小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第8話 『心を強くする大事な言葉は、やっぱりあの言葉?』
「・・・・・・まずは昨日の一件についてだが、戦闘機人が現れたそうだな」
「うん。とりあえず確認されているのは、三人だね」
フェイトが画面を立ち上げる。そこに映るのは、髪を二つに分けたメガネっ子と、長い髪をお下げにした子。
そして、それを高速移動で助けたらしいのが一人。まず、地上でフェイト達とやりあったのがコイツらだ。
なんでも、僕達が地下でどんぱちしてる時、まずメガネっ子とお下げがヘリを襲撃したらしい。
方法は、高エネルギーの砲撃による狙撃。それもエネルギー量はSランク。
それはなんとかなのはが防いで、フェイトとはやての三人で波状攻撃をかまして、追い詰めた。
追い詰めたのを、高速移動系の技能を使ったと思われる最後の一人が、救出したのである。
・・・・・・だから、ヘリはやばいって言ったのに。人の話を聞かないからそうなるのよ。
とにかく、歯車を模したテンプレートが、相手方の能力使用時に確認されてる。映像も残ってる。
そして、そのテンプレートはある特定の存在が能力を使うと発生するものだ。
それが、戦闘機人。恐らくだけど、ジェイル・スカリエッティの手駒。
「昨日の大量の幻影を出したアレも、ISでしょうか」
「この三人の内の一人が使った言う風に仮定して考えると、多分そうやろうな」
相手の能力の全容はまだ掴めていない。下手に確定するのは危険なので、はやてはこういう言い方をした。
砲撃がお下げ、高速移動ので一人。ギンガさんの話だと、戦闘機人のISは基本一人一つずつらしいから・・・・・・このメガネっ子か。
「・・・・・・中々厄介なのが出てきたわ。こりゃ一筋縄でいかんかもなぁ」
「厄介なのはそれだけじゃないよ。・・・・・・多分、召喚師を逃がしたのも戦闘機人だ」
「うん、多分そうやろうな。もうまるでどこぞのドンブラ粉みたいな感じで逃げたんやろ?」
あー、それそれ。まさしくそれなのよ。もう見ててビックリしたもの。
とにかく、あの場で現場に現れた戦闘機人はその四人。また能力に幅があることあること。
「その子が使ってるのは、物質透過能力の一種かな。魔法でもそういうのはあるけど・・・・・・」
「なんにしても、油断は禁物だな。それで・・・・・・恭文、リイン。
お前が交戦したというアンノウンについては、報告書通りか?」
「そうですね」
「その通りなのです」
話は、当然カリムさんとクロノさんにも伝わってるのだろう。だから、僕を少し苦い顔で見る。
僕も、きっと同じ顔をしてる。・・・・・・なんだかんだで、休日になってなかったと、場違いにも思ってしまった。
「フォン・レイメイ・・・・・・局の一級捜索指定を受けている、指名手配犯の一人。
恐らくだが、彼はスカリエッティの協力者だったのだろうな。だから、あの場に現れた」
「でしょうね」
そうじゃなかったら、アレが突然なんの脈絡もなく、スカリエッティの一味と思われる召喚師を助ける形で出てくる理由が分からないもの。
「はやて、その辺りのことについての調べはどうなってる?」
「調べっちゅうても、手がかりが死体だけやからなぁ。残留物も、武装として使ってたデバイスだけやったし。
分かったのなんて、アイツがチート紛いのことしてたっちゅうことだけや」
ここに来る途中ではやてから聞いた。アイツ、生体改造を身体に施していたらしい。
で、その結果があの再生能力と尋常じゃない魔力量だ。
「しかもそのデバイスには、それらしい情報が一切残ってなかった」
僕が鋼糸で千切った右腕に握られた大剣、あれがそれだ。
はやての話によると、残ってたのは普通に入力されていた魔法のプログラムだけだったらしい。
「なんだかんだで、局の捜査人員との接触回数は多かったみたいだから、そのせいじゃないかな」
「なんていうか、用心深かったんだね。物的証拠を落として、逮捕の決め手になるのを防いでいた」
「恐らくそうだろうな。すると、そこからスカリエッティの情報を掴むのは無理か」
なのはとフェイト、クロノさんの会話を聞いて、少しだけ、俯く。
・・・・・・殺さなければ、情報が掴めていたかも知れないから。
それに気づいたカリムさんが、声をかけてくれた。
「恭文君、リインさんも大丈夫よ。ここに居る人間は、誰もあなた達を責めたりなんてしていない。
・・・・・・大丈夫だから、そんな顔はしないで?」
「「・・・・・・はい、ありがとうございます」」
「とにかくだ、フォン・レイメイに関しては正当防衛が成り立つ。というより、絶対に成り立たせる。
だから君達は安心してくれ。それで・・・・・・」
クロノさんが僕とリインに視線を向ける。
「お前達は、少々思うところがあるとは思う。だが」
だから、僕は・・・・・・頷いて答えた。
「大丈夫です」
・・・・・・うん、分かってる。
そういうのが必要な時もあるって、分かってますから。
「クロノさん、すみませんけど、よろしくお願いします」
「大丈夫だ、問題はない。リインも大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。・・・・・・よろしく、お願いします」
「あぁ、任せてくれ。とにかく・・・・・・次だ」
そうして画面が立ち上がる。現れた空間モニターに映るのは、例の召喚師。
あとは、赤い髪のツインテールで、小悪魔っぽい・・・・・・・というか、某魔神っぽい服装の女の子。
ただし、この子は体長が違う。身長は30センチ。今のリインと同サイズなのだ。
あの時、あの男と一緒に現れて、とっとと『ルールー』と呼ばれた召喚師と一緒に撤退した。
・・・・・・次はこの子の話ってことか。
「はやて、師匠達の見解は・・・・・・やっぱり?」
「やっぱり・・・・・・やな。恐らくやけどユニゾンデバイスやな。アンタも同じやろ?」
「外見的特徴と、アルトのサーチの結果だけで判断するなら、多分間違いない」
「というか、まじめにリインくらいの大きさだったのです。・・・・・・まさかユニゾンデバイスまで居るなんて」
ユニゾンデバイス。魔導師or騎士と融合することで能力を発揮するデバイス。
ま、リインがこれだし、僕もリインとユニゾン出来るんだけど。
でも、確かユニゾンデバイスって、適合するロードを探す手間とかもあって、どこも開発とかはしてないんじゃ。
ということは、この子・・・・・・どこから生まれてきたの?
「これも恐らくやけど、本当にオリジナルの融合騎かも知れん。ま、確証は無いんやけど」
「それでヤスフミ、スバル達からも一応聞いてはいるんだけど、もう一度確認。
この子が召喚師の子とユニゾンする様子、なかったんだよね」
「うん」
ユニゾンせずにあの場を離脱した理由。推測できる答えは、少なくとも二つある。
だからこそ、フェイトも僕に確認をしてる。
一つは、召喚獣が傷を負ったため。次は、あの子とこの子はユニゾン出来ない。
・・・・・・この場では姿を見せていないだけで、居る可能性がある。ちびっ子の融合相手が。
「万が一この子に融合相手が居た場合、やっぱり恭文君が相手をするのが一番いいと言うのが、八神家の結論?」
「そうやな。もちろん、ヴィータやシグナムも居るけど、リインのユニゾンで一番能力出せるのは、やっぱり恭文やから。
・・・・・・つか、おかしいわっ! なんでアンタがうちら差し置いて一番リインのロードっぽく見えるんやっ!?」
いや、どうしてと言われましても。
僕だって、この能力はもらったものな訳でしてね?
「当然なのです。だってだって、リインは恭文さんの元祖ヒロインで、古き鉄なのですから」
「リイン、そういうことじゃないから。・・・・・・あぁ、はやてちゃん泣かないでー。
あの、これはもうどうしようもないから。仕方ないんだから」
・・・・・・あ、原因が分かった。
「誰も基本的には氷結魔法を普段使わないからじゃない? だけど、僕は使えるもの」
「そういう問題かっ!?」
≪Jack Pot!!≫
「大当たりちゃうわボケっ! マジでヤキモチ妬いとるんや、うちはぁぁぁぁぁぁっ!!」
・・・・・・うん、知ってる。それでちょっと申し訳なく思ってる。
だって、リインの勢いがすごいんだもん。リインもそれでいいって感じ出まくってるんだもん。
「とにかく、この辺りも108部隊と協力して、しっかり調査するよ。
色々と分かったことがあるから、きっと何か掴めると思う」
「そうか。なら、よろしく頼む」
・・・・・・とにかく、こんな話をした後で話は本題へと入った。
内容は・・・・・・六課設立の裏事情。
魔法少女リリカルなのはStrikerS Remix
とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常
第8話 『心を強くする大事な言葉は、やっぱりあの人の言葉?』
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「まず、六課の設立の目的は・・・・・・恭文、覚えているな?」
「もちろんです」
いきなり僕に矛先が向く。なので、頷いて答えることにした。
まぁ、ちゃんと分かってはいるかどうかの確認も含めてなのだろうと、思った。
「・・・・・・ロストロギア・レリックとそれに付随して出てくるガジェットの対策。
で、独立性の高いエキスパート部隊の実験例。ようするに、実運用でのサンプル作り」
「正解だ。表向きはそうなっている」
僕もアルトもそう聞いていた。でも、やっぱり違うらしい。
だってクロノさんは今、それらを僕達の前では初めて『表向き』と言い切ったのだから。
「まず、六課の後見人には」
空間モニターが僕達の前に立ち上がり、三人の人物が映される。
それは、僕のよく知っている人達。
「僕と騎士カリム。そして僕とフェイト、恭文の母親であるリンディ・ハラオウン提督が居る。そして」
画面が変わる。そしてまた、三人の人物が映された。・・・・・・やっぱりかい。
「かの三提督も、非公式ながら六課の設立と運営に関しての助力を確約して頂いている」
「・・・・・・待ってくださいです。どうしてここで、ミゼットさん達が出てくるですか?」
さて、ここで改めて説明。三提督というのは、ミゼットさんにラルゴさん、レオーネさんの三人で、この間話した老人会の方々である。
ま、そこはさておき・・・・・・やっぱりだったか。で、これはどういうこと?
ただのロストロギア対策の部隊ひとつの設立と運営に、こんなぶっ飛んだ方々引っ張り出す理由が分かんないんだけど。
「あなた方が疑問に思うのは当然です」
窓をカーテンが覆う。それだけで、部屋はまるで夜が来たかのように薄暗くなる。
「これには理由があります」
そう言って、カリムさんが取り出したのは・・・・・・タロットカードサイズの用紙を白いリボンで束ねたもの。
リボンが解かれると、それが光を放ちながらカリムさんの周囲を囲むように円を描く。
カードの一枚一枚が光を放ち、薄暗い部屋の中をそれらが照らしていた。
「私のレアスキル・・・・・・プロフェーティン・シュリフテン。
これは最短で半年先に起こる事件や事故を詩文形式で書き出す能力なんです」
つまり・・・・・・未来予知っ!? すごいじゃないですか、それっ!!
とにかく、僕達の前に用紙が飛ぶ。それぞれの目の前に、一枚ずつ。
なにやら文字が書かれているけど・・・・・・なんだこれ、わかんないよ。
ミッド文字とは違うし、ベルカ文字ともまた違う。これは・・・・・・あれだね。
≪古代ベルカ文字ですね≫
そう、古代ベルカ文字だ。300年とかそれくらい前に使われていた古代文字。
地方や年代によって、一つの言葉でも意味合いや解釈がまったく変わることがあるので、解読や解釈が難しいとされている文字。
「てゆうか、アルト・・・・・・これ読めるの?」
≪えぇ、グランド・マスターに習いましたから≫
・・・・・・習ったらしい。表現色々おかしいけど。でも、先生古代ベルカ文字なんて読めたんだ。
≪ただ、これは・・・・・・≫
「難しいでしょう?」
≪えぇ、どう解釈していいのか困ります。古代ベルカ文字は年代や地域によって、同じ言葉でも意味合いがまったく違う場合もあります。
それに・・・・・・詩文形式ですよね? その辺りの情緒的とも言える解釈も鑑みると、どう受け取るべきか、迷ってしまいます。リインさん、読めますか?≫
「うー、リインも無理なのです。アルトアイゼンの言うように、難し過ぎるのです」
さっき予言とかなんとかって言ってたけど、そんな文字で予言されてもどうすりゃいいんだろうか。
ものすごく極端な話、『半年後に世界が滅亡します』という予言が来たとする。
でも、もしかしたら『明日、近所の八百屋で大根が安くなります』などと解釈する可能性があるのだ。
なお、これはここまではないにしても、実際にありえる話。例えば、古代ベルカ語に『マリアージュ』という言葉がある。
前にサリさんから聞いたんだけど、古代ベルカ語で『人形・祝福・花嫁』を意味するこの言葉には、一つの謎がある。
それは、別の地方と年代では少し辛めの漬物を指す言葉になること。現代でも、その理由は不明。
なぜそういう解釈で取られてしまったのかというのは、今なお解き明かせない古代ベルカ語のミステリーの一つになっているらしい。
例えば、書かれた年代や地域が特定されている古い文献の解読なら、その辺りはだいぶ絞られる。
でも、これはそれから外れる。これはカリムさんの能力で『今書かれている』予言なのだから。
膨大な解釈の中から意味が通じるように言葉を繋ぎ合わせていく。ハッキリ言って、面倒である。
「これは、ミッドの二つの月の魔力がうまく揃わないと作成出来ないんです」
ミッドの月は、膨大な魔力エネルギーを内包していると言われている。というより、星の命と言った方がいいかもしれない。
まぁ、普段使う魔法には一切関係しないんだけど、どうやらこの予知能力の使用にはそれが適用されるらしい。
「作成は1年に一回が限度。それだけじゃなくて、今、あなた達が言ったような部分もあるの。
的中率は、解釈間違いも含めてよく当たる占い程度。つまり・・・・・・さほど便利な能力ではないのよ」
ふむ・・・・・・なるほど。で、この能力と六課設立、どう結びつくんだろ。
ここで話したってことは、この予言能力と六課が関係あるのは確実だろうし。
「この予言に関しては、聖王教会のみならず、次元航行部隊や各地上世界のトップも目を通す。
今、騎士カリムがおっしゃられた的中率云々は抜きにして、あくまでも有識者からの情報提供の一つとしてな」
「実際に当たることもあるわけやしな。それも、世界規模のシロモンがほとんどなんよ」
そのために、一応でも目を通して、局の運営の参考にするということらしい。
「・・・・・・ところがや、ミッド地上はこの予言がお嫌いや」
はやてが少し困り気味な表情を浮かべながら、そう口にした。
そして、その場に居る誰もがその理由にすぐに思い当たった。
「レジアス・ゲイズ中将・・・・・・だね」
「レジアス中将、大のレアスキル嫌いだものね。私も色々聞いてる」
そう、なのはとフェイトが今言ったように、レジアス中将はレアスキルの類やそれの保持者が好きではないのだ。
・・・・・・はやてが地上部隊の上の人間に受けがよくないのも、その辺りが原因とかなんとか。
「・・・・・・あの人、それ以外はすごい人だと思うんだけどね」
「そうね。強引な手腕や本局との衝突の話題ばかりが目立つけど、それだけじゃないもの」
カリムさんは、どこか饒舌に、少し笑顔になりながらそう言ってくれた。
「地上部隊の局員もそうだし、ミッド地上に住む人々を守るために、これまでも数々の功績をあげてきた。その実力は、間違いなく本物。
しかも高いカリスマ性も持ち合わせているから人望もある。私も、組織の指導者として見習うべき点があると、常々思っているの」
僕がそれに意外そうな顔をしていると、カリムさんはそれに気づいて、優しく微笑んでくれた。そうしながら、言葉を続けた。
「というか恭文君、もしかしてあなた」
「恭文さん、何気にファンなのですよ」
「・・・・・・そして、そんな騎士カリムの予言にある一文が少しずつ書き加えられている」
ある一文・・・・・・てか、少しずつってなにさ。
「恭文君、先ほどあなた・・・・・・この能力を未来予知と言っていたわよね?」
「・・・・・・え、口に出てたのっ!?」
「出てたわよ。思いっきり」
「リインも聞きましたです。小さく呟く形で言ってました」
は、恥ずかしい・・・・・・! なんか色々と恥ずかしいっ!!
「あら、恥ずかしがることはないわ。殿方は少しくらいそういう部分があったほうが、魅力的だもの」
「・・・・・・そういうものですか」
「そういうものよ。ただ、未来予知というのとは少し違うわ」
・・・・・・と、おっしゃりますとどういうことでしょうか。だって、話を聞く限りまさしくそれなのに。
一体どこが違うのか分からないので、とりあえずカリムさんの話を聞くことにした。
「この能力は現在の世界の情勢や飛び交う情報、その他色々なデータを集め、そこから導き出される・・・・・・予測データなの」
「・・・・・・予測」
検索魔法などの凄いバージョンになると、はやてが補足を入れてくれた。
色々台無しではあるけど、それで納得した。話を整理すると、まず世界中のデータを集める。
それを元に予測を立てる。それも、この先の時間で起きる事件を。それを詩文形式で書く。
そこまで規模が大きいからこそ、めったには使えない能力ってことに・・・・・・あれ?
「ちょっと待ってください」
一つ気づいた。なのはにフェイト、リインも同じくらしい。表情からそれが読み取れた。・・・・・・この予言は、予測データ。
その予測データを出す時に、必ず同じ文面が出る。そして、出る度に少しずつ書き加えられているっていうのは。
≪もしかして、実際にこの事象が起こる可能性が高くなっているということですか?≫
「そういうことや」
「この詩文が指し示す未来が現実のものになる可能性が、少しずつ高まってきている。
だからこそ、予測データに追加・・・・・・いや、修正部分が加わり続けていると、我々は考えている」
「そして、それは恐らく今、この瞬間もよ」
そこまで言うと、カリムさんは紙束の中から一枚を取り出し、読み上げる。
「・・・・・・旧き結晶と、無限の欲望が交わる地」
詩文だけに、初っ端から無駄に大仰な文面。それが最初の印象だった。
「死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る」
でも・・・・・・伝わる。カリムさんの声が、耳に、心に伝わってくる。
「使者達は踊り、中つ大地の法の塔は、虚しく焼け落ち」
そして、認識する。
「それを先駆けに、数多の法の船は」
今伝えられているものが、いったい何を示すのか、何を壊すのか・・・・・・それを。
「砕け落ちる」
それを初めて聞いた人間は、誰もがその答えをすぐには認識できなかった。
だって・・・・・・あまりにも答えがデカ過ぎるから。そう、あんまりにも大きかった。
「・・・・・・あの、それってっ!」
「まさかっ!!」
でも、逃げられない。忘れることも出来ない。もう知ってしまったから。
≪旧き結晶・・・・・・中つ大地の塔・・・・・・恐らくですが、レリックとミッド地上の中央本部≫
「数多の海を守る法の船・・・・・・。本局、それに属する次元航行艦の部隊。
それが砕け落ちるってことは・・・・・・マジかい」
「それで正解ですよ。というか、これらの部分だけ無駄に分かりやすいですよね」
まったく同感だよ。とにかく、これらが指し示す答えは・・・・・・ひとつだけ。
「管理局システムの、崩壊」
≪出ましたね、ジョーカーが≫
「それも、ぶっちぎりで最悪なのです」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
明かりを遮断していたカーテンが開かれて、外の光が再び部屋の中に差し込み、明るくさせる。
でも、底冷えのする感覚は拭えなかった。どうしても・・・・・・日の光の暖かさを認識できなかった。
つか、スカリエッティやレリックって・・・・・・そこまでだったのか。
「・・・・・・どういうことですか、これ」
この予言をカリムさんは当然として、クロノさんやリンディさん、はやてが知ってたのは分かった。
局の上層部の人間が知ってるのも分かった。というより、伝わってて当然なのだろう。
そして、少なくともカリムさんとクロノさん、はやてが予言を相当に問題視しているのは分かった。
だからこそ、ミゼットさん達が引っ張りだされたのも、納得した。
「まぁもう考えるまでもないですけど、六課は」
「そうだ、この予言の回避のために作られた」
そうだよね、そうじゃなきゃ、このぶっ飛び予言と設立云々が繋がらないし。
でも、なぜそうなる? こんなの、1部隊だけでどうにかしろなんて無理でしょ。
「まず、この予言の事は、局の上層部の耳にも届いている」
理由は簡単。さっきも話してたけど、予言が有識者の情報提供として、通達されているようだから。
「なので、本局でも一応の対策・・・・・・まぁ、警戒強化はしているんだ。だが」
「その場合、問題になるのはミッドの地上本部なんです」
カリムさんが苦い顔でそう言った。それだけで、この場に居る全員がその意味に気づく。
≪レジアス中将が、この予言を信じていないからですね?≫
「そうだ」
まず、レジアス中将は本局・・・・・・というより、他の組織からの干渉を受けるのを非常に嫌う。
カリムさんが所属する聖王教会もそのうちの一つに数えられていると思う。で、この予言はレアスキルから出てる。
レジアス中将はレアスキルも嫌ってる節があるのは、結構有名な話。僕が知ってるくらいだから、かなり知れ渡ってるよ。
つまり、そういう色んなものが重なって、レジアス中将はこの予言の信憑性に疑いを持ってる。というか、ありえないと決め付けてる。
「レジアス中将・・・・・・というより、ミッドチルダ管理局・地上本部は、この予言に対して、特別な対策は一切取らないらしい」
いや、それもどうなのよ。現にガジェットやレリックも出てきてるのに。この辺り、戦力がカツカツなのが原因なのかな。
・・・・・・そう言えば、2年前にカリムさんの護衛をした時、レジアス中将は質量兵器を導入しようとしていた。
まぁ、結局は却下されて、防衛兵器を造ることだけ認めさせた形で終わったけど。
あの時僕は、単純に戦力不足の解消と思ってた。・・・・・・まさか。僕はカリムさんを見る。
カリムさんはそれだけで僕の言いたいことが分かったのか、コクリと頷いてくれた。で、僕も納得した。
ここ最近の中将が以前以上に地上の戦力強化をしようとしてたのは、ここが要因だったんだ。
つまり、予言に対する対処。戦力が不足していたら、有事の際に何が起こるかわかったもんじゃないし。
「まぁ、無理ない言うたら無理ないとは、うちも思うんよ。本局の中でも、疑いの声が相当出てる。で、それは事実や。
中央本部がテロなりクーデターなりで壊滅したとして、それで本局まで・・・・・・言うんは、やっぱ考え辛いんよ」
≪普通ならそうですよね≫
「うん、普通ならな」
さっきの予言の内容を思い出す。あの流れが現実のものになると、はやての言う通りだ。
簡単に言うと『中央本部が焼かれた後に、本局とかが潰れます』ってことなんだから。
『ありえないことなんて、ありえない』けど、それでも疑ってしまう人間の気持ちは分かる。
本局とミッド地上本部は文字通り別世界にある。地上本部だけなら、他にもたくさんある。
つまり・・・・・・なぜ、数ある地上本部の中で、ミッドの地上本部が破壊されるのか。
そして、その次になぜ本局やら次元航行艦隊までが潰れる話になるのかってことなんだよね。
「とは言え、レリックもそうだが、キーワードとなるものが現実に複数出ている以上、放置しておくわけにはいかない。
だが、そこでまた問題がある。・・・・・・ミッド地上へは、本局からの干渉も、表立っての主力投入も出来ないんだ」
レジアス中将、調子こいてる本局が嫌いだしね下手に干渉すれば、ゴタゴタするのは目に見えてるか。
「ミッド地上の武力や発言力の強さは、以前から問題視されとるからな。
本局と同じく、カリム達聖王教会も下手な手出しは出来んのよ」
「今の状態では協力の申請も、内政干渉や強制干渉の類として取られる可能性があります。
・・・・・・異なる組織同士が手を取り合うのは、難しいことです」
「・・・・・・いや、カリムさんや聖王教会が気に病む必要ないでしょ。
つか、本局と地上は同じ組織ですよ? それで現状なのがおかしいんですよ」
でもさ、めんどくさ。権利関係でゴタゴタするのはいいけど、それに現場で実際に命張る人間を巻き込まないで欲しい。本気でウザいし。
上の人間がしっかりしてくれなきゃ、現場で戸惑うのは下の人間だもの。命令系統の混乱は、アウトでしょ。
組織というのは強い部分があるけど、それはそれぞれにそれぞれの仕事をキチンとした上だ。
なので、ぜひともしっかりして欲しい。いや、まじめにして欲しいよ。
「ヤスフミ、そんな言い方ない。クロノ達だって、一生懸命やってるんだよ?」
「いや、事実ではあるが・・・・・・とりあえず、そこら辺を無視して暴走しまくるお前には言われたくはないな」
「言われたくなかったら、僕達に迷惑かけずに、とっととこんな馬鹿げた状況を変えてくださいよ。
そうすりゃ、逆立ちしながらピーナッツを鼻からでも食べてあげますから」
「お前、そこまでかっ!? ・・・・・・とにかくだ」
「だから六課・・・・・・なんですね」
六課はミッド地上にありながら、直接的指揮権はクロノさん達本局組持ち。つまり、ミッド地上で自由に動かせる部隊になる。
地上本部とは指揮系統がまったく違うから、よっぽどの事がない限りは、レジアス中将の干渉は受け付けない。
≪最前線で事態の推移を見守り、場合によっては本局や聖王教会の戦力が整うまで、前線に立ってドンパチする。だからこその過剰戦力と指揮系統≫
「裏技気味でも、そんな小ずるく動ける部隊が必要だった」
前にヒロさんと、六課はまるで本局の部隊が地上で好き勝手したいがために作ったようなところがあるという話になったことがある。
それとは多少意味合いは変わるけど・・・・・・その通りなんだ。六課は、まさしくそのために作られた部隊だった。
「だから、これと」
「そうや、それが・・・・・・六課の意義や」
なるほど、そりゃミゼットさん達も絡むわ。管理局システムがぶっ壊れれば、なんにしても世界は混乱する。
だって、今まで世界を治めていた組織がなくなるんだもの。絶対にとんでもないことになる。
で、ようやく納得出来た。ヒロさんから話を聞いて、ずっと引っかかってたものがようやく外れた。
「で、みんなとリンディさんはこんなバカげたことのために、顔見知りだけじゃなくて、何も知らない人間を大勢巻き込んだと」
「・・・・・・・・・・・・そやな」
「恭文君っ!? あの、いくらなんでもそんな言い方」
なのはが途中で言葉を止めた。フェイトは、僕が言い出した時点から気づいてたからなにも言わない。
僕が今現在、相当怒っている事を。うん、怒ってるわ。あらかじめ知ってた部分を含めてもかなり。
「六課には、局の都合やこんな予言のことなんて知らないで、自分の夢や目標を追いかけるためにあそこに居ることを決めた人間も居る」
それを知りながら『意義』だとかなんとかって、よく言えたもんだよ。
「・・・・・・その勝手な『意義』のせいで理不尽に命を賭ける人間も居るって、忘れてない?
まー、ずいぶん横暴だね。アレだよアレ、局や世界の都合で振り回すにも程があるでしょ」
「忘れてない・・・・・・とは、言えないわね。実際問題、あなたの言うとおりですもの。
もちろん部隊員の皆さんに、任務外でご迷惑は決しておかけしません」
カリムさんがそう言うと、今まで空気だったなのはとフェイトが口を開いた。
「それは大丈夫です」
「八神二佐から、確約をいただいていますから。部隊員への配慮も含めて」
「・・・・・・それでは、聖王教会騎士、カリム・グラシアとしてお願いします。
華々しくもなく、危険が伴う任務になるとは思いますが・・・・・・引き受けて、いただけますか?」
・・・・・・ま、みんなの答えは決まっているか。
「・・・・・・非才の身ではありますが」
「全力にて、承らせていただきます」
なのはも、フェイトも、こう答える。局員として・・・・・・現状を放っておけないから。
「二人とも、お人よし過ぎない? 教え子や自分の被保護者や部下に顔見知りが、問答無用で巻き込まれてるのにさ」
≪そうですよ。特にフェイトさん、あなたですよ。エリオさん達はどうするんですか。
これは普通にリンディさんやクロノさんと喧嘩したっていいレベルですよ?≫
「そうそう。普通にクロノさんもそうだけど、後見人である以上はリンディさんも知っていただろうしさ。
それで六課にエリオ達を入れるのを止めなかったんだもの。なんでそれで全力で承っちゃうのさ」
僕はよーく覚えてる。フェイトはエリキャロの六課入りをそれとなく渋っていた。
でも、リンディさんとクロノさんは今後に繋がるものが得られると、フェイトに話していた。
繋がるどころか、下手すればここで終了のお知らせコースじゃないのさ。ありえないし。
リンディさん達もそうだけど、フェイトにも呆れてるんですけど。そんな即答するとは思わなかったし。
「もちろん、怒ってるよ? 私もそうだし、フェイトちゃんも。ね、フェイトちゃん」
「うん。でも・・・・・・ここではもう何も言わない。後でちゃんとお話はするけど、ここでは言わない。
だって、私達や他のみんなの分まで、ヤスフミが怒ってくれたんだもの」
・・・・・・なぜ二人揃って僕をそんなにこやかな目で見るのさ。
「というか、これからも怒ってくれるよね。私達が何も言わなくても、止めても、ヤスフミは怒る。
きっと、みんなの分まで沢山。・・・・・・ありがと。エリオやみんなは、あんな状態なのに」
「あの、勘違いしてない? 別に僕は六課のためになんて怒ってない。
こんなの、馬鹿げてるから馬鹿げてるって言ってるだけだし」
なぜだろう、二人が『そっか』とか言いながら、とても温かい視線を送ってくる。
正直それが色々と引っかかるんですけど。てーか、なぜにそうなる?
「騎士カリム、それにクロノにはやて。ヤスフミもさっき話していたけど、六課には本当になんの関係のない人間も居ます。だから」
「分かっている。僕達のありったけで、事件後に部隊員の誰も不利益など蒙らないようにする。
・・・・・・というより、それくらいはやって当然だ。前線に出て、君達と戦えない以上はな」
カリムさんとはやての目も見る。・・・・・・一応は、納得する。
ただし、マジでダメだったとか抜かしたらそん時は容赦しない。うん、絶対だ。
「それで、恭文君、アルトアイゼン。リインさん」
≪「「・・・・・・はい」」≫
「あなた達は・・・・・・どうかしら」
・・・・・・どうしようかね。正直、怒ってるのは別として、ちょっとビックリしてる。
なんつうか・・・・・・デカいなと。世界規模な事件か。いつもとはやっぱり違うね。
「・・・・・・恭文、リイン。どうするかは、お前達が決めろ。昨日話した通りにな。僕達は何も言わない」
「ちゅーか、うちらにその権利は存在しないわ。リインも、どうせアンタは恭文と一緒に居るつもりやろ?」
その言葉に、リインが頷いた。なんというか、はやての顔に若干諦めが見えるのは、気のせいじゃない。
「でな、話を戻すけど・・・・・・これ以上関われば、アンタ達はまた傷つくかも知れん。昨日と同じ事になるかも知れん」
その辺りを気にしてたのかと、納得した。・・・・・・確かに、その可能性はある。
「出来れば・・・・・・下がってて欲しいかなとは、ちょっと考えたりはしとる」
「保護されてろと? また今の今まで散々自分達の都合でこっちを振り回しておいて、勝手だね」
「・・・・・・うん、そやな。うちはマジで勝手や。そやから、言うとるんや。
その場合は、うちらで全力で保護して、身の安全は保障する。どないやろ?」
・・・・・・はやてが、見たことないくらいに心配してる顔で言ってきた。いや、みんなも同じ。
だから、左腕を撫でながら・・・・・・少し考えた。考えて、考えて、考えて・・・・・・思った。僕は、やっぱりこれだと。
「・・・・・・弱かったり、運が悪かったり」
口を開いて出てきた言葉は、やっぱりあの言葉。初めて聞いた時、その中に自分の理想を、願いを垣間見た言葉。
「何も知らないとしても・・・・・・それは、何もやらないことの言い訳にはならない。
僕の知っている凄く強くて、優しい人達がそう言ってた」
あの人達はそう言って、迷いながらも飛び込んでた。戦う事に、守る事に。
「僕も、その人達と同じ。ここで何もやらない言い訳なんて、ここで引く言い訳なんて、なんにも出来ない。出来るわけがない」
今を、そして未来を消さないために。大切なものを守るために、ありったけで戦ってた。
子どもみたいだけど、僕もそうありたいと、こうあれたらと何度も思った。だから、引けない。
・・・・・・その言葉だけで、リインとアルトには、伝わったと思う。
僕が今、本当にどうしたいのか、どうありたいのかを。
僕には、『魔法』を使うことも出来ないし、ヒーローにもなれない。
だけど、それでも出来る事がある。それは誰でもない、僕がやると決めた事。
「こんなくだらない予言のために未来が壊れるのなんて、僕は絶対に認められない」
「なら、リイン達のやることは決定ですね。でも・・・・・・恭文さん」
≪あなた、本当にそれでいいんですか? ハッキリ言って、こんな局の都合どうこうに付き合う義理立てはないと思うんですけど≫
「いいよ」
隣に浮かぶリインと、胸元から聞いてきたアルトに対して、僕はいつも通りに答える。
・・・・・・守りたいものが、壊したいものがあるんだ。それは、今という時間の中にある。
だから、戦うの。どんな業を背負っても、止まらずに、迷わずに飛び込み、戦う。
そうだ、話の大きさどうこうなんて、相手が誰かなんて関係ない。結局、僕はここなんだ。
僕は認められない。こんな現実も、そんな未来も、絶対に認められない。
認められないなら、それを壊すために戦う。立ち上がる理由は、最低でもそれで十分。
「てゆうか、勘違いしてる」
≪はい?≫
「これには局も、組織も、六課も、世界も、カリムさんの依頼も全く関係ない。
そんなもんのためになんざ、戦えない。僕にとっては、全部どうだっていいことだから」
みんなの視線を受け止めながら、右の拳を強く握り締める。
「誰でもない、ただの僕として。僕のわがままで、飛び込んで、戦う」
そうしながら・・・・・・僕は、宣言した。
「僕はどこまで行ったって、僕にしかなれないから。だからそんな僕が出来る事を、今やるだけ」
≪あの人達のように、ですか≫
「そうだよ。僕の時間が消えるのなんて、認められないから。・・・・・・アルト、リイン、悪いけど最後まで付き合って」
今回の一件の元凶は、現状ではあの男だ。そして、アイツは・・・・・・僕の大事で、大好きな女の子を狙ってる。
昨日のことでよく分かった。アイツを放置は出来ない。放置すれば、また同じことが起こる。そうして、傷つく人間が居る。
それは僕の身近に居るんだ。それも何人も。矛盾してるのも、歪んでるのもとっくに知ってる。ただ、それでも戦う。
そうして絶対に守る。迷うな、躊躇うな、そして止まるな。今やらなきゃいけないことは、それじゃない。
「ジェイル・スカリエッティを、壊す」
今僕がやらなきゃいけない・・・・・・ううん、やりたいことは、これだ。・・・・・・・・・・・・後悔させてやる。
「もうこんなことが出来ないように、二度と立ち上がれないように。
アイツという歪みを、その根源を、構成する全てのものを、壊す」
管理局でも、世界でも、規律や法律や常識でも無い。
世界でただ一人・・・・・・誰でも無い、この僕に喧嘩を売ったことを、絶対に後悔させてやる。
≪・・・・・・分かりました。というか、私達に喧嘩を売ってくれた礼をしなくてはいけませんし、頑張りましょうか≫
「リインも頑張るのですよ。というか、一緒に居るのです。
私だって、古き鉄なのです。・・・・・・あなたの一部なんですから」
「うん。というか、ありがと。・・・・・・あー、そういうわけなので」
その呆れた顔はやめて欲しい。全員揃ってそれはないでしょうが。
「・・・・・・ヤスフミ」
「なに?」
いや、聞くまでも無いか。この状況で言い出すことなんて、そんなにあるわけじゃないもの。
「最終確認だよ。本当に、いいんだね? 今ここでヤスフミが引いても、何もしなくても、誰も責めない」
「僕が責める。それに言ったでしょ? ここで何もやらないことの言い訳なんて出来ないって」
「うん、そうだね。さっきの理屈通りだと、言い訳なんて出来るわけがない。
だってヤスフミは・・・・・・運はまぁ悪いけど、事情を知って、力もあるんだから余計にだよね」
少し苦笑気味に、困ったようにフェイトが言う。それは、なのはとはやても同じ。
「てゆうか、やっぱ迷惑・・・・・・だよね」
僕がそう言うと、フェイトは少しだけ・・・・・・微笑んで、首を横に振ってくれた。
「私ね、今の話聞いて、少し安心したの」
「安心?」
「ヤスフミは、ヤスフミのままだったから。・・・・・・一緒に、戦おう?」
なんだろう、胸が締め付けられた。というか、ドキドキした。不覚にもシリアスモードでトキめいてしまった。
「フェイト・・・・・・あの、ありがと」
「うん」
少し、安心した。本当に変わってなくて、変えてなくて・・・・・・嬉しい。
それはフェイトだけじゃなくて、はやてとなのはも同じくらしい。本当に、そこはありがたかった。
「だが、実際にはどうするつもりだ? お前は現状では六課に居るわけだが」
「しばらくはお世話になりますよ」
僕がそうアッサリ言うと、みんながとても驚いた顔になる。
・・・・・・なぜこうなるんだろう。なんかフェイトが額に手を当てて、熱測り始めてるし。
「・・・・・・熱は平熱だよね」
そして、急に僕の右手をギュッと握り出したし。
「手は熱いけど、ヤスフミの手が普通の人より温かいのは元からだし。
ど、どうしちゃったのかな。私もてっきり、六課は出るものだと思ってたのに」
「・・・・・・ついさっき、ある人に言われたのよ。『六課から逃げるな』って。ここで六課から離れると、理由はどうあれそうなるの。
まぁだからって、さっき言った通り別に本局の人間として、組織の一員として戦うつもりなんざ、さらさらないけど」
≪まぁ、仕方ありませんよね。あそこまで言われちゃったら、引く言い訳も出来ませんし≫
まったく、人の気も知らないで・・・・・・でも、いいか。六課はどっちにしても今回の一件で先鋒になれるもの。
それなら、居ること自体にデメリットは・・・・・・あぁ、あるか。本局所属の人間とか言う風に見られるのは、結構キツいかも。
「・・・・・・なるほど、あの話はそういうことやったんか。
しかしヴァイス君が・・・・・・なんちゅうか、放っておけなかったんかも知れんなぁ」
「はやて、ヴァイス陸曹っていい人なんだね。私、あとでまたお礼言わないと」
「うちからも言うとこうっと。さすがにこれはそうせんとあかんやろ」
はやてとフェイトがなんか話してるけど、気にしない。
ヴァイスさんはシグナムさんの後輩だとも言ってたし、色々知ってるんでしょ。
「ただしはやて、分かってるとは思うけど」
「大丈夫や。後ろ盾はしっかりしとるから、動けなくなる言うことにはならん。
てか、なったらアンタ達はどうせ出てくやろ? で、うちらが止めても、好き勝手暴れる」
≪「「当然。クライマックスで暴れないなんて、ありえない(ですよ)でしょ」」≫
「即答すなっ! このアホトリオっ!!」
とにかく・・・・・・これで色々と話は決まった。僕は、覚悟を決めることになった。
戦う覚悟もそうだし、六課という場所に関わる覚悟もだ。・・・・・・なんつうか、嫌だね。こういうの、嫌いなのに。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そして夜。僕達は、隊舎に戻ってきた。
長いようで短い一日は、あっという間に終わりを告げた。
「・・・・・・でも、荷物とかはどうしようか。一度家に戻るなら、私、車出すけど」
「大丈夫、朝のうちに必要なのは運んでるから」
「リインとシャマルと一緒に、頑張ったのですよ」
「「す、素早い」」
僕も、今日から隊舎の空き部屋で暮らすことになった。なお、理由は簡単。
昨日ので僕も捕獲対象か何かになってると分かったから。というか、フェイト達も気づいてた。
僕もさすがに自宅は危ないと判断して、こっちに来る前にシャマルさんとリインに協力してもらった。
そうして、家にある装備はあらかた持ち込んでる。これがダメなら、裏ルートで行方をくらませることも考えなきゃいけなかったんだけど。
で、補足をしておくと、はやてやカリムさん達がこの事を僕達に話したのは、自分達で安全圏に保護という選択肢を考えていたから。
普通に『狙われてる』と話しても僕は絶対に飛び込む。だから、ビビらせて下がらせようという腹である。
まぁ僕達の様子を見て途中で方向転換して、どうするかは自分で決めさせようということになったそうだ。
とりあえず、装備品の確認して、点検して・・・・・・今日は午前様かな。
「でも、装備って何持ち込んでるの?」
「えっとね」
隊舎隊員寮のロビーの中で、僕は周りを見る。見て・・・・・・フェイト達以外誰も居ないのを確認した上で、小声で話し始めた。
「小刀に飛針に鋼糸、予備の小太刀四本、スタン・チャフなどの支援用の携帯グレネード各種」
グレネードとかの扱い方は、警防の方々に教わった。一応、使うことはないけど銃器関係も同じくかな。
・・・・・・部屋のど真ん中でスタングレネードの操作ミスって爆発させたのは、いい思い出である。
「あと、マジックカードと防刃・防弾製の特殊ジャケット。それにそれに、ZERONOSベルトにデンバードだね」
なお、デンバードはアルトのコントロールで無人走行させて運んだ。僕、左腕がこれだし。
うーん、普通に指とかも動くし、変な毒とかも混入されてなかったから大丈夫なのに。
だけど、シャマルさんの許可が出ない内に三角巾外すと怖いからなぁ。気をつけないと。
で、僕がそこまで言うと、三人が非常に呆れた顔をした。
「恭文君・・・・・・もしかして、家にいつもそんなの常備してたの?」
・・・・・・何がおかしいんだろう。リインとシャマルさんも、荷物を見て同じ顔してたし。
「いや、マジックカードや鋼糸とかは分かるの」
「だけど、支援グレネード各種に小太刀四本って、それを隊舎持込みって。
・・・・・・はやて、これいいの? 査察だって間近なのに」
え、そんなのあるのっ!? 僕そこは知らなかったんですけどっ!!
で、二人と同じように僕もはやてを見る。それで本当に大丈夫なのかと。
「あのさ、はやて。真面目な話、査察の邪魔になるとアレなら装備をどっかに隠すけど」
「問題ないよ。てか、アンタの事やから隊員寮でも簡単に見つからんように隠すやろ?」
「うん、そこはちゃんとする」
「ならえぇよ。ただ、うちらにだけはどこに隠したとか教えてくれると助かるわ。万が一の時はフォロー出来るしな」
まぁ、それで大丈夫なら・・・・・・でも、マジで隠し場所には気をつけておこう。
さすがに見つかって査察アウトとかなったら、今までと違って責任の取りようが無い。
「しかしアンタ、リアルエクシアとかセブンスモードとかやる気かいな。
それにアルトアイゼンと普段から常備しとる小太刀二本足したら、普通にそれやないか」
≪「「当然(です)っ!!」」≫
「そやから、即答すなっ! なんでそこにアルトアイゼンもリインも乗っかるんっ!?」
とにかく、今日はこれでもうお休み。・・・・・・長い一日だった。
でもまぁ、いいか。荷物の点検をした上で、ゆっくり休みましょ。
「それじゃあ、みんな・・・・・・もう大丈夫か?」
「うん、バッチリだよ。騎士カリムやクロノ君のお話を聞く限り、隊員達へのフォローもちゃんとしてくれるみたいだし」
「後ろ盾も万全だしね。問題ないよ」
その返事にはやてが満足そうに笑う。でも、甘い。次の瞬間、フェイトの視線が厳しくなったから。
「まず母さんには後でしっかりと・・・・・・うん、本当にしっかりとお話させてもらうし。
知ってたのなら、あの子達を入れるのを止めてもよかったのに。もう今からじゃ除隊なんて無理だよ」
あぁ、やっぱり怒ってたか。カリムさんの前で、一応公の場だから抑えてただけだったんだよね。
事情が事情だから話せなかったのは分かるけど、リンディさん・・・・・・これはフォロー出来ないわ。
「そうだね。ね、フェイトちゃん、私も色々言いたい事があるから、一緒させてくれるかな」
「うん、いいよ。・・・・・・はやて、次ははやてとクロノだから。覚悟、決めててね?」
「あ、あははは・・・・・・お手柔らかにな」
で、視線が僕に向く。というか、僕とリインに。
「僕も適当にやるし。あとは本丸の居場所を見つけて、ぶっ潰すだけでしょ。
言いたい事はあの場で言ったし、お説教には加わらないから安心して?」
「あぁ、それは助かるわ。いや、マジで助かる。フェイトちゃんはこう・・・・・・魂にきそうやし」
「元祖ヒロインなので問題ありませんっ!!」
『いや、それだけなのはすごい問題あるから』
まぁ、若干ボケてる人に全員でツッコミを入れつつ、話は進む。
はやては、僕達の返事(リイン以外)に満足そうに笑った。若干怯えも入ってたけど。
みんなでお休みと言って、僕達は寮の中へ入る。
なお、はやては部隊長室に少し取りに行きたいものがあるとかで、ここで一旦お別れ。
僕とフェイトとなのはにリインは、そのまま寮の中へ入る。
「・・・・・・あんなっ!!」
後ろから声がした。それは・・・・・・はやて。僕達はロビーの階段を上がる足を止めて、はやての方を見る。
「みんなに、めっちゃ寄り道させとるし、重いもんを背負わせてもうてるし、きっと迷惑かけるし。
うち・・・・・・うち・・・・・・まじ、ごめん。うちのわがままに付き合わせてもうて」
「・・・・・・もう、はやてちゃんってば。水臭いよ」
「そうだよ。さっき言ったでしょ? 私達みんな、大丈夫だから。
あとでしっかりお話させてもらって、それでおしまい。もう気にしないよ」
フェイトが階段を下りて、言葉を続ける。で、僕達もそれに続く。
「はやてちゃん、何言ってるですか? リインははやてちゃんの家族なのです。それになにより」
リインが僕を見る。そして、ニッコリと微笑む。
「恭文さんが、戦うと決めてるのです。・・・・・・これで付き合わないなんて選択、ありえないのですよ」
どうやら、リインにとってはそうらしい。ありがたいのはありがたいけど、普通にはやてが頭抱えてるのはなんとかしたい。
「・・・・・・あのね、はやて。私の執務官試験の時とか、なのはのリハビリや教導隊入りのこととか。
あとはヤスフミのこととかで、八神家のみんなにはお世話になりっぱなしだったでしょ?」
「それで、二人で相談して決めてたんだ。私もフェイトちゃんも、そのお返しが出来ればいいなって。
というか、前線で教導官という位置は、私の理想だったもの。絶対に寄り道じゃないよ」
なんか、そういうことらしい。・・・・・・てか、あっさり決めたのはそういう理由だったんかい。知らなかったぞ。
「というか、ヤスフミだって同じだよね。ううん、六課のみんなを放っておくことなんて出来なかった」
・・・・・・え、なんでそこで僕に話が回る?
「だから六課に残るって決めたし、みんなのためにあの場で怒った」
「だからその間違いだらけの翻訳はやめてっ!? どうしたらそうなるのさっ!!」
とにかく、一端咳払い。てゆうか、普通にフェイトとなのはのバカ翻訳はなんとかしたい。
いや、真面目に迷惑だって。なんでそんな好意的解釈をナチュラルに出来る? おかしいでしょうが。
「・・・・・・とにかく、僕は二人ほど殊勝な心がけはしてないよ。つーか、めんどい。
ぶっちゃけ、六課にそこまで思い入れもない。ただ・・・・・・まぁ、アレだよはやて」
あーもう、フェイトが余計なこと言うからなんか言いにくくなったし。
でも、まぁいいや。・・・・・・少し、吐き出そうっと。
「はやては、ドシっと構えてなよ。僕達は、僕達の勝手で戦う。つーか、巻き込んだとか寄り道とか今更抜かすな。
おのれやクロノさん、リンディさん達には、自分を含めて誰が死のうがどうなろうが、もうそんなことを言う権利はない」
言うなら、最初から巻き込まなければいいだけのこと。六課に知り合いを誰一人として誘わなければいいだけのこと。
だけど、みんなはほぼ知り合いで固めた。それも、自分の意思でだ。
今更そこを言う権利など、あるはずがない。それは、クロノさんやカリムさん、リンディさんも同じ。
最悪、なのはが死のうが師匠達が死のうが、エリオやキャロが死のうが、泣く事など許されない。
少なくとも、僕は許さないし認めない。そんな権利、与える気はない。
誰がどうなろうが、全部笑って・・・・・・いや、一生笑い続けて、受け入れるべきだ。
「むしろ『巻き込んで何が悪い?』くらいの顔しとけ。
はやてが今居る位置は、そういう顔しなきゃ座れない位置でしょうが」
「・・・・・・あははは、アンタはまたキツイなぁ。うち、普通にそれはヘコむわ。
せめて謝る事くらいは、許して欲しいんやけど・・・・・・アンタは、許さんか」
「そこまでひどくはないよ。ヘコむくらいは許してるつもりだよ?」
お手上げポーズでそう言うと、はやてが苦笑する。そう、苦笑するのだ。
「つか、こんなバカデカイことに巻き込んでくれた分、なんかあったら、今回のお返しにはやてを巻き込む」
「え?」
「もう、僕はそれで納得する事にしたの。・・・・・・ね?」
なのはとフェイトを見ながら、そう聞いてみる。二人は、すぐに『うん』と頷いてくれた。
「そうだね。それで行こうか。今度は、私達がはやてちゃんを巻き込んで」
「それで、私達もそういう顔をするんだ。『巻き込んで何が悪いの?』って。そうしたら、またはやてがそのお返しに私達を巻き込んで」
「なんやそれ。それやったら、ワガママ台風に巻き込まれるのがエンドレスやないか。ある種永久機関やで?」
「それでいいんじゃないかな。だって私達、友達なんだから。
うん、それでいいんだよ。私も、なのはも、ヤスフミも・・・・・・友達だから、巻き込まれるんだ」
そして、二人が敬礼のポーズを取る。
「八神部隊長。部隊長は、何も間違っておりません」
なのはがそう言うと、フェイトもそれに続く。
「だから胸を張って、ヤスフミの言うようにドシっと構えていてください。・・・・・・こう、エヘンと」
少しだけ、微笑みながらそう言うと、はやての表情がとても嬉しそうなものに変わった。
「まぁ、張るほど胸はないとは思うけどね」
「うっさいアホっ! 普通にアンタのバナナとか挟めるくらいはあるっちゅうねんっ!!
「きゃー、部隊長が部下にセクハラかましてきたー! そしてフカシこいてるー!!」
「フカシちゃうわっ! そして最初にセクハラかましたんはアンタやろっ!!
そういうこと言うならもうえぇわっ! 今ここでマジで試したろうかっ!?」
きゃー、部隊長が怒ったー。怖いよー。怖過ぎるよー。
「はやてちゃんダメだからっ! 普通に制服脱ごうとするのはやめてっ!?」
「・・・・・・バナナって、なんだろ。というか、挟むって」
「フェイトちゃん、もしかして分からないのっ!? ・・・・・・いや、いいの。
うん、そのまま真っ直ぐに育って欲しいな。そうすると、私はすごく嬉しい」
なお後日、マジで試すわけにはいかないので、そういう描写を含めた『はやて×僕』なエロ小説をこの女が書いて来た。
なお、普通にエロかった。普通によかった。普通にそれをおかずに出来るかと聞かれたら、間違いなく出来る。
で、リアルなスリーサイズのデータなどが入っていたそれを見て僕は、少し謝ったりすることになる。
けど、それは今回とは全く関係ないお話である。
「でも・・・・・・みんな、ありがとな。そこのチビ以外」
「はやて、なんか僕に対してだけ冷たくない? もっと優しさ欲しいよ」
「そうして欲しかったらあのセクハラはやめんかいっ! つーか、今度マジで挟んだるからっ!!
それで『うち×アンタ』を成立させたるからなっ! もう最初からエロエロしまくったるっ!!」
「だからそれはだめー! はやてちゃん落ち着いてっ!!」
やっと・・・・・・長い一日が終わった。来る時は少しだけ怖かったけど、それが杞憂だと分かってよかった。
やっぱり、バカと思うほどお人よしで、優しい友達達に感謝なのである。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・・・・・・で、自室に戻ったフェイト達と別れて・・・・・・まぁ、ヴィヴィオの事が気にはなってた。
だけど、夜に女の隊長の自室に乗り込むのもどうかと思って、自粛した。だって、僕男だし。
僕はともかく、フェイトやなのはが妙な目で見られるのは避けたいのだ。多少は抑えたい。
・・・・・・でさ、リイン。なんで僕と一緒に来るの?
「ここからは、リインは常に恭文さんと一緒なのです。
ユニゾンもバシバシ使っていいって、はやてちゃんの許可は取ってます」
「そうなのっ!?」
「はい。・・・・・・恭文さんとアルトアイゼンだけで戦うなんて、許さないのです。
リインだって、古き鉄なのです。一緒に戦って、あんな未来なんて、変えちゃいましょ?」
そう、笑顔で言ってくれた。・・・・・・それだけで、嬉しいし強くなれる。リインとは、心と心が繋がってるから。
本当に、僕の一部だから。一緒に戦えるというだけで、強くなれる。
「・・・・・・ありがと」
素直にお礼を言って、右手を伸ばす。僕の右側に居たリインを撫でる。
なんというか、触り心地にとても癒される。
「はいです♪」
あと、いつも通りの甘くて優しい笑顔にも。・・・・・・やっぱり、僕はリインが大好きらしい。
フェイトとは意味合いが違うけど、それでも大事で、大切。
「とりあえず・・・・・・あれだ、荷物整理しなくちゃ」
「そうですね、結構持ち込んでますし。それで、隠し場所ですね」
「全く、査察があるならあるでちゃんと話してくれればいいのに」
「今朝急に通達されたそうですし、仕方ないですよ」
これから、結構大変だと思いつつも、静かな隊員寮を歩く。歩いて・・・・・・決意を固める。
もう、引き返せない。引き返すつもりもないけど、頑張ろうっと。
「・・・・・・あのさっ!!」
声は、後ろから。そっちを見ると・・・・・・・・・・・・ティアナが居た。
上下白がベースでオレンジのラインが入ったジャージ姿で、拳をギュッと握って、僕をジッと見てた。
「ティアナ、どうしたですか?」
「あの、なのはさん達に今日から隊舎入るって聞いて。
ね、悪いんだけど、ちょっと付き合ってもらえるかな」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
リインを僕の部屋に送ってから、ティアナと二人で隊員寮の外に出て、隊舎の敷地の中を歩きながら話す事にした。
空には、光り輝く二つの月。なんというか・・・・・・やっぱり綺麗。
「・・・・・・聞いた。アンタが住んでるマンション、今日から突然改築工事始めたんだって?」
どうも、そういう風に話が伝わったらしい。
「で、住めなくなってこれから隊舎に寝泊り。まったく、昨日あんな事があった直後にそれなんて・・・・・・アンタ、マジで運無いでしょ」
まぁ僕が狙われてることとか、そういうのは話せないから仕方ないんだけど。
なので、僕も適当にお手上げのポーズをして返す。左手は動かせないので、右手だけ。
「運が悪いのはいつものことだよ。それで、用件はなに?」
「・・・・・・昨日の事」
僕の方を見ずに、ティアナはそう言った。まぁ予想はしてた。というか、それしかないと思ってた。
「別にアンタの行動が正しいなんて思ってない。思いたくもない。でも・・・・・・少し、言い過ぎた」
「いいよ、別に。気にしてないし」
「少しは気にしなさいよ。・・・・・・それはそれで、結構来る」
だって、事実だし。いちいち気にしてたら、問題児など出来ないのだ。
風が、少し僕達の間を吹き抜けた。それがなんというか、心地いい。
「・・・・・・スバル達はね」
「うん」
「やっぱり、納得し切れてないみたいなの」
だろうね、分かってたよ。そんな子達じゃない。目の前で誰かが死んで・・・・・・いや、殺されて、何も感じない子達じゃない。
「あの・・・・・・フォン・レイメイって奴の資料を渡されて、死体から検出した予想魔力値とか、身体能力のデータとかを見ても、それでも」
例え、相手が犯罪者でも。例え、相手があんな救いの無い野郎でもだ。
・・・・・・温いと言うべきか、優しいと言うべきか、僕には分からない。
「だろうね。みんなは魔法を『守る力』って言い切れるみたいだから」
守る力でなぜ殺すのかと、なぜ勝手なことをしたのかと、叫びまくってたっけ。
・・・・・・自分の選んだ選択をジッと見てたから、あんま聞こえてなかったけど。
「アンタは、違うの?」
「違うかな。てか、僕がそれを言っても嘘だと思ってる」
自嘲気味に笑う。それしか、出来なかった。
「僕は・・・・・・自分の力を、壊す力だと思ってる」
右手を上げて、見る。奪った手を、傷つけてきた手を。
「非殺傷設定を使ってても、常々思う。力を使う度に、誰かを傷つけ、踏みつけ、蹴散らしてるってさ。
相手が犯罪者かどうかなんて関係ないよ。殺さないかどうかなんて、関係ない。力は、力だから」
風が、また優しく吹き抜けた。本当に優しく。
「極論さ、戦いなんて手を取る時点で、結果はどうあれ最悪手も同じだと思うんだ。
話して、通じ合って、力は使わずに間違いを正す。何につけても、そっちがいいに決まってるんだから」
それだけで、鬱屈した気持ちが少し晴れる。そして、なぜか思い出した。
生と死の狭間の夢の中で出会った、あの人のことを。
「・・・・・・そっか。もしかしなくてもアンタ、こういう綺麗事とか嫌い?」
「嫌いだね。まぁ、他人が自分に対してだけ言う分には、何も言わないけど」
「他人・・・・・・というか、自分に対して言われるのは嫌だと」
なんだろう、ティアナは勘がいい。すぐに僕の言いたいこととか分かってくれる。その感覚が少し心地いい。
「てか、それでよく隊長達と友達出来るわね。反感買いそうなのに」
「結構最初の頃はゴタゴタしたよ?」
うん、かなりね。フェイトも今みたいに警防の訓練とか、そういうのを認めてくれてなかったから。
「それもかなり。特になのは辺りは、そういうのを本気で信じてるもの。まぁ、それでもなんとかね」
少しだけ、考える。考えて・・・・・・聞いてみることにした。きっととても無意味な質問を。
「ね、ティアナはどう思ってる?」
「私?」
「魔法を、守る力だと思ってるのかな」
「・・・・・・それは、思えないかな」
少し、意外だった。というか、あの時スバル達と同じような事言ってたのに。
無意味な質問は、もしかしたら意味のある質問に変わったのかも知れない。
「私ね、アグスタの時、ミスショットしかけたんだ。
ガジェットを撃墜するために撃った一発が逸れて、スバルの背中に当たりかけた」
で、直撃コースなそれを、師匠がアイゼンで打ち返したらしい。
・・・・・・てゆうか、僕が虫退治してる時に、そんな事があったんかい。
「・・・・・・それが原因?」
なお、それが『無茶した原因?』という意味で聞いた。
ティアナの表情が、少し変わる。自嘲するような、泣いているような顔になる。
「えぇ、そうよ。そして、『守る力』とは思えない原因。てゆうか、私はそんな可愛い性格してない。
本当に守る力なら、壊す力じゃないなら、あの時私、死ぬほど後悔したりしてないもの」
そして、ティアナはそれに頷いた。だから、こんな話をする。
「だから、あの子達みたいには考えられなくてさ。実を言うと、あんまりな剣幕に若干引いてる。
・・・・・・だからね、あの時アンタに怒ったのは、それじゃないんだ」
ティアナが少し視線を向ける。それは、海。六課隊舎は海沿いだから、風に潮の匂いが混ざってる。
とても懐かしい匂い。海鳴を思い出す匂い。それがなんというか、とても心地いい。
「なんだかんだでさ、アンタは致命的なまでに素直じゃないだけで」
「失礼な。僕はとっても素直だというのに。世界中で一番素直だよ?」
「・・・・・・一応は、うまくやれ出してるとは思ってたのよ。
意思の疎通も、そこそこ出来始めてるってさ」
無視された・・・・・・。てゆうか、一瞬、ティアナが僕を呆れたような視線で見たのはなぜだろう。なんだかちょっと気になる。
「私が怒ったのはね。・・・・・・アンタが、周りに居る私達のこと、私達の声。リイン曹長以外の全部、簡単に振り切ったことなの」
そして思い出す。・・・・・・うん、振り切った。だって、邪魔だったから。
スバルが実力行使で止めようとしてきたから、もうそこで振り切った。
「一応でもチームで、一緒に戦う仲間のはずなのに。
あの時さ、そういう風にすごく思ったんだ。ただ、それはちょっと理不尽なのよね」
ティアナが海に視線を向ける。なんとも言えない、複雑な色合いの瞳で、海を見つめる。
海は昼間の青ではなく、夜の闇の色や街の光、空に浮かぶ月の姿をその水面に映している。
「私達は誰も、アンタがなのはさんを止めたみたいには出来なかった。
もしも本気で止めたいなら、それくらいしてよかったのに」
「しゃあないでしょ。みんなは正式な局員だもの。あんな無茶、していいはずがない」
「でも、やり様はきっとあった。アンタを止める事だけじゃない。あの男を捕縛する方法もよ。
あの時のアンタやリイン曹長を納得させる物を、私達は出せなかった。だけど・・・・・・それでもね」
それでも・・・・・・ティアナは言いかけて、少し考えるようなしぐさを見せてから、口を開いた。
「アンタ・・・・・・ううん、みんなに、あんな重荷を背負わせるようなこと、して欲しくなかった。私が止めたのはそれが理由。
アンタに対してだけは、一応でも顔見知りとして。甘いって言われたらそれまでだけど、やっぱ嫌だったの」
「・・・・・・そっか」
沈黙が訪れる。夜の闇の中で吹く風の音が、耳に入った。・・・・・・だけど、沈黙は破られない。てか、僕に破る事は出来ない。
「あーもうっ! 何話せばいいか分かんないしっ!!
てーかこの沈黙なにっ!? なんかイラつくんだけどっ!!」
いきなり頭掻き毟り始めたっ!? というか、どうしたのさっ!!
「・・・・・・いやさ、何聞こうかって考えてたのよ。
例えば・・・・・・殺して今はどう思ってるのかとか、本当に平気なのかとか」
まぁ、ありがちな質問だと思った。というか、大半の人間が聞く項目でしょ、そこは。
「ただ・・・・・・よくよく考えたら、そんなの聞く必要がないのよ。だって、どう思うかなんてアンタやリイン曹長の勝手だし。
聞いたところで、それは私の自己満足に過ぎなくて、意味なんてない。・・・・・・てゆうか、聞いても話すつもり、ないでしょ?」
「うん。だって、マジで僕の勝手だもの。だから、人にとやかくなんざ言われたくない」
僕がそう言うと、ティアナはキョトンとした顔で目を見開いてから、クスリと笑った。
「そうね、私も言われたくない。てゆうか、それを見せろとか言われるとムカつくでしょ」
「うん、ムカつく。・・・・・・人に理解されるために、自分からそんな部分をなんざ晒したくない。
それを通さなきゃ理解出来ないってなら、僕は誰にも理解されなくていい」
・・・・・・なんだろう、少しこの時間が心地よくなってきた。というか、もしかして今・・・・・・ティアナと通じ合ってる?
「でも、スバル辺りは聞いてくれなさそうなのよね。
てゆうかさ、前に『力になりたいから』って、色々聞かれまくったことあるのよ」
「あぁ、ありえる。・・・・・・ね、あの子が空気読めないのは元々?」
「そうよ。『読まない』んじゃなくて、『読めない』の。それも致命的よ」
・・・・・・姉妹って、意外と似ないものなのかも知れない。ギンガさんはそこはちゃんとするのに。
「あと、エリキャロもか。こっちは空気を読まないって言うより、フェイトさんとかのこと心配してでしょうけど。
・・・・・・てゆうか、マジでなのはさん達は昨日の事、気にしてない様子なのよね。私達みんな、びっくりしたし」
「付き合い長いしね」
・・・・・・最初の時、僕がやらかしてるのを知ってるからだけど。そうじゃなかったら、きっと今のティアナ達と同じで戸惑いまくりでしょ。
「あと、気にしてないわけじゃないよ。ただ友達として、仲間として『変えないし変わらない』って言ってくれるだけ」
「そう。まぁアレよ、私が言うまでもないけど、そこは感謝しときなさいよ?
・・・・・・あぁ、違う。なんか違う。なんでこんな雑談になってるのよ」
どうやら、ティアナは少し情緒不安定らしい。また頭を掻き毟り始めたし。
「でも」
「なに?」
「アンタ、こんな風に話してくれるの、初めてよね。いつもみたいに隠そうとしない」
ティアナが僕の方を見て、意外そうな顔をする。それが、少しおかしい。
だって、今まで見た事のないくらいに無防備な感じがしたから。
「・・・・・・もう知られてる事について話してるもの。問題ないよ」
「なるほどね。だけどさ、それでもちょっとは嬉しいかな。
やっと普通に話せてるし。・・・・・・あくまでも、ちょっとだけよ?」
「分かってるよ。これはあれだ、いわゆるデレなんだよね」
「そうそう・・・・・・って、違うわよっ! あぁもう、アンタマジで最悪っ!! なんでそうやって落としていくわけっ!?」
・・・・・・まぁ、あと・・・・・・覚悟を決めたせいなのかね。
関わる覚悟、持ってく覚悟。あくまでも、ほんのちょっとだけど。
(第9話へ続く)
あとがき
あむ「いや、マジで怒ってよくない? あたしだって、普通にフェイトさんとかなのはさんの立場だったらキレるよ」
古鉄≪ですから、この話では後でしっかり怒ったんですよ? 事情云々を言ってたら話にならないですから、そこは抜きでしっかりと≫
あむ「あ、それなら納得だよ。・・・・・・えっと、本日のあとがきのお相手の日奈森あむと」
古鉄≪先日やったドキたまラジオ一回目の反響が凄くて、本当にビックリしている私、古き鉄・アルトアイゼンでお送りします。
さて、結構JS事件話第3話のコピペ部分が多かった今回の手抜きなお話、いかがだったでしょうか≫
(この部分はカットも考えたんですが、大事な話でもあるので敢えて多少変える形にして、やりました)
古鉄≪ここも一応TVでやった話なので、Remix対象になるというのも大きいです。
まぁアレですよ、作者も息抜きにメルティランサーとのクロス1話書き上げつつも色々考えてるわけです≫
あむ「作者なにやってんのっ!? てゆうか、そんなにゆかなさん好きなのかなっ!!」
古鉄≪なお、ゲーム三作目の『THE3rd.PLANET』とのクロスですね。破壊神官とかヴァネッサーズは空気ですよ。
基本カラバの亡命関係の話だけをやるOVA方式で、時期は六課始動の前年です。いやぁ、原作どおりに行くと、世界規模での大事件になりますね≫
あむ「そんな設定いいからっ! というか、普通になにやってるのっ!?」
(いや、なんかこう・・・・・・メルティ関係の曲とかドラマCDとか、丹下桜さんのラジオ・デ・アラモードとか聴いてたらいつの間にか出来ていて)
古鉄≪なお、個人で楽しむために書いたので、表に出すかどうかは保留だそうです。
というか、出すなら全話書きあがってからやりたいとか≫
あむ「てゆうか、どうしてそっち行っちゃうの?」
古鉄≪サードプラネットだと、地球の銀河系での自立や、クーデターや亡命という要素が絡んでるんですよ。
で、今までの話でそういう情勢的なものを書けてないので、テストケースとしてちょっとやってみたんです≫
あむ「まぁ、そういうことならあの・・・・・・納得した。確かに、世界規模の難しい情勢の中で恭文が戦うとかって、あんまりないよね」
古鉄≪あの人自体が権力者でもなんでもありませんから。それで、宇宙を次元世界。あの話の地球を、別の管理世界と置き換えるわけです≫
(現・魔法少女、とりあえず聞いてみることにした)
古鉄≪そうして、その世界の政府では管理局による管理に反発していて、自治権を認めさせたいとかなんとかいう話になると、まるで今までのとまととはまた違う色が出てくるのですよ≫
あむ「それって、ありなの? だって、管理局って色んな世界を管理して守るのがお仕事なのに」
古鉄≪管理局自体が矛盾を孕んだ組織ではありますし、生々しい組織の描き方は出来ますね。
というか、あの話の地球みたいに『自分達の住む世界は自分達で守れる』と思う人達は絶対いますよ≫
あむ「確かに、管理は『支配』に置き換えられるって意見もあったし・・・・・・なんというか、しゅごキャラクロスや電王クロスとはまた違うよね」
古鉄≪そうなんですよね。まぁ、全話出来たらまた考えることにしましょう。今の段階ではアレですよ、某巨大サイトの実験板みたいな感じですし≫
(現・魔法少女、青いウサギの言っている事がよく分からないらしい。というか、きっとネットのあれこれが分からないのだろう)
古鉄≪・・・・・・とにかく、次回は六課での日々が始まります。
嬉しい事もありつつ、驚愕するような事もありつつですが、応援していただけると嬉しいです≫
あむ「それでは、本日のお相手は日奈森あむと」
古鉄≪古き鉄・アルトアイゼンでした。それでは、また≫
(メルティランサーって名作だなと思いつつ、本日はさようなり〜。
本日のED:野上良太郎(佐藤健)『Real Action』)
フェイト(翌日)「ヤスフミ、はい・・・・・・これ」
恭文「へ? ・・・・・・あ、ケーキだ。というか、こっちはジャケット。これ、どうしたの?」
フェイト「だって、今日ヤスフミの誕生日でしょ? だから、誕生日プレゼントにケーキ」
恭文「・・・・・・覚えてて、くれたの?」
フェイト「当然だよ。お誕生日前で本当に大変だったけど、おめでと」
恭文「あの、ありがと。というか・・・・・・嬉しい」
フェイト「そうだよね。もうヤスフミ、結婚も出来るし、一応は大人の仲間入りをしたんだから」
恭文「そうじゃないよ。フェイトに、今まで通りにお祝いしてもらって、嬉しいの。フェイト、ありがと。ホントに・・・・・・嬉しい」
フェイト「・・・・・・うん」(そのまま、手を伸ばして頭を撫でる)
恭文「うー、子ども扱い禁止」
フェイト「あ、ごめん。なら・・・・・・こっちは?」(とりあえず、頬を撫でる)
恭文「うん、これならいいよ」
フェイト「よかった」
古鉄≪・・・・・・バルディッシュ、フェイトさんはどうしたんですか? 最近ちょっと勢い凄いでしょ≫
バルディッシュ≪Sirは色々気づいたおかげで成長しているんだ。温かく見守ってやってくれ≫
(おしまい)
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