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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第15話 『変化を望む事は、今を否定する行為?』



「・・・・・・アルフ、ハッキリ言おうか。本気でバカでしょ。フェイトちゃんやみんなが怒るの、無理ないよ」

『うん、怒ってるよ。私、すごく怒ってる。というか、なのはやみんなもだよ。・・・・・・特にティアが』

「怖かったわね。それにあの子、この話にも参加しようとしてたでしょ?
『もう思いっきり、全力全開で叩きのめしてやりたい』って言って」



ティア・・・・・・あぁ、なのはちゃんの教え子で、ツインテールの女の子か。

で、それがアルフの恭文くんへの発言の数々を聞いて、キレていると。



『というか、今もしてます。なのはと帰って来たヴィータが、必死に抑えてるけど』

「そ、そうなの。じゃあ、もしかしてさっきから聴こえる何かを叩くような音って」



外からなのかな、そういう音が聴こえる。というか、声も耳に入ってくる。

しかも殺気交じり。僅かに聴こえるだけなのに、それは分かる。



『母さんお願い、触れないで。・・・・・・うぅ、あんなに怒ってるティアを見るの、初めてだよ。
ヤスフミと名前で呼び合うようになるくらいに仲良くなってたから、そのせいなのかな』

「・・・・・・フラグ、立ててないといいのだけど」

「お母さん、それは実に無駄な心配ですよ」





私の可愛い子ども達を寝かせてる間に、色々と大変な事が起こったらしい。

で、それを聞いて・・・・・・頭を抱えた。まさか、全部アルフが発端だったとは。

確かにあの子の状態をかなり気にしてはいたけど、ここまでやるとは思わなかった。



しかも勝手にお母さんも同じ考えだとか言ってる時点で、ぶっちぎりでアウトだし。





『私、あの場で母さんから話を聞いて、顔から火が出るかと思った。
エリオにもそうだし、部隊のみんなにも申し訳ない。あと、ヤスフミにもだよ』





あー、そうだよね。結局は勘違いの上での戦いだったわけだし。しかしエリオも愚かな。

勝てるわけないじゃん。恭文くんにとってエリオみたいな相手は得意中の得意なんだよ?

フェイトちゃんへの恋心故に、模擬戦とかで負けるの嫌だと思ってるもの。



だから高速型の魔導師や電撃を用いた攻撃だったり防御関係への対処は、相当勉強している。





「もちろん、私達それぞれに責任がある。アルフだけが悪いわけじゃないわ。
全ての勘違いは話してすぐに分かることだったから。それも、本当に馬鹿馬鹿しいレベル」



私も話を聞いたけど、今お母さんが言った事は正解だと思う。実際、クロノ君とお母さんはそうだった。

だからそれをやろうともしなかった全員に非はある。決してアルフだけが悪いわけじゃない。



「ただ、それでも全ての発端はアルフ・・・・・・あなたであることは確かよ?
まぁ、あなたにそう思わせる態度を取った私が、元凶とも言えるんだけど」



お母さん、アルフに結構愚痴ってたらしいですしね。ハラオウン家の使い魔として、色々考えちゃったんでしょ。

あー、でも六課のみんなに申し訳ないよ。これ、完全に私達ハラオウン家の不手際だもん。



「それでお母さん、フェイトちゃん。恭文くん・・・・・・エリオの事、本気で叩き潰しちゃったんですよね」





エリオ、寄りにも寄ってヘイハチさんの事にまで触れたらしい。・・・・・・それも、アルフの受け売りで。



会った事もないのに、聞いた話だけで。恭文くんは、私の知る限りそういうのを非常に嫌う。



やっぱりヘイハチさんが大好きだから。知ってるから正直聞くのが怖い。だけど・・・・・・聞いてみた。





「えぇ。それはもう見事に。エリオをフェイトやなのはさん達の『劣化コピー』に『人形』と言い放ったわ」

「れ、劣化コピーに人形っ!?」

「そうよ。それで今のエリオは『エリオ・モンディアル』として生きた事も戦った事もない。
だから影が薄いし、自分という『間違った人間』すら止められないと、それはもう思いっきり」

『エリオ、凄くショックを受けて、最後は失禁したりで錯乱状態になって・・・・・・ただ、間違ってはないの。
最近のエリオはヤスフミが言うように、私達を言い訳にしていた部分があるから』



うわ、そりゃ相当だわ。てーか、エリオってその辺りにトラウマ持ちだよね?



「ちなみにフェイトちゃん、まぁお母さんもなんだけど・・・・・・エリオの出自の事とか恭文くんは」

『知らないはず。少なくとも私からは話してない。あと、エリオが話すとは思えない』

「だけどフェイト、フォン・レイメイの事があるでしょ? その時のことがあるから、もしかしたら」

『・・・・・・確かに』





つまり、恭文くんは知ってる・・・・・・ううん、気づいている可能性が高い。エリオはフェイトちゃんと同じ・・・・・・だからなぁ。



そりゃあ突き刺さるわ。てーか恭文くん、知っててそこまで言ったわけ? また派手にやるね。



・・・・・・なんか、ホントにごめん。私も出来る事、きっとあっただろうにさ。





「・・・・・・何が間違ってはないだよ」



今までの私達の会話を聞いて、本当に、不満そうに声を上げる子が居る。

それは、言わずもがななあの子。我が家の使い魔である。



「間違ってるよ。なんだよ、アレ。あそこまでやることないのに。なんで、あんな事が言えるんだよ。
エリオは、フェイトの保護児童なのに。アイツ、絶対おかしくなってるんだ。そうだ、きっとそうに」



思わず頭に来た。なので、右手で思いっきり頭をはたいてやった。

アルフは左手で頭を抑えて、泣きそうな目で私を見た。



『エイミィっ!?』

「エイミィ、さすがにそれは」

「いいんです。・・・・・・アルフ、まだ分かってないの? そこまでやらなきゃいけないようにしたのは、アルフだよね。
エリオが叩きのめされたのも、六課とお母さんとの間の空気が悪くなったのも、全部アルフの勝手な思い込みが原因なんだよ?」



今回は全くフォローできない。というより、フォローする要素がない。

別に私達の間だけならいいのよ。だけど、六課に迷惑をかけちゃってる。



「どうしてお母さんの発言の真意を確認しなかったの?
どうしてもう局の仕事から引いてるのに、エリオに先輩面したのかな」





私だってまぁ、そういう部分が無いと言われると、嘘になる。

フェイトちゃんの補佐官のシャーリーに、色々と相談されたりするから。だけど、これはない。

あくまでも引退組として、自分の経験から話すだけ。こんなの・・・・・・絶対にない。



私はただ自分の考えを押し付けるような真似、絶対しない。





「エイミィ、もういいから」

「でも、お母さん」

「いいから」



・・・・・・強い瞳と一緒に止められて、私は矛を収める。どうやら、アルフだけを責めるような形にはしないらしい。

多分、自分にも責任があるとか思ってるんでしょ。だけど、ちょっと甘いよ。この子、全然反省してないし。



「アルフ、あなたのしたことは、充分六課の運営を邪魔しているのよ? いいえ、それだけじゃないわね。
エリオはもう魔導師として戦えないかも知れない。あなたの考え無しの言葉が、未来を奪った」

「・・・・・・ごめん」



だめだ、まだ納得し切れてない。また恭文くんのせいにした。今の『ごめん』で私もお母さんも、分かった。

多分画面の向こうのフェイトちゃんもだ。まぁいいか。そのためにしっかりお話していく必要があるんだから。



「それ以前にあなた・・・・・・トウゴウ先生もそうだけど、恭也さんや美由希さん」



え、ちょっと待ってください。なぜにそこで恭也さんや美由希ちゃんの名前が出るんですか。



「フィアッセさんとGPOの方々の事まで持ち出して、愚弄したそうね。それもエリオに吹き込んだ。
魔法に関係がなかったり、局以外の人間に無駄な影響を受けるから、恭文君はダメになっていると」

「えぇっ!? お母さん、アルフ・・・・・・そんなことまで言ってたんですかっ!!」

「言ってたらしいわよ? ザフィーラが教えてくれたの」



ど、どうしてまた・・・・・・そんなの地雷原もいいところなのに。てーか、私も美由希ちゃんの友達としてムカつくし。



「ホントに、ザフィーラも呆れてたわよ。恭也さん達やフィアッセさんとの交流は、私も本当に感謝している。
あの人達が恭文君にいい影響を与えているのは、確かだもの。えぇ、そこだけは本当に。GPOに関しても同じよ」



GPO・・・・・・あぁ、私が休職する前に設立された、半民間警備組織だっけ。

確か去年のカラバ関連の事件で大活躍したとかなんとか。というか、恭文くんも関わってるんだよね。



「アルフ、そもそもあなたはGPOの方々についてどれほど知っているの?
あの方々の活動は、次元世界にとってとても大切なものだわ。感謝こそすれど、非難する理由はない」

『そうだよ。・・・・・・アルフ、ここに関しては私も許せない。私、そこの人達に色々お世話になったんだ。
それで沢山大事なことを教えてもらった。正直、ヤスフミじゃないけど思いっきり殴ってやりたい気分だよ』



うわ、フェイトちゃんがキレてる。というかアルフ・・・・・・相当やらかしてたんだ。



「それ、恭文くんには教えられませんね」

『エイミィ・・・・・・もう、遅い』



え? あの、フェイトちゃん・・・・・・それは、どういうことかな。私、すごい寒気がしたんだけど。



『決闘中にエリオ、その事を話しちゃったの』

「えぇっ!?」

『だから、今ヤスフミ、アルフを捌いて犬鍋にするって言いまくってて、なのは達も抑えるのが大変で』

「・・・・・・あれ? ね、フェイト。私はさっき、同じ事を聞いたような気がするんだけど」

『正解です。ティアと一緒にその状態なので、余計に大変になってるんです』



うわぁ、そりゃあ相当だわ。恭文くんが尊敬して、お世話になってる人達ばかりだもんなぁ。

というか、もうそういうのは勘弁だよ。これ以上、六課に迷惑はかけられない。



『とにかくアルフ、しばらく私に・・・・・・ううん、六課の人間と接触しないで。
あと、ヤスフミを逆恨みして喧嘩したりしないように、大人化も封印だよ』



アルフが顔を上げる。表情に浮かぶのは、困惑という感情の色。正直、困惑する権利もないと思うけど。



『魔力制限も、かかってるでしょ? 私・・・・・・今回は本当に怒ってる』

「そんな・・・・・・あの、アタシはただ、家族の・・・・・・アイツのためにやったのに。
アタシやフェイトは母さんや局のおかげで、幸せになれた。だから・・・・・・アイツだって」

『そんなの理由にならないよ。・・・・・・アルフ、私はさっきもちゃんと、話したよね?』

「フェイトちゃん、そうなの?」

『うん、話したよ』




















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とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常


第15話 『変化を望む事は、今を否定する行為?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・・・・・・・だから、それはアイツが悪いからだろ?
エリオは間違ってないじゃないのさ。なんでそうなるんだよ』



時間は1時間ほど遡る。ヤスフミとエリオの戦いが始まる直前。

私はエリオとやり合って、そこをどうしようかと一人考えていた。すると、通信がかかった。



「アルフ、お願いだからちゃんと話を聞いて。・・・・・・母さんもです。
今のエリオの状態を見て、どうしてそう言い切れるんですか」



相手はアルフ。途中でいつもの調子で母さんが乱入してきた。それで・・・・・・また、無意味なディスカッション。

うぅ、本当に無意味だ。ずっと平行線なのは、もうとっくに分かってるもの。どうしてこうなっちゃったんだろ。前なら、もっとちゃんと話せたはずなのに。



『フェイト、落ち着いて? ・・・・・・そうね、それならあなたはどう思っているのかしら』

「私、ですか?」

『えぇ。まず、アルフの意見は、知っているから省くわね。それで、私の意見だけど』



もう知っています。母さんも、アルフと同じ。ヤスフミを・・・・・・否定していますから。



『本当に正直な話をすれば、あの子がリインさんと一緒に取った手が、無意味だとは思ってないわ』

「え?」

『お母さんっ! なに言ってんのさっ!!』

『まぁ提督として色々あってあぁ言う意見を出したということだけ、覚えていてくれる?
どうやら、私達の間で色々行き違いがあるようなの。そこは後でまた説明するから』



とりあえず私は頷く。ここをツッコんで行くと、非常に話が長くなる上に、きっと逸れちゃうから。

私の気持ちが分かったのか、母さんが満足そうに笑う。それから、話を続ける。



『ただ、本当に少しだけでいいから、考えて欲しいの。今のままでいいのかどうか』



・・・・・・どういう、意味だろ。ううん、私は今の言葉の中にある響きを知ってる。最近私やヤスフミの中にある感情だ。



「それなら具体的にはどうして欲しいんですか。局に入って欲しい・・・・・・ですか?」

『そうよ。魔法の事を考えても、一番ベストで、あの子の力を生かせる選択だと思う。
・・・・・・と言いたいところだけど、そうもいかないのよねぇ』

「問題、ありますよね」

『えぇ。私には今までと同じように、局に入って欲しいとは言えないわ。
今回はフォン・レイメイの事も含めて本当に色々と不手際があったから、言う権利がない』





言い訳・・・・・・じゃないか。私となのはと話した時も、母さんは同じ事を言った。

何も言えないから、ただ謝ることしかしなかった。

そしてアルフは組織なのだから、母さん達は悪くないと言った。むしろ正しい事だと言った。



・・・・・・今思い出してもイライラする。私だってそういうのは分かる。でも、それでも違う。





『まぁ、私はこんな感じ。それで、あなたの話よ。
あなたは・・・・・・どうしたいの? そして恭文君に、どうして欲しいのかしら』





私も前は局に入って欲しいと思っていた。同じ道を進んで欲しくて、居場所を見つけて欲しくて。

あと・・・・・・私の職場を、嫌いだなんて思って欲しくなくて、言い続けていた。

それが正しい事だと、強い力と、想いを持ったヤスフミが進むべき道だと、ずっと思ってた。



私は局の善意に助けられて、同じように誰かを助けたいと思ってたから。

色々な問題もあるけど、私の周りはそういうのとは全くの無縁。

だから、きっとあの子も居場所を作る事が出来ると思っていた。でも、それは間違いだった。



つまり、なにが言いたいかと言うと・・・・・・私は、目の前にちょっと前のそう言い続ける自分が居たら、殴りたいということかな。





「私は」

『うん』

「アルフが今言ったようには思えません。局員になるべきだなんて、思わない。
アルフの言葉に、全く納得出来ない」





私は言い切った。自分でも意外なくらいに力強く。それに少しビックリした。

というか母さんはともかく、アルフがビックリしてた。

そうだ、私は今アルフが言った事に対してだけじゃない。私は、自分に怒ってる。



こんなにも無神経で、バカげた言葉をずっとあの子に向けてたんだと思うと、自分が自分で嫌いになりそうなんだ。

そして、これも迷いの原因だ。私が『信じて欲しい』と言った局は、嘘つきだった。

母さんやクロノにはやては、理由はあったけど私達を裏切っていた。それは間違いのない事実。



それも分からずにあの子の願いを、憧れを否定して、自分の感情を押し付けていたかと思うと、本気でイライラする。

イライラするから・・・・・・きっと、変わりたいと願っているんだと思う。そうだ、それだけは間違いない。

今私はきっと、以前の自分に対しても言ってる。どうしてあんな風に思っていたのと、本気で怒ってる。



色んな道があって、考えがあって、世界があって・・・・・・だから今という時間は楽しい。

それはあの子に教えてもらった事。あの子と出会わなければもしかしたら知らなかった事。

そうだ。あの子はいつだって、ありったけで壊し続けてくれていた。



思い込みの激しい私が知らない間に何度も作り上げている・・・・・・狭くて、偏った世界を。



壊し続けて、手を引いて、教えてくれる。そんなの、本当につまらないことだと。



世界は広くて優しくて、沢山の答えと沢山の選択があるから楽しいんだとずっと教えてくれてた。





「殺した事は、確かに間違い。でも、無意味だなんて、誰にも言う権利はない。
私達は、誰もあの場に居なかった。何もしなかった。だから、何も言えない」

『いや、ある。アタシ達はアイツの家族だ。だから、アイツの間違いを正さなくちゃいけない』

「アルフ、話を聞いてなかったの? 私は・・・・・・ないって言ったの」



アルフに視線を送る。すると、アルフが小さく『ひっ!!』と漏らした。

私、今そうとうな目をしてるのかも。だめ、落ち着いて。



『でも、それを理解する人は少ないわよ? あの子は孤独に近い』

「孤独じゃないです。だって・・・・・・リインとアルトアイゼンが居る。
今のヤスフミの事を理解して、助けになってくれている人達が居る」



局の中だとナカジマ三佐にギンガ、はやてにクロノに守護騎士のみんな。でも、それだけじゃない。

GPOのシルビィさん達にフジタ補佐官に維新組の人達も同じく。私よりずっと、ヤスフミを理解してくれた。



『・・・・・・それは世界の中で、組織の中では極少数。
あの子のあり方を本当の意味で認める存在は、本当に少ない』



・・・・・・母さんがまるで嗜めるように口を開く。だけど、怒りは感じない。

否定じゃなくてあくまでも一つの側面として考えて欲しいというのが、伝わったから。



『それが、あの子の道を間違っているという証明にならない?
この道理が成り立つのであれば、あの子達の道は、間違っている』

「間違ってなんかいない。あと、それだけじゃない。
私は側に居る。ヤスフミの味方をすると、決めたから」

『フェイトっ!? アンタ一体何言ってんのさっ!!』





・・・・・・私の味方だから。そう言ってくれたよね。だから、私もそうするよ。

私もあなたの一番の味方になる。側に居て守る・・・・・・ううん、一緒に歩いていくから。

私と一緒に幸せになりたいと言ってくれた時、嬉しかった。だから、そのお返し。



というか・・・・・・あの、告白だよね? あ、あれって何度か考えるけど、告白だよね。

間違いなくそうだよね。というか、それしかないよね。というか、あの私・・・・・・うん、そうなんだよね。

ヤスフミに、告白・・・・・・されたんだ。というか、プロポーズ・・・・・・なんでだろ、おかしい。



前にされた時と違って、挑発とか、その場のノリとか、そういう風に受け取れない。

すごく嬉しくて、泣きそうになる。だからなのかな、信じたくなる。

ヤスフミに告白されたんだと感じる私の気持ちは、真実だって、信じたい。



と、とにかく・・・・・・あの子を守るために、私はちょっと頑張るの。うん。





『あなた・・・・・・それでいいの? というより、どうしたのかしら。
あんなにあの子に、局に入って欲しいと考えていたはずなのに』

『そうだよ。アイツは周りを傷つけて、勝手なことばかりしてる。
そんなこと許されるわけがないよ。このままじゃ、正直アタシは付き合い切れない』

「じゃあ付き合わなくていいよ。アルフは家族をやめればいい。私はそれでも付き合うから」

『フェイトっ! 本当にどうしたんだよっ!! なんでそんな悲しいこと言うのさっ!?』



悲しい? ・・・・・・今、アルフの言っている事の方が、ずっと悲しいよ。



「・・・・・・局には、ヤスフミの理想がない。ヤスフミの探しているものは、憧れているものは、役職や階級どうこうじゃない」



だからヤスフミに今抱えているものを忘れて、別のものを探せなんてこと言えない。

そんな残酷なこと、もう絶対に言いたくない。・・・・・・そんなの、嫌だ。



「そして現状の局では、それは貫けない」

『ヘイハチさんね?』

「はい」

『はぁ・・・・・・あのさ、フェイト。あのジジイじゃなくたっていいじゃん。どうしてこだわる必要があるのさ。
局の中には尊敬出来る人は沢山居る。あんな無茶苦茶なのじゃなくて、それにしちゃえばいいだろ?』



今のアルフの言葉に、また以前の自分を見つける。

・・・・・・私があんな感じだったからアルフもこうなのかなと考えると、胸が締め付けられる。



「アルフ、それ・・・・・・本当に正しい事だと思って言えるの?」

『え?』

「まぁ私もはやてに言われたんだけど・・・・・・ヘイハチさんはヤスフミの恩人で、師匠なんだよ?
そして誰よりも憧れてる。その言葉がヤスフミの夢を否定するものだって、分からないかな」



私がそう言うとアルフが固まった。そして理解出来ないと言わんばかりの目で、私を見る。

・・・・・・正直、はやての受け売りそのままってのがアレだけど、そこは気にしない。



「なにより、どうしてヤスフミの夢や願い、憧れを、私達の都合で変えてもらわなくちゃいけないの?
全部ヤスフミの物なのに。アルフ、もう一度考えてみて。それは本当にいいことなのかな」

『それは・・・・・・その、あぁもうめんどくさいなぁっ! フェイトはアレだよ、細かいこと気にし過ぎだってっ!!』



アルフはもしかしたら変わったのかも知れない。離れている間に、別人のようになっている。

だから今、考える事を放棄した。家族のためを思うなら、とても大事な事なのに。



『局に入ればなのはやフェイト、アタシやエリキャロみたいにやりたい事がすぐに見つかるっ!!
アタシ達はこんな心配をしないし、みんな幸せになれるっ! それでいいじゃんっ!!』

「よくないっ!!」



・・・・・・私はもう言えない。そう思う原因ははやてとヤスフミを六課に誘った時の事。

あの時みたいに諦めたような顔、もうされたくないよ。私あの時、すごく後悔した。



「全然よくない。アルフ、ちゃんと考えて。それは正しいことなの? ううん、そもそも正しい選択って何なのかな」



私は・・・・・・あの時気づいた。私はただ、ヤスフミに沢山笑っていて欲しいだけだった。

人を殺した事やこれまで背負ってきた重い荷物のせいで、笑顔で居られる時間を諦めて欲しくなかった。



「局に入ったから私達は正しくて、入っていない人達はヤスフミを含めて全員間違ってるの? それは絶対違うよ」

『フェイト・・・・・・なんで、なんでなのさ』



だからあんなの嫌だ。私はヤスフミに笑っていて欲しいから。だから・・・・・・嫌なの。



『確かにそうね。アルフ、あなた・・・・・・言ってる事が無茶苦茶よ』

『お母さんまで、どうしてそうなるのさ』

『そうなるのよ。・・・・・・ね、フェイト』

「はい」



画面の中の母さんが、ジッと私を見る。私はその視線を受け止める。そうして数秒後、母さんが口を開いた。



『本当に、それでいいのね?』



・・・・・・私は、母さんの言葉に頷く。



『ハッキリ言えば、局に英雄なんてもう必要ない。鉄は、必要とされていないと私は思う。
・・・・・・いいえ、少し違うわね。私達はあの方のような英雄を、もう必要としてはいけない』



それは否定。だけど・・・・・・残念ながら、私もここは同意見なんだ。



『そうして守られる世界は、否定するべきなの』

「私も、そう思います」





この世界は沢山の人の手で未来を決めていくべき。母さんの言っていることは、少しだけ分かる。

だから、ここはさっきと違って頷ける。うん、ここは・・・・・・頷ける。・・・・・・必要がないのは『英雄』。

決してヘイハチさんじゃない。そして鉄を英雄と見るのであれば、鉄も必要じゃないかも知れない。



だって一人の英雄で守られる世界は、結局その一人に押し付け、その犠牲で守られてるのと同じだもの。

そうじゃなくて、みんなで守っていく。世界って言うと大きいけど、例えば目の前の事件とかでもそう。

ここだけは、私は母さんの言葉に頷ける。確かに英雄なんていらないのかも知れない。



ただ、これは決してヘイハチさん自身を否定しているわけじゃないのは、覚えていて欲しい。





『あの子はそんな英雄を追いかけているわ。下手をすれば、人生を台無しにする可能性もある。
・・・・・・それでも認めるというのね? あの子の選択は、あの子自身のものだから』

「はい。認めます。あと・・・・・・それだけじゃありません。
そうならないように繋がって一緒に考えていきます。ヤスフミの事・・・・・・好き、ですから」





私も教えていこう。そして、壊していく。あの子が自分の狭い世界の中に居たら、それを壊す。

壊して、私にしてくれていたみたいに、手を引く。手を引いて、ありったけで伝える。

世界はこんなに優しくて広いんだと、伝えていく。あなたは過去を理由に諦めなくていいんだって伝える。



私はヤスフミみたいに上手く出来ないかも知れないけど、そうしたいの。

私の世界も繋げていけば、きっと・・・・・・もっと広い世界になるから。

それで・・・・・・あの、いいのっ! とにかく、こうしていくんだからっ!!





『そう。・・・・・・なら、それでいいんじゃないの?』

「え?」

『ちょっと、お母さんっ!!』

『アルフ、黙ってなさい。・・・・・・あなたは、そうしたいのよね。今のあの子が好きだから。
だったら、それでいいわ。ただ・・・・・・私はちょっと、それが出来ないのよ』



母さんは、苦笑いしながら言った。その言葉の重さに、胸の中が苦しいもので埋め尽くされた。



『・・・・・・本当に、あの方ももう少しだけ楽なお願いをして欲しいわ。色々大変なのに』

「あの、母さん?」

『今から少しだけ愚痴っちゃってもいいかしら。あなたには、ちゃんと説明しておいた方がいいみたいだから。
それで今から私が話す事は、内緒にして欲しいの。あの子もそうだし、他の誰にも。そこだけお願い出来る?』



私は・・・・・・とりあえず、頷くことにした。それに安心したような顔を浮かべて、母さんは話し出した。



『あの方ね、恭文君に自分のようにはなって欲しくないと言ってたの。
だから8年前、私にあの子を養子にして欲しいと頼んできたのよ』

「養子にって・・・・・・え、ヘイハチさんがっ!?」



私とアルフはその言葉に驚いた。そして、母さんは私の言葉に困ったような顔で頷いた。

というか、ビックリした。だって、その話は知らなかったから。



『これ、うちで言えば、クロノとエイミィしか知らない話なの』



・・・・・・なんでも、クロノはその場に居たから。エイミィは、前にヤスフミの事を心配して、色々聞きに来たらしい。

その時に訓練校に入れた方がいいんじゃないかという話になって・・・・・・説明したとか。



『・・・・・・自分のような生き方は、これからの時代では間違っていていい。もう、自分はその道を進む覚悟を決めてる。
とっくの昔に自分のバカさ加減に気づいて選んで、貫く事を決めた。なぜならそれが自分だから。でも、あの子は違う』



母さんはどこか思い出すような・・・・・・遠い場所を見るような瞳で、言葉を続ける。

私は、それを黙って聞くことしか出来なかった。



『あの子は、沢山の可能性を持ってる。今は見えない可能性を、自分の後を追う生き方だけに限らせたくはない。
だから変わる時代の中で一番正しいと思える生き方を、しつこいくらいに教えてあげて欲しい。そう、お願いされたの』

「そんな・・・・・・だってヘイハチさんはヤスフミの先生なのに。というか、しつこいくらいって」

『私も同じ事を聞いた。そして、質問すると平然とこう言ったわ。
『アイツは頑固でその上本当のバカだから、それくらいしないと理解しない』と』



・・・・・・ヘイハチさん、きっとそれはヘイハチさんにだけは言われたくないと思います。似たり寄ったりじゃないですか。



『そしてその選択肢を教えた上で恭文君がどうするかは自由だと、あの方は言っていたわ』



・・・・・・・・・・・・えっと、それはつまり・・・・・・あの、どういうこと?



『ようするに、あの子はこのままでは普通に自分の後を追って行ってしまう。でも、それがいいことだと考えられなかった。
だから私達の中で・・・・・・局の中では一般的で良心的な私達と関わることで、色んな選択肢を考えて欲しかったそうなの』

「だから母さんに養子にして欲しいと?」

『えぇ。最初は戦う事以外も知って欲しかったんだけど、あの子は・・・・・・ちょっとアレでしょ?
運も悪いし、結局は人助けのため・・・・・・自分以外の誰かの今を守るために、ありったけで飛び込む』



・・・・・・うん、言いたいことは分かった。どっちにしても厄介ごとに関わると。

リインやフィアッセさんの時が一番いい例かな。逃げる事もそのための言い訳も出来たのに、結局最後まで飛び込んだ。



『きっと口ではなんだかんだ言うけど、人が・・・・・・世界が、あの子は好きなのよ。
だから手を伸ばす。全部は無理でも、目に映るものだけはなんとかしようとする』

「確かにそうです」

『なら、局員になってもらおうとずっと思ってたの。局なら魔法の事も受け入れてるし、あの子の居場所にもなれる。
あの子はあの方が言ったように、沢山の可能性があるわ。きっと現状の不満点だって時間はかかるけど、変えられる』



どうしてそう思うんだろう。今の母さんの言葉は・・・・・・なんというか、確信を強く持っているように感じる。



『あの子にはあの方の影響どうこうは抜きにして、どこか人を惹き付けるものがある。それはとても大きな素質。
その大きな素質を正しい形で世界と、そこに住む人達を守るために使って欲しいと思った。それともう一つ』



母さんの表情が、重くなった。それを見て少しだけ、胸が痛む。



『私自身があの方の生き方を認められないから。・・・・・・ホント、ひどい母親よね。
養子縁組はしてないとしても、息子の憧れの人が嫌いだって言うんですもの』



そう言って、母さんは笑う。少しだけ悲しそうに・・・・・・そして、辛そうに。



『確かにあの方は英雄。でも、同時に社会不適格者。
あの子を預かった以上、そんな道には進んで欲しくなかった』



・・・・・・だから、あんなに局員への道を勧めていたんだ。



「それが母さんの願いなんですね」

『・・・・・・そうね。ただそれだけじゃない。あの方から頼まれた事よ。
私が思う、世界と人の正しい有り方。それが・・・・・・これだと思うの』



私は・・・・・・何も言えなかった。確かに、事実ではあるから。



『さっきも言ったけど必要なのは英雄ではなく、人よ。管理局だけの事ではなくどこでもそう。
組織や世界の現状に不満があるなら、まずその現状そのものを変える努力をする』



そこは分かる。現にクロノさんや母さんは、そうしている。

あと、はやてもだね。管理局を、組織をもっといい形にしようとしている。



『そんな今という時代に沿った正しい形を、誰の目から見ても正しいと認められる選択を取り、実行出来る人間を求めている。
出来る事ならそんな道を進んで欲しいの。いいえ、社会に関わりこの世界で生きるなら、そうしなければならないとさえ思う』



・・・・・・だからヘイハチさんはいらない。英雄だろうと、社会不適格者だから。

だから認めてはいけない。だから、今のヤスフミは・・・・・・否定されるべき・・・・・・なのかな。



『最初はやるせなくて苦しいかも知れない。しがらみの中に、窮屈さも感じると思う。
でもきっと20年後・・・・・・いえ、10年もあれば充分ね』

「10年・・・・・・ですか」

『えぇ。この道はあの子の理想を貫く結果を必ず出せる道だと思う。
いいえ、確信しているわ。だって、私達も協力していくのだから』

「その10年の間に、ヤスフミがそうするが故に後悔して、取りこぼしたら・・・・・・どうするんですか」

『私達と一緒に共有して、分け合って、変えていく力にすればいいわ。
その力と悔しさの分だけ、10年後の世界はきっといいものに変わる』





母さんの言うようにこれは正しい道。自分と周りの人達と世界を信じて、預け合って少しずつ変えていく。

別に管理局どうこうだけじゃない。一般の人達も、きっとそうしている。

だけど・・・・・・・・・・・・ヤスフミ、私なんだか分かってきたよ。これは、言い訳でもある。



ルールや規律のために取りこぼして、傷ついた人達の事を見過ごすための、言い訳でもあるんだ。





『とは言え』

「はい?」

『フェイト、あなたも思ったわよね。これは言い訳だと。きっと、それは正解』



母さんはアッサリ認めた。自分の言う事が言い訳だと。



『正直ね、自分で言ってて自己嫌悪に陥りまくってるのよ。だって私、普通にそれが出来てないもの。
ここ最近は特に顕著。それなのにあなたやみんなに『組織を信じて預けてくれ』なんて、言えないわ』

「えっと・・・・・・・あの」

『あ、ごめんなさいね。つい色々愚痴っちゃって』



私は、母さんに首を横に振って答える。というか、愚痴は聞くことが必要なんだしこれで正解なんだよね。



『・・・・・・とにかくね、あなたがそうしたいのであれば、私は止めない。むしろ、あなたを応援してもいいくらいなの。
ただ私は他はどうあれ、こうしていく。だからそこの辺りで喧嘩はやめましょうね・・・・・・という話がしたかったの』

「ヤスフミを否定する・・・・・・いいえ、世界にとって正しいと思われる答えを、伝えていくということですか? その、しつこいくらいに」

『えぇ。しつこいくらいに』



それが母さんにとってヘイハチさんとの約束を守ることになる。だから、母さんはここまでしてる。



『あと、あの子はもしかしたら現実とちゃんと向き合っていないかも知れないって、ちょっと思っちゃうの。
組織・・・・・・人や世界と向かい合って、変えるべき現実から逃げているだけなのではないかと』

「そんな・・・・・・!!」

『あぁ、怒らないで? あくまでも可能性の話。実際、あの子が今現在そうしているという事ではないから』





とりあえず落ち着く。そうだ、母さんは冷静なんだから。でも、ヤスフミは逃げている?

違う、そんなの絶対に違う。ヤスフミは、逃げる事なんて選んでない。

今までもそうだし、今だってそうだ。・・・・・・もしそうしているなら、とっくに六課から居なくなってる。



今ここに居て、私と一緒に幸せになりたいなんて、言うわけが無い。





『現に地上本部のレジアス中将のお誘いまで断ってたでしょ? それも相当な好条件。
様子を伝え聞くに、あの子は喜んでいたそうなのに・・・・・・うん、そこは相当不満ね』

「どうしてでしょうか」

『フェイト、あなたはあの場に居たのよね? だったら、分かるはずよ』



少しだけ母さんが言った意味を考える。考えて・・・・・・あぁ、そっか。



「理由は察するに・・・・・・レジアス中将が、今のヤスフミをちゃんと認めていたからですね」



レジアス中将は、鉄であるヤスフミだから誘った。

表彰の話も持ちかけた。話していて私はそういう印象を受けた。



『そうよ。どうもあの子はレジアス中将が好きなタイプらしいでしょ? そんな人の下で働けるのよ?
本当にいいチャンスだと思ったの。私、誘っていただいた事はありがたく思ったんだから』

「実は私やはやて、リインにみんなもです。まぁ一番嬉しそうだったのは、ヤスフミなんですけど」

『でしょうね。・・・・・・それなのにどうして断っちゃったのかなーと、正直疑問であり不満なの。
さっきの話も絡めて考えると色々不満が出ちゃって、ついレティとかに愚痴っちゃったりしたの』



だけどヤスフミが受けるわけがないのは、母さんも分かっていたはず。というか今そういう話をしている。ただ、それでもらしい。

とは言え、それは私が聞いていたヘイハチさんどうこうという話じゃない。・・・・・・本当にヤスフミの事を心配してたんだ。



『どんなものでも、それは未来への一つの道筋。あの子の選択は、それを閉ざす行為であることには間違いないと思う。
断るにしても殺した事を理由にして欲しくなかった。それを理由に選択を閉ざして欲しくなかった。それが私の正直な気持ち』

「そう、ですか。ただ母さん、それだけが理由じゃないんです」

『え?』

「・・・・・・ヴェートルの一件での自分への評価が高過ぎると感じてるようなんです。
それでヤスフミが逆に引いちゃってるんです。それもリアルに」



増長するという方向ではないのは、ヤスフミがただの自分として戦ったからだと思う。

泣いている誰かのために・・・・・・いつも通りに、らしく頑張ったから。



『そう言えばレジアス中将がお誘いした時もその話をしたらしいわね。・・・・・・あぁ、だからなのね。
いわゆるヒーロー的な扱いを受けるのが恥ずかしいというか、辛いというか・・・・・・そういうのも理由』

「みたいです。ヤスフミ本人に自覚があるかどうかは分からないですけど」

『そう。・・・・・・実はそこの辺りで増長してるんじゃないかとも思ったんだけど、私の気のせいだったか。ふふ、そうよね』



母さんは右手で口元を押さえて、嬉しそうに笑う。それに私は・・・・・・首を傾げる。



『あの子は基本的にすごく照れ屋さんだものね。あー、でもそこを含めるとまた別の不満が出てくるわ。
そんな理由で断ったんなら、本当にもったいないんですもの。せめて考えるくらいの事はしてよかったのに』

「そうですね。でもヤスフミ、こうも言ってました。『入りたくなったら、自分の力で入る』・・・・・・と」

『・・・・・・そうなの?』

「はい」

『だったら・・・・・・納得かな。あー、やっぱりコミュニケーションが不足してたわね。うん、ここは確定だわ』



なにやら納得してくれた母さんはともかくとして、私は話を戻す事にした。ちょっと話、逸れてるもの。



「でも・・・・・・母さん、本当にそれでいいんですか? その事、ヤスフミに話せば」

『いいの。だって私の勝手でやってることだもの。あの子には関係がない。
私はあの子が今よりしっかりとした形で道を見据えるまで、言い続けるだけ』



躊躇い無く母さんは言い切った。さっきまでの愚痴を言っていた時の疲れたような空気は、消えている。



『世界や組織、人にとって正しいと思われる、今の時代での選択を。
そしてそれを選ぶ勇気と、そんな人達を信じていく覚悟の尊さを。しつこいくらいにね』



・・・・・・母さん、なんていうかバカだよ。普通に話せばいいのに、どうしてそうなっちゃうのかな。



『例え自分の言っている事が薄っぺらくて、意味の無い蔑まれるような綺麗事でもそうするの。それが私の母親としての仕事』



なんか、私・・・・・・ダメなのかも。私も保護者をやってるけど、ここまで出来てないよ。

本当にダメだ。母さんみたいな覚悟、私はきっと出来ない。



『・・・・・・とにかくね、あなたがあの子の味方をしたいのなら、それでいいの。
ただ、絶対に忘れないで欲しい。あの子はとても不透明な部分を持ってる』

「どういう意味ですか?」

『フェイト、今私とアルフに向かって『味方になる』と言い切れたあなたなら、答えを知っているはずよ』





・・・・・・はい、知っています。ヤスフミはあまりに傷ついた誰かに手を伸ばし過ぎて、自分の事を顧みない。

もっと言えば『一番の味方』になるために、おざなりになる部分があるの。そこが私が今まで怖がってたところだった。

変わっていく気持ちはあるようだけど、それでも・・・・・・少し心配。なんだ。



なんだろう。やっぱりヤスフミの中の何かが見えていない感じがする。





『まぁ大丈夫よね。一緒に考えて決めていくんでしょ? それなら二人して狭い視野にハマることも』



母さんはそこまで言いかけて止まった。そして、厳しい視線で私を見る。



『・・・・・・やっぱり心配だわ。うちの息子と娘は、揃って頑固で突っ走るお人よしだし』

「公私ともに嫌われ者を買っている母さんに、言われたくありません」

『それもそうね』



だけど、少し嬉しい。私達・・・・・・なんだかんだで、親子出来てるのかも。

血の繋がりはないけど、出来ているんじゃないかと、感じた。



『ただフェイト、さっきも言ったけど』

「分かっています。ヤスフミにも、みんなにも話しません」

『えぇ、お願いね』





私の返事に、母さんが満足そうに笑う。これで・・・・・・いいんだよね。きっと、これでいいんだ。

ヤスフミに話したら、きっと自由に選べなくなっちゃうから。ヤスフミは優しい子だから、きっとそうなっちゃう。

とにかく私はもう少し話を続ける事にする。なんだろう、何かが変わってきてる感じがするから。



そのために気持ちを固めて・・・・・・口を開いた。いや、開きかけた。





「フェイトちゃん、居るっ!?」

「なのは、どうしたの?」



その瞬間、談話室のドアが開いた。そこからいきなり飛び込んできたのは、なのは。

というか、どうしたんだろ、すごく慌ててるし。



「それがたいへ・・・・・・あ、リンディさんにアルフさん」

『なのはさん、こんばんは。それでどうしたの?』

「そうだよ。そんなに慌てて」

「あったなかったじゃないのっ! 恭文君とエリオが決闘とか言い出してるのっ!!」



言ってる意味が一瞬分からなかった。なので、当然のように少し考える。

少し考えた結果・・・・・・ようやく、理解出来た。決闘・・・・・・つまり、二人は戦う。



『『「・・・・・・・・・・・・えぇっ!?」』』

≪・・・・・・リンディ提督、どうするおつもりですか? これでエリオ・モンディアルは再起不能でしょう≫

『え、えっと・・・・・・もしかしなくても、私やアルフが原因?』

≪他にありますか?≫










夜も8時になろうという時間。そんな時間に突如始まる戦いは、ある意味で必然だった。





というか、なんでいきなり・・・・・・あぁもう、どうなるのこれっ!?





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・という感じで模擬戦があって・・・・・・これなんだね」

『うん。・・・・・・って、エイミィなんで分かるのっ!?』

「なんとなくね」



今のフェイトちゃんの様子とクロノ君から聞いてた話を総合すると、読み切れるのよ。



「・・・・・・ね、お母さん。アイツはもう局に入れちゃおうよ。そうすれば」

「だめよ」



唐突とも言えるアルフの言葉を、お母さんは遠慮無く叩き切った。

てゆうか、マジで懲りてないし。なんなの、これ。



「てゆうか、お母さんもあのジジイの頼み事なんて、聞く必要がないよ」



頼み事? ・・・・・・あぁ、あれか。霊剣事件の後に、お母さんから教えてもらった約束。

ヘイハチさんとお母さんが、恭文くんを大切に思ってくれていたのが分かった話。



「なんでそうなっちゃうのさ。そうだ、必要がない。そんな約束守る必要ない。
アイツはアタシ達ハラオウン家の人間なんだから、アタシ達の言う事を聞くべきなんだ」

「アルフ、一体なに言ってるのっ!? そんなのおかしいよっ!!」

「おかしくないよ。全く・・・・・・あのさエイミィ、一体アタシの言ってる事に、どこがどう問題があるって言うの?
アタシ達みんな、あのバカに散々面倒かけまくられてるのに。てーか、今のままならアイツはうちにとって迷惑な存在だ」



・・・・・・頭が痛くなってきた。アルフは、ずっとこう思ってたんだ。

確かにあの子が問題を起こす事は多かったけど、それでもこれなんて・・・・・・!!



「大体アイツは母さんが保護責任者にならなかったら、家族なんて作れずにずっと一人ぼっちだったんだぞ?」



確かにその通りだよね、知ってるよ。恭文くんの実の両親は・・・・・・あんな感じだから。

お母さんが引き取らなかったら、多分一人で居たと思う。



「アイツはアタシ達に対して恩義がある。それも、大きな恩義さ。
アタシもそうだったから分かる。その恩義は、しっかり返さなくちゃいけない」



そしてフェイトちゃんもアルフも同じような感じだった。そう考えると、言いたい事も分かる。

だけどこれは違う。今アルフが言っている事は絶対に違う。大体、勘違いしてる。



「アタシやフェイトは、しっかりと返してる。局員になって、世界を守る事でしっかりとだ。
でもアイツはアタシらに対しての恩義をちゃんと返してない。どう考えたってそれは間違ってるだろ」

「アルフっ! いい加減にしてっ!! それ・・・・・・いくらなんでも」

「エイミィ、落ち着きなさい。・・・・・・あぁもう。あのね、アルフ。
あなた・・・・・・私の話を聞いてなかったでしょ。それではだめなの」





お母さんが、怒りを通り越して呆れ気味に言うのは無理もない。

だってお母さんがヘイハチさんに頼まれた事は、選択を教える事。

それも今の時代で正しいと思われる選択を。



その上、しつこいくらいにという条件がつく。無理矢理に入れるのは、意味が無い。





「選ぶのはあの子の自由。私はあの子に『過去を理由に諦めないで』という選択を伝えるだけ。
本当にそれだけでいいの。あと、あなたはどうも勘違いしているみたいね」



本当に呆れているという様子で、母さんがため息を吐く。なお、私も同じく。

アルフが不満そうなのを見て、もう一発殴ってやろうとか考えてしまった。



「私はあの子の事を面倒だなんて、思ったことはないわ。
あの子が居ることが迷惑だなんて思ったことも、一度も無い」

「どうしてさ。現に散々やらかしてる。エリオとキャロを見ろよ。
二人は本当にしっかりしてるのに、アイツだけアレなんだよ?」

「例えそうだとしても、あの子は・・・・・・私の息子だからよ」



アッサリと言い切ったお母さんに、アルフは信じられない様子で目を見開いた。



「ヘイハチさんの頼みがなくても、私はきっとあの子を養子にして同じ事をしていたわ。
あの子が人を殺した事を理由に、未来を閉ざさないように。そんなの認められないから」



また母さんはため息を大きく吐く。アルフが、困惑したような表情になる。

どうやら本気で自分が呆れられている事に、ようやく気づいたらしい。



「それになにより恩義を返して欲しいがために、私はあの子やあなた達を引き取ったわけでもなんでもないわ。
どうしてそうなるのか非常に疑問よ。いいえ、悲しいわ。アルフ、あなたから見て私の行動はそんな風に見えていたの?」

「いや、そうじゃない。違う、違うよ。そうじゃないんだ」

「そういうことよ。というか、あなたの今の言葉は、そうとしか聞こえないわ」

『・・・・・・アルフ、そこに関しては私も同感だよ』



真面目にアルフは色々ダメになっているらしい。だから気付かなかった。

今、本気で悲しそうな顔をしているフェイトちゃんもその条件に当てはまることを。



『私はエリオやキャロに局員になって恩を返して欲しいなんて思ったこと、一度もない。
むしろやめて欲しいくらだもの。・・・・・・アルフ、ほんとに・・・・・・ほんとに悲しいよ』

「違う。そうじゃないよ。アタシはただ人としての道理を」

『そんな道理なら私はいらない。そんな道理のためにヤスフミが笑えないなら・・・・・・私は、恩知らずなヤスフミのままがいいよ』



冷静にだけどアルフに対しての呆れを隠し切れないフェイトちゃんを見て、アルフが本気で困ってる。

どうして伝わらないのかと困惑しているけど、そのままお母さんは話を続ける。



「大体あの子がおかしいなら、私はもっとおかしいわよ。私は今よりもっと酷いものを、あの子より悲しい物を沢山見てる。
これでも一応魔導師として前線で戦ってた身ですもの。・・・・・・私も人殺しよ。恭文君より、多く手にかけてる」

「ち、違うよっ! だってお母さんは、ちゃんとしてるしっ!!」

「違わないわ。というより、あの子と私の何が違うというの。・・・・・・アルフ、本当にいい加減にしなさい。
この事を恭文君に話したりさっきのような事を言うのも、絶対に許しません。いいわね?」



アルフは本当に不満そうに頷く。まだ、認め切れてない。

・・・・・・六課のみんながエリオと話した時も、こんな感じだったのかも。



「あとフェイト、厳しくする時は、こういう感じでしなくちゃだめよ?
あなた、なんだかんだで恭文君に甘いから。アルフにも同じくよ」

『・・・・・・はい。母さんに負けないくらいに、すごく厳しくいきたいと思います。もちろん、しつこいくらいにです』



フェイトちゃんがそう返事をすると、お母さんはなんだか嬉しそうに笑う。

そうして、さっきまでとは打って変わった優しい瞳で、フェイトちゃんを見る。



『それで・・・・・・あのね、アルフ』

「なにさ。これ以上何の話があるのさ。何だよ、みんなしてアタシを悪者にしてさ。
アタシはハラオウン家の使い魔として、ちゃんと仕事をしてるだけなのに」

『してないよ。・・・・・・アルフ。そこまで言うなら、もういい。私、庇わない。
ヤスフミとティアがアルフを犬鍋にしちゃっても、私は助けないから』



そこまで言うとは思ってなかったのか、アルフがまた泣きそうに・・・・・・あぁもう、どうすればいいのこれ。

全然話が出来ないし。てゆうか、なんでこうなるのかがさっぱりだよ。



『そんな顔をしてもだめ。言ったよね? 私、本気で怒ってるって。
ティアが言ってたよね? 『ふざけんじゃないわよ』って。・・・・・・その通りだよ』



ここまで言っても、アルフは納得しない。自分が家のために動いたという錯覚を、頑なに守ろうとしてる。



『特にヤスフミは本気で怒ってる。アルフ、ヤスフミの性格は知ってるよね。ヤスフミは自分の為に怒る子じゃない。
優しくてお人好しな私の大好きな男の子は、何時だってどんな時だって理不尽に傷ついたり泣いたり、貶められた人のために怒るの』



・・・・・・その言葉に私とお母さんは顔を見合わせる。いや、確かにそれは事実なのよ?

そういう子だって、私だって知ってる。でもあの・・・・・・『大好き』って何さっ!!



『アルフは侮辱して見下した。魔法や局にあまり関係がなくても、真っ直ぐに頑張ってる恭也さんとフィアッセさん達を。
局の外部組織ではあるけど、とても大切な事を今も別の世界で続けている・・・・・・ヤスフミの仲間達の仕事を』



そんな私達の疑問はさておき、フェイトちゃんは言葉を続ける。それは、最終警告に近い。



『もう一度言うけど、私は絶対に助けない。むしろ私がアルフを叩きのめしたいくらいだもの。
そして本気で怒ってる時のヤスフミがどれだけ強いかも、当然知ってるよね』



少しだけでも自分の非を認められないようなら、そういう事になると宣言している。

なお、今のアルフでは絶対に勝てないと思う。だって既に恭文くんの方が経験豊富だもの。



『別に力尽くで言う事を聞かせたいならそれでもいいよ。大人モードも使っていい』

「フェイトっ! さすがにそれは」

『母さん、いいんです。・・・・・・ただ、覚えておいて。
その手を取ったら、私はアルフを絶対に許さないから』



ここまで言われても、アルフは全部恭文くんに押し付けてる。ここまで言われてもまだ。

だって、すごく不満そうで自分が被害者だと思ってるのが丸わかりだもの。



『・・・・・・アルフ、お願い。認めて・・・・・・くれないかな』



・・・・・・その様子にフェイトちゃんがため息を吐く。



『ヤスフミの事もそうだけど、自分が少しだけ、間違えた事を』

「嫌だ。アタシは・・・・・・間違えてなんて、ない。間違えてるわけがない。アタシは」

『ヤスフミ、少しずつだけど今までの自分を変えようとしてるんだ。ただ、局に入るどうこうじゃないの。
過去を理由に諦めていた事があるから、何も諦めない自分を始めようとしている。私も同じ』



・・・・・・そこでフェイトちゃんは話してくれた。最近恭文くんと話して、色々気づいた事を。

ここ最近のあれこれで、局員としての自分に疑問を持った事とか色々。



「アイツが・・・・・・アイツが余計な事を言うから」



アルフ、また・・・・・・またそうやって恭文くんを悪者にするっ!!

どうしてそれが全ての原因だって、気がつかないかなっ!!



「・・・・・・ね、フェイト。局員以外でもやりたい事を探しているのよね。
アルフの事はいいから、そこだけ軽く教えてくれない?」

『はい。執務官の資格自体は、局員を辞めても残りますから』



この辺り、執務官が嘱託でも取れるようになったおかげだね。いや、時代は進んだよ。



『私、最終的にどうするかはともかく、色んな事を考えてみたいんです。
今までどこかで諦めていた色んな可能性を探したい。局員以外でやりたいことがあったら』

「そっちに行って、勉強するということね」

『はい』



で、それを考えている最中と。・・・・・・別に悪い話じゃないよね。だって、フェイトちゃんはまだ19歳。

地球なら、そういう事を考える年頃だもの。全然おかしくないよ。



「まぁフェイトがこう思う原因は私やクロノ、六課という部隊のせいだから、ここはなにも言えない。
アルフの事も・・・・・・その実余り言えないのよね。厳しくはしなきゃいけないけど、それでも」

『そうですね。私や母さんのせいでもありますから』



それを聞いてアルフが泣く。正直ちょっとイラってくる。泣く権利とか、無いと思うのに。



「フェイト、どうして・・・・・・どうしてそんな風に思うのさ。今まで、こんな事無かった。
アタシ、そこが全然分からない。アイツが余計なこと言ったからとしか、思えないよ」



アルフが泣きながら聞く。フェイトちゃんはその視線を受け止めながら、優しく答える。



『108のナカジマ三佐・・・・・・スバルのお父さんからね、部隊に誘われたんだ。
ヤスフミと一緒に、六課解散後はうちに来ないかって、かなり真剣に』

「108ということは、地上部隊よね。察するに、あなたの執務官としての能力を見込んでかしら」

『はい。・・・・・・それでね、アルフ。その時、気づいちゃったの。
私さっき話した通り、今の局の体制や自分が嫌いになりかけてる』



教えてくれたのは誘われた時、どうして執務官をやりたいのかは答えられても、本局でそれをやる理由を、答えられなかったこと。

ううん、局の中で今の自分の想いを貫く意味が分からなくなっている事に気づいたらしい。ここはさっき話してくれた事と同じ。



「でも、全部は世界・・・・・・局のためじゃないか。フェイトは何にも悪くない。
アタシ達の世界を守るために必要なことなんだ。この間も話したじゃないのさ。なのに、どうして」

『アルフ、それ・・・・・・私が死んでも同じ事が言える?』

「え?」



・・・・・・うん、そうだね。細かい事情は知らないけど、大体の察しは付いた。

確かにアルフの言ってる事は全く納得出来ないわ。 てーか、無茶苦茶にも程がある。



『私だけじゃない。エリオやキャロ、なのはにはやて。シグナム達守護騎士・・・・・・みんなが死んでも、同じ事が言える?
六課には私達とは関係なく、夢に近づくためにここに来た子も居る。その子達が死んでも、そう言えるのかな』

「それ・・・・・・は」

『現にそうなりかけた。それでも局員だから、組織の一員だから、これは仕方のない事なんだ。気にする必要は無い?
・・・・・・はっきり言って、これは言い訳。ただの言い訳だよ。理由はどうあれ、振り回してるのは確かなのに』



アルフの瞳の涙が止まる。止まって、何度目かの戸惑いの視線をフェイトちゃんに向ける。

・・・・・・まさか、そこを考えてなかったとか? いやいや、さすがにそれはないでしょ。



『私は言えない。だから嫌いになりかけてるの。私、本当に何がしたかったのかなって迷ってる』



なるほど、もしかしたら恭文くんが殺したって言う犯罪者の登場もその要因なのかも。

実際にそうなる可能性が明確な形として出た事で、フェイトちゃんの不安が加速度的に上がったんだ。



『私は局や世界の都合に大切な人達を巻き込むために、そんな事のために局員になったわけでもなんでもないのに』





だけど私には今ひとつ分からない話が出てきているので、お母さんを見た。そして一つ質問をする。

『・・・・・・大きな事に巻き込んでるんですね』と視線で聞く。で、右手を上げて『ごめんなさい』と返事が来た。

あー、でもこれで私も納得した。確かにこりゃあ、フェイトちゃんが疑問に思うのも無理ないわ。



フェイトちゃん、優しいもの。そんな理屈で納得出来るはずがない。

単純に考えても恭文くんにエリキャロ、シャーリーになのはちゃんを巻き込んでる。

あとフェイトちゃんが六課に推薦した、ルキノちゃんか。アースラの事務員やってた子。



多分本当にショックだったんだろうな。それで現状が凄く嫌になってきた。





『あと、エリオの事もあるんだ。エリオはずっと言ってた。自分達は、世界は、局は正しいって。
でも、私はどうしてもそれに頷けなかった。・・・・・・ホントに、色々疲れちゃったんだ』



それを聞いた時のアルフの表情は、愕然としたものだった。・・・・・・マジで自覚がなかったらしい。

家のためによかれと思っていた行動が、結果的に何もなってなかった事に、今更衝撃を受けている



『それにね』

「フェイトちゃん、まだ何かあるの?」

『うん。ヤスフミ・・・・・・執務官の資格を取ろうかどうか、かなり真剣に考えてたらしいの』

「「「えぇっ!?」」」



や、恭文くんが執務官っ!? え、そりゃまたどうしてっ!!



『最近制度が変わって嘱託のままでも資格が取れるようになったから、資格勉強の一つとして。
だけど・・・・・・執務官ってやっぱり試験が難しいし、勉強する場が無いから』

「いやいや、それならフェイトちゃんのところでいいでしょ」

『・・・・・・私があんまりに局員になることを押すから、相談するのを躊躇ったって言われたの。
嘱託じゃなくて、局員として資格取得を目指そうと言われると思ったらしくて』

「納得したわ」



いや、それは・・・・・・ありえるな。今は違うっぽいけど、フェイトちゃんも心配してたから。

実際にやってみてから考えようって、言いまくってたしなぁ。まぁ、私も言った事あるけど。



「そう言う風にこだわり過ぎていた・・・・・・もっと言えば、局を絶対視していた」



幸いな事に身内にガチに黒い人間は居ない。なおかつぶっちぎりで能力が高い。

そういうのもみんなが局を信じて欲しいと思う要因なんだよね。



「だから、恭文くんに妙な距離を取られちゃってたんだね」

『だと思う。正直、これはショックだった。私、局員になろうって言ってたのは、ヤスフミの力になるつもりだったの。
だけど実際はなってなかった。私はヤスフミに対して妙な壁を作ってたの。局員じゃなきゃダメって押し付けてた』

「それも、最近分かったこと?」

『うん。・・・・・・ホントにここ最近で色々積み重なったんだ。それで少し考えたの。
どうして自分は局員を続けていて、局で何がしたかったのかな・・・・・・と』





それで、恭文くんと色々話して、少し分かったってことだね。そして気づいた。

今までが間違ってるわけじゃないけど、諦めてた事がある事を。まぁ、ここはクロノ君から、ちょろっと聞いてたところ。

フェイトちゃんは、自分にとっての『なぜ?』にぶつかって、迷ってる。それで、自分が今の仕事を続ける理由。



・・・・・・あー、ここはちょっと違うな。人や組織に依存しない自分の居場所や、存在の仕方を作る事を決めたとか。





『執務官でエリオとキャロの保護者、そして局員だから私なんだという風にどこかで思い込んでた。
でも、それはちょっと違う。そんな自分を少しずつでも変えて、少しだけ強い自分を始めていきたいの』



どうもそういうことらしい。仕事も保護者もただの自分も、絶対に何も諦めたりなんてしない。

そんな本当にちょっとだけ強くて、今までよりもわがままな自分になりたいとか。



『・・・・・・今日のエリオを見てて、ヤスフミを見てて、気持ちが更に強まった。私はあんな風になりたくない。
ううん、なりかけてた。だって、私も同じ部分があったの。エリオが考えていた事は・・・・・・きっと私にも有るから』

「よく、分からないよ。・・・・・・分かんないよ。ねぇフェイト、そんなのやめよ? 今のままで充分じゃん。
みんなが居て大事な仕事がある。自分の居場所がある。それだけでいいじゃん。なんでそうなるのさ」

『ならまた今度話そうよ。私もみんなもアルフが分かってくれるように伝えていく。だって、アルフは私達の使い魔だもの。
ただ・・・・・・もうこんな事も、ヤスフミを悪く言うのもだめ。ヤスフミも私と同じなの。自分の道を少しずつ探してるだけ』





つまり二人は一緒に色んな事を考えていくことにしただけ。アルフが言うような事は、なにもない。

どうやらフィルターがかかっていたのはアルフも同じくらしい。それは、恭文くんに対してだね。

もしかしたら恭文くんがフェイトちゃんを好きだったから、余計にアルフの中の感情が強まってたのかも。



・・・・・・てゆうか、あの・・・・・・気のせいかな。フェイトちゃん、普通に嬉しそうなんですけど。一体、恭文くんはなにやった?





『それだけ約束してくれるかな。今はそれだけでいい。
まずは互いに充分な冷却期間を置いて、それからゆっくり。・・・・・・ね?』

「フェイト・・・・・・あの」

『何を言っても聞かないよ。私はもう本当に今のアルフとはお話したくなくなった。
・・・・・・これが今の私の正直な気持ち。そして、これが最大限の譲歩』





アルフの身体が震えた。・・・・・・今度は、一発でちゃんと伝わったらしい。

今の自分と話しても無駄と、フェイトちゃんに本気で思われている事に。

そしてフェイトちゃんが今回の事で、自分に対して本気で怒っている事に。



まぁ今更だけど気づかなかった今までよりは、ずっとマシか。





「・・・・・・分かった。約束、する。母さんとジジイとの約束は、内緒にする。
もうこんなこと絶対にしない。それで・・・・・・今みんなが言った事、考えてく」

『うん』









一応はこれで決着になった。アルフとは家族みんなでじっくりと話して、認識を解いていくことにした。

そして当人であるアルフはもうこんなことはしないと、フェイトちゃんだけじゃなく私達にも約束した。

・・・・・・てーか、真面目にエリオは大丈夫かなぁ。というか、恭文くんもだよ。





なんか迷惑かけちゃったなぁ。うぅ、私も出来る事がきっとあったはずなのに。

・・・・・・いやいや、これはだめだな。多分アルフも最初はこれだったに違いない。

今の私は子育てママだもの。ここで下手な介入したら、アルフの二の舞だよ。





少し悲しいけど、きっとこれでいい。ある程度の線引きは必要だもの。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・だから、何度も言ってるじゃないのさ。犬鍋はやめます。
その代わり、超電磁砲レールガンで木っ端微塵にするって」

「そうですよ、問題ないじゃないですか。アレだけ偉そうな事言ったんだから、それくらい覚悟してるでしょ。
てーか、あの犬マジでムカつくし。本気でぶっ潰す。もう徹底的にぶっ潰して、つみれにしてやるんだから」

「大有りだこのバカっ! てーかお前ら、いい加減落ち着けっ!?
さすがにそんな始末の仕方、アタシらは気分悪いんだよっ!!」

「師匠、それは食文化に対する冒涜ですよ。犬を食べるからダメって考えてません?
いいですか、それを言えば師匠が大好きな豚肉だって同じ事なんです。どっかの宗教から見れば」

「そういうこと言ってんじゃねぇよっ! 身内を鍋にするなって話をしてんだけどっ!?」





・・・・・・聖王教会から戻ってくると、演習場が騒がしかった。

で、見てみると身長154cmのミニファイズが、エリオにクリムゾンスマッシュかましてた。

八神家全員呆気に取られた。そして考えた。ファイズって実在したんだと。



まぁそんな考えは一瞬で吹き飛んだ。だってアタシらの中であんなのが出来る奴、一人しか居ねぇし。





「もう埒が明かない。クロスミラージュ、フェイトさんの通信回線に割り込んで」

≪Yes Sir≫

「あぁ、ティアもナチュラルに通信に割り込もうとしないでー! そしてクロスミラージュも『Yes Sir』じゃないからっ!!」





現在アタシはなのはと一緒に、このキレてる二人を止めてる最中。てーかやばい。

バカ弟子はともかくティアナまでこれとは。バカ弟子、マジでなにした? 普通にこれはありえないだろ。

お前がもう一人居るみたい・・・・・・訂正。・・・・・・ある意味、バカ弟子以上じゃねぇかっ!?



そのつや消しの瞳やめろよっ! アタシ、マジで怖ぇしっ!!





「よし師匠、だったらこうしましょ。至高のアイスを頑張って少し多めに作ります。
それを師匠にプレゼントします。だからこれから僕とティアが行う全ての行動を黙認してください」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ダメに決まってんだろうがっ!!」

「ヴィータちゃんっ! なんでそこでそんなに間を作っちゃうのっ!? お願いだからちゃんと恭文君を止めてっ!!」



いや、さすがに止める理由ないかなとか思うんだよ。話聞いてると、あの駄犬はマジひでぇし。

てーかよく考えたら、止める必要なくないか? ・・・・・・いやいや、これ以上身内でゴタゴタなんてごめんだよな。



「・・・・・・回線にロックがかかってるわね。クロスミラージュ、パスコード解析よろしく」

≪Yes Sir≫

「だから、ティアもナチュラルに通信への割り込みを続けないでー! クロスミラージュも『Yes Sir』じゃないからっ!!」



とにかく、アタシらがかなり必死に止めていると・・・・・・呼び出しがかかった。

それは、はやてからの呼び出し。で、対象はバカ弟子とティアナとフェイト。



「・・・・・・なんですか、この大事な時に」

「そうだよ、これから犬鍋パーティーって時にさ。僕達はHELLSINGの描写を超えるんだよ」

「だからその怖い思考はやめてっ!? そしてアレを超えちゃぶっちぎりで規制対象だからー!!
・・・・・・とにかく、二人は先にはやてちゃんのところへ行って来て」

「そうだ、行って来い。もしかしたら、マジで犬鍋パーティーがオーケーかも知れないんだしよ」



そんな事を言うと、二人は怖いくらいにアッサリ納得して、部隊長室に向かった。

なお、すぐにフェイトが出てきて、同じく向かった。・・・・・・疲れた。



「そう言えばヴィータちゃん、リインは?」

「ザフィーラが抑えてる。てーか、リインだけじゃなくて、シャマルの事も止めてる。・・・・・・理由は聞かないでくれ」

「うん、もういいよ。察しは付くから」










とりあえず、アレだ。疲れた。全く、なんで戻ってきて早々コレなんだ? おかしいだろ。





よし、やっぱアタシもあのクソ犬殴ってやる。アイツのせいでこれなんだしよ。



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・そういやさ」

「なによ」

「フェイトから聞いたけど、なんか色々怒ってくれたんだって? ありがと」





・・・・・・はやてに呼び出されてティアと二人、部隊長室に向かっている。

で、ティアに一応、お礼を言う。まぁ、必要かと思って、言っておくことにする。

ティアは、かなり普通にしてるけど。なんか、クソ犬の暴言で怒ってくれたらしい。



それもリンディさんが引くくらいのレベルで。・・・・・・そこは見たかったなぁ。





「いいわよ、別に。てゆうか、私がムカついただけだもの。アンタのためじゃない」

「そっか」

「そうよ。・・・・・・しかし、どうしようかしら」

「何がよ」



・・・・・・まぁ、言いたい事はもう分かるけどさ。



「エリオの事よ。コレであの洗脳状態が解除されてなかったら、マジで困るわ」

「てーか、それだったら僕は自信を無くすよ。あそこまでやってダメだった自分に対して、腹が立つ」

「確かにそうね。でも、マジで意味がない喧嘩だったわね」

「何を言うか。それが分かってるなら、僕にやらせるな」



ティアは、間違いなくエリオの心理の深いとこまで分かってた。で、僕にやらせた。

そこは間違いないね。だって、ちょっと苦笑気味に『ごめん』って言ってるし。



「まぁ、見てる限り大丈夫そうだけど、フェイトさんフラグ消失の心配もあったわけだし」

「そうだね。・・・・・・あぁ、そうだよ。よく考えたらその問題があったんだ」



僕は、頭を抱える。抱えて、思う。これどうしたもんかと。やっぱり・・・・・・消失かなぁ。

うぅ、六課に関わるとは覚悟決めたけど、これは辛い。普通に辛い。



「いい機会だし、マジで消失してたら他の相手探せば?」

「・・・・・・嫌だ」

「またこだわるわね。・・・・・・でもさ、普通にフェイトさんが好きだから、アンタってわけじゃないでしょ?」





歩きながら、少しだけ声を落としてティアがそう言う。まぁ、そこは頷く。

確かにその通りだから。僕がエリオに対して、言ったのと同じだよ。

『フェイトが好きだから僕』という図式も、またフェイトに対して依存している。



そういう恋愛は、確かによろしくないよね。ティアの言う事は、分かる。





「ティア、言いたい事は分かるけど、それは違う。・・・・・・好きに、なり続けてるの。
あと、これが重要かな。一応でも・・・・・・気持ちに、気づいて欲しいんだ」

「あー、そっか。8年片思いだもんね。そうじゃないと、ケジメがつけられない?」

「そうだね。・・・・・・うん、きっとつけられない。ズルズル引きずっちゃいそうで、怖い」

「あの、なんていうかごめん。私が口出しすることじゃなかったわよね。
てゆうか、普通にアンタの成立の邪魔をしまくってるし」



確かにその通りだ。色々とティア絡みでフラグ消失の危機が訪れている。

とは言え、それでティアを責めるのも・・・・・・おかしいよなぁ。結局、飛び込むのを決めてるのは、僕だし。



「んじゃ、マジで責任取るか」

「はい?」

「私が責任取って、アンタと付き合うわよ。だから、今から恋人同士ね」



一瞬、言ってる意味がよく分からなかった。だから、ちゃんと考える。

えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? あ、あの・・・・・・どうしてそうなるっ!!



「色々押し付けた責任ってのをとるのは、それしかないかなと。
まぁアレよ、私は別にアンタの事嫌いとかじゃないし、問題ないから」

「却下」

「なんでよっ! アンタ、私になんか不満でもあるわけっ!?」

「本命じゃない時点で不満はありまくりだけどなにかっ!? てゆうか、それはダメでしょうがっ!!」



ティアが『なんでよっ!!』とか言い出して怒ってるので、ここはマジに答えることにした。

少しだけ声のトーンを落として、僕はティアの方を真っ直ぐに見て・・・・・・答える。



「・・・・・・そんな事しても互いに傷つく。責任取るとか、取らせるためだけの恋愛関係なんてだめ」



ティアはもしかしたら恋愛経験が0なのかも知れない。だからこういうことを簡単に言う。

そう思ったから僕は真剣に返した。すると掴みかかろうとしていたティアは、手を引っ込めた。



「確かに・・・・・・そうね。うん、その通りだわ。ごめん、考えが足りなかった」

「いいよ、別に」

「・・・・・・じゃあ例えばさ、私が本気でアンタの事好きなら・・・・・・どう?
で、責任どうこうじゃなくて好きだから付き合いたいと思ったら」



少しだけティアが真剣な目でそう言った。・・・・・・なので僕も、もう一度真剣に返す事にする。



「それなら考えてもいいかな。答えは約束出来ないけど。僕、本命居るわけだし」

「そっか。・・・・・・ありがと」

「なんでお礼言うの?」

「アンタがちゃんと私の質問に答えてくれたからよ。それくらい察しなさい。
じゃあ返事はいつでもいいから、ちゃんと答えなさいよ?」

「・・・・・・え、なんでそうなるっ!? てーか、今のは例え話じゃっ!!」










ティアは『分かってるわよ』なんて言いながら楽しそうに笑う。不覚にもそれが少し可愛いとか思ってしまった。





・・・・・・なんだろ、これ。僕、やっぱり妙な地雷を踏んでるんじゃ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



一応は考えてくれるんだ。即行で拒否されるかと思ってたのに。

なんか嬉しいな。返事は期待出来そうもないけど、考えてくれるのはかなり嬉しい。

・・・・・・嫌だ、私なに考えてんのよ。別に恭文とはそういうのじゃないのに。





でも、今こうして一緒に居るのは、これまたかなり楽しい。

コイツと居る時間はなんだかんだでちっとも退屈しないから、嫌いじゃない。

恭文と居る時は気構えたりしないから、余計にそう思う。うん、一緒に居て楽なんだ。





なんだろ、もっと色々話したい。子どもの頃の事とか、それ以外の事とか。

もう少しだけ私からも話してみようかな。てゆうか、話さないとダメよね。

だってコイツには私を・・・・・・ティアナ・ランスターを、認めてもらうんだから。





認めさせてみせる。それでちゃんと言うんだ。あの時のお礼を、しっかりと。




















(第16話へ続く)





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あきゅろす。
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