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小説(魔法少女リリカルなのは:二次小説)
第24話 『青き修羅対黒き阿修羅』:2




バイオリンが入っただけで、もう全く違う。おかげで歌にも熱が入る。というか、こういうライブハウスで歌うのはかなり好き。臨場感はあるし、客席との距離も近いからテンションも上がる。



あ、また・・・宝石が輝いた。


力がみなぎる。もうなんだって出来そうな気持ちになる。ううん、出来るんだ。



でも、なんでだろう。みなぎる度にどこか・・・心に穴が開く感覚がする。

そんなの、別にいいか。だってこれで・・・勝てるんだから。

勝って、イクトを救えるんだから。



≪The song today is ”HOWLING”≫



瞬間、大音量で別の音楽が流れた。・・・え?



「悪いけど・・・」



頭上に影。そこには・・・白いマントを纏い、布を顔に巻きつけた形の覆面をした影が居た。

それは左手で・・・青い炎の弾丸を放つ。それは観客の頭上で爆発して、火の粉と爆発音をライブハウスに撒き散らす。



「僕はこっちの方が好みだ」



そう言いながら、右手を腰の刀の柄にかける。さっきの炎で混乱する観客など気にせずに。



「落ち着いてくださいっ! 非常口はこちらですっ!!」

「慌てず騒がず、冷静に逃げてくださいー!!」



避難誘導っ!? というか、この声・・・!!



「鉄輝・・・」



だけど、次々と誘導されていく観客にも、それをする観客にも目を向ける余裕は無かった。私の目の前に抜き放たれた刃が出てきたから。



「一閃っ!!」



だから私は・・・それを避けた。あの宝石が、また輝いたから。

そう、もう大丈夫。もうこの宝石の力は、完全にコントロール出来る。



「・・・・・・へ?」



なんだか驚いているけど、遅いわ。瞬間的にダイヤとキャラなり。私は黒い宝石へと姿を変える。

そのまま、白いマント姿の・・・アイツの背中に向けて右手を向ける。そう、一瞬で回り込んだ。どうやらこの宝石は、私の身体の動きまでブースト出来るらしい。色々試した甲斐があった。



「ハーティクルグリッターッ!!」



放たれたのはダイヤ型の光のつぶて達。それがアイツの背中を捉える。そしてステージの床を砕き、抉り・・・そのまま舞台袖のカーテンも引き裂く。

・・・いや、アイツだけは捉えられなかった。アイツの身体が蒼い光に包まれたかと思うと、いつの間にかガランとした観客ブースの真ん中に居たから。



「・・・今の、避けるわけ?」



アイツに視線を向けながらそう口にする。それに対して言葉が返ってくる。



「それはこっちのセリフだよ。つーか、歌唄。いつからそんな戦闘上手なキャラになったわけ? アレかな、誰かそういうのが得意な男と付き合うようになったとかですか」

「そうね、もうイクトが毎晩のように求めてくるから」

「・・・そりゃまた、情熱的なことで」

「情熱的よ? もうまるでダンスでも踊るみたいに」



なんだろう、やっぱり楽しい。打てば響く。そして、アイドルや歌姫どうこうじゃない、ただの私としてアイツは私と話す。それがたまらなく楽しい。

敵同士じゃなかったら、もっと楽しかったのかなと、ちょっと思った。



「んなわけあるかっ! お前この状況でなに適当なこと言ってやがるっ!!」



だってー。こういう状況だから言えるんだもんー。



「・・・猫男、大丈夫。ほら、恋愛の形っていろいろだしさ。それに・・・アレだよアレ、もしかしたら『実は本当の兄妹じゃなかった』フラグとか立つかも知れないしさ」



あ、なんか引いてる。失礼しちゃうわね。あと、フラグはもしかしたら・・・じゃなくて、確実に立つの。もうアカシックレコードにも載ってるんだから。



「立たねぇよっ! お前もこの状況で何言ってんだっ!? そしてその気の毒そうな視線はやめろっ! あと、なんでマトモに俺に顔を向けようとしないんだよっ!!
・・・つーか、お前らこれ・・・マジか? 普通に犯罪だろ」

「何言ってんの。観客からたまごを抜き出しかけてたくせにさ。それ言ったらそっちだって犯罪だよ。窃盗罪だよ。具体的にはハート泥棒だよ」

≪それに、犯罪どうこうなど私達には無意味な言葉です。ルール違反と過剰攻撃は私達の十八番です。なにより・・・私達は、あなた方の願いと夢を叩き潰しに来たんですから≫



右手に持った刀が喋る。そしてその言葉を聞きながら、アイツは覆面を左手で掴み・・・外す。



「それが成せないのは意味がないのよ。んじゃま、クライマックスと行きますか」



そこに現れたのは、鉄だった。錆びだらけで、傷だらけで、だけど・・・その中に光を宿した鉄。



「ふん、叩き潰せると思ってんの?」

「叩き潰すよ。歌唄、お前少しやり過ぎだ。とりあえず・・・少し、頭冷やそうか」



・・・ね、恭文。なんでそこでいきなり頭を抱え出すの?

なんで小さな声で『魔王の生霊がまた乗り移った・・・』とか言い出すの? 私、ちょっと怖いんだけど。



「・・・歌唄」

「あら、あむ・・・居たの」

「アンタ、あたしに対しての扱いがぞんざい過ぎないかなっ!? つーか、アレだよアレ」

「なによ」

「これが・・・歌唄のなりたい自分の行動なわけ? あたし、正直信じられないんだけど」





なんだろう、その言葉がやけに胸を貫いた。貫いて、また私の心に穴を開けた。





「あむちゃんや恭文さんの言う通りですっ! 歌唄ちゃん、本当にどうしちゃったですかっ!? 歌唄ちゃんのやりたかったことは、こんな事じゃなかったはずですっ!!」

「・・・役立たずまで来てるわけ」

「エルは役立たずなんかじゃないよ。この子は、歌唄のもう一人の自分。ね、歌唄。もう一度だけ聞くね。アンタ、これで何がしたいの? みんなからたまご奪ってさ」





ふん、そんなの決まってるわよ。エンブリオを見つけて、イクトを助けて





「その後は?」

「・・・その後?」

「エンブリオを見つけて、イクトを助けたその後は? 自分の歌をこんな事に使って、歌唄の歌の意味は、なりたい自分は、どこに行っちゃうのかな」










私のなりたい自分。私の・・・なんだろ。





私、そう言えば何になりたかったんだろ。




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あむ、それ以上話しても無駄だよ。つーか、実力行使が1番手っ取り早い」

「「あ、なんか復活した」」

「声を仲良さげにハモらせないでっ!? つーか、マジで緊張感ないなお前らはさっ!!
あー、まぁここはいいや。とにかく歌唄、ちょっと『お話』を」

「・・・悪いがそうはいきません」





そう言いながら、ステージ袖から出てきたのは・・・海里。やっぱ居たか。



そして、海里を盾にしながら、歌唄と猫男にスタッフ達が逃げる・・・って、逃がすかっ!!





「そうは行かないと言ったはずです」





海里が右手を上げ、衝撃波を放つ。それは、何度も見た黒い・・・衝撃波。



それをアルトを一閃させて斬る。・・・くそ、その間に逃亡ですか。とりあえず・・・マズイ、かな。





「やや」

「なに?」



後ろで観客の避難誘導をあむと一緒にしていたややに、海里から視線を外さずに声をかける。



「リインと唯世達に今すぐ連絡。ほしな歌唄を待ち伏せするのはやめろって伝えて」

「え、なんでっ!? だってだって、関係者用の出入り口で止めるって作戦だったのにっ!!」





そう、そういう作戦だった。僕が先頭を切って襲撃を仕掛けて、観客を巻き込まないようにあむとややで避難誘導。

で、連中がもし逃げようとした場合の作戦も考えた。関係者の出入りがあると思われる箇所にリインに唯世とりまが待ち構えるのだ。

ようするに、キャラなりが出来る上に戦闘能力もそこそこある人間が待ち伏せて、相手を撃退。最悪足止め。



それで僕が海里を止めている間にあむ達には会場の方から歌唄達を追いかけて挟み撃ち。それでなんとかするというものである。





「エル、ごめん。あむ達の方に居て。あと、歌唄をここで何とかするのは諦めて」

「でも・・・」

「お願い、ちょっと事情込みなんだ。今迂闊に歌唄に手を出せば・・・全員大怪我して全滅する可能性もある」

「・・・分かりました」





補足をしておくと、僕が一人で海里を相手にすると言い出したのはここが大きな理由だったりする。

シチュはともかく、海里の戦闘能力を考えるとあむやみんなの邪魔をされるとマズイ。なおかつ海里は参謀タイプ。こっちの戦略を読まれる可能性があった。

そうなってくると、歌唄なりスタッフなりと行動されるのはめんどくなる。なので、僕が海里引き受けて速攻で潰すか、それが無理なら歌唄や連中から引き離して足止めする方が得策と思ったのが、その理由だ。



シグナムさんは昔言っていた。戦場に置いては本来なら一騎当千のエースなど存在しない。単純に考えれば数が多くて能力がある一定レベルある集団の方が個人より強いのは当たり前とされていると。

1番戦闘能力のある僕一人で歌唄を追っかけても、向こうが大量に持っているであろう×たまや例の人形、月詠幾斗に邪魔されて逃がしたら終わり。

ここは単純に数の暴力で潰させてもらう・・・はずだったんだけどなぁ。くそ、予定が狂った。まぁいい。今はややに納得してもらう方が先だ。



とにかく、エルは素直にあむ達の方に下がってくれた。僕はややに向かって言葉を続ける。





「事情が少し変わった。リインに唯世とりまだけだと間違いなく返り討ちに遭う。今の歌唄には・・・そんな半端な戦力で手を出しちゃいけない」





あの胸元の黒い宝石、歌唄が動く前に一瞬輝いた。とても怪しく・・・そして、綺麗に。

でも、それだけじゃない。その直前、歌唄の唇が僅かに歪んだ。

いや、笑った。嘲りと余裕が込められた笑い。こんなの当たりもしないという確信を持った笑いを、あの女は浮かべていた。



なによりあの宝石、僕は見覚えがある。





「でも・・・」

≪ややさん、事情は後で説明します。とにかく・・・お願いします≫

「・・・わかった。でも、そこは絶対だよ? じゃないと絶対唯世にりまたんも納得しないだろうし、リインちゃんだって同じくだよ」

≪ありがとうございます≫



あのひし形の宝石、そして・・・あの時感じた膨大な『魔力反応』。間違いない、多分あれ・・・。



”ブラックダイヤモンド・・・ロストロギアでしょうね”



そう、機動課から送ってこられた捜査資料の中に、写真があった。それが・・・あれだ。



”何の因果か、ほしな歌唄が持っていたんですよ”

”くそ、やっぱり関わることになったか。しかも、あの様子だと色々マズイよね”

”えぇ。あなたの不意打ちの斬撃を避けた上に、背中を取ってカウンターですよ。相当レベルで能力を上げられるみたいですし。なにより・・・”

”うん。多分だけど、歌唄はあの石の能力をコントロールしてる。つまり・・・石の力を把握した上で、自分の意思でそれを利用してる”



とにかく、ここはフェイトと要相談だ。いや、唯世達とも相談だ。つーか、まずい。普通にまずい。

だって、こうなってくると・・・。



「・・・ご相談はお済みですか?」

「あぁ、済んだよ。とりあえず、ここで海里を連れ戻すって方向でね」

「何故ですか」



声は自分のすぐ目の前から聞こえた。海里は・・・あの一瞬で踏み込んできた。

速い。あの時よりもずっと速い。



「俺はあなた方の仲間でもなければ友達でもありません」



そのまま、上段から僕に向かっていつの間にか手に持った日本刀を叩き込む。・・・日本刀? 待て待て、なんでそこで木刀じゃないのさ。

とにかく、僕は避けて・・・いや、少し後ろに下がって、アルトを左から打ち込み、それを弾く。少し薄暗めの照明が照らすライブ会場に、金属同士がぶつかり火花を散らし、その色が空間を一瞬だけ照らす。



「そんなことないっ! いいんちょは・・・あたし達の仲間だよねっ!? どうしてそんなこと言うのっ!!」

「どうして? ・・・ふふふ、はははははははっ!!」



追撃をかけようとすると、海里が後ろに大きく飛んだ。そのまましゃがむように着地して、ゆっくりと起き上がる。



「ムサシ」



そう言葉をかけると、傍らからまるで煙のように出てきたのは、ムサシ。だけど・・・違う。

服装が全体的に黒ずんでて、めがねをかけてなくて、髪も金色に近くて、それで・・・左頬に×のマークが付いてる。



「いいんちょ、それ・・・」

「ムサシに、×がついてるのっ!?」

「えぇ、そうです。・・・俺はなりたい自分・・・強きを挫き弱きを助ける真の侍には、一生なれないんですよ。そう気づいたら、こうなりました」



・・・原因は、やっぱりCDのことか。



「存在しているだけで、生きているだけで、一つの奇跡。・・・そう、心から思いました」



その言葉に思い出すのは、子守の時の僕の話。そうだ、あの時の海里は・・・不器用だけど、笑ってた。



「だけど、俺はそれを奪った。その奇跡を守るどころか、奪って壊した。浄化すら不可能な状態に追い込んだ。本当の意味で・・・壊したんです」



だからムサシに×が付いた。ダイヤに×がついたのと同じ理屈だ。

そして、ゆっくりと・・・僕達に歩み寄りながら、海里は壊れたように微笑みながら、言葉を続ける。



「そんな俺が・・・あなた方の仲間? 本当に、心からそう思ってるんですか?」

「思ってるよっ!!」

「嘘だっ!!」



海里から黒い風が放出される。それにあむとややが圧される。だけど、僕はただ立ち尽くす。



「嘘じゃ・・・ないよっ!!」



あむが声を上げる。その風を振り払うように。海里の言葉を否定するように、声を上げる・・・いや、叫ぶ。

海里を真っ直ぐに見据えて、揺らがずに、迷わずに。



「だって、あたし達と一緒に居た時のいいんちょは・・・ホントのいいんちょじゃんっ! スパイとかそういうこととは関係なく、ホントのいいんちょだったっ!!
誰がなんと言おうと、そんなの関係ないっ! あたしは・・・あたし達は、いいんちょを仲間だって思ってるし、ホントのいいんちょを今でも信じてるっ!!」

「あむちーの言う通りだよっ! ややもそうだし、唯世にりまたんにリインちゃんだって・・・いいんちょの事、仲間だって思ってるよっ!! いいんちょ知ってるっ!? その中で1番信じてるの、恭文なんだよっ!!
確かに、悪い事しちゃったかも知れないけど・・・それで全部おしまいだなんて、絶対おかしいっ! そんなのでいいんちょは納得出来るのっ!? ややは絶対に納得出来ないっ!!」

「・・・ムサシ、キャラなり」

「御意」





二人の叫びは、届かなかった。黒い風の中で、海里は姿を変えた。赤い仮面に陣羽織、黒の袴に両手には二本の刀。




【「キャラなりっ!」】





つーか、キャラなりまで・・・出来るんかい。





【「アシュラブレードっ!!」】





・・・僕は、一歩ずつ歩く。前に・・・海里に向かってだ。





「・・・あむ、やや。悪いけど約束通り手は出さないで。つーか下がってて。このバカ・・・僕が叩き潰す。叩き潰して、取り戻す」

「それは無理です」





また目の前から声がする。海里が踏み込んできた。踏み込んで・・・そのまま二本の刃を振り下ろす。





「常在・・・戦場」





刃には黒いイナズマが走る。走り・・・その切れ味を上げているようにも見えた。





「イナズマっ! ブレェェェェェェドッ!!」






だから僕は、それを右からアルトを打ち込んで、打ち払った。魔力も、何もなしで、何の造作も無く・・・だ。



海里はその剣圧に圧されて、後ろに下がる。





「・・・やはり、そう簡単にはいきませんか。今まで集めたデータを元に、相当な時間をかけて対策を練ったのですが」

「データどうこうで何とかなるほど、僕は甘くないよ? つーか」





そのまま飛び込み、海里に袈裟にアルトを打ち込む。海里はそれを両手の刃で受け止める。





「負けるわけがない。重さから・・・業から逃げてる奴になんざ、相手が誰であろうと絶対に負けるわけにはいかないんだよ」





数瞬の鍔迫り合いの後、僕達は互いに後ろに飛んで距離を取る。取って・・・海里は踏み込んできた。



右の刃を僕の顔目掛けて突き出す。その切っ先を左に避けると、刃が返る。そのまま、横薙ぎに一閃。





「逃げてる? 俺が? ・・・そうですね、俺は逃げてますね」





それをしゃがんで避けて、後ろに飛ぶ。今度は左から来たから。そのまま、なんとか距離を取る。





「だからなんですか。こんな重さ、誰だって逃げたくなりますよ」





だけど、海里は踏み込む。踏み込んで・・・右の刃を横薙ぎに払うように打ち込んできた。そこにアルトを打ち込んで、また刃がぶつかり合う。

そこに左の突き。・・・そういう具合に、どんどん連撃が飛ぶ。それをアルトで払い、打ち込み、海里と斬り合っていく。

袈裟にアルトを叩き込む。海里はそれを身を翻して避けて・・・くそ、やっぱキャラなりのせいか動きが以前やりあった時とは比べ物にならないくらいによくなってる。



だけど・・・なんだよ、これ。全然つまんない。アルトの刃を袈裟に打ち込み、上段に振るい、下から振り上げながら、海里の二刀と斬り合っていく。だから、分かる。

この刃には、何もない。覚悟も、想いも、何も無い。空っぽの刃だ。前の海里の方が・・・ずっと強かった。このバカは、本当に・・・。

止まらずに、引かずに、ひたすらに刃を叩き込む。そんな時だった、海里の刃に、また黒いイナズマが灯った。





「・・・イナズマ」





海里はそのまま後ろに飛び、すぐさま一気に飛び込んできた。右の切っ先を向け・・・左も構えてる。

突撃の速度・・・かなり速め。だから僕は、ジガンでその切っ先を受け止める。プロテクションを局所的に展開した上で。

今ココで下がるのはマズイ。避けるのもマズイ。



だって・・・。





「いいんちょ、もうやめてっ!!」

「そうだよっ! こんなの・・・おかしいよっ!!」





真後ろはご覧の通りなので、絶対にややとあむに被害が及ぶ。だったら文字通り盾になるだけだ。つーか・・・下がるつもりもない。



右の切っ先を受け、衝撃が空間に広がる。広がって・・・左腕に激痛が走る。





「ブレェェェェェェドッ!!」





黒いイナズマが刀身を完全に包み込み、その切れ味を上げる。そしてそれは・・・深々と、プロテクションのみならず、ジガンごと腕を貫いた。

いや、腕を捻って刃を何とか逸らす。装甲ごと引き斬りの要領で傷が深くなるけど、ここはいい。貫かれるよりはマシだ。

そして、その逃げた刃は僕の肩の方へと向かい、上の方の肉をジャケットごと斬った。そこにも痛みが走る。



それだけじゃない。イナズマがまた刀身に走り・・・ってまずいっ! アルト、フィールドを電撃対策込みで全開っ!! それとカートリッジを排出してっ!!





”もうやってますっ! ですが”





間に合わないよね。





”分かってるっ!!”





だから、こうする。





「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





海里が右の刃から電撃を爆発させ、僕の動きを止めようとする。それと同時に、左の刃が、僕に袈裟から振り下ろされる。でも、甘い。

それは死亡フラグなんだよ。

僕は・・・海里の胴にすぐさまアルトを逆手に持ち替えて、その柄尻を叩き込んだ。



手に伝わるのは確かな衝撃。そこから発生するのは空気の震えと『ドン』という肉と骨を叩いた音。

打ち込んだのは徹。悪いけどもう、加減してる余裕がない。

その瞬間、海里の動きが止まり・・・口から血を吐き出す。





「いいんちょっ!?」

「・・・まだだ」





そのまま、右足で海里を蹴り飛ばす。その勢いで左手と肩からようやく刀の刃が外れる。



瞬間、黒い雷撃が抜けた右の刃の切っ先付近からはじけた。そう、まさしく雷撃の爆発だ。





≪Protection≫





プロテクションを前面に展開。海里を蹴り飛ばした勢いを生かしながら後方に下がり、なおかつ青い障壁でその爆発をガード。

雷撃は空気を、一定空間を焦がすように発生して・・・そのまま、消えた。感電はなんとか避けられたね。

だけど、やっぱダメージはデカイ。左腕から、肩から、血が溢れるように流れ出す。それはジャケットを赤く染め、そのままポタポタと床に滴り落ちる。



腕・・・くそ、動かない。痛みから察するに骨も多少やられてる。思ったより傷が深い。とりあえず、マジックカード・・・と。

アルトを持ちながら、右の親指と人差し指で取り出したマジックカードを持って、発動。

青い光が僕の身体を包み込み、傷を癒す。応急処置的だけど、止血も同時に行ってくれる。



とりあえず・・・傷の治療は完了。左腕、なんとか動く。神経が切れてるとかではないみたい。血も止まってるから、失血で意識を失うようなことにもならない。まぁ、応急処置なんだけど。





「・・・まだ・・・だ」





海里が立ち上がる。口から血を流しながら、それでも立ち上がる。



・・・やっぱもうちょい本気で徹撃てばよかった。いや、それだと海里の命に関わるから無理だったんだけど。





「俺は・・・もうここしかないんだ」





そのまま、剣を構える。僕の血が付いた右の刀と、左の刀を。





「ここは、俺が逃げて・・・居て許される場所なんだ。姉さんは、こんな俺にも感謝してくれるんだ。だから・・・終われない。俺には・・・もうここしかないんだ」





・・・て・・・か、前。




「え?」

「・・・・・・ふざけてんのかお前っつったんだよっ! 剣を持つ身でありながら重さから逃げてんじゃねぇよっ!!」



怒号が響く。ライブ会場に僕の声が・・・あー、耳がちょっとキーンとしてるし。

でもいいや。もうキレた。完全にキレた。



「いいか、剣ってのはな・・・簡単に言えば人殺しの道具だ」



アルトを前に上げる。まるで刃を見せ付けるように。



「刃は肉を裂き、骨を絶ち、命を奪う。今、お前が僕にやろうとしたみたいにな」



その言葉に、海里の身体が震える。そして見る。自分の右手に持つ刀に付いた血を。



「そして、僕がさっきお前にやったみたいにだ」



海里は視線を動かし僕を見る。瞳の中が・・・仮面の部分から少しだけ見える海里の瞳が、揺れている。



「お前は今、人を斬ったんだ。いや、殺そうとした。奪い、壊そうとしたんだ。それからもまた逃げるつもり?」



そのまま言葉を続ける。いや、止まらない。



「・・・・・・あなたに分かるんですか? 俺の気持ちが。このどうしようもない重さが」

「分かるさ。僕も壊してきた。場合によっては・・・殺したことだってある」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・日奈森さんっ!!」

「あ、唯世くん」

「ねぇ、ほしな歌唄は放置ってどういう・・・ジャックっ! てゆうか、恭文怪我してるっ!!」

「ジガンの装甲、貫いたですか。海里さん・・・」



後ろから声。そこには、関係者の出入り口で張っていた唯世くん達。みんな、目の前の光景に驚いてる。というか、あたしも驚いてる。

だって、マジに手出し出来なくなってるし。



「分かるさ。僕も壊してきた。場合によっては・・・殺したことだってある」



その言葉に全員が固まる。そして、恭文を見る。

腕を貫かれて、傷ついて・・・それでも止まらずにいいんちょに向かって歩き出す恭文を。



「人を、この手で殺した事がある」



・・・え?



「一度じゃない、一人じゃない。何度も・・・何人もだ。だから、分かる。何かを壊すってことが、どんだけ重い事か、今・・・お前の抱えてるものが相当重いってこともだ。
でもね、そこから逃げたって何にもなんないんだよ。それを忘れようとしたって、なんにもなんないんだよ」



話を続けながら、アルトアイゼンを順手に持ち替えて、鞘に収める。



「僕も本当に最初の時は逃げようとした。忘れようとした。周りの人間からもそれでいいって言われた。思われてた。でも、気づいた。僕は逃げられないし忘れられない・・・ううん、逃げたくないし忘れたくもないんだって。
そんなことをしたら、その瞬間に自分の行動を・・・殺した事を肯定してしまうようで、怖かった。だから、何も下ろさない道を選んだ。そうして・・・今に繋がってる」



そして・・・かがんだ。



「僕の知っている奴に、今のお前みたいにその重さから逃げて、狂った奴が居る。知ってる? 奪った事実を忘れた奴は、そこから逃げた奴は、狂うんだよ。そいつは人を虫けらみたいに何人も殺した。他者の命を、尊厳を踏み付け、身も心も陵辱して、壊しつくして・・・。
そうして、自分の欲望を満たすためだけに悲しい未来しか紡げなくなった。そいつに目の前で色んなものを壊され、または壊されかけてさ。ようやく本当の意味でそれが理解できたよ。悪いけど、お前にそんな道を進ませるわけにはいかない」

「・・・何故、ですか」

「そんなの、決まってんだろうが。お前が僕達の仲間だからだよ。・・・・・・つーか、ごめんね海里」



恭文の表情が、少しだけ優しいものに変わった。



「え?」

「途中まで全然気づけなくてさ。辛い思い、してたはずなのにさ。でも、もう大丈夫だから。お前が逃げようが何しようが関係ない。その手・・・いや」



だけど、すぐに戻る。どこか怖いと感じる目をして、同じように感じる空気も出して、恭文は海里を真っ直ぐに見る。



「その魂とっ捕まえて、そこから引きずり出して、こっちに来てもらう。僕だけじゃない、みんな今、海里に手を伸ばしてるんだ。
みんな、海里にここに戻ってきて欲しいと思ってる。そんな場所に居て欲しくないと思ってる。だから大人しく、助け出されてろ」

≪もちろん、答えは聞いていませんけどね≫



そのまま、いいんちょも戸惑うような空気を出しながら、構えて・・・動きが止まった。

いや、タイミングを計ってるんだ。目の前に飛び出して、相手を斬るタイミングを。



「アルト、フルドライブ」

≪Ignition≫



でも、どういう、こと? 人を殺したとか、一人じゃないとか、あの・・・一体、なに?



「リインさん」

「・・・その話は、多分・・・恭文さんからあると思うです。まぁ、リインも無関係じゃないですけど」

「分かった。なら今は聞かない。というより・・・蒼凪君が話してくれるまでは無理に聞かない」

「ありがとうです」



唯世くんがあたしにやや、りまに対して視線で言って来る。『みんなもそれでいい?』と。あたし達は・・・頷いた。

それに、不思議とちょっと納得した。さっき言ってた通りだから恭文、あんなにいいんちょの事気にしてたんだって、そう思ったから。



「ねね、リインちゃん。やや達も加勢って・・・無理? 一気にバーっとやれば大丈夫だと思うんだけど」

「ダメです。今リイン達が入ったら確実に邪魔になるです。ここは恭文さんに任せるですよ。というか・・・」

「あぁ、そうだね。僕達もやらなきゃいけないことが出来た」



そう言って、唯世くんがある方向を見る。・・・舞台袖から×たまがぞろぞろと出てきた。

なんでいきなりこれっ!? つーか、出てくるの遅いしっ!!



「私達より、向こうの方が邪魔そうね」

「そうだね。なら、僕達も・・・」

「うん、やろう。恭文だけにいいかっこはさせてられないしさ」

「よし、がんばろー!!」



というわけで、悪いけど邪魔はさせないよ。恭文だって、やることちゃんとやろうとしてる。

あたし達だって・・・同じだ。



「あたしのこころ・・・」

「僕のこころ・・・」

「私のこころ・・・」

「ややのこころ・・・」



そうして、私達は鍵を・・・へ?



『アンロックっ!!』





鍵を開けた。そうして、私達四人は光に包まれ・・・あれ、四人? 待って待って。なんかおかしくない?



と、とにかく・・・そのままみんなたまごに包まれた状態の自分のしゅごキャラを胸の中に入れて、その光の中で姿を変えた。





【「キャラなりっ! クラウンドロップっ!!」】



りまはいつもの可愛らしいピエロにも見える服に。



【「キャラなりっ! ディアベイビーっ!!」】



ややはペペの赤ちゃん服をそのまま来たような可愛らしい感じ・・・あれ、ちょっとまってー!!



【「キャラなりっ! プラチナロワイヤルっ!!」】



唯世くんも王子姿で・・・素敵だぁぁぁぁぁっ!!



【「キャラなりっ! アミュレットクローバーっ!!」】



で、あたしもいつも通りにキャラなり完了・・・完了なんだけど。

あのね、あたしはすごくツッコみたい所があるの。もう無茶苦茶ツッコみたい所があるんだ。うん、誰かと言うと・・・。



「ちょっとややっ! なんでキャラなり出来てるわけっ!? しかも自然にやってるしっ!!」

「・・・そう言えばそうだよっ! 結木さん何時の間にっ!!」



ちょっと唯世くんっ!? 気づいてなかったのっ!! それはおかしくないかなっ! 突っ込むところ沢山合ったよねっ!!



「えっとね、もうすぐ最終決戦って空気だったから、昨日ペペちゃんと試しに『アンロック』ってやってみたの」

【そうしたら、何故か出来たでち】



それで出来るもんなのっ!? てゆうか、いきなり過ぎてマジでわかんないしっ!!



「でねでね、お尻もプリンとしてて、うさちゃんのお耳も可愛いから、フェイトさんに写メ送って」

「送るなぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「その後にパパとママに見せたら、すっごい可愛いって誉められちったー! あ、フェイトさんにも誉められたよっ!?」

「見せるなぁぁぁぁぁっ! そしてフェイトさんも何やってんのぉぉぉぉぉぉっ!?」



あぁ、あの人天然だな天然だなって思ってたけど、これにツッコミなしで誉めるっておかしいでしょっ! もうちょっと常識的に考えてー!!



「というか・・・ややちゃん可愛いですー♪ あぁ、リインも着てみたいかもですー!!」

「ほんとにっ!? リインちゃんありがとー!!」

「アンタもかいっ! てゆうかそれはやめてー!! 普通に今来てる白のジャケットの方が似合ってるからっ!!」

【あむちゃん、そんなことを言ってる場合じゃないですぅ。早くしないと×たまが、今にも飛び出しそうですよぉ】



そ、そうだね。とにかく・・・もうここはいい。とにかく、×たま達の相手をしないと。



「それじゃあ皆、やることはわかってるね」

「ジャックと恭文の対決の邪魔はさせない」

「それで、人形の中にあるたまごもやや達で浄化して、しっかり救出」

「そうだよ。蒼凪君は、何があっても三条君を連れ戻してくれる。だから僕達も僕達のやるべきことをやろう。
どんな状況でも、僕達聖夜小ガーディアンのやるべきことは変わらない。それは・・・」





まず一つ。困っている生徒を助ける。これは、恭文がやってくれる。

そして、迷えるたまごを助ける。これがあたし達の役目の一つ。今のあたし達のやるべきこと。

邪魔、させないよ。絶対に・・・邪魔はさせない。



・・・あたしは、恭文を信じるって決めたんだ。いいんちょだって同じ。一緒に居た時のいいんちょがほんとのいいんちょだって信じるって決めた。馬鹿でも、お人よしでもそうするって決めた。

だから、絶対に邪魔もさせないし、揺らがない。・・・殺したから何? 壊したから何? 確かにいけないことだと思う。ダメなことだとも思う。

だけど、それで恭文やいいんちょが仲間じゃなくなるなんて、そんなの・・・あたしは、絶対に嫌だっ!!





「それじゃあ行くよ、みんなっ!!」




















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



集中する。想いを、薄く鋭い刃へと研ぎ澄ます。





斬るべきもの・・・それは海里。だけど、海里じゃない。










「その技は、もう俺には通用しません」

「ほう、その理由は?」

「瞬(またたき)・・・神速の居合いの技。以前見せてもらいましたから。確か、三連撃まで可能でしたよね。それは、とっくにデータの中に入っています」










海里の中にある絶望を、逃げようとしている感情を・・・ムサシに、『なりたい自分』に付いた×を斬る。










「そう。ただ・・・それでも海里には止められない。潰せるなら、潰せば?」

「たいした自信ですね」

「自信? 違うよ。これは・・・確信だ」










そして、この一撃で伝える。今居る場所が、その感情が、海里の全部じゃない。そこから立ち上がることも出来るんだって、伝えるんだ。










「ならば俺は、それを打ち砕く事にしましょう」










見せてあげるよ、海里。コレが・・・僕の選択だ。僕が選んで、積み重ねてきた剣の重さだ。





データなんかじゃ図れない、僕の時間だ。










「イナズマ・・・!!」





海里の二本の刀にイナズマは走る。色は当然黒。物理殺傷能力を持った攻撃。つーか、全然魔法少女らしくないし。



かく言う僕もアルトに魔力を込め続ける。いや、魔力だけじゃない。想いもだ。



どっかの人じゃないけど、力だけでも、想いだけでも今は未来に繋げられない。だから、両方を練り合わせて・・・今を、覆す。





「凍華・・・!」





世界が灰色に変わる。モノクロの世界の中、僕は前へと踏み込んだ。海里も、同じく。



本当に一瞬。一瞬だけ黒いイナズマと青い凍れる鉄の輝きが交差した。





「ブレードっ!!」

「一閃っ!!」




















「・・・瞬・神速之極(またたき・しんそくのきわみ)」





抜き打ちで横薙ぎに一閃。そこから刃を返し袈裟に一閃。そして、右下から切り上げるように一閃。そのまま・・・斬り抜けた。



モノクロだった視界に色が戻る。身体を襲うのは強めの虚脱感。だけど、まだ立てる。





「やはり」





声は後ろから。金属が落ちる音も聞こえる。



振り返ると、刀が落ちていた。僕の連撃中に斬り裂いた刀が。落ちた刃達が、氷に包まれた。





「強い・・・ですね。ほんの一瞬で、一撃・・・入れられましたか。しかも、俺が見た時とは比べ物にならないくらいに速い。全く、見えませんでした」

「三撃だよ」

「それは・・・気づき、ませんでした」





海里も身体が氷に包まれていく。そのまま氷は全身に回り、頭を残すだけになった。





「これ、僕の奥の手中の奥の手でさ。瞬(またたき)が神速の抜刀術なら、これは超神速だ。普通では見えない。全く、タダでさえ疲れるってのに、手間かけさせないでよ」

「すみません。お手数・・・おかけしてしまって」










そのまま、頭も包まれる。そして、氷が弾けた。





青いつぶてが暗めの照明に照らされながら会場に舞う。そこから制服姿の海里が・・・僕達の仲間が、出てきて、地面に倒れた。










「海里」



そのまま海里の方へ歩いて、声をかける。



「はい」



少しだけ擦れた声で返事は、返ってきた。なので、言おう言おうと思っていた事を、言葉にすることにした。



「お帰り」

「・・・はい。ただいま、戻りました」

≪ムサシさんは、どうですか?≫

「なんとか・・・無事だ」



声は海里の傍らから。見ると、さっきまでの×が付いている時とは違う、普通の状態のムサシが居た。

よかった、こっちも浄化出来たみたい。・・・やっぱり、斬ろうと思って斬れないものなんて無いらしいね。先生様々だよ。



「蒼凪殿、古鉄殿、世話をかけた。我ら・・・なんと言えばいいのか」



そうだね・・・。とりあえず、その話は後かな。



「僕、下手な謝罪の言葉って嫌いだからさ、行動で見せてよ。・・・ほら、あむ達も苦戦してるし」





あむ達、×たまとガチでやりあってるし。でも、数が多いせいか苦戦してる。



いや、違う。数は1だ。ただし・・・それは巨大な蛇。体長にして5メートルはあろうかという黒い蛇が、あむ達が相手をしている存在。その正体は、×たまの集合体。





「ホーリークラウン・・・スペシャルっ!!」



唯世がロッドの先を向けて、まるでデカイ蛇のように固まり動く×たま達をそれで防ぐ。

うーん、さすがに防御力重視な子だよ。全然響かないし。



「ということでそこに向けて・・・ゴーゴーっ! アヒルちゃんっ!!」



・・・まぁ、あの子はいいか。なんか黄色いあのポピュラーなアヒルの集団が×たま達にぶつかって全く効果が無くて大変そうとか、そういうとこはいいか。

こりゃ、もう一働きかな・・・。



「そうだな。海里、いけるか?」

「あぁ、いける。というより・・・行く」



海里はそのまま立ち上がる。ムサシもその傍らに浮く。



「あ、海里。ちょっとまって」



右手をかざすと、海里を青い光が包む。そう、回復魔法をかけたのだ。



「これで動けるでしょ? 一応だけど応急処置」

「・・・ありがとうございます」

「恭文っ!!」



あ、ミキが来た。うーん、空気を読んでるなぁ。



「あむちゃん達が」

「苦戦してるよね。分かってる。で、海里もムサシも、もう大丈夫だから」

「うん、わかった。じゃあ、いこう? あのジュースの効果も試したいしさ」




だねぇ。つーか、これで体力大丈夫だったらびっくりだよ。



「蒼凪さん」

「なに?」

「俺は・・・やはりまだ逃げたいと思っています。あまりに重くて、怖くて・・・」



僕は黒い蛇から視線を逸らさずに、そのまま海里の言葉を聞く。



「これに対しての償いは、出来るのでしょうか」

「出来ないよ。償いなんて、どうやったって出来ない。許しなんて、どうやったって得られない。何をしようが、重さは変わらないのよ」

「そうですか。なら・・・」



なら?



「そのまま、持って行くことにします。俺は、やはりバカみたいです。あれだけ後悔しても、裏切られても、なりたい自分を・・・諦められないんです。
俺の手は汚れているのかも知れないけど、それでもそこに向かって、手を伸ばしたいんです。許される、でしょうか」

「・・・いいんじゃないの? 僕だってそのバカの仲間だ。で、そんなバカでもこうやってヘラヘラと生きられる。
大丈夫、その道は正しくないかも知れないけど、間違いでもないから。何も変わらないなら、何も諦める必要なんて、ないでしょ」



僕の言葉に、海里は表情を明るくする。そして、いつもの・・・ガーディアン参謀としての顔に戻る。



「ありがとう、ございます。ムサシ、悪いが付き合ってくれるか?」

「当然の事を聞くな。我らの本当の力・・・見せるぞ」

「あぁ、そうだな」



というわけで、今回は二人一緒に・・・。



「恭文のこころ・・・」

「俺のこころ・・・」



サリさん、ごめん。あの変身シークエンスは色々テンポ悪いし、キャラなりしたいのかブレイドに変身したいのかよく分からなくなるので、却下します。



「「アンロックっ!!」」










光に包まれる。その中で姿が変わる。僕は青い剣士に。なんというか、そろそろ名前を決定しようとか考えるのは気のせいじゃない。





そして海里。緑を基調とした無地の着物を羽織り、頭の上に透明な羽衣を被る。メガネは消えて、頭の後ろに髪を結ってちょんまげを作る。そして、二本の刀を手に持った。





さっきと同じ・・・だけど、全然違う剣士の姿が、そこにあった。これが、きっと海里の本当になりたい自分なんだ。










【「キャラなりっ! サムライソウルっ!!」】





侍の魂・・・。うん、ピッタリでいい感じじゃないの?



んじゃ、僕達も行きますかっ!!





【「キャラなりっ! アルカイックブレードっ!!」】



・・・ミキ。



【うん、来たよ。すっごい来たよ。これだよ、もうこれでいこうよ。ハイセンスやアンティーク超えたよ】

≪アルカイック・・・古拙でしたね。『美術・建築などで、技術的にはつたないが、古風で素朴な趣のあるさま』という意味ですよ。うん、いいんではないでしょうか。若干かっこよすぎるのがあれですけど≫

「いいの。んじゃ、僕達のキャラなりはアルカイックブレードで決定ということで」

【さんせーい。というわけで・・・】



いきますかっ!!



「・・・・・・みなさん、少し下がってっ!!」





海里がそのまま飛び込む。二振りの刃には、緑色の・・・そう、黒じゃない。緑色の雷撃。



それを纏わせたまま、巨大な蛇と化した×たま達に刃を打ち込む。





「イナズマ・・・ブレードっ!!」





雷光一閃。まさしくそんな言葉が似合う斬撃。飛びながら振るわれた二つの雷撃が、確実に×たま達を捕らえた。そこに僕も続く。





【「鉄輝・・・!」】





左から抜き打ちで下から上へと打ち込まれた斬撃は、胴から巨大な黒い蛇を真っ二つにする。





【「一閃っ!!」】





その斬り口を構成した×たま達を浄化する。・・・やばい、名前が決まったノリに任せてこのままやっちゃいたい。けど、それもだめか。



つーわけで・・・皆もやっちゃってっ!!





「タイトロープ」





りまの背中から何本の縄が飛び出し、それが未だに蛇の形を構成する×たま達を縛る。





「ダンサーっ!!」





荒縄に抗うように×たま達がうごめく。結構力が強いのか、りまの表情が歪む。



だけど、ここで終わらない。フルボッコはまだ続くのだ。





「まだまだ行くよっ! メリーメリーっ!!」





その縄から力任せに抜け出そうとする×たま達に追い討ちをかけるように、ややが動く。

上の方にこう・・・赤ちゃんグッズのこう・・・天井に吊るして、グルグル回して遊ぶあれが出てきた。それが回転しながら、心地のよい音楽を流す。



・・・って、しょぼっ! つーかそれで何をやりたいっ!?





【いや、効果はあるみたいだよ?】

「へ?」





・・・あ、なんか蛇が瓦解していく。というか、×たま達がなんか、寝てる。





『ムリ・・・ムリィィ・・・』

「すぴー」

【「・・・って、ややは寝ちゃだめだからぁぁぁぁぁぁっ!!」】

「と、とにかく・・・日奈森さん、お願いっ!!」





唯世の言葉にあむが頷く。そして、×たま達に向かって右の人差し指を差す。





「ネガティブハートに・・・ロックオンっ!!」





緑色の光が、あむの胸元のロックに集まっていく。で、僕達は当然後ろに飛んでその斜線上から退避している。





「オープン・・・!!」





あむが両手でハートのマークを作る。そのマークを、ロックから放たれた緑色の光が通過する。





「ハートっ!!」





生まれるのは緑色の極光。それはハートの形を取り、×たま達へと飛んでいく。そして、直撃した。





『ムリィィィィィィィッ!!』





放たれた緑色の光が、×たま達の全てを浄化した。黒いたまごが、次々と消えていく。



そこから代わりに現れたのは、本当に大量の白いたまご。それらは持ち主の所に帰っていったのか、一つ一つがすぐに消えていった。





≪とりあえず・・・これで、おしまい・・・ですか?≫

「一応はね。でも、まだ終わりじゃない」

≪そうですね、問題がまだ残ってました≫










その前に・・・ちゃんとした傷の治療をしたいな。さすがに痛い。










「あむ、スゥ、悪いんだけどリメイクハニーお願い出来る? 出血もかなりしてるからキツイのよ。あと、海里も内臓器官にダメージ入れたから動くのもう辛いだろうし」

「すみません、ジョーカー。蒼凪さんの言うように俺ももう・・・限界みたいです」



緊急事態だったとは言え、徹入れたしなぁ。さすがに無理か。



「・・・ねぇ、いいんちょもそうだけど恭文も、なんか別作品のノリだったんだけどいいの?」

【あむちゃん、そこはいいので・・・怪我も、壊れたジガンスクードさんもすぐにお直しちゃいましょう】

「そうだね、そうしようか」



すみません、そうしていただけると非常にありがたいです。会場の荒れ具合を直すついででいいので。



「あー、それといいんちょ」

「はい?」

「まぁ、恭文に先越されちゃったけど、あたしも言おうと思ってたんだ。・・・おかえり」

「・・・ただいま、もどりました。あの・・・ありがとうございます」










とにかく、みんなには一旦うちに来てもらう事になった。どっちにしろ海里は実のお姉さん・・ほしな歌唄のマネージャーと二人っきりで暮らしている家に帰れないし、みんなにも、あの事について話す必要があったから。





え、ライブ? あははは、証拠の一切がっさいをリメイクハニーで隠滅した上で逃げたに決まってるじゃないのさ。





まぁ、そこはいい。問題はまだ山積みなのだ。なんて言うか・・・これ、どうやったら全部解決するんだろ。僕は本当に分からなくなって来てるんだけど。




















(第25話へ続く)





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あきゅろす。
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