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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第46話 『海里・一日にして成らない夢への道』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』

ミキ「ドキっとスタートドキたまタイムっ! さぁ、今日はどんなお話かなっ!!」

スゥ「・・・・・・剣の道、それを極めるのはとっても大変なのですぅ」

ラン「負けちゃうと悔しいし、負け続けちゃうとやっぱり悔しくて、続けるのが辛くなっちゃうよね」





(そうして立ち上がった画面に映るのは、2M近くある巨大×キャラ)





スゥ「でもでも、そんな時こそ初心に帰る事が必要なのですぅ」

ラン「そう、始めた頃のあのキラキラな自分にっ!!」

ミキ「・・・・・・ごめん。ボクはそれだけだと何が何だかさっぱり」

ラン「それは当然見れば分かるよ? というわけで、せーの」

ラン・ミキ・スゥ『ドッキドキ♪』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・今日は、ちょっと早起き。朝の6時に家を出る。

練習は7時からだから、充分に遅刻せずに着ける。だから、僕は顔を近づける。

そうして、大事で大好きな女の子に行ってきますのキスをする。





それから、唇を離して・・・・・・今度は、行ってらっしゃいのキス。なんというか、日課になってる。





これが、夫婦円満の秘訣らしいので、恥ずかしいけど頑張っているのである。










「・・・・・・ヤスフミ、気をつけてね。あ、お弁当は」

「大丈夫。さっき確認したから」

「そっか。じゃあ、頑張って来てね」

「うん。行ってきます、フェイト」

「行ってらっしゃい。ヤスフミ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ん・・・・・・海里?」



朝、起きてみると海里が居ない。私は寝間着のまま、テーブルを見る。

すると、そこには朝食がしっかりとラップをかけた上で置いてあった。



「あれ、居ないの? ・・・・・・あれ」



食事の横に、メモがある。それを私は右手で取って・・・・・・あぁ、そういえば言ってたっけ。

なお、手紙にはこう書かれている。憎たらしい事に私よりも綺麗な字で。



ガーディアンの仕事で、剣道部の練習に参加します。申し訳ありませんが、朝餉はレンジで温めてください。・・・・・・海里



だんだんと思い出してきた。うん、言ってたわ。確か、おチビちゃんも参加だっけ。

なんだか楽しそうな顔してたっけ。・・・・・・うちの弟は、マジであの子が好きらしい。



「私、あんまり言えた義理じゃないけど・・・・・・なんだか、嬉しいな。
アイツ、今までおチビちゃんみたいな相手、居なかったもの」










とりあえず、私はご飯を温める事にする。・・・・・・あ、コーヒーポットでコーヒーも煎れようっと。





なお、そう思った瞬間にコーヒーが出来上がっていたのには、非常に驚かされた。





我が弟・・・・・・色んな意味で、油断ならないわ。




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご


第46話 『海里・一日にして成らない夢への道』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・朝の練習場は、とても冷たい。特に床ですよ床。

剣道では基本的に素足。そして、練習場はフローリング。

というか板張りだね。なので、普通に7月でも冷たい。





しっかりと準備運動をして、まずは素振りから。・・・・・・てゆうか、マジでいいんだろうか。










”仕方ないでしょ、どうしてもって頼まれたんですし”

”まぁね”





一応説明。剣道は、日本古来の武術である剣術の竹刀稽古である撃剣を競技化した武道。

元々、剣術の稽古には木刀を使っていたのよ。ただ、それだと相手に重大なケガを負わせる事が多かった。

昔は今ほど医療技術も進んでなかったし、骨が折れちゃったら剣術はもう出来ないって言われる事もあった。



そうすると、おいそれと対人稽古が出来ない。相手もそうだし、自分も命がけになっちゃうから。

全力で頭に打ち込まれたりした日には、頭蓋骨が割れてお亡くなりかもしれないしさ。

そこで、昔の人は竹刀を考案した。全力で打ち込んでも、木刀ほどダメージを与えないしなる剣を。



そして、防具を考案した。その剣のダメージを防ぐ鎧を作ったのだ。それが、今の剣道の用具の始祖。

そこから撃剣という訓練項目が生まれて、文明開化と発展と共にスポーツになったのが、剣道。

試合場に使われるのは、僕達が居る板張りの床。ようするに屋内でだね。



そこに境界を含めて、1辺9mないし11mの正方形ないし長方形の試合場を作成。その中で試合をする。

境界は、普通は白のラインテープを貼って分けるとか。・・・・・・あ、テレビでの試合とかを思い出すと、分かりやすいかも。

あと、試合開始時の立ち位置もだね。同じように、試合場中心付近に白のラインテープで示されるの。



試合時間は5分。延長戦の場合には、3分が基準。

だけど、公式大会の決勝戦では、2007年から10分になるの。

で、技。剣道の全ての技は、竹刀で防具の決められた箇所を打つもの。



それ以外はだめってことだね。防具と防具の隙間とかは、アウト。

技は小手に面、胴。あとは突き。で、打ち方にも色々あるの。

ただ前に出て打ち込むって言うのもあるし、相手の攻撃を避けながらも打ち込むってのもある。



この辺り、竹刀のしなりを生かした技法だね。普通の剣じゃこうはいかない。

胴が特に当たる箇所が多いかな。正面と左右と三箇所あるから。

あ、当然のように足払いとかそういうのも禁止。実戦だと有効だけど、これはスポーツだもの。



勝敗は試合時間のうちに三本勝負の場合二本、一本勝負の場合一本先取した選手を勝ち。

また三本勝負において一方が一本を取り、そのままで試合時間が終了した場合、その選手が勝ち。

試合時間内に勝敗が決しない場合には、延長戦を行い先に一本取った選手を勝ち。



延長の代わりに判定あるいは抽選によって勝敗を決する場合、あるいは引き分けとする場合もあるとか。

判定および抽選の場合、勝者に一本が与えられる。団体戦における代表戦も、原則1本勝負。

技を決めると『一本』って言うでしょ? 僕、正直その定義が曖昧だったから、ちょっと調べてみたの。



全日本剣道連盟の定義では・・・・・・なんというか、若干曖昧?





”『充実した気勢、適正な姿勢を持って、竹刀の打突部(弦の反対側の物打ちを中心とした刃部)で打突部位を刃筋正しく打突し、残心あるもの』・・・・・・だったなの”

”曖昧ですね”

”正直、僕はここ自信ないかも”





そして服装。剣道着の下には、袴を着用。だから、僕と海里も袴姿なの。

紺色で下は黒。これはこれで、結構気分が引き締まるから不思議。

選手にもよるんだけど、足袋を着用するのもオーケーらしい。



試合・稽古を行う際は原則的に防具として垂れ、胴、面、籠手の剣道具を着用。

垂れが、下半身前面部分のアレだね。ほら、試合でゼッケンだったり名前が書かれる所。

なぎなたとの異種試合もするらしいんだけど、その場合はすね当ての着用も必要になる。



なぎなたには足払いの技もあるから、その対策だね。

それで面を着用する際には、頭に手拭い(面手拭い、面タオル)を巻き付けるのが一般的。

また、試合時には識別用として背中(胴紐の交差部)に紅白それぞれのたすきを付けるとか。



・・・・・・まぁ、マジで気をつけておこう。もっと言うと、自分が怪我しないように。

剣道と剣術って、やっぱり違う部分があるしさ。

というわけで、現在は朝の練習中。防具と竹刀は貸してもらった。



だって、このために揃えるわけにはいかないし。意外とお高いのよ? ちゃんと揃えようとすると、何万円かが飛ぶ。



今日は学校はお休みなので、普通に一日中練習ですよ。・・・・・・小学生も、大変だなぁ。





「でもさ、海里」

「はい」

「剣道って楽しいね」





これから防具を付けて他の子と打ち合い。最初はちょっと躊躇ったけど・・・・・・これはこれでよし。

とりあえず、基本ルールは復習したから大丈夫。で、突きは禁止手。ここ、忘れないようにしないと。

突きは高校生以上じゃないと反則になるのよ。やっぱり、相手への危険度が高い技だから。



防具を着けてると言っても、突きは点の攻撃。隙間を抜いた攻撃は出来るの。





「だと思います」



あれ、なんか普通に返された。てゆうか、海里がまた微笑ましそうに僕を見る。



「蒼凪さんの様子を見れば、そこは分かります」

「左様。拙者も気づいておったぞ。しかし」



基本的に、待機中は正座なのだ。まぁ、礼儀としてね?

そうしながら見ているけど・・・・・・みんな、楽しそう。



「みんな、楽しそうだな」

「あぁ。純粋に剣道が好きなのだろう」



かく言う海里も楽しそうなのは、言うまでもないと思う。・・・・・・やばい、ドキドキしてきた。

色々ルールや縛りもあるし、ちゃんと出来るかどうかが分からないしなぁ。うぅ、不安はある。



「というか、海里が練習試合っていいのかな」

「レギュラーに欠員が出てしまったとは言っていましたが」



朝練で僕達の具合を見てから最終結論を出すと、顧問と主将は仰っていたけど。

・・・・・・なんて話してると、僕達の番が来た。なので、右隣に置いてあった面を取る。



「では蒼凪さん」

「うん、しっかりやろうか」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・フェイトさん、普通に練習見に行くって」

「心配し過ぎなのですぅ」

「というか、それはあむもでしょ?」

「いや、あたしはスゥが勢い凄くて」



現在、時刻は朝の9時。あたしとフェイトさんは一緒に学校に来ていた。

でも、ちょっと心配ではある。恭文・・・・・・アレだしなぁ。



「えっと、道場は・・・・・・あ、アレだアレ」



あたし達は、ゆっくりと扉を開けて入る。



「失礼します」

「・・・・・・ん? お前は確か・・・・・・あぁ、6年の日奈森か」



角刈りで、ヒゲモジャの身長が180程ある先生。これが、剣道部の顧問の先生。

なお、2年月組の担任も兼任している。・・・・・・これで大人気とか。



「なんだ、後輩と同級生が心配で見に来たのか。・・・・・・えっと、そちらの方は?」

「あ、初めまして。ヤスフミの姉で、フェイト・T・ハラオウンと言います」



フェイトさんが、バシバシ打ち合っている子達の方を若干気にしながら言う。

うん、そうだろうね。だって、姉としか言えないもの。まさか恋人ですとは・・・・・・ねぇ?



「恭文には絶対教えられないね」

「教えたら、泣いちゃいますぅ」

「身長差とか、やっぱり気にしてるらしいしねー」



ラン、ミキ、スゥ、あたしも同意見。とにかく、話を進めようっと。



「あぁ、これはご丁寧に。私、剣道部の顧問の大河原と言います。・・・・・・ハラオウン?」

「義理の姉弟なんです。苗字が違うのも、少し事情込みで」

「あぁそうでしたか。すみません、失礼なことを聞きました。なら、蒼凪の様子を見に?」

「はい。それで、ヤスフミは」



先生は、納得した顔でそっと指を差した。そこには、防具を付けて赤いタスキを身体に巻いた男の子。

その子は自分に向かって突撃してきた子を捌いて、後ろに流す。



「・・・・・・踏み込み、甘いよっ! 鍔元で相手をぶった斬るくらいの勢いでいいっ!!」

「はいっ!!」



あ、恭文だ。え、ちょっと待って。あたしとフェイトさんは、よーく恭文の様子を見る。

恭文は飛び込んできたその子の面を払って、脇に入る。というか、斬り抜ける。



「めぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!」



な、なんか叫んでるっ!? というか、恭文間違えてるからっ!!



「うん、いい踏み込みだったっ! でも、もうちょっと速くっ!!」

「待て待てっ! 蒼凪、胴と面くらい間違えずにやれっ!!」

「へ?」



数秒、大河原先生の言葉に考えて、結論を出したらしい。



「・・・・・・しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



でも、なんか普通に先輩な顔して人に指導してないっ!? あたし、そこはちょっと驚きなんですけどっ!!



「・・・・・・ハラオウンさん、蒼凪は剣道は初めてと言っていたんですが、事実ですか?」



頭を抱えた恭文はともかくとして、大河原先生はフェイトさんを見る。疑問いっぱいという顔なのが、私にも見て取れた。



「それにしては見切りも反応も飛び抜けているし、剣撃も鋭い。
いや、そもそも身のこなしからして、初心者だとは全く思えないんです」



それから先生は、視線を恭文に移す。恭文は、さっきの子とは別の子を相手に打ち込み開始。



「ハッキリ言って、うちのレギュラーより実力がずっと上ですよ? 絶対に小学生レベルじゃない」



その子は、積極的に攻め込んで恭文は後ろに下がりつつ、打ち込まれる竹刀を捌く。



「まぁ、面と胴を間違える癖だけはなんとかした方が」

「ちぇすとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」



バシィィィィィィィィンッ!!



「・・・・・・待て待てっ! 普通に使い分けを放棄するなっ!!」

「駄目なんですかっ!?」

「駄目に決まってるだろっ!!」



あ、あははは・・・・・・なんて言うか、恭文はどこに行っても恭文だなぁ。

苦笑いするしかないあたしはともかくとして、フェイトさんは大河原先生の疑問に答えた。



「あのですね、剣道は本当に経験がないと思います。
ただ、知り合いから実戦剣術を習ってるんです」

「実戦剣術?」



これは・・・・・・恭文の先生で、すごく強い魔導師さんだったよね。それで、アルトアイゼンの元パートナー。



「あと、私の幼なじみの家で別系統の技も」





えっと、こっちはなのはさんの家だったよね。この間会った、士郎さんと美由希さん。

それにあの場には居なかったけど、なのはさんのお兄さん。すずかさんのお姉さんの旦那さんでもあるって言ってたな。

みんな魔法なしでも、すごく強い人達なんだよね。てゆうか、神速とか使えるんだし当然か。



やっぱり、そういう経験が剣道で活かせてるんだ。まぁ・・・・・・面と胴を間違えてるけど。





「どちらもかなり本格的な技で、相当叩き込まれてるんです。
ヤスフミも元々そういうのが好きなので、それで」

「・・・・・・納得しました。だから辺里が、打ち込み稽古の相手として推薦したのか」

「そうですね。あたしや他のメンバーは、マジで剣道サッパリですし」



今回恭文が引き受けたのは、選手としての助っ人じゃない。あくまでも、みんなの練習相手。

恭文、やっぱり色々気にしちゃってるみたいだから。こういう形なら大丈夫かもって唯世くんが考えたの。



「というか、いいんちょ・・・・・・三条君は」



そう言って気づく。そう言えば・・・・・・今までいいんちょって呼んでたけど、名前とかであの子を呼んでないなと。

なんか色々あってそのままになってたけど、これいいのかな。いいんちょ、もうすぐ転校だし。



「あぁ、三条も心配ないぞ。ほら」



先生が指差したのは、他のみんなと同じように打ち合っている二人組。

恭文より少し高い子が、飛び込みながらも竹刀を振るって面を打ち込む。



「「めぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!」」



でも、それは相手の子も同じく。・・・・・・竹刀が面に打ち込まれる音が響く。

同時に面に当たって、そのまま交差した。つまりこれは・・・・・・えっと。



「・・・・・・相打ち?」

「ううん、海里君が僅かに速かった。あれなら海里君で決まり」

「その通りです」



えぇっ!? で、でもあたしには同時に見えてたのにっ!!

・・・・・・あたし、もしかして駄目なのかな。ちょっと自信なくすかも。



「・・・・・・なるほど。蒼凪の素質はお姉さんの影響ですか。良い目をお持ちです」

「い、いえ。あの・・・・・・その、恐縮です」

「それで先生。まぁ、恭文はともかく三条君は」

「これなら3日後の練習試合にも充分出せる。
週明けに、辺里に礼を言わんとな。これは助かった」










大河原先生が、納得した様子で恭文といいんちょを見る。あたしとフェイトさんも同じ。





・・・・・・というか、なんだろ。二人とも楽しそうだな。うん、すごく。





特に恭文はこういうスポーツ関係の助っ人はNGにしてたし、それもあるんだよね。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



休憩時間が来た。僕・・・・・・は無いので、海里が、レギュラーとして試合に出る事になった。

そしてビックリした。普通にビックリした。何故にあむとフェイトが居るのさ。

普通に姉と言われたのに、ちょっと泣きそうになる。まぁ、色々とね。





とにかく防具を一旦外して道場の外でクールダウンしつつ、お話である。










「・・・・・・しかし、ハラオウンさんとジョーカーが来ていたとは」

「まぁ、ガーディアンメンバーとして一応ね。唯世くんは家のお手伝いだって言ってたしさ」



あと、りまとややもちょっとお出かけしてる。シャーリーとディードとリースと一緒に、買物とか。

・・・・・・シャーリーとディードは普通にややとりまと仲が良いよね。なんか、姉妹みたい。



「えっと、ちょっと気になって。それで海里君は試合の助っ人・・・・・・なんだよね。
ヤスフミ、何かされてもあまり乱暴なことしちゃだめだよ? 相手は小学生なんだから」

「フェイト、僕をなんだと思ってるっ!? そんなことしないからっ!!」



それ以前に、僕は試合出ないからっ! もうここは決定なのっ!!



「でも、楽しそうだったね」

「うん、楽しいよ」

「大河原先生、言ってたよ? 二人を剣道部に誘えないのが惜しいって。
ほら、海里君はもうすぐ転校だし、恭文も6年生だから」



あー、新学期が来たら6年生はそろそろ引退ムードって感じらしいしね。

でも、そっか。半年で卒業・・・・・・うーん、それまで居られるのかなぁ。



”ね、ヤスフミ。正直に答えて欲しいんだ”



突然、念話に切り替わった。・・・・・・うん、どうしたの?



”学校、このまま通いたいと思う? もっと言うと、卒業したい”



少しドキっとした。それは、前にあむに対して話した事だから。

あむ・・・・・・が話すわけないか。ということは、なんか見抜かれてたのかな。



”フェイト、いきなりどうしたの?”

”いいから、答えて?”



どうやら、答えるしか選択肢がないらしい。・・・・・・だから僕は、正直に言うことにした。



”エンブリオやイースターの一件次第だけど、出来たらなぁって”

”そっか。学校、楽しい?”

”楽しいね。最初は嫌で嫌でたまらなかったけどさ”



だって、今さら小学生よ? ランドセル背負って仲好し小好しってのもアレだったしさ。

でも・・・・・・あむ達と友達になって、ガーディアンになって、色々事件を超えてからかな。



”こういうのも、悪くないかなって思うようになったの。
特にさ、ガーディアンって僕の性には合ってるみたいだから”

”うん、だと思う。多分守るために真っ直ぐに向かえるところが、合ってるんじゃないかな。
ガーディアンは、局みたいな縛りや柵に縄張り争いも無いから、ヤスフミの理想に適ってる”

”そうだね”



ガーディアンでは僕の長年局とかに感じていたジレンマが、解消されてるんだよね。

柵とか権力や縄張り関係でのゴタゴタとかもない。まぁ、規模が違うからなんだけどさ。



”・・・・・・あ、そっか。僕、ガーディアンに居て楽しいし幸せなんだ。ある意味では、願いが叶ってるのかも”



ずっと感じて、考えていたこと。守るために、真っ直ぐに躊躇わずにそこに向かうこと。飛び込むこと。

僕の理想の一つであり、願い。・・・・・・うん、ガーディアンの中では、叶ってるんだ。



”今頃気づいたの?”

”うん、今頃気づいた。・・・・・・今頃ね”



なんかこう、組織どうこうなんて感じられなくて、居心地いいから今ひとつ実感なかったけど・・・・・・そう、なんだよね。



”なら・・・・・・あのね、もし事件が早めに解決しても、そのまま学校に通ってていいよ?”

”いや、さすがにそれは”

”私も、卒業するまではこっちに居るから”



・・・・・・・・・・・・え? いやいや、フェイトちょっと待って。

それはおかしくないっ!? だって、事件が解決したらフェイトは本局戻るのが道理でしょっ!!



”あのね、もちろん理由はある。ヤスフミ、ずっと私の騎士で居てくれた。
私の今と時間と笑顔を守ってくれて、仕事の中にある夢や理想を通す手伝いをしてくれた”

”そんなこと、ないよ? 僕・・・・・・それほど出来てる自信ない”



何気に暴走することもあったりしたし、フェイトに迷惑かけてるかなーって心配になる時もある。

うん、自信ないや。僕、やっぱわがままみたいだから。



”そんなこと、ある。だから、今度は私がヤスフミの夢を、願いを叶える手伝いがしたいの。
というより、さすがに一人暮らしは無理だよ。学校に怪しまれちゃう。だから、私は側に居る”

”いや、でも・・・・・・あの”



フェイトの仕事の邪魔とかしたくないし・・・・・・って、仕事中に子作りしちゃったから、アレなんだけどさ。



”お願い、そうさせて欲しい。私がそうしたいの。自分を犠牲になんてしてないから”

”・・・・・・そこまで言ってないよ?”

”でも、ちゃんと分かって欲しいから。ヤスフミの夢の形が進化したように、私の願いに夢の形も進化するの”

”・・・・・・フェイトも?”



フェイト・・・・・・あ、でもそうなのか。僕だってそうなんだから、フェイトだって同じに決まってるよね。

だから、フェイトが念話なのにしっかり頷いたのにも納得出来た。



”うん。二人で親になるというのと、これも同じなの。というより・・・・・・私の事、振り回して欲しいな。
付き合う前も後も、いつも私がヤスフミを振り回してばかりだったんだもの”

”僕だって振り回してたと思うけど”

”ううん、ヤスフミは振り切ってただけだよ。・・・・・・自分の事で私達を振り回してくれた事なんて、一度もない。
私、それがちょっと寂しかったんだ。ヤスフミは気遣ってくれてたのは分かるけど、それでも。だから・・・・・・ね?”



優しく、フェイトは僕の目を見る。見ながら・・・・・・言葉を届けてくれる。



”だから、今度はヤスフミが振り回して? 私は付き合う。私の勝手で、わがままで。
付き合って・・・・・・一緒にヤスフミの夢を、追いかけたいんだ”



だから、僕は・・・・・・頷いた。申し訳なさと、泣きそうになるくらいのありがたさを感じながら。



”分かった。フェイト、あの・・・・・・ありがと”

”ううん。それじゃあ、クロノともお話しないと駄目だね”

”そうだね。・・・・・・まぁ、卒業まで事件が解決しなければいいんだろうけど、それもなぁ”

”それも・・・・・・なんだよね。だって、普通にそれは不謹慎だもの”

”そうだね。うん、反省した”



夏の空を見ながら僕は思う。確かに、不謹慎だと。

・・・・・・フェイト、ごめん。でも・・・・・・ありがとうで、いいんだよね。



「ね、恭文といいんちょは3日後までずっと剣道部通い?」

「そうですね。・・・・・・正直、蒼凪さんを差し置く形なのが申し訳ないのですが」

「海里君、問題ないよ? ヤスフミはまず、面と胴を間違えないようにするところからだもの」

「フェイト、お願いだから言わないでー! ねぇ、何度やっても間違えまくるんだけどどうすればいいのっ!?」



普通に、どうなるんだろ。えっと、縦が唐竹・・・・・・面、でいいよね?

あれ、おかしいな。ちゃんと基礎知識は勉強してるのに。



「ボクが思うに、恭文はいつも、『はぁっ!!』とか『うぉりゃぁぁぁぁぁぁっ!!』とかやってるから、咄嗟に区別付かないんじゃないの?」

「ヤスフミ、まず試合に出たかったらそこからだよ。普通にヤスフミの手、無効手ばかりになっちゃうし」

「うぅ、反論出来ない。あ、そういやさ、海里」

「はい」



まぁ、僕の話ばかりしてもアレなので、別の話をしよう。それは、剣道部のあの子。



「僕達がさっき打ち合ってた、えっと・・・・・・横山徹君だっけ」

「はい、5年星組の生徒ですね。あと、名前は満ですよ。・・・・・・蒼凪さんも、気づきましたか」

「うん。打ち合ってたしね。ちょっとこう、力み過ぎてる感じがした」



力み過ぎてて、身のこなしや反応やスピードが落ちてるのよ。だから、対処しやすい。

気迫はあるんだけど、それに圧されなかったら・・・・・・まぁ、言い方悪いけど結構楽な相手。



「えっと、二人とさっきまで・・・・・・あぁ、あの海里君よりも身長高くて、身体も大きな子」

「うん、その子」

「私とあむも大河原先生から聞いたけど、確かあの子レギュラーなんだよね?」

「うん」



なんか、一種のスランプって言うの? 体格が大きいから、今まではそれで勝ってたのよ。

でも、5年に上がってからはさっぱりらしい。それだけじゃ勝てない相手も出てきたから。



「ね、あたしは剣術とか詳しくないんだけど、身体が大きい小さいって、やっぱ色々変わるの?」

「うーん、まず単純な身体技能だけで言うなら、腕の力が強ければ斬撃が強くなる。
そして、体格が大きければ突進して相手とぶつかった時に、圧し負けない」



突進術では体格が、乱撃や一撃の威力では腕の力が大きな要素になるのは確か。

もちろん、他の基礎がしっかりと固まっていることが絶対条件だけど。



「ただ、それだけじゃないよ? 身体が小さくても要はやりようだから。
小さいということは、相手から見ると攻撃しにくいという利点もある。・・・・・・あ、あの大丈夫だよ?」





フェイト、僕のことそんな気にしなくていいから。うん、利点だって分かってるし。

というか、僕の剣術はそれとはまた違うしなぁ。僕の基本は斬ろうと思えばなんでも斬れる。これだもの。

うーん、そう考えると・・・・・・やっぱ、僕自身をパワーアップさせていかないとだめなんだよなぁ。



最近色々頼り過ぎてたのは、事実だしなぁ。もちろん、たまごの関係があるから無茶も出来ないんだけど。





「あとは、身体が軽いから身のこなしや運動スピードが速い?
剣道の場合は、反応スピードが重要だから、そこを上手く活かせばなんとかって感じかな」

「でも、パワーはない。・・・・・・そうだ。マジな斬り合いなら俺の方が、俺が有利なんだ」



声は前から。いつの間にか僕達の目の前に居たジャイアン体型なのが、噂のあの子である。

もうそれは不満たらたらという目で僕を見る。どうやら、さっきのアレコレで負けたのが悔しいらしい。



「横山先輩、どうしたのでしょう」

「どうしたもこうしたもねぇっ! お前ら、俺ともう一回勝負しろっ!!
部活も何も関係ねぇっ! お前ら二人とも、ぶっ潰してやるっ!!」



とりあえず、スポーツドリンクを飲みつつ休憩である。で、目の前の子を見る。

・・・・・・はぁ、この手のに関わるのは正直嫌なんだけど。だって、『お話』出来ないし。



「あ、それは無理」

「俺も同じくです。そんなくだらない理由でのケンカなど、やるべきではない」



これで言って納得・・・・・・しないよねぇ。だって、犯罪者レベルで『お話』出来ないっぽいし。



「へ、逃げるのか」



うわ、ウザい。なんというか、このテンプレ的な発言はなんとかならないのかな。



「まぁ、ママ同伴で練習に来るような軟弱野郎共だしな」



そう言いながら、バカにしくさった目でフェイトを見る。・・・・・・・潰す。



”ヤスフミ駄目っ! あの、大丈夫だよっ!? 私はママじゃなくて、恋人なんだからっ!!”

”それでもコイツムカつくっ! 普通に叩き潰して・・・・・・やれればいいのにー!!”

”あ、一応やっちゃだめって自覚はあるんだ”

”当然でしょ。試合前だって言うのに揉め事起こしたら、今回のミッション達成に差し支える。
唯世に色々気も使わせちゃってるし、ここでいつもの調子でぶっ潰すとかダメなのよ”

”・・・・・・納得したよ”



この野郎、こっちがガーディアンだからそういうのが無理だって分かってて、ケンカ売ってるし。

アレだ、こっちをイライラさせてそれでストレス解消って腹だよ。・・・・・・普通に小物思考だし。



「ケンカする度胸もねぇのは当たり前か」



とりあえず、フェイトを見る。フェイトは視線で『絶対だめ』と言う。なので、あむも見る。

あむは・・・・・・やばい、キレかけてる。全く、これだから話術サイドの人間は。・・・・・・僕は、ため息を吐く。



「仕方ありません、それでは3日後の午前3時。場所はここで」



溜息を吐いて僕が踏み出す前に、海里が動いたけど。



「・・・・・・待て、試合前だぞ」

「試合前だから、いいのです。・・・・・・せっかくです、色々と賭けた方がいいのではありませんか?」



海里は上を見上げる。というか目の前のテンプレ小学生を見る。

そしてニヤリと笑う。うん、分かってくれたらしい。



「いいぜ、乗ってやる。お前らをぶちのめして、試合前の景気付けにしてやる。
・・・・・・くくく、楽しみにしてな。お前ら、これで終わりだぜ。実戦とスポーツの違いを、叩き込んでやる」



そのまま、テンプレ発言しまくりな小学生は消えていく。・・・・・・お達者でー。



「・・・・・・海里君、駄目だよ。こんなことして、どうなるの?」

「そうだよっ! これでケンカなんて、駄目に決まってるじゃんっ!!」

「嫌だなぁ、ケンカになんてならないよ。ね、海里」

「はい。というより、見抜かれていましたか」

「もちろん。僕も同じことやろうとしてたし」



笑顔でそう言うと海里は苦笑し、フェイトとあむが固まった。そして、首を傾げる。



「あのね、僕達はこの場には行かないから。もちろん、海里だってそのつもりで話してる」

『はぁっ!?』

「あのさ、みんな」



僕は周囲の気配を探る。あのジャイアン体型な子が居ないのを確認した上で、小声で話す。



「海里は、日時と時間を指定しただけだよ? 僕と海里が、そこに必ず行くなんて言ってないでしょうが」

「その通りです。なので、俺達は遠慮なくすっぽかさせてもらいます」



二人の表情が、ハッとした顔になる。そして、次の瞬間に叫んだ。



『あぁっ!!』



・・・・・・某美少女天才魔導師も使っていた手である。ふふふ、午前3時に学校内で待ちぼうけ。

いや、そもそも入れるかどうかも分からない。楽しいねー。ワクワクだねー。



「いいんちょっ! アンタ、それいいのっ!? いや、言ってないのは分かるけどさっきの言い方だと・・・・・・思いっ切りオーケーじゃんっ!!」

「構いません。孔子の論法にも、戦わずして勝つ事が最上策とあります。
なにより、ああでも言わなければ納得しないでしょう。問題ありません」

「そうそう。なお、当日は雨らしいからきっと大変だね。いやぁ、夜明け前の雨は冷たいって言うし」

「ヤスフミも海里君も、あの・・・・・・ケンカしないのはいいことだと思うんだけど、それはどうなのっ!?」



うーん、二人がとっても不満そうだ。でも、だったらどうしろと?

普通にケンカしたりするの、駄目なのにさ。



「・・・・・・海里、成長したな。拙者は嬉しいぞ」

「ムサシ、私が思うに多分これは成長じゃないよ。恭文に毒されてるんだよ」

「ボクも同感」

「ある意味別キャラですぅ」










・・・・・・そして3日後。試合の日は当然のようにやって来た。

当然のように僕は、午前3時にはフェイトとギューってハグしながらお休み中。

海里も行ってはいない。とは言え、レギュラーの子を体調悪化させてはまずい。





僕と海里は協議の上で、体調悪化しないように大河原先生にこのやり取りの一部始終を伝えた。

なお、あむとフェイトが何故か苦笑いしてたけど、気にしてはいけない。

午後の練習時間一杯、あの子が大河原先生とマンツーマンでお話とかしたのも気にしてはいけない。





とにもかくにも、試合は始まるのである。僕は参加しないので、観客席から観戦である。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「試合前、控え室では皆が緊張しておる。うむ、中々にいい光景だ」

「ムサシ、誰に説明しているんだ」





だが、これはいい。適度な緊張感は、神経を研ぎ澄まし力を高めてくれる。

なので、俺も控え室の椅子に座りつつ精神集中。・・・・・・ジョーカーも見に来てくれてるらしいしな。

ここで良い所を見せる・・・・・・もとい、勝利すれば、告白の弾みがつくのではないだろうか。



そうだ、きっと弾みがつく。それで・・・・・・よしっ!!





”だが海里”

”なんだ、ムサシ”

”あの者、普通にイライラがクライマックスだな”



お前、どこでそんな言い回しを覚えた。・・・・・・だが俺は、そのクライマックスな人間を見る。

それは、横山満先輩。普通に俺に敵意を向けてくる相手だ。



”・・・・・・ムサシ、やはり告げ口はまずかっただろうか”

”少なくとも、雨が降りしきる午前3時の誰も居ない学校に呼び出すのと、普通に決闘するよりは最善手だったと思うぞ。
そしてお主と蒼凪殿の二人がかりで、本当の意味で実戦とスポーツの違いを叩き込まれて自信喪失になるよりはな”

”まぁ、確かにな”





実戦の厳しさ、所用で実家に戻られた恭太郎さんと、ディードさんに相当教えられている。

あとは、蒼凪さんとのアレだな。色々自分に対して思うところもあるが、それでも実戦だ。

・・・・・・正直に言えば、告げ口した事に少し罪悪感もある。決闘を申し込まれてこれは、色々と辛い。



もし蒼凪さんにこれをやられたらと思うと、オチオチ山口に帰る事も出来ない。





”ただ、拙者が思うに本当の意味で生産性の無いケンカで無ければ、よいのではないか?”



ムサシが、俺の左側にぷかぷか浮かびつつ横山先輩を見る。

俺も、同じように見る。横山先輩はそれに気づいたのか、睨み返して視線を外した。



”双方が研磨するという目的の元であるなら、拙者は大丈夫だと思う”

”・・・・・・なるほど”

”そして、拙者はお主と蒼凪殿とならそれが可能と信じている。・・・・・・自信を持て”

”ムサシ・・・・・・すまない”

”なに、気にするな”










・・・・・・・・・・・・ミッドで夏休みを過ごして、蒼凪さんの戦技披露会の話が終わってからだな。

時間にすれば、一ヶ月以上。だが、一ヶ月程度しかない。その間にもっと伸びなくては。

力になってくれたディードさんと恭太郎さんに、いい報告が出来るように。





なにより・・・・・・本当の意味での俺を、あの人に悔いの無いようにぶつけて勝てるように。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・剣道というのは、スポーツではある。だけど元々は剣の鍛錬というのは、前にも話したと思う。

だから精神的なものが、すごく要求される競技でもある。力だけじゃどうにもならないのよ。

赤のタスキを巻いている方が、我が聖夜小の先鋒。なお、ジャイアン体型。





白のタスキを巻いている子が相手方。集英学園という、隣町の小学校の剣道部。

聖夜小の剣道場で、試合は始まっている。そして現在鍔迫り合い状態。

聖夜小先鋒はぐいぐい押し込んでいく。もう見るからの力押し。





それだけじゃなくて、声もあげる。










「はぁっ!!」





押し込まれている方は、右側に逃げつつ力を別方向に逸らす。体当たりじゃ、普通にやられるから。

距離を取って・・・・・・一瞬で詰める感じかな。前にも言ったけど、体格が大きければ剛剣になるもの。

無駄にぶつかり合う必要はない。それ以外にも攻め手はある。だから、その子は大きく後ろに跳んだ。



跳ねるように跳躍し、竹刀の切っ先を前に向け、跳びながらも両手で右小手に向かって打ち込む。





「こてぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」





聖夜小の先鋒は、距離を詰めることしか考えてなかった。だから、小手への反応が遅れた。

遅れて・・・・・・その小手を受ける。受けたから、白の方に旗があがった。これで一本である。

それから、互いに中央の立ち会い線まで戻って・・・・・・二本目開始。



今度は飛び込まない。それでも、距離を詰めていく。互いに一歩踏み込めば相手の間合いという距離になる。

本当に2メートル有るか無いかの距離で、竹刀の切っ先や中程が触れ合う。

時計回りに動きながら、白がフェイントをかける。竹刀を振りかぶろうとするのだ。



それに反応しかけるけど、赤は動くのを抑える。・・・・・・だけど、振りかぶった。





「めぇぇぇぇぇぇぇんっ!!」





咄嗟にその子は避ける。避けても、面が入った。でも・・・・・・無効だ。

僅かにだけど、太刀筋がズレてた。あれじゃあ有効打にはならない。

それからその場で対峙。また、先ほどと同じように動いていく。



互いにフェイントをかけつつ、対処・・・・・・って、何気にレベル高いな。

そう思った瞬間、勝負が決した。白の手が動いた。面を打ち込もうと腕が上がる。

赤はそこを狙って、小手を叩き込む。でも、白の切っ先が途中で止まった。



そこから、電光石火と言わんばかりに赤の左小手に向かって、竹刀が叩き込まれた。





「こてぇぇぇぇぇぇぇっ!!」





打ち込んですぐに竹刀を引いて、向こうの小手を竹刀で止める。それで、勝負はついた。

凄く的確で、僕から見ても綺麗な小手だった。だから、我が聖夜小の先鋒は敗れた。

なお、先鋒は横山満。僕と海里の善意のおかげで、風邪を引くのをまぬがれた子である。



何故かここまでの間に相当睨まれたけど、気のせいということにしておく。





「それまでっ!!」



・・・・・・とりあえず、先鋒が落ちたから一敗か。でも、相手の子強いなぁ。

僕より身長が小さいから、4年生かな。なのに、動きも速くて打ち込みも綺麗。



「礼っ!!」



剣道の一試合は、前にも言ったけど総合で5分。だから、結構スピーディーに決まる。

それでも今回はかなりスピーディーだった。立ち位置に戻るのとか、礼とかそういうのを含めたら、マジで秒殺だ。



「・・・・・・全然相手になってなかったね」



呟くのは、試合を見に来ていたフェイト。で、僕もそれに頷く。道場の上の方には、二階があるのよ。

一応、そこから試合を見たりも出来る。というか、してる。



「そうですね。てゆうか、あたしの目から見てもこう・・・・・・さっぱりって感じで」

「あの面をズラしたのも多分ワザとだろうし、見抜かれてたね」

「というか、悔しそうだなぁ」



・・・・・・動き、3日前よりずっと悪くなってる。普通に焦ってる感じだね。うーん、対処マズった?

でもさ、相手にしなかったらしなかったでメンドいしケンカしてもだめだし、どうしろって言うのさ。



「えっと、いいんちょは」

「三番目だね。この次の次」

「あぁ、どうしよう。なんだかハラハラドキドキだよ」

「実は私も。みんな、中々にレベルが高いから見ごたえがあるよね」



とりあえず、女性陣二人は楽しそうである。うん、いいことだよ。



「・・・・・・恭文」

「ミキ、どうした?」

「練習見てても思ったけどさ、みんな楽しそうだね」



確かにね。やっぱり、剣道が好きなんでしょ。好きこそモノの上手なれって言うし。



「だけど・・・・・・あの満って子は、そうじゃないね。なんだか、辛そう」

「・・・・・・確かにね」

「ね、恭文は剣術とか魔法の勉強を続けてるのって、やっぱり強くなりたいから?」

「それもある」



でも・・・・・・あぁ、でもなんだよね。でも、それだけじゃない。



「剣術や魔法が好きだからかな。うん、そこは根っこだ」



そういうのをやってて、やっぱり楽しいって思う時は多いの。強い相手と戦える時とかさ。

そうだね、だからずっと続けていられるんだと思う。辛いことがあっても、剣と魔法は離せない。



「そっか。・・・・・・もしかしたらあの子もそうだったはずなんだよね。
でも、ちょっと分からなくなってるのかも。勝つから好きじゃないと思うんだけど」

「確かにね。綺麗事ではあるけど、それだけじゃないよ」

「・・・・・・・・・・・・あのぉ」



スゥが、周りを見渡しながら声をあげる。というか、ランも同じく。

それに僕とあむ、フェイトは首を傾げる。傾げて疑問に思う。



「なんでしょう。どこかから×たまの気配がしますぅ」

「はぁっ!? どこかからって・・・・・・まさか、この中にっ!?」

「うん、間違いないっ! ×たまの気配がするよっ!!」

「・・・・・・正解みたい。みんな、アレを」





フェイトが指差すところを見ると、倒れている子が居る。というか、ちょっと目を離した間に倒れた。

倒れていたのは、横山満。そして、その身体から黒いエネルギーが放出される。

それを浴びた近くの人間が次々と倒れて、その人達の胸元から・・・・・・ば、×たまっ!?



当然のように、あの子の胸元からも×たまが出てくる。そして、たまごが割れた。

割れて出てきたのは、黒くて防具を付けた×キャラ。というか、普通のより二回りほど大きい。

ソイツは剣道場の上の方に浮かぶと、口を開ける。大きく野太い感じで声を上げた。





『ムリィィィィィィィィィッ!!』





その声に呼応するように、近くの子どもの胸元から出てきたたまご9個が×キャラに集まる。

集まって、大きめの×キャラに吸い込まれた。防具装備の×キャラは大きさを増して・・・・・・剣道場の床に着地。

体長は2メートルほどになり、また立派なお腹と体型になってる。そして、黒い竹刀を両手に持った。



着地した床は重みで砕けて、その破片が周囲に飛ぶ。だけど、周りの人間は見えていない。

だから混乱しまくる。しまくるけど、みんなの姿が消えた。・・・・・・残っているのは、僕と海里、あむとフェイト。

それにしゅごキャラ以外の存在が、その場から姿を消した。



それだけじゃない。世界の色も暗くなった。というか、これ・・・・・・結界?





「・・・・・・ヤスフミ」



フェイトが右手を開いて、前にかざす。金色のミッド式魔法陣が、手の平の上に出ていた。



「結界は私が維持しておくから、あむと海里君と一緒に対処を」

「分かった。フェイト、ありがと。もう空気を読んでくれるところも大好き」

「あ、あの・・・・・・ありがと」



とりあえず真っ赤な顔のフェイトにはサムズアップして、僕達は見る。

・・・・・・あのデカい×キャラを。いつぞやみたいに複数体だから、気をつけないとやばいかも。



「あむ」

「うん、いくよ」

「待ってくださいっ!!」



声が聞こえて来たのは、下から。そちらを見ると、剣道着姿の海里が居た。

立ち上がり、僕達の方を見上げるようにする。



「俺に、任せてもらえませんか?」

「いいんちょ、何言ってるのっ!? さすがにこれは」

「ジョーカー、頼みます。・・・・・・やはり、約束はしっかりと守りたいんです」



海里は胸元に手を当てる。それを見て・・・・・・うん、決めた。



「・・・・・・分かった」

「ヤスフミっ!!」

「海里、一応確認だけど僕も」

「はい、手出ししないでください」



瞳を見てみるけど、海里はマジだ。多分止められない。てゆうか、どうやって止めればいいの?

色々と煙に巻いたのは事実だしさ。海里がそれを気に病んでも、しゃあないでしょ。



「約束したのは俺です。なら、俺がこの手で」

「・・・・・・マジで死にかけても、助けないから。遠慮なく見殺しにする」



笑顔でそう言うと、海里も同じように笑う。



「ありがとうございます」



笑って、真剣な顔つきに戻って・・・・・・海里は×キャラを真っ直ぐに見据える。



「・・・・・・ムサシっ!!」

「おう」



そして海里は、そのまま鍵を開けた。



「俺のこころ・・・・・・! アンロックッ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



包まれるのは、緑色の着物。そして、頭から透明な羽織りを被る。

両手には銀色に輝く二振りの日本刀。メガネは外れ、髪型はポニーテールになる。

溢れる光の中で、俺はムサシの力を借りて鍵を開ける。そうして引き出す。





拭えないで、捨てられなかった俺の・・・・・・未来への可能性を。










【「キャラなり」】



×キャラを見据え、俺は右の刃の切っ先を向ける。そして、右の足で一歩踏み出す。



【「サムライソウルッ!!」】

『・・・・・・ムリィィィィィィィィィッ!!』



×キャラの竹刀が、振り上げられる。それは俺に向かって打ち込まれた。俺は、右に跳んで避ける。

黒い竹刀は床を砕き、真っ直ぐな亀裂を刻む。それを見て、確信する。



【海里、パワー勝負では勝ち目がないぞ】

「あぁ。それに、突進も思っていたより速い」



恭太郎さんやディードさんとの訓練で、もっと上の速さに慣れているから対処出来るだけだ。

両の手を強く握り締める。・・・・・・集中しろ。アレを一撃食らったら、その時点で終わる。



「行くぞっ!!」

【おうっ!!】



俺は前へと突撃。俺には、遠距離攻撃の手段などない。

基本は近づいて斬るだけ。だから、俺は走る。



『ムリィィィィィィッ!!』



×キャラも同じ。走って、俺へと接近する。いわゆる八相の構えの状態で、剣を振り上げる。



『メェェェェェェェェンッ!!』



・・・・・・先手必勝っ! 俺は、一気に懐へと踏み込んだっ!!



「イナズマ」



刀身に走るのは緑色の雷撃。それを刃に纏わせ、斬撃により強い力を与える。

突撃する俺を見て、剣を振り上げる。だが甘い。やはり・・・・・・そう、やはりなんだ。



「ブレードッ!!」





やはり、横山先輩の×キャラだ。先輩と同じく、相手に先に踏み込まれると面を打とうとする。

力押しで叩き潰そうとして、胴ががら空きになる。練習の時もそうだった。

だから俺は、胴に向って両の刃を叩き込み斬り抜ける。×キャラは、そのまま刃を振り下ろす。



先程と同じように床に斬撃を叩きつけ、床を砕く。





「・・・・・・手応え、あり」



そう口にした瞬間、殺気を感じた。俺は、咄嗟に振り返って二刀を前にかざす。

襲い来るのは、黒い竹刀。斬撃というものではなく、力任せに振り回した右薙の一撃。



【バカなっ! しっかり胴に入ったハズだぞっ!!】



伝わる衝撃に顔を歪めつつも俺は、そのまま吹き飛ばされた。そして、壁に叩きつけられる。



「・・・・・・がは」



う、受身を取る余裕すらなかった。・・・・・・そのままずり落ちて、床に落ちる。

だが、何故だ。何故・・・・・・まずいっ!!



『ツキィィィィィィィッ!!』



俺の顔目がけて、突きが飛んでくる。咄嗟に右に転がるようにして回避。

竹刀の切っ先は、結界内とは言え壁を砕いた。その間に、俺は後ろに数度跳ぶ。



「・・・・・・ハラオウンさんが結界を張ってくれて助かった。そうでなければ」

【普通にけが人を出していたぞ。後で礼を言わなければな】

「あぁ」



だが何故だ? あの一撃はしっかりと・・・・・・俺はそこで気づいた。

突きを外し、苛立ち混じりに俺を見る×キャラを改めて見てようやくだ。



「そうか。防具だ」



この×キャラは、横山先輩のこころの中から出てきたせいか、剣道の防具を着けている。

恐らく、さっきの一撃は×キャラ本体には届いていない。



【・・・・・・海里】

「これはまずいかも知れないな」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・やばい、いいんちょ絶対やばいっ!!」

「×キャラの防御力が、海里君の攻撃力を上回ってるんだね。
・・・・・・このままだと、いずれ叩き潰される」

「フェイトさん、冷静に分析してる場合じゃないですってっ!!」





いいんちょ、×キャラの攻撃を避けたりは出来るみたいだけど、攻撃が通らなくて苦戦してる。

面を打ち込む時とか、×キャラが攻撃する瞬間を狙って何度もイナズマブレードを打ち込んでる。

今だってそう。胴に来た攻撃を、上にジャンプして避けた。避けつつ、いいんちょの身体は前に動く。



動いて、相手の頭を狙って上から右の刃を打ち込む。・・・・・・そして、面の中の×キャラが笑う。

頭を動かしていいんちょを振り払うようにすると、着地したいいんちょを狙って唐竹の一撃。

いいんちょは、左に跳んでそれを回避。そのまま、時計回りに走る。それから踏み込んだ。



あたしなんかじゃ追い切れないレベルで×キャラに向かって踏み込んで、相手の胴を打ち抜く。



打ち抜くけど、やっぱり効果が・・・・・・あぁもう、これってループしまくりじゃんっ!!





「というか、ルール違反だってっ! 剣道は最大で3本勝負でしょっ!?」

「あと、突きも小・中学生は禁止手なんですよぉっ!? 卑怯ですー!!」

「あむちゃん、これまずいよ。いいんちょだけじゃ止められない」



そうだよね。うん、無理だ。だからあたしは、前へ一歩踏み出す。

いいんちょの事助けるために。だけど、そんなあたしの前に手が来た。



「あむ、やめて」



それは、恭文。恭文は右手であたしの邪魔をする。



「恭文、手をどかして」

「だめ」

「だめじゃないっ! このままじゃいいんちょ、やられちゃうじゃんっ!!」



だから、手を無理矢理にどかして動こうと。



「あむ、聞こえなかった」



だけど、動きが止められた。恭文の声が、すごく冷たいもの聞こえたから。



「海里が、自分でやるっつったんだ。手出しなんてさせない。するなら・・・・・・僕とケンカする覚悟決めろ」

「恭文、アンタ」

「恭文、そんなこと言ってる場合じゃないよっ!!」

「そうですよぉっ! このままじゃ、海里さんが大怪我じゃないですかぁっ!!」



ランとスゥの言葉に、恭文はため息を吐く。吐いて、×キャラと斬り合っているいいんちょを見る。



「あむ、あとキャンディーズもバカでしょ」

「バカってなにっ!? 恭文、いい加減にしないと私本気で怒るんだからっ!!」

「海里が負けると本気で思ってんの?」



そこまで言って、恭文はあたしの前に上げていた手をどかした。

恭文の目は・・・・・・ずっと、攻撃を避けつつ色んな箇所にイナズマブレードを打ち込んでいるいんちょに向いてる。



「もし、海里が信じられないなら、本気で負けると思ってんだったら行けばいい。
でも、僕は行かない。海里が、この程度の相手に負けるわけがないから」





その言葉がなんというか、少し突き刺さって・・・・・・あたしは、フェイトさんを見る。

フェイトさんは、恭文の左隣で様子を見ていた。そして、あたしを見て頷いてくれる。

もしかして恭文、いいんちょが勝つって信じてるの? こんな状況でも、ずっと。



だから動かない。だからあたしの事も止めた。・・・・・・邪魔、だから。





「なにより、ルール違反って言うなら海里からだよ。まず、そこからだって」

「・・・・・・はぁっ!? ちょっと、それどういうことよっ!!」

「あのねあむ、公式的なレギュレーションでは、基本的に二刀流は禁止なのよ。
一応許されてはいるけど、使う人間なんて全く居ないはず」



公式的なレギュレーション? ・・・・・・もう一度、あたしはいいんちょを見る。

いいんちょは、自分と相手を見比べて何かに気づいたような顔になった。そして、左の刃を投げた。



「えぇっ!? あの、アレってどういうことっ!!」

「・・・・・・あ、もしかして」

「そうだよフェイト、多分・・・・・・これで正解」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



俺は一つ間違いを犯していた。だから、左の刀を投げた。

投げて、隅に突き刺す。それから・・・・・・×キャラの前へゆっくりと歩く。

歩いて、立つのは中央線の近く。×キャラは、攻撃する事なく同じように立つ。





あぁ、やっぱりだ。だから、今までのあれこれだったわけか。










「・・・・・・あなたは、本当は剣道が凄く好きなんですね」



ゆっくりと、両手で正眼に刀を持つ。そして、俺が斬るべきものを見据える。

蒼凪さん風に言うなら、俺が斬ろうと思っているこころに付いた×をだ。



「だから、こうしてきちんとした形で向きあえばそれに応える。
それが・・・・・・本当のあなただ。あなたも、剣道がただ好きなだけなんだ」





俺は、最初の段階で二刀流というルール違反を犯していた。だから、この×キャラもルールを守らなかった。

何度攻撃を受けても倒れないし、突きまで出す始末。・・・・・・もっと早く気がつくべきだった。

この×キャラは、横山先輩の中にある剣道を好きな気持ちがしっかりと形になっている。



姿形からしてそれだ。だったら・・・・・・これで、オーケーなはず。





(・・・・・・おかしいんだ)



そして、俺の考えは当たっていた。×キャラの横に、先輩の顔が浮かぶ。



(剣道が好きで、楽しくて・・・・・・なのに、いつからか楽しくなくなったんだ。
勝てなくて、悔しくて練習して・・・・・・だけど、やっぱり勝てなくて)



声は困惑の色。自分に対しての戸惑いの色が、感じられた。



(もうやめてしまいたいと思っても、やめられなくて・・・・・・だけど、勝てないのは嫌で)

「だったら、やめる必要などありません」



×キャラの竹刀が動く。そして、一気に踏み込んできた。



『メェェェェェェェェンッ!!』



先程までとは打って変わった、綺麗な斬撃が俺を襲う。



「こてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



俺は、前に踏み込みつつ左小手を狙う。そして、それは×キャラの小手を捉えた。

竹刀は・・・・・・俺に当たる寸前で止まった。



「あなたは、剣道が好きなのでしょう?」



頭の左横に当たる寸前で竹刀が止まっていて、ちょっと冷や汗が出てくる。

・・・・・・もっとだ、もっと速く。もっと鋭く。とりあえずは、一本だ。



「俺も同じです。好きだから、剣の道を続けています。
そうして出会えて、全力でぶつかり、超えたいと思う人が出来ました」



俺達は、中央線に戻る。戻って、また正眼に構える。



「綺麗事かも知れませんが、勝つ事だけが全てではありません。
もちろん、勝つに越した事はない。俺だって勝ちたい」



俺は意識を集中させる。刃に・・・・・・緑色の雷撃が宿る。それは刃を包んで、一振りの力ある刃に変える。



「ですが、それでも忘れないでください。あなたの本当の気持ちを。
剣道をずっと続けてきた、あなたの積み重ねた時間を・・・・・・絶対に」

『ムリィィィィ・・・・・・』

「ムリではありません。きっと、あなたは捨てても変わらない。
だったら、捨てる必要など・・・・・・どこにもない」





一歩、右の足を踏み込む。×キャラも同じ。そして、もう半歩だけすり足で踏み込む。

ゆっくりと、互いの剣先が触れるか触れないかという距離まで来た。

俺も×キャラも、互いに間合いのすぐ近く。そのまま、すり足で時計回りに動く。



ゆっくりと動きながらも竹刀と刀が触れて、距離が縮まる。・・・・・・数秒後、×キャラが先に動いた。



動いて俺の頭を狙って、竹刀を叩き込んでくる。





『メェェェェェェェェンッ!!』



・・・・・・雷輝、一閃っ!!



「どぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



響くのは衝撃音。×キャラの斬撃が、床を斬り裂いたから。

床がまた吹き飛び、穴・・・・・・ううん、綺麗な一筋の線が生まれた。

敵ながら、見事だと思う斬撃。衝撃と床の破片が舞い散り、あむが思わず耳を塞ぐ。





フェイトも、同じように両手で身体と顔をガードする。でも、僕は・・・・・・そのまま見てた。










『ムリ・・・・・・』



走ったのは緑色の雷光。しっかりと見ていたから気づけた。

その斬撃が、的確に×キャラの胴を斬り裂いていた。



「きっと、あなたは勝ちたかったんじゃない」



防具には確かに亀裂が入っている。今度こそ、海里の攻撃は通った。



「きっと、昔と同じように楽しく剣道がしたかっただけなんです。
そして、それは可能なんです。あなたが望み、選びとる事が出来る時間」



×キャラが、防具を脱いだ。というか、消し去った。・・・・・・頭の×が、ゆっくりとひび割れていく。



「だから、捨てないでください。あなたの・・・・・・『なりたい自分』を」

『ムリィィィィィィィィッ!!』





赤い×は見事に砕け散った。そして、×キャラはたまごに帰る。

そこから、吸収された他のたまごも出てくる。それらは一斉に輝いた。

輝きの中、色は黒から白。×の模様は羽へと変わり、たまごは浄化された。



・・・・・・うし、これで一安心かな。





「ほら、言った通りでしょ? 海里は負けないって」



あむの方ににやりと笑いながら言うと、あむは苦笑いで返す。



「うぅ、今回は反論出来ない」

「男の子同士の繋がりって、女の子には理解出来ないって言うしね。まぁ、仕方ないんじゃないの?」



なお、隣でフェイトがクスクスと笑っている。それが何故か嫌な予感を感じさせるのは、どうしてだろう。



「ヤスフミ、とりあえずもう左手は離した方がいいと思うな」

「え?」



フェイトは、僕の左手をそっと手に取って持ち上げるようにする。それをあむが見て・・・・・・ニヤニヤし出した。



「こんなに強く握り締めてたら、壊れちゃうよ。ほら、ゆっくりでいいから力を抜いて?」



う・・・・・・フェ、フェイト、そこは気づかないで欲しかったんだけど。



「・・・・・・へぇ、なんのかんの言いながら、恭文も心配してたわけかぁ。いやぁ、あたしは知らなかったなぁ」

「そこの魔法少女、うっさいよ?」

「誰が魔法少女だってっ!? あたし、全然そういうのじゃないしっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



≪そしてその後、たまごはあの子や他の子達のところに無事に戻り、試合は再開≫

≪先鋒と副将戦こそ取らちゃったけど、他の3戦はなんとか勝って、聖夜小剣道部が勝利したのー≫

「なお、あの子もどこか吹っ切れた様子で、一生懸命応援してたよねー」

「ボク、感動したなぁ。というか、剣道って面白いかも」

「スゥもドキドキでしたぁ。そして、みんなで帰宅ですぅ。
雨は上がって、お空は綺麗な夕焼けと虹の色で染まっていますぅ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・あやつら、誰に対して話してるんだろ」

「さ、さぁ。私には分からないよ」

「たまにああなんだよね。・・・・・・恭文、なんか教えた?」

「教えてないからっ!!」



とにかく、時刻は夕方。試合は無事に終わって、僕達四人は帰路についている。

聖夜小は街の上の方、小高い丘の上にある学校。なので、今はそこを下っている感じ。



「海里、お疲れ様」

「いえ。・・・・・・蒼凪さん」

「うん?」

「ありがとうございます。最後まで、俺を信じてくれて」



僕は、その言葉に首を横に振る。

夕暮れの街を歩きながら、少しだけ目の前の二人と離れて、海里とだけお話。



「問題ないよ。てーか、手出ししないって約束しなかった?」

「確かにそうですね。それで・・・・・・ですね」

「なに?」

「これを」



海里は、懐からあるものを出してくる。それは、白い紙封筒に包まれた品。



「・・・・・・海里、僕はラブレターを男からもらう趣味は」

「違いますっ! 一体何を勘違いされたんですかっ!!」

「冗談だよ」



一応さ、やたらと達筆な字でなんか書いてるのよ。というか、習字?

でも、読みにくい。普通に・・・・・・は、果たし・・・・・・え?



「海里、もしかしなくてもこれって」

「そうです」



いや、あの・・・・・・もしもし? 自然と小声になりつつ聞きますけど、なんですかこれ。

これは、いわゆる果たし状。あれですよ、決闘とか申込む時に相手に渡すやつ。



「俺は、蒼凪さんに決闘を申し込んでいます。・・・・・・三度目の、今度こそ本気の勝負を」



歩きながら、海里の目を見る。まぁ、見上げる形にはなってるけどさ。

そして、そこからこれが時期外れのエイプリルフールじゃないことは、明白だった。



「一度目は、まだ俺は未熟の身でした。もちろん、それは今も変わりませんが」



一番最初の時だね。・・・・・・アレも大変だったなぁ。学級崩壊とかあった直後だったから。



「そして二度目は、自分を見失った状態でした。確かに、あなたに手傷は負わせたかも知れません。
ですが・・・・・・そんな状態でそれを成しても、全く意味がない」



ブラックダイヤモンド事件で、歌唄のライブに乗り込んだ時だね。

海里が×の付いたムサシとキャラなりして、それを止めるために戦った。



「だから転校する前に、本当の俺であなたにぶつかりたいんです。
そして、今度こそ・・・・・・勝ちます。過去二度のような形には、絶対にしません」

「・・・・・・海里」

「もちろん蒼凪さんは色々とお忙しい身ですし、無理は言えません。
実際、戦技披露会の事もありますから、俺の都合ばかり押し付けるつもりは」

「あぁ、そういうことじゃないから。・・・・・・負けないよ?
やる以上は勝ちを取らせてもらう。もち、全力でやる」



前の二人に聞こえないようにそう伝えると、海里が驚いた顔になった。



「いいのですか?」

「いいよ。てゆうか、僕前に言わなかった? 『また最初の時みたいにやりたい』って」

「・・・・・・そう言えばそうでした。すみません、失念していました」

「ううん、いいよ」










虹に染まる空を見ながら夕方の街を、そのまま四人で歩く。

なお、あむとフェイトはこの後すぐ『何の話してるの?』と、飛び込んできた。

なので、軽く海里と二人顔を見合わせて笑い合って、内緒とする。まぁ、あむも居るしね。





・・・・・・でも、海里と決闘か。やばい、今からすごい楽しみになってきた。戦技披露会よりもずっと。




















(第47話へ続く)




















おまけ:ドキたま電話相談室




















エル「さて、皆様お馴染みのドキたま電話相談室です。本日の相談は、エルとイルが担当するのです」

イル「ま、元ネタの特典CDでもアタシらが出たりしてたしな。で、今日の相談者は誰だ?」

エル「時空管理局で自然保護官をしている、C・R・Rさんです。C・R・Rさん、聞こえますかぁ?」

C・R・R『はい、聞こえます。あの、ランちゃん達は』

イル「アイツらは剣道の試合見に行くとかで、休みだ。まぁ、アタシらでしっかりやるから、安心してくれ」





(なお、キャンディーズは×キャラ対海里の試合を観戦しております)





エル「それで、C・R・Rさんのお悩みはなんですかぁ?」

C・R・R『あの、私・・・・・・今好きな男の子が居るんです』

エル「おぉ、恋のお悩みなのですねっ! そういう事なら、愛の天使・エルにお任せなのですっ!!」

C・R・R『なら、良かった。あの、それでこう・・・・・・その子が鈍いんです。
私がアプローチしても、全然気づいてくれなくて。それどころかその』

イル「なんか他にあるのか?」

C・R・R『ラブプラスって言う恋愛ゲームにハマって、私の方を見てくれないんです』

エル「むむむ、なんてダメな男なのですかっ! けしからん、実にけしからんのですよっ!!
恋する乙女の純情をなんだと思ってるんだお前はー! アンタは・・・・・・アンタって奴はー!!」

イル「じゃあ、悩みはどうしたらそのダメ男が振り向いてくれるかってことでいいのか?」

C・R・R『いいえ、違います』

エル・イル『え?』





(・・・・・・え?)





C・R・R『どうしたら、世界中のDSを破壊出来るかということについて相談を』

イル「お前絶対バカだろっ! そんなことしても何にもなんねぇよっ!!」

C・R・R『そんなことありませんっ! 根っこから破壊すれば、あの子だってきっと目を覚ましますっ!!』

イル「覚ますわけがあるかっ! むしろ嫌われるぞっ!?」

エル「エルもイルと同意見なのです。・・・・・・男の趣味やダメな所を受け入れられるかで、女の器量が決まると歌唄ちゃんが言ってたのです。
だから、歌唄ちゃんは恭文さんのオタク趣味も微妙なセンスも、第一夫人フェイトさん第二夫人リインさんを受け入れたのです」

イル「・・・・・・そういう風に言うとアイツ、人として色々問題多いよな」

C・R・R『つまり、DS破壊はダメなんですか?』

エル「だめなのです。いいですか? 男の子は、女の子に癒しと温もりを求めるものなのです。
男のダメな所も笑って許せる器量が、女の子には必要なのです」

イル「ほら、草食男子とかそういうのが最近多いだろ? 余計にそうなんだって。
女の子はまた違うだろうけど。男は女性に対してそういうのを求める部分は多いと思うな」





(注:なお、一般論なのでみんながみんなそうではありません)





エル「アレなのですよ。C・R・Rさんはもしかして前々からそうじゃないんですか? 独占欲が強いというかなんというか」

C・R・R『・・・・・・そう、です』

イル「なら、まずはそういうところからだろ。相手の前に、まず自分だって。
人は変えられないから、変わるのは自分からだよ」

エル「その通りです。人の前に、自分を磨く事を忘れちゃいけないのです」

イル「なんなら、一緒にやってみるとかどうだ? そうしたら、少なくとも共通の話題作りは出来るだろ」

C・R・R『あ、そっか』

イル「そうだよ。相手がそれだけ好きって事は、そうとう食いついてくるぞ? 試す価値はあるんじゃないかな」

C・R・R『・・・・・・あの、ありがとうございます。目から鱗が落ちました。
私、さっそくそれで話してみます。よし、待っててー!!』

エル「はいはいー! 是非頑張ってくださいなのですー!!」





(そうして、EDテーマが流れる)





イル「というわけで、ドキたま電話相談室ではこれからもとまと出演キャラクターのお悩みを解決するぞ」

エル「宛先は、以下の通りなのです。というかイル、こんな感じで大丈夫でしょうか」

イル「大丈夫だろ。アイツらも毎回これだろうしよ」

エル「そうですね。それではみなさん、またです。以上、ドキたま電話相談室でしたー」

イル「じゃあなー!!」










(本日の結論:『変えられるのは自分だけ。そして、相手の全てを認める器量は大事』。
ドキたま電話相談室、次回に続く・・・・・・?)




















あとがき



歌唄「・・・・・・なんか、すごいマトモに解決したわね」

恭文「そうだね。いつも無軌道なのは、どうして? 僕、初っ端で名前バラされたりしたのに」

歌唄「あむのしゅごキャラだから、ちゃんとしてないんでしょ。・・・・・・さて、今回は完全オリジナル話ね。
読者からのアイディアを元に構築よ。あとがきのお相手は、月読歌唄と」

恭文「蒼凪恭文です。いやー、僕は今回出番なかったなぁ。というか、海里フューチャーですよ」





(だって、転校前にこういう話はやりたかったし)





歌唄「というか恭文」

恭文「何?」

歌唄「私、ミッドチルダ・X編に出るから」

恭文「はぁっ!?」





(ドS歌姫、いきなり爆弾発言をする)





恭文「どうやってっ!? てゆうか、その前に地球で芸能活動ちゃんとしなよっ!!」

歌唄「ちゃんとするわよ。するけど、ミッドチルダでもちゃんとするの。
というか、アンタの第三夫人としては当然でしょ?」

恭文「当然じゃないよっ!? 特に第三夫人って所が当然じゃないからっ!!」

歌唄「安心しなさい。アンタは私にEXレベルまでフラグを立てるし、私もアンタに同じくらい立てる。問題ないでしょ」

恭文「大ありだぁぁぁぁぁぁぁっ! お願いだから、僕の許容量を考えてっ!? そんな許容量ないからっ!!」





(青い古き鉄、相当息を荒くしている。どうやら、ここはかなり本気らしい)





歌唄「そうね、知ってるわ」

恭文「だったら」

歌唄「でも、私も本気よ」





(ジッと青い古き鉄の顔を見る。それに青い古き鉄、タジタジする)





歌唄「私、アンタの輝きに惹かれてる。アンタの近くに居たいと思ってる。
それは嘘じゃない。それが好きで恋してるって言うなら、その通りよ」

恭文「・・・・・・歌唄」

歌唄「でさ、フェイトさんやリインとも離れられそうにない感じだし・・・・・・だったらって、納得してるわよ?
四人体制になるなら、私はマジでそれで幸せになれるように努力する。私のありったけで、全力でね」

恭文「あの、その・・・・・・えっと」

歌唄「まぁ、私はそういう気持ちだって覚えておいてくれるだけでいいわよ。応えてくれることを、強要するつもりはないから。
・・・・・・恨むなら、アンタの輝きを恨みなさい? おかげで私、離れる選択は考えられないから」

恭文「えっと・・・・・・あぁ、僕はどうすりゃいいのっ!? これ、実質愛の告白じゃんっ!!」

歌唄「この話の38話でもやってるから、大丈夫よ。とにかく、次回よね」

恭文「次回は、一年目の締めくくりだよ。リクエストの多かったアニメ版の36・37を元にしたお話。というか、三話構成になったけど」

歌唄「でも、それで一年目が終わって・・・・・・ついに、ドキたま・だっしゅよね」

恭文「そうだね。いや、長かったなぁ。てゆうか、ここまでやるとは思わなかったよ。
とにかく、次回から始まる一年目のクライマックスを期待しつつ、本日はここまで」

歌唄「お相手は月読歌唄と」

恭文「蒼凪恭文でした。それでは、また次回にー」










(なんて話しつつも、青い古き鉄はちょっとドキドキ。ドS歌姫の目が、結構マジだったから。
本日のED:ほしな歌唄(CV:水樹奈々)『BLACK DIAMOND』)




















フェイト「・・・・・・私は、ヤスフミの気持ちを尊重するよ?
浮気とかじゃなくて、本気で歌唄がリインと同レベルで好きになったなら、認める」

リイン「リインも同じくです。まぁ、すずかさんやギンガさんの事もありますから、難しく考えがちですけど大事なのは恭文さんの気持ちですし」

恭文「だから大丈夫だって。今のところはそういうことはないから。・・・・・・てゆうか、もうすぐ二年目なんだよね」

リイン「あれですね。きっと二年目の最初の回と次の回は復習回なのです」

フェイト「あ、しゅごキャラ・どきの方ではそうだったよね。総集編というか、そんな感じ」

恭文「小説でそれをやったら、手抜きだけどね。・・・・・・あー、でも楽しみだなぁ」

???「そうですね、楽しみです。もうすぐお兄様達と出会えると思うと、ドキドキです」

恭文・フェイト・リイン『・・・・・・え、今の誰っ!? というか・・・・・・えぇっ!!』










(おしまい)





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