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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第26話 『あたしにとっての輝きの意味 私にとっての始まりの意味』:1



「アンタ、大体ムカつくのよっ! 奇麗事ばかり言って・・・なによりあれよ、アンタが恭文の本命だってのが何かムカつくわっ!!」

「それどういう意味かなっ!!」





あ、あの・・・お二人さん? なに楽しそうな会話をしながらトライデントと鎌で打ち合っているのかな。



フェイトは歌唄の蝶の攻撃をステップで避け、突き出されるトライデントを払い、それらの連撃を避けつつ歌唄の急所を狙う。



だけど、トライデントで防がれたり、ジャンプで避けられたりする。そう、攻防は白熱し、続いていく。ぶっちゃけ、僕とあむが居る意味が分からなくなってきている。つーか、完全に蚊帳の外。





「アンタみたいな能天気そうな女と付き合ってたって、堕落するだけでしょっ!? アイツにはね、尻を引っぱたいて押してくくらい強引な女と付き合った方がいいのよっ! 例えば私みたいにっ!!」

「そんなことないよっ! ヤスフミの好みは年上で穏やかで優しい人なんだからっ!! 例えば私みたいにっ!!」

「嘘よっ!!」

「嘘じゃないよっ!!」





またナイトメアなんたらかんたらが飛ぶ。フェイトは数歩下がり、プラズマランサーを数発セットして、それを発射。それによりなんたらかんたらローレライを打ち抜く。

そこを狙って歌唄が飛び込んで、フェイトの頭上から槍を突き出す。突き出された槍は真っ直ぐに地面を貫く。

でも、それではフェイトは貫けない。フェイトは身を翻して回避し、そのまま横薙ぎに鎌を打ち込む。



歌唄は一旦トライデントに力を込め、もう一度地面を突く。その反動で大きくジャンプし、後退して地面に着地。バルディッシュは、むなしく宙を斬るだけに終った。





「もういいわっ! 私がアイツと付き合うからっ!!」





・・・・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?





「どうして・・・そうなるのかなっ!!」





歌唄が後ろに飛びながらナイトメアなんたらちゃんたらをぶっ放す。それを、フェイトは鎌の構成部分を振るって、円輪状にして撃つ。それは回転しながら、蝶の軍勢を真っ二つに斬り、爆散する。



その中を歌唄が突っ切って、トライデントの切っ先をフェイトに向けながら突進してきた。





「1、私を殴ったアンタの事が嫌いっ!!」





フェイトはバルディッシュのカートリッジを使用する。ロード音が辺りに響く。





「2、そんなアンタに嫌がらせがしたいっ!!」





鎌を再び生成して、歌唄の首目掛けて打ち込む。だけど、歌唄はそれを避けた。





「以上よっ! なんか問題あるっ!?」





首だけを下げて、鎌を本当にすれすれに避ける。そして、両手に持ったトライデントの切っ先が、フェイトの身体を捉えた。





「大有りだよっ!!」

≪Defensor≫





歌唄のトライデントは・・・フェイトが咄嗟に発生させた防御魔法によってその軌道を逸らされ、フェイトには傷一つ付かない。

二人は刹那の間にそれだけの攻防をし、交差した。だけど、まだ終らない。交差した瞬間に足を踏ん張り前進する動きを止めてから、お互いに身体を捻る。

そうしながら、互いの獲物を打ち込む。獲物の切っ先は火花を散らしながらぶつかった。



それから二人は同タイミングで後ろに飛び、距離を取る。





「・・・やるわね」

「あなたも。正直、最初のアレで仕留められるかなと思ったんだけど」



フェイトが鎌を構えなおす・・・つーか、僕空気だ。いや、本能がアレに手を出すなって言いまくってるんだけど。

てゆうか、フェイトさ、火が点いた? なんか表情が楽しげ。あぁもう、隠れバトルマニアが発現してしまったし。



「あいにく、そうはいかないわよ。私、嫌いな奴に負けるのは死ぬほど嫌なの。・・・そうだ、せっかくだから賭けない?」

「賭け?」

「そうよ。勝った方がアイツと付き合える・・・てのはどうかしら。アンタ、私が勝ったらアイツの事、諦めなさい」



だから待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! お前らマジで落ち着けー!!



「歌唄もフェイトさんもなんの会話してるっ! お願いだから落ち着いてー!!」

「つーか・・・お前ら真面目にやれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! なに普通にギャグシーンになってるっ!? おかしいでしょうがっ!!」

「「おかしくないよっ!!(ないわよっ!!)」」

「「断言するなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」



つーか、本気で頭来たっ! 本気で抗議してやるっ!!



「歌唄っ! 悪いけど僕はそんな賭けの結果なんか知らないよっ!? これからもフェイトと付き合い続けるんだからっ!!
つーか、僕達は結婚するのっ! もうプロポーズだってして、OKだってもらってるんだからっ!!」

「そ、そうだよっ! 私達両想いなんだから、ヤスフミを賭けの対象になんて出来ないよっ!! そんなの、絶対ダメっ!!」

「フェイトさん、今しかけましたよね?」

「してないからっ!!」



・・・まぁ、8年前にね。。数ヶ月前に返事来たけど。



「アンタ、こんな胸が大きい女のどこがいいってのよっ! 今の時代は適乳なんだからっ!! 私になんか不満でもあるわけっ!?」

「本命じゃない時点で不満だらけなんだよっ! つーか、大好きな月詠幾斗はどうしたっ!!」

「大丈夫。この女に対しての嫌がらせだから、アンタには何もしないし」

「お前一度地獄に落ちとけっ!」



とりあえず、地面に手を突いて魔法発動。



「お前の嫌がらせに付き合えるかっつーのっ!!」



使うのは、ブレイクハウト。巨大なコンクリの拳が歌唄を正面から襲う。



「アンタ、マジで人を見る目が無いわねっ!!」



けど、歌唄はそれに対してトライデントの切っ先を突きたて、砕いた。

そのつぶてが、周辺に飛ぶ。・・・てゆうか、嘘。



「ふん、こんなので」

「お前よりましだっ!!」

≪Struggle Bind≫



なんて言っている歌唄の身体を、青い縄が縛り上げる。

つーわけで、ここから一気に潰す。フェイトも僕とあむの方に戻ってきて、もう砲撃準備状態。動きを封じれば



「・・・ふんっ!!」










・・・・・・なんか力ずくでバインドを引きちぎったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?





フェ、フェイト・・・。










「う、うん・・・」

「これ、相当頑張らないといけないね」

「そうだね。そうじゃないと、ヤスフミ取られちゃうし」

「だからその思考はやめんかいっ!!」




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご


第26話 『あたしにとっての輝きの意味 私にとっての始まりの意味』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・うぅ、まずい。マジでまずい。あたしは何にも出来てない。フェイトさんと歌唄の戦いが凄過ぎて、全く手出しが出来ない。もっと言うと、恭文と違ってツッコミすら出来ない。





でも、だからってダイヤのたまごのことがあるから見てないわけにはいかないし・・・。










「なに、手品はこれでおしまい? ちょっとつまんないわね」





ヤバイ、歌唄がまた来る。なんかやる気満々だし。





「ねぇ、恭文。アンタが来てよ。さっきからなんで何もしてこないの?」

「それはね、二人が僕の意思を無視して勝手なことを言いまくるからだよ? 僕はちょっと引いてたのよ。
つーか、さっき言ったでしょうが。僕は今のお前とマトモにやり合うつもりはない」

「なんでよ」

「つまんないからだよ」



鼻で笑った。それに歌唄が表情を険しくする。



「最初に会った時のまんまだったら、楽しかったんだろうけどね。目的も手段も迷走しまくりな今の歌唄と戦ったとしても楽しめそうもないし。あと・・・僕、人の思い通りに動くの嫌いなの」

「あぁ、そういうこと」

「そういうことだよ」

「それで彼女任せになるなんて・・・最低ね」

「よく言われるよ」



そんな会話をしながら、二人が笑う。なにかが通じ合ったように。でも、何が通じ合ったのかがさっぱりわからない。



「そういうわけで、せっかくのラブコールは嬉しいけど、お断りするよ」



恭文がアルトアイゼンを構えた。



「あら、やる気になったの?」

「さすがにずっとフェイト任せなんてアウトだろうしね。まぁ、サポート程度に頑張るさ」



それに歌唄が楽しそうに笑う。本当に、恭文とやり合いたかったらしい。



「僕はフェイト以外の女の子と付き合う予定はないから。全くないから。てゆうか、絶対嫌だから」

【恭文さんの心の狭さは異常なのです。一人の人で精一杯ですよ】

「そうね、見ててわかるわ。ホントに・・・羨ましいくらい。でも恭文、知ってる?」



歌唄がまたトライデントを構える。体を沈めて、一気に飛び込むつもりらしい。



「愛って、奪い取るものらしいの。そして、私は欲しいものは勝ち取ることにしてる」

「そう。だったらぶっ飛ばす物にそれも追加だ。遠慮なく、そんなはた迷惑な愛もぶち壊してやる」

「やれるもんなら、やってみなさいよ。私は一途な上にしつこいわよ?」

「知ってるよ」





その瞬間、恭文が飛び出した。飛び出して・・・刃を振るう。歌唄はトライデントを振り回してそれを受け止め、流し、払いや突きを加えて行く。



恭文はそれを払い、薙ぎ、対処しつつ歌唄に打ち込む。





「ふふふ・・・見える。どうすればいいのかも分かる。
ねぇ、もっとよっ! こんなのじゃ足りないわよっ!!」

「そう、それなら・・・」





フェイトさんもバルディッシュを構えた。そして、歌唄の後ろを取る。





「私も混ぜて欲しいなっ!!」





横薙ぎに振るわれた鎌。それが歌唄の首を狙う。



しゃがんで、それを避けると同時に、トライデントの柄尻を歌唄に叩き込んだ。





「邪魔すんじゃないわよっ!!」





叩き込んだけど・・・バルディッシュの柄でフェイトさんはそれを受け止める。



歌唄はそのまま押し込んで、フェイトさんを吹き飛ばす。フェイトさんは受身を取って体勢を整えた上で、着地。歌唄は柄尻を右から前方から迫っていた恭文に叩き込む。





「はぁぁぁぁぁっ!!」





叩き込まれた柄尻を、恭文はジガンで受け止める。その表面には、プロテクション・・・防御魔法。足を踏ん張り、襲ってくる衝撃に耐える。ジガンで受け止めた音が、私の方にまで衝撃による空気の振動と共に襲ってきた。

それが収まる時に左腕が捻られるように動くと、トライデントを恭文が掴んだ。掴んで動きが止まったところを狙って、刃が突き出される。アルトアイゼンの切っ先が歌唄の身体を狙う。

歌唄はトライデントから手を離して、その切っ先を避ける。青いバチバチという雷撃の魔力を纏った刃は、歌唄の腹の部分をかする。赤い服がそれで破け、白い肌が露出する。



それに構わず下がりながら、歌唄は両手をかざす。一方は恭文に。一方は近づいていたフェイトさんに。





「ダブルナイトメアローレライっ!!」





放たれた蝶の散弾が、二人を襲う。

だけど、それを二人はすんなり避けて・・・追いかけてきたっ!?



え、アレ誘導弾なのっ!? そんなのアリかなっ!!





「クレイモアッ!!」

「プラズマランサーッ!!」





でも、そこで焦らないのが二人らしい。下がりながらも冷静に対処出来る術式を発動。





「「ファイアッ!!」」





恭文の前に青い散弾の盾。そして、フェイトさんの前には雷撃の数本の槍。それらが放たれて蝶達を一匹残らず撃墜する。



そこを狙って、二本のトライデントが二人に飛んでくる。避けられるタイミングじゃない。ないのに二人は・・・。





「「はぁっ!!」」





鎌と刃を振るい、それを打ち払った。そして、恭文の所にまた二本のトライデント。というより、それを持った歌唄が突っ込んでくる。





「ダブルリリン・・・トライデントっ!!」





そのまま、トライデントを突き出す。恭文はそれを左手で鞘を腰から抜いて、アルトアイゼンも使って二本の槍を受け止める。



そのまま、こう着状態になった。二人とも、動かない。





「・・・一旦、仕切りなおしかしら。このままじゃ共倒れだもの。そうなったら、数の問題で私達の負けだし」

「あらま、このまま試すとでも言うと思ってたのに」





それで気づいた。





「せっかくやる気になってくれたんだもの。どうせなら・・・勝ちたいわ」

「納得したよ」





恭文の下腹部の辺りに、青い魔力スフィア。多分、クレイモアだ。

そして、歌唄のところにも、蝶達が密集していた。



ふ、二人揃って零距離でカウンター入れようとしてたんだ。なんて恐ろしい。





「ヤスフミっ!!」





二人の間を引き裂くように・・・いや、マジで引き裂こうとしてるんだ。

フェイトさんが跳んで、二人の上から鎌が打ち込まれる。

歌唄は二本のトライデントを持ったまま、それを後ろに飛んで避ける。



そして、二人は歌唄と対峙した。互いに武器を構え、またいつ飛び出してもおかしくない体勢に持っていく。





「大丈夫?」

「楽し過ぎてもうちょっと続けてたいくらい」

≪ですよね。思いっきり通じ合ってましたよね≫





そうだよね。私の目から見ても楽しそうだし。





「ダメ。楽しむのは禁止だよ? お仕事優先」

「はーい」





恭文もフェイトさんも、もう最後まで二人で行くつもりらしい。だけど、あたしはどうすればいいの?



ううん、やることならもう決まってる。あとは、実行だけだ。





「あむちゃん・・・」

「これ、相当ヤバイよね。フェイトさん、勝率だけで言うなら恭文より強いって言うのに」



どうもそうらしい。つまり、フェイトさんは細かい違いはあるけど、勝率だけで言えば恭文より強い魔導師になる。恭文がなんか勝率5割超えられないって言ってたし。

そのフェイトさんと恭文の二人がかりでもこの状態。これって、やっぱりミキの言うようにヤバイよね。



「いわゆる一つのピンチですぅ。唯世君達も、月詠幾斗さんに苦戦してますし」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ごーごーアヒルちゃんっ!!」




結木さんが大量の黄色いアヒルを出して、突撃させる。





「ジャグリングパーティッ!!」





真城さんが同じく大量のジャグリングピンを出して、それを放つ。その目標は、不吉の黒猫。こちらへと、地面を這うように突撃してきた悪意。



その攻撃を見て取るや、身を翻し、裏拳の要領で右の爪を振るう。





「スラッシュ」





爪から黒い色の斬撃が生まれる。それは結木さんの出したアヒル達を斬り裂く。





「クロウ」





それから大きく後ろに飛ぶ。上空10メートルは飛んだと思う。そこを真城さんのピンが光の軌跡を描きながら、黒猫を追う。だけど、爪は再び黒い光を宿し、ピンを斬り裂いた。



そのまま猫は着地。一気に走り込む。目標は、僕。





「させないっ! タイトロープダンサーッ!!」





真城さんは大量の縄を発生させ、それを黒猫に向かってまるで鞭のように叩き付ける。



黒猫はそれに対して右に、左に身体を動かしながら縄の軌道を読み、避けつつ爪を振るいそれを斬り裂く。多分、足止めの意味もあった攻撃。でも、その役割を達していない。



だから、僕の方へと真っ直ぐに来る。だから、黒猫は拳を引き、爪で僕をうがつ準備をする。





【唯世っ!!】

「分かってる」





真城さんと結木さんが再びあひるやピンを出す。でも、それは阻まれた。黒猫が姿を消して、二人の前に現れ爪を振るい、それごと斬り捨てる。



その様子に頭が沸騰した。だから、ロッドに金色の光が灯る。だから、それを黒猫に向かって撃ち込む。





「ホーリークラウンッ!!」





ロッドを右から振るい、まるで円盤・・・フリスピーのような形で放った光は、回転しながら二人を斬り捨てた直後の黒猫へと迫る。だけど、左の爪で造作も無くそれを斬り裂いた。




なら、もう一撃・・・





「・・・・・・動き遅すぎ」





その声に寒気がする。声は、後ろから。黒猫が、居ない。





「あのチビの方が、まだ手ごたえあったぞ」





そのまま、爪は振るわれたらしい。空気が動いたから。



だけど、防がれたらしい。金属と金属がぶつかり合う音がしたから。





「・・・そうですね。蒼凪さんと俺達とでは、実力に差があり過ぎますから」

「へぇ、わかってるじゃん。だったら、これもわかるよな。お前らじゃ俺は止められない」

「いいえ、止めますっ!!」





僕の後ろに回って、攻撃を防いでくれたのは三条君だった。そのまま爪を受け止めた二刀を振り切り、黒猫を吹き飛ばす。いや、黒猫はその勢いを生かして後ろに飛んだ。



それからすぐにまた突進してくる。





「キング、下がってっ!!」





三条君に言われた通りに、後ろに下がる。その間に黒猫は三条君に距離を詰めた。三条君は左右から振るわれる爪を、二刀を使って受け止めていく。

突き出された爪を弾いて逸らし、斬り裂くように振るわれたものは刃で受け止め、文字通り火花を散らしていく。援護・・・だめだ。今やったら三条君に当て兼ねない。

悔しい。やっぱり力が足りない。こういう時、蒼凪君やフェイトさんなら・・・。



やっぱり、戦闘経験の差が出てる。多分二人なら、苦も無く三条君を援護出来るから。





「調子に乗ってんじゃ・・・ないわよっ!!」

「やや達、こんな雑魚扱いなんて嫌だもんっ!!」



そんな声がしたのと同時に、ピンとアヒルが二人に殺到する。右の刃を振るい、黒猫に打ち込もうとしていた三条君は、その声を聞いて後ろに下がる。

そして、黒猫はそれに囲まれ、逃げ場をなくした。



「結木さんっ! 真城さんっ!!」

【お前達、大丈夫なのかっ!?】

「なんとかね。結構、痛かったけど」

「恭文やフェイトさんにあむちだって頑張ってるもん。負けてらんないって」





二人の息を吐きながらの返事に安堵・・・しているヒマはなかった。黒い斬撃・・・いや、身体を回転させながらの嵐が生まれ、アヒルもピンも斬り裂いたから。



な、なんて無茶苦茶な真似を。というより、真面目に対抗手段がない。





「・・・・・・どうした、もう終わりか?」





・・・笑うな。



その不敵な笑み・・・僕達をバカにしてるのかっ!?





「ほんじゃま、もうちょい行くか」





そのまま、黒猫はまた飛び出した。





【イクトっ!!】





飛び出して・・・左手をあらぬ方向に突き出した。



その瞬間、左手の爪に何かが着弾した。その衝撃で、体勢が崩れる。そこを狙って、三条君が飛び込んだ。





「イナズマッ!」





黒猫は体勢を直して、その攻撃に対応しようとする。だけど・・・今度は僕も聞こえた。空気を斬り裂くような音。そして、オレンジ色の流星。



再びそれが黒猫に着弾する。黒猫は爪を盾に変えて、それを受け止める。・・・間違いない、ランスターさんの攻撃だ。遠距離から、サポートしてくれてる。





「ブレードッ!!」





右の刃が袈裟に振るわれる。緑色の雷撃を纏った刃。それを左の爪で受け止めて、夜の闇を雷撃がはじけて照らした。



そのまま、三条君が刃を振り切ると、黒猫が後ろに圧されて下がる。



・・・今だ。ここで押し切れば




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・・・・スゥの言う通りだ。そうすると唯世くんの救援は期待出来ない。





あたし、思い出せ。あの模擬戦・・・恭文とティアナさんとヒロリスさんにサリエルさんの四人の模擬戦。もう一つ思い出せ。二階堂と決着をつけた時の事。

あの時、あたしは何を感じた? 力不足だ。そうだ、あたしは弱い。今の歌唄もそうだし、恭文やフェイトさんよりも弱い。戦うための訓練なんてしたこともなければ、歌唄みたいな物騒なパワーアップアイテムもない。

そんなあたしに何が出来る? 今、何をするべき? そうだ、答えは一つしかない。今の状態だと歌唄の攻撃に当たらない事を最優先に考えないといけないんだ。





今の歌唄の攻撃は、当たったら痛いじゃ済まない。そして、あたしが当たりそうになれば、恭文にフェイトさんが助けてくれる。でも、それはいけないんだ。

それで恭文やフェイトさんがいちいちあたしのフォローに回ってたら、間違いなく足手まといだよ。歌唄だって、絶対にそこを狙って攻撃してくる。というか、初っ端でそれをやってきてる。

やるべき事は、あの旧社員寮での時と同じ。あたしに飛んでくる攻撃は、全部あたしで処理する。絶対に二人の足手まといにならない。何が出来なくても、これだけは、絶対にやらなきゃいけない。





てゆうか、エル。










【はいです】

「ランと変わって。この状態じゃ・・・まぁ、あたしのせいなんだけど、ちゃんとエルの力を使って上げられないもの」

【・・・あむちゃん、優しいですね】



え?



【エルがだめとか、使えないとか、そういうことを言わないです。恭文さんとフェイトさん達も同じです。エルのことをそんな風に言った事、一度もないです】

「そっか」

【まぁ・・・余計な事言うと、賃料を要求して働いて返してもらった上で叩き出すとは言われた事がありますけど】

「恭文にだね」

【正解なのです】



すぐに分かった。そんなこと言うのは一人しか居ない。

まぁ、だからってほんとにやるわけが・・・ない、はず。ごめん、断言出来ないわ。



【とにかく、もうちょっとだけ待っててください。・・・イル、イル・・・お願いなのです。力を貸してください】




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・んだよ、さっきからうるさいな。





お前は今更アタシに用はねぇだろ? どーせアタシは他の人のしゅごキャラなんだしよ。





なんだいなんだい、25話まで登場しなかったからってこの扱いはねぇだろ? なんだよこれ。










”むむ、イルは心が狭いです。みなさんなりの歓迎の挨拶なのに。『ようこそ、とまとワールドへ』という歓迎の気持ちがたっぷりと詰まっていましたよ?”

”あれは普通にいじめだろうがっ! それもPTAとかに怒られるレベルだぞっ!? 歓迎の気持ちどころか悪意を感じたしっ!!”

”それだけじゃなくて、教育委員会や人権保護委員会とかにも怒られますね”

”なんかすっごい分かってるっ!? だったら最初からやるなっ! つーか、アタシにどうしろって言うんだよっ!!”

”こっちに来てくださいっ! エル達で力を合わせて、歌唄ちゃんを助けるですっ!!”



・・・はぁ? 何言ってんだよ、バーカ。んなのしたくねぇよ。

てかよ、助ける必要ないだろ。歌唄は別に普通だし。



”本当にそう思ってるですか?”

”・・・どういう意味だよ”

”イルだって分かってるはずです。ダイヤと今も歌唄ちゃんが身につけている宝石、ブラックダイヤモンド。この二つが今、確実に歌唄ちゃんをおかしくしています。
現に今だって変じゃないですか。歌唄ちゃんはこんなトリッパーなキャラではありません。戦闘のプロである恭文さんやフェイトさんと対等に渡り合うなんてこと、出来るはずがありません”



まぁ、そうだな。つーか、戦い始めてからやたらと口軽いしよ。それまではもうどこのヤンデレかって思うくらいに暗かったのに。

てゆうかエル、なんで歌唄が拾った宝石の名前知ってんだよ。いや、その前にその『トリッパー』ってなんだ? 意味分かって言ってんのかよ。



”それはですね、簡潔に説明すると・・・かくかくしかじか・・・というわけなのです”

”あの宝石が原因で歌唄の能力が上がっていて、下手をすれば歌唄が死ぬ・・・ってのかっ!?”

”フェイトさん達の話だと、その宝石みたいな強い力を持った・・・ロストロギアと言うらしいのですが、それを使うのはそういう危険がある事が多いそうです。
それに、これ以上使い続けると今度はそのロストロギアを探している人達に捕まる危険もあるです。イル、もう時間がないのです。お願いですから、協力してください”

”お前、いきなりそんな話されて信用出来るわけが”





でも待てよ。ここ数日、あの宝石の力どうこうって話をダイヤとしまくってて、確かにあの宝石の力を使う度に歌唄が・・・こう、おかしい感じになっていった。

それプラスダイヤの奴だ。アイツはそれを知りながら歌唄に宝石の力を使うように勧めてさえいやがる。

つまり・・・エルの言っていることは少なくとも間違いではない? つーか、コイツバカだから嘘つけるやつじゃねーしな。



なら、アタシはどうする? この状況は確かにマズイ。だって、もし話が本当なら、アタシは歌唄の寿命を縮める手伝いをしてるようなもんだし。





【うーん】

「うーんじゃないわよっ! イル、動きが重いわよっ!? 全く、これだからイルは・・・!!」



・・・・・・キレた。プチンとキレた。

なので・・・ひょいっと歌唄から飛び出した。



「あ・・・」





アタシが飛び出すとどうなるか? 簡単だ、キャラなりは解除される。





「イルっ!!」

「うっせー、文句言うなら自分だけでやってろってーのっ! アタシはもう知らねーしっ!!」



そのまま、アイツらの方へ行く。あ、エルの奴がキャラなり解除した。

つーか、涙流して鼻水垂らしながら突進してくる。



「イルゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

「エルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」



そうしてアタシは・・・。



「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



エルを蹴り飛ばしてやった。当然アイツは後ろに吹き飛ぶ。

・・・あれ、アタシは足当ててないんだけど。寸止めなんだけど。それでなんで吹き飛ぶんだよ。



「ふぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ぶっ!!」



あ、なんかチビスケの顔面に



「・・・・・・なにすんじゃいボケっ!!」



エルがそのまま左腕で掴まれて、ぶん投げられた。



「「ふぎゃっ!!」」



そして、アタシに直撃。猛スピードで飛んでくるから、避ける余裕がなかった。そのまま二人して地面に墜落する。

い、いてぇ・・・てめぇ、なにしやがんだ。つーか、マジで容赦ないし。



「大丈夫、僕は平等主義者だから」

【そしてドSなのです】

「お前ら、絶対言葉の使い方間違ってるぞっ!! ・・・つーか日奈森あむ」

「え、あたしっ!?」



とにかく、上に乗っかるエルはどかして・・・あー、やっといつもの調子が出てきた。やっぱいじめられる相棒がいないと、つまんないな。

んじゃま、いくぜー! アレやってみたかったんだよなぁっ!!



「お前のこころ、アンロックっ!! ・・・てか?」





次の瞬間、アタシは目の前の女の鍵を開けて、日奈森あむに吸い込まれた。





「え、えぇぇぇぇぇっ!?」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



生まれたのはついさっき見た妖しい光。それがあむの身体を包む。





そして出てきたのは・・・赤いギターを持ち、こうもりの体を模した上着とスカートを着て、黒い小悪魔っぽい帽子を被り、白と赤の縞模様のストッキングを身に着けた女の子。つーか、あむ。





う、うそ。なんかまた歌唄のしゅごキャラとキャラなりした。










【「キャラなりっ! アミュレットデビルっ!!」】

「イルと・・・キャラなりっ!?」



歌唄も驚いた様子でこちらを見る。いや、そうしながらなんかダイヤとキャラなりした。つーか、マジで切り替えが早い。



「あ、あの・・・あなた」

【勘違いすんなよな、オバさん。アタシは】



瞬間、あむの首筋に刃を突き立てた。



「・・・選択しろ。その言葉を訂正して話を続けるか。訂正せずに壊されるか」

【待て待てっ! 日奈森あむも居るんだぞっ!?】

「あむ、ごめん。だけど、テロリストに屈しないというのは世界条約で決まっていることなんだ。中に居る無礼な奴もろとも・・・頑張って」

「意味わかんないよそれっ!!」



つーか、訂正しろ。フェイトはおばさんじゃない。

フェイトがどんだけ素敵か、動けないようにふんじばった上で72時間くらいかけて語ってやろうかっ! あぁっ!?



【わ、分かった。そうしないと話進まないしな。あとそんなに語られたくねぇし。・・・お姉さん】

「『素敵な』を付けろ」

【いちいちハードル上げるなよっ!!】

「なにごちゃごちゃ喋ってんのよっ! シャイニングブラックっ!!」



・・・うざいっ!!



≪Icicle Cannon≫

「ファイアッ!!」



左手に青い凍れる魔力スフィアを形成。それをぶっ放す。放たれたのは氷結変換した魔力砲撃。

それにより、歌唄が放った光のつぶて達を全て撃墜する。



「こっちは大事なお話中だ。邪魔せずに見てろ」



目の前には爆煙。それが僕達と歌唄を隔てる。だけど、気配で分かる。歌唄の動きが、止まった。



「はい、というわけで付けろ」

【だからお前は空気を読めっ! この状況でそんなこと言ってる場合かっ!?】

「この状況だからこそ拘ってるんだよっ!!」

【お前絶対バカだろっ!! ・・・と、とにかく、素敵なお姉さん。勘違いするなよな。
アタシはお前らやイルの話を信じたわけじゃねぇ。ただ・・・マジだった時に歌唄になんかあるのは】



あむが首からぶら下げた赤いギターを持ち、そのまま構え・・・弾きだす。流れるのはロック調のノリのいい音楽。



【絶対嫌だ。だからここに居る。それだけだ】

「それだけで充分だよ。イルちゃん・・・だったよね、ありがと」

【ふん。・・・さぁ、日奈森あむ。てってーてきにいくぜー!!】

「りょ、了解っ!!」



ギターから出てくるのは、赤ともピンクとも取れる光。これは・・・譜面? というか、音符?

そう、音符と譜面の線が、そのまま真っ直ぐに飛ぶ。そして、爆煙を突き破り・・・。



「シャイニングブラックっ!!」

「デビルズチェーンっ!!」





歌唄が右手をかざして、そこから放つダイヤ型の光のつぶて達と正面から衝突しあい、そしてせめぎ合う。そのぶつかり合う光が、闇を照らし、僕達の目の前を明るくする。

距離にして100メートル前後の空間の丁度真ん中で、力は互いに意地を貫くためにぶつかる。どちらも、引かない。

そう、どちらも引かないのだ。歌唄も、あむも。



すごい。歌唄の力・・・上がってるはずなのに、対等にやりあってる。





「く・・・」

【ほらほらっ! もっとノッてこうぜー!!】

「あわわ・・・指がっ! 指がすごい勢いでうごくー!!」






あむの指が激しく動き、ギターから流れる音楽が激しさと勢いを増す。少しずつ、本当に少しずつだけど、歌唄の攻撃が圧され始めた。



・・・くるな。





「く・・・! グリッター」





瞬間、歌唄の身体が輝く。そして、胸元のブラックダイヤモンドも輝きを増す。



ヤバイ。これは・・・ヤバイ。予想通りにブラックダイヤモンドの力を更に引き出そうとしてるし。



あと、感覚が言ってる。この攻撃は絶対に防げ。防げなかったら死ぬって言ってる。





「唯世っ! 今すぐにガードしてっ!!」





向こうで猫男と交戦していた唯世に声をかける。そして僕とフェイトは前に出て、僕は左手を、フェイトはバルディッシュをかざす。そして、互いにカートリッジを3発使用。



次の瞬間、歌唄の身体から黒い光が放たれた。





「パーティカルっ!!」











黒い光のダイヤが辺り一面に散弾のように飛び・・・いや、これは爆発エネルギーだ。





そう、歌唄を爆心地として、黒い爆発がヘリポートの中央で起きた。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・どうしてよ。





どうして、エルもイルも居なくなるのよ。





私が何をしたって言うの? 私は・・・私は・・・。





もういいわ。あんな子達、いらない。





私には、ダイヤが居る。そして、この宝石がある。





それだけで・・・それだけでいい。





それ以外はもう、なにもいらないっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「唯世っ! 今すぐにガードしてっ!!」










・・・蒼凪君にそう言われて、不本意だけど戦闘を中断。僕はすぐに防御体勢を整えた。

だって、黒い悪意・・・そして暴力が僕達の目前にまで迫っていたから。

皆もそれを見て僕に近づく。それを確認してから、ロッドを頭上にかざした。





そして、使うのはこの技。










「ホーリークラウン・スペシャルっ!!」





金色のドームが僕達を包む。その瞬間、黒い爆発が起きて、僕達は飲み込まれた。



黒いエネルギーは路面を削り、砕き、全てを無に返す。かなりキツイけど・・・頑張らないと。





「おいおい、なんだよこれ。こんなのが出来るなんざ聞いてねぇぞ」

「月詠・・・幾斗、どうしてここに」

「近づいてやりあってたんだ。当然だろ」





正直、締め出して・・・あぁ、だめだ。さすがにこれは命に関わる。



そして、爆発は収まる。収まって・・・僕は崩れ落ちた。





「唯世っ!?」

「キング、しっかりっ!!」

【おい唯世、大丈夫かっ!?】

「うん、なんとか」



そのまま、顔だけを上げて爆発の中心部を見る。・・・あ、蒼凪君達は無事だ。よかった。

でも、それを認識した次の瞬間見たものは、信じられないものだった。



「歌唄・・・」

「ね、いいんちょ。アレ・・・なに? 歌唄ちゃんの周りになんか黒いのが」

「恐らくですが、ロストロギアの力でしょう」










黒いオーラが歌唄ちゃんを包む。そして瞳をゆっくりと開ける。





そこに映っていたのは、黒色の瞳。間違いない、歌唄ちゃんにロストロギアの影響が出始めてるんだ。現に、蒼凪君とフェイトさんの表情に焦りが見える。





まずい。あんなのをもう1発撃たれたら・・・終る。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「歌唄・・・ちゃん」

【なんだよ、その目。歌唄・・・どうしちゃったんだよ】



僕はアルトを鞘に納める。フェイトも、バルディッシュを構える。エルとイルが声を揃えてそんな事を言う。

そしてあのバカは、鼻で笑って言い切った。



「もう、アンタ達いらないわ」



まだ、言うか。



”抑えて下さい。まだ40秒以上あります”

”分かってる”

”もう少し、もう少しだけ・・・!!”



そして、黒い瞳をした歌唄は、右手をかざし・・・。



「シャイニング、ブラック」



黒く光る、ダイヤのつぶてが密集した奔流を放った。



【く、あむっ!!】

「うんっ! デビルズっ!!」



再びあむがギターを引き出す。それだけじゃなくて、フェイトも動く。



「サンダー!」



バルディッシュのカートリッジが3発ロードされる。いつの間にかリロードはしていたらしい。そうして、左手に金色の砲弾。

それを、歌唄の方に向けて、トリガーを引いた。



「チェーンっ!!」

「スマッシャーッ!!」



雷撃の力を込めた砲撃と、赤い音符と線達が、飛んできたつぶて達を受け止め・・・せめぎ合う。

マジかい。フェイトの砲撃をプラスして対等なんて・・・。



「私は、強い」



目の前で放たれる砲撃と形ある音楽と輝くつぶて達が放たれ続け、ぶつかり合う。

ぶつかり合い、少しずつ・・・本当に少しずつだけど、こちらが圧されていく。



「恭文っ! 恭文も手伝ってっ!! なにじっとしてんのっ!?」

「それはだめっ! ヤスフミ・・・まだっ!?」

「ごめん、詠唱中っ!!」



くそ、特別版とは言え、ここまで時間かかるとは。

でも、耐えろ。これなら気づかれずにいけるかも知れない。いや、この光に満ち溢れた空間なら、いける。



「優しさという甘えは捨ててきたわっ! 中途半端なアンタ達とは違うし、分かるはずがないっ!! 私は歌でずっと勝ち抜いてきたっ! スポットライトの影で、血のにじむような努力もしてきたわっ!!
さっき、私の強さを否定するって言ってたわよねっ!? だったら、アンタ達の強さ・・・私が否定してあげるわよっ! いいえ、もう立てないように、徹底的に壊してあげるっ!!」

「歌唄っ! もうやめてっ!! なんで・・・なんでそこまでするのっ!?」

「勝たなかったら意味がないからよっ! 優しさを弱い事への言い訳にしているアンタ達は、負けたって何も感じないからそんなことが言えるのよっ!!」










残り・・・25秒。





歌唄は、今のところ気づいていない。だから早く・・・早く。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



言い訳になんて、してない。





そんなこと・・・してないっ!!










「どうかしら」





ギターを必死でかき鳴らしながら、せめぎ合う三つの力がぶつかる音が辺りに響きつつも、その声だけは静かに聞こえた。



この声・・・ダイヤ?





「ダイヤモンドは傷がないからきらめくのよ。強い決意と覚悟が、歌唄を輝かせている。だから強い。あなた達では、歌唄には勝てないわ。だって、かがやきが弱いもの」





・・・確かに、強い。あたしなんて、足元に及ばないくらいに。





「そう、それがあむ・・・そしてフェイト・T・ハラオウンっ! あなた達の答えよっ!! さぁ、どきなさいっ! 私が戦いたいのは、アンタ達じゃないのよっ!!」





だからあたしは





「喋るなっ!!」





ギターを動かす手が止まりそうになった時、声が聞こえた。それは・・・フェイトさん。



左手から雷撃の奔流を放ちつつ、額に汗を浮かべつつ、必死な顔で力を放ち続ける。そうしながら、声を上げる。





「輝きが弱いっ!? そんなの、勝ち負けには何一つ関係ないっ! 決意と覚悟なら、私の中にも、あむの中にもあるっ!!
なによりあなた達・・・知ってるっ!? 戦いは、強い方が勝つんじゃないっ!!」





少しだけ、本当に口元がニヤリと笑った。そして、言い切った。





「戦いは、何時だって、どんな時だって、ノリのいい方が勝つんだっ! 私達だってヤスフミと同じで、最初から最後までクライマックスなんだからっ!! そうだよねっ!? バルディッシュッ!!」

≪Yes Sir ・・・日奈森女史、あなたはどうなんですか?≫

「え?」





声は静かにあたしに届く。バルディッシュ、普段は全く喋らないから、その声がちょっと新鮮だったりした。





≪あなたは、本当にほしな歌唄の言うように負けても悔しくないのですか? 私とSir、そして彼にアルトアイゼンとリインは、悔しいです。
なによりあのような戯言のために、ここで未来が潰えるのは、許せません。だから、今この瞬間を覆すために、抗います。あなたは、どうでしょう?≫





そして、視線でフェイトさんが言ってくれる。



すると、いつもの優しい声が聞こえた。ただ一言、『大丈夫だから』・・・と。その言葉で、気持ちが決まった。



あたしは、あたしの戦いをこの瞬間に、始めた。





「・・・・・・悔しいよっ!!」





声を上げる。指が動く。心が熱くなって行く。心の中からどんどん力がわきあがってくる。



それに呼応するように、赤い形ある音楽達が、更に歌唄のシャイニングブラックを押し込んでいく。いや、あたしだけじゃない。フェイトさんの放つ雷の砲撃も、勢いを強めた。





「な・・・!!」

「負けたら、悔しいに決まってるっ! 少なくともあたしはフェイトさんとバルディッシュ、恭文にアルトアイゼンとリインちゃんと同じで悔しいし、嬉しくもないっ!!
でも、歌唄・・・アンタやダイヤの言うみたいに、負ける事が、傷つく事が終わりだなんて、絶対に思わないっ!!」

「ふんっ! だから、アンタは弱いのよっ!! それが甘えで弱さだって、なんで分からないわけっ!?」

「違うっ!!」





ずっと、考えてた。強さの意味、戦う事の意味。





「次は負けないぞ、がんばるんだと思えればっ! そうやって立ち上がれればっ!! 傷の数だけ、強くなれるんだっ! それは絶対に終わりなんかじゃないっ!!
負けをいっぱい知ってる人は、傷つく事で痛みをいっぱい知っている人は、いっぱい輝けるはずなんだっ! それが甘えや弱さだなんて、あたしには思えないっ!!」





答えは、全然出ない。星みたいに沢山な答えの中にある、あたしだけの答えは、まだ見つからない。



だけど・・・!!





「あたしは、歌唄やフェイトさん、恭文や他のみんなと違って、ふわふわしてて、あいまいで、本当の自分なんてよくわかんないっ!!」





そんなあたしの事を、信じてくれた人が居る。





「足りないものだらけのダメな子かも知れないっ!!」





あたしの中の強さを認めてくれた人が居る。そいつは、凄く意地悪で、性格悪くて、何考えてるのかわかんない事が沢山有って、だけど・・・無茶苦茶強くてすごい奴だ。





「だから、たまごが四つも生まれちゃったのかも知れないっ!!」





そんなすごい奴に信じてもらえて、泣きたくなるくらいに嬉しかった。やっぱりフラグ立てられてるのかなとか、ちょっと考えたりした。





「だけど・・・!!」





ここで負けたくない。あたしは、正直誰に負けたっていい。別に誰かに勝ちたいなんて思わない。

でも、負けたら、傷がついたら全部が終わりだなんて思うような奴にだけは、絶対に負けたくない。

そういう勝負もあるかも知れない。あたしはただ甘いだけかも知れない。世の中の事とか、全然分かってないかも知れない。



だけど、それでもあたしはそんな考えは否定する。それは違うって、声を上げる。





「それでも、あたしは信じてるっ!!」





だってそれは、そこから先の可能性を生み出せないから。

そこから先に続くものにあることから目を向ける事を否定しているから。

それじゃあダメなんだ。何も先に続いていかない、自分だけじゃなくて周りのものも否定するような・・・・・・。



そんな今を壊すだけの選択なんて、あたしは絶対に認めない。



それを選ぶ事が強さなら、あたしはそんな強さ、いらない。





「あたしは、あたしの中の輝きをっ!!」





なによりあたしは、絶対に・・・絶対にアイツを裏切りたくないんだっ!!



アイツが信じてくれた事が間違いだったなんて、そんな証明したくないっ! そんなの、あたしのキャラがすたるだけじゃんっ!!





「歌唄、アンタやダイヤが何を言おうと関係ないっ! あたしは絶対に・・・絶対に信じ抜くっ!!」





だから負けないっ!!



絶対に、負けるもんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!





”・・・・・・そう”





力の全てを吐き出そうとするように指を動かし、ギターを必死にかき鳴らしながら叫んでいると、声が聞こえた。





”それが、あなたの答え”





次の瞬間、歌唄の身体が輝いた。それだけじゃなくて、胸元のロックも輝く。





”あなたのこころ・・・”










あたしのこころ、アン・・・・・・ロック。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



凄まじい力と力のぶつかり合い。僕達は動く事も出来ずにただただ見ているだけだった。





そんな時、日奈森さんとほしな歌唄が光に包まれた。いや、それだけじゃない。










「月詠幾斗、それは・・・」





ダンプティ・キーも輝いていた。そしてその光は、日奈森さんとほしな歌唄が包まれている光と同じ。



その光によって、さっきまでの力のぶつかり合いが吹き飛んだ。これ、一体・・・。





「まさか、あれにキーが反応してんのか?」










一体、何が起きているんだ?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・あと10秒という段階で、僕達の居る空間が光に包まれた。





その光により、フェイトも、あむも、歌唄も攻撃を中断。でも、それはすぐに収まっていく。





そして、変化が現れた。










「お、追い出されたぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「イルちゃんっ!?」



フェイトが咄嗟にジャンプして、上空に飛びかけたイルをキャッチ。



「大丈夫?」

「た、助かったぁ・・・。つーか、あんがと」

「ううん。でも、どうしたの? それにこの光は」

「わかんねーよ。急にキャラなりが解除されて、気づいたらこれだ」



てゆうか、一体なにが起きてんのさ。



「恭文さん・・・アレ」



エルがある一点を指差す。そこは数メートル上の空中。そこには、あむが居た。だけど、あむじゃない。



【綺麗です・・・】

「はい、すごく綺麗です」





だって、服が違う。白と黄色の中間くらいの色合いの長袖ミニスカートのワンピースに、背中には羽のようにも見える大きめの装飾。



全体的に、服やブーツが大きめというか、どこか未来的なものを感じさせるデザイン。





【「キャラなり」】





頭には白のヘアバンド。髪をツインテールにして、左側にダイヤ型のキラキラした大きめの髪飾り。



顔の右頬にはインカムマイク。てゆうか、これ・・・なに?





【「アミュレットダイヤっ!!」】





アミュレット・・・ダイヤ。



え、ということはもしかしてっ!!





「ダイヤとの、キャラなりっ!?」

【・・・正解よ、フェイト・T・ハラオウンさん。そして、蒼凪恭文君】





そして、あむの左肩の方に出てきたのは、今のあむの姿に近い小さな女の子。



まさか、この子はダイヤ? でもさっきと姿が・・・あ、そっか。×が、取れたんだから、違ってて当然なんだ。





「ダイヤ。あの、これ」

【あむちゃん、あなたの強さ、あなたの輝き、見せてもらったわ。この姿は、あなたの輝きそのものよ。
誰でも胸の奥に秘めている小さなきらめき。あなたがそれを信じてくれたから、輝きが蘇った】

「これが、あたしの・・・」

【あと・・・他にも色々と気づいたわ。ふふ、あむちゃん。私は応援してるわよ?
確かにフェイトさんは強敵だけど、勝てない事はないと思うの。『絶対にアイツを裏切りたくないんだ』・・・か。素敵な響きだったわ】



なぜだろう、あむの顔が赤くなった。それも僕を見て。

まぁ、ここはいい。とりあえず、僕はある場所を見る。そこには、崩れ落ちた歌唄の姿があった。当然、ダイヤはこちらに居るのだから、キャラなりは解除されている。



「た、立て・・・」

「・・・歌唄、お前ずっとダイヤとキャラなりしてただろ? もう立てるわけがねぇよ」

「そうです。他の人のしゅごキャラとのキャラなりは、とても体力を消耗するんです。もう、無理です」





つまり、戦う力は残っていない。



だから、僕は屈んで、抜きの型に持っていく。もう、刃は打ち上がった。





「ま・・・だよ」





歌唄は立ち上がった。ふらふらとしながらも、その両足で立ち上がる。うん、分かってた。僕でもそうするから。



驚くエルやイルを余所に、僕は意識を集中する。世界がモノクロになっていく。



そのまま、踏み込んだ。





「まだ・・・やれるっ!!」





歌唄の瞳が再び黒に染まり、胸元のブラックダイヤモンドが瞬く間に全身を包み込む。



・・・50秒。僕の詠唱・処理速度とリインとアルトのサポートでも、それだけかかった。





「もういらないっ! ダイヤも・・・いらないっ!! 私にはまだこれがあるっ! この力があるっ!!」





黒き乙女は声を上げる。僕には気づいていない。いや、気づくわけが無い。だって、僕はもうコイツとは別の領域に居るんだから。



・・・歌唄が気づいていないことは、もう一つある。僕がある魔法を詠唱していた事に。だからこそ、あむやフェイトと一緒に戦えなかった事に。そして、それが自分の敗因だと言う事に。





「これさえあれば」





自身を黒い宝石とした歌唄の動きが止まる。そりゃそうだ。右側頭部をオレンジ色の弾丸が直撃したんだから。



そして、それによって体勢が崩れた所を狙って、僕は抜きで、下から上にアルトの刃を打ち込み、黒い乙女を斬り上げる。





≪Starlight Blade≫





鞘から抜き放たれた途端に姿を現し、夜の闇を照らす存在が現れた。

刀身を包むのは、眩く輝く青い光。それは、星の光の刃。そう、僕とリインの、今を覆す最高の切り札。

ちなみに今回は威力をいつもより上げて、ロストロギアの封印術式も組み込んだ特別版。だから時間がかかった。



・・・下手に戦闘が継続すると厄介だった。まぁ、ダイヤの×が取れたのは好都合だ。おかげで何も気にせずにぶった斬れる。





「こわさ・・・ないで」





モノクロの世界では、声がよく伝わらない。だけど歌唄の唇の動きから察するに、こうつぶやいたんだろう。

ただ、それは無意味だ。だって、その間に僕は上段から唐竹割りに一閃を打ち込んでいるんだから。

視界に色というものが戻ってくる。目の前には、二つの斬撃を受けた黒き乙女。



身体に刻まれたのは、星の光の斬撃。・・・・・・バカか、お前。



僕は、僕達は壊しに来たんだ。今更グダグダ抜かすな。





【恨むなら恨んでください。全部、持っていきますから】

「さぁ、お前の罪を・・・・・・数えろ」










そのまま、斬撃から生まれた青い星の光の奔流は、歌唄を飲み込む。





そしてヘリポートの砕けた路面を削りながら、更に大きな穴を穿つ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



それは、本当に一瞬だった。





あたし達の近くに居たはずの恭文が、消えた。そして数秒後、黒い乙女と化した歌唄を斬っていた。その斬り口から青い力の奔流が生まれて、そこに歌唄は飲み込まれた。





両手に持つのは、眩く輝く青い刃。アルトアイゼンの刃が、今まで見た事のないくらいに輝いている。










「あの、フェイトさん。あれって・・・」



フェイトさんの近くに行って、声をかける。



「・・・あ、あむは見たことなかったね。あれはスターライトという魔法なんだ」



・・・すたー、らいと? え、なんですかそれ。

というより、なんかすっごい砲撃みたいにバーンってなってるんですけど。



「使用には条件付きだけど、ヤスフミとリインにアルトアイゼンの切り札。一撃で仕留めて、ロストロギアの能力を封印してもらうために、ずっと詠唱してもらってたの」

「あ、もしかしてさっきから何もしてなかったのって」

「そういうこと。いつもより威力高めで、1発で封印処理をしてもらうために、ちょっと時間がかかっちゃったけど」



あ、あはは・・・。先の先まで考えていてあれだったんだ。そう言えば、詠唱中って言ってたもんね。

でも、不思議。一瞬見とれた。あれは、攻撃魔法のはずなのに。



【星の光・・・。なんて眩くて、力強い輝きなの? あんなの、彼からは少しも感じなかったのに】

「でも、あれはヤスフミの・・・ううん、あの三人の力だよ。ダイヤ、あなたはヤスフミを屑鉄って言ったけど、それは違うと思うな」

【そうね、それは訂正しないと。歌唄の言うように、彼の輝きはその中にあったわ。
それは星の光。夜空を照らす、例え見えなくても存在し続ける消えない光。それが、彼の輝きなのね】

「うん」










・・・・・・消えない光、か。恭文のうそつき。





ちゃんと、恭文にも輝きあるじゃん。しかも星の光ってさ、凄すぎじゃん。そんなんじゃ、あたし勝てないし。





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