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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第23話 『相対的に変わりゆく正義?』



朝、フェイトとの外回りの最中に、話をする。





まぁ、保護責任者で、上司なので、しっかりと。










「なら、エリオが自分で解決しないといけないんだね」

「うん。僕達は特に手助け出来ないって言われたよ。結局は、エリオの問題。あと、こうも言ってた。
僕に叩きのめされたくらいで夢やなりたい自分を捨てるなら、所詮それまでの夢だってさ」

「・・・・・・そっか」

≪あぁ、話していましたね。ですが、確かに事実ですよ≫



うん、紛れも無い事実。確かにキツイ言い方ではあるけど、夢の価値なんて自分で決めるものだもの。

自分以外の99人の人間が認めても、自分がそれを認められないなら、それは無価値。意味が無いのよ。



「恭文さん、歌唄さんとお話しするの、本当にあの場が初めてだったんですか? リインは色々と疑問なのです。
なんというか、普通に互いの名前を呼び捨てにしてますし、会話もリインやフェイトさんが聞く限りアレですし」

「リイン曹長、アレというと?」

「もう10年来の親友ってレベルでポンポン会話するのです。勢いが凄いのですよ」

「・・・・・・ごめん、そこは聞かないで? 歌唄とも互いになんでこんなに通じ合えるのかって、疑問を持ってるのよ」



ハイウェイへの道を走りつつ、フェイトはどこか憂鬱な色を瞳に含んでいる。

その瞳を僕やリイン、後部座席のギンガさんに向けず、車を運転する。



「でも、エリオ君の様子は私も気にしてたんです。・・・・・・なぎ君が遠慮なく叩きのめすから」

「何を言うか。互いに納得の上でやりあっただけよ? 今更そこの責任を追及されても困る」

「だけど、もうちょっとやりようはあったんじゃないかな。
私も映像は見せてもらったけど・・・・・・アレはひどいよ。ベルトで変身とか」

『え、まずそこ(ですか)っ!?』



やっぱり、姉妹って似るものなのかなとかちょっと思いつつも、対策を色々と考える。

そして、シオンも当然居るけど・・・・・・興味無いのかあくびしてやがるし。



「当然です。というより、月詠さんのおっしゃるとおりですよ。
正直、気にする意味すら分かりません。もう放置でよくありませんか?」

「シオン、容赦ないですね」

「あら、容赦はありますよ? 私、これでも優しい方ですから」



うん、リインも普通にシオンと会話するのやめようか。ギンガさんがちょっと訝しげな顔してるし。

でも、シオンがフェイトに見えてなくてよかった。さすがにこれは聞かせられない。



「ガジェット相手なら、まだなんとかなる。でも、問題は対人戦闘。動きが急に鈍くなる。
ヤスフミ、これってやっぱり精神的な物が大きいんだよね」

「間違いなくね。・・・・・・シャマルさんにカウンセリング、してもらった方がいいんじゃ」

「実は、それとなく勧めたの。疲れてる様子だし、お話したら楽になるよって。
でも、凄く嫌がって『大丈夫です』って無理に笑って・・・・・・」

「・・・・・・あのバカ」



エリオは、必死にそれを隠そう隠そうとしてる。自分の中の恐れや迷いを、見せようとしない。

でも、無駄だよ。動きで分かる。完全にビビッてるのがさ。だからあんな話し合いが持たれるんだし。



「ね、なぎ君。なぎ君が少し話をしたらどうかな?」

「何を?」

「なぎ君の昔の事とか。ほら、同じような状態になった事があるんだよね」



ギンガさんの言葉に、ため息を吐く。てーか、分かってない。マジで分かってない。



「で、話してどうなるのよ。僕が感じた事をそのままエリオに答えにしろと?
それ、結局エリオを人形みたいに扱ってるのも、同然じゃないのさ」



フェイト達のコピーの次は、僕のコピーになれと? 意味がないでしょうが、そんなの。

うん、決めた。僕は直では手助けしない。するにしては、僕はアレと距離を詰め過ぎてる。



「ううん、そうじゃないよ。一緒に答えを考えるくらいのこと、していいんじゃないかって言ってるの。
なぎ君、きっと今のエリオ君の気持ちが分かるよね。だったら、力になろうよ。そうすればきっと」

「嫌だ」

「・・・・・・なぎ君」

「分からないなら、答えを探そうとすればいいのよ。
なお、僕はそうした。自分の中の迷いや不安を認めた上で、必死に」



モヤモヤして、恭也さん達との訓練の中で、三ヶ月の旅と戦いの中で、それを探した。

誰でもない、僕だけの答えを。今まで知らなかった世界の中で、沢山の人達との出会いの中で、探した。



「でも、今のエリオはそれすらしてない。ただ迷って、戸惑って、それすら認めようとしてない。
そんなのに下手に誰かがエリオと重なる部分を見せたら、そっくりそのままコピーされるよ?」

≪そして、それでは意味がないんです。そんな事をすれば、またこの間と同じ事が起きます。それも確実に。
まぁ、別にあの人を一生この人だったり、誰かのコピー品として扱うのがいいのであれば、それもアリですよね≫

「アリだね。てーかさ、よくよく考えたら、今すぐ解決なんてしなくったって問題ないのよ」



僕がそう言うと、リインやギンガさんが驚いた表情になる。

というか、フェイトも。思わず僕の方を見そうに・・・・・・って、こらこら。



「フェイト、余所見運転ダメだからっ! ほら、ちゃんと前向いてるっ!!」

「ご、ごめん。・・・・・・でも、どうしてそんな事言うの? エリオ、今すごく苦しいはずなのに」

「だって、アレはエリオ自身の迷いと苦しみだよ? 誰でもない、エリオの感情。
僕だって、なんだかんだで半年以上はモヤモヤしてたし」



エリオがコピーかと聞かれたら、僕は『そうだ』と頷く。なお、プロジェクトFは関係ない。

理由は一つ。フェイト達の劣化コピーであった事だけ。ただ、今は違う。



「フェイト、忘れた? 会議でも話したじゃないのさ」



それだけ言えば、フェイトには分かったらしい。ハッとした顔になったから。

まぁ、こっちを振り向きそうになったのは、見逃してあげよう。ちょっと怖かったけど。



「・・・・・・結局は似た答えになっても、エリオがちゃんと考えた上でなら、それはエリオだけの答えになるよ。
もちろん、悩みが悪化してとんでもない事になるのは避けなくちゃいけないだろうけど、それでも過剰に手を貸すのはだめ」

「だから、なぎ君は手を貸さない? 時間がかかっても、ちゃんと自分で考えなくちゃいけないから」

「そうだよ。まぁ、話しながら色々考えたけど、僕が手助け出来る事なんて無いのよ。
うん、だから僕は何もしない。というか、きっと何も出来ない。だって、僕はエリオじゃないから」

「・・・・・・確かに、そうだね」



うんうん、そうなのよ? 納得してくれて助かるよ。



「とにかく、エリオの事はじっくりでいいでしょ。あぁ言うのは、結局は自己啓発が出来なきゃそのままだもの。てゆうか、あんまり周りが焦らせてもアウトだよ」



だって、普通に自分から自主的に、すっごい勢いで焦るだろうしさ。わざわざ周りが煽る必要はないよ。



「あとは・・・・・・あれだね」

「そうだね。ほら、僕が当日風邪を引いて高熱を出すから」

「・・・・・・なぎ君、何の話してるの?」

「気にしないで」










・・・・・・さて、この土壇場で嫌なカードが引かれっ放しだね。





まぁいいや。僕はいつでもらしく、最初からクライマックスで行くだけだもの。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS Remix


とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常


第23話 『相対的に変わりゆく正義?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



お昼、中央本部近くのお食事どころで、みんなでご飯。





・・・・・・なんだけど、フェイトとギンガさん、リインはちょっとお手洗い。僕は一人待ちぼうけ。





そんな時、待ち合わせ場所にしたベンチに座っていると、一人の女の子がチョコンと隣に座ってきた。










「隣、少しよろしいか?」

「あ、はい」



声をかけてきたのは、銀色の長い髪の小さな女の子。だけど・・・・・・なんだろう、大人びた印象があった。

右目に黒い眼帯でしているけど、そこは気にしない。とりあえず、敬語で丁寧に話す事にする。



「すまない。少々歩き疲れてしまって・・・・・・少し休ませてもらえれば、すぐにお暇する」

「あー、大丈夫ですよ? 友人と待ち合わせ中ですし、多分僕の方が早く動きます」

「そうか」



というか、口調まで大人びていた。落ち着いた声色で、ゆっくりとその子は空を見る。

英字プリントの白いシャツと、黒のミニスカートを着ている、僕の胸元くらいの身長の子は・・・・・・やっぱり、大人びて見える。



「今日はいい天気だな」

「ですね。このままのんびりとしてたいところです。芝生に寝転んで、ごろりとか」



少し冗談めいてそう言うと、その子が笑った。それがどうしてか分からなくて、首をかしげる。



「あぁ、すまない。・・・・・・姉の妹と同じ事を言っているので、つい。
姉は今ひとつそういうのが分からなくて、疑問に思ってしまうんだが」

「そうなんですか。ちなみに、やったことは?」

「いや、ない」

「なら、一度寝転がればいいんですよ」



自信満々に言うと、その子は少し訝しげに僕を見る。



「・・・・・・そうすれば、分かるか?」

「少なくとも、自分にとってどうかは分かるかと」



うん、ここは重要ですよ。・・・・・・目の前で水しぶきを上げる噴水を見ながら、心からそう思う。



「その妹さんと同じように、気持ちいいと思うかも知れないし、逆に草が服や髪にくっついて気持ち悪いと思うかも知れない。
それは、あなたが実際に寝転がって、太陽の光を浴びながら目を閉じなくちゃ、分からないですよ。だから、寝転がるんです」



まぁ、もしかしたら一回じゃ、全部は分からないかも。天気や気温の都合だってあるから。

でも、そういうものだと思う。まずは寝転がる事ですよ。



「・・・・・・なるほど、それは道理だ。あなたもそうだったのか?」

「はい。全く同じ事を、以前ある人から言われたからなんですけど」



多分僕や妹さんが言えるのは、自分達は気持ちいいということだけ。

この子・・・・・・ううん、この人がどうかは、分からない。



「なら、機会があればそうしてみる。実際に姉自身がどう思うか、興味が沸いてきた」

「はい、ぜひ。・・・・・・ただ、その格好ではやめておいた方がいいと思います」

「なぜだ?」

「スカートが短いですし、寝転がったら中が見えます」



僕がそう言うと、その人は自分のスカートを見る。本当に結構短めなスカートを。

そして、納得したように頷いて、それから少し笑う。その笑顔が、ちょっと可愛かった。



「確かに、その通りだな。さすがに姉も恥じらいはあるから、そこは避けたい」

「分かってもらえると、嬉しいです」

「ならば、パンツルックだな。それなら心配はない」

「そうですね、それがいいと思います」



そして、少し沈黙する。沈黙して・・・・・・目の前で遊ぶ子ども達を見る。

で、警戒する。・・・・・・妙な気配を感じるから。



「あなたは、その服を見るに管理局の方とお見受けするが」



なお、服装はお馴染みの青いインナースーツです。



「まぁ、嘱託です。今は仕事中で」



適当に答えつつそれを探る。左方・・・・・・40メートルの地点か?

でも、そこはさっき見たら銅像があるし、人が隠れるような場所でもないのに。



「・・・・・・この世界は、どうなのだろうな」

「はい?」

「常々思うんだ。この世界は、広いようで狭い。異種・・・・・・普通と違うものに対して、過剰に反応する」



僕の隣に座る人の、瞳の色が変わったのに気づいた。

さっきまでの優しい色合いから、どこか怒りと悲しみを感じさせる目になった。



「そういうのを見る度に、なぜだろう。この世界や、この世界を管理する局に、言いようのない怒りを感じてしまう」



その目で、目の前で笑顔で遊ぶ子ども達を、公園を、遠く見える街並みを・・・・・・そして世界を、見据える。



「だから思ってしまう。この世界を誰かがひっくり返すべきではないかと。
旧世紀に起きた革命が、今・・・・・・この時代にこそ必要ではないかと」

「そうして、変わる事で違うものが認められると思うからですか? もっと言えば、善悪の逆転」





一応、地球にもそういう出来事はあるから知ってる。

というか、僕の好きな幕末も、革命と言えば革命だから分かる。

旧体制による閉塞された世界を打ち壊すために、時として革命は必要。



それは、歴史が証明している。誰にも否定なんて出来ない。





「革命の強い志が、今の現状を覆う黒い部分を、消し去るものだと考えている」

「そうだな。いや、きっと認められる。そうして救われるものが、必ず出て来るはずだ」



なぜだろう、まるで自分に対して言っているように感じてしまった。

いや、言っているんだと思う。少なくともこの人は、そう信じている。



「・・・・・・あぁ、すまない。こんな話をしてしまって。気分を害してしまったのなら、謝る」

「いえいえ、大丈夫ですよ。てーか、奇遇ですね。僕も管理局なんて嫌いなんです」

「え?」



なぜだろう、視線が近づく感じがした。だから僕は、身体を支配する寒気にしたがって、動く。

ベンチから立ち、銀色の髪の女の人の前に軽く回りこむ。そうして、見えたものがある。



「なら、どうして局の仕事をしているのか、疑問ですよね。
嘱託ってことを加味しても、嫌いな組織に手を貸しているわけですから」

「それは、まぁ・・・・・・確かに」



見えたのは、地面から僅かに出ていた指。上手い具合に隠れたけど、もう逃げられない。

どうやら、今の状況は色々とやばいようである。・・・・・・とりあえずアルト、フェイト達に速攻で連絡。



”了解しました”



まぁ、ここで捕まえる必要はないか。まだ尻尾の片鱗が見えただけだ。

なら、上手く切り抜けることだけ考える。てーか、普通にヤバいと思うし。



「別に、局のために今の仕事をしてるわけじゃないです。
たまたま嫌いなのが、悪党が多いってだけの話」



正義の味方や法の守護者なんて、ガラじゃない。守りたいものを守り、壊したいものを壊す。それが僕の道理。

で、それを適用していくと、スカリエッティみたいな悪党が嫌いって話になってくるだけなのである。



「で、僕は運があまりよくないので、結局こういう仕事をしてなくても、事件に巻き込まれるんですよ。だから・・・・・・ですね」

「そうか。だが、今『悪党』と言ったが、それとて絶対的ではない」

「そうですね。善悪は相対的ですから。時代によって、変わり続ける。だから、革命が成り立つ。
思惑はどうあれ、時代はその時に生きる人達を巻き込んで、より正しい形を探し続けていく」



それが時間の流れの怖い部分であり、希望でもある。変わり続けるから、信じられる。

やるせなさを抱えても、変えるためにがんばろうとする。ある意味では、これも革命だ。



「だから、世界の善悪じゃなくて、本当に好き嫌いで殴ってますね。
・・・・・・あれ、そう考えると、僕はかなり最低だな」

「確かに・・・・・・姉もそこは否定出来ない」

「やっぱりですか?」

「すまん、初対面で名前も知らないが、そこはやっぱりだ」





そう言って、この人は少しおかしそうに笑う。

僕も両手でお手上げポーズを決めて、同じように笑う。

・・・・・・改めて気配を探ると、地面の中に何かを感じる。



多分、魔法じゃ探知は出来ない。だけど、僕の探知能力ならバッチリ。

僕の足元に回りこむ隙を、今でも狙い続けてる。

てーか、壁の中に敵が潜んでるってシチュも、警防の訓練でやってたもの。





「あの、僕も一ついいですか?」

「なんだ?」

「あなたは、そういうのをどう思うんです? 誰かが自分と違う事、世界と違う事について」



少しその人は目を見開いて固まる。そして、そこから考えて・・・・・・口を開く。



「姉は、さっき言った通りだ。受け入れていきたい。違う事を理由に、否定など愚かだ。
・・・・・・少なくとも、自分が大切に思う存在に対しては、そうでありたい」

「そうですか。・・・・・・なら、もう一つだけいいですか?」



これは、一つの踏み絵。だけど、やる価値はある。

今の状況を仕組んでいる影の正体が、見極められるから。



「自分や自分の大切な人達が、世界の大半の物と違っていたとして、あなたはどうします? 革命を・・・・・・起こしますか?
起こして、沢山の物を踏みつけて、傷つけて、そうしてでも世界に自分を認めさせますか? どこかの犯罪者のように」





僕の言いたい事が、伝わったらしい。

その人は、ゆっくりと立ち上がって、僕を見上げる。

その瞳は、さっきまでの女の子の顔じゃなかった。



そこに居たのは・・・・・・一人の戦士だった。





「・・・・・・姉は、革命を起こす」



・・・・・・言い切りますか。それでもやると。

そして、自身のやっていることが、革命だと・・・・・・言い切れるわけですか。



「例え、どれだけの人間を傷つけてでもだ。その行いを、認めて欲しいなどと言うつもりはない。ただ、姉にもある。
そうしてでも成し遂げたい事が。変わっていって欲しい事が。それを否定するなら・・・・・・こんな世界など、いらない」

「そうして否定して、どうするんですか」



だから、僕も聞く。今の言葉に、強い違和感を感じたから。



「壊した責任は、その咎は背負う。姉の手で、より良い世界にしていく。
管理局という矛盾を抱えた組織には出来ない、『すばらしい世界』を作り上げる」




それは、明らかにさっきまでの彼女の言葉じゃなかった。どこか薄ら寒いものを感じさせる。

だから、僕はそれを否定する。というか、少し呆れてしまった。



「そんな事をしても、世界は変わりませんよ?」



そう、変わらない。世界も、人も、何も変わらない。

いや、そんな事をする人間を認めるわけが・・・・・・って、これは違うね。



「というか、意味がない」



もう遠慮はしなくていい。僕もバシバシ言っていける。

言葉でも、理屈でもない。多分僕達は今、すごく通じ合ってる。



「そうして否定し続けて、何が残ります? ・・・・・・まぁ、僕も同じだったからあまり言えないんですけど」

「そうなのか?」

「はい。ずっと・・・・・・世界が壊れてしまえばいいって、思ってました」



空を見上げる。目の前の人も、釣られたように空を見上げた。

空は、青く・・・・・・どこまでも広がっている。もう、灰色じゃない。



「世界がつまらなくて、壊れてしまえばいいと、ずっと思ってました。でも、それは間違いだった」

「なぜ、そう思った」

「世界には、主観的ですけど二種類あるんです。他人の世界と、自分の世界。僕が壊したかったのは、自分の世界だった」



なーんで、僕はこんな初対面の子に、こんな話してるんだろ。ま、いいか。

なんか、話したくなったんだから。



「もし・・・・・・もしも革命ってやつが必要なら、まず自分の世界を見渡すところからじゃないでしょうか。
そして、自分の世界を、自分の諦めているものを、壊す。・・・・・・さっきの、昼寝の話と同じです」

「そうやって、世界に迎合しろというのか?」

「違います。・・・・・・自分の世界を、自分の思うままに、望むままに、この手で、心で変えていくんです」



右手を上げて、ギュッと・・・・・・強く、握り締める。目の前の人は、僕の拳を、興味深そうに見ていく。



「結局、みんなそうするしかない。他人の世界なんて、変えられないし、変えちゃいけない。
壊せないし、壊しちゃいけない。自分を変えられるのは、自分だけなんです」



そこまで言って、鼻で笑ってしまった。自分の言ってる事が、すごい綺麗ごとに感じたから。



「・・・・・・そう考えると、革命って傲慢ですよね。あと、管理局も」

「確かにな。自分の世界ではなく、他人の世界を変えてどうにかしようとしているんだ。
確かに、傲慢だ。・・・・・・お前は、信じているのだな。自分の世界の可能性を」

「はい」

「なぜ、そう強く信じられる? お前がそう思っていても、他人はそうは思わないだろう」



だとは思う。現に、アルフさんとかがそれだ。エリオの世界を、自分の好きな色に染めた。自分の都合でだ。

だから、みんなだって色んなあれこれを含めても怒ってる。絶対に、許されることじゃないから。



「・・・・・・自分の世界が、灰色の景色が壊れた時に、青空が見えたんです。
その空の青さが、忘れられないんです。それを思い出す度に、強く思います」



その空の青さは、リインが教えてくれた事。灰色だったのは、僕が自分の世界を閉ざしていたからだと。

もっと言うと、諦めていたと。未来への可能性を、自分の中の力を。



「諦めたくなんて、ないと。自分の事だけは、想いだけは、絶対に諦めたくないと。
僕、自分の世界を狭める壁を、諦めを、壊し続けられるようになりたいんです」

「人ではなく、あくまでも自分か。そして、自分が真に望む形へ変わり・・・・・・いや、進化していく」

「はい。だから、僕には革命なんていらないです。そんなもの、興味ない」




そうして、その人はまた笑う。どこか満足そうに、羨むような視線を送りながら。



「・・・・・・少し、話し過ぎた」



僕達の間に、風が吹き抜けた。それは優しく、温かい。僕達の心に、吹き抜けていく。

その人はゆっくりと空気を変えた。今は、さっきまでの普通の女性に見えた。



「姉はもう帰ることにする」

「そうですか。あ、なんか変な話になっちゃってすみません」

「いや、その話をし出したのは姉の方だ。だが、とても有意義で楽しい時間を過ごせた。・・・・・・ありがとう」

「いえ。・・・・・・あ、帰り気をつけてくださいね」

「あぁ」





そして、そのままその子は去っていく。気配も同じように消えた。



・・・・・・さて、これはどうしたもんかねぇ。普通に色々と試された感じはしてるけど。



後ろで『あー、痴話喧嘩だ痴話喧嘩ー!!』・・・・・・とか騒ぎまくってるお子様達は、気にしない方向で行く。





「・・・・・・善悪は相対的か。確かに、それを絶対的に捉えてスカリエッティを悪と見なす管理局は、矛盾してるわな」

≪なんですか、迷ったんですか?≫

「いや、確かにその通りだと思ってさ。でさ、アルト」

≪状況から察するに、間違いないでしょ。地面から感じた気配を、ドンブラ粉とするなら≫

「だよね。あの人・・・・・・戦闘機人だ」










そう、確かにその通りなのだ。スカリエッティは悪だけど、それは今と言う時間の中でのこと。

常識が変われば・・・・・・いや、スカリエッティが変えれば、途端にその色は真逆になる。

そして、そこについてあれこれ考えていると、駆けつけてきたフェイト達と合流。





・・・・・・フェイトがすっごいハグしてきて大変だったけど、無事に隊舎に戻った。





きっと、戦うことになるよね。あぁもう、こういうのはやり辛いんだけどな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・すまなかったね、チンク』

「いえ。ですがドクター、クアットロやウーノ姉様やトーレ、他の姉妹達に内緒というのは、どういうことでしょうか」

「あー、そうそう。それは私も気になってた。てーか、普通に捕まえればよかったんじゃ。
現に一人だけだったし、二人がかりなら充分に出来たのに」

「セイン、それは無理だ。・・・・・・お前も気づいていただろう?
彼は、ISで地中に潜伏していたお前の位置まで、しっかり把握していた」

「確かにね。・・・・・・魔法に頼らない戦闘技能の達人だとは聞いてたけど、アレはありえないよ。てーか、あの子はどういう訓練してたの?
知り合いにそういうのに強い人間ばかりが揃ってて、色々教わったのは分かるけど、それでもアレはおかしいって」



姉達は、人気のないところでドクターに通信をかけている。・・・・・・しかし、今回は全く意図が読めない。

蒼凪恭文と接触して、回線で指示する通りに話せなど、意味が分からない。



「ドクター、他の姉妹達に内緒にするのは構いません。
ですが、何のためにこんな事をしたのか、ぜひ教えていただきたい」

『あぁ、分かっている。・・・・・・簡単に言えば、彼と少し、話がしたかった』

「話?」

『チンクを通してになるが、私の祭りの趣旨に対して、どういう反応を示すかを見たかった・・・・・・と言えばいいだろうか。
フェイト・テスタロッサやタイプゼロ・ファーストやセカンドの反応は、たかが知れている。管理局や世界のルールを持ち出し、私を断罪するだろう』



この辺りは姉も同感だ。彼女らが姉たちを止めるとすれば、それは管理局員としての正義に寄るところが大きい。



『そして、私の革命の思想に触れれば、多少なりとも動揺する。
なぜなら、私の言っている事は間違いでは無いというのは、世界が、歴史が証明している』

「そこはさっきのやたらと小難しい話で言ってたことだよね。だけど、それをどうしてあの子にしたの?
だって、あの子だって管理局の人間なんだから、同じ反応が出て来る可能性があったよね」





そう、セインの言う通りだ。もちろん、実際は違った。

管理局や現行の法律が正しいとは、一言も言っていない。

現行の管理局の矛盾も認めた上で、それを嫌いだとまで言った。



その上で、姉達の行動を間違っていると言い切った。そして、それもまた事実だ。





『だが、彼はそれとは違うものが見られると、私は考えた。・・・・・・彼は誰の人形でも無い。
フェイト・テスタロッサも、家族も、部隊も、組織も、世界すら、彼を人形になど出来ない』

「ねね、ドクター。どうしてそう思うの? だって、あの子フェイトお嬢様が好きなんだよね。
だったら、フェイトお嬢様はその感情を意識してるどうこうは別として、利用してるんじゃ」

『私もそう思っていた。だが、少々違っていたようだ。実は、身辺調査をして分かったのだが、彼は私達と同じように、世界から否定されている存在なんだよ』





姉は事前に知っていたから何も言わないが、セインは感心したようにため息を吐いた。

現状の蒼凪恭文は、自身の保護責任者や家族からも否定されている。

どうやら、そのせいで最近も色々とゴタゴタしたらしい。多少は沈静化したが、それでもだ。



彼の立場は、ある意味ではドクターと近いのかも知れない。



世界や組織の勝手な理屈という鎖で、縛られそうになるところが特に。





「あ、もしかしてドクター・・・・・・勧誘しようとしてたの?
あの子が自分や私達と同じなら、きっと乗ってくれると思って」

『実は、その意図も少しだがあった。実際は振られてしまったがね。チンク、実際に会話した君なら分かるはずだ。
彼が組織や誰かの人形になるように見えるか? セインが言ったフェイト・テスタロッサの事など、実はついでだろう』

「・・・・・・少なからず、そういう印象を受けたことは認めます」



とりあえず、ドクターの話の趣旨が読み取れないので、黙って聞くことにした。

セインにも目配せでそう伝える。そして、私の一つ下の妹は、黙って頷いた。



『とにかく、話の結果は私の負けだ』



我が創造主は、簡単に自身の敗北を認めた。それに姉とセインも衝撃を受ける。



『私の理想は、革命の志は、彼の身勝手さにいとも簡単に否定された。
彼の理論に当てはめれば、私達はそもそも自分自身を諦めていることになる』



他者に、世界に『すばらしい世界』への変革を望む。これが、姉達の計画であり、夢だった。

だが同時に、自分が変わる可能性を、進化する可能性を捨てているということだと、ドクターは解釈したようだ。


「あ、ドクターもしかして突き刺さった?」

『・・・・・・それはともかくだ』





話を逸らしたな。なるほど、あの話はドクターにとっても突き刺さるものだったか。

確かに、姉も刺さった。姉達は、自分すら認めていない・・・・・・確かにその通りだ。

認めていないから、認められないから、それがなせる世の中にしようとしていた。




それが、『すばらしい世界』。だが・・・・・・それで、本当にいいのだろうか。





「それで、これからどうなさるおつもりです?」





色々なものを含んだ上で姉は聞いている。

・・・・・・ドクターの目の色が、明らかに数時間前と変わっているからだ。

ドクターは、どこか憑き物が落ちたような目をしている。



姉やセインが、今までに見た事のない目だ。





『もちろん、作戦は予定通りに行う』

「あらま、やめちゃうとかじゃないんだ」

『だが、当初の計画を見直す必要性は出ている』





全ての計画が上手くいけば、ドクターは自分の思い通りに、世界を我が物に出来る。

というより、そのための計画だ。そうして、欲望のままに命をも弄び、研究に勤しむ。

だが・・・・・・ドクターは揺らいでいる。今、姉にもようやく理解出来た。



・・・・・・人の欲望は、とても強い。ドクターは、特にそれが顕著だ。

ドクターは、その身に無限の欲望を宿しているのだから。

だからこそ、今迷いを・・・・・・そうだ、今ドクターは明らかに迷っている。



皮肉にも、全てを飲み込む無限の欲望が、その原因を作った。

とても不自由で、くだらない柵と偏見ばかりがある今の世界を、ドクターは不満に思っていた。

だが、人や世界ではなく、自身を変革し、自分と言う小さな世界と時間を、ありたいと願う形に変えていく。



ドクターは、それに新たな可能性を見出したのではないかと、姉は思う。そう思う理由? 簡単だ。

姉も今、姉の中にも変われる可能性があるのではないかと、思い始めているからだ。

うちの姉妹達が個性豊かなのを、楽しそうにしているのを、羨ましいと思ったことが何度かあった。



姉ももしかしたら、あんな風に楽しそうに、明るく笑えるのかも知れないと思うと、胸が・・・・・・疼く。





「・・・・・・ドクター、なんかキャラ変わってない? てーか、最近やっぱおかしいって。どうしちゃったのさ」

『セイン、私にも色々あるということだよ。そう、色々あるんだ。そして、色々あるからこそやってみたいことが出来た』

「ドクター、それはなんでしょうか」

『まぁ、ようするにだ』




そうして、ドクターは教えてくれた。この計画を通して、本当に自身がやりたかったことを。

いや、訂正が必要か。それは、最近ドクター自身も気づいた事。迷ったが故に出てきた答え。

無限の欲望と言う『人形』が持った、自身への疑いと願い。ドクターは、この瞬間に革命を捨てた。



この祭りは、もう姉やセインが知っている予想図を完成させるためのものでは、なくなった。



・・・・・・それを聞いて、姉は・・・・・・強い憤りを覚えた。なぜなら、これは姉妹達への裏切りだからだ。





「ドクター、姉は・・・・・・初めてあなたをこの手で殴りたいと思いました」

『・・・・・・いや、この間ビンタされたように感じるんだが』

「それはそれ、これはこれです」

『そ、そうか』



というより、アレは夜中に妙な叫び声を上げるドクターが悪い。

姉はとっても幸せな夢を見ていたように感じるのに、それが邪魔された。うん、腹が立ったんだ。



「てゆうか、それはみんなには話せないよね。まぁ、私より下の妹は『あ、そっかー』って感じだよ?」



ノーヴェはまた違ってくるだろうがな。アレは思い込みが激しいし、一途過ぎる。



『特にディエチ辺りは、安堵のため息を吐きそうだね。あの子は人一倍優しいから』

「そうだね、そこは私も思う。だけど、上の連中は絶対キレるって」





セインが言ってるのは、ウーノ姉様とトーレにクアットロ、それと単独行動中で次女のドゥーエ。

・・・・・・いや、ドゥーエは意外と受け入れるのではないのか? あれもまた自由だから。

ただ、今の今まで『すばらしい世界』を目指してやってきたのに、土壇場でこれは、確実にまずい。



ドクター・・・・・・せめて、もう1年早く気づいて欲しかったです。それなら、まだ楽に済んだのに。





「あー、それとノーヴェもだね」



セインもそこは分かっているから、すぐにノーヴェの名前を出した。

場違いにも、姉として少し嬉しくなってしまうから、不思議だ。



「実際問題、先日ドクターのコピーを全て処分した件も、相当不満に思っています。
正直、現状でドクターの考えを通すのは、難しいと思われますが」

『分かっている。だから、そのために』

「まずは私達に理解を求めている・・・・・・と。チンク姉、どうする?
私は、ドクターがそうしたいなら、やってもいいと思うんだけど」



セイン、お前はまた・・・・・・本当にあっさりと認めるな。

そう言うのは予想していたが、まさか即答とは思わなかったぞ。



「私は今の話聞いて、ちょっと親近感覚えてるんだー。ドクターってこんな可愛いとこあったのかなーって」

『そう言われると色々照れてしまうよ。まぁ、我ながららしくないとも思うが』

「でも、別にいいと思うけどな。てゆうか、私は前のドクターより、今のドクターの方が好きかも」

『ありがとう、セイン』



・・・・・・少し考える。そして、思い出すのは数分間話したあの男の子。

本来ならば捕獲対象。そして、姉達の敵。なのに、なぜかこの言葉を思い出した。



「・・・・・・芝生で昼寝をして気持ちいいかどうかは、実際にしてみなければ分からない」

「はぁ?」



ならば、実際にやってみなければ分からないだろう。この世界が姉達にとって生きやすいかどうか。

いや、生きやすくなどなくていいかも知れない。その前に、姉達自身を変革しなければならないのだから。



「ドクター、もしやだからコレ・・・・・・ですか?」

『そうだ。君達への裏切りではあるが、どうにも抑えられなくてね。
自身を世界と見立て、そしてそれを望むままに変革し続ける。面白いとは思わないか?』

「納得しました」





今までは、知識だけで世界を知っていたつもりだった。

だが、それはもしかしたら間違いだったのかも知れない。

寝転がらなければ、どう思うかなど分からない。



妹達はともかく、姉自身がそれを好きか、嫌いかどうかすらもだ。



・・・・・・敵からの言葉で方針を決めるのは、少々癪ではあるが。





「ドクター、私もあなたのお考えを、支持します」

『あぁ、ありがとうチンク。だが、本当にいいのかい?』



もちろん、今度のミッションはきっちりやる。というより、ぶつかる必要がある。

・・・・・・姉はやはり、心の底では納得が出来ない。だから、ぶつかって、答えを決める。



「ただし、ドクターが後で姉妹達から殴り飛ばされても一切フォローはしませんので、あしからず」

『あ、あぁ。分かっている。・・・・・・死なないように加減してくれると嬉しいのだが。
もうコピーは無いのだし、これで死んでしまったら復活は出来ない』

「それは無理じゃない? 絶対みんなキレるだろうし」



そうアッサリ言い切ると、ドクターの額から汗が一つ流れる。

・・・・・・やはり、コピーを全て処分したのは間違いでは。



『やっぱりかい?』

「やっぱりだよ。今の内にリレイズとか覚えておいた方がいいんじゃないかな」

『覚えられるならそうしたいが、さすがに無理だ』

「んじゃ、またコピーを仕込むとか」

『セイン、それでは私の趣旨が消えてしまう。意味がないんだよ』










蒼凪恭文・・・・・・いや、ヘイハチ一門と機動六課と言うべきか。悪いが、付き合ってもらう。姉はなにぶん、不器用でな。

考え方をころころ変えるなど出来ん。その辺り、セインを見習いたいくらいだ。だが、ドクターのお考えも分かる。

この人も結局、姉達と同じように人形である自分を壊し、変えたかっただけなのだと分かって、安心すらしている。





つまり、何が言いたいかというと・・・・・・お前達と戦うことで、姉は答えを出そうと思う。





姉という小さな世界と時間の中にある、本当に僅かな可能性を信じるか否かを、しっかりとだ。


















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・じゃあ、少し塞ぎがちだったのは、色々考えちゃったからなんだね」

「うん」



隊舎に戻ってきて、僕の様子を気にしてたフェイトに説明。なんというか、色々考えてしまった。

まぁ、結局相対的だから、自分の勝手でやるしかないんだけどさ。



「ね、フェイトだったらどう答えてた?」

「・・・・・・多分、答えられなかった」



あらま、意外。てっきり局や世界、自分達を信じて欲しいって言うと思ったのに。

なお、ギンガさんやなのはは、さっき話した時に同じ事を聞いたら、そんな感じだった。



「私、まだ迷って答えを探している最中だから」

「あ、そっか」

「この間も話したけど、嘱託に戻ってもいいかなとか思い出してるんだ。
執務官の資格自体はそうしても消えたりとかはしないし、悪くは無いかなと」



あー、言ってたね。よく覚えてるよ。てーか、フェイト・・・・・・本当に嫌気が差してるんだね。

今までだったら、絶対に言わなかったのに。僕は聞いた時、まじめにびっくりしたよ。



「そういうわけだから、私個人はともかく、世界や管理局というくくりだと・・・・・・ヤスフミみたいにちゃんと答え、出せないと思うよ」

「僕だって個人的だよ? ただ、それっぽく言ってるだけでさ。てーか、理論武装もいいとこだもん」

「だけど、私は革命どうこうって言うお話も、多分出来ないと思う。
というか、どこでそういうの覚えてくるの? 私、ちょっとビックリしてる」

「幕末とか維新志士とか好きでさ、その関係で本読んでたりしたから、そのせいだよ」





確かに、響きはいいわな。他者の世界が、全部変わる。それも、自分の思い描くような形で。

だけど、あれは否定する。やっぱり、他者に変革を望んだ連中しか笑っていない図が、想像出来るから。

うん、そういうのは嫌いかな。だから、フェイトの手を取ったんだから。手を取って、『一緒に変わろう』って言った。



大好きで、大切な人に言いっ放しなんて嫌いだから、最後の最後まで付き合う覚悟を決めた。





「お兄様」

「・・・・・・どしたの、シオン」

「あなたが今抱えている迷いは、決して間違っていません。
いえ、その迷いとジレンマは、抱えていていいんです」



・・・・・・またいきなりに、僕の右横に浮かんでいるシオンがそう言ってきた。

うん、僕は少し迷ってる。あの話で、色んなものを感じちゃったから。



「迷いは、状況によって悪になるだけです。お兄様が戦うべき時以外であれば、沢山考えてもいいと思います。
・・・・・・あの、戦闘機人と思われる方とのお話でもありましたが、全ては相対的です。私達は、常に相対悪と戦っているんです」

「そうだね」





時代は変わる。そして、時の流れは人の考えを、常識を変える。

今の管理局の正義だって、10年後はどうなってるか分からない。

相対悪・・・・・・そんなあやふやな物と、警備組織は常に戦っている。



それを絶対と思う事は、きっと歪んでいて、だめなことじゃないかと、シオンは言っている。





「人は、認める必要があります。自身も相対的・・・・・・変わりゆく時代と常識、そして時間の流れの一部だと。
そう、人こそが時間であり、時代なんです。だからこそ、変われます。人は、自分の世界を変えられるんです」



シオンはそう言い切った。躊躇いもなく、迷いもなく、しっかりと僕の目を見ながら。



「そして、相対的なものは、その欠けらが集まって出来た大きな流れの中で、自然と決まるものだと思います」

「・・・・・・決して、欠けらの一つが全部決めていいことじゃないってこと?」

「はい。ですから、お兄様も気負わなくていいんです。
あなたも、今という時代の一欠けらなのですから」



なんだろう、少しこう・・・・・・迷いが晴れた。

少し鬱屈としていたものが、スッキリしていくのを感じる。



「忘れないでください。たった一つの欠けらだけでは、時代という大きな流れを変えることなど、決して出来ません。
本当の意味で変えられるのは、自分の時間と、自分の世界だけです。人の手は、それほど大きくもなければ、長くも無いのですから」

「・・・・・・そっか。そうだよね、シオンありがと」

「いいえ、問題ありません」



シオンは癖なのか、髪をよく右手で軽めにかき上げる。デフォルメ体型のせいか、余計に可愛く見える。

それで、フェイトがポカーンと・・・・・・あ、いけないいけない。普通にシオンが見えてないんだった。



「シオンとお話?」

「うん。・・・・・・迷ってもいいって言われちゃった」

「そっか。・・・・・・やっぱり、シオンはヤスフミのしゅごキャラなんだね。
ヤスフミのことちゃんと理解してるから、全部を受け入れて、味方になってくれてる」

「そうだね、そこはありがたいよ。あと、フェイトがそう言ってくれるのも、すごくありがたい」



普通にシオンが見えてないはずなのに、ちゃんといる存在として見てくれてる。

うん、ありがたいよ。なんかこう・・・・・・嬉しいのさ。



「うん・・・・・・。私、少し思ったんだ。もしかしてシオンって、ヤスフミの理性的且つ論理的な部分を補完してくれてるんじゃないかな」

「どういうこと?」

「えっとね、スカリエッティに対しての考察もそうだし、今ヤスフミとシオンが話してた事もそうだと思うの。
・・・・・・多分、アドバイス的なものだよね? それを論理的に、尚且つヤスフミに分かりやすく伝えてた」



フェイトの言葉に頷く。確かにその通りだった。



「しゅごキャラが『なりたい自分』だって言うのなら、シオンのそういう部分は、ヤスフミの願望だと思うんだ。
キャラチェンジでシオンに身体を乗っ取られちゃうのも、ヤスフミの中のそういう感情が強いせいじゃないかな」

「なんだろう、ちょっと納得しかけてる」



もう一度、横にいるシオンを見る。・・・・・・普通にニッコリと微笑んだ。きっと、肯定されているのだろう。

だけど、まるで自分の方が頭がいいと言われてるようで、ちょっとムカつく。



「でしょ? 自分でも、かなり説得力があると思うんだ。・・・・・・あ、そうだ」



フェイトは思いついたようにポンと手を叩くと、僕の方へそのまま両手を伸ばして、僕の手を掴んだ。

そして、優しく握ってくれる。



「迷いそうな時は、私も手を握るって、約束したよね。だから、こうする。
あのね、ヤスフミがやりたいようにやっていいんだよ? 私は、全部認めるから」



フェイトが一瞬、何を言ってるのか分からなかった。でも、それでも言葉は続く。



「・・・・・・・もしも、その子が嫌いになれないなら、それでいいんじゃないかな」

「別に、嫌いになれないとかじゃないよ」

「でも、ちょっと考えた。今まで見てきたものとは、違うものを感じたから」

「それはその・・・・・・うん」



僕は、そのままフェイトの言葉に頷いた。フェイトは、変わらずに微笑んでくれる。

手を握る力が強まる。優しく、安心させるような力強さ。それに心が震えて・・・・・・嬉しくなってくる。



「だから、正直に話して? ヤスフミの本当の気持ち。いったい、どうしたいのかな。
隠してる事、あるよね。・・・・・・お願い、今の自分の気持ちに、嘘をつかないで」



フェイトは、そう言いながらも変わらずに笑ってくれている。

だから・・・・・・吐き出すことにした。



「・・・・・・もう一度、話してみたい」



フェイトは、そのまま頷いてくれた。



「何か、すごく引っかかってるんだ」



まぁ、スカリエッティはどうでもいい。問題は、今日話したあの人だ。



「このままあの子を、今まで感じていた怒りや憤りのままに叩き潰していいのかって、かなり。
もしチャンスがあるなら、もう一度話してみたい。・・・・・・無茶だし、らしくないと思うんだけど」

「ううん、いいんじゃないかな」



フェイトは、認めてくれた。アレから僕の心の中に湧き上がった一つの感情を、しっかりと。



「私だって、なのはに同じようにされたし、シグナム達と初めて会った時もそうした。だから、今のヤスフミの気持ち、分かるつもりだよ?
だったら、やってみようよ。今のヤスフミの気持ちを、あの子にぶつける。チャンスは少ないかも知れないけど、私も手伝うから」

「・・・・・・いいの? フェイト的には、色々あるだろうし」

「別にスカリエッティやその子のためじゃないよ。私の大事な・・・・・・彼氏のためだから」



フェイトの頬が、赤く染まる。というか、瞳が潤む。

や、ヤバい。無茶苦茶可愛い。というか、あの・・・・・・素敵過ぎる。



「それに、私達はどちらにしろ一緒に戦っていくんだから、同じ事だよ」

「確かに、そうだね。・・・・・・フェイト、ありがと」

「ううん」










相対的な善悪の中で、通すべき答え・・・・・・確かに、ある。

それから見ると、スカリエッティやあの子達の行動は絶対に許せない。

だけど、あの対話の中で強い何かを感じてしまった。それがすごく気になる。





とにかく、それを見極める事だ。チャンスは少ないかも知れないけど、しっかり掴んでいこう。





もちろん、フェイトのことも守った上で。うん、ここは絶対ですよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・お兄様は、大丈夫そうですね。ですが、いい傾向です。

そう、その通りなんですよ? 自分と言う存在は、それだけで小さな世界であり、時間なんです。

それを守る事、そこから広がる可能性を守ること、そうして繋がった別の世界を守る事。





それらは世界を守るというなら、全部必要なんです。だからこそ、スカリエッティは認められません。

他人もそうですが、自分の可能性すら殺す選択だと、私は思います。そう、自分すら殺すんです。

自分の思い通りに振舞え、色んな物を生み出せる世界。確かに、それは『すばらしい世界』でしょう。





まさしく神様か創造主の領域。だけど、神様というのは・・・・・・実は不自由なんです。

全てが思い通りになるが故に、自分の枠の中でしか物を見れなくなりますから。

そして、決して自分の思い通りにならない他者は、そんな枠をいい意味でも悪い意味でも壊す存在。





あの男は、そしてあの女性や他の方々は、革命など起こせませんわ。ここは賭けてもいいです。

そして、不憫にもきっとあの方々はそれに気づかない。おままごとを革命の成功と捉える。

ならば、誰かが気づかせなければなりません。それは、ただ自分すら不幸にする選択だと。





・・・・・・様が目を覚ますのは、もうちょっと先かと思っていましたが、もしかしたら意外と早いかも知れません。

私、感じていますから。・・・・・・様が眠っている星の光のたまごから感じる力が、今までより強くなっているのを。

お兄様、ヒントを上げられなくてごめんなさい。でも、これは必要なことなんです。お兄様が自分で気づかなくては、意味が無い。





壊す事と守る事は、実は一つなんです。答えは、きっとお兄様の中にあります。

まぁ、大丈夫ですよね。というか・・・・・・中学生日記の空気は甘いです。

あぁもう、ここだけはぜひ改善して欲しいです。



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・なぎ君、フェイトさんに抱きつかれてた。てゆうか、普通にフェイトさんが甘かった」

「恭文、フェイトさんと最近すっごく仲良くしてるしねー」

「そうなのっ!?」

「うん。それでシャーリーさんが言うには、フェイトさんが乙女モードで可愛いんだってー」



・・・・・・マジでそうなりそうとは。私、色々とビックリしてるんだけど。てゆうか、なんだろう。

すっごい乗り遅れた感じがするのよ。それも相当。こう・・・・・・この扱いはどうなのかとか、色々言いたくなる。



「というかギン姉、部屋に戻らなくていいの?」

「ごめん、スバル。今日ここで寝ていいかな。こう・・・・・・なんだかモヤモヤするの。ティアもいいかな」

「別に構いませんけど、どうしたんですか?」

「なんだろう、イライラするんだ。今のなぎ君やフェイトさんを見てると、こう・・・・・・イライラするの」










イライラして、モヤモヤして・・・・・・あれ? これってなんか聞き覚えがあるような。





まぁいいか、ギンガさんだって色々あるんでしょ。うん、きっとそうよ。



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・僕とリイン、フェイトは、なのはとヴィヴィオと一緒に聖王教会に来ている。

なお、あの人との邂逅の翌日。時刻は、お昼過ぎ。

聖王教会の敷地内で、ヴィヴィオとリイン、フェイトが遊ぶのを見ながら、少しだけ真剣なお話。





それは・・・・・・ヴィヴィオの事。











「・・・・・・検査の結果、あの子は300年前の人間のクローンという事が分かりました」



人造魔導師製造の際、元となる遺伝子が必要となる。高い魔力資質を持った人間の遺伝子が。

ヴィヴィオの場合、どうやらそれが今話に出た300年前の人物らしい。



≪そうすると、古代ベルカ時代ですか≫

「そうなりますね」



遠めで、ボール投げをして遊んでいる三人を見ながらそう言うのは、武闘派シスターのシャッハさん。

そう、今日ここに来たのは、ヴィヴィオの身体の検診のため。で、結果は聞いての通り。



「シスター・シャッハ、それが誰かというのは」

「すみません、そこまではまだ。ただ、引き続き調査いたしますので、分かり次第ご報告します」

「まぁ、鍵であることには違いないんだろうけどさ」





はぐれガジェットはちょくちょく出てる。けど、それだけ。

廃棄都市部でのあれこれのようなごたごたは、0だ。

あの人との邂逅は・・・・・・また違うしなぁ。なんか、気のせいかな。



アレ、僕という人間を、試されていたように感じるんだけど。





「しかし、ヴィヴィオはずいぶんなのはさんに懐いていますね」

≪あなたやフェイトさんも、パパとママですけど、ヴィヴィオさんの中では少し違うようですね≫

「そうだね、そこは違う」



なんだろ、最初の刷り込みがあったからなのかな。なのははヴィヴィオにママだと思われてる。

実際、ヴィヴィオに『ホントのママだったらいいのに』って言われた事があるとか。



≪そして、シャッハさんは最初の刷り込みが故に、少し怯えられてると≫

「・・・・・・反省しているので、そこは触れないでもらえるとありがたいです」



なんでも、最初の時に病室から抜け出したヴィヴィオを警戒する余り、セットアップして迫ったとか。

で、泣かれたとか。なので、ヴィヴィオはシャッハさんが少し苦手なのだ。



「それで、ヴィヴィオの事ですが・・・・・・養子にというのは、考えておられるんですか?」





シャッハさんが、少し疑問に思ったのか、聞いたらしい。



というか、シャッハさんも気づいてたか。・・・・・・なのは、ヴィヴィオに相当肩入れしてる。



それも、このバカはせっかく忠告したのに、もう抜け出せないレベルまで来てる。





「いいえ」



なのはは、シャッハさんの問いかけに、首を横に振った。そう、横に振った。

養子にするつもりはないと、嘘をついた。誰でもない、自分への嘘だ。



「受け入れ先は、探してもらっていますし、温かい家庭の中で、すくすくと育ってくれれば、それでいいです」





なお、そこの辺りはクロノさんやヴェロッサさんが動いてくれている。だけど、中々居ないらしい。

まぁ、当然と言えば当然かも知れない。これは、ヴィヴィオの出自どうこうの話じゃないのよ。

子ども一人の里親になろうなんて言う家庭、そうそうあるもんじゃない。覚悟だって居る。



まずは、金銭的な問題があるでしょ? あと、ちゃんと愛していけるかという問題もある。

子ども一人を引き取って、育てるのは、本当に簡単な話じゃないの。

だから、なのはの事を僕はどうこう言えない。だって、言うなら僕が引き取ればいいって話になるもの。



・・・・・・あー、でもマジで引き取っちゃうのも手かな。今のなのは見てたら、それも考えたくなる。





「そうなんですか、それは・・・・・・きっと、ヴィヴィオは寂しがりますね」

「そうなったら、ちゃんと話します」

「・・・・・・なのはさん。差し出がましいようですが、ヴィヴィオを引き取れない事情でもお有りですか?」



シャッハさんにそう聞かれて、なのはは空を見上げる。

とても遠い目で・・・・・・やっと本心を口にした。



「私は、空の人間ですから。いつ墜とされるかも、分かりません」

「・・・・・・そんなっ! 縁起でもないっ!!」

「事実ですから。現に、一度落ちてます。・・・・・・恭文君は、知ってるよね」

「知ってるよ」



そのリハビリが終わる直前に、おのれにバインドをかけられたんだから。

で、終わってから、友達になった。まぁ、一応ね。



「多分私は、ずっと飛び続けます。だから・・・・・・あの子の帰る場所には、なれません」

「そうですか。・・・・・・すみません、本当に差し出がましい事を言ったようですね」

「いいえ」





なのはの方に、ヴィヴィオが取り損ねたボールが飛んでくる。

それを、なのはは少し前に歩いて、しゃがんで拾う。

拾って、なのはは優しく・・・・・・そう。優しく、母親としてボールを渡す。



ヴィヴィオは、それに対して嬉しそうな顔をする。だけど、表情に疑問の色が宿った。





「なのはママ、どうしたの?」

「ん?」

「なんか、元気ない」



そう言って、ボールを左手で持ちながら、ヴィヴィオは右手でなのはの頭を優しく撫でる。

今はなのはがヴィヴィオの視線に合わせてる。だから、出来る技。



「なのはママ、いい子いい子」

「・・・・・・そうだね、ちょっとだけ元気なかった。
だけど、ヴィヴィオがいい子いい子してくれたから、元気になったよ」

「ホントに?」

「ホントに」



そう言って、なのはは笑う。いつもの通り、元気良く。

それを、僕とシャッハさん、フェイトとリインは、温かく見守っていた。



「・・・・・・なんとか、なればいいんでしょうけど」

≪難しいでしょ。こればかりは、無理は言えません。
本当に覚悟のいる事だと思いますから≫

「そうですね。簡単には、言えませんよね」





金銭的な負担、精神的な負担、子どもが居ることで、背負うもの、消費するものは大きい。

保護責任者になるのだって、大変なんだ。リンディさんとフェイトを見てて、本当によく分かった。

こればかりは、本当に僕達は何も言えないよね。だって、決めるのは二人なんだもの。



沢山楽しい事もあるって言うけど、それでも消費するものがあるのも、間違いないから。





”・・・・・・ヤスフミ”

”ん、なに?”

”なのは、まずいね。どんどん深みにハマってる”



フェイトは、温かい視線を送りつつも、ちゃんと分かっているらしい。

今のなのはとヴィヴィオが、色々とやばいラインに居るのを。



”確かにね。あーもう、早く里親が見つかって欲しいよ”

”正直、私もそう思う。これ、時間が経てば経つほど、互いに傷つくことになるよ。
リアルにその・・・・・・ウルトリィだっけ? 今のなのはと同じ状況だったゲームのキャラ”



そう、それ。もちろん、細かい部分は色々違うけど、母親としての情愛に目覚めてるのは、間違いないもの。

段々、双子に対してのエイミィさんとのシンクロ率が高くなってる。やばい、マジで早くなんとかして欲しい。



”いっそ僕が引き取ろうかとか、ちょっと考えちゃったよ”

”確かに、なのはに無理強いは出来ないし、それをやるならまず自分がやれるかどうかを考えないとだめだよね。でも、無理だよ”

”うん、僕には無理。嘱託で、フェイト達みたいにちゃんとした立場があるわけじゃないもの”



なのはにシャッハさんが『養子にしないんですか?』と聞いたのも、それが許される環境だからだよ。

なのはが空尉階級の局員で、ちゃんと働き口があって、収入も高くて安定しているから、出来る事。



”そして、私も少し難しい。私・・・・・・まず、ヴィヴィオのことの前に自分の事だから。
解散後に局員を続けるかどうかも、ちゃんと決めてないくらいだし。なんだか、難しいね”

”そうだね。本当に・・・・・・難しいわ”










・・・・・・フェイトと二人、空を見上げる。空は、何処までも青く、そして広がっている。





出来れば、傷は浅めだと、色々と嬉しいなとか、思ったりした。



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・9月の9日。僕とギンガさん、それにスバル達はある人達と対峙していた。





というか、あの・・・・・・普通に出て来るってどういうことさ。










「・・・・・・蒼凪さん以外は初めましてでしょうか。
私、聖王教会のシスター兼教会騎士のシャッハ・ヌエラと申します」



シスター服に紫色のショートカット(おかっぱ)な髪。カリムさんの側近のシャッハさんが、そこには居た。

なんというか、あの・・・・・・普通にびっくりだよ。なんであなた、ここに居るんですか。



「・・・・・・シグナムさん、シャッハさんはなんでここに居るんですか?」



今日の教導は、なのはやフェイトが書類仕事があるので、不参加。

なお、師匠は別件で出ている。なので、シグナムさんが特別講師なのだ。



「簡単だ。今日は実戦形式のかかり稽古をやろうと思う」

「非才の身ながら、お手伝いさせていただければと思い、シグナム副隊長からのお誘いの声に、応えさせていただきました」

≪・・・・・・聞くまでもありませんでしたよね≫

「そうだね」





つまり、このメンバーでシャッハさんやシグナムさんとやり合えと言うのだ。また難易度高いね。



で、僕はともかくとして、他のメンバーがざわざわするのである。で、そこはいい。



問題は、どうして僕と居るはずのリインが、シグナムさんの方に居るのかってことですよ。





「ごめんなさいです。でもでも、みんなのサードモードの遠隔調整もあるので、今日のリインはシグナムと頑張るのです」

「そっか。じゃあ仕方ない、おやつは抜きだね」

「シグナム、遠隔調整の仕方は教えるですから、頑張ってください。というか、容赦はしませんよ?」

「寝返りのスピードが速すぎるだろっ! 頼むからしっかり仕事をしてくれないかっ!? なにより、私はそういうのは苦手なんだっ!!」





シグナムさん、機械関係に少し弱いのは相変わらずか。

別に完全にダメとかじゃなくて、慣れるのに時間がかかるんだよね。

携帯端末も新しいのに変えると、使いこなすのに半年とかかかるし。



ただ、覚えたら忘れないのは凄いと思う。





”・・・・・・ねぇ、恭文”

”うん、ティアどうしたの?”

”私達は、この状況に置かれて、どうすれば幸せになれると思う?”

”全てを受け入れなさい”

”じぃぃぃぃぃざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁすっ!!”



ティア、残念ながらこの人のコレはもう病気なのよ。僕にはどうしようもない。



”それで恭文、確か私の記憶が正しいなら”

”スバル、料理の鉄人がやりたいの?”

”違うよ。てゆうか、それなに? ・・・・・・確かシグナム副隊長はオーバーSとかじゃ”

”スバル、よく分かったね。今はリミッターかかってるけど、本来は空戦S−だよ”

”じぃぃぃぃぃざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁすっ!!”



なぜだろう、普通に答えたのに、スバル達が固まった。



”なぎ君、それならこちらのシスター・シャッハという方は? お知り合いなんだよね”

”うん。陸戦AAA+だよ? なお、単純な剣術技能なら、シャッハさんはシグナムさんとタメが張れる”

”いやいや、一体それのどこが非才っ!? 明らかにおかしいでしょっ!!”

”奇遇だね、ティア。僕も以前全く同じ事を思ったよ”

”じぃぃぃぃぃざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁすっ!!”



というわけで、今日はとっても楽しくなりそうなのである。だって、シグナムさんとシャッハさんだし。



「・・・・・・そう言えば蒼凪、お前とやり合うのはここでは初めてだったな」

「あー、そうですね。僕、結構隊長側に回って模擬戦闘してましたし」

「あぁ、楽しみだな。心が踊ってしまう。というわけで、ついついいつもの5倍ほどカートリッジを持ってきてしまった」

「シグナムさん、奇遇ですね。僕も同じくらい持ってきちゃったんですよ。今日はシャッハさんも居ますし、絶対楽しくなると思いまして」



・・・・・・あれ、なんかギンガさん達が引いたな。てーか、普通に断層が出来ているように感じる。



「もう、シグナムも恭文さんもだめですよ」

「そ、そうですよねっ! いや、さすがシスター・シャッハは言う事が違うっ!!」

「もう初対面ですけど私もそう思いますっ! さ、もっとコイツに言ってやってくださいっ!!」

「はい、では言わせていただきます」



何だろう、いきなりスバルとティアがハッスルしている。てゆうか、その怯えた目はやめて?

僕とシグナムさんが斬り合う事の何がいけないのさ。



「私、いつもの量しかカートリッジを持ってきていませんのに。これでは、最後までお付き合い出来ません」

『・・・・・・はぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

「それならば問題ありません。ヴィンデルシャフトの口径のカートリッジならば、保管庫に大量にあったはずです。蒼凪、そうだな」

「大丈夫ですよ? レヴァンティンやグラーフアイゼンと同じ口径ですから」



僕の言葉に、シャッハさんの表情が明るくなる。そして、少し恥ずかしそうにこう言うのだ。



「なら・・・・・・少々使わせていただいても、大丈夫でしょうか。
あとで、私宛に請求していただいても構いませんので」

「もちろんです。それでは、訓練前にまずはカートリッジの補給としましょうか」

「我々が案内します。では、こちらに」

「はい、お願いします」



そうして、ゆっくりと僕達三人は保管庫へと向かうのだ。・・・・・・これでシャッハさんも全力全開ですよ。

いや、楽しみだなー。僕はあんま、カートリッジは使わない方だけど、それでも楽しみだなー。



『いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ちょっと待ってっ!? いや、真面目に待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』

「えっと、サードモードの調整の準備はこれで完了っと」

「リイン曹長もどうして普通にしてるんですかっ!? お願いですから副隊長やシスター・シャッハやアイツを止めてくださいっ!!」





・・・・・・そうして、平和な日常は過ぎる。そう、過ぎていく。

だけど、それはすぐに崩れる事になる。うん、もう分かってたわ。

でも、絶対に負けない。守りたいものは、今は、僕の背中にある。



そうだ、絶対に勝つ。スカリエッティは徹底的にボコる。そして・・・・・・!!





「さらば電王っ! 見に行くんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「お前はいきなりなんだっ!!」










あと一月とちょいで上映開始なんだ。管理局が壊れたら、映画がどうなるか分からない。





良太郎とモモ達の最後のクライマックスを守るために・・・・・・ここからフィナーレまでは、徹底的にクライマックスだっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・いよいよ、来週の月曜か」

≪ついに一週間切ったな≫



公開意見陳述会・・・・・・何かが起きると、カリム達が予測した日まで、あと少し。

全く、月曜つったらジャンプの発売日だよ? なんでこうなんのさ。



「それで、騎士カリム。すみませんが」

「はい。もう止めても無駄なのは分かっていますから。ですが、身分などは」

≪問題ありません。もうとっくに偽装済みです≫

「それはまた・・・・・・聖王教会騎士の一人として、聞き捨てならない言葉ね」



とか言いながら、呆れたように笑うのはやめて欲しいよ。しゃあないじゃないのさ、ここはさ。

アンタやみんなに迷惑かけないように、色々とここに居ながら手はずは整えたのよ。



「サリ、アンタならどう出る?」

「六課には連中の狙いがあるしな。もし襲撃かますとしたら、そこへの攻撃も同時進行ってとこか?」

≪けどよ、六課メンバーに囚われ過ぎて、中央への襲撃が失敗しても意味がねぇ。
俺が思うに、そっちは出来ればって感じで、基本攻撃行動に専念って感じだろうな≫

≪アメイジア、我も同感だ。ただ、相手方の戦力がどれほどあるかによる。
現在まで、戦闘機人とルーテシア嬢にガジェットしか出ていないが≫



その他のも出て来る可能性は高い。そうでなくても、数が大量だった場合も、アメイジアの予測も外れる。

六課に居るやっさんを代表とした捕獲対象への襲撃を、同時進行でやる可能性も捨て切れない。



「そもそも、会場の内部警備には、デバイスや武装持ち込み禁止っていうアホなルールがある。
俺だったら、そこを狙うな。やっさんはまぁ、守るつもりはないだろうが」

「六課の隊長達はそういうわけにはいかない」



ただでさえ、六課の立場は地上では微妙なとこにあるもの。へたなルール違反は、即時査問コースだよ。

シャッハから伝え聞いた所によると、やっさんもそこを考慮してなんか対策整えてるらしいけど、なんだろ。



「相当にとんでもない手で、あなた達どころかスカリエッティですら想像出来ない手よ。なお、極秘事項」

「・・・・・・アイツ、いつからそんなキャラになった? おかしいだろ。あー、それで思い出した。
ヒロ、分かっているたぁ思うが、出来るだけ六課の人間に見つからないようにはしとけよ?」

「分かってるよ」



はやてちゃんに釘刺されたしねぇ。私達は引退組で、ロートル。基本的には一般人と同じ。

だから、前の事は自分達に任せて、カリムの下で保護を受けていてくれってさ。



「でも、たまたま出かけたところにそんな事件が起きて、巻き込まれちゃったら仕方ないと思うのよ」

「俺も同感だ。たまたまじゃあ、しゃあないだろ」

≪全く、あのタヌキガールもまだ甘いな。俺のマスターがあんな睨み一発で止まるわけねぇだろ≫

≪我らが鉄に喧嘩を売ってくれた罪、しっかりと購ってもらわなくては困るしな≫



そう、私達はたまたまお散歩に出かけて、たまたま巻き込まれる。たったそれだけ。

なので、はやてちゃんの忠告の対象外なので、問題なーし♪



「ヒロリス、はやて・・・・・・怒るわよ?」

「大丈夫だよ。六課は六課でやればいい。私らは」

≪俺らでやるってだけの話だ。問題はねぇよ≫

「いや、充分に問題・・・・・・あぁ、そうよね。言っても聞かないのよね。
あなた達もそうだし、サリエルさんと金剛も」





当然でしょ。売られた喧嘩は買って、叩き潰さなくちゃいけないのよ。

・・・・・・それに、あの子の事もある。ここで人任せになんて、絶対に出来ない。

メガーヌ、アンタの遺してくれた『未来』は、絶対に守り抜く。だから・・・・・・安心して、見てな?



そう、そして・・・・・・!!





≪≪「「さらば電王、見に行くんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」≫≫










モモ達の最後のクライマックスが、スカリエッティなんぞに潰されていいわけないでしょっ!?





うし、ここからはヘイハチ一門は全員、徹底的にクライマックスだっ! 私らのノリ、止められると思うなー!!




















(第24話へ続く)




















あとがき



古鉄≪・・・・・・さて、次回からいよいよ、派手にバトルですよ。でも、どうしましょうか。なんか、今更大幅手直しとかしたくなったらしいんですよ≫

歌唄「あぁ、例のアレよね。今回で対決フラグが立った、あの二人。
さて、その辺りも気になりつつ、普通に楽しくなってきたほしな歌唄と」

古鉄≪古き鉄・アルトアイゼンです。でも、どうしましょうか。
普通に相性悪過ぎますから、結構力押しだったんですけど≫





(というか、ベタ?)





古鉄≪ただ、DTBとか見ちゃうと、今日はなんだかーいけそうな気がするー≫

歌唄「なんで吟じるのよっ! アンタ、マジでエルに似てフリーダムよねっ!!」

古鉄≪失礼な。私はあの人よりは良識的ですよ。というか、空気読めますから≫

歌唄「・・・・・・そっか、まぁそうよね。というより、読んだ上で暴走でしょ?」

古鉄≪当然です≫





(青いウサギ、力いっぱいにサムズアップ。それを見てドS歌姫、どうしていいか分からなくなる)






歌唄「そう言えば、なのはさんが前回のあれでまた株を落としたわね」

古鉄≪感想など見てると、そうですよね。でも、原作どおりだったりするんですよねぇ≫

歌唄「そうなのよね。原作でもあのノリだったのよね。というかあの人、基本的に攻撃行動しかしてないような」

古鉄≪あと、教導ですね。他で隊長らしいとこって、してないですよね。
結局、実戦では何だかんだで、フォワードとは離れて行動していますし≫

歌唄「そこはフェイトさんもなのよね。・・・・・・ね、この分隊制って、意味あるの?」





(ドS歌姫、今更そこが疑問になったらしい)





古鉄≪隊長達は隊長達で勝手やってると言えばそこまでですしね。
ただ、空中戦をフォワードが全員出来るわけじゃないですから≫

歌唄「ティアナさんは本当に飛べないし、他の子達も普通に限定的なのよね。ウィングロード走ったり、ブーストで飛んだり、竜に乗ったり」

古鉄≪そういう問題もありますね。まぁ、もう言っても仕方ないじゃないですか。どちらにしろ修正は不可能ですよ≫

歌唄「それもそうね。・・・・・・で、次回からはいよいよ」

古鉄≪はい。もしかしたら、今回で戦闘フラグが立った二人の戦いは、大幅修正かも知れませんけど。こう、DTB的な戦いになるんですよ≫

歌唄「今は、思いっきり力押しだものね。まぁ、一応書いてみてからでいいんじゃないの?」





(いや、こう・・・・・・あんな戦闘だったら、チンクにも勝てそうな感じがして)





古鉄≪というわけで、本日はここまで。お相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫

歌唄「ほしな歌唄でした。それでは、また次回に。・・・・・・もう出番、なさそうよね」

古鉄≪拍手で来てたみたいに、ルーテシアさんと戦いたいんですか?≫

歌唄「無理よ。まず、ミッド行けないし戦闘能力ないし、白天王なんて倒せないし」










(というより、倒せたら恐怖だと思う。あんなの、ぶっちぎりだし。
本日のED:ステレオポニー『ツキアカリのミチシルベ』)




















あむ「・・・・・・いよいよ次回から、戦闘開始かぁ」

恭文「あれだよ、あむ的にも戦闘開始だった時期ですよ」

あむ「そ、そうだね。普通に外キャラで見られまくってたから。
でも、チンクさん相手にDTB式戦闘・・・・・・勝てるの?」

恭文「チンクさんのシェルコートと爆破能力を如何にして攻略するかってとこだね。
近接戦闘もかなり危ないし、ブレイクハウトなり鋼糸なり、中距離攻撃をかなり駆使しないと」

あむ「でも、鋼糸だと爆発させられちゃうじゃん」

恭文「触らせなければいいのよ。まぁ、かなり難易度高いけどさ。あと・・・・・・レールガン?」

あむ「いやいや、あれ使ったら死んじゃうから」

シオン「私の力で一蹴すれば、問題ありません」

恭文「その辺りも含めて悩んでるのよ。・・・・・・流星の双子の最終回の戦闘、かっこよかったしさぁ」

あむ「あははは、まずそこなんだ」










(おしまい)




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