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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第14話 『The people with no name?』



「・・・・・・話を纏めましょうか」

「そうだね」



エリキャロには、私達の部屋に来てもらって、話を聞き終わった。

恭文は、床に座って腕を組んで、うーんと唸ってる。



≪フェイトさんとの空気が微妙だと≫

「うん」



でも、どうしてそんなことに? 今日だって、すごくいい連携してたし。



≪二人はお仕事や訓練や任務、フェイトさんに頼らない形で頑張ろうとしているのに、なぜか今日フェイトさんは寂しそうだったと≫

「そうなの」



・・・・・・あの、これは私達にとって弱いジャンルではないと思うんだけど。私もティアも、お母さん早くに亡くしてるし。



”というか、あのですね”



・・・・・・キャロ、どうしたの?



”エリオ君とフェイトさんが少しやりあっちゃって、エリオ君が折れないんです。
それでどうしてこうなったのかって考えて、なんかエリオ君の中ではこういう話になってるらしくて”

”はぁ? なんでそんなことになんのよ。てーか、まためんどくさいわね”

”・・・・・・ね、キャロ。エリオに超電磁砲レールガンを”

”ダメに決まってんでしょっ! てーか、アンタマジであのぶっちぎりでアウトな攻撃、撃つのやめないっ!?”



と、とにかく分かった。それで、エリオは泣いてて、キャロはどうしていいか分からなくて泣いてたと。

じゃあ・・・・・・どうすればいいの? この場合、エリオの思考に合わせないといけないだろうし。



”事実を話しても、今のエリオじゃ通用しないよね。・・・・・・ね、恭文ならどうする?”

”フェイトとやりあったのは事実みたいだし、まずそこの解決でしょ。
僕達はどうあれエリオ自身がそういう風になってるなら、そこに合わせる”

”でも・・・・・・その、それでいいんでしょうか”

”いいのよ。連鎖的に問題の根っこにも向き合うだろうし、そこで何とかするの。
今のエリオを下手に否定しても、更にキャロ達の言葉が通用しなくなるよ?”



恭文、何気にこういう時冷静だと思う。・・・・・・確かにそうかも。

思い込んじゃうと、他のことが見えにくい。そういうのは私にも経験あるし。



”なるほそ。それでやれるようならこの子のバカな妄想もぶち壊すと”

”そういうこと。・・・・・・誰か上条当麻と知り合いじゃないかね。
幻想殺しイマジンブレイカー使って、なんとかして欲しいよ”



なんて、四人で念話をしつつ、キャロと実際に会話していく。

・・・・・・エリオだけ完全に蚊帳の外なのが、少し悲しい。



「・・・・・・・・・・・・あなたのせいですよ」





ずっと黙っていたエリオが口を開いた。そして、厳しい視線をぶつける。

その先には、恭文。恭文は、エリオの視線を受け止めてる。怯える事もなく、驚く事もなく、平然と。

それでも普通にしているのが嫌なのか、エリオの視線が更に厳しくなる。



ジッと、本当に憎らしそうに、恭文を見る。





「あなたのせいで、フェイトさんまで僕の話を聞いてくれなくなった。どうしてくれるんですか」

「問題ない。フェイト達ともスバル達とも話したもの」



エリオが視線を向ける。で、私とティアは頷いた。それにエリオはまるで勝ち誇ったかのように、表情を緩めた。



「じゃあ、認めたんですね。あの力の使い方は間違ってるって。
正しかったのは僕達だって。だったら、もういいです」



なんだろう、その言葉や笑顔にすごい違和感を感じた。・・・・・・エリオ、勘違いしてる。

ティアも気づいたのか、眉間に皺がよる。というか、キャロも疑問を顔に浮かべた。



「・・・・・・でも、もうあんな事はしないでください。魔法は、守り、助けるための力なんですから。
僕達は、そのために戦うんです。管理局の一員として、一緒に正しい道を進み続けていきましょう」

「嫌だね」

「はぁっ!?」



あ、あれ・・・・・・なんか変な空気になってきたような。



「僕、局なんて嫌いだし。・・・・・・殺す事は間違いだ。それが正しいことであっていい訳がない。
何時だって、必要があっていい訳が無い。それは変えようのない、変えたらいけない事実だ」



そう、変えられない。恭文の目を見て気づいた。恭文は、そう思ってる。



「そしてそれと同じように、僕にとっての力の意味も変えられない。この力は、壊し、傷つけ、そして殺す力。
どんな綺麗事を、お題目をつけても、それが僕にとっての真実。・・・・・・変えられない。あぁそうだ、変えられないね」



思って、受け止めて、その上で何かを守りたいんだってことに、ぶつかってようやく気づいた。

うん、ちゃんと『初めまして』は出来てるね。・・・・・・って、そうじゃないか。



「僕が気づいて、僕が通すと決めた道理だ。横からごちゃごちゃ抜かすな」

「いいえ、言います。・・・・・・変えてください。そして、一緒になるべきなんです。
僕達の言っている事が普通で、当たり前。なのに、どうしてあなたはそれを守れないんですか」

「嫌だね。てーか、なんでお前の言葉で僕が考え方を変えなきゃいけないの」

「フェイトさんが、ハラオウン家のみんなが、悲しむからです。
それになにより、変わりさえすれば、僕達は仲間になれるし、あなたは認められる」



・・・・・・はいっ!? え、あの・・・・・・ちょっと待ってっ!!

私達は、顔を見合わせてもう一度エリオを見る。さすがに今の一言は信じられなかったから。



「アルフから聞きました。あなた、そうやっていつもみんなを傷つけているそうですね。
なぜ、管理局を、僕達の居場所を信じられないんですか。あなた、おかしいですよ」

「・・・・・・うし、エリオに一つ質問。僕のことが嫌いだとは思うけど、ちゃんと答えて。
なぜ、自分の言っている事、考えている事が正しいと、普通だと思うの?」



少しだけ寒気がした。恭文の声に、鋭い冷たさを感じたから。

これは・・・・・・あぁ、そうだ。あの地下水路で感じたのと全く同じなんだ。



「なぜ? そんな事も分からないんですか。僕達局員の考えと行動そのものが、世界の正義だからです」



そして、エリオの瞳も同じだ。今のエリオの瞳の中に、あの人の色を見つけた。



「アルフは僕が迷っていた時、そう言って励ましてくれました。僕達の想いは、管理局の理念・・・・・・世界の正義に沿っていると。
それを貫く事は、世界を、人を、大切なものを守る道だと。だから曲げちゃいけない。僕達は誰からも認められるべきなんです」



思い出すのは闇。瞳の中にあったどす黒い『なにか』。

・・・・・いや、違う。あれよりもずっと怖い。今のエリオは、きっと『エリオ』じゃない。



「そして、そのために戦う。そうだ、僕達は理想を現実にして、みんなから認められなくちゃいけない。
だから足を、引っ張らないでください。あなただけが、みんなの足を引っ張って、邪魔しているんです」

「それも、アルフさんが?」

「そうです。・・・・・・あなたは認められない。間違っているから、認められるわけがないんです」

「誰が認めて欲しいっつった。てーか、別に認められなくていいし」

「まだそんなことを言うんですかっ!!」



声を上げる。エリオだけど、エリオじゃないみたいに、とても大きな声を。



「あなたは、子どもですっ! そうやって、現実から逃げてるっ!!
アルフも言ってましたっ! ただの魔導師で居ればいいのに、バカな先生を追いかけてるってっ!!」

≪・・・・・・ほう、そこのところを詳しく聞きたいですね≫

「ヘイハチ・トウゴウですよね。ルール違反ばかりを繰り返す最悪な社会不適合者。フェイトさん達の足元にも及ばないダメな人。
あなたがそれですから、きっとずいぶんとおかしい人なんでしょうね。アルフの話しぶりだと、相当らしいですし」





さすがにこれは聞き逃せなくて、私は止めに入ろうとする。

当たり前なことが出来ないから仲間になれないなんて、おかしいから。

なにより、今のエリオは私達まで一緒にして言ってる。それは絶対違うのに。



あと、あと・・・・・・恭文とアルトアイゼンが怖い。抑えてるみたいだけど、多分怒ってる。





≪ほう、それはそれは・・・・・・中々に楽しい発言をしてくれますね。
あのクソ犬、解体して鍋にしてやりましょうか≫

「アルト、やめときなよ。あんなクソ犬の肉なんて解体したら、刃が腐る。
てーか、食べてもきっとまずいだろうし、意味ないって。・・・・・・レールガンで木っ端微塵にしてやる」





キャー! 多分じゃなくて、本当に怒ってたー!! や、やばい・・・・・・真面目に怖いんですけどっ!?

とにかく・・・・・・そのヘイハチ・トウゴウという人のこと、私はよく知らない。本当に知らない。

でも、その人が恭文の先生で、大事な人なら、今の発言は許しちゃいけない。絶対に、だめ。



だけど、ティアが私の肩を掴む。掴んで・・・・・・首を横に振る。そして、口を開いた。





「だったらエリオ、アンタ・・・・・・恭文と戦いなさい」



そして、こう言い放った。それを全員、ビックリした顔で見る。



「勝ってコイツに言う事聞かせなさい。ただし恭文が勝ったら、アンタは自分のそんな考えを捨てる。
・・・・・・いいえ。もう一度だけ、本当にそれでいいのか考える。それだけでいいわ」

「ティアさんっ!?」

「ティア、いきなり何言い出すのっ!!」

「アンタ達は黙ってて」



視線で制されて、私とキャロは口を塞ぐ。そして恭文は、変わらぬ瞳でティアを見る。



「てゆうかエリオ」

「はい」

「アンタ、自分のそういう感情がチームの和を乱す要因になってるってこと、気づいてないでしょ。
私達は確かに局員だけど、別に正義の味方でもなんでもない。むしろ、正しくなんてないのよ」

「ティアさん、なんでそんなこと言うんですか?」



エリオが、本当に疑問があるという顔でティアを見る。



「正しくなかったら、局が認められるわけがない。そうだ、正しいから僕達はここに居られるんです」



ティアが頭を抱える。あまりにエリオが強情過ぎて、戸惑ってるんだと思う。でも、ちゃんと話を続ける。



「だけど、コイツの事を隊長達もそうだし私も認めてる。もちろんスバルも」

「エリオ君、私も同じだよ」

「キャロまで」

「・・・・・・庇ってるわけでもなんでもない。私はちゃんと認める事にしたの。
あの時の自分が、なにもしなかったことを。あと・・・・・・恭文さんのことも、全部」



エリオが固まった。私とティアに恭文は、真剣な顔でエリオを見ながら話すキャロの言葉を聞く。



「私も恭文さんも、エリオ君もティアさんもスバルさんも。
みんな・・・・・・みんな、同じように間違ってたんだよ?」



今まで私が聞いたことのないくらいに強くて、厳しくて、そして・・・・・・悲しい響きを含んだ言葉を。



「私達は現実から逃げた。隊長達に全てを押し付けて、自分の手で変えなくちゃいけない『今』から逃げた。
あそこで絶対に止めなくちゃ、あの人に私達の大切なものは全て壊されるだけなのに、信頼という理想の中に逃げ込んだ」



視線が恭文に映る。そして、恭文はそれを真っ直ぐに受け止める。

逃げも、言い訳もせずに、真っ直ぐに。



「恭文さんは、『今』から逃げなかった。だけど、私達を振り切った。きっと恭文さんは早くに結論が出ていた。
なのに私達と一緒に考える選択を、真っ先に捨てた。全部自分とリイン曹長と、アルトアイゼンだけで決めた」

「・・・・・・そうだね。うん、その通りだ」

「まぁ私達が『今』から逃げてたから、ここは当然だと思う。捨てられない理由が無いとも思う。
余り言えないけど、それでも一応は合ってはいると思うから。・・・・・・あのね、エリオ君」



キャロは、エリオに言葉をぶつけ続ける。きっと、心の奥底で願ってる。

この言葉で、止まる事を。エリオの妙なフィルターを、砕けることを。



「恭文さんだけが絶対的に悪いわけじゃないの。自己擁護するようだけど、私達だけが悪いわけじゃない。
あの場に居た私達みんな、悪いの。本当に殺すしかなかったのか、私達はみんなで、きっと抗い尽くしてない」





・・・・・・だから、私は納得出来なかったんだ。多分、ティアもだ。私達は、その答えを出す事から逃げた。

だけど、逃げていたのは恭文も同じ・・・・・・なのかな。キャロの今言った通りなら、そうなる。

恭文は『私達と答えを出す事』から逃げた。『目の前の今』からは逃げてないけど、それでも。



・・・・・・まぁ私達の状態が状態だったから、ここはあんまり言えないのは私も同感かな。





「色々考えてようやく分かった。私達はあの時にやらなくちゃいけなかったことがある。
それは・・・・・・『隊長達に任せれば大丈夫』なんて逃げる事でも、振り切ることでもない」





私達はきっと、それから逃げた。ただ押し付けあって、振り切って・・・・・・抗う事から逃げた。

私達は全員自分の道理を押し付けるだけで、違う事を受け止めなかった。

その場に居るみんなで違うものを寄せ合って、一緒に考える事をしなかった。



そうしてみんなで今に抗って、そこから初めて出る答えを捨てた。





「取り返しが付かないからこそ、時間がないからこそ、みんなと一緒に考えて・・・・・・どんな形でもいい。
一つの答えを出すことだった。私達は『今』からも、一緒に居る人達からも逃げずに、必死に向き合って」



キャロは少し俯いた。だけど、すぐに顔を上げた。



「そうして得られる答えを選ばなくちゃいけなかった」



『だけど・・・・・・』と呟く。そう、だけどなんだ。だけど、私達はそれが出来なかった。

その前のあれこれを含めても、それはダメだったんだ。



「それが出来なかった。だから私、それをちゃんと認めることにした。私はあの時、逃げた。フェイトさん達に全部押し付けた。
だけどもう逃げたくない。『今』からも逃げないし、どんなに辛くても答えを出す事からも、絶対に逃げない。もう、振り切られたくないから」



そしてキャロは恭文を見る。見て・・・・・・少し笑いかける。それから真剣な表情に戻して、エリオをもう一度見る。



「例えそれで殺すしかなかったとしても、きっとそれなら背負える。
だから、エリオ君の言うことには頷けない。お願い、エリオ君も逃げないで」

「僕は逃げてなんてないよ」

「逃げてるよ。私達から、フェイトさんから、なにより・・・・・・エリオ君自身から逃げてる。
アルフやリンディさんの言葉と管理局の正義を理由に、エリオ君は自分で考えることから逃げてる」



そして私とティア、そしてキャロを信じられないような目で見出した。恭文は、言わずもがな。

キャロの言葉は・・・・・・通じなかった。エリオはまだ、凝り固まっている。



「・・・・・・キャロ、もういいわよ。マジで通用しないらしいから。あのさ、エリオ」

「なんでしょうか」

「これはアンタがコイツに吹っかけた喧嘩よ。だから、私達は一切関与しない。
そして結果がどうなろうと、フェイトさん達にも、提督やアルフさんにも手助けさせない」



つまり自己責任。例えコレでエリオ自身に不利益がかかっても、何もしないと言ってる。

そしてそれには私達も含まれている。だから、ティアは暗に言ってる。『手出しはするな』と。



「どうなろうが同情もしない。泣きついてこようが、一切無視するしさせる。・・・・・・いいわね?」

「問題ありません。というより、僕は喧嘩なんて吹っかけてません」



エリオが見る。恭文・・・・・・いや、倒すべき敵を。



「ただ、この人や今のキャロの考えは、間違っていると言っているだけです。
みんなの目を、覚まします。・・・・・・そうだ。絶対に、その悲しくて、愚かな考え方を変えてもらいます」



どうしてこうなっちゃったの? エリオはまだ小さくて、真面目な子だったのに。

なんで、こんな風になったんだろ。私、本当に分からないよ。私達、何か悪いことしたのかな。



”・・・・・・ティア”

”レールガンは禁止。さすがに死ぬわよ。で、後遺症に繋がるような攻撃も禁止。アンタが今、凄まじくムカついてるのは分かる。
だけど・・・・・・分かるわよね。これはこのバカを死ぬ寸前まで叩き潰せばいいって話じゃないの。てーか、キャロも言ってたでしょ? 『逃げるな』って”

”逃げないから、このバカを見捨てていい?”



まずい、恭文とアルトアイゼン、完全に怒ってる。冷静を装ってるけど・・・・・・二人とも、キレてるよ。



”正直、この手のに付き合っても僕の胃が持たない。てーか、ティアやみんながやればいいでしょ”

”それが出来たらやってるわよ。でも、肝心要のフェイトさんがだめなのよ? 私達でも、きっと無理”



恭文は、大きくため息を吐いた。本当に、疲れ切ったようなため息。



”僕しか居ないと”



ため息から受けた印象そのままの声。思念の声でも、それはありありと伝わった。



”そうよ。アンタだからこそ、やれるの。・・・・・・ごめん。
キャロがマジキャラでかなりいいこと言ってたのに、結局アンタに押し付けた”

”いいよ、別に。確かに、それしか方法がなさそうだしね”

”恭文さん、あの”

”キャロは何もしなくていい。てーか、何かしたら逆効果だよ。エリオに庇ったと思われるんだから。
・・・・・・僕もなのはの事は言えないか。いや、僕の方が最低か。だって、僕は、『お話』なんて出来ない”



・・・・・・恭文、あの時のなのはさんに自分を重ねてるんだ。



”そうですね。ですが・・・・・・叩き潰しますよ? この人は、私に喧嘩を売りました。
私のマスター達を侮辱した罪は、死に値しますから”

”・・・・・・分かってる。ただし、さっき言った通りによ? 多分、一生このままよりは、ずっとマシでしょ”



話は纏まった。纏まったから、恭文は一旦閉じていた目を見開いて、エリオに声をかける。



「・・・・・・んじゃ、早速行こうか。エリオ。すぐに始めるけど、いいね?」

「問題ありません」










そして、二人は夜の演習場に向かった。私達もそれについて行く。

こうして、始まる。本当に無意味で、やる理由も分からない戦いが。

言うなれば、パンドラの箱を開けるようなもの。・・・・・・そこまで考えて、少し思った。





もしもこれがパンドラの箱なら、希望は、存在しているのかも知れないと。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



バカな喧嘩の舞台は、演習場。そして、なのはに頼んで森林の形にしてもらった。

なお、僕のリクエスト。夜の風が吹き抜ける。闇は深く、木々の合間に僅かに月の光が差し込む。

・・・・・・とりあえず右に跳んで、襲い来る槍を避ける。それはエリオのストラーダ。





ブーストで突撃と空中機動も可能とするむちゃくちゃな設計。

てゆうか、一体どこのサンライトハートなんだろうか。これは普通にありえない。

で、エリオは木々の合間を飛んで・・・・・・訂正。





高速で『跳んで』、僕の視覚外へと回る。だけど問題はない。

つーか、遅い。エリオより、フェイトや恭也さんや美由希さんの方がずっと速い。

それになにより、攻撃に移るその一瞬を見逃すほど、緩くもない。





エリオは思い切りがいい。だから、気配の変化ですぐにそれが読み取れる。

思い切りが良過ぎて、あんまりに気配が真っ直ぐ過ぎるのだ。

だからほら・・・・・・また上から飛び込んでくるけど、僕は後ろに跳んで避ける。





エリオは地面をストラーダで貫く。貫いて、すぐにそこから離れる。僕のカウンターを恐れたんでしょ。

また夜の闇の中に、エリオが木々を蹴って跳ぶ音が聞こえる。そして、徐々にその感覚が短くなる。

・・・・・・10時方向。僕は即座に反応して、右に軽く跳んだ。





再び襲い掛かって来たのは、エリオの身長よりも大きい突撃槍ランスの切っ先。

それを避けると・・・・・・いや、まだ本当の意味で避けてなかった。

エリオはブーストを切る。切って、地面に足をつける。というか、蹴った。





地面を蹴って、僕に振り向きざまに槍を叩き込む。










「はぁっ!!」





僕はそれを上に跳んで避けた。エリオの後ろに回りこむようにして、身を翻してエリオの背中を取る。

取って・・・・・・何もしない。ストラーダの右の補助ブースターに火が点いた。その勢いのまま、エリオは身体を回転。

そして左側から槍が襲ってくるのを、後ろに下がって避ける。数度突き出された槍を、身体の捻りだけで全て避ける。



勢い良く突き出されたそれを、左に動いて回避。続いて薙ぎ払いが来るけど、それも後ろに下がって回避。





「・・・・・・なぜ、抜かないんですか」



不満そうに目の前の敵が言う。だから、嘲るようにして答える。



「この程度しか出来ない奴に抜くほど、安い相棒じゃないのよ」

「またそうやってバカにして・・・・・・!!」



気配の中に怒りの色が混ざる。・・・・・・バカが。すぐに挑発に乗るのは悪い癖だ。

てーか、フェイトのだめなとこと似てるし。



「バカにされる程度の能力しかないくせに、なに言ってんの?」

≪そういう話は、私達に一撃でも入れてから言うんですね。
まぁ、そんなお遊戯レベルで、倒されるわけがないですけど≫





エリオは、その言葉に答えずにまた後ろに跳ぶ。そして、夜の闇に姿を消した。

木々を蹴り、その合間を跳躍する音だけが聞こえる。

・・・・・・動きはほぼランダムに近い。パターンに陥らないように動き回ってる。



なのは達が夜戦の訓練もしてたし、その影響か。やはり、才能はあるらしい。

あの年であれだけの動きが出来るなんて、そこだよ。

ただ、残念ながらそれだけだ。経験が、そして覚悟が決定的に足りない。





「・・・・・・アルト、どうする?」

≪寝ちゃいましょうか≫

「そうしたいのはやまやまだけど、それほど疲れてないのよ。てゆうか、疲れさせてもくれないし」





両腕を組む。すると、気配が変わった。鋭く、突き刺すようなそれに変わる。

木々の合間から聞こえる跳躍の音が、さらに激しくなる。

後ろから、横から、僕を貫くために槍が襲う。それを避けていく。



徐々にジャケットを掠めていく。攻撃の精度と鋭さが、増していってる証拠。





「・・・・・・ついて来れないですよね」



襲い来る閃光は、僕を嘲笑うかのように声を上げる。



「だから、さっきから虚勢を張ってる。・・・・・・これが、僕達の力だ」



それは、自分の優位を確信した声。闇の中で、雷光と一緒に僕に襲いかる。



「・・・・・・負けるわけがない。あなたなんかに、負けるわけがない。
犯罪者と同類の今のあなたに、僕やフェイトさん達の力が、負けるわけない」



どうやら、斬り合うことはしないらしい。確実にヒットアンドアウェイで、僕を仕留める。



「なのはさんのお兄さんやお姉さんに、フィアッセ・クリステラさん。
それにGPOとか言う組織の人達から何を教わったか知りませんけど、そんなの無意味ですよ」



エリオは速さなら自信があるようだ。だから、これだけの事が出来る。

雷光は木々の間を跳ねるように跳び、僕を惑わせようとする。



「アルフも言ってました。僕達の方が強いと。局という世界を管理し、平和に導く組織の一員として頑張っている。
だからこそ世界から、ちゃんとここに居る事を認められている。それは何ものにも変えられない大事な宝物」



なるほど。つまり『局の関係者』以外から影響を受けまくっている僕はダメだし、そういう連中もダメだと。

・・・・・・4年の間にそこまで腐ってたか。もう駄犬もいいとこでしょうが。



「だから、あなたは負ける。そうだ、僕達の方が魔導師として正しい事をしている。だから、僕達はあなたに勝つんです」





けど、あのクソ犬は相当僕に恨みがあるらしい。まさか恭也さん達やフィアッセさんの事まで話すとは。

それにGPO・・・・・・シルビィやフジタさん達の事まで。とりあえずあれだ。これが終わったら・・・・・・ぶっ潰す。

・・・・・・4時方向から攻撃が襲ってくる。それは、袈裟に打ち込まれた槍。



後ろに跳ぶ。跳びながら、身体を捻りエリオを見据える。・・・・・・黄色い斬撃波が襲っていた。

左に跳んでそれを避ける。それは、僕が居た場の地面を斬り裂いた。

瞬間、エリオが消えた。もちろん、透明人間になったとかじゃない。高速移動の魔法を使用した。



エリオは僕の後ろに回りこんで、槍を突き出していた。今までで一番強く、そして威力のある一撃。



僕はそれを右の肩口に受けて、近くの木へと吹き飛ばされた。・・・・・・くぅ。





「・・・・・・僕の、勝ちです」



声は続く。それは確信を持った声。僕とエリオとを隔てる爆煙の中で、それは響く。

上から目線で、まるで哀れなものにかけるかのように、声は響く。



「よかったですね、これでもう、あなたはくだらない意地を張らなくていいんです。
あなたも、きっとみんなから認められます。それが、あなたの、僕達の」



なので僕は・・・・・・受身を取る。受身を取って、身体を回転させ、右手で爆煙を振り払う。



「・・・・・・なっ!!」



僕の行動にエリオは固まる。今ので心の底から、終わりと思っていたらしい。

だとしたら、それは大きな間違いだ。僕は、肩口についた埃をパンパンと払う。



「そんな、アレは・・・・・・アレなら、倒せてるはずなのに」



で、また槍が飛ぶ。当然のようにそれを避ける。そして、間合いを取る。

夜の闇の中で、時計回りに歩きながら、踏み込むタイミングを計る。



≪大丈夫ですか?≫

「聞く必要、ある?」

≪ありませんね≫





普通ならいい一撃だと誉めるところだろう。威力も動き方も、中々だ。

多分、不意に食らってたら決定打になってた。今まで散々、なのはや師匠に鍛えられただけの事はある。

エリオの能力は、もう充分一般局員を超えてる。数年後には、フェイト達と同じエース級でしょ。



だけど、それだけ。たったそれだけの一撃に、僕が潰されるわけがない。

こっちとらそのエース級やらマスター級のみならず、一般の魔導師からしたら常識外なのと散々やり合ってんのよ。

正しいだけ、強いだけの奴なら、たくさん居た。それはもう星の数だけ。



でも、それだけじゃ・・・・・・僕は、鉄は、砕けないのよ。





「アルト」

≪なんでしょう≫

「気が変わった」





普通にノックダウンとか考えてた。それで事後にみんなでお話して、穏便に解決。けど、それじゃあ生温い。

コイツは、絶対的に勘違いをしてる。戦い・・・・・・ケンカってのは、自分が正しい事を確かめるためにするんじゃない。

誰かに認められるために戦うんじゃない。そうして目の前の相手を傷つけるんじゃない。そこがコイツの勘違いだ。



確かにこれは僕にしか壊せない。きっと組織に属して居る事を、存在することを認められているフェイト達じゃ壊せない。

だから今までのあれこれだ。エリオの今までの行動の根っ子にある願望は、みんなが持っている事だから。

エリオは恐らくだけど無意識にみんなの中にあるそれを、しっかりと見抜いていた。だから言えるの。六課のみんなは、自分達と同じだと。



そして、それは正解だ。特にここは、そういうのが多い。

六課の主要メンバーはみんな、組織に、世界に、周りの人達に、認められたがってる。

そうして認められて、否定されたものを覆そうとしているのも居る。



・・・・・・きっと、フェイトやティア、キャロがこれだ。

自分の願いを、目指すべき在り方を、未来の形にしていきたいと思っているのも居る。

・・・・・・スバルやタヌキ、なのはがこれだね。ティア、この事分かってたでしょ。



だから、僕にエリオと戦えって言った。僕はこのどちらでもないから。僕は、別に誰かに認められなくていいし。

全く、最近仲良くなってきたからって、無茶振りが過ぎない? ちょっと困るんですけど。

まぁいいさ。せっかくだしティアの望み通りにやってあげるよ。あとで、ご飯奢ってもらうからね?





「コイツ、徹底的に壊すわ。今目の前に居る『エリオ・モンディアル』を・・・・・・殺す」

≪えぇ、それでいいでしょう。いくらなんでもバカ過ぎます≫





・・・・・・コイツの歪みは、コイツの思い上がりは、僕の想像以上だ。

コイツがどうなろうが知ったこっちゃないけど、フェイトが傷つくのはいただけない。

まぁ、僕も言えた義理じゃないけど、これは認められない。



遅かれ早かれ、コイツはフォン・レイメイやどこぞの犯罪者のようになる。

他者に自己の存在を認めさせ、自分が安心するために、力を振るう。

そんな事のために、きっと誰かを泣かせる。傷つけて、蹂躙して、服従させる。



どう転んでもこの歪んだ雷光の未来は、明るくない。そして、きっと自分で後戻りも出来ない。

だからその歪みを壊す。・・・・・・壊したいものを壊し、守りたい物を守る。

そうして、今を覆し、未来を繋ぐ。誰でも無い、自分という人間のわがままのために。



それが鉄のプライドであり、在り方だ。





「さてエリオ。言いたいことは、それだけ?」





そう言いながら笑みを浮かべ、僕はあるものを取り出す。どこからともなく銀色のアタッシュケースを取り出す。

そして、開ける。で、中からメカニカルなデザインの銀色のベルトを取り出す。まず、ベルトの左側にデジカメが入ったホルダーを装着。

それから、同じようにベルトの右側にポインターを装着。取り付け可能なアタッチメントがあるので、すぐに装着出来る。



両手でベルトの端を掴んで、そのまま腰に装着。で、ケースの中に入っていた携帯を取り出し、開く。



折りたたみ式の携帯を開き、ボタンを押す。押すボタンは・・・・・・もちろん、これ。





≪5・5・5≫



ボタンが押される度に、電子音が夜の闇に響く。そして、エンターと描かれたボタンを押す。



≪Standing by≫





そのまま、携帯を閉じる。携帯から、着信音のようなものが鳴り響く。それに、エリオが警戒しつつも視線を送る。

いや、踏み込んで、槍を袈裟に打ち込んでくる。ストラーダによるブーストで、速くだ。

僕はそれを前転して避けて、エリオの後方に回る。それから、エリオの背中を思いっきり蹴り飛ばす。



エリオは、そのまま地面を数メートル滑った。・・・・・・ふん、三流が。





「変身の邪魔をしてんじゃないよ」

『ちょっと恭文君っ!? それすっごい見覚えあるんだけど、なにやってるのかなっ!!』



なんて言いながら、突然に通信をかけてきた横馬に視線を向けずに、僕は答える。



「え、ジャケット装着だけど何か?」

『いやいやっ! それ絶対おかしいよねっ!? というか、どうしたのそれっ!!』

「見てれば分かるよ。・・・・・・いい? 今から本当の変身ってやつを見せてやる」

『そしてどうしてそこでモモタロスっ!? もうワケわかんないよ、それっ!!』



そのまま、携帯を持った右手を頭上高く掲げた。

だから、こう叫ぶのである。なお、音声入力も込みなので、やらないと装着出来ない。



「変身っ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あ、あれって・・・・・・ファイズだよねっ!? そうだよ、ファイズだよっ!!





な、なんでファイズベルト持ってるのっ!? というか、ファイズフォンで変身って・・・・・・アレ、なにっ!!





まさか、恭文君・・・・・・オルフェノクだったの? ・・・・・・そんな。私、何も知らなかった。










≪マスター、さすがにそれはないですよ≫

「そ、そうだよね。じゃあ、アレは一体」

「なのは、アレなにかな。見たところ、物理装甲込みのジャケット・・・・・・だよね」



ジャケット? ・・・・・・フェイトちゃんの言葉に、もう一度恭文君をよーく見てみる。

なお、フェイトちゃんは、エリオとキャロと一緒に戻って来ていたので、あしからず。



「私はあんなの見たことないし、もしかして友達からもらったって言う新装備、アレなのかな」

「あ、本当だ。魔力反応がある。レイジングハート」

≪どうやら、あのベルトはデバイスのようですね。それを用いて、あのジャケットを構築しているんですよ≫



じゃ、じゃあ・・・・・・アレはファイズにそっくりなバリアジャケットっ!? 恭文君、何持ってるのかなっ!!

よし、後で絶対使わせてもらおうっ! ファイズは私も好き・・・・・・って、そうじゃないっ!! 私なに言ってるのっ!?



『てゆうか、お前ら止めろよっ! なんでこんな馬鹿げた模擬戦認めてるんだっ!?
フェイト、アンタはエリオの保護責任者だろっ! だったら、分かってるはずだろっ!!』

「分かってるよ。だから、止めないの。エリオ・・・・・・本当にどうかしちゃってるから」

『あぁもう、どうしてそうなるのさっ! 悪いのはアイツで、どうかしちゃってるのもアイツじゃないかっ!!』



立ち上がった通信画面の中から、アルフさんが声を上げる。だけど、私達は聞かない。

だって言ってる事は分かるし、やる意味もちゃんとあるんだから。



『そうだよ、アイツが全部悪いのは明白だろうがっ! とっととエリオに謝らせればいい話だろっ!?
『好き勝手してすみませんでした。僕は間違っていて、正しいのはみなさんです』って言わせろよっ!!』

「アルフ、いい加減にして。どうしてそんな風に思うの?
今のエリオを見て、おかしいとどうして感じられないのかな」

『だから、おかしいのはフェイトの方だよっ! どうして、自分の使い魔であるアタシの言ってることが分からないのさっ!!』



・・・・・・流すつもりだった。うん、そのつもりだった。でも、許せない。今の言葉は、許せない。

エリオ・・・・・・ううん、自分にだって非があるのに、それを認めようとしていない。



『お母さんもなんか言ってやってよっ! そうだ、後見人として止めてくれよっ!!
エリオが絶対に正しいだろっ!? 間違ってるのはアイツの方じゃないかっ!!』

『いいえ、何も言わないわ。だって私達もみんな、やり方を間違えたから、言う権利が無い。
もしその中で本当にだめな人間をあえて決めるとするなら、それはエリオの方よ。そして、私達だわ』

『お母さんっ!!』

『というより、アルフ・・・・・・あなた、本当にあの子に何をしたの?』



リンディさんが、とても厳しい視線でアルフさんを見る。それに、思わず画面の中のアルフさんがたじろぐ。



『さっきはフェイトとの話の最中だったから、言わなかったけど・・・・・・あなた、エリオに色々と吹き込んでいたそうね。
それどころか恭文君を無理矢理にでも局に入れる事が、家長の私の意志でもあると、私やフェイト達の知らないところで、勝手に話を作った』

「・・・・・・え?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「変身っ!!」





右手を下ろして、ベルトに携帯を装着する。ベルトのバックル部分には、ちょうどスライダーがある。



そこに携帯の下部をはめ込み、携帯がその向きを90度回転してベルトにぴったりとハマる。



それにより、電子音声が聞こえてくる。そう、あの声だ。





≪Complete≫





ベルトのバックルの両側にある赤いラインの装飾が光を放つ。

その光は線となり、身体を包む。それが描くのはアーマーの形。

次の瞬間、僕は銀色と黒で彩られたアーマーを身に付けていた。



瞳は大きく『φ』という記号を象った物。二本の小さな角に、黄色い大きな瞳。

それは、普段の僕とは全く違う姿。それに、エリオが目を見張る。

夜の闇の中、黄色い二つの瞳とアーマーに走る赤いラインが、光り輝く。



・・・・・・ふふふ、これが555ジャケットッ! 僕の趣味全開な新装備っ!!





≪身長は伸びてませんけどね≫

「うっさい」





待機状態に戻っているアルトの事は、気にしない方向で行く。てゆうか、これは普通に楽しいぞ。

あぁ、みんなが僕をジッと見ている。きっと今この瞬間、僕は輝いているのだろう。

・・・・・・だめだめ。これはダメだ。きっとヒロさんの思考に被ってる。なんか、そんな感じがする。



とりあえず、右手首を一回スナップ。黒いグローブと、銀色の指先、発光している赤いラインが、夜の闇を斬り裂く。





「・・・・・・最初に言っておくっ!!」

≪やっぱりやるんですか≫



やるのよ。例えファイズでも、中身は僕だもの。というわけでエリオを右手で指差し、言い切る。



「僕はかーなーり・・・・・・強いっ!!」

≪ついでに言っておきましょう。・・・・・・特に言う事はありません≫

「だったら言うなっ!!」



右手を下ろし、もう一回スナップ。・・・・・・エリオはそれを、疑問顔で見る。



「なんですか、それは」



そうしながら、立ち上がる。そして、睨み気味に僕を見る。



「説明する義理立てはないね。で、もう一度聞くけど、言いたい事はそれだけ?」



携帯をバックルに装着したまま開く。そして、ボタンを押して、コードを入力する。



≪0・0・0≫



それから、エンターボタンを押す。



≪The music today is ”The people with no name”≫



流れ出すのは、音楽。ヒロさんが追加で付けてくれた機能。

なんというか・・・・・・素晴らしい。やっぱり、こういうのはノリだよノリ。



「だったら、もう消えろ。目障りだ」

≪というか、消し去ります。・・・・・・今から、見せてあげますよ。私達のクライマックスを。
戦うという罪を、背負うどころか見ようともしないあなたの底の浅さを、突きつけてあげましょう≫

「そしてお前が今まで味わった事のない、決定的な敗北と絶対的な恐怖を、喰わせてやるよ。
とりあえずアレだ。もう戦えなくなるくらいのことは、覚悟しておくんだな。・・・・・・行くぞ」










そのまま、僕は踏み込む。踏み込んで、破壊する。





このバカの歪みを、その根底から・・・・・・破壊する。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS Remix


とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常


第14話 『The people with no name?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「え、ちょっと待ってくださいっ! あの、母さんがアルフと一緒に、エリオに入れ知恵したんじゃっ!!」

「そうですよっ! 一体なんですか、それっ!!」

『・・・・・・やっぱり勘違いしてたのね。あのね、いい?
私はそんなこと、一切してないわ。アルフと一緒に、エリオと話してもいない』



・・・・・・えぇっ!? で、でもキャロとか、以前連絡した時の話っぷりだと、そういう感じでっ!!



『確かにあの子から相談はされたわ。・・・・・・あのね』





説明してくれたのは、母さんはあくまでも、エリオの自由意志に全てを任せたと言う事。あと、今回の一連の動きについて。

クロノや騎士カリムが、自分に何の相談も無しでヤスフミとリインを肯定したために、否定側に回る必要があった事。

そして例え現実味が無くても、完全に否定するレベルの物でなければ、外から見て説得力が無かった事。



総括するとどうやら本当にアルフと一緒に話した事も無いし、扇動するようなこともしていないらしい。

母さん個人としては、あの状況ではもうどうしようもないというのが考え。

むしろ個人的な考えだけで言えば、ヤスフミに対しての想いは私達側だと教えてくれた。



・・・・・・ちょっと待って? それって、なんかおかしくないかな。





「あの、母さん。その見解が出たのって、いつですか?」

『あなた達が騎士カリムやクロノと話した時よ。その時に二人は恭文君を認めると返事しているわよね?』



・・・・・・そうだ、している。そして、お兄ちゃんも騎士カリムも、ヤスフミとリインへのフォローも、しっかりすると確約してくれた。

つまりあの段階では母さんは、まだちゃんと見解を出してなかったっ!?



『納得、してくれたかしら?』

「し、しました。私達が色々とこんがらがってたのは、かなり」





・・・・・・そういう部分でフィルターがかかっていたのは、今のエリオだけじゃなかった。

そうだ、少し考えれば分かる事だったのに、さっぱりだった。私達全員、冷静さを無くしてた。

相手の言葉や行動を曲解して受け取っていたのは、エリオだけじゃない。私達も同じだったんだ。



な、なんかだめだ。六課の裏事情とかの話があったから、最初から疑ってかかってたんだ。

というか、そんな状態でエリオに言葉が通じるわけがないよ。同じ穴のムジナなのに。

うぅ、保護責任者どうこうの前に、私個人が色々ダメだったんだ。というか、私達も罪が重いよ。



隊長である私達がこれだから、スバルやティア、キャロに他の隊員にも影響を与えてたのは、間違いないもの。





『それでエリオにはさっきあなた達に話したような感じ・・・・・・のはずだったんだけど』



画面の中の母さんが、演習場の二人をそう言いながら見る。

・・・・・・それがどうしてこれになるのか、さっぱり分からない。



『あの、嘘じゃないのよ? そこは本当。だけど私、まずいこと言ったかしら』

「いや、私が聞く分には特に。なのはもそうだよね」

「うん。というより、それだと私達が言っている事と同じだよ?
ね、キャロ。キャロはエリオから何か聞いてないの? あと、スバルとティアもだね」



なのは、隣で話を聞いていたキャロに声をかける。

キャロも戸惑ったような表情をしている。あと、近くに居るスバルとティアも。



「私も知らないんです。その場に居たわけでも、話を直接聞いてたわけでもないので。
だから私も、ビックリしてるんです。エリオ君の話振りだと、そうとしか思えなかったのに」

「でも、それってどういうことですか? 私もキャロからそういう風に聞いて・・・・・・失礼を承知で言わせていただきます。
私はリンディ提督の影響でアレかと思ってたんです。アルフさんは引退組ですから、影響力なさそうですし」

「そ、そうですよっ! だけどリンディ提督は、全部エリオが決めていいって言ったんですよねっ!?
だったら、エリオはどうしてアレなんですかっ!? おかしいですよっ!!」

『・・・・・・ねぇ、アルフ』



この件で残っているのは、ただ一人。そう、アルフだ。アルフがエリオと話したことは間違いないんだから。

ならその原因は、アルフに聞けば全部分かるはず。母さんの話を聞いても、納得し切れない部分も含めて全部だ。



『みんなと同じように、私も非常に疑問なの。説明してくれないかしら。というか、話しなさい』

「アルフ、ちゃんと説明してくれるかな。私も本当に聞きたい。
エリオに・・・・・・私の保護児童に、一体なにをしたの?」

『あの、えっと・・・・・・ちょ、ちょっと待ってよ。母さん、冷静になろうよ。
そうやってアイツをかばっても意味が無い。どうしてそうなるのさ』

『かばってはないし、私は冷静よ? ・・・・・・私はむしろ恭文君に感謝してるくらいよ。
恭文君が覚悟を決めてくれなかったら、きっとエリオ達も六課の人達も身も心も壊されていた』



そうハッキリ言われて、アルフが信じられない顔で母さんを見る。・・・・・・私達と同じだったんだ。

私達と同じように、表に出ている母さんの発言だけを聞いて、全てを判断してたからこれなんだ。



『そして申し訳なくも思っている。重荷を背負うような状況に立たせた事も、あの子を悪者にしてしまった事もよ。
・・・・・・まぁそこはいいでしょ。アルフ、ちゃんと説明しなさい。じゃないと・・・・・・私は全く納得出来ないわ』

「アルフさん、私も一応六課のフォワードリーダーなんで、介入させてもらいますね?」



私も、母さんも、そう言った女の子の方を、ビックリしながら見る。

それはティアだった。ティアは・・・・・・物凄く怒っているようだった。殺気が身体中から溢れてる。



「・・・・・・てーかアンタ、うちのガードウィングに一体何吹き込んだのよっ! ほら、早く答えなさいよっ!!
フェイトさんやリンディ提督の家の使い魔だからって、何でも許されると思ったら大間違いよっ! 勘違いしてんじゃないわよっ!!」

『なんだとっ!? お前、アタシの方が先輩なのに、なんだよその口の利き方はっ! 失礼だろうがっ!!』

「うっさいっ! そもそもアンタ、先輩は先輩でも、ただの引退組でしょっ!? 現役でもなんでもないじゃないのよっ!!」



そう言いながら、画面に詰め寄り睨みを利かせる。それも、相当厳しく。

それに思わずアルフが後ずさりする。だけど、逃げられない。母さんが後ろにいるから。



「大体アンタのやり方、卑怯なのよっ! 結局はリンディ提督やフェイトさんの権力に頼って、物申してるだけっ!!
アンタ個人の権力も発言権も全部空っぽもいいところっ! それで私達のやる事に口出しすんじゃないわよっ!! 大体、なにっ!?」

『あ、あの・・・・・・ティアナさん? 少し落ち着いてもらえるかしら。それだと、ちゃんとお話が』

「さっきから聞いてれば、ずいぶんアイツの事を好き勝手に言ってくれるじゃないっ!!
アンタ、私の友達になんか恨みでもあるわけっ!? ふざけんじゃないわよっ!!」

『・・・・・・あの、もしもし? 聞いて・・・・・・ないわよね。えぇ、分かってたわ』










ティ、ティア落ち着いてっ!? さすがにそれは怒りすぎだよっ!!





・・・・・・あぁ、そのつや消しの目もやめてー! 寒気がしてくるよっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・・・・・・・エリオの顔面に向かって拳を打ち込む。エリオはそれをストラーダで防ぐ。

でも、それは間違いだ。咄嗟に手を開いて、ストラーダを掴む。そのまま、エリオの腹に左で数発叩き込む。

瞬間、エリオの身体から雷撃が迸る。きっと、距離を取ろうとしたんでしょ。でも、無意味。





だってこれ、防御力そこそこあるんだから。・・・・・・僕は、腹を右足で蹴る。





右手は離してるから、エリオは吹き飛ぶ。いや、距離を取った。










≪ストラーダっ!!≫





ストラーダの噴射口に火が付く。そして、エリオはまた木々の間を跳ぶ。

バックルから携帯を外して、再び開く。そして、開かれて平面になった携帯を折る。

左側に折られた携帯は、アンテナ部分も含めると、まるで銃のような形になった。



で、僕は右の親指で携帯のボタンを押す。





≪1・0・6≫



それから同じく親指でエンターボタンを押す。



≪Burst Mode≫





その間に、エリオは再び僕への攻撃を開始する。僕は身を捻り、その全てを回避する。

もう、普通にかすりもしない。赤いラインの光が、夜の闇の中で動き、一つの大きな輝きとなる。

後ろから袈裟に打ち込まれた攻撃を、身体を回転させながら避ける。



避けつつも、エリオに右の拳で裏拳を打ち込む。それは、エリオの背中に当たった。

そのまま振り抜くと、エリオが吹き飛ぶ。いや、勢いを利用して距離を取った。

一瞬見えた表情には、焦りの色があった。だからかも知れない、真正面から飛び込んできたのは。



飛び込みながら、無謀にも槍を突き出してくる。





≪Sonic Move≫





だけどその姿が一瞬で消えた。気配は頭上に。槍が風を切る音が聞こえた。僕は、前に少し跳ぶ。

跳びながら身体を捻ると、頭上から僕に槍を打ち込もうとしていたエリオが居た。

槍は僕の目前で空振り。だけど、槍から金色の光波が出てきた。魔力による斬撃波だ。



そこを狙うように腕を向けて、丁度引き金になるような位置にある人差し指の中程でボタンを押す。

放たれた弾丸の数は1発。・・・・・いや、3連続で放つ。その3発は、光波を相殺する。

赤い弾丸と、金色の光の刃がぶつかり、霧散する。その間に、僕はもう一回ボタンを押す。



もう一度放たれた弾丸は、エリオへと飛ぶ。エリオは、それを全てストラーダで打ち払った。

僕はというと、地面に倒れる形になっている。エリオは当然、それを見逃すはずがない。

踏み込んで来る。そこを狙ってまたボタンを押す。だけど、当たらない。また斬り払われた。



で、もう一度引き金を引く。弾丸は・・・・・・出ない。それに僕は思わず携帯を見る。

画面の中、残段数を表す部分が、0を示していた。つまり、弾切れ。

エリオはそんな僕の様子を見て、それを悟る。悟ってすぐに、またこの魔法を使う。





≪Sonic Move≫





ソニックムーブで一気に僕の背後に回り、僕の頭の方へ槍を突きつけようとする。

移動するその瞬間、勝ち誇ったような顔をする。これで詰みだと言いたいんでしょ。

・・・・・・甘い。僕は、その間にボタンを押して、コード入力を済ませているから。



奇妙な行動をするから負けるんだと、僕をあざ笑っていたけどそれは勘違いだ。





≪2・7・9≫



この形態は、フォンブラスターと言う。単発発射のシングルモードと、3発連続発射のバーストモードがある。

なお、最大装填で三回しか撃てない。三回撃ったら、弾切れになる。では、そうなったらどうするのか?



≪Charge≫





このように、僕の魔力を吸い上げる形で、弾丸が装填される。携帯・・・・・・ファイズフォンの画面に映る弾丸表示が、しっかりと満タンになる。

エリオがそれを見て逃げようとするけど、遅い。僕はもう、エリオの腹部に銃口を突きつけてる。

瞬間、エリオの腹部を3発の弾丸が撃ち抜く。起き上がりつつ、残りも連射。合計9発の弾丸は的確にエリオを撃ち抜く。



そうしてエリオにダメージを与える。それから、携帯をバックルに戻す。

で、踏み込み・・・・・・服の袖を掴んで、右腕で顔面を殴る。殴る。殴る。

それからストラーダを掴んで、また腹部に左足で一発蹴り。



蹴りながら、僕はストラーダを離す。そして、エリオは近くの木に身体を叩き付けられた。右手を軽く動かす。

スナップを利かせて、一回ビュンと振る。・・・・・・エリオを見ると、口から血を吐きながらも立ち上がった。

身体を守るジャケットには、確かに僕の蹴撃の痕。エリオはフラフラとしてる。苦しそうに、左手で胸を押さえる。



なので当然のように、僕はそのまま踏み込んだ。距離は一瞬で零になる。

エリオが、両手でストラーダを突き出す。さっきよりも突きは早い。

それを左に動いて避けつつ、左拳で思いっきりあのバカの顔面を殴る。



僕に殴られて地面に転がったエリオは・・・・・・敵意むき出しで僕を見る。





「なに、その不満そうな顔は」





エリオが踏み込んでくる。そして僕を襲うのは、槍の攻撃。というか、乱撃。

薙ぎ払い、突き、打ち込まれるそれを、身体を捻り、転がり、全て避ける。

エリオの表情に、焦りの色が浮かぶ。10数回に及ぶ連続攻撃のどれもが、当たらない。



右から払うようにして、右手のみで持たれた槍が打ち込まれる。

それを飛び込んで右腕で止める。それからすぐに右肩を取る。

そして、腕も掴んでそのまま捻る。瞬間、『ゴキ』という音がした。





「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





そして、エリオが身もだえして、ストラーダを手放す。だから、また頭を掴む。

掴んで、一気に持ち上げて後方へぶん投げる。

エリオの身体は宙を飛び、近くの木に叩きつけられた。そして、地面に落ちる。



ついでに、地面に落ちてたストラーダも拾って、ぶん投げて返してあげる。





「まさか、今更それを認識したの? いくらなんでも遅過ぎでしょ」



そこに向かって、僕は飛び込んでる。エリオは反応しようとするけど、遅い。

左足の太ももに向かって、徹を込めて蹴りを叩き込む。木との間で潰すような蹴りに、足が妙な音を立てる。



「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





騒ぐので、また右手で頭を掴んで身体を回転させながら、木に叩きつけてやる。

エリオが口から唾液混じりに血を吐き出す。それからすぐに逆回転して、エリオを投擲。

180度逆の方向の木にエリオは派手に叩きつけられた。・・・・・・あ、しまった。



ストラーダを返す必要がなかったね。仕方ないので近くに落ちていたストラーダを手に取って、また投擲。



それは崩れ落ちたエリオの顔すれすれに飛んで、切っ先が木に突き刺さる。ストラーダの刃で、エリオの頬が切れる。





「お前はもう、こういう道に入ってんだ。こういう奴と戦って、殺されるかも知れない道にな」



右腕を上げつつも手首をまたスナップ。・・・・・・本来なら、もうちょい楽しめるんだろうけど。そうはいかないのが辛いね。



≪私達に感謝して欲しいですね≫



エリオは自分の左頬から流れる血を感じて、顔が一気に青冷める。



≪今のうちからそういう連中に追い詰められる恐怖を、実地で味わう事が出来るんですから≫



そのまま起き上がってストラーダを引き抜く。けど、僕に対しての返事はない。

未だに信じられないような目で、僕を見る。



「うで・・・・・・うでが、折れたっ! 足も・・・・・・・足もっ!! 痛い、痛い・・・・・・!!」



なお、これは返事じゃない。普通に泣き言だ。そして『腕は』折ってない。ただ関節を外しただけ。

警防の皆様や、恭也さんと美由希さんから教わった技の一つ。なお、戻すことも出来ます。



「・・・・・・お前、弱いね。そしてバカだ」

「なんだとっ!!」

「気づかなかった? 僕があの攻撃を、ワザと受けてあげたのを。
そして、お前が『ついて来れない』と言った攻撃の全てを、ワザとそうしてあげたのを」

「ワザと・・・・・・!?」





そうだよ。だから、僕は立っていられる。で、そうしてあげなかったら、お前の攻撃は僕には当たらない。



それ以前の問題として、あんなのよりずっと痛いのは経験してる。



受けると分かっている攻撃・・・・・・それも、非常に低レベルなそれで倒れるわけがない。





「つーかエリオ、お前・・・・・・人を攻撃したことないでしょ」



僕は一歩ずつ進む。エリオは、同じ数だけ下がる。左手でストラーダを取り、その先を僕に向ける。

敵意と、悔しさと、苛立ちが交じり合った視線を僕にぶつけながらも、エリオは下がる。



「あぁ、かなりやんちゃしてたってのは、知ってるよ? お前のせいで、フェイトがあっちこっち火傷を作ったから」

「な・・・・・・!!」

「だけど、それは数に入らない。入るわけがない。お前は、ただ駄々をこねてただけだから」



エリオが驚いている。まさか、僕がそこを知っているとは本気で思ってなかったらしい。

・・・・・・あぁ、怒りが再燃してきた。あの時は本気で腹立たしくて、ぶちのめしてやろうと何度思ったことか。



「実戦で、実際に、生きている犯罪者や関係者相手に、自分の意思で槍を振るって、傷つけたこと・・・・・・ないでしょ」



エリオは何も言わない。当然だ。その通りなんだから。戦う前にエリオの経歴を改めて確認した。

六課が初所属だから、実戦も六課が初めて。そしてフォン・レイメイ戦ではエリオは後方に下がって、キャロのガードをしていた。



「お前の攻撃は、弱い。業を自分の手で背負う覚悟が、絶対的に足りない」



訓練校で実際の現場に出ることはない。つまり、コイツはまだ犯罪者と、実戦で直に斬り合ったことがないのだ。



「そんなお前じゃ、僕達は・・・・・・『間違ってる人間』は、誰一人、止められない」

≪というか、あんなので今まで攻撃してるつもりだったんですか?
緩い、緩過ぎますね。機械兵器相手はともかく、生きた存在には通用しませんよ≫





そして、一歩だけ踏み出す。エリオはその身体のまま、ストラーダを左手だけで持つ。

片足を引きずりながらも後ろに下がりながら、僕と距離を取ろうとする。エリオは、身体を上手く動かせていない。

ううん、動かせるわけがない。何度か僕が打ち込んだ徹、肩を外された痛みで、身体はフラフラだもの。



目から闘志が消えないのはいいことだけど、それは無意味だ。だって・・・・・・僕はもう、容赦はしないから。





「なら、なぜここに居るのか。答えは簡単だ。・・・・・・お前が、フェイトやなのは達のコピーだからだよ」



闇の中、森を歩きながらエリオに突きつけていくのは、一つの事実。

エリオにとっては・・・・・・いや、きっとフェイトやみんなにとっても、残酷な事実。



「自分の頭で、心で、正しい事を、戦う理由を本当の意味で決めることも出来ない人形だ。
だから、本物の後を追うことしか出来ない。そうしなければ、生きていけないから」

≪人から教わる事、受け取った事を手本にするのはいいでしょう。ですが、それを絶対と思うのはいただけませんね。
正解は、自分で決めるんですよ。なお、この人は決めています。自分が正真正銘のバカだと、答えを出した≫



残酷だろうと僕は遠慮なく今のお前の全部を、ここで叩き壊してやる。

正しいとか間違ってるとかそんなのじゃない。・・・・・・僕は、お前みたいな奴が、嫌いなのよ。



「お前は今の今まで一度として、これまでの時間を『エリオ・モンディアル』という人間として、戦ってもなければ生きようともしてない」





歩を進めながらも、言葉を続ける。エリオは、逃げながらも僕の言葉に衝撃を受けている。

・・・・・・コイツは局やフェイト達の威を借りて、槍を振るってるに過ぎない。

だからコイツの僕を責める言葉は、ずっと複数形。ずっと『僕達』で通してる。



もしくは、『アルフやリンディさんがそう言ってた』だ。つまり、全部人頼み。絶対に自分じゃない。

いつだって管理局の局員の一人として、部隊員の一人として。そして、フェイトの関係者の一人として。

そんなみんなの代表者としてここに立ってる。みんなが自分と同じ考えだと、疑いもなく思ってる。



僕に対して不満を持っている全ての人間を代表して、僕を粛清する正義の味方として、ここに居る。

でも、決して『エリオ・モンディアル』としては立っていない。そう、コイツ自身は空っぽだ。

そんな言い訳をして誰かを傷つけることから、その事実から逃げようとしてやがる。



戦いが結局エゴの押し付け合いで、相手を傷つけるという事実から逃げてる。

まぁ、アレだよ。どっかの人みたいに、正義の味方になろうとしてるとかなら、まだ分かる。

でも、こいつはそれよりもダメ。更に歪んでいて、そして醜悪だ。



現在の自分の立場と考え、それらそのものが既に正義として確立していると勘違いしている。

つまりコイツの中ではフェイト達と同じよう働き、戦い、ルールを守る事が正義になってる。

そして自分も同じ道を行き、上に従い、言う事を守る時点で完璧な正義の味方か何かになれていると思ってる。



コイツの生まれで何があったかなんて、僕は詳しくは知らない。知りたいとも思わない。察しはつくから。

とにかくコイツは局員になれば、強くなって正義のために戦えばフェイトやみんなが認めてくれると思っている。

そうすれば『エリオ・モンディアル』という人間が世界に認められ、しっかりと存在出来ると思ってる。



だからこれだ。こりゃクソ犬どうこうじゃないね。コイツは、きっと元から歪んでいた。

誰かに認めて欲しくて、認めてもらうために戦ってた。昔のフェイトと同じように。

ただそれが母親と、組織や世界、親しい人達という違いがあるだけ。だけど後は同じ。



その上フェイト達や局の道理、そんな借り物の想いがなまじ正しいのが性質が悪い。

人の想いや考えや居場所を、何の覚悟も無しに否定する。

だから認識させる。自分のやっている事が、自分の考えていた事が、どんなに愚かでどんなにバカかを。



それがどれだけ怖い事か、魂に刻み込む。なお、僕はもう知ってる。それはもうやんなるくらいに。

エリオ、今のお前は・・・・・・とても危ういよ。みんなや自分に近い人間がお前を否定したら、きっと簡単に壊れる。

だからみんなの言葉を聞き入れないんでしょ? もう僕は気づいたよ。



フェイトやティア達が僕を擁護していると受け取る本当の理由は、そこだ。

そうしなかったら、みんなの言葉は、今の自分の行動を否定するものになるから。

そうだ、お前はそれが怖い。だからお前は心を閉ざし、考える事をやめたんだ。



みんなの声を認めれば、自分の存在が揺らぐから、耳を閉ざした。

恭也さんやフィアッセさんにGPOのみんなの事を認めれば、自分の世界が揺らぐと怖がってる。

更に愚かな事に、コイツは自分のそんな感情すら気づいてない。



自分の意思で何かを振り切る事すら選択出来ない。すれば、今までの自分が壊れるから。





「フォン・レイメイは、ハッキリ言えば僕が知る限りでも最低最悪の人種だ」



エリオの足が止まる。いきなりあのチート野郎の話が出たのか、わからないという顔をする。

だから言い切ってやる。とっても悲しい、残酷な事実パート2を。



「けど、フェイト達の劣化コピーであるお前はそれ以上の屑だ。
人としても、戦闘者としても、お前はフォン・レイメイの足元にも及ばない」

「な・・・・・・!!」



『我思う、ゆえに我あり』なんて言うけど、今のお前には我そのものがないよ。

『僕達が・アルフさんがリンディさんが』・・・・・・そればっか。まぁ、コピー品にはお似合いか。



≪あなたはここに存在していません。確かに『局員』で部隊員としては居るでしょう。
だけど『エリオ・モンディアル』個人としては、存在していない。だから、影が薄いんですよ≫





ま、当然だよね。お前はどこまで行っても、自分で自分の存在を確立出来ない、劣化コピーに過ぎないんだから。

お前は局やフェイト、みんなに依存しないと、自己の存在を確かめられない。常に疑っているんでしょ?

自分は本当に生きていていい存在なのかと。それもこの状況を呼び込む要因になっていると、僕は思う。



そんな奴に『人間』であり、自分の闇と歪みを認め、有るがままに存在していたフォン・レイメイが負ける道理はない。

剣を合わせたから、純粋に恐怖を覚えたからこそ僕はこう言える。

少なくともアイツは、自分として戦ってた。自分として、壊し、奪い、楽しんでいた。ただの自分としての欲望に正直だった。



だからこそあれほどに強く、歪んだ闇になった。でも、お前は中途半端。

歪んだ闇にもそれを払う光にもなれない。今のお前は、コピー品以外にはなれない。

・・・・・・エリオの瞳が動揺で揺れる。必死に自分に『嘘だ』と言い聞かせている。



だけど、全部を否定できない。そりゃそうだ。・・・・・・『コピー品』に否定出来る事実なんて、何もないよ。

しかも、お前はそれを自分から望んだ。だからお前は管理局の正義や理念が無いと空っぽ。

みんなの後押しが無ければ、自分を認められない。今のお前が信じられるのは、みんなや世界から公式的にも認められた人間だけだ。



本質的にそんなお題目を通してしか、人や世界を見ていないし、信じられない。

考えてみれば今のコイツの世界の中には、フェイトもそうだし局から認められている人間しか居ない。

そういうのも、歪みを助長させてるんでしょ。・・・・・・ほんとに、悲しいねぇ。





「違うっ! 僕は劣化コピーじゃ・・・・・・屑なんかじゃないっ!!」



だけど、悲しい事にエリオはそれが分かってない。だから声に出す。不安をかき消すように、必死に。



「僕がエリオ・モンディアルなんだっ! あの男に・・・・・・犯罪者に負けてなんかないっ!!
嘘をつくなっ! 僕はフェイトさんに助けてもらって、みんなから認められて」



一気に踏み込む。エリオは反応出来ずに僕の右の掌底を顔面に食らった。そのまま近くの木に頭を叩きつける。

手の中で何かが砕ける感触。だけど僕は・・・・・・遠慮なく木にエリオを押し付ける。エリオは恐怖で震え、反撃しようとすらしない。



「他人に認められなかったら、お前は『エリオ・モンディアル』として、存在出来ないわけ?」



エリオがは恐怖混じりに僕を信じられない物を見るような目で見る。



「居ていいって言われなくちゃ自分の存在の確立にすら不安を抱くような奴、認めるわけがないでしょ。・・・・・・甘えてんじゃねぇぞ」



一端腕を引いて、エリオの胴体に向かって押し込む。



「このガラクタがっ! とっとと壊れろっ!!」



木が圧力に耐えられずにへし折れて、エリオはそれごと吹き飛ぶ。僕はそれを見ながら次のアクション。

・・・・・・ファイズフォンに備え付けられているある物を、左手で引き抜く。それはメモリー。それにも『φ』のマークがある。



「・・・・・・嘘だ。違う、僕はエリオだ。僕こそがエリオだ。人形じゃない。人形じゃない。
違う・・・・・・違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う」




エリオは鼻から血をダラダラと流しながらも、立ち上がる。膝がガクガクと震え、何か液体が股間から漏れてる。



「フェイトさんも、キャロも、アルフも、リンディさんも」



知り合いの名前を呟き続ける。そして、何度も口にする。

みんなは自分を『エリオ』と呼んでくれたと、何度も、何度も。・・・・・・構わずに、言葉を続ける。



「ハッキリ言わなきゃ分からない? お前は、自分の存在の確立と維持を、周りの人間に、世界や組織に、依存し切ってる」

≪それが、自分で分かってるならいいですよ。人の在り方など、星の数ほどありますから。
でも、分かってませんでしたよね。あなたは、ずっと勘違いをしていた≫



備え付けられているポインターを90度左に下から回転させて、取り外す。

身体の前にポインターを持っていき、メモリーを挿入するスロットに左手のそれをはめ込む。



≪Ready≫





挿入した瞬間、ポインターが伸びた。というより、先の隠されている部分が引き出された。

形状は、銀色で細身の懐中電灯のようも見える。というか、そういう事のために使う事が出来る。

そうこうしている間に、エリオが動く。必死な顔で、スバルやなのは達の居る方を見る。



必死に助けを乞う目でだ。だからこう言ってやる。悲しいくらいに残酷な事実、パート3だ。





「困ったから、フェイトに・・・・・・なのは達に頼る気?」





エリオの身体が、ビクンと跳ねる。そして、愕然とした瞳で、どこでもない空虚な場所を見る。

きっと、見ているのは自分自身。ティアの最終警告に、頷いた自分自身。

さすがはコピー品なだけはあるね。困った時はなんの躊躇いもなく本物頼りと来たもんだ。



・・・・・・救いようがないな。底が浅すぎて浅すぎて、なんでここに居るのかすらイミフだ。





≪それがあなたの本質ですよ≫



だから今、お前はフェイト達を見た。本物に助けを求めた。

自分で選んだ意地を自分で通す事もせず、逃げようとした。・・・・・・反吐が出る。



≪・・・・・・さっき、私達が間違っていると言いましたけど、それは違いますね。
そもそも、『自分』として生きていないあなたに、間違いが何かなど、分かるはずがないでしょ≫

「あ・・・・・・あぁ」



右足には、ポインターが接続されていたのと同じ形のスロットがある。

それに、しゃがみながらポインターを接続。90度回すと、ポインターが足と平行になった。



「さぁ、おしゃべりはおしまいだ。・・・・・・どうした、来いよ。まだ終わってないぞ」





これはお前が自分で吹っかけた喧嘩だ。今この場で僕に殺されたとしても、通せ。

結果が出て初めてお前は、『エリオ・モンディアル』になれる。どうだ、嬉しいでしょ?

・・・・・・嬉しくないわけが無いよね。つーか、嬉しくならない理由がわからない。



勝とうが負けようが、結果が出て初めてお前は自分になれる。

今という時間は、エリオが自分の意思でそれを押し通したから生まれたものだ。

そうだ。それがこの時間に存在する唯一の意味。パンドラの箱の中にある希望。



理由や行動原理はどうあれ、エリオが僕を嫌い、今の僕を壊したがってたのは事実。

それが今という時間に結びついている。選んだのはエリオ。これは、エリオ自身の選択だ。

局も組織もフェイト達も、その実は関係が無い。だからこの戦いには揺らぐ事の無い価値がある。



だから僕はこの決闘を受けたし、ティアはこの決闘を持ちかけた。

そうだ。お前は・・・・・・嬉し泣きしながら今を受け入れろ。心が粉々に壊れようが、受け入れろ。

受け入れられなければ、お前は結局人形にしかなれないんだから。





「じゃあね、ガラクタ。・・・・・・人間自分になれなかった模造品は、このまま廃棄処分だ」





そのまま、僕は踏み込む。踏み込んで、空虚な目をしたエリオへと迫る。いや、目の色が変わった。



そして強い光が宿る。それは、怯え。自身を破壊する悪意に恐怖した人形は、その瞬間に『人』に戻った。



怯え・・・・・・恐怖とはなにか。自己防衛という生命体としての本能が生み出す、感情だ。





「う・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




 
エリオは、ストラーダを僕に向かって突き出した。その刃刃を金色の魔力が包み込む。

・・・・・・多分、恐怖からだろう。殺傷設定になっていたそれは、僕の左の肩口に直撃。肩を貫いた。

自分の目の前の光景を見て、肉を貫いた手ごたえを感じて、エリオが目を見開く。



そして顔が蒼白になる。・・・・・・神経も骨も、傷つけていない。傷も浅い。

うん、突入角度は選んだし、フィールドもしっかり張ったから。

なにより、このジャケットはこんな混乱気味の攻撃でやられるほど脆くない。





「あ・・・・・・あぁ」





肩口から吹き出る血と、自分の左手を見比べる。そして、逃げようとしてまた認識する。

自分が、自分の力と相棒が人を傷つけた事を。それは今まで、自分は信じていたものじゃない。

守るための力ではなく、憎むべき壊す力を振るい、生きている存在を傷つけた。



そうだ、それでいい。そうこなくっちゃ、わざわざここまで追い詰めた意味がない。





「・・・・・・そうだ、それでいい。それが、お前だ」





エリオが後ずさりして、目の前の現実からまた逃げようとする。それにより僕の肩を本当に浅く貫いていた刃が、抜ける。



だけど、それ以上は許さない。右手でエリオの髪を掴んで強引に引き寄せ、腹部に足の底を当てる。



首を捻り、簡単には動けないようにする。結構強めにやってるので、エリオが苦しそうに息を吐いている。





「逃げるな。・・・・・・何かが憎いなら、逃げずに憎め。許せないなら、許すな。
認められないなら、認めるな。ただ、その言い訳に局を、みんなを・・・・・・フェイトを使うな」





痛む左腕を動かし、バックルに装着されているファイズフォンを開く。



メモリーが抜かれて、銀色一色になっていたファイズフォンの表面が動き、本体が開く。



僕はそのまま、左の人差し指でエンターボタンを押す。





≪Exceed Charge≫



左手の指先で、開いたフォンを閉じる。ベルトの赤い装飾が輝き、アーマーのラインを通ってその強い輝きが右足に向かう。



「誰でもない・・・・・・お前の勝手で、我がままで、自分を振りかざせ」





そうして到達した光は、ポインターへ宿り、ポインターの先から赤い光が撃ち出された。



エリオの身体を撃ち抜く光は、その身体を吹き飛ばし、拘束する。光が広がると、円錐型の光のスフィアが現れる。



なお、バインド技術を応用して再現している・・・・・・らしい。ヒロさん達、すげーよ。





「・・・・・・さぁ」





右足を下ろし、軽く右手をスナップ。少し腰を落として・・・・・・走り出した。走り出し、僕は跳ぶ。



跳んで狙うのは、エリオに突き刺さっているスフィア。それに向かって、右足で飛び蹴りをする。



僕の身体は円錐型の魔力スフィアに飛び込むように、夜の闇を切り裂く。





「お前の罪を数えろっ!!」





飛び込むように蹴りを放つと、光がまるでドリルのように回転し、エリオの体に突き刺さる。

それによりエリオの身体が震える。次の瞬間、僕の身体が消える。

そしてエリオの後方に現れ、地面に着地した。僕は、そうしてあのバカを貫いた。



円錐型のスフィアも消え去り、エリオの身体に赤い『φ』のマークが刻まれる。

刻まれた瞬間、エリオのジャケットが一瞬でボロボロになる。身体が弾けるように震えた。

そして、エリオはそのまま地面へ崩れ落ちた。倒れたまま、もう動かない。



もちろん僕は非殺傷設定でやったので、死んでもいない。



で、痛みに顔をしかめて、右手で左の肩口を押さえる。





≪・・・・・・あなた、無茶し過ぎじゃありませんか?≫

「うっさい」

≪まぁ・・・・・・あなたらしいでしょ。及第点ギリギリですけど≫

「うん、自分でもそう思う。しかし、これは凄いね」



てゆうか、普通にすごい再現度だし。魔法技術で擬似的な感じにしてるとは言っても、これはすごい。

ジャケット自体も、消費量は少々増えてるけどDEN-Oジャケットみたいに無茶な消費量じゃないし、これはいいや。



≪機能特化型のオプションの効果もあるんでしょ。性能は期待していなかったんですが、むしろらしいかも知れませんね≫

「元々ファイズは、拡張アイテムでパワーアップってのが基本だしね。そういうのがあるんでしょ」



・・・・・・さて、一応報告はするかね。画面を開く。そして、そこに映るのは心配そうな顔のフェイト。



「・・・・・・終わったよ」

『うん、見てた。でも、ヤスフミ』

「え、えっと・・・・・・なんでフェイトはそんなにお怒りモード? エリオ叩き潰したのがダメだったとか」

『違うよっ!!』



え、違うのっ!? 僕はそっちかと思ってたのにっ!!



『ヤスフミの言いたい事は分かったからいいの。肩・・・・・・血が出てる』

「大丈夫だよ。浅めにだし・・・・・・って、お願いだから泣かないでー! これは大丈夫だからっ!!」

『だめ、ちゃんとお話・・・・・・するんだから。しなくちゃ、いけないんだから』

「わ、分かったから泣くのはやめてっ!? あぁ、お願いだから涙を拭いてー!!」










・・・・・・無意味な時間の中で、希望は確かに存在していた。





それをしっかりと先に繋げられたかどうかは、正直・・・・・・自信、ないや。




















(第15話へ続く)







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あきゅろす。
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