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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第30話 『新しい古き鉄達のこんな一日』



・・・・・・俺、三条海里はもうすぐこの地を離れる。





故郷の山口へ転校・・・・・・ようするに帰郷するためだ。





引越しの準備もあらかた終った。転校する事もガーディアンの皆に伝えた。





もう、この地でやるべきことはない。





・・・・・・いや、ある。





そう、今一度、本当の俺であの人にぶつかることだ。










「・・・・・・で、果たし状を書くと」

「また古風ですわね。しかも紙に墨汁で筆書き」

「その上、やたらと達筆・・・・・・。私も習字はやったことがありますが、ここまでは出来ません」





ここは俺の家。今日、恭太郎さんと咲耶さん、そしてディードさんを家に呼んで、その事を相談していた。



そして、試し書きした果たし状を見せたら、何故か三人・・・・・・いや、四人だな。





≪・・・・・・これはすごいですね。止めにはねに字の形状や全体のまとまり。これだけで大会に出れますよ≫

「あ、ありがとう。なんというかそこまで誉められると逆に申し訳なくなってしまう」





恭太郎さんのパートナーデバイスであるビルトビルガーにもすごく関心された。



なぜだろう、普通のことだと思うのだが。





「とりあえず、俺は果たし状なんて書くやつを見たのは初めてなんだよ。てゆうかさ、普通に帰り道で襲えばいいじゃん。
じいちゃんは『常在戦場』とか言って普段から武装してるんだし、特に問題はねぇだろ。それでじいちゃんがやられても、自分の油断が原因なんだから問題ないって」

「いや、さすがにそれは・・・・・・」





俺としては真正面からぶつかってみたい。そして、俺の今ある全てを叩き付けたい。

あの時の俺は、本当の俺ではなかった。なりたい自分ムサシに×を付けた状態だったのだから。

そんな自分を見失ったことで手に入れた力であの人に手傷を負わせたとしても、それはなんの意味もないし、自慢にもならない。少なくとも、俺とムサシにはだ。



それに今なら、ムサシと本当のキャラなりが出来るようになった今なら、過去二度とは違う結果が出せると思う。俺は、それが見てみたいんだ。





「海里さま、恭さまの言う事は気にしないでください」

「そうですね、無視してかまいません」

「ちょ、ディードさんまでひどくねっ!? 俺間違ったこと言ってないじゃんっ!!」

≪咲耶とディードさんの言う通りですよ。まず海里さんの気持ちを考えてください。
というより、普通にそれをやって人に見られた日には警察沙汰です。恭太郎、あなたは海里さんを犯罪者にするつもりですか?≫

「あ、そっか」



あっさりと納得した恭太郎さんを見て、咲耶さんとディードさんがため息を吐く。呆れているように見えるのは、気のせいじゃない。



「とにかく、恭太郎さん。ディードさん」

「わあってる、面白そうだから協力するよ。でもよ、じいちゃんに勝てるかどうかは保障しないぞ?」

「というより、私や恭太郎でも、恭文さんに勝つというのはかなり難しいです。魔法ありでも抜きでも、それは変わりません」





蒼凪さんの強さを支えている部分の一つは、決して魔法と言う力ありきではない・・・・・・ようするに、魔法に依存していない部分が大きいと、ディードさんが言葉を続けた。いや、魔法なしだった場合、ハラオウンさんやランスターさん、先日名前の出た高町なのはという人すら一蹴するらしい。

蒼凪さんは俺と同じくらいの頃から魔法ありなしに関わらず数々の戦いを潜り抜けて、その中で力を蓄えてきた。剣術に関しての練度も、その一つ。

魔法や身体的な先天資質だけで言えば、凡人かつ歪。それが蒼凪さんへの評価。しかしそれを実戦の中で培った戦闘センスで有効活用して、勝利をもぎ取ってきた。



だからこそあの人は強いのだと、どこか誇らしげに話してくれた。そこになぜか、兄を心から慕う妹としての感情が俺の目からは見えた。





「魔法抜きにしても、普通に考えれば今のあなたが勝てる相手ではありません。それでも、なんですね?」

「構いません。勝ち負けが問題ではありませんから」



いや、勝てるのならそれに越した事は無いが。



「これは、誰でもない俺が・・・・・・いえ、俺達がやらなければならないと思うことです。
あの人に俺達のありったけを、全てをぶつけてみたいと、心が叫ぶんです。だから、止められません」

「・・・・・・わかりました。私も恭太郎と同じく、全力で力を貸します」

「ありがとうございます」



とにかく、俺は頭を下げる。目の前の二人に、剣士としての先輩二人に対してだ。



「会って間もなく、しかも敵となっていた俺の頼みを聞いてくれて、本当に」

「あぁ、そういうのなし。俺は出番確保の意味もあるんだしさ」

「恭さま、必死ですわね」

「まぁな」



とにかく、これで転校寸前までお二人に稽古をつけてもらえる事が決定した。

これでよし。これさえクリアすれば、やりのこしたことはない。そう、これさえやれば



「本心か?」



ドキリっ!!



「・・・・・・海里、そのリアクションはちと古臭くないか?」

「私も同意見ですわ。時代錯誤もいいところです」

「ほっといてくださいっ! というよりムサシ、なんだいきなりっ!!」



その全てを見透かしたような物言い、視線。なぜだろう、やけに胸の中がざわつく。

そんなに言いたい事があるなら、はっきり言えばいいだろうっ!?



「あむ殿に好きだと伝えたいのだろうっ!?」

「そんなにはっきり言うなっ!!」

≪いや、海里さん。あなたが言えと・・・・・・。というより、日奈森あむさんが好きなのですか?≫



俺がジョーカーを・・・・・・え、なぜそうなる。



「まぁ、海里さま。そうなのですか?」

「またチャレンジャーだな。辺里唯世が居るってのに」

「ですが、それならばちゃんと伝えるべきだと思います。結果はともかく、燻らせれば後の恋に差し支えますから」

「い、いや・・・・・・あのみなさんっ!? 俺は特にジョーカーに対してそういう感情は抱いていませんのでっ!!」



なぜだろう、全員が乗っかってきた。というより、俺に迫る。

・・・・・・ムサシっ! お前はどうしてそういう根も葉もないことを言うんだっ!!



「海里、お主・・・・・・前話で自分がどういう心の動きがあったのか忘れたのか?」

「前話?」









前話・・・・・・球技大会で、蒼凪さんがジョーカーにマッサージをしてたと知ってイライラした。





そしてアミュレットハートがとても素敵だった。





ジョーカーに視線や心が惹かれていることに気づく。










≪・・・・・・間違いありませんね≫



え、あのビルトビルガー、何が間違いないんだ?



「もう典型的って言うくらい典型的な恋煩いじゃねぇかよ。海里、お前あむのこと好きなんだって」

「そうなの、ですか?」

「そうなのです。気になる異性が他の男と仲良くしてたりするのを見てイライラするのは、ヤキモチです。私も恭さまの事で経験があります」

「そして、理由もなく視線や心でその人を追いかけるのは、恋心が故です。私も経験があります」



女性二人が力強く言ってきた。・・・・・・なぜだろう、納得してしまう。



「つまり俺は、ジョーカーが好き?」

≪『正解』≫

「・・・・・・なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

「海里、またもやリアクションが古いぞ」

「俺もムサシに同感」




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご


第30話 『新しい古き鉄達のこんな一日』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・とりあえず、海里が取り乱しまくってたけど、ようやく落ち着いてくれた。





つーか、自覚がマジでなかったんかい。もうちょっと詳しく俺もディードさんも咲耶も話を聞いたけど、相当重症だぞ? ここまで自覚なしっておかしいだろ。どんだけ鈍いんだよ。










「恭さまに言われたくないと思いますわ。私への溢れんばかりの愛に未だに気づいていないんですから」

「恭太郎、それは確かにいけませんね。海里さんのことは何も言えませんよ」

「はい、二人とも黙ってくれるかっ!? つーか、俺の話はいいだろっ!!」

≪恭太郎、咲耶の何が不満なんですか? 添い寝までしておいて≫



お前ビルトも乗るなぁぁぁぁぁぁっ! つーか、それは普通に子どもの時の話だろうがっ!! なんで今も現在進行形でやってるような口調で言ってくるっ!? おかしいだろうがそれっ!!

・・・・・・とにかく、海里の事だ。こりゃじいちゃんとの再戦だけじゃ心残り出来るって。



「うし、海里」

「はい」

「ここはやっぱ告白だって」

「やはり、そうなりますか?」



俺も咲耶もディードも頷いた。それはもう力強く。

ここで黙って転校は、絶対に悔いが残る。俺も経験がある。・・・・・・あの先生、元気してるかなぁ。



≪海里さん、ここは恭太郎の言うようにしたほうがいいですよ。恭太郎は小学校の頃の初恋の先生に告白できなくて、後悔したことがありますから。
告白前にその先生が転勤して会えなくなったんですよ。それからしばらくの間は、親戚一同が心配するほどに落ち込んでいました≫



こらこらビルトっ! 勝手に人の淡い初恋の話をバラすなー!!



「あぁ、あの先生ですね。よく覚えています。・・・・・・恭さま、教師物が好きならそうだと言ってください。私、協力しましたのに」

「しなくていいっつーのっ! 頼むから俺の綺麗な思い出をそんなエロ思考で汚さないでくれっ!!
・・・・・・とにかく海里、言うだけ言ってみろよ。俺も経験あるから分かるけど、大丈夫とか思っててもボディブローみたいに後から来るんだよ」

「よし、やってみます」



あ、なんか気合い入ったらしい。背中からなんか赤い炎が・・・・・・。



「こうなれば善は急げっ! これからジョーカーの家に赴き、気持ちを伝えてきますっ!!」



また即決だなおいよっ! お兄さんはあんまりに即決過ぎてちょっと置いてけぼりだよっ!! てーか、あむの家知ってるのかっ!?



「海里さま、私は一度あむさまのご自宅に所用で行った事がありますので、案内を」

「いえ、大丈夫ですっ! 既に調査済みですからっ!!」

≪あぁ、それは納得・・・・・・え?≫

「調査、済みですか?」

「はいっ!!」



・・・・・・ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! 『調査済み』ってなにっ!? 普通友達の家を知ってるのを調査済みとは言わないだろうがっ!!

あ、もしかしてコイツあむに内緒で自宅探し当てたのかっ! どんなストーカーだよっ!!



「恭太郎殿、そこは言わないでいただきたい。海里は全く自覚がないのだ」

「余計性質悪いだろ、それっ!!」

「これは上手くいかないかも知れませんね。あむさんが知ったら、きっと驚きます」

「それでも、ちゃんと伝えます。コケの一念は岩をも通すと言いますから」



そういうことじゃねぇよっ! ディードさんはな、お前の一念は普通に女性が引くって話をしてるんだよっ!!



「ムサシ、行くぞっ!!」

「おうっ!!」

「待てぇぇぇぇぇぇぇっ! とりあえずお前ら色々待てぇぇぇぇぇぇっ!!」





ぴーんぽーん♪





「・・・・・・む、この重要な出立の時に来客?」

「みたいですわね」





ぴーんぽーん♪ ぴーんぽーん♪





「まずいぞ、勧誘や宅配ならともかく、よもやお隣の山口さんなら・・・・・・」

「山口さん? あ、もしかして井戸端会議しまくってるおばちゃんか? こう、恰幅がよくて裏表がなさそうな感じの」

「その人です」



そういやフェイトさんやシャーリーさんが一度絡まれ・・・・・・もとい、井戸端会議に巻き込まれて大変だったって話してたな。

つーか、大変だった。俺も巻き込まれたから。この近くに住んでたとは、ちょっとびっくり。まぁ、近所ではあるんだけど。



「山口さんのご近所情報やスーパーの特売情報は非常に貴重なものなのですが、なにしろとても話が長いんです。・・・・・・困る、それは非常に困る」

「ここで出たら最後、確実に夕方まで話につき合わされるな」



え、今午後の1時成り立てだぞ? お昼前だぞ? それなのに夕方まで付き合わされるんかい。どんだけヒマだよ山口さん。

なお、今日初等部の人間は球技大会の振り替え休日になっていて、お休みなのであしからず。



「しかもそれだとあむ殿の家に行くことは断念せねばならなくなる。これはまずいぞ、海里」

「確かに。むむむ・・・・・・」



俺達は本気で困った様子の海里を見て、顔を見合わせた。そして、頷きあい意思を通じ合わせる。



≪海里さん、それならばいい方法があります≫

「え?」

≪相手が話を始める前に、恭太郎や咲耶達と出かけるという風に言えばいいんですよ。そうすればあむさんの家へも行けますし、余計な衝突も避けられます≫

「・・・・・・確かにそれはいい方法だが、みなさんはそれでよろしいのですか?」



まー、問題ないだろ。こうなったら乗りかかった船だし。

結果までは保証しないけどな。つーか、自覚なしでもストーカー行為がバレたら完全にアウトだと思う。



「恭太郎さん、ディードさん、咲耶さん、ビルトビルガー、ありがとう。感謝します。・・・・・・ではムサシ」

「おう、行くぞ海里」





そうして、海里が早足で玄関に行く。俺達も続く。俺達も見れば、きっと納得してくれるはずだから。つーか、それで納得しなかったら色々問題だと思う。



で、玄関のドアを開けて開口一句、海里は早口で一気に言い放った。





「す、すみませんっ! 今からちょっとこの方たちと出かける用事がありまして、誠に申し訳ありませんがさようならっ!!」

「あー、大丈夫だよ。そんなに長いはしないから」

「え? ・・・・・・あ、エース」

「やっほー、いいんちょ。あ、恭太郎に咲耶さんにディードさんもやっほー」



右手を上げて私服姿で挨拶してきたのは、リインさんの同級生でガーディアンの結木やや。

・・・・・・つーかさ、やや。なんで俺だけ呼び捨て? 一応年上なんだけど。



「だって、恭太郎は恭文より身長低いし」

「なんだか、恭太郎にさん付けは躊躇うでち。というか、絶対年誤魔化してるでちよね。ややちゃんと同い年でちよね」



あははははは、そういう認識か。そうかそうか、よく分かったわ。



「ビルト、セットアップ。ちょっとこいつら斬るわ。お前らここから生きて帰れると思うな」

≪了解しました≫

「了解するなでちっ! てゆうか、ガチに刀になるのはやめるでちっ!!」

「わー、暴力反対ー! うー、女の子には優しくないといけないんだよっ!?」



残念ながら俺はじいちゃんと同じく男女平等主義者だ。問題はねぇ。



「俺の辞書にんな失礼な事を言う奴は斬ってしまえという言葉があってだな」

「お前は一体どこのアルトアイゼンでちかっ!? いくらなんでも暴力行動に走るスピードが速すぎでちっ!!」

「ばかっ! 高速機動型の魔導師が行動速く無くてどうすんのっ!?」

「そういうことじゃないでちよっ!!」



・・・・・・まぁ、ここはいい。後で聞いたら確実に悪夢を三日は見る留守録残してやるから。

やや、ペペ、覚悟しとけよ。Notエロな意味で寝かせないから。



「それでややはどうしてここに?」

「あ、はい。いいんちょにプレゼントを持ってきたんです」

「俺に?」

「そうだよ。・・・・・・はい」



そう言って、ややが海里に手渡してきたのは、メモ帳?



「ややちゃん特製のメモ帳だよー」

「やや、なんでメモ帳?」

「だって、いいんちょは色んな情報収集や解析をしてるでしょ? メモ帳は必須アイテム。
・・・・・・故郷の学校に戻っても、頑張って欲しいなと思って」



少しだけ寂しそうに微笑みながら、ややが海里に言う。

それを見て海里が泣きそうな顔になった。



「エース・・・・・・ありがとうございますっ! 俺感激ですっ!!」

「海里、よかったな」

「はいっ!!」

「というわけで、お礼はないでちか?」



そうそう、こういう場合はお礼を・・・・・・え、お礼?



「あ、そうですね。俺とした事が。今すぐ買いに」

「あぁ、いいっていいって。アレを見せてくれれば」

「アレ?」

「海里のマル秘情報手帳・聖夜学園バージョンでちよ」



・・・・・・待て待て。まぁまぁ、お前ら待て。なんかおかしくないか?

なんでいきなりプレゼント渡してお礼を要求? どんな詐欺だよそれ。



≪恭太郎、詐欺はそれだけじゃありませんよ≫

「え?」

「・・・・・・あら、ほんとですわ。このメモ帳、チラシの裏紙ですし」

「はぁっ!?」



咲耶が言ってきたので、俺はメモ帳を海里の手からふんだくって確認する。・・・・・・あ、ホントだ。一昨日とかその前くらいのスーパーのチラシだ。

なんだこの不用な手作り感っ! どう考えてもおかしいだろうがっ!!



「まぁ、そこは置いておいて」



置いておいていい事じゃねぇだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



「いいんちょが作成した聖夜学園に通う生徒や先生の人間関係から、人には言えぬ情報までぎゅぎゅっと詰まった手帳っ! ゴシップ好きなややとしては、是非とも見てみたいんだよね〜!!」

「やや、そのためにこれですか」

「さっきまでの感動が台無しだ・・・・・・!!」



海里、その握った拳は間違いじゃない。怒っていい。つーか、俺も怒ってる。これはねぇって怒ってる。俺も拳握ってるから。

てゆうか、なんかくすぐったがってないか? 身体が気色悪いくらいに震えて・・・・・・。



「ややちゃん、あったでちっ! マル秘手帳ゲットでちゅよー!!」



ペペの奴が海里の身体を無許可で身体検査していた。そうして半分開きかけながらも手帳を奪取した。



「ペペちゃんナイスっ! さぁ、早速手帳を」

「はい、そこまで」



で、俺は当然のようにそれを没収する。



「わー、なにするでちかっ!?」

「そうだよっ! 恭太郎邪魔しないでー!!」

「やかましいっ! こんな詐欺みたいな真似で見れるとでもっ!?
大体だ、こんな手帳に書いてる事なんてお前らが気にするようなレベルのもんじゃ」





開きかけた手帳の中身を見る。まぁ、俺は生徒でもなんでもないし、見た情報に関しては黙っているつもりでだ。

そして、固まった。開かれて俺が見てるページはもちろん2ページ程度。そんなちょっと開いて最初から最後まで見れるわけがない。

だけど、それだけでこの手帳の異常性が読み取れてしまった。知りたくなかったのに読み取れてしまった。



・・・・・・うし。





「・・・・・・なんだこれ」

「あ、あのやめてくださいっ! その手帳は」



瞬間、海里の両手足を金色のリングが縛った。なお、俺のバインド。



「よーし、これは問題だから、今から俺の権限で海里を公開処刑にするぞー。お前ら全員ちょっと付き合え」

「問題?」

「いきなり公開処刑とは穏やかじゃないでちね。どうしたでちか?」

≪掻い摘んで読み上げますので、聞いていてください。そうすればわかりますから。まず、情報ナンバー28・・・・・・≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



情報ナンバー28。ジョーカー、ガーディアン会議の最中、居眠りする。










「・・・・・・あむちゃんっ! あむちゃんっ!! 寝たらダメだよっ!!」

「うぅ・・・・・・ぬらりひょん、だね」

「あむちゃんっ!!」










しゅごキャラのランに起こされるも起きず、謎の寝言つぶやく。そのささやかなる声、中々に愛らしく、微笑ましい。










「・・・・・・よし、みんな起こしちゃだめだよ? あとでどんな夢見てぬらりひょんなのかを聞きだすから」

「いや、さすがにそれは・・・・・・わかった。うん、起こさないよ。だからその殺し屋の目はやめて欲しいな。というより蒼凪君、そんなにぬらりひょんが気になるの?」










なお、起きたジョーカーは夢の内容を全く覚えておらず、蒼凪さんに怒られていた。いささか理不尽だと思う。





ナンバー106。ジョーカー、裏庭の森で、こっそりと戻ってきたテストを見て、おたけびを上げる。










「わー! あたしの馬鹿馬鹿っ!! 今回はガッツリ予習復習したから、100点取れると思ってたのにー!!」

「・・・・・・あむちゃん、これはダメだよ。全問正解してるけど、名前書いてないもん。ボクが先生でもこれに100点はあげられないよ」

「てゆうか、恭文に負けたのがムカつくー! 点数低いほうがアイス奢るって約束したのにー!!」










勢いでテストを破り捨てようとするが、深いため息と共に丁寧に折りたたみ、カバンに仕舞う。その悲しげな背中に、わが胸も痛む。










「ちなみに、恭文は100点だったよ? 名前もちゃんと書いてたし、元々プログラム式で能力使ってるから理数系すごく強いし」

「あーん、すっごい悔しいー!!」










なお、蒼凪さんはそんなジョーカーに遠慮なくアイスを奢らせた。蒼凪恭文、恐るべし。





ナンバー665。ジョーカー、下校中に一人遊びに熱中。










「この白線の上を歩く。外れたら負け。
・・・・・・うー、白線がここで終ってるっ! 負けたっ!! だけど、次は負けないよっ!?」

「誰にですかぁ? 自分にですかぁ?」










白線が途切れる度に本気で悔しがるその姿は、無垢なる魂を感じさせ、熱き物こみ上げる。










「ふ、あむ。情けないね。僕ならこれくらい・・・・・・ひょいっと」

「ジャ、ジャンプで飛び越えたっ!? うぅ、悔しいー!!」

「恭文さんは鍛えてますからぁ。それに、お空も飛べますからぁ」

「あ、もしかして飛行魔法使ったっ!? ずるいずるいー!!」

「えー、そんなことしてないよ?」










だが、それよりも気になる事がある。なぜだろう、仲良さげに一緒に帰るジョーカーと蒼凪さんを見ると、胸の中がざわつく。





ナンバー1238・・・・・・。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ジョーカー・・・・・・ジョーカー・・・・・・ジョーカー・・・・・・ジョーカー・・・・・・」

≪あぁ、恭太郎。これが1番強烈ですよ。つい最近のですが≫

「お、どれどれ?」





・・・・・・うわ、こりゃ強烈だわ。なんか後半の文字が震えてて俺でもなんとなくでしか読めないし。

ただ、ぎりぎりなレベルでちゃんと書かれている前半部分で何があったかはなんとなく分かるから、大丈夫なだけで。

しかし、なんで全てにおいてじいちゃんがちょこちょこ絡んでるんだ? これはおかしいだろ。



いや、それ以前にじいちゃんはあむの奴とどんだけ仲良いんだよ。W主人公っつったって限度あるだろ。





「恭太郎、ビルトビルガー、もういいでち。というか、最後の最後まで基本的にあむの事だけでちよね」

「そして、あむちんと仲が良い恭文へのヤキモチな感情が、オチとしてちょこっとだけ書かれてるんだよね」

「よくわかったな」

「わからないほうがどうかしてるでちよ」





なんだろう、これ。真面目にひどいって。もう俺とビルトだけじゃなくてややもペペもディードさんもあの咲耶でさえも引きまくってるもん。

海里が涙目だけどこれはしかたない。だって、自業自得だから。てゆうかさ、海里。お前どんだけ?

転校してまだ2ヶ月とか3ヶ月とかそれくらいだよな。なのに、なんでナンバーが6000超えてるんだよ。なんでもうすぐ1万台行きそうな雰囲気してるんだよ。まぁ、アレだよ。・・・・・・警察行こうか。



未成年で14歳以下だから刑務所とか少年院とかはないさ。まぁ、あむとの関係は断絶だけどな。間違いなくマリアナ海溝よりも深い溝が出来るよ。俺、冴木のぶ子でもなんでもないけど、それだけはもうリアルに予言できるわ。





「い、いえ・・・・・・これは違うんです。これは、あの、勝つために」

「お前馬鹿かっ! 何に勝つつもりでやったんだよっ! 勝つどころか負けるぞっ!? 法律的なだけじゃなくてモラルだったり恋愛的な問題で確実に負けるぞっ!!」

「まぁ、あれだよいいんちょ。このことはややとペペちゃんの胸に仕舞って、あむちーに黙っててあげるから・・・・・・分かってるよね?」

「・・・・・・はい。マル秘手帳はお渡しします。ですから、この極秘手帳の事はジョーカーには内密にお願いします」










いや、やや。それで取引って・・・・・・いや、いいんだけどさ。俺も正直ツッコむの疲れたし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「海里、我ら出鼻を思いっきりくじかれたな」

「そうだな。だが、あれだけ恥ずかしい思いをしたら、逆に覚悟が決まった。頑張れそうだ」

「うむ、その意気だぞ。海里」










・・・・・・空は晴れ渡り、7月最初の一日はいいお天気。





だけど、なぜだろう。俺達の気分はとっても悪いお天気。もう雨降って風も強めだし。










「恭太郎、私は激しく疲れたのですが。正直このまま自宅に戻りたいです。恭文さんと兄妹の絆を深めたいです」

「奇遇だね、ディードさん。俺も同じくだよ」





・・・・・・おーい、なんでさりげなく引いてる? 違うよ、なんかすっげー勘違いしてるかも知れないけど違うよー?





「大丈夫、恋愛の形は様々ですから。ただ、恭文さんとフェイトさんに不埒なまねをするなら・・・・・・叩き潰します」

「そう言いながら俺に殺気ぶつけつつ本気で帰ろうとするのはやめてくんないっ!? てゆうか、咲耶も帰ろうとするのやめてくれよっ!!」

「大丈夫です、私もディードさまも恭さまを信じていますから」

「そう言って俺に全責任を押し付けるのやめてくれよっ! なによりも何故俺と二人とも目を合わせてくれないっ!? 絶対なんか誤解してるだろっ!!」





とにかく、そのままマル秘手帳はややの手に渡り、俺達は当初の予定通りにあむの家に向かう事になった。だけど、全員テンションが低い。

そりゃそうだ。さっきまで応援する気満々だったのが、実はトンデモストーカー野朗だって分かったら誰だってこうなる。ならない奴が居たら見てみたい。

なんだろう、今のうちにコイツは抹殺しておいた方がいいのではないだろうか。主に俺の責任問題と日奈森あむの今後のために。



てゆうか、小学生の頃からこんな調子で、コイツがこれから先マトモな恋愛出来るかどうかが激しく心配なんですが。

あぁ、ディードさんと咲耶じゃないけど俺も帰りたい。もう関わりたくない。真面目にさっきの極秘手帳とやらでビルト共々引いてしまった。

でも、コイツがここまでしてたのはスパイの仕事のせいだって考えるとあんま言えないし、ついでに途中で放り出してなんか事件に発展してもやばいって本能が言いまくってるし・・・・・・。





「とりあえず、海里さまから搾れるだけ搾り取りましょうか」

「そうですね」



だからディードさんは乗らないでっ! つーか咲耶・・・・・・頼むからそんな脅迫めいた真似をするなよっ!!

それでディードさんが影響受けたらどうすんだっ!? 俺がじいちゃんに怒られるんだぞっ!!



「大丈夫ですわ。私は応援していますから」

「それで何とかなるわけが有るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! お前だってじいちゃんのディードさんへのシスコン具合が日に日に増して行くのは間近で見てるだろうがっ!!」

「確かにそうですわね。おじいさまの姿が恭也さまにかぶる時がありますし」

「だろ? いや、じいちゃんの方がまだ常識的だけどよ」





なんて話していると、一つの影を見つけた。それは歩道を歩いてて・・・・・・あらま、なにやってんだろ。



で、俺達を見つけてそのままこちらに走りよってきた。そう、そいつは王様。





「三条君っ! あと・・・・・・恭太郎さん達も、こんにちはっ!!」





そう、辺里唯世だ。



でも、コイツはいい子だなぁ。俺にちゃんとさん付けだしよ。どっかのバカややとぺぺに是非とも唯世の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。





「ふん、こんな真昼間から大の大人も交えてブラブラとは、随分ヒマなことだ」

「・・・・・・キセキ、お前は自分もそうだって気づいてるか?」

「そこを言うな。しかし恭太郎、お前はまた何時にも増して苦労性の色が出てるな。どうしたのだ」



あははは、意外と鋭い奴。理由は簡単だ。今お前の宿主を見て色々動揺しまくってる奴と、全然ツッコミに回ってくれない二人のおかげでこれだよ。

まぁ、言えないけどな。言った瞬間に海里の失っちゃいけない何かが失われることになる。



「キ、キング。どうされたのですか?」



海里、どもるな。いや、あむの家の近くだから色々邪推しちゃうかも知れないけど黙るな。



「うん、ちょっと散歩がてらイースターに動きがないかどうか見ててね」

「あら、感心ですわ。王足るものが自らその足を動かすことで、臣下は付いて行こうと言う気が出てくるのですから」



咲耶の笑顔からの言葉に、唯世が顔を赤くして目をそむける。どうやら年上のお姉さんに笑顔と共に誉められて、照れてるらしい。

・・・・・・なんだろ、ちょっとつまんない。てゆうかコイツ、自分が美人の部類だって入ってる自覚なしでやるから、気をつけて欲しい。妙な誤解されるとフォローが大変なんだよ。



「い、いえ。そこまで考えがあったわけじゃないんですけど・・・・・・」

「立派です、キング。まったく頭の下がる思いです。俺は、今ほど自分を情けなく思った事はCD関連以外にはありません」



あるんかいっ! いや、わかるけど普通そこは『ありません』とか言うんじゃないのっ!?



「俺は・・・・・・あなたのようなキングの下でジャックを務められた事、誇りに思います」

「そんなことないよ。僕だって、三条君には色々助けられたよ」

「キング・・・・・・!!」



おーい、俺達置いてけぼりにするなー。二人で感動的な固有結界を作るなー。



「覚えてる? 女子が芸能話で盛り上がってた時のこと」

「覚えてますともっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「見て見てーこの雑誌っ! 最近のややの一押しー!!」

「えっと、なになに? ・・・・・・考古学会にイケメン旋風?」





そう、エースの持ち込んだ雑誌の話で女子が盛り上がってた時の事。





「土器を扱う繊細な指先で、女性がメロメロ・・・・・・ねぇ」

「それで、その名も発掘」

「あ、リインちゃんだめっ!!」

「発掘『王子』ですか」





瞬間、空気が震えた。そうして、静かに立ち上がった人が居る。頭には金色の王冠。





「・・・・・・王子っ!? 言ったな・・・・・・言ったなっ!」

「きゃー! 唯世がキャラチェンしちゃったー!!」

「僕は王子ではないっ! 王だっ!! ひれ伏せ庶民どもっ! はーははははははははははははははははっ!!」



これはまずい・・・・・・ムサシ、バケツっ!!



「あい分かったっ! 受け取れ海里っ!!」

「受け取ったっ! キング、失礼しますっ!!」





そのまま、キングにバケツをかぶせる。



3・・・・・・2・・・・・・1・・・・・・はいっ! バケツを外すっ!!





「・・・・・・あれ、僕なにを」

「うそ、バケツで元に戻った」





・・・・・・まさか上手く行くとは思わなかった。いや、成功してよかった。





≪私達の出番、入りませんでしたね≫

「そうだね」

「・・・・・・いやいや、なんで恭文はアルトアイゼンをセットアップさせてるのっ!? てゆうか、その居合いの構えはやめんかいっ!!」

「あむ、勉強不足だね。示現流は居合いじゃなくて抜きが正式呼称なのよ」

「知るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「いやぁ、三条君は命の恩人だよ。あのままだと峰打ちでも蒼凪君の斬撃を食らうところだったし」





・・・・・・じいちゃんもアルトアイゼンも、真面目に容赦ねぇなぁ。普通にハリセンとか使えばいいのに。





「しかし、ディードさまも見習わないといけませんね」

「はい」

「そこは見習っちゃいけないんじゃないかなっ!? いや、真面目にだぞっ!!」



咲耶、頼むからディードさんに変なこと教えるのやめてくれー! 絶対じいちゃんに怒られるからっ!!



「あと、ガーディアンのテーマソングを作ろうってなった時も」

「え、まだあるのっ!? てゆうかそんなもん作ったんかいっ!!」





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・あー、歌詞なんて思いつかないよ」

「うー、リイン達用のダブルアクションとかクラジャンとかならすぐに出来たんですけど」

≪普通に私も作れたんですけど≫



リインさん、アルトアイゼン、そんな事をしていたのですか。俺はびっくりです。



「とりあえずあれだよ、『○ね田○』とか『渡○○ね』とか、『ウラミジールキュプラスキー』とか、『ミツルギ様バンザイ』的な歌詞とか入れておけばいいんじゃないの?
最近呼んだマンガで生徒が作詞した校歌でそういうのあったし、いけるって。大丈夫大丈夫、要はどんな歌詞でも聴いた皆がガーディアンっぽく感じればオーケーなんだよ」

「あぁ、学園革命伝ミツルギね。なら納得だわ。・・・・・・よし、それ採用」

「採用するかっ! てゆうか普通に個人名出すなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! あと普通にアウトだよねっ!? それはもうブッチギリで表現がアウトだよねっ!!
そしてそれのどこがガーディアンっぽいのっ! なんで恭文もそうだしりまもそんな考えに乗るのかなっ!? なによりミツルギって誰っ!!」



・・・・・・情報ナンバー489。ジョーカーはコミックラッシュを購読しておらず・・・・・・と。あれは中々に面白いのだが。



「まぁ、あむのツッコミのキレがよくなったところで、出ている歌詞を合わせてみましょうか。いったん全部繋いでみて、おかしいところを直していけばきっとすぐに出来上がるわよ」

「なんか前半部分が引っかかるけど、とりあえずそこはいいよ。というわけで・・・・・・『へいへいガーディアン、ちゅるちゅちゅガーディアン』。『我らの神・・・・・・アルトアイゼン様。世界の支配者・・・・・・アルトアイゼン様。あぁ、あなたこそ真の主人公です。あなたこそ宇宙最強ナンバー1です』」

「『リインの恭文さんへの愛はおくせんまん♪ おくせんまん♪ いついかなる時も変わらぬ愛をあなたにお届けなのですー♪』 ・・・・・・え?」





ふむ、ここまでは問題なし・・・・・・と。





「こらこら、問題大有りだからっ! まずそこのバカデバイスっ!! 自分をどんだけ持ち上げたら気がすむっ!? というかリインちゃんまでボケないでー!!」

「リインはボケてなどいませんっ! 大真面目ですっ!! リインの恭文さんへの愛は誰にも止められないのですよっ!?」

≪私も同じくですよ。あと、持ち上げてなどいません。当然の扱いです≫

「余計性質悪いわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



・・・・・・情報ナンバー490。ジョーカーのツッコミスキルが0.1上がった。ツッコミスキルが合計で40になった。



「とにかく続き行くわよ。・・・・・・怏々おうおうジンジン胸を熱く」

「あ、これいいね。誰が考えたの?」





確かに。こういうなにげないフレーズが歌を盛り上げるものだと思いますから。





「僕。まぁ、適当に」

「恭文がっ!? うそっ!!」

「それどういう意味っ!?」

「おうおう・・・・・・じんじん? おうじん・・・・・・おうじ、王子」



む、まずい。



「王子と呼ぶなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ムサシバケツっ!!」

「ホレ来た海里っ!!」

「キング、失礼しますっ!!」





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・なんつうか唯世、学習しろよ。そしてそれはもう駄洒落だろうが。言いがかりのレベルだろうが。じいちゃんじゃなくても斬りたくなるって」

「あははは・・・・・・ごもっともです」

「まぁ、こう言った事はたまにでしたが。あと、他にも色々ありましたよね」

「え、まだ続くのっ!?」




















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『脱走したウサギさんに告ぐっ! 我々の呼びかけに『応じ』ない場合は』

「王子と言ったかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「キング、失礼しますっ!!」





バコンっ!!(バケツがかぶさった音)





「ねね、恭文」

「なに?」

「八『王子』ってさ」

「王子と」

「失礼しますっ!!」





バコンっ!!





「歯磨き、『王子』」

「王」

「失礼しますっ!!」










バコンっ!!




















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「いやぁ、おかげでどこに行っても、まずバケツの所在を確かめるのが癖になりましたよ。あはははは」





は、はははは・・・・・・笑えねぇ。全く笑えねぇ。いくらなんでも過剰反応し過ぎだ。俺とじいちゃんにとっての『小さい』とかそういうワードに対する反応を超えてるって。



海里は思い出して懐かしむように笑ってるけど、笑えない人間が居る。それは・・・・・・その王子。





「いやぁ、三条君がジャックで助かったよ。・・・・・・ぼく、だいじょうぶかな」

「キング?」

「三条君が居なくなって、僕大丈夫かな。というか、僕って一体・・・・・・」





凄まじく落ち込んで来たので、それを見て全員が言葉をなくす。まぁ、そうだろう。俺だってさすがにこれはどうかと思った。



だけど、まぁ・・・・・・じいちゃんの同級生なので、一応フォローはすることにした。というか、ちょっと遊ぶ。





「まぁ、元気だせよ。王子」

「・・・・・・王子ではないっ! 王だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



予想通りに唯世はキャラチェンジして、高笑いをあげる。



「はーははははははははははっ!!」

「・・・・・・本当に学習能力がありませんわね」

「その言葉、私には否定出来ません」

「咲耶もディードさんも言ってやるな。あのまま落ち込まれても嫌だろうが」










まずいなぁ、もうガーディアン終わりかも。じいちゃん、リインさん、アルトアイゼン、ガンバ。




















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とにかく、高笑いを上げながら王様キャラで家に帰って行った唯世と別れた俺達は、すっげー疲れながらもあむの家に到着。





なお、普通に海里が先頭だった。もうちょい正確に言うと海里の先導で俺達ここに着いちゃった。



コイツ、マジで迷わずに真っ直ぐコースでここまで来やがったし。どんだけ用意周到だったんだよ。このまま二学期とかいってたら、普通に魔法の事とか知られてたんじゃねぇの?





「いよいよ、ジョーカーの家に到着してしまった」



いや、『してしまった』って・・・・・・あぁもう、俺一人じゃツッコみ切れねぇ。ディードさんとビルトまでボケに回ったら全員に実質俺一人で四人のボケに対処だぞ? ムサシの奴はほとんど傍観者でツッコミ出来ねぇし。

なんで俺、ティアナさんとかシャーリーさん連れてこなかったんだろ。そうすればツッコミの分担半分こに出来たのに。



「それでは、行って来ます」

「おう、しっかりやってこいよ。とりあえず、あの極秘手帳のこととかは絶対言うなよ」

「はい」





とりあえず、そこで『はい』と返事するならばあんな秘匿級のロストロギア張りに怖いもんが出来上がるようなことはするなと言ってやりたくなった俺は、絶対に間違ってない。

つーか、間違ってたら人間不信になると思う。

とにかく、俺は近くの角に隠れて様子を伺う。咲耶とディードさんも同じく。海里一人が玄関に行く。



あぁ、長かった。ややとか唯世とかに会わなかったらもうちょっと疲れてなかったんじゃないかとか思っても、絶対罪じゃない。





「まぁ、私達が揃って行っても意味がありませんしね」

「そうですわね。やっぱり告白はタイマンです」

「咲耶、とりあえずその言い方やめろ。別にこれは喧嘩とかじゃねぇんだし」



少しずつ、海里はドキドキしているのか、足取りが重い。だけど、確実に玄関に近づいていく。



”・・・・・・恭太郎”



うん、ビルトどった?



”私も恭太郎を信じていますから”

”・・・・・・今更っ!? つーか、ボケが遅いからっ! それに信じないでいいから、俺と一緒に地獄へ落ちてくれっ!!”

”嫌です。落ちるならあなただけ落ちてください。私はおじいさまが作ってくれているエクシアリペアUボディで古鉄師匠と遊びたいんです。
古鉄師匠のストフリノロウサボディと同じくもうすぐ完成なのに、それでどうしてあなたと地獄に落ちなくちゃいけないんですか”

”なんかすっごい個人的な理由でパートナーに見捨てられたー!!”



で、なんかちょっと涙出てきそうになった時、日奈森宅の玄関が開いた。そこから影が一つ・・・・・・いや、四つ。



「・・・・・・いやぁ、やっぱり外は熱いねー」

「もう夏って感じですぅ」

「ねね、どこ行く。あむちゃん?」

「そうだねぇ・・・・・・」



出てきたのは、一人の女の子と小さなしゅごキャラ。



「あ、私アイス食べたいー!!」

「お、いいねー! そいじゃあお小遣いも貰ったばっかりだし・・・・・・いっとくっ!?」

『いっとくー!!(いっときますー!!)』



そう、日奈森あむとキャンディーズだ。



「あむさまですわ」

「ラン達も居ますね。おでかけのようですが」

「これは後をつけなければなりませんね」



そうだな、後を・・・・・・え?

左を見る。海里がいつのまにか居た。



「・・・・・・お前なにしてんのっ!?」

「いえ、見つかりそうだったので」

「見つかっていいんだよっ! お前何しにここに来たっ!? 告白だろうがっ!!」

「・・・・・・あぁっ!」



おいおい待てよっ! そこ今更気づくとこじゃねぇだろっ!? 原則だよ原則っ! つーか、あの一瞬でどうやって俺達の後ろ取ったっ!!

なんて話している間に、あむ達がどこかへ行く。右手を上にかざして太陽を見ながら、そのまぶしさを心地いい感じで確認していたりする。



「私、海里さんがどうしてあんな手帳を作る事になったのかよくわかりました」

「普通にヘタレだったんですね」

「海里、拙者はなにも返せんぞ」










とにかく、四人で後をつける。表現がおかしいけど、そうなるんだから仕方が無い。




















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「・・・・・・はぁ、やっぱり夏はアイスキャンディーだよね」

「炎天下というにはまだ遠いですが、夏のベンチで食べるというのが、またアイスの美味しさを引き立たせますぅ」

「あむちゃん、ボクにももう一口ちょうだい?」

「あ、私も私もー!!」

「こら、慌てないのー!!」










情報ナンバー・6249。ジョーカー、休日の昼下がりにコンビニに立ち寄りアイスキャンディー(バニラ味)を購入。





公園内のベンチにて、しゅごキャラ達とアイスを食す。





その大胆かつ繊細な食べっぷりは、まさに太陽よりもまぶしく、美しい。





・・・・・・マル。




















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「・・・・・・ふふ、情報がまた増えたな」

「増えてどうすんだこのバカっ!!」



ゲシっ!!



「げふっ!!」

「・・・・・・お前もうくたばれよっ! ギャグ的にすぐ復活する感じでくたばってくれよ頼むからさぁっ!!
つーか、なんでまた極秘手帳に記入っ!? それもう極秘手帳じゃねぇよっ! 普通にストーカー日記だろうがっ!!」

「ディードさま、その新発売のチョコミント味は美味しいですか?」

「はい、中々にいけます。でも、咲耶さんのオレンジ味も後味がさわやかそうで食べてみたいです」

「お前らも何時の間にアイス買ったっ!? つーか頼むから俺一人にこのアホの行動の全てをツッコませるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





そして、二人は顔を見合わせて・・・・・・笑顔でサムズアップした。



俺に全部押し付けたっ!? やばい、ディードさんが咲耶に汚されているっ!!





「何を言ってるんですか恭さまっ! 私は汚すより恭さま色に汚され・・・・・・いえ、染められる方が好きですっ!!」

「そんなことは誰も聞いてねぇっ! つーか、真昼間からそんなR21行きそうな発言をするなっ!!」

「恭太郎、私は応援しています」



しなくていいからアンタもツッコめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! つーかマジでそこはお願いしたいんですけどっ!? 俺しかツッコミがいねぇっておかしいだろっ!!

お前ら、この世界におけるツッコミの重要性を分かってないだろっ! じいちゃんがツッコミをすげー出来るのはアルトアイゼンがボケばかりだからなんだぞっ!? ツッコまなかったらとまとワールドが回っていかないからツッコむんだよっ!!



「・・・・・・恭太郎殿、お主大変だな。蒼凪殿も振り回される方ではあるが、そこまでではないぞ」

「あぁ、そうだろうな。じいちゃんはボケるだろうからな。むしろこの状況でボケて全員ボケとか言う恐ろしいことするんだよな」

「うむ、それはわかるぞ」



あぁ、もうここはいい。とりあえずあれだ、俺はコイツムサシに言いたい事がある。もう今まで抑えてたけど、もう無理。ハッキリ言ってやりたい。



「というわけで、お前もツッコミに回ってくれ」

「だが断る」

「お前もかよっ!!」



ちくしょー、俺には味方が居ないのかっ!? いくらなんでもこれはおかしいだろうがっ!!



「恭さま、大丈夫です。私はいつでも恭さまの味方ですから」

「だったら今の今までお前が積み重ねてきたボケの数々はなんなんだっ!?
・・・・・・あぁもういい。とにかく海里、お前マジで何しに来たんだよ」

「そ、そうだ。俺は告白しに来たというのに、なぜこんなことを。物陰から女子の様子を伺うなど、これではまるで」

「ストーカーね」

「そうだね、正直そこは否定出来ないかな」



そうそう、ストーカー・・・・・・え?

声のした方を見る。するとそこには、長いウェーブの髪をした女の子と、栗色の髪をストレートロングにしたメガネをかけた女性が居た。



「クイーンにフィニーノさんっ!!」

「やっほー。てゆうか海里君、私はシャーリーでいいって言ってるじゃない。ファミリーネーム呼びはやめて欲しいかな」

「す、すみません」

「まぁ、そこはいいよ。でも恭太郎や咲耶にディードまで連れてどうしたの?」

「そうよ、なにしてたのよ。というより、あむの様子を伺ってたみたいだけど、何か用事?」



そのシャーリーさんとりまのの言葉に、俺達は全員顔を見合わせる。まさかここで『ストーカーしてました♪』なんて言えるわけがないし。

その様子をりまがじっと目を細めて見て、ため息を一つ吐いた。



「・・・・・・なるほどね」

「むむ、さすがクイーン。この状況を見て海里があむ殿に告白しようとしたことが丸分かりとは」

「あ、そうなの? へぇ・・・・・・海里君、あむちゃんの事が好きだったんだ」

「まぁ、丸分かりよね」

「クスクスっ! 誘導尋問成功ー!!」



ムサシを海里が睨む。それはもう恨めしそうに。



「ムゥゥゥゥゥサァァァァァシィィィィィッ!!」

「いや、なんというか・・・・・・・全てひっくるめて、参りました」




















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「・・・・・・シャーリーさまはりまさまとおでかけだったんですね」

「うん、日用品なんかを少し見繕ってたんだ。でも海里君、どういう風に告白するつもりだったの?」

「へ?」





どういう風に・・・・・・告白? いや、そんなの考える必要あるのか? とりあえず、少しだけ傾いた日の光を頭に浴びつつ、考える。



もうストレートに好きだって言えば問題ないだろ。そんな策を練る必要なんて。





「恭太郎、そんなんだから咲耶さんに振り向いてもらえないのよ」

「そうですね、そんなことだから恭太郎はダメなんですよ」

「そうだね、もうちょっとなぎ君とかを見習った方がいいと思うな」



お前ら黙れっ! つーかなんで俺を全否定っ!? それ以前にりまっ! 俺が咲耶に片思いしてるみたいな言い方するなっ!! 咲耶はパートナーってだけであって、そういうのじゃねぇんだぞっ!?



「あのね、恭太郎。ようするに普通に言うだけじゃ印象が薄くて、すぐに忘れられる可能性があるってことよ。
ジャック・・・・・・ううん、海里がこれからもガーディアンとして居るなら別に問題ないけど、そうじゃないんだから」

「・・・・・・なるほど、海里はもうすぐ転校する身。あむ殿から離れる以上、印象が強い方がいいということだな」

「そうよ。それ以前に、あむは唯世に片思いしてるもの。それを揺らがすくらいにインパクトがないと、簡単に『ごめんなさい』よ。どうせやるなら、成功した方がいいでしょ?」



驚いた。なんだかんだ言いながらりまのやつ、ちゃんと海里の告白がどうすれば上手くいくか考えてこれだったのか。

確かにあむは唯世に片思いしてる。普通にやったらあんまり成功率高くはないんだよな。



「まぁ、納得した。確かにそれはまずいよな」

「しかし、印象が強い告白などどうすれば・・・・・・」



うーん、そうだなぁ・・・・・・。そう言うときはどうすりゃいいんだ? 俺はそういうのまったく専門外だしよ。

そんな困惑を瞳に込めて俺と海里は女性陣五人を見る。その視線を受けて、みんなは少し頭を捻って考えて・・・・・・それぞれに考えを口にし始めた。



「とりあえずシミュレーションだね。海里君はこういうの得意なんだし、告白の前にちょっと考えてみようよ」

「なるほど、そこは盲点でした。想いを伝えると決めた事で安心し切っていた。では、どんなのがあるでしょうが」

「やっぱりここは情熱的にかな? まずは直球勝負」










・・・・・・つーわけで海里、さっそくシミュレーションだ。




















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「・・・・・・ジョーカーっ! 俺は君が・・・・・・好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




















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「暑苦しいわ」

「ぐ」



りま・・・・・・一刀両断かよ。いや、確かにシチュを考えるとそうなるんだけど。



「うーん、りまちゃんの言うように、相手も自分もテンションが上がってる状態ならともかく、普通の時にこれはないね」

「そうですね。・・・・・・やはりここは、ロマンチックでいきましょう」

「ロマンチックですか?」

「はい、女は雰囲気に酔うものとされています。時としてこういう変化球も大事なのではないかと。・・・・・・まぁ、本からの受け売りですが」










でも、ディードさんが言うとそれで出来そうだから不思議だ。咲耶辺りが言ったら殴りたくなるんだろうが。





というわけで、もういっちょいってみよー。




















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「・・・・・・ジョーカー、あなたのその真っ直ぐな瞳が、僕のハートを射抜いたんです」




















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「軽い」

「これも一刀両断かよっ!!」

「でも、よくよく考えたら海里さまにそういう雰囲気が作れるかどうかという話になってきますわ」



だったらやらせるなよっ! ほら、海里がなんかすっげー恥ずかしそうに顔赤くしてるしよっ!!



「あ、はいはいー! 私いいこと思いついちゃったー!!」

「クスクス?」

「あのね、雰囲気を作ったりするのがだめなら、普通の会話から言える感じにすればいいんじゃないかなぁ」



・・・・・・つまり、多少フランクな感じってことか? こう、本当に日常会話の中で『俺さ、お前のこと好きなんだ』・・・・・・とポンと言ってみるとか。



「そうそう、そんな感じー。前にりまと見たドラマでそういうのがあったんだ」

「なるほど、それなら海里でも出来そうだな。うし、海里、やってみようか」

「は、はい」










海里は数回深呼吸をして・・・・・・鍵を開けた。




















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「俺マジボシだけど、ジョーカーヤバくない? コレって超ラヴ?」




















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「・・・・・・ちゃらい」

「ごもっともです」

「海里、お前多分フランクの意味間違えてるわ。確かにフランクって言えばフランクだけど、クスクスが言ってる意味じゃねぇよ。なぁ、クスクス」



それで、俺はクスクスの方を見る。見ると・・・・・・りまの右隣に浮かんで大笑いしてた。



「クスクスクスクスッ! 海里おもしろーいっ!!」

「クスクス、お主もしや遊んではいないか?」

「うーん、いい感じのが出ないね。やっぱりここは適度に直球勝負かな。ひねりはないけど、王道ゆえのインパクトはあうと思うんだよ」

「いえ、シャーリーさま。私にいい方法がありますわ」



今まで沈黙を守っていた咲耶が口を開いた。両腕を組み、自信満々な表情から、俺でも期待してしまう。

それに海里がすがるような目をする。そしてそのまま、その自信の根拠が提示された。



「押し倒せばいいのですわ。フェイトさまもおじいさまに告白して、本当に恋人同士になるために押し倒したと言います。
私も恭さまに何回かして成功しておりますので、問題はありません。さぁ、レッツトライですわよ」



・・・・・・バシっ!!



「痛っ! ・・・・・・恭さま、何をしますのっ!? いきなり側頭部に全力全開な平手はひどいですっ!!」

「ひどいのはおのれの脳みその中身じゃボケがぁぁぁぁぁぁぁぁっ! フェイトさんがじいちゃん押し倒すのと海里があむ押し倒すのとでは意味合いが違うだろうがっ!!」





じいちゃんは元々フェイトさんが好きだったから、押し倒されても受け入れられたんだ。

でも、あむは海里を友達だと思ってる。そして、ガーディアンの仲間だともだ。

そんな海里にいきなり押し倒されて告白なんてされてみろ。



・・・・・・引くぞ。確実に引くぞ。リアルに引くぞ。なにより男が恋人でもない女を故意に押し倒すなんてアウト過ぎだろうが。



いや、それ以前にだめなことがある。そして、ツッコみたいところがある。





「海里もあむも俺より背ぇ高いけど小学生だぞっ!? 押し倒してどうすんだっ! それ以前に、お前に押し倒されて成功なんてしたことねぇだろうがっ!!」

「あぁ、みんなの前だから照れていらっしゃるんですね。わかります」

「俺はお前がそう言い切れる心の動き方がマジでわからねぇよっ!!」

「・・・・・・なるほど、押し倒すのですね」



ディードさんもこんなこと学習しないでー! あぁ、もしかして俺今日帰りついてディードさんが今日やったことを知られたら、じいちゃんにマジでぶっ飛ばされるんじゃー!!



「とにかく、押し倒すのはだめよ。互いに恋人同士とか相手に好意を持ってるならともかく、そうじゃないなら女の子は普通に引くわ」

「あぁ、そうだな。てゆうかよ、りま」

「なに?」

「お前はなんかいいアイディアないのか? さっきからダメ出しばかりだしよ」



俺の言葉に納得したのか、りまは少し俯いて考える。考えて考えて・・・・・・口を開いた。



「まぁ、成功するかどうかはわからないけど」



うん?



「私、一応告白されたことが結構あるの。まぁ、皆断ってたんだけど」



・・・・・・うん、そうらしいな。咲耶辺りと話してたのを聞いたことがあるよ。



「その中で印象が強い・・・・・・ようするに、インパクトが1番あって、忘れようとしても忘れられないものがあるわ。それで良ければ教えるけど」

「ほ、ほんとですかっ!?」

「海里、これは心強いぞ。クイーンのように告白された回数が多い中で忘れられないとするなら、相当だ」

「えぇ、相当よ。ただし」



その瞬間、りまの視線の色が変わった。というより、両頬に緑色の星と涙のマークが付いた。



「海里、すべてはあなた次第よ。いいわね?」

「はいっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ジョ、ジョーカーッ!!」



みんなとのお散歩の帰り、声をかけられた。あたしの前に立つのは、いいんちょ。

すごく必死な顔で、頬を赤らめながら、あたしを見ていた。



「あ、いいんちょ。どうしたの? というか、こんなところで合うなんて偶然だね。お散歩?」

「あ、あの・・・・・・聞いてくださいっ! 俺の気持ちをっ!!」





気持ち? え、というかいいんちょどうしちゃったのかな。ちょっと変だし。





「い、いきます」

「う、うん」

「・・・・・・日奈森あむの、『ひ』っ! 光るあなたのその笑顔っ!!」





・・・・・・・え?





「『な』っ! 夏の日差しよりまぶしくてっ!! 『も』っ! もっと見つめていたかったっ!! 『り』っ! 凛とした声立ち姿っ!!」





海里が顔を真っ赤にして、声をあげる。



それがなんだろう。胸を貫く。こう、すごい。





「『あ』っ! あ、気が付いたその時はっ!! 『む』っ! 夢中になって降りましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「海里・・・・・・」

「ジョーカー・・・・・・」





海里が荒い息をつきながらあたしを見る。



きっと、すごく頑張ったんだと思う。だから、あたしはそれに対して言葉を返す。





「よくわかんないけど、面白いねっ!!」

「・・・・・・がーんっ!!」

「そりゃそうだよ。あいうえお作文じゃねぇ・・・・・・」

「なにより、あむちゃんですからぁ」

「どんまい、海里」





ね、それもう一回やってくれないかな?





「えっ!?」

「・・・・・・だめ?」

「・・・・・・えっと、日奈森あむの『ひ』っ! 光るあなたのその笑顔っ!!」





うん。





「『な』っ! 夏の日差しよりまぶしくてっ!!」





うんうん。





「『も』っ! もっと見つめていたかったっ!!」




うまいねー。





「『り』っ! 凛とした声立ち姿っ!!」





うんうんっ!!





「『あ』っ! あ、気が付いたその時はっ!!」





あははー!!





「『む』っ! 夢中になって降りましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」










いいんちょおもしろーいっ! いやぁ、なんか嬉しいっ!! あたしで考えてくれたってのが嬉しいよー!!




















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「あ、あのバカ・・・・・・マジであいうえお作文でやりやがった」

「さすがに私達はいちおう止めたのに。海里さま、もしかしてそうとう追い詰められていたのですか」

「なぜでしょう、心なしか背中が寂しく見えます」

「ごめん、私・・・・・・私涙出てきた。てゆうか、なぎ君以外の告白でこんな泣きそうになるなんて思わなかった」





あぁ、あむは喜んでるけど海里はぜってー心の中で泣いてるよなぁ。でもさ、お前も悪いって。インパクト重視であいうえお作文で告白はねぇだろ。



いや、それ以前にりまにこんな告白した奴は何考えたんだ? インパクトが欲しかったのかも知んないけど、方向性間違えてるだろ。





「海里、よかったわね。受けてる」

「クスクスー!!」

「いや、受けてどうすんだよっ! さすがにこれはないだろっ!!」

「そうね、私もそう思うわ。だから提案した後で止めたのに」

「あぁ、そうだったな」










結局、この日海里はあむに告白出来なかった。というより、伝わらなかった。つーか伝わるわけがねぇ。あれで伝わったらそりゃ奇跡だ。





とにかく、今日の失敗を踏まえて、転校までに告白する。そして今度はストレートに行くことにした。それだけが今日と言う日の収穫だろう。





てゆうか、あむは下手するとフェイトさんレベルで鈍いから、変化球やあいうえお作文はもうやめようと、俺達が必死で止めたのは言うまでもないだろう。





・・・・・・俺、今日一日かけてなにやってんだろ。真面目にわかんねぇんだけど。





あー、それともう一つあった。『これでもしストレートでもライクの意味に捉えたらどうしようか、フェイトさんみたいに』と言って泣き出したシャーリーさんのフォローが大変だった。・・・・・・フェイトさん、そこまで?




















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「あー、疲れた」

≪お疲れ様でした≫

「おう、お疲れ」





その日の夜。俺は夕飯を皆で食べて、お風呂に入ってから自室のベッドに寝転がる。



だめだ、もう今日は疲れた。もうツッコミ疲れた。今日一日ツッコミしかしてねぇ気がする。





≪なら、存在意義は果たせてますね≫

「俺、別にツッコミのためにここに居るわけじゃないんですけどっ!?」

≪何を言ってるんですか。×たま浄化出来る魔法があるのに使わないで風車な人の位置に居るくせに≫

「う・・・・・・」





・・・・・・実を言うと、俺の手札にはある。×たまを浄化出来る魔法プログラムが。

とは言え、それはじいちゃんみたいな原因不明とかじゃない。だって俺、未来の世界の人間だもん。

知り合いでしゅごキャラ持ってる子が居て、その子とその子のしゅごキャラも魔法が詳しいから、協力してもらって浄化用のプログラムを組んだだけ。



でもまぁ、使うの躊躇うんだよなぁ。使ったら絶対クロノさん辺りからフェイトさんやティアナさんに教えろとか言われるだろうし。





≪まぁ、ここは仕方ないですよね。色々ありますから≫

「二人なら教えても変なことにはならないだろうけど、さすがに未来の技術そのまま今教えるのは・・・・・・絶対オーナーに怒られるよな」

≪確実に怒られますよ≫

「だよなぁ」



・・・・・・そういやさ、ビルト。



≪はい≫

「かえで達、どうしてるかな」

≪きっとあなたが帰ってきたらギッタンギッタンにしてやろうとか考えてますね≫



きゃー、やっぱり聞かなきゃよかったー!! リアルにありえそうだしっ!!



≪でも、いきなりどうしたんですか? こっちに来た直後は怖くて思い出したくもないとか言ってたのに≫



・・・・・・いやさ、今日の海里見てて、なんだかんだですごく必死だったろ? かえで達も、同じ感じなのかなとか少し思ってしまった。

もしかしたら、俺ちゃんと断ってるつもりで、実はそんな事なかったんじゃないかと、少し考えてしまった。というより、反省した。



「向こうに帰ったらさ、ちゃんと話そうかなとか思って。今のところ俺はそういうの本気で考えられないって」

≪そうですか。まぁ、いいんじゃないですか?≫

「そう思うか?」

≪はい。きっとそれならそれで考えてもらうための攻勢が始まると思いますから≫



そっか、それなら納得・・・・・・できねぇしっ! 現状と何一つ変わってねぇだろうがっ!!

あぁ、なんでそうなるんだっ!? 俺は自分の事で手一杯だっつーのにっ!!



「・・・・・・恭さま、失礼しますね」



ノックもなしで入ってきたのは、咲耶。なお、髪をストレートに下ろしたパジャマ姿。・・・・・・どったの?



「いえ、今日も夜伽に参りました」



とりあえず、一気に起き上がって机の上に置いてあったハリセンを取って、咲耶の頭を上段から唐竹割りに一閃。

・・・・・・頭を抑えて涙目で俺を見るけどそれでも容赦はしない。そう、それが俺のポリシーだ。



「・・・・・・今日はそういうプレイがお望みですか?」

「違うわボケっ! つーか今日『も』ってなにっ!? まるで毎日連続でそういうことしてるみたいに言うなよっ!!」

「大丈夫ですわ。私の想いの中では何度も」



お前の妄想も含めて考えたら何でもありだろうがっ!!

・・・・・・あぁもういい。で、マジな話何の用だ?



「はい。夜這いに来ました」

「さっきと変わってねぇしっ!!」

「いえ、変わってます」



・・・・・・咲耶が顔を近づける。というか、身体を近づける。なので足を動かし下がる。だけど、詰め寄ってくる。

そうしてあっという間に追い詰められ・・・・・・あの、なんでこれっ!?



「今日の海里さまを見て、私もっと頑張ることにしたんです。恭さまに、ちゃんと見ていただきたいですから」

「いや、あの・・・・・・咲耶?」

「私は、たしかにデバイスです」



少しだけトーンを落とした真剣な声に、思わず息が詰まる。

てゆうか、瞳が凄まじく必死で、目を離せない。



「でも、それでも、あなたを想う気持ちは、本物です。かえでさま達に劣るものだとは思っていません。・・・・・・あなたが、好きです。誰よりも、何よりも」

「いや、あの」

「だから、恭さまがどう言おうと絶対にあきらめません。他に想う方がいらっしゃるならわかりますが、そうじゃないんですもの。絶対、振り向かせてみせますから」



そう言ってニコリと笑うと、少し足を動かして後ろに下がった。

それでようやく気づく。俺、窓際まで追い詰められてた。



「とにかく、それだけを言いたかったんです。では、私も寝ますわ。恭さま、おやすみなさい」

「あ、あぁ・・・・・・」



きょ、今日はなんか素直だな。てゆうか、キャラ違わね?



「あ、それと」

「なんだ?」

「もし夜這いしたければ、いつでも来てください。私、どんな形であれ受け入れますから」

「誰がするかバカっ!!」





左手でそちら側にあったベッドに手を伸ばし、枕を掴んで投擲。咲耶はそれがぶつかる前にドアを閉めて退散した。枕は、むなしくドアにぶつかってそのまま床に落ちた。



・・・・・・な、なんなんだアレ。最後は結局いつものキャラだしよ。





≪恭太郎≫

「な、なんだ?」

≪私、スリープモードに入った方がいいですか?≫

「意味わかんねぇよそれっ!!」










俺、蒼凪恭太郎。17歳。まだまだ未熟な新しい古き鉄。





女心だけは、過去の世界で暮らすようになってもよく分からない。





てゆうか、分かるように・・・・・・なるのかなぁ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・フェイト」

「なにかな」

「僕、今回全く出番なかった。主役なのに。人気投票でこれが掲載されている時にはあむやらシスター・シオンやらティアナはおろかあの魔王にすらに順位抜かされたりしたから、そうとう頑張らないといけないのに」

「そ、そうだね。でも、私も同じくだから。次回頑張ろうよ。ね?」

「うん・・・・・・」




















(第31話へ続く)






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あきゅろす。
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