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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第1話 『最初から最後までクライマックス?』



これは、いわゆる一つのIFのお話。もっと言うともしもの話。





その道の先にあるのは、ひとつの可能性であり現実であり・・・・・・すべて。










「・・・・・・少し、頭冷やそうか」



そしてちょっと方向を間違えた世界でのお話。



「クロスファイア、シュート」



なので、みなさまご存知な本編とはお話の内容が違うわけですよ。



「なのはさんっ! え、なにこれっ!? ・・・・・・バインドっ!!」

「じっとして、よく見てなさい」



・・・・・・まぁ、ここはよしとしよう。



「クロスファイア・・・・・・シュート」



問題は、現在修羅場ということ。それはもうヒドイ具合に。



「ティアァァァァァァァァァァァッ!!」





空の道の上でふらつくツインテールの女の子を襲うのは、桜色の魔力の奔流。いわゆる砲撃魔法。

僕は咄嗟に飛び出し、彼女の盾となりつつ、刃を袈裟に打ち込み、それを斬る。

それにより、目の前で爆発。コレくらいなら、ダメージは無い。まだ斬れる砲撃の範囲内だ。そのまま、転送魔法を発動。




倒れかけていたあの子を、ビルの屋上に近距離転送。転送魔法は苦手だけど、これくらいなら問題なく出来る。

それから、見下ろす。その砲撃をかましてきた女を。僕と同じように、空の道の上に立つ女を。

知り合いが見ると、一瞬誰かわからなくなるくらいに妙な威圧感を放っている僕の・・・・・・バカな友達を。





「どうして・・・・・・邪魔、するのかな」

「さぁ、どうしてだろうね。自分で考えなよ、魔王が」





対峙するは白き魔王。いつもはいじめるために、からかうために魔王って言ってる。

・・・・・・だけど、今は比喩なしで魔王だと思う。つーか、声が若本ボイスに変換されかけてる。

とりあえず、アルトを鞘に納める。今必要なのは、これじゃない。



色々腹が立ってるけど、ここで僕とアレがケンカしたって、話がまとまらなくなる。

そんなのは、絶対に意味がない。それはあくまでも最後の手段だ。

こうすれば、あれは絶対に自分からは撃たない。それでもし撃ったら、僕は本格的に縁を切る。



必要なのは、わかってもらうことだ。どっちも、間違ってるんだって。



あの子だけじゃない、なのはも間違ってるんだって。こんなの、絶対に認められない。





「あと、お前自分が間違ってるのかって聞いたよね。
だったら、僕から答えてあげる。・・・・・・間違ってるよ」

「恭文君、どうしてそう思うの? 恭文君だって分かるよね。
こんなの、凄く危なくて、ダメなことだって。今を使い潰すような選択をしたって」

「別に僕は、あの子の事なんてどうでもいい。
潰れたいなら、勝手に潰れてりゃあいいでしょ」



その言葉に、目の前のツインテールの女は表情を険しくするけど、気にしない。



「だって、会って一週間だし、その上友達でもなんでもないし、話もあんまりしてない。
僕にはあれを心配する理由も、あれの基本方針にどうこう言う理由も無い」

「冷たいね。同じ部隊に居るってだけじゃ、仲間とは思えないんだ」

「冷たいよ? 同じ組織の人間だろうと、邪魔と思えば殺そうとする奴らも居るって知ってるから」



少し、嘘をつく。どうこう言う理由はともかく、心配する理由は本当はある。



「・・・・・・私達のこと、そんな風に思ってたんだ」

「思うさ。言わなかった? 僕・・・・・・局員なんざ、嫌いなのよ」



様子を見てて、なんとなく察しがついたから。でもま・・・・・・素直に言うの、嫌だから。

というか、そんなのあの子には何の関係もない。だから、言う意味がない。



「でも、『なのは』には言える。あれ、なに?
ただ戒めるための、ただ踏みつけるだけの、あんなクソ魔法撃ちやがって」

「それの何がいけないのかな。これが・・・・・・私の仕事だよ」

「いけないね」



仕事のために、自分の魔法の意義おいてけぼりでしょうが。



「なのは、今撃ったのが心から自分の魔法だって胸張って言える?」



出来れば、これで止まって欲しい。そんな願いがあった。でも、その願いは叶わない。

だって、現実は何時だってこんなはずじゃなかったことばかりなんだから。



「言えるに決まってるよ」





・・・・・・即答で、答えやがった。どうやら、話し合いは無理らしい。目の前に居るのは、もう僕の友達じゃない。

目の前に居るのは、時空管理局の魔導師・高町なのは一等空尉。教導隊に所属する凄腕空戦魔導師。

そして、この部隊、機動六課の教導担当でありスターズ分隊の分隊長。それが高町なのは一等空尉だよ。



だけど・・・・・・僕は、そんなつまんないやつと友達になった覚えは、これっぽちもない。



だから、目の前の女は、絶対に僕の友達なんかじゃない。友達であるわけがない。





「・・・・・・恭文君、もうラチがあかないから、一旦降りようよ。
この話は、フェイト隊長や他の隊長達と一緒に」

「嫌だね」



つーか、これは隊長どうこう組織どうこうの話じゃない。どうやらなのはは、そこが分かっていないらしい。



「いいから、降りて。スターズ分隊の隊長として命令する。ここから、降りて」

「嫌だね」



どうやら、本当にお分かりいただけないらしい。だから、僕は大げさにため息を吐く。

それを見て、なのはの視線がまた厳しくなる。



「これは、お前と僕との話だ。お前、自分の都合のいい時だけ隊長ぶるなよ。ハッキリ言って卑怯だ」





本気で隊長であるつもりなら、ティアナやスバル、エリオとキャロに『なのはさん』なんて呼び方を許していいわけない。

108で仕事をちょくちょく手伝うことが多かったから、よく分かる。だけど、コイツは今までそれをずっと許していた。

で、僕に対しても同じ。みんなに対して、フレンドリーで距離感が近くて、上下関係どうこうで話をしない良い隊長であろうとした。



なのに、こういう時だけ隊長であろうとする。・・・・・・・・・・・・反吐が出る。





「恭文君、お願いだからちゃんと話そうよ。私は、隊長だよ?
どうしてそういうことを言うのかな。私、恭文君が何を言いたいのか、よくわからない」

「・・・・・・まぁいいさ、どうやらマジでわかんないようだから、教えてやる。僕に今から砲撃撃ちこんでみろよ」



なのはの表情が僅かに歪む。だけど、それに構わずに僕は言葉を続ける。



「自分の仕事を邪魔した僕を戒めるために、さっきティアナに対して行ったのと同じように。
教導官として、分隊長として、組織の人間として、自分の仕事を遂行しなよ。好きなだけさ」



なんで、来て早々僕はこんな馬鹿げたケンカしてんだろ。



「でも、僕はそれらを全部ぶった斬る」



さっき立てた基本方針全部無視だし。あぁ、もういいや。



「それで、お前が間違ってるって証明してあげるよ」



結局、僕は組織ってやつに馴染めないってことなんでしょ。よーくわかったわ。



「あれが本当に高町なのはの『魔法』だったら、、あの魔法を撃ったのが本当に『高町なのは』なら、こんなバカな事になるわけないって、証明してあげる」

「・・・・・・なに、それ。でも、いいよ」



そう、僕の喧嘩をこの女は買った。勝負はこの瞬間から、始まった。



「私は、私の仕事をするだけだから」



そして、目の前の女はゆっくりとレイジングハートをセットアップ。

そうしてからすぐに音叉形状・・・・・・砲撃仕様の形態へと姿を変えた。



≪Short Buster≫





そのまま、抜き打ちで1発。僕はそれを、一刀両断した。続けてどんどん来るけど、それもその場に立ち止まって斬り裂く。

チャージタイムなしの速射砲撃の数々。アルトを打ち込み、それらを斬る。余波で多少ダメージが来るけど、まだ倒れるわけにはいかない。

こんなのに負けるわけにはいかない。高町なのはの『魔法』がすごいのは・・・・・・その魔法の中に、想いを込めるからだ。



『分かり合いたい。知りたい。話したい。触れ合いたい。もっと近くに行きたい』。なのはの魔法には、そんな想いが沢山詰まってる。

なのは自身が、そんな想いを込めて撃つから、凄いんだ。それなのに、あのバカは・・・・・・。

とにかく、なのはがカートリッジ付きで1発こちらにぶち込もうとしている。ご丁寧に、カートリッジは3発もロードした。





「ディバイン・・・・・・!」



チャージされた本当の意味での高威力砲撃が来る。



「バスタァァァァァァァァァァァッ!!」



普通にやったんじゃ多分斬れない。だから・・・・・・手札を切る。僕はジガンのカートリッジを3発使用。



「鉄輝・・・・・・!」



そのままアルトを袈裟に打ち込む。



「一閃っ!!」





青い閃光は、桜色の魔力の奔流を確かに斬り裂き、爆散させる。

衝撃と爆風に圧されるけど、一歩も引かない。いいや、絶対に引かないと、足を前へ進める。

空色の道がそれにより吹き飛んでも、僕は飛行魔法を使って、しっかりと無いはずの足場を踏みしめる。





また、同じように魔力の奔流が襲ってくる。だから僕は、それを否定し続ける。





「いい? 魔法使って・・・・・・ううん。魔法は関係ないか。
ぶつかる事で心を通じ合わせて、目の前の誰かと『お話』出来る奴だから、高町なのははすごいんだ」



もちろん、カートリッジをしっかり使った上での攻撃。



「エース・オブ・エース? 教導隊所属のオーバーSランク魔導師?
一等空尉階級の局員? 機動六課の分隊長?」





だから僕も、先ほどと同じようにジガンからカートリッジをロード。



また逆袈裟に刃を振るい、迫り来る奔流に向かって打ち込む。



打ち込みながら、魔力の奔流を刃で斬り裂きながら、鼻で笑ってやる。





「・・・・・・そんなもん、高町なのはの凄さを何一つ示してないね」



その価値は心・・・・・・魂にあるんだ。絶対に魔法って言う力、局の中での評判や地位じゃない。

笑いながら、言葉を続けながら、目の前へとまた迫り来るそれを、僕は斬る。



「それなのに・・・・・・なんだよあれっ!?」



爆煙の中、声を上げる。かき消されないように、ありったけの感情で荒げる。



「お話も何もないだろうがっ! お前、なんで撃ったんだよっ!!」



爆風に煽られ、足がよろめきそうになる。だけど、踏み止まる。まだ下がれないから。

まだ言いたい事も、伝えたい事も、半分もこのバカにぶつけてないから。



「それは・・・・・・ティアナが危ない事をしたから」

「違うだろうがっ! お前、自分と同じような思いをして欲しくないから、撃ったんだろっ!?」



僕の言葉に、目の前の女が一瞬固まる。



「お前は、そんなことしても何もならないから、誰も喜ばないから、それは違うんだよって・・・・・・そうだ。
お前は、そう言いたくて撃ったんだろうがっ! だったら、その想いを魔法に込めろよっ!!」



それなのに、戒めるためっ!? 違うっ! 絶対に違うっ!!



「お前は・・・・・・ただ、見ていて悲しくて、苦しかったから、ティアナを止めたかっただけだろうがっ!!
教導官としてじゃないっ! 高町なのはとして止めたかっただけだろっ!!」



返事の代わりに、カートリッジのロード音。音叉の先には魔力スフィア。

そしてその周囲に、砲撃の軌道をしっかりとコントロールするための輪状魔法陣。



「違う。私は、教導官として」



・・・・・・バカ野郎。まだそんなのに拘る気か。



「だったら、もういい。僕にも全力で撃ってこいよ。
『教導官・高町なのは一等空尉』の魔法じゃ、僕には通用しないところを見せてあげる」



そんなもんじゃ、得意のお話は出来ないって証明してあげるよ。

・・・・・・集中する。次に来るのは、多分今のアレが出来る最大出力。



「・・・・・・来い」



それを斬るのは、ちょっと骨が折れる。でもまぁ・・・・・・出来るでしょ。



「お前を、全部否定・・・・・・いや、壊してやる」



こんな屑に負けるほど、僕は弱くないから。そうだ、負けるわけがない。

僕があの時負けた『高町なのは』は、こんな屑女じゃない。



「・・・・・・いいよ。ディバイン・・・・・・バスター」



そのまま、今までで最大出力の砲撃が飛んで来る。

僕はジガンのカートリッジをリロード。そうした上で再び3発ロード。



「氷花・・・・・・!」



アルトの刀身を包み込むのは青く、氷結の息吹を含んだ魔力。

そのまま僕は正眼に構え、上段からアルトを叩き込む。



「一閃っ!!」



青い刃は、桜色の魔力の奔流を確かに斬り裂いた。

だけど僕は、その場で今まで以上の爆発に巻き込まれた。



「・・・・・・邪魔が入ったけど、演習は終了。今日は二人とも、撃墜されておしまい。
スバル、ティアナが目を覚ましたら」

「な、なのはさん」

「なに? というか、人の話を聞くときはこっちを見て」

「やかましい。おのれが言えた義理か、魔王が」





煙の中から見えたのは・・・・・・驚く様子でこちらを見ているあの女。

そして、がんじがらめにしばられているスバルの姿。

僕の身を包むジャケットの大半が吹き飛び、身体中に痛みが走る。



それでも気を強く・・・・・・しっかりと持つ。揺らがないように、止まらないように。



そして、爆煙が晴れていく。女が、僕の事を目を見開いて見る。その目には、確かな動揺。





「・・・・・・なにもう終わりましたーって体で話してんのさ」



残念ながら、まだ何にも終わって無いよ。



「だって、ここからがクライマックスなんだから」

「・・・・・・うそ」

「嘘じゃないさ。知ってる? 斬ろうと思って斬れないものなんて、この世のどこにもないのよ。
そしてお前みたいな雑魚じゃ、僕は止められない。んじゃ、続き・・・・・・いこうか」



そのまま、僕は正眼に構える。痛みと魔力ダメージで今にも気を失いそうだけど、止まらない。

まだ止まれない。だから左手から飛針を取り出し、浅く左の太ももに突き刺す。



「恭文君っ!?」



太ももから感じるのは、それまでとは趣を異とする痛み。それにより・・・・・・うし、意識、ハッキリしてきた。



「・・・・・・やめて」



僕の周囲に桜色の縄。それが、僕の身体を縛る。



「もう、いい。こんなことする意味が分からない。だから、私や他の隊長達とちゃんと話そう?」

「・・・・・・・・・・・・ざけたこと」



力ずくでそのバインドを引きちぎる。縄を構成する魔力は、周辺に飛び散った。



「抜かしてんじゃねぇっ!!」





瞬間詠唱・処理能力の恩恵。時間のかかるバインド解除も、僕なら一瞬で出来る。

なのはは知ってるはず。だから、今までバインドを使ってこなかった。この状況で使っても、解除されると思ったから。

なのに、今は使った。それはなぜか? ・・・・・・もう僕に抵抗する力がないと思ったからだ。



・・・・・・ナメてやがる。完全に、僕をナメてやがる。





「やめるだぁ? ふざけた事抜かすな。僕はお前に喧嘩を売った。そしてお前は買った。
この喧嘩の止め時はたった一つ。お前と僕のどっちかが潰れる瞬間だ。それ以外は、ありえない」

「・・・・・・もう、やめて」




そう言いながら、レイジングハートのマガジン式カートリッジを入れ替えた上で、また撃つ。

砲撃を・・・・・・いや、僕の後ろから音もなく生まれた弾丸が、後頭部を狙う。



≪Stinger Ray≫





その弾丸を、スティンガーを構えずに背後に生成。気配のみを頼りに打ち抜く。

その間に、なのははまた砲撃を撃った。もちろん、カートリッジを使用した上で。

迫り来るのは光の奔流。僕が弾丸に普通に対処していたら、絶対に間に合わない。



そんなタイミングで砲撃は迫る。でも、僕は普通には対処していない。

アルトを右手で片手で持ち、左から横薙ぎに一閃。

それにより、僕を倒すために迫っていた砲撃を斬る。目の前では、またもや爆発。



そして襲うのは爆風と魔力ダメージ。・・・・・・だけど、揺らがない。



再び意識が切れそうになるので、飛針をもう一本出し・・・先ほどと同じように太ももに突き刺す。





「・・・・・・嫌だね。言ったでしょうが」



太ももの傷口から流れ落ちるのは、温かい血の温もり。そして、その出元から感じるのは鋭い痛み。

でも、止まれない。まだやることがある。



「戒めるために魔法撃ち込んでいいって」



僕はそれを全部ぶった斬る。そう言った。だけどまだ・・・・・・全部じゃない。



「お前を全部壊してやるって。どうせまだ、魔力有り余ってるんでしょ?
ティアナや僕と違って、なのはは才能が溢れまくっている天才魔導師なんだからさ」



左手を向け、くいくいと挑発するかのように指の先を曲げる。



「天才だから、僕達みたいな凡人の気持ちは分からないでしょ。なんでティアナが無茶しようとするかも、理解出来ないでしょ。
隊長として、エース・オブ・エースとして、教導官として。そんな言い訳の下で砲撃を撃つのは楽しい? あぁ、楽しいんだろうね」



そりゃそうだ。コイツは、理解しようとすらしてないんだから。

つい笑ってしまう。自分が言ったことが、どんだけ馬鹿げたことか分かってしまったから。



「楽しいから、この期に及んでまだ隊長としてとか言いやがる。うん、だから撃ちなよ。
お前は天才教導官なんだから。所詮話なんて出来ないんだから。・・・・・・ほら、撃っていいから」



目の前の女は、首を横に振り、後ずさりながらレイジングハートの穂先を下ろす。



「嫌だよっ! お願いだからもうやめてっ!! こんなことしてもなんにもならないよっ!!」

「いいから撃てっつってんだろうがっ! さっきティアナにしたみたいに、戒めるために、もう僕がこんなことしないように、撃てよっ!!」



それでも撃たない。その様子に、キレた。



「ほら・・・・・・撃てよっ! お前は教導官で、分隊長なんだろっ!?
これが仕事なんだろうがっ! お前はさっき、『これが自分の魔法だ』って言い切ったろうがっ!!」



加減はしない。もうティアナもなにも関係ない。これは、僕の喧嘩だ。僕があのバカに売った喧嘩だ。

だったら・・・・・・どんな結果になろうと、最後まで通す。でも、それは僕だけの話じゃない。



「だったらそれを通せよっ! 自信と誇りを持って、自分の仕事を通せよっ!!」





そう、この女も同じだ。この女は、僕の喧嘩を買った。

僕は全部ぶった斬ってやると言って、あの女はそれに対して砲撃で『潰す』と答えた。

なら、最後まで通すべきだ。そんな想いを込めて、眼下のなのはを睨みつける。



頭来る。この女、この期に及んでなんかビビってるし。



つーか・・・・・・あぁ、大きな声出したらまた意識が。





「どうしてっ!? なんでそこまでするのっ! そこまでして、私が間違ってるって言いたいのかなっ!!」

「・・・・・・言いたいね」



僕がそう返すと、女がそれまでとは違う、悲しげな顔をする。で、通信画面を開く。それは・・・・・・悪友。



「はやて、悪いけど今すぐになのはのリミッターを解除して」

『・・・・・・じゅ』



地上本部で行われる会議に出るために、隊舎を留守にしていた我らが部隊長。だけど、どうやらお食事だったらしい。

なんか美味しそうな顔で呑気にラーメンをすすっていた。で、ビックリした目で画面を・・・・・・僕を見る。



『な、なんやいきなりやぶからぼうにっ! ・・・・・・てか、アンタなにぼろぼろになっとんのよっ!!』

「なのはに喧嘩売ったから。でも、当のなのはは僕を見下してるのよ。
リミッターありでも、僕なんて押さえつけられるってタカをくくってる」



敵を見据えつつ、僕は右横に開いた画面に声をかけ続ける。



「違うよっ! 私、見下してなんてないっ!! お願いだから、ちゃんと話してっ!? どうしてこんなことするのか、私」

「・・・・・・それが見下してるっつってんだよっ! てめぇ、ティアナに対してさっき自分がなにしたか、もう忘れたのかっ!!
僕に対して今言ってることが、どうしてティアナに出来なかったっ! このダブスタ女が・・・・・・一回死んでろっ!!」



一喝すると、なのはの瞳から涙が零れた。だけど、知らない。そんなの知らない。

だって、泣いてるのは僕の友達でもなんでもないから。



『・・・・・・とにかく、リミッター解除は認められん。てか、アンタなにやってんのよ。ちゃんとうちに状況を話して』

「じゃあもういい。このままラーメン食べ続けて最後の最後までスルーされてろ」



で、通信を切る。・・・・・・さて、勝負はまだまだだ。



「ほら、天才魔導師の高町教導官・・・・・・とっとと来いよ。
僕は反省なんてしてないし、まだやれる。頭冷やすんでしょ?」



・・・・・・だったら撃てよ。もうお前に残された道はそれしかないんだから。



「さっきのティアナに対してしたように、話もせずに、声もかけずに踏みつけろよ。
それがお前の夢で仕事なんだから。だから、胸を張ってやれよ。・・・・・・ほら、撃て」

「お願い。やめて・・・・・・違う、私は踏みつけたんじゃない。そんなことしてない」



だけど、それは気にせずに僕は言葉を続ける。



「・・・・・・撃てよ。お前はその選択をした。だから撃ち続けるしかない。
レイジングハートを下ろす選択なんて、許されない。そうだよね、レイジングハート」

≪その通りです≫



あ、なんか答えた。それも平然と。



≪マスター、撃ってください。・・・・・・あなたは、理由はどうあれ彼の喧嘩を買いました。
なら、最後の最後まで通すべきです。そんな腑抜けた選択、許されるはずがないでしょう≫

「レイジングハート・・・・・・でも」



そして、この状況に今まで黙ってたのが口を出す。そう、僕の相棒だ。



≪・・・・・・あなた、ふざけてるんですか? あなたは彼女に対しても同じことをしているじゃありませんか。
にも関わらず、マスターに対しては痛みを感じる? そんな権利、あなたにはありませんね≫



なんというか、我が相棒ながらすげーデバイス。

あんまりにぶっ飛んでると思う時があるの、気のせいじゃない。



「嫌だ、撃ちたくない。だって、恭文君は友達で」

≪そんな言い訳は成り立ちません。もう、その段階は飛び越えました。
てゆうか、散々砲撃にバインドに後頭部狙いの誘導弾かましておいて、それはないでしょ≫

「・・・・・・じゃあ、いいや。その前提から壊そうか」



あの女の身体が震える。そして、声を上げようとする。だけど、その前に僕は言い切った。



「お前なんか、友達じゃない」



そして、目を見開いて僕を見る。・・・・・・なぜか泣き出す。



”・・・・・・ヤスフミ、いい加減にしてっ!!”

”最終警告だ。ライトニング分隊副隊長として命令する。すぐに下がれ”



フェイトとシグナムさんか。・・・・・・無視。



”・・・・・・蒼凪、アルトアイゼン、いい加減にしろ。なのはの気持ちも考えろ”

”そうだよっ! こんなことして一体なんになるのっ!?
なのはがどうして撃ったか分かってるんだよねっ!? だったら、もうやめてっ!!”

”黙ってろ”



横から来た念話に、一言だけそう言う。



「僕が友達になったのは、『高町なのは』だ」



お前みたいに時空管理局の局員でも、教導隊の人間でも、一等空尉でも、エース・オブ・エースなんかでもない。

だから・・・・・・『高町なのは』じゃないお前は、僕の友達でもなんでもない。



「・・・・・・慣れ慣れしく僕の名前を呼ぶな、偽者が。お前には、そんな権利も資格もない」



僕は、最初なのはの事が大嫌いだった。まぁ、初対面でなのはがいきなりバインドかけてきたからだけど。

・・・・・・うん、最初の出会いは最悪だった。それはもうヒドイくらいに。



”ヤスフミっ! いい加減にしてっ!!”



モノローグを邪魔しおってからに・・・・・・マジでコイツらは空気を読まないね。



”・・・・・・もういい、そのつもりならこっちにも考えがある。シグナム”

”あぁ。・・・・・・お前達、少々痛い目を見てもらう。もうこれ以上甘い顔は”

””・・・・・・・・・・・・黙ってろ””



グダグダとうるさく声を上げ、こちらに飛び込もうとしたフェイトを睨みつける。フェイトはそれだけで床にへたり込み、動けなくなる。

いつの間にか駆けつけていたらしいシグナムさんも、それに足を止める。そして、僕の目を見て固まった。



”こっちは喧嘩の真っ最中だ。邪魔するなら・・・・・・二度と飛べなくなるまで叩き潰すぞ”

”ヤス・・・・・・フミ”

”・・・・・・お前達、本気か”



とにかく、こんな会話はおいておこう。・・・・・・思考を、再開させる。



”てゆうか、アルト・・・・・・任せた”

”任されました。・・・・・・さて、そんなに高町教導官が大事ですか?”

”当然だよっ! なのはは友達だよっ!? 大事じゃないわけがないっ!!”

”だからこそ、お前達の暴挙を見過ごすわけにはいかない。
お前達は、なのはをいたずらに否定し、傷つけているだけだ。なぜそれが分からない”

”そうですか。なら、友達として来てくださいよ。
だけどあなた方・・・・・・隊長として来ようとしましたよね?”



それを心配した周囲の人間が、やっぱりここは『お話』だろと考えた。

そこでなのはと僕の模擬戦を組み立てて、戦うことになって・・・・・・まぁ、結果的に負けたけどさ。ただ、あれで思った。



”組織の中に染まりすぎて腑抜けてるんじゃないですか? 特に烈火の将、あなたですよ。
公私混同にも程があります。それでよくもまぁ偉そうな事が言えますね。バカじゃないんですか?”

”・・・・・・言わせておけば”



シグナムさんが足を踏み出す。その形相はまさしく悪鬼。

だから、シグナムさんに対して我が相棒はこう言う。



”そして私達を攻撃する。図星だから力ずくで、踏みつける。
本当にあなたは最低ですね。結局感情に任せて殴ることしか出来ない”



その言葉に、シグナムさんが足を止めた。それは一瞬。

だけど、その一瞬あればアルトには十分。



”ほら、だから踏み出した足が止まる。止まるのは図星だから。
図星だからあなたは、今迷っている。・・・・・・それが答えですよ”



それっきり、念話は聞こえなくなった。うん、これでいい。つーか、さすが我が相棒。やり口がエグい。



「・・・・・・僕の友達は」



・・・・・・あの時に、なのはの射撃だったり、砲撃だったり・・・・・・そういうのから感じた。それはなのはの気持ち。

僕と・・・・・・友達になりたいって・・・・・・ヤバイ、また意識が飛びそうに・・・・・・だめ、まだ・・・・・・だめだから。



「『高町なのは』は、こんな事を絶対にしない」



切れそうな意識を必死に繋ぎとめる。そのために、心の中で思いっきり踏ん張る。



「お前みたいに、これが自分の仕事だからと言い訳して、人を踏みつける重さから逃げたりなんてしない」



もう少し、もう少しだけでいいからと、必死に足場のない空を踏ん張る。



「お前や、そこで副隊長と一緒に僕を力ずくで止めようとしたバカライトニングの分隊長みたいなことは絶対にしない。
・・・・・・二人揃って普段はフレンドリーを装って、分隊員や僕に隊長呼びなんてさせてないくせに」



いつもは簡単に出来ていること。だけど・・・・・・それがどうしても上手く出来ない。

今残っている力を、必死に搾り出さないと、今にも落ちそうになる。



「自分の都合のいい時だけ隊長・上司面して、人の気持ちを踏みつけるようなことは、絶対にしない。
『高町なのは』は、無茶苦茶バカだけど、同じくらい優しいやつでもあるんだ」



踏ん張るけど・・・・・・どんどん引きずられていく。



「僕の知ってる『高町なのは』は、お前とは違う。
もしも相手のことが分からないなら、理解出来ないなら、ちゃんと話そうとする」





意識が、視界の色が、薄くなっていく。なのはの魔法は、そのための・・・・・・ものだ。

戒めるために撃つようなもんじゃ・・・・・・ない。そんなクソみたいな魔法の使い方、絶対にしない。

手を伸ばして、全力全開で知ろうとする。自分の想いを、言葉を届けようとする。



自分から、バカみたいに手を伸ばそうとする。だって横馬は所詮横馬でバカだし。





「お前がどこの誰かは知らないけど、この最低最悪の偽者が。
僕の・・・・・・僕の大事な友達を、知ったかぶり、してんじゃねぇよ。僕の友達を、汚すな」



もう一度、飛針を出す。出して・・・・・・手から、地上へと零れ落ちた。



「僕の知ってる高町・・・・・・なのはは、僕が友達になりたいと思ったなのはは」



だめ、もう・・・・・・すこ・・・・・・し。



「あんなことしなくても、あの子と・・・・・・わかり、あえる。だから、絶対に・・・・・・お前じゃ、ない。
分からないようだから、もう一度言ってやる。僕は、お前の友達なんかじゃない」



僕は言葉を続けながら、アルトを正眼に構える。



「僕は・・・・・・ただの『なのは』の、友達だ」



力が抜けそうな手を、必死に握り締める。



「だから・・・・・・『高町なのは』を貶め、侮辱するお前を、壊す。いや・・・・・・ぶち殺してやる」



そして、見据える。レイジングハートを両手に持ったまま、僕を震えた瞳で見続けて、涙を流している『偽者』を。



「・・・・・・いや」





刃に、光が灯る。残り少ない魔力。それに、全てを賭ける。

足を踏みしめる。止まらない。絶対に止まらない。まだ、何にも終わってない。

後のことなんてどうだっていい。ティアナのこととか、六課のこととか、どうだっていい。



ただ僕は・・・・・・あのバカが、あんな真似するとこなんて、もう二度と見たくない。



だから、その可能性をここで殺す。殺して・・・・・・やる。





「もう、いや。・・・・・・お願い、やめて。分かった、分かったから」

「いいや、お前は分かってない。そんなの嘘だ。
偽者のお前が、分かるはずが・・・・・・・分かるわけが、ねぇだろうがっ!!」



だから僕はお前にこう告げる。徹底的に否定して・・・・・・言い放つ。



「さぁっ! お前の罪を・・・・・・数えろっ!!」










踏み込もうとした。だけど、僕はそのまま、意識を手放した。





最後まで踏ん張ることが出来ず、仰向けに倒れて・・・・・・地面へと、落下した。




















魔法少女リリカルなのはStrikerS Remix


とある魔導師と古き鉄と機動六課のもしもの日常


第1話 『最初から最後までクライマックス?』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・フェイトさん」





ここは医務室。ヤスフミとティアナが、隣同士のベッドで眠ってる。



・・・・・・落下していくヤスフミを、なのはは浮遊魔法でそれを止めることもせず、呆然と見ていた。



だから、私が助けた。速度だけは、自信があるから。隊長でも、執務官でもない、ただの私として助けた。





「あぁ、スバル。・・・・・・ティアナの様子、見に来たの?」

「いえ、二人の・・・・・・様子です」



そう言って、スバルはベッドに視線を移す。見ているのは、ティアナとヤスフミ。

ヤスフミ、スバルのお姉さんのギンガと友達だから、その関係でフォワードの中では、一番話してたんだっけ。



「あの、フェイトさん。今日は」

「その話は、今はやめよう? 多分ね、私は・・・・・・聞く権利がないと思うから」



私はそれだけ言うと、ヤスフミに視線を向ける。スバルは黙って・・・・・・私の隣に座る。



「だから、お話してくれないんだよね」



視線を向けつつ声をかけるのは、恭文の枕元に置かれた青い宝石。

さっきからずっと黙ったまま、私がここに居ることに対してなにも言わない。責めるわけでもなく、受け入れるわけでもなく。



「・・・・・・アルトアイゼン」

≪話したところで、意味がないでしょ≫



帰ってきた言葉は、そんな淡々とした言葉。



≪私達は、あなた方に喧嘩を売った。高町なのはという人間の地位や隊長としての行動も否定した。
・・・・・・それに対して、何を話せと言うんですか? 言ったところで、意味がないでしょ≫

「・・・・・・そうだね。ね、それじゃあ一つだけ聞かせて? ヤスフミを止めようとか、思わなかったのかな」



アルトアイゼンだって、分かってるはず。そんなことをしたらヤスフミがどうなるか。

みんなにどう思われて、ここでこれからどういう扱いを受けるか、分かってるはず。だって、ヤスフミより年上なんだから。



≪止めたって聞く人じゃないでしょ。それに≫

「それに?」

≪あなた方以外で言えば、高町教導官という人の凄さを一番認めていたのは、この人です≫



どこか優しい声で、言葉は続く。なんでだろう、視線がヤスフミに向いているように思うのは。

・・・・・・ううん、きっと向いてるよね。デバイスというだけで、アルトアイゼンにはちゃんと心があるんだから。



≪だから、あんなの見ていられなかったんでしょ。・・・・・・止められるはずが、ないじゃないですか≫

「そっか」

≪えぇ≫



それっきり、アルトアイゼンは黙ってしまった。もう、言葉に答えてくれない。

無言・・・・・・静かだな。なんで、こんなことになってるんだろ。



「恭文、大丈夫なんですか?」

「・・・・・・あんまり、大丈夫じゃない」





なのはの全力全開の砲撃を・・・・・・エクシードは使ってないとは言え、何発も斬って、その余波でジャケットもボロボロ。

その上、気絶するのを防ぐために暗器で自分の身体を浅くだけど刺して・・・・・・無茶、し過ぎだよ。

シャマル先生、運ばれてきた時のヤスフミがあんまりな様子で、泣きそうな顔してたもの。



魔力ダメージがひどくて、少しの間は安静だって言ってた。多分、1週間前後。





「砲撃って、斬れるものなんですね。私、初めて見ました」

「・・・・・・ヤスフミやヘイハチさんだけではあるけどね。
普通はそんなこと、しようとしないから。ちなみに、私は無理」

「あはは・・・・・・そうですよね」





ヤスフミが六課に来てから、ちょうど一週間。今日、スバルとティアナがなのはを相手に模擬戦をした。だけど・・・・・・それが無茶の連続だった。

スバルの無謀な突撃。ティアナが今のところ教えてもいない砲撃魔法を使おうとしたり・・・・・・あぁ、これはフェイクだったよね。もっと危ない事をしようとした。

ティアナ、近接戦闘の技術が低いはずなのに、スバルが飛び込んで足止めをしている間に接近して、なのはを斬撃魔法でしとめようとした。



もちろん、防がれたけど。それで、なのはは・・・・・・多分思い出した。あの時の自分を。

だから、ティアナに修正を加えた。もうこんな事をしないように、教導隊方式で叩きのめそうとした。

まず、砲撃を1発。それから・・・・・・2発目。そこにヤスフミが割り込んで、砲撃を斬った。




私達と一緒に模擬戦の様子を見ていたはずなのに、誰よりも速く、私が追いかけられないほどに速く。そして・・・・・・冒頭のアレ。

無茶、し過ぎだよ。でも・・・・・・それでも、伝えたかったんだよね。だから、あんな真似をして。

ごめんね、止めようとして。・・・・・・そう、だよね。ヤスフミはあの時のなのは、見ていられるわけがないよね。



だってヤスフミは、何時だって全力全開でぶつかってくるなのはだから、心を開いたのに。

・・・・・・私もね、あと、シグナムもか。それっぽいことを言ってたから。私達みんな、ヤスフミの言葉で思い出したよ。

確かに、私やヴィータ達とぶつかった時のなのはだったらきっと、あんなことはしない。とっくにティアナと話せているはずだもの。



というか、ズルかった。なのはもそうだけど、私も都合のいい時だけ隊長やろうとしてたから。・・・・・・よし。





「スバル」

「はい?」

「やっぱりね、当事者同士の問題だと思うんだ。教導官と生徒。教える側と教えられる側の問題」





私はヤスフミを止めようとした時、部隊の一員として、局員として、上司としてと考えていた。・・・・・・考えていただけで、それは建前だったけど。

だけど、きっとそれは違う。それだけが私達の全部じゃないから。だから、全部を含めていかなきゃいけない。

なのはは先生で、スバルとティアナは生徒。その間で問題は起きた。そこに分隊長とか局員とかを持ち出すのは違う。



まぁ、確かに規律を考えると問題ではあるけど、根っこはもっと深くてシンプルで、そして柔らかい部分にあると思う。





「だから・・・・・・なのはに、どうしてあんな事をしたのか、ティアナが目を覚ましたら一緒に話して。私達も、なのはにきちんと話をさせる」





・・・・・・魔法に分かり合いたいという想いを乗せて撃つから、なのははすごい・・・・・・か。

ヤスフミ、なのはのこと、なんだかんだ言いながらよく見てるんだよね。確かにその通りだよ。

でも、ちょっと言い過ぎ。なのは、本当に崩れてたんだから。



そこは・・・・・・落ち着いたら、ちゃんとお話させないと。





「それでどうかな?」

「・・・・・・それは、分隊長としてのご命令ですか?」





私は首を横に振る。だって、スバルの言う事は違うから。

ダメだね、きっとヤスフミに感化されてるよ。規律って、大事なのに。

大事なんだけど・・・・・・それだけだったから、こういう問題が起きたんじゃないかと、少し考えた。



というか、さっきも言ったけど私達は少しズルかった。みんなに距離を作って欲しくなくて、だからヤスフミが指摘したようにあまり言わなかった。

だけど、それでもみんな分かってくれていると考えていた。分かって当然のものだと考えていた。

だって、ここは部隊だから。・・・・・・そこから、溝が出来てたんだ。上はとてもズルいスタンスだった。



だから、下にまで響いた。なので、私はスバルにこう返事をする。





「私としての、お願い」





ティアナが焦ったり、不安になる要素を、私達隊長陣はみんな知ってたはずなのに、異変は起きた。

この事態を防げなかったのは、隊長陣のミスだと思う。もっと言うと、コミュニケーション不足。

とにかく、ここもあとでみんなと相談しておかないと。あぁ、それとはやてに報告だ。



ヤスフミが通信しちゃったから、きっと戻ってきたらすぐに聞いてくるだろうし。





「・・・・・・わかりました。あの、ちゃんと話します」

「うん。・・・・・・ありがと」










まずは、ティアナが目を覚ます事・・・・・・だよね。





ヤスフミはこれだけど、きっとティアナはすぐに。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・あー、どうしたもんかな。これは。ぶっちゃけ、うちのバカ弟子が言った事って・・・・・・奇麗事の押し付けなんだよな。

教導官ってのは、命を預かる仕事でもある。教え子が死んだら、そりゃショックさ。

幸い、アタシやなのははそういうことは今までねぇけど、なんでもかんでも昔通りに出来るわけがねぇ。





ただ、演習場のチェックなんてしてるこの女にバカ弟子が言った事は、間違いではねぇんだよ。

いや、だってよ・・・・・・アタシらもそれで友達になったようなもんだしさ。

コイツが『お話』出来ない奴だったら、アタシやはやてはもしかしたら、ここに居ない可能性だってあるわけだしよ。





しかし、アレもまた無茶したなぁ。なのはの砲撃全部斬るなんて、ありえねぇぞ。






エクシード使ってないとは言え、相当腕上げてるな、ありゃ。出来れば、こんな形では確かめたくなかった。










「・・・・・・ヴィータ」

「なんだ?」

「お前、なぜ私やテスタロッサが動くまでに蒼凪を止めなかった。お前は蒼凪の師だろう」



なんか分かりきった事を聞くライトニングの副隊長に、アタシはため息を吐く。

それにより視線が厳しくなるけど、んなもん気にしてらんねー。てか、アタシの答えは決まってるから。



「あいにく、アタシはアイツの師匠ではあるけど、アイツの飼い主じゃねぇ」



アタシの鉄槌でも、アイツの中の獣は飼い慣らすことなんざ出来ない。

じーちゃんと同じだ。どこまでも自由で、どこまでも強い。中途半端な檻なんて、きっと喰い破る。



「てかよ、シグナム・・・・・・お前、マジでアイツが部隊で平穏無事になにも起こさずにやってけると思ってたのか?」

「まぁ、危惧はしていたがここまで大事になるとは想定していなかった。
・・・・・・お前は思ってなかったというのか?」

「普通に過ごすなら問題ないだろうな。もしくは去年のはGPOみたいな気風ならな」





ただ、今回みたいなトラブルとか事件絡みだと、暴走するのは目に見えてるだろ。

普通の部隊員や局員と温度差が出てくるのは明白。だってアイツ、基本ロンリーソルジャーだし。

で、アタシは付き合い長いから、まぁこれくらいはするかなとちょっと思ってた。



飼い主ではないけど、アタシはそれでもアイツの師匠だ。

だから、そういうのは分かる。で、止められるかどうかもだ。

・・・・・・まぁ、シグナムには内緒だけど、止めようと思ってた。



アイゼンをセットアップもしようとしてた。ただ、やめた。



なんか見てて・・・・・・そういうことして解決する問題とは思えなくなったから。





「てか、それならお前はどうなんだよ。止めようとしたのに結局中途半端。
最後の最後まで事態を見てただけじゃねぇか。アタシ、お前にそんなこと言われたくねぇし」

「・・・・・・言うな。あの時、蒼凪に睨まれた瞬間、比喩無しで殺されるかと思っただけだ。
そして、アルトアイゼンに相当糾弾された。何も反論出来ず、足を止めるしかなかった」

「そっか」





現にフェイトがバカ弟子が落ちるまで腰抜かしてたし。あぁ、さっきも言ったけど、出来ればこんな形では成長は確かめたくなかった。

・・・・・・はやて。あと、リンディさんやクロノもか。やっぱ誘う時期を間違えたって。バカ弟子は、部隊には合わないよ。

多分現状の局で、アイツがアイツらしくいられて、それを許してくれる場所って、無いんじゃないのかな。



去年のヴェートルでのアレコレは、GPOの人達がすっげー良い人達だったからだよ。うん、間違いなくな。





「・・・・・・ヴィータちゃん」

「なんだ?」

「恭文君って、バカだよね」



・・・・・・待て待て、そりゃ聞き捨てならねぇぞ。いくらなんでもヒド過ぎるだろ。



「バカだよ。だって・・・・・・私の事、思いっきり責め切る事だって出来たはずなのに。
最後は結局アドバイスだよ? こうすれば分かり合えるはずだって、言っただけなんだよ?」



どうやら、最後の言葉はそういう風に聞こえたらしい。実は・・・・・・アタシもそう聞こえた。

言葉の言い方はともかく、言ってることはそういうことだと思った。なんつうか、分かる。アイツ、そういうやつだし。



「それなのに、自分の身体、刺したりしてまで、踏ん張って・・・・・・。これじゃあ私、完全に悪者だよ。
恭文君をいたぶったのと同じだよ。どうしろって言うのかな、これ。私・・・・・・最低だよ」



顔は見えない。だけど、聞こえる。すすり泣く声が。



「痛いの。心が・・・・・・凄く。恭文君と全力でぶつかって、分かり合っていこうねって約束した。なのに、私はその約束・・・・・・破った」



肩が震えてる。教導官とか、エース・オブ・エースとか、そういうことじゃない。

ただの高町なのはとしての言葉は続く。



「私、あの時恭文君と分かり合おうともしなかった。恭文君がどうしてティアナをかばったのか、あんなこと言い出したのか。
分かろうともしなかった。だから、友達じゃないって、偽者だって言われた。殺してやるとまで言われた」

「・・・・・・なのは」

「それで分かったの。私、ティアナにも同じ事をした」



どうやら、アタシの言葉はあんま意味がないらしい。なのはの言葉は、止まらなかった。



「本当は教導官としてとかじゃなくて、自分として・・・・・・見てて危なっかしくて。
ただ放っておけなかっただけなのに。私にだって、振り返れば落ち度はいくらでもあったのに」





その言葉を、アタシもシグナムも黙って聞く事しか出来なかった。落ち度って言えば、アタシらだって同じだ。

アタシらは教導官として、隊長ズとして、ティアナの変化に気づくべきだった。てか、それが出来る要素はあった。そのための猶予も十二分にあった。

でも、アタシ達はそれを出来なかった。ティアナが規律やらアタシらの教導計画を無視して勝手に暴走したと言えばそれまで。



だけど、それはそこを抜かした上で言えることだ。・・・・・・そんな最低な事、アタシは死んでも言いたくねぇ。

ティアナ叱るにしたって、まずは自分の非と不手際を認めて、受け入れてからに決まってるじゃねぇか。

それもせずにそんな事、騎士として、教導官として言いたくねぇ。





「それなのに私、それを棚に上げて、ズルく隊長面して、力を振りかざして、ティアナを踏みつけただけだった。あんなに必死に叫ぶティアナ、初めて見たのに、それでも私」



・・・・・・アタシは、空を見る。解決法・・・・・・全然思いつかない。やっぱ、こういうのは基本なのかね。

そうだな、基本だよな。現場百篇って言うし・・・・・・あれ、ちょっと違うな。



「なのは、お前ティアナが目覚ましたら、ちゃんと話せ」

「え?」

「いいから、そうしろ。教導官どうこう上司どうこうじゃなくて、ようはティアナと分かり合いたいんだろ?
自分と同じ事になって欲しくないだけなんだろ? だったら、ちゃんと話せ」





じゃなきゃ・・・・・・マジでどうなるかわかんない。このまま放置は絶対にアウト。

相当ご機嫌斜めなのは間違いない・・・・・・なんてことも付け加えておく。

確かに、教え子と生徒、処罰どうこう規律どうこうの前にちゃんと話さないとまずい。



24時間勤務だから、何時事件が起こるかわかったもんじゃない。



こんな状態でガジェットの襲撃とかあったら、絶対に揉める。





「・・・・・・うん、そうするよ。ヴィータちゃん、ありがと」

「・・・・・・おうよ」



あー、それと一応・・・・・フォローはしておくか。



「あと、バカ弟子の言った事は気にするな」

「でも」



やっぱり、気にはしてるらしい。つながりが深いから、余計にそうなるんだろ。

その様子に、ため息を吐きつつ、なのはを見上げて、アタシは言葉を続ける。



「アイツは、あの時のお前は、教導官で分隊長で、一等空尉でエース・オブ・エースなお前は友達じゃねぇって言った」





それだけじゃなくて、『高町なのは』を騙るなら殺すとまで言った。

相当キレてたのがここで分かる。多分、マジギレだ。

で、アイツはティアナのことなんざ眼中に無かったってのが怖いところだ。



対象はあくまでもなのは。アイツから見て、自分の魔法の意義も、意味も見失ってるのが見てられなかったから。



そう、たったそれだけであの騒ぎだ。『局員』としては正解でも、他は不正解しまくりなんだろ。





「・・・・・・うん」

「でもよ・・・・・・自分が認めた『高町なのは』が友達じゃないとは、一言も言ってないぞ?
つーか、ちゃんと最後に言ってただろうが。『僕は、ただの『なのは』の友達だ』ってな」



どうやら、気づいたらしい。まぁ、アタシも今なのはと話してて気づいた。

あれこれ言いはしたけど、結局・・・・・・これだけ伝えたかったのかも知れないな。



「つまり、そういうことだ。だから、見せてやれ。お前はお前だってな」



自分は絶対に偽者なんかじゃない。アイツが認めてくれた『高町なのは』はちゃんとここに居る。

局員だろうが分隊長だろがなんだろうが、健在だってな。そうすりゃ、問題ないだろ。



「うん、分かった。ヴィータちゃん・・・・・・ありがと」

「いいさ、別に。てか、二度も礼を言う必要ねーだろ。一度でいい」




この借りは、しっかりとバカ弟子に返してもらうことにするから。

あー、なにするかな。やっぱアイスだろ、アイス。



「待てヴィータ。あれはそういうことなのか?」

「そうだ・・・・・・って、お前気づいてなかったのかよっ!!」

「・・・・・・気づかないのは、もしかしなくてもそうとうダメなのか?」

「ダメだな。バカ弟子と付き合い長かったら、ある意味では気づいて当然だぞ?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・それで、ティアナが目覚めるまでついていると?」

「はい」



・・・・・・なのはちゃんはこう、極端というかなんというか。でも、こういうところに私達みんな引っ張られてきたから、悪い気はしないのよね。

私は苦笑しつつ、ベッドの横に椅子を置いて、二人の様子を心配げに見つめるなのはちゃんを見て、そう考えた。



「でも、仕事は大丈夫なの?」

「あ、今日の分の訓練データはさっきので全部纏めちゃいましたから。
ライトニングの二人も待機になってますし、問題はありません。というより」

「というより?」



なのはちゃんが少し言い辛そうに私を見て・・・・・・苦笑いしながら、少し落ち込んだ声で話してくれた。



「さっき八神部隊長に報告して、ティアナとの事が上手い形で解決するまで訓練は中止。
ティアナもそうだし、私も前線メンバーから外すと言われました」

「えぇっ!? 訓練中止はともかく・・・・・・前線メンバーから外すって、またどうしてっ!!」





はやてちゃん曰く、今の状態で訓練を再開しても・・・・・・もしくは、出動がかかっても、また今日やホテル・アグスタと同じ事が起こりかねない。

だからまず、ティアナとちゃんと話す。そうして、起こってしまった行き違いを解消すること。

訓練も出動も、それが出来てからだって・・・・・・ようするに怒られたと、少し涙目になりながら話してくれた。



・・・・・・それは確かに同感かも。だって、体調データから見てもティアナはそうとう追い詰められていた。

随分寝てなかったみたい。そのせいで、今は熟睡してる。原因はもちろんオーバーワークによる疲れ。

これ、もしかしたら起きるの深夜かも。つまり、それだけ無茶な事をしていた。



体調とか、そういうのを度外視した自主訓練を重ねた結果がこれであり、あの模擬戦での無茶。

原因はやっぱり・・・・・・あのミスショットよね。なのはちゃんが注意したとは言ってたけど。

でも、それだけじゃフォローが足りなかったのは明白。だからこれに繋がったと考えると・・・・・・あぁ、確かに危ないかも。



はやてちゃんじゃなくても、私もこれで出動は許可出来ないわ。訓練も同様よ。

ティアナだけの話じゃなくて、今回の事でスバルやエリオとキャロとも距離が出来てるかも知れないもの。

みんなから見るとなのはちゃんは、ティアナの頑張りを無碍に否定したのと同じ。好感度が上がるとは思えない。



いつ出動がかかるか分からないからこそ、早急にこの部分を解決しないと、部隊の円満な運用が出来なくなるわ。





「そう。・・・・・・それで、恭文くんはどうなりそう?」

「・・・・・・部隊長、私やフェイトちゃん、シグナムさんから話を聞いて、頭を抱えてました。
間違いなく処罰対象だと思います。まぁ、私とティアナにスバルもなんですけど」





そうよね、いくらなんでも部隊の一員として考えると、恭文くんの行動はやりすぎもいいところだもの。

上下関係はキッチリ。不満があるなら、しかるべき形で解決する。それが基本であり原則。

だけど恭文くんの行動は、理由はどうあれそのルールを完全にぶっちぎってる。



多分、全部覚悟の上よね。そういう処罰で・・・・・・六課を辞めることになるのも、覚悟してる。

・・・・・・六課への出向はミスジャッジだったのかな。来てくれた時は単純に嬉しかった。

けど、恭文くんからすると、やっぱり辛いところがあるのかも。





「・・・・・・私、ティアナとのことがなんとかなったら、はやてちゃんと話してみます。なんとか部隊に残れるようにして欲しいって」

「それは難しいんじゃないかしら」



だって、恭文くんが重大なルール違反をしたのは明白。それも、間違いなく除隊レベルの行動。

そこでなのはちゃんが下手にかばったら、他の部隊員達に示しが付かない。



「それはそうなんですけど・・・・・・シャマルさんは、恭文君に六課に居て欲しくないんですか?」

「うーん、そこを聞かれると微妙なのよね。恭文君は局や局員や部隊のやり方が嫌いだもの。
やっぱり、恭文くんには合わないのかなーって、今ちょっと考えてたところなのよ」











というか、このままなのはちゃんに庇われる形で残っても、恭文くんが辛いかも知れない。

私がそう言うと、なのはちゃんは腕を組んで考え込み出した。自分でもそこはちゃんと分かっていたらしい。

部隊・・・・・・規律・・・・・・うーん、難しいなぁ。恭文くんはただ、なのはちゃんに『それは違う』って言っただけなのに。





決して変わらない友達として、仲間として。ただの『高町なのは』の凄さを認めて、絶対に口には出さないけど好きだと思っている人間として。





やっぱり、プライベートはともかくとして、仕事場まで昔と同じには出来ないのかなぁ。・・・・・・なんだか、少しだけそれが悲しい。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ん」





目を、覚ます。覚まして、重いまぶたを開ける。



そして、目を見開いてすぐに見えたものがある。そこに見えたのは・・・・・・人の顔。



栗色で、サイドポニーで、教導官服で・・・・・・あ、あれ?





「・・・・・・あ、ティアナ。目・・・・・覚めたんだね。気分、どうかな」





どこか嬉しそうに、安心したように微笑むその人の顔を見て私は・・・・・・当然のように、こう叫んだ。





「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ティ、ティアナっ!? あの、お願いだから落ち着いてっ!!
え、えっと・・・・・・・私、なにかしたかなっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・す、すみません。こう・・・・・・あの、なんというかいきなり目が覚めて人の顔が視界に入っていたのがいささかショックというか、ちょっとビックリだったので」

「あ、ううん。私こそ驚かせてごめん。そうだよね、いきなりだとビックリするよね」





・・・・・・言えない。まさか、意識を手放すその前に見た『あの顔』が脳裏に焼きついてたなんて。

よ、よし。ここは一生封印しておこうっと。というか、正直思い出したく・・・・・・。

そして、そこまで考えて思い出した。意識を手放す前に・・・・・・私が何をしたかを。



そう、『私が何をしたか』だ。決して、この人どうこうじゃない。





「というか・・・・・・あの、なのは隊長」

「・・・・・・隊長はいらないよ」

「いえ、そういうわけにはいきません。・・・・・・私に話があるんですよね。
だから、目が覚める時間を狙ってここに来た。それで、私はどんな処罰を受けるんでしょうか」



だけど、その言葉は否定された。なのは隊長が、首を横に振ったから。・・・・・・え、違うの?

それに若干寝ぼけている頭が混乱する。というか、わけがわからないから。だって、それ以外に理由が。



「あるよ。ティアナと、ちゃんと話したいと思ってここに来たの」

「・・・・・・何を話せばいいんですか。無茶したことですか? 訓練内容を無視したことですか?」

「違うよ。まぁ・・・・・・そこは確かに気になるから、あとで聞かせて欲しいとは思ってる。
でも、今回は違う。・・・・・・ね、ティアナ。ティアナは・・・・・・どうして、強くなりたいのかな」



なぜだろう、この人の意図が分からない。だからだろうか、とても・・・・・・イライラする。

まるで、腫れ物に触られてるような感じがして、それが嫌だ。この人がここに居るのが、急激に不愉快になってくる。



「強くなりたいと、思っちゃいけないんですか?」

「ううん、そんなことない。私だってそこは思うもの」

「隊長が、ですか?」

「そうだよ。・・・・・・私、すごく弱いんだ」



・・・・・・なぜだろう、一瞬で頭が沸騰した。自嘲の表情を浮かべるこの人を見て、ふつふつとこみ上げてくるものがある。

だから、こんな事を言う。睨み気味に、辛辣に・・・・・・言葉の中の棘を隠そうとせずに。



「・・・・・・すぐに荷物は纏めますから」



あぁ、もういい。別にいい。だって、どうせ私はここに居られないんだろうし。

だから、隊長自ら来たんだ。それしか考えられない。



「お願い、話を聞いて」



ベッドから抜け出そうとする私の腕を、目の前の人はしっかりと掴む。掴んで・・・・・・絶対に離さない。

振り解こうとするけど、外れない。とても強くて・・・・・・だけど、優しい力で、私の手を握り締める。



「私、どうしてティアナが自分が壊れるギリギリのところまで頑張ろうとしちゃうのか、どうしても分からないの。だから、教えてくれないかな」

「離してください。というより、なんであなたにそんなこと話さなきゃいけないんですか。・・・・・・いいえ、知ってますよね」



分隊長なんだから、私の経歴や局に入ろうと思ったキッカケくらいは知ってるはず。

知ってて、聞いてるに決まっている。それがイライラを助長させる。だから、必死に腕を・・・・・・外れない。



「うん、知ってる」



だったら・・・・・・この手を離してっ!? だったらもう話す必要なんてないじゃないのよっ!!

自分のやってた事がどんだけバカなことかくらいは分かってるわよっ! 分かってるから・・・・・・離してよっ!!



「知ってる・・・・・・つもりだった」

「・・・・・・え?」

「私は、ティアナのことを知ってる『つもり』だったの。
だから、こんなになるまでティアナが苦しんでるんだって、気づかなかった」



私を真っ直ぐに見てくる。・・・・・・何故だろう、その視線に、私がよく知っているあの子の影を見つけた。

あの子も、こんな風に真っ直ぐ見つめてくる。視線を外したり、何かを隠したりなんて、絶対にしない。



「何か勘違いしてるみたいだから、まずそこから話すね。・・・・・・私は、ティアナを『いらない』って言うために来たんじゃない。
ティアナの事が知りたくて、話がしたくて来たの。というか、ティアナがいらない子なら、私だっていらない子だよ?」

「え?」



それで、なのは隊長から聞いた。事態を知った八神部隊長の命令で、私もそうだし、なのはさんも出動待機から外されているらしい。

今回の事、両方に落ち度があるのは明白だから、ちゃんと意思疎通をして解決するようにと、相当叱られたとか。



「だから・・・・・・話すんですか? 部隊長命令だから」

「違うよ。私が、知りたいから」



目の前の人は即答した。迷いもなく、躊躇いもなく、私の目を見ながら、真っ直ぐに答えた。



「知ったつもりじゃなくて、知りたいの。ティアナの口から、ちゃんと聞きたい」



なんでだろう、それに胸が震えた。



「・・・・・・お願い。お願いだから、悲しい心で、痛みで・・・・・・一人の世界へ行こうとしないで」



すごく、嬉しかった。まるで自分がおかしくなったんじゃないかと思うくらいに、さっきまで感じていた憤りが消えた。



「ティアナが今居る場所は、世界は、そんなことをしなくてもちゃんと道があるの。
私も、みんなも力になるから。だから・・・・・・お願い」

「なのは・・・・・・隊長」

「なのはさんで、いいよ。・・・・・・ケジメは必要だけど、今からのお話は、ただの私として話したいの。
分隊長とか教導官とか、そういうのは忘れて欲しいな」



なぜだろう、この人の・・・・・・どこか優しくて、強い・・・・・・今まで一度も見たことのないような瞳を見ていると、素直に頷いてしまった。



「はい」





・・・・・・あ、違うか。一度だけ、出張任務で海鳴に行った時に見てる。



翠屋や幼馴染の方達と居る時・・・・・・仕事場から離れてフェイトさんと居る時とかは、今のこの瞳だ。



もしかして、これが本当にプライベートななのはさんなの・・・・・・かな。





「ありがと。・・・・・・それでね、頑張り過ぎちゃう原因って、やっぱり・・・・・・お兄さんのことかな」

「・・・・・・かも、知れないです」

「そっか。私もね、お兄ちゃんが居るから・・・・・・少しだけ分かる」

「お兄さん、いらっしゃるんですか?」

「うん。あ、この間海鳴に行った時には居なかったけど、ちゃんと居るよ? 今はね、地球のドイツって所で」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・・・・・・・どうしよう。なんか隣のベッドで、色々事態が動いてるんですけど。

今日の事態を呼び起こしたお姉さんが、別人のようにプライベートモードに入った横馬とお話してるんですけど。

それで『ごめんなさい』を連呼して泣き出してるんですけど。それがやたらと怖いんですけど。





えー、僕、蒼凪恭文・・・・・・現在、バッチリ目が覚めております。もっと言うと、ティアナが目を覚まして叫んだ直後くらいに。

二人は『気持ちよさそうに寝てる』とかなんとか言ってたけど、実は全然違う。寝てたのをあれでバッチリ起こされてしまった。

あぁ、どうしよう。なんか円満解決したのはいいけど、僕の目が覚めてるとかバレたら、絶対怒られるよね?





これ、盗み聞きだもの。いや、寝ようとしてたんだけどなんか眠れなくて・・・・・・いや、マジでよ?

あぁ、どうすりゃいいのこれ。隣では感動オーラを抽出する固有結界を全力全開で発動中だしさ。

に、逃げたい。すっごい逃げたい。だけど逃げられない。いや、逆にどっかで目を覚ました演技を。





だめだ。それはやり辛いよ。この空気でそれはやり辛いよ。僕はそれやったら天然であろうと絶対にKY扱いだよ。





よ、よし。こうなったら、最後の手段だ。・・・・・・頼れる相棒に相談しよう。










”・・・・・・もしもし、アルトさんや”

”なんですか?”

”僕はどうすればいいかな”

”地獄へ落ちればいいと思います”

”あぁ、それならな・・・・・・納得出来るかっ! お願いだからもうちょっと建設的なアイディアを出してっ!?”










そして、それから約1時間・・・・・・。二人が外に出るまで、僕はひたすらに狸寝入りだった。

なんかこのすぐ後に、海上にガジェットが出たとかで出動のアラームが鳴ったりした。

だけど、出動待機から外されている二人には関係の無いこと。当然のように、僕も出れる状態じゃない。





なので・・・・・・非常に辛い時間を過ごしてしまったのである。ただ、まだここはマシだったのかも知れない。





・・・・・・そう、自業自得ではあるけど、僕が辛くなるのは、ここからだった。




















(第2話へ続く)






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