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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第25話 『その日、機動六課? 古き鉄の本気編』



恭文「前回のあらすじ。中央本部で警備してたら、普通に襲撃が来ました」

はやて「で、うちらは現状に対処・・・・・・なんやけど、普通に恭文んとこにはチンクが来た。
デートのお誘いらしかったので、断ったところから、お話は始まります」

恭文「全然違うわボケっ! てーか、デートのお誘いとかじゃないよっ!? 普通に襲撃仕掛けてきてるじゃないのさっ!!」

はやて「まぁ、予測通りなんよなぁ。こう来るんは、普通に分かっとった。
ただ・・・・・・なんで襲撃から10数分程度しか経ってないんに、ここまで深く入り込まれてるんや?」

恭文「まぁ、手札の相性ってのもあるだろうけど・・・・・・間違いなく居るね。局に内通者が」

はやて「そうやな。もう、それしかないんよな。
普通に施設の内部構造とか、知り尽くしてるとしか思えん手際の良さやし」

恭文「とにかく、そんな感じでお話は始まります。・・・・・・さて、今回の勝利の鍵は」

はやて「そんなんあるんかいっ!!」

歌唄「私よ」





(・・・・・・・・・・・・え?)





恭文「いやいや、それないからっ! 普通に歌唄はミッド来れないでしょっ!?」

はやて「そうやでっ!? てーか、自分じゃ無理やからっ!!」

歌唄「大丈夫よ。某超時空なんとかみたいに、歌で世界を救うとかにすれば」

恭文・はやて「「これ、そういう話じゃないからっ!!」」

歌唄「とにかく、StrikerS・Remix・・・・・・始まります」

恭文・はやて「「それは僕(うち)らの台詞ー!!」」



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・フェイトお嬢様、すみませんが、こちらへ来てもらいます」

「あなたが、ヤスフミとお話した子なんだよね。ヤスフミから聞いてた通りの外見だから、すぐ分かったよ」



その言葉に、チンクと名乗った銀色の髪の子が、目を見開いた。

当然のように、驚きに満ちた表情をしている。そこから少し考えて、答えを出した。



「彼は、気づいていたんですか。私が、敵だと」

「うん」



まぁ、そうよね。それしか考えられないもの。



「・・・・・・ね、お願い。こんな事しないでくれるかな」





対峙しているのは、本当に小さな女の子。だけど、戦士。

だからだろうか。あの子は、フェイトさんの声に答えない。

それでも、フェイトさんは必死で声をかけ続ける。



きっと、お兄様の気持ちを伝えたいから。





「ヤスフミ、もう一度あなたと話したがってたの。だから、お願い」

「素直に来てもらえないのであれば、力ずくでやらせていただきます。
いえ、蒼凪恭文と話をして欲しいというのであれば、是非来ていただきたいのですが」

「無理だよ。というより、それは人質になれということだよね」



チンクさんは、首を横に振った。そして、平然と言い切る。



「ドクターは、あなたに非常に強い興味を持たれています。人質などという扱いは、決してしません」

「同じ事だよ。悪いけど、あなた達の言うことは・・・・・・絶対に聞けない」

「では、姉も聞けません」



これは、だめだ。お兄様の話を出した時、僅かに動揺はした。

でも、自分の任務を優先に考えてる。これは、折れない。



「チンクさん、一つ聞かせていただきましょう」



私は、フェイトさんを庇うように動き、チンクさんに問いかける。



「・・・・・・なんのために、フェイトさんを?」

「フェイトお嬢様は、我々と同じだからだ。そして、フェイトお嬢様が居れば、蒼凪恭文は釣れる」

「なるほど」



平然と言い切りますか。フェイトさんは・・・・・・大丈夫、しっかりしてる。なら、ここはやるしかない。

・・・・・・あとは、お兄様次第。土壇場で切り札が引けるかどうか、賭けになる。



「これで納得しました。あなた、勘違いをなさっているようですね」



私は、いまだ渦巻く爆煙を、左手で振り払う。そして、右手で髪をかき上げる。



「フェイトお嬢様は、あなた達とは違う。そして、お兄様の大切な人です。渡すわけにはいきません」

「お兄様? お前は、蒼凪恭文の関係者なのか」

「えぇ。血の繋がりよりも深い絆で結ばれた、パートナーの一人です」



そして、笑う。・・・・・・そう、笑う。嘲るように、ありったけで笑う。



「連れて行きたければ、この私を倒してからになさい。まぁ、あなたでは無理でしょうけど」

「シオンっ!?」

「だめだよっ! いくらなんでもこの子の能力相手は」

「大丈夫です」



・・・・・・やるしか、ない。私がお兄様だと、向こうは気づいてないんだから。

だったら、出来るだけその札は晒したくない。きっと、有利な点になる。



「・・・・・・どけ。姉はこれ以上、無関係な人間を巻き込むつもりはない」

「笑わせますわね。あんな派手に襲撃しておいて、今更逃げるつもりですか」

「逃げるつもりなどない。姉は・・・・・・答えを出しに来たのだから」



私は、構える。両腕を前に出して、少しだけ腰を落とす。



「それが逃げているというんです。・・・・・・高町教導官、フェイトさんの事、よろしくお願いします。
あと、絶対に警戒を怠らないでください。いきなり足元を掴まれてさらわれるかも知れませんから」





・・・・・・チンクさんが僅かに固まる。だけど、すぐに様子が戻った。

あまり時間をかけるのはダメのようね。今はきっと、あっちこっちで暴れてるからOKなだけ。

あのドンブラ粉の能力なら、普通に重要拠点に爆弾でも投げるのは楽なはず。



そういう局地的な攻撃を繰り返す遊撃アタッカーが、ドンブラ粉の役目・・・・・のはず。



あぁもう、どっちにしても油断は禁物か。いきなり、後ろから攫われる危険もあるんだし。





「わ、分かったっ!! ・・・・・・って、違うよねっ!?」

「そうだよっ! お願いだから、こんな無茶しないでっ!!」

「・・・・・・では、逆にお聞きします」



分かってない。心配なのは分かるけど、分かってないにも程がある。

本当にこの人達は歴戦の勇士なのかと、疑いすらしてる。



「デバイスもないあなた達が、この状況で一体何が出来るんですか」

「「う・・・・・・」」



・・・・・・今の状態では、絶対に勝てない。だから、賭ける。きっと、それしか出来ないから。



「・・・・・・シオン、あなたもしかして」



止めようとしたフェイトさんが、気づいたらしい。私はそれに、両手でお手上げポーズで答える。



「言っておくが、時間稼ぎのつもりなら、無駄だ」

「知ってますよ」



あっさり言うと、その子は呆気に取られたような顔をした。



「ですから・・・・・・言ったではありませんか。どうやら、その耳は飾りのようですね」



構えを一旦解いて、右手で髪をかき上げる。翠色の髪が、薄暗い駐車場に輝きながらなびく。



「あなたでは、私を倒すことなど無理。だって、あなたは非常にKYなんですから」

「・・・・・・そうか」



というわけで、お兄様。少しだけ、無茶をさせてもらいます。

あと、飛針は貸してもらいますね。鋼糸・・・・・・いや、金属物質だからダメですか。



”いやいや、なにが『というわけ』っ!? お願いだから僕に身体返してっ!!
大体、この状態であれと戦闘なんて絶対無理だからっ! ここは僕が一気に”

”ダメです”



やっぱり、とールガンを使おうとしてた。うん、分かってた。

だって私は、お兄様のもう一人の自分なんだから。



”・・・・・・お兄様は、切り札なんですから。というより、ここでとールガンを使うのは得策ではありません”










確かに、能力の相性とシチュを考えると、とールガンが一番いい。

あれなら、向こうの射程外から爆発もろとも撃ち抜ける。

というか、回避も難しいと思う。お兄様、散々練習していたもの。





だけど、問題がある。とールガンは、六課に来てから構築した手札。

相手方が知らない可能性は、かなり高い。だからこそ、とても有効で強力な手札になる。

だからこそ、ここで使うのはアウト。お兄様に、このミッションでとールガンを使って欲しくない。





私が思うに、とールガンは本当にぎりぎりまで使わない方向がベスト。

威力ゆえに、一度使って相手に手札がバレたら、絶対に警戒される。

警戒されて、対策を整えられる可能性は高い。だから、だめ。





出来れば、スカリエッティ本人を前にする時までは、使って欲しくない。

・・・・・・あぁ、それともう一つあるかな。これが、一番重要。

お兄様は、チンクさんとの対話を望んでいる。話して、理解したいと思っている。





だからこそ私は・・・・・・あれをチンクさんに使って欲しくない。いや、お兄様に身体を返したくない。

いくらなんでも、あれは威力があり過ぎる。対人で使う事自体が間違い。

それで殺したら、望みは絶対に叶わなくなる。そんなの、だめ。うん、そうなの。





・・・・・・お兄様は、今身体を返したら、チンクさんを殺そうとする。

躊躇いも、迷いも、対話の意思も見せずに、一発で決めようとする。

今の状況で、警告代わりに撃つなんてこと、戦闘者としてのお兄様が許すはずがない。





その上、相手の能力は爆破系特化で火力も高い。加減をすれば、手痛い反撃もありえる。

だから、一発でだ。お兄様は一発でチンクさんを撃ち貫き、その身を砕く。

そして、自身の願いをも諦め、砕く。私は、そんなの絶対に認められない。





・・・・・・しゅごキャラは、いつだって宿主の味方。ううん、違う。

私は、いつだってお兄様の一番の味方。だから、お兄様の本当の願いを通す手伝いをする。

これが、身体を乗っ取るなんてバカな能力を持っている私を受け入れてくれた、お兄様への想い。





そう、変わらずに受け入れてくれた。お兄様が否定したら、私は消えるんだから。

だから、戦う。お兄様への愛に生き、愛に殉じる女。それが私・・・・・・シオンだから。

・・・・・・まぁ、お兄様の身体を借りてるのは、しのびないけど。





そこには敢えて、目を伏せて行きましょう。大丈夫。お兄様なら、すぐに鍵を開けられる。










”ここは私に任せてください。あ、それと”

”なに?”

”鍵は、もうお兄様の中にあります。だから・・・・・・開けてください。
お兄様の手で、お兄様の未来への可能性の扉を。切り札は、いつだってそこにあります”

”え?”

”お兄様、一緒に戦ってくださいね”










時刻は、18時18分。現在、中央本部はてんやわんやの大騒ぎ。





祭りは、こうして始まった。










「・・・・・・始まらないよ」





口から出てきた言葉は、私の言葉じゃない。その次の瞬間、私は身体の外に弾き飛ばされた。

これ・・・・・・キャラチェンジを、強制解除されたっ!? ま、まさか私の事を否定してっ!!

・・・・・・あ、それはない。身体も消えてないし、異常もあるわけじゃない。で、お兄様もこっちをじっと見てる。



そうだ、私をちゃんと見てる。お兄様は、私を見ている。



服装は、いつものバリアジャケット姿。その姿のまま、お兄様は変わらずに私を見てくれている。





「シオン、ありがと。でも・・・・・・下がってて。フェイトと横馬のこと、お願い」

「ですが」

「大丈夫。シオンが心配してるようなことは、絶対しないから。・・・・・・てーか、ナメ過ぎだよ」



チンクさんは、驚いたようにお兄様を見ている。・・・・・・まぁ、そうよね。

いきなり居ないと思ってた人間が出てきて、武装までちゃんとしてるんだから。



「とールガンを使わなきゃこんな奴にも勝てないなんて、ナメ過ぎ。知ってる?」



お兄様は、右手を上げる。そして、天を高く指す。



「僕は、僕と言う世界の中心。なら、僕の世界と時間は・・・・・・僕が守るの」



・・・・・・だから、私はおとなしく引き下がる事にした。お兄様がやる気なら、私が出る理由はないもの。

というより、確かにナメ過ぎていた。お兄様は、私が思ってるよりもずっと強かったのだから。



「・・・・・・分かりました。お兄様、申し訳ありませんでした」

「ううん。シオン、ありがと」



言いながら、右手でそっと私の頭を撫でてくれる。優しく・・・・・・感謝を伝えるように。

それが嬉しくて、頬が赤くなる。身体が熱くなっていく。



「いいえ。私の方こそ、ありがとうございます」





私はそれからすぐに下がり、フェイトさんの肩に乗る。・・・・・・どうやら、余計なお世話だったようです。

お兄様は、ちゃんと前を見ている。現実と向き合い、壊そうとしている。お兄様は、諦めてなどいなかった。

だから、身体を伸ばし、解しながらも見据えている。目の前の女性を。自身がぶつかるべき相手と。



チンクさんには、私の姿は見えてないから・・・・・・不思議そうな顔をしている。





「女装、していたのか」

「そうだよ」



まぁ、こう説明するしかないですよね。普通に私の存在を話すわけにはいきませんし。



「なるほど、そうやって武装を持ち込んだというわけか。中々に、面白い手を取るな」

「だから、さっきまで分からなかったでしょ? 完全に、僕がこの場に居ないと思ってた」



そのまま、お兄様はアルトアイゼンを腰から抜く。そんなお兄様を見ながら、チンクさんは笑う。



「あぁ、分からなかった。安心しろ、お前は姉だけではなく、姉の姉妹達と、ドクターすらも出し抜いた。また、お前は勝利した」



・・・・・・また? またというと、フォン・レイメイの戦闘のことでしょうか。もしくは、この間の邂逅。

やはり、今一つ読み切れません。相手の意図するところが、どうしても。



「・・・・・・出来れば、普通に対話で済ませたいんだけど」

「そうはいかない。姉達には、出さなければならない答えがある」

「そのために、これ?」

「そういうことだ」



チンクさんは、そのまま両手でナイフを持ち、再度構えます。



「人形として過ごしてきた姉達が答えを出すためには、生きた存在となるためには、儀式が必要だ」



その儀式が、これ。少なくとも、スカリエッティやチンクさん達は、そういう意識で望んでいる。



「今までの自分を清算しなければ、進化する事など、出来ない。・・・・・・馬鹿だと、笑うか?」



私は、笑う。変革を人との争いの結果で決めるなど、バカげているから。

でも、お兄様は首を横に振った。首を横に振り、チンクさんを見て微笑む。



「いいや」



お兄様が、瞬間的に踏み込む。踏み込んで、アルトアイゼンを袈裟から打ち込む。

そして、それを金色の障壁が阻む。それは・・・・・・チンクさんが発生させた、防御フィールド。



「大馬鹿だと、あざ笑ってあげるよ」



刃は、あの金色の障壁に阻まれている。銀色の刃とせめぎ合い、火花を散らす。



「・・・・・・そうか」



チンクさんが、フィールドに守られながらお兄様に向かってナイフを数本投げる。

それを、お兄様は左に飛んで避けた。そのまま、二人はにらみ合う。



「安心した。お前は、そういう奴だと思っていた」



いや、笑っている。嬉しそうに笑いながら、再び互いの得物を構えている。



「そこまでやってくれた方が、姉も、そしてドクターも清々しい」

「期待に応えられて、嬉しいよ。んじゃ、始めようか」

「付き合って、くれるのだな」

「ナンバーズだとか、戦闘機人だとか、そういうのなら付き合う義理立ては無いね」



そう、そんなのただの傲慢で押し付けだから。巻き込まれた方は、いい迷惑。

現に、いい迷惑を蒙っている人間が、ここには大量に居る。



「でも、あの時一緒にベンチに座って、色々と話して」



でも、お兄様は違う。・・・・・・笑いながら、私やフェイトさん達の予想を簡単に飛び越える。



「少しだけ親しくなった友達候補の我がままだって言うなら・・・・・・話は、別かな」



その言葉に、チンクさんの笑みが深くなる。少しだけ目を閉じたけど、すぐに開く。

瞳が、強い決意と戦士の色で満ち溢れる。・・・・・・始まる。



「礼は、言わんぞ」

「いらないよ。これが終わった後に、僕と今度は普通の話をしてくれるのならね」

「考えておこう。・・・・・・負ける気はないがな」

「知ってるよ」










そうして、二人はぶつかり合う事になった。でも、私の出番は・・・・・・これで、おしまい?





うぅ、予定プロットではキャラなりして、それでチンクさんを倒すはずだったのにー!!





まぁ、お兄様がやる気になってくださったのは嬉しいけど、それでも寂しいんです。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS Remix


とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常


第25話 『その日、機動六課? 古き鉄の本気編』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・くそ、中と通信が繋がらねぇっ! なんだよこれっ!!」





てーか、もう陥落寸前ってどういうことだっ!? 襲撃が起きてからもうすぐ10数分、いくらなんでも早いってっ!!

その上、なんかオーバーSのアンノウンが、こっちに近づいてきてるらしい。

さっき、隊舎のロングアーチから連絡が来た。・・・・・・しかも、おまけ付きだ。



この間の『アギト』ってのも居るらしいし・・・・・・あぁもうっ!!





「ヴィータ副隊長、リイン曹長っ! 私達が中へ入りますっ!!」

「隊長達を、助けないとっ!!」



スバルが一声そう上げると、ティアナが続く。で、後ろを見る。・・・・・・そうだ、落ち着け。

この程度は、想定済みだ。事前対策、しつこいくらいに整えてただろうが。



「んじゃ、こいつらも頼めるか?」





アタシが手を差し出すと、ギンガが手を伸ばして受け取ってくれた。

・・・・・・はやての槍十字に、シグナムのレヴァンティン。

あと、シスター・シャッハのヴィンデルシャフトもだ。



どうせ自分も持ち込めないからと、シスターが預けてくれた。



ギンガは、それを大事に抱えて、強く頷いてくれた。





「必ず、部隊長達にお届けします」

「おう、頼むな」



そのまま、スターズの二人とギンガは、中央本部の中に突入した。

つーわけで、次はアタシらだ。



「リイン」

「はいです?」

「悪いな。バカ弟子と離れさせちまって」



でも、ちょっと付き合ってくれ。さすがにお前無しでユニゾンしたのとやりあうのは、キツイんだよ。



「大丈夫です。向こうにはアルトアイゼンも、シオンも居ますから」

「そっか。・・・・・・てか、そのシオンってのは、すごいのか?」

「もちろんです。だって、恭文さんの『なりたい自分』ですよ?」

「・・・・・・納得したわ」





アイツの『なりたい自分』が形になってんなら、すごくないわけがないよな。

・・・・・・主に性格とか。じっくり話したこたぁないが、きっと凄まじい性格なんだろうな。分かるさ。

そんな感情でついつい笑ったりしつつ、あたしは走る。それにリインも続く。



全部をアタシ一人でなんて、無理。だから、アタシは目の前の事をきっちりやる。



まずは、不審な奴らにガツンと一発ぶちかます。





「ロングアーチッ! 空から来るのは、アタシとリインで抑えるっ!!」

「ヴィータちゃん、いくですよっ!!」

「おうっ!!」



アタシは、アタシの仕事をやる。大切なもん守るために・・・・・・アタシの意地を、通す。



「「ユニゾン・・・・・・これはやめよう」」



なぜかそこでハモってしまったのには、二人して笑いながら、続ける。

こういうのはノリだからな。ここは、バカ弟子見習うか。



「いくぜ、リインっ!!」

「はいですっ!!」



つーわけで、せーのっ!!



「「変身っ!!」」










そのまま、光に包まれながらアタシは空を飛び上がり・・・・・・ぶち壊すべき目標へと、直進した。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



会場内は、もうひどいくらいに大混乱。全く、管理局の連中って、事前対策ゆる過ぎよ。

まぁ、だから私も、平然と会場に向かって歩けるんだけど。・・・・・・ターゲットは、三つ。

もう用済みなひげのおじ様と、八神はやて部隊長と、カリム・グラシアの始末。





特に、八神はやてとカリム・グラシアは出来れば捕獲って言われてるのよね。

いやいや、私一人でどうしろと? さすがにこれは無理でしょ。

まぁ、向こうから転送中継してもらえば、大丈夫か。もしくはあれよ、ドンブラ粉に頼もう。





さぁて、身も心も軽くなった事だし、しっかりお仕事しないと。私、これでも義理堅い・・・・・・と。










「・・・・・・さて、アンタはこんなところで何してんのかね」



なんて言いながら、私の前にふらりと出てきたのは、聖王教会のシスター服を着た女。

それだけならまだいい。問題は、ソイツが捕獲対象だっていう事。



「ヒロリス、クロスフォード」

≪姉御の名前を知ってるってことは、スカリエッティの関係者か?≫

「違うわ。アンタ達の弟弟子に殺された『害虫』の作品よ」



完全キャンセルされる前にセットアップしてたのか、ソイツは腰に二刀のサーベルを携える。

そのまま両手を伸ばして、引き抜いた。薄暗い通路の中に、銀色の刃が光る。



「そっかそっか。で、やっさんに復讐ついでに、テロ活動ってわけ?」

「違うわよ。私、殺してくれてせいせいしてるの。
むしろ、お礼に三晩ほど付き合ってもいいくらい。あぁいう子、かなりタイプなんだ」

≪・・・・・・アンタ、すげぇ物好きなんだな≫

「失礼ね。これでも私」



私も、腰の両側についているホルスターから、銃を抜く。



「かなり面食いなの」



銃身の下部が刃になってる、近接戦闘も可能な銀色の銃。

なお、実弾系。だから、完全キャンセル化のこの状態でも、バシバシ撃てる。



「それは無理だね。やっさん一途だから、遊びでそういうこと出来ないのよ。
エロ抜きの親交を深めるためのアバンチュールは出来るけどねっ!!」

≪出来るけどなっ!!≫



・・・・・・いや、それはひどいじゃないのよ。でも、疲れるからツッコまない。



「あぁ、それなら問題ないわよ。私に対して、本気になってもらうから。
とりあえず・・・・・・アンタをとっ捕まえた後でね」

「やれるもんなら、やってみなよ」










そのまま、私は右の銃を構え、引き金を引く。アイツは、それをいとも簡単に右の刃で斬った。

その次の瞬間、右側に気配。アイツは、目の前から消えていた。その気配の方向に、左の銃を叩きつける。

私の銃の刃と、アイツのサーベルの刃がぶつかり、火花を上げた。そのまま少し押し合って、互いに引く。





私は、両手の銃を一気に乱射。それを左に飛んで避ける。そこを狙って右の銃で一発。・・・・・・斬り払われた。





コイツ、魔法無しでこれだけ出来るって・・・・・・まぁ、いいわ。少しは楽しめそうだから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なのはさん達にデバイスを届けるために、中央本部に突入。合流地点の駐車場まで、全速力。

・・・・・・そう言えば、あのシスター・シオンって人のデバイスは、預かってないのよね。

あれ、いいのかしら。ちょっと気になるんだけど。まぁ、いいか。とにかく今はお仕事。





電力関係がやられたのか、薄暗くなっている通路を抜けようとする。





だけど、その瞬間。先頭を走っていたティアが、足を止めた。










「・・・・・・散開っ!!」



私達は、ばらばらに飛ぶ。そうして、私達めがけて飛んできた大量の弾丸を避ける。

避けた直後に、モーター音が聴こえる。・・・・・・これ、私やスバルのナックルと同じ音。



「・・・・・・いくぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」





そこそこの広さのある通路に走るのは、空の道。だけど、私のものでも、スバルのものでもない。

その子は走り抜けながら・・・・・・スバルに突撃。スバルに右足で回し蹴りをかました。

スバルは防御したけど、そのまま吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。



壁に叩きつけられ、スバルの身体が床に崩れ落ちる。





「「スバルっ!!」」



だけど、油断は出来ない。私達の周りを、ピンク色の弾丸が取り囲む。

そうして姿を現すのは・・・・・・二人の女の子。



「・・・・・・はーい、おとなしく捕まってくださいっスよ〜? そうすれば、痛い目に遭わずに済むっスから」



巨大な盾のようにも、サーフボードのようにも見える板を持っている、赤い髪をアップにした女の子。



「ウェンディ、なに言ってんだっ!? ・・・・・・どーせ邪魔になんだからよ。ここで徹底的にぶっ潰すっ!!」





そして、スバルを蹴り飛ばした同じような髪と、金色の瞳の女の子。

この子が、空の道を作った子。だけど・・・・・・嘘。

口調はともかく、声の感じや髪型が、スバルとよく似てる。



いや、それ以前に母さんの固有技能だったウィングロードを、どうしてこの子が・・・・・・。





「戦闘、機人」










ティアが、苦い顔で呟く。・・・・・・あぁ、そうだ。私やスバルが居るんだから、他に居ない理由なんてないんだ。

この子達の身を包むスーツは、あの廃棄都市部での戦闘の時に、隊長達が遭遇したアンノウンと同じ。

そして、私達を捕まえると言った。もう、間違いない。疑いようもない。





この子達は、戦闘機人。私達の・・・・・・敵なんだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・こちらへ接近中の所属不明の方へ。そちらの個人識別コードが、確認出来ていません』



あ、やっぱ警告が来たか。でも、返事してやんねぇ。これに応えてる間に、時間なくなっちまうし。



「ぬっ! アギトっ!!」

「へ?」



雲の下から、それを割るように出て来たのは、赤い弾丸達・・・・・・って、いきなし攻撃してきたっ!?

と、とにかく術式展開。詠唱・・・・・・オーケー。



「ブレネン・クリューガーッ!!」



アタシは、両手を襲い来る弾丸達に向けて、周囲に展開した7発の炎の弾丸を、放つ。

で、敵の攻撃を全て撃墜。爆煙が渦巻いて・・・・・・その中を、鈍い鉛色の弾丸が飛んできた。



「・・・・・・って、実体弾っ!?」





アタシと旦那は、それを両サイドに飛んで避ける。避けると、また襲ってきた。

アタシが撃墜しようとするけど、旦那はその前にシールドを展開して、全部防いだ。

な、なんつう連中だよ。まず、警告途中に攻撃してくるだろ? で、フィールド膜に包まれた弾丸ぶち込むし。



そう言いながら、一息突こうとしたのが、間違いだった。後ろから、突然に気配は現れた。





「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」










両サイドに妙なウサギのぬいぐるみをつけた帽子に、ゴスロリチックなスカート。

白を基調とし、黒と赤のラインが入ったジャケットを身に着けた女の子が、攻撃を仕掛ける。

六角形の金属製のハンマーを、唐竹に振り被り、旦那の背後から叩き込んだ。





その瞬間、衝撃で雲に丸い穴が生まれた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・しかしリイン、警告途中に攻撃って。





お前、バカ弟子といつもこんなことばっか、してるんじゃねぇだろうな?










【ヴィータちゃん、なに言ってるですか? 普通に恭文さんは、警告なんてしません】



・・・・・・あぁ、そうだよな。うん、知ってたわ。アイツ、悪党嫌いだもんな。自分も同類だから。

でも、咄嗟にガードされたな。いいタイミング取ったと思ったのに・・・・・・これかよ。



【だけど、ダメージはきっちり通ったはずです。ヴィータちゃん】

「おう、このままぶっ続けていくぞ」





アタシらが夜の空の上で方針を決めていると、目の前が金色の光で満たされた。

・・・・・・黒い髪が、金色に。瞳は、赤に。篭手と両足のブーツも、髪と同じ色になっていた。

服の色も、少し明るくなったような感じがする。あぁ、間違いねぇ。さっき防御したのは、これのせいか。



咄嗟にユニゾンして、アタシらの攻撃のダメージを、半減しやがったんだ。





【くっそー! おいお前らっ!! 警告途中で攻撃って、ありえないだろっ!!】

【なに言ってるですかっ! 警告してあげただけ感謝して欲しいのですっ!!】

【あんなんで出来るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! お前、今すぐ感謝って言葉の意味を辞書で調べてこいっ!!】



とりあえず、ユニゾンデバイス同士は仲良く出来そうだな。ただ、ロード同士は・・・・・・無理か。

アタシは、アイゼンの先を向ける。てーか、構える。・・・・・・こりゃ、手こずるよな。



「出来れば、通して欲しいのだが」



そう言いながら、槍を構えてんじゃねぇよ。そっちが侵入者なんだから、まずそっちの武装解除が先だろ。



「事情があるって言うなら、話は聞くぞ?」

「すまんが、それは無理だ」

「だったら、ごちゃごちゃ抜かすな」



アイゼンを構えながら、男を睨む。・・・・・・普通に隙がねぇ。オーバーSってのも、納得が行くわ。



「てめぇがやってる事が犯罪だって自覚を持って、傲慢に道を通せよ。それともその槍は、ただの飾りか?」



ま、バカ弟子ならこれくらい言うだろうな。なお、アタシは相当加減してる。

目の前のおっちゃんは、アタシの言葉に自嘲するように笑って、槍に炎を灯す。



「確かに。では、道を通すとしよう。・・・・・・犯罪者らしくだ。
俺は、ゼスト・グランガイツ。騎士、お前の名は」

「機動六課スターズ分隊所属、ヴィータだ」

「そうか、いい名だ。ではヴィータ・・・・・・いくぞ」










空中で、槍と鉄槌がぶつかり合う。そして、辺りの雲を吹き飛ばした。





・・・・・・コイツ、強い。さて、どうなるかはお楽しみってとこだな。





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



飛び交う銃弾を撃ち抜き、拳と蹴りがぶつかり合う。

そんな世界の中、私は普通に思考を回転させる。

うん、かなり回転させてる。だけど、まずい。普通にまずい。





これ、足止めよね? あぁもう、足止めしかないわよね、これ。

相手は二人。こっちは三人。数の上なら、私達の方が上。

でも、そのうちの一人がギンガさんとスバルを相手取ってる。





パワー・スピード共に、全然押し負けてない。てーか、スバルは負けてる。

身体を足のブースター付きのローラーブーツで回転させながら、スバルに蹴りを叩き込む。

スバルはそれを両腕でガードするけど、そのまま吹き飛ばされて、壁にまためり込む。





そこに、真上からウィングロードを展開して、ギンガさんが飛び込む。

回転の中心部、あの子の頭を狙って打ち込んできた拳を、あの子は・・・・・・避けた。

でも、ただ避けたんじゃない。足をブーストさせて、真上に急速反転した。





で、逆上がりの要領で、身体のバネを生かした上で、ギンガさんの腹に両足で蹴りを叩き込んだ。

ギンガさんは咄嗟にプロテクション付きの右腕でガードするけど、それでも吹き飛ぶ。

そこを狙って、身体を回転させて、地面に着地した2Pカラーが上に跳ぶ。





ギンガさんの居る高さまで跳んで、また右足で回し蹴りを放った。

ギンガさんは肩からそれを食らって、地面に叩きつけられる。

叩きつけられながらも受身を取って、すぐに立ち上がった。





で、そこにスバルが2Pカラーに向かって、リボルバーシュートをぶっ放す。

右手のリボルバーのタービンが回転し、渦を巻き、衝撃波を撃ち出した。

それを2Pカラーはウィングロードを発生させて、その上を走りながら余裕で回避。





・・・・・・てか、普通に強い。あ、なお私も苦戦中。普通に苦戦してる。

なんていうか、射撃戦闘かましまくってるの。うん、かなり必死にね。

だけど、どうしよう。早く隊長達と合流しなくちゃいけないのに。





幻術で切り抜け・・・・・・いや、だめだ。時間稼ぎや惑わしてどうこうって言うならともかく、それは無理よ。

せめてキャロが居れば、ケリュケイオンでブーストしてもらって、幻影大量放出なんて、出来たのに。

こうなると、下手に切り抜けるとか考えないで、力押しで突進した方が早いのかも。





それが、許されれば・・・・・・だけど。でも、許されないわよね。普通に、相手の能力が高いもの。

だけど、連携に関してはこっちの方が上。どうも、相手の連携はワンパターンに見える。

リイン曹長とアイツの連携とか、見てるおかげかな。あれに比べたら、向こうのは素人レベルよ。





とにかく、ここは・・・・・・『ガンガンせめろ』ね。下手に守ったら、一気に潰される。攻めて、撃ち抜く。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・駐車場と呼ぶには余りに広い空間で、僕達は戦う。

響くのは爆発音。飛び交うのは、爆撃を呼ぶナイフ。しかしこれは、まずいな。

普通にやったら、相性が悪過ぎる。こっちは金属武器、多数保持だもの。





だったら、普通にやらなきゃいいだけだ。・・・・・・時間はかけない。瞬殺してやる。

というわけで、僕はマジックカードを投げようとして、チンクに妨害されるのです。

投擲しかけて、逃げる途中にカードを数枚落としてしまう。それに、悪態をつく。





ナイフは爆発するけど、それでカードはどうこうならない。カードは爆風で地面を滑り、そのまま。










「・・・・・・どうした、この程度か?」

「いや、それは姉の台詞だと思うんだがっ!!」



言いながらも、チンクがナイフを投擲する。それを、僕は右に走りながら回避。



「気にしちゃ負けだよっ!!」



言いながらも術式詠唱・処理。・・・・・・僕の能力の恩恵。



「それもそうだなっ! この状況では・・・・・・」



どんな状況でも、一部除かれるけど大抵の魔法は、一瞬あれば発動出きる。



「無粋なだけだっ!!」

「ブレイク」





数本のナイフを右に走りながら避ける。チンクは、僕の動きを追いながらも更に攻撃。

壁に、車に突き刺さるナイフは、次々と爆発していく。

でも、僕は構わずに魔法を発動。それは、僕が魔導師になった頃から愛用している魔法。



・・・・・・足元の地面が、数本の杭になる。その杭は、細く飛び出す。





「ハウトッ!!」





チンクのナイフを、鋭く穿ち、爆発する。杭が、途中から砕ける。でも、構わずに杭を伸ばし、チンクを狙う。

チンクは、走りながらも杭を避けていく。しゃがみ、跳び、または乗る。・・・・・・へ?

コンクリの杭に乗ったまま、僕のところに走ってきた。僕は慌てて、ブレイクハウトを解除。



チンクは足を踏み外すかのように、体勢を崩した。いや、崩しながらも、前方に向かってナイフを投げた。

そのナイフは、踏み込もうとした僕に向かって飛んでくる。それを、また慌てて左へ飛んで回避。

回避しながらも、地面に着地しようとしているチンクを狙って左手を動かす。



その人差し指に、光が宿る。その青い光は、遠慮なくチンクに向かって真っ直ぐに飛ぶ。





≪Stinger Ray≫

「スナイプショット」










僕が放ったスティンガーは、真っ直ぐにチンクに向かう。でも、チンクはそれに向かってナイフを投げた。

貫通力に優れたスティンガーは、ナイフをそのまま撃ち抜く。・・・・・・いや、刹那、ナイフは爆発した。

その爆発により、スティンガーは消滅。僕とチンクを、爆煙が隔てた。そして、上から殺気。





そちらを見ずに、僕は後ろに数度跳んでいく。その着地点を狙って、チンクがナイフを投擲していた。

ナイフは僕の着地点すれすれに突き刺さり、爆発を繰り返していく。4度ほどそれをやった後、僕は踏み込んだ。

踏み込んで、前方から来るナイフを斬る。爆発に飲まれても気にせずに、斬って、進み続ける。





爆煙の中を突っ切るようにして見えたのは、一人の女性。

その女性は、僕の顔面に向かって、ナイフを突き立てようとしていた。

それを、左に避ける。避けつつも、アルトを左薙に打ち込み、斬り抜ける。





アルトの刃が、金色の障壁に阻まれ、摩擦し、火花を起こす。その内側から、チンクがナイフを数本投げる。

前に跳びながらしゃがみつつ、それを避ける。でも、チンクの右手がパチンと指を鳴らした。

瞬間、至近距離でその爆発に飲まれて、僕の身体が吹き飛ぶ。熱と衝撃で、頭部に少し怪我を負う。血が、出てるや。





でも、大丈夫。目とか重要器官はやられてない。吹き飛ばされながらも身を捻り、なんとか着地。

チンクは交差しながらも、既にナイフをまた投げていた。左手から、マジックカードを数枚取り出す。

それをナイフに向かって投げる。・・・・・・ナイフごと、カードの中の魔法を発動して、凍らせた。





でも、それごと爆破してくれた。どうやら、普通に凍らせて対処なんて言うのは、無理らしい。

また、マジックカードを投げようとするけど、チンクが妨害してきた。爆発に飛ばされ、僕は近くの柱に叩きつけられる。

カードは宙を舞い、床を滑り止まる。魔法は・・・・・・発動されない。すぐに起き上がり、僕はチンクの続けての攻撃を避ける。





避けつつも、上を見る。有るのは・・・・・・スプリンクラー。僕は、それを確かめてから、また踏み込む。

またチンクの所へと、真っ直ぐに走る。走りながら、少しぼろくなったジャケットの上着をパージ。

僕の上半身は、黒いインナーだけになった。あ、左腕にはジガンがきっちり装備されてるけど。





で、パージしたジャケットの上着を、左手で持つ。持ちながら、魔法を一つ発動。










≪Stinger Snipe≫










それを、走りながらチンクに飛ばす。チンクは、すぐさまナイフを投げてくるけど・・・・・・意味がない。

スティンガーは、上に方向を急激に変えて、上昇したその間に、僕は右手のジャケットを、また上に投げる。

チンクは、視線を上げない。うん、目くらましだと思ったんでしょ。でも・・・・・・それは勘違いだ。




チンクは、僕に向かってまたもやナイフを投擲してくる。それを、ジグザグに走りながら避ける。

避けながら、マジックカードを投げようとする。でも、手が滑ってチンクの眼前に転がるだけだった。

魔法は、発動しない。チンクは、それには目もくれず、更に攻撃する。





僕はスティンガーを操作。スティンガーは、真っ直ぐにチンクに向かった。

いや、途中でひらひらと落ちていた、ジャケットを捉えた。

そのまま、ジャケットも急降下で落ちていく。当然のように、これにチンクが反応した。





チンクは、両手を動かし僕とジャケット両方に、数本のナイフを投擲する。

ジャケットとスティンガーは、撃墜。それと同時に、ジガンのカートリッジを三発ロード。

ブレイクハウトを発動して、障壁を作り、攻撃を防ぐ。その次の瞬間、けたたましい警報が鳴り響く。





それと共に、チンクの身体をシャワーが盛大に濡らした。なお、フィールドで防御はしていない。

さすがに、スプリンクラーの消火用のシャワーを防御しようとするほど、腑抜けてはいないらしい。

・・・・・・僕の狙いは、コレ。なお、ここら辺のスプリンクラーには飛針を投げて、無理矢理発動させた。





全く・・・・・・なんか操作されてるか分からないけど、ここまで来て全然だもの。びっくりしたさ。





で、すぐに魔法を発動する。発動する魔法は、数年に及ぶ研究の上、最近構築出来たスレイヤーズの魔法。










「ベフィス・ブリング」

「ひあ」





チンクが、間抜けな声を上げた。踏み出そうとして、足元に突然出来た穴に躓いたのよ。

それが分かる理由は一つ。僕が、その穴を突然に作ったから。なお、ブレイクハウトの応用。

そして、水で滴る床にこけたような音がした。少なくとも、手はついてる。僕の、狙い通りに。



で、そこを狙って・・・・・・僕は、最大出力で電気変換された魔力を流した。



指をパチンと流すと、『外から』バチバチという鋭い音が聞こえた。





「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」










青い雷撃が、チンクの身体を焼いているの。地面とキスした状態じゃ、あの防御は使えない。

しかも、来るのは上とか横とかじゃなくて、真下。ついでにチンクは水浸し。これなら、簡単にはやれないでしょ。

・・・・・・で、アルトの切っ先を、水で濡れている床に突き刺す。というか、電気が流れまくっている床に。





アルトの刀身は、磁力とか雷撃対策は整えてるから、普通じゃ電気攻撃は効かない。

てーか、僕の攻撃だもの。対処はしっかりとしてるに、決まってるじゃないのさ。

・・・・・・雷撃が止む刹那の瞬間を狙って、魔法発動。当然、雷撃攻撃である。





当然のように、再びチンクの叫び声が木霊する。木霊しながらも、僕を守る壁が攻撃される。





うん、後ろから爆発音が聞こえるもの。・・・・・・ここからは、根競べだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「フェ、フェイトちゃんっ!?」

「大丈夫」










防御フィールドを周囲に張って、雷撃を防御。ヤスフミとチンクという子は・・・・・・戦ってる。

ヤスフミは、水浸しの床越しから雷撃で。チンクは、当然あの爆発するナイフ。

あのナイフ、投擲しなくても射出出来るらしい。雷撃を食らいながらも、チンクは止まらない。





一度に大量に、自分の周囲にナイフを出現させて、それを発射する。

そうして、ヤスフミを守る障壁を攻撃。だけど、障壁は砕けない。・・・・・・うん、だと思うよ。

カートリッジも使ってた様子だから、相当に分厚く作ってる。それも、魔力強化も込みで。





あの術の実験、私も付き合ったからよく分かるよ。やろうと思えば、施設規模の爆発だって耐えられるものが作れる。

壁が厚ければ厚いほど、単純に防御力が高くなる。魔力強化の精度が良ければ、魔法攻撃にだって耐えられる。

そこそこ強度のあるものを一瞬で構築し、発動出来るという利点は、ヤスフミの陸戦適正を更に上げてる。





例えば、クロノのブレイクインパルスみたいな、内部に振動を送る破砕攻撃には弱いの。

攻撃するのは、外側じゃなくて構築された中の材質の方だから。ここも、実験でヤスフミは知ってる。

だけど、あれはだめ。外からの攻撃では、簡単には貫けない。もう、勝負はついた。





ヤスフミが壁を構築しているのは、コンクリート。決して、金属物質じゃない。あの子の能力で破砕も出来ない。





だから、あの子が再び出現させたナイフ達が・・・・・・力無く、地面に落ちる。落ちて、地面から迸る雷撃に触れて盛大に爆発を起こす。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、一応解説しておく。最初の雷撃の発生源は、当然のようにある。





・・・・・・僕がバトルやりつつも、壊されないようにバラまいていた、マジックカードだよ。

アレに入っていたのは、僕があるスイッチを入れたら、全部一斉に発動するって言う雷撃魔法。

手間がかかる分威力は小さいけど、数を揃えて、雷撃が通用する状況を作り出せば、起爆剤にはなる。





で、僕はスプリンクラーのシャワーには、全く濡れていない。理由は、簡単。ブレイクハウトでの障壁の作り方。

現在、僕はコンクリのかまくらの中に居る。で、入り口は当然のようにチンクとは反対側。

かまくらの中に居れば、スプリンクラーで濡れることはない。アルトを使えば、追加電流も、流せるのである。





・・・・・・背中からの爆発音が止んだ。魔力で強化した障壁は、見事に亀裂が入りかけていた。





僕は、アルトにサポートしてもらいながら、バインドを発動。










≪Struggle Bind≫



・・・・・・うし、成功っと。壁に手を当て、かまくらブレイクハウトを解除。

元のコンクリ床に戻ったところで、向こうを見る。



≪・・・・・・真面目に勝ちましたね≫

「結構ギリギリだったけどね。てーか、もう二度とやりたくない」










濡れた路面の上、目を見開きながら、チンクが気絶していた。なお、バインドでがんじがらめである。

倒れているチンクの周囲に、なんかクレーターが出来まくってる。・・・・・・ナイフを落としたな。

ただ、チンク自体は無事。どうやら、例の障壁を発動させて、身を守ったようだ。





ただ、それでも床から流れてくる電気は、防げなかったらしい。





とりあえず、ずぶ濡れだったから、風邪を引かないように後で暖めてあげようと、思った次第である。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・・・・・・・いや、楽しいねぇ〜。

飛び交う銃弾。襲い来る銃身での斬撃。

それらを私はアメイジアで斬り払っていく。でも、それが楽しい。





状況を弁えていないのを承知の上で、私は目の前の女との戦いを楽しんでいた。

辺りに漂う硝煙の匂いと、頬と服をぎりぎりで掠める銃弾の感覚。

そして、私の首と言った急所を狙った斬撃。それらが私の気持ちを高ぶらせる。





飛び交い、走り、ぶつかり、そして引く。

そしてまたぶつかる。まさしく、エンドレスワルツ。

・・・・・・あ、ワルツは違うか。あれは3工程だし。





実を言うと、ヘイハチ先生にこういう戦いを楽しむ性分は出来うる限り修正するようにと結構言われていた。

でも・・・・・・ヘイハチ先生ごめんっ! やっぱこれ、治らないわっ!!

あぁ、バトルマニア人生さいこー! 今まで、聖王教会でジッとしまくっていた憂さが、どんどん晴れてくわっ!!










「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





女が飛び込みながら、銃を撃ってくる。一瞬で、何発もの銃声が響いた。

私はそれを両手のアメイジアを振るって、斬り払う。そのまま、女が銃で斬撃を加えてくる。

それを両手で弾き、流し、捌いていく。少しずつ下がりながら、女の攻撃を受け流す。



・・・・・・さすがに強化魔法なしじゃあ、受け止められないか。ま、しゃあないね。

でも、その分楽しめるんだから・・・・・・よしとしますかっ!!

女が踏み込む。そのまま銃口を私の顔に向けて、引き金に指をかける。そして、それを引く。




私はそのまま踏み込む。そして、女の腹目がけて右のアメイジアを打ち込む。

銃弾が頬を掠める。アメイジアの切っ先も、女のボンテージを掠める。

そして、後ろに大きく飛びつつ左手が動いた・・・・・・って、もう1丁出してきたっ!?



そのまま、両手の銃を乱射してくるっ! 私は、ちと本気モードで、それら全てを斬り払うっ!!



女が着地する。そして、私もアメイジアを構えなおす。





「・・・・・・アンタ、マジでこのシチュでやれるってどういうわけよ」

「問題ない。こういうシチュは初めてじゃないし」





やっさんがサバゲー連中とやってたの見て懐かしかったなぁ。私もヘイハチ先生との訓練でやったもん。

・・・・・・いや、あれはモノホンだったけど。もっと言うと、ヘイハチ先生が遺跡から生活費のために『回収』した発掘品。

それを全力全開で追いかけてきた、性質の悪い過激な邪教集団の異教徒・・・・・・とかとね。



くそ、あのジジイ今度会ったらマジ殴る。あの時もサリと一緒に殴ったけど、もう一回殴る。思い出したら腹立ってきた。





「やっさんの知り合いは、もっとやれるって言うしね」





いや、マジで話聞いてたらすごいのよ。御神流・・・・・・だっけ?

魔法無しで高速移動魔法ばりに動けて、フィールドやらも全部斬り裂けるとか。

きっちりその技法を修得・完成させた御神の剣士は、自動小銃持ち100人揃ってようやく対等だとか。



やっさんが教わったり盗んだりした御神流の技や、鋼糸や飛針での攻撃を見せてもらったっけな。

それを見て、サリと二人で強く納得したよ。そりゃあ出来ると。徹とか斬だけでも、相当な威力だし。

でもさ、なんでアイツの周りには魔法無し有り関わらずブッチギリでハイスペックな連中ばっかり居るの? 



そしてそれの相手に慣れてるのもおかしいって。アイツ、やっぱ運悪いなぁ。





「・・・・・・ふん、まぁいいわ。この続きは、また今度ね」

≪なんだ、逃げんのかよ≫



全くだ、つまんないねぇ。せっかく身体が暖まってきたって言うのにさ。



「逃げるわよ。このままじゃ私、捕まっちゃうもの」





・・・・・・なるほど、そろそろ頃合ってことか。管理局だって無能ばかりじゃない。



襲撃されて立て直せもせずに潰されましたじゃお話にならないもの。



だから、女も逃げ・・・・・・・いや、この場合は戦略的撤退ってやつか。足元に魔法陣浮かんだし。





「じゃあ、また会いましょ。ヒロリス・クロスフォード」





そうして、女は消えていった。なお、私は追わない。だって、転送魔法とか、苦手だし。

・・・・・・ま、いいか。サリには、今回は倒せなくてもいいって言われてるし。

今回重要なのは、怪我しないようにうまく負けること。だって、これはもう管理局の負けなんだから。



中央本部に入られないようにする篭城戦なのに、とっくに侵入されてる。だから、負けになるのよ。





≪だな。まぁカリムのねーちゃん達を守れただけでよしとしとこうぜ≫

「だね、この状況で贅沢は言えないさ。・・・・・・さて、繋がるかな?」

「その必要はありませんよ」

「へ?」



後ろを振り向くと、そこに居たのは・・・・・・あぁ、シャッハっ!!

確か、会議室の中に閉じ込められてたはずなのに、なんでここにっ!?



「会議室は、有志の方々の協力のおかげで、開きました。
ヒロリス、すみませんが少し付き合っていただけますか?」

「それはいいけど・・・・・・どこ行くの?」

「六課隊長達の安全確認を頼まれました。連絡が、未だにつかないそうなんです。
・・・・・・あと、逃げないでください。私もヴィンデルシャフトが手元にないので、不安なんです」

「・・・・・・分かったよ。あぁもう、当初の計画がこれでおじゃんだし」

≪全くだ。まぁ、ボーイやねーちゃんが居るから、そんな心配ないとは思うけどよ≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・姉の、負けか」

「チンク、とりあえず髪と顔と台詞とのバランスが」

「言うなっ! これはお前のせいだろうがっ!!
・・・・・・姉の髪が。何気に自慢だった姉の髪が」



ね、泣かないでくれる? というかさ、理不尽だって。

僕、責任ないよね? だって、襲われた方なんだよ?



≪見事にくるくるパーマになってますよね。あと、首の方にも火傷が≫

「恭文君、チンクに謝りなよ。髪は女の命なんだよ?」

「いや、なんでっ!? てゆうか、僕は悪くないんじゃないかなっ!!」





とりあえず、更にバインドでがんじがらめにした。なお、三人分。

で、僕はマジックカードの使用で、ダメージも回復。全開バリバリである。

あ、当然のようにフェイトとなのはも無事だった。まぁ、ちょっと怒られたけど。



いきなり雷撃バリバリーって来たのが相当ビックリだったらしくて、涙目になっていたのだ。



なお、なのはの髪が発生した静電気の影響を受けて、さっきまで若干面白い形になっていた。





「ヤスフミ、大丈夫? 結構傷多かったし」

「なんとかね。でも、もうやりたくない。綱渡り過ぎて、やりたくない。
僕はもっと単純なのが好きなんだ。すっごく単純なのが、大好きなんだ」

「あははは、そっか」



シオンは、僕の肩に乗って、安心したように笑ってる。・・・・・・ほら、言ったでしょ?

シオンにあそこまで言われて、意地張れないほど、僕は腑抜けてないの。



”でもお兄様、とールガンを使った方が楽だったなーとかは、考えてますよね?”

”・・・・・・少しね?”



だってー、疲れるんだもんこういうのー。僕はもっと、シンプルな方がいいのー。



「だがこれで、答えは出たな。姉達は・・・・・・間違っている。正しいのは、お前やフェイトお嬢様達だ」



ゲシっ!!



「恭文君っ!?」

「ダメだよヤスフミっ! 拘束した被疑者に暴力振るっちゃっ!!」

「やかましい」



なお、今の音は僕が顔面を軽く蹴ってやった音。そう、軽くだよ?



「ふざけんじゃないよ。たった一回の負けで、何が間違ってるとか正しいとか、全部分かるとでも思ってんの?」

「・・・・・・なに?」

「そんなの、分かるわけない。分からないから、何度も失敗して、何度も間違えるんだよ。
分からないから、探していくんだよ。自分にとっての正解を、手を伸ばしながら、一生懸命に」





僕なんて、その典型例だもの。一体何度バカやって、失敗したか。

だけど、そうやって作り上げていくんだ。転がりながら、自分で認められる自分ってのを。

僕だけじゃない、フェイトだって同じだ。僕は、フェイトを見る。フェイトは、頷く。



そして、優しい瞳でチンクを見て・・・・・・これまた、頷く。





「・・・・・・てーか、僕達との勝負を、何も考えないことへの言い訳にするな。結局それも、人形ってやつのやることでしょうが」



なんか言いたそうにチンクが睨む。なので、睨み返して黙らせる。



「答えは、これからの時間の中で、自分で探せ。お前達は、そのために手を伸ばす事すらしてない」



だから、揃いも揃って『すばらしい世界』に逃げようとしたんだ。そうすれば、何も考えなくて済むから。

試しに、右手をチンクに伸ばす。こうするんだと、手本を示す。



「自分で考えて、何度も失敗しながら、間違えながらも、手を伸ばし続けろ。
全部は、そこからでしょ。いい加減、逃げるのはやめろ。お前ら、うっとおしいんだよ」



そう平然と言い切ると、チンクが僕をジッと見る。怒ってる顔じゃない。ハッとしたような顔でだ。



「・・・・・・なるほど、そうしなければ答えは出ないのか」

「当然でしょ。間違え、転がり続けて、そんな時間を積み重ねる。
そうやって初めて、『自分』ってのは出来上がるのよ」

「ふふふ・・・・・・あははははははははははっ!!」



よし、もう一回蹴ろうか。とりあえず、足を上げて・・・・・・!!



「だから、暴力はだめー!!」

「ヤスフミ、二度はないよっ!? 絶対二度はないと思うんだっ!!」

「いや、だっていきなり笑い出すし。それに、ほら。『お笑いの基本の一つは繰り返し』って言ってね?」

「「意味が分からないよっ! てゆうか、例えそうだとしても、ダメだからっ!!」」



でも、怖いよ? 普通に怖いんだよ? お願いだからもうちょっと優しさが欲しいわけですよ。



「フェイトお嬢様、高町一等空尉、コイツは、こういう奴なのか?」

「「え、えっと・・・・・・少しばかり」」



なのは、フェイト、僕に不満があるなら聞くよ? ほら、こっち見ようよ。色々話したいしさ。



「いや、すまない。色々とショックでな。・・・・・・なるほど」



いや、何がなるほどなの?



「確かに、姉は大馬鹿だ。いや、ドクターとうちの姉妹達も同じくだな」



だろうね。話を聞く限り、今のチンクと同じ思考だろうから。



「姉達は変わろうとしていて、結局何もしてなかった。結局、人形のままだったということか」

「やっと気づいた?」

「あぁ、やっとだ。・・・・・・本当に、やっとだ」



そう言いながら、左目を閉じる。どこか穏やかな顔で、ゆっくりと。



「まぁ、いいんじゃないの? これから、少しずつ自分の世界を壊して、新しい事を探していけばさ。
そうすれば、見つかるよ。誰でもない、自分にとって価値のある答えってやつが」

「出来ると思うか? 姉は・・・・・・お前が思っているより、ずっと汚れている」

「出来るよ。・・・・・・自分の世界は、壊して、広げていけるんだよ? 今日みたいに、何度でもね」

「・・・・・・そうだな。今感じている充実感が、それ・・・・・・なのだな」





僕はシオンを見る。シオンは、僕に笑いかける。・・・・・・やっと気づいた。

シオンが、一体なんの形なのか。うん、なんか気づいたの。

多分、シオンは破壊の象徴。そう、壊したいものを壊すという、僕の想いが形になっている。



だから、壊そうとした。僕の中の諦めを、チンクの中の諦めを。自分が、戦うことで。

つまりシオンは、『壊したいものを壊す魔法が使える、魔法使い』の姿なのよ。

じゃあ、このスターライトのたまごの子は、もしかして・・・・・・。



チンクは、もう何も言わない。色んな事を納得したような顔で、静かにする。

・・・・・・さて、問題はここからだね。チンクがここまで入り込んでるということは、他もやばいでしょ。

てーかアルト、その辺りのサーチ、当然してるよね。現状はどうなってる?



一応、答えは予測出来るけど、聞かせてもらえると嬉しいかな。





”・・・・・・あまり良くはありませんね。まず”





なんて話していると・・・・・・足音がした。で、全員そちらを見る。

僕の良く知っている人。シスター服で必死に走ってくる女性が居た。

それは、シャッハさん。そう、会議場ではやてやカリムさんと居たはずのシャッハさんだ。



でも、どうして? 中で閉じ込められてたはずじゃ。・・・・・・てか、ちょっと待て。



なんかボロボロのシスター服を着て、腰に見慣れたサーベル下げてるのが居るんですけど。





「みなさん、ご無事でっ!!」

「やっさん、おひさー♪」

≪ボーイ、ねーちゃんも元気してたか?≫



・・・・・・シャッハさんはともかく、なんでヒロさんが居るっ!? てーか、一体どうしたその格好っ!!



「シスター・シャッハっ! あの、会議場の方じゃなかったんですかっ!?」

「有志の方々のおかげで、会議場の入り口は開きました。
あ、八神部隊長とシグナムに騎士カリムは、会議場に居ます」



なんでも、三人で会議場のお偉方に、状況説明をしているらしい。・・・・・・出番、なくなるのになぁ。



「それより、この子は」

「ヤスフミが倒しました。あ、もう抵抗の意思はないので」

「そうですか。それはなによりです」

「で、やっさんはそのために、ちょっとボロボロと」



・・・・・・まぁ、前半部分で色々とありましたので。



≪で、ここだけ戦争と大雨が来たみたいに、ズタボロと。てーかボーイ、お前どんな手使ったんだよ。
ガールの髪とか肌がひどい有様じゃねぇかよ。これ、責任取らないとだめだと思うぜ?≫



まぁ、チンクが色々と爆破しまくってくれたので。あと、責任は取らないから。

・・・・・・はいそこっ! 『最低』とか言うのやめてねっ!? てか、だったらとールガン撃った方がよかったんかいっ!!



≪色々あったんですよ。アメイジアもヒロさんも、察してください。
しかし、変わりないようですね。・・・・・・ちょっとは進化したらどうですか? 私みたいに≫



なんかすっごい自意識過剰な事言い出したっ!? てーか、いきなり剛速球過ぎるからっ!!



≪ねーちゃん、悪い。いきなりそのボールは無理だって。
俺ら天下無敵のヘボキャッチャーだから、そんな剛速球は捕り切れねぇって≫

「うん、全くだわ。とにかく・・・・・・アンタの肩に乗ってる小さな女の子のこととかも、察することにする」

≪だな。色々ツッコんでくと、時間なくなりそうだしよ≫



はぁっ!? ま、まさかヒロさんとアメイジア・・・・・・シオンが見えてるってことですかっ!!



「・・・・・・驚きました。とてもではないですけど、とっくに大人を通り越して」

「うっさい、私は永遠の17歳だから、問題ないんだよ。なお、普通にプラスされる日数とかも無いから」



いやいや、それは・・・・・・って、ここはいい。

あとでちゃんと確認させてもらうから。確かに、時間がないもの。



「あの、ヤスフミ。こちらの方は? というか、武装しているようだけど」

「・・・・・・ヒロさん。本名は、ヒロリス・クロスフォード」

≪腰に装着してるデバイスは、アメイジア。一応ですが、私の姉弟機になります≫



それだけ言うと、フェイトは分かったらしい。一体何が起こったのかとか、色々と。



「ヒロさん、あとアメイジアも、本当なら色々とお話したいんですけど・・・・・・今はいいです。なぜここに?」

「カリムの護衛だよ。・・・・・・案の定、会議場に直接襲撃があってね」

『えぇっ!?』

≪あ、姉御が手前で止めて、なんとか撤退に追いこんだからオーケーだぜ?
部隊長とか、カリムのねーちゃんに会議メンバーには、怪我はねぇ≫



それに、フェイトとなのはが驚いた顔をする。・・・・・・まぁ、そうだよね。僕も驚いてるもの。

会議場周辺は、完全キャンセル化されてるはず。それで撤退に追い込むって、やっぱこの人すげぇ。



「ま、そこはあとでデータ渡すよ。とりあえず、アンタ達はすぐにフォワードの子と合流した方がいい」

「どういうことでしょうか」

≪あー、ガール達はデバイスないからサーチ出来ないんだな。ねーちゃんは、気づいてるか?≫

≪一応は。・・・・・・スバルさん達、戦闘機人と思われるアンノウン二人に、襲われてます≫



・・・・・・やっぱりかい。てーか、ここはシオンが予想してた。

だって、チンクが『足止めは無意味』って言ってたし。それは、こっちに増援は来ないって意味だもの。



「全く、だから言ったじゃないのさ」



言いながら見るのは、スターズ分隊の分隊長。六課の教導官で、僕の幼馴染。

今回の件でただ一人、『会場で警備するみんなを信じて』と言って、僕の武装に反対し続けた人。



「こういうのはタイムロスだし、確実に狙われるって。横馬、何が大丈夫だって?」

「うぅ、反省してます。・・・・・・とにかく、今すぐスバル達に合流を」

「あー、ちょっと待って。それだけじゃないのよ」

「・・・・・・まだ、なにか?」



動こうとした僕達を、ヒロさんが再び止める。そして、先ほどよりも真剣な口調で、言葉を続けた。



「やっさん、六課隊舎に連絡取ってないでしょ」

「え?」



連絡って・・・・・・あ、そっか。現状報告とかが必要ってことかな。

そこまで考えて、気づく。この状況で隊舎の話が出る理由。まさか、隊舎で何か起きてる?



「アルト」

≪もうやっています。・・・・・・ロングアーチ、聞こえますか? こちら、ナハト01。応答してください。
状況報告してください。というか、よく聞こえないんですけど≫

『こちらロングアーチ。・・・・・・現在、隊舎は敵に襲われ・・・・・・陥落、寸』



・・・・・・・・・・・・はぁっ!? 敵に襲われって・・・・・・まさかっ!!



≪・・・・・・通信、切れました。どうやら、異常事態ですね≫



僕は、チンクを見る。そして、しゃがんでしっかりと目を見る。



「チンク」

「・・・・・・そうだ。姉達の狙いは、中央本部だけじゃない。
隊舎に居る要捕獲対象の確保も、計画に入っている」

≪また素直ですね≫

「もうバレていることだからな」



・・・・・・読みが甘かった。くそ、完全に落ち度だ。

まさか、中央本部と隊舎を天秤にかけて、両方取るとは思ってなかった。



「なら、二手に分かれよう? 私はスバル達と現状に対処する。それで、フェイトちゃん達は隊舎に」

≪あなた、バカですか? 肝心要のデバイスがスバルさん達の手元じゃないですか≫

「もちろん、デバイスを回収してからだよ。ただ、そうなると・・・・・・」

「うん、そうだね。それからじゃ、僕達は間に合わないかも知れない」





今横馬が言った手は、すぐには取れない。だって、現状で僕達三人の戦闘能力は、低めなんだから。

僕はともかく、フェイトとなのはは手元に相棒が居ない。だから、さっきだってギャラリーだった。

で、そんな状態で今言ったような手を取ればどうなるか。・・・・・・もう想像するのもバカらしいことになる。



横馬は、邪魔な障害その1として排除される。それも、速攻で。

で、僕達はどーせどっかで待ち受けてるスカリエッティの一味に襲われて、潰される。

ほら、何にもいいことなんてない。どっちにしろ、デバイス回収をなんとかしないと、どうにもならない。



そうなると隊舎・・・・・・だめだな。今横馬にも言ったけど、多分間に合わない。到着する頃には、全部終わってる。





「フェイト、今はデバイスの回収の事だけ考えて。ここで飛び出しても、今度は僕達が危ない」



とりあえず、顔の青くなっていたフェイトの両肩を掴む。そして、真っ直ぐに目を見ながら、落ち着かせる。



「・・・・・・うん」



・・・・・・隊舎のエリキャロの事でも、考えてたんでしょ。あとは、ヴィヴィオとかみんなのこと。

そして、それは正解だ。僕も、結構ビビッてる。・・・・・・てーか、撤退くらいしろよ。あのバカどもは。



「と、とにかく、私達はデバイスの確保だよ。
シスター・シャッハのヴィンデルシャフトも、スバル達が持ってる手はずだし」

「そうだね、急がないと」

「あー、ちょっといい? アンタらの誰かが、隊舎に向かう必要はないわ」

『はぁっ!?』



ちょっとヒロさんっ!? アンタ空気呼んでくださいよっ! いきなりそこ行くのは違うでしょっ!!



「あー、そんな怒った顔しないの。ちゃんと理由があんのよ。
・・・・・・実は、私はアンタ達より早めに襲撃に気づいてさ。隊舎にはもう、助っ人を向かわせた」

「助っ人? あの、それってヒロリスさんのお知り合いの方ですか?」

「まー、知り合いっつーか・・・・・・下僕?」



・・・・・・これだけで、何が言いたいかとか、誰が向かったとか分かってしまった自分が、ちょっと嫌だ。

だけど、分かった。確かにあの人なら・・・・・・最低限を守るくらいのことは、出来そうだ。



「多分そろそろ到着してる頃だよ。まぁ、時間稼ぎくらいは出来るでしょ」

「・・・・・・大変ですね」

「いいのよ、そういうキャラだから」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「じゃあ、シャッハさん。あとヒロさんも、チンクの事お願いします」

「分かってる。やっさんもまた後でね」

「はい」





・・・・・・そして、僕達三人は全力で走る。チンクの事は、ヒロさん達に任せる。

さて、どうする? 相当苦戦してるらしいし、ここで普通に飛び込んでも状況がカオスになるだけ。

とにかく向こうも、こっちをチンクが止めている事は知っていると見ていいでしょ?



その辺りも加味すると・・・・・・やっぱ、これしかないか。すなわち、不意を突いて、奇襲。

そうして、ギンガさん達からフェイトとなのははデバイスを受け取る。これで、形成逆転。

ここで捕縛なんて無理でも、それだけでも詰みだ。てーか、深追いして怪我なんて、馬鹿馬鹿しい。



フォン・レイメイの時と似た状況だけど、アレとは決定的な違いがある。それは、もう勝負がついていること。





「この状況、上手く負ける事を考えないといけないよね」



いつもの調子を取り戻したフェイトが、走りながらそう口にする。

・・・・・・うん、そこなのよ。僕達は、上手く負けないといけない。



≪正解です。もう、私達は負けているんですから≫



そう、決着はさっきも言ったように、もうついている。僕達は、負けたのだ。

隊舎への襲撃を、相手に許した時点で。チンクやアンノウン二人に、『足止め』を食らった時点で。



「・・・・・・うん。まず、中央本部に居る私達全員が、自分達の事で精一杯で、他に手が回らなかった事」

「それに・・・・・・隊舎が襲撃を受けた事。そうだよね、私も、フェイトちゃんも、みんなも、負けたんだ」










・・・・・・なのはが、悔しそうに呟く。そう、確かに僕達は負けた。それも派手にだ。

だから、僕達はここからダメージを少なくして、上手い形で次に繋げなくちゃいけない。

それが、僕達の今やるべき事。これで終わりじゃないから、しなくちゃいけないこと。





だけど、腹立たしいのは変わらない。・・・・・・アイツら、このままじゃ絶対にすまさない。




















(第26話へ続く)




















あとがき



恭文「明けまして、おめでとうございます。さて、とまとお正月スペシャルの第二段、みなさんいかがでしたか?
なお、今回のドキたま37話との同時掲載は、お正月休み暇だなーって人へのプレゼントです」

空海「あれだよな、一種のお年玉」

恭文「そうそう。まぁ、その分更新はちょっとお休みだけどね。作者、まだ風邪気味だから」





(年末年始は、咳き込みつつも風邪っ引き生活なのです)





恭文「というわけで、空海がみんなの期待を裏切って僕にチンクを押し付けた25話、いかがだったでしょうか」

空海「押し付けてねぇよなっ!? てゆうか、普通に俺はこの話とは、全く関係のないとこに居るしよっ!!」

恭文「冗談だよ。というわけで、本日のお相手は蒼凪恭文と」

空海「何気にあとがき初登場の、相馬空海です。明けまして、おめでとうございます。
・・・・・・てか、今更だけど自由だよな。俺、しゅごキャラのキャラなのに」

恭文「そういう仕様なのよ。どいつもこいつも、全員着いて来なさい。とまとはフリーダムさが売りなんだから」

空海「いやいや、それもまた違うだろ。・・・・・・で、今回は襲撃の続きの話だな。
てーか、普通にノーヴェって人が強いよな。スバルさんとギンガさん二人相手でアレだしよ」





(そういう仕様です)





恭文「普通に、これくらいした方が面白いと思って。なお、とまとドゥーエさんが無茶苦茶強いのと同じ」

空海「あぁ、そういやドゥーエさんもサリエルさんに負けないくらいに強いんだよな。
で、お前はお前で・・・・・・加減ねぇなぁ。普通に感電させるって」

恭文「まぁ、チンクさんの場合は電気対策整えてなかったってのが、大きいけどね。
あと、水浸しで肌に直に感電だもの。そのためにこけさせたりもしたし」

空海「あと、ブレイクハウトか。・・・・・・お前、珍しく頭使ってるよな」

恭文「もうやりたくないけどね。もうあんな頭使うの、絶対嫌だけど」





(青い古き鉄、何度も力強く口にする。どうやら、本当に嫌なようだ)





空海「でもよ、スーツなり調整なりで、電気攻撃がダメな場合もあったろ? そうしたらどうするつもりだったんだよ」

恭文「アレで無理だったらもうマジでとールガン・・・・・・とはいかなくても、ブレイクハウトで串刺しくらいは考えてた」

空海「マジかよ」

恭文「もちろん、死なない程度にって条件はつくけど。串刺しにするにしても、箇所を選ぶ必要はあるから」

空海「まぁ、色々と状況に助けられたってのも大きいよな。屋内戦ではあったしよ。
あとは・・・・・・あぁ、六課隊舎の方か。こっちは、次回だったよな?」





(せっかくなので、六課隊舎は六課隊舎で通しで書くことにしました。まぁ、軽くですが)





空海「そういや、今回は隊舎の様子は書かれてないんだよな。全部、中央本部のことだけ」

恭文「一応、飛ばし飛ばしで構成したんだけど、隊舎は一気が面白いってことになったみたい。
・・・・・・というわけで、今回はここまでかな。次回はいよいよ、中央本部襲撃編も最後だよ」

空海「どうなんだろうな。俺、何気にドキドキなんだけどよ。・・・・・・それでは、お相手は相馬空海と」

恭文「次回こそ、空海のイマジンブレイカーが唸ると期待している、蒼凪恭文でした」

空海「唸らねぇよっ! お前、絶対誰かと勘違いしてるだろっ!!」










(だけど、これがとまとの仕様なのです。
本日のED:日奈森あむ(CV:伊藤かな恵)『カラフルハートビート』)




















あむ「・・・・・・なんか、完全に恭文もフェイトさん達も、スバルさんも足止めされる形ですよね」

恭文「そうだね。そして、狙いは・・・・・・六課隊舎だよ。
まぁ、ちょっと話が出たけどさ。普通に連絡がなかったら、いっぱいいっぱいになるから」

あむ「現に、恭文もチンクさんと戦ってる時は、隊舎が襲われてるなんて考えてなかったでしょ?」

恭文「というかさ、同時に来るとは予測してなかった。うぅ、失敗だったなぁ」

あむ「天秤にかけて、両方取ったって言ってたのはそこなんだよね。
・・・・・・でも、アルトアイゼンとかに連絡はないっておかしくない?」

恭文「あと、スバルのマッハキャリバーだったり、ティアのクロスミラージュでしょ?」

あむ「そうそう。通信とかじゃなくても、こう・・・・・・緊急時の警報みたいなのが伝わったりとかって、ないのかな」

恭文「もちろん、そこも次回以降に解説がありますさ。あむ、ネタ振りうまいねー」

あむ「そういう言い方すると、色々台無しだからやめてくんないっ!?
・・・・・・あ、そうそう。これはやっておかないとだめだよね」

恭文「そうだね。一応、新年一発目だから。それじゃあ、せーのっ!!」

恭文・あむ「「去年は、大変お世話になりました。今年も、何卒よろしくお願いします」」(ペコリ)










(おしまい)



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