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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第33話 『消えた時間と現れた存在』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』

ラン「今日もドキッとスタートドキたまタイムー! 今日から新展開っ!!」

スゥ「いわゆる迂回ルートなんですぅ」

ミキ「スゥ、それを言ったら意味ないから。とにかく、あむちゃん達に大変な事が起きて、それがきっかけで今までにない大冒険に出る事になる・・・・・・んだよね」

ラン「なんであやふやなのっ!?」

ミキ「いや、まだ台本来て無いから」

スゥ「あぁ、収録前ですしねぇ。とにかく、とっても楽しいことになるのは間違い無しですぅ」





(画面が立ち上がる。そこに映るのは、空を走る白い電車とあの人とかこの人とかみんなとか)





スゥ「とにもかくにも、いろんな意味でチャレンジなこの話、どうなるかワクワクですねー」

???「当然、最初から最後までクライマックスだぜっ!!」

ラン「・・・・・・え、今誰が喋ったのっ!?」

ミキ「さ、さぁ。とにかく、今回も・・・・・・」





(三人揃って、お馴染みとなったあのポーズ)





ラン・ミキ・スゥ『ドッキドキっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・ヒロリスさん達は、あの後本当にすぐに帰っちゃった。なんか、マジであの子ジガンを渡しに来ただけみたい。恭文はお礼を言いまくりだった。





で、今あたしは唯世くんと恭文と一緒に、ちょっと寄り道をした帰り。ガーディアンの備品関係の補充。





もうちょっとで夕方な時間。・・・・・・少し前まではこれくらいの時間になると暗くなりかけてたのに。










「もう、夏なんだね」

「そうだね。・・・・・・ブラックダイヤモンド事件から、もうちょっとで1ヶ月だし、時間が経つのは早いよ」

「そうだね」



歌唄も退院したし、なぎひこももうすぐこっちに来るって言うし、いいんちょがミッドでの旅行が終ったら山口に帰っちゃうのは寂しい。

けど・・・・・・夏休み、楽しみだな。なんだか、今年の夏は忘れられない夏になりそう。



「蒼凪君は、この調子だと本当に初等部を卒業しちゃいそうだね」



唯世くんがそう言うと、恭文は歩きながら、両手をお手上げのポーズにした。表情は、苦笑い。

まぁ、色々と問題ではあるよね。恭文は普通にお仕事としてここで暮らしているわけだから。それがずっと続くと言う事は、事件が解決していないということなんだし。



「そうなんだよね。普通にイースターもなにも動きないし」

「いいことではあるんだろうけど、やっぱり複雑だね。まだエンブリオを諦めたわけじゃないと思うから」

「確かにね」



そう言えば・・・・・・イクト、どうしてるんだろ。歌唄や恭文の話だと、あれから自宅にも帰ってなくて、行方不明だって言うし。

帰り道、いつも通る川原を歩きながら、少し考えた。やっぱり、心配だな。てゆうか、歌唄はそうとう心配してたし。



「・・・・・・月詠幾斗、今度出てきたら、決着をつけなきゃいけないね」



唯世くんが苦い顔でそう言った。・・・・・・やっぱり、唯世くんはイクトの事になるとちょっとおかしくなる。

普段は温厚で、怒ったりとかも滅多にしないのに、イクトのことになると今みたいな険しい顔をして、嫌悪感を隠さない。



「・・・・・・唯世、もうちょい冷静になりなよ。そんなんじゃ足元すくわれるよ?」

「あの、ごめん。でもやっぱり」

「やっぱりじゃない。・・・・・・その月詠幾斗が嫌いな病気は治しなよ。それも早急に。
てゆうか、そんな状態でアレとやり合おうとするなら、僕は唯世をぶっ潰してでも止めるよ?」

「ちょっと恭文っ!? なんでそうなるのかなっ!!」



さすがにそれを聞き逃せなくてそう言うと・・・・・・恭文の表情が少し変わった。



「そうなるのよ」



何かを思い出している顔。だけど、どこか悔しそうな顔に。

歩きながら、あたしや唯世くんじゃなくて、どこか遠い物を見ながら、ポツリポツリと話し出した。



「フェイトがね、丁度今の唯世と同じ状態だった時があるんだよ」

「フェイトさんが?」

「うん。・・・・・・JS事件の時にね」



JS事件。前に恭文から聞いた、2年弱くらい前にミッドで起きた大規模テロ事件。恭文だけじゃなくて、フェイトさんやティアナさん、春に会ったなのはさんやはやてさん達も巻き込まれたって言う大きな事件。

確か、機動六課・・・・・・だっけ? 1年限定の部隊だから今はもうないけど、そこの部隊に入ってたみんなが頑張って解決したとか。



「その主犯がまた三流のイカレドクターでさ。やってることが生体関係のイカレた研究だったのよ。いわゆる人体をモルモットにする感じ?」



その言葉に、あたしと唯世くんは頭を捻って考える。こう・・・・・・アニメとか特撮とかに出てくる『マッドサイエンティスト』って言うのかな。

こう、生体改造で変な兵器とか沢山作っちゃう感じ。



「フェイト、そういうのに対してちょっと過敏になりやすいところがあってさ。そいつを捕まえる時にそれ絡みで挑発されて、激昂して・・・・・・危うく捕縛されかけたのよ。
まぁ、なんとかなったから今も元気なんだけど。ただ、単独で突っ込んでたから、下手すればそのまま人体実験コースに行って、殺された方がマシって目に遭うところだった」

「・・・・・・それ、マジ? なんか、フェイトさんがそういうの想像出来ないんだけど」



激昂って言うイメージないんだけど。あたしの知ってるフェイトさんは、温厚で、優しくて、落ち着いて、冷静で・・・・・・素敵な大人の女性。

あと、すごく優しい人。・・・・・・あ、でもそれだけじゃないか。歌唄がエルを『いらない』『役立たず』って言った時には、見た事がないくらいに怒ってたから。



「マジ。フェイトは普段こそ冷静だけど、基本的に激情家だよ? 自分の感情の癪に触る部分に関しては抑えが利かない部分があるの。あむだって見た事あるでしょ?」

「うん、ある。丁度思い出してた。あんな感じで捕まりそうになったの?」

「そうだよ。フェイトは優しい。だから、余計にそういうのに弱い所がある。・・・・・・今の唯世見てるとさ、その時のフェイトを思い出す。てゆうか、瓜二つだよ」



あたしはもう一度唯世くんを見る。唯世くん、恭文を苦い顔で見てる。

てゆうか、あたしもきっと同じ顔だ。



「唯世、熱くなるのには、悪いなり方といいなり方があるのよ? 唯世の猫男に対してのなり方は、ブッチギリで悪い方だよ。てゆうか、ヒステリーに近い」





ヒステリー・・・・・・確かに、そうかも。唯世くんの嫌悪は、私怨というかそういうのに近いのかも知れない。



なんというか、あたし達が立ち入る空気を出していないというか、許されていないというか、そういう風に感じる。だから、あたし達は今まで触れられなかった。





「この調子がこの先何度も続くようなら、猫男戦では唯世は前に出せないね。なお、僕だけじゃなくてフェイトもその辺りかなり心配してる。自分の例があるから余計に」

「蒼凪君、それは・・・・・・どういう意味で言ってるのかな?」

「忠告だよ。戦う人間として・・・・・・命のやり取りを何度もしている人間として、そして・・・・・・実際にそれを奪ったことのある人間としての忠告。
猫男と何が有ったなんて分からないけど、これだけは分かる。普段はともかくそういう状態の唯世、弱過ぎるよ。僕なら、殺そうと思えば200回は殺せてる」

「・・・・・・そっか」





それから、唯世くんは黙ってしまった。あたしも・・・・・・なにも言えない。恭文が、別に意地悪とか嫌味で言ってるわけじゃないのは分かったから。

きっと、唯世くんの事を心配してる。フェイトさんが、自分の大事な人がそうだったから、余計に。・・・・・・まぁ、言い過ぎな部分はあるかなとはちょっと思うけど。

でも、もしかしたらこの話は恭文の後悔になってるのかも知れないと、ちょっと思った。だって、話だとフェイトさん一人の時にそれだったから。下手をすれば、そのままずっと居なくなってた可能性だってある。



・・・・・・あたしだって、もし唯世くんがそんなことになったら、後悔する。絶対、嫌だもの。唯世くんのイクトへの感情がそんな未来に繋がるなら、絶対に・・・・・・治さなきゃ、いけないよね。





「・・・・・・じゃあ、僕こっちだから」

「うん、唯世くん。また明日ね」

「うん。あ、それと蒼凪君」

「なに?」



唯世くんはジッと恭文を見て、少し黙った。

そして、口を開いた。



「あの、ありがと」

「・・・・・・余計なお世話じゃなくて?」

「そんなことないよ。ちょっとね、我が身を振り返って突き刺さったから」

「そっか」





とにかく、そのまま唯世くんは歩き出す。少し歩き出して・・・・・・振り返って、笑顔で手を振る。



あたしも手を振り返す。右手を上げて・・・・・・気づいた。



唯世くんの手が、半透明になっていることに。





「・・・・・・え?」










次の瞬間、唯世くんの存在は、消えた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・待て。まぁ、待って待って。これどういうこと? 一体どういうこと?





なんで唯世がいきなり消え去るのっ!? おかし過ぎるでしょうがっ!!










「あむっ!!」

「あたしも見た。た、唯世くんが・・・・・・!!」



きゃー! なんかすっごい腰を抜かしてるー!!

とにかく、走り寄って手を貸す。手を貸してなんとか立ち上がらせる。



「ど、どうなってるのこれっ!? なんで唯世くんがっ!!」

「というか、キセキも消えちゃってるよっ!? これ、どういうことなのかなっ!!」

「もうすっごく自然に・・・・・・何かの怪奇現象っ!?」

「はわわわ、どうなってるですかこれは」





や、やばい。あむだけじゃなくて、ランもミキもスゥも混乱してる。



てゆうか僕も・・・・・・だめだだめだ、落ち着け僕。ここで僕まで混乱したら、何の収拾も付けられなくなる。





「あむもラン達も落ち着いてっ! さすがにアレなのは分かるけど落ち着いてっ!!
とにかく、みんな一度うちに来て。あと、ガーディアンの皆に連絡。唯世のこと話さないと」

「・・・・・・うん、そうだね。あむちゃん、とりあえずみんなに相談だよ。ここに居ても、何の解決にもならないよ」



おぉ、さすがはハイセンススペード。冷静に皆を纏めてくれてる。うし、これでなんとかなる。

とりあえず、もう一回あむを見る。・・・・・・頷いてくれた。



「そう、だね。とにかく、みんなに相談しようか。恭文、あたしママに遅くなるって電話してくる」

「うん、わかった」










こうして、事件は本当に突然に、前振りも何も無しで始まった。





だけど、事態はこれだけで終らなかった。そう、ここからが本番だった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく、我が家に到着。到着して驚くフェイトや恭太郎、ディード達に事情を説明。





説明して、これからうちのリビングで緊急会議である。現状で分かった事は、ただ一つ。唯世は、完全に消えてる。

唯世だけじゃない。唯世のしゅごキャラであるキセキも、一緒に消えた。・・・・・・どうなってんだよ、これ。いきなり過ぎて意味わからないし。

右の拳を強く握り締める。マジでどうなってんのか、分からないって辛い。僕は自室に戻って、とりあえず・・・・・・制服から私服に着替えていた。










≪うー、ジガンが来た初日からこれは辛いの。どうなってるのー?≫

≪ジガン、そこはいいでしょう。とにかくマスター、しっかりしてください。あなたまでいつもの調子を崩したら、全員に影響します。・・・・・・全ての事象には、原因があります。
それは、どんなものだろうと変わりません。突然理由も無しに何か起きるなんて、あなたレベルで運が悪くない限りは滅多にありません。まずは、それを知るところからですよ≫

「そうだね」



とにかく、2、3回深呼吸して・・・・・・ようやく落ち着いた。

うし、大丈夫だ。あむも狼狽してたし、ここはしっかりしないと。



「アルト、ありがと」

≪問題ありません≫

≪うー、お姉様すごいの。ジガンも見習わないといけないの≫

「・・・・・・いや、あんまり見習って欲しくないんだけど」





アルトみたいにフリーダムになられてもなぁ・・・・・・。とにかく、話を終えて僕達はリビングに戻る。ドアを開けて、中に入って・・・・・・びっくりした。



あむが、死んでる。いや、生命的にじゃなくて精神的に。そう言いたくなるくらいに沈みまくってる。あと、あむの周りに浮いているキャンディーズもだ。





「・・・・・・フェイト、あむ達どうしたの?」



視線で、あむ達を指しながら聞いてみる。

フェイトが僕とあむ達を交互に何回も見る。



≪あむちゃん、もうこれ以上無いくらいに沈んでるの。ジガンは今日が初対面だけど、それでも分かるの≫

「それが・・・・・・」



黒の上着に白のシャツ。ジーパン姿のフェイトが困ったように、今度は白のワンピース姿のディードや制服姿のティアナを見る。二人も、同じような表情をしてる。

・・・・・・今度はなに? お願いだからちゃんと話して。



「あむ、やや達に連絡したの。したんだけど・・・・・・」

「やや達、唯世の事を覚えてないらしいの」



・・・・・・・・・はぁっ!?



「一応私達も話をさせていただきました」



言葉を引き継ぐように、ディードが話し出す。



「ですが、やや、海里さん、更には海里さんのお姉さんに二階堂先生すらも、辺里唯世という人を知らないんです。もちろん、唯世さんのしゅごキャラであるキセキも。しかも、それだけじゃありません。
フェイトさんが先ほど念のためにサーチャーで調べた所・・・・・・唯世さんのご自宅が、消失して空き地になっていました。つまり、唯世さんとキセキだけではなく、家すらも存在が消えているんです」

「・・・・・・マジかい」

「マジだよ。ちなみに、Kキングスチェアはじいちゃんってことになってるから」





その声は、我が孫の物。黒いシャツに皮のロングパンツを履いた恭太郎がそこに居た。



・・・・・・え、僕がキングっ!? マジかいそれっ!!





「これもマジだ。で、まだちゃんと調べてねぇけど、下手すると唯世の家族も、全く同じ事になってるかも知れねぇ」



我が孫はもうどうしたものかと、内心頭を抱えているのが見てとれた。

ただ、それはこの事態に対してじゃない。なんか見てわかった。



「いや、俺達はまだいいんだ。ただ、あむとラン達も相当ショックで・・・・・・アレなんだよ」

「私達もどう声をかけたものかと困っているところだったんです」



もう一度あむ達を見る。落ち込んでいるというよりは、完全に混乱してる。今まで知ってた人が、存在そのものから消えた。そして、誰もそれに関する事象を覚えていない。

・・・・・・あれ? なんかこれ、覚えあるぞ。



≪やはりおじい様もですか≫

「え、僕もということは・・・・・・」

「あぁ、俺と咲耶なんてブッチギリだ。こういうのは何度か関わった事があるしな」



・・・・・・・・・・・・そうだ、覚えがある。まさか・・・・・・まさかとは思うけど、これって。



「フェイト」

「うん。恭太郎達だけじゃなくて、私もそうだし、ティアナ達も同じ結論だよ。
あとヤスフミ、リインとりまはなんとか覚えてたんだ。あと、歌唄も」



そっか、リインとりまは無事・・・・・・え、歌唄っ!? なんでそこで歌唄が出てくるのさっ!!



「なんでも、オフをもらって買い物に出てる時にリイン達と会ったんだって。これ、どういうことだと思う?」

「・・・・・・もしかしたら」



僕は懐から出す。それは、空色のパス。

そして、それを強く握り締める。



「これのおかげかも。りまと歌唄が大丈夫だったのは、僕と一緒にパスを使う形になってるリインと居たから」

「私もそう思う。あと、あむが覚えてるのは、ヤスフミと一緒に居たから」



つまり、パスの影響を強く受ける位置に居られたから。だから、あむ達の記憶から唯世は消えなかった。

でも、覚えて無い人間も居る。二階堂、ゆかりさんにややと海里。これらの人間に共通しているのは・・・・・・。



「そのメンバーが覚えて無いのは、その影響下から離れていたからだね。だから、みんなの記憶から唯世君の存在が零れ落ちた。・・・・・・ヤスフミ、これを私達だけでなんとかするの、ムリじゃないかな。
普通にやっても絶対に唯世君は戻ってこない。家族まで消えているということは、この事態の原因は決して唯世君一人がどうこうという話じゃ無い。その根源は根っ子にあると思う」

「多分ね。・・・・・・あぁもう、いきなりこれってありえないでしょ」



左手につけたジガンを見る。腕時計型なので、当然のように時刻が出てる。現在、17時13分54秒。

・・・・・・ちょうどいい感じだ。すぐに乗り込める。



「フェイト、ディード、悪いけどちょっと付き合って」

「え?」

「どこへ行くつもりですか?」

「あむも交えてちょっとしたデートだよ。僕が相手じゃ、不満?」



二人は、僕の考えが分かったらしい。すぐに頷いてくれた。

そう、会いに行く。この状況、僕達には覚えがある。あの時のあの人と全く同じシチュだから。



「ティアナ、悪いんだけど留守任せていい?」

「分かったわ。でも・・・・・・あむを連れてっていいの?」

「しゃあないでしょ。それに」





そう、それに・・・・・・今のあむをこのまま家に帰すわけにはいかない。だって、いくらなんでも沈み過ぎだもの。

あぁもう、普段はともかく特殊状況下に置かれると弱くなるとこまで似てなくていいってのに。

まぁ、ここはしゃあないか。てゆうか、当たり前だし。あむやラン達は、僕とフェイト達と違って戦う人間じゃない。こうなって当然だ。



とにかく、多少は希望を見ておかないと、このまま果てしなく潰れていって、消えた唯世が戻ってきてもあむがだめになるかも知れない。





「まぁ、今日は話すだけで早めに家に帰すよ。可能性があるとないとじゃ、やっぱ色々変わってくるだろうしさ」

「そうね、そうした方がいい」



ティアナはあむを見ながらそう口にした。

そして、声を小声にしながら更に言葉を続ける。



「あれ、何時泣き出すかわかんないわよ? 学校行ったら、嫌でも唯世が消えたって現実を思い知るでしょうし」

「だよね・・・・・・」





で、僕もあむを見る。・・・・・・なんかすっごい頭抱えてる。



やばい、あれはあのまま病気になりそうだ。放置は絶対最悪手だって。





「まぁ、こっちは恭太郎と協力して上手くやってくから、アンタとフェイトさん達はアイツらの方をお願い」

「うん。・・・・・・あ、それとこれ」



懐からある物を出す。それはチケット。ティアナはそれを受け取る。



「僕はこっちがあるから、必要なら使っちゃって」



そう言いながら、パスをもう一度見せる。・・・・・・強制ユニゾンだけがこのパスの力じゃない。これはパスだから、当然こういう使い方も出来る。

というか、あの人の計らいでそうなってる。それだけじゃなくて、パスの使用者とその周辺の人間の記憶まで守ってくれるらしい。うん、感謝しないと。



「いいの?」

「いいの。ティアナだったら安心して預けられるし。あ、でも大事にしてよ?」

「分かってる。・・・・・・ありがと」



ティアナが微笑みながらチケットを大事に持ってくれる。・・・・・・とにかく、あむの所まで行って、肩をポンと叩く。あむは、それに顔を上げる。

涙目で僕を見るけど、ここは気にせずに話を続ける。



「あむ、ちょっと付き合って」

「付き合ってって・・・・・・恭文、どこに行くつもりなの? 唯世くんがこんなことになったのに」

「唯世を助ける手段があるかも知れないの」

「ホントにっ!?」



急に立ち上がって僕に迫るので、とりあえず両肩を掴んで離す。

・・・・・・ホントもホント。ただ、あくまでも僕の勘が当たってれば・・・・・・だけど。



「そのためには、あむとラン、ミキやスゥ達の力が必要なんだ」



・・・・・・ということにしておく。いや、本当にそうなるかは分からないんだけど。



「海里達が唯世のことを分からないんじゃ、皆に頼んでもどうしようもない。協力してくれる?」

「もちろんだよ。私達だって、唯世君やキセキが消えたままなんて嫌だもん。ね、みんな?」



ランの言葉に、ミキとスゥが力強く頷く。

そしてあむも、ランの視線を受けて・・・・・・頷いた。



「・・・・・・恭文、あたしも皆も、やれるだけのことをやるよ。それで、どうすればいいのかな」



うし、目に力が戻った。これなら行ける。とりあえず、僕達がやるべきことは・・・・・・まずこれ。

僕は、あむにパスを見せる。すると、あむ達が首をかしげた。



「それ、リインや咲耶さんとユニゾンする時に使ってるパスだよね」

「そうだよ。これを使って、今からある場所に行って、ある人達から話を聞く。あむは、僕とフェイトとディードと一緒にそこに行くの。
多分、そこの人達ならこの異変について知ってるはずだから。というかね、前に一度こういうことがあったんだ」

「あの、それってどういう」





とにかく、丁度いい時間だ。僕は、あむの言葉に返事をせずに、リビングの入り口のドアに手をかける。



そのまま開けると、そこは砂浜。そして、僕達の目の前に白い電車が止まった。時刻は、17時17分17秒。





「・・・・・・あの、これってなにっ!? どういうことなのっ!!」

「あむさん、話は中に入ってからにしましょう。さ、こちらに」

「あ、靴はもう持ってきてるから履いちゃおうね」





そう言いながら、フェイトが靴を並べていく。というか、全員分・・・・・・準備がいい。





「あの、ディードさんもフェイトさんもどうしてそんなに冷静なんですかっ!? あぁ、お願いだから押さないでー!!」

「な、なんなのこれっ!? 一体どういうことー!!」

「わー、みんな待ってー!!」

「お願いですから、ちゃんと説明してくださいですぅー」










そうして、僕とあむ、ディードとフェイトは足を踏み入れた。





時を走る列車・・・・・・デンライナーに。




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご


第33話 『消えた時間と現れた存在』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



見る限り、一面に砂が広がり、虹色の空が上にある世界の中。





デンライナーの乗車口から降りて、僕達の前に走り寄ってきた人が居る。










「・・・・・・あー、恭文ちゃんっ! フェイトさんにディードさんも久しぶりですー!!」

「ナオミさん、ご無沙汰してます」





それは、デンライナーの乗務員であるナオミさん。

白いボディラインが映る服と、ブーツに手袋、白い帽子は変わらずである。

あと、素敵な笑顔も? いや、なんか癒されるなぁ。



・・・・・・いや、だから睨まないで? 別に浮気とかじゃないから。僕はそんなことするつもり無いから。





「あははは、相変わらずラブラブですねー。でも恭文ちゃん? せっかくお付き合い出来るようになったのに、余所見はいけませんよ?」



・・・・・・なんというか、全てひっくるめて、ごめんなさい。



「それでえっと・・・・・・そっちの子は? 初めて見る顔なんですけど」

「・・・・・・あの、えっと・・・・・・初めまして」

「はい、初めまして」



変わらぬ笑顔で、ナオミさんはあむに笑いかける。ただ、そこからすぐに表情を変えた。普段はあまり見せない真剣な顔に。



「・・・・・・あ、とにかく早く来てください。丁度、みんなで恭文ちゃん達の所へ行こうと思ってた所だったんです」

「へ?」





とにかく、急かされるままに僕達はデンライナーに乗り込み・・・・・・懐かしい食堂車へと入る。



左には、テーブルとソファー。右側はスペースを大きく取って、ナオミさんのお仕事場。あそこでコーヒーを淹れたり、食事を作ったりする。

で、そのソファーに座っているのは、男の人。チェックのシャツにジーンズを着た人が居る。で、その周りには・・・・・・四人のイマジンと、白い服を着たショートカットの女の子。

そう、みんなが変わらない姿でそこに居た。で、何故かYシャツにミニスカート姿をした、青い髪でショートカットの女の子。



・・・・・・って、おのれまで居るんかいっ!!





「みんなー! 恭文ちゃんとフェイトさん、それにディードさんが来てくれましたよー!!」

『えぇぇぇぇぇっ!?』



で、全員がこちらを見る。僕は右手を軽く上げて、フェイトとディードはお辞儀。



「恭文ー! あ、フェイトさんに・・・・・・ディードも久しぶりー!! 元気してたっ!?」

「スバルさんっ!?」

「あ、あむちゃんもお久ー♪」



そう、スバルが何故かここに居た。普通に犬耳と犬尻尾を生やして笑ってる。

そしてあむは・・・・・・目を丸くして何がなんだか分からないという顔をしてる。



「わー、恭文だー! 久しぶりー!!」



そう言って、いの1番に走り寄って抱きついて来たのは、僕よりも身長の高い紫の竜の子。

で、当然のように抱き返・・・・・・こらー! 持ち上げて抱き抱えて振り回すなー!! 僕は子どもじゃないんですけどっ!?



「だってだって、ホントに久しぶりじゃんっ! うー、会いたかったよー!!」

「あー、ごめんね。こっちもこっちで結構大変でさ」

「うん、スバルちゃんから聞いてるよ。小学生やってるって」



・・・・・・とりあえず、あの口の軽い豆芝を見る。

なんか目を逸らして逃げたけど、後で絶対足腰立たなくなるまで弄り倒してやる(Notエロ)。



「あ、そう言えばジガンはっ!?」

「あ、そうだ。リュウタ、デザインしてくれてありがとね。・・・・・・ジガン、挨拶」

≪はいなの。・・・・・・リュウタロスさん、初めまして。ジガンをデザインしてくれてありがとうなの。ジガン、このボディがとってもお気に入りなの≫



僕の左手の腕時計が点滅する。それを見て、リュウタが表情を明るくした。



「わー、ホントに喋ってるー。てゆうか・・・・・・なのはお姉ちゃん? 声同じだし」

≪そうなの。ジガンは、なのはさんの思考パターンから作られたの≫

「へぇ、そうなんだー。うー、それなら僕とか使ってくれてもよかったのにー」

「なんでも、なのはがごり押ししたらしいよ?」



いや、本命はウラタロスさんだったんだけど。

まぁ、そこは言わなくていいか。それでも人は幸せになれるのよ。



「そっか。なら仕方ないよね。だって、なのはお姉ちゃんだし」

「そうだね、なのはさんのごり押しは、他のごり押しとは一味違う感じだもの」





なぜだろう、やっぱりあの横馬はおかしい。普通に納得されてるってどうなの?

なのはファンの皆。残念だけど、これや前回のおまけが世間の『なのはのお話への一般的な』反応なのよ。

なお、拍手での感想もこんなのが大半だった。この辺り、よーく覚えておいて?



まぁ、そんなメタな発言はともかくとして・・・・・・いや、みんな変わり無いようで嬉しいなぁ。てゆうか、ここ落ち着くー。





「・・・・・・恭文、あとフェイトさんもディードさんも久しぶり。いやぁ、なんというか懐かしいなぁ」



そう言って、みんながこっちに来た。まず、青い亀な人・・・・・・ウラタロスさん。



「そやな、随分久しぶりやし・・・・・・こりゃちょっとした同窓会気分っちゅうやつやな」



次は金色の熊な人・・・・・・キンタロスさん。



「あー、そういやそうだな。しっかし青坊主、お前・・・・・・身長変わって・・・・・・いや、俺が悪かったからその殺気篭った目はやめようぜ? 大丈夫、こーんぐらいは大きくなってるはずだからよ」



そう言って、右手の人差し指と親指で小さな空間を作るのは・・・・・・バカモモ。



「お前、俺だけなんか扱い悪くねぇかっ!?」

「当然でしょ? 誰がミジンコですか。そして、僕の身長はそんなに小さくない」

「別にお前の身長を指し示したわけじゃねぇよっ! つーか、睨むのやめろっ!!」

「まぁまぁ落ち着いて? でも、ちょうどよかったよ。皆で恭文君の所に行こうとしてたところだったから」



なだめるように、優しい声で言ってきたのは、男の人。・・・・・・野上、良太郎さん。

そして、その脇には小さな女の子。頷いて、良太郎さんの言葉に同意した。



「良太郎さんにハナちゃん、ナオミさんも同じ事を言ってたんだけど、ヤスフミの所に行こうとしてたって言うのはどういうこと?」

「えっと、実は・・・・・・こっち来てください。多分見てもらった方が早いですから」



ハナさんに手招きされる形で呼ばれた。で、僕はリュウタにようやく下ろしてもらって、そのまま足を進める。進めて、1番奥の机の上を見る。

で、僕もフェイトもディードもあむも、驚いた。



「・・・・・・良太郎さん、この子は」



フェイトがそう聞くのも無理はない。だって、机の上でうなされている女の子が居たんだから。

30センチ前後の体長に、紫が多少かかった髪。頭の下にリボンも見える。そして、どこから調達したのかは分からないけど、専用サイズな布団の中で寝てる。



「なんでも、デンライナーが走ってたら、いつかみたいに車両が揺れて、気づいたらこの子が居たそうなんです。それで、僕はオーナーから知らせを受けてさっきここに来て・・・・・・」

「私は丁度良太郎さんの所に遊びに来ていたので、そのまま一緒にここまで来たんです」

「お前らのとこに行こうとしてたのは、これが理由なんだよ。俺達だと管理局の施設にそんまんまっつーわけにはいかねぇしよ。
・・・・・・これよ、パッと見だと青妖精や赤妖精と同じだよな。あと、恭太郎の連れてる刺身とよ。おい犬っ子、お前もそう言ってたよな」

「まぁ、外見的な特徴と、マッハキャリバーのスキャンの結果だけですけど・・・・・・。ただ、この子目を覚まさないんです」



もう一度見る。・・・・・・苦しそうにしてるけど、表情以外は特に怪我している様子は見えない。一応大丈夫なのかな。



「てゆうか、今ひとつよくわからなくて」

≪スバルさん、よく分からないというのはどういうことですか?≫



スバルが怪訝そうな顔で言うので、僕達は首を傾げる。

というか、デバイスのスキャンやらサーチ能力使えば1発だろうに。



「えっとね、マッハキャリバーのスキャンだと、解明出来ない箇所が何箇所もあるの。リイン曹長やアギトをスキャンしてもそんなことにならないのに・・・・・・」

≪・・・・・・ホントですね。私のスキャンでも解明不可能な部分が出てきます。それも何箇所も≫

≪ジガンも同じくなの≫

「でしょ?」



あー、とにかくスバルとモモタロスさんの言いたい事が分かった。つまり、この子はユニゾンデバイスなんじゃないかと言いたいんだ。てゆうか、さっきからそう言ってるよね。うん、分かってた。

確かに、外見的な様子とかはリインやアギトと同じ。それに魔力も感じる。でも、刺身って・・・・・・・。



「先輩? 刺身じゃなくて『咲耶』」



あぁ、やっぱりそれか。てゆうか、まだそれ治ってなかったんだ。

まぁ、未だにティアナへの呼び方が『ハナクソ女2号』呼ばわりだしなぁ。



「いい加減そのバカな勘違いはやめようよ」

「うっせぇっ! そう聞こえるんだから仕方ないだろっ!!」

「普通は聞こえないよ。そんなのモモタロスだけー」



でも、やっぱりデンライナー・・・・・・というより、時間の中にも異変が起きてたんだ。

正体不明なこの子。そして、消えた唯世。間違い無い。これは・・・・・・。



「そう、その通りです」





その声に、全員がそちらを見る。

見ると、そこに居たのは黒いタキシード姿にオールバックの髪の壮年の男性。

僕達が入って来た入り口の方からこの車両に来た。そして、そのままゆっくりと歩を進める。



右手に持ったステッキを突きながら、僕達の所まで来る。





「どうやら、時間の中に歪みが発生したようです。彼女は、それに巻き込まれた。・・・・・・恭文君、フェイトさん、お久しぶりです」

『オーナーっ!!』



その人は車両の中ほどで止まると、ニコリと表情を崩して笑った。

そう、この人は時の列車・デンライナーのオーナー。なお、それくらいしか分からない。



「オーナー、実は」

「分かっています。巻き込まれたのは、彼女だけでは無いのですね。だから、あなた達はここに来た」

「はい」

「・・・・・・あの、ちょっと待って」



・・・・・・・あ。



「恭文、フェイトさんっ! あとスバルさんにディードさんっ!! お願いだから・・・・・・この状況をちゃんとあたし達に説明してっ!? もう何がなんだかマジでわかんないんだけどっ!!」

「あむちゃんの言う通りだよっ! これは一体なにっ!? というより、そもそもここはどこっ!!」

「というか、デンライナーだよねっ!? でも、なんで普通にモモタロスや良太郎さんが居るのかなっ!!」

「説明ぷりぃずなのですっ! スゥ達は混乱しまくってて、わけが分からなくなってるのですー!!」



そう声を上げるのはあむとランとミキにスゥ。若干さっきとは違う意味で泣きそうなのは、気のせいじゃない。

・・・・・・そう言えば、説明するの忘れてたような。



「・・・・・・あぁ? おい青坊主、なんだこの小せぇ虫三匹は。つーか、このガキンチョ誰だよ」



当然のように、モモタロスさんの言葉に全員の視線が向く。



「ガキンチョって何っ!? てゆうか、アンタこそなんなのっ!!」

「けっ! 俺様を知らねぇくせに随分偉そうな口叩くじゃねぇかっ!! つーか、ガキンチョで充分だろうがっ! 金髪姉ちゃんやデンデン虫に比べたら随分小せぇしっ!!」



なお、デンデン虫とはディードの事です。修正は、当然のように不可能でした。

まぁ、未だにあの子のパートナーを『天丼』呼ばわりだ(省略)。



「だ、だ・・・・・・誰がペチャパイだー! そりゃあフェイトさんやディードさんは大きいけど、女の価値が胸で決まるわけないでしょっ!? アンタ、絶対バカじゃんっ!!」

「バカはてめぇだっ! 俺が何時胸の話をしたっ!! あぁっ!? 俺はお前の見たまんまが小せぇっつったんだよっ!!」

「今したじゃんっ! てゆうか、アンタも恭文みたいにセクハラ癖があるわけっ!? 信じらんないっ!!」



・・・・・・よし、帰ろう。家に帰ろう。

おうちへかえーろうー♪ シチューをたべーようー♪



”ダメだよ。・・・・・・ヤスフミ、あとでちょっとお話。いい?”

”私も同じくです。妹として、少々これは聞き逃せません。よろしいですね?”

”・・・・・・はい”



とにかく、僕の死亡フラグが立ちつつも話は続く。

そう、今度はあの子達に対してだ。



「そうだそうだー! それにそれに、小さいのはともかく虫とはなにさ、虫とはっ!! 私達はしゅごキャラであって、虫じゃないよっ!?」

「うっせー! 大きさ的にお前らは虫で充分だろうがっ!! そもそもなんだっ!? その・・・・・・『すごキャラメル』ってのはっ!!」

「・・・・・・先輩、すごキャラメルじゃなくて、しゅごキャラね? 全く、ホントにどういう耳してるのさ」

「うっせー!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ねぇリイン、唯世が消えて、ややと海里達が唯世のこと忘れたって本当なの?」

「そうらしいです」

「そうらしいですって・・・・・・いくらなんでもいきなり過ぎよ。一体どういうこと?」

「リインにも詳しい事はわからないです。とにかく急いで家に戻るですよ」





りまさんと一緒に夕飯のお買い物をしてた時、歌唄さんとバッタリ会いました。そして、ちょうどそこに来たフェイトさんからの連絡がきっかけで、リイン達は必死に家までの道筋を走ります。



走って・・・・・・考えます。うぅ、もしやと思うですけど、また『アレ』絡みですか? まさかとは思うですけど・・・・・・。



いや、ありえる。ありえるです。というかリイン達の知る限りで言えばこれしか覚えがないです。



とにかく、恭文さんとフェイトさん達はあむさんと一緒にデンライナーに向かったって言いますし、リイン達も・・・・・・。





「・・・・・・あれ?」

「りまさん、どうしたですか?」





考えを途中で止めます。りまさんが止まって、辺りを見回します。



リインと歌唄さんも同じように足を止めます。ちょうどここは住宅街。家まではもう少しの所です。





「・・・・・・リイン、何か音が聞こえない?」

「音、ですか?」

「こう・・・・・・何かを切り裂くような音」





その声に、耳を澄ませます。・・・・・・あ、聞こえるです。





「ホントです。エルにも聞こえるです」

「アタシもだ。てか・・・・・・おい、アレ」





上の方から、空気を切り裂くような音。それに全員が視線を向けます。





「何か、落ちてくる・・・・・・!?」





その方向に目を向けると・・・・・・ピンク色の花柄のたまごが地面に向かって突撃してました。

・・・・・・というか、落下してるですっ! わわわ、大変ですー!!

リインは右手をその落下地点に向けます。



他に人・・・・・・りまさんと歌唄さん以外になし。これならいけるです。





「リイン?」

「受け止めるですっ!!」





右の手の平に形成されるのは、白いベルカ式魔法陣。それが輝きながら回転すると、地面に落ちていたたまごが白い光に包まれて、減速しながらゆっくりと落ちます。



そして・・・・・・地面に落ちる直前で止まりました。そのまま、リインの手元に引き寄せて、キャッチ・・・・・・と。





「また器用な事するわね。それも魔法なの?」

「はいです」



落下の衝撃緩和と安全な着地のための魔法。魔導師なら空戦陸戦問わず覚えている魔法です。

あ、今のはそれをたまごにかけて、壊れないようにしたわけですね。



「りまー。この子しゅごたまだよ?」

「クスクス、それ本当?」

「うん。中からしゅごキャラの気配がするから。というか・・・・・・」



両手でしっかりと掴んだたまごが割れます。



「何か出てきたな」

「出てきましたね」



粉々にではなくて、パカリと真ん中から。



「・・・・・・誰、この子?」

「うーん、家出でしょうか」

「いや、家出でいきなりこれはねぇだろ」



中から出て来たのは、目を回している女の子。黒いおかっぱの髪にたまごと同じ柄の和服を来た小さな女の子。

確かにこれは、しゅごキャラです。



「この子、誰なんでしょう」

「分からないわよ。というか、どうしていきなり空から落ちてきたのよ」

「うーん、どういうこと?」





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・じいちゃん達はじいちゃん達で楽しくやってる頃。俺達は俺達で、この異変に付いて調べてた。





まぁ、もっと言えば辺里唯世の存在がちゃんとあるかどうかチェック?





家族関係から何から、今出来る範囲で徹底的に調べた。まぁ、フェイトさんとシャーリーさんが最初の段階で相当調べてたから、それを元に作業を行った。





で、結果は・・・・・・。










「・・・・・・完全に消えているようですわね」

「そうね。とりあえず両親と祖母、それに唯世本人の存在だけじゃなくて、居場所もなくなってる。
いや、居場所だけじゃなくて記憶もよ。私達以外、誰も覚えてないなんておかしいでしょ」

「これ、やっぱりまた時間の異変絡みなのかな」

「シャーリー、多分そうです。前に恭文さんやフェイトさん達が小さくなった時・・・・・・侑斗さんが消えちゃった時も、それでしたから」



リビングで、全員もう気分が重くなってる。なお、リインさんとりまは帰って来てる。まぁ、時間も時間だったせいでこうなった。



「ねぇ、みんなさっきからなんなの? その時間の異変とか、恭文やフェイトさんが小さくなったとか」

「そうよ。あなた達全員こういうのに慣れてるみたいだけど、私やこの子りまはさっぱりなんだけど」

「そうなのですっ! ちゃんとエル達にも分かるように説明するのですっ!! プリーズなのですっ!!」

「てかよ、マジで頼むぜ? 唯世は歌唄の幼馴染でもあるしさ、なんか有ったんならちゃんと力になりたいんだよ。その・・・・・・アタシらみんな、色々迷惑もかけちまってるしさ」




で、何故か休日中のほしな歌唄とエルにイルまで来てる。なお、普通に手土産持ってきてた。どうも、買い物を終えた後にここに来る予定だったらしい。

その手土産は、CD。なんでも、今度出す新曲のサンプルCDだとか。



「ね、歌唄ちゃん。それどうするつもりだったの?」



シャーリーさんが聞くのも無理はない。そういうCD・・・・・・つーか、音源を発表前に持ち出すなんざ、ありえないことだろうし。

だけど、歌唄にとっちゃそういうわけじゃないらしい。平然と言い切ったから。



「当然、恭文に聴かせるのよ。やっと出来上がったから、1番に聴いて欲しくて。
あ、当然三条さんの許可は取ってるわよ? ・・・・・・私の本当の歌を聴いて、感想が欲しくて」



なんだか嬉しそうに言う歌唄を見て、俺達は苦い顔をする。・・・・・・この子、マジで第三夫人狙ってるんじゃないかと、ちょっと思ってしまった。

いや、じいちゃんがそれを受け入れるはずが・・・・・・いや、でもリインさん居るし。あぁもう、じいちゃんはどうしてこういう厄介なフラグを建てるんだよ。



「歌唄さん、第三夫人になりたいなら、まずリインという検閲を通らないとダメなのです。
そこを通って始めて、恭文さんと愛し合うことが出来るかどうかが試されるです」

「そうなの?」

「はいです。そして全力で却下するのです」



そうそう、リインさんの許可を取って・・・・・・おーいっ!? なにとんでもないこと言い出してるっ!?



「どうしてよっ!!」

「恭文さんは、フェイトさんとリインで独占するからに決まってるじゃないですかっ!!」

「リインさんもそういう性質の悪い冗談はやめろよっ! そんなことして一体何になるっ!? じいちゃんさすがにキレるってっ!!」










まずい、この状況は非常にマズイ。てゆうか、普通にじいちゃん早く帰って来てー。





俺達だけでこのドS歌姫の相手はムリなんだー。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「だが断る」

「恭文さん、どうしたのですか?」

「いや、他力本願な電波が届いてきて・・・・・・」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あー、りまさんに歌唄さん。とにかく、それはあとで説明するですよ。・・・・・・というか、アレもあるじゃないですか」

「あぁ、そう言えばそうね」





起きた異変は、唯世の事だけじゃなかった。こっちでも一つ異変が起きた。

それは、今リビングにおかれたバスケット・・・・・・エルがこっちに居た時に使われた寝床。そこは現在、占領されている。

そこを占領しているのは、ピンク色の花柄のたまごと、おかっぱでたまごと同じ柄で描かれた着物を着た女の子。当然しゅごキャラ。



ちなみに、この子がここに居る理由は・・・・・・さっきのリインさん視点での出来事があったせい。



で、三人はそのまま家まで連れてきてくれた。しかし、今日は厄日か? ここまでゴタつくってなんなんだよ。





「とにかく、アイツとフェイトさん達が戻ってきたら、また話しましょ? 多分あっちも色々掴んでるだろうし」

「だな。・・・・・・いや、その前にやることがあるか」



俺は、そう言いながら立ち上がる。



「あぁ、そうですわね」



咲耶も同じく。で、もう一度気配を探る。

・・・・・・ビルト、どうだ?



≪囲まれてますね。まだ詰みではありませんが、すぐにそうなります。咲耶、すぐに結界の展開を≫

「心得ましたわ。というより、もう行っています。残らず隔離済みです」



・・・・・・あ、ホントだ。気配が消えた。咲耶の結界の中に残らず閉じ込められたわけか。

ただ、このままってわけにはいかないな。いつそれを破ってくるか分かったもんじゃない。とりあえず、やるか。



「アンタ達、いきなりどうしたのよ」



ティアナさんがそう言うので、俺は視線を向けずに答える。玄関へと、足を進めつつだ。



「どうやらそのしゅごキャラ、色々ワケありらしい。・・・・・・咲耶が結界を展開するまで、家の周囲から妙な気配を複数感じた。つーか、ありゃ敵意持ちだ」

「しかも、賊は人間ではありません」

≪どちらかと言えば、イマジンなどの類に近い反応でした。そして状況から見て、恐らくはその子狙いでしょう≫

「はぁっ!?」





・・・・・・じいちゃん達がいない時にこれかよ。まぁいいさ、そうだろうと俺のやることは変わらねぇ。



じいちゃんから留守を預かっている以上、ここに居る人間には手出しはさせねぇよ。





「・・・・・・リインさん、咲耶と一緒に結界の維持を。あと、りまや歌唄にシャーリーさんのこと、お願いします」

「分かりましたです」

「ティアナさん?」





ティアナさんは、しゃがんでりまに視線を合わせる。



そして、そのまま真っ直ぐに優しい瞳で、りまを見る。





「りま、私と恭太郎は少し出るけど、ここでジッとしてて。いいわね」

「・・・・・・いいけど、ちゃんと事情説明はしてもらうわよ? 私、本当にワケがわからないし」

「うん、分かってる。歌唄、アンタも悪いんだけどそれでいい?」



歌唄はティアナさんの言葉に『仕方ないな』という顔で頷いた。

なんだかんだで状況は読める子でよかった。これでごたついても。



「ウェェェェェェェェイトッ! あなた達いくらなんでも空気読まな過ぎなのですっ!!」



だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 空気を全く読む気が無いのが居たのを忘れてたー!!



「あなた達、『ほうれんそう』と言う言葉を知ってますかっ!? まずはしっかりとこの愛の天使・エルに話をしてから出て行くのが筋と」

「だから人をどうこう言う前に、お前自身が空気を読めっ!!」



そう叫びながら、イルがエルに向かって左足で飛びかかって蹴りを放つ。それを、エルはマトモに右わき腹に喰らう。



「ふぎゅっ!!」



そのまま吹き飛んで、俺の視界からフェードアウトした。



「・・・・・・悪い。とりあえず邪魔者エルは黙らせたから、行くならとっとと行ってくれ。アイツに付き合ってるとマジで時間なくなるし」

「そ、そうね。そうさせてもらうわ。てか、アンタ容赦無いわね」

「アイツに容赦なんてしてたら、日常の無駄な時間が9割増しになっちまうよ。アンタ達だって、アイツと一緒に暮らしてたんだから分かるだろ?」

「それもそうね。とにかく・・・・・・恭太郎、行くわよ。即席コンビだけど、やれるわね?」

「おう」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく、僕達はあむとラン、ミキとスゥに事情を説明した。





で、今ちょうどそれが終った所。










「・・・・・・はい、コーヒーどうぞ。あ、ランちゃん達の分も入れてみたからどうぞ」

「あ、ありがとうございま」



そう言って、あむが固まる。そりゃそうだ。幾何学色のムースがかかってるんだから。

ラン達も同じく。自分達サイズのカップには、ほぼ同じ柄・・・・・・黄色と青とピンクが混ざったムースがかかってるんだから。



「ま、ます・・・・・・」

『感謝します・・・・・・』

「はい」



そのまま、ナオミさんが戻る。で、僕達を見る。



「えっと、話を整理すると、ここはデンライナーで、この人達は電王」

「というより、ボク達の世界にある『仮面ライダー電王』そのままの人達」

「それだけじゃなくて、敵役であるイマジンも存在していて」

「それでそれで、恭文さんやフェイトさんは、良太郎さん達とお友達・・・・・・なんですよねぇ」





僕とフェイト、ディードにスバルは、その言葉にコクンと頷いた。





「そうだよ。私もヤスフミも、あとスバルも、前に良太郎さん達と協力して、何度かイマジンや、時間の運行絡みの事件を解決したことがあるんだ。私達がここの皆と仲がいいのは、それが理由」

「あの・・・・・・さすがにこれは。いや、もうこの走っている電車やあの風景や、テレビそのままな良太郎さんやモモタロス達を見たら信じるしかないんですけど」

「でも、ありえない。これはありえない。というか、ボクが思うに次元世界や魔法の方がまだ常識的だって」



うーん、あむ達はどうにも頭が固い。まるで初対面のフェイトや皆のようだ。どうして素直にワクワクドキドキ出来ないんだろう。

だって、楽しいじゃん? テレビのヒーローが実在してたなんてさ。面白過ぎにも程があるでしょ。



「・・・・・・多分、それはヤスフミやヒロリスさん達だけだよ。六課の皆は私も含めて、あの時は相当戸惑ったんだから。まぁ、今は大丈夫だけど」

「ちなみに、私もかなり戸惑いました。ですが・・・・・・そう言った所が恭文さんの素敵な所だと私は思います」

「ディードっ!? それはなんか違わないかなっ!!」

「恭文さんの妹として、当然です」

「それは絶対違うよっ!!」



まぁ、揉める二人はともかくとして、もう一度あむWithキャンディーズを見る。なんというか、一言で言うなら疲れ果ててる。

そりゃそうだよなぁ。今日一日でこれだけの事があったんだもの。常識人は疲れるに決まってる。



「でよ、オーナーのおっさん。ようするにどういうことだ? 時間の歪みってのはともかく、それでなんで青坊主とこのちいせぇ連中のダチや、すごキャラメルが消えるんだよ」



僕とフェイトの後ろで声。そちらを見ると、タロスズな方々がこちらを見ていた。



「だからすごキャラメルじゃないっ! しゅごキャラだよっ!!」

「いいじゃねぇか、似たようなもんなんだしよ」

「いやいや桃の字、それは全然似てへんやろ。・・・・・・まぁ、ようするにアレやろ。その唯世っちゅう坊主は、この異変に巻き困れたんや」

「多分それで正解だね。だから、その子は存在そのものが消えた」



・・・・・・僕はオーナーを見る。隅の席で、またもやチャーハンを食べているオーナーを。

オーナーは、チャーハンを一口食べて、それを飲み込むと静かに頷いた。



「こちらでの異変と、その辺里唯世君の記憶と存在の消滅したタイミングを考えるなら・・・・・・今、ウラタロス君が言った通りでしょう。
異変により、彼の存在は確固たる物ではなくなった。だから、消えてしまった。あぁ、それと日奈森あむさん」

「はい」

「彼の存在は、現在発生している時間の歪みを元に戻せば、復活する可能性があります」



その言葉に唯世・・・・・・じゃなかった、あむの表情が崩れた。さっきまでの重い表情ではなく、希望を見出した明るいものに変化した。



「あの、それってつまり・・・・・・唯世くん、帰ってくるってことですかっ!?」

「はい」



オーナーが僕を見てウィンクしてくる。それに、小さくお辞儀をする。・・・・・・あむをここに連れてきた意味、察してくれたらしい。



「幸いな事に、恭文くんやフェイトさん、そしてあなたのように、彼の存在を覚えている人間が居ます。記憶こそ時間。そして、歴史です。
この状態が事態解決まで維持されるのならば、存在の再構築は可能です。ただし・・・・・・あくまでも可能性です。実際にどうなるかは、保証出来ませんよ?」

「それでも構わないです。少なくとも、可能性は出てきましたから。あむちゃん、よかったね」

「うん・・・・・・!!」



とにかく、これでやる事は決まった。唯世とキセキの存在を取り戻すために、時の運行を守るために、その歪みに対処する。

ただ、そのために知らなきゃいけないことがある。それもかなり重要。



「ですが、疑問があります」

「どこの誰が、何のためにこんな事を・・・・・・ということですよね」

「そうです。現在存在し続けていた人一人の存在がここから消えた。明らかにイマジンのような存在による物でしょう」



ここでイマジンだけに限定してないのは、牙王や幽霊列車の時に出てきた幽汽。僕とフェイト、なのはが小さくなった状態でやりあった鬼みたいな連中も居るということ。

出来れば、イマジンだと楽だよなぁ。なんだかんだで相手は慣れてるし。



「ただ、それだけでは足りません」



真ん中の旗を倒さないように、チャーハンをスプーンでそっと取り・・・・・・パクリと一口。

旗は、まだ倒れない。



「なぜ、そのために辺里唯世という人間の存在が、時間が消えなければならなかったのかということです」

「あー、それもありますよね。・・・・・・フェイト、その場合考えられる可能性ってある?」



隣に座るフェイトを見る。そしてフェイトは、唇に指を当てながら答え始めてくれた。



「あるよ」



さすがに執務官。やっぱりこういう状況には強い。すぐに答えが導き出せる。

・・・・・・僕、こういうのはちょっと苦手だし。



「とりあえず二つ。まず、唯世君は単純に異変に巻き込まれただけ。そしてもう一つは」

「唯世がこれを仕掛けた連中から見ると、なんらかのキーというか、障害になってる可能性があるってこと? だから、邪魔なので消した」

「そうだよ」



どっちにしろ、現状じゃ手がかりが無いな。そうするとやっぱり・・・・・・。



「あの子、かなぁ」



僕は、身体を動かしてあの子を見る。今はリュウタに興味深くじっと見られてる女の子を。



「あのユニゾンデバイスの子から話を聞くのが早いかも知れないわね」



ハナさんが腕を組みながらそう言った。で、僕もそれには賛成。ただ、それだけじゃ足りない。

だって、それは待ちの姿勢なんだから。事態の早期解決を狙うなら、もっと攻めていかないと。



「・・・・・・あの、ターミナルへ行ってみるのはどうかな」

「あ、良太郎。それグッドアイディア。あそこなら何か掴めるだろうしさ」

「ターミナル?」

「あむちゃん、知らないの? ほら、テレビにも出てきてたじゃない」

「いや、あたしそこまでテレビ見てたわけじゃないし。あみやママにチャンネル取られてただけだし」



あ、そうだったのね。だからちょこちょことしか電王知らなかったんだ。



「あの、ターミナルって言うのは、時間の流れの中にある施設なんだ。名前の通り、駅になってる。デンライナーみたいな時の列車は、そこに停車する事があるんだ」



あむの疑問に、良太郎さんが答え・・・・・・って、みんな普通にしゅごキャラ見えてるんだよね。やばい、なんかびっくりだ。これはこっちがびっくりだ。



「ようするに、そこの駅の人なら今回の一件について何か掴んでるかも知れないってこと。分かった?」

「あ、なるほど。なら、さっそくそのターミナルに」

「あー、ちょっと待った。あむ、あとスバルもだけど・・・・・・帰らなくていいの?」



僕達は大丈夫。どっちにしろ地球に常駐みたいな感じになってるんだし。ただ、あむは実家だから親御さんの心配がある。遅くなると電話したからって、限度はあるでしょ。

スバルは、休暇中とは言え仕事があるでしょうに。特救のお仕事がさ。



「私は大丈夫だよ? しばらく根を詰めまくってたから、一週間とかちょっと長めのお休みなんだ。緊急の呼び出しもしないって言われてるから」



明るい笑顔で、ニッコリとスバルが答えた。・・・・・・なんつうか、元気な子だ。つーか、特救の特殊な勤務形態でその休みの取り方って・・・・・・どんだけ頑張ってたのさ。



「でも、あむちゃんは一度戻った方がいいかも知れないね。こっちに来たの夕方くらいからでしょ? 親御さん、きっと心配してるよ」

「だけど、唯世くんが・・・・・・」

「いいから。どっちにしろすぐに事態が進展するようなことにはならないよ。ここは私達にまかせて欲しいな。
大丈夫、恭文やフェイトさん・・・・・・はもう知ってるだろうけど、良太郎さんやモモタロスさん達だって、すっごく強いんだから」

「・・・・・・いえ、やっぱり行きます。なんか、このままだとモヤモヤして嫌ですし」



その言葉に、僕達は顔を見合わせて・・・・・・頷き合った。



「んじゃ、一緒に行こうか。とりあえずターミナル出てからなら、すぐに家に返してあげられるし」

「恭文、ありがとっ!! ・・・・・・でも、いいの?」

「いいよ。あむが言って聞かないのは、この数ヶ月でやんなるくらいに知ってるし」



アレとかコレとかでかなりね。



「それ、恭文に言われたくない。なんか嫌だ」

「それどういう意味っ!?」

「だって、恭文の方が色々やらかしてるじゃんっ! あたしの知ってるだけでも相当っ!!」

「気のせいだよ」

「気のせいじゃないよっ!!」










・・・・・・というわけで、僕達はそのままターミナルに向かう事になった。





ただ・・・・・・事態はすぐに動く事になった。てゆうか、動いてた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・フェイトさん」



あ、はい。なんでしょうか、良太郎さん。



「あのあむちゃんって子、恭文君とすごく仲が良いんですね」





そう言いながら、みんなで見る。いつものように口喧嘩し出した二人を。



うーん、なんて言うか、今までそれほど意識してなかったけど、歌唄みたいに通じ合ってるのかな。年は離れてるけど、それでも。





「てゆうかよ、フラグ立ってねぇか?」



その言葉に、胸が苦しくなる。フ、フラグ・・・・・・立ってる、よね。



「あー、立ってるね。というか恭文、フェイトさんが居るのにまた別の女の子を釣り上げて・・・・・・」

「アレやろ、フェイト嬢ちゃんと付き合うようになって、男が上がったんやないか?」

「あー、そういうのありがちだよね。でも、さすがにアレは・・・・・・」

「みなさん、残念ですが更に上のレベルになっている人が居ます。というより、『第三夫人になりたい』とか『キスしたり付き合ってもいい』と平然と言い放っています」



ディードの言葉に思い出す。・・・・・・私、あの時勝っててよかったよ。そうじゃなかったら、本当に攻勢が始まってただろうし。



『・・・・・・マジっ!?』

「マジです」

「フェイトさん、本当に離しちゃだめですよ。ちょっと油断したらすぐに取られちゃいますよ? 恭文君、やっぱり押しに弱いとこありますし」

「ハナちゃん、やっぱりそう思う?」

「かなり」










うん、頑張ろう。その・・・・・・第二夫人リインまでは認めるけど、第三夫人はダメ。絶対ダメ。





というか、取られたくない。ヤスフミは私の・・・・・・彼氏なんだから。





というわけで、ターミナルに着くまで腕をギューっとして、取られないようにした。そうしたら、ヤスフミはなんだか嬉しそうだったけど、全員呆れてた。





・・・・・・どうしてっ!?










≪当然でしょう≫

≪フェイトちゃん、ヤキモチ焼きさんなの≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・ゆっくりと、ターゲットに向かって忍び寄っていたら、突然世界が変わった。





そう、変わった。世界そのものが変わった。空は薄暗くなり、幾何学色になる。そして、辺りから人の気配が消えた。





なんだ、これは?










「お前らを閉じ込める檻だよ」





その声は・・・・・・俺達の真横から。そこにはいつの間にか影が出来ていた。



声は、一つ。だが、姿は二人。





「いきなり敵意むき出しで襲撃かけようなんざ、感心しねぇな」

≪私達が教育してあげましょう。主に、そうするとどういう報いを受けるかという点について≫





長脇差を両手に持った小さい髪の長いのが一人と、やけにけばったい色をした女が一人。



その声に、俺達は姿を現す。どちらにしろ、バレているなら姿を隠すのは無意味だ。





「・・・・・・お前達、たまごを拾っただろ? 素直に渡せば、命だけは助けてやる」

「またお決まりのセリフね」



答えたのは、オレンジ色の髪の女。一目見ただけで分かった。コイツら、ただの素人ではない。

戦闘者としての完成度・・・・・・中々の物だ。



「でも、お生憎様。私達、アンタ達みたいな怪しい奴・・・・・・てゆうか、イマジンとかその類との交渉する気なんて、ないの」



ほう、イマジンの事を知っているのか。中々におもしろい連中だ。やはり、ただのねずみではないらしい。

だが、少々間違えているな。



「俺達はイマジンなどではない」

「へぇ、じゃあなんだってんだ」

「俺達は・・・・・・こういう者だ」










そのまま、俺は右手を上にかざす。そこに黒い光が集まり、黒木添えの刀が出てくる。それを逆手に掴む。










「変身」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



賊は、気持ち悪い顔したゾンビみたいなのが沢山。で、リーダー格と思われるのは、その中心に居たやせこけた壮年の男。黒い煤けたコートを着てる。





俺とティアナさんが警戒を緩めずにそいつらと向き合っていると・・・・・・そいつはこう呟いた。










「変身」





刀から黒い光が溢れ、そいつを包みこむ。そうして構築されたのは、刺々しい、獣のような鎧。だけど、顔は見えない。



これまた黒い色の三度笠を被り、まるでどこぞの任侠物・・・・・・じゃないな、渡世人のような風貌になった。そしてそのまま、刀を構えた。





「変身、した?」

「・・・・・・いつぞやの鬼と同じってわけか」





いつぞやの鬼も、電王でもなんでもないのに変身形態を取った。原因は、時間の歪みによるもの。やっぱ間違い無い。時間の歪みが起きてるんだ。



だから、コイツは平然と・・・・・・禍々しい殺気を俺達に向けてる。



それに、俺はビルトを構え、ティアナさんはクロスミラージュを構えた。





「恭太郎、前任せたわよ」

「了解」










そのまま、俺は・・・・・・飛び出した。





油断は出来ない。容赦なく、叩き潰す。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ん・・・・・・」



声がした。それは、テーブルの上の布団の女の子から。

その子はそのまま起き上がる。



「ここ・・・・・・は?」



そうして、周りを見渡す。



「お、ようやく起きたか」



赤鬼がアップになる。



「や、お姫様。お目覚めの気分はどう?」



で、青い亀もアップになる。



「うーん、見た所は元気そうやな」

「ねね、君名前は? というかというか、どこから来たのかなー」



金色の熊や紫の竜もアップになる。

なので、当然のように・・・・・・。



「ひ・・・・・・! い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



叫び声を上げて、泣き出すわけですよ。・・・・・・止める間もなかったし。

とにかく、僕はその子を指差し戸惑っているみんなのところへ行く。フェイトに腕を抱き締められながら。



「あぁもう、だめだな先輩は。女の子怖がらせるなんて、最低だよ?」

「ちょ、俺かよっ! てゆうか、今のはお前らもだろっ!? なんで俺だけ」

「なに言うてんのや。俺の男っぷり見て怖がるはずないやろ」

「そうだよー! モモタロスなんかと一緒にしないでー!?」



それに、モモタロスさん以外の全員が『うんうん』と頷く。



「待て小僧っ! てめぇ、そりゃどういう意味だっ!?」

「あー、はいはいっ! アンタ達はもう黙ってなさいっ!! てゆうか、普通に全員怖いのよっ!? マジで自分達がイマジンだってこと、完全に忘れてるでしょっ!!」

「「「そんなー! これ、良太郎のイメージなのにっ!!」」」

「え、僕のせいなのっ!? だ、大丈夫だよっ! みんなかっこいいしっ!!」



とにかく、タロスズな方々には一旦下がってもらって、僕とフェイト、ハナさんと良太郎さんが対処する。あむとスバルは、遠巻きに事態を見てる。



「・・・・・・えっと、ここは」

「・・・・・・・・・・・・恭文おじいさんにフェイトおばあさんっ!!」



そうそう、僕達おじいさんにおばあさん・・・・・・え?



「あ、ここよく見たらデンライナー・・・・・・それに、良太郎さんにスバルさんもっ!!
・・・・・・あれ、でも・・・・・・なんだか若いですね。変身魔法使ってるんですか?」

「あの、ちょっと待って? 君、僕達のこと知ってるのかな」

「はい。・・・・・・あ、もしかして。あの、今って何年ですか?」

「今は2010年だけど」



その子は、その言葉に驚く。そして、ヘコんだ。



「うぅ、失敗した。やっぱり私、リインお姉様やアギトさんに咲耶みたいになれないんだ。
ダメダメデバイスもいいところだ。よく考えたら、デンライナーの中って・・・・・・転移場所も間違ってるし」

「あの、ごめん。落ち込んでるとこ悪いんだけど、ちゃんと話して。一体、何があったの? というか、誰なの?
僕やフェイトを『おじいさん』『おばあさん』とか言ったり、良太郎さんやスバルだけじゃなくて、咲耶やリインにアギトの事まで知ってるなんて」



そこまで言って、気づいた。僕をおじいさん・・・・・・ちょうど、そんな風に呼ぶ人間が丁度三人居ることに。

ま、まさか・・・・・・まさか・・・・・・!!



「あ、そうですよね。この時代の皆さんだと、咲耶以外は分からないでしょうし。・・・・・・自己紹介が遅れました」



その子は、布団から出て、机の上に立ち上がるとペコリとお辞儀した。

薄い紫のフリフリのロングスカート・・・・・・というか、その色で統一されたゴスロリチックな服装とアクセサリーが印象的で、どこか不思議な感じがする。



「私、八神・A(アコース)・かえでをマイスターとし、彼女に付き従うユニゾンデバイス。リインフォースV(トライ)です。リースとお呼びください」

『リインフォース・・・・・・トライっ!?』

「しかも、マイスターが『八神・A・かえで』って・・・・・・もしかして、あなたのマイスターは、はやての孫なのっ!?」

「フェイトおばあさん、正解です」



うわぁ、奇数日に『こう・・・・・・ジェットコースター乗ってる気分なんよ』とかなんとか危ない比喩してるタヌキとヴェロッサさんの子作り、ちゃんと実を結んでたんだっ!!

というか、そこはいい。ビックリだけどいい。



「はい。あ、トライは誤字ではありませんので。かえでちゃんがレトロゲームのモンハンにあやかってつけてくれたんです」

≪あー、そこの報告は大事なの。未だに『クロスフォード』が正式名称なのに『クロフォード』が正しいって言う人も居るわけだしなの≫

「ジガン、その説明いらないから。あと、『なの』の使い方おかしいから。というか、ええと・・・・・・リース」

「はい」



とりあえず、もう一度質問だ。まだちゃんと聞けてない。

リインの妹として、あんまりに方向転換し過ぎだとか、そういうのは無しだ。



「リースは、どうしてデンライナーに?」

「・・・・・・あぁ、そうだ。みなさん、お願いします。マイスターかえでを・・・・・・かえでちゃんを、助けてください」




















(第34話へ続く)




















あとがき



古鉄≪さて、今回は久々におまけは無しです。というか、普通に書いてたら今回はおまけとか無しでシリアスな空気で終った方がすっきりするんじゃないかと思ったので、無しにしました。この辺りは劇場版的な感じですね。ここからタイトルコールが入るわけですよ≫

唯世「確かにこの締め方から電話相談室とかは書きにくいかも」

古鉄≪そんなわけで、とうとう始まった超・電王編、みなさんいかがだったでしょうか。なお、次回以降にあんな人やこんな人も登場します。
今回のあとがきのお相手は、古き鉄・アルトアイゼンと≫

唯世「今回のお話では最初から最後までクライマックスどころか出番が0な、辺里唯世です。・・・・・・というか、超・電王なの?」

古鉄≪当然です。目指すはまだ見ぬ超・電王二作目ですよ。作者やマスターが『きっとやってくれる、四部作までやるって噂が出てるから、きっとやってくれる』と期待しまくっているアレです≫





(だって、そういう噂本当にあるし)





唯世「そう言えば、その超・電王のDVDももうすぐ出るよね」

古鉄≪はい。2009年の10月なので、もうすぐですね。なお、多分ディレクターズカット版も出る・・・・・・はずです≫

唯世「・・・・・・そうだね、よくある商法だよね。まぁ、そこはともかく、今回のお話。
僕の消滅から始まって、謎のしゅごキャラに八神さんの孫・・・・・・え、孫っ!?」

古鉄≪あ、話してませんでしたっけ? 普通に孫とか出てますよ≫

唯世「そうなのっ!?」





(そう言えば、話してなかったような)





唯世「というか、孫ってなにっ!? デンライナーってなにっ!!」

古鉄≪その疑問は、次回のおまけで明かされることでしょう。あと、本編でもですね。というわけで、本日のお相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫

唯世「ほ、辺里唯世でした。というかあの・・・・・・これ、どういうことー!?」










(そんな叫びをマイクに捕らえつつ、カメラはフェードアウトする。
本日のED:AAA・DEN-OForm『Climax Jump Ver.Rider Chips』)




















古鉄≪さぁ全国のみんなー! 今日も元気に、アルトアイゼン体操始めるよー!!≫

恭文「・・・・・・」

フェイト「・・・・・・」

古鉄≪どうしたんですか? ほら、踊ってくださいよ≫

恭文「踊れるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ! つーか、普通に人気あるからって乗っかるのはやめんかいっ!!」

フェイト「そうだよっ! というか、この衣装恥ずかしいよっ!!」

古鉄≪なに言ってるんですか。銀魂のアニメでやってましたよ?≫

恭文「アレだって踊ってないでしょうがっ!!」










(おしまい)





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あきゅろす。
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