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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第29話 『好きにならずにはいられないっ! パートU!!』



「・・・・・・というわけで、魔導師の訓練はこんな感じなんだけど・・・・・・みんな、大丈夫?」

「な、なんとか」

「ややもう限界」

「私も」





だろうね。もう『うごけませーん』って言わんばかりの顔してるもの。見た瞬間に分かるよ。



ただ、あむやりまにややはいい。まだいい。問題は我らが参謀だ。





「これくらいなら、まだいけます」





海里、そう言うのはいいことだと思うけど、肩で息つくのやめようか。つーか、恭太郎とディードはどんだけしごいたんだよ。



みんな小学生で成長途中だし、マジで下地なしなんだから無茶はさせないようにって言ってたのに。





「いや、海里の奴が中々やるもんだからつい・・・・・・」

「すみません、恭文さん。こう・・・・・・つい」

≪最後は恭太郎とディードさんを二人同時に相手にしてましたね。中々に有意義な訓練でしたよ≫



おーいっ! 思いっきり無茶させてるじゃないのよっ!! 何考えてんのっ!?



「恭太郎、罰として今日の晩御飯抜きね。いや、それは可哀想だから100円上げるよ。
で、それで夕飯買って来て、恭太郎だけそれで食べて。もちろん、みんなは普通の食事」

「それはなんの陰湿ないじめだよっ! じいちゃん何気に容赦ないなマジでっ!!
つーか、なんで俺だけっ!? ディードさんはどうするんだよっ!!」

「ディードはきっと純粋だから、恭太郎の馬鹿に乗せられただけだものっ! よって無罪っ!!」

『なんかすっごいこと言い出してるっ!? つーかどんだけ兄バカっ!!』



気にするな。こんな可愛い妹が出来ればそりゃあ兄バカにもなるさ。僕は今、ようやく恭也さんの気持ちがわかった。

横馬が可愛いとは思わないけど、妹は可愛い。なので、やっぱりこうなってしまうのだ。



「ヤスフミ、さすがにあれを分かるのはどうなのかな」

「気にしないで。とにかく、全員念入りにストレッチだね。唯世と海里は僕と恭太郎がサポートするから、フェイト」

「うん。あむとややにりまは私とティアにディードでサポートするよ。・・・・・・あ、それから」



フェイトが右手の人差し指をピンと立てて、へばってるガーディアンの面々に声をかける。

なお、少し真剣な色を含んだ声で。



「ガーディアンのみんなはまだ子どもで、これからどんどん身体も大きくなる・・・・・・ようするに成長期の途中だから、あんまり無茶はだめだよ? 自主練するにしても、身体の限界を無視するようなことはしないように」

≪ようするに、今日みたいな事を今の皆さんが連日やると、確実に負荷が溜まって行って身体を壊すということです≫

「さすがに毎日これは嫌だけど・・・・・・こてつちゃん、やるとどうなるの? というか、壊れるって、病気するとかってことかな」

「あー、そういうことじゃないのよ」



やや・・・・・というより、みんなの疑問に答えたのはティアナだった。



「はっきり言うと、溜まった負担はいずれ爆発するわ。いつもは出来る事が出来なくて大怪我とか、そんな形でね。そうなった形で怪我をした場合、身体に後遺症が残る可能性もある」

「僕達の友達・・・・・・まぁ、なのはなんだけど、そういう感じで昔大怪我して、魔法を使えなくなるどころか、歩けなくなりかけた事があるそうなんだよ。ただ、今は無茶苦茶元気だけどね」




横馬がなんかクレームつけてるけど気にしない。StSテレビ版第8話みたいな問題が起こるのはごめんなのだ。

人が人たる由縁はなにか? そう、学習していく事だ。必要な札なら、遠慮なく切っていくに決まってる。ついでに、ペアルックの事をバラしてくれたあの女に文句を言う権利はない。




「なのは? その方も魔導師なのですか?」

「あ、いいんちょは会った事ないんだよね。高町なのはさんって言って、あたし達と同じ地球生まれで、恭文とフェイトさんの幼馴染。それで魔導師の先生・・・・・・教導官、だっけ?」



僕とフェイトの方を見ながら言ってきたので、頷きで肯定した。それに、あむの表情が明るくなる。



「そういうのをお仕事にしてて、前に話したミッドチルダで暮らしてる人なの。
あたしと唯世くんにややは会った事があるんだけど、すごく優しくて感じのいい素敵な人なんだ」

「そうなのですか。あぁ、どうりで見かけた事がないと思いました」



どうやら、あむ的にはなのはの事はかなり好印象だったらしい。普通に綺麗とか言ってたしなぁ。アレ、中身魔王なのに。



「でも、そんな大怪我したなんて信じられないよ。本当に元気な人なのに」

「まぁ、なのはの怪我の事は随分前のことになるから。ちょうど私やリインがヤスフミと会う少し前くらいだね。でも、あの時は本当に大変だった。
今歩いたり魔法を使えるのだって、辛くて長いリハビリの成果なんだ。そうじゃなかったら、ずっとベッドの上から動けない生活だったかも知れない」



とにかくフェイトは、そういう無茶は今を使い潰す選択で、どういう理由があろうと愚かな事でしかないと説明した。・・・・・・うん、そう説明した。だって、事実だもの。

まぁ、僕も横馬の事は言えないけど、やっぱそういう選択はだめなんだよ。人だけじゃなくて、自分も守らなくちゃ今を未来へは繋げられないんだから。



「・・・・・・まぁ、私やヤスフミが言いたいのはそういうことなんだけど、やや、分かってくれたかな?」

「わ、分かりました。さすがにそれは嫌だもの。やや、絶対無茶しません」

「ありがと。そう言ってくれると助かるよ」



よろしい。他の皆も、いいかな?



「うん、言いたい事は僕もみんなも分かったから。・・・・・・あれ、でもそれなら蒼凪君やフェイトさん達は? 普通だとここからお昼を食べてまた訓練って言ってたし」

「みんなよりは鍛えてるから大丈夫だよ。それやるにしたって、ちゃんとしたお医者さんに体調管理をしっかりしてもらった上でのことだもの。絶対に単独で今フェイトが話したような無茶や無理はしない」



なぜだろう、フェイトやティアナが苦笑気味に僕を見るのは。いや、真面目に無茶しないし。実戦の時ならいざ知らず、訓練で無茶して怪我なんて嫌だし。



「ヤスフミ、普通は逆なんだよ?」

「そうよ。まぁ、アンタの場合は無茶しなきゃ勝てない相手ばかりが多かったから分かるけど」



どうやらそういうものらしい。世界の常識はそんな感じだって、今思い出したよ



「そっか。納得したよ」



実を言うと、この辺りが僕達が今までみんなの訓練に協力するのを渋ってた原因でもある。ようするに、ちゃんとみんなの状態を見れる人間がいないのだ。正直、体調管理は各自任せになってしまうのが怖かった。

これでマジで身体を壊されても、僕達は困るのだ。責任のとりようもないし。



「とにかく、今日はここまで。まぁ、またみんなの都合が合う時に定期的にやろうか。んじゃ、ストレッチしっかりしようねー。明後日は球技大会だから、疲れは残さないようにしないと」

「そう言えばそうだった。あー、筋肉痛になったらどうしよ」

「あむ、一日間を置いての筋肉痛は老化現象だよ? てゆうか、中年からの症状だから。まだ10代前半なんだし、そこはないって」



あくまでもこれ以上なんかやらなければだけど。やったら責任は取れない。

やらなかったら大丈夫だとは思う。明日はキツイかも知れないけど、それでも明後日には治ってるはず。



「そっか。それもそうだよね、あたし達まだ子どもなんだし」

「そうだね。それで来たらさすがにマズいって」

「「あはははははははっ!!」」










青い空の下、僕達は笑う。





明後日に直面するある悲劇も知らないで。




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とどきどきな夢のたまご


第29話 『好きにならずにはいられないっ! パートU!!』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「というわけで、あっという間に明後日。今日は、球技大会ですぅ」

「男女に分かれてバスケットやバレーボール、玉入れ等で勝負だね。うーん、楽しみだなぁ」

「がんばれー♪ がんばれー♪」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・さて、日奈森あむ。





僕は早速だけど疑問があるですのよ。










「なんでしょうか」

「あなたはどうして、そんなに腰を曲げて、杖を突きながらよぼよぼ歩きなのですか?」

「それはですね、今あたしがとてもヒドイ筋肉痛だからです・・・・・・」



あむが出る競技は女子のバレーボール・・・・・・なんだけど、現在その本人は筋肉痛で沈んでいます。

ね、確か僕もフェイトもちゃんと休むようにって言わなかった? それで、お風呂でマッサージとかしっかりするようにって言わなかった?



「したけどこうなっちゃった」

「そっか・・・・・・。あむ、一度病院行った方がいいかも知れないよ? もしかしたら体力だけ中年なのかも」

「うぅ、それは嫌だー! あたしはまだ小学生なのにー!!」





まぁ、そうだよね。若くしてアダルト通り越してもっと上行っちゃうんだから。





「あむちゃん、大丈夫?」

「というか、大会前から既にもう満身創痍って感じなんだけど・・・・・・」



後ろから声がした。そこに居たのは、まなみとわかな。当然同じクラスなので、僕達とは同じチームになる。

あ、チーム分けは月組と星組で別れている。なので当然・・・・・・。



「・・・・・・恭文さん、こういう形になったのは残念ですが、リインは容赦しないのです。今日のリインは愛より友情を取るのです」

「そうだそうだー! リインちゃん、頑張って勝とうねっ!!
月組、ファイヤァァァァァァァァァァァッ!!」

「ファイヤーなのですっ!!」

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』



月組であるリインとやや、今は姿がないけど海里とは敵同士になる。

でも、怖い。実質月組の団長みたいになってるリインとややの先導で月組全体の士気が異常なほどに上がりまくってるのが怖い。



「月組、すごい盛り上がってるね」

「結木やや様と蒼凪君の妹さんが盛り上げてるしね。てゆうか蒼凪君、大丈夫なの? これで勝っちゃったら嫌われちゃうかも」

「問題無い。リインはそこまで神経緩くないから」



まぁ、それにですよ。一番重要な問題がある。



「僕は女子の競技は出れないからまなみ達任せになっちゃうし」

「あはは、確かにそうだね」



とりあえず、月組のことはいいのよ。大体これはチーム競技なんだから、僕一人がハッスルしたところで意味がない。

問題は、横で杖突きながら荒い息をついているお姉さんだ。



「でも、日奈森さんはなんとかしないとまずいよね」

「そうだね。てゆうかさ、一応これ初等部最後の球技大会だから、この状態で悔いが残るようなことにはなって欲しくないよね」




まなみとわかながわりと真剣な顔でそう言った。その言葉に耳が引かれた。

そっか。6年だからそうなるのか。そこまで考えてなかった。



「とりあえず、あむのことは僕に任せて。・・・・・・奥の手がある」

「奥の手?」

「え、どんなのどんなの?」

「まぁ、そこは見てのお楽しみってことで」





とにかく、あむのことはなんとかしよう。これはチーム戦。あむがいつもの調子でいけないのは、やっぱりまずいのだ。

そう、人によってはハッスルしないと意味がなかったりするのが、団体競技の難しさだ。

星組のエースと(勝手に)されているあむがこの状態なので、全員の士気が著しく落ちている。これはなんとかしないといけない。



・・・・・・てゆうかさ、ここまで期待されるって、あむの外キャラどんだけだよ。





「・・・・・・ふ、皆様。いくらなんでも日奈森さんばかりに注目し過ぎじゃございませんこと?」



そう言ってきたのは・・・・・・あ、同じクラスの山吹さんだ。確か、資産家の家柄で学校に多額寄付しまくってるとか。



「星組にこの山吹沙綾が居る限り、敗北などありえませんわっ!!」

『・・・・・・へー』



うわ、全員ヒドっ! 思いっきり期待していない体で相槌打ったしっ!!



”また大した自信ですね、29話まで出てこなかったくせに”



アルト、そこはいいから。てゆうか普通に余計なことだから黙っててあげようよ。なんか言ったら泣きそうだしさ。



「まず、みなさまにこの純金製のバレーボールを進呈したいと思います。そうすれば、星組の勝利は間違いありませんわ」



バシッ!!



『いきなりハリセン出してきて殴ったっ!?』

「な、なにをなさいますの蒼凪君っ! というより、この私を殴るとはどういう了見ですかっ!!」

「そうよそうよっ! 沙綾様をなんだと思ってるのっ!? あなた、今すぐ沙綾様に謝りなさいっ!!」

「黙れ」



騒いでたとりまき達にちょっと視線を向けたら、見事に黙ってくれた。うん、いいことだ。

あのね、僕は一言二言言いたい事があるの。それもかなり重要なこと。



「そんなもんもらってどうしろとっ!? そんなもんレシーブしたら死ぬわっ! 普通にそれはキロ単位でしょうがっ!!
凶器だよっ!? それ打ったら間違いなく凶器だよっ! つーか、純金のキロ単位のボールなんて、打つことすら困難だっつーのっ!!」

「そ、そこを言われると弱いですわね。では、純金の等身大沙綾像を」

「純金から離れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! てゆうか、普通に競技で活躍してくれるほうがみんな嬉しいっつーのっ!!」





とにかく、このおバカな子はもういい。当面の問題はあむだ。ガチで辛いらしい。もう姿勢からフラフラしてるし。



なので、まなみとわかなに言った通りに応急処置的ではあるけど、少し手を貸す。これであむが楽しめなくても意味がないもの。





「あむ、ちょっと裏手に行くよ」

「え?」



とりあえず、あむに顔を近づけて小声で会話する。

・・・・・・顔を赤くするな。変なことするわけじゃないんだから。



「マッサージするから。で、痛めてる筋肉に負担がかからないようにテーピングしてあげる」

「え、いいの? てゆうか、恭文テーピングなんて出来るの?」

「問題無い。かかりつけの主治医の先生にかなり細かいとこまで教わってるから」



この辺りは自分で出来るようになるためと付け加えるのを忘れない。あむは納得してくれたようだ。

まぁ、いちいちテーピング巻くためだけに病院行くのもねぇ。



「ただ、マッサージは太ももとか二の腕とかきわどいとこはあむが自分でやることになるけど、いい?」





さすがに恋人でもなんでもない女の子のそういうきわどい部分に触るのは躊躇う。テーピングならまだしも、マッサージだと揉んだりとかもするわけだし。





「うん、それでいい。お願い出来るかな」

「任せて」










とにかく、あむを裏手に連れて行って、時間の許す限りマッサージとテーピングを行った。





でも、フィリスさんにこの辺り習っててよかったよ。おかげでどうすればいいのか分かるし。









「・・・・・・ん」

「ごめん、痛かったかな」

「ううん、大丈夫。続けて?」

「分かった」





とにかく、ちょっとキツメにテーピングして、筋肉に負担がかからないようにしないと。



あむが出るのはバレーボールだから、急激に走ったりするようなことはないけど、それでもジャンプはするから念入りに。





「・・・・・・うし、出来た。あむ、ちょっと足動かしてみて」

「うん。・・・・・・あんまり痛くないかも。ちょっとキツイけど」

「悪いけどここは我慢して? テーピングが負担のかかるところを支えてくれてるから、緩めちゃうと一気にぶり返す」



あむが僕の言葉に頷きながら、ひょいっと立つ。



「でもそれで血が止まるようなレベルやってはいないから、これで大丈夫だとは思うけど、もし足が痺れる感じがするとか、そういうのがあったらすぐに言って。すぐにテーピングし直すし、それがダメなら先生に言って少し休んだりした方がいいから」

「うん」



で、トントンと2、3回軽めに飛んだり、屈伸したり、足を伸ばしたりして、笑った。

自分の身体がちゃんと動く状態になったのが嬉しいらしい。見てて分かった。



「恭文、ありがと。これなら頑張れそう」

「ならよかった。・・・・・・ただし、それはあくまで応急処置だからね? 本当に治ったわけじゃないんだから。家に帰りついたら、またお風呂でマッサージとかするように」

「うん、分かってる」





そのまま、あむが歩き出して、運動場の方に戻って行く。なので、僕もそれに着いて行く。



動きを見るに、大丈夫そうだね。うん、よかった。





「でも、恭文すごいよね」

「なにが?」

「魔法の事だけじゃなくて、なんだかんだでいろいろ出来るじゃん。料理とかもそうだし、こういうこともそうだしさ」



まぁ、教わった程度には。僕が元々持ってた技能とかじゃないもの。

すごいのは、教えてくれたフィリス先生とかだと思うし。



「それでもすごいの」

「そうなの?」

「そうだよ」





で、ようやっと戻ってくると・・・・・・あ、もう競技始まりかけてるし。





『1・2年生の玉入れチームは、集まってくださーいっ! 審判係は本部に集合ー!!』

『えー、みんな怪我しない程度に頑張ってね〜。それで、やる気の無い子はこっちきて適当に休んじゃってー』





だから、なんてアナウンスが流れる。なお、2番目の適当なこと言ったのは、うちの担任。

・・・・・・二階堂、おのれは何を言ってる。しかもそれ、本気だろ。すっごい本気で言ってるだろ。

声のトーンで分かったわ。分かりたくもないのに、すごい勢いで分かってしまったわ。



一応教師なんだからそういうのはやめい。PTAとかモンスターなんちゃらとかうるさいから。





「あはは、また二階堂先生は冗談が上手いね」

「えぇ、そのおかげで少し空気が柔らかくなりました」





なんて、明らかに状況を読んでない声がする。そちらを僕とあむが向くと、海里と唯世が居た。



なお、海里が黒。唯世が白の学ランを着て、二人とも額に鉢巻を巻いた応援団長スタイル。・・・・・・またすごいなぁ。





「わ、唯世くんにいいんちょ、どうしたのっ!?」

「あぁ、これ? 僕は星組の応援団長なんだ」

「俺は月組ですね。なお、蒼凪さんが星組の副団長です」





へぇ、そうか。僕がふくだんちょ・・・・・・え?



副団長っ!? 待て待て、そんなの聞いてないんだけどっ!!





「ごめんね、副団長の子が病欠しちゃって、他に出来そうな人が居なかったから僕の方で話進めちゃったんだ」

「蒼凪さんも姿が見えなくて、時間もなかったので致し方なかったのは、承知してもらえるとありがたいです」

「ま、まぁそういうことなら納得した。え、ということは」

「うん、蒼凪君の分というより、その副団長の子の分があるから、後で着替えて」



分かった。まぁ、そこはいいよ。普通に球技大会出るよりは楽しそうだし。・・・・・・僕がやると、やっぱり実力差があるしなぁ。

魔法なしでも、反射とか身のこなしとかで、どうしても差が出る。体育の時間とかで抑えるのにちょっと困ってたし。



「でも、これちょっとサイズが大きくてさ。ぶかぶかで変じゃないかな」

「あー、確かにそうだね。というよりそれ、海里にちょうどいいくらいの大きさじゃない?」

「サイズ的にこれが1番下なんだって。あはは、ちょっと恥ずかしいな」



少し照れたように唯世が笑って言うと、それに反応した子が居た。

その子はそっぽを向いて、頬を染めて、こんなことを言う。そう、恋しているのだから当然だ。



「べ、別にっ!? てゆうか、むしろブカブカが可愛いとかは思ってないしっ!!」

「・・・・・・あむ、意地の張り方が変。てゆうか、ツンデレになってないから。思いっきり誉めてデレてるから」

「そんなことないよっ!!」



そんなことあるから。あれだよ? もうツンデレの神様が居たらカミナリ落ちるくらいにそんなことあるから。



「キング、そろそろ集合時間です。急ぎませんと」

「あ、そうだね。・・・・・・蒼凪君」



分かってる。僕もさっさと着替えないと。

つーわけであむ、動けるよね?



「うん、そこは大丈夫」

「そう言えば日奈森さん、包帯巻いてるけど・・・・・・大丈夫なの?」

「先ほどもまるで満身創痍と言わんばかりに杖を突いて歩いていましたし、もしや身体の具合がよろしくないのでは」

「あ、これのこと?」



二人が心配そうにあむに聞いてきた。そして、あむはそれに笑顔で答える。



「えへへ、実はこれ怪我とかじゃないんだ」

「え?」

「恭文が、テーピングしてくれたんだ。マッサージもしてくれたから、身体も大丈夫だよ。ひどい筋肉痛だったんだけど、もうあんま痛くないの」



で、二人の視線が僕に向く。頷きで答えた。

・・・・・・あれ、なんか一瞬視線が強くなったような。それも二人とも。



「そっか。それはよかったね」



唯世、なんでそんな声のトーンが落ちてるのさ。てゆうか、怖いんだけど。

目のハイライトが若干消えかけてるように感じるのは気のせいなのかな。



「そうですね、なによりです」



いや、だから海里もなんで? なんで手がフルフル震えてるのさ。

怖い、怖いからやめて。眼鏡の奥の瞳がなんか泣きそうなのが余計に怖いから。



「とにかく、蒼凪君行こうか」

「そうですね、行きましょうか」



二人の手が伸びて、海里は僕の左肩。唯世は僕の右肩を掴む。



「え、あのなんで僕の肩を二人して掴むのっ!?」



そして、そのまま二人は歩き出した。なので当然僕は・・・・・・。



「いやー、引きずらないでー!!」



そうなるのです。なお、二人とも無駄に力が強いので、抵抗できませんでした。

あ、ちがう。二人とも無駄に怖いので、抵抗できませんでした。本能がしたらだめだと警告しまくってた。



「あ、三人共応援頑張ってねー!!」










・・・・・・ごめん、あむ。もしかしたらその前に頑張らないといけない事があるかも知れない。





もっと言うと、様子がおかしくなった二人との関係性とか。





え、なんでこれ? 僕特に変なことしてないよね。浮気とかそういうのじゃないしさ。





いや、フェイトならまだヤキモチ焼くとか、そういうのがくるかもってのは分かるし、ティアナとかシャーリーとかでもまだ分かるんだけど、唯世と海里がどうしてこうなるのかがさっぱり分からないんですけど。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



マッサージ・・・・・・テーピング、蒼凪君、そんなこと出来たんだ。

というより、それで日奈森さんの身体を触ったり、揉んだり・・・・・・。不潔だよ。

でも、日奈森さんはなんだか平気そうで、むしろ感謝というか嬉しそうで。





あれ、僕なんでこんなイライラしてるんだろ。なんで蒼凪君に対して腹を立ててるんだろ。なんだかおかしいな。

蒼凪君はフェイトさんという恋人がいるし、年齢だって差があるんだから日奈森さんとそうなる要素があるわけないのに。というより、今そうなったら犯罪だと思う。

そうだよ、普通に身体の状態がよくなさそうだった日奈森さんを気遣っての事なんだから、僕が腹を立てる理由がないじゃないか。





それになにより、僕だって日奈森さんのことをそう言う風に想っているわけじゃないし。

だって、僕が好きなのはアミュレットハート・・・・・・なんだよね?

でも、それは日奈森さん。そうだよ、日奈森さんはアミュレットハートで、あれは彼女の一部なんだ。





つまり、えっと・・・・・・どういうこと?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・なぜだ。





なぜ、俺の心はこんなに乱れている。いかん、最近のあれこれで修行が足りないのを痛感したとは言え、これはいかん。蒼凪さんがジョーカーに対して不埒な感情を持ってあんな事をするわけがない。そんな人ではない。

というより、不埒な感情があってそうなってしまったら犯罪だ。年齢の差を考えたら確実に犯罪だ。なにより、蒼凪さんにはハラオウンさんという愛する女性が居るんだ。

二人の様子を見るに相思相愛で絆はとても深い。それなのに浮気などするはずがないだろう。そうだ、蒼凪さんがジョーカーに対してやましい気持ちなど持つはずがないんだ。なのに・・・・・・。





なぜ、俺は何故こんなにも心乱れている?

なぜ、俺はジョーカーから眼を離せない?

なぜ、俺の極秘手帳(ジョーカー・日奈森あむの調査書)の調査項目が6000を超えようとしているんだ?





だめだ、眼があの人の一挙手一投足を追いかける。あの人から眼だけではなく、心が離せない。

まるで、あの人に俺の心を捕まえられたようだ。

そうだ、今だって見ている。応援をしながら、バレーボールを一心不乱に追いかけるあの人を見ている。





だから、あの人がコートから出ても見ている。ちょっと怒ったような顔も素敵だと思ってしまう。

そうして向かった先にビーチパラソルが立っていて、そこに置いてある椅子に、大き目のサングラスをかけたまま座っているクイーンを見たとしても、視線はやっぱりジョーカーに向いてしまう。

そうだ、俺はあの人に惹かれている。いろんな意味で惹かれているんだ。





・・・・・・え? いやいや、俺ちょっと待て。今のはおかしくないか?

今は球技大会中で、当然のようにクイーンも参加者。

なのに、なぜあんなバカンスに来たような格好でクイーンはくつろいでいるんだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・りま、なにしてんの?」





バレーボールをしていた。だけど、なんだか手数が足りないと言うか、一方的に攻め込まれているというか、違和感を感じた。



で、よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉくコートの中を見たら、あたしが居たチームだけ一人足りない。

で、よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉく考えたら、その一人がりまだと言うことに気づいた。

で、周辺をこれまたよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉく観察したら、りまがこの状態だった。



なので、当然あたしはこう言う。





「みんな頑張ってんだから、さぼらないの。ほら、行くよ」

「なによ、話しかけないでもらえる? 大き目のサングラスをかけている時は『声をかけるな』という合図だって、セレブの間で評判なのに」





知るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! みんなが必死で頑張ってる時になにくつろいでるのかって聞いてんのだけどっ!? そんな合図なんて知ったこっちゃないしっ!!





「ねぇ、あむ。私達はあまりに勝ちにこだわりすぎてたんじゃないかしら」





はぁっ!?



・・・・・・てゆうかりま、どこを見てる。なんかすっごい遠いところ見てどうすんのよ。



今アンタが見なきゃいけないのは現実よ? それはもっと近いところにあるから。具体的に言うと目の前のあたしとか。





「世界は広いわ。この空のように、どこまでも広がっている。でも、そんな中で生きていると時には疲れちゃう時もあるのよ。時には休養も必要。
そして、それは他人や社会が決めることではない。自分の心が決めることなの。そう、だからこそ私はここに居るわ。今日は、疲れた羽を休める日だから」





そのまま、また不必要にデカイサングラスをかけて、りまはビーチチェアに体重を預ける。

もうどう見てもどう考えても完全にくつろぎモードで、羽を休める気満タンらしい。

いいよ、そっちがそのつもりならこっちも奥の手使うから。



てゆうか、そのもっともらしい発言で人を煙に巻くのは誰の影響っ!? 間違いなく恭文だと思うけど、お願いだからそこは見習わないで欲しかったなぁっ!!





「恭文ー! りまがサボろうとしてるんだけどどうするー!?」



声をかけたのは、現在りまと同居している恭文。

そして、それにりまが身体をピクリとさせる。恭文は、少し小走りに走ってきた。なお、唯世くんと同じ白の学ラン姿。



「・・・・・・りま、またリゾート気分でなにやってんの。それ、球技大会の項目にあったっけ」

「あったわ。上手く心の休養を取れるかどうかというのを競技するの」

「あ、それなら納得だ」

「納得しないでよっ! てゆうか、そんな競技あるわけないからっ!!」



むしろあったらビックリだよっ! 球も使ってないのにそんなのあるわけないじゃんっ!!



「いやいやあむ、もしかしたら心の球を休ませてるのかも知れないじゃない」

「そうよ、そういう競技なのよ」

「だから恭文も乗っかるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! そしてりま、アンタ今すっごい適当に乗ったでしょっ!? もう見ててわかったよっ!!」



・・・・・・二人してそのため息はやめて。そしてかわいそうなものを見る目であたしを見ないで。

なにこれ? もしかしてあたしがおかしいのかな。そういうことかな。とりあえずアンタ達に自分がおかしいって思考はないのかな?



「まぁ、あむをおちょくるのはこの辺りにするとして、真面目に言うとりま」

「最初から真面目に言ってよっ!!」

「気にしないで。・・・・・・今日の夕飯の候補知ってる? 球技大会のお疲れ様会も兼ねて、焼肉なんだって。それもフェイトと恭太郎と咲耶にディード特製のタレに漬け込んだの。
お肉はそのおかげでとっても柔らかくてジューシー。野菜だって美味しく食べられる魔法のタレにつけ込んでるわけですよ。今、きっと下ごしらえを終えて自宅の冷蔵庫で眠ってるね」



恭文がニッコリ笑った。そして、笑いながらこんなことを言う。



「だけど、この調子だとりまはそれを食べられないな。だって、休養を取ってたら疲れることは無いと思うし。
あ、でもそれだと可哀想だから『ピーマンの肉詰め肉抜き・焼き加減レア』とか食べてみる?」



そしてりまは、立ち上がった。サングラスを放り投げた。



「嫌よ。生のピーマンを食事として出されて、それを食べるくらいなら、私は休みを返上するわ」

「いや、だから『ピーマンの肉詰め肉抜き・焼き加減レア』だって。そういう料理なんだって」



ごめん、それはどう考えても生のピーマンだよね。ピーマンの肉詰めから肉を抜いて焼き加減レアだとそれはどう考えても生だよね。



「恭文、それ本気で言ってるっ!? どう考えてもそれは料理じゃないわよねっ! それが料理なら生卵を割ってお皿にポンと乗せたのだって料理になるわよっ!!」

「料理なの。ま、頑張ってきなよ。てゆうか、もし身体の調子とか悪くてダメっぽいのなら、先生呼んでくるけど」



あ、そっか。その可能性もあった。あたし、そこまで考えてなかったかも。

だけど、その心配はないらしい。りまはそのままてくてくとコートに歩き出したから。



「大丈夫よ。でも・・・・・・」

「でも?」

「笑わないでよね?」

「「はい?」」










なお、りまが話していた意味はすぐに分かった。





試合が再開して、りまがサーブをするためにボールを持つ。それを自分の頭上に放り投げる。





そして、ボールが地面に落ちてくる。・・・・・・訂正。そのまま地面に落ちて、落ちたボールがころころと地面に転がった。





それから数瞬の後、りまが右手を使ってサーブを打ち込む。うん、あたしは結構近くだったから、空気を切る音だけが聞こえたよ。





当然、場が沈黙する。てゆうか、もう狙ってるんじゃないかって言うくらいに空振り。










「え、えっとりま?」

「真城さんもしかして・・・・・・」

「運動、かなり苦手?」





そう言えば、体育の時間の時もあんまり動きがよくなかったような。



いや、今はもう無き召使いズとかがフォローしてたのとウザかったのとであんまり気にしてなかったけど、やっぱり運動苦手なんだ。



あ、顔赤くしてなんかそっぽ向いてる。





「・・・・・・やっぱりやめる」

「あぁぁぁぁぁっ! 大丈夫、大丈夫だからそれはやめよっ!? ほら、頑張ってみようよっ!!」

「わかった」










あ、なんだか素直だ。それで、もう一回ボールを持って・・・・・・。





今度は打てた。打って・・・・・・ネットに、引っかかった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「りまー! 頑張れー!!」





あんまりな様子に、星組応援団は全員りまの応援にとりかかった。





「真城さん頑張ってー!!」










声をあげ、旗を振り、りまを元気付ける。





というか、訓練が終ってからティアナからりまはフィジカル面がガーディアンの中で1番弱いとは聞いてたけど、あそこまでだったとは・・・・・・。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・りまの運動能力が低い?」

「そうよ。アンタだって気づいてたでしょ? 同じクラスで行動することも多いんだから」





夜、自分の部屋で今日の訓練のデータを纏めてると、ティアナが来てそんな話になった。



まぁ、りまの運動能力の低さについては、なんとなく知ってた。

普段の運動の時もあんまり動いてないし、キャラなりした時だってそうだ。そんなアグレッシブって言うくらいには動いてない。

単純に射撃行動が多いからそうなってたのかなとも考えてはいたんだけど。あー、それと足もちょっと遅いみたいだしね。





「まぁ、キャラなりしてない通常の状態でそこまでアグレッシブには動かないからここはよしとして、キャラなりした時は私と同じ感じで動くと合ってるとは教えたから」

「そっか、ありがと。てゆうかごめんね、試験前なのに協力してもらっちゃって」

「いいわよ。自分のおさらいというか、いい復習になったから。で、他の子はどう?」

「うん、皆からデータもらってあれこれ検証してたんだけどね」



モニターの前で腕を組んで、ちょっと思ってしまった。チームとしてはもう完璧って言うくらい完璧なのに、足りないものがある。

それは、直接的な攻撃能力。なお、転校してしまう海里は外した状態で見てる。



「普通にたまご浄化って言うんなら問題ないんだよ。もうここは絶対。別にキャラなりは戦う事が目的の形態じゃないんだから」



あれだよ。極端な話、×がついたたまごを助けるための形態って言ってもいいんだし。なりたい自分、未来への可能性を形にして、他の消えかけている可能性を助けるための力。それがキャラなり。

前にミキが、少なくとも僕とのキャラなりアルカイックブレードはそういうものだと言ってくれたことがある。



「ただ、問題はたまご以外が相手の時だよ」

「月詠幾斗ね」

「そうそう。あと、×ロット相手とかさ」



なお、それが正式名称になったというのは、海里とお姉さんから聞き出した。・・・・・・たまご以外が相手だと、攻撃手は僕だけになる傾向が強い。

この間のヘリポート戦だって、それが月詠幾斗に押し込まれまくった原因の一つと言ってもいいもの。うーん、どうするかなぁ。



「あの時さ、スコープ越しに動き見てたけど、アイツに関しては別格。マジでやるのよね。普通に私の狙撃弾丸防いだりしたし。・・・・・・やっぱり、あの場で潰さなかったの、ミスジャッジだと思うな」



ティアナが画面に目を向けながらそう言ってきた。

やっぱり、そう思う? いや、僕も改めて考えるとあれは失敗だったなと反省しててさ。



「かなりね。まぁ、アンタも強化版スターライト使って消耗してたし、他のみんなだって同じくだし、私だって1発でやれなかったからあんま言えないんだけどね。でも、ツケは高く払うかも知れないわよ?
あの子ほしな歌唄と三条ゆかりが失脚したら、一人イースターに残ってる形になった月詠幾斗への風当たりは、更に強くなるだろうしさ」



だねぇ。その辺りのこと、フェイトもそうとう気にしてる。歌唄をイースターから切り離せて、もうブラックダイヤモンド事件みたいな大量に×たまを抜き出せるような事が起こるとは思えないけど、それでも注意は必要だから。

その場合、キーになるのは月詠幾斗だ。どっかから増援呼ぶとかじゃない限りは、確実に今度イースターが何かやらかしてくる時は前に出てくる。そして、次は確実に決着をつけないといけない。



「そう言えば、月詠幾斗って今どうしてるの?」

「あぁ、その辺り歌唄の携帯を本局からでも使えるようにして、歌唄に確認してもらったんだけどさ。これがまた大変な事になってるのよ。
・・・・・・どうもあれからずっと自宅に帰ってないし、連絡もつかないらしいんだよ。少なくとも月詠家のお手伝いとかは行方を知らなかった」



あれから大体一週間どころか10日前後経ってる。球技大会が終れば丁度歌唄が退院する頃。

つまり、それだけの時間月詠幾斗は消息不明なのだ。これは普通に考えておかしい。



「警察への連絡は?」

「してると思う?」

「ないわよね。でも、よくあの子が協力してくれたわね。フラグの成果?」

「違うよ。どうしても自宅や関係者に連絡を取るのが嫌ならいいとも言ったんだけど、やっぱりどうなったか気にはしてたみたいだから、それでだよ」





なお、歌唄と月詠幾斗の両親・・・・・・星名一臣と月詠奏子とは話せなかったけど、歌唄曰く聞く必要はないらしい。

まず、イースターの専務でエンブリオ捜索の責任者でもある星名一臣は、歌唄や月詠幾斗を取替えの聞く道具程度にしか思ってないから、興味を持っているかどうかが怪しい。

そして、自身の母親でもある月詠奏子は、星名一臣の言いなりで人形同然。自分から心配や捜索をする可能性は0とか。



つーか、完全に家庭崩壊もいい所じゃないのさ。僕は聞いてて自分のことのように感じてしまったよ。





「まぁ、以前にアリサさんが調べてくれた話通りならそうするわよね。自宅に帰っても、本当に居場所ないでしょうし」

「その上、自由気ままがモットーなのに首輪に鎖付きと来たもんだ。こりゃ、本当にあの場で潰さなかったのは、ミスジャッジになるかも知れないなぁ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



まぁ、月詠幾斗の話はともかく、あのりまの様子を見て少し考えた。





りまは特に訓練メニュー気遣う必要があるなと。身体も小さい分負担も大きいだろうし。うん、その辺りよく分かる。










「そう言えば唯世、キセキは? てゆうか、ラン達も居ない感じだけど」

「あぁ、みんなはみんなで球技大会なんだって」

「・・・・・・はい?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「よっと・・・・・・それそれー!!」





あははは、玉乗り楽しー! こういうのはいいなぁー!!



む、後ろから追撃されてる感じがビンビン。でも、誰が?





「クスクスー! 負けないよー!!」

「クスクスと同じくー! ボクだってやれるんだからっ!!」










え、クスクス・・・・・・はまぁ分かるんだけど、どうしてミキがっ!? てゆうか、動き良過ぎだしっ!!





と、とにかく・・・・・・・全速力だー!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・なぁ、ミキは身のこなしが良過ぎないか? 僕はあんなに生き生き身体を動かしているアイツを見たことがないのだが」

「というより、あの動きは拙者見覚えが・・・・・・」

「うーん、なんででしょう」





いや、それを聞いているのだが。



まてよ、あの動き・・・・・・あ、もしかして恭文かっ!?





「キセキ、それはどういうことか?」

「恭文とのキャラなりで、アイツの動き方とかそういうのを覚えているのではないか? だからこそ、あんなに動きが軽くなってる」

「なるほどですぅ。それなら、納得ですねぇ」

「いや、納得なのか。そこは?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・まぁ、玉乗りしたり、玉入れしたりでみんなで楽しく球技大会をして・・・・・・優勝者が決まった。





それは、私っ! ランっ!!










「うー、玉乗りは勝てたのに」

「その後が続きませんでしたねぇ。でも、ミキもすごかったですよぉ」

「大健闘でち」

「うむ、よく頑張ったぞ。それはランだけでなく他のみんなもだ。・・・・・・本日は、しゅごキャラ同士の交流も兼ねた球技大会だったわけだが、優勝者には褒美・・・・・・というより、健闘を称えるためにささやかだが賞品を用意している」



え、賞品っ!? ということは、何かくれるのかなっ!!

私達がキセキの方を見ると、キセキは力強く頷いて、あるものを私に渡す。



「わぁ、ありが・・・・・・ちょっとキセキ」

「なんだ?」

「これ、なにかな」

「僕のブロマイド写真一式だが」



そうだよね、かっこつけたキセキの写真が沢山だよね。

だから、私はこう言う。隣に居る二人に対して。



「ムサシ、ペペ、あげる」

「待てっ! お前それはどういう意味だっ!? いらないのかっ! それはいらないという意味なのかっ!!」

「気持ちだけ、受け取っておこう」

「ペペも同じくでち。ラン、ありがとうでち」

「ムサシ、ペペっ! お前らもかっー!!」



いや、だって・・・・・・ねぇ? これをもらってもどうしようもないし。しかも無駄に数が多いし。アングル似ててかぶり気味なのが余計に気持ちを沈ませるし。



「なら」



あ、写真が取られたっ! それも一瞬でっ!!



「ボクがもらうね。あぁ・・・・・・これいいかも」

「ミキ・・・・・・」

「惚れっぽいのは相変わらずですぅ」



だね。でも、恭文にはそういうのないよね。キャラなりしたりするのに。



「恭文はそういうのじゃないもの。こう・・・・・・パートナーって感じ? たまごは産まれたけどまだかえらないし、魔法のこともあるから、僕とのキャラなりは当分の間必要だもの」

「なるほど、それは納得出来る」

「でも、ミキいいですねぇ。スゥも恭文さんとキャラなりしてみたいです〜」



・・・・・・スゥ、そこまで? 私はあの現地妻発言で相当びっくりなんだけど、やっぱりそこも相変わらず?



「相変わらずですぅ。名前も考えてるんですよぉ?」

「何故お前はキャラなり出来るかどうかもわからない今の段階から名前まで考えてるんだっ!?」

「いえ、お告げが来ない可能性もあるので」



あぁ、そう言えばミキとの時はこなかったしね。それならわかるよ。

・・・・・・いや、わかっちゃマズイのかな。



「ハイセンスクローバーにしようと思ってるんですぅ」

「え、ボクのアイディアをまんま丸パクリっ!? しかも何の許可もしてないのにっ!!」

「それで、ランはハイセンスハートですぅ」

「そして私の分まで考えてるっ!?」



なんてツッコんでいると、目の前を黒いものがピョンピョンと跳ねながら横切った。

そして、通り過ぎて少し経って、私達全員、動きがストップした。



「・・・・・・おい、皆。今の見たか?」

「見たぞ。黒くて形状がたまごで×がついていた」

「なんて言うか、ボク達にはすごく見覚えがあるものだったよね」

「見覚えありまくりですぅ」





うん、私もある。



だって、アレ・・・・・・。





「×たま、だよね」

「一個だけだったけどね」

「大変ですぅ。すぐにあむちゃんと恭文さん達に知らせるですよ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・りまがなんかすごく頑張り出したので、みんなで暖かく見守っていると、球技大会を頑張っていたはずの皆が飛んできた。





で、話を聞いてあむがまず動く。一旦バレーのチームを抜けて、一人×たまを追いかけた。










「それでスゥ、×たまは一個だけなの?」

「はい。スゥ達が見た限りでは」

「まさか球技大会中に出てくるなんて・・・・・・。でも、そこは安心かな。一個だけなら、イースターの作戦とかではないだろうし」



まぁ、そこはね。ただ、そうも言ってられない。確実に心が空っぽになってる子が出てきてるわけだから。

で、王様。僕達はどうする?



「当然、日奈森さんのサポートに」

「いえ、キング。それはやめて置いた方がいいでしょう」

「三条君?」

「周りを見てください」










・・・・・・あぁ、そういうことですか。確かにこれだと僕達は動き辛いわ。





まったく、有名だってのも損してる部分あるよね。すぐに人の注目を集める。










「海里、リインには僕から連絡しておいた。状態説明も同じく。てゆうか、今念話を使ってしてる」

「これはまた素早い」



念話使えば1発だし。なにより、魔導師にとってマルチタスクは基本動作だもの。これくらいは楽勝。



「海里はすぐに月組の方に戻って。で、有事の際はこっちも迅速に動く。海里はリインとややの方お願い」

「了解しました、すみませんがよろしくお願いします。とにかくキング」

「分かった。僕達はこのまま待機だね」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「リインちゃん、動いちゃだめってどういうこと?」

「そうでち。×たまをあむだけに任せるつもりでちか?」

「でも、リイン達が不用意に動くとまずいです。ややちゃん、ペペ、周りを見てください」



リインの言葉を不思議がりながらも、二人が周りを見ます。そして、気づきました。



「リイン達、ガーディアンだから注目されてるですね。あむさんが居なくなった現状で全員動くと、絶対に騒ぎになるです」

「どうやらそうみたいでちね。みんなそんなこと言ってるでち」




あむさんが居なくなって、星組の方では唯世さんに海里さん、恭文さんが固まってて、月組ではリインとややちゃんが固まってる状況に、騒ぎ出している子達が居る事に。



「さっき恭文さんから念話が来たですけど、あっちに行った海里さんもたまごが一個だけであるなら、ここはあむさんに任せた方がいいと言う意見だそうです。ただし」

「分かってる。もし一個だけじゃなくて、他にもあってあむちーだけじゃ無理な場合は、やや達も行く」

「正解です」










まぁ、大丈夫だとは思いますけど、一応心構えだけはしっかりと










「待てェぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「「「・・・・・・え?」」」





上から声がして、ピンク色のチアガールさんが降りてきました。そして、運動場に着地。



そのまま、同じく降りてきた黒いたまごを追っかけてます。あ、周りを気にしましたけど、そのままたまごを追いかけて運動場を飛び跳ねます。みんなが突然の乱入者にぽかーんとします。





「あ、あ・・・・・・あむちー!? え、なにやってんのっ!!」

「どうやら、×たまを追いかけてそのままここに来ちゃったようでちね」

「どうするですか、あれっ! さすがにフォローできないですよっ!!」





いや、待ってください。あの形態はチアガール。そして今は球技大会。



・・・・・・行けるですっ!!





「ややちゃん、応援するですっ!!」

「え?」

「あむさんはコスプレしてまで星組を応援しようとしてるですっ! 月組は負けるわけにはいかないのですっ!!」










リインの言葉に、ややちゃんは笑顔で頷いてくれました。どうやら言いたい事、分かってくれたらしいです。





そして、そのまま皆を扇動して、応援が始まりました。月組だけじゃなくて、星組も。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・ヒマ森さん、一体なにやってんの? さすがにあの格好を皆に見られるのはマズイでしょ。てゆうか、なんですかこの盛り上がりは。





×たまを追いかけるヒマ森さんを、みんなで応援する。というより、ヒマ森さんの応援に、ガーディアンの皆が他の生徒を扇動した上で乗っかってると言うべきかな。





つまり・・・・・・。










「応援合戦に見せかけて×たまを追いかけるとは、よく考えたねぇ。いや、すごいすごい」










まぁ、本当は競技をいきなり抜け出したりしたことに関しては注意しなきゃいけないんだけど、ここは後でもいいか。





だって、みんなすごい盛り上がってるしさ。そこに水差しちゃいけないでしょ。先生としては、生徒の自主性を(程よく)重んじ、空気を読みませんと。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ファイトファイトっ! 星ー組っ!!」

「フレーフレー! 月ー組っ!!」

「さぁさぁ、もっとみんな声を上げてー! どんどんぶっ飛ばしてこー!!」

「そしてフィナーレまでクライマックスですよー♪」





恭文に唯世くん、いいんちょが声を上げて、皆を扇動する。あたしはその間に運動場を跳んで、跳ねて、×たまを追いかける。



動きがすばしっこくて手こずってる感じ満々だけど、やれる。大丈夫、あたし一人でもやれる。





『ムリィィィィィィィ』





×たまがこちらを向く。そして、黒い風があたしに向かって放たれた。でも、遅い。





【あむちゃんっ!!】





あたしはもう上に飛んでる。黒い風は、ただあたしの居た場所を通り過ぎただけだった。






「分かってるっ!!」

【わわ、あむちゃんの反応・・・・・・というか動き、よくなってる】





・・・・・・訓練で教わった事。攻撃を避ける時は、慌てず、冷静に、動き回って狙わせない。一つ所に足を止めない。そして、絶対に目を瞑ったりしない。

基本だけど、とっても大事なこと。あの時フェイトさんから教えてもらった事を反芻しながら×たまを追いかけていたら、自然と身体が動いていた。

フェイトさんと恭文やみんなに感謝する。教えてくれた事、ちょっとだけかも知れないけど無駄になんてなってないから。ちゃんとあたしの中にあるから。



だから、あたしの右の人差し指は眼下に居る×たまに向かって指される。





「ネガティブハートにっ! ロックオンっ!!」





だから、あたしは×たまがこちらを向いた時にはもう、両手の指でハートマークを作り、ピンク色の力を蓄えている。





「オープンっ!!」





そのままあたしは、力を解き放った。



だけどそれは、絶対に倒すためじゃない。未来への可能性を消さないために。今存在している誰かの夢を、守るために。



それが、あたし達の強くなる・・・・・・ううん、なりたい理由だから。





「ハートっ!!」





放たれたハート型のエネルギーに上から圧される形で、×たまがその中に飲み込まれる。飲み込まれたたまごの×が、取れた。



これで、決まりっ!!





『ム・・・・・・ムリィィィィィィィィィィッ!!』





そこを始点に、ハート型の光がはじけた。あたしはそのままグラウンドに着地。



だから、ウィンクなんてしちゃったりするのです。





「ふー、捕獲かんりょ♪」



・・・・・・って、ちがーうっ! こんなのあたしのキャラじゃなーいっ!!



【大丈夫大丈夫っ! 問題なしなしっ!!】

「いや、大有りだからっ!! ・・・・・・って」





あ、あはは・・・・・・必死で追いかけてたから気づかなかったけど、みんなこっち見てるね。すっごい見てるね。





【あ、あむちゃん。もしかして私達って】

「そうとう、ダメだった?」





あー、なんか恥ずかしいよー! どうすればいいのこれっ!?





『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! すげぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』

【「・・・・・・え?」】





なんか歓声っ!? え、どうしてかなっ!!





「こんな応援初めてー! 日奈森さんすごいー!!」

「ちょー可愛かったー!!」

「うぉぉぉぉぉぉっ! まさしく最初から最後までクライマックスっ!! 日奈森先輩っ! 素敵でしたー!!」

「なんか見てるだけで元気出てきちゃったー!!」

「僕もっ!!」





みんな、なんかすっごく楽しそうというか、好評? こうクレーム的なアレとかは出ないし。



あ、あはは・・・・・なんとかごまかせてる? てゆうか、この格好にはツッコミなしですか。





【コスプレか何かだと思われてるんじゃないのかな】

「ありえる・・・・・・。でもラン」

【なに?】

「恥ずかしかったけど、うまく行ってよかったね」

【そうだね】










とにかく、×たまはちゃんと浄化出来たので、あたしは気恥ずかしい思いを抱きつつ競技に戻った。まぁ、二階堂先生からやるならやるでちゃんと言うようにって注意はされたけど。





そこからみんなテンションが上がりまくっての後半戦。盛り上がりは凄まじく、恭文や唯世くんにいいんちょやみんなの応援もあって、球技大会は大成功と言わんばかりに全ての競技を終了した。





あ、実は恭文も競技に参加した。それがなにかと言うと・・・・・・。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・おぉ、ドリブルが早い早い。やっぱ身のこなしが他の子とは一味違うな。





そしてそのままゴールしたからボールをリングに置くようにシュート・・・・・・あぁ、惜しい。外した。










「むー、恭文さんしっかりするですー! 本気でやっちゃっていいですよー!?」

「そうだそうだー! 恭文ふぁい・・・・・・って、リインちゃんっ!? なんでそこで恭文の応援行っちゃうのかなっ!!」

「いえ、やっぱりリインは愛に殉じるのが定めかと」

「意味分からないよそれっ!!」





まぁ、楽しそうなリインちゃんとややはともかく、恭文はバスケットの競技に参加。それでそうとう頑張ってる。



あ、唯世くんも参加してるね。二人で他の子と協力して楽しそうに・・・・・・うん、楽しそうにやってる。





「あむちゃん、恭文なんだかすごく楽しそうだよね」



ミキがあたしの隣でスケッチブックを開いて鉛筆を走らせながら、どこか嬉しそうにそう言ってきた。



「うん、そうだね。きっと、すごく楽しいんだよ」

「お話通りだと恭文さん、学校に通ってこういう風に行事に参加と言うのは無かったそうですから」



どうもそうらしい。元々親御さんとかの影響で学校に行ってなかったし、魔導師になってからも強くなるための修行とか嘱託としてのお仕事とかで学校に行かなかったそうだから。

だから今、こういうのに参加出来て楽しいんだろうね。学校、好きだって言ってくれてたし。卒業出来るならしたいとも言ってくれたし。なんか、いいなぁ。



「・・・・・・あ、今度はシュート入れたっ!!」

「よし、ナイスシュートっ!!」

「ナイスボートですぅ〜」

「スゥっ!? それはちょっと違わないかなっ! てゆうか、縁起悪いからやめてっ!!」










そして、そんな競技達が全て行われた集計結果が出た。





あ、応援合戦も点数に考慮されたから、それも加味してだね。そして結果・・・・・・。










『月組・775点。星組・876点。結果、今年の球技大会は星組の勝利です』










アナウンスが流れて、掲示板に点数も出る。それを見て、あたし達星組のメンバーは全員歓喜の渦に包まれた。





・・・・・・うっしゃー! 勝ったー!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・でもでも、球技大会楽しかったですねー」

「そうだね。いや、これでなぎひこが居たらもっと楽しかったんだろうけど」

「え、なんでなぎひこ?」

「なぎひこ、バスケ上手なのよ。僕一回負けてる」

「あ、そうなんだ」





そして夕方。会場の後片付けなんかしてから、あむとリイン、それにティアナとりまと一緒に帰路に着く。



夕焼けの空の下、川原沿いの道を五人でテクテク歩くのだ。





「中等部は普通の日だったんだけど、また随分楽しそうだったわね。こっちまで歓声聞こえてきたくらいだし」

「はい、もうとっても。・・・・・・あ、恭文ありがとね」

「なにが?」

「いや、テーピングとかマッサージとか。あと、家まで送ってもらったりとか。いや、それはティアナさんもなんだけど」



あー、そういうことね。いいよいいよ。帰り道なんだしさ。



「フェイトさんが居るのにまたフラグを・・・・・・」

「りまさんの言う通りです。リイン、第三夫人なんて絶対認めませんよ? もちろんフェイトさんもリインと同じくなのです」

「だから一体なんの話をしてるっ! 普通にフォローしただけでフラグとかじゃないからっ!!」



てゆうか、途中でまたあんな杖突いた状態になられても困るし。



「でも、アンタもテーピング受けたんだ」

「アンタも?」

「私も前に筋肉痛でどうしても動けない時があってね。その時にコイツにマッサージとテーピングしてもらったことがあるのよ。
そうしたらもうその日一日なんとか凌げたの。普通に出動があって、現場で魔法戦闘があったりしたんだけどね」



ティアナがなんか嬉しそうに言ってるので、歩きながら思い出す。・・・・・・あぁ、あったあった。前の日にフェイトと頑張り過ぎて二人揃ってその状態だったのが。

てゆうか、アレはやり過ぎだって。なんで数時間ぶっ続けでガチでぶつかりあうのさ。どこの恭也さんかと思ったし。



「その辺りは主治医のフィリス先生の影響が大きいですよ。恭文さんが自分でマッサージとかテーピングとか出来るようにって、しっかり教えてくれてたそうですし。あ、リインとフェイトさんも教わったことがあるですよ」

「そうなんですか?」

「はい。ほら、例の」

「・・・・・・あぁ、アレですか」



うん、アレだよ。神速。フィリスさんが二人は知っておいた方がいいって言って教えてくれたから。

まぁ、僕が大体自分で出来ちゃうからあんま出番は無いけどさ。



「アレって?」

「まぁ、コイツの秘密兵器関係でね。身体に負担が大きいから、その辺りのフォローを教えてもらってたってことよ」

「ほら、ヘリポートの時に僕が歌唄に一瞬で近づいたりしたでしょ? アレがそうなの」

「あぁ、そう言えばあったような・・・・・・」

「あったわよ。あのソニックムーブ・・・・・・だっけ? それみたいに光に包まれて移動とか言うのじゃなかったから、私はよく覚えてる」



あ、ちゃんと覚えてたんだ。感心感心。



「あとりま、あれもあるよー? ライブハウスで海里と戦ってたときに、同じように瞬間移動したみたいに速く動いて海里を斬ったりとか」



クスクスも何気に見てたらしい。いや、僕はビックリなんですけど。



「せんせぇの所からスゥを助けてくれた時も、そんな感じでしたぁ。スゥ、一瞬で恭文さんの手の平の上でしたし」

「でも、アレって魔法じゃ」



首を横に振り、その言葉を否定する。



「魔法を使ってない高速移動なの」

「完全無欠にチート技だけどね」

「ですです」



あははは・・・・・・。



「だからチートって言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! いいじゃんか、そんな恭也さんレベルじゃないんだからさっ!!」



あ、二人がなんか逃げた。なので当然僕は追いかける。



「どう考えたって時間感覚引き伸ばしてそれで移動はチートじゃないのよっ!!」

「ですですー!!」

「やかましいわボケっ!!」

「え、時間感覚ってなにっ!? お願いだからちゃんと教えてー!!」

「てゆうか待ちなさいっ! なんでそんなに元気なのっ!?」










五人で川原沿いの道をそんな風に声を上げながら走る。まぁ、あむの体調がアレだし、りまの足もあるのでそれに合わせた感じで。





なんだろう、今日はすっごく楽しかった。明日もこうなると、嬉しいな。



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・なんだろう、もやもやする。すっごくもやもやする。





アミュレットハートが好き。だけど、それは日奈森さんで、アミュレットハートじゃない。だけど、日奈森さんはアミュレットハート。





ということは、なんだろう。もしかして僕、そうとうだめなことしてたんじゃ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・No.6248。本日のジョーカー。





球技大会前、ジョーカー、蒼凪さんからマッサージを受ける。テーピングもされる。なぜかとてもいい笑顔。それがどうも気になった。

そして大会中、×たま出現。ジョーカーがアミュレットハートとなり対処。先日の訓練の成果故か、速攻で×たまを浄化。大会も無事に終了し、胸を撫で下ろす。

なお、アミュレットハート中のジョーカーの笑顔はとても可愛らしく、目を引いた。特に最後の『ふー、捕獲かんりょ♪』の時のウィンク。あれに胸が貫かれる思いがした。










「・・・・・・どうしたのだ、俺は」





自宅で極秘手帳を記入し終えて、そのまま机の上で頭を抱える。まずい、普通にマズイ。極秘手帳が普通の日記になっている。





「海里、お主・・・・・・まず気にするところはそこか?」





というより、なぜ俺はこんなにもジョーカーの事ばかり考えてしまうんだ。普通にこの二週間で極秘手帳のナンバーが600くらい増えているんだが。





「そうだな、そこは拙者も疑問だ。というより、その前段階で5000を超えていること自体が驚きだ」





もうこれは極秘手帳ではないかも知れない。普通にジョーカー観察日記ではないか?





「普通、人間に対して観察日記などつけんがな」





大丈夫か、俺? このままでは蒼凪さんとの再戦もどうなるか・・・・・・!!





「・・・・・・ただいまー! いやぁやっと手続き終ったわっ!!
海里ー、悪いんだけど早速ゆうは・・・・・・ね、ムサシ。海里、どうしたの? なんであんな落ち込んでんのよ」

「すまぬ、姉上殿。海里はようやく大人の階段を踏み出しているところなのでな。邪魔はせぬようお願いしたい」

「はぁっ!? なによそれっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・球技大会、楽しくてよかったね」

「うん」



夜、フェイトとコミュニケーションがてら、パジャマを着てベッドに腰かけながらお話。議題は、今日のこと。

手を繋ぎながら、恋人同士としての時間。えっちなことが無くても、とても楽しいから不思議。



「まぁ、途中で×たまが出た時はビビったけどね」

「でも、×たまは結局その一個だけ?」

「うん。そこはよかったかな。また大量に出てこられても困ってたし」

「そうだね」



・・・・・・でも、もうすぐ歌唄も退院か。明日からは7月突入だし、早いなぁ。もうあと1ヶ月ちょいで、こっちにきて半年近く経つし。



「あ、そうだ。実は今日ゆかりさんから連絡が来てね」

「海里のお姉さんから?」

「うん。歌唄が何時退院出来るかどうかという確認。体調自体はもう万全だし、ブラックダイヤモンドの影響も0だったから明後日には退院出来るって話した。それでね、退院したら歌唄をすぐに事務所に連れてきて欲しいんだって」



・・・・・・事務所? へ、何のですか。イースターは完全無欠にクビになっちゃったらしいのに。



「三条プロダクション。ようするに、ゆかりさんが社長を勤める芸能プロダクションの会社を立ち上げたらしいの」

「はぁっ!?」

「私も今日詳しく聞いて知ったんだけど、歌唄がイースターをクビになった影響で、他の事務所関係はイースターに目をつけられるのが怖くて、歌唄を引き取ろうとしないらしいの」



あぁ、そう言えばイースタープロダクションってまだ新参者だけど、イースター社が母体だからあっちこっちに影響力強いんだっけ。

だからこそ、香川まさしやらややがご執心のダーツとかが人気なわけだし。



「つまり、歌唄は普通に事務所移籍とかが出来なくて、このままだと、芸能活動を継続出来ない?」

「うん。オーディションを受けるという方向も考えたそうなんだけど、それだとやっぱり同じ理由でピンハネされるかも知れないからダメ。それであれこれ考えて・・・・・・」

「それでお姉さんは自分で事務所立ち上げて、歌唄をマネージメントしようと」

「みたい。・・・・・・歌唄が輝くことで奪ったものを取り返していくなら、絶対に必要なことだって言ってたよ。輝いても、それが人の目に付かなければ、聴ける場がなければ、取り返す事なんて出来ない。
なら、自分の仕事は歌唄の歌を聴いてもらえる場を作っていくこと。そうどこか楽しげに話してた。それを聞いてね、やっぱりこの人は海里君のお姉さんなんだなって、少し納得しちゃったよ」

「そっか」



歌唄、きっとビックリするだろうな。この間話した感じだと、なんにも知らないっぽいし。

でもそうすると・・・・・・いや、ここはいいか。実際どうなるかは分からないんだし。



「・・・・・・あとね」

「なに?」

「歌唄が第三夫人になった時は仲良くしてあげて・・・・・・だって。どうもヤスフミを見てると私と別れるとかそういうのは無理そうだから、それで納得するって」



よし、あのアマやっぱ斬ってくる。海里のお姉さんだからまぁまぁ寛大な心で接してきたけどそれは間違いだった。やっぱり甘かった。



「そ、それはだめだよっ! あの、そこは私からちゃんと話したからっ!!
私はその・・・・・・リインは認められるけど、第三夫人は認められないし、第一夫人を譲る事も出来ないって」

「ならいいけど。あの、僕も同じだよ? 第三夫人とか無理だから。だって、右手はフェイトで、左手はリインで」



そう、二人に両手を取られてる。だから、これ以上は無理。いや、真面目に無理。

もっと言うと、作者の許容量を超えてるから無理。



「もう両手がいっぱいだもの。他の子の手は取れないよ。あと、リインと縁を切る気もなければ、フェイトと別れるつもりもない。
・・・・・・大好き、だから。好きの気持ち、更新され続けてる。フェイトの側にずっと居たいって、そう思ってるから。だから、大丈夫だよ」

「・・・・・・ありがと。私も、同じ気持ち。誰がなんと言おうと、ヤスフミと離れたくなんて無い。告白に気づいてからずっと、ヤスフミのこと好きになり続けてるから」

「なら、嬉しい」










右手はフェイトと繋いだまま、僕は左手を伸ばしてフェイトの頭を優しく撫でる。フェイトは、そのまま嬉しそうに受け入れてくれた。





とりあえず、ギャグ的な報復を考えておこう。で、歌唄にはなんかお祝いを持っていってあげよう。





もちろん、消え物で。残るものはまた火種になりそうだから。




















(第30話へ続く)





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