小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第45話 『色褪せる事のない夢と、その輝きの価値』
ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』
ラン「今日もドキッとスタートドキたまタイムー! さぁて、本日のお話はー!?」
ミキ「・・・・・・結婚。それは、女の子の夢」
スゥ「そして、甘い甘いスイーツも女の子の夢」
(立ち上がる画面に映るのは、沢山のブルーベリーとウェディングケーキ。そして、暴露する現・魔法少女)
ラン「・・・・・・そうなの?」
ミキ「そうなの。今日は、そんなお話。結婚と夢がテーマだよ」
スゥ「そして、久々にスゥが大活躍なのですぅ。というか、キャラなりも21話振り・・・・・・」
ラン「そう言えば、24話以来アミュレットクローバーって出てないような」
ミキ「ボクは恭文とキャラなりしてたし、31話でも出番あったからまだ大丈夫なんだよね」
スゥ「うぅ、スゥにもっと出番をくださいですっ! 具体的には、恭文さんとのキャラなりでっ!!」
ラン「とにかく、そんなスゥの活躍も見逃せない今回のお話、スタートするよ。せーの」
ラン・ミキ・スゥ『ドッキドキ♪』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・・・夜、お風呂から上がって、いつもやっているアレをすることにした。
そう、牛乳一瓶(300ミリリットル)の一気飲み。やっぱ、お風呂上りはこれでしょー。
で、牛乳を取ろうとあたしはリビングに向かう。うちのリビングとキッチンは、繋がってるの。
部屋にはテレビやソファーも置いてあるんだけど、そこでママとパパが騒いでた。
というか、あたしを呼ぶ。なので、そのままソファーの方まで行く。
「ママもパパも、どうしたの。そんな騒いじゃって」
「修ちゃんから手紙が来たのっ! 今度、結婚するんですってっ!!」
「修ちゃん? ・・・・・・あ、もしかして修兄ちゃんっ!!」
「そうそうっ!!」
へぇ、修兄ちゃん結婚・・・・・・って、えぇっ!? というか、相手は誰っ! 普通にビックリだしっ!!
「あむちゃん、修兄ちゃんって誰?」
「あ、ラン達は知らなかったよね。あたしとあみの従兄弟で、修兄ちゃん」
えっと、修ちゃんとか修兄ちゃんというのはあだ名だね。本名は、日奈森修司。
「今は、ホテルのパティシエしてるんだって」
あたしが小さい時、よく遊んでくれた男の人。あたしより10歳年上なんだ。
でも、結婚かぁ。・・・・・・なんだろ、ちょっと胸の奥がチクンとする。なんでだろ。
「というか、結婚式って何処でやるの?」
「海鳴のベイサイドホテルだって。修ちゃん、そこでパティシエの仕事してるから」
「・・・・・・海鳴っ!? え、海鳴ってまさか、海鳴市っ!!」
「そうよ。あむちゃん、どうしたの?」
海鳴・・・・・・恭文とフェイトさん、なのはさん達の故郷。海が近くて、緑がいっぱいある街。
写真とか見せてもらったけど、すごく綺麗な街並みだった。
「あ、あの・・・・・・恭文とフェイトさんが元々暮らしてた街なんだ。
あたし、話聞いてたからちょっとビックリしちゃって」
「あ、そうなのね。・・・・・・ね、その後恭文君とはどう?
私は以前言った通りだから、大丈夫」
・・・・・・え?
「見た感じ、優しくて良い子っぽいしあむちゃんには合うと思うなぁ」
「いやいや、ママ? 恭文はちゃんと好きな相手居るから」
てゆうか、付き合ってる相手だね。
・・・・・・ちょっと待ってっ! 一体あたし達は今何の話をしてたっ!?
「あら、大事なのはあむちゃんの気持ちよ。後悔しないようにちゃんと」
「だからどうもしないよっ! ママ、絶対なんか勘違いしてるでしょっ!!」
「許さない・・・・・・僕は許さないぞっ! あんな二股かけるような男と付き合うなんてっ!!」
「パパも落ち着けー! 恭文は二股なんてかけてないからっ!! 相手の子も合意の上での三人体制なんだよっ!?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・・・数日後、海鳴にパパの運転でやって来た。なお、結婚式前日からお泊り。
車の外から見える海鳴の景色は・・・・・・すごく綺麗で、優しい街並み。
ここで恭文やフェイトさんが、子ども時代を過ごしたんだよね。
「綺麗な街並みですぅ」
「潮の香りと緑の匂い・・・・・・綺麗で落ち着く街だね」
「恭文、知ったらビックリするよねー。私達が海鳴に来てるなんてさ」
「そうだね」
まぁ、恭文とフェイトさん達には教えてないんだけどさ。あ、でも観光スポットとか聞けば良かったかも。
「ほら、見えてきたよー。あれが今日泊まるホテルだ」
パパの声に視線を前へ向けると・・・・・・わ、綺麗なホテル。え、ここに泊まるの?
なんだろう、ちょっと緊張してきたかも。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・・・さて、突然ですが僕達、海鳴のベイサイドホテルに居ます。
もっと言うと、僕とフェイトが居ます。あぁ、最近絡みが多くてうれしいなぁ。
なお、事情はある。フェイトの中学時代の同級生が、結婚するのだ。
つまり、結婚式の出席だね。まぁ、僕も一応顔見知りみたいなものなので、参加する。
当然のように・・・・・・こやつらも居るのだ。
「・・・・・・横馬、ブーケ取る時は魔法使っちゃだめだよ?
てゆうか、ブーケ取ってもおのれは結婚出来ないから」
「どうしてっ!? というか、いきなりひどいよっ!!」
「ごめん、なのはちゃん。そこはうちも同感や。結婚前に相手見つけるとこから頑張らんと。
でもあれや、結婚だけが全てちゃうもん。大体、何気に苦労することも多いし独身の方が気が楽」
「はやてちゃん、勝ち誇った顔で既婚者の余裕を見せつけるのやめてくれないっ!?
あと、左手の薬指を見せつけるのもやめてー! 何かが私の心に突き刺さるのっ!!」
そう、なのはとはやてだ。普通に泊まりがけでやってきた。仕事、忙しいのにねぇ。なお、リインは明日到着予定。
シャーリーと一緒に定期メンテしてるから、今日はちょっとちょっと来れないのよ。
「ヴィヴィオ、少し背伸びた? 春に見た時より大きくなった」
「えっと、少しだけ。というか、まだフェイトママには追いつけないね」
「大丈夫だよ。私だって、いきなりこんなに・・・・・・って、ヴィヴィオ。お願いだから胸を見るのはやめて欲しいな」
当然のように、ヴィヴィオも居た。もちろん、なのはが連れて来たのである。
で、フェイトとこの二人と同級生ということは・・・・・・当然のように、この二人も居る。
「でも、なぎ君久しぶりだね。・・・・・・あぁ、この抱き心地が懐かしいなぁ」
「あの、すずか。ハグは駄目だよ。ヤスフミはその・・・・・・私の彼氏なんだから」
「大丈夫だよ。あくまでも友達同士だし、後ろからなんだもん。ね、なぎ君」
「・・・・・・出来ればやめてもらえると助かるかな。フェイトに誤解されたくないんで」
そう、すずかさんだ。というか、現在僕は普通におもちゃにされて、楽しい人生を送っている。
「ナギ、アンタ・・・・・・マジでなんとかしない?」
「何をっ!? てゆうか、すずかさんとはお友達なんだからっ! ちゃんとお話したんだからっ!!」
もっと言うと、とまとSecond Seasonの第1話でっ! ほら、ちゃんと読み返してっ!? 僕、ちゃんとお話してるよっ!!
「うん、お友達だよ。だから、お友達として仲良くする分には」
「言いながら抱きしめる力を強めないでっ!? てゆうか、マジでフェイトの目の前はやめてー!!」
現在、すずかさんと同じようにこのクロス話では姿を表すのは初なアリサも居る。
結婚式は明日なんだけど、せっかくなので幼なじみ同士で同窓会なのだ。
「とにかくだめ」
すずかさんの腕を優しくほどいて、フェイトの胸に飛び込む。そして、ハグ。
「僕はフェイトと付き合ってるんだから、ハグはフェイトとするのっ!!」
「そ、そうだよっ! あの・・・・・・だめっ!!」
と言いながら、フェイトも優しく抱き返してくれる。・・・・・・あぁ、この感触が幸せ。
ふかふかだし、ぷにぷにだし、柔らかいしー。
「・・・・・・なぎ君、そう言いながらフィアッセさんとリインちゃんとは、ハグしてるよね」
「う」
「まぁ、リインちゃんは仕方ないけど、フィアッセさんは友達だよね?
やばい、凄い突き刺さるんですけど。心痛いんですけど。
「てゆうか、フェイトちゃんもそこは認めてるんだよね。ふーん、そうなんだ。私は認めてくれないんだ。
フィアッセさんは良くて、私は友達なのにNGなんだ。そっか、私が現地妻で都合のいい女だから」
「ち、違うよっ! あの、その・・・・・・うぅ、すずか泣かないでっ!?
あの、私達が悪かったと思うからー!!」
「いいよ、別に。うん、そうだよね。私はダメなんだよね。だって、フィアッセさんやフェイトちゃんやリインちゃんじゃないから」
「すずかー!!」
俯き指で涙を拭うすずかさんを見ながら、僕は何も言えない。言う権利などない。
そして、そんな僕の肩を優しくポンと叩く女の子が居た。それは、海鳴の燃える女。
「ナギ、アンタマジで謝りなさいよ。仕方の無い事とは言え、これはないでしょ。
ほら、そうすれば多少は解決すると思うから」
「そうだよ恭文、ちゃんとすずかさんとフェイトママに謝って」
「・・・・・・ごめんなさい」
まぁ、謝った所で話を戻そうか。とりあえず、今回の結婚式の話ですよ。
「でもフェイト、えり子さんの結婚相手って誰なの?」
あ、説明遅れてたね。フェイト達の同級生の名前は、大友えり子さん。当然、女の人。
大友財閥という財閥のお嬢さんなんだけど、これが中々フレンドリーな人なのだ。
どっちかって言うと、アリサにタイプが近いかも。翠屋の常連だったので、その関係でよく顔を合わせてた。
でも、あの人が結婚かぁ。話によると政略結婚の類じゃないそうだし、素直にお祝い出来そうだよ。
「私も詳しくは聞いてないんだけど、確かパティシエ・・・・・・だっけ」
「そうだよ」
あ、すずかさんが立ち直って、自信満々に返事してる。そっか、詳しく話を聞いてるのか。
「お相手は、ここのホテルで働いてるパティシエさん」
「あ、ここで働いてるんやな。でも、どないして知り合ったんやろ」
「なんでも、海外の留学先で知り合ったんだって。それで付き合い始めて・・・・・・らしいわよ?」
その人も同じようにパティシエの勉強のために留学していて、その時にということらしい。
「なんだか、ロマンチックやなぁ。・・・・・・うち、自分のアレコレを振り返るとまじ頭痛いわ」
「あぁ、そうよね。アンタは馴れ初めも馴れ初めだし、結婚式も結婚式だし」
「アコース査察官、普通に失踪だったしね」
「ヴィヴィオもよく覚えてます。もうすごいことになりましたよね」
や、やばい。なんかお腹が痛くなってきた。てゆうか、気分悪く・・・・・・。
「あのヤスフミ、大丈夫? 顔色凄く悪いけど」
「フェイト、察してあげなさい? ナギはあの時、大変だったもの」
「思い出したくない。あの地獄の時間は思い出したくない」
新郎居なくて、どんだけ探しても居なくて、みんなに問い詰められて吐いたら大混乱でしょ?
フェイトもリインもそうだけど、昔馴染みの大半が敵に回ったも同然だから、僕孤軍奮闘もいいとこだったし。
「なぎ君、大丈夫? あー、よしよし。もう心配いらないよ?
はやてちゃんもヴェロッサさんも、幸せそうだもの」
「・・・・・・フェイト、アンタがナギと結婚する時は、もう式始まるまで片時も離れたらだめよ。
これ、完全にトラウマになってるし。アンタの顔が見えないだけでこの状態になるわよ?」
「そうだね、そうするよ。その、服の着替えとかは特に見られても大丈夫だし。・・・・・・うぅ、はやて恨むよ?
ヤスフミ、あれからしばらくの間、ウェディングドレスや結婚式の様子をテレビとかで見るだけで頭抱えてたんだから」
「いや、ごめん。マジごめん。ロッサと一緒に相当謝り倒したけどマジごめん」
俯く僕の背中を、フェイトとすずかさんが優しく撫でる。あぁ、安心する。だから、顔をあげる。
そして、目が合った。ピンク色の髪に、その髪の一部をサイドポニーにしてる女の子と。
「・・・・・・あれ?」
黒のミニスカートに、白と黒のニーソックス。半袖の白いYシャツに赤いネクタイ。
両腕には、二の腕まで到達してる黒い手袋・・・・・・じゃないな。手は出てるし。
「・・・・・・あれれ?」
その周りに、小さな女の子が居る。もうすっごい見覚えのある子が。
だから、当然のように僕達は叫ぶ。互いの顔を見合わせ、指を差して。
「あむっ!!」
「恭文っ!?」
「「なんでここに居るのっ!!」」
・・・・・・・・・・・・これが、今回の事件の始まり。
やっぱりこの話はどこまで行っても、しゅごキャラクロスだったりするのだ。
『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説
とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご
第45話 『色褪せる事のない夢と、その輝きの価値』
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「・・・・・・日奈森、あむちゃん。なぎ君の同級生なんだ。初めまして、私は月村すずか。
フェイトちゃん達となぎ君の幼なじみなんだ。あむちゃん、よろしくね」
「あ、改めましてっ! 日奈森あむですっ!!」
「あー、そんな緊張しなくていいわよ。で、アタシがアリサ・バニングス。同じく幼なじみ」
「アリサとすずかは、なのはと小学校1年の頃からの付き合いなんだ」
で、フェイトとはやてがそこに小3の時に加わったって感じだね。
そこから、仲良し五人組が形成されたのよ。
「あと、アタシもすずかも魔法の事とかは知ってる。
だから、そこは気を使わなくていいわよ? ま、よろしくね」
「あの、よろしくお願いします」
・・・・・・ビックラこいた。普通にビックラこいた。話を聞いて、ビックラこいた。
あむがここに居る理由は、結婚式に参加するためだったのよ。
てゆうか、えり子さんの結婚相手が、あむの10歳年上の従兄弟だった。
えっと、名前が日奈森修司さんだっけ? ・・・・・・普通に、縁ってあるんだなぁ。
「でも、この子がそうなんだ」
「アリサちゃん、あむちゃんの事知ってるの?」
「そりゃもう。ナギとガーディアンではコンビ組んで、難事件を解決しまくってるって噂よ?
それですごい仲良しで、フェイトが若干ヤキモチ焼いてるとも聞いてるわ」
はぁっ!? なんですかそれはっ! アリサ、そんなニヤニヤした顔されても困るからっ!!
「うん、いっぱいヤキモチ焼いてる。私、あむに負けてるかなーってよく思うもの」
「フェイトさんまで何言ってるんですかっ!? てゆうか恭文っ!? アンタなに嘘吹き込んでんのよっ!!」
「僕は話してないからっ! ・・・・・・はやてっ!!」
「なんでいの一番にうちを疑うんっ!?」
この中では、おのれしかこういう事を言わないと思うからだけど、何か問題ある?
「でも、正解でしょ。アタシははやてから話を聞いたもの」
やっぱりおのれかぁぁぁぁぁぁぁっ! 普通にふざけないでっ!? てーか、マジで知らない領域の話だしっ!!
「あむちゃん、ずいぶんなぎ君と仲良しなんだね。・・・・・・もしかして、なぎ君の事好きとか」
「はぁっ!?」
「すずか、それは違うよ。あむはちゃんと別に本命居るんだから」
「あ、そうなんだ。ごめんね」
フェイトの補足で、危険を回避出来たかに見えた。でも、僕は気づいていた。
あむに唯世と言う本命が居る事を、あの二人は知らないのではないかということに。
「お、そうなんか。確かにガーディアンの子達は美形揃いやしなぁ。な、誰が好きなんや?」
「そこは私も気になるなぁ。うーん、やっぱり空海君とかかな」
当然のように、行き遅れとタヌキが食いつくのだ。だから、あむが慌てふためく。
「違いますからっ! てゆうか、フェイトさんもバラさないでくださいっ!!」
「・・・・・・え、なのはもはやても、知らなかったのっ!?」
「フェイト、ちょっと読みが甘かったね。てーか、知る事が出来る要素がないでしょうが」
「ご、ごめんっ! 私てっきり・・・・・・あぁ、本当にごめんー!!」
とりあえず、慌てふためくフェイトは可愛いので見ていようと思う。あぁ、幸せだなぁ。
「あむちゃん、こんな所に・・・・・・あらっ!!」
声が聞こえた。そちらを見ると、メガネをかけた女性と髪を短めに刈り上げた男性。
そして、4〜5歳くらいの小さな女の子が居た。
「あー! あおいおにいちゃんだー!!
・・・・・・でも、きょうはふつうのおにいちゃんだ」
「な、なぜ君がこんなところにっ!? あむ、すぐに離れなさいっ!!
この、今度こそ僕が引導を渡してやるっ! あちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「・・・・・・ね、ナギ。アンタ何したのよ。いきなりあの人、すごい警戒し出してるんだけど」
「恭文、正直に話した方がいいと思うな。ほら、今ならヴィヴィオも怒らないし」
「アリサ、ヴィヴィオ、今度子煩悩って言葉をググるといいと思うな。そうしたら、答えが分かるよ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・そして現在、ボク達とあむちゃんとヤスフミにフェイトさん達は、せっかくだからということで海鳴観光に繰り出しています」
「まぁ、軽くなんだけどね。というか、ママがとても気を使ってくれたのですぅ。
・・・・・・絶対、勘違いしていますねぇ。あの目はもうそうとしか思えなかったですぅ」
「でもでも、楽しみー! だって、恭文やフェイトさんが育った街なんだしっ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・なんて言うか、綺麗な街ですよね」
「そう言ってもらえると嬉しいなぁ。うちらが生まれ育った街やし」
「私は9歳の頃からだけど、それでも故郷ではあるんだ。うん、あむがそう言ってくれると嬉しい」
まずはノンビリと市内を見つつも翠屋を目指す。でも、なんかくすぐったい。
まさか、あむと海鳴観光するとは思ってなかったから。
「そう言えば、フェイトさんと恭文の実家もここにあるんですよね」
「僕の実家じゃないよ。僕、ハラオウン家とは縁切ってるし」
「・・・・・・・・・え?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「あー、あむちゃんごめんなぁ」
なんか急激に機嫌が悪くなった恭文を見て戸惑ってるあたしに、はやてさんが小声で話しかけてきた。
というか、フェイトさんは恭文の頭撫でてるからアレだけど・・・・・・他の三人があたしの周囲につく。
「実はね、以前会った時は場が場だったから言わなかったんだけど・・・・・・恭文君とリンディさん、2年近く前に大げんかして」
「まぁリンディさんがめっちゃ強引に恭文を局に誘ったんが原因なんやけど、恭文その時めっちゃキレて絶縁したんよ」
「いや、絶縁って・・・・・・だってアイツ」
もう親居ないよね? てゆうか、それならなんで家庭参観に・・・・・・あぁ、でもそうだよ。
あたし、アイツとリンディさんが仲良く話してるとこ見てない。それにリンディさんも模擬戦中ずっと苦い顔してた。
アイツがサウンドベルト使った事とかに対しても、ちょっとブツブツ言ってたし。
あの二人、それほど仲が良いわけじゃないんだ。
「アイツだからこそキレたのよ。ま、詳しくは知らないけど大体の事情は分かるわ。
きっと自分の事以外で、リンディさんに相当ムカつく事やられたんでしょ」
そう言いながらアリサさんは、またフェイトさんと談笑し始めた恭文を困ったように見ている。ううん、すずかさんも同じ。
「なぎ君は自分の事では本気で怒らないから。
本当にね、見てるこっちが心配になるくらいに優しい子なんだ」
「・・・・・・はい、知ってます。てゆうかあたし、そういうとこ何度も見てる」
例えば二階堂先生とやり合った時、歌唄とやり合った時・・・・・・イクトと最初に戦った時。
あぁ、そうか。リンディさんがそういう恭文の感情に触れちゃって、それで絶縁したんだ。
「でもそれで、復縁とかは」
「ないやろうなぁ。リンディさんも口では反省してるような事言うてるけど、実際は不満タラタラやし。
そこはフェイトちゃんに対してもやな。フェイトちゃんが恭文と付き合うようになったの、快く思うてない」
「それはあの」
「絶縁の余波やな。まぁ二人共どこ吹く風やけど。ただそれでも、こういうのは辛いなぁ」
・・・・・・きっとあたしに分からないような、難しい事があったんだと思う。でも・・・・・・なんか、やっぱ悲しいな。
今更だけど、なんであたしの事初めて名前で呼んでくれた時、あんな切なそうな顔したのか納得した。
恭文はきっと実の親の事だけじゃなくて、リンディさんの事も思い出してたんだ。そう考えないと、つじつま合わないよ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「とにかくね、フェイトちゃんお私の家の近くなんだ。あむさんくらいの頃は、もう毎日のように行き来してたの」
そして、僕は思い出す。というか、頭が痛くなる。・・・・・・どうしよう、普通に顔出すのもやめようかなぁ。
今日はリンディさん居ないから来いーってエイミィさん達に言われてるけど、やっぱ気が重い。
「恭文、どうしたの? なんかまた表情暗いけど」
「いや、カレルとリエラ・・・・・・あぁ、これだけじゃ分からないか。
あむ、前に話した僕とフェイトの上司のクロノさんの事、覚えてる?」
「うん」
あむが歩きつつも頷いたので、一応説明することにする。この状況だと、知られる危険性もあるから。
「クロノさん、元々僕やティアナみたいに補佐官をしていたエイミィさんって人と結婚して、双子のお父さんなのよ」
なお、エイミィさんは現在も子育てママ。カレルとリエラも保育園に入ったから、まだ余裕は出来たけどね。
「まぁ、それだけならいいんだけど」
「なんかあるの? てか、またずいぶん歯切れ悪いじゃん」
「悪くもなるの。その二人に、なぎ君は『パパ』って呼ばれて・・・・・・るんだよね。今も」
「うん」
「はぁっ!?」
とにかく、簡潔に説明した。僕が子育てを手伝ってたことや、クロノさんが普段は長期出張ばかりで家に居ないこと。
そういう色々な積み重ねから、二人が僕をパパと今なお呼び続けている事。なお、マジでパパじゃないとも言った。
「正直さ、そろそろマジで何とかしないとマズいのよ。でも、良い手が全く思いつかなくて。
だって、保育園で『パパの絵を描いてください』って言われて、僕の絵描いたって言うし」
「・・・・・・恭文、アンタこう・・・・・・苦労してるんだね。
てゆうか、マジでそういうことがあったわけじゃないんでしょ?」
「当たり前だよ。てゆうか、それなら僕はしっかりとパパを頑張ってるって。
むしろ、頑張ってなかったら非常に最低だと思う」
「納得した。でも、それは辛いね。クロノさんが普段から居るならまだ楽だろうけど」
だけど、現状では居ない。ようするに、子ども達と距離が開いてるのよ。
ここ、修正が一向に進まない大きな要因の一つになってるのよ。
「やっぱさ、距離って大事なのよね。普通に離れてるってのは、辛い部分もあるのよ」
「そうだね。とは言え、そのためにお仕事を変えてって言うのは難しいし、また違うと思うんだ」
アリサとすずかさんが、『うーん』と唸りつつも歩を進める。唸るけど、いい考えはやっぱり思いつかない。
もう年月の流れに任せる? いやいや、今はまだ大丈夫だけど、これが今後小学校に上がったりした時には問題かも。
「・・・・・・なんて言ってる間に、見えてきたよ。あれが、私の実家が経営してるお店」
なのはが指差すと、懐かしい佇まいが目の前に広がる。そこは翠屋。
僕の元職場で、なのはの家族が経営している喫茶店。
「翠屋・・・・・・え、なのはさんって翠屋の娘だったんですかっ!?」
「うん。今は、私のお姉ちゃんが二代目店長なんだ」
なんて言いながら、僕達は入る。あむは、ドキドキというか目をキラキラさせながらなのはに続く。
モダンな佇まいの店内は、僕が知っている時と同じようにキラキラピカピカ。うーん、手入れが行き届いているなぁ。
「いらっしゃ・・・・・・あ、なのはにヴィヴィオっ! それに恭文にフェイトちゃんもっ!!」
「お姉ちゃん、久しぶりー!!」
黒髪を三つ編みにして、メガネをかけて黒くて胸元に『翠屋』とロゴの入ったエプロンを身に着けている女性がいる。
その人は、カウンターの中から手を振る。・・・・・・高町美由希さん、なのはのお姉さん。
「・・・・・・あれ? そっちの子は誰かな。初めて見る顔だけど」
「え、えっと・・・・・・」
「あのね、私のお姉ちゃんなんだ。ほら、さっき話した」
「あ、なるほど。あの、初めまして。日奈森あむです。えっと、恭文とは同級生で」
そこまで説明する必要、なくないっ!? てゆうか、そんな事言って美由希さんが分かるわけが。
「・・・・・・あぁ、恭文が通ってる学校の子だよねっ! それで、一番の仲良しっ!!」
通じちゃったよオイっ! てゆうか、どんだけ僕の小学校生活が広まってるんだよっ!!
一応アレ、仕事なのよっ!? お前ら、普通に僕達の仕事をなんだと思ってるのよっ!!
「そっかそっか。いやぁ、こんな可愛い子だったんだ。・・・・・・恭文、はやてちゃんから聞いてるよ?
あむちゃんの事、あんまりいじめたりしちゃだめだって。せっかく仲良くなってるんだしさ」
「「・・・・・・・・・・・・はやて、あとでちょっと話だね。主に、色々な事をバラしちゃってる件について」」
フェイトと声がハモっているのは、気のせいじゃない。
でも、多少はやてが震えてるのは、きっと気のせいだ。
「あ、席取ってるから座っちゃって? ほら、そこの5番のテーブル」
「はい。じゃあ失礼しまーす」
僕は軽く返事しながら、あむを案内していく。まぁ、元店員だし。
それから、みんなで窓際の席に座る。座ってすぐ、ドリンクが来た。
「なのは、ヴィヴィオもおかえり」
「恭文君にはやてちゃんに、フェイトちゃんも、ホント久しぶりよねぇ」
あ、士郎さんと桃子さんだ。というか、普通に変わってない。普通に若々しい。
・・・・・・僕、士郎さんや桃子と同い年になった時に、こういう風になれてるかどうか自信ないや。
「あ、あむさん。こっちは私のお父さんとお母さんなの」
「あの、初めましてっ! 日奈森あむですっ!!」
「初めまして、高町士郎です」
「高町桃子よ。・・・・・・あぁ、でもあなたがそうなの」
とりあえず、出されたアイスティーを黙って飲む。そして、はやてを見る。
どんだけあむとか聖夜小の事が伝わってるのか、非常に疑問だから。
「あむちゃん、大人気ですぅ」
「いや、アレは大人気というかなんというか」
「恭文、、恭文やフェイトさんはあむちゃんの事、話してなかったんだよね?」
「話してないよ? 一応、仕事関連の項目だしさ。・・・・・・はやての奴」
「きっと、なのはさん達には普通の出張みたいに伝わってるのが原因だね。
ボク達の事とかエンブリオの事とか、イースターの事とかも知らない様子だしさ」
だろうなぁ。うーん、どうしたもんか・・・・・・なんて考えていると、ドアが開いた。
「こんにちはー」
なんとなしに僕の右隣に座っているあむがそっちを見ると、目を見開いた。
「あぁ、修司君。今日はどうしたんだい」
「いえ、近くに寄ったのでお茶でも飲ませてもらおうかと。もちろん、お客として」
栗色の髪を短めにして、身長は178センチほどある。そして、両手に竹かごが入った袋。
その中には、ブルーベリーが沢山詰まってる。・・・・・・って、食べ物持ち込みするなー。
「あぁ、なるほどね。ところで、それは?」
「最近見つけたんです。野生の瑞々しいブルーベリーの群生地。明日のケーキに使おうと思って」
「修・・・・・・兄ちゃん?」
小さく呟いたかと思うと、店内に入ってきて士郎さんと親しげに話す人に近づく。
というか、なんかまた嬉しそうな顔で走り寄る。
「やっぱり修兄ちゃんだっ! あぁ、久しぶりじゃんっ!!」
「え? ・・・・・・あむ、ちゃん?」
「うんうんっ!!」
「あぁ、あむちゃん久しぶりっ! またすっかり綺麗になっちゃってー!!」
・・・・・・修兄ちゃん? あ、もしかしてえり子さんの結婚相手のパティシエかな。
ふむ、見る限りは色男だよね。これなら、安心なのかな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「いやぁ、あのあむちゃんがこんなに大きくなってるなんて」
「そりゃそうだよ。あたし、もう小6だよ?」
「それもそうだね」
あぁ、でも修兄ちゃんもこう・・・・・・変わってないなぁ。明るくて人懐っこい笑顔に、優しい瞳。
それで、お菓子作りが大好きなとこ。今持ってるブルーベリーも、明日のケーキ作りに使うらしいし。
というか、明日の結婚式のウェディングケーキ、修兄ちゃんが作るんだって。
自分の結婚式で、自分の作るケーキを出す。・・・・・・本当に、楽しそう。
「というか、このブルーベリーおいしそー」
ランが言いながら、ブルーベリーを・・・・・・こらこら、意地汚いから。
「うん、美味しいよー!? 瑞々しい甘酸っぱさがもう癖になるんだー!!」
修兄ちゃんは、なんとなしにそう返事した。そして、自分で気づく。
周りを見渡すけど、自分が返事しようとした相手が居ない事に。
「・・・・・・アレ? あむちゃん、今何か言わなかった?」
「え、ううん。何にも言ってないけど」
ちょ、ちょっと待ってっ! まさか修兄ちゃん、ラン達の声が聴こえるっ!?
「どうやら、見えてはないみたいだけどね」
「多分、こころのたまごもちゃんとありますよぉ。恭文さんと同じですぅ」
こころのたまごは、本当なら大人になったらかえっちゃう。でも、そうならない場合もある。
大人になっても、夢や『なりたい自分』を子どもみたいに信じて、追いかけている人。
そういう人のこころの中には、こころのたまごがある。何度か言ってるけど、恭文がそれだね。
そして、修兄ちゃんも同じく。・・・・・・そっか、修兄ちゃんにもちゃんとあるんだ。
やっぱりパティシエになることかな。うん、きっとそうだ。
「てゆうか、もう立派なパティシエさんなんでしょ? なんかすごいね」
「そんなことないよ。まだまだ半人前。下ごしらえと厨房の掃除専門だもの」
少し照れくさそうに、修兄ちゃんが笑う。・・・・・・あ、なんだろ。なんかドキドキする。
「僕が目指す『自分が作ったケーキを食べた人全員幸せに出来るパティシエ』には、程遠いよ」
というか、マジカッコよくなってるし。でも、変わってない所もある。
修兄ちゃん、よくあたしの家に来て、小さいあたしの遊び相手になってくれた。
それで、ケーキとか作ってくれたんだ。それで、よく言ってたの。
自分が作ったケーキを食べた人みんなに、幸せを感じて欲しい。
食べた瞬間、嫌な事とか辛い事とか吹き飛んじゃうくらい美味しいケーキを作りたい。
そんなケーキを作れるパティシエになりたいって、うちに来る度に言ってた。
だから、なんだよね。そんな修兄ちゃんを見てあたし、子ども心にずっとドキドキしてた。
ドキドキしてて、修兄ちゃんがうちに来るのが楽しくて・・・・・・だから、なんだよね。
「あ、そう言えばあむちゃんはどうしてここに?」
「えっとね、あたしの同級生の子がここの元店員で、士郎さんと顔見知りなんだ。
それで、ちょうどその子もこっちに来てたから、海鳴を案内してもらってたの」
「店員? ・・・・・・あ、もしかしてあの小さな子かな」
修兄ちゃんが指差すのは、お手洗いにでも言ってたのかハンカチで手を拭きながら席に戻る恭文。
まぁ、あたしは一応頷く。・・・・・・ごめん、恭文。でもさ、もうこれは仕方ないって。認めて?
「ふーん、あむちゃんもお年頃かぁ。ね、あの子彼氏か何か?」
「バ、バカじゃんっ!? 違うからっ! てゆうか、恭文は普通に彼女居るからっ!!」
あぁもう、ママもパパもなんか勘違いしてるし、修兄ちゃんまでっ!!
なんであたしの家族はみんな揃ってこれっ!? 絶対おかしいじゃんっ!!
「・・・・・・・あ、そうだ。ちょっと遅れちゃったけど修兄ちゃん、結婚おめでと」
「うん、ありがとー」
「てゆうか、相手の人ってどういう人?」
フェイトさん達の同級生だって言うのは聞いたけど、それ以上は知らない・・・・・・って、修兄ちゃん?
なんでそんな光悦した顔になるのさ。てゆうか、普通にニヤつくのやめて。気色悪いから。
「もう素敵な人だよ。言うなれば天使だよ天使。えり子は僕だけの天使」
言いかけて、修兄ちゃんが止まった。そして、どんどん顔が青冷めていく。
修兄ちゃん、どうした? ほら、あたし置いてけぼりだから。遠目で士郎さん達も疑問だから。
「あぁぁぁぁぁぁぁっ! えり子を駅に迎えに行くの忘れてたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「え?」
「ご、ごめんあむちゃんっ! というか士郎さん達もすみませんっ!!
僕、ちょっと用事があるんで・・・・・・失礼しまーすっ!!」
そのまま、修兄ちゃんは全速力で翠屋を飛び出した。当然、あたしは置いてけぼり。
・・・・・・な、なんなのこれ。あんまりにも情緒無さ過ぎるんですけど。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・いやいや、婚約者との約束を忘れるってだめなんじゃ」
「士郎さん、あの人は・・・・・・その、どうしてここに?」
「あぁ、うちにはここ1年くらいの間に顔を出すようになったんだ。ただ、見ての通り悪い子じゃないんだよ」
なんでも、ケーキ作りに集中し過ぎると周りが全く見えなくなるらしい。仕事場でもあんな感じとか。
フェイトとなのは、ヴィヴィオとはやてで感嘆の息を漏らしてしまった。もちろん、いい意味で。
「それで愛嬌のあるというか、凄く純粋な子なの。私達もそうだけど職場の人達も、それを理由に嫌ったりというのがない。
というか、多分えり子ちゃんもね。一週間くらい前にここに寄って、ちょっとお話した感じだけど・・・・・・まぁ、多分大丈夫よ」
だと良いけど・・・・・・とりあえず、僕は気をつけておこう。フェイト放ったらかしは、色んな意味でダメだと思う。
それで、あむが苦笑いで立ち尽くしているけど、どうしよう。アレから現実に引き戻すのも、ちょっと酷な気がする。
「ところで恭文君」
「ほい? 士郎さん、どうしました」
「いや、年のせいかな。あむちゃんの周りに、小さな子達が浮かんでるように見えるんだが。
というより、さっき君と喋っていなかったか? あの・・・・・・ほら、あそこの青い子と」
「「「「・・・・・・え?」」」」
僕とフェイト、ヴィヴィオと事情を知っているアリサが、一斉に声を漏らした。
「士郎さんも見えていたんですか?」
そして、更に爆弾が投げられた。そう言ったのは・・・・・・すずかさん。
「私もということは・・・・・・もしや、すずかちゃんも」
「はい。ピンク色のチアガールの子と、なぎ君とお話してた青い子と、緑色のほんわかした子」
「そうそう、それだよ」
「え? あの、お父さんもすずかちゃんもどうしちゃったのかな。ちょっと落ち着こうよ。
私、そんなの見えてないよ? ね、フェイトちゃん達もだよね」
そこでなのはが空気を読まずに聞いてきた。当然のように、はやて以外のメンバーは苦笑い。
「そやなぁ、うちもなーんも見えんで? 見間違いとちゃうの?」
「ううん、今も見えてるもの。なぎ君も同じだよね。だって、さっきちょこっとお話してた」
「「あ、あの・・・・・・えっと、その・・・・・・あはははは」」
なお、この後あむも巻き込んで説明が非常に大変な事になるけど、それはカットします。
というか、なのはとはやてが非常にうるさかった。それはもううるさかった。
『どうしてっ!? 私にだって夢あるもんっ! なのに見えないなんておかしいよっ!!』
『うちも同じくやっ! この性悪チビに見えるんやったら、うちかて絶対見えるやろっ!!』
・・・・・・・・・・・・と、騒ぎ出したから。なお、すずかさんと士郎さんが見えていたのには、理由があった。
まず、すずかさんは元々そういう霊的な物とかが見える事が、結構あったらしい。
この辺り、血筋と言うか体質的なものらしい。ようするに、夜の一族の能力の一端。
そして、士郎さんは・・・・・・まぁ、うちの兄弟子と姉弟子と同じくだったということで、納得して欲しい。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
その後、あっちこっち観光して時刻はもう夕方。
ハラオウン家の前で解散になって、僕達はホテルを目指す。
・・・・・・まぁ、あむにとっては知らない街だからさ。ガードは必要でしょ。
なお、僕とあむだけじゃない。実は、この二人も居る。
「・・・・・・でも、なぎ君にもたまごがあるんだよね。
じゃあ、ランちゃん達みたいな子がいつか生まれるんだ」
「まぁアンタのキャラだし、そうとう濃ゆいのが出そうだけどね」
「アリサ、失礼な事言うな」
そう、すずかさんとアリサさんだ。ただ、ここには理由がある。それは・・・・・・えり子さん。
僕達がホテルの敷地内に入っても非常に微妙な空気なのは、あの人が原因なのだ。
「それでアリサさんにすずかさん、えり子さん・・・・・・相当お冠なんですか?」
「みたいよ? もうメールがすごい勢いで返ってきたもの」
「でも、待ち合わせスルー・・・・・・は、当然か」
「それだけじゃないの」
ホテルの敷地内、中庭を歩きつつ紺のワンピース姿のすずかさんが表情を険しくする。
というか、アリサまで同じ。えっと・・・・・・どうした?
「あの人、えり子ちゃんが大事な話があるって言ったのに、茶化したんだって」
「えっと、どんな具合にですか?」
「自分が浮気するかどうか。心配なんじゃないかって思ったらしいの。
それで、浮気は三回までしかしないって答えて」
「「はぁっ!?」」
つい、足を止めてあむと声をハモらせて叫ぶ。だけど、これは仕方のない事なのだ。・・・・・・うわ、バカ過ぎる。
結婚式前日にそんな事言うバカ、見たことないよ。僕が見たのは、せいぜい当日に失踪するバカだけだよ。
「それで、えり子はもうカンカンよ」
そうだよね、カンカンにならないわけがないよね。結婚前夜でする話じゃないし。
「・・・・・・あぁ、じゃああのメールはそれが原因なのかなぁ。
どうも待ち合わせスルーだけで、これとは思えなかったんだけど」
「メール? あむ、なんかあったの?」
「えっとね、ママが送ってきてくれたの。なんかホテル中で凄い噂立ってるらしいんだ。
・・・・・・大友財閥のご令嬢が、結婚ドタキャンするかもって」
僕とアリサにすずかさんは、当然のように顔を見合わせる。大友財閥のご令嬢というのは、もちろんえり子さんの事。
なんでも、ホテルの玄関で婚約者にビンタカマして、『もう知らないっ! 勝手にしてっ!!』と大声で罵ったとか。
「・・・・・・そりゃそうなるわよ。あの子、普通にご令嬢ってキャラじゃないもん。
気も強いし口より先に手が出るタイプだし。ただ、根に持ったりするタイプじゃないから、大丈夫なはず」
「でもアリサちゃん、普通に私は許せないな。私だったら、本気で考え直すよ。
うん、浮気なんてだめ。私の目の前でイチャイチャとかも、だめ」
・・・・・・そういうお考えをお持ちなら、是非ともフェイトの前で抱きつかないで欲しいんですけど。
そう心の中でツッコんだ僕は、きっと許される。てーか、許されなきゃおかしい。
「でもや、やばい。なんか胃が・・・・・・! また胃が痛くなってきた・・・・・・!!」
「恭文さん、しっかりしてくださいー! あぁ、顔が真っ青ですー!!」
「ちょっと、アンタしっかりしてよっ! てゆうか、あたしはなんでそうなるのか分からないんだけどっ!?」
「あー、あむ。これは仕方ないのよ。コイツ、結婚式にはちょっとトラウマ持ちだから」
「トラウマってなんですかっ!?」
とにかく、あむにトラウマの原因を説明しつつ、現状対処を開始。
明日の結婚式が非常にダメな事になったら困る。また僕の結婚式へのトラウマが増えるし。
早急に僕達はえり子さんに会いに行って、お話する事になった。
僕はすずかさんとスゥに背中を撫でられつつ、あむとアリサに引っ張られていく。
とりあえず、すずかさんとスゥがなんか仲良さげなのが、非常に気になる。
「スゥちゃんは、なぎ君の事好きなの?」
「はい。スゥは、恭文さんの現地妻7号ですからぁ」
「え?」
やめてー! お願いだから現地妻はやめてー!!
よし、今回の事が片付いたら、絶対に本当の意味を教えてやるっ!!
「恭文さんに、スゥは危ないところを助けてもらったことがあるんですぅ。
だからスゥは、恭文さんをいっぱい応援して支えるんですぅ」
「あ、そうなんだ。なら、私と同じだね。私もなぎ君に危ないところを助けてもらったことがあるの。だから、なぎ君の現地妻2号なんだ」
同じって平然と答えないでっ!? あぁ、あむとアリサが僕達からどんどん遠ざかろうとするっ!!
お願いだから、逃げないでー! 特にあむだよあむっ!! スゥは、あむのしゅごキャラでしょっ!?
「えぇっ! そ、そうなんですかぁっ!?」
「そうだよ。それで、前はなぎ君に恋してたんだ。元々、恋人になって欲しくてアタックしてたの」
「えぇぇぇぇぇぇぇっ!? そ、それは驚きですぅっ!!」
「でも、フェイトちゃんと付き合うようになったから、フラれちゃったんだ。
だけど、なぎ君が大好きで大事なのは変わらないから、二人のこと応援するの」
や、ヤバイ。なんか僕の背後の小さな子と大きな子が後ろで友情育んでるんですけど。
というか、普通になんか『ギュ』って音がしたんだけど。握手? 握手なのかなこれ。
「スゥちゃん、あくまでも友達的な意味だけど、一緒に頑張ってなぎ君を応援しようね」
「はい。スゥ、頑張りますぅ」
「はい、二人とも落ち着いてっ!? 絶対頑張り方間違えてるからっ!!
てゆうか、現地妻って時点で友達でもなんでもないしっ!!」
「「そんなことないよ(ないですよぉ)っ!!」」
「あるからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・なるほど。アンタのしゅごキャラのスゥってのにフラグ立てまくって、アレと」
「そうなんです。あの、アリサさん」
「とりあえず、放置でいいわよ。てゆうか、なんでしゅごキャラ?
話聞いてると妖精みたいなもんなんでしょ? それにフラグってどんだけ幅広いのよ」
頭を抱えるアリサさんと恭文は気にしないことにしつつ、あたしはホテルを探し回る。
でも、えり子さんは居ないみたい。少しずつだけど、辺りが暗くなってきてる。
ロビーにも、レストランにも居なかったし、お付きの人もらしき方々も知らなかった。
というわけで、ホテルの裏手の中庭を捜索。・・・・・・まずい、普通にまずい。
「早くしないとマズいわね。ナギのトラウマがまた増えるわ」
「あの、その時って相当だったんですか?」
それで、恭文があんな状態になっている理由も聞いた。・・・・・・『そりゃあなぁ』と、納得した。
新郎居なくなって、それに一人で対処でしょ? アイツ、どんだけ運悪いんだろ。
「相当よ。・・・・・・今思うと、マジ反省だわ。だって、フェイトもなのはもすずかもそうだし、アタシもキレちゃったのよ。
あと、魔導師組はほぼ全員ね。もう『新郎殺す』ってオーラだったの。あれよ、結婚式じゃなくて処刑式になるところだった」
・・・・・・フェイトさん達以外にも、相当強い魔導師の人達が沢山来ていたらしい。スバルさんやティアナさんもだね。
だから、余計にそんなことになったら偉いことになるので・・・・・・アイツが苦労したと。
「だから、新郎の捜索はほぼアイツだけがやったの。・・・・・・そういうわけだから、少し優しくしてあげて?
アタシも、正直今はいつもみたいに尻叩けないの。よし、マジで何とかしないと」
「そうですね。この調子じゃ恭文、結婚式見ただけで気絶するかも知れないですし」
だって、現時点の情報だけでも相当アウトな臭いしかしないし。でも、修兄ちゃんバカだよ。
多少天然というか、空気が読めない所はあるなぁとは思ってたけど、これはないって。
「・・・・・・あ」
「アリサさん?」
「居た」
アリサさんが、唇に右手の人差し指を当てて『静かに』とサインを送る。
頭を抱えていた恭文と、それをずっと支えていたすずかさんも、サインに気づいて頷く。
白いベンチに座って、俯いているのは栗色の髪を真ん中分けにした女性。
少しピンクが入った白のワンピースに、上からピンク色の上着を纏っている。もちろん、夏だから薄手で。
わぁ、綺麗。スレンダーだけどちゃんと出る所は出てる。それで、身長もヒロリスさんくらいある。
確かモデルの仕事をやった事があるって言ってたけど(ママ情報)、これは納得。
修兄ちゃんと並んだらさぞかしお似合いだろうなぁ。うん、お似合いだ。
・・・・・・だから、なのかな。なんだかチクンと胸が痛むのは。
あたしが右手で胸元を抑えている間に、アリサさんが動く。明るく、だけど優しく声をかける。
「えーり子」
後ろからかかった声に、あの人はこちらに振り向く。
そして、ビックリした顔でアリサさんんとすずかさん、それに恭文を見る。
「アリサっ! それにすずかに・・・・・・あぁ、恭文君もっ!!」
「えり子さん、久しぶりです」
「うんうん、久しぶりっ!!」
さっきまでの鬱屈とした表情と違って、嬉しそうな声をあたし達にかけてくれる。
そのまま立ち上がって、こちらに走り寄ってくる。
「・・・・・・あ、そう言えば桃子おば様から聞いてるよ。フェイトちゃんと大分上手くいってるって。
いやぁ、安心したよ。私から見てもそうとう悲しい日々だったから、ホントよかった」
「あははは、ありがとうございます」
「ところで、こっちの子は?」
えり子さんが、あたしを見る。なので、お辞儀するとえり子さんは優しく微笑んでくれた。
・・・・・・まぁ、これだけ見ると天使だよね。多少修兄ちゃんの主観が入ってるけど。
「このバカがフェイトが居るのに性懲りなくフラグ立てて、大親友になってる子よ」
「えぇっ!?」
「違いますからっ! まぁ、友達なのは正解ですけど、フラグは立てられてないですってっ!!」
「あぁ、胃が・・・・・・胃が・・・・・・!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・修ちゃんの従姉妹。あ、そうだそうだ。修ちゃんから聞いてるよ。あむちゃん・・・・・・で良かったよね」
「はい」
あむの事を納得してくれた上で、僕達はベンチに座る。あぁ、やっと胃が楽になった。
「それでえり子さん、なんかホテルですごい噂になってるんですけど」
「噂?」
「えり子さんが、婚約破棄するとかなんとか」
「はぁっ!? どうしてっ!!」
色々納得出来ない様子なので、僕とアリサで簡単に説明した。
とりあえず、驚いているえり子さんに僕達が納得出来ないけど、そこは置いた上で。
「・・・・・・あぁ、失敗したかなぁ」
そして、えり子さんは頭を抱えた。それを見て僕達昔馴染み三人は、少し安心する。
「その様子を見るに、婚約破棄するつもりはないみたいね」
「うん、ない」
だって、もし本気で婚約破棄するつもりだったなら、あの表情はないもの。
そしてそれはえり子さんの即答で、より確実なものになった。
「その・・・・・・私、こういうキャラだからちょっとキツイ言い方する時は、あるよ?
でも、修ちゃんへの気持ちは変わってないよ。・・・・・・うん、変わってない」
言いながらえり子さんは、空を見上げる。
もう星が見え始めている空を、どこか照れくさそうな顔と瞳で見つめている。
「私と修ちゃんって、留学先のパリで知り合ったんだ。私、その頃ホームシックというか、凄く疲れててさ」
「・・・・・・あぁ、メールで言ってたわね。うん、覚えてる」
「私、子どもの頃から続けていたピアノやバレエもいつしか熱が冷めていって・・・・・・夢とか、分からなくなったの」
そんな時、家の近所のお菓子屋さんで住み込みで働いていたあのお兄さんを、窓の外からよく見かけていたと。
楽しそうな顔で、一生懸命でもあって・・・・・・その姿を見るのが自然と日課になって、楽しみになっていた。
「それでね、私の部屋と彼のパティシエの先生の部屋が、隣同士だったの」
えり子さんは、視線を空からあむに移す。そして、少しおかしいと言うように思い出し笑いをした。
「修ちゃんって、あむちゃんは知ってるだろうけど凄くそそっかしいでしょ? 私の部屋を間違えてノックしたの」
「あははは・・・・・・やりそうだなぁ」
「もうね、あの時はビックリした。だって、いつも見ていた男の子が目の前にいるんだもん。
そこからかな。課題に焼いてきたマロンパイをおすそ分けしてもらって、そこから始まったの」
好きな人のことを話す時、人はどこか楽しそうになる。あむ然り、スバル然り、僕やフェイト然り。
今のえり子さんも同じ顔なのは、言うまでもないと思う。つまり、好き・・・・・・なのよ。それも本気で。
「だから、婚約破棄なんてしない。私は修ちゃんが好きだから。・・・・・・大抵の人は、大人になると夢が色あせるでしょ?
でも、修ちゃんは全然そんなことない。いっつもキラキラしてて、そんな修ちゃんと居ると幸せだし、いっぱい元気をもらうの」
「あの、それじゃあ」
「あむちゃん、あとみんなも心配させちゃってごめんね。
大丈夫、私・・・・・・結婚を迷った事なんて、一度もないから」
僕達を見て、えり子さんは安心させるように笑った。笑って・・・・・・その後表情が険しくなる。
そして、右拳を強く握りしめた。なお、ちょっと震えている。それを見て、あむが怯えてる。
「まぁ、今日はマジでムカついたけど。だって、結婚前夜に浮気宣言よ? 普通にあり得ないわよ」
・・・・・・あぁ、そうだよね。うん、それは分かる。
「えり子さん、怒っていいです。普通にそれは怒っていいですから。
あむ、あむからもちょっと言ってやった方がいい。じゃないと、またやらかす」
「そうだね、そうするよ。・・・・・・でも、良かったぁ」
あむが、安心したように身体の力を抜いて、ベンチにもたれかかる。
それを見て、僕もみんなも笑う。僕達全員、あむと同じだから。
「あむちゃん、本当にごめんね。・・・・・・というか、恭文君は特にごめん。
はやての結婚式で相当だったのに、これだもんね。胃、痛くない?」
「さっきまで非常に痛かったです。また、あの地獄の再来かと思うとこう・・・・・・キリキリって」
「あぁ、ほんとごめん。とにかく、私はこんな調子だから」
「・・・・・・よし。それならあたし、修兄ちゃんとちょっと話してきます」
そう言って、ガッツポーズであむが立ち上がる。なので、僕も続けて立つ。
「あむ、確か修司さんって、自分でウェディングケーキ作ってるんだよね?」
「うん、そう言ってた」
「だったら、厨房だね。一緒に行こうか」
さっきまで感じてた胃痛を払うように、伸びをする。
そうしながら横を見ると、あむが少し驚いたような顔をしていた。
「・・・・・・いや、いいの?」
「いいの。てゆうか、あむはまだこのホテルの中とか分からないでしょ?
でも、僕は違う。僕は何回も来てるし、案内するよ」
フィアッセさんの護衛の一件とかでも、下見してるししっかり把握済みだよ。
念のために、確認しながら向かえば更に万全だね。うん。
「なら、お願いしちゃおうかな。・・・・・・ありがと」
「いいよ」
というわけで、僕達は厨房を目指して出発。アリサ達とはその場で一旦お別れ。
とりあえず、あのパティシエは覚悟しておいた方がいい。
あむの目が、かなり怒っているから。きっと話術サイドの人間としての本領が、遺憾なく発揮されると思う。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「あむちゃん、恭文君とずいぶん仲良しなんだね。
年、結構離れてるはずなのに。呼び捨てだし、距離感も近いし」
「うん、仲良しだよ。少し事情込みなんだけど、大親友だから。でも、安心したよ。
これで結婚式が中止になってたら、なぎ君の胃に穴が開く所だったもの」
「きっと、一生消えないトラウマが残ったわね。現にここに来るまでも顔色すっごい悪くしてたんだから」
「あははは、ごめんね。ただ・・・・・・なぁ」
えり子ちゃんが、また俯く。さっきまでのいつものオーラが、一瞬で吹き飛んだ。
困っているような、落ち込んでいるような顔になる。
「えり子ちゃん、他に何かあるの?」
「うん。お父様達とも相談の上で、ずっと考えていて、迷っていた事があってね。
ほら、アリサにはメールで大事な話があるのに・・・・・・とか書いたと思うんだけど」
「あぁ、アレね。なるほど、察するにそれが相手に言えないから、また悩んでると。
てゆうか、その悩みってなに? アタシ達はてっきり、婚約破棄の事かと思ってたんだけど」
「あ、メールの文面だけならそうなるよね。・・・・・・あのね」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・このホテル、結構広いんだね」
「コンサートホールなんかもあるホテルだしね。・・・・・・あ、ここだ」
僕達は、さほど時間がかからずに厨房に到着。なお、確認しながら来た。
あのお兄さんは、開いている厨房一つを借りきってウェディングケーキ作りをしているとか。
「・・・・・・話って、なんだろ。大事な話で、ずっと迷ってるって・・・・・・いったい、なんだろ」
僕達は明かりの付いた厨房をそっと覗く。除くと・・・・・・居た居た。
なんつうか、落ち込んだ表情で手元を動かしている。あ、自分の仕事はきっちり終わらせたらしい。
「ケーキ、もうすぐ完成という感じですねぇ」
タキシード姿の新郎とウェディングドレスの新婦を象った飾り。
高く積み重ねられたスポンジ。あと、周りには幾つかのボール。あの中身、フルーツ類かな。
「そうだね。というか、美味しそう。いや、その前に高い。そして、いっぱい」
「あー、早く食べたいよねー。うぅ、ちょっとだけなら」
≪ダメに決まってるでしょ。ランさん、どんだけ食いしん坊キャラですか≫
「そうですよぉ、そんなことしたらケーキがダメに・・・・・・あれ?」
キャンディーズが、あっちこっち見渡し始める。そして、徐々に表情が険しくなる。
険しくなって、みんなは厨房を見る。
「・・・・・・そうだよな。えり子と僕が釣り合うわけ、ないよな。
そっか、迷ってる事って噂通り・・・・・・婚約、破棄だったんだ」
あ、あれ? なんかいやーな予感がするんですけど。
というか、これは毎度毎度のパータン・・・・・・じゃなかった、パターンってやつですか?
だから、厨房の中から誰かが倒れる音がした。僕とあむは顔を見合わせて、厨房に突入。
すると・・・・・・あのお兄さんが、倒れてた。
「修兄ちゃんっ!?」
「・・・・・・あむ、見上げてみて」
たまごは割れる。割れて出てくるのは、黒いちびキャラ。頭には、当然のように赤い×。
「え?」
上を見ると、そこには・・・・・・右手に泡だて器、左手で金属式のボウルを持った×キャラが居た。
『ムリィィィィィィィィィッ!!』
「ば、×キャラっ!? なんでっ! どうしてっ!!」
≪あむちゃん、考えるまでもないの。きっとこの×キャラは≫
「修兄ちゃんの×キャラっ!?」
あむが状況を納得したところで、×キャラのターンが来る。×キャラは、右手の泡立て器を振るう。
『ブラック・・・・・ホイーップッ!!』
振るって放出されるのは、黒いホイップクリーム。それが、僕とあむに襲いかかる。
僕は、あむの手を引いて左に走って、厨房の影に隠れる。
≪これで確定ですね。あれは、あのKY発言のお兄さんのたまごからですよ≫
「冷静な判断ありがとねっ!? でも、あたしも分かったから必要なかったわっ!!」
『ホイップ・シロップ・スイィィィィィィッツ』
「というか、これはスゥの技ですぅっ! 真似しないでくださいですぅっ!!」
あぁ、乱射しまくってるなぁ。上からなんかガチャガチャグチャグチャと音がするもの。
きっと、キッチンの上の物とか食材をぶっ飛ばして・・・・・・ぶっ飛ばして?
「・・・・・・まずい」
僕は、キッチンの影からそっと他のところの様子をみる。
様子を見て、すぐにしゃがんで襲ってきたホイップを回避。
「あむ、非常にまずい事になった」
「なにっ! てゆうか、これ以上まずくなりようがないと思うんだけどっ!!」
「それがなっちゃったのよ。・・・・・・ケーキが潰れてます」
「あぁ、そりゃまずい・・・・・・・・はぁっ!?」
もうね、ぐしゃぐしゃだった。スポンジケーキ、全滅だよ。
あれ、リメイクハニーでお直しするか焼き直しだね。
なお、焼き直しの場合はスポンジの生地作りから始めないとだめ。
普通のケーキならともかく、ウェディングケーキは何段も重ねてタワーにするから・・・・・・時間、かかるなぁ。
「あぁもう、マジで状況悪くなったしっ! どうすりゃいいのこれっ!!」
「あむちゃん、落ち着いてくださいっ! それならまず、スゥとキャラなりですぅっ!!」
そして、スゥが僕を見る。なので、僕はその視線を受け止めて頷いた。
ようするに、僕にフォローしろと言ってる。それで、一気に浄化ですよ。
「あむ、僕が防御魔法展開して盾になるから、その間に浄化準備。いい?」
「わ、分かったっ! それじゃあ早速・・・・・・!!」
あむは、しゃがみながらも両手で鍵を開けた。
「あたしのこころ・・・・・・! アンロックッ!!」
開かれた鍵は、あむに力を与える。そして、あむはしゃがみながらも変身した。
なんだかんだで結構久々な、スゥとのキャラなりである。
【「キャラなりっ! アミュレットクローバー!!」】
≪・・・・・・しゃがみながら言っても、あまり決まらないの≫
「えぇい、うっさいっ! とにかく恭文・・・・・・お願いっ!!」
「了解っ!!」
とりあえず、両手にジガンを装備。アルトは、今回お休み。
まぁ、力を借りるようならすぐにセットアップだね。うし、んじゃま。
「あぁ、それとっ!!」
なんかあるんかいっ! 飛び出そうとしたのに止めるの、やめてっ!?
「絶対に・・・・・・無茶な事、無しだから。いい?」
あむが、両手でリボン付きの泡立て器を持って、僕の方を見ながら言ってきた。
なので、僕はそれに少しびっくりしつつも・・・・・・頷いた。
「分かってるよ。んじゃ・・・・・・いきますか」
僕は、即座に立ち上がる。立ち上がって、左手をかざして魔法は発動。
なお、カートリッジを2発ロード。左手のドラム式のリボルバーが、回転していく。
≪Round Shield≫
発生した蒼い三角形の盾は、襲い来るホイップクリームを弾き返す。
結構集中的にぶっぱなしてくるけど、大丈夫。これくらいなら踏ん張れる。
(・・・・・・そうだ、どうせ僕と彼女じゃ釣り合わないんだ。みんな言ってる。
僕と結婚なんかしないで、モデルでもしてればいいって。そっちがいいって)
この声、あの人の声だ。・・・・・・×キャラの右横に、うっすらと頭を抱えてる姿が映る。
それでも、×キャラは必死に右手を振るって僕達にクリームをぶつけてくる。
『ムリムリムリムリムリィィィィィィィィィッ!!』
(そうだ、そう言ってた。あむちゃんのママとパパだって、楽しそうに話してた。
しがない見習いパティシエと財閥のお嬢様じゃ、月とスッポンだって)
・・・・・・はい?
「あむ、今僕は非常に気になる発言を聞いたんだけど」
あむは僕の後ろに回り込んでから、立ち上がっている。
≪もしかしてあむちゃんのパパとママ、この人がその『しがないパティシエ』だって知らないの?≫
≪それはあれですね、スバルさん張りのKYですね。何やってるんですか、あなたの親≫
立ち上がって・・・・・・多分、頬を引き攣らせている。
「き、気のせいじゃない? ・・・・・・ママもパパもなにしてんのかな」
そうか。そういう発言が飛び出すってことは、やっぱ気のせいじゃないんだ。
噂はともかく親戚が言ってたらそりゃあ・・・・・・なぁ。もしかしたら前々から結構言われてたのかも。
(そうだ、僕はえり子にとっていらない存在なんだっ!!
えり子は薔薇色の未来があって・・・・・・僕にはもったいないんだっ!!)
「あぁもう、勘違いっ! 修兄ちゃん、なに言ってるのっ!?」
あむは、僕の後ろで×キャラを見据えながら言葉をかける。それに、×キャラの動きが止まった。
「何時だってまっしぐらで、夢だけ見てキラキラしてるっ! そんな修兄ちゃんだから、えり子さんは選んだんだよっ!?」
(嘘だ・・・・・・嘘だっ!!)
「嘘じゃないっ! それで、そんな修兄ちゃんだから・・・・・・そんな修兄ちゃんだから、あたし」
あむの言葉が止まった。だから、×キャラは攻撃を再開する。再び、ホイップクリームが襲ってくる。
あむ、なにやってるっ!? ほら、なんでもいいから話してっ! これがおのれの戦い方でしょうがっ!!
「あたしだって・・・・・・初恋だったんじゃんっ!!」
・・・・・・・・・・・・なんか爆弾ぶちまけやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
「と、とにかく・・・・・・自分で自分に×なんて付けちゃダメじゃんっ!!
・・・・・・ネガティブハートに、ロックオンッ!!」
あむが×キャラを指差している・・・・・・はず。僕は前に居るから見えないけど。
「オープンっ!!」
あむが両手でハートマークを作って、胸元のハンプティ・ロックから緑色の力が溢れてる・・・・・・はず。
だから僕は左に跳んだ。ラウンドシールドを解除して、あむの前から飛び退く。
「ハートッ!!」
ハンプティ・ロックから溢れた光が、あむの手の中を通ってハート型の力の奔流になる。
色は当然のように緑色。それがあむに迫っていたホイップクリームを押し返す。
黒色のクリームは霧散して、そのまま奔流が×キャラを飲み込んだ。
『ム・・・・・・ムリィィィィィィィィィッ!!』
奔流に飲み込まれた×キャラが声をあげると、×キャラの頭の×がひび割れる。そして×が砕けた。
キャラを黒いたまごが包み込み、そのたまごは白い元のこころのたまごへと変化する。
こころのたまごは、調理場の床にうつ伏せ気味に倒れていたお兄さんの胸元へと吸い込まれる。
とりあえず調理場を見渡すと・・・・・・うわ、酷いなこれ。他の食材はギリ無事だけど、特にケーキが酷いって。
「やったやったー」
【やりましたねぇ】
まぁイースターの時とかみたいに、合体したとかじゃないしなぁ。
二人がかりだもの、これくらいはサクっといきませんと。
≪・・・・・・でもあむちゃん、あと主様≫
「うん、どうしたの?」
≪どうしてあむちゃんがオープンハートを撃つ直前で避けられたの? それも本当にギリギリなの。
特に合図とかしてなかったし、主様もあむちゃんをずっと見て無かったの≫
そう、さっきから僕はあむを見て無かった。てゆうか、余所見してる余裕ないし。
≪あむちゃんは今のところ魔法が使えないから、思念通話もないの≫
そう聞かれて僕とあむは顔を見合わせて・・・・・・少し考える。
「いや、だって恭文なら絶対選けるって思ってたし」
「僕もあむの撃つタイミングは読めてたし、大丈夫だって思ってたもの」
そう答えると、なぜかジガンが押し黙った。というか、キャンディーズまで押し黙った。
「・・・・・・みんな、どう思うこれ?」
「いや、フェイトさんとリインちゃんには教えられないね。絶対ヤキモチ焼くって」
【超・電王編を超えて、更に仲良しさんになったですねぇ】
≪まぁあれですよ。いいんじゃないですか? 4年後なら犯罪になりませんし、第三夫人でも≫
「「みんな揃って一体なんの話してるっ!? もう意味分かんないしっ!!」」
とにかく僕達はすぐに次の行動に出る。僕とあむが見るのは・・・・・・ウェディングケーキ。
もうぐちゃぐちゃのボロボロのケーキだね。これをこのままスゥのリメイクハニーでお直しすれば。
「・・・・・・修ちゃん、ちょっといい?」
その声は、えり子さん。その声に僕とあむは顔を見合わせて、思わず隠れてしまう。
というか、隠す。あむ、慌ててキャラなり解除することも忘れてたし。
「修ちゃんっ! ねぇ、どうしたのっ!?」
「ん・・・・・・えり子? いや、なんか嫌な気分が襲ってきて・・・・・・あぁ、なにこれっ!? け、ケーキがっ!!」
とりあえず、隣に居るあむと顔を見合わせる。そして、僕は首を横に振った。
ぐちゃぐちゃのケーキを身られちゃった以上、もうお直し出来ない。どうしようもないって。
「・・・・・・はぁ、作り直しかな。これは」
「そうなるわよね。・・・・・・あの、それでね修ちゃん」
「うん、なにかな。あぁ、というかえり子・・・・・・昼間は、ごめん」
「ううん、大丈夫。私は気にしてないから」
いやいやっ! つい殺気・・・・・・じゃなかった、ついさっきあり得ないとか言ってませんでしたっ!?
うわ、なんか見えないけど出してる空気が甘いしっ! えり子さん、こんなでれでれキャラになるんだっ!!
「あの、実はその・・・・・・相談したいことがあるって、言ったわよね?」
「あ、うん。・・・・・・それって、結婚の事かな」
「違うわ。まぁ、関係はあるの。あのね、修ちゃん・・・・・・私、お料理も出来ないでしょ?」
うん、えり子さんはお料理関係さっぱりなの。隣でハラハラしながら話聞いてるアミュレットクローバーと同じく。
「修ちゃんに色々迷惑かけちゃうんじゃないかとか、かなり考えて・・・・・・さっきも友達とかに相談したりして」
アリサとすずかさんの事だね。・・・・・・あぁ、そう言えばえり子さんの悩みの話もあったか。
「今もまだ、迷ってると言えば嘘にならない。でも、自分の気持ちに嘘はつけない。
あのね修ちゃん、私・・・・・・修ちゃんと同じパティシエになりたいの」
「・・・・・・え?」
「パティシエになって、いつかお店とか持った時に修ちゃんと一緒にお菓子作りをしていけたらいいなって・・・・・・ずっと、ずっと考えてたのっ!!」
「えぇっ!?」
僕とあむはまた顔を見合わせて、声こそ出さないけど驚愕の表情を浮かべる。
え、えり子さんがパティシエって・・・・・・マジかいっ!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・全く、えり子もうじうじ悩む必要ないのに。素敵な夢じゃないの」
「そうだよね。大好きな人と一緒の夢を追いかけて、歩いていきたいなんて・・・・・・羨ましい」
ただ、やっぱり自分は大友財閥の跡取り娘ではある。
だから、家のこととか他の道があるかどうかとかもかなり考えたとか。
あとは修司さんへの負担がかかるかもというのが、一番だね。
とりあえず私とアリサちゃんは、まずはお話してみることとアドバイスした。
「私は、お姉ちゃんと恭也さんが居るからあまり考えてなかったけど・・・・・・家のことって、結構重大な問題なんだよね」
「そうなのよね。でも、良かったわよね。えり子のパパとママは、えり子の自由意志に任せてくれてさ」
「うん、そこは安心」
えり子ちゃんのお父様とお母様は、すごく温厚で優しい方達。
私達もそうだし、なのはちゃんにフェイトちゃん達も知ってる。だから、そう言ったのは凄く納得した。
つまり、あとはえり子ちゃんの気持ち次第で全部決まる事だったの。
ここは、あんまり言えないかな。きっとすごく勇気の必要なことだっただろうから。
「そう言えば、アリサちゃんの方はどう? 一応一人娘だし」
「うちは、アタシが会社継ぐって言っても逆に納得しないのよ。
何かしたいことがあるなら、そっちをやっていいんだよーって」
「アリサちゃんのご両親、心配性な方達だしね。
アリサちゃんが無理してるんじゃないかって、気にしてるんだよ」
「正解よ。・・・・・・まぁ、お言葉に甘えて色々可能性は探すつもりだけどね」
「そっか。うん、それはきっと良いことだね」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・えり子、修行中は辛いことの方が多いよ?」
「覚悟、してるわ」
「モデルや他の仕事の方が、ずっとえり子には向いてるかも」
「そうかも知れないわね。でも、私はこうしたいの。
だって・・・・・・修ちゃんと一緒に夢を追いかけるのが、私の夢だから」
決意した女性は強く、決意を受け止める男性はしつこいくらいに確認するのよ。
いやぁ、分かるなぁ。僕も・・・・・・三人体制には色々と悩みが尽きないから。
「それじゃあ修ちゃん、私もケーキ作り手伝わせてくれる?」
「もちろんさ。・・・・・・でも、間に合うかなぁ」
「大丈夫、間に合うわ。二人で・・・・・・ううん、四人でなら」
・・・・・・・・・・・・ギク。
「翠屋の元店員も居るし、大丈夫。きっと間に合わせられる。ね、恭文君にあむちゃん?」
「えぇっ!?」
あ、あははは・・・・・・バレバレですか? 視線がこっち向いてるの分かるし、出ない選択肢は無いよねぇ。
「あむ、とりあえずキャラなりはもう解除しようか。ほら、びっくりしちゃうし」
小声で隣に居るあむにそう話しかける。あむは、一瞬だけ固まってしゃがんでいる自分の格好を見る。
そして、次の瞬間には驚いた表情を浮かべるのだった。・・・・・・マジで忘れてたんかい。
「あ、忘れてたっ!!」
「僕も、フェイトに連絡しなきゃ。ウェディングケーキ作るから、今日は帰れないって」
「あぁ、そう言えば恭文は家に戻る予定だったよね。・・・・・・お疲れ様」
「というわけで、キャラなりからキャラチェンジですぅ。お菓子作りなら、スゥと恭文さんにお任せなのですよぉ」
そして、結局午前様な感じにはなったけどケーキは仕上がった。
スポンジ生地を作り直して、それをオーブンで焼いて、クリームもダメになってたから作り直した。
粗熱を取って、それからスポンジを積み重ねて、白い生クリームを全面に塗る。
修司さんが採ってきたブルーベリーやいちごを使ってデコレーション。
最後に、花嫁と新郎の飾りをケーキの上に乗せて・・・・・・そこで、ようやく完成した。
ウェディングケーキなんて作るのは初めてだったので、すごく楽しかった。
というか、あむもえり子さんも、それに修司さんもそうだね。修司さんなんて、特にワクワク顔だよ。
それを見て、えり子さんやあむが好きになった理由が・・・・・・よく分かった気がする。
前に歌唄が、ブラックダイヤモンド事件終了直後に言ってた事がある。強い輝きは、人を惹きつけると。
そして、強い輝きは惹きつけられた人の中から、新しい輝きを生み出すと。
本当に色褪せずに夢を追いかけるこの人だから、えり子さんもキラキラに輝いているのだと、一人胸の中で納得した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そして、翌日の結婚式はもう・・・・・・ごめん、泣いちゃった。
結婚式って、こんな平和で穏便に終わるものだと思ったから。
ヴァージンロード歩いて、誓いのキスをして、あむの妹がライスシャワーを振りまく。
そして、えり子さんと修司さんは幸せそうに笑う。・・・・・・だから、僕の両隣に気合いが入る。
「・・・・・・素敵、だよね」
「素敵です」
「リイン、私達も頑張ろうね。その、三人での結婚式にはなるけど・・・・・・それでもだよ」
「はいです。がんばりましょうね。というか、恭文さんには早く覚悟を決めてもらわないとなのです」
そう言いながら、僕に言いようのないプレッシャーを与える。それが怖い。
そしてはやてや横馬、アリサにすずかさん達は、さり気なく距離を取ってる。
「・・・・・・それっ!!」
それに怖くなっていると、えり子さんの右手が高く掲げられた。当然・・・・・・ブーケ投擲。
空高く舞うブーケ目がけて、フェイトとリイン以外の女性陣が殺到しようとする。だけど、決着は意外に早くついた。
「・・・・・・へ?」
それを受け取ったのは、一人の女の子。ピンク色の髪に×の髪飾り。
そして、青い清楚なスカートと上着に白いリボンを纏った女の子の両手に、ブーケは納まった。
「あ、あたしっ!?」
「あむさんっ!? え、どうして私じゃないのっ!!」
「あれだよ、魔王卒業しないとブーケから逃げちゃうんだよ」
「そんなー!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ぶ、ブーケ・・・・・・ということは、次に結婚するのはあたしっ!?
でも、相手なんて・・・・・・あぁ、でも唯世くんとこう・・・・・・あははは。
『あむ、俺じゃだめか?』
え、なんでイクトの顔が浮かぶのっ!?
『・・・・・・ジョーカー』
いいんちょまで出てきたんですけどっ!!
『あむ、お願いっ! 歌唄を第三夫人にしないために、あむが僕の第三夫人になってっ!!』
そして最後意味分からないしっ! アンタそれ支離滅裂じゃんっ!!
「・・・ふむ、あむちゃんは沢山顔が浮かんでるみたいだねー」
「やっぱり、恋多き乙女なんだね。ボクの目に狂いは無かったよ」
「ヒロインとして、正しい形ですぅ」
「あ、アンタ達ねぇ・・・・・・!!」
あたしは居ても立っても居られなくて、180度回転。ブーケを持ったまま、そこから走り去ろうとした。
「これじゃああたし、ただの浮気者の最低女じゃんっ! もう、どうしてこうなるのー!?」
(第46話へ続く)
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