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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
幕間そのご 『時には二本立てになることもあったり無かったり 後編』



≪さて、作者があれこれ資料読みつつ、これで大丈夫かと不安になりながら書いた幕間そのごです。
というわけで皆さん、いつもありがとうございます。私、古き鉄・アルトアイゼンと・・・≫

「アリサ・バニングスです。で、前回の続きよね?」

≪そうです。今回の話が、本編での12人ヒロイン体制の始まりと言っていいでしょう≫

「いや、そこまで?」

≪・・・ちょっと嘘つきました。しかし・・・これが有ったからこその新ヒロインです≫

「とにかくそういうことらしいので、幕間そのご、お楽しみくださいっ!!」

≪それでは、どうぞー!!≫




















魔法少女リリカルなのはStrikerS  外伝


とある魔導師と機動六課の日常


幕間そのご 『時には二本立てになることもあったり無かったり 後編』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・布団に入って、目を閉じる。聞こえてくるのは、窓を叩く激しい雨音。





その音が・・・雨が、どんどん激しくなる。明日の朝には晴れるって言ってたけど、絶対に嘘だと思う。





でも、楽しかった。なぎ君といっぱいお話出来て。あと、アルトアイゼンとも。





古き鉄・・・か。うん、名前通りだと思うな。アルトアイゼンだけじゃなくて、なぎ君も含めて。





・・・話を聞いていて思った。色々大変だよね。

もちろん、今までとは環境も人も全て変わって、大変じゃないはずが無いんだけど・・・。





思い出して、意味のある時間・・・か。考えもしなかった。記憶や、思い出があるのって、普通だと思ってたから。

でも、そうじゃない。きっと、どんなことでも思い出せることがあるって・・・幸せなんだ。だってそれらは、自分として過ごしてきた時間なんだから。





ちょっと、不思議な子だね。いつもはこう・・・ヘラヘラしてて、どこか頼りない感じに見える。振り回されやすいというか、不幸体質というか。





でも、それだけじゃない。上手く言えないけど・・・なんだろう。あの子から感じるシンパシーみたいなものは。うーん・・・。





・・・ダメ、落ち着いて。その・・・いっぱい喋ったから、そうなるのかも・・・違うよね。





そう言えば、もうそろそろだもの。うぅ、こればかりはやっぱり慣れない。





お姉ちゃんに『上手く付き合っていくことは出来るから』とは言われてるけど・・・自信ないよ。





どうして・・・私・・・。





お願い。明日・・・なぎ君が帰るまででいい。そこまでで良いから、いつもの私で・・・。





だってなぎ君は、何も知らないから。私が・・・普通とは違うことを。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・ねぇ、恭也」



あの微妙な空気の食事会を終えて



「恭也が微妙にしたのよ」



・・・すまん。とにかく、俺と忍は寝室でゆったり・・・やましいことはないぞ?



「とにかく、どうして恭文君にキツいのよ。というか、警戒心剥き出しだし」

「いや、至って普通だが」

「・・・恭也、今すぐフィリス先生に見てもらう? アレが普通なら、世界が10秒後に突然滅んだとしても、ソレで片付けられるわよ」





そ、そこまで言うのか・・・。いや、確かに俺もついついやってしまうが。

・・・俺は別に、アイツのことが嫌いというわけではない。いや、むしろその逆だ。

ここ2ヶ月の翠屋での働き振りや、その他諸々の行動を見る限り、悪い奴には思えない。・・・いい意味でのトラブルメイカーではあると思うがな。



ただ・・・。





「なのはちゃん?」

「いや、ちが・・・多少はあるな」

「やっぱり・・・」

「忍、ため息を吐くな。可愛い妹が魔王などと言われていると知れば、誰でもこうなる」

「いや、ならないから」





とにかく、そこが理由ではない。俺が一番気にしているのは・・・。





「・・・情けないな」

「恭也?」

「俺はどうも、なのはや父さん達のように、アイツを信じ切ることが出来ない。・・・いや」



それは違うな。もっと俺の気持ちを表せる言葉がある。



「俺は、アイツという人間を疑っている」










アイツがどういう経歴の持ち主かは聞いている。今までどういう環境で育ってきたかもだ。





・・・環境はともかく、アイツが事件の中で経験したことは、俺にもある。その衝撃と重さは知っている。だが、あれほど早くはない。だから、考えてしまう。

今、俺の目の前で楽しそうに生きている少年は・・・ただそうしているだけで、どこか、とてつもない歪みを持っているのではないかと。

その歪みが今は隠れているだけで、いつか花を咲かせ、破壊に走るのではないかと、危惧してさえいる。





・・・父さんには、心配性だと苦笑いされたよ。同時に、その可能性も認めていたが。





ハッキリ言えば、そんないつ爆発するかわからない爆弾と同じような奴を、このままなのは達に関わらせたくはない。そんなことをしても、不幸になるだけだ。

だから、遠ざけるにしても、俺がその歪みに対処していくにしても、その辺りを見極めようとしてはいたんだが・・・。





そうこうしている間に2ヶ月が経った。だが、どうしてもそこが見極められない。普段から飄々としているアイツの心根が、どうにも掴めない。





アイツが、人を殺めたという事実とどう向き合っているかが、俺にはまだ、読み取れない。










「・・・色々事情込み?」

「あぁ」

「まぁ、リンディさんがいきなり家族として連れてきた辺りから察するに、相当よね」

「相当だ」





さっきの忍の話ではないが、これが世間一般の普通とは思いたくない。いや、あってはいけないだろう。





「恭也」

「なんだ?」

「あの子は大丈夫よ。ちゃんとしたパートナーもいるみたいだし」

「・・・そうだと嬉しいがな」










とにかく、俺達は眠りについた。・・・そして。










「・・・忍、起きろ」

「・・・またしたいの?」

「何を言ってるんだお前はっ!? というかしてないだろっ!!」

「じゃあ、なに?」

「・・・侵入者だ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・素晴らしく柔らかい布団にくるまれ、睡眠を貪っていると、不意に目が覚めた。来客用の部屋に置いてある時計を見ると、時刻は既に午前2時。





・・・敵か。





そう、敵襲を受けていた。今この瞬間もだ。ボヤボヤしてられないね、こりゃ。





僕は起き上がり、枕元に置いていたアルトを首にかける。それから布団を抜け出し、立つ。・・・ちょっとだけ寒い。





位置・・・結構遠い。それに多いな。ま、問題ないでしょ。





うん、問題ない。僕には、大事な相棒が居る。心を一つに出来る最高のパートナーが。





だから、どんな状況でもクリア出来る。今までもそうだし、これからも。





とにかく、僕は歩き出した。もちろん・・・戦うために。




















「・・・さて、いきますか」










ギリギリだけど、アルトがいるなら・・・何も怖くない。




















「・・・いや、スッキリした〜」

≪・・・あなた、デバイスをなんだと思ってます? というか子どもですか。一人でトイレに行くのが怖いって≫

「いや、僕まだ子ども・・・」





つか、真面目に怖いのよっ! 暗いし広いしなんか出てきそうだしっ!!





「それに、嘘は言ってないよ? トイレは遠かったし、量もあってギリギリだった」

≪誰に言ってるんですか誰に≫





とにかく、月村家の中を歩く。うぅ、アルトが一緒でもやっぱり怖い。というか、ここは本当に日本だよね?



どーも海鳴は色々とおかしい。特に高町家。なんですかあの色んな意味でハイスペックな一家は。





≪グランド・マスターから、聞いてはいましたけどね。御神流というものがあるのは≫



・・・次元世界にまで広まるって、どんだけですか。いや、先生が武芸者でもあるからなんだろうけど。

先生、今頃どうしてるかな? ううん、先生なら心配いらないか。きっと、何処かの世界で・・・。



≪ナンパしてますね。間違いなく≫

「そうだね」

≪そして、誰かにギャグ的にぶっ飛ばされるんですよ≫

「・・・そうだね」





先生、すみません。それだけは・・・それだけは尊敬出来ません。

というか、僕はフェイト一筋ですから、ハーレムの素晴らしさについて語らないでください。僕なら漢の夢を実現出来るとか力説しないでください。



というか、僕・・・モテたりしないだろうし。





≪・・・自覚が無いって、怖いですね。グランド・マスターは資質ありと見てるのに≫





アルトが何か呟いたけど、よく聞こえなかったので、気にしないことにする。とにかく、部屋を目指して廊下をテクテクと歩く。



・・・うん、やっぱり怖い。つか、空がゴロゴロ鳴り出したし。





「・・・こういうシチュってさ、やっぱ出そうだよね」

≪幽霊とかですか?≫



うん、それ。



≪・・・つい数ヶ月前に、オーバーSやらロストロギアと散々やり合ってるじゃないですか。その上大○界に片足突っ込んで、死者とお話して・・・≫



コラコラアルト、お願いだから大○界言うな。ようやく綺麗な感じで受け止められるようになったのに、台無しじゃないのさ。



≪それでどうして今さら幽霊が怖いんです? むしろお友達でしょ。
今のあなたが恐れるものなんて、シャマルさんとリンディさんと桃子さんと美由希さんと生トマトと肉が絡んだアルフさんくらいですよ≫

「意外と多いね恐れる物っ! つーか、生トマト以外全部女の人ってどういうことっ!?
・・・だって、オーバーSやロストロギアや横馬は斬れるけど、幽霊は斬れないかも知れないじゃないのさ。魔法だって通じないかも」

≪あなた、そんなことを気にしてたんですか≫



だって・・・ねぇ。攻撃が通用しないって、意外と大きいよ? あー、でもこういうとこなら、大丈夫かも。



≪というと?≫

「ほら、こういう洋館チックなとこなら、出てくるのって大体・・・」



歩きつつ、アルトと話して気をまぎらわせつつ、次の曲がり角を右に曲がろうとする。



≪・・・メイドさんとか≫





はぁ? ちょいちょいストップ。おかしいでしょそれ。ここは、やっぱりリビングメイルとか・・・。



言いかけて、止まった。言葉だけじゃなくて、思考も動きも。だって・・・目の前にいたから。

雷光に照らされて、曲がり角に入った僕の視界に映るのは。僕よりも高い身長の、ロングでブラウン髪のメイドさん。

というか、左手にブレードみたいなのが・・・。あ、なんか振り上げた。



というか、あれだよね。うん、ここは・・・。





≪「出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」≫










ゴロゴロッ! ドガーンッ!!




















振り下ろされたブレードを見て、意識の時計がまた時を刻み始める。・・・やばっ!!










≪Sonic Move≫










身体を包んだのは、青い光。そのまま慌てて右に飛ぶ。というか、元来た道を戻る。





停止してから振り返ると、その刃先は地面を・・・え? クーレターっ!? まてまてっ! どんだけバカ力でぶんまわしたっ!!





てーか・・・アルト、ありがと。










≪いえ。私より、フェイトさんにお礼を言った方がいいかと≫

「・・・そうだね」





ソニックムーブは、フェイトの魔法。事件中に、ランサーとブリッツラッシュと一緒に教えてくれた。僕なら使いこなせるはずだからと。



まぁ、緊急時を除くと、普段は全く使わないんだけど。・・・好きな女の子の魔法にばっかに頼るのも、ちょい躊躇うのだ。



つか、タヌキにからかわれる。ニヤつく。それが非常にムカつく。





「・・・アルト、この場合どういう手がある?」



どこか無機質な顔をメイドさんが向けてくる。で、当然・・・こちらへ来ようとする。



≪即時鎮圧が望ましいですね≫



後ろに下がる。でも、下がった分メイドさんが近づく。

確かに、今なら一人だし・・・覚悟を決めれば。大丈夫、出来る。



≪ただ、この場はマスター一人ではありません≫





そう言われて、アルトに伸ばしかけていた右手が止まる。・・・そーだよ。恭也さんやら忍さんに、すずかさんが居たっ!!

つーことは・・・待てよ待てよ。それ守りながら戦えってことっ!? な、なんつうか、辛い・・・。



・・・でも、アイツ一人なら即時鎮圧でいいんじゃ。





≪一人じゃなかったらどうするんです。目の前の数が全てだと思うのは、大間違いですよ?≫

「納得した。つまり、ここは・・・」

≪そうです≫










回れ右。そして・・・全力疾走っ! この場でやることは、アイツをまいた上でみんなの安全確認っ!!





・・・あー、足音で分かる。追いかけて来てるね。










≪当然でしょう。しかし・・・まけます?≫

「・・・このままじゃ無理かも。つーか怖いよっ! 一体これ何のホラーっ!? なんてクロッ○タワーだよっ!!」



いや、夜の洋館で片腕ブレードで殺る気満々のメイドさんに追っかけられるホラーなんて、聞いたことないけどっ! クロッ○タワーはハサミ男だしっ!!

何より何より、メイドさんとおいかけっこなら昼間にもっと緩い感じで(ファリンさんと)やらせてよっ! こんなの嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!



≪メイドさん嫌いになります?≫

「バカっ! なるわけないでしょうがっ!! メイドさんは全ての男の子のロマンだよっ!?」

≪そんなこと言うのはあなただけですよ≫





気にしないで。とにかく、もう魔法どうとかなんて気にしてられない。派手なの使わなきゃOKでしょ。ここは・・・アルト、もういっちょ行くよっ!!





≪Sonic Move≫










再び身体を包み込んだ青い光によって、急加速。その場から、一揆に離脱した。そして思う。





・・・フェイト、ありがとう。無事に帰れたら、シュークリーム奢るね。




















「・・・で、どうよ」

≪・・・嘘でしょこれ≫





休む暇もなく、すずかさんの部屋を目指す。忍さんには恭也さんがいる。ノエルさんやファリンさんも心配だけど、二人は大人だ。

ここで最優先は、僕と同じくまだ子どもで、横馬やタヌキと違って魔法能力者じゃないすずかさんだ。



で、アルトにはちょい確認してもらっている。なにをかと言うと・・・。





≪やはりクラッキングを受けています。警備システム、全落ちです≫



そう、ここの警備システムは相当厳重。本来なら、侵入者なんて許すはずがない。もしやと思って、ちょい探ってもらったんだけど・・・。



≪でもこれ・・・相当優秀な奴の仕業ですよ。ここのシステムだって、残骸を見るにそうとうだと言うのに。鷹とか蜂とかじゃないですよね?≫



なんかそうらしい。つかアルト、時系列的にそのネタアウトだから。

ま、そこはともかく・・・本当に無駄に広いなこの屋敷っ! お陰で移動するのも一苦労ってどういうことだよっ!?



≪でも、近づいて・・・≫



あの、アルトさん? お願いですからこの状況で黙らないで。あのね、すごく嫌な予感がするの。



≪屋敷内に、先ほどのバイオレンスメイドさんと同じと思われる反応を、多数感知しました。結構多いですよ?≫

「・・・やっぱり」



とにかく、そこはいい。だって、すずかさんの部屋の前に到着したから。ドアを勢いよく開けるっ!!



「すずかさんっ!!」



色々ルール無視だけど、緊急時。お叱りはぜん・・・あれ?



「すずか・・・さん?」



布団の中がなにやらもぞもぞ・・・。えっと、あれ? つかなんですか。なんとなく感じてしまったこの甘ったるい感じは。

とにかく、僕はすずかさんへと近づく。



「すずかさん・・・ごめん。突然。あの、緊急事態なんだ」

「・・・なぎ・・・くん?」



布団から顔を出したすずかさん。ちょい寝ぼけてるのか・・・目がトロンとして、顔が赤い。

・・・ん? 顔が赤いってのはおかしいか。



「あのね、すずかさん。今すぐ・・・」



そこまで言いかけて気付く。おいおい、これどうしろっていうのっ!? 屋敷の中にバイオレンスメイドさんが多数じゃ、隠れようがないしっ!!



「・・・ごめん」



え?



「もう・・・我慢出来ない」





その一言が始まりだった。僕は右の手首を捕まれて、そのまま引き寄せられる。

そして、体制が崩れてベッドに倒れ込む。そのまま、すずかさんが馬乗りに乗っかって・・・え、なにこれはっ!!



手首押さえられて・・・つか、なにこのバカ力っ!? 強化魔法・・・だめ。これじゃあ、上手く外せないっ!!





「あの、すずかさんっ!?」

「・・・ごめん」



いや、なにがっ!!



「私、我慢出来ない。すごく・・・」



そう言ったすずかさんの表情を見て、寒気が走った。息を荒くして、どこか惚けて・・・。それに、年相応じゃない何か、こう・・・強いものを感じたから。



「なぎ・・・くん、ごめん」



あの、どうして顔を近づけるんですかっ!? というか、瞳を閉じないでっ!!



≪マスター≫



なにっ!?



≪例のバイオレンスメイドさん、近づいています≫



こんな時にっ!? ・・・って、ヤバい。なんにしてもどっちにしてもヤバいっ!!



「すずかさんっ! お願いだから離してっ!!」





ダメだ、止まんない。力業も無理。こうなったら・・・。



すずかさん、ごめん。





≪Struggle Bind≫





天井に生まれたのは、ベルカ式の魔法陣。そこから、何本も縄が生まれる。それが瞬時にすずかさんの身体を縛り上げ、僕から引き剥がす。



すずかさんが宙に持ち上げられるのと同時に軽い痛み。両手首から感じたそれは気にせず、ベッドから転げ落ちるようにして、退避。



・・・まだだ。これじゃあ、完全には止められない。





≪サポートしますか?≫

「いや、いらない。つーわけですずかさん」





バインドを解除。すずかさんはそのままベッドに落下。そこを狙って・・・。





「しばらく」



すずかさんが、ベッドの上で起き上がって僕を見る。やっぱり・・・あの表情。



「『癒されてて』」



そのまま僕へと歩き出そうとしたすずかさんを、ベッドごと青いドーム場の結界が包む。

すると、すずかさんはベッドの上でヘタリ込み、ようやくその動きを止めた。・・・た、助かったー!!



≪・・・欠陥魔法も、たまには役にたちますね≫

「・・・まぁね」





これは、嘱託の認定試験対策用に覚えたヒーリング効果を持った結界。なんだけど・・・。

どういうわけか、僕が使うと身体的な傷が治るとかではではなく、究極的に癒されるのだ。

どんなにイライラしてようが、どんなに興奮してようが、この中に入ったが最後、中の人間は心も身体も、リラックスの極みに到達する。



だから、中のすずかさんの表情も非常にゆったりまったり。先ほどのどこか・・・こう、強いものは感じない。





≪ただ、安心は出来ませんよ≫

「分かってる」



立ち上がり・・・痛む両手首を見ながらアルトの言葉に答える。そこにあるのは、爪痕と滲んでくる血。

すずかさんにやられたか。まぁ、しゃあないか。



「これで、すずかさんは動かせなくなった。アルト」

≪分かっています。・・・ダメですね。やはり携帯電話関係もアウトです≫



うん、さすがわが相棒。仕事が速いよ。でも、やっぱりか。



「サーチなんかは大丈夫なんだよね?」

≪こちらの世界の技術じゃありませんから。でも、皆さんに連絡を取るのは・・・≫

「難しいか」



こうなったら・・・恭也さんになんとかしてもらうしかない。大丈夫、美由希さんやらはやてやらの話を聞くに、相当だし。

それに・・・。



≪・・・デンジャラスメイドさんの反応、どんどん消えてます≫



ということらしい。僕は、そのまますずかさんに背を向けて、部屋を出る。・・・アルト、セットアップ。



≪はい≫



バリアジャケットを身に纏いながら廊下に出てきた。左を向くと・・・居たよ。デンジャラスメイドさんが。略してDMが。



「・・・悪いけど」



アルトを抜いて、そのまま切っ先をメイドさんに向ける。



「お姫様は休憩中だ。用事なら後にして」

「・・・そうもいかないのよ」





メイドさんは、僕にそう言いながら左腕のブレードを構える。





「腹立たしいけど、こっちもお仕事って・・・やつでねっ!!」










そして、メイドさんが一気に飛び込んできた。つか速いっ!? そのまま、力任せに僕にブレードを振り下ろす。

それを、後ろに飛んで避ける。・・・床に激突した分厚い刃先は、またもや床を抉り、クーレターを生み出す。





・・・その上パワーもある・・・か。





そのまま僕は着地。そこにまたメイドさんが飛び込んでくる。今度は突き。それを、アルトを左から振るって、弾く。

そして踏み込んで、袈裟にアルトで一閃っ!!





いや、受け止められたけど。つか、その余裕顔はやめてっ! 確かにパワーじゃ負けてますけどっ!!





こうなったら・・・これっ!!










≪Blast Lancer≫





鍔迫り合いしながら、至近距離でちょうど胸元から生み出した青い槍は、見事にメイドさんの腹を貫く。



そして、その衝撃で・・・あれ、吹き飛ばされ・・・ない?





「・・・アンタ、面白いもん使うわね。もしかして、私らの仲間?」



うそ。魔法が効いてないっ!?



「でも、緩いわよっ!!」





メイドさんの力任せな一閃に、身体を吹き飛ばされる。・・・まてまてっ! これなにっ!! つーかあのメイドさんは何者っ!?





「・・・つーわけだから」





メイドさんの右手の手首に巻いてある縄が、空中に居る僕目掛けて飛んでくる。それは、まるで蛇のようにうねり、僕の左手首に巻き付く。



そのまま振り回され、廊下の床に、天井に、壁に身体を何回も叩きつけられる。

叩きつけられた箇所にめり込むほどの力が身体を襲う。つまり、すごく痛い。





「死ね」










次の瞬間、壁に埋まった僕とアルトに、物凄い量の電気が流された。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・これで・・・!」



最低限だけど基礎構築はOK。あとは・・・。



「はぁっ!!」



近くで襲撃者とやりあってる恭也は、相手に踏み込みつつ、右の小太刀を一閃。それにより、敵は・・・倒れる。



「忍、まだかっ!?」

「もうちょっとっ!!」



・・・あぁもうっ! 私のバカっ!! 完全に平和ボケしてたっ!!

ノートパソコンのキーを叩きながら、自分を罵る。そうよ、完全解決したって油断してた。可能性が0になるなんて、ありえないのにっ!!



「・・・これで・・・よしっ!!」



パソコンのエンターキーを押す。瞬間、ここは再び私の城に戻った。



「出来たか?」

「うん。最低限だけど、セキュリティの復旧は完了。これでとりあえずはいいはず」



元々私が構築したシステム。作り直すのなんて、楽勝よ。・・・甘かったわね。私・・・月村忍は、こういう関係は強いのよっ!!



「でもこれ、恭文君に説明しなきゃいけないね。さすがに起きちゃってるだろうし」

「・・・そうだな。思いっきり巻き込んでしまった」



いや、魔法やら異世界やらに理解を示せるなら、大丈夫とは・・・。



「忍?」










恭也が私の顔を覗き込んでくる。でも、私は・・・固まったままだ。原因は、ノートパソコンに映る画面。





映っているのは、家の各所に仕掛けてある防犯カメラ。丁度、すずかの部屋の前。そこに映る二人の人物。





メイド姿の女・・・。というか、イレイン型。でも、そこはいい。メイド姿ってのがワケわかんないけど、そこはいい。問題は、もう一人。





青いジャンバーを羽織って、右手には刀。女の右手から伸びた縄に左手を戒められ、体からプスプスと煙を上げている子が居る。





・・・うそ。あの子、選りにも選ってオリジナルと接触してるっ!?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・あら、遅かったわね。お姉様方」



・・・うそ、恭文くん。え、どうしてっ!!



「・・・あなたがやったんですか?」

「そうね。キザったらしいことを言うから・・・殺しちゃった。念入りにビリビリーってね」



イレイン型の電磁鞭をっ!? そんな真似したら、私達はともかく普通の人間は・・・!!



「・・・許しません」



お姉様が、左腕を赤毛のメイドに・・・イレインに向ける。



「彼は、すずかお嬢様と、私の妹の大事な友達です。それを・・・」

「・・・私もです。絶対に、許しませんっ!!」



私達がそう言うと、イレインが笑った。まるで、私達の言っていることがおかしいと言わんばかりに。



「だって、おかしいんだもん。アンタ達・・・まるで人間みたいだからさっ! ねぇ、『自動人形』っ!?
いや、アンタ達だけじゃないかっ! ここの家の人間はみんな」

「ファイエルっ!!」



お姉様の左手の手首が打ち出される。いわゆるロケットパンチ。でも、それは難なくひょいっと避けられた。

そして、お姉様の手と腕を繋ぐワイヤーを掴む。



「ばーかっ! 熱くなりすぎなのよっ!!」



女が・・・イレインが、掴んだものをこちらへ放り投げると、右手の鞭を戻そうとする。



「・・・あれ? なによ、このガキしっかり掴んじゃってるし」



瞬間、イレインの体勢が崩れた。まるで、なにかに・・・恭文くんに引き寄せられるように。

そして、薄暗い通路で銀の煌めきが一つ、生まれた。




















「・・・まったく、月村家ってのはすばらしいね」



煌めきはイレインの鞭を、根元から斬り落としていた。イレインは、その発生源から、すぐに距離を取る。



「メイドさんに続いてロケットパンチとは。いったいどこまで僕の心をくすぐりゃ気が済むのさ。いっそ養子になりたいくらいだよ」



その子は・・・立ち上がった。少しふらついた足取りで。右手には先ほど振るった刃。左手には、斬り落とした鞭を持って。



「あー、ノエルさんもファリンさんも下がっててください。というか、すずかさんを頼みます。コイツ、僕が相手しますから」

「アンタ・・・! なんでっ!?」

「んなの決まってるでしょうが」





頭から血を流しながらも、その子は平然と答えた。





「天寿を全うせずに死ぬ権利なんざ、勝手にここから居なくなる権利なんざ、僕には無いのよ」



傷を負った身体を奮い立たせ、いつもとは違う表情で、言葉を続ける。



「そんなもん、とうにおせっかいで心優しい女神達に奪われてる。・・・死んでられるかよ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・危なかった。本気で危なかった。





バリアジャケットを装備していたこと。





あの鞭が、防御用のジガンスクードに巻き付いたこと。





アルトがあの叩きつけでフィールド出力を上げてたこと。





過去にもっと痛くて危ないのを経験していること。





そしてなにより、リインと、フェイトと、あの人との約束が、忘れないための、進んで行くための枷があったこと。





それらが、僕を生に繋ぎ止めてくれた。





そのどれがかけてもアウトだった。うん、死んでたと思う。





・・・約束、ギリギリだけど守りました。お願いですから、怒らないでくださいね?










「恭文くんっ!!」

「あー、ファリンさん。泣くのは無しで。ファリンさんは、笑顔の方が可愛いですよ?」

「・・・もうっ! こんな時までっ!!」



・・・つーわけで。



「もう加減しない。お前、潰すわ」

「どういうわけよ。・・・あぁ、アンタもこの家の金目当て? だから恩を売っておきたいとか」



僕は歩き出す。・・・やっぱ、まだ身体が上手く動かない。くそ、こういう時に回復魔法が使えれば・・・!!



「違う」

「じゃあ、技術力?」

「全然違う」

「あぁ、眷族」

「何のだよ」



でも、それはすぐに取れていく。そう、そんなの今の僕には問題にすらならなかった。



「アンタ・・・ここがどういう家かも知らないで私とやり合おうってわけっ!? ・・・ふふふ・・・ははははははははっ! こりゃ傑作だわっ!!」



・・・うん。



「黙れ」










生まれたのは横一線の斬撃。それを女が左のブレードで受け止める。いや、今度は受け止めきれずに吹き飛ぶ。

女の身体は窓の方へと飛び、それを破って、外へと放り出される。





僕もゆっくりとその破られた窓の方へと行き、そこから飛び降りる。





そして、落下しながら・・・受け身を取って、見事に着地していた女の脳天目掛けて、アルトを打ち込むっ!!





寸前でそれに気付いた女は、後ろに大きく飛んで回避。アルトの刃が、地面を斬り、衝撃で大きな水飛沫を上げる。





・・・アルト。










≪選択の余地は、ありませんよ。ここで派手な魔法は使えませんし≫

「だね。うん、また背負いますか」

≪そうです。あなたは、その道を選んだんですから。・・・背負いましょう。二人で≫

「・・・ありがと」










出来るなら、フェイトとかには知られたくないかな。いや、だったらやるなって話なんだけど。

でも、ここで死ぬのはゴメンだ。すずかさんやファリンさん達が、あんなのに殺されるのも、ゴメンだ。





だから・・・アイツを、殺す。





非殺傷設定の魔法が効かない以上、どうしようも出来ない。つか、あれ以上派手なのは使えないし。





・・・って、言い訳か。うん、言い訳だ。それに・・・取りこぼすね。きっと間違いだ。僕はまた、何にも守れない。また、負ける。

だから、せめて背負うよ。忘れず、下ろさず、そのまま・・・背負い続ける。

結局それしか、僕には出来ないから。ううん違う。





それしか、出来なかったんだ。きっと許されることも、認められることも、永遠に無いから。










「・・・アンタ、今マジで」

「あぁ、殺そうとしたよ。誰でもない、お前を」



降りしきる雨に打たれながら、女に近付く。その刺激が、冷たさが、身体の感覚を元に戻していく。

・・・うん、動ける。こんなの、あの時の比じゃない。起き上がって、立って、そこから一撃入れた時は、もっとキツかったし、痛かった。



「つか、もうゴタクはいいでしょ。シンプルに行こうよ」

「・・・そうね。アンタ、今度こそ殺してあげるわ」



・・・集中しろ。迷えば、死ぬ。これは戦いじゃない。もう、殺し合いだ。



「やれるもんなら、やってみろ」










そして、僕達は同時に駆け出し・・・剣をぶつけ合った。




















二本の斬撃は、線となってぶつかり合う。明確な破壊の力と意志を宿して。






やっぱ、力強い。でも・・・行ける。コイツはパワーだけ。剣の技量なら、僕はもっと上を知っている。うん、充分に対処出来る。





女が左からブレードを振るう。それを後ろに飛んで避け、踏み込む。

振るったブレードが途中で動き止め、突きに変わる。それをアルトで弾き、そのまま女の右側面へと踏み込む。





そしてそのまま・・・左からアルトを振るい、打ち込むっ!

でも、女は身体をクルッと右にひねり、その斬撃を受け止める。





後ろに飛ぶ。一旦距離を取り、また踏み込む。女も踏み込み、僕に上段で打ち込んでくる。それを大きく右に飛んで避ける。

追撃で、返す刃が襲ってくるけど、問題はない。射程外だから。





そうして振り切ったところを狙って、再度踏み込むっ! そのまま・・・上から一閃っ!!










「くっ!?」










女が大きく後ろに飛び、その一閃をスレスレで回避。アルトの切っ先が、女の眼前の空間を、縦一文字に斬り裂く。

女は、着地と同時に僕へと飛び込み、ブレードを横から打ち込む。それを、しゃがんで避ける。





そのまま僕は懐へ踏み込み・・・胴へ打ち込むっ!!





いや、そうしようとたら、女の右足が飛んできた。それを咄嗟にジガンで受け止める。

物凄い力に、ジガンの装甲がヘコむのではと思う。そして、その勢いのまま僕は大きく吹き飛ばされた。





宙を舞い、泥だらけの地面を滑る。ようやく止まって、起き上がろうとした瞬間、女が僕に覆い被さるようにして飛んできた。





すぐに回避・・・。





次の瞬間、身体に熱さが走る。原因は・・・女のブレード。僕の左肩に、ジャケットを突き抜け深々と刺さった。










「・・・ようやく捕まえ」





女が言いかけた瞬間、ブレードを僕の身体から引き抜く。そして後ろに飛ぶ。ブレードと、右から振るったアルトがぶつかり、金属音が響く。



・・・くそ、遅かったか。





「・・・アンタ、ホントになんなの? 刀持ってるのもそうだけど、身体刺されたのにわめきもしないで斬ろうなんて、ふつーしないわよ」





身体を起こしながら女の失礼な発言に耳を貸す。・・・ヤバいかも。血、かなり出てる。つか、動かせない。

痛みや感覚で分かる。身体が覚えてる。自分の身体に刻み込まれた死というものに、近付きつつあるのを。



あー、くそ。やっぱ回復魔法覚えておくんだった。でも、習得は時間かかるってクロノさんやシャマルさんから言われたし・・・。





「ね、アンタどうしてそこまでするのよ。なんか理由あるわけ?」



もう、勝利は間違いなしと思ったのか、余裕こいてそんなことを聞いてきた。・・・んなの、決まってる。



「・・・ないよ」



正直、色々あるのは分かった。うん、僕がブッチギリで部外者なのも分かった。でも、そんなの僕には関係無い。



「決まった理由なんて、これっぽっちもない。でもさ、友達助けるのに、理由はいらないでしょ」



うん、ないね。それでもやるけど。



「泣いてたら、理由なんていらない。命を張ってでも助ければいい。
どんなにバカでも、思いを通したがってたら、世界が否定しても、バカにせず、しっかり認めてやればいい」



だから僕は、アルトの切っ先を、女に向ける。



「友達ってのはそういうもんだって・・・最高に強くてカッコいい先生に、教えてもらったんだよ」

「・・・アンタバカでしょ? このままだと、死ぬわよ」

「死なないよ」



フェイトに、リインに・・・あの人に約束してるしね。うん、死ねないわ。大事な約束で、記憶だから。



「じゃ、それが錯覚だって教えてやるよっ!!」










女が飛び込んでくる。





・・・集中しろ。





幾度もブレードを振るい、打ち込み、突いてくる。





・・・もっとだ。





それを僕は、片手でアルトを持ち、対処していく。





・・・しがみつけ。





横から斬撃が来れば後ろに飛ぶ。





・・・もっとだ。





上から打ち込まれれば、身を翻し避ける。





・・・まだ足りない。思い出せ、あの時を。





突進混じりの突きが来れば、アルトでその軌道を逸らす。





・・・生きていることに、ここに居ることにしがみつけ。あの時は、それが出来た。状況は、今よりヒドかった。





焼けるような痛みと失血からの意識レベルの低下。相反する二つの感覚と戦いながら、女の攻撃を捌いていく。





・・・僕は、生きたい。





一度、蹴りも飛んでくる。でも、斬り払おうとしただけで、女が使うのをやめた。そう、コイツはもう分かってる。僕がそれを出来るやつだと。





・・・重たくて、苦しくても、一色だけの時間じゃない今を生きたい。





ステップとスウェーと突撃と後退。





・・・それに・・・約束した。





互いに近づけば斬撃の応酬。





・・・泣かせないって。





そんなダンスを、どしゃぶりの雨の中、女と二人踊っていく。





・・・これからの時間を、例え何があっても。










「はぁぁぁぁぁっ!!」










女の斬撃が上から降り下ろされる。それを後ろに下がって回避。僕と女の間に、水飛沫が上がる。





・・・一緒に。





その飛沫を、ブレードがすかさず貫く。丁度、僕の腹の辺りを。





・・・楽しく。





訂正。僕が居ればその位置だった。僕はもう、女の左横に居た。僕は、アルトを上から振るう。





・・・笑顔で。





女はそれを身を翻すように捻って、受け止める。でも、無理な体勢で受け止めた結果、怯んだように後ずさる。





・・・僕達らしく。





それだけじゃない。女のブレードに、小さくヒビが入った。だから、そこ目掛けて・・・。





・・・一生懸命に生きていくって。





アルトの切っ先を向けて、突きを放つっ!!





・・・アルトと。





瞬間、ブレードは見事に中程から砕け散りその役目を終える。





・・・リインと。





女も、勢いに圧されたのか、後ろに吹き飛び、そのまま泥だらけの地面を滑る。





・・・約束・・・したんだっ!!










「・・・だから、負けらんないのよ。絶対にね」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・うそ。なんで? なんで・・・あんなチビスケに・・・!!





殺す。





私をこんな目に遭わせやがって。許さない。





身体を起こす。すると・・・チビスケは倒れていた。










「あ・・・あは」










なんだ。アイツ・・・偉そうなこと言いながらもうダメだったんだ。なら、いいね。

私は、ゆっくりとチビスケに近寄っていく。・・・ち。さっきの突きのせいか最大機動で動きまくったせいか分かんないけど、身体が重い。





でも、チビスケは動く気配は










「・・・まだ・・・だよね」










・・・うそ、なに立ち上がろうとしてんのよっ!?










「・・・まだ、終わりじゃ・・・な、い・・・よね」










・・・大丈夫。






チビスケが立ち上がる前に、私が攻撃出来る。もう、私の勝ちだ。










「・・・いや、お前の負けだ」










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?





次の瞬間、背中に今まで感じたことの無いような衝撃。そこで、私の意識は・・・途絶えた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・安心しろ、峰打ちだ」



アイツに感謝するんだな。本来なら、破壊しているところだ。・・・アイツは?



「・・・きょうや・・・さん?」



いつの間にか、既に身体を起こし終わり、、立ち上がりかけていた。

コイツ、どこにそんな力がある? 見るにもうボロボロだと言うのに。



「・・・すまなかったな。勝負に水を差してしまった。だが・・・」



アイツの頭に、優しく触れる。伝わるのは、びしょびしょに濡れた髪の感触。



「いくらなんでも頑張りすぎだ。・・・少し休め。もう、終わった」



その言葉に安心したのか、アイツは身体をゆっくりと地面に預け、目を閉じた。しかし、本当に巻き込んでしまった。・・・すまん。



「・・・恭也っ!!」



忍か。全く、俺一人でいいと言ったのに。



「・・・うわ、これヒドいね」

「相当派手にやり合ったようだからな」



電気ショックにブレードによる刺突。しかも、出血量も多く、そこから見るに傷も深い。これは・・・。



「忍」

「うん、すぐに治療を」

≪なら、私も主治医に連絡を入れます≫



聞こえてきた声は、アイツが気を失っても握りしめている日本刀から。



「主治医?」

≪シャマルさんです≫

「・・・分かった。お願い出来るかな?」

≪了解です。・・・それと恭也さん≫

「なんだ?」

≪すみません。助かりました≫





この刀は、なのはの魔法の杖と同じく、この少年の相棒らしい。・・・デバイスか。不思議なものだな。





「気にするな。お前の主人にもしもの事があれば、なのはやフェイトちゃん達が悲しむからな」

≪・・・はい≫



・・・そうだ。少し聞いておくか。



「お前は、なぜコイツと戦っている?」



やはり、主人だから・・・か?



≪違います。一応マスターと呼んでいますが、主人などという風に見たことは、一度もありません≫



コイツ、ずいぶんハッキリ物を言うな。なんというか・・・デバイスは、みんなこうではないよな? なのはの杖はここまでではなかった。



「なら、どうして・・・」

≪大事な友人だからですよ≫



そしてその刀は、またハッキリと言い切った。ただし、先ほどとはどこか違う感覚を覚える言葉で。



≪デバイスである私のために、自分の命も危険に晒すような、そんな、バカな友人だからです。
・・・そんなバカに24時間付き合えるのなんて、私くらいなんですよ。だから、一緒に戦っています≫

「・・・そうか」










・・・とにかく、これで終わった。長い雨の夜が、ようやく。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・それで、そのすぐ後に倒れちゃったと」

「・・・ですよね?」





おーい、どうしてそこの四人は僕から目を逸らす? お願いだから僕を見てー!!





「それで、その襲撃者は恭也さん達が確保。すぐに私は呼び出されたと・・・。それも、ハラオウン家や皆には内緒の上で」

≪いや、ちょっと危なかったんで・・・≫

「さすがに・・・ねぇ」





あはは、痛い。視線が痛い。いや、なんと言いましょうか・・・。





「ごめんなさい」

「よろしい」










・・・そう、シャマルさんです。僕が倒れた後、アルトが緊急通信で呼んでくれたのだ。そして・・・事の経緯を吐かされました。





あぁ、怖い。真面目に怖いっ!!










「・・・とにかく、一週間は安静ね」

「やっぱりですか?」

「当然よ。・・・高圧電流によるショックに全身打撲。貫かれた左肩とそれによる多量の出血。いくら私でも、すぐには治せません。
ただ・・・左肩も傷は深かったけど、後遺症が残ったりとかは無いから、安心していいわよ」



あ、そりゃよかった。



「よくありませんっ! 今後ともこういう無茶は絶対に避けることっ!! いいっ!?」

「・・・はい」



うぅ、やっぱりこの人には勝てない。というか、僕は今回



"巻き込まれただけなのも分かったけど"



いきなり頭の中に届いたのは、シャマルさんの声。そう、思念通話。ただ、考えが読まれていることに、恐怖を感じる。うん、かなり。



"やっぱり心配なの。・・・お願い"

"シャマルさん・・・"

"うん、本当にお願い。じゃないと・・・皆に話すわよ?"

"へ?"

"恭文くんが、お風呂で私の身体を見て・・・"



血の気が引いた。いや、出血量が多かったからとか、そんなんじゃない。もう全てが引いた。



"お願いですからそれだけはやめてー!!"

"大丈夫、私は嬉しかったから。あと・・・私の胸をやわら"

"やーめーてー!!"










とにかく、シャマルさんがハラオウン家には上手く言っておいてくれることが決まった。というか、一週間の安静はここですることになった。

シャマルさんには重々にお礼を言って、ベッドの上からだけど、帰路を見送った。





・・・マジで行動は気をつけていこう。あれをバラされたら、僕・・・死ぬ。










「・・・恭文君、大丈夫?」

「凄まじく疲れた顔をしているぞ?」

「お願いします。気にしないでください。こう、辛いんです・・・」



・・・なにがいけなかったんだろ。うん、わかんない。



「とにかく・・・ごめん」



あの、忍さん? どうしていきなり頭下げるんですか。



「うちのゴタゴタに、無関係な君を巻き込んだ。ケガまでさせた。・・・本当にごめん」

「あの、大丈夫ですから。ただ・・・ハラオウン家にこれが絶対にバレないようにしてもらえれば。もっと言うと、フェイトに」



今は極めて微妙な時期なのだ。まーた僕がジョーカー引いたってバレたら、絶対に嘱託になるの止められるし。

うん、そこだけは全力でお願いしたい。



「お前、気にするところが違わないか?」

「いいんです」

「・・・ま、そう言うことなら分かった。シャマルさんと一緒に対策はしておくから、安心してくれていいよ」

「助かります」





いや、これでいっけんらく・・・じゃないよな。





「あの、一つだけいいですか」

「・・・うん」

「あのデンジャラスメイドさんはどうしたんです?」

「・・・安心してもらっていいよ。イレインを殺すようなことはしていないし、するつもりもない。今は、深く眠ってもらってる」



イレイン?



「恭文さんとアルトアイゼンの言う所の『デンジャラスメイド』ですよ」



僕が疑問に思っていると、ノエルさんが補足。

そういう名前だったんだ、・・・僕、名前・・・いや、最初の時もそうだったか。



「さすがにそれだと、君に重荷を背負わせちゃうしね」

「・・・別に僕は大丈夫ですけど。現に昨日だって、途中からはころ」



ベシっ!!



「い、いひゃい・・・」



いきなり、忍さんからデコピンが飛んで来た。それも、強烈で痛いのが。



「いきなりなに・・・する・・・ん・・・」



反論は出来なかった。なぜなら、忍さんの顔が、まさしく怒りの形相だったから。というか、どうしてっ!?



「・・・子どもがそんなこと言っちゃだめだよ」

「いや、でも・・・」

「でもじゃない。・・・いい?」

「・・・はい。すみませんでした」



僕がそう言うと、忍さんはニッコリと笑ってくれた。それから、話を続ける。



「とにかく、あの子は、私の親戚に預かってもらうことにした。まぁ・・・色々としなきゃいけないけど」



待て待て、なんですかその不吉さを感じさせる言葉は。



「あ、変なことじゃないよ? うん。あの子が、出来る限り幸せに暮らして行けるようにしていく。それは、月村忍に名にかけて約束する」



なら、一応は・・・いいのかな? 今の忍さんの様子を見るに、大丈夫そうだ。



「それで・・・ね」

「あの、話しにくいなら、無理には」

「ううん、聞いて欲しいの。君なら大丈夫そうだし・・・ちょっとやって欲しいこともあるから」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・まず、もう想像はついてると思うけど、ノエルとファリン。それにイレインは・・・人間じゃないの」










・・・忍さんの話だと、三人は『自動人形』と呼ばれる、一種のロボット・・・へ?





ろ、ロボットっ!? あ、だからランサーが効かなかったのかっ! 非殺傷設定で物理干渉もオフにしてたからっ!!





でも、待て待てっ! 地球っていつからそんなの出来てたのっ!? つーか、やっぱりおかしいぞ海鳴市っ!!










「・・・あの、ゴメン」



・・・ファリンさん、なぜ謝りますか。



「だって私、恭文くんに嘘ついてた・・・」

「・・・ファリンさん、それは『嘘』じゃなくて、『話さなかった』だけでしょ? それでなんで謝るんですか」



僕だって、ファリンさんに話せないこと。話してないことがある。だったら、僕だって嘘つきだ。



「でも・・・」

「でもじゃないです。・・・僕にとってファリンさんは、大事な友達の一人で、歩く萌え要素の塊です。ステータスで希少価値です。
そして、笑顔の似合う最強のメイドさんです。今も、それは変わんないですよ」

「・・・恭文・・・くん・・・!!」



え、なんで泣き出すのっ! 僕、なんか悪いこと言ったっ!?



「恭文さん、ファリンは気にしないでください。・・・では、私は?」

「ノエルさんは・・・なんでも出来る最高のメイドさんですっ! というか、ロケットパンチは燃えですっ!!」

「・・・ありがとうございます」



あ、なんか嬉しそう。・・・良かったのかな?



「いや、大丈夫だよ。ちょい言い方アレだけど。・・・でも君、なんというか・・・凄いね」



ふぇ?



「人間じゃないからとか、考えない? それが怖いとか、恐ろしいとか」

「・・・相手によりますよ? イレインは、やりあってる時は本当に怖かったです。ただ・・・」

「ただ?」

「僕のパートナー達は、その『人じゃない存在』です。ノエルさんやファリンさんに近いです。でも、心を通わせて、繋がることが出来ますから」










・・・魔法のことを知ったのが、リインをキッカケにしているからかな。こう、人じゃないとか、そういうのはあまり気にならない。

生まれの違いも同じ。フェイトの話を聞いて、あれこれ考えたから。





そして思った。というか、感じた。アルトにマスターと認められて、本当のパートナーになった時と、リインと初めてユニゾンした時に。





繋がりは、生まれ方が違うとか、人間だとか、そうじゃないとか、そういうことじゃない。繋がるのは、心だから。

それがちゃんとしてさえいれば、そういうのは関係無いと、僕は思う。綺麗事だよね。うん、分かってる。でも、僕にとっては事実だ。





まぁ、これが友達とかじゃなくて、恋人とかなら、また違ってくるんだろうけど。










「・・・そっか。君は人じゃない存在と、本当に強く、深く繋がっているんだね。だから、ノエルやファリンも認められる」

「そう・・・なるんですかね。いや、ビックリはしてますよ? まさか地球がそこまで不思議ワールドだとは思わなかったんで」

≪私も同じくですね。・・・それで、忍さん。私にはいくつか疑問があります。答えていただけますか?≫



そう話を切り出したのは、アルトだった。そして、忍さんが頷くと、アルトが言葉を続ける。



≪まず・・・≫

「昨日の一件がなにか・・・だよね? イレインのことも含めて」

≪そうです。先ほど『うちのゴタゴタ』とおっしゃっていましたが・・・≫

「・・・うん、そうなんだ。ごめん、昨日の一件。あれ・・・うちの縁者の仕業なの」

「えぇっ!?」





え、待て待てっ! それどういうことっ!? なんで親戚がそんな真似をっ!!





「・・・まず一つは、うちの莫大な資産。うち、縁者の中でも一番の資産持ちだからさ。そういう輩が前々から居たの」

「でも、確かすずかさんや忍さんのご両親、けんざ・・・まさか」

≪誘拐。そこから脅迫の最悪コンボですか≫

「正解だよ。現に私は、何回か殺されかけた」



・・・なんつうか、一つの現実だよ。家族なり親戚がこういう腐った付き合いしか出来ないってさ。うん、僕も覚えある。



「そして、もう一つは・・・」

「ノエルさんとファリンさんですか?」

「そうだよ。二人は自動人形の中でも最高傑作と呼ばれる部類なんだ。そして、その技術の資産的価値を狙う連中も、縁者の中に居たの」





・・・どんだけ四面楚歌だったのよこの家は。





「でね、イレインなんだけど・・・アレもその最高傑作。ただ、あまりに感情設定を自由にし過ぎたから、廃棄処分にされてたはずのものなんだ」



なるほど。それであのパワーですか。でも、自由過ぎるってどういうことだろ?



「人間に近づけようとしたの。思いっきりね」



忍さんの表情が、そこで重くなった。少し思い出すような顔をして・・・言葉を続ける。



「ノエルやファリンもだけど、自動人形は基本的には主人に過度な危害を加えられないように、逆らえないように、一種のリミッターがかけてあるの。
ほら、『わたしはロボット』の中にもあるでしょ?」

「・・・ロボット運用の三大原則でしたっけ。えっと・・・つまり」

≪あの人・・・イレインさんは、その原則を無視して動ける。もっと言えば、自分の感情のままに主人足る人間を過度に傷つけたり、破壊活動に走れる≫

「正解だよ。それであの能力でしょ? だから廃棄処分にされたんだけど・・・オリジナルがまだあったなんて」










今、忍さんが言ったのは、現在のロボット開発でも基本理念というか、原則というか、そういうお話。





・・・一つ・ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。

二つ・ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、与えられた命令が、一つ目に反する場合は、この限りでない。

三つ・ロボットは、前の二つに反する恐れのないかぎり、自己を守らなければならない。





アイザック・アシモフという人が書いたSF小説で出てきたこの三大原則は、現在に至るまで、様々なところで影響を残している。

例えば、創作物の中でロボットの心や行動、存在のあり方についての考察なども、この三大原則が下地にあると思う。・・・鉄○アトムとかね。





とにかく、僕がやりあったイレインは、そう言ったことが起きないように、その辺りの調整を施してから、起こすそうだ。そこから、再教育していくらしい。

ただ、それには数年・・・もしかしたら十数年単位での時間が必要になるそうだ。それほどに、イレインは厄介なものらしい。



だけど、絶対に殺しもしないし、道具のように扱ったりもしないと、忍さんが力強く言ってくれた。










「なんというか、すみません。面倒押し付けた形に・・・」



僕が関わらなかったら、忍さんやその親戚の人に気遣わせなくてすんだ・・・だから、デコピンの体制はやめてくださいっ!!



「・・・いいの。私達は大人だもの。子どもの君に気遣うのは当然だよ。これくらいはキッチリしたいの」

「忍さん・・・」

「というか、君は本当に部外者も同然だしね。さすがにそれでこれは・・・躊躇うの。それやっちゃったら、私達はダメな大人の見本じゃないかってさ」










・・・なので、納得することにした。じゃないと、デコピンだし。





とにかく、襲撃の理由は分かった。イレインを持ち出して襲った連中も、一両日中には、恭也さんや忍さんの知り合いが取っ捕まえてくれるらしい。

・・・なんだろう。そんなの早々に取っ捕まえられる人が近くに居るなんて、やっぱ海鳴っておかしい。










「でも、君もなのはちゃんもフェイトちゃんもはやてちゃんも、そのおかしい住人の仲間だよ?」



お願いします。そこは触れないで。そしてそのニヤニヤ顔はやめてください。というか、辛いから。



≪まぁ、マスターがおかしいのはいつものこととして≫

「ちょっとっ!?」

≪二つ目の疑問です。・・・これだけの技術力を平然と保有しているあなた方は、何者ですか?
そして、どうして私とマスターにそこまで詳しく話すんですか≫

「・・・うん、そこに関わることなんだ。君のマスター・・・恭文君にお願いしたいことって。聞いてもらえるかな?」










当然、僕達はイエスと頷いた。もう、引き返せないでしょこれは。




















≪私、今までの自分の常識がどんどん崩れていきますよ。なんだか、ボディに熱がこもってる感じがします≫

「同じく・・・」










簡単に言えば、月村家の人達は、人間という種族に属するものじゃなかった。分かりやすい言い方をすると、吸血種。

この・・・『夜の一族』と呼ばれている人達は、身体的にも頭脳的にも優れ、だからこそ自動人形のような存在も手元に置けた。

まぁ、ここは人間よりも長い時間を生きる自分達の従者としての側面があったとか。





ただ、夜の一族には、二つの大きな身体的問題がある。一つは吸血行動が身体の正常な発育に不可欠ということ。

なんでも、高い能力故なのか普通の飲食だけでは、栄養不足に陥り易く、身体が成長しないらしい。その不足分を補えるのが・・・血だ。

つまり、夜の一族にとって血とは、一種の完全栄養食なのだ。なお、吸血されても同種になったりとかはないらしい。










「まぁ、これは人から直接じゃなくて、輸血パックとかでもいいんだけどね。私はそうしてた」

≪あのすぐ用意した輸血パックは、お食事用ですか≫

「うん。一応備蓄はしてるんだけど・・・なかなか入手し辛いんだよ、アレ」



僕の治療の際に、シャマルさんに言われて即用意したらしい。シャマルさんがビックリしてたとか。



≪・・・すみません。絵を想像したら、非常にシュールなんですが。輸血パックをチューチューって≫

「・・・言わないで。実は、私も常々そう思うの。それに、味も人から直接吸うのと比べるとね・・・」

≪美味しくないんですか?≫



アルト、なに聞いてるっ!?



「うん。まずーいインスタントとどっかの高級料理店の一品を比べるようなもんだよ」

≪それは辛いですね・・・≫

「うん、辛いの」










なんだか息の合いだしたアルトと忍さんはともかく、話はまだ続く。そう、二つ目が重要だった。





夜の一族は、どういうわけか出生率が異常に低いらしい。なので・・・その・・・。





あるらしいのですよ。定期的に・・・だいたい2ヶ月くらいの周期で、発情期が。その間なら、妊娠確率が大きく上がるとか。





そして、昨日のすずかさんのそれが、それらしい。すずかさんの場合、まだ周期が不安定で、突発的に来たとか。

で、僕がそこに・・・そりゃ襲われるって。言うなれば僕、腹を空かせた猛獣に放り投げられた生肉状態だったわけだし。










「・・・で、昨日君はうちの妹になにをしたの?」



へ?



「・・・お嬢様が中に居た青いドームが壊れたかと思うと、お嬢様、普通に戻っていたんです」

「本当なら、発情期は数日は続くんだ。でも、お嬢様はもういつも通りで・・・」

≪・・・あなた、やっぱおかしいでしょ≫

「・・・言わないで」





疑問顔な皆様に、僕が何をしたか説明する。そして、呆れられた。発情期を終わらせるヒーリングってどんだけだよと。



いや、使った僕が一番驚いてるんですけど。もしかして、この魔法・・・結構危ない?





「私にも今度使ってくれる? なんか話聞いてると、ホントに気持ち良さそうだし」

「忍?」

「あぁ、ゴメンゴメン。・・・でさ、頼みたいことってのは、すずかのことなんだ。昨日のこと、落ち込んでるの」



えっと・・・僕がフォローをしろとか? いや、それは無茶じゃ・・・。



「でも、君にそこを見られちゃったこと、そうとう気にしてるんだ。私達が言ってもダメそうで・・・」

≪それでマスターを投入して、ショック療法と≫

「正解だよ」



ま、また荒っぽい手を・・・。まぁ、仕方ないか。



「・・・分かりました。でも、一つだけお願いが」

「なに?」

「・・・NGワードみたいなのがあったら、教えてもらえますか? 思い付く限りのもの、全て」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・安静と言われて早くも3時間。もうベッドから起き上がっています。





やっぱ、10歳児の行動じゃないよね。・・・ふつーじゃない、か。










「しかし、大丈夫か?」

「まぁ、あっちこっちギシギシ言ってますけど、まだなんとか」



すずかさんの部屋へ一人で歩かせるのもアレだと言って、恭也さんが一緒に来てくれた。

でも、恭也さん・・・知ってたんだね。この家のこと。



「色々あったからな」



・・・納得です。



「というか、あの・・・ありがとうございました」

「気にするな。お前のパートナーにも言ったが、なのはやフェイトちゃん達を泣かせるわけにもいかない」

「・・・はい」



でも、恭也さんが居なかったら死んでた。そう、僕は負けたのだ。・・・うん、悔しい。こういう感じ、少しだけ忘れていたよ。

うん、悔しい。それしか言えないけど・・・悔しい。



「・・・一つ聞かせろ」

「はい?」

「お前は昨日、死ぬ権利を奪われたと言っていた。どういう意味だ」





・・・あぁ、あれか。





「言い方がちょい乱暴ですけど・・・僕、勝手に死ねない身なんです」

「だから、それはどういう意味かと聞いている」

「・・・別に、忍さんみたいに生まれが特殊とか、そういうことじゃないです。
三人の女の子と約束したんです。死ぬとか、居なくなるとか、そんな理由で・・・泣かせないって」





僕の時間は、もうみんなと繋がっている。だから、僕が居なくなれば・・・それは、自分で言うとアレだけど悲しみになる。



一人じゃない。だから、バカやるにしても、笑顔で、ちゃんと帰ってくる。そう約束した。だから、死ねない。





「・・・それなら、戦わないというのも、選択だぞ」



うん、そうだよね。僕・・・矛盾してる。



「・・・守りたいものが出来たんです。ちっぽけで、小さくて、誰にも理解されないかも知れないけど、守りたいものが。それを守るためなら、戦います」

「だが、お前はそのために手を汚し、苦しんだ。現に、昨日も汚しかけた」



・・・誰だよ情報ソースは。いや、リンディさんやなのは辺りなんだろうけどさ。



「決して軽くは無いだろう。なのになぜ・・・そうする。お前は、それで罪をどう償う」

「・・・軽く、ないですね。大事な記憶で、忘れちゃいけないことですけど。正直、先生や師匠から覚悟は叩き込まれてるし、決めてはいます。でも・・・」



でも、それでも重い。やっぱり、怖い。昨日だって、怖かった。殺しても、何も守れないから。

誰かの全てを奪っても、なにも守れないのだ。罪を犯しても、その甲斐などどこにもない。



「だから、忘れず、下ろさず、そのまま背負うことにしました。全部受け入れることにしました。
僕は・・・奪った人間という事実を。何も守れなかったという現実を。そこから出てくる色々なことを、全部」



うん、自己満足だ。これでなにが変えられるわけじゃない。殺された人間からすると、ふざけんなだと思う。

でも、他に思い付かなかった。ホントに、僕・・・バカだよね。



「きっと、償いにもならないでしょうけど」

「そうだな。なるはずがない」



・・・ですよね。



「だが・・・」

「だが?」

「事実を忘れて、苦しまないやつよりは、マシなはずだ」

「そうでしょうか?」

「そうだ。・・・きっとな」










・・・なぜだろう。恭也さんと距離が近く なったように感じた。





というか、瞳が・・・あれ?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく、すずかさんの部屋の前。辺りの残念な光景には、あえて目をやることなく、部屋に・・・。





「恭也さん」

「なんだ?」

「付き添い、ありがとうございました」

「・・・いいから、早く行ってこい」

「・・・はい」










そして、ノックをしてから僕は・・・部屋に入った。










「すずかさん、おはよ」

「・・・うん、おはよう」



ベッドに腰かけているすずかさんに、笑いかける。むむ、やっぱ表情が微妙だ。こう、暗いものを感じてしまう。



「えっと・・・ね」

「お姉ちゃん達から聞いたんだよね。・・・うちのこと」

「・・・うん」



聞いた。その事実を頷きと共に言葉で肯定する。



「・・・ゴメン」

「なんで謝るの?」

「だって、うちのことに無関係ななぎ君を巻き込んだ。それに、ケガまでさせた」

「大丈夫だよ。どれもこれもすぐ治るから」



ガッツポーズなんてやって、元気っぷりをアピールするけど、すずかさんの表情は晴れない。・・・むむ、相当気負ってるな。どうしよこれ。



「すずかさん、隣いいかな?」

「え?」

「隣だよ。というか・・・失礼するね」



僕は、チョコンとすずかさんの隣に座り込む。あー、やっぱこのベッドいいなぁ。弾力がなんとも。



「えっと・・・」



むむ、まだ表情が微妙だ。うーん、やっぱりなのかな?



「・・・やっぱ匂う?」

「え?」

「消毒液やら薬剤の匂い。なーんかさっきから気になるんだよね〜」



いや、それだけケガしたってことなんだけどさ。でも、女の子にこれはキツいのかな・・・。



「あの、大丈夫だよ? うん、大丈夫だから」

「ホントに? なら、良かった」



・・・ダメか。やっぱり表情が変わんないし。うーん、マジな話しかないのかな。



「・・・あのね、すずかさん」



僕が、少しだけ落ち着いた声をかけると、すずかさんさんの身体が震えた。顔色も、暗いものが見えた。

いや、だから・・・身体をビクッっとさせないで欲しい。嫌われてるのかと思うから。



「・・・怖いよね」

「・・・なにが?」

「だって、私・・・普通と違う。人間じゃない」



すずかさん・・・。うむぅ、どうしたもんか。



「怖くないよ」

「・・・うそ」

「嘘じゃない」

「嘘だよっ!!」



部屋に響くのは、恐怖と怒りが混じり合った声。普段のすずかさんなら、絶対に出したりしないと思われる声。



「・・・うそ・・・だよ」



・・・でも、僕の答え・・・変わらない。



「・・・もちろん、驚いたよ? うん、そこは本当。でも、すずかさんや忍さんのこと、怖いなんて思ってない」



というか・・・アレだよ。うん、アレなの。



「なにも変わらないよ? すずかさんと一緒にお話して楽しかったことも、大事な友達の一人だと思う気持ちも」

「・・・うそ」

「嘘じゃない」





すずかさんがそうだなんて、ずっと前からのこと。それにどうこう言っても仕方ない。だから、僕がどうこう言える言葉をぶつける。



僕の想いを。夜の一族の事を知っても、変わらなかった気持ちを。





「すずかさんが何と言おうと、僕の答えは同じ。・・・すずかさんは、僕の友達。話してて、一緒に居て、楽しい女の子。
普通とか、普通じゃないとか、そういうのは関係ない。・・・ううん」



すずかさんを見つめてかけていた言葉に、少し修正を加える。関係ないじゃあ、違うから。



「全部含めて、すずかさんのこと、そう思ってる。だから、僕のこと、信じて・・・くれないかな?」





そこまで言うと、すずかさんの目から大粒の・・・え?





「すずかさん・・・あの、何で泣くのっ!?」

≪・・・泣かせましたね。この甲斐性無しが≫



どういう意味だよそれっ! というか・・・え、もしかして僕変なこと言ったっ!?



「あの・・・違う。違うの・・・! 私、そんな風に言われると、思って・・・!!」










・・・あの、お願い。もう泣くのやめてー!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・ごめん、もう・・・大丈夫」



数分後、ようやくすずかさんは泣き止んでくれた。よかった・・・。



「・・・でも、なぎ君。本当に・・・怖くない?」

「・・・うん」

「私はね、怖い」



そう言って、すずかさんは僕の両手を取る。そして、両手首に巻かれた包帯を、優しくさすってくれる。



「自分がね、怖い」



昨日、すずかさんの爪で刻まれた傷を。



「昨日、なぎ君を襲ったこともそうだし・・・あの青いドームが消えて、我に帰って、真っ先に爪を見たの。なぎ君のこと、傷つけて、血のついた爪を」

「・・・うん」

「そうしたら、私ね・・・『美味しそう』って考えた。なぎ君にケガさせたことより、まず一番に・・・そんなこと考えてた。
なぎ君が・・・友達が、あんなに傷ついている時にだよ? 私ね、それが・・・情けなくて、腹立たしくて・・・許せなかった」



・・・すずかさん。



「・・・ごめん」

「どうしてなぎ君が謝るの? あの、やっぱり・・・」

「違う、そうじゃない。・・・僕、かなり勝手なことばかり言ってた。すずかさんの気持ち、考えて・・・なかったよね」



やっぱり、簡単じゃないんだ。普通と違うって。他人にとってはともかく、当人にとっては。・・・キツいな。



「ううん、大丈夫。なぎ君の言葉、嬉しかったから。・・・変わらない、よね」

「・・・変わらない。うん、変わってないよ」

「なら、いいんだ」



そう言って、すずかさんがニッコリと微笑む。少しだけ、無理のある笑顔だけど、それでも・・・なのだ。



「・・・あのね、なぎ君。夜の一族のことについては・・・全部聞いてるんだよね?」

「・・・一応、ノエルさんファリンさんのことや、身体のこととかは」

「じゃあ、契約は?」



すずかさんの言葉に、一応頭を回転させて、さっきまでの忍さんとの会話をリピート。

・・・聞いてないな。



「もう、お姉ちゃんは・・・。すごく重要なとこ、説明忘れてるし」

「あの、なんですかそれ?」

「なぎ君や恭也さんみたいに、外部の人間が一族のことを知った時の決まり事でね。
なぎ君、それに・・・アルトアイゼンもかな? 二人には、二つの選択肢が与えられるの」



すずかさんの表情が真剣な物になったので、僕も少しだけ姿勢を正す。



「一つは、この事を忘れて今まで通りにしていくこと。もう一つは・・・」

「もう一つは?」



なぜか、すずかさんの顔が赤くなった。え、なぜにそんな困った表情を浮かべるの。



「一生・・・私達と、この秘密を共有しあう友達でいること」

「・・・それだけ?」



あの、かなりでかいのが来るかとビクビクしていたのですが。



≪そうですね、私としては・・・マスターとすずかさんが結婚しなければならないというのを期待してたんですけど≫



期待するなよそんな怖い固有ルートをっ! つーか、僕も10歳だし、すずかさんも12歳だよっ!? いくらなんでも早すぎるでしょうがっ!!



「えっと・・・それでもOKではある・・・らしいの」



マジでっ!?



≪マスター、おめでとうございます≫

「何に対して祝福っ!?」

≪いや、さすがにシャマルさんはどうかと思ってたんですよ。逆源氏物○ですし≫

「なんの話してんの本当にっ!!」



あー、もういい。アルトは放置で。とにかく、すずかさんだ。



「その契約って、なにか必要なものとかあるの? 銀行印とか」

≪すみません。私、こういう身なんで銀行印は・・・≫

「・・・いや、えっとね。自分の言葉で誓ってくれればいいから、銀行印はいらな・・・え? あの、なぎ君、アルトアイゼン、それって・・・」



驚いた表情のすずかさんに、僕は頷く。



「・・・今日までの記憶と時間はすべて、必要で幸せだもの。忘れて今まで通りなんて、出来ないよ」

≪私もですね。忘れて得られる未来など、私達にはいりません。・・・いや、結婚の方が面白くはあるので、そこは不満ですけど≫



まだ言うかおのれはっ!! ・・・とにかくだよ。



「・・・僕、蒼凪恭文と」

≪古き鉄・アルトアイゼン。今ここで私達二人は、月村すずかさん。あなたに誓います≫

「これから先・・・友として、仲間として、側に居ることを。力になることを、誓います」

≪この誓いに賭けるのは、誰でもない私達自身の想いです。何があろうと・・・私達を嘘にしないために、守り通します≫



僕達がそう言うと・・・すずかさんは嬉しそうに笑った。さっきまでの無理のあるものとは全く違う優しい笑顔を、僕達に向けた。



「・・・もう、二人とも即答って・・・ちょっとは考えてくれてよかったのに」

「不満?」

「ううん、すごく嬉しい。ありがとう」

≪なら、良かったです≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・とにかく、こうしてこの事件は無事に終わりを迎えた。





犯人の連中もこのすぐ後、恭也さんや海鳴オールスターズに徹底的にぶちのめされた挙げ句、ブタ箱送りとなった。

・・・本当にこのすぐ後だったし。くそ、怪我さえなければ僕も参加したかった。





そして、1週間の月村家での療養を経て、僕は完全回復。帰路に着いた。





なお、我が家族には『突然おたふく風邪が発症して、ここから動かせなくなった』という非常に苦しい説明がなされていたが、一応納得はしていた。

・・・心の中で謝り倒したのは、言うまでもないだろう。うん、さすがにね。





ただ・・・フェイトには、この2年後にバレて、キツいお叱りを受けるが、ここはご想像にお任せする。

なお、フェイトとな・・・横馬にはやて、アリサは、前々から知っていたらしい。もちろん、僕と違って普通な経緯で告白されたそうだ。





でも、お願いだから、事情を聞いて全員揃って僕を気の毒そうな目で見るのはやめて欲しい。

無駄だろうけど、またお祓い行こうかって肩を叩かないで。うん、心から思う。





そうそう、忘れちゃいけない事がもう一つ。完全回復してから、恭也さんと組み手をするようになった。というか、してもらうようになった。

恭也さんの僕に対しての態度も柔らかくなり、なぜだか高町家の面々は、それを生暖かく見つめてくる。

・・・なんだろうアレ。僕にはよく分かんないんだけど。





ただ、恭也さんとの関係が良好になったおかげで、妙なルートが開いた。

これから恭也さんが忍さんと結婚。仕事の都合で海鳴を出るまでの2〜3年の間に・・・ほら、アレですよ。

とらいあんぐるでハートしちゃう方々関連で、アレコレ振り回され巻き込まれたのは、悲しい黒歴史として欲しい。





そして、一番忘れちゃいけない変化がある。・・・すずかさんだ。

変化が顕著に現れ出したのは、嘱託の認定試験に、僕がギリギリでフェイトを倒し、合格をもぎ取ってからだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それは、試験の翌日に、すずかさんの家に遊びに行ったときのこと。










「なぎくんっ! 試験合格おめでとー!!」



・・・はい?



「・・・えっと、すずかさん?」

「なにかな?」



あ、そこ聞くんだ。いや、それはちょい予想外だったよ。



「えっと、なんで・・・いきなりハグ?」

「えっと・・・友達同士のスキンシップ」



うん、そうか。スキンシップか。でもね、そういうのはドアを開けていきなりするもんじゃないよ?



「というわけで、離れ」

「いや」



・・・え?



「うん、とにかく離れ」

「・・・いや」



・・・・・・よし。



「ノエルさんっ! ファリンさんっ!! これ何とかしてっ!!」

「・・・恭文さん」

「恭文くん」



え、なんでニッコリ笑って『私達見守ります』的な立ち位置で居ようとするのっ!? つーか、距離取り気味なのはやめてっ!!



「「すずかお嬢様のこと、これからも末長く・・・よろしくお願いします」」

「はぁっ!? ちょっとちょっとっ! どういうことですかそれっ!! てーか末長くってなにっ!?」

「では、私は掃除の続きを・・・」

「私、買い出しに行ってきますー!!」





ファ、ファリンさんまでっ! え、アレでフラグ立ったんじゃないのっ!?





「・・・あのね、なぎ君」



僕にギュっとしながら、すずかさんが耳元から喋りかけてくる。というか・・・ヤバい。神経がくすぐられる・・・!!



「私、あの時本当に嬉しかったの。私のこと、全部受け入れてくれて。忘れず、覚えててくれることを選んでくれて。だから・・・」

「だから?」



え、なんで力が強まるのっ!?



「・・・私、頑張る」










・・・・・・・・・・・・いや、なにをっ!?










≪・・・やっぱり資質ありですか≫

「なんのだよっ!!」




















(本編へ続く)







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