小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第10話 『訪れる転機と発生したパワーアップフラグ?』
とにかく、恭文はロッサに任せるとして、僕ははやてと少し話だ。
もちろんランスター二士も居るので、念話。
”・・・・・・部隊員には、今回の全容は話したのか?”
クラウディアの通路を歩きながら、少し確認だ。
まぁ分かりきっていることだが、それでも一応。後見人としては色々気になる。
”予言関連のことに関しては伏せとるよ。あくまでも、地上本部にクーデターの危険性がある言うことだけな”
”なるほどな。そして恭文に『この狸が』という目で見られると”
”うん、メッチャ見られたわ。うぅ、自業自得とは言えあの視線は厳しいわ”
簡単に想像出来る。もちろん、他の人間には分からないようにはしているだろう。
それでも知り合い連中には分かるように出来るのが、すごいというかなんというか。
”仕方ないさ。それにアイツはどうやらかなり早い段階で、設立の裏事情に気づいていたようだ”
”マジかっ!?”
”マジだ。少なくとも三提督が非公式な後見人として居る事。
あと、六課という部隊に在籍していた場合の危険性に関してはハッキリだ”
アイツは情報元に関してはトボけていたが、間違いなくサリエルさん達だ。
そうでなければ普通に三提督のことを知っているわけがない。アイツは、シグナムレベルで脳筋なんだから。
・・・・・・だが、サリエルさん達が教えた事は責められないか。というより、責められるべきは僕達だ。
局の勝手な都合で、身内もそうでない人間も遠慮なく巻き込んでいる。あの時、恭文が言った通りだ。
恐らくサリエルさん達もそこを懸念して恭文に教えたのだろう。そうでなければ説明がつかない。
なお、『最初から調べない・教えない』という方向は、考えない事にする。そこは間違いなく無駄だろう。
なぜなら、あの方達も恭文と同じ。トウゴウ先生から鉄を受け継いだ方達なのだから。
”シグナムから、恭文がなんや六課のアレコレについて疑問を持ってるから、気をつけておくようにとは言われてたんやけど、そないハッキリバレてたんか”
”あぁ。それで臨時査察の方はどうだ?”
査察担当は、レジアス・ゲイズ中将の秘書で娘であるオーリス・ゲイズ三佐だったな。
またなんというか、六課は相当に目をつけられているな。トップの秘書自らが来るとは思わなかった。
”とりあえず、臨時査問だけは避けられたわ。てゆうか、査察があってくれてちょっと感謝しとる。
おかげで、恭文への評価が少しよくなったから”
”レジアス中将に誘われた一件だな”
”そうそう。上手い具合にシャーリーにリークしてもらって、そのおかげか多少見直す動きが出てきとる。
恭文も誘われた事に関してはマジで嬉しそうやし、申し訳なくも思うとる”
六課的には危険要素ではあったが、恭文的にはいい事だったというわけか。
アイツが嬉しそうなのは納得だ。レジアス中将は、自分の師を尊敬しているとまで言ってくれたのだから。
”多分フェイトちゃんとかギンガとか、リンディさんとかが誘った時よりもずっと嬉しかったんとちゃうかな”
そこまでか。だが、僕にはその原因が手に取るように分かる。
”ほら、みんなが誘う時は、なんやかんやで局の規律に従う事。
ヘイハチさんみたいになるんはやめることが、暗黙の条件みたいになっとるから”
”だが、恐らくレジアス中将は違う。今の時代の中で、古き鉄であり続けるアイツだから誘ったのだろう”
”多分な。そうやなかったら、クーデターの一件まで持ち出さんやろ。
オーリス三佐の反応から見るに、あれで話を軽い気持ちで受けてたら、逆に切ってたんやないかな”
まぁ、僕は実際にその現場に居なかったわけだから、どうとも言えないんだが・・・・・・懸念事項もある。
”ただ母さんとアルフ的には、その判断を快くは思っていない。
フォン・レイメイの事も含めて、今の恭文に対して強い不満を持っている”
”やろうな。特にリンディさんは、ガチに『あの対応は行き過ぎている』とコメントしとるし”
”してるな。僕もさすがにこれには呆れた。なら、あの場でどうしろと言うんだ”
”うちもこの間の定時連絡でそこ言われた時、全く同じ事言うたわ。でも、聞く耳持ってくれんのよ。
あんなん、うちらだけでどうにかなるか分からんっちゅうに。てーか、逃がしてまた出てこられても困るわ”
いや、そこも答えを出している。『自身の部隊の仲間を信じ、近隣部隊と協力の上で対処し、捕縛するべきだった』と。
ようするに、例えあの場で逃がしても、それが出来れば必ず止められたというのが、母さんの答え。
いや、本局の答えだ。母さんはそれを、提督の一人として、六課後見人としての正式な見解として出している。
今回の事、母さんの目には恭文が周りの人間を信じずにリインを巻き込んだ上で取った、無意味で愚かな行動として映っているようだ。
そして六課の優秀なスタッフならば、必ずフォン・レイメイを止められたと確信すらしている。
そうして恭文を否定した。・・・・・・母さん、トウゴウ先生を、今の恭文を、そこまで否定したいんですか?
ですがそれは無理です。というより、僕達は何も言う権利がありませんよ。
撒き餌で人を集め、六課という部隊を作った僕達には、そんな権利は存在しない。
それなのになぜ、恭文を責められるんですか。僕は正直、疑問です。
”とにかく母さんの意見は、他の本局上層部の人間と同じくだ。ただ、ここは気にする必要はない”
そんな批判より、あの男を止めた事に対する賞賛の声の方が大きい。
結果はどうあれ、次元世界においてベスト20に入る凶悪犯罪者が止められた。
実を言うと、僕もレジアス中将やそういう方々と同意見だ。
というより、恭文には感謝している。僕の甥っ子(エリキャロ)達やフェイトの事を守ってくれたのだから、かなり。
”それもまた、なんか悲しいなぁ”
”そうだな。母さんが言いたい事も分かるが、それはあまりに恭文とリインの心情を無視し”
”あぁ、そっちちゃうよ。・・・・・・ほら、自分が死んだ時、泣いたり悲しんでくれる人間が何人居るかで、その人の人生の価値が決まる言うやんか”
”あぁ、僕もそれは聞いた事がある”
何かのドラマか漫画の台詞だっただろうか。中々に含蓄の深い言葉だと思う。
・・・・・・そこまで考えて、はやての言いたい事が分かった。フォン・レイメイの事を指しているんだ。
”あの男が死んで泣いたり悲しんだりする人間は、多分居らんやろうな。むしろ喜ぶ人間が居る。
それも大喜びや。被害者の遺族や関係者やったり、局と言うでかい組織やったり”
”そう考えたら、悲しくなったということか”
”そやな。別にどっかの悪の組織の怪人を退治したわけとちゃうから”
”・・・・・・そうかも知れないな”
少しだけ反省してしまった。殺しは殺し。否定されるべき最悪手。
そうだ、アイツ自身がいつも言っているじゃないか。
ダメだな。周りがこれでは、アイツがそう言い続けている事が無駄になってしまう。
肯定も否定もしない。そして何も変えないし変わらない。
もしかしたら、そんな一見冷たいようなスタンスで居るのが一番いいのかも知れない。
”それで話を戻すが、二人はレジアス中将が誘ってくれた事は感謝してる。
だが、同時に余計な事だとも考えている”
”どういうことや?”
”レジアス中将がトウゴウ先生や現状の恭文のアレコレをを認めていると明言していた事だ。
そして、それをアイツに伝えた事。母さんはそこにクーデターの件を話に出した事が加わっている”
”・・・・・・やっぱりかぁ”
恭文本人が『ありえなくない?』と言うくらいに、周りはアイツを事件解決のキーの一つとして評価している。
あまりにそういう話をされるので、本人が引いて増長するどころか謙遜を通り越してかなり疑わしく思っている。
ここはらしいと思うのでいい。ただ、母さんにはそこの辺りが今ひとつ上手く伝わっていないようだ。
母さんは恐らく恭文があの一件で増長して、より身勝手な判断をするようになっていると見えているのかも知れない。
”まぁ、そうやろうな。リンディさんやアルフさんは、ヘイハチさんをよう思っとらんし。
レジアス中将がヘイハチさん認めてるとなると、アイツの中の憧れがより強うなるとか思うてるんやろ”
母さんとアルフはアイツがトウゴウ先生と同じ道を行く事に、強い拒否反応を見せる。
母さんはアイツの将来を心配して。アルフは恭文絡みでフェイトが傷つくのを、見たくないから。
結果的に二人はトウゴウ先生を認めていない。いや、認めてはいけないとすら思っている。
・・・・・・なんというか、これこそ悲しい事だと思う。あの方が居なければ、今の恭文は無いというのに。
”てーか、マジワケわからんし。それでどないしろ言うんや?
誘うのもあかんし断るのもあかんじゃ、恭文を物扱いしとるのと同然やんか”
”奇遇だな、はやて。僕も全く同じ事を思った。さすがに今の母さんやアルフの行動は目に余る”
”あぁもう、これ以上アイツに妙な負担かけとうないのに、なんで家族が邪魔するんよ。・・・・・・またゴタゴタしそうか?”
”するかも知れない。エイミィや僕もフォローは入れてるんだが、さっぱりだ”
アイツの性格を考えるなら、今回の事で表彰を受けたり栄職に就く話など、受けるはずがない。
分かりきっている事なのだが、二人は納得しない。そんな事を言っていたら何も出来ないと角を出している。
なによりアイツの反応だ。アイツは、レジアス中将から誘われた事を相当に喜んでいる。
なぜ自分達の誘いにはあんな風になれないのかと、更に理不尽な怒りと悲しみを燃やしている。
”なんや母親と使い魔はアイツの事がよう分からんで、兄と義姉と想い人は味方っちゅうんも、おかしいなぁ”
”アイツの事になると、ハラオウン家は真っ二つに割れるな”
”でも、エイミィさんまで味方っちゅうんはまた意外やなぁ。
ほら、いつぞやの霊剣事件の時に、局に入れた方がえぇ言うてたのに”
”子育て中に色々とあったらしい。それで母さんやアルフの反応などを見て、反省したそうだ。
局だけが仕事先ではないし、不安はあるがよほどの事が無い限りは、認めていくことにしたとか”
この辺り、あまり話してくれない。だからなのだろうか。
ついつい『DNA検査』と、とんでもない単語を口走ってしまったのは。
・・・・・・いや、あれは真面目に僕が悪かった。本当に悪かった。
頼むからエイミィ、そんな怖い目で恭文を寝室に連れ込もうとしないでくれ。
なぜ連れ込みながらも自分のシャツのボタンを外していくんだ? 頼む、やめてくれ。
僕はあの光景を何度も夢に見てしまうんだ。もう反省したから、やめてくれ。
”クロノ君、アンタ急に顔色めっちゃ悪うなったけど、大丈夫かっ!?”
”あ、あぁ。大丈夫だ。少し、嫌な事を思い出してしまった”
よし、もう言わない。僕は二度と『DNA検査』などとは言わないぞ。
無駄に恭文とエイミィの仲が良いのは、きっと子育ての同志だからだ。うん、きっとそうだ。
”・・・・・・はやて、すまないがそっちでフォローを頼むかも知れない。あれは何れ大時化が来る。
全く、どうしてうちの母親と使い魔はあぁなんだ? 僕は正直もう縁を切ってしまいたい”
”うん、そん時は任せといてな。そしてアンタ、そこまでかい”
そこまでだ。本当の意味で『お話』出来ない状況というのを、久々に感じている。
二人は気づいているだろうか。僕には、プレシア・テスタロッサの影が二人から見えた。
”・・・・・・あ、そう言えばクロノ君。話変わるけど、アースラってどないなってるん?
なんや風の噂で、廃艦処分が決まったとか聞いたんやけど”
アースラというのは僕が執務官時代を過ごし、艦長を務めた船。
なお、母さんも僕と同じアースラの艦長だった。アースラには色々と思い出がある。
なのはやフェイト、はやてと出会ったのも、アースラでの航海中だった。
そして恭文だ。恭文がリインと出会ったのに端を発した一連の事件。
その時も、途中からではあるがアースラで行動することになった。
そして色々な伝説が残っている船だ。PT事件や闇の書事件は、そのひとつ。
あとは・・・・・・そう、アレだ。いつ間にか定着してしまった、アースラ7不思議。
謎のエンジントラブルや全く監視カメラの類に映ることもなく一日乗組員が行方不明になったり。
この二つは全部恭文のせいだ。アイツの運の悪さが凄まじいレベルなのを、アレで痛感した。
とにかく、アースラは僕達にとって本当に思い出深い船だ。だからこそ、はやても気になっているんだろう。
かく言う僕も気になっていた。なので、すぐにはやての問いかけに返事が出来る。
そんな思い出深い船であるアースラは、廃艦・・・・・・ようするに、もうすぐ眠る事になる。
”9月の末に廃艦処分が決まった。さすがに長期の航海には、もう耐えられそうもないらしい”
”・・・・・・そうなんか。なんや寂しいなぁ。あの船には、ホンマ色々な思い出があるから”
”だが、その分本当に沢山働いてくれたんだ。もう休ませてやらないとな”
”そやな。恭文とフェイトちゃん辺りは・・・・・・寂しそうにするんやろうなぁ。
二人はなんやかんやで、アースラにはうちやなのはちゃんよりも乗ってたから”
僕が艦長になってから、よく仕事で乗ってもらっていた。あと、フェイトもだな。
さすがに僕には負ける。僕は艦長だし、執務官時代から乗っていたから当然なんだが。
だが、二人が寂しそうに・・・・・・あぁ、目に見えるようだ。フェイトは若干涙目だ。
そして恭文は普通通りを装う。フェイトがそれだから、フォローしつつな。
”退艦式とか、そういうのあるんかな”
”もちろん予定している。長い現役生活を退き、静かに眠りにつく船を見送るのは、海の礼儀だ。
はやて、時間があるようなら、フェイトやなのは達を連れて是非来てくれ。きっと、アースラも喜ぶ”
”うん、そうするわ”
そんなこんなで、僕の応接室に到着した。・・・・・・あぁ、そうだ。
せっかくだからロッサのケーキをみんなにも食べてもらうか。
さすがに男二人で1ホールはキツい。甘さ控えめでも、そこは変わらずだ。
魔法少女リリカルなのはStrikerS Remix
とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常
第10話 『訪れる転機と発生したパワーアップフラグ?』
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廃棄都市部での現場検証にヘリで向かう途中、私はエリオとキャロと少しお話。
用件は、例の予言絡み。ただし、予言の事は伏せた上で。
この辺りは、余計な混乱を引き起こさないための処置なんだけど・・・・・・正直、心苦しい。
というか、はやてのことは責められないね。普通に私達も巻き込んでるもの。
エリオとキャロを除隊という形には出来ない。代わりのメンバーを探すのが無理だから。
なにより、スターズの二人とのコンビネーションの練度の問題もある。
もう引けない。知っていても知っていなくても、誰も六課と言う一つの舞台から降りる事は出来ない。
あの舞台に立った役者である私達は、フィナーレまで踊り続けるしか道が無い。例え、どんな結果になっても。
あと、なのはと一緒に母さんと話したけど、謝られるばかりでさっぱりだった。あぁもう、イライラする。
私、今度という今度はカチンと来てるよ。局に母さん、クロノのやり方もそうだけど、それだけじゃない。
こんな状況に大事な子達を巻き込んでしまった自分自身にも、イライラしてる。
私はこんな事がしたくて局に入ったわけでも、執務官になったわけでもなんでもないのに。
私、本当に何してるんだろ。なんだか分からなくなってきたよ。
「・・・・・・地上本部に、テロの可能性?」
「スカリエッティが・・・・・・ですか?」
「そうだよ。うーん、この辺りの事はヤスフミが居てくれると、説明とかはとても助かるんだけど」
エリオが一瞬、本当に嫌そうな顔をしてしまったのを、私は見逃さなかった。キャロも、少し戸惑い気味。
だけど、それでもエリオのフォローのために、変わらない様子で話してくれる。それはありがたかった。
「フェイトさん、どうしてそこで恭文さんなんですか?」
「ヤスフミ、地球にある警備部隊で戦闘訓練を定期的に受けてたの。特に魔法とは関係のない組織でね。
・・・・・・その関係で、テロとか犯罪関係のやり口、かなり詳しいんだ。下手をすれば私よりも」
「フェイトさんよりも? でも、フェイトさんは執務官で捜査関係強いのに。
あの人は、局員にすらなれないただの嘱託じゃないですか。ありえませんよ」
確かに、普通に見れば今のエリオの言う通り。その上ヤスフミはこう・・・・・・捜査スキルというものが極端に低い。
だって、事件があったら普通に巻き込まれて元凶と戦って解決というパターンが主だもの。
つまり、捜査をせずに事件を解決出来る。ヤスフミが仕事を手伝ってくれると、私も捜査活動が全く無い。
まぁ、書類の処理やらなんやらは助かるんだけど・・・・・・アレ、いいのかな? 色々とおかしいとは思う。
「ヤスフミが強いのは、捜査スキルとかそういうのじゃないんだ。
ガジェットや銃器のような、機械・質量兵器関係。あとは、運用技術だね」
≪その組織は地球にある関係で、その辺りについては管理局よりも対処が徹底しています。当然、彼もそこは教わっている。
そのために、魔法を使わない技術を犯罪・・・・・・いいえ、戦闘に用いる場合の理論は、Sirよりも精通しているかも知れません≫
「あとはGPO・・・・・・あ、局の外部組織なんだけどね」
「あ、それ私知ってます。確か1年くらい前のクーデターか何かの騒ぎでニュースになってました」
あぁ、キャロにも話が伝わってたんだ。辺境世界なのに・・・・・・うーん、保護隊の人達が何か見てたのかな。
「そうだね。ただキャロ、そういう言い方をするとちょっと誤解を招くからやめようね。
・・・・・・GPOは次元世界にとって、とっても大事な仕事をしている組織なんだ」
管理世界認定直後の世界に管理局や次元世界の事、その文化を伝えていく半民間警備組織。
管理局よりも地元住民に根ざした気風を取る事で、その辺りの理解を求めるお仕事。
「そこの人達とヤスフミ、すごく仲良くなったんだ。それで色々あって、勉強させてもらったの。
ヤスフミは嘱託で局員じゃないけど、それでも私よりすごいところが沢山あるんだ」
「・・・・・・そうなんですか」
・・・・・・やっぱり距離感が微妙だよ。本当は仲良くして欲しいのに。うぅ、はやて恨むよ?
ヤスフミに面倒な仕事押し付けたりするから、余計に話がややこしくなってるんだもの。
「とにかく地上本部の守りは鉄壁。ちゃんとした防衛バリアが備わってるから。
だけど、それは絶対じゃない。バリアはあくまでも、魔力で構築されたものだから」
「フェイトさん、ならそれは・・・・・・消せますよね? ガジェットには、AMFがあるから」
「そうだよ」
魔法至上主義。ヤスフミが何回か言っている言葉。その弊害が、ここにも出ている。
重要拠点のバリアそのものすら魔力で構築しているから、AMFが絶対的な優位を保ち続ける。
「現在の管理局法では、AMFを使われると攻め込まれた時に脆い」
設備もそうだし、人も同じ。まさしくAMFは、魔導師殺しもいいところ。
それは私達も同じかな。完全キャンセル化状態にされたら、対抗策が無い。
「だけど管理局では魔法以外の力で戦力は、基本的に導入出来ない。
魔法以外の技術を使うのは、質量兵器禁止法に触れる危険があるから」
「質量兵器・・・・・・僕、聞いた事あります。ボタン一つで子どもでも使えて、そのせいでいくつも世界が滅びたとか」
「ええと、私は詳しくないんですけど、フェイトさんが話しているのは、魔法に頼らないで広範囲に攻撃出来る武装・・・・・・と考えればいいんですか?」
「うん、それで大体合ってるよ」
やっぱりヤスフミが居てくれると助かるかな。私、自分の説明に自信が持てない。
この辺りについては、きっと私よりもしっかりとした話をしてくれるだろうし。
とにかく、簡潔に説明することにした。まず、エリオが言うようなことが、管理局設立前にあったこと。
そのために管理局が設立して、暦が新暦になってから質量兵器を全面的に禁止したこと。
「ただ、厳しい審査を受けて、通った場合のみ所有が許されてはいるんだ」
「あ、僕も訓練校で教わりました。でも、それって今話に上がっているようなレベルのものじゃないですよね?
えっと・・・・・・そうだな、前に一緒に映画を見に行った時に出てた、ガンマンが使ってるような拳銃」
「そうだよ。だから、アクション映画に出てくるようなロケットやマシンガン、バズーカなんてもっての他」
だけど、理由はどうあれ警備組織にとって戦力は絶対に必要なもの。そのために、管理局は一つの手を取った。
クリーンで安全で、非殺傷設定という有効な使い方が出来る魔法エネルギーを推奨した。
それがきっかけで、次元世界に魔法文化が一気に根付いたこと。質量兵器根絶が、局の理想になったこと。
本当に簡単になんだけど、二人に説明していく。二人は、真剣にそれを聞いてくれている。
「・・・・・・まぁ、社会と歴史の勉強は、とりあえず置いといて」
「「あ、すみません」」
「とにかく地上本部を標的に、そんなテロが発生する可能性は実はかなり高いの。
もしかしたら六課もレリック絡みじゃなくても、出動するかも知れないということ。分かった?」
「「はい」」
二人は素直に頷いてくれた。それが嬉しくて、少し微笑む。
・・・・・・本当は、ヤスフミにもこんな顔をして欲しいのに。
≪もし、質量兵器やその運用に関してより詳しく、実地的な話が聞きたいなら、彼を頼るといいでしょう≫
「あ、そうだね。さっきも言ったけど、恭文はその辺りに本当に詳しいから」
「・・・・・・でも、フェイトさんやなのはさん達だって居るし、必要ないですよ」
やっぱり、エリオは恭文を相当嫌ってる。言葉の端々からそれが感じられる。
どうしたらいいのか、困ってしまう。ヤスフミはきっと・・・・・・言い訳なんてしないし。
≪それでも、彼です。戦闘者としての完成度で言えば、Sirや高町教導官、八神部隊長よりも上ですから。
あなた達も、得られる部分は大きいと思います≫
「・・・・・・ありえないよ、それ。だって、あの人はランクだってフェイトさんやなのはさんより下だし」
「エリオ、それは違うよ。ヤスフミのランクは、本人が『めんどくさい』と言って昇格試験を全く受けてないからあのままなんだ」
エリオが目を見開く。キャロも、同じ。・・・・・・そう言えば、この話してなかったかも。
というか、もしかしてヤスフミもしてなかった? だから驚いてるんだ。
「そして、ランクは8年前から変わってない。というより実力的なことで言えば、魔導師になった直後から今のエリオ達と同じくらいだった」
私がそう言うと、二人がビックリした顔になる。疑問と驚きの色に満ちた目で私とバルディッシュを見る。
「とにかくさっきも言ったけど、ヤスフミは私とかよりも色々知っていることが多いんだよ?
機会を見て、話してみたらどうかな。そうしたら今までとは違う一面が見られると思う」
二人は苦い顔で頷いてくれた。うん、エリオは本当に苦い顔をしていた。
いや、それだけじゃない。・・・・・・念話が届いたから。
”フェイトさん、一ついいでしょうか”
”うん、なにかな”
”もっとあの人に厳しくするべきなんじゃないですか?
またあんな勝手な真似をされたら、みんなに迷惑じゃないですか”
・・・・・・本当に、エリオはヤスフミが嫌いらしい。
声から嫌悪感がありありと感じられた。そして、それを隠そうともしていない。
”僕達は局員で、部隊員。常に正しくあるべきです。でも、あの人はそれが出来ていない。あの人もそれを庇うフェイトさん達も、間違っています。
・・・・・・殺すことは、ただ傷つけるためだけに大事な力を使う事は、ダメなんです。リンディさんやアルフも、僕と同じ意見でした”
母さんとアルフに、いつの間にか相談してたんだ。あぁ、そうか。だからこれなんだ。
エリオの中のヤスフミを否定する感情が強くなったのは、二人のせいなんだ。
”エリオ、ヴァイス陸曹の話を聞いてなかったの? 私達みんな、何も言う権利はないよ。
私もそうだし、エリオやスバル達だって何もしなかった。違う?”
”分かってます”
”だったら”
”みんなが昔馴染みだから、あの人を庇いたいのは分かります。
でも、アルフもリンディさんも言ってました。それは違う、間違った優しさの使い方です”
何だろう、頭痛がしてきた。というより、気分が悪い。
今のエリオに何を話しても、無駄だと思ってしまう。私は、保護責任者だけど、それでも。
”フェイトさん、ダメですよ。僕達は、正しい行いが出来てる。そうだ、僕達は正しい。だったら、あの人もそうするべきなんです。
フェイトさんも、本当はそう思うでしょ? だって、あの人は間違ってて、正しいのは局。そして、局員である僕達なんですから”
私は、そのエリオの言葉に答えられなかった。念話が続けて来るけど、シャットアウトした。
頭が痛い。なんだろう、正直今のエリオの考えている事が良く分からない。何か怖いものを感じる。
ティアからエリオの事はなんとかした方がいいとは言われてたけど、ここまでなんて。
これは・・・・・・前途は多難だな。今の微妙な空気を越えなくちゃ、私が守りたいものは守れないもの。
エリオとキャロが安心して過ごせる場所、次元世界に住む人達の平和と安全。
部隊員達の将来。なのはの夢が詰まっている空。ヤスフミが守りたいと思っている今という時間。
全部を守るの、きっと凄く大変。それでも・・・・・・やらなくちゃ。
そこまで考えて思い出すのは、あの子の顔。とても強くて、優しい男の子の顔。
思い出すだけで胸が高鳴り、さっきまで感じていた寒いものが消えていく。
・・・・・・ヤスフミ、あの時何もしない言い訳なんて出来ないって言ってたよね。でも、私だって、同じなんだよ?
あの時も言ったけど、ヤスフミと同じ。ここで何もしない言い訳なんて、一つも出来ない。
バルディッシュ、お願い。力を、貸して。未来を消さないために、今を・・・・・・覆すために。
どうもこれは、私だけでどうこうって言うのは無理そうなんだ。協力してくれる?
”Yes Sir。・・・・・・しかし、Sir”
”なにかな?”
”彼からの影響が、日に日に強くなっていますね”
・・・・・・そうだね。自分でも不思議なんだけど、ヤスフミの存在がどんどん大きくなっていくの。
”なんだか、おかしいね。特に何が変わったとかはないのに”
”いえ、色々変わって来ているんでしょう。それも確実に”
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・・・フェイトとバルディッシュが、なにやら主人公らしい会話をしていた頃。
僕とリインは、クラウディアの応接室でケーキを食べつつ、ヴェロッサさんに驚かされることになった。
”・・・・・・で、ヴェロッサさん。何故にヒロさん達がスカリエッティに狙われてるんですか”
”ですです。だって、この間お会いして、お話してた時は普通でしたよ?”
”原因は、スカリエッティだよ。そして、その狙いはトウゴウ先生”
先生? ・・・・・・とりあえず、応接室でヴェロッサさんが淹れてくれた紅茶を飲みつつ話を聞く。
なお、はやてやクロノさん達は勝手に話してるので、ここはよし。
”スカリエッティは、トウゴウ先生・・・・・・いや、君も含めたヘイハチ一門を狙っている。
リインにも聞いて欲しかったのは、彼が置かれてる現状について、ちゃんと把握して欲しかったからだよ”
視線と声の中に『どうせ君達は一緒に戦うんだろ?』という感情が含まれていたのは、気のせいじゃない。
”ヴェロッサさん、そう思う根拠はなんですか?”
言うからには、当然なにかあるはず。この段階では何も判断出来ないし、まずはそこを聞いてからだ。
”もちろん根拠はある。一つ、君達のデータが何者かに勝手に抜き出された経歴がある”
ようするに勝手に『僕達』のことをコソコソ調べてた連中が居ると。そりゃあ確かにおかしいわ。
だって僕はともかく、ヒロさん達はもう引退組なのに。なんでそうなるのか、普通なら理由が分からない。
”二つ。特別な出自も能力も何も持たない凡人資質な君達に対して、強い興味を抱いている可能性がある。
君やトウゴウ先生もそうだしあの二人も、決して天才じゃない。だけど、それでも天才と呼ばれる人間に幾度と無く勝利している”
”そのために、スカリエッティの興味を引いていると”
”この辺りは・・・・・・そうだな、ようするにあれだよ。生命の不思議というか、成長する可能性というか、そういう観点からの貴重なサンプルと考えていると見ていいかな”
・・・・・・天下のマッドサイエンティストにそこまで見られるとは。なんつうか、嬉しいね。嬉し過ぎて涙が出そうだわ。
というわけだから、とっととアレには地獄へ落ちて欲しいもんだ。つーか、絶対に叩き落とす。
”多分、君やヒロリス、サリエルさんを狙ってるのは、トウゴウ先生が実質消息不明。
戦闘能力の観点から見ても、捕縛は不可能だと判断したからじゃないかな”
”確かに・・・・・・ヘイハチさんを捕まえようと思ったら、局のオーバーSクラスを総動員しないとだめですよ。
というか、それでも出来るかどうか微妙なのです。ヘイハチさん、やっぱり凄いですから”
”そうだね。そして、一番に狙われているのは恭文・・・・・・君だというのが僕とヒロリス、サリエルさんの結論だ”
はやてとクロノさん・・・・・・は、まぁいいけど、ティアナに気づかれないように、普通の様子を装いながらイチゴのショートケーキを食べる。
・・・・・・うん、甘さ控え目ないいお味だ。さすがはヴェロッサさんのお手製。紅茶もいいお味だし。
”その理由は?”
”君が一番トウゴウ先生に似ているからだね。そして、実績もある。
君はランクこそAだけど、実際はもうエース級だもの”
”ようするに・・・・・・この人をグランド・マスターの代替品として見ていると”
だから、僕の捕獲も込みであの男を差し向けた。アレなら、何とかなると思ったから。
そして、未だに狙っている。やろうと思えば出来ると思っているから。・・・・・・ナメやがって。
”ジェイル・スカリエッティ・・・・・・完全に恭文さんに、いいえ”
リインは言い直す。平然とした顔を装ってるけど、拳が強く握り締められている。
”私達に、古き鉄に喧嘩を売っています。・・・・・・絶対に、叩き潰すです”
”そうですね、叩き潰しましょう。というか、私のマスター達を実験動物と見なした罪、これから先の時間の全てで購ってもらいます”
”それでヴェロッサさん、今はヒロさん達は”
僕はまぁいい。そこも含めて六課に居るんだから。でも、ヒロさん達はそうじゃない。
で、そのために聞いたんだけど・・・・・・ヴェロッサさんは、安心させるように言ってくれた。
”それなら大丈夫。聖王教会に来てもらって、カリムが保護してるから”
・・・・・・それ、またよく二人が納得したもんだと思った。特にヒロさんだよヒロさん。
”君と同じように、有事の際には飛び出すのを、カリムやシャッハが認めた上でだけどね。
一応、通信関係もしばらくは自粛する方向でお願いできるかな”
つまり、向こうから連絡もして来ないし、僕からの連絡もダメ。てゆうか、多分繋がらない。
盗聴とか、通信の形跡で居場所がバレるのを防ぐため・・・・・・だね。
”今のところ、サリエルさんが上手くやってくれたおかげで足取りは消せてるけど、それでも下手な行動はまずい”
”分かりました。ただ、ヒロさん達には伝えてもらえますか?
こっちは大丈夫なんで、気をつけてくださいって”
”うん、分かった。必ず伝えるよ。それと、さっきも少し話したよね?
二人に君から、ZERONOSジャケットを預かってきて欲しいって頼まれてるんだ”
”・・・・・・あぁ、それがありましたね。でも、何でですか?”
で、色々詳しく聞いた。なんか、ZERONOSジャケットを改良して、新装備を作ってくれるらしい。
今の僕に、スカリエッティを叩き潰すために必要な力を備えた装備を、姿を隠しながら作りたいとか。
要は、ジャケットの改良がそれ。で、ケーキを食べながら色々聞いて・・・・・・お願いする事にした。
というか、二人に感謝である。ここまでしてくれるなんて、ありがたくて涙出てくるし。
”それで、その代替品じゃないけど、えっと・・・・・・別のジャケットを預かってきてる。
新装備が完成するまでになにかあるようなら、こっちを使って欲しいだってさ”
”別のって・・・・・・まさかDEN-Oジャケットっ!?”
DEN-Oジャケットとは、電王を模した物理装甲も加えたスーパージャケット。なお、全フォームと武装を完全再現。
ただ、あまりに魔力燃費が悪くて、10分程度しか装着出来ないのが難点だけど、使ってると楽しい装備なのだ。
”え、マジでヒロさんが送ってきたんですかっ!!”
現在、DEN-Oジャケットを主に所持してるのはヒロさん。てーか、僕やサリさんはテストの時以外使った覚えがない。
”あの人、絶対に誰にも着用なんてさせないって断言してたのに・・・・・・”
”やばい、明日は隕石落ちてくるかも知れない。それで地上本部焼け落ちるかも”
”ありえますね”
”ありえないからっ! てゆうか、君達のヒロリスへの認識はどうなってるのっ!?”
と、とにかくありがたい。アレは魔力消費が激しいから、装着なんて僕は8分弱が限界。
でも、嬉しい。よし、絶対どっかで試そう。てゆうか、試し斬りだ試し斬り。
”ただ、ちょっと違うよ”
”え?”
”預かってきたのは、そのDEN-Oジャケットじゃない。それとは別に新開発した物だよ。
なんでも、君が以前にリクエストしてきたからってことらしいんだけど”
僕がリクエスト? しかもジャケット?
ZERONOSジャケットの代わりという事は、当然同じような感じで。
”・・・・・・・・・・・・あぁっ! もしかしてアレっ!?”
そう、リクエストしてた。ヒロさんとサリさんとDEN-OジャケットとZERONOSジャケット完成記念にご飯食べ行った時に、そんなことを話した。
『ジャケット作るの楽しかったし、またなんか作りたいね。で、次なに作るー?』『せっかくだからやっさんの意見を聞こうか』って言われて、思い切ってリクエストした事がある。
”え、マジですかっ! 僕、酒の場での与太話だと思ってたのにっ!!”
”マジらしいよ?”
てか、ヒロさん達すげーよ。普通にすげーよ。僕、結構適当に言ったのに。好きに言っただけなのに。
とにかく、それでもやっぱり試し斬りだ。うんうん、試し斬りだよ。
”でもさ、君達まじめに何してるの? 僕はヒロリスから聞いて、かなりビックリしたんだけど。
てゆうか、どこでどう転んだら、この無駄に高度なコスプレアイテムを作るってことになるのさ”
”趣味と実用を兼ねた個人装備です。てゆうか、二次創作ってそういうものでしょ?”
”全然違うから。あと、その発言は色々問題だからやめようね。
・・・・・・とにかく、これからは基本隊舎の中だとは思う。それでも、注意するように”
分かっている。行動には細心の注意を払え・・・・・・だ。
もちろん、隊舎の中だから安全という考え方もある。
だけど、過去の漫画やアニメ(例:パトレイバー)などを例に上げてみよう。
で、そうすると本拠地が襲われるという展開は往々にしてある。てーか、かなりある。
”大丈夫です、来た時から気をつけ過ぎて、ティアナ以外のフォワードや交代部隊の1Dいくらな方々とは、距離感開いてますから”
”・・・・・・はやてから聞いてるよ。まぁ、僕は予想してた。ただ、それでいいかも知れない”
その言葉に、思わずリインと顔を見合わせてしまう。
”恭文、はやてには僕から言っておく。だから、君はしばらく・・・・・・最低でも、事件が進展するまでは、その調子を維持してた方がいいよ”
いや、『仲良くしろ』とか『心を許せ』とか言われるのは慣れてるけど、まさか調子を維持しろとは・・・・・・。
”心を許すにしても、相手を選んだ方がいい。フォワードメンバーは・・・・・・まぁ、大丈夫か。
ただ、交代部隊や一般局員の方々とは、今まで通りに多少距離を取った方がいいかも知れない”
”どういう意味ですか”
”もしかしたら、身内にスカリエッティの関係者が居るかも知れないってこと”
・・・・・・ヴェロッサさん、どういうことですか。てか、なんでそうなる?
”君達のデータを引き出した痕跡をサリエルさんと僕とで調べたんだけどね、その爪痕がほぼ0に近かった”
僕はそういうのは詳しくないんだけど、ヴェロッサさんやサリエルさんからすると、それは少しおかしいということらしいのは分かった。
”普通、どんなに上手くやっても痕跡は少しは残るものなんだよ。
存在していた時間と、その痕を消す事は誰にも出来ない”
だってヴェロッサさんの思念の声の中に、明らかな疑いの色があったから。
”でも、今回は痕跡にはその痕が余りに少なすぎた。
ただね、それはあくまでも、『外部の人間が不正にやった』と言う前提の上でなんだ”
”あ、リイン分かったです。つまり、中の人間が実行犯で、ある程度のウォールをスルー。
そうした上で、秘密になってる部分を抜き出した・・・・・・ですか?”
”サリエルさんはそう考えてる。で、僕も同意見”
でも、それだとIDとかで自分がやったとバレ・・・・・・いや、もしバレないようにやったとしたらどうだろう。
それなら、まだ分かる。でも、中ってどういうことさ。くそ、マジで腐ってるし。
”今現在、六課に内通者が居るとは言わないけど、それでも用心はした方がいい”
・・・・・・そうだね、用心したほうがいい。別に顔見知りやスバル達だけで運営してる部隊じゃないんだ。
どこでどう鼠が入り込んでいるか、分かったもんじゃない。
”とにかく、この件も含めて僕とクロノで調べていく。
サリエルさんも協力してくれることになったから、君はとにかく気をつけるように”
”・・・・・・はい。あー、それとヴェロッサさん。一応ヴェロッサさんなりクロノさんの方から伝えてもらえます?
はやてだけじゃなくて、なのは達にも警戒しておくようにって”
じゃないと、絶対普段通りにやろうとするに決まってるし。はやてだけじゃ少々足りないと思う。
みんな、なんだかんだで人情家だし、普通に手札も隠さないもん。てーか、身内疑う事くらい覚えておけってーの。
”分かってる。元々そうするつもりだったし、問題はないよ”
”なら、よかったです”
・・・・・・・・・・・・ケーキを食べる。少しだけ、さっきよりも美味しさが減っていた。
まぁいいや。色々と話は分かったし、僕は問題ない。とにかく、慎重に行こうっと。
とにかく、この後ヴェロッサさんとベルト交換をし合ってから、僕達はクラウディアを出た。
ヒロさんは大丈夫でしょ。僕より経験あるし、無茶苦茶強いし、聖王教会に居るんだから。
いや、待てよ。もしかしたら聖王教会に誰か入り込んでいる可能性だって・・・・・・あるのか。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・改めて部隊編成を見させてもらったが、はやてはいい部下に恵まれたな」
「そうだね、ティアナもいい子だった」
「悪い子は、我が愚弟と部隊長だけか。あぁ、それと後見人ズだな。ここだけは悪い人間揃いだ。
一人はあくまでも、自分の勝手のために世界の危機に立ち向っている。そうして周りを振り回しながらな」
こっちは間違いなく恭文だね。てゆうか、もう考えるまでもないでしょ。
「そして僕達は、こんな事とは無関係な人間まで巻き込んで、バカをやっている。下手をすると、恭文やスカリエッティより悪人だ」
「あははは、確かにそうだね」
クラウディアのブリッジで、クロノと今後の事について話。
クロノは通信画面の中の六課メンバーを見て、あれこれ考えている。
今、その視線が見つめるのは、分隊系列から外れている一人の男の子。
問題児というか、ジョーカーと名高いナハト01。
そして、この状況に置かれてなお、ただの自分として戦う事を選んだ子。
きっとその選択は、彼の師であるトウゴウ先生も選んでいたであろう道。
あの子は、それを自分の意思で選んだ。
選んで・・・・・・きっと貫き通して、今を変えていくよね。最後の最後までさ。
「・・・・・・クロノ、やっぱり心配?」
「今、アイツの立ち位置が面倒になっているのは、僕やはやてのせいだからな。正直、その権利はない。
話を聞く限り、エリオには完全に引かれているらしい。他はそれから2、3歩前だ」
フェイト執務官の保護児童か。まぁ、仕方ないっていえば仕方ないのかも知れないね。
二人はまだ子ども。目の前で殺しなんてされたら、そりゃあ色々と考えるさ。簡単には割り切れない。
「特にエリオは、少し荒れていた時期がある」
クロノが、少しだけ教えてくれた。あの子がどうしてそこまで、魔法という力を壊すために使った人間を認めないのかを。
フェイト執務官に助け出されてしばらく、魔法を使って自分が入院した医療施設の人間を攻撃したりしてたらしい。
というか、フェイト執務官もやられたとか。だけど、それでも自分の手を握ってくれたフェイト執務官に、この子は心を開いた。
で、その時の怪我を見て、恭文は怒ってまだ4歳だったその子を本気で叩き潰そうとして、家族一同止めるのが大変だったとか。
「・・・・・・フェイトは大丈夫と言ったんだが、顔にも少し火傷を負っていてな。
傷は残らないようなレベルの物だったんが、それでもアイツ的には許せなかったらしい」
実際、その傷はすぐに治った。なので、問題は本当になかった。
「まぁ、好きな女の子がそれだと怒るよね。うん、僕だってちょっとカチンと来るよ」
「いや、違う。・・・・・・火傷は、傷の浅さは同じくらいだが、他の箇所にもあった」
もちろん、それも全部治ってる。痕は残ってない。
「嫁入り前の女の子の身体に、傷を付けた事。アイツの怒りの源はそこだった。
子どもだから、事情があるからと言って、甘い顔をしていいはずが無いという事だった」
「なるほど、そりゃ道理だ。でも、それって恋愛感情と言うより、家族とかそっち方面の感情だよね?」
「あぁ」
なんというか・・・・・・恭文がフェイト執務官にスルーされ続けてるのって、そういう部分もあるせいなのかな。
家族としての感情と、恋愛感情が交じり合ってるから、気づかれにくいのかも。
「最後はフェイトが優しくも必死に止めて事なきを得たが・・・・・・エリオの態度は、そのせいだな。
傷つけた実感があるから、余計に否定するんだろう。昔の自分とアイツを、重ねて見ている」
「なるほどね、納得したよ。ということは・・・・・・この子から見ると、恭文はあの時の自分がそのまま大人になったように見えると」
「だからこそ修正しようとしている」
いや、自分が正しい道を教えなければならないとさえ思っているのかも知れないね。
「だが、それは間違いだ」
うん、間違いだよ。恭文は、望んであの道を進んでいる。守りたいものを守るために、業を背負う道を真っ直ぐにだ。
それは前にシャッハが『それこそが騎士の道』と言っていたのと同じ道。まぁ恭文はきっと否定するだろうけど、同じ道だよ。
「フェイトも話してはいるそうだが、サッパリだそうだ」
「そりゃあそうだろうね。前提そのものから食い違ってるんだから」
僕がそう言うと、クロノの視線が移る。画面の中の、その保護児童二人に。
そしてクロノは、それを見つつ静かにため息を一つ吐いた。
・・・・・・出来れば、そこのところの難しい事情を、あの子達にも分かって欲しい。
こんなことをしても、自分の欲しい答えはどこにも出てこないと。いや、恭文にはその答えは出せないと。
まぁ・・・・・・大丈夫だとは思うんだけどさ。ティアナにも少しお願いをしたし。
「実はさ、クロノ」
「なんだ?」
「ティアナ、フォワードリーダーって言ってたから、少しお願いをしたんだ」
一つは、はやてや高町教導官にフェイト執務官のこと。強い力や資格や権限を持つ人間は、往々にして孤独に苛まれる事がある。
職務上で誰かが自分を頼ってきても、それは自分ではなく、力や資格、権限に頼ってきている部分があるのが、その原因。
まぁ、そういうのがあるから、出来れば同年代の女の子として、接してあげて欲しいとお願いした。
・・・・・・恭文を引き合いに出した上で。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・恭文、部隊内でも普段と変わらない態度で、隊長達に接してるでしょ」
「はい。・・・・・・なんていうか、最初は呆れました。普通に隊長にため口とかしますし」
「そうだね。たださ、そうしてるのは性格もあるけど、実はあえてなんだよ」
ティアが疑問を顔に浮かべる。だから、そのまま僕は話を続ける。
「教導官にも部隊長にも、もちろん執務官にも。さっき僕が話したような部分があるのを、知っているからなんだ。
だからあの子はどこに居てもただの『高町なのは・フェイト・T・ハラオウン・八神はやて』に頼ったり、話しかけたりしてる」
「何のためにですか?」
「多分、自分だけでもそういうのを無しにしようとしているんじゃないかな。
組織の中で自分の大事な友達を、そんな風に見る人間を、そんな風潮を、内心とても嫌っているから」
ティアナの表情が変わった。何かを納得したような、そんな顔に変わる。
どうやら、思い当たる節があるらしい。うん、そうだと思った。だって、僕もあるから。
「だから変えないし変わらない。例えそれが、自分だけだったとしても。あの子は、そういう子なんだよ」
「・・・・・・そうですね、少し分かります。なんか、納得しました」
まぁ・・・・・・こういうことにしておいた。ほら、印象操作って大事だしさ。
うん、大事なんだよ? 恭文はこういうの嫌いだろうけど、それでもだよ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「それはまた・・・・・・恭文が聞いたら怒るぞ?」
あははは、怒るだろうね。言われるまでもなく知っているよ。
「大丈夫。本人に言ったら絶対にすごい勢いで否定するだろうから、内緒にねって言っておいたから。
そうしたら、ティアナはこれまた疑いもせずに納得してくれたよ。それで、もう一つ」
「なんだ、まだあるのか」
「恭文のことも、少しお願いした」
まぁ、本当に簡単にだけどね。もし良ければ、あの子を嫌いにならないでほしい。
もし、やれるようなら・・・・・・仲良くして欲しいと。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・どうして、そんなことを言うんですか?」
「やっぱり、気になる?」
「かなり」
それはそうだよね。うん、当然だ。てゆうか、僕だって普通に気になる。
「アコース査察官は見る限り、アイツとは相当親しい感じですし・・・・・・やっぱり、顔見知りだからですか?
だから、さっきからアイツを心配してるのかどうか分かりませんけど、私にこんな話をしている」
「そうだね。これでも7年とか6年の付き合いだから、心配にはなる。でも、それだけじゃない。
・・・・・・僕ね、出来るなら、あの子には変に変わらないで欲しいんだ。そうすると、色々と面白いから」
「どういうことですか?」
とにかく、少し説明することにした。転送ポートまでの道を歩きつつだ。
「ね、ティアナは恭文の先生のことは、聞いてるかな」
「先生? ・・・・・・あぁ、ヴィータ副隊長のことなら、知ってます。アイツ普通に師匠とか言うし」
「違うよ。そっか、君は聞いてないんだね」
まぁ、当然なのかな。フォワードとの距離感が少し微妙らしいし、恭文もアルトアイゼンも聞かれなくちゃ話さないから。
「恭文には、もう一人先生が居るんだ。その名はヘイハチ・トウゴウ」
「・・・・・・聞いたことないんですけど、有名な方なんですか?」
「かなりね。もう局を引退して10年以上経つけど、伝説の人と呼ばれている。
恭文はその人から剣術を教わったんだ。そして、アルトアイゼンはその元パートナー」
僕がそう言うと、本当にティアナはびっくりした顔をした。どうやら、恭文は本当に話してなかったらしい。
今のこの子の表情から、それがありありと伝わってくる。
「じゃあ、アイツがその先生からデバイスを引き継ぐ形で?」
「うん。トウゴウ先生はね、本当に凄い人なんだ。剣一本で、ただの自分としていつも戦っていた。
そうして、色んな悲劇を回避し、それを呼び起こす根源を壊してきた。だから、英雄と言われている」
ティアナはともかく、クロノ・・・・・・いや、レジアス中将の世代だと、直撃かな。
あとはトウゴウ先生を慕って、局入りを決めた高官も居るって話だし。
「今で言うところのなのはさんみたいな感じだったんですね」
「いや、全く違う。命令違反は日常茶飯事だし、始末書や反省文なんてギネスに載るくらいに書いてる。
トウゴウ先生は、管理局という組織の規律や道理の中に納まり、それに従う人じゃなかったんだよ」
「でも、局員だったんですよね? それは問題になるんじゃ」
「なってたよ。たださ、どこまでも自由で、正直で、強く、突き抜けているトウゴウ先生を、それでも慕っている人間は多かった。
トウゴウ先生が局を辞める当時。その事は、『局にとって100年に一人の逸材を失った』とまで言われていたんだ」
そして、その後トウゴウ先生はアルトアイゼンを連れて、諸国漫遊の旅に出た。それはもう自由気ままに。
普通に現地でトラブルに巻き込まれて、戦って、やっぱり壊れそうな今を守って・・・・・・それを、今でも続けている。
「恭文はね、そんなトウゴウ先生から剣術の技能を、心を、魂を、そして・・・・・・大事な相棒を受け取った。
それでさ、あの子はトウゴウ先生が大好きなんだよ。どこに居ても、何をしていても、あの背中を追い続けている」
「なんか、それ・・・・・・少し分かります」
「そうかい?」
「はい。アイツ、確かにその先生に似てます。どこに居ても、六課の中に居ても、ただの自分として戦ってる。
局員とか、部隊員とか、仲間とか、集団の一員とか、そういうのぶっ飛ばしていく。なんか、腹が立つくらいに」
自分の目標として、その背中を追いかけ続けていること。どうやらそれは、ティアナにも分かっていたらしい。
だからだろうか、納得したような顔になるのは。今までなかったパズルのピースを見つけて、喜んでいるようにも見える。
「ただ、だからという部分もある」
「やっぱり、ですか」
「・・・・・・うん、やっぱりだよ。だから、恭文は現状の局や、局員に敬遠される部分があるんだ。
トウゴウ先生は、確かに慕われていた。でも、同時に組織にとっては不適格者でもある」
組織の中に居ながら、自分として戦うことを選ぶ。それは、ある意味では組織に対しての裏切り。
トウゴウ先生は、管理局という組織に属していながら、その裏切りを繰り返していたと言う人間も居る。
「だけど、恭文はそれでもトウゴウ先生と同じ道を行きたいと思っている。別に誰にも強制なんてされてない。
それでも、誰でもない、ただの自分としてどこまでも戦い、突き抜け、今を・・・・・・未来を守る道をね」
恭文は強い。自分のことをよく『弱い』なんて言ってるけど、それは間違いだよ。
あの子の強さに、真っ直ぐさに、魅せられて、惹きつけられている人達が居る。
それは、僕だったりクロノだったり、ヒロリスやサリエルさん達だったり。
なにより、リインとアルトアイゼンだ。あの二人が最も足る例だと思う。
あの子の強さに、輝きに惹かれたからこそ、パートナーとして一緒に戦う道を選んでいる。
恭文、君は充分強いよ。きっと、ルールやしがらみを疑いなく信じ、絶対とする人間よりも、ずっと。
「あの子の強さは、想いは、あまり真っ直ぐ過ぎて、人を選ぶ所があるんだ。
あの子の行動を問題視する声は、確かにある。・・・・・・トウゴウ先生と同じように」
身内で言うと最も不満なのは、リンディ提督とフェイト執務官の使い魔であるアルフさん。
クロノによると、今の恭文に対して色々と思う所があるらしい。局に入って、普通にして欲しいとか。
フェイト執務官もそこに一枚噛む形だったけど、最近はそうでもなくなったとクロノが話していた。
とにかくその二人や一部の人間は、彼があの道を行くことに対して危機感を持っている。
というより、心配しているのかな。恭文が不適格者の烙印を押されて、孤独になるのを。
家族や友人がそんなことになるのが嫌だから、一緒に頑張っていきたいと声をかけているとか。
でも、正直それは無理だと思うんだけどな。それはトウゴウ先生の事を抜いても、あの子のやりたい事とはそぐわないもの。
「でしょうね。現に六課で私の同僚がそれですから」
「それで、平気な顔してるでしょ? もう仕方ないってさ」
ティアナはすぐに頷いた。どこか悲しげな目をしながら。
それを見て・・・・・・この子なら大丈夫かなと、少し安心した。
「恭文が平気な顔をしているのは、とても簡単だよ。それを想いを貫き、押し通す上で、払うべき対価と考えているから。
だから、君達と距離が開いても、仕方のないこととして認めているんだ。自分の選択が認められないのは、当然のことだとさえ思っている」
「そう、ですか。でも」
どこか悲しげに、ティアナが俯く。
「・・・・・・なんだい?」
「それが本当なら、少し寂しいですね」
静かに・・・・・・本当に静かに、ティアナが呟いた。
「アイツにとっては、目の前に居る私達との事より、その先生の背中を追いかける方が大事。
憧れや想いを貫くためにアイツは、どんだけめんどくさい道を歩いてるのかって、ちょっと思いました」
・・・・・・僕はそれに、何も言えなかった。ううん、言えるはずがなかった。
僕も、あの子の強さに魅せられている一人。だけどティアナはきっと・・・・・・少し違うと思ったから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「それでね・・・・・・もし、もしも恭文のことが嫌いでないのなら、力になって欲しい。
ただ側に居て、普通に話すだけでも、恭文はきっと何も言わないけど、嬉しいはずだからって話したよ」
「そうか。・・・・・・それで、ランスター二士は?」
「うーん、それがね・・・・・・嫌だって言われたんだよ」
「そうか。まぁ・・・・・・仕方がないのかも知れんな。というより、仕方がないだろう。
アイツに散々迷惑をかけられている身だ。きっと、勝手な願いに聞こえたんだろう」
「あー、違うよクロノ。そうじゃないんだ」
うん、そう言われた。話し方を少し間違えたかなと思っていたら、彼女はまた言葉を続けた。
そして、決意に満ちた瞳で、こう言った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・何も話してくれないのは嫌です」
「え?」
「私、マジでそのヘイハチ・トウゴウって人のこと、知らなかったんです。
アイツ、何にも話さないし。普段はマジキャラになることもないし」
あぁ、やっぱりか。うん、予想はしてた。それも思いっきり。
「私、アイツに助けられたんです」
その瞳のまま、ティアナは強く、前を見る。
左拳が強く握り締められたのに、僕は気づいた。
「だけどアイツは、やったのは自分のためって言って、私のことなんて眼中になかった。
だから、お礼すら言えてないんです。アイツの強さに、その想いに守られたのは事実なのに」
「・・・・・・うん」
「だから、認めさせることにします」
・・・・・・・・・・・・はい?
「アイツに、私を・・・・・・ティアナ・ランスターの存在を、認めさせます。
そうじゃなきゃ、嫌です。話してくれないなら、話してくれるところまで、認めさせます」
「あ、あのティアナ?」
「そうよ、それくらいしなきゃ気が済まないわ。てーか、色々と借りがありまくりだし、返せないなんて私らしくないわよ。
大体なにっ!? いっつもフェイトさんフェイトさんフェイトさんっ! 腹立たしいにも程があるわよっ!!」
な、なんか変なスイッチ入ってるっ!?
「そりゃあフェイトさんは素敵よっ! えぇ、確かにそうねっ!! でも、私だってそこそこよっ!?
それなのにいちいち引き合いに出して変な歌うたいまくって・・・・・・あぁもうっ! マジムカつくっ!!」
というかティアナ、右手をそんなに強く握り締めないでっ! 普通に君に預けてあるケースの取っ手がミシミシ言ってるからっ!!
「そうよっ! 絶対、私のことを認めさせてやるんだからっ!!
別にアイツの進む道にどうこう言うつもりないけど、このままなんて絶対嫌よっ!!」
「ティアナ、お願いだから落ち着いてっ!? というか、ケースの取っ手砕けちゃうからっ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・なぁ、ロッサ。なぜそうなるんだ? 僕は今ひとつ分からないんだが」
「奇遇だね、僕もだよ」
・・・・・・まぁ、なんというか恭文、頑張って? 多分あの子、すごくしつこいと思うから。
というか、一体なにしたのさ。クロノが今、画面の中のティアナを見ながら疑問顔だけど、僕も同じだよ。
まさか・・・・・・噂のフラグメイカー振りを発揮したとか? あぁ、それならありえる。
「それでクロノ。話は変わるけど、はやて・・・・・・相変わらずだったね」
「あぁ、少し急ぎ過ぎているというか、生き急いでいるように感じられた。
まぁ、そこを僕が言う権利はないんだがな」
そうだね、だって僕も同じだもの。・・・・・・二人で、部隊長の欄にある女の子の顔を見る。
僕にとっては、妹みたいな女の子。クロノにとっても、多分同じ。
「僕達は、揃ってそんな子に面倒ごとを押し付けてしまっている。
そして、必要の無い罪まで背負わせている」
背負わせている罪は、顔見知りも、関係のない人間も、局や世界の都合に巻き込んでいるというもの。
はやては、本当ならそんなことをする子じゃない。・・・・・・本当に、僕達は悪人だね。スカリエッティ以上だよ。
「本当に言う資格がないな。今回の事に関わると決めた時点で覚悟は決めていた。
だが・・・・・・恭文やフェイト、なのはから改めて言われて、色々と突き刺さっている」
「確かにね。でも、それだけじゃない。やっぱり、罪の意識は消えないんだよ」
恭文と、同じだ。人がどう言おうと、言い訳なんて出来ないらしい。だから、全部背負っていく。
実を言うと、同じタイプでも、恭文よりはやての方がずっと心配だったりする。
「アイツはなんだかんだで息の抜き方を知ってる。というより、パートナーに常日頃それをやらされている」
アルトアイゼンだね。あれも・・・・・・なんというか、どうしたらあんな自由な人格が構築されるのか疑問だよ。
ヒロリスのアメイジアやサリエルさんの金剛も同じ感じだし・・・・・・。ヘイハチ一門のパートナーデバイスは、真面目に不思議だ。
「それにだ、恭文には自身を支えるものが二つある。
一つはトウゴウ先生。そしてもう一つは・・・・・・彼女だ」
後者が誰のことを言ってるのか、すぐに分かった。恭文が死の淵で会ったっていう女の人。
身体的特徴から、初代リインフォースっぽい人だね。しかも、恭文は会った事もないのにも関わらずだよ。
「迷いそうになっても、止まりそうになっても、彼女との邂逅が、前へ進む力をくれるんだろう。
出会った事を、繋がった事を、後悔の時間には結び付けないと、約束したそうだからな」
どうもそうらしい。そして、それは対価にもなっている。恭文は、その代わりにもらったものがあるから。
星の光とリインと一つになるための力。恭文とリインにとって、とても大切で、大事な力。
「実際には、ただの夢である可能性が高いのに?」
「僕達がどう思うかなど、問題ではあるまい。恭文とリイン、アルトアイゼンがそうだと決めたことだ。
あの三人にとって、それが真実であり事実。そう決めたんだ。なら、それで十分だろう」
「それもそうだね」
・・・・・・少し嬉しそうというか、そんな顔でクロノは言った。
やっぱりお兄さんだから色々と思うところはあるんだろうと、一人胸の内で納得する。
「だが、はやては少し事情が違うようだ」
「そうだね。・・・・・・なんて言うかさ、息抜きって言葉の意味を忘れたように感じる時があるもの」
さっきも言ったけど、強い力は、権限は、それを使える資格や権力は、人を孤独にさせる。
もちろん、実際はそうじゃない。その人間も見た上で、人はその人に頼る。
でも、そういう側面があるのは事実。なら、はやてはどうだろうか。
闇の書事件、それに関しての自分の罪、家族の事、空に還った初代リインフォースの事。
その彼女から受け継いだSSランクレベルの魔力、レアスキル、二佐・・・・・・六課部隊長としての自分。
こうやって考えてみると、はやての荷物は数も多いし、一つ一つは重いものばかり。
僕も、少しだけ分かる。・・・・・・孤独な時間は、僕にもあったから。
「まだ安心して見ていられるのは、恭文が側に居る時かな」
あれは、恭文の才能なのかも知れないね。目の前の相手にはいつだって、ただのその人として接する。
生まれも、過去も、今も、その全てを含めた上で、ただ目の前に居るその人を見ようとする。
やっぱり、こういう仕事をしてると階級とか立場とか、そういうのを日常的に気にするから、疲れることもある。
そんな時、あの子と話すといい気分転換になる。僕も、ただのヴェロッサ・アコースとして話せるから。
「その時だけは、ただの八神はやてだ。多分、他の隊長達も同じだろうね」
「あぁ、間違いなくな。確かに愚弟ではあるが、そこは見習いたい。
よく考えれば、トウゴウ先生も、そういうところを持っておられた」
やっぱり、恭文はトウゴウ先生によく似ているらしい。
もしかしたら、二人が似た道を歩くのは当然のことなのかも知れないと、少し思った。
「・・・・・・だが、それもここで六課がこの一件を無事にクリア出来れば、多少は緩和されるだろう」
この事件をクロノの言うように解決するということは、はやての指揮官適正がちゃんとした形で立証されるということ。
そうすれば、闇の書事件のことではやてをどうこう言う人間も少なくなるはず。
「なのはやフェイト、恭文が付いているとは言え、心配だ。こっちからも手助け出来ればいいんだが」
「こらこら、だめだよ。本局が表立って動くのはまずいって、言ったばかりじゃないのさ。
・・・・・・クロノ、ここは僕に任せておいてよ。査察官っていうのは、隠密行動に向いているんだしさ」
「・・・・・・そうだな。ロッサ、すまないが頼む」
「うん、お任せあれ」
さて、とりあえず・・・・・・ベルトをヒロリス達に届けてから、行動開始だね。
狙いは、レジアス中将。どうにもこうにもきな臭いこの事態に混乱を招くジョーカー。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・・・・アンタ、アコース査察官となに交換し合ってたの?」
「気になる?」
エスカレーターで地上本部の玄関へと降りていく。
で、あれこれと聞いた話を纏めていると、右隣のティアナがそう聞いてきた。
僕がヴェロッサさんから貰った、銀色の小さなアタッシュケースを見る。
左手で持っているアタッシュケースの表面には、英字で『SMART BRAIN』とロゴ調で書かれている。
「まぁ、少しだけね。特に仕事と関係あるようなもんじゃないのは分かったけど。
・・・・・・あぁ、やっぱいいわ。言いたくない事だったら、なんか悪いし」
「別に大丈夫だよ? ・・・・・・ふふふ、これはね。知り合いから届いた新装備なのよ」
まぁ、今日はご機嫌モードなので、ペラペラと教えたりするのさ。
ティアナがなんかビックリしてるけど、気にしない。
「で、向こうから借りるなら僕の持ってるのを貸せと言われたので、ヴェロッサさんに渡して届けてもらうのさ」
「・・・・・・アンタ、新装備はともかくとして、目上を使いっ走りにするってどうなのよ」
なぜだろう、人は簡単に分かり合えない。だからティアナは色々と誤解をするのである。
「いや、ヴェロッサさんは僕じゃなくて、相手方の友達の使いっ走りだから。なお、僕もそうだしヴェロッサさんより年上」
「・・・・・・なんていうか、やっぱりアンタの友達なのね。色々納得したわ」
「ティアナ、それどういう意味? 僕色々と気になるんだけど」
あと、気になるといえば・・・・・・なぜリインは僕の頭の上に鎮座しているのだろうか。
「こうすると楽チンだからですよ。あとあと、身体中で恭文さんを感じる事が出来るのです。
それはリインにとって、とってもとぉぉぉぉぉぉぉぉっても、幸せなのです♪」
「そうなんだ。そこは、知りたくなかったなぁ」
「・・・・・・・・・・・・なんや、恭文とティアはよう仲良くなってるなぁ。息ピッタリやんか」
下から声。エスカレーターの2段下に立っているはやてが、僕達を見て楽しそうにしてる。
で、僕とティアナは顔を見合わせて、こう言うのだ。
「そんなことないと思うんですけど。てゆうか、普通ですよ普通」
「そうだよ、普通だよ? 特に『僕達友達です』宣言とかもしてないし」
「というか、そんなのしなくていいわよ。どっかのスバルじゃあるまいし」
・・・・・・・・・・・・え、そう言うってことは・・・・・・僕達は、思わずティアナの顔を見る。
で、ティアナは普通に疲れた表情でため息を吐いた。それだけで、全部わかった。
「・・・・・・ティア、なんやめっちゃ苦労しとるんやな」
「分かっていただけて嬉しいです」
「まぁ、その辺りの苦労も色々話聞こうか。二人とも、お腹空いとるやろ? せっかくやから、ちょっとご飯食べてこうや」
「はい、お供します。・・・・・・あ、そうだ。あの・・・・・・八神部隊長」
はやてが『なんや?』と言いながら、ティアナを見る。ティアナは少し微笑みながら、言葉を続ける。
「アコース査察官に」
そう言いながら、右手で持った白い紙箱をはやてに見せる。あの中には、ヴェロッサさんが作ったケーキがある。
ティアナは、あの場で遠慮して食べなかったから、ヴェロッサさんはティアナ用にと、わざわざ持たせてくれた。
「この近くに美味しいお店があると教えていただいたんです。行ってみませんか?」
その様子に、はやては少し驚いた様子で・・・・・・だけど、ティアナが今までとは違う距離感でそう言ったのが分かったらしくて、なんだか嬉しそうに微笑む。
エスカレーターを降りて、玄関が見えた。そこに向かって歩きながら、はやてはこう答えた。
「・・・・・・えぇなぁ。ほな、行こうか」
「はい」
・・・・・・なんだかそれが微笑ましくて、僕はさりげなくフェードアウトする。
まぁ、色々あったのだろうと思う事にして、二人のいい感じの空気を邪魔しないようにしたのだ。
「アンタも来るのよ」
またガシっと首・・・・・・ではなく、手を掴まれた。
くそ、目ざとい。気配完全に消して下がってたのに。
「当然でしょ? なにさりげなく逃げようとしてんのよ。
てゆうか、リイン曹長も止めてくださいよ。またコイツ、妙な距離感作ろうとしてたし」
「失礼な。僕はただ、『はやて×ティアナ』の成立を温かく見守っていただけなのに」
「リインも同じくなのです。リインも恭文さんも、空気をしっかりと読んだのですよ?」
『いやいやっ! 絶対読み方間違えてるしっ!! てゆうか、どんだけそのネタを引っ張るっ!?』
どうやら、二人は僕の優しさが不満のようだ。だから、ちょっと視線が厳しい。
なんでだろう、さすがにあの空気の中に入るの、リアルに躊躇っただけなのに。
「あと・・・・・・あれよあれ」
「なに?」
「ティアでいいから」
・・・・・・・・・・・・一瞬、言っている意味が分からなかった。
ティアは僕に顔を向けずに、そのまま歩きながら言葉を続けた。
「私のこと、ティアでいい。で、私も・・・・・・恭文って、名前で呼ぶから」
「ティアナ、どうしたの? リアルに僕はそのフラグは踏んでないと思うんだけど」
やばい、なんか寒気がする。一体今度は僕は何をしたのかと自分を疑ってしまう。
てゆうか、普通にありえない。ぶっちゃけありえない。どうなってんの、これ?
「フラグどうこうじゃないわよ。まぁ、あれよ。色々あるの。・・・・・・ほら、行きましょ」
「だが断る。てーか、真面目に僕はティアナをティアって呼ぶフラグは踏んでないもの。
ね、ティアナ。よーく考えてみて? 僕はそんなことしてないじゃない。だから、呼ぶ必要ないのよ」
ゲシッ!!
「断ってんじゃないわよこのバカっ! いいから私の言うことを聞けっ!!」
な、なんかすっごいナチュラルに蹴られたっ!?
「ほら、とっとと行くわよっ!!」
「ティ、ティアナっ! 首掴むのやめてっ!? 普通に苦しいからっ!!」
「ティアっ!! ・・・・・・いいの。私が掴みたいんだから」
「なんでそんな嬉しそうな顔で言うのっ!? ちょっと怖いよっ! そんなドメスティックな喜びは今すぐ捨て去ろうよっ!」
とにかく、僕達はそのままご飯を食べることになった。
でも、なんだろう。なんでいきなりニックネーム呼びになるんだろ。おかしい。
(第11話へ続く)
あとがき
古鉄≪というわけで、『リンディさんさすがに引く』という意見さえ飛び出しているRemix第11話です。
本日のお相手は、古き鉄・アルトアイゼンと≫
歌唄「ほしな歌唄です。というか、引くわ。マジであのバカ二人と、それに助長されて調子こいてるエリオは引くわよ」
(うわ、マジで遠慮なく言い切ったし)
歌唄「あれよね、私も相当だと思うけど、これはもっと性質が悪いわよ。
普通に『正しいから何してもオーケー』って思考でしょ」
古鉄≪普通に後見人としては正しい行動かも知れないですけど、やり方が悪いですよ。
ぶっちゃけ、エリオさんがあんな調子なのはリンディさんとアルフさんのせいですので≫
歌唄「ようするにあれでしょ? 同じような経験があるからなんとかしたいと思っている。
そこで、考えなしに『自分達は同じ考えで味方だ』と気軽に表明した」
古鉄≪そうしたら、何を勘違いしたかアレですよ。もうぶっちゃけますけど、気持ち悪いレベルであえて書いてます。これくらいした方がいいかと思いまして≫
(『正しい』というのは、所謂毒なのです。普通に人間をバカにする猛毒です)
歌唄「で、あんな気持ち悪い三人はともかくとして、恭文よ。なにやらまた危険なアイテムをもらったようだけど」
古鉄≪この辺りは普通にもう3話くらい後で使います。・・・・・・まぁ、そこは乞うご期待ですね。
さて、次回は隊舎に戻って・・・・・・24話張りにフェイトさんがヘコむ話です≫
歌唄「そう、それは最高ね。というか、あの人はもっとヘコんだ方がいいと思うの。
私が恭文の第一夫人を譲った以上、もっともっと強くなるべきだと思うし」
古鉄≪いつ譲ったんですか。・・・・・・とにかく、本日はここまで。お相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫
歌唄「ほしな歌唄でした。というか、私がこれに出るって言ってたけど、どうなるんだろ」
古鉄≪一応そこまでは書いています。まぁアレですよ、ちょこちょこという感じですね≫
(というわけで、気持ち悪い三人の事を振り切るために、カメラはフェードアウトするのである。
本日のED:ほしな歌唄(水樹奈々)『太陽が似合うよ』)
フェイト「・・・・・・ただいま」
なのは「あ、フェイトちゃんおかえり。・・・・・・それで、どうだった?
お昼にメールくれたけど、エリオの様子、相当だったんだよね」
フェイト「うん。正直に言っていい? 私はティアの言う事がよく分かった。
というか、キャロはまだいいの。ヤスフミとの距離を測ってる最中みたいだから」
なのは「まぁ、そこはスバルもだね。少し話したんだけど、どうしたらいいのか色々考えちゃってるみたい。
勝手な事を言って、傷つけた負い目みたいな物も感じてるみたいなんだ。ということは」
フェイト「うん、問題はエリオなんだ。だめなの、私達が言う事を、全部ヤスフミを庇った物だと捉えちゃう。
完全に悪いのはヤスフミで正しいのは自分・・・・・・ううん、私達という図式が出来上がってる」
なのは「・・・・・・それは相当だね。確かにティアが『今のエリオとチームを組みたくない』って言うはずだよ」
フェイト「あぁもう、母さんとアルフが余計な事言うから。言ってる事が間違ってないのは、認めるよ?
でもしっかりと対話が取れなくなったら、意味無いってどうして分からないのかな」
なのは「二人は後押しのつもりだったかも知れないけど、今回は真面目に余計だよ。
私達の言葉が通用しないとなると、やっぱり恭文君が『お話』する必要、あるのかな」
フェイト「そうかも知れないね。なのは、私・・・・・・本当に今回は頭に来てる。
正直ヤスフミじゃないけど局と言う組織や、その中の規律や道理が嫌いになりそう」
なのは「・・・・・・フェイトちゃん」
レイジングハート≪・・・・・・バルディッシュ、本当にダメそうなんですか?≫
バルディッシュ≪ダメそうというか、ダメだな。だが、あの二人が『お話』も出来れば控えたい。
やればどういうことになるかは火を見るより明らかだ。確実にエリオ・モンディアルを・・・・・・潰すな≫
レイジングハート≪あの二人が一番嫌いそうなタイプに仕上がりつつありますしね。生き地獄は確定でしょ。
全く・・・・・・どうしてすんなりテレビ通りになぁなぁにいかないんですか。いくらなんでもおかしいでしょう≫
バルディッシュ≪レイジングハート、それは少々メタ発言過ぎるぞ≫
(おしまい)
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