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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
NEWステージ01 『交差した『過去』と『未来』の雷光』:2



「・・・・・・おい」

「なにかしら」



あぁ、うるさい。疲れているのだから、静かにして欲しい。この男、腕は立つのだけど・・・・・・今ひとつ扱いにくいわね。

いちいちこの私のやることに干渉してくる。・・・・・・下種が。立場をわきまえなさい。



「何時になったら俺は生き返る事が出来る。お前の遊びに付き合っているヒマはないんだがな。第一、生と死の時間がひっくり返ったら、あのボウズも姉ちゃんも死ぬんだから、別にこんな真似する必要ないだろ」

「遊びではないわ。コレは・・・・・・儀式よ」



相手にするのも面倒だけど、まぁ、いいわ。ちゃんと相手をしておかないと、さらに面倒くさいから。



「アリシアはきっと怒っているわ。自分だけが幸せになれなくて。あの人形だけが幸せになって。だから・・・・・・壊すの。そうしないと、生き返ってもきっとアリシアは笑えないから。・・・・・・だから、壊さないと」



そうよ、あれは私が作った人形。だから何時壊すのも捨てるのも私の自由。だから今壊すの。そうしてアリシアの悲しみを癒すの。壊して癒して壊して癒して壊して癒して壊して癒して・・・・・・。

壊す。壊す。壊す。壊す。壊しつくす。そう、壊すの。あの人形を壊すの。壊して壊して壊して・・・・・・あはは、楽しいわ。考えるだけで楽しいわ。



「・・・・・・とにかく、なんでもいいから特異点を用意するぞ」

「あぁ、それなら大丈夫よ。・・・・・・人形も、たまには役に立つことがあるようなのよ。あれをママと呼んでいる子どもが、どうもそれらしいの」

「なるほど。で、そいつは今どこにいる?」

「聖王教会よ。呑気にお泊りですって」




壊してやる。あの人形の幸せを壊して、アリシアを慰める。大丈夫、あなたから幸せを奪い取った奴は私がこらしめたからと伝える。

きっとアリシアは喜んでくれるわ。ふふふ・・・・・・笑いかけてくれる。きっと・・・・・・笑いかけてくれる。



「なら・・・・・・行くか。俺はとっとと生き返りたいんだよ」

「今はだめよ」

「なんでだ」

「物にはタイミングと準備があるのよ。・・・・・・まぁ、見てなさい。さすがのあなたも、魔導師数百人相手はキツイでしょうから」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・あのヒステリー。ヴィヴィオのこと狙ってるのか。





つーか、ヴィヴィオが特異点・・・・・・あぁ、やっぱりそうだったんだ。










≪だからリュウタさんが憑いても意識を奪われなかったと。そうすると・・・・・・マズイですね≫





だね。でさ・・・・・・まじでフェイトを壊されて喜ぶわけ?





『・・・・・・そう、思う?』





声だけだもん。判断に困るよ。ついでに、どうも覗き趣味があるらしいし。





『あははは・・・・・・。君は正直だなぁ。まぁ・・・・・・こう、普段の君やフェイトが居る世界とは別の世界からね、君達の様子を見れる時があるの』





で、僕達のコミュニケーションを覗いていたと。





『うん、そうだね。おかげで君が偶数日に頑張っていると言うのを知ったよ』





ここから出られたら覚えておいてね? とりあえずグーで殴るから。





『うぅ、暴力はんたーいっ!! ・・・・・・とにかくね、そういう時は・・・・・・うらやましいって思うんだ。私も身長伸びたかったし、胸だって大きくなりたかった』





え、まずそこっ!?





『そこだよ。それでね、美味しいものだって一杯食べたかったし、君みたいな素敵な恋人と楽しく過ごしたかったし、キスだってしたかったし、コミュニケーションだってしてみたかった。
フェイトみたいに好きな人の腕の中で眠る感触、味わってみたかった。それだけじゃなくて、私もその人を抱きしめる感触を感じてみたかった。それで・・・・・・』





それで?





『それで・・・・・・もっと、生きたかった』





・・・・・・うん。





『そう思うのは、事実。それでフェイトを見ていて、うらやましく・・・・・・なる。すごく、なる。もちろん、母さんにあんなに傷つけられたのに、それでも幸せになれて、よかったねと思うのが、1番に来る。
だけど、よかったねと思うのと同時に、すごく・・・・・・うらやましくなるの。もしかしたら、私が気づかなかっただけで、フェイトを妬んでもいたのかも知れない』

≪・・・・・・そう、ですか≫

『うん。でも、それがいけなかった。その感情を・・・・・・同じ世界に居て、うつろな存在になりかけていた母さんに気づかれた。
母さんは、あなたと居て、仲間と居て、幸せそうに笑っているフェイトを憎んだ。なぜ私は死んで、フェイトは生きているのかと。なぜ・・・・・・フェイトだけが幸せなのかと』





もしかして・・・・・・それでこれ?





『そうだよ。・・・・・・ごめん、本当にごめん。私がいけないの。私が・・・・・・あなたやフェイトを苦しめてる。私、母さんに言った。
何度も、何度もやめようって。私はもういいから、一緒にフェイトのことを見守ってあげようって言った。だけど、聞いてくれなかった』

≪それはなぜでしょうか≫

『母さんの心は、もう壊れていたから。私達のような存在にも、心はある。そして、母さんのそれは壊れている。
私を亡くした時から、ずっと壊れていた。もう、私の声は届かないの。今の母さんは、狂ってる』





・・・・・・そうだね。あれは狂ってる。フェイトを壊せば・・・・・・存在を否定すれば全てが上手く行くと妄信すらしている。





『だから、お願い。止めて欲しいの。私の力では、もうどうしようもないの』





・・・・・・だけど、僕はプレシアを否定するよ?





『それでも、いい』





つーか、殺す。フェイトの感情やアリシアの感情に配慮する気はない。





『それでも・・・・・・いいから』





僕に・・・・・・僕の大事な人に喧嘩吹っかけてきたんだ。遠慮なく叩き潰す。そして、行動の全てを否定する。きっと、楽に二度目の死は与えてあげられない。





『いいよ。そういうの全部含めて、お願いしてる。・・・・・・ねぇ、母さんの行動の全てを否定するって言ってたよね。それは、フェイトを生んだ事も?』





そう、だね。





『どうして? だって、フェイトはあなたの恋人なのに。母さんの行動があったから、フェイトは生まれてきたのに』





あぁ・・・・・・そこは見てないんだね。





『え?』





これ・・・・・・フェイトが言い出したんだよ。否定しよう・・・・・・ううん、否定したいって。





『どういう・・・・・・ことかな』





3月に入る直前・・・・・・くらいかな。プレシアさんの話になったんだよ。そうしたら、フェイト・・・・・・自分を生み出す選択を取ったプレシアさんを、否定したいって。



僕が、なんでなのかって聞いたんだよ。だって、覗き魔が言うように、その行動があったから、フェイトは生まれてきたわけだし。





『ちょっとっ! 覗き魔って言わないでよっ!! 私にはちゃーんとアリシアって名前があるんだよっ!?』

≪あなたは反論出来ない立場でしょ。私だってさすがに空気を読んでスリープモードに徹したと言うのに≫

『うぅ・・・・・・。そこを言われると弱い。それで、どうしてフェイトはそんなことを言ったの?』





もしかして、自分を否定してるのかなとか考えて、問い詰めたんだよ。



そうしたらね・・・・・・予想外の答えが出てきた。





『フェイト、なんて言ったの?』





・・・・・・未来で、自分が同じ事をしないために、否定したいんだって。亡くなった者を取り戻そうとしても、きっとそれは間違ってることだから・・・・・・ってさ。

例えば、僕が死んでも、クローンなんて作りたくない。生み出したくない。だって、自分が好きな僕は、今目の前に居る僕ただ一人だけなんだから。代わりなんて絶対にいないんだから・・・・・・ってさ。

それでね、辛くないのって聞いたんだ。そうしたら、辛いよって、悲しそうな声で答えた。



でも、それでも・・・・・・今居る時間を、繋がった時間を、尊い物として、大事にしたいから、そう考えたいんだってさ。





『フェイト・・・・・・』





でさ、僕もそれに乗ることにしたのよ。僕も、フェイトと同じようにするって決めた。

だから、僕はプレシア・テスタロッサを・・・・・・否定する。

こんなこと間違っているんだって、声を上げる。その重さは、一緒に背負う。



まぁ、肩には重いもんがたっぷりあってさ。今更一つ増えようと特に構わないんだよ。



ただ・・・・・・。





『・・・・・・ただ?』





悔しい・・・・・・かな。



フェイトに、そんなこと言うなって言えなかったのが。自分の親を否定なんてしなくていいんだって言えなかったのが。



フェイトは、僕みたいに完全に親・・・・・・プレシア・テスタロッサを見限ってるわけじゃない。むしろ、救えなくて後悔している節もある。だから、否定なんてして欲しくない。





『フェイト、優しいから。そういう所に惹かれたんだもんね』





・・・・・・まぁね。





『・・・・・・ねぇ、約束して欲しいんだ』





なに?





『というより、取引・・・・・・かな。私のありったけの力を使って、次にフェイト達と接触出来た時には、必ず君をここから出す。その代わり』





その・・・・・・代わり?





『そんな重さを背負っても、フェイトを・・・・・・私の妹を、絶対に幸せにして欲しいの。つまりあなたには、何があろうと絶対に死なないで欲しい。
フェイトを一人になんてしないで欲しい。フェイトを、母さんのようにしないでもらいたいの。お願い、出来る?』





・・・・・・分かった。元よりそのつもりだよ。だって僕は・・・・・・フェイトの騎士なんだから。





≪まぁ、私はその騎士の相棒なので、同じく力を貸しましょう。大丈夫、この私の力があれば、いくらこの人がヘタレだと言っても、必ずこの約束を真っ当出来るでしょう≫





アルト、外に出たら覚えておきなよ? 絶対シバくから。もうシバき倒すから。





『あははは、やっぱり君達面白いね。でも、安心した。・・・・・・約束、だからね。不老不死になれとは言わない。
せめて、二人で一緒に天寿を全うするまでは、絶対に守ってね。じゃないと・・・・・・祟るよ?』





うん、分かった。約束するよ。覗き魔に祟られたくないしね。





『あー、また覗き魔って言うー! 名前で呼んでよー!!』





だが断る。





『なんでー!!』





でも、話は変わるけど、今すぐ出してもらうわけにはいかないの?





『だめ。こういうのはお約束として、ラストシーンって相場が決まってるよね?』





それまで主役に出番が無いっておかしいでしょ。





『大丈夫、今回の主役は君じゃないから。というか、喋り過ぎだよ。フェイトにまだAとBしか出来ないヘタレのくせに、生意気』





ちょっとっ!? それどういう意味だよっ! てゆうか、それだけでも大躍進なんだよっ!!





『とにかく、今外に出ても、同じ事になるからだめなんだ。結論から言うと・・・・・・君一人で連中の相手は出来ない。まず数が違うもの』





連中の手勢、そんなに多いの?





『多いよ。手勢はイマジンだけじゃなくて、ミラーワールド・・・・・・って言ってたっけな。そういうところから契約を結んで持ってきた赤いトカゲっぽいのも大量に居るんだ』





ミラーワールドっ!? え、実在してたんだっ!!



というか、赤いトカゲっぽいのって・・・・・・。もしや最近始まったって言う海外版龍騎に出てるあれ?





≪恐らく、あれでしょうね≫

『あと、母さんが連れてきた霊体だね。まぁ、連れてきたというより・・・・・・無理矢理支配して、操ってる状態』





納得した。それは確かにここで出たらフルボッコだ。僕を倒すためにブレイブフェニックスかかっちゃうよ。



それと・・・・・・あの牙王か。





『・・・・・・うん。時間の中で衝撃を起こすと、私達のような死者と、君達のような生者の時間が入れ替わるのは、知ってるよね?』





うん。





『母さんは、それをエサにして、同じ世界に来ていた牙王を雇ったんだ。そして、その能力は相当高い』





だね。やりあって見て分かったけど、やっぱり強い。僕一人でやれるかどうか、非常に不安だよ。



・・・・・・でも、隙ではあるかな。





『え?』





牙王は、きっとプレシアにこのまま従うような真似はしないと思う。





『あの、どういうことかな。だって、従わなかったら牙王は生き返れないんだよ?』





牙王は生き返ろうとなんて、きっとしていない。





『・・・・・・どういうことかな』

≪簡単です。牙王と言う男は、時間そのものを消す事を目的としていた男。それがいきなり生き返ることに方向転換?
ありえません。生き返った所で、時間そのものはあくまでもひっくり返っただけ。あとは存在していくんですから≫

『なら、えっと・・・・・・つまり』










悪いけど、電王はファンだもの。第1話からあのノリにやられた身としては、これくらいは把握済みだよ。





もし、もしも・・・・・・牙王の目的が変わってないなら。何か別の方向でそれを企んでいるなら・・・・・・次にアクションを起こした時、荒れる可能性もあるね。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



現在、隊舎の中庭で夜空を見上げている。空に映るのは・・・・・・二つの月。





・・・・・・だめ、眠れない。ちゃんと休まなきゃいけないって分かってるのに、どうしても眠れない。





まるでいつぞやのなのはみたいだよ。私も、どうにかなりそう。助け出せばいいって分かっていても、もしもを考えて・・・・・・怖い。










「・・・・・・なにしてんのさ」





後ろを見る。すると、そこに居たのは・・・・・・恭太郎君だった。





「あー、それなし」

「え?」

「君付けは無くていいって言ってんの。普通に呼び捨てでいいよ」

「なら・・・・・・恭太郎?」





私がそう呼ぶと、あの子は嬉しそうに頷いて、そのまま私の隣に座った。そして、伸びを一回する。





「眠れないの?」

「・・・・・・うん」

「でも、ちゃんと寝ておかないと肝心な時にダメになるって・・・・・・あぁ、ごめん。フェイトさんなら分かってるよね」



うん、分かってる。分かってるのに・・・・・・眠れないの。私、全然身体がいう事を聞いてくれない。

どうしよう。怖い・・・・・・怖いよ。母さんと戦う事になるのとか、ヤスフミを助けられなかった時の事を考えると、怖い。



「・・・・・・じいちゃんが言ってた」



え?



「怖いのとか、弱いのとか、そういうの無視して勝っても、それは本当の強さじゃない。本当の強さは・・・・・・自分の大事なものを守れる強さは・・・・・・そういうの全部背中に背負って、突き進める強さだって。
・・・・・・俺さ、現場でビビりそうになってる時、この言葉を思い出すんだ。怖くてもいい。弱くてもいい。ただ、俺は今何を守りたいかって考える。そして・・・・・・あとはストレートど真ん中・・・・・・かな」



そのまま、右拳を前に突き出す。私の方を見ながら笑いかける。

その笑顔の中に、ヤスフミの色を見つけて・・・・・・。ちょっと、泣きそうになる。



「怖いよな、そりゃあ。自分の母親と戦うんだから。怖くないわけ、ない。でも、フェイトさんはだったら何を守りたいんだ?」

「なに・・・・・・を?」

「結局のところ、そこだろ。自分の二本の両手で、全部は掴めないかも知れない小さな手で、自分は今、何をどうやって守りたいのか、考える。まずそっからだって」



私は、言われて自分の両手を見る。今、何を、どうやって守りたいのか・・・・・・か。

なんでだろう。そう考えたら、怖い気持ちとは別に何か・・・・・・暖かいものが生まれた。腕の中に何度も抱きしめた小さくて熱い温もりが蘇ってくるのを感じた。



「私は・・・・・・」

「うん」

「ヤスフミを・・・・・・無くしたくなんて、ない。今ある幸せを、壊されたくなんて、ない」



クローンとして生まれてきて、創造主の母さんの願いを叶えられなかった私には、こんなことを願うのは許されないかも知れない。

だけど、嫌だ。そんなの・・・・・・絶対に、嫌だ。



「・・・・・・バカ。俺、そんなの気にするなって言わなかったかな。なにより、じいちゃんが聞いたらすっげー怒るよ? 何言ってんのさーってさ」

「うん、そうだね。ごめん。あと・・・・・・恭太郎、ありがと」

「吹っ切れた?」

「本当に少しだけ」



・・・・・・うん、少しだけなんだけど。



「だったらよかったよ」



そこから、少しだけ沈黙が訪れる。これが・・・・・・ちょっと辛い。

その、まさか孫に会えるなんて思わなかったから、どう話していいのかが分からなくて・・・・・・。



「そう言えば」

「なに?」

「恭太郎はおじいちゃん・・・・・・ヤスフミのこと、好きなの?」



そう聞くと、キョトンとした顔をされた。えっと・・・私、変なこと聞いたかな。



「いや、なんで分かったのかなぁと」

「だって、未来のヤスフミが言った事を二回も」

「あぁ、そういうことか。・・・・・・うん、大好きだよ」



恭太郎は空を見上げる。栗色の髪と、それを束ねる金色のリボンが月の光に照らされて、綺麗だと思った。

・・・・・・って、失礼だよね。ヤスフミより身長が低いけど、男の子なんだから。



「俺にとってじいちゃんは、無茶苦茶強くて、かっこよくて、なりたい大人の形の一つなんだ。俺さ、じいちゃんみたいな古き鉄になりたいって、ずーっと思ってた」

「・・・・・・そうなんだ。でも、大変じゃない?」



現状でもヤスフミはそのために色々苦労もしたり、神経をすり減らしたりしてるのに。

・・・・・・いや、そのうちの原因の大半は私だったり、ハラオウン家の面々(クロノ以外)だったりするから、あんまり言えないんだけど。



「うん、かなりね。まぁ・・・・・・アレだよ、魔法至上主義は未来の世界でもあんま変わらずって感じ? やっぱ、知り合い連中でも言う奴はいる。
・・・・・・例えば魔導師で同期の奴だったり、仕事した部隊の人達は言うよ。普通にしてろってさ。でも・・・・・・なんだよね」

「納得できないんだ」

「うん。あー、言っておくけど、別にそれで局が嫌いとかじゃないんだ。ただ、こう・・・・・・方向性が違う感じで」



この辺りもヤスフミと似てるのかな。局というか、組織に馴染めない感じ。



「あと・・・・・・」

「あと?」

「俺、分かんないんだ。自分のやりたいこととか、通したいこととか。もっと言うと・・・・・・夢だな」



夢・・・・・・。なんだろう、すごく抽象的だ。今ひとつ恭太郎の言いたいことが分からない。



「例えば、フェイトさんが執務官になったのって、自分なりに通したいことがあったからだろ?」

「そう・・・・・・だね」



母さんの事、なのはと会った時の事、そういうのがきっかけで執務官になった。この仕事なら、私のやりたいことが出来ると考えたから。

・・・・・・そう考えて、気づいた。恭太郎の言っていることの意味が。



「・・・・・・じいちゃんはさ、自分のためにって言って、大事なもの守るために剣を振るってきて・・・・・・そんなじいちゃんに憧れて、俺も魔導師になったんだ。でも、最近なんか考えちゃったんだ。
俺の中にも守りたいものや壊したいものはある。それは、間違いない。だったら、それをこれからどうやって通すのか。そのためにどんな道を進みたいのかって。でもさ、さっぱりわかんないんだ。俺・・・・・・何がやりたいんだろうって」

「そっか。ねぇ、部隊に誘われたりとかはないの?」

「あるけど・・・・・・咲耶の事があるから」



咲耶・・・・・・あの子だね。金色の髪をしたユニゾンデバイスの女の子。

でも、どうしてだろう。この子とユニゾン出来るなら、特に問題ないと思うのに。



「あー、別に咲耶が誘われないとかそういう話じゃないんだ。咲耶、あんまり局員になりたいって考えないようでさ、断っちゃうんだよ。・・・・・・じいちゃんと同じ理由でね」

「局が、嫌いなんだね」

「うん。てーか、組織って奴が嫌いなんだよ。なんか、前に仕事手伝った時に文句付けられたのが気に食わなかったんだってさ。ただ・・・・・・なぁ、それも咲耶が悪いんだよ」

「そうなの?」

「あぁ。・・・・・・普通に考えて、ご飯のお代わりを20杯とかすれば、それは文句も付けたくなるって。俺でも付けたくなる」



・・・・・・うん、理解したよ。そういう子なんだね。スバルやエリオにギンガと同じなんだ。というより・・・・・・もっとヒドイ?



「それなら、恭太郎だけが局員になるという選択肢は・・・・・・ないの?」

「やっぱ、そう考える?」

「一つの道筋として、一応はね。・・・・・・こういう言い方は悪いんだろうけど、咲耶のために恭太郎の選択肢がなくなるのはダメだと思うな。それとも、なにか離れたくない理由でもあるの?」

「・・・・・・荷物、だからかな」



荷物・・・・・・?



「咲耶は、俺にとってむちゃくちゃ重くて・・・・・・だけど、それと同じくらいに大事な荷物なんだ。小さい頃から一緒に居てさ、沢山遊んだり、笑ったり、泣いたり、喧嘩したり、仲直りしたり・・・・・・。
なんか、考えらんないんだよね。今更アイツが俺の側から居なくなる・・・・・・なんてさ。うん、考えられない」



月を見ながら、恭太郎がそう言った。その瞳に、どこか・・・・・・懇願する色を見つけた。

もしかして、この子・・・・・・咲耶って子のことが。



「好き・・・・・・なの?」

「ち、違うってっ! 俺はアイツのことなんて何とも思ってねぇしっ!! もう普通普通っ!!」

≪あぁ、すみませんフェイトさん。恭太郎は自覚無しのツンデレなんです。もう普通に聞いたらイミフですよね≫

「・・・・・・ビルト、なんだよそれ。てゆうか、ツンデレはティアナさんだろうが」










それもまた違わないかなっ!? というか・・・・・・ヤスフミと全く同じ事を言っているしっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「だから・・・・・・私はツンデレじゃないわよっ!!」

「ティアナちゃん、何話してるのっ!?」

「あぁ、ごめんごめん。ついね、こう・・・・・・妙な電波を受け取って」



・・・・・・・ティア、大丈夫かな。なんというか、若干アレだけど。

あー、アレと言えばバルディッシュもだね。うーん、おかしいなぁ。



「シャーリーさん、バルディッシュどうですか?」

「それがね、あんまりダメージがないの。話を聞いて、結構ヒドイかなとか思ってたんだけど」



とりあえず、切断面が凄まじく綺麗だった。あと、特に変なダメージもなかった。

まるで、バルディッシュを痛めつけるのを極力無しにしようとしたみたいに。



「これ、特に修理する必要ないよ? 充分修復魔法の活用で完治出来る。フェイトさんも衝撃で吹っ飛ばされただけで重症ってわけじゃなかったし」

≪・・・・・・それだけではありません≫



声は、ポッドの中のバルディッシュ。そう、おかしいことはもう一つあった。



≪あの牙王という輩の攻撃・・・・・・僅かですが、魔力反応がありました。恐らくですが、あの攻撃は魔法です≫

「魔力反応っ!? え、ちょっと待ってっ! 良太郎さん、牙王って魔導師でもなんでもないんですよねっ!!」

「う、うん。僕もモモタロス達も、牙王が魔法を使ったことなんて見たことないから。というより、皆と会うまで、魔法があるなんて知らなかったし」



・・・・・・おかしい、すっごくおかしい。なんかこう、違和感がありまくる。



≪そして、この感知された魔力反応、私には該当データが存在します≫

「はぁっ!?」

≪それは・・・・・・≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・とりあえず』





とりあえず?





『私を覗き魔って呼ぶのは、やめない?』





嫌だ。





『うー、意地悪ー。女の子には優しくしなきゃいけないんだよ?』

≪この人、そういうタイプじゃありませんから≫

『それもそうだね。というか・・・・・・よし、もういい頃合いかな』





へ?





『えっとね、ちょっとお話があるんだ。『私達』から』










その瞬間、身体が光を包み・・・・・・僕は床に叩きつけられた。





痛てて・・・・・・あれ? 叩きつけられたって、おかしくないかな。





指を、足を、肘を、膝を、そして身体の各所を動かす。動かして・・・・・・気づく。










「か、身体が動く。てゆうか、ここ・・・・・・」

≪幽霊列車の中ですね≫





小汚い木作りの車両。そして、窓に流れる薄暗い風景。



そう、ここは予告とかで見た幽霊列車の中だった。





「・・・・・・いいかしら」





目の前から声。そちらを見て・・・・・・立ち上がりつつ身構える。



そこには、プレシア・テスタロッサと牙王、そして・・・・・・アリシア。





「・・・・・・何の用?」

「簡単よ。あなたに言っておかなきゃいけないことがあるの」

「へぇ、なに」





瞬間、三人は頭を下げた。そして、僕に対してこう声を上げる。





「「「ごめんなさいっ!!」」」





そう、『ごめんなさい』と・・・・・・え?



ご、ごめんなさいっ!? え、どういうことっ!!





「なんというか、巻き込んでしまって申し訳ありません」





牙王がぺこぺこと僕に対して声をかける。というか、気色悪い。



だって、女の子の声なんだから。





「ただ、あの場ではあなたしか居なかったの。私達ではコントロールも出来ないし、この列車はフェイトを狙って動いているから、どうしようもなくて」

「・・・・・・は? いやいや、ちょっと待って。何の話をしてるの」



だけど、僕の問いかけに対する答えは今は出なかった。まず、プレシアの姿が変わった。それまでのケバケバしい悪の女幹部的な格好から、黒いセーターと灰色のスカートを着た普通の女性の姿になった。

そして、牙王の姿も変わった。白い法衣的デザインのワンピースに、白い帽子を被り、淡い栗色のショートカットの髪。そして、尻尾。



≪・・・・・・牙王って、女性だったんですか≫

「違います。変身魔法を使って、姿を変えさえてもらってたんです」

「変身魔法っ!?」

≪どういうことですか、これ。ほら、あなた謝ってくださいよ。そうすれば解決しますから≫

「するかボケっ!!」



え、えっとあの・・・・・・これは一体、どういうことー!? お願いだから誰か説明してー!!



「えっとね、恭文君・・・・・・ごめん。実はさっきのあれこれとか、大半嘘なの」



あぁ、あのあれこれの会話が大半・・・・・・嘘っ!?



「申し訳ありません、あなたが本当にフェイトの事を想ってくれているかどうか、アリシアを通じて試させていただいたんです。
ただ、成果は予想以上でした。あと、頭も多少切れるらしいですね。いや、脳筋と聞いていたのでちょっと不安ではあったんですけど」

「やかましいわボケがっ! つーか、誰が脳筋だっ!!
じゃ、じゃ・・・・・・ヴィヴィオが特異点とか、聖王教会襲うとか」

「高町ヴィヴィオが特異点という事以外は、全部嘘よ。というより、本当にそうするつもりなら、あなたに聞こえるような状態で話すわけがないわ」



あっけらかんと言い切ったのは、プレシア・テスタロッサ。待って・・・・・・まぁ、待って待って。

とにかくアレだ、アレがアレしてアレだ。



「アルト」

≪Starlight Blade≫



というわけで、車両の中に星の光が満ちて・・・・・・。



「あぁ、待ってっ! お願いだから待ってっ!! これには事情があるのっ! いえ、本当によっ!? お願いだから信じてー!!」

「やかましいっ! いきなりこんな展開見せ付けられて誰が信じるっ!? 雛見沢症候群になってなくても、誰だってレベル5突入するわっ!!」

「待ってっ! 母さんはともかく、私は幼女だよっ!? 幼女にまで暴力っておかしいからっ!!」

「だが断る。僕はどっちかって言うと年上派だ」

「あぁ、それは安心・・・・・・って、違うっ! お願いだから詠唱はやめてくださいっ!! 話しますっ! ちゃんとお話しますからっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・まぁ、必死に止めて来たので、一応話を聞く事にした。





で、暗い客車の中でお話です。










「まず、自己紹介から。私の名はプレシア・テスタロッサ。知ってはいると思うけど・・・・・・この子、アリシアと、あなたの恋人であるフェイトの母親よ」

「そして、私はプレシアの使い魔だったリニスです」



・・・・・・へー、そうですか。



「うー、恭文君がすっごく不機嫌だよ」

≪あなた方のやった事を考えれば当然でしょう。・・・・・・で、リニスさんの事もフェイトさんから聞いていますから、そこは知っています。一応確認ですが、あなた方は≫

「はい、全員死者です。アリシアから少し聞いたと思いますが、霊界・・・・・・死者が暮らす世界の住人です。この身体は、この幽霊列車の力で現界した仮初めの物に過ぎません」



とりあえず、席に座りながら腕を組み、イライラを抑えつつ話を進めることにする。ここでプクーっと膨れていても、意味がないから。



「で、その死者がなんでいきなりあんなことを? てゆうか、なんで僕はここに」

「・・・・・・簡潔に言います。私達を、そしてフェイトを助けて欲しいんです」

「簡潔過ぎて意味が分からんわっ! てーか、フェイトはともかく『私達』ってどういうことっ!?」

「まず、この幽霊列車は以前あの電王と言う方々が接触したものとは違うものです」



僕のツッコミを受けてか受けずしてか、リニスが言葉を続けた。そして、それが僕の意識を引く。

・・・・・・幽汽とかそれが乗ってたのじゃないってことだよね。え、どういうことそれ。てか、それが本当ならつまり、幽霊列車は一つじゃないってことになる。



「幽霊列車は、デンライナーと同じくいくつもの路線があるわ」



プレシアの言葉で、それは事実と証明された。まぁ、全部信じるのはダメだろうけど。



「普段は死者の世界の中でしか走らないんだけど、それがたまにあなたやフェイトの居る現世に出てきてしまう事がある。
例えば、列車の力が現世では強大なのを利用して、死者と生者の時間を入れ替えようとする存在の手によってとか」



・・・・・・これが良太郎さん達が接触した幽霊列車だね。



「その口ぶりだと、今回は違うみたいな言い方だね」

「その通りだよ。私達・・・・・・幽霊列車に取りこまれちゃったの」

「はぁっ!?」

≪どういうことですか。みなさん、ちゃんと始めから説明してください≫





・・・・・・とにかく、話はこうだ。死者の世界で別々に暮らしていた三人は、つい最近、突然にこの列車が目の前に現れて、そのまま取り込まれた。



この列車は、幽霊列車の中でも特殊なものらしくて、ある感情をエネルギーに動いているらしい。





「それは、憎しみ。私の・・・・・・フェイトへの憎しみよ」





右手を自分の胸に手を当てながら、プレシアは言い切った。





「この列車は、私がずっと抱えていた憎しみを糧にして、暴走している。私はアリシアがあなたに話したような感情を、この列車に根こそぎ吸い取られるまで、ずっと抱いていたの。
私の壊れていた感情が、理性が、こうやって元に戻る程にね。・・・・・・私達では、どうやっても止められないの。死者では、私達では、幽霊列車を止められない」

「どうして? 普通に現界してるんなら出来るでしょ」

「理屈ではなく、出来ないんです。私達が現界しているのは、この列車の力。ですが、列車が止まる・・・・・・つまり、その力が無くなれば、私達は肉体どころか存在すら消滅します。
止めようとしても、まず私達では列車に干渉出来ない。そうですね・・・・・・『自分の力で、自分を殺そうとする』というのと同じ感じと言えば、分かりますか?」



・・・・・・なんとなくだけど。スレイヤーズでシャブラニグドゥにドラグスレイブが通用しないって言うのと、同じ理屈なのかな。



「まぁ、こうやって話す程度であれば干渉は受け付けないんですが。ただ、列車が現世に存在しているだけでも、時の運行や世界そのものに悪影響を与えます。
だから、絶対に止めなければならない。そのためには、第三者の力が絶対に必要なんです。・・・・・・しかも、それだけではないんです」

「この列車は、私のフェイトへの憎しみを糧にしているわ。そして、列車はまるで生き物のように、その目的を果たそうとしている。つまり・・・・・・」



その言葉に寒気が走った。

まさか・・・・・・いや、まさかとは思うけど・・・・・・!!



「列車は、下手をすればフェイトを狙ってくるってことっ!?」

「うん。現に、あなたとフェイトの所へ現れた。母さんとリニスは、列車の望み・・・・・・フェイトの幸せを壊すという事を叶えるために、遭えて前に出たんだ。そうしなかったら、列車がどんな暴走をするか分からなかったから」



そのために、僕を攫った。僕を攫えば、一時的にでもフェイトの幸せは壊れるから。



「ただ、それだけじゃないわ。あなたを見て、私は一つ策を練った。あなた・・・・・・霊的存在と戦った事があるわよね?」

「まぁ、一応。・・・・・・って、分かるの?」

「分かるわ。あなたにやられたって言う霊剣と会った事があるから」



・・・・・・アレですか。つーか、アレまで居るんかい。どんだけフリーダムですか、霊的世界。



「あなたは霊的存在に対しての干渉能力がある。それで、もしかしたら幽霊列車へのカウンターになるのではないかと思ったの」

「つまり、僕に幽霊列車を止めろと?」

「簡潔に言えばそうなるわ。ただ・・・・・・」



なに、また『ただ』? まだなんかあるんかい。



「列車一つを止めるのは、本当に大きな力が必要。出来れば、あの電王や六課の人間の力を借りられるといいのだけど」

≪確かにそうですね。特に良太郎さん達の力があれば・・・・・・≫

「僕一人でこれはムリだって。てーか、どうしろって言うの? そのままぶん殴るわけにもいかないしさ」



まぁ、ここはいいや。とにかく、僕のやることは分かった。

列車は多分またフェイトの所へ行こうとする。その時に・・・・・・。



「そうです。あなたは脱出して、この事を電王や六課の人間に伝えてください。そして、必ず列車を止めてください」

「私の不始末を押し付ける形になって申し訳ないのだけど・・・・・・さっきも言った通り、私はもちろん、リニスやアリシアでもどうしようもないの。列車の力で勝手に時間の狭間に居るイマジンとも契約が結ばれている感じですし」

「それはまた難儀な・・・・・・」



でも、ある意味では状況はよくなったのかな。フェイトが危険なのは変わらないけど、三人が完全に敵ってわけじゃない。

ただ、全部信じるのはアウトの可能性もある。一応、背後は気を付けておこう。後ろからグサリなんて、ごめんだし。



「ただ、一つ確認」

「なんでしょう」

「・・・・・・列車を止めれば、自分達は消滅する。フェイトはのうのうと幸せに暮らし続ける。それでいいの?」



結構、意地悪な質問だと思う。だけど、聞かずには居られなかった。

これの反応次第で、警戒レベルが変わってくるから。



「・・・・・・私のために、フェイトの幸せが壊れるなんて、嫌だもん」

「私も同じくです。私達はもう死んだ存在。フェイトに限らず、生きている時間の人間を消してまで存在したいとは思いません。
というより、10年は長生きさせていただきましたしね。これ以上贅沢は言えませんよ。・・・・・・プレシア、あなたはどうですか?」

「そうね、私も」

「ダメです」



リニスが、プレシアの唇に右の人差し指を当てて、黙らせた。

そして、仕方ないなと言う顔で、主を見る。



「あなたの本当の気持ちを、あなたの心の中にあるものを、ちゃんと彼に見せてください。私達の答えに乗らないでください。でなければ、彼は絶対に納得しません」

「リニス、でも」

「『でも』ではありません。それがどんなに汚くても、醜くても、あなたは話さなくてはなりません。・・・・・・プレシア」



観念したように、目の前の人はため息を吐く。吐いて・・・・・・それから、言葉を紡ぎ始めた。



「私は、フェイトが憎いわ」



・・・・・・最初に飛び出したのは、そんな言葉。



「そして、あなたが憎いわ」



続けて飛び出したのは、こんな言葉。

そして、視線が向く。憎しみと、怒りの篭った瞳を。



「私は、色んな物を無くして来た。でも、あの子は・・・・・・幸せに暮らしてる。あなたという愛する存在まで見つけた。許せないわ。あの子と私と、一体なんの差があるというのかしら」



その瞳のまま、言葉は続く。それは、さっきまでの穏やかで冷静な女性としてじゃない。



「私が居なくなってからも、あの子に幸せになんてなって欲しく無かった。だから、私はあの子の手を取らなかった。それがあの子を傷つけ、かけた呪いを確実なものにすると信じたから」

「呪い?」



本当に、怒りを内包した一人の人間としてだ。



「そう、呪いよ。私がかけた呪いは実に簡単。例え何があっても、結婚や出産、そう言った女としての普通の幸せなんて手に出来ないように、私は最後に、あの子に呪いをかけた。本当は身体をどうにかして、ある日突然死ぬって言うのをやりたかったんだけど、やめたわ。
身体より、死より、心がいいと思ったから。生き長らえて、ずっと苦しみ続けて欲しかったから。・・・・・・年を取っても一人で生きていて、友人達を見てあの子はある日気づくのよ。あぁ、自分はクローンだからと言い訳をして、幸せになる事を諦めていたと。そうして後悔するの」



そう言いながら、場違いにも思える笑みを浮かべる。



「変わる事なんて出来なかった自分に、取り返せない時間に、コンプレックスのために押し隠してきた気持ちに気づいて、後悔して、涙を流すの。だけど、それは払拭出来ない。だって、あの子は弱いから。
そのまま変わる事も出来ずに、後悔に苛まれながら死んでいく。それが理想だったの。ある意味、私以上の生き地獄。・・・・・・あぁ、安心しなさい。あの子は、あなたの子をちゃんと産むことが出来るから」



そして、表情がまた憎しみの色に変わった。



「そのために、そうなる未来を導き出すために、自分がこの子アリシアのなり損ないだという呪いを刻み付けた。なのに、あの子はそれを払拭した。
リニスが居なくなってから、あの子の全てが私になるように、私の人形になるように、ガラスのような弱い心になるように育てたのに、それも払拭しつつある」



そうだね、フェイトは強くなろうとしてる。何も諦めない自分を始めていこうって、頑張ってる。

本当の意味で強くて、新しい自分になりたいって、手を伸ばし続けてる。今だって、同じだ。



「あの子は、強くなろうとしてる。そして、そのきっかけはあなた」



僕への視線が強くなる。まるで、視線で僕を殺そうと言わんばかりに。



「あなたの存在が、あの白い少女ですら消せなかった私の呪いの全てを打ち消しつつある。あなたの存在が、私の呪いと戦う力をあの子に与えている。
魔力資質も平凡な子どもに、この大魔導師・プレシアが敗北したのよ。そう、私はあなたに戦わずして負けた。憎いわ。憎くて憎くて・・・・・・腹が立つわ」



そう、言い切った。そして、言葉はまだ続く。



「こちら側からね、それを見てて憎しみが増したわ。あなたが居なければ、あなたさえ居なければと、何度も思った。
幽霊列車が来た時、暴走した時、最初は嬉しかったわ。これで全てを壊せると思ったから。だけど・・・・・・」



そう、『だけど』と続いた。



「あなたを、そして実際にフェイトを見た時、身体が勝手に動いていたわ。リニスを牙王と言う男に変身させて、こちらの意図が向こうにバレないようにして・・・・・・なんて、くさい芝居をしてまでね。
勘違いはしないで欲しいのは・・・・・・私は別にフェイトやあなたへの憎しみが消えたわけでも、なんでもない。それは、存在し続けている。だから、列車は動いている。それは、純然たる事実よ」

「・・・・・・だろうね」

「これは復讐なんて大層なものじゃない。ただのゲーム・・・・・・嫌がらせよ。あなた達をそのまま幸せになんてさせたくない、私の存在をかけた、最初で最後の嫌がらせ。
だから・・・・・・フェイトと幸せになりたかったら、フェイトを幸せにしたかったら、私を叩き潰しなさい。私と戦って、そのための時間への切符を勝ち取りなさい」



そのまま、その人は立ち上がる。立ち上がって・・・・・・別の車両へと行く。

ドアに手をかけて、動きが止まった。



「アリシアに言ったように、私の行動を、その全てを・・・・・・否定、しなさい。フェイトと一緒にね」

「もちろん、そのつもりだ」



僕がそう言い切ると、その人は笑った。

嘲るというよりは、予想していたという感じで。



「そう。なら、楽しみにしているわ」



そして、そのままドアの向こうに消えた。

あとは・・・・・・静かに、車両が走る音だけが残った。



「・・・・・・なんというか、母さんってツンデレ?」

「かも知れませんね」

「いやいや、アレはヤンデレだよ。それも王道。言うなればヤンデレ・オブ・ヤンデレだから」

≪あなた達、緊張感も無く何話してるんですか。そうとうヤバイ事態だって言うのに≫



いや、だって・・・・・・ねぇ? とりあえず僕はスッキリしたからいいの。

うん、なんかすっきりした。普通に奇麗事を叩き付けられたり、さっきみたいに謝られるよりはよっぽど信用出来る。



「とにかく、そのヤンデレなプレシアの言うように・・・・・・私達を叩き潰してください」

「・・・・・・理由は?」

「もう、お分かりですよね」



うん、分かってる。もう、やらなきゃいけないことは、通すべきことは、分かってる。

・・・・・・右拳を強く握る。どっちにしろ、重い物背負うのは決定か。



「それと」

「うん?」

「多分、これを言えるチャンスはもう来ないと思われるので、今のうちに言っておきます」

「あ、私もだね」



二人は、真っ直ぐに僕を見る。見て・・・・・・ペコリと頭を下げた。



「「フェイトの事、よろしくお願いします」」

「・・・・・・はい。必ず、幸せにします」

≪・・・・・・どんな結婚前の挨拶ですか。おかしいでしょ、これ≫

「それは言わないで」










流れる、闇の景色に目を向ける。





・・・・・・フェイト、ごめん。多分・・・・・・重荷を背負わせる。





もしかしたら、嫌われちゃうかも知れないね。沢山、傷つけるから。





だけど、止まらない。これは、やらなきゃいけないことだから。未来も、今も、何も消されたくない。うん、絶対に。




















(NEWステージ02へ続く)




















あとがき



古鉄≪というわけで、みなさん長らくお待たせしました。とまと劇場版第二弾、ちょこちょこっとスタートです。というか、劇場版の前半部分思いっきり消化した感じですね≫

フェイト「そ、そうだね。というより、勢いとノリがそんな感じ・・・・・・だと嬉しいな。えっと、本日のあとがきのお相手はフェイト・T・ハラオウンと」

古鉄≪古き鉄・アルトアイゼンです。さて・・・・・・始まりましたよ。どうなるか楽しみですね、これ≫

フェイト「そうだね、ワクワクだよ。でも、この辺りでもう展開って予想出来るんじゃ・・・・・・」





(それは言わないお約束という感じで)





古鉄≪というわけで・・・・・・いろんな意味で予想外だとは思いますが、どうだったでしょうか? えー、実はプレシアさん達が幽霊列車で来訪というプロットは決まってたのですが、目的関係に関しては非常にどうしたものかと頭を抱えておりました≫

フェイト「そうだよね。すっごく抱えてたよね。普通にアリシアを蘇らせるという感じだと、映画の焼き増しになっちゃうし」

古鉄≪まぁ、そこで幽霊列車のオリジナル設定追加と列車の暴走という形にしたんですが・・・・・・実は、こんなプロットもありました≫





・プレシア、実はすっごいツンデレで親バカプロット





古鉄≪はい。このプロットは、プレシアさんが死後の世界で自分の行動をリニスさんやアリシアさんに死ぬほど説教されて、非常に悔いて、温かく・・・・・・そう、温かくフェイトさんの幸せを見守っていたという前提で進みます≫

フェイト「・・・・・・え、こんなプロットあったのっ!?」

古鉄≪あったんですよ。ただ、あんまりにあなたとマスターが中学生日記な付き合い方をしているので、見るに見かねて世話を焼こうとしたんです≫

フェイト「そして幽霊列車に・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? それアリなのかなっ!!」

古鉄≪で、マスターがさらわれて、その話を聞いて頭を抱えるんです。あなた達はさらわれてると思っているから、当然シリアスモード。マスターは何とかしてプレシアさん達に敵意が無い事を教えようとするんですけど、プレシアさんがツンデレモード全開であくの女王キャラをやるもんだから話がややこしくなって・・・・・・≫





(まぁ、なしにしましたけど)





古鉄≪なお、なしにした理由は『またキャラ崩壊がひどいとか匿名で言われそう』という事らしいです。別にいいと思うんですけどねぇ。あ、それともう一つ重要な理由があります≫

フェイト「え、なになに?」

古鉄≪いや、実は本気でこれをやろうかどうか考えた時に、拍手でとあるWeb漫画を教えていただきまして。そこを見たら・・・・・・ほぼ同じ性格付けで、プレシアさん達があなたと関係を修復するという話があったんですよ≫

フェイト「あぁ、私は納得したよ。だからやめたんだね。普通にやるとパクリになっちゃうから」





(JACK POT!!)





古鉄≪いや、それ見ちゃったらキャラ崩壊はどうでもいいですが、さすがにやるのが辛くなりまして。かと言って、蘇らせること目的は色々と問題があるんですよ≫

フェイト「さっきも言ったように焼き増しになるからだね。それで、こういう方向になったけど・・・・・・どうなるかな。というか、ヤスフミ・・・・・・」





(やっぱり、さらわれてるので辛いらしい)





古鉄≪その辺りも、また次回ですよ。というわけで、本日はここまで。お相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫

フェイト「フェイト・T・ハラオウンでした。それでは、また。・・・・・・うぅ、ヤスフミー! 早く帰ってきてー!!」










(やっぱりさびしいらしい。さてはて、次回はどうなるのか。
本日のED:AAA・Den-o Form『Climax Jump the Final』)




















リニス「というわけで、お食事をお持ちしました」

恭文「なにが『というわけ』っ!? しかも無駄に豪勢だしっ!!」

リニス「いえ、お世話おかけする以上は礼を尽くしたいと思いまして。・・・・・・それに、一緒に食事をする機会も、もうないでしょうから」

恭文「ということは・・・・・・無理っぽいの?」

リニス「はい。先ほどはまだ大丈夫でした。私も、そしてプレシアもです」

アリシア「それは私もだね。でも・・・・・・だめなの。フェイトを目にした瞬間に、抑えられないくらいのものが来る。てゆうか、もしかしたら君も」

恭文「大丈夫、絶対になんとかするから。僕一人でどうにか出来なくても、みんなが居るから。だから、大丈夫。・・・・・・って、違うか。ごめん」

リニス「謝る必要はありません。私達は元々死んでいる身なんですか」

恭文「それでも、ごめんなの。そこは・・・・・・変えない」

リニス「そうですか。・・・・・・ありがとうございます」










(おしまい)





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あきゅろす。
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