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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第7話 『バレンタインなんて、関係があるのは一部の人間だけ。三人体制に関係があるのは、更に一部の人間だけ』



・・・現在、2月の14日。そして、時刻は夜の8時。僕は頭を抱えていた。すっごく抱えていた。





ゲームは無事に買えた。フェイトもはやても風邪を引かずに隊舎に帰れた。ログイン祭りは予想出来たのに、あの馬鹿狸は完徹でそれをやろうとしてグリフィスさんに怒られた。ここはいい。





ジンはメイルにそうとう懐かれて、もう帰れない感じになってきた。リインがお泊りデートのことを聞いてうれしそうだった。三人でラトゥーアに入って、ご飯食べて・・・とかやって楽しかった。ここもいい。





そう、僕が今居る場所はラトゥーア。リインとフェイトと一緒に色々なお話も含めたお泊りデートのために来た。なお、隊舎の様子は次回だそうです、はい。





来たんだけど・・・なぜだろう、なぜ雨がすごい勢いで降っているんだろう。なぜ、窓の外の風景は嵐なんだろう。










「・・・これ、明後日まで収まらない様子なんだって」



僕と同じようにベッドに腰掛け、その隣に座るフェイトが少し困ったように呟く。うん、困るのは当然だ。仕事とかそういうのガン無視だもの。



「というか、なぜにまた嵐になるですか? ・・・恭文さん、雨男とかじゃないですし」

「そ・・・そうだね。自分でもどうしてかわからないよ。どうしようか、これ」

「嵐が止むまでここに滞在・・・だね。今のところ事件が起きたりしてるわけじゃないから、転送魔法も例によってアウトだし」



なんだよねぇ・・・。あはは、なんだろこれ。

しかも今回は二泊三日だし。前回よりひどくなるっておかしいでしょ。



「今頃みんな、どうしてますかね」

「うーん、きっとキャロがエリオに無駄にアプローチしてるね」

「そしてスルーされるですね」

「されるね。最近、エリオが一時期のフェイトレベルで天然になってきてるから」



あれは・・・くじけるなぁ。かなりくじけるよなぁ。キャロ、大丈夫かしら。

というか、あのさリイン。



「はいです?」

「なんでリインは僕の腕の中に居るの? というか、なんで僕はリインをラッコさんな体勢で抱きかかえてるの?」

「リインへの愛ゆえですよ♪」



うん、絶対違うよね。というか、頭をすりすりするな。なんかくすぐったいから。すっごいくすぐったいから。



「というか、リインだって恭文さんのパートナーなんですよ? 恭文さん大好きなんですよ? これくらいは許して欲しいです」

「・・・あの、リイン?」

「付き合って欲しいなんて、言ってるわけじゃないです」



リインが、体重を預けてくる。


「ちゃんと、わかってます。それに恭文さんは、その・・・同時に二人の恋人を作れるほど、器用な人じゃないですから。恭文さんは心が狭いので、フェイトさん一人で満杯です」



そして、自分を抱きしめる僕の腕を、ぎゅっとつかむ。



「ただ・・・変えないで、欲しいです。フェイトさんと付き合うようになっても、リインは恭文さんのパートナーで、一部です。
それを、変えないで欲しいです。リイン、それだけでいいです。それだけで・・・いいですから」



リイン・・・。うぅ、やっぱり三人体制なのかな。結婚式で二人ウェディングドレス体制なのかな。

覚悟・・・あぁ、だめだ。なんか考えられない。リアルに考えられない。でも、なんか・・・こう、それもいいのかも知れない。



「僕も・・・リインが好きだよ」



ギュッとリインを抱きしめる。・・・暖かい。小さくて、柔らかくて、この感触は変わらない。大事な、守りたい温もりが、ここにちゃんとある。



「大事なパートナーで、僕の一部だもの。嫌いなわけ、ない」

「ありがとう・・・です。リインも、恭文さんが大好きです。大事・・・です」

「・・・私のこと、忘れないで欲しいんだけどな」



その声にハッとする。で、リインと一緒にある方向を見ると・・・居た。ちょっと膨れた女の子が。



「え、えっと・・・忘れてないよ?」

「ほんとに? うーん、やっぱりリインに負けないように頑張りたいな。その・・・もう、恋人だから」

「なりかけですよね?」

「なりかけでも、恋人なの。好きなのは、変わらないんだから」





そうして、フェイトがなんかくっついてくる。あの・・・えっと、色々と許容量オーバーしそう。

リインはリインで暖かいし、フェイトはフェイトで柔らかいし、なんか幸せ。

でも・・・『Nice baot』な匂いがするのが怖い。かなり怖い。



本能がこの状況はやばいと告げまくっている。経験が相当に危険だと言いまくってる。





「うーん、フェイトさん。恭文さんはまだまだダメっぽいです」

「そうだね。もう私達は三人体制で頑張っていこうねって気持ち決めてるのに。二人でヤスフミとたくさん愛し合って、たくさん幸せになろうねって話してるのにね」

「ですです。それで、フェイトさんが第一夫人で・・・リインが第二夫人です」

「うん、私が第一夫人だよ。悪いけど、リインには譲れないな」





なんか呆れたように言って来た二人を見て思う。この二人はわかっていないと。

確かに法律的には許されてるけど、ミッドでも一般常識的に一夫多妻はビックリなんだよ。

とにかく色々怖いのよ。お願いだから本人である僕を抜きにして話を進めないでよ。



なにより二人がなんだか納得済みなのが怖いのよ。・・・って、そういう話じゃなかった。





「・・・あのさ、リイン」

「はいです?」



腕の中のリインが顔を上へ上げて、僕を見る。



「本当に、僕のところでいいの?」



そのままそう言うと・・・青色の瞳を少し開いて、視線と顔を元の位置に戻して、うなづいた。



「でも、僕と一緒だと局員は・・・」

「続けるの、ちょっと無理っぽいですね」

「ヤスフミが嘱託だから、どうしてもそうなっちゃうよね」



そうなると、やっぱり・・・なんだよねぇ。せっかく空曹長にまでなったのにさ。

やっぱりもったいないな。せっかく資格勉強とか頑張ってたのに。



「リインは別に局のために局員になってたわけじゃないですから。マイスターであるはやてちゃんの力になるのはこっちの方がよかったからなってるだけです。特にこだわり、ないです。・・・ちょっと贅沢ですけどね」

「そうだね、出世出来ない人からするともうブーイングの対象だよ。でも、やっぱりもったいないよ」

「とりあえず、みんなから散々『局員になろう。出世したりとかそういうのでもいいから、やりたいことを見つけよう』って言われまくってたのに、それを振り切っている恭文さんには言われたくないです」



・・・そこを言われると辛い。いや、まじめに辛い。

うーん、僕はやっぱりリインの選択に何も言えないよなぁ。だったら、局員・・・あぁ、だめだ。そうすると僕のランクの関係でフェイトの側に居るのが難しくなる。



「まぁ、リインの事を心配してくれているのは、わかるです。でも、今のリインの気持ちは・・・フェイトさんの側に居て、フェイトさんの今と幸せを守りたいと思った恭文さんと同じです」



僕と?

何気なくフェイトを見る。すると、視線で『そうだよ』と優しく言いながら、そのまま頷いた。



「リイン、あの・・・」

「もし、リインが他にやりたいことがあったら、遠慮なくそっちに行くです。それで、そのために勉強も欠かさずに頑張るです。だから・・・恭文さんの側に、居させてくれませんか?」



・・・リインは、覚悟を決めてる。だったら・・・僕も、だよね。



「正直ね、いろいろ戸惑ってる。やっぱり、僕は心が狭いみたいだから」

「はい」

「もしかしたら、すっごくずるいことしてるんじゃないかって、思う」

「・・・はい」



だけど、だけど・・・。



「フェイトとは違う意味だけど、リインの事、好きなんだ。側に、居て欲しい。先とか、色々考えちゃうけど、それでも・・・離れないで欲しい」

「離れませんよ。もう『恭文さん×フェイトさん×リイン』の三人体制は決定なのです♪」



三人体制はあの・・・色々考えちゃうけど、でも、リインが居てフェイトが居る生活か。

楽しい・・・かな。うぅ、やっぱり色々と不安が。



「楽しいよ、きっと。まぁ・・・その、確かにちょっとおかしい関係なのかも知れないよ? でも、私のためにリインとの絆、切って欲しくないんだ。
私・・・ううん、誰と付き合っていたとしても、リインが恭文のパートナーだというのは、絶対に変わらないよ」

「・・・いいの?」

「いいの。それにほら、ハネムーンサラダって漫画もあるし」



あぁ、あるねぇ。なんか三人体制になった恋愛漫画・・・。

あのちょっとっ!? なにそんなの読んでるのさっ! 普通におかしいでしょうがっ!!



「去年、はやてが貸してくれたんだ。将来的にはこうなるかも知れないから、勉強しておいた方がいいって言われて」

「あの狸は・・・!!」

「でも、勉強になったよ? もしかして、三人体制とかって本人同士が納得なら大丈夫なのかなって思ったし」



思うなぁぁぁぁぁぁっ! そして勉強するなぁぁぁぁぁぁぁっ!! 普通に考えておかしいからねっ!? つーか、あれは漫画だから成り立つのっ!!



「ならなら、リインもその漫画を読んで勉強を」

「そ、それはだめだよっ! リインにはまだその・・・早いのっ!!」

「そうだね、早いからだめだよ。うん、絶対ダメ」



アレなシーンとかあるしなぁ。正直、今のリインに見せるわけには・・・。



「むー、リインを子ども扱いしないでくださいですっ! リインだってちゃんとお勉強して、フェイトさんと恭文さんとの三人体制に備えていかなきゃいけないんですよっ!? そのためには、1に精進2に精進なのですっ!!」

「いや、だからリインにアレは早いから。無理だから」










・・・神様、なんというか・・・僕、これで本当にいいの?





いや、まぁ・・・三人は楽しいだろうなと思うけど、やっぱり不安もあったり・・・うーん。





まぁ、あの・・・フェイトは恋人で、リインはソウルパートナーってことで、オーケー?










「いやいやっ! ちょっとまってっ!?」



そこで気づいた。なんか僕・・・今流されてた。

『僕×フェイト+リイン』に流されかけてた。さっきまで戸惑いまくってたのに。・・・まずい。



「うーん、ヤスフミはやっぱりまだ戸惑い気味だね」

「フェイトさんは恋人として恭文さんの側に居て、リインはパートナーとして・・・と考えればいいだけなのに、ダメダメです」

「戸惑って当然だと思う僕は間違ってるのかなっ!?」

「「そうだよ(そうですよ)」」










なんかすっごい当然のことのように言い切ったっ!? てゆうか、二人ともドンだけ腹が決まってるんだよっ! 僕完全に置いてけぼりなんですけどっ!!




















魔法少女リリカルなのはStrikreS 外伝


とある魔導師と機動六課の日常 Second Season


第7話 『バレンタインなんて、関係があるのは一部の人間だけ。三人体制に関係があるのは、更に一部の人間だけ』




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とりあえず、唸るヤスフミは置いておくとして、私とリインは二人でラトゥーアの大浴場のお風呂でゆったり。





髪を二人とも結わえて上げて、タオル・・・はいいね。だって、お湯の中にそれは基本的にマナー違反だし。

あと、ヤスフミも今は大浴場。私達でお風呂でゆっくりすれば考えもまとまるから・・・って言って、男湯に居る。

というより、まとまってくれると嬉しい。まぁ、わかるよ? 三人体制なんて、普通じゃないとは思うし。ミッドでもあまりそういう体制を取っている人は限られてるし。





でも、意味合いが違ってもリインがヤスフミにとって大事な女の子で、大好きなのは変わらないのは、もうよく知ってる。

リインもヤスフミをそう思っているのもよく知ってる。相思相愛で、絶対に切れない絆を二人は持ってる。

その、確かに私はヤスフミの恋人だよ? そういうのにヤキモチ焼かないと言えば、嘘になる。だけど、私のためにヤスフミとリインの絆を切って欲しくない。だったら・・・と、覚悟を決めた。





ここしばらく、リインと色々話して、決める事が出来た。私にはそんな権利がないことも、よくわかった。

ヤスフミ、私達は大丈夫だよ? 『ずるいことしてる』なんて言ってたけど、そんなことない。例えそうだとしても、私は・・・私達は、このままがいいんだ。

だから、迷わないで欲しいな。私と付き合うことになった時、ヤスフミが言ったとおりにすればいいんだよ。三人で、色んなことをクリアしていけばいいから。





・・・・・・あー、泡風呂のボコボコが気持ちいいよ。うん、広いお風呂ってやっぱり好き。










「じー」

「・・・リイン、どうしたの?」



隣に居て、私と同じように髪をアップにしているリインが私を見る。

というより・・・私の胸を。あの、それはやめて欲しいな。恥ずかしいもの。



「フェイトさん、やっぱり大きいです」

「え? ・・・あぁ、胸・・・かな」

「はいです。たぷたぷのぽよぽよです。シグナムレベルです」



いや、さすがにシグナムには負けるよ。シグナムはこう・・・私以上に存在感があるし。



「そうですよね、存在感がありますよね。うぅ、リインも存在感が欲しいです」

「どうして?」

「だってだって、リインの周りの人は大体大きいです。フェイトさんやシグナムもそうですし、シャマルになのはさん、スバルにティア、リンディさんにエイミィさんに美由希さんにメガーヌさん。
あぁ、それとギンガもシグナムレベルですし。ナンバーズもチンクとセインにオットー以外はボンキュボンです。やっぱり、うらやましいです」



それを聞いて、少し・・・考えた。リインはユニゾンデバイスで、外見が自然に大きく・・・というのは、少し難しかったりして。

そういうところ、やっぱり気にするのかな。ううん、気にしないわけがないよね。私だって気にした事が無いわけじゃないから。



「恭文さんは大丈夫って言ってくれるですけど・・・」



そっか、ヤスフミは大丈夫・・・ヤスフミっ!? あの、どうしてそこでヤスフミの話になるのかなっ!!



「お泊りした時とかに、一緒にお風呂に入るです。それで、リインは聞くですよ。やっぱり胸は大きい方が好きですかーって」

「・・・あ、それでなんだね」

「はい」



そ、そうだよね。さすがに今のリインにそんなことをするわけがないし。というより、してたら私怒ってた。凄く怒ってた。

将来的な話はともかく、今のリインはまだ子どもだもの。いくらその・・・はやてがそういうことが出来るって言ったって、今はダメだよ。うん、絶対だめ。



「恭文さん、小さくても需要はあるし、リインは可愛いから大丈夫ーって言ってくれるです。でもでも、フェイトさんとか見てると・・・やっぱり大きい方が好きなのかなとか考えるです」

「なるほど・・・」



そう言えば、どうなんだろ。お風呂の泡のぼこぼこ・・・という感覚に身を委ね、身体をゆったりさせながら考えた。ヤスフミ・・・やっぱり大きい胸の子が好きなのかな。

でも、初めて会った時・・・私、こんなに大きくなかったし。というより、大きさ的にははやてにも負けてるくらいだった。大きくなりだしたの、中学生を卒業してからだもの。それも急激に。



「ね、リイン。一つ聞いていいかな?」

「はいです」

「そういうことを気にするってことは、その・・・ヤスフミとそういうことをしたいなって、考えるの?」



それはちょっとした好奇心も混じった質問。出来れば頷いて欲しくなかったんだけど・・・リインは、少しだけ顔を赤らめて、コクンと頷いた。



「その、リイン・・・一応、そういうこと出来るそうですし、今は無理でも、いつか・・・そうなれたら嬉しいなって、考えることはあります」

「そっか・・・。やっぱり、好きなんだよね」

「はい。・・・リイン、自分でもおかしいんじゃないかって言うくらい、恭文さんのことが好きです」



そうだよね。やっぱり、リインはヤスフミのこと、好きなんだよね。多分恋愛感情も込み。

私、リインから見ると、横からヤスフミのことを取ったようなものなのかな。その上8年もスルーして・・・。



「リイン」

「謝るとか、なし・・・ですよ?」



心のうちを見抜かれたような鋭い言葉に、私の思考は瞬間ストップする。

リインは、私の顔を見上げて・・・言葉を続ける。瞳には少しだけの怒りの感情。それを私にぶつけてくる。それを見て私は、胸が痛くなるのを感じた。



「そういうこと言われても、リインは嬉しくないです。全然、嬉しくないです。リインは、恭文さんが笑顔で居てくれればそれだけで十分なんです。それだけで、いいんです」

「・・・そうだよね。あの、ごめん」

「謝るの無しって言ったです」

「あの、これは違うよ。その・・・謝ろうとした事に対してのごめんだから」



あれ、なんかおかしいな。私何言ってるんだろ。・・・でも、リインはクスクス笑い出したから、いいのかな。



「というか、フェイトさんはいいですか?」

「え?」

「リインが居て、お邪魔じゃないですか?」





・・・リインが居て・・・か。

うーん、確かに三人でどうしようって言うのは色々考えるし、コミュニケーションする時はどうしようって言うのも考えるかな。

さすがに今のリインも交えて三人で・・・なんて、犯罪だし。



なにより、そんな・・・あの、三人でなんて、どうやってするのか分からないし。二人でするのだって、忍さんからあれこれ教えてもらったけど、かなりギリギリだし。



・・・あれ、なんか違うな。というより三人って・・・あの、だめ。そんなえっちなディスクみたいなこと、絶対だめだから。





「そうだな・・・。リインが居て邪魔なんて思ったことは一度もないよ? むしろ」

「むしろ?」

「リインが居た方が、きっと楽しいって思う。・・・もしかしたら、本当にヤスフミの言うようにおかしいことなのかも知れないんだけど」



でも、リイン以外は・・・・だめ。リインは、ヤスフミとの繋がりが絶対に切れないものだって知ってるから受け入れられるんだもの。

他の女の子もココに加わるなんて、ダメ。絶対ダメ。私、すごくヤキモチ焼きだもの。イライラしちゃうよ。



「ありがとうです」



リインが少し声のトーンを落として、安心したように言ってきた。




「リイン、フェイトさんに邪魔だって思われるのが、やっぱり嫌でした。だって、フェイトさんは恭文さんの好きになった人ですし」

「そっか。でも、安心して欲しいな。絶対にそんなこと思わないから」

「・・・よかったです♪」





・・・・・・そうして、二人でお風呂を堪能。あぁ、やっぱり気持ち良いな。



私達は、互いにどうやら三人体制に関しては問題ないみたい。なら・・・あとは、ヤスフミかな。





「恭文さんはオーケー出してくれましたけど、相当戸惑ってるですよね」

「まぁ、もともと一夫多妻とかそういうのが出来る子ではないしね。仕方ないよ。多分、私やリインに対して不誠実なことをしてるんじゃないかって思ってるんだよ」

「でもでも、リインもフェイトさんもそこは気にしてないですよね?」

「うん。不思議なくらいに気にならないんだ」



むしろ、三人だったら楽しいかなって考える。その、ハネムーンサラダ読んだからかも知れないけど。

というより、一夫多妻・・・まさか自分がそうなるとは思わなかったよ。まぁ、結婚自体もあまり考えては居なかったんだけど・・・なんでだろ、なんで私、こんなに普通に受け入れられてるんだろ。



「でもフェイトさん」



リインが私の目をまっすぐに見る。空色の瞳には何か意思のようなものが込められていて、それが私へと伝わった。

だから私はうなづいて、沸きあがった感情を言葉にする。



「わかってるよ。これ以上増えるのは認められない・・・だよね」

「ですです。リインはフェイトさん・・・というより、フェイトさんが恭文さんの好きになった人だから認めてるですよ? そうじゃなかったら、リインが恭文さんを押し倒して恋人になってるです」

「私だって同じだよ。リインと恭文が本当の意味で繋がっているから、リインとの三人体制を認めてるんだから。だから、これ以上はだめ。四人体制とかそういうのだめなんだから」



つまるところ、私達の共通見解は・・・これ。



「恭文さんが余所見したり、他の人のフラグを立てないように、リイン達で恭文さんを独占しちゃいましょう」

「そうだね。リイン、がんばろうね」

「はいです」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



”・・・覚悟を決めて、ここでリインさんとフェイトさんと初夜を迎えるしかないでしょ”

”なに言ってんのっ!? 今そんなことしたら犯罪でしょうがっ!!”

”大丈夫ですよ、愛さえあれば年齢は”

”関係ないかもしれないけど、今の年齢は関係あるんだよっ! 表現規制法案にブッチギリでひっかかるわっ!!”



お風呂から上がり、フェイトとリインを入り口で待っている。僕はやっぱり、待たせるより待つ方がいいのだ。

その間に、胸元にかけている相棒に人生相談である。で・・・飛び出してきた答えがこれですよ。なんですかこれ、なんの参考にもなりゃしない。



”もちろん初夜は冗談ですが、リインさんは引き受けるつもりなんでしょ? というより、さっきのやり取りで覚悟決まったんですよね”

”・・・うん”

”なら、どっちにしたって三人体制は樹立ですよ。覚悟を決めて二人を幸せにするしかありません”



あぁ、分かってたけどやっぱりそういう方向なんだ。三人でハネムーンサラダなんだ。リアルに二宮ひかる作品を行かなきゃいけないんだ。

・・・予習のために読んでおいた方がいいかな。そうすれば意外と受け入れられるかも。とりあえず、ハーレム的なアレとかソレは読んでるけど、あれじゃあ覚悟決まらないのよ。



”家の書庫にありましたよね”

”あったね。サリさんが預けてきたのが”



なんだったっけ、同棲相手のドゥーエさんに見つかるとヤバイからって言って、送ってきたんだ。つーか、どんだけ恐妻家ですか。この話してる時、瞳が少し震えてたし。

・・・そう言えば、今思い出したけど、JS事件のナンバーズでそんな名前居なかった?




”居ましたね。ですが、そこに触れたいんですか?”



少しいつもよりトーンを落とした声に、僕は少し考える。

考えて、答えを出した。



”いや、触れたくない。なんかフェイトの話だと証拠物件も無くて本人行方知れずで立件出来ないそうだし・・・気づかなかったことにしておこうか”

”そうですね、そうしておきましょう。それが幸せですよ。そう言えば、サリさんは朝から自宅に戻ってドゥーエさんと一緒でしたよね”

”あー、らしいね。今頃なにしてんだろ。・・・って、野暮か”

”えぇ、野暮でしょ。バレンタインの夜に同棲相手と二人っきり。間違いなくアレですよ。あなたと違ってね”










・・・言うな。リインを交えてなんで無理だし。なにより、フェイトともうちょっとペースを落としてゆっくり進展していこうねって決めたんだから。





うん、ゆっくりでいいの。その、確かに若干焦りすぎだったような気もするし。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・まずいわね。





まさかあのおチビちゃん・・・というより、六課の関係者が居るとは思わなかったわ。

というより、仕事はどうしたのよ仕事は。なに普通にお泊りしてるわけ? それも分隊長と部隊長補佐が。

こんなお気楽連中に負けたのかと思うと、なんだかやりきれないわよ。





まぁ、ここはいいわ。とりあえず・・・念話を繋ぎましょ。サリエル、聞こえる?










”おう、どうした? ・・・悪いが、石鹸なら自販機で買ってくれ。ここからじゃ投げ込めない”

”あなたは部屋で局長さんとお仕事のお話だものね、仕方ないわよ”





そう言えば、何かの歌でもそういうのあるわね。そういう地球にある日本の昔ながらの銭湯・・・だっけ?



・・・って、そうじゃないわよ。悪いけどあなたのそんなジョークに付き合っている場合じゃないのよ。





”単刀直入に言うわね。ハラオウン分隊長とリイン曹長が居るわ”

”・・・は?”

”だから、なんだか泡風呂でボコボコに癒されてるのよ”



私は横目で見る。髪をアップにした女性と女の子を。

なんというか、癒されてるわ。これなら背後から忍び寄れば苦もなくグサって出来るんじゃないかと思うくらいに癒されてるわ。



”はぁっ!? なんだよそれっ!! ・・・あ”



サリエルが一言言って黙った。とても嫌なものを感じさせるタイミングで黙った。

ねぇ、どうしたの? お願いだから喋って欲しいわ。



”や、やばい。だったら・・・やっさんも居るわ”

”・・・サリエル、それはどういうこと?”

”いやよ、なんかフェイトちゃんとリインちゃんと三人でお泊りデートがどうとか・・・って言っててさ。くそ、まさかラトゥーアに来るとは”



ねぇ、それかなりまずいわよね。あのおチビちゃんは相当勘がいいって聞くわよ? しかも、雨のおかげで明後日まで出られないそうだし。

全く、あなたがここに行こうなんて言いだすからこんなことに



”なに言ってやがるっ! お前がせっかくのバレンタインデーなんだから遊びに行きたいって言うからだろっ!? いや、もうこんなこと言ってもしかたないけどっ!!”

”それもそうね。・・・ライアーズマスクを使ってなかったのは失敗だったわ。思いっきり素顔だし”

”あー、そういやお前犯罪者だったよな。最近は主婦業ばっかりだから忘れがちだったよ。・・・うし、転送魔法で脱出するか”



だめよ。



”なんでだよっ!!”

”せっかくスウィートルームを取ったのに、それをパーにするつもり? もったいないわよ。なんとか誤魔化しましょ”

”いや、まぁ・・・そうだな。つーかさ、俺としては恋人としてもう紹介しちゃいたい気分なんだが”



・・・この人は、バカだと思う。私は犯罪者で、こうして平和に生きてはいるけど、何人も手にかけて、任務のためにそうとう汚い事も・・・自分自身の身体さえ武器に使った事だってある私を、こうして恋人として扱ってくれるんだから。

まぁ、だから私も同棲2ヶ月目で単身赴任されたり、クリスマスをすっぽかされたりしても、頑張れるんだけど。この人の側、やっぱり居心地いいのよね。私のISを・・・それによって隠された魂を見抜かれた時の衝撃と嬉しさ、今でも忘れられないから。



”だめよ。せっかくだから誰にも知られずにスウィートルームで朝まで情熱的に愛し合う・・・なんて言うベタなことやりたいんだから”



でも、そんな事を言うのがどこか恥ずかしくて、キャラじゃないと思うから、こんなことを冗談めいた口調で口にする。

私の、ささやかな嘘。日常という平穏を面白くするスパイス。素直でかわいい女なんて、演技の中でしか出来ない。



”バカかお前っ! つーか、紹介してなんとかなるならそれでいいじゃないかよっ!! どうしてそこまで秘密主義に走るっ!?”

”通りすがりのアサシンだからよ”

”そんなこと言ってる場合かぁぁぁぁぁぁっ!!”



・・・そうね、そんなこと言ってる場合じゃないわ。



”え?”

”二人がこっちに近づいてくるから”

”えぇぇぇぇぇぇっ!?”



私が居るのは鏡の前。まぁ、ようするに髪を洗ったりするところね。で、二人は入る前段階で洗っていると思われるので・・・これ、公共お風呂のマナーでしょ?

とにかく、普通に髪を洗っていよう。ちょうど私は洗う最中だった。もちろん、華王の弱酸性のメリットで。



「・・・・・・それじゃあ、そろそろ上がろうか」

「はいです。恭文さんきっと待ってるですよ」

「そうだね。ヤスフミは待たせるより待つ方を選んじゃうから」



そんな風に楽しげに話をしながら、私の後ろを通り過ぎる。通り過ぎて・・・そのまま、行った。

なんとか・・・なったわね。うん、よかった。



「・・・あの」



その声に身体が震えた。それは・・・あの執務官の声だった。

まずい、気づかれた? 何気に天然で本当に執務官かどうか怪しいもんだと思っていたのに・・・やっぱり鋭いのかしら。



「・・・なにかしら」

「石鹸」



・・・・・・はい?



「ピンク色の石鹸、横に落ちてたので、鏡の前に置いておきました。丁度右の足元で危なかったですから」



ピンク色の石鹸・・・あ、私のだ。ここに来る前に買ったローズヒップの香りのもの。



「そう、ありがとう。というより、よく気づいたわね」

「あはは・・・。実は私、前に同じシチュでこけて頭を打ちかけたことがあったんです。それで、見てて危ないなーと」

「確かに、危ないところだったわね。・・・この状態なのでちゃんとお礼も出来ないんだけど、ありがとう」

「いいえ。それでは、お気をつけて」



そのまま、その声の主は去っていった。泡だった髪をシャワーで洗いながら、横目でその様子を見る。・・・綺麗な身体。なんだか私、ちょっと負けてるし。

でも、よかった。さすがにここで逮捕劇なんて嫌だもの。スウィートルームの夢が潰えるわけだし。



”・・・おーい、そっちはどうだ?”

”ギリギリセーフよ”

”そっか・・・。でもよ、正直俺は紹介しちゃいたいよ。まぁ、昔のことでどうしてもって言うのは分かるんだけどさ。こういうのはあんま気分がよくない”

”大丈夫、その気持ちだけで充分だから”










きっと、あなたは変わらずに居てくれるわよね。だからこそ、いきなり転がり込んでもそのままなわけだし。





でもね、私・・・自分の過去のために、今の男に迷惑かけるの、嫌いなの。これくらいは、ちゃんとさせて?




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



・・・入り口でヤスフミと合流。二人には先に部屋に戻ってもらって、私は少しだけ、通信をかけることにした。





まぁ、ちゃんと報告はしないとだめかなと思うので。










「・・・・・・ということで、私とリインにヤスフミの三人体制になりました」

『また・・・ぶっ飛んでるわね。あなた、本当にそれでいいの?』

「はい、もう決めましたから。もちろん、リインやヤスフミと色々話した上で」





そう、母さん。やっぱり、家族ではあるから、ちゃんと話しておかないと。



ヤスフミは・・・まだ戸惑いが大きいしね。私がしっかりしないと。





『ねぇ、フェイト。本当にいいの?』

「いいんです。私もリインも気持ちは同じですし」

『そうじゃなくて・・・あの子の選択よ。忘れず、変わっていく道を選んだこと』



・・・私は少し頭の奥が痛むのを感じた。母さんは、やっぱりあの選択に納得していないのかと思ったから。

結構話したんだけどなぁ。それに、私の記憶がなくなった一件で覚悟を決めたってアルフから聞いてたのに。



『もちろん、決めているわ。ただ、親として心配なのは、理解して欲しいの。・・・・・・あの子の選んだ道は、普通の人の選択のそれとは違うわ。
ある意味、社会というものに入るのを拒否したのと同じ。この先、もしかしたらあの方のように行方知れずになる可能性だってある』



そう、なのかな。私はそうは思えない。うん、思えない。

だって、道はひとつじゃない。正解だって、ひとつじゃないんだから。



「でも母さん、局員だけが道じゃないと思うんです。例えば警防という行き先・・・局員以外の道もあるわけですし。
ヤスフミ、局員以外ならあそこに入りたいって今でも思っていると思います。話を聞くとあそこの人達も、ヤスフミの事を気に入ってくれているようですし」

『話ではそのようね。実際、あの子に聞いてみた事があるの。もしそれが出来るなら入りたいのかって。・・・即答で『はい』と言われたわ』

「予想はしてました」



最強で最悪、ヤスフミのなりたい形があそこにはある。管理局にはないもの。誰かを、何かを守ることに、助ける事に、悪を挫く事に愚直なまでの真っ直ぐなものを感じる場所。

なんだろう、普通に局員よりもこっちの方が似合う気がするのは、気のせいかな。



『ただ、あそこはあまりにも過激過ぎるのよ。正直に言わせてもらえれば、私はあの子を預かる者として、警防のようなハードな組織には入って欲しくないわ。訓練に関してもそうよ。出来るなら、関わっても欲しくなかった。
だって、管理局の方が福利厚生もいいし魔法の問題も解決出来るしで手っ取り早いもの。特に福利厚生の問題は大きいわね。給料だってかなりのものだから生活も楽だし、勤務体制は色々だし、あの子なら色んな事が出来るだろうし』

「気にするのはそこですか・・・。でも、母さんは認めてましたよね? ヤスフミの警防での訓練」

『なのはさんの親戚がいらっしゃるというのと、あの子が止めても聞く子ではなかったというのが理由よ。そうじゃなかったら止めていたわ。
まぁ、無駄だったとは思うけどね。場合によっては、また家を平気で飛び出していたでしょうし。それにフェイト、あなただって、拒否反応を示していたわよね』



そ、そこを言われると弱い。私も最初にあそこにお邪魔した時は相当怖かったし。・・・訓練の様子を見るまでは安心しきってたけど。

ヤスフミと色々と話をして、理解はした。でも、やっぱり心配だった。香港から帰ってくると、いつも軽めにでも怪我してたから。



「そうですね。・・・だから今、反省してます。私は自分の力に、魔法というものに頼り切っていたんだと。今の色んな状況を鑑みれば、ヤスフミの学ぼうとしていたことは正しかったのに。
自分は魔導師で、Sランクで、執務官で・・・そんな自分に満足して、魔法以外の事も高めていく努力を怠っていたんだと、かなり。前にシグナムが言っていたんです。恭文の戦闘者としての完成度は、私やなのはより上だって」

『・・・そう。確かにそこを言われると弱いのよね』





魔法も魔法以外の手段も、力を振るう事の意味をちゃんと見つめて・・・ううん、ひとつの実感として持っている。人を殺めた痛みと重さを忘れない事が、そこに起因している。

運の悪さが原因ではあるけど、いろんなことに巻き込まれたおかげで経験も豊富。

魔法だけに頼らない、あらゆる戦闘手段を取れる事と精神的な部分だけで言うなら、ヤスフミは私達より強いと、シグナムがそう言ってたことがある。ただ、問題がひとつ。



・・・・・・レヴァンティンを磨きながら嬉しそうに言ってたから、全く嬉しくなかった。素直に聞けなかった。

しかも、FS13話の模擬戦の直後に。またやり合いたいと呟いてすらいた。事件中のヤスフミの成長を感じ取った様子で、本当に嬉しそうだった。

なんというかシグナムとヤスフミのバトルマニア思考は何とかして直したいよ。もう無理だとは思うんだけど。





『私もさっきはあぁ言ったけど、確かにあなたやシグナムさんの言う通りなのよ。AMFという物はこれから先、色んな形で活用されていくわ。現状の局の魔導師は、あまりに魔法技術に頼り過ぎている。
それではこれから先どうなるか本当にわからないもの。だけど、あの子は違う。あの子があそこやヒロリスさん達から学んだことは、きっとそんな中で活路になる。でも、キッカケはなんだったのかしら』



その言葉に、一瞬固まる。え、えっと・・・キッカケってなんでしょう。

まぁ、察するにどうして魔法なしで戦闘が出来るようになろうかと考えたキッカケ・・・ということでしょうか。



『そうよ。フィアッセ・クリステラさんの一件がキッカケとは考えにくいのよね。だって、それより前にあの子はそのための手段を模索していたもの』



さらに固まる。確かにその通りだ。ヤスフミはあの一件・・・イレインというノエルさんやファリンさんと同じ自動人形と戦った時に負けた。

地球に居るためにほとんどの魔法がNG・・・というより、普通に非殺傷設定なんかの魔法が通用しない相手。それと戦って負けたのが、そのための手段を探すキッカケだったと、大分経ってから話してくれた。



『私、今でもそこが不思議なのよ。局の仕事関連でそういうキッカケになりそうな事があった・・・なんて記録はないし、私もクロノもそんな覚えがないし』

「そ、そう言えばそうですね・・・」

『フェイト、あなた何か知らない?』

「いえ、なにも。ヤスフミはフィアッセさんの一件で色々考えたと言うだけですし」



だめ、言えない。すずかとの一件は夜の一族の話が絡んでいるもの。母さんでも話せないよ。

なので、私は軽めにそんな返事で済ませることにした。心の中でごめんなさいと謝りつつ。



『まぁ、そこはいいわね。ね、フェイト。私が今話した事はあまり気にしないでね。実は、あの子の事はあんまり重要じゃなかったの』



え?



『もう、覚悟は決めていますから。ただ、自分の娘が一夫多妻制の一角を担うとなると、心配にはなるものなの。ミッドでは法律的に許されているとは言っても、あまり例はないし』

「・・・納得しました」

『とにかく、三人でのお泊り、楽しんでね。・・・でも、リインちゃんを交えてはだめよ? まだあの子は子どもなんですから』

「母さんっ! なに考えてるんですかっ!?」










あ、通信切れた。・・・母さんまで、どうしてはやてと同じ事を気にするのかな。





私とヤスフミ、もしかしてそういう風に見えるのかな。うーん、その・・・キスはしたし、胸も触ってくれたりしたけど、まだなのに。





まだ・・・なんだよね。やっぱり、ヤスフミと、本当の意味で結ばれたいな。





ゆっくり目に行くとは言ったけど、やっぱりまた我慢をさせてるんじゃないかと気にはなっちゃうし、だけど焦るのもよくないし。





うーん・・・。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・気持ちよかったね」

「はいです。恭文さんはどうですか?」

「僕も同じく。すっごく気持ちよかった」










フェイトもすぐに部屋に戻ってきて、またさっきの体勢。なんというか、これに慣れつつある自分が怖い。






でも、アルトの言うように二人とも引き受ける覚悟、必要・・・だよね。形はどうあれそうなるんだし。










「いやいや、お風呂って付け加えてっ!? これだけ聞くとすごい変な会話だからっ!!」

「むむ、恭文さんはエッチです。ねー、フェイトさん」

「そうだね、ちょっとエッチ過ぎ。その・・・男の子だから分かるけど、もうちょっと考えようよ」

≪あれですよ。『棒』とか、『玉』とか聞くだけでいやらしいこと考えるんですよ≫



考えるかぁぁぁぁぁぁぁっ! 普通に小説だからそういうの気をつけようって言ってるだけでしょっ!?

普通に文体だけだから危ないって言ってるだけでしょっ! なんでそれで僕が悪いみたいな形になるのさ!!



「なら、考えないですか?」



全力で頷く。当然だ、さすがにそこはない。というより、今考えると非常にまずい。

すると・・・二人が不満そうな顔になった。



「なんか恭文さん、失礼です。ね、フェイトさん」



待て、なぜにそうなる。



「そうだね。私やリイン・・・そんなに魅力がないかな」



だから、どうしてそんな悲しそうな顔を・・・! 二人して自分の胸に手を当てるなっ!! お願いだから嘘泣きしないでっ!?



「あほかぁぁぁぁぁぁっ! なんだよその誘導尋問っ!! ありえないっ! ぶっちゃけありえないからっ!!
てゆうか、ここで考えてもだめでしょっ!? リインも居るのに考えたらアウトでしょうがっ!!」

「大丈夫だよ、冗談だから」



二人ともなんか苦笑してるけど、ちょっとムカつく。てゆうか、なんでこんなに息合ってる? おかしいでしょ。

てゆうか、あの・・・そこはマジにダメだから。だって、ねぇ?



「でも、バレンタインデーだから特別なイベントは欲しいですよね」

「それもそうだね。こう・・・せっかくだもの」

「チョコ渡すとかではだめなわけですか?」



・・・あの、なんでそんな二人揃って考え込むような表情になるの? あれかな、そういう打ち合わせでもしてるのかな。さっきからすごい弄ばれてるように感じるんだけど。

あー、はいそこっ! 『それっていつものことじゃん』・・・とか言わないっ!!



「一応、用意はしてきてるよ? 暇を見つけて手作りしてきたの。でも、普通に渡すのはつまらないかなぁとか考えたり」

「リインも同じくです。こう・・・三人体制が決定した初めてのバレンタインデーですし、劇的な何かが欲しいです」

「また三人体制って・・・!!」



だめだ、やっぱり覚悟決めるしかない。もうやるしかないんだ。

二人とも、意味合いは違うけど好きなのは変わらなくて、ドキドキもして・・・いい、のかな。



「むしろ、ドキドキして欲しいよね」

「はいです。リインが第二夫人なわけですから、将来的にはリインともコミュニケーションです」

「だからどうしてそうなるっ!?」



なんて更にツッコもうとすると、フェイトがどこからか小さな長方形の包装された箱を取り出して渡してきた。



「はい、ヤスフミ」

「・・・えっと、これは?」



とりあえず、二人から受け取りつつ聞く。いや、わかるけど。さすがにわからないとだめだけど。

バレンタインのチョコ・・・かな。



「はいです。リインとフェイトさんの共同制作で、恭文さんへの愛がいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっぱぁいっ! 詰まってるですっ!!」

「と言っても、あの・・・私はちょこっとだけしか手伝っていないんだけど。下ごしらえのほとんどはリインが」

「フェイトさん、買い物行っちゃうからですよ」

「うぅ、ごめんなさい」



・・・あぁ、アレですか。あの行列ですか。確かにアレはなぁ。

なら、もういいタイミング・・・かな。



「んじゃ、僕からも・・・はい」



チョコをいったん脇に置いて、両手を上げる。すると、リング状の青い光が走って・・・箱がポンと出てきた。小さな手のひらに乗る程度のサイズで、青い包装紙と金色の包装紙に包まれた二つの箱。

それを、金色の箱の方をフェイトに。青色をリインに渡す。二人は、驚きと戸惑いを顔に浮かべながらもそれを受け取る。



「あの、これは?」

「僕が作成した生チョコ。二人へのバレンタインデー用ね」

「「えぇっ!?」」





・・・なんでそんなに驚くのだろう。まぁ、さすがにこれをやったのは初めてだけど。

ただ、地球でもバレンタインは元々愛する人に贈り物をする日という風になっているのだ。なお、その起源どうこうは抜きにしてだけど。

女性がチョコを渡すというのは、当時のお菓子会社が自社で生産をし始めていたチョコレートの販売広告が元になっている。つまり、チョコの販売促進のためにバレンタインという日を利用したのだ。



なので、僕がここで物を渡してもおかしくはない。おかしくはないのに、二人は驚きの表情ですよ。





「あ、あの・・・ありがと。まさかもらえるなんて思ってなかったから、ちょっとびっくりして」

「リインもです。わぁ・・・でも、嬉しいです」

「いや、そんな感激されても・・・二人とも基本的には同じチョコだしさ。包装だけ変えただけだし」

「でもでも、嬉しいんです。ね、フェイトさん」

「うん。・・・あの、ありがと。私、本当に嬉しい」



フェイトが瞳に少しだけ涙を貯めて、そう言って来た。というか、なんで涙目? なんでそんな泣きそうになってるの?



「だって、私・・・恋人が出来てから初めてのバレンタインデーだから」



・・・あ、そっか。というか、よく考えたら僕だってそうじゃないのさ。

な、なんだろう。そう考えると・・・このチョコはとても嬉しい。リインと共同だったとしても、とても嬉しい。



「二人とも、あの・・・ありがと」

「ううん、私の方こそありがと。このチョコ、大事にするね」

「ですです。大事にします」



そうだね、大事にしてくれるとうれし・・・くないわぼけっ!!



「お願いだから大事にしないでっ!? てゆうか、食べてよっ!!」

「・・・そう言えばそうだね」

「だめになっちゃいますしね」

≪もう思考そのものがだめと言えばだめですけどね≫




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



とにかく、チョコを食べることになった。まぁ、お茶も用意してのんびりと・・・だね。





というわけで、あーん。










「あーん。・・・うーん、はっぱひおいひいでしゅ」

「リイン、口に物入れてしゃべらない。ていうか、キャラ変わってるから」

「そうだね、ちょっと行儀悪いかな。というわけで、ヤスフミ。あーん」

「・・・あ、あーん」



そうして、フェイトが指で掴んで、差し出してくれたチョコを一口。・・・いわゆるトリュフチョコなんだけど、これはいい。こりゃ行けるわ。

えー、現在。三人でチョコの食べさせっこをしています。なお、フェイトの提案です。リインは乗り気です。僕は恥ずかしいです。



「じゃあ、今度は私に」





フェイトが口を開く。というか、あの・・・唇をガン見してしまった。そして思い出す。あの柔らかさと温もりと甘さを。やばい、チョコよりもフェイトの唇食べたくなったかも。

・・・待て待て。今はまずい。今はだめだから。僕達だけならともかくリインも居るんだ。

あぁ、でも・・・コミュニケーションしたいかも。フェイトの指が唇に触れたりして、あの・・・その・・・なんか、ダメ。



とにかく、僕は自重するように本能に言い聞かせつつ、フェイトの口にチョコを入れる。うぅ、入れる時にちょっと指が唇に触れるのが嬉しい。でも、辛い。





「美味しい」

「それはよかった。というか、これで最後・・・か」

「そうだね」



よかった、僕の方はとっくにだし、これで本能は押さえ込める。・・・一旦買い物とか言って外に出て、トイレにこもって頑張った方がいいのだろうか。いや、さすがにまずいけど。



「あ、ヤスフミ指にチョコついてる。・・・ん」



ふぇ、フェイト? お願いだから指を掴んで舐めるのはやめて。あの・・・切れる。理性の糸が切れるから。

やばい、もうこの情景と伝わる感触を描写したら、R21いっちゃうくらいに何も言えない。絵にしたら『キャー』ってレベルなのに、小説だと描写したらマジで規制がかかる。



「・・・ん。これで綺麗になった」

「そ、そうだね」



とか言いながら自分の指はティッシュで拭くんかい。てゆうか、顔真っ赤だし。すっごい真っ赤だし。



「恭文さん、リインも指がチョコでー」



・・・・・・そしてリインはどこでどうやってそんな指をチョコまみれにしたっ!? なんで手の指全部がチョコ塗れなのさっ! ほら、ティッシュ上げるからちゃんと拭いてっ!!



「うー、恭文さんはアレです。ヤるだけヤってポイ捨てです」

「人聞きの悪い事言うなっ! つーか、そんなことやったらマジで理性の糸が切れるわっ!!」



やばいんだよっ! もう具体的には色んなところがやばいんだよっ!! 本能とか身体的変化とかやばいのよっ!? もうドキドキしまくってるんだからっ!!



「そ、それはまずいね」

「リインは大丈夫ですよ? リイン、恥ずかしいですけど、恭文さんが望むならリインの全てを」

「「それは絶対にだめぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」」

「むー、どうしてですかっ!? リインだって恭文さんのこと大好きなんですっ!!」



リイン、それはね。表現規制法案とかあるからだよ? 何がどうなるかわかんない状況でそんなことやってみなさい。この話なんてあっという間に袋叩きに遭うわ。

・・・てゆうか、僕は疑問だ。なぜフェイトがこんなことを思いついたのかが。いや、予想出来るんだけど。もうすっごい予想出来るんだけど。



「これね、はやての貸してくれた漫画でやってたんだ」



やっぱりこの状況はあの狸のせいかー! 余計な事教えやがってっ!! 二人っきりの時ならまだしも、リインが居る以上んなこと出来ないんだぞっ!?



「見てた時は恥ずかしかったんだけど・・・というか、やってみて更に恥ずかしいよ」

「リインは楽しかったですけど。久しぶりに、恭文さんといーっぱいラブラブ出来ましたし♪」

「いや、あの・・・リイン? とりあえず黙ろうか。うん、ちょっと黙って?」



よし、とりあえず呼吸を整えよう。整えて、落ち着けて、冷静に。冷静に。



”ヤスフミ、あの・・・どうしよう”



やばい、またなんかあるの? てゆうか、フェイト。なんで声がそんな甘い感じなのさ。



”あの、すごくキス・・・したくなっちゃった”

”・・・なぜ?”

”だって、あの、唇に触れてたらあの・・・もやもやしてきて”





だぁぁぁぁぁぁぁぁっ! この状況でその懇願するような瞳と声はやめてぇぇぇぇぇぇぇっ!! マジで理性が吹っ飛ぶのよっ!? 吹っ飛んだらもうどうなるかわからないしっ!!





「恭文さんもフェイトさんも、どうしたですか? というか、顔真っ赤です」

「え、えっと・・・なんでもないよ?」

「そうだよ、なんでもないよ? 私達普通だから」

「顔真っ赤は普通じゃないです」





リインの的確なツッコミはスルーだ。とりあえず・・・どうしよう。

いや、ここは我慢・・・出来ない。ごめん、もうなんかフェイトの声で瓦解した。



瓦解したけど・・・踏ん張るっ! 踏ん張る・・・!!





”と、とにかく今はリインが居るからダメだよ”

”そう、だよね”

”でも・・・”

”でも?”



まぁ、これくらいは許していただきたい。



”ここから出たら、ちょこっとだけ・・・頑張る? というより、頑張りたい。僕も、だめ。フェイトとその・・・キス、したい。いっぱい、したい。それで気持ち、伝え合いたい”



念話での言葉。だけどそれで、フェイトの頬の赤みが更に増す。

そして、瞳が潤む。その瞳で、僕をじっと見る。



”・・・うん、ならそれで。今はリインと一緒だもの。リインが仲間はずれになっちゃうようなこと、やめにしようか。三人で、楽しく・・・だよね。そうじゃないときっと楽しくないから”

”うん。あ、あの・・・ディープなのに挑戦して、いい? というか、あと・・・色々頑張りたい”

”いいよ。私もこう・・・ダメ。私もいっぱい気持ち、伝え合いたいよ”











雨はまだ降り続ける。僕達はそれを見る。僕と、フェイトと、リインの三人で。





なんだろ、色々戸惑いはあるけど、今の時間は嫌いじゃない。むしろ、好き。





これが僕なりの幸せ・・・なのかな。ちょっと、考えた。










「雨、やまないですね」

「そうだね。あぁ、でも明日は大変だね。向こうから処理しなきゃいけない仕事のデータを送ってもらって、私達はそれを片付けないといけないし。場所はここだけど、お仕事なのは変わらないよ」





そう、普通に遊ぶ事など認められるはずがない。つーか、それやると僕達休み過ぎだし。



さっき六課に連絡を取った時に、そういうことなのでお願いしますとグリフィスさんに言われて、僕達はみんなオーケーしたのだ。





「そうですよね。リイン達、最近遊んでる事が多かったですし」

「まぁ、狸が部隊長で、帰ってきた時もアレだから、そういうことを言っても説得力皆無だけどさ」

「それもそうですね」

「リイン、そこ認めちゃうのっ!?」




















(第8話へ続く)




















おまけ:秘密主義は変わらず?




















『・・・では、明日の朝一で処理の必要な書類のデータはそちらに送りますので』

「うん、グリフィスお願いね。というか・・・ごめん」

『いえ、天候の問題なんですから仕方ありませんよ。・・・とりあえず、そこで事件にでも巻き込まれなければ』



グリフィスさん、そういう余計な事を言わないで? それフラグ。フラグだから。

・・・現在、天候悪化に伴い僕とリインとフェイトはラトゥーアに急ぎ部屋を取った。このあたり、前回のピンチが生かされていると思っていただきたい。なお、時間軸としては今回のお話が始まる直前です。



『あなたはいったい何の話をしてるんですか。・・・あぁ、それはそうと君に用事があったんです』

「僕ですか?」



画面の中のグリフィスさんがその言葉にうなづく。



『はい。今は本局の教導隊に居るなのはさんから伝言です。なんでも、大事な話があるので至急連絡が欲しい・・・だそうです』

「・・・また事件フラグか」

『とりあえず違いますよ。とにかく、連絡してあげてください』

「了解です」



・・・・・・あ、僕も話があったんだ。それも結構重要な。



「グリフィスさん、あのバカ狸はログイン祭りに参加中ですか?」



なお、ログイン祭りとはオンラインゲーム発売初日で必ず起こる現象である。オンラインゲームを始めるためには、ネット回線に繋いで、ゲームのアカウントを取り、そのあとキャラクターを作る・・・という工程を行わないといけない。

で、ここが発売当初だと非常にモタつく。それは当然だ。一つのページ・・・それも個人情報を扱うようなガードの固いページに大量に人が流れ込むから。これにより、途中で処理が終わってアカウントを取れなかったり・・・なんて言う事を何度も何度も繰り返すことを、ログイン祭りと言う。



『あぁ、残念ながらそれは無理です』



そう言って、グリフィスさんは懐から・・・あ、ウィハン3のパッケージ。

で、中身を開けた。ちゃんとディスクまであるし。



「グリフィスさん、はやてちゃんからソフト没収したですね」

『当然です。仕事の片手間にアカウント取得ページにログインリトライを続けていましたから』

「はやて、さすがにそれは・・・。というより、私はオンラインゲームとか詳しくないんだけど、仕事の片手間に出来るものなの?」

『出来ますよ。ページに入ってさえしまえば後は楽ですし、それまでは只管にログインするを選択し続けるだけです。僕も、休日にこれをやって、その片手間に家の大掃除をやったことがあります』

「なるほど・・・」










・・・・・・僕はどっちにしろ、今回は参加出来ないなぁ。うぅ、ログイン祭りも楽しいと言えば楽しいんだけどなぁ。まぁ、片手間にやればだけど。それメインは絶対嫌だ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



まぁ、いつまでもそんな話をしていても仕方ないので、本局に居るというなのはに連絡した。なお、連絡したらすぐに繋がった。なんでも、教導隊に解散後のスケジュールについて話をしに行ってたとか。





で、あるお願いをされた。当然僕は・・・。










「お断りします」










こうして、話は終わった。いや、これで次回だよ。楽しいねぇ。










『続かないよっ! というか、どうしていきなり断るのかなっ!?』

「当然でしょ」

『当然って言わないでー!! ・・・ねぇ、恭文君。協力してくれないかな。あくまでもテストケースのひとつとして扱うし、恭文君の名前が絶対に出ないようにはするし』

「嫌だ」



・・・僕が横馬にお願いされた事は実に簡単。僕の手札を教導隊に教えろと言うのだ。

もっと言うと・・・暗器類の扱いや、剣術の技能、魔法なしでの戦闘のノウハウだ。もちろん、理由がある。当然のようにある。そうじゃなければ、横馬だってこんなことは言い出しはしない。



『さっきも説明したけど、教導隊としては魔法なしでの戦闘も視野に入れた教導メニューを作っていきたいんだ。
まぁ、かなり特殊で教える人間を選ぶ部分はあるんだけど、私達がやったみたいに心構えを作るだけでもかなり大きいと思うから』

「それで、ヤスフミの戦闘技能のデータが欲しい・・・なんだね。出来るなら心構えだけじゃなくて、ちゃんとした戦闘手段も教えたいから」

『うん。今日ね、教導隊でそういう話を聞いて、それなら恭文君がいいんじゃないかって思ったんだ。恭文君、魔法無しでもガジェットを一刀両断とか出来るし。・・・お願い、協力してくれないかな』

「嫌だ」



そうして、なのはは大人しくあきらめて通信を終えた。



『終えないよっ! なに普通に終わろうとしてるのっ!?』

「なのは、僕の友達やってんなら知ってるでしょ? 僕、自分の手札を必要も無いのに晒すのは嫌いなの」

『知ってる。でも、それを承知でお願いしてるんだ』

「というか、それなら恭也さんや美由希さんやヒロさんサリさんに頼みなよ」



今上げた三人は、僕の知る中でも魔法なしでの戦闘ではトップクラスの実力者。僕に教えを請うよりよっぽどいいでしょ。

しかも人に教えた経験もある、問題ないでしょ。



『その四人にはもう話した。・・・まず、お兄ちゃんとお姉ちゃんは御神流の技は不特定多数の人間に教えるようなものじゃないからって断られた。
ヒロリスさん達は、自分達はもうロートルで、今の主役じゃないから引き受ける理由が無いと言われて同じく。あとは・・・』

「ヤスフミだけ・・・なんだね」

『私が思いつく限りではね。ヘイハチさんは行方知れずだし、どうしようもないの。お願い、これで沢山の魔導師のみんなが助けられるかも知れない。だから』

「嫌だ」



・・・だから、なんで泣きそうになるのさ。僕はもう返事してるんだからいいでしょうが。

あと、勝手に僕のデータ使うとかも許さないから。そんな真似したら、まじめに友達やめる。



『そんな真似しないし、したくないからお願いしてるんだけど、わかって、くれないんだね。ねぇ、どうしてもだめかな。これで守れるもの、沢山出来るんだ。
ううん、私達がそうする。恭文君が教えてくれた事、絶対に無駄にはしないし、悪用もさせないから。だから・・・お願い』

「答えは何度言われても変わらない。絶対に嫌だ。知り合いでもなんでもない連中の身の安全のために手札をさらす義理立てがない。
つーか、なんで僕が局の都合のためにんなことしなきゃいけないのさ。魔法に頼りっぱなしのツケがここで来ただけなんだから、それは自分達で払って。僕を巻き込むな」

『局の都合どうこうじゃなくて、沢山の人の未来のために・・・は、理由にならないかな。これで消えるかも知れない何かが守れる。局員だけの話じゃなくて、市民もそうだよ。
それは、恭文君がここで手札を晒す理由にならないかな。それだけじゃなくて、こう・・・自分の培った物を他の誰かに伝えていくって、本当に素敵なことなんだ』

「ならないね。つーか、僕は別に沢山の人間助けたいわけでもなんでもないし。手の届く範囲が守れればそれでいいのよ。ついでに、今のところ誰かに自分の技能を伝える気もない」





もちろん、断る理由は手札を晒す事が嫌というもの以外にも理由はある。うん、あるのよ?

まず、僕の技・・・というより、御神流の技は人を殺める技だ。比喩無しでそう思うし、そうだと教えられた。

だからこそ、もしも誰かにこれを伝えるとしたら、見せるとしたら、その人間は自分の目で見極めなきゃいけない。・・・そう考えると、JS事件とかでは失敗してるよなぁ。セッテには徹を無効化とかされてるし。



とにかく、僕はそれに対して何かあった時の責任が取れない。だからNGを出してる。人はともかく、自分の技能や技を悪用されても困る。





『・・・わかった。教導隊の人達には当てが外れたって伝えておくね。でも、恭文君』

「なに?」

『出来れば、引き受けて欲しかった。理由はわかるけど、それでもだよ。少し贔屓目かも知れないけど、素敵な事ではあると思うんだ』

「興味ない」

『そっか』










とりあえず、通信は終わった。だけど・・・なんでこんなに気が重いわけ? おかしいでしょうが。





まぁいいか。ここは曲げられないし曲げたくない。盗んだ技ではあっても、伝えられた物ではあるから。それに対しては責任があるのよ。










「・・・でもヤスフミ、私はいい話だと思うんだけどな」

「フェイト・・・」

「もちろん、わかってるよ? ヤスフミが手札を知られると弱くなる傾向があるのは間違いないことだし、必要な事だとも思ってる。
でも、なのはの言うようにヤスフミの培った力や技能、心が伝えられて、沢山の人達を守る事が出来るかも知れない。色んな不確定要素を踏まえても、素敵だと思う」

「ですね。うーん、やっぱりもったいないと思うですよ。恭文さんの名前は絶対に出さないし、残さないって言ってるんですし、引き受けてもいいんじゃないですか?」





いいの、もったいなくても。僕はそのために戦ってきたわけでもなんでもないもの。



僕のやりたいこととは、いつだって・・・ここにある。もっと言うと、僕の両隣に。





≪まぁ、仕方ないでしょ。この人強情ですし≫

「・・・そうだね。なら、この話はやめようか。ということで、早速リインとの三人体制に関しての話を」

「え、いきなりそこっ!?」

「当然です。一杯お話しましょうね。それで、三人体制樹立です」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・・・・というわけで、すみません。当てが外れました」

「あー、いいさいいさ。んな落ち込む必要はねぇだろ」



教導隊のオフィスで、この話を私にしてくれた先輩に頭を下げている。理由は、見事に当てが外れたから。それも全員。

うぅ、お兄ちゃんやお姉ちゃんはともかく、ヒロリスさん達にまで断られるとは思わなかったよ。六課でも教導してくれているし、何とかなると思ったんだけど。



「まぁ、クロスフォード達が今六課に居るのは相当異例だからな。アイツらは基本的に身内連中には甘いが、それ以外は・・・だ。六課はなんだかんだで弟弟子も居るから心配だったんだろ」

「そうですね」



それに、恭文君もだ。・・・恭文君の秘密主義は直ってないね。もちろん、私が無理を言っているのは分かる。だけど、恭文君にも言ったように引き受けては欲しかった。

誰かに自分の技能と心を伝えて、それが先に繋がっていく事。きっと必要で素敵な、事なんだけどな。



「うーん、やっぱり引き受けてほしいなぁ。こんな機会は早々あるものじゃないし」

「ま、確かにな。とにかく、他の奴にも聞いてみるか。ただ・・・なぁ」

「私が聞いた人達と同じくという感じですか?」

「あぁ。自分が見てよしと思った人間にしか教えたくないって言って聞かない奴らばかりなんだよ。で、どいつもこいつも局の都合のためになんざ動けないと言いやがる」



あはは・・・。私達、相当嫌われてるんですかね。いや、JS事件とかあったから、仕方ないと言えば仕方ないんでしょうけど。



「ただな、理由はわかるんだよ。誰だって自分の手札を晒したくはないだろ。特に今の風潮じゃ、魔法を解さない攻撃手段は冷たい目で見られる事も多い。お前だって、覚えあるだろ?」

「・・・はい」



恭文君がそれだから。恭文君は何にも言わないけど、そういう話が耳に入ってくる事がある。

フェイトちゃんと二人、相当心配してたっけ。ここ1、2年は特にだよ。ヒロリスさん達との訓練があったからだけど、急にミッドに引っ越すし、仕事の量を減らすし。だけど、何にも話してくれないし。



「データ集めはかなり、難しそう・・・ですか?」

「あぁ。まぁ、クロスフォードの奴が六課でやってる訓練のメニューをくれたから、まだいいんだけどな。これを煮詰めれば、心構えを作るには十分過ぎるメニューが出来る。ただ・・・」



対策は難しい。一応、教導隊の中にもそういう戦闘が出来る人は居る。だけど、その人達だけでは足りない。

一般の人も使える手段と戦術の構築には、本当にたくさんの時間とデータが必要。だからその意味でもいろんな人に声をかけて協力をお願いしてるけど、ほとんど断られていたりする。



「前途多難だな、こりゃ」

「そうですね」










・・・そう言えば、恭文君って先に何かを残していくって思考、あるのかな。





だめだ、なんかなさそうな感じがする。すっごく想像できたよ。少なくとも、自分の技能やそこにある心を伝えていく事は考えてないと思う。





でも・・・あくまでも教導官としての意見だけど、それでいいのかな? 繋げるだけじゃなくて、残して伝えていくことだって、大事だと思うのに




















(本当に続く)




















あとがき



古鉄≪というわけで、やっと出来ましたセカンドシーズンの第7話。みなさん、いかがだったでしょうか。お相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫

スバル「次回は出番ありなスバル・ナカジマです。でも・・・いいなぁ、羨ましいなぁ」





(犬っ子、いきなりそんな話をする。頬を赤らめ、羨ましそう)





古鉄≪なにがですか?≫

スバル「えー、チョコの食べさせっこに決まってるじゃん。いーなー、やりたいなー」

古鉄≪そうですね、出来たらいいですね。まぁ、無理そうですけど≫





(そこで誰とやりたいのかと聞かないのが、優しさである)





スバル「それでおまけだけど・・・恭文、相変わらずだね」

古鉄≪秘密主義が人の皮をかぶっているような人間ですしね。知り合いに見せるのはまぁ大丈夫ですけど、基本的にそれ以外にはあんな感じですよ≫

スバル「でも、いい話だと思うのに」

古鉄≪そのために守りたいものが守れなくなるのは嫌なんでしょ。・・・まぁ、とにかく次回ですよ。次回は≫

スバル「場所が変わって六課のバレンタイン風景だね。そして、この後の続き」

古鉄≪そうです。さて、セカンドシーズンも三人体制樹立に向けて加速してきますのでお楽しみに。では、本日のお相手は古き鉄・アルトアイゼンと≫

スバル「スバル・ナカジマでしたっ! それではまたです〜」










(というわけで、なんかため息を吐いている犬っ子を写しつつエンディング。
本日のED:藤井隆『ナンダカンダ』)




















ティアナ「・・・バレンタイン、か」

ジン「てゆうかさ、俺いつ帰れるの? なぁ、どうなんだよ」

ティアナ「もう諦めなさい。いいじゃないの、せっかくだから六課解散までここに居れば」

ジン「いやいや、俺にだって生活があるんですけどっ!? つーか、俺の人権を頼むから誰か考慮してくれー!!」

はやて「・・・ログイン、新ジョブ、他のプレイヤーと獲物を取り合いながらのギスギスなレベル上げ」

師匠「はやて、頼むから仕事してくれよ」

はやて「何言うてんの。うちの中の人かてこう言うてるよ? 『ゲームが現実でリアルは出稼ぎ』って。うちはもう十分稼いでるから現実に戻らなあかんのよ」

師匠「シャマルー! 頼むからすぐ来てくれー!! はやてがマジな目でなんか変なこと言い出してんだよっ!!」

ティアナ「・・・・・・アンタ、やっぱ早めに帰った方がいいかも知れないわね。こりゃ辛いわ」

ジン「わかってくれて非常にうれしいよ」










(おしまい)






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