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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第31話 『迷える魔法使い』



ラン・ミキ・スゥ「「「しゅごしゅごー♪」」」





(なんだかファンファーレと共にいきなりそんなことを言うキャンディーズ。というか、これ・・・・・・なに?)





ラン「今回も始まったドキたまタイムー♪ なお、今回からテレビ版第二期をイメージして前説が入るよー」

ミキ「あぁ、だからこれなんだね。31話って中途半端な話数なのに」

スゥ「そこは気にせずいきましょぉ。今回は久しぶりにガーディアンのお仕事ですぅ。でもでも、なんだかとっても大変な感じがするですぅ」





(画面が突然展開。そこに映るのは一人の男の子。そして、覆面をした赤いタキシード姿の少年)





ミキ「むむ、これはなにやらまたまた事件の予感・・・・・・」

ラン「というか、そんな予感も出てきたり出てこなかったり・・・・・・」

スゥ「とにかく、今回も早速スタートですぅ。せーの」




(三人、両手を前にかざしてハートの形にして・・・・・・ポーズ)





ラン・ミキ・スゥ『ドッキドキ♪』

恭文「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ねぇ、それいいのかな。アニメ二年目も来週で終わりなのに。三年目は『どっきどき』で『パーティー』に変わるって言うのに」

ミキ「変わったらテコ入れと称して修正すればいいんだよ。問題なしなし」

恭文「あ、それもそうか」

ラン「なんか納得したっ!?」

スゥ「というか、恭文さん突然登場ですぅ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・僕達に相談?」

「うん。ガーディアンのお仕事のひとつ、困っている生徒を助ける・・・・・・だね」





・・・・・・さて、ここから本編です。まぁ、しばらくこれでやっていくのであしからず。



まぁ、そんな楽屋ネタはともかく話を本編に戻しましょ。



最近、ライブ襲撃したりヘリポート襲撃したりなどの攻撃活動が多くてみんな忘れがちかも知れないけど、あむと唯世達が所属しているガーディアンという組織は、聖夜小学園の生徒会の総称。

×たまを浄化して助けたりするのもお仕事だけど、それだけがすべてじゃない。表向きの仕事は困っている生徒を助けたり、きつ過ぎる校則に物申したり、生徒のみんながより良く学校生活を送れるように活動していく。それがガーディアンのお仕事なのだ。

×たまを浄化するというのも、学校の生徒・・・・・・子ども達のためになるからやっているとも言える。なお、ここに学校の部活の助っ人とか、そういうのもたまにやったりする。・・・・・・僕はやったことないけど。



いや、僕がやるとやっぱり色々と問題が・・・・・・ねぇ。





「それで、あなたはどちら様ですか?」

「あの、四年星組の長倉拓也です。えっと、あの・・・・・・」





・・・・・・なんか恭太郎がすっごい疲れた休日を過ごしたその翌日、僕達はいつものようにロイヤルガーデンでお茶もしつつ会議・・・・・・・だったんだけど、そこにお客さんが来た。



それは、一人の男の子。というか、聖夜小の生徒。表情は暗く、俯き気味。栗色でカールが外側にかかった髪。色男なのに出す雰囲気が暗いから魅力が半減してる。





「みなさん、ゼロというマジシャンを知っていますか?」

「あー、知っているというか有名だよね。ややも大好きー」

「私も。というより、昨日テレビを見たばかりだし」

「リインも大好きですよー」





ゼロというのは、ここ1、2年で地球の方で有名になってきている少年マジシャン。

赤のタキシードに赤のシルクハット。ゼロという名の通りZをモチーフにしたマークを付けている。なお、正体は不明。

理由は簡単。某タキシード仮面みたいなアイマスクをしているし、細かいプロフィールも表に出ていないから。『魔法の時間』と称してかなり大掛かりなマジックを行うので、子どもからの人気も高い。



確か僕が見たのだと・・・・・・歌唄が催眠術にかかって、ライオンの檻に飛び込んで、落ちる直前で千匹の蝶に変わるって奴だね。





「実は、あの・・・・・・」

「なんでしょうか」

「ゼロ・・・・・・僕なんです」





あぁ、なるほど。ゼロの正体はこの子・・・・・・。



・・・・・・・・・・・・え?





『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』










・・・・・・これが、今回の始まり。





そう、僕達はまたもや事件に関わることになったのだ。




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご


第31話 『迷える魔法使い』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



四年星組、長倉拓也というのが、この子の名前と学年。まぁ、この辺りはさっきの自己紹介で聞いているからよしとする。

そして、その正体は世間を騒がす正体不明の少年マジシャン・ゼロ。まぁ、このあたりのことを知っているのは家族を除けば理事長である司さんだけらしい。

さて、先ほど説明したように、ゼロはテレビやマスコミなどのメディアでは、正体不明のマジシャンということで売り出している。もちろん、ここには理由がある。





ブラックダイヤモンド事件での歌唄を見ればわかるように、人は隠されたものに対して理屈抜きで引かれるものがある。

つまり、人の注目を集めるための演出だ。そのあたりの関係で、本当に友人にも教えてないらしい。

で、そんなこの子のお願いは、僕達にマジックを見て欲しいということ。





ただ・・・・・・ここからが問題だった。










「ゼロのマジックが全部インチキっ!?」

「はい。全部CGや演出、あと収録の際の編集でそれらしく見せてるんです。マジックらしいことは、一切していません」





まず、ゼロという『キャラクター』の事を説明してくれたあと、少し・・・・・・いや、かなり言いにくそうに、こんなカミングアウトをしてくれた。



当然、場は騒然となる。そりゃそうだ。夢が一瞬で砕かれたんだから。ファンの子ども達が知ってたら、そりゃあ大騒ぎだよ。





「テレビではありがちな手法ですね。大して驚きはしませんが」

「海里・・・・・・そこは驚いてもいいって」

「そ、そうでしょうか」





まぁ、海里だからいいとは思うけどさ。

しかし、一部ならまだ分かるけど、寄りにも寄ってアレ全部嘘かい。

確かに見ててさすがにこれはとか思ってたけど、普通にCGや編集の合成ショーを見せてたとは。



マジでテレビ局なんかにクレームが大量に来そうなネタだし。





「うそ、やや幻滅ー! サインとかいらなーいっ!!」



なんて言いながら、ややはさっきまで後生大事にしていたサインをぽいっと。

・・・・・・こらこら、本人目の前にしてそれはやめなさい。失礼でしょうが。



「ですです、ややちゃん失礼ですよ?」

「だってー」

「それで、私達を相手にマジックの練習・・・・・・ということかしら。
インチキマジックじゃなくて、本当にマジックが出来るようになりたい」



りまが言った事に対して、目の前の子は首を横に振って答えた。つまり、否定。

・・・・・・違うの? 僕もてっきりそう思ってたのに。



「いえ、違うんです。とにかく、これを見てください」





その子は懐からトランプを取り出して、テーブルに広げる。ただ、

その広げ方がすごい。ポンとおいて、手を扇状に動かす。

すると、どっかのテレビのマジシャンみたいにきれいにばらつきもなくカードが展開された。



そのまま、拓也は右手を動かしてもう一度カードを集める。



それを胸の前に持ち上げて、両手の前で空いている左手へと飛ばす。





「・・・・・・これはまた見事な」

「ですです」



カードはまるで生き物のように、すべて左手に集まっていく。

そして、一枚も下に落ちることなく、左手へとカードは収まった。



「わわ、すごいすごいっ! 本物のマジシャンの人がやってたやつだー!!」

「エース、彼は本物のマジシャンですよ? ですが、これは・・・・・・長倉さん、他のも出来たりはするのでしょうか」

「はい。結構手の込んだのも出来ます」





これはすごい。今の手つきだけでもわかるよ。僕も鋼糸や飛針使ってるからわかる。



手先なんて昨日今日で思うように動くわけじゃないもの。



ちゃんと毎日たくさん練習しないと、こんな風には出来ない。





「ね、拓也って呼んでもいい?」

「あ、はい。なんでしょうか、蒼凪先輩」



い、いや。あの・・・・・・先輩はやめて欲しい。なんというかくすぐったいから。そういうの苦手だから。

とにかく、僕は拓也に質問。それも結構大事な。これの答えによっては、これはかなり困った事態になる。



「ひとつ質問。もしかして拓也は、マジックがまったく出来ないんじゃなくて、ちゃんと出来るのにインチキしてるの?
それで、自分が出来る範囲を明らかに超えた、派手で人目を引くマジックをやってる。それがゼロのマジック」

「・・・・・・はい。ただ、マジックというのとは違います。あれは、ショーなんです」



僕の言葉に、拓也は頷いた。少しだけ悲しそうに。そして、苦しそうに。



「そっか」



あー、でもそういうことか。大体の事情は読み込めたわ。



「恭文、拓也君、どういうこと? てゆうか、マジックちゃんと出来るならインチキする必要ないじゃん。
今みたいなすごいことが出来るのになんでインチキしてるのか、あたしもみんなもわかんないよ」





そう言ったあむもそうだし、唯世にやや、ほかのみんなも同じらしい。



なので、説明することにする。・・・・・・汚い世界の一端について。



出来れば教えたくないけど、まぁ、これも社会勉強だと思ってもらおう。





「ようするに、この子ゼロはみんなが一目見て・・・・・・第一印象で惹きつけられるような、無茶苦茶派手な事ばかりをやらされてるんだよ」



催眠術とかライオンの檻に飛び込んだ人を、落ちる直前で1000匹の蝶に変えるとかさ。



「拓也、芸能活動してるってことは、事務所とかに入ってて、マネージメントしてる人がいるよね。
インチキマジックやってるのは、そのマネージメントの方針」



ようするに、ゼロというキャラクターで人気と仕事を得るためである。



「はい、そうなんです。・・・・・・最初はちゃんとしたマジックで売ってたんですけど、徐々に今みたいな形になったんです。
事務所のマネージャーに『客が求めているのはマジックじゃない。派手なショー』だと言われて、方針に従えないならクビにすると」

「なんか、それひどいね」



まぁ、事務所は慈善事業でタレントのマネージメントするわけじゃないからなぁ。

あくまでもタレントの活動を通じて利益を取得出来なきゃアウトだもの。



「だけど、ゼロではマジックは出来ない。やるのはCGや編集を使って嘘で固めたショー。
でも、友達にもゼロであることは内緒にしていて、マジックを見せたら僕がゼロだってバレてしまいます」

「それで、リイン達に相談したですか。ガーディアンは生徒のお悩みを解決すること。
それもお仕事ですから、自分がゼロであるという秘密は守ってくれると思って」

「はい。僕、見たいんです。僕は僕のマジックで喜んでくれる人達の顔を。それが、どうしても我慢出来なくて、それで・・・・・・」





まぁ、この辺りはしょうがないって言えばしょうがないんだよなぁ。

さっきも言ったけど慈善事業じゃない以上、事務所やマネージャーはタレントが売れる方向でやっていかなきゃいけない。

そうするとこういう嘘もあるってことですよ。もちろん、絶対にほめられた事じゃないけど。



・・・・・・時には嘘が必要な場合はある。

僕だって最初はそんな嘘をみんなについてたから、偉そうな事は言えない。

でも、それには限度がある。そしてこれは、明らかにその限度を超えてる。





「・・・・・・ほら、ややちゃん。謝るですよ。拓也さんだって、やりたくてやってるわけじゃないんですから」

「な、なんで? だってインチキはインチキじゃん。やや悪くないもん」



ややがそっぽを向いて、頬を膨らませて唇と尖らせた。どうやら本気でそう思ってるらしい。

・・・・・・馬鹿な子だよ。みんなの視線が厳しくなったのに。



「やや、それ本気で言ってる? あたし、ちょっと引く」

「リインもです」

「私もよ」





かなり冷たい目で他の女性陣に見られて、ややが固まる。

そして、なんか泣きそうになって僕を見る。なぜか僕を見る。

なので、にっこり笑って安心させてあげる。すると、ややの表情が明るくなった。



だから、当然のようにそこから、叩き落す。





「もうドン引きだよ。やや、これからはずっと苗字呼びにしていい? というか、しばらく僕に話しかけないで」

「なんかとどめ刺してきたっ!?」



当然だよ。ここで空気読まずして、何を読むか。



「て、てゆうか・・・・・・インチキが嫌で、その上ちゃんとしたマジックが出来るなら、普通にやればいいじゃんっ! そんなこと言う事務所なんてやめてさっ!!」

「なるほど、それは一理ありますね。その事務所だけが全てではありませんし。
1から出直すという方法もひとつの選択肢ではあります」

「でしょでしょっ!?」





なんか唯世やあむ達は苦い顔してるけど、確かにその通りなんだよね。



いや、むしろそれを盾に事務所に迫って、ちゃんとしたマジックをやらせ・・・・・・だめか。



もしも何かの間違いでそんな真似したら、間違いなくこの子はクビになる。





”正解ですよ。今やっているマジック自体は、CGや映像の編集などの演出を活用したもの。
そしてゼロは覆面マジシャン。正体は誰にもわからない。つまり・・・・・・”

”そういうことに、なるですよね。うー、これは下手に行動するとまずいですよ。
クビになったら、その事務所から他の事務所へは移れないように圧力がかかる可能性がありますし”





つまり、芸能活動に制限がかかるようにする・・・・・・いや、自分達の所を離れたら仕事が出来ないようにするため。

だって、この子はゼロの正体やマジックのインチキの事を知ってるもの。

それがもしも外にバレたら、その事務所的にはマズイはず。



だったら、クビにしたらそうした方が得策なはずだ。





”そうだよね、現に歌唄がそれだった”

”中々に難易度の高い話になってきましたね。リイン達だけで解決、無理じゃないですか?
少なくとも、この子がゼロの立場も何も失わずにという筋書きは、思いつかないですよ”

”私も同じくです。ややさんや海里さんの言うような形が1番いいと思います。
もちろん、圧力の問題があるので簡単ではないでしょうが”

”うーん、どうしたもんか・・・・・・”





まぁ、この辺りは後でみんなに言っておくか。

下手に刺激して今僕とアルトとリインで予想してしまったアンチな未来予想図が現実になっても困る。

これでこの子の人生設計が崩れても、僕は一切責任持てないのだ。



結局は本人が決めることなんだから。





「・・・・・・そう、ですよね」



あ、なんか落ち込んでる。うー、これはまずい。相当だよ。



「そう、なんですよね。三条君や結木先輩の言う通りです。
でも、有名なマジシャンになるのが僕の夢だったんです。今、それは叶ってて・・・・・・」

「踏ん切りがつかないんだね。ゼロという有名マジシャンの姿を捨てることに」

「はい。なんで、なんでしょう。夢は叶ってるのに、どうして・・・・・・こんなに、辛いんでしょうか」










そう俯きながら、あきらめたような顔で言う拓也に、僕達は何も言えなかった。





とにかく、その場は解散。拓也は時々僕達にマジックを見せるということで話はついた。





ただ、打開策・・・・・・考えないといけないのかなぁ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




両手に感じる荷物の重さを確かめながら、一歩一歩階段を歩く。

歩いて、思い出すのはあの子。夢は一応でも叶っているはずなのに、笑えないあの子。

前に唯世に『どんな王様になって、なにをやりたいのか』って話をした時にも少し考えた。





夢って叶えた後のことも考えないとだめなんだよなぁ。

横馬だったら教導官になってから・・・・・・とか。

フェイトだったら執務官になってから・・・・・・とかさ。





僕の夢、なりたい自分は一生追いかけるようなもんだし、そんな簡単には叶わない。


けど・・・・・・叶ったあと、何をすればいいんだろう。

うーん、思いつかない。変わらずに暴れている図しか出てこないよ。





・・・・・・うし、到着っと。空いてる場所にこれを下ろして、それから・・・・・・大丈夫か。





あとはみんなが持ってきてくれる分だけだって言ってたし。










「・・・・・・ヤスフミ、どうしたの?」

「またらしくもなく難しい顔しちゃって、どうしちゃったのよ。さっきから黙りっぱなしだし」

「んー、夢を叶えるとか、なりたい自分になるって難しいなぁと」



ダンボールを下ろしてようやく腰を上げる。



「そう言えば、アンタは何になりたいの?」

「『魔法』が使える魔法使い・・・・・・かな。出来るなら、目の前にあるもの、手に届くものを全部助けられるような、そんな魔法使いになりたいの」

「それはまた、どうしようもなく途方もない夢ね。でも・・・・・」



その子はそう言いながら、自分の運んできた荷物を床に下ろす。

そして、もう一人の女性も同じ。・・・・・・でも?



「アンタらしいかな。うん、私は好き」

「私もだよ。叶うかどうかは別として、願って、追いかける価値はあると思う」

「そっか、ありがと」

「いいわよ、別に。でもさ、そんなこと考えるなんて、なにかあったの?」

「ありましたよ。男子三日会わざれば克目して見よって言うでしょ?
あなた様が入院している間に、いろいろあったのよ」





そうして、今まで一緒に荷物を持って歩ていた二人は僕を見る。



というか特に金色ツインテールの髪の女の子が僕を見る。



そして・・・・・・失礼にもため息を吐いた。





「恭文、残念だけど身長は伸びてないわよ」

「うっさいバカっ! そういう意味合いじゃないわいっ!!」

「ヤスフミ、大丈夫だよ。私は身長が低いからってヤスフミへの気持ちは変わらないから」

「そういうことでもないからぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





僕達ガーディアンの面々は、学校を出てある場所に来た。

そこは・・・・・・繁華街にある少し古ぼけたビルの三階。

そう、そこは三条プロダクション。海里のお姉さんが設立した芸能プロダクション。



そして、そこに所属するタレントはほしな歌唄。



・・・・・・隣でここまで抱えてきたダンボール箱を置いた女の子だ。





「歌唄、身体大丈夫? もし辛いなら、あとは私やヤスフミに任せてもらって大丈夫だけど。ガーディアンのみんなも居るし」





なお、来ているのは僕とリイン、ガーディアンの面々だけじゃない。

歌唄を本局から引き取ってきたフェイトもだ。

こっちで合流した時に、意味もなく嬉しかったりした。



それは、更新され続ける証拠だと思って、胸がときめいたのは僕だけの秘密。





「問題ないわよ。二週間しっかり休ませてもらったし。というか、フェイトさん心配し過ぎ」

「心配はするよ。あなた、改造されかかってたんだよ? というか、一応私が監視役みたいなものなんだから」

「・・・・・・そう言えばそうだったわね」





・・・・・・一応、歌唄はしばらくの間局で監視することにした。

まぁ、同じことにならないかどうかのチェックである。ただ、ここにはひとつ仕掛けがある。

それは、執務官であるフェイトがそれを行うことにしたこと。



で、フェイトは特に歌唄の行動を制限するつもりがない。

つまり・・・・・・歌唄はほぼノーチェックで局の疑いを晴らすことが出来るのだ。

もちろん、歌唄が再犯の可能性が無いことが、その理由。

あと、今回の事をクロノさんやフェイト。そしてマネージャーであるゆかりさんだね。



三人ののお説教によって深く深く、ただひたすらに深く反省しているからこその処遇だと言うのは、留意していただきたい。





「いやもう、フェイトさんにはなんとお礼を言っていいやら。もう昔のあれこれを考えたら、私も歌唄も普通に目を付けられてもいいはずなのに」

「大丈夫です。ただし・・・・・・」

「わかってます。私も歌唄も、やり直していくって決めましたから。
なにより私達、こう見えても助けてもらった恩を返さないほど恩知らずでもありませんし。そうよね、歌唄」



その言葉に、歌唄は少しフェイトから目を逸らして・・・・・頷いた。

フェイトがそれに満足そうに笑う。僕も、同じかな。普通に笑顔になる。



「でも、本当に感謝しないといけないね。僕もゆかりから少し聞いたけど、本当に温情処置で済ませてもらったそうだし。
・・・・・・でさ、ゆかり。なんで僕まで駆り出されてるの?」



そうだよね。おのれは、その温情処置とも事務所設立とも、まったく関係ないはずなのに。



「そうだね、それは聞きたい。ゆかりさん、なんで二階堂がここに居るの?」





普通に息を荒くしながら、両手で荷物を持って事務所のドアから入ってきたのが居る。

それは、われらが担任二階堂。本当になぜ居るのだろうか。まず、普通に車で来ていたし。

普通にゆかりさんが持ってきた荷物が入っているワゴンの後ろから荷物を取り出してた。


それをまた、普通に運んできてるし。





「簡単よ。事務所の設立やここの契約金やらで、貯金が底を突きかけてるの。
・・・・・・いやもう、フェイトさんには感謝ですよ。引越し費用もなくなったと話したら、ワゴンまでリースしてくれましたし」

「まぁ、現地活動に支障が出ないようにという名目で借りられるようになってるんです。今回はちょこっとズルをしましたけど」



・・・・・・なんだろう、この二人なんでこんな仲良いの?

普通にびっくりなんだけど。ねぇ、僕の知らない間に二人とも何があった? 読者も僕も置いてけぼりだよ。



「これでも女同士、色々と通じ合える部分はあるのよ。・・・・・・というわけで、アンタを呼んだの。わかった?」

「ごめん、全然わからないんだけどっ!? いったいそれはどういうことかなっ!!」

「行間を読みなさい」

「読めるかっ!!」





ごめん、僕でもそこは読めない。てゆうか、無理だって。

なので、別のところ読むことにした。そして、答えが出た。

ようするに、引越しを手伝う人員を雇う余裕も無い。



だから、無償で動いてくれそうな人員を集めたと言う事でしょ。僕やあむ達も含めてね。




「・・・・・・二階堂、あとで飲み行く? 美味しいおでん屋さん見つけたから、奢ってあげるよ」

「うぅ、ありがとう。いろいろツッコみたいところだけど、今はその優しさが身に染みるよ」



いいさいいさ、今はそれでいいさ。泣いていいさ。元カノにいきなりこれは来るさ。

色んな意味で複雑にもなるさ。だって、元カノに無償でパシリにされてるんだからさ。



「でもでも、これが意外と元サヤフラグなのですよ」

「だな。アタシも、実はそう思う。いや、よかったな。二階堂」





その声は、歌唄のしゅごキャラのエルとイル。

歌唄の近くでプカプカ浮きながら、ニコニコ・・・・・・訂正。にやにやと二階堂を見る。

なお、歌唄と一緒に本局に居たのだ。僕とフェイトは僕達の家で待っていてくれてもいいと言った。



だけど、二人が歌唄の側から離れたがらなかったので、そのまま・・・・・・である。





「ごめん、それはちっともよくないと思うのは僕だけかなっ!?」



二階堂、それは多分正解だよ。フェイトまで応援オーラ出し始めてるしさ。

そして、そんなやり取りをしている間に、事務所のドアがまた開いた。



「・・・・・・よいっしょっと。ガーディアン部隊、到着しましたー」




ドアからあむに唯世、ガーディアンのみんなが続々とダンボールを持って入ってくる。

えっと、それで荷物は全部?



「そうだよ。あー、疲れたー」

「エレベーターが無いとか、ありえないし・・・・・・」

「あー、りま。荷物出しは僕達がやるから、ソファーで休んでていいよ」



僕の言葉にりまは一際小さなダンボールを置いて、そのままソファーに座る。

・・・・・・そう言えば、ソファーはどうやって運んだの?



「・・・・・・僕だよ。なお、一人で。まじめに死ぬかと思ったよ。あぁ、ここの階段が緩めでほんと助かった」

「・・・・・・二階堂、朝まで行こうか。大丈夫、それくらいは許されるよ。仕事なんて休んじゃいなよ」

「そうだよね、僕がんばったよね。よし、明日は学校休むか。たまには二日酔いで動けない日があったっていいよね」

「だめだよヤスフミ、小学生なんだからそんなことしちゃ。というか、二階堂先生も落ち着いてください。
先生がお仕事休んだら、あむや唯世君達はどうするんですか」

「・・・・・・・・・・・・ごめんなさい。おっしゃる通りです、はい」」





まぁ、そこはともかく荷物を出したり整理したり・・・・・・。意外と少ないからすぐ終わりそうだね。



でも、ここから再スタートか。うーん、前途・・・・・・多難じゃないといいなぁ。





「・・・・・・恭文」

「うん、どったの。歌唄」

「ちゃんと、見てて。そして、聴いてて欲しいの」



その声に歌唄の方を見ると、歌唄が優しい顔で微笑んでいた。それに、少しだけ見とれた。

なんというか、マジで憑き物が落ちたような顔になったから。



「私、歌うから。誰にも縛られない私だけの歌を。それで、今度は本当にライブに招待するわ。
あ、でもそれだけじゃないの。ずっと、いつまでも聴いてて欲しい」



今までとは違う、優しい感じのする言葉。

多分、本当に素の歌唄が、目の前に居るんだ。



「アンタにはさ、どこに居ても、この街から出て、管理局ってとこの仕事に戻って、それがどんなに忙しくてもよ。
私の歌、絶対に聴いてて欲しいの。それだけ、お願いしたいな。・・・・・・フェイトさんと一緒にね」

「そっか、んじゃ楽しみにしてる。次元世界にほしな歌唄の歌声が広まるのをね。そうすりゃ、どこに居ても聴けるよ」

「うん、そうする。私の歌声、アンタがどこに居ても届くようにする。それが出来るように、頑張るわ」





・・・・・・歌唄の歌か、なんか楽しみだな。



ちゃんと見てなきゃだめだね。・・・・・・フェイトと一緒に。





「そうよね、そこ大事よね。なんだかフェイトさん、すごくヤキモチ焼きみたいだから。
というより、なんだか泣きそうな目で私を見るのはやめて欲しいわ。ねぇ、いつもコレなの?」

「いつもコレなんだよ。まぁ、ヤキモチを焼いてくれるのは嬉しいんだけどね。・・・・・・あ、そうだ歌唄」

「なに?」

「まぁ、二階堂やゆかりさんもなんだけど、ちょっと相談があるんだ。ガーディアンの業務絡みで」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・というわけなんだよ」

「そっか、それはまた難しい問題だね」



でさ、なんでフェイトが居るのっ!? 僕すっごい疑問なんだけどっ!!

普通にソファーに座って普通に深刻そうな顔で話聴いてたしっ! これ、ちょっとおかしくないっ!?



「そうよ。ガーディアンの業務絡みなんだから、帰ってよかったのに。というより、居ても介入出来ないわよね」

「だって、あの・・・・・・その・・・・・・」

「歌唄、あんまり無茶言わないの。フェイトさんはアンタとおチビちゃんとの距離が近いのが心配なんだから。
でも、ゼロか・・・・・・。フェイトさんの言うように、アンタ達はまたまた厄介な問題に首突っ込んでるわね」





そう、ゼロ・・・・・・拓也のことだ。

歌唄とゆかりさんが芸能関係の仕事は詳しい。

二階堂は先生。ちょうどいいからあむ達と相談した上で話してみることにした。



まぁ、フェイトが居るのはご愛嬌ということで。



ただし、絶対に口外しないようにと念押しはした。それはもう厳重に。





「姉さん、今からゼロがテレビで本当のマジックをするというのは」

「無理よ」



・・・・・・ゆかりさん、即答ですか。いや、分かってましたけど。



「海里のお姉さん、どうしてもダメなんですか? ややが思うに、そうしちゃえば問題解決するのに」

「残念ながら解決しないわよ。いくらマジなマジックだからって言っても、同じ。
あんなどっかのショーみたいなのから普通のマジックになる・・・・・・ようするに、地味になっちゃったら、誰も見ないわよ」



ハッキリ言うけど、その言葉には説得力があった。

だって、ゆかりさんは何だかんだで一流プロダクションのマネージャーだったんだし。



「てゆうか、アンタ達大事なこと忘れてるわよ。・・・・・・いい?
私や歌唄みたいな業界の人間はともかく、視聴者はゼロのマジックがインチキだなんて知らない」





まぁ、疑ってる人間は居るかも知れないけど、基本的には信じてる人間が大半。



ようするに、ゼロというキャラクターは『魔法の時間』を自分達に見せてくれる。



世間でゼロは、奇跡のキャラクターとして認識されているわけだ。





「そんな状態でそれをやったら、普通に考えてスケールダウンしたって考えるに決まってる」



それをやるんであれば、今やってる『ショー』レベルのものが見せられないとだめってことだよね。



「なにより、ゼロのマネージメントをしてる事務所はそうでもしない限りは絶対に納得しない。
私も何度か会ったことあるけど、利益さえ上がればタレントの意見なんて無視ってヒドイとこだもの」

「やっぱりそうなるんですか。このまま嘘をつき続けても、なにもならないはずなのに」





唯世がどこか悔しそうに呟いた。ガーディアンとして助けられないのが悔しいんでしょ。



でも、ここはしょうがない。だって、小学生・・・・・・子どもだもの。



大人に比べたらやれないこと、たくさんあるから。てゆうか、これは僕やフェイトでも無理。





「それなら、ゼロのマジックが嘘だとバラすのはどうかしら。
そうすれば、嫌でも本物のマジックをしなきゃいけなくなる。擬装食品とかでもそうだし」

「でもさ、りま。それをやると拓也君が辛くない? ゼロ・・・・・・拓也君が嘘ついてたのは、間違いないわけだし」

「あむの言う通りだね。まぁ、ネットとかを使えば出来るかも知れないけど・・・・・・私はお勧めしないな。まず、ゼロという『商品』の価値が0になる。
そうしたら、その拓也君・・・・・・だよね。その子は多分ゼロでいられなくなるし、芸能界で二度とマジックが出来なくなる可能性がある」





フェイトの言葉に、全員の表情が重くなる。

というより、その可能性を考えると下手な手が打てない。

短絡的な解決手段は、かえってバッドエンドを呼び込みかねない。



とにかく、条件を考えてみようか。僕達の理想の勝利条件をさ。

ゼロの商品価値を下げないように、本当のマジックが出来るようにする。

・・・・・・ごめん、この不可能は超えられないわ。てゆうか無理。





「でもでも、本物のマジックなんですよ? それで見ないなんてありえないですよー」

「結木さん、気持ちは分かるけどそれは仕方ないんだよ。
どうしても人目を付く方に人気が出ちゃうのは芸能界に限ったことじゃない」



確かになぁ。全ての事に通じる道理だしね。なのはの評判とかもそうだし。



「でも、君達どうするの? 正直これはガーディアンどうこうでなんとかなる問題じゃない」



うん、無理だよね。だって話は、芸能界って言う大きなものが関わってるんだから。



「事務所からそういう風にしてるってことは、それの説得も無理だと僕は思う」

「そこは私も悠に賛成。タレントをマネージメントするって、そんな簡単なことじゃないもの」



何か売りがなければ、簡単に使い捨てで終わる。

ゼロの場合あの嘘っぱちでも派手なショーがそれってことか。



「それを傍目から見て超えるものをゼロ本人が持っていない以上、それを見てもらえる場がない以上、どうしようもないわよ」





二階堂とゆかりさんの言う事は正しい。

それに僕達だって、正直『芸能活動をやめろ』とかなんとかを本気では言えない。

拓也の今後に関わってくることだし。



うーん、そうすると・・・・・・どうすりゃいいの?

ここまで悪条件が揃ってると何にもなくさずに根本的な解決は無理っぽいし。

・・・・・・力ずくで事務所に言うこと聞かせるなんて、持っての他だしなぁ。





「やっぱり、僕達が拓也君のマジックを定期的に見るという事しかないのかな」

「そうかも知れないね。ゼロの活動方針に関して君達が口出しは出来ないでしょ。
というより、やったら長倉君は確実にクビになる」



だよなぁ。もう僕達に話してる時点で、事務所との規約を破ってるわけだし。


「それに事務所だって、慈善事業でやってるわけじゃない。稼げなかったらご飯が食べられないんだよ?」

「そうね、そこはアンタ達がどう足掻いてもどうにもならないってことは私からも言っておくわ」





それは、ある意味では最終的な死刑宣告。この事態においてガーディアンは何も出来ないという宣告。

それにより、ガーディアンの面々は僕とリインを除いて意気消沈と言うような顔になる。

だけど、どうやらそこで終わらないらしい。ゆかりさんの目を見た。



まだ、この事態を放り出すのを決定したような目はしてなかった。





「ただ・・・・・・歌唄、アンタはどう思う?」

「・・・・・・私、前にあの子と競演したことがあるじゃない」

「あぁ、あったわね。私達がまだイースターに居た時に」



あぁ、いつぞやのテレビだね。僕も見てたよ。

千匹の蝶になって・・・・・・ねぇ?



「あの時はあの子がマジックなんて出来ない、ただ事務所の言いなりになっているだけの人形だと思ってた。
でも、もし本当にマジックが出来るなら、見てみたいかな」



歌唄の目を見る。どこか、面白いものを見つけたような、ワクワクした目をしていた。



「というより、本物が偽者にあっさり負けるとは思わないわ」



まぁ、だからって本物が必ず勝てる道理も存在しないけどさ。

某衛宮さんとかはその類だし。とにかく、ここは別問題なので置いておく。



「・・・・・・そう、だよね。うん、歌唄の言う通りだよね。あたしもそう思う。このままでなんて、いいわけないよ。
だって、人に隠れてマジックをしたって、そんなの自分に嘘ついてるのと同じじゃん。こころのたまごにだって悪影響だよ」

「でもヒマ森さん、隠れないと長倉君はゼロだっていうことがバレちゃう。これも事実だよ?」

「そうかも知れないけど、それでもあたし達に出来ること、なにかあるんじゃないかな。ううん、きっとある」



出来ることねぇ。うーん・・・・・・あれ、なんか来た。

うーん、こうここまで出かかってるんだけど、あれ・・・・・・うーん、出ない。全く出ない。



「ヤスフミ、どうしたの?」

「いや、いいアイディアが出そうなんだけど、のどに引っかかって・・・・・・」



出来る事・・・・・・やれる事・・・・・・だめだ、出かかってるのに出てこない。

こう、詰まってる感じがする。いつもならポンと出てくるのに。



「お米をたくさん食べるのはどうかな」

「いや、フェイトさん? 魚の骨を詰まらせたんじゃないんですから。
というより、そんなことやったら蒼凪君がアイディアを飲み込んでそのままお腹の中で消化しちゃいますし」

「あ、そうですよね」



とりあえず、フェイトの天然はさておくとしてもう少し考えてみる。

・・・・・・うーん、でない。やっぱりでない。ここまで出かかってるのにでない。



「恭文、ちょっとごめん」

「へ? ・・・・・・うごごごごっ!? ふはふーーーぐぐぎいー!!」



こら歌唄っ!? 口の中に指を突っ込むなー! 吐くっ!! これ吐くからねっ!?



「大丈夫、吐きなさい。そうすればアイディアも出てくるわよ」



なんか平然とエグイ手段を思いついて実行に移してるっ!?

ちょ・・・・・・その殺し屋の目はやめてー! 怖いんだからっ!!



「じゃあ口移しで吸い出されるのとどっちがいいのっ!?
アンタ彼女持ちでそれが出来ないんだから、こうするしかないでしょっ!!」



平然とありえない二択を僕に押し付けるなー! てゆうかその発言やめてっ!?

フェイトとリインがなんか殺気出し始めたからっ!!



「こら、歌唄っ! アンタ今日入居したばかりのこの事務所を汚す気っ!? お願いだからそれやめてー!!」

「・・・・・・あー、そうだっ! あたし思いついたっ!!」



あ、なんか先越されたっ! 悔しいけどこの場合は救いだっ!!

だって、これで歌唄がこんな真似する理由が



「まだよっ! あむが言い終わるまでに吐かせれば問題は」





きゃー! いつの間にか競争が始まってたー!! ロスタイムの最後の一秒まであきらめないすばらしい精神が発動したー!!



でも歌唄、そこはあきらめていいってっ! 絶対・・・・・・あきらめていいからねっ!?



あきらめちゃいけないこともあるだろうけど、ここは絶対あきらめていいからっ!!





「歌唄やめてっ! ヤスフミ本当に顔色悪くしてるからっ!!」

「フェイトさん甘やかさないっ! こいつは少しくらい厳しめにした方がいいのよっ!!」

「それはそうかも知れないけど、厳しくする方向性を間違えてるよっ!!」





も、もうだめ。なんか・・・・・・出そう。



アイディアじゃなくてこう・・・・・・液体的なものが出そう。





「蒼凪君、ポリ袋用意した方がいい?」










二階堂、ポリ袋用意する前に歌唄を止めてー! マジで突っ込んできてるのー!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・というわけなんだけど・・・・・・あの、恭文、大丈夫?」

「ごめん、二階堂。朝までは無理。もう気分悪くて悪くて」

「あぁ、無理しなくていいから。ほら、ソファーで横になってて」





お言葉に甘えさせてもらって、ソファーで横になって・・・・・・。



あぁ、なんか吐き気がちょっと中和された感じがするのが不思議だ。



しかし歌唄のやつ、まじめに容赦なかったし。どんだけドSなんだよ。





「うーん、もしかして歌唄ちゃん、好きな子にいじめたくなる年頃なのかな」

「かも知れないわね。だからIF要望とか来るわけだし。まぁ、私とあむもだけど」

「歌唄ちゃんもりまたんもあむちんもずるいー。ややもIFヒロイン候補に仲間入りしたいー」



お前ら、僕が大変な時に一体なんの話をしてやがる。



≪・・・・・・夢って、叶わないから夢って言う人が居ましたよね。
あんまり好きな言葉ではないんですが、ややさんを見てるともしかして真実ではないかと思ってしまいました≫

「ちょっとこてつちゃんっ! それどういう意味かなっ!?」



まぁ、ややがIFヒロインになれるかどうかは雑記や拍手なんかで考えていくことにしようじゃないのさ。

でも、それはまた・・・・・・あむ、よく思いついたね。感心感心。



「えっとね、歌唄とゆかりさんのブラックダイヤモンズからヒントを得たんだ」

「あ、なるほどね。方向性が違うだけでやってることは私達の作戦と同じだもの。納得したわ」



僕も納得した。そして思った。出かかっていたのはこれだと。

うー、早く思い出してればよかった。そうしたら歌唄に指突っ込まれる必要もなかったのに。



「あむにしては上出来よね」

「そうでしょ、あたしにしては・・・・・・ちょっと歌唄っ!?
アンタあたしに対しての扱いがぞんざいじゃないかなっ! 恭文にはすっごいフレンドリーなのにっ!!」

「私、恭文はイクトの次くらいに好きなの。フェイトさんが居なかったら」



え、なんで僕をまたジッと見るの? いや、色々おかしいから。



「付き合ってもいいかなとか思うくらい。というより、第三夫人になっていいと思ってる」



きゃー、なんかすっごいコメント出してきたー! というか、全員僕を見ないでっ!? 僕はそういうつもりないからっ!!



「あぁ、リインの次なのですね」

「そうよ。コイツはそういうの反対派だけど、なるとか意思表示しとくと、ツッコミとかで反応おもしろいでしょ?」

「わかります。恭文さんはツッコミ気質ですから」





だからそこなんで通じ合ってるっ! 通じ合う意味がわかんないよっ!?



あと、僕はフェイト一筋だから第三夫人以降ハーレムなんていらないからっ!!



・・・・・・いや、真面目にだよっ!? フェイト居るのに付き合う意味がわからないってっ! 第三夫人もないからっ!!





「まぁ、私はあの時フェイトさんや恭文との賭けに負けてるからそれはないけどね。でも、フェイトさん公認で親友くらいならいいかなと思ってる」



そ、そうですかぁ。でも、それならこのコメントは、しないで欲しかったなぁ。



「てゆうか私、恭文とはすごく通じ合えるの。同じドSだし、話しやすいし、彼女が居るからって友達にもなれないのは嫌なの」





あぁ、納得したよ。あの時の賭けに負けてるから、これで済んで・・・・・・。



え、あの賭け有効だったのっ!? じゃあもしも負けてたら、どうなったのさっ!!



・・・・・・お、恐ろし過ぎるわボケっ! てゆうかおのれはいきなり何の話をしてるっ!!





「とにかく、恭文に対してはそんな感じだからそうなるの。
でも、アンタはそうじゃない。だからぞんざいになる。分かった?」

「分かるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



あー、楽しそうに騒ぎますなぁ。僕はそこに参加できないのが残念ですよ。

てゆうか歌唄、普通に女の子が男の口に手を突っ込むのはまずいと思う。



「恭文さんに心を許している証拠なのです。エル、幾斗さん以外の男の人にあんなことをする歌唄ちゃん、初めて見ました」

「そうだぞ。お前、光栄に思え。まぁ、彼女持ちだからちょっと無理か?」

「そうですね、恭文さんはフェイトさんとリインさん一筋ですから」

「・・・・・・なぁ、エル、それはアタシが思うに一途って言うのとは違うんじゃねぇ?」

「そう言えば・・・・・・」



エル、イルお願い。そこは気にしないで。僕も日々苦悩してるところだから。



”ヤスフミ、あの・・・・・・”

”フェイト、泣きそうな顔しないで。僕そんなつもりないから。
いや、真面目にないから。僕、心狭いもの。フェイトだけでいっぱいだもの”

”ううん、そうじゃないの。そこは分かってるから”



へ?



”私も、ヤスフミの心を独り占め出来るように頑張っていくから、いいの。
・・・・・・あのね、歌唄と友達付き合いを続けたいなら、遠慮しなくていいから。ヤスフミも、歌唄とは通じ合える感じしてるよね”



ま、まぁ・・・・・・それはかなり。ドS仲間だし。



”そっか。とにかく私は気にしてないから大丈夫だよ。でも、ちゃんと気持ち、伝えてね?
想いが更新され続けていることを教えてくれないと、ヤキモチ・・・・・・沢山焼いちゃうから”

”わかった、そうする。フェイト、ありがと”

”ううん”



なんというか、ちょっと怖いくらいにあっさり納得してくれた。

・・・・・・本当に伝えていこうっと。うん、がんばろう。



「ヤスフミ、夕飯食べられそう?」

「うん、もう少し休めば大丈夫。そのあとは二階堂に奢らなきゃいけないし、ちょっとがんばらないと」

「え、本当に奢ってくれるつもりだったのっ!?」

「うん」










なんかびっくりしている皆はともかく、こうして作戦は動き出した。





出来ない事がある。どうやっても変えられないものも、まぁあったりする。だけど、それだけじゃない。





そう、変えられることだって、僕達にはあるのだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・変装してみんなの前でマジックっ!?」

「そうだよ。ただし、拓也君が変装するのはゼロじゃなくて、別のキャラクター。
ゼロとは違うキャラクターになってマジックをするの」

「日奈森さんのアイディアなんだ。これならゼロのこともバレない。
それで、学校内ではあるけどたくさんの子に見てもらえる」

「言い方は悪いけど、ゼロのパクリ・・・・・・似たキャラクターってするです。
それなら、みんな自然と受け入れてくれると思うです」





あの後、相談に乗ってくれた二階堂やゆかりさん、歌唄にフェイトに重ね重ねお礼を言った。

そしてその翌日・・・・・・というか、今日。放課後に僕達はロイヤルガーデンに拓也を呼び出す。

そして、拓也にあむのアイディアを提案した。それは、変装。



変装して皆の前でマジックをするのだ。うそではない、本当の拓也のマジックを。





「さすがに学校の外でやるのはまずいだろうけどね。・・・・・・ただ、事務所の契約ってあるでしょ?
それに引っかかる様子なら無理は言えないし、この話はなかったことにするけど」





拓也の表情が、さっきまで嬉しそうに笑っていたものが困ったようなものに切り替わった。

・・・・・・まぁ、ここは説明しておかないとまずい。ゆかりさんにも言われたことだ。

事務所とタレントは、いろいろな規約を守った上で互いに協力し合う。



そうして、芸能活動に従事している。この行動は、下手をすればその規約違反に繋がる可能性が高い。

なにより、学校内とは言え僕達だけでなく不特定多数の人間に見られることには変わりはない。

危険性が0というのはありえない。つまり、拓也もこれをやることで相応のリスクを背負うことになる。



警戒し過ぎとは言うことなかれ。人の口に戸は立てられない。

これが噂になって、それが事務所の耳に入って・・・・・・ということだって、考えられるんだから。





「蒼凪さんの言うように、これで何らかの不利益が襲ってきたとしても、俺達はなんの責任も取れない可能性があります」



いや、恐らくそれはかなり難しいだろうね。



「長倉さん、俺達は提案している身で勝手な言い分とは重います。
ですが、本当にやるのであれば熟考した上で」

「僕、やりたい」





そうだよね、ゼロだって嘘ついてるかも知れないけど、夢が叶った一つの形なわけではあるんだし。



ちゃんと考えた上で・・・・・・え?





『えぇっ!?』

「たくさんの人の前で、マジック・・・・・・やってみたいですっ! あの、みなさん協力してくださいっ!!」

「拓也君、本当にいいの? 今恭文といいんちょが言ったみたいに、もしかしたらゼロでなくなっちゃう可能性もあるんだから」

「それでも、僕の本当のマジックが出来るなら・・・・・・やってみたいんです」





・・・・・・ふむ、そういうことなら仕方ないね。



まぁ、僕達も絶対にバレないように気をつけるとしますか。



というか、僕もこの子の本気のマジックが見たいしね。うん、どうなるか楽しみだ。





「なら、決定ということで。・・・・・・拓也、僕達も出来うる限り力を貸す。
少しの間、一緒に頑張ってみようか」

「はいっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・で、あむが泊り込みで衣装つくりしてると。
てゆうか、裁縫なんて出来たんだ。もうほとんど出来上がってるじゃない」

「あははは、スゥにキャラチェンジしてもらいました。あと、ミキにデザインを考えてもらって」





今、あむの髪を結っている×形の髪飾りは、緑のクローバーに変わっている。

そう、絶賛スゥとキャラチェンジ中。

スゥとキャラチェンジすると、料理や家事・・・・・・裁縫関係もかなりの腕前になる。



そこを利用しているわけである。





「今のガーディアンの中で裁縫関係強いの僕と海里くらいだしね。
でも、海里は引越しの準備やらゆかりさんの世話やらで大変だし、うちに来てもらったの」

「そっか。納得したわ」

「すみません、ティアナさん試験近いって言うのに」

「問題ないわよ。隣でどんちゃん騒ぎやられたらそりゃあ腹も立つわよ?
けど、そういうわけじゃないんだから。ま、頑張んなさい」

「はい」





夜、あむは今日うちにお泊りで、衣装を仕上げる。少しでも早く拓也にマジックをしてもらいたいらしい。

相当、気合が入っているらしくこうなった。寸法に関しては昼間に測ってある。

なので、それに多少余裕を持たせた上で服を作る。生地に関しても帰りに調達してきた。



僕のポケットマネーから出したんだけど、あとで唯世に申請して経費で落としてもらうことにする。



領収書ももらってるし問題ないでしょ。

で、夕飯を食べ終わってからリビングのテーブルを借りる。

そして、二人でかなりの速度で根を詰めに詰めて・・・・・・これ、徹夜すれば完成するかも。





「ヤスフミ、あむ。もしよければ私達も手伝うけど」

「裁縫は私も得意ですから」

「え、いいの?」



声をかけてくれたのは、フェイトに咲耶。あと、ディードも横に居た。

そして、三人とも頷いてくれた。・・・・・・なら、あむどうする?



「手伝ってもらっちゃっていいですか? もう図面通りに生地の切り出してて、後はサイズ見ながら縫うだけなんですけど」

「あ、もうそんな段階なんだね」

「スゥと恭文が手伝ってくれましたから。あ、もちろんミキのデザインありきだよ。うんうん」

「いやいやあむちゃん、そんな取って付けたように付け加えなくてもボクは大丈夫だから・・・・・・」










で、五人がかりで衣装に取り掛かって・・・・・・予想よりも早く仕上がった。





うむぅ、しかしすごい。いや、本番が楽しみだなぁ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・では、当日まで内容は秘密ということで決定ですね。あと、場所や会場の設営なのですが』

「先生方にも手伝ってもらおうか。事情は話せないけど、夏休み前の息抜きということで」

『そうですね。今からならギリギリ期末恒例の抜き打ちテスト前には出来るでしょうし、問題はないかと』



いや、そういう時だからこそ協力を得られるかどうかは際どい。

・・・・・・まぁ、大丈夫か。でも三条君、なんだか楽しそうだね。



『いえ、もうすぐ転校ですから』



ただ一言、電話越しに聞こえたそんな言葉だけで、全てが伝わった。

今までとは違う、本当に純粋にガーディアンの一員としてここに居る。きっと、それが楽しいんだ。



「・・・・・・そっか。うーん、やっぱり三条君が抜ける穴は大きいなぁ。
僕がキャラチェンジしても、止めてくれる人が居なくなるし」

『藤咲さんにコツを伝授しておきます。メールアドレスは教えていただいていますので』

「あははは、そうしてくれると助かるよ。あ、そう言えばさ、蒼凪君と日奈森さんからの誘い、受ける?」

『はい、そのつもりです。姉さんからも行って来て欲しいと快諾を頂きました』





どうやら、三条ゆかりという人は、プライベートでは本当にいいお姉さんらしい。

僕もそうだけどガーディアンのみんなも、少しずつ印象が変わってきてる。

なお、二人の誘いというのは、夏休みをミッドチルダで過ごさないかというもの。



ミッドチルダというのは、フェイトさんとランスターさんが使うミッド式という魔法発祥の地。

時空管理局の施設もあり、次元世界の中心と呼ばれているその世界に、来ないかというもの。

なんでも、蒼凪君がそこで行われる戦技披露会と呼ばれるものに参加するとか。



それは、管理局の強い魔導師の人達が集まって、自分の培った技能を模擬戦形式で外の人達に見せるというイベント。

日奈森さんはその応援・・・・・・というか、将来の指針を決定する参考にしたいらしい。

ミッドチルダに行って管理局の施設や次元世界を見てみるとか。



そして、僕や三条君、結木さんや真城さんもそれに誘われてる。

いい機会だからフェイトさんやランスターさん達も一度ミッドに戻るとか。

観光や局の施設の見学がしたいなら案内すると言ってくれている。



なので現在、僕達は自分の家族に許可を取り付けている最中。



まぁ、次元世界のあれこれは話せないけど、人生勉強というか郊外学習というか、そういう感じで。





『そう言えば、ジョーカーが藤咲さんにも声をかけているとか』

「うん、言ってたね。『なでしこ』の方は無理だけど、『なぎひこ』の方ならもうすぐ転校してくるから大丈夫だって。・・・・・・というか、いいのかな」



どっちにしても夏休みの大半は向こうに居る感じになりそうだし。

藤咲なでしことなぎひこが同一人物だってバレなきゃいいんだけど。



『その辺り、フォローする必要があるかも知れませんね』

「そうだね」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『・・・・・・唯世から話を聞いて、とりあえず都合はつけた。フルで参加出来るぜ。
でも、本当に俺も行っていいのか? 俺、一応ガーディアン卒業組だしよ』

「問題はないよ。というより、来てくれると助かる。・・・・・・なぎひこのことがあるから」

『あ、そういうことか』



作業の後片付けをしてから、僕は空海の携帯に連絡。用件は、夏休みの旅行について。

ベランダに出て、夜空を見上げながら電話。これはなかなかオツである。



『しかし、戦技披露会・・・・・・だっけか? お前もまたすごいのに出んだな』

「・・・・・・正直、断ろうかとも思ってたけどね」

『なんでだよ。だって、それに出られるだけでも管理局から『アンタは強い』って太鼓判押されるのと同じなんだろ?』



そう、確かに戦技披露会にはそういう部分がある。でも、僕のような嘱託だとそれだけじゃない。



「去年の3月の中旬くらいにも有ってさ、それに出た後が大変だったんだよ。
僕、フェイトやティアナみたいに正式な局員じゃなくて非常勤・・・・・・嘱託って言えばわかるかな?」

『あぁ、わかるぞ。丁度今日の国語の授業で辞書で調べたとこだからな』



・・・・・・なんつうタイムリーな。

まぁ、それなら話は早い。先に行きましょ。




「本当ならこれに出られるのは正式な局員だけなんだよ。
でも、僕が出られちゃったから妙だなと思ってたんだけど・・・・・・落とし穴があった」

『落とし穴?』

「出た後に、あっちこっちの部隊から勧誘が来たんだよ。
正式な局員になって、うちの部隊に入らないかって。それもすごい量」

それは僕だけじゃなくて、僕と同じような嘱託の人も同じらしかった。


「どうも、そういう選考会というか嘱託のままで局員になろうとしていない、優秀な人間の実力を見る場を作ろうとしてたらしいのよ」

『あぁ、そういうことか。ようするに、お前が去年出た時、お前やお前と同じ嘱託の魔導師の実力を見るためにスカウトマンがどっさり居たと』





そういうことだね。戦技披露会に出た人間が居るなんて分かれば、対外的にも箔は付くしなぁ。

てゆうか、僕はフェイトの補佐官やるって何度言っても聞かない所もあって大変だったし。

あぁ、それだけじゃない。人目に付くから、あんまり派手な隠し手は使えないんだ。



これも仕方ないと言えば仕方ないけど、面倒なのさ。





『なんだよ、お前からすると制限だらけじゃないかよ。それなのにまたなんで出ようと思ったんだ?』

「・・・・・・強い相手と戦えるから」

『はぁっ!? お前、それだけかよっ!!』

「だって、戦うのは楽しいし」

『あはははははははっ! ありえねー!!』



うー、笑うな。僕にとっては大事な理由なんだ。

局の中でもエースやストライカーと呼ばれる相手がゾクゾク出演だもの。期待しない方がおかしい。



『ただ、それは俺も分かるな。俺は、サッカーなりバスケなりしてる時だな。
もう、すっげー強いプレイヤーとぶつかると、ワクワクするしな』

「あ、分かってくれるんだ」

『まぁ、お前とはまた色が違うだろうけどよ。でも、ミッドチルダ・・・・・・だっけ?
なんかすっげー楽しみだわ。異世界なんて行った事ないしよ』

「そうだね、僕も楽しみだ。あとは・・・・・・」



アレ・・・・・・なんだよなぁ。うぅ、妙な警告してくれなくていいのに。



『なんだ、なんかあるのか?』

「いやさ、クロノさん経由で今日ちょっと警告・・・・・・というか、忠告をもらってさ」

『クロノさんって、お前やフェイトさん達のお兄さん兼上司だよな。それが忠告って、一体なんだよ?』





・・・・・・とりあえず、空海はガーディアンの中では年上だし、話しておくか。



いざという時には頼りにさせて欲しいし。



あぁ、それだと唯世と海里にも話す必要あるな。一応気をつけておくようにと。





『おい、恭文』

「あぁ、ごめん。・・・・・・実はね、最近本局で騒がれてる事件があってさ」

『それが警告とか忠告って話に関係してるのか』

「うん。前にロストロギアの話はしたよね? でさ、次元世界には、そういう古代遺跡からの発掘品や古美術品を扱ってるブローカーや研究者が居るのよ」

『はぁ? 待て待て、ブローカーって取引してる奴ってことだよな。ロストロギアって、売買出来んのか』



あー、そう言えばその辺り説明してなかったっけ。ただ単に危険だって話はしたけど。



「あくまでも危険性が少なくて、管理局が審査して、認可を受けた物に限り、売買取引が認められてるんだ」



というか、ロストロギアは危険物ってだけじゃない。

危険な能力とか、そうなりえる妙な能力があるって場合もある。



「ロストロギアって言うのは、貴重な歴史の遺物でもあるのよ。
そういうものはちゃんと保管して、歴史学者が研究したりするの」

『なるほど、なら納得だ。でもよ、それだとエンブリオは無理だな。
願いを叶えて10メートルの猫があっちこっちから出てきちゃ、たちまちアウトだ』

「そうだね、それはあんまりに怖すぎだ」



・・・・・・で、話を戻そう。ここからが、重要なのよ。



「そういう物の取引をして食っている連中・・・・・・遺法合法問わずだね」



とにかく、そんな連中をターゲットに、事件が起きている。



「同一犯による連続殺人事件が現在進行形で起きてるらしいんだよ。ただし、ミッドチルダとは別世界で」

『それはまた穏やかじゃねぇな。でも、それと俺達とどう関係してるんだよ。
ミッドチルダと違う世界なら、俺達が関わることはないだろ』



本来なら、その通りなんだけどねぇ。もちろん、ここも事情ありですよ。



『あ、それの捜査にお前やフェイトさん達が加わるとかか?』





いや、それもない。僕達は現在エンブリオの捜索専任。



あと、最近もうひとつ追加された。



・・・・・・第97管理外世界を崩壊させかけたイースターの行動を阻止する。





『・・・・・・本格的にイースターを止めろって話になってんのか』



つい最近、クロノさんから正式に通達が来た。確かに、色々と危険な連中になってきてるから。



「イースターの行動は放置しておくには危険だと判断したみたい。
まぁ、局自体が表立って動くのは無理だけどね」





ブラックダイヤモンド事件であのウィルスCDが広まってたら、世界がひとつ滅びてた可能性もある。

てゆうか、ミッドでも歌唄のCDがちょうど出回ってたらしい。そして、それだけじゃなかった。

クロノさんがちょっと調べた所、例のブラックダイヤモンズのCDも入荷予定だったとか。



・・・・・・かなりやばかったと、フェイトと二人恐くなったりしたっけ。

とにかく、それを放り出してその事件捜査などするわけがない。

うん、普通なら関係しない。するはずがない。



だって、本局に居る局員や捜査官、執務官はフェイトや僕達だけじゃないんだから。

他にも出来る人はたくさん居る。だけど、ところがどっこい。

今回は、そうはいかないかも知れない。





「その事件は、フォルスとヴァイゼンって言う世界を跨いで起きてたらしいのよ」

『つまり、地球やミッドとは違う別の世界が、それってことだよな』

「うん。フォルスで6件。ヴァイゼンで4件。本局では犯人を追ってる。
だけど、決定打になりそうな手がかりはほとんどなし。でね、クロノさんの見立てだと」



当然、次元航行艦隊に所属していて、色んな世界を回る仕事をしているクロノさんの耳にも入っている。

そして、長年執務官として、ひとつの艦を預かる艦長として仕事をしてきた歴戦の勇士の勘が、とっても嫌な可能性に気づいてしまった。



「場合によっては、ミッドチルダでその事件が起きる可能性もあるらしいのよ。
ミッドにもそういうブローカーや研究者は、かなりの数居るから」

『・・・・・・マジかよ』

「マジ。ただ、本局でちゃんと担当を立てて、その人が事件を追っかけてる。
だから上手く行けばすぐ解決する」



ついでに、言い方は悪いけど被害者になりえる連中が居る世界は、その三つだけじゃない。

本当に、色んな世界に居る。つまり。



『担当が他に居るから、エンブリオ捜索とイースター対策専任みたいになってるフェイトさん達やお前が動くような事にはならない』



空海も、何だかんだで聡い子だと思う。だから、僕の言いたい事を、すぐ分かってくれる。



『だけど、それでも現状でそういう危ない奴が次元世界で野放しになってるのは変わらない』



そう、そうなのよ。だから、あ本当に低い、極少数な可能性ではある。

だけど、俺達がミッドチルダに居る間にその連続殺人事件が起きる可能性もあるのだ。



『だから、来るのであれば巻き込まれないようにしろ。
気をつけるだけ気をつけておけ・・・・・・ってことか?』





そうだね。・・・・・・うー、そういう話はもうちょっと早くして欲しかったよ。

計画が固まってきてる状況でこれだもの。

今からでもみんなに中止って言おうかな。



なんかあっても、責任取りきれるかどうかわかんないし。





『まぁ、問題ないんじゃねーの?』

「そう、思う?」

『あぁ。そういうことなら、何か起こってもそれはマジで運が悪かった場合だろ。
お前やフェイトさん達のせいには、誰もしねぇって。少なくとも、俺はな』

「そう言ってくれるのはありがたいけど・・・・・・。
とにかく、早く犯人捕まってくれると嬉しいなぁ。それが一番だし」

『確かに、それが一番だ。とりあえず事情は分かった。
その話、唯世や海里、藤咲はともかく、日奈森達には黙ってた方がいいよな』

「そうだね、下手に不安にさせたくない」



まぁ、異世界で見知らぬ土地だから、行動には気をつけておこうくらいに言っておこうか。



「絶対に連絡なしで、単独で行動しないように・・・・・・とかさ」

『だな。でもよ、わざわざそんな警告してくるって事は、犯人は相当派手にやってるのか?
例えば、普通に俺達観光客が巻き込まれるような感じでさ』



・・・・・・かなりね。報告書も送ってもらってチェックしたけど、相当だった。

つーか、犯人は何者? どう考えてもやり口が人間業じゃないでしょうが。



「あ、これオフレコだから、向こうの世界に言っても話したりしないでね?」

『あぁ、分かった』

「・・・・・・犯人、爆破系特化の能力使いらしいのよ。
被害者は喉に刃物をブスリと刺してるか、爆死させられてる。もしくはその両方で殺されてる」

『また念入りだな。なんか、被害者に恨みでもあんのか?』

「さぁね。ただ、怨恨の線って言うのは違うと思う」





もちろん根拠がある。爆破はともかく、喉に刃物をブスリは犯人がやったんじゃない。

・・・・・・被害者が、自分でだ。検死の結果それは間違いないらしい。

本局の方の見立てでは、それが精神操作の能力によるものの可能性が高いとか。



あとは、死を選ぶ程の強烈な恫喝を受けたかのどちらかだと見ているらしい。



けど、その瞬間を押さえられてないからどちらも推測の域を出ない。





「犯行場所や時刻も問題なんだよ。真昼間だったり街中の少し目に付きにくい所だったり。
かなり大胆に、派手にやらかしてる。まるで捕まる事を恐れてないと言わんばかりに」



で、さっき言ったような能力使いの可能性が出てきたのは実に簡単。



「現場周辺が爆発によって、火の海になることが大半だったから」

『・・・・・・そりゃクロノさんが危惧するのも分かるわ。魔導師組はともかく、俺らの真横でそれはキツイって。
やられたら、普通に丸焼けだしよ。まぁ、マジで行動には気をつけておくことにするか』



そうだね、マジで気をつけておこう。このパターンだと・・・・・だしなぁ。



『てゆうか、旅行先で最低限なレベルでも行動に気をつけるのは当たり前のことだろ。
知らないとこで、何かあっても助けてくれる人が居るかどうかわからないんだしよ』

「それもそうだね」










いや、今回はマジで巻き込まれたくない。さすがにあむ達が居る中でこれはないもの。

フェイトも『例えミッドで事件が起きても、もう担当が立ってるから私達が捜査することにはないよ』・・・・・・とは言ってくれたけどさ。

でも、不安だ。いつものパターンだと起きそうだからすっごく不安だ。





エンブリオ、出てこないかなぁ。もう今すぐに。





そうしたら『事件が明日中に解決して、みんなでミッドに行っても何も起きませんように』ってお願いするのに。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「マリアージュ・・・・・・ねぇ」





仕事が終る直前、俺は自分のデスクとにらめっこしていた。

しかし、やっさんがガーディアンの面々と暴れてるホンの2、3週間の間に3件追加かよ。

事件自体の最初の犯行は4ヶ月とかそれくらい前。それから今日までに10件。



どんどん犯行のペースが上がってるし、こりゃもっと増えるぞ。





「サリ、なに見てんの?」

「あぁ、例の連続殺人事件のデータだよ。犯人の名前、ようやく分かったそうだ」





なお、スターレン防災司令経由で来た。知り合いの情報通から送られてきたとか。



いや、それを俺に回すって・・・・・・まぁ、いいんだけど。



気にはなってたから自分でもチェックはしてたし。





≪マリアージュ。犯人はそう名乗っているそうです≫

≪えっと・・・・・・古代ベルカ語で人形、だっけか?≫

「あぁ、古代ベルカ中期のガレア地方だとそういう意味になるな」

「あ、そうなんだ。私は花束とか、婚姻とか祝福とか、そういう意味だって聞いてたのに」

「そっちも正解だ」





・・・・・・ヒロとアメイジアの言った事が違うのには、理由がある。

それは、古代ベルカ語は非常に難解だということ。

理由は、地域や時代の分類によって、同じ言葉でも全く違う使い分けがされているからだ。




つまり、ヒロの言う『花束・婚姻・祝福』とアメイジアの言う『人形』は、両方正解。

このため、古代ベルカ語の解読や解釈は非常に手間がかかる。

言葉の意味を知りたかったら、地域や年代データから照らし合わせて、意味を調べていかなきゃいけない。



ちなみに、別の時代と地域では『辛味を効かせた漬物』という意味で使われてもいる。

なぜ花束や人形という意味に使われた言葉がコレになった理由は、不明。

どんな学者にも紐解けない、古代ベルカ語の難解なミステリーの一つとなっている。



うーん、しかしこれは・・・・・・いや、まさかな。

さすがに現状出てる情報だけで全部判断は無理だって。

まぁ、これ以上被害が及ばない事を祈ることにするか。



恐らく、無駄な願いだと思うが。

てゆうか、このタイミングでやっさんとフェイトちゃんは、帰郷かよ。

それも、ガーディアンの面々連れてだぞ?



絶対、巻き込まれるフラグだろ。





「そういや、担当誰なの? 広域次元犯罪なら、どっかのヒマな執務官が追っかけてるでしょ」

「ヒロ、お前よくわかったな。そのヒマな執務官は、何とあのグラース執務官だよ」

「はぁっ!? え、あのおっちゃんがこの事件の担当なんだっ!!」

≪てゆうか、まだ執務官してたんだな。いつぞやのアレで評価落ちたってのに≫





この事件の担当執務官はグラース・ウエバー。本局の中でもベテランに入る執務官だ。

なお、俺とヒロ、やっさんとギンガちゃんとは顔見知り。

あ、詳しくそいつのことを知りたい人は『幕間そのに』を見てくれ。



もう雑魚キャラの如く一蹴されてるヘタレっぷりは、きっとあなたに笑いを提供してくれることだろう。





「なんだかんだでベテランで実績もあるしな。あれくらいじゃどうにもならないって。
ま、コレに関してはいいだろ。俺達が関わる義理立てもねぇし。・・・・・・ヒロ」

「わぁってる。やっさんとこ行ってくるんでしょ? てゆうか、私も行く。
いや、ほんと思ったより早く完成してよかったね」

≪きっとボーイ、驚くぜ≫

≪間違いなくな。いや、楽しみだ≫










ふふふふふ、やっさん楽しみにしてろよ。





お前の度肝、抜いてやるっ! そしていつぞやのアレで落ちた評価を上げまくってやるっ!!





あははははははははっ! あーはははははははははははははっ!!




















(第32話へ続く)







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あきゅろす。
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