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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第32話 『真実の魔法の時間』



ラン・ミキ・スゥ『しゅごしゅごー♪』

ラン「というわけで、ドキっとスタートドキたまタイムー!!」

ミキ「今回は前回の続き。ガーディアンと拓也君のマジックショーは上手くいくのか。そして、ゼロはどうなるのか」

スゥ「というかというか、何気にそれだけでは終らない予感ですぅ」





(立ち上がった画面に映るのは、黒のシルクハットに、トランプ柄の覆面をかけた小さい子)





スゥ「さぁ、がんばるですよー。今度こそ恭文さんとキャラなりですぅ」

ミキ「スゥ、すっごいやる気だね」

ラン「まぁ、そういうのも含めて・・・・・・」





(全員、両手を前に持っていき、ハートマークを作る)





ラン・ミキ・スゥ『ドッキドキっ!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・本日の天気は快晴。突然の雨の心配も無いとのことなので、僕とリインも、ガーディアンの皆も拓也も安心。





そう、今日は・・・・・・色々な協力の元で建てられた特設ステージで、いよいよショーである。










『・・・・・・・・・・・・・・・みんなー! ゼロって知ってるかなー!?』

『知ってまーすっ!!』





今日は、放課後にやるガーディアン主催の特別ライブということになっている。なお、生徒の皆へは詳細は一切不明。



なので、ややのそんな前説に首を傾げつつも、生徒達は元気良く声を上げて返事をする。ガーディアンのイベントということで、やっぱり皆期待しているようだ。





『でもねー。ゼロよりもすっごいマジシャンが居るんだー。というか、ライバル? そうだよね、リインちゃん』

『ですです、もうすっごいライバルなのですよー』





ライバルもいいとこだよね。だって、同一人物なんだから。





『実はその人が、今日来てくれてるのー』





全員が疑問の声を上げる。だから・・・・・・





『嘘だと思うなら、あれを見なさいっ!!』





りまはそう声を上げて、上を指差す。それは、学校校舎の屋上。



生徒の皆がそこを見る。そこの縁際に堂々と立っているのは、白いマントにタキシードにシルクハット。サングラス型の白い仮面。そのハットには、『S』の文字。



瞬間、その子が煙に包まれ、姿を消した。それから、僕達が居る特設ステージの上に同じ色の煙がボンと音を立てて発生。その中から・・・・・・出てきた。白装束の子が。



そう、その子はさっきまで屋上に居た子。全員がもう一度屋上を見る。屋上には、もう誰も居なかった。そう、一瞬でココまで移動して来た。



・・・・・・という、マジック。





「私の名はシャイニング・ゼロっ! 光のマジックと共に参上っ!!」

『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』





生徒の皆観客が声を上げる。それは歓声。きっと拓也が望んでいたもの。だからかな、仮面越しにも嬉しそうな表情が見える。



・・・・・・うん、掴みはオッケーだ。あむ、いい感じだよ、これ。





”でも、拓也さんすごいですね。普通に一流マジシャン張りのマジックじゃないですか”

”これだけでも充分食べていけるって。普通に生きていけるって。うーん、これは予想外だった”





なお、今のマジックのネタは実に簡単。あの屋上に居たシャイニングゼロ白服の正体は、あむ。りまが指差し、皆があむを見る。皆が屋上のあむに気を取られている間に、シャイニング・ゼロ拓也が登場という寸法である。





”一箇所に観客の視線を集めて、その隙に別のところにマジックの種を仕掛ける。マジックの基本手段ですね”

”そうだね”





ただ、僕やリイン、あむ達がネタが分かってるのは、今みたいな僕達の協力が必要な、大掛かりなマジックに限り。



ほとんどのマジックは拓也任せなので、どうなるのか実に楽しみだったりする。





”マスター、リインさん”

”なに?”

”本当の魔法の時間、しっかり楽しませてもらいましょうか”

”・・・・・・うん、そうだね”

”きっと、楽しくなるですよ。うーん、ワクワクなのです”










そうして、始まる。





そう、正真正銘・・・・・・拓也が巻き起こす魔法の時間が。




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご


第32話 『真実の魔法の時間』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・そこから、マジックショーは実に快調。拓也は飛ばしに飛ばしまくっていた。





というか、僕もみんなも非常に驚いていた。拓也のマジックは、小学生が出来るレベルを明らかに超えた物だった。





まず、バレーボールに布をかけて、そこからハトを大量に出したりとか。





箱の中にお菓子を入れて、それを大量に増やしたりとか。





あと、トランプやボールマジックもだ。トランプがまるで生き物のように宙に浮き、拓也の手の平で踊ったり、ピンポン球サイズのボール一個が何個にも増えたり、また一個に戻ったり。





観客の視線が集まる。それを受け止めて、拓也は本当に嬉しそうに笑っている。観客のみんなも笑顔で居る。





そう、魔法の時間はここに確かに存在していた。






それだけでなく、大掛かりなマジックも最後にやった。僕達の身長より大きいトランプで囲いを作り、シャイニング・ゼロが指を鳴らす。

右手がパチンと音を立ててトランプが倒れて囲いが無くなると、その中には女の子が一人。

ピンク色の髪にハート型の髪飾り・・・・・・え、ハート型? なんでバッテンじゃないのさ。










「みんなー! キラキラのラブマジック、届いたかなー!?」





その子は振り向いて、笑顔を振りまきながらみんなに言葉をかける。



キャ、キャラチェンジしてやがる。普通にキャラチェンジしてやがるし。僕はビックリなんですけど。





『とどいたー!!』

「えー、シャイニング・ゼロ&ガーディアンズでしたー! みんな、付き合ってくれてありがとー!!」










本当に、あっさりし過ぎてビックリするくらいに、平穏無事にショーは終った。成功か失敗かは、考えるまでも無い。





観客である生徒のみんなの輝いた瞳と、笑顔を見れば、一目瞭然である。





あと、シャイニング・ゼロ拓也だね。本当に、なんか楽しそうだもの。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで、放課後。会場の後片付けをしてから、僕達はガーディアンでお疲れ様会。まぁ、拓也はこの後仕事があるから、簡単になんだけど。





とにもかくにも、まずはこの一言である。










『かんぱーいっ!!』





ジュースを入れたグラスをカチンと合わせて、楽しくお話である。



いや、でも真面目に上手くいってよかったよかった。実はどうなることかと結構ビクビクしてたんだけど。





「拓也さん、今日はどうでした?」

「はい。あの・・・・・・本当にありがとうございました。一日限定キャラ、とっても楽しかったです」



そう言って、拓也が頭を下げる。それに皆は、恥ずかしがるようにはにかむ。僕も、一応そんな感じ。感じ・・・・・・なんだけど、ちょっと困ってしまった。

だって、根本的な問題の解決策というわけではないから。そこは、多分変わらない。



「でも、盛り上がったねー」



まぁ、そこは見せずにこんなことを言う。これでもどっかの豆芝や横馬よりは空気が読める方なのだ。



「盛り上がりましたねー。ただ・・・・・・」

「盛り下がっているのが一名いるけどね」



全員が、見る。隅で蹲って落ち込んでいる子を。



「・・・・・・ありえない、ありえない。キャラチェンジすれば緊張しないって思ってたのに。なにさ、キラキラのラブマジックって」



そう、あむだ。例のアレでそうとうヘコんでいる。どうやら、ランが暴走したとかじゃなくて、頼んでやったらしい。

そういや、人前に出て話すの苦手とかって言ってたしなぁ。仕方ないのかも。だから・・・・・・トドメを刺す。



「あむ、大丈夫。僕はとっても笑わせてもらったから」





僕の言葉にあむは肩と背中をビクっと震わせて、そのまま頭をかきむしり始めた。





「うわぁぁぁぁぁぁぁっ! あたしのバカァァァァァァァァァァァァァッ!!」

「ひ、日奈森さん落ち着いてっ!? 大丈夫、大丈夫だからっ!!」





うーん、あむをいじめるのは楽しいなぁ。反応が新鮮でついついやり過ぎちゃう。



まぁ、ここはいいでしょ。どうせすぐに復活するし。とりあえず、拓也に視線を向ける。





「というかさ、拓也」

「はい?」

「お礼を言うのはこっちだよ。すごいマジックいくつも見せてもらったしね。うん、すごかった」





バレーボールがハトに変わるのとか、お菓子がいっぱい出てくるのとかどうしてるんだろ。

あー、そういやトランプはどうしてるんだろ。ボールはそういう事が出来る素材のものがあるってのは知ってるんだけど。

あとあと、ステッキがハンカチに変わって戻るのとか、どうなってんだろ。



あー、魔導師だけど考えただけで興味出てくるしワクワクするー。





「というか、蒼凪先輩、なんだか楽しそうですね」

「そう?」

「あ、そう言えばそうだね。恭文、今日は朝からご機嫌な感じだったし」

「やや、恭文は今日の朝からこんな感じよ? それはもうすっごく」



ややとりまに言われて、思い出す。そう言えば、今日の朝に出る時も、フェイトやシャーリー、ティアナにも言われたっけ。

ワクワクドキドキしてる楽しそうな顔だって。なんか嬉しそうに言われたので、ちょい恥ずかしかった。



「ふふ、恭文さんはこういうワクワクドキドキな事が大好きなのです。多分、ガーディアンの中で1番マジックを楽しんでたですよ?」

「子どもなのよ」

「クイーン、さすがにその言い方はどうなのかと」



いいのいいの。あー、楽しかったなぁ。マジック間近で見られるのは楽しかったなぁ。

うーん、これ定期的にやりたいなぁ。中々に見ごたえがあったし。



「あの、ありがとうございます。そう言ってもらえて、本当に嬉しいです。・・・・・・あぁ、本当に今日はいい日だなぁ。久々にアイツの声も聞けたし」

「アイツ?」



拓也の言葉に、僕も含めたガーディアンのメンバーは首をかしげる。それを見て拓也が、少し恥ずかしそうに笑うと、ぽつりぽつりと、話し出した。



「僕には、空想の友達が居たんです」



・・・・・・いきなりすごい話になった。まぁ、最後まで聞いてから判断しよう。拓也が14歳の病気に侵されているかどうかは、すぐに分かるはず。



「名前は、ゼロ。僕のマジシャンネームは、その子からもらってるんです」





拓也が言うには、マジックのショーに出る時、緊張した時に、その子は自分の側に現れて、励ましてくれたらしい。『スマイルスマイル』と言って、笑顔でいつでも応援してくれたとか。



ただ、自分が『ゼロ』になって、有名になって、笑えなくなってからその子が居なくなってしまったとか。・・・・・・えっと、もしかしてもしかしなくてもそのゼロって子は





「しゅごキャラのようですね」





横の海里が小声で話してきた。僕はそれに頷く。多分だけど間違いない。この子、キャラ持ちだったんだ。

でも、あむや唯世達の横で浮かんでるランやキセキ達は見えていない。というか、話通りならその『ゼロ』も見えてない。

つまり、ゼロになったことでなりたい自分が分からなくなって・・・・・・自分のしゅごキャラが見えなくなった?



だから、声も聞こえないし、この子はまだまだ迷いまくってると。





「ですが、問題はないようです」

「え?」

「アレを」





海里が視線で指す。拓也以外の全員がそれに気づく。赤に黒のライン。真ん中にハート・スペード・クローバー・ダイヤのマークが付いたトランプの絵柄。

てゆうか、しゅごたま。それがパカリと開いて、中から少しだけ顔を出した子がいる。その子は、色合いこそ違うけど外見がゼロに近かった。

そして、小さく『シー』のポーズ。つまり、黙っていてという合図。それを見て僕達は・・・・・・黙ってる事にした。



意図は読めないけど、きっと必要なんでしょ。というか、いい傾向なのかも知れない。この子がこうやって姿を現したってことは、今日の事は無駄ってわけじゃないだろうから。





「・・・・・・拓也君」



ようやく復活したあむが声をかける。その声に拓也があむを見る。

そしてあむは微笑みながら、そのまま言葉を続けた。



「ゼロ、いつかまた見えるようになるといいね」

「・・・・・・はい」










少しだけ、重かったものが外れた。なんか、嬉しかったから。





ここから事態が好転してくれると、嬉しいんだけどね。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



拓也が仕事に行く時間になったので、僕達はお疲れ様会を終了。そのまま解散になった。





で、僕とリイン、ティアナとあむとりまは一緒に帰る。なお、ティアナはなんか所用で帰りが遅くなったとか。










「・・・・・・告白、断るの大変だったのよ」

「告白されたですかっ!?」

「そうなんですよ」





あぁ、そういうことですか。・・・・・・もうすぐ夜な時間、頭を抱えているティアナの表情が重い。



いつも帰り道に使う川原を歩きつつ、僕もリインもあむもりまも、何も言えなかった。





「でも、誰に告白されたの?」

「あぁ、中等部の空手部の主将よ。もう自分のどこが悪いのかとかなんとか言いまくって大変だったんだから。あー、それでさ」



・・・・・・ティアナ、どうして僕を見るのかな。なんでそんな申し訳なさそうな顔をするのかな。

歩きながら、背筋が冷たくなる感じがする。なんだろう、嫌な予感がする。



「向こうがいきなりアンタの名前出してきてさ、勝手に私とアンタが付き合ってるみたいな勘違いして、アンタを倒すとか言い出してるのよ」

「恭文をっ!? え、どうしてっ!!」

「あむ、分からないの? 学校の中でもガーディアンの一員である恭文と中等部で人気が高いティアナさんとのカップリング説は根強い噂になってるんだから」



どうもそうらしい。でも、普通にそういうの無いんだけどなぁ。ティアナとはパートナーではあるけど、恋愛感情は互いに0だし。

でもティアナ、それでなぜ止めてくれないのさ。



「いや、私も止めたわよ。止めたけど、相当思いこみが激しい奴らしくて、全然聞いてくれないの。なんていうか・・・・・・頑張って?」





つまり、空手部の主将にいきなり決闘申し込まれる可能性があると? 場合によっては闇討ちと?

うー、めんどくさい。てゆうか、普通に相手しても僕がつまんないじゃん。

まぁいい、相手して楽しいのが来る事を祈ろう。うん、結構本気で。



なので、ティアを見ながら、僕は右手の人差し指をピンと上に立てるのだ。





「・・・・・・ラーメン奢ってもらうよ? それも何回か」

「もちろんよ、それでどうにかなるならいくらでも奢るわ。あぁもう、なんで体育会系ってあんな一直線なのよ。私の話をマジで聞きやしないし」



どうやら、ティアナはそうとう大変だったらしい。もう頭痛いと言わんばかりの顔してるもの。

まぁ、そうだよね。大変だよね。だって、14歳の病気を発症している方々と同年代だもの。・・・・・・唯世や空海、海里はそんなことにならないで欲しいと、無駄と思いつつも願ってしまう。



「ティ、ティアナさん大変だったんですね」

「まぁね。試験間近だってのになんでこんな・・・・・・あー、でもどうしよう」

「まだ何かあるの?」

「いやさ、試験自体を受けるかどうか迷ってて」



なお、試験と言うのは当然のように執務官試験の事。・・・・・・え、それ受けるの迷ってるってどういうこと?



「ティアナさん、すごく頑張ってるわよね。夜遅くまで勉強もしてるみたいだし」

「まぁね。たださ、別に試験を受けないとか、執務官になるのをやめたとか、そう言う事じゃないのよ。
うん、それは絶対違う。私の中のたまごは、消えてるわけでもなんでもないんだから」



ティアナが少し俯いて、目を閉じながら、自分の胸にカバンを持っていない方の手・・・・・・右手を当てる。

きっと、見ているんだと思う。自分の中にあるこころのたまごを。



「・・・・・・イースターの事とかエンブリオの事とか、中途半端な状態で出てくのもどうかなとか、ちょっと考えちゃって。まだフェイトさん達には話してないんだけどね」

「関わるんなら、最後の最後まで通すべきかどうか迷ってるって感じかな」

「まぁ、そういうことね。それにさ、中学校生活ってのも、結構楽しいもんだから。
どうせなら、卒業しちゃいたいなとか、考えちゃって。これでも、友達とか居るのよ?」





それに、少し驚く。僕も同じ事を考えてたから。

歩きながら、そう話すティアナはどこか楽しそうで、離れる事に対して寂しさも感じているように見えて・・・・・・。

どう、するかね。まぁ、ここで話してくれたってことは、多少なりとも相談してくれているのと同じ事だしね。



うし、しっかり相談に乗るか。





「まぁ、もうちょっと考えてみたら? フェイト・・・・・・は相談すると絶対に『自分達の事は気にしないで、試験を受けて欲しい』とか言い出すからここはよしとして」

「言うわね、確実に。一緒に暮らすようになってよくわかったわ」

「まぁ、だからって話をしないのはNGだから、フェイトにはまず相談する。だけど、それだけじゃ足りない。
シャーリーとかなのはとか、あとゲンヤさんとか、第三者寄りな考え方が出来て、ちゃんと相談に乗ってくれる人にも話してみなよ」





結局、ティアナがどうするかはティアナが決めることだもの。まぁ、試験を受けたからって必ず合格するとは限らない。試験自体の合格率が低いわけだし。

合格・・・・・・あれ? もしかしたらティアナ・・・・・・まぁ、ここは後々聞いてみるか。さすがに無いとは思うけど。

とにかく、話を戻そう。ティアナが今試験を受けずに、このまま中学生を続ける選択は、決してダメなことではないと思う。



今回の試験は無しにして、事態が解決するまで付き合うことに納得が出来るなら、それでもいいと思う。人生は長い散歩と誰かが言ってたし。その中で寄り道の一つや二つあってもいいでしょ。





「・・・・・・そっか。ね、それならアンタはどう思う?」

「僕?」

「うん」



僕か。うーん・・・・・・そうだな。

空を見る。闇に染まりつつある空を見ながら、考える。というか、思った。



「ティアナが居ないと、寂しくはあるかな」

「・・・・・・そっか」

「そうだよ。大事なパートナーが居なくなるのは、やっぱ寂しい。僕達、なんだかんだで相性いいみたいだしさ」

「そうね。うん、それは私も思ってる」



嬉しそうに笑って、頭を撫でる。



「だから、アンタの事・・・・・・好き、だしね。あくまでもパートナーとしてだけど」



そっか、そう言ってくれるのは嬉しい。僕もティアナの事好きだし。

・・・・・・あの、でも子ども扱いはやめてもらえます? 僕、あなたより年上なんですけど。



「いいのよ。だって、私に身長抜かされてるんだし」

「言うなー」



そう、この1年で大分身長が抜かされてる。前はほぼ同じ感じだったのに、今は顔半分くらいの差がある。

というか、見てるとスタイルもよくなった。六課卒業から一転してティアナは巨乳キャラになったのだ。それもスバルやフェイト張り。



「・・・・・・アンタ、今セクハラめいたこと考えなかった?」



その言葉に一瞬呼吸が止まる。でも、そこは見せずに変わらずに僕の頭を撫で続けるティアナに笑いかける。



「いや、特に」

「そう? ・・・・・・おかしいわね。なんかそんな雰囲気がしてたんだけど」



な、なぜわかるっ!? この人たまに怖いんですけどっ!!



「あははは、ティアナさんなんかすごいなぁ。でも、恭文はそのうち、あたしにも身長抜かされるね。今で同じくらいだしさ」

「私にもね」

「だから言うなー!!」





こ、こいつらー! 身長で男の価値は決まらないんだぞっ!? 普通に僕は心がデカイんだからっ!!





「大丈夫です。リインは、今くらいの身長の恭文さんがお好みなのです。今の身長だと、リインがちょっと背伸びして『チュッ』って出来ますし」

「そういうことでもないからー! そして『チュッ』はしないからー!!」

「恭文さん、大丈夫ですぅ。スゥは、恭文さんの身長が低いからって、嫌いになったりしませんよぉ? スゥは、いつだって恭文さんの現地妻7号として応援を」

「そしてそれはもっと違うからっ! あとそのアホな称号は今すぐ捨て去ってくれないかなっ!? スゥ、絶対その言葉の意味を間違えて捉えてるからっ!!」





なんて話してると、僕の携帯端末が鳴った。この着信音は・・・・・・フェイトだ。



歩きながら、懐から端末を取り出して、通話を繋ぐ。





「もしもしフェイト?」

『あ、ヤスフミっ!? あの、大変なのっ!!』



また慌てた声で・・・・・・何かあった?



『あったなかったじゃないのっ! ゼロが・・・・・・ゼロがテレビに出てたのっ!!』



・・・・・・はい?



「いやいや、フェイト。ちょっと待って? ゼロがテレビに出てるのはふつうじゃないのさ」



まずい、天然具合がひどくなったのかな。でも、僕は特に昨日はいじめたりとかしてないし・・・・・・。



『それが普通じゃないのっ! ゼロが出てたの、お昼の生放送の番組なんだからっ!!』



いや、だからゼロはテレビでマジ・・・・・・・・・・・・ちょっと待って。

お昼? 生放送? それ、どういうこと?



「フェイト、なんでゼロが生放送の番組に? それ、一体どういうこと」



ゼロのマジックはインチキ。生放送なんかしたら、バレるはずなのに。

現に、ちょっと調べたらゼロが出てマジックを披露した番組は、大半が収録物だったし。



『あの、マジックをしたとかじゃないの。冴木のぶ子さんのトーク番組で、今度出る番組について話をしただけなんだ。
ただ・・・・・・ヤスフミ、お昼の3時くらいにこの間話してくれたその子って、学校に居たよね』





今フェイトが僕に聞いてきた事こそが、居た居ないの問題じゃない。

その頃は丁度マジックの真っ最中だ。あむが『キラキラのラブマジック』とかなんとか言ってた頃だ。

ゼロ・・・・・・拓也本人が生放送になんて出れるはずがない。つまり、そのテレビに出てたゼロは拓也本人じゃない。



そして、僕達は拓也からそんな話は一切聞いてない。





「恭文、どうしたの? なんか顔色悪いよ」





ティアナに言われて気づく。そうだ、血の気が少し引いてる。



そして、気づいた。この話を聞いて、僕の数倍血の気が引く人間が居る事に。





「・・・・・・ティアナ。りまを連れて、先帰ってて。あむ、リイン、ちょっと付き合って」

「それはいいけど・・・・・・どうしたのよ、いきなり」

「ごめん、話は後っ! とにかく行くよっ!!」

「え・・・・・・あの、恭文っ!?」










そのまま、今まで歩いてきた道を全力で走って戻る。やばい。これは絶対にやばい。下手すればまた何か起こる。





くそ、まさか恐れてた事態がこんな簡単に起きるとは。まさか学校でのショーが・・・・・・いや、それならショーの真っ最中にこんなことになるはずがない。つまり、元々計画にあった。





あぁもう、芸能界はゆかりさん(イースターVer)の量産型で占められてるわけ? いくらなんでも見切り良過ぎでしょ。










「フェイトごめん、帰り遅くなる。これから、あむとリインと一緒にちょっと拓也のとこに行って来る。
それで場合によっては・・・・・・ちょっと暴れてくる事になるかも」

『わかった、気をつけてね。でもヤスフミ、これってやっぱり・・・・・・』

「うん、拓也・・・・・・切り捨てられたんだと思う」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・え、クビってどういうことですかっ!?」

「どういうこともこういうこともないよ。CGを使う以上、ゼロが覆面キャラクターである以上、マジシャンなんて誰でもいいんだ。ぶっちゃけ、マジックなんて出来なくても問題無い。
だから、もっと素直に言う事を聞く子役タレントを使って、二代目ゼロを立ち上げることにしたから。というか、もう立ち上げてる。君・・・・・・もういらないんだよ」

「そんな・・・・・・!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とりあえず、拓也が仕事をすると言うテレビ局の近くまで来た。帰宅組な大人達の波を掻い潜り、僕達はひたすら前に進む。





あむとキャンディーズのみんな、リインには、移動しながら事情を説明した。





だから、みんな・・・・・・とっても不機嫌顔。日はもう落ちて、なんだかんだで気温も涼しい感じなのに、みんなの頭の中はヒートアップしまくってる。










「・・・・・・恭文、それマジなの?」

「フェイトがゼロと何かを見間違えてなければ、マジ」

「うー、いつかこうなるんじゃないかとは思ってたですけど、いくらなんでも早すぎです。もうちょっと空気読むですよ。今日がどんな日だったか、絶対分かってないです」

「そうだね、さすがに・・・・・・ちょっと待って。リインちゃん、『こうなるんじゃないかと思ってた』ってどういうこと?」



夜の街の中で、拓也を探す。探すけど、見えない。・・・・・・携帯もかけたけど通じないし、これはマジでヤバイかも。

うー、出来れば思い過ごしであって欲しい。僕のおちゃめな勘違いであって欲しい。



「いいですか? ゼロは覆面のキャラクター。正体が不明な事を売りにしているマジシャンです。
本当に正体を知っている人間はともかく、それ以外の人からすれば、誰が中身か分かりません」

「それはわかるよ。でも、それがこれとどう繋がるの?」

「いいですか? 正体が分からないという事はつまり・・・・・・拓也さんと体型や年の頃が似てる子が、いつの間にか『ゼロ』にすり変わっていても、業界関係者とかはともかく、テレビから見ている人間はまず気づかないんです」



あむとキャンディーズの表情がハッとしたものになる。言いたい事、気づいてくれたらしい。説明が面倒にならなくて助かる。

そう、ここが僕とリイン、アルトが危惧していたこと。それも結構最初の段階で。



「その上、ショーはCGと編集を用いたインチキ。拓也の話通りなら、マジックらしいことは一切していない。
・・・・・・ゼロが拓也でなきゃいけないなんて理由も、優位性も、実の所これっぽっちもないんだよ」





ようするに、ゼロという人物の中身は、誰でもいいのだ。これでマジなマジックをしてればまた違ったかも知れない。

だって、拓也のマジックは素人の僕から見ても一級品レベルなんだから。

だけど、そうじゃない。事務所が売ってるのは拓也であって拓也じゃない。



売っているのは、ゼロというキャラクター。拓也が正体を隠してまで、自分の大事な友達ゼロが見えなくなってまで着ている、被り物のキャラクターなんだから。





「多分、元々この活動方法に不満を持っていた拓也を切って、別の適当なのを二代目に置いたんでしょ。だから、昼間のテレビにゼロが生放送で出てた」





こう考えると辻褄が合う。そして、拓也がこの事を知っていた可能性は・・・・・・多分無い。



だって、直前まで本当にうきうきした顔で舞台に出るのを楽しみにしてたんだから。あの表情からそれは考え辛い。





「そんな・・・・・・! もしかして、あたし達に拓也君に不用意にゼロを辞めろとか言うのはやめるようにって言ってたの、それが理由っ!? 言ったら、拓也君は本当にゼロじゃなくなっちゃうからっ!!」

「そうだよ」



夜の街を小走りに駆け抜ける。抜けながら、探す。・・・・・・アルト、サーチお願い。こりゃ早めに見つけないとやばい感じがする。



”了解しました”



とにかく、すぐに拓也を見つけて・・・・・・あぁもう、どう話せばいいのか。



「ちょっと待ってよっ! てゆうか、二人共それを知っててどうして黙ってたのっ!?」

「・・・・・・話してどうなった?」



あむを見て言う。あむの言葉が止まった。



「この話をあむ達に・・・・・・違うな。拓也にして、どうなったの?」



・・・・・・視線が強かったのかも知れない。あむが少し引いて固まったから。



「・・・・・・どうにも、ならなかったよね。分かってる。ごめん、あたし分かってる。だけど・・・・・・こう、どうしても納得出来なくて」

「いいよ。僕だって、同じだ。だから・・・・・・余計にね」

「そっか。でもさ、そういうの・・・・・・あんまり無し」



どうして?



「あたし達、友達で仲間でしょ? 恭文だけがめんどくさいの背負うの、見てらんない。てゆうか、恭文は本心隠し過ぎ。いいんちょの時もそうだったじゃん。
なにかあると、すぐに自分だけでなんとかしようとするし。・・・・・・もうちょっと、頼って欲しいな。あたしやガーディアンの皆だけの話じゃ無くて、フェイトさんとかに対してもだよ」

「そっか。まぁ、考えておくよ」

「うん、それでいいよ。今のは、あたしも悪かったし。確かにさ、あたし達はともかく、拓也君にこんな話しても、仕方ないよね。きっと、更に追い詰めるだけだったろうし」

「・・・・・・うん」



まぁ、ここはいい。あむは納得してくれたから。

とにかく拓也のことだ。・・・・・・アルト、どう?



”反応、捕まえました。この近くの公園です。ですが・・・・・・”

”どうしたの?”

”マスター、覚悟しておいた方がいいですよ。まずいことになってます”



・・・・・・やっぱりかい。



「あむちゃんあむちゃんっ!!」

「ラン、どうしたの?」

「×たま・・・・・・ううん、×キャラの気配がするっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



あむとリインを連れて、アルトとキャンディーズに案内された公園に到着。到着して・・・・・・驚いた。





ブランコやジャングルジム、滑り台が破壊されている。そして、それに黒い布がかけられ、一瞬で修復される。そんなことを何度も繰り返していた。










『マジィィィィィィィィィィィィィィクッ!!』










一人の・・・・・・黒い魔術師によって。










「・・・・・・×キャラっ!!」

「もしかしなくても、ゼロに×がついちゃったですかっ!? というか、拓也さん居るですっ!!」



そう、リインの言うように、拓也がベンチの近くに倒れていた。



「あぁもう、やっぱりこういうことになってたかっ! リインっ!!」

「大丈夫です、結界張りましたっ! 邪魔は入らないですっ!!」

「うし、いい子だっ! あむっ!!」

「うんっ!!」




とにかく、キャラなりして・・・・・・という時に、攻撃が飛んできた。

それは、黒いカードの束。



『ブラック・・・・・・マジィィィィィィィィクッ!!』



それがホーミング弾の如く、僕とあむに飛ぶ。それを僕は左に、あむは右に飛んで回避。

地面に着弾し、穴を開け・・・・・・って、危ないわボケっ! 普通に攻撃だしっ!!



『1・・・・・・2・・・・・・3・・・・・・』





・・・・・・なんか妙なカウントをし出した。左手には黒いステッキ。



なんとなしに嫌な予感がした。なのでそれを止めるために、僕は左手から魔法を発動。



使うのは、当然コレ。





≪Stinger Ray≫





放った光の弾丸は、真っ直ぐに闇を斬り裂き×キャラへ向かう。向かって・・・・・・消えた。



原因は当然×キャラ。カードの束を展開して防御した。ふ、普通にあんなことまで出来るんかい。





『ハイッ!!』





そして、『詠唱』は完了した。ステッキの先を、僕に・・・・・・いや、僕はその先からもう居なくなってる。向けたのは、その延長線上にいたリイン。



リインの目からハイライトが消えて、うつろな目で倒れる。





「リインっ!!」



そして次の瞬間、スクっと立ち上がって、一声鳴いた。



「・・・・・・にゃーん」

「「・・・・・・え?」」



そのまま、猫のように顔を洗い出し・・・・・・てゆうか、猫だよ猫っ! 普通に猫になってるー!!



≪あなた、何時の間にそういうプレイを要求したんですか? まったく、鬼畜ですね≫

「僕のせいじゃないしっ! お願いだから状況を見て発言してっ!?」



ま、まさかこれ・・・・・・催眠術っ!? それもゼロの時とは違う、インチキなんかじゃないマジもんっ!!



「リインちゃんっ! お願いだから正気に戻ってー!!」

「にゃおーん♪」



そう言って、あむの方に笑顔で走りより・・・・・・。



「じゃれつこうとするなぁぁぁぁぁっ!!」



あぁもう、この状況でなんつうヤバイ能力を・・・・・・!!

これで僕達まで催眠術これにかかったら、アウトじゃないのさっ!!



「リインちゃんっ! お願いだからしっかりしてー!!」

『クスクスクス・・・・・・』





・・・・・・やばい、あむっ! リインのことはともかく×キャラに集中してっ!!





「え?」

『1』




再びカウントが始まった。





『2』





それも、今度はさっきよりも早く。・・・・・・まずい。





『3・・・・・・!』





あむのフォロー、これじゃあ出来ないっ! カウントを止めるのもムリっ!!





『ハイッ!!』





そうして、×キャラはステッキを振り回した。その瞬間、意識が全て持っていかれるような感覚に襲われる。

あむは倒れ、僕は崩れ落ちる。それに×キャラは満足そうな表情を浮かべる。

それだけじゃなく、リインが煙に包まれてそのまま姿を消した。・・・・・・つまり、マジックで消された。



あむは起き上がって、一声こう鳴く。





「・・・・・・わおーんっ!!」






どうやら、犬になったらしい。





『クスクスクスクス・・・・・・』

「何がおかしい」

『マジッ!?』





そのまま起き上がる。起き上がって・・・・・・ニヤリと笑う。





「残念だったな。そんなマジックお遊びじゃ、僕は止められねぇよ」





身体からあふれ出るのは力。それは、殺気と言う一つの形になって、周辺に放出される。



まさか、×キャラ相手に修羅モードのスイッチ入れる羽目になるとは・・・・・・まぁいい。油断したら簡単に潰される。ここからは、マジだ。





『・・・・・・1・2・3ッ!!』





再びステッキの先が僕に向く。感覚が再びさっきの感覚に襲われる。



襲われるけど・・・・・・。





「無駄っつってんだろっ!!」





声と共に、それを吹き飛ばす。そう、こんなの通用しない。



もう、鎖は解いてる。催眠術も、暗示も、洗脳も吹き飛ばす獣は、既に解き放たれた。





「恭文っ!!」



・・・・・・あ、ラン達は平気なんだ。なんか近寄ってきたし。



「恭文さんの殺気で目が覚めたですぅ。というか・・・・・・近寄れませんー」



あぁ、そうだね。分かってたよっ! なんかすっごい距離取られてるしさっ!!



「でもー! どうして平気なのー!?」

「ランー!? そんな距離を取って」



再び×キャラから攻撃が飛ぶ。それは、黒いボール達。一つだったそれは、一気に数を増し、弾幕となって僕に迫る。

回避・・・・・・だめだ。てゆうか、する必要が無い。だから僕は



「話さないでもらえるー!?」



アルトをセットアップして、抜き撃ちで横薙ぎに一閃。



「正直、傷つくっ!!」



銀の閃光は闇を、そして黒いボール達を全て斬り裂いた。



『ムリィィィッ!?』

「・・・・・・さて、僕の大事なパートナーと友達を犬と猫にしてくれたし、礼はたっぷりしてやるよ」

(・・・・・・もう、だめだ)



踏み込もうとした時、声が聞こえた。×キャラの隣に、うっすらと拓也の幻覚が見える。

頭を抱え、苦悶の表情で全てから目を逸らし、心を閉ざしてる。見て、それが分かった。



(みんなが必要としてるのは、マジックなんかじゃない。派手なショーなんだ。
マジックなんてつまらないものは見たく無いんだ。だから、僕は・・・・・・僕は、いらないんだ)

「じょう・・・・・・だん」



声がした。それに驚き、僕も×キャラもそちらを見る。そこには、あむが居た。

さっきまでワンコのポーズを取って座ってたのに、それを解除して立ち上がってた。




「だったら・・・・・・あの時の笑顔、なんなわけ?」



うそ、まさか・・・・・・自力で暗示を解いたっ!?



「拓也君のマジックはつまらない物なんかじゃないっ! それならさ、あの時・・・・・・それマジックを見てくれたみんなが笑顔になってたのは、なんなわけっ!? それになにより、拓也君自身の笑顔っ! 一体、アレはなんなわけっ!?」



その言葉に、拓也が抱えていた頭を外し、あむを見る。×キャラも、少しひるむ。

あむはそのまま、真っ直ぐに瞳を開いて、×キャラを・・・・・・拓也を見つめる。その強さに、揺らぎや迷いは無い。



「あたしだって、恭文だって、拓也君のマジックで笑顔になれたっ! 拓也君の作った魔法の時間で、笑顔になれたんだよっ!?」

(違う・・・・・・違う違う違う。もういい、もういいから)

「よくないっ! 分からないみたいだからもう一度言うよっ!? 自分や、皆を笑顔に出来るものが、つまらない物なわけないじゃんっ! ゼロのやってたインチキよりずっと素敵じゃんっ!!」



もう、そこにさっきまでのワンコキャラは居ない。うん、いつも通りのマジな時のあむだ。



「みんなをキラキラの笑顔にして、自分も笑顔になれる・・・・・・拓也君のマジックは、正真正銘の魔法だよっ!!」



・・・・・・またビシっと決めちゃって。なんだいなんだい、僕の出番がないじゃないのさ。

ま、いいか。こう来たら・・・・・・あとはやるだけだ。



「ミキ、行くよっ! ・・・・・・あたしのこころ」



そして、あむは鍵を開けた。その隣にはミキ・・・・・・って、あれ?



「アンロックっ!!」





青い光に包まれ、ミキがたまごの殻の中に入り、あむの中に吸い込まれる。そうして姿を変えた。



もう見慣れた青い帽子に服。スペードのアクセサリー。胸元には青く輝くハンプティロック。そして、名乗りを上げる。





【「キャラなりっ! アミュレットスペードっ!!」】





でも、なんだろ。なんかこう・・・・・・違和感が。



あれ、なんで僕こんなおかしいとか思ってるんだろ。うーん。





≪・・・・・・あなた、これだとキャラなりできませんね≫

「・・・・・・そう言えばっ! コラあむっ!! 一体なにしてんのっ!? それだと僕キャラなり出来ないでしょうがっ!!」

「う、うるさいっ! てゆうか、ミキはあたしのしゅごキャラなんだよっ!? それとキャラなりしてなにが悪いのっ!!」



なるほど、言いたい事は分かった。なので、僕は胸を張り、エヘンと威張りながらこう言う。



「悪いっ!!」





なんて言いながら、銀色のベルトを取り出す。



そして、身を翻しそれを装着。そのままバックルの赤いボタンを押す。





「変身っ!!」





それから、右手に持ったパスをセタッチ。





≪Riese Form≫





その瞬間、僕の身体を青い光が包んで、リーゼフォームに変身する。



そしてもちろん、それだけじゃない。





≪The song today is ”Double-Action”≫





当然のように音楽が鳴り響く。





「・・・・・・俺」





なので、当然このポーズで決めるっ!!





「参上っ!!」






・・・・・・あぁ、久々にやったけどこれいいなぁ。これいいなぁ。侑斗さん達に『最初に言っておく』は使っていいって許可もらってるけど、こっちも許可取ろうかな。



いや、許可取って無くても勝手に使ってるんだけど。





『マジっ! マジマジ・・・・・・マジィィィィィィィィッ!!』

≪なんだか怒ってますよ?≫

「問題無い」





そう、毎度お馴染みサウンドベルトッ! これで一気に決めるっ!!





「ちょ、またそれっ!?」

「当然っ!!」

「だから言い切るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! なんでその発言と今の行動で胸を張れるわけっ!?」

『ブラック・・・・・・マジックッ! アンド、ボールッ!!』





まさしく弾幕と言わんばかりの数、飛んできたボールとカード達を避ける。

・・・・・・あむも、なんだかんだ言いながらしっかりと攻撃を見ながらちゃんと避けてる。

うん、訓練の成果は出てるね。これなら安心して自分の事に集中出来る。



てゆうか、ダブルアクションかかった以上はもう止まれないっ! ここからは最後までクライマックスで行くだけっ!!





「あー、張れる胸がないから妬いてるんだね。わかります」



アルトでボールやカードを斬り払いつつ、前へ進む。あむも、両手に出した青い筆で同じようにする。



「ふざけるなぁぁぁぁぁっ! あたしだって成長すればフェイトさんレベルでボンキュッボンなんだからっ!!」



あむも同じく。動き回りつつ、筆で攻撃を叩き落とす。焦ったり怖がったりして無い。ちゃんと冷静に対処してる。



「あむ、人に夢と書いて儚いと言うんだよ。知ってた?」

「どういう意味それっ! てゆうか、セクハラだよねっ!?」





×キャラがそれに焦りつつ、少し後退する。だけど、遅い。



もう、僕もあむも次の一手を打つ準備は出来てる。





「違うよ。スキンシップだよ。セクハラって言うのは、『今日は綺麗だね』とか言うことだから。僕、あむにそんなこと言ったことないでしょ?」





互いに足を止める。そして、払うべき障害を見据える。



×キャラはそれを好機と思ったのか、周囲にボールとカードを大量に出す。数はさっきの比じゃない。





「そんなスキンシップあるかっ! てゆうか、普通に言ったことないってのもムカつくっ!!」

「じゃあどうしろって言うのっ!?」

「それはあたしが聞きたいんだけどっ!?」

『マジ・・・・・・マジィィィィィィィィック!!』





そこから、攻撃が放たれた。当然のように、先ほどより弾幕は激しい。どうやら、口喧嘩されながら対処されてるのがお気に召されて無いらしい。地団駄踏んでるし。



なので、僕とあむは腕を動かす。





「カラフル・・・・・・!!」

「アイシクル・・・・・・!!」





あむは筆を振りかぶり、僕は左手に魔力スフィアを形成する。



数に対抗しうる質量をぶつける。そのための技を、僕達は持ってる。だから・・・・・・出来る。





「キャンバスっ!!」





あむが右から打ち込んだ筆の先から、虹色の絵の具が飛び出し、それをカードやボール達を消す。





「キャノンっ!!」





僕が放った砲撃が、目の前の攻撃の全てを飲み込み、×キャラへと向かう。当然、×キャラはそれを避ける。というか、避けられた。



左に飛んで、ひょいっと避けた所を狙って・・・・・・あむが動いた。





「ネガティブハートに」






右の人差し指で×キャラを指差す。





「ロックオンっ!!」





そのまま、両手を胸の前に持って行き、ハートマークを作る。やるのは当然、もはやお馴染みとなったアレ。





「オープン」




放つのは、青い光の奔流。ハートの形をした、迷える夢を救うための光。



それが×キャラを飲み込み、ついた×を外す。





「ハートッ!!」





放たれた光は、×キャラを飲み込み・・・・・・ちがうな、優しく包みこみ、浄化する。





『マ・・・・・・マジィィィィィィィィィィクッ!!』





額の×が取れて、×キャラが浄化された。周囲を包む光の粒子の中で、その子は本来の姿を取り戻・・・・・・さない。



それは、煙を上げて消えた。





「え、うそっ!!」

【変わり身の術っ!?】

「マジシャンだからですねぇ。すごいですぅ」

「感心してる場合じゃないよっ! ほら、上っ!!」





そう、×キャラは上に飛んでいた。それも10数メートル上。





「あー、何時の間にっ!!」

【てゆうか、必殺技避けるなんて反則だよっ!!】





てゆうか、こんな真似が出来るんかい。これはすごいわ。



でも、もうおしまい。





「そう、反則だね」

『・・・・・・マジ?』



×キャラが首を上げて、自分の上を見る。なので、僕はにっこりと笑いかける。

そう、笑いかける。だって、×キャラは僕を見ているから。



「だから・・・・・・じっとしてろ」

≪Struggle Bind≫





発生したのは青い縄達。それが小さな×キャラをがんじがらめに縛る。なお、使ったのは僕。





『マジっ!? マジ・・・・・・マジマジっ! マジマジ・・・・・・マジっ!!』





×キャラが縄を外そうとしてるけど、遅い。



そう、僕はもうとっくに上に飛んでる。それも、×キャラよりも高く。





「行くよ、密かに暖めていた僕の必殺技っ!!」





そのまま、×キャラに向かって急降下。





「パート2´(ダッシュ)ッ!!」





アルトの刀身に宿るのは、全てを焼き尽くす青い炎。



炎熱系の魔力変換、それを薄く、鋭く研ぎ、炎の刃と変えた攻撃。当然、名前はコレ。





「灼花・・・・・・!!」





そのまま、黒い絶望を斬り裂く。





「一閃っ!!」





炎の刃は、×キャラの×と身体に斬撃の跡を残す。そして、バインドも斬り裂く。青い光の縄が、粒子となって夜の闇に散った。



手ごたえ・・・・・・あり。





『マ、マジィィィィィィィィィィィィッ!?』





そのまま公園の地面に着地する。×キャラは、斬撃の跡から発生した炎に焼かれ・・・・・・浄化された。





「・・・・・・ふ、決まった」





あぁ、最高にかっこいい。今の僕は最高にかっこいいタイミングで決められた。なんてすばらしいんだ。



よし、この調子で次回も行ってみよー!!





「き、決まってないからっ! 熱・・・・・・熱い熱いっ!!」





炎の中から声が聞こえる。というか、何か出てきた。手で服を叩いて、炎を消しているその子は、タキシード姿に黒いシルクハット。それにサングラス型の覆面。



サイズ的にはミキやラン、スゥと同じ感じ。つまり、しゅごキャラ。その子が、炎の中からようやく脱出して息を吐くと、僕を恨めしげに見ていた。





「あの、助けてくれたことはありがたいんだけど、もうちょっと優しくして欲しかったんだけど」

「何を言ってるの、優しくしてあげたのに身代わりの術を使って逃げるからそうなるんじゃないの。恨むなら自分を恨むべきだね」

【恭文の言う通りだよ。あのまま浄化されてたら、熱い思いなんてしなくて済んだのに】

「そ、そこを言われると弱いかも。・・・・・・とにかく、あむちゃん、恭文君。ありがと」





僕とあむはその子を見る。その子は、ロイヤルガーデンで見たたまごの中の子と同じ。

つまり、この子がゼロ。拓也のしゅごキャラ。・・・・・・って、説明するまでもないか。もう一目瞭然なんだし。

ゼロが拓也の所に飛んでいく。僕とあむは変身とキャラなりを解除した上で、同じくそちらへ向かう。



すると、拓也の瞼が動いて、ゆっくりと、気だるそうに身体を起こした。





「僕・・・・・・どうして」

「拓也君」

「・・・・・・日奈森先輩、それに蒼凪先輩も。どうしてここに?」

「あー、ちょっと色々あってね」



とりあえず、そんな事を言って誤魔化す。いきなり芸能活動の方のゼロの事に触れてもあれだと思って。

そんな拓也の目の前に、ゼロが飛ぶ。そして、真っ直ぐに拓也を見ながら声をかけた。優しく、だけどどこかドキドキしながら。



「拓也、君」

「・・・・・・ゼロ?」

「うんっ!!」



自分の声が聞こえた事に、ゼロは嬉しそうに笑う。拓也も、同じく。

僕とあむも顔を見合わせて、頬をほころばせた。



「ゼロ・・・・・・ゼロっ!!」

「拓也君、久しぶりっ!!」










・・・・・・もしかしたら、×が取れた事で見えるようになったのかなとか、ちょっと思った。





とにかく、僕とあむはその場でしゅごキャラの事を説明することにした。また見えなくなるとか、空想の友達だとか思われても困るので。










「・・・・・・じゃあ、ゼロは本当に空想のものとかじゃなくて」

「そうですよぉ。スゥ達と同じしゅごキャラです」

「ちなみに、あたしだけじゃなくてガーディアンのみんなもそうだし、恭文にも居るんだよ」



拓也が僕を見るので、頷きながらケープからたまごを取り出す。星の光のたまごを。



「まだ、僕はラン達やゼロと違って生まれてないんだけどね。拓也、ゼロは拓也の夢、なりたい自分そのものなんだ。だから、拓也が見えなくなっても、ずっと側に居た」

「ゼロ・・・・・・ありがと。というかごめん、僕」

「ううん、いいんだ。それより拓也君、これからどうする? もう、有名なマジシャンでは居られなくなっちゃったし」



僕達だけじゃなくて、拓也からも話を聞いた。どうやら、クビにされたのは確定らしい。完全にいらない子扱いだったとか。

・・・・・・正直、本当に今回は何も出来なかったな。どうしようもないって言えば、どうしようもないんだけど。



「・・・・・・決めた。僕、留学するよ」





そう、僕達は今回は本当に何も出来なかった。力になれなかった。



だから拓也は留学なんて言い出して・・・・・・え?





『留学っ!?』

「はい。マジックの本場、アメリカのラスベガスに留学して、1からマジックを勉強してみたいんです」



その言葉に、僕達全員は驚きを隠せなかった。だって、いきなりそれでぶっ飛んでるから。

というか、どうしてそうなるっ!? いや、その前に色々心配事があるんですけどっ!!



「あー、拓也。ちなみに英語とかは」

「出来ません」

「これから勉強?」

「はい。だから、今すぐじゃなくて、両親とも話して、納得してもらって、勉強して・・・・・・という感じになっちゃうんですけど」



まぁ、それならまだ分かる。いきなりこれなのはビックリだから。

あむもなんか困った顔して『いいのかな、これ』と思ってるみたいだけど、問題はない・・・・・・はず。



「ゼロは、僕の夢やなりたい自分が詰まったたまごから産まれたんですよね。そして、ゼロはちゃんとここに居る」



拓也がゼロを真っ直ぐに見ながら言葉を続ける。

もうそこに、僕達に相談に来た時の迷える魔法使いの姿はなかった。



「だったら、ゼロになれなくても僕の夢はまだ終わって無いはずだから、追いかけたいんです。今度こそ、本当に有名な・・・・・・違う」



拓也は首を横に振り、自分の言葉を訂正した。



「『魔法の時間』をみんなに送ることの出来る、すごいマジシャンになるために。そのために、頑張りたいんです」

「拓也君・・・・・・」



・・・・・・こりゃ、止められないな。うん、止められない。目の輝きが違うもの。もう迷える魔法使いじゃなくて、夢追い人だよ。

だったら、応援しましょ。今回はこんな感じだった分、しっかりとね。



「日奈森先輩、蒼凪先輩、ありがとうございました」

「・・・・・・僕達、何もしてないよ?」

「そ、そうだよ。結局ゼロはやめることになっちゃったし」

「いえ、そんなことありません」



拓也は、首を横に振って否定する。



「みなさんのおかげで、僕の本当の気持ち、分かりました。ちゃんと思い出せました。
それになにより、この子が・・・・・・ゼロが、僕の空想なんかじゃないって、分かりましたから。僕、それがとても嬉しいんです」

「拓也君・・・・・・」

「ゼロ、時間はかかっちゃうかも知れないけど、一緒に頑張ってくれる?」

「もちろん。スマイルスマイル・・・・・・だよ?」

「ありがと」










・・・・・・この一件からしばらくして、拓也はマジで留学。マジックの本場ラスベガスで修行を積むことになる。





なお、二代目ゼロや事務所に関しては・・・・・・言う必要ないでしょ。





ただ、歌唄の言った言葉が現実の物にこれからなっていくとだけ、伝えておく。そう、世間は目が腐っていたわけではないのだ。





真実の魔法の時間は、ここから始まっていく。今回に関しては、偽者は本物に勝てるわけがなかった・・・・・・ということである。










「うし、これで万事解決だし・・・・・・あむ、拓也。ご飯食べ行こうか。せっかくだし、僕がバーンとラーメン奢ってあげる」

「ほんとですかっ!? でも、あの・・・・・・」

「いいからいいから。心機一転したお祝いなんだから、遠慮しない。てゆうか、僕が食べたいの。せっかくだし付き合ってよ」

「・・・・・・はい。それなら、ありがたくいただきます」





うん、素直でよろしい。・・・・・・でさ、あむ。どうしたの? そんなうーんって唸りまくって。





「いやさ、なんかあたし達、忘れてない?」

「へ?」





・・・・・・なんか、忘れて・・・・・・忘れて・・・・・・あれ?



待て待て、すっごいひっかかりだしたぞ。そうだ、忘れてるじゃないのさ。





「そう言えば、リインどこっ!?」

「そうだよっ! リインちゃんが居ないっ!! ラーメンの前にリインちゃん探さないとー!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・うぅ、ここはどこですか? なんでリイン、いきなりこんなビルの屋上に居るですか?





というか、街の風景が違うです。なんでか『別府タワー』って表示が出てるタワーが見えるです。海と山がすっごく近くです。





どうしてか普通に温泉とか言う文字が見えるです。いや、居場所を調べようと思えば調べられるですけど、それを知るのが怖いです。










「恭文さーんっ! あむさんもどこですかーっ!? てゆうか、リインは一体どこに居るですかー!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、その翌日。





呑気にその辺りの話をしながら、お茶を飲んでいた。もちろん、放課後にロイヤルガーデンで。










「・・・・・・リインさん、大変だったね。結局九州の別府市まで飛ばされてたんでしょ?」



九州の別府市というのは、大分県にある地方都市。温泉で有名で、海と山が近いため食文化が豊かな地域でもある。

ちなみに、有名人ではユースケ・サンタマリアさんや、岩男潤子さんが出身。そして、リインは普通にそこに×キャラのマジックで飛ばされていた。



「はいです。飛行魔法での移動は無理なので、フェイトさんに転送魔法で飛ばしてもらいました。普通に数百キロを旅してしまいました」



リインがげんなりした顔で言うのもムリはない。うちに帰りついた時にはすごい号泣だったもの。催眠術かけられている間にアレは、そうとう来たらしい。



「長倉さんは一流のマジシャンになれますね。これだけのことを今の段階でやってのけるんですから」

「というより、×キャラがだけどね」



なんて言いながら、みんなで日本茶を啜る。もちろん、唯世が入れてくれたお茶。りまも大人しく飲んでいる。

どうやら味覚が少し変わったらしい。日本茶も美味しく飲むようになった。・・・・・・いいことだよ。



「なんて言うか、あれからあむちん達大変だったんだね。でも、結果的に上手く行ってよかったね。拓也君も吹っ切れた感じみたいだしさ」

「そうだね。うーん、楽しみだなぁ。あれよりすごいマジックが出来るようになったら、もう今までやってた『ゼロ』なんてメじゃないよ?」

「その時は、またマジック見せてもらわないとね。というか、僕達が手伝いかな」

「そして、あむはまたキラキラのラブマジック」

「それはもう言わないでよっ!!」



全員、手を伸ばしてかりんとうを食べる。・・・・・・あぁ、これも美味しい。お茶とよく合うわ。



「でもさ、なんだかんだでアンタ達楽しそうだよね。てゆうか、私もそのマジック見たかったなぁ」

「俺もだ。これでもその辺りにはうるさくてな。あぁ、もう少し休みが早く取れてれば」

≪しゃあないだろ。なんだかんだでうちの部署も忙しいしよ≫

≪仕事優先になってしまうのは、仕方ないとは言え、寂しい事ですね≫





なんて話しながら・・・・・・またお茶を飲む。・・・・・・あぁ、落ち着く。





『はぁぁぁぁぁぁ・・・・・・』





全員で息を揃えて吐く。きっと、何かしらのシンパシーで繋がっているからだろう。



まぁ、そこはともかく、そろそろツッコもうか。うん、結構激しくね。





「・・・・・・って、ヒロさんにサリさん、アメイジアに金剛もどうしてここに居るっ!? それもなんの前振りも無しでっ!!」

「そんなの決まってるじゃん。やっさんの小学生姿を見て、おちょくりたくなったからだよ。いや、日帰りコースではあるんだけど、どうしても見たくなってさ」

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「まぁ、そこは冗談だ。・・・・・・やっさん、喜べ。完成したぞ」





完成って・・・・・・え、まさか完成っ!?



僕は思わず席を立ち上がり、そのまま二人を見る。二人は、力強く頷いてくれた。





「あの、お二人とも完成と言うと何が」

「先日、海里君に壊されたジガンの改修だ。いや、思ったより早く出来上がってよ」

「・・・・・・あ、そう言えばあれで預けてたんだったよね。でも、随分早く出来ましたよね。やや、普通に夏休み入った直後くらいに出来上がるって聞いてたのに」

「色々な協力のおかげで思ったより早く出来上がったんだよ。で・・・・・・それがこれだ」



サリさんが、懐から出したのは長方形のケース。それを受け取って開けると、そこにあったのは六角形の形をした時計。

銀のボディに、青のラインが入っているそれを取り出す。



「時計・・・・・・ですね」

「サリエルさん、これってこてつちゃんが普段は宝石なのと同じですか?」

「そうだ。待機状態では時計になる。まぁ、色々考えたんだが、今は小学生だし、普段から見につけられるものにした方がいいだろうと思ってそれにした。あ、バリエーションで懐中時計型やペンダント型に出来る」




どんだけ手の込んだ事してるんですか。えっと、とにかく形状を見ないとどうしようもない。

とにかく、まずはこれでしょ。



「それでサリさん」

「名前は変わってない。そのまま呼んでやれ」



なら、行きますか。・・・・・・せーの



「ジガンスクード・ドゥロ、セットアップ」

≪Standby Ready Set UP≫





若干気になる声でそれは姿を現した。以前のデザインより流線型な部分が増えて、あちらこちらに六角形のモチーフと青のライン。手首の辺りを包みこむリング状のパーツ。

そして、両手を肘まで包む装甲は輝き、以前とは比べ物にならないほどの力強さを感じさせる。手の甲には、これまた六角形で銀色の装飾が埋め込まれていた。

それらが組み合わさって出来たのは、大きく硬い盾。大事なパートナーの新しい姿。



これが、ガンドロ。僕の新しい力。





≪うーん、ガンドロってネーミングは感心しないの。でもでも、主様がそう呼びたいのなら、ジガンはオーケーなの≫





・・・・・・へ?





「ね、今誰か喋った?」

「いえ、なにも。恐らくですが」

「この子から声が出てたよっ!?」

「正解だ。新しいジガンはAI搭載型。つまり、アルトアイゼンや金剛、アメイジアと同じなんだ」



・・・・・・え、そうなのっ!? 僕何にも聞いてなかったのにっ!!



≪そうなの、改めまして・・・・・・ジガンはジガンスクード・ドゥロなの。主様を守る、大きく硬い盾なの≫

≪そうですか。では、これからあなたは私の下僕ですね≫

「おーいっ! なんでそうなるっ!? いきなり上下関係を決めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



や、やばい。普通にツッコんでいかないととんでもない事になる。てゆうか、AIって・・・・・・これ、シンパシーとか取るの大変なんじゃ。



「あぁ、それなら問題は無い。・・・・・・実はな、お前のよく知っている人間の思考をそのままコピーさせてもらった。つまり、この子ジガンのAIは既にお前色だ」

「嫌な言い方やめてもらえますっ!? ほら、あむ達がなんか変な目で僕を見出したしっ!!」



というか、誰の思考を使ってんの? いや、なんかこの声聞き覚えがあるんだけど。



≪お姉様、それはムリなの。ジガンは主様の下僕ではあるけど、他の人の下僕ではないなの≫



・・・・・・はぁっ!?



≪・・・・・・あぁ、嬉しいなの。ジガン、主様の下僕になれてとっても嬉しいなの。主様、これからジガンを好きなだけ弄って欲しいの。ジガン、主様のためなら、どんな恥辱も耐える覚悟なの。
というより、そういうのが快感なの。露出プレイから差恥プレイ、もしくはハードな言葉責めまでなんでもオーケーなの。主様、ジガンの全ては主様の物なの。主様は、ジガンをどんな風に扱ってもオーケーなの≫

「おーいっ! なんか会って数分立ってないのに、すっごい息荒げにMっ気出してるー!?
ヒロさんサリさんっ! これどういうことですかっ!? 僕マジで驚きなんですけどっ!!」



僕は改修はお願いしたけど、こんなドMAI作れとは言ってないからっ! 僕知らないからこれっ!!

お願いだからちゃんと説明してっ! ほら、怒らないから早くっ!!



「てゆうか、引くわ。普通に引くわ。この子どうなってるのよ」



りま、それは僕が聞きたい。すっごく聞きたい。



「まぁ、恭文には合ってるとは思うけど」

「あむ、だからそれはどういう意味かなっ!?」



ただ・・・・・・それはどうやら地雷だったらしい。二人の表情が一気に重くなった。で、念話が来た。



”いやさ、最初はウラタロスのデータを使う予定だったんだよ。1番揉めないしよ”



なんでウラタロスさんっ!? てゆうか、デンライナー行ったんかいっ! なに頑張ってるっ!?



”というか、それのデザインはリュウタがやってるんだよ。まぁ、近々遊びに行くとか言ってたから、その時はお礼言っておけよ?”

”リュウタがっ!? わぁ、それは大事に・・・・・・って、そこじゃないっ! この子どうなってるんですかっ!!”



ちゃんと説明してー! 本当に僕の要望じゃないんだから、このままじゃわからないってっ!!



「・・・・・・実はそれな、高町教導官の思考パターンを使ってるんだよ」

「なのはさんのっ!? あ、そう言えば声が似てるっ!!」



あぁ、そうだ。本能レベルで否定してたけどその通りだよ。

ジガンこの子の声、なのはと同じなんだ。あぁ、気づきたくなかった。絶対気づきたくなかった。



「で、でもだからってこれは・・・・・・というより、高町さんと全然違うじゃないですか」

「唯世君、お前はまだまだ人生経験が足りないな。実はあの人・・・・・・多分潜在的にこういう部分を持ってたんだよ。で、AIに思考を落とし込む時に、それが引き出された」

「えぇっ!?」

「まぁ、スイッチが入らなければ比較的マトモなんだよ。ただ、今のはアルトアイゼンが『下僕』なんて言うからそうなっただけで」



要するに、蔑まれるような事を言うと、潜在的なMにスイッチが入って目覚めてしまうと。

・・・・・・あははは、これどうすりゃいいの?



「やっさん、頑張れ。俺は応援してる」

「なに他力本願な言い回ししてるっ!? てゆうか、製作者なんだからなんとかならないんですかっ!?」

「ならないっ! 俺だって断ったのに、あの人勝手に話まとめてAI構築しやがったんだよっ!!
しかもこれで1番お前やアルトアイゼンとのシンパレートが高いんだぞっ!? どうしようもねぇよっ!!」

「そんなー!!」





確かに、今更この子を『消せ』なんて言えるわけがない。

AIにとって、人格プログラムが消える事は死を意味するんだから。

つまり、そう言うってことはジガンに『お前はいらない子だから死ね』って言うのと同じ。



そんなこと、出来るならしたくない。この子はもうここに居て、自己という存在を持っているんだから。

というより、言ってもどうにもならなかったらどうしよう。ベリーハードな言葉責めとか受け取られてさ。

・・・・・・でも、どうなるんだろこれ。やばい、すっごい不安だ。





≪主様、大丈夫なの。そういう時は、ジガンを虐めれば元気に≫

「なるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく、機能説明を聞く事にした。うん、まずそこだ。





そうすれば、この無駄に濃いキャラであるこの子も、好きになれるかも知れない。










「・・・・・・まず、ガンドロはAMFによる魔力完全キャンセル化状態であっても、問題なく動けるようにセッティングしてある」

「え、マジっすかっ!?」

「マジだ。この辺りはジン坊のレオーと同じって言えば分かるよな」



分かります分かります。つまり、魔力結合はキャンセルされても、魔力自体がなくなるわけじゃない。ジガンに直接的に魔力を込める事で、各種装備を使用可能と。

うーん、この仕様はいいなぁ。AMF対策は頭が痛いって、フェイトも言ってたし。



「はいはーい。サリエルさん、AMFってなんですか?」



全員が疑問顔になる。なお、『おまけのあれこれで教わってるだろ』とか、そういうツッコミはしないように。

おまけはおまけ、拍手の世界は拍手の世界。そして、本編は本編なのだ。それぞれに分けて見ていくのが、とまと世界の楽しみ方である。



「あー、AMFって言うのは、アンチ・マギリング・フィールドの略称。簡単に言えば、そのフィールドを展開されると、魔法が使えなくなるのよ」

「え、それだめじゃん。魔法使えないってことは、空とかも飛べないし、リーゼフォームとかにもなれないし」

「うん。まぁ、抜け穴は有るのよ。フェイトや僕、ティアナレベルだったら、やりようはある。ただ、完全キャンセル化って言うのになると、どう足掻いても魔法が使えなくなるんだ。
それはデバイスのセットアップも同じ。魔力自体が使えなくなるから、それが必要な各種機能は使えなくなる。ただし、実はここにも抜け道が一つある」





僕の友達であるジンが使ってるアームドデバイス・レオーは違う。あれは術者の魔力その物をデバイスに流し込んで起動させて、使用してる。それがその中でのデバイス使用を可能とする抜け道。



なので、完全キャンセル化だろうが、デバイスそのものがイカれない限りは問題なく動ける。





≪ジガンは、そのAMF対策を立てた新世代デバイスなの。だから、AMFの中でも普通に各種機能が使えるの≫



・・・・・・どうやら、スイッチがオフになったらしい。僕と、普通の喋り口調になったジガンの説明で、みんな一応納得してくれた。

で、その機能は何があるんですか。結構気になってるんですけど。



「まず、基本形態であるガントレットフォルムがそれ。で、シールドを展開して防御力を高めるパンツァーフォルムの二つだね。まぁ、この辺りはジガンに聞いてよ。
でさ、AMF対策として、サリのアイディアで専用装備が付け足してあるのよ。これが今回の目玉。まぁ、まず二つだね。ジガン、見せてやんな」

≪了解なの。まず・・・・・・主様、右の手の平側の腕を上にしてなの≫

「えっと、こう?」



すると、手首のリングより上の部分から、取っ手のようなものが出てきた。

それが飛び出して、手の平にすっぽりと収まった。そして、その取っ手から手の平より大きいくらいのサイズの両刃が出てきた。



「これ、ナイフ? ・・・・・・いや、ダガーか」



つまり、出てきたのは取っ手じゃなくて、柄。



≪特殊金属性の仕込みダガーなの。あ、お姉様と同じ要領で魔力を込めた斬撃も可能だから、通常時でも使えるの≫



刃を見る。黒塗りで刀身の真ん中に細長い穴が空いてる。あれだね、DTBで黒(へい)が使ってたのと同じ感じだね。

・・・・・・うーん、業物だ。これはいい。



「・・・・・・あの、学校内にこういった物の持ち込みは」

「何言ってるの、アルトアイゼン持ち込んでる時点でアウトよ。キングもあんまり言わない」

「そ、そうだね」



なるほど、こういう方向性か。確かにこれは隠し武器としてはいい感じだよ。



≪それと、次がこれ≫



左の手首、柄が飛び出して来たのと同じ部分に穴が開いた。そこからするすると、金属製のアンカーとワイヤー。



≪立体移動用のアンカーワイヤーなの。場合によってはそれで敵を拘束して・・・・・・という手も使えるの≫

「やっさんなら鋼糸も使えるし、これも扱いきれると思って搭載したんだ。結構おもしろいだろ」

「・・・・・・かなり」



いや、これは真面目に感謝しないといけない。予想よりもかなりいいもの作ってくれたし。



「サリさん、ヒロさん、ありがとうございます。いや、もう気に入りました」

「そっか。ならよかった。んじゃ、説明書も一緒に渡しておくから、あとでしっかり読んでおけよ? あともう一つ、隠し玉も入れてるしよ」

「説明書作ってるんですか」

≪どんだけ手が込んでるんですか≫

≪ジガンへの愛故なの。当然なの≫










もう一度両手を見る。・・・・・・腕を包むのは、新しい力。新しい相棒。





なんだろ、このまま楽しくなるといいな。なんだかんだで、新メンバー加入なわけだし。










「ジガン」

≪はいなの?≫

「これから、よろしくね」

≪はいなの♪≫
















(第33話へ続く)






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