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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
幕間そのじゅうなな 『ありえないことなんて、ありえない すごろくで当たると一番嫌なマス目は・・・編』



古鉄≪というわけで、今回6回目なさざなみ寮編。なんだかんだで中編ですよ。
みなさんおはこんばんちわちわ。お相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫

ゆうひ「ほんまにこてっちゃんとアバンチュールになりそうな椎名ゆうひです。
・・・・・・なぁ、こてっちゃん。普通に恭文君と知佳ちゃんはアレやな」

古鉄≪子どもということで、知佳さんもあまり警戒していないんでしょ。しかし、混浴とは≫

ゆうひ「さて、この後どうなるかは期待やな。ほな、幕間そのじゅうなな、いってみよーか」

古鉄≪どうぞー≫




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と機動六課の日常


幕間そのじゅうなな 『ありえないことなんて、ありえない すごろくで当たると一番嫌なマス目は・・・編』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



ゆっくりと、言葉少なめにお湯の温かさと満天の星空を堪能する。

隣には、髪をアップにした素敵な女性。当然のようにバスタオル付き。

まぁ、その・・・・・・お湯の中で手を繋いでたりするのは、アレだよアレ。





アバンチュールの魔法のせいとしておこう。うんうん。










「・・・・・・どうしよう」



知佳さんが、星空を見上げながら、ふと呟く。当然のように、僕は知佳さんの方を見る。

疑問が顔に出てたのか、知佳さんが優しく微笑みながら、声をかけてくれる。



「なんだかね、本当に楽しくなってきちゃったんだ。・・・・・・アバンチュールで済ませたくないかも」

「へっ!?」



その言葉に、思考が固まる。そして、言ってる意味を考える。

多分、今顔がすごい勢いで赤くなったと思う。それはもうすごいレベルで。



「だって、ここまで来ると縁はあると思うんだ。ずっと前に偶然会ったり、デートしたり、今は混浴してる」



浮かぶ湯気の中で、知佳さんが笑う。それに対してその・・・・・・ドキドキしまくってる。

ま、まずい。なんかこう、まずい。知佳さんのこと、意識しまくってるし。



「まぁ、年齢差があるからさすがに無理だよね」

「あ、あははは」



やばい、苦笑いしか返せない。ここで同意出来るほど度胸もないし、否定出来るほど気合いも出ない。

・・・・・・こういうの、まずいんじゃないだろうか。今更だけど思った。



「でも」

「でも?」

「年齢が近かったら、もっと時間があったら、そうなってたかも知れないね」



知佳さんは、そう言いながらもう一度空を見る。星の光は、変わらずに輝き続ける。

どこか楽しそうに。そして、どこか残念そうに。



「そう・・・・・・ですね」

「うん、きっとなってた。私達、色々同じ部分があるから。
・・・・・・これでも、恭文くんへの好感度はかなり高いんだよ?」

「なら、嬉しいです」





僕も、同じように見る。湯気の向こうに見える星空は、やっぱり綺麗。そして、すごく大きい何かを感じさせる。

・・・・・・ふと、思った。宮沢賢治さんってすごいなと。そう、皆さんご存知な童話作家。

星空を見て思い出すのは、『銀河鉄道の夜』。最近、ネットでそういう童話を載せているサイトを見つけて、ちょくちょく見ている。



北の第三角形から南の第三角形への電車での旅。その描写は、本当に銀河の中を旅しているのではない。

数々の星を童話が書かれた当時、実際に線路沿いに立てられていた三角塔や色々なものに見立てていた、幻想の世界の中。

三角塔は、距離や方向を計測し、伝えるための櫓。そして、その描写は実際の宇宙の学問にも使われているとか。




三角塔を結びつけると地図が出来上がる。同じように、星と星を結びつけて、宇宙全体の地図を作ってるって聞いたことがある。

それを聞いた時、すごいなって思った。だって、童話の中にちゃんとした科学が存在してるんだから。

星の世界・・・・・・行って、みたいなぁ。こうやって星を見てると、あそこには未知の世界が存在していると思うと、ワクワクしてくる。



でも・・・・・・まずい、知佳さんの方見れない。だって、あの・・・・・・知佳さん、綺麗なんだから。



心臓の鼓動が高鳴る。顔や体中が熱くなって・・・・・・ま、まずい。何度も言うけどまずい。





「恭文くん、大丈夫? 顔真っ赤だけど」



知佳さんが、僕の方を覗き込んでくる。顔が近くて、お風呂の中なのにいい匂いがしてきて・・・・・・ドキドキが更に高まる。

唇が上手く動かない。だけど、それでもはっきりと伝えるために、平然を装って僕は笑う。



「あ、あの・・・・・・はい、大丈夫です」





や、やばい。なんかこう・・・・・・一瞬胸の谷間とか見えたし。

とりあえず落ち着け。僕落ち着け。ここでウェイクアップは・・・・・・あぁ、しちゃってる。

ウェイクアップでキャストオフだよ。ごめん、怒らないで? 僕だって男なんだから。



とにかく、手で押さえて隠そう。気づかれないように隠そう。さすがにこれは見せられない。





「ならいいけど・・・・・・のぼせそうなら無理しなくていいよ?」

「あ、それは大丈夫です」



知佳さんが、ゆっくりと身体を離す。お湯がちゃぽっと音を立てる。

音と同時に、温泉の水面が揺れる。知佳さんはまた背中を浴槽の縁に預ける。



「・・・・・・知佳さんはどうですか?」

「うん、私は大丈夫。せっかくの時間だもの。もうちょっとね」



確かに、ウェイクアップでキャストオフは別として、シチュとしては現状は最高。

露天風呂で、素敵な女性知佳さんと混浴で、天気もいいから空も星も綺麗で・・・・・・。



「・・・・・・お風呂、気持ちいいね」

「はい、気持ちいいです」



そう、知佳さんの言うようにこれはせっかくのシチュエーション。堪能しないわけがない。

・・・・・・なんか、色々幸せ。



「あ、そうだ。せっかくだから後ろだけ洗いっこしてみる?」

「・・・・・・・・・・・・へ?」

「私、背中洗ってあげるよ。それで、恭文くんも私の背中、洗って欲しいな」

「えぇっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・なお、普通に入る前に身体は洗った。洗ったよ?

僕もそうだし知佳さんも。公共浴場に入る上で厳守するべきマナーですよ。

だけど、普通に洗いっこ(背中限定)だけして、その後またお風呂に入って、星を見て・・・・・・。





僕達は今、旅館の近くの林を歩きながら、また星を見ている。










「・・・・・・夜だから、涼しいですね」

「うん。それに、お風呂から上がった直後だから気持ちいい」



ほんのりと頬を赤く染めつつ、寝巻き兼用の浴衣を二人で着て、静かな林を散歩。

まぁ、もうすぐ戻る感じのつもりではある。時刻は既に10時越えてるし。あははは、結構長湯しちゃったからなぁ。



「そう言えば」

「はい?」

「美由希ちゃんがべったりだったけど、どうするのかな」



・・・・・・知佳さんの言葉に、僕は頭が痛くなった。というか、どうしよう。

夜の冷たさを含んだ、心地よいそよ風に吹かれながら、僕は思う。なんでああなったんだろうと。



「というか、シャマルさんとリインちゃんもだよね」



そう、そっちもあった。すっごい振り回された。あはははは、いつもの事とは言え真面目にどうしようか。



「うーん、例のフィアッセ・クリステラさんもゆうひさんの話し振りからするとすごいべったりらしいし、恭文くんってモテるんだね」

「・・・・・・え、えっと、僕はそんなモテませんよ?」



現に本命にはさっぱりだし。



「えぇ、本当に。あの人達は少しおかしいんです」



現に、本命にはサッパリだし。・・・・・・あ、泣きたいほど大事な事なので、二回言ってみた。

とりあえず、例の五歳児には呪いをしっかりかけてるからよしとして、フェイトは・・・・・・見込み、無いのかなぁ。



「だめだよ、そういう言い方は」



知佳さんに少ししかめ顔で言われて、素直に頭を下げる。まぁ、そこは分かる。

分かるんだけど・・・・・・なぁ。でも、本命居るからってちゃんと話してるし。



「うーん。せっかく好きって言ってくれてるんだし、フェイトちゃん以外の子も見てみたらいいのに」

「フェイト以外の女の子・・・・・・」





腕を組み、考える。考える。考える。・・・・・・なんか、想像出来ない。

やっぱりなんだかんだ色々あったりもしたけど、僕の心を占めてるのはただ一人。

あの金色の髪の女の子だったりするみたい。



別に、それでみんなの事が嫌いとかではない。それは違う。でも・・・・・・なんか、違う。





「・・・・・・無理そうだね」

「みたい、です」

「まぁ、そこはいいか。あのね、恭文くん」



知佳さんが、僕の前に躍り出るようにして、足を止める。そして、真っ直ぐに僕を見る。

知佳さんを見ていて、気づいた。瞳が・・・・・・少し、揺れてる。



「魔法の事とか教えてもらったし、アバンチュールも楽しく過ごしてるし、混浴もしちゃったし。私も・・・・・・教えたいんだ」



声も、少しだけ震えていた。なんだろう、目の前の光景を、姿を、僕は何度も見ている。

感じているのは既視感デジャヴ。夜の風の心地よさが、先ほどとは違う感じになったのは、気のせいじゃない。



「私の秘密。私の・・・・・・人とは違うところ。ね、HGSって知ってるかな」



・・・・・・多分、驚いたのが顔に出てる。だって、その単語はつい半年前に聞いたばかりだから。



「知ってるんだね?」



だから、知佳さんが納得したような、驚いたような顔になる。

多分、僕が病気のことを知っているとは思ってなかったからだと思う。



「はい」





HGS・・・・・・変異性の遺伝子障害。現代の医療技術では治療は不可能とまで言われる病。

そして、その中でも重度の障害を患う患者は、ある特殊な能力が使える。

それは、人によってパターンと呼ばれる種別は違うらしいけど、一般的には超能力とされる力。



物を引き寄せたり、転移させたり、動かしたり・・・・・・とにかく色々。





「なら、話は早いね」





そして、場合によっては病気を患っている人間の心すらも蝕む病。

別にこれは、病気の症状でどうこうという話ではない。

HGSがもたらす念動能力は、とても強い力を発揮する。



その力が、心を蝕み、未来を壊す要因となり得る。

強い力は、人と違う、普通と違うと言うことは、良いことばかりじゃない。

それがあるということは、往々にして負の要因になりやすいから。



・・・・・・ここ2〜3年で、僕は色んな場でそれを見てきた。





「・・・・・・私、その病気にかかってるの。そしてこれが」



知佳さんは、周りの気配を確認した上で、瞳を閉じる。そしてゆっくりと・・・・・・光が生まれる。その光は、ある形を取っていた。

それは、羽。白く、輝いているとさえ思うような白さの羽。それが、知佳さんの周囲に生まれ、舞い散る。いくつも生まれ、そして消える。



「私の、翼」





そうして知佳さんの背中に生まれたのは、六枚の白い翼。左右に三枚ずつ発生している。・・・・・・HGSの患者のイメージを形にした翼、リアーフィン。

以前見たフィアッセさんの翼は、黒くて綺麗な翼だった。知佳さんのはそれとは対照的で白。というか、数も違う。

そう言えば・・・・・・能力の強さによって翼の数が変わる事もあるとかなんとか言ってたような。



一番上の二枚の翼は大きく、大きく広げたなら、長さは1メートル前後もあるように見える。

そしてその補助をするような位置で付いている左右合わせて四枚の翼は、大きさ的にはその半分。

翼は、闇の中で輝く。白い光を放ちながら、その存在を闇の中で叫び続ける。その力がここにあると、世界に訴えかけているようにも見える。



知佳さんがゆっくりと目を開く。瞳は・・・・・・先ほどと同じく、少し怯えが混じったような色を含んでいた。





「綺麗な、翼ですよね」



開口一句、僕が発した言葉に、知佳さんが目を見開いた。



「・・・・・・そう、思う?」

「はい」





僕は、即答で知佳さんの言葉に頷いて答えた。安心させるように、優しく笑いかけながら。

もう一度、知佳さんの翼を見る。夜の闇を照らすかのように、淡く輝く翼を。

うん、綺麗だと思う。だって、また手を伸ばしかけたから。



・・・・・・イメージが形になってるだけで、実体はないって分かってるのにも関わらずだ。





「というかですね、あの・・・・・・実は僕のよく知っている人にも、二人ほど知佳さんと同じ病気の人が居るんです」





まぁ、一人はフィアッセさん。そしてもう一人は・・・・・・フィリスさんである。

前にフィアッセさんに翼の事を教えてもらったと話したら、だったらと見せてくれた。薄い、金色の6枚の羽を。

そう、フィリスさんもこの病気にかかっていた。だから専門家として仕事をしているのかなと、少し思った。



そして、あの羽も綺麗だと思った。まぁ、つい口が滑って『虫みたいですね』と言ったら、強烈なマッサージを受ける羽目になったけど。



どうやら、フィリスさんにとってそこは禁句だったらしい。ちょっと怒った目に涙が一杯溜まってたから。





「あぁ、それなら納得・・・・・・え、そうなのっ!?」

「はい」



言葉とともに頷く。知佳さんが、口を少し開けて呆然とする。

すると、知佳さんの翼が『シュン』と音が立つような勢いで消えた。



「あ、もしかして病気のことを知ってるのも、勉強したとか調べたとかじゃなくて」

「その人達から聞いたんです。だから・・・・・・怖く、ないです」



僕がニッコリと言うと、知佳さんがまた驚いた顔になる。そして、すぐに優しく微笑む。



「・・・・・・もう、私結構悩んでたんだよ? 見せたら怖がられちゃうかなーとか。なのに、平気なんて」

「ダメ、でした?」

「ううん。すごく、嬉しい」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・私の力はね、物を引き寄せたり動かしたり転送したり出来るの。あと、あんまりやらないけど人の心を読み取ったり、相手の位置や行動をサーチしたり」

「なるほど。あの時それで僕の行動を探ってたんですね」



あの時・・・・・・神無月に斬られて負傷した時、知佳さんは能力を使って僕の行動を見張ってたと。



「・・・・・・ごめん。やっぱりこういうの、嫌だったよね」

「別にいいですよ。てゆうか、僕も前に似たような事して知り合いを内緒で見張ったことがありますから、あんまり言えません」



きっと、知佳さんは本当に心配してくれた上での行動だし、あんまり言うのも違うと思って、少しおどけた笑いを浮かべた。

すると、知佳さんは安心したのか、胸を撫で下ろした。



「ありがと、そう言ってもらえてうれしいよ。・・・・・・あ、それでね。私の能力は、念動力としては一般的なパターンなんだ」



そして、話は続く。知佳さんと、宿に戻りながら話す。それは・・・・・・力の事。



「子どもの頃はね、この力が、あと恭文くんが『綺麗』だって言ってくれた翼も、すごく嫌だった。やっぱりね、考えちゃうんだ。どうして・・・・・・人と違うのかなって」



自分が持っている、人とは、普通とは違う部分について。



「そういう部分があるってことは、普通の人には出来ないことが出来る。だけど、同時にやっちゃだめなこともある。
普通の人には出来ても、自分には出来ないことも沢山あるんだ。だからね、小さい頃は普通がいいなって、ずっと思ってた」



それは、ここ2、3年の間に何度も遭遇していたこと。僕は魔導師になってから、そして海鳴で暮らすようになってから。

人と、そして普通と違う人達を、何人も見てきた。目の前の人知佳さんも、その一人。



「レスキューの仕事を選んだのはね、この力を使って人を助けたいって思ったからなんだ。まぁ、ちょっときっかけがあったんだけど。
・・・・・・そのきっかけのおかげかな。普通とは違う自分と、ちゃんと向き合えるようになったのは。ね、一つ聞いていい?」

「はい」

「普通と違うのって、本当に怖くない?」



僕は、その言葉に首を・・・・・・縦に振った。



「まぁ、怖い部分が無いと言ったら、嘘になります。でも、それは絶対に力じゃない。力や、生まれ方が普通と違うからって」



・・・・・・僕は、少し言いよどむ。そして、考える。ちょっと、言いたい事と違うなと思ったので、訂正することにした。



「・・・・・・『自分と違う』部分があるからって、意味無く怖がったりしたくないです。もし、怖がるとしたら、それは心根」



人は、身体に内包している心根は怖い。魔導師になってから、海鳴に来てからは本当に色々あったから、余計にそう思う。

人間は・・・・・・いや、意志を、人格と呼ばれるものを持つ存在は、みんなどこかで歪んでる。誰しもが狂う可能性を持っている。



「例えば、知佳さんがあの神無月みたいな性格だったら、きっとその翼も、力も、怖く感じてました」



だって・・・・・・あの腐った性格は中々お目にかかれないもの。さすがにあれで強い能力持ちは怖い。



「でも・・・・・・知佳さんの力なら、怖くありません。だってその力は、あの翼の白さは、見とれるくらいの綺麗さは、知佳さんだから。
きっとその中に、知佳さん自身を映してると思うから。・・・・・・えっと、こんな形なんですけど、大丈夫ですか?」

「・・・・・・うん、大丈夫だよ。すごく、胸に響いた」



知佳さんが足を止める。そしてそのまま、ギュッと抱きしめてくれた。

優しくて、温かくて・・・・・・柔らかい匂いが、僕の鼻を、そして心をくすぐる。



「ありがと。私を怖がらないでくれて。私の事、綺麗だって・・・・・・言ってくれて」



そして、ゆっくりと・・・・・・知佳さんが身体を離す。

それからすぐにまた顔を近づけて、唇の真横に、そっと自分の唇を重ねた。



「・・・・・・えっ!? あ、あの・・・・・・知佳さんっ!!」



き、キス・・・・・・された。てゆうか、本当に真横もいいところで・・・・・・えぇっ!?



「いいでしょ? だってアバンチュールなんだから。まぁ、唇はダメだけど。
恭文くんはまだ子どもで、本命の子が居るんだし、なによりいかがわしい事は無しなんだから」



知佳さんが、目を閉じた。そして、ゆっくりと顔を近づけてくれた。



「・・・・・・というわけで」



自分の身長だと、僕が背伸びしても届かないって分かったから。



「いいんですか?」










知佳さんは、コクンと頷いてくれた。

だから僕は、少しだけ・・・・・・本当に少しだけ勇気を出した。

目の前の年上の女性の唇の真横に、そっと口づけをした。





感謝と、親愛と、ありったけの想いを込めて、そっと。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・それから、少しして宿に到着した。なんか、すっごい長い時間を過ごしてた気がする。





というか、恭文くんが・・・・・・すごく、恥ずがしがってる。










「そんなに恥ずかしがらなくていいの。アバンチュールなんだし」



そう言っても、顔の赤さともじもじとした感じは収まる気配を見せない。

うーん、意外と照れ屋さんなんだね。というか、こういうところは子どもで可愛いかも。



「それに」

「それに?」

「知ってる? ほっぺへのキスは、厚意という意味があるんだよ。
だから、いいの。あ、ちなみに唇は愛情なんだ。それでね」



手の上が尊敬。瞼の上・・・・・・ようするに額の位置が憧憬。掌の上が懇願。腕と首にするのが欲望。つま先が服従と、指折りしながら教えていく。

キスって、色々意味がある。私も知らなかったから、カナダで仕事をするようになって普通にほっぺにチューをされて、びっくりしたっけ。


「だから、問題ないよ? 一応ほっぺの位置なんだから。それで唇は・・・・・・そうだなぁ。
好きな子フェイトちゃんとの時まで取っておくといいと思うな。きっといい思い出になるから」

「あははは・・・・・・そうですね」



恭文くんはどうやら、今ひとつ『その時』が来るかどうか自分でも自信が持てないみたい。

だから、そんなあいまいな言い方をする。同時に苦笑いもする。そして、私はそれが少しおかしくて、クスリと笑う。



「でも、よかった。恭文くんと色々お話出来て。うん、思いっきりアバンチュールしてるよね」

「そうですね。それはもうすごいくらいに」





デートして、お買い物して、一緒にご飯作って、無茶を容認して。

お説教されて、一緒にお風呂に入って、洗いっこ(背中限定)したりして。

あぁ、そう言えば恭文くんの背中、スベスベで綺麗だった。



そこだけ見ると、男の子だなんて思えないくらいに。

私は、どうだったかな。鍛えてはいるけど、それほどじゃないと思うし。

それでそれで、深夜に散歩して、翼見せて、ハグしあって、厚意のキスをし合った。



・・・・・・あはははははは、これで恭文くんが大人だったら、どこまで行ってたんだろ。

怖いなぁ。いや、真面目に怖いなぁ。私、目の前の12歳の男の子に、信じられないくらいに心を許してるもの。

というか、この子がジゴロ過ぎるのかも知れない。・・・・・・将来が、ちょっと怖いかも。





「あ、そうだ」

「はい?」

「私も、怖くないよ」



見えてきた宿の入り口から視線を外して、私は恭文くんの方を向く。向いて、優しく微笑む。

とても嬉しい言葉をくれた。だから、私もお返し。



「恭文くんの中にある魔法という力、普通の人とは違うところ、私は、ちっとも怖くなんてない」



恭文くんの顔が、驚いたものに変わる。さっきまでのもじもじした感じを一旦止める。

そうして、私をその色で染まった瞳で見る。私は、それがなんだか嬉しくて、そのまま言葉を続ける。



「・・・・・・青い小さな翼と、青い魔法の光、青い斬撃。そのどれもが、沢山の可能性を未来に繋ぐための力。
未来を消させない、今を守りたいというあなたの想いが、そのまま形になってる。だから、怖くなんてないよ」



繋いでた手を、強く握る。言葉が、想いが、しっかりと伝わるように。



「だから・・・・・・恭文くんも、怖がらないで欲しいな。
自分の力を、普通とは違うところを。その力は、あなた自身なんだから」



恭文くんは、目を見開いて私を見る。だから、笑みを深くする。

そのまま、俯いた。俯いて、本当に一言だけ・・・・・・こう言ってくれた。



「ありがとう、ございます。その、あの・・・・・・嬉しい、です」

「うん」





とにかく、話しながらも歩を進めて、宿の入り口に到着。

そのまま二人で扉を潜る。時間はもう夜の0時近くだったから、辺りは静か。

・・・・・・そのはずなのに、私達は固まった。



だ、だって・・・・・・腕組みして待ち受けている人が居るんだもの。





「・・・・・・知佳。それに恭文君も、こんな時間までなにやってたんだ?」



三角巾に片腕を守られているその人は、ちょっと怒っている様子で、私達を見る。

まぁ、ここは仕方ないと思う。だけど、他の三人が問題だった。



「おい坊主。お前、まさかたぁ思うけど、知佳にいかがわしいことしたんじゃねぇだろうな」



我が姉は、凄まじい勢いで恭文くんを見る。身体の周囲から黒いオーラが放出されて、それに思わず私も気圧される。

というか、恭文くんの顔が真っ青になってる。というか、怯えてる。だって、同じ感じの人がもう二人居るから。



「恭文くん、少しお話があるんだけど、いい? 特に、知佳さんと仲良さげに手を繋いでいる事に関してとか」





浴衣姿な恭文くんの主治医というその人は、私と恭文くんの繋いだ手を恨めしそうに見ている。

というか、右手でハンカチを持って歯で噛みつつ引っ張っている。

なぜだろう、若干泣いているように思えるのは。私は、その理由を考えようとした。



でも、その思考をすぐにストップした。なんというか、知りたくないと思ったから。





「リインも同じくなのです」





そして、ある意味ではうちの姉を超えたレベルでどす黒いオーラを出している子が居た。

その子の満面の笑みを浮かべつつ放出しているどす黒い色のオーラで、髪がゆらゆら揺れてる。

まるで、某メドゥーサの髪のように、それはもうゆらゆらと。魔法どうこうという感じに思えない。



私は魔法とかさっぱりだけど、それでもあれはそうは思えない。





「というかというか、元祖ヒロイン置いてけぼりでアバンチュールはありえませんっ! 一体なにしてたですかっ!!」

「てめぇ・・・・・・寄りにも寄ってうちの妹たらし込むたぁいい度胸じゃねぇかっ! なんでそうなるっ!? 普通にゆうひで満足してろよっ!!」



そして、お姉ちゃんの両手には一本の木刀・・・・・・って、戦闘体勢が取られてるっ!?

私達は当然のように顔を見合わせる。見合わせて・・・・・・私はこう発言した。



「え、えっと・・・・・・ごめんみんなっ! 説明はまた今度ねっ!!」



というわけで、私は恭文くんと一緒に転送・・・・・・あ、でもどこに?

えーい、とりあえずどこでもいいから逃げられる場所っ!!



「恭文くん、跳ぶよっ!!」

「は、はいっ!!」

「おいこらっ! なに普通に能力使おうとしてやがるっ!! つーか、お前マジで知佳と何してやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」










こうして、静かな夜は一転。私達は、リスティ(お姉ちゃんに脅かされたらしい)やシャマルさんにリインちゃんから逃げ回ることになった。





あーん、どうしてこんなことにー!? 普通に仲良くなっただけなのにー!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・なんか、偉いことになっとるなぁ」

「というか、さすがにこれはまずいんじゃ・・・・・・」



宿の一室でゆうひさんとみなみさんがそう言うのも無理はない。私もサーチでチェックしてるけど、相当派手な逃亡戦が繰り広げられているもの。

あぁ、何か起きるんじゃないか何か起きるんじゃないかと思ってたけど、やっぱりこうなるんだ。



「な、なんというか申し訳ありません。うちの恭文くんがご迷惑を」



エイミィさんがペコペコと頭を下げるのも、ゆうひさんとみなみさんの反応と同じように無理は無い。だって、トラブルの大本の要因は恭文君だと思うもん。

なんというか、静かに終われない子だなぁ。・・・・・・うん、分かってた。私分かってたよ。だって、友達だもの。



「愛さん、みんなもごめんなさい。なんというか・・・・・・恭文君って、ちょっとアレで」

「あ、いえいえ。うちの寮生の相手をしてくれているわけだから、問題はないわよ? それに、みんな楽しそうですもの」

「愛さんっ! 呑気な事言っとる場合じゃなかとですよっ!? はよ止めんと、温泉街がめちゃめちゃになるとですっ!! こうなったらうちが」

「あぁ、薫ちゃんダメだからっ! 薫ちゃんまで出たら収集つかないよっ!! 十六夜さんを持ち出すのもやめてー!!」



た、確かに。リスティさんと知佳さんの能力ってそうとう強いらしいから、このままだと色々不都合が。

というか、恭文君なにやってるのっ!? いくらなんでも仲良くなるスピードが速いってっ!!



「・・・・・・それでね、おかしいの。恭文は特に意識してないって分かってるのに、妙にドキドキして・・・・・・うぅ、私もうだめかも」

「みゆきち、その認識は間違ってないのだ。だって、あたしの方見て話してないもん。さっきから壁の方ばっか見てるもん。てゆうか、あたしはちょっと怖い」

「そしてお姉ちゃんもなにやってるのっ!? おねがいだから落ち着いてー!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、翌日。僕は・・・・・・凄まじく疲れていた。

理由は、前日の夜に行われたサバイバル。結局、朝までぶっ続けだった。

なので、僕は当然・・・・・・シャマルさんとリインに拘束された上で、あっちこっちに引っ張りまわされた。





二人と足湯に入ったり、お土産見繕ったり・・・・・・あー、知佳さんも同じくだね。

とりあえず混浴の事だけはなんとかバレずに済んだものの、真雪さんのガードが厳しく近づけない。

そんな二日目を超えて僕は現在、自室で死んでいます。だって、あんまりに振り回されてたんだもん。










「・・・・・・恭文、大丈夫?」



御架月さんが僕の後ろにプカプカと浮かびつつ言うのも無理はない。だって、真面目に沈んでるから。



「なんとか・・・・・・。てか、真雪さんが怖いです。非常に殺気をぶつけてくるんです」

「なんというか、すまないな。真雪はこう・・・・・・アレなんだ」

「耕介、あの様子で知佳って結婚出来るの? 恭文はまだ子どもだからいいけど、これが大人の男とかだったら」



御架月さんの言葉に、僕の真向かいの耕介さんが唸った。唸って・・・・・・数秒考えて、答えを出した。



「無理かも知れないな」



苦い顔で、とても嫌な答えを出してしまった。



「・・・・・・えぇ、知ってました。てゆうか、分かってました」



ほら、こう・・・・・・恭也さんの『鬼いちゃんモード』と同じだもん。もっと言うと、『鬼ぇちゃんモード』だよ。

やばい、アレはいろんな意味でまずいと思う。知佳さん、将来大丈夫なのかな?



「なんとかした方がいいかも知れないね。だって、現代社会で言うと知佳だってもう適齢期ってやつなわけだしさ」

「そうだな。・・・・・・よし、俺の方でも対策を考えておくか。
恭文君はともかく、知佳が本当に結婚したいと思った相手に対してまでアレは、まずい」

「僕はともかくってところが気になりますけど、そこは僕も同意です。
あの人、剣術の達人なんですから、一般人は心身ともにブレイクされちゃいますって」





時刻は夕方。部屋から入り込む夕焼けの色に感動する余裕もないのが悲しい。だって、明日には帰るのに。もうすぐこの景色とさようならなのに。

というかさ、知佳さんと色々話せたの・・・・・・楽しかったな。あと、怖くないって言ってくれたし。フィアッセさんと、同じだ。

フィアッセさんにも、あれからもう一度コンサートに招待された時に話した。僕が魔導師になった時の事、何をしたのかとか、何を見たのかとか。



そうしたら・・・・・・普通に、受け入れてくれた。怖がったりなんてしないで、優しく抱きしめてくれた。それが、すごく嬉しかった。





「それで、どうやって君はあの女傑二人から解放されたの?」

「あぁ、みなみさんと薫さん達が引っ張ってってくれたんですよ。最後に女同士でお風呂で裸の付き合いするからーって言って」

「なるほど。愛する男性も大事だけど、やっぱり女性同士の付き合いも大事だと」





あはははは・・・・・・御架月さん、その言い方やめてもらえます? 僕、なんかすっごい泣きたくなるんで。

とにかく、楽しい旅行も今日を越えたら明日の朝には帰宅。

そして、僕も普通にバイトに戻る。・・・・・・そう言えば、ここは確認しておこう。



なので、身体を少し起こして、耕介さんを見る。耕介さんは首をかしげて、視線で『どうした?』と言ってくる。





「耕介さん、傷の具合どうですか?」

「あ、そう言えばそうだね。目的は耕介の湯治なわけだし」



なお、湯治とは本来は一週間程度の(以降省略)。



「あぁ、それならおかげさまでいい感じだ。シャマルさんにも診てもらったんだが、もう三角巾外してもいいくらいらしい。
いや、やっぱりなんだかんだで短期でも効果はあるんだな。こう・・・・・・気分から違うんだよ」

「そっか、そりゃよかった。これで目的が達成されてなかったらどうしようもなかったけどね」

「確かにそうですね。しかし・・・・・・あぁ、温泉よかったなぁ」



思い出すと、沈んでいた気分が上向きになってくる。

・・・・・・二日間、なんだかんだで温泉に入りまくったから、結構幸せ。



「あー、でも御架月さんや十六夜さんには申し訳ないかも」

「気にしなくてもいいよ? 僕や姉さんはそういうの無理なんだしさ」



そう、霊剣に宿る魂である御架月さんや十六夜さんは、温泉に入るというのは無理なのだ。

というか、ご飯を食べたりするのも無理。やっぱり色々制限は付くらしい。



「・・・・・・そう言えば」

「うん?」

「昨日の宴会の時に、真雪さんが二人の本体にお酒かけてましたよね。それで、味が伝わって」

「あぁ、そうだね」



待てよ。ということはつまり・・・・・・刀身に干渉すれば、温泉気分や美味しいものを食べる気分を味わってもらうことが出来る?

おぉ、これはもしかして大発見ではないのか? よし、試して・・・・・・だめか。



「耕介さん、つかぬ事をお聞きしますが、刀身に温泉だったり食べ物乗せると、十六夜さん達ってどうなるんですか?」

「・・・・・・そっか。君もそこを考えたか」

「僕もということは、もしかして」

「あぁ、俺も考えた。そして、管理人成り立ての時に薫に聞いたことがあるんだよ。そうしたら、苦い顔で答えをくれたよ」



さすがは管理人暦10年越え。ぽっと出の僕の思考など、とうの昔に通り過ぎているのだ。

そして、その答えがあんまりよくないものだというのは分かった。だって、今目の前に居る耕介さんも、その苦い顔だから。



「薫も物心が付くか付かないか・・・・・・十六夜さんの存在を自然なものとして受け入れた直後かな」



耕介さん曰く、薫さんは当初は十六夜さんのことをかなり怖がっていたそうだ。まぁ、ある程度一緒に過ごしたら慣れたらしいけど。



「十六夜さんの本体にアイスを乗せようとして、神咲の家のみんなに、しこたま怒られたらしい。
食べ物やジュースなんかの飲み物を刀身にかけるのは、味どうこうの前に刀身が痛むからな。温泉も同じくだ」



なるほど、その問題があったか。お酒はまだいいのね。だって、消毒効果もあるし、清めの酒ってのもあるんだし。



「あー、その話は僕も姉さんから聞いたよ。でも、姉さんはすごく嬉しかったらしいよ?」

「・・・・・・十六夜さんなら、そう言いそうですね。もちろん、本心から」

「うん。だって、姉さんだもの」





自慢気に、御架月さんが胸を張る。どうやら、相当十六夜さんが誇らしいみたい。

・・・・・・まぁ、食べ物関係はダメっぽいので、この話は終わりにしておこう。

とにかく、この2日間で入った温泉・・・・・・うわ、相当量だね。かなり頑張ったよ。



まず、普通の檜湯に露天風呂でしょ? 足湯に時間湯、滝湯に泡風呂、寝風呂に砂風呂。もう堪能しまくってるくらいに堪能した。

さっきも少しだけ話したけど、本来の湯治は一週間以上の温泉治療の事を言うから、日数は確実に足りない。

でも、『病は気から』と言うし、気分的なものも大きいんじゃないかとは思う。



なんて考えてると、コンコンと扉を叩く音。





「あ、僕が出ます」



さすがにけが人を動かすわけにはいかないので、立ち上がりかけた耕介さんを止めて、僕が自室の居間を抜けて、玄関に出る。

出て、扉を開けると、そこに居たのは桃色のワンピースを着た女の子。というか、魔王。



「魔王、どうしたの?」



そう言うと、目の前の魔王は嬉しそうな顔をして。



「・・・・・・いきなりひどくないっ!?」



こんなことを、声を弾ませて言うのである。



「弾ませてないよっ! そして嬉しそうな顔なんてしてないよっ!! というか、どうしてそうやっていつも私をいじめるのっ!?」

「だって、魔王じゃん」

「平然と言い切らないでよっ! 私、魔王じゃないもんっ!!」



なぜかプンスカし出したのは、ワーカーホリック・レディ1号な高町なのは。

てゆうか、なんでここに居るんだろ。女同士で裸の付き合いはどうしたんだろ。



「えっとね、私は遠慮させてもらったの。・・・・・・恭文君、ちょっと私とお散歩しない?」

「だが断る」





そのまま、僕は扉を閉めた。・・・・・・さて、夕飯まで耕介さんの世話でもするか。



振り返り、そのまま居間へ戻る。そして、扉の前からシクシクと泣く声が・・・・・・。



仕方ないので、またUターン。扉を開いて、本当に泣いていた横馬に優しく声をかける。





「あぁもう、分かったっ! 分かったから泣くのやめてっ!!」

「泣くに決まってるよっ! というか、どうして私に冷たいのっ!?」



よくわからない。なぜ、このお姉さんはそんな当たり前のことを今、僕に聞くんだろう。



「だって、なのはは冷たくされると悦んじゃうでしょ?」

「私、そんな変態さんじゃないもんっ!!」

「・・・・・・そっか。自分で自分のことがよく分かってないんだね」

「ちょっとそれどういう意味っ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく、耕介さんに断ってから、僕はまた外に出た。

白と黒の縞模様の浴衣に、紺の薄手の羽織を着て、温泉街ルックで湯煙の街を歩く。

その途中、通りがかった茶屋に横馬を引っ張って、軽く夕飯前の腹ごなしにタピオカ入りという珍しい汁粉を食べる。





・・・・・・お、これ美味しい。グニュグニュとしたタピオカの食感とアンコがどうにもこうにも不思議な感じ。










「・・・・・・恭文君、よく食べられるね」



呆れた顔の横馬は、そう言いながら汁粉をすする。

なお、この描写に大きな矛盾が存在していることについては、一切をスルーします。



「昨日、大暴れしたしね。ちょっと甘いもの欲しかったのよ。あと、みなみさんが教えてくれたんだ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・タピオカ入りのお汁粉?」

「うん」





20代後半とは思えない素敵な笑顔でそう言ったのは、なぜか『人間削岩機』と真雪さんや耕介さんから言われていたみなみさん。

現在、ようやくシャマルさんとリインから開放されて宿に戻ってきた直後。

僕をあの二人から救出してくれた天使の一人であるみなみさんが、楽しそうにそんなことを言った。



いや、嬉しそうなのはみなみさんだけじゃないか。





「最初はゲテ物かと思ったんだが、これが中々でな。私も那美も、夕飯前だと言うのについついお代わりしてしまった」

「美味しかったよねー」

「くぅん・・・・・・」



そう、天使その2の薫さんと、天使その3の那美さんもそのお食事に付き合ったらしい。

あと、久遠・・・・・・は無理だったのね。なんか残念そうな声で鳴いてるもの。



「久遠、お汁粉とか食べちゃまずいんですか? というより、人間の食べ物」





よく考えたら、久遠が女の子モードでお食事してる姿を見ていない。

耕介さんからもその辺り指示がなかった。

もしかして、お汁粉は食べると命に関わるとかそういう代物なのかとちょっと気になった。



でも、そういうわけじゃないらしい。那美さん達が首を横に振ったから。





「あ、それは大丈夫だよ。味のきついものは苦手だけど、特に食べて命に関わるとかそういうのはないから」

「単純に衛生上の問題たい。久遠は外で待っててもらったんよ」

「他のお客さんも居るから、ダメだったんだー」



うーん、さすがに動物持込はやばかったのか。納得。



「てゆうか、久遠って女の子になれるんですし、問題ないんじゃ」

「でも、耳が・・・・・・」



那美さんにそう言われて思い出した。確かに、耳が・・・・・・あと、尻尾が・・・・・・。



「あ、なるほど。納得しました。でも、僕思うんですけど」



あれを普通の状態で見たら、コスプレでは済ませられないよなぁ。

とは言えだ、ちょっと気になることが出来た。



「変身の応用で、耳や尻尾って消せないんですか? ほら、アニメとかではよくありますし」

「「「・・・・・・・・・・・・あ」」」

「え、ちょっと待ってっ!? どうして三人揃って驚くんですかっ! てゆうか、普通に僕をそんな関心した目で見ないでー!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・というわけなのよ」

「・・・・・・そっか。くーちゃんって人間形態だと過ごし辛いって言うからあんまり気にしてなかったけど、尻尾とか消せるかも知れないんだよね」

「そうそう・・・・・・って、おのれもかいっ!!」





とにかく、そんなわけでここを教えてもらったのである。

というか、どういうわけか普通に美味しいものに目がない休日を送っているのが不思議だった。

みなみさん達、今の今までお風呂入らずに食べ歩きしてたんじゃないかって言うくらいにここでのお勧めの食べ物を教えてくれたもの。しかも沢山。



それで夕飯・・・・・・あぁ、食べられるね。あの人の食欲を知っているから、驚く必要もないや。





「にゃははは、そっか。それでね・・・・・・あの、ちょっとお話があって」

「なに?」



汁粉をすすりつつ、僕は店の隅、向かいの席に座った横馬に目を向ける。

横馬は、それまで浮かべていた優しい笑みを真剣な顔に切り替えて、僕を真っ直ぐに見た。



「局に入る気、ないかな」

「ない」





一言、そう答えてから、また汁粉をすする。口の中に広がるのは、濃厚な温かい甘みと心地よい食感。

・・・・・・うーん、この一杯だけで済ませないといけないのが辛いくらいに美味しい。

タピオカのグニュグニュの食感が心地よくて、ついつい箸を進めてしまう。



で、すすってもう一度横馬を見る。見ると、四角い木目のテーブルに突っ伏してた。





「あの、即答っておかしくないかな?」

「おかしくないでしょ。てゆうか、いきなりどうしたの」

「うん・・・・・・。恭文君、ずっと嘱託だから気にはなってたんだ。ほら、そういうのって恭文君だけだし」



とりあえず、横馬も汁粉をすすりつつ話すことにしたらしい。お椀とお箸に手をかけた。

で、僕も食べつつ思い出す。確かになのはもそうだし、ハラオウン家や八神家のみんなも局員。嘱託・・・・・・僕だけ。



「てーか、局員なんて合わないよ。知っての通り無茶しまくるんだから」

「しないって言うのは、無理っぽい? 組織のルールに従ったって、きっとやれることは沢山あると思うし」

「無理だね。僕、局嫌いだし」

「だから即答は・・・・・・あぁ、もういいや」



あ、なんか素直に引き下がった。もうちょっとしつこいかと思ったのに。

僕がそんな気持ちを込めてなのはを見る。見ると・・・・・・苦笑で返してくれた。



「まぁ、分かってはいたから。でも、やりたいこととか、夢とか。
自分なりのなりたい形を、見つけていったほうがいいんじゃないかな」

「ありますよ。一応は」

「ヘイハチさん?」

「うん」



先生のようになりたい。守りたいものを守り、壊したいものを壊す。そうして今を覆し、未来を繋いでいく。

そんな・・・・・・途方も無く強い古き鉄になりたい。そこは変わっていない。



「・・・・・・それだけで、いいのかな」



だけど、どうやら横馬はちょっとそれが不満らしい。

食べているお汁粉とは真逆な苦い顔で、僕を見ている。



「こう言ってはアレだけど、ヘイハチさんはむちゃくちゃ過ぎるもの。
組織人としては失格だなって、私も最近ようやく分かってきた」



目の前の女の子は、僕とは違う。魔導師の先生が出来て、その上組織人。

正直、学生って業務がおまけに思えるくらいにすごい子。だから、言う事は分かる。



「通したいことがあるなら、ルールの中で通す努力を覚えるのも、必要だと思うんだ。
不満があるなら、志を同じくする人と一緒にルール自体を変えて行く努力をしていけばいいんだよ」

「まぁ、確かにね。でもなのは。・・・・・・その間に、壊れるものがあるとしても、そう言える?」

「それは・・・・・・局員としては『うん』としか言えない。もう私は、ただの一人の魔導師としては戦えない立場だもの。
戦うなら、局員として、組織の一員として戦う。それは、私だけの話じゃない。きっとみんな同じ。そうして、守りたいものを守ってる」



だけど・・・・・・よく、分からない。



「でも、恭文君は納得出来ないんだよね。絶対に」

「当たり前じゃん。僕は、いつだって僕として戦いたいの」



目の前の女の子が、少し諦めたような顔をするのが、どうしてなのかよく分からない。

もう一度考える。・・・・・・やっぱり、よく分からない。



「にゃははは。当たり前かぁ。また言い切るなぁ」

「言い切るよ。・・・・・・美由希さんの事取り戻そうって思った時にね」

「うん」

「てゆうか、無茶する時か。フィアッセさんの一件の時から、よく考えるのよ。もし局員だからとか、組織のルールに反するからとかさ。
そんなことを言って、目の前の事に目を閉じていたら、きっと・・・・・・死ぬほど後悔するんだろうなってさ」



僕はやっぱり、ルールってやつに従う生き方は無理らしい。何度も守る事が正解で、正しい事だとは思う。



「あと、はやてと師匠達が狙われた時かな。・・・・・・なんかね、局の中では僕のそういう気持ちを通すの、無理かなって思ったんだ」



でも、それだけじゃあ止まれない。正しいだけじゃ、止まる事なんて出来ない。

壊れるのは、壊されるのは、とても怖くて、悲しい事だから。そんなの、見過ごせない。



「ルールを守る事が、正しい事だとは思えないの?」

「時と場合によるけど、そうだね。目の前のことに手を伸ばせないルールなら、何も守れないルールなら、僕はいらない」

「それは・・・・・・私も感じる。まぁ、私は教官職だからまだ大丈夫なんだよね。
けど、フェイトちゃんやはやてちゃん、クロノ君みたいに前に出るお仕事はもっとだと思う」



だろうね。色々と大変なのは、見てて分かる。うん、そこはかなりね。友達で家族だもの。



「でも、そういう苛立ちを感じるなら、余計に入るべきなんじゃないかな。その苛立ちは、色んな物を変えて行く力になる。
それを誰かと共有すれば組織や世界だって、必ず変えられる。そうすれば、恭文君の通したい事が通せる現実だってやってくる。だから」

「・・・・・・なのは?」



少し、視線を厳しくすると、なのはがシュンと俯いて落ち込む。



「・・・・・・ごめん。話、堂々巡りになってるよね。さっき恭文君はその間に壊れるものがあるのは、絶対に納得出来ないって言ってたのに」

「うん」



なんというか、それに従ってる自分って、やっぱり違和感しか感じないんだよねぇ。

こう・・・・・・なりたい形というか、自分に嘘をついている感じがするというか。



「僕はやっぱり、時代遅れで通りすがりの古き鉄だってことだよ。てゆうかなに?
そう言うってことは、なりたい形は局員の中じゃなきゃダメってことですか」

「そうは言わないよ。でも、局員だって悪い事ばかりじゃないよ。・・・・・・あと、これが一番重要かな。管理局は、魔法を認めてる。
魔法という力がちゃんと一つのスキルとして認められてるんだし、恭文君のやりたいことやなりたい形を見つける場としては、一番いいと思うんだ」

「いや、だから先生みたいにしていいなら」

「だからそれはだめっ! あっという間にクビになっちゃうよっ!?」



問題ない。先生だってなんだかんだ言いながら、十数年とか続けてたんだから。



「んじゃ、局員は無理ー。僕は先生みたいに強くなりたいし、ああ言う生き方に憧れてるんだから」

「いや、そこは分かるけど・・・・・・他の方向性だってあると思うんだよ」

「嫌だったら嫌だ。てか、なんで僕が横馬や局の都合で自分の目標諦めて、他のもの探さなくちゃいけないんだよ。意味分かんないし」

「それは・・・・・・その、うん」



・・・・・・てゆうか、アレだ。僕はさっきから結構気になってた。

うん、かなり気になってた。なので、もうちょっと突っ込んでいくことにする。



「てゆうか、横馬」

「なに?」

「話が回りくどい。ようするに、何が言いたいの?」



僕がそう言うと、横馬は目を見開いた。そしてそのまま、真っ直ぐに僕を見る。



「なんか気になることがあるんでしょ? だから、いきなりこんな話をしてる。だったら、手札晒してよ。まぁ、返事は変えないけど」

「出来れば、変えてくれるとありがたいんだけどな。・・・・・・フェイトちゃんがね、心配してるの」



・・・・・・動きが止まってしまった。なんかこう、言いたい事とかが色々分かってしまったから、かなり。

フェイト・・・・・・だけの話じゃないのは、横馬の言い方で分かった。というより、散々言われてるし。



「それは、アルフさんやリンディさんも同じかな。八神家のみんなは何も言わない。
だけど、恭文君が嘱託からどこに行きたいのかとか、将来の目標を言わないのを気にしてる」



そういうの、重要なのかね。てか、言ってるのに。もっと強くなりたいってさ。



「というより、私も。・・・・・・局の事、出来れば好きになって欲しいなって考える。
なんかね、ちょっと嫌なんだ。みんなの居場所を嫌いだって言われるのは、ちょっと嫌」

「ごめん。それは無理だわ」

「・・・・・・そっか。そう思うのは、はやてちゃんの一件がきっかけ?」




汁粉にまた口をつけつつ、頷く。なのはは、それで納得した顔をした。



「確かにはやてちゃんの一件は、私達みんなショックだったから。
うん、私もショックだった。はやてちゃん、何も悪い事はしてないはずなのに」



目の前の女の子は、箸の動きを止めて、泣きそうな顔をする。まるで自分の事のように、瞳を涙で潤ませる。

付き合いも2年とか3年とかいくので、分かるようになった。なんというか、この女はバカだと。



「ね、実際に訓練校に行ってみない? 私も付き合うからさ」



・・・・・・箸を握り締める手の力が、強くなるのは気のせいじゃない。

だって、さっきのアレからどうしてこう繋がるのかがサッパリだから。うん、真面目にサッパリだ。てゆうか、やっぱこの女バカだ。



「ねぇ、僕は局員になるつもりはないって話さなかった?」

「あの、そうじゃないの。ヘイハチさんと同期で、私やフェイトちゃんもお世話になった人が居てね。その人から最近久々にメールをもらったんだ」



なんでも、ファーン・コラードという人らしい。現在はミッドの武装局員養成のための訓練校で校長を努めている。

そして、先生と同期ということは、普通に教導隊レベルの凄腕魔導師なのだ。なお、現在も死ぬほど強いとか。



「そう言えば、先生から聞いたような」



同期で一番仲が良くて、そして色々と振り回して怒られまくった悪友とか。

なんか、嬉しそうに話してた事がある。で、『どんな手を使っても釣られなかった相手』らしい。



「私にとっては恩師でもあり教導隊の大先輩でもあるんだけど、ファーン先生が一度恭文君に会いたいんだって」

「僕に?」



つまり、訓練校に行くというのは、そこに入って局員になるという話ではないと。うん、よく分かった。



「うん」

「まぁ・・・・・・そういうことなら」





別に人に会いに行くだけなら、拒否する理由も無い。そういうつもりでそう言った。



なのに、なぜ目の前の女の子は、すごく嬉しそうな顔をするのだろう。



それを見て・・・・・・少し嫌な予感が頭をよぎった。なので、釘を刺すことにする。





「でも、その場で即効で選択権なしで訓練校に入校しろとか言われたら、怒るよ?」

「大丈夫だよ、絶対にそんなことしないから。うん、約束する。そんなだまし討ちみたいな真似、私だって嫌だもん」





まぁ、そこは信用している。さすがに横馬はそんな真似するとは思えないし。



ただ・・・・・・『でも、ファーン先生や他の人達がどう言うかは分からないけど』と付け加えては欲しくなかった。うん、そこは邪魔だった。



とにもかくにも、汁粉を食べ終わったので、口直しの小梅をパクリ。そして、二人揃って同時にこう言う。





「「・・・・・・すっぱぁっ!!」」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・お汁粉、美味しかったね」

「だね。どっかの誰かさんが辛気臭い話をしなきゃ、もっと美味しかったのに」

「うー、だってあそこしかチャンスなかったんだもん。恭文君は知佳さんにべったりだしさ」

「いいの。アバンチュールなんだから」



・・・・・・もう、真っ暗な時間。夕飯の時間まであと少しなので、結構足早に僕となのはは宿までの道を歩く。

林の中というわけでもなんでもないので、多分あとちょっとで着く。



「そう言えば、知佳さんの羽・・・・・・見せてもらったんだよね」

「うん。てか、なのはも知ってたの?」

「前にくーちゃん目当てでお邪魔した時に、偶然見ちゃった事があって。それで教えてもらったんだ。・・・・・・綺麗だよね」

「うん、綺麗だった。僕が見た時は辺りが真っ暗でさ、夜の闇の中で翼が光ってたから、余計に綺麗だった」



フィアッセさんの翼と色は違うけど、綺麗さの基準は同じだと思う。

きっと、力の持ち主の心根が現れてる。なんか、いいなぁ。うん、素敵だった。



「それでね、知佳さんに怖くないのかって聞かれて、怖くないって返事して・・・・・・その後に言われたんだ」

「なんて?」

「僕の中にも、人とは違う部分があるけど、知佳さん、怖くないって。というか、自分を怖がらないでって。嬉しかったよ」



右横を歩く横馬が、少し固まった。その言葉で、僕がどう思ったのか、察しがついたのかも知れない。

・・・・・・僕は、嬉しかった。多分知佳さんは力だけを言ってたのかも知れないけど、それでも・・・・・・嬉しかった。



「・・・・・・そっか」

「うん」










そのまま、言葉少な目に横馬と僕は温泉宿に戻った。そして、また宴会・・・・・・は、色々と怒られるので、楽しく夕飯を食べた。

時間はゆっくりと過ぎる。ゆうひさんと知佳さんがデュエットしたり、真雪さんから殺気をぶつけられたり。

みなみさんと大食い競争したり、美由希さんがなんか壊れたり、薫さんと那美さんになんか呆れられたり・・・・・・。





アルバイトのはずだったのに、本当に一員として扱ってもらえることが、すごく嬉しい。なんというか、すごく。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・耕介さん、大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だ。いや、なんか楽しくてついつい飲み過ぎて・・・・・・あははは」

「『あははは』じゃありません。もう、一人で歩けなくなるくらいに飲むなんて、だめですよ」

「とか言いながら、愛さんもそうとう飲んでましたよね」

「え、えっと・・・・・・まぁ、そこそこ」



自室に、耕介さんを連れてきた。というか、愛さんと一緒に。だって、僕だと身長が足りなくて支えにもならないから。

一応美由希さんやエイミィさんがやると言ったのだけど、そこは僕が視線で遠慮させた。まぁ・・・・・・ねぇ?



「そう言えば御架月さん、なんかお散歩したいって言ってませんでした?」

「え? 僕そんなこと」



現界して、部屋の真ん中でプカプカ浮いていた御架月さんに視線でサインを送る。

・・・・・・どこぞの横馬と違って、ちゃんと理解してくれるのがありがたい。御架月さんは、しっかりと頷いたんだから。



「あぁ、言ってた言ってた。いや、ごめんね。すっかり忘れてたよ。じゃあ耕介、愛、僕は恭文と一緒に散歩してくるから」

「え? いやいや、待て」

「恭文、携帯許可証はそこの戸棚の中だから」

「はい。それじゃあ、僕達はちょっとお散歩してくるんで、しばらく戻ってきませんから」

「さぁ、どこ行こうか。やっぱり川沿いだよねー」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・なんて言いながら、普通にあっという間に出て行ったし」

「止める間、ありませんでしたね」



な、なんというか・・・・・・気を使われたのか? ・・・・・・うん、間違いなく使われたな。

だけど、いきなり過ぎる。俺も愛も、どうしたものかと困った顔で顔を見合わせるのだから。



「とりあえず・・・・・・お言葉に甘えて、のんびりしましょうか」

「そ、そうだな」










・・・・・・なんだろう、妙に気恥ずかしい。というか、こういう気遣いは辛いというかなんというか。





うちの連中は最低限な部分を除いては気を使わない分、慣れてないと再認識してしまった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで、宿の屋根に上って・・・・・・月夜を見る。





いや、散歩とは言ったものの、やっぱり刀持って夜中に子どもがうろつくのはまずいと思うので、ここになった。










「・・・・・・御架月さん」

「うん」

「月・・・・・・綺麗ですね」

「そうだね」

「あら、二人で月見ですか?」



声は後ろから。そして、そこに見えるのは優しい微笑を浮かべた一人の女性。

それを見て、御架月さんの表情が明るくなる。だって、そこに居たのは・・・・・・お姉さんだから。



「十六夜さんもお月見ですか?」

「はい。・・・・・とても綺麗な月ですから」

「確かに、とっても綺麗ですよね」










空には、輝く月。人に見つからないように、屋根の上で十六夜さんと御架月さんと一緒にそれを見る。

・・・・・・あぁ、なんというか静かだ。すっごい静かだ。

もしかして、幕間始まって以来凄まじく静かな展開なのかも知れない。





このまま、平和にバイト終了するといいなぁ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・そして、翌日。僕達は寮に帰ってきた。





なお、普通に恭也さん達や士郎さん達、あと狸や師匠達も同タイミングで戻ってきた。





なので、高町家と八神家はいつもの状態に戻った。ま、ここは関係ないからおいておく。










「・・・・・・恭文くん」



真雪さんとリスティさんに荷物を押し付けられ、へーこーらしながら寮の玄関へ行くと、知佳さんが居た。

知佳さんはニッコリと笑って、一言・・・・・・優しくこう言ってくれた。



「おかえり」

「・・・・・・ただいま」



ちょっとだけおかしい言葉のやり取り。でも、自然に、敬語もなくて出来た。

それが少しおかしくて、知佳さんと一緒に笑いあう。なんか、すごく楽しい。



「・・・・・・懐かしいわ」



後ろから声がする。そちらを見ると、愛さんが感慨深げな顔で僕を見ていた。

そして、その傍らにエイミィさんとゆうひさん。それに僕達が疑問で首をかしげていると、愛さんが気づいたように補足をしてくれた。



「いえね、耕介さんが代理管理人だった時に、私も知佳ちゃんと同じことをしたのよ。なんというか、そうするとここを帰るべき場所だと思ってくれるような感じがして」

「あはは、そうやったんか。ちゅうことは、愛ちゃんは昔から耕介くんにラブラブやったわけやな」

「ゆ、ゆうひさん。からかわないでください」





愛さんが顔を赤くして、照れる。というか、普通に可愛い。

・・・・・・耕介さん、幸せだな。なんというか、幸せ者だって。

うぅ、僕もいつかフェイトとこうなるんだ。



そのためにはまず・・・・・・まず・・・・・・どうしよ?





「うーん、ということは恭文くんが次のさざなみ寮の管理人ってことですか?」

「あ、それで知佳ちゃんがお嫁さんや。よかったなぁ知佳ちゃん、結婚相手見つかったで」



そんな僕のお悩みはさておく感じで、エイミィさんとゆうひさんがにやにやとしながら言葉を続ける。

それにより・・・・・・・え?



「「えぇっ!?」」

「いや、よかったね恭文くん。就職先が見つかったじゃないのさ。うぅ、エイミィさんは嬉しいよ」

「こりゃ、今夜も祝杯やなぁ。うし、うちが一曲歌うか」

「勝手に決めるなー! てか、僕が管理人って・・・・・・・えぇっ!?」



なんか適当な事を言い出した二人は置いておこう。

そして、すっごく嬉そうな顔をし出した愛さんも置いておこう。



「や、恭文くん。とりあえず中入ろうか」

「そうですね、入りましょ入りましょ」

「あらあら、やっぱり二人とも仲良しなのね」

「愛さんっ! からかわないでよっ!!」





すっごい頭痛くなってきたし。うー、なんでこうなるのさ。というよりさ、耕介さんはまだ十分若いのよ?

男の30台と言えば働き盛りもいい所。今の段階から代替わりを考えるの早いって。

怪我こそしてるけど、元気なんだし。とにかく、僕達は玄関に入った。



入った直後、何かが転げ落ちるような音を聞いた。





≪・・・・・・どうも、今回初発言の私です。マスター、誰か階段から落ちましたよ≫

「分かってるわそんなことっ! てか、誰っ!?」



そのまま、荷物を置いて階段まで直行。そして・・・・・・そこに居たのは、一人の男性。

身長190センチの体格は、見事に階段の下で『イテテ』と唸っていた。



「お兄ちゃんっ! 大丈夫っ!?」

「耕介さん、しっかりしてー! 死なないでー!!」

「・・・・・・あ、あぁ。いや、大丈夫だから。ちょっと足を滑らせただけだし」

「あぁ、動かないでください。・・・・・・エイミィさん」



僕が声をかける前に、エイミィさんは動いてた。すぐにまだ外で車を車庫入れしているシャマルさんを呼びに行ったから。



「耕介くん、やっぱり年やないか? 確か腕怪我した時も・・・・・・」

「同じ感じだったんだよね?」

「まぁな。・・・・・・まずいな、一度人間ドックとかに入った方がいいかも知れない」



とにかく、僕は耕介さんの状態を・・・・・・あれ?

どうしよう、気づいてしまった。人間ドックどうこうの前になんとかしなきゃいけない事に気づいてしまった。



「こ、耕介さん」

「なんだ?」



いや、なんだってそれを聞きますか? ま、まぁ・・・・・・とにかく、ちゃんと話さないとだめだろう。

だって、知佳さんも愛さんも、あのゆうひさんでさえも、気づいて顔を青くしてるもん。



「腕・・・・・・折れてません?」

「・・・・・・え?」



そうして、耕介さんが見る。三角巾に包まれていた腕を。なお、そこは異常がない。

そして、もう片方の腕を見る。ちょっと上げてみる。・・・・・・手首とひじの間が、ありえない方向で曲がっていた。



「・・・・・・痛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! お、折れたっ!! てーか、腕が折れてるっ!?」



大事な事だから二回言ったっ!?



「あぁ、耕介さんしっかりしてー! お願いだから死なないでー!!」

「愛さん、お兄ちゃんを揺らしちゃだめだからっ! 階段から転げ落ちたばかりなんだよっ!? と、とにかく治療・・・・・・シャマルさん早く来てー!!」

「ちゅ、ちゅうか救急車やっ! 119番やっ!!」

≪マスター・・・・・・これはもしかして≫

「うん、そうだね」










とにかく、骨折の処置の方法を思い出しながら、僕は思った。





どうやら、振り出しに戻ったらしいと。





そう、振り出しに戻った。僕達はすごろくで言うなら、ゴール直前にあるあのマス目に入ったわけである。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・そして、お兄ちゃんはすぐに病院に搬送。検査の結果、全治1ヶ月と判明しました。

まぁ、綺麗な折れ方はしたらしいので、すぐにくっつくとはお医者さんの談。

あと、シャマルさんが治療魔法をかけてくれたので、実際にはその半分の期間で治りました。





今はもう元気いっぱい、子育てと管理人のお仕事に精を出しています。

そして、局の仕事があったシャマルさんやリインちゃん、エイミィさんになのはちゃんはそっちに戻った。

だけどく、恭文くんはお兄ちゃんの完治までずっと付き合ってくれたそうです。





本当は私やゆうひさんにみなみちゃん、薫ちゃんと那美ちゃんに久遠もそうしたかった。

だけど、さすがにそこまではお休みが取れなくて、みんな仕事場に戻りました。

だから、私も今はカナダのお仕事場。あ、恭文くんはわざわざ見送りに来てくれたんだ。





また帰り際にハグとほっぺへのキスをして・・・・・・それで、『また会おうね』と約束して、お別れ。

次に会う時は、お姉さんとしてになると思う。振り出しに戻るの目に入ったのは、お兄ちゃんだけじゃない。

私と恭文くんも同じ。もう、ほっぺへのキスとかはしない。だって・・・・・・アバンチュールは、終わりだから。





アバンチュールは、ひと夏の限られた時間でするから、綺麗な思い出になる。

ずっと続けてたら、それはもうアバンチュールじゃないもの。

私も、恭文くんもちゃんと分かってる。私達の今までの時間は、そういうものなんだって。





・・・・・・うん。綺麗な、大事な思い出。15歳以上も離れている男の子との、大切な時間。

恭文くん・・・・・・また、会いたいな。確かにアバンチュールは終わっちゃったよ?

だけど、それでも私達の繋がりが消えるわけじゃないもの。





振り出しに戻ったけど、完全な振り出しじゃない。

これからはお姉さんとして、年の離れた友達としてだけど、きっと仲良くやっていける。

だって私達・・・・・・きっと、同じだから。きっと、同じ。





だから、また会いたい。このままお別れは、やっぱり寂しいもの。・・・・・・フラグ、立てられちゃったしね。





















(本編へ続く)




















あとがき



古鉄≪というわけで、さざなみ寮編は以上で終了となります。いやぁ、すばらしいオチでしたね≫

恭文「・・・・・・無理あり過ぎない? てか、とまと史上最低なオチじゃないのさ」

古鉄≪いえ、こういうオチ一度やってみたかったんですよ。まぁ、もうやりませんけど。とにかく、本日のお相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫

恭文「アバンチュールは楽しかった。知佳さんはいいキャラだと思う蒼凪恭文です。・・・・・・はぁ」





(どうやら、アバンチュールがいろんな意味で名残惜しいらしい。まぁ、男の方が引きずるのは通例)





古鉄≪あなた、割り切ってくださいよ。アバンチュールをずっとやってたらそれはもうアバンチュールじゃないでしょ≫

恭文「いや、分かってるんだけど・・・・・・なんかこう、さぁ。あぁ、いいやいいや。でも、知佳さんはまた登場予定あるんだよね?」

古鉄≪あくまでも予定ですけど。というよりですね、とらハのサウンドステージが入手出来ないので、書けないんですよ≫





(あぁ、アレとかコレですね。うーん、やっぱりアマゾンだろうか)





恭文「いっそ、とらハのおまけシナリオのゲームにあった海鳴横断クイズ大会でいいんじゃないの? アレだったらオール出せる」

古鉄≪それはそれで大変そうですけどね。・・・・・・とにかく、さざなみ寮での夏休みですよ。よく考えたら、幕間そのごから続いたマスターが海鳴に来てからの戦いと出会いの日々の纏めにはなりましたよね≫

恭文「そうだね。時間軸が近くて、続いていったってのもあるけど、一つのシリーズにはなったよね。人と違う部分、異能力に対してどう付き合うとか、過去とどう向き合うとか、これからどうしていくかとか」

古鉄≪こういう下地を作っていけるのが、幕間シリーズのいいところですよ。で、そんな幕間シリーズ次回の構想ですが・・・・・・≫





(そう、まだまだ過去話は終わらない。書ける事は沢山あるのだ)





古鉄≪二つ案があるんですよね。マスターがミッドに引っ越してきて起きた直後の話とか。今回の中で出てきたファーン先生絡みの話とか。あと、香港ですよ。またやりたいんですよねぇ。海外ロケ≫

恭文「あと、聴ければとらハのサウンドステージだね。とにもかくにも、次回もお楽しみと。・・・・・・というわけで、本日はここまで。お相手は蒼凪恭文と」

古鉄≪古き鉄・アルトアイゼンでした。それでは、またっ!!≫










(そうして、二人手を振ってカメラはそれを映しながらフェードアウト。
本日のED:『風に負けないハートの形』)




















知佳「・・・・・・なんというか、これでお別れはやっぱり嫌だな。アバンチュールはおしまいだけど、だからってさよならになるわけでもなんでもないもの」

恭文「そうですね。それは、僕も同じです」

知佳「というか、ここからまた仲良くなって行くなら、私IFもありだと思うし」

恭文「えぇっ!? ・・・・・・い、いやあのえっと、でも年齢がいろいろと」

知佳「大丈夫だよ。私、永遠の17歳だから」

恭文「一体どこのお姉ちゃんっ!?」

真雪「・・・・・・なぁ、神咲姉。ちょっと手伝えよ。やっぱアイツ、抹殺するわ」

薫「そう言いながら木刀を構えるのはやめてください。普通に仲良くする分には問題なかとじゃないですか」

耕介「う、腕が・・・・・・腕が」

愛「あぁ、耕介さんしっかりしてー! というか、これで最後なんてあんまりよー!!」

古鉄≪こういうオチも1話くらいはやりたかったんです。仕方ないじゃないですか≫

愛「仕方なくないわよっ!!」










(おしまい)






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