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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第16話 『二人にとっての長い夜?』



「・・・・・・・・・・・・じゃあ、向こうさんはもう大丈夫そうなんやな?」

「うん、アルフも分かってくれた。少なくとも、少しずつ話して、理解しようとしてくれるから」



なるほど、あの駄犬はフェイトさんの言う事ならちゃんと聞くと。

・・・・・・マジでムカつくわね。私達の話は、散々無視しまくってたくせに。



「はやて、シグナム・・・・・・本当にごめん。
私、どう謝ったらいいのか。母さんも、後日正式に謝罪するって言ってて」

「まぁ、そうやな。ただなフェイトちゃん、今回の事、別にアルフさんだけが全部悪いんとちゃうよ」

「主はやての言う通りだ。・・・・・・我々も、蒼凪の一件で少々過敏になっていた。
ようするにだ、我々が全員、エリオと同じ状態だったんだ。程度の差はあれどな」





なんでも、隊長達と後見人であるリンディ提督との間に、溝が出来ていたらしい。

その溝の原因は、先日のフォン・レイメイに対しての処置。リンディ提督は、否定的コメントを出してた。

まぁ、この辺りには六課という部隊を守るために必要な手だったので、置いておく。



問題は、それにあの駄犬のバカや、エリオの迷い、コイツを認めたいと思う気持ちとかが作用したこと。

結果的に、今日のコレに繋がった。そう、全部は勘違いと疑いが招いた事。それなら、全員に責任がある。

実際、私も本当にリンディ提督が駄犬と一緒に話したかどうか、確認すらしてない。罪はきっとある。



あと・・・・・・このバカにまためんどくさい事を押し付けた罪とか。





「まぁあれや。後日、また反省会しよか。てーか、よく考えたらありえんもん。
前線が、引退組でロートルの意見に振り回されるなんて、あったらあかん」

「その辺りに関しても、徹底する必要がありますね。
ただ、そこにこだわり過ぎて意見を聞き入れないのも、また問題です」

「やっぱり、反省会だね。・・・・・・とにかく、ヤスフミ、ティア。一応だけど解決したから・・・・・・その」



なぜだろう、部隊長に副隊長、フェイトさんが、普通に私達を残念なものを見る目で見ている。

それに、私達は疑問の顔を浮かべる。だって、理由が分からないもの。




「そろそろ、その怖い顔はやめないかな。あの、アルフにはしばらくみんなとの接触を禁止したの」



えぇ、そうでしょうね。それくらいしないと、懲りないでしょうから。



「それで、ヤスフミを逆恨みして大人化して襲ったり出来ないように、私の方で魔力制限もかけた。
さっき話した通り、相当厳しく叱っていくから、その怖い目はやめてもらえると、うれしいな」

「・・・・・・じゃあフェイトさん、一つだけ聞かせてください。
私達主催の、犬鍋パーティーはどうするんですか?」

「そうだよ、僕とティアがせっかく腕を振るおうと思ってたのに」





ムカつく。あの犬っ子マジでムカつく。

フェイトさんの使い魔だからって、なんでも出来ると思ったら大間違いよ。

大体、あの場に居ない上に、もう一般人なのよ?



それなのに、偉そうな関係者面してたのが許せないわ。アレ、一体どうなってんのよ。





「お、落ち着いて? というか、もうそんなことする必要ないから。
それでヤスフミ、怪我の具合・・・・・・どうかな」

「問題ない。そもそも、本当に浅い傷だ。
もう動かして問題はないらしい。・・・・・・そうだな、蒼凪」

「だが、私は謝らない。ライダーシステムに不備は確かにあった。だが、私は謝らない。絶対に謝らない」



・・・・・・はぁっ!? コイツ、いきなり何言ってんのよっ!!



「ある人はこう言った。『働いたら負けかなと思ってる』と。
だから、僕はこう言うのである。『謝ったら負けかなと思ってる』・・・・・・と」

「いきなりなんの話やっ!? てか、アンタはマジで色々起こしてくれるなっ!!」

「あのさ、はやてにシグナムさん。あと・・・・・・フェイトも」



・・・・・・ここは部隊長室。普通にあのすぐ後に八神部隊長達が帰って来た。

そして、なぜかエリオを除く形で、アイツと私が呼び出された。



「うーん、みんなは何か色々と勘違いしてるなぁ」



大丈夫、アンタよりマシよ。そこだけは自信を持って言い切れるわ。



「せっかくだし、そこを解消していこうか」



なお、私は口出ししない。コイツがどういう具合に自分の勘違いを解消していくか、見ることにしたから。



「アイディアはティアだけど、やると言ったのは僕達二人よ?」

「つまり、お互い合意の上で、エリオはこういう結果になるのも込みやったと言いたいわけやな」

「そうだよ。てか、ティアに言われてたはずでしょうが。
どういう結果になろうと、負けた方の擁護はしないって。違う?」



フェイトさんは、それに頷いた。つまり、恭文の言ってる事に間違いはないと認めた。

確かに、互いに確認はしてた。普通に確認してた。で、オーケーは出された。



「もちろん、そこは僕も込みだよ。僕達は対等な条件でやりあった。そして、みんなそれを認めた。
その時どういう行動を取ってたにしろ、その上でこれ。なんで僕だけがお叱り受ける必要があるのさ」

≪そこは同意見ですね。止めるなら、やる前にフェイトさんや高町教導官が止めてもよかったでしょ。
なのに、なんで、今ここでそれを言うんですか。おかしいでしょ、これは≫



・・・・・・全員、黙った。



「全く、都合が悪くなるとこれなんだから。それで僕にどうしろって言うの?」

「アンタ、考えてること声に出てるわよ?」

「大丈夫、気のせいだよ。それはティアにサイコメトリー能力があるせいだよ」

「そんなの無いわよっ! このバカっ!!」



コ、コイツ・・・・・・だめだ、アコース査察官の話を加味しても、これはありえない。

ただ、どこかであの話を信じたくなるのも、やっぱり不思議だったりする。



「なるほど、アンタはなんで自分だけここかっちゅうんが疑問何やな?
なんでエリオが居ないかっちゅうんが、疑問と」

「そうだね」

「なるほど、それでいきなり空気読まずにこれか。
・・・・・・どうやら、分かってへんみたいやから教えようか」



そう言って、今まで自分のデスクに座っていた八神部隊長が立つ。

えぇ、部隊長教えてあげてください。コイツ、本気で分かってませんから。



「ほう、何をどう教えてくれるって言うのさ?
あれか、愛の授業で自分がどんだけラブクイーンかを教えてくれるのかな」

≪はやてさん、あなたは一生ラブクイーンになんてなれないんですよ? そろそろ自覚持ちましょうよ≫

「いきなり何の話しとるっ!? つーか、それちゃうわぼけっ!! ・・・・・・それはなっ! エリオが普通に目覚ましてへんからやっ!!
アンタ、ドンだけ叩きのめしたんっ!? 普通に肋骨にヒビ入ってたり肩が外れてたり歯が何本か折れてたり内臓にダメージ入ってたりしてるんやけどっ!!」

「我々とて呼べたらエリオを呼んでいるが、当のエリオが医務室から動かせないんだぞっ!? それでどうしろと言うのだっ!!」



そう、ここが理由。エリオは現在包帯だらけの格好で医務室でグッスリ。

話出来るなら、させてるわよ。でも、アレを起こすほど冷たい人間は、ここには一人しか居ない。



「あと、アンタとティアが犬鍋パーティーとか言いまくって、マジで海鳴行ってアルフさんボコろうとするからやろっ!?
こうでもせんかったら、マジで血の雨降るやないかっ! もううちは身内同士でゴタゴタは勘弁なんよっ!!」

「部隊長、知らないんですか? 地球の韓国って所では、犬鍋って食べられていて」

「あぁ、そこは知っとるよっ! なんかアッサリしとるらしいなっ!!
でも、そういう事ちゃうよっ!? 普通にゴタゴタするんはやめてって話やからっ!!」

「・・・・・・だが私は謝らない。確かにライダーシステムに不備はあった」



そう、怖いわね。そのライダーシステムってやつ。

・・・・・・って、ちょっとっ!? アンタ、またそれ言うってどういうことよっ!!



「普通に融合係数高いと、ジョーカーになる可能性があるんだから。
でも、僕は謝らない。あんなのイレギュラーだもの。いったいどうしろっての?」

「だからそこはもうえぇっちゅうにっ! つーか、どんだけオンドゥル好きっ!?」

「オンドゥル言うな! ブレイドは名作なんだよっ!?
おのれ、ダディを超えるヘタレでかっこいいガンナーはこの世界に二人と」



そこまで言いかけて、アイツが気づいたように止まる。・・・・・・そして、隣に居る私を見る。

私に向かって恭文は、とりあえずサムズアップ。そして、すっごい笑顔である。



「ティア、ダディ目指してみようか。大丈夫、ティアならヘタレガンナーとしてトップを走れるから。
現状でも大丈夫だけど、まだいける。そうすると、ヘタレツンデレという新しいジャンルのパイオニアに」

「とりあえず、アンタの言いたいことは、全然全くこれっぽっちも理解出来ないわっ!!
もちろん、する気も起きないけど、全力で却下させてもらうわっ! つーか、ヘタレ言うなっ!!」

「と、とにかく・・・・・・ティア」



フェイトさん、どうしてそこで『とにかく』の一言で済ませるんですか?

絶対枕言葉間違えてますから。・・・・・・あぁもういい。とにかく返事しよう。



「はい」

「まぁ、事情は分かってるの。だから、私達も許可を出した。
ただ、どうしてこのアイディアを出したのかな。私達が疑問なのは、そこなんだ」

「いや、昼間にスバルがコイツと同じ事しまして」

「そうなのっ!?」



フェイトが恭文を見る。で、はやてとシグナムさんも同じくなので、頷く。

そして、私を見る。私も同じように頷く。というか、三人とも知らなかったの?



「で、それでスバルは恭文とぶつかって、ちゃんと納得したんですよ。
もう今日の夜に、私達と一緒にご飯食べてる時も仲良さげでして」

「え、そうなのっ!? 私、そこは知らなかったんだけどっ!!」

「うちもやでっ! 自分ら、一体なにしたんやっ!?」



いや、普通に『お話』しただけで・・・・・・って、そう言えば、フェイトさん達にそのこと話してなかったような。

あぁ、なるほど。だからこれなんだ。納得したわ。



「ティアナ、ようするにお前は、もういっそのことエリオ達ともその方式で行くべきだと思ったんだな。
だから、模擬戦を勧めた。互いに納得の上で、もうこれ以上ゴタゴタさせないために」

「はい」



なお、しつこいようだけどちゃんと隊舎に居た隊長達(なのはさんとフェイトさん)に話は通したのは、承知しておいてね?

というか、通しもせずに勝手に模擬戦闘なんて出来ないから。



「・・・・・・てゆうか、コイツとエリオとじゃあ、どこまで言ったって平行線でした。
どっかでそういう区切りをつけないと、また現場で揉める。いつ出動があるかも分かりませんし」





まぁ、身内だけならいいのよ。だけど、108とかの人達と揉めるとかはごめん。

てゆうか、ぶっちゃけあの状態のエリオとチーム組みたくなかったのよ。だから、ケジメをつけた。

・・・・・・そう、これは解決でもなんでもない。あくまでも、区切り。ケジメ。



まだ、なんにも終わってない可能性だって、十二分にありえる。





「私もかなり考えたんですけど、普通に対処は無理っぽかったんですよ。
少なくとも、私達の言葉は通用しない。全部勝手に解釈される。だから」

「それで、早急な解決と。まぁ、確かにこれはうちら文句言えんなぁ。
なんにしても、勝手やない。なのは隊長達が認めてやってるもん」

「でしょ? なら、問題ないでしょうが。加減もしっかりしたし、あの程度なら大丈夫」



コイツはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! マジで自覚ないってどういうことっ!?



「大丈夫じゃないわよっ!!」

「え、なんでティアが怒るのっ!? そこフェイトとかはやての台詞じゃっ!!」

「いくらなんでもやり過ぎよっ! どんだけ容赦ないっ!? てゆうか、戦闘中に音楽流すって前代未聞よっ!!
それになにより・・・・・・口から血を吐いたり肩が外れたり、殺傷設定で血が流れる模擬戦なんて、初めて見たわよっ!!」





で、恭文は疑問いっぱいな顔でフェイトを見る。・・・・・・頷いた。

次に部隊長を見る。・・・・・・これまた頷いた。そして、シグナム副隊長を見る。

・・・・・・・・・・・・だいぶ間があったけど、頷いた。なお、この間に関しては一切突っ込まない。



とりあえず、それを見て恭文が驚く。あぁもう、どっからツッコめばいいのよ、これ。





「僕、恭也さんや美由希さんとガチにやりあう時、あんな感じだけど」



後日、この二人に関してはなのはさんから聞いた。魔法無しでもそうとう強いなのはさんの兄と姉。

そして、恭文の剣術の先輩で、定期的に一緒に訓練をしていたらしい。



「アンタの常識ここに持ち込まんでもらえるとありがたいんやけどっ!?
つーか、あん人達とうちら一緒にされても困るからっ!!」

「ヤスフミ、一体なにしてたのっ!? というか、それを加味してもやり過ぎだからっ!!」

「なるほど、アレ基準じゃいけなかったんだ」



えぇ、恐らくそうでしょうね。普通にそうでしょうね。

アンタの基準と私達の基準が違うってことは、よーく分かったわ。



「やり過ぎた?」

「その、エリオどうこうというよりも肩にグサ・・・・・・だよ。
ヤスフミなら、避けられたよね。あれ、絶対ワザと受けた」

「いやいや、そんなことないって。普通に突進が速くて避けられなくて」

「ヤスフミ」



フェイトさんが、とっても怖い目で恭文を見る。部隊長や副隊長もそうだし、私も同じ。

なので、アイツにはもう白状するという選択肢しかないわけよ。



「・・・・・・ごめん」

「あ、なんか素直やな」

「お願いだから、無茶しないで。私アレを見た時、本当に怖かった。
考えてる事は分かった。その前後の会話は聞いてたから。それでも・・・・・・怖かった」

「え、あの・・・・・・フェイトっ!? なんでそんなまた涙目なのさっ! お願いだからそれやめてー!!
あと、みんな揃って僕が悪いみたいなオーラ出すのやめてっ!? いや、分かるけどっ!!」



そう、分かってるなら問題ないわよね。・・・・・・私は、部隊長と副隊長に視線を送る。

そして、三人で頷いた。どうやら、今の私達は通じ合えているらしい。



「あーあ、フェイトちゃん泣かせてもうた。恭文、アンタマジで謝らんとあかんよ?」

「ご、ごめんっ! もうこんな無茶はしないから許してー!!」

「だめ、許さない」



フェイトさんは、とても無情だった。いや、当然なんだけど、厳しかった。

涙を拭いながら、恭文をとても怖い目で見る。



「・・・・・・うん、許さないんだから。ヤスフミ、いっつもそう言って無茶するんだし。
また今度、沢山お話だよ? そうじゃなきゃ・・・・・・私、今回は甘い顔出来ないんだから」

「きゃー! なんか普通に死亡フラグが立ったしっ!! あぁ、どうしてこんなことにっ!?
あぁ、そうだっ! 絶対にエリオのバカのせいだっ!!(なお、八つ当たりという意見はスルーします)」

「間違いなくアンタのせいよ。八つ当たりもいいとこだからやめなさい」

「カッコの中を読み取られてるっ!?」

「当然よ、口に出てたんだから。・・・・・・とにかく、エリオの事ですけど」



そして、私は非情なの。普通に恭文の動揺なんてお構いなし。

とりあえず、視線でも『自業自得よ』と言ってみたりする。



「みなさん私が説明した通りでお願いしますね。なにより、あの子も納得した上でやりました。
これでごちゃごちゃ抜かすようなら、そこは厳しくしてください」

「まぁ、そこはなぁ。ただし、それが行き過ぎて部隊運営に差し障るようやったら、しっかりシメていくからな。
それはエリオだけの話やない。恭文もそうやし、ティアもや。擁護しない言うんやら、関係者全員厳しくせんとあかん」





ようするに、エリオとの関係が上手くいくように、私達も努力はしろと暗に言ってる。

これでエリオがごちゃごちゃ言わなくなるとしても、関係がそこからいきなり上手くいくわけがない。

なので、私達の努力も必要。頑張って、いいチームを作り上げろとも言われている。



で、私も、恭文も頷いた。居ない間に勝手されたのに、こういう判断で済ませてくれる部隊長に感謝しつつ。





「一応は解決かぁ。あー、つまんない喧嘩だった」

「まぁね。・・・・・・でも、エリオがここからどういう反応を示すか分からないのよ?
まだ油断は出来ないし、安心も出来ない。で、アンタももうちょっと頑張るように」

「へーい。分かってるよ、ティア」

「・・・・・・蒼凪、お前いつの間にティアナとそんなに仲良くなったんだ。
私の目から見ると、普通に通じ合ってるように思うのだが」

「「いや、仲良くなってないですから」」



とにもかくにも、長い一日は終わりを告げた。

エリオは明日にも目を覚ますそうだし(シャマルさん談)、これからよね。



「あ、それと・・・・・・はい」

「ティア、この手はなに?」

「あのベルト、渡しなさい。てゆうか、使用禁止だから」



うん、使用禁止よ。なによアレ、なのはさんが知ってる様子だから確認したら、呆れたわよ。

地球の特撮物のヒーローのコスプレしながら戦闘出来るアイテムって、ありえないでしょっ!?



「はぁっ!? 待て待て、なんでよっ!! あれはすごい発明なんだよっ!?
ファイズになれるだけじゃなくて、音楽でテンションを上げて戦闘能力を強化するんだからっ!!」

「うっさいバカっ! 現場でいちいち変身して音楽かけられてたんじゃ、私達が変な目で見られるでしょっ!? いいから出しなさいっ!!」

「絶対嫌だっ! 訓練でも実戦でも毎回使うんだっ!!
それで楽しくクライマックスで事件解決するんだから、邪魔しないでっ!?」



だぁぁぁぁぁぁぁぁっ! コイツ絶対バカだっ!! なんでアレでそういう言葉が出てくるわけっ!?

てーか、毎回使うのはやめてっ!? 私の胃に穴が開きそうなのよっ!!



「あのヤスフミ。お友達からのプレゼントで、大事なものなのは分かるけど」

「え、フェイトまで同意見っ!? そんな、あのベルトの良さが理解されないなんて・・・・・・信じられないっ!!」



私はアンタが迷いもなくそう言い切れる事が信じられないわよっ! てゆうか、部隊長や副隊長も同じよっ!?

ほら、見なさいよっ! あの呆れた目をっ!! 二人揃ってとても冷たい目を・・・・・・あれ?



「しゃあないな、じゃあ真ん中取ってうちが預かろうか」

「部隊長、なんでそんな楽しそうな目をするんですか?」



シグナムさんの視線は、冷たい。だけど、部隊長だけが違う。楽しそうにしている。



「いや、別に理由ないよ? そんなちょお試しに『変身』してみようかなーとか」



考えてたんですかっ!? あぁ、マジで六課ってどうなってんのよっ! いくらなんでも色々有りすぎでしょっ!!



「はやては使えないよ?」

「え?」

「僕以外が使うと、『Error』になるから。
あと、設定変更とかも無理。そのためのパスコード、僕もアルトも知らないし」

≪なお、不正な方法で解析しようとすると、ジャケットが使えないようにブロックがかかります。
その解除は、私達にしか出来ませんので、あしからず。・・・・・・残念でしたね≫

「なんやそれっ! てーか、手込みすぎやろうがっ!!」



部隊長がお冠だ。というかちょっと理不尽に思うのはなぜ?

だけど、そんな状況でもフェイトさんは冷静だった。咳払いを一回してから、話を続ける。



「・・・・・・あのね、ヤスフミ。ティアの言うような部分もあるし、譲歩してもらえないかな。
もちろん、預かってる間は私達で責任を持って管理するし、壊したりも絶対にしないから」

「絶対に嫌だっ!!」

「「やっぱり即答っ!?」」










なお、ベルトは結局回収出来なかったのは、言うまでもないと思う。アイツ、無茶苦茶強情だから。





・・・・・・まぁ、いいか。本当に大事なものらしいし、没収も違うでしょ。





とにかく、こうして長い一日は本当の意味で終わった。てゆうか、疲れたわ。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS Remix


とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常


第16話 『二人にとっての長い夜?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




・・・・・・朝日で、目が覚めた。そして、その瞬間身体中から痛みが襲ってきた。

で、思い出す。昨日・・・・・・あの人に負けた事を。拳で思いっきり何度も殴られた。蹴りももらった。

たった数発の攻撃を喰らっただけで、身体が動かなくなった。ストラーダも、持っているのがやっとだった。





そこに最後の一撃。胸元に、まるで車にぶつかったんじゃないかというような衝撃が来た。

それで、意識を手放した。それだけじゃなくて、吐き気に苛まれて、今もかなり気持ち悪い。

あと・・・・・・あぁ、思い出したくなかった。実力的にもそうだけど、精神的にも叩き潰されたんだ。





・・・・・・あの人は何も知らないはず。僕やフェイトさんの出自プロジェクトFに関しては、なにも。

なのに、言われてしまった。僕は、僕の考えは、フェイトさん達の劣化コピー。エリオ・モンディアルとして戦っていない。

だから、僕自身はそれを抜くと弱くて・・・・・・間違った人間一人止められない。





いや、その間違った人間にすら劣ると、全てを否定された。そうだ、僕は・・・・・・負けた。

正しいはずの守る力は、間違っていた壊す力に負けた。何も、出来なかった。

それだけじゃなく、壊そうとした。あの人を、壊そうとして最後に力を突き出した。





そして、それは人を傷つけた。・・・・・・あぁ、そうだ。僕は人を傷つけたんだ。

ストラーダが血で塗れた。夜の闇の中でも分かる、深い赤色の液体が見えた。

そうだ、僕がやったんだ。僕が傷つけた。なんで、こんなに重いんだろう。





覚悟はしていたのに。訓練校でも、なのはさん達の訓練でも、同じことをしていたはずなのに。

それでも、この道を進みたいと覚悟を決めていたはずなのに、なぜこんなに重いんだろう。

そこまで考えて、あの人の言葉が突き刺さった。僕は・・・・・・今まで借り物の想いで戦ってた。





六課の部隊員として、局員として、フェイトさんの被保護者として。そんな言い訳を繰り返していたと、痛感させられた。

そうじゃなきゃ、この重さが説明できない。そうじゃなきゃ、手の震えが説明出来ない。

心の内から湧き上がってくる怖さが、今まで感じた事の無いくらいの自分に対しての恐怖が、説明出来ない。





僕は・・・・・・何をしてるんだろ。なんで、今更こんなことを考えているんだろう。

やっぱり僕はコピー品で、ただの人形で・・・・・・そんなの、違う。違うって言っても、声が止まらない。

昨日の僕の行動の全てが、今の僕の感情が、それを立証している。そう感じてしまう。





僕は、結局コピー品のままだった。『エリオ・モンディアル』のコピーではなくなったかも知れない。

でも、今度はフェイトさん達のコピー品になっていたんだ。それも、劣化品。

どうして・・・・・・なんだ。僕は、エリオ・モンディアルのはずなのに。コピー品である自分を否定したかったのに。





なのに、否定出来ない。僕は・・・・・・本当の僕は、一体どこにあるんだ?










「・・・・・・エリオ、目が覚めた?」





そこを見ると、居たのはフェイトさんと・・・・・・キャロ。



一瞬顔を背けようかとも思ったけど、それは変だと思って、普通の表情を装った。





「エリオ君、大丈夫?」

「うん、なんとか。まだ身体が痛むけど」

「無理しないでね。ヤスフミも相当加減をしたみたいだけど」





・・・・・・その言葉が突き刺さった。あれで、加減・・・・・・そうだ、僕は加減されたんだ。

クレイモアや射撃に砲撃、鉄輝一閃だって使ってなかった。全力じゃ、なかった。

加減されて、叩き潰された。当たった攻撃だって、全部ワザと受けてる。それで、余計に気分が沈む。



僕の守る力は、あの人の壊す力の足元にも及ばなかった。それが、僕の事実。



そしてアレが、本物とコピー品の差なんだ。





「それでも、相当ダメージが来てるみたいなの。1週間は安静だって」

「・・・・・・はい。さっき、シャマル先生にも言われました」

「そっか。それでね、エリオ。というか、キャロもなんだけど・・・・・・少し、お話」

「「・・・・・・はい」」





まずは、昨日の模擬戦のこと。フェイトさんは、僕を叱った。

僕のやった事は、考えていたことはただの押し付けだと。何の意味も持たないと。

力についての考え方は人それぞれで、みんなが同じ思考を持っているわけじゃない。



六課はほとんどが顔見知りだからそういう部分があまり出にくいけど、それでもあれは違うと、言われた。

誰も、あんなことは望んでいない。どうしてあんな風になるのか、自分には分からないとまでフェイトさんは話した。

・・・・・・今なら分かる。フェイトさんもなのはさん達も、ティアさん達もずっとそう言っていた。



認める必要はない。でも、否定する権利もないと。

なのに僕は、今の今までどうしてそれが分からなかったんだろう。

いや、そんなの分かってる。・・・・・・怖かったんだ。



否定されて、僕が認められた事実が壊れるのが、凄く怖かった。





「どうやら、ちゃんとお話出来るようになったみたいだね」

「・・・・・・はい」

「私の言葉、キャロの言葉、ちゃんと伝わってるんだよね。
もう、庇ってるものだなんて、感じたりしてない」

「・・・・・・・・・・・・はい」



なんでだろう、小説とかで『悪い夢見ていたような気がする』って表現があるけど、今そんな気分だ。

・・・・・・って、これは最低だな。だって僕がやったことは、夢でもなんでもないのに。



「なら・・・・・・フェイトさん」

「うん、なにかな」

「フェイトさんは、納得出来るんですか?」



それでも、僕は聞く。まだ納得し切れていない部分があるから。

そんなみっともない自分を壊すために、聞く。それにフェイトさんは、すぐに頷いた。



「出来るよ」

「どうしてですか」



力は、守るためにあるって、フェイトさんは話してくれた。

それなのに。壊すためと言うあの人を、どうして認められるんだろう。全然違うはずなのに。



「家族、だからですか?」

「違うよ。・・・・・・何を壊すかによるんじゃないかと思うから」



それが、僕の胸を貫いた。いや、それと同時に脳天もハンマーか何かで殴られたように感じる。



「何を壊して、そうして何を守って、何を未来に繋いでいきたいか。きっと、戦うならずっと考えていかなきゃいけないこと。
エリオ、なのはやヴィータは教導の中で、それをずっと伝えていたはずだよ? 気がつかなかったのかな」



何を、壊して、何を守るか・・・・・・。その言葉の響きに、今まで感じた事のない世界を垣間見た気がした。

いや、僕は知っていたはずだ。なのに、勘違いをした。その結果が、昨日のアレだ。



「私もね、壊した事がない。守るだけにしか力を使っていないと言えば、それは嘘になるんだ」



フェイトさんが、懐からバルディッシュを取り出す。そして、強く握り締める。



「例えば、放置すると危険な事になる人格を持ったプログラムをデリートしたり、例えば、暴走した原生生物を殺したり。
例えば、犯罪者を魔法で薙ぎ払ったり。・・・・・・まぁ、最後ので人を殺めた事はないんだ。でも、みんな同じ」

「で、でもそれは仕事で、守るために必要で」

「エリオ、それを自分で言ってて分からないのかな。
・・・・・・ヤスフミがフォン・レイメイを殺したのも、全く同じことが言えるんだよ?」



僕は、それに何も言えなかった。確かに、その通りだったから。

でも、だったらどうしてあの人は何も言わない? 僕達に対しても、フェイトさん達に対しても。



「私、そんなことは言いたくない。ヤスフミも、きっと同じ。
どう言い繕っても、それが全て言い訳だと、知ってるから」

「言い訳?」

「そう、言い訳だよ。今だけの話じゃない。
母さんやアルフに認められた事を言い訳に、ずっとヤスフミを否定し、傷つけようとしてた」





・・・・・・そうだ、相談した。そうしたら、二人は僕の気持ちを認めてくれた。

あの人にも魔法を、受け取った力を、正しく、認められる形で使って欲しい。

僕は、間違った使い方をしてた。あの人にも、あんな使い方はして欲しくない。



僕のそんな気持ちを、二人は認めてくれた。





「そして、それを楽しんでさえいたよね? どこかで思ってたでしょ。
『正しいという事が、気持ちいい』って。私もみんなも、見ていてそれは強く感じてた」

「私もフェイトさんと同意見だよ。・・・・・・エリオ君、そう思ってたよね。
本当は分かってたのに、だから恭文さんのこと嫌ってた」

「・・・・・・はい」





あぁ、そうだ。今なら分かる。僕は、楽しんでいたんだ。正しい事が、認められた事が嬉しくて。

まるで、僕自身がちゃんとここに居る事が認められたような感じがして、楽しかった。

でも、それは錯覚だった。そうだ、本当に・・・・・・何の反論も出来ない。



自分で自分が恥ずかしくなる。どうして僕は、あんなことをしてしまったんだろう。どうして、僕は・・・・・・。





「ヤスフミで言うと、昔からそういうのが嫌いなの。
私達にさえ、何も言わない。だから、表彰や栄職の話も断った」



レジアス中将からあったという話だ。・・・・・・僕から見てもうらやましく、いい話なのにあの人は断った。

それが鼻についた。なぜ正しく行動した僕達ではなく、間違っているあの人なのかと思っていた。



「エリオ、人に認められなくちゃエリオはここに居ちゃいけないなんて、嘘なんだよ?
エリオが、自分で自分を認められるか。まずは、そこからじゃないのかな」



・・・・・・僕は、本当に悪い夢から覚めたような感じがしていた。だからだろうか、何も言えない。

今、フェイトさんから感じている言葉の重みに対抗できる言葉なんて、僕には出せない。



「とにかくね、私やなのは、みんなのしてることは、根を突き詰めれば壊す事・・・・・・ただの暴力なんだ。それらは、絶対に正しくなんてない。
私達は、世の中の人達に迷惑をかけたり、被害をもたらす存在を壊して、止めているだけ。守るためと思っても、そこは多分変わらない」

「なら、どうして・・・・・・守るための力と教えるんですか?
あの、フェイトさんや、なのはさん達の教導だけの話じゃないんです」

「フェイトさん、そこは私も疑問です。私も訓練校で、そう教わりました」



訓練校やどこでもそう。魔法は、守るための力。クリーンで安全に使える有効的なエネルギー。

だからこそ、誤った使い方で、誰かを傷つけるようなことはしてはいけない。僕はそう教わった。



「そうあって欲しいという願いを込めてだね。ほら、管理局の理念にもあるよね」

「・・・・・・『犯罪者の未来をも守る』」



命を奪えば、全部が終わる。だから、非殺傷設定の解除は基本ご法度。

殺さず捕縛し、反省を促し、更生を目指してもらう。それが、局の理念の一つ。



「だから、余計にそう教える風潮が強いの。それが、今の魔導師の現実」



・・・・・・これが間違ってるとは、思えない。だから、僕だって共感した。

これが間違ってるなら、そうしたら、犯罪者だから殺してもいいという考え方になるはずだから。



「私も、そうありたい。そうであって欲しいと思うんだ。
というか・・・・・・実はね、ヤスフミ前に言ってたんだ」

「え?」

「自分は、今のご時勢で間違ってる存在でいいって」



僕もキャロも、顔を見合わせる。言っている意味がよく分からなかったから。

だけど、フェイトさんはそのまま微笑みながら、言葉をかける。



「殺したり、それに近い手段を取れる人間が、間違っている世界でいい。正しくなくたっていい。
私やなのは、エリオやキャロみたいに考えられる子達が正しい世界でいいんだって、そう話してたの」



僕や、キャロが正しい世界・・・・・・。なら、あの人は?

あの人は、どうするの? そんな世界の中で、間違ってると言われているあの人は。



「私ね、それでヤスフミはどうするのか疑問だったんだ。そうしたら」

「・・・・・・こらこら、誰もそんなこと言ってないでしょうが。
何勝手に事実を自分のニーズに脚色した上で話してるのさ」



声がする。それに身体が震える。



「全く・・・・・・なのはもスバルだけじゃなくフェイトまで。普通にありえないでしょうが。
なぜ人の言うこと成す事を勝手に脚色するのさ」



見ると、そこに居たのは・・・・・・あの人だった。



「ヤスフミ、聞いてたの?」

「聞いてたよ? で、なぜにフカシこくのさ」

「フカシじゃないよ。前にそういう話、してくれたことあるよね?」



あの人は、そっぽを向いた。そっぽを向いて・・・・・・ため息を吐く。



「フェイト、そろそろ外回りに行く時間」

「あ、話逸らした」

「逸らしてない。・・・・・・で、エリオ」



僕は返事は出来ない。だけど、それに構わずにあの人は言葉を続ける。



「目は、覚めた?」

「おかげさまで、少しだけ」

「そう。・・・・・・まぁ、アレだよ。ぶっちゃけ、僕が嫌いならそれでいいよ」



唐突で、前振りもない言葉。それに、僕達は驚く。



「お前みたいなのにごちゃごちゃ言われるのはもう慣れてる。ただ、それでも僕は変わらない。
僕には僕の行きたい道が、通したい意地がある。同じになんざ、なれない」





完全な拒絶。それに何かが崩れ落ちた。

この人に、僕達の言葉は通用しないと思い知らされたようで、無性に腹が立った。

この人にじゃない。自分に対してだ。僕は、力ずくでも、言葉でも何も出来なかったから。



そのまま、フェイトさんの近くへ来て、首根っこを掴んで引き上げる。





「あ、あの・・・・・・ヤスフミっ!? まだ私、話が終わってなくて」

「うっさい、仕事優先に決まってるでしょうが」

「・・・・・・なら、あなたはどうするんですか。
同じになれないなら、どこに行くつもりなんですか?」

「教える義理立てはないね」



フェイトさんをほぼ無理矢理に引き上げて、医務室を出て行こうとする。

出る直前、足を止めた。止めて、こちらを向かずに言葉を続けた。



「・・・・・・知りたきゃ、勝手に追いついて来い。まぁ、出来ればの話だけど」





そのまま、フェイトさんを引きずって医務室を出た。



後に残された僕とキャロは、ただただポカーンとするばかりで・・・・・・どうしたものかと考える。





「・・・・・・エリオ君」

「なにかな、キャロ」

「恭文さん、いい人だよね」



・・・・・・言っている意味が良く分からなかった。なんであのやり取りでそうなるのか、僕にはさっぱり。

でもキャロは二人が出て行ったドアを見ながら、どこか微笑みながらそう口にする。



「だって、ちゃんと私達の考え方、認めてくれてるよ? 恭文さんにも、譲れないものがある。
だけど、私達の中にある譲れないものも、ちゃんと認めてるって、伝えに来てくれたんだよ」

「・・・・・・そうなのかな。てゆうか、あれだけでそこまで読み取れるの?」

「読み取れるよ。だって私達、仲良しだもの」



ただ、フェイトさんを連れ出して、嫌味を言いに来たようにしか見えなかったんだけど・・・・・・。



「というかエリオ君、少し恭文さんのこと誤解してる」

「キャロも内臓器官を直接叩かれて、肋骨とかにヒビを入れられて、その上歯も何本か折られたら、今の僕の気持ちが分かるよ」

「そ、それはそうかも。でも、エリオ君が悪い。もちろん、恭文さんも悪いところがあるけど、エリオ君の方が多い」

「・・・・・・そうだね。うん、僕の方がずっと悪い」





自然と、そんな返事をしてしまった。・・・・・・蒼凪、恭文・・・・・・か。

あの人は・・・・・・そうだよね。あの人は、ただの自分として戦ってるんだ。

局員でも、部隊やチームの一員でもない。僕達と同じようで、まったく違う。



誰でもない、ただの自分として。ただの『蒼凪恭文』として、いつも戦ってる。だから、僕は負けたんだ。

そんなあの人だから、フェイトさんやリイン曹長、スバルさん達にヴァイス陸曹は、力を貸すんだ。

そうだ、僕は負けた。僕は、あの人を否定出来るような人間じゃ、なかったんだ。



いや、そもそも人間になってるかどうかすら分からない。

僕は、フェイトさん達の模倣をしていただけだった。僕の中にあるのは、借り物の理由だけ。

自分の中から、『エリオ』としての理由を見つけ出さない限り、絶対に、勝てるわけがない。



借り物の理由と道理以外で・・・・・・僕に、何があるんだろうか。





「キャロ」

「なにかな」

「とりあえず、みんなに謝ってくる。迷惑をかけたのは、事実だから。
松葉杖、持ってきてくれる? ちょっと、自力で立てそうにないや」

「・・・・・・うん、いいよ。というか、私も一緒に、謝るよ」



キャロが謝る必要なんてないと思って、僕は止めようとした。

だけど、キャロが視線で言ってくる。僕の今考えた事は、無意味だと。



「だって、パートナーだもの。それにね、私も反省してるんだ。
エリオ君があんな状態になっちゃったの、別にエリオ君が全部悪いわけじゃないの」

「どういう、こと?」

「それは、歩きながら話してくよ。・・・・・・うん、話そう? 少しずつ、今まで話せなかった分も含めて」

「・・・・・・うん」





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにもかくにも、フェイトと外回りに出た。一応は無事に解決したので、よしとしよう。





とりあえず・・・・・・アレだ、絶対反省だ。あんなこと言わなきゃよかった。










「・・・・・・あんな兄貴キャラっぽいこと言うなんて。僕はだめだ」

≪いやいや、それを言ったら行動そのものがアウトでしょ≫

「あぁぁぁぁぁぁっ! マジでダメだぁっ!! やばいっ! このままじゃ最終決戦で死亡コースじゃんっ!!」

「あ、あの落ち着いて? というか、全然ダメじゃないよ。
二人には、ちゃんと伝わったと思うな。ヤスフミがちゃんと二人の事を認めてるのは」





車を運転しながら、フェイトがなんか言ってるけど、分かってない。



全然分かってないので、しっかり説明する事にする。





「フェイトさん、分かってないのです。兄貴キャラっぽい行動は、死亡フラグなのですよ?
昨日今日やったみたいな感じでフラグを立てちゃうと、最終回で恭文さんは確実に死亡なのです」

「そ、そうなのっ!?」

「はいです」





リインが勝手に説明したけど。・・・・・・でも、その通りだよなぁ。

マジで気をつけないといけない。事件解決前に立ててはいけないフラグは、本当に沢山なのだ。

よし、エリキャロとは事件解決まで程よい感じの距離感でいこう。



・・・・・・つーか、マジでスカリエッティ叩き潰そう。これは本当に腹が立つ。





「あと恭文さん、恋愛フラグもまずいですね」

「あー、まずいね。例えば最終決戦前に誰かと男女の関係になるとか、『帰ってきたら話すよ』みたいなことを好きな人に言うとか。
あと決着直後に安堵して警戒を解くのもまずい。後ろから銃声が聞こえて、そのままお亡くなりコースだよ」

「ね、ヤスフミ。そこまで言うってことは・・・・・・死亡フラグとかって、気をつけなきゃいけないの?」

「当然だよ」



なのはみたいな理不尽なフラグブレイカーならともかく、僕達はそうじゃない。

常にそんな物騒なフラグは立てないように、静かに日々を過ごすのだ。



「そっか。ね、それなら他にはどんなのがあるのかな」

「興味あるの?」

「うん。知らずに踏まないように、しっかりしていきたいなぁと」



なんだか、少しだけ楽しそうな顔でフェイトがそう言う。

で、窓から見えるミッドの景色を見つつ考えて、到着までの話のネタにすることにした。



「うーん、そうだなぁ。とりあえず、最終決戦前になにか重要な約束とかはだめだね。もうぶっちぎり。
自分を不死身だとか、そこまで言わなくても一人で戦っても大丈夫だとか言うのはかなり危ないね」



そこまで言って気づいた。そういうことしそうなのが、ちょうど横に居る。だから、視線を送る。

本人もちょっと突き刺さったのか、前方に視線を向けつつ一筋の汗がタラリと頬を流れた。



「・・・・・・フェイト、気をつけようね?」

「ふ、不死身はないけど、『大丈夫』は結構言ってるかも」

≪というか、あなたもそれじゃないですか。普通にやってますよね≫



気にしないで。僕は・・・・・・やばい、なんだかんだで普通にこのフラグ踏んでるかも。マジで気をつけよう。



「リインがはやてちゃんから聞いたのだと、不沈艦とか、安全牌とか、『ここなら絶対安全』とか、そういう風に言われてるのも危ないそうです。
それと関連する形で、救護班みたいな最安全地帯に居る場合も危ないのです。普通に敵襲とか来るのですよ」

「・・・・・・それだと六課隊舎、かなり危ないよね」

「危ないですね。死亡フラグは意外と身近にあるのですよ。
あとあと、敵に対して圧倒的優位に立っている事をわざわざ口に出すのも危ないです」



あー、分かる分かる。そんなこと言ってる間に窮鼠猫を噛んで、逆転されてさよならですよ。あとは、敵側でもあるな。



「まだ勝負がついてないのに、もう勝ってるような態度を本気で取るのはやばいね。
で、例えば敵がこっちが聞いても無いのに自分の計画の事とか、隠してたことをペラペラ話し出したら」

「負けちゃうってことなんだね。それは分かるかも。映画とかではよくあるから」



フェイトが、なんか嬉しそうに話す。というか、段々死亡フラグとは何かが分かってきたらしい。



「・・・・・・ね、死亡フラグっていわゆる『お約束』的なものと考えればいいのかな。
こういう展開で、こういう行動をしちゃうと、こうなっちゃう・・・・・・みたいな」

「そうだね、それで合ってる。それで要注意なのが、『必ず生きて帰ってくるよ』とか『晩飯作って待っててくれ』とかだね。
そういう感じで『先に行け』とか『故郷に婚約者が居るんです』とか『生きて帰れるのかな』とか言うと・・・・・・死ぬね」

≪死にますね≫



さすがは我が相棒。普通に説得力溢れる感じで同意してくれた。

フェイトもそのせいか、少し真剣に話を聞く姿勢を作り始めた。



≪最終決戦前に何か約束とか、大事な物を預けるとか、指輪を渡しそこねたとかも危ないですね。
あと、『またここに来ようね?』なんてだめですよ。もう絶対来れませんって。死亡フラグ成立ですって≫

「なんでだろう、リアルに否定できないよ。と、とにかく気をつけるよ。
うん、死亡フラグなんて吹き飛ばさなきゃ。・・・・・・でも、それなら生存フラグってあるのかな」

「あ、それもあるよ?」





例えば、僕のような主人公だね。特に、マリオみたいな終了予定のないシリーズものの共通看板主人公は、簡単に死なない。

で、悪の組織に人質に取られた女の子とか、生霊、意識不明など「不必要に死んでいない状態」に長期間置かれているキャラも、それになる。

「自分は敵だ」ということを必死でアピールしている奴、及びその相手もない。



とにもかくにも、フラグは気をつけないといけない。色々とやばいのだ。





「なお、勝利フラグもある。新兵器初登場回・・・・・・というか、初登場した時の戦いは、どうやっても勝てる」

≪出し惜しみするとアウトですよね。出し惜しみしたら、その時点で潰されますから≫

「なるほど。・・・・・・・・・・・・なら、本格交際は解決後かな。
うん、頑張ろうっと。今確認しちゃうと、フラグ踏んじゃうし」





フェイトが、なにやら呟いた。だけど、小声でよく聞こえない。



僕がそれに首をかしげていると、フェイトは首を横に振って『なんでもないよ』と答える。





「でも、仲良くなるくらいはいいよね。うん、いいよね。だって、諦めない私、始めていくんだから。
というか、ちょっと考えたけど・・・・・・私だけなんて、フェアじゃないよね。私も、力になるんだ」



フェイト? あの、なんでそんな独り言言いまくるんですか。というか、色々と怖いんですけど。

リインもどうしてそうなるのか分からなくて、距離取ってるんですけど。



「あのね、ヤスフミ」

「うん、なにかな」

「・・・・・・今日の夜、少しお話しようね」

「はい?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・夜、隊舎に戻ってきて、フェイトとのお話の前に、やることをやる。





僕は、ちょこっとなのはを談話室に呼び出したのだ。





まぁ、一応ね。少し気になったから・・・・・・忠告することにする。










「・・・・・・なのは、ヴィヴィオの引き取り先って、見つかってないの?」

「うん。クロノ君だけじゃなくて、アコース査察官や騎士カリムも手伝ってくれてるそうなんだけど」



一応、ヴィヴィオは身寄りがない。なので、事件解決後を焦点に、引き取り先を探している。

だけど、今のなのはの様子を見るに、全然らしい。まぁ、簡単な話じゃないしなぁ。



「いっそ、なのはが引き取れば? このまま保護責任者ってのも、手でしょ」

「ダメだよ」

「なんで」

「私、空の人間だよ?」



・・・・・・まぁ、これだけで言いたい事は分かった。うん、ここはいい。

それを言えば、僕だって同じだ。言う権利は多分、あんまりない。



「なるほどね、納得したわ。・・・・・・なら、なのは」

「なにかな」

「今みたいに引きずられてちゃ、だめでしょうが」



一瞬だけ、なのはの表情が固まる。だけど、すぐにいつもの笑顔に戻る。



「恭文君、何言ってるの? というか、私が何に引きずられて」

「ヴィヴィオは、なのはを本当のママみたいに思ってる」

「・・・・・・うん、知ってるよ。というか、今日の昼間に言われた。
私が、ホントのママだったらいいのにって、凄く真剣に」

「でも、なのははそうはなれない。だから、言ってんの」



今まで、ヴィヴィオとなのはのやり取りを見ていて、気づいた事がある。それは、なのはの変化。

なのは、ヴィヴィオと居る時・・・・・・僕の知っているある人と同じ顔をしていた。それは、エイミィさん。



「ヴィヴィオは、そんな器用な真似出来ない。だったら、なのはがやるしかない」



エイミィさんが、双子の世話を焼いたりしてる時と、同じ顔をしている。そう、親としての顔だ。

なのは、ヴィヴィオと居る中で少しずつだけど、ヴィヴィオの母親になってきてる。



「分かってる。・・・・・・分かってるよ」

「ならいいけど・・・・・・なのは、マジで頼むよ? 僕とかフェイトはまだ大丈夫なのよ。一番危ないの」

「分かってるから」

「・・・・・・分かった」










・・・・・・・・・・・・そう、一番危ないのはなのはだ。ヴィヴィオの認識の中では、なのはが一番だから。





これでなのはが崩れたら、もうなのはは覚悟を決めるしかなくなる。





ヴィヴィオの、ほんとのママになる覚悟をだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・やっぱり、ヤスフミも気になってた?」

「ということは、フェイトも?」

「うん」



談話室になのはを残して出て、少し歩くとフェイトと鉢合わせした。

そのまま、フェイトは・・・・・・部屋に来た。



「いちおう、話そうかどうか考えてるところだったの。なのは、やっぱり一度墜ちたことを気にしてるみたいだから」

「・・・・・・そっか」

「というか、ヤスフミはどうして気づいたのかな」

「一つは、エイミィさんの姿と、なのはが被って見えた。
もう一つは・・・・・・前にやったゲームで、全く同じ話があった」





そう、それは・・・・・・うたわれるもの。ウルトリィがお母さんになったお話ですよ。

捨て子を拾って、世話をしているうちに愛情が沸く。そのまま、自分が育てようとか思う。

だけど、捨て子にはちゃんと親が居て。その親が引き取りに来る事になった。



それにより、ウルトリィは赤子を連れて逃走して・・・・・・鬼子母神の誕生ですよ。





「そ、そうなんだ。そこは予想外かも」

「まぁ、フェイトも気をつけてあげてよ。一緒の部屋だし、多分僕よりやりやすいでしょ」

「そうだね、そうする。・・・・・・じゃあ、今度はヤスフミの番かな。少し、私とお話だよ。もっと言うと、昨日の続き」

「なに? あの、お話ならもう何時間でも聞くので泣くのだけはやめてくれないかな」



もう普通にリインははやてのとこに行きやがったし。

ちくしょお、逃げやがった。うぅ、リインの裏切りものー。



「大丈夫、ヤスフミがちゃんと答えてくれれば、泣かないから。
・・・・・・どうして、あそこまで叩きのめしたの?」



エリオの事だというのは、すぐに分かった。というか、他に思いつかない。



「別に、それが不満とかじゃないんだ。ただ、決着をつけるだけなら、すぐに出来たよね」

「・・・・・・僕、エリオの事嫌いだし」

「違うよね。もしそうなら、攻撃なんて一発も受けずに倒してた。何・・・・・・考えてたのかな」



なんか、色々と見抜かれているらしい。フェイトは、視線で『隠しても無駄だよ』と言ってる。

その様子に、大きくため息を吐く。どうやら、隠しても本当に無駄なようなので、話す事にした。



「・・・・・・誰にも絶対に話さないって約束してくれるなら、いいよ」

「ヤスフミが話して欲しくないなら、私は誰にも言わないよ。・・・・・・それで、どうして?」

「理由は二つ。まず、僕の姉弟子と兄弟子が今のエリオと同じ状態だった」



フェイトが、息を呑んだ。というか、話してなかったし、ビックリするよね。



「ヤスフミの姉弟子兄弟子って・・・・・・もしかして、ヘイハチさんのっ!?」

「うん。2年位前に、ちょっとした偶然で知り合ったんだけどさ」



ヒロさんとサリさんが弟子にしてもらった直後の事。今回と全く同じ事があった。

二人は、今回僕がエリオにやったように、先生に徹底的に叩きのめされた。理由は、たった一つ。



「二人とも、その段階で人を殺すような戦いをしてたの。だけど・・・・・・言い訳、してたんだって。
『局の正義のため』って。言い訳して、殺しを害虫駆除みたいに思ってた」

「それで、ヘイハチさんが叩きのめしたんだね。叩きのめして、そのお二人に教えた。
そんな言い訳をして、殺し・・・・・・違うか。人を傷つけることを、正当化してはいけないって」

「分かるの?」

「うん。ヤスフミの行動とそれを照らし合わせれば、すぐに分かるよ」



・・・・・・そう躊躇いもなく言ってくれたのが、なんだか嬉しかった。

やっぱり、僕はフェイトの事が好きらしい。こういうのが、なんだか幸せ。



「それでね、二人が話してたんだ。・・・・・・嬉しかったんだって。管理局って言う大きな組織に、必要とされるのが」

「うん」





サリさんは、小さい頃に家族を全員亡くしてる。そうして、食べるために魔導師になった。

ヒロさんは違うけど、魔導師になった当時、親御さんと色々有って、一時的に絶縁状態だったらしい。

なお、今はもうすっごい仲良し。僕も一度挨拶させてもらったけど、すごい勢いの方々だった。



とにかく、その当時で言うと10代前半。家族というものがそれで、その代わりが・・・・・・局だ。





「だから、自分の居場所とか、認めてくれる世界を壊されるのが嫌で、ずっとそう思ってたんだって。
・・・・・・まぁ、今は二人揃って『殺してやりたいくらいに、その時の自分が嫌い』って言い切ってるけど」

「そうなんだ・・・・・・。とにかく、ヤスフミはそのお二人とエリオを重ねて見たんだね。なら、もう一つは?」



・・・・・・少しだけ、言いにくい。でも、いいか。

フェイトには、ちゃんと話しておかなきゃいけないんだから。



「僕が最後にエリオに言ったことね。あれさ、ずっと前に言われたの」



まぁ、一番最後の部分かな。うん、本当にずっと前にだ。



「誰に?」

「僕が、初めて殺した連中に言われた」





最後の一人を、僕はあの時逃がそうとした。もう王手のところまで追い詰めたから。そうしたら、言われた。

それだけじゃなくて・・・・・・殺さなければ、自分は僕に復讐をすると、思いっきり宣言された。

そして、今更逃げる気かと。言い訳をするなと言われた。僕は、立ちはだかる相手の命を奪った。



奪い、奪われ、潰しあう。そんな世界にもう足を踏み入れた。なら、最後までそれを通し、背負え。



そうでなければ、自分達は無駄死にに終わると・・・・・・アドバイスされた。





「忘れられない、忘れたくない言葉。あの時のエリオ見てたら、少し思い出しちゃってさ」

「・・・・・・そっか」

「ごめん、僕もあの時のなのはと同類だわ。感情に任せて叩き伏せた。
あぁもう、みんなのことは言えないね。僕も充分魔王だわ」

「ううん、少なくとも私やシグナム・・・・・・あと、スバル達も、あの場で見ていたみんなに、ヤスフミの気持ちは伝わったから。
なのはの時とは、ちょっとだけ違う。・・・・・・ありがと、教えてくれて。うん、納得出来たよ。それと・・・・・・ごめん」



なーんでフェイトが謝るんだろう。僕が悪い部分もあると思うのに。



「謝るよ。一つは、保護責任者として。一つは、またヤスフミに押し付けたから。
そしてもう一つは・・・・・・今の事。辛い事、思い出させちゃったから。だから、謝るの」

「大丈夫だよ。というかね、フェイトだから・・・・・・話したんだよ?」

「・・・・・・あの、ありがと。そう言ってくれるの、すごく嬉しい」



・・・・・・あー、でもこれで解決かぁ。いやいや、これでようやく一山超えたね。



「でも」

「でも?」

「あの時、ヤスフミがエリオに言ってたこと、結構・・・・・・突き刺さった」



・・・・・・やばい、もしかして僕、普通にフラグへし折った? フェイトが泣きそうだったし。



「フェイト、あの・・・・・・僕、フェイトの事、傷つけた・・・・・よね」

「ううん、違う。・・・・・・今までの私は、本当に『私』として生きて、ここに居るのかなって、考えちゃったの。
模擬戦の時に、エリオに言った事だけの話じゃないよ? ヤスフミとお話した事も、全部含めてなんだ」



少し、悲しげな表情で、フェイトが笑う。それに、胸が締め付けられる。



「私も・・・・・・そのお二人や、エリオと同じだったのかも知れない。
認められるのが嬉しくて、局の仕事をしてた」

「考えちゃったんだ」

「うん。別にヤスフミが私を傷つけるために言ったなんて、思ってないよ。
ただ、また・・・・・・足元が崩れる感覚がした。頭が殴られるような感じがしたの」



・・・・・・不安げに、フェイトが笑う。安心させようとしてくれてるのかも知れないけど、その微笑が凄く危うい物に見えた。

だからかも知れない、自然とフェイトを強く、抱きしめていたのは。フェイトが、驚いたように息を吐く。



「ヤス、フミ?」

「・・・・・・ね、『我思う、ゆえに我あり』って言葉、知ってる?」

「うん、中学の授業で習ったから」



凄く簡潔に言えば、『自分はなぜここに居るのだろう』と考えることそのものが、自身の存在を証明するというもの。

一種の哲学だね。全ての存在に対して懐疑的で、疑わしく思った場合への答えの一つ。



「それで、いいんじゃないかな。正直さ、ホント・・・・・・情けなくなるくらいに悔しいんだけど。
フェイトの生まれの事とか、僕にはなにも変えられない。全然、変えられない」



それは、エリオに対しても同じかな。ただ、思い入れが違う。

僕は男には厳しいのよ。でも、惚れた女の子には無茶苦茶甘いの。



「・・・・・・うん」

「ごめん、なんか上手く言えないや。フェイトの傷も、過去も、何も変えられないや」

「そんなこと、しなくていいよ」



フェイトが、強く抱き返してくれる。それが温かくて・・・・・・凄く、泣きたくなる。



「だって、その理屈だと私、ちゃんとここに居るよ?
自分にとっての『なぜ』に、ちゃんと今は向き合えてる。それで居たいと思う場所を、少しずつ探してる」



フェイトが、僕の耳に口を寄せて、囁くように声をかけてくれる。

それに身体が震える。というか、あの・・・・・・破壊力大き過ぎるから。



「あのね・・・・・・傷を変えようとしなくても、いいよ。そんなこと、しなくていい。
むしろ、全部含めてこうやって抱きしめて欲しい。私は、そっちの方が嬉しいから」

「それで、いいの?」

「あ、でもそれだけじゃないよ? 私も、ヤスフミにそうする。
ヤスフミの事、全部・・・・・・抱きしめるから。ヤスフミが不安な時は、そうしたい」

「・・・・・・ありがと」










少し、身体を離す。フェイトが、瞳を潤ませながら僕を見ていた。多分、僕も同じ目をしている。

・・・・・・あ、あのだめ。フェイトは隊長で、ここは隊舎で、それで、あのえっと・・・・・・だめ。

そ、そうだよ。ダメ。それはいくらなんでもマナー違反だもの。





うん、落ち着け僕。ここは耐えろ。男は好きな女の子のためなら、耐えるんだから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ヤスフミ」

「うん」

「・・・・・・・・・・・・ヤスフミ」

「うん。・・・・・・てゆうかフェイト、なぜにそんなに何回も僕の名前を呼ぶ?」

「私、ちゃんとここに居るよね」



少し不安を隠しきれずに、ヤスフミに聞いた。だけど、すぐに訂正する。



「・・・・・・ううん、違う。私は、ちゃんとここに居る。というか、ここに居たい」



ヤスフミは私のその言葉に、力強く頷いてくれた。



「居るよ。ただのフェイトは、ちゃんとここに居る。でも、ただ居るだけじゃないよ。
生まれの事も、今までの時間も、全部含めた上で、フェイトはちゃんとここに居たいと思うから、居られる」

「うん、そうだね。痛みも、喜びも、ヤスフミと繋がった事も、それを選んだ事も、全部私のもの。全部、必要なんだよね。
そうだ、きっと・・・・・・私にとっては、全部必要で、幸せなことなんだ。なんだか、不思議。そう考えると楽しくなってくる」

「・・・・・・そうだね」



今は、ヤスフミに依存してるのかも知れない。そこは、ちょっとだけ反省。でも、確かめられてる。

私が・・・・・・ここに居ると。ここに居たいと思う理由が、ちゃんとあると、確かめられてる。



「まぁ、全依存はだめだよね。ヤスフミやなのは、他の人ありきになっちゃうもの」

「そこは、僕もかな。先生やフェイト、みんなありきなのは、ちょっと嫌だ。
・・・・・・自分の事、ちゃんと認めていかないといけないんだよね。全部含めて」

「そうだね。きっとそうしないと、私としてここに立てない」



今、優しく私の頭を撫でる手が、ちゃんと伝えてくれた。うん、伝わったよ。

一週間前の朝に話してくれたことが、ヤスフミの気持ちが、疑いようのないものだって、伝わった。



「あのね、フェイト。僕、今少し思ったんだ」

「うん」

「プレシア・テスタロッサは、フェイトを失敗作って、言ったんだよね。
アリシアになれなかった人形、そして・・・・・・出来損ない」



私は、それに頷く。少し胸が痛むけど、大丈夫。

だって、ヤスフミが私を傷つけるためにこの話をしてるわけじゃないのは、目を見てすぐに分かったから。



「うん、そう言われた。でも、それがどうしたの?」

「・・・・・・逆を言えばさ、それはフェイトはアリシアじゃないことの証明になるんじゃないかな。
もうちょっと言うと、フェイトがフェイトだって言う証明の一つ。プレシアさんだからこそ、証明出来た事」



私は、ヤスフミが言ってる事がよく分からなかった。

だけど、少しだけ・・・・・・本当に少しだけ考えて、分かった。



「私は、アリシアになれなかった。なれなかったから・・・・・・私は、フェイトだと証明される?」





母さんは、私の創造主。生み出した目的は、アリシアを蘇らせる事。

私の仕事は、ずっと前に亡くなってしまった、アリシア・テスタロッサになる事。

だけど、私はアリシアになれなかった。性格や利き腕、母さんに対しての態度。



私を構成するその全てが、アリシアじゃなかった。だから、母さんは私を捨てた。だけど・・・・・・。





「私の今の気持ちも、想いも、願いも、心も、身体も、全てが『フェイト・T・ハラオウン』になる」





創造主であり、『アリシア・テスタロッサ』という人間を知っている母さんだから、私を否定出来た。

今までは、私はアリシアになれなかった紛い物という意味合いにしか受け取ってなかった。

それは、ずっと心の傷で、私を砕いて・・・・・・でも、母さんの言葉が示すのは、それだけじゃない。



ヤスフミの言うように、私はアリシアじゃなくて、フェイトという人間だという証明にもなるんだ。





「うん」

「だとしたら、少しだけ・・・・・・皮肉だね」



創造主から与えられた役割をこなせなかったから、私は私になる。

本当に、皮肉だ。しかも、それが確固たる事実だというのが、悲しい。



「・・・・・・ごめん」



多分、無神経な事を言ったんだと自分で思ったんだ。だから、今謝った。

私は、そっとヤスフミの頬を撫でる。撫でながら、微笑みながらこう言う。



「ううん、大丈夫だよ。というかね、ヤスフミのおかげで、少し母さんへの考え方が変えられたの」

「え?」

「母さんが私を『失敗作』とか、『アリシアのなり損ない』と言ったのは、もしかしたら私を『フェイト』として生きられるようにするためだったのかな・・・・・・と」





本当に希望的観測。あの時の母さんの様子を思い出すと、そんな風に思うのはおかしいのかも知れない。

だけど、試しにそう考えると・・・・・・あの時手を取らなかったことさえも、もしかして優しさなのかなと思った。

後で私が事実を知って、思い悩むより、自分の口から答えを出して、わざと傷つけた。



私が、決して『アリシア』にならないように。自分のために、『アリシア』になろうとしないように。

自分が作り出した、紛い物として・・・・・・だけど、『フェイト』として生きられるように。

現に、私は事件後にそういう心境に至った。私は、結局アリシアにはなれなかったんだと、考えた。



もちろん、これは本当に希望的観測。だけど・・・・・・信じても、いいのかな。



あの時の私の言葉、母さんに少しだけでも届いていたんじゃないのかなって、本当に少しだけ。





「もしその通りだとしたら、相当天邪鬼だね」

「うん、ヤスフミと同じだよ。天邪鬼で、何考えてるかよく分からなくて、その上自信過剰。
自分のために人を振り回しても、『何が悪いの?』って顔をするの」

「失礼な。僕はすっごく素直なのに」

「あ、自覚ないんだね。・・・・・・ヤスフミは、凄く天邪鬼だよ」



・・・・・・ダメだね、私は母さんを、スカリエッティを否定しなきゃいけないのに。

否定して、繰り返しちゃいけないはずなのに、否定・・・・・・出来ないなんて。



「うーん、今のフェイトの考えてることがちょっと分かった」

「え?」

「考えてない? 『自分は母さんやスカリエッティのような人間を否定しなきゃいけないのに』って」



私は、頷いた。というか、ビックリしてる。どうして・・・・・・って、考えるまでもないか。

私もヤスフミの考えている事が分かる時があるもの。ヤスフミが同じ事を出来ない理由がない。



「もう8年の付き合いだもの。なんとなく分かるよ。それに、今はいっぱい仲良くしてるし」



確かに、いっぱい仲良くしてる。身体は近いし、顔も・・・・・・は、恥ずかしいかも。

吐息が少しかかるくらいの距離で、真っ直ぐに見つめあってる。これ、かなり凄い状況かも。



「でさ、スカリエッティはともかく、プレシア・テスタロッサは否定しなくていいんじゃないかな」

「・・・・・・どうして、そう思うの?」

「フェイトのお母さんだからだよ」



遠慮なくそう言い切ったヤスフミを見て、私は・・・・・・少し、ため息を吐いた。

あんまりに単純過ぎて、おかしくなるくらい真っ直ぐな理由。でも、納得した。



「そうだね。うん、きっとそれでいいんだよね。
だって、私は母さんの事、まだ母さんって呼んでるんだから」



なんだろう、今日はビックリする事ばかりだ。

今まで引っかかっていたものが、どんどんほぐれていく感じがする。



「今日までの記憶と時間が全部必要で、幸せなら」



ヤスフミが何度も言っている言葉。『だから、忘れたくない』と、想いを貫くために言う言葉。

少しだけ、借りるね。もしも、本当にこれが事実なら、私も同じなら・・・・・・。



「プレシア母さんの存在も、母さんに否定されたことも、私が私であるためには、必要で、幸せな事だから」





やっぱり、皮肉だよね。だけど、それでいいのかも知れない。

なんだか、難しく考えるの、疲れちゃったから。

私は、プレシア母さんを嫌いになんてなれない。



だから、行いはともかく母さん自体は否定しない。それで、いいんだ。





「うん。きっとそれで、いいんだよ」



また、考えてる事が見抜かれた。私がビックリしてると、ヤスフミがニコリと笑った。

・・・・・・か、顔近いね。うぅ、やっぱり凄い状況かも。



「というか、あの・・・・・・ヤスフミ」

「なに?」



いや、かなり今更なんだけど・・・・・・あの、私達、すごく距離が近い。

キスしようと思ったら、きっとすぐに出来ちゃうくらいの距離・・・・・・って、私なに考えてるのっ!?



「なんだか気恥ずかしいね」

「それは、確かに。・・・・・・離れるね」



ヤスフミが、少し動こうとする。それを私は、思わず止める。



「だめ。・・・・・・このままで、いいよ」





というか、今離れるのは、寂しい感じがした。

私達、さっきまであの・・・・・・結構濃厚なハグしてたし。

うぅ、今までも何回かヤスフミとハグしてたけど、今日は今まで以上に濃厚。



嬉しいけどあれは恥ずかしいよ。

でも、夫婦とか恋人とかだったら、いっぱいしちゃうんだよね。

それだけじゃなくて・・・・・・あんな風に見つめ合っちゃうんだよね。



・・・・・・もっと、してみたいかも。





「あのね、ヤスフミ」

「なに?」

「それで・・・・・・あのね、ヤスフミ」

「なに? というか、なぜに二回言う」



ま、まずい。私きっと真っ赤になってる。だけど、あの・・・・・・だめ、抑えられない。

だから、ちゃんとしておかなくちゃいけないんだ。うん、絶対そうなんだ。



「・・・・・・ホントはね、事件が解決してから話そうと思ってたの」



今は六課の事もあるし、事件の事もあるから、余裕ないかなと思っていた。でも、ダメ。

今の話の中で、少しだけ持っていた疑いの感情が消えた。だから、答えたい。



「今話してて、気持ちが変わった。やっぱり、ちゃんと話したい。
ヤスフミと中途半端な状態なのは、嫌なんだ」

「何、かな」

「前にお話した時、言ってくれたよね? 私と一緒に幸せになりたいって」

「うん」



そして、顔が真っ赤になる。更に赤くなる。というか、スチームが出る。

それでも、私は言わなくちゃいけない。新しい私は、きっとこれが出来るはずだから。



「フェイト、大丈夫? なんかすごい事になってるんだけど」

「だ、大丈夫。・・・・・・アレって、ヤスフミからのプロポーズというか、告白というか」

「え?」



『一緒に幸せになりたい』。言われてからずっと、胸に響いてた言葉。

そして、どう応えていくべきか、考えていた言葉。



「とにかく、恋愛的な意味合いで好きって言われてるものだと私は受け取ってるんだけど、それで合ってる?」

「・・・・・・・・・・・・え?」




















(第17話へ続く)




















あとがき



古鉄≪というわけで、フェイトさんが地雷を踏みました。なお、次回はすっごい話になります≫

歌唄「エロいの?」

古鉄≪若干。まぁ、とまと版フェイトさんのスペックの高さはもうご存知でしょうから、大体予測はつくかと≫

歌唄「・・・・・・というわけで、犬の処刑はしないのかと思うほしな歌唄と」

古鉄≪そんなこと、これ以上してもつまらないと思う、古き鉄・アルトアイゼンです≫





(青いウサギ、躊躇い無く言い切った)





歌唄「・・・・・・なんでよ。アンタが一番やりたがってたはずなのに」

古鉄≪そんなずっと犬ネタやっても楽しくないんですよ。大体、これは新訳StSですよ?
別に、駄犬を犬鍋にする話じゃないんですから。そんなことしてたら、あなたの出番もなくなります≫

歌唄「確かに、そうね。せっかく新訳StSにゲスト的とは言え、出演するのに。
よし、犬にかまってる場合じゃないわ。時代は私のためにあるんだもの」





(うわ、なんかすごい勢いで言い切った)





歌唄「とにかく次回よね。ここから新展開と超展開よ」

古鉄≪きっと、誰一人として一話先の展開を予測する事は不可能でしょう。えぇ、絶対無理だと思います≫

歌唄「というわけで、その辺りを楽しみにしてもらいつつ・・・・・・本日は、ここまで。
お相手は、ほしな歌唄と」

古鉄≪古き鉄・アルトアイゼンでした。それでは、また≫

歌唄「・・・・・・あ、そうそう。もうすぐクリスマスよね。私、恭文にプレゼントを買おうと思うんだけど、なにがいいと思う?」

古鉄≪そんなに好きですか?≫

歌唄「好きよ。だって、アイツ面白いもの」










(なんだか、最近開き直りデレになってきたドS歌姫を映しつつ、カメラはフェードアウト。
本日のED・・・・・・というか、Remixのテーマソング:UVER world『〜流れ・空虚・THIS WORD〜』)




















フェイト「あの、違う・・・・・・かな」

恭文「ち、違わない・・・・・・けど、違うというか、だけど違わないというか、やっぱり違うというか、あの・・・・・その」(混乱する)

フェイト「ヤスフミ、落ち着いて?」(言いながら、両手をギュッと握る)

恭文「フェイト・・・・・・?」

フェイト「私、ヤスフミの気持ちが知りたい。ちゃんと、お話したいんだ」

恭文「・・・・・・僕の、気持ち?」

フェイト「うん。違うなら、違うでいいの。怒ったりなんて、絶対にしない。それで約束を反故にもしない。
でも、もし私の事・・・・・・あの、そういう風に思ってくれてるなら、私は、ちゃんと応えたいから」

恭文「・・・・・・分かった。でも、あの・・・・・・嫌とかじゃ、ない?」

フェイト「そんなわけないよ。もしそうだったら、あの・・・・・・すごく嬉しいなって、そう思ってるから」

恭文「あ、ありがと。なら、えっと・・・・・・ちゃんと話す」

フェイト「うん」

古鉄(盗み聞き中)≪・・・・・・これは凄い展開になってきましたね。録音ですよ録音≫

バルディッシュ(同じく)≪決着がつくか? というより、ついて欲しい。さすがに8年スルーは不憫なんだ≫










(おしまい)




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あきゅろす。
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