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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第25話 『決戦 ガーディアンVSブラックダイヤモンド』



どうにか我が家に帰り着いて、怪我の事をフェイトに知られて泣かれそうになったり、ディードに無茶し過ぎと怒られたり・・・。





そんなイベントを超えて、ようやく家のリビングでこれからの行動について話す時間となった。










「・・・みなさん、本当にすみませんでした。俺は・・・その」

「皆、本当にすまなかった。拙者達、なんと謝ればいいのか・・・。かくなる上は」

≪とか言いつつ二人揃って腹を出すのはやめてください。あなた方、人の家で切腹するつもりですか?≫

「アルトの言う通りだよこのバカっ! 普通にそっちの方が迷惑だっつーのっ!! ここ、僕達の家だって事を忘れてるよねっ!?」





とにかく、問題は山積みだ。そして、海里とムサシがアホな行動をし出すのもその問題の一つ。あぁもう、お願いだから素直に納得して欲しい。



ただ、こんな状況に一石を投じる人達が居た。そう、当然あの子達だ。





「あぁもう、そういうのもう無しっ! いいんちょはちゃんと戻ってきてくれたんだから、もうやや達はいいのっ!! ね、みんなっ!?」



そう、ガーディアンのみんな。なお皆、海里の事は気にしていない・・・というより、それも含めて仲間だと思っている様子。

だから、ややの言葉に全員が頷く。



「そうよ。もうめんどくさいからなし」

「結木さんや真城さんの、みんなの言う通りだよ。三条君・・・とにかく、おかえり。君が居なかった分、仕事が溜まってるんだから、これから今まで以上に頑張ってもらうね?」

「はい。あの、ありがとう・・・ございます」





海里がなんか涙目になってるし。・・・一応、よかったね。なんとかなってさ。



とは言え、出来ればこのまま感動話で終わらせたいとこだけど、そうはいかない。だって、頭の痛い話が出てきたから。





「海里、戻ってきて早速で悪いんだけど、どうしても聞いて欲しい事があるんだ」

「聞いてほしい事?」

「もうりまとみんなは知ってることなんだけど・・・僕の力の正体とか、フェイトや僕達が何者かってこと」



そこまで言うと、海里の表情が固まる。そして、真剣な目で僕を見る。視線で『本当にいいんですか』と聞いてくるので、頷きで返した。



≪というより、そこと関係する形でかなり大変な事態が起きてるんです。そのためにも、あなたもそうですし、ガーディアンの方々にも協力していただきたいんですよ≫

「こてつちゃん、大変ってどういうこと?」

「そうだよ、ヤスフミもアルトアイゼンも、ちゃんと話して? 海里君が無事だったのは喜ばしいけど、私達もいきなりでさっぱりだし」

「・・・わかった。フェイト、例のロストロギア・ブラックダイヤモンドの在り処が分かった」

「えぇっ!?」



魔導師組の全員が驚きに表情を染める。まぁ、ここは当然だ。普通ならここに話は直結しないから。

だけど直結する理由が今回の一件で僕達の前に出てきた。そのキーは、ほしな歌唄だ。



≪ただ、その在り処が問題なんです。・・・ほしな歌唄が持っていたんですよ≫

「ほしな歌唄がっ!?」

「じゃあじゃあ、あそこでリインが感じた魔力反応は・・・」

「後でデータ照合してみようか。間違いなくピッタリだよ」



出来ればここだけで終わって欲しかった。何度も言うようだけど終わって欲しかった。

でも、運命の神様は気まぐれらしい。そんなこと、許してはくれなかったよ。



「しかも、その力を自分の意思でコントロールしているようにも見えた。まぁ、確証は無いけど。
つまり・・・意識してるかしていないかは別として、歌唄はロストロギアを不正利用してるんだよ」

「え、ちょっと待ってよ。ロストロギアって、ガーディアン会議で恭文が話してた地球に落ちてきたのって言うのだよね。
それを歌唄が持ってたのっ!? それありえなくないかなっ!!」

「ありえなくても持ってたの。ほら、皆に歌唄に手を出すなって指示したよね? あれ、それが原因なんだ」



みんなに簡潔ではあるけど説明する事にした。ロストロギア・・・歌唄が持っていたあの宝石はいわゆるブースターで、持ち主の意思に応じて能力を上昇させる効果があると。

だから、危険性を考えて待ち伏せ組には引いてもらったと話した。



「でも蒼凪君、単純に能力強化の効果を持つ宝石というだけで、そこまで警戒するものなの?」

「それだけじゃない可能性もあったんだ。ただ単にこちらが知らないだけで別の能力があったってパターンは、過去の事件でも何度もあるもの。
それで怪我なんてしたら目も当てられない。・・・いや、怪我だけで済まない場合だってある」

「なるほど、その辺りも鑑みて・・・ということだね」



僕の言葉に、唯世が納得してくれたようだ。表情で分かる。



「そして、ほしな歌唄は今、そのブラックダイヤモンドというロストロギアの影響で能力がアップしてる・・・ということだよね?」

「とりあえず、僕の攻撃を見切って回避ついでに背中を取った上でカウンターをかませるくらいにね。
ブラックダイヤモンドは話によると、ブーストがかけられる能力に特に制限があるわけじゃないから」

「本人が強くしたいと思えば、それがどんな能力であろうと、自身が保有するものであれば強化出来るというわけですか。その汎用性は恐ろしいですね。
しかも戦闘に関しては全くの素人であろうほしな歌唄が、蒼凪さんの動きについてこれるとなると、相当強化の幅があると見ていいかも知れません。・・・そう言えば」

「いいんちょ、どうしたの?」



海里が思い出したように小さくつぶやいた。なので、全員の視線がそこに集まるのは、当然だ。

海里はそれを緊張した面持ちで受け止めつつ、言葉を続けた。



「ほしな歌唄と少し話す機会があったんですが、気になったのでその宝石について聞いたんです。レコーディング中もそれ以外の時も、ライブの時も見につけていたので。
そうしたら・・・『自分に力をくれるお守りみたいなもの』という答えが返ってきました。その時にはなんとなしに聞いていたのですが」

「今の恭文の話を踏まえた上でそのまま受け取るなら、ほしな歌唄はそのブラックダイヤモンドの能力に気づいていることになるわ。少なくとも、自分に力をくれる存在という認識はある」

「そうだね、りまの言う通りだ。・・・フェイト」

「ヤスフミ、アルトアイゼン、最終確認だよ。ほしな歌唄がブラックダイヤモンドを持っていた。不正利用どうこうはともかくとして、それは間違いないんだよね?」



間違いないと頷きを返して答えた。それにより、フェイトの表情が曇る。



「ロストロギアかどうかはともかく、あのライブハウスの会場内に一瞬、強い魔力反応が出たのは間違いないです。
リインの方でもそれを感知しましたし、それは魔導師とかそういう普通のレベルじゃありませんでした」

「データも取ってるから後で見せるよ。でもフェイト、これってやっぱり・・・マズイよね」

「かなりマズイよ。これで万が一にもほしな歌唄が次元世界の事や魔法の事を知ってたら・・・」

「大変な事になってきたですよ、これは」





そう、そこだ。僕達が懸念しているのはそこなのだ。

万が一にも次元世界の事・・・もっと言えば、ロストロギアというものがどういうものかを知っていた場合。

自分の持っているものがロストロギアだと認識出来るほどに次元世界について知識量があった場合。



僕達・・・いや、時空管理局は、ほしな歌唄(本名:月詠歌唄)に対して、ある判断を下さなきゃいけなくなる。





「あの、フェイトさん。歌唄ちゃんがその宝石・・・ロストロギアと言うのを持っていると、どうマズイのですか? エル、さっぱりなのです」

「・・・・・・私達は、ロストロギアの私的使用の重犯罪者として、ほしな歌唄を捕縛しなきゃいけなくなるの」

「歌唄ちゃんが・・・重犯罪者っ!?」










事態は、カオスなんて可愛い言葉で形容出来ないレベルにまで進展している。





あぁもう、厄介なことになりすぎでしょうが。勝利の余韻に浸るヒマも無いってどういうこと?




















『とまとシリーズ』×『しゅごキャラ』 クロス小説


とある魔導師と古き鉄とドキドキな夢のたまご


第25話 『決戦 ガーディアンVSブラックダイヤモンド』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「とにかく・・・話を一旦整理しましょう」





海里が静かにそう言った。その表情に焦りが見られるのは、気のせいじゃない。





「そうだね。これはもう僕達ガーディアンだけの問題じゃなくなってるみたいだし・・・みんなも、それでいいかな」





唯世の言葉に、全員が頷く。どちらにしても、それは必要だから。



魔法の事とかロストロギアのこと、僕の年齢の事などを話し終えた直後。とにもかくにも、歌唄の事をどうするかという話が今、始まろうとしていた。





「ハラオウンさん、そのロストロギア・ブラックダイヤモンドをほしな歌唄が所持している事は相当に問題。どの辺りが問題かと言うと、その能力を私的に使っている辺り・・・でよかったでしょうか」

「そうだよ。時空管理局の定めた法律では、ロストロギアの私的使用や違法な売買は、かなり重い罪になるんだ」

「重いと言うと、どれくらいなんですか?」

「まぁ、ほしな歌唄が魔法や次元世界の事を知っている可能性はかなり低いとは思うんだけど・・・。
もし知っていた場合、言い訳は出来ない。容赦なく100年単位の禁固刑が言い渡されると思う」



ガーディアンの面々の表情が驚きに染まる。さすがに100年単位は想像出来ないよね。



「皆落ち着いて? 僕が思うに、フェイトさんの言うようにほしな歌唄が次元世界の事を知っている可能性はかなり低いと思う」

「この辺りの根拠は蒼凪さんとリインさんの存在が大きいです。もし知っているようであれば、二人の正体もそうですし、魔法の存在もとっくにバレているはずですから」

「あ、そうですよね。エルも恭太郎達から話を聞くまでは魔法の事とかさっぱりでしたから。・・・フェイトさん、歌唄ちゃんが知らなかった場合でも、やっぱり罪になるんですか?」

「さすがにそれはならないよ。管理局の事も魔法の事も次元世界の事も知らないのに、いきなりそれは理不尽極まりないから。
まぁ、ちょっとお説教はするよ? 拾ったものを勝手に持っていくのはやめようねって。うん、そこはちゃんとさせてもらう」



そんなお茶目も入ったフェイトの言葉に、今度はみんなが安堵の顔を浮かべる。どうやら、お人よしは全員らしい。

全く・・・。ここまでやらかしたんだから、許さないとかそういう気持ちは無いのかね。



「それで海里君、話は変わるけどあなたが話してくれた事・・・マスターCDの事、本当なの?」



そして、残念ながらロストロギアの事だけで話は済みそうもない。イースターの計画も、どうやら最終段階に突入するらしいのだ。



「はい。ゆかり姉さんが話していました。明日の夜、海沿いのヘリポートからマスターCDと大量の×たまを乗せたヘリ・・・そして姉さんとほしな歌唄もそれと一緒にロスに飛びます」



どうやら、そのマスターCDの作成というのが作戦の最終段階らしい。ロスでそのCDを作成して、それをマスター・・・原本として、ブラックダイヤモンズのデビューCDを発売する。



「そして、ロスでマスターCDに×たまをあるだけプレスし、そこから最終調整を行う。そうして出来たCDは、おねだりCDの何万倍の威力を持っているそうです。
そのCDから作られた音源は、発売されたCDのみならずパソコンや携帯でのネットを使用したデータ配信、CDのコピーでもたまごを抜き出せるようになるとか」

「海里さん、リインが思うにそれはウィルス・・・ですね」

「そうです。ウィルスのように歌は広がり、恐らく、歌を聴いた全ての人間のたまごが抜き出されます」



・・・あのバカ。マジでなにやってんだよ。



「海里君、もしもそのマスターCDの作成が止められなかったら・・・ううん、ヘリの出立が止められなかったら・・・」

「もう誰にも止められません。ブラックダイヤモンズのデビューシングルは世界同時配信となっていますから、その歌・・・ウィルスは、世界中を蹂躙するでしょう」



なんにしても、そのヘリは何とかしないといけないってことだね。つーか、イースターもマジで手段を選んでないな。エンブリオ見つけるためにそこまでするのか?



「確かにそうですね。でも、これだけの作戦に出るということは、何か根拠があると思われます。海里さん、その辺りの事については、何か知ってますか?」

「はい。これも確定情報ではないのですが、イースターはエンブリオが×たまが大量出現したところに出てくると考えているようです」

「なるほど、だからこれですか。・・・恭文さん、どうやらあのおねだりCDは、単純に手当たり次第というわけじゃなかったみたいですね」

「だね。察するに、僕達が見た形で大量の×たまを出現させて、そこに出てきたエンブリオを捕獲・・・ってことかな。多分、僕達が気づかない間にそれらしいのをイースターに目測されてたんだよ」



そう考えないと納得は出来ない。何かしらの根拠がなければ、ここまで派手に動くとは思えないから。

ただ・・・まだここで終わらない。またまた別の問題も出てきた。



「でも、それだけじゃないわよ?」

「ティアナさん?」

「アンタ達もコイツから聞いたでしょうけど、機動課って言うのが動いてる。そして、地球にそのロストロギアが落ちたというところまでかぎつけてる。このまま行くと、ほしな歌唄のところにたどり着くまでそう時間はかからない。
今まではサーチャーに引っかからなかったけど、これからは違うでしょ。ほしな歌唄はブラックダイヤモンドの力に気づいちゃってる上に、有効利用する気バリバリなんだから」

「ティアの言う通りだよ。私達だけの間だけで何とか収められれば、ほしな歌唄を次元犯罪者みたいな扱いには絶対にさせない。ただ、機動課まで絡んでくるとどうなるかわからないの。
なにより、さっき言ったのだって、ここで私達がブラックダイヤモンドを無事に回収して、話が収まればの仮定の上で成り立ってる。もしそうじゃなくて・・・こう」



フェイトがみんなに言いにくそうに口ごもる。なので・・・続きを引き受けることにした。



「万が一、CDとは別に、歌唄の持っているブラックダイヤモンドのせいで大規模な事故や災害が起きたりしたら、そんな理屈がすっ飛ぶ可能性がある。
そうなったら、歌唄は晴れて次元犯罪者候補にノミネートだ。諸事情が鑑みられる事で実際に刑を受けたりはしなくても、かなり強めに管理局にこれから先マークされ続ける」

「恭文さん、それなんとかならないんですかっ!? 歌唄ちゃん、本当に次元世界の事は知らないはずなんですっ! エルが言うんだから、間違いないのですっ!!」

「残念だけどどうにもならない。ついでに、局員の大半からは見えないであろうエルの証言が有っても意味がない」



みんなの視線が厳しくなる。だけど、ここはちゃんと言っておかないとまずい。

下手に騒がれても、歌唄の立場が悪くなるだけなんだから。



「歌唄がブラックダイヤモンドの力に気づいて無かったら、まだ言い訳が立つんだけど」



ここで言っているのは、歌唄が意識せずに力を発動させたというシナリオに持っていけるという話だね。それが1番楽ではあるから。



「海里の話に歌唄の反応も併せて考えると、気づいちゃってるのは確定だろうから、それは無理。
海千山千の連中が揃ってる機動課相手にしらばっくれても、証拠を掴まれて自供に持ってかれるだろうから、トボけるのも無理」

「そんな・・・。それじゃあ歌唄、大ピンチじゃないの」



さて、一体どうするかな。歌唄はあの石の力を知っているとすると、素直に返してくれるわけがない。



「有効利用しまくる気は満々でしょうしね。それにおじいさま・・・私が思うに、私達が一気呵成に押しかけてもアウトですわ」

「だね。僕達の目当てが自分の持ってる石だって気づいたら、それだけで相手にアドバンテージを握られることになる。
くそ、なんつう性質の悪い奴に拾われたんだよ。同じツンデレでもティアナの方がまだ素直だって言うのに」

「だから私はツンデレじゃないって言ってるでしょっ!? つーか、アンタの私への認識はどうなってんのよっ!!
・・・フェイトさん、どうしましょう。このまま利用され続けるのは間違いなくアウトですし、かと言って魔導師組だけで押しかけても、これまたアウトですし」



フェイトはティアナにそう聞かれて、少し目を閉じて考える。



「そうだよね。相手は魔法の事を知らないわけだし、これで一気にバレたら余計にブラックダイヤモンドの能力を有効活用しようとするかも。
だって、宝石の力を借りれば、そういう自分達にとって未知の能力相手でも引けを取らなくなるんだから」

「現に恭文とこてつちゃんの攻撃避けちゃってるわけですし、それはありえますよね。うー、つまり歌唄ちゃんに魔法の事がバレないようにした上で」

「なおかつ、これ以上ロストロギアの能力を過剰に引き出そうとしないようにした上で、倒さなければなりません。まぁ、これは本当に理想的な図でしょうけど」

「歌唄があんなアグレッシブなドSツンデレじゃなければまだよかったんだけどね。でも、アレは殴られたら殴り返そうとするタイプだし・・・マジで厄介だよ」



数秒考えて・・・答えを出したらしい。フェイトは、目を開いたから。



「・・・・・・こうなったら知らん振りは出来ない。ヤスフミ、私達でロストロギア・ブラックダイヤモンドを確保するよ。最悪、破壊だね。
機動課に知られる前に対処すれば、私やクロノの権限でなんとか処理出来る。唯世君、ヘリの出立・・・止めるつもりなんだよね」

「はい。それがガーディアンの仕事ですから」

「そうだね。でも、今回はそこに私達の仕事も入るんだ。私も明日、そこに行く。
ヤスフミとリインもロストロギアの封印処理も破壊も経験はあるけど、今回は物が物。一人だけじゃ危険だもの」



・・・そう、だよね。さすがにロストロギアが絡むと、僕だけじゃどうしようもない。

しかも、物が使用者の意思に応じての能力アップ。非常に厄介だ。歌唄の気持ち次第でロストロギアが暴走する可能性もあるんだから。



「あの、フェイトさん? 恭文とリインちゃんだけじゃないんですけど。てゆうか、それならやや達がぱぱーっとロストロギアも確保・・・はだめだよね」

「そうね。そのロストロギア相手なんて、私達はしたことがないもの。恭文やフェイトさん達の力は必須よ」

「ならフェイトさん、私や恭太郎達は・・・」

「悪いけど後ろで下がっててもらえるかな。咲耶の言うように、数に任せてほしな歌唄を刺激したくないんだ」



そうだね、刺激するのはかなりまずい。ブラックダイヤモンドは本人の意思によって働くブースターだから、下手に威圧すれば今まで以上に力を引き出そうとする危険がある。



「フェイトさん、刺激する・・・というか、いいんちょや咲耶さんも言ってましたけど、歌唄がブラックダイヤモンドの力を今まで以上に引き出そうとすると、マズイんですか?」

「うん。能力をこれ以上アップされると厄介と言うのがまず一つの問題。だけど、それだけじゃないの。さっきもヤスフミが話してたけど、もし私達の知らない能力があって、それがきっかけで発動・・・という形も考えられる。
でも、一番怖いのは、能力をブーストさせることで何か代価を払っている可能性があると言う事なんだ。それも、ほしな歌唄本人が気づかないうちに。こういう場合、過去の事件で実際にあったもので言うと・・・使用者の生命力。もっと言うと、命とか」



ガーディアンのみんなの表情が重くなる。フェイトに言いたい事がちゃんと伝わったらしい。

つまり、もしそういう代価を払っていた場合、それによって歌唄は命の危険の可能性があるということ。



「そ、それはまずいですよね。あたし、よく分かりました」

「とにかく、私なら、あの子に直接の面識があるから、まだ刺激は少ないと思うの」



つまり、ロストロギアの確保は僕とリイン、フェイトでやると。・・・中々に厳しいなぁ。



「ただ、ロストロギアに何か変化が起こるようなら、ティアと恭太郎達も一気に介入して来て。その辺りの判断は・・・ティアに任せる。これも執務官試験合格のための勉強だよ。しっかりやっていこうね」

「分かりました。後ろは任せてください。恭太郎に咲耶、それでいいわね」



ティアナが目を向けるのは、うちの孫とその本妻。若干不満そうに見えるのは、血の気が多いせいとしておこう。



「ま、暴れられねぇのはつまらねぇけど・・・しゃあないな。でも、何かあったら突っ込んでくからな?」

≪私も恭太郎も、ここで何も出来ずに歯噛みするつもりはありません。ティアナさん、それでよろしいでしょうか≫

「私も同じくですわ。それが出来るのであれば、問題はありません」

「えぇ、お願い。私もそうするから」



そして、フェイトが次に見るのは、ディードとサリエルさん。



「フェイトちゃん、言っておくが」

≪我らは・・・≫

「はい、分かってます。サリエルさんはディードとうちに居てください」

「悪いな」



フェイトがその言葉に『いいえ』と返す。僕達はもうこの辺りは分かっているのでツッコまない。

だけど、ツッコむ人達が居た。



「・・・え、サリエルさん手伝ってくれないんですかっ!? あたし、手伝ってくれると思ってたのにっ!!」

「俺はロートル・・・引退組。悪いがここで戦う理由が無いんだよ。それに、これはやっさんとフェイトちゃん達の喧嘩だ。その邪魔をするのも嫌なんでな」

≪今という時間・・・物語の主人公は、もはや我らではありません。それはフェイト執務官や蒼凪氏、そして日奈森女史や辺里氏、あなた方です≫



ガーディアンのみんなは残念そうだけど、ここは仕方ない。サリさん、この辺りの線引きはきっちりしてるし。

そして、金剛の言葉にみんながその言葉を放つ十字槍のアクセサリーを見る。



「あたし達が・・・主人公?」

「そうだ。だから、物語の中のイベントは、あむちゃん達が解決していかなきゃいけない。俺は・・・アレだ、シンデレラで言うと、魔法使いとか意地悪な継母とか王子様のお付きとかそういう役割だ。
だから、出来ればサポート程度で済ませたい。主役を取って喰う魔法使いなんて出たら、話が成り立たなくなっちまう。分かって、くれるか?」



そして、少し戸惑い気味なみんなの中、その言葉をきっかけとしてか、一人瞳に強い意志を宿し、サリさんの言葉に返した人間が居た。



「・・・・・・分かりました」



それは、ややだった。



「やや達は主人公キャラなんだから、この事件もパパっと解決しちゃいますっ! それでそれで、悪い人達はぶっ飛ばして、ロストロギアなんて怖いものもちゃんと捕まえて、それでそれで・・・歌唄ちゃんも含めてみんなでハッピーエンドにしますっ!!
ね、みんなっ! やや、今一人でバンバン言っちゃったけど、それでいいよねっ!? それが主人公キャラの定めだもんっ! みんなで頑張ろうよっ!!」



みんなが、ややの言葉に頷く。僕とフェイトも同じく。



「日奈森さん」

「・・・うん。ややの言う通りだよね。パパッと解決して、みんなでハッピーエンドにすればいいだけの話じゃん。相手がどうとかなんて、関係ないよ」

「そうだね」



その様子に、サリさんが満足そうに笑う。



「うん、みんな頼むな」

≪結木女史、ありがとうございます≫

「ううん。・・・というか、金剛硬過ぎー。ややは普通に名前でいいのに」

≪だが断る≫

「どうしてー! てゆうか、なんでこてつちゃんが返事するのかなっ!?」



・・・なんつうか、ややってすごいのかも。いや、今日の昼間の事とか見てたら、そう感じちゃったのよ。

うーん、ただのアダルトチルドレンじゃなかったんだね。なんつうか、見ててそう思ったよ。



「あの、恭文さん」



声がかかる。そちらを見ると、ディードが僕を見ていた。

心配しているのが瞳を見れば分かる。赤いフェイトと同じ色の瞳が、少しだけそんな色に染まって、潤んでいたから。



「私も、一緒に」

「ダメだよ。・・・大丈夫、必ず帰ってくる。だから、僕達の帰る場所を・・・ううん、場所は関係ないか。戻ってきたら、お帰りって言って欲しい。
ま、危なくなったらサリさんに転送してもらって、助けに来てよ。僕達全員で、そうならないようには頑張るけどね」

「はい」



少し冗談めいて言うと、ディードがくすりと笑う。

うん、大丈夫。帰る場所も、待ってくれる人も居る。絶対に、帰ってこよう。



「それでヤスフミ、腕の調子はどう?」



僕は左拳を握ったり開いたりしながら、笑顔で答える。



「問題ない。スゥのリメイクハニーはすごいもの。サリさんのお墨付きだよ。フェイトこそどう? 実戦は久々だし」

「大丈夫。ヤスフミといっぱいコミュニケーションついでに模擬戦してるし、それに・・・一人じゃない」

「そうだね、一緒だしね。んじゃま・・・頑張りますか」

「うん」










とにもかくにも、明日だ。今度こそ決着をつける。





それで、コミュニケーションするんだー! こういう状況だから我慢はしかたないんだけどそれでも寂しいんだー!!










「あの・・・もしもし?」

「あ、どうしたのかな。あむ」

「いや、どうしたのかな・・・じゃなくて、二人でラブラブはやめて欲しいんですけど。なんかこう・・・甘ったるいですから」

「ラ、ラブラブなんてしてないよっ! その・・・そういう時は二人っきりの時だけって決めてるしっ!!」

「いや、無茶苦茶してましたからっ! 空気が甘かったですよっ!?」





・・・緊張感ないなぁ。てゆうか、ラブラブしてないのに。普通なのに。





「やっぱり無自覚なのね。いや、分かってたけど。すごく分かってたけど」

「まぁ・・・アレよ。りま、アンタもそのうち慣れるから。ちなみに、私は1年かかって大分これを日常のものとして受け入れられるようになったわ」

「それもちょっと嫌ね」

「まぁね」










・・・まぁ、そこはいい。とりあえず僕はツッコみたいところがある。










「ね、ディード」

「なんでしょう」

「今更だけどなんでメイド服? それも古きよき時代の鹿鳴館輝かしい頃のデザイン」

「咲耶さんと恭太郎さんとサリエルさんにシャーリーさんに見立てていただきました。家事手伝いであるならば、これが一番だと」



僕は、横で話を聞いていた四人に目を向ける。うちの妹になにしやがんだという恨みをぶつけて。



「大丈夫だ、やっさん。フェイトちゃんとリインちゃんの分は用意してある」

「あ、服のサイズは私の目測で選びましたので、恭さまやサリエルさまはご存知ではありませんわ」

「つーか、フェイトさんに関してはお前と体型同じだしな。問題なく買えたし」

「きっと可愛いよー。あ、なぎ君なら細かいところも拘ると思って、カチューシャも用意してるから」

「・・・・・・なら、許す」



サムズアップしてきて四人揃ってそう言ってきたので、とりあえずサムズアップで応えた。

うん、それなら仕方ない。それなら許そうか。無理矢理着せたとかならともかく、そうじゃないんだから。



「それで許すっておかしくないかなっ!? ヤスフミ、お願いだからしっかりしてー!!」

「だって、フェイトとリインのメイドコス見てみたいんだよっ!!」

「そ、それなら・・・頑張ろうかな」

「ですねー」

「フェイトさんもリインちゃんもそれで納得しないでっ! お願いだから落ち着けー!!」










こうして、無謀且つ無茶な合同作戦の火蓋は切って落とされた。





・・・・・・本当にそうだから手に負えない。でも、諦めたくない。歌唄のことにロストロギアもそうだけど、ダイヤのことも、マスターCDに使われるであろう×たま達のこともだ。





助けられるなら全部助ける『魔法』が使える魔法使いに、やっぱりなってみたいしね。てゆうかさ、魔法少女物なんだから、それくらいはありでいいと思うんだよね。真面目にさ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・つまんねー。





すっげーつまんねー。具体的にはアタシの出番が25話とかそういう所までしないと来なかったとかそういう辺りがつまんねー。










「なー、歌唄。どうしてダイヤとばっかりキャラなりやキャラチェンジするんだよ。アタシともやろうぜー? だからアタシはここまでマジで出番ないし」





だけど、歌唄はアタシの声に答えずそのままスタスタ歩く。聞こえてるはずなのに、スタスタ歩く。・・・ムカつく。

アタシは居る・・・じゃなかった、イル。歌唄のしゅごキャラ。ここはイースターの本社。

ついさっき、歌唄と女マネージャーがイースターの専務に作戦の報告をしていた。もっと言うと、あのライブの報告。ガーディアンの連中に邪魔こそされたけど、計画の最終段階が上手く行けば帳消しになるって話してた。



で、今はそれから出てきた所。アタシは歌唄とあのオバサンを追いかける。でも、つまんねー。エルが居た時はまだ楽しかったってのに。





「そして、今まで出番に恵まれなかった可哀想な子」

「うっせー! それは主にお前のせいだろうがー!!」

「違うわ。あなたが出し辛い位置に居たのが問題」

「そういうメタな発言するなよっ! マジであぶねぇだろうがっ!!」





とにかく、歌唄を追いかける。だけど・・・やっぱり、変だ。

ダイヤが来てから・・・つーか、宝石を拾ってからは特にだ。前はまだ余裕あったのに、最近はだんまりする事が多い。

いや、例外がある。一つはこいつの兄ちゃん・・・つーか、イクトと会っている時。



そしてもう一つはアイツ・・・蒼凪恭文と話している時だ。その時は、いつもの歌唄に戻る。





「ふふふ。ねぇ歌唄、私達の勝利も目前よ。これも超強力なダイヤのおか・・・あぁ、イル。まだ居たの?」



そのまま女マネージャーはアタシに手を伸ばし、右手の人差し指と親指でひょいっと掴んで持ち上げる。

つーか、はなせー! アタシがうごけないだろうがぁぁぁぁぁぁっ!!



「不思議なものよねー。私でも一旦そこに居ると分かると、しゅごキャラが見えるようになるんだから」

「はなせおばさんっ! 歌唄、助けてくれよー!!」



だけど、歌唄はこちらを向こうともしない。というか、アタシの身体はそのまま放り出される。

乱暴に投げられた身体は少しだけ宙を飛んで、ようやく止まった。



「言っておくけど、私はまだ20代よ? まぁ、いいわ。キャラなりもキャラチェンジもしてもらえなくなった役立たずのアンタなんて、もうお払い箱でしょうし。エルみたいに」

「なっ!!」



そのまま鼻で笑って、オバサンは歌唄を追いかける。歌唄は・・・そのまま去っていった。

アタシの隣には、ダイヤ。だから当然・・・蹴るっ!!



「お前のせいだっ! この・・・こんにゃろこんにゃろっ!!」



蹴るけど、全部避けられる。避けられて・・・さらにムカつく。

なんだよこれ。なんでアタシはこんな。



「輝きが弱いのね」

「なんだとっ!!」

「聞こえる。あなたのこころの輝き。『キャラなりもキャラチェンジもしてもらえないしゅごキャラなんて必要ない』」





その言葉が胸の辺りにグサっと刺さる。



いたい。なんかこう、すっげー痛い。





「そう言ったのは、誰? なら、あなたがここで必要とされないのも必然だと思うけど」

「それ・・・は・・・」










コイツの、言う通りだ。アタシはエルにそう言った。そう言って、追い出した。追い出して、追いかけようともしなかった。





なら、アタシがこのまま必要とされなくなるのも当然・・・ちょっと待て。





それなら、歌唄は? エルを『いらない・役立たず』と言った歌唄は? 歌唄は、どうなるんだよ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・とにかく、その場でみんなは解散。海里は自宅には帰れないということなので、僕の家に泊まる事になった。





というか、ややもだね。なんかややが泊まりたいってってご両親に説明したら、すんなりオーケーをくれたとか。










「・・・なんでもさ、この間の子守の時以来、ややが両親にそうとうフェイトの話をしてるそうなんだよ」

「あ、だからフェイトさんってややの家族に受けがいいんだ」

「よく考えたら、つばさ君と太郎君を助けてくれた恩人と言えなくもないし、そういうのもあるんだよ」



とりあえず、僕はあむと唯世を家まで送る事にした。まぁ、一応ね。



「・・・やっぱり、訓練とかしたいな」



唯世が真剣な顔で呟いた。えっと、どうした?



「いやね、今日の話を聞いてて、やっぱり訓練とか必要なのかなと」

「・・・と言ってもなぁ、僕もフェイトも皆も、そこまで本格的なのは」



いや、待てよ。本格的じゃなければどうなんだろ。

てゆうか、あるじゃないのさ。うってつけなのが。



「恭文、なにかあるの?」

「うん。防御・回避訓練って言うのがあるのよ。言葉通りの訓練なんだけどね、それなら僕達でも出来る」

「察するに、敵の攻撃に対する対処の方法を覚えるということだよね。・・・うん、それやってみたいかな。それだけでも大分違ってくるだろうし」



なら、メニューをなのはに相談して考えておこうかな。あんまり無茶しないように、軽めのやつを。



「大分違ってくるよ? 防御能力が上がるだけでも、生存率上がるのは統計的にも証明されてるしさ」

「でも、それなら唯世くんはバッチリじゃない? ホーリークラウンはそうとう硬いし。あたし、キャラチェンジの時にもホーリークラウンが破られた事って見た事ないし」

「そうなの?」

「うん。もうね、どんな攻撃でも防ぐの」



おぉ、それは鍛え甲斐があるなぁ。というか、安心した。

チェスでも将棋でも、王様のコマが取られたら負けだもの。そこがちゃんと出来てるってのはかなり大きい。



「・・・ね、恭文。話は変わるけど、ロストロギアって、そうとう危ない・・・んだよね。あと、持っている歌唄も」

「かなりね。本当なら、戦力あるだけ持ち出してもいいくらいだもの。今回は歌唄を刺激し過ぎないためにこういう処置だけど。
なんにしても、歌唄をなんとかしてすぐに止めないと、マジでどうなるかわかんない」



あぁもう、どうしてこう厄介な事態になるのさ。普通に原作通りでいいじゃん。なんで改変するの?



「いや、原作通りってなにっ!? ・・・でも、それなら明日は頑張らないといけないね」

「そうだね。あと・・・それとさ」

「なにかな?」

「・・・実はその、僕からも一つ話があってさ」



唯世がなんかもじもじしながらそう言った。僕とあむは顔を見合わせて、唯世に視線を向ける。

そして、足を進めながら少し。唯世は口を開いた。



「僕と月詠幾斗、あとほしな歌唄のことなんだ」

「唯世くんにイクトに歌唄のこと?」

「うん。明日、どうなるにしても対決する事にはなりそうだから。ちゃんと話しておきたいと思って」



・・・唯世が視線を僕に向ける。で、伝えて来る。どうやら、覚悟は決まったらしいと、それで分かった。



「僕達の家・・・月詠の家と辺里の家は、元々仲がよかったんだよ。お父様と月詠兄妹のご両親は大学の頃からの親友だったんだけど、その関係でね。
それで小さい頃には、よく一緒に遊んだりしてさ。楽しかったんだ。まぁ、ほしな歌唄・・・歌唄ちゃんが中学に上がる頃には、そういうのはなくなったんだけど」

「唯世くん・・・そうだったんだ。だから、イクトの事昔から知ってる素振りだったんだね」

「やっぱり、そう見えてた?」

「かなり」



唯世がまた僕に視線を向ける。まぁ、お手上げのポーズなんてして応えた。

つーか、当然でしょ。これでわかんなかったらニブ過ぎだって。



「でさ、あの頃から歌唄ちゃんは相変わらずで、よく言ってたんだ。月詠幾斗とデートするとか、一線を越えるとか」

「・・・・・・そっか、あれのアレっぷりは小さな頃からだったんだ」

「うん、そうなんだ。僕にも修正は無理で」



つーか、それなら両親・・・はダメか。話通りなら、歌唄の近親相姦願望なんて吹き飛ぶ状態だったわけだし。



「でも、あの頃は楽しかったな。もう、終ってしまった事なんだけど」



どこか遠いものを見る目を、何かを懐かしむような光を宿しながら、唯世が呟く。見上げるのは、今日はよく見える星。

本当に少しだけなんだけど、星の瞬きが見える。



「昔の彼女はただ純粋に、歌が好きな女の子だった。あと、月詠幾斗が大好きな女の子だった」



唯世、そこはいいから。つーか余計だから。



「だから、ほんのちょっとのキッカケがあれば、分かり合えそうな気がするんだ。確かにロストロギアという要因が絡んでは居るけど、それでも。
なんというか、日奈森さんに蒼凪君は、歌唄ちゃんと同じ輝きを持っているように感じるから」

「あたしと恭文が? いやいや、そんなことないって。恭文はともかく、あたしは違うって」

「そんなことないよ。ダイヤとエルが入れ替わる形になったり、エルが蒼凪君の所に来たり、日奈森さんとキャラなり出来るようになったり。
それだけじゃなくて、蒼凪君も日奈森さんのしゅごキャラであるミキとキャラなり出来るようになったのは、三人がどこか似ているからじゃないかな」



唯世の言葉は、どこか確信を感じさせるものがあった。これでも王様。もしかしたら本当に何か確信があるのかもしれない。

僕と、歌唄と、あむが似てる・・・ねぇ。てゆうか、なんか今凄まじく怖い未来を想像してしまったんだけど、なんでだろう。



「あの、てゆうか、今からそんなに過剰に期待されても」

「期待じゃない。・・・信じてるんだ。二人なら、歌唄ちゃんの黒い輝きを光に変えられるって」

「唯世くん・・・」



ヤバイ、具体的には唯世の視線がヤバイ。なんかあむが顔を赤くし出したし。あぁ、ヤバイ。つーか僕はブッチギリで邪魔なんですけど。



「あ、あの・・・ありがと」

「ううん。その・・・お礼なら僕の方が言わないとダメだよ。色々、助けてもらったし」

「それはその、えっと・・・」



すみません、居心地悪いんですけど。てゆうか、なんか糖分出し始めたんですけどこの二人。なんでこんな甘ったるいのさ。おかしいでしょうが。

後は唯世に任せて帰るか? よし、そうしようそうしよう。



「あみもいくー!!」



・・・へ?



「うたうちゃんのこんさーといくー!!」



後ろを振り向く。もちろん、三人揃って。で、そこを見ると、幼稚園くらいの女の子が居た。ツインテールの女の子で、白のフリフリの服を来た子。

えっと、どなた?



「あみっ!? アンタこんなとこで何してんのっ!!」

「あしたのよる、あみもつれてってー!!」

「いや、会話になってないからっ! つーか答えろー!!」



とりあえず、聞かなければいけないだろう。この子と顔見知りっぽいあむに対して、色々と聞かなければならないだろう。

もしもし、日奈森さんや。この子・・・どなた?



「あ、恭文に唯世くんも初めてだよね。この子、あたしの妹のあみ」

「はじめまちてー。ひなもりあみですっ!!」



・・・なんて素直ないい子っぽく見えるんだ。姉と違ってツンデレな空気が0だし。



「ちょっと恭文、アンタ今なんか失礼な事考えなかった?」

「考えてないって。僕は常に世界の幸せことしか考えてないし」

「嘘だよね」

「もちろんっ!!」

「断言するなー!!」



えー。だって、世界の幸せよりフェイトの幸せの方が大事だもん。



「おねえちゃん、かれしふたりもいるの?」

「違うわよバカっ! つーか、こっちの性格悪そうなお兄ちゃんは彼女がいるのっ!!」

「唯世、なんか言われてるよ? ひどいねー」

「え、僕なのっ!?」



当然でしょ。僕は性格悪くないし(断言)。



「・・・・・・ほう、つまりは我が家の天使と二股をかけていると」

「それは聞き捨てならないわね。ちょっと詳しく聞きたいんだけど」



あむの妹の背後からにょっと出てきたのは、めがねをかけて、茶色の短髪の30台くらいの男性。同じ年頃で栗色の髪を後ろで一つ纏めにした女性。というか、男性の方が僕と唯世・・・じゃないな、僕を思いっきり睨んでいる。

え、えっと・・・どなた? いや、あむの関係者っぽいんだけど。



「パパっ! それに・・・ママっ!!」

「はーい、あむちゃん。こんなところで会うなんて奇遇ね」

「いや、なにしてんのっ!!」

「あむちゃんはガーディアンのお仕事で帰りが遅くなるって言うから、三人でファミレスに行って来たのよ。今は、その帰り」



パパにママ・・・つまり、あむの両親っ!!



「君、うちの娘を二股にかけるとはいい度胸だ。よし、ちょっと話そうか。
というより、あむちゃんと付き合いたかったらこの僕に勝ってからにしなさいっ!!」

「・・・あむ、早速喧嘩を売られたんだけど買っていい?」

「ダメだからー! パパもそんな変な構えをしないでっ!!」



えー、だって売られた喧嘩は買ってストレス解消のためにボコるって、最近国会で決まったじゃん。

まぁ、そこは冗談だけど、『あむのお父さん』はなぜか性格が悪いと言われた唯世ではなく、僕に対して警戒の視線をぶつけてくる。



「あむちゃん、大丈夫っ! 悪い男はパパがやっつけちゃうからっ!! これでもパパは空手は黒帯だし柔道も出来るし」

「だからだめー! 恭文相手だとパパはマジで命の危険があるからだめー!!」

「恭文? ・・・あ、蒼凪恭文君?」



あむがお母さんに言われて頷く。で、お母さんが僕を見るので・・・まぁ、挨拶をすることにした。



「えっと、初めまして。蒼凪恭文です」

「あ、初めまして。辺里唯世です」

「初めまして、日奈森みどりです。うちのあむちゃんがいつもお世話になってます。
そう言えば、あなた達とは授業参観で一度会ってるのよね。直接話したりはしてないけど」



あはは、そう言えば・・・あぁ、アレは記憶の奥底に封印して痛かった。だって、リンディさん達が気になって胃がかなり痛かったことしか覚えてないし。



「でも恭文君。・・・ふふふ、色々聞いてるわよ?」

「はい?」



僕はあむの方を見る。あ、なんか覚えが無いって顔して首をブンブン振ってる。



「小学生だけど、大人顔負けな位に強いとか、あのほしな歌唄ちゃんのボディーガードをしたとか」



あむ・・・そんなこと話してたんかい。覚えが大有りでしょうが。



「まぁ、結構細々としてるんだけど、今年の3月くらいからよくあなたの話をしてるのよね。やれからかわれたとか、やれ喧嘩したとか。最近だと・・・そうねぇ、また喧嘩したんだけど、仲直り出来て嬉しかったとか。
ね、パパはともかく私は応援してるわよ? あむちゃんがあんなに誰かの事を話すようになったの、本当に初めてだから、感謝してるのよ。あなたの話を絡めると、学校での様子も分かるしね」

「ちょ、ママっ! 恥ずかしいからやめてー!! てゆうか、そんなに話してないしっ!!」



あむは視線で母上様に向かって懇願している。『もう止めて』と。だけど、お母さんと言う生き物はこれでやめるようなそんな良識的な思考の生物ではないのだ。

あむはどうやらまだまだその辺りを理解していないらしい。だからそんな無駄な行動に出るのだ。だから、母上様はニヤニヤしながらエンジンがかかるのだ。



「あら、そんなことないわよ。あむちゃん、夕飯食べてる時によく恭文君の話してるじゃないの」

「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「ね、パパ。・・・パパ?」



あの、さっきからなんか余計に警戒されてるんですけど。すっごい殺し屋の目で僕を見ているんですけど。

『あむのお父さん』、どうしました? 僕は特に何もしてないんですけど。



「お父さんと呼ぶなっ! 君にそんな呼ばれ方をする覚えは無いっ!! 失礼だな君はっ! 一体何様だっ!?」

「『あむの』ってつけたじゃないですかっ! じゃあおじさんとでも呼べとっ!? そっちの方が失礼でしょっ!!」

「とにかく、うちの娘は渡さんぞっ! 二股など持っての他だっ!!」

「ねー、あみも明日の歌唄ちゃんのコンサート行くー! いいでしょー!?」

「「お願いだからみんなおちつけー!!」」










あむと僕の叫びが夜の街に響く。





なお、みんなの色々な誤解を解くのには相当な時間がかかったのは言うまでもないだろう。最終決戦前なのに、疲労がすごい勢いで溜まってしまった。





あはは・・・なんだろ、これはさ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



なんだろ、ちょっとムカムカする。





日奈森さん、そんなに蒼凪君の話ばかりしてたんだ。ご両親の様子を見るに、こう・・・日奈森さんが蒼凪君の事を好きなんじゃないかって思うくらいには。





あれ、僕・・・なんでこんなことを。だって、僕が好きなのはアミュレットハートなんだから、関係ないよね。





・・・・・・あれ、おかしいな。アミュレットハートは日奈森さんで、日奈森さんはアミュレットハートで・・・あれ?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「なんというか、すみません。俺までお世話になることに・・・」

「ううん、それは大丈夫。今の状態だと自宅には帰り辛いよね」

「そう、ですね」



ヤスフミがあむと唯世君を送っている間、私達はリビングでお茶を飲みつつノンビリ。

明日はきっと大変だから、早めに休まないとと思いつつ、平和な時間を過ごしていた。



「でもでも、ディードさんって・・・大きいですね」

「ありがとうございます。ただ・・・あの、ややさん」

「あ、ややは呼び捨てでいいですよー。りまたんにもそうしてますよね?」

「はい。では・・・やや」

「はーい、ディードさん。なんでしょうか」



ディードの言いたい事は私達にもなんとなくわかる。だって、やや・・・。



「なぜ私の胸をそこまで凝視するのでしょうか」

「見ていたいからです」

「・・・やや、とりあえず胸から目を離した方がいいわよ? それセクハラだから。あと、それを即答って問題よ」



そう、ややはディードの胸を見ていた。私から見ても大きくて柔らかみを感じさせる胸を。

ディードは・・・メイド服のディードは、そのおかげでちょっと恥ずかしそうにしている。



「えー、でもりまたんは気にならない? このフェイトさんや咲耶さん張りのナイスバディ」

「まぁ、気にはなるかな。将来の目標として」



まぁ、ややの言う事は確かに分かる。私もシグナムやエイミィに対してそういう感情を抱いた事があるから。



「でもやや、赤ちゃんのままだと、ディードみたいに大きくはならないよ? 胸だけの話じゃなくて、身長も」

「あ、そっか。そうすると・・・うーん、困った」

「ちょっとフェイトさんっ!? ペペの存在意義を奪わないで欲しいでちっ!!
ややちゃん、大丈夫でちよ。ボンキュッボンな赤ちゃんキャラを目指せば」

「それは違う趣味になるんじゃないかなっ!? いくらなんでも危な過ぎるよっ!!」










・・・執務官としては、この子達を巻き込むのは間違ってるよね。もちろん、何度も念押しした。ロストロギアの危険性についても説明した。だけど、ガーディアンの皆は変わらなかった。

ほしな歌唄と、×が付いたたまご達を助けたい。だから明日、ヘリの出立を止めに行くと、その一言だけを言い続けた。

まぁ、確かに・・・ロストロギアの能力をこれ以上発現されないためにガーディアンのみんなの力は必要だけど、やっぱり躊躇う。





だけど、なんでだろ。同時にとても心強くもある。本当にあの子達なら、それが出来そうな感じがするから。





ヤスフミ、私も信じてみることにしたよ。あの子達の可能性を。だから明日、頑張ろうね。





だって私達、ややの言うように今を生きる主役キャラなんだから。全部解決して、ハッピーエンドにもってちゃお?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・ライブの翌日。私と三条さんは海沿いのヘリポートに来た。いよいよ、エンブリオが手に入るところの一歩手前まで来た。

イースターの見解では、×たまが大量に存在する所にエンブリオは現れるということらしい。まぁ、嘘かホントかは分からないけど。

でも、もしそうなら、これで確実に尻尾は掴める。だって、世界中の人間のたまごが×になるんだから。





だけど、なんでだろう。なんで・・・私、こんなに普通にしていられるんだろう。





なんで私、こんなに心に穴が開いたように感じるんだろ。










「・・・いよいよね、歌唄。しっかし、湾岸の夜景は綺麗ねー」



・・・そうね。

だめだ、もう返事をする気力すら出ない。



「ロスに飛んで、このマスターCDにヘリに積み込まれた大量の×たまを取り込み、ミキシングと最終調整を入れれば・・・私達の勝ちよ、歌唄」



三条さんが懐からCDを取り出して、私にニコニコとしながらそれを見せる。それは、私の歌の入ったCD。デビューシングルの完成版。



「でも、私一人の力じゃない」

「もう、またそれ? ねぇ歌唄、最近どうしちゃったの? 心ここにあらず状態かと思えば、やたらとやる気出したり妙にガツガツしたり。情緒不安定にも程があるわよ。まぁ、ガーディアンの事とか色々心配事があるのは分かるわよ。
でもね、そんなこと気にしないで。何を利用しようと勝ちは勝ち。この業界、才能だけでは生き残れない。トップになるためには、勝つためには、他の人間を蹴落とす覚悟と強い意志が必要なのよ」



そう、だから私は甘えを捨てた。だから私は、いらないものを捨ててきた。



「アンタにはその強さがある。その結晶がこのCDであり、これからのアンタよ。しっかりしなさい」





それが私の勝利の結晶。私の成果。だけど、なんだろ。私・・・そんなことのために歌ってた?

私が歌っていたのは、イクトの・・・違う。イクトのためじゃない。

1番最初は・・・本当に1番最初は。



なんだろう、思い出せない。私、何がしたかったんだろ。



私は夜空を見上げる。そうだ、今の私の心はこの空と同じだ。月も、星も、見えない。





「なにしてんの歌唄。ほら、早く行くわよ」





そう言って、三条さんがマスターCDを仕舞おうとした瞬間、オレンジ色の弾丸が闇を切り裂いた。



そして、CDを撃ち貫き、粉々に砕いた。三条さんの手の上にあったCDを、粉々にだ。





「な・・・CDがっ!!」

「砕け・・・た」





私の結晶が、私の成果が、砕けた。いや、砕かれた。



・・・誰? 一体、どこの誰よ。こんな事をしたのは。





「天の道を往き、総てを司る人のおばあちゃんはこう言っていたよ」





声が聞こえる。それは、私のよく知る声。



そして、今この状況で1番聞きたかった声。





「子どもの夢は未来の自分。それを奪うものは、もはや人間ではない・・・ってね」

≪それ、ちょっと違いません? なにかと混ざってますって≫

「大丈夫、大体合ってるから」

≪それもそうですね≫





私は、その声の方を見る。





「アンタ・・・蒼凪、恭文っ!!」





そう、恭文だった。平然と、いつも通りの不敵な表情でこちらを見ていた。



でも、それだけじゃない。一度だけ見た空色の髪の子に、あのフェイト・T・ハラオウンも隣に居る。





「ところがどっこいっ! それだけではないですよっ!!」





また別の声がした。・・・そうよね、アンタも・・・いや、アンタ達も当然居るわよね



ライトが付く。多分夜間の着陸用の目印にするためのライト。それを背中に浴びながら、五人の影。





「・・・僕のこころ」

「俺のこころ」

「ややのこころ」

「私のこころ」

「あたしのこころ」





全員揃って、鍵を開けた。





『アンロックっ!!』





光が放たれる。その光の中で、全員が姿を変える。



まぶしくて、羨ましくなるくらいの輝き。それが目の前に広がる。





「リイン、フェイト、行くよ」

「うん」

「はいです」



腰に空色のベルトを巻き、バックル部分の青のボタンを押す。



「「「変身っ!!」」」





そうして、同じ色のパスケースを・・・バックルに当てた。





≪Vinculum Form≫

≪Impulse Form≫










蒼の光に包まれ、アイツの姿が変わる。恭文の方に空色の髪の女の子が吸い込まれる。

恭文は、左肩にアーマーとケープのような布を身につけた青い剣士へと、その姿を変えた。

あの女も同じく。金の光に包まれて、白いマントを羽織り、右手に黒い斧を持つ。





そして、光がはじける。恭文もそうだし、ガーディアンの連中もだ。










【「キャラなりっ! アミュレットエンジェルっ!!」】

【「キャラなりっ! プラチナロワイヤルっ!!」】

【「キャラなりっ! クラウンドロップっ!!」】

【「キャラなりっ! ディアベイビーっ!!」】

【「キャラなりっ! サムライソウルっ!!」】





それに続くように、蒼と金の光がはじける。



そして、辺りに氷の羽が舞い散り、夜の闇を照らす。そして、アイツが右手で私を指差す。





「・・・最初に言っておくっ! 僕はかーなーり強いっ!!」

「ついでに言っておくね。今日の私達は・・・その」

【かーなーり、本気ですっ! ここは気合い入れていくですよっ!!】



そう、それがアンタ達の本気ってやつか。そうか、そうか・・・。



「続けて言っておくのですっ! イースターの悪事は、この愛の使者・アミュレットエンジェルとおまけのガーディアンが打ち砕くのですっ!!
・・・・・・って、あたしなにこんな事言ってるのっ!? きゃー、恥ずかしいっ! こんなのあたしのキャラじゃないのにー!!」

【ヒロインとヒーローの様式美なのです。恭文さんがアレですし、やっぱり乗らないのはおかしいかと】

「そんなん分かるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」










ふ、ふふふ・・・あははははははっ!!





やってくれたわねっ! 最高よ・・・アンタ達、最高よっ!!





心が熱く滾る。そうよ、これよこれ。





これがなくちゃ・・・楽しくないのよっ!!




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「海里、アンタ・・・居る場所違わない? なに間違えてんのよ。アンタはこっち側でしょ」

「俺は、何も間違えてなどいません。いえ、間違えて、ある人に教えてもらって、気づきました」



そのまま海里は右手の刀の切っ先を向ける。実の姉に対してだ。



「俺は聖夜小4年月組、ガーディアン・ジャックスチェアの三条海里です。どこまで行っても、俺が今居たい場所はここでした。
ガーディアンの一員として、そして、剣を持つ者として、イースター・・・いえ、姉さんの野望、ここで斬らせていただだきます」

「ふん、だったらやってみなさい。ただし、アンタ負けるわよ? アンタみたいな馴れ合うような甘ちゃんに負けるほど、私は緩くないの」

「いいえ、違います。負けるのはあなたです。そして勝つのは、俺達です」





海里は、大丈夫そうだ。お姉さんと戦うことになるから、どうなるかと思っていたんだけど。



それはそれとして・・・またすごい一手を打ったなぁ。





”・・・ティアナ、ナイス狙撃。でも、よく当てられたね”

”ほんとだよ。ティア、咄嗟だったんだよね?”

”こういうこともあろうかと思って、体勢は整えていたんです。恭太郎が観測手をしてくれてたのと、クロスミラージュがサポートしてくれたのが大きいですけど”





なお、マスターCDと思しき物を撃ち砕いたのは、ティアナ。セブンガンモードのスナイパーライフルで超遠距離から狙撃したのだ。距離にして当然のようにキロ単位。



でも、驚いたよ。打ち合わせでは何にも無かったしさ。





”まぁ、鍛えてますから。それに、六課に居る時にヴァイスさんから相当教わりましたし”



あぁ、納得した。ヴァイスさんの狙撃もすごいからなぁ。

・・・やっぱり恐ろしいな。超遠距離からの狙撃にクロスレンジでの銃剣での格闘。どこまで行くんだろ、このツンデレガンナー。



”アンタ、頭打ち抜かれたい? 誰がツンデレよ”

”なんで考えてる事が分かるっ!?”

”分かるわよ。顔見ればすぐにね。とにかく、後は任せます。介入のタイミングは、昨日指示された感じでいいんですよね?”

”うん、それでお願い。とりあえず・・・私とヤスフミで、ほしな歌唄は押さえるから”

”了解です”





さて、こっからだね。リインの言うように、気合入れていきますか。





「ふん、あむ・・・また役立たずのエルとキャラなり?」

「自分だって人のダイヤ使いまくってるじゃん。問題ないし。てゆうか、エルは役立たずじゃないし」

「役立たずよ。・・・で、お久しぶりね。フェイト・T・ハラオウン。というか、やっと出てきてくれて嬉しいわ。
私、アンタに殴られた借りを返したくて返したくて仕方なかったのよ。イル、キャラなり」

「・・・うんっ!!」



瞬間、歌唄の姿が変わった。赤と黒を基調とした小悪魔の姿。その姿のまま、悪魔っぽいトライデントを持って構える。

あれは・・・!!



【「キャラなりっ! ルナティックチャームっ!!」】

『・・・・・・誰?』



瞬間、歌唄がずっこけた。そして、すぐに起き上がる。



【待て待てっ! お前らなんだその反応っ!? アタシの事知らないってありえないだろっ!!】

≪仕方ないじゃないですか。あなた、今の今まで出てきてないんですし。で、今度は誰の×が付いたたまごを取ったんですか?≫

【アタシは普通に歌唄のしゅごキャラだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!】

「可哀想に、洗脳されてるんだね。しゅごキャラを洗脳するなんて、なんて卑劣な・・・!!」

【違うからぁぁぁぁぁぁぁっ! マジで歌唄のしゅごキャラなんだよっ!! 頼むから信じてくれないかなっ!?】



どうやら、洗脳は徹底的にやられているらしい。というより、記憶を弄られているのか?



「歌唄ちゃん、いくらなんでもひどいよ。人のしゅごキャラにそこまでするなんて。やや、信じられない」

「最低ね」

「ほしな歌唄、そこまで堕ちたのか。く、僕達がもっと早く気づいていれば」

【お前らまで信じるっておかしくないかっ!? 歌唄ー! なんとか言ってくれよー!!】

「そうね、人のしゅごキャラかも知れないわね」



歌唄は冷たく言い放った。冷酷に、本当に当然のことのように。



「だって、イルはダイヤに比べると役立たずだもの。エルと同じね」

【うた・・・う・・・】

「・・・また、否定するの? その子だって、あなたの中から生まれてきた存在なのに。エルちゃんと同じなのに」

「えぇ、否定するわよ。私は甘さを捨てたから」

「そう、だからこそ歌唄は輝いている」





出てきたのはダイヤ。そして、僕とフェイト、あむを見る。





「聞こえる。こころの輝き。あなた達はやっぱり、輝きが弱い。・・・・・・あなたは怯えている。自分の存在を否定されている事を、極端に。
『どこへなりと消えなさい』。その言葉があなたのこころを一度砕いた。砕けたかけらを集めてこころを作り直しても、それは弱いままだし輝けない。砕けた宝石は、二度と元には戻らない」



フェイトを見ながらそう言ってきた。

・・・待て待て、それって・・・プレシアさんの言葉っ!?



”フェイト、大丈夫っ!?”

”うん、大丈夫だよ”



返って来たのはいつも通りの声。それに胸を撫で下ろす。



”もうちゃんと持っていける。それに、一人じゃないから、大丈夫。でも、どうしてそれを?”

”もしかしたらですが”



リインがつぶやく。だけど、その続きを聞く前に



「そしてあなたは・・・迷子。友達は救えても、たまごの×は取れても、自分自身は救えない。自分自身が分からない。だからふわふわしててあいまい。だから、輝きが弱い」



その言葉に、僕とフェイトの側まで来ていたあむが止まる。瞳には明らかな動揺の色。



”ダイヤは、相手の心を読む能力があるんじゃないでしょうか。だからこそフェイトさんの過去を言い当てた。そして、あむさんの本質を見抜くような事を言って来ている”

”なんつう性質の悪い能力だよ。それが事実なら、相当厄介だし”



だけど、それだけで終らない。次が来た。



「そして、あなた」



そう、僕だ。



「あなたはこの中で1番ダメ。あなたはただの屑鉄。傷だらけで錆びだらけ。後悔と迷いを振り切ることもせず、捨てる事も出来ない弱い屑鉄。
あなたは一生輝きを手に出来ない。そして、そんなあなたは誰からも理解されない」



まだ続く。そして、それはある意味では正解だった。



「輝きはその大きさは別として、自分以外の人との繋がりを作る。光はそれ同士が繋がり合う。だけど、あなたは誰とも繋がる事が出来ない。あなたの屑鉄は、輝く事が出来ないから。
むしろ、あなたは闇。輝けないあなたはそうやってずっと一人ぼっちの場所に行く。そんなあなたでは、今の歌唄には勝てない。輝けない、輝こうともしないあなたでは、誰にも勝てない」

「勝てるさ」



そのまま、足を踏み出す。くだらないたわごとは、鼻で笑ってだ。



「捨てる事が強さなら、後悔と迷いを置いていくことが強さだって言うなら、僕は弱くていい。
そんな強さ、いらない。そんな輝きも理解も、いらない。ずっと一人の場所? 上等だよ、遠慮なく行ってやる」



そしてもう一歩踏み出す。迷いも、躊躇いも、全部抱えて、その上で迷わずに。



「自分の鉄を・・・魂を捨ててまで誰かと繋がりたいなんて、思わないし思いたくないんだよ。
つーか、グダグダうるさい。この三流根暗野郎が。いちいちねちっこくこんな話をしなきゃ勝負できない時点で、お前だって輝けてないだろうが」

「・・・なんですって」

「強さというものへの答えなんて、人それぞれだ。歌唄やお前の答えだって、一応その一つ。だけど、それは僕やフェイトの答えとは違う。いい? 自分の答えが絶対の正解だなんて思うな。
そしてその答えを他人に押し付けんな。自分の答えは、あくまでも自分を動かすためだけのものなんだ。相手の答えを理解するつもりもないなら口を開くな。うっとおしいんだよ」



あ、表情が少し変わった。怒っている感じに見える。どうやらこれで反論されるとは思ってなかったらしい。

まぁ、それはこっちにも言えることだけどね。歌唄の答え、歌唄の願い、ぶち壊しに来たんだから。



【あなた、何か勘違いしているようですね。リイン達は鉄だから強いのです。そんじょそこらのチャラ男さん達と一緒にしてもらっては困るのです。なにより・・・恭文さんが理解されない? 嘘です。
少なくとも私は、恭文さんの事を知っています。心と心、魂と魂が繋がっています。沢山の時間と沢山の思い出。そしてこれから出来る沢山の今が、私達を繋げてくれます。それを否定する輝きなら、リインもそんなのはいりません】

≪嘘だと思うなら、試してみればいいじゃないですか。あなたやほしな歌唄の言う輝きを、私達が全部叩き斬ってあげましょう。そして砕いてあげますよ。その無駄な自信を≫

「つーか、もっとシンプルに行こうよ。この状況で出すべき答えは二つに一つ。お前らが僕達に潰されるか、ぶっ飛ばされるかのどっちかだ」

「・・・そうだね、ヤスフミやリイン、アルトアイゼンの言う通りだよ」



隣に居るフェイトが踏み出し、僕の隣に来る。

紅い瞳に迷いはない。ただ・・・撃ち貫くべき敵を見据える。



「あなたがそれを正しいと思うなら、それが強さだと思うなら、勝手に思ってればいい。だけど、私達はその答えを否定する。
そして負けない。私もヤスフミも、ガーディアンの皆も、こんな今を使い潰す行動を当然とする強さになんて、絶対に負けない」

「・・・・・・そう、それがあなた達の答え。あなた達、一体なんなの? 輝きの意味も、私達の強さも理解出来ないなんて、愚かだわ」

「お前よりは愚かじゃない、通りすがりの古き鉄とその嫁、そしてその仲間三人だ。・・・・覚えておけ」



なんかフェイトがまた顔を赤くするけど気にしない。こういう風に細かくでもアピールしていくことがフラグメイカーなんて言う根も葉もない噂話を潰すために大事な事なのだから。

そして、ダイヤは空高く飛ぶ。僕達を見下ろす。いや、見下す。



「歌唄、どうやら彼らには何を言っても無駄みたい。だから、見せてあげましょう。あなたが持つ本当の輝きというものを」





そして、正面からツッコんできたのは・・・歌唄。





「リリントライデントっ!!」





それを、アルトを抜き打ちで打ち込み、軌道を逸らす。いや、弾いて足を止める。





「・・・くくく。恭文、私、アンタとマジで勝負してみたかったのよ。
さぁ、戦いましょうっ! きっと楽しくなるわよっ!!」

「そう、それは残念だ」





僕は左後ろ斜めに飛ぶ。その空いた空間を狙って、フェイトが攻撃。





≪Plasma Lancer≫

「僕は今のお前とマジに勝負する気なんざ・・・ないっ!!」

「ファイアっ!!」



歌唄に向かって八つの槍が放たれる。それを歌唄は・・・トライデントの先を向けた。



「ナイトメアローレライっ!!」



その先に光が灯り、暗めの赤で輝く蝶達が飛ぶ。そしてそれは、フェイトの放った全ての槍を撃墜した。

・・・って、これすっごい見覚えあるしっ! まさか、あの時猫男との勝負を邪魔したの、お前かいっ!!



「・・・・・・もらったぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



声は上から。その下には・・・あむ。

何時の間に移動したっ!? くそ、コイツマジで能力上がってるしっ!!



「あむ、避けてっ!!」

「そ、そんなことを言われましてもー! エルっ!!」

【ハイなのですっ! ・・・ホワイトフラッグ・W(ダブル)プランなのですっ!!】



そう言って、あむの両手に二本の白旗・・・おーいっ! そんなんでマジでどうするつもりだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?

そして、歌唄はトライデントを振り下ろし・・・。



『・・・受け止めたっ!?』

「受け止められたっ!?」

「受け止めちゃったっ!?」



あむは白旗二本を交差させて、振り下ろされたトライデントをギリ受け止めたのだ。



【無抵抗の抵抗なのです】



ボキっ!!



【え? ・・・お、折れましたぁぁぁぁぁぁっ!!】

「やっぱり役立たずは役立たずねっ! もらったぁぁぁぁぁっ!!」

≪Sonic Move≫



瞬間、金色の閃光が生まれる。そしてそれは、あむにトライデントを振り下ろそうとした歌唄に向かって、右から横薙ぎに戦斧を打ち込んだ。

そう、フェイトだ。



「く・・・」



歌唄は咄嗟にトライデントを盾代わりにして、それを受け止める。




「はぁぁぁぁぁっ!!」



そしてそのまま、勢いよく吹き飛ばされた。受身を取り、地面をすべるように着地。

そこを狙ってフェイトが走りこみ、バルディッシュを形状変換させて、斧から鎌に変える。先端に生まれるのは、雷撃魔力を宿したエネルギー状の金色の鎌。それを歌唄に向かって打ち込もうとする。



「ナイトメアローレライッ!!」



歌唄がまた蝶の散弾を撃ってくるけど、それを回り込んで余裕で回避。・・・甘い。スピードと反射でフェイトについてこれる奴など、そうそう居ない。

だけど、歌唄はギリついてこれるらしい。後ろに回りこんだフェイトに対して、トライデントを横から打ち込んできた。それをフェイトは後ろに下がって避ける。



「潰れなさいっ!!」





その切っ先が突き出されると、フェイトは鎌を振るい、その先端で斬り払う。





「・・・そういうわけにはいかないよ」










そして、フェイトはそのまま飛び出す。手には黒と金色の鎌。歌唄は、トライデントを構えてそれを迎え撃った。





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・みんな、僕達も続くよっ!!」



あの動き、とてもじゃないけど今の僕達ではついていけない。だから、僕達は・・・。



「キング、まず×たまを。マスターCDは何とかなりましたし、あとはあれを何とかすれば、完全にこの計画を潰せます」

「わかった。みんな、いいね?」



真城さんと結木さんが頷く。そして、僕達は走り出す。

蒼凪さんとフェイトさん、日奈森さんなら大丈夫。そう考えて踏み出し、数メートルの距離を駆ける。目指すは・・・ヘリに積み込まれている×たま。



「・・・スラッシュ」



頭上から声。僕は咄嗟に手に持ったロッドを掲げる。

同時に声の方に視線を向けると、そこには両手に爪を生やした不吉な黒猫が居た。



「クロウっ!!」

「ホーリークラウンっ!!」



生まれた二つの黒い斬撃。それが僕達の頭上から振り下ろされた。

僕が発生させた金色の光の盾は、それを防ぐ。その間に、猫男がヘリポートの路面に着地した。



「・・・・・・邪魔はさせない。お前らの相手は俺だ」

「月詠・・・幾斗っ!!」

「やはりあなたが来ますか。キング、助かりました」



三条君が二刀を構えながら言って来た。それに対して返事しようとした時、僕は気づいた。

月詠幾斗の左手に輝く四葉のクローバーを模した鍵があるのを。



「あれは、ダンプティ・キーっ!?」



日奈森さんの持つハンプティ・ロックと対を成し、同じ力を持つキー。不吉な黒猫に奪われたものの一つ。

・・・あ、そうかっ! だからなんだっ!!



「それか・・・。それの影響で、ほしな歌唄とダイヤがキャラなり出来たのか」

「だろうな。あむにエル、あむのしゅごキャラにあのチビがキャラなり出来るのと同じ理由ってことだ。で、どうする?」



そんなの、決まっている。

僕達は、構えた。そして見据える。目の前の・・・敵を。



「お前を倒して、あの×たま達を助けるっ!!」

「そうか、だったら・・・やってみろよ」










そのまま、月詠幾斗は低く、這うようにして飛び込んできた。





絶対に・・・コイツだけは、絶対に許さない。蒼凪君じゃないけど、叩き潰す。




















(第26話へ続く)





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