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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第11話 『ここに居たいと思う理由?』



三人でご飯を食べて・・・・・・食べて・・・・・・隊舎に帰ってきた。時刻は、夜の8時過ぎ。

まぁ、はやてとティア(呼ばないと睨まれるので、合わせる事にした)が仲良さげだったので、いいことだ。

で、僕は隊舎に戻ってきたので、フェイトとお話したりとかしようとした。そうしたら、はやてに引っ張ってかれた。





で、現在・・・・・・はやてと隊舎に来てたゲンヤさんとギンガさんとマリエルさんと会議してました。










「・・・・・・・・・・・・って、ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「おいおい、お前マジでどうしたんだよっ!!」

「『マジでどうした」はこっちの台詞ですよっ! なんだよこれ、なんなんだよこれっ!! なんでこの状況っ!?
なんで僕は前回は全くフェイトと絡んでないのっ!? 前々回もちょこっとだしっ! おかしいでしょうがこれっ!!」

「あぁ、そっか。そこなんだな。なぁ、八神・・・・・・相変わらずなのか?」

「まぁ、実はちょいちょい進展してるんですよ。ただ、ちょお色々都合が邪魔してまして」



そう、今現在僕の邪魔をしているのは三人。なんかこっちに来たゲンヤさんと、ギンガさん、それにマリエルさんだ。

108からはやての帰りを狙って、来たらしい。で、そこに僕も引っ張り出された。とにかく、アレコレ話して方針は固まった。



「固まったから、帰っていいですか?」

「ダメだ。もうちょっとだけ付き合ってくれ。・・・・・・どうだ、八神。コイツを呼ぶと色々と面白いだろ?
あっという間に方針が決まっちまった。つか、俺が聞きたいことの大半が片付いた」



ゲンヤさんがそう言うと、なんか納得したようにはやてが頷いた。

・・・・・・てか、別に大した事ないのに。全部経験から話してるだけだしさ。



「やっぱり、お前俺んとこ来い。お前と仕事すんのは面白いしよ、カルタス達も期待しまくってるぞ?」

「あ、あはは・・・・・・いいんですか? 僕、来て二週間でそうとう頭の痛いことを積み重ねますけど」

「別に構わねぇぞ」



なんかすっごい言い切ったっ!? や、やばい・・・・・・ギンガさんも『せっかくだから頑張ってみようよ』って空気出してるしっ!!



「というか、あのですね・・・・・・こう、108だと色々と不都合がありまして」

「それだと、ハラオウンのお嬢のフラグが立たねぇか?」

「・・・・・・実は。地上部隊と本局の次元航行部隊。
互いに恋愛感情ありとかならともかく、そうじゃないんですよ」



・・・・・・それでてんでダメなのは、もうこの数年で実証済み。そんなの、僕はごめんだ。

結構真剣な目でそう言った僕を見て、ゲンヤさんは腕を組んで考え始めた。



「なるほど、確かにそりゃあ大問題だ。てーか、それだと仕事の能率にも差し支えそうだしよ」



ゲンヤさん、そこを分かってもらえると非常に嬉しいです。そして、そのまま納得してくれるともっと嬉しいです。



「部隊長、そこで考えたらだめですから」



でも、ギンガさんはやっぱり納得しないらしい。うん、分かってた。

だから僕を、ちょっとたしなめるつもりで見るのね? うん、分かってた。



「・・・・・・あのね、なぎ君。フェイトさんのことが好きなのは分かるの。
だけど、もう少し考えて欲しいな。それだけで道を決めるのは、絶対にだめだよ」

「ほう。なら、どうしろと?」

「まずはやるだけやってみようよ。局員は、そんなに悪いものじゃないよ?
108なら、私も居るしフォローも出来る。フェイトさんにこだわる必要なんてないよ」

「やかましいわボケっ!!」



だから、こんな風に怒鳴り返すのである。なお、机をドンと叩いております。



「な、なぎ君っ!?」

「じゃあこのままフェイトにフラグも立てられずに空気化したらどうするのっ!? それともあれかなっ!!」



遠慮なく僕は、ギンガさんに三回転捻りで右の人差し指をビシっと指すのである。



「ギンガさんが責任取って、フェイトの代わりになるとでも言うのっ!? 僕とラブラブでもしてくれるのかなっ!!
だけど、ギンガさんはそうはなれないでしょっ!? てーか、僕は絶対そんなの嫌だっ! だったら横からガタガタ抜かすなっ!!」

「あぁ、恭文くん落ち着いてー! さすがにその発言は問題だからっ!! それは絶対ダメ発言だからねっ!?」

「そやでっ!? ちゅーかギンガに当たってもしゃあないやろうがっ! ほら、事件解決さえすれば、フェイトちゃんフラグは立て放題なんやから、落ち着かんかいっ!!」





ええい、マリエルさんもはやても止めるなっ! 僕はとりあえずフェイトのフラグをなんとかしなきゃ夜も6時間くらいしか眠れないんだよっ!!

てか、事件前に告白とかそういうのは死亡フラグのロードを突き進んでるから、下手に強烈なアプローチも出来ないしっ!!

あぁ、ムカつくっ! 主にあのスカリエッティとか抜かす陰険野郎にムカつくっ!! アイツがいなきゃ、僕もっとフェイトといちゃいちゃ出来てるんじゃないのっ!?



よし、叩き潰すっ! 絶対にあの野郎は叩き潰すっ!!



そしてとっとと事件は解決っ! フェイトのフラグを一気に5・・・・・・いや、EXまで成立だっ!!





「よし、動画作るわ。総統閣下の動画作るわ。それで『ちきしょーめっ!!』とか言うわ」

「作らんでえぇからっ! なにアンタ、普通にワケ分からん方向でちょっとキレとるっ!? お願いやから落ち着けー!!」

「・・・・・・お、そうだ」



で、僕達の様子を少し引き気味に見ていたゲンヤさんが・・・・・・ポンと拍手を打った。なぜだろう、それに凄まじく嫌な予感がする。

凄まじく嫌な予感がする。大事な事だから二回言うくらいに嫌な予感がする。



「ハラオウンのお嬢も、108に誘うか」

「「「「・・・・・・・・・・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」



待て待てっ! この人なんかすっごい事言い出したぞっ!!

てーかなんでっ!? なんでいきなりそうなるんだよっ!!



「うちの部隊でも執務官は居てくれると嬉しいしよ、ハラオウンのお嬢なら俺も文句はねぇぞ。うし、そうするか。
そうすりゃうちの人材も一気に充実だ。いや、よかったよかった。・・・・・・お前もそれなら文句ないだろ」

「ま、まぁ・・・・・・それならフラグも立つでしょうし。あ、もしかしたら問題ないかも」

「恭文くん、なんでそこ納得しちゃうのっ!?」





そうだ、なんで今までこの解決法を思いつかなかったのだろう。

もちろんフェイトが納得するかどうかが問題。てゆうか、納得しないなら絶対だめ。

だけど納得すれば、僕は別に108で仕事するのには抵抗ないじゃん。



ということで、僕は机に両手を突いて、ぺこりと頭を下げる。





「ゲンヤさん、フェイトが納得した場合に限りという条件が付きますが・・・・・・これから先、よろしくお願いします」

「おう、任せろ。うちに来る以上はしっかり面倒見させてもらう」



そして、僕達は互いに右手を差し伸べて、強く・・・・・・強く、固くその手を握り合ったのだった。

この日、僕達の利害は一致し、未来に新しい道筋が開けた。



「んじゃ、早速ハラオウンのお嬢と話すか」

「そうですね、早速行きましょう。あ、部屋まで案内しますね」

「おう、悪いな」



というわけで、僕達は席を立ち、会議室から出るのだ。なお、最低とは言うことなかれ。僕だってさすがに本気ではやってない。

ゲンヤさんだって同じくだ。きっと行くと思わせて、普通に連れションコースだと思う。うん、そうに違いない。



「だから二人とも落ち着いてっ! いくらなんでも話が飛び過ぎだからっ!!」

「そうやそうやっ! てか、フェイトちゃんかていきなりそんな話されたら戸惑うに決まってるやろっ!?
それ以前にフェイトちゃんの指針無視しまくりやないかっ! お願いやから二人とも落ち着けー!!」

「・・・・・・フェイトさんの代わり。私が、フェイトさんの・・・・・・なれれば、なぎ君108に入ってくれるかな」

「きゃー! ギンガがなんか変なスイッチオンになっとるっ!? これ、どないして収拾つければえぇんやっ!!」










・・・・・・・・・・・・とにかく、こうして夜は更けていく。なお、僕はさすがに冗談だった。





だけど、ゲンヤさんは本気だった。だから嵐が巻き起こるわけですよ。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS Remix


とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常


第11話 『ここに居たいと思う理由?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・そっか、なのはがママになったんだね」

「うん」

「でもね、私も少しだけ、ヴィヴィオのママになったんだよ?」



夜、隊舎に帰ってくるとそんな話になった。なのはが、ヴィヴィオの保護責任者になったこと。

で、実は・・・・・・そのために私も少しだけ責任を持つことになった。



「後見人って言ってね、なのはママとヴィヴィオを見守る役割があるんだ」





エリオとキャロで言うなら、リンディ母さんの立ち位置。というわけで、二人とはまた違うけど子どもが出来た。

なんだろう、凄く幸せだな。・・・・・・ヴィヴィオの未来も、守らなくちゃいけないね。

執務官として、大人として、後見人や保護責任者として出来ること、頑張っていこう。



今、私達を『ママ』と呼んで、抱きついて来ているこの子の温もりを感じると、心からそう思う。





「・・・・・・おーい、ちょっといいか?」

「え、ゲンヤさんちょっと待ってっ!? マジで来襲はありえないですからやめてっ!!」

「バカ、こういうのは思い立ったが吉日なんだよ。地球には、『兵は詭道なり』と言う言葉があるだろうが。
優秀な人材二人を取得するためには、手段は選んでちゃあダメだろ」

「きゃー! ゲンヤさんがなんかKYだー!! つーか、もしかしてスバルのアレはゲンヤさんから移ったっ!?
あと、それ意味が違うっ! それは『相手を騙したり欺くことも勝負には必要』ってことですよっ!? アンタはフェイトになにするつもりさっ!!」



部屋の外から、声が聞こえる。というか、ノック・・・・・・あれ、この声って。

私となのはが、顔を見合わせる。だって、私達の知っている声だったから。



「・・・・・・ナカジマ三佐に」

「恭文君?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく、二人を部屋の中に・・・・・・どういうわけかギンガやはやて、マリーさんまで居たけど。





そして、いきなり話を切り出された。それも重大な話。










「あ、あの・・・・・・ナカジマ三佐。お誘いは嬉しいんですけど」



いきなり過ぎて・・・・・・そう、あんまりにいきなり過ぎて、ビックリしている。

私を108部隊に誘うなんて、いきなりにも程があるもの。



「まぁそう言うな。悪いんだがよ、少し考えてくれねぇか?
お前さんを引き入れられるかどうかで、恭文がうちに来るかどうかが決まるんだよ」

「「はぁっ!?」」



私は当然のようにヤスフミを見る。というか、結構厳しい視線で。

・・・・・・どういう、ことかな。もしかして私が居ないから108に入れないとか、そういうこと言ったのかな。



「あぁ、なんか勘違いしてるみたいだから一応言っておくと、恭文が俺とかギンガの誘いを断る言い訳にお前さんを使ったわけじゃねぇぞ」

「なら、どういうことでしょうか」

「どうもコイツ、執務官の資格に興味があるらしいんだよ」



・・・・・・・・・・・・え?



「それでよ、前にお前さんの補佐官になって資格を取ってみたいって言ってたんだよ」

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』



わ、私の補佐官になって・・・・・・執務官の資格っ!? あの、どういうことかなっ! というか、局員になるつもりとか0だったんじゃっ!!

当然のように、私はヤスフミを見る。というか、私だけじゃなくてなのはとはやて、ギンガとマリエルさんも。



「アンタ、そうやったんかっ!? うち初耳やったんやけどっ!!」

「恭文君・・・・・・もしかして、局員になってもいいとか考えるようになってたの?」

「あの、だったら私嬉しいよ。・・・・・・局員の中でも、なぎ君の通したい事はきっと出来る。
だから一緒に頑張っていこう? 私、フェイトさんみたいになれるように頑張るし」

「ち、違うっ! そういうのじゃないからっ!! いや、真面目にだよっ!?」



ヤスフミが必死に否定している。というか、ギンガが凄く嬉しそうなのが気になるけど・・・・・・そこはいい。

でも、ヤスフミが執務官・・・・・・捜査関係、一切しないよね。普通に今まで通りだろうし。



「てーかゲンヤさんっ! なんですかその話っ!? 僕知らないんですけどっ!!」

「はぁ? なに言ってんだよ。前に話してたじゃねぇか。
ほら、思い出してみろ。俺とお前とサリエルと飲み行った時によ」

「・・・・・・ゲンヤさんとサリさんと?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「お前よ、局の仕事の中で興味あるのとかねぇのか?」

「いや、だから僕は局員になるつもりは」

「まぁまぁ。・・・・・・やっさん、少しでいいから考えてみろよ。
せっかくこんなに誘ってくれてんだし、それくらいしてもバチは当たらないだろ」

「そうだぞ。それにだ、お前が懸念している小うるさいギンガもここには居ない」



ゲンヤさん、自分の娘を『小うるさい』って言い切るのは問題だと思います。

ただ、分かってくれていると助かる。ギンガさん、熱の入れようが凄いもの。



「アイツは、お前に局・・・・・・自分の居場所を好きになって欲しいんだろ」

「そういうのは、人の自由で済ませてもらえると助かるんですけど」

「実は俺もそう思う。で、話を戻すが俺達はこの話を他にバラすつもりもねぇ。ほら、問題ないだろうが」





ゲンヤさんとサリさんがそう言ってきたので、少しだけ考えてみる。・・・・・・ぶっちゃけ、部隊員とかめんどくさい。

自由気ままに動けて、勝手が出来て、僕のやりたいように出来て、うざい縄張り関係に縛られない仕事。

まぁ、当然のように組織内でそんな仕事なんて・・・・・・あるな。ヴェロッサさんがやってる査察官。



ただ、僕はそっちは向いてないと思うので、そこに割合近いものを挙げることにした。





「うーん、あくまでも僕のやりたい事に近いって言うのなら・・・・・・執務官とかですか?
ほら、最近嘱託でも資格取れるようになったらしいですし」

「執務官か。あれか、ハラオウンの嬢ちゃんやクロノ提督の影響か?」

「全然違います。部隊員とか縄張り関係とか規律云々とか嫌いなんで、色々絞っていくとそれくらいしか無いだけです」



そう、あくまでもそれだけしかない。教導官とかレスキューとか、人に何かを伝えるとか助けるとか、そういうのガラじゃないもの。

あくまでも、局の数ある仕事の中で色々絞っていくとそれだけという話。うん、それだけなの。



「まぁ、資格としては取ってもいいかも知れないな。色々便利ではあるしよ」

「便利過ぎてマジで便利屋扱いなのが気になりますけどね。・・・・・・そのせいで忙しいし」



フェイト・・・・・・仕事とか子育てとか頑張るのはいいけど、大丈夫なのかな? 身体とか壊さないといいんだけど。

てーか、甘いもの。いつも自分より人のこと優先でさ。まぁそこがフェイトのいい所でもあるとは思うので、色々と納得はしてる。



「だったらよ、部隊に入るかどうかは別として、うちの部隊で勉強してみないか?
まぁ、今はサリエルやクロスフォードの嬢ちゃん達との修行があるから難しいたぁ思うが」

「難しいですね」





リンディさん達が、ここ1年の僕のどうこうに色々と疑いを持ってる。

仕事のペースを落としたり、ミッドに引っ越したのが相当気になるらしい。

下手にバレるとめんどいから、隠しておきたい。



なので、僕は仕事も適度にやりつつ修行をする。それはとっても大変なのだ。





「それにお前、もうすぐヴェートルにクロスフォードの知り合いの手伝いに行くだろ?
今回の修行の纏めのためによ。ついさっきサリエルから改めて話を聞いたが、それだと今は無理だ」

「なのでそれが一段落したら、捜査関係とかその辺りってことですよね」

「そうだ。・・・・・・まぁ、お前さんの事だから、捜査せずに事件解決ってパターンが多いとは思うが」



昔の特撮みたいなノリで巻き込まれて、戦って、解決して・・・・・・ってパターンばかりだしなぁ。

あははは、マジでこれどうしようか。もうすぐ大人なんだし、運の悪さも緩和してくれると嬉しいのに。



「うーん」

「なんだ、これでもダメか。別に局員になれとは言ってないのによ」

「やっさん、何が引っかかってるんだよ。俺は悪い話じゃないと思うが。
てーかよ、資格取っておくと便利だぞ? 一種のステータスにもなるわけだし」

「執務官の試験って、無茶苦茶難しいじゃないですか」



実技・筆記合わせて合格率が15%以下とか抜かしてやがる超難題。それが、執務官試験。

なので、受ける人間にもそこそこな能力が求められる。で、それを手にするのにいい方法がある。



「そういう勉強するなら、やっぱり実際に現場に出てる執務官の側で働きながら勉強するとかがいいのかなとか、ちょっと思ったり」

「・・・・・・あぁ、そういうことか。そういや三佐、108で今執務官って」

「居ないな。うちも出来れば居てくれると助かるんで探してはいるんだが、中々難しいんだよ。
良い奴は本局とかに吸い上げられちまうし、地上は地上でどこもカツカツだしよ」



こういうところで、陸と海の仲の悪さやら色んな問題が出てくる。やっぱり・・・・・・管理局は嫌い。

めんどくさいもの。僕はもっとシンプルに、真っ直ぐに向かって行きたい。先生みたいに、強く。



「で、執務官って言ってもピンキリじゃないですか。
無茶苦茶凄い人も居れば、どこぞの雑魚の如く死にかけるのも居る」



ちょうど1年くらい前にその一例を見てしまったから、誰でもいいというのは考える。



「しかしあれもなぁ。偉そうなこと言ってたわりに、雑魚同然だったし」

「やっさん、言ってやるな。あのキザは本当は俺らレベルでやる奴なんだ」

「そうなんですか?」

「あぁ。元々頭脳労働が専門だが、それでもだ。ただ、不意打ちとかそういうのに弱くてな。
知り合い連中からは『単独で現場を探索するとロクな事にならない』って言われまくってんだ」



・・・・・・それ、あの時みたいなことが前にもあったってことだよね? え、それっていいのかな。

僕が思うに、そこは色々と問題ありだと思うんだけど。てーか、あの人いつか死ぬんじゃ。



「で、やっさんとしてはそこを含めると、やっぱりハラオウン執務官の補佐官がやれるならやりたいってとこか?」

「あははは・・・・・・わかります?」

「分からないわけがあるか。だが、その選択は俺も賛成だ。現状の局でハラオウン執務官は、そこそこ優秀。
お前がマジで資格を取るために勉強するなら、フラグどうこうを含めても一番いい場所ではある。顔見知りだから、気も楽だろ」

「そうですね。・・・・・・ただ、実際にやるとして、頼むの躊躇うんですよ。
フェイトに話したら、間違いなく局に入ろうって言われますし」





絶対言われる。だったら、局員になってみようとか言われる。

『せっかく興味が出てきたのに、嘱託のままなんてもったいないよ』とか言われる。

そういうのも、フェイトにこの話をするのを躊躇う・・・・・・あれ? なんかおかしいな。



なぜに実際にやる方向で話が進んでる?





「・・・・・・局って、入らなくちゃいけないんですかね」

「俺は別にそうは思わねぇぞ。ギンガは別だろうがな」

「へ? いや、でも僕のことかなり誘ってますし」

「やっさん、お前分かってないな」



サリさんが、少し呆れながらそう言った。そして、焼き鳥を一口パクリ。

それをしっかりと噛んで、飲み込んでから言葉を続けた。



「一緒に仕事をして楽しめる相手なんざ、そんなに出会えるもんじゃない。
こういう物騒な仕事をしてる場合は、特にだ。・・・・・・ですよね?」

「あぁ。俺は、お前さんと仕事するのが楽しいんだよ。派手に暴れるのも、面白いと思ってる。
別に今のまんまで問題ねぇぞ? 俺んとこは、元々そういう荒っぽい奴らばかりが集まってる」

「・・・・・・マジですか?」

「マジだ」



ギンガさんやフェイト、その他顔見知りな方々は、局の規律を守った上で、想いを通そうとか言うのに。

僕が部隊としてそれはいいのかと思っていると、ゲンヤさんが『当然だ』と、焼き鳥をつまむ。



「カルタスの奴を見てみろ、あいつは今でこそあぁだが、若いころはそりゃあ暴れ馬の如しだった。
・・・・・・で、話を戻すが、お前さんが資格を取るなら、確かに執務官の下で勉強するのがよくはあるな」



だけど、僕の知っている限り当てがない。それはもう見事に。

フェイトを除くと、あとはあのキザ執務官レベル。非常に問題ありなのだ。



「で、そのハラオウン執務官は、お前さんが嘱託のまま資格を取るのを絶対に納得しない。
そうすると、お前さんは勉強の場がない。例え俺んとこ来ても、それだと同じかも知れないな」

「まず執務官に必要な捜査スキルそのものが、やっさんだと鍛えられないじゃないですか。だって、こいつ凄まじく運悪いんですよ?
こいつの事だから、絶対なんか巻き込まれて『捜査? なにそれ美味しいの?』状態で事件解決するに決まってるし」

「そうなんですよね。・・・・・・・・・・・・うーん、どうしよう。
このままじゃ真面目に執務官の資格を取るための勉強なんて」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いやいやっ! ちょっと待ってっ!?



「なんで普通に僕が『あー、資格取りたいなー』って本気で思っている体で話が進んでるっ!? これおかしいじゃないですかっ!!」

「いいじゃねぇか、細かいことは気にすんな」

「そうだぞやっさん、細かいことは気にするな」

「気にするわボケがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・言ってるっ! なんかすっごい騙されてたような感じだけど僕言ってるっ!!」





というか・・・・・・ヤスフミ、こんなこと考えてたんだ。あの、びっくりした。

というか、申し訳なくなってきた。昔の自分に、腹が立つ。

・・・・・・私があんまりに強引だったから、ヤスフミに負担かけてた。



ヤスフミが嘱託のままでもよかったのに。新しいことに興味を持ってくれていたのに。





「あの・・・・・・ごめん、ヤスフミ。私、本当にだめだった」



私、力になるつもりで遠ざけてた。遠ざけて傷つけて・・・・・・ダメ過ぎだよ。



「局員だけが道じゃないのに、強引過ぎたよね。あの、本当に」

「だからフェイトも本気にしないでっ!? てーか、会話の流れ見てたよねっ! 僕普通に騙されてたのと同じだからっ!!」

「でよ、俺としては恭文に108に入って欲しいと思ってる。それはもう喉から手が出るくらいにな。
ただ、現状の部隊じゃあ、その場合こいつの指針に役立てるものを100%出せねぇんだ」



確か、108には執務官が居ない。108だと執務官に付いて実地で勉強というのは無理。

だから私・・・・・・あれ? なんだかこう無茶苦茶なような気がするのは気のせいかな。



「もちろん別に恭文だけの話をしてんじゃねぇ。よくよく考えたらよ、お嬢なら文句が無いんだ。
うちの部隊でも法務処理が出来る執務官はかなり前から探してる。それも理由だ」

「つまり・・・・・・元々108に欲しい人材の条件に適合するのが、恭文とフェイトちゃん言うわけですか。
単に恭文の都合どうこうとか、そういうんやない。もっと言えば108の都合で誘っとる」

「あぁ。まぁ、少々めんどくさい言い方にはなっちまったが、そういうことだな。でよ、どうだ?
今の段階なら人材制限にも引っかからねぇし、俺やギンガとしても来てくれると助かるんだが」



確かに・・・・・・お誘いはありがたい。というか、嬉しい。普通に嬉しい。

必要だと言ってくれること、されていることはとても嬉しい。だけど・・・・・・だめ。



「あの、申し訳ないんですけど、お断りさせていただきます」

「そうか。で、理由はなんだ?」

「私は本局の執務官ですし、そこでの仕事もありますから。
あと・・・・・・エリオやキャロのこともありますし、ずっとミッド地上というのはどうも」



私がそう言うと、ナカジマ三佐は少し表情を変えた。怪訝そうと言うか、訝しげなそれに変化した。

私はそうなる理由が分からなくて少し首を傾げる。



「・・・・・・なぁ、お嬢。それはマジで言ってんのか?」

「はい」

「だったら納得出来ねぇな。お前さん、なんか自分で違うとか思わねぇのか?」



言っている意味が、よく分からなかった。だって、私は本局で執務官として働いている。

そこでやることがあって・・・・・・それ以外に理由、いるのかな?



「うし。じゃあ聞くが、なんで本局じゃなきゃいけないんだ?」

「ですから、それは私がやらなきゃいけない仕事があって」

「違う、そういうことじゃねぇ。・・・・・・お前さんがやらなきゃいけないことなんて、俺は聞いてねぇよ。
俺が聞きたいのは、なんでお前さんが本局の執務官を続けたいのかってことだ」





・・・・・・それはまったく同じ事に聞こえる。だけど、今のナカジマ三佐の言葉はそうじゃなかった。

『やらなきゃいけないことがある』というのと、続けたい・・・・・・やりたいことは違う。そう、違う。

だから、私の胸を的確に貫いた。貫いて、血の気が引くのが分かる。だって、分からないから。



答えようとしても、言葉が詰まる。何も言えなくなる。いや、待って。私にはちゃんとある。





「それは・・・・・・私、小さい頃に色々ありまして」

「それで?」

「私のような思いをする人を、一人でも減らしたくて、それで」

「それは執務官を続ける理由だよな?」



そう、それが私の今の仕事を選んだ理由。今、ここに居る理由。

私がありったけで、通したいと思うこと。これを話せば、納得してくれると思った。



「だが、それじゃあだめだな」



だけど、ナカジマ三佐は納得してくれなかった。表情が更に厳しくなって、ため息を吐いた。

血の気がどんどん引く。足元・・・・・・部屋の床を踏んでいるはずなのに、何も踏んでないような気がする。



「どうして・・・・・・ですか」

「自分で言ってて気づかないのか。それは、お前さんが本局という場所で働く理由になってないからだよ。
あぁ、言っておくがフォワードの被保護者二人のことも理由になんねぇぞ?」



次に出そうとした話題も止められた。二人との事なら、納得してくれると思ってたのに。



「いいか、俺が聞きたいのはそういう事じゃねぇ。どうしてお前さん自身が『本局の執務官として働きたい』かだ。
そして、どうして108ではだめなのかだ。てーかお嬢・・・・・・お前、何迷ってやがる」



ナカジマ三佐が、真っ直ぐに私を見る。私に、厳しい視線をぶつける。



「私は、迷ってなんか」



言いかけて、止まる。そして思う。私は・・・・・・そうだ。



「・・・・・・迷って、います」

「だろうな。察するに、本局で仕事をやる理由が今分かんないのも、それが原因か」

「・・・・・・はい」



エリオの事、母さんやアルフの事、事情込みとは言え、沢山の人間を強制的に巻き込む局のやり方。

そうだ、私分からなくなってる。私なりの理想はあるのに、それをここで通す理由を、見失いかけてる。



「まぁ、そういうことなら納得だ」



それに胸が痛む。なぜ自分の言葉が通じないのかと、なぜ私は迷っているのかと・・・・・・憤りさえ感じる。



「だったら、もうちょっと考えてみてくれ。別にOKなんざしなくていい。ただ、俺はお前さんの理由が知りたいだけなんだ。
じゃなきゃ、悪いが俺は納得出来ない。・・・・・・まぁあれだ、俺もいきなり過ぎたからな。そこはマジで悪かったと思ってる。じゃあ、邪魔したな」





そのまま、ナカジマ三佐は外に出た。はやてとヤスフミもそれに続く。

私はただ・・・・・・見ていることしか出来なかった。なんだろう、足元が・・・・・・足元が崩れてる。

自分がちゃんとここに居るのかどうかも分からない。どうして私は本局の執務官で居たいの?



・・・・・・だめ、分からない。改めて問いかけられて気づいた。私、局や自分の今の立場が、嫌いになりかけてるんだ。





「部隊長っ!! ・・・・・・あの、すみません。部隊長がとんだ失礼を」

「ううん、ナカジマ三佐の言ったことは間違ってないと思うな」

「実は私も同感」

「マリーさんっ!? というか、なのはさんまでっ!!」



私は顔を上げて二人を見る。・・・・・・いつの間にか自分で自分のこと、抱きしめてた。

自分の存在が消えそうで、凄くあやふやなもののようで、怖くなってるから。



「フェイトちゃん、三佐が言いたいこと、分かる?」

「・・・・・・はい」

「だったらちゃんと考えないとダメだよ。誰かのためじゃない、フェイトちゃんだけの答えを見つける。
フェイトちゃんの想いを、どうして今の仕事で、この場所で通したいのか考えるの」

「というか、大丈夫? 本当に顔が真っ青だし」





執務官の仕事は、ナカジマ三佐がおっしゃったようにミッドの地上でも出来る。

というか、現状の六課で私はそれをしている。六課の分隊長として、捜査主任として。

だけど私は・・・・・・だめだ。よくわからない、本当に私、ダメになってる。



ここに居たいと思う理由も、執務官の仕事をしたいと思う理由も、確かにあったはずなのに。





「大丈夫だよ、なのは。・・・・・・うん、大丈夫。ちゃんと、分かってるから。」

「まぁ、返事は急いでないみたいだし、ゆっくり考えてみようよ」

「・・・・・・うん」










なんで、なんだろう。なんで私・・・・・・答えられなかったんだろう。





ちゃんと考えて道を決めたはずなのに。なのは達と出会ってから、色々考えて、思って、そうしたいと思ったはずなのに。





どうして私は・・・・・・自分さえも嫌いになりかけてるんだろう。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・・・・・・八神、恭文よ」

「「はい?」」

「少し、言い過ぎちまったかな? いや、まさかあそこであんなふざけた返事が来るたぁ思わなくてよ。
ついついやっちまったんだが・・・・・・悪いことしたな。あとで謝った方がいいよな、あれ」



さっきまでのおやっさんモードを解除して、ゲンヤさんが思いっきり反省してる。

なので、僕とはやては顔を見合わせて、首を横に振った。



「問題ありませんよ。てゆうか、普通にうちも同じこと思いましたし。
三佐がおっしゃってくれなかったら、うちが言うてましたもん」

「僕も同じく。・・・・・・でも、そういうのが分からないってどうしてなんでしょ」



ぶっちゃけ、僕もフェイトのあの答えは不満がある。うん、かなり。

なので、廊下を歩き会議室に戻りつつゲンヤさんはこんなことを言う。



「俺が思うによ、あんまりに選択が狭まり過ぎてたんじゃねぇのか。
話を聞く限り、ずっと所属が変わることもなく本局の次元航行部隊だろ?」

「ようするに、現状でフェイトちゃんは惰性で仕事を続けてたも同然と。
そやから、あないに迷う。執務官を続ける理由はあっても、本局でやる理由を持ってない」





人によっては、別にそれでも問題ないんじゃないかと思うだろう。でも、それは甘い。

惰性でも、フェイトは自分の居場所を選んでいる。本局という場所に、選んだ上で腰を落ち着けている。

なのに、当の本人がその理由が分からないってのはおかしいでしょ。別になんだっていいのよ。



本局の方が居心地がいいとか、オフィスがきれいだとか、ご飯が美味しいとか、地上部隊が嫌いだとか、なんでも。

ただ、その理由に家族やエリキャロを使ってはいけない。問われているのは、フェイト自身のための理由。

僕達が問題視してるのは、そういうのが全くフェイトの中に存在しているように見えないということ。



うーん、ちょっと僕がゴタゴタさせちゃったから棚上げになってたけど、フェイトのアレは問題だよ。ちょっと呆れたし。





「やっぱり、エリオやキャロの事や、仕事の事でいっぱいになり過ぎてるのかも知れんなぁ」

≪・・・・・・それは少し違うんじゃないんですか?≫

「アルト?」

≪言ってたじゃありませんか。フェイトさんは迷っていて、だからここに居る理由も分からない。
そして、その原因をあなたもそうですし、はやてさんも知っているはずですよ?≫



・・・・・・エリオや六課の裏事情の事か。あぁ、はやてがすっごい苦い顔して反省モードだし。

フェイト、なんだかんだで相当お冠だったからなぁ。ここで一気に、局への信頼度が落ちちゃったのか。



「八神、ありゃマズイぞ。ハラオウンのお嬢どうこうってのもあるが、お嬢は隊長だろ。
隊長からあんな迷いを抱えた調子じゃ、周りに響く」

「ですよね。かと言って、うちはフォロー出来んのですよ。うち、その迷いの原因の一端に加わってしもうてまして」



そう、それもぶっちぎりで噛んでる。なんかお説教の時間は越えたので、恨み節は飛ばないだろう。

だけど、それでもはやてが直接的に悩みに介入はかなり難しいのだ。やぶ蛇つつくのと同じだって。



「けど、ある種の厨二病やな。なぜ自分がここに居るか、なぜここに居たいんか・・・・・・ちゅうんは。
ただ、そういうんを考える時間って、絶対必要やし、絶対通る道や。アンタかて、考えるやろ?」

「うん、考えてる。六課に来てからはかなりね。・・・・・・どっかのバカと自信喪失な副隊長に嫌われ役なんてつまらない仕事を押し付けられるし」



普通にはやてに何かが突き刺さった。でも、僕は一切気にしない。



「辞めるっつっても辞められないし。それでもなお、なぜに自分で六課ここに居る事を選んだのかって、かなりね。・・・・・・ゲンヤさんもそうですよね?」



どうして局員に・・・・・・108という部隊で部隊長をしているのか、そういうことを考えるかと聞いてみる。

ゲンヤさんは、すぐに僕の言いたいことが分かったから、どこか照れくさそうに頷いてくれた。



「俺は・・・・・・そうだな。まずひとつに、単純にミッド地上が、今ここに住む奴らが好きだからだ。
俺の生まれ故郷でもあるしな。てーかよ、差はあれど人って奴が好きじゃなきゃ、こういう仕事には就けないだろ」

「・・・・・・人を愛することが出来なければ、人を本当の意味で守ることは出来ない。ですか?」

「かっこいい言い方をするとそうなる。てか、またお前はキザったらしい言い方知ってんな」



剣(ブレイド)で剣崎さんがジャックフォームにパワーアップする時にそんな話をしてたから分かる。

まぁ、そこは僕もかな。好きな人、大切なものがあるから、守りたいと思う感情が出てくるもの。



「あと一つとしては・・・・・・まぁ、恭文には少し話したが、俺んとこはいわゆる問題児みたいな連中がよく来るんだよ。
俺も昔はその一人だった。だからよ、分かんだよ。そいつらやお前みたいな奴にこそ、居場所ってやつは必要だとよ」



ゲンヤさんが、少し遠い目をしてそんなことを言う。だけど、よく分からない。

どの辺りが分からないかと言うと・・・・・・僕の頭を撫でながら話す理由が分からない。



「許されたから居られる場所じゃねぇ。そいつ自身が居たいと思う場所を、そいつがそいつらしく在れる場を作る。
自分の中にある硬いもんを変えて、それでようやく居る事を許される場所ってのは、その実・・・・・・牢獄と同じだ」



で、なぜか僕の頭を撫でながら話を続ける。・・・・・・普通に疑問だ。



「若い時に色んな奴を見てな。牢獄じゃない、本当の居場所ってやつをこの手で作りたくなったんだよ。
・・・・・・他でも無い、俺自身も含めてな。まぁ、俺が部隊長やる理由は、それくらいか?」

「・・・・・・納得しました」

「で、お前はどうする?」



僕はお手上げポーズを取りつつ、ゲンヤさんの言葉にこう答える。



「決まってるじゃないですか、そんなの」

「やっぱりか」

「やっぱりです。・・・・・・僕、フェイトの一番の味方になるって、決めてますから」










・・・・・・・・・・・・どこに居て、どこに居たくて、そこで何をしたいか。確かに、厨二だわな。





でもさ、夢を現実に繋ぐのって、まずそこからなんじゃないかな? 僕は、そう思う。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あのゲンヤさんのお話が終わって部屋に帰って、リインと色々相談してると・・・・・・来客があった。





それは、キャロ。なぜか、以前通りの空気で来た。










「・・・・・・紹介して欲しい? 誰をさ」

「あの、前に話してくれたフルバックの方です。
本当はもっと早く言うつもりだったんですけど、色々あったので」

「キャロ、もしかしてサリエルさんですか?」

「多分、その人です」



キャロが、正座をしながら真剣な顔で、そんな事を言った。

ようするに、サリさんと話したいと。でも・・・・・・うーん、会ってどうするの?



≪キャロさん、紹介するのはいいんですが、会ってどうするんですか?≫

「あの、色々お話を聞きたいんだ。そんなに凄い人なら、フルバックとして興味があるし」

「あー、ごめんキャロ。無理」



・・・・・・キャロが落ち込むので、理由を説明する。てゆうか、言葉に過敏に反応し過ぎる。

うー、扱いがめんどいよー。普通に扱いがめんどいよー。



「キャロ、恭文さんは別に意地悪とか、キャロが嫌いだからこう言ってるのじゃないです。
その人は今は旅行中で、ミッドには居ないのですよ」

「旅行中・・・・・・あの、連絡とかは」

「それもちょっと難しいな。遠い世界に行っちゃってるからさ」



そう、遠い世界に行っちゃっている。聖王教会という、美人なシスターが沢山居る世界に。

嘘は言っていない。ただ、正確に話していないだけだ。



「でさ、いつ戻ってくるとかも聞いてないから」

「無理・・・・・・なんですね」

「そう」



で、また落ち込む。というか、普通に期待が外れたというか、自分の中で宙ぶらりんになっているらしい。

今のキャロの苦い顔を見ていると、そういうのはすぐに分かる。・・・・・・まぁ、いいか。



「ただ、模擬戦の映像データは持ってきてるから、それ見てみる?」

「え・・・・・・あの、いいんですか?」

「うん。・・・・・・あ、ただし内緒にしといてね? その人のこと、フェイト達にも教えてないのよ。
てーか、バレると色々とめんどいから、口止めされてる。そこだけ、約束して欲しいな」

「それは構わないんですけど、あの、どうしてなんですか」

「その人、僕の兄弟子なのよ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・映像を見せてもらった。というか、あの・・・・・・凄かった。普通に凄かった。

隊長達と同等以上の戦い方で、フルバックとして参考に・・・・・・出来なかった。

だって、あまりにレベルが高過ぎて、今の自分では盗める部分があまりに少なくて。





そして、認識した。これを知っていれば、確かに恭文さんの言っている事も分かる。

色々映像を見せてもらいながら解説してくれて、余計に認識した。そして、痛感した。

今の自分のレベルの低さを。この人と比べたら私は・・・・・・全然ダメだ。










「サリエル・エグザさんでしたよね。この人は今は」

「本局の特殊車両開発部で働いてる。もう一人の人と一緒にね」

「引退して8年でしたよね。でも、これは」

「錆付かないように、訓練自体は継続してたらしいの。それでこれ」





前線から引いた8年という長い時間の中で、なお自分を鍛え上げている。

その事実に、私は驚愕した。もう一度、画面を見る。

そうか、それだけの事をしなくちゃ・・・・・・強くなんてなれないんだ。



無茶でも無理でもなく、時間を積み重ねる事が必要。そっか、比べる事自体がおこがましいんだ。



積み重ねた時間の量が違うんだから、違っていて当然。でも、逆を言えば。





「なお、ここから回数を増す毎に動きが更に鋭くなるから」

「ホントですかっ!?」

「うん。ビックリするくらいに、速くなって鋭くなって勘がよくなって・・・・・・なんつうか、我が姉弟子と兄弟子ながら恐ろしい」

「普通に強いのですね。サリエルさん、リインの中では恭文さんに『キャー』な本を買わせたイメージしかないのですが」



・・・・・・なんだろう、その言葉に微妙な何かを感じてしまった。

というか、リイン曹長の言う『キャー』ってなんだろう。



「でも、納得しました」

「でしょ? なんつうか、人と比べるのはアレだと分かってても、この人の凄さを知るとどうしてもね」

「あ、そっちもありますけど、もう一つ。・・・・・・恭文さんが強いというのが、分かりました」



実力的な事じゃない。きっと心が強い。・・・・・・そうだ、私は知ってた。

あれは現実で、それが必要な事もあるって知ってた。なのに、逃げて何もしなかった。



「・・・・・・ごめんなさい」

「なんで謝るの?」



本当に疑問顔で、この人は言う。まるで私達の態度の事なんて気にしてないかのように。

ううん、きっと気にしてないんだと思う。なんとなくそう思った。それが嬉しくて、余計に情けなくて。



「いえ、なんでもありません」



私はニッコリと目の前の男の人に微笑む。安心させるように、精一杯。

・・・・・・それで思った。少しだけ、吐き出そうと。最近募って来ている、私の中の不安。



「あの、実は・・・・・・話は変わるんですけど」

「うん、なに?」

「エリオ君のことなんです」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・あからさまに僕を嫌悪しているチビの様子が、どんどんおかしくなってるらしい。





それにより、ティアナがハッキリと『今のエリオとはチームを組みたくない』とまで言っているとか。





まぁ、別に僕が問題なので、いわゆる嫌味とかそういうのかなとか思ってたんだけど・・・・・・話が変わってきた。










「エリオ君、恭文さんの事を悪く言う時・・・・・・楽しそうなんです」

「楽しそう? キャロ、どういうことですかそれ」

「私もつい最近、ティアさんがそう言い出してから改めてエリオ君を見て、気づいたんです。
エリオ君、別に恭文さんの事を怒ったりなんてしてないんです。ううん、むしろ・・・・・・喜んでる」



どこか顔を青くして、目の前の女の子は話す。瞳には涙が溜まり始める。

言っている意味がよく分からなくて、少し考える。考えて・・・・・・気づいた。



「なるほど、エリオは僕という異分子を矯正する事を楽しもうとしていると。
もっと言えば、それにより自分の進んでいる道が正しいと認識したい」

「・・・・・・それ、最悪ですね。というか恭文さん、それは言い方を変えれば」

「そうだよ。自分と考えの異なる人間を、勝手な理屈で踏みつける事を正当化している。
もっと言っちゃうと、そういうので誰かを踏みつける事が楽しくて楽しくて仕方がない」



なるほど、そりゃあティアもそう言いたくなるわ。僕もぶっちゃけそんな奴とはチームを組みたくない。

てーか、僕の一番嫌いなタイプだよ。多分、フォン・レイメイ以上に屑だ。



「で、キャロ。その事はフェイトやなのは達には?」

「ティアさんが話したそうです。だけど、エリオ君みんながどれだけ言っても聞かないんです。
『みんなは優しいから恭文さんを庇ってるだけ。本当は自分と同じ』って解釈しちゃって」

「うわぁ、言ったらアレだけど、完全にL5じゃないのさ。色んな意味で関わりたくないし」

「リインも同じくです。でも恭文さん、この場合そういうわけにもいきませんよね」



そうなんだよねぇ。その状態で居られると、フェイトや部隊の人間に色々支障が出る。

てーか、フェイトも色々話してるのにそれってのは、ありえないでしょ。どんだけL5?



「で、キャロ。どうしてそんな話を僕にしたよのよ。
アレかな、こうなったのは僕の責任だから、僕になんとかしろと言うつもり?」

「違います。というか、多分恭文さんよりリンディさんやアルフの責任が大きいです」

「・・・・・・はぁっ!? 待って待って、なんでそこで二人の名前が出るのっ!!」

「エリオ君、どうも恭文さんの事を色々相談してたらしいんです。
それで、二人から自分の考えを肯定するようなことを言われたらしくて」



それで調子付いてそれと。・・・・・・あの二人は。結局見てるだけしかしないくせに、余計な手出しをするなってーの。



「まぁアレだ、僕にも責任の一端が無いわけじゃないし、フェイトとなのはと相談の上で対処するよ。
・・・・・・ただしキャロ。僕の経験上、そういう奴は言葉ではどうにもならない」



思い出すのはヒロさんとサリさんが教えてくれた『殺したいほど嫌いな昔の自分』。あとは僕の知ってる屑な犯罪者。

今のエリオの話と、二人の話やそれらが思いっきり被って見えた。というか、多分同じだと思う。



「だから、僕が対処する場合・・・・・・エリオを、徹底的に叩き壊す。
もう立ち上がれなくなるくらいに、徹底的に。・・・・・・それでも、いいの?」



僕の言葉にキャロは少し迷うように視線を漂わせる。

・・・・・・だけど、それでも僕の目を見ながらしっかりと頷いた。



「それでも、いいです。私・・・・・・今のエリオ君は、嫌いなんです。
あんなエリオ君、見たくない。でも、私でもフェイトさんでも、もうどうしようもなくて」

「・・・・・・分かった。分かったから」



右手を伸ばす。そして、キャロの頭にポンと手を乗せて、そっと撫でる。



「もう泣くな」

「・・・・・・ごめんなさい」

「謝るな」

「これくらい、言わせてください。・・・・・・ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」










そう言いながら、キャロは僕の頭の上に乗った手を掴んで、そっと胸元に持っていく。

そのまま、ギュッと・・・・・・僕の手を抱きしめるようにした。そして、涙を流す。

とりあえず、僕はそのままにしておいた。振り払うのも、野暮だと思ったから。





なお、泣き止んだ直後に胸に手が当たっているのに気づいたキャロが、非常に大慌てすることになるけど、ここは割愛する。





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・フェイト、大丈夫? てゆうか、普通に目の下にクマ出来てるし」

「うん、大丈夫。・・・・・・私が本局の・・・・・・違うな。
局員の仕事を、執務官の仕事を続ける理由、なんだろうって考え込んじゃって」





みんな、空気を読んでくれた。なのはやはやて達もそうだけど、ティアとリインもだ。

今日、朝食を二人で食べてから、談話室に連れ込んだ。

前々回や前回やタイトルコール前があんまりにアレだったので、とっても幸せが倍増しているのは、気のせいじゃない。



やっぱり、僕はこの女の子が好きらしい。二人だけの時間が持てるのが、申し訳ないのと思うのと同時に、ちょっと嬉しい。





「クロノさんとか、リンディさんとかが本局所属だったからじゃない?
まぁ、これは理由というより、きっかけだったと思うけど」



フェイトが目の下にクマを作っている理由は一つ。

午前様な戻りになった108な方々・・・・・・もっと言うと、ゲンヤさんのお陰だ。



「そうだね。でも、昨日の話で分かったの。執務官自体は、どこででも続けられるんだよね」





手の中のコーヒーカップを両手で握りつつ、フェイトはまた考え込んでいるようだった。

ただ、そこは僕も同感。執務官って言っても、勤務形態は様々だもの。

本局か地上部隊かってだけじゃなくて、前線には出ないで法務関係の処理だけしてるって人も居るし。



そう、本当に執務官という仕事自体は何処に居ても出来るのだ。





「で、昨日はエリキャロのことを理由に持ち出そうとしてたけど、それは無意味だよ。
だって、本局に居てもフェイト自身はあっちこっちの世界に行って中々会えないんだよ?」



ぶっちゃけ、距離の問題で言えばこっちの方が遠い。フェイトの答えは、矛盾しているのだ。

なので、当然のように家族との距離がどうこうと言う話は、無意味になる。



「家族との繋がりを大事にするなら、ミッド地上という場に働く場を限定した方が、色々とやりやすいじゃないのさ。それも今まで以上に」





フェイトは次元航行部隊の執務官として、色んな世界への長期出張の仕事も引き受けるようになった。

だから中学を卒業してから、僕と距離が開いた。そして、エリキャロとも距離は開いてる。

色んな世界に行って、捜査して、強行突入みたいな鉄火場もやって・・・・・・そりゃあ時間はかかる。



で、エリオは訓練校に入ったし、キャロは自然保護隊。普通に距離は開きまくりなのだ。



改めて考えると僕、相当距離近かったのかも。ここ2年は、普通に仕事少なめにしてたし。





「エリキャロの事を理由にするなら、僕はゲンヤさんの話を受けるべきだと思う」



てーか、持ち出すなら受けない方がおかしい。

中々会えなかった最大の原因であるフェイトの長期出張や次元航行がなくなるんだから。



「今まで以上に、エリキャロとコミュニケーション出来るよ?」



役職が役職だから、欲しがる部署はどこでもある。フェイトが望めば、本局以外の場所でも働ける。

それを言われた時のフェイトの顔が、今までにないくらいハッとしたものだった。だからなのかな。



「そうだね。・・・・・・なんだろ、そういうのも含めて分からなくなってる。
私、なんのために管理局で働いてるのかなって、考えちゃってる」

「・・・・・・そっか」



で、考える。考えて・・・・・・言いたいことをもう一度頭の中で纏めた上で、切り出した。



「だったら、一回本気で考えてみたらどうかな。なんで自分は本局の執務官を続けているのかってさ。
どうして管理局の仕事をしていて、その中で何をしたかったのか、見つけていくの」

「なのはやマリーさんにも言われた。ね、ヤスフミ。ヤスフミもその方がいいと思う?」

「他は知らないけど、僕はそう思う。このままやっても、それはただの惰性でしょ」





多分、本局・次元航行部隊所属になった理由は、リンディさん達の存在が大きい。

リンディさん達がそこの所属で、そこで仕事をしていたから、本局で研修を受けた。

なのはやはやても同じくだね。だからこそ、僕達のコミュは本局の人間が大半。



でも、今まではそこに疑問を持つ機会があんまなかったかも知れないけど、こういうことを真剣に考えてもいいとは思う。





「てゆうか、僕も六課に来てからね、考えてるの」



自分も同じだと、安心させるように、向かい合わせに座る女の子に笑いかける。

最近、少しだけ向き合えるようになった気持ちを、見せる事にする。



「どうして先生みたいになりたいのかとか」



まぁ、ここは分かった。先生の背中に、生き様に、理想を見つけたから。

もっと言っちゃうと、かっこいい。あんな人に、僕もなりたいと思った。だから、追いかけてる。



「そうして進んでどこに行こうかなとか、考えてたの」





これは、夢の終着点・・・・・・違うな、通過点だね。例えば、フェイトで言うと執務官という役職がその一つ。

まぁ、らしくはないと思うけど、あれからみんなの仕事ぶりとか見つつ、準備の傍らで考え始めてる。

局のためとか、世界のためとか、人のためとか、そういうのじゃない。自分がどこに行きたいのかって、考えてる。



どこに居たいのかなって、考えてる。考えて、考えて・・・・・・結局出る答えは同じだけど。





「てゆうかさ、フェイトはあんまりに進路を狭め過ぎてたんじゃないかな」

「どういうことかな」

「だって、話を聞く限りなのはと友達になって、そのまましばらくして入局・・・・・・でしょ?
魔導師以外で、局以外でやりたいこととかないかどうか、探した事、ないでしょ」

「それは・・・・・・あの、うん」





ただ、理屈は分かる。なんかフェイト曰く『自分と同じような悲しみを持った人達を、一人でも多く助けたい』という理由で、入局したらしいから。

その場合、局の魔導師というのが選択肢としては、一般的にはベスト。だって、フェイトは高い魔力資質を持ってるし、魔導師として優秀だもの。

で、執務官と言うのも分かる。執務官なら、事後の法的処理も含めて力になっていくことが出来るもの。フェイトの願いに一番沿ってる。



・・・・・・それで気づいた。フェイトが本局の、次元航行部隊の執務官で居る理由。

沢山の世界を回って、ミッドだけに限らず、色んな世界の人達を助けたいと思っているんじゃないかと。

多分、これが正解。まぁ、あくまでも僕の勝手な推測で、こじ付けだけど。なので、フェイトには言わない。



きっと、フェイトが自分で考えて気づかないとダメだと思うから。

僕の答えじゃ、フェイトの答えにはなりえないもの。そう、フェイトにはちゃんと理由がある。

今僕が言ったようなことじゃなくても、本局で執務官を続けたい理由が、必ずある。



なぜ、本局の執務官で居るのか。なぜ、ゲンヤさんの誘いに頷けないのか。なぜ、今自分はここに居るのか。

他人にとってはあまり意味なんてない、自分のための、自分への問いかけ。何回か言ってるけど、いわゆる厨二な思考。

でも、それが必要な時だってあるのだ。フェイトに欠けているのは、執務官をやる理由から、もうちょっと踏み込んだ先にあるもの。



多分、最近の事もそうだし、本当に子どもの時に道を決めて、そのまま真っ直ぐに進んでしまったから、分からなくなっているピースがある。



それが今のフェイトにとって必要なものだと、僕は思う。そして、それを探すためには条件がある。





「・・・・・・ヤスフミ」

「なに?」

「少し吹っ切れたのかな。なんだか・・・・・・雰囲気が柔らかくなってる」





僕は自分では良く分からない。というか、それだけ考えても、やっぱり根っこは変わってないのだ。

僕は組織の人間としてなんて戦えない。世界やそこに住む人のためになんて命を懸けるのなんざ真っ平ごめんだもの。

僕の追いかけたいものは、やっぱり先生。強くて、硬くて、今を覆していく古き鉄であり続けたい。



いつだって、自分のために戦いたい。そこは局員になることに前より拒否反応を示さなくなっても、変わってない。





「まぁ、本気で関わる気持ちは固めたおかげかな。・・・・・・でさ、フェイト」

「うん?」

「前に言ったよね。フェイト、言い訳してる。諦めてるって。それ」

「あの、大丈夫。昨日考えてる時に、気づいたんだ。こういうことだったんだよね」



フェイトの瞳が僅かに揺れている。そこに見える色は、動揺と恐れ。多分恐れは・・・・・・自分に対してだ。



「実はね、考えてる時にお兄ちゃんから連絡をもらって、少し相談したんだ。それで、言われた。
私は本当の意味で自分のために、先のこととか考えたりすることをしていないかも知れないって」



まぁ、大体合ってるので僕は頷いた。僕も同じだったけどと付け加えた上で。



「だから、改めて自分にとっての『なぜ』について問われると、今居る場所が崩れたように感じると、簡単に迷うんだって、そう言われた」

「うん、僕も同意見」



・・・・・・パズルのピースを見つけるために必要な要素。それは、本当の意味で自分のために考える事。

執務官としてとか、家族のためとか、そういうフィルターを通しては、答えは絶対に出ない。



「・・・・・・・・フェイトが、今の仕事をすごく大事にしたいのは分かる」



大事じゃないわけがない。仕事の中にはフェイトの理想がある。

僕にだって、先生を追いかけたいという気持ちがある。だから、少し分かる。



「エリオとキャロの事が大切なのも、すごく分かる」



エリオとキャロのことだってそうだ。そうじゃなかったら、関わるはずがない。

あんなに一生懸命に面倒を見ようとするはずがない。



「でも、それをフェイトの全部にしちゃだめだよ」



だけど、それだけじゃだめなんだ。それがフェイトの全部じゃない。

いや、フェイトの全部であっちゃいけない。絶対に、いけない。



「ただのフェイト自身のことだって、同じくらい大事なんだよ? それだけじゃなくて、色んなフェイトが居ていいの。
自分のために、自分のわがままで、自分だけの幸せな時間を探す。そんな今より少しだけわがままなフェイトが居たって、いいよ」

「うん、お兄ちゃんにも言われた。というか、前にヤスフミが言ったみたいな感じなんだ。
趣味の時間とか、『なぜ』を考える時間とか、恋愛とか。・・・・・・でも、本当にそう思う?」

「思うよ。やっぱり、迷う気持ち・・・・・・ある?」



フェイトは、頷いた。出来れば頷いて欲しくはなかったけど、それで分かった。

自分のために、わがままに、幸せになる事を躊躇うフェイトが、確かに心の中にあるんだ。



「少し考えて、分かってるの。私、エリオやキャロのこと、仕事のこと、言い訳にしてた部分がある。
理由はどうあれ、私はそういうのに手を伸ばす事を恐れていた。それは間違いのない事実なの」

「うん」



だからこそ、幸か不幸かその二つが色々揺らいで幻滅して、揺らぎが出てきた。

揺らぎが出て初めて、フェイトは自分の中の空っぽな部分に気づいたんだと思う。



「それだけじゃなくて、夢だと思っていた仕事を、あの場で続ける理由すら、いつの頃からか惰性で済ませていた。
だから、私はナカジマ三佐の問いかけに答えられなかった。だから、今迷っている。分かってるのに、だめなの」



不安げな顔でフェイトが少し俯く。それを見て、頭が痛くなった。



「私は執務官で、二人の保護責任者でって、どうしても思っちゃう。
そんな事を考えて止まっている時間があっていいのかって、声がするの」



多分、昨日その話をしたクロノさんも同じくだったと思う。

・・・・・・あとで答え合わせ、してみようか。多分、ぴったりかんこんだよ。



「なんというか・・・・・・そりゃ重症だね。てか病気だよ病気。強迫概念もいいところだよ」



完全に自己犠牲の奉仕癖が染み付いてるし。それも意識せずって言うんだから性質が悪い。

元々優しい性格だというのが、ここでは仇になってる。どうしても、一歩を踏み出せない。



「やっぱり、そう見える?」

「かなり。あとでシャマルさんにも相談してみなよ。絶対僕と同じ事言うから。・・・・・・うし、分かった」





こうなったら関わるだけでしょ。僕は、さすがにこのままは嫌だ。

・・・・・・フェイトは、気づいた。幸か不幸か、ゲンヤさんの問いかけがきっかけになった。

それがなんともならなかったら、やっぱりフェイトは諦める。



そうした諦めは、後悔に繋がる。それは、よろしくない。





「だったら、一緒に考えようよ。僕もね、さっきも言ったけど、フェイトと同じなんだ」





先のこととか、これから先の居場所とか、よく分からなかった。諦めてたと言われたら、その通りだ。



覚悟する事と、諦める事は似てるようで違う。だけど、時たま同じになる。



でも、それじゃあだめだ。それじゃあ、目の前の女の子の今は覆せないから。





「変えちゃいけないこともあるって、僕・・・・・・前に言ったと思う」





なのはがバカやった時の一件でそう言った。そして、なのはもこう言った。

自分にとってそれは、自分が高町なのはであるということと、僕の友達だということだと。

僕だって、同じだ。僕が古き鉄で、それを貫きたいってことは変えたくない。



どこに居ても、変えたくなんてない。・・・・・・そう、どこに居てもだ。





「でも、同じように変わってもいいことだって、あると思うの」



だから手を伸ばす。向かい側に座っていたフェイトの手を、優しく包み込むように握る。

いや、添える。さすがにコップごと握れるほど、僕の手は大きくない。



「だから、一緒にその諦めを変えていこうよ。変わらずに変わっていって、ここから新しい僕達、始めよう?
何にも諦めないで、わがままに、悩んで、考えて、そうして自分で決めた道を進んで行ける、新しい僕達を」

「・・・・・・出来るの、かな。ごめん、やっぱり自信ないよ。
だって私、すごく迷ってる。迷って、止まりそうになってる」

「出来るよ」



不安が浮かんでいるフェイトの目を見て、力強く頷く。



「僕は、どんな形でもいい。自分の居場所を持つことを、ここに居たいと思う気持ちを、諦めないって決めた」





そう、諦めていた。居場所なんてどこにもないと、クサっていた。確かに、どこにもそれはなかった。

だけど、逆を言えば・・・・・・僕は、僕の居場所は、どこにだって出来る。

どこでだって、自分の道は進める。僕が望めば、管理局でもどこにだってだ。



僕は多分諦めていた。人と違うところを理由に、ここに居たいという気持ちから目を背けて、諦めていた。





「だから、ここに居て、戦う事を選んだ。六課・・・・・・ううん、フェイトの隣に居る事を選んだ」

「私の・・・・・・?」





僕は頷く。・・・・・・それで、どこに居たいのか色々考えた。考えて、答えはやっぱり一つだけだった。



僕はフェイトの側に居たい。フェイトの隣に、ずっと居たい。



僕の居たい場所は、役職どうこうじゃなかった。やりたい事は、組織の中にはなかった。





「一人じゃないよ。僕は、フェイトの味方だから。一緒に戦うから。
フェイトがわがままになるのが怖いなら、僕が手を引く」



守りたいのは、一番守りたいのは、大好きな女の子の今と笑顔。

僕に沢山の力と想いをくれる、大切な存在。



「手を引いて、迷っていい。それも全部フェイトだからって、言葉を届け続ける。
例え組織や世界、エリオやキャロがダメって言ったって、僕は言い続ける」



僕はフェイトの未来が諦めという感情のせいで、その選択が狭まるなんて嫌だ。



「自分に問いかけることすら諦めてるフェイトなんて嫌だから、その諦めを僕が壊す。
僕が今のフェイトの全部を認める。フェイトは・・・・・・今の自分が嫌いなんだよね?」

「・・・・・・・・・うん」

「だから、どうしてそうなっちゃったのか。その答えを探したいんだよね?
答えを探して、自分を変えていきたいんじゃないかな。だから、迷ってる」

「・・・・・・・・・・・・うん」



フェイトは僕の手を受け入れながら、頷いてくれた。・・・・・・だったら、答えは一つだと思う。



「というかヤスフミ、すごいね」

「何が?」

「私の事、なんでも分かってるみたい」

「分からないよ。悪い言い方だけど、これは当てずっぽうだもの。
・・・・・・フェイトの事は、きっとフェイトにしか分からない」



僕はありったけの想いと願いを込めて、こう言う。

諦めなんて、そこから生まれる不可能なんて、超えていけると。



「だから、変わる事を恐れないで? そうして未来を・・・・・・明日の自分を見失なったら、意味ないじゃん」

「・・・・・・ヤスフミ、どうしてそこまで言ってくれるの? 私、そんなにダメに見えるかな」

「違うよ。フェイトの幸せが、フェイトの隣に居ることが、僕の幸せだから」



いや、ちょっと違うな。うし、少し訂正ー。



「ううん、ちょっと違った。・・・・・・僕は・・・・・・誰でもない、フェイトと一緒に、幸せになりたいの。
だから、一緒にそのための答えを探そうよ。答えは、必ず自分フェイトの中にあるんだから」



僕がそう言うと、フェイトの顔が真っ赤になった。で、なぜかスチーム・・・・・・あの、フェイトどうしたの?

僕、なんか変な事言ったかな。ありったけの気持ちを話してるだけなのに。



「あ、あの・・・・・・大丈夫っ! うん、大丈夫だよっ!? その、えっと・・・・・・すごく、嬉しくてっ!!」

「ならいいけど・・・・・あの、僕変な事言ったかな」

「だから大丈夫だよっ!!」



なんでそんなにちょっと逆ギレ気味っ!? 僕は色々ビックリなんですけどっ!!



「・・・・・・それじゃあ、その」

「うん?」

「正直、戸惑ってるの。本当にそれでいいのかって、かなり」

「うん」



そこまで言って、フェイトは僕の手を優しく解く。解いて、コップを机の端近くに置く。

それから僕の両手を取った。そのまま優しく、力を込めて握ってくれた。



「だけど・・・・・・ヤスフミは、変わろうとしてるんだよね。何も諦めない自分を、始めようとしてる」

「まぁ、出来る範囲でね。・・・・・・あ、でも局に勤めるのはごめんだよ?
こんな組織の都合に振り回されるのはやっぱり嫌だし」

「あ、そこは変わらずなんだね」

「変わらずだよ。諦めないとは言ったけど、それとこれとは別だもの。諦めないのは、選ぶ事。
それを手にとって、わがままに進むこと。てーか、選択肢一つだけなんて、つまんないじゃん」



念押しで僕がそう言うと、『分かってるよ』と言いながら、苦笑する。

それから、また俯く。本当に少しだけ、視線を落とす。



「でもね、私はそんなに強く・・・・・・ないの。弱くて、戸惑って、迷ってばかり」



フェイトはそう言う。だけど、手を握る力の強さは、変わらない。



「何かを決める事で、新しいものが私の中で生まれる事で、今までの私が壊れるんじゃないかと考える。
そう考えると、とても怖いの。だったら、このままでいい。惰性でもいいからって、そう思っちゃう」

「フェイト、つまりそれは・・・・・・ダメって、ことかな」

「違う。・・・・・・いつも手を引くようなことは、しなくていい。
ただ迷いそうな時は、この手を貸して欲しいの」



それだけで、フェイトが何を言いたいか分かった。



「・・・・・・私、頑張ってみる」



だから、つい強く握り返してしまう。フェイトはそのまま受け入れてくれる。受け入れながら、落とした視線を上げる。



「ここから何も諦めない、少しだけ今よりわがままな私を、始めてみる。
私の中にある、いつの間にか無くしちゃった私だけの答え、探してみる」



上げて、僕をまっすぐに見る。その瞳には、先ほどのような困惑の色はなかった。あったのは、決意。



「執務官でもない、エリオとキャロの保護者でもない。それも私だけど、それを言い訳になんて絶対にしない。
誰でも無い、ただの私としての幸せと、ここに居たい理由、探してみる。・・・・・・ヤスフミにここまで言わせて、何もしないなんてダメだもの」

「・・・・・・うん」



言いたいこと、伝わったのかな。ううん、きっと伝わったはず。

今のフェイトの目を見れば、それは一目瞭然。・・・・・・なんだか、すごく嬉しい。



「それでね、いつもヤスフミの手を借りなくても、ちゃんと進めるようになる。もっと、強くなる。
新しい私はやっぱり弱いままかも知れないけど、それでも今よりも少しだけ、強いんだ」

「そっか。でもフェイト、僕は借りてくれた方が嬉しいよ? だって、フェイトの片手をずっと占領出来るし」



ニコニコしながら言うと、フェイトが繋いだ手を見る。そして、少し困った表情を浮かべる。



「そ、それは・・・・・・あの、ダメ。そう言ってくれるのは、嬉しいよ?
でも、そうしてヤスフミに頼りっきりなんて、依存してるのと同じだもの」



まぁ、話は分かる。確かにその通りだ。

でも・・・・・・そういうのを加味しても、この手の温もりはやっぱり恋しいのだ。



「もしかして、手繋いでたいの?」

「うん。だって、こうしてると幸せだから」

「そっか。じゃあ・・・・・・そうだな。手を借りるんじゃなくて、繋いで、一緒に進んでいくのなら、いいよ?」



そう言いながら浮かべたフェイトの微笑みに、心臓の鼓動が高鳴る。

どきどきして、嬉しくて・・・・・・泣きたくなる。



「ヤスフミも、迷ったら私の手、握って欲しい。私も、一緒に答えを探すから。
二人で一緒に、だよ? ヤスフミも幸せじゃなきゃ・・・・・・嫌なんだ」

「いいの?」

「・・・・・・うん」

「フェイト、ありがと」



とにかく、こうして話は纏まった。



「ううん。きっと、お礼を言うのは、私の方だから。・・・・・・ありがと。
迷ってる私も、局が嫌いになり始めてる私も、全部認めてくれて」



・・・・・・だって、フェイトに色々認めてもらってるし、僕だって頑張りたいのよ。

というわけで、僕もそろそろエンジンをかけないといけない。



「あのさ、フェイト」

「なにかな」



繋いだ手はそのままに、僕達は言葉をかけ合う。

というか、離せない。フェイトも同じくなのか、少し顔が赤い。



「あの、大丈夫だよ。・・・・・・ヤスフミの手、もう少し繋いでたいんだ」

「え、えっと・・・・・・ありがと。ただ、そっちじゃないのよ。エリオのことなの」

「あ、うん」



まず、やるべきことはキャロ・・・・・・はいいから、エリオとスバル。だけど・・・・・・どう話せってのよ。

僕に殺してどう思ったかを説明しろと? てか、それで納得するわけないし・・・・・・うーん。



「あの、ごめん。私も話してはいるんだ。もう事後のことなんだし、私達は大丈夫だからって」



でも、納得してくれないと。まぁ、この辺りフェイトを責めるつもりなんてさらさら無い。

てーか、僕が面倒ごとかけてるわけだし、何も言えないって。



「だけど、エリオが『魔法を壊すために使うなんてありえない。絶対におかしい』って言いまくってるの。
そのせいで、ヤスフミだけじゃなくてティアやスバル達との距離も微妙になってきてるみたい」

「なってるらしいね。てーか、段々とおかしい方向に進み始めてるんでしょ? それで他の三人がドン引きしてる」

「うん。・・・・・・知ってたの?」

「昨日キャロから聞いた。キャロ、今のエリオが嫌いだって言って、泣いてたよ」



なお、僕も嫌い。うん、最悪なタイプだよね。正義の上に胡坐かくやつなんてさ。



「で、フェイトやなのは、ティア辺りがどれだけ言っても、聞かないんでしょ?
みんなは優しいから、僕を庇ってるだけ。でも、本当はみんな自分と同じ考えだって、思い込んでる」

「・・・・・・・・・・・・うん。正直、私も困ってるの」

「とにかくアレだよ、そういうことならちょっと僕も考えておく。
ただ・・・・・・優しい対処は無理だから、そこは承知しておいて欲しいな」



まぁ、あくまでもコレは最終手段ではある。基本は対話による解決だよ。

・・・・・・多分、無理だろうけど。僕の経験上、そういうのに言葉は通用しない。



「ううん、考えてくれるだけでもありがたいから。・・・・・・ありがと」










それから、少しだけフェイトと話した。最近溜まっていた不満とか、その辺りについて。





・・・・・・この手は、離さないよ。ううん、離したくない。





この温もりと柔らかさの中に、僕の守りたい今があるから。




















(第12話へ続く)






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