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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第20話 『戦いは、ノリのいい方が勝つ?』



・・・・・・私達六課フォワード陣は、六課の中で誰が一番強いのかという問答の答えを探している途中。

それで、隊長達に色々と話を聞いてみる事にした。理由? そんなの簡単よ。

マジで考えた場合、どうなるのか興味があるから。なお・・・・・・エリオとキャロが若干おかしい。





その理由は分かる。フェイトさんとアイツの空気が、おかしいからだ。

キャロは応援モードなんだけど、エリオが若干戸惑い気味。首をかしげていた。

・・・・・・・・・・・・そう言えば、ちびっ子達は知らなかったんだ。





アイツがフェイトさんの事好きだってこと。全く、スバルも空気読みなさいよ。

普通に二人にそのことを話そうとしてたし。あそこでその話したらとんでもない事になるでしょ?

でも・・・・・・あの空気であぁなるってことは、アイツとフェイトさん上手く行ったってことなのかな。





・・・・・・・・・・・・ありえないか。そうよ、ありえないわよ。

だって、アイツよ? フェイトさんが振り向くとは思えないし。

そうよそうよ、ありえないわよ。うん、ありえない。





大体、アイツにフェイトさんは合わないって。アイツは・・・・・・そうだな。

アイツのバカにもしっかりツッコめて、ビシバシ厳しく出来る子がいいと思う。

それでアレよ。普通に年下がいいんじゃないの? えぇ、絶対年下ね。





年上だとアイツ、絶対甘えて堕落するし。・・・・・・まぁ、ここはいいか。とにかく私は一人、部隊長室に向かった。





この時は、この課題が私達にとってとても大きな意味を持つことになるとは、知らないままに。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・個人での戦闘能力? うちは弱いよー。もう、さっぱりや。
そやから、ランクかて空戦やのうて総合で取ってるし」



そう、八神部隊長。総合のSSランク魔導師(リミッターがかかる前)で、六課の部隊長。

さっきまでやっていた駐機場でのバカ騒ぎでも、名前が挙がった人。



「でも、元々のランクはSSですよね? 総合のSSって言ったら、魔力だけでも凄いんじゃ」

「魔力だけはな。でも、うちはまず術式の高速運用が出来んし、並列処理も苦手」



八神部隊長はカステラ、だっけ? お菓子を食べながらも答えてくれる。

というか、ちょっと美味しそうかも。・・・・・・やばい、なんかお腹空いてきた。



「大魔力と高速・並列処理は衝突するんが当たり前やもん。
で、恭文みたいな能力持ちでもない」

「瞬間詠唱・処理能力・・・・・・でしたよね?」





フォン・レイメイも持っていた能力。大抵の魔法の術式の処理を、一瞬で終えるという力。

局では諸々の事情で、レアスキルには認定されてない。だけど、とてもすごい能力。

その能力の恐ろしさを、私は身を持って知ってる。だけど・・・・・・アイツもそれなんて知らなかった。



てゆうか、初めて知ったわよ。そんな能力があるなんて、訓練校でも教わらなかったし。





「そや。まぁ、うちがそれあったら間違いなくチートレベルやけどな」



確かに。広範囲攻撃の瞬間的な連射が可能な固定砲台って、怖過ぎるわよ。

タイムラグ無しで発動して、バカバカ撃つわけでしょ? ・・・・・・マジで怖いわ。



「うちの魔法の運用は、『立ち止まって展開・発射』だけ」



とにかく私は、頭の中で話を纏めていく。

つまり、八神部隊長は本当に固定砲台というか、そういう感じのスキルばかりってことか。



「後方支援専門に、殴り合い用のスキルなんか無意味やからな。
適正の低いスキルを鍛えたところで、効率も悪い」

「それはまぁ、確かに」

「ぶっちゃけ、うちがガチンコで勝てるのなんて・・・・・・そうやな。
六課の前線メンバーで言うたら、キャロくらいとちゃうか? もち、竜召喚は無しや」

「・・・・・・でも、キャロって普通に動き凄いですよ?
カントリー育ちなせいか、特に野戦適正が高いんです」



ふとそう言うと、八神部隊長が固まった。失敗したと思いつつも、そのまま続ける。



「そういや、なのはちゃんがめっちゃ鍛えてるし・・・・・・あかん、フィジカルでは勝てんかも知れん」

「八神部隊長、それだけじゃないんです」



アイツが六課に来て、私達の中で大きな変化が起こっている人間が居る。

それが、キャロ・ル・ルシエ。そう、今話に出ている女の子。



「あの子、前に恭文の友達のスーパーオールラウンダーに比べられた上でダメ出しされまくったのが、相当ショックらしくて」

「あぁ、あの噂に聞く、全ポジションを瞬時に切り替えられて、それぞれの技能も一級レベルを誇るっちゅう方やな」

「それです。そのせいで、なのはさんとヴィータ副隊長達に、他のポジションのスキルも習得したいってかなり相談してます」



そう、かなり本気だ。キャロはスーパーオールラウンダーを目指すつもりらしい。

ヘコむのと同時に、自分の魔導師としての目標というか、憧れを見つけたんだと私は思う。



「マジか?」

「マジです。現に、アイツがフェイトさんと旅行に行くまでに、その友達のことについてかなり詳しく聞きまくってたとか」

「・・・・・・あかん、うちこのままやとキャロに負けてまう。マジでキャロに負けてまう。
あぁ、もしかしなくても六課最弱はうちっ!? そんなんさすがに嫌やー!!」










そして、そこからキャロの今後の事や、六課最弱を回避するにはどうしたらいいのかという話をして・・・・・・あれ? なんか忘れてるような。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・バカ弟子、フェイトはいいのかよ」

「四六時中くっついてるみたいな言い方は、やめてください。シグナムさんと居るから大丈夫です。
てゆうか、せっかくだから交流がてら、一緒に食べようって誘ってきたの、師匠でしょ?」

「あぁ、そうだったな。・・・・・・で、エリオ。何の話だ?」





・・・・・・現在僕は、ヴィータ副隊長に話を聞く事にした。空戦AAA+で、恭文さんの師匠。



古代ベルカ式を扱う、騎士の先輩。というか、目標の一つ。



で、恭文さんと一緒にお菓子を食べながら、僕の話を聞いてくれている。





「えっと、隊長達の個人戦技能について聞きたくて」

「・・・・・・エリオ」

「な、なんでしょう」



恭文さんが結構にらみ気味に僕を見る。えっと・・・・・・なにかしたかな。



「そこには当然、僕は入っているんだろうね?」

「・・・・・・すみません、入ってないです。だって、恭文さんは隊長じゃないですから」

「よし、模擬戦しようか。僕はアレだよ? ナハト分隊のエースだよ?
ナハト分隊の分隊長で副隊長で分隊員だってことを、ちゃんと分かってもらわないと」

「何勝手にそんな設定作ってんだっ!? アレは普通にお前のコールサインってだけで、お前自体はどこの分隊にも入ってないだろっ!!」



なんて言いながら、二人は全く同じタイミングでカステラを食べる。食べて・・・・・・お茶を飲む。

なんだろう、全くズレてない。動きがほぼ同じ。これ、どういうことかな。



「師匠、脳内設定って大事なんですよ?」

「お前の場合、その設定を現実に平然かつ唐突に持ち出すのがアレだけどなっ!!
・・・・・・とにかくエリオ、個人戦っつったって色々あるだろ」

「えっと・・・・・・とりあえず平均的な『強さ』ってことで」

「平均的な強さぁ?」



・・・・・・あれ、なんかヴィータ副隊長の視線が厳しくなったような。



「お前はアレか、スカウターとかが現実にあるとでも思ってる口か?」



え、スカウターってなにっ!? 恭文さんもなんか『うんうん』って凄く頷いてるしっ!!



「あのね、エリオ。エリオの今の質問は、非常にナンセンスなのよ」

「どういうことですか?」

「平均的な強さって言うけどさ、強さってのは、状況や手持ち技能の相性によって、変わるのよ? 決して、一定した数値はない。
例えばそうだな、自分に置き換えてみようか。エリオにだって、技能的な意味合いで苦手な相手って居るよね?」





そう言われて、少し考える。僕が苦手な相手・・・・・・。

僕は、高速機動には自信がある。まぁ、この間の一件で砕かれたけど。

とにかく、僕のスピードや攻撃が通じない相手がそれ。



もしくは、装甲が薄いから、一気に叩き潰されるだけの攻撃力を持った相手は苦手かも。





「そこは分かる?」

「あ、はい」





それで、僕は遠距離攻撃の手段が今のところ0に等しい。

だから、僕が苦手な相手・・・・・・なのはさんか。

なのはさんは装甲も厚いから、簡単には撃ち抜けない。



その上、僕が苦手な中・長距離の火力が凄い。





「で、戦闘状況。エリオが得意なシチュに持ち込めば、そういう相手との相性はひっくり返ったりする。
そういうのに左右されないで、どんな状況でも強いって言うのは、一種の何でも屋なのよ」

≪ですがエリオさん、そう言ったマルチスキルは、あくまでも対応力と生存力上昇のためです。
おそらく、あなたが聞きたいであろう『強さ』とは、それほど関係が深くないんです≫

「・・・・・・えっと」



アレ、なんだろう。ちょっとおかしい。僕の聞きたい事と違うような。

というか、これが僕達の欲しかった答え? うーん、なんか違う。



「まぁアレだよ、一人の人間がその時出来る事なんて、せいぜい一つ・・・・・・ギリいけて二つが限度だよ。
で、その出来る事が通用しないと、強いとは言えない。・・・・・・ね、エリオ。僕からも一つ質問」

「はい?」

「エリオは、強くなりたいの? それとも、便利ななんでも屋になりたいの? 一体どっちかな」



うーん、なんだろう。とりあえずヴィータ副隊長が『スカウターじゃ本当の強さは分からないってこった』って言ったのが気になる。

というか、スカウターってなんだろ。謎だ。



「バカ弟子、このカステラうめーな」

「友達が送って来てくれたんですよ。六課に缶詰だから、これで英気を養えって」

「友達って・・・・・・お前、クロスフォード財団に関係者でも居るのか?
これ、そこの会社のお菓子だろ」

「まぁ、色々と諸事情ありまして。また後で説明します」

「そっか」



二人は、そんな僕の疑問なんて気にせずに平然とカステラを食べつつお茶を飲んでいるけど。

というか、普通に動きがシンクロしてる。・・・・・・師弟だからかな?



「・・・・・・でも、これマジうめーな。エリオ、お前も食え」

「え、でも」

「いいから。部隊の人達全員におすそ分けしても食べきれないくらいに、送ってきてるのよ。ちょっと協力して」

「あ、はい。分かりました。・・・・・・あ、美味しいですね」

「でしょ?」










・・・・・・なんだろう、やっぱり複雑。





エリオ・モンディアル、現在10歳。カステラを食べつつ考えます。





僕、色んな意味でこの人にヤキモチ焼いてるのかなと、かなり。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・でも、さっきのカステラ美味しかったですねー。
あれ、蒼凪君のお友達が送ってきてくれたんですよね?」

「うん。ヤスフミにすごく良くしてくれている人らしくて、私達の分まで送ってきたんだ」



私はあの子とちょっと距離を取る・・・・・・というより、少し怖くてあんまり話してないんだけど、もしかしたらダメだったのかも。

この間話した感じだと、結構いい子なんだよねぇ。うん、印象がかなり変わった。もしかして、人見知りするタイプなのかも。



「しかし、アイツにクロスフォード財団に知り合いが居るとは・・・・・・テスタロッサ、聞いてなかったのか?」

「実は。なんでも、ヤスフミやはやてになのは、ヴィータがやっているゲームのオフ会・・・・・・って言うんですか? それで知り合った人らしいんです」



そうして知り合ったら、その人も局の仕事をしている方で、それ以来色々と手助けをしてくれてるとか。

でも、ビックリしたなぁ。お昼にいきなりトラックが来て、あの子に『届け物です』って言ってカステラが沢山出てくるんだもの。



「それはそうとルキノ」



シグナム副隊長が振り返らずに歩きながら、声をかける。でも、私は返事をしない。

だって、傷ついたから。だから、フェイト隊長もちょっと嗜めるような目で、シグナム副隊長を見る。



「どうしたルキノ、ちゃんと返事をしろ」

「・・・・・・・・・・・・シグナム」

「なんだ、テスタロッサ」

「アルトです」



そして、シグナム副隊長が振り返り、私を見る。

表情は変わらない。・・・・・・ううん、少し歪んだ。



「・・・・・・・・・・・・すまない。いや、真面目にすまない」

「いえ、いいんです。そうですよね、私とルキノって、キャラ被ってますよね。分かってますよ」

「いや、本当にすまない。もう謝ることしか出来ないんだが。
・・・・・・それで、アルト。聞いたぞ、昼間の騒ぎのあれこれを」



今度は、私が固まる番。シグナム副隊長のその言葉に、苦笑いしか浮かべられない。

フェイト隊長は、暖かく見守ってくれる。というか、笑ってる。うー、笑わないでくださいよー。



「お前まで一緒になって・・・・・・というより、扇動したらしいな。
全く、先輩らしくしろと、六課開始前に言ったはずだが?」

「あはは、すみません。でも、交流も大事かなーと」



・・・・・・そうだよね、大事だよね。やっぱり、私ももっと、あの子と話したりした方がいいのかも。

スバルはすっかり仲良しモードだし、よくあの子の話するようになったし・・・・・・うん、そうしようっと。



「まぁな」

「それで、ライトニング両隊長的にはどなたが?」

「お前、そこでまだ気にするのか?」



あははは・・・・・・なんというか、スバル達の話を聞いて、色々と考えちゃって。

でも、色んな人がいるから、誰が最強かと考えると確かに面白い話題ではある。だから、気になる。



「というかシグナム、ヤスフミも気にしてるようなんです。特に、自分の名前がノミネートされていないところに」

「・・・・・・アイツは本当に」

「あの、あの子ってそういうキャラなんですか?」

「戦闘中や真剣にやらなければいけない時以外は、基本的に性悪でいい加減で人として若干ダメな奴だ」



なんだかすごくぶった斬ってるっ!? それも本当に容赦なくっ!!

そしてフェイト隊長は・・・・・・あぁ、苦笑いしてるっ! ということは、本当なんだっ!!



「・・・・・・それで、話を戻すぞ。我々隊長陣四人でトーナメントをすれば、試合条件にもよるがやった回数だけ優勝者は違うだろ」

「そうですね。・・・・・・まぁ、はやては保有スキルの問題で単独戦闘はさっぱりだから、数から抜かしてるんだ。
でも、シグナムの言う通りだと思う。単純に揺るぎ無い『最強』やナンバー1を決めるのは、難しいんじゃないかな」

「なるほど・・・・・・」





でも・・・・・・蒼凪、恭文君か。・・・・・・なんだろ、ちょっと不思議な子だよね。

色々しでかしてるのに、隊長達は変わらずに接する。

そして、更に不思議なのはそれがえこひいきとかそういうのじゃないこと。



だって、隊長達の間だけのえこひいきなら、ここで初めて会ったはずのヴァイス陸曹があの子の事気にするはずないもの。



というか、なんだかんだでスバルやエリオとキャロの事も解決しちゃってるし・・・・・・もしかして、私や交代部隊の人達、色々と誤解してるのかな?





「というか、お二人とも。そういう戦闘映像とかってないんですか?
例えば、公式の場でもう本気で隊長達がぶつかった映像とか」

「あるぞ」



そして、そんな返事が返ってきた。・・・・・・ちょっと予想外だったかも。



「本局の戦技披露会で高町隊長と試合をした事がある。あれは心が躍った」

「あ、それいいじゃないですか。映像でみんなに見せてあげれば」

「あのね、アルト。それはダメなの」

「どうしてですか?」



というか、フェイト隊長。なんでそんなに辛そうな顔に? さっきまで楽しそうだったのに。



「まず一つ、決着が付かなかったの。そしてもう一つ・・・・・・なのはとシグナムがあんまりに派手にやり過ぎた。
そのせいで、戦技教材に使う予定だったのが、取りやめになったの。もう凄かった。見ている人間全員が、ドン引きしたから」

「あ、あはは・・・・・・それはダメですね」

「テスタロッサ、失礼なことを言うな。第一、蒼凪はとても楽しそうにしていたぞ?」

「ヤスフミはバトルマニアなところがあるせいじゃないですかっ! 逆を言えば、ヤスフミ以外の全員は引いてたんですよっ!? あんなの見せられませんよっ!!」










・・・・・・とにかく、私の調査の答えはこれだね。





六課最強は、簡単に決められそうもないと。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・フェイトさんの個人戦?」

「はい」



私の担当は、シャーリーさん。聞くのは当然、フェイトさんのこと。

シャーリーさんはフェイトさんの補佐官だし、きっと色々分かるはずだもの。



「戦闘訓練は結構好きだよ? まぁ、戦うの自体は間違っても好きじゃないと思うけどね。
フェイトさん、優しいから。シグナムさんは、まぁ頻度が少なめだけど」



この辺り、フェイトさんが本局で、シグナムさんが地上勤務なのが大きいらしい。

六課で半年振りくらいに会ったとか。なんというか、これはそうとうだね。



「なぎ君は基本自由だから、よく予定を合わせて楽しそうに訓練してる。それで、あぁ見えて結構負けず嫌いなの」

「そうなんですか? ・・・・・・あ、でも前にチェスの勝負をした時に、私が何回か連続で勝った時は、頑張って勝とうとしてました」

「でしょ? それで、私も見てるとちょっと可愛いなーって思うの」





大人で、優しくて、穏やかで、とても温かいお姉さん。それが、私にとってのフェイトさんの印象。

もっと言えば、私とエリオ君の保護者としてのフェイトさんがそれ。だけど、それがフェイトさんの全部じゃない。

そういうの、ちゃんと認めていかなくちゃいけないんだよね。フェイトさんの、ただの女の子としての部分を。



そうだな、私は恭文さんとなら応援出来るかな。

最近、少しずつ分かってきたから。恭文さんの良さ。

意地悪で、素直じゃなくて、ひねくれてて・・・・・・だけど、とても強い。



そして、すごく優しい。そんな人なら、フェイトさんの事をきっと幸せにしてくれると思うから、大丈夫。



・・・・・あ、訓練でもうちょっと聞いてみたい事を思いついた。





「なのはさんと試合とかされてないんですか?」

「あー、昔は軽い練習くらいはしてたそうなの。
でも・・・・・・なのはさんが話してくれたんだよね? 昔の怪我のこと」

「はい」





あの色々あったお休みをもらう直前かな? 私達みんなで、なのはさんに聞いたことがある。

今みたいな基礎重視の教導方針に、どうしてなったのかと。文句とかじゃなくて、単純な興味。

そうしたら、なのはさんは話してくれた。少しだけ、苦笑いしながら、ゆっくりと、優しく。



なのはさんは、11歳くらいの時に魔導師になってからの無茶がたたって、ひどい怪我をしたらしい。

それで死にかけた。飛べなくなるどころか、歩けなくなるかも知れなくて・・・・・・。

その経験から、訓練では基礎の反復による頑丈な身体を作ることから、始めているらしい。



なのはさんの教導は、自身の痛みから得られた教訓を生かしたもので溢れてた。



それを私は、優しさや思いやりと考えるんだけど・・・・・・間違いじゃないよね。





「それ以来は、一度もやってないんだって。
・・・・・・その代わりになぎ君がなのはさんとやってるから、意味無いんだけど」

「恭文さんが?」

「うん。あの二人ってね、初対面の時に色々あって、それ以来一種のライバル関係を維持してるの。
まぁ、もうすぐ分隊単位での模擬戦とかやるそうだし、その時に色々見られるかもよ?」

「・・・・・・その時は自分が生き残るので精一杯になりそうなんですけど」










・・・・・・あれ? なんか聞きたかった事と違うような。うーん、強くなるって難しいなぁ。

これじゃあ、恭文さんから教えてもらったサリエルさんの領域には行けないよ。

サリエル・エグザさん。恭文さんの先生の弟子。恭文さんから見ると、兄弟子に当たる人。





後衛としての能力の高さが目立つけど、前衛としてもとても優秀。戦闘映像も見せてもらったけど、凄かった。





私も、出来るならあんなフルバックになりたいんだけど・・・・・・うーん、どうすればいいんだろう。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・私、スバル・ナカジマは所謂現代っ子です。なので、ティアやエリキャロとは違う視点で考えてみようと思います。





すなわち、ググれっ!!(恭文に教えてもらった)





えっと、高町なのは一等空尉戦闘記録。データ検出・・・・・・っと。










「スーバル♪」





・・・・・・え?



そして、私は振り返る。振り返ると、満面の笑みであの人がいた。





「・・・・・・嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「・・・・・・・・・・・・あの、そんなにビックリしないでも」

「す、すみませんっ!!」

「あー、もういいよ。それでねスバル」



・・・・・・はい、なんでしょう? あの、やっと落ち着いて来ましたので、大丈夫です。

だから、そんな泣きそうな顔はやめてください。私が悪い・・・・・・ですよね、はい。



「シャーリーやグリフィス君から聞いたんだけど、隊長達の中で誰が一番強いかに興味あるんだって?」

『僕だよ』

「だから、いきなり通信で割り込んでこないでっ!? というか、恭文君は隊長じゃないよねっ!!」



そう言って、なのはさんは通信を切る。・・・・・・恭文、空気読み過ぎじゃない?

人間、もうちょっと空気読めないくらいの方が、きっと可愛いよ。



「・・・・・・・・・・・・とにかく、今はそういう話をしてるんだよね?」

「あ、はい。・・・・・・あの、すみません。休み時間中のちょっとした雑談だったんですけど、考え出したらすごく気になってきちゃって」

「いいよ、別に。よく聞かれることではあるから。・・・・・・ね、スバル。こんな問題聞いたことない?」

「はい?」



なのはさんが、右の人差し指で上を指しながら、私の目を見ながらこう言った。



「『自分より強い相手に勝つためには、自分の方が相手より強くないといけない』」

「あ、えっと・・・・・・聞いたこと無いです」

「なら、問題だよ。『この言葉の矛盾と意味を、よく考えて答えなさい』。そうだな・・・・・・よし。
スバルだけじゃなくて、皆で相談して考えてみて? 答えが出たら、訓練の時にでも聞かせて欲しいな」










最初はちょっとした疑問だった。本当に、ちょっとした疑問。





だけど、その疑問はいつの間にか、大きな疑問へと変わっていた。





というか、あの・・・・・・それ、どういうことですかっ!?




















魔法少女リリカルなのはStrikerS Remix


とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常


第20話 『戦いは、ノリのいい方が勝つ?』





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・自分より強い相手に勝つためには」



つまり、オーバーSななのはさんにランクBな私が勝つためには・・・・・・。



「相手より自分の方が強くないといけない?」



ランクSSにならないといけない?



「えええ? ただの言葉遊び・・・・・・じゃないわよね」



現在、四人集まって聞き取り調査の報告会。なお、場所は六課の廊下。

で、スバルがなのはさんから問題を預かってきた。それについて、全員で頭を悩ませる。



「違うと思うけど・・・・・・てゆうかティア、今すごく大それたこと考えてなかった?」

「気のせいよ」

「あ、僕分かりましたっ!!」



お、さすがエリオ。フォワードの常識担当。この間までのアレコレを払拭するために頑張るか。

で、私は感心しつつエリオに聞く。そう、当然これだ。



「で、答えは?」

「はいっ! 強い相手に勝つためには、訓練を積み重ねて相手より強くなればいいんですよっ!!」



バシィィィィィィィィィィンッ!!



「い、痛いっ! ティアさんなにするんですかっ!? というか、いきなりスリッパで叩かないでくださいっ!!」

「やかましいっ! アンタ、もしかしなくてもやっぱりバカキャラ定着してるっ!? それだと意味ないでしょうがっ!!」

「エリオ君、それだと倒してるのは『自分より弱い相手』になるんだよ?」

「・・・・・・あぁっ!!」



てーか、そんな訓練や特訓でほいほい強くなったら誰も苦労しないのよっ! それは一体どこの漫画っ!?



「・・・・・・・・・・・・なにやってんの、おのれら?」



後ろから呆れたような声がかかる。そこに居たのは、リイン曹長とアイツ。



「そしてエリオ、おのれはバカ過ぎだ。どんだけバカ?
アレですか、バカの星から産まれたバカ王子ですか」

「そこまで言わないでくださいよっ! というか、なんの話か分かってるんですかっ!?」

「知ってるよ。スバルの背後に隠れてずっと会話を聞いてたんだから」

「なにさり気に怖い事してるっ!? 冗談なのは分かるけど、洒落効いてないからやめてっ!!」



アイツの顔が若干呆れたように見えるのは、気のせいじゃない。



「あ、恭文。あのね、聞いて聞いて?」

「あー、とりあえずスバル黙れ」



右手で思いっきりデコピンしたっ!? それも何のためらいもなくっ!!

あぁ、スバルが頭抑えて蹲ってるし。



「みんなに師匠から伝言。午後、108に出向研修でしょ?」



アイツが今話した出向研修というのは、向こうの部隊の魔導師の人達との合同訓練。

108と六課で連携を取るようになった関係で、やっておく必要がある。



「で、みんなは先行してもう出発してて欲しいって。てーか、僕とリインも一緒」

「恭文さんとリイン曹長もですか?」

「そうだよ、向こうの部隊の人達にちょっと挨拶してこいって言われてさ。
まぁアレだよ、基本的にみんな気のいい人達ばかりだし、楽しくやれるよ」

「そう。なら、急ぎましょうか。で、ヴィータ副隊長は?」

「ちと遅れるけど、訓練開始時間までには必ず合流するって」










というわけで、私達6人と1匹はそのまま隊舎を出た。





・・・・・・さっきまで考えていたなのはさんからの問答の答えを探しながら。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・恭文とスバル達はもうすぐ到着だそうだ。ギンガ、愛しの恭文に会えるから嬉しいだろ」

「カルタス二尉っ! からかわないでくださいっ!! というか、まだその勘違いしてたんですかっ!?」





108の隊舎で、捜査の打ち合わせをしつつ上司のラッド・カルタス二尉(捜査主任)とお話。

というか、違うのに。なぎ君は・・・・・・大事な友達。大好きで、大切な男の子。

あの一件を超えても、それは変わらなかった。うん、変わってないよ。



喧嘩して、仲直りして、沢山話して・・・・・・そうやって繋がった事、私はなにも変えたくないから。





「でも、なぎ君も訓練参加って、一体なにをするんですか?」

「アイツには仮想敵をやって欲しいそうだ。魔法無しでうちの部隊員とやり合ってもらう」

「えぇっ!? またどうしてっ!!」

「うちの連中のリクエストだ。前回、魔法無しでコテンパンにノされたのが相当お冠らしい」



なぎ君がクロスフォードさん達との訓練の成果を試す意味も含めて、魔法無しでうちの武装局員を相手にしたことがある。

結果・・・・・・少し時間はかかったけど、全員叩き伏せた。なお、けが人は全員エグザさんが治療した。あんまりに大変で、ちょっと泣いてたっけ。



「いや、正確にはそれでアイツとの賭けに負けたのがお冠らしい。ようはリベンジだな」

「・・・・・・納得しました。なら、その訓練に私も」



・・・・・・通信がかかる。というか、これはアラーム?

カルタス主任が、そのアラームを繋ぐ。そして、街の雑踏が聞こえてきた。



『こちらサードアベニュー警邏隊。近隣の武装捜査員、応答お願いします。E37地下道に不審な反応を見つけました』



私とカルタス二尉は顔を見合わせる。そして、まだ緊急通信は続く。



『識別コード未確認アンノウン。確認作業をお願いします』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・レールウェイの地下通路、そこがアンノウン・・・・・・というか、ガジェットが大量に出現している場所。





で、現場に一番近かった僕達が乗り込み、108の皆々様と派手にやり合うのである。





いやぁ、楽しいねぇ。手札は晒せないけど、それでも楽しいね。










「んじゃま、いきますか」



というわけで、腰にベルトを装着。そう、もちろん555ジャケット。



「リイン、アルト、行くよ」

「はいです」

≪いやぁ、楽しみですね。というか、楽しいです≫



そうだね、僕も楽しいよ。前回はアレだったけど、今回は違うし。



「お兄様、私は入れてくれないのですか?」

「・・・・・・おのれはどうしてここに居るっ!?」

「あら、普通に連れて来たのはお兄様でしょ?
しゅごたまだって、安全なように持って来ていますし」



そ、そうだ。普通に人に見えないから、大丈夫と判断して連れて来てる。

まぁ、シオンなら問題ないか。普通にしゅごキャラ状態の時は、たまご消えたりするらしいし。



「でも、気をつけてよ? 見えないだけでちゃんとシオンは居るんだから」

「えぇ、分かっています。それではいきましょう」

「うん」



というわけで、へんし。



「だからやめなさいっ!!」



バシィィィィィィィィィィィィンッ!!



「なにするティアッ!? せっかくここからかっこよく決めるとこだったのにっ!!」

「やかましいっ! なんでそのベルトをまた使おうとするのよっ!! マジやめてっ!?
いや、本当にお願いだからやめてっ! そして、普通に私には見えない子と話さないでっ!!」

「そうですよっ! 他の部隊の人達も居るんですよっ!? 僕達がふざけてるとか思われたらどうするんですかっ!!」

「というか、恥ずかしいですっ! 私それは恥ずかしいですっ!!」

「あ、あのね・・・・・・さすがにそれを実戦で使うのはやめない? ほら、人の目もあるし」



・・・・・・なんだろう、みんな分かってない。全然分かってない。

このベルトがいかにリーサルウェポンかをわかってない。



「そんなの些細な問題だ。・・・・・・みんな、分かってないね。
いい? 戦いってのは強い方が勝つんじゃない」

「なによいきなり」

「戦いってのはね、ノリのいい方が勝つのよ」

≪そして、このベルトはそのノリを徹底強化し、引いては戦闘能力をアップさせてくれる・・・・・・まさしく勝利の鍵です≫



だからこそ、僕は親指でエンターボタンを押すのだ。



≪Standing by≫

「つまり・・・・・・これを使えばリイン達はパワーアップしまくりで、最初から最後までクライマックスなのですっ! さぁ、これでぶっ飛ばしていくですよー!!」

「いやいやっ! そんな特殊ジャケット着けて、音楽流したくらいでパワーアップするわけがないですよねっ!? お願いだからやめ」

「変身っ!!」



というわけで、ベルトにファイズフォンを装着するのである。

その瞬間、バックル部分が光り輝く。そして、赤い光のラインが僕の身体を包み込む。



≪Complete≫



さぁ・・・・・・派手に暴れるよっ!!



『やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「そういやヒロ、お前カステラ大量に送ったんだって?」

「うん、送ったよ。で、ちゃんとアレも送ってる」





・・・・・・説明しよう、先日アレが仕上がったので、それをやっさんの所に送った。

とは言え、俺らの所在がバレると色々と騎士カリムに迷惑をかけてしまう。

ヒロや騎士カリムがよくても、俺が気にする。なので、一計を案じた。



やっさんだけに分かるように、ヒロの親戚経由でそれを送ってもらった。

てゆうか、まさかそのためにカステラを六課に大量に送りつけるとは。

・・・・・・やっぱりクロスフォード家、やる事がいちいちおかしい。





「てゆうか、普通に驚くだろうね。いや、リインちゃんに前に会った時に、ユニゾン時のジャケットデータもらっててよかったね。おかげで骨組みはすぐ出来たよ」

「まぁな」



とは言え、あくまでも骨組み。実際に完成させるには、向こうの技術者の力が必須だ。

さすがに俺達だけだと、やっさん用のフォームはともかく、ユニゾン用のフォームは完成させられなかった。



「ただ、俺は555ジャケットだけでも十分だとは思うが。
てーか、アイツにアレを持たせたら、チート兵器もいいとこだろ」

「まぁいいじゃん、私らもストレス解消は出来たしさ」



確かに、ストレス解消が出来たのは非常によかった。

そして、やっさんは激しく楽しそうな顔をするわけだな。うん、分かります。



「てゆうかよ、アイツの事だから絶対555ジャケット使いまくってるよな」

「まくってるね。てゆうか、案外現場に着て来てるかも知れないよ?」

「いやいや、さすがにそれはないだろ。一人ならともかく、六課に居るんだし、絶対目立つしよ」

「それもそうだね」

『あはははははははははははっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・あのバカ、やりおった。





やばい、めっちゃ空気がアレや。全員揃って呆れとるし。





ただ一人、アイツだけが楽しそうなんよっ! あぁ、普通に555好きやったもんなっ!! うん、分かっとったよっ!?










「・・・・・・八神部隊長」

「あぁ、もう何も言わんでえぇから。分かっとる」





うん、分かっとるよ? 今流れてる曲が『Dead or alive』とかな。

アレや、石原慎一さんの名曲や。うちもめっちゃ好きな曲やし。

うん、分かっとるから。うちかてファイズ見てたもん。ヴィータと一緒に見てたもん。



そやから分かるもん。アイツがどんだけバカやってるか。あぁ、マジでベルト取り上げとけばよかった。





「いや、今からでも遅うないか。これが終わったら、あのベルトは取り上げて」

「いえ、そうじゃなくて」

「なんか、すっげー戦闘効率上がってるんだけど」



・・・・・・はぁっ!? マジでかっ!!

もう一度、うちはレーダーの反応を見る。・・・・・・ホンマや。



「ガジェットV型改、四機目・・・・・・いいえ、五機目撃破っ! というか、すごい速度で殲滅してますっ!!」

「というか、ナハト01とリイン曹長が凄い勢いで暴れて・・・・・・スターズもライトニングも、全くやることがありません」

「あ、なんて言っている間にT型30機目撃破です。というか、もう33機目撃破」



うちは、一緒に画面を見てたなのはちゃんとヴィータを見る。で、視線で聞く。『これマジか?』と。

で、二人はとっても苦い顔をして・・・・・・頷いてしまった。あぁ、頷いてしまった。否定して欲しかったのに。



「恭文君達にとってあのベルトの使用は、戦闘能力強化に繋がるみたい。それも・・・・・・相当。
あぁ、そうだよね。『ノリのいい方が勝つ』って言って、憚らないもんね」

「こりゃ、叱るに叱れねぇぞ。だって・・・・・・効果出てるし。それも相当」

「ヴィータ、そこは言わんといて。お願いやから言わんといて・・・・・・」










・・・・・・・つーか、一体どこの誰やっ!? こんな使用者以外にははた迷惑なアイテム作ったんはっ! アイツの交友関係マジでどうなっとんねんっ!!





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



≪The song today is ”Dead or alive.”≫



薄暗い地下通路に、赤い閃光が走る。

闇を切り裂きながら、閃光は走り抜ける。



「さぁ、どんどんいくよっ!!」

「はいですっ!!」



立ちはだかるのは、V型おにぎりに足をつけた他脚型。なお、名前はV型改(仮決定)。

そいつが撃ち込んでくる熱光線を掻い潜るようにして前に進み、距離を一気に零にする。



≪Exceed Charge≫



ベルトから伸びる赤いラインを辿って、力を宿した光が右拳に装着したナックルに宿る。



「うぉりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」










そして、そのまま拳を叩き込む。それは、2メートル近くある巨体を、完全に粉砕する。

刻まれるのは『φ』のマーク。与えられた衝撃は、V型改を打ち抜く。

それからすぐに後ろに飛ぶ。飛んで床に着地してから、左に飛ぶ。





左には、まだT型のおにぎりが、三体も居る。

そしてその三体は、触手代わりのケーブルや熱光線を撃ち込んでくる。

なので、僕はそれを身を捻りつつ避ける。避けつつも、右前方へ一気に踏み込む。





そして、連中の死角を取る。それから、一体に拳を叩き込んで、俵型のボディをへし折る。

それは壁に叩きつけられ、そのまま動かない。そのまま、更に踏み込む。

飛んできた自分達の仲間を避けて、残り二体が僕に迫る。





熱光線が撃たれる。身体を回転させながらそれを避けつつ、左から一撃。

最後の一体が、その直後の僕の脇を捉えた。光線の発射口が光る。でも、無意味。

左手を伸ばし、僕はおにぎりの頭頂部を掴む。





掴んで、強引にそこから地面に叩きつける。ガジェットの正面は、地面とキスした。

そうしながらも、また拳を上から叩き込み、鉄機を砕く。

それで、最後の一体も沈んだ。・・・・・・・ふん、他愛も無い。てゆうか、アレだよね。





さすがに働き過ぎた? まだまだ息一つ切れてないんだけどさ。










「リインもまだまだいけるですよー♪」



言いながらも、手首をもう一回スナップ。



「奇遇だね、僕も」



脇から出てきたガジェットT型が、僕に熱光線を放つ。それをナックルで振り払う。

その間に、リインが術式を発動。ガジェットは、一瞬で氷漬けになった。



「これが全然なのよ」



それから、ナックルを持ちながら右手をスナップさせる。



「ううん、それどころか・・・・・・どんどん力が増してくる」



やばいな、抑えるのが難しくなってきてる。もっと、飛ばせる。もっと、激しくやれる。

うぅ、ヒロさんとサリさんには、感謝だよ。普通にいいもの作ってくれたし。



≪まぁ、この辺りでペースを落としてもいいんじゃないですか?
・・・・・・あんまりに飛ばしすぎるのもアウトでしょ≫

「どこで誰が見てるか分かったもんじゃありませんし、これくらいできっといいですよ」

「確かにね。・・・・・・てゆうか、みんなだめじゃない。
ほら、ちゃんと働かなくちゃ。108のお兄さん達が、呆気に取られてるよ?」



そう、スバル達だ。普通に僕のペースについて来れてない。うーん、ダメだなぁ。



「うっさいっ! アンタがこんな無茶苦茶暴れまくるからでしょっ!?
てーか、それでなんで戦闘能力がマジに強化されてんのよっ!!」

「おかしい・・・・・・絶対におかしいよっ! なんでそうなるんですかっ!!」



その様子に、僕はため息を吐く。というか、呆れてしまう。



「修行が足りないね。だから言ったでしょうが。ノリのいい方が勝つってさ」

『そんなの納得出来るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

「あー、お前さん方はコイツとの付き合いがまだ浅いな。だからそんなこと言えんだよ」



そんなことを言ってきたのは、108の顔見知りの武装局員さん。

で、その言葉に頭を抱えてた四人が顔を上げる。



「ノリや勢いでオーバーSも圧倒するのが古き鉄なんだぞ? この程度はまだ常識の範囲内だ」

「そうそう。前に同じ事言ってオーバーSを5分以内に瞬殺した時は、驚いたよなぁ。
俺、ランクとか手持ちの技能って、全く意味がないんじゃないかって価値観変わったし」

『・・・・・・え、マジですか?』

『マジだ』



なぜだろう、みんながすっごく呆れた目で僕を見る。というか、また頭を抱え出した。

これ、戦いの基本なのに。というか、普通の事なのに。



『V型改の反応、新規に出現。機動六課フォワードメンバー、G12へ』



あ、シャーリーだ。てゆうか・・・・・・中々にしつこいね。普通にこう来るか。



『あと、なぎ君。リイン曹長も・・・・・・楽しいですか?』

「うん♪」

「すっごく楽しいのですよー♪」



あれ、シャーリーが頭抱えてる。てゆうか、画面外に向かって手を振ってる。

いや、×印を作ってるね。うーん、どうしたんだろう。



『まぁ、スバル達に出番は上げてね? うん、真面目にね』

「いやいや、予定ではあるはずだったんだよ? スバル達も戦闘能力が強化されて」



うん、その予定だった。なのに、僕だけ暴れてスバル達は普段通りなのよ。

うーん、おかしいね。なんというか、おかしいね。



『そんなのなぎ君やアルトアイゼンにリイン曹長だけだからっ! 他のみんなはドン引きだよっ!?』

「気のせいだよ」

『気のせいじゃないよっ!!』



とにかく、これで通信は終わった。で、僕達はここからまた進軍である。



「まぁ、とにかく僕達は先急ぎますんで。それじゃあまた」

「おう、頑張れよー!!」

「てーか、また隊舎に来いよー! で、飲みやるぞ飲みっ!!」

「はい、必ずっ!!」



というわけで、僕達六人はそのまま進軍。



「・・・・・・恭文、普通に108の人達と仲良いのね」



走りながらティアが聞いてきた。で、頷く。



「2年近く付き合いあるし、なんだかんだで居心地いいから」

「出来れば、私達にもあんな感じで接してくれると助かるんだけど」

「絶対嫌だ。おのれらには、徹底的に厳しくいじめてしごいてイビり抜くと、自分の魂に誓ったのよ。
アレだ、靴に画鋲とか仕込んでやるから。それで椅子には、ブーブークッション仕込んでやる」

「いやいや、なんでそうなるのよっ! そしてそれは普通にいじめだからやめなさいっ!!」





とにもかくにも、突撃である。さーて、とっとと終わらせてフェイトとご飯食べるぞー。



・・・・・・ま、その前に一応聞いておくか。





”エリオ”

”はい、なんでしょう”

”なにボーっとしてんのさ”



そう、エリオだ。というか様子がおかしい。

なぜだろう、気持ちがちゃんとここにないような感じを受ける。



”・・・・・いえ、ボーっとなんて”

”嘘だね。してるでしょうが”

”なんで、分かるんですか”



それは、疑問じゃない。もう認めた言葉。

そう、エリオは認めた。僕の言っている事が間違いじゃないと。



”どうして、あなたは・・・・・・そんなに僕の事が分かるんですか”

”さぁね。ただ、今は集中して。戦ってる最中に迷うなんざ、ダメダメにも程があるでしょうが”

”・・・・・・はい”










・・・・・・なんですかこれ。あぁもう、普通に兄貴キャラなんて嫌なのに。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・なんだろう、身体に震えが走る。

前までは慣れてきてると思っていた、実戦の空気が怖い。

今まで見ていた世界が崩れて、そのせいかガジェットに槍を打ち込めない。





それを無視して、攻撃を叩き込もうとする。だけど、その瞬間にあの時の事を思い出す。

今の自分が、本当に自分として戦っているのかと疑問に思ってしまう。だから・・・・・・槍が止まる。

いや、無理に押し込む。ストラーダは、まるで鈍器のようにガジェットを叩き潰した。





魔法を使ってるから、まだごまかせる。でも、おかしい。怖い、凄く・・・・・・怖い。





戦うのが・・・・・・怖い。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・セイン」

「うん、なに?」

「このちびっ子・・・・・・無茶苦茶っスね」



うん、無茶苦茶だね。戦闘中に音楽流して、実験用に私達が持ってきたガジェットを一人でほとんど叩き潰したし。

てゆうか、それで疲労してる様子が見えない。全く見えない。これ、どういうこと?



「正直、コイツは相手にしたくないっス。色んな意味で頭おかしいっスよ。
あのヒーローごっこは楽しそうではあるけど、なんでそれで戦闘能力上がるんっスか?」



あははは、そうだよね。正直、私もそこは疑問だよ。

だって、あのジャケットは飛び抜けて性能が高いとか、そういうのじゃないのにさ。



「大丈夫だよ。コイツの相手はトーレ姉や7番がやるそうだし、私らは関わらないって」





フェイトお嬢様とセットで動いてるから、いっそそうした方がいいと言うのがドクター達の判断。

まぁ、やれるでしょ。データによると、この小さい子はともかく・・・・・・フェイトお嬢様は弱いから。

それは、私達の共通認識。だって、創造主の期待に応えられなかったお人形だよ?



きっと、心の奥底ではずっとそれが残ってる。そして、きっとこう思ってるね。

創造主の願いを叶えたいと。もっと言えば、『アリシア・テスタロッサ』になりたいと。

そうしなければ、フェイトお嬢様・・・・・・ううん、アリシアお嬢様は、存在意義がなくなるもの。



そう、あの人は嘘を付いている。ホントは、10年もの間、自分アリシアになれてないのに。

まぁ、大丈夫だよね。ドクターが保護して、ちゃーんと『アリシア』にしてあげるらしいし。うん、これであの人も幸せになれるね。

私達が作る『すばらしい世界』の中なら、それが叶う。もう『フェイト』なんて投影された嘘の自分は捨てていい。



ドクターと私達の夢は、私達が起こす革命は、それを可能にする。私達が、新しい世界を作る。

そうすれば私や妹達も、アリシアお嬢様も、きっと幸せになれる。・・・・・・うん、頑張らないといけない。

だって、みんなの幸せのためだもの。今の世界じゃ、私達は幸せになれない。だから、壊さないと。





「で、どうする? 予定通りに少しちょっかい出して遊ぶなら、それでもいいけど」



とりあえず、思考は一時中断して、ウェンディにそんな事を聞く。

聞くけど・・・・・・ウェンディは、首を横に振った。



「いや、帰るっス。なんかこう・・・・・・常識外れ過ぎて、頭が疲れてきたっスから」

「あははは、そっか。んじゃ、帰って夕飯にしよう」

「そうっスね」










というわけで、ディープダイバー発動っと。

・・・・・・てゆうか、普通に他の四人の現在の能力が見れなかったなぁ。

うーん、ドクターはともかく、ウーノ姉達に怒られないといいんだけど。





あ、でも一つ気づいた。あの赤髪のガードウィング・・・・・・ダメだね。





理由は分からないけど、戦うことに完全にビビってる。うん、アレなら捕まえるのは楽そうだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、現場のガジェットは一気に殲滅。それはもう素晴らしい感じで僕達は仕事を終えた。





そして現在、現場上空で待機していたフェイトとシグナムさんと合流して、108の差し入れのお弁当を食べている。










「・・・・・・蒼凪、そのベルトは預かる。さ、早く出せ」

「お断りします。てゆうか、いいじゃないですか。普通に効果あったんですから」

「ですです。古き鉄はこれで更にパワーアップしたので、問題ないのですよ」

≪もう世界は私達のものですね。わかります≫



あ、なんかシグナムさんが頭を抱え始めた。うーん、謎だ。



「あー、でも楽しかったなぁ。うぅ、まさしくリーサルウェポンだよ」

「な、なんというか・・・・・・すごいね」

「うん。てゆうか、大事にしよう。家宝にしよう。というか、もういっそのことずっとこれで戦ってようかしら」

「そっか。・・・・・・いや、私が言っているのはそういう意味じゃないんだけど」



なんだろう、フェイトが苦笑いだ。・・・・・・弁当の煮物を、小さく取り分けてシオンにアーンとする。

で、シオンは小さな口でパクリと食べて・・・・・・モグモグしてる。



「しかしお兄様、今日の事・・・・・・どう見ます?」

≪はぐれガジェットの出現とはまた違いましたね。多脚型なんて出てきましたし≫

「あれの実験でしょうか。なら、姿こそありませんでしたが、現場に居た可能性もありますね」



シオンの言う通り、実験ならば普通に戦闘機人が居た可能性もある。しかしあれ、意味があるの?

動きもなんか鈍くなってたし、せいぜい地上戦の時に動きが安定するくらいしか思いつかないんだけど。



「なんというか、今までの動き方を見ていて少し思ったのですが」



シオンが、僕の差し出した昆布の佃煮をこれまたアーンとしつつ話す。

もちろん、しっかりと噛んで、飲み込んでからまた口を動かす。



「というかシオン、見れたのですか?」

「大体の事情は理解しているつもりです。それで、ジェイル・スカリエッティは・・・・・・まるで子どもですわね」



弁当を食べつつ、シオンの言葉を僕とリイン、アルトも考える。

・・・・・・どういうこと? アレは普通に40とか超えてるおっちゃんだけど。



「考えてみてください。ワザとワザと派手なやり方をして」

≪あなた、どうして二回言うんですか≫

「大事な事だからです。・・・・・・そうして、自分の存在をアピールしたり、こちらに手がかりを与えるような真似をしたり」



・・・・・・ジュエルシードを、僕が六課に来る前に遭遇したガジェットの中に入れたこと。

あと、それに自分のネームプレートを同じように仕込んだ事を言いたいのは、すぐに分かった。



「そして今日の事です。持ち込んだのなら、時間はかかるとは思います。
けど、既に確認されているガジェットで足止めをしている間に、改良型を持ち帰ることも出来るでしょう?」

「でも、そうしなかった。それどころか、僕達の前に平然と出してきた。
・・・・・・で、シオン。シオンとしてはその辺りに何か考えるところがあるの?」



だから、いきなりこんな話をし出していると少し思った。

てゆうか、目が初めて見る真剣な色だもの。



「今日の事はともかく、1犯罪者として見ると、ここ数ヶ月の行動には矛盾がいくつもあるんです。
私が思うに、その疑問が捜査の進展を阻害さえしている」

「確かにそうですね。スカリエッティの行動の意図が今ひとつ読みきれなくて、はやてちゃんも捜査主任のフェイトさんも、苦労してますから」

「でしょう? そして、そこを解決するための答えが、今思いつく限りですが・・・・・・一つだけあります」

「それはなに?」



シオンは、右手の人差し指をピンと立て、そのまま一つの答えを僕達に提示した。



「ジェイル・スカリエッティは、恐らくフェイトさんや世間が思っているよりもずっと子どもで、幼稚な人格の持ち主です。
自分の興味のあるもので遊びたい、ただの子ども。もっと言えば、自分以外の誰かに構って欲しくて仕方ないんですよ」



子ども・・・・・・。あのおっちゃんが、子ども。そして幼稚。

なんだろう、普通に危ない人だ。それもかなり。



「このタイミングでそういう部分が多く見られるようになったのには、理由があると私は思います。
それは、管理局が全く自分の存在を掴めなかった事です」





管理局は、ガジェットを僕とフェイト、なのはにはやてが初めて確認してから、4年の間、スカリエッティの事が分からなかった。

出現頻度がかなり少なかったのと、出現場所の管轄の問題などで、実質棚上げ状態だったのだ。だからこそ、六課が必要とされた。

まぁ、ここは表向きの理由だね。で、スカリエッティの事が分かったのは、六課が初出動となった時に遭遇したV型のおかげ。



いや、スカリエッティ自らが、自分で情報を提示した。それはもうあっさりとだ。





「この辺りは、かくれんぼしてる子どもが、ずっと見つけてもらえないのをつまらないと思うのと同じです」

「だから、遊び方を変えた。かくれんぼじゃあ自分と管理局では勝負にならないから、鬼ごっこにした」

≪そして、今はその鬼ごっこの真っ最中。こちらが自分を見つけるのを、待っている≫

「だから、手がかりになるように、はぐれガジェットもテストついでにちょくちょく出してる。
今回、改良型ガジェットをそのままにしたのも、鬼ごっこを楽しくするため・・・・・・ですか?」





もっと言えば、こちらのレベルに合わせてあげたという考え方もある。

シオンの言う事が正解だとするなら、向こうは多分そんな考えでしょ。

そう、管理局はこの時点でアイツに負けている。だって、かくれんぼでは勝てなかったんだから。



でも、圧倒的な勝利というのは、実は楽しくない。遊びは、スリリングだからこそ意味がある。

勝つか負けるかが、一瞬の判断で決まる。そんなタイトロープを渡るから、勝負はとても楽しい。

つまり、今までの行動の数々は、この『ゲーム』を、自分が最大限に楽しむため?



で、僕達も管理局も、それにつき合わされてるわけですか。





「さすがお兄様達です、よくお分かりになっています。
そして、恐らくですがこの鬼ごっこには、制限時間があります」

「カリムさんの予言だね」

「そうです」



シオンは、僕の言葉に頷いた。この鬼ごっこのリミットは、予言が現実のものになるまで。

それまでに鬼ごっこの鬼スカリエッティを捕まえられなければ、このゲームは僕達の負け。



「まぁ、もしかしたらそう思わせて別のものを・・・・・・という可能性もありますが」

「そうだね、そこはちゃんと考えておこうか。足元すくわれるのも嫌だし」

「はい」










空を見上げる。地下通路に突入する前は青かった空は、もうすっかり暗い色になっていた。





子どもの遊びね・・・・・・。ただ、ジェイル・スカリエッティってのがただの子どもだとするなら、色々と考え方が変わってくる。





うし、その辺りフェイトとちょっと話すか。僕はシオンの言ってる事、意外と的を射てると思うし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・テスタロッサ、蒼凪は大丈夫なのか? いや、リインもなんだが。
アイツらは誰と話しているんだ。私は見ていて少し怖いぞ」

「だ、大丈夫ですよ。ほら、ちゃんとご飯食べ始めていますし」





うぅ、やっぱりシオンが見えないのは不便だよ。ヤスフミ、見ていると普通に独り言を喋っている人だし。



でも、何の話をしてるんだろ? 妙に真剣な顔してたし・・・・・・うーん、ちょっと気になるなぁ。





”フェイト”



なんて考えていると、ヤスフミから念話が来た。

・・・・・・丁度いいから、その辺りの事を話しておこうかな。



”あ、うん。なにかな”

”シオンって、もしかしたら凄いのかも”

”・・・・・・え?”

”普通にスカリエッティの考察を僕に言ってきた。それも、そこそこ説得力のあるもの”



その言葉に、私の頭は一気にお仕事モードに突入する。

シオンの姿は私には見えないけど、それでも存在を感じる事は出来るから、聞いてみたくなった。



”どういう物かな”

”えっとね・・・・・・”










経験は、常識は、時に思考を縛り付ける鎖になる。そうなると、見えない真実がある。

私はこの日、自分が思い入れの余りに思考が固まり過ぎていた事を、痛感させられた。

・・・・・・私達が戦う相手は、もしかしたらただの寂しい子どもなのかも知れないと、思ってしまった。





そして、シオンもまた、ヤスフミと同じように、守るために壊す戦いをする子だということも、痛感した。





だって、壊されたから。私の常識も、思い込みも、本当に簡単に。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



”・・・・・・スカリエッティは幼稚な子ども。子どもだから、今までのあれこれ。
なるほど。今までの行動を見れば、その可能性は出てくるね”

”フェイト的には、あり?”

”これを絶対の正解にするのは、当然無し。
でも、あくまでも考察の一つとして捉えるのなら、かなりありだよ。だけど”



そうだよね、そうすると色々と変わってくる事がある。それは、スカリエッティへの認識。

僕達は、今までスカリエッティを、ただの凶悪な犯罪者として見てた。



”私はね、今まで生体関係の研究に異常な執着を見せるのは、科学者故だと思ってたの。
科学者としての理性的な部分や、自分の研究を必要とする人間が居て、利益になるからだと思ってた”

”でも、スカリエッティが子どもだとすると、それは当てはまらないよ? まぁ、もちろんそれもあるだろうけどさ。
もっと単純な・・・・・・子ども染みたワガママや、好奇心って言えばいいのかな。そういう部分の方が、大きいと思う”

”そうなんだよね。しかも、不思議なの。私が持っていた今までの認識より、シオンが話してくれた事の方が、ずっとすんなりと納得出来る”



もっと言えば、僕達は今まで、営利目的とかそういう部分で管理局に喧嘩を売ってると思っていた。

だけど、これは下手をすると根底からそれを覆す事になる。だって、相手は『子ども』なんだから。



”というか・・・・・・そうなんだよね”

”どうしたの?”

”プロファイリングって、分かるよね。私、今までそういうのをほとんどしてなかった”



あ、そっか。シオンがやったのは、一応それになるんだ。

行動から、犯罪者の心理や行動原理を読み取る。それがプロファイリング・・・・・・だっけ?



”あぁもう、ほんとにここは反省だよ。私、きっと自分の生まれの事と関係してるから、冷静じゃなかった”

”・・・・・・確かに、反省だね。てーか、六課始動前からずっと追っかけてたんでしょ?
それでそうなっちゃうのは、失敗だって。いや、僕達も同じだけどさ”



ガジェットの対策や、戦闘機人に召喚師の事。ようするに、予言に対する対処が、六課の事前対策の主。

それだけで、スカリエッティ本人がどういう人間かは、考えようともしてなかった。



”もしかしたら、中途半端に映像とか本人の声明とかが出ちゃってるのが、仇になったんじゃないかな”



スカリエッティ自体の姿を映した映像データは、実はかなりある。

本人が喋ってるのを撮ってるのも、かなり。だから、余計にずっと捕まってないのがおかしいのよ。



”それで私達みんな、そこから受ける印象だけでジェイル・スカリエッティという人間を判断してた”



つまりは、第一印象だけってことだね。結構ベラベラ喋ってるから、余計にそうなったのよ。

ジェイル・スカリエッティが実際どんなキャラなのか、ちゃんと考えてなかった。



”やっぱり、猛反省だよ。考察が当たっているどうこうじゃなくて、本当に反省”

”フェイト、スカリエッティを嫌悪してるでしょ?
だから、そんな奴の深いとこまで、知りたいと思わなかった”

”・・・・・・うん。うぅ、やっぱり私、冷静じゃなかった。全然だめだよ”



まぁ、この話はこれくらいでいいか。どんどんフェイトがヘコんでくし。



”ね、フェイト。予言がスカリエッティのバカが原因だと確定とするよ?
その行動の理由って、もしかしたら凄く単純じゃないのかな”

”そうかも知れないね”





これまでのことは、全部ゲームだ。子どもが仕掛けるゲームには、それ相応のルールがある。

それは、子ども同士の世界の中でこそ、通用するルール。子ども同士だから、理解出来るルール。

そこに大人の道理や権利関係なんて入れたら、実につまらなくなる。



子どもには、子どもの世界がある。だからこそ、同じ道理で対処するのである。





”少なくとも、大人な行動理由・・・・・・利益関係が主じゃないよね”

”実際、そこで考えると色々と矛盾が出てきてるし、この場合はそういうの、外した方がいいね”



相手は子どもと仮定した上で、『一つの答え』ではなく、『答えの一つ』として、考える。

もっと単純に、明快に答えを導き出す。今までの行動なんかも、加味した上でだ。



”でも、それならどうして管理局を潰そうとするの? ううん、どうして今までの行動になるのかな。
レリックを集めたり、戦闘機人やガジェットを用意したり。今ひとつそこが見えないよ”

”例えば・・・・・・ほら、アレだよ。管理局を叩き潰して、世界征服して、自分の好き勝手にしたいとか”

”ヤスフミ、さすがにそれはないよ。そんなどこかのアニメに出てくる悪の組織じゃ”



言いかけて、フェイトが止まる。てゆうか、僕も自分で言ってて固まった。

ゲームを楽しみたい。そして、それに勝ちたい。で、勝ったら好き勝手したい。



””・・・・・・・・・・・・あり得るかも””










二人で、そのまま少し固まってしまった。そう、十分にあり得るのだ。





つまり、ジェイル・スカリエッティは・・・・・・管理局を潰して、世界征服をしようとしてるのである。




















(第21話へ続く)




















おまけ:新しい技を試してみようのコーナー




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・というわけで、レールガンに次ぐ切り札を練習しようと思う」



緊急出動が有った翌日。訓練場で、恭文君がこんな事を言い出した。



「ヤスフミ、却下だよ」

「フェイトちゃんと同じく」

「どうしてっ!?」



ふーん、それを聞くんだ。だったらいいよ。答えてあげるから。



「またあんなぶっちぎりでアウトな攻撃されても、私困るんだけどっ!?」

「そうだよっ! レールガンもギリギリアウトなんだよっ!? これ以上は絶対だめっ!!」

「・・・・・・いや、待て待て? 今回は質量兵器じゃないんだけど」

「「・・・・・・え?」」



と、とりあえず木々が生い茂る演習場で、私達は話を聞くことにした。

質量兵器じゃないってことは・・・・・・いったい、何だろう。



「まぁ、二人も知ってるとは思うけど、僕は飛天御剣流を使える」

「・・・・・・えっと、ヘイハチさんが好きな漫画の技だよね。というか、もどき」

「フェイトちゃん、正解だよ。本物じゃないから。見よう見まねだから」



まぁ、それで実戦レベルで使えるものを出せるのは、色々とすごいけど。

・・・・・・え、ちょっと待ってっ!? まさか・・・・・・まさかっ!!



「まさか、天翔龍閃あまかけるりゅうのひらめきっ!?」

「いや、違う。てーか、さすがにアレは無理だって。今回やるのは・・・・・・その一つ前よ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・九頭龍閃? あの、それも漫画の技なのかな」

「フェイト、漫画もっと読まなくちゃだめだって。エリキャロとそのうち話合わなくなるよ?」

「そうだね。そういうところから、子どもとの距離が開くって言うし」

「そ、そうなのっ!?」

「「そうなの」」




さて、九頭龍閃がどういう技かを、おさらいしようと思う。・・・・・・剣術に置ける斬撃には、9つの種類がある。

縦から打ち込む唐竹からたけ。右斜めから打ち込む袈裟斬りに、右からの左薙ひだりなぎ

右斜め下からの左切上ひだりきりあげ、真下からの逆風さかかぜ



左斜め下からの右切上に、左真横からの右薙、左斜め上からの逆袈裟。

そして、最後に最短距離の一点を貫く刺突つきである。

例えば、僕やシグナムさん、フェイトも、この9つの斬撃が、剣術での攻撃の原則と言うべきものになる。



もちろん、ここには理由がある。そこも、今から説明する。





「単純な斬撃だけで言うなら」



一応、こう前置きしておく。だって、魔法とかってそこから色々外れてるとこが多いし。



「どの流派のいかなる技でも、斬撃そのものは、この9つしかないの。フェイトだって、そうでしょ?」

「・・・・・・そうだね。バルディッシュで攻撃する時も、基本これになるよ。刺突は、また違うけど」

「フェイトちゃんのバルディッシュの形態は、基本的に刺突が苦手なものばかりだしね」

≪斧だったり鎌だったり、大剣だったりしますしね。得意なのって、ライオットくらいですよ≫



で、自然と防御の方も、この9つに対応して、展開される。これが、剣術においての原則。



「九頭龍閃は、この9つの斬撃を突進しながら同時に放つ技なの。
なお、基本的に防御は絶対不可能。突進技だから、回避も難しい」



フェイトが少し考えてハッとした。そして、納得した顔になる。



「な、なんだかすごいというのは、分かったよ。というかヤスフミ、そんな技撃てるの?」

「大丈夫。先生に『実験』と称して、度々練習台にされたから」

≪なお、あの人は普通に漫画を見ただけで撃ててました≫



えっと、龍翔閃も龍槌閃も、龍巻閃も双龍閃も、あと九頭龍閃も食らった。天翔龍閃も受けた。

・・・・・・加減されてなかったら、僕死んでるって。特に一番最後だよ、最後。



「ヘイハチさん、相変わらずむちゃくちゃだよ・・・・・・」

「それで、恭文君も使えるように練習しておけと」

「そんなとこだね。ただ、今まで九頭龍閃は出来なかったんだよねー」



なんて言いながら、とりあえず構える。対象は・・・・・・なのは。



「だけど、今日はなんだかいけそうな気がする〜♪」

「なんでそこで歌っちゃうのっ!? 私、分からないんだけどっ!!」



なのはは少し苦笑しながら、シールドを展開する。なお、カートリッジはしっかり使用。



「え、あの・・・・・・二人とも、なにしてるのっ!?」

「私に対して、撃ち込んでくるの。というか、こうしないと、ちゃんとした練習は出来ないよね」

「まぁね。・・・・・・結構本気でやるから、しっかり防御してなよ?」

「分かってるよ」





・・・・・・集中する。何発か先生に叩き込まれた時のことを思い出しながら、意識を高めていく。

大丈夫、あの斬撃は全部見極められた。ただ、性質上防御も回避も基本的には不可能なだけで。

まぁ、魔法相手なら、また勝手が違ってくるけどさ。それでも、有効手ではあるから。



というわけで、行ってみようか。





「・・・・・・飛天御剣流」





そのまま、丸い円形シールドを展開したなのはへと、突撃する。

そして、僕は9つの同時斬撃を放つ。

それが、なのはのシールドを的確に捉え、斬り裂いた。



そのまま、僕はなのはの横を通り過ぎるように、交差した。





「・・・・・・九頭龍閃、もどき」










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・なのは、大丈夫?」

「大丈夫だよ。ちゃんと寸止めにしてくれたから。刺突も、柄尻だし」

「さすがにこっちはミスったら意味ないしね。でも、出来たー」

「ううん、まだ駄目。完全に同時じゃなかったよ。ラグがあったから、未完成」



う、なのはが何気に厳しい。というか、ちょっと『当然だよ』という目で、僕を見てる。

まぁ、いいか。今日はなんだかいけそうな気がすると思って、ほんとにいけたんだから。



「でも恭文君、この技を使うのは、正直お勧めしないんだけど」

「どうして?」

「だって・・・・・・私の記憶する限りだと、この技って相手に避けられたり圧し負けたりするパターンが多いし」



・・・・・・そう言えば、これが破られて、やっぱり奥義って流れが多かったような。

てゆうか、決め手になったのって、もしかして師匠対破軍の不二だけなんじゃ。



「命中しても、決め手にならずにやっぱり奥義・・・・・・だったり」

「え、えっと・・・・・・フェイトー!!」

「ヤスフミ、フラグには気をつけないと駄目だと思うんだ。すごい技だけど、自重しないと」

「フェイトまで同意見かいっ!!」










とにかく、九頭龍閃は・・・・・・だ、大丈夫だよね? うん、きっと大丈夫だよ。





ほら、きっとなんとかなるって。うんうん。今日はなんだか、いけそうな気がする〜♪




















(本当に続く)




















あとがき



古鉄≪とりあえず、キャラの口調は決して誤字ではないと言いたい古き鉄・アルトアイゼンと≫

恭文「人間、普段からそんなに綺麗な日本語なんて、使ってないと思う蒼凪恭文です。
というわけで・・・・・・何気に最後にシオンがちょこっと活躍ですよ」

古鉄≪シオンは、あなたより頭がいいんですよね≫

恭文「・・・・・・うっさい」





(青い古き鉄、色々突き刺さってるので、ちょっとふてくされ気味)





古鉄≪強さの問答に関しての答えや、考察で導き出した答えで解決出来る部分の説明などは、次回冒頭ですので。いやぁ、分量がギリギリでした≫

恭文「基本的に、1話250Kバイトをめどに書いてるしね。そうすると、『:2』とかにならない。編集が楽なのですよ。
しかし、ついにここまで来たねー。もうすぐ9月突入ですよ。というか、もう中央本部襲撃起きてもいいくらいだし」

古鉄≪せっかくのRemixですし、内面描写や書きたいエピソードをかなり頑張って書いてますしね。展開がスローペースなのは、仕様なのですよ≫

恭文「JS事件話だと、僕は六課に居ないから、書けないエピソードてんこ盛りだったしねー。
で、スカリエッティですよ。まぁ、セインはアホだからいいとして」





(どこからか『ちょっとっ!?』という声がかかるけど、決して気にしない)





恭文「ぶっちゃけ、アレは子どもだと言うのが、作者と言うか、とまとでの結論ですな。
御託を並べようと、結局やってることは単純明快。全部ぶち壊して、世界征服なわけですよ」

古鉄≪ただ、この『革命』と『夢』は、否定しなければなりません。だって・・・・・・つまらないでしょ。
全部が、スカリエッティやナンバーズの思い通りになる世界なわけですから≫

恭文「簡単に言えば、世界征服ってそういうことだものね。スカリエッティの意図しないものは産まれにくいし、邪魔ならきっと消される。
みんな、それに怯えてどこかで新しいものを生み出す事を否定しながら生きることになる。そんなの、絶対違うし」

古鉄≪コレに関しては、ナンバーズの方々も同じですね。結局、全員子どもで、駄々をこねてるだけという感じになりそうです≫





(青いウサギ、結構強めに言い切る。というか、色々考えた結果、こういう形になった)





古鉄≪しかしおまけ・・・・・・九頭龍閃、使うつもりですか?≫

恭文「どうしよう。普通になのはとフェイトに反対されたんだけど。失敗フラグっぽいって」

古鉄≪展開上どうしてもそうなるんですよねぇ。まぁ、バトル漫画として仕方ないと言えば仕方ないんですが≫

恭文「というかさ、魔法相手だと防御の方法も、回避の方法もあるんだよね。これがまた難儀なことにさ。
あと、他の対処法もさまざまだよ。設置型のバインドとか、射撃魔法とかさ」





(例:防御魔法・ソニックムーブなどの高速移動魔法・ディレイドバインド・弾幕を展開して、技そのものを封じる)





古鉄≪まぁ、使い時は考えましょうか。というか、普通にレールガンも九頭龍閃も、本編で使えるんですよね≫

恭文「うん。レールガンは電気変換覚えてるからだし、九頭龍閃も同じく食らってるから」

古鉄≪まぁ、そのあたりのフィードバックも期待しつつ・・・・・・次回ですね≫

恭文「そうだね。で、次回からいよいよ最終決戦の準備をしつつ、9月に突入ですよ」

古鉄≪楽しみですね。本当に楽しみですよ。・・・・・・さて、本日はここまで。お相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫

恭文「蒼凪恭文でした。さて、スカリエッティは死亡か救済か」

古鉄≪いっそ、惨めに死んだ方がいい気はしますけどね≫

恭文「こけて頭ぶつけて?」

古鉄≪それです。もしくは、本人はもう死んでて、実は記憶を投影したロボットの類だったとか≫





(そんなアイディアが来てました)





恭文「というか、僕がレールガンで右腕吹き飛ばして台詞もなく捕縛はどうだろうか」

古鉄≪まぁ、それでもいいかも知れませんね。あれですよ、話さなければ一流になれますし≫

恭文「そうだね、なれるね。でも、話すと底が浅いのよ。理論武装して身を固めてる子どもだから」

古鉄≪・・・・・・そういう路線もありかも知れませんね。話してなくて行動だけで見てるから、大きく見えてたわけですよ≫

恭文「だけど、実際会ってみると非常に小物で、フェイトまでが失笑と。・・・・・・これいこうか」

古鉄≪アイディアの一つとして、考えておきましょう≫










(そんな風に会議しつつも、二人はカメラに向かって手を振る。
本日のED:Galveston 19『Free Your Heat』)




















恭文「ね、フェイトは・・・・・・アリシアになりたいって、思う?」

フェイト「前は、思ってた。もしそうだったら、母さんは私の手を取ってくれたのかなって、考えてた。
でもね、今は違う。私は・・・・・・フェイトになりたいの。アリシアになんて、なりたくない」

恭文「セインが言ったのが、真実だとしても?」

フェイト「それでも、そうなりたい。・・・・・・母さんが、否定する事で、私の手を振り払う事で、私をフェイトにしてくれた。
ヤスフミが、フェイトである私を好きになってくれて、信じてくれた。みんなが、私にフェイトとしての時間をくれた」

恭文「・・・・・・うん」

フェイト「でも、それだけじゃだめ。これからは自分で選んでいくの。今まではみんなに依存し過ぎてたから、一人で選ぶ。
私は、誰に認められなくても、誰が何を言っても、フェイトなんだって、自信を持って言えるようになりたい」

恭文「そっか。なら、よかった」

フェイト「心配してくれたのかな」

恭文「まぁ、彼女・・・・・・だしね」

フェイト「・・・・・・ありがと」(とても嬉しそう)

セイン「・・・・・・・・・・・・やばいよ。ドクター、負けるよ。
私が言ったことなんて、勘違いもいいとこだって」

ウェンディ「普通に強いじゃないっスか。これ、どうするんっスか?」

セイン「と、とりあえず・・・・・・ドクターも頑張ればいいよ。うんうん」










(おしまい)



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あきゅろす。
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