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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第9話 『うまくいかないのが人生?』



恭文とティアが二人で話をしている頃、私は自室でギン姉に通信をかけていた。





用件は当然、昨日の一件について。










『・・・・・・私も資料は送ってもらって、目を通したわ。
確かに・・・・・・どうにもならなかったのかなって、思っちゃった』

「ギン姉でも、そうなの?」

『うん。あの時の私達の状態を考えると、あの場での打破は難しい。
でも、そうしなかったら今度は何が来るか分からない。なら・・・・・・そうなるの』





アイツ、資料だと魔力量が私やギン姉の何倍もあった。再生能力も、実際に千切れた腕が、一瞬で生えた。

というか、検死の結果だと、恭文が打ち込んだあのベアリング弾も、致命傷になってなかったらしい。



痕跡から分かったことなんだけど、あの傷も再生を始めてた。それを知った時、エリオとキャロ、ティアと一緒に顔を青くした。



だって、ありえない。あんなの喰らったら、普通に致命傷なのに、それすら再生なんて。



そうだ、どうしようもないくらいにおかしい。どうして、あんな風になっちゃうのかな。





「ギン姉、あの人って・・・・・・ほんとに死んだんだよね」

『えぇ。さすがにあの状態だもの。アレから一日・・・・・・再生は完全にストップしている。
というか・・・・・・ついさっき、焼却処分されたそうよ。現場に残っていた残骸も含めて』

「焼却処分って・・・・・・どうしてっ!?」

『スバル、逆に聞きたい。あの状態で死体を保管する理由がある?
あとは局の事情ね。資料にも書いているけど、フォン・レイメイは重犯罪者』



うん、書いてあった。だからなんだか、気分が重いの。



『これで細胞単位から再生なんて話になっても困る。形はどうあれ、今まで捕まえられなかった犯罪者を止めた。
局は、その事実をちゃんとした形にしたいの。もうあの人は存在していないわ。細胞の一つも、残ってない』

「・・・・・・なんかそれ、嫌だね。まるで、世界全体で人一人を否定してるみたいに感じる」

『そうだね。それでスバル、父さんやラッドさんにも聞いたの。なぎ君が感じた危険性が、ありえるかどうか』

「どうだった?」



出来れば、『いくらなんでも考え過ぎだ』とか言って欲しかった。そうすれば、恭文も色々考え直してくれると思ったから。

けど、それはなかった。ギン姉はまた表情を重くして、唇を動かした。そして、そこに私の望む答えはなかった。



『なぎ君と全く同意見だった』

「・・・・・・・・・・・・そう」





資料に書いてあっただけでも、吐き気がするくらいに本当に・・・・・・本当にひどいことをしていた。

恭文が危機感を覚えたのも分かった。それになにより、アイツは私やギン姉の身体の事を知ってた。

あそこで逃がしたら、絶対にまた来る。スカリエッティって奴の関係者ぽかったし、レリックが絡むなら、またきっとすぐに。



そうして恭文の言ったように、もっと陰湿で、私達の心を壊すようなやり方をしてくる。実際、それっぽいことを口にしていた。

その対象は、フェイトさん。その時の事を思い出すと、怖くなる。恭文、それを聞いてから雰囲気が変わった。

リイン曹長と・・・・・・ユニゾン、だっけ? それをして、魔力も高くなって、そのまま飛び込んだ。



そうしてヴィータ副隊長達があそこから引っ張り出すまで、突き刺すような冷たい瞳をして、殺気を出し続けていた。

普段とは、全く違う空気。それが放出された瞬間から、動きや反応が段違いになった。止めたかったのに、蹴り飛ばされた。

私も、ギン姉も、ティア達も、誰もあの時の恭文を止められなくて・・・・・・結果的に、あの人は見るに耐えない状態になった。



・・・・・・フェイトさんのこと、好き・・・・・・なのかな。だから、あんな風にキレて、暴走した。



もしそうなら、もしそれでこんなことをしたなら、それは間違ってるよ。こんなことして守ったって、意味がない。





「ギン姉、私やっぱり納得できないよ。あんなの、間違ってる。絶対に間違ってる」





あんなの、絶対に認められない。納得なんて出来ない。殺さなくてもよかったんじゃないかと、思う。

だって、魔法は、私達の力は、あんな風に壊すための力じゃない。助けて、守る力。悲しみを打ち抜く力。

六課で・・・・・・ううん、なのはさんに初めて会った時、そう教えてもらった。



そして、その力を振るい続けることが私の願いに、誇りになった。だから、納得出来ない。





『なぎ君は全部込みだろうね』

「え?」

『スバルや私達にそう思われるのも、全部込みで手を汚した。
もしかしたら私達に手を汚させたくなくて、だからリイン曹長とだけで飛び込んだのかも』



その言葉に、私は驚く。そこは全く考えていなかった。

どうしてそうなるのか分からなくて、ギン姉の顔を見る。ギン姉は、少し悲しそうにしてた。



『・・・・・・そういう子だもの』

「そうなの?」

『そうだよ。秘密主義の塊で、心を許してない相手から見ると、とても付き合い辛い子に見られやすいけど、そうじゃないの。
なぎ君・・・・・・すごく強いだけなんだ。痛くても、苦しくても、やらなきゃいけないと思ったら、飛び込んじゃう。うん、そういう子なの』



ギン姉の言葉には、一つの実感があった。だからかも知れない。その言葉が私の心に、一つの真実として突き刺さったのは。



『リイン曹長はね、そんななぎ君ととても繋がりが深いんだ。下手をすれば、八神部隊長以上に。
心と心で、想いと想いで繋がっている。だから一緒に戦った』

「・・・・・・そんなの、おかしいよ。だって私達みんな居たのに。どうして、リイン曹長とだけ」

『居たけど、私達はそのなぎ君を止めようとした。そして、結果論だけど何もしなかった』



・・・・・・うん。そんなことする必要なんてないと思ってたから。殺すなんて、壊すなんて、絶対にダメだと思ってた。

ううん、思ってる。思ってるから止めた。でも、それだけ。そうだ。私やティア、エリオとキャロがしたのは、本当にそれだけなんだ。



「ギン姉、私・・・・・・本当に、何もしてなかった。しようとさえ、してなかった」





ただ、自分達では対処出来ないとゴネた。『なのはさん達が居れば大丈夫』なんて言った。

そうして、私達は全員、今をどうにも出来ない自分達から逃げた。

また襲ってきた時、私達はどうしようとしてた? 隊長達に全部押し付けようとしてた。



結局、匙を投げて逃げてた。私、最低だよ。恭文に振り切られて、当然だ。



殺して欲しくないなら、殺さずにその場で止める方法を思いつくくらいのこと、していいのに。





「ヴァイス陸曹から少し叱られたり、資料を見たり、ギン姉と話したりしてようやく分かったの。でも、怖いの」



思い出すのは、一人の男の子。全然素直じゃないけど、優しいところもちゃんとあるんだって知ってる男の子。



「恭文の事が、怖い。分からなくて、怖いの。これからどう話していいのか、分からないの。
私が悪いのに、きっと傷つけたりしたはずなのに、私・・・・・・本当に最低だよ」

『・・・・・・スバル』










窓の外、夜の闇を照らす二つの月を見る。





月の色は・・・・・・とても悲しい色に見えた。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS Remix


とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常


第9話 『うまくいかないのが人生?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ヤスフミ、オーリス三佐とお知り合いなの?」

「全く知らない。なんで僕、改めて呼び出されたんだろ」





現在、六課は査察中。普通にあのお話し合いの翌々日に来た。

まぁ、査察自体は相当に上手く行った。隊員寮も見られたけど、問題はなかった。

だけど、部隊長室で部隊の話を色々聞いているオーリス・ゲイズ三佐から、呼び出しを食らったのだ。



で、一応付き添いという形で、フェイトも来てくれた。

というか、二人で現場検証から帰って来た直後に呼び出された。

そして、僕とフェイトはそのまま、部隊長室に入った。





「「失礼します」」





二人揃ってそう言って中に入る。入ると、まず目に飛び込むのは、はやてとリイン。

そして、もう一人。青い制服に身を包み、茶色の髪をアップにして、眼鏡をかけた女性が居る。

・・・・・・アレだね、オールドミスっぽい人だね。



で、その人は応接用のソファーに座りながら資料を見ていて、僕達を一瞥すると、立ち上がった。

僕達の方にカツカツとヒールを鳴らしながらこちらに来ると、敬礼した。

さすがに今回は僕も、フェイトと一緒にしっかりやる。だって、顔見知りでもなんでもないし。





「初めまして、今回機動六課の査察を担当している、オーリス・ゲイズ三佐です」

「初めまして、フェイト・T・ハラオウン執務官であります」

「嘱託魔導師、蒼凪恭文です。初めまして」



・・・・・・で、なぜかオーリス三佐は僕を見る。最初はギロっという感じで。

でも、特に気にしないことにする。なんだろう、試されてる感じがしたから、受け流す感じで。



「あなたが『古き鉄』ですか。噂に聞いていたよりは、常識的な人間なのですね」



オーリス三佐は、敬礼を解きながらそう言ってきた。少しだけ、皮肉を込めて。

それが分かったから、フェイトの表情が少し歪む。僕はまぁ、敬礼を解きながらいつも通り。



「まぁ、査察担当している人に初っ端で喧嘩を売ったりはしませんって。僕だって平穏無事に生活したいですし」



そう軽く言い切ると、オーリス三佐は少しだけ表情を崩した。そして視線が優しくなった。なんだろう、これ。



「納得しました。それで、今回あなたを呼び出してもらったのには、理由があります」



うん、でしょうね。ただの挨拶のために呼び出したんだったら、大げさ過ぎるもの。

なので、その訳を聞く事にする。そして、オーリス三佐は口を開いた。



「率直に申し上げます。あなたとリインフォースU空曹長の二人を、ミッド地上本部・・・・・・レジアス中将が表彰するという話が出ています」

「・・・・・・はいっ!?」



とにかく、一旦応接用のソファーに腰を下ろして、今まで空気だったはやてとリインも交えて話をする事にした。

で、なんで僕達を表彰するなんて動きが出ているかというと・・・・・・いくつが原因がある。



「・・・・・・ヤスフミとリインが、フォン・レイメイを止めた事で、ですか」



先日のアレで、僕の休日を見事に厄日に変えてくれた要因の一つ。表彰の話はソレが原因らしい。



「そうです。広域次元犯罪者フォン・レイメイには、ミッド地上も、煮え湯を何度も飲まされています。
もっとストレートに言えば、犠牲者もかなりの数が出ています。レジアス中将の悩みの種の一つでした」





で、理由や結果はどうあれ、僕はその悩みの種を叩き潰した。レジアス中将は、その事を非常に感謝しているらしい。

アイツが捕まってなかったから、亡くなった人達の手向けも何もなかった。遺族としても、やり切れない思いばかりが募った。





「それで、中将としてはアンタに対して、どんな形でも礼をせなあかんと思うとるらしいんよ」



でも、現状は変わった。だからこそ表彰という話に発展したらしい。



「スバル達もあの場には居たけど、一番有益で実行力のある選択を取ったのは、この二人」



それも中将直々だって。まぁ、そういうことなら分からなくはないような、やっぱり分からないような。



「ミッドだけの話ちゃうけど被害者遺族や関係者の中のやり切れん想いに、一つの決着をつけたわけやしな」

「それと恭文さん、さっきリインとはやてちゃんも聞いてビックリしたですけど・・・・・・まだ話が続くんです。
恭文さんがその気なら中央本部の首都航空隊への就職も、面倒を見てくれるらしいです」

「はぁっ!?」



首都航空隊って、ミッド地上のエリート部隊もいいとこじゃないのさっ! なぜにそこまでしてくれるっ!!



「あの、オーリス三佐。リインが思うに、どうしてそんな話に発展しているんですか?
こういう言い方は、中将にとても失礼だとは思うですけど、ちょっと行き過ぎかと」

「あぁ、それはうちも疑問です。まぁ、リインが誘われないんは納得なんですよ。
この子、本局所属のうちの補佐官やし。でも、なんで恭文にそこまで?」

「理由はあります。まず、蒼凪さんは現在嘱託・・・・・・正式な局員でないということ。
『古き鉄』の知名度と能力の高さは、数々の一件で証明済み」



『それになにより・・・・・・』と、前置きを付けた上で、オーリス三佐がかなり真剣な目で僕を見ながら、話を続ける。



「特に評価すべきは、去年起きたヴェートルでのクーデターの一件でしょうか。
現地組織と協力して主犯の確保を主立って行なったのは、『古き鉄』であるあなた」



その言葉に、全員が表情を硬くする。というか、なぜ・・・・・・いや、事件自体は知っててもOKなのよ。

ただ、僕がそこに絡んでる事とかをどうして知っているのかが問題なのよ。



「あの事件ではヴェートル中央本部やあなた方の所属する本局、それに私達ミッド中央本部。局の主力のほとんどが役立たず状態でした。
そんな中でそれだけの功績を挙げた。言うなら現地組織のスタッフと蒼凪さんは、世界と局の危機を救った英雄とも言えます」



・・・・・・僕はそんなつもりなかったんだけど。たまたまいい方向に話が転んだだけだしさ。

そうじゃなかったら、返り討ちに遭っていたとさえ思ってるし。



「あのオーリス三佐、なぜあの一件にヤスフミが絡んでいることを」

「これでも立場はありますので」



でも、あれは情報の大半が非公開になったし、僕が関わった事も・・・・・・やめとこっと。

知ると楽しくなりそうもないので、僕は気にしない事にした。うんうん、それが平和の第一歩だよ。



「そしてミッド地上は、諸々の事情で戦力が未だに不足している部分があります。
まぁ本局の高官と関係の深い八神二佐やハラオウン執務官は、よくご存知でしょうが」



そして、二人は覚えがありまくりでよくご存知らしい。すっごく苦い顔されてるし。

リインは半笑いだし。で、僕はこれでどういう顔をすればいいの?



「今のミッド地上にこそ、かのヘイハチ・トウゴウから意志を受け継いだあなたの力が必要。中将はそう考えておられます。
・・・・・・どうでしょう。もちろん考える時間が欲しいのであれば、返事は急ぎません。まぁ、余り待たせられるのもダメですが」



確かに悪い話ではない。就職どうこうはともかくとしても、表彰されるのは・・・・・・まぁ、気分は悪くない。

だってそんな事今までほとんどなかったし。だから、僕はこう答えるのである。



「すみません、辞退します。表彰も首都航空隊への就職も、全部」

≪まぁ、当然ですよね≫



で、当然のようにオーリス三佐の視線が厳しくなる。なお、リインやフェイト、はやては『やっぱりか』という顔をしている。

というわけで、ちゃんと説明しよう。さすがに『辞退します』だけでは失礼でしょ。



「えっと、事情はちゃんと説明するので、その厳しい視線は一旦やめてくれると助かります」

「そうですね、そうしていただけると私も助かります。・・・・・・それで、なぜ辞退するのですか?
多少の身内自慢な部分が含まれますが、この話自体は私は悪い話ではないと思っています」

「理由は、簡単です。・・・・・・自分の未熟さ故にやった殺しで栄職に付くつもりも、表彰されるつもりもないからです」

「なるほど。だからあの男にかかっていた賞金も、そのまま寄付するという話になっているのですか」



・・・・・・なぜにそこまで知ってる? いや、もう分かった。はやてとリインだ。

あの会談でクロノさんから教えてもらって、帰りのヘリの中でリインと相談の元で決めてたから。



「まぁ、色々と矛盾があるのは、ツッコまないでもらえると助かります。
なんかこう・・・・・・素直に受け取る気も起きなかったんで」





実は、あの男自体にもかなりの懸賞金がかかってた。

細かい額は想像に任せるけど、僕が3年くらいは遊んで暮らせるくらいの額。

局員は受け取れないけど、嘱託である僕は、賞金を受け取れる。



だけど、それもやめにした。てゆうか、普通に寄付する事にして、一銭も残さない事にした。

そういう事件や事故で家族を亡くした人達への基金があるので、そこに全額どばーんである。

なお、基金の母体はクロスフォード財団なので、変な使われ方をする心配もない。



さすがにあの額を辞退はこう・・・・・・躊躇ったのよ。いや、真面目にすごい額だったんだから。





「なにより僕もリインも、別にアイツの被害者の仇を取るためなんて考えてませんでした」



ものすごく端的に言えば、殺したいから殺した。それだけなのだ。

それで表彰ってのもなんかなぁ。まぁ、賞金額にはかなり心が揺れてしまったけど。



「僕を表彰するなら、その分遺族への補償に回して欲しいんです。きっと、そっちの方がいいですから」

「・・・・・・本当にそれでいいのですね? 後で気が変わったというのは、認められませんが」

「それでいいです。まぁ、気が変わったら変わったで自力で就職させてもらいますから、問題ないです」



軽く、少し冗談めいた口調でそう言うと、三佐が少し笑った。

そして表情が変わる。それは、フェイト達と同じ『やっぱりか』という表情。



「八神二佐、リイン曹長、あなた方の予想通りでしたね。というより、リイン曹長と全く同じでした」

「当然なのです。だってだって、リインと恭文さんは深い愛で繋がっているのですから」



お願いだから三佐の前でそれはやめてっ!? あぁ、ニッコリ笑顔も怖いからだめー!!



「ただな、恭文。三佐や中将には、マジで感謝せんとあかんで?
アンタの無茶苦茶な経歴を知って、その上で面倒見るとまで言うてくれてたんやから」

「私がというより、中将がですね。彼の師、ヘイハチ・トウゴウの事を中将は尊敬していますから」



僕は、三佐に頭を下げる。それはもう深々と。



「・・・・・・オーリス三佐、お誘いや表彰の話、ありがとうございます。それと、お断りして申し訳ありません」



はやてに言われたからじゃない。ちゃんとその辺りはしなきゃいけないと思ったから。

でも、中将が先生の事を・・・・・・そこはビックリしたけど、嬉しい。



「いいえ、あなたのお気持ちと事情は理解出来ましたから。中将にも私からしっかりと伝えておきます」

「はい、よろしくお願いします」

「あぁ、それと中将から一つ伝言です」



・・・・・・伝言? え、なんですか。この状況で。



「もしあなたが今回の話を断るようであれば、伝えて欲しいと頼まれていました」



それから、オーリス三佐は少し息を整える。



「『他の者がどうかは知らん。だが、私のように君の行動を認め、その勇気を称える者も居る。
それを忘れないで欲しい。今回の事もそうだがこの1年での君の働き、本当に感謝する』・・・・・・だそうです」

「あの、えっと・・・・・・その、ありがとう・・・・・・ございます」



ど、どうしよう。なんかこう・・・・・・嬉しい。色々思うところはあるけど、なんか嬉しい。

だめ、泣きたくなってきた。てゆうか、あの・・・・・・だめ。



「いえ。とにかく中将には、伝えておきます。あと、ここも。鉄の弟子は、やはり・・・・・・鉄だったと」

「・・・・・・はい」





こうして、査察は本当に・・・・・・ビックリするくらいにあっけなく終わった。

なお、終わった後に八神家で宴会が行われたりしたけど、ここは気にしない。

てゆうかはやて、そこまで気に病んでたんかい。僕はビックリだぞ。



そして僕はなんというかその日一日、とても嬉しい感情で胸がいっぱいだった。



表彰の話じゃない。中将が、先生を尊敬しているという事。うん、そこが嬉しかったの。





「・・・・・・ヤスフミ」



一緒に夕飯を食べながら、フェイトがなんだかにこやかな笑みを浮かべながら僕を見る。



「なに?」

「表彰はともかく、レジアス中将のお誘いの話・・・・・・私は、本当に少しだけもったいないなって思ったんだ」

「まぁ、条件はよかったしね」

「ううん、そういうことじゃないの」



言いながら、フェイトは首を横に振る。そして、本当に嬉しそうな顔で、微笑んでくれる。

それを見ているだけで、不思議な事に胸の中の暖かい感情が更に増えていく。



「レジアス中将、ヘイハチさんとヤスフミの事、ちゃんと認めてくれていた。
そんな人の下で働けるチャンス、逃しちゃったのかも知れないって考えたから」

「・・・・・・そっか。うん、それはそうかも。でも、別にそこはいいよ。
本気でやりたくなったら、自分の力で航空隊には入る」

「そうだね、そうしていこう? その時は、私も力になるから」

「うん、お願いね」




そして、二人で夕飯のハンバーグをパクリと食べる。

なんだろう。美味しさが際立っているようで、なんか嬉しい。




「でも、ヴェートルの話を持ち出されるのは正直勘弁かも」

「どうして?」

「だって、マジで僕だけの力じゃないんだよ? それで僕だけ英雄扱いはみんなに色々心苦しい。
てゆうか、僕は英雄じゃないし。・・・・・・ただの身勝手でワガママな、フェイトをいじめる悪い子だもの」

「・・・・・・納得したよ。特に最後。うん、ヤスフミはただのいじめっ子だよね。きっとそれでいいんだよ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・レジアス中将に誘われたの、断ったんだって。シャーリーさんが教えてくれた」

「知ってるわよ。さっきまですごい騒ぎだったんだから」



でも、アイツはそれを断った。フォン・レイメイを止めた事で表彰されるって話になったらしいけど、それも同じく。

なんて言うかその話を聞いた時、普通に私は納得してしまった。あぁ、やっぱりかって感じ?



「なんというか、恭文さん凄いです。普通にいいお話なのに」

「凄くなんてないよ」



エリオがいらいらした瞳でアイツを見る。フェイトさんと楽しそうにご飯を食べるアイツを。

これは査察の時のおまけ話が原因。そのせいでエリオはかなりナーバスになってる。



「凄いわけがない。大体、断ったんじゃなくて断られたのかも知れないし」

「エリオ、それは少し言いすぎだよ。それなら、表彰の話とかどうなるの?」



スバル、今回は空気読んでるわね。私も全く同意見。

なにより、『断られた』ってなに? 話の流れがおかしいわよ。



「表彰なんてされるわけがないじゃないですか。だって、あの人は間違ってるんですよ?
そうだ、認められるわけがない。みんな、妙なデマに流され過ぎです」










・・・・・・間違ってる。あの人は間違ってる。正しいのは『僕達』。

これだけを、まるでバカの一つ覚えみたいにエリオは言い続ける。

まぁ、そこは正解だと思う。なにより、アイツ自身がそれを認めている。自分は間違っていると。





それだけじゃなくて、戦い自体も間違っていると言った。でも、なんでだろう。

エリオ、正直私にはアンタの方が間違ってるような気がするのよ。

まぁ、言っても通じないんだからどうしようもないんだけどさ。いや、そうも言ってらんないか。



アンタ、マジで自覚ないの?今のアンタの目・・・・・・あの男と同じ色が混じってる。

それに私もスバルもキャロも引いてる。それはもうブッチギリによ。・・・・・・よし、ここは後で絶対に隊長達に相談しよう。

今のところアイツが絡んだ時に限りだけど、それでもよ。ぶっちゃけ、私は今のコイツとはチームを組みたくない。





だって、今のコイツは・・・・・・『エリオ・モンディアル』じゃないもの。





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・そうか、断ったか」

「はい。なお、伝言の方はしっかりと伝えました。中将にはくれぐれもよろしくとのことです」

「了解した。オーリス、わざわざすまなかったな。
・・・・・・全く、この私の誘いを断るとは何事だ。礼儀知らずにも程がある」



そう言いながら、どこか楽しげに笑う。この方がこんな風に笑うところなど、何年ぶりだろう。

まぁ、きっと予測しておられたのあろう。彼がこの話を断るのを。



「だが、かのヘイハチ・トウゴウの魂はちゃんと生きているのだな」



夜のミッドの空に浮かぶ二つの月を、オフィスの窓から中将は見る。

あの月の光の中に何を見出しているのかは、きっと中将にしか分からない。



「だからこそ、目先の甘い汁に惑わされず、自身の声を優先した。
八神はやての補佐官も同様と言うのが予想外だったが、中々面白い」

「そうですね。鉄の弟子は、やはり鉄でした」





ヘイハチ・トウゴウとその関係者の心根を指す時、よく『鉄』という言葉が使われる。

ヘイハチ・トウゴウや古き鉄はもちろんだが、ランブル・ウィッチやカタストロフ・ドッグもそれに入る。

私はよくは分からなかったのだが、今日彼とリイン曹長に会って、それが分かった気がする。



確かに、アレは鉄だ。強く、頑なで、鈍く光る鉄。あの心根は、そうとしか表現出来ない。





「・・・・・・そう、生きている。時代遅れだとしても、しっかりと自分の意思でだ。不思議なものだな。
断られて安心しているのと同時に、あの鉄が海の狗どもの中に居ると思うと、むしょうに腹が立つ」

「中々に複雑な心境ですね」

「お前もあの方の人柄とその凄さに直に触れれば、今の私の気持ちが分かる」





そうですね、今の中将のお気持ちは、恐らく私には理解出来ません。

ですが、彼が本局の連中の輪の中に居るのは、少々腹立たしいとは思います。

実際、今回の事で本局のリンディ提督・・・・・・ようするに、彼の関係者になるか。



その提督を筆頭に、彼の対処は行き過ぎているという意見も出ていると聞く。

まぁ六課・・・・・・本局の部隊に嘱託扱いとは言え、彼は所属している。

自分達への評判や見方が貶められるのを、恐れての事だろう。




批判側に回る事で、本局自体の意志とは関係ないというのを示している。

・・・・・・なお、レジアス中将はこの対応に対し、かなりご立腹だった。

今回の中将の彼への誘いと表彰の話は、それに対しての当て付けでもある。



とにかく、私は今回の一件で、中将のヘイハチ・トウゴウ氏への想いの強さを見た気がする。

もしかしたら、どこかで中将も考えているのかも知れない。

あの鉄のように強く、頑なに、守るべきものを全て守ることができたらと。



だがそれは余りに甘い響きを持ち、そして貫くには余りに痛みを伴う願い。



その願いはもしかしたら・・・・・・・人を惑わせる毒なのかも知れない。私にはそういう風に見えた。





「とにかくオーリス」

「は」

「フォン・レイメイが起こしてくれた事件の関係者への補償だが」

「もちろん、今後もしっかりと継続していく手はずになっております。
あと、関係者には彼が亡くなった事も報告しておきます」

「うむ、よろしく頼む。・・・・・・少しでもこの事実が、慰めになればいいのだが」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



朝の目覚めは、とても軽快。寝てる場所が色々違うのがアレだけど。

まぁ致し方ないと納得する。僕は狙われている身。さすがに自宅は怖いのだ。

とりあえず、顔を洗って、少し外に出た。軽く散歩しつつ身体を動かすことにする。





隊舎に来て寝泊りを始めてから、もう一週間が経っていた。





僕の左腕から三角巾は取れたりしつつも、日々は静かに、そして平穏に過ぎる。










≪いい天気ですね≫





ただし・・・・・・がそれ嵐の前の静けさだと言うのは、誰もが分かっていた。

あれ以来スカリエッティ一味の目立った動きはない。戦闘機人も出てない。

ガジェットが出たりはしてるけど、それとてレリック狙いじゃない。



普通に海沿いに二、三体出てきて、近くの隊に潰された。

はやて辺りはそれを『はぐれガジェット』と称して、何かのテストでもしてると睨んでいる。

あとはこっちの能力調査。なんというかその事で少し話をしたけど、嫌な感じだ。



僕のこともあるから、はやてもみんなには不用意に隠し手を使わないようにと念を押している。



そう、知られていない手札は多いに越したことはないのだ。





「そうだね。ま、あんまノンビリも出来ないのがあれだけど」



左腕はもう全開のバリバリ。いつでも実戦はいける。

ジガンも改修が完了。特に機能が変わったりはしてないけど、強度が少し上がった。



≪とりあえず、ティアナさんとはなんとかなりそうですね≫

「・・・・・・なぜかね」



なんか、あれから一週間。もう互いに前よりもずっと素直な感じになっていた。

なぜだろう。僕はティアナのフラグを立てるような真似、してなかったのに。むしろへし折ってたと思うのに。



「僕、フェイトのフラグ立てられてないのに、何してるんだろ」

≪そうですよね、真面目になにしてるんですか?≫

「言うな。それは僕が聞きたいんだから」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・どうしたんだろ。私、最近ヤスフミのことよく考えてる。というか、よく目で追ってる。

将来の事とかもそうだし、色々含めた上でその・・・・・・かなりの時間。

前みたいに心配しているとか、そういうのとは違う。家族とか、弟とかそういうのじゃない。





わ、私・・・・・・本当にどうしたんだろ。やっぱりおかしくなってるよ。





多分、ヤスフミの事『大人の男』って考えた辺りから。










「・・・・・・フェイトさん、どうしたの?」

「あ、ううん。なんでもないよ、ヴィヴィオ」

「フェイトちゃーんっ! ヴィヴィオー!!」





後ろから声がした。そちらを見ると・・・・・・なのはが居た。

なのはは、私やヴィヴィオより早めに起きて、フォワードの早朝訓練。

だから、白い教導隊制服で、私達の方へ走ってくる。



その笑顔は、昔のまま変わらない。・・・・・・あ、違うか。少し大人っぽくなってるのかも。





「なのは、おはよう。・・・・・・ほら、ヴィヴィオ。なのはさんに朝のご挨拶だよ」

「おはよう、ございます」

「うん、おはよう。二人とも、これから朝ごはん・・・・・・かな。
だったら、一緒に食べようよ。私はもうみんなの訓練は終わっちゃったから」

「うん」



そのまま、なのはは私とヴィヴィオを挟む形で、歩き出す。

私はヴィヴィオの左手を、なのはは右手を繋いで、ゆっくりと。



「今日の朝ごはんなんだろうねー」

「・・・・・・なのはさん」

「うん、なにかな」

「恭文、居ないの?」



・・・・・・そう言えば、訓練は参加してないんだっけ。ヤスフミはヤスフミで準備することがあるから。

今の段階で訓練に参加しても、スバル達の邪魔になるだけと判断して、私達もそれを認めた。少し、悲しいけど。



「あ、うん。恭文君はまたやることがあるから。というかヴィヴィオ」

「はい?」

「アイナさんとザフィーラさんから聞いたんだけど、恭文君と仲良しになってるんだってね」





なんでもそうらしい。この一週間、ヤスフミは隊舎に居る事が多かった。



だから、普通にヴィヴィオの様子を何回も見に行ってるとか。



それで、私達の事や六課の事を色々と話して、交流を深めている。





「うん。それでね、昨日は電王って言うディスク貸してもらったの。すっごく面白いんだー」

「あ、アレ貸してもらったんだ。いいなー、私もあんまりに恭文君が勧めるから、見てみたかったのに」

「・・・・・・なのは、ヴィヴィオ。電王ってなに?」

「フェイトちゃん知らないの? あのね、去年地球の方でやっていた特撮番組なの。
というか、ミッドでも大人気なんだから。恭文君とアルトアイゼン、それの大ファンなの」





なんでも、ヤスフミが装備品と一緒に持ち込んだ特撮のディスクを、ヴィヴィオが貸してもらったらしい。

昼間は寮母のアイナさんとザフィーラが付きっ切りで付いては居るけど、暇だろうということで貸したとか。

そう言えば、部屋のラックに見慣れないディスクが入っていたような・・・・・・あ、アレがその電王なんだ。



もしかしてヤスフミ、自分の趣味のためとかじゃなくて、ヴィヴィオが気に入ると思って持ってきてくれたのかなと、少し思った。





「納得したよ。ヴィヴィオ、よかったね」

「うん」

「・・・・・・あ、それならお昼に一緒に見せてもらおうかな。
今日はどこかに出るというわけじゃないもの。ヴィヴィオ、なのはさんも一緒に見せてくれる?」

「うん、いいよー。というかね、恭文が二人と一緒に見ると、もっと楽しくなるって教えてくれてたの」

「あはは、そっか」










そして三人で楽しく話しながら、私達は食堂へ向かう。

・・・・・・ヴィヴィオは、とりあえず最初の時みたいな情緒不安定な部分はなりを潜めて来てる。

なのはと私で面倒を見るの、やっぱり正解だったのかも。





というか、ヤスフミも手伝ってくれてるのがありがたい。これならあの話、ヴィヴィオにしても大丈夫かも。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



≪とりあえず、六課に常駐というのは継続として・・・・・・これからですね≫

「そうだね。やる事は結構たくさんだ」





装備の方は、全部ちゃんと使える状態だった。ただ、準備が必要なものがある。それは、マジックカード。

家に大量に仕込んであったマジックカードには、魔法を入れていない。あくまでも予備だから。

なので、そこに魔法を入力する作業から始めるのだ。てゆうか、少しずつ入れてきてる。



・・・・・・もちろん、殺傷設定も込みで。というか、6割くらいそれ。

元々の手持ちのものは、全部非殺傷設定のものばかりだから、こっちも入れ直し。

もちろん、同じ事はしたくはない。ただ、ハッタリに使う場合などを考えると、絶対に必要なのだ。





「我ながら、色々難儀だと思うよ。明らかにアウトコースだし」

≪今更でしょ。あぁ、それとヒロさん達に相談しないといけませんね≫

「あと、シグナムさん達にもだね。あー、それと恭也さん達にもまた連絡しないと」





懸念はまだある。それは・・・・・・スカリエッティの戦力関係についてだ。

戦闘機人やら召喚師(+ダークヒーロー)やらユニゾンデバイスやらサイコ野郎やら・・・・・・いくらなんでもバリエーションに富み過ぎてる。

なんか霊剣とか妖刀とか怪人とか大幹部とか首領とか出そうなんですけど。そのため、僕も色々と対策を練らないといけない。



なお、普通に訓練に参加すればいいのではないかという声は却下する。

だって今の訓練は、対ガジェット・対人戦闘のスキル向上が主。

僕がやりたいのは、そこに一つ二つ別のが絡んでくる。ぶっちゃけ、みんなに構ってる余裕がない。





「あとは・・・・・対高濃度AMF対策か。いや、いっそ魔法を使わない形を想定してた方がいいかも知れない」

≪手札の中に戦闘機人が居る以上、確実にAMFを絡めてくるでしょう。
それくらいの気持ちでいいかも知れません≫



魔法を使わないとなると、形状変換とかも使えなくなる。待てよ、万が一にも現場でそこを狙われたらまずいな。



「シャーリーに相談して、アルトとジガンを改良してもらおうか」

≪ジンさんのレオーと同じようにですか?≫

「そそ」





僕の友達のジン・フレイホークが使っているデバイスの一つに、レオーというものがある。

それは、AMFの完全キャンセル化状態の中でも普通に使用することが出来る。この辺りには理由がある。

レオーを使用する際に必要な魔力を、通常とは違い直接魔力を身体から送っている。



本来、デバイスの機能を使用する際には、どうしても結合魔力をデバイスに送らないといけない。

つまり完全キャンセル化状態では、デバイスの機能は使えない。だけど、レオーは使える。

身体に装着することで、直接的に身体から魔力を吸い上げる形にしているのがその理由だ。



そうすれば魔力は結合していない形になる。そして、これはそれに干渉するAMFの効力の抜け穴になる。

僕も初めて見た時はびっくりしたっけ。じゃあ、ジンにも連絡だな。拝み倒して、レオーのデータを送ってもらおう。

対価も渡すからと言って納得してもらわなくちゃ。で、シャーリーには悪いけど馬車馬のように働いてもらう。





「・・・・・・いやいや、いっそヒロさん達頼るか?」

「・・・・・・・・・・・・セカンドモード、だいぶ馴染んできたね」

「そうですね」





これでアルトとジガンの機能使用は問題ないとして・・・・・・万が一にはマジでZERONOSベルト使う必要あるかも。

AMFで魔力が完全キャンセル状態になっても、問題なく使える(実証済み)。特殊物理装甲も絡めてるから、防御力も相当だし。

銃器関係も・・・・・・あぁ、ダメだな。使用許可を取らなきゃいけなくなる。許可を取るってことは、局に申請が必要ってこと。



そんな真似したら、向こうにこっちの手札を晒してしまう可能性がある。そんなことしたら意味がない。

局とかに申請しなきゃいけないようなのはダメだ。てゆうか、銃は僕の趣味じゃないから却下。

あと・・・・・・武装だけじゃなくて、僕の錆も落とさないと。ハードが良くても、ソフトがダメじゃ意味が無い。



この間の一件で、少し緩んでるのは認識してしまった。





「・・・・・・・・・・・・・あ」

「ほら、早く行きましょう。席埋まっちゃいますし」





免罪符・・・・・・か。確かにその通りだ。どっか頼ってた。だから、判断があんなに遅かった。

やれるチャンスは、止められるチャンスはいくらでもあったのに迷った。

いや、もしかしたら早めに判断していれば、殺さずに済ませられた可能性だって・・・・・・0ではない。



まぁようするにですよ、何にしても状況判断のスピードがあまりに遅かったってことだね。





「バカ、何シカトしようとしてんのよ」

「ティアさん、そうは言いますけど」



そう、迷った。出会った瞬間に、自分の中で答えは出ていたのに、迷ってしまった。

・・・・・・・・・・・・全く、温いのは僕も同じか。これはありえないし。



「『言いますけど』じゃない。・・・・・・アンタ達、マジでそろそろ納得しなさいよ。
もうあーだこーだ言ったって仕方ないでしょ? いつまでそうやってるつもりよ」

「それは、その・・・・・・うん」





迷ったっていい。躊躇ったっていい。それは真実ではある。だけど、同時に嘘だ。

迷ったら、躊躇ったら、その瞬間に何かが零れ落ちることだってある。もう取り返せないことだってある。

それは、自分の大事な物かも知れない。それが認められないなら、迷う事、躊躇う事は、その人にとって悪だ。



そして、僕はこの状況でそれらはしたくない。少なくとも、命のやり取りをしてる時には絶対したくない。



ああもう、絶対ヌルくなってた。マジでしっかりしないと・・・・・・これから何があるか分からないんだし。





「とにかく、これ以上はグダグダ言わない。
言ったところで、アンタ達の望んでる答えは出ないわよ。・・・・・・おはよ」



出来れば年末くらいまで何もしないでくれるとありがたいかな。だって、明らかに準備大変そうなのに。

ちくしょお、これで空気読まずに明日なんか起きるとかだったら、マジで恨むぞ。



「・・・・・・・・・・・・おはよっ!!」



前から声がかかる。それにハッとして顔を上げると・・・・・・ティアナが居た。少し、膨れた顔をしている。

で、スバルとキャロ、不満そうな顔でエリオも居る。四人とも汚れた訓練着姿。どうやら、訓練帰りらしい。



「あぁ、おはよ。・・・・・・中原麻衣、どうしたの?」

「だから誰よそれはっ!! ・・・・・・てゆうか、『どうしたの?』はアンタだから。
なにらしくもなくシリアスな顔で考え込んでたのよ」



なんか見抜かれてるらしい。・・・・・・でも、さっきまで思考の中に居たから当然なのかも。

てゆうか、なんでいつの間に訓練終わって・・・・・・僕、どんだけ考え込んでた?



「いやさ、ティアナのツンデレはなぜそんなに完璧なのかという事について」

「よし、スルーするわね」

「ダジャレ?」

「違うわよ、このバカっ! ・・・・・・ほら、行くわよっ!!」



そう言ってティアナが僕の首根っこを掴んで・・・・・・現在僕、引っ張られてます。

ずるずると視界と景色がどんどん下がっていく。あの、なぜこうなる? おかしいでしょうが。



「いいからっ! どうせその様子だとご飯もまだなんでしょっ!? 一緒に食べてあげるから来なさいっ!!」

「はぁっ!? なにそれっ!!」

「感謝なさい? というか、嬉しいわよね。
私みたいな美少女と朝のすばらしいひと時を過ごせるんだから」



僕を引きずりつつ、どこか楽しそうにそう言うティアナに対して、僕はため息を吐いた。



「美少女って一体誰の事? てか、ひと時を過ごすならフェイトと過ごしたいのよ。
フェイトとのひと時は楽しいよ〜。もう癒しだよ癒し。ティアナじゃ癒しにならな」



その瞬間、ティアナが僕に視線を向ける。向けて・・・・・・ニコリと笑う。

とっても怖い笑みで、目がつや消し状態で、こう口にした。



「・・・・・・嬉しい、わよね?」

「・・・・・・・・・・・・はい」



選択権など、どこにもなかった。逆らったが最後、スカリエッティ潰す前に、僕が潰されることになるのは明白だった。

ティアナの瞳は、そんな言いようのない説得力が存在した。だから、すっごい怖かったです。



「よろしい。それじゃあ、行くわよ」



いや、行くわよって・・・・・・あの、だから引きずらないでー!!



「ほら、スバル達もボーっとしない。おなかペコペコなんだから、早くして」

「う、うん」

「「・・・・・・分かりました」」










そのまま、一緒にご飯を食べることになった。てか、そうやってティアナとばかり話してるのが、毎朝の風景。

なのはとフェイトはヴィヴィオに付きっ切り。その様子を、はやて達は暖かく見守っている。

僕、フェイトと外回りや現場調査以外で交流する時間、取れてません。それだって、この一週間では1、2度です。





一緒に暮らしてるも同じだから、フェイトにフラグ立てられると思ってたのに・・・・・・な、なぜこんなことにー!?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・恭文君、なんだか疲れ果ててるね。朝なのに。一日の始まりなのに。

というか、やっぱりスバル達が恭文君と距離を取ってる。なぜかティアは普通にしてる。

恭文君は、ティアとリインと、あーだこーだ言いながら朝食の焼き魚を啄ばむ。





恭文君は、基本的に朝は和食。というか、三色和食中心。みんな洋食だけど、やっぱりご飯が好きらしい。

とにかく、結果的に六人でご飯を食べてるのに『三人+三人』という形になってる。・・・・・・まずい、これは色々とまずい。

私、高町なのは。朝食を食べながら分隊長として、教導官として、色々危機感を覚えてます。










「まぁ、大きい一歩って言えば大きい一歩だが・・・・・・それだけじゃあ、あの垣根は越えらんねぇだろ」

「主どうしましょう、ここで蒼凪の味方に付くような真似は出来るだけ避けたいのですが、さすがにあれは」

「そなんよなぁ。うー、資料見てくれれば納得する言う風に考えてたの、甘かったかも知れんなぁ。
交代部隊の方は、グリフィス君やヴァイス君のおかげで平気やったのに」





なんでもそうらしい。グリフィス君は交代部隊の副隊長だから問題なしだった。

あとヴァイスさんに関しては以前、シグナムさんから少し聞いたことがある。

ヴァイスさん、魔導師経験があったとか。だから、魔導師の流儀や礼儀をよく知ってる。



だから交代部隊だったり、今フォワードが恭文君に取ってる態度には苦い顔をしているとか。



というか、恭文君が六課に残ろうと思ったのもヴァイスさんに何か言われたかららしいし・・・・・・影響力、大きいのかも。





「てか、なのはちゃんもヴィータも、あとフェイトちゃんもか。
どんだけ『魔法は守る力』として叩き込んでるんよ」



私達を少し困ったような顔で見る。で、私達は顔を見合わせて、きっと同じ顔をしてしまう。



「あの行動の根っ子は、全部そこからやろ?」

「・・・・・・まぁな。ただよ、やっぱりそういう風に使って欲しいって思って教えるからよ」

「私も、同じくだね。というか、私がそうだから二人にも・・・・・・」

「でも、ちょっとだけ失敗しちゃったね。そういうのは、人それぞれだって教えてたはずなのに」





だから今恭文君のことを認められない。恭文君のことが分からない。

・・・・・・魔法は守るための力で、犯罪者は生かして捕縛が基本。

それが訓練校でも六課でも・・・・・・どこででも通っていた自分達の常識だから。



だけどその常識を、恭文君は持ち合わせていない。

そして、どこかで思ってる。修正は可能だと。その考え方は変えて、自分達と同じになれると。

・・・・・・いつかの、友達になる前の私みたいに。うぅ、反省だよ。



私、恭文君のこときっと傷つけてた。やっぱり組織に染まり過ぎてたんだ。



同じである必要なんて、違うことを咎める必要なんて、どこにも無いのに。





「・・・・・・なのはさん」

「ヴィヴィオ、なにかな」

「恭文、リインさんとあのお姉さん以外の人と、仲良くないの?」



子どもは鋭い。だから、こんな事を疑問顔で聞く。そして、的確に見抜いている。

普通にみんなと話しかけてるティアやリインじゃなくて、恭文君が仲が悪いと言った。



「うーん・・・・・・少し喧嘩しちゃったんだ。でも、きっとすぐに仲良くなれるから」

「・・・・・・うん」










隣で心配そうにあの様子を見ているフェイトちゃんに視線を向ける。というか、隊長陣はみんな同じ。

恭文君は、多分何も言わない。見せて欲しいとスバル達が言っても、きっと見せない。ただそれでも、少し変化はある。

・・・・・・前みたいに、自分から距離を取るようなことをしない。自分から近づこうともしてはいない。





だけど、来る分を拒否したりはしない。少しだけそれが・・・・・・嬉しかったりした。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あの何とも微妙な食事の時間を越えて、僕とリインは仕事をしていた。で、いきなりはやてに呼び出された。





なぜだかティアナと一緒に。で、呼び出した狸を尋ねて部隊長室へ向かった。










「・・・・・・そうだ、ヴィヴィオに『パパ』と呼ばせよう」



ふと思いついて、そう呟いた。するとはやてはイスから転げ落ちる。

それでティアナはずっこけた。リインは『なるほど・・・・・・』と感心している。



「そうすればフェイトフラグが立つ。よし、勝つる。これで勝つる」

「それは名案ですねー。将を射んとするなら馬を射よとも言いますし」

≪あなたにしてはいい案じゃないですか。少々手段がアレですけど≫

「てゆうか、エリキャロにすればいいと思うのは、リインとアルトアイゼンだけですか?」





そこを気にしてはいけない。てか、二人に甘い顔なんて出来ないのよ。

僕がここで嫌われても問題ない役回りなのは変わってない。

ぶっちゃけ、今更手の平を返す意味が分からない。うん、マジで分からない。



だけど、ヴィヴィオは違うのだ。普通にヴィヴィオと仲良くなって、下地を作るのは問題ない。



てーか、どうせエリキャロは好き勝手してフェイトの側に居ないんだろうし、やっぱりこの場合側に居る人間でしょ。





「というわけで、早速ヴィヴィオとディスカッションに」

『一体いきなり何の話してるっ!? そしてなに幼児をたらし込もうとしてんのっ!!』

「失礼な。ただ、ヴィヴィオにフェイトとの仲を応援してもらおうとしてるだけで」

『だからそれはやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』



なぜだろう、二人が僕をとても信じられないものを見るような目で見る。ぶっちゃけ、あの時のスバル達以上の視線だ。

うーん、なんでだろうか。『将を射んとすれば、馬を射よ』って言うのに。リインもそう言ってたのに。



「いや、それだったらエリキャロなんとかしなさいよ」

「だから、門戸を開いてるのさ。もう来る分を拒むつもりはないよ。ま、あくまでも同僚としてだけどね」

「それはまぁね。うん、話しててそうだなって、ちょっと感じてた」



なんか、ティアナもそうだし、はやても嬉しそうな顔をする。

・・・・・・やっぱ、こういうの嫌い。だって、照れくさいもの。



「でもさ、アンタ知ってる? 開いてるだけじゃあ誰も来ないの。
入ってきていいよって教えないと、どうにもならないでしょ」

「大丈夫。ティアナ・・・・・・知ってる?」



右手をゆっくりと上げる。立てた人差し指が上に向く。



「真の名店は、看板さえ出してない」



そして天井を・・・・・・いや、天を指差す。



「天の道を往き、総てを司る人のおばあちゃんはそう言ってたよ」

「いやいや、なんでそこでカブトっ!? てか、アンタ名店ちゅうレベルちゃうやろうがっ!!
宣伝活動しようやっ! 頼むから宣伝活動してみんなに門戸が開いとるって教えようやっ!!」

「大丈夫ですよ、恭文さん。リインが通いつめて、お店を成り立たせるですから」

「リインもそこフォローするとこちゃうからっ! なんでそうなるんっ!?
・・・・・・とにかくや。みんな、私と付き合わんかな」



・・・・・・その言葉に、僕達は顔を見合わせて・・・・・・頷き合う。



「「「お断りします」」」

「そっか・・・・・・なんでやっ!?」

「いや、あの・・・・・・すみません。八神部隊長」



ティアナが右足を後ろに下げる。というか、そのまま距離を取る。



「私はその・・・・・・そういう性癖はなくてですね」

「はやてちゃん・・・・・・揉み魔とは思ってましたけど、そういう趣向だったのですか。
ビックリです、初耳です、驚愕の事実が今ここに・・・・・・・なのです」



リインもそれに習うように、少し下がってはやてと距離を取る。

その瞬間、はやてがポカーンとした顔をした。



「はやて、まぁ・・・・・・あれだよ。さすがに部隊長室に呼び出してカミングアウトは突然過ぎるって。
しかも、三人ってのはおかしいでしょ。しかもリインはまだ子どもだよ? なんでそっちいっちゃうのさ」



で、ハッと気づいたような顔をして、一気にデスクから立ち上がる。



「アンタら何勘違いしとるんっ!? ちゃうからっ!!
うち、マジノーマルやからっ! お願いやからその生暖かい視線はやめてーなっ!!」

「大丈夫だよ。・・・・・・同性愛も異性愛も、全く差異のない人を好きになる気持ちだもの。
うん、僕は大丈夫よ? これではやてと友達をやめるなんてこと、絶対しないから安心して欲しいな」

「そう言うてくれるんはマジ嬉しいけど、ちゃうからぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





じゃあ、なんだというのだろう。てか、言い方が紛らわしい。

だからティアナだって『いや、さすがに・・・・・』って顔しつつ、ちょっと引くのだ。

自分でそこに気づいたのか、はやてはちゃんと話すことにしたらしい。



息を整えて、もう一度椅子にしっかりと腰掛けてから、僕達を見る。





「あんな、うちはこれから本局に行くんよ。
・・・・・・別に本局でなんかしようとかそういうことちゃうからなっ!?」



はやて、誰も何も言ってない。僕もさすがにこれ以上はアウトかなと思って黙ってたのに、なんでそっち行っちゃうのさ。



「よかったら、ティアナも一緒に来とくかっちゅう相談なんよ。だから特になんか」

「はやて、そこはいいから話進めて。大丈夫、もう言わないから」

「そ、そっか。・・・・・・あんな、今日会うんは、クロノ・ハラオウン提督。
恭文とフェイト隊長のお兄さんで、執務官資格持ちの艦船艦長さんや」



・・・・・・そこまで聞いて、話が読めた。

なぜティアナを呼んだのかとか、そういうことがもう手に取るように分かったのだ。



「将来のためにも、そういう偉い人の前に出る経験とかもしといた方がえぇかなと思うてな」





そう、このためだ。・・・・・・この一週間でティアナから聞いたんだけど、ティアナは執務官を目指してるらしい。

当然、その話はみんなも知っているはず。確かに執務官は、捜査状況を上の人に報告することもあるから、慣れておくに越した事はない。

だからこそ、いい機会だからクロノさんのところに連れて行こう・・・・・ということである。



ティアナもそれが分かったから、嬉しそうな顔をして敬礼をする。うちの部隊長が色々と気を使ってくれていることに感謝しつつ。





「ありがとうございますっ! 同行させていただきますっ!!」



で、ここで話が終わればまだいいのだけど、終わらない。

だって、それじゃあなんで僕とリインが呼ばれたのか分かんないし。



「ね、僕とリインをボケのために呼んだって言うなら、戻っていい?
これから急いでフェイトと合流して、現場調査に付き合ってフラグを立てなきゃいけないのよ」

「アホっ! 誰がアンタ達にボケてもらうためだけに隊舎中に呼び出しかけるんやっ!? ありえんやろっ!!
・・・・・・実は、ロッサもちょうどそこに来るんよ。で、アンタとリインを呼べるようなら呼んで欲しい言われててな」

「ヴェロッサさんが?」



ロッサとは、ヴェロッサ・アコース。カリムさんの弟で、本局で査察官という仕事をしているお兄さん。

クロノさん経由で知り合った人で、色々とお世話になっている。・・・・・・なんだろ、僕なんかした・・・・・・よね。てか、なんでリインも一緒?



≪査察官に尋問されるのも初めてではありませんしね。ついに本腰ですか≫

「あぁ、そういうことちゃうよ。なんやアンタ達と個人的に話したいことがあるとかなんとか」

「・・・・・・BL? あの、僕は同性愛は認めてるよ。でも、自分ではそういうことをする気はないんだけど」

「リインも同じくなのですっ! リインは恭文さんのものなのですよっ!?」



なぜだろう、また二人がずっこけた。



「ちゃうわボケっ! てか、アンタ達今日マジでどうしたっ!? なんでそっち方向ばっか行くんよっ!!
そしてリインも落ち着いてやっ! てーか、アンタうちの子っ!! 普通にうちらのこと忘れんでくれるかなっ!?」

「はやてちゃん、ごめんなのです。でも、リインは・・・・・・愛に生き、愛に殉じると心に決めたのです」

「アンタ絶対自分の年齢分かってないやろっ! それ8歳児の台詞ちゃうからっ!!
つーか、アンタはなんでその思考なんっ!? うちマジで気になってるんやけどっ!!」

「いや、最近ティアナに引きずられる事が多くて、そのダメージのせいなんだ。つまり、ティアナのせい」



ビシっと三回転ひねりでティアナを指差した。うん、これで解決だ。



「お願いだから私のせいにしないでくれるっ!? てゆうか、引きずるのはそうしなかったら、アンタが普通に一人で居ようとするからでしょうがっ!!」

「一人じゃないですっ! リインも一緒ですよっ!? ティア、どうしてリインを忘れるですかっ!!」

「あぁ、それはすみませんねっ! でも、そういうことじゃないんですよっ!! そういうことじゃないんですからねっ!?」










・・・・・・結局、またフラグを立てられずに僕は本局に向かう事になった。





なんで、こうなるんだろう。一緒に暮らすようになってから、余計に距離が開くっておかしくない?





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・しかし、君から依頼で内密に地上本部周り・・・・・・レジアス中将の身辺、色々と洗ってみたけど」





クラウディアの応接室で、クロノにケーキと紅茶を振舞いつつ僕はお話。



議題は、今僕達の前に立ち上がる空間モニターに映る一人の人物について。



その名は、レジアス・ゲイズ中将。ミッド地上本部の実質的トップ。そして、色々と頭の痛い人物。





「本当に面白いくらいに豪腕な政略家だよね」

「実力者であり、人を惹きつける牽引力もある。優秀な方だとは思う」

「本部長からして、彼の後輩だしね」

「黒い噂が絶えないとは言え、彼が地上の正義の守護者であるのは事実だ。
騎士カリムがおっしゃっていたが、僕達も見習うべき点は多々ある」



それだけじゃなく、企業や政界からの支持も厚く、管理局のトップである最高評議会の覚えもめでたい。

なんて言うか、もう一度言うけど面白いくらいに色々ある人だよね。



「これは恭文が気に入るはずだよ。というか、あの子の好みにストライクじゃないの?
現にレジアス中将からの誘い、相当に喜んでいたって言うし」

「まぁな。ただ・・・・・・アイツが気に入る人間は、全員どういうわけか無駄に濃いのがたまに傷だ」

「確かにね、サリエルさんやヒロリスもその類だ。あとはGPOのメンバーとか?」

「そうだな。あの方々も相当濃いらしい。・・・・・・それで君の印象としてはどうだ?」



どうだと言われましても・・・・・・まぁ、叩けば埃の出る人物だというのは、嫌になるくらいに認識したかな。

ただ、それだって上に居る人間なら誰だって差はあれどあること。それだけなら特に気にすることはない。



「とりあえずアレだよ。本局からすると、非常に扱いに困る人物だというのは、よく分かった」

「あぁ、そのために迂闊な介入は出来ない」

「で、その迂闊な介入が出来ない中将の、何が気になったの?」

「・・・・・・ここ最近、あまりにも強引過ぎる」



クロノは、本当に苦虫を噛み潰したような顔をしながら、紅茶を一口すする。

あー、やっぱりそこか。うん、聞くまでもなく分かってたよ。



「ここ2年は特にだ。アインへリアルの事と言い、その前段階で質量兵器を導入しようとしたことと言い、何かおかしく感じてしまうんだ」

「なるほどねぇ。・・・・・・実はさクロノ、姉さんもその辺りを相当気にしてるんだよ」

「あぁ、少しお聞きした。優秀な方だが・・・・・・それでもだ」



あの会議の話は、僕も一応聞いている。・・・・・・確かに気になるねぇ。

ここ2年・・・・・・いや、ここ数年の動き方かな。まるで何かが憑り移ったかのような勢いだもの。



「でも、なんだか不思議だよね」

「何がだ?」



ケーキを食べながら・・・・・・うん、今日は上手く出来た。というか、ここ最近で1番の出来だよ。



「恭文だよ。なんだかんだで、この一連の流れの重要な所には、確実に首を突っ込んでいる。
ガジェットの初出現然り、2年前の会議然り、ホテル・アグスタ然り、先日の出動や会談然り」



僕にはまるで、彼がこの一件に関わって、何かを大きく変えるためにそうなってるとしか思えないよ。

というか・・・・・・変えられるよね。あの子が、本当にトウゴウ先生から鉄を受け継いでいるならさ。



「まるであの子にこの件に関わって『今を覆してくれ』と誰かが言っているように感じるよ」



確実に何かが変わる。もしかしたら、本当にそのためにこれかも。



「僕としてはあまり面白くないがな。そのおかげで、アイツは現在非常に面倒な立ち位置を強いられている」

「確かにね。・・・・・・六課メンバーとの距離感は、相変わらず?」

「そうらしい」



でも、この場合はこれでいいのかも知れない。

幸か不幸か、今までの恭文の選択がベストだと思える状況になってきている。



「それでロッサ、サリエルさんとヒロリスさん達の方は」

「一応は納得してくれたよ。ただ・・・・・・覚悟しておいた方がいいよ?
なお、僕とシャッハ、カリムは止められないので、そこの所よろしく」

「分かっている。あの方達もトウゴウ先生の弟子だ。最初から止められるなどとは、思っていない」

「うん、それで正解だ」



とにかく今日はその辺りについても、恭文とアルトアイゼン、リインに説明をしないと。

僕が紅茶を一口飲みつつそこの辺りについて考えていると・・・・・・僕達が今まで立ち上げていたモニターとは別の画面が開いた。



『クロノ提督、失礼します。今、大丈夫でしょうか?』



画面に映るのは、クラウディアのオペレーターさん。なお、栗色の髪をポニーテールにした女性。中々に好感触。



「あぁ、大丈夫だ。どうした」

『はい。機動六課部隊長・八神二佐がお連れの方と一緒に到着しました。あと・・・・・・恭文君も』

「了解した。僕が今からそちらへ行く。・・・・・・何か伝言があれば聞くが」



クロノがそう言うと、普通にオペレーターの子はニヤリと笑って、言葉を続けた。



『では、時間があれば挨拶に来て欲しいとだけ。
六課で色々大変なのは聞いてるので、弄ってあげたいんですよね』

「分かった、伝えておこう」

『はい、よろしくお願いします』



そのまま、画面は消えた。で、クロノはため息を吐きつつ立ち上がる。僕も同じく。



「・・・・・・・・・・・・クロノ、もしかしなくても恭文ってクラウディアのスタッフに大人気? なんかすっごい笑顔だったんだけど」

「艦長の僕より人気者だ。人気投票で艦長が決められるのなら、次のクラウディアの艦長はアイツで決定するとだけ言っておこう」

「あ、あははは・・・・・・それはまた、すごいことで。それなのに、なんで六課ではあんな状態なんだろうね」

「はやてと僕、そして母さんのせいだ。それ以外に何がある?」










そして僕達は部屋を出る。やっぱりお出迎えが有った方が、向こうも嬉しいでしょ。





しかし・・・・・・なんだかんだで恭文やリインとは久しぶりだよね。元気だといいんだけど。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「というわけで、本局到着なのですー♪」

≪正確には、本局に停泊しているクロノさんが艦長を勤める次元航行艦・クラウディアの中です。
しかしまた・・・・・・今更ではありますが、広いですね。さすがは最新式の船ですよ≫

「ですです」

「・・・・・・ね、アンタの相棒とリイン曹長は誰に話してんの? 明らかに説明台詞だし」

「知らない。てか、たまにあぁなるのよ。僕に聞かないで」



・・・・・・船っていうかなんだろ・・・・・・リアルマクロス?

長期間の航海任務に耐えられるように色々設備も置いてあるし、数百人単位で生活とか出来るしさ。



「・・・・・・フェイトは地上で捜査活動ー♪ 僕はーお船で狸とツンデレのお世話ー♪
あー、フラグが立てられないー♪ どうやってもフラグが成立しないー♪」



だからなんとなしに歌でもうたいたくなるのだ。



「はいそこうっさいっ! どんだけフェイトさんが好きかは知らないけど、こんなとこでそんな調子外れな歌はやめてくれるっ!?」

「仕方ないじゃん、フラグ立たないんだから。というか、絶対帰ったら頑張ろう。
・・・・・・一緒にご飯も食べられないー♪ いっつもツンデレ邪魔をするー♪」

「分かったわよっ! フェイトさんフラグ不成立に関しては、私が必ず責任取るからとりあえずその歌やめてっ!? いや、結構マジでよっ!!」



とにかく僕達は船の中の転送ポートから降りて、そのまま通路を真っ直ぐに少し歩く。

すると、二つの影を見つけた。黒いインナーを着たお兄さんと、白いスーツのお兄さんの二人が、僕達へと歩いてくる。



「はーやて」

「ようこそ、クラウディアへ」





声をかけたのは、クロノさんとヴェロッサさん。なんか、迎えに来てくれてたらしい。

・・・・・・なんていうか、ヴェロッサさんがゆるい。すごくゆるい。で、僕の方に手を振ってくる。

僕もそれに返す。ただ視線が・・・・・・言ってる。『早速だけど、話いい?』と。



同じく視線で『問題ありません』と返した。それで、ヴェロッサさんには伝わった。



で、そんなことをしながらも話は進む。だって、この場での主役は僕じゃないから。





「あ、紹介しとくな。うちのフォワードリーダー。執務官志望の」



僕の隣の女の子は、自分にクロノさんとヴェロッサさんの注目が集まるのを感じると、勢いよく動き、敬礼する。



「ティアナ・ランスター二等陸士でありますっ!!」

「・・・・・・あぁ」

「よろしくー」










とにかく僕達は応接室に案内される。で、案内されながら・・・・・・ヴェロッサさんから話を聞いていた。





僕とアルト、リインに対して、話しておかなきゃいけないことがあるというのは、ヒロさん達のことだった。





この時まで、僕とアルトは迂闊にも失念していた。・・・・・・僕と同じように、ヒロさんとサリさんもまた、鉄だということを。




















(第10話へ続く)




















あとがき


古鉄≪というわけで、ちょっと色々実験的な事もしつつもテレビ版14話まで話が進んだ第9話、いかがだったでしょうか。
本日のあとがきのお相手は、古き鉄・アルトアイゼンと≫

あむ「またまた呼ばれている日奈森あむです。実験的なのはアレだね、レジアス中将絡みの話だね」





(Yes Sir)





あむ「いやいや、それはなんか違わないっ!?
で・・・・・・やっぱり空気が微妙なのは変わらずと」

古鉄≪別にいいんですけどね。仲良しこよしするために六課に居るわけじゃないですし≫

あむ「で、エリオ君がムカつくんだけど、アレはどうすればいい?」

古鉄≪当然、へし折られます。それも徹底的に。そして後半で主人公っぽく立ち上がります。
というか今考えているプロットだと、後半はもう一人の主役みたいな感じになるかも知れません≫

あむ「えぇっ!?」





(そうして流れるのは、おなじみなSE。なお、驚きを表現しております)





あむ「あの恭文に対してのヤキモチ全開なのを見てると、そうは思えないんだけど」

古鉄≪あ、そう見えます?≫

あむ「いや、アレはそういうシーンでしょ? 表彰の話もそうだし、普通にフェイトさんと恭文が仲良くしてるのも嫌そうだし」

古鉄≪実際、嫌なんでしょうね。まぁ、その辺りはアレですよ。相当派手にやりますので。
アレですよ、落とした分は上げますよ? 落とした分上げないでどうするんですか。ギャグの基本なのに≫

あむ「え、ギャグなのっ!? そこはお話の基本じゃないかなっ!!」





(そう、上げたら落とす。落としたら上げるはお話の基本。そして、お笑いの基本)





古鉄≪まぁ、スカリエッティは落としっぱなしでいいんですけどね。アレはそういう役回りですから≫

あむ「そうだね、あのおじさんは仕方ないよね。うん、仕方ない」





(いつものように、どこからか『そんなわけがあるかっ! 頼むから私も上げてくれっ!!』と声がするが、二人は当然のように無視する)





古鉄≪ぶっちゃけ、ラスボスはクアットロでいいんじゃないかという意見も出てまして≫

あむ「あ、あの人はそれっぽいよね。あのおじさんより」

古鉄≪スバルさんの中の人が頑張ってますからね。もう悪女ですよ悪女≫

あむ「まぁ、その辺りはまた考えつつでしょ? じっくりいこうよ。
・・・・・・というわけで、次回はこのお話の続きです」

古鉄≪ヴェロッサさんがなぜ私達を呼び出したかも、明かされません≫

あむ「いやいや、それダメじゃんっ!!」

古鉄≪いいんですよ、あの人もそういう人ですから。それでは、本日はここまで。
お相手は、古き鉄・アルトアイゼンと≫

あむ「日奈森あむでした。・・・・・・え、あのはやてさんの旦那さんって、そういう扱いなの?」

古鉄≪そういう人なんですよ。もう中の人的に≫










(話しながら、中の人の影響って凄いと思う、現・魔法少女であった。
本日のED:野上良太郎(佐藤健)&ジーク(三木眞一郎)『Double-Action Wing form』)




















恭文(思念通話)”・・・・・・で、僕やリインをいきなり呼び出したのはなんでですか?”

リイン”デートのお誘いなら、お断りなのですよ? リインは恭文さんが居ますし、恭文さんもリインが居るのです”

ヴェロッサ”いや、違うから。実は、僕の新作ケーキを食べてもらおうと”

恭文”帰っていいですか? てーか、フェイトフラグを立てるのに忙しいんですから、邪魔しないでくださいよ”

ヴェロッサ”待って待ってっ! ケーキはあくまでも楽しく話せるように作ってきただけだよっ!?
・・・・・・目的は三つ。それも結構真剣な話なんだ”

恭文”なんでしょ”

ヴェロッサ”まず一つは、ヒロリスとサリエルさんから君宛に荷物を預かって来ている。それを渡すため。
もう一つはZERONOSジャケット・・・・・・だっけ? それを君から預かって、ヒロリス達に渡すため”

リイン”はい? あの、ヒロリスさんって恭文さんの姉弟子さんですよね。
それでサリエルさんは恭文さんに『きゃー』な本をいっぱい買わせた人です”

ヴェロッサ”・・・・・・あの人、なにやってるのさ”

恭文”僕に聞かないでください。それでもう一つは? というか、それならそれでヒロさん達も言ってくれればいいのに。
どうせクラウディアは今は本局に停泊してるわけですし、やろうと思えばそんなの帰りにでもすぐに出来るのに”

ヴェロッサ”それは無理だよ。だって今ヒロリスとサリエルさんは、聖王教会・・・・・・カリムとシャッハで保護してるんだから”

恭文”え?”

ヴェロッサ”ここが三つ目なんだよ。いいかい恭文、あとリインも、落ち着いて聞いて欲しい。
ヒロリスさんとサリエルさんは今・・・・・・狙われている。そのために、保護という形を取らせてもらった”

恭文・リイン””狙われてるって・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇっ!?””










(おしまい)




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あきゅろす。
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