小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説) 第26話 『あたしにとっての輝きの意味 私にとっての始まりの意味』:2 「・・・女の子に不意打ち二連撃って、鬼畜だよ。やや、恭文がそんな非道な子だと思わなかったー」 「それだけじゃなくて、最大火力で吹き飛ばすって・・・見なさいよ、このクーレター。どんだけ威力高めたのよ」 「蒼凪君、さすがにこれはやり過ぎじゃ・・・」 「ほしな歌唄、死んでなければいいのですが」 ・・・大丈夫だよ。ちゃんとその辺りのコントロールはしてるから。肉体を抜いて、ロストロギアへの直接的な魔力攻撃による封印処理。ここはリインとアルトのサポートでなんとかなってる。 まぁしかし、普通に処理が通用する相手でよかったよ。もうちょっと手こずる可能性も考えていたしさ。 【あむちゃん、やっぱり彼はだめよ。あんまりに女性に優しさがなさ過ぎるわ。しかも、自分だけ美味しいとこ取りですし。しかも、自分だけ美味しいとこ取りですし】 「はい、そこうっさいっ! 安全無事に確保のためなんだから、しゃあないでしょうがっ!! あと、二回も言わないでっ!?」 【ですですっ! リイン達だって頑張ってたから、即時鎮圧出来たですよっ!?】 【空気を読まなかったという考え方もあるわね。だってあれ、ゲームのイベントムービーの途中で攻撃したのと同じよ? 変身のプロセス邪魔したのと同じよ?】 とりあえず、意外と毒があると判明したダイヤは無視しつつ 【あむちゃん、やっぱり彼はだめよ】 「やかましいっ! つーか事態を凄まじくややこしくしてた最も足る要因のくせに文句言うなー!!」 【ですですっ! イルの話だとブラックダイヤモンドを使うように勧めてさえいたらしいですねっ!? そんなダイヤのクレームなんて、リイン達は一切受け付けないですよっ!!】 【大丈夫、私・・・過去は振り返らない主義だから】 ちったぁ振り返れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! おのれのせいで僕達がどんだけ苦労したと思ってんだっ!? 「あ、蒼凪君もリインちゃんも落ち着いてっ! ほら、まずは歌唄ちゃんの安否の確認だからっ!!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ あ、あはは・・・。なんて言うかダイヤって、こういうキャラだったんだ。 こう、予想よりぶっ飛んでるんですけど。 「なんていうか、恭文やリインちゃん振り回せるのには単純にややは感心だよ」 「というより、アルトアイゼンみたい」 「なるほど、古鉄と似ている部分はありますね」 「あはは・・・。大変だな、こりゃ」 【あむちゃん、それはどういう意味かしら?】 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ というわけで、吹き飛ばした後で全員で歌唄の方へ行く。その道すがら・・・あるものを見つけた。 それは、ひし形の黒い宝石。それを僕は拾う。 【・・・封印処理、ちゃんと出来てます。魔力反応も落ち着いています。これなら大丈夫ですね。でも、最後のはなんだったんでしょう】 あー、あれか。あの黒い乙女。うーん、ロストロギアに取り込まれかけたように見えたけどなぁ。 もしかしなくても、瞳の色が本来の色とは違う黒になったりとかもしてたし、結構タイミング的に危なかった? 「それに関しては調査だね。クロノが無限書庫に要請して調べてもらってるそうだし、もう分かってるかも。それでバルディッシュ、ほしな歌唄は?」 ≪大丈夫、生体反応はあります。・・・あちらに≫ 前方30メートルのところに、涙を静かに流しながらこちらを見ている視線があった。それは、歌唄。 服はボロボロだけど、生きてはいる。うん、問題はない。 「やす・・・ふみ、それに・・・あ、む」 「歌唄、僕達の勝ちだ」 そして、僕が右手に持っている宝石を見る。そのままゆっくりと立ち上がり、僕へと走り寄る。 「かえ・・・して、かえしてっ! 私、それがないと・・・!!」 なので、それをアルトの柄に当てて、そのまま収納する。ブラックダイヤモンドは、そのまま静かに姿を消した。 それを見て歌唄は足をもつれさせ、こける。 「歌唄ちゃんっ!!」 「歌唄っ!!」 エルとイルが僕の脇から飛んで、歌唄にかけよる。そして、歌唄は顔を上げて僕を見る。 「どうして・・・。どうして? エルも、イルも、ダイヤも、宝石も、どうして・・・私から居なくなるのよ。私は、誰よりも高みを目指して」 「いらない、役立たず」 歌唄の身体が震える。だけど、言葉を続ける。こいつ、まだ勘違いしてるから。 「そう言って、エルを、イルを、ダイヤを否定したのは誰だよ。誰でもない、歌唄自身でしょうが。それなのに居なくなった? バカ言うな。 お前が、自分の手で、自分の周りに居る誰かを存在から否定し、遠ざけたんだ。んなこと言う権利、お前にはないね」 ≪あなた、因果応報という言葉を知っていますか? 今度はあなたが否定される番が来ただけの話です。グダグダ言わないでください≫ 「・・・・・・うぅ」 ・・・・・・泣き出しやがったし。全く、なんですかこれは。つーか、僕が悪者みたいだからやめて欲しい。 【実際二人して悪者でちよ】 【全くだ。お前達、僕は主君として情けないぞ】 【蒼凪殿、古鉄殿、弱っている女子を泣かすのは正直どうかと】 【恭文もアルトアイゼンも本当に容赦がないよね。時には優しさも必要だよー? りまにしてくれたみたいに優しくした方がいいってー】 はい、そこうっさいっ! お前らは黙ってろー!! ≪本当ですよ。あなた、優しさありませんね≫ 「なに僕一人で言ったみたいな体で喋ってるっ!? おのれも乗っかっただろうがっ! そして止めを刺しただろうがっ!!」 「蒼凪君、確かに歌唄ちゃんは悪い事をしたかも知れないけど、あまり追い詰めるのもどうかと思うんだ」 お前もかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! つーか、よくよく考えたら猫男どうしたっ!? 姿見えないんですけどっ!! 「すみません。俺達が気づいた時には、もう」 「ほしな歌唄を置いて逃げちゃったみたいなのよ」 「あの野郎・・・! 今度会ったらぶっ潰してやるっ!! ・・・つーか、その前に僕がぶっ潰されるー! 具体的にはヒロさんとサリさんにー!!」 あぁ、やばいっ! また逃がしたなんて知られたらどうなるのっ!? 今度はマジで砲撃の雨嵐がー!! 「ヤスフミ、落ち着いてっ!? あれは仕方なかったって私からも話すからっ!!」 「そうだよっ! 今回蒼凪君は一切干渉してないんだし、お二人には僕からも話すし、大丈夫だから・・・落ち着いてくれないかなっ!!」 「みつけたっ! おねえちゃぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」 そうそう、おねえちゃんって・・・おねえちゃんっ!? あ、なんかとたとたと走ってくる子がいる。こう幼稚園くらいの女の子だよ。 てゆうかあれ、あみちゃんじゃないのさっ!! 「・・・あみっ!? アンタこんなとこで何してんのっ!!」 「うたうちゃんのこんさーとみにきたのー!!」 その言葉に全員が顔を見合わせる。特に僕とあむと唯世が見合わせる。トライアングルかと言うくらいに見合わせる。というか、ありえない。 昨日の会話の中で僕達はコンサートなんて単語を一回も言ってないのに、なぜこうなるのかがわからないから。 「・・・あ、うたうちゃんだぁぁぁぁぁぁっ!!」 そのまま、自由な幼児は周辺の大暴れ跡など気にせずに走って、歌唄の前に来た。 瞳を輝かせ、ホッペを赤くして、歌唄を見る。 「あの、ヤスフミ。あの子は?」 「あむの妹」 「あぁ、なっと・・・く出来ないよっ! なんでそんな子がここにっ!?」 それは僕が聞きたい。だけど、聞く前に変化が起こった。泣いていた歌唄が顔を上げて、あみちゃんの方を見た。 というか、歌唄になんか一言二言言って、あみちゃんがいきなり歌い出した。 「みーちゅめー♪ なーいでー♪ ちゅーかまーえーなーいでー♪」 これ、迷宮バタフライだ。しかもバックからマイク出して、振りつき。 【わぁ、上手ですー。というか、可愛いです♪】 うーん、すごい。ぱーぺきだ。見ている限りは外れてる部分がない。 「そうだね、可愛らしい。ね、あむ。もしかしてあみちゃんって」 「あ、はい。歌唄のファンなんです」 「ねね、うたうちゃんもうたってー!?」 その言葉に、歌唄はすっかり涙が引いて、目をぱちくりさせてる。 まぁ、いきなり過ぎな超展開だし、ここは当然。でも、乗っかる事にした。 「ね、歌唄。僕からもリクエスト。ちょっと歌ってくれないかな?」 「・・・え?」 「何言ってんの。ボディーガードの代金代わりに歌を聴かせるって約束、まだ守ってないでしょうが。ほら、歌って」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 突然現れた子。そして、突然なリクエスト。 ヒドイ喪失感のせいで、空っぽになっていた心に光が灯る。そして、力をくれる。 「ゆめの・・・つぼみ、ひらく」 そのまま、歌い出した。光がもたらす力と共に。 あ、なんだろうこれ。すごく楽しい。 目の前の子が聴いてくれる。アイツが、聴いてくれる。 さっきまでやり合ってたのに、今は表情が柔らかい。アイツだけじゃなくて、みんなも。 そうだ、あたしもあの子と同じ目をしていた。ほっぺを赤くして、瞳をキラキラさせて。 楽しい歌、切ない歌、恋の歌。テレビの中のきらびやかなライトの向こうには、その全てがあった。 あぁ、そうだ。思い出した。 私のなりたい自分、そうなってやりたい事、思い出した。やっと、思い出したよ。 「・・・・・・恭文」 歌が終った。そして、さっきとは違う想いが込められた涙を目に溜めて、私は目の前に居るガーディアン・・・いや、恭文を見る。 「代金代わりに、なった?」 「うん。CDでも歌唄の歌、聴いたんだけどさ」 「そうなの?」 「ほら、ライブに行った時の予習代わりに」 あぁ、納得したわ。こういうのでノリが変わってくるしね。コイツの事だから、必須かと思ったんでしょ。 「だけど、それよりもずっとよかった。立派なライトも、伴奏も無い。だけど、優しくて・・・胸に伝わる歌だったよ。ほら、見てみなよ」 私は、視線を恭文だけじゃなくて、みんなに移す。みんな、笑顔で、私を見てくれている。 そこから感じるのは、優しい、暖かな気持ち。 「僕だけじゃなくて、みんな同じだってさ。ね、フェイト」 「うん。・・・私はそういうプロじゃないけど、それでも分かる。とても素敵だったよ。ちょっとだけ、泣きそうになっちゃった」 そのまま、あの人は右の人差し指で目元の涙を拭う。・・・あぁ、やっぱりだ。私は、ここなんだ。 なんだろう、伝わった事が、何かを変えられた事が、凄く嬉しい。 「そうですよ」 エル・・・それに、イル。 「誰かに歌で喜んで欲しい。そんな気持ちから、エルやイルは生まれたんです」 「誰にも縛られない、歌唄だけの歌。歌唄の武器は、それだけでじゅーぶんじゃん。あんな宝石やダイヤに頼る必要なんて、最初からどこにも無かったんだよ」 そう言って、二人は私に優しく笑ってくれる。 だめ、涙・・・またこぼれてくる。 「エル、イル・・・ごめん。本当に、ごめん」 「あぁ、泣くなよ。てゆうか、謝んな。アタシはここまで出番が全く無かった事以外は不満ねぇしさ」 「エルもです。歌唄ちゃん、エル達・・・また歌唄ちゃんのしゅごキャラになっていいですか?」 「・・・ごめんっ!!」 そのまま、二人を抱きしめる。あぁ、恭文の言う通りだ。私、自分から遠ざけて、否定していたんだ。 「・・・だから、謝んなって。大丈夫。もう、間違えたりしないよな」 「歌唄ちゃんのダイヤに傷はついちゃったかも知れないですけど、ここからまた歩き出す事は、出来るはずです。そうしていけば、いいですよ」 「うん・・・!!」 この子達は何時だって、私の側に居てくれたのに。味方で居てくれたのに。それなのに・・・。 そして、ヘリが飛び立つ音が聞こえた。 ・・・あぁ、あのヘリのように私も大空を・・・え、ヘリ? 待って。なんでこの状況でヘリが飛び立つの? 私はここだし、マスターCDは壊れてるし。 「・・・・・・姉さんっ!?」 「そう言えば、いない。ジャックのお姉さんもそうだし、×たまも」 「でもでも、マスターCDはティアナさんが壊したんだよねっ! ほら、やや達も見てたしー!!」 「何より、ほしな歌唄が居る。それなのにどうして・・・まさか」 唯世が小さくつぶやく。いや、それだけじゃない。恭文とあの人も表情を重くする。 「歌唄、一つ聞かせて。マスターCDはあれだけなの?」 恭文がしゃがんで、私に目線をあわせて聞いてきた。その言葉に私は少し考える。 マスターCDがなければ、×たまをプレスする物自体が無くて、計画は潰れる。つまり、もう現時点で・・・あ、まさか。 「まさか、マスターCDはあの壊れたのだけじゃないってことっ!?」 「間違いない、少なくとも手元にもう一枚はあると思う。だから三条ゆかりは」 【ヘリに乗って自分だけ逃げちゃったですかっ!? それもほしな歌唄を置いてっ!! ・・・許せないですっ! 本気の本気でリイン怒ったですっ!!】 そう、三条さんは私を置いて飛び去った。私、見捨てられたんだ。 「くそ、これ見過ごしたらマジでお仕置き対象じゃないのさっ! フェイト、すぐにヘリを・・・って、あれ?」 「ヤスフミ、どうしたの?」 「いや、ヘリ・・・なんか落ちてない?」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・歌唄の奴、マジで怖いし。なによ、あのドラゴンボールみたいな爆発の数々は。もうあんなビックリ人間の博覧会には付き合ってらんないわよ。 とにかく、なんか感動シーンをやっている間に私は脱出。ヘリに搭乗して、空に飛び上がる。 「ふふふ・・・こういうこともあろうかと」 よし、もう一回いこう。 「こういうこともあろうかと、マスターCDをもう一枚用意しててよかったわ。ふん、これと×たまさえあれば、歌唄がどうなろうと問題は無い。 ・・・ほら、急いでっ! 次の便で出れなかったら、発売スケジュールに間に合わないのよっ!!」 「は、はい」 最後に笑ったのはこの私。ガーディアン、それに蒼凪恭文。無駄な戦い、ご苦労様。まぁ、お土産も置いていったから、恨まないでね? ふふふ・・・あははははははははははっ!! 「楽しそうだな」 首元に冷たい感触がした。それは、爪。いつの間にか隣には、不吉な黒猫が居た。 なるほど、姿が見えないと思ったら、こういうことですか。妹想いなことで。 「ヘリを戻せ」 「だめよ」 「命は惜しくないってか?」 「あなたこそ、歌唄の身が惜しくないわけ? 分かってるんでしょうね、あなたが逆らったら、イースターはほしな・・・いいえ、月詠歌唄という人間を、社会的に抹殺するわよ」 鼻で笑いながらそう言ってやると、不吉な黒猫はため息を吐いた。 【イクトー。このオバサン、バカだなぁ。せっかく助けてやろうとしてるのに】 へ? 「そうだな。・・・もう、俺は知らないから、後は好きにしろ」 そうして、ヘリの搭乗口を開ける。開けながら、こちらに視線を向けつつ言葉を続ける。 「ただ、これは忠告だ。早くヘリを戻せ。じゃないと・・・とんでもないことになるぞ」 そのまま、アイツは飛び降りた。・・・てゆうか、大丈夫? 死んだりしないかしら。 ふん、まぁいいわ。この計画さえ成功させれば、私は出世出来るし、歌唄自体にもアイツにも用無しだもの。問題は無い。このままヘリは飛ばしちゃえば 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ムリィィィィィィィィィィィィィィィッ!!』 あの黒猫が去ってからすぐに聞こえたのは、そんな声。その声に驚いて、その声がした方を見る。 するとそこには、大量のちっこい黒いやつ。それが×たまの中から声を上げながら出てきた。 「ば、×キャラっ!?」 そうして、狭いヘリの中は×キャラで埋め尽くされた。×キャラ達は私のみならず、ヘリのパイロットにも襲い掛かる。 当然、それで操縦など出来ない。ヘリのバランスは見事に崩れて、下に落ちていく。 うごけ・・・ない。そんな、こんなところで・・・。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 恭文の言葉に、もう一度私は私は夜の空を見上げ、よく見てみる。確かに、三条さんが乗ったと思われるヘリがフラフラフラフラ・・・確実に下へと落ちている。そして、その搭乗口から黒い何かがあふれ出し、降りてきた。 パラシュートをつけて、頭に赤い×を付けた黒い小さな身体。 あれ・・・×キャラっ!? でも、今まではなんとも無かったのにどうしてっ!! 「ハンプティ・ロックとダンプティ・キーだ」 「なるほど、キーとロックの反応によって、急速的に孵化したのですね。・・・いえ、キング。それだけではないようです」 「なによ、アレ。第二ラウンドの始まりってわけ? ジャック、あなたのお姉さん、お土産の用意までしてるなんて、随分丁寧ね」 「姉は本来ここまで気が回る性格ではないのですが・・・。明日は雨でしょうか」 「うー、あのお人形さん達も相手しなきゃいけないの? やや疲れたー」 私達を取り囲むように現れたのは、黒い人形・・・×ロットだった。それも相当数。 それを見て、全員それぞれの武器を構える。とにかく、まずい。あのままだとヘリは墜落する。 三条さん、見捨てるわけにはいかないわよね。だって、あの人は・・・。 私は、立ち上がる。だけど・・・力が上手く入らない。それどころか、痛みが走って、崩れ落ちた。 「動いちゃだめっ!!」 マント姿のあの人が、私を優しく抱きとめる。 ・・・離して。お願い。 「ダメ。・・・今簡単に状態を見させてもらってたけど、あの宝石の影響で、あなたの身体はガタガタなんだよ? ここで無理したら」 「無理、するわよ」 そのまま、腕を振り払え・・・ない。くそ、なんて力よ。 「あの人は、私を見つけて、ここまで育ててくれたの」 「でも・・・」 「アンタの言う事は分かるわよ。確かにあの人は私を利用してただけかも知れない。今、見捨てたかも知れない。 だけど、それだって間違いの無い事実なの。それなのに、見捨てる事なんて、出来ない。お願い、離して」 「ダメ。というより、助ける方法、あるの?」 「じゃなきゃ、やろうとしないわよ。だけど、今すぐにヘリに接近しないと、間に合わなくなる。・・・エル、あむ」 すっごく不本意だけど。特にあむがすっごく不本意だけど、ここは私だけじゃどうしようもない。 だから、こう言う。恥を忍んで、こうお願いする。 「お願い。力を貸して」 「・・・・・・はいですっ! フェイトさん、歌唄ちゃんの言う通りにしてくださいっ!! お願いしますっ! エルもサポートしますからっ!!」 「フェイトさん、あたしからもお願いしますっ! 歌唄、なんの考えもなしにこんなこと言うような子じゃないですっ!!」 その言葉にあの人は、私を後ろから抱かかえて・・・って、なにしてんのっ!? 「あなたは今動けない。だけど、私は動ける。そして、空を飛ぶ事が出来る。誰よりも速く、鋭くね。 それで、ヘリに近づけばいいんだよね。空中で足場の形成も出来るから、必要なら教えて」 「・・・・・・ありがと」 「お礼、言ってくれるの?」 一応、大事なのよ。まぁ・・・あれよ。アイツの彼女って事なんだし、ちょっとはしっかりしないと・・・あれ、おかしいな。こう年齢とか外見年齢的に。 いや、ここはいい。とにかく今は三条さんを助けないと。 「ヤスフミ、唯世君。下は任せるね。私とあむにほしな歌唄は」 「分かってる。んじゃま、後で合流って事で」 「うん」 「・・・あー、歌唄」 恭文が声をかける。そうして左手をかざすと、私の身体が青い光に包まれた。 ・・・あ、痛みが少し引いた。完全じゃないけど、それでもさっきより大分楽になってる。もしかして、アイツの能力で治療されたのかな。 「これで、出来るでしょ?」 「・・・うん。あのさ、恭文。ちゃんと聴いててよね」 「へ?」 「私、歌うから。私だけの、夢や想いを込めた歌を、これから歌い続けるから。・・・アンタにはまた借りが出来ちゃったからさ」 少しだけ体が浮く。あの人が、空を飛んだようだ。 だから、声を大きめにして、アイツに・・・アイツだけに、伝える。 「それで、返すわっ! だから、ちゃんと聴いてなさいよっ!!」 そのまま、その人は私を抱えたまま空を飛んだ。それもすごい速度で。 ・・・色々とシャクだけど、なんか分かった気がする。さっきのアレとかソレで。 アイツがこの人を好きになった理由、分かった気がする。 優しい事が甘えはなく、弱さでもなく、強さに繋がるものに変えられるのなら、この人は、強い人だ。 だって、今私を抱かかえる腕やさっきまでの言葉、そういうものに溢れるほどの何かを感じるから。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 【・・・また立てたです】 ≪あなた、真面目にどうするつもりですか? 20人超えはいくらなんでもおかしいでしょ≫ 「言うな。お願いだから言うな」 大丈夫、僕はフェイトが本命。フェイトが本命なんだ。さっき感じた妙な予感は気のせいなんだ。 「恭文、なんか大変だね。てゆうか、やっぱりアレは護衛とかそういうのが原因なのかな」 「間違いなくそうだよね。・・・蒼凪君、ごめん。歌唄ちゃんはこう・・・アレだから」 「だから何も言うなぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 とにかく、目の前の事だ。空の事はフェイトと歌唄が対処してくれる。だから、僕達は地上だ。 「リイン、ユニゾンアウト。あみちゃんのことお願い」 【了解です。それで恭文さんは?】 「ボクとキャラなり・・・だね」 そういうこと。それで一気にこいつらを片す。 【了解です。それじゃあミキ、あとはよろしくですよ】 僕はベルトを左手で持って、外す。 そうして、リインとのユニゾンを解除。そのまま外に出てきた。 「ほわぁ、かみがあおかったおにいちゃんがふつうのおにいちゃんになっちゃった。というか、おねえちゃんがでてきた」 「さ、あみちゃん。リインと一緒に唯世さんの後ろにいくですよ」 リインがあみちゃんの手を引いて、唯世の後ろに行く。 さて、どうするかな・・・。 ”アンタ、聞こえる?” ”聞こえるよ” ティアナから念話が届く。 ”まぁ、あれよ。なにやったの?” ”何もしてないってっ! 普通に護衛して普通に助けて普通に挑発合戦して普通に助けただけだしっ!!” ”それだけやってれば充分よ。まぁ、心配はないとは思うけど、フェイトさんのこと第一に考えなさいよ” ”う・・・反論出来ない” そうしながら、ミキが僕の隣に来る。 ”とにかく、私はこのまま遠距離から狙撃でサポートする。てゆうか、してる” ”みたいだね。なんかオレンジ色の流星が見えるもん” ”恭太郎と咲耶、観測手上手なのよ。おかげで私もクロスミラージュもやりやすい” まぁ、人形を壊したりしなきゃ中のたまごも大丈夫でしょ。 ティアナ、狙撃はいいけど、その辺りの事お願いね。 ”分かってるわよ。それじゃあ、がんばんなさい” ”了解。あー、それと” ”なによ” ”サポート、ありがと。おかげで斬るのが楽だった” 少しだけ、顔は見えないんだけど、ティアナが笑った感じがした。なんか、伝わってきた。 ”問題無いわよ。私達、一応パートナーでしょ?” ”・・・だね” そのまま念話を終える。見据えるは、70は居ようかという黒い人形。よくもまぁこれだけ揃えたもんだよ。 「唯世、ティアナは狙撃でサポートしてくれるって。どうする?」 「・・・蒼凪君はミキとキャラなり。それで三条君と一緒に前に出て、人形達を浄化して行って。 結木さんと真城さんは後方から援護を。僕は・・・盾になってリインさんにあみちゃん、結木さん達を守る。前は任せるから」 「分かった。それじゃあミキ、行くよ」 「うんっ! ・・・恭文のこころっ!!」 ミキが僕の前に来て、両手を動かす。 そうして、鍵を開けた。 「アンロックッ!!」 そうして生まれた光の中で、スペードの青いたまごに包まれたミキが僕の胸に吸い込まれる。そして、光がはじけた。 そこにあるのは、青い剣士。僕のなりたい自分の姿。 右拳を握る。そして、思う。 今だけは、魔法が使える魔法使いでありたいと。心から。 【「キャラなりっ! アルカイックブレードッ!!」】 そんな自分を信じる気持ちを、刃に変えて、掲げる。 「・・・よし、それじゃあみんな。指示通りに。だけど、臨機応変に状況に対処して」 「了解っ! それじゃあいくよ・・・!!」 ややの周りに、大量の黄色いデフォルメされたアヒルが出てくる。 「恭文、ジャック、任せたからね」 りまがそう言いながら、同じく大量にピンが出てくる。 「ゴーゴーッ!」 「ジャグリングッ!!」 「海里、行くよ」 「はい」 そして、二人で駆け出した。 「アヒルちゃーんっ!!」 「パーティッ!!」 放たれた大量のアヒルやらピンやらの援護射撃が発射された。それを人形達はなんとか避ける。 だから、こうなる。 【「鉄輝・・・!」】 「イナズマッ!」 右側には僕。左側には海里。 僕の抜き放たれたアルトの刃は、眩く輝く虹色の光。海里が両手に持つ二刀には、緑色の雷撃。 それが勢いよく、人形達に打ち込まれた。 【「一閃っ!!」】 「ブレードっ!!」 夜の闇を斬り裂く閃光により、人形数体が真っ二つにされ、爆発する。その中から白いたまごが出てきた。 ・・・あれ。というか、海里も? 【これしきの事、心眼の力を用いれば造作も無い】 「そういうことです。守るべきものまで斬るのは、もうごめんですから」 「うん、そりゃいい心がけだ。んじゃ、海里。もうちょっと頑張るよ」 「はい」 さて、フェイト・・・そっちはどうかね。こっちは結構順調っぽいっけど。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・なんとかギリギリな位置に到着。そして、私は魔法陣を展開。これを一応の足場にして、その上にほしな歌唄を下ろす。 彼女は少しフラフラとしながらも立って、真っ直ぐに墜落して行くヘリを見据える。 「・・・これで、大丈夫?」 「えぇ、充分よ。ありがと」 あ、またお礼だ。・・・ちょっと、素直になってくれたのかな。 だったら、嬉しいかも。 「アイツの彼女じゃなかったら、こうはなってなかったけどね。てゆうか、やっぱムカつく」 「それはどういう意味っ!?」 「とにかくエル、キャラなり・・・いけるわよね」 彼女がエルちゃんを見ながら言った言葉に、全員の表情が驚きの色に染まる。 キャラなり・・・でも、エルちゃんとは一度もしたことがないって。 「・・・はいですっ!!」 「歌唄、アンタまさか」 「そういうことよ。大丈夫、エルとキャラなり出来なかったのは、私に迷いがあったから」 そのまま、彼女は両手を胸の前にかざす。 「私が、自分の歌で誰かに喜んで欲しいと思う気持ちをおざなりにして、目の前の成功にしがみついていたから。 でも、大丈夫。私はもう、思いだした。だから、開けられる。だから、歌える。私の、私だけの歌を」 そして、鍵を開けた。 「私のこころ、アンロック」 ほしな歌唄の身体が、光に包まれた。 それは優しい、お日様にも似た白い光。その光の中、たまごに包まれたエルちゃんは彼女の胸に吸い込まれるようにして消えて、彼女は姿を変える。 背中には天使の翼。白く、清楚なヒラヒラの装飾が多いワンピース姿は、天使を思わせる。さっきまでのキャラなり姿とは全然違う。 これが、彼女とエルちゃんの・・・キャラなり。 【「キャラなりっ! セラフィックチャームッ!!」】 ・・・綺麗。本当に、天使だ。 【わわ、やっと出来たですー! 歌唄ちゃんとの初キャラなりー!!】 「エル、喜んでるヒマはない。・・・いくわよ」 【はいですっ!!】 そのまま、彼女は歌い出す。優しくて、暖かい、子守唄にもように聞こえる歌を。 それが、夜の闇に静かに広がる。だけど、これはただの歌じゃない。力と意思をちゃんと持っている。 「エンジェル・・・クレイドル」 その歌が響く。静かに。だけど・・・確実に。 「・・・フェイトさん」 「うん」 【×キャラ達が、たまごに戻っていく。いえ、それだけじゃないわ】 ダイヤの言う通り、それだけじゃなかった。響く歌声に×キャラ達は眠そうにあくびをすると、そのままたまごに戻った。そして、たまごから×が取られる。 そのまま、白いたまごに戻った未来の可能性は、持ち主の所へ帰っていく。空を飛んだり、あるいは消えたりしながら。 本当に、優しい歌。これがあの子の、あの子達の本当の力なんだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 海里と一緒に刃を振るい、人形達を片していく。もち、浄化させながら。 さて、大分数も減らしてきたし・・・。 【あれ、いっちゃう?】 ≪行きましょうか≫ 右のカードホルダーから、五枚のカードを取り出す。それをスラッシュさせながら、僕は後ろに飛ぶ。 ≪Spade 10≫ 唯世達の所まで下がって、着地。 「いわゆる一つの」 ≪Spade Jack≫ 海里も同じように下がる。残った人形達は、丁度僕の眼前に広がっている。 【必殺技って言うのだね】 ≪Spade Queen≫ でも、そこは僕だけの力じゃない。唯世にややにりま、海里に遠距離からのティアナの援護があったからだ。 「ミキ、このまま切り札・・・いくよ」 ≪Spade King≫ だから、切り札を切れる。 【うんっ!!】 ≪Spade Ace≫ 右のガントレットに埋め込まれている青い宝石から、五つのエネルギー球体が出る。 それが僕より一回り大きい青いエネルギー状のカードに変化して、僕の前に並ぶ。10・J・Q・K・Aの順に。 ≪Loyal Straight Flash≫ 虹色のアルトの刃が、輝きを増す。だからそのまま、カード達に向かってそれを袈裟に叩き込んだ。 【「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」】 刃から放たれた虹色の弾丸は、カードを一枚突き破るたびに大きくなり、最終的には巨大な奔流へと姿を変えた。 そして、それは僕達へと迫っていた人形達を飲み込み・・・爆散させ、中に取り込まれていた×たまを浄化した。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ”フェイトっ! 人形達は全て浄化出来たっ!! それで、そっちはどうっ!?” ”・・・ほしな歌唄がエルちゃんとキャラなりして、歌ってるの。あのね、間近で見せてあげたいよ。すごく・・・すごく、素敵なんだ” どうやら、終わりなのは空だけじゃないらしい。これならもう大丈夫だよね。 「・・・すごいね。エルちゃん、こんなことが出来たんだ」 【のんのん。フェイトさん、エルの力じゃないです。これは、歌唄ちゃんの中に眠っていた力なんですから。 エルはそれを引き出すお手伝いをしてるだけです。歌唄ちゃんは、こんな優しい、陽だまりのような歌をうたう事だって出来るのです】 「エル・・・」 そうして、辺りから×たまや×キャラの気配が消えた。 消えたんだけど・・・。 「ヘリ・・・まだ落ちてるっ!?」 ≪もしや、パイロットが気を失っているのでは?≫ 「それだけじゃない、三条さんっ!!」 ヘリの搭乗口から、女の人が落ちてくる。そのままほしな歌唄は・・・飛び出した。 ・・・って、空・・・飛べてるっ! 羽かなっ!! 羽があるからかなっ!? 「フェイトさんも行ってくださいっ! ここはあたしとダイヤがっ!!」 その言葉に頷いて、私もあの子の後を追いかける。 追いかけながら見た。あむの掲げた両手に、まるでマイクのように見えるアイテムが出てきたのを。そして、そこに金色の光が集束していく。 【・・・星の光は、彼だけの専売特許ではないわ。私・・・いいえ、あむちゃんの中にもある。 さぁ、あむちゃん。解き放って。あなたのきらめきを。そうして、未来を変えて】 「うんっ! スターライトっ!!」 そこに集まった金色の星の形をした光。それをあむはヘリに向かってかざして、解き放った。 「ナビゲーションっ!!」 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・夜の空に、文字通り星の光が生まれた。それが螺旋状に渦巻き、ヘリを包み込む。その中で、ヘリは落下速度を落として、ゆっくり・・・本当にゆっくり、落ちていく。 なんつうか、綺麗。てゆうか、あれがダイヤの力なんだ。 【なんだかんだでボク達、あんまり出番なかったね】 「ま、いいんじゃないの? 目指した通りのハッピーエンドなんだしさ」 ≪それもそうですね。今日は男の子ではなく、女の子が頑張る日だったんでしょ≫ 【そうだね。でも、それを言うとボクが男の子みたいだからやめて。いや、真面目にやめて】 そして、そのヘリに向かって唯世がロッドをかざし、力を発動させる。 「ホーリークラウンッ!!」 王冠型の金色のエネルギーがそこに生まれて、ヘリがそこに落ちてくる。だけど、それはクッションのように跳ねて、そのまま柔らかくヘリを受け止めた。 ・・・すごいねあれ。あぁいう使い方も出来るんだ。 「・・・・・・姉さんっ!!」 海里が声を上げて、駆け出す。そこには・・・姉の姿。歌唄に抱っこされてる。あ、フェイトも一緒に降りてきた。 僕達も全員そこに向かって足を進める。そして、そこで見たのは・・・戸惑い気味な表情を浮かべる三条ゆかりだった。 「歌唄・・・アンタ、どうして? だって、私は」 「そうね、見捨てられたわ」 「だったら、どうして・・・! 歌唄だけじゃなくて、フェイト・T・ハラオウン、アンタも同じよっ!! ねぇ、どうしてっ!? 私達のやったことを知ってるなら、助ける理由ないでしょっ!!」 「人が目の前で死ぬのは、嫌だからです」 フェイトは静かに答えた。それにより、三条ゆかりの顔が固まる。 ガーディアンのみんなも同じくだ。フェイトの表情が悲しそうだったから。 「私は、仕事柄そういうのを見る事も、毎日ではありませんけど、あります。誰であろうと、助けられるなら、助けたいんです。好き好んで見殺しになんて、したくありません。ね、ヤスフミ?」 「うん。まぁ、そういうことだよ。・・・それに知ってる? そういうの見るとね、飯を食う気がなくなるの。で、意味もなくすっごいヘコむの。そんなの、嫌だし」 「私も同じく、かな。それに、三条さんは私を見込んでくれた。そうしてずっと一緒にやってきたじゃない。 三条さんが居なくなったら、一体誰が私のマネージメントをするの? 今更居なくなられても、困るよ」 「う・・・」 次の瞬間、三条ゆかりが泣き出した。それはもう盛大に。そして、泣きながら、歌唄に抱きついた。 「うわぁぁぁぁぁぁんっ! なによー!! ぞんなごどいっでー!!」 ・・・すごい勢いで泣いて、歌唄も困り果てた顔をしている。 てゆうか、海里。 「はい」 「お姉さんは、あれかな。涙もろい?」 「・・・見ての通りです。なんというか、弱いところもある人なので。だから俺も・・・というわけです」 「納得した。てか、あれなら大丈夫そうだね」 「はい」 そのまま、海里と二人で空を見上げる。みんなも同じ。見上げる。 そこにあったのは星の光。星の光が、世界を照らしていた。 だから・・・僕は、飛び出した。星の光だけじゃなかった。 そう、そこに存在していたのは、世界を照らしていたのは、星の光だけじゃなかった。 だから、最高速度で、夜の冷えつつある空気を切る。切りながら、僕は数十メートル上を、その光を目指す。 「ミキっ!!」 【うんっ!!】 ≪全く、空気を読まない人達ですねっ! 一体どこのセッテさんですかっ!!≫ まったくだっ! とりあえず・・・アルトを全力全開で、左から横薙ぎに打ち込むっ!! 「・・・てめぇ」 「悪いね。この形態、速さだけはあるんだ」 【キミ達にあれは取らせないよ】 そして、刃は捕らえた。夜の闇に紛れてコソコソと動いていた、黒猫を。 黒猫は爪で受け止めるけど、そのまま僕は刃を振り抜き、猫男を吹き飛ばす。 猫男は身を翻して着地。また上に飛ぼうとするけど、そうはさせない。 もう、僕はお前の目の前に居る。だから、刃を打ち込む。 猫男は両手の爪を使って、僕の刃を受け止め、そこから押し合いが始まる。 「・・・てめぇら、マジ空気読めよ」 【そうだにゃっ! 俺とイクトの邪魔すんじゃにゃいっ!!】 「お前らがなっ! せっかくの勝利ムードのところに水差すってどういう了見っ!? その言葉、リボンに花束も付けて返してやるよっ!!」 【間違いなくそっちの方が空気が読めてないよねっ! もうちょっと状況考えなよっ!!】 空に浮かび神々しく輝くのは、白いたまご。でも、それは普通に浄化されたものとは全く違う。その光の強さも、感じる雰囲気もだ。 そして、猫男はそれに向かって手を伸ばしながら空を飛んで近づいていた。もしかして・・・いや、間違いない。 【イクト・・・消えちゃったにゃ】 頭上から輝きが消えた。刃を弾いて後ろに飛び、目で追う。それは、夜の闇を切り裂きながらどこかへと飛んで行った。 「・・・で、どうする? まだ続けるって言うならいいけど」 「いや、もういいや。歌唄の事も約束通り助けてくれたしな。・・・悪かったな、面倒な事頼んじまってよ」 「謝るくらいなら、自分でなんとかしろ。少なくとも、あれはお前が対処出来た領域だった」 「出来ればやってるさ」 そのまま、猫男は背中を向ける。僕は、追わない。 つーか、めんどくさい。ここで無理を通す道理はない。多分、みんなもそろそろ限界のはずだ。 「お前には分からないかも知れねぇけど」 「月詠或斗の事で色々あるってわけ?」 背中を向けて、どこかへと歩き出そうとしていた猫男の足が止まった。 「月詠或斗、お前と歌唄の父親で、天才ヴァイオリニスト・・・だっけ?」 「・・・お前、どこで知った」 「相手の事をよく知っておくのは、戦闘の基本戦術の一つでね。悪趣味とは思ったけど、色々調べさせてもらった。 ・・・これからどうするつもり? 歌唄は計画に失敗した。あのマネージャー共々、もうイースターには居られないだろうね」 この辺りは二階堂がクビになったのと同じ理屈。 イースターという会社は、失敗した人間に優しくするような人情味はないらしい。きっと切り捨てられる。 「さぁな、猫の尻尾の向きで行き先が変わるのさ。そして、尻尾の向きは気まぐれで変わる」 「鎖付きの首輪に繋がれてる猫の行き先なんざ、そう無いでしょ」 「かもな。・・・歌唄の事、頼めるか?」 僕はその言葉に両手を上げて・・・ようするに、お手上げの姿勢で応えた。 「僕に言うより、あむやあのマネージャーに頼め。そっちの方が速い」 「そうだな。んじゃ・・・折を見てそうするわ」 そのまま、月詠幾斗は夜の闇の中に消えた。 あはは・・・やっぱり、お仕置きかなぁ。 【恭文、よかったの?】 「いいの。てゆうか、ここでやりあってたらまた唯世がキレそうだし。なにより、ここでアイツを『許せない』とか言って叩きのめしても自己満足もいいところだもの」 【あぁ、なんか納得したよ】 なにより、計画は止められた。大量の×たまを抜き出せる歌唄をイースターから叩き出せた。 これだけでも、今日は良しとしておきますか。 【というより、歌唄やイクトのお父さんの事って・・・】 「少々事情込みらしいのよ。月詠兄妹がイースターに従ってるのはさ。でもミキ、さっきのあれ」 【多分、間違いない。あれがそうだよ。あれだけ、他のものとは全く違う雰囲気がした】 ≪ついに出てきましたか。確かに状況的にはピッタリですしね≫ 「そうだね」 夜空を見上げる。空を染めた星の光が消えた空を。そして、思い出す。あの光り輝くたまごを。 あれが、エンブリオなんだ。願いを叶える魔法のたまご。それが、いよいよ僕達の前に姿を現した。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ・・・あれ、ここ・・・どこ? というか、なんですかこれは。この光に満ち溢れた空間は。 「あむちゃん」 戸惑うあたしの目の前には、小さな女の子。 あ、ダイヤだ。・・・うーん。 「どうしたの?」 いや、なんていうか、×が付いてた時と全然違うなって。 肌も褐色だったりしたのに、今は全然白いし。 「コギャルが普通の女の子に変身・・・という感じかしら」 あはは、そうかもね。言われてみるとその通りだ。 「あのね、あむちゃん。輝きはあなた自身の中にあるの。彼の鉄の中に、星の光があったように。それを、忘れないでね」 そのまま、目の前でダイヤがたまごに包まれ・・・え、ダイヤ? 「覚えておいて、あむちゃん。・・・私も、彼から改めて教わったわ」 いや、なんで行っちゃうの? 「どんなに暗闇が襲ってきても、例え誰の目からも見えなかったとしても、輝きは絶対になくならないの」 せっかく会えたのに。あたし、話したいこと沢山あるのに。 「誰の中にも、どんなに小さくても、輝きは、光はある。もちろん、あなたの中にも。その光・・・きらめくちいさなカケラ、その名は・・・」 その・・・名は? ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 「・・・・・・あむちー!!」 その声にハッとして振り向く。・・・ややとりま、いいんちょが居る。あたしに手を振りながら走ってくる。 あれ、ここへリポート。というか、制服。 「・・・・・・あ」 両手の中に暖かい感触を感じた。あたしはそれに視線を戻す。 そこにあったのは、金色のダイヤのたまご。×もついていない、あたしのたまご。 「ダイヤ・・・」 こうして、ブラックダイヤモンド事件は終わりを告げた。 ブラックダイヤモンズのデビューも止めて、ウィルスとまで言われた歌が世の中に広まる事は無かった。そして、ダイヤはたまごに戻った。 でも、またすぐに会える予感がしている。だって、もうあたし、ちゃんと分かってるから。 あたしの中にも、輝きはある。そして、誰の中にもそれはある。 きらめく、本当に小さなカケラ。それはきっと・・・。 未来の、カケラ。 (第27話へ続く) [*前へ][次へ#] [戻る] |