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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第6話 『守るために壊すという矛盾? 後編』



突然の乱入者。それとの戦闘開始から、10数分という時間が過ぎた。あれから、この空間を支配するのは闇。

決して視覚的なことじゃない。それは、存在。数で数えられるもの。

そのひとつの闇の正体は、僕と鍔迫り合いをしている男。そう、このおっちゃんこそが、その根源。





そいつは、ただ存在しているだけで周囲に言いようのないプレッシャーを与える。

そして頭の中で声がする。その声は答え。この状況に置いての最善手。言うなら一番の答えだ。

僕は知ってる。こいつのような類は・・・・・・救いがない。信じる要素もない。





だけどその答えが声になる度に、さっきの怯えたキャロの瞳が脳裏にちらつく。

いや、みんなの顔までちらついてくる。・・・・・・だから無意味に馴れ合いなんざしたくなかったんだ。

みんなはサリさんやシルビィ達とは違う。優しくて・・・・・・だからこそ、弱い部分もあって。





戦ってる時にそんなみんなの声で躊躇ったり迷いたくしたくなかった。

別に一般局員に嫌われるのなんざ慣れてる。だから、普通でよかったのに。

僕が導き出したその答えは、最善手。だけど、同時に最悪手。




最善と最悪は存在する世界の形によって、現在進行形で変化するその形と連動して、その意味を変える。

まるで紙に、出来事に、事実に、人そのもに、裏表があるように、変わっていく。

優しいまでに理不尽に、そして残酷なまでにハッキリと、答えはその色を決められてしまう。





・・・・・・戦う人間が、人であろうとするなら、最善であるはずの答えは真逆の物に一瞬で形を変える。

だから、躊躇っている。この答えは、今居る場所を、繋がりを守ろうとするなら、決して取ってはいけない答え。

この手を取れば、僕は人から、そして世界からも、もはや『人』ではないものとして見られる。





そうなるのではないかと、恐れている。答えはもう・・・・・・出ているのに。










「お前、粗悪品ってどういう意味だ」



・・・・・・・・・・・・力を加え続ける。そして、一瞬で離れる。



「粗悪品だから粗悪品ですよ。私と違って、質が低いですから」



いや、二人同時に踏み込み、左から獲物を叩き込む。刃がぶつかり合い、火花を散る。



「・・・・・・・・・・・・納得だ」





その場でまた刃をぶつける。数度アルトを両手に持った上で斬り合いながらも、集中する。

コイツの動きを、刃の硬さを、そして斬り裂くべき悪意の大きさを見据える。

左側から襲い来る大剣をしゃがんで避けて、右から斬り抜けるようにして刃を腹に叩き込む。



余裕が無くて、魔力は込められなかった。その刃を、アイツは飛んで避ける。

だけど、わき腹を斬った。本当に少しだけ、刃の切っ先はアイツの皮と肉を斬った。

手ごたえがあったから間違いない。だから、反射的にそこを見る。



正確には、その痕を目で追って・・・・・・・思考が一瞬固まった。そのありえない光景に心の中で悪態をつく。

当然のようにおっちゃんが追撃をかける。放つのは、数発の射撃魔法。

構えもせずに、僕へと撃ち込んだ。僕は左手をかざして、スフィアを形成。それをそのまま放つ。





「クレイモアっ!!」





放たれたのは青い散弾。撃ってからすぐに後ろに飛んだ。そうして、撃墜地点から瞬間的に距離を取る。

散弾は弾丸の大半を撃墜。・・・・・・大きく回りこむようにして、左右から一発ずつ襲ってくる。

右から襲ってきたのを、アルトを打ち込んで斬る。その勢いのまま、時計回りに身体を回転させる。



そうしてもう一発をなんとか避ける。弾丸が背中を掠めても、その痛みに顔をしかめる暇は無い。



そのまま僕を通り過ぎた弾丸を狙って、左の人差し指を指す。





≪Stinger Ray≫





放たれたのは青い針。それが黒い弾丸を撃ち落とした。そうこうしている間に、剣が迫ってくる。

袈裟に叩き込まれたそれを、僕はアルトを打ち込んで弾き返す。

いや、そこから鍔迫り合いになる。・・・・・・だから、その気色の悪い顔はやめろ。



コイツ、真面目に虫唾が走る。なので、後ろに飛んで距離を取る。

一度目の着地点から数度大きく飛び、追撃で来た打ち込みや薙ぎ払いを避けた。

そして刺突。壁際に追い詰められていた僕は、左に飛んで避ける。



壁が両手剣の切っ先で砕かれ、穴を開ける。あんなの喰らったら、間違いなく死ぬ。

それにより、頭の中の声が大きくなった。・・・・・・うん、分かってる。

追撃して来ようとしたので、左腕を動かし数本の飛針を投擲。



だけどアイツは、それに構わずに突撃する。飛針が足に突き刺さり、自分のわき腹を掠めようと、構わずにだ。

そして、その傷口を見てまた悪態をつく。そうこうしている間に男は僕に肉薄してくる。





まだ、覚悟が決まらない。答えはもう、出ているのに。






「リボルバァァァァァァァッ!!」





拳が迫る。それはスバル。右の拳を振りかざして、僕へと殴りかかろうとしていたおっちゃんのわき腹を狙う。



おっちゃんは魔力弾を生成してスバルに向かって放つけど、スバルはそれをしゃがんで避けた。そうしつつスバルは前進。



そのまま、拳をおっちゃんの右わき腹にねじ込んだ。男の身体が曲がる。スバルはそのまま、拳を撃ち抜いた。





「キャノンッ!!」



一瞬、『ドン』という音と衝撃が空間に広がる。そのスグ後に、おっちゃんが吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。

僕とスバルは、その間に散開。土煙・・・・・・てか、壁煙に包まれたおっちゃんを見据える。



「・・・・・・やったっ!!」



きゃー! スバルがなんかバカなフラグ踏んだっ!!



「スバル、ナイスっ! これで決まりでしょっ!!」

「・・・・・・手強かったね」



ティアナとギンガさんまで乗ってきた。で、ちびっ子達も同じ空気を出してる。

本当に・・・・・・お前らはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



「このバカどもがっ! なにふざけたこと抜かしてんのさっ!!」

「そうですよっ! みんなしてありえないのですっ!!」



当然のように、僕とリインは怒鳴るのだ。それはもう全力全開で。



『バ、バカってなにっ!?』

「んなの決まってるでしょうが・・・・・・! それは間違いなく相手方の生存フラグなんだよっ!!」

≪あなた達、本気でバカでしょ。一体訓練校で何を教わってきたんですか≫



なんでみんな揃って、そんな性質悪いフラグを全力全開で成立されるっ!? マジで信じられないしっ!!

だから当然のように、僕達に向かって上から影が覆うのだ。それは剣を僕達・・・・・・いや、僕の頭目がけて突き立てた。




≪Sonic Move≫



これで一気に回避。僕達が先ほどまで立っていた地面が砕け、先ほどの壁と同じように穴を開ける。



「・・・・・・中々いい打ち込みでしたよ。タイプゼロ・セカンド。でも、惜しい」





ゆっくりと、頭上から襲撃をかけてきた男が立ち上がりながら声を上げる。

それにみんな動揺の顔を見せる。・・・・・・やっぱり、だめっぽいか。

フラグを踏まなくても、こいつは普通の打撃や魔力の攻撃じゃ倒せない。



そう、『普通』じゃ無理なんだ。ちらつくキャロの顔を・・・・・・振り切れない。

迷いは、やっぱりある。さっきので思い出す姿があった。忘れられない、忘れたくない姿。背負うべき戒め。

とにかく・・・・・・海上にいた師匠がこっちに向かってるそうだけど、それだってもう10数分はかかる。



そして、みんなもう限界だ。能力的にもそうだし、なにより精神的に目の前の闇に追い詰められ始めてる。



だから、全員の表情に落胆の色が明らかに見える。・・・・・・やるしかない。答えはもう、出ていたから。





「だが、残念だ。あなたには・・・・・・いや、あなた方には殺意が足りない」



男が笑う。心底楽しそうに、勝ち誇ったように。

まるで、心のそこから自分の方が優れていると誇らしげに言っているようにすら聞こえた。



「憎しみが足りない」



それを見て、心から思った。これはもうだめだと。もう・・・・・・やるしかないと。



「他者を喰い尽そうという覚悟が足りない」



男を取り巻くように、弾丸が幾つも生まれる。その数・・・・・・50近く。

くそ、なんだよこのバカ魔力っ! いくらなんでもこれでスタミナ切れしないっておかしいだろっ!!



「あなた達はそこの粗悪品や凡人のような屑ではない。なのに・・・・・・残念です」





黒い弾丸は全員へ迫る。ティアナが打ち込もうとしていた弾丸達を撃墜し、ティアナ本人へも残ったものが迫る。

ティアナはそれを後ろに大きく飛びつつクロスミラージュを乱射。全て撃ち落とした。

自分を左右から挟みこむように動いていたギンガさんとスバルにもその悪意は向けられる。



それを二人は防御魔法を展開して防ぐ。だけど衝撃が凄くて吹き飛ばされ、そのまま床を転がる。

エリオは前へ出て弾丸を斬り払う。だけど、数発は掠めてまたダメージを追う。

その後ろに居たキャロもプロテクションでエリオの脇を抜けてきた攻撃を防ぐ。



隣に居たリインが、フリジットダガーで残りを撃ち落とす。

空間は、爆煙と空気の震えで支配され、今の状況がどんだけ劣悪かを嫌でも知らせる。

そう、知らせてくるから、どんどん声が強くなる。もう、余裕はないと語りかける。



僕達は蹂躙されまくっていた。もちろん、ここまでに何発か当てた。

ギンガさんやスバルのナックルにティアナの弾丸が奴の身体を撃ち抜いた。

そして僕の斬撃やクレイモアも当てたのに・・・・・・コイツは倒れない。



キャロがレリックを持っている以上、戦闘は出来ない。いくらなんでも危なすぎる。リインも同じく。

サイズ的に近づくと危険。そのガードのために、エリオが下がってる。それでも数は4対1。なのに、倒せない。

瞬間詠唱・処理能力、僕はそれをしっかり扱い切れていないとは自覚していた。そこはもうしっかりと。



だけど、魔力資質が豊富な奴だとここまで驚異的な能力だったなんて。・・・・・・ちくしょお、なんか悔しい。

でも、ここにあるのは絶望だけじゃない。まだ有利な部分もある。アイツは『土産』とかなんとか言ってた。

レリックだけの話なら、とっとと最初の段階で攻撃の甘かったスバル辺りを殺せばいい。



でも、そうしなかった。つまり、土産として欲しいのはレリックだけじゃない。

ようするに、この中で殺したくない人間が居る。それは多分・・・・・・三人だけ。

ギンガさんとスバル、そしてエリオタイプゼロ・ファーストとセカンド、そしてプロジェクトFの遺産だ。三人に対しては、僅かにだけど攻撃が甘くなってるところがある。




だから瞬間詠唱能力を活かしてのタイムラグ無しの広範囲の殺傷攻撃とかはしてこない。

調子こいてるとか、色々可能性を考えたけど、それらを含めても、理由はこれが大きいはず。

アイツが僕達を本気で潰そうとしてないのは、ここで全員殺してしまっては意味がないからだ。



ただ問題が一つ。それが感じている危機感に拍車をかけてる。

その問題は、コイツが明らかにそれを『つまらない』と言った感じに思っていること。

何も言わない。だけど。やんなるくらいに空気から伝わってくる。



殺せるなら、殺してしまいたいと。理由は、自分が楽しむために。



その感情が理性を壊す可能性・・・・・・0じゃない。





”・・・・・・・・・・・・全員、聞こえる?”

”えぇ。なぎ君・・・・・・まずいよ、みんなもう限界”

”というより、なんで倒れないのっ!? いくらなんでもおかしいよっ!!”

”そうだね。だから全員、非殺傷設定を解除して”



全員の表情を見なくても分かる。みんな、何を馬鹿なことを言っているんだって思ってるんだ。



”何言ってるんですかっ!? つまり、それは・・・・・・!!”

”そうだよ、コイツを殺す”

”・・・・・・恭文さん、本気ですか?”

”本気だよ”





さっきからしてた声は、この答えしか現状を打破出来ないと言い続けていた僕自身の声。

培ってきたものが訴えかけてきている声。もう、躊躇う暇も、迷ってる暇ももうない。

もう、そんな余裕は使い果たした。殺さなきゃ、僕達はコイツに本当の意味で蹂躙されることになる。



そんなのは・・・・・・ごめんだ。ここで死んだらもう二度とあの子に・・・・・・あぁ、これはだめだ。



ぶっちぎりの死亡フラグじゃないのさ。言い訳どうこう現状どうこうの前にアウトだって。





”出来ないってなら、僕だけでやる。みんなは下がってて”

”なぎ君待ってっ! お願いだから落ち着いてっ!?
私達みんな居るのに、そんなことする必要なんてないよっ!!”

”そうよっ! どうしてそんな風になるのか、ちゃんと話しなさいっ!!”

”必要ならある。理由も、ある。まず一つ、僕と同じ能力瞬間詠唱・処理能力持ち。
ぶっちゃけ今は相当加減されてるからなんとかなってるけど、一気に沈めないとこっちがやられる”



そして二つ目、ここからがその一気にやる際に問題となる要素だ。

・・・・・・さっき、コイツの脇を斬った時に見てしまった。



”こいつ・・・・・・斬られながらその傷が治ってた”

”治って・・・・・・どういう、ことですか?”

”理屈は分からないけど、物理ダメージを与えても中途半端なのじゃ、その場で即時再生するってこと”

”アンタ、それマジ? ジョークだとしたら、かなり笑えないんだけど”

”残念ながら、マジだよ”





つまり、身体に高い再生能力が備わってる。さっき突き刺さった飛針の傷も、よく見ると治ってる。

結構深く刺さってるはずなのに、これはありえない。多少の傷なら、簡単に治るようだ。

すると、狙いは頭や心臓・・・・・・さすがにそこを潰されれば動けなくなるはず。もしくは首を落とすとか。



逆を言えば、それくらいのことをしなければコイツは止められないということになる。

多分、今までの攻撃で受けた物理的ダメージは全く意味を成してない。それくらいのことをされてないから。

というか、実は今までの攻撃で徹を何発か打ち込んでいる。それすら効果がない。





”・・・・・・徹の効果がないって、マジなのですか?”

”マジだよ。多分、受ける側から一気にダメージが回復してる。
相手の動きから察するに・・・・・・3〜5秒程度のラグはあるけど、それでも”



普通に効果が少ないとかそういうのはあった。うん、それは前にもあった。

でも、ダメージが受ける側から回復ってのはありえないぞっ! マジでどうなってるっ!!



”恭文さん、徹ってなんですか?”

”企業秘密”

”・・・・・・フィールドを抜けて肉体に直接的にダメージを与える内部浸透系の打撃技だよ。
なぎ君の手札の一つ。魔法を使わない、純粋に相手を壊すための技能”



ギンガさんっ! なに勝手に答えてるのっ!? ・・・・・・っと、誘導弾を斬り払いながら念話を続ける。



”魔法のそれとは全く違う。本気で打ち込めば、人一人くらいは簡単に半殺しに出来るの”

”アンタ、なんでそんなの使うのよっ! ・・・・・・え、ちょっと待ってっ!! そんなの何発食らってるのに・・・・・・あれっ!?”

”・・・・・・そう、アレだよ。正直僕も驚いてる。ダメージ自体はあるみたい。でも、すぐに回復してるの”

”でもなぎ君、それだけじゃ理由にならない。というか、なりえないよ”





うん、ギンガさんの言うように、これだけならまだ殺すという手に出る必要はない。

肉体ダメージがダメなら、魔力ダメージの方でやればいいんだから。

だけど、それも取れないほどにやばいところがある。それが三つ目。



ここまでギンガさんやティアナ、スバルに僕が数発当ててるのに、全然怯まない。

みんなと僕が今まで使っている攻撃は、当然非殺傷設定の魔力ダメージを与えるもの。

ようするに、決して肉体ダメージオンリーじゃない。魔力と肉体の両方にダメージを与えている。



にも関わらず、コレだ。で、魔力ダメージ自体も防がれてるとかそういうのじゃない。



防がれているわけでもない、ダメージは通っている。なのにコレ。その疑問の答えは、これしかない。





”魔力量もきっと尋常じゃないですよね。相手の魔力を削る要因は、恭文さん達の攻撃だけじゃないですよ?
大量の魔力弾数十発を一気に生成・発射・コントロールなんて、負担が大きいことを10何回もやっています”

”そうだよ、なのに、アイツには疲れた様子がまったく見えない。集中力が低下してる様子も無い。
多分、再生能力のせいで肉体の持久力まで向上してるんだ。だから疲れない”



つまり普通にやったんじゃ肉体ダメージだろうと魔力ダメージだろうと、傷を負わせられないし止められない。

・・・・・・無茶振りにも程があるぞ。これで魔力ダメージでノックアウト? 無理。絶対無理。



”なぎ君、『アレ』なら出来るんじゃないかな? ほら、リイン曹長も居るんだし”

”却下・・・・・・大却下。ギンガさん、ここがどこか分かってる?”

”・・・・・・確かに無理だね”





確かに、ギンガさんの言う『アレ』・・・・・・スターライトなら、魔力だろうが肉体ダメージだろうが潰せる。

だけど中途半端な攻撃をして、魔力が残ってたらその時点で逃がす。で、僕は逃がすつもりはない。

なので、それの回避のためにはチャージ時間を多く取らないといけない。それは当然隙になる。



タイムラグなしでこれだけの攻撃を仕掛けられる相手に、そんな余裕はない。あとは場所だ。

そこがこの手を取れない最大の原因。そこそこ広いとは言え、密閉空間。それも地下。こんなところでは使えない。

もしもここで今僕が考えているような出力で撃ったりしたら、僕達全員揃って生き埋めは確定。



それじゃあ意味がない。総合的に考えて、スターライトは賭けにもならない。なので、却下。



で、それになにより・・・・・・そうだ、次が一番大きな理由だ。





”最後に四つ目。・・・・・・僕の経験上、コイツはここで叩き潰さなくちゃいけない。絶対にだ”





土産に出来る『獲物』が六課に集中している以上、逃がせばコイツは絶対にまた来る。

それも、今回みたいに直接的じゃない。もっと陰湿に、そして狡猾に来る。

僕達じゃなくて、多分周りの人間を狙う。というか、魔導師以外の部隊員を狙うと思う。



そうして捕まえた駒を利用した上で、僕達に屈服を迫る。そういう例は、確実にある。

そうなったらもう手がつけられない。僕達の大事なものが、近くにある何かが壊れる。

みんな、いい子過ぎるくらいにいい子だもの。罠だと分かっていても、絶対にそれに乗る。



そんな状況は、絶対に許すわけにはいかない。そう、絶対にだ。





”なら、もうちょっとよ。コイツが色々とヤバイのは認めるけど、なんとかなる”



・・・・・・糞が。これだけ悪条件揃っててまだそんなことが言えんのか。なのはも師匠も、なに教えてる。



”今、ヴィータ副隊長が来てるんだし、それで形成は逆転出来る。
ここで止められなくても、撤退に追い込めればこっちの勝ちよ”

”恭文さん、もう少しだけ・・・・・・もう少しだけ、頑張りましょう”

”・・・・・・お前ら、僕の話聞いてなかっただろ”



話してる時間も、迷ってる時間も、もうないってのに・・・・・・! くそ、マジでGPOやヒロさん達がマイノリティってわけっ!?



”それじゃあ相手に撤退の選択肢を与える。却下”

”逃がしたくないですか”

”うん。それで『絶対に』が、上に付く”





今は僕達の能力差の問題があるから、アイツも余裕をかませる。

だけど、師匠が乱入してきたらそれが間違いなく無くなる。

そこで転送魔法を使ってサッサと逃げられたりしたら、アウトだ。



ダメ、逃がしたくない。逃がせば何かが確実に壊される。そんな予感がドンドン強まってくる。





”全員、腹を括って。迷うことも、躊躇うことももう出来ない。ここで、僕達だけで、絶対に殺すの。
・・・・・・みんなも魔導師だったら、戦う人間だったら、覚悟は決めてるでしょうが”





僕は決めてる。だから、こうやって話してる。僕は、それが戦う人間のやるべきことだと思うから。

もちろん、出来れば殺したくはない。でも、これはもうそんな選択を許してくれない。

このまま逃がしたら、フェイト達・・・・・・ううん、それ以外でも何かがきっと壊れる。



コイツの眼の奥にある悪意と妄執は、それをリアルに感じさせてくれる。

コイツと同じ色をした目を、何度も見てきた。もちろん、程度の差はある。

なお、一番はフィアッセさんを狙ってきたストーカーのおっさん。



だけど、コイツはアレをぶっちぎった。もう、見ているだけで寒気が止まらない。

僕は・・・・・・嫌だ。大事なものが壊れる未来に今が繋がるのは、ごめんだ。

いや、これは言い訳だな。理由がどうこうなんて、関係ない。



僕は、コイツを殺したいんだ。僕のわがままで、勝手で・・・・・・殺したい。





”まさか自分達の手にあるもんが何も傷つけないで、純粋に誰かを守るためだけに使えるもんだって、本気で思ってるわけじゃないよね?”



そう言えば、実行は出来なくても納得はしてくれると思ってた。いや、そうであってくれると楽だなと思ってた。

だけど、現実は悲しいことにいつだって思い通りにはいかない。だから、エリオとキャロが口を開く。



”恭文さん、何を言ってるんですか? ・・・・・・この力は、守るためのものです”



そこから感じられたのは、明確な怒りと嫌悪感。それを聞いて思った。



”絶対に、殺すためのものじゃない。僕は、反対です。そんなこと、する必要がない”



これは、ダメだと。コイツらは狭い枠の・・・・・・優しい現実の中でしか今を見ていない。



”いいえ、僕達は絶対にそんな事をしてはいけないんです。
僕達は、管理局の局員は、常に正しくなくちゃいけない”

”私も同じくです。恭文さん、お願いですからそんなこと言わないでください。
殺しても、本当の意味で守ることにはなりません”



だからこんな綺麗事を抜かす。『守る』って事がなんなのか、きっと考えずにだ。



”皆居ます。だから、絶対になんとかなります。
例えここで逃がしても、隊長達が居ればきっと大丈夫です。みんな強いんですから”

”二人の言う通りよっ! マジでふざけんじゃないわよっ!! ありえない・・・・・・殺すなんてありえないでしょうがっ!!
アンタ、なに考えてるっ!? そんなこと、私は絶対に認めないっ! 人殺しなんて、そんな行為をする奴なんて、絶対認めないからっ!!”



・・・・・・・・・・・・少しだけ、その言葉が突き刺さった。

だからかも知れない。アルトを握る手の力が強くなる。



”そんなの、アンタの言うヤバイ奴と同類ってことじゃないのよっ! そんな選択、私は認めないっ!!”

”そうだよ。・・・・・・私達は、絶対にそんなことしちゃいけない。私達は、アイツとは違う。
守るために、助けるために力を使わなきゃいけないんだから。そんなの、絶対にだめ”



・・・・・・・・・・・・よく、分かったわ。



”恭文、色々考えちゃうかも知れないけど、今ここに居る私達のことを信じて?
私達だけじゃない、隊長達や部隊の皆の事もだよ。絶対に、そんなことはさせない”

”恭文さん一人じゃないんです。お願いですから、落ち着いてください。僕達も居ます。
ここで逃がしても、次で捕まえればいいんです。まず、無事に場を切り抜けることを考えましょう”



つーか、分かってた。みんなは優しいし、綺麗事を通すだけの力がある。だから・・・・・・今、逃げたんだ。



”あのね、なぎ君”



この念話は、今まで黙っていたギンガさん。だけど、皆とは違うチャンネルで思念を送っている。

前方を警戒しながらも、僕にだけ聞こえるように話している。



”・・・・・・・・・・・・なに”

”お願いだからもう少しだけ考えて欲しいの。私は・・・・・・その手をなぎ君に取って欲しくない。ただね、勘違いして欲しくない。
例えその手を取っても、私は変えたりなんてしない。変わったりなんてしない。だけど、なぎ君に傷ついて欲しく、ない”



飛び交う誘導弾の対処にあくせくしている今の状況からすると場違いなほどに、少しだけ優しい声だった。

ううん、ありったけの優しさでギンガさんはそう言ってくれた。・・・・・・だから、言いたくなった。



”ギンガさん”

”うん?”



これだけは、ギンガさんにだけは・・・・・・一言だけ。



”ありがと”



もう、僕は止まれない。だから、ごめん。きっと傷つけるから。だから、これだけは言っておく。



”それで・・・・・・ごめん”



そして、僕は・・・・・・ギンガさんを除いた四人に、宣戦布告をかました。




”じゃあ認めるな”



目の前に迫ってきた黒い魔力の奔流を、逆袈裟にアルトを叩き込んで斬る。

目の前には爆煙。その中に包まれながらも・・・・・・宣戦布告を続ける。



”お前らに認められなくていい。そんなの、いらない。そうやって免罪符に頼って死んでろ”



もういい、よーく分かった。お前らは・・・・・・それでいい。でも、僕はそうはなれない。



”コイツを逃がして、本気でどうにかなると思ってんだったら、それはお前らが現実を知らないからだ。
目の前で外道な奴らに殺されかけてる人や、犠牲になった奴らを欠片ほども見た事がないからだ”



だから、その声を振り切る。お前らが追いつけない程に速度を上げて、振り切る。



”だけどな、僕は違う。だから僕の邪魔をするな。するなら・・・・・・・・・・・・お前らも、殺す”



誰かが息を飲む音が聞こえた。けど、気にせずに意識を集中させる。



”アンタねぇ・・・・・・! もういい、とにかく却下っ!!
とにかく、この場を切り抜けることだけ考えるっ! ヴィータ副隊長達の到着を待って”



勝手にやってろ。僕は僕で勝手にやる。そして見据える。目の前の悪意を。潰すべき害悪を。



「・・・・・・・・・・・・まぁ、そういうわけですから、おとなしく捕まってください。
大丈夫、例えば・・・・・・そうですね、プロジェクトFの遺産第一号である彼女」



一瞬で、誰の事を言っているのか分かった。だから、頭に血が上る。いや、温度が下がる。



「彼女ともまた会えますよ。私が捕縛して連れてきてあげますから。
まぁ・・・・・・少し遊んで、壊れてしまってるかも知れませんが」





それが何の意味を持つか、どんな未来を呼ぶ言葉か、理解した。

思い出すのは、二年前に見た二つの光景。痛みと悲しみの時間。

それを生み出した原因は、人と違う生まれ方をした事。



だから・・・・・・狙われ、踏みつけられる人達と出会った。





”・・・・・・恭文さん、リインも”

”だめ。下がってて”

”だめじゃないですっ!!”





一人は守れた。怖い思いをさせたことが申し訳なかったけど、それでも友達で居てくれてる。

でも、もう一人はなにも出来なかった。遠慮なく壊され、死を望むだけの存在になってしまった。

そして、その望みを叶えることも、手向けにその原因となった連中を殺すことも出来なかった。



本当に、何も出来なかった。今でも忘れられない、取りこぼした時間の一つ。





”私達は、三人で一つです。だから、引きません。それが、リインの願いですから。恭文さん、お願いです。
私も一緒に、戦わせてください。恭文さんとアルトアイゼンだけで戦わないでください。私は、三人で戦いたいんです”

”・・・・・・・・・・・・分かった。だけど、礼は言わないよ”

”いりませんよ”

”そっか”



何が違うと言うんだろうか。想いを、願いを、心を、命を持った同じ存在なのに。

僕と同じように、悩んだり、泣いたり、怒ったり、悲しんだり、感動したり、笑ったりして生きてるのに。



”・・・・・・それじゃあみんな、邪魔はしないでください。
いいですね、絶対に邪魔しないでください。・・・・・・少し、暴れます”

”リイン曹長っ!? あの、待ってくださいっ! 暴れるって一体なにするつもりですかっ!!”



それなのになぜ、普通と違うというだけで、あんな扱いを受けなきゃいけないのか。

正直、僕には分からない。ただ、それでも分かる事がある。



「・・・・・・お前・・・・・・から」





僕は、あんな時間は、あんな未来は認めない。だから全部は守れなくても、手の届く範囲は守ると決めた。

もう、どうやっても抑えられなくなった。心が、想いが、その中にある獣が、刃という一つの形を取る。

小さく、僕にしか聞こえないような声で言葉が漏れる。そう、それは答え。



害悪が存在するから、踏みつけられる人が居る。その一例が、目の前の男。





「あ、もちろんあなたも会えますよ」



お前のような奴が、スカリエッティのような奴が居るから・・・・・・・・・・・・!!



「殺そうかと思いましたが、やめましょう。もっといい方法を思いつきました」



そいつはおかしそうに、楽しそうに笑う。笑いながら喋る。



「・・・・・・私の手で、彼女が壊れる様を間近で見せてあげますよ。
いや、いっそあなたが大事にしているそのユニゾンデバイスも」

「残念ながら、それは無理なのです」

≪その通りですよ≫



声がした。僕の真横に、もうリインが来ていた。そして強く、決意をした瞳で害敵を見据える。



「ほう、なぜでしょうか?」

「あなたは・・・・・・ここで私達に叩き潰されるからです。絶対に逃がしはしません。許しも与えません。
無慈悲に、残酷に、そして躊躇い無く・・・・・・あなたから、未来を奪います。私達の勝手で、傲慢で」

≪またずいぶんとナメてくれましたね。・・・・・・それがとんでもない勘違いだと、今から私達三人が教えてあげましょう≫



リインの身体が青い光に包まれる。僕の身体も同じく。



「絶対に、絶対に・・・・・・私達の未来を、今を、消させないのです。
私も、今覚悟が決まりました。あなたを・・・・・・壊します」

≪さぁ、この世に別れを告げるなら早く告げなさい。
もうあなたの未来が消えるのは決定なんですから≫



湧き上がるのは力。本当だったら、こんな事のために使いたくない力。

未来を、今を・・・・・・時間を守るための力。どんな形でも、先に繋がっていく何かを守るための力。



「・・・・・・す」

「はい?」

「お前には、罪を数えさせない。・・・・・・殺す」





身体を包む光が、輝きを増す。躊躇いも、迷いも、全てを抱えた上で前に進む力を僕達にくれる。



そう、そんな力を・・・・・・殺すために使う。ここで何もせずに、壊される未来など許せないから。



・・・・・・ごめんなさい。もらった力を、こんな事のために使ってしまった。





「「・・・・・・ユニゾン、イン」」





青い光に身体が包まれる。その中で、風が吹き抜けた。



優しく、暖かい風。そして、そっと頭に手が乗った。



それだけじゃなくて、声がした。ただ一言・・・・・・『大丈夫だ』と。





”恭文さん、今の”

”・・・・・・リインも聞こえたの?”

”はい”





・・・・・・ありがとう、ございます。でも、やっぱりごめんなさい。

僕は、どこまで行ってもバカみたいです。古ぼけた鉄なのは、変えられない。

それにリインを付き合わせてるので、更に上乗せされます。



海鳴に戻ったら、謝らないと・・・・・・いけないよね。うん、マジに謝ろう。





”恭文さん、リインはアレ・・・・・・やってみたいです”

”アレって?”

”前に恭文さんがやってたのですよ。というか、やりましょう? いつも通りに、『らしく』です”

”・・・・・・そうだね、らしくいこうか”

”はい”





地下という閉鎖空間で吹きぬけた優しい風と、青い光の中、僕とリインは一つになる。

まずバリアジャケットの上着部分が消えて、黒のインナーのみになった。

そのインナーが、瞬間的にリインの甲冑の上半身部分と同デザインに変化する。



腰にも、リインが身につけていたフードが装着される。

ただし、両方とも、白だった部分は青へと変わっている。

僕のブーツも、リインと同じものになる。こっちの色は黒。



ジーンズ生地風味のロングパンツが、少しだけ明るい色になる。

左手のジガンスクードも同じ。鈍い銀色から、明るい白銀色へと、色を変えた。

そして最後に、僕の髪と瞳がそれぞれ色調を変えた空色になる。



全ての変化を終えて、僕達を包んでいた青い光が弾ける。散った光は雪となり、僕達の周りを舞う。

・・・・・・リインとのユニゾン形態。あの人から貰った、今を覆し、未来を繋いでいく大切な力。

舞い散る雪の中で、ゆっくりと・・・・・・アルトを握る右拳の力を強める。



・・・・・・認められない今の中で、最初にやるべきことはたった一つ。





【「・・・・・・・・・・・・最初に言っておく言っておくです」】





今という時間が過去へと変わり、時の流れの中へ消えていく一瞬の中。

その中で生まれてその姿を現すのは、揺ぎ無い決意と強さ。

左手を上げ、その人差し指の先を男に向ける。そのまま、男を鋭く睨み付ける。



僕達は弱い。迷って、戸惑って、間違ってばかり。だから、敢えて言葉にして、叫ぶ。





【「達はかーなーり・・・・・・!」】





この決意は、この強さは、決して揺らぐ事も、止まる事もないと、思いを込めて叫ぶ。

そうして、自身の心に、時間そのものに、それらを深く・・・・・・深く、刻み付ける。

そう、これは誓い。誰でもない、自分自身にしか意味を持たない誓い。



今、その誓いは声となって、世界に響き、今という時を刻み付ける。





【「強いっ!!」】



コイツを、この手で叩き潰す。例え命を、未来を奪ったとしても、絶対にここで止める。

それが、僕の・・・・・・僕達の、誓いだ。



「・・・・・・アルト、リイン、いくよ」

≪【はい】≫



ソイツは、僕達を見てまだ笑う。本当に、心から楽しそうに笑うから、僕達は前へ踏み込んだ。

踏み込む僕を見て、そいつが左手を上げる。すると、黒い魔力の砲弾が一瞬で形成され、僕へと放たれた。左に飛んで避ける。



”バカっ! 一人で飛びこまないっ!!
てゆうか、リイン曹長もなにやってるんですかっ!? お願いだから落ち着いて”



念話をシャットアウト。悪いけどもう止まるつもりはない。

迷うな・・・・・・躊躇うな・・・・・・そして止まるなっ! 今やらなきゃいけないことは、それじゃないっ!!



「恭文、駄目っ!!」



僕を止めようと飛び込んできたスバルを体を回転させながら、右足を胴に向かって叩き込む。



「・・・・・・げほ」



なお、すぐに邪魔出来ないように徹を込める。スバルの口から、透明な液体が吐き出された。

問題は無い。僕は、もう警告してる。警告した上で来たんだ。殺される覚悟くらいは、してるでしょ。



「スバルっ!!」

「・・・・・・言ったはずだ。邪魔するなら」



飛行魔法の応用で身体をさらに回転させる。そうして、全力でスバルを蹴り飛ばす。



「潰す」

【同じくなのです】



スバルの身体は、近くの壁に叩きつけられた。そして、もう動かない。

ギンガさんとティアナも踏み込んできたから、左手を向ける。



≪Stinger Ray≫

「スナイプショット」

【フリジットダガー!!】





スティンガーとダガーを、ティアナ達の足元に打ち込んだ。それらは地面を砕き、破片が爆ぜる。

二人が僕を見る。そして、呆然と立ちすくむ。多分、分かったんだろう。

これは警告。邪魔するなら、遠慮なく撃つという警告。二人はそれが分かったから、動きを止めた。



僕は、そのまままた踏み込む。勢いのままに攻撃を打ち込む。

打ち込まれた攻撃は、宙を斬った。おっちゃんは少し下がって僕の斬撃を避ける。

まだ、アイツは笑う。きっと、心底人を踏みつけるのが楽しいのだろう。



冷静になれ。ハートは熱く、そして頭はどこまでもクールにだ。





「くくく、いい顔ですね。ですが・・・・・・その程度の殺意では、殺せませんよ?
あなた方も結局、免罪符に頼り切っている生活を送っているんですから」



そうだね、だから・・・・・・僕は、鎖を噛み砕く。開放するのは、それに縛り付けられ、僕の心の中に眠る獣。



「あなた達は、私を潰すことなど出来ない。そのユニゾンデバイスと一緒になど、絶対に無理だ。
同じ間違いを繰り返すんですか? また、大事な約束とやらを破るんですか?」





そんな免罪符を捨てて、目の前の害悪を叩き伏せるために、壊すために、その力と想いを開放する。

胸から体中に広がるのは、今までとは質の違う力。魔力でも、腕力でもない。それは、心の力。

ただ目の前の害悪を壊すために存在する純粋な衝動。その衝動から生まれる全てを斬り裂く力。



本気中の本気。僕にとっての全力全開。時間はかけない。・・・・・・一気に、潰す。





「出来るわけがない。そう、あなた達には無理だ。おとなしく・・・・・・壊されてなさい」

【「・・・・・・うな」】

「は?」



それから、一瞬の沈黙。そのまま、互いに踏み込んだ。薙ぎ払われた大剣は宙を斬る。

僕は上に跳んでいた。そして左腕を動かす。鋼糸が、そいつの腕に絡みつく。



【「・・・・・・笑・・・・・・な」】





そのまま、魔力を込めた上で大剣を持った腕に絡みついた鋼糸を引っ張って、絞り込む。

肉と骨が鋼糸が絞り込まれることで、乱暴に巻きつけられた糸に刻まれるように両断される。

血と肉片が撒き散らされ、地面にまき散る。そして、腕と剣が落ちて、音が響く。



男は痛がりもせずに魔力弾を数発生成。僕に向かって発射する。





≪Sonic Move≫





魔法を発動。それにより、弾丸を避けた。いや、アイツの腕がない方に回り込む。

そこに向かって左足で蹴りが飛ぶ。それをアルトの柄尻で受け止める。

いや、徹を叩き込む。おっちゃんは顔をしかめて、足を引く。



どうせすぐに回復する。でも、ほんの一瞬でもラグがあれば、そこが隙になる。

僕は、前に踏み込む。刃を左から薙ぐように叩き込んだ。

・・・・・・いや、叩き込もうとした時、千切れたアイツの腕が再生した。



血と体液で滑りを帯びた腕は、貫手の形を取って僕に突き出された。



それは、的確に・・・・・・男の目の前の悪意、すなわち僕を貫いた。





「・・・・・・油断しましたよ」



身体に走るのは痛み。そして、傷口から血が溢れるように出る。だけど、止まれない。まだ・・・・・・止まれない。



「だが、これで終わり・・・・・・じゃありませんか」



僕は咄嗟に左腕を出して、ジガンでガードした。万が一貫いても、腕が両断されないように貫手の角度に合わせた上で。

魔力を込められていたであろう貫手は・・・・・・マジでジガンの装甲を貫き、僕の腕も貫いた。



”リインっ!!”

”問題・・・・・・ありませんっ!!”





そう、万が一は現実になった。肉と装甲を貫いた指の先が、僕の目の前に見える。

それを包み、刃と化していたのは黒い魔力。どす黒い、憎悪の力。

一瞬止まる。だけど、すぐに動き出す。僕達を・・・・・・殺すために。



だから僕達も、動いた。というより、動いてる。ほんの数瞬、僕達の方が早かった。





【「グラキエス・・・・・・!!」】



僕の下半身に形成されるのはスフィア。アイツの胴に向かって、それを発射した。



【「クレイモアっ!!」】





男は、目くらましか後退のタイミングを計るためと思ったのだろう。引かずに、僕の顔を突こうとする。

だから、コイツは僕に負ける。・・・・・・瞬間、血しぶきが舞った。

それが僕の胴を、足を、赤い・・・・・・どこまでも深い赤色をした液体で濡らす。



青のジャケットが、深い赤色に所々染まった。





「・・・・・・え?」





男が予想外と言わんばかりに声を上げる。そりゃそうだ。僕が撃ったクレイモアは、魔力弾じゃない。

・・・・・・撃ったのは、金属のベアリング弾。人間相手には普段は絶対に使わないバージョンのクレイモア。

そこに氷結魔力を付与して、威力を上げている。普通の防御魔法じゃ、身を守れるはずがない。



氷に包まれた鉄の散弾が男の下半身を蜂の巣にする。それにより、男は立てなくなって、前のめりに倒れる。

僕は後ろに飛び、腕から貫手を抜く。倒れていく男に向かって、もう一度左手を向ける。

左手には、ベアリング弾。男がクレイモアが来ると思ったのか、瞬間的にシールドを張る。



撃てばシールドにクレイモアが弾かれ、僕の方が散弾の餌食だ。



でも、それだけじゃない。僕の周囲に本当に沢山の魔力弾。でも、甘い。





【フリジットダガー!!】

≪Stinger Snipe≫





僕の周囲にも、多数の氷の短剣が生まれた。そして、スティンガーを最高速度でコントロール。

まるで弾丸達の間を反射するように動くスティンガーと、放たれたダガーによって、その全てが一瞬で潰される。

ここは予想済み。どうせ自分は何発か食らっても無事とか考えてたに決まってる。再生能力持ちの手段なんざ、読むまでもない。



とにかく男が次の手を取る前に、渦巻く爆煙の中で僕達はすぐに次の手を取る。





【アルトアイゼン、フルドライブ・・・・・・スタートですっ!!】

≪Standby Ready≫



ベアリング弾を消す。男が一瞬だけ、驚いた顔をする。そして、また笑う。



【イグニッションッ!!】

≪Ignition≫





そうして打ち上がっていくのは青い刃。・・・・・・放つのはクレイモアじゃない。

てーか、こう来るのも分かってた。伊達に場数は踏んでない。

確かにクレイモアは強力な攻撃で切り札の一つだけど、絶対じゃない。



理由としては、物理攻撃を弾く特性を持ったシールド魔法では、使用に危険が伴うから。





【「笑うな」】



貫ければいい。でも、貫けなければこっちが蜂の巣。もちろん、そうなったら死ぬ。

実弾クレイモアは、そういう賭けをしなくちゃ使えない。



【「笑うな・・・・・・!!」】





そしてこの状況で二度もそんな賭けをするほど、僕はバカじゃない。

一度・・・・・・そう、一度だけ勝てればいい。僕達には、まだ手札があるから。

・・・・・・そうだ、今から使うのは相手を倒すためではなく、殺すための刃。



痛む左手を引いて柄尻に添え、ありったけの力で握り締める。



男は、僕達をまだあざ笑っている。・・・・・・この男は、まだ笑えるのかっ!!





「誰かを、何かを踏みつけておいて」

【壊す事を想像して楽しそうに】





僕達にはやれるわけがないと、この盾を斬れるわけがないと、自分を殺せるわけがないと、タカをくくっている。

僕達が殺傷攻撃を使ったのはハッタリで、ただ動きを止めるためだけだと思ってる。

僕達を止めるギンガさん達の声が聞こえる。けど、気にする価値もない。もう、通すと決めた。



刃が線を描く。それは、破壊の線。その線上に存在するものを否定する力を持った線。



歪んだ命を守る黒き盾も、そして男の存在も否定する破壊の線が、闇を切り裂く。





「笑ってんじゃ」

【笑うんじゃ】





スカリエッティやお前みたいなやつが居るから、あの子はずっと過去を気にする。

自分は人と違うと、だから悩んで諦め続けて・・・・・・気づかない間に無くしていく。

そんなの、当たり前なことなのに。人と自分が違うのは、誰だって差はあれど当たり前なことなのに。



その当たり前なことに心を痛める。・・・・・・いや、そんなの関係ないか。てか、言い訳だ。

僕は、お前を理由はどうあれこのまま放置なんて出来ない。だから、お前を殺す。僕の勝手で、わがままで、お前の未来を奪う。

そうしなければ、僕も、ギンガさん達も、誰もお前を止められないから殺す。言い訳するつもりはない。



恨むなら恨め。・・・・・・教えてやるよ。授業料はお前の命だ。

未だに自分を殺せないと思っているのが、僕達が侮っているのが勘違いだと教えてやる。

僕は、奪える。壊せる。だって、僕の力は・・・・・・壊す力だから。・・・・・・凍華、一閃。





「ねぇよっ!!」

【ないですっ!!】










唐竹割りに刃を叩き込む。叩き込まれた刃によって描かれたのは線は、一瞬だけ極光とも呼ぶべき輝きを放つ。

それが、黒い円形のシールドを真っ二つにして、男の身体へと肉薄する。そして、斬り裂いた。

頭を、首を、胴を、崩れ落ちていたアイツの身体を縦からまるで叩き潰すかのように、一刀両断にした。





そう、この日・・・・・・僕はまた、この手を血に染めた。大事な女の子も巻き込んだ上で。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・・・・・・・人が死ぬのを見るのは、別に初めてじゃない。

スバルと一緒に災害担当の部署に入ったのが、その理由。

だから、分かってる。人は誰だって死ぬんだと。兄さんもそうだった。





だけど・・・・・・人が死ぬのは見た事があっても、『殺される』のを見たのは初めてだった。

命が、奪われた。それも目の前で。それを成したのは、私達の顔見知りと上司。

青い凍れる凍度を秘めた刃が肉体を両断して、命を壊した。時間を、未来を奪った。





もしかしたら、これから先・・・・・・万が一にもあの男は更生したりしたかも知れない。

だけど、そんな可能性も消えた。アイツが、リイン曹長が、奪ったから。

私は自然と拳を強く握る。握り締めて、歯を食いしばる。感じているのは、怒り。





そう、怒りだ。多分それは私だけじゃなくて・・・・・・他のみんなも感じていること。

まぁ、私は少し違う色合いだ。・・・・・・悔しさと苛立ちが交じり合う。

全部を振り切った。アイツは、リイン曹長とアルトアイゼン以外の全部を振り切った。





・・・・・・なに、やってんのよ。










「なに・・・・・・やってんのよっ! アンタも、リイン曹長もっ!!
どうして、どうして私達のこと振り切ってこんな真似したのよっ!!」










返事は返ってこない。どんなに叫んでも三人には届いていない。





アイツもリイン曹長も、アルトアイゼンもただ・・・・・・自分達が壊したものの残骸を見つめていた。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS Remix


とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常


第5話 『守るために壊すという矛盾? 後編』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・・・・・・・とりあえずバカ弟子以外のフォワード陣は全員連れて、今からそっちに戻る。
リイン、シャマルはバカ弟子とちょっと話すから』

「そっか。・・・・・・で、そのバカ弟子とリインはどないな様子や?」

『平気にしてる』





ロングアーチのオフィス。自分の席で画面に映るスターズ分隊・副隊長の報告を聞く。

とりあえず、事後のそれとかこれは別として、長くて最悪な休日は一応やけど、終わった。

召喚師は逃がしてもうた。せやけど、レリックは無事確保。隊員達も全員軽症程度で済んだ。



・・・・・・平気な『ふり』をしとるあのチビスケとリイン以外は。そう、あの二人は・・・・・・深い傷を負った。

ヴィータが到着した時、アイツが襲ってきた相手がもう見分けつかんくらいの力で一刀両断にした直後やった。

恭文のジャケットは返り血と肉片塗れで、思わず息を飲んだそうや。てーか、普通に今日は肉が食えん。



そう、アイツは殺した。犯罪者と言えど、人を。また・・・・・・そう、また殺した。そやから大騒ぎや。

スバルにエリオとティアナは叫んでアイツを糾弾するわ、キャロは崩れ落ちて呆然とするわで大騒ぎやったとか。

なお、ギンガは・・・・・・必死に耐えてる様子やったそうや。泣く事も、崩れ落ちる事も、糾弾する事もせんかったとか。



そしてアイツは・・・・・・ただ、自分の殺した相手の姿をじっと見とったそうや。目を逸らさずに、じっと。

自分のやったこと、取った選択、その結果を目に焼き付けようとしてたとヴィータが言っとった。

なので、その場から無理矢理引き剥がして、全員そこから脱出して、今に至るわけや。





『二人揃って平気な顔をしながら、シャマルの治療受けてる』





現場リーダーの指示を無視。味方内に遠慮なく攻撃・・・・・・こりゃ、またお給料カット期間が増えるな。

でも恭文、アンタがそこまでするなんて、うちちょっと信じられんのよ。特にスバルに本気で攻撃や。

なんだかんだでスバル達とも上手くやれとる感じやったし、なんでそこまで・・・・・・あぁ、そういうことなんか。



アンタがそこまでして危機感を持ったちゅうことか。それほど相手はイカレてたんやな。

そうせんかったら、誰か死ぬと思った。そやから、リインも覚悟決めて付き合った。

ちゅうか、付き合わん道理ないわな。あの子、アンタのこと大好きやもん。・・・・・・家族としては色々ある。



せやけど、うちは何も言わん。そもそも、うちは言う権利そのものがないわ。





『それを見て、スバル達がまた火が付きそうだったからよ。
無理矢理引き剥がした。・・・・・・部隊長、なのは隊長達には』

「もう連絡しとる」



さすがに話さんわけにはいかん。どうせすぐに分かることや。



「二人して呆然としとったわ」



そりゃそうやろ。知り合いがリアルタイムで殺しやったとか言われたら、そりゃあびっくりする。うちかて同じや。

とにかく・・・・・・やることやろうか。うちもあのチビスケやリインと同じで、まだ止まれん。



「とにかく、お疲れ様。悪いんやけど、シャマルにはしばらくの間、リインと恭文のことお願いって伝えてもらえんかな」



やることの一つ。まずは部隊員のメンタルケアや。



「あのバカ二人、自分達だけで抱え込もうとしとる。仕事はなんとかしとくから、そこだけ頼むわ」

『・・・・・・分かった』





隊員のメンタルケアも一応の仕事。ここはしっかりやらなあかん。

もちろん、スバル達のフォローも必要やけど、まずは恭文や。

恭文はシャマルやリインに任す。スバル達は、うちらでやればいい。



アイツは、過去に同じことをやった。そして、それを最悪手で、間違いやったと思っとる。



今回は、リインを付き合わせた。今、アイツがどんな思いしとるか、正直想像出来ん。





『それではやて、バカ弟子達がやりあったチート野郎のデータはもう送ってるから、調べておいてくれよ。スバル達だってバカじゃねぇ。
あの場で自分達がやりあってたのがどんだけ危険な奴なのかとかが分かれば、問題はない・・・・・・はずだからよ』



言い訳やな。アイツは、多分そういうの嫌う。でもな、それが必要な場合も、やっぱあるんよ。

場合によっては、救いになったりなぁ。・・・・・・アンタだけの話やない。みんなにとってやで?



「分かった。そっちは任せておいてな。というか、もう調べてもらっとるから」

『なら、よかった。んじゃ、すぐ戻るから』





通信はそこで終わる。うちは背中を椅子に預けて、天井を見る。

・・・・・・あのバカ、平気なふりなんてする必要ないやろ。そんなん、うちらには無意味やで?

アンタがどんな奴か、ここに至るまでどんだけその手を取るまいと頑張ったか、一応分かってるつもりや。



恭文・・・・・・ごめんな、嫌な役回りばっかさせてもうて。うち、あかんなぁ。ホンマどないしようか、これ。





「八神部隊長」





かかる声は、左隣に直立してたグリフィス君。我らが六課の縁の下の力持ち。

なお、さっきまでうちの代わりに現場指示を頑張ってくれた。

グリフィス君も、恭文とは友達。色々振り回されて大変やったと、笑顔で言うとった。



そやから表情にはやっぱ、動揺の色は見える。





「あぁ、大丈夫よ」



姿勢を正す。さすがにずっとグデーっとしとるわけにはいかん。

ここはお仕事場。しかも部下の前。部隊長モードはまだ継続せなあかん。



「・・・・・・なぁ、グリフィス君」

「分かっています」



うちが少しだけプライベートなお願いをしようとした時、グリフィス君はそう返した。

それにビックリして、うちは普通にグリフィス君を見る。グリフィス君・・・・・・少し、笑っとる。



「大丈夫です。僕もシャーリーも、ルキノも・・・・・・彼がどういう人間かは、よく知っていますから。もちろん、リイン曹長もです」





今、一人顔を青くしとるのを抜かした上で、そう確信を持った顔で言ってくれた。

そして、下のシャーリーとルキノも同じ顔でうちを見て、頷いてた。

身内贔屓と言われたらそれまでやけど、ここは勘弁して欲しいなぁ。



どっちにしろ揉めそうなんやし、本格介入のために味方は欲しいんよ。





「・・・・・・ありがとな」










そう、ここには味方が居る。アイツのことをちゃんと認めてくれとる味方が。

まぁ、権力持ちやから、あんまりに肩持つのはあれやけど。そないなことしたら、なのはちゃんとティアの問題の二の舞や。

でも、友達としては・・・・・・味方に決まっとる。恭文は、うちの大切な荷物のひとつなんやから。





でも、もうあかんかも知れんなぁ。うち、いくらなんでもアイツに面倒かけ過ぎやもん。





あはは・・・・・・さすがに見限られるわな。てーか、見限られん理由が分からんわ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・腕はもう大丈夫よ」

「背中も同じくです。というか、久々に傷だらけですね」

「そうね、それも二人揃って。おかげで治療のし甲斐があったわ。
・・・・・・出来ればなかった方がよかったけど」



廃棄都市部の一角に腰を下ろして、貫かれた腕の治療をようやく終える。

・・・・・・今のあの子は、完全な私服。ジャケットに付いた血も、完全に落とせてる。



「ただ、1週間程度は動かしちゃだめよ? それくらいは、三角巾で固定して、傷ついた筋肉を休ませる。
あとは変なものが身体に注入されていないかどうかも、すぐに調べてみるけど・・・・・・」





この場合、毒とか体調に変化を来たすナノマシンとかね。そういう手段は、ないわけじゃないから。

恭文くんもそうだし、そこまで深い傷を負っていないリインちゃんも、精密検査が必要。

というか、恭文くんはフォワードのみんなの中で一番の重症。すぐに聖王教会の医療施設に搬送ね。



・・・・・・ううん、本局の方がいいかしら。ヒロリスさん達が居るようなら、少し話してもらおう。





「多分大丈夫。クラールヴィントのサーチの結果では、なんともないから。
というより、もしあっても必ずなんとかするから、安心して。リインちゃんも同じくよ」

「はい、ありがとうございます」



そうして、あの子はいつも通りに笑う。笑おうと・・・・・・する。

どこか歪な笑みになるのが、悲しくて・・・・・・すごく、悲しくて・・・・・・。



「・・・・・・恭文くん」

「なに?」

「ここには、リインちゃんと私しかいない。だから、大丈夫」





私は恭文くんをまっすぐに見る。まっすぐに見て、手を伸ばす。



恭文くんが少し逃げようとする。それを私は、両腕を掴んで止める。



そのまま、強く抱きしめる。絶対に逃がさないように、強く。





「リインちゃんも、来て」

「え?」

「いいから」



リインちゃんは、恭文くんの頭の上に乗って、そのまま小さな手を動かして、優しく・・・・・・本当に優しく、撫でる。

自分じゃなくて、恭文くんを優先に考えているところに、少し苦笑する。やっぱり、絆は変わらないらしい。



「平気な顔、しないで。ちゃんと二人とも自分の気持ち、吐き出して。
もう、いいの。ギンガも、スバル達も居ないから」

「・・・・・・あの、大丈夫ですよ? 覚悟は決めてたんだし」

「ですです。リインが自分達で選んだ選択です。だから」

≪そんなの関係ありませんよ≫



その声は、今まで黙っていたあの子の相棒。胸元から優しく、だけど厳しく声を出す。



≪いいから、ちゃんと吐き出してください。・・・・・・重いんでしょ? 奪ったことが、そんな選択しか取れなかったことが。
いいじゃないですか、それで。それで、いいんです。お願いですから、私達の前でまで嘘をつかないでください≫

「アルト・・・・・・」

「アルトアイゼン・・・・・・だめ、ですよ。
そんなこと言われたら、リイン・・・・・・リイン・・・・・・!!」










恭文くんが私を見る。なので、私も優しく頷く。そこまでして初めて、あの子達から零れるものがあった。

二人は、そのまま泣き始めた。リインちゃんは声を押し殺すように、必死に耐えるように。

恭文くんは泣かない。でも、顔はちょうど私の胸に埋まり、ギュッと、私を抱きしめてくれる。





リインちゃんは私の服の生地を掴んで、顔を埋める。・・・・・・ようやく吐き出してくれた。





二人の想いを受け止めるように、私は優しく・・・・・・二人をまた強く、抱きしめた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



今日も今日とて、本局は平和だ。そう、本局は。休憩時間を活用して、俺達は普通にあるものの鑑賞会をしている。

・・・・・・ちと局のデータベースにハッキングして、俺とヒロはリアルタイムで廃棄都市部の様子を見ていた。

その鑑賞会が終わった直後、普通にお茶なんか飲みつつ俺達は談笑していた。・・・・・・しかし凄かったな。





まず砲撃が六課所有のヘリにぶっ放されるだろ? で、それを高町教導官が防ぐ。

撃った奴と、観測手らしいのをハラオウン執務官が追い詰める。で、追い詰めたところで広域魔法をどがーん。

・・・・・・ここで一瞬、殺傷設定で撃てばよかったんじゃないかとか思ったのは、気のせいじゃない。





とにかく、そこから顔をしかめつつも脱出した二人を狙って、挟み込むように砲撃・・・・・・と。





うん、中々にいい腕だ。少々甘いところはあるが、それだってあくまでも『少々』だ。










「・・・・・・ね、普通に首とか落とせばよかったんじゃないかな」



まぁ、コイツみたいに空気を読むつもりのない奴を除いてだが。



≪姉御・・・・・・別にいいじゃねぇかよ。てか、普通に肉食った後にそういう話するか?≫

「大丈夫、私はスプラッタとか平気だから。死霊のはらわたとか見に行った後にホルモン食べられるよ?」

「俺は平気じゃないがな。お前みたいに鉄の神経してねぇし。てーかアレだ、お前それは女として終わってる」





しかし・・・・・・これはひどいな。いや、六課隊長陣じゃない。

敵のカードの切り方だ。一気に色んなもんを出して来やがった。

・・・・・・戦闘機人か。ギンガちゃんや六課に居る妹さんと同じく。



見えるだけでも美人揃いなだけに、惜しいな。敵じゃなければ口説きたいところだ。





≪主、私が思うにこの砲撃を撃ったおさげの女性など、蒼凪氏の好みではないでしょうか≫

「あぁ、ドンピシャだな。やっさんは髪が長くて大人っぽい女性が好みだから」

「ハラオウン執務官みたいにね」

≪姉御、そこは言ってやるな。・・・・・・で、サリ。俺達がこんなアウトな鑑賞会をしてる理由はなんだ?≫



アメイジアが分かりきっていることを聞く。なので、少しお手上げポーズを取りながら答えることにした。



「俺達がこのままだとやり合う連中の能力把握くらいは、しとくに越した事無いだろ。
いやいや、休憩時間中にどんぱちしてくれて助かったな。おかげで色々と分かった」

≪あぁ、そういうことか。・・・・・・てか、マジでどうなってんだ?
レリック事件自体は、4年近く進展してなかったってのによ≫

≪確かに・・・・・・ここに来て急激に事態が進展している。
スカリエッティがガジェットの製作者と判明したり、戦闘機人が出てきたり≫

≪そして、姉御と俺が気になってる召喚師だ。いくらなんでも一気にカード出過ぎだろ≫





確かに、俺もそこはかなり気になってる。

・・・・・・普通に考えるなら、それだけのことをしてでもエンジンをかけたいとかか?

つまり、何かが動きつつある。まだ俺達が見えていないだけの話だ。



てーか、そこを考えると六課という部隊も色々とおかしい。やっさんには報告したが、色々と裏がある。





「・・・・・・てかさ、地下でもどんぱちしてるんだよね?」

「あぁ、そういややってるな。そっちは映像回ってきてないから見れないが、問題ないだろ。
だって、チームの振り分けを見る限り、やっさんが居るんだぞ?」





この2年で、俺らがどんだけ鍛えてたと? そしてどんだけバカをやってたと?

あぁ、思い出すなぁ。イベントで同人本買い漁ったりとか、たまたま遊びに行った異世界で宝探ししたりとか。

なんだろう、やっさんとつるむようになって、もしかしたら俺らの第二の青春、始まってるのかも知れない。



とにかくだ、バカをやりつつも一人でも大抵のことはなんとかなるように色々と叩き込んだ。問題はない。





≪後は、金髪姉ちゃんのフラグが立つといいよな≫

「・・・・・・それは俺らでもどうしようもない。てーか、話を聞く限りひどいし。
いや、それ以前に今はフラグ立てられないだろ。事件解決前だぞ?」

「あー、それがあったね。てか、ここで付き合うとかなったら、普通に死亡フラグだし」



いや、もしかしたら問題ないかも知れないな。それを言えば、原作(とらハ3)だって同じ事やってた。

ただ、近年の風潮で言うと、肉体関係はまずい。確実に死ぬな。



「よし、俺やっさんにちょっとアドバイスするわ。付き合うことになっても、まず最初は交換日記から始めろって」

≪いやいやっ! それどこの小学生だよっ!! てーか、小学生もやらないぜっ!?
・・・・・・でも、やばいな。ボーイがいくらその手のフラグを壊せても、これは無理だぜ≫





あとは・・・・・・レジアス中将がどう動くかだな。実はこれを見ているのは、俺達だけじゃない。

ちょっと回線を調べたら、レジアス中将のラインにも映像が回ってた。

やっぱり、六課の行動は色々と気になるらしい。いや、六課自体が気になる要素の塊だからか。



厄介な事にならないといいんだが。・・・・・・そんな事を考えたのがきっといけなかった。

だから、通信の着信音が聞こえてきた。それは・・・・・・シャマル先生。

やっさんの現地妻1号で、本局の医務官。六課でも医務官として働いている女性。



俺らは、やっさんの訓練を行う最初の段階で挨拶をさせてもらってる。

理由は、やっさんの主治医だから。さすがにここはちゃんとしておきたかった。

ただ・・・・・・少し後悔した。だってシャマル先生、すっげーフラグ立ってるし。



『私が元々闇の書のプログラム? なにそれ、美味しいの?』と言わんばかりにやっさんLOVEだ。

普通に抱きつくし、普通に手を繋ぐし、普通に『・・・・・・押し倒して欲しいな』とか言う。

やっさんに吐かせたところ、添い寝やバストタッチに一緒にお風呂もオーケーらしい。というか、したとか。



俺らはそれを聞いて、泣いた。やっさんのフラグメイカーっぷりに泣いた。

だって、元々この人は感情とかが無いプログラムだったんだぞ? それがあれですよ。

まぁ、ここはいいか。シャマル先生はなんかすっげー幸せそうだし。てか、めちゃくちゃ幸せそうだし。



とにかく、俺はポチっと通話ボタンを押して通信を繋ぐ。



画面に出てくるのは、もちろん白衣姿のお姉さん。そして背景は・・・・・・あれ、これ本局か?





『サリエルさん、ご無沙汰しています。・・・・・・あ、ヒロリスさんも』

「あー、いえいえ。シャマルさん、ご無沙汰してます。てか、今日はまたどうしたんですか?」

『すみません。私今、本局の医療施設の方に居るんですけど・・・・・・すぐに来てもらえませんか?』



場所は分かる。てか、分かってた。ただ、すぐに来て欲しいという理由がわからなくて、俺はヒロと顔を見合わせる。

そして、シャマル先生は少し涙目で、落ち込んだ顔で、話してくれた。



『・・・・・・恭文くんが六課での任務中に負傷してしまって、今治療中なんです』

「やっさんがっ!? あの、それでやっさんはっ!!」

『あ、大丈夫です。命に別状はありませんし、怪我もすぐに治ります。ただ、それだけじゃなくて、その』

「その?」

『現場で遭遇した被疑者を、殺害したんです』










その言葉が一瞬信じられなかった。だから、ヒロと二人でシャマル先生を見る。





シャマル先生は、頷いた。出来れば冗談か何かであって欲しかったけど、それでもだ。





・・・・・・・・・・・・なんでそうなるっ!? てか、地下で一体何があったんだよっ!!




















(第7話へ続く)




















あとがき



古鉄≪えー、本日のお話はお食事時に流し読みとかはしない方がいいと思う、古き鉄・アルトアイゼンです≫

歌唄「なぜかあむに続いて呼ばれたしゅごキャラメンバーのほしな歌唄です。
・・・・・・また描写がエグイわね。肉片って何よ、腕を鋼糸で絞り切るってなによ」





(すみません、スターライト使えなかったんで、ちょっとスプラッタ入りました)





古鉄≪いや、一応スターライトでの〆も考えたんですけど、普通に地下であんなもんぶっ放したら生き埋めは確定でした≫

歌唄「しゅごキャラクロスのおまけでもやってた事よね。・・・・・・それで、まぁ・・・・・・やっちゃったわけだけど」





(ドS歌姫、どう言っていいかわからなくて、一応こういう表現にしたらしい)





歌唄「この後どうなるの?」

古鉄≪当然のように、顔見知り以外はドン引きですよ。よかったですね、当初の目的が果たせます≫

歌唄「全くよくない方向だけどね。で、次回はそこからStrikerSのTV版13話の話に突入と」

古鉄≪そうです。さて、そうなってくると懸念しなければいけないことがありますが・・・・・・・ここは次回でいいですね。それでは、本日はここまで。お相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫

歌唄「ほしな歌唄でした。・・・・・・そう言えば、処刑用ソングって歌いたいんだけど、何がある?」

古鉄≪またいきなりですね≫

歌唄「超・電王編でそういうの歌って盛り上げようって案があるんだけど、かなり迷ってるのよ。
うん、かなりね。というか、私の歌の中にはそれっぽいのがないから、恭文もノリ辛いと思うのよ」

古鉄≪結局マスターのためですか。あなた、ドンだけマスターが好きなんですか?≫

歌唄「とりあえず、第三夫人になってもいいと思うくらいは好きよ。それで・・・・・・どういうのがいいの? ほら、早く教えなさいよ」










(ドS歌姫、結構気合が入っているらしい。すごく真剣な目で青いウサギに詰め寄る。青いウサギ、ちょっとたじたじになる
本日のED:ほしな歌唄『迷宮バタフライ』)




















サリエル「・・・・・・やっさんっ!!」

ヒロリス「アンタ、怪我したって聞いたけど大丈夫なのっ!?」

恭文「な、なんとか。・・・・・・ちょっとやらかしましたけど」

サリエル「そこはいいさ。シャマル先生から状況は簡潔に聞いた。
てか、無事に戻ってこれただけで御の字だよ」

恭文「すみません、心配かけちゃって。・・・・・・あ、それとこれ」(ズイっと右手で袋を二つ差し出す)

サリエル「・・・・・・なんですか、これは?」

恭文「サリさんが頼んだ同人誌です。あ、領収書は中に入れてますんで」

サリエル「あ、そ・・・・・・そっか。うん、分かってた。
俺すっげー分かってたよ。でも、これは後にしないか? ほら、色々と今は問題が」

リイン「えっと・・・・・・恭文さん、もしかしてこの人の同人誌のためにりゅうのあなに出入り禁止を食らったですか?」

サリエル「はぁっ!? 出入り禁止ってなんだよっ!!」

シャマル「サリエルさん、少し失礼します(袋をふんだくって、中身を確認)。
・・・・・・・・・・・・なにこれっ! サリエルさん、あなた恭文くんに一体何を買わせているんですかっ!!」

リイン「・・・・・・・・・・・・きゃーなのですっ! これは一体どういうことですかっ!?
あなたとは初対面ですけど、リインにキッチリシッカリ説明してくださいっ!!」

サリエル「い、いや・・・・・・あの、これはいや、色々と事情があってだなっ!!
あぁ、お願いだからその殺し屋の目はやめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

ヒロリス「・・・・・・でさ、やっさん。一体何があったのよ。その出入り禁止の話とかも含めて、今日あった事を詳しく聞かせな?」

サリエル「頼むからお前も助けろっ! 普通に二人の目が怖いんだよっ!!」

古鉄≪・・・・・・なんというか、カオスですね≫

アメイジア≪ねーちゃん、これはいつものことだぜ≫

金剛≪確かにそうだな≫










(おしまい)




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