小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) 第36話 『恭+良の法則 それは絶対的な事件発生フラグ?』 ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』 ラン「京もドキっとスタートドキたまタイムー♪ さぁ、京はどんなお話だろー!!」 ミキ「ラン、それ色々と間違ってるから。いや、間違ってない部分もあるけど、大体間違ってるから」 スゥ「さてさて、今回のお話はデンライナー組ですね」 (展開された画面に映るのは、着物姿のみんなと京の街並み。そして、サーベルを持った警官達) ミキ「無事に降り立った京都でボク達を待ち受ける驚愕の事実とは一体なにか? うーん、どうなるんだろ。というか、京都かぁ・・・・・・」 ラン「ねね、お侍さんとかいるのかなっ!?」 スゥ「舞妓さんにも会えるかも知れませんねぇ」 ミキ「いや、会えないから。そしてそんな余裕ないから。 とにかく、今日もいつもどおりに・・・・・・」 (三人で、当然のようにお馴染みのポーズ) ラン・ミキ・スゥ『ドッキドキ♪』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・・・・・・・・・・さて、京都という土地について簡単に説明しておこうと思う。京都とは、簡単に言えば昔の日本の首都。 僕達が今居る明治11年時点では、立派な日本の首都である。天皇も、今は東京に住居を移してはいるけど、それでもである。 近畿地方中央部の盆地に位置する都市で、美術工芸の中心地であるとともに、日本仏教の中心地。 この時点で、千有余年の都であることから、『千年王城』とも呼ばれている。 四季の彩りも鮮やかで、日本で最も『優雅』の二文字が似合う都市。それが、京都という街である。 「・・・・・・あたし、京都なんて初めて来たけど」 桜色の和服を身にまとったあむが、街を歩きながら感心したように呟く。 「綺麗な街並みですよね」 「そうだね。私は・・・・・・中学の修学旅行で一度あるんだけど、やっぱり今とは違うね。 街並みだけじゃなくて、空気も綺麗だし、静かだもの。やっぱり、車とかまだ通ってないからだね」 それとお揃いの和服で、少し胸が苦しいとボヤいていたフェイトが、そんな風に初夏の京都を見る。 確かに、現代の京都とはだいぶ違う。文明開化の発信地である東京から離れてるのもあるんだろうけど。 静かな街並みを、僕達の一団は練り歩く。ぶっちゃけ、注目を集めてる。 人数の問題もあるけど、やっぱり目立つ要因が色々とあるから。ただ、これでいい。 「あ、僕もフェイトさんと同じです」 そんな風に乗っかったのは、良太郎さん。一応高校を卒業直前で中退するまでは学校に通っているので、修学旅行も経験済みらしい。 「というか、修学旅行で京都や関西は、やっぱり定番なんですかね。あとは広島とか」 広島は、修学旅行生が多いと言われる場所のひとつ。なお、ここにも理由がある。 広島は、第二次世界大戦の折、アメリカによって原爆を落とされた。その次は長崎。 それらの攻撃行動が、長く、悲惨な戦争の時間を止めるきっかけになった。 ただし、当然のように死傷者は沢山出ている。そうでなくても、原爆の被害により身体障害を負った人達も居る。 僕もそうだし、フェイトや良太郎さん、あむにスバル、ディード・・・・・・ここに居るメンバーは、その頃のことなど知らない。 半世紀以上前の出来事。だけど、その爪痕に痛みを与えられ、苦しむ人達が居る。それもまた、一つの現実。 普通に生きていると忘れがちで、だけど確かに存在した時間である。 「多分、その地域の人以外だとそうじゃないかなと。 ・・・・・・あ、それならあむはもう一回行けるね。もう6年なんだし」 「あははは、そうですね。聖夜小は関東地域ですし、もしかしたらそうなるかも」 「いやいやあむ、そうならないかも知れないよ?」 そう言えば、6年だから修学旅行とかあるのかなと、少し考えてたりする。 いや、あるか。なんかフェイト曰く、経費(というか学費)の項目に積立金があるそうだし。 「どうして?」 「聖夜小は小・中一貫のエスカレーター式な私立校だもの。下手したら海外とかありそう」 「いやいや、さすがにそれは・・・・・・あったらどうしよう。あたし、英語喋れないし」 あむが少し困った顔で俯く。色々な可能性を考えているのか、表情が微妙に変わり続けて、面白い。 「あむちゃん、日本生まれの日本育ちだしね。というか、この間も外国の人に話しかけられてテンパってたし」 「ちょっとミキっ! バラさないでよっ!! あー、でもどうしよう。行く以上は、最低限分からないとだめだよね」 「まぁ、分かると便利ではある」 英語は世界の大半で使われてる言語。逆を言えば、喋れるとどこででもある程度のコミュニケーションは可能なのだ。 これは、自分の言ってる事が伝わるということだけじゃない。相手の言っている事が分かるということもある。 相手の言ってる事や、ニュアンスが分かれば、それだけで回避出来る可能性が高まることがある。 それは、危険。もっと言うと、犯罪に巻き込まれること。ここはかなり重要なスキルだったりする。 「あむ、大丈夫だよ。だって、ヤスフミは喋れるから。それもペラペラ。あと、広東語も喋れたよね」 「うん。両方ペラペラ」 フェイトはフォローのつもりで言ったのだろう。だけど、あむはそれに非常にビックリした顔をする。 というか、あむの横に浮かんでるキャンディーズと、その隣を歩く良太郎さんとハナさんも。 『えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』 だから、こんな風にビックリした声を上げるのである。 「あれ、良太郎さんとハナさんにも話してませんでしたっけ」 「う、うん。初耳だよ」 「ごめん、私はなんだかすごい意外。恭文君、そういうの苦手そうなのに」 ・・・・・・ハナさん、それはどういう意味ですか? 僕すっごく気になるんですけど。 「でも、どうして?」 「そうだよ。恭文、そんな頭良くなさそうなのに」 「うっさいバカっ! つーか、言語覚えるのにそういうの関係ないからっ!!」 この辺り、海鳴に居た時に月一で香港の警防に出入りしてたのが大きい。 そうじゃなかったら、覚えてないかも知れない。僕も基本それ以外は海外に出ないし。 「香港の知り合いのところで、戦闘訓練を定期的につけてもらってたことがあるんですよ。 で、香港の公用語って、英語と広東語の二つなんです」 まぁ、香港自体が港町で、色んな国の人が出入りするから、その二つだけ使われてるわけじゃないけど。 ただ、公用語・・・・・・主に使われているのは、その二つなのだ。 「あ、納得したよ。だから話せるんだね」 「はい、実地で覚えました」 「そのおかげなのか、私とかよりも喋れるんです。 ・・・・・・一応、私も英会話は学校で習ったんだけどなぁ」 「それだけじゃあダメだよ。短いスパンで、ネイティブな人と一日中とか話す機会がないと。 大人になってから、ちょこちょこ授業の時間だけ勉強じゃあ、本当に役に立つものは難しい」 なお、恭也さんからの受け売り。恭也さんは、士郎さんから教わったと話していた。 士郎さんも若い頃は英語も話せないのに仕事であっちこっち回ったって言うし、そこから得られた経験でしょ。 「逆を言えば、それが出来れば、頭が悪くても話せるんだよ。ほら、フェイトだって覚えあるでしょ? こっち住み始めてからは、日本語苦労してたって言ってたじゃないのさ」 ミッドでも日本語は普通に使われてるけど、それでも細かい部分は苦労したとか。 主に細かい言い回しとか言い含みとか、ニュアンスとか。でも、実際に地球で暮らすようになって、徐々に覚えたらしい。 「あ、そうだね。・・・・・・うん、納得したよ」 「てゆうか恭文、アンタ何気に保有スキルすごくない? 剣術や戦闘技能もそうだけど」 「料理に家事、シャーリーさんと同じデバイスマイスターの資格もあるから、機械にも強いよね。 その上、外国語を二ヶ国語もマスターしてるって・・・・・・私、ちょっと驚き」 なんだろう、あむやキャンディーズが感心した目で見る。てゆうか、良太郎さんも同じ。 うーん、そんなに凄いわけじゃないんだけどなぁ。全部固まるまで、結構時間かかったし。 「別に大した事ないよ。どれも時間をかけて少しずつ習得したものなんだから。 てゆうか、やりたいことやりたいようにやってるだけ。外国語だって同じだよ」 「そうなの?」 「はい。・・・・・・旅に出るなら、必要かなって」 さっきも言ったけど、香港の公用語は、英語と広東語。広東語はともかく、英語は覚えておくと色々と便利。 というか、香港やイギリスに行ったりして、外国の言語を覚えたいと強く思うようになった。 だって、それだけで旅に出た時に、出来ることが増えると思ったから。 そして、少しずつ覚えて、相手の言語で、相手の言葉で話せるようになると、とても嬉しかったっけ。 「・・・・・・ヤスフミの夢は、変わらずみたいなんです。 知らない世界を見て回りたいって考えてるといつもこんな風に目をキラキラさせるんです」 「納得しました」 だって、旅は楽しいもの。知らない何かとの出会いは、純粋にワクワクする。 実を言うと、今も少し・・・・・・ただ、唯世の事とか京都大火の事とかもあるから、抑えてるだけである。 「というか、ごめんね。私の仕事の都合に振り回しちゃってる形で。 ヤスフミ、やっぱり色んな場所に行ってみたいんだよね? あのね、もし我慢出来ないなら」 「大丈夫。仕事であっちこっちの世界に行って、旅はさせてもらってるもの。 てゆうか、フェイトの側に居られるから楽しいし」 「あの・・・・・・その、ありがと」 『・・・・・・また甘い空気出してる』 ・・・・・・で、色々と脱線したけど、京都の話に戻そう。 京都という街は、ここまでだととってもいい印象。 なんだけど、残念ながら、まだ続きがある。 そんな素敵なお話の裏で、古来より魑魅魍魎が闊歩する魔都と言われ、時に飢饉・疫病が蔓延。 時に戦乱の中心地となり、多くの血が流れた。幕末という一つの時代も、その内の一つの出来事に過ぎない。 まぁ、それは以前話した通りだね。そして、明治11年の時点では、その傷跡も癒えて、至って平和に見える。 ・・・・・・なんだかんだで、時間がかかった。火事まで今日を入れて、後三日・・・・・・いや、もう夕方だから、実質二日しかない。 急がないと、間に合わない。 「でも・・・・・・お侍さん、いないですねぇ」 「ちょんまげもないよ。うー、私見たかったのにー」 ラン、スゥ・・・・・・おのれらは僕の話を聞いてなかったんかい。 「・・・・・・二人とも、話聞いてなかったでしょ」 だから、ミキが呆れたようにこんな事を言うのである。 「明治政府が出来て、廃刀令って言うのが敷かれてるって、恭文から説明受けたよね」 これは簡単に言えば警官などの公僕以外は、基本的に刀剣類を持ち歩いてはいけないというものである。 今の銃刀法と同じ感じって言えばいいのかな? なお、この時代の警官は、銃ではなくサーベルを腰に差していることを、追記しておく。 ただし、それとてある一定以上の階級の警官にしか許可は出されない。みんながみんな持っているわけではないのだ。 で、その中でも選りすぐりなのを剣客警官と呼び、エリートとして認識されている。拳銃装備も認められてるみたいだけど、それも緊急時にのみのはず。 「で、幕府もなくなっちゃってるから、基本的にお侍も居なくなってる。 だから、恭文が物珍しい目で見られるんだよ」 「「・・・・・・そうでした」」 ・・・・・・今回は、全員和服着用。洋服は、この時代だとまだ一般的ではないのだ。 着ているのも、僕達が見た限りでは警官とか役人っぽい人とか、身分の高そうな人ばかり。 てゆうか、普通に現代の服を着てったら目立つって。特にあむは制服姿だしさ。 そして、フェイトもディードもスバルも、髪の色や瞳の色を栗色や黒に統一して、京都の町並みを歩く。 リュウタ達は、デンライナーで待機してもらってる。まぁ、すぐに電王に変身出来るし、問題ないでしょ。 もちろん、フェイト達の外見の変化は、変身魔法使用。で、みんなでとりあえず散策してるんだけど、今のところは変化なし。 これだけ見ると、ここが焼けてなくなるなんて、考えられない。 ・・・・・・逆を言えば、それだけ見つけるの大変ってことか。 「でも恭文、マジで大丈夫なの? そんな法律出来ちゃってるのに、アルトアイゼン腰に差しちゃって」 左隣を歩くあむがそう言うのも分かる。だって、この中で僕は刀装備だもの。 「大丈夫。廃刀令自体は地方都市とかだとまだ浸透してないのよ。 これで箱根とか行ってみたら、普通に見られるよ」 「いやいや、ここで見られてないじゃん。あたし、武装する必要ないと思うんだけど。というか、職務質問されたし」 「だめ、ある程度は武装してないと危ないって。 得物があるのを見れば、追いはぎやらなんやらだって簡単に手出ししないでしょ」 というか、あむは少し勘違いをしているようだ。なので、歩きながらある人を指してみる。 「なにより、刀剣類での武装規制は、現代みたいにキツキツに整備されてるわけじゃないの」 「え?」 「あむ、あそこで杖持ってる男が居るでしょ」 なお、普通に口で。指差しは色々とまずいのだ。 「あ、うん。あの人がどうかしたの?」 「あの人の杖、仕込み刀だから。その両隣の奴らもだね」 あと、さっき通りすがったのもそうだし、黒い帽子被ったおじいちゃんもか。 予想よりも武装してる人多いな。この辺り、本当にまだちゃんと整備されてないのかも。 「・・・・・・よく見ると、持ち手と鞘に分かれてるよね。 もしくは、その部分に緩めに布を巻いて、分からないようにしてる」 「フェイト、気づいてたの?」 「ヤスフミから説明を受けてなかったら、分からなかったと思うよ。でも、一応。 あ、だけどね、気づいた事はそれだけじゃないよ。・・・・・・少し、おかしいよね」 「うん、そうだね。ちょっとおかしい」 というか、なんだろう・・・・・・穏やかではあるけど、どこかに冷たい緊張感がある。 街の人達がなにか張り詰めているというかなんというか。それに、警官も多いような・・・・・・うーん。 「仕込み・・・・・・はい? なによそれ。 てゆうか、フェイトさんも何の話してるんですか?」 「あのね、あの杖は中に細身の刀身が仕込んであるの。ようするに、杖に偽装した刀。 ・・・・・・ううん、暗器の類に入るのかな? ヤスフミ、それで合ってる?」 「合ってるよ。仕込み刀は立派な暗器だから」 仕込み刀という暗器は、元々護身用に作られた武装。なお、今は杖だけを指して話してるけど、その形状は杖に留まらない。 例えば扇子や煙管、そういう身の回りの物に刃を仕込んで、暗殺用・・・・・・或いは、護身用装備としたのだ。 その場合、ほとんどは細身で携行に便利な長さになっている。そうじゃないと、仕込んでもその物に違和感が出るから。 なお、現代では当然禁止されている代物。所持していたら、銃刀法違反もいいところだ。 「はぁっ!?」 「あむ、座頭の市って分かる?」 「えっと・・・・・・あ、前にテレビで見たのだ。確か、目が見えなくてすごく強い剣の達人で」 そこまで言って気づいたらしい。僕の言ってる意味が分かったらしい。 で、視線で通り過ぎようとしてる連中を視線で指しながら、こう言った。 「あれも同じってこと?」 「そうだよ、護身用の武装」 「でも恭文、廃刀令があるんだよね?」 あむもそこが疑問らしい。今まで喋ってないけど、ハナさんや良太郎さんも。 あと、フェイトは・・・・・・説明したから大丈夫。 「だったら、アレもだめなんじゃ」 「そうですよぉ。それならなんで、警官さんは職務質問とかしないんですかぁ? もしかして、杖だから分からないんでしょうかぁ。でもでも、恭文さんやフェイトさんは気づきましたし」 「それもあるかも知れないけど、しても意味がないってのが大きいね。 この段階だと、仕込み刀は禁止されてない。つまり、廃刀令は適用されないのよ」 その関係で廃刀令が施行・・・・・・武装のための刀の所持が禁止されてから、士族(武士)階級の間で、仕込み刀を携行するのが流行ったそうだ。 ようするに、僕がしてるみたいに刀を差してると違反だけど、あんな風にするのであれば問題なく所持出来るってこと。 ただ、この時代から数えて後年、仕込み刀も禁止されることになったりするんだけどね。 ただ、今の段階では問題ない。なので、警官も往来で振り回したりしない限りは、普通にしてるのである。 「なるほど・・・・・・。なんか、昔と今ってやっぱ色々違うんだね。あたし、色々ショックかも」 「ボク達の時代で、あんな風に刀を普通に所持してる人なんて、いないしね。 恭文だって、アルトアイゼンを普段は待機状態にしてるし」 「そうだね。でさ、あむの目立つんじゃないかという意見に関して答えると・・・・・・。 今回は目立ちたいのよ。警官に変に目をつけられない程度にさ」 そういう法律が施行されたのは、全国規模での話。そして、一般常識として伝わってる。 その中で持ち歩く奴なんて、よっぽどのバカか腕に自信のあるやつだけだ。つまり、否応でも人の目を引く。 「目立てば、それだけ何かに接触すると思うの」 「え、どういうこと?」 「ようするに、モウリョウ団が見つけてくれるってことだよ」 小声でそう言うと、あむは納得したらしい。なお、フェイトとあれこれ相談の上で方針を決めた。 「あ、つまりそういうことなんだね」 「そういうこと」 目立てば、連中に目をつけられるかも知れない。 というか、目をつけて欲しい。いいや、むしろつけてくださいとお願いしたい。 そうすれば、そこで一気に解決ということも出来るから。 なお、今のアルトは僕がお遊びで付けた逆刃刀モードになっているので、最悪それで言い訳をする。 刃自体も潰す形で構成してるから、これで問題はない・・・・・・と、いいなぁ。まぁ、大丈夫だとは思う。 実際問題、警官にアルトの刃を見せて『女性が多いんで、ハッタリに作ったんです』と小声で説明したら、納得してくれた。 明治という時代に入ってから、10年。だけど、まだ10年。人や国、常識が変わるには、時間はまだまだ足りないということの、一つの証明なのかも知れない。 「リース、とりあえずあれだ。さっきから雑談しっぱなしだけど、かえでは必ず見つけるから」 「はい。でも、逸れた地点にも手がかりらしいものが・・・・・・」 ここに来る前に、まずリースがかえでと正体不明の連中と戦った地点に行った。 そして、当然のようになにもなかった。かえでが結界を張って戦ったせいだろう。 他の人達への影響を鑑みた上での行動だけど、今回はそれが裏目に出てる。 結界のおかげで現実世界には影響が何一つ出ていない。そのせいで、かえでの痕跡どころか、賊の痕跡を追う事すら不可能だったんだから。 「だから、ヤスフミも私達も歩いてるんだよ? 実際に変化が起きてても、普段の街の様子を知らないと分からないもの。 今日やるべき事は、そこを知ること。そして、明日・・・・・・変化を見つける。いや、もう見つけてるから」 「・・・・・・はい」 なお、リースもフルサイズになってもらってる。ただ・・・・・・驚いた。 フルサイズになると、リースは身長が170ほどになり、スレンダーでスタイルがいいのだ。 紫色の着物をまとい、長い髪をアップにしたリースは、外見だけなら完全な和服美人である。 正直、腰のアルトよりフェイト達の身長の方が問題だと思う。だって、明らかにこの時代の女性の平均身長超えてるもの。 「ねー、ディードお腹空かない?」 「そう言えば・・・・・・そろそろ夕飯の時間になりますね」 こらこら、おのれら? なに人がシリアスムード出してる時に、話に参加もせずにそれなのさ。 てゆうか、こっち来る前にご飯食べたでしょうが。なんでそうなる。 「スバル、お願いだからディードに変なこと教え込まないでくれる? ディードは、スバルと違って純粋なんだから」 「ちょっとそれどういう意味っ!? てゆうか、なんでそんなディードの肩持つのかなっ!!」 「だって、ディードの方が可愛いし。てゆうか、妹の肩持ってなにが悪い」 僕は、足を止めて、胸を張りながらそう口にする。そうすると、なぜか全員の視線が微妙なものになった。 「あの、ありがとうございます」 「あぁ、いいのよお礼なんて。だって、事実なんだから」 あー、ディード可愛いなー。妹キャラいいなー。白の着物にアップにした栗色の髪が素敵だなー。 うぅ、恭也さん・・・・・・今僕は、本当の意味であなたの気持ちが分かります。 そうですよね、妹が『魔王』とか言われたら、そりゃあ飛針の100や200くらい投げつけたくなりますよね。 あの時の僕、お前は間違っているよ。そりゃあ飛針投げつけられて当然だって。妹キャラ、マジでいいんだもの。 「恭文とディードがなんだかおかしくなってるー! フェイトさん、これいいんですかっ!?」 「それが・・・・・・こう、段々恭也さん化してるというか、シスコンになってるというか。 というかね、私も止められないの。まぁ、ちゃんとするところはちゃんとしてるからいいんだけど」 「ディードちゃんが妹になるのが決まって喜んでるって言うのは、スバルちゃんから聞いてたけど・・・・・・恭文君、ここまでだったんだ。ハナさん、どうしよう」 「ごめん、私に聞かれても困るわ。てゆうか、フェイトさん・・・・・・もっと頑張った方がいいですって。これは絶対おかしいですから」 でも、白の着物か・・・・・・。白無垢・・・・・・結婚・・・・・・お嫁に行く・・・・・・僕に挨拶・・・・・・。 「恭文っ!? アンタ何泣いてんのっ!!」 「だ、だって・・・・・・ディードが・・・・・・ディードが白無垢かウェディングドレス着てるの」 『・・・・・・・・・・・・え?』 「それで、バージンロードを歩いて、誓いのキスして、車を走らせると缶がコロコロ言ってるの。 それから新婚旅行で、ホテルで初夜を迎えて、なんか僕はその時一人でお酒を飲んでて」 『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』 そう考えた途端に、目から涙が零れ落ちて来た。もうポロポロとそれは盛大に。 「ぐす・・・・・・ディード、お願いだからお嫁に行く時は、相手を紹介してからにしてね? いきなり『お腹の中に彼の赤ちゃんがいるんです』とかはやめてね? 順序、守ってね?」 「もちろんです。もしそんな人と出会えた時は、一番に恭文さんに紹介しますから」 「・・・・・・ディードっ!!」 お赤飯、炊こう。美味しいお赤飯を炊いて、祝福しよう。 そうして、相手の男はディードを幸せに出来なかったら潰す。 スカリエッティ、大丈夫・・・・・・僕が代わりに結婚式には出席するから。 それで、泣くから。そして、写真は一枚も送ってやらない。 「・・・・・・ヤスフミ、ディードの事好き?」 「へ?」 「というか、恋愛感情・・・・・・かな。うん、そうだよね。それはそういう感情なんだよね」 あの、フェイトさん? どうしてそんなすごい決意したような瞳で僕を見るのさ。おかしいから、それ。 「あのね、ヤスフミがどうしてもって言うなら、納得するよ。 ただ、三人平等に愛して欲しい。それだけお願い」 「はぁっ!? 違う違うっ! そんなんじゃないってっ!!」 このお姉さんはいきなり何を言い出してるのだろう。ほら、見てみて? ディードが目を丸くしてるしさ。 「違うの?」 「うん。・・・・・・だって、僕は保護責任者だし、あと妹だし、それに・・・・・・大事な友達だもの。 嫌いなわけないじゃん。というか、保護責任者ってこんな感じでしょ? フェイトだってエリキャロに対してこれだし」 「ちょっと待ってっ!? なにか誤解してないかなっ!! いくらなんでも私はそこまで」 そして、フェイトが固まった。どうやら、色々思い出しているらしい。瞳の中が揺れてるもの。 で、僕を見ながら視線で言ってくる。『やってた?』と。なので、僕も視線で言葉を返す。そう・・・・・・『やってないとでも思ってたの?』と。 「そう言えば、私もお腹が空いたなぁ」 だからこそ、フェイトはこんな事を言うのである。で、ディードと僕以外の全員が、目を見張る。 「よし、まずはみんなでご飯食べようか。というか、せっかくだから名産とか、この時代の名物とか食べてみたいよね」 『フェイトさんっ!? まさか、あなたまでこんなことしてたんですかっ!!』 とにもかくにも、目立つ一団である僕達は、まずご飯タイムとなった。 緊張感が無いとは言うことなかれ。お食事は、どんな時でも大事なのだ。お腹が空いてたら、戦いなんて出来ない。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・青坊主も金髪姉ちゃんもマジかよ」 「てゆうか恭文・・・・・・ディードちゃん、妹になったばかりなのに、もう結婚式とかって早すぎるよー」 「まぁ、妹キャラ的な存在だったらいいんじゃ・・・・・・。 いや、よくないか。早速色々と問題になりそうだし」 「うーん、妹ってそんなにいいものなんですかねぇ。恭文ちゃんもディードさんも、やっぱり嬉しそうでしたし」 そういうもんなのかねぇ、俺には分からねぇや。 ま、いいだろ。青坊主もデンデン虫も、金髪姉ちゃんも楽しそうだしよ。 「ぐごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 「・・・・・・そしてお前はまた寝てんじゃねぇよっ! とっとと起きろっ!!」 バチコーンッ!! 『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説 とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご 第36話 『恭+良の法則 それは絶対的な事件発生フラグ?』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「牛鍋かぁ。うーん、久しぶりかも」 近くのお店の人に、美味しいご飯を食べられるとこがないかと聞いた。 で、それなら牛鍋屋はどうかととても親切に教えてもらって、足を進め始めたところである。 「・・・・・・ヤスフミ、牛鍋ってなにかな。というか、ヤスフミ食べたことあるの?」 「あるよ。というか、フェイトも絶対ある」 「私も?」 「そうだよ。簡単に言えば、すき焼き。この時代だと、牛鍋って呼び方をされてたんだ。 そして、牛鍋はこの時代の人達に親しまれていた西洋料理の一つ」 なお、味付けには関東風と関西風がある。まぁ、お馴染みだよね。 「えっ! 牛鍋って洋食だったのっ!?」 「そうだよ。というか、肉食文化自体が欧米から伝わったものだもの。当然牛鍋もそれってわけ」 「あ、それは僕も高校の授業で習ったよ。昔の日本は、牛肉や豚肉を食べてなかったって。 あと・・・・・・マグロのトロも捨てられてる部位だったって聞いた事がある」 基本的に魚や野菜、あと米や小麦。そういったものが、昔の日本の主食だった。 欧米・・・・・・というより、トロや肉のような食べ物は、昔は食べられてなかった。これも、維新の一つの形。 ただ、日本人で肥満体質な人や、噛む力の弱い人が増えたりしたのは、脂分が多く、噛み応えが柔い西洋食のポピュラー化が原因だと言う人もいたりする。 とにかく、外国から入って来て、それが日本風にアレンジされたことで生まれた日本料理というのは、意外と多い。 例えば天ぷら。元々は長崎と交流していた諸外国の一つで食べられていた料理。それが今の天ぷらのルーツである。 で、食べるとこなんだけど・・・・・・京都だったら普通に京料理とかでもいいかも知れないと思った。けど、そうすると今度は一見さんお断りという制度に悩まされる。 これは、簡潔に言えば、初めて来るお客さんはお断りするというものだ。 お客さんを断ってたら、商売にならないという人も居るだろう。ただ、そこはない。 お店の常連さん・・・・・・ようするに、二度目に来た人が、初めてのお客さんを連れてくる分にはかまわないのだ。 で、その人は今度は普通に入れる。人と人の繋がりを重んじた時代ならではの、接客方法である。 「あと、昔は牛乳も飲まれてなかったんだよね? 牛の乳なんて飲めるもんじゃないと思われてた」 「そうなんですか・・・・・・。てゆうか、それだめじゃん。背伸びないよ? あたしは毎日飲んでるしさ」 「・・・・・・あむ、残念ながらそれは幻想だよ」 あむが、僕を見て『どうして?』と聞こうとした。表情で分かった。 でも・・・・・・そこから口の動きが止まった。で、非常に気の毒そうな目で僕を見る。 「・・・・・・身長、伸びなかったんだね?」 「うん。あと、胸も大きくならないから」 「いやいや、なんでそこっ!?」 「ランが前に家に来た時に話してた。あむが身長と胸を大きくしたくて、毎日牛乳を一気飲みしてるって」 エルが家に来た日の話である。普通にあのチアガールはバラしてた。 なので、ランは『裏切りものー!!』と言いたげな目で僕を見るのだ。 「はやてがね、フェイトやディードレベルで大きくなりたいらしくて、毎日あむと同じ事してたんだって」 「そっか。つまり結果は・・・・・・だめ、だったんだね。 はやてさん、アンタもそうだし私や唯世くんより身長低かったもん」 「あれだよ、やっぱり個体差とか体調だって。僕みたいに成長期に死にかけるとかしなきゃ、問題ないでしょ」 てゆうか・・・・・・アレだよアレ。まぁ、一応フォローはしておく。 「男は、好きな女の子の胸や身長どうこうは気にしないよ? 僕だって、フェイトが僕より身長小さくて、胸が無くても、気持ち変わらないもの」 「アンタいきなりなに言い出してるっ!? てゆうか、フェイトさんも顔赤くしないでくださいっ!!」 なんか真っ赤になってるよね。うん、分かってた。というか、今オロオロモードな念話が来まくってるし。 「まぁ・・・・・・フォローしてくれたのは嬉しい。ようするに、大丈夫って言いたかったんでしょ?」 「いや、ちょっと無駄な幻想を壊したかっただけ。空海と同じだよ」 「・・・・・・ま、そういうことにしておくよ。てゆうか、空海って幻想壊せるの?」 「壊せるって。それはもう盛大にさ」 そう、空海の右手は幻想を殺せる手なのだ。 うん、絶対間違いない。主に中の人的に。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・・・・いやいや、それ意味が分からねぇしっ! てゆうか、なんだよこれっ!! どうなってんだよこれっ!? お、落ち着け俺。こんな道の往来でうろちょろしても意味がねぇし。てゆうか、何が起こってんだ? 「・・・・・・空海、なんで唯世の家が消えてるんだよ」 「ダイチ、それは俺が聞きたい」 俺が居るのは、唯世の家の前。いや、家だった場所の前。 俺の目の前には、空き地が広がっていた。人が住んでる気配なんて、0に等しい。 「てーかよ、普通にややとか海里の奴も『唯世って誰? それ美味しいの?』状態だったし、どうなってんだよ」 しかも、恭文やリイン、日奈森やフェイトさん達とも連絡つかねぇし・・・・・・マジでどうなってんだよ。 なお、なぎひこは連絡がついた。ただ、こっちもややと海里と同じく、唯世のことを忘れていた。 「てゆうか、俺が信じられないのは、恭文がキング扱いってことだよ。 じゃあアイツが転校して来るまでキング空席か? それこそありえねぇし」 「いやいや、その前に恭文がキング出来るのか? ありゃそういうタイプじゃないだろ」 「ダイチ、そこは言ってやるな」 ・・・・・・なぁ、頼むからマジで教えてくれよ。なにがどうしてどうなったらこんなことになってんだ? つーか、なんかすっげぇ置いてけぼり状態な感じがするの、気のせいじゃないよな? ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ というわけで、牛鍋屋に到着した。一般的な木造家屋で、二階建て。 多分、働いている人間の寝床も兼ねているのだろうと、思った。 到着して、看板を見る。そこには、こう書かれていた。 『京風牛鍋・白べこ』・・・・・・と。 ”・・・・・・アルト、ジガン” ”なんでしょ” ”主様、どうしたの? なんでそんなちょっと頭を抱えてるの? ほら、みんな気にしてるの。もっとシャキッとするの” ジガン、お願いだからそこツッコまないで。なんかね、こう・・・・・・色々台無しな感じがするのよ。 こう、おかしいのよ。もう色々とさ。 ”僕、このお店なんか見覚えあるんだけど” ”奇遇ですね、私も同じですよ。ジャンプとかで載ってましたよね” ”ねぇ、これ京都だから? 京都だからこうなるのかな? だったら、おかしいって” とにもかくにも、僕もお腹が空いているのでお店に入る。で、扉の取っ手に手をかける。 かけて、扉を開いた瞬間、おかっぱで白いエプロンを着けた女の子が、僕の方へ飛んできた。 「「・・・・・・がふっ!!」」 そのまま、僕は女の子と衝突。往来へと吹き飛んで、地面を滑った。 い、痛い・・・・・・てか、一体なにが? 「あ、あの・・・・・・剣客さん、大丈夫ですか?」 目を開けると、頭を痛そうに擦っている一人の女の子。おかっぱな頭は栗色の髪をしていて、多分あむと同い年くらい。 で、僕の上から退いて、ペコペコと頭を下げる。 「あぁ、なんとか。骨や歯も折れてないし、大丈夫だよ」 「あの、本当にごめんなさい。あぁ、どうしてこんな・・・・・・」 「・・・・・・おい、お前」 声がかかる。そちらを見ると、警官の制服を着た男が数人。 で、それを見て僕の後ろにその子が隠れる。 で、その子と男達を見て・・・・・・うん、分かった。 どうやら、関わるしかないらしい。 「我らを京都剣客隊と知っての狼藉、許すわけにはいかん。・・・・・・斬る」 そう言って、警官が女の子に迫る。 ・・・・・・とりあえず、フェイト達に念話。 ”みんな、すぐに良太郎さんとあむ達引っ張って、距離を取って” ”ヤスフミ、どうするつもり? というか、これって” ”いいから。・・・・・・このままはだめでしょ。てか、僕ももう巻き込まれてる” 男達が僕の腰のアルトを見る。見て、笑う。そう、嘲笑のだ。 表情に見えるのは、イライラや鬱屈。というか、普通にストレス解消をしたいという顔。 で、どういう形で解消したいかは見えてる。ようするに暴力。 公僕の権力を活かして、人を踏みつけるわけである。なので、僕は立ち上がる。 「愚弄、したの?」 声だけ女の子にかける。女の子は、それにすぐに返事をした。 「い、いいえ。ただ私は、少々騒がしいので静かにしてくださいと言っただけで」 「他のお客さんに迷惑なくらい?」 「・・・・・・かなり」 その場から離れたフェイト達を横目で見つつ、こちらへ迫る男達の合間から、店内を見る。 割れたお銚子にひっくり返ってる鍋や皿。そして、怯えた目でこちらを見ているお客さんが居た。 「ということらしいけど、話通りなら悪いのはそっちでしょうが。それでいきなり斬るたぁまた横暴だね。 それともなに? 明治政府の警官はこういう真似をするような愚か者揃いなのかな」 「黙れっ! いいか、よく聞けっ!! 京都の治安は我らが守っているっ! その我らに意見するなど、言語道断っ!! ・・・・・・まぁ、いいさ。とにかく、廃刀令違反と管理抗拒罪適用。抜剣、許可」 普通にサーベル抜きやがったし。で、僕達ににじり寄る。 てゆうか、中からまたゾロゾロ出てきた。 数は全部で15人。そいつらは、サーベルの切っ先を僕達に向けている。 だけど、全員じゃない。抜刀の許可を出した奴は、普通に日本刀。どうやら、コイツがリーダー格らしい。 「・・・・・・やる気?」 「あぁ、もちろんだ。我々は、国からお前のような不審人物を斬る許可をもらっているからな」 そして、そのうち四人が、フェイトと良太郎さん達に切っ先を向けた。 どうやら、状況から関係者だと見抜いたらしい。だから、普通に喧嘩を売ってくる。 「なるほど、そりゃ納得だ。で、お前ら・・・・・・なにしてる」 端から見るとかなりの騒ぎになっているのか、街の人達が何事かと僕達の方へ来る。 だけど、必要以上に近くには来ない。ま、当然か。てゆうか、来られても危ないし。 「簡単だ。連帯責任という奴で、お前の連れもしょっ引く。それで、少し取り調べさせてもらおうか」 「安心しろ、我々が責任を持って可愛がってやる」 ・・・・・・そう言って、連中の中の数人が、フェイトやディード、リースをいやらしい目で見る。 それで、腹が決まった。どうやら、牛鍋は色々お預けらしい。 「まぁ、抵抗するなら構わんぞ? その場合は・・・・・・斬るだけだ」 「・・・・・・無理だな」 不用意に近づきすぎだ。だから、そんなビックリした顔で目の前の僕を見る事になる。 「なっ!!」 数メートルの距離など、僕には無いも同然。僕は、僕と女の子に一番近づいていた男の胴に向かって、アルトを抜き放つ。 逆刃刀状態なので、峰打ちと同じ。狙いは、右腕の肘部分。筋を断ち切り、関節を粉砕し、胴をも砕く。徹も込めてるから、男の一人が血を吐く。 身体を回転させながら、そのまま上空へと打ち上げた。男の身体は、宙に投げ出されて空を飛ぶ。 僕の後ろ側の屋根に背中から激突。そのまま地面へと滑り落ちた。その状況に、全員の動きが止まった。 「お前らなんぞにやられるほど、ヤワじゃないよ」 ・・・・・・まぁ、死んではいないでしょ。うめきながら転げまわってるし。 「き・・・・・・貴様ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 「知ってる? 人を斬るのを、殺すのを許してくれる資格なんて、国家なんて、どこにもない。 そんなのを許す存在なんて、本当はあっちゃいけないんだ」 ゆっくりと構えを解く。つーか、構えるまでもない。 「どんな理由があろうと、それは最悪手なんだよ。そして、お前らの仕事には覚悟が居る。 その最悪手を通してでも、今ここで泣いている人を守ろうという覚悟が。矛盾と向き合い、背負う覚悟が」 そして、連中を見据える。叩き潰すべき害悪を。 もうこうなった以上は、引けない。やるしかないのだ。逃げれば、今度は後ろの子が危ない。 「お前らには、絶対的に覚悟が足りない。そんなお前らが警官? ふん、チンピラの間違いだろ。 ・・・・・・僕の嫁と妹と大事な友達達に手ぇ出すたぁいい度胸だ。ほら、来いよ」 左手をクイクイと動かし、挑発する。今度は僕が、連中を嘲笑いながら。 「もう二度とこんなことが出来ないように・・・・・・お前ら全員、二度と剣が握れないようにしてやる」 「・・・・・・斬れっ! コイツらを全員斬れっ!!」 というわけで、早速バトル勃発となった。まぁ、フェイトとディード、それに良太郎さんとスバルが居るので、向こうへのフォローはしない。 なお、なぜに良太郎さんも数に含めるかは簡単。 「犬っ子っ! お前はハナクソ女達守ってろっ!!」 「え、でも」 「いいから言う事聞けっ!!」 「わ、分かりましたっ!!」 現在良太郎さんの髪は逆立ち、赤のメッシュが入り、瞳までその色に染まっているから。 「はぁぁぁぁぁっ!!」 「はぁはぁはぁはぁうるせぇっ!!」 サーベルのナックルガードへと手を伸ばし、そのまま手ごと掴んで袈裟に打ち込まれた刃を止める。 良太郎さん・・・・・・ううん、あれは良太郎さんに憑依したモモタロスさんだ。 モモタロスさんは、そのまま警官の一人の顔面に拳を叩き込んだ。 ひるんで後ろに下がった男の胴に乱暴に拳を数発叩き込んで、沈める。 「へっ!!」 そのまま、サーベルを奪い取った。 奪い取って、自分の方へ来た残りの一人が横から打ち込んで来たサーベルを受け止める。で、鍔迫り合い。 「へへ、効かねぇ・・・・・・」 モモタロスさんが相手と身体をくっつけるように動く。 動いてすぐ、鼻に向かって自分の頭を叩き込んだ。 「なっ!!」 その一撃で、警官の一人は倒れた。 で、フェイトとディード、それにあむの方に来たのは・・・・・・。 「「はぁっ!!」」 二人はなんの躊躇いもなく前へ踏み込み、警官達の真横へ回り込む。 それから、右拳を全力で叩き込んで、サーベルを抜いた二人を沈めた。 で、当然のように警官二人は衝突して、頭まで打ったりして、倒れて動かなくなった。 その間に僕も動いている。後ろに数度跳んで、女の子・・・・・・あれ? ま、まぁここはいいや。女の子の隣に来て、声をかける。 「大丈夫?」 「は、はい。あの、私のせいで」 「気にしないで。・・・・・・とにかく」 首の後ろ側・・・・・・というか、着物を左手でガシっと掴む。 掴んで、声を上げる。 「あむっ!!」 フェイトとディードの後ろで応援モードを出していたあむが、こちらを向く。 なので、ウィンクすると・・・・・・あむの顔が、なぜか青くなった。 もしかしたら、僕のやろうとしてることがわかったのかも知れない。 だって、僕は女の子を投げ飛ばしたんだから。 「パスっ!!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・・・・あのバカはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! なんか首根っこ掴んで振りかぶってたからやるんじゃないかと思ったら、マジでやったしっ!! あぁもうっ! あたしはたまにアイツが年上だってことが信じられなくなるんだけどっ!? いくらなんでもぶっ飛び過ぎでしょっ!! 「K点超えは確実だね」 「世界記録、行くでしょうかぁ」 「超えてどうするっ!? てゆうか、のんきに話してる場合じゃないでしょっ!!」 と、とにかく・・・・・・軌道はあたしよりずっと上。警官達もびっくりして動きが止まってる。 それだけで、あたしは恭文の意図を察した。 つまり、これは恭文があたしを信じてくれた上で、任せてくれた仕事だと。 「ラン、キャラチェンジっ!!」 「わかったっ! キャラ」 両手と両足に、ファンシーでピンク色な羽が生える。そのままあたしはしゃがんで、跳んだ。 「チェェェェェェンジッ!!」 着物で少し動きにくいけど、それでもちゃんと跳べた。そして、あたしはそのまま涙目で空中を飛ぶ女の子を受け止める。 受け止めて、その勢いを殺さないように屋根の上に着地。そこで、ようやく息を吐く。 「君、大丈夫?」 「・・・・・・は、はい」 「いや、なんというかごめんね。アイツこの通り無茶苦茶でさ」 全く、あたしが気づかなかったらどうするつもりだったの? てゆうか、無茶し過ぎ。 ・・・・・・恭文は、この子をあたしに任せてくれた。あのままだと、この子を気にして全力で戦えない。 だから、あたしにパスした。屋根の上を狙ったのは、警官隊に絡まれないように。 こうすれば、あたしが狙われる心配も一応は無くなるから。 ま、そこはちょっと嬉しいかな。あたしのこと、信じてくれてる証拠だと思うから。 「いえ、あの・・・・・・ごめんなさい。私のせいで」 「大丈夫だよ。それにほら」 屋根の上から、下を見る。ギャラリーが囲いのようになって、その中でみんな戦ってる。 ・・・・・・フェイトさんとディードさん、それになんか髪型が変わった良太郎さんのところに、もう二人ほど向かった。 だけど、殴り飛ばされ、蹴り飛ばされてすぐに一蹴される。 警官達はフェイトさんとディードさんの動きについてこれないし、良太郎さんの力に対抗出来ない。 「みんな、強いもん。あんなのじゃ相手にならない。 てゆうか、悪いのはいきなり斬りかかってきたあの人達なんだし、問題ないよ」 「・・・・・・はい」 でも、良太郎さんなんか別人じゃない? 声まで変わってる感じがするし。 「あむちゃん、実際に変わってるんだよ」 「え?」 「忘れたの? 良太郎さんには、モモタロス達が居るよね」 ミキがそう言うので、改めて見てみると・・・・・・あ、そう言えば電王ってイマジンが憑依して強くなるんだっけ。 で、確かあれはモモタロスが憑いた状態。だから、赤のメッシュが入ってるし、瞳も赤いし、口調もマンマモモタロス。 「なんというか、感激ですぅ。普通にテレビみたいですからぁ」 モモタロスは、倒した警官の腰からサーベルの鞘を引っ手繰る。 それを左手に持って、右手のサーベルと見比べる。 「・・・・・・うし、こっちだな」 で、右手のサーベルを放り投げる。サーベルは、切っ先から地面に突き刺さった。・・・・・・倒れていた警官の目の前で。 警官は、それを見て恐怖で叫び声を上げて、意識を手放した。 「あみちゃんが居たら、きっと喜ぶねー」 「あみちゃんも、電王大好きだしね」 とにかく、モモタロスが憑依したと思われる良太郎さんが、そこから前に進んで警官達に迫る。 それを察知した三人の警官が、モモタロスを囲む。そして、一人が袈裟からサーベルをモモタロスに叩き込む。 【モモタロス、サーベルを横から全力で叩いて】 「分かってるよっ!!」 だけど、それを右手に持った鞘を横薙ぎで叩きつけて、サーベルを真ん中からへし折った。 「これでいいんだろ?」 【うん】 続けて二人来る。突き出されたサーベルの先を、右に身を捻って避けて、上から鞘をまた叩きつける。 叩きつけると、それによりサーベルが真ん中からパキリと折れた。そのサーベルを持っていた男の肩を掴んで、グイっと強引に引く。 そして、サーベルを折られながらも自分に迫っていた警官に叩きつけるように、その人を蹴り飛ばした。 後ろから、今度は袈裟にサーベルが打ち込まれた。それを身体を捻って、鞘を打ち込んで刀身をへし折る。 折られたサーベルとモモタロスを見比べながら、後ろに下がる警官の肩口に向かって、モモタロスは鞘を打ち込んだ。 それにより、三人の最後の一人が倒れる。それから、モモタロスは右手に持った鞘をマジマジと見つめた。 「・・・・・・やっぱ使いやすいな、コレ」 そう言ったモモタロスの背中に、でっかい富士山の絵が見えた。そして、筆字体でこんな字幕が書かれる。 やっぱ使いやすいな、コレ。 「・・・・・・・・・・・いやいやっ! 今のでっかい字幕と富士山の背景なにっ!?」 「やっぱ、超・電王だからかなぁ」 「鬼退治のお話の時にも、同じことをしてましたしねぇ〜」 「アンタらもなんで納得っ!? おかしいでしょうがこれっ!!」 とにかく、その間に恭文も動いている。逆刃刀モードなアルトアイゼンを逆袈裟に打ち込み、一人を潰す。 サーベルで防御したけど、それごと右肩の骨をへし折った。というか、痛そう。 で、別の警官が横から袈裟に打ち込んできた。それを見て、自分が今斬った奴を蹴り飛ばして地面に倒す。 倒してから後ろに下がって、その刃を避ける。返す刃で再び斬り付けて来たのを見て、そこに向かってアルトアイゼンを打ち込んだ。 またサーベルは折れて、恭文はアルトアイゼンを返してまた逆袈裟に打ち込む。そして、そいつも倒れた。 ・・・・・・恭文、キレてる。だから、攻撃に容赦がない。前だったらどうしてそうなるのか分からなかったけど、今なら分かる。 警官達が簡単に、何の罪もないこの子を、そしてフェイトさん達を斬ると、殺す事を許されてると言った事にキレてるんだ。 奪う事が、殺す事が、そんな簡単でいい加減な事じゃないって、知ってるから・・・・・・だよね。うん、今なら分かる。 だから、怖くない。前みたいにワケが分かんなくて、瞳や空気が怖いとは思わない。・・・・・・まぁ、あんまり派手なことして欲しくないとは思うけど。 とにかく、残ったのはリーダー格と思われるフェイトさんよりも背の高い奴だけ。 そいつは、前から恭文、後ろからモモタロスに挟まれて、二人を見る。 もう・・・・・・終わり、かな。てゆうか、これだと普通にあたし達、逃げる準備しないといけないんじゃ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・さて、どうする?」 「貴様ら・・・・・・! ええい、我らに立てついて、ただで済むと思うなっ!!」 「バカ言ってんじゃねぇよ。お前らの方から喧嘩吹っかけてきたんだろうが。 あんな小せぇガキいじめて楽しむなんざ、最低だぜ」 モモタロスさんの言う通りである。てーか、普通にありえない。 コイツら、平然と人を斬るとか言いやがるし。ありえない、まじめにありえない。 あー、そういや局員にもこういうの居るわ。もう横暴と陰険が交じり合ったようなのがさ。 こういうのは、世界どうこう時代どうこうじゃないんだね。 「で、どうする? 僕としては、お前らがあの子にとっとと謝って、そこのお店で壊したものをちゃんと弁償して、反省してくれればもう言うことはない」 我ながらかなりの大譲歩。とは言え、僕は知ってる。 この手のタイプは、こんなことを言って納得するわけがない。 だから、コレは挑発だ。コイツは絶対に斬りかかってくる。 そこを潰す。そして、来なくても潰す。もう、コイツらに逃げる選択はない。 「てーか、自分で分からないの? 店の中で暴れて、店員に暴力振るって、通りすがりの人間に理不尽に抜刀して斬りつけてる。ただで済まないのは、お前らの方だよ」 大きな声を出して、事情説明である。もちろん、ギャラリーのみなさんに。 まぁ、事情だけは分かってもらった方が逃げやすいと思ったからだけど。 ただ、そんな必要はないらしい。コイツらに対して、やんなるくらいにみんなして敵意を向けてるから。 どうやら、そうとう嫌われてるようだ。コイツら、この前にも色々とやらかしてるのは明白だね。 「おいお前、いいから頭下げとけ。じゃねぇと・・・・・・マジで潰されるぞ。 そいつ、今無茶苦茶キレてるからよ」 「やかましいっ!!」 そいつは、刀を頭上に掲げた。そして、柄尻に左手に添える。 八双の型よりも高く、刃をより早く打ち下ろすことだけに特化した構え。 「蜻蛉の型・・・・・・薩摩(現代の鹿児島)の示現流か」 どうやらコイツ、薩摩の関係者らしい。そして、腕は中々。 性根の悪さと剣の腕の良さは、どうやら反比例しないようだ。 とりあえず、あれだ。モモタロスさんは止めておくか。 大丈夫とは思うけど、もし見切れなかったら良太郎さんが危ない。 「モモタロスさん、下がっててください。コイツ・・・・・・僕が叩き潰しますから」 「・・・・・・おう、任せるぞ」 そう言って、同じ構えを取る。そう、僕も蜻蛉の型だ。 一応、薩摩の示現流がベースの剣術なんで、使えて当然というやつである。 男がそれを見て、ニヤリと笑う。どうやら、もう勝ちを確信してるらしい。 距離は10メートル前後。もう、射程距離だ。 「・・・・・・キェェェェェェェェェェェェェッ!!」 男が奇声を・・・・・・いや、示現流独特の掛け声を上げながら一気に踏み込む。 示現流の踏み込みは、三間(昔の距離の単位。大体5メートル以上)を一足で縮めるという。 「チェストォォォォォォォォォォォッ!!」 なので、男は一気に僕に近づく。男が、刃を打ち込むために腕を動かした。 というか、僕も踏み込む。男のそれよりも速く踏み込む。 そして、男よりも速く、逆袈裟からアルトを叩き込んだ。 逆刃刀アルトは、男の手首に食い込み、それを砕きながらも肩口へと沈む。 「な・・・・・・は、はや」 刀が、男の後ろの方に落ちる。さすがに手首が折れた痛みには耐えられなかったらしい。 落ちた刀は、地面に真っ直ぐに突き刺さった。 「バカ言うな」 僕はそのまま刃を振り下ろし、男の身体を地面に叩きつけた。 男は、顔から地面に叩きつけられ、2、3度痙攣して動かなくなった。 「・・・・・・お前が、遅過ぎるんだよ」 アルトを一回振るって、鞘に納める。そして、辺りを一度警戒してから・・・・・・息を吐いた。 「うし、みんな。さっそく逃げ」 『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! すげぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』 え、な・・・・・・なにっ!? てゆうか、なんでギャラリーが僕達に殺到するのさっ!! わ・・・・・な、なんか胴上げされてるっ!? え、これどういうことさっ!! 「アンタすげーよっ! いや、アイツらの横暴には困り果ててたんだけどよ、これですっきりしたぜっ!!」 「あんちゃん、また小せぇのに強ぇなっ! よし、酒は飲めるかっ!? 飲めるなら上手い酒奢ってやるっ!!」 「というか、お連れのお嬢ちゃん達もすごいわねー。あんな細腕で、男どもをバッタバッタと・・・・・・いやぁ、憧れちゃうわー」 な、なにこれっ!? てゆうかこれじゃあ逃げられないしっ!! あ、あはは・・・・・・どうしようか、これ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・恭文くんにも困ったものですねぇ」 あ、オーナーの視線が厳しい。まぁ、そうだよね。早速過去の時間の人達とバトっちゃったんだもの。 これ、過去の時間の改変とかそういうのに繋がるんじゃ・・・・・・。 「まぁ、彼を助けるのが本来の目的であるのですから、問題はないでしょう。 ただ、不用意に攻撃行動に移らないで欲しいものです」 いつものように、オーナーはナオミちゃんお手製のチャーハンを食べる。 で、全部食べ終わるまであと少し。ようするに、旗が倒れそう。 「それも、再起不能な形で攻撃ですし」 まぁ、それは確かにね。肩とか手首とか、普通に武術やる人が壊されたら再起不能な箇所だもの。 ・・・・・・そう言えば、剣を握れないように壊すって宣言してたっけ。おじいさんに似て、過激なところは相変わらずかぁ。 「けどオーナー、あの場合は見過ごせんやろ。 嬢ちゃん達もそうやし、あのあむっちゅう子も居るんやからな」 「そうだよー。悪いのは向こうなんだしさ」 いや、リュウタ? そういうことじゃなくて・・・・・・まぁ、そこは僕も同意かな。てゆうか、アイツらバカだよね? 寄りにも寄って恭文に喧嘩売っちゃうんだから。まぁ、アレだよ。殺されなかっただけよしとした方がいいと思うな。 「てゆうか、恭文と良太郎・・・・・・やっぱ予想通りにトラブル引き当てたね」 「でも、普通にありえないよね。お店に入ろうとした途端にあんなお決まりなシチュエーションなんてさ」 「ただ、それも恭文くんと良太郎くんが揃えば、納得出来ることです。 二人とも、同レベルで運が悪いですから。それも、最高に」 オーナーが、スプーンをそっと・・・・・慎重に動かして、残り少なくなったチャーハンを10数粒取る。 取って、ゆっくりと皿を揺らさないように持ち上げた。 「もしかしたら、早期解決に二人の運の悪さが役立ってくれるのではと思いましたが・・・・・・正解、でした」 そして、旗が倒れた。それにオーナーは両手を頬に当てて、びっくりした表情を浮かべる。 それから、いつもの厳格な表情に戻して、スプーンを皿に置き、ナプキンで口元を拭く。 「あ、そう言えばオーナー」 「なんですか、ウラタロス君」 「さっき、彼って言ってましたけど・・・・・・良太郎達が助けたのって、女の子」 言いかけて止まった。そして、思い出したくない忌まわしい記憶が蘇る。 ち、違う。僕はちゃんと見抜いてたんだ。見抜いてた上で気絶したんだ。そうだ、そうに違いないんだから。 「・・・・・・あぁっ!!」 ま、間違いないっ! あの雰囲気になんか覚えがあるなと思ってたけど・・・・・・嘘ぉっ!! 「おい、亀の字どうしたんやっ!? お前しっかりせいっ!!」 「亀ちゃん、どうしていきなり頭抱えるのっ!? ねー、なんでそうなるのか僕わかんないよー!!」 「ウラタロスちゃん、どうしちゃったんでしょ」 「さぁ、どうしちゃったんでしょうねぇ」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・・・・あの後、連中は一人残らずしょっ引かれた。どうやら、真面目に暴れまわっていたらしくて、普通に処罰されるとか。 で、僕達はなんだかんだで捕まるのかなぁと思ったんだけど、京都警察の威信と面目、それになにより街の人々を守ってくれたとのことで、お咎めは無しとなった。 ただ、街中で不用意に暴れて周辺を騒がせた事に関しては、『一応のケジメ』という前置きをされた上で、全員揃ってお説教を受けた。 まぁ、それだけで済ませてくれた京都警察の方々には、心から感謝したいと思う。特に身分を詮索されたりとかもなかったしさ。 「・・・・・・うー、あたしやっぱり納得出来ない。だって、向こうがちゃんとしてなかったからこれなのに、なんで怒られなくちゃいけないのかな」 「あむ、そこは言っても仕方ないよ。というより、お説教と言ってもほんの二言三言だったもの。私はむしろ感謝するべきだと思うな」 「まぁ・・・・・・フェイトさんがそう言うなら。あー、でもお腹空いたー。うぅ、すき焼きなんて久しぶりだなぁ」 とりあえず、鍋の中の具材の様子を見つつ、二人の話を聞いている。というか、お腹ペコペコである。 ・・・・・・現在、時刻は現代の時刻で言えば夜の6時。僕達は、白べこの中で牛鍋を前に、よだれを垂らしていた。 「あの、なんというかすみません。僕達、みんな揃って店の前で大暴れしちゃったのに」 「あぁ、えぇんですよ。というか野上さんはさっきからそればっかりやわぁ。 みなさんは、うちの大事な店員を助けてくれた恩人なんどすよ?」 なんて言いながら、僕達の席へ生卵を持ってきてくれたのは、この店の店主の冴さん。 警察署でお説教を受けて、外に出ると、冴さんが門前で待っていた。 そして、改めてお礼を言われて、今日泊まるところはあるかとか、そういうことを聞かれた。 素直に、泊まるところがないことや、元々食事のためにあそこに来た事を言うと、冴さんは胸を叩いて、僕たちを店に連れてきた。 で、お食事を振舞ってくれてるところなのである。というか、泊まりも部屋が空いているので、認めてくれた。 「ここでお礼をせんかったら、うちら白べこ従業員一同は恩知らずも同じどす。そやから、遠慮せんで欲しいんです」 「・・・・・・はい、ありがとうございます」 なんというか、良太郎さんも恐縮しきりだ。というか、僕も恐縮しきりだ。 「・・・・・・あぁ、牛鍋・・・・・・楽しみだなぁ。リースは食べたことある?」 「はい。八神家一同は、こういうのが大好きですから。スバルさん、嬉しそうですね」 「嬉しいよー。てゆうか、普通にお腹空いてたし。ハナさんはどうですか?」 「実は結構楽しみなのよね。前に六課でみんなとご飯食べた時も、かなり楽しかったし」 さっきの鉄火場で、リースとハナさんのガードに回ったためにほとんど空気だったスバルが、二つ目の鍋の前でなんだか嬉しそうだ。 「やっぱりさ、美味しいものを気心知れた人達と食べるって、いいことだと思うのよ」 「あ、そうですよね。私もそれは分かります。・・・・・・てゆうか、モモタロスさん達はダメなんですか?」 「まぁ、アレはまた別だから。みんなとは久しぶりだってのが大きいの」 「納得しました」 すみません、冴さん。普通に遠慮するようには言いましたけど、それでも相当食べると思います。だって、スバルだし。 そういうところでも空気を読む努力をしないし。てゆうか、コイツの食欲は本当にどうなってるんだろ。 良太郎さん、食費稼ぐの頑張ってください。多分計算するの嫌になると思いますけど、それで正解ですから。 大丈夫です、ゲンヤさんもやってないって言いますし。 「というか恭文さん」 「うん、なにディード」 「警察署での話・・・・・・どう思われます?」 せっかくいい機会が出来たので、試しに僕達をお説教した警部のおじいさんに少し聞いた。 街の様子が若干変じゃないかと。警官の数も多いし、仕込み刀を普通に持っている人間も多い。 なにより、街の人が少しピリピリしてる感じを受けた。なにか起こってるのかと。 そうしたら、苦い顔で話してくれた。現在、京都には子どもを攫う『お狐様』が出ていると。 もちろん、狐が本当に出ているとは思えない。しかし、現実的に攫われて行方不明な子どもが何人も出ている。 いや、訂正。行方不明だった子どもが・・・・・・だ。子ども達は、三日もすると自然と戻ってくる。 ただし、居なくなる前と明らかに様子が違う。家の中に引きこもるようになり、能動的だった子も暗く心を閉ざしがちになる。 周囲の一切に興味を示さず、何があってもつまらなそうな顔ばかりするとか。それを見て、当然のように親は泣く。 明らかに居なくなる前とは様子が違うとか。泣きたくなるのも当然だろう。 そんなわけで、京都は現在非常警戒態勢が敷かれている。結果はどうあれ子ども達を攫って何かをしている人間が居るのは明白。 子ども達の変貌も、そいつが子ども達になにか非人道的な行為を行った結果ではないかというのが、警察の結論らしい。 そして、あの剣客警官達も、非常時に備えて各地から選りすぐりの人間を召集して設立した部隊員とか。 まぁ、問題が多すぎて、お荷物同然だったらしく、頭を抱えていたそうだけど。 「手がかりにはなるかも知れないね。事件が起き始めたのも、ここ1ケ月前後の話らしいし」 「だけど、不可解なこともあるよ。攫ったとして、どうしてその子達を返すの?」 フェイトの言い方はちょっとアレだけど、僕もそこが疑問だ。 誘拐したとして、返すとしたら・・・・・・それは、誘拐の目的が達成されたから。 でも、身代金の要求や、子ども達が身体的に傷つけられた形跡はないらしい。 つまり、目的自体も普通じゃない? だから、警察もちょっとお手上げ状態。 「お金のためでもなく、ただ暴力衝動を満たすためでもなく、攫って家に帰す。 そうして、帰ってきた子ども達は全員様子がおかしくなる・・・・・・か」 「誘拐するからには、何か目的があるとボクは思うんだ。まず、そこからじゃないかな。 ほら、推理小説とかでもあるじゃない? そういうのが分かると、自然と相手の行動パターンも読めてくる」 お、ミキ中々冴えてるね。さすがキャンディーズの頭脳労働担当。 「返すってことは、その目的が達成されたからということですよねぇ。そして、それはお金とかではない。 普通に常に攫われた子達が所持しているもの・・・・・・でしょうかぁ?」 「多分それで正解だよ。・・・・・・ヤスフミ、明日攫われた子達に会いに行ってみようよ。 話通りの様子だと、何も得られないかも知れないけど・・・・・・でも、もしかしたら」 「そうだね、他に手がかりもなさそうだし、頑張ってみようか」 ただ、問題もある。この一件がモウリョウ団に絡んでいるかどうか、まだ分からないという所。 考えたくはないけど、別件の可能性だってある。・・・・・・優先すべきは、モウリョウ団の捜索。ここは絶対だ。 「あと、辺里唯之介だね。攫われてるのは、あむやその子くらいの年の子ばかりらしいから、接触出来ればこっちもなにか分かるかも」 「・・・・・・僕がどうかしたんですか?」 声がかかる。そちらを見ると、そこに居たのは一人の男の子。 「・・・・・・君は? あ、もしかしてここの店員さんかな」 「はい。あの、先ほどは助けていただいてありがとうございました」 その子はペコリとお辞儀をして、お礼を言ってくれた。 ただ、なんだろう。違和感がある。なんかこう違和感がある。 「さすがに投げ飛ばされて宙を飛んだ時はビックリしちゃいましたけど・・・・・・みなさん、お強いんですね」 「あははは、そうだよね。てゆうか恭文遠慮無さ過ぎ。あたしだってビックリしたんだから、この子だってビックリするに決まってるじゃん」 「そうだよ。まぁ、あの場合あの子をあそこに置いておくのは危険だったのは分かるけど・・・・・・。 そう言えば、あの子はどこかな。私達みんな、ちゃんと挨拶したいなと思ってて」 「・・・・・・えっと、ここに居ますけど」 そう言って、その子は苦笑気味に自分を指差す。 で、それに全員が首をかしげる。で、僕は違和感がすごく強くなる。 「確かに、これだと気づかないですよね。 それなら・・・・・・これでどうでしょうか」 その子がどこからともなくおかっぱのかつらを取り出す。取り出して頭に装着。 すると、そこに現れたのはさっき助けた女の子。 それに僕もフェイトも目を丸くする。というか、みんなも同じ。 その子はさっきまでのエプロンも、着物も着ておらず、普通に男子用の着物。色は黄色。 で、髪は(アニメ的な表現で)金色で、少し短め。さっきとは全然違う髪形。 というか、なんだろう。この子を見て一瞬感じた違和感に、ようやく気づいた。 この子、女装してたんだ。 「あ、そう言えばさっき『僕がどうかしました』とかって。 つまり、えっと君が・・・・・・辺里唯之介君?」 「はい」 良太郎さんの言葉に、その子はコクンと頷いた。というか、違和感を感じた理由がもう一つ分かった。 「・・・・・・自己紹介が遅れました。僕は辺里唯之介と言います。 ここで住み込みで働かせてもらっている者です。皆さん、先ほどはありがとうございました」 『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』 唯世とどこか印象が似てたからなんだ。声とか、そういうのが。 ・・・・・・あ、鍋煮えたや。うし、固くなる前にみんなの分、取っておいてあげようっと。 「え、ちょっと待ってっ!? 女装って・・・・・・君、なんでそんなことをっ!!」 「そうよっ! そんなや・・・・・・どうしてっ!?」 フェイト、そしてハナさんもだけど、僕を気にするな。ほら、あむとかスバルとか良太郎さんが首かしげてるし。 あと、ディードもなんかかしげてるし。お願いだからバラすのやめてね? 兄の威厳とか消えるの嫌だから。 「白べこ屋、エプロン着用が義務なんですけど、男の子のままはなんだか恥ずかしくて・・・・・・。 あとは、接客業だと女の子の格好をしていた方が便利だからですね」 「なるほど・・・・・・」 フェイトが視線で聞いてくる。なので、頷いた。色々な意味で花が出来るし、確かに便利なのはある。 でも、だからってここまでやる人は始めてみたよ。てか、なんでここまで出来る? 「僕、元々旅芸人の一座の見習いだったんです」 「そこで女装の技術をってことかな」 「はい。ただ・・・・・・西南戦争に巻き込まれる形で、みんな亡くなってしまって」 西南戦争というのは、、明治10年に現在の熊本県・宮崎県・大分県・鹿児島県において西郷隆盛を盟主にして起こった士族による武力反乱。 明治初期の一連の士族反乱のうち最大規模で日本最後の内戦。結果は、盟主・西郷の戦死。ようするに、明治政府の勝利でおわった。 これにより幕末維新期が終わり、明治政府の本格的な始まりとなったとかなんとか。 でも、西南戦争で旅一座が全滅・・・・・・なんでだろ。政府はもちろんだけど、西郷勢が民間人に襲撃なんて、普通はしないと思うんだけど。 「別に政府や薩摩の軍勢に直接どうこうされたという話じゃないんです。 ・・・・・・戦争が起きると、治安が当然のように悪くなります。それにやられたんです」 それだけで、なんとなく言いたいことが分かった。治安が悪くなるということは、犯罪の発生率も上がる。 つまり、この子が居た旅一座は、盗賊か追いはぎの類の襲撃を受けて・・・・・・そのままである。 「僕はそこに偶然通りがかった冴さんのお父上とその護衛の方々に助けられて・・・・・・」 「それで、ここで働き出したってこと?」 「はい。お父上もそうなんですが、冴さんにも本当によくしてもらって、感謝してるんです」 あむの表情が重い。・・・・・・まぁ、しゃあないか。あむの周りだと、こういうのはないだろうから。 というか、良太郎さん、ハナさんにスバルさんも同じくだね。リースがそっとみんなの分のお肉を取ってあげてる。 僕も、フェイトやディードまで落ち込んでる感じだから、三人分のお肉を取ってあげて、そっと前に置いてあげる。 ・・・・・・これが、現実である。新時代の始まりは、光ばかりをもたらすわけじゃない。 その時代に置いてけぼりにされて、傷ついて、何かを失う人も居る。新撰組や幕府関係者のように。 そして、それらがぶつかる嵐に間接的にでも巻き込まれて、何かをなくす人も居る。目の前のこの子のように。 なんというか、傲慢なのを承知で色々とやり切れないと思ってしまう。 「・・・・・・あ、すみません。お食事の前に、なんだか辛気臭い話をしてしまって」 「あ、ううん。大丈夫だから」 「あの、それで一つお聞きしたいんですけど・・・・・・」 そう言って、唯之介はある地点を見る。すき焼きを美味しそうに見ながら、僕の隣でプカプカ浮かぶキャンディーズを。 その視線に気づいて、もう一度唯之介の目を見る。・・・・・・瞳には、嬉しさと興味の色があった。 「みなさん、精霊様持ちなんですか?」 「え?」 「だって、そこに精霊様が三人・・・・・・」 そして、指差した。当然のように、キャンディーズを。 「・・・・・・え、待って。 もしかして君、ラン達が・・・・・・しゅごキャラが見えてるのっ!?」 「しゅごキャラ?」 ・・・・・・京都大火まで、今日を入れてあと三日。入れなければ、あと二日。 色々と失敗したのではないかと疑問だったけど、どうやら、当たりを引いたようである。 (第37話へ続く) [*前へ][次へ#] [戻る] |