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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
幕間そのじゅうろく 『ありえないことなんて、ありえない アバンチュールはクライマックス・・・編』



古鉄≪というわけで、まだまだ続くさざなみ寮の日々。バイトはまだ折り返し地点にも到達していないと気づいたマスターは、どうなるんでしょうか。
みなさん、おはこんばんちわちわ。私は二次創作界のスーパーアイドル。私に勝てるキャラクターなど居ないと自負する、古き鉄・アルトアイゼンです≫

ゆうひ「自分、すごい持ち上げるなぁ・・・・・・。あ、おはこんばんちわちわ。椎名ゆうひです。で、ようやく平和な日々に・・・・・・戻れるんかなぁ」

古鉄≪どうでしょ、私にはわかりません。とにかく、さざなみ寮の日々は始まります。マスターと知佳さんのアバンチュールとかどうなるんでしょうか≫

ゆうひ「そこにうち、混ざれるかなぁ。やっぱのけ者は寂しいんよ」

古鉄≪私が居るじゃないですか≫

ゆうひ「嫌やー。絵的に寂しいもんー」

古鉄≪失礼な人ですね。まぁ、そこはともかく・・・・・・幕間そのじゅうろく、スタートです≫

ゆうひ「どうぞー」




















魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝


とある魔導師と機動六課の日常


幕間そのじゅうろく 『ありえないことなんて、ありえない アバンチュールはクライマックス・・・編』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



妖刀・神無月をなんとか倒し、供養した後、僕達はお説教タイムに突入した。

・・・・・・・・・・・・うん、普通に説明おかしいけどそうなのよ?

なんだろうね、戦ってる時より終った後の方が大変ってのは、とまとの通例になってきてるよね。





まぁまぁ、みんなお冠だわすごいだわで、中々に苛烈だった。

ただ、いつぞやのアレとかに比べたらまぁまぁ難易度は低めなので、結構ダメージは少なかった。

なお、1番お冠だったのは、エイミィさんとなのは。僕もそうだし、シャマルさんやリインまで何事かとすごい剣幕だった。・・・・・・一応僕、止めましたよ? えぇ、本当に。





とにかく、そんなお説教を超えて、僕や美由希さんと薫さんの傷も・・・・・・そうだよね、そうだった。薫さんよりも、僕と美由希さんの方が重症だったんだよね。なんだろ、これ。





とにかく、怪我も完治するくらいの時間が経った。具体的には・・・・・・三日?










「・・・・・・いやいや、その間また普通にうちの仕事を手伝ってただろ」





さざなみ寮の二階に備え付けられた物干し場で、耕介さんと一緒に洗濯を干している最中。耕介さんは片手が使えないので、僕が受け取って干している感じ。

そして、時刻はお昼ちょっと前。なんというか・・・・・・平和を満喫していた。

なんか耕介さんは不思議そうだけど、なんでだろう。一応お仕事で来てるし、完全に動けないってレベルじゃないんだから、出来ることするのは当たり前なのに。



ここに居る間はお仕事の時間。プライベートのあれこれで手間をかけさせることは、極力控えなくてはいけない。





「確かに、夜中に家を抜け出して妖刀と斬り合うのは、プライベートな事だな。それで仕事が出来ないって言うのは、そりゃ問題だ」

「そうでしょ?」


シャツを広げつつ、背伸びして干す。・・・・・・うーん、ちょっと背が足りない。やっぱり後10センチは大きくなりたい。

そうしたら、きっと世界が変わるだろうし。



「・・・・・・足場、使うか? うちのボウズが使ってるものなんだが」

「やめておきます。なんかこう・・・・・・使ったら負けって感じがして」

「そっか」



とにかく、そんな変わった世界がとても楽しみである。

うんうん、楽しみだなー。あ、次はズボン類と。



「恭文様は、強いのですね」



物干し場の手すりに腰をかけながら、十六夜さんが僕に声をかけた。

十六夜さんは、普通に日向ぼっこをするのが好きらしい。よくここや下の庭先で空を見てる。



「・・・・・・そんなことないですよ? 僕、すごく弱いですって。もう今回の事だって反省しまくりなんですから」



二撃で一蹴された事とかさ。うー、まだまだ高みは遠いなぁ。



「やはり、お強いです」

「そうなんですか?」

「はい」





まぁ、ニコリと微笑みながら十六夜さんが僕に言ってきた。




なんだろう、今ひとつよく分からない。





「しかし、美由希ちゃんは・・・・・・どうしたんだ?」

「・・・・・・さぁ」



なんというか、最近美由希さんの様子がおかしい。僕を見て顔を赤くしたり、ため息吐いたりする。別に呆れてるとかそういう感じではないんだけど、ちょっと気になる。

てきぱきと衣類を干しつつ思う。もしかして、ちょっと加減し無さ過ぎたかなと。うーん、もしかしなくても反省?



≪・・・・・・自覚、無いんですね≫

「何が?」

≪いえ、なにも≫



なんだろう、アルトの態度がなんかおかしい。こう・・・・・・こっちは呆れた感じがする。



「あ、そうそう。また夜になのはちゃん達が来るそうだ。夕飯頑張らないとな」

「あぁ、そうなのですね。那美と久遠が喜びます」

「でも、毎日のように来ますよね。おかしいなぁ」



うーん、なんで? 夕飯ご馳走になるってことは、普通に向こうで料理してないってことだし。



「恭文様、何か問題が?」

「・・・・・・いえ、シャマルさんが美由希さんとエンゲージする前に、高町家のお台所で沢山料理するとかって言ってたんですけど」



それはどうしたんだろう、ここ数日毎度のようにご飯集ってるし。なのはとリイン、美由希さんに聞いても、苦笑いで目を背けられるし。



「そこは、触れなくていいんじゃないのか? きっと、触れてもお互いに不幸な事にしかならない」

「きっと、色々とご事情があるのでしょう」

「それもそうですね」










さざなみ寮に来て、丁度一週間。





そう、ようやくここでの日々も折り返しに近づいていた。





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・先日、エイミィから連絡が来た。表情が如何にも『カンカン』だったので、やっぱり一人放置はまずかったのかと、初っ端で謝り倒した。





いや、さすがに僕も気にしてはいたんだ。恋人を放置して、『アバンチュール』でもかまされたらどうしようと、内心ビクビクしていたりした。





だけど、事情が違った。話を聞いて僕は頭を抱えた。





そして、はやてと相談の上で・・・・・・今日、やっと処理を終らせた。










「・・・・・・というわけで、三人の魔法の無断使用に関しては問題なしという形になった。というより、その神無月の妖刀の事は報告出来ないだろう。それは向こうの世界の領分だぞ?」

『つまり、三日間どうするか考えるだけ考えて、結局見過ごすことにしたと』

『ようするに、処理はしてないと』



現在、アースラの艦長室。我が長年のパートナーと、妹の友人にそう言われて、ちょっとヘコむ。

いや、さすがにそう言われると見も蓋もない・・・・・・よな? というかはやて、お前に言われたくない。この決着は全部お前の案だろうが。



『しかし、エイミィさん容赦ないですね。ぶっちゃけ、その霊剣やらなんやらを報告して、ロストロギアとかなんとか言う話になってもめんどいだけだと思うんですけど』

『うん、それも分かる。まぁ、結界や魔法の使用自体は自主訓練でもやる範囲だから問題はないって考えれば、それも分かる。
だけど、私が言いたいのはそういうことじゃないんだよ。・・・・・・クロノ君、はやてちゃん、恭文君・・・・・・どう思う?』



『どう思う?』 そんな一言に、色々な感情が詰まっているのは、読み取れた。

今回も、いつものように無茶をした。介入する必要のない事象に介入し、暴れた。本来なら、嘱託の資格は剥奪の可能性もある。



『正直さ、何でもいいから一度キチンと処罰して欲しいんだ。・・・・・・自分のやってることが、組織という枠の中ではいけないことだって、今ひとつ自覚がないみたいだし。
私達には、私達のルールがある。それを守らない行動は、必ず大きな問題になるってこと、そろそろ教えておくべきじゃないかな。私は、今回の事を見ててそう思った』

『つまり、エイミィさんの考えとしてはどういうことですか?』

『いい機会だから、局に入れちゃうってのはどうかな。もうちょっと中に入った上で見れば印象が変わる事もあるかも知れないし、訓練校で厳しくしてもらえれば、結果的には合わなくても、多少は大人しくなると思うんだけど。
また何度もフィアッセ・クリステラさんの時みたいなことが起きても、クロノくんやリンディさん達だって頭痛いでしょ? さっきも言ったけど、そろそろ矯正が必要だよ。魔導師を、局に関わる生活を送るなら、必要だと思う』



そうか、そういう結論か。まぁ、分かっていた。毎度毎度こんな調子は、僕やエイミィはともかく母さんやアルフ、なによりフェイトが持たない。

今回の事、絶対に三人に知られてはいけないな。知った瞬間に、凄まじい嵐が襲ってくるのは明白だ。・・・・・・頭、痛いな。ついつい右手を当てて考える。



「エイミィ、残念ながらそれは無駄だ」

『どうして?』

「処罰ならしただろうが」



僕がそう言うと、画面の中のエイミィの表情が固まる。・・・・・・どうやら、思い出しているらしい。

三ヶ月前、単独でまたもや無茶苦茶やらかしたアイツを独房・・・・・・というより、反省房に放り込んだ事を。



「それも、一回だけじゃない。その結果、どうなった?」

『・・・・・・毎回、狙ったようにエンジントラブル。それで、転送ポートもどういうわけか使えなくなって、一週間とか次元世界を漂流』

「そうだ。その結果・・・・・・僕の手元にはこんな嘆願書が届いている」



というわけで、エイミィとはやてに見せる。机の1番下の引き出しから取り出した、書類の山を。



『クロノ君、それは?』

恭文アイツを反省房に入れないでくれという嘆願書だ。というより、正直僕ももう入れたくない。1回ならともかく、それが2回3回と続くと、さすがに僕もあそこは鬼門だという考えに疑いを持たなくなってる」



まぁ、だからと言って無処分ということはない。その分は反省書や始末書の分量を増やすことで、変換していこうと思う。それも相当量。



『いやいや、それ許されるんか?』

「許す許さないの問題ではない。これが何度も続くと、いい加減僕の責任問題にも発展する」



とにかく、アイツの無茶とバカは処分どうこう教育どうこうで治るものではない。

アレは、もっと別の所から来ている。それも相当強固。



「エイミィの言うように、いつぞやのフィアッセさんの時もそうだったろ。『魔導師だから』『局の規律があるから』という理由では、アイツは止まれない」

『そうやなぁ、つーかエイミィさん、そんな言い訳出来ん子が、局の規律に従えるわけがないですよ。うちが思うに、訓練校で厳しくされても変わらないと思います』

『そんなの分からないよ? なのはちゃんやフェイトちゃんだって、結構変わってるし。私だってそうだったもの。その中で友達とか作って、仲良くなって、目標とかが出来てさ』

『あー、どうやらお分かりになられていないようなので、もうちょい言いましょうか? ・・・・・・訓練校、何人か地獄を見て再起不能になるかと。
特に、他人に対して横暴なのが危ないですね。アイツ、人叩きのめすのに立場気にする奴ちゃいますから。そしてオチは退学処分ですよ』





真剣な顔ではやてが言うと、エイミィが息を飲んで黙った。・・・・・・安易に想像出来る。

例えば、生徒に対して高圧的で理不尽な教官というのも、たまに居る。僕もエイミィも経験がある。それを見てアイツはどう思うだろうか。

確実にそれに喧嘩を振って、教官から実戦を甘く見た報いとしての粛清(模擬戦)を受ける事になり、その中で、徹底的に、いかなる手を使ってでも叩きのめす。



そして、『これは実戦なんでしょ? だったら・・・・・・どちらかが死ぬ所までやるぞ』なんて言って、教官を半殺しにする。



まずい、冗談半分で想像してたのに、凄まじく現実味を帯びてきた。言ったはやても同じくだったのか、顔から血の気が引いてる。





『いや、さすがにそれは・・・・・・だって、教官はみんなプロの戦闘魔導師だよ? 他の先生や生徒だって、絶対止めてくれるし』



エイミィ、お前は強いな。この現実に立ち向かえるのか。だけど、僕には無理だ。



「エイミィ、アイツの手札と戦闘経歴を考えて言ってるのか? 止める前にアウトコースだ」

『・・・・・・そう、だったね。オーバーSも一蹴するんだよねあの子。そりゃあ止められないよね。うん、分かってた』





とにかく、アイツ自身が納得するならともかく、無理矢理にでも局員にするのは無しだ。

あくまでも、そのコースはアイツの意思に任せた上でだ。家族だからと言って、無理矢理はない。道義的な問題もある。そこもある。

だが、そんなことをすれば、確実に今想像した映像が現実の物となる。それはさすがに怖い。そして、それに疑いを持たずに確信してしまう自分自身が怖い。



というより、局の規律や理屈云々で縛ろうとしても無駄だろう。いや、だってアイツバカだし。僕も大概だと思うが、アレには負ける。





『でもクロノ君、このままでいいと思ってる? 私達はまぁ・・・・・・いいよ。恭文くんはまだ12歳って言う子どもで、ある意味そんな年齢で道を決めた私達やフェイトちゃんやなのはちゃんがおかしいとも言えるから』






地球では、バイト関係はともかくリアルに一生の仕事を今の恭文の年齢で、僕やエイミィ、なのはとフェイトが局に入った年齢で、憧れというものではなく、実際にそこで働き始めるのは、少し異常だ。

そう考えると、二人をあの段階で局員にしたのは少し失敗なのかも知れない。なのはは未熟な心で無茶をして、一生消えない傷を身体に残すところだった。

そして、我が妹・・・・・・フェイトだ。あの子には、もっと色々な事に目を向けて、知っていって、道を決めてもらうべきだったのではないかと、最近よく考える。



一応そういう話もした。したが、足りなかったのではないかと考える。局とは関係のない日々の中で、もしかしたらもっと別の道を見つけられたのではないかと思う。

別にその道の方がいいとか、局をやめて欲しいということではない。ただ、僕はともかく、なのはとフェイトの時は、あまりに選択肢が狭まり過ぎていたのではないかと、思い始めている。

地球で暮らすようになって、アリサちゃんやすずかちゃんと話すようになって、そして・・・・・・弟が出来て、アイツとバカをやるようになってから、少し反省した。年上の人間として、もっと考えるべきだったと、猛省した。



まぁ、今更なんだが。





『でも、リンディさんやフェイトちゃん達は納得しないと思うな。正直ね、あの子が将来のヴィジョンとか、やりたいこととか、そういうのを少しも口にしないところが怖いの。
クロノ君も、聞いた事ないよね? こう・・・・・強くなりたいという事以外で、あの子恭文くんがそういう事を話したりしたの』

「それはまぁ・・・・・・確かに」

『フィアッセ・クリステラさんを守りたいから。はやてちゃんを助けたいから。美由希ちゃんを取り戻したいから。最初の時で言えば、リインちゃんとの約束を守り通したいから。
恭文くん、自分のためとかなんとか言いながら、実はいつでも誰かのために戦ってる。自分の身を、心を、立場を危険に晒しながら戦ってる。・・・・・・これ、いいのかな』



・・・・・・エイミィが心配していたのは、そこか。道理でさっきから話がやたらと強引だと思った。

つまり、恭文の先の方向性・・・・・・もっと言えば、具体的な職や行きたい場所が今の所見えないのが怖いと。



『うん、そうだよ。さっき、一度訓練校に入れた方がいいって話したのも、そこが理由なんだ。それがキッカケで、もしかしたら見つかるかも知れないから。だから、リンディさんもそれを見つけて欲しくて、結構恭文くんを局に誘ってるんだと思う』

『あとは、関係者一同局員やから、なんかあってもフォロー出来るし、苛立ちを共有出来る言うんが大きいですしね。
実際、局は就職先としてはいいですし、組織が腐っとる部分に目を瞑れば、えぇ選択ではありますよ』

『そうだね。やっぱり魔法の事があるから、そこも考えると局っていい所だと思うんだよ。例の警防に入ると、魔法の事をどうするのかって話が出てきちゃうしさ』

「だが、アイツは局員が出来る奴じゃない。・・・・・・エイミィ、お前がさっき話したように、恭文はまだ子どもだ。もう少し見守るというのは出来ないのか?」



僕がそう言うと、エイミィは・・・・・・少し考えて、納得した顔で頷いてくれた。

もうそこには、さっきのような怒りというか、不安が入り混じった感情は見えなかった。



『・・・・・・そう、だよね。あー、ごめんねクロノ君。さすがに色々気になっちゃったからさ、なんか吐き出したくなってきちゃって』

「構わない。というより、すまないな。うちの愚弟の事を色々考えてくれて」

『いいよ。だって、その内私の可愛い弟になるんだから』










・・・・・・僕が思うに、この問題はとても簡単なことだと思う。アイツは、生粋のバカだ。アイツは局員になりたいわけでも、世界や人が守りたいわけでもない。

ただ、自分の理想を追いかけているだけだ。・・・・・・守りたいものを守り、壊したいものを壊す。それをいかなる時も可能とする強き姿を、追いかけていたいだけ。

僕やエイミィ、はやてやなのは達と形は同じようで、全く違う。それが、アイツの追いかけているものは、既に局という組織には存在していないのだから。だから、その中に理想が描けない。





そして、アイツはもう分かっている。この組織の中では、それを真っ直ぐに追いかけるのは無理だと。

だから、やりたいようにやっているのだと。・・・・・・本当に、母さんやフェイト達にはそこに気づいて欲しい。

というより、気づいていて、怖いのかも知れないな。





自分達と、我が弟が違うことを、認められないのかも知れない。同じで居られると、どこかで期待しているのかも知れない。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・うーん、食料はともかく、資材自体は結構毎日消費してるなぁ。





洗剤とかトイレットペーパーとか、結構そういう水回り品が来る。まぁ、暮らしてる人数も多いから仕方ないと言えば仕方ないのか。










「でも、さすがにこれは多いねー」

「そうですね。というか、知佳さん大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよ。明日はいよいよ・・・・・・だし、頑張らないと」

「そうですね」





午後、海鳴の商店街に出向き、知佳さんと楽しくお買い物。平和な時間を、満喫してる。・・・・・・やっぱ、こういうのいいな。



戦うのは、正直好き。命のやり取りも、嫌いじゃない。その中に居る瞬間は、生きてるって感じられる。それも最大限に。



だけど、穏やかな日常も好き。ここには、戦ってる時にはないものがあるから。日常の中に、戦ってる時に感じる心踊る楽しいものがないように。





「身体の具合は、もう大丈夫なんだよね。痛いところとかも全くない」

「はい。お蔭様で」

「うん、よかった」



そう言って、知佳さんが買い物袋を右手から左手に持ち変えて、そのまま右手を伸ばして僕の頭を歩きながら撫でる。

なんというか、子ども扱いはちょっと嫌だけど・・・・・・心地いい感触は、なんか幸せ。



「恭文くんの髪、綺麗だよね」

「そう、ですか?」



変わらずに、手を動かしながら、知佳さんが微笑みながらそう言ってくれた。

そう、かなぁ。自分ではあんまり分からないんだけど。



「触ってて、柔らかいし艶もあるし、伸ばしたら女の子になるね」

「・・・・・・よし、絶対伸ばさないようにします」

「えー、もったいないよ。腰まで伸ばして、三つ編みとかしてみようよ。私、結んであげるよ? 愛さん、今はショートカットだけど、昔は長かったから、よく結んでたんだー」

「嫌です。だって、ただでさえ身長これで、女の子に見られやすいですし」





熱い日差しを受けながら、そんな他愛もない話をしながら、知佳さんと歩いて行く。



・・・・・・なんだろう、すごく心地がいい。知佳さんが笑ってくれると嬉しいし、ドキドキする。



やばい、本当にアバンチュールになってきてるのかも。もちろん、いかがわしい事は抜き。





「楽しそうやなー。てゆうか、うちも混ぜてー?」

「知佳ちゃん、本当に恭文君と仲良しなんですね〜」

「そうやでみなみちゃん、もういかがわしいこと0とか言うてるけど、いつそうなってもおかしくない空気が漂ってるんよ」



・・・・・・後ろから、なんか声が聞こえるけど気のせいだ。絶対気のせいだ。実は二人ほど誰か付いて来てるとか、気のせいなんだ。

とにかく、足を早める。知佳さんとの楽しい時間を邪魔されたくない。



「でも、よくみんなすぐにお休み取れましたよね」

「基本夏休みでヒマしてる人ばかりだもの。あ、でもお姉ちゃんはちょっと大変かな。今日は徹夜だし」



・・・・・・そう言えば、真雪さんって何してる人なんだろ。普通に昼間は部屋に閉じこもったり、徹夜したり・・・・・・うーん、謎だ。



「大丈夫、その謎はすぐに明かされるから。というか・・・・・・ね、今日ちょっと手伝ってくれないかな。私だけだと間に合わないかも知れないんだ」

「へ?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・よし、誤字なし。変な飛び出た線も無し。




というわけで、知佳さんの持ち込んだノートパソコンにデータを送る。










「・・・・・・お姉ちゃん、12ページ問題ないよ。残りはどう?」

「あ、あとちょっと・・・・・・てか、おいボウズ」

「はい」



即席のミカン箱の机に座り、そこに置かれたノートパソコン(知佳さんお手製)の画面とにらめっこしてると、真雪さんがこちらを向く。

そして、厳しい視線で・・・・・・こう言った。



「あんがとな、手伝ってくれて」

「・・・・・・いや、まぁ・・・・・・お仕事ですし、寮生が困ってるなら助けませんと」

「そっか。で、13ページ目出来たから、チェック頼む」



そうして、こちらのパソコンに画像データが送られて来る。それを開くと、そこは漫画の1ページ。

・・・・・・ふむふむ、ここからこうなるんだ。なるほどなるほど。



「てか、お前の胸元のも手伝ってくれるとありがたいんだがな」

≪すみません、私どうもこういうのは苦手で。普通に落書きしたくなるんですよ≫

「この修羅場に身を置きながら一体なにやろうとしてるっ!?」

「よし、お前は絶対手ぇ出すな。つか、この状況でそんな真似したら、叩き壊す」





・・・・・・現在、時刻は夜の0時過ぎ。僕と知佳さんは、真雪さんのお仕事の手伝い。それは・・・・・・漫画の作成。

そう、このお姉さん実はプロの漫画家だった。それも、あの『草薙まゆ子』。これが真雪さんのPNペンネーム

少女漫画家ではベテランで、固定ファンも多い人気作家。なお、書いた作品の内何作かがアニメ化されている。



なお、はやてが普通にファン。僕も前々から読んでたりアニメ見たりしてたから、実はファン。

なので、最新作が読めてウキウキワクワクだったりする。うー、楽しいなー。仕事だからしっかりしなきゃいけないけど楽しいなー。

現在、漫画の製作作業はデジタルが基本なので、パソコンを繋いで真雪さんの仕上げた原稿をチェックしたり、手直ししたりするのが僕達の仕事だ。





「お姉ちゃん、そう言えば集英社の編集の田中さんから電話が来て」

「田中さん?」



作業を進めながら、仁村姉妹はそんな話をする。まぁ、『見ざる聞かざる言わざる』の精神を忘れないようにしながら、作業を続ける。

・・・・・・あ、ここ誤字があるな。ちょっと修正してと。なお、元データは保存した上でやってる。じゃないと、大変だし。



「うん。それで聞いたんだけど、田中さん編集長になったんだってねー。久々だったんで、ちょっと話し込んじゃったよ」

「あー、そういやお前は田中さんと仲良かったんだっけな」



えっと、ベタはよし。色合い・・・・・・よしっと。



「それで聞いたけど、少年誌で描いて欲しいって言われてるんだって?」



・・・・・・なぬっ!? 真雪さんの漫画が少年誌ってマジかいっ!!

あ、いけないいけない。『見ざる聞かざる言わざる』だから。



「あー、そうだね。ほら、今度ジャンプスクエアってのが創刊されんだよ。月刊ジャンプが休刊になるらしくてさ」



やばい、マジでこれは『見ざる聞かざる言わざる』だ。普通にそんな極秘ネタを話すとは思わなかった。

でも、月刊ジャンプ・・・・・・終るんだ。冒険王ビイトとかどうなるんだろ、再開されないしさ。



「で、そこで書いて欲しいって頼まれてて、予定も空いてるからまぁ出来るんだけど・・・・・・アイディアどうしようかって。なんたって少年誌だろ? 今まで通りでもいいらしいんだけど、どうせだったら新しい事してみたいとかも思っててさ」

「あー、お姉ちゃん。それなら作業しながら聞いてみたら? ほら、丁度少年が居るし」



・・・・・・そうして、二人は僕を見る。丁度チェックが終ったので、知佳さんのパソコンに13枚目のデータを送った僕を。

え、なんでそんなにまじまじと僕を見るの? え、どうして?



「よし、ボウズ。少年漫画ってどうすりゃいいんだ? 一応資料としては持ってるんだけど、こう今ひとつピンとこなくてさ」

「本職が僕に助け求めるって間違ってませんっ!?」

「そんなことないよ? お姉ちゃんが今描いてるのだって、昔のお兄ちゃんと愛さんがモデルだし。意外と、身近な人からのそういうヒントは多いんだから」



マジかいっ! ・・・・・・あ、そう言えばヒロインや彼氏の雰囲気が二人に似てるっ!!

で、視線は二人ともパソコンに向いて、手を動かしながらも僕にプレッシャーをかける。『気分転換も兼ねて、ネタになりそうな話をしなさい』と。うぅ、知佳さんまでがなんか怖いよー。



「うーん、少年漫画・・・・・・ジャンプの王道・・・・・・やっぱり『友情・努力・勝利』ですか?」

≪あぁ、お決まりですね≫



とにかく、僕も手元を動かしながら、話す事にした。



「それの最も足る成功例を上げると、ドラゴンボールとかですね。バトルとアドベンチャーと典型的な強さのインフレが結集した最高傑作ですよ」

「あぁ、あれを例に上げられるとわかりやすいな。でもよ・・・・・・普通に最後は誉めてないよな」

「気のせいですよ」



・・・・・・えっと、原稿よしっと。



「最初はそこそこ強い主人公が、ライバルや仲間との出会いや戦いを通じて成長する・・・・・・ってのは、今も昔も変わらない王道パターンなんですよ。
で、そうすると当然のようにインフレになりやす・・・・・・そう言えば、真雪さんの漫画ではあんまりそういうの無いですよね」

「あぁ、そんなガチなバトル物とか描いたことないしな」



手を動かしつつ思い出す。・・・・・・夜の王国とか、アレとかソレとか・・・・・・確かにそうだ。

少女漫画的な結構強いのは居るけど、それが劇的パワーアップとかってのはない。どっちかって言うと、ロマンス要素を盛り上げるためのものになってる。



「でも、バトル物だけじゃないよね。普通にガチな恋愛物とかもやってるし」

「でもよ、それだと今までと同じだろ? どうせなら今連載してるとこじゃ描けないようなのを描きたいんだよ」

「うーん・・・・・・」



アルト、なんかいい手ある? 正直、僕はお手上げなのよ。



≪あぁ、ありますよ。今までにないくらい新機軸なのが≫

「アルトアイゼン、ホントかっ!?」

≪はい。まず、主人公の身長は144センチの男の子です。剣術が得意で、片思いしています≫



ふむ。



≪で、その子が片思いしている女の子にアタックを仕掛けるんですが、その子が凄まじい天然でスルーされるんです。『結婚して』みたいな事を言っても、自分のことを好きだと気づいてもらえないんですよ≫



・・・・・・あれ?



≪その子は自分より身長が10センチ近く高くて、そういう部分でもコンプレックスを持っているのですが、それでもめげずに頑張るわけです≫



ちょっと待て。なんか色々おかしいぞ。



「えぇっと、アルトアイゼン・・・・・・私が思うにそれって」

≪マスターの事です≫

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁっ! なに普通に人の話してるっ!? おかしいっ! おかしいでしょうがっ!!」

≪いいじゃないですか、あなたの半生の大半なんてネタなんですから≫



やかましいわボケっ! 普通に僕の人生を否定するのはやめてもらえますっ!?

てか、ほら・・・・・・なんか真雪さんがまた目の下にクマをつけた顔で僕を見てるし。てゆうか、普通に怖いし。



「・・・・・・ボウズ、アルトアイゼン」

「な、なんでしょ」



きゃー、やっぱりダメだったっ!? そうだよね、ダメだったよねっ! すっごい分かってたっ!!



≪あなた、謝ってくださいよ。ほら、そうしないと命が危ないですよ?≫

「なんで僕っ!?」

「それ、もうちょい詳しく話せ」



ほら、怒ってるよっ!? だからもうちょい詳しく話せなんて・・・・・・!!



≪「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」≫










・・・・・・後日、創刊された月刊雑誌に『侍少年ナギー』という真雪さんの新連載が開始された。

編集部の企画会議では、あまり評判はよくなかったらしいけど、いざ連載されるとその評判を覆して大人気。

漫画ではよくある『主人公は高身長・クール・かっこいい』という方向性とは真逆をいく『主人公は低身長・ツッコミ気質・戦闘以外はヘタレ』という属性が良かったのか、この漫画の主人公の『ナギー』の人気もかなりの物となった。





アニメ、小説、劇場版、OVA、出演声優陣によるネットラジオ、それらの記念のイベント・・・・・・などで記録的な興行収入を上げ、『草薙まゆ子という作家の最高傑作』とまで言われることになるとは、この時の僕もアルトも知らなかった。

ただ、作品の人気は連載時に頑張った真雪さん・・・・・・草薙まゆ子先生の力と、それまでの努力が大半の要因だというのは、留意して頂きたい。

でも、これって僕原作者と同じだから、名前を連ねてもいいんじゃないだろうか。あ、そうして印税生活? 分かります。










「わからねぇよっ! てーか、お前なに勝手にモノローグかましてやがるっ!!」

「いや、そうなったらおもしろいかなと」

「そうだな、あたしも確かにそっちの方がありがたいな。でも、お前の思い通りに行くのはなんかムカつくから嫌だ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして翌日。





僕は車の中で・・・・・・太陽の黄色さについて、真剣に考えていた。










「・・・・・・あれ、また徹夜?」

「アンタ、今更やな。で、昨日は真雪さんとどんだけ頑張ったんや?」

「とりあえず、この二泊三日の旅行を心置きなく満喫出来るくらいには・・・・・・」



愛さんが運転する車の後部座席。僕は右隣にゆうひさんを置いて、移動中。

そう、温泉旅行だ。・・・・・・まじで付いてきてごめんなさい。普通にごめんなさい。



「あぁ、いいのよ。せっかくだもの。でも、耕介さん・・・・・・温泉で治りが早くなるといいですね」

「そうだな。しかし、我が寮生の行動の速さはあいかわらずというか、パワーアップしているというか」

「しかも、恭文君も一枚噛んでるのよね」



愛さんが、山間の道を運転しながら聞いてきた。まぁ、頷く。とりあえずネットでの検索だけなんだけど。

他はない。当然のようにない。実際、実行委員長はゆうひさんと知佳さんだし。



「でも、温泉かぁ・・・・・・。楽しみだなぁ」

「知佳ちゃんと混浴でアバンチュール」

「やらないから。普通にそれはないから」



なお、現在全員小声で話している。理由は簡単。・・・・・・後部座席のもう一人。知佳さんが気持ち良さげに寝ているから。

で、僕は真ん中に挟まれてます。あはははは、選択権はなかったよ。



「でも、恭文君も寝てていいぞ? 昨日は真雪のアレに付き合って大変だったろ」



アレとは、真雪さんの締め切り前の追い込みである。というか、すごかった。描いている時の気迫もそうだけど、すごいスピードなのに話が・・・・・・こう、胸に来た。

あぁ、僕すごい幸運だ。知佳さんありがとう、そして真雪さんありがとう。ロシュツ・キョウなんて言った事を、少しは反省しました。



「でも、愛さん運転してますし」

「あ、私の事気にしてくれてたの?」



まぁ、一応。やっぱりダメかなーとか考えたり。



「大丈夫よ。というより、今のうちに休んでおかないと、後で遊べなくなっちゃうわよ」

「そうだぞ。どうせ後で真雪やらゆうひやら美緒やらリインちゃんやらシャマルさんやらに振り回されまくるのは決定・・・・・・やっぱりすぐに休んだ方がいい。下手をすると君、倒れるぞ?」



後部座席を覗き込みながら、耕介さんがそう言ってきた。結構真剣な顔で。

・・・・・・なので、頷いた。多分、絶対大変なことになるだろうから、頑張らないとまずい。



「あー、耕介くんヒドイなぁ。うちは恭文君の事を振り回したりせぇへんよ?」

「とにかく、寝ます」

「あぁ、そうした方がいい」

「ちょっとー。なんでうちの話を聞いてくれんのー?」










とにかく、そのまま座席に身体を預けて・・・・・・目を閉じた。





やっぱり、朝まで頑張っていたせいか、眠りはすぐに訪れた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・・なんというか、大胆やなぁ」

「ゆうひ、お前それはいいのか?」

「えぇよ。この子のこと、嫌いでもなんでもないし」



うちと耕介くんがそう言うのは理由がある。・・・・・・胸に、恭文君がもたれかかっとる。

つまるところ、胸枕。なんかこう・・・・・・うちは自然と受け入れる。というか、こうしてみると、普段の飄々とした口調からは想像出来んくらいに可愛い。



「こうしてると、あんだけ無茶かました子と同一人物とは思えんなぁ」

「そうだな、どこにでも居る普通の子どもだ」



ここ数日の間に、色々あったからそんな印象ゼロやけどなぁ。でも、子どもなんよなぁ。まだ、12歳の、ほんの小さな子ども。

試しに、手を伸ばしてほっぺたをプニプ二。・・・・・・おぉ、柔らかいなぁ。それにスベスベや。



「・・・・・・なぁ、耕介くん、愛ちゃん」

「ん?」

「お説教した時に『もうこんなことはしないように』って言うてたやろ?」



いや、うちも言われてた。知佳ちゃんとかシャマルさんとか十六夜さんとかリインちゃんも。

思い出すと、あれはすごかったなぁ。うち、帰郷してお説教喰らうとは思ってへんかったよ。



「あぁ、言ってたな。というより、俺と愛と薫とエイミィさんとなのはちゃんが言ったな」

「でも、この子はきっとまたやるよ?」



運転しながら愛ちゃんが。そして、耕介くんが恭文君を見ながら、固まった。

・・・・・・愛ちゃんは運転中やからアレやけど、耕介くんが視線で『マジか?』と聞いているので、頷いた。マジやと。



「目の前で誰かが泣いてたら、壊れそうやったら、手を伸ばす。伸ばして、そんな現実を変える。・・・・・・この子は、そういう子や」

「・・・・・・出来れば、無茶はして欲しくないんだが。俺達はともかく、エイミィさんやなのはちゃんが相当だった」

「今回の事も、管理局にバレたら問題に発展するって相当言ってたものね。うーん、このままでいいのかしら」

「それでもこの子はやりますよ。我がさざなみ寮の寮生薫ちゃんや那美ちゃん、知佳ちゃんと同じや。多分、誰も止められん」










・・・・・・なぁ、恭文君。自分、自覚ないみたいやけどめっちゃすごいんやで?





そんな小さな身体のどこに、そんな強さがあるんか、うちはようわからんもん。





まぁ、アレや。ここ数日頑張り気味やったし、しっかり湯治で傷を癒そうな。そしてアバンチュールや。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・あははは、なんでか私とリインにシャマルさんまで旅行に参加することになっちゃった。





い、いいのかなぁ・・・・・・これ。










「くぅん」

「久遠はいいって言っているみたいですよ? でもでも・・・・・・ゆうひさんと知佳さんと恭文さんがどうしているかがすっごく気になります」

「そうね、気になるわ。非常に気になるわ。もっと近づこうかしら」



シャマルさんっ!? そう言いながらアクセルを踏み込もうとするのはやめてー! お願いだからちゃんと運転してくださいっ!!



「え、えっと・・・・・・なのはちゃん、恭文君って、もしかしなくてもかなりモテる?」

「・・・・・・かなり」



那美さんの問いかけに、私は苦い顔で答える。・・・・・・うん、モテる方だと思う。すずかちゃんとか、シャマルさんとか、リインとか、フィアッセさんとか。あとあと、イギリス行った時にはロッテさんにも大人気ってはやてちゃんが言ってたし。

でも、本命のフェイトちゃんにはさっぱり。うーん、どういうことだろう。真面目にどういうことだろう。フェイトちゃんが、執務官の仕事や、エリオの世話で忙しいからなのかな。



「なぁ、真面目にあん子は抹殺しておいた方がいいんじゃないか? いずれハーレムとか構築しそうなんだが」

「薫ちゃんっ! さすがにその発言はないよっ!!」

「すまん、冗談だ」



あはははは・・・・・・薫さん、全く冗談に聞こえませんでしたよ? というか、本当にそうなりそうでとても怖いです。

だって・・・・・・ねぇ。私、さすがに気づいたよ。うん、かなり気づいた。



「だが、誰か修正した方がいいとは思う。美由希ちゃんがあれだしな・・・・・・」

「それは・・・・・・そうだね。美由希さん、最近恭文君を見てため息吐く事多いし。というか、恋する乙女に見えるんだ」

「リインも同じくです。・・・・・・シャマル、危険です。恭文さん病になった人がまた増えたです」

「うぅ、恭文くんの現地妻1号としては、やっぱり複雑ー。あの子が魅力的に映るのはいいことなんだろうけど、それでも複雑よー」










シャマルさん、それはみんな思っています。ただ・・・・・・そう言いながら、手を震わせるのはやめてください。車揺れてますから。





とにかく、家族以外で旅行は久しぶりだし・・・・・・楽しくなるといいなぁ。





あ、そうだ。せっかくだし、ちょっとお話してみようかな。いい機会ではあるんだし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・そうして、宿泊する旅館に無事に到着した。





全員、荷物を置いて各自好き勝手に行動。そして、夕飯になったらまた集まる・・・・・・自由だなぁ。





で、僕は早速部屋の窓から景色を堪能。広がるのは緑と川。山並みに木々達、川原を歩く家族連れに、所々に見える湯煙風景。





・・・・・・いいなぁ、風情があるなぁ。










「そうだな。うーん、うちのやんちゃ坊主も今度連れてくるか」

「あ、いいかも知れないね。というか、普通に出歩けないのが残念だなぁ。あの景色の中を散歩は、絶対気持ちがいいだろうに」



なんて、他の男二人も感想を口にする。一人は耕介さん。そして、もう一人は薫さんが持ってきた霊剣の一つで、御架月さん。

灰色の髪に、黒と髪と同じ色で構築された法衣を纏うこのお兄ちゃんは、なんでも十六夜さんの弟とか。・・・・・・色々すげー。



「しかし、これだけ人数居て、男が僕と耕介さんと御架月さんだけっておかしくありません?」

「確かに・・・・・・女性比率の高さは注目するべきだよね。おかげで、部屋がすごく広いし。僕は寝る時は刀の中に入っちゃうから、実質恭文と耕介の二人だけだよ?」

「そうなんだよな」



で、僕達は部屋の中を見る。大体『普通はこの部屋、五人くらいで泊まるだろ』って言いたくなるような広さの部屋を。なお、和風旅館なので、当然和室です。

女性陣と部屋の広さを合わせる形になってしまったから、当然こうなる。・・・・・・すっげーもったいねー。



「あ、真雪とか居ればいいんじゃないの? ほら、中身男だし」

「・・・・・・御架月さん、色々と間違ってはないけど問題ですから黙っておきましょうね? てゆうか、真雪さん居たら僕と御架月さんはともかく、耕介さんが危ないですって。妻子もち・・・・・・耕介さん、よくよく考えたら愛さんは?」

「あ、そうだよ。僕と恭文より、愛と一緒の方がいいんじゃ」



僕と御架月さんを、耕介さんが見る。で、二人して力強く頷く。



「あー、それも考えたんだけど、少しだけ俺の世話から愛を解放したいんだよ」



そう言って、僕達に見せるのは、未だに三角巾の保護を受けている腕。

あぁ、なるほど。だからこの部屋の編成と。確かに愛さんは、始終耕介さんに介護的な意味合いでべったりだったしなぁ。



「それじゃあ、旅行の間は恭文が頑張らないとね」

「あー、そうですね」

「いやいや、それは大丈夫だから。さて、とりあえず荷物も置き終わったし・・・・・・どうする?」

「もちろん、湯治です」

「「だよなー(だよねー)」」



あー、でも御架月さん留守番って可哀想かも。うーん、どうしよう。



「あぁ、それなら問題ないよ。耕介、携帯許可証はもって来てるよね」

「当然だ」



携帯許可証? えっと、それってもしかして刀剣類のかな。



「そうだよ。これがあれば、万が一尋問されても問題なく対応出来る。神咲本家のお墨付きの物だし、耕介は一応そこの関係者ってことになってるから、こじれても連絡してもらえれば大丈夫なんだ」

「あぁ、なるほ・・・・・・え、関係者?」

「あ、そう言えば言ってなかったな。俺、一応神崎一灯流を修得しているんだ」



・・・・・・はいっ!? つ、つまり・・・・・・耕介さん、退魔師だったんですかっ!!

ビックリする僕に、御架月さんと耕介さんが首を横に振る。つまり、否定。で、それで更にわけが分からなくなる。



「耕介、薫や那美を凌ぐ高い霊力の持ち主なんだ。それで、神咲本家が特例として、修練を認めてるの。とは言え・・・・・・随分やってないよね」

「そうだな。やっぱり俺は、さざなみ寮の管理人が性に合ってる。もちろん、鍛錬は・・・・・・まぁ、今は欠かしてるが」


さすがにその腕だしなぁ。剣を振るったら怒られるよ。

あ、だから愛さんが付きっ切りなのかも。



「な、なるほど・・・・・・」

「納得してくれた?」

「しました」










まぁ、とにもかくにも温泉です。僕達はのんびりと、男だけで出発した。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



さて、湯治とは、その名の通りお湯・・・・・・温泉での治療のことである。

長期的(少なくとも一週間以上)とあるので、厳密には今回のは湯治にはならないんだけど・・・・・・真雪さん曰く『細かいことは気にするな』ということらしいので、気にしないでね?

この行為は、日本においては衛生に関する知識や医療の技術が充分に発達していなかった時代、その伝聞されていた効能に期待して、温泉に入ったり、飲泉(温泉を飲む事。物によっては飲める)したりして、温泉による病気からの回復を試みたことから始まる。





ちょっと調べてもらえればわかると思うけど、身体の特定の部位に対する効能がいいとする温泉というのは、結構ある。で、この湯治というのは、最初は権力者など一部の人間だけが行っていた。

一般の方々の間でもこれが盛んに行われるようになったのは、江戸時代以降のこと。

まぁ、つまるところ何が言いたいかと言うと・・・・・・。










「「ふぁぁぁぁぁ・・・・・・」」





温度は42℃。若干熱めなヒノキのお風呂に入りながら、大窓から映る外の景色を見ていると、湯治って長期滞在しなくても出来るんじゃないかって錯覚を抱いてしまうということですよ。



いや、これはいいなぁ。てか、よく考えたら男の人とお風呂入るってあんまないかも。クロノさん? あの早風呂大王にこの情緒が理解できるわけがない(断言)。





「いや、これは・・・・・・湯治関係なく気持ちがいいな」

「あー、そうですね・・・・・・」



なんだろう、平和だ。前半の嵐のような戦いの日々がまるで嘘のよう。・・・・・・そこまで思って、思いなおす。だって、嘘になんてなるわけがないから。

でも、日常は日常で満喫しないと。ここにしかない時間は、確かにあるんだから。とりあえず、そう思いながら湯船の中で手足を伸ばす。



「しかし」



ほい?



「親子連れに間違えられたな」

「・・・・・・あー、間違えられましたね」



ここに入る時、番頭さんからそう言われた。『あらあら、お父さんの湯治に付き合うなんて、いい子だねぇ』・・・・・・と。

それがおかしくて、通り過ぎてから二人苦笑してしまった。



「まぁ、身長差がありますから、余計に見えるんですよ」



耕介さんが190。僕が今144でしょ? そりゃあ仕方ない。しかも僕、片腕不自由な耕介さんのサポートしてたし。

しかし耕介さん・・・・・・そして僕・・・・・・だ、大丈夫。30台前半まで大きくなるって言ってたし、こう・・・・・・一応大人バージョンに出来るし。



「しかし・・・・・・あの姦しい方々が居ないとこんなにも静かとは」

「そうだな、ここは平穏な地だ。混浴でもないし」



あー、そこ大事です。大事ですよね。



「まぁ、あれだ。ここでこれから振り回されるための元気を蓄えておくか」

「そうですね」





なので、二人肩まで浸かって・・・・・・こう言うのである。





「「いい湯だなぁ〜」」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・恭文さんと耕介さんの姿が見えないです。御架月さんも居ないです。





逃げたです。男同士でつるんで三人は逃げたです。うぅ、リインを置いてけぼりなんてヒドイですー。










「リインちゃん、恭文君と遊びたかったものね。実は、かく言う私も。
うー、恭文くんどこに行ったのー!? こうなったら、広域サーチで」

「シャマル、さすがにそれをやると恭文さんが怒ると思うのです」

「それもそうなのよね。うー、男同士の付き合いと認めていくしかないのかしら」

「そうなのです、女は辛いのです」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、現在は夜。僕は一人、旅館の露天風呂に入っていた。





そう、またお風呂だよ。なんか問題ある?










「・・・・・・いい湯だなぁ」





街から離れて、山間部に位置するここからは、星がよく見える。それもすっごく綺麗。それを見ながらお風呂というのは、中々にオツなもの。頭にタオルを乗せながら、空をずっと見上げていた。



・・・・・・あれから、お食事やら宴会やらで大変だった。もう説明すると凄まじく疲れそうになるくらい。とりあえずあれだ。美由希さんがすごかったとだけ言っておこう。





”あなた、普通に告白されてましたよね”

”・・・・・・気のせいだよ。よっぱらった影響なんだよ、アレは”





アルトから念話が届くけど、気にしない。とにかく、星を見る。静かで、温かくて、なんか・・・・・・幸せ。



ゆったりとした気持ちのまま、僕は空を見上げていた。空を見るのは、好き。

広くて、大きくて・・・・・・色んなところに行けそうな気がするから。というより、行ってみたいという気持ちが強くなる。

また・・・・・・旅、したいなぁ。よく考えたら、香港以外はあんまり行ってないような。



行くならどこがいいかな。うーん、そうだなぁ。



やっぱり、星が沢山見えるところがいいなぁ。それでそれで、ご飯の美味しい所。





「・・・・・・あ」





水音が聞こえる。『チャプ』っと言う誰かがこのお湯に入る音。



そちらに目を向けると・・・・・・湯煙の中、誰かが歩いてきた。そして、ビックリした。



壊れそうなくらい細い身体に、金色にも見えるブラウンの髪。ビックリした顔で、僕を見る。だけど、すぐに優しい微笑みに変わる。





「・・・・・・・・・・・・知佳、さん?」

「うん」



え、ちょっと待って。いくらなんでもこれはおかしいから待って。

だってここ男湯。



「ここ、混浴だよ?」

「え?」

「あ、知らなかったんだね。ここのお風呂、入り口だけ分かれてて、中に入ったら同じってパターンなんだ」










そして僕は、当然のように・・・・・・お風呂からの脱出を試みた。





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「だけど、私が止めました♪」

「止めないでっ!? てゆうか、いいんですかこれっ!!」

「大丈夫だよ。さすがにバスタオルは巻いてるから」





確かに、知佳さんはバスタオル装着で入っている。まぁ、公共浴場でこれはちょっとダメなんだけど、だからって混浴で裸で入れとは言えない。



まだ使っていないものなので、ここは勘弁して欲しかったり。なお、僕もタオル使ってモザイク箇所を隠してます。さすがに、見られたくない。





「それに、酔っ払ったおじさんとかが入ってきて、絡まれた時には守って欲しいな」

「ま、まぁ・・・・・・そういうことなら」



岩張りの浴槽の際に背中を預けて、バスタオルを巻いた知佳さんと一緒に入浴。なんかこう・・・・・・気恥ずかしい。

そう言えば、今日はあんまり会話してないような。



「恭文くんが、シャマルさんや美由希ちゃんに取られちゃってるからだよ。うー、私とアバンチュールするって言うのは嘘だったのかな」

「だ、だって・・・・・・」



あの布陣、無駄に強いし。オーラが逃げるなって言ってたし。怖くて怖くて仕方なかったし。



「でも、いっか。今は二人っきりで、お風呂でアバンチュールだもんね」



とりあえず、僕は頷く。なお、分かっているとは思うけど普通に何もしないから。いかがわしいこと0で楽しく仲良くなると言うものである。

お風呂の湯気と、岩張りの浴槽と、夜の闇と、僅かな照明と、星の光。それが世界を彩って・・・・・・なんか、不思議な空間になってた。



「でも、ようやく静かに時間が過ぎるようになったよね」

「あー、そうですね」



なお、最初の時のアレやコレが普通じゃないだけというツッコミはスルーします。



「・・・・・・斬られた所、傷らしい傷は残ってないね」



そう言って、お湯の中で左手を伸ばして、自分の左隣に座る僕の胸元を触る。ううん、優しくさする。



「あの時見た時は、一応塞がってはいたけど、痕は残ってたのに、今はすごく綺麗」



美由希さんを操った神無月に斬られた箇所を。その感触が、くすぐったくて、少し身をよじる。そして、お湯が知佳さんの動きで揺れる。



「うー、くすぐったいです」

「うん、くすぐったくしてるんだよ?」



にっこりと笑って言い切る知佳さんが、こう・・・・・・綺麗で、ドキっとしてしまう。

肌も綺麗で、バスタオルに包まれた身体もラインが綺麗。改めて見なくても、知佳さんはすごく美人。



「傷、残っちゃったら大変だし、よかったね」

「そういうものですか?」



前に死にかけた時にも、シャマルさんやフェイトに言われた。でも、よく分からない。僕は男だから、傷が残っても特に問題ないと思うんだけど。



「そういうものだよ」



でも、どうやら僕が考えているようなものじゃないらしい。

目の前の知佳さんは、あの時のシャマルさんと同じで、嬉しそうな顔をしているから。



「恭文くん」

「はい」



言いながら、知佳さんは空を見上げる。

さっきの僕と同じように、満点の空を。星の光で満ち溢れる世界を。



「星、綺麗だね」

「はい、綺麗です」










静かに、言葉少なめな時間。だけど、それが心地よくて、鼓動が高鳴る。





なんだろ、これ。真面目にアバンチュールになってきてるのかも。というか、なっちゃってる。





・・・・・・・・・・・・これ、まずくない?




















(幕間そのじゅうななへ続く)




















あとがき



古鉄≪・・・・・・浮気≫

恭文「アバンチュールだからいいのっ! てーか、フェイトと付き合ってる時の話じゃないものっ!!」

古鉄≪その言い訳もどうなんですか? ・・・・・・えー、とにかくまだまだアバンチュールは続きます。
というか、何時の間にかこのお話のテーマみたいになってますよね。今回のあとがきのお相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫

恭文「蒼凪恭文です。しかし・・・・・・なんか幕間とは思えないくらいにゆっくりお話が進んだなぁ」

古鉄≪そうですね。普通に次回終われるんじゃないですか?≫

恭文「あ、そうかも」





(一応、その予定です)





恭文「でさ、幕間は幕間でさざなみ寮編はこの後静かに終る予定なんだけど・・・・・・最近、僕クロスしたい作品が出てきたの」

古鉄≪・・・・・・あなた、今抱えてる連載量を考えて話してますか?≫

恭文「ごめん、ちょっとフカシこいた。いや、ただ端に最近また熱が高まった作品があってさ。某サイトでドラマCDとか楽曲とか聴いてるのよ」

古鉄≪ほうほう、なんですかそれ?≫

恭文「・・・・・・メルティランサー」





(説明しよう、メルティランサーとは10年位前に出たギャルゲーである。なお、詳細設定はググれ)





古鉄≪ゆかなさん出てるからですか?≫

恭文「うん。なんていうかさー、シルビィとサクヤ(注:咲耶ではありません)が好みなのー。アンジェラ丹下桜さんだしさー」

古鉄≪普通に中の人ネタじゃないですか。というか、最近レトロゲームをダウンロード出来るサイトでやってたのはそれですか≫

恭文「うん。てゆうかさ、シルビィいいよねー。ドラマCDのぶっちゃけ具合が楽しくていいよねー」

古鉄≪・・・・・・そんなにゆかなさんが好きですか?≫

恭文「うん♪」





(・・・・・・青いウサギ、ため息を吐く)





古鉄≪というわけで、本日のあとがきは以上です。みなさん、この人のゆかなさん病はどうやったら治るでしょうか。教えてください。
それでは、本日のお相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫

恭文「ゆかなさんは普通に素敵だと思う、蒼凪恭文でした。いや、メルティのPS版、探してやってみようかなー」

古鉄≪PS3でダウンロードしてください。あるかどうか知りませんけど≫

恭文「・・・・・・ぴぃえすすりぃはもってない」

古鉄≪あぁ、そうでしたね。まずそこからでしたよね≫










(とりあえず、ないと思う。そして、泣くのはやめて欲しい
本日のED:丹下桜『IDENTIFY』)











薫「・・・・・・・・・・・・ちょっと待たんかっ! 普通にまた関係無い話で終っちょるやないかっ!!」

リスティ「というか、ボク達の出番」

美緒「うー、無いのだー。カットなのだー」

真雪「あのチビ・・・・・・旅行から帰ったら、ぜってーぶっ飛ばす」

耕介「・・・・・・恭文君、死亡フラグがドンドン立つな」

エイミィ「いろんな意味で危機はこれからなんじゃ」

美由希「・・・・・・はぁ」










(おしまい)






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