前に来る。男は僕のほうを見ている。 でも、僕は見ていない。そのまま右手を伸ばして・・・・・・男の右手首を掴む。 魔力を込めた上で、僕は手首を握り潰す。手に骨が砕ける感触が、伝わる。 そうして右手から零れ落ちて、ゆっくりと・・・・・・本当にゆっくりと落下していたたまごを視認。 左手を急いで伸ばして、床に落ちる前に慎重に・・・・・・優しく、キャッチ。 ・・・・・・限界が来た。スイッチがオフになり、視覚に色彩が戻る。男の視線が僕に移る。 「・・・・・・さぁ」 表情の中に右手を折られた痛みと認識できない何かに対する恐怖とおびえが混じる。 やっぱり、3秒じゃこれが限度か。でもいいや。ここから徹底的に行く。 まず、少し引いて右足で回し蹴り。それにより左の腕も折る。 そこから怯んで、蹲りかけた所に、胴に右足の蹴りを1発。 少し足を引いて、あの馬鹿の頭目掛けて足で往復蹴り。 口から血とそれに塗れた歯が飛ぶけど、気にしない。 それからまた足を引いて、行動出来なくなるように対処。 具体的には、右の膝を踏み抜く。そこから顎に向かって蹴り上げる。 でも、まだ終わらない。僕は左足で馬鹿の目の前まで跳んだ。 「お前の罪を数えろっ!!」 最後に打ち込んだのは・・・・・・顔面への両足での蹴り。男の身体はそのまま、ボロい木の床に叩きつけられる。 一回バウンドして、もう一回。その衝撃を殺すことが出来ずに、そのまま転がるようにして吹き飛んだ。 ≪抜かないんですか?≫ 「こんなの、斬る価値もない。・・・・・・大の男が、かわいい子を泣かせてんじゃねぇよ」 僕は着地。左手に持ったたまごは、問題なし。そのために足での攻撃に終始したし。 いやいや、カウボーイビバップ見て、足技かっこいいと思って練習したのがこんなところで役に立つとは。 なお、やり過ぎとは言う事なかれ。相手はこちらへの攻撃どうこうは抜きにしても、危険なのは確か。 だって、目からビームを通り越して、手から衝撃波なんてかましてくるのよ? 徹底的に、行動不能になるまでぶっ潰すのが道理でしょ。 「男が女泣かせて許されるのはね、それでも大事なもの守るために、突っ走らなきゃなんない時だけって決まってんだよ。ほら、立てよ。このクソ野郎が」 身体を、体力の消耗による虚脱感が襲う。頭も・・・・・・少し痛む。 ≪まだクライマックスは始まったばかりです。こんなのでお寝んねなんて、許されるはずがないでしょ。 私達を怒らせた罪、こんな事では購えませんよ?≫ だけど、問題ない。まだ僕は動ける。・・・・・・とは言えさ、やっぱ多用は無理か。 これ使うの、あと1、2回が限度かな。うぅ、やっぱり消耗激しいなぁ。 まぁそこはともかく、僕は左手に視線を向ける。 そこにあるのは、緑色でクローバーの装飾がなされたたまご。 あと、一緒に声もかける。優しく、安心させるように。 「・・・・・・さて、話は変わるけどお姫様。パーティー会場は、ここでいい?」 ≪良ければ、これから私達と楽しく踊りませんか? もちろん、答えは聞いてませんが≫ 「恭文さんっ! アルトアイゼンっ!!」 スゥのたまごを持った手をゆっくりと開く。すると、スゥはその中から出てきた。・・・・・・よかった、大丈夫みたい。 「スゥ、よく頑張ったね。もう大丈夫だから」 「はい。あ、あの・・・・・・あの、恭文さん」 「なに?」 「せんせぇに、これ以上攻撃しないでください」 ・・・・・・はい? いやいや、何故にいきなりそんな涙目でそんな事言うのよ。もしかして、ストックホルム症候群? 「せんせぇ、恭文さんと同じようにスゥ達が見えるんです。 それでそれで、せんせぇにも昔しゅごキャラが居たんです。だから」 「だから、スゥやラン達にティアのたまごを奪ったのは仕方が無い?」 スゥは必死で、僕に懇願するような表情のまま、口が止まった。止まって、そのまま僕を見る。 「だから、これまでも子ども達から、こころのたまごを抜き出してきた事も悪くない? 悪いけど、そんな理屈僕は認めない。スゥが泣こうが叫ぼうが、あの野郎は叩き潰す」 僕がそう言うと、スゥが首をぶんぶんと横に振った。そして、更に瞳に涙を溢れさせながら、僕を見る。 「それは、きっと違いますぅ。でもでも、せんせぇはただ少し・・・・・・悲しい事があって、今こうなってるだけなんですぅ。 絶対の絶対に、本当の意味で悪い人なんかじゃないんです。だから・・・・・・恭文さん、お願いしますぅ」 「・・・・・・アイツがどういう手に出てくるかによるよ? 無抵抗でぶっ飛ばされるのなんて、ごめんだし」 「はい。・・・・・・え、あのそれってつまり、先生が何もしなければ・・・・・・い、いいんですかっ!?」 「いいよ。それに、さっき言ったでしょうが」 僕は、右の人差し指をピンと上に立てて、スゥの目を見て言葉を続ける。 「女の子泣かせていいのは、大事な物を守りたいと思って、そのためにどうしても突っ走らなきゃいけない時だけだってね」 「・・・・・・はいっ! ありがとうございますっ!!」 まぁいいや、これで昨日のグダグダの鬱憤は晴らせたわけだし。 あとはティアのたまごさえ取り戻せれば、よしってことにしようじゃないのさ。 ま、スゥには魔法の事とか内緒にしてた時に、信じてもらってた恩があるしね。・・・・・・あと、あむも。 少しくらいは譲歩しようじゃないのさ。それくらいは折れても、バチは当たらないでしょ。 ≪・・・・・・・・・・・・いや、このやり取りはもう既にいろんな意味で遅いと思うんですけど≫ そんなアルトの静かな声に、僕とスゥが固まる。そして、見る。 いろんな意味で遅い証拠となったあの悪党を。 「た、確かに・・・・・・せんせぇ、もうボロボロですっ! というか、恭文さんっ!? 一体何したらあぁなるんですかっ!!」 「よし、僕もう一回下に降りて飛ぶところから始めるわ。そうすれば」 「まるまる今までのくだりを無かった事にしようとするのはやめてくださいっ! それでもきっとダメだと思うですよっ!?」 「・・・・・・スゥっ!!」 その声に振り返ると、あむ達が居た。どうやら、本当に少しだけ跳ぶタイミングが遅れてたらしい。 「あむちゃんっ! ランにミキもっ!!」 「よかった、どこも怪我ない?」 「はいっ!!」 すぐ後ろであむ達に抱きつくスゥを見て安堵する。いやぁ、やっぱりあの子は癒されるなぁ〜。 それから、左手を出す。あむはそれを見て、優しく、慎重にスゥのたまごを受け取る。 「恭文、あの・・・・・・ありがと」 「どういたしまして」 「というか、あれなに? あの青いのどがーんで寒いのも魔法なのかな」 「そうだよ。魔力を氷結属性に変換させた上での砲撃」 僕の言葉に、あむやラン達の頭にはてなマークが・・・・・・あ、このあたりのことは説明してなかったな。 「・・・・・・はい?」 「それに関しては、後で説明する。とにかく、次はティアのたまごだ」 僕は、再び視線を二階堂に移す。さて、ちょっと目を覚ましてもらわないとダメかな、これ。 「え、えっと・・・・・・恭文。なんか二階堂先生、すっごいボロボロな気がするんだけど」 「そりゃそうだよ。アバラ数本に両手に右足へし折ったから」 ≪あと、鼻も砕きましたね≫ 僕がそう言うと、あむが完全に固まった。そして、叫んだ。 「はぁっ!?」 「大丈夫。僕は今から下にもう一回降りて、ここに飛び込んでくる所から始めるから。そうすれば、あれは神の力が働いて」 「意味わかんないよそれっ! あと、そんな力は絶対働かないからっ!! それやっても、恭文が二階堂先生ボコボコにしたことは変わんないよねっ!?」 「うん、僕もそう思う」 僕達がこんな話をしている間に奴は、床に身体を叩きつけられながらもふらふらと立ち上が・・・・・・らない。 てゆうか、立ち上がれるわけがない。右の膝を踏み抜かれてるんだから。と言うより、気を失ってるらしい。 ・・・・・・今度は完全に潰したよ。でも、まだ終わらない。もうちょい付き合ってもらう必要があるから。 奪われたティアのたまごのありか、聞き出す必要があるから。 あぁもう、これでまたフラグ立てるの? 僕はそんなつもりないってのにさ。 二階堂の服は、灰やらコーヒーやらで汚れて、もうひどい事になってる。 あそこまで来ると哀れみさえ感じるね。でも、油断は禁物だ。 スゥにはあぁ言ったけど、それはあくまでもアイツが素直にたまごを返した時に限りだ。 ×たまの力を使って衝撃波ぶっ放すとか、たまごを抜き出すとか、散々やらかしてる。 そういう所から考えても、まだ手札を隠している可能性は十分にある。場合によっては・・・・・・もっとだ。 そのまま、ゆっくりと歩み寄る。そうしながら、ジャケットを装備。蒼いジャケットとジガンを左手装備である。 「・・・・・・恭文、どうするの?」 「ティアのたまごの在り処を聞き出す。そうして無事に取り戻して、浄化できたらあとはおしまい。 あれだけやればもう十分だもの。抵抗しないのにこれ以上やるのは、僕がつまんない」 「・・・・・・そっか。うん、そうだよね。それさえ出来れば、大丈夫だよね」 あむがそう言った次の瞬間、倒れている二階堂の横から黒い弾丸が複数飛んできた。 それを僕は右に飛んで避ける。・・・・・・そこまではよかった。 問題は、そうして避けた僕の目の前に影が出来たこと。 身長は僕より少し高めで、細身の女性を模していると思われる・・・・・・人形? それは、僕に対して銃口を向けて、1発至近距離でぶち込んできた。 僕はそれをジガンで受け止める。ジガンから伝わるのは凄まじい衝撃。 それにより、僕は後ろに吹き飛ばされる。そうされながら僕は影の正体を見る。 居たのは・・・・・・黒い人形。その人形が、両手に黒い銃を持ち、連射する。 僕は身を翻して着地。そのままアルトを腰から抜き放つ。 襲ってきた数発の弾丸を、全て斬り払う。刃が黒い弾丸を斬り裂く度に、黒い火花が目の前を走る。 「恭文っ!?」 「大丈夫。ガードした」 「そっか、よかった。・・・・・・よくないからっ! なんなの、あれっ!?」 「×キャラだよ」 あむの声に、答える声があった。それは、倒れた二階堂だった。 「・・・・・・くくく、痛みに感謝しないとね。君が吠え面かく姿を、この目で拝めるんだから」 なるほど、痛みで目を覚ましたと。まぁ、僕も経験あるからこういうのは分かるけどさ。 「でも、普通の×キャラとは」 「そうだよ、ボク達と全然等身が」 「それはそうだよ。これは・・・・・・×キャラ・×たま専用の強化ボディなんだから。 言うなれば、その人形とキャラなりしてるって感じ?」 「強化・・・・・・ボディっ!?」 「下で君達がスルーしたロボットはね、中に×たまを仕込んでエネルギー源にしてるんだ」 ×たまをエネルギー源っ!? んなことまで出来るんかいっ!! ・・・・・・どうやら、イースターの連中は×たま関係でそうとう高い技術力を持ってるみたいだね。 もうこれ、普通に次元世界の技術と近いレベルなんじゃ。 「で、これも同じ。ただ違うのは・・・・・・能力がワンオフモデルだから下のアレらとは比べ物にならない。 そして、使用している×キャラの特性を丸々コピーするってこと」 マジで虎の子だと。くそ、何か来るとは思ってたけどこれは予想外過ぎるぞ。 「で、コイツは君達・・・特に蒼凪恭文、お前を潰せと命令してある。いや、コレを作るのは苦労したよ。 出来る限り人間に近い動きが出来るように作ったから、僕の美的センスとは全然違うのが不満点だね」 ・・・・・・今の銃撃だけでも相当だって、本能が言ってるのに。 だけど、そうこうしている間に黒い人形が構えた。 右手の・・・・・・黒く、持ち手の上の方に丸の中に×がついている装飾が施された銃を構える。 構えて、その銃口を僕達に向ける。 ≪・・・・・・待ってください。あの銃・・・・・・というより、あの構え方は≫ 「アルトアイゼン、知ってるの?」 「あぁ、それは知ってるはずだよ。だってこれの中身」 二階堂は僕を見て・・・・・・にやりと笑った。 「君の仲間から抜き取った×たまを使ったから」 「それって・・・・・・ティアナさんのっ!?」 やっぱりか。なんか動きや構え方が似てると思った・・・・・・あれ? 今、思考の奥で一瞬感じた妙な違和感は、ひとまず置いておく事にする。今は、目の前の人形だ。 「あぁ、そうそう。このボディに向かって浄化出来る技を叩き込んだ上で倒せば、たまごは普通の状態に戻るから。でも・・・無理だろうね。 あの子のたまごから出てきた×キャラ、どういうわけか普通の×キャラよりも能力高いみたいでさ」 だろうね。ティアがどんだけ執務官になるって夢に賭けてるか、知ってるもの。 夢や願いの強さが、そのまましゅごキャラの力や強さに変換されるなら・・・・・・そう、なるよね。 「君や日奈森あむの能力じゃ、これは倒せないよ。 くくく・・・・・・あはははははっ!!」 「・・・・・・そう、そりゃよかった」 正直、安心した。コイツさえ何とかすれば、あらゆる問題が一気に解決するんだから。いや、すばらしいねぇ。 「え?」 「いや、お前が正真正銘救いようのないバカでよかったよ」 「バ、バカ・・・・・・だとっ!?」 「バカでしょうが。まさかお前、今の今まで僕達が本気出してると、そう思ってたの」 ≪そうですね、マジでバカでしょ≫ そのまま、アルトを右に引いて構える。人形の周りに・・・・・・黒い弾丸が複数表れた。 対峙するのは、髪すら生えていない、一体どこの黒いクリスタルボーイかって言いたくなるような人形。 「んじゃ、楽しく暴れるとしますか。・・・・・・あむ、ちょっと下がってて」 「え?」 「まぁ、参加してもいいけど、フォローは出来ないから」 あむにそれだけ言うと、そのまま、僕は飛び出した。黒い弾丸達も、同時に飛び出した。 それを走りながら斬り払い道を開く。だけど、その分黒い人形は後ろにジャンプして下がる。 ジャンプしながら、僕に向かって両手の銃を乱射。黒い弾丸が雨のように襲ってくる。それを左に飛んで避ける。 床に穴がいくつも・・・・・・おいおい、いいのかこれは。でも、それに対して感想を持っているヒマはない。 黒い人形は着地してからまた弾丸を大量生成。そのまま発射してくる。 僕はそれに向かって走り、数メートルという所まで近づいたら、大きく跳んだ。 跳んで飛び越せれば・・・・・・って、そんなわけにはいかないよね。 なんか下から、弾丸達が軌道を変えて飛んできたし。 左手を下にかざす。そのまま青い魔力スフィアを形成。そして、ぶっ放す。 「クレイモアっ!!」 青いスフィアは散弾となり、下から僕目掛けて密集するように迫っていた弾丸を撃墜。 広間に爆煙が広がる。そして、その中を突っ切るようにして下がる。 こうする理由は当然ある。空中で動きの止まった僕に、また弾丸の雨が襲ってきたから。 とにかく、再び前進。爆煙を突っ切るようにして黒い人形に飛び込む。 弾丸がまた襲ってきた。それを横に走りながら・・・・・・もっと言うと、黒い人形に対して円運動を行いながら、全速力で広間を駆け抜ける。 「え、あの・・・・・・ちょっとっ!?」 「あむちゃん、避けてー!!」 「そんなこと急に言われてもー!!」 なんか被害が増してるけど気のせいだ。 「ちょ、やめ・・・・・・あぁっ! 装置が・・・・・・装置が穴だらけにっ!! ポッドが壊れてるしっ! あぁ、どっちにしてももう終わりだっ!!」 ・・・・・・バカな男がなんか叫んでるけど気のせいだ。 もっと言うと、デカイ装置や×たま詰め込んでたポッドに流れ弾が当たる。 それで鉢の巣だったり、ポッドの容器が割れて×たまが雪崩みたいにこぼれたけど気のせいだ。 とにかく、走りながら左手の指先に青い光弾を生成する。 ≪Stinger Ray≫ そのまま、走りながらも数発乱射する。 それに対して黒い人形は左の銃を向けて弾丸を乱射。 ・・・・・・いや、的確に僕のスティンガーを全て撃墜した。 でも、それが命取り。僕はもう・・・・・・踏み込んで接近している。 悪いけど、ここで一気に決める。 腰のアルトに魔力を込めて、青い刃を打ち上げる。 「鉄輝・・・・・・!」 アルトを一旦鞘に納めた上で、そのまま抜き打ちっ!! 「一閃っ!!」 横薙ぎに放たれた一閃は、黒い人形を見事に斬り裂いた。 斬り裂いたんだけど、手ごたえが無い。防御される事も考えてたんだけど、それすらなかった。 もっと言うと、まるで煙のように消えた。・・・・・・それに驚いているヒマは無かった。 真上に殺気。僕は後ろに飛ぶと、今まで居た場所の床が蜂の巣になった。上を見ると、黒い人形。 地面を踏みしめ、そのまま連射して隙だらけな人形に向かって踏み込む。 まだ魔力は残ってる。そのまま、左からの袈裟を再び打ち込んだ。 でも、さっきと同じようにまた消えた。・・・・・・なんとなく、なんとなくだ。 だけど、すごく嫌な予感が身体を支配した。 そのまま着地して、あたりを見回す。見回して・・・・・・右に跳んだ。頬を、黒い弾丸が掠めた。 次は左、後ろ、転がるように前。それから右にアルトを振るって弾丸を斬り払い、避ける。 待て待て、姿見えないのになんでこれ? おかしいで・・・・・・ま、待てよ。 ティアのたまご・・・能力が普通の×たまより高いと言っていた。 ×たまから生まれた×キャラは、どうやら持ち主の特性を自身の能力にしている。 いや、中に居るなりたい自分に×が付くんだから、これは当然か。 だから、サッカー部員だったあの子の×たまだって、これと同じ感じだった。 あの子は、サッカーボールみたいなエネルギー弾を形成して、それらを蹴り飛ばして攻撃してきた。 戦い方や行動や銃だったり構えだったりが、この強化ボディも色々な事情からティアそっくり。 「ま、まさか・・・・・・!!」 ≪恐らく、それで正解でしょう。もっと早くに考え付くべきでしたね≫ 「くそ、さっき感じた違和感はこれかっ! あぁもう、なんてめんど」 言いかけて言葉が止まった。言葉を止めたのは感じたから。 感じたのは鋭く、刺すような針みたいな殺気。 それは後ろから迫っていて・・・・・・僕は身体を捻って、その殺気に対処。 右に向かって身体を回転させながら、その脅威を斬る。 すると、アルトの刃は捉えていた。黒く細長い・・・・・・ライフル弾のような弾丸を。 弾丸は最初姿を消していた。その弾丸は刃に触れる事で姿を現した。 そして、それを見て・・・・・・すべての事態が、僕達の推測が間違っていないと理解出来た。 弾丸は僕の一閃で真っ二つになり、目の前で爆発した。 「・・・・・・二階堂。お前、とんでもない事してくれたな。あとで左足と顎も砕いてやるから覚悟しとけ」 「ふん、はたして出来るかな? その前に君はやられ・・・・・・え?」 その爆発が止む頃、それ『ら』は姿を現した。数は・・・・・・5。 「な・・・・・・そんな。僕が作った人形は一つだけだぞ。こんな」 「幻影だよ」 『幻影っ!?』 ・・・・・・あぁもう、マジでこれなにっ!? どうしたらこういう理屈になるのさっ!! なにより、これ、あむルートだよねっ!? なんでここまでRemixする必要あるのっ! 僕分からないんですけどっ!! (その2へ続く) あとがき 古鉄≪それはですね、作者が第0話として二階堂編をダイジェストで書いてたら、こんな形になったからですよ≫ やや「それで、その1とその2を同時アップなんだね。バレンタインデー残念でした記念とか言って」 古鉄≪正解です。それで・・・・・・あなた、ロリコンって言葉を知ってますか? そうですね、言うならこのルートでのあなたがそれに≫ 恭文「あぁもう、言いたい事は分かるから何も言わないでっ!? そうだよそうだよ、11歳の女の子行くなんて、だめだよねっ!!」 (なお、現・魔法少女の誕生日は9月の24日で、好きな食べ物はオムレツです) やや「でもでも、うーん・・・・・・大丈夫だよ。ほら、次のIFルートはややなんだし」 恭文「なんで既にそこが決定っ!? お願いだからもうちょい落ち着いて発言してよっ!!」 古鉄≪・・・・・・さて、予定を変えて始まってしまった三人目のIFルートです。 その相手は、なんと・・・・・・人気投票でこの人と二票差とかかましたあむさんです≫ やや「というわけで、本日のあとがきのお相手はとまとスーパーヒロインの結木ややと」 古鉄≪それはきっと錯覚だと思う古き鉄・アルトアイゼンと≫ やや「どうしてー!?」 恭文「もうややヒロインの話も、是非作者には可哀想だから書いて欲しいと思う蒼凪恭文です」 (蒼い古き鉄が、そこに至るまでの道程はティアルートのあとがきを参照してください) 古鉄≪そして、そんな状況の中で出したあむさんルートですけど、実はもう全部書きあがってるんです≫ やや「そうなのっ!?」 恭文「うん。コンセプトがコンセプトだったし、ちと楽だったの。なお、全12話。 出してく中で話煮詰めるから、もしかしたら多少前後するかも知れないけど」 (そして、当然のように今回のIFにもテーマはあります) やや「えっと、今回のテーマは、まず一つにしゅごキャラ勢のIFルートの下地作りだよね。 StS・Remixで、恭文がフェイトさんに15話の前後でフラれちゃったIFのお話」 恭文「本編じゃやりにくい部分があるしね。場合によっては、それ以外のメンバーもこっちルートで書ける。 まぁ、そういう下地作りがまず一つ。それでもう一つは、ドキたま・Remixですよ。もっと言うと、歌唄編・Remix」 古鉄≪劇場版というか、OVAなノリですね。あむさんをヒロインにして、歌唄編を再構築です。 あむさんの心情の変化とか、マスターがロリコンになる様とかを、ちょっとずつ描くわけですよ≫ 恭文「その言い方やめてー! マジで僕はこれ辛いのー!!」 (蒼い古き鉄、さすがに辛いらしい。てゆうか、辛くなかったら人としてだめだと思う) やや「ねね、これってキスシーンとかエッチシーンとかってあるの?」 古鉄≪もちろんありますよ。しかも現年齢のあむさんがそのまま≫ 恭文「そんなのないし、今のあむに対してそんなことしないよっ! てゆうか、犯罪だよっ!? そんなはやてみたいな事はマジでやめてー! 僕は法案に引っかかりたくなんてないんだからっ!!」 やや「恭文、あむちんのどこが不満なのっ!? あむちん、あんな可愛いのにっ!!」 恭文「おのれはもうちょっと自分の頭で考える事を覚えろっ! 強いてあるとすれば、今の実年齢っ!? やや、知ってるかなっ!! とある国では12歳以下の児童と合意の上だとしても性交渉を持ったら、実刑食らうんだからっ!!」 (注:事実です) 古鉄≪この辺り、幼児や児童への性交渉が人格に与える多大な影響を鑑みて・・・・・・ですね。 まぁ、あれこれ言いましたけどそういうシーンを書くなら、◯年後とかやって、エピローグ的にですよ≫ 恭文「そうそう。基本プラトニックなのよ。マジで児童ポルノなシーン書いたら、法案を敵に回すし。 てゆうかやや、もし僕が今のややを押し倒して、そういうことしようとしたら、嫌でしょ?」 やや「それは・・・・・・あの」 (・・・・・・あれ、エースがなにやら言いよどむ。というか、顔が赤くなる) やや「や、ややはスーパーヒロインとして、受け入れるべきなのかな。 もしかしたら、それが二次創作では当たり前で」 恭文「そこは受け入れなくていいし当たり前でもないのっ! むしろ嫌ってくれてもいいと思うよっ!? あと、僕は言わなかったっ!? 児童ポルノ関係は、マジでやばいんだってさっ!!」 古鉄≪二次創作は商業作品と違ってまだ大丈夫でしょうけど、それでもですよ。 だめですよ。リアルに怖いですし、絶対に踏み込まないようにしましょう≫ (そう、絶対に踏み込んではならない。法案はとっても怖いから) 恭文「・・・・・・それで、もう一つのテーマは・・・・・・やっぱり夢と輝き。 この辺りは、歌唄編が主軸だから当然。そしてそれと連動して、新しい恋への第一歩だよね」 古鉄≪あなただったり、あむさんだったりの答えを見つけていくお話です。 マスターは歌唄さんとの事。あむさんは、マスターや唯世さんとの事からですね≫ やや「そう言えば、あむちんも恭文も普通に好きな人に一度振られてるんだよね。 あ、そっか。そこから今までの人じゃなくて、別の誰かに踏み出してくってことか」 恭文「そうそう。今までのIFと違うのは、互いにそういう部分があるってこと。 ギンガさんもティアナも、その前に失恋とかって明確な描写は無いから」 (この辺りは、テレビや漫画でもそんな感じだったりします) やや「なるほど・・・・・・。とにかく、プラトニックな感じで進む今回のIFルート、どうぞお楽しみにってことだね」 恭文「そして出来れば、僕が楽だと助かる。もうすっごい楽で幸せな感じ」 古鉄≪・・・・・・いや、あなたはなんだかんだで毎回IFルートは大変じゃないですか。 というか、大変じゃないとダメじゃないですか。あなた、一応主人公なんですし≫ 恭文「・・・・・・そうだね。うん、知ってたよ。きっと今回もすごいことになるんだろうね。 それでは、本日はここまで。お相手は蒼凪恭文と」 やや「いつかはロマンスっ! 結木ややとっ!!」 古鉄≪ややさんのロマンスは、きっと・・・・・・はぁ。 古き鉄・アルトアイゼンでした≫ やや「こてつちゃんがなんか冷たいよー! 恭文、これどうなってんのっ!?」 恭文「きっと、ややがスーパーヒロインだから嫉妬してるんだよ」 やや「あ、そっかぁ。うん、それなら納得だよねー」 (エースは、とっても嬉しそうにニコニコ。蒼い古き鉄、色々な意味で扱い方を覚えたようだ。 本日のED:伊藤かな恵『ユメ・ミル・ココロ』) あむ「・・・・・・なんか、いよいよ始まちゃったね」 恭文「とりあえず、今回は第0話みたいな感じだね。だから、次から始動だよ」 あむ「うん。でも・・・・・・なんか、照れくさいよね。こう、あたし達のIFなんてさ」 恭文「そうだね」 あむ「あとさ、あたしは・・・・・・あの、変とか思わないから」 恭文「へ?」 あむ「あたしの事、そういう風に思ってくれるなら、別に今の年齢でも変とか思わないし。 てゆうか、それだったらマジ嬉しいしさ。あんまロリコンとかそういうの、気にしなくていいよ」 恭文「あむ・・・・・・でも、僕がガチなロリコン故って可能性もあるよ?」 あむ「・・・・・・ごめん、やっぱちょっとは気にして? てゆうか、アレだよアレ。なんかこう・・・・・・普通にプラトニックな感じでいいよね」 恭文「そうだね。エロ描写とか、絶対無しだし。あっても、ハグまでだって」 (おしまい) [*前へ][次へ#] [戻る] |