[携帯モード] [URL送信]

小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第27話 『変わらない日常 変わっていくこれから』



・・・・・・こうして、ブラックダイヤモンド事件は終わりを告げた。イースターの計画は失敗に終わり、ブラックダイヤモンズはデビューすることもなく、世界中にウィルスのように歌が広まることもなかった。

なお、ほしな歌唄(本名:月詠歌唄)とそのマネージャーの三条海里の姉でもある三条ゆかりは、これによりイースター社を追い出される形になる。まぁ、色々と二人でやり直していくと話していたので、私もヤスフミも少し安心している。

それと、あむが取り戻したダイヤのたまご。あの後すぐにたまごの状態に戻って、ダイヤ自体は眠りについた。でも、あむは『きっとすぐに会える』と言って、大事にしているので、特に問題はないらしい。





・・・いや、問題はあるのかな。ランちゃんにミキちゃんにスゥちゃんが、直接ダイヤに会いたかったって言ってたから。

ちょっとだけ寂しそうにダイヤのたまごを三人で撫でていたのが、印象深かった。

とにかく、私達は普段通りの日常に戻った。戻ったんだけど・・・やることはまだ山積み。





差し当たっては、ほしな歌唄・・・歌唄(呼び捨てにしていいと本人から許可を貰った)の事。

そう、今回の一件で、歌唄にも魔法の事をどうしても話す必要が出てきたから。

あの後すぐに、私とヤスフミは歌唄と三条ゆかり、それに海里君を連れて、時空航行艦・クラウディアに向かった。





この辺りには理由がある。ロストロギア・ブラックダイヤモンドの影響で、あの子の身体がガタガタになっていて、ちゃんとした医療施設で見てもらう必要があったから。




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご


第27話 『変わらない日常 変わっていくこれから』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・えーと、ちょっと待って。お願いだから待って」



マネージャーさんが頭を抱えるのは無理もない。だってあんまりにいきなりすぎだから。

なお、ここは艦長室。クロノさんも同席してたりします。あ、歌唄は現在医務室。僕が回復魔法をかけても、身体がボロボロなのは変わらないから、ちゃんとした設備で精密検査をしてもらってる。



「魔法? 次元世界? ありえないでしょ、それは。てゆうか、マジでやめて。私、そういう話苦手なの」

「姉さん、残念ながら事実です。俺も蒼凪さんやハラオウンさんの魔法を見せていただきました。もう、納得するしかないんです」

「海里・・・。あぁもう、確かにそれを言えばしゅごキャラや×たまだってありえない部類だし、信じるしかないのかなぁ。
実際におチビちゃんやフェイト・T・ハラオウンがそれっぽいの使ってたり、空飛んでるとこも見てるわけだし。私、こういう話苦手なんだけど」

「残念ながら、受け入れて頂く他ない。・・・それで三条ゆかりさん。あなたに先立ってお伝えしておかなければならないことがある」



クロノさんがお仕事モードで言うのは理由がある。うん、ここが理由なのよ。

そして、僕がチビ呼ばわりされたのに目の前の小悪党に攻撃しないのもここが理由。



「はいはい、もうなんでも言ってください。神様でもなんでも聞き入れますし信じますから」

「残念ながらそういう話ではないんです。・・・ほしな歌唄・・・いえ、月詠歌唄に、ロストロギア不正利用の嫌疑がかかっています」

「ろす・・・はい?」



簡潔にフェイトとクロノさんが説明する。歌唄が使ってた物の正体とか、使い続けてたらどうなっていたのかとか、それが次元世界ではそうとうに重い罪だと言う事とか。

で、当然お姉さんは顔を青くする。まさかいきなりそんな話になるとは、予想出来ないだろう。なお、僕も出来ない。



「それで・・・歌唄は? 歌唄はどうなるんですか」

「その辺りに関して、少し事情聴取をさせていただきたいんです。もし、それで彼女が本当に次元世界や魔法の事を知らないのであれば、問題ありません。
まぁ・・・落ちたものを無断で拝借するのはやめようという具合に、僕とフェイト執務官から少しお説教をして、家に帰すということで収まります」

「知ってたらアウトだけどね。でも、エルの話とかも総合すると知らないって感じみたいだし、まぁ大丈夫かと」

「・・・あくまでも、そういう疑いを晴らすためにってことですよね。普通にこのまま逮捕して刑務所送り・・・とかじゃないですよね?」



僕もクロノさんも、フェイトも頷く。そんなことは絶対にしないと確約までしてしまった。

・・・ねぇ、提督に執務官、それでいいの? さすがにまずくない?



「大丈夫だよ。ロストロギアもちゃんと確保出来たし、機動課への言い訳も付く。それに・・・」

「それに?」

「あの時、あの子の歌を聴いて、私ファンになりかけてるから。もっともっと、これからのあの子の歌を聴いてみたいんだ」

「僕はまぁ、前途有望な若者の未来をむやみに奪いたくはないから・・・だな。なにより、時空管理局はそこまで冷酷な組織ではない」



納得した。どっちにしろ、お人よしなのは変わらないと思うけど、納得した。



「まぁ、見ての通りこの二人はお人よしもいいところなので、問題はないと思う」

「あぁ・・・よかった。てゆうか、それならそうと最初から話して欲しいわよ。私、心臓止まるかと思ったし」

「でも、二度目はない」



・・・お人よしが二人も居るんだし、ここは僕が鬼になりましょ。

鋭く言い放った言葉に、マネージャーの目が見開く。そして、僕を見る。



「今回の事だって、下手すれば死者が出たかも知れないんだ。もしまたこんなことが起きたら、僕もフェイトも、甘い顔は出来ない。
もう歌唄はこっちの世界に片足突っ込んでる。だから、遠慮なく捕まえて、刑務所にぶち込んでくさい飯を一生食い続けてもらう。・・・オーケー?」

「・・・・・・分かってるわよ」

「俺がしっかりと監督していきますので、同じ轍は踏みません。大丈夫です」



まぁ、なんて言うかさ。海里、そんな自信満々に言うってどうなの? ほら、フェイトもクロノさんも少し苦い顔で笑ってるし。



「あの、海里? 私の方が姉なんだけど」

「姉さん、俺達のやったことを考えれば当然です。なにより、姉さんはいつもいつも」

「あぁ、お願いだからお説教はやめてっ! アンタの話、無駄に長いからきついのよー!!」

「ダメです」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・なお、事情聴取の結果は、シロ。ようするに、ほしな歌唄は問題なく家に帰せるということになった。これには、マネージャーである三条さんも胸を撫で下ろしていた。あと、ガーディアンのみんなもだね。





一応、事情聴取は私とヤスフミの二人で行った。身体がキツイとは思うけど、医務室に行って、色々話を聞かせてもらった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・ちょっと待った」



事情聴取も佳境に来たのに、歌唄がなんか止めに入った。・・・どった?



「いや、魔法の事とか次元世界の事とかは・・・まぁ、いいのよ。今の状況見せられたらもう・・・ねぇ? ただ、私、その前に疑問があるの」

「なにかな?」

「まず一つ。・・・歌唄でいい」



フェイトを見ながら言ってきた。そう言えば、さっきからさん付けだった。



「私はまぁ・・・年下みたいだからフェイトさんって呼ぶけど、歌唄でいいわよ。一応、助けてもらったわけだし」

「いいの? 私の事嫌いなんじゃ」

「・・・恭文の彼女、らしいしね。コイツバカだし、あんまりアンタ・・・フェイトさんと私が仲悪かったら、気にするだろうし」



そっぽ向きながらなんか言って来た。というか、歌唄。バカって歌唄にだけは言われたくない。僕がバカなら、歌唄は大バカでしょうが。



「うるさい。とにかく、歌唄でいいから。恭文やあむだってそう言ってるし」

「わかった。なら、歌唄」

「えぇ。それで、もう一つよ。まぁ・・・あれよ、フェイトさんはいいのよ」



ベッドに横になり、白い入院着姿で歌唄は先ほどと変わらずにまたフェイトを見る。で、次に僕を見る。



「なんでアンタが普通に仕事してるわけ? しかも制服っぽいのを着て」



現在、僕は艦内ということで、いつもの青いアンダースーツを着てたりします。で、フェイトは黒の執務官制服だね。



「だって、僕フェイトの補佐官だし。一応この取調べの責任者よ?」

「だから、なんで私より年下のアンタがそうなるのかって聞いてるのよ。というより、よくよく考えたら、アンタとこの人が付き合ってるって、マジ? それだとどう考えたってショタカップルじゃないのよ」



なんか胡散臭そうな目で僕を見る。てゆうかさ歌唄、近親相姦願望持ってるおのれにそこを言われたくない。

例え本当にショタカップルだとしても言われたくない。



「あ、それはアタシも思った。大体お前、立ち位置おかしいだろ。なんで歌唄に対してため口なんだよ。もっと年上を敬えー」

「イルの登場話数が20話を超えたら敬ってあげるよ。今がちょうど3話だから・・・あと17話だね。道のりは遠いなぁ」

≪影が薄いんですから、人にどうこう言う前に自分を何とかしてくださいよ。このままじゃ『しゅごキャラクロスのポスト・タヌキor二代目淫獣』と言われる日も明日ですよ≫

「むきー! お前らマジ性格悪いだろっ!! 普通に人の傷口に塩塗りこむような真似するかっ!? てゆうか、明日ってまた猶予時間が短いなおいっ!!」



他はともかく、僕とアルトはしますが何か?

まぁ、そこはともかく・・・一応説明しておこうか。うん、必要だろうし。



「あのですね、歌唄ちゃん。イル。恭文さんは小学生ですけど、年齢は小学生じゃないのです」

「「・・・・・・はぁ?」」



エルのやつがペラペラ喋り出したけど。まぁいいか、僕も話そうと思ってたんだし。



「僕、聖夜小には年齢誤魔化して入ってるのよ。さっきも話したけど、しゅごキャラ関連の事件を管理局が察知して、それであの街に来たんだ」

「その時にヤスフミ、丁度ガーディアンのみんなと接触してね。もっと詳しい形でしゅごキャラやたまごの事を知るために、年齢もそうだし経歴も詐称して、聖夜小に転入してもらってたんだ」

「マジかよ。え、でも体型とかってどうしてんだ。やっぱ魔法ってやつでどうこうなのか?」



イルが言った一言で・・・僕は、崩れ落ちた。涙が出てきた。すっごい出てきた

そうだよね、やっぱりそう見えるんだよね。



「・・・イル、そこは触れちゃいけないのです。エルもそこに触れて、恭文さんをすっごくヘコませたことがあります」

「え、もしかしてマジ体型?」

「エル、恭文はリアルに小学生体型なの?」

「なのです。ここだけは年齢や経歴と違ってなんの詐称もしていないのです」



ごめんなさい、マジ体型でこれなんです。これに関してはエルの言うようになんの詐称もしてないんです。むしろ詐称したいくらいなんです。



「まぁ、そこはいいわよ。で、実際には何歳なの」

「・・・・・・19歳」

「え?」

「だから、19歳。僕、フェイトと1歳とかそれくらいしか違わないの」





次の瞬間、広いクラウディア船内に響き渡るような叫び声が聞こえた。





「「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」

「・・・やっぱり驚くですよね」

「ちょ・・・ていうことは、歌唄より年上っ!?」

「それどころか、イクトより年上じゃないのよっ! アンタ、それでなんでそうなのっ!?」










あはは、なんだろう。もうすっごい泣きたいんだけど。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



でも、本当によかった。元気そうだし、ヤスフミと楽しそうに話して・・・その、ちょっとヤキモチ焼いたから抱きついたりしたけど。





そうそう、ブラックダイヤモンドの正体だけど、事後にようやく判明した。一応、その辺りをあの子にも話したりもした。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・うし、じゃあ事情聴取は終了ね。歌唄、お疲れ様」

「えぇ。でも、随分あっさりしてるわよね。もう大丈夫なの?」

「うん。歌唄が本当に魔法の事とか知らないというのはわかったからさ。今回の一件、特に人的被害もなかったし、問題点はそこだけなんだ」



簡潔に、そして改めて、歌唄がそれを知っているかいないかが焦点になると説明した。



「知っていたら本当にアウトだったけどね。だけど、知らなかったんだもん。ロストロギアも無事に封印出来たし、しゅごキャラのことも話せるわけがないから、これでおしまい。・・・・・・でも、歌唄。これだけは言っておくけど」

「二度目はない・・・でしょ? ちゃんと分かってる。私だって、100年単位で実刑受けるなんてごめんよ」



ならよろしい。いや、物分りのいい重要参考人で助かるよ。

なお、ここから無事に出る時には、フェイトとクロノさんとマネージャーさんの三人によるお説教が待っているので、覚悟しておくように



「・・・まじ?」

「マジだよ。マネージャー・・・三条ゆかりさん、もうカンカンなんだから。自分が気づかなかったのも悪いし、何も言う権利は無いけど、それでも危険性とかそういうの考えないで物騒なものを使ってた事に関してはしっかりお説教する・・・だって。
でもね、私がどうしてかって聞いたら、怒りながらこう言ってたよ? 自分は、ほしな歌唄のマネージャーで、これから先ずっと付き合う覚悟は決めたから当然だって。自分も、歌唄に居なくなられたら困るとも言ってた」

「三条さん・・・」



なんつうか、海里の言うように根は悪い人じゃないのかも知れないね。だからって、やったことが許されるとかそう言うことはないと思うけど。

でも、その辺りの話は後でいいか。どうするかは、本人達が決めていくことなんだから。



「あー、それと歌唄。実はさっき連絡が来てさ。歌唄が使ってたブラックダイヤモンドについての詳細が分かったんだ」

「恭文さん、フェイトさん。そうなのですか?」

「そうだよ。それでね、その関係で・・・歌唄、あなたはこれから二週間、本局・・・あ、さっき説明した時空管理局の本部みたいなところなんだけど、そこの医療施設で検査入院をしてもらう事が決まったから」

「はぁ? 検査入院って・・・あの、私の身体そんなに悪いの?」



僕もフェイトも、首を横に振り否定で答える。まぁ、悪くはない。悪くはない。

ただ、かなりやばい状態だったのがそれで判明したので、念のためになのだ。あと、ちゃんと治療もした方がいいということになった。



「まず、あのロストロギア・ブラックダイヤモンドの正体が問題なんだ。・・・私もヤスフミも、ここに来る前に知ったんだけど、あれは生体改造装置。
ようするに、生きた人間の身体を改造して、強化された戦闘要員にする装置だったの。歌唄、はっきり言うけど、あなたはあの装置に改造されかけてたの」

「・・・・・・え?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・それでユーノ。この報告は本当に間違いないんだな?」

『うん、間違いない。そのロストロギアは、先史時代に作られた兵器・・・というのとは違うけど、それを製造する手段の一つだったんだよ。
資料によると、どうやら本当にごく少数だけど量産もされていたらしい。でも、すぐにそれはストップしてる』

「理由は?」

『理由は二つ。まず、あまりに非人道的。そして、生産のためにコストがかかりすぎたから。
今回出てきたのは、その少数量産された試作型の一つだね』





艦長室で、ユーノの送ってきてくれたデータに目を通しつつ、通信越しに話を聞いている最中。しかし、これはまたひどいな。



だが、何のためにこんな物を? ブースターという機能だけでもかなりのものだと思うのだが。





『より強い兵士を量産するため・・・だろうね。これの使い方はこうだよ。まず、自軍の隊の装備の一つとしてこれを配布する。
で、ブースターの機能で能力アップ。ここに関しては問題無いだろうね。戦いに身を置くなら、誰だって差はあれど力は求めるもの』

「それは分かるが、これが強化するのは魔力の類だけではないだろう。そこはなぜだ?」

『資料も少ないからあくまでも推測になっちゃうんだけど、これを作った国には魔導師以外の戦力もあったんじゃないかな。そういう人達の強化の意味合いもあった。だから、単純に魔導師だけが強くなるのではまずかった』



だからこその汎用性と言うわけか。それならば一応納得は出来る。



『ただ、これだけじゃない。資料の次のページ、見てみて』

「もう見ている。・・・・・・そうしている間に、ロストロギアが装着者のデータを収集・解析して、使用者に合わせた改造の準備を進めるのか」

『そして、準備が整って、強化が最終段階に入っている状態で装着者が更に力を求めると、改造スタート。ロストロギアが装着者を取り込み、ナノマシンで一気に肉体を作りかえるんだ。肉体的にも強化された最強の兵士の誕生・・・というわけ。あぁ、それだけじゃなくて、精神操作も行われる。
どんな命令でも従うように、徐々に感情を奪う処置がロストロギアの方から行われるように出来てる。てゆうかさ、真面目によく出来てるよ。人を何かの駒程度にしか思わない悪魔の思考があるのであれば、これはとても有益な代物だよ』

「確かにそうだな。フェイト達の報告では、改造が始まる前段階でも、かなりの能力を発揮する。
そして、恐らく改造が完了すれば更にだ。だが、これはお前がさっき言ったようにあまりにも非人道的だ」



完全に兵を、自国を守る人間を、物扱いしている。量産が打ち切られたのも頷ける。まぁ、思いついて製作に走っている時点で相当アウトだとは思うが。

そうすると月詠歌唄の身体は・・・。



『僕も戦闘映像を見せてもらって資料と照らし合わせてみたけど、改造が始まる本当にギリギリなタイミングで恭文君が封印に成功してる。
現にその子、普段通りなんだよね。資料どおりなら、改造が完全に済んでいた場合、感情をなくした生体兵器になってるはずだもの』

「つまり、大丈夫ということか?」

『それは検査してみないとわからないよ。ただ、今身体が動かないのも、短期間の間に急激に力を引き出したり、他の子のしゅごキャラと何度もキャラなり・・・だっけ? それを繰り返していた反動のせいだろうし、多分大丈夫』

「そうか。なら・・・よかった」










アイツと彼女は、色々と通じ合うものがあるらしい。だから、ユーノの話を聞いて本当によかったと思った。





これで彼女がそうなっていたら、アイツはまた、重い物を背負っていただろうしな。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・ひ、ひぇぇぇぇぇっ! あの宝石、そんなおっかないものだったんですかっ!? 歌唄ちゃん、本当に大ピンチでしたっ!!」

「つーか、どこの悪の組織が作ったんだよっ! もし、もしも止められなかったら・・・歌唄、マジでどうなってたかわかんないじゃんっ!! あ、そっか・・・! だから歌唄、徐々に反応が薄くなってたんだっ!!」



僕達は直接的に歌唄とずっと一緒に居たわけじゃないから分からないけど、そうだとしたら間違いなくブラックダイヤモンドのせいなのはわかる。

つまり、歌唄は感情を抑制する処置をアレからされ続けていたことになる。多分、力を引き出し始めていた時から、徐々に。



「それでそれで、ブラックダイヤの言う事もすんなり聞いてたりとかしてっ!!」

「そ、そうよね。私、本当に今更だけど寒気してきたわ。あの、でもそれだと私の身体」

「その辺りの事も調べるし、あんまり確定的なことは言えないけど、問題はない・・・と思う。
調べだと、手術が完了しちゃうと本当に感情をなくして命令を聞いて戦うことしか出来なくなるらしいから」



まぁ、今の様子を見るに大丈夫だよね。つーか、それであんな歌を歌ったり、自分を見捨てた人間の事を助けようなんて感情が出てくるわけがない。

うん、きっと・・・大丈夫だ。



「・・・なんか、本当にデカい借りが出来ちゃったわね」



僕の方を見ながら、歌唄が言ってきた。少しだけ微笑みながら、今まで見たことのないくらいに優しい瞳で僕を見る。



「僕だけの話じゃないでしょうが。フェイトもそうだし、あむに唯世達も居たんだから」

「そうね。でも、1番返したいの、アンタよ? ・・・てゆうかさ、まぁ・・・あれよ」



いや、なによ? また歯切れ悪いなぁ。そしてもじもじするな。なんか悪い事したのかと気になるでしょうが。



「私、決めた。歌うことで返していく事にする。それで・・・もっと輝く」

「何のために?」

「私がそうしたいから。そして、奪ったものを取り返していきたいから。・・・CDにしちゃったら、浄化は無理だしね」



歌唄が何の事を言っているのか、すぐに分かった。おねだりCDにされたたまごの事を言っているんだと。



「人は、輝きに憧れるわ。そして、そこから夢が生まれる。私も、そうだった。だから、この子達が居る。
だから、輝く。奪ったものが返せないなら、空っぽになったこころから新しいものが生まれるように、輝く。・・・それしか、出来そうにないのよね」

「・・・いいんじゃないの? それはまた面白そうだし」



歌唄なりの背負い方・・・って感じかな。どうやら、歌唄は僕や海里とは形は違うけど、持って行く事にしたらしい。

バカは、ここにも居たよ。ちょっと呆れてる。自分がそうだから、何も言う権利無いのにさ。



「でしょ? 私もそう思うの。でも、残念だな」

「何が?」

「いやさ、アンタにフェイトさんって言う彼女が居なかったら、この場でキスでもしちゃうのになーと」



・・・・・・はい?



「あら、助けてくれた王子様へのお礼は、キスが常套手段だと思わない?」

「歌唄、その理論はやばいよ? それ言ったら、歌唄はあむやフェイト、あとあの場に居た全員にもキスしなきゃいけなくなる」

「・・・それもそうね。キスはやめとくわ。というより」



そうだね、そこだよね。まぁ、歌唄が悪い。地雷踏んづけたんだから。

なので、僕は隣を見る。僕の右腕を取って、ギューっとしながらにらみを聞かせているフェイトを。



「あのフェイトさん。私はその、今のところそんなつもりないから」

「・・・つまり将来的には」

「それもないわよっ! 私はイクト一筋よっ!?」

「それもだめだよっ!!」

「じゃあどうしろって言うのよっ! コイツを私に奪われるか、イクトが私に押し倒されるか、どっちか選びなさいっ!!」



歌唄、その選びようの無い選択はどうなの? てゆうか、フェイトがそれに答えるわけが



「なら、月詠幾斗を押し倒してっ! ヤスフミはダメっ!!」



答えちゃったよおいっ! それも即答っ!!



「分かったわ。ならそれで」

「お前ら落ち着けー! つーか普通に近親相姦を推奨しないでっ!? フェイト、お願いだから大人としてそれはやめてー!!」

≪・・・バカが増えましたよ。あー、歌唄さん。一つアドバイスが≫

「なに?」

≪ミッドの法律だと、一夫多妻はオーケーなんですよ。それでこの人、第二夫人まで決まってます≫



瞬間、歌唄の目が輝いた。鋭い光が生まれた。え、なにこれ?



「まぁ・・・あれよ。そういうことなら問題無いわよね。第一とか第二とか第三とか、そういうの関係無しに平等に愛するなら問題は」

「だから何の話っ!? てゆうかアルトっ! 余計な事言うなー!!」

≪いえ、面白くなるかと。主に私が≫

「そうね、私的にも弄るネタが出来て面白いわ。大体、第二夫人まで決定してるんなら問題無いでしょ。二人引き受けるなら、三人来ようと同じ事よ」

「問題大有りだからっ! お前らが面白くても意味が無いんじゃこのボケがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・どうしよう、本当にどうしよう。アルトアイゼンが余計な事言うから悩みの種が出来たよ。もしも『ヤスフミ×私×リイン×歌唄』が成立したら、どうすればいいの?





その、ヤスフミがちゃんと三人を引き受けて幸せにする気があるなら・・・うー、やっぱり嫌だよ。私はリインだから認められるのであって、これ以上はダメだもの。

まぁ、ヤスフミは『そんなつもりはない。僕はフェイト一筋だよ』と言ってくれるから、嬉しかったんだけど。

というか、やっぱり頑張ろう。その・・・絶対余所見なんてしないように、いっぱいいっぱい愛し合うんだから。うん、リインにも負けないよ?





とにかく、あれから3日が経った。歌唄の身体は問題無いらしい。もちろん、改造の影響も0。

とりあえず、機動課への報告書類も少しずつだけど出来始めてるし、もうちょっとかな。歌唄が退院するころには、事後の処理は片付いていると思う。

あと、本局の方でブラックダイヤモンドは相当に危険なロストロギアとして、他に現存しているものがないかどうかチームを組んで調査していくことが決定したとか。





まぁ、この辺りは今の私達には関係の無いところの話だから置いておくことにする。その前に、日々の生活の中で事後の後処理をしなくちゃいけない。





例えば、ヤスフミがライブハウス襲撃の時にみんなの前で吐き出したこと。例えば、今家に居るりまさん・・・ううん、りまの事。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・んじゃやっさん。ジガンは確かに預かった。とりあえず戦技披露会前には渡せるようにするから」

「はい。お願いします」





さて、歌唄の事情聴取も終って、やっとこっちに戻ってきたのはもう明け方。てゆうか、入れ替わるようにサリさんが帰る時間だった。

なお、マネージャーである三条さんは、海里と一緒に適当にポンと送った。

あ、魔法の事は内緒にするという約束をさせたうえで。当然、もしもそれを破ったら・・・という脅しもかけてる。



歌唄の立場のこともあるので、話すようなことはしないだろう。海里も居る事だし、心配はあんまりしてない。なにより、話して信じる人間が居るかどうかが問題だ。





「あー、りまちゃん」

「はい」



マンションの屋上に開いた転送ポートの上に乗るサリさんが、少ししゃがんでりまに視線を合わせる。

りまは、そのまままっすぐにサリさんを見る。



「俺はもう帰るが・・・やっさんなりフェイトちゃんなりに言えば、すぐに連絡は取れるし、何かあったら呼んでくれて構わないから。ただな」

「はい、分かってます。ちゃんと・・・話さないとダメ、なんですよね」

「あぁ。今すぐじゃなくていい。だけど、いつかはだ。大丈夫、ご両親には楔は打ち込まれてるし、りまちゃんと話合おうという意思も出来ているはず。りまちゃんの言いたい事は、きっと伝わる」

「・・・・・・はい」



転送ポートの光が強くなる。もう、時間が来たらしい。



「まー、数日間だったが世話になった。んじゃ、またな」

「はい、また」

「ありがとうございました」










そして、そのまま・・・サリさんは笑顔で手を振り、光の中へ消えた。




・・・・・・とりあえず、しばらくはジガン無しだね。ま、修行か何かだと思えば問題ないか。










「ヤスフミ、とりあえず・・・」

「・・・そうだね。りま、悪いけど僕今日は学校休むわ。さすがに、徹夜明けはキツイ」

「分かった。あむと皆にはそう言っておく。・・・ね」



うん、どうした?



「私、まだ・・・ここに居ていい?」

「もちろん」

「私も同じくだよ。あなたの心が決まるまで、好きなだけ居ていいから」

「・・・・・・ありがとう、ございます」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



その後、ヤスフミと二人ぎゅーっとしながら寝て・・・あ、幸せだったなぁ。無事に帰りついたこと、そこでようやく認識出来たよ。





ちなみに、目覚めた後・・・とても大変だった。ヤスフミがスターライトを使った影響で、すごくおなかを空かせてたから。










◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・アンタ、まだ喰うの?」

「当然」

「一体全体何が当然っ!? てゆうかマジで喰いすぎよっ! 咲耶だってご飯しか大食いしないのに、アンタはおかずも含めて偉い量食べてるしっ!!」



そう、スターライトを使った影響で僕は非常に腹ペコだった。普段の倍近くあろうかというおかず達をぺロリとたいらげかけている。

でも、箸を止まらない。食べる、ひたすらに食べる。



「・・・・・・なんなの、これ」

「あー、りまさんは見るの初めてですよね。えっと、スターライト・・・歌唄さんを斬った時に使った魔法なんですけど、恭文さんがそれを使うと、必ずこうなるんです」

「ちなみに、なぎ君以外がその魔法を使ってもこうはならないから。なんて言うか・・・体質的にこうなっちゃうんだって」

「すごいわね。てゆうか、ティアナさんの言うようにマジで喰い過ぎだし。ディードさんや恭太郎に咲耶さんが働きっぱなしじゃないのよ」



ごめん、みんな。でもね、止まらないの。どうしても止まらないの。

まだ腹5分とか行ってないの。



「恭文さん、お代わりもうすぐ出来ますから、待っていてくださいね」

「いや、じいちゃんがスターライト使ったのをサリエルさんに報告しといてよかったな。そうじゃなかったら今頃食料空っぽになってるって」

「まぁ、普段からこれではありませんし・・・頑張ることにしましょう」



・・・あ、このイカと大根の煮物美味しいな。ディードが作ってくれたんだっけ? うーん、好みの味付けだから幸せだぁ。



「みんな、私も手伝おうか?」

「いえ、フェイトさんは恭文さんとご飯を食べていてください。・・・昨日は大変だったのですから」

「うん、なら・・・お言葉に甘えて」

「ディード、みんなもありがとね。美味しくいただいてる」

「はい」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



うーん、でもいつも思うけどヤスフミのスターライト使用後の食べっぷりはすごいよ。普通にスバルやギンガを超えそうだし。





とにかく、その後祝勝会も兼ねた食事の時間は、楽しく過ごせた。まぁ、りまが少し引き気味だったけど。だって、あれでデザートまで食べてたんだから。





でも、問題はまだある。例えば、イースターをやめる形になった歌唄と三条さんのこれからのこと。例えば










「・・・・・・フェイト」





後ろから声がかかる。振り返ると、外行き姿のヤスフミ。



最近、あむやみんなの影響なのか、服のセンスが少しよくなった気がする。まぁ、武装とかは相変わらずなんだけど、彼女としてはちょっと嬉しい変化だったりする。





「あ、もう時間かな」

「うん。・・・書き物、大丈夫?」

「大丈夫だよ、ちょうどキリが付いたから。それじゃあ、いこうか」





私は、自室のデスクから立ち上がり、端末のワードパットを保存した上で電源を落とす。それから、ヤスフミの方へ行く。





「でも、唯世君と・・・その、初代キングの人だったよね。何の用なんだろ」

「さぁ。とにかく来て欲しいって言われただけだし」




















・・・・・・今日は、学校はお休み。そんな中、私とヤスフミは唯世君と初代キングという人に学校に呼ばれた。





なんでも、大事な話があるとか。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



というわけで、お休みの聖夜小にフェイトと二人で来た。そして、なぜか理事長室に通された。





通されると、まさしくそれっぽい部屋。本棚があって、高そうなじゅうたんや机などの調度品があって・・・。










「あれ、海里」

「というか、空海君も」



そこに居たのは、青いケープを着た制服姿のめがねをかけた男の子と、中等部の制服を着たオレンジ色の髪の男の子。なお、僕より背が高い。



「よ、恭文。てゆうか、フェイトさんもお久です」

「うん、お久しぶり。元気してたかな?」

「はい。もうめっちゃ元気っすよ」

「蒼凪さん、ハラオウンさん、先にお邪魔しています」



そう、空海と海里も居た。そして、そこに唯世と・・・初代キングも。



≪ところで唯世さん、なぜ理事長室が集合場所なんですか? ここに理事長が居るわけでもなんでもないのに≫

「僕がその理事長だけど?」



僕とフェイトがそう言った人間を見る。穏やかな笑みで白いワイシャツに淡いブルーのスラックスを履いた初代キングだ。

・・・えっと、今なんておっしゃりました?



「だから、僕がその理事長なんだよ。・・・自己紹介が遅れたね。改めまして、僕は天河司。小説家の『たまご』」

「司さんは初代キングであのプラネタリウムの管理人。そして、この聖夜小学園の理事長なんだ」



唯世の言葉に、僕とフェイトは固まる。で、当然のように唯世を、空海を、海里を見る。

そして、三人は頷いた。なので、僕達は当然のように叫ぶ。



「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」



り、理事長っ!? このお兄さんがこの学校の理事長だったんだっ!!



≪・・・マジですか?≫

「マジなんだってよ。俺もさっき唯世に教えてもらってマジでビックリしたけどな。てゆうか、海里は知ってたんだな」

「俺は先日、キングから教えていただいて、会わせても頂きましたから。ですが、まさか初代キングがこの学園の理事だったとは・・・調査不足でした」



とりあえず、調査不足で助かったと思う。だって、そうじゃなかったら大変な事になってたと思うし。



「と、とにかく・・・理事長、今日はなんのご用ですか? というより、どうして私まで」

「いえ、あなたは彼の近しい人ですし、同じく協力していただきたいと思いまして。・・・さ、入っておいで」



そう優しく初代キング・・・司さんが声をかけると、僕とフェイトが入ってきたのとは別のドア・・・多分、応接室の辺りから入ってきた影があった。

赤いケープを纏い、腰まである長い髪をポニーテールにした『女の子』。僕とフェイト、空海に唯世も知っている顔だった。その子は、穏やかな微笑みを浮かべつつ僕達を見る。



「「・・・・・・なでしこっ!!」」

「なでしこさんっ!?」

「はい。恭文君、相馬君・・・お久しぶり。フェイトさんもお久しぶりです」



そう、前年度までの旧Qチェアで、ヨーロッパに踊りの留学に行ったはずのなでしこだった。

え、本人っ!? うそ、なんでこんなとこにっ!!



「うわぁ・・・お前、何時日本に戻ってきたんだよー!!」

「やだもう、髪が乱れるわ」



空海に頭を撫でられながら、僕に右手で手を振る。なお、ウィンク付き。なので、僕も手を振り返す。



「でも、なでしこさん。どうして日本に?」

「えっと・・・それを説明する前に、ちょっと失礼しますね」



そう言って、フェイトの言葉に答えずにまた部屋に戻っていった。

そして、数分後・・・出てきた。今度は『男の子』が。



「お待たせ」



・・・・・・僕、ちょっと脳内が固まりました。いや、だって・・・あの、なぎひこが出てきたから。



「あれ、なでしこ? お前なんで男子の制服なんて着てるんだよ」

「違うよ空海君、あれはなでしこさんの双子のお兄さんで、なぎひこ君だよ」

「・・・・・・はい? いやいやフェイトさん、俺も唯世もなでしこに双子の兄さんが居るなんて聞いた事ないっすけど」

「え?」



あー、そう言えばフェイトには話してないんだ。あと、なぎひこの話だと空海も知らないんだっけ。

あれ? ならどうして海里は普通なのさ。



「諸事情がありまして、先立って教えていただきました」

「・・・なるほど」

「藤咲君、蒼凪君とフェイトさんに会った事があるとは言ってたけど、そういう言い訳使ってたの?」

「実はね。まぁ、恭文君には見抜かれちゃったんだけど」



で、当然フェイトも空海も訳が分からない。思いっきりハテナマークを頭から出してる。

僕と唯世は顔を見合わせ、頷く。当然説明するという意思が、今の一瞬で僕達の間で通じ合い、交差し合った結果だ。



「あのね、フェイトに空海。こっちがなでしこの本当の姿なんだよ」

「え?」

「ようするに、なでしこは男だったの」



二人が更に訳がわからないという顔をした。でも、真実は開かれていく。



「ヤスフミ、何言ってるのかな。なでしこさんは女の子でしょ?」

「で、これはなでしこが男装してるんだよな」

「違うよ空海君。この子はなぎひこ君と言って、なでしこの双子のお兄さんで・・・そう言えば、なぎひこ君はどうしてここに?
あ、もしかしてなでしこさんと同じタイミングで留学から帰ってきたのかな」

「いやいや、だから俺はそんな話聞いた事無いっすから」



なんだろう、このまま勘違いさせておいた方が楽しくない?



≪それもそうですね、放置しますか≫



というわけで、その後数十分間、この二人のかみ合わないやり取りを眺めつつ、僕達は司さんの入れたお茶を



「ならないよっ! それは僕的に困るからやめて欲しいんだけどっ!?
・・・あー、ようするに、なでしこは僕が女装した姿。今までは女装していたわけです」

「「え?」」

「僕の本当の名前は、藤咲『なぎひこ』。正真正銘の男」

「ちなみに、双子でもなんでもないから」





僕がそう言うと、二人は顔を見合わせる。そして、唯世を見る。頷かれた。次に司さんを見る。同じく頷かれた。



そして、海里を見た。これまた頷かれた。





「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」










まぁ、叫ぶよね。うん、叫ぶよね。僕もこの事実に気づいた時は、さすがにビックリしたもん。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・と、とにかく話を整理しましょうか」

「そうだね。えっと、なぎひこ君の家である藤咲家は、『日武』の『藤咲波』で」

「アレだろ? こう両手からかめはめ波的なアレを出して」

「だから・・・相馬君はともかく、どうしてフェイトさんまで恭文君と同じ勘違いをするんですかっ!?」



いやぁ、誰だって考えるって。常識だよね?



≪そうですね、常識ですよ。なにより、テレビでやってたじゃないですか≫

「テレビアニメの話はもういいからっ! あと、相馬君も『藤咲家の人々』とかやらなくていいからねっ!?」

「どうしてわかったんだよ。てゆうか、お前キャラ変わってね?」

「僕、基本男には厳しいから」



そっか。でもフェイトに手を出したら、そこの窓からノーロープバンジーだよ?



「そう言いながら両手をワキワキさせるのはやめてっ! 絶対にそんなことしないからっ!!
・・・とにかく、僕の家は『日舞』の『藤咲派』なの。女装していたのは家の方針」

「えっと・・・女形修行、だったよね。それのために生活そのものから女性として過ごす勉強をしていて」

「だから、今までずっと藤咲なでしこで過ごしてたと」



そして、二人ともようやく納得してくれた。いや、よかったよかった。

なお、フェイトが1番取り乱していたのは気にしてはいけない。・・・やっぱりプライベートだとひどい天然だ。



「でもよ、それならそうでなんで教えてくれなかったんだよ」

「だって、相馬君脳筋っぽいし。そういうのを抜きにしても、隠し事下手そうだし」

「・・・・・・お前、絶対キャラ変わってるだろ」

「僕、基本男には厳しいよ?」



どうもそうらしい。まぁ、僕的にはからかうと面白いおもちゃ候補なんだけど。



「でも、それを海里君が知っているのはどうして? まぁ、唯世君や理事長がご存知なのはわかるし、ヤスフミが・・・その、なぎひこ君の女装を見抜いたのは納得が出来るし」

≪そうですよね。凄まじく納得が出来ます。だってこの人≫

「アルト、フェイト、それ以上言ったら・・・潰すよ?」



だめだ。やめろ・・・思い出すな。もうあれは嫌なんだ。二度と嫌なんだ。もう1年以上なってないんだ。このまま永久封印だ。



「実は、今日・・・相馬君もそうですし、あなた方にも来てもらっているのは、そこが理由なんですよ。彼・・・藤咲なぎひこ君を説得して欲しいと思いまして」

「説得?」

「はい。藤咲君のJチェア就任のためにです」



あぁ、なるほど。Jチェア就任のために説得・・・え?

待て待てっ! 説得ってなにっ!? てゆうか、なぎひこのJチェア就任ってなにさっ!!



「その原因は、俺にあります」

「海里?」

「実は俺・・・夏休みに入ったら、故郷の山口に戻るんです」

「ということは・・・転校っ!?」



海里が少しだけ申し訳なさそうに、頷きで答えた。てゆうか、あの・・・なんで? やっとガーディアンもまとまってきたのに。



「元々、俺の両親と姉さんとの間の約束で、二学期には向こうに戻る事になっていたんです。故郷の学校の級友にも、早く戻って来いと言われていまして」

≪だから・・・ですか≫

「はい」

「それでね、あれから僕は三条君からその話を聞いて、丁度こっちに戻ってきてた藤咲君が連絡をくれたんだ」



だから海里の後釜として、なぎひこを新Jチェアにしようと。・・・でも、海里がまだ転校してないのにそれって、ちょっと無神経なような。



「あ、これは俺の提案なんです」

「海里の?」

「はい。・・・先日、エンブリオが姿を現しました。ブラックダイヤモンド事件も一応終息を迎えたとは言え、イースターの暗躍が終ったわけではありません。
いつ次の一手が出されるか分からない。そんな状況で俺が戻る・・・ようするに、Jチェアに空きが出来るのは不味いのではないかと思って、キングにご相談をしたんです」



そっか、確かにここで海里が抜けると、少なくとも新年度まではJチェアは空席ってことになる。だからってことですか。



「一応、蒼凪君に当初の予定通りJチェアに入ってもらうことも考えたんだ。だけど、そこにさっき話した感じで藤咲さんから連絡が来て、それなら・・・と」

「あ、だから海里君はなぎひこ君の事も知ってたんだね」

「そうです。やはり、俺の勝手で空席を作るわけですし、どういう方かは直接知っておきたいと思いまして。・・・データだけでは測れないものもあると、教えていただきましたから」



とにかく、話はわかった。ようするになぎひこをガーディアンに入れればいいんだね。なんて簡単な話だ。



「なぎひこ、ノーロープバンジーするか、ガーディアンに入るか、どっちか選んで」

「その選びようのない選択を押し付けるのはやめてっ!? いや、確かに事情はわかるし、三条君や辺里君にもかなり頼まれたけど、それでも無理だってっ!!
なにより、今の僕はしゅごキャラだって・・・その」

「・・・ね、なぎひこ君。そう言えばあなたのしゅごキャラのてまりちゃん・・・だっけ? その子はどうしたのかな。それらしい姿は見えないけど」

≪また見えなくなったんですか?≫

「そんな事無いよ。現にキセキやダイチは見えてるし」



フェイトがきょろきょろと辺りを見回す。確かに、居ない。

フェイトだけじゃなくて、僕とアルトも同じくだし、どうしたの?



「あーはい。それはその・・・えっと」

「いーじゃん、代打ジャック。やってやれよなぎひこ。てゆうか、面白いじゃねぇか。新Jが元Qなんてよ」

「・・・年齢詐称のジョーカーVには負けるけどね」

「ははは、違いねぇな。さすがにそれには誰も勝てねぇって」



苦い笑いしか返せない。だって、事実だから。でも、握った拳は罪じゃないと思う。振るわなければ罪じゃないと思う。



「ねぇ、藤咲君。どうしても・・・だめ?」

「・・・辺里君、そのキラキラ光線は僕には通じないから」

≪やっぱりノーロープバンジーですね≫

「そうだね、それでいこうか」

「それはだめだよっ! 普通に脅迫だよねっ!?
・・・ね、なぎひこ君。どうしてダメなのかな。なにか理由があるなら仕方ないと思うけど、ただダメって言うだけなら誰も納得してくれないよ?」



そうフェイトに言われて、なぎひこの息が詰まる。どうやら自分の身を振り返って、色々と思い当たる節があるらしい。

でも、正直僕もそこは思う。だって、その辺りの事がさっぱりだもん。



「いや、なんていうか、さすがに面白いとかそういう理由では・・・」

「それだけいいんじゃないかな」



そう言ったのは、他でもない司さんだった。真っ直ぐに、なぎひこを見ながら、言葉を続けていく。



「答えはいつだって、本当に意外なところにあるものさ。自分の知っている世界の中だけで探していても、見つからないことは往々にしてある」



司さんは、優しく、何かを見通しているような瞳をする。それがとても印象的。

この人は、ちょっと不思議な感じがする。プラネタリウムで会った時もそうだしさ。



「石ころの中に宝石が。星屑の中に運命の光が。そして、鉄の中に星の光が」



一瞬、僕に視線が移ったのは、なぜかよく分からない。やっぱり、不思議な人だ。



「君の探している答えも、もしかしたら・・・『おもしろい』の中に隠れているんじゃないかな」

「僕の・・・答え」

「まぁ、そういうわけだから、はい」

「いや、あの・・・それでロイヤルケープを渡されても。てゆうか、着るんですか? そうですよね、着るんですよね。よくわかりました」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、その場で解散。とは言え・・・僕達は一緒に学校の外に出た。





まぁ、五人で歩きつつ、色々考える。海里、転校かぁ。寂しくなるなぁ。










「すみません。出来れば、蒼凪さんの元で色々と教わってみたかったのですが」

「あぁ、いいっていいって。親御さんとの約束とかならしゃあないじゃないのさ。というより、僕・・・なんか教われるようなことある?」

「はい。少なくとも俺には、あなたから教わってみたい事があります」

「・・・そっか」



やばい、凄まじくくすぐったい。こういうのはくすぐったい。非常にくすぐったい。

てゆうか、恥ずかしい。すごく恥ずかしいよ。みんなもなんか視線が生暖かいしさ。



「なんて言うか、三条君は恭文君と仲いいんだね。相馬君でもそこまでじゃないのに」

「唯世とかややから聞いたけど、色々あったんだろ? そのせいだろ」

「うん、色々あったよ。ヤスフミも海里君のこと、好きみたいだから」



・・・とりあえず、僕の話はいい。なんかこう、くすぐったいからいい。

当面の問題はなぎひこだって。どうすんのさ、これ。



「そうだよね、理事長に強引にロイヤルケープ着させられちゃったし」

「でも、似合ってるよ? ね、ヤスフミ」

「うん、似合ってるよ。ほら、答えはいつだって意外なところから」

「ロイヤルケープが似合うというところからどういう答えが出るのか、是非とも聞かせて欲しいんだけど? ・・・というかさ、ガーディアンはまずいんだって」



とか言いながら、なぎひこは日の照り付ける歩道を歩きながら、またため息を吐く。・・・だから、なにがまずいの。それを話してくれなきゃみんなわかんないでしょうが。



「なぎひこ、とりあえずちゃんと話して。じゃないと、フェイトも言ってたけど、みんな納得できないしわかんない」

「・・・うん。ほら、僕って女の子として過ごしてきたわけじゃない? で、それがいきなり男ってなると、こう・・・周りがね。
特にあむちゃんにややちゃんだよ。蒼凪君が来る前に合宿とかお泊りとかで一緒の部屋で寝たりもしてるからさ」

「大丈夫。あの二人がそんな事を気にするわけが・・・・・・ごめん、正直自信ない」

「やっぱり?」



更にごめん、やっぱりだわ。

だって、あむに至っては同じクラスで、当然体育の時間とかで着替えとかもしてるわけでしょ? そこを考えるとまずい感じがする。



「でもそういうことなんだね。それでガーディアンメンバーに会うのが辛い・・・ということかな。
今までは女の子で、急にそれが男の子になったから、変な目で見られるかも知れないと思って怖い」

「そう、ですね。あと、僕と初めて・・・あ、なぎひことして会った時のこと、覚えてますね? 恭文君もだけど、どういう風に自己紹介したかとか」



もちろん覚えている。それでさっきフェイトはとても面白かったから。普通に双子設定を持ち出してきたし。



「それで、それを・・・あの」

「おーいっ! みんなー!!」



後ろから声がした。というか、なぎひこの顔が引きつる。それは当然だろう。だって・・・ねぇ?

噂をすれば影ありを地で行っちゃったんだから。



「あむっ!!」

「フェイトさん、こんにちは。唯世くんに空海に恭文にいいんちょも・・・どうしたの?」

「ちょっと学校で用事があってね。日奈森さんは?」

「あ、歌唄のお見舞い品買いにいくところなの。あたしが入院してるとこに行くのは無理っぽいんだけど、なんか本でも見繕ってあげようかなーと。
咲耶さんがお見舞いに行くついでに届けてくれるって、メールくれたんだ」



あー、それは助かるかも。なんかまだ3日しか経ってないのに退屈してるらしいから。僕もフェイトも、こっちのこととか後処理で時間なさそうだしなぁ。

てゆうか、咲耶そんなことしてたんだ。普通に気が利くし。



「そっか。そりゃいいことだ」

「日奈森さん、ありがとう。歌唄ちゃん、きっと喜ぶよ」

「だといいんだけど・・・あれ?」



あむが気づいた。そして、僕の後ろに隠れている誰かさんに視線を向ける。

なので、僕はひょいっとどいてやった。理由? 面白くなると踏んだからですがなにか(断言)。



「・・・・・・あぁぁぁぁぁぁっ! なでしこ・・・じゃなくて、双子のお兄さんのなぎひこっ!!」

「や、やぁ、あむちゃん。ご無沙汰」



・・・・・・・・・・・・ちょっと待て。ちょっと待とうぜお二人さん。

なんで顔見知り? てゆうか、なんであむはなぎひこの事を知ってるのさ。



「日奈森、なぎひこのこと知ってるのか?」

「うん。だって一度会った事あるし」



で、当然のように僕も空海も唯世も海里もフェイトもなぎひこを見る。

その視線が痛いのか、頬を引きつらせて半笑いの表情しか浮かべない。



”ヤスフミ、もしかして”

”間違いない。僕達の時と同じ事言ったんだよ。あぉ、それで会い辛いとかって言ってたんだ”

”私、納得したよ。確かにこれは辛いかも”

”だね”



家の都合も絡んでるから、簡単には話せなかったってのもあるけど、また面倒なフラグを・・・。

なぎひこ、もうアレだよ。実際に飛ばなくてもノーロープバンジーしてるのと同じだって。がけっぷちだって。



「あれ、でもどうしてロイヤルケープ着てるの?」



あ、気づきやがった。そのままスルーな部分に気づきやがった。



「それは、その・・・」

「ジョーカー、それは彼が二学期からの新Jだからです」

「あぁ、なるほ・・・え?」



海里がなんか爆弾投げたっ! いや、普通に補足しただけだろううけどっ!!



「実は、俺は・・・かくかくしかじか・・・というわけなんです。なので、その後釜に藤咲さんが入る事に」

「え・・・いいんちょ、転校しちゃうのっ!? 嫌だよ、せっかくガーディアンだってまとまってきたのにっ! これからスパイとかそういうの抜きで一緒にやってけると思ってたのにっ!!」

「すみません。俺も本当ならもっと長く居たかったんですが。ただ・・・」

「ただ?」



海里が真っ直ぐにあむを見る。あむは海里より身長が低いから、見上げる形でそれを受け止める。



「転校までにはまだ、1ヶ月以上あります。それまで、俺がガーディアンの一員だというのは変わりませんし・・・それでは、ダメでしょうか」

「・・・わかった。なら、転校まで一杯思い出作ろうよ。今までは色々面倒な事もあったけど、これからはそうじゃないんだし」

「はい。・・・ジョーカー、すみません」

「ううん。というか、ごめんね。あの・・・親御さんとかの都合でどうしようもないのに、無理言っちゃって」

「いえ。あの、引き止めてくれて、俺はその・・・嬉し、かったです。ありがとうございました」





どうやら、二人の間で話はまとまったらしい。ただ、気になる。何故海里が頬を染めるのかが、どうしても分からない。



まぁ、そこはともかく・・・左手を伸ばして襟首をしっかりつかむ。逃げようとしていたどっかの誰かさんの退路を断つために。





「恭文君、お願い。見逃して。一生のお願いだから」

「あー、あむ。お話中のところ悪いんだけど、なぎひこの事を思い出して?」



で、そのまま前になぎひこを放り出す。



「鬼ぃぃぃぃぃぃっ!!」

「失礼な。僕は天使のように優しいと評判なのに」



あむが僕の言葉になぎひこを見る。



「・・・あ、そうだよね。いいんちょが居なくなっちゃうのは寂しいけど、なぎひこが新Jって・・・すごいじゃんっ!!」

「いや、あの・・・えっと」

「ね、ということはなぎひこもキャラもちなの?」

「い、一応」



というか、なんかウルウル目で見てる。おぉ、圧されてる圧されてる。なでしこじゃなくてなぎひこだと、基本あむには弱いのか。



「・・・あむ、ヤスフミと同じだったんだね」

「どういう意味よ」

「てゆうか、唯世のじゃなくて、日奈森のウルウル攻撃は通じるんっすね。なぎひこの奴、たじたじになってるし」



だねぇ。後ずさりしようとしてるもん。



「というわけで日奈森さん。三条君が居なくなるのはその・・・寂しいけど、藤咲君とも、仲良くしてあげて欲しいな」

「もちろん。二学期からになっちゃうけど、よろしくね。なぎひこ」

「あ、えっと・・・あの、えっと・・・」





そして、不沈艦と思われた藤咲号は・・・。





「はい」





・・・・・・沈没した。





『新J、これにて誕生っ!!』

「・・・いや、よかったです。これで俺も安心して山口に戻れます」

「というか、これ・・・大丈夫なのかな」

「フェイトさん、なにが大丈夫なんですか?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あぁぁぁぁぁぁぁっ! 一体どうすりゃいいんだ僕はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「笑えばいいと思うよ?」

≪地獄へ落ちればいいと思いますよ?≫

「どっちも全く納得出来ないんですけどっ!? 特に後者っ!!」










・・・とにかく、あんまりになぎひこが落ち込んでるから、近くの公園に引っ張って、そこのベンチに座らせて話を聞くことにした。





なお、あむはそのまま買い物に向かった。あと、僕も気になる事があった。










「なぎひこ、よく考えたら・・・しゅごキャラはどうするの?」

「そう言えば、俺もその辺りを聞いていませんでした。これは失敗です」

「いや、どうするってお前ら、なぎひこにはてまり・・・あ、そっか」



空海が言いかけて気づいた。他のみんなも同じ。

このままなぎひこをガーディアンにするのは、少し問題があるのだ。僕もさっきのあむとのやり取りで気づいたんだけど。



「そうだね。てまりちゃんだと、あむやみんなにあなたがなでしこだってバレちゃうよ」



そう、問題はここ。なぎひこはキャラもち。だけど、それはてまり・・・なでしこのしゅごキャラ。

もしもここでなぎひこがてまり・・・なでしこのしゅごキャラを自分のキャラだと言えばどうなるか? 当然嵐がやってくる。なお、そうなったら僕は逃げたい。



「藤咲君、僕も確認を怠ってたけど、その辺りのことはどうするの?」

「・・・実は、そこなんだ。僕が日本に戻ってきたのは」





懐から、たまごを出してきた。それは桜色で花柄がプリントされたたまご。前に見せてもらった、てまりのたまごだった。



・・・あれ、たまごはいいけど、てまりは?





「てまりは、この中なんだ」



なぎひこは視線で差す。それは、てまりのたまご。



「・・・藤咲君、どういうことなの?」

「てまり、たまごに戻っちゃったんだよ」



たまごに戻った?

え、じゃあ生まれる前の状態になっちゃってことっ!? またどうしてっ!!



「僕が日本に戻ってきたのはね、ちょっとしたスランプ・・・って言うのかな。ヨーロッパで色んな踊りを見てきてさ、世界にはたくさんの踊り・・・ううん、踊りだけじゃないか。
たくさんの表現があって、僕は踊り手として、表現者として、まだとても狭い世界に居る気がしたんだ。そう考えたら」

「てまりが、たまごに戻ったと」

「うん」



なぎひこのスランプの内容がこの話だけでは分からないけど、それによってなぎひこの『なりたい自分』や夢に揺らぎが出た。

で、てまりはその影響で・・・これということですか。



「・・・それでね」



なぎひこが左手を動かす。そして、懐から出してきたものに、僕達は全員驚く。

左手にあるのは、青いたまご。てまりが桜色なら、こちらは青色。てまりのたまごと色違いで、同じ柄。



「たまごがもう一個、生まれたんだ」



今、僕達の目の前には二個のしゅごたまご。



「それが・・・これなんだね?」



フェイトの言葉に、なぎひこは頷いて答えた。つまり、えっと・・・どういうこと?



「はい。ただ、二つともたまごのままなんです。いつ生まれてくるかもわからないし、ずっとこのままかも知れないですし」

「じゃあ、こっちの青いたまごは一度もかえってないんだね」

「うん」



つまり、今のなぎひこはキャラもちではあるけど、たまごの状態だから細かい事を言えばキャラなしと。

うーん、この辺りのこと先に確認しておくべきだったかも。いや、今更だけど。



「・・・だけど」



そう、今更だった。今のなぎひこの目を見て分かった。なぎひこ・・・やる気だ。



「答えは、もしかしたら本当に意外なところから出てくるかも知れないからさ。少しの間、踊りの事は忘れてやってみるよ。キャラなしだけど、代打のJチェア」

「そうだね、それでいいと思うよ。ヤスフミやリインにいたっては、たまごも無い状態だもの。海里君、唯世君、空海君、それで大丈夫かな」



フェイトが三人を見る。見て・・・頷きで返した。




「藤咲君の能力は知っていますし、僕の方は大丈夫です。二人はどうかな」

「別にいーんじゃねぇの? 更に面白くなってきた感じだしよ」

「俺も同じくです。蒼凪さん達も居ますし、今更そこを理由にお断りするのもおかしいでしょう。・・・藤咲さん、二学期からではありますがジャックスチェア、よろしくお願いします」

「うん、お願いされた。任せておいて」










少しだけ、楽しげになぎひこは笑って応えた。・・・もうすぐ、夏・・・なんだよね。





なんか色々変わっていくなぁ。うん、色々変わっていく。少しずつ、夏の色を含み始めた青い空を見上げながら、僕はそう思った。










「・・・・・・ちょっと待って? え、僕には聞いてくれないのかな」

「ヤスフミは問題ないでしょ? 聞かなくても分かるよ」

「あー、それは、そうなんだけど。これはこれで面白そうだし」

≪そうですね。弱みも握ってますからいいように遊べます≫

「その悪人な思考は是非ともやめて欲しいんだけどっ!? 主に僕のためにさっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



でも、変わらないこともある。例えば・・・偶数日のコミュニケーションとか。





というか、最近フェイトがすごく積極的になってる。・・・いや、理由はわかるけど。僕が原因だけど。うぅ、不安にさせてるなぁ。心苦しいよ。










「・・・ね、フェイト」

「なに? あ、もしかしてもう一回・・・かな」

「え?」

「でもね、ごめん。少しだけ休ませてほしい。だってさっき・・・・・・だから。私、まだ体力が」



とりあえず、チョップでペシっと叩く。違う、違うから。そこじゃないから。

思いっきり頬を染めて艶っぽい目で言うな。吐息交じりの声で言うな。いや、わかるけど。すっごいわかるけど。僕も同じ状態だから分かるけど。



「だからどうしていきなりエロへ行くっ!? おかしいでしょうがっ!!」

「だ、だって・・・今この状態だよっ!? 他に何があるのかなっ!!」

「ないけどその発言はやばいからやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



なんか痛がってるけど、話は続ける。

だって、ブラックダイヤモンド事件は片付いたけど、まだやる事あるから。



「りまの事。ほら、いつ頃家に帰そう・・・とかさ」



僕がとりあえず夜なので声のトーンを落とした上で言うと、やっと納得してくれた。そして、少しもじもじして視線が泳ぐ。どうやら、色々恥ずかしくなってきったらしい。



「うーん、落ち着いては居るみたいだけど、やっぱり方針は変わらずかな。
本人から言い出すまで待った方がいいと思う。私達から言うと、ここに居るのが迷惑と取られかねないし」

「そうだよね」



一応、フェイトと二人でりまの両親には挨拶した。まぁ、お母さんはちょっと不満そうだったけど、今刺激してもロクな事にならないと言うことで、納得してくれた。

とにかく、預かっている以上はしっかりしていかないといけない。でも、難しいなぁ。家族って。



「他人じゃないから、余計に気持ちが強くなり過ぎちゃうのかも。・・・やっぱり、心配ではあるし。私もりまのご両親みたいな事が経験無いと言えば、うそになるから」

「エリオやキャロ?」

「ちょっと違う、ヤスフミの事だよ。ほら、私最初の頃、普通の生活に縛り付けようとしてたから」



そう言えばそうだった。あ、だからなんか思い出してたのかな。



「りまのご両親を見て、話してね、私・・・あの時本当にダメだったなって、反省した。だって、ヤスフミにはヤスフミの世界があるのに、私の勝手で縛りつけようとしてたんだから。
それで平和に暮らせても、ヤスフミが幸せになんてなれるわけないのに。笑顔になんてなれるわけがないのに。・・・ごめん」

「昔の事だよ。もう大丈夫。それに、今は違うでしょ?」

「今も、同じかも」



そのまま、フェイトがくっついてきた。というか・・・あの、どうした?



「ヤスフミの事、誰にも取られたくない。私、すっごくヤキモチ焼きだから」

「それは・・・あの、僕も同じ」



なので、腕を回して、抱きしめる。そっと、右手で頭を撫でつつ、フェイトに言葉をかける。



「僕だって、ヤキモチ焼く。フェイトに余所見なんてして欲しくないし、誰にも取られたくない。ずーっと僕だけの物にしたい。・・・僕、結構束縛欲強いんだよ?」

「そっか」



まぁ、自重してるけど。そのためにフェイトがやりたいこと出来なかったりとか、もっと細かいところで言うと着たい服着れなかったり、自分の趣味を変えたりとか、そういうの嫌だから。

さすがにリアルで『あなただけ見つめてる』状態はなぁ・・・。あれはちょっと怖いって。



「だから、ずーっと離したくない。それでね、フェイト。名実共に僕だけのものに、して・・・いい?」



あ、身体をくっつけてるから分かった。フェイト、凄くドキドキしてる。

それで、あの・・・OKしてくれてる。



「それは前にも言ったけど、大丈夫だよ? プロポーズはずっと前にされてるもの。それで私、あの時負けてるし、今は心からOKもしてるし」

「そ、そうだね。あの・・・本当に真剣に考えないとダメだね」

「うん・・・」





ちゃんと考えよう。フェイトとずーっと一緒に居たいし。

それに、独身ってのは危ない気がする。もしかしたら、ここが人に突け入る隙があるのではないかと思わせるのかも知れない。

そうだ、フェイトより僕が危ない。もっと言うと歌唄とかが危ない。アレに現地妻ズな方々と同じ匂いを感じてしまった。



・・・あ、そうだ。





「ね、それなら夏休みにミッドに戻る時に、指輪買いに行かない? 婚約、指輪」

「・・・うん、いいよ。それで私達、正式に婚約・・・かな」

「うん。それで絶対に一緒にだよ? で、うちを出てから帰るまでずっと一緒。絶対に離れないの」

「それは構わないけど、どうしてそんなに念押しするの?」



なお、ここまで念押しするのには理由がある。とても大事な理由が。



「婚約指輪とかを一人で買いに行くのは、凄まじい死亡フラグなんだよ。だから、フェイトと一緒ならそれは回避出来る」

「そんな理由なのっ!?」

「もちろん。一昔前のトレンディドラマとか見てみなよ。そういう話はゴロゴロしてるから」





でも、指輪は買いに行こうと思う。きっと、フラグをへし折るのはこういうのが大事なんだ。



こういうところから、フラグメイカーなんて言う根も葉もない噂が消えていくのだから。





「あのさ、フェイト」



少しだけ、不安になったから聞いてみる。きっと必要な事だと感じるのは、気のせいじゃない。



「何?」

「僕、こう・・・下手するとフェイト以上にヤキモチ焼きだけど、大丈夫? というか、束縛とかしてないかな。フェイトのやりたい事、邪魔してないかな」



僕がそう言うと、フェイトが少し身体を離す。離して、僕を見る。そのままコクンと、頷いてくれた。



「束縛も、邪魔もされてないよ。それに、ヤスフミにヤキモチ焼いてもらえるの、嬉しいからそれも大丈夫。ヤスフミはどう? 私で、大丈夫かな。束縛とか、してない?」



フェイトがさっきの僕と同じ事を聞いてきた。なので僕も・・・頷いた。



「大丈夫。僕も、同じ。ヤキモチ焼いてもらえると、ちゃんと見ててくれるんだなって嬉しく・・・あれ、これって変なのかな」

「かも知れないね。まぁ、度を過ぎなければ問題無いよ。というわけで、あの・・・」



・・・・・・フェイトのエッチ。考えてる事、身体がくっついてなくても伝わったよ。



「じゃあ、あの・・・今度はゆっくり、コミュニケーションしてみる? 少し夜更かししちゃうけど。てゆうか、あの・・・フェイトの事、独り占めにしたい」

「あ、うん。それで・・・いっぱい、愛し合おうね。私の事、たくさん独り占めにして、いいから」

「うん・・・」










やっぱり、幸せ。でも、夢みたい。ずーっと大好きだった人と結ばれて、その・・・結婚とか言う形について話せるようにもなって。





・・・・・・フェイトの事、絶対に守りたい。僕が幸せだからというのもあるけど、それよりなにより、絶対に守りたいものがある。





目の前で優しく笑ってくれている人の今と笑顔と幸せを、絶対に守り抜きたい。絶対に壊されたくなんて無い。あと・・・束縛も、したくない。それで笑えなくなるのは嫌だ。





うーん、やっぱりもっと強くなりたいな。それが出来るように、フェイトのやりたい事や、偉そうだけど成長の邪魔をしない愛し方が出来るように。





それでそんな時間を未来に繋げて行けるように、もっと強く。『魔法が使える魔法使い』と同じように、僕のなりたい形は、やっぱりここなんだ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして翌日。お日様が差し込む暖かさで目を覚ます。そして起き上がる。・・・服とかは気にしないようにしよう。あと、結局あのあとまたコミュニケーションを頑張ったこととか。





とにかく、朝食を作るために起き上がる。毎朝のお仕事・・・なんだけど、起き上がって、布団から出ようとした時に、気づいた。





あるものが布団の中にあったのを。少しだけ寝ぼけた頭で、それを見た。





見て、一瞬それが何かを認識できなかった。でも、認識して、一気に頭が覚めた。










「・・・・・・・・・・・・なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





叫んだ。思いっきり叫んだ。だって、予想なんてしてないものだったから。





「ふぁ・・・!? や、ヤスフミっ! どうしたのっ!!」



隣でぐっすり寝ていたフェイトが飛び起きる。身体の状態がどうなってるのかとかは気にしてはいけない。

というか、それよりももっと重要な問題がある。それは・・・これ。



「た・・・た・・・」

「たた?」

「たまごがあるのっ!!」





僕は指差す。・・・いつの間にかベッドの中にあったたまご。

色は全体的に黒。そして、たくさんの青い流星が集まり、それが一つの大きな光を形作っているような柄が見える。

一瞬、花火かとも思ったけど、それとは違う。だって、これはすごく見覚えがあるから。



とりあえず、両手を伸ばして、たまご触れてみる。というか、持ち上げてみる。





「・・・・・・暖かい」





たまごには、確かに熱がある。いや、体温と言うべきか。とても暖かくて、安心するような温もりが、たまごから両手に伝わった。





「ちょっといい? ・・・あ、ほんとだ。すごく暖かい」





とりあえず、僕達が何かのプレイのためにたまごを持ち込んだ・・・とかではない。そこは絶対にない。



昨日はただスローリーにコミュニケーションを頑張っただけだ。そしてスローリーな分二人してすごく・・・だっただけだ。





「フェイト、昨日はアレだったけど、僕・・・避妊はちゃんとしてたよね?」





隣に居るフェイトを見る。フェイトは、僕の言いたい事が分かったのかすぐに頷いてくれた。





「うん、ちゃんとしてくれてるよ。私も気をつけてるし・・・って、ヤスフミ? そこは絶対に違うから。さすがに私はたまごは産まないよ」

「ごめん。でも、正直かなり混乱してるの。だって、こんなたまご、ベッドに持ち込んだ覚えも無いし」

「そ、そうだよね。私も同じだもの。一瞬、私が産んだのかなって思っちゃったくらいだし」





なにより、こんな柄のたまごは持ち込んだ覚えが無いのと同様に、お店では売ってないし、買った覚えもない。





「ヤスフミ、この柄、もしかしてスターライト・・・かな」

「多分。すごく見覚えあるし」





そこで何かが引っかかった。



そうだ、僕もフェイトもこの状況を知っている。もっと言うと、ある人間から聞いた事がある。それは、あむ。



朝起きたら、たまごが生まれていた。そうだ、このシチュは聞いた事があるじゃないのさ。





「え、それじゃあもしかして・・・」

「これ、ヤスフミのしゅごたまっ!?」










僕、蒼凪恭文。現在19歳。性別は男。





大好きな人とコミュニケーションを頑張った翌日、たまごを産みました。





・・・・・・ありえねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!




















(第28話へ続く)






[次へ#]

1/35ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!