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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
ケース08 『ティアナ・ランスターとの場合 その2』



「・・・なるほど、ぶちゅーとしちゃったと」

「しちゃい・・・ました・・・って、してませんからっ! ギリ寸止めですからねっ!?」

「あぁ、ティアナちゃん落ち着いて。でもさ、私は見ててびっくりしたさ。真面目にギリギリだもの」



あのルーテシアの母親・・・メガーヌさんに、私がさっきやらかしたバカを話した。ヒロリスさん曰く『恋愛関係に凄まじく強い』らしい。いや、長年の友達だって聞いてちょっとびっくりしたんだけどさ。

そして、車椅子の上でうーんと唸って・・・一言こう言った。



「これ、一気に解決は無理よ」

「ちょ、メガーヌっ! 私の命はアンタにかかってるんだよっ!? もうなんでもおごってあげるからなんとかしてよっ!!」

「だって・・・あの子、フェイト執務官の事引きずってる部分があるし」



・・・やっぱり、なんだ。アイツの心の中に居るのは・・・フェイトさんなんだ。



「・・・そうなの? いや、私も見てて思ってはいたんだけどさ」

「多分、ヒロちゃんが思ってるよりもずっと。・・・というかね、あの子はどこかで思ってるんじゃないかな。自分は魅力が無いって」



メガーヌさんがどことなく真剣な表情でそう言った。・・・どういうことだろ。



「まぁ、私から見てなんだけど、あの子ってコンプレックス多いよね? 例えば体型が小さいとか、端見だと女の子に見えるとか。特に外見・・・男性的な部分に関する事に対して」

「・・・まぁ、そうだね。やっさんに身長を『小柄』って言うと、どういうわけか『誰が顕微鏡で見れないくらいにミニマムだっ!!』という返答が帰って来るから。
もしくは、拳。実際、それで何回か一緒に仕事した武装局員をぶっ潰したらしいから」

「あぁ、やっぱりかぁ。私見ててなんとなくそうじゃないかって思ってたんだ」



そ、それは・・・どうなんだろ。いや、確かに何回かそういうのを見た事があるんだけど。



「でも、それとあの・・・私とどう結びつくんですか?」

「それはこれから説明するよ。あの子がフェイト執務官に振られて・・・もう、5年だっけ? それなのに新しい恋愛に向かえないのは、恭文くんが男性としての自分に自信を持てないからだと思うの。
それにヒロちゃん、ルーテシアやアギトちゃんから聞いたけど、あの子・・・JS事件の時にも大変だったんでしょ?」

「・・・もしかして、そっちも絡んでるの?」

「かなりね」



あの、そっちって・・・なんですか? というより、アイツJS事件の時、何かあったの?



「もちろん、フェイト執務官はそんな理由で振ったんじゃないとは思う。何回か会った印象だけど、そんな人とは到底思えないもの。でも・・・」

「それが少なからずやっさんの自分への体型やさっき言ってた男性としてどうこうに対してのコンプレックスに拍車かけてるってこと?
だから、どうしても女性に対して一線引いてしまう。告白とかもされても恋愛したいとも思えないし、誰かと付き合いたいとも思えない」

「そうそう。・・・ようするに『なんで僕?』・・・って言うような思考に入るんだと思うの。相手の気持ちにまず疑いを持ってしまう。恭文くんの性格からすると、それに対して罪悪感も持つ。
その上、フェイトちゃんへの気持ちも多少残ってるから、本当に恋愛が出来なくなってるんだね。だから、女の子に対して距離を取ろうとするんだと思うな」



・・・どうしよう。私・・・あの、えっと・・・なんでこんなに気分が重くなってるんだろ。

せっかく・・・せっかく仲直りして、友達として理解が深くなった感じがして、いい事・・・ばかりだったのに。なんで、こんな・・・。



「まぁ・・・ただ、問題はそこじゃなかったりするんだよね」

「・・・え?」

「ね、ティアナちゃん。ティアナちゃんは、恭文くんのこと・・・好きなんじゃないかな」



・・・・・・え?



「いや、それは・・・」

「無いわけないよね。だって、そうするとティアナちゃんは好きでもない男の子と雰囲気に流されたから・・・なんて理由でキスしたくなっちゃうような子になるよ?」



真剣な目と口調でそう言われて何も言えなかった。だって、事実なんだから。



「ね、ティアナちゃん。撮影してる時・・・恭文くんのこと見て、どう思ってた?」



打って変わって、メガーヌさんの表情が柔らかくなる。優しく、安心させるような顔になる。その言葉に、さっきまで凝り固まっていた気持ちが少しだけほぐれた。そして・・・思い出す。

・・・私、アイツ見てて・・・あの、えっと・・・ドキドキしてた。その時だけかも知れないけど、アイツが隣に居てくれて、すごく・・・嬉しくて。仲直り出来たから余計にそう思ってた。



「・・・そっか。多少なりとも意識はしてるんだ」

「なんで分かるんですかっ!?」

「見てればわかるよ」



こ、この人すごいのかも。というか、あの・・・ちょっとビックリなんですけど。

でも、意識は・・・してるかも。私、男友達に対してこうなったことないし。



「とにかくね、ティアナちゃん。まずは信じてもらうところからじゃないかな」

「信じて・・・もらう、ですか?」

「あの子は、今ティアナちゃんが自分を意識してると話しても、きっと疑う。そんなわけない。そんなことあるわけないって。
そんな事を考える自分が嫌で、きっとあなたと距離を取ろうとする。だから・・・まずはそこからだよ」



アイツを意識しているのは嘘でもなんでもない。私の中にちゃんとある、本当の気持ちなんだって、伝えて、知ってもらって、信じてもらうことから・・・か。



「でも・・・正直、恭文くんはやめておいた方がいいとは思うけどなぁ」

「え?」

「恭文くん、簡単に切り替えが出来るような子じゃない。だから、とても苦しい。きっと、フェイト執務官のことを忘れるなんて、無理だよ。あなた、傷つくよ? それも、たくさん」



心を射抜くような視線をぶつけられて言われて、呼吸が一瞬止まった。止まって、そこから何も考えられなくなった。



「・・・・・・まぁ待とうよメガーヌ。アンタ、やっさんにアプローチかけたって聞いてるけど? また熱心に」

「私は年上だもの。そういう部分も含めて包み込む度量はあるつもりだよ? というか、ちょっと頑張りたいなーと」

「そりゃいったいどういう理屈っ!?」










傷つく・・・か。そうだな、現に結構キテる。それだけじゃなくて、きっとアイツのことも傷つける。

触れたくないものに、目を向けたくないものに、向かい合わせることになるんだから。

でも・・・それでも、今のままは嫌だ。私は、知って欲しい。答えなんていらない。ただ、見て欲しい。





私の気持ちを。私の今を。それで・・・あぁ、そうだ。私、やっぱりアイツの事意識してる。てゆうか、好きに・・・なりかけてるんだ。





なら、ちょっとだけ・・・本当にちょっとだけ、頑張ろうかな。その、小さな一歩でもいいから、頑張って、みたい。




















魔法少女リリカルなのはStrikreS 外伝


とある魔導師と彼女のありえる繋がりとその先のこと


ケース08 『ティアナ・ランスターとの場合 その2』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、数日後。季節はもうすぐ12月に突入。





だけど・・・僕は凄まじく不機嫌だった。










「・・・・・・恭文さん、この間の写真、見ないですか?」





うちに泊まりに来たリインが、リビングでテレビを見ながらそんなことを言ってきた。

多分、机に置きっぱなしで封も開けてなかったヒロさんが送ってきた封筒を見ているのだろう。

中には察するに、例の結婚式場のパンフレットの完成品。



僕は、さっきまで食べていた夕飯の後片付け中。なんて言うか、片付けてなかったのは失敗だった。





「だって、僕撮られた側でどういう構図かとか、そういうの分かってるし。見ても意味無いでしょ」

「でもでも、すっごく素敵でしたよ? リインは隊舎のティア宛てに届いたのを見たですが」

「それでも、いいの」



洗い物を終えて、リビングに戻る。・・・表情がちょっと憮然としてるのは、我ながらマズいと思う。



「・・・恭文さん」

「なに?」

「いいからこっち来るです」



手招きされたので、僕はソファーに座る。その位置は・・・リインの左隣。



「どうして、ティアと距離取ってるですか?」

「取ってないよ? 至って普通だし」

「嘘です。この間までほぼ毎日のように二人でお話とかしてたのに、最近そういうのぱったりです。距離、取ってますよね」



否定しても意味がないらしい。僕は、そのまま頷いた。それを見てリインが・・・ため息を吐く。



「原因は、フェイトさんとの事や、この写真の事ですか?」

「・・・・・・プラス、もうひとつ・・・かな。ティアにね、この間・・・写真撮影が終った翌々日くらいかな。一緒に遊びにいかないかーって誘われたの」



別にデートとかじゃなくて、普通に自分の買い物に付き合って欲しいって言われた。だけど・・・断った。

それからかな、なんかティアナと話し辛くなって・・・というより、側に居たくなくて、距離を取ってる。



「どうして断ったですか?」

「一緒に居ても、多分・・・楽しい顔、出来ないから。演技しないと、楽しくなれそうもないから。この間が・・・そうだった」



隊舎は、まだいい。仕事場だから。完全にプライベートってわけじゃないから。でも、外は・・・嫌だ。この間のあれやこれだって、仕事だったからなんとか頑張ったんだ。演技して、そういう顔をして、それで・・・自分を作って。

たまらなく嫌だった。そうしなきゃ目の前の子の前で笑えない自分も、笑えてる自分も。



「・・・失礼ですね。リインだったらプンプンです」

「そうだね、失礼だ。だから、もう嫌だった」

「でも、ティアはそれでもいいって思ってますよ」



・・・・・・知ってる。そう言われたから。ちょっとだけでもいいし、どうしてもダメならすぐに帰ればいいんだしって・・・あれ、おかしいな。なんか見抜かれてるみたいだ。

そう言えば、考えてなかった。ティアナ、なんでそんなこと言ってくれたんだろ。よく、わかんないや。



「恭文さん、今・・・演技じゃないとティアの前で笑えないって言いましたよね」

「うん」

「でも、リインはそうは思わないです」



リインはそのまま手をとる。僕がテーブルの上に放り出したままのパンフレットを。



「この写真に写ってるティア、すっごく綺麗です。恭文さんだって・・・リインが見て、隣に居られるティアに妬いちゃうくらいに、素敵です。
リイン以外の女の子の隣で、あんなに自然に、楽しそうに笑ってる恭文さん、リインは久々に見ました。ティアと本当に恋人に見えましたよ?」

「リイン以外って・・・」

「だって、リインは恭文さんのソウルパートナーですから。なので、リインの前くらいは自然で居て欲しいですし、居てもらわないと困るのです。
そして、ソウルパートナーだから、恭文さんの抱えているものがわかります。リインも、同じものを背負ってますから。・・・重たいですよね」



そのまま、僕はリインの言葉に頷く。



「重たい。凄く・・・重たい」



僕だって、分かる。ソウルパートナーだから。ここでトボけるのは、無意味だと。



「だから、怖いんですよね。だから、疑っちゃうんですよね」

「・・・・・・怖い。てゆうか、最低だよね」



右手を見る。見て・・・ギュッと握り締める。



「フェイトは・・・そんなつもりが無いことくらい、分かってる。分かってるのに、疑ってるんだ。フェイトだけじゃなくて、シャマルさんだったりすずかさんだったり・・・みんな、疑ってる。
最低、だよね。でも、消えないの。そんなことない。そんなわけがないって何度言い聞かせても、全然、消えてくれないんだ。それが許せなくて、腹立たしくて・・・」

「恭文さん、リインからも話します」



力強く握り締めた手に、リインの小さな両手が添えられる。



「だから明日、シャマルに話してください。それはもう、立派な心の病気です。恭文さんだけで抱えられるものじゃありません」



添えた手が、優しく僕の右手を包む。



「お願いですから、本当に・・・本当に少しだけ、リインやシャマルを頼ってください。一人だけで、そんな苦しいのを抱えないでください。自分の事、そんな風に傷つけないでください」

「リイン・・・」

「焦らなくて、いいですよ。恭文さん、ちょっと頑張り過ぎちゃっただけです。ティアのことも、ちょっとずつ、ちょっとずつ解決していけばいいですから。・・・大丈夫です」



そのまま、両腕を伸ばして僕をリインが抱きしめてくれる。安心させるように、優しく。



「祝福の風と古き鉄は、いつだってあなたの味方です。あなたを、守ります」



リインは少しだけ身体を離す。そして、僕の左頬に、そっと・・・口付けをする。

そのまま、また抱きつく。そして、頭を撫でてくれる。



「それに、どうしても他の子と恋愛出来そうにない時は、リインとイチャイチャラブラブしちゃえばいいのです。リインの気持ちは・・・大丈夫、ですよね?」

「・・・うん」

「なら、問題ないのです。・・・だから、吐き出して、いいですよ? リイン・・・全部受け止めますから」

「うん・・・」










そのまま、リインを抱きしめて、小さな肩を貸してもらって・・・抱えてた物を、吐き出した。





リインは、一晩中ずっと抱きしめてくれてて・・・それが、嬉しかった。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・えへへ、昨日は恭文さんがいっぱい甘えてきて大変でしたし、その・・・初めてで痛かったですけど、嬉しかったのです」





べしっ!!





「痛いですー! うー、一体なにするですかっ!?」

「エロありみたいに言うなっ! ただハグして一緒に寝ただけでしょっ!? そしてその中で初めてで痛みを伴う事はなにもなかったよっ!!」

「リインはいつそうなっても問題ありませんよ?」

「僕と世界の倫理的に問題大有りなんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! つーか犯罪っ!! 普通にそれは犯罪だからねっ!?」

「そうね、確かに問題よ。八神家的にもね。リインちゃん、お願いだからせめて後8年・・・ううん、6年待って? 今そうなったら、はやてちゃんが腰を抜かしちゃうから」





そして翌朝。朝一番でシャマルさんの所に・・・行って、非常に心苦しいけど、全部話した。



ずっと・・・ううん、JS事件を超えてから噴き出してきたある感情について。





「・・・・・・ごめんなさい」

「もう、謝る必要ないわよ。私やすずかちゃん達に対しての事は、ちゃんと分かってるから。でも、一度断ったからって、その可能性を全部消すような考え方はして欲しくなかったな。
正直に言わせてもらうと、私達はそっちの方がずっと悲しかった。・・・・・・まるで恭文くんに拒絶されてるみたいで、本当に悲しかったんだから」

「・・・・・・・・・・・・ごめんなさい」

「だから、謝らなくてもいいの。というより、私が気にしてるのはそこじゃないの。どうして、話してくれなかったの?」



・・・・・・なんか話し辛くて。リインとアルトと一緒に覚悟を決めて、背負うと決めて・・・なのに、迷って、止まってる自分が居るのが嫌で。



「バカ」



シャマルさんが両手を伸ばして・・・あの、シャマルさん? どうしてハグ?



「前にも言ったでしょ? 止まったり、迷ったりしなきゃわからないこともあるって。それなのに・・・あなたは、本当にもう、どうしてそう強情っ張りなの。
あのね、恭文くん。はっきり言わせてもらうけど、あなたの今の状態はもう立派な病気なのよ? 病気の時くらい、お姉さんに甘えなさい」

「・・・はい」

「でも、しばらくは自宅療養の方がいいかも知れないわね。この状態で訓練したり、前線に出すのは危険だもの」



やっぱり・・・ですか?



「やっぱりよ。それに、ティアと話すのは、辛いわよね」

「・・・・・・はい」



思い出して、胸が苦しくなる。ティアナへの申し訳なさと自分への腹立たしさで、呼吸が出来なくなる感じがする。

手を伸ばしてくれるのに、取れない。ううん、取るのが怖い。怖くて、怖くて、泣きたくなる。



「事情説明と後の処理は私がしておくから、しばらくは・・・そうね。リインちゃん、恭文くんと同棲生活って、してみたい?」

「してみたいですー♪」

「というわけで、恭文くん。君はしばらくリインと一緒に自宅で療養。少しの間ゆっくりしてること。・・・あと」



シャマルさんが、頭を撫でてくれる。昨日のリインと・・・同じだ。



「自分の事、責めないで? リンディさんやアルフはご家族だからどうしても・・・という部分があったと思うの。でも、私達は何も変わってないし変えてないから。
ただ、あなたは疲れちゃっただけなの。ほんの数ヶ月で本当に色々あったから。だから、本当に少しだけ、休みましょう?そうすれば、きっと大丈夫だから」

「・・・はい。あの」

「謝るのならなしよ?」

「そうじゃなくて・・・ありがとう、ございます」

「うん・・・」










こうして、先行き未定なお休みに突入することになった。突入して・・・どうしようか。










≪とりあえず、遊びましょうか≫

「ですねー。あ、自宅療養なので、お家の中でですが」

「そうだね、遊ぼうか」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・突然、シャマルさんに呼び出された。というより、隊長陣全員。





そうしてシャマルさんが部隊長室に隊長陣を集めて話したのは・・・恭文君のことだった。










「・・・・・・・・・・・・心の病気って、恭文君が・・・ですかっ!?」

「そうよ。それも、相当に重症。なので、恭文くんには今日からしばらく無期限で自宅療養です」

「あの、シャマル先生。それはどうしてですか? だって、ヤスフミ元気そうで」



そ、そうだ。どうしてそんなことになったんだろ。だって、ティアとは・・・まぁ、微妙な距離っぽかったけど、それ以外は普通なのに。



「・・・フェイトちゃん」

「はい」

「原因の一つは、あなたよ」



フェイトちゃんが・・・原因っ!?



「あなたが、恭文くんの告白を断ったから・・・というのが、まず一つの原因。あと、身長や体型の事ね。あ、ただそれらはあくまでもきっかけというか、本当に今恭文くんの状態がよくない遠因になるだけだから」

「でも、あの・・・私は」

「もちろん、あなたがちゃんとした受け止めて、断ったのは分かる。恭文くんだって、そこはちゃんと分かってる。
・・・こっちよりも、もう一つ、いいえ、もう二つの方が問題なの。それが大き過ぎるから、恭文くんはそこまで持ち出してる」

「シャマル、もう二つってなんや?」

「JS事件と、その後のリンディさんとアルフ・・・ハラオウン家の対応です」



・・・・・・あの、どういうことですか? というより、どうしてJS事件の話とかが出てくるのかが。



「・・・・・・シャマル、フォン・レイメイ・・・だな?」



シグナムさんが出したその言葉に、呼吸が止まるような思いが胸の中に走った。

だって、その名前は・・・。



「そうよ。フォン・レイメイ。JS事件の中で恭文くんが対峙し、そして・・・殺した相手。恭文くん、アレで相当傷ついていたわ。
同じ間違いを繰り返したくないと、最悪手を取りたくないと思い続けていたのに、それでも・・・」



恭文君は殺した。捕まえるだけでは、捕らえて牢獄に閉じ込めるだけでは、また出てきて大切なものを壊される危険性があったから。だから・・・殺した。

それほどまでに、フォン・レイメイという犯罪者は狂っていた。多分、人を傷つけた事を、殺した事を忘れると、あぁなるんだと思う。私は話を聞いて、資料を見て、そう感じた。



「あー、アタシ、リンディさんやアルフの名前出てきたのか理由わかったわ。フォン・レイメイへの対処のことで、相当荒れたしな。特にお冠だったのがその二人だ」

「そやなぁ。殺す必要なんてない、普通に捕まえるだけでよかったのになんてことしたんだって怒ってたしな。で、それがどうしてフェイトちゃんに振られたことと繋がるんや?」

「・・・・・・私も、さっき恭文くんとリインちゃんから話を聞くまで知らなかったんですけど、恭文くん、フォン・レイメイに言われたそうなんです。自分達は同類だと。光の中に居る人間・・・つまり、私達は、自分達を認めるわけがないと。恭文くんは、自分を殺せば一人になると。
それだけじゃなくて、フェイトちゃんを好きだったのも、フェイトちゃんの普通の人と違うというコンプレックスを埋めることでフェイトちゃんを屈服させて、自分の欲望を満たすための人形にしたかっただけなんだと・・・かなりひどいことを」



そんなこと、言ってたんだ。でも、そんなの違う。恭文君は、人を殺して笑ったりなんてしない。命を踏みつけて当然のものだなんて思ってない。人殺しなんて最低で、最悪手だって、そう言って否定してる。

フェイトちゃんの事だってそうだよ。本当に好きで、ちょっとずつでもアプローチして、守るために強くなろうと必死に頑張って・・・違う。それは絶対に、違う。



「それで、事後にそれを証明するような状況が起きて・・・心の中に、疑問が出てきたそうなんです」

「疑問?」



シャマルさんはフェイトちゃんを一巡すると、少し言いにくそうに言葉を続けた。



「まず一つ。その言葉は事実なんじゃないかということ。そしてもう一つ・・・・・・フェイトちゃんが自分を振ったのは、自分が・・・人殺しで、意識していなかっただけでフォン・レイメイの言うことがこれまた事実だったからなのが理由。
だから、フェイトちゃんは自分の手を取ってくれなかったんじゃないかということ」

「そんな・・・あの、違いますっ! 私、そんなつもりじゃないですっ!!」

「もちろん、恭文くんだってそこはちゃんと分かってる。分かってるけど、噴き出した疑問の勢いが強くて、どうしても消せなかったらしいの。何度も、何度も言い聞かせた。だけど、ダメだったそうよ。
まぁ、ここは当然よね。フェイトちゃんどうこうと言うより、リンディさんやアルフに局のそれまでの対応で、図らずともフォン・レイメイの言葉が証明されたのと同じですもの。人を殺した自分を、光の中の人間は・・・」

「認めてない。いや、認めるわけがないっちゅうわけか。まぁ、そうやな。あないに頭ごなしに言われたら誰かてそう思うわ。そやからフェイトちゃんかてカチンと来たわけやし」



そうだね、フェイトちゃんかなり怒ってたから。恭文君や一緒に居たリインの気持ちを考えてないって。



「そして、今も二人は恭文に殺した事を忘れる事を・・・下ろして、自分達と同じになることを望んどる。恭文も、薄々は気づいとるんやろ」

「・・・はやてちゃん、それはどういうことですか? 私、それは初耳なんですけど」



そうして、簡潔に話してくれた。恭文君を六課に入れたのは、戦力補強であると同時に、恭文君を局員にするという考えがあったことを。

まぁ、考えと言ってもリンディさんがはやてちゃんにそうなるように説得して欲しいとお願いしただけなんだけど。・・・というか、知らなかった。そんなことがあったんだ。



「変わる事を望むっちゅうことは、どこかで今を否定しとるのと同じや。これはどう言おうと言い訳なんて出来ん」

「ですが主、蒼凪は・・・」

「忘れて、下ろして局員っちゅう形は無理やろ。アイツはほんの一ヶ月とか二ヶ月前に、そうなった奴の末路を、それも最悪の例を見とるんよ?
絶対出来るわけが無い。うちやったら無理や。せやけど、リンディさん達はそんなことにはならない、大丈夫やからと言うとる。当然軋轢が生まれる」



な、なんと言うか、厄介なタイミングで厄介な問題が重なって・・・それなんだ。



「とにかく、それらで恭文くんには疑いが出来た。光の中に居る人間に対して疑いを持ち始めた。自分を受け入れるわけがない、好きになるわけがないという疑い。
それだけじゃなくて、自分という存在や、今居る場所への疑い。そんなところにティアの問題よ。囮デートやパンフレットの写真撮影で仲良くなって・・・それで、ティアがこう、ちょっと積極的になってるじゃないですか」

「あぁ、なってるなぁ。なんかデートに誘ったけど断られたらしいけど」



それでティア、すごく落ち込んでたっけ。もう、スバルが気にするくらいに。



「でも、恭文くんはさっき話したように、自分や、フェイトちゃんに振られたという事実のせいでティアの気持ち・・・というより、私みたいに自分に好意を持っている人間への気持ちに疑いを持つようになってるんです。
本当に自分を認めているのかと、強く。元々、あの子はそう言う部分が少なからずあった。身長の事とか体型の事とか・・・フェイトちゃんとの事とかで、そういう部分は強くあった」

「そして、JS事件の一件でそれが加速度的に悪化したと」

「はい。そして、それが余計に恭文くんの気持ちを傷つけているんです。好きだと言ってくれてる人に、自分に手を伸ばしてくれる人に対して、疑いしか持てない自分が嫌で、嫌いで、否定したくて・・・」



でも、どうしても消えない。分かってるはずなのに、理解してるはずなのに、心が止まってくれない。

目にした現実が、求められている事で否定されている今が、全てを証明しようとしているから。



「結果、糸が切れる直前だったので、しばらく自宅療養という形にしました。なお、異論は認めません」

「あぁ、えぇよ。異論をぶつける気はないし。・・・しかし、それはまた厄介やなぁ。まさかフェイトちゃんがここで手の平返して付き合うわけにはいかんやろうし」

「ただ、1番いいのはそれなんです。フェイトちゃんにそういう形で改めて認めてもらえば、多分すぐによくなるかなと。ただ・・・フェイトちゃん的にはダメ、なのよね」



フェイトちゃんはみんなの視線を集める中・・・コクンと、頷いた。



「あの、弟として・・・が、私の答えなんです。すみません、ダメ、なんです」

「あぁ、もうそないに泣きそうな顔する必要ないやろ? もう大分前のことなんやし、フェイトちゃんのことは話聞く限りめっちゃ遠因やんか。アイツがこんがらがってる中で持ち出してきただけやろ」

「そうよ。ただ、恭文くんにはそれを言ったらだめよ? 更に追い討ちをかけることになるから」

「・・・・・・はい」



・・・でも、それならどうすればいいんだろ。私やフェイトちゃん、ヴィータちゃんも言ってきた。大丈夫だから、変えないし変わらないからと。

でも、それが出来ない・・・もっと言えば、恭文くんを認められない人も居る。それも、事実。そんな中で、どうすればいいんだろ。



「私が蒼凪とタイマンで憂さを解消するというのは」

「・・・お前、バカだろ。根本的な解決になってねぇって。なぁ、やっぱりアタシ達以外でアイツのこと、ちゃんと人を殺した事とかも含めて、認めていくって方がいいんじゃねぇのか?
アタシ達はなんだかんだで付き合い長いだろ? 多分、アタシ達が認めても効果が薄いのは、元々知ってたからってのが大きいと思うんだよ」

「まぁ、フェイトちゃんがもうちゃんと答え出してる以上、それしかないわな。でも・・・」



時間はかかる。というか、そんなに都合よくそんな相手が居るわけがない。

ティア・・・あぁ、ダメだ。実際ティアは知らないもの。もしこれで知って、距離を取られるようなことになったら・・・かなりまずい。



「そうすると、ヤスフミは」

「しばらくは戦闘関係の事は許可出来ません。あと、人間関係が関わってくる事務仕事もですね。自宅でゆっくり療養。そうして少しずつ・・・です」



つまり、戦力から外れるということだね。でも、仕方ないかも。さすがにそんなギリギリな状態で戦闘なんてしたら・・・。

まずい、想像して寒気がした。



「つーか、出せんって。アイツ、タダでさえ普段から無茶しまくるのに」

「ギンガの一件なんて一例だ。アイツ、下手したら自分の命や身体のことなんて全く考えないで戦うぞ?」

「それではなのは二号ではないか」

「ちょ、シグナムさんっ!? それはどういう意味ですかっ!!」



とにかく、自分に疑問を持っているということは、自分を軽視している傾向もあるかも知れない。そうなったら、どんな無茶するかわからないよ。



「・・・私、何も出来ないですよね」

「そうね。フェイトちゃんが原因の一つとして絡んでいる以上、それはやめて欲しいわ。それになにより、あの子が自分を求めてきても、頷けないんでしょ?」

「・・・・・・はい」



ここは、仕方ない。だって、昔のことなんだから。私達も無理は言えない。



「私、本当に・・・だめ、ですよね」

「フェイトちゃん?」

「私、ホントにだめだった。おかしいところ、おかしくなる要素、たくさんあったのに、ちゃんと気づいてあげられなかった。
パンフレットの撮影だって、もし今の話通りなら本当に嫌で堪らなかったはずなのに、いい話なんだからって浮かれて・・・私、ほんとにダメだ」

「今そないな事言うてもしかたないよ。言わんかったアイツかて悪い。とにかく、フェイトちゃんはノータッチや。
まぁ、かなり辛いかも知れんけど、ここは絶対に踏ん張らなあかん。恭文のこと、これ以上傷つけたくないやろ?」

「・・・・・・うん」



うー、やっぱり色々と追い詰める状況が重なってたんだ。そう言えば、あの撮影だって身長の事とかそういうのが原因だったわけだし・・・余計にダメージ来たんだ。私も反省だよ。どうして気づいてあげられなかったんだろ。

今の恭文君を否定するものは、本当にたくさん。理由は身長のことやフェイトちゃんのこと、昔のこと。でも、認めて、受け入れるものは・・・もしかしたら、少ないかも知れない。私達だけじゃ、だめかも知れない。



「ただね、フェイトちゃん」

「はい」

「大分落ち着いてきたら、話はしてあげて欲しいな。あなたにとっての恭文くんへの好きという気持ちの意味と、これからどうやって姉弟をやっていくかということについて。
ゆっくりとでいいから、あの子の疑いを解く手伝いをして欲しいの。今の恭文くんはね、本当にあなたと付き合いたいわけじゃないと思うんだ」

「え?」

「まぁ、確かに多少、そういう気持ちは残ってるかも知れないけどね。ただ・・・今回の事は、本当にいろんなことが悪いタイミングで重なり過ぎただけなの。
それで自分だけじゃなくて、周りの人達や、過去のことにまで疑いを持ってしまうくらいに心が疲れてしまっただけなの。そこだけ、分かってあげてくれないかな?」



優しく、安心させるように、シャマルさんの言葉は続く。フェイトちゃんは、ただ・・・少しだけ泣きそうな瞳を向けるだけだった。

でも、届いてはいるらしい。さっきまで出ていたどうしようもない悲しさや苦しいものが、少し薄れていたから。



「大丈夫、あの子はちゃんと分かってる。分かった上で、あなたと姉弟として付き合っていきたいと思っている。それだけは確かだから」

「・・・はい」

「とにかく、恭文は当分の間戦力外や。下手すると解散まで来れんかも知れん。で、みんな分かっとると思うけど」

「はい。リンディ提督やハラオウン家の人間には内緒・・・ですね」



つまり、フェイトちゃん以外・・・ということだね。



「そうや。これでまた局員なるならん言う話したら、アイツマジで全部放り出して失踪しかねん。最悪、どっかの世界に数ヶ月避難くらいさせるで」

「了解しました」










・・・・・・というかさ、恭文君。どうしてこんなことになる前に相談、してくれなかったのかな。





苦しかったはずなのに、ずっと一人で抱えてたなんて・・・。もちろん、私達も気づいてあげられなかったから何も言えないんだけど。





というか・・・ごめんね。気づいてあげられなくて、ごめん。サインは出してたよね。あの時・・・医務室で撮影の事を話した時に出してたのに。あんな目、普通なら絶対しなかったのに。





本当に、ごめん。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・リイン」

「はいです?」

「なんというか、ぎゅーってしてて大丈夫?」

「大丈夫ですよー。ふふ、リインなりの癒しなのです」



そうだね。癒される。すっごく癒される。



≪端から見るとロリコンですけどね。というより、これはリインさんルートでしょ≫



・・・・・・気にしない。



「アルト、ごめん。僕・・・」

≪いいですよ。・・・もうどうしようもないくらいに疲れちゃったんでしょ? だったら、そう言う時はしっかり休みましょ。
というより、元々療養が必要な状況で呼び出したあのアホ提督共がダメだったんですよ。しっかりと休みを堪能させてもらおうじゃないですか≫

「・・・うん」



というわけで、ソファーでリインを後ろから抱っこして、癒されてる。あぁ、幸せ。すっごい幸せ。

・・・リインは、怖くない。心と心が繋がってるから。疑いの気持ちは、出てこない。素直に手が取れる。



「ふふ、恭文さんがこんなにいっぱい甘えてくれるのは嬉しいですー♪ まぁ、病気が原因なので、あんまり喜んでばかりもいられないのですが」

≪やっぱり、これはリインさんルートの展開ですって。ダメですって≫

「・・・それでもいいかな? ほら、タイトルなんて管理画面に突入して変えればいいだけだし」

≪ダメですよ≫



やっぱりか。まぁ、分かってた。



「とりあえず、先のこととかは置いておくです。今は、ゆっくり休んで、元気を回復です。それから、少しずつ、少しずつ考えましょ?」

「うん。あの・・・ありがと」

「大丈夫です。というわけで、もっと甘えてくださいですー♪」

≪・・・・・・やっぱりロリですか≫





・・・いいの。ロリでもいいの。リインと居るのは、安心出来るから。

そんな事を思っていると、またテーブルの上のパンフレットが目に付いた。でも、すぐに視線から外す。

開けたくない。見たくない。そんな感情しか出てこなかった。だって・・・アレには、嘘の僕しか入ってないから。



ティアナと仲直りしたかったのは本当。でも、多分写真を取ってる時に笑ってたのは、嘘。スイッチが入ったおかげで楽しそうな顔、してるように見せただけなんだから。





「・・・リイン」

「はいです?」

「もっと癒してもらっていい? なんて言うか・・・こう、僕、こういうの飢えてたのかも」

「はいです♪」



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・恭文、病気かぁ。大丈夫かな」

「どうでしょうね。てゆうかアンタ、ここ最近アイツと空気微妙だったくせに、心配なの?」

「心配に決まってるよ。その・・・友達だから」

「そっか」



今日の仕事は終った。終ったんだけど・・・気分が憂鬱だ。

アイツ、病気って・・・無期限の自宅療養って、何があったのよ。隊長陣はみんなだんまりだし。エリオやキャロも心配してるし。



「・・・・・・よし」

「ティア?」

「私、ちょっと出てくるわ」

「え? あの・・・ティアっ!?」










だって、その・・・心配なのよ。その、ここ最近話したりとか出来なかったけど、それでも、心配。





そう思って、改めて気づいた。やっぱり、アイツのこと好きになりかけてることに。やっぱり、惹かれてる・・・んだよね。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・うーん」

「どうしたの?」

「いっこうにエロに発展しないのです。リインは必死で誘惑してるのにです」



とりあえず、リインを抱いていた腕を外して、頭をぐりぐり・・・。



「痛いー! 痛いのですー!! うー、暴力反対なのですー!!」

「だから・・・犯罪だからダメって言ってるでしょっ!? 僕に捕まれと言いたいのかっ!!」

「じゃあ、犯罪じゃなかったらいいのですかっ!?」



そう言われて止まる。・・・犯罪じゃなかったら、どうなんだろ。僕はその・・・リイン以外の誰かとそうなるのとか、全然考えられなくて。というか、考えるのが辛くて。

でも、リインは・・・こう、平気で。つまり、その・・・『犯罪じゃない=ロリコンじゃない』という図式が成り立つってことでしょ? あ、大丈夫だ。



「・・・・・・って、待てぇぇぇぇぇぇぇっ! 僕ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

≪あぁ、やっぱり理性が邪魔しますか。そうですよね、当然そうなりますよね≫

「うん、邪魔した。すっごい邪魔した。さすがにそれは・・・って、止めた」

「なんで止めるですか。リインはいつでも恭文さんへの愛でいっぱいなんですよ?」



そうだね。よく分かってるよ。でも、僕の理性もいっぱい邪魔したんだよ? そこも分かって欲しいな。

あー、やばい。やっぱり僕ダメなんだ。こんなこと考えるのはそうとうヤバイんだ。もうブッチギリだし。というか、もっと他に・・・あ。



「・・・・・・リイン」

「はいです?」

「イギリス行こうか」

「却下です」



そっか。却下・・・って、なんでっ!?



「そこでフィアッセさんに行っちゃったら、ギンガルートの焼き増しじゃないですかっ! 意味ないですよっ!?」

「なんでそこでギンガさんの名前が出てくるのっ!? 僕、ギンガさんとそうなるつもりも予定も可能性も無いしっ! てゆうか、ルートって言うなー!!」

「じゃあ、どうしてフィアッセさんなんですか?」

「なんか、こう・・・会いたくなったの。その、勝手だけど」



心配、かけてただろうし、その・・・近況報告くらいはしたいなと。

JS事件が終ってから送ってきたメールにも、結局返信してないし。というか・・・する気が、起きなかった。



「なら、あとでメールするですよ。今の状態なども報告して、それでコミュニケーションです」

「・・・うん、そうする」





でも、その・・・怒ってるよね。うぅ、どうしよう。



なんて考えていると、チャイムが鳴った。・・・誰だろ。いや、まだ時間的に遅くはないんだけど。




「あ、リインが出るですよ。恭文さんは、そこでゆっくりしてるです」

「うん、お願い」










・・・・・・とりあえず、思い立ったが吉日ということで、フィアッセさんにメールを打ち始めた。





少し怖いけど、それでも・・・必要と思ったから。ごめんなさいという言葉と、今の近況について、簡単に打つ。





甘えなさい・・・か。少しだけ、そういうのも必要なのかな。なんだかこう、自分でもおかしいくらいに力が出なくなってるから。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



インターホンを押してから数秒後。とたとたという足音が聞こえて、ドアが開いた。





だけど、そこに居たのは・・・あれ? いない。










「ティアー、下ですよー」



その言葉に視線を向けると・・・あ、リイン・・・曹長っ!? え、なにやってるんですかっ!!



「恭文さんとラブラブしてたのです」

「・・・え?」

「まぁ、もちろんエロは抜きなのです。うー、リインも早くティアみたいな大人になりたいのです」



あ、そっか。さすがに・・・ない、わよね。年齢が年齢なんだし。



「ティアは、恭文さんにご用事ですか?」

「はい。あの・・・病気で無期限の休養って聞いて」

「うーん、今は会わせたり出来ないのです」



え? あの・・・そんなに悪いんですか?



「そうじゃないのです。・・・ティア、恭文さんはティアと居る時、笑いますか?」

「それは、まぁ」



一応、笑う。まぁ、いたずらっぽかったり、ツンデレって私の事からかって楽しそうだったり・・・かな。

デートの時も同じだ。アイツ、始終笑ってくれて、ちゃんとリードしてくれて・・・嬉しかったかな。



「でも、恭文さんはそれを嘘のものだと思ってるです。ティアと居る時の笑いは、そうなる感情は、全部作り物だと思ってるです。だから、パンフレットも見れないのです。あんなに素敵なのに」



・・・・・・え?

パンフレットって・・・あれよね。てゆうか、作り笑いってなに? アイツ、そんな器用な事が出来るわけがないし。



「ティア、ここまで来てくれて申しわけないのですけど、帰ってもらえますか? 今、恭文さんはティアと居ても・・・きっと、辛いだけなのです。ちゃんとティアと居る時の自分の気持ち、信じられないのです」

「・・・あの、リイン曹長。それだと意味が」

「お願いです」



ペコリと、リイン曹長が頭を下げる。そこから、今は会わせる事が出来ないという意思が感じられた。

きっと、通してくれない。それだけは伝わった。だから私は・・・。



「わかり、ました」



こう、答えた。会いたかったけど、ダメなだけの理由があるんだろうと、無理矢理自分を納得させて。



「ごめんなさいです。・・・あ」

「なにか?」

「会うのはダメですけど、普通に『大丈夫?』というようなメールなら、オーケーですよ。返事が来るかどうかは、恭文さん次第ですけど」



その言葉に、私は頭を下げる。感謝の気持ちを込めて。

それだけで、いい。今は・・・それだけでいいや。



「ただ、頑張ってとか励ますような言葉はNGなのです。きっと辛くなりますから」

「それだと・・・うつ病、とかなんですか?」





うつ病というのは、簡単に言えば本当の意味で無気力状態になること。動く事も、働く事も、なにも出来なくなる状態。

本当の意味で無気力と言うのは、例えば・・・自殺とか、そういうことも出来ない状態。自分で死を選ぶのも、エネルギーが要るからというのが、その理由らしい。

そんな時に『頑張って』などと言うと、それが出来ない状態なのを気に止んで、相手を返って追い詰めることになるというのは、結構有名な話。



・・・嫌いな相手がうつ病になったからって、試しちゃだめよ? 洒落が効かないんだから。





「うーん、それとは違うのですけど、恭文さんはちょっとお疲れさんなのです。だから・・・という感じです」

「分かりました。じゃあ、普通に一言二言、アイツが返事をするのが負担にならない感じで」

「はい。それでお願いしますー」










・・・・・・それで、私はそのまま戻った。リイン曹長に入り口から笑顔で見送られながら。





ねぇ、どうしちゃったの? 何が、あったのかな。





どうしよう、聞きたい事がたくさんある。でも・・・だめだ。下手に踏み込んだら、きっと遠ざけられる。





メガーヌさん、確かにあなたの言う通りかも知れないです。やめておいた方が、いいかも知れない。でも、止められない。止まらないんです。





答えがどうであれ、私を見て欲しいって、心が叫んでるんです。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・それから、数日。ゆっくりとだけど、ティアナとメールのやり取りをするようになった。本当に、簡単に。





おはようとか、訓練でなにしたとか、家でどんなご飯作ったとか、おやすみ・・・とか。

普段の会話量よりずっと少なくて、不謹慎だと思ったけど、会ったりするよりずっと楽だった。てゆうか、なんで僕・・・ティアナのこと、こんなに気にしてるんだろ。

最初に来た時は返事するかどうか迷ってたけど、その・・・丁度フィアッセさんから僕の送ったメールの返事が来て、またそれの返事を書いてた時に来たから、つい・・・送った。





季節はすでに12月に突入。もう、隊舎ではヒロさんとサリさんが来てから三日も経ってないのに暴れてるとか。大変そうだなぁ。










≪まぁ、私達には負けると思いますけどね。・・・自宅に居られなくなるってどんだけですか≫

「言うな。何も言うな・・・」

「クロノさん、真面目にKYなのです。真面目にヒドイのです」





現在、僕とリインは隊舎の近くで、はやてが手配してくれたキッチン付きのマンスリーマンションに居る。

理由? あははは、とまとFS17話を見てもらえればわかると思うな。



・・・クロノさん、覚えておけ。あの確実に悪夢を見れる留守録メッセージだけで許されると思うなよ。





「でもでも、ヒロリスさんは色々怯えてるらしいですよ?」

「なんで?」

「あの撮影が原因で恭文さんがこの状態だと思って、いつ張りつけにされるのかと怯えてるそうなのです」



・・・・・・そんなこと気にしなくていいのに。まぁ、ダメージデカくはあったけどさ。

あ、またティアナからメールだ。えっと、なになに?



「・・・ぷ」

「どうしたですか?」

「いや、これ」





写メールだった。それは・・・訓練終わり、クレーターに埋まるエリオの図。そして、AMFの完全キャンセル化想定訓練で、サバゲー同好会の方々に追い回されて半泣き状態のフェイトの図。

どうやら、本当にしごかれているらしい。大変そうだと、ちょっと笑った。

・・・あ、笑った。リイン以外のことで、なんか・・・笑えた。



なんだろ、ちょっと嬉しい。





「訓練、楽しそうですね」

「そうだね。まぁ・・・僕も軽くやってはいるけどさ」





ランニングに素振り。あと、リインと魔法理論のお勉強。基礎程度はこなしている。これも結構楽しい。



静かで、静かで・・・なんだろ、少し心が落ち着いてきたように感じる。





≪でも、油断は禁物ですよ? 治ったと思った所で復活すると再発・・・というパターンは多いですから≫

「ですです。何事もじっくりですよ」

「そうだね、そうする」





・・・で、リイン。なんでメイド服? それもシックな黒基調の比較的地味なやつ。もちろんロングスカートで、フリフリつきの白のカチューシャまで付けてる。





「恭文さんを悩殺するためです♪ ふふふ、最近流行のちょっと派手目なミニスカよりもこっちが好みだと言うのは、調査済みなのですよ」

「・・・8歳の子どもに悩殺はされないから」

「どうしてですかー!!」



というか、夕飯の買い物・・・よし、僕が行こう。



「え、でも当番はリインじゃ」

「リインが今出たら、危ない人達のターゲットにされちゃうよ。そして、着替えている間にスーパーのタイムサービスが終る」

「うー、それは失敗ですー。愛ゆえに道を踏み外したのですー」










なんだか落ち込んだリインは放置して、僕は夕飯の買出しに出た。





なお、今日のメニューは肉野菜炒め。ちょっと体力使うけど、チャレンジしてみたくなったのだ。ここのキッチンは料理上手なはやてが選んだおかげか、とてもいい感じみたいで火力も高いのだ。・・・うし、頑張ろう。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・お肉よし、野菜類よし。あまった野菜は、明日スープでも作ってそれに入れればいいし、無駄はないね。





夕方の風を切りながら、海の風を少しだけ感じながら、帰宅時間ということで賑やかな商店街を歩く。うーん、いい感じだなぁ。というか、こういうの結構久々かも。





世界や、人から、少し離れるだけで、気分が変わる。僕、どうやら一人になると元気が蓄えられるタイプらしい。いや、人と居ても楽しいけど。










「・・・・・・でも」





商店街を歩きながら、つぶやく。ちょっと、寂しいなと。



二人にはあぁ言われたけど、やっぱり・・・隊舎、行きたいな。うー、あんなに辛かったはずなのに。でも、心配はかけてるだろうし、顔見せとか、必要かな。



そんな風に少し考えていると・・・視線が合った。前から歩いてきた女の子と。というか、ツインテールの女の子。僕の、よく知っている顔。





「・・・・・・アンタ」

「・・・・・・ティアナ」





当然、次はこうくる。





「「なにしてるのっ!?」」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・へぇ、夕飯の買出し。なんだ、元気そうじゃないのよ」

「最近大分持ち直してさ。そういう・・・ティアナは?」

「うん、ちょっと私物の買出し。まぁ、もう終ったところだったんだけどね」

「そっか」





そのまま、僕の家(仮)まで歩く。というか帰り道がそこまで一緒なのだ。



でも、どうしよう。なんか・・・だめ、苦しい。僕、上手く笑えてる自信ない。なんかぎこちない感じがする。





「あのさ」



夕日に照らされて、オレンジ色の髪がその色を増しているのが分かる。なんでだろ、綺麗とかじゃない。ただ、なんの理由も無しにそれは苦しさに繋がる。

胸、苦しい。締め付けられて、呼吸が出来なくなるように感じる。



「そんな、無理・・・しなくていいわよ?」

「え?」

「別に、いつも通りじゃなくていい。今、アンタは病気なんだから。無理に笑おうとしたり、私の調子に合わせようとしなくていい。大丈夫だから」

「・・・・・・うん」



その言葉に、少しだけ苦しさが抜ける。抜けて・・・呼吸が出来るようになった。

でも、残る。苦しさはまだ残る。怖い気持ちも、出てくる。



「メール、ありがと」



それでも、必要なことだから言った。ティアは小さく首を横に振って『ううん』と、言ってくれた。

そのまま、無言で歩く。喋らなくていいから、少し、楽。



「夕日、綺麗・・・よね」

「そうだね」



本当に、そんな簡単な言葉を交わす。これは、大丈夫みたい。



「あー、それと・・・スバルのことなんだけど」



・・・・・・うん。



「あの子ね、アンタに会いたがってた。それで・・・謝りたがってるから」

「え?」

「いやさ、ヒロリスさんが初めて隊舎に来た時、アンタの過去のこととか聞こうとしたのよ」



胸が、また苦しくなる。怖い感情が、奥底から更に溢れてくる。・・・なんで、そんな話を。



「それで、ヒロリスさんと色々話して・・・反省したって」

「なにを?」

「アンタの事、ちゃんと分かろうとしてなかったって。目の前のアンタの事をただ否定して、どうしてそうなるのか、知ろうとしてなかったって。
・・・まぁ、落ち着いたらでいいから、話、してあげてよ。スバルはさ、アンタとちゃんと向き合いたい、知っていって、ちゃんと繋がりたいって思ってるから」



・・・・・・嫌だ。話したく、ない。

話したく、ない。そんなの、嫌だ。話したら、また・・・嫌だ。



「・・・・・・大丈夫だから」



ポンと、頭に何かが乗った。暖かくて、柔らかくて、優しい感触。そのまま・・・歩きながら、撫でてくれる。



「アンタがね、何をそんなに怖がってるのか、何で・・・そんなに怯えてるのか、わかんない。
だって、勝手に調べるつもりもないしさ。アンタが話してくれないとさっぱりだもの。でもね、これだけは、覚えてて欲しいんだ」





夕日に照らされ、そのまま・・・ティアナが、言葉を続ける。





「私は、味方だから」



なんでだろう。それが・・・胸を貫いた。だから、なのかも知れない。



「・・・・・・嘘」



その言葉を、壊したくなったのは。



「嘘じゃないわよ。絶対に、嘘じゃない」

「嘘、だよ」



その想いを、試したくなったのは。



「じゃあ」



だから、爆弾を投げた。



「僕が、人を殺したって言っても・・・味方で、居てくれる?」










ティアナは目を見開いた。そして、足が止まった。










「一人じゃない。一度じゃ・・・ない。この手で、命を、そこから続くはずの時間を奪った。奪って、壊した」

「アンタ・・・」

「それでも、味方で居られる? ・・・居られるわけ、ないよね」





スバルは、怖がってた。同じで居ようと言っていた。リンディさんや、アルフさんと同じように。



光は、その中に居る人間は、僕を認めない。そうだ、アイツの・・・言う通りだ。





「怖いよね。怖くないわけ、ないよね」





でも、フェイトになのはにはやてに師匠達は、認めてくれてる。それは分かる。でも、そうじゃない人間も居て・・・。



よく、分からない。もう、よく分からない。





「ごめん、もう帰る」










そのまま、歩き出した。ティアナを置いて、一人で。





ティアナは、そのまま・・・だった。





僕、最低だ。手を、振り払った。ティアナは、ただ安心させようとしてくれただけなのに。





本当に・・・最低だ。あの撫でてくれた手の感触で、暖かさで、伝わったもので・・・ティアナの言葉が嘘なんかじゃないって、分かってたはずなのに。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



≪最低ですよね≫

「最低ですよ。ティア、きっとびっくりして動けなくなっただけなのに」

「・・・ごめんなさい」





家(仮)に帰って、肉野菜炒めを作り、リインと食べている。でも、すごく反省モード。



それは・・・二人に話したから。というより、様子がおかしいと言われて、吐かされた。





「とにかく、やっぱりお休みはしばらく継続ですよ。まだ本調子じゃないから、そうなるです」

「うん・・・」

≪やっぱり、イギリス行きます? そうすれば万事解決ですよ≫

「だめです。そうしたらギンガルートと被るです。そして、フィアッセさんルートが開設してしまいます」










だから、この間から一体なんの話を・・・。





ティアナ・・・ううん、もう考えるのやめよう。





というか、今はやめよう。やっぱり、僕は今いろんな意味で本調子じゃないのかも知れない。少し、落ち着いてゆっくり考えていく事にする。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



人を、殺した。





あの小さな手で、人の命を、奪った。





・・・・・・わかんない。





それだけ言われても全然、わかんないわよっ! アンタがそれをどう思ってるのかとか、どうしてそうなったのかとか、聞いてないのにそれだけで判断出来るわけないでしょっ!?










「・・・あぁ、もういい。決めた。もうめんどくさい。もうやってらんない」





そもそも、こう・・・ちまちまとしたの嫌だったのよ。半月近くあの状態だし、その・・・ダメージデカそうだし。



こうなったらもういい、突撃・・・あるのみよ。そうよ、私は突撃バカ。突撃バカ万歳よ。





「というわけで、明日お休みください」

「・・・・・・いや、独り言言うだけ言っていきなりそれかっ!? アンタ、段々恭文に行動が似てきたなっ!!」

「いいんですね、ありがとうございます」

「うちはまだ何も言うてへんやろっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



そして、翌日。いつものように規則正しく起きて、野菜スープを作ったりして、ご飯を食べて・・・後片付けをしていると、ピンポーンというチャイムの音。





リインはお通じ中なので、僕が出る。出て・・・閉めた。










「閉めんじゃないわよっ!!」





そう、ティアナだった。なお、そのまま強引に入り込んできた。



くそ、チェーンはしておくべきだった。てゆうか・・・あの、どったの?





「答え、言いに来たの。アンタが人を殺したのに、味方で居られるのかって言う質問の答え」

「へ?」

「悪かったわね。あの・・・即答出来なくて。ただ、いきなりでビックリした私の心情も理解してもらえると助かるわ。というわけで・・・言うわね」





あ、あの・・・ティアナさん? お願いだから僕の話を聞いてくださると助か・・・。





「・・・・・・あれだけで分かるわけないでしょっ!?」





玄関なのに、ちょこっとドアが開いてるのに、すごい声で叫んだ。というか、耳がキーン・・・って。





「いきなり買い物帰りに人殺しましたってカミングアウトされて、100%な答えが出せるほど私は頭よくないのよっ! アンタ、私の事をツンデレってだけじゃなくて、エスパーかなんかと勘違いしてないっ!?」

「だー、大きな声出すなっ! ご近所迷惑でしょうがっ!!」

「うっさいこのバカっ! アンタのバカさ加減に比べたら、迷惑でもなんでもないわよっ!! だから・・・その、えっと・・・! ちゃんと全部話しなさいよっ!!」





そのまま、ティアナが顔を近づける。そして・・・ジッと、僕を見る。



そこで気づいた。瞳に、涙が・・・溜まってた。





「ちゃんと話してくれなきゃ、分かるわけ・・・ないじゃない。知りたいって思っても、それだけじゃダメなのよ。
ちょっとだけでもいい、アンタが手を伸ばしてくれなかったら、私だって、スバルだって、みんなだって・・・信じられるわけ、ないわよ」

「ティアナ・・・」

「だから、話して。私はちゃんと聞く。それで今・・・何か苦しんでるなら、力になる。アンタの事、絶対に助ける。言ったでしょ? 私は、味方だって」





あの・・・えっと、その・・・。





「・・・・・・分かった」

「最初から、そう言いなさいよ。・・・バカ」










こうして、ティアナを家に上げて・・・ソファーに隣同士で座って、全部、話す事にした。





まぁ、自業自得なので、頑張る事にした。なお、リインとアルトは・・・。










「お邪魔だと思うので、隊舎に避難してるのです」

≪あ、夜まで帰ってきませんから、ごゆっくり≫











と、気を利かせて・・・くれなくていいのに。





とにかく、話した。少しずつ、本当に少しずつだけど、最近抱えてた重い物とかも全部、吐き出した。というか、吐かされた。・・・このパターン、多いな。










「・・・それで、アンタの中で色々ごちゃごちゃこんがらがっちゃって・・・これと」

「そう、だね。どうしても・・・一人じゃだめで、リインやシャマルさんに話して、自宅休養になった」



そして、自宅すら追い出される羽目になって、今はマンスリーマンション暮らしです。

なお、現在僕の自宅は家族五人が楽しく過ごしています。



「そっか。アンタ、マジで運無いわね」

「クロノさん、髪の毛全部手作業で引っこ抜いてやる。提督にはそういうことしても罪にならないって、伝説の三提督も言ってたし」

「物騒な事言ってんじゃないわよっ! あと、それやったら確実に罪になるわよっ!? ついでに三提督は絶対そんなこと言ってないからっ!!
・・・てゆうか、なんでもかんでも抱え込み過ぎるからそうなんのよ。少しくらい人に預けなさい」



ティアナの言う通りだから、なにも言えない。まぁ・・・反省した。

・・・・・・あれ、なんか平気だ。今、結構楽かも。ティアナと居ても、辛くない。



「でもさ、そこまで考えて、悩んで、潰れそうになって・・・アンタの中の意地や信念は、変わった?」

「変わって、ないかな」



気持ちが楽だから、吐き出して・・・距離感が変わってないのが嬉しかったのかどうかわからないけど、モヤのかかっていた部分が晴れた感じがする。

だから、言えるのかも。今まで怖くて、言えなかった気持ちが。



「やっぱり、忘れたり、下ろしたく・・・ないんだ。例え一人ぼっちになっても、例え皆とは一緒に居られなくて・・・認められなくても、それだけはしたくない。きっとそうしたら、アイツみたいになる」

「そうならないってみんなに言われても? きっとなのはさん達なら、そう言うと思うけどな。実際どうなるかは別として、それも道の一つだと言うために」

「言われても、だね。あんな風には、絶対になりたくない」



一言だけそういうと、ティアナは納得した顔で『そっか』と返してくれた。

もう、日が完全に昇ってる。昇ってるから・・・窓から光が差し込んで、少しまぶしい。



「私・・・実はね」

「うん?」

「あ、今度は私の話。・・・いいかな?」



僕は頷いて大丈夫と答える。



「ありがと」



すると、ティアナはゆっくりと、一言お礼を言ってくれてから、話し始めた。



「アンタより重くないけど、そういうのあるの。前にもちょこっと話したけど、魔導師として凡人・・・とか。それでなのはさん達とやり合ったりしてね」



あぁ、あの『高町なのは様降臨事件』か。あれはどう考えても『割合的に』なのは達の方が悪いと思うんだけどなぁ。だって、ありえないもん。すっごくありえないもん。

まぁ、黙って無茶したティアナも悪いとは思うけど、仲良しこよしはマズいでしょと、ちょっと思ったりもした。



「あと、最近思うのは、私はどうも女の子としても凡人だなぁ・・・と。
いわゆるコンプレックスって言うの? 私にもあるわけよ。だから・・・ちょっとだけ分かる」



また、ティアナは僕の頭に手を乗せる。右手を優しく乗せて、撫でてくれる。



「嫌、だったのよね。身長の事とか、体型の事とかであれこれ言われるの」

「うん」



だからなのかな。



「悲しかったのよね。フェイトさんと、大好きな人と繋がる事が出来なくて」

「・・・うん」



素直に、思っている事を吐き出す。




「苦しかったのよね。フェイトさんの事もそうだし、忘れろ、下ろせ・・・ようするに変われ、いらないと言われる理由が、自分のそんな部分じゃないかという声がして」

「・・・・・・うん」



ティアナに、僕の隣に居る女の子に、吐き出す。



「怖かったのよね。どんなに耳を塞いでも、自分にそれは違うと言い聞かせても、声が止まなくて」

「・・・・・・・・・うん」



リインやシャマルさんに言う時も、結構・・・勇気使ったのに。



「私も、同じだった。だから、本当に少しだけどわかるわよ? アンタの今の気持ち」

「・・・・・・・・・・・・うん」



なんだろう、なんか・・・涙出てきた。



「そんな声がしてると、誰の優しい、温かい言葉も、自分さえも信じられなく、なっちゃうよね。疑って、聞き入れられなくなっちゃうよね」



だめ、もう・・・止まらない。僕、泣いてる。



「それが嫌で、嫌で・・・堪らなかったのよね? 自分が本当に嫌な子になったみたいで、みんなに申し訳がなくて」

「うん・・・・・・!!」

「やっぱり、同じだ。・・・というわけで、ほい」



そのまま、ティアナは僕を抱きしめてくれる。というか、肩を・・・貸してくれた。



「言ったでしょ? 味方だって。泣いて、いいから。吐き出していいから」

「・・・・・・それなら、前にリインに」

「リイン曹長は関係ないでしょ? てゆうか、アンタは今泣いてる。で、ここには私しか居ない。だったら、その役目は私が引き継ぐの。だから・・・ほら」



優しく、また頭を撫でてくれる。ううん、両手を回して・・・抱きしめてくれる。

その感触に、身体が強張る。強張って、離そうとするけど・・・離れない。だって、ティアナが全然離してくれないから。



「大丈夫、怖がらなくていいから」



耳元から聞こえるのは、本当に優しい声。



「私、もうアンタが何を考えてたのか、どうしたかったのか、ちゃんと分かったわよ? だから、大丈夫」



それを聞いた途端に、身体の力が抜けてく。



「というより、怖がらないで欲しいな。私、フェイトさんに比べると・・・ホントにダメでさ、全然綺麗でもないし、胸だって大きくもないし、性格だってアレかも知れないわよ? でも、それでも・・・肩を貸すくらいは、出来るはずだから」



その言葉に、申し訳なさと後悔が出てくる。・・・ごめん。僕、またティアナのこと、傷つけた。ごめん。



「だから、謝るのもなし。・・・・・・あ、ちょっと力抜けたわね。うん、そうしてくれると嬉しい」

「ティア」

「ん、どうした?」

「怖く・・・ない?」



言葉を続ける。



「僕の事、怖く・・・ない? 僕の手、汚れてる。それにティアナやみんなと、違う。きっと、同じ道には、行けない」



僕の言葉に、小さく、本当にささやくような声で、ティアナは答えてくれた。



「怖く、ないわよ。怖がるわけ、ないでしょ? 同じ道とか、私達と違うとか、そんなの関係ない。アンタは、ただの怖がりなヘタレなんだから」

「・・・ひどいよ、それ」

「いいの。私も同じなんだから」

「そっか・・・」










それから少しだけ、ティアナの肩を借りて・・・泣いた。





ティアナは優しく、頭を撫でながら、ギュっと抱きしめてくれてた。





なんだろう。凄く、嬉しい。リイン以外の誰かに触れられるの、怖かったはずなのに・・・今は、それが嬉しい。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・目、赤くなってる」

「・・・・・・結構派手に泣いたから」

「てゆうか、声殺して泣くな。もっとわーって泣きなさいよ」

「ダメ出ししないで欲しいんですけど・・・」



数十分後。ようやく落ち着いたので、その・・・少し身体を離した。

やばい、離した時にすごい近くでティアナの顔見ちゃったからその・・・ドキドキしまくってる。



「・・・でも、大丈夫?」

「うん、その・・・なんか、すっきりした」

「そっか」



まずい、さっきとは違う意味で顔を合わせ辛い。というか、ティアナの方を見れない。



「うーん、でもちょっと予定が狂っちゃったなぁ」

「予定?」

「いやね、その・・・実はもっとアグレッシブな感じで頑張ろうかなとか思ってたのよ」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・ティア、あの・・・えっと」

「今日、私・・・そういう事があっていいつもりで来た。だから、好きにしていいから」





男の子を押し倒すなんて、思わなかった。私、こんなこと出来る女だっただと、ちょっとビックリしてる。





「ティア、どいて。僕怒るよ? そんなこと出来るわけ」

「じゃあどうすりゃいいのよっ!!」





部屋の中に叫びが響く。アイツ・・・びっくりした顔してた。





「私じゃ、こうでもしないとアンタの中のフェイトさんに勝てないっ! 私・・・普通にやったら絶対にアンタとの時間、掴めないっ!! でもそんなの嫌だっ! 絶対嫌なのっ!!
アンタが人を殺したとかそういうのは関係ない。ううん、そういうのも全部含めて・・・好き、なの。最悪、ずっと2番目でもいいと思ってた。私じゃフェイトさんに勝てないのは仕方ないって、分かってたから。でも・・・それじゃあ納得できなかった」





零れるのは涙。私の目から・・・ボロボロと涙が零れ落ちる。



だめ、全然・・・止まらない。





「・・・お願い、結果なんて約束しなくていい。そういう・・・身体だけの遊びな関係でもいい」





アイツの右手を取る。そしてそのまま・・・胸に当てる。



アンタの手、暖かいね。ううん、熱いくらい。だから、触ってて・・・なんだか、安心する。





「ただ、それでもいいから・・・私を、ティアナ・ランスターを女の子として見て欲しいの。アンタに私の事、女の子として・・・扱って欲しいの。アンタの側に居させて・・・欲しいの」

「ティア・・・」





だから、こう口にする。



私はこの瞬間、私の人生の中で・・・最大の勝負を、吹っかけた。





「もう一度・・・言うわよ? 私、アンタが好き。だから、奪う。私だけのアンタになって、もらうから」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・という感じで」

「アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! つーか、なにこれっ!? なんなのこれっ!! 普通に告白だよねっ!? 普通に告白だよねっ!!」

「いや、なんかこう・・・考えてたらこんな感じに」

「なるわけあるかいっ!!」



や、ヤバイ。なんか心臓がドキドキしてきたし。いや、違う。これは・・・違う。いきなりエロな事とか言われたからだ。もっと言うと、さっきギュってした時に意外と豊満な胸の感触をちょっと感じたからだ。

その、違う。絶対違うし。うんうん。



「まぁ、さすがにこれは冗談なんだけど」

「冗談なら言うなー!!」

「ごめんごめん。・・・ただ、さ」



な、なにかな。てゆうか、なんで顔赤いの? なんでそんな潤んだ瞳で僕を見るの?



「私、嫌いな奴はもちろん、ただの顔見知り程度にしか思ってない奴にこんなことするほど、お人よしでもないんだ。
アンタの事、好きには・・・なりかけてる。結構気になってる。もっと率直に言うと・・・アンタと男女の関係ってやつ? そういう風に付き合って、みたい」



どうしよう。言葉に詰まった。どう返事していいのか、わかんない。あの・・・その。



「あのね、急ぐ必要、無いわよ? ただ・・・ちょっとだけ、私との時間がありかなしかくらいは、考えて欲しいなというだけだから。まぁ、私じゃフェイトさんには、負ける・・・だろうけどさ」

「・・・・・・ごめん」

「ダメっぽい?」



いや、そうじゃなくて・・・あの、えっと・・・。

だめ、ちゃんと答えないと。その・・・不思議と気分はよくなってるんだし。



「そうじゃなくて、僕・・・ティアナのこと、傷つけてたよね。絶対、嫌な思いさせてた。撮影の時とかもそうだし、今までも。さっきだって、そうだよ」

「・・・大丈夫。まぁ、ダメージは少なくはなかったけど、アンタがマジで好きだったのは理解してるつもりだから」



でも、やっぱり申し訳ない。僕、本当にまだ・・・あの、考えられないし、どうすればいいのかもわからないし、それに、それに・・・。



「まだわからないってことは・・・好きになる可能性も0じゃないとは、思えないかな」

「え?」

「私もさ、まだなりかけみたいなもんで、アンタのこと・・・その、もっと知っていきたいと思ってる。だから、アンタにも私の事・・・知って、欲しい。分からないなら、知って欲しい」



少し、その言葉に考える。考えて・・・考えて・・・答えは、出なかった。

出ないならどうするか? 簡単だ、僕はバカだから結局・・・飛び込むしかない。



「ティアナ、それなら・・・あの、これから一緒に、出かける? 今日、一日休みなんだよね」

「それはいいけど・・・え、つまりどういうこと?」

「この間、誘ってくれたよね。だから・・・それ」



やっぱり、今更かなとか、遅いかなとか、いい加減過ぎるかなとか、色々考えた。考えている間に、ティアナは答えを出したらしい。

嬉しそうに微笑んで、頷いてくれた。



「ただ、アンタ大丈夫? だって・・・辛いよね」

「今なら、大丈夫。ティアナが、ちゃんと受け止めてくれたから。それに、その・・・少しだけ、頑張りたいんだ」



まだ、少し怖い。やっぱり、怖い。ティアナの気持ち、今話してくれたこと、疑ってる部分もある。どうして僕なのかと、疑ってる。

でも、本当にちょっとだけ、勇気を出して・・・伸ばしてくれた手を取りたい。このままは、嫌だから。



「わかった。なら・・・あの、軽めにね。・・・あ、それから」

「なに?」

「ティアで、いいわよ?」



・・・はい?



「だから、ティア。さっき、気づいてなかったかも知れないけど、アンタそう呼んでるわよ?」



なんだか嬉しそうにティアナ・・・ううん、ティアが言う。てゆうか、あの・・・そうなの?



「そうなの。それでその、私も名前で・・・恭文って呼ぶから。いつまでもアンタ呼ばわりじゃ、だめでしょ」

「・・・・・・ツンデレがデレた」

「アンタねぇぇぇぇぇぇっ! 人がかなりマジに話してる時にまたそれっ!? ありえないでしょっ!!」

「だってー、いきなり名前呼びが変わるのはデレの証拠だもんー」










・・・こうして、緊急なデートは始まった。とりあえず暗器類と基本装備は仕込んだ上で、僕はティアナ・・・じゃなかった、ティアと家を飛び出した。





勇気を出して、隣に居る女の子と一緒に歩く。気持ちは、不安は半分、楽しみ半分。やっぱり、不安は消えない。ちゃんと笑ったり出来るかとか、そういうのがある。





でも、楽しみも半分。だから・・・そっちに賭けることにした。




















(その3へ続く)




















あとがき



古鉄≪というわけで・・・あの、これフェイトさんが振られたIF話じゃなくてもよかったのではないかと思った、古き鉄・アルトアイゼンと≫

ヒロリス「えー、死刑へのタイムリミットが徐々に近づいているのに怯えまくっているヒロリス・クロスフォードです。ヤバイ、ヤバイよ。マジでヤバイよ。特にこの話の時の六課だよ。基本普通だけど、やっぱりやっさん居ないとつまんないのよ」





(最強の姉弟子、最強だけどやっぱり辛いらしい)





古鉄≪でも、あなたは遠因を作っただけで、結局はマスターの話ですし、これだと直接原因は家族ですよ? 問題はないでしょ≫

ヒロリス「それでもヤバイのー! なんか話聞いてやっさんごめんーってすっげーメール送ったのに返信こないのよっ!? ヤバイってー!!」

古鉄≪あの人判断力低下してますしね。現時点での作者と同じですよ。しかし、もう次回終りそうな感じですね。別に振られたという仮定のIFじゃなくても問題のない展開なのに≫

ヒロリス「だねぇ。これ、どうなんの?」

古鉄≪さぁ、私には分かりません。・・・というわけで、次回はデートですよ。さー、エロ来ますかね≫

ヒロリス「いや、さすがに無いんじゃないの? 有ったらビックリだよ。というわけで・・・本日のお相手はヒロリス・クロスフォードと」

古鉄≪古き鉄・アルトアイゼンでした。それでは・・・またっ!!≫










(そうして、なんかここだけは平和な感じでカメラがフェードアウト。
本日のED:中原麻衣『ロマンス』)




















ティアナ「私の心はーもう奪われてたー♪ 身体中あなたをーもーとーめてるー♪」

恭文「・・・ティアナ、なんで中原麻衣さん? なんでセレウィッシュガール?(スペルわかりません。教えてー)」

ティアナ「いえね、次回アンタに向けて歌うから練習しとけって・・・ちょっとまってっ! え、これ歌うわけっ!? 無理よこんなのっ!!」

恭文「なんて言うかそれ・・・結構ガチだよ? 恋の駆け引きしてるつもりが相手に根こそぎ釣られてましたーって歌だから」

ティアナ「そ、そうよね。てゆうか・・・この歌詞、マジもん?」

恭文「マジだよ。もうありえないくらいにガチだから。で、大人ーな描写もあるけど、読者のみんなも機会があったら聴いてみて? なお、中原麻衣さんの歌の中ではこれが1番お勧め」

ティアナ「まぁ、いい歌よね。でも、歌えないわ。私はこれをIFルートで相手がアンタだったとしても、男に向かって歌うほど勇気はないわ」

恭文「それで正解だと思うよ。だって、最後のサビの部分なんてもう・・・・アレだよ?」

ティアナ「そうよねぇ。・・・てゆうわけで、アンタ歌いなさい」

恭文「え、ティアナに向かって『身体中アナタを求めてる』って歌うの? さすがにそれは・・・」

ティアナ「このバカっ! 普通にそれはセクハラでしょっ!? あぁもう、アンタマジで最悪っ!!」










(おしまい)





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